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次世代MIGS-脈絡膜上腔からの流出をめざすタイプ

2017年1月31日 火曜日

次世代MIGS─脈絡膜上腔からの流出をめざすタイプMIGSNextGeneration─GDDsTargetingSuprachoroidalDrainageRoute谷戸正樹*I脈絡膜上腔をターゲットとした眼圧下降手術眼圧下降を目的として行われる手術は,房水排出促進を目的とする術式と房水産生抑制を目的とする術式(毛様体破壊術など)に大別される.前者はさらに,結膜下やTenon.下への房水濾過を目的とする手術(トラベクレクトミーなど)と経Schlemm管房水流出促進を目的とする術式(トラベクロトミーなど)に分類され,これまで施行されてきた.わが国において認可されているエクスプレスシャント,バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブといったglaucomadrainagedevice(GDD)は,すべて房水濾過を目的としたGDDである.これら従来の術式とは異なる,ぶどう膜・強膜経路(脈絡膜上腔)からの房水流出促進を目的としたGDDが,米国・欧州を中心に開発されている.サル眼を用いた検討で,前房内圧(眼圧15mmHg)と比較して,前部の脈絡膜上腔は0.8mmHg,後部の脈絡膜上腔は3.7mmHg低圧であり,眼圧の上昇とともに,前房内と脈絡膜上腔の圧格差が拡大することが示されている1).脈絡膜上腔をターゲットとする術式では,前房と脈絡膜上腔をバイパスする位置(虹彩根部)にGDDが移植され,前房と脈絡膜上腔の圧格差により房水が脈絡膜上腔に誘導されることで眼圧下降が図られる.脈絡膜上腔から経強膜的な結膜下への濾過効果についても議論されている2)が,臨床的に検出可能な濾過胞表1脈絡膜上腔からの房水流出を目的としたGDDの特徴・濾過胞に依存しない眼圧下降が期待できる濾過胞関連合併症がない過剰濾過少ない?濾過手術不成功例でも効果が期待できる?・チューブ型のGDDでは低侵襲手術が可能・新規手術であるため効果・合併症に関して不明眼圧下降効果適応疾患持続性長期安全性は形成されないため,濾過胞に依存する手術と比較して,過剰濾過や術後感染の頻度が少ないなどの利点が期待される(表1).これらのGDDによる手術は,従来の緑内障手術と比較して眼球への侵襲を軽減することを目的とする場合が多く,より早期の緑内障への適応,あるいは薬物治療の代替手段としての適否についても議論されている.しかしながら,国外においても,医療材料として認可されているGDDは少なく,多くは治験段階であるため,今後の臨床成績の蓄積が待たれる.脈絡膜上腔をターゲットとしたGDDは,さらに,チューブ形状のGDDとプレート形状のGDDに大別される.チューブ形状のGDDは,前房側から移植(abinterno)されるが,プレート形状のGDDは強膜フラップを作製して移植される(abexterno)ため,前者のほうが後者より眼への侵襲は少ない.*MasakiTanito:松江赤十字病院眼科〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒690-8506島根県松江市母衣200松江赤十字病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(45)45図1CyPassと10セント硬貨の比較(TranscendMedical社のホームページより転載引用)図2CyPassが留置される場所の模式図(TranscendMedical社のホームページより転載引用)図3iStentSupraの外観(GlaukosCo.より提供)~脈絡膜上腔側前房側図4SOLXGoldShuntの外観(SOLXInc.より提供)図5SOLXGoldShuntが留置される場所の模式図(SOLXInc.より提供)図6眼内に留置されたSOLXGoldShunt(.)図7前眼部OCTによるSOLXGoldShuntの観察図8STAR.oと1ユーロセント硬貨の比較(iSTARMedicalSAより提供)

次世代MIGS-Schlemm管からの流出をめざすタイプ

2017年1月31日 火曜日

次世代MIGS─Schlemm管からの流出をめざすタイプNext-GenerationMIGS─TargetingAqueousOutflowfromSchlemm’sCanal小野岳志*結城賢弥**はじめに今まで緑内障手術は,線維柱帯切開術に代表される流出路再建術と線維柱帯切除術に代表される濾過手術が一般的であった.流出路再建術は濾過手術に比べ重篤な合併症が少ない反面,濾過手術より眼圧下降効果は劣り,眼圧を10mmHg台前半など低めに維持したい場合などは濾過手術を選択することが一般的である.流出路再建術の適応疾患もわが国ではステロイド緑内障,発達緑内障,落屑緑内障および中期までの原発開放隅角緑内障といわれているが,海外においては発達緑内障に対する手術という印象が強かった.近年,緑内障手術においても小切開から施行される低侵襲な手術が注目されてきており,MIGS(minimallyinvasiveglaucomasurgery)という概念が定着してきている.MIGSの報告としては,濾過手術のタイプや上脈絡膜腔に房水を流出させるタイプがあるが,Schlemm管からの流出にターゲットを置くものが多い.また,MIGSは簡便さから白内障手術と同時に施行できることも魅力の一つとして考えられている.今後は,適応症例の拡大,手術施行時期の早期化なども期待されている.MIGSは房水流出先で分類される(表1).まず,濾過手術系としてXEN,Schlemm管からの流出をめざすタイプとして360-degreesuturetrabeculotomyabinter-no(S-LOTabinterno:線維柱帯切開術眼内法),microhookabinternotrabeculotomy(μLOT),Trabec-tome,iStent,abinternocanaloplasty(AbiC),HydrusMicrostent,KahookDualBlade,エキシマレーザートラベクロトミー(excimerlasertrabeculotomy:ELT),TRAB360,VISCO360などがあり,上脈絡膜腔からの流出をめざすタイプとしてiStentsupra,CyPassMicro-Stentなどがある.Trabectome,iStentについては別項に詳しく記載してあるので,本稿ではそれ以外のSchlemm管からの流出をめざすタイプに関して,最近の発展も含めて検討してみた.IS.LOTabinterno(GATT)強膜弁を作製し線維柱帯を全周切開する方法は,S-LOTabexternoとして1995年にBeckらが発達緑内障に施行したとして報告された1).その後2012年にChinらが成人の開放隅角緑内障(open-angleglauco-ma:OAG)に対するmodi.ed360-degreesuturetra-beculotomy(S-LOTabexterno北大変法)を報告した2).OAG43眼にS-LOT,対照群としてOAG35眼にLOT(trabeculotomy:線維柱帯切開術)を施行し,術前眼圧はS-LOT群27.8±12.2mmHg,LOT群25.8±9.9mmHgで,術後1年ではS-LOT群13.1±2.9mmHg,LOT群15.2±4.2mmHgであった.術後1年で眼圧が術前より30%以上低下し18mmHg以下に維持できた割合は,原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglau-coma:POAG)ではS-LOT群84%,LOT群31%,続発開放隅角緑内障(secondaryopen-angleglaucoma:SOAG)ではS-LOT群89%,LOT群50%とS-LOT群*TakeshiOno:JCHO埼玉メディカルセンター眼科/慶應義塾大学医学部眼科学教室**KenyaYuki:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕小野岳志:〒330-0074埼玉県さいたま市浦和区北浦和4-9-3JCHO埼玉メディカルセンター眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(37)37表1MIGSの分類手術アプローチ術式房水流出先abinternoXEN結膜下iStentsupraCyPassMicro-Stent上脈絡膜腔trabeculotomyabinterno(S-LOTabinterno)microhookabinternotrabeculotomy(μLOT)TrabectomeiStentMicro-BypassStentabinternocanaloplasty(AbiC)HydrusMicrostentKahookDualBladeエキシマレーザートラベクロトミー(excimerlasertrabeculotomy:ELT)TRAB360VISCO360Schlemm管図1360.degreesuturetrabeculotomyabinterno隅角手術用の柄付きのプリズムレンズを使用.耳側に角膜切開を作製しアプローチする.写真はa,bともにゴニオプリズムレンズにて直視下で見た鼻側の隅角写真.a:耳側角膜に切開創を作製し,前房内を粘弾性物質にて置換する.27G鋭針にて線維柱帯を一部切開し,切開部からSchlemm管内に粘弾性物質を注入し,拡張する.写真は熱加工した5-0ナイロン糸を前.鑷子で把持しながらSchlemm管内に糸の先端を挿入しているところである.b:360°全周通糸すると,対側のSchlemm管からナイロン糸が出てくる.写真は360°通糸できた糸を前.鑷子で把持するところである.その後糸を把持し眼外に引き出しながら線維柱帯を全周切開する.図2μLOTに使用するマイクロフック図3Microhookabinternotrabeculotomyシンスキーフック(Inami社)の先端を尖ら写真は隅角手術用の柄付きのプリズムレンズを使用し,耳せたマイクロフックを使用する.側からのアプローチで,フックにて鼻側の線維柱帯を切開(文献8より転載引用)しているところである.図4Canaloplasty不成功症例に対する眼内アプローチ以前のcanaloplastyで留置されていた縫合糸を前房内アプローチにより12時で鑷子にて把持し引き出すことで線維柱帯を切開している.(文献12より転載引用)図5HydrusMicrostent全長8mmでSchlemm管を広げるための骨格(7mm)と線維柱帯を貫き前房とを結ぶ入り口(1mm)からなっている.(文献15より転載引用)WashOut後の平均眼圧29272523211917図8KahookDualBlade15Abinternotrabeculectomyに使用するDualBradeDevice.CS(文献18より転載引用)Hydrus+CS図7術前後の眼圧変化の比較(文献16より改変引用)眼圧(mmHg)図6Schlemm管内に留置されたHydrusMicrostent全長8mmで7mmはSchlemm管内腔内に留置され,1mmは前房内に出ている.(文献16より転載引用)図9KahookDualBladeの先端拡大図*が先端で線維柱帯とSchlemm管内壁を一部切開する.矢印は両端の2枚刃を示し,それにより線維柱帯とSchlemm管内壁を切除する.(文献17より転載引用)レーザー虹彩図10前房内のエキシマレーザープローブ(組織学的画像)(文献19より転載引用)瞳孔図11ELTのレーザー照射後ELT成功時の逆流性出血と気泡形成を示している.(文献20より転載引用)図12TRAB360(http://sightsciences.com/us/trab.phpより転載引用)’’—

