‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌涙囊炎の検討

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):561.567,2015cメチシリン耐性黄色ブドウ球菌涙.炎の検討児玉俊夫*1山本康明*1首藤政親*2*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学総合科学研究支援センター重信ステーションAStudyofDacryocystitisDuetoMethicillin-ResistantStaphylococcusaureusToshioKodama1),YasuakiYamamoto1)andMasachikaShudo2)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofBioscience,IntegratedCenterforScience,ShigenobuStation,EhimeUniversity目的:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による涙.炎患者における年齢,手術治療と予後についての検討.方法:2004年4月1日.2014年9月30日に松山赤十字病院眼科において手術を施行したMRSA涙.炎13例と非MRSA涙.炎95例を比較,検討した.さらにMRSA感染症については治療および術後の転帰について検討した.結果:発症年齢を比較すると,MRSA涙.炎では84.2±6.2歳(平均±標準偏差),非MRSA涙.炎では72.1±12.5歳とMRSA感染者は有意に高齢であった(p<0.001).MRSA涙.炎の内訳は男性1例,女性12例,そのうち急性涙.炎は4例,慢性涙.炎は9例で,大多数の症例で抗菌点眼薬が処方されていた.手術は涙.切開1例,涙.摘出1例および涙.鼻腔吻合術(以下,DCR)11例で,DCRは観察期間1カ月.6年4カ月で涙.炎は再発していない.考按:MRSA涙.炎は発症背景として抗菌点眼薬を長期使用していた高齢者があげられるが,治療法としてDCRをはじめ手術治療が必要と考えられる.Purpose:ToreporttheaverageageofdacryocystitispatientsinfectedwithmethicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA)andtheresultsofsurgicaltreatments.PatientsandMethods:Inthisstudy,wereviewed13patientsofdacryocystitisduetoMRSA(MRSAgroup)and95patientsofdacryocystitisduetomicroorganismsotherthanMRSA(non-MRSAgroup)whoweretreatedbetweenApril1,2004andSeptember30,2014attheDepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,Matsuyama,Japan.Inaddition,weanalyzedtheresultsofsurgicaltreatmentsinMRSAgroup.Results:ThemeanpatientageintheMRSAgroup(84.2±6.2years,mean±standarddeviation)wassignificantlygreaterthanthatinthenon-MRSAgroup(72.1±12.5years(p<0.001).TheMRSAgroupconsistedof1maleand12females(4acutedacryocystitiscasesand9chronicdacryocystitiscases),andallpatientshadbeentreatedbylong-termtopicalantibioticinstillation.Surgicaltreatmentsconsistedoflacrimalsacincision(1case),dacryocystectomy(1case),anddacryocystorhinostomy(DCR,11cases).InthecasesthatunderwentDCR,norecurrenceofdacryocystitiswasobservedduringthefollow-upperiodthatrangedfrom1-monthto6-yearsand4-monthspostoperative.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthatMRSAdacryocystitisinelderlypatientsmayhaveinducedbytheprolongeduseofantibioticsandthatDCRisusefulfortreatingdacryocystitis〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):561.567,2015〕Keywords:メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA),涙.炎,涙.結石,バイオフィルム,涙.鼻腔吻合術.methicillinresistantStaphylococcusaureus(MRSA),dacryocystitis,dacryolith,biofilm,dacryocystorhinostomy(DCR).はじめに涙.炎は,鼻涙管閉鎖により涙液が涙.内に貯留して病原微生物が増殖すると涙.壁に炎症を生じて発症する.涙.炎治療の原則は原因微生物の除菌に尽きるが,問題は抗菌薬の局所および全身投与を行っても涙.への移行はわずかであるために病原微生物の排除が困難という点である.さらに抗菌薬を長期間,漫然と投与することは耐性菌を増殖させることにもつながり,慢性涙.炎の起炎菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)の検出例が増加している1.3)ことが問題となっ〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(97)561 ている.MRSAは易感染性宿主において難治性感染症に移行しやすいが,涙.炎においてもMRSAは各種治療薬に抵抗性を示して重症化することが多いといわれている.今回,筆者らはMRSA起炎性涙.炎の治療成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は2004年4月1日から2014年9月30日の10年6カ月間に松山赤十字病院眼科(以下,当科)において,涙.切開,涙.摘出および涙.鼻腔吻合術鼻外法(以下,dacryocystorhinostomy:DCR)を施行した108例121側で,その内訳としてDCRは97例110側,涙.摘出3例3側,涙.切開8例8側であった.なお,涙.切開の症例とは,涙.切開のみで寛解したがその後受診しなかったか,全身の重篤な合併症のためにDCRなどが施行できなかった患者である.今回検討したMRSA涙.炎は初診時に涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液よりMRSAが検出された12例と,DCRの術後に再閉塞して経過観察中にMRSAが検出された1例である.なお,非MRSA涙.炎については児玉の報告4)に詳細を記載した.涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液の採取はあらかじめ皮膚をアルコール面で清拭した後,結膜からの菌混入がないように注意した.今回はMRSA涙.炎13例と他の病原微生物による非MRSA涙.炎95例の間に,初診時の年齢に差があるかどうかを検討した.今回の検討においてさらにMRSA涙.炎を急性および慢性涙.炎に分類し,それぞれ前医での治療期間および投与された抗菌点眼薬の種類,当科での手術術式および予後について比較検討した.手術成績については,涙道通水試験において鼻腔への通水が良好なものを手術成功例,通水が認められなかったものを不成功例とした.涙.結石表面の微細構造の解析は,摘出した涙.結石を3%グルタールアルデヒド/リン酸緩衝液で固定後,臨界点乾燥と白金蒸着を行って走査型電子顕微鏡で観察した.涙.内貯留物の細菌分離は当院微生物検査室において通常培養で行い,薬剤感受性検査はCLSI〔ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(臨床検査標準協会)〕が認定した微量液体希釈法によりMicroScanTM(Siemens社)を用いて測定した.薬剤感受性は被検菌の発育阻止最小濃度(MIC)より各薬剤の判定基準に従い,感受性あり(S),中間感受性(I),耐性(R)と判定した.検査薬剤は,ペニシリン系はペニシリンG(PCG),アンピシリン(ABPC),オキサシリン(MPIP),セファロスポリン系はセファゾリン(CEZ),セフォチアム(CTM),セフジニル(CFDM),オキサセフェム系はフロモキセフ(FMOX),カルバペネム系はイミペネム(IPM),アミノグリコシド系はアルベカシン(ABK),ゲンタマイシン(GM),マクロライド系はエリスロマイシン562あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(EM),リンコマイシン系はクリンダマイシン(CLDM),テトラサイクリン系はミノサイクリン(MINO),キノロン系はレボフロキサシン(LVFX),ST合剤はスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST),グリコペプチド系はバンコマイシン(VCM)オキサゾリジノン系はリネゾリド(LZD),その他の抗生物質と(,)してテイコプラニン(TEIC),ホスホマイシン(FOM)である.なお,本論文におけるLVFX以外の抗菌点眼薬名と略語は以下のとおりである.オフロキサシン(OFLX),ガチフロキサシン(GFLX),シソマイシン(SISO),クロラムフェニコール(CP).II症例および結果〔症例1:急性涙.炎の症例〕患者:89歳,女性.数日前より左眼)涙.部を中心とした発赤,腫脹が始まり,近医で処方されたCFDN内服とLVFX頻回点眼で改善せず,増悪してきたため当科を紹介された.初診時所見として左眼)涙.部に発赤して膨隆した腫瘤を認め(図1a),上下涙点より涙管洗浄針を挿入したが涙小管は途中で閉塞していた.眼窩CT撮影を行ったところ,涙.部は混濁して蜂巣炎に進展しており,鼻骨から離れた位置に石灰化陰影を認めた(図1b).即日,涙.切開を行ったところ,排膿が認められ(図1c),CEZ点滴とLVFX頻回点眼を開始した.膿の塗抹標本では白血球に貪食されたグラム陽性球菌が検出された(図2a).第3病日に細菌培養検査で分離された細菌は薬剤感受性検査の結果,MRSAと同定されたためにMRSA急性涙.炎と診断し(表1),全身投与をCEZからLZDに変え,点眼もVCM点眼薬に変更した.MRSAを標的とした薬物治療に変更しても涙.部の蜂巣炎は改善しなかったので第9病日に涙.摘出を施行した.皮下は壊死組織と膿瘍で充満しており,さらに切開を進めると8mmの大きさの涙.結石とその周囲に数個の小結石を認めた(図1d).涙.を含め壊死組織を摘出し,皮膚縫合を行った.摘出組織の病理組織所見として一部に涙.上皮を伴う結合織がみられたものの,大部分は炎症細胞侵潤を伴う肉芽組織であった.小結石は好酸性の無構造な組織(図2b)で,結石の周囲にグラム陽性球菌が認められた(データは非呈示).大きな涙.結石表面の走査電子顕微鏡による観察では,直径0.8.1.0μmの大きさの球菌が結石表面に存在する線維状の物質や微細な沈着物の上に散在していた(図2c,d).左眼)涙.摘出後には同部位の発赤,腫脹は消失して術後7カ月で同部位の蜂巣炎は再発していない.〔症例5:慢性涙.炎の症例〕患者:73歳,女性.13年前より他院にて左眼)涙.炎と診断され,涙.洗浄が続けられていた.最近では涙.部を圧迫しても膿の排出ができなくなったために皮膚側より穿刺して排膿していた.DCRの適応について当科を紹介された.(98) abcdabcd図1症例1(急性涙.炎)a:術前の顔写真.左涙.部の蜂巣炎を認めた.b:眼窩CT撮影.涙.部は混濁しており,鼻骨から離れた位置に石灰化陰影(矢印)を認めた.c:涙.切開を行うと排膿が認められた.d:涙.摘出時,8mmの大きさの涙.結石(矢印)が認められた.患者は他院通院中に数種類の抗菌点眼薬を処方されていたが,最近ではLVFX点眼薬を継続して点眼していた.初診時,左眼涙.部の隆起性病変を認めた(図3a)ために眼窩CT検査を行ったところ,涙.部の隆起病変は比較的低吸収の内容物がみられた(図3b).涙.造影撮影では拡張した涙.が認められた(図3c)が,涙.より下方の鼻涙管は造影されなかった(図3d).涙.洗浄によって排出された涙.内貯留液よりMRSAが検出されたことより,MRSA慢性涙.炎と診断した(表2).左眼)涙.鼻腔吻合術を施行して術後1年5カ月後に通過を確認している.当科において,涙.切開,涙.摘出およびDCRを施行した非MRSA涙.炎95例の年齢分布は39.98歳であったが,MRSA涙.炎患者は72.93歳と高齢者に多く発症していた(図4).平均年齢を比較すると,MRSA涙.炎患者84.2±6.2歳(平均±標準偏差)で,非MRSA涙.炎では72.1±12.5歳であり,さらにWilcoxonの順位和検定でMRSA涙.炎は非MRSA涙.炎に比較すると有意に高齢であった(p<0.001).MRSA涙.炎の内訳は男性1例,女性12例で,そのうち急性涙.炎は4例,慢性涙.炎は9例であった.MRSA感染による涙.炎のうち,表3に急性涙.炎,表4に慢性涙.表1症例1のMRSAの薬剤感受性MICMIC薬剤(μg/ml)判定薬剤(μg/ml)判定PCG8REM>4RABPC>8RCLDM>2RMPIP>2RMINO<2SCEZ>8RLVFX>4RCTM>8RST<1SCFDN>2RVCM1SFMOX8RLZD<2SIPM2RTEIC<2SABK<1SFOM<4SGM<1S炎の症例を示す.前医の治療では抗菌点眼薬の治療が継続されていた例が12例存在していた.MRSAによる急性涙.炎のうちVCM点滴で寛解し,慢性涙.炎に移行したのは症例3,症例4の2例であった.涙.内に結石を認めた急性涙.炎(症例1)は涙.摘出を行ったが,症例2では涙.切開後,蜂巣炎は軽快したものの消炎には長時間を要した.急性涙.炎の寛解例2例を含む慢性涙.炎11例でDCRを行ったが,観察期間1カ月.6年4カ月で全例において涙.炎は再発しなかった.(99)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015563 ababcd図2症例1の病理組織a:涙.切開時の排膿塗抹標本.グラム染色で白血球に貪食されたグラム陽性球菌(矢印)が認められた.b:摘出した涙.の小結石.ヘマトキシリン・エオジン染色で好酸性の無構造な組織像を示した.バーは100μm.c:涙.結石の走査型電子顕微鏡写真(×4,500).線維素に絡みつくように散在する直径1μmの球菌を認めた.縮尺は10μm.d:涙.結石の走査型電子顕微鏡写真(×13,000).バイオフィルムの表面に球菌が付着していた.縮尺は4μm.表2症例5のMRSAの薬剤感受性MICMIC薬剤(μg/ml)判定薬剤(μg/ml)判定PCG8RGM>8RABPC8REM>4RMPIP>2RCLDM>2RCEZ>16RLVFX>4RCTM>16RST<2SCFDN>2RVCM<2SFMOX>16RLZD<2SIPM>8RTEIC<2SABK2SFOM>16R検出されたMRSA13株の薬剤感受性を調べると,PCG,ABPC,MPIP,CEZ,CTM,FDN,FMOX,IPM,LVFXはすべて100%の耐性率を示していた.逆に薬剤感受性を示していた抗菌薬としては図5に示すように,EMは7%,CLDNは23%,FOMは31%,GMは38%,MINOに対して60%の分離株が感受性を示していた.100%の感受性を示564あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015していたのはABK,TEIC,ST,VCM,LZDの5種類の抗菌薬であった.III考按MRSAと非MRSA涙.炎患者の平均年齢を比較すると,MRSA涙.炎は84.2±6.2歳,非MRSA涙.炎は72.1±12.5歳であり,MRSA涙.炎は非MRSAに比較すると有意に高齢であった(p<0.001).さらにMRSA涙.炎の年齢分布をみると85歳以上の超高齢者は,急性涙.炎では4例中3例,慢性涙.炎では9例中3例であり,免疫力の低下している超高齢者は易感染性宿主と考えられた.MRSA涙.炎の男女比をみると男性1例,女性12例で,ほとんどが女性であった.前報1)で考察したように,その理由として日本人では解剖学的に男性よりも女性のほうが鼻涙管の内径が狭く,鼻涙管と下鼻道のなす角度が小さいために涙.内に涙液が貯留しやすくなるためと考えられる5).MRSA涙.炎患者のうち紹介なしで受診した1例を除き,他院で抗菌点眼薬の(100) abbcdabbcd図3症例5(慢性涙.炎)a:術前の顔写真.左涙.部の隆起性病変を認めた.b:眼窩CT撮影.涙.部は被膜に包まれるように比較的低吸収の内容物(矢印)が認められた.c:涙.造影正面像.拡張した涙.(矢印)を認めた.d:涙.造影側面像.拡張した涙.(矢印)と途絶した鼻涙管が認められた.表3MRSA急性涙.炎の症例症例性別年齢患側前医の治療手術転帰189歳女性左数日前より急性涙.炎LVFX点眼涙.切開後,LZDが奏効せず,涙.摘出涙.摘出後7カ月で涙.周囲炎は認めず293歳女性左3カ月前より急性涙.炎の診断で前医にて涙.切開LVFX点眼涙.切開後,VCMを投与拡張型心筋症のため追加手術不能1年2カ月後は慢性涙.炎373歳女性左10年前から左眼)慢性涙.炎放置していたが,7日前より急性涙.炎で当科に直接受診VCM投与により急性涙.炎が寛解.DCRDCR後,6年6カ月で涙.洗浄にて通水可493歳女性左3カ月前より他院で急性涙.炎LVFX点眼VCM投与により急性涙.炎が寛解.DCRDCR後,3年10カ月で涙.洗浄にて通水可治療が継続されていたことより,長期間の抗菌点眼薬は涙.における常在菌の耐性化をもたらすと考えられた.ただしMRSA感染についは,涙.内で黄色ブドウ球菌が抗菌薬に対して多剤耐性化を獲得したのか,医療機関においてMRSAの二次感染を生じたのかは不明である.最近,一般社会の健常者からもMRSAが分離され,菌の性状をみると院内感染を起こすMRSAとは細菌学的に異なる特徴を有していることから,従来の院内感染型MRSAとは区別して市中感染型MRSAとよばれるようになった.多くの抗菌薬に耐性を有している院内感染型MRSAとは異なり,市中感染型MRSAの多くはマクロライドやフルオロキノロン系抗菌薬などに感受性を示す傾向があり,多剤耐性に至っていないことが特徴である6).市中感染型MRSAによる感染症はおもに皮膚や軟部組織に生じることが多いといわれている.今回検討したMRSA涙.炎のうち,皮膚および皮下に蜂巣炎を生じていた急性涙.炎のMRSA4株について,市中感染型MRSAである可能性について検討した.まず今回検出されたMRSA13株において薬剤感受性を示すかどうかをみたところ,ABK,TEIC,ST,VCM,LZDでは100%,MINOに対しては60%の分離株が感受性を有してい(101)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015565 表4MRSA慢性涙.炎の症例症例年齢性別患側前医の治療手術転帰573歳女性左13年前より左眼)涙.洗浄,最近は皮膚側より穿刺,吸引LVFX点眼DCR術後2年4カ月通水可685歳女性左約10年前より左眼)慢性涙.炎SISO,CP,LVFX点眼DCR術後2年7カ月通水可777歳女性右5年前より右眼)涙.洗浄LVFX点眼DCR術後6カ月通水可877歳女性左3年前より左眼)涙.洗浄LVFX点眼DCR術後3年11カ月通水可986歳女性左10年前より左眼)涙.洗浄GFLX点眼DCR術後3年10カ月通水可1081歳男性左当科にてDCR後,1カ月で閉鎖してMRSA検出.LVFX点眼DCR再手術再手術術後1年6カ月通水可1181歳女性左発症は不明.当科にて右眼)DCR術後,左眼)眼脂を認め,MRSA検出.LVFX点眼DCR術後4年10カ月通水可1288歳女性右3年前より左眼)涙.洗浄OFLX点眼DCR術後6カ月通水可1372歳女性右右眼)上下涙点閉鎖に対して涙点を開放すると慢性涙.炎が判明し,MRSA検出.DCR術後1カ月通水可05101520253035404550~10~20~30~40~50~60~70~80~90~100■:非MRSA■:MRSA症例数(人)年齢(歳)図4涙.炎の年齢分布涙.炎患者の年齢分布として30歳代より発症して70歳代をピークとしていたが,MRSA涙.炎では71歳以上の高齢者のみに発症を認めた.た.さらにEM,CLDN,FOM,GMに対しては7.38%が薬剤感受性を有していたために市中感染型MRSAが含まれている可能性が出てきたが,個々の症例をみると症例1ではGMに感受性を示していたが,EMやLVFXには耐性を示していた.症例2.4も同様にEMやLVFXには耐性を示していたことより,当科のMRSA涙.炎の分離株は市中感染型MRSAとは考えにくく,全例,院内感染型MRSAと考えられた.つぎにMRSAの増殖メカニズムについて考えてみたい.566あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%■:耐性■:感受性ABKSTVCMTEICLZDMINOGMFOMCLDMEM図5MRSA13菌株において抗菌薬に感受性を有する割合MRSAに対して,薬剤感受性を有する抗菌薬としてはEM,CLDN,GM,MINO,FOMがあげられ,7.60%のMRSAが感受性を示していた.100%の感受性を示していたのはABK,TEIC,ST,VCM,LZDの5種類の抗菌薬であった.細菌は液層中でプランクトンとして浮遊するよりも固相に付着,定着して集団として存在しているが,その際に固相─液層界面に形成されるのがバイオフィルムである7).症例1において涙.摘出時に摘出された涙.結石の表面を走査型電子顕微鏡で観察すると,多数のブドウ球菌が線維素や無構造物質から形成されるバイオフィルムに絡みつくように群生していた.涙.結石は内層のムコ蛋白質に石灰沈着を生じると,眼窩CT検査で周囲が高吸収となるために米粒様(ricekernelappearance)とも称される特徴ある画像を呈すると報告(102) されている8,9).すなわち,涙.結石における石灰沈着は細菌がより定着しやすくなるためにバイオフィルムの形成,成熟が容易となる.バイオフィルムの構成成分としては付着する細菌より産生される細胞外多糖類,蛋白質や死滅した細菌より放出された粘性の高いDNAが含まれておりいわゆる細胞外マトリックスとして存在している10).細菌にとってバイオフィルムを形成することは,生体の免疫作用や抗菌薬から逃れることができるためにMRSAをはじめ難治性の慢性感染症となりうる.その具体例として症例1があげられる.MRSAに対して薬物療法が奏効せず涙.を摘出せざるをえなかったのは,表層にバイオフィルムが形成された涙.結石を増殖の場としたことでMRSAは抗菌薬に対する防御が可能になったと思われる.今回は手術として涙.切開(1例),涙.摘出(1例)およびDCR(11例)を行ったが,DCRの手術成績として観察期間1カ月.6年4カ月で涙.炎は再発していない.MRSA涙.炎は発症背景として抗菌点眼薬を長期使用していた高齢者があげられるが,DCRの手術成績は良好であったことより通常の黄色ブドウ球菌感染症と病原性は変わらないと考えられる.いわゆる院内感染型MRSAは健常人ではその感染に対してかなり抵抗性を示すが,免疫機能の低下した高齢者ではMRSA涙.炎を発症すると考えられるために,眼科医を含めて医療スタッフは高齢者に対しMRSAの感染源になる可能性を常に念頭に置く必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)児玉俊夫,宇野敏彦,山西茂喜ほか:乳幼児および成人に発症した涙.炎の検出菌の比較.臨眼64:1269-1275,20102)KuboM,SakurabaT,AraiYetal:Dacryocystorhinostomyfordacryocystitiscausedbymethicillin-resistantStaphylococcusaureus:reportoffourcases.JpnJOphthalmol46:177-182,20023)田中朋子,小堀朗,吉田和代ほか:メチシリン耐性ブドウ球菌による急性涙.炎の2例.眼科手術13:629-632,20004)児玉俊夫:松山赤十字病院における涙.鼻腔吻合術の手術成績.松山日赤誌39:15-20,20145)ShigetaK,TakegoshiH,KikuchiS:Sexandagedifferencesinthebonynasolacrimalcanal.Ananatomicalstudy.ArchOphthalmol125:1677-1681,20076)松本哲哉:MRSA感染症(市中感染型MRSAを含む).最新医学63:1225-1239,20087)米澤英雄,神谷茂:バイオフィルム形成と細胞外マトリックス.臨床と微生物36:411-416,20098)YaziciB,HammadAM,MeyerDR:Lacrimalsacdacryoliths.Ophthalmology108:1308-1312,20019)AsheimJ,SpicklerE:CTdemonstrationofdacryolithiasiscomplicatedbydacryocystitis.AJNRAmJNeuroradiol26:2640-2641,200510)PerryLJP,JakobiecFA,ZakkaFR:Bacterialandmucopeptideconcretionsofthelacrimaldrainagesystem:Ananalysisof30cases.OphthalPlastReconstrSurg28:126133,2012***(103)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015567

アトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討

2015年4月30日 木曜日

556あたらしい眼科Vol.5104,22,No.3(00)556(92)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):556.560,2015cはじめにアトピー性皮膚炎は,「増悪,寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている1).アトピー性皮膚炎の眼合併症として,円錐角膜,白内障および網膜.離などがあげられ,視力予後に関係する眼合併症として注意喚起されている2).一方,アトピー性皮膚炎のもう一つの合併症として皮膚感染症があげられる.アトピー性皮膚炎では皮膚の易感染性による感染性皮膚疾患として,ブドウ球菌,連鎖球菌による伝染性膿痂疹,単純ヘルペスウイルスによるカポジ(Kaposi)水痘様発疹症,伝染性軟属腫ウイルスによる伝染性軟属腫が多い.さらにこれらの感染性皮膚疾患から角結膜炎に波及し,伝染性膿痂疹ではカタル性結膜炎やブドウ球菌角膜炎3),カポジ水痘様発疹症では単純ヘルペス結膜炎および角膜炎4),伝染性軟属腫では濾胞性結膜炎がみられる5).しかしながら,アトピー性皮膚炎の易感染性を背景に発症する細菌性角膜炎の詳細については不明な点が多い.今回,筆者らは,アトピー性皮膚炎を有する症例に発症した細菌性角膜炎の特徴について検討した.〔別刷請求先〕庄司真紀:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MakiShoji,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANアトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討庄司真紀*1,2稲田紀子*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センターStudyofBacterialKeratitisinPatientswithAtopicDermatitisMakiShoji1,2),NorikoInada1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicineアトピー性皮膚炎を有する細菌性角膜炎症例の臨床的特徴を検討する目的で,患者背景,誘因,角膜炎の臨床所見,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜擦過物からの検出菌および薬剤感受性について調査した.対象は,細菌性角膜炎に罹患したアトピー性皮膚炎患者34例(男性22例,女性12例)で,平均年齢は28.6歳±11.2歳(±標準偏差)である.角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は23例(68%)であった.角膜擦過物の細菌分離培養検査では19例23株で菌が検出され,methicillin-senstiveStaphylococcusaureus10株が最多であった.アトピー性皮膚炎患者の細菌性角膜炎の特徴は,CL装用者に発症するブドウ球菌角膜炎であった.Purpose:Toidentifytheclinicalcharacteristicsofmicrobialkeratitispatientswithatopicdermatitis.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved36patients(22malesand12females,meanage:28.6±11.2(±SD)years)withatopicdermatitiswhosufferedfrommicrobialkeratitis.Inallpatients,dataregardingpatientdemographics,precipitantsofkeratitis,clinicalobservationofkeratitis,presenceofallergicconjunctivaldiseases,andresultsofbacterialcultivationandantibioticsusceptibilitytestswereevaluated.Results:Forprecipitantsofkeratitis,contactlens(CL)wearwasmostcommon[17of34patients(50%)],andtheincidenceofcomplicationofallergicconjunc-tivaldiseaseswere23of34cases(68%).Inthecornealabrasionspecimensof19patients,23bacterialstrainsweredetectedbythebacterialcultivationtest,with10strainsofmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusbeingtheonesmostisolated.Conclusions:Inthisstudy,theclinicalcharacteristicofbacterialkeratitisinthepatientswithatopicdermatitiswasfoundtobestaphylococcalkeratitisthatdevelopedduetoCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):556.560,2015〕Keywords:アトピー性皮膚炎,細菌性角膜炎,黄色ブドウ球菌,アレルギー性結膜疾患.atopicdermatitis,bacte-rialkeratitis,Staphylococcusaureus,allergicconjunctivaldisease.(00)556(92)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):556.560,2015cはじめにアトピー性皮膚炎は,「増悪,寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている1).アトピー性皮膚炎の眼合併症として,円錐角膜,白内障および網膜.離などがあげられ,視力予後に関係する眼合併症として注意喚起されている2).一方,アトピー性皮膚炎のもう一つの合併症として皮膚感染症があげられる.アトピー性皮膚炎では皮膚の易感染性による感染性皮膚疾患として,ブドウ球菌,連鎖球菌による伝染性膿痂疹,単純ヘルペスウイルスによるカポジ(Kaposi)水痘様発疹症,伝染性軟属腫ウイルスによる伝染性軟属腫が多い.さらにこれらの感染性皮膚疾患から角結膜炎に波及し,伝染性膿痂疹ではカタル性結膜炎やブドウ球菌角膜炎3),カポジ水痘様発疹症では単純ヘルペス結膜炎および角膜炎4),伝染性軟属腫では濾胞性結膜炎がみられる5).しかしながら,アトピー性皮膚炎の易感染性を背景に発症する細菌性角膜炎の詳細については不明な点が多い.今回,筆者らは,アトピー性皮膚炎を有する症例に発症した細菌性角膜炎の特徴について検討した.〔別刷請求先〕庄司真紀:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MakiShoji,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-Kamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANアトピー性皮膚炎症例における細菌性角膜炎の検討庄司真紀*1,2稲田紀子*1庄司純*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センターStudyofBacterialKeratitisinPatientswithAtopicDermatitisMakiShoji1,2),NorikoInada1)andJunShoji1)1)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,2)DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicineアトピー性皮膚炎を有する細菌性角膜炎症例の臨床的特徴を検討する目的で,患者背景,誘因,角膜炎の臨床所見,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜擦過物からの検出菌および薬剤感受性について調査した.対象は,細菌性角膜炎に罹患したアトピー性皮膚炎患者34例(男性22例,女性12例)で,平均年齢は28.6歳±11.2歳(±標準偏差)である.角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は23例(68%)であった.角膜擦過物の細菌分離培養検査では19例23株で菌が検出され,methicillin-senstiveStaphylococcusaureus10株が最多であった.アトピー性皮膚炎患者の細菌性角膜炎の特徴は,CL装用者に発症するブドウ球菌角膜炎であった.Purpose:Toidentifytheclinicalcharacteristicsofmicrobialkeratitispatientswithatopicdermatitis.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved36patients(22malesand12females,meanage:28.6±11.2(±SD)years)withatopicdermatitiswhosufferedfrommicrobialkeratitis.Inallpatients,dataregardingpatientdemographics,precipitantsofkeratitis,clinicalobservationofkeratitis,presenceofallergicconjunctivaldiseases,andresultsofbacterialcultivationandantibioticsusceptibilitytestswereevaluated.Results:Forprecipitantsofkeratitis,contactlens(CL)wearwasmostcommon[17of34patients(50%)],andtheincidenceofcomplicationofallergicconjunc-tivaldiseaseswere23of34cases(68%).Inthecornealabrasionspecimensof19patients,23bacterialstrainsweredetectedbythebacterialcultivationtest,with10strainsofmethicillin-sensitiveStaphylococcusaureusbeingtheonesmostisolated.Conclusions:Inthisstudy,theclinicalcharacteristicofbacterialkeratitisinthepatientswithatopicdermatitiswasfoundtobestaphylococcalkeratitisthatdevelopedduetoCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):556.560,2015〕Keywords:アトピー性皮膚炎,細菌性角膜炎,黄色ブドウ球菌,アレルギー性結膜疾患.atopicdermatitis,bacte-rialkeratitis,Staphylococcusaureus,allergicconjunctivaldisease. あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015557(93)I対象および方法1.対象対象は,2001年1月.2013年12月に日本大学医学部附属板橋病院眼科で加療し,かつ次の①および②の条件を満たした症例である(本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を得た).①アトピー性皮膚炎を発症している,もしくは既往を有する症例.②細菌性角膜炎と臨床診断し,角膜病巣部から細菌分離培養検査を施行した症例.2.方法本研究における検討項目は,患者背景,角膜炎の誘因,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜炎の臨床所見,角膜擦過物からの検出菌,薬剤感受性試験結果の6項目である.a.患者背景・角膜炎の誘因初診時に,角膜炎発症時の年齢および性別について調査するとともに,問診の記録から角膜炎の発症に関連する誘因について調査した.b.アレルギー性結膜疾患の有無初診時の細隙灯顕微鏡所見から,アレルギー性結膜疾患の合併の有無について検討した.アレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン6)に従って診断と病型分類を行った.c.角膜炎の臨床所見初診時の感染性角膜炎の所見として,角膜潰瘍の形状,角膜endothelialplaque,虹彩炎および前房蓄膿の有無について調査した.d.角膜擦過物からの検出菌・薬剤感受性試験細菌性角膜炎の原因菌検索として,角膜擦過物を直接チョコレート寒天培地に塗抹して細菌分離培養検査をするとともに薬剤感受性試験を行った.II結果1.年齢分布12年間の調査期間における対象症例数は,34例(男性22例,女性12例)であった.発症年齢は28.6±11.2歳(平均±標準偏差)で,発症のピークは25.29歳であり,おもに20代後半から30代前半に多く発症していた(図1).2.角膜炎の誘因細菌性角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,全体の半数を占めた.CLの種類の内訳は,ソフトCL装用が13例,ハードCL装用が4例(円錐角膜に対してハードCL装用3例を含む)であった.その他の誘因は,結膜異物2例,睫毛乱生1例,春季カタルの治療で免疫抑制薬点眼中の症例が1例であり,残りの13例(38%)は明確な誘因が判明しなかった(表1).3.合併するアレルギー性結膜疾患細菌性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜炎16例(47%),春季カタル4例(12%),巨大乳頭結膜炎3例(9%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は34例中23例(68%)であった(図2).さらに,合併するアレルギー性結膜疾患を,CL装用の有無で比較した.CL装用者,すなわちCLが誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎10例(59%),巨大乳頭結膜炎3例(17%),春季カタル1例(6%)であり,アレルギー性結膜疾患の合併率は17例中14例(82%)であった.CL非装用者,すなわちCL以外の誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎6例(35%)と春季カタル3例(18%)であり,合併率は17例中9例(53%)であった(図3).4.角膜病巣部からの細菌分離培養検査結果角膜病巣部からの細菌分離培養検査の結果は,34例中19図1発症年齢発症年齢は25.29歳にピークがみられ,おもに20代後半から30代前半に多く発症している.012345678910■:女性■:男性症例数(例)発症年齢5~9歳10~14歳15~19歳20~24歳25~29歳30~34歳35~39歳40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳表1感染性角膜炎の誘因誘因症例数(例)頻度(%)コンタクトレンズ(CL)装用1750ソフトCL13ハードCL1円錐角膜+ハードCL3結膜異物26睫毛乱生13免疫抑制薬点眼中13誘因不明1338合計34100あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015557(93)I対象および方法1.