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ウサギ赤血球を用いたベンザルコニウム塩化物の傷害性評価とセリシンによる保護効果

2014年5月31日 土曜日

《第33回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科31(5):729.732,2014cウサギ赤血球を用いたベンザルコニウム塩化物の傷害性評価とセリシンによる保護効果長井紀章*1藤田裕美*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室PreventiveEffectofSericinonBenzalkoniumChlorideStimulationofRabbitRedBloodCellsNoriakiNagai1),HiromiFujita1),YoshimasaIto1),NorioOkamoto2)andYoshikazuShimomura2)1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine筆者らはこれまで,点眼用保存剤ベンザルコニウム塩化物(BAC)とセリシンを併用することで,長期連続使用可能で安全な点眼用保存剤になりうることを報告してきた.本研究では,ウサギ赤血球を用いた細胞傷害評価モデルにより,セリシンでBAC細胞傷害軽減効果について検討を行った.BAC単独処理群では,10μg/mlBAC処理で溶血率は90.1%となったが,セリシン添加によりBACの溶血作用は軽減され,10μg/mlBAC溶液に0.5%セリシンを併用処理した際の溶血率は17.5%であった.また,セリシンによるBAC細胞傷害軽減作用は濃度依存的に増加した.これら結果とは異なり,セリシンで30分間前処理したものでは,BAC刺激に伴う溶血に対し保護効果を示さなかった.以上,セリシン併用処理によるBACの細胞傷害抑制機構の一つに,刺激に対する細胞膜保護が起因することを明らかとした.Wepreviouslyreportedthattheadditionofsericindecreasesthecornealdamagecausedbybenzalkoniumchloride(BAC),andthatapreservativesystemcomprisingBACandsericinprovideseffectivetherapyforpatientsrequiringlong-termeyedroptreatment.Inthepresentstudy,weinvestigatedthepreventiveeffectofsericinonBACstimulationofrabbitredbloodcells.Thehemolysisrateinredbloodcellswas90.1%after10μg/mlBACstimulationfor1h.Weadded0.5%sericintoaffecttherateofhemolysisbyBACstimulation;thehemolysisrateundercombinationtreatmentwith10μg/mlBACand0.5%sericinwas17.5%.Inaddition,thepreventiveeffectofsericinincreasedwithsericinconcentration.Ontheotherhand,thepreventiveeffectagainstBACstimulationwasnotobservedwithsericinpretreatmentfor30min.Theseresultsshowthattheadditionofsericinenhancescellmembranetolerance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):729.732,2014〕Keywords:セリシン,ベンザルコニウム塩化物,ウサギ赤血球,細胞傷害,保存剤.sericin,benzalkoniumchloride,rabbitredbloodcells,cellstimulation,preservative.はじめに眼科領域における薬物療法の中心は点眼薬である.点眼薬の多くは,全身投与薬としてすでに開発されている薬物を点眼薬として製剤化することで開発されてきた.しかし点眼薬の主成分となる薬物(主剤)のみでは点眼薬は製剤として成り立たず,これに製剤設計上必要な薬剤(添加剤)が加えられ初めて製剤となる1).したがって製剤学的観点から点眼薬について考える際には,その点眼薬に含まれる添加剤の種類,添加目的(効果),傷害性(副作用)についても常に考慮しなければならない.一般的に点眼薬には保存剤〔ベンザルコニウム塩化物(BAC)など〕,等張化剤(塩化ナトリウム,ホウ酸,グリセリンなど),緩衝剤(リン酸緩衝液,ホウ酸など),また必要であれば,界面活性剤(ポリソルベート80など),安定化剤〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)729 〔エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など〕,粘稠化剤〔ポリビニルアルコール(PVA),ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロースなど〕などが含まれる1).これら添加剤のなかでも保存剤は,二次汚染を防止し安全に使用するために必要不可欠である.特に,BACは眼科領域において代表的な保存剤であり,パラベン類やクロロブタノールなどの他の保存剤と比較し保存効力が高く,水溶性で化学的にも安定であり,扱いやすいことから点眼薬領域の約7割で使用されている2).しかしながら,BACは細胞傷害性を有し,長期使用により薬剤性角膜上皮傷害がみられることから,近年臨床において問題視されている.このような背景から,点眼回数を減らすなどBAC曝露量を減らすといった試みがなされているが,長期にわたり多剤併用を必要とする眼疾患治療(緑内障など)においては,これらの対策はむずかしいのが現状である3,4).また,近年ではBACを含有しないポリクォッド(塩化ポリドロニウム)およびSofZia(塩化亜鉛,ホウ酸を含むソルビトール緩衝剤保存システム)をそれぞれ保存剤として用いたデュオトラバRやトラバタンズRのような製剤が開発・市販されているが5),上記保存システムはBACと比較し保存効力が低いため,欧米など日本以外の国々では使用が認可されていないのが現状である.一方,微生物の侵入を防ぐ特殊な容器を使用した保存剤非含有製剤も市販されているが,使用法およびコスト面で問題があるため,BACを基盤とした目に優しい点眼用保存システムの開発が切望されている.筆者らはこれまで,カイコ繭由来の絹タンパク質であるセリシンに注目し,セリシンとBAC併用による点眼用保存システム(BAC/セリシン保存システム)が,目に優しく長期連続使用可能な保存剤の開発へ有用であることを報告してきた6).今回,このBAC/セリシン保存システムの細胞傷害保護機構を明確にすべく,ウサギ赤血球モデルを用い,セリシンのBAC細胞傷害保護効果について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には2.5.3.0kg日本白色種雌性ウサギを用いた.これらウサギは25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CR-3,日本クレア)および水は自由に摂取させた.動物実験は,近畿大学実験動物規定に従い行った.2.試薬セリシン(30kDa)はセーレン(株)から供与されたものを用いた.BACおよびヘパリンナトリウムは和光純薬,リン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco’sPhosphateBufferedSaline:PBS)はGIBCOから購入したものを用いた.3.ウサギ赤血球標品の調製ウサギ耳静脈より採血した血液1mlと100μlヘパリン730あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(10mg/ml)を混和後,遠心分離(3,000rpm,37oC,5min)を行った.その後上清を捨て,沈殿とPBSが1:3となるようにPBSを加え,さらに遠心分離(2,000rpm,37oC,5min)を行い,沈殿の回収を行った.これら洗浄操作を2回繰り返したものを赤血球標品として本実験に用いた.陽性対照とした完全溶血赤血球は,精製水2mlに赤血球標品40μlを添加することで作製した.4.浸透圧刺激に伴う溶血率変化の測定上記方法中「3.ウサギ赤血球標品の調製」にて示した赤血球標品40μlを0.1.0.5%セリシン含有または非含有の食塩水(125.215mOsm)2ml中に加え,37oCにて1時間インキュベートを行った.その後,遠心分離(2,300rpm,37oC,5min)にて上清を採取し,576nmにおける吸光度の測定をすることで浸透圧刺激に伴う溶血率変化を示した.また,セリシン前処理時には,赤血球標品を0.1.0.5%セリシン含有または非含有の生理食塩水にて30分間インキュベート後,生理食塩水にて洗浄を行い,上記に示した125.215mOsm食塩水により浸透圧刺激を行った.本研究では,処理後の溶血率(%)を次式(1)により算出した.溶血率(%)=(試験液吸光度.空試験吸光度)/(陽性対照吸光度.空試験吸光度)×100(1)5.BAC処理に伴う溶血率変化の測定上記方法中「3.ウサギ赤血球標品の調製」にて示した赤血球標品40μlを0.1.0.5%セリシンおよびBAC含有または非含有の生理食塩水(BAC濃度,8.12μg/ml)2ml中に加え,37oCにて1時間インキュベートを行った.その後,遠心分離(2,300rpm,37oC,5min)にて上清を採取し,576nmにおける吸光度の測定をすることでBAC刺激に伴う溶血率変化を示した.また,セリシン前処理時には,赤血球標品を0.1.0.5%セリシン含有または非含有の生理食塩水にて30分間インキュベート後,生理食塩水にて洗浄を行い,上記に示した8.12μg/mlBACにより刺激を行った実験に用いた.処理後の溶血率(%)算出には上記式(1)を用いた.6.統計学的処理実験結果は平均値±標準誤差(SE)で表した.有意差検定はJAMVer.5.1(日本SAS協会)コンピュータプログラムを用いて行った.各々の実験値はDunnettの多群間比較により解析した.また,本研究ではp値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.セリシンによるBAC細胞傷害保護効果図1は浸透圧変化に伴う溶血性変化とセリシンの保護効果を示す.等張時,赤血球の溶血はみられなかったが,浸透圧を下げていくことで溶血が認められた.