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360° Suture Trabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):433.437,2017c360°SutureTrabeculotomy施行後にサイトメガロウイルス角膜内皮炎と診断した2例森川幹郎*1細田進悟*2里見真衣子*3八木橋めぐみ*3窪野裕久*3渡辺一弘*3鈴木浩太郎*3川村真理*3*1東京都済生会中央病院眼科*2独立行政法人国立病院機構埼玉病院眼科*3財団法人神奈川県警友会けいゆう病院眼科TwoCasesofCytomegalovirusCornealEndotheliitisDiagnosedafter360-degreeSutureTrabeculotomyMikioMorikawa1),ShingoHosoda2),MaikoSatomi3),MegumiYagihashi3),HirohisaKubono3),KazuhiroWatanabe3),KotaroSuzuki3)andMariKawamura3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationSaitamaNationalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital360°スーチャートラベクロトミー(360°suture-trabeculotomy:S-LOT)施行後にサイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎と診断した2例を報告する.2例とも虹彩炎・続発緑内障として治療され,角膜浮腫を伴う虹彩炎,角膜後面沈着物,角膜内皮細胞密度減少を認めていた.眼圧コントロール不良のため,S-LOTを施行した.術後眼圧は良好だったが,症例1は術後6カ月で炎症再燃,眼圧上昇し,トラベクレクトミー(trabeculectomy:LEC)施行に至った.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を施行した.症例2は軽度炎症再燃に伴いPCR検査を行い,CMV角膜内皮炎と診断した.抗CMV治療導入後は所見の改善を認め,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.CMV角膜内皮炎に伴う続発緑内障に対しS-LOTは有効であったが,良好な眼圧コントロールを維持するには抗CMV治療を早期に始める必要があることが示唆された.Wereport2casesofcytomegalovirus(CMV)cornealendotheliitisdiagnosedafter360-degreesuturetrabecu-lotomy(S-LOT).Bothpatientsweretreatedassecondaryglaucomaassociatedwithiritis.Iritiswithcornealede-ma,keraticprecipitatesanddecreasedcornealendothelialcelldensitywereobserved.Intraocularpressure(IOP)wasuncontrollable;S-LOTwasthereforeperformedinbothcases.Inonecase,in.ammationrecurredwithIOPelevation6monthsafterS-LOT,sotrabeculectomywasperformed;wesimultaneouslyobtainedtheaqueoushumorsampleforpolymerasechainreaction(PCR).Intheothercase,wetookthesamplebeforeIOPelevation.CMVDNAwasrevealedbyPCR;in.ammationandIOPhavebeencontrolledundergancicloviradministration,withoutprogressionofvisual.elddefect.ThesecasesindicatethatS-LOTise.ectiveforsecondaryglaucomaassociatedwithCMVcornealendotheliitis;inextendingIOPcontrol,thesooneranti-CMVtherapyisinitiated,thebettertheresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):433.437,2017〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,360°スーチャートラベクロトミー.cytomegalovirus,cornealendotheliitis,360-degreesuturetrabeculotomy.はじめに近年,免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にサイトメガロウイルス(cytomegarovirus:CMV)が関与している症例が複数報告されるようになった.CMV角膜内皮炎に伴う眼圧上昇により,続発緑内障に発展する症例も少なくない1).続発緑内障に対しては,360°スーチャートラベクロトミー(360°suturetrabeculotomy:S-LOT)が有効であることがすでに報告されているが2),CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対しての成績を検討した報告はない.今回,S-LOT施行後にCMV角膜内皮炎と診断した2例を経験したので報〔別刷請求先〕森川幹郎:〒108-0073東京都港区三田1-4-17東京都済生会中央病院眼科Reprintrequests:MikioMorikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospital,1-4-17Mita,Minato-ku,Tokyo108-0073,JAPAN告する.I症例[症例1]74歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:平成26年1月より左眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行うも眼圧は20mmHg台後半であった.平成26年2月に左眼SLT(selectivelasertrabecu-loplasty)を施行されたが,眼圧下降が得られず,視野も進行傾向のため,平成26年6月当院紹介受診となった.既往歴:不整脈に対し心臓ペースメーカー挿入術後.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.5(1.5×sph.1.25D:cyl.0.50DAx100°).VS=0.1(0.3×sph.2.50D:cyl.0.75DAx100°).眼圧:右眼14mmHg,左眼34mmHg.前眼部:角膜浮腫は認めず.左眼はcell,少数の角膜後面沈着物を認めた.中間透光体:左眼にNS2度の核硬化および後.下白内障を認めた.眼底:左眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,左眼は色素沈着が非常に強く,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)は認めなか図1症例1の左眼細隙灯顕微鏡検査図2症例1の初診時左眼Goldmann視野検査小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshaped湖崎分類IIIaの視野障害を認めた.lesion)がびまん性に出現した.H26.7.1.H26.12.4.H27.2.17.40302010前房水PCR0H27.2.17.H27.4.15.H27.7.23.LEC30前房水PCR2520レーザー切糸151050図3症例1の眼圧経過S-LOT術後5カ月で炎症再燃,スパイク状眼圧上昇を認め,LEC施行に至った.LECと同時に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.LEC術後・抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであった.眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)った.視野:Goldmann視野検査にて左眼に湖崎分類IIIaの視野障害を認めた(図2).経過:ステロイドレスポンダーの鑑別のため,ステロイド点眼を中止したところ炎症は増悪し,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(coinshapedlesion)がびまん性に出現した(図1).角膜浮腫も出現し,角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.角膜内皮細胞密度は右眼2,725/mm2,左眼は角膜浮腫のため測定不可であった.単純または帯状ヘルペス角膜内皮炎の可能性を考慮し,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが効果はなく,眼圧は20.30mmHgが持続した.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療を行うも,眼圧下降が得られないため,平成26年7月にS-LOT,白内障同時手術を施行した.長期にわたる角膜内皮炎のため,tra-beculectomy(LEC)では術後の浅前房などで角膜内皮障害が起こる可能性も考慮し,初回手術としてS-LOTを選択した.白内障が主因と思われる視力低下も認めており,同時に白内障手術も施行した.術後の眼圧経過を図3に示す.術後一過性眼圧上昇により眼圧は20mmHg台前半となり0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を術後3日より再開,その後眼圧は安定し,術後5カ月までの平均眼圧は15.6mmHgであった.術後5カ月で虹彩炎が再燃,眼圧は40mmHg台までスパイク状の上昇を認めた.そのため,平成27年2月にLECを施行した.同時に前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を行ったところ,CMV-DNA陽性,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)陰性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始し,バルガンシクロビル(バリキサR)450mg2錠2回/日を2週間内服した.その後,角膜は透明化し,角膜後面沈着物は減少,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度も1,400.1,700/mm2台で維持されていた.LEC術後6カ月間の平均眼圧は8.0mmHgであり,良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.[症例2]58歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:平成15年より右眼の虹彩炎および続発緑内障に対し近医で点眼治療を行っていたが,右眼眼圧は20mmHg台が持続し,炎症出現時には30mmHg台まで上昇を認めていた.平成26年3月頃より眼圧上昇傾向となり,角膜浮腫も認めていた.眼圧下降が得られず,平成26年7月当院紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.当院初診時所見:VD=0.03(0.04×sph.4.00D).VS=0.1p(1.2×sph.4.75D).眼圧:右眼33mmHg,左眼11mmHg.前眼部:右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた.明らかなcellを認めず,複数の円形の角膜後面沈着物を認めた(図4).中間透光体:右眼NS1度の核硬化を認めた.眼底:右眼耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損を認めた.隅角:Sha.er4度,右眼は角膜浮腫が強いため詳細な観察は困難であったが,色素沈着が強く,下方にPASを認めていた.角膜内皮細胞密度:右眼1,988/mm2,左眼3,049/mm2.視野:Goldmann視野検査にて明らかな緑内障性変化は認めなかった(図5).経過:上記所見より角膜内皮炎が主体の前部ぶどう膜炎と考えられた.症例1と同様にヘルペス角膜内皮炎を考え,バラシクロビル(バルトレックスR)内服を行ったが,変化はなかった.ステロイド点眼,眼圧下降点眼による治療に抵抗し,眼圧は20mmHg台後半.30mmHg台と下降しなかったため,平成26年8月に右眼のS-LOTを施行した.術後の眼圧経過を図6に示す.術後2カ月で眼圧25mmHgと上昇傾向を認め,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩(コソプトR)点眼,0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガンR)点眼を再開し,術後6カ月間の平均眼圧は13.5mmHgであった.軽度の虹彩炎の再燃に伴い,20mmHg程度の眼圧上昇と角膜内皮細胞密度の減少(742/mm2)を認めたため,術後6カ月に外来で前房水採取を行った.マルチプレックスPCRにてCMV-DNAのみ陽性であり,CMV角膜内皮炎と診断した.自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼および0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)点眼を1日8回で開始した.ガンシクロビル点眼を開始後,角膜浮腫は改善した.角膜後面沈着物は減少し,前房内炎症は改善した.角膜内皮細胞密度は維持されていた.ガンシクロビル点眼開始後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.抗ウイルス治療導入後は良好な眼圧経過と視野の維持を得ている.II考按角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じ,角膜浮図4症例2の初診時の右眼細隙灯顕微鏡検査右眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫を認めた,明らかなcellを認めず,円形の角膜後面沈着物をびまん性に認めた(矢印).H26.8.12.H26.10.9.40H27.1.8.図5症例2の初診時の左眼Goldmann視野検査明らかな緑内障性変化は認めなかった.H27.4.2.H27.8.20.眼圧(mmHg)35302520151050図6症例2の眼圧経過S-LOT術後軽度の炎症再燃は認めるものの,眼圧は維持できていた.その間に前房水PCRを施行し,抗CMV治療を導入した.抗CMV治療導入後6カ月間の平均眼圧は14.0mmHgであった.腫と浮腫領域に一致した角膜後面沈着物を特徴とする比較的新しい疾患概念である.眼圧上昇を繰り返しながら慢性の経過をたどり,続発緑内障や併発白内障,角膜内皮細胞密度減少を引き起こす難治性の疾患である.2006年にKoizumiらは免疫不全ではない症例での角膜内皮炎にCMVが関与している症例を報告し3),以後同様の報告が相次いでいる.CMV角膜内皮炎は,多くは片眼性で,小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変および角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫を特徴とするとされている.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105例の前房水PCR検査を施行したところ,24眼(22.8%)でサイトメガロウイルスDNAが陽性となったと報告している1).なかでも18眼(75%)はPosner-Schlossman症候群と診断されていた.したがって,Posner-Schlossman症候群などの診断を受けた前部ぶどう膜炎の中にCMV角膜内皮炎が多数潜在している可能性が考えられる.また,Takaseらは単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(vallicera-zostervirus:VZV),CMVによる前部ぶどう膜炎の臨床像を比較し,CMVによる群では前房内炎症は比較的軽度で角膜内皮細胞密度がより高度に減少,眼圧上昇も大きかったと報告している4).以上より,角膜後面沈着物や角膜内皮細胞密度の減少を伴う前部ぶどう膜炎では,CMV角膜内皮炎を鑑別するため,積極的に前房水PCRを施行するべきと考えられた.2012年に特発性角膜内皮炎研究班によりサイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準が作製された.CMV角膜内皮炎の診断には,前房水中の原因ウイルスDNAの同定が必要であり,特徴的な臨床所見と合わせて診断される.今回の2症例ではともに,角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,角膜内皮細胞密度の減少,再発性・慢性虹彩毛様体炎,眼圧上昇も認めていたが,前房水PCRを施行したことで,診断を確定できた.CMV角膜内皮炎の標準治療はいまだ十分に確立してはいない.しかしながら現在,点眼,内服,点滴,硝子体注射などのさまざまなガンシクロビル治療が試みられ,一定の有効性が報告されている1,4.11).ガンシクロビルはCMVに対する抗ウイルス薬であり,ウイルスDNAポリメラーゼを阻害してウイルスの複製を阻害する.また,Koizumiらは0.5%ガンシクロビル点眼の有効性を報告しており3),筆者らもその報告に準じて,0.5%ガンシクロビル点眼を自家調整し使用した.抗ウイルス治療により有意に眼圧・炎症コントロールを達成できると考えられるものの,中止・減量すると再発する例も多い.また,抗ウイルス治療を行っても,最終的に手術治療が必要となった症例の報告も複数ある.Suらは2%ガンシクロビル点眼で治療した68眼のうち,25眼(37%)で眼圧上昇の再燃を認め,8眼はLECに至ったと報告している9).八幡らはぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対し,S-LOTを施行した15例18眼を検討し,術後成績は比較的良好であり,初回手術として有用であると報告している12).CMV角膜内皮炎による続発緑内障のみのS-LOTの成績について検討した報告はないが,初回手術の良い適応となる可能性がある.今回,症例1ではS-LOT施行後に炎症再燃に伴うスパイク状の眼圧上昇を認め,LECを施行するに至った.一方,症例2でも軽度の炎症が再燃したが,前房水PCRにより確定診断を得て,早期に抗ウイルス治療を開始したため,良好な眼圧コントロールを維持していると考えられる.CMV角膜内皮炎による続発緑内障に対し,S-LOTは一定の有効性を示したが,所見からCMV角膜内皮炎を疑った場合はできるだけ早期に前房水PCRを行い,抗ウイルス治療を開始することが望ましいと考えられる.文献1)CheeSP,JapA:Cytomegalovirusanterioruveitis:out-comeoftreatment.BrJOphthalmol94:1648-1652,20102)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,20064)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmol58:473-482,20145)vanBoxtelLA,vanderLelijA,vanderMeerJetal:Cytomegalovirusasacauseofanterioruveitisinimmuno-competentpatients.Ophthalmology114:1358-1362,20076)唐下千寿,矢倉慶子,郭懽慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,20107)WongVW,ChanCK,LeungDYetal:Long-termresultsoforalvalganciclovirfortreatmentofanteriorsegmentin.ammationsecondarytocytomegalovirusinfection.ClinOphthalmol6:595-600,20128)山下和哉,松本幸裕,市橋慶之ほか:虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の2症例.あたらしい眼科29:1153-1158,20129)SuCC,HuFR,WangTHetal:Clinicaloutcomesincyto-megalovirus-positivePosner-Schlossmansyndromepatientstreatedwithtopicalganciclovirtherapy.AmJOphthalmol158:1024-1031,201410)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:1817-1824,201411)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Clinicalfeaturesandmanagementofcytomegaloviruscornealendotheli-itis:analysisof106casesfromtheJapancornealendo-theliitisstudy.BrJOphthalmol99:54-58,201512)八幡健児,大黒伸行,奥野賢亮ほか:ぶどう膜炎続発緑内障に対する360°suturetrabeculotomyの術後成績.第25回日本緑内障学会抄録集,p112,2014***

