特集●視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋あたらしい眼科33(5):633〜637,2016神経内科領域疾患における視神経炎─多発性硬化症と視神経脊髄炎を中心に─OpticNeuritisinNeurologicalDisorders:MultipleSclerosisandRelatedDisorders赤石哲也*中島一郎*はじめに神経内科領域疾患のうち,以下にあげる多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)およびその類縁疾患では,しばしば視神経炎(opticneuritis:ON)が認められる.①多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)②抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitisopticaspectrumdisorders:NMOSD)③抗myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)抗体が陽性の急性炎症性脱髄疾患これらの疾患では,病型ごとに最終的な視力予後が異なる.抗MOG抗体陽性の急性炎症性脱髄疾患では発症後,数日から数週以内に視力がほぼ完全に回復するが,NMOSDではステロイドパルス療法を行ったとしても視力が回復せず,失明に至る例が少なくない1).MSでは全患者に占めるONの頻度はやや少なく,急性期の視力低下も先の2病型ほど重度ではない傾向にあるが,急性期のステロイドパルス療法や再発予防療法を適切に行わないと,高度の視力障害にいたる例もある2).急性期にはいずれの疾患もステロイドパルス療法を行うが,慢性期の再発予防治療は疾患ごとに異なるため,病初期の適切な診断が必要である.そのため患者病歴,血清中の自己抗体,眼窩MRI(STIR法,造影T1強調画像),脳MRIおよび脊髄MRIの所見などから複合的に判断することが重要となる.本稿では,上記3疾患ごとに患者背景,臨床像,治療反応性,眼窩MRI所見など,診断の手がかりとして有用と思われる事項を概説する.I多発性硬化症における視神経炎(MSON)MSはおもに50歳以下に発症する炎症性脱髄疾患で,中枢神経系の髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトの障害が病態の中心であり,脳の白質,視神経,脊髄に多発性の炎症病巣を認める3).患者の7割前後を女性が占める4).典型的な病巣のひとつは脳室周囲に多発する卵円形の白質病変で“ovoidlesion”とよばれ,急性期にはリング状に造影されることが多い.側脳室に接する病変は,矢状断での指を伸ばしたような分布像から“Dawson’sfingers”などとよばれる.視神経病変は,眼窩内から視交叉,視索にいたる広い範囲で,さまざまな長さのものがみられるが,視神経の腫脹はあっても軽く,腫脹に伴う蛇行もほとんどない.また,視神経への造影剤の取り込みも軽度で,眼窩内脂肪織の炎症像もほとんどみられない.急性期のステロイドパルス療法や,その後の疾患修飾療法(diseasemodifyingtherapy:DMT)が適切に行われれば,後遺症なく経過する例も少なくない.しかし,それらの治療が適切に行われなかった症例を中心に,視力回復があまり得られず,月単位から年単位で視力が徐々に低下し,最終的に矯正視力0.1以下まで低下してしまう症例もみられ,長期的な視力予後は必ずしも良くはない2).また,初回のONではステロイドパルス療法が奏効しても,2回目以降のONが治療に抵抗性で重度の視力障害を残す場合もあるため,適切なDMTが必要である.II抗AQP4抗体(+)視神経脊髄炎における視神経炎(NMOSDON)NMOSDは血清中の抗AQP4抗体が陽性であることで特徴づけられる中枢神経の炎症性疾患であるが,血液脳関門を介した物質輸送に関与するアストロサイトの障害が主体であり,MSとは病態が異なる5).病巣分布は頻度順に,脊髄,視神経,延髄,大脳皮質下白質であり,MSとその特徴が異なる.脊髄炎はおもに頸髄から上位胸髄のレベルにみられ,3椎体以上にまたがる長大な病変(longitudinallyextensivespinalcordlesion:LESCL)が特徴的とされ,しばしば横断性である6).ただしONのみで発症したNMOSD症例の場合,発症当初は脳および脊髄MRIに異常がないことも多く,NMOSDを疑うのが遅れることも少なくない.ONの分布は眼窩内にやや多い傾向はあるが,2~4割の症例では視交叉の病変がみられ,NMOSDに特徴的とされる水平性半盲を呈することがある7).ONの急性期には視神経の腫脹がみられることが多いが,視神経の蛇行や眼窩脂肪織炎などはあまりみられない.急性期のステロイドパルス療法や,その後の長期にわたる少量経口ステロイド内服による再発予防は必須と考えられているが,それらの適切な治療にもかかわらず視力が回復せず,急速に失明に至る症例も少なくない.MSONでは再発エピソードと関係なく経時的に視力障害が進むことがあるが,NMOSDONではほとんどの場合において視力障害は再発エピソードのたびに進むため,長期の経口ステロイドあるいは免疫抑制薬内服による再発予防が重要である8).