次世代MIGS-濾過手術の改良タイプ

2017年1月31日 火曜日

次世代MIGS─濾過手術の改良タイプNewly-ImprovedAqueousDrainageDeviceforFiltrationSurgery藤代貴志*はじめに近年,MIGSとよばれる低侵襲の緑内障手術が話題となっており,とくに海外ではさまざまなデバイスの開発が進められている.緑内障手術のゴールドスタンダードは依然として濾過手術すなわちトラベクレクトミーであるが,とくにMIGS系の手術は白内障との同時手術で,安全に簡便に行えることから注目を集めており,流出路再建術をターゲットとしているものが多い.流出路再建をターゲットとするiStentは,これまでの稿で述べられてきているので,海外で使用・報告をされている濾過手術の改良タイプを紹介する.濾過手術は,濾過胞により眼圧下降をめざすもので,デバイスを用いて手術を行うものは,現在わが国では,アルコン社のEX-PRESSが代表的かつ唯一のデバイスである.海外においては,これから述べる2社から2つの製品が開発,使用されている.インフォーカス社のMicroShuntとアラガン社のXENGelStentである.2016年11月時点では,日本において使用できるものはなく,海外において開発,使用中のため,今後の技術進歩やパイロットスタディの結果,製品の概要が変更される可能性が高いことなどはご了承いただきたい.Iインフォーカス社MicroShunt1.使用基準緑内障の初期から後期までどの病期においても使用可能なデバイスであり,病型は原発開放隅角緑内障であれば,手術の適応であるとされている.手術は,緑内障の単独手術でも,白内障手術との併術でもよいデバイスである.手術時間は,術式が簡便なため短時間で行え,トラベクレクトミーと類似の濾過胞を作製する手術方式をとるので眼圧下降が得られやすいというメリットがある.2.基本構造MicroShuntの写真を図1に示す.長さは8.5mmで,内腔の直径は0.07mmのチューブ状の構造物であり,中心付近に1mm程度の羽根状の突起物がある.素材はpolystyrene-block-isobutylene-block-styrene(SIBS)という化合物でできている.MicroShuntはSIBSで100%構成されているデバイスである.SIBSは,循環器科の領域では13年間の生体内への留置で問題がないことが確認され,眼科領域においても7年間の留置で問題がないことが確認されており,安全性の確認がすでにとれている素材である.MicroShuntは眼圧が5mmHg以上あれば持続的な房水の流出を維持できるとされ,流出量は2μl/分である1).3.手術方法基本的な手術方法はアルコン社のEX-PRESSの挿入の方法に似ているが,一部異なるところもあるので,手術の手順を解説する(図2).1.麻酔を結膜下へ注射する.*TakashiFujishiro:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕藤代貴志:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(29)29a12345678図2手術の模式図(文献3より転載引用)図1MicroShunta:写真.b:眼球に留置した模式図.眼球の外の先端は結膜下に留置され,眼球内の先端は,線維柱帯を貫通して留置している.(文献3より転載引用)IntraocularPressure(mmHg)35.030.025.020.015.010.05.00.0N=914914914914914914914914914913913TimePost-Operatively図3眼圧の経過のグラフ(文献3より転載引用)Year-1Year-2Year-3図4濾過胞の形状の術後変化下段の→はMicroShuntの前房側の端である.(文献3より転載引用)表1合併症のまとめNo.eyesreceivingMicroShunt14923NATubeincontactwithiris30313.0Transienthypotony(<5mmHg)afterday1─resolvedbyday9003313.0Shallowor.atanteriorchamber(resolvedwithoutintervention)12313.0Hyphema1128.7ExposedTenon’scapsule2028.7Choroidale.usionordetachment0228.7ElevatedIOPrequiringremovalof.brininanteriorchamber0114.3ElevatedIOPrequiringlate-stageneedlingofbleb1014.3Tubeobstructionbyiris,blood,.brin,etc.(latercorrected)1014.3Vitreoushemorrhage0114.3Blebleak<1mo1014.3Correctivesurgery(failure)1014.3Totals111021Thereported21adverseeventsoccurredin7patientswithsomeexperiencingmultipleadverseevents.IOPindicatesintraocularpressures.レクトミーやエクスプレスと同様の合併症がみられる.(文献3より転載引用)図5インジェクターの写真図6他の緑内障インプラントとの比較(アラガン社ホームページより)上が他の緑内障インプラントで,下がXENGelStent.(アラガン社ホームページより)~図7眼球に挿入されたXENGelStent~結膜下に留置をされている.(文献9より転載引用)図8手術手技の流れ