Double-glide Techniqueを用いたDescemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplastyの術後成績の検討

2017年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(3):429.432,2017cDouble-glideTechniqueを用いたDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyの術後成績の検討浅岡丈治*1出田隆一*1天野史郎*2*1出田眼科病院*2井上眼科病院SurgicalOutcomeofDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastybyDouble-glideTechniqueUsingBusinGlideTakeharuAsaoka1),RyuichiIdeta1)andShiroAmano2)1)IdetaEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:Double-glidetechniqueを用いたDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)の術後成績を検討した.対象および方法:対象は水疱性角膜症に対してdouble-glidetechniqueを用いてDSAEKを行った33例35眼.原疾患,視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について検討した.結果:平均患者年齢75±9歳.観察期間は2.0±0.8年(6カ月.3年).術前の平均小数視力は0.095で,術後3年の平均少数視力は0.85であった.術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2.術後3年では1,266±548cells/mm2であり,内皮細胞減少率は55%であった.術後合併症は眼圧上昇が2眼(5%),.胞様黄斑浮腫が4眼(10%)であった.結論:Double-glidetechniqueを用いたDSAEKは合併症も少なく良好な術後成績であった.Purpose:ToinvestigatesurgicaloutcomesofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)bydouble-glidetechniqueusingBusinglide.Methods:Weretrospectivelyanalyzed35eyesof33patientswithbullouskeratopathy(BK)whohadundergoneDSAEKbydouble-glidetechnique.Primarydisease,visualacuity,endothelialcelldensity(ECD)andpostoperativecomplicationswereinvestigated.Results:Meanageofpatientswas75±9years.Weanalyzedfor2.0±0.8years.At3yearsaftersurgery,meanvisualacuitywas0.85,ECDwas1,266±548cells/mm2andECDlosswas55%.Complicationswereelevatedintraocularpressure(5%)andcystoidmacularedema(10%).Conclusions:DSAEKbydouble-glidetechniquewase.ectiveforBKandcausedfewercomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):429.432,2017〕Keywords:角膜内皮移植術,水疱性角膜症,角膜内皮細胞密度,ブジングライド.Descemet’sstrippingautomat-edendothelialkeratoplasty,bullouskeratopathy,endothelialcelldensity,Businglide.はじめに水疱性角膜症に対する外科治療として角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplas-ty:DSAEK)が,これまで主流であった全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)にとって変わりつつある.PKPに比較してDSAEKは,術中にオープンスカイにならないため駆逐性出血のリスクが低い,術後の正乱視・不正乱視が少ない,視力改善が早い,眼球強度が保たれ外傷に強い,拒絶反応が少ない,縫合糸関連の感染などの合併症が少ない,などのさまざまなメリットがある1,2).DSAEKは角膜内皮を移植することを目的とした手術であるため,術中に移植片の角膜内皮保護を行うことが重要である.DSAEK術中に移植片角膜内皮にもっとも傷害を与える可能性の高いステップが,移植片の前房への挿入操作である.そのため,移植片の前房内挿入にかかわる検討が多くされており,たとえば,切開創が3mmよりは5mmであるほうが,Taco-folding,Businglide,糸引き込み法のいずれでも移植片の挫滅が少なく,内皮傷害も少なくなることが報告〔別刷請求先〕浅岡丈治:〒860-0027熊本市中央区西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:TakeharuAsaoka,M.D.,IdetaEyeHospital,39Tojin-machi,Chuo-ku,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(123)429されている3).また,移植片挿入時に角膜内皮保護を図るために使用する器具として,Businglide4),NeusidlCornealInserter5),EndoGlide6)など,多くのものが報告されている.Double-glidetechniqueは,DSAEK移植片挿入時にBusinglideとIOLglideを用いる方法で,小林らが初めて報告した7).Double-glidetechniqueは,前房が浅く移植片挿入時に虹彩脱出を起こしやすいアジア人の眼にDSAEKを行う際,虹彩脱出を抑えつつ角膜内皮保護が行える優れた術式と考えられる.今回,筆者らは,double-glidetechniqueを用いてDSAEKを行い,6カ月以上経過観察可能であった症例の術後3年までの成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2008年9月.2014年12月に当院で海外ドナーを用いてDSAEKを行った33例35眼(男性12例12眼,女性21例23眼).経過観察期間が半年未満の症例は除外した.観察期間6カ月3眼,1年9眼,2年9眼,3年14眼,平均±標準偏差は2.0±0.8年(範囲:6カ月.3年)であった.手術方法は,耳側角膜に5mmの角膜創を作製し,インフュージョンカニューラ(モリア・ジャパン)を置き,空気瞳孔ブロック予防目的に下方に25G硝子体カッターで虹彩切除行った.移植片はバロン氏真空ドナーパンチ(Katena社)で作製した後,IOLglide(Alcon社IOLglideまたははんだやPTFEチップ)を前房内に挿入したのち,Businglideと引き込み鑷子を用いるdouble-glidetechniqueで前房内に挿入した.移植片の位置を調整したうえで前房内に空気を注入し移植片の接着を確認して終了した.移植片の直径は7.0.8.5mmであった.術式の内訳は,DSAEK5例5眼,Descemet膜を.離しないnDSAEK(non-Descemet’sstrippingautomatedendo-thelialkeratoplasty)28例30眼,nDSAEKと白内障同時手術が1例1眼,nDSAEKと翼状片同時手術が1例1眼であった.術後はメチルプレドニゾロン125mgを1回点滴し,プレドニゾロンを30mg4日間,20mg4日間,10mg7日間,5mg7日間と漸減しながら投与した.術後点眼は単独手術のDSAEKとnDSAEKではレボフロキサシンとベタメタゾンリン酸エステルナトリウムを1日5回,エリスロマイシン軟膏1回,白内障同時手術の場合は,これにジクロフェナクを1日4回投与した.原疾患,角膜透明治癒率(%),術後3年までの矯正logMAR視力(logarithmicminimumangleofresolution),等価球面度数数,乱視度数数,角膜内皮細胞密度(endotheli-alcelldensity:ECD),術後合併症について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.合併症の黄斑浮腫の診断は,光干渉断層計(OCT)を用い,術後視力の改善が不良な症例に対して行った.数値は平均値±標準偏差で記載した.統計学的解析は,術前値と術後の各時点での値との比較にMann-Whitney’sU-testを用いた.術前と術後四つの時点での比較であったので,p<0.0125を統計学的に有意とした.II結果1.患.者.背.景患者の手術時平均年齢は75±9歳(範囲:54.90歳)であった.原疾患は,レーザー虹彩切開術後が12例12眼(34%),Fuchs角膜内皮ジストロフィが4例6眼(17%),線維柱帯切除後が6例6眼(17%),白内障術後が6例6眼(17%),落屑症候群が4例4眼(11%),緑内障発作後が1例1眼(2.9%)であった.またPKP後の角膜内皮不全に対してDSAEKを行った1例で,術後2週間目に移植片と患者角膜の間にカンジダ感染を生じてグラフト抜去を行った.透析中の易感染症例であった.今回この眼の術後データのうち合併症については検討対象としたが,視機能や内皮細胞密度については対象から除外した.2.海外ドナーグラフトデータ移植グラフトは米国アイバンク(SightLife,Seattle,WA,USA)からのプレカットドナー角膜を用いた.プレカット後のECD2,800±258cells/mm2,ドナー平均年齢は61±8歳,ドナー死亡から強角膜片作製時間9.5±6時間,ドナー死亡から手術日数6.2±0.9日であった.3.角膜透明治癒率術後,移植片を抜去した1眼を除いたすべての症例で透明治癒が得られた.移植後3年を過ぎて1例が内皮機能不全となったが,高齢のため再移植は行わず経過観察となっている.4.視力術前の平均logMAR視力は1.02±0.5(平均小数視力:0.095)であった.術後6カ月の平均logMAR値は0.16±0.16(平均小数視力:0.69),術後12カ月は0.16±0.28(平均小数視力:0.69),術後24カ月は0.14±032(平均小数視力:0.72),術後36カ月は0.07±0.14(平均小数視力:0.85)であった(図1).術前と比較し,術後6カ月以降,有意な改善を認めた(p<0.0125).術後36カ月において,矯正視力0.5以上を占める割合は83%,同様に0.8以上は67%,1.0以上は42%であった.5.角膜内皮細胞密度術前のドナー角膜内皮細胞密度は2,800±257cells/mm2であった.術後6,12,24,36カ月での平均内皮細胞密度はそれぞれ,1,632±681cells/mm2,1,661±682cells/mm2,1,304±739cells/mm2,1,266±548cells/mm2であった(図2).内皮細胞減少率は,6,12,24,36カ月でそれぞれ,42430あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(124)-0.501224363,5003,0000内皮密度0.5角膜内皮密度乱視度数logMAR1logMAR1,5001,0001.55002術後(月)00122436図1矯正視力の変化術後(月)術後6カ月で有意な改善を認めている.図2角膜内皮細胞密度の変化術後6,12,24,36カ月での内皮細胞減少率は,26,12,24,36カ月でそれぞれ,42%,41%,53%,55%であった.101224360-11.501224361-2-3-4乱視度数-5術後(月)図3術前後の乱視度数の変化術前後で有意差はなかった.%,41%,53%,55%であった.6.自覚的乱視度数自覚的乱視度数は,術前で1.25±2.8diopters(D),術後6カ月で2.1±1.33D,術後12カ月で1.99±1.3D,術後24カ月で1.74±0.78D,術後36カ月で1.6±0.55Dであった(図3).術前と比較して,術後に有意差はなかった.7.等価球面度数等価球面度数は,術前で.0.40±1.30D,術後6カ月で.0.75±1.53D,術後12カ月で.0.82±1.37D,術後24カ月で.0.68±1.51D,術後36カ月で.0.63±1.28Dであった(図4).術前後で,有意差なく遠視化も認めなかった.8.術後合併症21mmHg以上の眼圧上昇を2眼(5%)で認めた.発生時期は,術後3.12カ月であった.術後12カ月で眼圧上昇を認めた症例は,落屑緑内障の合併例のため,現疾患による眼圧上昇の可能性も考えられた.いずれも緑内障点眼を追加することで眼圧コントロールが得られ,緑内障手術に至った症例はなかった..胞様黄斑浮腫を4眼(10%)で認めた.発生時期は術後3.12カ月であった..胞様黄斑浮腫は,全例非ステロイド性抗炎症薬点眼もしくは,トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射にて2カ月以内に消失した.また前述のようにカンジダ感染が1例あった.移植片からの持ち込みの可能性も否定できないが,移植片の残りの培養を行っていないため詳細は不明である.駆逐性出血,眼内炎,拒絶反応は認めなかった.等価球面度数0.50-0.5-1-1.5-2-2.5図4等価球面度数の変化術前後で有意差はなく遠視化も認めなかった.III考按今回すべての症例で矯正視力の改善を認めた.今回,術後12カ月目の平均logMAR矯正視力は0.16±0.28(平均小数視力0.69)であった.これまでの報告では平均logMAR矯正視力は0.34.0.17(小数視力0.46.0.68)であり8.12),今回の結果は既報とほぼ同等の結果であった.DSAEK術後は時間がたつほど視力の向上がみられることが近年報告されており10),今回も術後経過とともに平均視力の改善がみられた.今後さらに長期視力の成績も注目する必要がある.既報では,12カ月での報告が多く,36カ月の経過観察は有益な情報であると考えられる.DSAEK術後の内皮減少率については,挿入法によりさまざまな報告がある.Double-glide法では,アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症へのDSAEKでdouble-glide法を用いた場合に,術後3カ月で37.9%の内皮減少率が報告されている7).今回の術後1年での内皮減少率41%はこの報告とほぼ同等の結果であったと考えられる.また他の挿入法では,術後1年での減少率として,Tacofolding法で27.52%9,11,13,14),EndoGlide法で16.32%6,15),Businglide法で24.39%4,12,16)と報告されている.今回の結果がこれらの報告と比較して高めの内皮減少率となった原因としては,前術後(月)(125)あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017431房が浅く硝子体圧が高いためにDSAEKの施行がむずかしいアジア人の眼が対象であったことと,原因疾患として,DSAEK施行のむずかしいレーザー虹彩切開術後,線維柱帯切除後,緑内障発作後のものが全体の半数以上を占めており,また比較的DSAEKの行いやすい白内障術後やFuchs角膜内皮ジストロフィの割合が少なかったことが考えられる.既報10)ではDSAEKの術前術後の自覚的乱視の変化については有意差がないと報告されているが,今回も同様に有意差を認めなかった.また既報では術後軽度遠視化する報告があるが,今回はみられなかった.合併症としては,既報では眼圧上昇は5.8.16%とあるが17,18),今回5%と同等であった.また,.胞様黄斑浮腫は10%に認め,0.97%とする既報17)と比較して多かった.原因の一つとして,緑内障術後や発作後の眼の割合が高く,術後炎症が強めであったことが考えられる.また,以前はOCTの普及率が低かった可能性や,そもそも以前の文献ではOCTを行っていない可能性も考えられる.実際既報では.胞様黄斑浮腫に対して検討されていないものがほとんどであった.当院では,角膜上皮への悪影響を考え,DSAEK術後に非ステロイド性抗炎症薬の点眼はしてこなかったが,今後,黄斑浮腫発症予防のために,DSAEK単独手術症例でも投与すべきと考えている.今回,double-glidetechniqueを用いたDSAEKの術後3年成績を報告した.術後早期より視力の向上が得られること,術後乱視が軽度であること,合併症が少ないことからも有用な手術方法と考えられた.黄斑浮腫は既報では低く見積もられている可能性があるため,DSAEK術後の視力不良例では.胞様黄斑浮腫に注意し,OCTなどを用い積極的に精査する必要があると考えられた.文献1)LeeWB,JacobsDS,MuschDCetal:Descemet’sstrip-pingendothelialkeratoplasty:safetyandoutcomes:areportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Oph-thalmology116:1818-1830,20092)AnshuA,PriceMO,TanDTetal:Endothelialkerato-plasty:arevolutioninevolution.SurvOphthalmol57:236-252,20123)TerryMA,SaadHA,ShamieNetal:Endothelialkerato-plasty:thein.uenceofinsertiontechniquesandincisionsizeondonorendothelialsurvival.Cornea28:24-31,20094)BusinM,BhattPR,ScorciaV.Amodi.edtechniquefordescemetmembranestrippingautomatedendothelialker-atoplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthal-mol126:1133-1137,2008432あたらしい眼科Vol.34,No.3,20175)TerryMA,StraikoMD,GosheJMetal:Endothelialkera-toplasty:prospective,randomized,maskedclinicaltrialcomparinganinjectorwithforcepsfortissueinsertion.AmJOphthalmol156:61-68,20136)KhorWB,MehtaJS,TanDT:Descemetstrippingauto-matedendothelialkeratoplastywithagraftinsertiondevice:surgicaltechniqueandearlyclinicalresults.AmJOphthalmol151:223-232,20117)KobayashiA,YokogawaH,SugiyamaK:Descemetstrip-pingwithautomatedendothelialkeratoplastyforbullouskeratopathiessecondarytoargonlaseriridotomy─pre-liminaryresultsandusefulnessofdouble-glidedonorinsertiontechnique.Cornea27(Suppl1):S62-69,20088)WendelLJ,GoinsKM,SutphinJEetal:Comparisonofbifoldforcepsandcartridgeinjectorsuturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea30:273-276,20119)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmolo-gy116:248-256,200910)LiJY,TerryMA,GosheJetal:Three-yearvisualacuityoutcomesafterDescemet’sstrippingautomatedendotheli-alkeratoplasty.Ophthalmology119:1126-1129,201211)HsuHY,EdelsteinSL:Two-yearoutcomesofaninitialseriesofDSAEKcasesinnormalandabnormaleyesataninner-cityuniversitypractice.Cornea32:1069-1074,201312)NakagawaH,InatomiT,HiedaO,etal:Clinicaloutcomesindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastywithinternationallyshippedprecutdonorcorneas.AmJOphthalmol157:50-55,201413)ChenES,PhillipsPM,TerryMAetal:Endothelialcelldamageindescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplastywiththeunderfoldtechnique:6-and12-monthresults.Cornea29:1022-1024,201014)PriceMO,GorovoyM,PriceFWJretal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:three-yeargraftandendothelialcellsurvivalcomparedwithpene-tratingkeratoplasty.Ophthalmology120:246-251,201315)ElbazU,YeungSN,LichtingerAetal:EndoGlideversusEndoSerterfortheinsertionofdonorgraftindescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOph-thalmol158:257-262,201416)HongY,PengRM,WangMetal:Suturepull-throughinsertiontechniquesforDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyinChinesephakiceyes:out-comesandcomplications.PLoSOne8:e61929,201317)HirayamaM,YamaguchiT,SatakeYetal:Surgicalout-comeofDescemet’sstrippingautomatedendothelialkera-toplastyforbullouskeratopathysecondarytoargonlaseriridotomy.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1043-1050,201218)PriceMO,GorovoyM,BenetzBAetal:Descemet’sstrip-pingautomatedendothelialkeratoplastyoutcomescom-paredwithpenetratingkeratoplastyfromtheCorneaDonorStudy.Ophthalmology117:438-444,2010(126)