対象対象は,2001年1月.2013年12月に日本大学医学部附属板橋病院眼科で加療し,かつ次の①および②の条件を満たした症例である(本研究は,日本大学医学部附属板橋病院臨床研究審査会の承認を得た).①アトピー性皮膚炎を発症している,もしくは既往を有する症例.②細菌性角膜炎と臨床診断し,角膜病巣部から細菌分離培養検査を施行した症例.2.方法本研究における検討項目は,患者背景,角膜炎の誘因,アレルギー性結膜疾患の有無,角膜炎の臨床所見,角膜擦過物からの検出菌,薬剤感受性試験結果の6項目である.a.患者背景・角膜炎の誘因初診時に,角膜炎発症時の年齢および性別について調査するとともに,問診の記録から角膜炎の発症に関連する誘因について調査した.b.アレルギー性結膜疾患の有無初診時の細隙灯顕微鏡所見から,アレルギー性結膜疾患の合併の有無について検討した.アレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン6)に従って診断と病型分類を行った.c.角膜炎の臨床所見初診時の感染性角膜炎の所見として,角膜潰瘍の形状,角膜endothelialplaque,虹彩炎および前房蓄膿の有無について調査した.d.角膜擦過物からの検出菌・薬剤感受性試験細菌性角膜炎の原因菌検索として,角膜擦過物を直接チョコレート寒天培地に塗抹して細菌分離培養検査をするとともに薬剤感受性試験を行った.II結果1.年齢分布12年間の調査期間における対象症例数は,34例(男性22例,女性12例)であった.発症年齢は28.6±11.2歳(平均±標準偏差)で,発症のピークは25.29歳であり,おもに20代後半から30代前半に多く発症していた(図1).2.角膜炎の誘因細菌性角膜炎の誘因としては,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用がもっとも多く17例(50%)で,全体の半数を占めた.CLの種類の内訳は,ソフトCL装用が13例,ハードCL装用が4例(円錐角膜に対してハードCL装用3例を含む)であった.その他の誘因は,結膜異物2例,睫毛乱生1例,春季カタルの治療で免疫抑制薬点眼中の症例が1例であり,残りの13例(38%)は明確な誘因が判明しなかった(表1).3.合併するアレルギー性結膜疾患細菌性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患は,アレルギー性結膜炎16例(47%),春季カタル4例(12%),巨大乳頭結膜炎3例(9%)で,アレルギー性結膜疾患の合併率は34例中23例(68%)であった(図2).さらに,合併するアレルギー性結膜疾患を,CL装用の有無で比較した.CL装用者,すなわちCLが誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎10例(59%),巨大乳頭結膜炎3例(17%),春季カタル1例(6%)であり,アレルギー性結膜疾患の合併率は17例中14例(82%)であった.CL非装用者,すなわちCL以外の誘因で発症した群においては,アレルギー性結膜炎6例(35%)と春季カタル3例(18%)であり,合併率は17例中9例(53%)であった(図3).4.角膜病巣部からの細菌分離培養検査結果角膜病巣部からの細菌分離培養検査の結果は,34例中19図1発症年齢発症年齢は25.29歳にピークがみられ,おもに20代後半から30代前半に多く発症している.012345678910■:女性■:男性症例数(例)発症年齢5~9歳10~14歳15~19歳20~24歳25~29歳30~34歳35~39歳40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳表1感染性角膜炎の誘因誘因症例数(例)頻度(%)コンタクトレンズ(CL)装用1750ソフトCL13ハードCL1円錐角膜+ハードCL3結膜異物26睫毛乱生13免疫抑制薬点眼中13誘因不明1338合計34100 例(56%)で菌が検出された.同一症例から複数菌の検出が認められた4例を含め,検出株数は23株であった.結果を図4に示す.検出菌は多い順に,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-senstiveStaphylococcusaureus:MSSA)10株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)4株,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeStaphylococcus:CNS)3株であり,ブドウ球菌属が23株中17株を占めた.5.薬剤感受性試験結果角膜病巣部から分離された黄色ブドウ球菌14株(MSSA10株,MRSA4株)に対する薬剤感受性試験結果を表2に示す.今回の臨床分離株に対するセフェム系およびカルバペネム系抗菌薬の薬剤感受性は良好であり,また抗菌点眼薬として使用される抗菌薬のなかでは,ゲンタマイシンで4株,エリスロマイシンで2株,レボフロキサシンで1株の耐性菌がみられた.MRSAに対する治療薬として使用されているバンコマイシンでは全株に感受性があり,アルベカシンでは1株の耐性菌がみられた.16例(47%)4例(12%)3例(9%)11例(32%)34例■:アレルギー性結膜炎■:春季カタル:巨大乳頭結膜炎■:所見なし図2感染性角膜炎に合併するアレルギー性結膜疾患アレルギー性結膜疾患は,34例中23例(68%)に合併している.6.アトピー性皮膚炎症例に合併したブドウ球菌角膜炎の前眼部所見の特徴ブドウ球菌角膜炎と確定診断された17例について,前眼部所見の特徴から軽症から重症の4つのグループに分類した.分類は,角膜膿瘍の形状(小円形,不整形,角膜のびまん性混濁)と前房蓄膿の有無とで行った.小円形の角膜潰瘍を呈し前房蓄膿を伴わないグループをG1,不整形膿瘍に前房蓄膿を伴わないグループをG2,不整形膿瘍に前房蓄膿を伴うグループをG3,角膜のびまん性混濁を認めるグループをG4とした.G17例,G25例,G34例,G41例に分類された(図5).III考按アトピー性皮膚炎症例に発症した細菌性角膜炎は,12年間の観察期間で34例であり,おもな発症誘因はCL装用(17■:アレルギー性結膜炎■:春季カタル:巨大乳頭結膜炎■:所見なし1例3例(17%)3例(18%)6例(35%)3例(18%)3例(18%)8例(47%)10例(59%)CLあり(17例)CLなし(17例)(6%)図3コンタクトレンズ装用の有無とアレルギー性結膜疾患の有無コンタクトレンズ(CL)装用者では17例中14例(82%)にアレルギー性結膜疾患の合併がみられ,非CL装用者では17例中9例(53%)にアレルギー性結膜疾患の合併がみられる.検出菌株数(株)菌陰性15例(44%)菌検出19例(56%)ブドウ球菌属17/23株(74%)MSSA(methicillin-senstiveStaphylococcusaureus)MRSA(methicillin-resistantStaphylococcusaureus)CNS(coagulase-negativeStaphylococcus)GroupCStreptcoccus*a-Staphylococcus*Corynebacteriumsp.*Propionibacteriumacnes**Pseudomonasaeruginosa計10431112123株*MSSAと同時検出.**1株のみMSSAと同時検出.図4細菌分離培養結果角膜病巣部からの細菌分離培養から菌が検出された症例は,34例中19例(56%)である.同一症例から複数菌が検出された4例を含め,延べ23株の菌が検出され,17株(74%)がブドウ球菌属である.(94) 表2薬剤感受性試験結果(感受性株数/検体数)MSSA(感受性株数/検体数)SBT/IPM/PCGCEZABKGMEMCLDMMINOVCMSTLVFXTEICABPCCS8/81/810/108/99/107/105/79/109/1010/108/97/78/8MRSA(感受性株数/検体数)ABKGMCLDMMINOVCMSTLVFXTEIC4/42/32/32/34/44/41/22/2SBT/ABPC:スルバクタム/アンピシリン,PCG:ベンジルペニシリン,CEZ:セファゾリン,IPM/CS:イミペネム/シラスタチン,ABK:アルベカシン,GM:ゲンタマイシン,EM:エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,VCM:バンコマイシン,ST:スルファメトキサゾール/トリメトプリム,LVFX:レボフロキサシン,TEIC:テイコプラニンG1G2G3G4角膜膿瘍の形状小円形不整形不整形びまん性混濁前眼部写真前房蓄膿××○透見不可その他Endothelialplaque形成(1例)Endothelialplaque形成(3例)症例数(例)7541図5アトピー性皮膚炎症例に合併したブドウ球菌角膜炎の前眼部所見の特徴(17例)角膜炎の病態を角膜膿瘍の形状と前房蓄膿の有無によって,G1.G4に分類した.G1,G2に分類される症例が多いが,前房蓄膿を伴うG3,非典型的なG4症例もみられる.例)であった.装用していたCLの種類は,ソフトCLが14例と多く,ハードCL装用者4例であった.アレルギー性結膜疾患の合併率は68%であったが,所見のない症例もあり,アレルギー性結膜疾患と細菌性角膜炎との関連は不明であった.しかしながら,CL装用が誘因となった感染性角膜炎症例では,CL装用以外を誘因とする感染性角膜炎症例と比較して統計学的有意差はみられなかったものの,アレルギー性結膜疾患を合併している症例が多かった.ソフトCL装用者の場合,アレルギー性結膜炎を合併することによりソフトCLの汚れや固着などが生じやすくなり,感染性角膜炎のリスクファクターになる可能性があり,CLの処方,ケア方法には注意を要する.また,ハードCL装用者4例のうち3例は円錐角膜患者であり,CLを使用せざるえない症例も多い.アトピー素因を有する円錐角膜患者がハードCLを装用する場合には,注意すべき合併症としてブドウ球菌角膜炎が以前から指摘されている.さらに黄色ブドウ球菌角膜炎を発症した場合には,急性水腫様の角膜所見を呈することが多いとされ7,8),鑑別に注意を要することが指摘されている.本症例においても円錐角膜患者から分離された細菌はMRSAであり,また感染性角膜炎の所見は小円形から類円形であり,既報と類似した所見であったと考えられた.アトピー性皮膚炎症例では,アレルギー性結膜疾患があっても視力矯正を優先してハードCLを装用する場合,およびアレルギー性結膜疾患,とくに軽症のアレルギー性結膜炎の合併が自覚されないままソフトCL装用を始める場合が,感染性角膜炎の重要な危険因子となりうると考えられた.角膜擦過物からの細菌分離培養検査では23株が検出されたが,23株中17株がブドウ球菌属であった.通常,CL関連角膜感染症の原因菌は緑膿菌が多いが,本検討で緑膿菌が検出された1例は免疫抑制薬使用中の春季カタル症例であり,CL装用者から緑膿菌は検出されなかった.アトピー性皮膚炎では,皮膚に黄色ブドウ球菌が定着(colonization)または感染(infection)することが多いとされている9).Parkら10)は黄色ブドウ球菌が皮膚に定着する頻度は,急性期の症例で74%,慢性期の症例で38%,健常対照で3%であったとし,黄色ブドウ球菌の定着が急性期の増悪(95)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015559 因子として注目すべきであるとしている.また,アトピー性角結膜炎症例における結膜.内細菌分離培養結果においてもブドウ球菌属が分離される頻度が高いことが報告されている11).したがって,アトピー性皮膚炎に合併する細菌性角膜炎の原因菌としてブドウ球菌属が多くみられたことは,皮膚からの持ち込み感染,結膜.内細菌の感染などの可能性があると考えられた.今回分離されたブドウ球菌属でかつ薬剤耐性であった菌株はMRSA4株であり,MRCNSはみられなかった.他の株ではセフェム系およびフルオロキノロン系抗菌薬が良好な感受性を示したが,ゲンタマイシンに耐性を示す株がみられた.感染性角膜炎診療ガイドライン12)では,グラム陽性菌による細菌性角膜炎に対する治療には,セフェム系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬との併用療法が推奨されているが,今回の臨床分離株の薬剤感受性試験結果からも同様の治療が推奨されると考えられた.また,MRSAに対しては,バンコマイシン軟膏が上市されているほかアミカシンやアルベカシンの自家製剤の使用も報告されている13).しかし,今回の臨床分離株のなかにもアルベカシンに対する耐性株が検出されていることから,耐性菌をさらに増やさないためにも,これらの薬剤の乱用は避けるべきであると考えられた.17例のブドウ球菌角膜炎の重症度は軽症から重症までみられ,4グループ(G1.G4)に分類した.ブドウ球菌角膜炎は表在性膿瘍を形成し,グラム陰性菌感染症に比べて比較的軽症であるとされ,病巣の特徴として円形,類円形または三日月状やひょうたん型の不整型潰瘍とその周囲を取り囲む細胞浸潤があげられている14.16).本検討では,12例が前房蓄膿のないG1,G2であったが,前房蓄膿がみられたG3が4例,もっとも重症であったG4の病巣は非典型的であった.G4の症例はシールド潰瘍に細菌感染した症例であり,基礎疾患の重症度によって修飾され重症化した症例であると考えられた.したがって,アトピー性皮膚炎に合併するブドウ球菌角膜炎は重症化する症例もみられることから,薬剤感受性検査を含めた細菌学的検査を行いながら注意して治療を進める必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌119:1515-1534,20092)ChenJJ,ApplebaumDS,SunGSetal:Atopickeratoconjunctivitis:Areview.JAmAcadDermatol70:569-575,20143)佐藤敦子,岩﨑隆,庄司純ほか:伝染性膿痂疹に合併した角膜膿瘍の1例.日眼会誌102:395-398,19984)塚本裕次,井上幸次,前田直之ほか:アトピー素因のある円錐角膜患者に発症した上皮型角膜ヘルペスの4例.眼紀50:229-232,19995)InoueY:Ocularinfectionsinpatientswithatopicdermatitis.IntOphthalmolClin42:55-69,20026)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:829-870,20107)西田幸二,井上幸次,中川やよいほか:両眼にAcuteHydrops様所見を呈した角膜感染症の1例.あたらしい眼科7:263-266,19908)遠藤純子,﨑元暢,嘉村由美ほか:急性水症様所見を呈する細菌感染を生じた円錐角膜の2症例.眼科42:711714,20009)菅谷誠:アトピー性皮膚炎と細菌感染.アレルギーの臨床32:497-501,201210)ParkHY,KimCR,HuhISetal:Staphylococcusaureuscolonizationinacuteandchronicskinlesionsofpatientswithatopicdermatitis.AnnDermatol25:410-416,201311)田渕今日子,稲田紀子,庄司純ほか:アトピー性角結膜炎におけるブドウ球菌の関与に関する検討.日眼会誌108:397-400,200412)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第2版).日眼会誌117:467-509,201313)大.秀行:眼感染症Now!薬剤耐性の問題点は?MRSAの治療を教えてください.あたらしい眼科26:139-141,201014)稲田紀子,庄司純,齋藤圭子ほか:アトピー素因を有する患者に合併した角膜感染症の4症例.眼科43:11111115,200115)田渕今日子,稲田紀子,庄司純ほか:アトピー性皮膚炎患者に発症したブドウ球菌性角膜潰瘍の2症例.眼科45:1469-1473,200316)庄司純:細菌性角膜潰瘍.臨眼57:162-169,2003***(96)

ラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性に及ぼすリゾチームおよびムチンの影響

2015年4月30日 木曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(4):551.555,2015cラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性に及ぼすリゾチームおよびムチンの影響鈴木智恵*1矢内健洋*1野町美弥*2今安正樹*2佐々木香る*3冨田信一*1*1玉川大学農学部*2株式会社メニコン*3JCHO星ヶ丘医療センターEffectsofLysozymeandMucinonAmoebicidalActivityofLactoferrinAgainstAcanthamoebasp.AA014ChieSuzuki1),KenyouYanai1),MiyaNomachi2),MasakiImayasu2),KaoruAraki-Sasaki3)andShinichiTomita1)1)FacultyofAgriculture,TamagawaUniversity,2)MeniconCo.,Ltd.,3)JCHOHosigaokaMedicalCenterアカントアメーバによる角膜炎は,しばしば治療に難渋する.本研究では,Acanthamoebasp.AA014臨床分離株の栄養体を用いて,涙液中に存在するリゾチームやムチンがラクトフェリン(LF)の抗アカントアメーバ活性に及ぼす影響について検討した.アメーバは,脱鉄ウシLF(apo-bLF)30μM,60分間処理によって不定形の状態で死滅し,その生存率は6.33±0.58%であった.apo-bLFはリゾチームとの共存で相加作用を示したが,この作用はムチンの共存で低下する傾向が認められた.また,フローサイトメトリー分析によると,apo-bLFとリゾチームで処理したアメーバはDiBAC4(3)によるピークが右へとシフトしたが,ムチンの共存によってピークは小さくなった.LFはアメーバ表層の負電荷部位との静電的な相互作用によって膜の脱分極を生じ,抗アメーバ活性を発揮しているものと推察した.MedicaltreatmentofAcanthamoebakeratitisisoftendifficult.Inthisstudy,weexaminedtheinfluenceoflysozymeandmucinontheamoebicidalactivityoflactoferrin(LF)againstAcanthamoebasp.AA014clinical-isolatetrophozoites.Inthecaseofthetreatmentwithiron-freebovineLF(apo-bLF)at30μMfor60minutes,themeanratioofcellviabilitywas6.3±0.58%.Themorphologyofdeadcellsshowedanalmostnon-globularform.Althoughtheamoebicidalactivityofapo-bLFincreasedinthepresenceoflysozyme,itdecreasedslightlyinthepresenceofmucin.FlowcytometryrevealedthepeakofAcanthamoebatreatedwithapo-bLFandlysozymewasshiftedtotheright,however,thepeakwassmallbycoexistenceofthemucin.ThedepolarizationofthecellmembranewascausedbyelectrostaticinteractionbetweentheLFmoleculeandthecellmembrane.ThefindingsofthisstudyindicatethattheamoebicidalactivityofLFisexertedbythedepolarizationofamoebacells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):551.555,2015〕Keywords:ラクトフェリン,リゾチーム,ムチン,アカントアメーバ,抗アメーバ活性.lactoferrin,lysozyme,mucin,Acanthamoeba,amoebicidalactivity.はじめにアカントアメーバは,土壌や水環境に生息する自由生活型アメーバであり,ライフサイクル中では栄養体とシスト体の二形態をとる1).栄養体は不定形であることが多いが,栄養源の枯渇などにより環境が悪化すると自己防御のために球形に変化し,さらに悪化するとシスト体へと形態変化する.通常,アカントアメーバによる角膜炎の治療として,角膜掻爬+抗真菌薬+消毒剤の併用療法が行われるが,病期が進み,アメーバがシスト化すると治療は困難となることが知られている2).また,汚染原因とされるソフトコンタクトレンズのケース内にシスト体として存在する場合,消毒剤に抵抗性となる.したがって,コンタクトレンズの保存液として安全に使用でき,かつシスト体に有効な薬剤の開発が必須である.すでにコンタクトレンズの洗浄保存液としては,この目的でヨード製剤が発売されているが,中和が必要である.また,長期使用によるレンズの劣化や眼に対する副作用なども未知〔別刷請求先〕冨田信一:〒194-8610町田市玉川学園6-1-1玉川大学農学部Reprintrequests:ShinichiTomita,Ph.D.,DepartmentofLifeScience,FacultyofAgriculture,TamagawaUniversity,6-1-1TamagawaGakuen,Machida,Tokyo194-8610,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(87)551 である.一方,ラクトフェリン(LF)は母乳,涙を含め,もともと生体内に存在する蛋白質である.これまでに筆者らは,牛乳由来のLFがアカントアメーバの類縁種であるHartmannella栄養体の増殖を抑制することを報告した3).その作用機序として,LFの鉄キレート能の関与以外に,LFとアメーバの特異的な結合から,鉄キレート能以外の作用機序,すなわち膜電位の変動と脱分極の可能性を報告した.このLFの将来的な臨床現場での応用を考えた場合,涙液の混和による影響は無視できない.涙液にはLFやリゾチームのような感染防御因子が存在し,外来微生物の定着や増殖を抑制している.また,ムチンは涙液保持を担うことで眼表面の保護の役割を果たしている4).そこで,本研究では涙液に存在するリゾチームやムチンがLFの抗アカントアメーバ活性に及ぼす影響について検討するとともに,LFの抗アメーバ活性における作用機序について考察した.I実験方法1.材料アメーバは,大阪大学から分譲されたAcanthamoebasp.AA014臨床分離株の栄養体を用いた.また,脱鉄ウシLF(apo-bLF,牛乳由来,森永乳業社製),リゾチーム(ニワトリ卵白由来,シグマ社製)およびムチン(ウシ顎下腺由来,TypeI-S,シアル酸含有量:9.17%,シグマ社製)を用い§§§§§§0204060801000102030405060生存率(%)†††††※※※※※※※※※※※※※※££†††時間(分)図1apo.bLFのリゾチームおよびムチン存在下におけるAcanthamoebasp.AA014の生存率●:Control,○:apo-bLF30μM,△:リゾチーム130μM,□:apo-bLF+リゾチーム,◇:apo-bLF+リゾチーム+ムチン0.2mg/mL.実験データの各時間における比較はANOVAで行い,差が認められた場合にSNK検定を行った.各時間での異なる記号において有意差あり(p<0.05)とした.552あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015た.2.生存性試験アメーバの生存性は,トリパンブルー法で評価した3).大腸菌抽出液を塗布した寒天培地で30℃,2日間培養したアメーバを回収後,ノイバウエル計算盤を用いて懸濁液(2×106cells/mL)を調製し,各種蛋白質溶液と等量混合した(1×106cells/mL).この混合液を10分間隔で採取して,0.25%トリパンブルー溶液(フルカ社製)と等量混合し,位相差顕微鏡(200倍,CX41,オリンパス社製)で形態およびトリパンブルー染色性を観察した.評価方法は冨田ら3)の報告に従い,染色陰性を生細胞,陽性を死細胞とし,それぞれ不定形および球形に分類した.また,各種蛋白質溶液は涙液中の濃度を想定して,apo-bLF30μM5),リゾチーム130μM6)およびムチン0.2mg/mL7)とした.3.細胞膜電位細胞膜電位の変動をフローサイトメトリーで検討した3).AC#6培地で25℃,5日間静置培養した栄養体を1/4Ringersolution(日本製薬社製)で回収し,洗浄後にノイバウエル計算盤を用いて懸濁液(2×106cells/mL)を調製した.この懸濁液と各種蛋白質溶液を等量混合し,37℃,60分間処理した後(1×106cells/mL),アニオン性膜電位感受性色素Bis(1,3-dibutylbarbituricacid)trimethineoxonol,sodiumsalt(DiBAC4(3),同仁化学研究所社製)で染色し,フローサイトメトリー(FACSCalibur,ベクトン・ディッキンソン社製)で蛍光強度を測定した(FL1チャネル,530nm,アメーバ数が10,000に達した時点で終了とした).II結果1.生存性に及ぼす影響apo-bLF,リゾチームおよびムチン処理におけるアカントアメーバの生存率を図1に示した.これによると,apo-bLF30μMの場合,60分後の生存率は6.33±0.58%となり未処理(Control)に比べて有意に低下した(p<0.01)ことから,apo-bLFの非常に高い抗アカントアメーバ活性が認められた.また,リゾチーム130μMでは,60分後の生存率は47.67±10.69%となり,約半数のアカントアメーバは死滅した.さらに,apo-bLFおよびリゾチームが共存した場合,60分後の生存率は4.67±4.62%となりapo-bLF単独と比べて有意差はなかったものの,それぞれ単独での処理よりも生存率は低い傾向であり,相加的な抗アカントアメーバ活性を示した.しかし,apo-bLF,リゾチームおよびムチンが共存した場合,生存率は16.00±9.54%となり,抗アカントアメーバ活性はわずかに低下傾向を示した.ついでapo-bLF,リゾチームおよびムチン処理によるアメーバの形態に及ぼす影響を観察した(図2).これによると,アメーバの形態はいずれの処理においても死細胞の90(88) %以上が不定形であり,LF,リゾチームおよびムチンがアメーバの形態変化に影響を与えることはほとんどなかった.2.細胞膜電位に及ぼす影響蛍光色素のDiBAC4(3)を用いてLFの細胞膜電位に及ぼす影響を検討した.この蛍光色素は,図3のように細胞膜が脱分極することで色素がアメーバ内に入り込み,蛍光強度が増加する.DiBAC4(3)を用いたフローサイトメトリーでの細胞膜電位の変動をヒストグラムで示した(図4).これによると,加熱処理(80℃,30分)のピークは,Controlのピークと比べて103付近にシフトし蛍光強度が増加したことから,アカントアメーバの脱分極が認められた.apo-bLFの場合,加熱処理と同様にピークシフトは103付近であり,蛍光強度が増加し,脱分極を生じた.また,リゾチームにおいても蛍光強度の増加は認められたが,ピークは102付近であり,完全な脱分極にまでは至らなかった.さらに,apo-bLFおよびリゾチームの共存では,それぞれ単独で処理した場合よりもDiBAC4(3)の取り込み量は増加し,蛍光強度は増加した.しかし,apo-bLF,リゾチームおよびムチンが共存した場合,ピークは102および103付近に分かれ,蛍光強度は低下した.III考察アカントアメーバ栄養体に対するLFの抗アメーバ活性は,apo-bLF30μMで高い活性を示し,栄養体がシスト化することなく死滅した.また,抗アメーバ活性はリゾチームとの共存で相加作用が認められた.同時に,アメーバ細胞膜はapo-bLFによって脱分極し,その程度はリゾチームの共に高い抗アカントアメーバ活性とともに,鉄キレート作用以外の静電的なアメーバ細胞膜への直接作用も示した8,9).さらに,LFは細胞膜からリポ多糖(LPS)の遊離を引き起こし,細胞膜を損傷することで細胞死を導く機序も報告されている.たとえば,Yamauchiら10)は,bLFがEscherichiacoliCL991-2のLPSを遊離させることを確認し,ヒトリゾチームによるグラム陰性菌の死滅率が増加したと報告している.また,Ellisonら11)は,ヒトLFがE.coli5448の膜透過性に影響を与えるだけでなく,LPSに直接結合することで抗菌活性に関与していることを示し,LFとリゾチームが相乗的にグラム陰性菌を死滅させることを報告している.すなわち,グラム陰性菌に対するLFの抗菌活性は,リゾチームによって増強される細胞膜への直接的な影響が示されている.本研究でも,アカントアメーバ栄養体の細胞膜電位は,apo-bLF処理において大きく変動し,脱分極を生じた.さらにリゾチームの共存によって,細胞膜の脱分極は増大した.このことから,LFが鉄のキレートのみではなく,LF.100800存在比(%)604020存下でさらに増大することが明らかとなった.しかし,これらの抗アメーバ活性は,ムチンが共存することによりわずかな低下傾向を示した.このLFの抗アメーバ活性は静電的な機序が推測される.従来,LFの抗微生物活性は,微生物の増殖に必須な鉄をキレート化し,増殖環境を鉄欠乏状態にすることで発揮され図2apo.bLF,リゾチームおよびムチン共存下におけると考えられてきた.しかし,筆者らがすでに報告したトリるAcanthamoebasp.AA014細胞の形態:不定形死細胞,パンブルー法およびLogreduction法を用いたapo-bLFの:不定形生細胞,:球形生細胞,:球形死細胞.抗アカントアメーバ活性の検討において,apo-bLFは非常処理時間:60分Ⅰ-AⅠ-BⅡ-AⅡ-B図3apo.bLF処理におけるAcanthamoebasp.AA014のDiBAC4(3)染色性I:Control,II:apo-bLF30μM.A:位相差顕微鏡,B:蛍光顕微鏡.観察条件:励起480nm,蛍光530nm,Bar=20μm.(89)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015553 100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103ABCDEF100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103104100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103100FL1-H200Events0101102103ABCDEF図4apo.bLF,リゾチームおよびムチン共存下におけるAcanthamoebasp.AA014のDiBAC4(3)の取り込みによる蛍光強度の変動A:Control,B:加熱(80℃,30分),C:apo-bLF30μM,D:リゾチーム130μM,E:apo-bLF+リゾチーム,F:apo-bLF+リゾチーム+ムチン0.2mg/mL.処理時間:60分.アメーバ間の静電的な相互作用によって,アメーバ細胞膜の脱分極および膜損傷を引き起こしていることが明らかとなった.一方,リゾチーム130μM単独での処理でも,apo-bLFほどではないが,抗アカントアメーバ活性が認められた.リゾチームは,細菌細胞壁のペプチドグリカン成分であるNアセチルムラミン酸およびN-アセチルグルコサミン間のb-1,4結合を加水分解することで抗菌活性を示す.LeonSicairosら12)による報告では,リゾチームが赤痢アメーバ栄養体に対して抗アメーバ活性を示すことから,アメーバ細胞膜には細菌のペプチドグリカンと類似の成分を有している可能性を示唆している.このLFおよびリゾチームの抗アメーバ活性がムチンで阻害傾向を示したことにも静電的な機序が関与していると推測される.塩基性蛋白質であるLFおよびリゾチームは,反応系中では正に帯電しており,負に帯電している細胞膜と静電的に相互作用している.そのため,塩基性蛋白質であるapo-bLFおよびリゾチームの共存は,アメーバ細胞膜への静電的な相互作用を大きくしたと考えられる.一方,ムチン分子は糖鎖非還元末端のN-アセチルノイラミン酸によって分子表面が負に帯電している.したがって,正電荷を有するapo-bLFやリゾチームと,負電荷を有するムチンが共存することにより,それらが静電的に相互作用し合い,apo-bLFやリゾチームの細胞膜への相互作用が弱まったと考えられる.実験に用いた各種蛋白質の濃度は,既報5.7)に基づいて設定し,ウシ顎下腺ムチンのN-アセチルノイラミン酸含有量は9.17%であった.ムチンは250kDa以上の分子量でその50%以上が糖鎖によるものであるが,涙液ムチンのN-アセチルノイラミン酸の含有量は明確ではない.このようなことから,今回の結果が臨床症例の炎症状態の眼表面や涙が付着したソフトコンタクトレンズにおいて,どのように反映されているかは不明であるが,実際の臨床現場でも,涙液中のLF,リゾチーム,ムチンが互いに関与していると考えられる.しかし,本研究から,apo-bLFがアカントアメーバ栄養体に対して高い抗アメーバ活性を有することは明らかであり,アカントアメーバ角膜炎の予防や治療における応用の可能性が示唆される.今後は,臨床的に問題となるシスト体に対するLFの作用およびLFとリゾチーム,ムチンの相互作用について検討する予定である.最後に,アメーバを分譲していただいた大阪大学感染制御部浅利誠志先生ならびに砂田淳子先生に感謝申し上げます.また,bLFを提供していただいた森永乳業株式会社食品基盤研究所山内恒治博士ならびに若林裕之博士に感謝申し上げます.利益相反:野町美弥(カテゴリーE:(株)メニコン),今安正樹(カテゴリーE:(株)メニコン)554あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(90) 文献1)MaP,VisvesvaraGS,MartinezAJetal:NaegleriaandAcanthamoebainfections:review.RevInfectDis12:490513,19902)YokogawaH,KobayashiA,YamazakiNetal:Bowman’slayerencystmentincasesofpersistentAcanthamoebakeratitis.ClinOphthalmol6:1245-1251,20123)冨田信一,魚谷孝之,高野真未ほか:ラクトフェリンによるHartmannella細胞の増殖抑制作用.ラクトフェリン2009:137-141,20094)堀裕一:涙液層にかかわる眼組織と涙液層の層別機能.専門医のための眼科診療クオリファイ19ドライアイスペシャリストへの道(横井則彦編),p34-37,中山書店,20135)KijlstraA,JeurissenSHM,KoningKM:Lactoferrinlevelsinnormalhumantears.BrJOpthalmol67:199-202,19836)砂田順,松尾信彦,藤井洋子ほか:シェーグレン病における涙液および唾液リゾチーム濃度の研究.眼臨80:816819,19867)中村葉,横井則彦,徳重秀樹ほか:健常者における涙液中のシアル酸測定.日眼会誌104:621-625,20008)冨田信一,長谷川祥太,魚谷孝之ほか:ラクトフェリンのアカントアメーバ臨床株における抗アメーバ活性.ラクトフェリン2011:35-40,20119)冨田信一,鈴木智恵,野町美弥ほか:Logreduction法によるラクトフェリンの抗アカントアメーバ活性の評価.ラクトフェリン2013:115-120,201310)YamauchiK,TomitaM,GiehlTJetal:Antibacterialactivityoflactoferrinandapepsin-derivedlactoferrinpeptidefragment.InfectImmun61:719-728,199311)EllisonRT,GiehlTJ:Killingofgram-negativebacteriabylactoferrinandlysozyme.JClinInvest88:1080-1091,199312)Leon-SicairosN,Lopez-SotoF,Reyes-LopezMetal:Amoebicidalactivityofmilk,apo-lactoferrin,sIgAandlysozyme.ClinMedRes4:106-113,2006***(91)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015555

