‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性への応用ApplicationofOCTangiographyinAge-RelatedMacularDegeneration森隆三郎*はじめにこれまでフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangi-ography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)を施行しなければ診断や治療後の評価ができなかった眼底疾患において,光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomogra-phyangiography:OCTA)により,網膜,脈絡膜血管および新生血管の描出が可能となる症例も多いことが知られてきている.脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)が主要所見の一つである滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)も,OCTAでFA,IAと同等の所見が描出され,症例によってはFAやIAで検出できないCNVも検出でき,その有用性に大きな期待がかかる.しかし,OCTAが臨床で利用され,さまざまな所見が蓄積されるにつれ,実際には撮影された所見がFAやIAほど鮮明な画像が得られないこともあり,またartifactにより,所見の読影や解釈に注意しなければならないことも報告されてきている1).本稿では,AMDのOCTA所見について,RTVueXRAvanti(Optovue)で撮影された画像をFAやIA,従来のOCTに加え,血流が表示されたB-scanの画像とともに提示し解説する.I画像の表示OCTAの強みは層別解析であり,自動層別解析で表示される網膜表層(super.cial),網膜深層(deep),網膜外層(outerretina),脈絡毛細血管板層(choroidcap-illary)の4層のそれぞれの画像を読影するが,網膜外層の画像は,網膜血管は正常では存在しないため,血管が描出した場合は,AMDの症例であればCNVの存在が示唆される(図1).その場合は網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)から網膜側に隆起したCNVが描出されるが,RPEより上にCNVが存在するType2CNVだけでなく,RPEより下にCNVが存在するType1CNVも隆起していれば描出される.より詳細にCNVを検出するには,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下にずらすことでCNVを描出させることができる2).OCTAは,血流を示した赤色部位を表示したB-scanの画像の重ね合わせで構築されているので,この基となるB-scanの画像を確認することで,CNV自体の血流による所見であることが証明できる.IIArtifactOCTAの代表的なartifactには,motioncontrast,segmentationerror,block,projectionartifactがある1).1.Motioncontrast被検者の眼球運動による画像の乱れ,瞬目による部分的な画像の欠損などのmotioncontrastは,読影の前の撮影時の問題である.とくにAMDの患者は高齢のため,長い時間の固視ができないことがあり,また他眼もAMDに罹患している場合は外部固視灯を利用した固視*RyusaburoMori:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-8309東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)781図1画像の表示(症例はType2CNV)OCTAは自動層別解析で表示される4層(c,d,e,f)の画像を読影するが,網膜外層の画像(e)で,網膜色素上皮(RPE)から網膜側に隆起した脈絡膜新生血管(CNV)を検出する.鮮明にさらに詳細にCNVを検出するには,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下方向にずらす(l,m).血流を示した赤色部位を表示したB-scanの画像を確認することで,CNV自体の血流による所見であることを証明する.a:FA30秒.b:FA7分.CNVは早期から造影され,時間とともに強く増強,拡大する過蛍光として認める(classicCNV).c:OCTA.網膜表層.d:OCTA.網膜深層.e:OCTA.網膜外層.f:OCTA.脈絡毛細血管板層.g:OCTA.網膜外層(e)の拡大.脈絡膜新生血管(CNV)をこの層でのみ確認できる.h,i:gのB-scan像.hは水平,iは垂直.赤と緑のラインの間のセグメンテーション.j,k:OCTA.CNVの部位を拡大して表示.セグメンテーションのラインを下方にずらすとCNVの形態は変わる.jとkを合わせるとセグメンテーションの幅が広いgの形態に近くなる.l,m:j,kのB-scan像.脈絡毛細血管板層のモードで赤のラインの間のセグメンテーションの幅は約30μm(.).赤色は血流のある部位.図2網膜下出血によるblock網膜下出血より深層は測定光が到達しないため所見を得ることはできない.a:カラー眼底写真.中心窩に網膜下出血を認める.b:IA5分.ポリープ状病巣を示唆する過蛍光と出血による低蛍光を認める.c:OCTA.網膜表層.d:OCTA.網膜深層.網膜下出血のため網膜血管は描出される.e:OCTA.網膜外層.f:OCTA.脈絡毛細血管板層.g:OCTA.fの拡大.網膜下出血によるblockの範囲は黒色に表示される.h,i:gのB-scan像.hは水平,iは垂直.赤のラインの間のセグメンテーション.図3Projectionartifact脈絡毛細血管板層で検出された血管(b)は網膜表層の血管(a)と同部位であり,projectionartifactによる実際には存在しない偽血管である.a,b:OCTA.セグメンテーションのラインを網膜表層から脈絡毛細血管板層まで下方にずらすと,網膜表層(a)の網膜血管が再び描出される(b).c,d:a,b.のラインのB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション(.).赤色部位は血流のある部位では,網膜血管の真の血流で,は網膜色素上皮に現れた偽の血流.図4Type1+2CNVOCTAで,IAで検出された血管構造と同様のCNV所見が検出されるが,FAのclassicCNVの蛍光色素漏出の強い部位のCNV所見が検出されない場合は,type1CNVのみであるか,あるいはtype2CNVは存在してもRPEに接して薄く平坦に存在し,OCTの網膜下の高反射病巣にはCNVの成分は多くは含まれない可能性がある.a:カラー眼底写真.中心窩に網膜下出血を伴う灰白色病巣を認める.b:OCT.網膜下にCNVとフィブリンを示唆する高反射病巣()とRPE下のCNV(.)を示唆するRPEの扁平隆起病巣を認める.c:FA30秒.d:FA10分.cの①ライン上では早期から造影され,時間とともに強く増強,拡大する過蛍光として認められる.cの②ライン上では後期は①ライン上ほど過蛍光は強くはない.e:IA30秒.f:IA5分.早期eの①と②のライン上にCNVを明瞭に認める.g:OCTA.網膜外層.CNVを示唆する血管構造は認めない.h:OCTA.PPEレベル.CNVを示唆する血管構造を明瞭に認める.i:g①ライン上のB-scan像.赤と緑のラインの間のセグメンテーション().CNVを示唆する血流表示を認めない.j:g②ライン上のB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().CNVを示唆する血流表示がRPEレベルに明瞭に認める.図5Pachychoroidalneovasculopathy慢性CSCからPCVが生じた症例の自覚症状のない対側眼.OCTAの脈絡毛細血管板層レベルのセグメンテーションで,IAの面状の過蛍光の部位に一致してCNVを示唆する血管構造が明瞭に描出されている.B-scan像でRPE下のBruch膜レベルで血流を示す赤色部位を認めている.a:FA1分.b:IA5分.FAとIA同部位に面状の過蛍光を2カ所認める(..).IAで脈絡膜血管透過性亢進所見を認める().c:OCT.脈絡膜の肥厚を認める(中心窩下脈絡膜厚400μm).d:OCTA.脈絡毛細血管板層.FAとIAの面状過蛍光の部位に一致してCNVを示唆する所見を認める(..).e:OCTA.dの拡大.血管構造が明瞭に描出されている(.).f:dの①ライン上のB-scan像.g:eの②ライン上のB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().CNVを示唆する血流表示はRPE下のBruch膜レベルで血流を示す赤色部位を認めている.図6ポリープ状脈絡膜血管症PCVは,セグメンテーションのラインをずらすことによりポリープ状病巣と異常血管網を検出する.a:カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣(ポリープ状病巣)()出血性色素上皮.離()を認める.b:OCT.異常血管網(.)とポリープ状病巣()を示唆する網膜色素上皮の隆起と漿液性網膜.離()を認める.c:IA24秒.d:5分.異常血管網()とポリープ状病巣()を認める.e,f:OCTA.eの異常血管網とfのポリープ状病巣の深さが異なるため,IAのように一つの画像で描出できない.それぞれの血管が存在する深さのラインをOCTB-scanのセグメンテーションのラインをずらしていくと,病巣が描出される.g,h:e,fのB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().i:OCTA.j:IA24秒.iとJは同部位.ポリープ状病巣()と網膜血管()が描出されている.k:iのB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション.隆起したRPE下に血流を示す赤色部位が数個あるのが確認できるが(.),iで検出されるポリープ状病巣()はセグメンテーション内に存在する血管のみが描出される.また,iで検出される網膜血管()がprojectionarti-factによるものであることは同部位で網膜内にも網膜血管の血流を示めす赤色部位があることで確認できる().図7網膜血管腫状増殖a:FA20秒.網膜血管と吻合する新生血管を認める(.).b:FA13分.その周囲は強い蛍光漏出を認める().c:IA15秒.網膜血管と吻合する新生血管を認める(.).d:IA10分.新生血管は過蛍光として認める().e:OCT(水平断).網膜色素上皮の中央に新生血管を示唆する高反射病巣を認める().f,g:OCTA.網膜血管と吻合する新生血管が描出されている(,).h,i:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション.網膜内の新生血管()は網膜血管()より深層に存在する.新生血管の赤色部位は深層に延びるが,projectionartifactに伴うものの可能性があり,RPEを穿破しているかは不明である.j:cのIA早期拡大(fとgの同部位のと).図8ポリープ状脈絡膜血管症治療後の経過①治療前.a:OCT.漿液性網膜.離(.)と網膜浮腫()を認める.b:OCTA.ポリープ状病巣(.)と異常血管網を認める().c:Bスキャン像.赤のラインの間のセグメンテーション.d:IA10分.ポリープ状病巣を認める.②アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法後1カ月.e:OCT.漿液性網膜.離と網膜浮腫は消失.f:OCTA.ポリープ状病巣は認めず,異常血管網は縮小している().g:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().③アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法後3カ月.h:OCT.滲出所見なし.i:OCTA.異常血管網は拡大している().j:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().④アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法後9カ月.k:OCT.滲出所見なし.l:OCTA.異常血管網はさらに拡大している().m:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().ープ状病巣が網膜内に突出している場合には,網膜血管との判別が困難となるので,自動層別解析ではポリープ状病巣は描出しにくい.B-scanで隆起したRPE内の血流を示す赤色部位を確認し,OCTAで描出されたポリープ状病巣が,それより内層の網膜血管やその網膜血管のprojectionartifactでないことを証明する必要がある(図6).V網膜血管腫状増殖網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousprolifera-tion:RAP)は,病名がtype3neovascularizationとなっていることもあるが13),新生血管の網膜血管との吻合を確認し診断するためFAとIAのいずれかが有用となるが,OCTAの報告もある14.16).網膜外層レベルの新生血管が網膜血管と吻合し,RPEから網膜内に存在するため,網膜内に出血を伴うことや.胞様黄斑浮腫を伴う症例もあり,OCTAで網膜内レベルの新生血管を検出す際には上述したsegmentationerrorやblockなどartifactの影響を受けやすい16).OCTAでは新生血管が網膜血管より深層の網膜外層で検出されることから,NVがRPEに接するレベルの部位に存在し,その部位から網膜血管と吻合している可能性がある.図7の症例で示すようにB-scanの赤色部位の所見から,網膜内の新生血管は網膜血管より深層に存在し,RPE下にも連続する新生血管の可能性もある.しかし,赤色部位は深層に延びるが,projectionartifactに伴うものの可能性があり,新生血管がRPEを穿破しているかは不明である.VI治療効果の判定滲出型AMDに対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射や光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)が行われているが,その治療効果の判定にOCTAが用いられている.図8のPCVの症例のようにOCTで滲出性所見が消失していても,サイレントに病巣が拡大していることもある.OCTAでこのような所見を認めた場合に,追加治療を行うか,あるいは診療の間隔を短縮するかなどは今後の検討課題であり,現状ではOCTA所見で追加治療の有無の判定はできないが,参考にはなっている.おわりに本稿では,滲出型AMDのOCTA所見について症例を提示し解説した.自動層別解析で表示される所見だけではなく,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下にずらすことでより詳細に所見を描出させ,さらに血流を示した赤色部位を表示したB-scanの画像を合わせて読影することで,AMDへの応用がさらに広がると思われる.OCTAの進歩により,今後はprojectionartifactを含めさまざまなartifact影響の軽減や除去が可能となり,さらに詳細な所見を得ることができる可能性がある.また所見の読影の解釈が変わる可能性もある.OCTAは,FAとIAと同様の所見が得られることが期待されたが,造影剤を用いて描出される血管像とOCTAの血流のみで描出される血管像は異なる.OCTAにFAとIAと同様の所見を求める必要はなく,OCTA独自の所見を確立できれば,造影剤を使用する必要がないため,非侵襲的に,迅速に,AMDの診断や治療方針の選択が可能となる.文献1)SpaideRF,FujimotoJG,WaheedNK:Imageartifactsinopticalcoherencetomographyangiography.Retina35:2163-2180,20152)CoscasGJ,LupidiM,CoscasFetal:Opticalcoherencetomographyangiographyversustraditionalmultimodalimaginginassessingtheactivityofexudativeage-relatedmaculardegeneration:Anewdiagnosticchallenge.Retina35:2219-2228,20153)野崎美穂,園田祥三,丸子一朗ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼71:651-659,20174)GassJD:Biomicroscopicandhistopathologicconsider-ationsregardingthefeasibilityofsurgicalexcisionofsub-fovealneovascularmembranes.AmJOphthalmol118:285-298,19945)PangCE,FreundKB:Pachychoroidneovasculopathy.Retina35:1-9,20156)DansinganiKK,BalaratnasingamC,KlufasMAetal:Opticalcoherencetomographyangiographyofshallowirregularpigmentepithelialdetachmentsinpachychoroidspectrumdisease.AmJOphthalmol160:1243-1254,20157)MiuraM,MuramatsuD,HongYJetal:Noninvasivevas-790あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017(32)-

