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広義滲出型加齢黄斑変性に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期治療成績

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):439.443,2015c広義滲出型加齢黄斑変性に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期治療成績藤井彩加今井尚徳別所紘奈大西健田上瑞記近藤仁美田口浩司安積淳神戸海星病院眼科EffectofIntravitrealAfliberceptInjectionforTreatmentNaiveAge-relatedMacularDegenerationAyakaFujii,HisanoriImai,HironaBessho,KenOnishi,MizukiTagami,HitomiKondo,KojiTaguchiandAtsushiAzumiDepartmentofOphthalmologyKobeKaiseiHospital目的:未治療の加齢黄斑変性(AMD)に対するアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)の短期効果を検討する.対象および方法:IVA導入後,6カ月間経過観察しえた未治療AMD34例36眼を対象とした.導入治療は1カ月おき計3回施行,維持期はフレキシブル用法にてIVA継続した.導入前,導入後6カ月時点での視力,光干渉断層計(OCT)での滲出病変の変化を検討した.導入治療終了後1カ月時点で滲出病変が残存するものを「反応不良例」とし,性別,年齢,導入前視力,導入前病変最大直径,病型との関連性を検討した.結果:症例内訳は男性19例,女性15例,年齢48.91歳(中央値77歳)であった.病型分類は典型AMD15眼,ポリープ状脈絡膜血管症18眼,網膜内血管腫状増殖3眼であった.視力に有意な変化はなく(p=0.23),滲出病変は有意に減少した.反応不良例は7眼(19.4%)で,いずれの検討項目も反応不良例との関連はなかった.結論:未治療AMDに対し,IVA導入は有効である.Purpose:Toassesstheefficacyofintravitrealaflibercept(IVA)forage-relatedmaculardegeneration(AMD)withoutprevioustreatment.Methods:TreatedwithIVAwere36eyesof34AMDpatientswithnoprevioustreatment.Efficacyoutcomesincludemeanchangeofbest-correctedlogarithmofminimumangleofresolutionvisualacuity(BCVA)andexudativechangeonopticalcoherencetomography(OCT)after6monthsfrombaseline.Results:BCVAremainedstatisticallyunchanged(p=0.23)after6months,comparedwithbaseline.OnOCTfindings,subretinalfluid,intraretinalfluidandpigmentepithelialdetachmentshowedstatisticallysignificantimprovement(p<0.01,p<0.01,p=0.005).Seveneyes(19.4%)wereresistanttotheIVA.Conclusion:IVAmaybebeneficialforAMD.However,somepatientsmayshowresistancetoIVA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):439.443,2015〕Keywords:アフリベルセプト硝子体内投与,加齢黄斑変性,短期効果,反応不良例.intravitrealaflibercept,age-relatedmaculardegeneration,short-termeffect,hypo-responders.はじめに現在,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)製剤の硝子体内投与は滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)治療の第一選択である.わが国で使用可能な抗VEGF製剤にはペガプタニブ,ラニビズマブ,そしてアフリベルセプトがあるが,いずれの薬剤を用い治療するかについては各主治医の判断に委ねられており,明確なガイドラインはない.これまで,わが国におけるAMD治療の主流として使用されてきたラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR)の治療効果については,短期的な効果1,2),長期的な効果3,4),治療無効例の存在5.8),治療無効例に対する治療9.12)などについ〔別刷請求先〕今井尚徳:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学系研究科外科系講座眼科学Reprintrequests:HisanoriImai,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe650-0017,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(129)439 てすでに多く報告されている.一方で,アフリベルセプト硝子体内投与(intravitrealaflibercept:IVA)については,海外の報告にてラニビズマブに対し非劣性であり臨床的に同等の治療効果が得られたと報告されている13)が,日本人を対象とした報告はまだない.今回,筆者らは,未治療AMDに対するIVAの短期効果を検討したので報告する.I対象および方法対象は,2012年12月.2013年9月に神戸海星病院でIVAを導入し,6カ月間経過観察しえた未治療のAMD34例36眼である.IVA導入治療は1カ月おき計3回施行した.維持期治療は日本眼科学会の定めるラニビズマブの維持期における再投与ガイドライン14)に沿ってIVAを継続した.検討項目はIVA導入前,導入後3カ月,導入後6カ月の最高矯正logMAR視力(bestcorrectedvisualacuity:BCVA),光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)での滲出病変の変化とした.OCTでの滲出病変は網膜内滲出液(intraretinalfluid:IRF),網膜下液(subretinalfluid:SRF),網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)に分類し検討した.IVA導入治療終了後1カ月のOCTでIRFもしくはSRFが残存したものを反応不良群,消失したものを反応良好群とし,平均年齢,性別,IVA導入前視力,IVA導入前の病変最大直径(greatestlineardimension:GLD)について両群間で比較検討した.統計解析にはrepeatedANOVA,c2検定もしくはFisher’sexactprobabilitytest,t検定を用いた.II結果症例内訳は男性19例,女性15例,年齢48.91歳(中央値77歳)であった.病型分類は典型AMD(typicalAMD:t-AMD)15眼,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)18眼,網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)3眼であった.症例全体での各時点における平均BCVAは,IVA導入前,3カ月後,6カ月後で,それぞれ0.46,0.38,0.31であり,経過観察期間中に有意な変化はなかった(p=0.23,repeatedANOVA)(表1).3段階以上の変化を有意とした場合,IVA導入6カ月後の時点において3眼(8.3%)で改善,33眼(91.6%)で不変であった.悪化症例はなかった.OCTでの滲出病変のうち,SRFはIVA導入前33眼(91.6%)であったが,3カ月後,6カ月後の時点で,それぞれ5眼(13.9%),10眼(27.8%)と有意に減少した(p<0.01,表1視力推移導入前3カ月後6カ月後0.46±0.350.38±0.380.31±0.39視力(logMAR)(.0.07.1.52)(.0.08.1.69)(.0.08.1.52)p=0.2335302520151050IVA導入前IVA導入3カ月後IVA導入6カ月後11715032062353025201510005003810234IVA導入前IVA導入3カ月後IVA導入6カ月後353025SRF2015100021522156PED05IVA導入前IVA導入3カ月後IVA導入6カ月後IRF■RAPPCV■AMD図1SRF,IRF,PEDの変化いずれも有意に減少した.440あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(130) Fisher’sexactprobabilitytest).IRFは21眼(58.3%)であったものが,それぞれ2眼(5.5%),8眼(22.2%)と有意に減少した(p<0.01,Fisher’sexactprobabilitytest).PEDは19眼(52.7%)であったものが,7眼(19.4%),7眼(19.4%)と有意に減少した(p=0.005,c2検定)(図1).SRFおよびIRFを認めない状態をdryretinaと定義した場合13),3カ月後の時点で29眼(80.6%),6カ月後の時点で21眼(58.3%)でdryretinaとなった.病型別に分類すると,t-AMDでは導入前,導入6カ月後時点でSRFを認めたものが,それぞれ15/15眼(100%),2/15眼(13.3%)(p<0.01,Fisher’sexactprobabilitytest),IRFは10/15眼(66.7%),4/15眼(26.7%)(p=0.02,Fisher’sexactprobabilitytest),PEDは2/15眼(13.3%),1/15眼(6.7%)(p=0.97,Fisher’sexactprobabilitytest)であった.PCVでは導入前,導入6カ月後時点でSRFは17/18眼(94.4%),6/18眼(33.3%)(p<0.01,Fisher’sexactprobabilitytest),IRFは8/18眼(44.4%),3/18眼(16.7%)(p=0.01,Fisher’sexactprobabilitytest),PEDは15/18眼(83.3%),6/18眼(33.3%)(p=0.004,Fisher’sexactprobabilitytest)であった.RAPでは,導入前には,SRFは1/3(33.3%),IRFは3/3(100%),PEDは2/3(66.7%)に認めたが,いずれも導入6カ月後時点で消失した.なお,RAPについては症例が少ないため,統計解析は行わなかった.反応不良群と反応良好群の治療前の患者背景について表2反応不良例(131)に示す.反応不良群は7/36眼(19.4%),反応良好群は29/36眼(80.6%)であった.年齢はそれぞれ68.90歳(中央値79歳),47.90歳(中央値81歳)であった(p=0.57,t検定).性別は反応不良群で男性4例,女性3例,反応良好群で男性15例,女性12例であった(p=1.00,Fisher’sexactprobabilitytest).IVA導入前平均BCVAはそれぞれ0.43,0.47であった(p=0.76,t検定).平均GLDはそれぞれ4,534μm,4,400μmであった(p=0.88,t検定).病型については反応不良群ではt-AMD4眼(57.1%),PCV3眼(42.9%),反応良好群ではt-AMD11眼(37.9%),PCV15眼(51.7%),RAP3眼(10.3%)であった(p=0.92,Fisher’sexactprobabilitytest).いずれの解析においても,両群間表2反応不良群と反応良好群の治療前患者背景反応不良例反応良好例眼数(眼)729性別(例)男性4女性3男性15女性12p=1.00年齢(歳)79(68.90)81(47.90)p=0.57導入前BCVA0.43±0.09(.0.08.0.82)0.47±0.13(0.05.1.52)p=0.76病変部最大直径(GLD)(μm)4534±1747(2121.7590)4400±2145(732.9523)p=0.88t-AMD4t-AMD11病型PCV3PCV15RAP0RAP3反応良好例あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015441IVA導入前3カ月後6カ月後図2反応不良群と反応良好群における典型症例のOCT経過反応不良例:74歳,男性.IVA治療導入前BCVA(0.6).右眼AMDに対しIVA治療導入するも著効せず,その後,経過観察期間中は毎月投与するも滲出病変の消失は得られなかった.反応良好例:77歳,女性.IVA治療導入前BCVA(0.6).左眼PCVに対しIVA治療導入.導入治療にて滲出病変は消失し,その後,経過観察期間中に再発はなかった. に有意差はなかった.反応不良群と反応良好群それぞれの典型症例のOCT経過を図2に示す.III考按抗VEGF製剤は現在AMD治療の第一選択であり,その恩恵で視力維持がかなう症例数が増加している.これまでラニビズマブがおもに第一選択薬として使用されてきたが,結合親和性の高さやVEGF-bや胎盤成長因子(placentalgrowthfactor:PlGF)などへの結合能といった特徴をもつアフリベルセプト9,15,16)の導入によって治療の選択肢は広がっており,それぞれの薬剤の特徴を生かした,より各症例の病態に則した薬剤選択が可能になることが期待されている.その点からも,今回筆者らが示したAMDに対するIVA治療の短期効果,そして反応不良例に対する検討結果は有意義であると考える.今回の検討では,IVA導入後6カ月の時点において視力悪化例はなく,全例で視力維持もしくは改善された.アフリベルセプトの第III相試験であるVIEW1試験およびVIEW2試験では,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)チャートでの文字数減少が15文字未満のものを視力維持と定義した場合,導入12カ月の時点で前者は95.9%,後者は96.3%が視力維持されたと報告されている13).筆者らの結果は,既報同様,IVA治療によって,多くの症例で視力維持しうることを示すと考える.