薬物粒子径変更に伴うブリンゾラミド懸濁性点眼液の眼内薬物移行性評価

2015年4月30日 木曜日

《第34回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科32(4):545.549,2015c薬物粒子径変更に伴うブリンゾラミド懸濁性点眼液の眼内薬物移行性評価長井紀章*1真野裕*1松平有加*1山岡咲絵*1吉岡千晶*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室NanosizingoftheParticleinBrinzolamideOphthalmicSuspensionEnhancesItsIntraocularPenetrationNoriakiNagai1),YuMano1),YukaMatsuhira1),SakieYamaoka1),ChiakiYoshioka1),YoshimasaIto1)Okamoto2)andYoshikazuShimomura2),Norio1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine本研究では,市販緑内障治療薬である炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミド(BLZ)懸濁性点眼液の薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性について検討を行った.市販BLZ懸濁性点眼液(エイゾプトR)の薬物粒子微細化には,ビーズミルによる水中破砕法を用いた.市販BLZ懸濁性点眼液の平均粒子径は7.05±0.416μmであったが,ビーズミル法を用いることで,平均粒子径0.423±0.221μmまで微細化でき,ナノオーダーの粒子径を有するBLZ分散液が調製できた(Milled-BLZ分散液).これらMilled-BLZ分散液の眼内薬物移行性について評価したところ,薬物粒子径をナノオーダーにしたことで主薬の角膜透過性および薬物網膜到達量が有意に向上した.以上,微細化によりBLZ懸濁性点眼液の眼内薬物移行性が高まることが明らかとなった.本研究は,点眼用懸濁液の製剤設計およびバイオアベイラビリティー向上につながるものと考えられる.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofparticlesizeinbrinzolamide(BLZ)ophthalmicsuspensionontheintraocularpenetrationofthedrug.AsuspensioncontainingBLZnanoparticles(BLZNPssuspension;particlesize:0.423±0.221μm)waspreparedbyuseofthebeadmillmethod.Next,theBLZNPssuspensionandanon-milledBLZsuspension(particlesize:7.05±0.416μm),respectively,wereinstilledinrateyes,andintraocularpenetrationofthedrugwasthenanalyzed.ThecornealpenetrationofBLZfromtheBLZNPssuspensionwasfoundtobesignificantlyhigherthanthatinthenon-milledBLZsuspension.Inaddition,theamountofBLZintheretinasofeyesinstilledwiththeBLZNPssuspensionwasapproximately2-foldhigherthanthatintheretinasofeyesinstilledwiththenon-milledBLZsuspension.TheseresultssuggestthatthenanosizingoftheparticleinBLZophthalmicsuspensionenhancestheintraocularpenetrationofthedrug,andthatanoculardrugdeliverysystemusingnanoparticlesmayexpandtheirusagefortherapyinthefieldofophthalmology.Thefindingsofthisstudyprovideimportantinformationthatshouldproveusefulfordesigningfurtherstudiestodevelopanti-glaucomadrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):545.549,2015〕Keywords:ブリンゾラミド,粒子径,ビーズミル,薬物眼内移行性,エイゾプトR.brinzolamide,particlesize,beadmill,drugintraocularpenetration,AzoptRophthalmicsuspension.はじめにであり,現在臨床現場ではb遮断薬,プロスタグランジン緑内障は,眼圧上昇により視神経・網膜が圧迫され,その製剤,炭酸脱水酵素阻害薬,選択的交感神経a1遮断薬,a,結果視神経障害がみられる眼疾患であり,先進国において失b受容体遮断薬,副交感神経作動薬など,異なる作用機序を明の第一要因である.この緑内障治療の第一選択は薬物療法有する緑内障治療薬の単剤または併用使用が行われている.〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(81)545 これら緑内障治療薬の一つである炭酸脱水酵素阻害薬の眼圧下降機序は,毛様体無色素上皮細胞においてH2O+CO2.H2CO3.H++HCO3.の反応を触媒している炭酸脱水酵素(carbonicanhydraseII)の働きを阻害し,HCO3.の生成を抑制することにより,Na+の能動輸送機構を抑え,その結果房水産生が抑制されるというものである.さらに,点眼により網膜や脈絡膜へ薬物が移行した際には,網膜のMuller細胞や網膜色素上皮細胞,脈絡膜毛細血管に存在する炭酸脱水酵素を阻害し網膜血流が増加するなど,眼圧下降作用のほかに眼循環に好影響を与える可能性が示唆されている1.3).一方,炭酸脱水酵素阻害薬点眼により網膜血流を高めるためには,血管拡張をきたすほどの十分な薬物濃度を網膜へ供給する必要があり1.5),現場では炭酸脱水酵素阻害薬の眼内移行性を高めることが期待されている.点眼薬の眼内移行性を高める方法として,粘稠化剤により薬物の結膜.内滞留性を向上させる手法が知られている.しかし,粘稠化剤により滞留性を高めただけでは網膜などの眼後部への到達はわずかである.一方,筆者らは近年“医薬品ナノ結晶点眼製剤”を提案し,点眼液中の薬物粒子サイズをナノオーダーにすることで角膜透過性や結膜からの体内移行性が飛躍期に上昇することを見出し報告している6).したがって,懸濁点眼薬の薬物粒子径をナノオーダーにすることでバイオアベイラビリティ向上が期待される.本研究では,市販緑内障治療薬である炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミド(BLZ)懸濁性点眼液の薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には日本白色種雄性ウサギ(2.3kg)および雄性Wistarラット(7週齢)を用いた.これら実験動物は25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,CR-3,日本クレア)および水は自由に摂取させた.また,動物実験は近畿大学実験動物規定に従い行った.2.ビーズミル法によるブリンゾラミド懸濁液破砕処理市販緑内障治療薬BLZ懸濁性点眼液1%(エイゾプトR懸濁性点眼液1%,日本アルコン)の薬物粒子微細化は,直径0.1mmのジルコニアビーズおよびBeadSmash12(和研薬社製)を用いた水中破砕法(ビーズミル法)にて行い,BeadSmash12による破砕条件は冷却下(4℃)5,500rpmにて30sec×20回とした6).得られた分散液中BLZ濃度は0.91%であり(ビーズやチューブへの吸着率9%),分散液中のBLZ濃度を生理食塩水にて0.8%に調製したものを本研究ではMilled-BLZ分散液とした.また,BLZ懸濁性点眼液を生理食塩水にて0.8%に調製したものをBLZ分散液として用いた.薬物粒子径の測定はナノ粒子径分布測定装置SALD-546あたらしい眼科Vol.32,No.4,20157100(島津製作所)にて行い,平均値および標準偏差は内蔵の解析ソフトで算出した(屈折率1.95.0.05i).3.HPLC法によるBLZの定量試料40μlに,氷冷した0.1μg/mlp-オキシ安息香酸メチル(内標準物質,MeOHにて溶解)80μlを加え,この液をクロマトディスク4A(0.45μm,クラボウ)で濾過後高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入した.HPLC装置はLC-20AT(島津製作所)を使用した.カラムは,InertsilRODS-3(3μm2.1×50mm,ジーエルサイエンス)を用い,室温にて移動相(リン酸カリウム/アセトニトリル,80/20)で平衡化した.移動相の流速は0.25ml/minとし,255nmの紫外部吸収を測定した.4.Invitroウサギ角膜薬物透過実験実験にはメタアクリル樹脂製角膜透過セルを使用した6).日本白色種雄性ウサギをペントバルビタール(東京化成工業社製)過剰投与により安楽死後,眼球を摘出し,生理食塩水で洗浄した.角膜は,眼球後部の視神経の部位よりハサミを入れ,強膜部位を1.2mm残し切り取った.この角膜を角膜透過セルに装着し,リザーバー側(房水側)にリザーバー液としてHEPES(+Glc)緩衝液(10mMHEPES,136.2mMNaCl,5.3mMKCl,1.0mMK2HPO4,1.7mMCaCl2・2H2O,5.5mMGlucose,pH7.4)を3.0ml注加した.ドナー側(涙液側)にはBLZあるいはMilled-BLZ分散液を3.0ml注加した.角膜透過セルは,恒温槽中で35oCに保った.BLZ透過量は,リザーバー液を経時的に50μlずつ採取し,上記HPLC法により測定した.得られたデータは,次式に従い,非線形最小二乗法コンピュータプログラムMULTIを用いて当てはめ計算を行い,速度論的パラメータの算出を行った.t=d26D(1)JC=Km・D・CBLZ=KpCBLZd(2)Qt=Jc・A・(t.t)(3)ここで,JcはBLZの透過速度,Kmは角膜/製剤の分配係数,Dは角膜内での拡散係数,tlagはラグタイム,dは角膜の厚さ(平均0.0625cm),Aは用いた角膜の有効角膜面積(0.78cm2),Qはt時間にリザーバー側に透過した積算薬物量,CBLZはBLZ分散液中のBLZ濃度である.JCおよびtは(3)式に当てはめ算出した.角膜透過係数KpはJc/CBLZから算出した6).5.Invivoウサギ眼内薬物移行実験日本白色種雄性ウサギに,耳静脈よりペントバルビタール(0.6ml/kg)を投与し全身麻酔した.麻酔後,眼球に局所麻酔薬0.4%ベノキシール液を点眼し,マイクロシリンジで(82) ファイコンチューブ(0.5-1.0,冨士システムズ)と連結した29ゲージ注射針を角膜近傍の強膜部分より前眼房に挿入することによりカニューレを装着した.その後,片眼にBLZまたはMilled-BLZ分散液40μlを点眼し,定めた時間間隔でカニューレより房水を5μlずつ採取し,房水中BLZ濃度を上記HPLC法により測定した(図1).また,得られたデータから台形法を用い房水中BLZ濃度-時間曲線下面積(areaundertheBLZconcentration-timecurve:AUC)を算出した6).6.網膜中薬物到達量の測定BLZまたはMilled-BLZ分散液をWistarラットに点眼し,点眼1時間後にペントバルビタール(東京化成工業)を過剰投与することで安楽死させた.その後,眼球を摘出し,網膜を回収した.網膜中BLZ量は上記HPLC法にて測定した.7.統計解析データは,平均値±標準誤差(SE)として表した.各々の実験値の解析にはStudentのt-testを用い,p値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.ビーズミル処理に伴う市販BLZ懸濁液の薬物粒子径変化図2はBLZおよびMilled-BLZの粒度分布曲線を示す.BLZ分散液の平均粒子径は7.09±0.413μmであり,市販BLZ懸濁性点眼液1%の平均粒子径と比較し差はみられなかった(7.05±0.416μm,平均値±標準偏差).一方,MilledBLZ分散液の平均粒子径は0.423±0.221μmと,ナノオーダーまでBLZの粒子を微細化することが可能であった.2.BLZ懸濁液中薬物粒子径の違いが眼内薬物移行性に与える影響図3はBLZおよびMilled-BLZ分散液のinvitroウサギ角膜透過性を,表1は図3中のデータから算出した速度論的パラメータを示す.両分散液ともに実験開始1時間後から薬物図1Invivoウサギ眼内薬物移行実験操作写真Cumulativedistribution(%)Cumulativedistribution(%)8015601040520000.010.050.10.5151050100500Particlediameter(μm)10020100A:BLZsuspensions20Frequency(%)Frequency(%)80B:Milled-BLZsuspensions15601040520000.010.050.10.5151050100500Particlediameter(μm)図2BLZおよびMilled.BLZ分散液における粒度分布薬物粒子径はナノ粒子径分布測定装置SALD-7100にて測定した.実線は相対粒子量の頻度を,点線は相対粒子量の積算を示す.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015547 の角膜透過が認められたが,粒子径の違いによる差はみられなかった.図4はBLZおよびMilled-BLZ分散液のinvivoウサギ角膜透過性について示す.Invitroウサギ角膜透過実験の結果と異なり,Milled-BLZ分散液処理群のラグタイム(t)は,BLZ処理群のそれより低かった.また,MilledBLZ分散液処理群のAUCは,BLZ処理群のそれの2倍高値であった(AUC,BLZ71±12,Milled-BLZ分散液142±4,μM・min,平均値±SE,n=6).図5にはBLZおよびMilledBLZ分散液点眼後の網膜中薬物含量を示す.Milled-BLZ分散液点眼1時間後の網膜中BLZ濃度は,BLZ分散液点眼後0120BLZconcentration(μM)80160100401406020:BLZsuspensions:Milled-BLZsuspensions0123456のそれと比較し有意に高かった.III考按炭酸脱水酵素阻害薬の点眼は眼圧降下作用だけでなく,網膜血流の改善効果が期待できる.本研究では,炭酸脱水酵素阻害薬であるBLZ懸濁性点眼液を用い,薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性改善効果について検討を行った.まず初めに,ビーズミル法を用い市販BLZ懸濁性点眼液の薬物粒子微細化を試みた(図2).