富山県における糖尿病診療情報提供書の現況 ―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):425.428,2017c富山県における糖尿病診療情報提供書の現況―富山県眼科医会の全アンケート調査結果から―山田成明*1狩野俊哉*2片山寿夫*3*1富山県立中央病院眼科*2狩野眼科医院*3片山眼科医院CurrentStateofDiabetesClinicalInformationProvidedinToyamaPrefecture─FromToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation─NariakiYamada1),ToshiyaKarino2)andToshioKatayama3)1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2)3)KatayamaOphthalmologyClinicKarinoOphthalmologyClinic,富山県眼科医会では,糖尿病による失明を防ごうという目的で糖尿病網膜症委員会を設けて,活動を行った.糖尿病診療情報提供書は,その活動のなかで作成され,平成9年から使用を開始した.眼科と内科の連携を密にし,糖尿病網膜症の早期発見,早期治療をめざしたものであった.今回,診療情報提供書の内容の改訂が行われたことにより,改めて富山県眼科医会の会員にアンケート調査を行い,平成27年4月から3カ月間の糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳などの利用について,また,これらと連携に関する意見を聞いた.36名からの回答によれば,30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.どちらかを主に使用している,両者を併用している,使い分けているなどの意見があった.糖尿病網膜症に関する眼科と内科との連携は,眼手帳や診療情報提供書などを使用することにより,さらに意思疎通を得る必要があると思われた.TheToyamaPrefectureOphthalmologistAssociation’sDiabeticRetinopathyCommitteewasestablishedwiththeaimofhelpingtopreventblindnesscausedbydiabetes.Closecooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicinefurtheredtheearlydetectionofdiabeticretinopathywiththeaimofrealizingearlytreatment.FollowingrecentrevisioninToyamaPrefectureofthediabetesclinicalinformationdocument,aquestionnairesurveywassubmittedtothemembersoftheOphthalmologistAssociationregardinguseofthedocumentandthediabetesnotebookfor3monthsfromApril2015.Opinionswerealsoheardregardingthesemattersandtheextentofcol-laboration.Accordingtoresponsesfrom36persons,30(83%)usedthediabetesclinicalinformationdocumentand31(86%)usedthediabeteseyenotebook.Allusedatleastone,someusedboth,andothersusedoneortheotherselectively.Cooperationbetweenophthalmologyandinternalmedicineregardingdiabeticretinopathybyusing,forexample,thenotebookandclinicalinformationdocument,isthoughtnecessarytogreatercommunication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):425.428,2017〕Keywords:糖尿病診療情報提供書,糖尿病網膜症,内科眼科連携,糖尿病眼手帳.diabetesclinicalinformationprovides,diabeticretinopathy,cooperationbetweenphysicianandophthalmologist,diabeticeyenotebook.はじめに近年,糖尿病網膜症は成人の失明原因の第2位となっているが,まだ成人の失明原因の主因になっている1).また,日本の糖尿病人口は950万人と推定され2),まだ膨大な潜在患者が埋もれているものと思われる.増殖糖尿病網膜症に硝子体手術が導入され,増殖膜を.離し,術後に良好な視力を得ることも可能となったが,日常生活に十分な機能を残せない場合もいまだ多く存在する.富山県眼科医会では,糖尿病網膜症による失明をなくそう,重症な糖尿病網膜症を減らそうという熱意から有志が集まり,糖尿病網膜症委員会を作り,平成8年9月から活動を始めた.平成9年には糖尿病診療情報提供書を作成し,使用〔別刷請求先〕山田成明:〒930-8550富山県富山市西長江2-2-78富山県立中央病院眼科Reprintrequests:NariakiYamada,DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2-2-78Nishinagae,Toyama-shi,Toyama930-8550,JAPANを開始した.糖尿病網膜症に関するポスターや患者啓発用のパンフレットの作成,医師会の会報への投稿など種々の活動を行った.糖尿病診療情報提供書は文字通り,糖尿病を診療している内科と連携を密にすることを目的としたものであり,富山県内で使用は拡大した.糖尿病眼学会でも発表し,その後多くの地域や施設で使用の動きがあり3),独自の様式も種々散見されるようになった.I方法1.糖尿病診療情報提供書重症の糖尿病網膜症患者をできるだけ減らすには,内科と眼科の連携をより密接にし,定期的,計画的な眼底検査を行うこと,および患者への啓発が重要と考え,まず内科と眼科の連携システムを作るために,糖尿病患者専用の紹介状(富山県糖尿病診療情報提供書)を作成した.内科医と十分に協議して意思の共有を図った.糖尿病診療情報提供書の最上段は共通部分で,診療情報提供書と書いてあり,その下に紹介先,患者氏名,性別,生年月日,年齢を書く部分がある.上半分が内科,下半分を眼科側の記載部分とし,できるだけ多くの内科医,眼科医に利用してもらえるよう記載項目はなるべく削ぎ落とし,選択肢を多くして簡単に記載できるようにした(図1).表紙に記載方法,Davis分類について説明したものを印刷した(図2).返事が返ってくるまでの内科眼科双方の控え,また万が一返事が来なかった場合のために3枚複写とした.統計処理のカウントをしやすくする意味もあった.今回,診療情報提供書の要件を満たすため,改定を行った(図3).2.アンケート調査今回,糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の利用に関して,平成27年4月.6月までの3カ月間の使用数(紹介と返信いずれでも)をアンケートで調査した.アンケートは富山県内の眼科医にメールおよびファックスで依頼した.あわせて,糖尿病診療情報提供書,眼手帳,糖尿病の連携についての意見も調査した.II結果36名から回答を得られた.3カ月間の診療情報提供書の使用数1.5通18名,6.10通7名,11通以上5名,0通6名,眼手帳は1.5冊14名,6.10冊9名,11冊以上7名,0冊5名であった.30名83%が糖尿病診療報提供書を使用し,31名86%が糖尿病眼手帳を使用していた.若干糖尿病眼手帳は医師に偏りはあるものの使用されていた.糖尿病診療情報提供書を使用する医師は,糖尿病眼手帳も使用する傾図1糖尿病診療情報提供書図2糖尿病診療情報提供書表紙図3改訂した糖尿病診療情報提供書表1糖尿病診療情報提供書と糖尿病眼手帳の使用について糖尿病診療情報提供書(通)糖尿病眼手帳(冊)なし1.56.1011.小計なし220151.521020146.102241911.04037不明11小計6187536向があった(表1).一方,糖尿病診療情報提供書も長年にわたり使用されており,使い分けを行っている医療機関もあった.初めて患者を紹介するときや変化があったときなどは糖尿病診療情報提供書,通常使用するときは糖尿病眼手帳を使用するというものなど,多様な意見があった(表2).III考按従来から,糖尿病網膜症の進行を予防するには,糖尿病の早期発見,初期からの厳重なコントロール,さらには糖尿病表2会員からの意見・手帳は,わざわざ内科に問い合わせなくても現状が把握できるので便利だ.・糖尿病教室や糖尿病連携手帳を渡すときに内科で一緒に糖尿病眼手帳も渡してもらうのがよいと思います.・糖尿病眼手帳,点数なしだとなんかやる気出ません.・糖尿病手帳のほうは明らかに眼科のスペースが狭く問題.提供書は今までは内科から依頼があれば書くようにしています.・糖尿病眼手帳と糖尿病手帳の2通りあり,内科から糖尿病手帳を持参されることが多いです.眼の所見だけでなく,血糖の経過と眼の所見がかいてあるほうが持ちやすいようです.・手帳を持っていただき,内科所見と眼科所見をかいてもらうことが効果的・私は糖尿病の他科との連携はとても大事だと思い,連携手帳は患者さんに渡して内科で記載してもらうようにしています.診療も必ず内科の検査データ,薬手帳,糖尿病手帳を提出してもらっています.眼科側は結構がんばっているのに内科医との温度差を感じます.糖尿病と診断後一度も眼底検査を受けさせていなかったり,連携手帳に記載しなかったりです.眼科側は粘り強く継続していくことが大切です.・眼科の手帳は今まで利用した方にまだ使っていますが内科の手帳に眼科所見記入欄ができたのでそちらの方に記入することが増えてきました.もちろん眼科の手帳も使ってます.・手帳については,「おくすり手帳」「糖尿病手帳」など複数の手帳を提示されます.中には4通も受付に出される方もおられます.・内科医からの紹介依頼はパソコンで印字した紹介状で依頼される.・情報提供書を記載しても,当院への返事は約2割程度・持たせた患者さんから(Drから)クレーム「提供書は,お金を払わされているだけ・・」が多い.・手帳に眼底写真などをすべての人に貼っているが,内科医から返事はほとんどない.・糖尿病手帳だと携帯していない方もおられますし,初診の方や急激に変化した方は情報提供書をお渡しした方がきちんと受診されるような気がします.・当院には糖尿病センターがあるので糖尿病患者さまが多いですが,眼科につきましては院内の併科よりも,開業医の眼科の先生と連携されて,院内紹介の負担が少なくなるようにご配慮してもらっている.・糖尿病診療情報提供書は,広く活用していただきたいと思います.しかしながら開業医内科よりの紹介が少なく,活用はわずかとなっています.・開業医眼科に初診で来院する糖尿病患者は少ないです.・糖尿病専門医からは,月20件ほどコンスタントに紹介があります.最近では,各医院の電カルの書式での紹介が多いような印象です.・糖尿病診療情報提供書については有意義なことと,大いに評価します.・マイナンバー制度が安全によい意味で活用されるとよいのではないか.・電子カルテの普及によって,複写用紙への手書きというのが,時代に(?)あわなくなっているように思います.網膜症の早期発見,早期からの管理が必要とされてきた.これは個々の患者に対することだけではなく,マクロ的にも同様なことがいえると思われる.ただし,マクロでは,どういう手段が有効であるかが重要であり,その一つが糖尿病眼手帳を用いた連携強化であり,今一つは糖尿病診療情報提供書を用いた内科と眼科の連携強化である.いずれの方法も活用されれば,早期発見,適切な管理,適切な経過観察に有効である.しかしながら,医療機関を受診していない患者の早期発見には別の手段を講じる必要がある.糖尿病眼手帳の有効性はいうに及ばないぐらいであるが4.7),改めて検討すれば,項目があらかじめ決められていることで記載が簡便であり,患者側にはコストがかからない点,また患者自身がそれを見て情報を得ることで自身の病気を理解し,治療のモチベーションを上げる効果が期待できる.糖尿病網膜症のどの段階に自分がいるのかを知っていることも重要である.内科と眼科の両方に提示し,かつ患者自身が医療情報を携帯していることに意義があるように思われる.糖尿病連携手帳と一本化することでますます有効になると思われるところである.一方,糖尿病診療情報提供書は,内科と眼科を往復する紹介状で,保険請求上の診療情報提供書であり,診療報酬点数が設定されている.情報は有料であるという概念からすれば妥当なことであるが,患者側には負担がかかる.眼手帳が無料であることとは対照的である.種々の医療機関に多種多様の考えがあると思われるが,医療情報を有償で提供する意義は十分あると思われる.診療情報提供書は眼科と内科の連携を目的に利用されることが多かったが,最近ではその用途も多様になっており,歯科と内科の連携,かかりつけ医と糖尿病専門医のいる病院との連携にも使用されてもいる.また,地域連携パスの情報手段としても使用されている.今後,情報の電子化が図られていくものと思われ,網膜症分類などの情報を統一化しておく必要があると思われる.糖尿病は,一科のみでは診療できない代表的な疾患である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究」.平成24年度統括・分担研究報告書2)厚生労働省:2012年国民栄養・栄養調査結果3)大野敦:糖尿病網膜症の医療連携放置中断をなくすために.糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,20024)糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳─眼手帳作成の背景,経緯,内容,使用法について─.日本の眼科74:345-348,20035)船津英陽,堀貞夫:糖尿病眼手帳(日本糖尿病眼学会).DiabetesJournal31:60-63,20036)船津英陽,福田敏昌,宮川高一ほか;糖尿病眼手帳作成小委員会:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20057)船津英陽,堀貞夫,福田敏昌ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,2010***

糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例

2017年3月31日 金曜日

《第21回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(3):419.424,2017c糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体内注射後,腎症が悪化した1例善本三和子*1高野秀樹*2東原崇明*2松元俊*1*1東京逓信病院眼科*2東京逓信病院腎臓内科ACaseofDiabeticMacularEdemawithProgressiveRenalDysfunctionafterIntravitrealInjectionofRanibizumabMiwakoYoshimoto1),HidekiTakano2),TakaakiHigashihara2)andShunMatsumoto1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2)DepartmentofNephrology,TokyoTeishinHospital糖尿病性腎症(以下,腎症)を合併した糖尿病黄斑浮腫(以下,DME)患者に対するラニビズマブ硝子体内注射(以下,IVR)治療経過中,腎機能障害が急速に進行した症例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.下腿蜂窩織炎にて当院初診時,糖尿病が発見された(HbA1C12.2%,腎症+).眼科初診時,両眼視力(1.2),増殖前網膜症を認め,内科治療開始後より右眼DMEが発症,悪化し,右眼IVRを連続3回施行したが,反応不良であった.IVR前とIVR3回後で,血清クレアチニン値2.04→3.39mg/dl,尿中TP/CRE8.14→10.92g/gCr,尿糖(.)→(+2)と3カ月間の腎機能障害の進行は急速かつ顕著であり,その後の積極的な内科治療にも抵抗して腎症はさらに悪化し続け,IVR開始11カ月後,透析導入となった.DMEに対する抗VEGF療法では,全身因子としての腎機能の変化に注意し,盲目的な連続投与は避ける必要がある.Acaseofdiabeticmacularedema(DME)withprogressiverenaldysfunctionafterrepeatedintravitrealinjec-tionofranibizumabisreported.A56-y.o.malewasadmittedtoourhospitalwithacutecellulitisofthelowerextremitiesanddiagnosedwithdiabetesmellitus(HbA1C12.2%,diabeticnephropathy+).Atinitialophthalmicexamination,correctedvisualacuityofbotheyeswas1.2,anddiabeticretinopathywaspreproliferativestage.Afterdiabetesmedicationwasinitiated,DMEofrighteyeoccurredandprogressed,andintravitrealinjectionofranibizumab(IVR)wasrepeatedthreetimes,butresponseforIVRwaspoor.Dataforserumandurineanalysis(pre-→post-IVR),serumcreatinine(2.04→3.39mg/dl),urineTP/CRE(8.14→10.92g/gCr)andurinesugar(.→+2)showedrapidrenaldysfunctionafterrepeatedIVR.Elevenmonthsafterthe.rstIVR,despiteintensivemedicaltreatmentagainstprogressiverenaldysfunction,dialysiswasinitiated.Itisnecessarytogivecareandattentiontorenalfunctioninanti-VEGFtherapyforDME,andtoavoidrepeatinginjectionsroutinely.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(3):419.424,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,ラニビズマブ硝子体内注射,抗VEGF抗体,糖尿病性腎症,腎生検.diabeticmacu-laredema,intravitrealranibizumabinjection,anti-VEGFantibody,diabeticnephropathy,renalbiopsy.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体硝子体内注射は,現在,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)治療の主流になりつつある.しかし,同効薬である抗癌剤ベバシズマブの全身的副作用には高血圧や蛋白尿などが多く報告1)されており,全身合併症を有する頻度の高い糖尿病患者では,他の疾患に比べてその全身的影響が懸念されている.今回,筆者らは,初診時より腎症を有するDME患者に対し,抗VEGF抗体であるラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealinjectionofranibizum-ab:IVR)を連続3回施行したところ,反応は不良で,かつ3回連続投与後に,急速な腎機能障害の悪化・進行が判明し〔別刷請求先〕善本三和子:〒102-8798東京都千代田区富士見2-14-23東京逓信病院眼科Reprintrequests:MiwakoYoshimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoTeishinHospital,2-14-23,Fujimi,Chiyoda-ku,Tokyo102-8798,JAPANた症例を経験したので報告する.I症例患者:56歳男性.主訴:下腿浮腫,発赤.現病歴:2014年3月中旬,左足関節部の傷と下腿の発赤腫脹を自覚し,同年3月18日当院皮膚科を受診.下腿蜂窩織炎を認め,全身検査の結果,HbA1C12.2%,尿糖4+,尿蛋白3+であり,糖尿病と診断(表1)され,抗菌薬全身投与とともに,強化インスリン療法,降圧薬の投与を開始,その後,3月24日糖尿病網膜症精査目的にて当科初診.既往歴:1998年頃,肥満(体重113kg,BMI34.11kg/m2),尿糖指摘.その後自己流の運動療法で体重が20kg減少し,放置.家族歴:糖尿病:弟,高血圧:母.初診時眼科所見:視力は,RV=0.15(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),LV=0.1(1.2×sph.2.25D(cyl.0.5DAx90°),眼圧:両眼18mmHg,前眼部所見:角膜・前房異常なし.軽度の白内障あり.虹彩・隅角異常なし.眼底所見:両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑が散在し,初診時黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見では,右眼黄斑浮腫なし,左眼にはわずかな漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)と中心窩上方に軽度の網膜膨化を認めた(図1).経過:3月25日,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)では,両眼の中間周辺部網膜に無灌流域(nonperfusionarea:NPA)を認め,とくに右眼の鼻側網膜で広く,また右眼黄斑部には造影後期に毛細血管瘤からの蛍光漏出および貯留を認めた.3月31日,右眼の視力低下(矯正0.8)を訴え,OCTでは.胞様黄斑浮腫と網膜の膨化所見を認めたため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)を施行し,その後,右眼黄斑局所凝固およびNPAに対する病巣凝固を開始し,4月30日には右眼DMEは消失した.初診から3カ月後には,HbA1Cは6.7%に低下し,それ以後は,テネリグリプチン(選択的DPP-4阻害薬:テネリアR20mg1錠/日)内服治療の下,HbA1Cは5.7.6.2%と良好なコントロール状態が続いた.初診から3カ月後のFAの結果,左眼のNPAに対する病巣凝固を施行し(両眼ともにDMEの再燃なし),初診から9カ月後(2014年12月)のFAでは,右眼でさらにNPAが拡大し,左眼では網膜新生血管を認め,OCTでは右眼にわずかなSRDと網膜膨化が再燃していたため,先に右眼STTAを施行後,DMEが軽減したため,網膜光凝固を追加,さらに左眼にも網膜光凝固を追加した.2015年1月7日受診時,右眼のDMEの網膜膨化所見が悪化(図2a)していたため,同年2月6日より右眼IVRを開始したところ,反応不良であったため,その後3月13日,4月24日と連続3回IVRを施行した.しかし,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は改善せず(図2b.d),同時期に腎機能障害の急速な進行が発覚したた表1初診時全身検査結果血液検査所見WBC(×103μl)15.6×103RBC(×106μl)4.39×106Hb(g/dl)13.5Ht(%)38.4Plt(×103μl)283×103CRP(mg/dl)19.11Na/K/Cl(mEq/l)136.7/5.0/99.3GOT/GPT(IU/l)26/18TP/Alb(g/dl)5.9/2.1BUN/CRE(mg/dl)26.6/1.79BS(mg/dl)朝食後5h504HbA1C(%)12.2eGFR32.3(ml/分/1.73m2)尿所見尿糖/尿蛋白4+/3+尿ケトン体─蛋白質定量(mg/dl)569TP/CRE(g/gCr)6.13NAG(U/l)34.3b2ミクログロブリン(ng/ml)52370身体所見身長182cmBMI26.4体重91.35kg血圧180/95異常値を○○(斜体と下線)で示す.eGFRは推算糸球体濾過量(基準値:90以上),TP/CREは1日尿蛋白量(正常:0.15未満),NAG(N-アセチル-b-D-グルコサミダーゼ正常:7以下),b2ミクログロブリン(正常:230以下)はともに尿細管障害の指標.本症例はeGFRおよび尿TP/CREより,糖尿病腎症3期(顕性腎症期)と診断された.図1初診時眼底写真とOCT2014年3月24日眼科初診時の眼底写真(右眼:a,左眼:d),および黄斑部水平断(右眼:b,左眼:e)および垂直断(右眼:c,左眼:f)OCT撮影画像を示す.眼底検査では両眼ともに多数の網膜出血と軟性白斑を認めた.OCTでは,右眼には明らかな黄斑浮腫はなく,左眼にわずかな漿液性網膜.離と中心窩上方の軽度の網膜膨化所見を認めた.め,本症例の黄斑浮腫には全身性因子の関与が強い可能性も考えられたため,その後のIVRを中止し経過観察とした.腎機能データは,当院初診時より顕性腎症期(糖尿病腎症)であったが,内科治療開始後約9カ月間は,血1表期)(3清クレアチニン値が1.3.1.7mg/dlを維持したまま経過していた.しかし,右眼DMEが再燃したため,IVRを開始し(同時期の血清クレアチニン値2.04mg/dl),連続3回施行したところ,3回目のIVRの1週間後の4月30日腎臓内科受診時,血清クレアチニン値が3.23mg/dlと急激に上昇していたため,当院腎臓内科に即日入院となった.IVR前後の右眼CRTの変化と腎機能データの推移を図3に示す.IVR後の腎臓内科入院約1カ月間,安静と飲水励行および減塩食による食事療法,降圧薬や脂質異常症治療薬の内服にて全身浮腫は改善しいったん退院したが,退院後早期に全身性浮腫が再度悪化し,7月21日腎臓内科に再入院となり,急激な腎機能障害の進行の精査目的に8月3日腎生検を施行した.