トラベクトーム手術

2017年1月31日 火曜日

トラベクトーム手術TrabectomeSurgery笠原正行*庄司信行*はじめにトラベクトーム手術とは,眼内からアプローチして線維柱帯を焼灼切開する術式である.術後得られる平均眼圧は15mmHg前後と,従来の眼外からアプローチするトラベクロトミーと同程度であるが,小切開創から施行ができ,手術時間が短く(5.10分程度),手技が比較的容易であり,結膜が温存できるために将来のトラベクレクトミーに備えることができる.2004年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の承認を得て,日本でも2010年に承認され,minimally(micro)invasiveglaucomasurgery(MIGS)のひとつとして国内でも広く普及してきている.ハンドピースの先端は19.5G(ゲージ)であり,単独手術であれば1.7mmの小角膜切開で行うことができる.ハンドピース先端にはフットプレート(ガイド)がついており,集合管を保護するように設計がなされている(図1).フットペダルを踏むことで先端部に電気が流れる仕組みになっており,隅角鏡で確認しながら先端部をSchlemm管内へ挿入し,外壁に沿わせるようにして線維柱帯を挟み込むように焼灼切開を進めていく(図2).直接隅角を確認しながら手技が行える点や,線ではなく帯状に線維柱帯を切開,もしくは切除できる点もメリットのひとつである.I手術適応術中に隅角の観察ができることが必須であり,隅角開大度はSha.er2.4度であること,切開を予定する鼻側に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)がないことが望ましい.ただし,少量のテント状のPASであれば,ハンドピースの先端でPASを解除しながら切開を進めていくことも可能である.従来のトラベクロトミーと同様に上強膜静脈圧を下回る眼圧値までの下降はむずかしく,術後の平均眼圧は15.16mmHg程度であるため,20mmHgを超える症例が好適応と思われる.ただし,10台の眼圧であっても点眼,内服のアドヒアランスや副作用,眼圧変動などを考慮して手術適応とする場合もある.たとえば,高齢で認知症などもあり点眼アドヒアランスが悪い場合,点眼により著明な角膜炎,眼瞼炎をきたしている場合,全身倦怠感や食欲不振,尿路結石の既往などでアセタゾラミド内服の継続が困難である場合,眼圧変動が大きく,夜間に10mmHgを超えて眼圧上昇をきたす場合などにも行うことがある.反対に,点眼は問題なくできていて,眼圧がlowteen.middleteenでも視野障害が進行するような症例や,highteenで経過していて視野障害の程度が後期以降の症例などに対しては積極的な適応はなく,むしろトラベクレクトミーの適応と思われる.II手術手順1.術前の準備自然瞳孔下や散瞳下でも手術は可能であるが,トラベクトーム手術を単独で行う場合は隅角の視認性をより向*MasayukiKasahara&*NobuyukiShoji:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕笠原正行:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)23図1トラベクトーム(提供:NeoMedixCorporation)図2挿入時のSchlemm管内のシェーマハンドピース先端部を外壁に沿わせるようにして,線維柱帯を挟み込むように切開する.(提供:NeoMedixCorporation)図3手術時の体勢患者の頭を術者から離れるように約30°傾け,顕微鏡は術者のほうに倒れるように傾けて鼻側の隅角が見えやすい環境を整える.図4線維柱帯切開右利きの術者であれば,鼻側中央の挿入部から反時計回りに約60°を焼灼切開していく.反対部分も同様に約60°切開して,合計約120°の範囲の切開を行う.図5手術翌日の前眼部写真鼻側の切開部付近に少量の凝血塊を認める.表1トラベクトーム手術の成績ShojiN2016117POAG+SG31.6±9.915.4±3.367.45.0±1.73.8±1.8YidirimY201670POAG+SG28.8±5.317.1±2.970.03.3±1.01.6±1.2生存の定義:下降率30%以上MizoguchiT201582POAG+SG22.3±6.815.1±3.264.12.8±0.82.7±0.8AhujaY2013246POAG+SG21.6±8.615.1±4.463.83.1±1.12.0±1.4TingJL2012450POAG25.5±7.916.8±3.962.92.7±1.32.2±1.3POAG:primaryopen-angleglaucoma,SG:secondaryopen-angleglaucoma100806040200monthsaftersurgeryA(insurviving)11787714737241180B(insurviving)1177359382919870C(insurviving)1176347261912440(eyes)図6117眼を対象としたKaplan.Meier法による生存曲線生存の定義は次の通り.定義A:術後眼圧が21mmHg以下,眼圧下降率20%以上,緑内障の再手術を行っていない.定義B:術後眼圧が18mmHg以下,眼圧下降率20%以上,緑内障の再手術を行っていない.定義C:術後眼圧が16mmHg以下,眼圧下降率20%以上,緑内障の再手術を行っていない.術後1年目の生存率は,定義Aでは67.4±4.4%,定義Bでは56.6±4.6%,定義Cでは44.8±4.7%で,定義AとCの間には統計学的有意差を認めた(p=0.001:ログランク検定).定義AとB,BとCの間には有意差は認めなかった.(文献1より転載引用)successprobability(%)0612182430364248以下とした場合は44.8±4.7%であり,stageが後期でlowteenをめざすような症例や,もともと低眼圧の症例には,術後の一過性眼圧上昇などのリスクも考慮すると,最初からトラベクレクトミーを選択したほうがよい場合もあり,術式の選択は慎重に行う必要がある.病型別に分けた生存率は,術後1年目において原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)で53.9±7.5%,続発緑内障で77.2±5.4%と,続発緑内障のほうが成績がよかった(p=0.024).続発緑内障の中には落屑緑内障やステロイド緑内障が多く含まれており,これらは病変が線維柱帯に限局されるのに対し,POAGはそれ以降の流出路に変化をもたらしている可能性がある.トラベクトーム手術は線維柱帯をターゲットとした術式であるため,続発緑内障で成績がよかった可能性が考えられる.Tingらも落屑緑内障はPOAGと比較して有意に眼圧下降効果が高いと報告している6).また,続発緑内障の中にはぶどう膜炎によるものも含まれているが,落屑緑内障やステロイド緑内障と同程度に成績がよかった.Antonらも,ぶどう膜炎による続発緑内障に対して本術式が有効であったと報告している7).トラベクトーム単独手術と白内障同時手術との比較では,有意差はないものの,白内障同時手術のほうが成績がよい傾向であった.同様に白内障同時手術のほうが眼圧下降効果が高い4)とする報告がある一方,変わらないとする報告もある8).白内障手術による眼圧下降効果に加え,同時手術においては閉創前にI/Aでしっかりと前房内の粘弾性物質や逆流性出血を洗浄することができる点や,超音波乳化吸引術を行う際に,前房内圧が上昇してSchlemm管内腔が拡張するため眼圧下降効果が高いのではないのかと考えている.点眼スコアは,緑内障点眼1剤を1点,合剤を2点,アセタゾラミド内服1錠を1点とした場合,術前が5.0±1.7点,術後1年目で3.8±1.8点と,約1点減少した.他の報告でもだいたい1点程度の減少であり,術後の緑内障点眼は減らせても1本程度と考える.合併症としては,術後の逆流性出血は必発であるが,その他の重篤なものはみられない.角膜内皮細胞密度についても,Maedaらは術後1年目までに有意な変化は28あたらしい眼科Vol.34,No.1,2017みられなかったとしている9).おわりにトラベクトーム手術は,10台後半.20mmHg程度をめざした手術としては比較的成績のよい手術である.安全性が高く,将来の濾過手術に備えることができる点も魅力的である.しかし,約2割の症例においては追加濾過手術が必要となることを事前に説明しておくことが重要である.また,成績良好例の中には術後にずっとlowteenで経過している症例も少なからず存在し,今後,その背景因子がわかれば適応も拡大していくものと考える.文献1)ShojiN,KasaharaM,IijimaAetal:Short-termevalua-tionofTrabectomesurgeryperformedonJapanesepatientswithopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol60:156-165,20162)AhujaY,MaKhinPyiS,MalihiMetal:Clinicalresultsofabinternotrabeculotomyusingthetrabectomeforopen-angleglaucoma:theMayoClinicseriesinRoches-ter,Minnesota.AmJOphthalmol156:927-935,20133)YildirimY,KarT,DuzgunEetal:Evaluationofthelongtermresultsoftrabectomesurgery.IntOphthalmol36:719-726,20164)MizoguchiT,NishigakiS,SatoTetal:ClinicalresultsofTrabectomesurgeryforopen-angleglaucoma.ClinOph-thalmol9:1889-1894,20155)JeaSY,MosaedS,VoldSDetal:E.ectofafailedtrabec-tomeonsubsequenttrabeculectomy.JGlaucoma21:71-75,20126)TingJL,DamjiKF,StilesMC;TrabectomeStudyGroup:Abinternotrabeculectomy:outcomesinexfolia-tionversusprimaryopen-angleglaucoma.JCataractRefractSurg38:315-323,20127)AntonA,HeinzelmannS,NeBTetal:TrabeculectomyabinternowiththeTrabectomeRasatherapeuticoptionforuveiticsecondaryglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1973-1978,20158)ParikhHA,BusselII,SchumanJSetal:Coarsenedexactmatchingofphaco-trabectometotrabectomeinphakicpatients:Lackofadditionalpressurereductionfromphacoemulsi.cation.PLosOne11:e0149384,20169)MaedaM,WatanabeM,IchikawaKetal:Evaluationoftrabectomeinopen-angleglaucoma.JGlaucoma22:205-208,2013(28)