しかし,今回の検討では症例選択は視力にかかわらず,OCTにて滲出病変を認める場合に治療適応としており,今後,視力良好例もしくは視力不良例に対するIVAの効果についてはより詳細な検討が進められる必要がある.OCTでは,症例全体での検討ではSRF,IRF,PEDいずれの滲出病変もIVAによって有意に減少した.SRFおよびIRFを認めない状態をdryretinaと定義した場合13),3カ月後の時点で29眼(80.6%),6カ月後の時点で21眼(58.3%)でdryretinaとなった.視力と同様にVIEW試験の結果では,IVA導入1年後の時点でVIEW1試験で64.8%,VIEW2試験で63.9%がdryretinaとなったとされている13).筆者らの結果は,既報同様,IVA治療は未治療AMDの滲出病変に対して効果的であることを示すと考える.病型別に検討した場合,t-AMDにおいてはSRF,IRFは有意に減少したが,PEDについては有意な変化はなかった.一方でPCVにおいてはSRF,IRF,そしてPEDも有意に減少した.近年,IVA導入後にPEDが速やかに消失した症例が報告されている17).また,三浦らはPCVに対してIVAが有効であったと報告している10).これらの結果は,アフリベルセプトが網膜色素上皮下の病変により効果的である可能性を示唆するが,その作用機序はいまだ解明されておらず,今後,多数例での検討が必要と考える.442あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015一方,今回の検討では36眼中7眼(19.4%)がIVA反応不良であった.一般に「無効例」は,「反応不良例」と「効果減弱例」に分けて考えられる.前者は薬剤そのものへの反応不良であり,筆者らの結果は,未治療AMDの19.4%がアフリベルセプトそのものに反応不良であることを示す.筆者らはさらに,反応不良群と反応良好群の間で,治療開始前の患者背景因子について比較検討したが,両群間に明らかな差はみられず,反応不良群の特徴は明らかにはならなかった.アフリベルセプトについては,いまだ無効例についての報告はされていない.ラニビズマブについては,石川らは57眼中3眼(5.3%)が5),正らは61眼中19眼(31%)が6)導入期反応不良例であったと報告しているが,いずれにおいても反応不良例の特徴は明らかではなかったとされている.これらの結果は,AMDにおいては,一定の割合で種類によらず抗VEGF製剤そのものへの反応不良例が存在すること,つまりはAMDの滲出病変の病態にはVEGFfamilyのみならず,他の因子が強く関与する可能性を示唆する.今後より詳細な検討が待たれる.今回筆者らは,AMDに対するIVAの短期成績を報告した.IVAは未治療AMDの治療に効果的であったが,一方で反応不良例の存在も明らかとなった.今後は今回の検討を踏まえ,他治療との併用療法や他剤への変更なども含めて,いかにAMD治療に臨むかについてもさらなる検討が必要と考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CATTResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20112)ChangTS,KokameG,CasayRetal:Short-termeffectivenessofintravitrealbevacizumabversusranibizumabinjectionsforpatientswithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina9:1235-1241,20093)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearoutcomesinranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:amulticentercohortstudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,20134)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal:Randomized,double-masked,sham-controlledtrialofranibizumabforneovascularage-reratedmaculardegeneration:PIERStudyyear1.AmJOphthalmol145:239-248,20085)石川恵理,上甲武志,別所健一郎ほか:滲出型加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内投与における反応不良例の検討.眼臨紀6:943-950,20136)正健一郎,尾辻剛,津村晶子ほか:ラニビズマブ硝子体内注射における反応不良例の検討.眼臨紀4:782-784,(132) 20117)樋端透史,香留孝,内藤毅ほか:加齢黄斑変性におけるラニビズマブ硝子体内注射の反応不良例の検討.臨眼67:1709-1712,20138)KorbC,ZwienerI,LorenzKetal:Riskfactorsofareducedresponsetoranibizumabtreatmentforneovascularage-relatedmaculardegeneration─evaluationinaclinicalsetting.BMCOphthalmol13:84,20139)KumarN,MarsigliaM,MrejenSetal:Visualandanatomicaloutcomesofintravitrealafliberceptineyeswithpersistentsubfovealfluiddespiteprevioustreatmentswithranibizumabinpatientswithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina33:1605-1612,201310)MiuraM,IwasakiT,GotoH:Intravitrealafliberceptforpolypoidalchoroidalvasculopathyafterdevelopingranibizumabtachyphylaxis.ClinOphthalmol7:1591-1595,201311)金井美智子,今井尚徳,藤井彩加ほか:広義滲出型加齢黄斑変性へのラニビズマブ硝子体内投与反応不良例に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績.臨眼68:825829,201412)FujiiA,ImaiH,KanaiMetal:Effectofintravitrealafliberceptinjectionforage-relatedmaculardegenerationwitharetinalpigmentepithelialtearrefractorytointravitrealranibizumabinjection.ClinOphthalmol24:11991202:201413)HeierJS,BrownDM,ChongVetal:Intravitrealaflibercept(VEGFtrap-eye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,201214)田野保雄,大路正人,石橋達郎ほか;ラニビズマブ治療指針策定委員会:ラニビズマブ(遺伝子組換え)の維持期における再投与ガイドライン.日眼会誌113:1098-1103,200915)HoVY,YehS,OlsenTWetal:Short-termoutcomesofafliberceptforneovascularage-relatedmaculardegenerationineyespreviouslytreatedwithothervascularendothelialgrowthfactorinhibitors.AmJOphthalmol156:23-28,201316)SemeraroF,MorescalchiF,DuseSetal:AfliberceptinwetAMD:specificroleandoptimaluse.DrugDesDevelTher7:711-722,201317)PatelKH,ChowCC,RathodRetal:Rapidresponseofretinalpigmentepithelialdetachmentstointravitrealafliberceptinneovasculardegenerationrefractorytobevacizumabandranibizumab.Eye5:663-667,2013***(133)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015443

緑内障眼における網膜外層厚と視野障害程度の関連性の検討

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):435.438,2015c緑内障眼における網膜外層厚と視野障害程度の関連性の検討杉浦晃祐*1,2森和彦*2吉川晴菜*2丸山悠子*2池田陽子*2上野盛夫*2小泉範子*1,2木下茂*2*1同志社大学生命科学部医工学科,*2京都府立医科大学眼科学教室RelationshipbetweenOuterRetinalLayerThicknessandVisualFieldDefectsonGlaucomatousEyesKosukeSugiura1,2),KazuhikoMori2),HarunaYoshikawa2),YukoMaruyama2),YokoIkeda2),MorioUeno2),NorikoKoizumi1,2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofBiomedicalEngineering,DoshishaUniversityofLifeandMedicalSciences,DoshishaUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:視野障害程度に左右差のある中期および後期緑内障眼における黄斑部網膜内外層厚と視野障害程度との関連性を検討した.対象および方法:京都府立医科大学眼科緑内障外来にて経過観察中の緑内障症例のうち,Humphrey視野計による視野障害程度に左右差が存在し,黄斑疾患の合併例を除き,かつ両眼ともにニデック社製SD-OCT(RS3000Advance)を用いた黄斑部9×9mmの信頼性に足る黄斑マップ計測が可能であった中期および後期緑内障症例82例(男女比47:35,平均年齢66.8±11.7歳).黄斑部10-2領域の網膜全層厚と網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を計測し,これらの差分によって網膜外層(outerretinallayer:ORL)厚を計算した.左右眼のmeandeviation(MD)値の差とGCC厚,ORL厚の差との間の相関を検討した(Spearman順位相関係数).結果:視野障害の大きいほうの眼のMD値平均は.18.9±6.26dB,僚眼は.7.98±7.94dBであった.左右眼のMD値の差と網膜全層厚,GCC層厚,ORL層厚の差との間にはいずれも有意な相関が認められた(r=0.51[p<0.01],0.64[p<0.01],.0.34[p<0.01]).結論:MD値の悪化に伴い網膜内層および網膜全層は菲薄化を生じたが,その一方で網膜外層は厚くなっており,この乖離に関しては今後さらなる検討が必要である.Purpose:Toevaluatetherelationshipbetweenmacularretinalthicknessandvisualfielddefectsinintermediateandlate-stageglaucomapatientswhohavesomegapsintheextentofvisualfielddefectintheirrightandlefteyes.Subjects&methods:Recruitedforthisstudywere82late-stageglaucomapatients(female35,male47;meanage66.8±11.7yearsold)whowerebeingfollowedintheGlaucomaClinicofKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,whosevisualfielddefectsshoweddifferentextentsinbotheyes,andfromwhomreliableimagesofmacularthicknessmapinSD-OCTmeasurements(RS-3000Advance,NidekCo.Ltd.,Gamagori,Japan)couldbeobtained.Wholeretinal(WR)thicknessandganglioncellcomplex(GCC)thicknesswereusedtocalculateouterretinallayer(ORL)thickness.Therelationshipbetweenthetwoeyes’differenceinvisualfielddefectmeandeviation(MD)andthethicknessofeachretinallayer(WR,GCC,ORL)wasinvestigatedusingSpearmancorrelationanalysis.Results:TherewasstatisticallysignificantcorrelationbetweenthedifferenceinMDvalueandthethicknessofeachretinallayer,WR,GCC,andORL(r=0.51[p<0.01],0.64[p<0.01],and.0.34[p<0.01],respectively).Conclusions:GlaucomatousdamageinthemacularareainfluencednotonlytheGCC,butalsoouterretinallayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):435.438,2015〕Keywords:光干渉断層計(OCT),緑内障,網膜外層(ORL),網膜神経節細胞複合体層(GCC),視野障害.opticalcoherencetomography(OCT),glaucoma,outerretinallayer(ORL),ganglioncellcomplex(GCC),visualfielddefect.〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:KazuhikoMoriM.D.,Ph.D.,DeptofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi,Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)435 はじめに光干渉断層計(OCT)は光の干渉現象を応用して網膜断層像を描出する装置であり,本装置の登場によって網膜微細構造の評価が可能となった1).