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多焦点眼内レンズの選択

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1257~1265,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1257~1265,2015多焦点眼内レンズの選択CurrentOptionsofMultifocalIOLs:ChangingfromBifocalIOLstoRefractiveVarifocalIOLsorDiffractiveTrifocalIOLs真野富也*はじめに多焦点眼内レンズは,わが国では2008年に回折型多焦点眼内レンズのReSTORR(Alcon社)とReZOOMR,TECNISRMulti(いずれもAMO社)が承認され,その後,乱視付きのReSTORRToric(Alcon社)と屈折型のiSiiR(HOYA社)も発売された.そして,先進医療にも認定され徐々に普及してきている.しかし,これらの承認された多焦点眼内レンズはあくまで遠近の2焦点レンズ(bifocallens)であり,中間距離(1mから50cmあたり)が見えにくいという欠点があり,同時に単焦点眼内レンズとは異なるハローやグレアといった異常光視症や回折型にみられる曇った感じ(waxyvision)などの合併症もあることから,まだ一般に普及するまでにはいたらず,限られた施設で行われているのが現状である.一方,おもにヨーロッパでは,2焦点レンズから中間距離も見やすくした回折型3焦点レンズ(diffractivetrifocalIOL)1~4)や遠方,近方のみならず中間視力も良い分節状屈折型多焦点レンズ(segmentedrefractivemultifocalIOLs)4~6)などが普及している.そして,これらのレンズには乱視付き多焦点眼内レンズも発売されており,適応症例もかなり拡大している.また,これまでの臨床経験から,ヒトの脳によるハローやグレアの抑制に対する認識も深まってきており,多焦点眼内レンズの適応症例と不適応症例の鑑別などが多焦点眼内レンズを扱う術者に理解されるようになってきた.その結果,患者の満足度が向上し,多焦点眼内レンズはさらに普及しつつある.本稿では,わが国では未承認であるが多根記念眼科病院(以下,当院)でおもに使用している分節状屈折型多焦点眼内レンズ(LENTISMplusR(Oculentis社)5)を中心に,その成績と多焦点眼内レンズの選択方法について解説する.I多焦点眼内レンズの適応多焦点眼内レンズは術後の眼鏡への依存度を減らすことが最大のメリットである.したがって,術後眼鏡をかけることをいとわない患者は現段階では適応外である.ただ特殊な例としては,40歳以下の調節力のある近視眼の片眼の白内障例に多焦点眼内レンズを入れることによって,同じ度数の近視の眼鏡をかけて遠方も近方も見られるようにするという用法がある.先進医療保険を利用する場合に選択できるレンズは,認可を受けている回折型多焦点レンズ(2焦点レンズ)のReSTORRかTECNISRMultiあるいは屈折型のiSiiRだけとなる.ただし,これらのレンズは+6D~+30Dが製造範囲(iSiiRは+14D~+25D)なので,この範囲を超える場合は他のレンズを使用することとなり,先進医療は受けられない(表1参照).また,2015年1月よりReSTORRは術後眼内炎が多発したために回収され,ReSTORRToricも含め現在使用できない.TECNISRMultiとiSiiRにはトーリックレンズがないため,.2D以上の直乱視や.1.25D以上の倒乱視および斜乱視症例*TomiyaMano:多根記念眼科病院〔別刷請求先〕真野富也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(29)1257 1258あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(30)表1多焦点眼内レンズの種類と特徴メーカーレンズ名モデル認可種類power加入度(眼鏡上)レンズ形状S面C面デザイン材質光学径全径前面後面着色AlconReSTORSA60D3○アポダイズ回折6.0~30.0D─4.0D(3.2D)1P疎水性アクリル6.013.0多焦点凸─ReSTOR(非)SN6AD310.0~30.0─4.0D(3.2D)多焦点(非)○ReSTOR(3.0D)SN6AD1中心3.6mm6.0~34.0D─3.0D(2.5D)ReSTORT(3.0D)SND1T3~66.0~30D1.5~6.0D※1多焦点(非)トーリックAMOReZOOMNXG1屈折6.0~30.0D─3.5D(2.0~2.5D)3P───TECNISMultifocalZM900回折5.0~30.0D─4.0D(3.2D)シリコーン非球面多焦点ZMA00疎水性アクリルZMB001PHOYAiSiiPY-60MV屈折14.0~25.0D─3.0D(2.5D)3P12.5──○ZeissATLISAAcri.LISA366D×回折0.0~32.0D─3.75D(3.0~3.25D)プレート親水性アクリル11.0非球面多焦点(非)─○※4─○※4Acri.LISAToric466TD.10.0~32.0D1.0~12.0Dトーリック(非)ATLISAtri839MP0~32.0D─1.66D(1.25D)非球面ATLISAtritoric939MP.10.0~28.0D1.0D~4.0D3.33D(2.5D)トーリック(非)OculentisLENTISMplusLS-313MF20セクター屈折.10.0~36.0D※2─2.0D(1.5D)両凸非球面LS-313MF303.0D(2.5D)LU-313MFT0.0~36.0D※30.25D~12.0D※3LENTISMplusX※5LS-313MF30.10.0~36.0D※2─3.0D(2.5D)LU-313MFT0.0~36.0D※30.25D~12.0D※3PhysIOLFINEVISIONMICROFアポダイズ回折10.0~35.0D─1.75D(1.25D)3.5D(3.0D)1P6.1510.8両凸・非球面○PODF6.0~35D─6.011.4FINEVISIONTORICPODFT1.0~6.0D※6※7種類(0.75Dstep)1.10.0~.1.0Dは1.0Dstep※2※30.01Dstep※着色ありなし選択可4※近軸非球面性を付加5※8種類(1.0D・1.5Dから0.75Dstep)6現在製造中止現在ReSTORは出荷中止(H27.1~)ReSTORReZOOMTECNISMulti3PTECNISMulti1PiSiiATLISALENTISMplusFINEVISION あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151259(31)的に有意差はないものの,中間距離の1mおよび50cmでLENTISRMplusXのほうがLENTISRMplusより少し良い結果となっている(図2).さらに,LENTISRMplusXでは,下方の近用部分をレンズ周辺まで滑らかにし,同時に遠用部から近用部への移行部もさらに滑らかにすることにより,瞳孔が拡大したときのハローやグレアを軽減している(surfacedesignoptimization:SDO).では,術後残余乱視のためあまり良い裸眼視力は期待できない.そのため,術後にエキシマレーザーによるタッチアップやaddonレンズの二次挿入による矯正が必要になることがある.また,これら多焦点眼内レンズは,術後の水晶体.の収縮によりレンズのセンタリングがずれたり,傾斜したりすると,術後の見え方に大きく影響する.そのため,万全を期すのであればフェムトセカンドレーザーを使用して連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulor-rhexis:CCC)を行うことが望ましい.フェムトセカンドレーザーを使用した場合も現段階では先進医療は受けられない.また,別途レーザーの費用が必要となる.先進医療保険を利用しない場合は,未承認ではあるが,ヨーロッパで広く使用されている分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusやLENTISRMplusXおよび回折型3焦点眼内レンズのFINEVISIONR(PhysI-OL社)やATLisaR(CarlZeissMeditec社)があり,これらレンズにはトーリックレンズもあり適応症例も広い.代表的な多焦点眼内レンズの種類と特徴を表1に示す.II分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusとLENTISRMplusX図1に分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusとその改良レンズであるLENTISRMplusXのシェーマを示す.LENTISRMplusはすでに約6年以上の実績がある分節状の新しい世代の屈折型2焦点レンズである5,6).しかし,小瞳孔例では近方が見にくかったり,分節状構造に特有のグレアやハローが気になることもあった6).これに対してLENTISRMplusXは2013年に改良された新しいレンズであり,おもな改良点は,中心部の丸い遠用部分の直径を1.15mmから0.70mmと小さくし,その近傍を非球面化したことである(additiveparaxialasphericity:APA).その結果,2mmの小瞳孔でも近用部分が28%以上カバーできるようになり,小さい瞳孔径でも近方が見やすくなった.また,中心近傍の非球面化により焦点深度が深くなり中間視力がさらに向上した(varifocalIOL).全距離視力でも,統計学AdditiveParaxialAsphericity(APA)(近軸非球面性を付加)O中間の見え方が良好SurfaceDesignOptimisation(SDO)(デザインの最適化)O中心部の近方セグメントの改良O遠見部への移行部の改良→ライトロス減少O支持部への移行部の改良→グレア,ハローなどの軽減図1分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusとLENTISRMplusXのシェーマ.5m3m1m50cm30cmATLisa14眼LENTISMplus107眼LENTISMplusX68眼ReSTOR+3D28眼ReSTOR+4D23眼ReZOOM16眼TECNISMulti16眼単焦点30眼視力1.00.80.50.30.2距離図2全距離視力の結果AdditiveParaxialAsphericity(APA)(近軸非球面性を付加)O中間の見え方が良好SurfaceDesignOptimisation(SDO)(デザインの最適化)O中心部の近方セグメントの改良O遠見部への移行部の改良→ライトロス減少O支持部への移行部の改良→グレア,ハローなどの軽減図1分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusとLENTISRMplusXのシェーマ.5m3m1m50cm30cmATLisa14眼LENTISMplus107眼LENTISMplusX68眼ReSTOR+3D28眼ReSTOR+4D23眼ReZOOM16眼TECNISMulti16眼単焦点30眼視力1.00.80.50.30.2距離図2全距離視力の結果 1260あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(32)3.33D,中間にその半分の+1.66Dが付加された設計になっている1,3,4)(表1参照).これまでの報告ではこれら新しい3焦点レンズと2焦点眼内レンズでハローやグレアに大差はないとのことである2~4).なかには3焦点レンズのほうが光の散乱が少ないという報告もある7).IV臨床成績当院では2008年2月から多焦点眼内レンズの使用を始め,2015年6月までに803眼を挿入した.当院でこれまで使用した多焦点眼内レンズの見え方の特徴を調べるために,術後矯正視力が1.0以上,術後乱視が1.25D以内かつ等価球面度数が0~+1.25D以内というすべての条件を満たす487眼で遠方から中間,そして近方までの裸眼視力を測定した.結果を図2と表2に示す.視力はすべてlogMAR視力に換算している.図2は表2の平均値をわかりやすくするために小数視力に再び変換し,標準偏差を略したものである.視力の測定は,5mは通常の視力表(イナミ)を使用し,3m,1mは半田屋製新井氏1M視力表を,50cmは半田屋製近点視力表,30cmは半田屋製新標準近距離視力表を用いた.回折型のTECNISRMultiとReSTORR+4Dはどちらも近方に+4Dを付加しており,遠方5m,3mと近方30cmでは裸眼視力はほぼ1.0と良好であるが,中間の1m,50cmでは0.5前後と低下している.これに対し,ReSTORR+3Dでは,やはり遠方は良好な視力が得られており,近方30cmと中間50cmが0.7程度で中間距離50cmでの落ち込みがマイルドである.しかし,同じ中間でも1mではやはり視力は低下している.一方,屈折型のLentisRMplusおよびLENTISRMplusXの近用加入度数は+3Dであるが,視力は遠方も近方30cmも1.0と非常に良好であり,しかも中間(1m,50cm)での落ち込みも軽度で,1.0に近い視力が得られている.次にコントラスト感度の結果を図4と表3に示す.回折型のReSTORR+4Dと屈折型のReZOOMRは各周波数域で低下していたが(p<0.01),その他の多焦点レンズは単焦点レンズとほとんど変わらず,有意差はみられなかった.III回折型3焦点眼内レンズのFINEVISIONRとATLisaR図3に回折型3焦点眼内レンズであるFINEVISIONRの回折パターンをわかりやすく示す.図のように,このレンズは近用部に+3.5Dの回折パターンを,そして中間にはその半分の+1.75Dの回折パターンを加えたものである.その結果,遠方,近方のみならず中間にもピントが合う構造となっている2,3).回折構造による若干のコントラストの低下とハローはあるものの,グレアは少ない特徴がある4,5).また,回折型3焦点レンズには他にもAT.LisaRもあり,このレンズは近方に+ab2種類の2焦点IOLのコンビネーション①2焦点デザイン:《遠方&近方》②2焦点デザイン:《遠方&中間》①+②3焦点デザイン:《遠方中間近方》ApodisationAddpower▲THEFINEVISIONOPTIC・2焦点IOLよりロスエナジーが少ない・遠・中・近と3点に焦点が合うので,メガネの使用頻度が2焦点IOLに比べ少なくなる(MixMatchも不要)・乱視矯正も同時に可能図3回折型3焦点多焦点眼内レンズFINEVISIONRtrifocala:遠近と遠中の2焦点デザインを組み合わせて3焦点IOLにしている.b:3焦点レンズ断面の模式図.ab2種類の2焦点IOLのコンビネーション①2焦点デザイン:《遠方&近方》②2焦点デザイン:《遠方&中間》①+②3焦点デザイン:《遠方中間近方》ApodisationAddpower▲THEFINEVISIONOPTIC・2焦点IOLよりロスエナジーが少ない・遠・中・近と3点に焦点が合うので,メガネの使用頻度が2焦点IOLに比べ少なくなる(MixMatchも不要)・乱視矯正も同時に可能図3回折型3焦点多焦点眼内レンズFINEVISIONRtrifocala:遠近と遠中の2焦点デザインを組み合わせて3焦点IOLにしている.b:3焦点レンズ断面の模式図. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151261(33)V各種多焦点眼内レンズの代表症例症例1両眼TECNISRMulti50歳,女性.両眼の後.下白内障が進行したため視力低下し,先進医療の適用となる多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を希望され,2015年に紹介受診された.生来強度近視があり,乱視用2weekDSCLを使用していた.〈初診時視力〉RV=0.02(0.8×sph.10.0D(cyl.1.0DAx80°)LV=0.02(0.4×sph.11.5D(cyl.1.0DAx145°)表2各レンズの裸眼視力(平均値,標準偏差,標準誤差)※視力:logMAR視力レンズ種類眼数距離平均値標準偏差標準誤差LENTISMplus(T)1075m.0.0570.0740.0073m.0.0240.0880.0091m0.0920.1140.01150cm0.1160.1410.01430cm0.0830.1350.013LENTISMplusX(T)685m.0.0640.0720.0093m.0.0360.1110.0141m0.0650.1220.01550cm0.0670.0970.01230cm0.0460.0910.011ReSTOR+3D285m.0.0390.0940.0183m0.0420.1250.0241m0.1570.2020.03850cm0.1820.1770.03330cm0.1670.1870.035TECNISMultifocal2015m.0.0390.0970.0073m.0.0010.1230.0091m0.1790.1590.01150cm0.2450.1640.01230cm0.0530.0900.006単焦点305m0.0210.1210.0223m0.1170.1160.0211m0.2040.1280.02350cm0.3960.1590.02930cm0.6520.1690.031表3各レンズごとのコントラスト感度(平均値,標準偏差)※CSV1000による測定レンズ種類眼数cycle/degreeコントラスト感度値標準偏差LENTISMplus(T)7931.7210.19861.9240.218121.6130.256181.1400.216LENTISMplusX(T)5431.7000.21761.8810.185121.5950.221181.1370.220ReSTOR+3D2231.7410.18361.8700.185121.5230.183181.0620.206TECNISMultifocal16131.7630.18361.9240.192121.5970.230181.1040.244単焦点(SA60AT)2931.7670.16461.9560.200121.5780.243181.1140.215LENTISMplus(T)79眼LENTISMplusX(T)54眼ReSTOR+3D22眼ReSTOR+4D10眼ReZOOM5眼TECNISMultifocal161眼単焦点29眼*図4コントラスト感度の結果表2各レンズの裸眼視力(平均値,標準偏差,標準誤差)※視力:logMAR視力レンズ種類眼数距離平均値標準偏差標準誤差LENTISMplus(T)1075m.0.0570.0740.0073m.0.0240.0880.0091m0.0920.1140.01150cm0.1160.1410.01430cm0.0830.1350.013LENTISMplusX(T)685m.0.0640.0720.0093m.0.0360.1110.0141m0.0650.1220.01550cm0.0670.0970.01230cm0.0460.0910.011ReSTOR+3D285m.0.0390.0940.0183m0.0420.1250.0241m0.1570.2020.03850cm0.1820.1770.03330cm0.1670.1870.035TECNISMultifocal2015m.0.0390.0970.0073m.0.0010.1230.0091m0.1790.1590.01150cm0.2450.1640.01230cm0.0530.0900.006単焦点305m0.0210.1210.0223m0.1170.1160.0211m0.2040.1280.02350cm0.3960.1590.02930cm0.6520.1690.031表3各レンズごとのコントラスト感度(平均値,標準偏差)※CSV1000による測定レンズ種類眼数cycle/degreeコントラスト感度値標準偏差LENTISMplus(T)7931.7210.19861.9240.218121.6130.256181.1400.216LENTISMplusX(T)5431.7000.21761.8810.185121.5950.221181.1370.220ReSTOR+3D2231.7410.18361.8700.185121.5230.183181.0620.206TECNISMultifocal16131.7630.18361.9240.192121.5970.230181.1040.244単焦点(SA60AT)2931.7670.16461.9560.200121.5780.243181.1140.215LENTISMplus(T)79眼LENTISMplusX(T)54眼ReSTOR+3D22眼ReSTOR+4D10眼ReZOOM5眼TECNISMultifocal161眼単焦点29眼*図4コントラスト感度の結果 1262あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(34)NLV=0.7(1.0×sph+1.25D(cyl.0.5DAx75°)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.01.21m0.40.40.650cm0.90.81.030cm0.60.70.8術後,遠方と中間50cmで,それぞれ両眼で1.2,1.0と良好であった.中間1mでは両眼でも0.6とやはり2焦点レンズに特徴的な落ち込みがみられた.また,近方30cmでも加入度数が+3Dのため若干低下しており,両眼で0.8であった.しかし,グレア,ハローとも徐々に慣れ,まったく眼鏡を使用せずに快適に生活している.症例3両眼LENTISRMplusX58歳,女性.両眼白内障手術目的にて2015年2月に紹介受診された.先進医療でない多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.06(0.8×sph.6.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.04(0.6×sph.6.5D(cyl.1.25DAx110°)フェムトセカンドレーザーを併用し,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.5×sph+0.5D(cyl.0.75DAx140°)LV=1.2(1.5×cyl.0.5DAx20°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m1.01.01.050cm1.01.01.030cm1.01.01.0遠方,近方のみならず中間も視力はすべて良好であり,長年使用してきた眼鏡,コンタクトレンズなしで非常に快適に過ごせている.また,術後グレア,ハローもわずかで,夜間の車の運転にも問題ないとのことであっ軽度の倒乱視と斜乱視を認めたが,許容範囲内の乱視と判断しTECNISRMultiを使用して両眼の白内障手術を行った.先進医療では多焦点トーリック眼内レンズが使えない状況にあったため,術後残余乱視のため裸眼視力が悪い場合には,術後にエキシマレーザーによるタッチアップが必要となる可能性があることを説明したうえで手術を施行した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx160°)NRV=0.8(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.21.21m0.81.31.350cm0.50.50.630cm0.81.01.0中間50cmで両眼とも裸眼視力0.5(両眼視力0.6)と2焦点レンズに特徴的な視力の落ち込みが認められたが,遠方,近方とも両眼視力はそれぞれ1.2,1.0と良好で,パソコン使用時のみ近用眼鏡(+1.5D)が必要だが,そのほかは眼鏡を必要としないとのことであった.症例2両眼ReSTORRToric70歳,女性.近医で白内障を指摘され,2014年8月に受診された.先進医療の多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.2(1.0×sph+2.0D(cyl.4.0DAx70°)LV=0.2(1.0×sph+2.25D(cyl.3.5DAx100°)両眼とも.2.5D程度の角膜乱視(倒乱視)を認めたためReSTORRToricを選択した.また,手術に際して乱視軸の決定にはサージカルガイダンスシステムを使用した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.0×sph+0.75D(cyl.1.0DAx85°)LV=1.0(1.2×sph+0.25D(cyl.0.5DAx75°)NRV=0.6(1.0×sph+1.0D(cyl.1.0DAx85°)右眼左眼両眼5m1.01.01.21m0.40.40.650cm0.90.81.030cm0.60.70.8術後,遠方と中間50cmで,それぞれ両眼で1.2,1.0と良好であった.中間1mでは両眼でも0.6とやはり2焦点レンズに特徴的な落ち込みがみられた.また,近方30cmでも加入度数が+3Dのため若干低下しており,両眼で0.8であった.しかし,グレア,ハローとも徐々に慣れ,まったく眼鏡を使用せずに快適に生活している.症例3両眼LENTISRMplusX58歳,女性.両眼白内障手術目的にて2015年2月に紹介受診された.先進医療でない多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.06(0.8×sph.6.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.04(0.6×sph.6.5D(cyl.1.25DAx110°)フェムトセカンドレーザーを併用し,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.5×sph+0.5D(cyl.0.75DAx140°)LV=1.2(1.5×cyl.0.5DAx20°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m1.01.01.050cm1.01.01.030cm1.01.01.0遠方,近方のみならず中間も視力はすべて良好であり,長年使用してきた眼鏡,コンタクトレンズなしで非常に快適に過ごせている.また,術後グレア,ハローもわずかで,夜間の車の運転にも問題ないとのことであっ軽度の倒乱視と斜乱視を認めたが,許容範囲内の乱視と判断しTECNISRMultiを使用して両眼の白内障手術を行った.先進医療では多焦点トーリック眼内レンズが使えない状況にあったため,術後残余乱視のため裸眼視力が悪い場合には,術後にエキシマレーザーによるタッチアップが必要となる可能性があることを説明したうえで手術を施行した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx160°)NRV=0.8(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.21.21m0.81.31.350cm0.50.50.630cm0.81.01.0中間50cmで両眼とも裸眼視力0.5(両眼視力0.6)と2焦点レンズに特徴的な視力の落ち込みが認められたが,遠方,近方とも両眼視力はそれぞれ1.2,1.0と良好で,パソコン使用時のみ近用眼鏡(+1.5D)が必要だが,そのほかは眼鏡を必要としないとのことであった.症例2両眼ReSTORRToric70歳,女性.近医で白内障を指摘され,2014年8月に受診された.先進医療の多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.2(1.0×sph+2.0D(cyl.4.0DAx70°)LV=0.2(1.0×sph+2.25D(cyl.3.5DAx100°)両眼とも.2.5D程度の角膜乱視(倒乱視)を認めたためReSTORRToricを選択した.また,手術に際して乱視軸の決定にはサージカルガイダンスシステムを使用した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.0×sph+0.75D(cyl.1.0DAx85°)LV=1.0(1.2×sph+0.25D(cyl.0.5DAx75°)NRV=0.6(1.0×sph+1.0D(cyl.1.0DAx85°) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151263(35)た.症例4TECNISRMultiとLENTISRMplusX41歳,男性.2009年頃より左眼の霧視が出現し,近医にて白内障と診断されて経過をみていたが,左眼の視力障害が進行したため,多焦点眼内レンズ挿入術目的で当院紹介となる.右眼には異常は認められなかった.この当時,当院で使用していた多焦点眼内レンズはTECNISRMultiかReSTORRであった.〈初診時視力〉RV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.0.5DAx130°)LV=0.1(0.3×sph+2.5D(cyl.1.0DAx40°)乱視も軽度であったので,眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.25D(cyl.0.5DAx120°)LV=1.5(n.c.)NRV=1.0NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.51.51m2.01.02.050cm1.00.71.030cm1.01.01.0右眼はまだ白内障を認めておらず,調節力もあったため,遠方から中間,近方まで問題なく良く見えている.一方,手術をした左眼は術後のグレア,ハローは気にならないが,中間50cmが0.7で少しぼやけるとのことであった.デスクトップのパソコンが少し見にくいが,右眼は良く見えていたので,とくに不満はなかった.5年後(2014年),右眼の霧視が出現したため再び紹介受診された.左眼は変わりなかったが,右眼の白内障が進行していたので手術となった.〈再診時視力〉RV=0.5(1.5×sph.0.5D(cyl.0.75DAx95°)LV=1.5(2.0×sph+0.5D(cyl.0.5DAx85°)今回は中間距離がもう少し見えるレンズにしたいという希望があったため,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.5D(cyl.1.0DAx130°)LV=1.5右眼(LENTISRMplusX)の見え方はクリアで,遠方,近方のみならず中間距離の視力も良好であった.一方,左眼(TECNISRMulti)は少しもやがかかった感じがするとのことで,中間1mで0.8,50cmで0.5と低下していたが,両眼ではとても快適に過ごせているとのことだった.〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.52.01m1.00.81.350cm0.80.51.030cm1.01.01.0症例5TECNISRMultiとLENTISRMplusX43歳,女性.両眼白内障のため2011年8月に受診された.既往歴に喘息がありステロイドの内服をしていた.しばらく経過をみていたが,2012年9月に右眼の白内障が急激に進行したため手術となった.左眼には白内障はあるもののまだ視力は良好であり日常生活に支障はなかった.眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈再診時視力〉RV=0.01(n.c.)LV=1.0(1.0×sph+0.5D(cyl.0.25DAx180°)手術後1カ月視力RV=1.2(1.5×sph+0.75D(cyl.0.5DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+1.0D(cyl.0.5DAx160°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.9p1.01.050cm0.71.01.030cm1.01.01.0右眼左眼両眼5m1.51.51.51m2.01.02.050cm1.00.71.030cm1.01.01.0右眼はまだ白内障を認めておらず,調節力もあったため,遠方から中間,近方まで問題なく良く見えている.一方,手術をした左眼は術後のグレア,ハローは気にならないが,中間50cmが0.7で少しぼやけるとのことであった.デスクトップのパソコンが少し見にくいが,右眼は良く見えていたので,とくに不満はなかった.5年後(2014年),右眼の霧視が出現したため再び紹介受診された.左眼は変わりなかったが,右眼の白内障が進行していたので手術となった.〈再診時視力〉RV=0.5(1.5×sph.0.5D(cyl.0.75DAx95°)LV=1.5(2.0×sph+0.5D(cyl.0.5DAx85°)今回は中間距離がもう少し見えるレンズにしたいという希望があったため,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.5D(cyl.1.0DAx130°)LV=1.5右眼(LENTISRMplusX)の見え方はクリアで,遠方,近方のみならず中間距離の視力も良好であった.一方,左眼(TECNISRMulti)は少しもやがかかった感じがするとのことで,中間1mで0.8,50cmで0.5と低下していたが,両眼ではとても快適に過ごせているとのことだった.〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.52.01m1.00.81.350cm0.80.51.030cm1.01.01.0症例5TECNISRMultiとLENTISRMplusX43歳,女性.両眼白内障のため2011年8月に受診された.既往歴に喘息がありステロイドの内服をしていた.しばらく経過をみていたが,2012年9月に右眼の白内障が急激に進行したため手術となった.左眼には白内障はあるもののまだ視力は良好であり日常生活に支障はなかった.眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈再診時視力〉RV=0.01(n.c.)LV=1.0(1.0×sph+0.5D(cyl.0.25DAx180°)手術後1カ月視力RV=1.2(1.5×sph+0.75D(cyl.0.5DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+1.0D(cyl.0.5DAx160°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.9p1.01.050cm0.71.01.030cm1.01.01.0 術後,右眼は遠方,近方とも裸眼視力は良好でそれぞれ1.2,1.0であったが,やはり2焦点レンズの特徴で中間1m,50cmで若干の視力低下がみられた.ハローは少しあるがほとんど気にならないとのことであった.その後,経過は良好であったが,1年後の2013年10月,左眼の白内障が進行し,矯正視力も0.8に低下したため左眼の手術となった.左眼には中間視力も良いLENTISRMplusを選択した.〈左眼手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.2×sph+1.25D(cyl.1.5DAx180°)LV=1.2(1.2×sph+0.75D(cyl.0.75DAx100°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.81.01.050cm0.81.01.030cm1.01.01.0左眼(LENTISRMplus)は遠方,近方のみならず中間視力も良好であったが,夜間と室内で光の散乱とにじみがあり,見にくいという強い訴えがあった.一方,右眼(TECNISRMulti)は傘がかかっているがこちらのほうがわずかによいとのことであった.患者本人による見え方のスケッチを図5に示す.左眼はLENTISRMplusに特有のレンズの遠用部と近用部の移行部に由来する光の散乱(グレア)と判断し,徐々に慣れて,2~3カ月で気にならなくなると説明したが,納得されなかった.そこ夜間の光視(患者によるスケッチ)左眼:LENTISRMplusX右眼:TECNISTMMulti→2%ピロカルピン点Lx4にて光視は改善図5患者のハローのスケッチ(分節屈折型LENTISRMplusと回折型TECNISRMulti)1264あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015で,瞳孔径を縮めてこの光の散乱(グレア)を軽減する目的で2%ピロカルピンを処方した.2週間後の再診時には,「すごく良く見え,久しぶりに夜景がきれいに見えた」と喜ばれていた.その後,ピロカルピンを使用せずとも快適に過ごされている.VI多焦点眼内レンズの使い分け最初にも述べたが,眼鏡をかけることをいとわない人は,現時点では単焦点眼内レンズがよく,多焦点眼内レンズは避けるべきであろう.しかし,多焦点眼内レンズは進化し続けており,近い将来さらに適応が拡大していくと思われる.図6は横軸に年齢を,縦軸に屈折度数をプロットして,多焦点眼内レンズの使い分けをわかりやすく示したものである.多焦点眼内レンズは20~80歳まで幅広い年齢層に適応がある.高齢者では,認知症や瞳孔径を考慮して適応とレンズ選択に注意をしなければならない.一方,40歳以下の調節力がある年齢層では遠方と近方の2焦点レンズは中間が見にくいため問題となるので,中間視力も良い分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusXや回折型3焦点眼内レンズ(TrifocalIOL)がよい適応である.これに対し,40歳以上で調節力の低下した(老視が進行した)+2D以上の遠視症例では,若いときは良く見えていたものの,老視が進行するとともに,遠方も近方も中間もどこにも焦点が合わなくなっているため,先進医療を希望されれば認可されている2焦点レンズでも満足度は高くよい適応となる.同様に.6D以上の強度近視例でも老視年齢であれば認可されて屈折度数年齢+1.0D+2.0D+3.0D+4.0D+5.0D-1.0D-2.0D-3.0D-4.0D-5.0D-6.0D-7.0D-8.0D-9.0D-10.0D1020304050607080多焦点IOL遠方重視中間重視2焦点でも可2焦点でも可先進医療適応可LENTISor3焦点LENTISor3焦点調節力のある人多焦点禁忌認知症,神経質瞳孔径の小さい人?図6多焦点眼内レンズの使い分け(36) 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術前乱視への対応=術中乱視矯正