iStent-手術成績

2017年1月31日 火曜日

iStent─手術成績OutcomesofTrabecularMicro-bypassStentSurgery芝大介*はじめにわが国では,iStentの使用法は,中期までの緑内障眼の白内障手術併施で1本のステント挿入とされている1).この使用法に関しては米国の治験データがもっとも近い条件であると考えられる.また,単独手術で用いることも原理的には可能であり,いくつかのスタディでは単独手術の眼圧下降が研究されている.本稿ではわが国での使用に際した実践的な内容を中心に述べるが,このデバイスによりどれほどの眼圧下降が得られるのか興味を持たれる読者も多いと考えられるので,いくつかの代表的なスタディの結果も紹介する.I米国での治験わが国での使用に際して,FDAの承認に向けて行われたスタディがもっとも参考になると考えられる2,3).このスタディは,軽度の開放隅角緑内障で白内障手術適応のある240眼を対象としている.無作為に白内障単独手術群と,白内障手術に加えiStentの1本挿入を行った群(ステント群)とで,術後の眼圧下降治療の状況を比較している.わが国での今後の使用状況に類似していると考えられる.II患者背景患者の平均年齢は73歳で,人種構成は白人71%,アフリカ系14%であり,アジア系は1眼のみと少ない点に注意する必要がある.病型は落屑緑内障が14眼(6%),色素緑内障が7眼(3%)と報告されており,他は原発開放隅角緑内障と推測される.組み入れ時の緑内障点眼治療薬は1.5±0.6剤であり,60%が単剤治療であった.処方薬の内訳はプロスタグランジン関連薬が75%,交感神経b受容体遮断薬が37%,炭酸脱水素酵素阻害薬が24%,交感神経a受容体刺激薬が14%であった.そのような治療下での眼圧は18.4.mmHgであった.ウォッシュアウト後の眼圧は25.4±3.6.mmHgと正常眼圧緑内障眼はほとんど存在しなかったようである.わが国ではもっと眼圧が低い症例が多くなると推測される.MD値は.3.74±3.47dBで,中期緑内障も相当数含まれていたようである.III手術成績ステント群に割り当てられた117眼のうち,4眼は白内障手術の合併症によりステント挿入が行われず,1眼はステント挿入が不可能であり,さらに1眼はスタディの治療前にドロップアウトしている.ステント挿入時の合併症は虹彩接触が8眼(7%),角膜内皮接触が1眼などとなっている.承認前の多施設試験のため,ラーニングカーブ上の術者が多かったと想定されるが,結果的にステントの挿入自体には大きな問題はなかったようである.手術後の経過観察は術後1,2週,3,6,12,18,24カ月に行われ,視野検査が6,12,24カ月に行われた.点眼薬の追加は,眼圧21mmHgを超えた場合と視野・*DaisukeShiba:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕芝大介:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(17)17%ofpatients10080604020013612LOCFMonth■ステント群■白内障単独手術群=図1白内障単独手術とiStent併用白内障手術による眼圧21mmHg以下の達成率各検査時点とlastobservationcarriedforward(LOCF)法による最終観察時の達成率が示されている.常に20%程度ステント群のほうが眼圧正常化達成率が高くなっている.白内障単独手術群でもそれなりに高い達成率が得られている点にも注意する必要がある.(文献2より転載引用)==その他の外科的介入として注目したいのは,追加の眼圧下降介入率である.レーザー線維柱帯形成術,deepsclectomy/sclerostomyが行われているが,術後24カ月に白内障単独手術群で3眼,ステント群で1眼行われており,大きな差はないようである.V結果の解釈米国での治験のデータをみるかぎり,諸手をあげて歓迎するようなデバイスではなさそうであるが,この結果を正しく解釈することは非常にむずかしい.まず,主要評価項目が点眼数の削減であり,従来の眼圧下降量(下降値および下降率)を評価項目に入れていない点に注意が必要である.従来の緑内障手術とはスタディデザインがまったく異なるのである.また,240眼を集めているが29施設からなるデータであり,半数はコントロールである.したがって,各施設でステントを入れたのは5眼程度である.隅角癒着解離術,ゴニオトミーやトラベクトーム手術といった隅角手術に習熟した術者は米国ではまれであったため,新しい術式の習得途上の術者が多数であったようである.ある程度習熟した術者でも一度のトライで正しくステントを設置できる率は62%と報告されている4).再トライとなった場合,初回に切開した部位は線維柱帯やSchlemm管の機能を減じたり,虹彩前癒着を生じた可能性も考えられる.ステントが脱落しなくても,ステントがSchlemm管内でなく線維柱帯内に留置され,きちんとバイパスされていない可能性もある.また,スタディの詳細を今後増えるであろう実臨床でのデータを注意してみる必要がある.VI白内障と同時の2本のステント挿入それでは,白内障手術と同時に挿入するiStentを2本にするとどうなるであろうか?これに関しては新規緑内障手術の導入に積極的なスペインの研究グループから2010年に非常に興味深い論文が発表されている4).この研究では,白内障手術が必要となった開放隅角緑内眼と高眼圧症眼合計33眼に対して,白内障単独手術と,白内障手術に加えiStent2本挿入の併用手術とを比較している.眼圧の組み入れ基準は点眼治療下で18.30mmHg,ウォッシュアウト後22.34mmHgであった.無作為に白内障単独手術群とステント群の2群に無作為割り付けされ,手術が行われた.右眼の場合,ステントは時計表示で5時半と2時半の2カ所にインプラントされた.術後の緑内障点眼の開始はプロトコールがあったようであるが,公表はされていない.術前眼圧(薬剤数)は白内障単独手術群23.6±1.5mmHg(1.2±0.7),ステント群24.2±1.8mmHg(1.1±0.5)であり,両者に有意な差はなかった.術後眼圧(薬剤数)は,術後半年では白内障単独手術群19.6±4.0mmHg(0.5±0.7),ステント群15.6±3.3mmHg(0.1±0.5)であった.術後1年では白内障単独手術群19.8±2.3mmHg(0.7±1.0),ステント群17.6±2.8mmHg(0±0)であり,半年および1年後では,ステント群のほうが有意に少ない点眼薬であるにもかかわらず,眼圧も有意に低かった.眼圧値でも有意な差があったことより,米国の治験データより眼圧下降作用が強いと推測される.前項でも少し触れたが,本論文ではステント挿入および留置されたステントの経過の詳細も記載されている.iStent挿入経験がある程度ある2名の術者が合計34本のステントを設置したが,21本(62%)が最初の試みで成功し,2回目で11本(32%)が成功し,残りは3度目に成功している.ステントの設置不良は6眼(18%)に起きていたが,とくに有害事象につながったものはなかったとされる.これらの設置不良を含むかどうか明記されていないが,経過観察中のステントの脱落が6例報告されている.脱落したステントは虹彩根部にとどまり,有害事象にはつながらなかったと記載されている.VII単独手術の眼圧下降とステント数本来は白内障同時手術を想定され開発されたiStentだが,単独で用いることは原理的に可能であり,その眼圧下降能力を調べる研究もいくつか行われている.そのうち,無作為に1,2,3本のiStentを挿入したスタディを紹介する5).もちろん,本研究はわが国で承認された使用法ではないが,この手術の眼圧下降作用の理論的側面を理解するには重要と考える.アルメニアで行われた本研究の対象は119人の白人の原発開放隅角緑内障患者であった.眼圧の組み入れ基準は,点眼治療下で18(19)あたらしい眼科Vol.34,No.1,201719%ofeyes100755025IOPreduction.20%01-stent(n=37)2-stent(n=41)3-stent(n=38)図2術後12カ月の時点での各ステント数群の目標眼圧達成率(ウォッシュアウト後)ステント数が多いほど達成率が高い傾向があるが,15mmHg以下に目標眼圧を設定するとステント数群間の差が顕著になっている.狭義の原発開放隅角緑内障対象で点眼なしでの眼圧15mmHg以下の達成は3ステント群では92%もあり,眼圧下降の単独手術としても評価に値する可能性がある.(文献5より転載引用)