また,黄斑部には網膜神経節細胞の50%が集中していることから,黄斑部OCT画像を用いた早期緑内障診断が試みられてきた.タイムドメインOCT(TD-OCT)の時代の黄斑部を用いた緑内障診断は乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)には及ばないとされてきたが,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)の時代となり網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)をはじめとした網膜内層の詳細な測定が可能になり,黄斑部を用いた緑内障診断はcpRNFLと同等もしくは互いに相補的であるとされている2).これまでGCC層厚と緑内障病期との関連性に関しては過去によく報告されている3)が,GCCよりも外層に位置する網膜外層厚と緑内障病期との関連については筆者らの知る限り統一した見解がない.緑内障眼の網膜外層における組織学的変化の有無に関しては古くから議論されており,正常眼と比較して差がないとする報告4)や視細胞の膨化が認められるとする報告5)などがある.正常眼では神経線維層厚のみならず網膜全層厚も加齢に伴って菲薄化することが知られている6)ことから,緑内障症例においても高齢者では網膜外層厚が菲薄化する可能性がある.このような網膜外層厚の菲薄化は,後期緑内障例における網膜神経節細胞の障害に伴う逆行性変性が網膜外層にも及んでいるのか,加齢に伴う菲薄化のみであるのかについては検討されていない.今回筆者らは,左右眼の進行程度に差がある緑内障眼において,SD-OCTを用いて測定した網膜全層厚,GCC厚から網膜外層(outerretinallayer:ORL)厚を計算し,自動視野計のmeandeviation(MD)値との関係ならびに両者の左右眼の差を検討した.I対象および方法対象は京都府立医科大学附属病院眼科緑内障外来にて経過観察中であり,左右眼の進行程度に差がある中期および後期緑内障患者82例164眼(男性47例94眼,女性35例70眼)である(表1).病型は原発開放隅角緑内障(POAG)66眼,正常眼圧緑内障(NTG)48眼,続発緑内障(SG)30眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)8眼,非緑内障眼10眼である.対象症例におけるOCT施行前後3カ月以内に測定したHumphrey自動視野計(HumphreyFieldAnalyzer:HFA,中心30-2SITAstandard)のMD値は視野障害程度の強い眼では.18.9±6.26dB,僚眼では.7.98±7.94dBであった.なお黄斑疾患の合併症例は対象から除外した.OCT測定はニデック社製SD-OCT(RS-3000Advance)を用い,黄斑部9×9mmのSSI(signalstrengthindex:シグナル強度)7以上の黄斑マップ計測画像が得られたもののみを対象とした.網膜全層厚(内境界膜層.Bruch膜層),GCC厚は各OCT画像ごとに視覚10°以内に対応する領域であるThicknessmap10-2で得られた68点における網膜全層厚(Thickness1)とGCC厚(Thickness2)を平均化し,各症例各眼の黄斑部10-2領域の網膜全層厚とGCC厚の代表値とした.また,両者の差から網膜外層(outerretinallayer:ORL,内顆粒層.網膜色素上皮層)厚を求め,同様に平均化して代表値を計算した.OCT施行前後3カ月以内に施行したHFA中心30-2SITAstandardのMD値と網膜全層厚,GCC厚,ORL厚の相関関係を検討した(Spearman順位相関係数).また,加齢に伴う影響や個体差による影響を除外するために視野障害程度の大きい眼と小さい眼のMD値の差(ΔMD値)を求め,それぞれの眼の網膜全層厚,GCC厚,ORL厚の差(Δ網膜全層,ΔGCC,ΔORL)との間の関係を同様にSpearman順位相関係数を用いて検討した.II結果1.MD値と網膜各層厚の関連性164眼全体におけるMD値と網膜全層厚,GCC厚,ORL厚との相関係数はr=0.42[p<0.01],r=0.58[p<0.01],r=.0.16[p<0.05]であった(図1a~c).網膜全層とGCC厚は視野障害の重症化に伴い菲薄化したが,ORL厚のみはやや厚くなる傾向にあった.2.MD値の差と網膜各層厚の差の関連性左右眼のMD値の差(ΔMD値)と網膜全層厚の差(Δ網膜全層)との相関関係はr=0.50[p<0.01]であり(図2a),ΔMD値とΔGCCはr=0.62[p<0.01](図2b),ΔMD値とΔORLはr=.0.34[p<0.01](図2c)と,いずれも有意な表1患者背景視野障害程度年齢眼圧屈折(等価球面度数)眼軸長SSIMD値網膜全層厚GCC厚ORL厚弱い眼強い眼66.8±11.713.8±2.9(8.23)13.7±4.4(4.27).1.8±3.7(.15.5.5).1.8±3.2(.12.3.5)24.7±2.0(20.30)24.7±2.1(20.30)8.10±1.17(6.10)7.88±1.24(6.10).8.0±7.9.18.9±6.3288±21(234.345)82.7±17.1(49.119)206±12(157.232)279±25(218.365)71.3±16.1(47.132)207±15(154.244)436あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(126) cba400350300250200150100500400350300250200150100500400350300250200150100500-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505MD値(dB)MD値(dB)MD値(dB)網膜全層厚(μm)GCC厚(μm)ORL厚(μm)r=0.58p<0.01y=0.9017x+295.85r=0.42p<0.01y=1.079x+91.564r=-0.16p<0.05y=-0.1773x+204.28cba400350300250200150100500400350300250200150100500400350300250200150100500-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505-35-30-25-20-15-10-505MD値(dB)MD値(dB)MD値(dB)網膜全層厚(μm)GCC厚(μm)ORL厚(μm)r=0.58p<0.01y=0.9017x+295.85r=0.42p<0.01y=1.079x+91.564r=-0.16p<0.05y=-0.1773x+204.28図1MD値と網膜各層厚との関係Meandeviation(MD)値と網膜各層厚(網膜全層(a),網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)(b),網膜外層(outerretinallayer:ORL)厚(c)))との関係を示す.視野障害の重症化に伴い網膜全層厚,GCC厚は菲薄化し,MD値とORL厚は相関係数が低かった.a70503010-10-30-50-70-35-30-25-20-15-10-505MD値(dB)Δ網膜全層厚(μm)Δy=1.0573x+0.9768r=0.51p<0.01by=1.2991x+2.2725r=0.64p<0.01ΔGCC厚(μm)70503010-10c70503010-10-30-50-70-35-30-25-20-15-10-505網膜外層厚(μm)ΔMD値(dB)Δr=-0.34p<0.01y=-0.2419x+1.2958-30-50ΔMD値(dB)-70-35-30-25-20-15-10-505図2左右のMD値差と網膜各層厚差の関係左右のMD値の差と網膜各層厚(網膜全層(a),GCC(b),ORL(c))の差との関係を示す.各層厚の差は視野障害程度の大きいほうから小さいほうの眼の厚さを引くことによって算出した.MD値の差も同様に視野障害程度の大きいほうから小さいほうを引くことによって算出した.年齢要因を削除した場合,視野障害の重症化に伴い網膜全層厚,GCC厚は菲薄化し,ORL厚はやや厚くなった.相関がみられた.また,ΔMD値とΔ網膜全層,ΔGCCの関係は正の相関であったのに対し,ΔMD値とΔORLは負の相関であった.III考按Tanら7)は緑内障眼においてGCC厚の菲薄化が他の網膜各層に比べて顕著であることを示し,GCC厚が緑内障診断において重要であることを示している.また,自動視野検査では5(dB)の視野障害の進行に伴って20%の網膜神経節細胞が減少することが報告されている8).以上の報告のように緑内障の生体眼において網膜内層についてなされた研究は数多く存在するが,網膜外層についてなされた研究は少ない.そこで今回,筆者らは網膜内層のみならず網膜外層にも注目してOCTによる生体での検討を行った.なお,本検討においてOCTではThicknessMap10-2である一方,MD値はHFAの30-2を用いて解析を行っている.本来ならばMD値も10-2の値を用いるべきではあるが,サンプル数が非常に限定されてしまうため,30-2の値を用いて解析を行った.OCTは光学的な干渉現象を応用しており,網膜各々の部位からの反射光を画像に変換しているため,包埋,固定,染色という過程を経る従来の組織的学的手法で得られた所見とは必ずしも一致すると限らない.しかしながら,生体眼を経時的に追跡可能である点がOCTの大きなメリットであり,本研究においても多数例の生体眼を対象として検討を行った.まず最初にMD値と網膜各層厚との関係について検討を行ったところ,MD値と網膜全層厚およびGCC厚はともに正の相関を示した(r=0.42と0.58).過去の報告においても視野障害程度とGCC厚が有意に相関し,視野障害の進行に伴ってGCC厚が菲薄化することが報告されている9.12)が,今回も同様の結果が得られた.これは緑内障に起因した網膜神経節細胞の死滅によるものと考えられる.しかしながら,MD値とORL厚は有意であったが,相関係数は低かった(r=.0.16).正常者では約120万本ある網膜神経線維は加齢とともに年々減少していくことが報告されている13).加齢に伴う網膜(127)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015437 各層の菲薄化の影響は左右両眼ともに同様に作用すると考えられるため,視野障害程度に左右差のある症例を対象として左右の差を検討すれば,年齢要因を除去した状態で視野障害が網膜各層厚に及ぼす影響が調べられると考えた.その結果,今回のデータでは左右眼のMD値の差分(ΔMD)と網膜各層厚の差分(Δ網膜全層,ΔGCC,ΔORL)の相関係数をみると,ΔMDとΔ網膜全層,ΔGCC,およびΔORLとの相関係数は差分をとっていないものに比べて,いずれも強い相関を示した(r=0.51,0.64,.0.34).すなわち加齢による影響を除去することにより,緑内障に伴う網膜各層の菲薄化の影響のみを抽出できたためにより高い相関を得ることができたと考えられる.ただし,今回は緑内障病期別に差分を検討することができなかったため,同じMD値の差分であっても中期と末期では網膜各層に及ぼす影響が異なる可能性も示唆される.この点に関してはさらに症例数を増やして検討を行う必要があると考えられた.網膜外層に関しては,正常眼と緑内障眼を比較したところ緑内障眼のほうが網膜外層が厚いという報告がなされている14).本研究ではΔMDとΔORLは弱い負の相関を示した(r=.0.34)が,この結果は視野障害の進行に伴いORL厚が不変もしくはやや厚くなる傾向にあることを示している.緑内障の進行に伴って網膜外層厚が厚くなる傾向を示した原因として,過去の組織学的研究で得られた結果と合わせて推測すると,視細胞の浮腫をきたしている可能性5)や網膜外層に含まれるグリア細胞が反応した可能性15)などが考えられた.今回の検討からMD値の悪化に伴い,網膜内層および網膜全層は菲薄化を生じた.その一方で網膜外層は厚くなっており,この乖離に関しては今後さらなる検討が必要である.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HuangD,SwasonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19912)AkashiA,KanamoriA,NakamuraMetal:TheabilityofmacularparametersandcircumpapillaryretinalnervefiverlayerbythreeSD-OCTinstrumentstodiagnosehighlymyopicglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:6025-6032,20133)SevimMS,ButtanriB,AcarBTetal:Abilityoffourierdomainopticalcoherencetomographytodetectretinalganglioncellcomplexatrophyinglaucomapatients.JGlaucoma22:542-549,20134)KendellKR,QuigleyHA,KerriganLAetal:Primaryopen-angleglaucomaisnotassociatedwithphotoreceptorloss.InvestOphthalmolVisSci36:200-205,19955)NorkTM,VerHoeveJN,PoulsenGLetal:Swellingandlossofphotoreceptorsinchronichumanandexperimentalglaucomas.ArchOphthalmol118:235-245,20006)AlamoutiB,FunkJ:RetinalthicknessdecreaseswithageanOCTstudy.BrJOphthalmology87:899-901,20077)TanO,LiG,LuATetal:Mappingofmacularsubstructureswithopticalcoherencetomographyforglaucomadiagnosis.Ophthalmology115:949-956,20088)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453454,19869)片井麻貴,今野伸介,前田祥恵ほか:光干渉断層計OCT3000による網膜神経線維層厚と緑内障性視野障害の関係.あたらしい眼科21:1707-1709,200410)伊藤梓,横山悠,浅野俊文ほか:緑内障眼における黄斑部網膜神経節複合体とHumphrey視野検査30-2中心8点との相関.臨眼66:1319-1323,201211)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:スペクトラルドメインOCTによる網膜神経線維層厚と黄斑部網膜内層厚の視野障害との相関.あたらしい眼科26:997-1001,200912)佐々木勇二,難波幸子,井上卓鑑ほか:光干渉断層計による緑内障症例の網膜神経節複合体厚計測.八鹿病誌18:31-35,200913)BalazsiAG,RootmanJ,DranceSMetal:Theeffectofageonthenervefiberpopulationonthehumanopticnerve.AmJOphthalmol97:760-766,198414)IshikawaH,SteinDM,WollsteinGetal:Macularsegmentationwithopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci46:2012-2017,200515)WangX,TaySS,NgYK:Anelectronmicroscopicstudyofneuronaldegenerationandglialdellreactionintheretinaofglaucomatousrats.HistolHistopathol17:10431052,2002***438あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(128)