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1251~1256,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1251~1256,2015術前乱視への対応=術中乱視矯正AstigmatismCorrectionDuringCataractSurgery大内雅之*はじめに従来より,日本では欧米に比べて,白内障手術における乱視矯正に取り組む術者がきわめて少なかった(図1).一方,白内障手術患者の約16~22%が,1.5ジオプトリー(D)以上の術前角膜乱視を有し1,2),また残存乱視による像質劣化は,すでにさまざまな手法で知らされている.そのため,白内障手術と乱視のコントロールはかなり以前から問題にされており,さまざまな変遷を経て,現在は角膜へのアプローチと眼内レンズ(intraocularlens:IOL)でのアプローチの2つがある.ここでは,現在,標準的な診療現場で行われている術中乱視矯正について解説する.I現在の術中乱視矯正術中乱視矯正は,輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI)をはじめとした角膜へのアプローチと,トーリックIOLでの矯正の大きく2つの手法に分かれる.LRIは,トーリックIOLと比較して,安定までやや時間がかかる,術後早期は高次収差が残る,角膜径などの個々の眼によって矯正効果が異なる点で劣っているが,小瞳孔,Zinn小帯脆弱例,すでに眼内レンズが挿入されている眼や,不規則な医原性乱視の矯正に応用可能な点で優れている.トーリックIOLはその逆である.100%その他75%治療しない50%トーリック眼内レンズエキシマレーザー25%LRI図1白内障手術時に導入したい乱視矯正方法(2008年Alcon米国本社調査より)0%合計(n=377)アメリカ(n=73)アジア中東(n=99)ヨーロッパ(n=100)カナダ中南米(n=55)日本(n=50)68%16%8%4%5%1%19%18%26%38%4%42%13%10%24%16%20%20%10%35%19%26%0%42%13%21%12%33%20%20%IIトーリックIOL挿入手術1.術前の準備現在,国内のトーリックIOLは,AcrySofRIQトーリック(アルコン社),TECNISRトーリック(AMO社),i-SertRMicroトーリック(HOYA社)の3種類が上市されている.商品によって,3~7種の円柱加入が各球面度数で展開されており,術者はあらかじめ,術前データをWeb上のトーリックカリキュレーターに入力して,レンズの選択を行う(図2).入力項目には,強弱主経線の角膜屈折力,眼内レンズ度数に加え,術者固有の手術惹起乱視があるので,術者はあらかじめ術式を揃え,自分の惹起乱視データを集めておく必要がある.次に,トーリックIOL挿入の軸決めであるが,基本*MasayukiOuchi:大内眼科〔別刷請求先〕大内雅之:〒601-8453京都市南区唐橋羅城門47-1大内眼科ビル2F大内眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(23)1251 1252あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(24)2.手術手技まず手術開始時に,術前にマークした基準点を元に,角度ゲージ,トーリックマーカーを使って,トーリックIOL挿入位置を決定刻印してから,手術を開始する.その後の手技は,通常の白内障IOL手術と変わりはないが,IOL挿入後に,眼球軸と顕微鏡の観察系の軸が一致しているか,Purkinje反射を参考にして確認しながら,トーリックIOLのトーリック軸マークを,最初にマークした位置に一致させる(図3a,b).3.手術効果と術後の確認術後は,散瞳下でトーリック軸の向きの確認(図4)知識として重要な点は,外来での検査や診察時の座位と,手術室ベッド上での仰臥位では,角度が一致しないことである.これには,仰臥位で眼球は平均で4.1°外旋(1割弱の症例で10°以上回旋)する3)ことに加え,ベッド上の頭位,術者の位置一つで,角度は容易に変わってしまうからである.そのため,まず座位での基準点マーク(0°,90°などの正確な位置決定)が大切になってくる.これには,多くの術者が,各自工夫を凝らしており4~7),それだけ苦労しているということである.実際にIOLマスターを用いた大木の手法7)以外は,オートケラトメーター,トポグラフィーなどの角膜乱視測定検査と,基準点マーキングが同時ではないので,それらの突き合わせが課題として残っているが,軸ずれはおおむね5~10°以内に収められることがほとんどである.7°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°図2Webトーリック計算ソフトオンラインで必要なデータを入力すると,トーリックIOLの選択と挿入角度が示される(図はアルコン社製).図3トーリックIOLの軸あわせトーリックIOLの軸あわせなど,IOLの角度を調整するときは,第1Purkinje-Sanson像と第3Purkinje-Sanson像が角膜中央で重なる向きに眼球を動かし,眼球と顕微鏡の光軸を一致させた状態で行う必要がある.ab7°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°90°45°135°180°0°耳側鼻側315°270°225°図2Webトーリック計算ソフトオンラインで必要なデータを入力すると,トーリックIOLの選択と挿入角度が示される(図はアルコン社製).図3トーリックIOLの軸あわせトーリックIOLの軸あわせなど,IOLの角度を調整するときは,第1Purkinje-Sanson像と第3Purkinje-Sanson像が角膜中央で重なる向きに眼球を動かし,眼球と顕微鏡の光軸を一致させた状態で行う必要がある.ab 図4術後,トーリック軸の確認スリット光を回転させて,トーリック軸マークと一致させ,スリットランプに装備された角度ゲージを読む.図5波面解析装置を用いた術後の軸確認角膜トポグラフィーと全眼球収差を同時に測定すると,角膜乱視と眼内収差(トーリックレンズの円柱加入)の一致を確認できる.この症例では,2.31ジオプトリー(D)で弱主経線が169°の角膜乱視に対し(左上),3mmZoneにトーリック軸171°でトーリックIOLが挿入されており(右上),全乱視が3mmZoneで0Dである(右下). 図6a角度ゲージとLRIマーカーを用いた刻印図7トポグラフィーによる輪部減張切開術(LRI)の手術効果の確認術前3.10Dの斜乱視症例(左下)に,axialdifference(右)に示す,減張切開効果が加わり,術後角膜乱視は0.43Dに軽減している.図6bマイクロゲージ付きダイヤモンドナイフによる輪部角膜切開 0.9a0.8自覚乱視(D)裸眼視力(logMAR)0.70.60.5LT群0.4HT群0.30.20.10pre1D1M3Mb43.532.52■LT群■HT群1.510.50pre1D1M3M図8LRIとトーリック眼内レンズ(T.IOL)の効果の経時変化2.5ジオプトリー(D)以上の術前乱視を持つ眼の術後成績の比較.a:裸眼視力,b:術後自覚乱視.LT群:円柱加入2DのT-IOL挿入と不足分に対するLRIの同時手術.HT群:高円柱加入モデルT-IOL挿入の単独手術.1D:術翌日,1M:術後1カ月,3M:術後3カ月.図9経時的にLRIによる矯正効果が減弱した症例術前1.79Dの直乱視(左上)症例.術直後は0.57Dの直乱視へと良好な矯正が得られた(右上)が,2カ月後は矯正効果が維持されていたものの(左下),術後9カ月で1.36Dの直乱視に戻った(右下).まとめ近年,わが国でもようやく術中乱視矯正への関心が高まってきた.それには,角膜を形成するLRIと眼内矯正であるトーリックIOLの2つのスタンダードがあり,角膜,瞳孔,水晶体周辺の状態,および乱視の程度など,多くの因子によって両方を使い分ける必要がある.現在は多くの症例でトーリックIOLが使われているが,症例によっては,トーリックIOLが不適な場合もあるため,屈折矯正白内障手術を目指す術者は,LRIにも精通しておきたい.文献1)Ferrer-BlascoT,Montes-MicoR,Peixoto-de-MatosSetal:Prevalenceofcornealastigmatismbeforecataractsurgery.JCataractRefractSurg35:70-75,20092)HoffmannCP,HutzWW:Analysisofbiometryandprevalencedataforcornealastigmatismin23239eyes.JCataractRefractSurg36:1479-1485,2010のバラツキが出やすい.角膜を減張切開すると,正乱視が矯正される反面,高次数差が増えることが報告されており14),とくに大きな乱視矯正をすると不整乱視が大きく出る.ただし,術直後の大きな不整乱視も,時間とともに軽減してゆく.最近では角膜形状異常眼,とくに円錐角膜眼へのトーリックIOL挿入の成績が多数みられているように,進行の止まっている円錐角膜には,トーリックIOLを挿入して,正乱視成分を減らすことにコンセンサスが得られているが15),角膜形状を変化させる手術であるLRIは,軽度の円錐角膜でも,予想外の結果を招くことがあるため禁忌といえる.(27)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151255 1256あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(28)CataractRefractSurg32:1408,200611)福山会里子:白内障手術における乱視矯正乱視矯正角膜周辺部切開術.IOL&RS21:485-491,200712)OuchiM:High-cylindertoricintraocularlensimplanta-tionversuscombinedsurgeryoflow-cylinderintraocularlensimplantationandlimbalrelaxingincisionforhigh-astigmatismeyes.ClinOphthalmol31:661-667,201413)BuckhurstPJ,WolffsohnJS,NarooSAetal:Rotationalandcentrationstabilityofanasphericintraocularlenswithasimulatedtoricdesign.JCataractRefractSurg36:1523-,201014)山本佳乃,宮井尊史,子島良平:白内障術後乱視に対する角膜輪部減張切開による角膜不正乱視の変化.眼科手術20:251-254,200715)JaimesM,Xacur-GarciaF,Alvarez-MelloniD:Refractivelensexchangewithtoricintraocularlensesinkeratoconus.JRefractSurg27:658-664,20113)AnilU,SwamimMD,RogerFetal:Rotationalmalposi-tionduringlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol133:561-562,20024)根岸一乃:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:363-368,20105)後藤憲仁,松島博之:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:369-372,20106)宮田和典:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:373-378,20107)大木孝太郎:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:379-383,20108)GualdiL,CappelloV,GiordanoC:TheuseofNIDEKOPDScanIIwavefrontaberrometryintoricintraocularlensimplantation.JRefractSurg25:110-115,20099)DuffeyRJ,JainVN,TchachHetal:Pairedarcuatekera-totomy;asurgicalapproachtomixedandmyopicastig-matism.ArchOphthalmol106:1130-1135,198810)NichaminLD:Nomogramforlimbalrelaxingincisions.J

