特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1277.1282,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1277.1282,2015術後屈折誤差に対するタッチアップ法TheRetreatmentofRefractiveErrorPostCataractSurgery荒井宏幸*I術後屈折誤差対策の必要性近年では光学的眼軸長測定装置などの発達により,白内障手術時における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の度数計算の精度は飛躍的に向上している.以前であれば,術後の眼鏡装用は必然のような印象であったが,現在では良好な裸眼視力が当然のように求められるケースも多い.また,使用されるIOLにも,トーリックIOLや多焦点IOLといった付加価値の付いた眼内レンズが臨床使用されており,このことは手術を受ける側のニーズがより高くなっていることを反映していると考えられる.今や白内障術後の裸眼視力は術後結果の最大のポイントの1つとなっている.一方でLASIK(laserinsitukeratomileusis)を中心としたエキシマレーザーによる屈折矯正手術は,すでに25年以上の歴史を経て屈折異常の外科的矯正方法として定着している.そして,軽度から中等度の屈折異常に対するLASIKの矯正精度は,ほぼ±0.25Dの領域である.また,LASIKによるタッチアップは単焦点レンズのみならず多焦点レンズにおいても有効である1,2).最近では,二次挿入用の追加レンズ(Addonレンズ)も開発されている.球面度数と乱視度数だけではなく,回折構造を有した多焦点レンズもラインナップされている.今回は,白内障術後の屈折矯正誤差対策として,LASIKおよびAddonレンズを中心にその有用性を述べる.1.エキシマレーザーによるタッチアップa.LASIKかPRKかさまざまな基礎疾患を有する可能性がある高齢者に対して,角膜上皮の治癒過程が結果に大きな影響を及ぼすPRK(photorefractivekeratectomy)は選択しにくい.マイクロケラトームやフェムトセカンドレーザーを使用しないPRKは,比較的瞼裂の狭い高齢者には有利であるが,視力回復の早さや角膜上皮の回復状態に影響を受けないLASIKを第一選択としたいところである.そして「翌日に見える」LASIKは,とくに高齢者において,無用な不安を抱かせない手技として優れている.b.マイクロケラトームかフェムトセカンドレーザーか多くのタイプのマイクロケラトームは角膜上皮を擦過しながら角膜フラップを作製する.角膜上皮に接着不良などがある場合には,角膜上皮.離などによる不正乱視が遷延するケースもある.フェムトセカンドレーザーの場合,角膜上皮は圧平されたまま角膜フラップが作製できるので,上皮傷害を誘発する可能性は低い.白内障術後の屈折誤差には,近視性乱視のほかにも混合性乱視が相当数存在する.混合性乱視や遠視をLASIKにて矯正する場合,レーザーの照射径は大きく取る必要があり,大きな角膜フラップを正確に作製できるフェムトセカンドレーザーを使用したいところである.しかし,普及型のフェムトセカンドレーザーはサクションリングが比較的大きく,高齢者の瞼裂の小さい目には装着できないケースがあることが難点である.*HiroyukiArai:みなとみらいクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208横浜市西区みなとみらい2-3-5クイーンズタワーC8Fみなとみらいクリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(49)1277単焦点~3M3M~6M6M~12M多焦点12M~0%50%100%図1白内障手術からタッチアップまでの時期多焦点IOLを希望するケースは,良好な裸眼視力を求める傾向があるため,タッチアップの時期も単焦点IOLの群に比較して早いことがわかる.全症例1%15%61%22%●とても満足●満足●やや不満●不満図3満足度の分布ほぼ80%の症例にて満足が得られているが,やや不満・不満症例も存在し,今後の課題となり得ると思われる.c.WavefrontguidedLASIK現在のLASIKにおいては,術後のハロー,グレアといった視機能の低下を防ぐために,波面収差解析に基づくレーザーの照射が可能になっており,wavefrontguidedLASIKといわれている.最近のIOLには球面収差補正がなされているものもあるが,術後の全眼球収1278あたらしい眼科Vol.32,No.9,20150.90.90.930.830.940.810.850.820.820.80.890.870.840.480.530.480.46全例単焦点多焦点多焦点(近方)0.881.00.940.550.360.40.380.310.1術前1W1M3M6M1Y図2裸眼視力の経緯安定した結果が得られている.多焦点IOLの場合には近方裸眼視力も向上している.多焦点レンズでは6カ月以降に後発白内障に対するYAGレーザーを施行することが多いため,図のような変化を示した.差には個体差があり,同一規格の収差補正値では限界があると思われる.IOL眼に対するwavefrontguidedLASIKでは,手術によって誘発された高次収差も含めての矯正が可能であり,また虹彩紋理を認識して乱視軸を決定するシステムにより軸ずれもきわめて少ない.d.対象と結果対象は1年間の経過が観察可能であった95眼.