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眼瞼・結膜:結膜弛緩症の症状と所見

2015年8月31日 月曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人7.結膜弛緩症の症状と所見田聖花東京歯科大学市川総合病院眼科結膜弛緩症は中高年の眼不快感の原因となりやすく,頻度の高い症状は,異物感,間欠性流涙,繰り返す球結膜下出血である.一方で,涙液動態を障害する原因ともなり,BUT短縮型ドライアイや角膜上皮障害を引き起こすこともある.点眼治療が奏効しない場合は,外科的切除を考慮する.●はじめに結膜弛緩症は,球結膜の弛緩により下眼瞼に沿って余剰結膜が皺になってたまるという現象を生じる(図1).加齢によるものが大半である.なぜ球結膜が弛緩するのかは明らかになっていないが,Tenon.が上強膜からはずれるためではないかと考えられている.結膜弛緩症はしばしば中高年の眼不快感の原因となる.頻度の高い症状は,違和感あるいは異物感,間欠性流涙,繰り返す結膜下出血である.●異物感異物感は,瞬目のたびにアコーディオンのように弛緩結膜が動くために生じる.結膜弛緩が角膜に乗り上がるくらい丈の高い症例で起こりやすい.瞬目や眼球運動に伴う摩擦によって球結膜上皮障害が生じることもあり,フルオレセインやリサミングリーンで染色するとより明らかとなる(図2).涙液減少型ドライアイ合併例では,こういった上皮障害がより強くなる.●涙液動態の障害結膜弛緩症は下眼瞼の涙液メニスカスを占拠するため,涙腺から分泌された涙が涙点へ流れていく動きや,瞬目による涙液の眼表面への広がりなど,涙液動態に悪影響を及ぼす.本来,下方の涙液メニスカスは角膜の輪部に近いところに存在するが,結膜弛緩症の程度が強いと,より角膜中央に近いところにメニスカスが形成される.涙液メニスカスのすぐ上は涙液層が薄くなる物理特性があるため,結膜弛緩症ではこの涙液層菲薄化部分が角膜のより中央に存在することになり,涙液層の破綻が生じやすく,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)の短縮をきたすことが多い.涙液減少型ドライアイ合併例では,この部分が角膜上皮障害の好発部位となる(図3).加齢によって涙液分泌量は減るため,中高年では涙液減少型ドライアイを合併した結膜弛緩症が多い.難治性の角結膜上皮障害では,病態の形成に結膜弛緩症の関与も疑う必要がある.図1典型的な結膜弛緩症図2下方球結膜がリサミングリーンで染色されている(85)あたらしい眼科Vol.32,No.8,201511510910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3結膜弛緩症のすぐ上で涙液層の破綻が生じ,角膜上皮障害がみられる図5図4に対し,弛緩結膜の外科的切除を行った●間欠性流涙弛緩結膜が耳側・鼻側の両サイドに多い例や,鼻側にとくに多く涙点を塞いでいるような例では,間欠性流涙を訴える.図4では,両サイドの弛緩結膜に阻まれるように中央の涙液メニスカスが高くなっていることがわかる.この症例では弛緩結膜の外科的切除を行って,症状は改善した(図5).間欠性流涙を訴える症例にたいして手術を検討する場合は,術前に通水テストを行って,鼻涙管狭窄や鼻涙管閉塞がないことを鑑別しておく必要がある.鼻涙管の疎通障害も合併していれば,結膜弛緩症図4耳側と鼻側に丈の高い結膜弛緩症の1例図6弛緩結膜の皺に沿った球結膜下出血の手術だけでは症状が寛解しないことをよく説明し,鼻涙管の治療も勧める.●球結膜下出血もう一つの代表的な症状は,繰り返す球結膜下出血である.弛緩結膜の可動性が大きいために生じる現象で,下方の弛緩結膜の皺に沿って出血の広がりがみられることもある(図6).外科的治療によって改善することができる.☆☆☆1152あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(86)

抗VEGF治療:網膜静脈分枝閉塞に対する抗VEGF治療-認可薬による治療戦略-

2015年8月31日 月曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二19.網膜静脈分枝閉塞に対する抗VEGF治療近藤峰生三重大学大学院医学研究科臨床医学系講座眼科学―認可薬による治療戦略―網膜静脈分枝閉塞に対する抗VEGF治療は,2005年のベバシズマブの適用外使用で始まった.速効性があり視力改善度も高いため,患者にとってもっとも満足度の高い抗VEGF治療である.2013年には承認薬としてラニビズマブが登場し,より早期の症例や軽症の症例にも積極的に使用されるようになっている.本治療の問題点も含めて概説する.抗VEGF剤の未認可時代が長かったBRVO網膜静脈閉塞(retinalveinocclusion:RVO)の黄斑浮腫に対して抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬の硝子体内注射が有効であることは,2005年頃から知られていた1).BRVO(branchretinalarteryocclusion)の黄斑浮腫に対するベバシズマブの使用によってわかったことは,①速効性がある治療法である,②1回の注射のみで再発のない症例は20~30%程度である,③繰り返し再発する患者では長期にわたって注射が必要になる,④注射による副作用の可能性は非常に低い,などであった.適用外使用であったために当時は慎重に投与しており,BRVOの発症から3カ月程度待っても改善しない黄斑浮腫のみに限られることが多かった.筆者らは,BRVOの黄斑浮腫に対するベバシズマブ注射治療の視力成績を以前に報告した2)(図1).投与方法はまず1回注射し,再発症例に対しては再投与する,いわゆる1+PRNである.1年後の視力改善度はlogMARで0.27(文字数換算で13.5文字),1年間の投与治療前治療後図1BRVOの黄斑浮腫に対するラニビズマブの効果症例は55歳,男性.右眼BRVO(左)に対してラニビズマブを2回連続投与したところ,浮腫の改善が得られ,視力も0.1から1.2に改善した(右).ただし,この2カ月後に浮腫は再発している.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.8,201511490910-1810/15/\100/頁/JCOPY シャム/半年後から0.5mgラニビズマブ0.3mgラニビズマブ0.5mgラニビズマブ20毎月6回投与6カ月以降は必要に応じてラニビズマブ+18.3**16数)+16.4**12度(文字+12.18視力改善40024681012(月)図2BRVOの黄斑浮腫に対する大規模臨床試験(BRAVO)の結果毎月6回連続投与することにより,6カ月後には15文字以上の視力改善が得られている.(文献3を改変し引用)回数は平均2.0回であった.1回の投与のみで浮腫が軽る議論がさらに活発になることが予想される.快して再発しなかった症例は28%であった.今後解決されるべき問題点は?BRVOに対する認可薬の登場でなにが変わったか?今後解決されるべきおもな問題は以下の3点と考えられる.1)初回投与回数や維持投与法の理想的なレジメ2013年の8月にRVO(BRVOと網膜中心静脈閉塞症ンはどのようなものか?2)浮腫の再発を繰り返す患者の両方)の黄斑浮腫に対して,ラニビズマブ(ルセンに,どの時点でどのような治療法を併用するとよいのティスR)が認可となった.認可薬が登場したことでもか?3)周辺部の無灌流領域に対するレーザーおよび黄っともも大きく変わったことは,投与開始が早くなった斑レーザーを加えるとしたら,どのタイミングでどのよこと,そして軽症例でも投与しやすくなったことであうな症例に行うべきか.る.未解決の問題はまだ多くあり,今後もこの分野のさらBRVOの黄斑浮腫に対するラニビズマブの効果につなる発展に期待したい.いてはベバシズマブとほぼ同等という報告が多い.大規模臨床試験3)では,初期は1~2回の投与で浮腫が劇的文献に改善した(図2)が,最終投与から2~3カ月で多くの1)RosenfeldPJ,FungAE,PuliafitoCA:Opticalcoherencetomographyfindingsafteranintravitrealinjectionofbev症例が再発した.この大規模臨床試験では最初の6カ月acizumab(avastin)formacularedemafromcentralretinalは連続投与を行い,その後は必要に応じて追加というプveinocclusion.OphthalmicSurgLasersImaging36:336ロトコールで投与されている3)が,実際の臨床の場では339,2005ここまで多くの注射が行われることは稀である.とくに2)KondoM,KondoN,ItoYetal:Intravitrealinjectionofbevacizumabformacularedemasecondarytobranchretiわが国ではまず初回1回注射を行い,その後は必要に応nalveinocclusion:resultsafter12monthsandmultipleじて投与(いわゆる1+PRN)が圧倒的に多いのが現状regressionanalysis.Retina29:1242-1248,20093)BrownDM,CampochiaroPA,BhisitkulRBetal:Susである.1回にかかる注射の料金も高額であるので,今tainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafol後もこの傾向は続くと考えられる.lowingbranchretinalveinocclusion:12-monthoutcomes2015年の前半には,2つめの承認薬であるアフリベofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:1594-1602,ルセプト(アイリーアR)もBRVOに対して認可となっ2011た.ラニビズマブとアフリベルセプトの効果の差に関す1150あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(84)最初の6カ月は注射なし6カ月以降は必要に応じて0.5mgラニビズマブ+18.3*+16.6*+7.3