アクティブフルイディクス

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1245~1249,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1245~1249,2015アクティブフルイディクスActiveFluidics小川智一郎*柴琢也**はじめに白内障手術装置CENTURIONRVISIONSYSTEM(以下,CENTURION,日本アルコン)が新たに発売された.CENTURIONは,ActiveFluidicsTMテクノロジー(以下,アクティブフルイディクス),BalancedEnergyTMテクノロジー,AppliedIntegrationTMテクノロジーなど種々の機能を有するが,そのなかでもアクティブフルイディクスは本装置の大きな特徴といえよう.本稿ではこのアクティブフルイディクスについて概説する.Iアクティブフルイディクスアクティブフルイディクスとは,白内障手術中に発生する流体の変化を白内障手術装置が検知し,補正を行うことで,設定した目標値に眼内圧(intraocularpressure:IOP)を維持するシステムである.仕組みは,CENTURION内に専用のプラスチックバックタイプの眼灌流液を挿入するスペースがあり,そこに灌流バックをセットし(図1),術中の灌流圧をモニタリングしながらIOPを予測し,灌流バックを適宜加圧・減圧することで,目標IOPを維持する.眼内の水流動体から,IOPは以下のように定義することができる.眼内圧=灌流圧.(吸引圧+漏出圧)従来からの灌流方式である重力落下による方式では,ボトル高に応じて灌流圧が一定であるが,吸引圧と漏出圧は変動するため,上記の定義から考えるとIOPは常図1CENTURIONRCENTURIONR上部に専用のプラスチックバックタイプの眼灌流液を挿入するスペースがあり(→),そこに灌流バックをセットする.に変動してしまう.一方,アクティブフルイディクスでは,吸引圧と漏出圧の増減に応じて灌流圧を変化させることで,IOPを一定に保つことが可能である.このアクティブフルイディクスにおいて,TargetIOP,PatientEyeLevel,IrrigationFactor,IOPRampの4項目を設定調整することが可能である(図2).IITargetIOP目標IOPのことである.CENTURIONでは,本体内部のプレートで灌流バッグを挟み込み,バッグに対して加圧,減圧を行うことで,重力に頼らず灌流量をコントロールして,術中の目標IOPが設定可能となった(図3a).26~110mmHgまで設定可能である.さらに,*TomoichiroOgawa:東京慈恵会医科大学眼科学講座**TakuyaShiba:東京慈恵会医科大学付属第三病院眼科〔別刷請求先〕小川智一郎:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(17)1245 a図3TargetIOPa:画面上では眼内圧(IOP)は55mmHgに設定されている.IOPは,26~110mmHgまで設定可能である.b:術者はそれぞれのフットスイッチポジション(FP1,FP2,FP3)で異なる目標IOPを設定することが可能である.目標眼内圧設定のために術眼の高さとセンサー基準位置を調整する必要がある.センサー位置が術眼より5cm高いと灌流圧は+5cm分高くなる.センサー位置が術眼より5cm低いと灌流圧は.5cm分低くなる.図2設定値TargetIOP:目標眼内圧,IrrigationFactor:灌流圧補正,PatientEyeLevel(PEL):術眼,センサー位置合わせ,IOPRamp:目標眼内圧への到達時間(F/Sポジション1).b図4PatientEyeLevel あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151247(19)とを避けるために,IOPRampを2.0に設定し,ゆっくりIOPを上昇させる設定としている.VIアクティブフルイディクスの効果アクティブフルイディクスにより,前房安定性が向上し,IOPを優先した設定,効率を優先した設定など手術装置設定の幅が広がった.また,さまざまな症例においても優れた前房安定性を得ることができ,安全に手術を行うことが可能である.VIIサージの抑制(図7)通常,チップの吸引口が核片や皮質で閉塞してもポンプはまだ回転しており,チューブが虚脱し陰圧が生じてけるため,IrrigationFactorとよばれる補正値を入力することで,チップとスリーブの組み合わせを加味して,より正確な術中IOPの維持が可能になる(図5a,b).IrrigationFactorの推奨値は,ウルトラスリーブは1.0,ナノスリーブは1.2となっているが,術者が手技と挙動にあわせて任意に設定可能である.筆者の設定は,ウルトラスリーブは1.0と推奨値であるが,ナノスリーブは1.4としている.VIOPRamp目標IOPに達するまでの時間のことである.フットペダルポジション1のときに目標IOPに到達するまでの時間を設定することが可能である(図6).たとえば,目標IOPを55mmHg,IOPRampを1.0に設定した場合,フットスイッチがポジション1に入ってから1秒で55mmHgに到達する.IOPRampは0.1秒刻みで設定可能で,IOPの上昇スピードをコントロールすることが可能になり,滑らかな眼圧コントロールを実現し,疼痛の軽減,さらに侵襲の少ない手術を可能としている.強度近視などの症例ではフェイコチップやI/Aチップを挿入した際に,急に前房が深くなり痛みを自覚させてしまうことがある.筆者は,急激に前房深度が深くなるこ図6IOPRamp眼内にチップ,スリーブを挿入し,フットスイッチがポジション1にあるとき,設定した目標眼内圧に圧が到達する時間を設定する.図5IrrigationFactora:U/Sチップとスリーブの組み合わせによる灌流量の違いを補正する.b:スリーブとチップの組み合わせごとのIrrigationFactorの推奨値.abスリーブチップIrrigationFactor0.9mmウルトラスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.00.9mmナノスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.212図7サージの抑制CENTURIONRのサージ量(←→1)は,INTREPIDPlusFMS使用時のINFINITIRのサージ量(←→2)に比べると少ない.図6IOPRamp眼内にチップ,スリーブを挿入し,フットスイッチがポジション1にあるとき,設定した目標眼内圧に圧が到達する時間を設定する.図5IrrigationFactora:U/Sチップとスリーブの組み合わせによる灌流量の違いを補正する.b:スリーブとチップの組み合わせごとのIrrigationFactorの推奨値.abスリーブチップIrrigationFactor0.9mmウルトラスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.00.9mmナノスリーブバランスドチップ,ミニチップ,ミニフレアチップ1.212図7サージの抑制CENTURIONRのサージ量(←→1)は,INTREPIDPlusFMS使用時のINFINITIRのサージ量(←→2)に比べると少ない. 図8高吸引設定図9筆者の設置値 あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151249(21)粘弾性物質も抜けにくく,虹彩の色素脱出もない手術を施行することが可能である.おわりにアクティブフルイディクスにより,従来の白内障手術装置と比べ,高い前房安定性が得られ,最後の核片を吸引する際も前房が不安定になることなく,安全に白内障の摘出を行うことが可能であった.また,高い前房安定性により,手術装置の設定に幅が生まれ,より術者の好みに合わせた設定ができ,安全かつ眼に優しい手術が可能となった.する必要があるが,CENTURIONでは,フットペダルを踏み続けていてもサージをほとんど感じず,後.破損のリスクが非常に少ないと思われる.XII筆者の現在の設定筆者は,従来から低設定値でDivideandConquer法を用い白内障手術を行っているため,CENTURIONでもIOPは30mmHgとしている(図9).切開創が2.0mmで低いIOP設定でも,前房内圧は保たれたまま後.の挙上を認めることない手術が施行できる.また,低設定値であっても,手術中の眼内の動体が安定し,前房内の

フェムトセカンドレーザー白内障手術

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1239.1244,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1239.1244,2015フェムトセカンドレーザー白内障手術FemtosecondLaser-AssistedCataractSurgery小室青*稗田牧**はじめにフェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser)の眼科領域での応用は,1999年にLASIK(laserinsitukeratomileusis)のフラップ作製に用いられたことに始まる.その後,角膜全層移植の角膜切開に使用され,2008年に最初の白内障手術が行われた1).現在,白内障手術に用いられるフェムトセカンドレーザーは,LenSxR(Alcon社),CATALYSR(Abbott社),VICCATALYSRPrecisionLaserSystem(AbbottMedicalOptics)ヨーロッパ:2011年8月にCEマークを取得米国:2011年11月にFDAの承認日本:2015年7月厚生労働省薬事承認TUSR(Bausch+Lomb社),LENSERR(LENSER社),FEMTOLDVZ8(Ziemer社)の5機種である.わが国では,2014年8月にLenSxRが,2015年7月にCATALYSRが,厚生労働省薬事承認を取得している(図1).本稿では,この2機種を用いた白内障手術について述べる.LenSxRLaserSystem(Alcon)ヨーロッパ:2011年2月にCEマークを取得米国:2009年8月にFDAの承認(Capsulotomy)日本:2014年9月厚生労働省薬事承認図12015年8月現在日本で承認されているフェムトセカンドレーザー*AoiKomuro:四条烏丸眼科小室クリニック**OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕小室青:〒604-8152京都市中京区烏丸通錦小路上ル手洗水町652烏丸ハイメディックコート4F四条烏丸眼科小室クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)1239 組織レーザーを発射し,プラズマができる衝撃波が発生するキャビテーションとよばれる気泡が発生し,しぼむ組織に空洞ができる図2フェムトセカンドレーザーによる光切断空洞を連結させてミシン目状に切断患者インターフェース装着・ドッキング前眼部OCT前.切開核のフラグメンテーション手術室角膜切開フェムトセカンドレーザー超音波乳化吸引術・皮質吸引IOL挿入図3フェムトセカンドレーザー白内障手術の流れIフェムトセカンドレーザーの原理フェムトセカンドレーザーは,光切断(photodisruption)とういう原理で,フェムト秒(千兆分の1秒)という短い時間で組織内部に連続的に穴を開けることで組織を切断する(photodissection)2)(図2).熱損傷を伴わない組織の切断が可能であるが,レーザーは光であるため,混濁などで光が遮断されると切断することができない.IIフェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術手技1.フェムトセカンドレーザーでできることフェムトセカンドレーザーでは,前.切開,水晶体核1240あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015表1患者インターフェースの概要LIQUIDOPTICSInterfaceLIQUIDOPTICSInterface12LenSxRSuctionringの外径(mm)21.619.019.8眼圧上昇(mmHg)101016の分割(フラグメンテーション)とソフトニング,角膜切開およびサイドポート作製,角膜輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)による角膜切開乱視矯正が可能である.実際のフェムトセカンドレーザー白内障手術の流れを図3に示す.角膜切開については,術者によって,また症例によって行わない場合もある.2.患者インターフェース(表1)の装着CATALYSRの患者インターフェース(patientinterface:PI)は,LiquidOpticInterface(LOI)とよばれるもので,LOI装着後に液体(BSSPlusR)を満たして使用する.外径は,21.6mmと19.0mmの2種類(図4a)であるが,角膜を圧平しないため,眼圧の上昇が10mmHg以下と少なく,緑内障患者でも安心して使えるというメリットがある3).また,LOIを装着してからレーザーにドッキングするため,ドッキングの手技が容易であると思われる.瞼裂が狭い場合には,稀に装着困(12) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151241(13)装着時,角膜を圧平するため角膜のひずみや眼圧上昇生じるが,ソフトコンタクトレンズを装着する(SoftFitTM)ことによって軽減されている4).難な場合がある.LenSxRでは,外径が22.3mmから19.8mmに小さくなり(図4b),内径であるトリートメントゾーンは12mmから12.5mmと大きくなっている.CATALYSR同様,瞼裂が狭い症例では装着が困難なことがある.PIの19mm12mm21.6mm14.1mmab図4患者インターフェースa:CATALYSR.b:LenSxR.水晶体後面のセーフティマージン500~1,000μmで調節可能水晶体前面のセーフティマージンで調節可能200~1,000μm虹彩のセーフティマージン500μm虹彩のセーフティマージン500μm(調節不可)散瞳不良例では,前.切開が小さくなるab図5セーフティマージン(CATALYSR)a:前.切開.b:核処理時.19mm12mm21.6mm14.1mmab図4患者インターフェースa:CATALYSR.b:LenSxR.水晶体後面のセーフティマージン500~1,000μmで調節可能水晶体前面のセーフティマージンで調節可能200~1,000μm虹彩のセーフティマージン500μm虹彩のセーフティマージン500μm(調節不可)散瞳不良例では,前.切開が小さくなるab図5セーフティマージン(CATALYSR)a:前.切開.b:核処理時. SegmentationSofteningSegmentationSoftening図6核の処理パターン(CATALYSR,Abott社より引用)3.前眼部OCT(opticalcoferencetomography)LenSxR,CATALYSRともにspectral-domainOCT(SD-OCT)が搭載されている.CATALYSRでは,前眼部OCTでA-sacnを1万本以上行い,三次元イメージを合成しており,前.切開の中心は水晶体.の中心,輪部中心,瞳孔中心から選択できる.LenSxRでは,CirclescanとLinescanを組み合わせた三次元解析を行っている.マニュアルでセンタリングするため,センタリングの中心は瞳孔中心であったが,VerionRsurgicalguidancesystmeを併用することによって,視軸の中心でセンタリングすることが可能となった.4.角膜切開,サイドポート位置,幅,角度など細かく設定することが可能であるが,ナイフによるマニュアルでの切開と異なり,ミシン目状の切開であることから,スパーテルでの鈍的な.離が必要である.また,角膜周辺部のわずかな角膜混濁や血管侵入部位でも切開が不十分になることがあり,上方よりは耳側,最周辺部よりやや角膜中心寄りに切開のデザインを置くほうが良い.フェムトセカンドレーザーを用いた切開では,ナイフを用いたマニュアルの切開に比較して,内皮側のギャップや,Descemet膜.離が生じにくく5),安定していることが報告されている6,7).5.前.切開CATALYSRでは,前.切開の大きさは,2.0.8.0mmの直径で設定可能であるが,虹彩縁からのセーフティマージンは500μmとなっており,変更はできない(図5a).散瞳不良例では,OCTで計測された瞳孔径に合わせて最大の前.切開径が表示される.LenSxRでは前.切開の大きさは虹彩の位置にかかわらず3.0.8.0mm直径で設定できる.CATALYSR,LenSxRともに,レーザー後に前.切開はほぼ100%完全に切開できるが,角膜混濁がある場合や前.線維化部位では,レーザーが通らず切開できていないことがあるので,前.除去時に必ず全周切開ができているか確認する必要がある.6.水晶体核の分割,ソフトニングCATALYSRでは,核の分割は,3つのパターンがあり,ソフトニングも4つのパターンから選択することが可能である(図6).水晶体核分割直径は,3.0.10.0mmまで設定可能であるが,虹彩縁からのセーフティマージンが500μmからとなっているので(図5b),散瞳不良例ではソフトニングの範囲も狭くなる.水晶体前面と後面のセーフティマージンは,それぞれ200.1,000μmと500.1,000μmで,水晶体前面後面ともに調節可能である(図5b).ソフトニング時には核の大きさを100.2,000μmに設定できるが,小さくしすぎるとキャビテーションによって発生する気泡が多くなり,手術中の視認性が悪くなることがある.LenSxRでは核分割の大きさは虹彩の位置にかかわらず3.0.6.0mm直径で設定できる.水晶体前.からのセーフティマージンは500.2,000μm,後.からは800.2,000μmである.グリッドパターンの大きさは200.500μmに設定できる.核硬度が3までの症例では,まったく超音波を使わないzerophacoも可能であるが,実際には軽く超音波を使用したほうが効率的であると思われる.1242あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(14) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151243(15)(http://www.lricalculator.com)を行い,intrastromalの場合は,Dr.JulianStevensのノモグラム(http://www.femtoemulsification.com)を用いて,事前に計算しておく必要がある.LenSxRで径7mmのintrastromalastigmatickeratotomyを行う場合にはDr.StevenCShalhornのノモグラムで行う.Anteriorpenetrationの場合は,角膜切開と同様にスパーテルでの鈍的な.離が必要であり,stromalincisionでは切開部位に浮腫による混濁が生じやや視認性が低下する(図7b).フェムトセカンドレーザーを用いた角膜切開は,深さや位置をマニュアルに比べて正確に行うことができる.しかしな7.角膜輪部減張切開CATALYSRでは,LOIのノッチが0.180°と認識されるので,術前に0°と180°の位置にマーキングしておく必要がある.切開法は2種類あり,角膜側まで切開するanteriorpenetrationと,実質内のみ切開するintrastromalincisionがある.また,切開部位も1本だけ入れる方法と2本を対称(図7a)もしくは非対称に入れる方法が選択できる.深さは,角膜厚に対する割合(%),もしくはμmで設定可能である.サイドカットの角度は30.150°まで選択できる.独自のノモグラムがないため,anteriorpenetrationの場合は,従来のLRIの計算図7角膜切開乱視矯正を併用した症例a:treatmentplan.b:レーザー終了時.切開部位にキャビテーション時の気泡による浮腫を認める.c:手術終了時.眼内レンズは,全周カバーされている.abc図7角膜切開乱視矯正を併用した症例a:treatmentplan.b:レーザー終了時.切開部位にキャビテーション時の気泡による浮腫を認める.c:手術終了時.眼内レンズは,全周カバーされている.abc 1244あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(16)述べた.今後,内蔵ソフトのバージョンアップにより,LRIの計算も行えるようになると思われる.フェムトセカンドレーザー白内障手術は,安全に精度の高い手術を再現性よく行うことができ,多焦点IOLやトーリックIOL挿入眼で,より良い術後の視機能の改善を得る可能性を秘めていると考えられる.文献1)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevaluationofanintraocularfemtosecondlaserincataractsurgery.JRefractSurg25:1053-1060,20092)平沢学,ビッセン宮島弘子:フェムト秒レーザーの眼科応用の現状.フェムト秒レーザーを用いた屈折矯正手術.日本レーザー医学会誌34:31-36,20133)DonaldsonKE,Braga-MeleR,CabotFetal;ASCRSRefractiveCataractSurgerySubcommittee:Femtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg39:1753-1763,20134)NagyZZ,KissHJ,TakacsAIetal:Resultsoffemtosecondlaser-assistedcataractsurgeryusingthenew2.16softwareandtheSoftFitRPatientInterface.OrvHetil156:221-225,20155)GrewalDS,BastiS:Comparisonofmorphologicfeaturesofclearcornealincisionscreatedwithafemtosecondlaserorakeratome.JCataractRefractSurg40:521-530,20146)ErnestPH,KiesslingLA,LaveryKT:Relativestrengthofcataractincisionsincadavereyes.JCataractRefractSurg12(Suppl.):668-671,19917)MasketS,SaraybaM,IgnaciaTetal:Femtosecondlaser-assistedcataractincisions:architecturalstabilityandreproducibility.JCataractRefractSurg36:1048-1049,2010[Letter]8)AbellRG,KerrNM,VoteBJ:Towardzeroeffectivephacoemulsificationtimeusingfemtosecondlaserpretreatment.Ophthalmology120:942-948,20139)KumarNL,KaisermanI,Shehadeh-MashorRetal:IntraLase-enabledastigmatickeratotomyforpost-keratoplastyastigmatism:on-axisvectoranalysis.Ophthalmology117:1228-1235,201010)BaharI,LevingerE,KaisermanIetal:IntraLase-enabledastigmatickeratotomyforpostkeratoplastyastigmatism.AmJOphthalmol146:897-904,200811)YeohR:Intraoperativemiosisinfemtosecondlaser-assistedcataractsurgery.JCataractRefractSurg40:852-853,201412)YeohR:Hydroruptureoftheposteriorcapsuleinfemtosecond-lasercataractsurgery.JCataractRefractSurg38:730,2012がら,anteriorpenetrationの場合は過矯正になる傾向が報告されており9,10),実際には,計算値の70.80%程度で行っている.IIIフェムトセカンドレーザー白内障手術のメリットとデメリット1.メリット多焦点眼内レンズでは,フェムトセカンドレーザーで前.切開を行うことによって,常に一定の大きさで水晶体.中心に前.切開を行うことが可能であり,眼内レンズ(intraoculerlens:IOL)の位置ずれが生じにくく,IOLエッジのカバーも均一であり(図7c),術後の眼内レンズの偏位,傾斜も生じにくいといったメリットがあげられる.乱視症例においても,乱視IOLでは軸ずれを生じる可能性があるが,フェムトセカンドレーザーによる角膜切開では,より精度の高い乱視矯正を行うことができると考えられる.核のソフトニングにより,低い超音波エネルギーで手術を行うことが可能であり,角膜内皮への侵襲が少ないと考えられる.また,過熟白内障,外傷後,Zinn小体脆弱例や角膜内皮減少例などの難症例においても,安定した白内障手術を施行することが可能である.2.デメリットレーザー後に縮瞳が生じることがあるが,術前点眼に非ステロイド性抗炎症点眼薬(NSAIDs)を加えることで,発生率が低くなる11).また,キャビテーション時の気泡による視認性の低下や,hydrodissection時の後.破損の報告があり,注意が必要である12).すべての症例がフェムトセカンドレーザー白内障手術の対象になるわけではなく,前.切開の大きさが十分にとれない散瞳不良例,重症の緑内障,トラベクレクトミー後で濾過胞がある場合,瞼裂が狭く高度の結膜弛緩症のため患者インターフェースの装着困難が予想される場合など,不適応な症例も存在する.おわりにフェムトセカンドレーザー白内障手術の実際について