光干渉断層血管撮影の機種による特徴

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の機種による特徴CharacteristicsofOCTangiographyDevices野崎実穂*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は,2015年3月にわが国でXRAvanti(Optovue)が承認され,その後,次々と各社のOCTAが発売されてきた.各社ともソフトや性能は日々進化し続けており,今後の眼科臨床にはOCTAは欠かせない検査になると思われる.本稿では現在わが国で市販されているOCTAの各機種の特徴について述べるが,筆者の施設で実際に使用したことのある機種は3機種(XRAvanti,Triton,RS-3000Advance)であること,各機種の性能は2017年4月時点でのものであることを,あらかじめことわっておく.IOCTAの種類2017年4月現在,日本で市販されているOCTAが撮影できる機種は,XRAvanti(Optovue),RS-3000Advance(ニデック),Triton(トプコン),Cirrus5000,PLEXElite9000(カールツァイスメディテック),OCT-HS100(キヤノン),SpectralisOCT2(HeidelbergEngineering)の7機種である(図1).TritonとPLEXElite9000の2機種は,波長1,050nmのスウェプトソース(sweptsource:SS)OCT(SS-OCT)がベースとなっており,それ以外は波長約840nmのスペクトラルドメイン(spectraldomain:SD)OCT(SD-OCT)がベースとなっている.また,OCTAの原理は,血流中の赤血球の動きのちらつきを検出するものであるが,さらに分類すると,位相(phase)変化の検出,振幅(ampli-tude)変化の検出,位相と振幅両方の変化の検出の3つに分けられるが,Cirrus5000,PLEXElite9000,RS-3000Advanceでは位相と振幅両方の変化を検出,それ以外の機種は振幅変化の検出が元になっている.以下,個々の機種について特徴を述べる.また,個々の機種の比較を表1にあげる.IIXRAvantiXRAvantiは世界で最初に販売されたOCTA撮影機種である.スキャンスピード70,000A-scan/秒のSD-OCTであるXRAvantiOCTでは,OregonHealth&ScienceUniversityのDavidHuangらが開発したsplit-spectrumamplitudedecorrelationangiography(SSADA)というアルゴリズムを用いており,少ない連続撮影画像から波長を分割し,動きのある信号(振幅変化)を増強して,再構築する仕組みになっており1),約3秒という早い時間で撮影・解析が終わる.また,motioncorrectiontechnologyも搭載されているため,多少固視微動があった場合も,補正してアーチファクトが入らない比較的鮮明な画像を得ることができる.自動的にsuper.cial(網膜表層毛細血管層)(内境界膜-内網状層),deep(網膜深層毛細血管層)(内顆粒層-外網状層),outerretina(網膜外層)(外顆粒層-Bruch膜),choroidcapillary(脈絡毛細血管板)の4層に層別表示される(図2).解剖学的に,網膜毛細血管は,神経節細*MihoNozaki:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(13)771ade図1現在日本で市販されているOCTA撮影機種a:XRAvanti,b:RS-3000Advance,c:Cirrus5000,d:PLEXElite9000,e:Triton,f:OCT-HS100,g:SPECTRALISOCT2.表1OCTA機種比較商品名XRAvantiRS-3000AdvanceTritonCirrus5000PLEXElite9000OCT-HS100SPECTRALISOCT2OCTA名称AngioVueAngioScanAngioPlexメーカーOptovueニデックトプコンカールツァイスカールツァイスキヤノンHeidelbergEngineeringSDorSS-OCTSD-OCTSD-OCTSS-OCTSD-OCTSS-OCTSD-OCTSD-OCTアルゴリズムSSADACODAAOCTARAOMAGOMAGamplitudedecorrelationFullspectrumprobabilisticapproachスキャンスピード(A-scan/秒)70,00053,000100,00068,000100,00070,00085,000光源波長(nm)8408801,0508401,000855870アイトラッキングMotionCorrectionTechnologySLOによるトラッキングSMARTTrackLSOによるトラッキングLSOによるトラッキングSLOによるトラッキングDualBeamLiveEyeTracking最大撮影画角8mm9mm9mm8mm12mm10mm3mm自動セグメンテーション網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡毛細血管板網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡膜網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡膜網膜全層網膜硝子体界面/網膜表層/網膜深層/視細胞層/脈絡膜毛細血管板/脈絡膜網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡毛細血管板任意の層でプリセット可能網膜表層/網膜深層/網膜外層/(脈絡膜はユーザー定義)解像度(ピクセル)304(3mm)400(6mm)256512245(3mm)350(6/8mm)300(3mm)500(6/9/12mm)232(3mm)464(6mm)696(10mm)512横方向分解能(μm)15202010.2010.20205.7縦方向分解能(μm)572.6(デジタル)8(光学)51.95(デジタル)6.3(光学)1.6(デジタル)3(光学)3.9解析ソフト/特徴などAngioAnalytics・12×9mmパノラマ自動合成・MP-3重ね合わせ・パノラマ機能搭載予定AngioPlex市販のOCTAで画角最大(12mm)・3D表示・自動で10層セグメンテーション・FAなど他のイメージングと重ね合わせ・自動で網膜10層セグメンテーション図2XRAvantiのOCTAレポート画面糖尿病網膜症症例の3×3mmOCTA画像.自動セグメンテーションで,super.cial(網膜表層),deep(網膜深層),outerretina(網膜外層),choroidcapillary(脈絡毛細血管板)の4層に分けて結果が表示される(上段).図3同一眼の6×6mm網膜表層画像の比較a:XRAvanti以前のバージョンで撮影.解像度304ピクセル.b:XRAvanti最新バージョンで撮影.解像度400ピクセル.c:Tritonで撮影.解像度512ピクセル.図4RS.3000AdvanceのOCTAレポート画面膜静脈分枝閉塞症の3×3mmOCTA画像.自動セグメンテーションで,網膜表層,網膜深層,網膜外層,脈絡膜の4層に分けて結果が表示される.OCT厚みマップも一緒に表示される.図5網膜静脈分枝閉塞症の蛍光眼底造影画像(a)とRS3000Advanceの自動パノラマ合成機能で撮影された9×12mm網膜表層画像(b)3×3mmを計12枚撮影したものを自動合成.下方の無灌流領域がOCTAでも観察できる.2016/10/12,右眼,マイクロペリメトリ,固視標&指標表示,2016/10/12,右眼,黄斑マップAX-Y,Enface画像:網膜表層図6RS3000Advanceで撮影されたOCTA画像にMP.3結果を重ね合わせたもの網膜静脈分枝閉塞症症例.OCTAの無灌流領域に一致して感度が低下していることがわかる.図7TritonのOCTAレポート画像糖尿病網膜症例(画角3×3mm).自動セグメンテーションでsupe.cial(網膜表層),deep(網膜深層),outerretina(網膜外層),choriocapillaris(脈絡毛細血管板)の4層に分けて表示される.右下にカラー眼底写真も表示される.CompositeSRLDRLAvascularB-scanChoriocapillarisChoroid図8Cirrus5000のOCTAレポート画像自動セグメンテーションでcomposite(網膜表層-外層),SRL(網膜表層),DRL(網膜深層),avascular(網膜外層),choriocapillaris(脈絡毛細血管板),choroid(脈絡膜)に分けて表示される.(画像提供:カールツァイスメディテック)AngioPlex-RetinaStructure-Retina図9PLEXElite900012mmのOCTA画像糖尿病網膜症症例(画角12×12mm).左:OCTA(網膜)と右:enface画像.OCTAでアーケード血管外の無灌流領域や新生血管も明瞭に観察できる.(画像提供:カールツァイスメディテック)図10OCT.HS100正常人OCTA画像画角10×10mm.広い画角であるが696ピクセルと高解像度である.(画像提供:キヤノン)図11OCT.HS100による視神経乳頭OCTA画像上段が2D表示,下段が3D表示.(画像提供:キヤノン)図12SPECTRALISOCT2の正常人OCTA画像高い解像度のため,a:網膜表層,b:内網状層/内顆粒層にある毛細血管,c:内顆粒層/外網状層にある毛細血管を分けて描出できる.(画像提供:JFCセールスプラン)

OCTと光干渉断層血管撮影

2017年6月30日 金曜日

OCTと光干渉断層血管撮影OCTandOCTangiography丸子一朗*飯田知弘*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は眼底イメージング分野において近年その話題を独占しており,学会でも注目されている.この技術はその名の通り,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の技術,つまり,網膜に赤外光を当てて網膜内組織の反射の違いから網膜各層を描出する方法を用いて,網脈絡膜の血管をあたかも蛍光眼底造影を行ったかのように描出することを可能にした.もちろんOCTなので造影剤は必要なく,非侵襲的に検査を行うことができる.一方で,現行のOCTAにはさまざまな問題もある.本稿ではOCTを初期から使い続けている医師側の立場から,OCTAに至るまでの変遷と現状について解説する.IタイムドメインOCT(TD.OCT)後眼部用のOCTは1996年に商品化され,以降その有用性からさまざまな黄斑疾患の病態が明らかになった.1997年には日本にも導入されるようになり,日本からもたくさんの報告がなされた.初期のOCTは第一世代(図1)とよべるもので,単純にいえば,照射した光の最大反射強度を1本1本測定し,それを断層像として描出するのみ〔タイムドメイン(timedomain:TD)方式〕であり,1枚の断層像を作るためには光源(実際には参照ミラー)を移動させながら何本もの光照射を行うことから,約1秒のスキャンが必要であった.実際の画像も黄斑部陥凹や円孔の有無,網膜全層の形態や厚みを評価することは可能であったが,網膜の層別解析は困難であった.その後,2000年代に入り検出機器の性能向上により網膜の各層が評価可能となり,視機能に直結するとされる網膜外層における網膜視細胞内節外節境界(innerandoutersegment:IS/OS)と呼称された1本のラインの存在がクローズアップされることとなった(第二世代,図2).IIスペクトラルドメインOCT(SD.OCT)2006年にはそれまでのTD方式からスペクトラルドメイン(spectraldomain:SD)方式が採用された.照射光から発した光の対象物からの反射を分光器にかけ,波長変化を検出することで1本の照射から得られる情報が増し,より高速な網膜スキャンを可能にした.さらに同じ部位を複数回スキャンし,得られた複数枚の断層像を加算平均処理することでノイズを減少させ,さらなる高解像度な画像を取得できるようになった.つまり機器性能そのものの向上だけでなく,得られた画像データの解析法も改善されたことで,数十倍の高速化・高解像度化が進んだ(第三世代,図2).その結果,上述したIS/OSラインのさらに後方に,もう1本のラインの存在(3rdライン)が確認されることとなった.さらにスキャンそのもののスピードが高速化したことで,同じ場所だけでなく,ある一定の範囲を3D(volume)*IchiroMaruko&*TomohiroIida:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕丸子一朗:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)761図1第一世代光干渉断層計(OCT)a:正常眼.中心窩陥凹が観察できる.b:黄斑円孔.黄斑部網膜の裂隙と浮腫が確認できる.第二世代黄斑円孔a:第二世代,正常.Ellipsoidzone(IS/OS)がなんとか判別できる.網膜色素上皮が少し波打っているが,これは撮影時にわずかに動いたことによる.b:第三世代(SD-OCT),正常.aと同一症例.Ellipsoidzone(IS/OS)だけでなく,外境界膜も確認できる.網膜色素上皮に不整はない.c:第二世代,黄斑円孔.網膜内層外層の浮腫が確認できるが,硝子体ははっきりしない.d:第三世代(SD-OCT),黄斑円孔.cと同一症例.浮腫が鮮明に描出され,硝子体も確認できる.*どれも厚みと縮尺が同じになるようにサイズ調整済み.図3SD.OCTとSS.OCTの比較a:SD-OCT.ellipsoidzone,interdigitatioinzoneのいずれも鮮明に描出されている.b:EDIモードで撮影.脈絡膜強膜境界が通常の撮影より鮮明である.その分ellipsoidzone,interdigitatioinzoneがやや不鮮明になっている.c:SS-OCT.ellipsoidzone,interdigitatioinzone,脈絡膜のいずれもが鮮明に描出されている.ab図4EnfaceOCT(同一症例の右眼〔左列〕および左眼〔右列〕)a:水平断.左:黄斑円孔,右:正常.b:水平断の白点線におけるスライス,中心窩の描出はよいが,眼球の湾曲のため,その周囲ははっきりしない.c:網膜色素上皮(PRE)ラインで平坦化後の黄色点線におけるen-face画像.中心窩付近だけでなくその周囲も鮮明に描出される.右下では脈絡膜中大血管が描出されている.VIIOCTangiography(OCTA)これまでのOCTは網脈絡膜の形態を評価するものであって,血流のような動的な変化を観察するものではなく,この点においてフルオレセイン蛍光造影(.uore-sceinangiography:FA)やIAとはまったく別の検査であった.近年急速に普及してきているOCTAはOCTで血流という動的変化をとらえることができる検査である.簡単な原理として,OCTAは連続的に網脈絡膜のOCT撮影を繰り返すことで得られる複数枚の画像の間にある変化(位相変化または信号強度変化,もしくはその両者)を血流情報として抽出し,それ以外の変化のなかった部位の情報を削除することで,動的変化の部位として血管像を構築し,FAやIA画像のように表示することができる.さらに得られた画像を,先述のenface画像作成の技術を応用して,血流情報を三次元的に解析し,網膜から脈絡膜の血管を深さ別にenface画像として描出することで,これまでのFA・IAとは異なり層別解析が可能となっている.得られた画像はFA・IAとは異なるが,病変の検出は同等である一方,検査時間が短く副作用がない利点が報告されている10).また,現時点ではSD-OCTにangiography機能を付加した装置が主流だが,一部ではSS方式を採用しているものもある.OCTAにおけるSD-OCTとSS-OCTの違いについては今後の検討を待つ必要がある.VIIIOCTangiographyで見えるもの詳細については別項に譲るが,現時点でOCTAで有効性が期待できるものとして,次のようなものがある.1.無灌流領域(図5a)糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などで生じる無灌流領域はFAよりも鮮明に描出される.ただし,現行機種では描出範囲が限定されており,眼底周辺部まで描出するのは困難である.また,OCTを応用したものであることから,OCTの光が届かない出血や浮腫,漿液性網膜.離より後方の変化は,真の画像ではない可能性があり,注意する必要がある.2.網膜新生血管(図5b)とくに糖尿病網膜症における視神経乳頭上の新生血管や無灌流領域の後極部側にみられる.無灌流領域と同様OCTAはまだ画角が狭いため,周辺部の新生血管は描出困難である.3.脈絡膜新生血管(図5c,d)滲出型加齢黄斑変性や近視性黄斑症などの新生血管描出がもっとも期待されている.ただし,網膜色素上皮上に新生血管のあるいわゆるtype2の描出は良好だが,網膜色素上皮下の病変の検出力はそれほど高くないとの報告もあり,注意が必要である.また,加齢黄斑変性症例は固視不良例が多く,鮮明な画像が得られないことが多い.4.中心窩無血管域(図5e,f)FAでは早期像でしか確認できない中心窩無血管域(fovealavascularzone:FAZ)が鮮明に描出できる.FAZの大きさによる病的な意義ははっきりしていないが,糖尿病症例では単純網膜症やそれ以前のまだ網膜症がない症例でもFAZが拡大しているとの報告もある11).IXOCTangiographyの限界基本原理上または技術上,OCTAには簡単には解決できない限界が存在する.上記ではFA・IAと同じまたはそれ以上の画像が得られると述べたが,実際には次のように検出できないものもある.1.画角が狭いFA・IAと比較して,現行のOCTAでは3mm×3mmや6mm×6mm程度と範囲が狭い.これはスキャンそのものやその後の解析スピードの問題で,今後解決されると思われる.2.蛍光漏出・蛍光貯留が検出できないOCTAでは基本的に赤血球の動きを検出しているため,血漿成分の動きは描出できない.蛍光漏出や蛍光貯留は病変の活動性を示す重要な所見であり,たとえば糖尿病網膜症の毛細血管瘤の漏出や,中心性漿液性脈絡網(7)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017765図5OCTangiographyで期待されている画像a:網膜静脈分枝閉塞症例の黄斑部パノラマ画像.b:増殖糖尿病網膜症における視神経乳頭上の網膜新生血管.c:脈絡膜新生血管.網膜外層および脈絡膜血管層に新生血管がみられる.d:中心窩無血管域.e:40歳代の正常眼,f:60歳代の糖尿病網膜症例.図6Motionartifacta:網膜血管のダブリング.撮影時のわずかな動きにより網膜血管が二重に映り込むこと.b:キルティング.水平および垂直スキャン位置合わせを行うことによって起こるアーチファクト.図7Blockinge.ect黄斑部耳側に低輝度所見がみられるが,網膜表層,網膜深層,網膜外層および脈絡膜血管層のすべてに写っていることからアーチファクトだとわかる.この症例では硝子体混濁が存在していた.ab図8Segmentationerrora:OCTangiography.耳側1/4が描出されていない.b:水平断.耳側が撮影範囲からズレておりsegmentationができていない.図9Projectionartifactドルーゼンが多発している症例で網膜外層および脈絡膜血管層に脈絡膜新生血管はみられないが,脈絡膜血管層に網膜血管が写り込んでいる.ここまで映り込むことは稀であるが,本症例では網膜色素上皮不整により,segmentationも困難なため生じたと考えられる.図10Transmissione.ect黄斑部に網膜色素上皮萎縮があり,OCTAでは萎縮部位でのみ脈絡膜血管が白色に描出されている.-