これら溶血は200mOsm以下でみられ,140mOsmではほぼ完全に溶血した(104) 100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)Osmoticpressure(mOsm)A:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)B:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin************100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)Osmoticpressure(mOsm)A:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin100806040200125140155170185200215Hemolyticratio(%)B:Saline:0.1%sericin:0.25%sericin:0.5%sericin************Osmoticpressure(mOsm)図1セリシン前処理(A)または併用処理(B)が浸透圧変化による赤血球の溶血へ与える影響平均値±標準誤差,n=5.6,*p<0.05,vs.Saline.(図1A).一方,セリシンを併用処理することで,これら赤血球溶血の保護効果がみられ,155mOsmの条件下0.5%セリシン併用処理群の溶血率は16.3%であり,非処理群と比較し有意に低値を示した(図1B).図2はBAC刺激に伴う溶血性変化とセリシンの保護効果を示す.BAC刺激により溶血が認められ,8μg/mlBAC刺激による溶血率は23.3%,10μg/mlBAC刺激では90.1%であった.セリシン併用処理はBAC刺激に対しても細胞傷害保護効果を示し,8μg/mlBAC刺激時では溶血はほとんど認められず,10μg/mlBAC刺激時における非処理群のそれの17.5%であった.また,浸透圧変化およびBAC刺激時におけるセリシンの保護効果は濃度依存的であった.これらセリシン併用処理実験の結果とは異なり,セリシンを30分間前処理したものでは,浸透圧およびBAC刺激に伴う溶血に対し保護効果を示さず,今回用いたいずれの濃度においても,溶血挙動に差はみられなかった(図1Aおよび図2A).III考按セリシンは,絹糸原糸タンパク質の約20%を占める主要成分である.従来,セリシンは絹糸精製(精練)段階で廃棄されてきた物質であったが,保湿性や抗酸化能をもつことが明らかとなり,近年では産業資材や化粧品などに利用されて(105)100806040200Hemolyticratio(%)A:Saline■:0.1%sericin■:0.25%sericin■:0.5%sericin89101112BACconcentration(mg/ml)10080604020089101112Hemolyticratio(%)B:Saline■:0.1%sericin■:0.25%sericin■:0.5%sericin************BACconcentration(mg/ml)図2セリシン前処理(A)または併用処理(B)がBAC刺激による赤血球の溶血へ与える影響平均値±標準誤差,n=5.8,*p<0.05,vs.Saline.いる7).また,皮膚炎などのアレルギー防止作用を有することも見出され,生物化学領域においても注目されている8,9).筆者らもこれまで,このセリシン溶液点眼により角膜傷害治癒促進効果がみられ,1.5%のセリシン溶液が角膜傷害治療薬として有用であることを見出してきた10).さらに,BACとセリシン併用によりBACの角膜傷害性が緩和され,0.1%のセリシンを用いることで,目に優しく長期連続使用可能な保存剤の開発に繋がる可能性を報告してきた6).本研究では,点眼用保存剤BACとこのセリシンからなるBAC-セリシン点眼用保存システムの開発研究として,ウサギ赤血球モデルを用い,セリシンのBAC細胞傷害保護効果について検討を行った.赤血球は,両面中央が凹んだ円盤状の形をしており,核を持たないことから細胞分裂などを行わないのが特徴である.このため,赤血球を用いることで,薬剤自身の直接的な刺激性やそれに対する保護作用の評価が可能である.そこで今回,この赤血球モデルを用いて浸透圧およびBAC刺激に対するセリシンの細胞保護効果を評価した.まず,浸透圧刺激に対するセリシンの細胞保護効果を検討したところ,等張時,赤血球の溶血はみられなかったが,浸透圧を下げていくことで溶血が認められた.また,セリシンを併用処理することで,赤血球溶血の保護効果がみられ,これら保護効果は濃あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014731 度依存的であった.点眼用保存剤として用いられるBAC刺激に対するセリシンの細胞保護効果を検討したところ,本実験条件において,7μg/ml以上のBAC刺激により溶血が認められ,8μg/mlBAC刺激時の溶血率は23.3%,10μg/mlBAC刺激では90.1%の溶血率であった.さらに,浸透圧刺激と同様,セリシン併用処理はBAC刺激に対しても細胞傷害保護効果を示し,8μg/mlBAC刺激時では溶血はほとんど認められず,10μg/mlBAC刺激では非処理群のそれの17.5%であった.また,BAC刺激に対してもセリシンによる保護効果は濃度依存的であった.これらの結果から,セリシンはBACだけでなく,浸透圧などの外部刺激に対しても細胞保護効果を有し,併用処理により細胞傷害を有する点眼製剤の毒性軽減に有用であることが示唆された.一方,セリシンを前処理した際には,浸透圧およびBAC刺激に対するセリシンの保護効果はみられず,セリシン前処理群と未処理群間で浸透圧,BAC刺激に対し同様の溶血性を示した.これら前処理によりセリシンの細胞保護効果が得られなかった理由として,セリシンによる保護効果が細胞膜の活性化によるものではなく,刺激因子に対する直接的な抵抗性増加に起因するためと考えられた.筆者らはこれまで,目に優しく長期連続使用可能な保存剤の開発を目指した研究にて,invivoおよびinvitro細胞傷害性評価実験系を確立し11,12),BACへのセリシン添加が,BAC本来の使用目的である保存効果,主薬の角膜透過性亢進能および主薬の薬効に対し影響を及ぼさないことを報告してきた6).これら以前および今回の結果から,BAC/セリシン点眼用保存システムはBACの角膜上皮傷害性を抑制するとともに,点眼用保存剤として十分な高い保存効力を有し,主成分の角膜透過性および薬効に影響を及ぼさず,またBACの細胞傷害抑制機構の一つに,セリシンの膜保護能が関わっているものと考えられた.本報告は目に優しく長期連続使用可能な保存剤を開発するうえで有用であるものと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)川嶋洋一:点眼薬の設計思想.眼科NewInsight第2巻点眼薬─常識と非常識─(木下茂ほか).p6,メジカルビュー社,19942)WhitsonJT,VarnerDL,NetlandPA:Glaucomadrugsandtheocularsurface.RevOphthalmol11:69-77,20063)PisellaPJ,PouliquenP,BaudouinC:Prevalenceofocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservativefreeglaucomamedication.BrJOphthalmol86:418-423,20024)JaenenN,BaudouinC,PouliquenPetal:Ocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservative-freeglaucomamedications.EurJOphthalmol17:341-349,20075)湖崎惇,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績眼表面への影響.あたらしい眼科26:101-104,20096)NagaiN,ItoY,OkamotoNetal:Decreaseincornealdamageduetobenzalkoniumchloridebytheadditionofsericinintotimololmaleateeyedrops.JOleoSci62:159166,20137)DashR,AcharyaC,BinduPCetal:Antioxidantpotentialofsilkproteinsericinagainsthydrogenperoxide-inducedoxidativestressinskinfibroblasts.BMBRep41:236241,20088)TsubouchiK,IgarashiY,TakasuYetal:Sericinenhancesattachmentofculturedhumanskinfibroblasts.BiosciBiotechnolBiochem69:403-405,20059)TeradaS,NishimuraT,SasakiMetal:Sericin,aproteinderivedfromsilkworms,acceleratestheproliferationofseveralmammaliancelllinesincludingahybridoma.Cytotechnology40:3-12,200210)NagaiN,MuraoT,ItoYetal:EnhancingeffectsofsericinoncornealwoundhealinginOtsukaLong-EvansTokushimaFattyratsasamodelofhumantype2diabetes.BiolPharmBull32:1594-1599,200911)NagaiN,MuraoT,OeKetal:Invitroevaluationforcornealdamagesbyanti-glaucomacombinationeyedropsusinghumancornealepithelialcell(HCE-T).YakugakuZasshi131:985-991,201112)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcornealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailablelatanoprostandtravoprostinratdebridedcornealepithelium.JOleoSci59:135-141,2010***732あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(106)

