硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載165165vonHippel-Lindau病に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●vonHippel.Lindau病の眼所見vonHippel-Lindau病(VHL)は網膜血管腫を含め,脳,脊髄の血管芽腫,腎癌など,多臓器に悪性腫瘍を生じる先天性疾患で,常染色体優性遺伝を呈する.網膜血管腫の発生部位としては,眼底周辺部に90%,視神経乳頭上または傍乳頭部が10%程度である.VHLの周辺部網膜血管腫に対する治療としてはレーザー光凝固が一般的であるが,牽引性網膜.離が進行するような症例では硝子体手術の適応となることがある.筆者らは,以前に光凝固後の増殖性変化により牽引性網膜.離を生じたVHLに対し,硝子体手術を施行した1例を経験し報告したことがある1).●症例44歳,男性.19歳の頃,小脳,胸椎,腰椎の血管芽腫に対して複数回の手術歴がある.右眼網膜血管腫に対して他院で光凝固の既往がある.当科受診時,右眼は耳側上方周辺部に2および3.5乳頭径大の連続した網膜血管腫を認め,周囲にフィブリン析出と,後極に及ぶ滲出性網膜.離を認めた(図1).滲出性網膜.離はステロイドのTenon.注射でいったん軽快したが,その後炎症が再燃し,血管腫に連続する増殖膜形成により黄斑部を含む牽引性網膜.離が生じてきたため(図2),硝子体手術を施行した.手術は水晶体切除,硝子体切除後に,周辺部の血管腫を硝子体剪刀で摘出し,後極側の3.5乳頭径大の血管腫に対しては眼内レーザーを施行した.血管腫の後極の牽引性網膜.離部位には肥厚した後部硝子体膜を認めたため,確実に人工的後部硝子体.離を作製した.術後牽引性網膜.離は復位し,視力は(0.03)から(0.6)に改善した(図3).●vonHippel.Lindau病に伴う網膜血管腫に対する硝子体手術適応一般に大きさが2乳頭径以内の周辺部の血管腫は,光(99)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1初診時の右眼眼底写真耳側上方周辺部に2および3.5乳頭径大の連続した網膜血管腫を認め,周囲にフィブリン析出と,後極に及ぶ滲出性網膜.離を認めた.(文献1より転載引用)図2初診5カ月後の右眼眼底写真血管腫に連続する増殖膜形成により,黄斑部を含む牽引性網膜.離が生じた.(文献1より転載引用)図3硝子体手術後の右眼眼底写真術後牽引性網膜.離は復位し,視力は(0.03)から(0.6)に改善した.(文献1より転載引用)凝固が第一選択となるが,巨大な血管腫や,乳頭近傍の血管腫では治療に苦慮することが多く,経強膜冷凍凝固,経瞳孔温熱療法,光線力学療法,抗VEGF療法などを行うこともある.また,硝子体出血や黄斑上膜,牽引性網膜.離などを生じた場合には硝子体手術の適応となる.血管腫に対しては術中に直接眼内光凝固やジアテルミーを行うが,再発することもあり,根治を目的に腫瘍を摘出したとする報告もある.また,硝子体切除のみでは網膜の伸展が得られない牽引性網膜.離例に対しては,強膜バックリング手術や網膜切開を併用することもある.本提示例の周辺側の血管腫は退縮傾向であったために摘出したが,後極側の血管腫は3.5乳頭径と大きく,切除による合併症を考慮し,眼内光凝固を行った.術中に.離除去した肥厚した後部硝子体膜が牽引性網膜.離の主因と判断し,網膜切開は行わなかった.文献1)SuzukiH,KakuraiK,MorishitaSetal:VitrectomyfortractionalretinaldetachmentwithtwinretinalcapillaryhemangiomasinapatientwithvonHippel-Lindaudis-ease:Acasereport.CaseRepOphthalmol7:333-340,2016あたらしい眼科Vol.34,No.2,2017241