緑内障:落屑症候群/落屑緑内障に関連する新規遺伝子

2015年8月31日 月曜日

●落屑緑内障とLOXL1北欧のグループによる落屑症候群のゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)を端緒に,LOXL1から2つのアミノ酸置換を伴うゲノム配列の違い(バリアント)が同定され,2007年にサイエンス誌に報告された1).LOXL1はコラーゲン線維を支えるエラスチン(弾性線維)の重合酵素であることから,落屑緑内障の発症機序への関与が示唆されている2).すなわち,バリアントによりLOXL1の機能変化が生じた場合,線維状の異常な凝集体が沈着し,落屑物質として蓄積する.眼組織においては,前房内で産生される落屑物質が線維柱帯の目詰まりを引き起こし眼圧が上昇する結果,落屑緑内障の発症に至るという仮説である.落屑症候群に関連するバリアントがLOXL1からしか同定されなかったこともあり,落屑緑内障の基礎研究はLOXL1を中心に行われてきたものの,落屑症候群から緑内障を発症する分子機構は未解明である.●LOXL1領域における人種差その後,LOXL1の2つのバリアントと落屑症候群/落屑緑内障との関連性の追試がつぎつぎに行われ,日本人も含めて3)あらゆる人種において再現性が認められた.しかし,そのうちの1つのバリアント(rs1048661)のリスクアレルが,アミノ酸置換を伴うにもかかわらず,日本人ではT,白人ではGと逆転していることが判明した(図1).この事実は,LOXL1が疾患の原因遺伝子ではないことを端的に示しているため,筆者らは日本人検体を用いたGWASを改めて実施した4).その結果,強い相関を示すシグナルがLOXL1領域からのみ検出されたが,有意なバリアントはLOXL1近傍のPMLやTBC1D21からも検出された(図2).PMLは●連載182緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也2007年に北欧のグループから落屑症候群に関連する遺伝子としてLOXL1が報告されて以来,落屑緑内障の病因・病態はLOXL1を中心に解析されてきた.最近,新たに実施されたゲノムワイド関連解析によって落屑症候群/落屑緑内障に関連する新規遺伝子が同定され,発症機序の解明に向けた新展開がもたらされている.182.落屑症候群.落屑緑内障に関連する新規遺伝子中野正和*1池田陽子*2*1京都府立医科大学大学院医学研究科ゲノム医科学*2同視覚機能再生外科学アイスランド[1]スウェーデン[1]日本[3]日本[4]GTrs1048661ケースコントロールGT人種[文献]0.1730.1660.9950.9700.8270.8340.0050.0300.6510.6820.4740.3730.3490.3180.5260.627rs3825942●連載182緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也2007年に北欧のグループから落屑症候群に関連する遺伝子としてLOXL1が報告されて以来,落屑緑内障の病因・病態はLOXL1を中心に解析されてきた.最近,新たに実施されたゲノムワイド関連解析によって落屑症候群/落屑緑内障に関連する新規遺伝子が同定され,発症機序の解明に向けた新展開がもたらされている.182.落屑症候群.落屑緑内障に関連する新規遺伝子中野正和*1池田陽子*2*1京都府立医科大学大学院医学研究科ゲノム医科学*2同視覚機能再生外科学アイスランド[1]スウェーデン[1]日本[3]日本[4]GTrs1048661ケースコントロールGT人種[文献]0.1730.1660.9950.9700.8270.8340.0050.0300.6510.6820.4740.3730.3490.3180.5260.627rs3825942ケースコントロール人種[文献]GAGA0.0130.987アイスランド[1]0.8470.1530.0050.995スウェーデン[1]0.8790.1210.0050.995日本[3]0.8500.1500.0080.992日本[4]0.8250.175図1アミノ酸置換を伴うLOXL1の2つのバリアントのアレル頻度rs1048661(上段)のリスクアレルが日本人ではT,白人ではGと逆転している.(81)あたらしい眼科Vol.32,No.8,201511470910-1810/15/\100/頁/JCOPY 71.871.97272.172.2302520151050100806040200r20.80.60.40.2←C15orf59TBC1D21→LOXL1→←STOML1PML→←GOLGA6APositiononchr15(Mb)-log10PRecombinationrate(cM/Mb)71.871.97272.172.2302520151050100806040200r20.80.60.40.2←C15orf59TBC1D21→LOXL1→←STOML1PML→←GOLGA6APositiononchr15(Mb)-log10PRecombinationrate(cM/Mb)図2日本人検体を用いたGWASボンフェローニ補正(破線)を越す有意なバリアントが,LOXL1だけでなくPMLやTBC1D21からも検出された.表1日本人検体を用いた代表的な3つのバリアントのハプロタイプ解析*ハプロタイプ**アレル*アレル頻度p値ケースコントロールH1GGA0.00390.12941.62×10.8H2GTA0.00430.04070.0055H3AGG0.01760.08350.0005H4GGG0.01250.15177.55×10.9H5ATG0.03190.06750.0471H6GTG0.92970.52721.33×10.27*TBC1D21のアミノ酸置換を伴うバリアント(rs16958445,アレルの1文字目)とLOXL1の2つのバリアント(rs1048661とrs3825942,2文字目および3文字目)によるハプロタイプ解析.**日本人の落屑症候群/落屑緑内障患者ではH6が主要なハプロタイプであった.一方,TBC1D21のバリアントは白人ではそもそもバリアントではない4)ため,これらのハプロタイプは日本人に特有である.核小体を構成する分子で,核内において種々の標的遺伝子の転写を制御している.一方,TBC1D21の機能は不明であるため,これらの分子と疾患との関連性については今後の検討が待たれる.また,人種間の臨床症状に共通点が多い疾患であるにもかかわらず,本領域のバリアントの分布は日本人と白人とで異なる(表1)ため,遺伝学的に興味深い課題が残されている.●LOXL1領域外からの新規遺伝子の同定最近,シンガポールのグループが主導した落屑症候群1148あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015の大規模GWASにより,LOXL1とは異なる染色体に存在する遺伝子(CACNA1A)から初めてバリアントが同定された5).CACNA1AはP/Q型電位依存性カルシウムチャネルのa1Aサブユニットであることから,バリアントの有無による微小環境におけるカルシウム濃度の変化が,落屑物質の沈着や蓄積へ影響している可能性が考えられる.今後,落屑症候群/落屑緑内障に関連するバリアントを同定し尽くすことにより,疾患の発症機序が解明され,有効な治療法や予防法が開発されることが期待される.文献1)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,20072)Schlotzer-SchrehardtU,NaumannGO:Ocularandsystemicpseudoexfoliationsyndrome.AmJOphthalmol141:921-937,20063)MoriK,ImaiK,MatsudaAetal:LOXL1geneticpolymorphismsareassociatedwithexfoliationglaucomaintheJapanesepopulation.MolVis14:1037-1040,20084)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:NovelcommonvariantsandsusceptiblehaplotypeforexfoliationglaucomaspecifictoAsianpopulation.SciRep4:5340,20145)AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenet47:387-392,2015(82)

屈折矯正手術:iDesignで測定した高次収差とコントラスト感度

2015年8月31日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載183大橋裕一坪田一男183.iDesignで測定した高次収差と脇舛耕一*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニックコントラスト感度*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学波面センサーiDesignは,WaveScanの後継機として開発され,Hartmann-Shackイメージの測定ポイントがWaveScanの約5倍となるなど,測定性能の向上が図られている.iDesignで測定したLASIK術後の高次収差とコントラスト感度との相関を認め,iDesignがより正確に高次収差を把握できる可能性があり,今後の有用性について期待される.●はじめに屈折異常は大きく分けて,球面,円柱成分とよばれる眼鏡による矯正が可能な低次収差と,眼鏡では矯正できない不正乱視成分である高次収差がある.高次収差は角膜や水晶体の不整性に起因し,角膜や水晶体の非対称性による像のぼけ(コマ収差)や,中心部と周辺部での屈折力の違いから,それぞれを通過する光の結像位置がずれることで生じるぼけ像(球面収差)などがある.この高次収差をどれだけ正確に測定できるかが,より精密な視機能の把握や,レーザー屈折矯正手術時における術後視機能の改善にとって重要なファクターとなる.●波面センサーiDesignの性能高次収差を測定する機器が波面収差解析装置(波面センサー)であるが,開発技術の進歩とともに,より測定精度の高い機器が登場してきた.波面センサーiDesign(Abbott社)は,従来販売されていたWaveScanの後継機である(図1).HartmannShackイメージの各間隔が50μmであり,同イメージのデータポイントが7mm径で1,257カ所と,WaveScan(240カ所)の5倍の性能を有している.それ以外にも測定可能範囲が球面.16D~+12D(WaveScan.12D~+9D),円柱±8.0D(WaveScan±6.0D)であり,高次収差のFourier解析がZernike16次相当(WaveScan6次相当)データ取得範囲が8.50mm(WaveScan7.0mm)とさまざま(,)な点で性能の向上が認められる.また,固視標も蜘蛛の巣様のビデオターゲットを採用し調節が入りにくいような工夫がなされており,瞳孔径の測定もWaveScanでは照明がなく暗所のみであったが,iDesignでは照明がつき明暗所ともに測定可能となった.(79)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1iDesignの外観●wfLASIK後眼における測定精度の検討このようにiDesignはより高機能となったことで測定精度の向上が期待されるが,実際の測定結果(図2)と視機能との関連を調べるため,wave-frontguidedLaser-assistedinSituKeratomileusis(wfLASIK)後眼における高次収差とコントラスト感度(明所自然瞳孔下および散瞳負荷条件下)について,このiDesignを用いて測定した結果と,同じ波面収差解析装置であるトプコン社製KR-1Wとで比較検討を行った.KR-1Wは,Hartmann-Shackイメージの各間隔220μm,データポイントが8mm径で1,070カ所,Zernike解析で最大データ取得範囲は8.0mmである.対象は2011年10月~2013年5月にwfLASIKを施行し術後6カ月以上経過観察が可能であった28例28眼(男性6例,女性22あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151145 図2iDesign測定結果右下のグラフが各高次収差結果である.例),年齢34±9(20~50)歳,矯正量.5.40±2.17(.1.63~-10.0)Dであり,コントラスト眼度はCSV-1000を用いて自然瞳孔下,散瞳負荷下それぞれの条件下で測定した.その結果,iDesignで測定した全高次収差と明所下自然瞳孔,散瞳負荷条件下いずれのコントラスト感度とも相関を認めた(図3).一方でKR-1Wで測定した全高次収差は,明所下自然瞳孔条件で測定したコントラスト感度とは相関を認めたが,散瞳負荷条件下コントラスト感度とはいずれの周波数でも相関を認めなかった.●おわりにwfLASIK眼では従来のconventionalLASIKに比べ術後高次収差の増大が抑制され,より高い視機能の獲得が期待されるようになった1~3)が,一方で,術後高次収差と視機能との相関を検出することがむずかしくなってきている.そのなかで,iDesign,KR-1Wいずれの機種でも,測定した高次収差と明所自然瞳孔条件下でのコントラスト感度との相関を認めたことは,各機種の測定精度が高いことがうかがえる.さらに,散瞳負荷条件下で測定したコントラスト感度について,KR-1Wで測定した高次収差とは相関を認めず,iDesignで測定した高次収差とのみ相関を認めたことから,実際の測定精度についてもiDesignのほうがより正確に高次収差をとらえ18cycles/degree対数コントラスト感度1.81.61.41.210.8y=-2.2723x+1.5456R2=0.24520.60.40.2000.10.20.30.4RMS;自然4mm(μm)図3iDesignで測定した全高次収差とコントラスト感度の相関自然瞳孔で測定した全高次収差と対数コントラスト感度との相関を認めた(このグラフは18cycles/degreeの対数コントラスト感度を表示).ている可能性が示唆された.各患者の視機能評価や,より良好なwfLASIKの術後成績を得るためにも,高次収差の測定精度の向上は重要である.iDesignは現時点でもっとも高い測定機能を有した機種であり,実際の測定結果についても正確性が高いと考えられ,今後の有用性を期待できるものと考えられる.文献1)QiuP,WangZ,YangBetal:Theanalysisofsubjectiveevaluationandcontrastsensitivityfunctionafterwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisandtraditionallaserinsitukeratomileusis.ZhonghuaYankeZazhi43:329-335,20072)WuJ,WangZ,YuKetal:Combinedwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisandasphericablationprofilewithirisregistrationtocorrectmyopia.JCataractRefractSurg39:1059-1065,20133)ZhangJ,ZhouYH,LiRetal:VisualperformanceafterconventionalLASIKandwavefront-guidedLASIKwithiris-registration:resultsat1year.IntJOphthalmol6:498-504,2013☆☆☆1146あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(80)