適切な急性期・慢性期治療が長期視力予後に大きく影響する.III抗MOG抗体(+)NMOSDにおける視神経炎(MOGON)抗MOG抗体はここ数年で注目を集めるようになってきた自己抗体であり,これまで「原因不明の特発性視神経炎」「抗AQP4抗体が陰性の非典型的MS」「急性散在性脳脊髄炎(acutedisseminatedencephalomyelitis:ADEM)」などと診断されていた症例の一部に関与している可能性が示唆されている.抗MOG抗体が病原性を有し発症原因そのものなのか,あるいは他の病態に付随して二次的に上昇しているものなのか,まだ結論は出ていない.しかし,近年になり複数の研究で,抗MOG抗体を有する中枢神経の炎症性疾患が特徴的な臨床像,病変分布,治療反応性が示され,MSおよびNMOSDとは区別すべき一群であることが徐々にわかってきた9).MSやNMOSDが圧倒的に女性に多いのに対し,MOGONはその半数以上を男性が占める.発症年齢は幅広いが,NMOSDに比べてやや若年に偏っている.MOGONの診断は,MSやNMOSDよりも困難な場合がありえる.MSやNMOSDではON以外の脳病変や脊髄病変に神経症状が伴いやすく,神経内科に紹介されるケースが多いと思われるが,MOGONはONが単独で出現する症例が大半を占めるため,原因不明の特発性視神経炎と診断され,眼科で診療されるケースが多い.MOGONは視力予後がMSやNMOSDよりも明らかに良く,従来の眼科的な対応で問題ないケースがほとんどだと思われるが,不十分な治療のために最終的に失明にいたるケースも存在する1).長期的な予後に影響する要因はまだ不明な点が多いが,抗MOG抗体に関連した炎症性脱髄疾患と病初期に診断することは,その後の治療選択を行ううえで重要である.特発性ONが疑われている患者において抗MOG抗体の関与を示唆する所見としては,しばしば両側性の発症がみられる点,眼窩MRIで視神経の腫脹・蛇行を伴った長大な視神経病変を認める点などがあげられる1).MOGONでは最終的な視力予後が良好であるのに,MS,NMOSD,特発性ONと比べて,急性期の眼窩MRIで高度の炎症を認めやすい.また,より長いONを反映してか,MSやNMOSDと比べて急性期に視野異常として中心暗点がよくみられる.診断は血清中の抗MOG抗体価の測定による.Cellbasedassay法による測定とELISA法による測定が可能であるが,現在入手可能なELISAキットは特異性が非常に低く,診断に用いることは不適当である.現在,cell-basedassay法による抗MOG抗体の測定は,東北大学などの研究機関でのみ行われている.IV疾患のまとめと比較ここまで述べた3つの疾患の臨床上および各種検査における特徴を表1にまとめた.性別・発症年齢などの患者背景はこのように疾患ごとに異なっている.図1に示した発症年齢の分布からわかかるとおり,MSONおよびMOGONは若年発症が多いのに比べ,NMOSDONの発症は中年期以降もまれではない.逆に,50歳以降の発症であればMSは考えにくい.図2には疾患ごとの,典型的な眼窩MRI(STIR法)の自検例と特徴を,また図3には眼窩MRI所見の典型像をシェーマ化した.すべての症例がこれらの特徴を満たすわけではないが,とくにMOGONの視神経腫脹と蛇行を伴う画像所見は特異性が高く,病初期に診断するうえで有用な所見である.図4では疾患ごとに,自験例における最終視力をlogMARに換算してプロットした.MOGONのみフォロー期間はやや短いものの,急性期および亜急性期にかぎってみてもMOGONの素早い良好な視力回復は明らかにMSやNMOとは異なっており,有意に良好な視力予後を示すといえる.NMOSDONとMSONでは,最終的な視力障害のレベルはさまざまであるが,NMOSDONのほうがやや悪い傾向にある.おわりに神経内科疾患でみられるONは,急性期のステロイドパルス療法および慢性期の適切な再発予防治療の選択が重要であり,病初期に脳・眼窩MRI,血清抗AQP4抗体,抗MOG抗体などから適確な診断を行うことが望まれる.とくに,特発性ONと診断される症例の多くで抗MOG抗体が陽性になることから,この抗体測定がより一般的になり,保険適用になることが望まれる.