My boom 28.

2014年5月31日 土曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第28回「難波広幸」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第28回「難波広幸」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介難波広幸(なんば・ひろゆき)山形大学医学部眼科学講座私は山形大学を卒業後,そのまま山形大学病院で2年間の初期研修を受け,山形大学眼科に入局しました.出身も山形県内なので,生粋の山形人ということになります.姓は「なんば」ですが,関西出身ではありません.ちなみに「難波」姓ですが,全国的には岡山県が断トツに多く(2,684世帯),山形県(274世帯)は4位となっております(電話帳調べ).その山形県274世帯のうち216世帯は私の出身地である山形県鶴岡市在住です.これは岡山県の3市町村に次ぐ世帯数であり,山形県鶴岡市はまさに「難波」の東のメッカといえるでしょう.完全に話がずれましたが,入局後は学位を修め,山下英俊教授のご厚意の元,前眼部・角膜分野を担当して角膜移植から感染,ドライアイまで広く診療を行っています.臨床のMYboom:「稀少症例と羊膜移植,学外連携」当教室では前眼部の担当医師が少なく,難症例はほぼお鉢が回ってきます.その中で世界的にも報告が少ない,珍しい症例に出会うことがここ数年,稀にあります.珍しいということ以上に,以前の自分であればその珍しさに気づかなかった症例もあり,成長を感じられるという意味で貴重な機会です.そして症例報告の準備をすることで,周辺疾患を含めて知識を深めることができますので,そこまで含めてmyboomといえるかもしれ(95)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYません.またそういった紹介が増えたことも,前眼部専門医として県内で認知されてきた証であると嬉しく思っています.手術面では,羊膜移植を積極的に行っています.もちろん誰にでもというわけではなく,再発翼状片手術や結膜.の形成,角膜穿孔への対処など,他の治療と比較して優位性があると思われる場合です.その中でも山形県では,夏季に外傷,とくに草刈り機使用時の異物飛入による眼球穿孔が多くみられます.直接縫合や角膜移植での対応が必要になることもありますが,症例によっては羊膜移植のほうが励起乱視も大きくなく,望ましい場合もあります.角膜穿孔に対しての手術法については,雑誌に報告もさせていただきました.今年度から羊膜移植が保険適用になるということもあり,全国的な標準を意識しながら,症例を選んで今後も行っていこうと思います.繰り返しになりますが,当教室では前眼部の担当医師が少ないため,必然的に学会での情報収集,外部の先生との情報交換が重要になります.学会参加のほか,施設見学に行くこともありますし,最近はFacebookも活用しています.そして山下教授の人脈により,いろいろな先生方とお話しさせていただくことができました.やはり今考えるに,眼科入局を決めていた臨床研修2年目に,歩いてきた教授に「難波くーん,角膜やってみない?」と軽い口調で提案されたことが,私のターニングポイントであったことは疑いようがありません.今後は,角膜パーツ移植など今まで山形県で行われていない手術の導入もしていく必要があり,外部の先生方との交流がますます重要になると思います.研究のMyboom:「疫学統計」山形大学では「舟形町研究」として内科と共同で住民あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014721 写真1良き仲間,ライバルである同年代の先生方(京都府立大・加藤先生,富山大・宮腰先生)と健診を行っておりまして,私の現在の研究面での取り組みは,その検査データの統計解析をすることです.具体的には屈折,乱視ベクトル,高次収差に影響する年齢とそれ以外の眼科的・内科的検査所見の解析を行っています.加齢により倒乱視化が進むことはよく知られていますが,これまでの解析により,角膜・全眼球ともに高齢になるほど,その後の乱視量がより大きく変化することが示されました.また,年齢により全眼球,角膜の高次収差が増大することが示されています.これらは元の乱視量や屈折,眼軸長などの因子にかかわらず,独立して示されました.逆に年齢以外に関連する因子として乱視の変化量については眼軸長や角膜厚,血清アルブミン値など,高次収差については角膜厚などの他に,体重や血清クレアチニン値の関連も示されました.こういった解析は自分の実績という意味もありますが,統計上での収差データの取り扱い方とその歴史,統計解析法について学ぶことができたのが,いい経験になっていると思います.今後は経時変化についてさらに解析をすることと,臨床データに応用することを検討しています.プライベートのMyboom:「旧交」毎日の仕事に追われて連絡が途切れがちでしたが,最近,旧交を温めることがmyboomになっています.きっかけは母校である小学校が,合併に伴って移転することが決まったことです.懐かしい校舎を写真に残しておきたくなり,友人と見学会を企画したところ,発案者と写真2鶴岡市立朝暘第四小学校・校舎見学会にて(上段左が筆者)いうことで実行委員長に祭り上げられました.といっても私は事務能力が皆無に等しいですので,細かいプランニングは友人がすることになりましたが.多くの同級生に連絡し,見学会とその後の食事会は好評のうちに終了しましたが,その際の連絡に活用したのがFacebookやLINEです.今回数十人をグループ化することができたので,今後の同窓会などの連絡が楽になりましたし,十数年会わなかったような友人とも気楽に会話できるようになりました.その他に,今年は全国に散らばった大学時代の悪友たちとの再会を画策しています.われわれくらいの年齢になると結婚式の嵐が落ち着いて,会う機会も激減しています.お互い忙しい身なのでなかなか予定が合いませんが,ある程度(学生時代のように)強引に皆をまきこんで,定期的に会えるようなシステムを構築したいと思っています.次回のプレゼンターは京都府立医科大学の加藤弘明先生です.加藤先生には学会でお会いするたびに仲良くしていただいて,お世話になっています.横井則彦先生の元で,次世代のドライアイの鬼として研鑽を積まれています.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.722あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(96)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 17. Dr. Jin H. Kinoshitaとの出会いNIHで学んだこと

2014年5月31日 土曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑰責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑰責任編集浜松医科大学堀田喜裕Dr.JinH.Kinoshitaとの出会いNIHで学んだこと田中孝男(TakaoTanaka)エビスクリニック眼科,東京医科大学眼科客員教授1984年東海大学医学部卒業.1984年東京医科大学眼科学教室入局.1986年米国国立衛生研究所NIH,米国国立眼研究所NEIに留学.1988年東京医科大学眼科学教室助手.1994年東京医科大学八王子医療センター眼科講師.1997年東京医科大学眼科学教室講師.2001年厚生中央病院眼科部長,東京医科大学派遣助教授.2009年東京医科大学八王子医療センター眼科教授,東京薬科大学客員教授.2012年エビスクリニック眼科院長,東京医科大学客員教授,現在に至る.●はじめに★89歳でご逝去されたDr.Kinoshitaに心から追悼の意を表したいと思います.先生はNIH(NationalInstututesofHealth),NEI(NationalEyeInstitute)の職員にきわめて平等に接する方でした.お仕事は米国のみならず世界的に大変幅広いものでしたが,眼科・視覚領域の研究における日米交流の発展にはことのほか情熱を傾けてくださいました.私は,そのお心遣いの下に,そして米国の人びとの支えを受けて学ばせていただいた一人に過ぎませんが,先生のご逝去に接して,先生の優しいお人柄を思い出しながら,心から追悼の気持ちを捧げたいと思います.●出会い★研修医を終了したばかりの1986年8月,NIHに到着した5日目,NEIを運営する事務所でDr.Kinoshitaと出会います.2年間の初期臨床研修を終えたばかり,研究実績に乏しかった私でしたが,Dr.IgalGeryが主宰するLaboratoryofExperimentalImmunologyのsectionにGuestResearcherとして着任いたしました.この身分は,自前で留学する身分で,日本から持参した所持金がつきれば帰国せざるを得ない立場です.学位を持っていなかった私には,公的奨学金の申請には制限がありました.生活してゆくため,私的な奨学金に期待するしかありません.企業からの支援に応募すべく,書類をもらいにNIHの広いキャンパス内の,NEIを管理する人事課のような事務所を訪ねました.秘書さんと奨学金の種類や応募資格を確かめていますと,白いシャツの初老の東洋人が通りかかり私を呼びと(93)めたのです.英語力の乏しかった私は,その方が発した名前を良く聞き取れず,誰なのか十分認識できないまま,わかったふりをしながら挨拶を交わし「日本から眼免疫を学びに来たが生活費が必要なので奨学金に応募したいと思う.企業からの支援に応募したくて,募集内容を調べています」と申し述べました.すると「僕は昨日,名古屋で催されたICERから帰ったところだよ.楽しい会だった.お金のことは心配するな」といい,その場で秘書さんになにか一言伝えて立ち去ったのでした.申請書の入れられた厚いファイルを閉じながら「おめでとう」と私に告げる秘書さん.キョトンとしている私には,米国政府からfellowshipが降りたことを理解するには少々時間がかかりました.これがDr.Kinoshitaとの出会いでした.その年の11月から初任給1,500ドルをいただきました.通貨が自由化してまだ間もない,1ドル約300円を超えていた時代です.日本で月3万円の給料を大学から支給されていた私にとって破格の待遇で,安定した留学を送れたのはいうまでもありませんし,この出会いがなかったら早々に帰国し,私は別の道を歩んでいたでしょう.●留学のきっかけ★医師国家試験に合格した後,数年眼科を学び故郷に帰ろうと考えていた私は,ご縁があって松尾治亘教授が主宰されていた東京医科大学眼科学教室の門を叩きました.入局後,助教授だった臼井正彦先生(現同大学理事長・学長,眼科学教室名誉教授)が始めた眼免疫の研究を臨床の合間に手伝わせていただくことになります.先生がパリ大学時代から続けられてきた実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎やぶどう膜炎の発症機序の研究に興味をあたらしい眼科Vol.31,No.5,20147190910-1810/14/\100/頁/JCOPY 覚たからでした.網膜S抗原に関する仕事や眼免疫との出会いです.その後,高野繁先生(現日本眼科医会会長)がパリから教室に持ち帰ったものの,当時用いられていたモルモットに接種しても炎症を眼に惹起しないため手つかずであった,もう一つの網膜の蛋白(A抗原)に関する仕事をテーマに与えられます.その頃NIHでは,生化学的視点からDr.Chaderの下,視細胞間質でretinolと結合しvitaminA代謝にかかわるIRBP(interphotoreceptorretinoid-bindingprotein)に関する研究が精力的になされ注目されていました.免疫学的には望月學先生(東京医科歯科大学名誉教授)とDr.Gery(のちの上司)がこの蛋白をラットに接種してEAUの発症にも成功されていたのです.米国そしてフランスと日本で,それぞれ異なる観点からたどり着いていたIRBPとA抗原という網膜蛋白が同一ではないかという仮説を検証する仕事がご縁で,東京医科大学の諸先生方や東京大学に戻られていた望月先生のお力添えをいただきNEIに留学する機会を私は得ました.●NEIでの学び★「学ぶ」という言葉には,1.勉強する,2.学問をする,3.知識や技を習得する,4.経験し知る,5.まねをする,という複数の意味が含まれるのではないかと思います.答えが用意されていて,正解を点数化される「勉強」は苦手だった私でしたが,NIHに在籍した2年間に,独身の自由さと米国という異文化の中で,加えて日本からの優秀な日本人留学生の先生方に囲まれて眼科学の研究や考え方,医学・生命科学領域における倫理感を教わったように思います.研究面に関しては,答えのない問題をみつけ,仮設をさまざまな方法で検証し正解にたどり着こうとする「学問」の手順を,NIHのエキスパートたちをマネすることで学ばせていただいたように思います.毎週金曜日の朝,Dr.CoganとDr.Kuwabaraの主催するNEIpathologicalconferenceにはDr.Kinoshitaも加わり,多彩なゲスト,例えばWisconsin通りを隔てた海軍病院にあるAFIP(AmericanForcedInstitutePathology)のスタッフやZimmermann先生たちを混じえて熱いdiscussionが繰り広げられ,当時の私にとっては大変に刺激的でした.生活の中ではDr.Kinoshitaは率先してNEIGolfTournamentを春,夏,秋と主催してくださいました.春はARVOの期間に開催され,冬の間ARVOに向け720あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014た準備と苦労をねぎらってくださいました.「ゴルフは友達がつくれる」というのが先生の言葉でした.少々脱線しますが,このスピーチと同様の主旨は,故三島濟一東大教授が東京都眼科医会の大学対抗ゴルフ大会のおりに残されています.「勉強だけしていても友達はできないが,ゴルフは友達ができるから続けなさい」というお言葉です.眼科領域の偉大な先人に共通する主旨のお言葉として,若い世代(時代も変わり,若手は余裕がない厳しい時代でしょうが)の先生方に伝言させていただきたいと思います.さまざまな教育を受けたNEIにおいて,Dr.Kinoshitaと多くの言葉を交わしたのは,88年の春から夏にかけて留学の終わろうとする時期でした.ある日,私の机の横に先生が座られ,私の帰国後の勤務先のことや生活のあれこれご心配くださいました.その際,私的な話題に及び,自分はサンフランシスコ郊外で育ったこと.お父様が植木職人で,子供の頃仕事を手伝った思い出を語られました.お母様に関するお話では「Obento」(お弁当)が懐かしいといわれ,「美味しかった」と優しいお顔になられ,つぶやかれたことを個人的なお人柄として印象深く思い出します.●おわりに★人は生を受け,いつかの日か人生を終える時が来るのですが,恩人であるDr.Kinoshitaの訃報に接して,もう二度とお目にかかれない別れを悲しく思います.最後にお目にかかったのは,ARVOがSarasotaからFortLauderdaleに移動して2回目の年,会場に近いマリオットホテルのロビーでした.「カリフォルニアに異動したので遊びに来なさい」とおっしゃってくださったのが最後の言葉でした.生命は現生に別れを告げても魂は永遠と申します.先生の語りや言葉は,今も鮮明に蘇ります.闘病が長かったとうかがっていますが,病と闘われた先生に心からご冥福を祈りたいと思います.先生と私の交わした約束は,NIHで学んだ恩恵を日本の若い人たちに還元することでした.帰国後約25年間の長きにわたり在籍させていただいた大学を辞し,現在は独立しています.小さな診療所の院長に過ぎない私にとって先生とのお約束を振り返ってみると忸怩たる思いがこみ上げててきます.残りの人生を,これからは先生も愛してくださった日本の地域医療のため努力を重ねて参り,少しでもご恩をお返しできればと考えています.合掌(94)

