特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1113.1116,2015特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1113.1116,2015近視性脈絡膜新生血管Anti-VEGFTherapyforMyopicChoroidalNeovascularization森山無価*笠原香織*大野京子*はじめに病的近視はとくにアジアで頻度が高く,またわが国でも多治見スタディでは近視性黄斑変性は失明原因の第1位1),Yamadaらの報告2)でも病的近視が失明の原因疾患として緑内障についで第2位である.病的近視はさまざまな合併症をきたすが,そのなかでも近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:近視性CNV)はとくに中心視力を著しく損なう疾患として社会的にも重要である.近年,近視性CNVに対して抗VEGF薬が用いられ,良好な成績が報告されている.本稿では近視性CNVに対する抗VEGF薬の治療について概説する.I近視性CNVの診断近視性CNVは強度近視患者の約10%に発生し,そのうち1/3の症例では僚眼にもCNVを生じる3).また,50歳以下でのCNVの原因としては約6割を占め,最多である4).眼底所見では黄斑部に多くは出血を伴う黄白色.灰白色の隆起性病変を認め(図1a),フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では早期から旺盛な蛍光漏出を呈し,いわゆるclassicCNVのパターンを呈する(図1b).また,インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)ではあまり過蛍光を呈さず,darkrimで囲まれた周囲とほぼ同輝度の蛍光を呈する.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)下からの病変を認め,滲出性変化も伴うことがある(図1c).II近視性CNVに対する抗VEGF薬による治療現在までに使用されてきた抗VEGF薬としては保険適用外治療としてベバシズマブ(アバスチンR),保険適用内治療としてラニビズマブ(ルセンティスR)とアフリベルセプト(アイリーアR)がある.1.ベバシズマブベバシズマブはVEGF-Aに対するマウスモノクローナル抗体を遺伝子組み換えによりヒト化した中和抗体である.近視性CNVに対する投与は保険適用外である.2006年の報告では,近視性CNVに対してベバシズマブの硝子体注入を行い,視力改善,網膜内浮腫や網膜下液の消失を得たとされている5).2.4年の経過でも視力改善が得られたという報告が多い6.8).2.ラニビズマブラニビズマブはVEGF-Aに対するマウスモノクローナル抗体からFabフラグメント(可変領域)を切り出して作製され,VEGFとの親和性が強くなるように一部遺伝子操作が行われている.分子量が小さいため,組織移行性に有利である一方,ヒトにおける硝子体半減期が*MukaMoriyama,KaoriKasaharaandKyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕森山無価:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(47)11131114あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(48)3.5回,PDT群3.2回であった.12カ月後ETDRSチャート視力のベースラインからの平均変化量は,I群で+13.8文字,II群で+14.4文字,PDT群で+9.3文字であった.他にも,3年間で平均7.6回のルセンティスR硝子体注射で,ETDRSチャート視力はベースライン55.4文字から63.4文字に有意に改善,35%の症例では15文字以上改善したという報告10)や,4年間で平均3.3回のルセンティスR硝子体注射で,ETDRSチャート視力が平均4.3文字改善したという報告がある7)3.アフリベルセプト(アイリーアR)アフリベルセプトはVEGF受容体とヒトIgG抗体から作製された遺伝子組換え融合糖蛋白質である.VEGF-AだけでなくVEGF-BとPlGFにも結合すること,また,分子量が大きいため硝子体半減期がラニビズマブに比較して長いことが特徴である.MYRROR試験11.13)(日本人90例を含む122例対象)では,アフリベルセプト投与群とコントロール群を比較して治療効果を比較している.アフリベルセプト投与群では初回にアフリベルセプト硝子体注射を行い,以降は基準を満たした場合に追加投与している.コントロール群では20週目までは偽薬を投与,24週目にアフリベルセプトを投与,以降も基準を満たした場合にアフリベルセプト追加投与している.24週目におけるETDRSチャート視力の平均変化量は,アフリベルセプト投与群で+12.1文字,コントロール群で.2.0文字であり,アフリベルセプト群のほうが良好な結果であった.