Posner-Schlossman症候群45症例の性別による相違点の検討

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):429.433,2015cPosner-Schlossman症候群45症例の性別による相違点の検討西野和明*1,2鈴木茂揮*1堀田浩史*1城下哲夫*1福澤裕一*1小林一博*1栗原秀行*1*1栗原眼科病院*2回明堂眼科・歯科AnalysisofGenderDifferencesin45CasesofPosner-SchlossmanSyndromeKazuakiNishino1,2),ShigekiSuzuki1),HiroshiHotta1),TetsuoJoshita1),YuichiFukuzawa1),KazuhiroKobayashi1)andHideyukiKurihara1)1)KuriharaEyeHospital,2)KaimeidoOphthalmic&DentalClinic目的:Posner-Schlossman症候群(PSS)の性別による相違点を後ろ向きに検討する.対象および方法:対象は札幌市内の回明堂眼科・歯科にて経過観察中,あるいは経過観察していたPSS患者45例45眼,男性35例,女性10例,初回PSS発作の平均年齢(±標準偏差)47.3±12.6歳,平均観察期間8.5±7.3年,年間平均PSS発作頻度(PSS発作回数÷経過観察年数)は0.51±0.40回/年であった.男女の発症率が異なることから,性別によるいくつかの相違点を比較検討した.初回発作年齢,経過観察期間,年間平均PSS発作頻度,等価球面度数の4項目をWelch’sttestで,患眼の左右差,発症前の自己申告による精神的あるいは肉体的なストレスの有無の2項目をc2testで行った.結果:PSSの男女比は35:10,初発年齢は男性45.4±11.9歳,女性54.0±13.7歳(p=0.095),平均観察期間は男性8.4±8.1年,女性8.8±3.8年(p=0.59),年間平均PSS発作頻度は男性0.57±0.44回,女性0.33±0.14回(p=0.0035),等価球面度数は男性.2.36±3.2(D),女性.1.38±4.23(D)(p=0.51),患眼の右眼と左眼の比率は男性が19:16,女性は右眼:左眼=6:4(p=0.75),ストレスの有無は男性が18:17,女性は8:2(p=0.11)であった.結論:PSSは男性に多くみられ,年間平均PSS発作頻度も女性より高かった.その他の検討項目では男女差がみられなかった.Purpose:Toretrospectivelyanalyzegenderdifferencesin45casesofPosner-Schlossmansyndrome(PSS).PatientsandMethods:Inthisstudy,45PSSpatients(35malesand10females)seenatKaimeidoOphthalmicandDentalClinic,Sapporo,Japanwereretrospectivelyanalyzed.ThemeanpatientageattheinitialPSSattackwas47.3±12.6years,andthemeanfollow-upperiodwas8.5±7.3years.ThemeanPSSattackfrequency(numberofPSSattacksperfollow-upyear)was0.51±0.40.DuetothedifferentPSSratesbetweenthemalesandfemales,thegenderdifferenceswerecomparedasfollows:meanpatientageatfirstPSSattack,follow-upperiod,PSSattackfrequencyperyear,andsphericalequivalent[indiopters(D)]wereanalyzedbyuseoftheWelch’sttest.ThedifferencesoftheaffectedeyeandtheexistenceofmentalandphysicalstresspriortoPSSwerecomparedbyuseofthec2test.Results:PSSpatientsinthisstudywereconsistedof35malesand10females.ThemeanageattheinitialPSSattackwas45.4±11.9yearsinthemalesand54.0±13.7yearsinthefemales(p=0.095).Themeanfollow-upperiodwas8.4±8.1yearsinthemalesand8.8±3.8yearsinthefemales(p=0.59).ThemeanPSSattackfrequencywas0.57±0.44yearsinthemalesand0.33±0.14yearsinthefemales(p=0.0035).Themeansphericalequivalentwas.2.36±3.2Dinthemalesand.1.38±4.23Dinthefemales(p=0.51).TherightandleftrateoftheaffectedPSSeyewas19and16,respectively,inthemalesand6and4,respectively,inthefemales(p=0.75).Thestresspositiveandnegativeratewas18and17,respectively,inthemalesand8and2,respectively,inthefemales(p=0.11).Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthatPSSpatientsaremorelikelytomales,andthatthefrequencyofattacksperyearisstatisticallyhigherinmalesthaninfemales.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):429.433,2015〕〔別刷請求先〕西野和明:〒348-0045埼玉県羽生市下岩瀬289栗原眼科病院Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KuriharaEyeHospital,289Shimoiwase,Hanyu,Saitama348-0045,JAPAN.0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)429 Keywords:Posner-Schlossman症候群(PSS),性差,初発年齢,年間平均PSS発作頻度,ストレス.Posner-Schlossmansyndrome(PSS),genderdifference,firstattackage,attackfrequencyperyear,stress.はじめにPosner-Schlossman症候群(PSS)は1948年,AdolfPosnerとAbrahamSchlossmanが初めて報告し,その後の経過観察によりいくつかの特徴的な所見がまとめられた1,2).それらは角膜後面に数カ所の細かい沈着物を伴う繰り返す片眼性で軽度の虹彩毛様体炎,隅角は開放で最高眼圧は40mmHg以上(PSS発作)に上昇,高眼圧や炎症は短ければ数日で鎮静化するが,長ければ数週間続く.PSS発作と次のPSS発作の間には眼圧上昇や炎症はみられない,視神経乳頭や視野には異常がみられない,などである.しかしながらその後,まれながら両眼にPSSが発症する症例の報告がみられたり3,4),PSSに緑内障が併発している症例の存在も明らかになってきた5,6).また病因に関しては感染という観点からサイトメガロウイルス7,8)や単純ヘルペス9)が考えられているほか,Hericobacterpylori10)との因果関係なども報告されている.さらに近年前房水中のサイトカイン11)の変化なども研究されており,原著論文の定義を超えて多彩な背景要因が検討されている.しかしながら,いまもってなお発症機序は不明である.そのような状況のなかで一般臨床においてさらなる病態解明はむずかしい.しかしながら,臨床的な特徴や所見を過去の報告と比較しながら検討することは可能である.過去にPSSを40例以上検討した報告によれば,それぞれ男女の発症率に差がみられたことから8,10,11),本研究においても男女の発症率や背景要因の相違の有無について検討した.I対象および方法本研究の定義,登録基準,除外基準については次のように定めた.定義の基本はAdolfPosnerとAbrahamSchlossmanが報告した臨床所見に準じる.つまり繰り返す片眼性の軽度虹彩毛様体炎,角膜後面に数カ所の細かい沈着物が認められる,開放隅角で最高眼圧が40mmHg以上に上昇,高眼圧や炎症は短ければ数日であるが長ければ数週間続く,発作と次の発作の間には眼圧上昇や炎症はみられないなどである.隅角検査で発作眼が僚眼より色素が脱出している,網膜硝子体病変が基本的にはないことなども参考所見とした.典型的な症例であれば鑑別診断に苦労はしないが,回明堂眼科・歯科(札幌市:以下,当院)においては微妙なPSSを他の全身疾患によるぶどう膜炎と鑑別診断しなければならない場合,札幌市内の専門的な複数の施設から助言を受けるようにしている.眼科的にはぶどう膜炎の専門機関であるA大学病院眼科,また内科的にはサルコイドーシス専門機関で430あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015あるB病院呼吸器内科などである.今回登録した症例のうち数例は専門的な情報提供を受け,鑑別の結果除外されたものもある.したがって,本研究におけるPSSの登録は,ある程度の精度で絞り込まれた鑑別診断の結果であったと考えている.PSSはぶどう膜炎による続発緑内障の位置付けなので,症例の組み入れ条件としての眼圧の定義は重要である.そこで本研究においては経過観察中,一度でも40mmHg以上の眼圧上昇が認められれば,別の時期に30mmHg以上の眼圧を認めた場合でも,PSS発作として組み入れた.なぜならPSS発作はわずかな重症例を除けば軽症のことが多い.したがって,来院時が必ずしもPSS発作のピークとは限らず,鎮静化しつつある場合があるためである.その定義に基づき30mmHg未満の眼圧は除外されたため,実際の発作はもっと多かった可能性がある.また原著によれば,視神経や視野が正常であると記載されているが,近年緑内障の併発例も確認されていることから5,6),ことさら視神経乳頭が正常であることや緑内障による視野異常の有無にこだわらず組み入れた.次にPSSは基本的に複数回発作を繰り返すという定義ではあるものの,実際は1回のPSS発作しか経過観察できない場合がある.その場合,初診時より過去に遡り,問診上同様の発作を起こしたことがあり,日時や受診した状況などを明確に記憶している場合は,反復するPSS発作とみなした.しかしながら,そのような場合は経過観察期間が数カ月となってしまい,年間平均PSS発作頻度(PSS発作の合計回数÷経過観察年数)を算出する際,実際よりかなり大きくなってしまう.そこでPSS発作が1回限りでかつ経過観察期間が数カ月など1年未満をすべて経過観察期間1年として計算した.ただし紹介状あるいはこちらからの問い合わせなどにより詳細な臨床過程が記載されている3件に関しては,当院の経過観察期間および発作頻度などに追加として組み入れた.一方登録した症例のなかで,問診により本人から「数年前に同様の発作があった」「点滴と内服,点眼などの治療で治療された」「ぶどう膜炎で眼圧が高いと言われた」「PosnerSchlossman症候群といわれた」「年に数回の発作がみられたことがある」などPSSの可能性が高い具体的な既往歴があっても,今回の検討では年間平均PSS発作頻度を解析しているため,過去の発作時期があいまいな既往歴を登録することはできず経過観察期間から除外した.また,経過観察中眼圧のコントロールが不十分で緑内障手(120) 表1PSSの性別による相違点男性(n=35)女性(n=10)統計的有意差初回PSS発症年齢(歳)45.4±11.9(20.68)54.0±13.7(27.73)p=0.095(Welch’sttest)経過観察期間(年)8.4±8.1(1.25)8.8±3.8(2.14)p=0.59(Welch’sttest)年間平均PSS発作頻度(回)0.57±0.44(0.05.2)0.30±0.14(0.14.0.5)p=0.0035(Welch’sttest)PSS患眼の屈折値(Diopter).2.36±3.20(.8.0.+2.75).1.38±4.23(.12.5.+2.5)p=0.51(Welch’sttest)PSS患眼(右:左)19:166:4p=0.75(c2test)PSS発作前のストレス(有:無)18:178:2p=0.107(c2test)PSS患眼の初回発作年齢,経過観察期間,年間平均PSS発作頻度,等価球面度数の4項目をWelch’sttestで,PSS罹患眼の左右差,ストレスの有無の2項目をc2testで解析した.年間平均PSS発作頻度のみ男性が女性より有意に高かった(p=0.0035).術を行った2症例では,その後に発作がみられず,眼圧に関する眼内環境が大きく変化したと判断し,緑内障手術後を経過観察時期から除外した.ちなみに両症例の手術後に除外した期間は10年と3年である.一方,白内障手術後にPSS発作が認められた症例も確認されたことから,本研究においては白内障手術に関しては手術後も経過観察期間として組み入れた.その他,近年両眼の発症例もみられたとの報告3,4)があるが,混乱を避けるためそのような症例を除外した.対象は当院にて1990.2014年に,経過観察中あるいは経過観察していたPSS患者45例45眼,男性35例,女性10例である.