現場発,病院と患者のためのシステム 28.病院におけるシステム企画時のチェック項目

2014年5月31日 土曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム病院におけるシステム企画時のチェック項目杉浦和史*.目的は明確か横並び意識,ブームへの付和雷同ではないか?煽るマスコミも悪いと思いますが,付和雷同に乗せられる側も勉強不足です.数少ない成功事例の影に多くの失敗事例があることを知っておいて損はありません.また,その成功は大変な努力の結果であることに思いが至らず,同じ成果が得られると勘違いする安易さが問題です.ブームに迎合したり,開発(導入)ありきで必然性を強調する側の意図を見破れないと,時間とお金をかけて不要不急なシステムを導入してしまうことになります.導入したら経常費がかかることをお忘れなく!.経営幹部は提案を鵜呑みにしていないかバブルがはじけた頃,業界業種を問わず各企業は一斉にシステム開発投資を削減しました.当時の『日経コンピュータ』に,ある都銀の幹部が「開発を止めたが,ほとんど影響がなかった」と述べていたことを思い出します.システムの必要性がまことしやかに説明されていたにもかかわらず!経営幹部は,提案を通すための作文になっていないかを見きわめる評価眼が求められます.技術ではなく業務の視点で評価すればいいので,可能(なはず)です..効果は見込めるか量的評価の可能なわかりやすいシステムはだいぶ前にやり尽くし,今や質的な効果を議論する時代です.風が吹けば桶屋が儲かる的な,因果関係が定かでない評価のむずかしい質議論の陰に隠れて不要不急,効果の見込めないシステム(機能)を作ろうとしていないかに注意する必要があります.ただし,水,電気のようにシステムが院内業務のインフラになっている面があり,単純に費用対効果だけでは評価できない場合もあることも理解し(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY単体のシステム,総合的なシステムの導入を検討する際,何に注意すれば良いのかを聞かれることが少なからずあります.今回は,システム導入を検討時のポイントをいくつかご紹介します.ておかなければなりません..病院のシステム整備計画,ポリシーに沿っているか単体で動くシステムを寄せ集めても,相互に連携した院内業務全般を担うシステムにはなりません.院内各業務を担うシステムと情報,機能が連携して動かなければ全体としての生産性が上がらないし,効果的なシステム投資にはなりません.それには,どのような順にどの業務をシステムに乗せるか,あるいは最初から統合情報システムを作るのかの整備計画とポリシーが必要です.もちろんそれは経営戦略に沿っていなければなりません..体制,要員は整っているか院内に専門部門,要員がいないことが多く,ベンダ(システム開発会社)に丸投げするのが一般的です.しかし,丸投げで失敗することが少なからずあります.取りあえず動くので失敗と思わないかもしれませんが,費用対効果の視点でみると疑問符がつく事例があります.丸投げではなく,院内にプロジェクトチームを立ち上げ,仕様書作成まで院内で行い,モノ作りをベンダに任せるという方法があります.仕様書作成に必要なスキルを養成する系統だった教育計画とOJTによる指導が欠かせませんが,院内に人材が育つという,無形ですが大きな財産を残すことができます..ベンダ選択は間違っていないか信頼できるベンダはどこかを見きわめなければなりません.どのような要求でも聞くところは避けたほうが無難です.バランスのとれない機能を要求した場合には,「止めたほうが無難です」といえるくらいの見識,力量*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014717 をもっているところが理想です.一方,技術,経験の差につけ込み,顧客をおだてて取り込むベンダがいることにも注意を払うべきでしょう.彼らの提案内容がわからない場合には,実戦経験豊富なコンサルタントに評価してもらうのも一つの方法です.また,院内のプロジェクトメンバに必要以上にベンダと親しくなり,個別折衝をしてしまう者がでないよう注意することも,チェックポイントの一つです.もう一つのポイントは,名前が通ったベンダでも誰が担当するかで雲泥の差が出てくることにも注意することです..現場からの要求を反映しているか机上から現場を推測したり,通り一遍のヒアリングで済ませて決めた仕様で作られたシステムでは,十分な効果を発揮しないことは知られています.お仕着せのパッケージ導入ではそのようなケースを見受けます.システムの開発と運用が成功するためには,システム化対象現場の協力が不可欠です.現場とは,診察現場だけではなく,受付,検査,会計,手術,病棟,給食など多岐にわたります.とかく診察業務が中心となりがちですが,他の部門も含め,バランスがとれていなければ,繋ぎ目の部分で手間がかかります.一連の連続した作業であるにもかかわらず,ある部分は電子的に処理され,ある部分は従来通り手作業で処理するのでは,作業効率は改善されず,時間と費用をかけた割には効果を発揮することがむずかしくなります.関係するすべての現場から漏れなく要望を吸い上げるには,システム構築の主旨が理解され,自発的な協力が得られる雰囲気が醸成されていることが求められます.良い雰囲気が醸成されていると,現場から忌憚のない要求が出てくるようになりますが,現場にとってはあまりに馴染みすぎていて,仕様として出てこないものもあります.それらがわかったとき,可能な限り吸収できる構造のシステムであるように作りますが,自ずから限界があります.そこが,柔軟性のある紙と鉛筆での作業と,教え込まれたとおりにしか動けないシステムの違いです.大きなポイントを忘れていました.それは,現場重視ではあるものの,現状のやり方に合わせるのではなく,必ずBPRを行うということです..仕様は絞り込まれているかいつ誰がどのような場合に使うことを前提とした機能なのかを吟味したか?想定する使用シーンが稀にしか起きないものか?日常的に起きるものか?また,頻度は少なくても重要度が高い機能なのか?これらの区別を行い,不要不急な機能によって仕様が膨らまないようにしなければなりません.ただし,ドロップせずにシステムに乗せておかないと,乗せなかったために全体が足を引っ張られる機能もあることに注意する必要があります.また,諸要求が五月雨的に出てくることも想定されます.この取り扱いルールを明確にしておかなければ,いつまでたっても仕様が定まらず,工期は延び,費用も膨らみます.しかし,仕様をフィックスした後に出てきた要求が,システムの根幹にふれるものであった場合には,杓子定規にそれを切ることはできません.期間を延ばす,優先順位の低い機能を次のバージョンに回すなど,臨機応変な処置が必要になります..スケジュールに無理はないか実行可能なスケジュールになっているか否か.根拠となる体制,要員,技術,経験,難易度は十分検討したか?イベント毎に実施するレビューも入っているか?レビュー要員は適任か?レビュー方法は明確か?なども盛り込んでおかなければなりません.もちろん,機能,性能のテストにも十分な時間を費やすべきです.特にテストは,すべてのパスを検証できるデータの作成とテスト環境の実現がポイントです.これをおろそかにすると稼働後に問題が発生します.無理な仕様,スケジュールで進むことは,最初から難破することがわかっている船出といえ,もっとも危険なものです.しかし,危険なのか,ぎりぎりセーフなのか,余裕があるのかの見きわめはむずかしく,経験,先見の明,それに文殊の知恵が必要になります.もっとも重要なのはスケジュールの進捗管理で,忌憚のない報告ができる雰囲気があり,その事実を全員で共有し,リーダが精神論でない適切な判断と対策を行えるか否かです.最大限努力しても稼働後に問題を起こす可能性が予想されれば,見栄を張らずに稼働時期の延期を行うべきです.718あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(92)