眼内レンズ:後極白内障における新しい核分割法(Pre-Surround Division Technique)

2015年8月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋345.後極白内障における新しい核分割法鴨居功樹東京医科歯科大学(Pre-SurroundDivisionTechnique)後極白内障は,後.中央に位置する硬い円盤状の混濁が特徴で,後.は脆弱かつ欠損を認める場合もあり,手術時に合併症が起きやすい.核分割が必要な場合はさらに難易度が高く,これまでに報告があった核分割法はいずれも熟練を要した.今回,後極白内障において,安全かつ容易に核分割する方法を考案したので報告する.●はじめに後極白内障は,後.中央に位置する白くて硬い円形の混濁が特徴で(図1),胎生期から徐々に進行し,30~50年後に自覚症状が出現する.視力低下が顕著になった場合,水晶体摘出と眼内レンズ挿入が必要であるが,後.は脆弱な場合が多く,また約20%に後.欠損が認められるため難易度の高い手術となる1).手術は①anteriorapproach,②posteriorapproach,③intracapsularcataractextractionに分けられる2).①anteriorapproachはもっとも侵襲が少ないが,分割が必要な核硬化がみられる場合,難易度が非常に高くなる.この際の核分割法について,いくつか報告があるものの3,4),いずれも熟練した技術が必要である.今回考案したanteriorapproachにおける核分割法pre-surrounddivisiontechnique5~7)は比較的容易に,また後極混濁を避けた分割を確実に得られるため,安全で有効な方法であると考えられる.●手術手順手順として,核分割までは後極白内障における標準的な方法を用いる.つまり創口作製,前.切開を施行したあとに,hydrodissectionをせずにhydrodelineationを確実に行う(図2).場合によってはinside-outdelineationtechnique8)(中央に溝を作製してからhydrodelineationを行う方法)を用いてgoldenringを確実に作製し,核と後極混濁の分離を確認する.続いて粘弾性物質を適量注入して,前房を保持する.最初の分割として,後極混濁を避け,かつ後極混濁上に亀裂が生じない場所にprechopperの刃先を適切な深さまで刺入する.刃先をよく観察し,後極混濁側(中央側)になるべく力が働かないよう調整しながら,ゆっくりとprechopperを開(77)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1後極白内障後極に白い円形の混濁がみられる.き分割をする(図3).続けて,同じ要領で後極混濁を挟んで対側にprechopperを刺入・分割することで(図4),3つの核片に分ける(pre-surrounddivision).3つに分割された核片の処理は,フックを用いて水晶体.が大きく変動しないように核をコントロールしながら,まずは中央の核片から行う.側方の核片を最初に吸引すると,水晶体.の安定性が低下してしまう.核吸引後は通常の手順どおり,後極混濁・エピヌクレアスと後.の間に粘弾性物質をゆっくり注入して分離させる.後.から離れた後極混濁・エピヌクレアスを慎重にI/Aで吸引し,眼内レンズを挿入する.●考察後極白内障における核分割に関してdivideandconquer,phacochopなど標準的な手技を用いた場合,hydrodelineationが不十分だと,分割の際に後極混濁の直上に亀裂が入る可能性があり,後.破損の危険性が高い.また,とくに初心者にとっては,超音波を発振しなあたらしい眼科Vol.32,No.8,20151143 図2図3図4Hydrodissectionは避け,hydrodelineationPrechopperを後極混濁の左方に刺入・分同様にprechopperを後極混濁の右方に刺を確実に行いgoldenringを確認する.割する.図5上方からのシェーマ後極混濁を避ける形で3分割する.後極混濁のある中央に力がかからないよう,なるべく側方に力を加える.青:hydrodelineationで生じるgoldenring.がら後.への不必要な圧をかけずに核分割することはむずかしい.一方,pre-surrounddivisiontechniqueは超音波乳化吸引の前に,後極混濁を確実に避けながら複数に核分割することができ(図5),hydrodelineationが不完全であっても,分割に伴う後.破損の可能性は低い(図6).さらに分割後の核は比較的容易に処理できるので,ローテーションの必要もなく,安全性が高い手技と考えられる.文献1)OsherRH,YuBC,KochDD:Posteriorpolarcataracts:a入・分割する.図6側方からのシェーマHydrodelineationが十分でなくても,分割によって後極混濁に亀裂は入らない.predispositiontointraoperativeposteriorcapsularrupture.JCataractRefractSurg16:157-162,19902)VasavadaAR,RajSM,VasavadaVetal:Surgicalapproachestoposteriorpolarcataract:areview.Eye26:761-770,20123)VasavadaA,SinghR:Phacoemulsificationineyeswithposteriorpolarcataract.JCataractRefractSurg25:238245,19994)CheeS-P:Managementofthehardposteriorpolarcataract.JCataractRefractSurg33:1509-1514,20075)KamoiK,MochizukiM:Pre-surrounddivisiontechnique.JCataractRefractSurg40:1764-1767,20146)KamoiK:Pre-SurroundDivision.CataractandRefractiveSurgeryTodayEurope,6:28-30,20157)KamoiK:Pre-surrounddivisiontechniquedevisedforposteriorpolarcataractsurgery.OcularSurgeryNewsU.S.Edition:Feb.25,20158)VasavadaAR,RajSM:Inside-outdelineation.JCataractRefractSurg30:1167-1169,2004

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用による眼障害(その2)

2015年8月31日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一15.コンタクトレンズ装用による糸井素純道玄坂糸井眼科医院眼障害(その2)●はじめにコンタクトレンズ(CL)装用による眼障害は,単に病状を診断し,それに対して投薬治療をするだけでは高率に再発する.どのようにして発症したのかを解明し,今後,どのようにすれば再発を予防できるのかを含めて指導しなければならない.そのためには,問診でできるだけ多くの情報を取得する.診察で簡単に細隙灯顕微鏡を用いて前眼部を観察するだけでは,正確な診断はできない.本セミナーでは,CL装用による眼障害を診察するうえで,最低限押えておいていただきたいポイントについて解説する.●問診問診により,多くの情報を収集することで,眼障害の発症機序の解明ができる.問診では眼障害の症状に関することや,眼疾患,全身疾患,アレルギー疾患の既往や合併だけではなく,レンズの種類,装用サイクル,製品名を把握し,眼障害を招いたCLは医師の処方を受けたか,いつ,どこで購入したか,定期検査を受けているか,1日平均何時間装用しているか,1週間のうち平均何日間装用しているか,他の種類のCLは使用していないかなどを確認する.さらに,レンズを毎日こすり洗いしているか,消毒しているか,装着直前にすすいでいるか,レンズケースを毎日洗浄しているか,乾燥させているか,定期交換しているかといった情報を聞き出す必要がある.また,市販の目薬や洗眼用品が眼障害悪化の原因になっていることがあるので注意を要する.質問項目が多くなるのでCL装用者用の問診票(図1)を準備しておくとよい.●視力検査前眼部に炎症所見を伴わないCL装用による眼障害では,角膜変形や角膜浮腫のために矯正視力が低下していることがある.また,他の眼障害の合併により,さらに視力が低下し,その後,回復しないケースもある.痛みを伴い,開瞼が困難な場合は仕方がないが,可能なかぎ(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYり初診時に視力検査を実施するようにする.初診時に実施できなかった場合は,再診時に必ず実施する.●細隙灯顕微鏡検査もっとも基本となる検査である.角膜,結膜(眼瞼結膜,球結膜)のみならず,前房,虹彩,涙液,マイボーム腺の状態を確認する.最初はフルオレセインで染色せずに,低倍率で全体を確認し,その後,高倍率にして各部位にフォーカスを合わせて観察する.そして,フルオレセインで角膜,結膜を染色し,低倍率と高倍率で観察する.なお,眼瞼結膜には有力な情報が隠れていることが多いので,必ず眼瞼を反転して観察する.ソフトCLと眼瞼結膜の間で摩擦を生じると,眼瞼結膜側にlidwipersyndromeという結膜上皮障害を生じ,CL装用感を悪化させるともいわれている.●コンタクトレンズの検査CL自体の検査も重要である,レンズ度数,直径,ベースカーブ(ハードCLのみ)を測定し,汚れ,キズ,変形などを確認する.汚れ,キズは細隙灯顕微鏡だけではなく,さらに実体顕微鏡で観察するとよい.●コンタクトレンズのフィッティング検査初診時には眼障害の症状が強く,レンズのフィッティングが確認できない場合が少なくないが,眼障害治癒後,CL装用を開始する前には,眼障害のあったCLを実際に装用し,レンズのフィッティングを確認していただきたい.そうすることにより,眼障害の発症機序が明らかになることも少なくない.●角膜形状解析検査以前はプラチドリングを利用した角膜形状解析装置が主流であったが,最近では前眼部光干渉断層計やScheimpflug角膜形状解析装置が登場し,角膜前面の形状のみならず,角膜後面の形状と角膜厚を広い範囲で撮影,解析できるようになった.通常の細隙灯顕微鏡検査あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151141 1142あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(00)では検出できないような早期の円錐角膜,CL装用による角膜変形や角膜不正乱視などを検出することができる.CL装用による眼障害は,程度の差はあるが,角膜変形や角膜不正乱視を伴っていることが多く,角膜形状解析装置で撮影し,必ず角膜の形状を確認していただきたい.●角膜内皮細胞検査通常,角膜内皮細胞は加齢変化により年0.3~0.7%の細胞脱落があるとされている1)が,CL装用により角膜内皮細胞の減少がより顕著となることがある.とくに長期に酸素透過性の低いCLを装用している人は要注意である.最近ではカラーCL装用者のなかに,比較的短期の装用にもかかわらず,角膜内皮細胞が減少している例が散見されるようになってきた.角膜内皮細胞の減少で自覚症状を伴うのは末期であり,検査を実施しなければ,角膜内皮細胞数の減少は把握できない.文献1)大原國俊,水流忠彦,伊野田繁:角膜内皮細胞形態のパラメーター.日眼9:1073-1078,1987ZS945図1コンタクトレンズ装用者用の問診票あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(00)では検出できないような早期の円錐角膜,CL装用による角膜変形や角膜不正乱視などを検出することができる.CL装用による眼障害は,程度の差はあるが,角膜変形や角膜不正乱視を伴っていることが多く,角膜形状解析装置で撮影し,必ず角膜の形状を確認していただきたい.●角膜内皮細胞検査通常,角膜内皮細胞は加齢変化により年0.3~0.7%の細胞脱落があるとされている1)が,CL装用により角膜内皮細胞の減少がより顕著となることがある.とくに長期に酸素透過性の低いCLを装用している人は要注意である.最近ではカラーCL装用者のなかに,比較的短期の装用にもかかわらず,角膜内皮細胞が減少している例が散見されるようになってきた.角膜内皮細胞の減少で自覚症状を伴うのは末期であり,検査を実施しなければ,角膜内皮細胞数の減少は把握できない.文献1)大原國俊,水流忠彦,伊野田繁:角膜内皮細胞形態のパラメーター.日眼9:1073-1078,1987ZS945図1コンタクトレンズ装用者用の問診票