iStent-基本構造と手術法

2017年1月31日 火曜日

iStent─基本構造と手術法iStent─StructureandSurgicalProcedure福地健郎*はじめにこの項ではiStent1~5)の基本構造と手術法について解説する.IiStentの基本構造iStentは非磁性体であるチタン合金による眼内ステントで,表面はブタ腸粘膜に由来するヘパリン(ステアルコニウム・ヘパリン)でコーティングされている.一体型のデザインで,Schlemm管内に留置する半円筒(ハーフパイプ)部と房水が流入するための前房内に突出するシュノーケル部に分けられる(図1).ハーフパイプ部の長さは1.0mm,高さは0.33mm,一方,シュノーケル部の長さは0.25mm,内径120μm(公称)で,併せaて重さは60μgである.体内に留置するステントとしてはもっとも小さいものの一つである.ハーフパイプ部はSchlemm管内壁側に挿入する部分で,先端は線維柱帯をスムーズに穿孔し,Schlemm管に刺入しやすいように鋭角に切断されている.また,ハーフパイプ部には3本の返しが付けられており,挿入後にこの返しがSch-lemm管外壁に引っかかる形で固定され,脱落を防いでいる.iStentには右眼用のGTS100Rと,左眼用のGTS100Lがある.iStentはディスポーザブルの専用インサータ(図2a)にセットされた状態で滅菌されており,そのままの状態で使用可能である.インサータの先端はiStentシュノーケル部を把持している(図2b).iStentをSchlemmb図1iStentの構造と大きさa:iStentの構造.b:iStentの大きさ.(Glaucos社より提供)*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8520新潟市中央区旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(13)13a図2iStentとインサータa:iStentとインサータ.b:インサータに充.されたiStent.(Glaucos社より提供)図3iStent手術法の実際a:iStentを角膜切開創から挿入し,鼻側虹彩全面に近づける.改めて隅角鏡に載せ,iStentの位置,隅角と線維柱帯部を確認する.b:線維柱帯色素帯に沿うように近づけ,先端をSchlemm管内に挿入する.c:さらに押し込んでSchlemm管内に全幅を挿入する.スムーズに挿入できない場合は先端がSchlemm管外壁に引っかかっている可能性が高い.d:iStentの挿入により隅角からしばしば出血が逆流する.e:粘弾性物質で出血をよけ,iStentを視覚的に確認する.

