監修=木下茂●連載205大橋裕一坪田一男205.トリフォーカル眼内レンズ三木恵美子南青山アイクリニックトリフォーカル眼内レンズは遠方,近方,中間に焦点が合うようになることから,従来の2焦点眼内レンズより眼鏡依存度が減少する.レンズデザインが改良され,多焦点による不具合も軽減されるなど,ヨーロッパを中心に海外の学会で良好な成績が報告されている.●中間視力もいい多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を使用することで,白内障治療と同時に老視の矯正も行えるようになった.多焦点といっても2焦点のものが主流であり,遠方に加えて近方も見えることで老眼鏡の使用頻度は少なくなっているが,多焦点IOLに伴うハロー,グレア,waxyvision(視力はいいが見づらい)などのphotopicphenomenaや中間視力の不足が問題になることもある.トリフォーカル(3焦点)IOLは遠方,近方に加え中間も見えるようにした多焦点IOLであり,ヨーロッパを中心に使用されている.焦点深度曲線の二峰性がスムーズになり,広範囲で焦点が合うようになることから(図1),2焦点IOLより眼鏡装用率は減ると報告されている1,2).ヨーロッパ白内障・屈折矯正手術学会(Euro-peanSocietyofCataractandRefractiveSurgeons:ESCRS)でも,遠方と近方の視力は損なわず中間距離の視力が改善され,また光エネルギーロス(どこにも焦点を結ばない光の割合)を減らすことによりグレアが軽減するという良好な成績が報告されており,今後,使用症例が増えていくと思われる.CEマークを取得している3種類のトリフォーカルIOL3)をここで紹介する(表1).いずれも回折型であり,光学部デザインを改良し,見え方の瞳孔依存性を軽減している.ハロー,グレアを減らすためにそれぞれの工夫がある.多焦点IOLでは後発白内障発症が懸念されるが,光学部のスクエアエッジで後発白内障抑制を図っている.国内では未承認であり,医師の責任のもと,十分な説明とともに慎重な扱いが必要とされる.●FineVision(PhysIOL)MicroFとPodFの2種類あり,PodFはトーリックにも対応している.近用加入+3.50D,中間加入+1.75Dのレンズで,アポダイズド回折型である.回折格子先端をスムーズにしてグレア,ハロー,waxyvisionを減らしている.回折構造による若干のコントラストの低下とハローはあるものの,グレアは少ないと報告されている1).光のエネルギー配分は瞳孔径によって変化し,瞳孔径3mmで遠方43%,中間15%,近方28%(各レンズとも報告により若干の違いがある).また,PodFは支持部のdoubleC-loopのデザインから軸ズレが少ないとされている.●ATLISAtri(Zeiss)ATLISAtri839MPと,乱視に対応したATLISAtritoric939MPがある.プレート型で近用加入+3.33D,BifocalIOLTrifocalIOLBifocalIOLTrifocalIOLVisualAcuity(logMAR)-0.2-0.10.00.10.20.30.40.50.60.70.8VisualAcuity(logMAR)-0.2-0.10.00.10.20.30.40.50.60.70.8-5.0-4.5-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.0-5.0-4.5-4.0-3.5-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.0Defocus(D)Defocus(D)図1焦点深度曲線(両眼,術後3カ月)左:明所視,右:薄明視.(文献1より転載)(75)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178330910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1トリフォーカル眼内レンズ比較表FineVisionATLISAAcrySofIQPanOptixメーカーPhysIOLZeissAlconモデルMicroFPodFATLISAtri839MPATLISAtritoric939MPTFNT00PodFT種類アポダイズド回折・1P・非球面回折・プレート・球面回折・1P・球面素材親水性アクリル親水性アクリル,表面は疎水性疎水性アクリル近方加入3.5D3.33D3.25D中間加入1.75D1.66D2.17D形状光学径6.156.06.06.0全長10.7511.4011.013.0回折zoneすべてtrifocal中心4.3mmtrifocal4.3~6.0mmbifocal中心4.5mmtrifocal周辺はmonofocal色着色クリア着色範囲S+10.0~+35.0D+6.0~+35.0D0~+32.0D+10.0~+28.0D+13.0~+34.0DC─1.0~6.0D─1.0~4.0─光エネルギー遠方43%43%44%中間15%17%22%近方28%26%22%loss14%14%12%*光エネルギーは文献によりデータの違いがある.中間加入+1.66Dで,レンズの中心4.34mmはトリフォーカル,その周辺4.34~6.0mmはバイフォーカルにすることで,瞳孔径が大きくなる暗所では遠方優位となり夜間のコントラスト感度低下を軽減している.回折構造によるステップをスムーズにし散乱を抑え,光エネルギー配分は遠方50%,中間20%,近方30%.光学部のスクエアエッジで後発白内障抑制を図っている.●AcrySofIQPanOptix(Alcon)2015年6月にCEマークを取得した.近用加入+3.25D,中間加入+2.17Dで,光学部は4.5mmとReSTORり大きくなり,回折ゾーンも大きくなったので,暗所など瞳孔径による影響は少なくなった.先の2種のIOLに比較しても遜色ない視機能,見え方の質が期待でき,加入度数の違いで60cmの見え方がよいことが特徴である4).トーリックには対応していないが,AcrySofIQシリーズは国内で取り扱いに慣れた術者が多いと思われるので,期待されるIOLである.●おわりにトリフォーカルIOLが加わって多焦点IOLの選択肢834あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017が増えた.中間距離の視力の落ち込みが少なくなり,より自然な見え方に近づいたが,多焦点に伴う見え方の不具合は軽度と報告され,なくなったわけではない.当院ではFineVisionPodFを使用している.最初の6例は翌日の裸眼視力が遠方1.17,中間(70cm)1.04,近方0.94と全距離で満足できる視力が得られ,ハロー,グレアなどの訴えは軽く,良好な結果を得ている.慎重に症例を選びながら,今後も長期経過を検討していきたい.文献1)JonkerSM,BauerNJ,MakhotkinaNYetal:Comparisonofatrifocalintraocularlenswitha+3.0DbifocalIOL:Resultsofaprospectiverandomizedclinicaltrial.JCata-ractRefractSurg41:1631-1640,20152)MarquesEF,FerreiraTB:Comparisonofvisualout-comesof2di.ractivetrifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg41:354-363,20153)CarsonD,XuZ,AlexanderEetal:Opticalbenchperfor-manceof3trifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg42:1361-1367,20164)LeeS,ChoiM,XuZetal:Opticalbenchperformanceofanoveltrifocalintraocularlenscomparedwithamultifo-calintraocularlens.ClinOphthalmol10:1031-1038,2016(76)