《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(2):268.273,2017c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査大野敦粟根尚子永田卓美梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科QuestionnaireSurveyResultsamongTamaAreaOphthalmologistsregardingtheThirdeditionoftheDiabeticEyeNotebookAtsushiOhno,NaokoAwane,TakumiNagata,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的:『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)は2014年6月に第3版に改訂された.改訂1年後に第3版に対する眼科医の意識調査を行ったので報告する.方法:多摩地域の眼科医に対し,1)眼手帳配布に対する抵抗感,2)「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度,3)受診の記録で記入しにくい項目,4)受診の記録における①「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非,②「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非,③福田分類削除の是非,5)眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさについて調査し,回答者50名全体の結果ならびに日本糖尿病眼学会の会員11名と非会員30名の比較結果を検討した.結果・結論:受診の記録において会員は黄斑症の変化,非会員は網膜症の変化が記入しにくいとの回答が多く,会員は黄斑症の記載が詳細になったことは細かくて記載が大変との回答が5割を占めた.福田分類の復活希望は3%にとどまった.Purpose:TheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)hasbeenrevisedtothethirdedition(June2014);weherereportontheawarenesssurveyofophthalmologistsforthethirdeditionoftherevisedoneyear.Methods:ThesubjectswereophthalmologistsintheTamaarea.Thesurveyitemswere:1)senseofresistancetoprovidingtheEyeNotebook,2)clinicalappropriatenessofthedescription“guidelinesforthoroughfunduscopicexamina-tion”,3)di.cultitemsto.llinontherecordofvisit,4)①prosandconsofdetaileddescriptionofdiabeticmacu-lopathy,②prosandconsofdescriptionofchangeindiabeticmaculopathy,③prosandconsofdeletingtheFuku-daclassi.cation.5)Clarityofrevisiontothethirdeditionofthepatient’sEyeNotebook.Weexaminedtheresultsofcomparingmembers(11persons),non-members(30persons),respondents(50persons)andoverallresults,aswellastheJapaneseSocietyofOphthalmicDiabetology.ResultsandConclusion:Ontherecordofvisit,manyresponsesaredi.cultto.llinregardingchangesinthediabeticmaculopathyofmembersandchangesinthedia-beticretinopathyofnon-members.Memberanswersofaverynotedanditismostwelcomethatdescriptionsofdiabeticmaculopathyhavecometoaccountforover50%.PreferenceforrevivaloftheFukudaclassi.cationreachedonly3%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(2):268.273,2017〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,糖尿病網膜症,眼科・内科連携.diabeticeyenotebook,question-nairesurvey,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist.はじめに立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を図った1).一つが,内科と眼科の連携である.多摩地域では,1997年またこの活動をベースに,筆者は2001年の第7回日本糖尿に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPAN268(126)中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経て『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)の発行に至っている3).眼手帳は,2002年6月に日本糖尿病眼学会より発行されてから14年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4.7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目,10年目に施行してきた.そして発行半年目8),2年目9)の結果を7年目の結果と比較した結果10),ならびに10年目を加えた過去4回のアンケート調査の比較結果11)を報告してきた.眼手帳は2014年6月に第3版に改訂されたが,糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.そこで第3版への改訂から1年後の2015年6.7月に,第3版に対する眼科医の意識調査を行ったので,本稿ではその結果のうち,第3版での改訂ポイントを中心に報告する.I対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務中の糖尿病診療に関心をもつ眼科医で,50名から回答があり,回答者の背景は下記に示す通りであった.1.性別:男性74%(37名),女性16%(8名),無回答10%(5名).2.年齢:30歳代12%,40歳代28%,50歳代42%,60歳代12%,70歳代6%で,50歳代・40歳代の順に多く,両年代で全体の70%を占めた.3.勤務先:開業医84%,病院勤務14%,無回答2%.4.臨床経験年数:10年以内4%,11.20年22%,21.30年44%,31.40年24%,41年以上6%で,21.30年の回答がもっとも多かった.5.定期通院中の担当糖尿病患者数:10名未満6%,10.29名26%,30.49名34%,50.99名8%,100名以上20%,無回答6%で,30.49名の回答がもっとも多かった.6.日本糖尿病眼学会:会員22%(11名),非会員60%(30名),無回答18%(9名).なおアンケート調査は2015年6.7月に施行されたが,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼ100%であった.今回,アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓蒙を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.今回報告対象としたアンケート項目は,下記のとおりである.問1.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感問2.「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度問3.4頁からの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目問4-1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非問4-2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問4-3.受診の記録における福田分類削除の是非問5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ上記の問1.5に対するアンケート調査結果について,回答者50名全体の結果ならびに日本糖尿病眼学会の会員11名と非会員30名の比較結果を検討した.会員と非会員の回答結果の比較にはc2検定を用い,統計学的有意水準は5%とした.II結果1.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(図1)眼手帳を渡すことへの抵抗は「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて90%を超えていた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,両群間に有意差はなかった.2.