●連載監修=安川力髙橋寛二39.治療を断念する症例尾花明聖隷浜松病院眼科滲出型加齢黄斑変性の治療中断理由は,線維化,網膜萎縮,硝子体出血,効果減弱,網膜下液持続,患者の自己判断や社会的要因である.逆に,効果良好で治療を休止する場合もある.網膜静脈閉塞症では,患者の自己中断が比較的多い.虚血型網膜中心静脈閉塞症では,視力改善が得られずに治療をあきらめる場合もある.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法が認可されて約8年が経過し,長期治療例の増加とともに治療断念例がみられる.治療結果が得られずに中止する場合と,逆に,経過良好で意図的に休止する場合や,患者の都合など,さまざまな理由がある.また,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)と網膜静脈閉塞症とで中止理由が少し異なるように感じる.そこで,中止理由を当施設の経験例をもとに考えた.加齢黄斑変性当施設の第一選択は,アフリベルセプトを導入期連続3回毎月投与後に1カ月単位で治療間隔を延長し,維持期は最短2カ月,最長4カ月のtreatandextend法である.この方法では以下の中止理由がみられた.1.導入期連続3回治療を完了できなかった例①硝子体出血:治療前に新鮮な網膜下出血のある例で出血後は急激に線維化することが多い(図1).②網膜の菲薄化:治療前から中心窩網膜の薄い症例は,治療で網膜下液が消失すると菲薄化が顕著になる.ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)で多いように思われる.網膜萎縮は予後不良要因なので注意を要する.図1硝子体出血と生じた脈絡膜新生血管(CNV)症例フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)でminimallyclassicCNV,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)でCNV(.印)がみられた例で,初回治療後に多量の網膜下および硝子体出血を発生した.すぐに硝子体手術を施行したが,すでに線維化が進行し,視力は低下した.③眼圧上昇:点眼薬で眼圧コントロールが得られれば継続している.2.導入期終了後,維持期治療に移行できなかった例①線維化の進行:典型AMDが多い.とくに,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が網膜色素上皮層を越える2型CNVに多い.線維化が中心窩に及ぶと視力が低下するので,患者への事前説明が必要である(図2).②患者が治療計画を順守しない場合:僚眼の視力が良好で患者が生活に支障を感じていない場合に多く,ある程度容認できる.問題は,病気自体の理解が乏しく再発の可能性を認識できていない場合で,いったん改善すると自己中断してしまう.再発するので経過観察を中断してはならないことをよく説明しておく.それ以外には,通院や治療費負担のために中断する場合もあるが,最終的には患者の考え方に従わざるをえない.3.維持期治療継続中に中断した例①萎縮の進行:網膜色素上皮や視細胞の萎縮は予後不良要因である.萎縮発生要因として,頻回投与,僚眼の地図状萎縮,網膜血管腫状増殖があげられている.②線維化の進行:早期の線維化は典型AMDに多いが,PCVでも長期経過で線維化を生じる場合があ(63)あたらしい眼科Vol.34,No.4,20175230910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2線維化を生じたので治療を中止した脈絡膜新生血管(CNV)症例フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)でoccultCNV,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)でCNV(.)がみられた例で,導入期3回治療で線維化したため治療を中止した.その後,網膜に.胞様浮腫はあるが,治療は中断したままである.図3長期経過中に網膜下液が持続するポリープ状脈絡膜血管症(PCV)症例FAでoccultCNV,IAでPCVがみられた例で,導入期治療で網膜下液は軽快した.その後,合計7回の治療中は良好に経過した.しかし,最終治療の3カ月後に下液が再発した.視力は低下していないので,治療を休止のまま経過観察中である.る.通常,網膜浮腫のない瘢痕組織は治療対象にはならない.ただし,瘢痕組織上の感覚網膜の.胞様浮腫が治療で軽快すると患者は改善を自覚するが短期で再発する.治療については僚眼の状態を踏まえて,患者と相談する.③効果不十分:長期経過に伴い,治療効果の減弱がみられる.薬剤の種類を変えるのもひとつである.効果減弱パターンとして,1型CNVの網膜下液と,色素上皮.離が多い.近年,網膜下液の存在は必ずしも予後不良要因にはならず,むしろ予後良好との報告がある.1型CNVで網膜下液持続例では,網膜下高輝度反射物のような予後不良因子がなければ,経過をみる場合もある(図3).ただし,視力が低下することもあり,光線力学的療法併用治療の是非が検討されている.④病巣の鎮静化:当科の経験では,治療間隔を4カ月に延長できた症例は,治療を休止しても再発をきたしにくい.したがって,意図的休止が可能かもしれないが,今後の検討を要する.ただし,いつかは再発するので経過観察を続ける.524あたらしい眼科Vol.34,No.4,2017網膜静脈閉塞症1.網膜静脈分枝閉塞症ラニビズマブによる報告では,約半数は2年以内に浮腫が改善して治療が不要になるが,半数は1年に3回程度の治療を要する.継続必要例で自己中断となる割合がAMDより高く,以下の理由が考えられる.多くは片眼性で,視力低下が中等度,視野の半分が見えるため,患者自身の不自由さが比較的低いこと,AMDより若年齢が多く,医療費の自己負担割合が高いことなどである.2.網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)ラニビズマブによる報告では,約4割は2年以内に浮腫が改善して治療が不要になり,それ以外は1年に6回程度の治療を要する.虹彩,隅角,網膜新生血管発生率は抗VEGF治療で低下しないので,従来通り注意する.高度の視力低下を伴う虚血型CRVOは,治療を繰り返しても浮腫軽減と視力改善が得られない場合が多い.脳梗塞などの合併症発生の危険もあり,治療中止となる場合が多い.(64)