病理組織学的検査(図4)では,糸球体には,慢性経過の糖尿病性腎症の病理所見で,糖尿病性結節性硬化の初期病変と考えられる細胞浸潤を伴った活動性の高いメサンギウム融解像を認めたことや,比較的新しい内皮障害が示唆される細動脈硝子化や尿細管の滲出病変が散見されたことなどから,最近になって比較的急速に進展した糖尿病性腎症の所見2)と考えられ,臨床経過を考慮すると,IVRの全身的影響の一部である可能性も考えられた.その後は,複数回の入院治療を含む積極的な内科治療にも抵抗して腎機能障害は進行し,2015年10月シャント造設,2016年1月透析導入となった.IVR後の右眼DMEは,腎臓内科入院後徐々にCRTが減少し,入院後3カ月でほぼ浮腫は消失し,その後は全身浮腫が悪化してもCRTは約250μm程度のまま,浮腫は再燃せずに経過した.なお,左眼のDMEは上記経過中出現していない.II考察DMEは,眼局所因子と全身因子が複雑にかかわり合って発症3)し,また患者個々に病態が異なることから,その治療法は大変複雑である.また,そのためかDMEに対する抗VEGF抗体単回投与の反応は,他の加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症に比して緩やかであり,繰り返し使用を余儀なくされることも多く4),さらに治療法の選択を困難にしていると*:CRT図2IVR前後の右眼黄斑部OCT所見(上段:水平断下段:垂直断)2015年1月7日(a),DMEが再発していたため,2月6日(b)に初回IVR,3月13日(c)に第2回IVR,4月24日(d)に第3回のIVRを施行したが,CRTは増加した.思われる.抗VEGF抗体硝子体内注射の全身的副作用としては,DME患者では狭心症・心筋梗塞,高血圧症などが少数例報告されてはいる5)ものの,大規模スタディでは,対象群と抗VEGF抗体治療群を比較しても全身的副作用の発現に有意差はない6)とされている.しかし,これらの大規模スタディの対象患者の患者背景は,比較的全身状態の良好な患者に限定されていることに注意する必要がある.抗VEGF抗体硝子体内注射後の血中VEGF濃度の推移をみた報告7)では,硝子体内注射後,血中VEGF濃度が上昇し,かつ腎障害のある患者では,そのクリアランスが低下していることや,抗VEGF抗体硝子体内注射後の腎臓組織には抗VEGF抗体が存在し,さらにVEGF活性が低下していることが報告8)されており,抗VEGF抗体硝子体内注射が腎組織に対して影響を与える可能性も考えられる.また,過去には,抗VEGF抗体の硝子体内注射後に,腎機能障害が進行した症例が報告9,10)がされており,とくに糖尿病性腎症があるDME患者において抗VEGF抗体硝子体内注射を繰り返し施行する際には,腎機能の推移に注意する必要があると考える.さらに,腎機能に対する注意は,副作用という観点だけではなく,腎機能障害が進行しつつある症例では,全身因子としてのDME悪化要因が加わることで,抗VEGF抗体注射に対する反応も不良となるため,その誤った評価により,不必要な注射を繰り返すことを避けるためにも重要であると考えられる.抗VEGF抗体である,ベバシズマブは,以前より大腸癌などの抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,その全身投与時の副作用として高血圧や蛋白尿が高率に報告されており1),症例の腎生検の組織学的検討を行った報告11.16)がなされている.それらによると,腎臓組織におけるVEGFの役割は,いまだ不明な点も多いが,VEGFはおもにpodo-cyteや尿細管上皮から産生され14),糸球体毛細血管の内皮700中心窩600網膜厚500CRT400(μm)3002003.525尿NAG(Ul)尿TP/CRE(g/gCr)3201400012000血清Cr(mg/dl)尿b2MG(ng/dl)2.51510000280001060001.54000200005100.52014/10/92014/11/92014/12/92015/1/92015/2/92015/3/92015/4/92015/5/9図3IVR前後の中心窩網膜厚(CRT)と腎機能データの変化上段には中心窩網膜厚(CRT)の変化とIVR施行日を示す.下段グラフは左軸に血清クレアチニン値(実線・,□の中に実測値),尿NAG(細点線・▲),尿TP/CRE(長点線・●),右軸にb2ミクログロブリン(実線・■)を示した.グラフ右下の棒グラフは尿糖を示し,IVR開始後出現し増加した.図4腎生検(病理所見)a:糸球体.糖尿病性腎症に矛盾しない結節性病変を多数認める.b:aの拡大写真.細胞浸潤を伴うメサンギウム細胞誘融解(.)を認め,結節性病変形成の初期病変と考えられた.c:尿細管の滲出病変,尿細管間質萎縮と線維化.d:血管の光顕像(PAM染色).内皮障害を示唆する細小動脈の硝子化.細胞のfenestration形成にかかわることにより,糸球体の構造や機能を維持する役割11)や,毛細血管障害が生じた場合の修復の役割も担うこと16)が報告されている.したがって,VEGFを阻害することにより,腎臓の毛細血管の成長が阻害されることにより毛細血管障害が起こり,さらにその修復過程も阻害されることにより,腎臓組織内の毛細血管障害やthromboticmicroangiopathy(TMA)などが引き起こされることが推測されている.本症例の腎機能障害の進行経過は,通常の糖尿病腎症を否定するものではないが,IVR開始後の進行速度が,非常に急速でかつ内科的治療に抵抗性であったこと,またHbA1C5.6%と血糖コントロール良好であるにもかかわらず,IVR開始後に尿糖が陽性になり,その後増加していったことは,通常の糖尿病腎症の進行経過中にはみられない点として着目した.通常の糖尿病性腎症の進行速度は,さまざまな要因によって修飾されるため,一定速度であるとは限らないが,過去の報告17)によると,血清クレアチニン値2.0mg/dlから透析導入に至るまでの期間は糖尿病腎不全症例36例の検討では平均2年4カ月と報告されており,本症例では経過は,約1年であり,比較的早い経過で腎不全に進行した症例と考えられた.さらに腎生検では糖尿病腎症に矛盾しない所見に加えて,この病期の糖尿病腎症患者ではみることが少ない,初期病変が散見されたことは,それまで存在していた糖尿病性腎症がIVRによりさらに後押しされたように進行した可能性も考えられたが,因果関係は不明である.DMEに対する抗VEGF抗体硝子体内注射は大変有用な治療法である.しかし,DME患者では糖尿病腎症を合併していることが多く,繰り返し治療を行う場合には進行性の腎機能障害があるかどうか,治療開始後,腎機能データに著しい変動はないか,という点に注意する必要があると思われた.とくに腎症を有し,DME治療開始時期に血清クレアチニン値が上昇傾向にある患者では,腎臓内科主治医と連絡をとりあいながら治療法を決定することが望ましいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhuX,WuS,DahutWLetal:Risksofproteinuriaandhypertensionwithbevacizumab,anantibodyagainstvas-cularendothelialgrowthfactor:systemicreviewandmeta-analysis.AmJKidneyDis49:186-193,20072)齋藤弥章,木田寛,吉村光弘ほか:糖尿病性腎症におけるMesangiolysisについて.日腎誌26:367-375,19843)BresnickGH:Diabeticmaculopathy.Acriticalreviewhighlightingdi.usemacularedema.Ophthalmology90:1301-1317,19834)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofranibizumabondiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20135)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/mlVIII安全性(使用上の注意等)に関する項目.VIII-8副作用.p56-58,2015年3月改訂(改訂第11版)6)LangGE,BertaA,EldemBMetal:Two-yearsafetyande.cacyofranibizumab0.5mgindiabeticmacularedema:interimanalysisoftheRESTOREeztensionstudy:Oph-thalmology120:2004-2012,20137)医薬品インタビューホーム:眼科用VEGF阻害剤(ヒト化VEGFモノクローナル抗体Fab断片)ルセンティス硝子体内注射10mg/ml.VII.薬物動態に関する項目.p47-51,2015年3月改訂(改訂第11版)8)TschlakowA,ChristnerS,JulienSetal:E.ectsofasin-gleintravitrealinjectionofa.iberceptandranibizumabonglomeruliofmonkeys.PLoSOne21:e113701,20149)PelleG,ShwekeN,DuongVanHuyenJPetal:Systemicandkidneytoxicityofintraocularadministrationofvascu-larendothelialgrowthfactorinhibitors.AmJKidneyDis57:756-759,201110)GeorgalasI,PapaconstantinouD,PapadopoulosKetal:Renalinjuryfollowingintravitrealanti-VEGFadministra-tionindiabeticpatientswithproliferativediabeticretinop-athyandchronickidneydisease-Apossiblesidee.ect?CurrentDrugSafety9:156-158,201411)EreminaV,Je.ersonJA,KowalewskaJetal:VEGFInhi-bitionandRenalThromboticMicroangiopathy.NEnglJMed358:112-1136,200812)SugimotoH,HamanoY,CharytanDetal:Neutralizationofcirculatingvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)byanti-VEGFantibodiesandsolubleVEGFreceptor1(sFlt-1)inducesproteinuria.JBiolChem278:12605-12608,200313)GeorgeBA,ZhouXJ,TotoR:Nephroticsyndromeafterbevacizumab:casereportandliteraturereview.AmJKidneyDis49:E23-E29,200714)FrangieC,LefaucheurC,MedioniJetal:Renalthrom-boticmicroangiopathycausedbyanti-VEGF-antibodytreatmentformetastaticrenal-cellcarcinoma.LancetOncol8:177-178,200715)RonconeD,SatoskarA,NadasdyTet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My boom 62.

