眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人21.瞼裂斑と瞼裂斑炎加治優一筑波大学医学医療系眼科瞼裂斑は,一般には紫外線などの外的要因によってできる結膜のシミとして認識されている.しかし,瞼裂斑は表面から隆起しているために,瞬目に伴い常に摩擦を受け,ドライアイと同様の結膜上皮障害を呈する.そのため,違和感や充血の原因となりえることに留意すべきである.●もっとも頻繁にみているはずの瞼裂斑瞼裂斑は結膜に認められる黄褐色の加齢性病変である.50歳を過ぎると多かれ少なかれほとんどの人に認められることもあり,外来でもっとも頻繁にみているはずである.しかし,眼科医も患者もほとんどこの病変に気を留めることがない.ところが,この単純な病変は,老化の根本にかかわるさまざまな反応が凝集した産物であり,もっとも観察しやすい加齢性変化である.●瞼裂斑の臨床所見瞼裂斑は,角膜に隣接する3時9時方向の結膜に認められる黄褐色で軽度に隆起した病変である(図1).細隙灯顕微鏡による観察で他の病変と見間違えることはない.コンタクトレンズ装着やアイシャドウを使う際に本人が気になり,「この白目についた色はなんでしょう」と聞かれることも多い.とくに害のない病変であると伝えて,通常は何も治療をしないことが多い.しかし,とくにソフトコンタクトレンズ装用者にとっては,レンズと瞼裂斑がこすれ合うことにより違和感の原因となる場合がある.ソフトコンタクトレンズをはずしてリサミングリーンを用いて結膜を染色すると,瞼裂斑に一致して上皮障害が生じていることが多い.たとえソフトコンタクトレンズを使用していなくても,瞼裂斑の隆起が大きめの場合は,瞬目に伴い上皮障害が生じていることが多い.それはリサミングリーンによって染色されることや,impressioncytologyによる観察で表面の上皮の角化が亢進していることで確認することができる(図2).このように,瞼裂斑は決して無害・無症状というわけではなく,眼痛・違和感・さまざまな不定愁訴の原因となりえることに留意する.●瞼裂斑の病態瞼裂斑はもっとも観察しやすい加齢性変化であると述べた.アルツハイマー病・アミロイドーシス・加齢黄斑変性症・白内障などの加齢が関連する病気の特徴は,「異常な蛋白質の沈着」である(図3).さらに異常な蛋白質の沈着には,酸化ストレスの亢進や活性酸素の増大などがかかわっていることが多い.瞼裂斑は一般にいわれる紫外線曝露だけではなく,酸化ストレスの亢進や活性酸素の増大に伴い,異常な蛋白質が沈着する疾患である.筆者のグループは,アルツハイマー病などで認められる異常な蛋白質の特徴である「蛋白糖化最終産物」や「右手型アミノ酸」が瞼裂斑にも認められることを見出している1~5).●瞼裂斑炎はなぜ生じるか瞼裂斑に一致して充血や炎症が生じることがあり,瞼裂斑炎とよばれる(図4).なぜ炎症が起きるのかはわからないものの,フルオロメトロン点眼ですぐに改善するので,深く顧みられることはない.炎症が起きる原因は,瞬目やコンタクトレンズ表面によって表面がこすれるためと考えるのが一般的である.ただし,瞼裂斑の病態でも述べたとおり,瞼裂斑の中央には,生体内には通常認められないような異常な蛋白質が凝集しており,それが異物と認識されて炎症反応が起きている可能性もありうる.Duke-Elderの“SystemofOphthalmology”に「瞼裂斑はときに炎症を起こすことがあり,重症の場合は膿瘍を作ることがある」と述べられているように,単なるステロイド点眼だけではなく,抗生物質の点眼も併用したほうがよいと考える.文献1)加治優一,横井則彦,大鹿哲郎:結膜疾患とドライアイ.あたらしい眼科22:317-322,20052)KajiY,OshikaT,AmanoSetal:Immunohistochemicallocalizationofadvancedglycationendproductsinpinguecula.GraefesArchClinExpOphthalmol244:104-108,20063)加治優一,藤井紀子:蛋白質の異常沈着が引き起こす眼疾患.PharmaMedica26:61-64,20084)KajiY,OshikaT,OkamotoFetal:ImmunohistochemicallocalizationofD-b-asparticacidinpinguecula.BrJOpthalmol93:974-976,20095)加治優一:瞼裂斑の病因について教えてください.あたらしい眼科23(臨時増刊号):19-22,2007図1瞼裂斑の細隙灯顕微鏡所見結膜に隆起性で茶褐色の病変が認められる.図2瞼裂斑のimpressioncytology軽微な瞼裂斑であったしても,impressioncytologyで角化の亢進や杯細胞の減少という重度のドライアイに(65)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617430910-1810/16/\100/頁/JCOPY図3瞼裂斑の組織所見結膜上皮直下の正常の実質(→)のさらに下に,無構造で血管に乏しい異常な蛋白質の凝集()を認める.図4瞼裂斑炎の細隙灯顕微鏡所見瞼裂斑はときに炎症を起こして充血することがある.1744あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(66)