網膜・硝子体:MedicalRetina糖尿病網膜症Retina-Vitreous:MedicalRetinaDiabeticRetinopathy阿部さち*山下英俊*はじめに平成C28年の「国民健康・栄養調査」では糖尿病有病者と糖尿病予備群はC1000万人と推計されている.糖尿病網膜症の有病率に関してはC2011年のメタアナリシスではC35%との報告もあり,国内にC350万人の糖尿病網膜症患者がいることになる1).さらにC2011年のCJapanDiabetesCComplicationsCStudy(JDCS)の報告では日本人C2型糖尿病患者の網膜症発症頻度はC38.3/1000人・年であり,すでに網膜症を有している患者における網膜症進展頻度はC21.1/1,000人・年である2).つまり,日本国内で,1年でC25万人の糖尿病網膜症患者が新たに発症し,すでに発症しているうちC1年でC7万C4000人の糖尿病網膜症患者が進展している概算になる.厚生労働省『平成C26年患者調査の概況』によると,糖尿病の総患者数(継続的に治療を受けていると推測される患者数)はC316万C6000人で,前回調査よりもC46万人増加したと報告された.同報告から,眼および付属器の疾患での入院患者がC1万C1500人で外来患者がC33万C7900人,合計でC35万人と報告されている.前述の概算糖尿病網膜症患者数と,眼科を受診した全体の患者数を比較しても,未だ病気をもちながら受診していない患者が非常に高い割合でいることが推測される.硝子体手術の進歩の時代,抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)治療のコマーシャルメッセージが氾濫した時代を経て,近年は糖尿病網膜症の眼科管理の確立をえた気持ちにもなりがちであるが,これらの数字を見るに,未だ啓発,糖尿病内科を含めた他科との連携,検診受診率の向上などが喫緊の課題であると痛感する.CIスクリーニング・診断『糖尿病診療ガイドラインC2016』には,定期的な眼科受診が,糖尿病の発症・進展を阻止するうえで有用である(推奨グレードCA)と記載されている.2017年のAmericanCDiabetesCAssociationの報告でも,スクリーニングの項目において「眼底写真によるスクリーニングは眼科診察に比して確立しておらず,初回は眼科専門医による診察が推奨される.1型糖尿病患者は発症からC5年以内,2型糖尿病患者は診断時の眼科医専門医(oph-thalmologistCorCoptometrist)の診察を推奨」と記載されている3).2003年のCAmericanAcademyofOphthal-mologyの報告などでは,無散瞳眼底カメラによる網膜症スクリーニングについて,眼科医による網膜症管理には及ばないものの,簡便でコストが安く,眼科の受診が困難な患者での有用性が期待できるとする考え方も一部にはあるが,眼底写真によるスクリーニングには現時点では慎重な対応が必要であり,現時点では眼科専門医の眼底診察によるスクリーニング,診断が確実な方法といえる4).今後の潮流としては,Optos(Optos200Tx,Optos社)に代表されるような広角眼底カメラの登場や,machinelearning(機械学習)などのCarti.cialCintelligence(AI)*SachiAbe&*HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕阿部さち:〒990-9585山形市飯田西C2-2-2山形大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(43)C43テクノロジーの進化により,スクリーニングがさらに簡便かつ確実に行えるようになることが期待される.現にAIによる眼底写真読影と眼科医の読影を比較して糖尿病網膜症の所見検出率が遜色なかったとする報告なども2016年頃より散見されている5,6).さらに元来広く行われてきた,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)にかわる検査として,OCTangiographyがあり,非侵襲的に短時間でこれまで見えなかった微細な網膜血管などの描出が可能になってきている.網膜血管瘤や無灌流領域の描出は蛍光眼底造影検査よりも精緻な画像が得られる.しかし,新生血管やバリア機能が破綻した網膜血管の蛍光漏出など,血管機能の描出には現時点ではCFAが必要である.今後,FAとCOCTangiographyとの所見の比較や,他のレーザースペックルフローグラフィなどの機能を反映する検査との組み合わせによってさらに検査精度が上がることが期待される7).CII内科的治療内科的治療の基本は,血糖コントロール,血圧コントロールである(糖尿病診療ガイドライン,推奨グレードA).血糖コントロールは介入試験であるCDCCT(DiabetesControlCandCComplicationsCTrial)とCUKPDS(UnitedKingdomCProspectiveCDiabetesCStudy)の結果では,HbA1cは正常に近ければ近いほど網膜症の発症・進展は抑制されている.とくにCDCCTでは,1型糖尿病患者に強化インスリン治療を行うか,通常インスリン治療を行うかで無作為に割り付けを検討し,強化インスリン治療による厳格な血糖コントロールにより網膜症の発症進展を抑制する結果を得ただけでなく,その後両群に強化インスリン治療を行い血糖コントロールに差がなくなった後も,早期の強化インスリン治療群が網膜症の進展抑制されていることがわかり,早期からの血糖コントロールの重要性が証明された8.10).わが国での血糖コントロールに関する報告はCKuma-motoCStudyがある.