2017年3月31日 金曜日

自己紹介吉田希望(よしだ・きぼう)よしだ眼科クリニック私は昭和62年に東京慈恵会医科大学に入局し,小児眼科を専門にやってきました.埼玉県立小児医療センターに平成4年1月から平成8年6月まで勤務.その後,小児の他覚評価ができないかとfMRIの研究で2年間フランスへ.帰国後大学を離れ,秋田県大館市に開業して18年になります.仕事のMyboom:子どもの眼科診療小児眼科が専門ですが,開業後数年してから専門外来を立ち上げることができました.土曜日に予約診療で小児眼科領域と大人の斜視などを中心に,ORTさんと一緒に診療しています.ORTさんは常勤2人と非常勤1人,それに慈恵医大から1人来てもらい,難症例にも対処できるようにと考えています.患者さんは秋田県を中心に,青森県の盲学校に通う児童(未熟児など)の診療をしています.秋田県立医療療育センターからはMR(mentalretardation)の強い患児の視機能評価の依頼も受けています.埼玉時代の外来は斜視と弱視,まれに先天白内障,緑内障,10年に1例網膜芽細胞腫.入院は斜視手術症例を年間150例程度,新生児科では未熟児網膜症の急性期しかみていませんでしたが,今では治療後が多く,全盲のケースやほぼ全盲で聴覚に頼っているケースなど,カリフォルニア工科大学の下條信輔先生の感覚代行VOICEの話などロービジョンの領域の知識も必要になってきています.小児の眼科管理は屈折検査と眼位検査に尽きるといえます.抑制の定量評価方法に手作りのNDフィルター入り板付きレンズを作製してもらい,(95)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYBagolini線条グラス検査のデータを集めています.開業すると学校健診も仕事の一つになり,波面センサーを導入してみました.オルソケラトロジー施行眼の収差が桁違いであること,TMFに縦と横の差があることなど,視力検査の方法にも影響しそうなデータが得られています.検影法を数値化してくれるのが波面センサーだと感じています.波面ネタをもう一つ.小学校3年生のPFV(第一次硝子体過形成遺残)で,波面からは手術がよさそうだけれど,弱視治療(Occlupad)で1.0まで改善した例がありました.弱視治療も奥が深い.私生活のMyboom1スポーツ観戦.好きなんです.野球:父親が明治大学バレーボール部の監督(名前だけ)だった時期に,招待券で東京六大学野球の観戦に友人と神宮球場へ.昭和50年前後でしょうか,まだ外野が芝生席で寝転んで観ていたことを思い出します.父親の留学中のLAでのDodgers戦観戦も忘れられません.小学生の地域リーグで仲間に恵まれ,たまたま優勝し,チームごと招待されました.7回表終了時に場内アナウンスで紹介され,コーチに観客からの拍手に立って答えなさいって促され,誇らしい気持ちと恥ずかしい気持ちが入りまじりました.サッカー:埼玉勤務のころには浦和レッズの年間シートを持っていたほどで,試合を観に行くと負けることが多く,これからは自称隠れレッズファンになります.その当時に大宮サッカー場で観たレッズ対バスコダガマ戦のロマーリオ(ブラジル代表)はすごかったです.今年のチャンピオンシップ第2戦も観に行きましたが残念な結果になりました.ラグビー:父のゼミの先輩学生に誘われて,初ラグビー観戦は高校生の時の早明戦です.一時離れていましたが,最近再び夢中になっています.秋田八橋球場ではノーザンブレッツ対三菱重工相模原戦のハーフタイムに,観客席に遠征に帯同しているあたらしい眼科Vol.34,No.3,2017401写真1東芝スタッフ?画面左が私です.左隣は2013年南アフリカ最優秀コーチのストーンハウスさん.シェーン・ウイリアムスを発見.身長が170cmで,2008年IRBのMVP(サッカー界のバロンドール)選手なんです.握手して写真を撮らせてもらいました.2014年の日本選手権の2回戦,神戸製鋼対ヤマハ戦では,試合の1週間前にラグビー協会から電話があり,たまたま取れていたスカイラウンジシートを変わってほしいと.本当は嫌ですって言いたかったけれど,天皇皇后両陛下が来てラグビー界では初めての天覧試合になると聞き,喜んで譲りました.しばらく自己紹介の際に「天皇陛下に席を譲った男です」ってネタにできました.帰りの国道246が交通規制のため車が1台も走っていないのが不思議な光景でした.今年の東芝対クボタ戦では,たまたま座席が東芝の関係者席の隣で,テレビにがっちり映っていて,まるでチームドクターのようだと言われて少し嬉しかったです(写真1).昨年から日本も参加しているスーパーラグビーでは,生でワラビーズのメンバーを見られました.2019年の日本でのRWC(RugbyWorldCup)が楽しみです.私生活のMyboom2スポーツ.身体を動かすのも好きです.バスケットボール:学生時代から現在まで,途中中断期間はありましたが,楽しんでいます.撮影してもらった動画を見ると気持ちと身体がまったく別物ですが,引退まであと少しかなと思いつつ,週1回のチーム練習をまだ続けています(やらされています?).野球:地元の早起き野球チームに参加して6年になりました.周囲は高校野球で鳴らした選手達で,初心者の自分は初年度5打席5三振から始まり,ようやく今シーズン18打席3安打を打てるようになりました.毎年5402あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017写真2第31回田沢湖マラソン後半キツイところで,無理して笑って走っています.月に行われる東京都眼科医会の大学対抗野球大会にも参加するのが楽しみです.ランニング:一昨年まではレースは年1回,地元秋田県大館市の山田記念ロードレースに参加していましたが,昨年から他のレースにも積極的に参加しています.7月の八竜町のメロンマラソン10km,9月は田沢湖マラソン20km(写真2)と秋田縦走50km,10月にきみまち10km,11月に岩手県宮古サーモンマラソン10km,12月には調布市制マラソン10km.今年は距離を長く,ハーフマラソンを中心に仙台ハーフ,さくらんぼなど企画中です.東京マラソンは倍率が高く抽選で外れました.いつの日か走られたらと考えています.トレーニング:3年前から始めました.週2回で月曜日は体幹トレーニングを40分程度,水曜日はフルメニュー(上半身,下半身,体幹)で75分程度.以前から腰痛と肩こりに悩まされていましたが,最近は症状がなくなりました.大きいけがをしなくなったのはトレーニング効果と思っています.おわりに診療について地域に育てていただいたこと,また専門外来を立ち上げるにあたり慈恵医大の柏田視能訓練士はじめ関係の皆様の協力を得られたことに,深く感謝しております.次のバトンですが,いつも難症例を快く受け入れていただいている弘前大学の鈴幸彦木先生にお渡しします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(96)

二次元から三次元を作り出す脳と眼 10.視覚情報処理の2つの経路

2017年3月31日 金曜日

雲井弥生連載⑩二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに外側膝状体はヒトやサルでは6層構造をとっている.内側2層の神経細胞は大型,外側4層の神経細胞は小型である.これが何を意味するかは長らく謎であった.1970年代に入り,神経節細胞が電気生理学的あるいは形態学的特徴でいくつかに分類できることがわかり,それが解明への突破口となる1).視覚伝導路と外側膝状体視覚の流れについて考える.図1では前方の十字の中心○を両眼で固視する人の頭を上から見ている.○は両眼中心窩に映る(Fr・Fl).固視点の左の点●は中心窩の右側に映る(R・L).視覚情報は下記のように進む.・右眼中心窩耳側の●情報→視交叉を同側に進む→右外側膝状体2,3,5層→右後頭葉第一次視覚野(以下,V1)へ・左眼中心窩鼻側の●情報→視交叉を反対側に進む→右外側膝状体1,4,5層→右V1へV1の後極には,右眼中心窩の情報○と左眼中心窩の情報○が隣り合うように到達する.右眼の情報●と左眼の情報●は網膜での位置関係を保つようにその前方に到達する.図1右は外側膝状体の拡大図である.9章で網膜神経節細胞が3種類に分類できること,なかでも2種類は対称的な特徴をもつことを述べた.細胞体や受容野が大きく情報伝達の速いPa細胞,細胞体も受容野も小さく情報伝達の遅いPb細胞である.大型のPaは外側膝状体後頭葉第一次視覚野(V1)図1外側膝状体と情報の分離外側膝状体では,右眼・左眼からの情報,神経節細胞のPaとPbから抽出した情報が,それぞれ異なる層に伝達され,分離される.大型のPaは動きの情報を大細胞層1,2層に,小型のPbは形の情報を小細胞層3~6層に伝える.前者をmagnocellular系(M系)とよび,後者をparvocellular系(P系)とよぶ.6層構造は,種類の異なる情報を正しい相手に伝えられるよう機能している.(93)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173990910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2背側経路と腹側経路背側経路を→で示す.物体の動きや方向,光のちらつきなどの情報はPa,V1-3,V5/MTを経て後頭頂葉へと向かう.三次元での位置や動きの把握に必要であり,Whereの経路ともよばれる.腹側経路を.で示す.物の形や輪郭・色の情報はPb,V1,V2,V4を経て下側頭葉へ向かう.何が見えるかをとらえWhatの経路ともよばれる.の大細胞層である1,2層に,小型のPbは小細胞層である3~6層に,網膜から運んできた種類の異なる情報を伝える.すなわちPaは物の動きや光のちらつきの情報を大細胞層へ,Pbは物の形や輪郭の情報を小細胞層へ伝達する.これにより,右眼と左眼,PaとPbの情報が外側膝状体の異なる層へと分離される.6層構造は,陸上のリレー競技のコース分けのように,種類の異なる情報のバトンを正しい相手に渡せるように機能している.前者を大型細胞を介して伝えられる経路としてmagnocellular系(M系),後者を小型細胞の経路としてparvocellular系(P系)とよぶ.ここからV1に進む際には,さらに異なる層へ進む.1~6層の層間に微小細胞層(K層:koniocellular層)があり,網膜K細胞から情報を受ける.一部の細胞は青色情報に関与するとされる.またM系に関与するものもある.まだ解明されていないことが多く,研究の進展が期待される2).背側経路と腹側経路視覚に関係する脳の部位は30以上とされる.なかでも重要な役割を担うV1~5についておおよその位置を図2に示す.脳を左側から見ている.Vはvisualarea表1視覚情報処理の2つの経路の頭文字である.V1は後頭葉第一次視覚野,V2はV1の周辺に位置する.V3,V4は機能によって細区分されるが,実験方法や種によって差があり,議論が分かれるため詳細には触れない.V5はMT(middletemporalarea)ともよばれる.最初にこの部位について報告した研究者の用語MTがよく使われる.①背側経路(dorsalstream):Paから始まる情報の流れを→で示す.・Pa→外側膝状体の1,2層→V1→V2→V3→V5/MT→後頭頂葉(PPcortex:postparietalcortex)三次元空間での位置や動きをとらえるのに必要な経路である.ほぼM系の情報を伝える.②腹側経路(ventralstream):Pb細胞からの情報の流れを.で示す.・Pb.外側膝状体の3~6層.V1.V2.V4.下側頭葉(ITcortex:inferotemporalcortex)物の形や輪郭,色をとらえるのに必要な経路である.V1でK系情報が合流し,P系に一部M・K系情報を合せもつ.表1に背側経路と腹側経路の特徴を対比させる.脳のある部位では網膜からの情報は並列処理され,別の部位では2つが合流して情報統合や相互補完がなされ,効率良く処理される形になっている.これらの発見は視覚情報処理のやり方を明らかにしただけでなく,脳の研究全体に大きな示唆を与えた.文献1)福田淳・佐藤宏道:外側膝状体における情報処理.脳と視覚─何をどう見るか.p114-134,共立出版,20022)CasagrandeV,IchidaJ:ProcessingintheLateralGenicu-lateNucleus(LGN).Adler’sPhysiologyoftheEye11thed(editedbyKaufmanPL,AlmA),p574-585,Elsevier,2011400あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(94)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 166.強膜バックリング手術習得のコツ(その1)双眼倒像鏡による眼底検査(初級編)