そのうち単焦点は47眼,多焦点は48眼である.平均年齢は63.9歳であった.男性39人,女性56人であった.白内障術後のタッチアップまでの時期を図1に,裸眼視力の経過を図2に,満足度の分布を図3に示す.また,タッチアップ前後のコントラス感度の比較をレンズ種類ごとに図4に示す.2.AddonレンズによるタッチアップLASIKによるタッチアップは有効であるが,エキシマレーザーが必要なため一般の施設での普及には限界がある.一方,二次挿入用に開発されたいわゆるAddonレンズであれば,白内障手術に必要な設備があれば導入することができるため,広く普及する可能性は高いと思われる.現在,国内でおもに使用されているAddonレンズは,HumanOpthtics社製Addonレンズと1stQ社製AddOnRレンズがある.筆者がおもに使用している(50)のは1stQ社製AddOnRレンズであるため,そちらを中になっており,光学部はシリコーン製でループ部は心に述べることにする.PMMA(polymethacrylate)である(図5).球面レンa.HumanOpthtics社製Addonレンズの特徴ズ・乱視用レンズ・多焦点レンズ(乱視用あり)がライHumanOpthtics社製Addonレンズは3ピース構造ンナップされている.レンズ形状はどのタイプも同じでコントラスト感度の変化(グレアoff)全症例単焦点多焦点60.060.060.045.045.045.030.030.030.015.015.015.0000361218361218361218術前術後空間周波数図4タッチアップ前後のコントラスト感度の変化単焦点IOLに比べ多焦点IOLのコントラスト感度が低いことがわかる.多焦点IOLにおいては術後に低下傾向にはあるが,全症例・単焦点・多焦点ともタッチアップにより優位なコントラスト感度の低下を認めなかった.コントラスト感度図5HumanOphtics社製Addonレンズの外観乱視用レンズの外観である.球面レンズ・多焦点レンズも外観形状は同様である.ループの先端が凹凸になっており安定性を確保するデザインになっている.光学部はシリコーン,ループはPMMAである.(HumanOphtics社HPより抜粋)(51)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151279図61stQ社製AddOnRの外観独特の4つのリング状ループである.図は球面レンズである.乱視用レンズ・多焦点レンズの外観も同様である.レンズ素材は親水性アクリルである.図7AddOnRのループ部の動き大きさの異なる円周においてもループが変形することにより光学部の中心安定性を確保できるようになっている.図8AddOnRの製作範囲表白内障術後の屈折誤差に対しての矯正範囲としては十分なラインナップであるが,多焦点レンズにおける乱視用の開発が待たれるところである.あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151281(53)に示す.AddOnRの最大の特徴は,アクリルレンズであるため,.内での開き方が緩徐な点である.前房内のみでのレンズの展開はイメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要である.切開創は約3mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると前身する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下に入れることも可能で,ストレスなく手術を終了することができる.多焦点レンズは,加入度数が+3.0Dであり,中心部が3mmの回折構造をもつアポダイズレンズである.Alcon社製ReStoreRと同様の原理で作られている.1stQ社製AddOnRの成績を図9,10に示す.n数が少ないため傾向としてのデータであるが,裸眼視力・多焦点における近方視力の改善が認められることがわかる.今回の症例の中には,中等度以上の円錐角膜や角膜移植後も含まれており,そうした背景を考えると良好な成績であるといえよう.乱視矯正においても改善が認められ,残余乱視の矯正方法として効果的であることがわかる(図11).IILASIKかAddonレンズか矯正精度からいえばLASIKに軍配が上がるであろう.LASIKは0.5D程度の軽度の屈折異常にも対応できるという優位性ももっている.しかしLASIKでは,フラップトラブルや術後のドライアイなどの合併症に対する対応も念頭におかなければならない.RK(radialkeratotomy)後眼,円錐角膜眼,角膜移植後眼など,IOL計算が困難な場合などは,Addonレンズという選択肢があると非常に有用であろう3).術後の屈折誤差が比較的大きい場合には,Addonレンズで0.340.710.810.830.220.620.640.650.11.0術前1-Day1W1M遠方近方(多焦点)図9AddOnRの術後裸眼視力(n=9)術後の視力は安定して推移している.条件の厳しい症例としては良好な結果であった.-3.8-0.75-0.80-0.5-0.25-1-0.5-0.25-9-2.5-3case1case2case3case40-2.75-10-9-8-7-6-5-4-3-2-10術前1-Day1W1M図10AddOnR乱視用レンズの乱視度数の推移(n=4)手術翌日より安定した乱視矯正効果が得られていることがわかる.case4は角膜移植眼である.