その結果,平均粒子径7.05±0.416μmであった市販BLZ懸濁性点眼液を,平均粒子径0.423±0.221μmとナノオーダーまで微細化することに成功した.一方,BLZ分散液中薬物濃度を測定したところ,破砕処理過程で使用したチューブやジルコニアビーズへの薬物の付着により,破砕処理前には1%であったBLZが破砕処理後には0.91%と減少が認められた.このため,本研究では生理食塩水にて0.8%に濃度調製した市販BLZ懸濁性点眼液(BLZ分散液)およびビーズミル法にて破砕後のBLZ懸濁液(Milled-BLZ分散液,0.8%)を比較検討に用いた.Invitroウサギ角膜透過実験にて,BLZおよびMilledBLZ分散液の角膜透過性を検討したところ,両分散液間で差はみられなかった(図3および表1).これらinvitroウサTime(h)図3BLZおよびMilled.BLZ分散液におけるinvitroギ角膜透過実験はドナー側(涙液側)にBLZあるいは角膜透過性(ウサギ)Milled-BLZ分散液を用いており,薬物の溶解を促進する因平均値±標準誤差,n=6羽6眼,n.s.(notsignificant).子である涙液がなく,角膜表面において薬物の供給が十分に表1Invitroウサギ角膜透過法におけるBLZおよびMilled.BLZ点眼液の速度論的パラメータJc(nmol/cm2/h)Kp(×10.4cm/h)Kmt(min)D(×10.5cm2/h)BLZ1.41±0.270.77±0.140.45±0.0960.7±1.01.07±0.02Milled-BLZ1.52±0.110.83±0.060.52±0.0765.1±5.71.02±0.08速度論的パラメータは式(1).(3)を用いて算出した.平均値±標準誤差,n=6.040103040506070BLZconcentration(μM)26351:BLZsuspensions:Milled-BLZsuspensions******BLZconcentration(nmol/g)*1612840BLZMilled-BLZsuspensionssuspensions20Time(min)図5BLZおよびMilled.BLZ分散液における薬物図4BLZおよびMilled.BLZ分散液におけるinvivo網膜移行性(ラット)角膜透過性(ウサギ)網膜は薬物点眼1時間後に回収した.平均値±標準誤平均値±標準誤差,n=6羽6眼,*p<0.05,vs.BLZsus-差,n=6羽6眼,*p<0.05,vs.BLZsuspensionspensions(Student’st-test).(Student’st-test).548あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(84) 満たされている条件下での薬物透過性を評価する方法である.したがって,本結果から瞬目などにより涙液代謝がみられない系では,粒子径の違いによる薬物の透過性に差はみられないことが明らかとなった.また,両分散液ともに角膜表面で溶解したBLZが角膜内部へ取り込まれ眼内へ移行することが示唆された.一方,これらinvitroウサギ角膜透過実験の結果と異なり,invivoウサギ角膜透過性実験では,Milled-BLZ分散液処理群のラグタイム(t)は,BLZ処理群のそれより低く,Milled-BLZ分散液処理群のAUCは,BLZ処理群のそれの2倍高値であった(図4).さらに,Milled-BLZ分散液点眼1時間後の網膜中BLZ濃度は,BLZ分散液点眼後のそれと比較し有意に高かった(図5).一般に,粒子径が小さいほど比表面積が高まり,薬物の溶解速度が高まることが知られている.本結果においても薬物粒子径の小さいMilled-BLZ分散液中のBLZ結晶はBLZ分散液中の結晶と比較し,点眼後涙液により速やかに溶解されるものと考えられる.これら角膜表面での溶解速度の向上は角膜内への薬物供給量の増加につながり,その結果Milled-BLZ分散液点眼時のtの短縮や眼房水および網膜への薬物到達濃度の増加がみられるものと示唆された.BLZ懸濁性点眼液と網膜血流改善に関してはこれまで多くの報告がなされている.Barnesら1)は家兎に7日間連続してBLZを点眼した際,視神経乳頭部血流が約10%増加したと報告している.また,ヒトに関する報告では,正常眼圧緑内障患者を対象とし,BLZを2週間連続点眼することで,網膜中心動脈で最低流速の上昇,末梢血管抵抗の低下がみられることを江見ら2)が示している.さらに,前田ら3)は,BLZは緑内障眼において,神経乳頭辺縁部および傍乳頭網膜組織血流を増加させることを報告している.一方,BLZ点眼後においても網膜血流改善がみられないとの報告もされており4,5),これら異なる結果の仮説として,BLZ点眼後の組織内CO2濃度が血管拡張をきたすレベルに達するかどうかが一つのキーとして考えられている.このように,BLZによる眼圧と網膜循環血流を同時標的とした治療には,十分な薬物量を網膜まで到達させることが必要である.本研究では,市販BLZ懸濁性点眼液の薬物粒子径を変更することで網膜への薬物到達濃度が増加することを明らかとした.これら粒子径を中心とした処方変更は今後の緑内障治療にきわめて有用であると考えられる.一方,市販点眼製剤を用いた今回の系では計20回ものビーズミル破砕処理が必要であり,より効率的な調製法の確立は今後の薬物への応用において重要な課題である.しかし,筆者らはすでにより破砕に適した添加物(デキストリンやセルロース系化合物など)を選択することで効果的かつ効率的な薬物破砕が可能であることを見出し報告している6).したがって,今後これらの添加物を用い,ナノオーダーの薬剤生成法の改良を試みる予定である.以上,本研究ではビーズミル法を用い市販BLZ懸濁性点眼液の薬物微細化を行うことにより,主薬の角膜透過性および薬物網膜到達量が向上すること見出した.本研究は,点眼用懸濁液の製剤設計およびバイオアベイラビリティ向上につながるものと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BarnesGE,LiB,DeanTetal:Increasedopticnerveheadbloodflowafter1weekoftwicedailytopicalbrinzolamidetreatmentinDutch-beltedrabbits.SurvOphthalmol44:S131-140,20002)江見和雄:正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの眼血流に対する効果.あたらしい眼科21:535-538,20043)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20054)前田祥恵,今野伸介,大塚賢二:ブリンゾラミド1回点眼の正常人傍乳頭網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:271-274,20045)SampaolesiJ,TosiJ,DarchukVetal:Antiglaucomatousdrugseffectsonopticnerveheadflow:design,baselineandpreliminaryreport.IntOphthalmol23:359-367,20016)NagaiN,ItoY,OkamotoNetal:Ananoparticleformulationreducesthecornealtoxicityofindomethacineyedropsandenhancesitscornealpermeability.Toxicology319:53-62,2014***(85)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015549

My boom 39.

2015年4月30日 木曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第39回「菅原岳史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第39回「菅原岳史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介菅原岳史(すがわら・たけし)千葉大学大学院医学研究院眼科学以前,帰省先の田舎で小4男児が,家庭用打ち上げ花火が点火しないためにのぞきこみ,顔面直撃,救急搬送されました.両目の間が撃ちぬかれ,髪は焼けただれ,皮膚は火傷,角膜には無数の火薬が残存,一晩中麻酔され,両角膜異物除去を施行.翌日まで両眼帯でした.少年は,育ててくれた親への罪悪感,人生の喪失感を味わったそうです.私は日眼雑誌の談話室に「PMDAとレギュラトリーサイエンス」で何度か投稿しているのでご存知の方もいると思われますが,厚労省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に2年半在籍し,その後は千葉大学臨床試験部に異動したので,眼科医は通常経験しないことを多数経験しております.筑波大学の加治先生からのバトンを受け,薬事目線で記載します.興味を抱いてくれる眼科医がいれば,ぜひご連絡をお願いします.Letitgo的なmyboom現在,眼科の枠を超え,千葉大のみならず国家行政案件に関与しており,PMDA遠征?帰りというだけで,貴重なキャリアと人脈が増え続けております.相手をリスペクトし,理解しつつ,言いたいことは伝える,ありのまま的なmyboomをしているだけですが.グローバル的なmyboom世界眼科学会(WOC2014)時に日本を訪問されたFDAデバイス部門(眼科・耳鼻科)長官のMalvina先生(澤先生らとの宴席,写真1)と各国規制当局によるセミナーを実施,PMDAにも招いてセミナーをしても(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYらいました.WOCにはミシガン大学時代のボスであるSieving先生(現NIE長官)と奥様も来ていたので,スカイツリーの下でミシガン会(近藤&町田先生同席,写真2)をしました.今でも英語を使う機会は少なくないので,英語を使う2週間前から,「3倍速の英会話テープ」聴きまくりで英語スイッチ入れ,ゾーンに入るようにしているのが,以前からの英会話的なmyboomです.アカデミア的なmyboom眼科と二足の草鞋ですが,臨床試験部の業務はPMDAとはまったく異なっており,新鮮です.各科のプロトコールを見て,本質的に直させるのが主たる業務です.コピペ・一夜漬けで皆さん作成してきますが,プロトコール作成スキルはPMDAに数年いないと得られません.一流企業ですらプロトコール作成には何カ月もかかっており,それでもPMDA側にかなり修正させられます.プロトコール作成に関しては,2013年および2014年の日本臨床眼科学会インストラクションコース,千葉大学,東北大学および慶應大学の一部スタッフ,さらに神戸の臨床研究情報センター(TRI)で勉強会をいたしました.呼んでいただければ全国どこにでも講義に行きます.一般臨床医的にはまったく知らない,開発の世界を啓発する活動です.レギュラトリーサイエンス的なmyboomレギュラトリーサイエンスには二つの面があります.一つは承認審査上のモノサシです.開発はp値では決められず,左右するのは意義です.イメージとして,左が承認で,右が不可のシーソーとすると,左に倒して承認した科学的な判断の経緯を,シーソーに乗せた要因(さまざまな意義)を根拠として説明することです.レギュラトリーには,規制,調整,審査などの意味がありますので,社会を見据えた行政科学(判断材料)ともいえます.もう一方は哲学です.このレギュラトリーサイエンスあたらしい眼科Vol.32,No.4,2015527 写真1FDAのMalvina先生を囲んで世界眼科学会(WOC2014)に来日されたFDA(米国規制当局)の眼科デバイス部門長官,マルビーナ先生と夕食会.哲学はmyboomです.そもそも,わが国における臨床試験は空浮かぶサーキットのように,一般道を走れない治療法(DRUG,DEVICE)に対する研究が永遠に回り続けます.つまり,選ばれた学会サーキットを走り続けることだけでも業績は上がり研究費も獲得しますが,国民の利益に還元されず,実用化しない研究が目立つという解釈です.なぜそうなのかというと,それは薬事というカラクリを知らないからです.レギュラトリーサイエンス哲学で考えると,患者さんへの実用化への出口目線でロードマップを描き,研究プロジェクトを立ち上げ,PMDAと相談し,品質,非臨床,PI,PII,PIII,申請承認で,新しい最良の医療を真に届けられるのです.医学教育過程で薬事を習わなかった影響か,シーズ数は世界トップクラスでも,臨床応用数では激減し,改善傾向がありません.大多数の疾患領域でそうです.一方,わが国でも悪性腫瘍や循環器領域は進んでおり,学会として実用化するための術を知っています.遅れている分野の臨床研究医師が,どうやって実用化をみすえた研究をするのかには,レギュラトリーサイエンス哲学を学ぶ必要があります.僕を呼んでもらえば全国どこにでもレギュラトリーサイエンスの講義に行けます.講演的なmyboomです.ベタ,バカッコイイ的なmyboom仕事は忙しいですが,今が一番ハッピーです.いつの時代も,自分は今が一番.とくに,日本のために,大勢の患者のために,何かできるのは楽しいです.厳しい職場で仕事していても,すこしも寒くないわ♪ですね.罪悪感と喪失感のあと,どうやって生き抜くか2日間考え,幸運なことに失明しませんでした.冒頭の花火事故のおバカさんは僕自身ですが,あの時の後悔と恐怖を超える思いは,いまだに未経験です.絶望の中,どうしたら見えなくても生き抜けるか,必死で考えた2写真2米国留学時代のボスPaulSieving先生を囲んで世界眼科学会(WOC2014)に来日されたNIHの現NEI長官であるポール先生との夕食会.日間でした.千葉大眼科の治験で,最終来院日の網膜色素変性の女性患者さんに,「本当に治るようになるクスリができるのですか?私が治らないのはわかっています.」と言われぼう然,翌年の3月11日に東日本大震災が起こり,岩手医大の黒坂教授や大関先生に頼んでボランティアに駆けつけ,絶望の中で生き抜こうとしている子供たちの姿を見ました.千葉大眼科教授の山本先生にPMDAに行けといわれたのは数日後,大変な職場だったけど,行ってよかった.眼科学会の著名な先生方と親しくなりましたし,PMDA内で気が合う仲間数名と出会って,いつのまにか忘れかけていた,大事なスイッチが再び入りました.目が見えない不安をわずかな時間でも味わった者として,眼科をはじめ日本の臨床研究をレギュラトリーサイエンス哲学で実用化に導くため,ギアセカンドに入ります.貫くには,どこまでもブッ飛んでないと,限りなくポジティブじゃないと,世界は変えられません.両眼帯で車椅子の10歳のときですら,ネガティブにならないように必死で考えたのですから,ベタでバカッコイイ的な姿勢を,ブレることなく貫いて,先生たちの研究を実用化へ導くように牽引したいものです.レギュラトリーサイエンスの業界にも,myboom押し続けてくれる仲間が何人もいるから,これからも声を出して行きます.次のプレゼンターは,慶應義塾大学出身で東京歯科大学市川病院から,現在,厚生労働省に在籍中の許斐健二先生です.僕の大事な仲間の一人です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.528あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(64)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 143.術中の脈絡膜下灌流(初級編)