写真:熱傷後30年経過し,角膜感染から穿孔し駆逐性出血に至った症例

2015年8月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦375.熱傷後30年経過し,角膜感染から山名満帆*1,2横井則彦*2*1バプテスト眼科山崎クリニック穿孔し駆逐性出血に至った症例*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学①②③図2図1のシェーマ①上下眼瞼縁の発赤・腫脹②角膜全体の混濁③角膜中央部が穿孔し,虹彩が透見される.図1熱傷後30年経過し,角膜中央部の穿孔を伴う角膜感染症の症例角膜感染症として治療開始.図3図1より3日後の前眼部写真起き上がった際に腹圧の影響で穿孔部が拡大したと推察される.その後,鼻をかんだことにより駆逐性出血をきたしたと考えられた.図4図3より2日後の前眼部写真穿孔部分より硝子体および網膜の脱出を認めた.(73)あたらしい眼科Vol.32,No.8,201511390910-1810/15/\100/頁/JCOPY 駆逐性出血,すなわち上脈絡膜出血は,毛様体動脈が強膜壁を貫通する部分で動脈血管に破綻を生じ,脈絡膜に出血が波及して脈絡膜外腔に大量の出血がたまることであり,虹彩・毛様体の.離を伴いながら,硝子体や水晶体などの眼内組織が眼外脱出してくる病態をさす.一般に駆逐性出血は術中合併症として知られており,白内障手術では,切開創の狭小化により,今日では発症率はかなり減少したが,緑内障手術や全層角膜移植手術では未だ注意すべき合併症といえる1,2).頻度としては全内眼手術の0.19~1.9%と報告され,特発性や外傷によるものは相当まれである3).内眼手術のもっとも重篤な術中合併症であり,いったん起こると視機能の温存は不可能なことも少なくない.駆逐性出血の術前危険因子として高血圧,糖尿病,高齢,強度近視(長い眼軸),緑内障などがあげられており,術中危険因子としては血圧変動や頻脈,疼痛,尿意,眼内圧の変動,低眼圧,硝子体脱出などが知られている3).一方,術中合併症以外での契機としては,角膜移植後の抜糸4)や角膜潰瘍の穿孔5)などの報告があり,本症例も角膜穿孔を契機としていた.症例は56歳の男性で,約30年前に左眼に熱傷の既往があり視力は0.01~0.1程度であった.近年は,眼表面の乾燥に対してオフロキサシン眼軟膏を使用していたが,軟膏がなくなり,出張のため1カ月間ほど使用できていなかった.2015年1月28日,左眼に突然,熱い涙を自覚し近医(以下,前医)を受診.前医より角膜穿孔を指摘され,当院へ紹介受診となった.当院受診時,角膜は全面白濁し,中央部に小さな穿孔創を認めたが,その時点で房水の漏出はなかった(図1).眼瞼は発赤・腫脹し多量の膿性眼脂を伴っていた.超音波検査にて,眼内への炎症の波及は認めなかったため,角膜感染症として角膜擦過培養検査を施行するとともに,抗菌薬治療(セファゾリンナトリウム2g,1.5%レボフロキサシンおよび0.5%セフメノキシムの1日1時間毎頻回点眼,オフロキサシン眼軟膏1日4回点入)を開始した.治療開始より3日目,ベッドから起き上がったところ,突然,左眼に再び熱い涙と強い眼痛を自覚した.直後の診察で,角膜穿孔部分の拡大,および触診にて著明な低眼圧を認めた.眼痛,冷汗が強く,ティッシュペーパーを渡したところ鼻をかみ,その直後に駆逐性出血を発症した(図2).ペンタゾシンの筋肉注射により眼痛を治療し,圧迫眼帯を行ったところ3時間後には止血した.疼痛が落ち着いた時点で,ベッドサイドで超音波検査を施行したところ,眼球の変形および眼内に凝血塊を認めた.その後,ベッドサイドに角膜穿孔部より排出されたと思われる水晶体が発見された.今回の一連のエピソードから推察すると,本症例では,炎症性に角膜穿孔が拡大して房水が大量に漏出し,急激に低眼圧になったことで脈絡膜の循環が停滞し,それに加えて,鼻をかんだことにより眼球に強い圧力が加わったことで,駆逐性出血に至ったのではないかと考えられた.その後,角膜感染症の治療を継続し,それが落ち着いたと考えられた時点(発症後7日目)で眼球内容除去術および義眼床形成術を行った.駆逐性出血は術中合併症だけでなく,眼球穿孔が存在するような状態ではいつでも起こりうることを認識しておくことは,重要であると思われる.文献1)GhadhfanFE,KhanAO:Delayedsuprachoroidalhemorrhageafterpediatricglaucomasurgery.JAAPOS13:283-286,20092)GrohMJ:Expulsivehemorrhageinperforatingkeratoplasty-incidenceandriskfactors.KlinMonblAugenheilkd215:152-157,19993)MoshfeghiDM:Appositionalsuprachoroidalhemorrhage:acase-controlstudy.AmJOphthalmol138:959963,20044)PerryHD,DonnenfeldED:Expulsivecholoidalhemorrhagefollowingsutureremovalafterpenetratingkeratoplasty.AmJOphthalmol106:99-100,19885)小幡博人,寺島浩子,志村留美子ほか:眼科医のための病理学58,駆逐性出血の病理.眼科48:1167-1170,20061140