当院における初回のPSS発作の平均年齢(標準偏差)47.3±12.6歳,平均観察期間8.5±7.3年,年間平均PSS発作頻度は0.51±0.40回/年であった.対象患者に男性が女性より3倍以上多くみられたので,主たる解析は性別によるいくつかの背景因子の比較検討を行った.まず初回発作年齢,経過観察期間,年間平均PSS発作頻度,等価球面度数の4項目をWelch’sttestで,ついで患眼の左右差,発症前の自己申告による精神的あるいは肉体的なストレスの有無の2項目をc2testで行った.使用した統計ソフトはStat123/Winver.2.2である.ストレスの原因となるストレッサーに関しては,本人や家族の病気,不幸,家庭や職場でのトラブルなど問診上明確に知りえた場合で,患者がストレスと感じたという場合にストレス有と定義し,その時期は経過観察中のいずれかのPSS発作前でかつ2カ月以内とした.なお本研究はヘルシンキ宣言に沿って,十分な説明の後に自由意思に基づくインフォームド・コンセントを得るよう努力はしたが,現時点において一部の患者とは連絡が取れないことや,最終視察日から長年経過した症例もあることから,今のところ不十分な同意状況である.しかしながら当院においては,院内のお知らせなどで患者のデータを学術目的に使用する場合もあることや,折に触れ学術研究に協力してくれるよう依頼している.II結果PSS患者が男性35例,女性10例であったことから,次の背景要因を男女で比較した.初回PSS発症年齢,経過観察期間,年間平均PSS発作頻度,患眼の等価球面度数,患眼の左右差,ストレスの有無を比較検討した結果を表1に示した.初回PSS発症年齢は,男性45.4±11.9歳,女性54.0±13.7歳で,男性の発症年齢が8.6歳,女性より若かった.しかしながら統計的な有意差を認めなかった(p=0.095,Welch’sttest).平均観察期間は男性8.4±8.1年,女性8.8±3.8年(p=0.59,Welch’sttest)とほぼ同等であった.年間平均PSS発作頻度は男性が0.57±0.44回,女性が0.30±0.14回と男性の頻度が有意に高かった(p=0.0035,Welch’sttest).PSS患眼の等価球面度数は男性.2.36±3.2(D),女性.1.38±4.23(D)(p=0.51,Welch’sttest).男性のPSS患眼は右眼19例,左眼16例,女性は右眼6例,左眼4例で男女ともに左右で有意差がみられなかった(p=0.75,c2test).経過観察中のいずれかのPSS発作の約2カ月前から発作時までのストレス要因の有無を確認したところ,男性18例,女性8例で確認された.そこでPSSをストレスの有無で分け,男女で比較したが統計的な有意差はみられなかった(p=0.107,c2test).III考按PSSはPosnerとSchlossmanが最初に報告してから半世紀以上の月日が経過しているにもかかわらず,いまだにその(121)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015431 病態は明らかではない.なかには論文のタイトル自体がはり筆者らのデータはやや高い値である.これは本研究におpresumedPosner-Schlossmansyndromeなどと表現されていては問診上あいまいな過去の発作を組み入れなかったためいる場合もあり,PSSの境界線はいまもってなお不明瞭なと考えられる.ちなみに既往歴から聴取しえた初発と考えら状況である8).このような背景からPSSを他疾患と区別するれる年と当院受診までの年数を合計し患者数で割ると約2.明瞭な根拠が乏しいため,鑑別診断することがむずかしいと3歳若くなり,本研究の初発年齢47.3歳から差し引くと,されている.したがって,明らかな病態が解明されていない40歳代半ばとなりおおむね既報と同等である.しかも十分現在,原著論文の定義を基本としながら,鑑別を必要とするに患者の記憶を問診上引き出せなかったという症例も考えら類似疾患,すなわちFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎やサルれることから,実際は40歳代半ばよりやや若かったのではコイドーシスなどと注意深く臨床所見を比較検討した結果でないかと推定される.あるならば,一般臨床においてもPSSと診断して問題ないまた,本研究においてはストレスに関する分析を単にストと考え,本研究を進めることにした.レスの有無で区分せざるをえなかった.理由はストレスの程われわれ一般臨床医にとって前房水の検索など,病因に迫度をある程度分類できたとしても,それに対するストレス反る前向きの研究はむずかしい.しかしながら,発作が起こる応を問診していないため,ストレス反応の高低を判断できな前のストレス状況の検討,または性別による相違点の検討なかったためである.症例によってはストレスがPSS発作のどは病因究明にまでは及ばないまでも,PSSの病態を理解引き金になっているのではないかと考えられる症例が少なくするうえで何らかの役に立つ可能性があると考えた.それがなく,今後ストレスの妥当な定量方法を検討しながら,PSS本研究を始めた動機でもある.発作発症の要因候補としてさらなる検討をしていく予定であまず本研究における男女比は男性:女性=35:10と男性る.また,今回の研究では,45症例すべてで得られた背景に偏っている印象であった.そこで40例以上の症例を検討要因のみ検討したため,角膜内皮細胞密度や視野検査などはしている他国のデータと比較すると,韓国の報告では男性:約半数程度の症例でしか検査データが得られていない.それ女性=26:1410)で本研究とは大きな差がみられず,シンガらについては今後の検討課題である.また,ぶどう膜炎にはポールからの2つの報告は男性:女性=40:278),男性:女好発季節がみられるとの報告もあり14.17),それらについて性=23:3011)と本研究と大きく異なる.一方,韓国とシンも今後検討する予定である.ガポールの前者8)では差がみられず,後者11)とは差がみられPSSの頻度に関する報告は多くはないが,Finlandにおけた.ちなみにシンガポールの患者の約9割は中国人であっる罹患率(incidence)は0.4/100,000,有病率(prevalence)た.これらの結果から表現を変えれば日本は韓国と男女比率は1.9/100,000であると報告されている18).日本においてはが類似するものの中国とは差がみられる.一方,韓国からみOhguroらが36大学の参加によるぶどう膜炎の疫学調査結る日本も中国もそれほど差がなく,男女比率は日本と中国の果を報告した.それによれば3,830人のぶどう膜炎初診患者中間であったということになる.これは地理的な位置関係とのうち,診断病名が確定したのは2,556例で,そのうちPSSも一致し興味深い結果である.今後民族による遺伝的な相違の頻度は1.8%であったという19).このようにPSSは罹患率,と男女の発症比率の差の因果関係が解明されれば,PSSの有病率が低いだけでなくぶどう膜炎のなかに占める割合さえ病態を理解するうえで,大事なステップになるのではないかも低いため少数施設での研究はむずかしい.したがって今と考えられる.後,国や地域により頻度や性別比が異なる可能性もあり,複一方,地理的あるいは民族的な相違とは関係なく,サイト数多施設による比較検討が必要と考えられる.メガロウイルスが陽性である患者は男性に多かったことから8,11),本研究において男性の発症頻度が高かった理由を,本稿の要旨は第25回日本緑内障学会(2014)にて発表した.サイトメガロウイルス陽性患者が多かったからではないかと推定することもできる.しかしながら,本研究においてはウイルス学的検索を行っていないため,今後検討するべき興味利益相反:利益相反公表基準に該当なしある課題である.PSSの好発年齢は一般的には20.50歳とされており,本文献研究の初発年齢47.3歳はやや高いという印象がある.そこ1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecurで最近の諸外国の報告と比較すると,年齢の若い順から台湾rentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchのShenらが36.3歳12),シンガポールのCheeらは39.2歳8),Ophthalmol39:517-535,1948韓国のChoiらは43.8歳10),ドイツのSobolewskaらは442)PosnerA,SchlossmanA:Furtherobservationsonthe歳13),シンガポールのLiらは48.4歳11)と報告しており,やsyndromeofglaucomatocycliticcrises.TransAmAcad432あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(122) OphthalmolOtolaryngol57:531-536,19533)LevatinP:Glaucomatocycliticcrisesoccurringinbotheyes.AmJOphthalmol41:1056-1059,19564)PuriP,VremaD:BilateralglaucomatoycliticcrisisinapatientwithHolmesAdiesyndrome.JPostgradMed44:76-77,19885)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalomol75:668-673,19736)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosnerSchlossmansyndromebenign?Ophthalmology108:913-918,20017)Bloch-MichelE,DussaixE,CerquetiPetal:PossibleroleofcytomegalovirusinfectionintheetiologyofthePosner-Schlossmannsyndrome.IntOphthalmol11:95-96,19878)CheeSP,JapA:PresumedfuchsheterochromiciridocyclitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOphtlamol146:883-889,20089)YamamotoS,Pavan-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,199510)ChoiCY,KimMS,KimJMetal:AssociationbetweenHelicobacterpyloriinfectionandPosner-Schlossmansyndrome.Eye24:64-69,201011)LiJ,AngM,CheungCMetal:AqueouscytokinechangesassociatedwithPosner-Schlossmansyndromewithandwithouthumancytomegalovirus.PloSOne7:e44453,201212)ShenSC,HoWJ,WuSCetal:Peripheralvascularendothelialdysfunctioninglaucomatocycliticcrisis:apreliminarystudy.InvestOphthalmolVisSci51:272-276,201013)SobolewskaB,DeuterC,DoychevaDetal:Long-termoraltherapywithvalganciclovirinpatientswithPosner-Schlossmansyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol252:117-124,201414)PaivonsaloT,TuominenJ,SaariKM:Seasonalvariationofendogenousuveitisinsouth-westernFinland.ActaOphthalmolScand76:599-602,199815)MercantiA,ParoliniB,BonoraAetal:Epidemiologyofendogenousuveitisinnorth-easternItaly.Analysisof655newcases.ActaOphthalmolScand79:64-68,200116)LevinsonRD,GreenhillLH:Themonthlyvariationinacuteanterioruveitisinacommunity-basedophthalmologypractice.OculImmunolInflamm10:133-139,200217)StanC:Theinfluenceofmeteorologicalfactorsinwintertimeontheincidenceoftheoccurrenceofacuteendogenousiridocyclitis.Optalmologia52:16-21,200018)PaivonsaloT,TouminenJ,VaahtorantaHetal:IncidenceandprevalenceofdifferentuveitisentitiesinFinland.ActaOphthalmolScand75:76-81,199719)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,2012***(123)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015433

カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):425.428,2015cカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性の比較内田英哉*1鵜木一彦*2山林茂樹*3岩瀬愛子*4*1内田眼科*2うのき眼科*3山林眼科*4たじみ岩瀬眼科ComparisonofOcularHypotensiveEffectandSafetyBetweentheUnfixedCombinationofLong-ActingCarteolol2%HydrochlorideAddedtoLatanoprost0.005%andtheFixedCombinationOphthalmicSolutionofLatanoprost0.005%/TimololMaleate0.5%HideyaUchida1),KazuhikoUnoki2),ShigekiYamabayashi3)andAikoIwase4)1)UchidaEyeClinic,2)UnokiEyeClinic,3)YamabayashiEyeClinic,4)TajimiIwaseEyeClinicカルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果および安全性を比較検討した.ラタノプロスト点眼が4週以上単剤投与され,効果不十分な原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者44例44眼に対し,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液併用群(22眼)またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液切り替え群(22眼)に振り分け,眼圧下降効果および副作用を検討した.点眼変更後4週および8週後の併用群と配合剤群は,変更前に比べ有意な眼圧下降(p<0.0001)を示し,眼圧下降効果に両群間での差はなかった(p=0.054,p=1.000).点眼時眼刺激感は配合剤群で多かった.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と同等の眼圧下降効果が得られ,忍容性に優れていた.Inthisstudy,wecomparedtheintraocularpressure(IOP)reductionandsafetybetweenlong-actingcarteolol2%hydrochloride(LA)addedtolatanoprost0.005%(Lat)andthefixedcombinationophthalmicsolutionofLat/Timololmaleate0.5%.Forty-foureyesof44patientswithopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhohadaninsufficientresponsetoLatmonotherapywereenrolled.IOPreductionaswellasgeneralandtopicalsideeffectswerecomparedbetweentheunfixedcombinationgroup(22eyes)andthefixedcombinationgroup(22eyes).SignificantIOPreductionwasobservedinalleyesofbothgroupsatthe4-and8-weekfollow-upperiodsafterswitchingtherapy(p<0.0001).NostatisticallysignificantdifferencesinIOPreductionwerefoundbetweenthetwogroups(p=0.054and1.000,respectively).Eyesurfaceirritationwasmorefrequentlyobservedinthefixedcombinationgroup.ThefindingsofthisstudyshowedthatIOPreductionintheunfixedcombinationgroupwassimilartothatinthefixedcombinationgroup,yetwithlesssideeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):425.428,2015〕Keywords:ラタノプロスト,カルテオロール,配合剤,眼圧,刺激感.latanoprost,carteolol,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,irritation.はじめになり,点眼薬への反応,あるいは個人の背景因子など多様化緑内障疫学調査(多治見スタディ)1)より,わが国の40歳することが想像される.以上の20人に1人は緑内障であり,その9割が未治療であ緑内障診療ガイドライン2)では,薬剤による眼圧下降治療ると報告されている.今後,点眼治療を要する患者数は多くは単剤(単薬)から開始し,眼圧下降が不十分な場合に作用〔別刷請求先〕内田英哉:〒500-8879岐阜市徹明通4-18内田眼科Reprintrequests:HideyaUchida,M.D.,UchidaEyeClinic,4-18Tetsumei-dori,Gifu-shi,Gifu500-8879,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(115)425 機序の異なる薬剤による多剤併用療法を行うことを推奨しており,上記の多彩さのなかでは,追加眼圧下降効果とともに副作用に留意する必要がある.こうした,点眼治療薬の選択には多くの組み合わせが必要である.一方,わが国でも,アドヒアランスの向上を目的とした配合剤が発売され,多剤併用療法時の選択肢として広く臨床使用されている.しかし,配合剤に含まれる有効成分は併用で使用される場合と比べて,1日当たりの点眼回数が少ない場合もあり,眼圧下降作用が併用療法に比べるとやや劣るという報告3.5)もある.さらに,bブロッカー点眼薬を含有する配合薬は,現時点ですべてチモロールが使用されており,その選択は限定されている.カルテオロール塩酸塩持続性点眼液は2007年の発売以来,広く臨床応用されている1日1回点眼のb遮断薬である.単剤使用のみならず,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合にカルテオロール塩酸塩持続製剤により併用治療されるケースは多く,併用投与時の眼圧下降効果を検討した報告6.8)はあるが,配合剤と比較検討した報告はない.今回,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を比較対照として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液併用時の眼圧下降作用,眼刺激症状,全身的副作用を評価した.I対象および方法本臨床研究は,多施設共同オープンラベル試験として2012年12月.2013年5月に,表1に示す4施設において,北町診療所倫理審査委員会(東京都武蔵野市)にて実施前に審査を行い承認を得た研究実施計画書を用いて実施された.対象は,4週間以上のラタノプロスト点眼液(商品名:キサラタンR点眼液0.005%,1日1回夜点眼)(以下,Lat)単独治療を行ったにもかかわらず,主治医が目標眼圧に達していないと判断した眼圧15mmHg以上29mmHg以下の,広義原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者である.研究参加については文書で同意を得た.眼圧下降効果不十分症例に対する点眼治療の変更としては,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液(商品名:ミケランRLA点眼液2%,1日1回朝点眼)(以下,LA)の併用(併用群),またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(商品名:ザラカムR配合点眼液,表1試験参加施設および試験責任医師一覧医療機関名試験責任医師たじみ岩瀬眼科岩瀬愛子山林眼科山林茂樹うのき眼科鵜木一彦内田眼科内田英哉1日1回夜点眼)(以下,Lat/Tim)へ切り替え(配合剤群)のいずれかに無作為に割り付け(中央割付),4週後,8週後に経過観察を行った.なお,6カ月以内に白内障手術を含む内眼手術,レーザー線維柱帯形成術もしくは線維柱帯切開術,角膜屈折矯正手術の既往がある患者,また線維柱帯切除術などの濾過手術の既往がある患者などは対象から除外した.点眼変更時,点眼4週後,点眼8週後には,眼圧,脈拍,血圧の測定および点眼時刺激感についてアンケートを実施した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて午前中(原則として同一時間帯)に測定を行い,3回測定した平均値を評価に用いた.ただし,併用群においては検査日当日の朝はLAを点眼せずに来院させ,眼圧測定後LAを1回1滴点眼し,点眼2時間後に再度眼圧測定を行い,それぞれ眼圧下降効果のトラフ値およびピーク値として評価した.また,併用群の脈拍数および血圧もLAの点眼前後で2回測定を行った.点眼時刺激感については,「なし」「少ししみる」「しみる」「かなりしみる」の4段階で評価し(,)た.解析眼は,眼(,)圧の高い(,)ほうの眼,同一の場合は右眼とした.点眼変更時の各群間での眼圧の比較はKruskal-Wallisの検定により評価した.4週後,8週後各測定点の併用群(トラフ値・ピーク値)と配合剤群の眼圧値の比較には,Bonferroniによる多重性の調整を行った共分散分析を用いた.また,各群での点眼変更前と変更後4週後,8週後の眼圧比較には,多重性を考慮したSteel検定を用いた.眼刺激感は,観察期間中の最大スコアを用いWilcoxon順位和検定で比較し,血圧および脈拍数はStudentt検定を用いた.被験者の背景因子に関しては,Fisherの直接確率検定またはt検定を用いた.II結果本研究にエントリーされた44例44眼(原発開放隅角緑内障27例27眼,正常眼圧緑内障11例11眼,高眼圧症6例6眼,男性22例22眼,女性22例22眼,年齢41.80歳)のうち,併用群は22例22眼,配合剤群は22例22眼で,全例を解析対象とした.性別,年齢,病型,眼合併症,眼手術歴,全身合併症および薬物アレルギーの各項目において,両群間で有意差は認められなかった.眼圧の推移を図1に示す.点眼変更前の眼圧は,併用群が18.2±1.5mmHg(平均±標準誤差偏差),配合剤群が17.7±1.9mmHgであり,両群間に有意差は認められなかった(p=0.412).併用群,配合剤群とも点眼治療変更前と比較して変更後4週後,8週後は,すべての測定時点において眼圧が有意に下降していた(p<0.0001).点眼治療変更後,併用群において4週後の朝点眼前の眼圧は,15.8±1.5mmHg,配合剤群では14.4±2.1mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間では差は認められなかった(p=0.054).一方,併用群のおけるLA点眼2時間後の426あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(116) 併用群:トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧併用群:ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧■併用群トラフ値(LA点眼前)眼圧配合剤群眼圧■併用群ピーク値(LA点眼2時間後)眼圧17.714.414.718.215.814.718.213.413.3051015202530n.s.※n.s.n.s.***眼圧(mmHg)******眼圧(mmHg)201518.215.817.714.414.714.713.413.31050点眼変更時4週目8週目平均(mmHg).解析は、多重性を考慮したSteel検定を用いた.*:p<0.0001.図1点眼変更後の眼圧の推移併用群,配合剤群とも変更後4週後および8週後のすべての測定点において点眼変更前に比べ,有意な眼圧下降がみられた(p<0.001)少しあるなし21例95%併用群かなりあるザラカム群1例3例5%14%あるなし8例36%少しある9例41%2例9%点眼変更時4週目8週目平均±標準偏差(mmHg).ANCOVA多重性の調整はBonferroniの方法を用いた.ただし※はt-test.*:p<0.05,**:p<0.01.図2併用群と配合剤群の各測定点での眼圧4週後,8週後において配合剤群に対して併用群のピーク値が有意に低値(p=0.012,p=0.0024)であった.一方,併用群のトラフ値では4週後で併用群に比べ高値(有意差を認めず)であったが,8週後では同等の値となった.比較して有意な変化はなかった.有害事象は,配合剤群でのみ3例に3件認められ,その内訳は色素上皮異常症1例1件,刺激感2例2件であった.いずれも点眼薬との関連性はありと判断された.III考按Wilcoxon順位和検定図3点眼時の眼刺激感眼刺激の評価には,4週および8週の時点での最大スコアを用いた.併用群に比べ配合剤群で眼刺激感が有意に多かった(p<0.0001).眼圧は13.4±1.1mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.012).8週後の朝点眼前の眼圧においても,併用群トラフ値では14.7±1.5mmHg,配合剤群では14.7±2.0mmHgであり,配合剤群と併用群トラフ値の間に有意差は認められなかった(p=1.000).一方,LA点眼2時間後の眼圧は13.3±1.2mmHgであり,配合剤群と併用群ピーク値の間で有意差が認められた(p=0.024)(図2).眼刺激感の評価には,4週もしくは8週の時点において点眼時の刺激感をもっとも強く感じたスコアを採用した.併用群においては「なし」21例(95%),「少しある」1例(5%),配合剤群では「なし」8例(36%),「少しある」9例(41%),「ある」2例(9%)「かなりある」3例(14%)であり,両群間に有意差が認められ(,)た(p<0.0001)(図3).脈拍数,拡張期血圧,収縮期血圧は,LA点眼前および点眼2時間後のいずれの時点においても,併用群は配合剤群と(117)これまで,プロスタグランジン製剤とb遮断薬の併用治療と配合剤治療の眼圧下降効果を比較した報告では,無作為化二重盲検試験で非劣性が検証された報告9,10)がある一方で,配合剤による眼圧下降効果のほうが有意に劣っていたとの報告3.5)もある.本研究では,緑内障薬物治療のファーストラインとして使用されていることが多い,ラタノプロスト点眼液で眼圧下降効果が不十分な症例を対象に,bブロッカーの1回点眼を加える方法として,カルテオロール塩酸塩持続性点眼液とラタノプロスト点眼液の併用療法とラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液のいずれかに切り替えた場合の,眼圧下降および安全性について比較検討した.点眼時刻については,臨床現場での一般的な投与方法に則し,併用群はLAを朝1回,Latを夜1回,Lat/Tim配合剤は夜1回点眼を行うこととした.眼圧測定は両群とも午前中に行った.LA併用群の眼圧をより詳細に評価するために,LA点眼前および点眼2時間後の2時点で測定を行った.LAのそれぞれの眼圧は,眼圧下降効果のトラフ時およびピーク時の眼圧であり,配合剤群では点眼後12時間から18時間後の眼圧と比較することになった.眼圧については,両群ともに点眼変更前に比べ,4週後,8週後すべての測定ポあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015427 イントで有意な眼圧下降が得られた.4週後,8週後の併用群の朝点眼前の眼圧値(トラフ値)は配合剤群と差は認められなかった(p=0.054,1.000)が,LA併用群の点眼後2時間後の眼圧値(ピーク値)は4週,8週ともに同じ時刻の配合剤群より低かった(p=0.012,0.0024).配合剤群は夜間に点眼するため,併用群に比べbブロッカーの効果が眼圧測定時(午前中)に減弱していたことが示唆された.