序説:光干渉断層血管撮影(OCT angiography)のすべて

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影(OCTangiography)のすべてOCTangiography:AllYouNeedtoKnow小椋祐一郎*光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,光の干渉作用を利用して組織の断面画像を描出する技術で,1991年に,DavidHuangらにより開発された1).昨年はその開発から25年ということで,InvestigativeOphthalmology&VisualScience誌にその記念号が特集された.現在,眼科領域以外でもOCT技術は使用されているが,図1OCTPublicationsByYear4,0003,5003,000NumberofPublications2,5002,0001,5001,0005000のように眼科領域での研究報告がきわめて多く,この分野において眼科が果たしてきた貢献は特記すべきものがある2).OCTのハードウェアの進歩も著しく,初期の機器では1秒間に400スキャンであったが,最新の機器では1秒間に100,000スキャンという超高速の測定が可能となっている.このような計測の高速化SurgeryOtherNon-MedicalMicroscopyNDE/NDTOralCavity(notDentistry)GynecologyBronchoscopy&PulmonologyDevelopmentalBiologyUrologyOtolaryngologyOtherMedicalDentistryNeurologyGastroenterology&EndoscopyDermatologyTechnology1991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015CardiovascularOphthalmologyYear図125年間のOCTに関する領域別論文数緑色が眼科領域の論文数.(文献2から引用)*YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)759

千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):744.748,2017c千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学IntravitrealInjectionofAnti-VEGFDrugforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績を検討する.対象および方法:千葉労災病院において2014年3.8月にDMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)について,治療前,治療1,2,3,6,9,12カ月後に検討した.3カ月以上前のステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤への直接凝固などのDMEに対する先行治療は含まれる.結果:17人18眼.平均年齢64.8歳.平均HbA1C6.8%.3カ月までに使用した抗VEGF薬はすべてラニブズマブであり,3カ月間のラニビズマブ注射回数は平均1.7回で,その後の12カ月まででは,アフリルベセプトも含まれるが,抗VEGF薬総注射回数は2.4回.期間中,抗VEGF薬以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼.治療前の視力(logMAR換算)は0.524で,治療1,2,6,9カ月後で,それぞれ0.428,0.425,0.386,0.381となり,有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(3M:0.422,12M:0.424).CRTは,治療前540.8μmで,治療1,2,3,9,12カ月後ではそれぞれ407.4,398.9,415.2,391.7,386.2μmとなり,有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後ではp<0.05).6カ月後では有意差はなかった(6M:415.5μm).結論:当院でのDMEに対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績は,総注射回数2.4回で,治療効果は12カ月にわたり維持できていた.Purpose:Toevaluatethee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugfordiabeticmacularedema(DME)overaperiodof12months.Methods:FromMarch2014toAugust2014,18eyesof12patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrug(ranibizumab)werefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeandat1,3,6,9and12months(M)afterthe.rstinjection.Results:Injectionincidenceaveraged1.7dur-ingthe.rstthreemonthsand2.4duringthe12months.BaselineBCVAandCRTwere0.52and544.8μm,respectively.Atmonths1,2,6and9,BCVAshowedsigni.cantdi.erence(1M:0.428,2M:0.425,6M:0.386,9M:0.381),thoughmonths3and12didnotshowsigni.cantdi.erence(3M:0.422,12M:0.424μm).Atmonths1,2,3,9and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:407.4,2M:398.9,3M:415.2,9M:391.7,12M:386.2μm).Atmonth6,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(6M:415.5μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugise.ectiveforDMEduringa12-monthperiod,evenatupto2.4injections.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):744.748,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,併用療法,光凝固.diabeticmacu-laredema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,combinedtherapy,photocoagulation.〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN744(142)はじめにわが国における糖尿病患者数の動向は厚生労働省国民健康・栄養調査結果によれば,調査が始まった平成9年度の糖尿病が強く疑われる者の数は690万人であったのに対し,平成14年度では740万人,平成19年度では890万人,平成24年度では950万人となっている.また,糖尿病網膜症は,糖尿病罹病期間の延長とともに累積的に増加し,後天性視覚障害の主要な原因となってきた.最近の報告では,若い世代では,高齢者と比較し,重症な増殖網膜症の発症頻度が2倍近く高く,また,年齢別にまた進展と重症化の割合も,65歳以上の高齢者に比べ,40歳未満の若年者においてより高く,若年者では,重症化した網膜症患者が増えていることが示されている1).また,網膜症の重症度が増すにつれ,黄斑浮腫合併の割合も増えるとされており,働く世代における糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)への対策が社会的にも非常に重要になっていると考えられる.これまでにレーザー治療,90年代からは硝子体手術,ステロイド治療などが行われてきたが,さまざまな問題点もあり,黄斑浮腫に対する治療は十分確立されたものとはいえないものであった.このようななかで,筆者らは,マイクロパルスレーザーに取り組んできた2).マイクロパルスレーザーは,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもので,副作用の少ない低侵襲な治療として行ってきたが,12カ月の治療成績では,中心窩網膜厚の改善はできたが,視力は維持のみで,単独治療としては,まだ十分とはいえなかった2).DMEの病態解明が進み,血管内皮増殖因子(vas-cularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,DMEの硝子体中では高濃度に存在していることが解明された3).加齢黄斑変性症の治療薬としてすでに認可されていたラニビズマブが,DMEにおいても大規模臨床試験でその有用性が示され4,5),わが国においても,2014年には,ラニブズマブ,ついで,アフリルベセプトと2種類の抗VEGF薬にDMEの適応が拡大された.抗VEGF薬は,これまでのレーザーや,ステロイド治療に比較して,即効性があり,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の改善のみならず,視力も改善できるなど,これまで以上の大変優れた治療効果が示されたが,年間7,8回以上もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診と高額な薬剤費用が大きな負担になってくると思われる.このような背景のもとで,筆者らは,DMEに対する治療として,抗VEGF薬硝子体注射を行うようになり,1年間の治療成績を診療録より後ろ向きにまとめたので報告する.I対象および方法2014年3.8月に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射を施行された症例で,その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR値),CRTについて,治療前および治療1,2,3,6,9,12カ月後について診療録より後ろ向きに検討した.これらの症例で,DMEに対する治療歴がまったくないものは3眼で,先行治療があるものも多く含まれている.3カ月以上前に施行された,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)へのレーザー5眼,汎網膜光凝固4眼,白内障手術施行2眼,2年前にDMEに対して硝子体手術施行の1眼である.3カ月以内に何らかの治療を受けているものはすべて除外した.硝子体手術については6カ月以上の経過が空いていることとした.基本的な治療方針としては,ラニビズマブ硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)を行い,その後は2段階以上の視力の悪化または20%以上のCRTの増悪があった場合には,再燃と考え,IVRを繰り返す方針であるが,患者の同意が得られない場合には,必ずしもその限りではない.6カ月以降での再注射には,新しく発売されたアフリルベセプト使用も含まれる.また,経過中にMAの出現がみられた場合や,造影検査で,無血管野の残存があった場合にはレーザー追加すること,また,硝子体注射を希望しない場合の追加治療として,マイクロパルスレーザーや,ステロイドTenon.下注射もできることをあらかじめ説明した.統計処理は,Wilcoxon順位和検定による.II結果18人19眼が対象で,6カ月までは全例が経過観察できたが,2眼は6カ月経過後に網膜症の活動性が増し,硝子体出血発症などのため硝子体手術適応となり,16人17眼について検討した.平均年齢64.5歳,平均HbA1C6.8%であった.3カ月までの抗VEGF薬は,すべてラニビズマブが用いられ,IVRの3カ月間の回数は平均1.7回で,3カ月以降12カ月までの期間で追加投与した抗VEGF薬には,アフリルベセプトも含まれているが,12カ月間の抗VEGF薬総注射回数は2.4回であった.期間中の抗VEGF薬硝子体注射以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼であった.視力(logMAR換算)は治療前0.524より,1,2,3,6,9,12カ月後でそれぞれ,0.428,0.425,0.422,0.386,0.381,0.424となり,1,2,6,9カ月後で有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(図1,表1).CRTは,治療前540.8μmより,1,2,3,6,9,12カ月後では,それぞれ407.4,398.9,415.2,415.5,391.7,386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後では,0.7*p<0.05**p<0.01700*p<0.05,**p<0.010.6600*500*******0.5視力(logMAR)中心窩網膜厚(μm)0.40.34003002001000.20.10Before1M2M3M6M9M12M0Before1M2M3M6M9M12M図1視力(logMAR)の経過図2中心窩網膜厚の経過投与前,1,2,3,6,9,12カ月後の視力.投与前中心窩網膜厚(CRT)は,治療前540.8μmで,1カ月後0.524,1カ月後0.428,2カ月後0.425,3カ月後0.422,407.4,2カ月後398.9,3カ月後415.2,9カ月後391.7,6カ月後0.386,9カ月後0.381,12カ月後0.424とな12カ月後386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では,り,術後1,2,6,9カ月では有意に改善した(1,2,6有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カカ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).月後ではp<0.05).6カ月後では,有意差はなかった.表1視力(logMAR)の経過before1M2M3M6M9M12M視力(logMAR)0.524±0.0740.428±0.0730.425±0.0760.422±0.0890.386±0.0600.381±0.0700.424±0.074p値0.0150.0300.1550.0200.0010.083表2中心窩網膜厚の経過before1M2M3M6M9M12M中心窩網膜厚(mm)540.8±29.9407.4±25.3398.9±30.9415.2±27.7415.5±34.8391.7±23.3386.2±29.8p値0.0040.0020.0110.0550.0120.008p<0.05).6カ月後では有意差はなかった(図2,表2).代表的な症例を2例示す.〔症例1〕60歳,女性.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),CRT715μmで,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善したが,3回目の注射は希望されなかったため,初回IVR施行から3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらにその3カ月後に,まだ残存している毛細血管瘤へのレーザー光凝固を施行した.12カ月後の視力(0.5),CRT249μmと改善が認められた.網膜全体の出血斑,白斑も減少している(図3).〔症例2〕58歳,女性.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),CRT653μmと黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに3回行い,視力(0.4),CRT295μmと改善がみられた.6カ月後に再燃し,その後4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行い,12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した.12カ月後の眼底では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑や出血斑が著明に減少している(図4).III考按これまでに,DMEに対するIVRについては,大規模臨床試験4,5)により,その高い臨床効果は示されており,現在のDME治療の第一選択の位置にあることは明らかなものとなっている.しかしながら,大規模臨床試験での総投与回数は1年間で,7,8回以上となっており,繰り返しの注射は,さまざまな新たな問題につながっている.高額な医療費の経済的な負担のほか,頻回の外来通院は,患者側,医療者側にも負担になる.また,繰り返し注射は眼内炎のリスクにつながるものであり,そのような因子を考慮すると,大規模臨床試験の示す頻回の注射回数をそのまま実際の日常診療には適応しにくい.DMEの患者の硝子体中のサイトカインを調べた研究では,DME患者では,非常に高濃度のVEGFが発現しているが,それ以外にも,IL-6ほか,炎症性サイトカインもあり6),ステロイド投与は,理論的にも治療法として有効であると考えられる.また,血管透過性が亢進し,漏出しているMAがあれば,直接的凝固により,浮腫が速やかに改善でき図3症例1(60歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:6カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),中心窩網膜厚(CRT)715μm,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた(写真上段).ラニビズマブ硝子体注射を1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善した(右3段目).3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらに,残存する毛細血管瘤へのレーザーを6カ月後に施行した(眼底は左中段,OCTは右5段目).12カ月後では視力(0.5),CRT249μmと改善した(右下段).網膜全体の出血斑,白斑も減少している(左下段).視力の表示は小数視力による.ることは,1985年から推奨されており7),今回の症例においても,経過中に浮腫の原因となっていると思われるMAが新たに出現した場合には,凝固を行った.筆者らは,これまでにDMEに対するマイクロパルスレーザー閾値下凝固に取り組んできたが,色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化し,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきたが,即効性にはやや欠けるが,12カ月にわたる持続した治療効果を示し2),今回も追加治療として行っている.また,Takamuraらは,1回の抗VEGF薬投与でも,無血管野へのレーザー光凝固の併用により浮腫の再燃を抑制でき,レーザー光凝固が内因性のVEGFを減少させると考察しており8),今回の筆者らの治療図4症例2(58歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:2カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),中心窩網膜厚(CRT)653μm,黄斑浮腫が持続していた(眼底左上段,OCT右上段).ラニビズマブ硝子体注射1カ月ごとに3回行い,3カ月後には視力(0.4),CRT295μmと改善した(OCT右4段)が,6カ月後に再燃がったので,さらに4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行った.12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した(眼底左下段,OCT右下段).12カ月後の眼底(左下段)では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑と出血斑が減少し,病期が改善している.視力の表示は小数視力による.においても,経過中に残存した無血管野が確認できた場合には,光凝固の追加を行うようにした.筆者らは,DMEの病態を考えると,このような異なる作用機序をもつ治療法を併用して対応することが重要ではないかと考えて治療に取り組んできたので,今回の治療成績は,純粋に抗VEGF薬のみの治療効果を検討したものではない.今回の対象でも,事前治療がまったくなかったものは3眼のみであり,残りの14眼はさまざまな事前治療があり,また,10眼についてレーザー,ステロイドなどの追加治療がなされている.したがって,1年間当たり平均2.4回の少ない注射回数にもかかわらず,有意な視力改善とCRTの改善がほぼ1年にわたり維持できたことは,併用療法も重要な役割を果たしたものと考えられる.また,12カ月後の眼底は,全体として,血管透過性亢進が改善し,浸出斑や出血斑が減少し,網膜症としての病期が軽快したと思われる症例も多く経験した.実際に,ラニビズマブ投与3年の治療成績では,病期を改善する効果もあると報告されている9).とくに若年層では,重症網膜症が増えている1)ことを考えると,抗VEGF薬の網膜症の改善効果については,今後もDMEへの治療効果とともに,注目していきたいところである.この論文の6カ月までの経過は,第20回日本糖尿病眼学会総会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KatoS,TakemoriM,KitanoSetal:Retinopathyinolderpatientswithdiabetesmellitus.DiabetesResClinPract58:187-192,20022)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20113)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19944)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthal-mology118:615-625,20115)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchgroup:Longtermoutcomesofranibizum-abtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Oph-thalmology120:2013-2022,20136)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitre-ousin.ammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,20097)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)TakamuraY,TonomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20149)IpMS,DomalpallyA,SunJKetal:Long-terme.ectsoftherapywithranibizumabondiabeticretinopathyseveri-tyandbaselineriskfactorsforworseningretinopathy.Ophthalmology122:367-374,2015***