タブレット型PCの眼科領域での応用 24.デジタルビジョンケアの可能性と意義

2014年5月31日 土曜日

タブレット型PCの眼科領域での応用タブレット型PCの眼科領域での応用シリーズ三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第24章デジタルビジョンケアの可能性と意義■はじめに最終章となる第24章で取り上げる端末は,東京大学先端科学技術研究センターや東京医科大学病院ロービジョン外来,GiftHandsの活動において,さまざまな障害者へ活用しているタブレット型PC“iPadAir”と“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.1です.この章では,これまでのロービジョンケアとデジタルビジョンケアの違いや,デジタルビジョンケア導入の意義を,GiftHandsの活動を通して経験した気づきや,視覚障害者とタブレット型PCをとりまく社会の変化を交えて紹介していきます.■ビジョンケアとデジタルビジョンケア従来のロービジョンケアでは,患者の視機能に合わせて最適なエイドを選定し,継続して使用できるように訓練などが行われてきました.一方,私が推奨しているタブレット型PCやスマートフォンを利用したDigitalVisionCare(以下DVC)では,ロービジョン患者や学習障害の児童へのアプローチの方法や導入の手順が,従来のロービジョンケアとは異なります.ロービジョン患者へのDVC導入の際にもっとも重要となるのは,視力や視野の評価ではなく患者のニーズの把握です.問診で具体的なニーズを把握し,視機能ではなく患者の嗜好に合わせた最適な形へと情報を加工することが可能なアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)を選定します.次に文字サイズやフォント,背景色などの文字情報の最適な視認環境や,音声読み上げ機能の必要性などを確認して,各人に応じて障害者補助機能であるアクセシビリティ機能の設定を行います.そのうえで,ニーズを満(89)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYたす最適なアプリを用いて情報を入手する体験をさせ,エイドとして継続使用する意思の有無を確認します.情報へのアクセス意欲の向上が認められず,最適ではないと判断した場合には,再度ニーズの検索またはアプリ選定へと移行します.また,初回で導入するアプリの数は最大でも2つまでに制限し,提供する情報が過剰とならないように注意します.デバイスの基本操作に慣れるまでは,初回のアプリの継続的な利用を通して,基本操作が習慣化するまで経過観察をします.エイドを紹介する際に重要なことは,最適なアクセシビリティ機能を設定したうえで,説明ではなく,“もう一度見えた”や“もう一度読める”という小さな成功体験を通して,“見たい”や“読みたい”という想いを引き出すことです.そのような手順を踏むことこそが,視覚障害者がエイドとしてタブレット型PCやスマートフォンを継続的に使用できるための配慮であるといえます.このように,DVCの目的は視機能の補助ではなく,患者の情報入手経路に関する嗜好に合わせたデバイスの選定や,個別のアクセシビリティ機能の設定にあります.そして,情報の入手形態を各自に合わせて変化させることで,情報へのアクセス障害を予防し,視覚障害者が情報や外の世界へのつながりの意欲を高めるのが目的です.学習障害児へのDVC導入では,最初に書字や読字に関する得意・不得手や,図形の認識などに関する認識力を評価し,認識能力の偏りに対して最適なアプリを用いて情報形態を変化させることで児童の学習意欲の向上を試みます.また,前章でも述べたように,ノイズキャンセリング機能のついたヘッドフォンなどを併用することで,彼らが授業に集中できるように学習環境を最適化することも重要です.あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014715 図1東京大学のiTunesUではさまざまなジャンルの講義を無料でiPadやiPhoneなどでも受講できる(2014年4月1日現在).■障害者とタブレット型PCとのかかわり私がDVCの普及を始めた2011年当時,タブレット端末を日々の生活に活用する視覚障害者の数は多くはありませんでした.しかし,その後のカメラ機能や液晶画面の解像度の向上,アクセシビリティ機能の改良に伴いその数は増加傾向にあります.最近では,各種メディアにおいてもタブレット型PCを活用する視覚障害者の話題が取り上げられるようになりました.また,これまで一般人向けのセミナーを開催してきたiPadやiPhoneの正規販売店であるAppleStoreでは,全盲者向けのワークショップが2014年4月より定期的に開催されるようになり,視覚障害者とタブレット型PCに関する社会や企業の意識はここ数年で大きく変化したといえます(2014年4月1日現在).従来型のロービジョンケアでの点字図書館や視覚障害者就労支援センターなどの施設紹介と同様に,AppleStoreなどの販売店も今後は視覚障害者に紹介するべき施設の一つへと変化していく可能性があります.■おわりに今後,私自身はiTunesUというオンラインコンテンツをとおして,視覚障害者や支援者に対して映像,音声,画像,テキストデータなどのあらゆるコンテンツを含むマルチメディアコースを提供し,眼科領域におけるタブ図2StudioGiftHandsのウェブページでは,視覚障害者や医療従事者向けのセミナー開催情報などさまざまな情報が掲載されています.レット型PCの有用性を啓発していく予定です(図1).iTunesUのオンライン講座に代表されるように,タブレット型PCやスマートフォンの普及により,人は場所や時間に拘束されることなく,平等な教育を受けることが可能となりつつあります.そのような時代の到来とともに,医療や教育の現場に加えて社会における障害者の雇用促進や就労における合理的配慮の思考は強まると考えられます.視覚障害者にとってより快適な社会を作るための仕組み作りを,視覚障害者専用の機器ではないタブレット型PCやスマートフォンという汎用性の高いデジタルデバイスをとおして築いていくことが私のライフワークです.また,GiftHandsの活動を続けていくことが,視覚障害者や彼らをケアするすべての方にとっても平等で明るい未来を導く一つの可能性となると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはStudioGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください(図2).StudioGiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆716あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(90)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 132.若年者の特発性黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)

2014年5月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載132132若年者の特発性黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに特発性黄斑円孔の発症年齢は50.60歳が多く,屈折は正視眼が多い.筆者らは以前に強度近視の若年女性に発症した特発性黄斑円孔を経験した1).●症例30歳,女性.既往歴に特記すべきことはなく,眼外傷などの既往もなかった.視力はRV=0.03(0.4×sph.9.5D),LV=0.04(1.5×sph.9.0D(cyl.0.5DAx150°).右眼眼底には約1/4乳頭径大のfluidcuffを伴う黄斑円孔を認め,検眼鏡的には通常の中高年者にみられる特発性黄斑円孔とほぼ同様の所見を呈していた(図1).両眼とも強度近視眼であったが,後部ぶどう腫や目立った豹紋状眼底は認めなかった.硝子体手術はまずコアの硝子体を切除した後,後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製したが,通常の症例より網膜硝子体癒着が強固であった.周辺部に網膜格子状変性巣は認めなかった.ついで,内境界膜.離,眼内液.空気同時置換術を行った.術後,黄斑円孔は閉鎖し矯正視力は(0.6)に改善した(図2).●症例の特徴特発性黄斑円孔の若年発症例について,熊谷らは480例526眼のうち,最年少例は22歳2),大庭らは102例107眼のうち最年少例は35歳3),Morganらは132例148眼のうち最年少例は31歳であったと報告している4).過去の報告では,いずれも若年発症の黄斑円孔例では近視が強い傾向がみられた.今回の症例も.9Dと強度近視眼であり,これらの報告と一致している.特発性黄斑円孔の発症機序としては,後部硝子体皮質前ポケットの後壁に存在する硝子体ゲルの網膜接線方向の収縮により,中心窩網膜に前後方向の牽引が作用することが指摘されている.後部硝子体皮質前ポケットは加図1初診時眼底写真(a)とOCT(b)右眼にfluidcuffを伴う特発性黄斑円孔を認める.所見としては通常の中高年の特発性黄斑円孔と同様であった.図2術7カ月後の眼底写真(a)とOCT(b)黄斑円孔は閉鎖し,矯正視力は0.6に改善した.abab齢の変化として中高年で形成されてくるが,高度近視眼では硝子体の液化が同年齢者よりも早期に生じる傾向があるので,これが若年発症黄斑円孔の主因と考えられる.硝子体手術時の注意点としては,網膜硝子体癒着がやや強固で,人工的後部硝子体.離作製がやや困難なことがあげられる.また,人工的後部硝子体.離作製時には,強度近視眼に頻度が高いとされる網膜格子状変性巣の有無に注意を払う必要がある.文献1)林田素子,南政宏,戸成匡宏ほか:30歳,女性に発症した特発性黄斑円孔.眼科手術21:382-384,20082)熊谷和之,荻野誠周,出水誠二ほか:特発性黄斑円孔の特徴.日眼会誌104:819-825,20003)大庭美智子,北岡隆,雨宮次生ほか:特発性黄斑円孔の臨床的特徴.臨眼58:1225-1229,20044)MorganCM,SchatzH:Idiopathicmacularholes.AmJOphthalmol99:437-444,1985(87)あたらしい眼科Vol.31,No.5,20147130910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 161.病的近視のあたらしい画像診断法