安全性に関して,併用群のLA点眼2時間後はカルテオロールの血中濃度が上昇する時間帯,配合剤群の評価時点はチモロールの血中濃度が低下した時間帯であり,カルテオロールは内因性交感神経刺激様作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)を有してはいるものの11),血圧および脈拍数において2群間に差がみられることが予想されたが,両群間で有意差は認められなかった.刺激感については,配合剤群で刺激感を報告した患者数は64%と併用群に比べて多かった(p<0.0001).わが国で臨床使用可能なb遮断薬は複数あり,患者の症状に合わせた使い分けが可能であるが,現在市販されているb遮断薬の配合剤は,いずれもチモロールマレイン酸塩が用いられており,選択範囲は狭い.本研究は,ラタノプロストとカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用群と,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果について検討した初めての報告である.ラタノプロスト点眼液とカルテオロール塩酸塩持続性点眼液の併用はラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液と比較して,トラフでは同等の眼圧下降作用を,またピークでは同時刻の配合薬より有意な眼圧下降を示した.1日2回点眼と同様の眼圧下降効果をもつ,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬12)をラタノプロスト点眼薬に組み合わせることにより,配合剤と同等の眼圧下降効果が得られた可能性がある.今回の観察期間においては,配合点眼液群,併用群ともに全身的な副作用は有意差がなかった.一方,点眼時の刺激感は,LA併用のほうが少なかった.緑内障配合点眼薬は,薬剤数および点眼回数が減少することでアドヒアランスの向上が期待されるのも事実であり,今後,プロスタグランジン製剤で効果不十分な場合の薬剤選択の一つとして,カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬を含む配合薬の開発が待たれる.文献1)日本緑内障学会:多治見疫学調査報告書(2000-2001年),2012年12月2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20123)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponantsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20044)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofsafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,20055)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,20056)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:持続型カルテオロール点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果.眼臨紀3:14-17,20107)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:ラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科28:1017-1021,20118)新垣淑邦,與那原理子,澤口昭一:2種類の持続型b遮断薬のラタノプロストへの追加効果と副作用の比較.眼臨紀6:91-96,20139)DiestelhorstM,LarssonL-I,TheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,200610)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験.あたらしい眼科30:1185-1194,201311)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculareffectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol123:465-477,199712)山本哲也,カルテオロール持続性点眼薬研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験─.日眼会誌111:463-472,2007***428あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(118)

ラット角膜上皮剝離モデルを用いた種々市販緑内障治療 配合剤の角膜傷害性評価

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):419.424,2015cラット角膜上皮.離モデルを用いた種々市販緑内障治療配合剤の角膜傷害性評価長井紀章*1吉岡千晶*1森愛里*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室InVivoEvaluationofCornealDamagesafterInstillationofCommerciallyAvailableAnti-glaucomaCombinationEyedrops,UsingRatDebridedCornealEpitheliumNoriakiNagai1),ChiakiYoshioka1),AiriMori1),YoshimasaIto1),NorioOkamoto2)andYoshikazuShimomura2)1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine市販緑内障治療配合剤を対象に,ラット角膜上皮.離モデルを用いたinvivo角膜傷害性評価を行った.緑内障治療薬はキサラタンR,チモプトールR,トラバタンズR,トルソプトRおよび配合点眼薬であるザラカムR,デュオトラバR,コソプトRの7剤を用いた.本研究の結果,緑内障治療薬の角膜傷害性はキサラタンR≒ザラカムR>チモプトールR>コソプトR>トルソプトR≒デュオトラバR>トラバタンズRの順であった.また,これまで報告してきた不死化ヒト角膜上皮培養細胞(HCE-T)を用いたinvitro角膜細胞傷害性評価(急性,慢性毒性)と本研究結果であるinvivo角膜傷害性結果を比較評価したところ,急性,慢性毒性ともに角膜傷害治癒速度と負の相関を示した.さらに,角膜傷害治癒速度と慢性毒性間で有意に高い相関性が認められた(r=0.9879).以上,市販緑内障治療配合剤の角膜傷害性を明確にするとともに,筆者らが確立した点眼薬毒性評価法が有用であることを明らかとした.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofcommerciallyavailableanti-glaucomacombinationeyedrops(XalacomR,DuotravRandCosoptR)oncornealwoundhealing,usinganinvivoratmodel.ThetoxicitywasXalatanR≒XalacomR>TimoptolR>CosoptR>TrusoptR≒DuotravR>TravatanzR.Wepreviouslyreportedcornealepithelialcelldamagefromanti-glaucomaeyedropsusingculturecell(HCE-T),andcalculatedeyedropsacuteandchronictoxicity.Inthisstudy,wealsodemonstratedtherelationshipbetweeninvivoandinvitroevaluationofcornealdamages.Thecornealwoundhealingrate(invivostudy)wasenhancedwiththedecreaseinacuteandchronictoxicity(invitrostudy),andacloserelationshipwasobservedbetweeninvivocornealwoundhealingrateandinvitrochronictoxicity(r=0.9879,p<0.05).Thesefindingsprovidesignificantinformationforuseindesigningfurtherstudiesaimedatreducingcornealdamagecausedbyeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):419.424,2015〕Keywords:角膜,ザラカムR,デュオトラバR,コソプトR,キネティック解析.cornea,XalacomR,DuotravR,CosoptR,kineticanalysis.はじめに緑内障治療の第一選択としては,もっとも作用が強いという理由から,おもにプロスタグランジン(PG)点眼薬が用いられ,眼圧コントロールが困難な場合には作用機序の異なる複数の緑内障治療薬が適宜追加される.しかし,長期連続投与や緑内障治療薬の多剤併用により点眼表層角膜症や眼瞼炎といった眼局所の副作用がみられており,また点眼薬使用後のしみる,かすむ,眼の充血といった不快な症状は患者のアドヒアランス低下につながる.そこで近年では,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤であるザラカムRなどが市販され,qualityoflife(QOL)の高い治療法へつながるものとして注目されている.緑内障治療薬の角膜障害評価法については多くの報告がなされており,筆者らもこれまで,不死化ヒト角膜上皮培養細胞(HCE-T)を用いた点眼薬の角膜傷害性評価法を作成してきた1.3).また,点眼薬処方時の角膜上皮細胞の生存率から〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(109)419 表1各種緑内障治療薬に含まれる添加物緑内障治療薬添加物ザラカムRベンザルコニウム塩化物(0.02%),無水リン酸一水素Na,リン酸二水素Na一水和物,等張化剤デュオトラバR塩化ポリドロニウム(濃度非公開),ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,プロピレングリコール,ホウ酸,塩化Na,D-マンニトール,pH調節剤2成分コソプトRベンザルコニウム塩化物液(濃度非公開),ヒドロキシエチルセルロース,D-マンニトール,クエン酸Na水和物,水酸化NaチモプトールRベンザルコニウム塩化物液(0.005%),水酸化Na,リン酸二水素Na,リン酸水素Na水和物キサラタンRベンザルコニウム塩化物(0.02%),等張化剤,無水リン酸一水素Na,リン酸二水素Na一水和物トラバタンズRホウ酸,塩化亜鉛,D-ソルビトール(SofZiaR),プロピレングリコール,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,pH調節剤2成分トルソプトRベンザルコニウム塩化物液(0.005%),ヒドロキシエチルセルロース,D-マンニトール,クエン酸Na水和物,塩酸下線は保存剤を,括弧はその濃度または名称を示す.細胞死亡率を測定し,1次速度式を用いた細胞傷害性解析にて,急性および慢性毒性を算出する方法(invitro角膜上皮細胞傷害性評価)を確立し,緑内障治療薬の角膜傷害性を明らかとするうえで有用であることを報告してきた3).一方,主薬および添加剤の角膜傷害を正確に評価・解明するためには,invitroおよびinvivo両面からの観察が必須と考えられる.しかし,点眼薬の毒性評価実験の多くは培養細胞を用いており,invivo評価の結果は十分とは言えないのが現状である.点眼薬のinvivo角膜傷害性評価には主として家兎が用いられている.また,評価法として点眼後の角膜組織所見からの傷害性評価,上皮のバリア機能を評価することのできる角膜上皮の経上皮電気抵抗値測定やフルオレセインの透過性検討が行われている4,5).しかし,家兎を用いた実験系では,数多くある点眼薬や点眼用添加剤を評価するのはむずかしく,ラットやマウスなどより小動物を用いた評価法の確立が望まれる.一方,筆者らは角膜上皮.離モデルを用いることで,主薬および添加剤による点眼薬角膜傷害性を評価することができ,従来の臨床報告と同様な結果が得られることを明らかにしてきた1,6,7).このinvivo評価系は,ラットを使用するため同条件下(一度の実験)で多数の比較が可能であり,動物を殺さず,経時的に点眼薬の角膜傷害度を定量化できる.このため,ラット角膜上皮.離モデルを用いたinvivo角膜傷害性評価法は,今後の点眼薬毒性評価において有用な実験系となる可能性を示している.今回,このinvivo角膜傷害性評価法を用いて,現在臨床現場で多用されている緑内障治療配合剤のinvivo角膜傷害性比較評価を行った.また,これまで報告してきたHCE-Tを用いたinvitro角膜細胞傷害性評価(急性,慢性毒性)と本研究結果であるinvivo角膜傷害性結果との相関性について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験にはWistarラット(7週齢)を用いた.これらラット420あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015は25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.また,動物実験は近畿大学実験動物規定に従い行った.2.試薬生検トレパンはカイインダストリーズ,ブレード(BDMicro-SharpTM,Blade3.5mm,30°)はBectonDickinson,塩酸オキシブプロカイン(ベノキシールR)は参天製薬,イソフルランはSigma-Aldrich,フルオレセインは日本アルコンから購入したものを用いた.緑内障治療薬は市販製剤である0.5%チモプトールR(主薬チモロールマレイン酸塩),0.005%キサラタンR(主薬ラタノプロスト),0.004%トラバタンズR(主薬トラボプロスト),1%トルソプトR(主薬ドルゾラミド塩酸塩),およびこれらの主薬を含む配合剤ザラカムR(主薬ラタノプロストおよびチモロールマレイン酸塩),デュオトラバR(主薬トラボプロストおよびチモロールマレイン酸塩),コソプトR(主薬ドルゾラミド塩酸塩およびチモロールマレイン酸塩)点眼液の7剤を用いた.表1には本研究で用いた各種緑内障治療薬に含まれる添加物を示す.3.ラット角膜上皮.離モデルの作製と角膜傷害治癒解析イソフルラン2.5%にて吸入麻酔下,生検トレパンで円形にラット角膜を形取り,ブレードで角膜上皮を.離した(.離面積10.1±0.4mm2;means±SE).