眼軸長測定と眼内レンズ度数計算

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特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1231.1237,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1231.1237,2015眼軸長測定と眼内レンズ度数計算MeasurementofAxialLengthandIntraocularLensCalculation比嘉利沙子*はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算には,正確な眼軸長(axiallength:AL)測定が必要である.AL測定には,長年,超音波が用いられてきたが,1999年に部分光干渉法(partialcoherenceinterferometry:PCI)によるAL測定が登場し,測定精度が飛躍的に向上した.AL測定精度の向上に伴い,術後IOLの位置(effectivelensposition:ELP)予測の問題がより重要視されるようになった.本稿では,Swept-SourceOCT(SS-OCT)による新たなAL測定,計算式の選択“Top2の併用”とIOL定数,特殊角膜眼(laserinsitukeratomileusis:LASIK,phototherapeutickeratectomy:PTK)のIOL度数計算について述べる.ISS.OCTによるAL測定2014年にSS-OCTによるAL測定機能を搭載したIOLMaster700(CarlZeissMeditec)が発売された.1.測定原理と特徴IOLMaster700では,1秒間に2,000本のAscanを30度ごとの6方向で行い,6枚を合成したBscanからALを測定している(図1a).ALは,網膜色素上皮までの長さを内境界膜までの長さに補正した値で表示される.同時に,Bscanから角膜厚(centralcornealthickness:CCT),前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),水晶体厚(lensthickness:LT)が測定される.これまでのPCIでは,AL測定は波形でしか捉えることができなかったが,SS-OCTでは断層面で捉えることができる.全眼球断層画像では測定時の眼球の状態を可視化することができ(図1b),中心窩断層画像では固視や黄斑疾患を確認することができる(図1c).2.測定精度と測定率PCIによるAL測定の信頼性は,signal-to-noiseratio(SNR)で表されるが,真に中心窩からの測定か否かは確認することができなかった.しかし,SS-OCTでは,中心窩からの測定が可視化できるようになったので,測定値の再現性が高まった(図2).当院で術前の白内障眼を対象(n=249)に,両者のAL測定率を比較したところ,IOLMaster500vs700(PCIvsSS-OCT)では90%,97%であり,SS-OCTでは測定率も向上した.また,両装置で得られた測定値はよく一致しており,高い相関が得られている(図3).したがって,IOLMaster700でIOL度数計算をする際には,UserGroupforLaserInterferenceBiometry(ULIB)Webサイト(用語解説参照)に掲載されているIOLMaster500と共通のIOL定数が使用できる.IIIOL度数計算式の選択ELP予測は,計算式に依存するので,術後屈折誤差の対策には,計算式の選択も重要となる.*RisakoHiga:井上眼科病院〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)1231 1232あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(4)2.計算式の選択“Top2の併用”標準外のK値でELP予測誤差が生じるSRK/T式の弱点を補う戦略として,筆者は,Haigis式を併用している.2式の予測値に差がある症例では,K値に留意し,標準外のK値であれば,Haigis式でIOL度数を選択するとよい(図6).Haigis式を選択する理由は,次の5つである.①SRK/T式と異なりK値を使用しないELP予測法である.②ALの守備範囲が広い(図7).③第3世代以降の計算式でSRK/T式と同等の精度である3.5)(=精度のTop2).④日本でSRK/T式に次いで使用されている(=国内使用率のTop2).⑤ACDのみの追加測定で計算が可能である.1.第3世代以降の計算式の特徴第3世代以降の計算式(用語解説参照)は,ELP予測に各計算式の特徴がある.たとえば,日本で最も使用されているSRK/T式1)では,ELP予測にピタゴラスの定理を取り入れている.そのため,フラットなK値のELPは実際よりも小さく予測され,それを基にIOL度数を選択すると,術後屈折は遠視にずれる(図4).逆にスティープなK値では近視にずれる.Haigis式2)は,K値を用いず,術前のACDとALの重回帰式からELPを予測している.ELP予測法が異なる2式(SRK/T式とHaigis式)の術後予測屈折値の差は,ALによる傾向はなく,K値が標準外(42D未満と46D以上)の場合に生じている(図5).2つの計算式の予測値の差が0.5D以上の症例は,自験例では約18%(n=472眼)であった.abc図1SS.OCTの測定原理と断層画像a:測定原理(Scanspeed:2.000Ascans/sec,Angle:0,30,60,90,120,150°).b:全眼球断層画像(Depth:44mm,Wide:6mm).c:中心窩断層画像(Wide:1mm)左から,中心窩陥凹検出(固視良好例),中心窩陥凹未検出(固視不良例),黄斑円孔.abALの差0.01mmK値の差0.05DALの差0.08mmK値の差0.63D図2固視状態による測定精度同一症例で複数回測定した結果を比較.a:固視良好な場合(矢印は中心窩陥凹を示す),測定値の再現性が高い.b:固視不良な場合(中心窩陥凹未検出),測定値の再現性が低い.①SRK/T式と異なりK値を使用しないELP予測法である.②ALの守備範囲が広い(図7).③第3世代以降の計算式でSRK/T式と同等の精度である3.5)(=精度のTop2).④日本でSRK/T式に次いで使用されている(=国内使用率のTop2).⑤ACDのみの追加測定で計算が可能である.1.第3世代以降の計算式の特徴第3世代以降の計算式(用語解説参照)は,ELP予測に各計算式の特徴がある.たとえば,日本で最も使用されているSRK/T式1)では,ELP予測にピタゴラスの定理を取り入れている.そのため,フラットなK値のELPは実際よりも小さく予測され,それを基にIOL度数を選択すると,術後屈折は遠視にずれる(図4).逆にスティープなK値では近視にずれる.Haigis式2)は,K値を用いず,術前のACDとALの重回帰式からELPを予測している.ELP予測法が異なる2式(SRK/T式とHaigis式)の術後予測屈折値の差は,ALによる傾向はなく,K値が標準外(42D未満と46D以上)の場合に生じている(図5).2つの計算式の予測値の差が0.5D以上の症例は,自験例では約18%(n=472眼)であった.abc図1SS.OCTの測定原理と断層画像a:測定原理(Scanspeed:2.000Ascans/sec,Angle:0,30,60,90,120,150°).b:全眼球断層画像(Depth:44mm,Wide:6mm).c:中心窩断層画像(Wide:1mm)左から,中心窩陥凹検出(固視良好例),中心窩陥凹未検出(固視不良例),黄斑円孔.abALの差0.01mmK値の差0.05DALの差0.08mmK値の差0.63D図2固視状態による測定精度同一症例で複数回測定した結果を比較.a:固視良好な場合(矢印は中心窩陥凹を示す),測定値の再現性が高い.b:固視不良な場合(中心窩陥凹未検出),測定値の再現性が低い. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151233(5)IIIIOL定数と最適化計算式から考える屈折誤差のもうひとつの戦略は,IOL定数の最適化である.ただし,Haigis式単独使用の際には,3つのIOL定数が最適化されていることが精度には重要である.IOL定数については,次項で述べる.abcN=336N=336Bland-AltmanPlotR=1.000P<0.0001mean:-0.011mmN=404N=404Bland-AltmanPlotR=0.995P<0.0001mean:0.046DN=223N=223Bland-AltmanPlotR=0.958P<0.0001mean:-0.056mm-0.2-0.1Difference(mm)Average(mm)Average(mm)Average(mm)Difference(mm)Difference(mm)0.10.10.2-1.2-0.600.61.2-0.8-0.400.40.820242832394347512.03.04.05.03228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)3228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)5046423838424650IOLMaster500(D)IOLMaster700(D)図3測定値の比較(IOLMaster500vsIOLMaster700)a:AL(PCIvsSS-OCT).b:K値(f2.5mm).c:ACD(スリット方式vsSS-OCT).abcN=336N=336Bland-AltmanPlotR=1.000P<0.0001mean:-0.011mmN=404N=404Bland-AltmanPlotR=0.995P<0.0001mean:0.046DN=223N=223Bland-AltmanPlotR=0.958P<0.0001mean:-0.056mm-0.2-0.1Difference(mm)Average(mm)Average(mm)Average(mm)Difference(mm)Difference(mm)0.10.10.2-1.2-0.600.61.2-0.8-0.400.40.820242832394347512.03.04.05.03228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)3228242020242832IOLMaster500(mm)IOLMaster700(mm)5046423838424650IOLMaster500(D)IOLMaster700(D)図3測定値の比較(IOLMaster500vsIOLMaster700)a:AL(PCIvsSS-OCT).b:K値(f2.5mm).c:ACD(スリット方式vsSS-OCT). aCwHrrフラットなK値標準なK値b実際のaxialpositionピタゴラスの定理Cw2H=r-r2-─()2HCw:角膜高:角膜径r:角膜曲率半径ELPが小さく算出遠視ずれ図4SRK.T式のELP予測a:ピタゴラスの定理.b:SRK/T式で予測されるELP.左:標準なK値,右:フラットなK値.術後屈折:S-1.25DC-1.00DAx105°a2.50AL(mm)N=5702.001.501.000.500.00-0.50-1.00-1.50-2.00-2.5032302826242220bK値(D)N=570SRK/T式-Higis式(D)2.502.001.501.000.500.00-0.50-1.00-1.50-2.00-2.50SRK/T式-Higis式(D)50484644424038図5SRK.T式とHaigis式の予測屈折値の差とALおよびK値a:予測屈折値の差とAL.b:予測屈折値の差とK値.術後屈折:S-0.25DC-1.25DAx40°スティープフラットAL:27.23mmK値:K140.23DK240.66DAL:22.42mmK値:K147.07DK247.67D予測屈折値誤差予測屈折値誤差SRK/T式+0.91DSRK/T式-0.84DHaigis式-0.03DHaigis式-0.06D図6計算式による術後屈折誤差フラットまたはスティープなK値では,SRK/T式では遠視または近視に誤差が生じているが,Haigis式では予測通りの屈折値である.1234あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(6) あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151235(7)で最適化をすることができる.安定したIOL定数を得るには,50眼以上の症例数が推奨されている.当院で最適化を行った各定数(図8)で術後屈折誤差を検討すると,誤差の単純平均値,平均絶対値ともに,50眼以上の定数では統計学的な有意差を認めなかったが,75眼以上の定数で単純平均値0.05D未満,絶対平均値が0.4D未満でより精度の高い結果が得られた.したがってHaigis式ではより多くの症例数(75眼以上)で最適化した定数を使用したほうがよい.IV特殊角膜眼(LASIK,PTK)のIOL度数計算特殊角膜眼(LASIK,PTK)のIOL度数計算では,さらにK値の評価に留意する必要がある.1.特殊角膜眼の誤差要因通常,オートケラトメータでは,傍中心角膜前面(f約3mm)の4点から,角膜前後面の曲率比が一定と仮定した換算屈折率(n=1.3375)を用いてK値を算出している.しかし,LASIKやPTK後では,角膜前後面の比率が変化しているため,オートケラトメータのK値が実際には当てはまらないのが,誤差のもっとも大きな要因である.1.SRK.T式のIOL定数SRK/T式の最適なA定数は,ALやIOL度数によって変化するが6),短から長ALまで同一A定数を使っても屈折誤差が少ないIOLモデルと,短,標準,長ALとそれぞれの定数を最適化しないと屈折誤差が生じるIOLモデルがある.つまり,ALによる誤差傾向は,IOLモデルでも異なるので,使用IOLモデルの誤差傾向を把握しておく必要がある.2.Haigis式のIOL定数ULIBWebサイトでは,日本国内のデータから導き出されたIOL定数(日の丸の表示つき)が日本人には適している7).Haigis式は,計算式のなかで唯一,3つのIOL定数を必要とする.ULIBWebサイトのn欄に記載されている症例数が200眼以下のIOLでは,a0のみが最適化されており,a1,a2はそれぞれ固定値(0.4,0.1)となっているが,定数を3つ最適化することで精度が高まる.したがって,Haigis式を使用する際には,日本のIOL定数で,かつ十分な症例数で最適化された3つの定数を有するIOLモデルを推奨する.3.IOL定数の最適化術前にIOLMasterで生体計測を行っている症例では,挿入したIOLモデルとIOL度数,術後屈折値をIOL-Master本体に入力すると,各計算式のIOL定数を自動当院HofferIOLMasterSRK/T式SRK/T式SRK/T式Holladay2式Holladay2式Holladay式Holladay式Holladay2式HofferQ式Haigis式Haigis式Haigis式HofferQ式3432302826AL(mm)24222018図7各計算式のALに対する守備範囲下:IOLMaster推奨計算式,中:Hoffer推奨計算式,上:当院推奨計算式.報告により各計算式のAL守備範囲は異なるが,Haigis式は,共通して短ALから長ALまでを守備している.N=180IOL定数(Haigis式)IOL定数(SRK/T式)最適化した症例数(眼)(変換値)30027525022520017515012510075503302.00119.1119.1119.11.1100.40.11.1970.8050.0700.3990.6700.122-1.1000.4020.174-0.1500.3500.1820.2150.3590.1660.0100.3290.1770.0260.3420.175-0.0700.3530.178-0.0380.3290.180-0.0700.3140.183-0.3100.3180.193-0.2900.2960.197119.1119.1119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.01.601.200.800.400.00-0.40a0a1a2a0A定数a1a2120.0119.5119.0118.5118.0117.5図8最適化によるIOL定数の変化IOLMaster本体で,箱書きのIOL定数を光干渉用に変換した値を基準に最適化を行った.Haigis式の3つの定数(a0:IOL固有の定数,a1:ACDにかかわる定数,a2:ALにかかわる定数)を最適化するには,AL22mm未満,22以上25mm未満,25mm以上を各11眼以上含むことが条件である.当院HofferIOLMasterSRK/T式SRK/T式SRK/T式Holladay2式Holladay2式Holladay式Holladay式Holladay2式HofferQ式Haigis式Haigis式Haigis式HofferQ式3432302826AL(mm)24222018図7各計算式のALに対する守備範囲下:IOLMaster推奨計算式,中:Hoffer推奨計算式,上:当院推奨計算式.報告により各計算式のAL守備範囲は異なるが,Haigis式は,共通して短ALから長ALまでを守備している.N=180IOL定数(Haigis式)IOL定数(SRK/T式)最適化した症例数(眼)(変換値)30027525022520017515012510075503302.00119.1119.1119.11.1100.40.11.1970.8050.0700.3990.6700.122-1.1000.4020.174-0.1500.3500.1820.2150.3590.1660.0100.3290.1770.0260.3420.175-0.0700.3530.178-0.0380.3290.180-0.0700.3140.183-0.3100.3180.193-0.2900.2960.197119.1119.1119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.0119.01.601.200.800.400.00-0.40a0a1a2a0A定数a1a2120.0119.5119.0118.5118.0117.5図8最適化によるIOL定数の変化IOLMaster本体で,箱書きのIOL定数を光干渉用に変換した値を基準に最適化を行った.Haigis式の3つの定数(a0:IOL固有の定数,a1:ACDにかかわる定数,a2:ALにかかわる定数)を最適化するには,AL22mm未満,22以上25mm未満,25mm以上を各11眼以上含むことが条件である. 1236あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(8)Webサイトは使用できない.よって,筆者はCamellin-Calossi式,OKULIXの2つを主として,IOL度数を決めている.OKULIXは,TMSにも搭載されているが,PTK後の残余角膜混濁に対してはSS-OCTを測定原理としたCASIAがK値の評価に有利と考えている.LASIK眼でのIOL度数計算精度は向上してきたが,PTK眼では結果がばらつく場合もあり,未だ精度は十分ではない.特殊角膜眼では,必ずしも精度のよい計算式が一つと決まっているわけではないので,検討した種々の計算方法のなかから精度のよいものを2つ以上使用するのがよいのではないかと考えている.おわりに現在,計算式においては,ELP予測の問題が残るが,計算式にはまだ改良の余地がある.SS-OCTでは,全2.LASIK後のIOL度数計算方法LASIK眼のIOL度数計算では,K値の評価をどのように行うかがポイントである.計算式(法)には多数の報告があるが,屈折矯正術後専用の計算式を使用する方法,補正したK値または各種角膜形状解析装置推奨のK値(表1)を,通常の計算式か屈折矯正術後専用の計算式で使用する方法がある.施設で所有している機器により計算可能な方法が異なってくる.また,通常の計算式には,ELP予測にK値を用いないHaigis式が理論上は適している.ただし,IOL定数が十分に最適化されていることが条件である.筆者は,表2であげた4つのツールを使用している.そのなかで,Haigis-L式とCamellin-Calossi式を主とし,ほかの計算結果を参照にしながらIOL度数を決定している.3.PTK後のIOL度数計算方法PTK後では,残余角膜混濁によるK値の評価,現疾患(顆粒状角膜変性または帯状角膜変性)による角膜切除量の違い,使用したエキシマレーザー装置による角膜形状変化(不正乱視)の違いなどが,IOL度数予測の問題要素としてあげられる.PTK眼では,前述の4つのツールのうち,PTK眼では,Haigis-L式,ASCRSの表1角膜形状解析装置によるK値機種名測定原理後面K値測定計算に推奨される値OPD-Scan(Nidek)プラチド式─averagepowerinpupil(APP)※2TMS(TOMEY)プラチド式─averagecetaralcorneapower(ACCP)※2プラチド式回転式Scheimpflugカメラ※1可Pentacam(Oculus)回転式Scheimpflugカメラ可Truenetpower(TNP)Orbscan(Bausch&Lomb)スリットスキャン式プラチド式可Totalopticalpower(TOP)CASIA(TOMEY)Swept-SourceOCT可※1回転式Scheimpflugカメラが搭載されているのはTMS-5のみ.※2TMS-4A,4Nは手動で計算,TMS-5は自動で計算される.表2屈折矯正術後のIOL度数計算式(法)計算式(法)搭載機器と計算方法Haigis-L式8)※1使用機器:IOLMaster(CarlZeissMeditec)使用K値:IOLMasterで測定した値IOLMasterでAL,K値,ACDを測定すると,通常の計算と同様で自動で計算されるので簡便であるCamellin-Calossi式9)使用機器:IOL-Station(Nidek)使用K値:OPD-ScanのAPP(3mm)AL,ACD,LTの入力が必要下記のいずれかを入力する①屈折矯正量②(屈折矯正量が不明な場合)CASIA(TOMEY)で測定された中心と直径6mm径の計9箇所の角膜厚OKULIX※2使用機器:CASIA(TOMEY)CASIAで,K値,角膜厚を測定後にOULUX(光線追跡法を用いたIOL度数計算ソフトウエア)を起動させIOLMasterのALを入力すると自動で計算されるASCRS※3のWebサイトhttp://iolcalc.org屈折矯正術(LASIK/PRK/RK)後のIOL度数計算が掲載されている.可能なデータを入力すると,各計算結果とそれらを平均したIOL度数が表示される※1ASCRSWebサイトにも搭載,※2TMSにも搭載.※3ASCRS:AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery.表1角膜形状解析装置によるK値機種名測定原理後面K値測定計算に推奨される値OPD-Scan(Nidek)プラチド式─averagepowerinpupil(APP)※2TMS(TOMEY)プラチド式─averagecetaralcorneapower(ACCP)※2プラチド式回転式Scheimpflugカメラ※1可Pentacam(Oculus)回転式Scheimpflugカメラ可Truenetpower(TNP)Orbscan(Bausch&Lomb)スリットスキャン式プラチド式可Totalopticalpower(TOP)CASIA(TOMEY)Swept-SourceOCT可※1回転式Scheimpflugカメラが搭載されているのはTMS-5のみ.※2TMS-4A,4Nは手動で計算,TMS-5は自動で計算される.表2屈折矯正術後のIOL度数計算式(法)計算式(法)搭載機器と計算方法Haigis-L式8)※1使用機器:IOLMaster(CarlZeissMeditec)使用K値:IOLMasterで測定した値IOLMasterでAL,K値,ACDを測定すると,通常の計算と同様で自動で計算されるので簡便であるCamellin-Calossi式9)使用機器:IOL-Station(Nidek)使用K値:OPD-ScanのAPP(3mm)AL,ACD,LTの入力が必要下記のいずれかを入力する①屈折矯正量②(屈折矯正量が不明な場合)CASIA(TOMEY)で測定された中心と直径6mm径の計9箇所の角膜厚OKULIX※2使用機器:CASIA(TOMEY)CASIAで,K値,角膜厚を測定後にOULUX(光線追跡法を用いたIOL度数計算ソフトウエア)を起動させIOLMasterのALを入力すると自動で計算されるASCRS※3のWebサイトhttp://iolcalc.org屈折矯正術(LASIK/PRK/RK)後のIOL度数計算が掲載されている.可能なデータを入力すると,各計算結果とそれらを平均したIOL度数が表示される※1ASCRSWebサイトにも搭載,※2TMSにも搭載.※3ASCRS:AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151237(9)眼球断層画像が撮影できることによって,新たなELP予測法が近い将来に期待される.文献1)RetzlaffJA,SandersDR,KraffMC:DevelopmentoftheSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.JCataractRefractSurg16:333-340,19902)HaigisW:TheHaigisFormula.Intraocularlenspowercalculations.IOLPower(ShammasHJ),41-57,SLACKIncorporated,NJ,20043)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:眼内レンズ度数計算式による白内障術後予測屈折誤差の比較.臨眼65:687-692,20134)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置AL-Scanの臨床評価(第2報).術後予測屈折誤差と最適化定数の検討.眼科手術26:248-252,20135)比嘉利沙子,魚里博,新井ゆりあほか:Holladay2式,Haigis式,SRK/T式による術後予測屈折値の精度.眼科手術27:261-264,20146)禰津直久:個別A定数からみたSRK/T眼内レンズパワー計算式の検討.臨眼51:911-914,19977)比嘉利沙子:IOL計算式選択のコツとIOL定数.眼科グラフィック24:358-364,20158)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesur-geryformyopia:HaigisLFormula.JCataractRefractSurg34:1658-16639)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,2004■用語解説■ULIB(UserGroupforLaserInterferenceBiome-try)Webサイト:光干渉式AL測定装置専用のIOL定数データベースWebサイト(http://www.augenklinik.uni-wuerzburg.de/ulib/const.htm).IOL度数計算に光干渉で測定したALを使用する場合,光干渉専用のIOL定数を用いる必要がある.第3世代以降の計算式:67年以降の理論式を第1世代,SRK式,SRKII式で代表される回帰式を第2世代と呼ぶ.Holladay式,SRK/T式,HofferQ式,Holla-dayII式,Haigis式が第3世代以降の計算式にあたる.理論式と回帰式の要素を合わせもつ.■ULIB(UserGroupforLaserInterferenceBiometry)Webサイト:光干渉式AL測定装置専用のIOL定数データベースWebサイト(http://www.augenklinik.uni-wuerzburg.de/ulib/const.htm).IOL度数計算に光干渉で測定したALを使用する場合,光干渉専用のIOL定数を用いる必要がある.第3世代以降の計算式:67年以降の理論式を第1世代,SRK式,SRKII式で代表される回帰式を第2世代と呼ぶ.Holladay式,SRK/T式,HofferQ式,HolladayII式,Haigis式が第3世代以降の計算式にあたる.理論式と回帰式の要素を合わせもつ.眼球断層画像が撮影できることによって,新たなELP予測法が近い将来に期待される.文献1)RetzlaffJA,SandersDR,KraffMC:DevelopmentoftheSRK/Tintraocularlensimplantpowercalculationformula.JCataractRefractSurg16:333-340,19902)HaigisW:TheHaigisFormula.Intraocularlenspowercalculations.IOLPower(ShammasHJ),41-57,SLACKIncorporated,NJ,20043)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:眼内レンズ度数計算式による白内障術後予測屈折誤差の比較.臨眼65:687692,20134)比嘉利沙子,魚里博,大内雅之ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置AL-Scanの臨床評価(第2報).術後予測屈折誤差と最適化定数の検討.眼科手術26:248-252,20135)比嘉利沙子,魚里博,新井ゆりあほか:Holladay2式,Haigis式,SRK/T式による術後予測屈折値の精度.眼科手術27:261-264,20146)禰津直久:個別A定数からみたSRK/T眼内レンズパワー計算式の検討.臨眼51:911-914,19977)比嘉利沙子:IOL計算式選択のコツとIOL定数.眼科グラフィック24:358-364,20158)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesurgeryformyopia:HaigisLFormula.JCataractRefractSurg34:1658-16639)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,2004(9)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151237