2014年5月31日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第161回◆眼科医のための先端医療山下英俊病的近視のあたらしい画像診断法森山無価(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野)はじめに病的近視は,先進諸国における失明原因の上位を占める疾患であり,さらに欧米に比してアジアでは頻度が高くなっています.近年,病的近視の頻度は増加傾向にあり,今後ますます強度近視の増加および低年齢化が進むと推察されます1,2).病的近視眼の本態は眼球形状変化です.眼球は正視の状態であればほぼ球状の形態をしていますが,近視の進行とともに眼軸長の延長や後部ぶどう腫の形成が生じます.これらの形状変化によって強膜および網脈絡膜が障害されて,種々の近視性病変の重要な要因となります.これまでは眼球形状変化を診断するのに,検眼鏡的な所見,あるいは超音波を用いた方法しかありませんでした.しかしながら近年,MRIの進歩によって眼球形状をより俯瞰的に捉えることが可能となり,病的近視の眼球形状変化についての理解が深まってきました.3DMRIによる病的近視の眼球形状解析これまで,眼球形状を全体的に把握するためには眼球を摘出するしか方法がありませんでしたが,近年のMRI技術の進歩により,3DMRIを用いて生体内で眼球そのものを3次元的に観察することが可能となりました.3DMRIはT2強調画像をvolumerenderingすることによって3次元化した画像で,眼球を任意の方向から観察できます3).この方法によって正視眼を観察すると,眼球はほぼ球形の形状をしているのに対して,病的近視眼では眼球後部の一部が著しく突出し,後部ぶどう腫が形成されているのが容易に観察できます(図1).3DMRIによる病的近視の眼球形状分類眼球を下方から観察した像によって,病的近視眼の眼球形状は大きく4つに分類されます.まず,鼻側と耳側(83)図1眼球の3DMRIを鼻側から観察した像図左:正視眼.眼球はほぼ球状を呈している.図右:病的近視眼.眼球下方に後方に突出している後部ぶどう腫が認められる.abcd図2下方から観察した3DMRIによる病的近視眼の眼球形状分類a:突出が鼻側に偏位している鼻側偏位型.b:突出が耳側に偏位している耳側偏位型.c:中央部が紡錘状に突出している紡錘型.d:眼球後部が全体的に突出している樽型.(文献3より改変して引用)に関して対称形か非対称形かで2つに分類されます.さらに,非対称形のものは眼球後部の突出が鼻側に偏っているものは鼻側偏位型,耳側に偏っているものは耳側偏位型と分類されます.また,対称形のものは眼球後部の突出が紡錘状になっているものは紡錘型,樽状に突出しているものは樽型と分類されます(図2).形状の頻度は,鼻側偏位型と樽型がそれぞれ3割程度を占めています3).眼球形状異常の定量的解析眼球形状と近視性合併症との関連を調べるためには,眼球形状を定量的に解析し表現する必要があります.そあたらしい眼科Vol.31,No.5,20147090910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図3耳側偏位型における視神経付着部位(3DMRI)視神経付着部位の耳側に急峻な眼球形状変化が認められる(矢印).(文献3より改変して引用)こで,自動的に眼球形状を解析するソフトウェアを作成しました.これは,水平面および矢状面での眼球の対称性,そして眼球後部の尖鋭度(とがり具合)の3つのパラメータを数値化するものです.このソフトウェアを用いて,眼球形状と病的近視の代表的な合併症である近視性脈絡膜新生血管,近視性牽引黄斑症,近視性視神経症の関連を調べたところ,水平面での非対称性は近視性視神経症との関連があり,耳側に突出が偏位しているもので有意に頻度が高く,また,近視性牽引黄斑症は眼球後部が尖っている形状のものほど頻度が高いという結果でした4).3DMRIを構築する際に,信号域を変化させることによって視神経の描出が可能となります.耳側に突出が偏位している耳側偏位型では,視神経付着部位の近傍に急峻な眼球形状変化があり(図3),このような眼球変形が視神経線維走行に障害を与えていると考えられます.このように,特定の眼球形状と強度近視合併病変との関連が示唆され,眼球が球状から逸脱することが強度近視合併症発生に関わっているのではないかと考えられます.おわりに病的近視の本態は眼球の形状異常で,本来球状を呈している眼球が近視の進行とともに形状変化し,球状から逸脱することによって,さまざまな合併症発生や病変の進行につながっていきます.以前は検眼鏡的な診断のみでしたが,近年の画像診断法の進歩により,現在では眼球形状を定量的に診断することも可能となってきています.今後は診断法の発達だけでなく,眼球形状変化を予防する治療も必要となってくると思われます.謝辞:本原稿をご高閲いただいた東京医科歯科大学眼科准教授の大野京子先生に深く感謝いたします.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:13541362,20062)YamadaM,HiratsukaY,RobertsCBetal:PrevalenceofvisualimpairmentintheadultJapanesepopulationbycauseandseverityandfutureprojections.OpthalmicEpidemiol17:50-57,20103)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,HayashiKetal:Topographicanalysesofshapeofeyeswithpathologicmyopiabyhigh-resolutionthree-dimensionalmagneticresonanceimaging.Ophthalmology118:1626-1637,20114)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,ModegiTetal:Quantitativeanalysesofhigh-resolution3DMRimagesofhighlymyopiceyestodeterminetheirshapes.InvestOphthalmolVisSci53:4510-4518,2012■「病的近視のあたらしい画像診断法」を読んで■今回の森山先生の総説には本当に多くのオリジナル高くなりません.分子病態を深く研究するためにはこな情報が満載です.病的近視の本態を,眼球の形状異れが本当に大切です.病態が解明されることで,疾患常から臨床的にきちんとした研究で積み上げてきた仕の予後判定,治療法の開発へとつながっていきます.事は,本当に迫力を感じます.その臨床的な意義としその大きなステップを森山先生の総説は示していまては,病的近視を「本来球状を呈している眼球が近視す.大野先生と森山先生の研究グループの素晴らしいの進行とともに形状変化し,球状から逸脱することに成果と考えます.そして,これは一朝一夕に出せる成よって,さまざまな合併症発生や病変の進行につなが果ではありません.大野先生と森山先生の研究グルーる」と定義することで病的近視をきちんと診断し,とプの成果は,東京医科歯科大学眼科の長い歴史で,大らえることができるようになります.疾患の病態を考塚教授,所教授,望月教授と長い歴史で築き上げた体えるとき,その診断が曖昧ではその後の研究の精度が系的,継続的な近視臨床研究の積み重ねがあってこそ710あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(84) の成果です.患者の眼をきちんと観察し,臨床的な問データベース構築によって新しい疾患概念を提唱し,題点を明らかにし,その問題点を最新の画像解析手法原因まで解明され,日本の眼科学の誇るべき仕事となの進歩と絡めた結果が世界的な仕事になりました.臨っています.大野先生と森山先生の研究グループの病床医学の醍醐味がここにあります.われわれ臨床医学的近視の研究についても,ぜひ,三宅先生のお仕事のに携わるもののめざすべき臨床研究は,長期にわたっように広がりのある豊かな成果を出し,とりわけ日本てきちんと患者の診察をしたレベルの高いデータベー人やアジア人に多いと考えられる病的近視の診療を高スに基づいています.この総説を拝読して,名古屋大いレベルへと推進し,それが日本発信の成果となるこ学眼科の三宅養三先生のお仕事を思い出しました.三とを一眼科医としてこころから祈っております.宅先生のお仕事もきちんと患者をみて,高いレベルの山形大学眼科山下英俊☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014711

新しい治療と検査シリーズ 217.SMILE(Small Incision Lenticule Extraction)