さらに,48週目のETDRSチャート視力の平均変化量は,アフリベルセプト投与群で+13.5文字,コントロール群で+3.9文字とアフリベルセプト投与群のほうが有意に視力改善しており,早期治療の重要性が示唆されている.III抗VEGF薬の投与方法筆者らの施設ではベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトの投与の際は,下記の方法をとっている.初回投与1カ月後において,FAGで漏出がある場合や,OCTで滲出性変化の残存あるいは増加が認められた場合は,追加投与を行う.CNVの鎮静化を確認するベバシズマブと比べて短い.RADIANCE試験9)(日本人50例を含む277例対象)では,初回と1カ月後にラニビズマブ硝子体注射を行い,以降は視力低下があった場合に追加投与するI群と,初回にラニビズマブ硝子体注射を行い,以降はCNVの活動性によって追加投与するII群と,PDT群とを比較した.12カ月間での平均投与回数はI群4.6回,II群abc図1活動期の近視性CNVa:黄斑部を挟んで鼻側および耳側に灰白色の病巣を認める.b:同症例の後期FA像.旺盛な色素漏出を認める.c:同症例のOCT.網膜色素上皮上のCNVと周囲に滲出性網膜.離を認める.abc図1活動期の近視性CNVa:黄斑部を挟んで鼻側および耳側に灰白色の病巣を認める.b:同症例の後期FA像.旺盛な色素漏出を認める.c:同症例のOCT.網膜色素上皮上のCNVと周囲に滲出性網膜.離を認める.あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151115(49)acbd図2抗VEGF薬投与によって完全消失を得た近視性CNVの症例58歳,女性.眼軸長30.8mm.a,b:抗VEGF療法前,c,d:抗VEGF療法後.a:傍中心窩に出血を伴う近視性CNVを認める.矯正視力は(0.3).b:造影剤注入後1分34秒のFA写真.CNVからの旺盛な蛍光漏出を認める.c:ベバシズマブ硝子体注射2年経過後の眼底写真.CNVは完全に消失.矯正視力は(0.8).d:造影剤注入後2分57秒のFA写真.FAでもCNVは同定できない.(土屋香,森山無価,大野京子:近視性脈絡膜新生血管(CNV)に対する抗VEGF薬.あたらしい眼科30:357-358,2013より引用)ab図3近視性CNV治療後に網脈絡膜萎縮を生じた症例79歳,女性.眼軸長26.6mm.中心窩に出血を伴う大きな近視性CNVを認めた症例のベバシズマブ硝子体注射4年後の眼底写真.CNVの瘢痕化を得られたものの,残存したCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ,矯正視力は初診時(0.06)から4年後(0.07)と改善はみられない.acbd図2抗VEGF薬投与によって完全消失を得た近視性CNVの症例58歳,女性.眼軸長30.8mm.a,b:抗VEGF療法前,c,d:抗VEGF療法後.a:傍中心窩に出血を伴う近視性CNVを認める.矯正視力は(0.3).b:造影剤注入後1分34秒のFA写真.CNVからの旺盛な蛍光漏出を認める.c:ベバシズマブ硝子体注射2年経過後の眼底写真.CNVは完全に消失.矯正視力は(0.8).d:造影剤注入後2分57秒のFA写真.FAでもCNVは同定できない.(土屋香,森山無価,大野京子:近視性脈絡膜新生血管(CNV)に対する抗VEGF薬.あたらしい眼科30:357-358,2013より引用)ab図3近視性CNV治療後に網脈絡膜萎縮を生じた症例79歳,女性.眼軸長26.6mm.中心窩に出血を伴う大きな近視性CNVを認めた症例のベバシズマブ硝子体注射4年後の眼底写真.CNVの瘢痕化を得られたものの,残存したCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ,矯正視力は初診時(0.06)から4年後(0.07)と改善はみられない.(49)あたらしい眼科Vol.32,No.8,201511151116あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(50)visualimpairmentintheadultJapanesepopulationbycauseandseverityandfutureprojections.OpthalmicEpi-demiol17:50-57,20103)Ohno-MatsuiK,YoshidaT,FutagamiSetal:Pathyatro-phyandlacquercrackspredisposetothedevelopmentofchoroidalneovascularizationinpathologicmyopia.BrJOphtalmol87:570-573,20034)CohenSY,LarocheA,LeguenYetal:Etiologyofchoroi-dalneovascularizationinyoungpatients.Ophthalmology103:1241-1244,19965)LaudK,SpaideRF,FreundKBetal:Treatmentofcho-roidalneovascularizationinpathologicmyopiawithintra-vitrealbevacizumab.Retina26:960-963,20066)OishiA,YamashiroK,TsujikawaAetal:Long-termeffectofintravitrealinjectionofanti-VEGFagentforvisu-alacuityandchorioretinalatrophyprogressioninmyopicchoroidalneovascularization.GraefesArchClinExpOph-thalmol251:1-7,20137)Ruiz-MorenoJM,AriasL,MonteroJAetal:Intravitrealanti-VEGFtherapyforchoroidalneovascularizationsec-ondarytopathologicmyopia:4-yearoutcome.BrJOph-thalmol97:1447-1450,20138)PeirettiE,VinciM,FossarelloM:Intravitrealbevacizum-abasatreatmentforchoroidalneovascularizationsecond-arytomyopia:4-yearstudyresults.CanJOphthalmol47:28-33,20129)WolfS,BalciunieneVJ,LaganovskaGetal:RADI-ANCE:Arandomizedcontrolledstudyofranibizumabinpatientswithchoroidalneovascularizationsecondarytopathologicmyopia.Ophthalmology121:682-692,201410)FranqueiraN,CachuloML,PiresIetal:Long-termfol-low-upofmyopicchoroidalneovascularizationtreatedwithranibizumab.Ophthalmologica227:39-44,201211)StemperB:バイエル薬品社内資料[24週,日本人を含む第III相国際共同試験].201312)AsmusF:バイエル薬品社内資料[48週,日本人を含む第III相国際共同試験].201413)IkunoY,Ohno-MatsuiK,WongTYetal:MYRRORInvestigators.Intravitrealafliberceptinjectioninpatientswithmyopicchoroidalneovascularization:TheMYRRORStudy.Ophthalmology122:1220-1227,201514)HayashiK,ShimadaN,MoriyamaMetal:Two-yearout-comesofintravitrealbevacizumabforchoroidalneovascu-larizationinJapanesepatientswithpathologicmyopia.Retina32:687-695,2012までは1カ月ごとに診察を行い,その後は診察間隔を徐々にあけていくが,前述のように1/3の症例で両眼にCNVが発症する3)ため,半年に1回程度の定期診察を行い慎重に経過観察することが必要である.再発を繰り返す場合や,効果が不十分の場合には,抗VEGF抗体製品の変更を検討する.IV今後の課題いずれの抗VEFG薬の報告でも短期的には近視性CNVに対する治療効果は良好である.しかしながら,近視性CNVの治療においてもっとも重要なのはCNVの退縮だけではなく,CNV退縮後に生じる網膜脈絡膜萎縮である.中心窩外のCNVは抗VEGF療法によってCNVが完全に消失する症例がある(図2).このような症例では長期に経過観察しても網膜脈絡膜萎縮が生じず,根治が得られる.一方,中心窩下のCNVでは治療によりCNVは収縮するが,線維性瘢痕組織として残存することが多い.長期的にはこの瘢痕化したCNV周囲に網膜脈絡膜萎縮が生じ(図3),視力低下の原因となりうる14).今後,長期的治療効果の報告が待たれる.おわりに抗VEGF薬によって近視性CNVの治療は飛躍的に進歩した.以前は治療法がなく,徐々に視力が低下していく経過をみるだけであったが,現在は少なくとも短期的には視力の維持,改善が得られている.しかしながら,網脈絡膜萎縮の発生という課題があり,今後はこの課題に対する新たなアプローチが必要と思われる.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20062)YamadaM,HiratsukaY,RobertsCBetal:Prevalenceof