両眼の浅前房と近視化を初発症状とした全身性エリテマトーデスの1例

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):740.743,2017c両眼の浅前房と近視化を初発症状とした全身性エリテマトーデスの1例小橋川裕司*1,2江夏亮*1酒井寛*1*1琉球大学医学部眼科学教室*2大浜第一病院眼科ACaseofInitialOnsetofMyopiaCausedbySystemicLupusErythematosusYujiKobashigawa1,2),RyoEnatsu1)andHiroshiSakai1)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,2)DepartmentofOphthalmology,OhamadaiichiHospital近視化を伴う浅前房で発症した全身性エリテマトーデス(SLE)の1例を報告する.症例は15歳,女性.1週間前からの両眼の視力低下と眼瞼腫脹を主訴に琉球大学医学部付属病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時の矯正視力は右眼(0.8),左眼(0.9).元来,正視で裸眼視力良好とのことだったが,屈折値は右眼.12.75D,左眼.8.75Dの近視であった.眼圧は右眼20mmHg,左眼15mmHg.両眼の浅前房があり,両眼後極部に放射状の網膜皺襞と網膜血管の拡張・蛇行を認めた.前眼部OCTを施行し毛様体脈絡膜.離と診断した.全身検索にて蛋白尿,著明な低アルブミン血症と血小板減少を認め,当院内科に紹介しSLEおよび蛋白漏出性胃腸症と診断された.ステロイド全身投与により眼科的異常所見はすべて改善した.若年女性の近視化と浅前房ではSLEに伴う毛様体脈絡膜.離を鑑別する必要がある.A15-year-oldfemaledevelopedblurredvisionandlidedemainbotheyes,lastingforoneweek.Hervisualacuitywas0.8ODand0.9OS,representingmyopiaof.12.75dioptersODand.8.75dioptersOS.Intraocularpressurewas20mmHgODand15mmHgOS.Anteriorchamberwasshallowinbotheyes;ciliochoroidale.usionwasdiagnosedbyanteriorsegmentOCT.Urineproteinwaspositiveandlaboratorystudiesshowedseverehypoal-buminemiaandthrombocytopenia.Thepatientwasreferredtoaninternalmedicinespecialistanddiagnosedassystemiclupuserythematosus(SLE).Aftersystemicadministrationofsteroids,alloftheocular.ndingsdisap-peared.LowplasmaosmolalitycausedbyhypoalbuminemiaduetoSLEprotein-losinggastroenteropathymaybeacauseofciliochoroidale.usionandshallowanteriorchamber.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):740.743,2017〕Keywords:全身性エリテマトーデス,毛様体脈絡膜.離,近視化,浅前房,低アルブミン血症.systemiclupuserythematosus,ciliaryedema,myopia,shallowanteriorchamber,hypoalbuminemia.はじめに全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythemato-sus:SLE)は,免疫複合体による細胞障害が原因となり,多くの臓器に障害をきたす自己免疫疾患である.好発年齢は20.40歳代であり,男女比は1:10で若い女性に多い.初発症状は関節炎,顔面蝶形紅斑などの皮膚所見,発熱や倦怠感が多く1),さまざまな眼合併症もきたしうる.眼合併症は涙液分泌障害・角結膜障害(56.5%),網膜病変(10.3%),強膜炎・ぶどう膜炎(4.3%),視神経障害(1.5%)が知られており2),浅前房・近視化の報告はまれである3.5).今回,筆者らは,急激な近視化を主症状に眼科を受診し,診断に苦慮したSLEの1例を経験したので報告する.I症例患者:15歳,女性.平成23年6月9日より両眼視力低下,両眼眼瞼腫脹があり,近医眼科を受診した.黄斑部に異常を指摘され,精査のため同年6月16日に琉球大学医学部付属病院(以下,当院)眼科へ紹介された.家族歴や既往歴に特〔別刷請求先〕小橋川裕司:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YujiKobashigawa,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN740(138)図1眼底写真a,b:初診時の眼底写真.両眼の後極部に放射状の網膜皺襞および網膜血管の拡張と蛇行を認める.c,d:治療後の眼底写真.上記所見が改善している.記事項はなく,平成23年4月の学校健診でも異常はなかった.受診1カ月前から2kgの体重増加があった.初診時所見:視力は右眼0.2(0.8×.7.00D(cyl.2.50DAx75°),左眼0.3(0.9×.6.50D(cyl.1.75DAx110°).屈折値は右眼.12.75D,左眼.8.75D.眼圧は右眼20mmHg,左眼15mmHg.両眼瞼に浮腫を認めた.両眼の前房はVanHerick法でI度と浅く,前房内炎症は認めなかった.中間透光体に異常はなかった.両眼後極部に放射状の網膜皺襞,網膜血管の拡張と蛇行を認めた(図1).黄斑部OCTでは網膜表面の不整化を認めた(図2).前眼部OCTでは,前房深度は右眼1.54mm,左眼1.58mmと浅前房であり(図3),両眼に全周性の毛様体脈絡膜浮腫を認めた(図4).視野検査は正常であった.蛍光眼底造影検査では無灌流領域,新生血管,漿液性網膜.離,視神経乳頭過蛍光はなく,その他異常所見は認めなかった.治療および経過:血液検査と尿検査にて,血中アルブミン値は1.9g/dl,血小板数は3.9×104/μlと低下を認め,蛋白尿も認めたため,当院内科へ紹介した.その後,内科精査中に血液検査で抗核抗体陽性,抗dsDNA抗体陽性,顔面蝶形紅斑,光線過敏症,膝関節炎,胸膜炎(両側胸水貯留)も伴ってきたため,SLEの診断基準のうち8項目(4項目以上で診断確定)を満たし,SLEの確定診断となった.さらに,SLEに伴う蛋白漏出性胃腸症(Lupus腸炎)も検出された.7月13日からメチルプレドニゾロン500mg/dayを3日間投与するステロイドミニパルス療法を1クール施行後,プレドニゾロン50mg/day内服へ切り替え,以後,漸減していった.ステロイド全身投与開始後,前眼部OCTで毛様体浮腫の消失を認め(図4),前房深度は両眼とも2.69mmとなった(図3).8月4日の矯正視力は右眼1.2(矯正不能),左眼0.9(1.0×+0.25D)と近視化は改善され,黄斑周囲の網膜皺襞,網膜血管の拡張と蛇行は消失し(図1),黄斑部OCTにて網膜表面の形態も正常化していた(図2).血中アルブミン値は3.8g/dl,血小板数は21.3×104/μlと正常化し,dsDNA抗体も陰性化した.尿蛋白,蛋白漏出性胃腸症,図2黄斑部OCT写真a,b:治療前の黄斑部OCT写真.網膜表面が不整で,微細な皺襞を認める.c,d:治療後の黄斑部OCT写真.形態的異常は消失した.図3前眼部OCT写真①a,b:治療前の前房深度は右眼1.54mm,左眼1.58mm.浅前房と狭隅角を認めた.c,d:治療後の前房深度は両眼2.69mm.図4前眼部OCT写真②a:治療前,左眼鼻側の毛様体浮腫(.).同様の所見は両眼全周性にみられた.b:治療後,同部位の毛様体浮腫は消退している(.).全周で改善を認めた.胸水は軽快した.全身の浮腫も改善し,8月17日退院時には入院時の身長152cm体重55kgから9kg体重減少していた.II考按SLEの診断は,米国リウマチ学会(ACR)の1982年基準(1997年改定)に基づいて行われる.すなわち,①顔面紅斑,②円板状皮疹,③光線過敏症,④口腔内潰瘍,⑤関節炎(2カ所以上),⑥漿膜炎(胸膜炎,心外膜炎),⑦腎病変(蛋白尿1日0.5g以上か3+以上,細胞円柱),⑧神経学的病変(痙攣,精神症状),⑨血液学的異常(溶血性貧血,白血球減少:2度以上の4,000/μl以下,リンパ球減少:2度以上の1,500μl以下,血小板減少:薬剤によらない10万μl以下),⑩免疫学的異常(抗dsDNA抗体,抗Sm抗体,抗リン脂質抗体),⑪抗核抗体のうち,4項目以上陽性(出現時期は一致しなくてよい)を満たした場合,SLEと診断される.本症例は内科精査中に,上記診断基準のうち①顔面紅斑,③光線過敏症,⑤関節炎,⑥胸膜炎,⑦腎障害,⑨血液学的異常,⑩免疫学的異常,⑪抗核抗体の8項目が陽性となりSLEの診断となったが,最初に眼科を受診した際は⑦腎障害,⑨血液学的異常の2項目を認めるのみであった.眼科的所見は,眼瞼浮腫と浅前房,近視化を認め,前眼部OCTでは両眼に全周性の毛様体浮腫を認めた.毛様体浮腫に伴う浅前房,近視化を呈したSLEの例は報告が少ないうえ,本症例の網膜所見(後極部の放射状の網膜皺襞,網膜静脈の拡張と蛇行)は,綿花様白斑や網膜出血といった典型的なSLE網膜症の所見ではなかったことから,ただちにSLEを疑うことができず診断に苦慮した.本症例で認めた網膜皺襞に類似の所見は,Epstein-Barrウイルス感染症に続発した水晶体前方移動を伴う毛様体.離の症例6)でも報告されている.この報告によれば後部硝子体.離の起こっていない若年者において,液化の進んでいない硝子体が水晶体前方移動により牽引され,網膜皺襞をきたしたものと推測されている.本症例における網膜皺襞も本症例での浅前房および近視化と同様に,毛様体浮腫に伴う水晶体前方移動が引き起こした一連の変化と考えた.SLEに眼瞼浮腫,近視化と浅前房を合併した過去の報告3.5)において,毛様体の炎症がその発症機序と考察されている.また,SLE患者の剖検眼において,毛様体上皮,結膜上皮,脈絡膜微小血管などに免疫複合体の沈着を認めていたとの報告7,8)があり,それによる局所的な細胞障害が示唆されている.加えて,本症例ではSLEに伴う蛋白漏出性胃腸症により著しい低アルブミン血症を発症し,血漿膠質浸透圧が低下していた.血漿膠質浸透圧の低下による血管内から組織への水分移動も毛様体脈絡膜.離の発症の一因であると考えられる.ステロイド治療開始後,低アルブミン血症と眼瞼浮腫,毛様体脈絡膜.離が速やかに改善したことから,血管炎と血漿膠質浸透圧低下が発症機序として重要であると推測される.今回,筆者らはSLEに伴う浅前房と近視化の原因が毛様体脈絡膜.離とそれに伴う水晶体の前方移動であることを前眼部OCTを用いた検査で初めて明らかにした.毛様体脈絡膜.離の診断には前眼部OCTが有用である.毛様体脈絡膜.離とそれに続発する浅前房,近視化は,SLEの全身症状に先行して生じる可能性のある合併症である.若年女性に両眼性の浅前房・近視化を認めた場合には,典型的な網膜所見や全身症状を呈さなくともSLEの可能性も考慮し,全身状態の把握や他科との連携が必要であると考える.文献1)VonFeldtJM:Systemiclupuserythematosus.Recogniz-ingitsvariouspresentations.PostgradMed97:79,83,86passim,19952)木村至,鈴木参郎助,大曽根康夫ほか:全身性エリテマトーデス患者における眼合併症とその頻度.眼紀50:293-297,19993)三宅太一郎,堀尾和弘,西田保裕ほか:一過性の浅前房と近視化を呈した全身性エリテマトーデスの1例.臨眼57:555-558,20034)梅山圭以子,高井勝史,湖崎淳ほか:一過性の浅前房と近視化をきたしたSLEの症例.臨眼47:883-886,19935)内田研一,田中住美,新家眞ほか:一過性の浅前房と近視化,高度の眼瞼・結膜浮腫を呈した全身性エリテマトーデスの1例.臨眼43:43-46,19896)加藤寛彬,横田怜二,山添克弥ほか:Epstein-Barウイルスの関与が疑われた両眼性毛様体.離の1例.臨眼70:767-772,20167)AronsonAJ,OrdonezNG,DiddieKRetal:Immune-com-plexdepositionintheeyeinsystemiclupuserythemato-sus.ArchInternMed139:1312-1313,19798)KarpikAG,MelvinM,SchwartzLEetal:Ocularimmunereactantsinpatientsdyingwithsystemiclupuserythema-tosus.ClinImmunolImmunopathol35:295-312,1985***

プロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭血流変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):734.739,2017cプロスタグランジン関連薬点眼治療介入前後における視神経乳頭血流変化と乳頭周囲脈絡網膜萎縮との関連の解析内匠哲郎伊藤浩幸安樂礼子竹山明日香榎本暢子石田恭子富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科PeripapillaryAtrophyandItsRelationtoChangesinOpticNerveHeadBloodFlowafterUseofTopicalProstaglandinAnaloguesTetsuroTakumi,HiroyukiIto,AyakoAnraku,AsukaTakeyama,NobukoEnomoto,KyokoIshidaandGojiTomitaDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine東邦大学医療センター大橋病院眼科で新たに診断された無治療の正常眼圧緑内障患者22例22眼を対象とし,ハイデルベルグレチナトモグラフ3による乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)形状測定と,レーザースペックルフローグラフィによる治療前,治療3カ月後の時点での乳頭組織血流測定を行い,その関連を前向きに検討した.治療3カ月後において,眼圧は有意に下降した.治療前後の乳頭組織血流変化率とPPAパラメータに有意な相関を認めなかった.また,治療3カ月後での血流増加群および低下群の間でPPAパラメータに有意差を認めなかった.一方,視神経乳頭の上下耳鼻側別での解析では,鼻側の乳頭組織血流増加群と下側の低下群において,PPAパラメータと乳頭組織血流変化率との間に有意な相関が一部認められた.PPAの大きさや広がりが点眼治療前後の乳頭組織血流変化に与える影響については,その関連性は否定できないが,関連の程度は低いと考えられた.Weprospectivelyinvestigatedthecorrelationbetweenperipapillaryatrophy(PPA)andmicrocirculationoftheopticnervehead(ONH)beforeandafterusingtopicalprostaglandinanaloguesinnormal-tensionglaucoma(NTG).Twenty-twopatientswithnewlydiagnosedNTGwereenrolledinthestudy.PPAparametersweremeasuredbyHeidelbergRetinaTomograph3.ONHmicrocirculationwasdeterminedbylaserspeckle.owgraphy(LSFG)beforeandat3monthsaftertreatment.ThemeanblurrateofthetissuecomponentoftheONH(MBR-T)wascalculat-ed.At3monthsaftertreatment,intraocularpressurewassigni.cantlyreduced.However,nosigni.cantcorrela-tionswereobservedbetweenPPAparametersandchangesintheMBR-T,exceptinthenasalquadrantandtheinferiorquadrantoftheONH.WeconcludethatPPAundeniablyin.uencesthee.ectoftreatmentforONHmicro-circulation,butitsrolemaynotbesigni.cantlyhigh.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):734.739,2017〕Keywords:視神経乳頭血流,レーザースペックルフローグラフィ,正常眼圧緑内障,乳頭周囲脈絡網膜萎縮.op-ticnerveheadcirculation,laserspeckle.owgraphy,normaltensionglaucoma,peripapillaryatrophy.はじめにこれまで乳頭周囲脈絡網膜萎縮(peripapillaryatrophy:PPA)と緑内障との関連についていくつかの報告がなされてきた.すなわち,①PPAの大きさは正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の機能,構造的異常とよく相関する1).②bゾーンPPAを認める緑内障眼はPPAを認めない緑内障眼と比較して視野進行が速い2).③PPAは視野進行領域の急速な部分と空間的に相関する3).④bゾーンPPAと網膜神経線維層欠損の局在は相関がある4).などである.一方,緑内障眼の眼血流について,近年わが国では,レーザースペックルフローグラフィ(laserspeckle.owgraphy:LSFG)が実用化され,それらを用いた報告がなされてきた.すなわち,①緑内障眼の乳頭辺縁部では,組織血流と視野障害(パターン偏差)の上下比が相関する5),②LSFGにおけ〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒153-0044東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,2-17-6Oohashi,Meguro-ku,Tokyo153-0044,JAPAN734(132)る血流の指標であるmeanblurrate(MBR)は自動視野計の視野障害指標であるmeandeviation(MD)値やスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoher-encetomography:SD-OCT)で測定された網膜神経線維層厚ともによく相関する6),③原発開放隅角緑内障において,LSFGで得られた組織血流の波形解析パラメータであるskew,blowouttimeはMD値と有意に相関する7).④NTGにおいて,MBRはMD値,乳頭周囲網膜神経線維層厚,および黄斑部網膜神経節細胞複合体厚と有意に相関する8),などである.現在,緑内障点眼治療はプロスタグランジン(prostaglan-din:PG)関連薬が第一選択薬として用いられている.PG関連薬については,眼圧下降効果に加え,視神経乳頭部血流が増加したという報告9.11)が散見されるが,低下したという報告12)もある.また,これまでPPAは視神経乳頭局所の血流障害を示す構造変化であるとの認識があるが1),PPAと視神経乳頭血流の関連については不明な点も多い.今回筆者らは,無治療のNTG眼において,PG関連薬1剤点眼治療開始前後での視神経乳頭部組織血流(乳頭組織血流)変化とPPAパラメータの形状(大きさ,広がり)との関連について,とくにPPAの存在が視神経乳頭血流の変化に影響を与えるのかという観点から検討したので報告する.I対象および方法1.対象2013年1月.2015年10月に,東邦大学医療センター大橋病院眼科で新たに診断された無治療のNTG患者のうち,治療開始前3カ月以内にLSFGによる乳頭部血流測定と,ハイデルベルグ走査レーザー断層計(HeidelbergRetinaTomograph3.HeidelbergEngineeringGmBH,HRT3)にてPPA形状解析ができた症例を前向きに採用した.本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行われ,研究の要旨とプロトコールは東邦大学医療センター大橋病院倫理委員会の承認を受けた(承認番号:橋承12-83).すべての対象患者に対し口頭にて研究の内容を説明し,インフォームド・コンセントを得たうえで,同意文書に署名を得た.NTGの診断基準は,①24時間日内変動測定を含む複数回の眼圧測定にて眼圧<21mmHg,②特徴的な緑内障性乳頭変化(乳頭陥凹拡大:C/D比>0.7とそれに伴うリムの菲薄化)と網膜神経線維層束状欠損がみられ,信頼性のある視野検査結果(Humphrey自動視野プログラム中心30-2SITAにて,固視不良率<20%,偽陰性率<20%,偽陽性率<15%)にて,乳頭障害部に一致した視野障害が再現性をもって検出される,③両眼正常開放隅角,④ステロイド薬内服の既往,頭蓋内疾患,眼底の出血性病変など,眼圧,視野結果に影響を与える疾患の既往がないこと,とした13).また,本研究組み入れに際しての除外基準として,内眼手術既往歴があるもの,等価球面度数で<.6D,HRT3の画質が不良(画像のqualitycontrolで“poor”あるいは“unacceptable”と判定,または平均標準偏差>30μm),およびPPAがHRT3の撮影画角より大きい場合は対象から除外した.両眼組み入れ基準に合致した場合は,Humphrey視野の視野障害指数であるMD値(dB)が重度な側の眼を解析対象とした.対象患者に対して,Humphrey視野測定,Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定,眼底写真撮影(トプコンTRC-50DXTypeIAトプコン)を含む眼科的一般検査の後,HRT3によるPPA形状解析およびLSFGによる視神経乳頭部血流測定を行った.点眼薬はラタノプロスト点眼薬かタフルプロスト点眼薬を2人の眼科専門医(GT,KI)が恣意的に選択して投与した.2.HRT3によるPPA形状解析LSFG測定を同一日に行わない場合にはトロピカミド・フェニレフリン点眼,同一日に行う場合にはトロピカミド点眼にて散瞳,眼底写真撮影の後,HRT3(バージョン33.1.2.4)にて視神経乳頭部を画角15°で撮像し,熟練した1人の検者が眼底写真を参照しながら乳頭縁の決定を行った.引き続き,眼底写真を参照しながら,装置に内蔵されているPPAzoneanalysisprogramを用いて,HRT3画像上でbゾーンPPAの範囲を決定した.本研究ではbゾーンPPAは,視神経乳頭縁に沿って強膜と脈絡膜血管が目視できる網脈絡膜の萎縮部分と定義した.bゾーンPPAの形状のパラメータとして,つぎの5つのパラメータを求めた.すなわち,I.PPA全体の面積を示すatrophyarea(AA,mm2),II.PPAの乳頭周囲での広がりの状態を,乳頭中心を基点とした扇の角度として表現するtotalangularextent(TAE,°),III.乳頭中心からPPAの乳頭縁からもっとも離れた場所までの距離を示すtotalradialextent(TRE,mm),IV.totalradialextentのうち,乳頭縁からの距離を示す,maxi-mumdistancefromcontour(MDC,mm),そして,V.MDCを乳頭半径で割ったmaximumdistance/radius(MDR)の五つである(図1).3.LSFGによる視神経乳頭部血流測定トロピカミド点眼にて散瞳後,LSFG-Navi(ソフトケア社)を用いて,視神経乳頭部の血流測定を行った14,15).LSFG-Naviには波長830nmの半導体レーザー発振装置,CCDカメラが内蔵されており,スペックルパターンの変動をコンピュータで解析し,MBR(meanblurrate)値がカラーマップ表示される(図2).解析部位は視神経乳頭とし,四つの部位,すなわち上側,下側,耳側,鼻側の区域に分け,乳頭全体値および各部位の組織領域のMBR(MBR-T)を求めた.測定は3回行い,その平均値を解析に使用した.Ⅰ.Atrophyarea(AA)Ⅱ.Totalangularextent(TAE)Ⅲ.Totalradialextent(TRE)Ⅳ.Max.distancefromcontour(MDC)Ⅴ.Max.distance/radius(MDR;MDC/radius)図1PPAのパラメータ4.検討項目と統計学的解析両眼組み入れ可能な症例では,視野MD値が悪いほうの眼のデータを解析に用いた.点眼治療開始前および点眼後3カ月時点での,眼圧,LSFG測定直後の平均血圧,眼灌流圧〔計算式:2/3(1/3×収縮期血圧+2/3×拡張期血圧).眼圧〕,視神経乳頭全体および上下耳鼻側1/4円のMBR-Tの変化率および治療開始前の五つのPPAパラメータ値とした.点眼前,および点眼開始3カ月後の値の比較には対応のあるt検定を用いた.2群間の相関の解析にはSpearman順位相関係数を求めた.有意水準はいずれも,p<0.05とした.II結果22例22眼(男性7例7眼,女性15例15眼)が対象となった.平均年齢(±標準偏差)は56.7±3.0(歳),平均等価球面度数(±標準偏差)は.2.6±0.6(D),Humphrey視野の平均MD値(±標準偏差)は.3.9±0.7(dB),平均pat-ternstandarddeviation値(±標準偏差)は6.3±0.6(dB)であった.使用PG剤の内訳は,ラタノプロストが8例,タフルプロストが14例であった.点眼開始後3カ月で眼圧は有意に下降したが,平均血圧,眼灌流圧に変化はなかった(表1).治療前の乳頭組織血流とPPA各パラメ.タには有意な相関は認められなかった(表2).治療前後の乳頭組織血流MBR-Tは,全体値および上下耳鼻側において変化はなかった(表3).PPAの各パラメータとMBR-Tの変化率(治療後.治療前/治療前×100)とAllAreaInRubberBandMV=37.7(100.0%)MT-7.0(100.0%)MA=15.1MV-MT=30.7図2MBR(meanblurrate)のカラーマップ表示解析部位は視神経乳頭とし,四つの部位,すなわち上側(S),下側(I),耳側(T),鼻側(N)の区域に分け,乳頭全体値および各部位の組織領域のMBR(MBR-T)を求めた.図では,MV:MeanofVasculararea(ラバーバンド内血管領域のMBR平均値),MT:MeanofTissuearea(ラバーバンド内組織領域のMBR平均値),MA:MeanofAllarea(ラバーバンド内全領域のMBR平均値)が示されるが,このうち組織血流を示すMTを,MBR-Tとし検討項目に使用した.の相関についても,すべてのパラメータに有意な相関はみられなかった(表4).つぎに,治療後3カ月の時点で乳頭全体値および上下耳鼻側それぞれにおいてMBR-Tが増加した群と反対に低下していた群に分けて解析した.その結果,乳頭全体値でMBR-Tが増減した群分けに関して(増加群8眼,低下群14眼),PPAパラメータのTRE(増加群:0.48±0.05mm,低下群:0.60±0.07mm,p=0.070)とMDR(増加群:0.55±0.08,低下群:0.80±0.08,p=0.063)において,低下群のほうがPPAの網膜周辺部方向への進展度が大きい傾向にあったが,上下耳鼻側の増減で分けた場合は,すべてのPPAパラメータに有意な差はなかった(表5).一方,増加群,低下群別で,MBR-Tの変化率とPPAパラメータの相関を解析したところ,鼻側で増減した群分けにおいて(増加群12眼,低下群:10眼),MBR-Tの変化率は,増加群においてPPAパラメータのTAEと有意に正相関した.すなわち,PPAの広がりが大きい眼ほど乳頭組織血流はより改善していた.また,下側で増減した群分けにおいて(増加群12眼,低下群10眼),MBR-Tの変化率は,低下群においてPPAパラメータのAAが有意に正相関した.すなわち,PPAの面積が大きい眼ほど,MBR-Tが低下した率は大きかった(表6).III考察緑内障眼において,b-PPAに関連する報告や1.4),緑内障と視神経乳頭血流との関連について数多くの報告がなされている9.12).PPAは視神経乳頭部における循環障害を示すリスクファクターと考えられているが,これまでにPPAと視神経乳頭血流変化との関連を検討した詳細な既報はほとんどない.今回筆者らは,無治療の正常眼圧緑内障においてPPAの性状(面積および広がり)によって点眼治療前後における血流変化に違いがあるかを検討した.HRT3によって得られた画像を用いて各眼のPPAパラメータをHRT3に内蔵されるPPAanalysisprogramを用いて解析するとともに,LSFGを用い治療前,治療後3カ月時点での視神経乳頭全体表1治療前後眼圧・血圧・眼灌流圧治療前治療3カ月後p値眼圧(mmHg)16.0±0.512.8±0.4<0.001血圧(mmHg)87.5±2.685.2±2.5p=0.310眼灌流圧(mmHg)42.3±1.744.1±1.6p=0.327平均±標準偏差.対応のあるt検定表2治療前MBR.T値とPPAパラメータとの相関係数AATAETREMDCMDR乳頭全体.0.154.0.049.0.052.0.230.038(0.493)(0.828)(0.817)(0.920)(0.867)上側.0.1950.018.0.119.0.051.0.072(0.384)(0.936)(0.597)(0.820)(0.749)耳側0.0080.067.0.0330.0420.167(0.970)(0.766)(0.883)(0.851)(0.458)下側.0.331.0.259.0.261.0.263.0.224(0.132)(0.244)(0.241)(0.238)(0.316)鼻側.0.388.0.095.0.385.0.256.0.205(0.074)(0.673)(0.077)(0.250)(0.360)Spearman順位相関係数.():p値.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表3治療前後のMBR.T値治療前治療3カ月後p値乳頭全体10.5±0.510.3±0.50.523上側10.7±0.510.9±0.50.559耳側7.5±0.47.6±0.50.942下側10.5±0.411.0±0.50.238鼻側12.3±0.612.7±0.60.391平均±標準偏差.対応のあるt検定.および視神経乳頭を上側,耳側,下側,鼻側に4分割した際の各部位における組織血流(MBR-T)を測定した.その結果,治療開始前と治療3カ月後の時点において,PPAの五つのパラメータすべてとMBR-Tの変化率との間には有意な相関を認めなかった.PPAはこれまで視神経乳頭局所の血流に関連した変化と考えられており,PPAの大きさは緑内障性視野障害進行のリスクファクターとの報告されている16).一方,緑内障点眼薬によって,視神経乳頭血流が改善されたとする報告も少なくなく,PG剤においても報告がなされている17).ただ,点眼をすれば必ずしも全例で血流が増加するわけではなく,またその変化も個人差が多い18).緑内障治療薬点眼後の血流変化にPPAの存在が何らかの影響を及ぼすのか否かについては,これまでのところ検討した報告はほとんどない.今回の筆者らの検討では,PPAのパラメータ,すなわち,面積,広がり,周辺部に向かっての突出の程度,すべてに関して点眼前後の乳頭組織血流変化との関連はなかった.一方で,治療後乳頭組織血流が増加した群と低下した群に分けて解析したところ,低下群のほうがPPAの網膜周辺部方向への進展度(TREとMDR)が大きい傾向にあったが,有意ではなかった.また,上下耳鼻側別での乳頭組織血流の変化率においては,鼻側で増加した群において,PPAの広がり(TAE)が大きい眼ほど乳頭組織血流はより改善していた.また,下表4治療前後MBR.T変化率とPPAパラメータとの相関係数AATAETREMDCMDR乳頭全体.0.013.0.0470.0250.090.01(0.954)(0.836)(0.911)(0.691)(0.966)上側.0.1590.020.0.169.0.140.0.176(0.480)(0.930)(0.452)(0.536)(0.434)耳側.0.0320.208.0.099.0.033.0.007(0.887)(0.352)(0.660)(0.885)(0.974)下側.0.0320.091.0.0440.015.0.023(0.887)(0.687)(0.848)(0.946)(0.919)鼻側0.0030.126.0.0270.0080.006(0.990)(0.577)(0.905)(0.970)(0.978)Spearman順位相関係数.():p値.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表5乳頭全体におけるMBR.Tの増加および低下群間でのPPA比較AATAETREMDCMDR増加群(n=8)0.90±0.17174.3±22.560.48±0.05*0.46±0.050.55±0.08#低下群(n=14)0.95±0.12152.1±7.640.60±0.07*0.54±0.080.80±0.08#対応のないt検定,*:p=0.070,#:p=0.063AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.表6MBR.T増加および低下群でのMBR変化率とPPAとの相関係数AATAETREMDCMDR増加群:乳頭全体(n=8).0.072.0.548.0.263.0.036.0.190(0.866)(0.160)(0.528)(0.933)(0.651)上側(n=11)0.0360.245.0.0230.055.0.059(0.915)(0.467)(0.947)(0.873)(0.863)耳側(n=9)0.0080.3330.209.0.0420.217(0.983)(0.381)(0.589)(0.915)(0.576)下側(n=12)0.0700.4550.0630.1750.123(0.829)(0.138)(0.846)(0.586)(0.704)鼻側(n=12).0.1820.601.0.340.0.364.0.455(0.572)(0.039)(0.280)(0.244)(0.147)低下群:乳頭全体(n=14).0.0730.354.0.279.0.204.0.090(0.805)(0.215)(0.334)(0.483)(0.759)上側(n=11)0.068.0.327.0.182.0.191.0.191(0.842)(0.326)(0.593)(0.574)(0.574)耳側(n=13)0.4890.1760.4730.4670.313(0.090)(0.566)(0.103)(0.108)(0.297)下側(n=10)0.669.0.2000.4180.3210.321(0.035)(0.580)(0.229)(0.365)(0.365)鼻側(n=10)0.225.0.115.0.0120.0790.079(0.532)(0.751)(0.973)(0.829)(0.829)Spearman順位相関係数,():p値,太字:有意な相関あり.AA:atrophyarea(mm2),TAE:totalangularextent(°),TRE:totalradialextent(mm),MDC:maximumdistancefromcontour(mm),MDR:MDC/radius.側で増減した群分けにおいては,低下群においてPPAの面積(AA)が大きい眼ほど,MBR-Tが低下した率は大きかった.このことから,PPAの存在が緑内障治療薬点眼後の血流変化に何らかの影響を与えている可能性は否定できないが,全体としてはその影響は低いと考えられた.今回の研究の問題点として,すでに治療が開始されている紹介患者の割合が高い大学病院での単施設研究であり,対象となる未治療の緑内障症例数が22例と少ないため関連のある,なしを最終的に結論するには対象数を増やしてさらに検討する必要がある点があげられる.ただ,今回の解析結果では視神経乳頭全体としては相関係数は非常に小さく,さらに多くの対象を解析すれば何らかの有意差は得られる可能性は否定できないが,得られたとしても,PPAが乳頭組織血流変化に関与する割合は,臨床的に問題にならないほど非常に小さい可能性もある.今後,対象患者の全身要因も含め,どのような事前要素が緑内障治療点眼薬使用後の乳頭組織血流改善につながるかをさらに検討していく必要があると思われた.以上,まとめとして,PPAの形状(大きさ,広がり)が,少なくともPG関連薬点眼前後での乳頭組織血流変化に影響を与えている可能性は否定できないものの,その影響は少ないと結論した.本論文の内容の一部は,第120回日本眼科学会総会(仙台)にて発表した.文献1)ParkKH,TomitaG,LiouSYetal:Correlationbetweenperipapillaryatrophyandopticnervedamageinnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology103:1899-1906,19962)TengCC,DeMoraesCG,PrataTSetal:Beta-Zoneparapapillaryatrophyandthevelocityofglaucomapro-gression.Ophthalmology117:909-915,20103)TengCC,DeMoraesCG,PrataTSetal:Theregionoflargestb-zoneparapapillaryatrophyareapredictsthelocationofmostrapidvisual.eldprogression.Ophthal-mology118:2409-2413,20114)ChoBJ,ParkKH:Topographiccorrelationbetweenb-zoneparapapillaryatrophyandretinalnerve.berlayerdefect.Ophthalmology120:528-534,20135)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,20106)YokoyamaY,AizawaN,ChibaNetal:Signi.cantcorre-lationsbetweenopticnerveheadmicrocirculationandvisual.elddefectsandnerve.berlayerlossinglaucomapatientswithmyopicglaucomatousdisk.ClinOphthalmol5:1721-1727,20117)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化LSFG-NAVITMによる解析.あたらしい眼科29:984-987,20128)山下力,家木良彰,三木淳司ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭血流と網膜構造および視野障害との関連性.あたらしい眼科31:1387-1391,20149)GherghelD,HoskingSL,Cunli.eIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocu-larcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients.Eye22:363-369,200810)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:E.ectsoftopicalphen-ylephrineandta.uprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,201011)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:E.ectsofprosta-glandinF(2a)analoguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularblood.ow:comparisonamongta.uprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,201012)小嶌祥太,杉山哲也,柴田真帆ほか:タフルプロスト長期点眼(1年間)による原発開放隅角緑内障の視野,視神経乳頭血流・形状の変化.臨眼68:895-902,201413)NakazawaT,ShimuraM,RyuMetal:Progressionofvisual.elddefectsineyeswithdi.erentopticdiscappearancesinpatientswithnormaltensionglaucoma.JGlaucoma21:426-430,201214)DaintyJC(ed):Laserspeckleandrelatedphenomena.SpringerVerlag,NewYork,197515)藤居仁:レーザースペックルフローグラフィーの原理.あたらしい眼科15:175-180,199816)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtheprogressionofvisual.elddamagesineyeswithnor-mal-tensionglaucoma.Ophthalmology101:1440-1444,199417)TsudaS,YokoyamaY,ChibaNetal:E.ectoftopicalta.uprostonopticnerveheadblood.owinpatientswithmyopicdisctype.JGlaucoma22:398-403,201318)HarrisA,EvansDW,CantorLBetal:Hemodynamicandvisualfunctione.ectsoforalnifedipineinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol124:296-302,1997***