2017年3月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載166166強膜バックリング手術習得のコツ(その1)双眼倒像鏡による眼底検査(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに近年,裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)に対する硝子体手術(parsplanavitrectomy:PPV)の適応が拡大されたため,強膜バックリング手術(scleralbucklingprocedure:SBP)に熟達していない術者が増加している.RRDの手術成績を向上させるためには,SBPとPPVの両者において確実な技量を有していることが必須である.今回から5回連続でSBPを習得するコツを述べる.●双眼倒像鏡による眼底検査の重要性SBPの習得には双眼倒像鏡による眼底検査が必須である.双眼倒像鏡の利点としては,立体視ができる,片手があいているので強膜圧迫による眼底最周辺部の観察が可能である,経強膜冷凍凝固が術者のコントロール下に施行できる,などがあげられる.とくに鋸状縁断裂,毛様体扁平部裂孔,毛様体皺襞部裂孔などは,双眼倒像鏡でないと観察できない.RRDとは関係はないが,未熟児網膜症の診察や,頭部の固定が困難な幼児の眼底検査の際にも双眼倒像鏡は威力を発揮する.●仰臥位での双眼倒像鏡による眼底検査に慣れる筆者が若い先生にSBPの指導をしているときにいつも感じることだが,普段立位ばかりで眼底検査をしていると,仰臥位での眼底検査を円滑に行えないことが多い.そのため,経強膜冷凍凝固時に強膜を過度に圧迫したり,プローブの腹で強膜を圧迫し,目的としない部位に冷凍凝固斑を出してしまうことがある(図1a,b).また,これが円滑にできないと,裂孔の位置決めも不確実となり,結局はバックルの置き直しなどで手術時間が長くなる.●豚眼を使用した双眼倒像鏡による眼底検査の練習強膜圧迫による眼底検査に習熟していない先生には,豚眼を利用した双眼倒像鏡による眼底検査を一度経験さa図1異所性冷凍凝固仰臥位の双眼倒像鏡に慣れていないため,冷凍凝固のプローブの腹で強膜を圧迫し(a)(文献1より引用),裂孔より後極に冷凍凝固斑を生じている(b).図2豚眼を使用した双眼倒像鏡による強膜圧迫鋸状縁から毛様体が観察できる.(文献1より引用)図3豚眼を使用した経強膜冷凍凝固冷凍凝固のコツをつかむのに有用である.(文献1より引用)れることをお薦めする.このシミュレーションにより,鋸状縁から毛様体の観察(図2)のコツをつかむことができる1).また,経強膜冷凍凝固の練習も可能である(図3).文献1)池田恒彦:強膜バックリング手術のウェットラボ.日本の眼科86:160-164,2015(91)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173970910-1810/17/\100/頁/JCOPY

弱視と斜視のABC 7.調節性内斜視の治療

2017年3月31日 金曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保7.調節性内斜視の治療柿原寛子かきはら眼科クリニック調節性内斜視の治療の基本は眼鏡常用である.調節麻痺剤点眼下の屈折検査にて眼鏡を処方する.弱視の有無・眼位・両眼視・眼鏡の装用状態の経過観察を行う.必要に応じ眼鏡を更新する.乳幼児期から学童・思春期と長期間の経過観察が必要であり,患児・保護者が不安なく治療に取り組めるよう,説明・指導も大切である.調節性内斜視の治療対しては市販製剤の1%アトロピン点眼液を院内にて生調節性内斜視のうち屈折性調節性内斜視は,1歳半以理食塩水で希釈し,0.5%アトロピン点眼液として使用降に発症することが多い.遠視があり注視時に内斜視とする.なるが,眼鏡装用にて眼位は改善する.治療の基本は眼小児は調節力が強いため,屈折検査結果に調節が介入鏡常用である.非屈折性調節性内斜視は,遠視の矯正でしているかどうか,検査結果をみて判断する必要があは眼位の改善は得られず,高AC/A比(調節性輻輳/調る.たとえ調節麻痺剤点眼後であっても,点眼時に泣い節刺激量)を伴い,治療は二重焦点眼鏡が基本である.た場合など薬剤の効果が不十分なことがある.小児の屈折検査には検影法を用いるのが望ましいが,実際には屈折検査オートレフラクトメータで測定している現場も多いと思調節麻痺下に屈折検査を行い,遠視度数を測定する.われる.図1にオートレフラクトメータの測定結果の例調節麻痺剤には1%アトロピン点眼液または0.5%アトを示す.図1aは,一連の測定中に調節の介入により屈ロピン点眼液,もしくはサイプレジン点眼液を用いる.折値が変動している.図1bの測定では,比較的安定しアトロピンは調節麻痺作用が強い利点があるが,副交感た屈折値を示している.神経遮断薬であり,発熱・顔面紅潮などの副作用をきた複数のオートレフラクトメータがある場合は,機種にす可能性があるのが欠点である.このため,低年齢児によっても屈折測定結果に違いがみられるので,日頃の使ab—REF—VD=12.00mm〈R〉SCA[R]SPHCYLAX+4.25-0.75829+4.75-0.5078+4.75-0.5066+5.00-0.75889+5.50-1.0093+6.00-0.50819+4.25-0.2577+6.25-0.50809+4.25-0.2577+6.00-0.50849+4.50-0.5077+4.75-0.2572〈+6.00-0.5082〉+4.75-0.2579KM(Phi=3.3)mmDdeg図1オートレフラクトメータの測定記録例*+4.75-0.25777〈R17.8343.008〉a:手持ち型オートレフ(レチノマックス)で測定.〈R27.8143.2598〉+1.25〈AVG7.8243.25〉①の部分で測定値の変動が大きく,このとき調節が介[L]SPHCYLAX+3.25〈CYL-0.258〉入していたと考えられる.b:据え置き型オートレフ①+3.25〈L〉SCAで測定.とくに②の左眼は測定値の変動が少ない.+3.00+6.00-0.25899+2.75+6.75-0.75919+2.50②+6.50-0.50929①’+2.00-0.25161+1.75-0.25162〈+6.50-0.5091〉KM(Phi=3.3)*+2.757mmDdeg〈R17.6644.000〉〈R27.6544.0090〉〈AVG7.6644.00〉〈CYL-0.000〉PD52(89)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173950910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2初回眼鏡処方時の説明の様子実物の小児眼鏡フレームを見せることで,保護者に眼鏡装用をより具体的に指導できる利点がある.用経験をもとに各々の特性を把握しておくとよい.また,同一患者の調節麻痺剤使用前後での測定は,同一機種で行えば調節麻痺剤の効果を確認することができる.さらに,自覚的視力検査が困難な小児では,他覚的に測定した屈折値をもとに完全屈折矯正眼鏡を処方するため,点眼後には複数機種で屈折測定を行うことは正確な処方に役立つ.眼鏡処方と装用指導治療用眼鏡は実際に装用してこそ効果が得られるものであり,幼児に眼鏡を常用させるためには保護者の理解と協力が欠かせない.初回の眼鏡処方時には,眼鏡の必要性を説明するとともに,装用させることへの保護者の不安を取り除くよう心がける.屈折性調節性内斜視は眼鏡装用下に眼位の改善が得られるので,眼鏡の必要性は示しやすい.それでも「子どもに眼鏡をかけさせては,かわいそう」「外見が悪いのでは」「どんな眼鏡を買えばいいのか」など不安に思う保護者は多い.当院では,実際の小児用眼鏡フレームを手に取って見てもらい,眼鏡装用の具体的なイメージをもってもらうと同時に,フレーム選択やフィッテイングのポイント(レンズの大きさ・鼻パッドの位置・テンプルの長さなど)を説明している(図2).子どもに好きなフレームの色・テンプルの模様を尋ねたり,フレームをかけさせて「かわいいね」と声をかけたりして,患児と家族が前向きに治療に取り組んでいけるよう支援する工夫も大切である.そのうえで,購入の具体的な方法・療養費給付制度について説明を行う.経過観察眼鏡処方後は約1カ月以内に再診し,できあがり眼鏡チェック・視力検査・眼位検査を行う.レンズメータでの度数チェック・フィッティングの確認を行い,不良の場合は再調整を依頼する.眼鏡装用下に残余内斜視を認める場合は,さらに遠視が隠れていないか,期間をあけてアトロピンでの屈折検査を再検する.乳幼児では,アトロピンを用いていても初回の検査時には調節が取り切れず,十分な遠視を引き出すことができていない可能性もあるためである.部分調節性内斜視・非屈折性調節性内斜視であれば,プリズム装用・斜視手術・二重焦点眼鏡など検討する.弱視合併例では,家庭での健眼遮蔽訓練・通院時訓練を行う.治療開始後,経過観察中に弱視が明らかになる症例もある.眼鏡非装用下の眼位検査で優位眼が決まっている症例・低年齢で視力検査が不完全な症例などは,慎重なフォローが求められる.弱視の合併がない場合,その後の経過観察は2~3カ月ごとに行っている.成長に伴い,およそ1~2年程度で眼鏡の更新が必要になる.屈折の変化・レンズ・フレームの傷み・瞳孔間距離の変化のほか,療養費の支給を受けるには前回処方から一定期間が経っている必要があることも考慮する.経過良好例では,眼鏡更新時の屈折検査は必ずしもアトロピン下である必要はない.視力・眼位・両眼視機能検査にもとづいて,必要十分な検査を行い処方する.文献1)佐藤美保:目でみる斜視検査の進めかた.金原出版,20142)丸尾敏夫,深井小久子,久保田伸枝編:視能学.増補版,文光堂,2008☆☆☆396あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(90)