抗VEGF薬開発の今後

2015年8月31日 月曜日

特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1133.1137,2015特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1133.1137,2015抗VEGF薬開発の今後DevelopmentofNewAnti-VEGFDrugs大島裕司*はじめに網膜疾患の治療は,2000年に入り大きな変遷をとげた.わが国では,2003年に滲出型加齢黄斑変性(agerelatedmaculardegeneration:AMD)に対するベルテポルフィンを用いた光線力学療法が開始され,最初の変革が起きた.その後,2007年頃にオフラベルであるが,ベバシズマブが滲出型AMDに対して使用されるようになった.2008年にはペガプタニブが,2009年にはラニビズマブが滲出型AMDに対して認可され,視力維持のみならず今までなしえなかった視力改善も認められるようになり,抗VEGF療法の時代に入った.2012年にはアフリベルセプトが登場し,滲出型AMDに対して認可された.その後,適応疾患が拡大し,現在(2015年5月時点)では,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞症,糖尿病黄斑症(diabeticmuclaredema:DME)に抗VEGF薬が使用されている.疾患により違いもあるが,抗VEGF薬は繰り返し投与が必要であり,多数回の投与を受けている患者も少なくない.そのため経済的問題や副作用,合併症の発症頻度が危惧されている.その問題を少しでも解消するために,投与回数を減らすことを可能にする新たなる薬剤,併用剤の開発が待たれるところである.また,現在用いられている抗VEGF薬の効果が良好であることはよく知られており,治療のスタンダードとなっているが今後これらの効果を超えるためには,さらに効果が強いもの,ターゲットとする標的分子が異なるものなどを目標として開発が進むことが予想される.さらに,現在は硝子体注射が主流であるが,そのほかの投与方法も考慮した薬剤の開発も進んでいる.本稿では,今後の抗VEGF治療にかかわる薬剤として注目されるものについて紹介するが,現在開発中の薬剤(表1)も多いため,データに関しては許容範囲内での紹介となることをお許しいただきたい.IVEGFをターゲットとした新しい抗VEGF薬1.AbiciparPegol(MP0112)AbiciparPegolは,VEGF-Aを標的とするPEG化合成蛋白製剤(34kDa)であり,基本構造は既存の蛋白製剤とは異なるアンキリン反復蛋白質(designedankyrinrepeatproteins:DARPin)である1).アンキリン反復(ankyrinrepeat:AR)は細胞核よび細胞内外で働く多くの蛋白質に保存され,さまざまな環境において蛋白質間相互作用を媒介することが知られている.DARPinはこのARにおいて分子表面に露出する領域にランダム配列を挿入することで,種々の蛋白質と高い親和性を獲得した新規蛋白質である.DARPinは抗体と比べて分子量が小さく,より高率に標的分子に結合することが期待されている.AbiciparPegolは,VEGF-Aのさまざまなアイソフォームに対して高い親和性を有し,硝子体投与にて臨床試験が行われている.海外ではAMDに対する第II相臨床試験が終了しているが,試験の結果は現時点では公式に*YujiOshima:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕大島裕司:〒812-8582福岡県福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(67)1133 表1開発中薬剤の一覧名称ターゲット特徴AbiciparPegol(MP0112)VEGFDesignedankyrinrepeatproteins(DARPins)RTH258(ESBA1008)VEGFヒト化1本鎖抗体(scFV)断片Conbercept(KH902)VEGF-A,B,PlGFVEGFR-1,VEGFR-2融合蛋白PazopanibVEGF,PDGFRs,c-Kitチロシンキナーゼ阻害薬RegorafenibVEGF,PDGF,FGFチロシンキナーゼ阻害薬PAN-90806VEGFR-2,FGF,TIE-2チロシンキナーゼ阻害薬rAAV.sFLT-1VEGFsFLT発現アデノ随伴ウイルスベクターAAV2.sFLT01VEGFsFLT発現アデノ随伴ウイルスベクターFovista(E10030)PDGFアプタマー製剤PF-04523655RTP801/REDD1siRNASqualamineAnti-angiogenicアミノステロールVEGF:vascularendothelialgrowthfactor,血管内皮増殖因子PlGF:placentalgrowthfactor,胎盤成長因子PDGFR:platelet-derivedgrowthfactorreceptor,血小板由来成長因子受容体FGF:fibroblastgrowthfactor,線維芽細胞増殖因子は発表されていない.以前に欧州で行われた第I/II相臨床試験は,無治療のAMD患者を対象に安全性と効果が検討した.32名の対象患者は,AbiciparPegol0.04mg.3.6mgを1回硝子体投与され,その後16週まで経過観察された.その結果によると1.0mgおよび2mg投与では有意に中心窩網膜厚の改善と蛍光眼底造影による蛍光漏出の減少が認められた.しかし,高濃度になると有害事象として眼内炎が認められた(32人中11人)ため,さらなる検討が必要であると結論づけている2).前述の海外での第II相試験は今後結果が発表される予定である(ClinicalTrialsgovnumber,NCT02181517).現在,わが国でも第II相臨床試験が行われている(ClinicalTrialsgovnumber,NCT02181504).2.RTH258(ESBA1008)RTH258(ESBA1008)はVEGF-Aを阻害する分子量約26kDaのヒト化1本鎖抗体(scFV)断片である.RTH258はアフリベルセプトと同程度のVEGF親和性およびレセプター結合阻害作用を有する.RTH258はFC領域をもたず,分子量が小さい.そのため臨床用量でアフリベルセプトの11.13倍,ラニビズマブの22倍高いモル濃度で使用することが可能であり,その効果が期待されている.海外においてAMDに対する第II相臨床試験が終了し1134あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015ている(OSPREYtrial).この試験はRTH258,6mgの効果を検討する目的で対照薬としてアフリベルセプト2mgを用い,89症例を対象として行われた.主要評価項目は12週での効果比較である.両群とも0,4,8,16,24,32週に薬剤を硝子体内投与し,32週以降,RTH258群は44週目,アフリベルセプト群は40,48週目に追加投与が行われ,56週まで経過観察されている.主要評価項目の12週ではアフリベルセプトに対するRTH258の非劣性が示され,8週間隔治療期間でのレスキュー治療の頻度はRTH258群のほうが少なかったと報告している3).詳細な公式データは今後明らかになると思われる.この結果を踏まえ,今後わが国も参加する国際共同の第III相臨床試験が予定されている.3.Conbercept(KH902)Conberceptは,VEGFR-1とVEGFR-2の細胞外ドメインとIgGのFcを融合させた融合蛋白で,VEGF-Aのみならず,VEGF-B,胎盤成長因子(placentalgrowthfactor:PlGF)を阻害する.アフリベルセプトと似ているが,その構造はVEGFR-2の別の細胞外ドメインをももちあわせていることが異なる.アフリベルセプトに比べて分子量がやや大きく,半減期がやや長いといわれている4).中国において第II/III相試験が行われ終了している.(68) あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151135(69)3.PAN.90806PAN-90806は,VEGFR2,線維芽細胞増殖因子(fibroblastgrowthfactor:FGF)-13,TIE-2や他のプロアンジオジェニックファクターを抑制する小分子である.この薬剤は点眼薬として開発され,現在米国でAMDに対して第I相臨床試験が行われている(ClinicalTrialsgovnumber,NCT02022540)7).III遺伝子治療1.rAAV.sFLT.1rAAV.sFLT-1はアデノ随伴ウイルス(adeno-associatedvirus:AAV)ベクターで,sFLT-1を導入細胞から発現させる.sFLT-1はVEGFに結合し,その作用を阻害する可溶性受容体である.この治療は,sFLT-1を発現する遺伝子を眼内に導入し,VEGFを阻害する遺伝子治療である.rAAVは今までにも眼内への遺伝子治療に用いられた経緯があり,免疫原性およびウイルスの病原性が低く,比較的長期に遺伝子発現を可能とする利点が知られている.AMDに対する第I相臨床試験の1年経過が報告されている8).対象症例には導入期としてラニビズマブを2回硝子体投与後にrAAV.sFLT-1を網膜下に投与した(既治療症例を含む).治療開始後1年で全身的,局所的安全性が確認され,視力低下,眼圧上昇,網膜.離などの有害事象は認められなかった.全例で滲出性変化は消失し,ETDRS視力はベースライン41.8文字から49.3文字に改善した.また,ウイルスベクター導入後,6症例のうち追加ラニビズマブ治療が必要だったのはわずかに2回であった.このことより,rAAV.sFLT-1は滲出型AMDに対する安全性と有効性が認められた.とくに抗VEGF薬の追加投与回数を減らすことを可能とすることが示された8).2.AAV2.sFLT01AAV2.sFLT01は上述のrAAV.sFLT-1と構造が似たAAVベクターを用いた遺伝子治療である.導入された細胞から可溶性VEGF受容体,sFLT01を発現させ,VEGFを抑制する.現在,米国でAMDを対象に第I相臨床試験が行われており,安全性と有効性を検討中であそのうち,AMDを対象とした第II相臨床試験(AURORAstudy)では,122症例を対象に,conbercept0.5mgと2mg群で連続3回の硝子体内投与による導入期後,monthly固定投与もしくはPRN投与群で比較検討された.主要評価項目である連続3回投与後の視力変化量は0.5mg群,2.0mg群それぞれ8.97文字,10.43文字であり,両群間に差は認められなかった.副次的評価項目である1年後の視力変化にも固定投与群とPRN群間に差は認められなかった5).現時点では中国でのみ臨床試験が行われている.II点眼剤の開発1.PazopanibPazopanibはチロシンキナーゼ阻害薬で,血管新生を抑制する.わが国では,経口剤が腎細胞癌および悪性軟部腫瘍の治療に認可されている.チロシンキナーゼを阻害するため,VEGF受容体のシグナル伝達を抑制するのみならず,血小板由来成長因子(platelet-derivedgrowthfactor:PDGF)受容体(PDGFR)を阻害する.PazopanibはVEGFR-2やPDGFRを抑制するため,現存の抗VEGF薬に付加的に使用することで,抗VEGF作用をさらに強力にすることを期待され,点眼薬が開発された.その臨床第I相試験として用量漸増試験が行われ,IIb相としてAMD患者を対象にラニビズマブ治療との相乗試験が試みられた.しかし,Pazopanib点眼を併用してもラニブズマブ治療の頻度を減少させることはできなかった6).その後引き続いての第II相や第III相臨床試験は施行されていないようである.2.RegorafenibRegorafenibは,血管新生にかかわる受容体型チロシンキナーゼ(VEGFR-13,TIE-2)や腫瘍の増殖に関与する受容体型チロシンキナーゼに対する阻害作用をもつマルチキナーゼ阻害薬である.わが国では経口剤が結腸・直腸癌の治療に認可されている.Regorafenibの抗血管新生作用を期待して,点眼薬が開発されている.現在海外にて,AMD患者を対象に第II相臨床試験が行われている(ClinicalTrialsgovnumber,NCT02222207)7). 1136あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(70)ている.海外においてPFを用いた第I相および第II相臨床試験がAMDおよびDMEに対して行われている11.13).AMDを対象とした第II相臨床試験(MONETstudy)では,151例の症例を5群に分けて検討している.ベースラインですべての症例はラニビズマブ硝子体注射が行われ,その後PF1mgもしくは3mgを4週ごとに12週まで投与した2群とPF3mgを2週間ごとに投与した群,PF1mgとラニビズマブを4週ごとに投与した群,ラニビズマブを4週ごとに投与した群で16週での視力改善を主要評価項目として検討した.PF1mgとラニビズマブを同時に投与した群はラニビズマブ単独群よりより良好な視力改善が得られたが,統計学的には有意ではなく,PF単独群はラニビズマブ単独よりも視力改善は劣る結果であった13).DMEを対象とした試験(DEGASstudy)では,光凝固治療を受けた群(レーザー群)と,0.4mg,1mg,3mgのPF硝子体投与群とで,12カ月後の視力改善を主要評価項目に検討された.薬剤投与は6カ月間毎月固定投与され,その後はPRN投与された.PF3mg群はベースラインに比して12カ月後の視力が良好であり,またレーザー群より良好な視力改善が得られた.このことよりDMEに対する新しい治療法の一つになるのではないかと期待されている12).3.SqualamineSqualamineはアブラツノザメの肝から抽出されたアミノステロールで,強力な抗菌作用と抗血管新生作用を有する.その抗血管新生作用はVEGFとインテグリンの作用を細胞内カルモジュリンに結合することで阻害する.動物を用いた酸素負荷網膜症や脈絡膜新生血管モデルにおいて,squalamineは血管新生を抑制することが報告されている14).海外にてAMDに対し第I/II相臨床試験が行われ,その安全性と効果が検討された.Squalamineの静脈内投与を週1回,4週間行い,投与開始後16週での視力を検討した.この試験では26%の症例で3段階以上の視力改善が得られたと報告されている15).Squalamineは点眼薬が開発され,現在は0.2%squalamine点眼液を用いた第II相臨床試験が,海外にて無治療のAMD患者る.投与方法は硝子体内投与で行われている7).現在,試験進行中のため,結果はまだ明らかになっていない(ClinicalTrialsgovnumber,NCT01024998).IVVEGF以外をターゲットとした治療戦略1.Fovista(E10030)Fovistaは血小板由来成長因子(platelet-derivedgrowthfactor:PDGF)を阻害するアプタマー製剤である.PDGFはおもに間葉系細胞の遊走や増殖に関与する増殖因子である.PDGFにはPDGF-A.Dまでの4種類が存在するが,ホモあるいはヘテロ2量体構造をとり,3種類のアイソフォーム(PDGF-AA,AB,BB)を有している.なかでもPDGF-BBの受容体であるPDGFRは血管周皮細胞に発現しており,血管の安定化,成熟化に大きく関与している.VEGFは血管内皮細胞に作用して新生血管,血管透過性亢進に大きく関与し,おもに未熟血管に作用する.そこで,VEGFと同時にPDGFを阻害すれば,未熟新生血管のみならず,成熟した新生血管をも退縮させる可能性が期待され,動物モデルにおいてはその効果が報告されている9).Fovistaをラニビズマブと併用した第I相.II相の臨床試験が海外にて行われている.第II相試験では,Fovista0.3mgもしくは1.5mgとラニビズマブ0.5mgの併用群,もしくはラニビズマブ単独硝子体注射が行われた.その結果,Fovista1.5mg併用群では,ラニビズマブ単独群に比して62%良好な視力が得られた10).このことより既存の抗VEGF治療にFovistaを組み合わせることで,さらなる治療効果が期待されている.現在,海外にて第III相臨床試験が行われている.2.PF.04523655PF-04523655(PF)は,siRNAと呼ばれる小塩基対(19塩基対)からなる低分子2本鎖RNAである.siRNAはRNA干渉に関与し,mRNAの特異的配列を阻害する.これにより遺伝子をノックダウンできるため臨床応用が試みられている.PFは,低酸素によって発現する遺伝子(低酸素誘導遺伝子)RTP801の発現を抑制する.これによりVEGFの発現を抑制し,また血管内皮細胞のVEGFに対する反応を抑制すると考えられ