序説:屈折矯正的な水晶体手術の今

2015年9月30日 水曜日

●序説あたらしい眼科32(9):1229.1230,2015●序説あたらしい眼科32(9):1229.1230,2015屈折矯正的な水晶体手術の今PresentStateofRefractiveCataractSurgery稗田牧*木下茂**白内障手術の進展をふり返ってみると,いかに「効率よく」核を処理するかが追及されたハイバキュームの時代があり,そのカウンターとして正常眼圧白内障手術や低照明白内障手術など患者の眼にやさしいスローサージェリーという考え方の時代を経て,今はさまざまな手術機器の進歩により効率的で眼にやさしい手術ができる時代をむかえている.眼にやさしいというのは,角膜内皮細胞を守るだけでなく,屈折異常による生活の質(QOL)の低下を防ぐ,という意味も含んでのことである.ブレードレスのフェムトセカンドレーザー白内障手術の登場はその象徴的な存在である.トーリック眼内レンズや多焦点眼内レンズが導入されたことで,白内障手術における屈折矯正手術としての側面はますます重視されるようになってきた.術後に乱視を1D未満に減らし,正視(±0.5D)に屈折度を合わせることが求められる手術とは,間違いなく屈折矯正手術である.しかし,多焦点眼内レンズに限れば,その導入される割合は諸外国と比べ低いままに留まっているようだ.わが国においてはレーシックなどの屈折矯正手術を行っている術者の前眼部術者に占める割合が極端に低いことが,屈節矯正的な白内障手術がさほど広がらない原因の一つである.レーシックの技術革新が停滞しているこの5年間に,屈折矯正的な白内障手術はめざましく進歩した.スウェプトソースOCT(swept-sourceopticalcoherencetomography:SS-OCT)で眼底と前眼部を同時に観察しながら,眼軸を含む眼屈折パラメータが測定できるようになり,フェムトセカンドレーザーにより正確無比な正円の水晶体切開が可能となり,乱視軸の軸合わせがマーカレスとなり,手術中に屈折誤差の評価ができるようになった.白内障手術がさらに洗練され屈節矯正精度が上ることが,わが国において高機能レンズがより活発に使用されるためのキーファクターであろう.本年のASCRS(AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery)のライブサージェリーでもっとも印象に残ったことは,術中アベロメータを導入している施設では,白内障手術中に収差を測定して乱視の軸を微調整し,IOL度数を変えるということが通常のこととして行われるようになっているという現実であった.術中測定も以前からアイデアはあるものの臨床応用してメリットがあるまでのレベルがなく放棄されていたが,ライブサージェリーを見る限り,実用的な印象を受けた(実際使うまではわからないが……).もし,術中アベロメータの精度が高くなれば将来はレーシックなどの屈折矯正*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**ShigeruKinoshita:京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)1229 1230あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(2)手術にも導入されることは間違いなく,白内障手術の屈折矯正システムがレーシックを凌駕していると感じた.今回の特集では,白内障手術をとりまく最新の技術の進歩のなかで,やや屈折矯正的側面を重視しながら各エキスパートに解説いただいた.眼内レンズ度数計算から,有水晶体眼内レンズまで,白内障-屈折矯正手術にかかわる者がカバーすべき知識を網羅している.新しい「効率的で眼にやさしい」白内障手術は一見,手間と時間とコストがかかるようにみえるが,そこから得られるものは,より標準化された,よりレベルが高い,患者のみならず術者の満足度を上げる結果をもたらすはずである.

ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン

2015年8月31日 月曜日

12185108,22,No.3《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer.《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer. されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,BTFCが新規に投与された症例についてその処方パターンと眼圧下降効果を検討した.I対象および方法2013年11月.2014年7月に井上眼科病院に通院中で,BTFC(1日2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者117例195眼(男性45例72眼,女性72例123眼)を対象とした.平均年齢は66.8±13.1歳(平均±標準偏差)(26.94歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)140眼,正常眼圧緑内障30眼,続発緑内障16眼(ぶどう膜炎6眼,落屑緑内障4眼,血管新生緑内障4眼,Posner-Schlossman症候群2眼),原発閉塞隅角緑内障6眼,高眼圧症3眼であった.診療録から後向きに調査を行った.BTFCが新規に投与された症例を,BTFCが追加投与された症例(追加群),前投薬が中止となりBTFCが投与された症例(変更群),前投薬が中止となりBTFCが投与されるのと同時にさらに他の点眼薬が追加あるいは変更された症例(変更追加群)に分けた.BTFCが投与された理由について追加群,変更群,変更追加群各々で調査した.3群間で性別,年齢,緑内障病型,眼圧,前投薬数を比較した(c2検定,Kruskal-Wallis検定,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).前投薬数の解析では配合点眼薬は2剤とした.変更群では,DTFCからの変更,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更に分けて,変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらにDTFCからの変更では変更理由を眼圧下降効果不十分と副作用出現に分けて変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果追加群は7例9眼,変更群は100例166眼,変更追加群は10例20眼だった(図1).BTFCが投与された理由は,追加群と変更追加群では全例が眼圧下降効果不十分だった.変更群では眼圧下降効果不十分が90例150眼,副作用出現が10例16眼だった.性別は3群間に差がなかった(p=0.1739,c2検定)(表1).年齢は変更群が追加群に比べて有意に高齢だった(p=0.007,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).病型は原発開放隅角緑内障が変更群で追加群に比べて有意に多かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).眼圧は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に高かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).前投薬は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に少なかった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).(153)変更群の内訳は,DTFCからの変更が43例72眼,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が36例58眼,b遮断点眼薬からの変更が16例28眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が4例7眼などだった(図2).BTFCが投与された理由は,DTFCからの変更では眼圧下降効果不十分が33例56眼,副作用出現が10例16眼だった.副作用の内訳は掻痒感3例5眼,結膜充血2例4眼,刺激感2例3眼,霧視1例2眼,アレルギー性結膜炎1例1眼,めまい1例1眼だった.他の変更群は全例眼圧下降効果不十分だった.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の各々の点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬はイオン応答ゲル化チモロール点眼薬23眼,水溶性チモロール点眼薬9眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬8眼,カルテオロール点眼薬8眼,持続性カルテオロール点眼薬8眼,レボブノロール点眼薬2眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬はブリンゾラミド点眼薬44眼,ドルゾラミド点眼薬14眼だった.組み合わせとしてはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬19眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬8眼,持続性カルテオロール+ブリンゾラミド点眼薬7眼などだった.b遮断点眼薬からの変更症例の点眼薬の内訳は持続性カルテオロール点眼薬15眼,イオン応答ゲル化チモロール点眼薬7眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬4眼,カルテオロール点眼薬2眼だった.炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の内訳はドルゾラミド点眼薬6眼,ブリンゾラミド点眼薬1眼だった.眼圧はDTFCからの変更では,変更前17.9±2.9mmHg,変更1カ月後17.2±3.7mmHg,3カ月後16.4±3.5mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図3).投与された理由別では,眼圧下降効果不十分例では変更前18.2±2.9mmHg,変更1カ月後17.9±3.6mmHg,3カ月後16.8±3.4mmHgで,変更前に比べて変更3カ月後に有意に下降した(p<0.001).副作用出現例では変更前16.5±2.6mmHg,変更1カ月後14.2±3.1mmHg,3カ月後14.8±3.7mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.001).b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では,変更前15.8±3.3mmHgと変更1カ月後15.7±3.5mmHg,3カ月後15.2±3.4mmHgで同等だった(p=0.16).b遮断点眼薬からの変更では,変更前18.0±5.4mmHg,変更1カ月後14.9±3.9mmHg,3カ月後14.9±3.8mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.001).III考按BTFCが新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.緑内障点眼薬治療の第一選択薬は強力な眼圧下降効果,全身性の副作用が少ない点,1日1回あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151219 表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景追加群変更群変更追加群p値点眼の利便性よりプロスタグランジン関連点眼薬が使用されることが多い.今回の195眼のうち前投薬としてプロスタグランジン関連点眼薬が使用されていた症例は170眼(87.2%)であった.プロスタグランジン関連点眼薬で眼圧下降効果が不十分な症例では点眼薬の追加が行われる.追加投与の場合は,b遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬の追加,プロスタグランジン関連点眼薬を中止してプロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への変更が考えられる.今回の症例のうちb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例はプロスタグランジン関連点眼薬との併用が35眼中32眼(94.3%)と多かった.DTFCからの変更,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更でも,プロスタグランジン関連点眼薬との併用症例が130眼中120眼(92.3%)と多かった.配合点眼薬が使用可能となる前は,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬の併用が多かったと思われる.DTFCの登場により,プロスタグランジン関連点眼薬+DTFCの使用症例が増えたと考えられる.今後はプロスタグランジン関連点眼薬+b遮断点眼薬あるいはプロスタグランジン関連点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が増加すると予想される.変更追加群,変更群,166眼,85.1%追加群,20眼,10.3%9眼,4.6%図1追加群,変更群,変更追加群の割合症例性別年齢病型(眼)眼圧(眼)前投薬数(眼)7例9眼100例166眼男性4例,女性3例男性35例,女性65例*54.9±23.5歳68.4±11.3歳(26.82歳)(40.90歳)**続発緑内障:5原発開放隅角緑内障(狭義):120正常眼圧緑内障:28正常眼圧緑内障:2続発緑内障:10原発開放隅角緑内障(狭義):1高眼圧症:1原発閉塞隅角緑内障:6高眼圧症:2****27.3±5.5mmHg(20.35mmHg)17.1±3.7mmHg(7.34mmHg)16.2±2.7mmHg(10.22mmHg)<0.0001****0.1±0.3剤3.1±0.9剤3.0±0.4剤(0.1剤)(1.5剤)(2.4剤)<0.000110例20眼男性6例,女性4例0.173959.2±15.5歳(41.77歳)0.007原発開放隅角緑内障(狭義):19続発緑内障:1<0.0001炭酸脱水酵素その他,257眼,4.2%20151050ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,72眼,43.4%b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬,58眼,34.9%b遮断点眼薬,28眼,16.9%阻害点眼薬,1眼,0.6%図2変更群の内訳眼圧(mmHg)(*p<0.01,**p<0.0001)******ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬b遮断薬変更前変更1カ月後変更3カ月後図3変更群の変更前後の眼圧(*p<0.001,**p<0.0001,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定)1220あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(154) 今回はDTFCからの変更がもっとも多かったが,DTFCからBTFCへ変更した症例の眼圧下降効果が報告されている8).Lanzlらは,各種点眼薬からBTFCへの変更症例を報告した8).ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬単剤からの変更症例(2,937例)では,眼圧は変更前18.5±4.1mmHgに比べて変更後16.5±3.2mmHgに有意に下降した.一方,プロスタグランジン関連点眼薬+ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬からプロスタグランジン関連点眼薬+BTFCへの変更症例(823例)では,眼圧は変更前18.3±5.0mmHgに比べて変更後16.4±3.9mmHgに有意に下降した.今回の調査でも変更により眼圧は有意に下降したが,眼圧下降幅は0.7.1.5mmHgでLanzlらの報告8)(1.9.2.0mmHg)よりやや低値を示した.一方,DTFCとBTFCを別々に投与した際の眼圧下降効果は同等と報告されている9).副作用の比較では刺激感はDTFCに多く8,10),霧視はBTFCに多い10),あるいは同等だった9)と報告されている.一方,プロスタグランジン関連点眼薬/チモロール配合点眼薬においても,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬11.13)あるいはビマトプロスト/チモロール配合点眼薬13)への変更で眼圧が有意に下降したと報告されている.今回,変更により眼圧が下降した理由としてとくに副作用が出現した症例ではアドヒアランスが向上したことや,ドルゾラミドとブリンゾラミドの眼圧下降効果の差が考えられる.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では変更前後で眼圧は変化なかった.Lanzlらは,ブリンゾラミド点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(252例)では眼圧が変更前18.4±3.4mmHgに比べて変更後16.6±2.9mmHgに有意に下降し,ドルゾラミド(2%)点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(73例)では眼圧が変更前18.7±3.5mmHgに比べて変更後16.5±2.9mmHgに有意に下降したと報告した8).変更により点眼ボトル数や点眼回数が減るためにアドヒアランスが向上し,眼圧が下降することが考えられる.今回は変更前後で眼圧に変化がなかったが,元来アドヒアランスが良好な症例が多数含まれていた可能性がある.b遮断点眼薬からの変更では,炭酸脱水酵素阻害点眼薬が追加されたことと同様のため眼圧は有意に下降した.その眼圧下降幅は2.5.3.4mmHg6),3.2mmHg5),4.8mmHg8)と報告されており,今回(3.1mmHg)と同等だった.今回,BTFCの追加群は7例9眼だった.そのなかで前投薬でプロスタグランジン関連点眼薬を使用していた症例は1眼(11.1%)と少なかった.続発緑内障が9眼中5眼(55.6%)と多く,内訳としてぶどう膜炎が3眼,Posner-Schlossman症候群が2眼だった.ぶどう膜炎を発症している症例では,炎症を惹起するプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが使用されたと考えられる.また,白内(155)障手術後の眼圧上昇に対しても.胞様黄斑浮腫を惹起する可能性のあるプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが今後使用されると考えられる.BTFCが投与された理由は,眼圧下降効果不十分と副作用出現だった.今回の後ろ向き研究の問題点として,投与を行った眼科医師は10名以上で,眼圧下降効果不十分の判定基準が定められておらず,個々の医師の判断によるものであった.今回,BTFCが新規に処方された症例の特徴を調査した.DTFCからの変更がもっとも多く,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更が続いた.DTFCからの変更,b遮断点眼薬からの変更では眼圧は有意に下降し,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では眼圧は変化なかったことから,BTFCは良好な眼圧下降効果を有することが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)VanVeldhuisenPC,EdererF,GaasterlandDEetal;TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20146)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20147)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20148)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,2011あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151221 9)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma18:293300,200910)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,11)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え.あたらしい眼科30:861-864,201312)林泰博,檀之上和彦:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼への切り替えによる眼圧下降効果.臨眼66:865-869,201213)CentofantiM,OddoneF,GandolfiS:Comparisonoftravoprostandbimatoprostplustimololfixedcombinationsinopen-angleglaucomapatientspreviouslytreatedwithlatanoprostplustimololfixedcombination.AmJOphthalmol150:575-580,2010***(156)

ソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度

2015年8月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(8):1213.1217,2015cソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度浪口孝治*1白石敦*1川崎史朗*2溝上志朗*1大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野*2かわさき眼科AccuracyofIntraocularPressureMeasurementbyICareRReboundTonometerforSubjectsWearingSoftContactLensesKojiNamiguchi1),AtsushiShiraishi1),ShiroKawasaki2),ShiroMizoue1)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)Kawasakieyeclinic目的:アイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)は,簡便に測定が可能な点眼麻酔不要の接触型眼圧計である.今回筆者らはソフトコンタクトレンズ(SCL)装用時のアイケアの眼圧測定精度を非接触型空気式眼圧計(NCT),Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較検討した.対象および方法:対象は,眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼,男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳(平均±標準偏差).裸眼でNCT,アイケア,GATで眼圧を測定し,次にSCL装用時に,NCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)で眼圧を測定した.各条件での眼圧値を比較検討した.結果:裸眼での眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgであり,いずれの群間において有意差を認めなかった.SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼と比較して有意に眼圧が低かった.SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの比較においては,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)のいずれにおいても強い相関が認められた.結論:SCLNCT,SCL-アイケアの眼圧値はいずれも裸眼に比べ有意に低値であった.SCL-NCT,SCL-アイケアは,いずれにおいてもGATと強い相関が認められた.SCL装用時の眼圧測定として,アイケアは有効な手段であることが示唆された.Purpose:TheICareRReboundTonometer(ICareFinlandOy,Vantaa,Finland)isahand-heldcontact-typetonometerthatallowsforeasymeasurementofintraocularpressure(IOP)withouttheuseofanesthesia.ThepurposeofthisstudywastocomparetheaccuracyofIOPmeasurementbetweentheICareR,anon-contacttonometer(NCT),andaGoldmannapplanationtonometer(GAT)insubjectswearingsoftcontactlenses(SCLs).Patientsandmethods:Thisstudyinvolved20normalsubjects(8malesand12females,meanage:29.6±9.1years).First,wemeasuredIOPusingtheICareR,NCT,andGATinallsubjectswithoutSCLsbeingworn.Then,wemeasuredIOPusingtheIcareR,NCT,andGATinallsubjectswithSCLsbeingworn.WethencomparedtheIOPineachcondition.Results:WithoutSCLs,nosignificantdifferenceinmeanIOPwasfoundbetweenICareR(14.2±2.7mmHg),NCT(13.6±2.1mmHg),andGAT(13.4±2.1mmHg).WithSCLs,themeanIOPwaslowerbyeachtonometerthanthatbyICareRandNCTwithoutSCLs.AstrongcorrelationwasfoundbetweenSCL-NCTandGAT,andbetweenSCL-ICareRandGAT.Conclusion:TheICareRwasfoundtobeandaccurateandeffectivedeviceforthemeasurementofIOPinsubjectswhowearSCLs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1213.1217,2015〕Keywords:アイケア,眼圧,ソフトコンタクトレンズ,Goldmann圧平眼圧計,非接触型空気式眼圧計,中心角膜厚.ICare,intraocularpressure,softcontactlens,Goldmannapplanationtonometer,non-contacttonometer,centralcornealthickness.〔別刷請求先〕浪口孝治:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:KojiNamiguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(147)1213 はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者人口の増加とともに,点眼麻酔を必要とするGoldmann圧平眼圧計(GAT)での眼圧測定は,煩雑であり,1日タイプのディスポーザブルSCLは破棄しないといけないなどの理由から,SCL装用者に対する眼圧測定では,非接触型空気式眼圧計(non-contacttonometer:NCT)の有用性が報告されてきた1).一方で,角膜移植後やアルカリ外傷などの重症眼表面疾患の治療・経過観察過程では,拒絶反応予防,消炎目的にステロイド点眼を長期使用していることが多く,眼圧の経過観察が必須とされている.しかしながらそれらの症例では,角膜上皮保護の目的からSCLを装用していることが多く,開瞼不全や涙液過多などのためNCTでの測定ですら困難な症例も多い.こうしたことから,筆者らの施設では,眼表面疾患例の眼圧測定に,NCTに代わりアイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)を使用する頻度が多くなっている.アイケアは簡便で,瞼裂が狭くても測定が可能な点眼麻酔不要の手持ち接触型眼圧計で,発射されたプローブが角膜と接触して眼圧測定を行う.プローブと角膜とが接触する瞬間のプローブの接近速度は,眼圧の高さに従って減速する仕組みとなっている.眼圧が高くなるほど,プローブはより素早く減速を開始する.また,眼圧が高くなるほどプローブと角膜の接触時間は短くなり,眼圧が低くなるほど長くなるように設計されている.しかしながら,SCL非装用時のアイケア,NCT,GATを比較した報告はいくつかあるが,SCL装用時のアイケアの眼圧測定精度をNCT,GATと比較検討した報告はない.本報告では,SCL装用時の眼圧をアイケア,GAT,NCTの3方法で測定し,測定精度について比較検討した.また,20**18*1614121086420図1各測定機器による眼圧値の比較GATとSCL-NCTに有意差を認める(p=0.02268).NCTとSCL-NCT,アイケアとSCL-アイケアに有意差を認める(それぞれp=0.003061,p=0.01308).(*p<0.05,対応のあるt検定)1214あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015裸眼でのアイケア,NCT,GATによる眼圧と中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)についても比較検討した.I対象および方法インフォームド・コンセントを得られた眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼(右眼)を対象とした.(男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳:平均±標準偏差).まず,SCL非装用時にNCT(CT90,TOPCON社)→アイケア→GATの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.次にSCLを装用し,NCT→アイケアの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.マッサージ効果による眼圧への影響を考慮し,各眼圧測定は30分間隔で行われた.SCLはアキュビューR:Johnson&Johnson(etafilconA,含水率:58%,酸素透過係数:28,レンズパワー:.0.50D;BC8.8mm,中心厚0.07mm)を使用した.いずれの眼圧測定値も3回の平均値を用いた.CCTはスペキュラーマイクロスコピー(SP3000P,TOPCON社)に搭載されている角膜厚計測機能を用いて計測を行った.検討項目は1)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧を比較2)SCL非装用時のNCT,アイケアとSCL装用時のNCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)の眼圧を比較3)SCL非装用時のGATとSCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧を比較4)NCT,アイケア,GATの眼圧値の相関関係5)SCL-NCT,SCL-アイケアとGATの眼圧値の相関関係6)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧値とCCTの相関関係以上の6項目とした.1).3)の項目には対応のあるt検定を使用し,4).6)の項目では,Spearmanの順位相関係数を求めた.いずれの統計学的解析においても有意水準をp<0.05とした.II結果1)SCL非装用時の眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgと,いずれの群間においても有意差を認めなかった.2)SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼に比べ眼圧が有意に低値であった.3)SCL-NCTおよびSCL-アイケアと,GATの眼圧値を比較すると,SCL-NCTとGAT(p=0.02268)で有意な低下を認めた.SCL-アイケアとGATでは有意差を認めなかった(p>0.05)(図1).4)NCT,アイケアと,GATの相関をみたところ,NCTと(148) 191917171515r=0.7338,p<0.001r=0.7610,p<0.001NCT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)13119131197755NCT(mmHg)アイケア(mmHg)図2NCTとGATの相関図3アイケアとGATの相関231921r=0.7946,p<0.0011719510152025510152025r=0.7801,p<0.0011715151313119119757510152025NCT(mmHg)5図4NCTとアイケアの相関SCL-NCT(mmHg)図5SCL.NCTとGATの相関19195101520r=0.6063,p<0.001r=0.2961,p>0.056005505001715131197171513119540045077911131517SCL-アイケア(mmHg)CCT(μm)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151215(149)図6SCL.アイケアとGATの相関r=0.4964,p<0.05CCT(μm)600550500450400252015105図8アイケアとCCTの相関図7GATとCCTの相関CCT(μm)600550500450400255図9NCTとCCTの相関r=0.6978,p<0.05201510 GAT(r=0.7338,p<0.001),アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた.(図2~4)5)SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの相関をみたところ,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた(図5,6).6)CCTの平均は515.7±39.9μm(平均±標準偏差)であった.GATとCCTとの間には相関を認めなかった(r=0.2961,p>0.05)が,アイケアとCCTにやや弱い相関を認め,(r=0.4964,p<0.05)NCTとCCTには強い相関を認めた(r=0.6978,p<0.001)(図7~9).III考察アイケアは,スイッチを押すとプローブが発射され,角膜と接触する.プローブと角膜が接触した瞬間にプローブの速度は,眼圧の高さに従って減速する.その減速度を分析し眼圧を測定する仕組みになっている.アイケアの測定精度について正常群および緑内障群を対象に行われた豊原らの報告では,アイケアとGATによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたとしている(正常群:r=0.785,p<0.001,緑内障群:r=0.761,p<0.001)2).また,アイケアとNCTによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたと報告されている(正常群:r=0.786,p<0.001,緑内障群:r=0.886,p<0.001).今回正常群を対象とした筆者らの報告でも,アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)による眼圧値では強い相関が認められた.また,アイケアの眼圧値の平均はGATと比較してアイケアのほうがGATより高いとの報告もあるが2,3),今回の筆者らの報告ではアイケアとGATの眼圧値に有意差は認めなかった(p=0.4253).今回アイケアとGATの眼圧値に有意差を認めなかった理由としては,既報の角膜厚の平均が552.6±29.6(496.613)μmであったのに対して,今回検討を行った対象症例では角膜厚の平均が515.7±39.9(463.565)μmと比較的角膜厚が薄かったことが考えられる.以前よりNCT,アイケアの眼圧値においてCCTによる影響が指摘されているが,最近の報告では角膜曲率半径・角膜粘弾性が眼圧値に強く影響するという報告もある4).Gulerらは,NCTとCCT(r=0.327,p<0.001),アイケアとCCT(r=0.212,p<0.05)に相関を認め,CCTが10μm厚くなるとNCTは0.33mmHg,アイケアは0.18mmHg眼圧値が上昇すると報告している5).筆者らの報告でも,NCTとCCT(r=0.4964,p<0.05),アイケアとCCT(r=0.6978,p<0.05)に相関が認められた.圧平原理に基づく眼圧測定においては,角膜の変形しやす1216あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015さが眼圧測定の正確さに反映される.角膜の変形しやすさは,おもに角膜曲率半径・中心角膜厚・角膜粘弾性などの角膜因子の個体差によって影響される6).水分含有量の多い生体組織である角膜は,外力に対して瞬間的には弾性の反応を示すが,時間依存的には弾性ではなく粘性も併せもつ粘弾性という特性をもっている.短時間で角膜を圧平した場合は硬くて変形しにくいが,比較的長時間連続して力を加えるとゆっくり変形し,力を緩めるとゆっくり元に戻る.そのため,瞬間的に角膜を圧平するNCTやアイケアではGATより角膜粘弾性の影響を受けやすいと考えられる.CCTの眼圧値への影響については,GAT<アイケア<NCTの順で影響を受けやすいという報告が多い.NCTではairpulseを数ミリ秒単位で噴出し,角膜を圧平するが,その平坦面が直径3.60mmの円になるのに要する時間を測定し,眼圧を算出している.そのため,アイケアに比較して圧平面積が大きく,角膜厚や角膜粘弾性の影響を受けやすくなると考えられる.今回の報告でもCCTとの間にNCTのほうがアイケアより強い相関を認め,既報と同様にアイケアよりNCTのほうがCCTによる影響を受けやすい可能性が示唆された.アイケア,NCTそれぞれのSCL装用眼での眼圧値についてはさまざまな報告がなされている.NCTではSCL装用時に眼圧値は低下し,その値はレンズパワーやSCLの素材によっても変化すると報告されている7).Zeriらはアイケアの眼圧値はシリコーンハイドロゲルのSCLでは差がなく,ハイドロゲルのSCLでは眼圧値が低下すると報告しており,NCTと同様にSCLの素材とレンズパワーによって眼圧値が変化するとしている8).稲葉らは含水率による影響についても言及しており,低含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値に差がない,高含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値が低下すると報告している7).NCT,アイケアでSCL装用時に眼圧値が変化した要因としては,SCLを装用することにより眼表面の曲率半径が変化したこと,SCL装用により見かけ上の角膜厚が変化したこと,SCLを含めた角膜表面の剛性が変化したことにより角膜粘弾性が変化したこと,などが考えられている.自験例でも既報と同様に高含水率のハイドロゲルSCLを使用しNCT・アイケアの眼圧値が低下した.SCL装用により角膜全体の厚みは増したはずであるが,眼圧値は低下している.この理由としては,SCL装用による角膜全体の厚みの増加による影響よりも,角膜曲率半径が低下したこと,角膜粘弾性が変化したことなどが眼圧値に影響したからではないかと考えられる.SCL装用後のアイケアとGATに有意差は認めなかったが,SCL装用後のNCTの測定値はGATに比較して有意に低下することがわかった.この理由としては,SCL非装用(150) 時と同様にNCTに比べアイケアは,圧平面積が小さく,角膜厚,曲率半径,角膜粘弾性の影響を受けにくくなっていることなどが理由として考えられる.今回筆者らはSCL装用前と装用後の曲率半径を測定しなかったが,UlfaらはSCL装用時と非装用時の曲率半径を計測し.5.0D,.0.5D,SCL非装用時,+5.0Dにおいて,それぞれ角膜曲率半径が8.3±0.86,7.59±0.73,7.52±0.58,6.94±0.6と変化すると報告している9).SCL非装用時と.0.5DのSCL装用時の曲率半径の差はわずかであり,今回の筆者らの報告では曲率半径が眼圧値にどの程度影響を与えたのか考えることはむずかしい.曲率半径の眼圧値への影響を詳細に示すためには今後さまざまなレンズパワーを用いて眼圧を測定し,曲率半径と眼圧値との相関をみる必要がある.以上,まとめとしてアイケア,NCT,GATを比較して眼圧値には強い相関が認められた.アイケアは眼圧測定において有用であることがわかった.また,SCL装用眼ではアイケアの眼圧値は装用前に比べて低下するが,GATの測定値と比べて有意差はなく,SCL装用時の眼圧測定としてもアイケアは有用である可能性が示唆された.文献1)LiuYC,HuangJY,WangIJ:Intraocularpressuremeasurementwiththenoncontacttonometerthroughsoftcontactlenses.JGlaucoma20:179-182,20112)豊原勝利,井上賢治,若倉雅登ほか:アイケア手持ち眼圧計,Goldmann圧平式眼圧計,ノンコンタクト眼圧計の比較.あたらしい眼科24:355-359,20073)FernandesP,Diaz-ReyJA,QueirosA:ComparisonoftheICarereboundtonometerwiththeGoldmanntonometerinanormalpopulation.OphthalmicPhysiolOpt25:436-440,20054)ShinJ,LeeJW,KimEA:Theeffectofcornealbiomechanicalpropertiesonreboundtonometerinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol159:144154,20155)GulerM,BilakS,BilginB:ComparisonofintraocularpressuremeasurementsobtainedbyIcarePROreboundtonometer,andGoldmannapplanationtonometerinhealthysubjects.JGlaucoma,2014Sep26(Epubaheadofprint)6)鈴木克佳,相良健,西田輝夫:眼圧測定の問題点真の眼圧値を求めて.臨眼63:1571-1576,20097)稲葉昌丸:コンタクトレンズ上の眼圧測定.あたらしい眼科25:945-947,20088)ZeriF,CalcatelliP,DoniniB:Theeffectofhydrogelandsiliconehydrogelcontactlensesonthemeasurementofintraocularpressurewithreboundtonometry.ContLensAnteriorEye34:260-265,20119)RimayantiU,KiuchiY,UemuraS:Ocularsurfacedisplacementwithandwithoutcontactlensesduringnon-contacttonometry.PLoSONE9:e96066,2014***(151)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151217