高分解能・回転式Scheimpflugカメラによる挿入眼内レンズ表面のデンシトメトリ解析

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):730.733,2017c高分解能・回転式Scheimp.ugカメラによる挿入眼内レンズ表面のデンシトメトリ解析尾方美由紀本坊正人南慶一郎飯田将元森洋斎宮田和典宮田眼科病院DensitometryAnalysisofImplantedIntraocularLensusingHigh-ResolutionRotatingScheimp.ugCameraMiyukiOgata,MasatoHonbo,KeiichiroMinami,MasaharuIida,YosaiMoriandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:挿入眼内レンズ(IOL)に対する2種類の回転式Scheimp.ugカメラによるデンシトメトリ解析の互換性を検討した.対象および方法:IOL挿入後の経過観察を行った82例148眼(術後経過年数:6カ月.16年)を対象とした.従来型と高分解能型の回転式カメラを用いてScheimp.ug像を撮影した.デンシトメトリ解析では,IOL前面中心の解析エリア内の平均値と最大値を求め,機器間の相関を評価した.結果:平均値,最大値ともに,機種間には有意で線形な強い相関がみられ(p<0.001,R2=0.9812,0.9222),高分解能型のほうが,それぞれ30.2%,31.7%も感度が高かった.結論:回転式Scheimp.ugカメラを用いたIOL前面のデンシトメトリ解析において,両機種間は互換可能であると考えられた.Purpose:Toexaminewhetherdensitometryanalysisofimplantedintraocularlens(IOL)isexchangeablebetween2rotatingScheimp.ugcameramodels.Methods:From148eyesof82patients,Scheimp.ugimageswereobtainedusingconventionalandhigh-resolutionrotatingcameras,afterIOLimplantation(postoperativeperiod:6monthsto16years).MeanandmaximumdensitometrieswithintheanalysisareaontheanteriorIOLsurfaceswereobtained,andthecorrelationsbetweenthecameraswereevaluated.Results:Thereweresigni.cant,linear,andstrongcorrelationsbetweenthe2camerasinboththemeanandmaximumdensitometries(p<0.001,R2=0.9812and0.9222,respectively).Thehighresolutioncameraresultedin30.2%and31.7%higherthantheconven-tionalmodel.Conclusions:DensitometryanalysisontheanteriorsurfaceofimplantedIOLwasexchangeablebetween2rotatingScheimp.ugcameramodels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):730.733,2017〕Keywords:眼内レンズ,表面光散乱,デンシトメトリ解析,Scheimp.ug像.intraocularlens,surfacelightscat-tering,densitometryanalysis,Scheimp.ugimage.はじめに多焦点,トーリックなどの機能が付加された眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の普及により,IOL挿入後の安定性がより重要となっている.軽度の後発白内障(posteriorcapsularopaci.cation:PCO)でも,多焦点IOL挿入眼では遠近視機能が低下する1).また,特定IOLでみられる表面光散乱の増加は,術後視機能低下のリスクであるとの報告もある2,3).PCOと表面光散乱の定量的な評価として,Scheimp-.ug画像のデンシトメトリ解析が多く用いられている4).以前は,前眼部解析装置EAS-1000(ニデック)が広く使用されていた2,5.11).しかし,本装置はすでに製造はされておらず,保守も困難となっている.一方,回転式Scheimp.ugカメラを有する前眼部画像診断装置Pentacam(OCULUSOptikgerateGmbH)は,角膜の前後面形状を三次元に解析することができるため,わが国でも広く使用されている.本装置は,EAS-1000と同様にScheimp.ug画像を撮影する〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,Ph.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN730(128)平均値最大値100409080PentacamHRデンシトメトリ(%)30201070605040302010000102030400102030405060708090100Pentacamデンシトメトリ(%)Pentacamデンシトメトリ(%)図12種類の回転式Scheimp.ugカメラを用いた挿入IOL前面のデンシトメトリ解析の関係ことから,IOL表面のデンシトメトリ解析も可能である12,13).また,エリア・デンシトメトリ解析においては,EAS-1000との互換性も検証されている14,15).2009年に高分解能のScheimp.ug画像撮影ができるPentcamHR(OCULUS)が国内で使用可能となり,現在は2種類の回転式Scheimp.ugカメラが用いられているが,デンシトメトリ解析における両機器間の互換性は検討されていない.そこで,同一症例に対して,同日に2機種でScheimp-.ug画像を撮影し,デンシトメトリ解析結果を比較した.I対象および方法本前向き観察研究は,宮田眼科病院倫理審査委員会により承認を得た後,ヘルシンキ宣言に沿って行われた.事前にインフォームド・コンセントを全症例より取得した.対象は,IOL挿入後に当院にて経過観察を行った82例148眼で,観察時の平均年齢は72.3±8.9歳(範囲:38.96歳),術後経過年数は3.8±3.4年(範囲:6カ月.16年)であった..内にIOL固定されていない,後.に破損がある,角膜に混濁がある症例は除外した.挿入IOLの内訳は,Alcon製疎水性アクリルIOL(1ピース:103眼,3ピース:11眼),AMO製疎水性アクリルIOL:11眼,HOYA製疎水性アクリルIOL:14眼,シリコーン製IOL:2眼であった.トロピカミド・フェニレフリン点眼液(ミドリンP点眼液,参天製薬)点眼により十分に散瞳を得た後に,2種類の前眼部画像診断装置により25経線のScheimp.ug像を撮像し,水平方向からの撮影像(鉛直方向のスリット切片像に対応)をデンシトメトリ解析した.対象に含まれるAlcon製IOLは術後長期に表面光散乱が増加する9,10,13,16)ことから,IOL前面の表面光散乱を解析することで2機種を比較した.両機種は青色LED(中心波長:475nm)光源を使用しているため,着色IOLではIOL後面のデンシトメトリ解析値が変動する17).このため,PCO解析は行わなかった.デンシトメトリ解析には試作ソフトウエア(Version1-19b21)を使用した.3.0mm幅,0.25mm高の解析エリアをIOL前面中心に配置し,平均散乱強度と最大散乱強度(ともに単位は%)を得た14,15).平均散乱強度と最大散乱強度に対して,2機種の相関の有無とその関係を単回帰分析により評価した.結果は,平均値±標準偏差で示し,p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果IOL前面の平均散乱強度は,Pentacamでは6.6±4.4%(3.1.25.9%),PentacamHRでは8.3±5.7%(4.7.34.5%)であった.また,最大散乱強度は,それぞれ,5.7±3.3%(3.1.20.0%),7.4±5.0%(4.3.27.8%)であった.IOL前面の平均散乱強度と最大平均散乱強度における2機種の関係を図1に示す.平均散乱強度では,機器間には有意な,線形性を保った強い相関がみられた(p<0.001,R2=0.9812).また,高分解能のScheimp.ugカメラを使用したほうが解析値はより大きく,得られた回帰直線の傾斜と切片はそれぞれ1.3025,.0.2583(95%信頼区間:1.2730.1.3320,.0.4902..0.0255)であった.最大散乱強度でも,有意な強い相関がみられ(p<0.001,R2=0.9222),回帰直線傾斜と切片はそれぞれ1.3166,.0.0394であった.III考按2機種の回転式Scheimp.ugカメラを用いたIOL前面のデンシトメトリ解析は,R2=0.9812と高相関を示し,両機種間は互換可能と考えられた.EAS-1000とPentacamRとの検討では,平均散乱強度はR2=0.91と高相関を示し,両機種の解析結果は互換可能である14,15).本検討の結果より,PentcamHRもEAS-1000の解析結果と互換可能であるこ図2Pentacam(上)とPentacamHR(下)で測定したIOL挿入眼のScheimp.ug像).虹彩の位置に近く,近傍の虹彩端からの散乱と考えられる.IOL前方に迷光による明点がみられる(とが示唆された.今回と以前の検討15)から,EAS-1000(x)とPantacamHR(y)の回帰直線はy=0.081x+4.05となった.解析エリアにおける平均値と最大値を検討した結果,前者のほうが決定係数は大きかった.IOL挿入眼のScheimp.ug像では,挿入IOLに起因するゴーストが前房内に発生することがある18).図2では,IOL前方に明点がみられるが,球面であるIOL前面から散乱した光が近傍の虹彩端を照射し,ゴーストとして観察されたと考えられる.また,IOL前後面間の多重反射もゴーストの発生原因となりえる.解析エリアに表面散乱より強いゴースト(たとえば,図2の上の場合)が含まれると,最大値を用いた解析はよりその影響を受ける.そのため,決定定数が小さくなると考えられる.また,EAS-1000による解析は,エリアの平均値を用いている.よって,過去の報告との差異を検討するうえでも,平均値の採用が望ましいと考える.高分解能のScheimp.ugカメラによるデンシトメトリ解析結果は,約30%大きかった.解析ソフトは同一であるため,機種による違いが要因である.考えられる要因は,①高解像度の画像センサーの感度が高くなった,②青色LEDからのスリット光の輝度が上がった,③スリットの幅が広くなった,④1画像を撮影する露出時間が長くなった,などがあげられる.しかし,③は角膜形状の分解能を低下させ,④は測定時間が長くなるため,要因とは考えにくい.①②,あるいは両方の可能性と思われるが,検証が必要である.本検討ではIOL前面の解析で比較したが,PCOによるIOL後面混濁に対しても同様の関係が得られると考えられる.PCOによる散乱は表面光散乱に比べて弱い9,15).よって,高分解能のScheimp.ugカメラのほうが望ましいと考える.一方,着色IOLは,紫色光から青色光を吸収し,その吸収率はIOLのモデル,度数によって変動することもある17).経年的な変化を評価する場合は問題とならないが,EAS-1000で行えたようにほかのIOLとの比較には適しているとはいえない.文献1)BiberJM,SandovalHP,TrivediRHetal:Comparisonoftheincidenceandvisualsigni.canceofposteriorcapsuleopaci.cationbetweenmultifocalspherical,monofocalspherical,andmonofocalasphericintraocularlenses.JCat-aractRefractSurg35:1234-1238,20092)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:E.ectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20123)MatsushimaH,NagataM,KatsukiYetal:Decreasedvisualacuityresultingfromglisteningandsub-surfacenano-glisteningformationinintraocularlenses:Aretro-spectiveanalysisof5cases.SaudiJOphthalmol29:259-263,20154)WernerL:Glisteningsandsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:1398-1420,20105)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Quantitativecom-parisonofposteriorcapsuleopaci.cationafterpolymethyl-methacrylate,silicone,andsoftacrylicintraocularlensimplantation.ArchOphthalmol116:1579-1582,19986)TanakaY,KatoS,MiyataKetal:LimitationofScheimp-.ugvideophotographysysteminquantifyingposteriorcapsuleopaci.cationafterintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol137:732-735,20047)HayashiK,HayashiH:Posteriorcapsuleopaci.cationinthepresenceofanintraocularlenswithasharpversusroundedopticedge.Ophthalmology112:1550-1556,20058)MiyataK,KatoS,NejimaRetal:In.uencesofopticedgedesignonposteriorcapsuleopaci.cationandanteri-orcapsulecontraction.ActaOphthalmolScand85:99-102,20079)MiyataK,OtaniS,NejimaRetal:Comparisonofpostop-erativesurfacelightscatteringofdi.erentintraocularlenses.BrJOphthalmol93:684-687,200910)HayashiK,HirataA,YoshidaMetal:Long-terme.ectofsurfacelightscatteringandglisteningsofintraocularlensesonvisualfunction.AmJOphthalmol514:240-251,201211)Bissen-MiyajimaH,MinamiK,YoshinoMetal:Surfacelightscatteringandvisualfunctionofdi.ractivemultifocalhydrophobicacrylicintraocularlenses6yearsafterimplantation.JCataractRefractSurg39:1729-1733,201312)BehndigA,MonestamE:Quanti.cationofglisteningsinintraocularlensesusingscheimp.ugphotography.JCata-ractRefractSurg35:14-17,200913)MonestamE,BehndigA:Impactonvisualfunctionfromlightscatteringandglisteningsinintraocularlenses,along-termstudy.ActaOphthalmol89:724-728,201114)本坊正人,南慶一郎,尾形美由紀ほか:回転式Scheimp-.igカメラによる挿入眼内レンズ表面散乱のデンシトメトリ解析.臨眼68:1605-1608,20115)MinamiK,HonboM,MoriYetal:densitometryusingrotatingScheimp.ugphotographyforposteriorcapsuleopaci.cationandsurfacelightscatteringanalyses.JCata-ractRefractSurg41:2444-2449,201516)MiyataK,HonboM,NejimaRetal:Long-termobserva-tionofsurfacelightscatteringinfoldableacrylicintraocu-larlens.JCataractRefractSurg41:1205-1209,20117)MainsterMA:Violetandbluelightblockingintraocularlenses:photoprotectionversusphotoreception.BrJOph-thalmol90:784-792,200618)大西健夫,姜和哲,谷口重雄:後.混濁定量におけるEAS1000の諸設定.日眼紀50:398-402,1999***