糖尿病黄斑浮腫

2015年8月31日 月曜日

特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1127.1132,2015特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1127.1132,2015糖尿病黄斑浮腫AntiVEGFTherapyforDiabeticMacularEdema野々部典枝*寺崎浩子*はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は,糖尿病網膜症のすべての病期に生じる可能性があり,比較的若い労働世代の視力低下の要因として増加している.血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)は血管新生と血管透過性亢進作用を有し,他の炎症性サイトカインとともにDMEの病態に深く関与している.これまで,DMEに対しては格子状光凝固,ステロイド薬による治療,硝子体手術などが行われてきたが,抗VEGF薬がDMEに適用となり治療の主流となりつつある.日本では2014年にまずラニビズマブ(ルセンティスR)が,ついでアフリベルセプト(アイリーアR)が適用を獲得し,現在臨床ではこの2種類が使用されている.多数の大規模臨床試験が行われており,比較的長期の経過も報告され,DMEに対する治療効果が証明されている.しかし,実際の臨床現場では抗VEGF薬に抵抗性を示す例もあり,またたとえ視力改善につながることが証明されても大規模試験で行われているような頻回の再投与は患者負担(通院回数,経済的問題,合併症増加のリスクなど)も大きい.今後は抗VEGF薬に抵抗性を示す例への治療方法や,投与回数を減らすための効率的な併用療法などの確立が課題である.I糖尿病黄斑浮腫の診断と治療糖尿病黄斑浮腫にはさまざまな形態1)がみられる(図1).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は黄斑浮腫の診断と治療経過の観察のために不可欠の診断機器である.網膜中層の浮腫や漿液性網膜.離の有無,硬性白斑の位置,毛細血管瘤の位置,視細胞内節・外節などが確認でき,マップ画像(図2)では浮腫の位置や範囲が明瞭にわかる.最近ではOCTangiography(図3)によって造影剤なしに網膜の血管を層別に評価することができるようになってきた.蛍光眼底造影でははっきりしない微小な無灌流域なども描出でき,黄斑部の虚血の状態がわかりやすい.しかし網膜全体の血管病変の描出,灌流状態の評価には,まだ蛍光眼底造影が必要である.DMEの治療戦略を考えるには,蛍光眼底造影とOCTを組み合わせて検討する.周辺部の無灌流域の範囲や新生血管の有無を評価し,汎網膜光凝固が必要か否か判断する.毛細血管瘤からの漏出が明確な局所性の浮腫の場合には,毛細血管瘤の直接凝固が第一選択となる.汎網膜光凝固が必要な場合には,局所浮腫に対処してから全体に光凝固を行う.周辺部に虚血網膜を残しておいては長期的な黄斑浮腫の改善にはならないため,炎症を最小限にとどめるよう慎重に施行する.また,黄斑上膜による牽引が明らかな場合には硝子体手術を検討する.これら以外のびまん性浮腫の場合に抗VEGF薬を選択することが多い.Shimuraら2)はびまん性浮腫のOCT所見に基づいてベバシズマブの効果を検討しており,スポンジ状網膜膨化タイプや.胞様黄斑浮腫タイプに比べて,漿液性.離タイプには抗VEGF薬*NorieNonobe&HirokoTerasaki:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室〔別刷請求先〕野々部典枝:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞65名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(61)1127 1128あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(62)っていない.筆者らの施設では,OCTによる浮腫の形態とともに水晶体,視神経の状態も合わせて,ステロイド投与にするか抗VEGFにするかを選択している.ステロイドを反復投与すると白内障の進行や眼圧上昇が危惧されるからである.また,蛍光眼底造影で汎網膜光凝固が必要であれば,初回の抗VEGF薬投与後に行うよが効きにくいと報告している.ステロイドでも同様の検討がなされており,.胞様黄斑浮腫に有効なことが多いが,漿液性.離には効きにくいという報告もある3).一方で漿液性.離タイプの硝子体液中には炎症性サイトカインのひとつであるIL-6が有意に多く存在しているという報告4)もあり,まだ明確な治療プロトコールにはなabcd図1びまん性浮腫の形態a:スポンジ状膨化,b:.胞用黄斑浮腫,c:漿液性.離,d:上記すべてが混在.ab図2局所性浮腫光凝固治療前後のOCTマップ画像(左)では浮腫の局在や範囲が明瞭にわかる.a:治療前,b:治療後.abcd図1びまん性浮腫の形態a:スポンジ状膨化,b:.胞用黄斑浮腫,c:漿液性.離,d:上記すべてが混在.ab図2局所性浮腫光凝固治療前後のOCTマップ画像(左)では浮腫の局在や範囲が明瞭にわかる.a:治療前,b:治療後. 図3図2の患者のOCTangiography(黄斑部3mm×3mm)左:網膜浅層.右:網膜深層.上:微細な血管構造がよく描出されている.下:enface画像. 1130あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(64)この試験でも光凝固群に対してアフリベルセプト投与群で有意に視力改善がみられた.III抗VEGF薬使用の実際DRCR.netがDMEに対するアフリベルセプト,ベバシズマブ,ラニビズマブの効果を比較検討した研究結果が報告10)されている.3群ともに1年後は視力改善しているが,とくにベースラインの視力が20/50以下では,1年後の視力改善はアフリベルセプトがもっとも良いという結果であった.しかし,20/32.20/40の場合には差がみられなかった.一方,全身の副作用に関しては3群で差はなかった.ただし,臨床試験では全身合併症のリスクが高い症例は除外されており,結果の解釈に注意が必要である.そもそも糖尿病患者は心血管系合併症のリスクを有していることが多く,抗VEGF薬の使用そのものにも慎重となる必要がある.薬剤の特性としてラニビズマブは半減期が短く血中のVEGF濃度の変化が少ない11).アフリベルセプトはVEGFのほかPlGFとも結合する.この特性を踏まえて個々のDME患者の水晶体の状態,黄斑上膜の牽引の有無,両眼か片眼か,心血管系の重篤な既往歴がないかなどを考慮して選択する.ラニビズマブもアフリベルセプトも初回投与で浮腫が消失しない場合があるが,連続投与により改善していくことがあるので,少なくとも3回連続投与を行うようにする.その後は両薬剤ともにOCTで浮腫の再発がない状態を保つように投与間隔を延ばしていく.3回連続投与でもほとんど効果がないと思われるような場合には治療方針を変更し,ステロイド投与や手術も検討する.1.症例1(図4)70歳の男性.数年間内科治療を中断し,HbA1c11%台で右眼の視力低下(硝子体出血)で受診.この時左眼の黄斑浮腫も診断された.初回のラニビズマブ投与後はまだ漿液性.離が残存していたが,2回目の投与後には消失した.3回目の投与後にもまだわずかに浮腫が残存していたため4回目を投与し,その後は再発なく経過観察している.視力も改善がみられている.(prorenata:PRN)投与している.光凝固単独では視力改善が乏しく,またラニビズマブ+光凝固の併用効果はみられなかった.ラニビズマブ単独投与群での投与回数は,1年目が平均7.4回,2年目が平均3.9回,3年目が平均2.9回と徐々に投与回数が減っていた.3.DRCR.netプロトコールI7)米国で行われた第III相多施設無作為臨床試験で,①光凝固群,②ラニビズマブ0.5mg投与+即時光凝固群,③ラニビズマブ0.5mg+24週以上遅らせた光凝固群,④トリアムシノロン4mg投与+即時光凝固群で5年間の経過をみている.ラニビズマブは3回毎月連続投与後PRN投与している.光凝固併用の有無にかかわらずラニビズマブ投与群の視力改善がみられた.注射回数も徐々に減り,5年目には半数以上で投与なしという状況に持ち込めている.眼内レンズ眼に限っては,トリアムシノロン+光凝固群もラニビズマブと同様の視力の改善効果が得られていた.4.DAVINCI試験8)北米とオーストリアで行われた第II相二重盲検多施設無作為試験で,①アフリベルセプト0.5mg毎月投与,②アフリベルセプト2mg毎月投与,③アフリベルセプト2mg3回毎月投与後8週ごと投与,④アフリベルセプト2mg3回毎月投与後PRN,⑤光凝固の5群に分けている.アフリベルセプト投与群では52週の時点で9.7.12文字の有意な視力改善が得られたが,光凝固群では1.3文字の低下がみられた.③の群の解析において16週時点で視力と中心窩網膜厚の一時悪化がみられた.この結果を受けて,第III相試験では導入期に5回毎月投与のプロトコールとなった.5.VIVID.VISTA試験9)アフリベルセプトの第III相無作為大規模試験のうち,日本,ヨーロッパ,オーストラリアで行われたVIVID試験と米国で行われたVISTA試験の1年間の経過が報告されている.①光凝固単独群,②アフリベルセプト2mg毎月投与群,③アフリベルセプト2mg5回毎月投与後8週ごとの3群で比較している. あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151131(65)おわりに黄斑浮腫が遷延すると網膜外層に不可逆的な障害を与えてしまうため,良好な視機能を維持するためにはできるだけ早期の治療により,速やかに浮腫を軽減させる必要がある.すでに網膜外層に障害があり,硬性白斑が沈着している場合(図6)には視力の回復はむずかしい.このような状態になる前に眼科介入できるよう,広く啓2.症例2(図5)76歳の男性.3年ぶりの眼科受診にて右眼の黄斑浮腫を指摘された.網膜厚は非常に厚く,視力も不良であったが,アフリベルセプトの3回連続投与により網膜厚の改善と視力の改善がみられている.現在はtreatandextend方式で投与中で,徐々に投与間隔を延長している.abcdef図4ラニビズマブ投与の例(3カ月連続投与後PRN)a:治療前.(0.4)395μm.b:初回注射1カ月後.(0.4)342μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.4)294μm.d:3回目の注射1カ月後(0.5)292μm.4回目を投与した.e:4回目の注射1カ月後.(0.6)247μm.f:4回目の注射後3カ月経過したが浮腫再発なし.(0.8)265μm.abcd図5アフリベルセプト投与の例(3カ月連続投与後treatandextend)a:治療前.(0.25)541μm.b:初回注射1カ月後.(0.5)362μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.8)339μm.d:3回目の注射6週間後.(1.0)323μm.abcdef図4ラニビズマブ投与の例(3カ月連続投与後PRN)a:治療前.(0.4)395μm.b:初回注射1カ月後.(0.4)342μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.4)294μm.d:3回目の注射1カ月後(0.5)292μm.4回目を投与した.e:4回目の注射1カ月後.(0.6)247μm.f:4回目の注射後3カ月経過したが浮腫再発なし.(0.8)265μm.abcd図5アフリベルセプト投与の例(3カ月連続投与後treatandextend)a:治療前.(0.25)541μm.b:初回注射1カ月後.(0.5)362μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.8)339μm.d:3回目の注射6週間後.(1.0)323μm. 図6中心窩への硬性白斑沈着浮腫の治療はこのようになる前に行わなければならない.-