唾液α-アミラーゼ活性測定による白内障手術と涙囊鼻腔吻合術とのストレス評価比較

2015年8月31日 月曜日

《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(8):1205.1211,2015c唾液a-アミラーゼ活性測定による白内障手術と涙.鼻腔吻合術とのストレス評価比較久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科UseofSalivaryAmylasetoEvaluateSurgicalStressRelatedtoDacryocystorhinostomyandCataractSurgeryMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospital筆者らはココロメータ(ニプロ)を用い,超音波白内障手術(IOL)と涙.鼻腔吻合術鼻外法(DCR)患者の術前および術後のストレス値の測定を行い,周術期のストレス状態の比較検討と同時にココロメータの有用性を検討した.症例はIOL男性11例,女性17例,計28例,DCR男性13例,女性18例,計31例.手術30分前・後に血圧,心拍数測定およびココロメータでストレス値を測定した.IOL前後,DCR前後のストレス平均値は42.8から73.8KU/L.ストレス値が61KU/L以上の緊張の強い症例は20.40%台だった.手術前のストレス値は,手術中・後の血圧の上昇や心拍数亢進と相関せず,他覚的および患者の自覚症状とも一致しなかった.IOLとDCRの術前不安および術後疼痛は,ほぼ同等と考えられた.ココロメータの測定は簡便で,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人に,手術前と術後の対策で苦痛軽減ができると考えられた.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheuseofsalivaryamylaseactivity(sAMY)toevaluatethechangesintheamountofpre-andpostoperativestressinpatientsundergoingdacryocystorhinostomy(DCR)andcataractsurgery(CS).Methods:Inthisstudy,weevaluatedtheperioperativechangesinsAMYbyuseoftheCocoroMeter(NIPRO,Osaka,Japan)portablestressmeteratbeforeandaftersurgeryandassessedthebloodpressureandheartratein59patientsbeingtreatedattheFukiageEyeClinic,Hachinohe,Japan.TheDCRgroupincluded31cases(13malesand18females),andtheCSincluded28cases(11malesand17females).Results:ThelevelofsAMYrangedfrom42.8to73.8KU/L.ThehighersAMYgroup(>61KU/L)occupiedfrom27-41%inbothgroups.NosignificantdifferencewasfoundbetweenthelevelofsAMYamongsexandtypeofsurgery.Conclusion:Wewereabletosuccessfullyreducesurgery-relatedpatientstressandpainbyuseofthesAMYlevel.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1205.1211,2015〕Keywords:白内障手術,涙.鼻腔吻合術,唾液アミラーゼ,心理ストレス,ココロメータ.cataractsurgery,dacryocystorhinostomy,salivaryamylase,psychologicalstress,cocorometer.はじめに近年,涙道手術が普及し涙.鼻腔吻合術鼻外法(dacryocystorhinostomy:DCR)が増加している.眼科で多く行われている超音波白内障手術(intraocularlens:IOL)と比較して,どちらが術後痛いのだろうかと患者に問われることも多い.これまで手術法の評価は,成功率や手術時間について論議されることが多く,患者の手術後の痛みについては客観的な評価が困難であり,考慮されることは少なかった.また,検索した限りでは,眼科手術において患者の疼痛評価を定量的に考察した報告はなかった.しかし,眼科医療の質の向上のためにも,患者の疼痛を軽減することは重要である.そのためには,患者の疼痛の状態を客観的に評価する必要があり,さらに定量的に評価可能であれば,治療法の選択などに有用〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上2丁目10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(139)1205 と考える.周術期ストレスの主要因子の一つである痛み1,2)については,患者の主観的な感覚であるため,客観的に評価することはむずかしい.そのため,問診や視覚的評価スケール方法(VAS法)などの主観的な評価法3)や,血液や尿中のカテコラミンやコルチゾールを測定する客観的な生化学的方法などにより,間接的に痛みの状態を評価する方法が応用されてきた4).近年,唾液a-アミラーゼが交感神経活動の指標になることがわかり,痛みを含めたストレスの有用な指標と考えられている4,5).加えて近年,安価で簡便な唾液a-アミラーゼ活性の測定機器(以下,ココロメータ)が販売され,ストレスの数値化が簡便に行えるようになった5).そこで,今回筆者らは,ココロメータを用いIOLおよびDCR患者の術前および術後のストレス値の測定を行い,周術期のストレス状態の比較検討をすると同時に,ココロメータの有用性を検討した.I対象および方法対象は2003年5月.2003年8月および2013年5月.2013年8月に,当院が手術を行ったIOL症例(男性13例,女性18例),DCR症例(男性16例,女性29例)を対象とした.両眼を行う症例では最初の症例眼のみを対象とし,他方眼は対象から除いた.涙液メニスカスが減少し,Sjogren症候群が明らかに疑われる症例はいなかった.ストレス値測定で手術前後に1回以上測定不能だったIOL男性2例(15%),女性1例(6%),DCR男性3例(19%),女性11例(38%)を除いた.IOL群で男性11例,女性17例,計28例,DCR群は男性13例,女性18例,計31例を検討対象とした.測定項目は性別,年齢,手術30分前・中・手術30分後の血圧と心拍数.手術前後30分のストレス値である.血圧は,収縮期血圧が165mmHg以上または拡張期血圧が95mmHg以上で高血圧とし,心拍数は90以上で異常とした.看護記録より,患者の緊張が他覚的に観察されたり,「緊張している」「緊張していた」とコメントがあれば,手術前・中・後に「緊張状態」ありとした.Schirmerテストは今回行っていない.ストレス値の測定後に血圧・心拍数測定を行い,指示がある症例で前投薬の筋肉注射を行った.DCR6)については,鼻にパッキングが入った状態で手術前,手術後の測定を行った.各群の検討項目は,①平均年齢,②手術時間とストレス値,③前投薬,術中の投薬,④術中の高血圧発生頻度,⑤心拍数亢進の発生頻度,⑥緊張状態の発生頻度,⑦各群のストレス平均値,⑧各群のストレス高値症例の比率,⑨手術前にストレス値が正常の症例,高い症例の2群の手術前・中・後の血圧・心拍数・緊張状態の変化,⑩測定不能例の出現頻度1206あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015である.平均値の比較は,t-testで行い,2群間の比率の比較はc2検定,Fishers’stestを行い検定有意水準p<0.05で有意とした.すべての手術は,局所麻酔下で行った.外来処置中(白内障手術では,術前抗菌薬の涙.洗浄時,DCRでは鼻内のパッキング時)に,視診で患者の緊張度を判断して前投薬のアタラックスPRの筋肉下注射を指示した.手術中に緊張が高い場合は,ドルミカムRおよびソセゴンRの希釈溶液を側管より静注した.血圧が高い場合は,同様にペルジピンRを使用した.白内障手術の手順は以下のとおりである.11時部位の結膜を3.4mm程度切開し,止血後に2mlの2%キシロカインRでTenon.下麻酔を行った.2.65mmスリットナイフで強角膜にて前房に進入し,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成させた.ハイドロダイジェクション後にフェイコチョッパーにて白内障の核を除去し,皮質を吸引し,カートリッジなどを用いて眼内レンズを.内に挿入し,眼圧調整後に結膜を凝固し,エリスロマイシン・コリスチン眼軟膏で封入し眼帯した.DCR鼻外法は,手術前に半切したベスキチンFRとnasaldressingRを鼻内に留置した.高周波メスで皮膚切開を行い,骨窓はドリルおよび骨パンチで作製した.涙.および鼻粘膜は前弁,後弁をそれぞれ作製し,吻合した.鼻内に留置したものは1週間後に抜去した.全例シリコーンチューブ留置術を併用した6).唾液アミラーゼ測定機器ココロメータ7)は,本体とアミラーゼ試験紙が付いた使い捨てのテストストリップで構成される.測定方法は,テストストリップの先端を舌下部に入れ,30秒間唾液を採取する.次に唾液を採取したテストストリップの後部を一段階引っ張り,ココロメータホルダー内に挿入する.ディスプレイの指示に従いレバーを操作すると,アミラーゼ試験紙が唾液採取紙に押し付けられ唾液が転写され,30秒後にストレス値の結果が数値とアイコンにて画面に表示される.ココロメータの測定精度については,R2=0.988変動係数10.2%と報告され7),61KU/L以上を高値とした.また,測定時に唾液採取ができない場合は「エラー」の表示となり,今回は「測定不能」とした.II結果平均年齢はIOL群で男性75.4±5.71歳,女性69.4±9.49歳.DCR群で男性63.7±19.4歳,女性69.0±7.90歳だった.IOL男性群とIOL女性群との間に有意差を認めた(p=0.037,unpairedt-test).IOL群男性とDCR群男性との間にも有意差を認めた(p=0.034,unpairedt-test)(表1).(140) 手術時間は,IOLでは結膜切開から最後の結膜凝固までとし,DCRでは,皮膚切開から最後の皮膚縫合終了までとした.IOL男性で15.1±2.1分,女性で17.5±6.0分だった.DCRでは男性44.2±6.5分,女性で41.8±6.4分だった,男女での手術時間には,有意差はなかった.IOL症例内およびDCR症例内では手術時間と手術後のストレス値との相関はなかった.手術前の前投薬と手術中の投薬は,DCR女性群でソセゴンRを多く使用している傾向があったが有意差は認めなかった(表2).高血圧を示した症例数を表3に示した.IOL女性群で,手術中の高血圧の発生頻度が高く,手術前・後と比較して有意な差を認めた(手術中と手術前の比較でp=0.027,手術中と手術後の比較でp=0.004,Fisher’stest).しかし,他の群では手術中の高血圧の発生率に,有意差を認めなかった.また,発生率が低いDCR女性群と,高いIOL女性群との間で有意差は認めなかった.心拍数が亢進した症例数を表4に示した.DCR女性群は手術中に心拍数の上昇を高い確率で示し,手術前との有意差を認めた(手術中と手術前の比較でp=0.0076,Fisher’stest).DCR女性群とIOL女性群との間に有意差は認めなかった.DCRの手術前の緊張状態は,男性女性ともに,IOLの緊張状態より有意に高かった.手術中・手術後については,有意差を認めなかった(表5).ストレス値は,IOL群は手術前で男性46.8±41.8KU/L,女性54.5±55.1KU/L,手術後で男性38.4±41.7KU/L,女性55.6±44.1KU/Lで,手術前後,男女間で有意な差は認めなかった(図1).DCR群では,手術前で男性73.8±49.7KU/L,女性50.3±42.1KU/L,手術後で男性53.5±33.5KU/L,女性50.8±47.7KU/Lだった.手術前後で有意な差を認めず,男女差も認めなかった.DCR男性群の手術前のストレス値が高かったが,IOL男性群との差は認めなかった(図2).ストレス値が61KU/L以上,同未満で2群に分類すると2),手術前・手術後で高いストレス値の症例が占める割合は20.40%台で,IOL女性群が術前・術後ともに高値だったが,有意な差は認めなかった(表6).手術前のストレス値を61KU/L以上,同未満で2群に分類し,手術前・中・後の血圧および心拍数が亢進した症例表1症例の平均年齢IOL群(歳)DCR群(歳)男性75.4±5.71*63.7±19.4女性69.4±9.4969.0±7.90*p<0.05unpaired-ttest*IOL男性群は,DCR男性群より有意に高齢であった.・女性群で,有意差を認めなかった.表2前投薬と手術中の投薬についてアタラックスPRドルミカムRソセゴンRペルジピンR合計(例)IOL群男性女性711121401121117DCR群男性女性712121413051318Fisher’stest・DCR女性群で,ソセゴンを多く使用している傾向があったが有意差は認めなかった.表3高血圧を示した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性女性1147*101117DCR群男性女性1645221318*p<0.05Fisher’stest*IOL女性群の手術中の高血圧の発生頻度は手術前および手術後より有意に高かった(手術中と手術前でp=0.027,手術中と手術後でp=0.04).・IOL女性群とDCR女性群との間に有意差を認めなかった.表4心拍数が亢進した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性女性0204001117DCR群男性女性0027*101318*p<0.05Fisher’stest・DCR女性群のの手術中の心拍数の上昇の発生頻度は手術前と比較すると手術前より有意に高かった(p=0.076).・DCR女性群は,IOL女性群と有意差を認めなかった.(141)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151207 表5緊張状態を示した症例手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)IOL群男性00011女性00017DCR群男性52113女性74318****p<0.05,**p<0.05Fisher’stest*男性群は,DCR群で緊張状態を示した症例が有意に多かった(p=0.041).**女性群は,DCR群で緊張状態を示した症例が有意に多かった(p=0.0076).男性女性ストレス値180160140120100806040200ストレス値(KU/L)手術前手術後200180160140120100806040200手術前手術後(KU/L)手術前手術後男性73.8±49.7KU/L53.5±33.5KU/L有意差なし女性50.3±42.1KU/L50.8±47.7KU/L有意差なし図2DCR群の男性群と女性群のストレス値の手術前後の変化数,緊張状態となった症例数,手術後に高ストレス値を示した症例数を検討した(表7).手術前ストレス値で,手術前の高血圧および心拍数亢進で有意差を認めなかった.手術前ストレス値と,手術中の投薬頻度,高血圧発生頻度・心拍数の亢進を認めた頻度に差を認めなかった.IOL男性群で前投薬を指示した比率と,DCR女性群で手術後も高ストレス値であった比率に有意差を認めた.手術前ストレス値の高い女性が,手術前に緊張状態を認めた割合がIOLよりDCRのほうが有意に高かった.各群でのココロメータの測定不能例の出現頻度は,DCR女性群が高く(38%),IOL女性群との有意差を認めた(p=0.017.Fischer’stest).また,IOL群とDCR群での比較で1208あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015男性女性ストレス値ストレス値050100150200250手術前手術後(KU/L)手術前手術後(KU/L)180160140120100806040200手術前手術後男性46.8±41.8KU/L38.4±41.7KU/L有意差なし女性54.5±55.1KU/L55.6±44.1KU/L有意差なし図1IOL群の男性群と女性群のストレス値の手術前後の変化表6手術前後で高いストレス値(61KU.L以上)を示した症例手術前手術後合計(例)IOL群男性3311女性7817DCR群男性5513女性5418Fisher’stest統計学的に有意な差は認めなかった.も,有意な差を認めた(p=0.047.Fischer’stest)(図3).測定不能例のDCR女性群内での年齢別頻度では(表8),年代別に有意差はなかった.測定不能だったDCR女性群(測定不能群)11例の内訳は,手術前のみ1例,手術後のみ8例,両方が2例だった.測定不能群とDCR女性群症例(測定可能群)18例の手術前・中・後の高血圧の発生頻度には有意差を認めなかったが,測定不能群は測定可能群に比較して手術中に高血圧が発生する傾向を示した(p=0.057)(表9).III考察生理学的にストレスという反応をみると,1)視床下部.下垂体.副腎皮質(hypothalamus-pitcitary-adrenal:HPA)系と2)交感神経.副腎髄質系(sympathetic-adrenal-medul-lary:SAM)系の2つがある(図4).最近では,唾液a-アミラーゼの分泌は,交感神経活動の亢進とよく相関しているので,とくにSAM系の活動に依存していると考えられてい(142) 表7手術前ストレス値の高い症例,低い症例の手術前・手術中,手術後の投薬・血圧変化・心拍数の変化,ストレス値および緊張状態の推移IOL男性手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)IOL女性8100**p=0.006000083220000121000単位(例)0083低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)DCR男性5601110086432200420000単位(例)00107低い(<60KU/L)高い(≧61KU/L)DCR女性5201003275311111322001単位(例)1085手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態手術前ストレス値手術前手術中手術後合計前投薬HTHR緊張状態投薬HTHR緊張状態高ストレス値HTHR緊張状態低い(<60KU/L)104049243100113**高い(≧61KU/L)2203*533132025*IOL女性手術前ストレス値が高い人と有意差ありp=0.045**p=0.044単位(例)緊張状態:看護士が「患者は緊張している」と観察したり,自ら「緊張している」と言った場合.高ストレス値:ストレス値が61以上であれば高ストレス値とした.45表8DCR女性群内での年齢別の測定不能例40年齢40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代35発生例(頻度)0325130症例数(例)066161Fisher’stest25・年齢によるエラー率に有意な差を認めなかた.2015表9DCR女性群内での測定可能群と測定不能群での高血圧の頻度10手術前(例)手術中(例)手術後(例)合計(例)測定可能群652185測定不能群472110IOLIOLDCRDCRc2検定男性群女性群IOL群男性群女性群DCR群測定不能群;ココロメーターでエラーが出た症例図3各群での測定不能率測定可能群:ココロメーターで測定可能だった症例*DCR女性群は,IOL女性群より有意に測定不能率が高かった手術前・中・後で2群間に有意な差を認めなかった.(p=0.017.Fischer’stest).測定不能群は測定可能群に比較して手術中に高血圧が発生する★DCR群はIOL群より有意に測定不能率が高かった(p=0.047.傾向を示した(p=0.057).Fischer’stestで有意な差を認めた).ココロメータのエラー率(%)*★(143)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151209 心理的ストレス大脳皮質,大脳辺縁系身体的ストレス視床下部SAM系HPA系交感神経活動↑下垂体(ノルアドレナリン)(ACTH)副腎髄質副腎皮質(アドレナリン,ノルアドレナリン分泌↑)(コルチゾール分泌↑)唾液腺唾液a-アミラーゼ分泌↑直接神経作用ホルモン作用心理的ストレス大脳皮質,大脳辺縁系身体的ストレス視床下部SAM系HPA系交感神経活動↑下垂体(ノルアドレナリン)(ACTH)副腎髄質副腎皮質(アドレナリン,ノルアドレナリン分泌↑)(コルチゾール分泌↑)唾液腺唾液a-アミラーゼ分泌↑直接神経作用ホルモン作用図4ストレス応答系と唾液a-アミラーゼ分泌の関係る.SAM系を介した唾液a-アミラーゼ分泌促進には,カテコラミン分泌に伴うホルモン作用(間接作用)と交感神経からの直接神経作用によるものがある.以上のことから,唾液a-アミラーゼはSAM系の活動の指標とともに,間接的な交感神経活動の指標となっている.そのため,唾液a-アミラーゼを測定することにより,ストレスの強度を推測することが可能と考えられる.術者の視点で侵襲度という観点でストレスを考慮していたが,患者のストレスについて考察されることは少なかった.手術を受ける前の不安や手術後の痛みを主とするストレスは,ストレスにより上昇する唾液a-アミラーゼを簡便に測定できるようになったことで評価が可能となった.ココロメータでのストレス値測定は,簡便で,血圧や心拍数の変動に現れない患者のストレスを推測するのに有用であった.逆に交感神経系のマーカーと従来から重要視されている血圧および心拍数に異常が出なかった.理由としては,高血圧治療薬を服用している患者が多く,普段の内服薬により血圧上昇および心拍数の亢進が抑えられたためと考えた.ストレス値は,術前不安および術後創痛の程度を反映していると考えられる6,7).ココロメータはストレスが加わって最大値を示すまでの時間は10分以内,復帰するのに20分程度であり,心拍などと比べてもストレス負荷に対して比較1210あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015的早い応答が観察される8)と報告されている.よって今回の手術前のストレス値は術前不安を,手術後30分経過して測定した術後のストレス値は,術後の創痛の程度を反映していると思われる.手術前のDCR鼻外法での鼻内処置には,ボスミンRを使用せず,手術中の止血用にボスミンR外用液0.1%を希釈して用いたが,それによる明らかな血圧上昇例はなくストレス値に影響はないと考えた.各手術のストレス値の平均値は,術前,術後,性別,手術別に有意な差を認めなかった.高ストレス値を示した症例の割合も,有意差を認めなかった.ストレス値が測定できた症例のなかでは,IOLとDCRのストレス値は同等と考えられ,ストレス値からは2つの手術の術前不安および手術後疼痛は同等であると考えられた.ココロメータによる唾液a-アミラーゼ測定の有用性は,術前のストレス度を測定することによって疼痛軽減を主にした術後ストレスケアへの準備を容易にする点にあると考える.理由として,手術前ストレス値が低いグループと高いグループで分けて手術前・中・後と経過を追うと,DCR女性群で,手術前にストレス度が高い症例は,IOL群に比べて,緊張状態が有意に高く,手術後のストレス度も高かった.つまり,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人は,手術前に不安が強く,手術後に疼痛によりストレス度が高かったと(144) 考えられ,このような症例に対しては手術前に不安対策を,手術後早期に疼痛対策を行えば,患者の苦痛軽減ができると考えられる.ココロメータは簡便にストレス度が測定でき,前述した有用性がみられるが,測定不能例が無視できない率でみられることが短所の一つである.ココロメータの測定不能率に関しての報告は,1報告9)のみで手術当日34例中13例(38%)が測定不能と報告されている.今回の測定でも,DCR女性群の測定不能率が38%と高く,手術当日の測定不能率が高いと思われた.測定不能群で高血圧の出現頻度が高い傾向を認め(p=0.057)(表7),測定不能の原因は,強い緊張による唾液減少が強く関係すると考えた.麻酔導入中では,唾液a-アミラーゼ活性の変動は,平均血圧や心拍数の変動と同調,相関すると報告10)され,深い沈静の状態では,痛みにより最初に唾液a-アミラーゼ活性が上昇すると報告11)されているが,今回は,唾液a-アミラーゼ活性の変動と血圧および心拍数の変動とが相関しているかどうかは確認できなかった.ストレス測定をより頻回に行うか,連続的に測定可能となれば,何らかの関係性が明らかになると思われた.IOLとDCRの術前不安および術後疼痛は,ほぼ同等と考えられた.ココロメータの測定は簡便で,DCR女性群で手術前ストレス値が高い人に,手術前と術後の対策で苦痛軽減ができると考えられる.欠点として,手術後の測定不能率が高かった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)本馬周淳:周術期ストレス緩和への取り組み(1)内視鏡下および開腹胆.摘出術前後のストレス度比較.バイオメディカル・ファジイ・システム学会誌14:65-70,20122)本馬周淳:周術期ストレス緩和への取り組み(2)整形外科手術にみる周術期ストレスの検討.バイオメディカル・ファジイ・システム学会誌14:1-5,20123)成田紀之,平山晃康:痛みの評価スケール.日本医師会雑誌143:88-89,20144)山口昌樹:唾液マーカーでストレスを測る.日薬理誌129:80-84,20075)廣瀬倫也,加藤実:唾液を検体とした新しいストレス評価法─唾液クロモグラニンAおよび唾液a-アミラーゼ活性によるストレス評価.臨床検査53:807-811,20096)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,20057)山口昌樹,花輪尚子,吉田博:唾液アミラーゼ式交感神経モニタの基礎的性能.生体医工学45:161-168,20078)山口昌樹,金森貴裕,金丸正史ほか:唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか.医用電子と生体工学39:234-239,20019)藤井宏二,石井亘,松村博臣ほか:疾患と侵襲:病態からみたストレスの比較─唾液アミラーゼ活性を測定して.診断と治療11:1884-1886,201010)廣瀬倫也,加藤実:唾液a-アミラーゼ測定器─唾液aアミラーゼの特性と疼痛評価への応用について─.麻酔58:1360-1366,200911)FujimotoS,NomuraM,NikiMetal:Evaluationofstressreactionsduringuppergastrointestinalendoscopyinelderlypatients:assessmentofmentalstressusingchromograninA.JMedInvest54:140-145,2007***(145)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151211