2015年4月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載143143術中の脈絡膜下灌流(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術の術中合併症の一つとして,網膜下灌流あるいは脈絡膜下灌流がある.いずれもインフュージョンポートの先端が硝子体腔に正確に挿入されていない場合に生じる.先端から人工房水が毛様体無色素上皮下に灌流されると前者,脈絡膜と強膜の間(脈絡膜上腔)に灌流されると後者となる.以前の20G(ゲージ)硝子体手術のときにはときどきみられたが,近年のトロカールを使用するmicro-incisionvitrectomysurgery(MIVS)では,その頻度は激減している.しかし,トロカールを使用していてもまれに本合併症が生じることがある.●術中所見と対処法網膜下灌流では,インフュージョンポートが設置してある象限から胞状の網膜.離が生じる(毛様体無色素上皮と感覚網膜は解剖学に連続している).脈絡膜下灌流では脈絡膜.離が生じる.図1は脈絡膜下灌流をきたしたときの術中所見であるが,駆逐性出血との鑑別が必要である.通常,駆逐性出血では眼圧が上昇するが,脈絡膜下灌流では極端に上昇することはない.●術中の対処法術中にこのような所見を認めた場合には,まず灌流を止めてトロカールの状態を確認する.この症例ではトロカールが脱落しかけており(図2),強膜と脈絡膜の間に灌流液が迷入していた.インフュージョンポートを別の象限のトロカールに挿入しなおし,灌流を開始する(図3).通常は誤灌流した強膜創から脈絡膜上腔液が排出され,脈絡膜.離は速やかに消失する(図4).ついで誤灌流した強膜創の状態を確認し,必要に応じて眼内光凝固(61)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1脈絡膜下灌流をきたした症例術中に急速に拡大する脈絡膜.離を認める.図2トロカールの状態トロカールが脱落しかけている.図3インフュージョンポートの変更インフュージョンポートを別の象限のトロカールに挿入しなおし,灌流を開始する.図4再灌流後の眼底所見脈絡膜.離は速やかに消失している.図5眼内光凝固誤灌流した強膜創の状態を確認し,必要に応じて眼内光凝固を施行しておく.を施行しておく(図5).網膜下灌流でも同様の処置を行うが,脈絡膜下灌流よりも誤灌流された人工房水が排出されにくいことがある.また,しばしば毛様体無色素上皮.離をきたし,その部位に裂孔を形成していることが多いので,眼内光凝固に引き続き,必要に応じてガスタンポナーデを施行しておく.あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015525

眼科医のための先端医療 172.網膜光凝固と硝子体

2015年4月30日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第172回◆眼科医のための先端医療山下英俊網膜光凝固と硝子体武山正行(愛知医科大学眼科学教室)はじめに網膜光凝固は網膜疾患治療に欠かせないものです.たとえば糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の凝固条件は,網膜内層傷害を避けながら治療効果を得るために「血管と網膜出血を避け,照射直後に淡い白濁がみられる凝固」が適切とされています.しかしながら,出血や血管の上から照射してしまう誤凝固や,網膜や中間透光体の条件の違いによる過剰凝固を,たとえば2,000発の汎網膜光凝固において100%回避することはできません.少々?の誤凝固に配慮していたら,パターンスキャンレーザーで1照射25発凝固なんてまったく不可能です.硝子体手術中の汎網膜光凝固では,低倍率の観察下で施行するため,照準は不正確で誤凝固になることが多く,また過剰凝固にもなりやすいと思われます.網膜光凝固による内境界膜の変化光凝固条件と組織傷害というテーマについては多くの研究があります.網膜色素上皮で発生する熱エネルギーが大きく,照射時間が長いほど,網膜内層への傷害が大きくなります.過剰凝固では傷害が網膜内層に及び,網膜出血や網膜血管の上からの凝固では神経線維層や内境界膜が高度に傷害されます.筆者らはニワトリ眼に網膜光凝固を行い,硝子体を除去して網膜表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ,一部の凝固斑では内境界膜に円孔が観察されました1)(図1).同一条件で照射した全凝固斑にみられるわけで*ABDILMC図1走査型電子顕微鏡で観察した凝固斑の内境界膜一部凝固斑で内境界膜に円孔を認めた.A:凝固斑(*)の内境界膜表面.B:凝固斑の内境界膜表面の高倍率像.C:凝固斑の内境界膜にみられた円孔(→).D:円孔縁の高倍率像.倍率:A=180倍,B=600倍,C=700倍,D=1,300倍.ILM:内境界膜.(文献1より改変して転載)(57)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155210910-1810/15/\100/頁/JCOPY MMP-2HE染色2次抗体のみ2次抗体のみ光凝固前光凝固6時間後図2光凝固6時間後網膜のMMP.2免疫染色像凝固斑の内境界膜・網膜内層にMMP-2局在を認める(→).MMP-2は硝子体からの移行と考えられる.はないので,網膜厚の差や,照射角度や焦点合わせの微妙なずれにより,過剰凝固になった凝固斑に発生したものと思われます.この円孔が,熱変性によって起こるのか,隆起による物理的な伸展が関与するのか,あるいは硝子体除去など実験操作によるものか,明確な機序は不明です.図2は,硝子体に多量に含まれるmatrixmetalloproteinase-2(MMP-2)が,凝固斑の内境界膜に局在することを示します1).傷害を受けた内境界膜に硝子体からMMP-2が移行したと考えられます.これらは,光凝固の条件次第では内境界膜が傷害を受け,また硝子体から網膜への物質移行が発生する可能性を示しています.内境界膜を介した硝子体の影響糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固において,硝子体から移行したMMP-2が網膜内に拡散して活性型にな(文献1より改変して転載)ると,血管内皮のtightjunction傷害により黄斑浮腫を悪化させるかもしれません.反対に,内境界膜傷害により網膜から硝子体腔への物質拡散が容易となり,血管内皮細胞増殖因子など悪化因子が網膜で減少するならば,疾患に対し良い影響を与える可能性もあります.過剰凝固や誤凝固で発生した内境界膜傷害による影響は,後部硝子体.離の有無によっても異なると考えられます.多くの網膜疾患の病態において,硝子体は重要な役割を果たしています.網膜光凝固においても,硝子体はレーザーを透過してくれるだけの,寡黙な存在ではないのかもしれません.文献1)TakeyamaM,YonedaM,TakeuchiMetal:Increaseinmatrixmetalloproteinase-2levelinthechickenretinaafterlaserphotocoagulation.LasersSurgMed42:433441,2010522あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(58) ■「網膜光凝固と硝子体」を読んで■網膜光凝固が糖尿病網膜症の増悪防止に効果的な治療法であることについては異論がないと思いますが,そのメカニズムについては十分に解明されたわけではありません.たとえば,虚血網膜を壊死させることで,血管内皮増殖因子(VEGF)などの網膜症増悪因子の産生を抑制させるというのはわかりやすい説明ですが,それだけでは説明できない事象も多くありました.その一つが,網膜光凝固と硝子体との関係です.1980年代から,糖尿病網膜症眼に汎網膜光凝固を行うと,後部硝子体.離が起こるということが報告されていました1).その当時は後部硝子体.離自体があまり理解されていなかったため,注目を集めませんでした.しかし,1990年代になって,糖尿病網膜症の進展に後部硝子体が大きなかかわりをもつことが理解されると,光凝固による網膜硝子体界面の変化について関心が集まりました.多くの研究者によって,光凝固後に炎症が惹起されるため後部硝子体.離が起こると説明されましたが,炎症と後部硝子体.離を直接結びつける十分な証拠は不足していました.本稿で解説されたように,網膜光凝固によるMMP-2の活性化誘導という現象は,不足したパズルを埋めるために重要な証拠になりえます.網膜光凝固により炎症が惹起され,それによりMMP-2が活性化されると,コラーゲンが分解されます.コラーゲン分解はすなわち硝子体の液化ですから,後部硝子体.離を誘導することに矛盾はありません.現在,治療時の疼痛軽減や網膜傷害軽減のために新しい光凝固器具が登場していますが,MMP-2の活性化が網膜症改善に有効なことが証明されれば,光凝固の条件や器具も変化する可能性があります.本稿は,このような可能性をもつ重要な研究だといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二文献1)SebagJ,BuzneySM,BelyeaDAetal:Posteriorvitreousdetachmentfollowingpanretinallaserphotocoagulation.GraefesArchClinExpOphthalmol228:5-8,1990☆☆☆(59)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015523

眼瞼・結膜:結膜アレルギーの基礎知識

2015年4月30日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人4.結膜アレルギーの基礎知識上田真由美京都府立医科大学眼科学教室本稿では,まずアレルギー性結膜疾患の発症機序の基礎知識について記載し,その後,アレルギー性結膜疾患を診療していて感じていることをまとめてみた.●アレルギー性結膜疾患の発症機序現在,アレルギー性結膜疾患の発症機序は,I型アレルギー反応が主体と考えられている.結膜局所の抗原提示細胞により,Th2型リンパ球の感作が起こり,Th2型リンパ球から指示を受けたB細胞は,抗原特異的IgEを分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞に結合後,再び侵入した抗原により架橋され肥満細胞の脱顆粒を引き起こす.肥満細胞の脱顆粒により放出されたヒスタミンは,ヒスタミン受容体に結合し,抗原暴露数十分以内に生じる即時相の反応として結膜浮腫,充血,かゆみ,眼瞼浮腫,粘液性の眼脂を生じる.一方,抗原暴露8~24時間後に生じる結膜局所への好酸球の浸潤を主体とした遅発相の炎症反応には,肥満細胞の脱顆粒により放出されたロイコトリエン(LT),プロスタグランジンD(PGD2),血小板活性化因子(PAF)が関与していると考(2)えられている.また,遅発相の炎症反応には,肥満細胞だけではなく,線維芽細胞1),T細胞2),さらには,上皮細胞3)も関与していることが明らかとなってきている(図1).アレルギー性角結膜疾患の遅発相は,臨床において角結膜炎の病態形成に大きく関与する.春期カタルやアトピー性角結膜炎などの組織障害を伴うアレルギー性角結膜疾患は,I型アレルギー遅発相がその病態の主体と考えられている.●各臨床病型1.アレルギー性結膜炎図2に症例を示す.患者は20歳の女性で,眼の掻痒感を訴えて来院(図2a).毎年,春先になると痒くなる.上眼瞼結膜を拡大してよく観察すると,多数の小乳頭を認める(図2b).下眼瞼結膜には,多数の濾胞を認める(図2c).乳頭と濾胞の違いは,乳頭は浸潤細胞が集まり結合組織が増殖したもので,血管が隆起病変の中央部に存在し,一方,乳頭は増殖したリンパ球の集合体で,血管が隆起病変の周囲に存在するのが特徴とされる.筆者は,アレルギー性結膜疾患の患者に対して,血清中(55)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1アレルギー性結膜疾患の発症機序totalIgEと,抗原特異的IgE検査としてMAST33を施行しているが,結膜に大きな増殖性変化を認めないアレルギー性結膜炎の患者では,血清中totalIgEは正常範囲のことが多く,またMAST33では,スギなど原因と考えらえる抗原1つまたは少数の項目のみ陽性のことが多い.2.春季カタル春季カタルは,小児から青年期に多い.アトピー性皮膚炎を有しない患者も存在するが,多くは軽度から中等度のアトピー性皮膚炎を合併している.眼瞼型では,上眼瞼に巨大乳頭を認め(図3a),点状表層角膜炎,ときにシールド潰瘍を認める(図3b).輪部型では,角膜輪部に炎症を生じ,堤防状隆起やTrantas斑を認める(図3c).掻痒感や異物感とともに眼痛を訴えて来院することも珍しくない.眼脂も多く,ギムザ染色では好酸球が多く観察される.軽度から中等度のアトピー性皮膚炎を合併していることが多いことより,血清中totalIgEも正常380単位以下のところ,数百単位まで上昇しており,またMAST33でも複数項目陽性のことが多い.3.アトピー性角結膜炎重症のアトピー性皮膚炎,とくに顔面にアトピー性皮あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015519 abcab図2季節性アレルギー性結膜炎の症例20歳,女性.一見,前眼部は正常(a)であるが,眼瞼を翻してよく観察すると,上眼瞼には多数の小乳頭(b)が存在する.また,下眼瞼に多数の濾胞(c)が存在することも多い.図3春季カタルの症例7歳,男児.上眼瞼に多数の巨大乳頭(a)を認め,角膜上方にシールド潰瘍(b)を認める.別の輪部型の症例であるが,輪部に炎症が生じ,結節状のTrantas斑(c)を認める.膚炎を伴う患者にみられることが多い.春季カタルと同じように上眼瞼に巨大乳頭を伴う患者(図4ab)と,増殖性変化を伴わない患者(図5ab)の両方がいる.ともに眼瞼の充血,浮腫,ビロード状の肥厚を認める(図4c,5c).角膜には点状表層角膜症を認めることも多く,ときにシールド潰瘍を認める(図4de,5de).重症のアトピー性皮膚炎患者であることが多いため,血清中totalIgEが1万単位を超えることも珍しくなく,MAST33でも多くの項目が陽性のことが多い.ステロイド点眼,免疫抑制薬の点眼で症状は軽快するが,ヘルペス性角膜炎を発症しやすい患者も存在するので注意を要する.われわれ眼科医は,重症のアトピー性皮膚炎患者のほとんどがアトピー性角結膜炎を合併するように錯覚しがちだが,実はアトピー性皮膚炎の重症度とアトピー性角結膜炎の重症度は必ずしも相関しない.アトピー性皮膚炎患者における眼所見の重症度が何に起因しているかを調べることは,今後の課題であり,アトピー性角結膜炎の病態を考えるうえで重要である.●治療治療において,もっとも気をつけることとして,ステ520あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015abcde図4アトピー性皮膚炎の症例37歳,男性.上眼瞼に巨大乳頭(b)を認める.下眼瞼にも充血,浮腫,ビロード状の肥厚(c)を認め,角膜には大きなシールド潰瘍(d,e)を認めた.abcdec図5アトピー性皮膚炎の症例上眼瞼に増殖性変化は認めず,上下眼瞼ともに充血,浮腫,ビロード状の肥厚(b,c)を認め,角膜にはシールド潰瘍(d,e)を認めた.ロイド点眼は有効な治療薬である一方,ステロイド緑内障などの合併症を生じることをよく覚えておく必要がある.これは,とくに若年者に生じやすく,経過観察中の小児の眼圧検査は必須である.一方,タクロリムス点眼などの免疫抑制薬は,眼圧上昇の副作用がなく,使いやすい.ここでは,筆者がアレルギー性結膜疾患を診療して感じていることを簡単にまとめてみた.本稿で不十分な部分については,「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」を参照してほしい4).文献1)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Roleofstructuralcellsofthecorneaandconjunctivainthepathogenesisofvernalkeratoconjunctivitis.ProgRetinEyeRes25:165187,20062)FukushimaA,OzakiA,JianZetal:Dissectionofantigen-specifichumoralandcellularimmuneresponsesforthedevelopmentofexperimentalimmune-mediatedblepharoconjunctivitisinC57BL/6mice.CurrEyeRes30:241-248,20053)UetaM,KinoshitaS:Ocularsurfaceinflammationisregulatedbyinnateimmunity.ProgRetinEyeRes31:551575,20124)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン:日眼会誌114:833-870,2010(56)