網膜静脈閉塞症

2015年8月31日 月曜日

特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1117.1125,2015特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1117.1125,2015網膜静脈閉塞症Anti-VEGFTherapyforMacularEdemaFollowingRetinalVeinOcclusion西信良嗣*はじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)患者は世界中で1,640万人と推定されている1).Hisayamastudyでは,日本人におけるRVO有病率は2.1%であり,網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)2.0%,網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)0.2%となっている2).オーストラリアの報告では,RVOの69.5%がBRVO,25%がCRVO,5.1%が半側網膜静脈閉塞症である3).ここではBRVO,CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗VEGF治療に関する多施設研究を中心として述べる.I抗VEGF薬が登場するまでの黄斑浮腫に対する治療(網膜光凝固,ステロイド薬)1984年に報告されたBranchVeinOcclusionStudyにおいて,BRVOに伴う黄斑浮腫に対する格子状光凝固の有効性が報告されている4).BRVOに伴う黄斑浮腫が3カ月以上持続し,視力が0.5以下の症例に対して格子状光凝固を行い,3年間経過観察を行った.格子状光凝固を施行した群で2段階以上の視力改善が得られたのは,対象群の約2倍であった.しかし,約40%の症例で視力が改善せず,12%は0.1以下であった.一方,1995年に報告されたCentralVeinOcclusionStudyでは,CRVOに伴う黄斑浮腫に対する格子状光凝固によって,蛍光眼底造影検査における蛍光漏出は有意に改善するが,視力改善は得られないことが証明された5).2009年に報告されたSCOREstudy6)では,非虚血型CRVOに伴う黄斑浮腫271例に対してトリアムシノロン硝子体内注射を行い,12カ月後に15文字以上の視力改善を得た割合が検討された.その結果,無治療,1mg,4mg注射の各群において,それぞれ7,27,26%であった.治療群は無治療群に比べて有意に高く,トリアムシノロン硝子体内注射の有効性が証明された.2010年,2011年に報告されたGENEVAStudy7,8)では,BRVOおよびCRVOによる黄斑浮腫に対するデキサメサゾンインプラント(OZURDEXR,0.35mg群,0.7mg群)の12カ月間の効果検討を行っている.BRVO,CRVOとも平均最高矯正視力は注射後60日でピークを示した.15文字以上の視力改善を示した割合は,注射後60日において,BRVOでは,インプラント群では30%(0.7mg群),26%(0.35mg群)に対してシャム群では13%となっている.CRVOでは,インプラント群では29%(0.7mg群),33%(0.35mg群)に対してシャム群では9%となっている.BRVO,CRVOとも有意に視力改善を認めているが,その効果は6カ月では維持できなかった.平均眼圧上昇は注射後60日でピークを示し,0.7mg群注射群では,初回注射60日後に10mg以上の眼圧上昇を認めたのは12.6%,2回目注射60日後に10mg以上の眼圧上昇を認めたのは15.4%であった.しかし,ほとんどの症例において,180日後までに経過観察または眼圧降下剤の投与で軽快している.*YoshitsuguSaishin:滋賀医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕西信良嗣:〒520-2192滋賀県大津市瀬田月輪町滋賀医科大学眼科学講座0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(51)1117 II黄斑浮腫に対する抗VEGF薬治療わが国では適応外治療としてベバシズマブ硝子体内注射が行われてきたが,ラニビズマブ(ルセンティスR)が2013年8月に「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」の適応承認を取得した.2013年11月には,アフリベルセプト(アイリーアR)が「網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」の適応承認を取得した.ここでは,ラニビズマブ,アフリベルセプトを用いた抗VEGF治療に関する研究を中心として紹介する.1.BRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗VEGF薬治療BRAVOstudy9,10)a.BRVOに伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体内注射の効果を検証した第III相試験であるBRAVOstudyの結果が2010年,2011年に報告された.BRVO397例を3群に分け,ラニビズマブ0.5mg(または0.3mg)硝子体内注射または偽注射を月1回合計6回行い,その後はラニビズマブ0.5mg(または0.3mg)硝子体内注射をPRN(prorenata必要時)投与した.6カ月後には,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ,+16.6文字,+18.3文字,+7.3文字の視力改善が得られ,ラニビズマブ群は偽注射群に比べて有意に高い視力改善を示した.脱落例(21例)を除外した6カ月以降の注射回数は,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ2.9回,2.8回,3.8回であった.12カ月後では,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ+16.4文字,+18.3文字,+12.1文字の視力改善が得られ,12カ月後においてもラニビズマブ群は有意に高い視力改善を示した(図1).6カ月以降のPRN投与期間中に追加注射を行わなかった症例は,脱落例(21例)を除外した場合,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ17.2%,20.0%,6.5%であった.b.HORIZONtrial11)BRAVOstudyの完了例を対象にした,ラニビズマブ硝子体内注射の長期にわたる安全性と有効性を評価するHORIZONtrialの結果が2012年に報告された.BRAVOから304例を対象とし,3カ月ごとに一度以上の頻度で診察を受け,基準に従ってラニビズマブ0.5mgの硝子体内注射を行った.12カ月間のデータを得られたのは205例であった.試験期間12カ月間を完了したBRVO症例のラニビズマブ注射回数は,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ2.4回,2.1回,2.0回であった.HORIZON開始時には,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ+16.8文字,Sham/0.5mg(n=132)0.3mgRanibizumab(n=134)0.5mgRanibizumab(n=131)MeanChangefromBaselineBCVALetterScore(ETDRSLetters)20+18.3**+16.4**16+12.1840120724681012+18.3*+16.6*+7.3Day0-Month5Month6-11MonthlyTreatmentMonthAs-NeededTreatment図1BRAVOstudyにおける12カ月間の視力変化(文献10のFig1から引用)1118あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(52) Ranibizumab0.5mgRanibizumab0.3/0.5mgSham/0.5mgMeanChangefromBaseline(Letters)2520151050BRAVOHORIZONRVO+19.2*+16.8*+13.2*+17.5*+14.9*+15.6*BaselineM1236912Month図2HORIZONtrialにおける視力変化(文献11のFig3Aから引用)20LaserIAI17.0b6.9MeanChangefromBaselineBCVA(ETDRSletters)18161412108642+19.2文字,+13.2文字の視力改善が得られていたが,12カ月後でも,それぞれ+14.9文字,+17.5文字,+15.6文字となり,視力改善効果が維持された(図2).c.VIBRANTstudy12)BRVOに伴う黄斑浮腫に対してアフリベルセプト硝子体内注射の効果を検証した国際共同第III相試験であり,日本人21例が含まれている.アフリベルセプト0048121620242mg注射群およびレーザー治療群の2群に分け,アフTime(weeks)リベルセプト投与群は,アフリベルセプト2mg硝子体内注射を24週目まで4週ごとに行い,その後は8週ごとのアフリベルセプト投与を行い52週目で試験終了となっている.レーザー治療群は,ベースラインでレーザー治療を行い,24週以降に基準に合致した場合にアフリベルセプト2mg硝子体内注射が行われた.この試験では網膜灌流状態について,10乳頭面積以上の毛細血管閉塞を虚血型と定義し,約20%が虚血型であった.6カ月後の平均視力変化は,アフリベルセプト群+17.0文字,レーザー群+6.9文字,15文字以上の視力改善が得られた割合は,アフリベルセプト群52.7%,レーザー群26.7%であった.アフリベルセプト群の有効性が検証された(図3).図3VIBRANTstudyにおける視力変化(文献12のFig2Bから引用)2.CRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗VEGF薬治療CRUISEstudy13,14)a.CRVOに伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体内注射の効果を検証した第III相試験CRUISEstudyの結果が2010年,2011年に報告された.CRVO392例を3群に分け,ラニビズマブ0.5mg(または0.3mg)硝子体内注射または偽注射を月1回合計6回行い,その後はラニビズマブ0.5mg(または0.3mg)硝子体内注射をPRN投与した.6カ月後には,ラニビズマブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ+12.7文字,+14.9文字,+0.8文字の視力改善が得られ,ラニビズマブ群は偽注射群に比べて有意に高い視力改善を示した.脱落例(29例)を除外した6カ月以降の注射回数は,ラニビズ(53)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151119 Sham/0.5mg(n=130)0.3mgRanibizumab(n=132)0.5mgRanibizumab(n=130)18+14.9*+12.7*+7.3+0.816+13.9**14+13.9**MeanChangefromBaselineBCVALetterScore(ETDRSLetters)121086420-20724681012Day0-Month5Months6-11MonthlyTreatmentMonthAs-NeededTreatment図4CRUISEstudyにおける視力変化(文献14のFig1から引用)Ranibizumab0.5mgRanibizumab0.3/0.5mgSham/0.5mg2520151050-5CRUISEHORIZONRVO+16.2*+14.9*+9.4*+12.0*+8.2*+7.6*MeanChangefromBaseline(Letters)BaselineM1236912Month図5HORIZONtrialにおける視力変化(文献11のFig4Aから引用)マブ0.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ3.9回,脱落例(29例)を除外した場合,ラニビズマブ0.3mg3.6回,4.2回であった.12カ月後では,ラニビズマブ群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ7.0%,6.7%,4.30.3mg群,0.5mg群,偽注射群でそれぞれ+13.9文字,%であった.