iStent-使用基準とその考え方

2017年1月31日 火曜日

iStent─使用基準とその考え方iStent─ConceptandUsageGuide稲谷大*I使用基準の背景iStentは日本で最初に承認された房水流出抵抗を改善する目的のインプラントであるため,今後どの程度の頻度で使用されるのか,不適切な使用(いわゆる濫用)に陥ってしまわないか,留置した症例の長期経過で新たな合併症を生じないか,医療費の増加につながらないかなどの懸念がある.このため筆者らは,厚生労働省からの依頼で,iStentの使用要件を設定するための基準書を策定することとなった.筆者が委員長となって,日本緑内障学会の理事および評議員と日本眼科学会の理事とで構成する検討メンバー合計5名で,平成27年9月.平成28年2月に,検討会議(白内障手術併用眼内ドレーン会議)が開かれて,「白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準」が策定された.この基準は,『日本眼科学会誌120巻7号(2016年)』に掲載されている1).今回はこの原著に沿いながら,さらにかみ砕いてiStentの使用基準とその考え方を解説する.IIiStentの効果と目的これまで承認されてきた緑内障インプラント(エクスプレス,バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ)は,緑内障のために失明することが予想される症例に対して,眼圧を下げることによって失明を回避することを目的に手術で用いられてきた.しかし,iStentがこれまでの緑内障インプラントと決定的に異なる点は,慢性緩徐に進行する開放隅角緑内障の症例に対して,そこそこ眼圧を下げることによって,長期的に経過をみた場合に,視野進行を抑制させる効果を期待するためと,使用している緑内障点眼薬を減らせる効果を期待して用いられるインプラントであるいう点である.したがって,海外での臨床試験においても,従来の緑内障手術やインプラントと比較するというデザインではなく,水晶体再建術単独手術と比較して,水晶体再建術とiStentを併用した場合に,眼圧と術後緑内障点眼薬が減らせるか,という研究デザインになっている.海外での臨床試験の結果2.5)では,水晶体再建術単独に比べて,iStentを併用したほうが術後眼圧値が低く,術後の緑内障点眼薬数も減らせることが報告されていることや,研究デザインの対照群が水晶体再建術単独であることから,iStentは水晶体再建術と併用でのみ用いることがわが国の使用基準でも明記された.iStentの挿入本数に関しては,メタ解析が報告されており6),1本よりも2本のほうがより眼圧が下がり,緑内障点眼薬の本数も減らせるが(表1),海外で十分なコンセンサスが得られていないことや,医療費も考慮して,今回は見送られた.III諸外国での使用状況とガイドライン米国では,FDAの承認を受けて使用されている.現在,290症例のコホート研究が行われているが,さらに延長して術後5年間の経過観察を続けるとともに,水晶*MasaruInatani:福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学〔別刷請求先〕稲谷大:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡町下合月23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)9表1iStentの使用本数と術後成績1本.22%.1.2剤2本.30%.1.45剤3本.40%.1剤図1iStentinject第2世代のiStentで,欧州で使用されている(a).日本で承認されたのは,第1世代のものである(b).表2さまざまな術式の流出路再建術トラベクロトミー長期経過のデータ結膜瘢痕ができる蓄積が豊富ゴニオトミー長期経過のデータ角膜混濁した症例には蓄積が豊富行えないトラベクトーム簡便設備投資とトレーニングの受講が必要Sutureトラベク360°線維柱帯を切手技がむずかしいロトミー開できるiStent簡便異物を留置するので,長期経過が不明.適応症例に制限がある表3iStentの選択基準(下記条件をすべて満たしていること)A.白内障の合併した軽度から中等度の開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障,落屑緑内障).軽度から中等度の開放隅角緑内障とは,緑内障性視野異常を有しており,静的視野計にて,MD値が.12dBよりもよく,固視点近傍10°以内に絶対暗点のない症例.B.20歳以上の成人.C.レーザー治療を除く内眼手術の既往歴がないこと.D.隅角鏡で観察し,Sha.er分類III度以上の開放隅角で,周辺虹彩前癒着を認めないこと.E.緑内障点眼薬を1成分以上点眼している.正常眼圧緑内障の症例に関しては,上記A,B,C,Dの選択基準に加えて,緑内障点眼薬を2成分以上併用して,眼圧が15mmHg以上の症例のみとする.表4iStentの除外基準(下記のいずれかに該当する症例)1.重度の緑内障患者.重度の緑内障患者とは,静的視野計にて,MD値が.12dBかそれよりも悪い,または固視点近傍10°以内に絶対暗点がある,または緑内障点眼薬を併用しても眼圧が25mmHg以上の症例と定義する.2.水晶体振盪またはZinn小帯断裂を合併している症例.3.水晶体再建術で後.が破損する可能性が高いと考えられる症例.4.認知症などにより,術後の隅角鏡検査の協力を得るのが困難な症例.5.小児(治験のエビデンスが存在しないことや水晶体再建術との同時手術を選択しないため).6.角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2未満の症例(海外の治験では角膜内皮細胞への影響が検証されていないため).