「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度(図3)眼手帳1ページの「眼科受診のススメ」(図2)の下段に「精密眼底検査の目安」が記載されていることおよび記載内容ともに「適当」との回答が全体の89%を占めた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,「目安の記載自体が混乱のもとなので不必要」との回答が会員で28.6%と有意に多かった(c2検定:p=0.001).3.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目(図4,5)記入しにくい項目としては,「糖尿病網膜症の変化」と「糖尿病黄斑症の変化」が17%前後で多かった(図4).糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,会員は「糖尿病黄斑症の変化」,非会員は「糖尿病網膜症の変化」の回答がともに20%を超えて多かった(図5).4.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非(図6)黄斑症の記載が詳細になったことは「適切な改変」との回答が69%でもっとも多かった.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,会員は「細かくて記載が大変になった」が50%,非会員は「適切な改変」が76%で,それぞれもっと■まったくない■ほとんどない■多少ある■かなりある0%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉図1眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感も多かった(c2検定:p=0.07).4.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非(図7)黄斑症の変化は「必要な項目」が48%,「必要だが記載しにくく,ないほうがよい」が38%と回答が分かれていた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,両群間に有意差はなかった.4.3.受診の記録における福田分類削除の是非(図8)福田分類は「ないままでよい」が60%と最多で,復活希望は3%にとどまった.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,復活希望は会員で14.3%,非会員は0%であった.5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ(図9)患者さんサイドに立った眼手帳をめざして,1ページの「眼科受診のススメ」などの表記を患者さんにわかりやすい表記に変更(図2)したが,患者さんにとってわかりやすくなったとの回答が全体の54.5%を占めた.糖尿病眼学会の会員と非会員の比較では,非会員は「わかりやすくなった」が63%,会員は「どちらともいえない」が44%で,それぞれもっとも多かった.図2「眼科受診のススメ」の推移■適当■不必要■修正必要(%)2.2複数回答可無回答7名を除く43名中の回答割合で表示80(無回答5名)0%20%40%60%80%100%40〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉20特になし糖尿病黄斑症の変化糖尿病黄斑症糖尿病網膜症の変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受診予定日図3「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度図44ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目適切細かくて記載が大変その他(%)(無回答11名)8060400%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉200特になし糖尿病黄斑症の変化糖尿病黄斑症糖尿病網膜症の変化糖尿病網膜症白内障眼圧矯正視力次回受診予定日図54ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目図6受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の<糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較>是非必要記載しにくくないほうがよい元々不要その他ないままでよい復活してほしいどちらともいえない2.9(無回答8名)(無回答15名)0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉図7受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非図8受診の記録における福田分類削除の是非0%20%40%60%80%100%〈糖尿病眼学会会員(11名)と非会員(30名)の比較〉図9眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさIII考按1.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感多摩地域の眼科医に対する眼手帳に関するアンケート調査結果の推移11)をみると,眼手帳配布に対する抵抗感は,2年目以降「まったくない」と「ほとんどない」を合わせて80%を超えており,今回の結果も同様であった.外来における時間的余裕ならびに配布,手帳記載時にコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる.2.「精密眼底検査の目安」の記載があることの臨床上の適正度糖尿病眼学会の会員において,「目安の記載自体が混乱のもとなので不必要」との回答が28.6%と有意に多かった.これが糖尿病の罹病期間や血糖コントロール状況を加味せずに,検査間隔を決めるむずかしさを示唆しており,受診時期は主治医に従うように十分説明してから手帳を渡すことの必要性を改めて示している.3.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目多摩地域の眼科医における眼手帳第2版までのアンケート調査では,記入しにくい項目として,「福田分類」のつぎに「糖尿病網膜症の変化」があげられている11).今回その項目と「糖尿病黄斑症の変化」が多かったことは,網膜症や黄斑症の経時的変化を記載することの負担感を示している.4.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非7割の回答者が黄斑症の記載が詳細になったことは適切な改変と評価しているものの,学会員の半数は細かくて記載が大変になったと回答している.おそらく定期通院中の糖尿病患者数が多く,かつ黄斑症の患者も多いため,記載に対する負担感が強いと思われる.4.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非黄斑症の記載の詳細化に対する高評価に比べると,黄斑症の変化は必要だが「記載しにくくないほうがよい」との回答も4割弱認めた.この項目の記載には,OCTによる診察ごとの比較が不可欠であり,その煩雑さが記載のしにくさを反映していると考えられる.4.3.受診の記録における福田分類削除の是非多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行10年目までのアンケート調査では,10年目の回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として「福田分類」と「変化」が多く選ばれ,とくに福田分類の増加率が高かった11).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入して頂きたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,眼手帳の第3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,今回の結果では福田分類は「ないままでよい」が6割を占め,復活希望は3%にとどまった.したがって,現時点で眼手帳の第3版の改訂方針は眼科医に支持されているといえるが,今後は福田分類削除に対する内科医の意見も聞いてみたい.5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ眼手帳第3版への改訂では,図2の「眼科受診のススメ」の表記だけでなく,眼手帳後半のお役立ち情報にOCTや薬物注射を加えるなどの改変を行っている.こうした工夫が,患者さんにとって「わかりやすくなった」との回答が過半数を占める評価につながったと思われる.以上のアンケート結果より,眼手帳の第3版における改訂ポイントに対しておおむね好意的な受け入れ状況を示したが,一部の記載項目では,とくに日本糖尿病眼学会会員において負担感をもつ回答者も認めた.今後は,さらに多くの医療機関で眼手帳を利用してもらうために,眼手帳の目的を理解してもらうための啓発活動ならびに眼手帳のより利用しやすい方法の提案が必要と思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティス23:301-305,20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20108)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の利用状況と意識調査.日本糖尿病眼学会誌9:140,20049)大野敦,粂川真理,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における発行2年目の糖尿病眼手帳に対する意識調査.日本糖尿病眼学会誌11:76,200610)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,201111)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第2報).ProgMed34:1657-1663,2014***