翼状片手術の30年後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎の1例

2017年5月31日 水曜日

《第53回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科34(5):726.729,2017c翼状片手術の30年後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎の1例馬郡幹也*1戸所大輔*1岸章治*2秋山英雄*1*1群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学*2前橋中央眼科ACaseofNecrotizingScleritisduetoPseudomonasAeruginosathatDeveloped30YearsafterPterygiumSurgeryMikiyaMagoori1),DaisukeTodokoro1),ShojiKishi2)andHideoAkiyama1)1)DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MaebashiCentralEyeClinic緑膿菌による壊死性強膜炎は翼状片手術後にまれに生じ,しばしば強膜穿孔や眼内炎をきたす予後不良の疾患である.筆者らは,翼状片手術の30年後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎を経験した.患者は78歳,女性で,30年前の左眼b線照射併用翼状片手術の既往がある.2015年7月に左眼の鼻側に痛みを伴う白いものができ,近医を受診した.ステロイドの点眼・内服治療に反応せず,群馬大学医学部附属病院を紹介された.左眼の鼻側に結膜下膿瘍および強膜の菲薄化を認め,前房内細胞および虹彩後癒着を伴っていた.後眼部の炎症所見はなかった.病変部強膜の生検を施行し病理検査と細菌培養を行ったところ,細菌培養にて緑膿菌が検出された.緑膿菌による壊死性強膜炎と診断し,抗菌薬の点眼・点滴治療および壊死組織の外科的切除を施行した.約4カ月で強膜の菲薄化を残し治癒した.本症例では細菌培養および壊死組織の切除が診断・治療に有用だった.NecrotizingscleritisduetoPseudomonasaeruginosaisoneofthelate-onsetcomplicationsofpterygiumsur-gery,andoftencausesscleralperforationorendophthalmitis.WedescribeacaseofnecrotizingscleritisduetoP.aeruginosa30yearsafterpterygiumsurgery.A78year-oldfemalewithahistoryofpterygiumexcisionandpost-operativebeta-rayradiationinherlefteyecomplainedofapainfulwhiteplaqueinherlefteyeandwasreferredtoourhospital.Examinationrevealedasubconjunctivalabscessandscleralthinningonthenasalsideoftheeye.Theposteriorsegmentwasintact.Undersuspicionofinfection,scleralbiopsywasperformedandthebacterialcul-tureshowedgrowthofP.aeruginosa.Thepatientwastreatedwithantibioticsandsurgicaldebridement.In.ammationwasresolvedinabout4months,resultinginscleralthinning.Inthiscase,scleraldebridementandbacterialcultureofnecrotictissuewase.ectiveindiagnosisandtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):726.729,2017〕Keywords:翼状片手術,緑膿菌,壊死性強膜炎,強膜生検.pterygiumsurgery,Pseudomonasaeruginosa,necro-tizingscleritis,scleralbiopsy.はじめに壊死性強膜炎は自己免疫によって生じることが多いが,まれに感染によっても生じる.強膜炎の病態としてはもっとも重症であり,ときに強膜穿孔や眼内感染をきたし失明する可能性もある.感染性強膜炎は真菌,細菌,ウイルスなどによって起こり,適切な治療を行うには起因菌の鑑別が重要である.今回,筆者らは翼状片手術の30年後に発症した緑膿菌による壊死性強膜炎を経験したので報告する.I症例患者:78歳,女性.既往歴:高血圧症,高脂血症,虫垂炎手術,30年前に左眼の翼状片手術(b線照射併用).現病歴:2015年7月,左眼の鼻側結膜に白いものができ〔別刷請求先〕馬郡幹也:〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-15群馬大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MikiyaMagoori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-39-15Showamachi,Maebashi-shi,Gunma371-3511,JAPAN726(124)図1初診時の前眼部所見左眼鼻側の強膜菲薄化がみられ,calci.cationplaqueを形成している(.).白色沈着の切除壊死組織切除プレドニゾロン内服レボフロキサシン500mg/day内服トリアムシノロンアセトニド球後注射ジベカシン結膜下注射ステロイド点眼1.5%レボフロキサシン点眼トブラマイシン点眼1%アトロピン点眼ピペラシリン4g/day点滴図2強膜生検病変部結膜を切開したのち,バイポーラで止血しながらスプリング剪刃で削ぐようにしてスポンジ状に脆弱化した壊死強膜を切除し,白点線で囲われた範囲の壊死強膜組織を病理および培養検査へ提出した.図3治療経過のまとめ前医および当院における外科的処置および薬剤の投与歴を示す.診断から約4カ月後にすべての点眼薬を終了した.痛みがあり近医を受診した.近医にて白色沈着の切除を施行し,1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼,プレドニゾロン内服投与を受けたが増悪したため,10月に群馬大学医学部附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼0.6,左眼0.3,眼圧は右眼16mmHg,左眼11mmHg,左眼の毛様充血,鼻側に結膜下膿瘍および強膜菲薄化がみられた(図1).角膜は透明で,前房内細胞,虹彩後癒着がみられた.皮質白内障があり,眼底に異常を認めなかった.右眼には皮質白内障以外の異常を認めなかった.経過:左眼の自己免疫性壊死性強膜炎および虹彩炎としてトリアムシノロンアセトニド30mg球後注射を施行し,前医より処方された点眼薬を継続した.しかし,所見の改善がみられないため,1週間後に当院角膜外来を受診した.感染性強膜炎を疑い,強膜生検および培養検査を行った.4%キシロカインで点眼麻酔後,ポビドンヨードで洗眼し,病変部結膜を切開した.その後,バイポーラで止血しながらスプリング剪刃で削ぐようにしてスポンジ状に脆弱化した壊死強膜を切除し,病理および培養検査へ提出した(図2).病変部強膜は結膜で覆わず開放とした.病理組織ではGrocott染色で真菌を認めず,培養検査にて緑膿菌(Pseudomonasaerugi-nosa)が検出された.血液検査では白血球数9,600/μl,C反応性蛋白0.08mg/dlと全身的な炎症所見はみられなかった.【診断1週間後】【診断2週間後】【診断1カ月後】【診断2カ月後】【診断3カ月後】【診断4カ月後】図4前眼部所見の経時変化抗菌薬投与および壊死組織の切除により徐々に炎症所見は改善し,約4カ月で強膜菲薄化を残し治癒した.緑膿菌による壊死性強膜炎と診断し,ステロイドを中止して抗菌薬による治療に変更した.1.5%LVFX点眼6回,トブラマイシン(TOB)点眼6回,1%アトロピン点眼1回,ジベカシン結膜下注射,ピペラシリン(PIPC)点滴4g/日,疼痛に対してロキソプロフェン内服頓用とした(図3).薬剤感受性試験ではPIPC中等度耐性,LVFX感受性だった.治療変更の5日後に前房内炎症が増悪し硝子体混濁が出現したため,壊死強膜の外科的切除(2回目)を施行した.初回は膿瘍形成が疑われる部位のみ強膜切除としたが,2回目は感染が波及していると考えられた鼻側から上方の結膜,Tenon.,および壊死強膜組織を広範囲に切除した.病変部強膜は開放とした.培養検査で再度緑膿菌が検出された.薬剤感受性試験の結果よりPIPC点滴をLVFX500mgの内服に切り替え,充血,炎症は徐々に改善したが,加療から1カ月半経過した時点で上耳側の充血が悪化したため,1週間ごとのジベカシン結膜下注射を計6回施行した.その後,所見の改善に伴い加療から2カ月経過した時点で1%アトロピン点眼,3カ月経過時点でTOB点眼,4カ月経過時点でLVFX点眼も終了とした(図3).鼻側強膜の菲薄化を残し,左眼の最終視力は0.5と改善した(図4).抗菌薬の終了から6カ月後の現在も再発はみられない.II考按本症例は感染性強膜炎を疑い,強膜生検および培養検査を行うことにより診断できた.翼状片手術後晩期の感染であり,b線照射による強膜軟化が感染の誘因となった可能性がある.診断後まもなく炎症の悪化がみられたが,壊死組織の切除を併用することで徐々に鎮静化し,加療開始より約4カ月で治癒した.感染性強膜炎の起因菌としては緑膿菌の頻度がもっとも高く,67.81%を占める1).感染性強膜炎は翼状片手術後,線維柱帯切除術後,バックリング術後,斜視手術後などさまざまな術後感染として起こりうる2.4).各手術において強膜に軟化,菲薄化などが起きるため,感染のリスクが上がると考えられる.さらに緑膿菌は菌体の侵入を容易にするために,外毒素と蛋白分解酵素を細胞外に分泌して宿主細胞を障害するため5),緑膿菌の強膜感染は重篤化の危険がある.本症例は前医でLVFX点眼を約3カ月間投与されたが改善しなかった.過去の報告では強膜に病原微生物が侵入すると長期間定着し,抗菌薬の浸透が不良になるとされている6).また,松本らは膿瘍切除が緑膿菌の菌量を減らす目的で有効だったと報告している7).本症例においても壊死組織を切除したことで菌量を低下させ,病変部強膜への抗菌薬の移行性が改善したことで,強膜穿孔などへの進展を防ぐことができたと考えられる.緑膿菌による壊死性強膜炎の報告例は少ないが,戸栗らは抗菌薬点眼,点滴を施行し入院21日目に切開排膿,治療開始2カ月の時点でcalci.cationplaqueの除去を行い,2カ月半で青色強膜を残して治癒した症例を報告している8).また,寺田らは抗菌薬点眼,全身投与に加えて結膜切開,膿瘍切除,結膜下組織切除を行い,約2カ月で軽快治癒が得られた2例を報告している9).本症例でも抗菌薬の点眼,点滴治療に加え病変部切除を併用し,約4カ月で治癒した.緑膿菌による感染性強膜炎では少なくとも治癒までに2,3カ月はかかるので,根気よく治療を続ける必要があると思われる.本症例では強膜菲薄化部位にcalci.cationplaqueがみられた.Calci.cationplaqueは損傷された異常組織においてカルシウム,リン酸の異常が生じることで形成され,おもに慢性炎症,感染症,外傷後において観察される10).戸栗らの報告でもcalci.cationplaqueが存在しており,特異的所見とはいえないまでも,calci.cationplaqueは感染性強膜炎を示唆する所見としてよいと思われる.壊死性強膜炎は,多くが自己免疫による非感染性によるものが多い.中原らは結膜擦過物の鏡検,培養検査は陰性であったが,強膜生検で多核白血球の浸潤がみられたことにより急性化膿性炎症による感染性強膜炎と診断できた症例を報告している11).自己免疫疾患などによる非感染性によるものか,感染性強膜炎かを鑑別するのに強膜生検は有用であると考えられる.しかし,実際は侵襲手技であるため強膜生検に踏み切るタイミングはむずかしい.ステロイド投与で改善がない,もしくは病変部にcalci.cationplaqueがみられる場合には積極的に感染性強膜炎を疑い,強膜生検を施行するべきであると考える.緑膿菌による壊死性強膜炎は強膜穿孔,眼内炎をきたすと眼球内容除去などが必要になる可能性が高い疾患である.ステロイド治療に反応しない壊死性強膜炎を診た場合,疾患発症の背景を考慮して感染性強膜炎も含めた鑑別診断を行い,適切かつ早期に治療することが肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HuangF-C,HuangS-P,TsengS-H:Managementofinfectiousscleritisafterpterygiumexcision.Cornea19:34-39,20002)RamenadenER,RaijiVR:Clinicalcharacteristicsandvisualoutcomesininfectiousscleritis:areview.ClinOphthalmol7:2113-2122,20133)ChaoDL,AlbiniTA,McKeownCAetal:Infectiouspseu-domonasscleritisafterstrabismussurgery.JAAPOS17:423-425,20134)TittlerEH,NguyenP,RueKSetal:Earlysurgicaldebridementinthemanagementofinfectiousscleritisafterpterygiumexcision.JOphthalIn.ammInfect2:81-87,20125)TwiningSS,KirschnerSE,MahnkeLAetal:E.ectofPseudomonasaeruginosaelastase,alkalineprotease,andexotoxinAoncornealproteinasesandproteins.InvestOphthalmolVisSci34:2699-2712,19936)AlfonsoE,KenyonKR,OrmerodLDetal:Pseudomonascorneoscleritis.AmJOphthalmol103:90-98,19877)松本泰明,三間由美子,河原澄枝ほか:緑膿菌性壊死性強膜炎の1例.あたらしい眼科22:1253-1258,20058)戸栗一郎,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:緑膿菌による壊死性強膜炎の1例.臨眼57:25-28,20039)寺田裕紀子,子島良平,南慶一郎ほか:外科的療法が奏効した翼状片術後感染性強膜炎の2例.眼臨紀5:574-577,201210)ChenKH,LiMJ,ChengWTetal:Identi.cationofmono-cliniccalciumpyrophosphatedihydrateandhydroxyapa-titeinhumansclerausingRamanmicrospectroscopy.IntJExpPathol90:74-78,200911)中原亜新,鈴木潤,臼井嘉彦ほか:強膜生検にて診断された感染性強膜炎.眼科53:259-262,2011***

