眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋366.アクリル眼内レンズの歪み中村充利中村眼科眼内レンズ(IOL)挿入眼のIOLの位置異常は乱視をきたし,著しい場合,視力低下やコントラスト感度低下を起こし得る.最近,筆者らはアクリルIOL挿入眼にコマ収差,トレフォイル収差などからなる複雑な眼球内部高次収差が発生した症例に対し,Nd:YAGレーザーによる前.切開で治療できることがあることを報告1)した.●はじめに最近の白内障手術では,手術を受けた患者の大半は高い満足を感じ,技術進歩の恩恵を受けられるようになっている.しかし,ときに時間とともに手術を受けた眼の満足度が低下し,たとえ視力があまり変わらなくても,見えにくさ,ぼやけた感じなどの不満を訴えることがある.筆者らは,術後視力低下は認めず,眼球高次収差が増大して見え方の質の低下が認められ,連続円形切.(continuouscurvelinearcapsulorhexis:CCC)と前.に原因があると考えられる症例に対してNd:YAGレーザーによる前.切開術を施行し,その後に眼球高次収差と自覚症状の改善を認めた.●症例(79歳,男性)他院で20年前に球面アクリル眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を施行.手術記録には合併症の記載はなく,2015年にものが二重に見えるとのことで当院を受診した.視力はR.V.=0.3(1.0×.1.25D),L.V.=0.6(1.0×.0.75D)と良好,オートレフケラトメーターで強い乱視は認めず,Hessコージメーターも正常であ図1症例のNd:YAGレーザー切開前の前眼部写真12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで前.に覆われず,3-9時より下方の前.はIOLのオプティクスを覆っていた.(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYった.細隙灯顕微鏡でIOLの傾斜や偏位の明らかな位置異常はみられなかったが,散瞳後の細隙灯顕微鏡で左眼の12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで全体前.に覆われず,下方の前.はIOLのオプティクスを覆っている状態にあった(図1).波面収差測定器(KR-1W,TOPCON)マルチマップで眼球高次収差が大きく,rootmeansquare(RMS)(4mm)0.757と高い異常値を示した(図2).3時-9時方向の前.収縮によるIOLの歪みと6時部を中心とした後極方向の収縮によるIOLの傾きの影響と判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開を施行した(図3).術後すぐに眼球高次収差がRMS(4mm)0.210と著明に減少し(図4),自覚症状も改善しL.V.=0.9(1.0×.0.5D)であった.眼球高次収差のコンポーネント解析ではRMSの減少,コマ収差と眼球トレフォイルの改善,正常化を認めた(図2,4).Hartmann像の抜けた部分は,後.混濁による光の不透過と散乱の影響と考えられ,切開により透過するHartmann像はNd:YAGレーザー切開前後で大きな変化はなかった.CCC後,水晶体前.は物理的収縮を起こし,その後,図2症例の眼球高次収差のコンポーネント解析高次収差のコンポーネント解析ではRMS(4mm)0.757と高い異常値を示し,強いコマ収差と眼球トレフォイル,乱視を認めた.Hartmann像は下方に後.混濁部に一致して一部抜けた部分を認めた.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017675図3症例のNd:YAGレーザー切開後の前眼部写真IOLの上方のオプティクスは前.に覆われず,下方のオプティクスが前.に覆われている部分のみの前.収縮によってIOLに対し不均一な圧力が加わり,光学的歪みが生じたものと判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開術を施行した.前.下に線維組織が形成され,中心に向かっていく前.収縮が起こり,前.収縮は通常では術後数カ月後には停止すると考えられている2).ぶどう膜炎,糖尿病,原発性閉塞隅角緑内障,網膜色素変性症,偽落屑症候群などを伴う眼ではケミカルメディエーターの影響などで強い収縮が持続し,著しい場合は視力低下やコントラスト感度低下をきたすことも報告されている3).アクリルは高温に熱すると柔らかくなり,冷やすと固くなる熱可塑性プラスチックである.アクリル眼内レンズは室温では比較的剛性が高い状態にあるが,眼内では体温近くに温度が上昇し,室温時より剛性がかなり低下している.そこに,前.後.収縮によりIOLに強い圧力が加わると,アクリルIOL挿入例ではレンズの光学的歪み(高次収差の発生)が生じる可能性が考えられる.IOL眼に起こり得る眼球高次収差の増大1)はIOLのグリスニング4)などとともに,アクリルIOL眼の術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.図4症例のNd:YAGレーザー切開後の眼球高次収差のコンポーネント解析Nd:YAGレーザーによる前.切開術後に眼球高次収差はRMS(4mm)0.210と著明に減少し,コンポーネント解析ではコマ収差と眼球トレフォイル,乱視の減少を認めた.Hartmann像の抜けた部分はNd:YAG前と比較してわずかな変化しかなかった.●おわりに視力は視機能評価法の一つで,同じ値でも視力の質は高次収差が高いと低く,視力がよくても見えにくいことがあり得る.IOL挿入眼では,術後アクリルIOLの歪みが原因で眼球高次収差が発生し,Nd:YAGレーザーでの前.切開で改善できることがある.文献1)中村充利:白内障術後の水晶体.の収縮によりアクリル眼内レンズに眼球内部高次収差が発症した症例に対するNd-YAGによる前.切開.臨床眼科71:623-629,20172)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.JCataractRefractSurg19:77-82,19933)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.BrJOphthalmol82:1429-1432,19984)大鹿哲郎:アクリルソフト眼内レンズ術後2年の臨床評価.臨床眼科48:1463-1468,1994