図11乱視用AddOnRの細隙灯顕微鏡写真角膜移植後眼の術後乱視に対して,乱視用AddOnRを挿入した.2-8時に見えるのがトーリックラインである.0.340.220.710.620.810.64遠方近方(多焦点)0.830.650.1術前1-Day1W1M図9AddOnRの術後裸眼視力(n=9)術後の視力は安定して推移している.条件の厳しい症例としては良好な結果であった.図11乱視用AddOnRの細隙灯顕微鏡写真角膜移植後眼の術後乱視に対して,乱視用AddOnRを挿入した.2-8時に見えるのがトーリックラインである.に示す.AddOnRの最大の特徴は,アクリルレンズであるため,.内での開き方が緩徐な点である.前房内のみでのレンズの展開はイメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要である.切開創は約3mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると前身する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下(53)0-0.8-0.5-0.750-0.25-1-2.5-3.8-3case1case2case3case4-90-0.25-0.5-1-2-2.75-3-4-5-6-7-8-9-10術前1-Day1W1M図10AddOnR乱視用レンズの乱視度数の推移(n=4)手術翌日より安定した乱視矯正効果が得られていることがわかる.case4は角膜移植眼である.に入れることも可能で,ストレスなく手術を終了することができる.多焦点レンズは,加入度数が+3.0Dであり,中心部が3mmの回折構造をもつアポダイズレンズである.Alcon社製ReStoreRと同様の原理で作られている.1stQ社製AddOnRの成績を図9,10に示す.n数が少ないため傾向としてのデータであるが,裸眼視力・多焦点における近方視力の改善が認められることがわかる.今回の症例の中には,中等度以上の円錐角膜や角膜移植後も含まれており,そうした背景を考えると良好な成績であるといえよう.乱視矯正においても改善が認められ,残余乱視の矯正方法として効果的であることがわかる(図11).IILASIKかAddonレンズか矯正精度からいえばLASIKに軍配が上がるであろう.LASIKは0.5D程度の軽度の屈折異常にも対応できるという優位性ももっている.しかしLASIKでは,フラップトラブルや術後のドライアイなどの合併症に対する対応も念頭におかなければならない.RK(radialkeratotomy)後眼,円錐角膜眼,角膜移植後眼など,IOL計算が困難な場合などは,Addonレンズという選択肢があると非常に有用であろう3).術後の屈折誤差が比較的大きい場合には,Addonレンズであたらしい眼科Vol.32,No.9,201512811282あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(54)また,追加レンズとしてのAddonレンズも開発され,特殊な装置がなくても術後屈折矯正が可能となってきた.比較的大きな屈折誤差が残り,何らの理由で入れ替えがリスクを伴う場合などには良い適応であろう.また,今まではIOLの交換という手段しか方法がなかったような,円錐角膜・角膜移植後といった症例に対するタッチアップ法として有用な手段である.Addonレンズでは多焦点レンズも開発されており,以前の白内障術後眼であっても多焦点化させることができる.新しいニーズの開拓となる可能性があり,今後の普及が期待されるところである.文献1)KimP,BrigantiEM,SuttonGLetal:Laserinsituker-atomileusisforrefractiveerroraftercataractsurgery.JCataractRefractSurg31:979-986,20052)PineroDP,EspinosaMJ,AlioJL:LASIKoutcomesfollow-ingmultifocalandmonofocalintraocularlensimplantation.JRefractSurg11:1-9,20093)ThomasBC,AuffarthGU,ReiterJetal:Implantationofthree-piecesiliconetoricadditiveIOLsinchallengingclin-icalcaseswithhighastigmatism.JRefractSurg29:187-193,2013の矯正がとくに効果的と考えられる.術後の経過観察のポイントも通常の白内障手術と同様であり,その点は術者にとってのストレスは少ないと考えられる.まとめ白内障手術の裸眼視力向上に対するオプションの一つとして,術後のLASIKによるタッチアップは有効な方法であると思われる.トーリックIOLの選択や術中のLRIなどの方法を施行しても,術後の屈折異常が残存し裸眼視力が不良なケースにおいては,最終的な手段ともなり得るであろう.「見え方」は「視力」という数字ではなく,感覚であり,術者が数値上ではわずかに思える乱視度数でも,「見え方」に対する不満を訴えるケースも多い.こうしたわずかな屈折誤差を矯正するには,現在の0.5DステップのIOL製作単位では限界がある.LASIKを中心とするエキシマレーザーにより,こうした微少な誤差をも矯正できる時代になってきている.多くの白内障術者に,LASIKによるタッチアップが,大きなリスクを伴わず有効な手段であることを認識していただければ幸いである.