眼瞼・結膜:結膜メラノーシスと悪性黒色腫

2017年3月31日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人加瀬諭24.結膜メラノーシスと悪性黒色腫北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病講座眼科学分野成人に発生する結膜色素性病変として,原発性後天性色素沈着症(PAM)と悪性黒色腫が代表的である.PAMは眼表面にコーヒー残渣様の茶褐色調の色素沈着が結膜にみられる.悪性黒色腫はPAMから発生する頻度が高く,黒色調あるいは肌色調の腫瘤を形成する.局所化学療法の発展により,眼球温存が可能な症例が蓄積されている.●はじめに成人の結膜に発生する色素性病変の代表的なものに,原発性後天性色素沈着症(primaryacquiredmelano-sis:PAM)と悪性黒色腫がある.いずれも壮年期~高齢者にみられる眼表面疾患である.本稿では,両者の病態,眼科的所見,治療について概説する.●PAMの臨床像PAMは年齢を重ねるにつれてみられる結膜の色素沈着症である.通常は片眼性で,患者自身が,白目の色素が数カ月~数年かけて増えてきているという自覚症状を訴える.細隙灯顕微鏡所見により,眼表面にコーヒー残渣様の茶褐色調の色素沈着が確認できる(図1a).●PAMの病理正常の結膜上皮は,組織学的には重層円柱上皮を呈し,その基底層には上皮細胞とメラノサイトが存在する.PAMの初期では基底層のメラノサイトが増生し,メラニン色素の沈着がめだつ.この時期は増生するメラノサイトに細胞の形状変化(異型性:atypia)はみられず,PAMwithoutatypiaと称する.しかしPAMが進行すると,メラノサイトの増生が基底層にとどまらず,基底層から表層に向けて増生するようになる.このようにメラノサイトが増生すると,病理組織学的にはメラノサイトの核がやや大型になり,核クロマチンの濃染性を伴い,異型性を伴ったPAM,すなわちPAMwithatypiaと診断される.PAMwithatypiaは悪性黒色腫の発生母地となるため,PAMを示唆する色素沈着がみられたら病変部を試験切除し,メラノサイトに異型があるか病理組織学的検討にて確認する(図1b).●PAMの治療治療を検討するうえで,病理組織学的所見が重要となる.PAMwithout/withatypiaは眼病理学的には確立された概念であるが,一般病理医の診断においては,必ずしも病理診断名として記載されない場合があり,注意を要する.眼科主治医は試験切除を行った病理診断書については,診断名だけでなく,病理組織所見にも必ず目図1PAMの1例(80歳代,女性)a:球結膜,結膜円蓋部に著明な色素沈着がみられる.b:病変部の病理組織像では,結膜上皮にメラノサイトの増生と色素沈着,上皮下にメラニン色素を貪食したマクロファージの浸潤がある.(87)あたらしい眼科Vol.34,No.3,20173930910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2結膜悪性黒色腫の1例(70歳代,女性)a:球結膜に黒色調の腫瘤が2個みられる.b:腫瘤部の病理組織像は,類上皮細胞型の悪性黒色腫細胞の増生である.を通すべきである.PAMwithoutatypiaであれば自然消退の傾向を示すこともあるので,経過観察を行う.生検の結果がPAMwithatypiaと考えられる場合は,将来悪性黒色腫の発生母地となりえる旨を患者に説明し,慎重な経過観察を行ったり,病変部を可及的に切除したり,あるいはインターフェロン(interferon:IFN)a-2bやマイトマイシンC(MMC)の局所化学療法を検討する.●結膜悪性黒色腫の臨床像結膜悪性黒色腫は,結膜に発生するメラノサイト系悪性色素性腫瘍である.わが国ではまれな結膜悪性腫瘍であるが,放置すると著明に増大したり,リンパ節や涙.・鼻涙管,ひいては全身諸臓器へ転移することがあり,生命予後に影響する.形態学的には結節状腫瘤を形成したり(図2a),扁平な隆起を呈する.色調は黒色調であることが多いが,無色素性の肌色調を示すこともある.診察に際しては,腫瘤が単発か多発か,PAMを伴っているか否か,上眼瞼結膜や円蓋部にも病変がないか,必ず上眼瞼を翻転して観察する.●結膜悪性黒色腫の病理結膜悪性黒色腫の発生母地としては前述のPAMwithatypiaが重要であるが,母斑あるいはまったく背景に病変のない部分(denovo)からも発生する.典型的な単結節~多結節状の腫瘍では臨床診断を行い,生検もしくは完全切除後に病理組織診断を行う.病理組織学的には,核の大小不同を示す異型細胞が密に増生し,細胞質にメラニン産生を示す褐色色素が見られるのが特徴である(図2b).●結膜悪性黒色腫の治療過去には眼球摘出術や眼窩内容除去術がおもに行われ,患者に多大な精神的苦痛を強いてきた.加えて,眼窩内容除去術を行っても術後数年で遠隔転移をきたしたり,涙.への転移がみつかることもある.他方,眼表面の悪性腫瘍に対して近年は局所化学療法が試みられており,眼球を温存することが可能な症例が蓄積されつつある1).薬剤としてはIFNb,IFNa-2b2),MMCが有効性を示すことが期待される.PAMを伴う悪性黒色腫では,眼球摘出を含めた広範囲な外科的切除,あるいは腫瘤部の局所切除を行い,後者で術後療法としてIFNa.2bの点眼治療を行い,残存するPAMが消失するまで治療を継続する方法2)も治療選択の一つである.一方,母斑やdenovo発生の腫瘍では,基底部で十分な安全域を確保して一期的に腫瘤を摘出し,術後に再発予防として局所化学療法を行うことも可能である.腫瘍摘出部には,冷凍凝固を併用することも行われている.●おわりに本稿では結膜の代表的な色素性病変であるPAMと結膜悪性黒色腫について概説した.結膜の色素性腫瘍はまれであるが,判断を誤ると患者に著しい不利益が生じるため,一般眼科医もさまざまな眼表面の鑑別診断の一つとして,念頭に入れるべきである.文献1)加瀬諭:わかりやすい臨床講座.結膜の悪性腫瘍.日の眼科86:15-21,20152)加瀬諭,石嶋漢,野田実香ほか:インターフェロンa-2b点眼液を補助療法として使用した結膜悪性黒色腫の2例.日眼会誌115:1043-1047,2011394あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(88)

抗VEGF治療:抗VEGF療法後の眼内炎の1例

2017年3月31日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二38.抗VEGF療法後の眼内炎の1例江﨑雄也平野佳男名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室抗VEGF薬硝子体内注射は視機能改善,あるいは維持を目的として施行され,通常複数回の治療が必要となる.注射による合併症としては,結膜下出血のような軽微なものから眼内炎などの重篤なものもある.今回筆者らは,抗VEGF療法後に眼内炎を発症した症例を経験したので報告する.症例患者は78歳,女性.2012年11月27日,左眼の滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の疑いで近医より名古屋市立大学病院眼科に紹介された.初診時視力は,右眼0.6(1.5x+1.50D:c.0.50DAx60°),左眼0.1(0.15x+0.75D).眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHg.両眼ともに軽度の白内障,左眼の黄斑部には網膜下出血を伴う滲出性変化と黄白色のポリープ状病巣が認められた(図1a).眼底所見と光干渉断層計,蛍光眼底造影所見(図1b~f)などより,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvas-culopathy:PCV)と診断した.2012年12月10日よりラニビズマブ0.5mgの硝子体内注射を施行.その後はtreatandextend法にて治療継続していた.また,経過中の2014年11月25日に左眼の白内障手術を施行している.2015年12月25日時点では左眼矯正視力は(1.0)で,滲出性変化の改善も認められていた(図1g~i).2016年1月29日に18回目のラニビズマブ硝子体内注射を施行後,2月2日(注射後4日目)より飛蚊症を自覚し,症状の増悪とともに2月7日(注射後9日目)に眼痛も出現したため,2月8日に当科を受診した.受診時左眼視力は(0.02)と著明に低下し,眼圧は5mmHgまで低下していた.毛様充血,角膜は浮腫状でデスメ膜皺襞,前房内細胞と前房蓄膿を認めた(図2a).眼底は観察困難で,Bモード超音波検査では軽度の硝子体混濁がみられたが,網膜.離は認めなかった(図2b).左眼の眼内炎と診断し,同日緊急入院とした.塩酸バンコマイシン(10mg/ml)とセフタジジム(20mg/ml)の結膜下注射0.5mlと硝子体内注射0.1mlを施行した.硝子体内注射時に前房水を採取し細菌培養,塗抹検査を行った.レ(85)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYボフロキサシン,塩酸セフメノキシム,塩酸バンコマイシン,セフタジジムの1時間ごとの頻回点眼とともに,イミペネム点滴(1回0.5g,1日2回)を施行した.1~2時間ごとに経過観察するも改善傾向を認めないため,同日(注射後10日目)に前房洗浄と内視鏡を併用した硝子体手術を施行した(図2c).眼内灌流液500ml中に,塩酸バンコマイシン10mg,セフタジジム20mgを添加し,手術を施行した.なお,採取した前房水からは塗抹・培養ともに細菌は検出されなかった.術翌日には眼痛は改善し,術3日後には硝子体混濁も改善傾向で,眼底も透見良好となった.その後は軽快傾向のため2月16日に退院した.2月22日外来受診時には視力は(0.4)まで回復し,毛様充血およびデスメ膜皺壁は残存していたが,前房内に細胞はなく,眼底も透見良好だった.2016年9月2日現在,左眼視力は(1.0)まで改善し,眼圧は13mmHgと正常化し,元来あったPCVによる滲出性変化は残存するものの悪化はなく,視神経乳頭と網膜の色調は良好である(図3).硝子体内薬物注射後の眼内炎の特徴硝子体内注射の合併症には,眼局所合併症と全身合併症がある.眼局所合併症として眼内炎は非常に重篤なものである.原因菌としてはグラム陽性球菌のレンサ球菌が多い1).これは口腔内の常在菌である連鎖球菌が,上気道からの飛沫によって術野および針先へ汚染をきたすためとされている.硝子体内注射後の眼内炎の平均発症時期は術後3~5日と,白内障手術後の6~7日と比べて早期の発症が多く1),硝子体内注射後の感染は,白内障後の感染と比べ指数弁以下の予後不良例が10.2倍多いとも報告されている1).これは硝子体内注射後の眼内炎では細菌は直接硝子体内に侵入するため,前房中に炎症が出現する前に眼底に炎症が波及し,予後不良となりやあたらしい眼科Vol.34,No.3,2017391fILM-RPEILM-RPEi図1左眼の初診時と眼内炎発症直前の所見症例は78歳,女性.a~f:初診時.視力0.15.g~i:眼内炎発症直前.視力1.0.a:眼底所見.網膜下出血と黄白色のポリープ状病変を認める.b:フルオレセイン蛍光眼底造影所見.後期像.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影所見.後期像.ポリープ状病変に一致した過蛍光を認める(矢印).d~f:光干渉断層計所見.網膜下に高輝度の隆起性病変,漿液性網膜.離(e:*)が認められる.g~i:光干渉断層計所見.滲出性変化が残存するも,改善を認める.図2眼内炎発症時の左眼所見(視力0.02)a:前眼部細隙灯顕微鏡所見.毛様充血がみられ,角膜は浮腫状で,デスメ膜雛壁,前房蓄膿を認める.b:超音波Bモード所見.軽度の硝子体混濁を認めるが,網膜.離は認めない.c:術中眼底所見.視神経乳頭および網膜の色調は良好である.すいためと考えられる.近年,抗VEGF薬の硝子体内注射の適応は拡大し,AMDに加え,病的近視における脈絡膜新生血管,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫など多岐にわたる.硝子体内注射後の眼内炎の頻度は0.049%と報告されており2),白内障術後の頻度である0.052%3)とほぼ同程度だが,適応の拡大とともに注射回数が増大しており,今後も眼内炎の発症数は増加すると考えられる.dILM-RPE図3硝子体手術7カ月後の左眼所見(視力1.0)a:眼底所見.ポリープ状病巣周囲は網脈絡膜の萎縮が認められるが,視神経乳頭,網膜の色調は良好である.b~d:光干渉断層計所見.網膜浮腫,網膜色素上皮.離は残存しているが,病変の悪化はない.おわりに今回の症例では,患者が早期に受診し,早期に診断と治療を行うことができたために,幸いにも視力予後が良好であった.硝子体内注射後の眼内炎の発症頻度は低いが,適応の拡大や複数回投与の必要性から発症数が増大する可能性がある.眼内炎を起こさないよう努力を怠らないことがもっとも重要で,日本網膜硝子体学会が作成したガイドライン4)は非常に有用である.それでも眼内炎を発症した際には,迅速かつ適切な診断と治療が必要である.文献1)SimunovicMP,RushRB,HunyorAPetal:Endophthal-mitisfollowingintravitrealinjectionversusendophthalmi-tisfollowingcataractsurgery:clinicalfeatures,causativeorganismsandpost-treatmentoutcomes.BrJOphthalmol96:862-866,20122)McCannelCA:Meta-analysisofendophthalmitisafterintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactoragents:causativeorganismsandpossiblepreven-tionstrategies.Retina31:654-661,20113)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOph-thalmolScand85:848-851,20074)小椋祐一郎,高橋寛二,飯田知弘ほか:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,2016☆☆☆392あたらしい眼科Vol.34,No.3,2017(86)