日本人C2型糖尿病において強化インスリン治療により網膜症の発症進展が抑制された.KumamotoCStudyの功績はコントロールの基準を明確に示したことであり,糖尿病網膜症に関してはCHbA1c(JDS)6.5%[HbA1c(NGSP)6.9%],空腹時血糖値110Cmg/dl,食後C2時間血糖値C180Cmg/dl未満が閾値として示された9).JDCSでの解析結果からもCHbA1cがC7%未満の患者に比して,HbA1cがC7.9%の患者の網膜症発症のリスクはC2倍,9%以上ではC4倍になる.網膜症進行のリスクはC7%未満の患者に比して,7.8%の層がC2倍,8.10%でC3.5倍,10%以上の患者ではC7.6倍である2).血糖コントロールの期間に関しては確立した結論は未だ得られていないが,網膜症の観点からは過去の研究からCHbA1cでC0.5.1.3%/月のペースが網膜症の増悪が軽度である妥当とするステートメントが多い.血圧コントロールはCUKPDSの結果から厳格血圧管理群(収縮期目標血圧C150CmmHg未満)のほうが,ゆるやかな血圧管理群(収縮期目標血圧C180CmmHg未満)に比べて網膜症進展が有意に抑制された11).同CUKPDSでは降圧薬の種類では網膜症進展抑制は証明されなかったが,ADVANCEではペリンドプリルとインダパミド合剤による血圧コントロールで黄斑浮腫や毛細血管瘤は有意に減少したと報告された12).また,UCLID,DIRECT-Prevent1Protect1では血圧正常のC1型糖尿病患者にレニン・アンギオテンシン系阻害薬を投与することにより網膜症発症を抑制する可能性が示された13,14).血糖,血圧管理以外のリスクファクターとしては以下のものがある.脂質コントロールについてはCFIELDstudyでフェノフィブラートの使用により網膜症進展の抑制の可能性が示唆された.しかし,血清脂質との関連が証明されず,『糖尿病診療ガイドランC2016』では推奨レベルはCBにとどまっている15).抗血小板薬の投与は,網膜症発症・進展の抑制ができる証明はないが,2017年のCADAのガイドラインには糖尿病網膜症存在下の心血管管理目的の抗血小板薬(アスピリン)投与は,網膜出血や網膜症進展のリスクを増加させないとの記述がある3).ほかにCJDCSでは糖尿病罹病期間も網膜症発症のリスクファクターとしてあげられており,“はじめに”でも述べたが,年間C4%の新規発症がある.高齢糖尿病患者44あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(44)表1網膜症,黄斑浮腫の推奨治療網膜症なし(NDR)なし軽症非増殖糖尿病網膜症なし(mildNPDR)中等症非増殖糖尿病網膜症なし(modNPDR)重症非増殖糖尿病網膜症汎網膜光凝固(severeNPDR)増殖糖尿病網膜症(PDR)汎網膜光凝固もしくは抗CVEGF治療黄斑浮腫なし(NoDME)中心窩を含まない黄斑浮腫(Non-CIDME)中心窩を含む黄斑浮腫(CIDME)なし中心窩を含む黄斑浮腫への進展への注意深い経過観察抗CVEGF治療が第一選択.抗VEGF治療に抵抗性の症例には光凝固治療の併用を検討.代替療法としてステロイド硝子体内投与.「血糖,脂質,高血圧の全身管理,患者教育を眼症状の有無にかかわらず行ったうえで」とのただし書きがあり,国際重症度分類の病期に応じた網膜症治療と,黄斑浮腫治療が記載されている.(CDiabeticCRetinopathy:CACPositionCStatementCbyCtheADAより改変)C504030DRS失明率(%)2010ETDRSPatient0図1増殖糖尿病網膜症の5年間の視力経過DRSの無治療眼ではC3年で約C30%の症例が失明に至っているのに比べ,ETDRSで汎網膜光凝固を施行された症例はC5年間での失明はC1.4%である.(文献C16からの改変引用)0246年aSham+PromptLaserRanibizumab+PromptLaserbSham+PromptLaserRanibizumab+PromptLaserRanibizumab+DeferredLaserRanibizumab+DeferredLaserTriamcinolone+PromptLaserTriamcinolone+PromptLaser11111098765410987654321004812162024283236404448525660646872768084889296100104Visitweek04812162024283236404448525660646872768084889296100104Visitweek52weeks68weeks84weeks104weeks52weeks68weeks84weeks104weeksSham+promptlaser,nRanibizumab+promptlaser,nRanibizumab+deferredlaser,n269165173249159169232157159211136139Sham+promptlaser,nRanibizumab+promptlaser,nRanibizumab+deferredlaser,n784140754140734140784140Triamcinolone+promptlaser,n175152152142Triamcinolone+promptlaser,n46434247図2ラニビズマブ硝子体内注射とステロイド硝子体内注射の視力効果比較全症例ではC2年以降,ステロイド治療群の視力が低下するが,眼内レンズ眼では有意差がない.(文献C23からの引用)bese点眼治療3M図3ジフルプレドナート点眼による糖尿病黄斑浮腫治療症例62歳,女性.右眼.眼内レンズ眼,硝子体手術後に発症した.胞様黄斑浮腫.ジフルプレドナート点眼治療をC1クール,3カ月間施行し,浮腫改善を得た.視力は(1.0)から(1.2)と維持された.–’