僚眼に視神経乳頭炎を併発した急性網膜壊死の1例

2017年5月31日 水曜日

《第53回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科34(5):722.725,2017c僚眼に視神経乳頭炎を併発した急性網膜壊死の1例藤井敬子毛塚剛司臼井嘉彦阿部駿後藤浩東京医科大学眼科学教室ACaseofAcuteRetinalNecrosiswithOpticNeuritisinFellowEyeKeikoFujii,TakeshiKezuka,YoshihikoUsui,SyunAbeandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity僚眼に視神経乳頭炎を併発した急性網膜壊死(ARN)の1例を経験したので報告する.症例は74歳の男性で,左眼視力低下を自覚した2週間後に東京医科大学病院眼科を紹介受診となった.初診時,右眼矯正視力0.7,左眼0.05(矯正不能)で,左眼には周辺部網膜に融合した黄白色病変が,右眼には視神経乳頭の腫脹がみられた.左眼の前房水から水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が検出されたため,左眼ARN,右眼視神経乳頭炎と診断し,アシクロビルの点滴静注を開始した.その後,ベタメタゾンの点滴静注を追加し,左眼ARNに対して硝子体切除術を行った.しかし,初診から4カ月後に左眼に視神経乳頭炎の再発を認めたため,アシクロビルおよびベタメタゾンの点滴静注を再開した.ARNにおける視神経乳頭炎の発症には,VZVの関与が考えられ,視神経を介して僚眼に重篤な視神経障害を引き起こす可能性が示唆された.Wereportacaseofacuteretinalnecrosis(ARN)withopticneuritis(ON)developedinthefelloweye.A74-year-oldmalepresentedwitha2-weekhistoryofdecreasedvisualacuityinhislefteye.Hisbest-correctedvisualacuitieswere0.7righteyeand0.05lefteye;fundusexaminationrevealedwhite-yellowishretinallesionsatthemidperipheryinthelefteyeandswollenopticdiscintherighteye.Varicellazostervirus(VZV)wasdetectedfromaqueoushumorbyPCR.Aftersystemicadministrationofacyclovirandbetamethasone,vitrectomywasper-formedinthelefteye.Fourmonthsafterinitialpresentation,ONrecurredinthelefteye.Treatmentwithacyclo-virandbetamethasonewasrepeated.ItissuggestedthatARNcausedbyVZVmaydevelopsight-threateningONinthefelloweye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):722.725,2017〕Keywords:急性網膜壊死,水痘帯状疱疹ウイルス,視神経乳頭炎.acuteretinalnecrosis,varicellazostervirus,opticneuritis.はじめに急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN,桐沢型ぶどう膜炎)は,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)または水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)の眼内感染により生じるきわめて予後不良な疾患である1).患眼の網膜壊死とともに視神経障害により視機能の低下をきたすことがあるが2),僚眼に視神経症を主体とした病変を発症することはまれである3).今回,片眼の急性網膜壊死と同時に僚眼にも視力予後不良な視神経乳頭炎(opticneuritis:ON)を発症した1例を経験したので報告する.I症例患者:74歳,男性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:糖尿病(当院受診時のHbA1C:6.2%).現病歴:2015年6月より左眼の視力低下を自覚し,その2週間後に近医を受診したところ,眼底所見からARNが疑われたため,東京医科大学病院眼科へ紹介受診となった.初診時眼所見と経過:視力は右眼0.6(0.7×sph+0.50D),左眼0.05(矯正不能)で,眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHgであった.左眼には小白色の角膜後面沈着物と一部,〔別刷請求先〕藤井敬子:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:KeikoFujii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHospital,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN722(120)右眼左眼図1初診時眼底所見右眼で視神経乳頭の発赤がみられ,左眼で周辺部網膜に融合した黄白色病変がみられる.虹彩後癒着を認め,前房内には細胞(1+)がみられた.右眼の前眼部と中間透光体には異常を認めなかった.左眼の眼底周辺部には融合した網膜黄白色病変および視神経乳頭の腫脹がみられ,右眼の視神経乳頭には浮腫を生じていた(図1).以上の臨床所見に加え,左眼の前房水を用いたpolymerasechainreaction(PCR)法によるウイルス検索の結果,VZVが検出(5.96×105copies/ml)されたため,左眼はARNと診断した.入院のうえ,アシクロビル2,250mg/日の点滴静注を開始した.糖尿病の既往があったことから,治療開始当初はステロイドの全身投与は併用しなかった.しかし,治療開始後3日目に乳頭浮腫のみられた右眼の視力が右30cm手動弁(矯正不能)と著しく低下,左眼視力もこの時点で0.02(矯正不能)まで低下した.右眼のONの悪化を考え,血糖コントロールに注意しながらベタメタゾン8mg/日の併用を開始した.しかし,その2日後には右眼指数弁,左眼手動弁まで視力低下をきたし,左眼の眼底では網膜の黄白色病変が全周性に融合,拡大し,硝子体混濁も増強した(図2).網膜.離の発症予防も兼ねて,初診から10日後に左眼に対して水晶体乳化吸引術,硝子体切除術,シリコーンオイル充.術および輪状締結術を施行した.アシクロビル1,500mg/日とデキサメタゾン6mg/日の点滴静注は継続した.なお,ヘルペス脳炎の除外目的に頭部核磁気共鳴画像法(magneticres-onanceimage:MRI)を撮像したが,脳炎併発の可能性は否定された.術後2日目の時点で左眼視力は0.01(0.08×sph+8.00D(cyl.2.50DAx180°)まで回復したが,求心性視野狭窄をきたしており,この時点で右眼視力は0.02(矯正不能),視野には中心暗点が残存していた(図3).その後,右眼視神経乳頭の発赤と腫脹は徐々に軽減したが,両眼とも次第に視神経乳頭は蒼白になっていった.初診時から2カ月後にはバラシクロビルおよびプレドニゾロン内服を中止したが,視力は右眼0.05(矯正不能),左眼図2初診から5日目の左眼眼底所見網膜黄白色病変はさらに融合,拡大している.(0.3×sph+7.00D(cyl.4.00DAx125°)と回復傾向にあった.しかし,その2カ月後,左眼視力30cm手動弁と再び視力の低下をきたし,視野も鼻側にわずかに残存する状態となった(図4).左眼の眼内に新たな炎症所見はみられず,視神経乳頭にわずかな腫脹がみられたため,左眼にも右眼と同様のONを発症したものと判断,緊急入院のうえ,アシクロビル1,500mg/日,ベタメタゾン6mg/日の点滴静注を再度開始した.その結果,視力・視野ともに大きな改善はないものの,自覚症状は改善したためバラシクロビルおよびプレドニゾロン内服に切り替え,退院となった.退院から8カ月後にはバラシクロビルおよびプレドニゾロンの内服を中止し,視力は右眼0.03(矯正不能),左眼0.04(矯正不能)となっている(図5).II考按ARNの視力予後不良因子として,網膜.離の有無や硝子体手術後の増殖硝子体網膜症,病因ウイルスとしてのVZVなどがあげられるが,網膜病変のみでなく,視神経障害の存左眼右眼図3初診から12日目の左眼の硝子体手術後,動的視野検査右眼では中心暗点,左眼では求心性視野狭窄がみられる.左眼右眼図4視神経炎再発後の動的視野検査プレドニゾロンの内服中止から2カ月後に再び,右眼0.03,左眼30cm手動弁まで視力低下をきたし,左眼では鼻側にわずかに視野を残すのみとなった.在も視力予後不良な原因と考えられている1,4).硝子体切除術により網膜復位が得られても視力予後不良な例,もしくは視力は良好だが重篤な視野障害が残存してしまう例は以前より報告されている2,5).また,ARNに対する硝子体手術および網膜復位術後のシリコーンオイル抜去について,最終的にシリコーンオイルを抜去できない割合は約23.1%という報告もある2).この硝子体切除術後の視機能障害の原因としては,視神経に対する何らかの障害が推測される.筆者らは以前,ARNの罹患眼では僚眼と比較して乳頭周囲網膜神経線維が菲薄化し,視神経乳頭辺縁部の形態異常と乳頭陥凹の拡大がみられることを報告している2).すなわち,ARNの視力予後には,網膜障害だけでなく視神経障害が関与していることが考えられる.ARNにおける視神経障害の要因として,ウイルスによる視神経への直接的な障害以外にも炎症性サイトカインの関与も考えられる.以前よりINF-gとTNF-aは神経障害因子として,IL-6は神経保護因子として知られており,ARNではTh1関連サイトカインであるIFN-gおよびTNF-aが硝子体液中で高値であったとする報告がある6).また,ARNと僚眼の視神経症の関係については,マウスARNモデルにおいて羅患眼の前房内に注入したHSVが視神経および中枢神経を介して10.14日後に僚眼へ到達することを証明した報告7.10)や,病初期では視神経症しか認めなくとも,その後網膜壊死を発症するとの報告4,11,12)がある.三叉神経節・毛様体神経節にHSV-1およびVZVが潜伏しているとの報告13)も併せると,眼内に潜伏したウイルスが視神経を経て網膜へ波及する可能性が推測される.今回の症例では,経過中に罹患眼と僚眼に視神経症をきたしており,毛様体神経節に潜伏していたVZVが左眼にARNを発症させた後,視神経から視交叉を介して右眼の視神経へと波及することで僚眼にONをきたした可能性が推測される.ただし,今回の症例も右眼の視神経病変が左眼の網膜病変と並行して進行していったのか否か,その詳細については不明である.アシクロビル2,250mg/日1,500mg/日1,500mg/日デキサメタゾン8mg/日6mg/日6mg/日バラシクロビル1,500mg/日~矯正視力0.2(logMAR)0.40.60.81.01.21.41.61.82.02.2右眼左眼左眼視神経症発症手術施行視神経症発症図5視力と手術・薬物加療の推移点滴薬としてアシクロビル・デキサメタゾンを,内服薬としてバラシクロビル・プレドニゾロンを投与した.なお,バラシクロビルは1カ月ごとに500mgずつ,プレドニゾロンは1週間ごとに5mgずつ漸減している.今回経験した症例から,改めてARNの視力予後を向上させるには視神経障害を最小限に抑えることが重要であると再認識させられた.視神経障害の発症メカニズム,視神経障害と眼内液中の液性因子の関連,さらには治療法の改善などにつなげていくことが重要であろう.III結論ARNとともに僚眼に予後不良なONを発症した1例を経験した.ONの発症にもVZVの関与が考えられ,視神経を介した感染ルートが推察された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)臼井嘉彦,竹内大,毛塚剛司ほか:東京医科大学における急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)の統計的観察.眼臨101:297-300,20072)臼井嘉彦,竹内大,山内康行ほか:硝子体手術を施行した急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)52例の検討.日眼会誌114:362-368,20103)西村彰,鳥崎真人,棚橋俊郎ほか:片眼の視神経腫脹を伴った両眼急性網膜壊死症候群の1症例.臨眼45:1291-1296,19914)FriedlanderSM,RahhalFM,EricsonLetal:Opticneu-ropathyprecedingacuteretinalnecrosisinacquiredimmunode.ciencysyndrome.ArchOphthalmol114:1481-1485,19965)臼井嘉彦,毛塚剛司,竹内大ほか:急性網膜壊死患者における網膜視神経線維層厚と乳頭形状の検討.あたらしい眼科27:539-543,20106)柴田匡幾,佐藤智人,田口万蔵ほか:ぶどう膜炎における硝子体液中のヘルパーTおよび制御性T細胞関連炎症性サイトカインの解析.日眼会誌119:395-401,20157)AthertonSS,StreileinJW:TwowavesofvirusfollowinganteriorchamberinoculationofHSV-1.InvestOphthalmolVisSci28:571-579,19878)WhittumJA,McCulleyJP,NiederkornJYetal:Ocularsideaseinducedinmicebyanteriorchamberinoculationofherpessimplexvirus.InvestOphthalmolVisSci25:1065-1073,19849)VannVR,ArthertonSS:Neuralspreadofherpessimplexvirusafteranteriorchamberinoculation.InvestOphthal-molVisSci32:2462-2472,199110)LabetoulleM,KuceraP,UgoliniGetal:Neuralpathwaysforthepropagationofherpessimplexvirustype1fromoneretinatotheotherinamurinemodel.JGenVirol81:81:1201-1210,200011)GrevenCM,SinghT,StantonCAetal:Opticchiasm,opticnerve,andretinalinvolvementsecondarytoVaricel-la-Zostervirus.ArchOphthalmol119:608-610,200112)KamgSW,KimSK:Opticneuropathyandcentralretinalvascularobstructionasinitialmanifestationsofacutereti-nalnecrosis.JpnJOphthalmol45:425-428,200113)RichterER,DiasJK,GillbertJEetal:DistributionofHSV-1andVZVingangliaofthehumanheadandneck.JInfectDis200:1901-1906,2009