抗VEGF治療:難治性糖尿病黄斑浮腫に対する治療方針

2015年4月30日 木曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二15.難治性糖尿病黄斑浮腫に対する志村雅彦東京医科大学八王子医療センター治療方針抗VEGF治療に反応しにくい糖尿病黄斑浮腫に対しては,ステロイド,光凝固,硝子体手術といった別の局所治療が選択されることが多く,しばしば改善をみることもある.その一方で,腎機能低下など全身状態の悪化に起因している場合もあり,内科専門医との緊密な連携が治療の鍵となることも少なくない.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態は,血管透過性の亢進のみならず,炎症性組織障害や黄斑部牽引が複雑に絡みあっており,いまだによくわかっていない.したがって,DMEに対する治療として抗VEGF薬や抗炎症ステロイドに代表される保存的療法のほかに,局所光凝固,格子状光凝固,硝子体手術といった侵襲的療法が存在し,本来病態に合わせて選択すべきものであるが,臨床では治療選択の決め手がないのが実情である.すなわち,DMEそのものがすでに難治疾患であるだけに,「難治性」DMEの定義はむずかしいが,ここではDMEの主たる原因である血管透過性亢進を抑制する「抗VEGF薬に反応しないDME」として述べる.漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫DMEに対する治療の第1選択が抗VEGF薬であることは大規模スタディの結果から明らかとなっているものの1),すべてに効果があるわけではなく,病態によっては治療抵抗性の症例があることが報告されている2).形態別としては,漿液性網膜.離を伴うDMEは抗VEGF阻害薬に対して抵抗性の症例が多い.DMEにおいて漿液性網膜.離が引き起こされる理由は不明であるが,このような症例では炎症性サイトカイン濃度が上昇していることが最近報告され3),網膜血管の透過性亢進により,炎症性物質が外境界膜を傷害して,網膜色素上皮前面にまで漿液が貯留すると考えられている.したがって,このような症例では抗炎症ステロイドが有効とされ,自験例においても抗VEGF抗体の複数回投与によっても抵抗する症例に対し,抗炎症ステロイドTenon.下投与が有効であった症例がある(図1).(53)Beforetreatment①BeforeSTTA④(0M)VA=(0.3)(4M)VA=(0.2)After1stIVB②After2MSTTA⑤(1M)VA=(0.3)(6M)VA=(0.5)After3rdIVB③After4MSTTA⑥(3M)VA=(0.3)(8M)VA=(0.6)図1VEGF阻害薬治療に抵抗し,抗炎症ステロイド局所治療が奏効したDME症例62歳,女性.糖尿病歴10年.左眼の糖尿病黄斑浮腫にて加療目的に紹介受診.初診時視力:左眼(0.3).漿液性網膜.離を伴うびまん性浮腫であり(①),抗VEGF抗体ベバシズマブを毎月3回硝子体内投与(IVB)する(②)も浮腫は改善せず(③),抗炎症ステロイドのトリアムシノロンをTenon.下投与(STTA)する(④)と著明な改善がみられ(⑤),効果は4カ月持続し,視力は(0.6)まで改善した(⑥).一方,漿液性網膜.離を伴うDMEでは,蛍光眼底造影検査において周中心窩での蛍光漏出が有意に大きく,網膜厚とも相関することから,周中心窩への局所光凝固が有効である可能性もまた報告されている4).いずれにせよ,漿液性網膜.離を伴うDMEは比較的進行した病態であると考えられており,治療に難渋することが多く,抗VEGF薬のみで対応することはむずかしい.トリアムシノロンアセトニドのTenon.下あるいは硝子体内投与,さらには蛍光眼底造影検査をして周中心窩からの漏出血管を局所光凝固,という選択肢を検討する必あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155170910-1810/15/\100/頁/JCOPY VA=(0.2)VA=(0.1)①②VA=(0.1)VA=(0.1)③④VA=(0.2)VA=(0.1)⑤⑥VA=(0.3)VA=(0.1)⑦⑧BeforetreatmentAfter3timesofIVB3monthsafterHD12monthsafterHD3monthsafterSTTABeforetreatment3monthsafterHD12monthsafterHDVA=(0.2)VA=(0.1)①②VA=(0.1)VA=(0.1)③④VA=(0.2)VA=(0.1)⑤⑥VA=(0.3)VA=(0.1)⑦⑧BeforetreatmentAfter3timesofIVB3monthsafterHD12monthsafterHD3monthsafterSTTABeforetreatment3monthsafterHD12monthsafterHD図2局所薬物治療に反応せず,透析によって著明な改善が認められたDME症例59歳,男性.糖尿病歴14年.腎機能低下(Cr:4.8mg/dl,BUN:43.2mg/dl,eGFR:14.1%)により腎臓内科通院中,両眼の視力低下にて紹介受診.初診時視力は右(0.2),左(0.1)であり,両眼ともスポンジ様のびまん性黄斑浮腫を認め,中心窩網膜厚(CMT)は右432μm(①),左眼は542μm(②)であった.右眼はベバシズマブを毎月3回投与(IVB),左眼はトリアムシノロンをTenon.下投与(STTA)するも,3カ月後にCMTは右眼で596μm(③),左眼で576μm(④)と増悪した.腎機能の悪化により血液透析(HD)開始され,HD後3カ月にて黄斑浮腫は著明に改善し,CMTは右眼299μm(⑤),左眼314μm(⑥)まで改善するも視力は変わらず,12カ月後,右眼はCMT265μmで視力は(0.3)まで改善した(⑦)が,左眼は314μmで視力は(0.1)のまま(⑧)であった.要がある.全身状態の悪化した糖尿病黄斑浮腫DMEに対して保存的治療法,侵襲的治療法のいずれに対してもまったく反応しない症例をみることがある(図2).このような場合,腎機能が悪化していることが少なくない.われわれ眼科医は血糖コントロールをHbA1cの値で評価することが多いが,腎機能の悪化した症例では体内の水分量が多くなるため,血液量に対する糖化ヘモグロビン比であるHbA1cは低く出る傾向があり,あまりあてにならない.BUNやCrによる評価のほか,現在ではeGFRという指標を用いることが多い.腎機能の改善は腎臓内科専門医に任せるしかないが,DMEは腎透析の開始によって劇的に改善することが多い.一方,浮腫が長期にわたって遷延した場合は,すでに視細胞が不可逆的な損傷を受けていることがあり,形態的な浮腫の改善がみられながら視機能が改善しないこともある.局所の治療法に反応せず,腎機能が低下しているDME症例については,積極的に腎臓内科と連携し,腎透析とまではいかなくても,緊急血液浄化などで一時的に浮腫を改善させ,視細胞の不可逆変化を防止するという治療戦略も必要になるだろう.文献1)ArevaloJF:Diabeticmacularedema:Changingtreatmentparadigms.CurrOpinOphthalmol25:502-507,20142)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20133)SonodaS,SakamotoT,YamashitaTetal:Retinalmorphologicchangesandconcentrationsofcytokinesineyeswithdiabeticmacularedema.Retina34:741-748,20144)MurakamiT,UjiA,OginoKetal:Associationbetweenperifovealhyperfluorescenceandserousretinaldetachmentindiabeticmacularedema.Ophthalmology120:2596-2603,2013☆☆☆518あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(54)

緑内障:緑内障の進行解析

2015年4月30日 木曜日

●連載178緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也178.緑内障の進行解析三木篤也大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室進行の判定は,緑内障の治療方針決定に不可欠である.進行している症例に対しては治療の強化が必要になり,逆に長年進行を認めない症例では薬物を減量することも可能かもしれない.本項では,緑内障の進行解析法について概略を説明したい.●はじめに緑内障の3大要素は眼圧,視神経,視野であり,このうち視神経と視野が経時的に悪化するかどうかをみるのが進行解析である.検査にはばらつき(変動)があるので,検査パラメータが低下したとしても,低下の程度が小さければ真の進行か単なる変動かをみわけるのはけっして簡単ではない1.3).変動の影響を取り除いて真の進行を捉えるために,統計学的な手法が必要とされるのである.●トレンド解析とイベント解析(表1)進行解析の手法には,大きく分けてトレンド解析とイベント解析がある.トレンド解析とは,注目するパラメータの単位時間あたりの変化量(進行速度)を求めるもので,進行の速度がわかることが最大の利点である(図1).しかし,変動の影響を除くためには数回検査を繰り返す必要があり,結果を得るまでに時間がかかる.また,進行の有無は統計学的に有意であるかどうかで決定され,臨床的な意義が明確ではない.A一方,イベント解析では,最初の何回かの検査(ベースライン)からある一定以上低い閾値を決める.計測値が閾値を下回ったときにイベント発生とする.実際には,複数回閾値を下回って初めてイベント発生とすることが多い.一般的に,イベント解析はトレンド解析よりも短期間で進行の有無を判定できる.また,進行の有無についてはっきりした答えが出るので,介入の効果を検証する研究には向いている.一方,イベント解析の最大の欠点は,進行の速度がわからないことである.進行の指標とするパラメータとして何を選択するかという問題もある.視野では,meandeviation(MD)やvisualfunctionindex(VFI)などのグローバルインデッ表1トレンド解析とイベント解析トレンド優劣イベント経過観察長い<短い進行判定の基準曖昧<明確進行速度わかる>わからないBベースラインパラメータ(MDなど)イベント閾値時間図1トレンド解析とイベント解析A:トレンド解析では,パラメータ(MDなど)を縦軸に,時間を横軸にとって直線回帰し,単位時間あたりの変化(スロープ)を求める.B:イベント解析では,最初の何回かの検査をベースラインとし,ベースラインより統計学的に有意な減少を閾値と設定するフォローアップ検査の測定値が閾値を下回れば,イベント発生とする(実際には複数回下回ったときにイベントとすることのほうが多い).(51)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155150910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2GPAのフォローアップレポートの一例パターン偏差プロットにおいて,ベースラインよりも1度低下していれば△,2度連続して低下していれば,3度連続して低下していれば▲で示される.この場合▲が3カ所あるので,likelyprogression(日本語版では「進行の可能性が高い」)と判定される.クスを用いるほかに,各刺激点の閾値を対象とするポイントワイズ法,いくつかの刺激点をグループにして解析するクラスター法などがある.概して,グローバルインデックスを用いる方法は全体的な進行度が把握しやすく,信頼度の高い結果が得られやすいが,局所の変化に対する検出力が劣る.ポイントワイズ法はグローバルインデックスと反対の特徴があり,クラスターは両者の中間の性質をもっている.●視野の進行解析これまで緑内障進行の詳細な統計解析は,自動静的視野検査において普及,発展してきた.そのうち代表的なトレンド解析法はMDスロープである.自動静的視野検査のMD値を時系列でプロットし,1年あたりの下降速度を求める方法である.Humphrey静的視野計のguidedprogressionanalysis(GPA)でも測定可能であるし,電子カルテプログラムから自動で測定してくれるものもある.最近のバージョンのGPAではVFIスロープもある.ポイントワイズのトレンド解析プログラムも種々開発されている.GPAプログラムのglaucomachangeprobabilitymap(GCPM)は代表的なイベント解析法である.GPAではパターン偏差プロットを使用し,最初の2回の検査からベースラインを決定する.そして,フォローアップ検査において連続2回以上の進行が3カ所以上で認められると進行の可能性あり,連続3回以上の進行が3カ所以上認められると進行の可能性が高いと判定される(図2).GPAのほかにもさまざまなイベント解析の方法が開発されている.●構造的進行解析従来の視神経観察は眼底検査,眼底写真を中心として516あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015行われてきたが,これらの検査は主観的,定性的であるために統計学的な解析に不向きであった.しかし,最近の画像診断機器の発展により,視神経障害についても視野と同様の定量的進行解析が可能となった.視神経障害の定量解析として,現在もっとも期待されるのはOCTである.現時点では,OCTの進行解析は研究者が統計プログラムを用いて自ら解析するものが多く,臨床の現場に広く普及しているとはいえない.しかし,各OCTメーカーは進行解析プログラムを続々と開発,搭載しており,近い将来臨床の現場においてもOCTの進行解析が標準化するものと考えられる.●おわりに緑内障の進行解析は,最近急速に発展した分野の一つである.進行が緩徐な正常眼圧緑内障などでは,トレンド解析やイベント解析などの統計的な解析を用いないと正確な進行判定はほぼ不可能である.進行判定の原理を理解し,日常臨床に活かすことは緑内障のフォローアップを担当する眼科医にとって最低限の責務である.文献1)KeltnerJL,JohnsonCA,LevineRAetal:NormalvisualfieldtestresultsfollowingglaucomatousvisualfieldendpointsintheOcularHypertensionTreatmentStudy.ArchOphthalmol123:1201-1206.20052)TannaAP,BudenzDL,BandiJetal:Glaucomaprogressionanalysissoftwarecomparedwithexpertconsensusopinioninthedetectionofvisualfieldprogressioninglaucoma.Ophthalmology119:468-473,20123)HeijlA,BuchholzP,NorrgrenGetal:Ratesofvisualfieldprogressioninclinicalglaucomacare.ActaOphthalmol91:406-412,2013(52)