+13.9文字,+7.3文字の視力改善が得られ,12カ月後b.HORIZONtrial11)においてもラニビズマブ群は偽注射群に比べて有意に高CRUISEstudyの完了例を対象にしたラニビズマブ硝い視力改善を示した(図4).6カ月以降のPRN投与期子体内注射の長期にわたる安全性と有効性を評価する間中にラニビズマブの追加注射を行わなかった症例は,HORIZONtrialの結果が2012年に報告された.CRUISE1120あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(54) MeanChangefromBaselineBCVA(letters)BCVA(letters)20151050-5-4.0Time(weeks)05224100+17.3a+3.8+1.5+16.2a+13.0bSham+IAIPRN●IAI2Q4+PRN図6COPERNICUSstudyにおける100週間の視力変化(文献17のFig1Bから引用) Sham→IntravitrealafliberceptPRN●Intravitrealaflibercept2Q4→PRNMeanChangefromBaselineBCVA(letters)201816141210864200Time(weeks)24527618.0a16.9a13.7b3.33.86.2図7GALILEOstudyにおける76週間の視力変化(文献20のFig1から引用) aBestCorrectedVisualAcuitybBestCorrectedVisualAcuityBestCorrectedVisualAcuitybBestCorrectedVisualAcuity79746964595449ETDRSlettersScore+18.6+20.1Day054.034M672.634BCVAn=M1273.634M1873.434M2473.234M3073.934M3676.233M4274.329M4874.12878736863585348ETDRSlettersScore+13.1+14.0Day050.032M663.132BCVAn=M1264.432M1862.832M2462.732M3062.931M3664.229M4260.829M4864.028図8RETAINstudyにおける視力変化(文献21のFig1A4Aから引用)baShamRBZ0.3mgRBZ0.5mgPatientswithRNPAbsent(%)*†*†8070605040PatientswithRNPAbsent(%)ShamRBZ0.3mgRBZ0.5mg908070605040309030Baseline36912Baseline36912MonthofFollow-upMonthofFollow-up図9BRAVO,CRUISEstudyにおける網膜無灌流領域の経時的変化(文献22のFig1ABから引用)RAVEHayrehNaturalHistroryab969084787266605448423630241812601.00.90.80.70.60.50.40.30.2NVIrisNVAngleNVGlaucomaNVRetinalNVDisc1AnyNVCumulativeprobability0.10.10.000612182430364248MonthsMonthsfromonset図10新生血管合併症の累積発生率a:RAVEtrial.b:Hayrehの自然経過.(文献23のFig5から引用)0.9CumulativeDevelopment0.80.70.60.50.40.30.2(57)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151123 1124あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(58)虚血型CRVOにおいて新生血管合併症の発生を抑制できるかを検討したRubeosisAnti-VEgf(RAVE)trialが報告された.虚血型CRVO症例20例を対象として,ラニビズマブの9カ月間毎月注射を行い,その後は3カ月間の観察期間の後,24カ月間ラニビズマブのPRN投与を行った36カ月間の前向き研究である.眼の新生血管合併症は9例で発生し,脱落2例を除外すると,50%(9例/18例)に発生した.6例(33%)は後眼部新生血管,5例(28%)は前眼部新生血管であり,2例(11%)は後眼,前眼の新生血管であった.新生血管発生時期は平均24カ月(3.44カ月)であり,2例は42カ月,44カ月であった.新生血管合併症は50%で発症し,Hayrehの自然経過と比べてもラニビズマブの投与により,発症時期を遅らせるのみで抑制はされないことが示された(図10).虚血型CRVOにおいては,フルオレセイン蛍光眼底造影検査による虚血状態の把握,汎網膜光凝固の役割の重要性を再認識させられる.おわりに黄斑浮腫に関しては,抗VEGF薬が認可され第一選択となってきているが,初回投与基準,再投与基準,経過観察間隔などはまだ確立されていないのが現状である.今後の症例の蓄積により治療ガイドラインの確立が望まれる.文献1)RogersS,McIntoshRL,CheungNetal:Theprevalenceofretinalveinocclusion:pooleddatafrompopulationstudiesfromtheUnitedStates,Europe,Asia,andAustra-lia.Ophthalmology117:313-319,20102)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthal-molVisSci51:3205-3209,20103)MitchellP,SmithW,ChangA:Prevalenceandassocia-tionsofretinalveinocclusioninAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.ArchOphthalmol114:1243-1247,19964)TheBranchVeinOcclusionStudyGroup:Argonlaserphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclu-sion.AmJOphthalmol98:271-282,19845)TheCentralVeinOcclusionStudyGroupMreport:Eval-uationofgridpatternphotocoagulationformacularedemaincentralveinocclusion.Ophthalmology102:1425-1433,19956)IpMS,ScottIU,VanVeldhuisenPCetal:Arandomizedtrialcomparingtheefficacyandsafetyofintravitrealtri-amcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithmacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:theStandardCarevsCorticosteroidforRetinalVeinOcclusion(SCORE)studyreport5.ArchOphthalmol127:1101-1114,20097)HallerJA,BandelloF,BelfortR,Jretal:Randomized,sham-controlledtrialofdexamethasoneintravitrealimplantinpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.Ophthalmology117:1134-1146,20108)HallerJA,BandelloF,BelfortR,Jretal:Dexamethasoneintravitrealimplantinpatientswithmacularedemarelat-edtobranchorcentralretinalveinocclusiontwelve-monthstudyresults.Ophthalmology118:2453-2460,20119)CampochiaroPA,HeierJS,FeinerLetal:Ranibizumabformacularedemafollowingbranchretinalveinocclu-sion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIIIstudy.Ophthalmology117:1102-1112,201010)BrownDM,CampochiaroPA,BhisitkulRBetal:Sus-tainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafol-lowingbranchretinalveinocclusion:12-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:1594-1602,201111)HeierJS,CampochiaroPA,YauLetal:Ranibizumabformacularedemaduetoretinalveinocclusions:Long-termfollow-upintheHORIZONtrial.Ophthalmology119:802-809,201212)CampochiaroPA,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitrealafliberceptformacularedemafollowingbranchretinalveinocclusion:the24-weekresultsoftheVIBRANTstudy.Ophthalmology122:538-544,201513)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizum-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion:six-monthprimaryendpointresultsofaphaseIIIstudy.Ophthalmology117:1124-1133,201014)CampochiaroPA,BrownDM,AwhCCetal:Sustainedbenefitsfromranibizumabformacularedemafollowingcentralretinalveinocclusion:twelve-monthoutcomesofaphaseIIIstudy.Ophthalmology118:2041-2049,201115)BoyerD,HeierJ,BrownDMetal:VascularendothelialgrowthfactorTrap-Eyeformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:six-monthresultsofthephase3COPERNICUSstudy.Ophthalmology119:1024-1032,201216)BrownDM,HeierJS,ClarkWLetal:Intravitrealafliberceptinjectionformacularedemasecondarytocen-tralretinalveinocclusion:1-yearresultsfromthephase3COPERNICUSstudy.AmJOphthalmol155:429-437,201317)HeierJS,ClarkWL,BoyerDSetal:Intravitreal あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151125(59)afliberceptinjectionformacularedemaduetocentralreti-nalveinocclusion:two-yearresultsfromtheCOPERNI-CUSstudy.Ophthalmology121:1414-1420,201418)HolzFG,RoiderJ,OguraYetal:VEGFTrap-Eyeformacularoedemasecondarytocentralretinalveinocclu-sion:6-monthresultsofthephaseIIIGALILEOstudy.BrJOphthalmol97:278-284,201319)KorobelnikJF,HolzFG,RoiderJetal:Intravitrealafliberceptinjectionformacularedemaresultingfromcentralretinalveinocclusion:One-yearresultsofthephase3GALILEOstudy.Ophthalmology121:202-208,201420)OguraY,RoiderJ,KorobelnikJFetal:Intravitrealafliberceptformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:18-monthresultsofthephase3GALI-LEOstudy.AmJOphthalmol158:1032-1038,201421)CampochiaroPA,SophieR,PearlmanJetal:Long-termoutcomesinpatientswithretinalveinocclusiontreatedwithranibizumab:theRETAINstudy.Ophthalmology121:209-219,201422)CampochiaroPA,BhisitkulRB,ShapiroHetal:Vascularendothelialgrowthfactorpromotesprogressiveretinalnonperfusioninpatientswithretinalveinocclusion.Oph-thalmology120:795-802,201323)BrownDM,WykoffCC,WongTPetal:Ranibizumabinpreproliferative(ischemic)centralretinalveinocclusion:therubeosisanti-VEGF(RAVE)trial.Retina34:1728-1735,2014