2014年5月31日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ217.SMILE(SmallIncisionLenticuleExtraction)プレゼンテーション:神谷和孝北里大学医学部眼科学教室コメント:稗田牧京都府立医科大学眼科.バックグラウンドフェムトセカンドレーザーは近年もっとも進化をなしとげたレーザーテクノロジーの一つであり,任意の深さや方向で自由自在に角膜組織をアレンジできることから,眼科領域にも広く応用されている.従来,LASIK(laserinsitukeratomileusis)におけるフラップ作製に使用されてきたが,現在ではさまざまな角膜移植,角膜内リング,老視矯正から白内障手術にまで適応が拡大しつつある.屈折矯正手術分野においては,エキシマレーザーを使用せず角膜の一部をレンチクルとして抜去する屈折矯正手術(refractivelenticuleextraction:ReLEx)が開発されている1).ReLExとは,femtosecondlenticuleextraction(FLEx)とその亜型であるsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)の総称である.本稿では,フラップそのものを作製せずに行う新たな屈折矯正手術SMILEに焦点を当てて概説する..新しい治療法(原理)ReLExはエキシマレーザーを一切用いず,CarlZeissMeditec社のフェムトセカンドレーザーVisuMaxTMを使用して行う.LASIKとReLExの手術方法は,角膜の表1LASIK,FLEx,SMILEの術式比較LASIKFLExSMILEエキシマレーザー要不要不要フラップ作製要要不要眼球運動による照射ずれありなしなし周辺切除効率低下ありなしなし角膜含水率変化ありなしなし眼球回旋補正ありなしなしバイオメカニクス低下+±.+±ドライアイ+±.+±高次収差+±.+±.+長期予後あり不明不明(79)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY一部をレンチクル片として抜去する手技は共通であり,フラップを作製するか否かのアプローチ方法に違いがある.現在の標準術式であるLASIKでは,アイトラッキングを用いても微細な眼球運動による照射ずれやエキシマレーザーによる周辺切除効率の低下が避けられず,フラップ作製後に角膜含水率が変化し続けるが,一方,ReLExでは,角膜組織を圧平コーンによって固定するため,眼球運動による照射ずれがなく,周辺切除効率の低下も生じず,レーザー切除を行う際に角膜含水率は一定のままであることが本質的な違いである(表1)..手術方法SMILEの手術手技のを図1に示す.SMILEはFLExをさらに改良した術式であり,フラップそのものを作製しないため,角膜に対する侵襲はより少ないと考えられる.まず,点眼麻酔後に角膜表面に圧平コーンを接触させてから吸引固定する.次にフェムトセカンドレーザーを用いてレンチクル作製のベースとなる前後面切開とサイドカットを行う.さらにフラップに該当する辺縁に約50.60°の弧状切開を加え,スパーテルを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜き,最後に創間を洗浄して手術を終了する2)..本方法の良い点従来のLASIKと異なり,ReLExは①エキシマレーザーを必要とせず,患者の移動が不要,②手術室の室内環境に影響を受けにくい,③レーザー照射による個体差のある角膜創傷治癒反応の影響を受けにくい,④本来角膜が有する優れた生理的形状(prolateshape)の変化が少なく3),眼球高次収差(とくに球面収差)への影響が少ない,⑤しかもその変化が矯正量に依存しない3)ことがメリットとして考えられる.さらにSMILEでは,フあたらしい眼科Vol.31,No.5,2014705 図1フラップに該当する辺縁に約50.60°の弧状切開を加え,スパーテルを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜く.ラップ作製に伴う角膜生体力学特性の低下やドライアイも起こりにくいことだけでなく,外傷に対する組織強度も高いことが期待されている.自験例による検討でも,706あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014安全性や有効性に明らかな差異を認めないものの2),術直後における疼痛が有意に低下し,オキュラーサーフェスへの影響も少ないことが明らかになっている(清水ら,第35回日本眼科手術学会発表).角膜生体力学特性への影響は,有意差を認めないものの,わずかに少ない傾向であった4).ただし,外傷に対する強度という点では明らかに優位性があり,ボクシングなど格闘技を行う患者にとっては,新たな選択肢となり得るであろう.さらに術後2年までの検討では,FLEx,SMILEともに長期予測性や安定性に優れており,LASIKに認められる遠視化(overshoot)や再近視化(regression)が起こりにくい印象を受ける.その一方,現時点では虹彩認証による眼球回旋補正がなく,乱視が強い症例に対してはトーリック有水晶体眼内レンズやLASIKがより適している.また,一部の症例において術後早期の裸眼視力や矯正視力の回復がやや遅い傾向がみられるが,この原因として前方散乱による影響が示唆されている5).現在では,エネルギー設定や術後ステロイドの投薬見直しを行って早期回復を得ている.もちろん術後長期経過は不明であり,注意深い経過観察が必要であるが,従来の角膜屈折矯正手術と異なり,本術式はフラップレスサージェリーとしてのアドバンテージがあり,将来的に有望な術式の一つと考えられる.文献1)KamiyaK,IshiiR,SatoNetal:Earlyclinicaloutcomes,includingefficacyandendothelialcellloss,ofrefractivelenticuleextractionforthecorrectionofmyopiausinga500-kHzfemtosecondlasersystem.JCataractRefractSurg38:1996-2002,20122)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Visualandrefractiveoutcomesoffemtosecondlenticuleextractionandsmallincisionlenticuleextractionformyopia.AmJOphthalmol157:128-134,20143)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Comparisonofvisualacuity,higher-orderaberrationsandcornealasphericityafterrefractivelenticuleextractionandwavefrontguidedlaser-assistedinsitukeratomileusisformyopia.BrJOphthalmol97:968-975,20134)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofthechangesincornealbiomechanicalparametersfollowingfemtosecondlenticuleextractionandsmallincisionlenticuleextraction.JCataractRefractSurg,inpress5)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Timecourseofopticalqualityandintraocularscatteringafterrefractivelenticuleextraction.PLoSOne8:e76738,2013(80) .本術式に対するコメント.SMILEはフェムトセカンドレーザーを用いて,小切開から角膜実質のみを除去することで屈折矯正を行う.フラップをリフトしてエキシマレーザーで実質を光切除するLASIKと比較すると,眼表面に対しては低侵襲である.除去した角膜実質を凍結保存して,老視になったとき再度実質内に戻し,元の近視にすることも可能らしい.コンセプトとしてはLASIKに勝っている面も多い.SMILEは始まったばかりの術式であり,長期予後は不明であり,再手術もむずかしい.術中センタリングの補正,乱視の軸合わせ,高次収差を含めた不正乱視の矯正などには対応していない.屈折矯正としてのクオリティは,照射径の広いスタンダードLASIKと同等であろう.LASIKがたどってきたようなハード,ソフト両面の進歩により,個人個人の目に対応できるようなカスタム手術が可能になれば,SMILEは次世代の主流になる可能性を秘めていると思われる.☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014707