MIGS-総論的解説と臨床上の位置

2017年1月31日 火曜日

MIGS─総論的解説と臨床上の位置ACriticalConsiderationforMIGS山本哲也*はじめに本特集ではminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)に関する基本的な項目について解説が続くことになっている.欧米ではすでにいくつかのMIGSが臨床応用されており,また臨床試験の段階にある製品も多い.日本ではTrabectomeはすでに認可されていたものの,小型の眼内留置タイプのMIGSの登場は2016年前半と,欧米からずいぶん遅れてしまった.本稿では各論に入る前にMIGSについて総論的に解説するとともに,近い将来におけるMIGSの臨床上の位置づけについて筆者の見解を述べる.IMIGSあれこれ実はMIGSはきちんと定義されておらず,どの程度までが低侵襲として許容されるのかが明確でない.「低侵襲緑内障手術」の語感がよいためか,我も我もとMIGSを名乗りたがるが,本当に侵襲が最小限ですみ,かつ緑内障進行防止に有用な(統計学的に有意な,ではない)眼圧下降が得られるのかということになると,エビデンスが乏しいといわざるをえない.表1にMIGSの概略,表2にMIGSの代表的な臨床成績1~7)をあげる.MIGSは大別すると生理的房水流出路を促進するタイプ,濾過手術タイプ,房水産生を抑制するタイプになる.生理的房水流出路を促進するタイプは,Schlemm管経由のものとぶどう膜強膜流出路経由のものがある.眼内留置タイプと留置物なしタイプとに分けることも可能であり,iStentやCyPassは眼内留置タイプ,Trabectomeは留置物なしタイプの代表である.IIMIGSは本当にminimallyinvasiveか?MIGSの長期成績報告は乏しく,一部にはパイロットスタディの結果しかないものがあったりする.それらをもとに「低侵襲である」と述べることは避けるべきであろう.より長期的な安全性の確立が低侵襲性の担保として不可欠である.表2にあげた臨床報告1~7)によれば,MIGSには統計解析により眼圧下降の証明されているものが多い.しかしながら,個々の眼で見た場合,このくらいの眼圧下降効果では,眼圧下降を実感できないことが多々あると推測される.その程度の眼圧下降でもよいと考えられる症例が手術適応とされるのであるから当然ではあるが.従来の報告では,合併症に関する記載は少なめで,とくに角膜内皮細胞への影響を検討した報告は少ない.日本人においては,レーザー虹彩切開術,緑内障の各種インプラント手術において角膜内皮細胞への影響が懸念されており,MIGS導入にあたっても角膜内皮に対する検討は欠かせないと考える.眼内留置タイプのMIGSでは挿入部位における機器の安定性が担保される必要がある.対象者は将来,他の緑内障手術を受ける可能性が高く,また白内障や硝子体手術などの対象となる可能性もある.その際に,MIGS手術により結膜下組織の瘢痕を生じていたため後の濾過*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕山本哲也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(3)3表1MinimallyInvasiveGlaucomaSurgeryのタイプ分け生理的房水流出路促進濾過手術房水産生抑制①Schlemm管流出路②ぶどう膜強膜流出路Trabectome,iStent,CyPass,iStentSupra,Xen,InnFocusendoscopicCPCiStentInject,HydrusGoldShunt,Auqashunt,STAR.oTrabectomeCyPassXeniStentTrabectomeiStent表2MinimallyInvasiveGlaucomaSurgeryの代表的臨床成績報告iStent(白内障単独手術と白内障/iStent併用手術の比較)Malvankar-Mehtaetal1)メタ解析iStent1本ベースラインから9%下降,2本27%下降,白内障単独4%下降,iStent例で緑内障薬物数の有意の減少iStent(単独手術)Malvankar-Mehtaetal2)メタ解析iStent1本ベースラインから22%下降,2本30%下降,3本40%下降,緑内障薬物数の有意の減少Trabectome(単独手術,白内障同時手術)Shojietal3)後ろ向き原発開放隅角緑内障術前平均眼圧29.4mmHg12カ月後平均眼圧16.1mmHg,20%以上眼圧下降かつ眼圧21mmHg以下は53.9%Hydrus(白内障同時手術)多施設RCT眼圧下降20%以上の割合:Hydrus併用80%,白内障単独46%Pfei.eretal4)24カ月後平均眼圧Cypass併用16.9mmHg,白内障単独19.2mmHgCyPass(白内障単独手術と白内障/Cypass併用手術の比較)Voldetal5)CyPass(単独手術)Garcia-Feijooetal6)多施設RCT多施設共同無治療で眼圧下降20%以上の割合:Cypass併用77%,白内障単独60%平均眼圧下降Cypass併用7.4mmHg,白内障単独5.4mmHg緑内障薬物なしCypass併用85%,白内障単独59%術前平均眼圧24.5mmHg(薬物2.2剤)12カ月後平均眼圧16.4mmHg(薬物1.4剤)合併症30mmHgを超える眼圧上昇1月以上11%,前房出血6%,白内障進行12%などInnFocus(単独手術,白内障同時手術:マイトマイシンC併用)Batlleetal7)前向き術前平均眼圧23.8mmHg3年後平均眼圧10.7mmHg(薬物含む),3年後20%以上眼圧下降かつ眼圧14mmHg以下は95%RCT:ランダム化比較試験.詳細は個別論文参照のこと襲手術といえるとしても,そこに至るまでには技術的な訓練が必要なものが多い.MIGSによっては術者のための段階的な訓練プログラムが組まれており,それを利用することが勧められる.IIIMIGSの出現で問われる科学的事象新技術の登場により関連分野の基礎的知識が関心を呼び,またその内容が充実することは歴史上よくあることである.MIGSとともに新知識が増えそうな領域をいくつか紹介する.1.どの経路を利用するべきか,眼圧下降機序はどこがよいのかMIGSは生理的房水流出路(Schlemm管流出路またはぶどう膜強膜流出路)の活性化,新たな房水流出路作製,または房水産生の抑制のいずれかによって機能する.いずれがより適切であるかについては,眼圧(下降率,確実性など),合併症などにより決められるはずだが,基礎知識からある程度推察することができる.Schlemm管流出路の活性化は,わが国ではトラベクロトミーほかの手術により,利点と限界はよく知られている.MIGSでは合併症はより少なく,手術時間も短縮されるものの,眼圧下降効果はやや劣ることが予想される.プロスタグランジン関連薬が緑内障薬として登場し,その作用機序がぶどう膜強膜流出路の活性化と聞いたときに多くの研究者が思ったことは,なぜ全房水流出量の10~20%に過ぎないとされるぶどう膜強膜流出路の活性化で大きな眼圧下降が生じるのかということであった.筆者ら8)はGoldmannの式Fin=C(IOP-PV)+Fuをもとに計算し,ラタノプロスト点眼で約4倍程度までぶどう膜強膜流出路が活性化されることを示したことがある.MIGSにおいても,ぶどう膜強膜流出路の活性化により大幅な眼圧下降の可能性がある.ただ,現実のデータからはそこまで下降していないようである.また,このルートの利用には,虹彩炎,脈絡膜.離,周辺虹彩前癒着形成,出血などが予測され,そうした合併症の影響も重要である.濾過手術には限界がある.トラベクレクトミーの成績を演繹すれば,少なくとも日本人では,MIGSにおいてもマイトマイシンCなどの代謝阻害薬を併用しなければ長期的な成績は悪くなると予想される.毛様体破壊術は眼圧下降効果にばらつきがあるなど手術の安定性に問題があり,手技が簡単だからといって初期例からの適応には疑問が残る.2.Trabecular.owの謎.どの程度活性化したらよいのか房水のSchlemm管内の動きについて,近年はSch-lemm管内の管状方向への流れについて否定的な見解が多い.トラベクロトミー,MIGSなどで一部の線維柱帯の抵抗がなくなった場合に,手術部位に近接した集合管からの房水流出が増えたとしても,離れた部位にある集合管からの房水流出はほとんど変わらないという見解である.Fellmanら9)はTrabectomeの際に灌流吸引を行い,術野に隣接した上強膜静脈の白色化の程度が,前房と集合管を介した眼外静脈間に存在する抵抗の強弱を反映するとし,手術効果の予測に役立つとしている.換言すると,MIGSの設置部位によって手術効果が大きく異なる可能性を示唆するものであり,興味深い.Rosen-quistら10)の摘出人眼におけるトラベクロトミー実験によると,30°のトラベクロトミーで全房水流出抵抗の約30%が,また90°離れた4カ所で各30°施行したトラベクロトミーで約60%が,360°のトラベクロトミーでは約70%が解除される(25mmHgで灌流した場合)と報告しており,MIGS挿入個数の問題などとも絡んで今後の議論が楽しみである.3.白内障手術で眼圧が下がるのかMIGSは白内障手術と併用されることが多い.するとMIGSによる眼圧下降効果なのか,白内障手術併用による眼圧下降効果プラスMIGSによる眼圧下降効果なのかはっきりしない症例が出てくる.白内障手術に伴う眼圧下降効果が欧米で注目されたのはOcularHyperten-sionTreatmentStudy(OHTS)の追加解析結果11)が発表されて以降であるが,白内障手術を緑内障手術の一つとして使用できるのかを含めて十分な検討はなされていない.まして長期的な観点からの検討結果はない.(5)あたらしい眼科Vol.34,No.1,20175表3近未来の緑内障治療(私見)手術に関係する箇所を太字で示す1.前視野緑内障1)静的視野:正常範囲2)自覚症なし3)視神経:緑内障性視神経症あり基本的な対応:使いやすい薬物(1種が基本)を点眼.無治療経過観察も可能.2.初期1)高度の視機能異常が数年以内には生じない2)自覚症なし,または乏しい3)緑内障性視神経症あり基本的な対応:診断確定次第,同意の下でMIGS手術を行ってから使いやすい薬物(ひとつまたは複数).無治療経過観察もごく初期症例によってはありうる.3.中期1)高度の視機能異常が数年以内には生じうる2)自覚症はさまざま基本的な対応:降圧を重視した薬物選択またはトラベクロトミーまたはトラベクレクトミー.4.後期1)高度の視機能異常が目前,またはすでに始まっている2)自覚症強い基本的な対応:薬物に比べるとトラベクレクトミー(またはインプラント手術)のほうが平均的な予後はよい.降圧を最重視した薬物療法が必要.5.晩期1)すでに固視点喪失2)自覚症強い基本的な対応:薬物またはトラベクレクトミーまたはインプラント手術.’-

序説:Minimally Invasive Glaucoma Surgery(MIGS)

2017年1月31日 火曜日

MinimallyInvasiveGlaucomaSurgery(MIGS)稲谷大*山本哲也**Minimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)という用語は,4年ぐらい前ではなじみのない言葉で,minimallyinvasivevitreoussurgery(MIVS)の聞き間違いかと思われた読者も多かったのではないかと思う.硝子体手術の硝子体カッターゲージが長年使用されてきた20Gから23G,25G,27Gと直径がどんどん小さくなり,低侵襲な手術へと移行していった経緯から,緑内障手術でもより低侵襲な手術をめざす発想が生まれ,2012年にmicro-inva-siveglaucomasurgery(略してMIGS)という言葉が提唱された.眼科手術の分野別でみてみると,水晶体再建術は切開創のサイズが小さくなり,角膜移植も内皮のみのパーツ移植などが行われ低侵襲化してきており,緑内障手術だけが切開層が大きくて縫合が煩雑で出遅れてしまっている感があるように思われる.硝子体手術でも明らかなように,低侵襲になれば,手術時間が短縮できるし,術者間の症例経験数の違いによる術中合併症の頻度のばらつきを減らすこともできるし,術後炎症の軽減効果,術後の回復が早くなり入院期間の短縮も期待できるなど,さまざまな利点がある.緑内障手術は,濾過手術でも流出路再建術でも,切開縫合に熟練が必要なことや術後合併症が多いことなどから,MIGSのニーズは高まってきているといえる.わが国で承認されているMIGSは,トラベクトームとiStentの2つであり,いずれも流出路再建術に分類されるが,海外では濾過手術に用いるMIGSや新たな流出ターゲットとして上脈絡膜腔から流出させるMIGSも登場している.しかし,肝心の眼圧下降に関しては,トラベクレクトミーを上回る眼圧下降が得られるMIGSは存在せず,この眼圧下降効果の問題が,硝子体手術ではMIVSに取って代わられたように,果たして本当にトラベクレクトミーがすべてMIGSに移行するのかという疑問の余地を残してしまう点ではないかと思う.MIGSのデバイス承認はこれまでわが国ではずいぶん出遅れていた.MIGSで用いられるデバイスの中ではiStentがわが国で最初に承認され,医療材料などで欧米とのタイムラグをなるべく短かくさせるという機運から,今後,欧米で承認されているデバイスは次々と日本で承認を受けることになると考えられる.しかし,欧米で承認を受けているデバイスに関しても,長期的な臨床データは未だ確定しておらず,臨床試験が継続されている途中であり,長期に経過を追ってみると新たな有害事象が報告される可能性は十分考えられる.今後の海外での長期経過の報告や,国内での製造販売後調査の結果に注意*MasaruInatani:福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)1して,情報をアップデートしていく必要がある.本特集では,わが国の眼科医のMIGSに関する知識の不足を補うために,すでに承認されているMIGSの情報だけでなく,欧米で用いられているがわが国では未承認の次世代のMIGSの情報についてもとりあげ,企画・編集者の我々も含め高名な緑内障サージャンの先生方に執筆を依頼した.本特集が読者のMIGSに関する知識を深めるとともに,これからの緑内障手術選択の参考の一助になれば幸いである.2あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(2)