治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1201.1204,2015c治療に苦慮した乾癬ぶどう膜炎による続発緑内障の1例田川小百合*1陳進輝*1田川義晃*1新明康弘*1大口剛司*1木嶋理紀*1宇野友絵*1石嶋漢*1新田卓也*2南場研一*1石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2回明堂眼科・歯科ACaseofRefractorySecondaryGlaucomaAssociatedwithPsoriaticUveitisSayuriTagawa1),ShinkiChin1),YoshiakiTagawa1),YasuhiroShinmei1),TakeshiOhguchi1),RikiKijima1),TomoeUno1),KanIshijima1),TakuyaNitta2),KenichiNamba1)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Sapporo,Japan,2)Kaimeido-ophthalmologyanddentalclinic症例は45歳の男性で,10数年前より乾癬の診断を受け,数年前から両眼にぶどう膜炎による発作を繰り返し,プレドニゾロン内服とステロイド点眼治療を受けていた.繰り返す発作と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を受診,左眼眼圧のコントロール不良に対し,左マイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した.術後数カ月間にわたる遷延性の低眼圧が持続したため,毛様体機能不全による房水産生能低下を考え,左強膜弁縫合術を行った.その後,左眼眼圧は落ち着いたが,半年後に右眼の続発緑内障をきたし,さらに左眼眼圧の再上昇をきたしたため,前回の経過を踏まえ,右眼に360°suturetrabeculotomy変法,左眼に240°trabeculotomy変法を施行した.右眼の眼圧は良好だったが,3カ月後に左眼眼圧が再上昇したため,左眼濾過胞再建術を追加した.その後は両眼とも眼圧が10mmHg前後と落ち着いている.A45-year-oldmalepatientwhohadbeendiagnosedwithpsoriasisformorethan10yearsandwhohadrecurrentattacksofbilateraluveitiswastreatedwithoralandtopicalsteroidsforseveralyearsatanotherfacility.Hewaslaterreferredtoourhospitalduetoelevatedintraocularpressure(IOP)inhislefteye,andwetreatedthateyebyperformingtrabeculectomywithmitomycinC.Postoperativeocularhypotonycontinuedforseveralmonthsafterthetrabeculectomy.Sincethereductionofaqueoushumorproductionappearedtocausetheocularhypotony,weperformedanadditionalsurgerytosuturethescleralflaptightly.Hisleft-eyeocularhypotonyrecovered,yet6-monthslaterbilateralocularhypertensionemerged.Therefore,weperformedamodified360-degreesuturetrabeculotomyonhisrighteyeandamodified240-degreetrabeculotomyonhislefteye.Asaresult,theIOPinhisrighteyewascontrolled,buttheIOPinhislefteyeincreasedagainafter3months,leadingtoblebreconstructionsurgeryofhislefteye.Consequently,theIOPinbotheyessettledatapproximately10mmHg.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1201.1204,2015〕Keywords:乾癬,ぶどう膜炎,続発緑内障,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術.psoriasis,uveitis,secondaryglaucoma,trabeculectomy,trabeculotomy.はじめに乾癬に伴うぶどう膜炎は,ときに前房蓄膿を伴う前房炎症型の発作を起こし,再発を繰り返すことが知られている1).今回筆者らは,乾癬に伴うぶどう膜炎の続発緑内障に対するマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術(LEC)後に,毛様体機能不全が原因と思われる持続性の低眼圧の症例を経験した.さらにその後両眼の高眼圧を呈したため,右眼に360°suturetrabeculotomy(S-LOT)変法を,左眼に240°のtrabeculotomy(LOT)を施行したので,その経過について報告する.I症例患者:45歳,男性.主訴:視曚感.〔別刷請求先〕田川小百合:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:SayuriTagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita-15,Nishi-7,Kita-ku,Sapporocity,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)1201 既往歴:高血圧症,頸椎圧迫骨折,骨粗鬆症,心筋炎(心不全にて入院加療歴あり),左眼眼内レンズ挿入眼.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:尋常性乾癬の診断を受けてから10数年,シクロスポリンで加療された.数年前に両眼の前部ぶどう膜炎を発症し,乾癬に伴うぶどう膜炎と診断された.その後はステロイド薬の内服と点眼にてコントロールされていたが,繰り返す眼炎症と眼圧上昇のため,北海道大学病院眼科を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.3(0.8×.1.50D),左眼0.2(0.8×.1.25D(cyl.1.25DAx75°).眼圧は右眼13mmHg,左眼22mmHg(アセタゾラミド内服,0.1%ベタメタゾン点眼,緑内障点眼3剤点眼継続下).前眼部所見は右眼2+flare,2+cellsで,右眼のみ全周に虹彩後癒着があり,左眼は2.3+flare,2+cellsであった.隅角所見は,右眼に異常はなく広隅角.左眼は周辺虹彩前癒着が2カ所あり,Shaffer4,色素はScheieIIであった.中間透光体は右眼に軽度の核性白内障を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.右眼の視神経乳頭には緑内障性変化はみられなかったが,左眼は視神経乳頭陥凹比0.7の緑内障性変化を認めた.臨床経過:プレドニゾロン(PSL)5mg内服は継続とし,アセタゾラミド内服および抗緑内障点眼を追加したが,左眼眼圧が40.50mmHgと高眼圧を持続したため,術1週間前よりPSLを20mgへ増量し,左眼にMMC併用LECを施行した.術後矯正視力は左眼(0.7),術後3カ月間の左眼眼圧は3.7mmHgであった.濾過胞は平坦で,浅前房が持続していた.術4カ月後,突然左眼視力低下を訴えて当科を再診した.このときの視力は右眼0.3(0.5×.0.50D),左眼手動弁(矯正不能)で,前房は消失していた.また,濾過胞は平坦で,Seidel現象はみられなかった(図1).超音波生体顕図1左眼前眼部写真(線維柱帯切除術後3カ月)前房は消失し,平坦な濾過胞がみられた.左前房消失左強膜フラップ縫合術左眼濾過胞再建術左眼240°LOT右眼360°S-LOT6050403020100右眼圧左眼圧03カ月6カ月9カ月12カ月15カ月図2経過のまとめMMC併用線維柱帯切除術後に左前房が消失した時点からの治療経過と眼圧の推移.左眼強膜フラップ縫合術後に眼圧は一旦落ち着いたが再び上昇し,両眼に線維柱帯切開術を施行した.その後,左眼はまた眼圧が再上昇したため,左濾過胞再建術を追加した.眼圧(mmHg)1202あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(136) 微鏡検査(UBM)にて,明らかな毛様体の前方回旋は認めず,脈絡膜.離などもみられなかった.粘弾性物質(ヒーロンVR)および空気を計4回前房内へ注入したが,いずれも1週間.10日間で再び浅前房となり,低眼圧を呈した.炎症による毛様体産生機能の著しい低下が原因と考え,ステロイドパルス療法を施行するも,改善はみられなかった.左眼前房消失から1カ月後に結膜を切開して強膜弁を確認したところ,房水の濾過が確認されたため,左眼強膜弁縫合術を施行した.術後の左眼前房は深く保たれ,眼圧も良好となった.その後PSLを徐々に漸減して様子をみていたところ,左眼眼圧が徐々に上昇し始めたため,ドルゾラミド/チモプトール配合点眼,タフルプロスト点眼,ブリモニジン点眼を順次追加した結果,左眼眼圧は10mmHg前後に落ち着いた.しかし,その後右眼眼圧が徐々に上昇しため,抗緑内障点眼やアセタゾラミド内服を追加し,PSLを10mgから20mgへ増量したが眼圧は低下しなかった.右眼に360°S-LOT変法を施行し,右眼眼圧は10mmHg台前半に落ち着いた.しかし,左眼眼圧もほぼ同時期に上昇したため,左眼に240°LOT(180°S-LOT変法+60°金属ロトームによるLOT)施行し,両眼圧とも10台前半に落ち着いた.しかし,その3カ月後,左眼眼圧が45mmHgへ再上昇したため,左眼に濾過胞再建術を施行し,現在まで両眼圧とも良好に経過している(図2).II考按本症例は乾癬に伴うぶどう膜炎に続発した緑内障で,左眼の眼圧コントロールが不良であったため,左眼MMC併用LECを行うも術後持続的な低眼圧に陥った.さらに,経過中に僚眼であった右眼の眼圧上昇もきたしたため,右眼360°S-LOT変法を施行し,眼圧は下降した.一方,左眼は強膜弁閉鎖後に再度眼圧上昇がみられたため,左眼240°LOTを施行したが3カ月後に眼圧が上昇し,最終的に濾過胞再建術を施行して眼圧が落ち着いた.本症例にみられた経過について考えてみたとき,①なぜ,左眼はMMC併用LEC後に前房が消失したのか?②なぜ,右眼は360°S-LOT変法により良好な術後経過が得られたのか?③なぜ,左眼は240°LOT変法により一時的に眼圧は落ち着いたが,数カ月で再度眼圧上昇をきたしたのか?という疑問が生じる.①については,乾癬性ぶどう膜炎のような繰り返す前眼部発作に伴う続発緑内障は,房水産生機能の低下と流出路抵抗の上昇の両方を伴っていることがあり,非生理的な流出路を作るMMC併用LECはそのバランスを大きく崩す可能性がある.本症例において左眼MMC併用LEC後に前房消失をきたした際には,すでに度重なる発作のため房水産生機能が低下した状態で濾過したため,持続的な低眼圧が生じたと考(137)えられた.言い換えれば,術前に房水産生機能が低下していたにもかかわらず,それを上回る流出路抵抗の上昇があったため,結果的に眼圧上昇が引き起こされていたと推察される.②については,360°S-LOT変法は原発開放隅角緑内障(POAG)だけでなく,ぶどう膜炎を含む続発開放隅角緑内障(SOAG)にも有効とされる2).線維柱帯流出路の流出抵抗を改善するLOTはMMC併用LECと異なり生理的な流出路をそのまま使用するため,低眼圧を生じにくく,良好な結果が得られたのではないかと考えられた.③については,左眼の240°LOT後の再眼圧上昇は,右眼に比べて左眼の炎症が遷延していたため,炎症によって切開部の閉塞やSchlemm管以降の流出路抵抗が増大した可能性があると考えられた.左眼のLOTについては,LECにより線維柱帯を切除した箇所は通糸できないため,180°S-LOT変法と金属ロトームによる60°の切開により,計240°の切開を行った.今回の眼圧下降効果が切開範囲の違いによるものなのかどうかは,今後症例を積み重ねての検討が必要であると考えられる.また,左眼の濾過胞再建術後に過濾過による浅前房をきたしていない点については,房水産生量が安定したことに加え,初回手術と異なり一度癒着した後の濾過胞であったため,濾過胞内に適度な肉芽腫や癒着などが存在し,結膜下での吸水あるいは排水能力に乏しいために,初回のMMC併用LEC時よりも房水産生と濾過量のバランスがとれているものと考えられた.眼圧は基本的に房水産生と房水流出のバランスによって決まる.眼内にぶどう膜炎などの炎症が生じると,たとえ毛様体の房水産生が低下しても房水流出抵抗が上昇して房水流出が減少すると考えられる.したがって,眼内の炎症による房水産生低下が房水流出減少を上回れば,結果的に眼圧は下降するし,房水流出減少が房水産生低下を上回れば眼圧は上昇すると考えられる.実際,過去の報告でも炎症により眼圧は上昇することも下降することもあると報告されている3,4).Kaburakiらの報告によれば,POAGとSOAGに対するMMC併用LECの成績を比較したところ,成功率は変わらなかったが,晩期合併症として持続的な低眼圧が指摘されている5).乾癬に伴うぶどう膜炎のような炎症が持続することによる続発緑内障では,房水産生能が著しく低下していることがあり,濾過手術時には注意が必要であると考えられた.一方,本症例が示すように,生理的な流出路を使うLOTは,房水産生機能が著しく低下している場合でも術後浅前房をきたすことがないという点においては安全である.しかし,術後予後に関してはMMC併用LECの予後と同様に,術後炎症のコントロールが重要と考えられる5).さらに,ぶどう膜炎の症例におけるLOTの線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果については,さらなる症例の積み重ねと長期的な経過観察あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151203 が必要であると考えられた.原疾患である尋常性乾癬については,ステロイドの使用や漸減・中止により膿疱性乾癬へ移行する場合があり,実は皮膚科分野ではステロイド使用は禁忌である6).しかし,本症例の場合,当院受診時にはすでにPSLを内服しており,炎症の再燃などのリスクがあるため,ステロイド内服を継続せざるをえなかった.また,シクロスポリンやステロイドの使用がすでに長期間に及んでおり,腎機能障害や骨粗鬆症など全身的な合併症もあるため,今後はインフリキシマブなどの生物製剤による治療も検討していく必要があると思われた7).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)奥貫陽子,毛塚剛司,臼井嘉彦ほか:乾癬に伴うぶどう膜炎の検討.臨眼62:897-901,20082)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:Apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20123)沖坂重邦,猪俣孟:毛様体の炎症反応の多様性─臨床と基礎の融合─.日眼会誌108:717-749,20044)田内芳仁,板東康晴,小木曽正博:Behcet病患者の眼発作時における血液房水関門障害と眼圧変動.臨眼47:373376,19935)KaburakiT,KoshinoT,KawashimaHetal:InitialtrabeculectomywithmitomycinCineyeswithuveiticglaucomawithinactiveuveitis.Eye23:1509-1517,20096)難病情報センター:膿胞性乾癬診療ガイドラインTNF-a阻害薬を組み入れた治療指針20107)渡邉裕子,蒲原毅,佐野沙織ほか:インフリキシマブが有効であった乾癬性ぶどう膜炎の1例と乾癬性ぶどう膜炎の当科4症例および本邦報告例のまとめ.日皮会誌122:2321-2327,2012***1204あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(138)