私の緑内障薬チョイス 12.角膜に優しい点眼

2014年5月31日 土曜日

連載⑫私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑫私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也12.角膜に優しい点眼三木篤也大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室緑内障の多くは慢性不可逆性であるため,治療は長期にわたり,かつ複数の薬剤を必要とすることが多いことから,角膜上皮障害を合併する頻度も高い.緑内障薬による角膜上皮障害に対しては,角膜障害をきたしにくい薬剤への変更が奏効することがあり,治療の選択肢として有効である.症例51歳,女性.47歳時にコンタクトレンズ処方目的で近医眼科を受診,視神経乳頭陥凹拡大を指摘され,点眼治療開始.50歳時に点眼による眼圧下降不良のため当科紹介.初診時眼圧RT=23mmHg,LT=24mmHg.視力,前眼部,中間透光体には特に異常なし.両眼視神経乳頭陥凹の拡大(図1)と,左眼の視野障害を認めた(図2).視野障害がより強い左眼に選択的レーザー線維柱帯形成術を施行し,点眼をキサラタンR両眼1日1回,チモプトールXER両眼1日1回,エイゾプトR両眼1日2回としたところ,眼圧は両眼17.20mmHgで安定したが,徐々に点状表層角膜症が増加.7カ月後の時点でしみる感覚の訴えが出始めたため,ヒアレイン点眼を追加するも角膜の状態は改善しなかった.初診から1年後の時点でRV=(1.2),LV=(0.9)と左眼視力の低下を認め,眼圧はRT=19mmHg,LT=19mmHgと安定.両眼ともに顕著な点状表層角膜症を認めた(図3).薬剤性角膜障害と考えられたが,初診前の眼圧コントロール不良であり,点眼中止は望ましくないため,キサラタンR点眼を,塩化ベンザルコニウムを含図1両眼の眼底写真両眼とも視神経乳頭陥凹拡大および耳側リムの菲薄化を認め,左眼は耳上側,耳下側の網膜神経線維層欠損も伴っている.(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図2左眼のハンフリーC30.2視野検査のグレースケール(上)表示とパターン偏差プロット(下)上方ブエルム領域に視野障害を認めており,MD値は.9.25dBであった.有しないトラバタンズR点眼に変更した.点眼変更1カ月の時点で点状表層角膜症は顕著に改善本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014703 図3点眼変更前の右眼前眼部写真角膜中央部から下方にかけて点状表層角膜症を認める.し(図4),しみる感覚や見にくさなどの自覚症状も改善した.変更3カ月後の時点ではわずかに点状表層角膜症を認める程度まで減少したが,以後も完全に消失することはなかった.眼圧レベルは16.22mmHg程度で推移し,変更前より若干上昇傾向であったが有意な変化はなかった.角膜に優しい点眼緑内障は慢性疾患であり,長期にわたる点眼を必要とするため,点眼に伴う角膜障害を認めることは珍しいことではない1,2).薬剤性角膜上皮障害は,ドライアイなどの他の原因による角膜上皮障害と比較して,1)結膜障害より角膜障害が優位,2)進行すると渦巻き状→ひび割れ状(epithelialcrackline)の角膜上皮欠損を呈するなどの特徴がある.しかし実際には,上記のような典型的な薬剤性角膜上皮障害以外にも,他の原因による角膜障害との合併例などの非典型的な症例も多い.薬剤性角膜上皮障害治療の原則は,原因となる薬剤の中止と人工涙液による原因薬剤の除去である.上皮障害が治癒するまでは,防腐剤フリーの人工涙液以外は何も点眼しないことが本当は望ましい.しかし,ある程度進行した緑内障の場合,緑内障治療薬を完全に中止すると病態の悪化を招く危険性があり,実際には困難である場合も多い.このようなケースで筆者はしばしば「角膜に優しい」とされる点眼への変更を試みる.プロスタグランジン関連薬では,上記症例で試みたようにトラバタンズR点眼704あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014図4点眼変更後の右眼前眼部写真変更後も角膜中央部から下方にかけて点状表層角膜症を認めるが,その密度は顕著に減少している.への変更を試みる.多くの点眼に防腐剤として含まれている塩化ベンザルコニウムが角膜上皮障害の原因になり得るため,塩化ベンザルコニウムを含まないトラバタンズR点眼に変更することにより,角膜上皮障害の改善を期待してのことである.実際,自験例では,キサラタンR点眼からトラバタンズR点眼への変更により,点眼変更3カ月後の時点で5例中4例で細隙灯顕微鏡写真上明らかな点状表層角膜症の改善を認めた.その後の経験でもだいたい2/3以上の症例で,点眼変更により角膜上皮障害の改善を認めている.b遮断薬では,他の薬剤と比較してミケランR点眼の角膜毒性が低いことが知られている.b遮断薬による角膜上皮障害を疑う症例には試みてよい.最近では防腐剤フリーのプロスタグランジン関連薬であるタプロスミニR点眼も登場したので,これも選択肢となりえると考えられる.角膜上皮障害は,緑内障治療にとってやっかいな悩みの種の一つであるから,角膜に優しい薬剤の選択肢が増えてきたことは大変喜ばしいことである.文献1)LeungEW,MedeirosFA,WeinrebRN:Prevalenceofocularsurfacediseaseinglaucomapatients.JGlaucoma17:350-355,20082)MathewsPM,RamuluPY,FriedmanDSetal:Evaluationofocularsurfacediseaseinpatientswithglaucoma.Ophthalmology120:2241-2248,2013(78)

抗VEGF治療:血管新生緑内障とベバシズマブ

2014年5月31日 土曜日

●連載抗VEGF治療セミナー─薬剤選択─監修=安川力髙橋寛二4.血管新生緑内障とベバシズマブ城信雄関西医科大学眼科血管新生緑内障に対してベバシズマブを使用することで,新生血管の退縮,眼圧下降,閉塞隅角への進展防止,手術時の出血性合併症の軽減,という従来の治療にはない即効性のある著しい効果が得られる.しかし,効果は一過性であるため,原因である眼虚血の解除を十分に行うことは必要であり,ベバシズマブは従来の治療の補助薬といえる.はじめに血管新生緑内障は,眼虚血によって虹彩あるいは前房隅角に新生血管を伴った線維血管膜が発生し,房水流出が障害されることにより高眼圧を呈する.糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症などにより網膜が虚血になると,低酸素状態となりさまざまな血管新生因子が分泌され新生血管が誘発されるが,とくに血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が最も重要な因子と考えられている1).治療の基本は,第一に網膜光凝固により眼虚血の解除を行い,新生血管を退縮させ,そして薬物療法やトラベクレクトミーなど緑内障手術により眼圧下降を行うことである.しかし,実際は角膜浮腫,散瞳不良,前房出血,硝子体出血などにより十分な光凝固を行えず,新生血管の活動性が高い状態での手術となることがあり,治療に難渋することが多い.最近,新生血管を抑制する抗VEGF薬を血管新生緑内障に応用するようになり,治療が変化してきている.抗VEGF薬の血管新生緑内障への応用抗VEGF薬は,眼科領域で臨床応用されてきているが,血管新生緑内障に対して認可されている薬剤はない.一般にはベバシズマブ(アバスチンR)が使用されているが,適用外使用であるため,使用に際しては各施設における倫理委員会の承認を得たうえで,患者に十分な説明を行い,同意を確認する必要がある.当施設ではベバシズマブ1.25mg/0.05mlを硝子体内に注入している.ベバシズマブによる治療効果2006年のAveryの報告2)から,血管新生緑内障に対(75)するベバシズマブ投与の報告は多数ある.これらの報告から,血管新生緑内障における効果として,速やかな新生血管の退縮,眼圧下降,手術時の出血に関する合併症の軽減があげられる3).新生血管の退縮は,ほとんどが投与後数日以内にみられる(図1).以前は汎網膜光凝固により網膜虚血を解除し,新生血管を退縮させるという過程で数週間の期間を要したものが,ベバシズマブの投与により数日間で新生血管の退縮を得られることが大きな利点である.しかし,ベバシズマブの硝子体投与後の前房水での半減期は10日であり,筆者らの経験では,約2カ月でVEGF阻害効果はなくなる.虚血を改善していなければVEGFが再活性化し,新生血管は再発する.つまり,投与後も早期に十分な網膜光凝固を行い,完全に網膜虚血を解除する必要があり,ベバシズマブは補助薬と認識する必要がある.開放隅角期の症例に対して使用した場合,早期に新生血管が退縮することにより,眼圧下降を得ることができ,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の進展の予防効果もあり,汎網膜光凝固を完成させる時間的猶予が確保できる.症例によっては最終的に緑内障手術を行うことなく,眼圧コントロールができるようになってきている.一方,閉塞隅角期ではPASにより眼圧が上昇しているため,ベバシズマブの投与では眼圧下降はあまり期待できず,最終的には緑内障手術(トラベクレクトミー)が必要になる.しかし,ベバシズマブを使用することで,網膜光凝固のみで虚血解除を行うより早く新生血管は退縮する.そのため,早期に緑内障手術が行えるようになり,また術中・術後の出血に関する合併症が減少し,術後成績の向上が期待できる.このように活動性の高い新生血管を認める血管新生緑内障に対してベバシズマブを使用することは,一時的な効あたらしい眼科Vol.31,No.5,20147010910-1810/14/\100/頁/JCOPY abcdabcd図1a:虹彩に新生血管を認める血管新生緑内障の症例.b:aの同一症例.ベバシズマブ1.25mg硝子体注入後5日.虹彩の新生血管は消失している.c:開放隅角緑内障期の症例.虹彩から立ち上がる新生血管がみられる.線維柱帯は新生血管のため赤く見える.d:cの同一症例.ベバシズマブ1.25mg硝子体注入後5日.隅角の新生血管は消失している.果ではあるが,十分に価値がある.ベバシズマブを併用したトラベクレクトミー血管新生緑内障に対するトラベクレクトミーの成績は,他の病型よりも術後成績は不良である.その原因として,術中・術後の前房出血が濾過胞の形成の妨げとなっていることが考えられる.ベバシズマブを術前に使用すると術中・術後の前房出血が減少することが報告されており,濾過胞の形成が良くなると考えられる.しかし,トラベクレクトミーの長期成績についての報告は,ベバシズマブの併用により術後成績が改善したもの4)と,改善しなかったもの5)があり,長期的な眼圧経過,濾過胞への影響は今後も検討の余地がある.おわりにベバシズマブの新生血管退縮効果,一時的な眼圧下降は即効性があり,血管新生緑内障の初期治療に大きな変化をもたらした.ベバシズマブは血管新生緑内障の治療における有効な補助薬といえるが,現在のところ保険適用外使用であるため,慎重に適応を検討したうえで使用する必要がある.また,投与量・投与回数についても,今後,検討していく必要がある.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovascularizationafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.Retina26:352-354,20063)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasesin41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,20084)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Clinicalfactorsrelatedtorecurrenceofanteriorsegmentneovascularizationaftertreatmentincludingintravitrealbevacizumab.AmJOphthalmol149:964-972,20105)TakiharaY,InataniM,KawajiTetal:CombinedintravitrealbevacizumabandtrabeculectomywithmitomycinCversustrabeculectomywithmitomycinCaloneforneovascularglaucoma.JGlaucoma20:196-201,2011☆☆☆702あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(76)