わたしの工夫とテクニック 成熟白内障モデル眼の試作

2016年12月31日 土曜日

わたしの工夫とテクニックMyDesignandTechniqueあたらしい眼科33(12):1801?1803,2016成熟白内障モデル眼の試作WhiteCataractModelinPigEyes上甲覚*要約ジアテルミーを用いて,豚眼に模擬成熟白内障を試作した.強膜切開創から,バイポーラ鑷子電極の先端を水晶体に挿入して熱凝固を行った.ジアテルミー凝固による白色の水晶体混濁を,広い範囲で簡単に作製することができた.本モデル眼で,連続円形切?の練習を行った.人眼の成熟白内障と同様に前?切開縁の視認性は不良であり,難症例対策の練習が可能であった.また,前?染色法を併用した練習にも適したモデル眼であった.はじめに成熟白内障は,顕微鏡照明の徹照が悪く前?切開縁の視認性が不良で,白内障手術の難症例のひとつと考えられている.これまで,ウエットラボ用の豚眼で白内障手術の練習する報告はいくつかあるが,成熟白内障に対する練習用のモデル眼の報告は少ない1).以前,筆者は,ジアテルミーを用いて豚眼の水晶体に模擬白内障を作製し報告した2).今回,同じジアテルミーを利用して,豚眼の水晶体に模擬成熟白内障を試作したので解説する.まず,豚眼の角膜輪部より後方4.5mmの位置で,スリットナイフを水平に強膜および水晶体に刺入させた.その切開創からバイポーラ鑷子電極の先端を水晶体まで挿入し,水晶体の熱凝固を行った(図1a,b).使用したジアテルミーは,超音波白内障手術器械のひとつであるOS3R(Oertli社,スイス)に標準装備されている装置である2,3).ジアテルミーの電極は結膜止血用バイポーラ鑷子を用いた.1カ所の強膜切開創からでは,作製した水晶体の混濁範囲は小さく限局している.しかし,強膜切開創を2カ所以上作製し,ジアテルミーの熱凝固を行えば,広範囲の水晶体混濁を作ることが可能である(図1c,d).一連の操作は,2?3分で行うことができる.ただし,水晶体?とZinn小帯の一部は破損するので,模擬水晶体動揺も作製したことになる.模擬成熟白内障による連続円形切?の練習作製した本モデル眼で,連続円形切?(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の練習を行った.人眼の成熟白内障と同様に,本モデル眼でも顕微鏡照明の徹照が悪く,前?切開縁の視認性は不良である(図2a,b).前?切開縁の視認性の悪い成熟白内障の対応策として,前?染色法がある4?6).日本では,染色用の用材は医薬品として認可されていないが,成熟白内障におけるCCCに有用であり,習熟しておく必要がある.本モデル眼で,トリパンブルーによる前?染色を行った.水晶体?はジアテルミー凝固により一部破損しているので,前?鑷子で前?を把持すると容易に皺が寄る(図3a).カプセルジアテルミーを使い,CCCの練習も行った(図3b,c).このジアテルミーは,CCCの困難な症例に有用な道具のひとつである7).白色の模擬白内障と染色された前?とのコントラストにより,前?切開縁の視認性は非常に良好である(図3b,c).おわりに前?切開縁の視認性が悪い症例に対するCCCの練習に,本モデル眼は活用できると考えた.CCCを完成させることがむずかしくなったら,途中から前?染色法を追加し,視認性をよくする練習も可能である.前?染色法の手技は難しくないが,事前に十分習熟しておく必要がある.初心者は,人眼で行う前に,成熟白内障モデル眼でその練習が可能である.実際の操作時間をより短く,またより安全に施行することができると考える.本モデル眼ではCCCの練習以外に,?損傷のある模擬白内障の処理や前部硝子体切除の練習も可能である8).文献1)VanVreeswijkH,PameyerJH:Inducingcataractinpostmortempigeyesforcataractsurgerytrainingpurposes.JCataractRefractSurg24:17-18,19982)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,20113)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの試作.あたらしい眼科27:83-84,20104)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:Stainingofthelenscapsuleforcircularcontinuouscapsulorrhexisineyeswithwhitecataract.ArchOphthalmol116:535-537,19985)MellesGR,deWaardPW,PameyerJHetal:Trypanbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincataractsurgery.JCataractRefractSurg25:7-9,19996)永本敏之:トリパンブルーCCCを容易にする前?染色法.眼科手術16:147-152,20037)関保,阿久津美由起,高野薫:カプシュロトームを用いた水晶体切開.眼科手術9:77-80,19968)中野敦雄:動物眼でのウエットラボ.眼科手術5白内障(大鹿哲郎編),p78-86,文光堂,東京,2012図1模擬成熟白内障の作製方法a,b:角膜輪部より4.5mmに作製した強膜切開創から,バイポーラ鑷子電極の先端を水晶体中央部まで挿入して熱凝固を行った.c,d:別の位置に作製した強膜切開創からジアテルミーによる熱凝固を行い,広範囲に白色の水晶体混濁を作ることができた.図2模擬成熟白内障による連続円形切?の練習(1)a:CCCの練習を行うと,前?切開縁の視認性は不良であるのがわかる.b:前?切開縁の視認性は不良であるが,CCCを完成することができた.3模擬成熟白内障による連続円形切?の練習(2)a:水晶体?は,ジアテルミー凝固により一部破損しているので,トリパンブルーによる前?染色後,前?鑷子で前?を把持すると皺が寄るのが見える.b:カプセルジアテルミーでCCCを施行.前?は染色されているので,切開縁は明瞭である.c:カプセルジアテルミーの操作は簡単で,水晶体?の張りが弱くてもCCCは容易に完成できた.*SatoruJoko:武蔵野赤十字病院眼科〔別刷請求先〕上甲覚:〒180-8610武蔵野市境南町1-26-1武蔵野赤十字病院眼科0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(123)18011802あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(124)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161803