文献1)AkaishiT,SatoDK,NakashimaIetal:MRIandretinalabnormalitiesinisolatedopticneuritiswithmyelinoligodendrocyteglycoproteinandaquaporin-4antibodies:acomparativestudy.JNeurolNeurosurgPsychiatry87:446-448,20162)JasseL,VukusicS,Durand-DubiefFetal:Persistentvisualimpairmentinmultiplesclerosis:prevalence,mech-anismsandresultingdisability.MultScler19:1618-1626,20133)LucchinettiC,BrückW,ParisiJetal:Heterogeneityofmultiplesclerosislesions:implicationsforthepathogenesisofdemyelination.AnnNeurol47:707-717,20004)OrtonSM,HerreraBM,YeeIMetal:SexratioofmultiplesclerosisinCanada:alongitudinalstudy.LancetNeurol5:932-936,20065)TakanoR,MisuT,TakahashiTetal:AstrocyticdamageisfarmoreseverethandemyelinationinNMO:aclinicalCSFbiomarkerstudy.Neurology75:208-216,20106)WeinshenkerBG,WingerchukDM,VukusicSetal:NeuromyelitisopticaIgGpredictsrelapseafterlongitudinallyextensivetransversemyelitis.AnnNeurol59:566-569,20067)中尾雄三:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神眼25:327-342,20088)SatoD,CallegaroD,Lana-PeixotoMAetal:Treatmentofneuromyelitisoptica:anevidencebasedreview.ArgNeuropsiquiatr70:59-66,20129)ReindlM,DiPauliF,RostásyKetal:ThespectrumofMOGautoantibody-associateddemyelinatingdiseases.NatRevNeurol9:455-461,2013表1多発性硬化症および類縁疾患における視神経炎の特徴MSNMOSD抗MOG抗体陽性脱髄疾患特異的自己抗体なし抗AQP4抗体抗MOG抗体女性の比率約70%90〜100%50%以下発症年齢10〜30代10〜70代(やや高齢)10〜70代(やや若年)視神経炎出現率3〜4割6〜8割半数以上?脊髄炎出現率7〜8割8〜9割半数以下?特徴的MRI病巣側脳室周囲小脳脊髄(側索・後索)視交叉延髄背側頸胸髄(中心部)視神経頸髄,腰仙髄急性期治療ステロイドパルス療法など免疫調節療法再発予防治療インターフェロンbフィンゴリモドナタリズマブグラチラマー酢酸塩経口ステロイド免疫抑制薬経口ステロイド急性期の視神経炎の特徴急性期視力さまざま矯正0.1以下が多い矯正0.1以下が多い病変長やや短いさまざま長い特徴的な分布眼窩(5〜7割)視神経管(4〜6割)眼窩(6〜7割)視交叉(2〜4割)視神経管(9〜10割)頭蓋内(9〜10割)視神経腫大少ない多いとても多い眼窩脂肪織炎少ない少ない多い視野障害少ないしばしば(水平性半盲)しばしば(中心暗点)急性期以降の視神経炎の特徴パルスへの反応さまざましばしば無効良い(自然回復も多い)視力の回復さまざま悪いほぼ完全に回復回復までの期間やや遅いやや早い再発リスクやや高い高いやや低い視神経の萎縮やや少ない多い少ない図1病型ごとの発症年齢MSONNMOSDONMOGONやや片側性(再発するうちに両側性へ)やや片側性(再発するうちに両側性へ)やや両側性病変長はやや短い病変長はさまざま病変長は長い眼窩後部~視神経管に多い視神経のごく軽い腫脹眼窩内に多い視神経の腫脹視交叉にも2~4割視神経管,頭蓋内はほぼ必出視神経の強い腫脹と蛇行眼窩脂肪織炎急性期の典型的MRI(STIR)図2病型ごとの典型的な眼窩MRIMSONNMOSDONMOGONさまざま萎縮改善慢性期急性期図3シェーマ(2×3表形式)図4病型ごとの最終的なlogMAR視力の比較*TetsuyaAkaishi&*IchiroNakashima:東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座神経内科学分野〔別刷請求先〕赤石哲也:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座神経内科学分野0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(9)633634あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(10)(11)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016635636あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(12)(13)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016637