その後,点眼溶液を1日5回(9:00,12:00,15:00,18:00,21:00)実験終了まで点眼(1回30μl)した.対照(control)には生理食塩液(大塚製薬)を用いた.角膜上皮欠損部分は実験開始0,6,9,12,30時間後に,1%フルオレセイン含有0.4%ベノキシール点眼液にて染色し,トプコン社製眼底カメラ装置TRC-50Xにデジタルカメラを装着したものを用いて撮影を行った1).また,画像解析ソフトImageJにて得られた画像から角膜上皮欠損部分の面積推移を数値化した.角膜傷害治癒率(%)は,次式(1)にて算出した1).角膜傷害治癒率(%)=(面積.離直後.面積.離0.36時間後)/面積.離直後×100(1)(110) A0時間12時間30時間B0時間12時間30時間BコントロールザラカムRデュオトラバRコソプトRチモプトールRキサラタンRトラバタンズR020406080100角膜傷害治癒度(%)デュオトラバRザラカムRコソプトRコントロールチモプトールRトラバタンズRトルソプトRキサラタンR**********************0612182430時間(h)図1各種緑内障治療薬点眼処理が角膜傷害治癒へ与える影響角膜傷害治癒度は式(1)を用いて算出した.A:代表的画像(点線内は傷害部を示す),B:角膜上皮傷害治癒率.平均値±標準誤差,n=5.10.*p<0.05vs.コントロール(Dunnettの多群間比較)いた.実験時は,HCE-T細胞を10.120秒薬剤にて処理後,PBSにて2回洗浄し,各wellに100μlの培地およびTetra-ColorONE(生化学社製)20μlを加え,37℃,5%CO2インキュベーター内で1時間処理後,マイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)にて490nmの吸光度(Abs)を測定した.本研究では,薬剤処理後の細胞生存率(%)を次式(3)により算出した3).細胞生存率(%)=Abs薬剤処理/Abs未処理×100(3)また,薬剤処理が細胞傷害へ与える影響をより詳細に検討すべく,次式(4)を用いて解析を行った3).(4)トルソプトR角膜傷害治癒速度は,角膜傷害治癒速度定数(kH,h.1)として表した.角膜上皮.離0.30時間後のkHは,次式(2)で計算した1).)・tkD.e.1・(∞D=DtkDは細胞傷害速度定数(min.1),tは点眼薬処理後の時間(0.2分),D∞およびDtは薬剤処理∞およびt分後の細胞死亡率を示す.本研究ではkD,D∞をそれぞれ急性毒性および慢性毒性として表した.本研究における緑内障治療配合剤の急性毒性および慢性毒性は,invivoとinvitro角膜傷害性評価法の比較のために用いており,引用文献3にて報告されたものを再度測定・解析したものである3).5.統計解析実験は1群に対し5.10回(検体)行い,得られたデータは平均±標準誤差(SE)として表した.各々の実験値は単群)・tkH.e.1・(∞H=Htここで,tは角膜上皮.離後の時間(0.30時間),H∞およびHtは角膜上皮.離∞およびt時間後の角膜傷害治癒率を示す.4.各種緑内障点眼薬による細胞処理法不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.1384)を96wellプレートに100μl(1×104個)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内で24時間培養したものを実験に用(111)(2)比較においてはStudentのt-testを用い,多群間比較においてはDunnettの多群間比較により解析した.また,本研究ではp値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.角膜上皮.離モデルを用いた種々緑内障治療点眼液のinvivo角膜傷害性評価図1および表2は角膜上皮.離モデルへの種々緑内障治療あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015421 表2各種緑内障治療薬処理における角膜傷害性コントロールザラカムRデュオトラバRコソプトRチモプトールRキサラタンRトラバタンズRトルソプトRkH2.41±0.261,3,4)5.18±0.211,2,4)4.83±0.281,2)3.61±0.251.4)2.26±0.241,3,4)5.44±0.282,4)5.08±0.221,2)(×10.2h.1)5.83±0.292.4)角膜傷害治癒速度定数は式(2)により算出した.平均値±標準誤差,n=5-10.*1p<0.05vs.コントロール,*2p<0.05vs.ザラカムR,*3p<0.05vs.デュオトラバR,*4p<0.05vs.コソプトR(Dunnettの多群間比較)A時間後の角膜傷害治癒率は29.8±6.7%であった.また,チ2046角膜傷害治癒速度定数(×10-2r=0.9879*r=0.7531デュオトラバRザラカムRコソプトRデュオトラバRザラカムRコソプトRトルソプトR6y=-141.39x+8.2568h-1y=-3017.9x+168.66チモプトールRモプトールR点眼群では.離12時間後において37.9±5.3%キサラタンRの治癒がみられ,キサラタンRと比較しその角膜傷害性は低急性毒性(min-1)トラバタンズRかった.一方,ザラカムR処理群では,.離12時間後の治癒率は30.1±5.6%であり,その角膜傷害治癒に与える影響はキサラタンRと同程度であった.次にトラバタンズR,チモプトールRおよびこれら2種の主薬を有する配合剤デュオトラバR点眼液点眼群について示す.トラバタンズR点眼群において,角膜上皮.離12時間0後の角膜傷害治癒率は64.8±3.5%と,チモプトールR点眼8)群のそれに比べ高値であり,コントロール群と比較し有意な差はみられなかった.また,デュオトラバR点眼群における.離12時間後の角膜傷害治癒率は54.6±4.4%と,コントロB120チモプトールRール群の治癒率の83%であった.一方,デュオトラバRとキサラタンRトラバタンズRトラバタンズR点眼群間で角膜傷害治癒速度に有意な差はみ慢性毒性(%)80トルソプトRられなかったが,チモプトールR点眼群の角膜傷害治癒速度はこれら両点眼製剤と比較し有意に低値であった.604020002468角膜傷害治癒速度定数(×10-2h-1)最後にトルソプトR,チモプトールRおよびこれら2種の主薬を有する配合剤コソプトR点眼液点眼群について示す.コソプトR点眼群の角膜傷害性は,チモプトールR点眼群のそれと比較し低値であり,トルソプトR点眼群と同程度であった.これらトルソプトRおよびコソプトR点眼群の.離12時間後における治癒率は,それぞれコントロール群の75.4図2種々市販緑内障治療薬を用いたinvivoおよびinvitro角膜傷害性評価法の比較角膜傷害治癒速度定数は式(1)を用いて算出した.また,急性毒性(kD)および慢性毒性(D∞)はinvivoおよびinvitro角膜傷害性評価法の比較のために,引用文献3にて報告したものを再度測定・解析した3).A:急性毒性と角膜傷害治癒速度定数の相関性評価,B:慢性毒性と角膜傷害治癒速度定数の相関性評価.平均値±標準誤差,n=5.10.薬処理時における角膜傷害治癒率と角膜傷害治癒速度を示す.生理食塩水点眼群(コントロール群)では角膜上皮.離12時間後傷害面積は66.1%であり,角膜傷害治癒速度(kH)は5.83±0.29(×10.2h.1,mean±SE,n=10)であった.まずキサラタンR,チモプトールRおよびこれら2種の主薬を有する配合剤ザラカムR点眼液点眼群について示す.いずれにおいてもコントロール群と比較し角膜傷害治癒の遅延が認められた.キサラタンR処理群において,角膜上皮.離12422あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015%,79.5%であった.2.角膜上皮.離モデルを用いたinvivoおよびHCE.T細胞を用いたinvitro角膜傷害性評価間の比較図2は筆者らがこれまで報告してきたinvitro角膜上皮細胞傷害性評価[急性毒性(kD),慢性毒性(D∞)]3)と本研究にて明らかとしたinvivo角膜傷害性間の相関性を示す.急性毒性,慢性毒性ともに,角膜傷害治癒速度(kH)の増加に伴い,減少傾向を示し,負の相関を示した.また,急性または慢性毒性と角膜傷害治癒速度間の相関係数はそれぞれ0.7531,0.9879と,角膜傷害治癒速度と慢性毒性間で非常に高い相関性が認められた.III考按点眼薬の毒性評価実験の多くは培養細胞を用いたinvivo系であるため,invivo評価を実施し,過去に報告されてきたinvitro系評価法の正確さを明らかとすることは,これま(112) での成果の活用において非常に重要と考えられる.本研究では,invivo角膜傷害性評価法により緑内障治療配合剤の角膜傷害性評価を行うとともに,筆者らがこれまで報告してきたHCE-Tを用いたinvitro角膜上皮細胞傷害性評価(急性,慢性毒性)と本研究結果であるinvivo角膜傷害性結果との関係について比較を行い,その有用性について検討した.Invivo角膜傷害性評価を行うにあたり,モデル動物の選択は非常に重要である.角膜上皮の損傷治癒は,細胞の分裂・増殖,伸展・移動によって行われている.ThoftとFriendは健常な角膜上皮では,細胞分裂(X)+細胞移動(Y)=細胞脱落(Z)の公式がなりたつというXYZ理論を提唱している8).今回行った角膜上皮.離モデルを用いた点眼薬の角膜傷害性評価試験は,点眼薬が細胞分裂(X)および細胞移動(Y)へ与える影響を評価するものであり,筆者らは本法の結果が,臨床での報告と同様であることをこれまで報告している1,6).そこで本法を用い,近年注目されている緑内障治療配合剤3種(ザラカムR,デュオトラバRおよびコソプトR)の点眼後による角膜傷害治癒速度変化について検討した.緑内障治療配合剤であるザラカムR,デュオトラバR,コソプトR点眼液による角膜傷害治癒への影響を解析したところ,ザラカムR(主薬ラタノプロストおよびチモロールマレイン酸塩)の角膜傷害性はキサラタンRと同程度であり,チモプトールRと比較し高値であった(図1,表1).点眼薬には品質の劣化を防ぐ目的で保存剤が添加されており,薬剤性角膜傷害には主薬のみでなくこの保存剤が強く関与する1).今回用いたザラカムR,キサラタンRおよびチモプトールRいずれにおいても保存剤としてベンザルコニウム塩化物(BAC)が用いられており,その濃度はザラカムR,キサラタンRでは0.02%,チモプトールRでは0.005%であった.また,筆者らもこれまでBAC溶液処理時に角膜傷害治癒速度が遅延することを報告している1,3,6,7).したがって,ザラカムRの高い角膜傷害性は0.02%という高いBAC濃度と主薬であるラタノプロストおよびチモロールマレイン酸塩に起因するものと考えられた.次に配合剤デュオトラバR点眼液(主薬トラボプロストおよびチモロールマレイン酸塩)の角膜傷害性について検討を行った(図1,表1).トラボプロストを主薬とするトラバタンズR点眼群の角膜傷害治癒速度は,コントロールである生理食塩水点眼群と比較し有意な差は認められなかった.一方,デュオトラバRはトラバタンズRよりも高い角膜傷害性を示したが,チモプトールRと比較しその角膜傷害性は有意に低く,刺激性の低い配合剤であることが明らかとなった(図1).デュオトラバRやトラバタンズRはBAC非含有製剤であり,日本アルコン株式会社が特許を有するポリクオッド(塩化ポリドロニウム)およびSofziaR(塩化亜鉛,ホウ酸を含むソルビトール緩衝剤保存システム)をそれぞれ保存剤として使用している.これら保存剤はBACの高い角膜傷害性を避けるために考案されたものであり,筆者らもポリクオッドやSofziaRの角膜毒性が低いことをすでに報告している3).したがって,デュオトラバRやトラバタンズRの角膜傷害性がチモプトールRのそれより低い主たる理由として,保存剤の違いが関与するものと考えられた.一方,配合剤コソプトR点眼液(主薬ドルゾラミド塩酸塩およびチモロールマレイン酸塩)は,チモプトールRと比較し角膜上皮細胞への影響は少なく低刺激性であった(図1,表1).コソプトR,トルソプトRおよびチモプトールRもまた保存剤としてBACが用いられており,トルソプトRおよびチモプトールR中のBAC濃度は0.005%である.また国内で市販されているコソプトRの含有BAC濃度は非公開だが,海外で市販されているコソプトR含有BAC濃度は0.0075%である.今回の結果において,コソプトRやトルソプトRの角膜傷害性は,チモプトールRのそれよりも低値であった.保存剤であるBAC濃度は角膜傷害性に強くかかわるが,筆者らはD-マンニトールが添加されている際,BACの細胞傷害性が軽減されることを明らかとしており2),コソプトRおよびトルソプトRには,添加剤としてD-マンニトールが用いられている.したがって,これらD-マンニトールの含有が,チモプトールR単剤と比較しコソプトRの角膜傷害性が低値であるという結果につながっているものと示唆された.このように,今回のinvivo角膜傷害性評価法の結果は,これまでに報告してきた培養細胞を用いたinvitro角膜上皮細胞傷害性評価法の結果と類似しており2,3),その傷害強度についても説明可能であった.そこで次に,過去に報告してきたinvitro系評価法の有用性についてさらなる評価を行うべく,今回のinvivo系の解析結果との比較検討を行った.筆者らはinvitro角膜上皮細胞傷害性評価から急性および慢性毒性の算出法を確立しており,急性毒性は薬剤の角膜傷害性の起こしやすさや進行速度を反映し,慢性毒性からは傷害時の大きさ(深刻度)についての情報を得ることが可能である3).これら結果と角膜傷害治癒速度の関連性をみたところ,急性,慢性毒性ともに角膜傷害治癒速度と負の相関を示した(図2).この結果はinvivo系の解析結果が,invitro系評価法の解釈に直結していることを示唆した.さらに,急性または慢性毒性と角膜傷害治癒速度間の相関係数はそれぞれ0.7531,0.9879と,角膜傷害治癒速度と慢性毒性間で非常に高い相関性が認められた(図2).上皮欠損状態である角膜上皮.離ラットは点眼薬点眼が角膜傷害治癒過程にみられる細胞分裂(X)および細胞移動(Y)速度へ与える影響について評価を行うモデルであり,本実験系で用いたinvivo,invitroの系は生物学に同じものを評価しているわけではない.このため,傷害時の大き(113)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015423 さ(深刻度)を表す慢性毒性と角膜傷害治癒速度が強く相関を示すという結果は,慢性毒性の強度が細胞移動や増殖能に対する毒性と密接にかかわっていることを強く示唆した.以上,本研究ではinvivo角膜傷害性評価法にて,配合剤ザラカムR,デュオトラバRおよびコソプトR点眼液の角膜傷害性の強さを明らかにした.今回のザラカムRとキサラタンRの角膜傷害性が同程度という結果から,ザラカムRの角膜傷害性は従来の2単剤併用時のそれと比較し同程度もしくはそれ以下(2単剤併用ではキサラタンRに加えチモプトールRの点眼を行うため)であることが示され,ザラカムRは患者のコンプライアンス向上に優れた効果を発揮するものと考えられた.また,配合剤デュオトラバRおよびコソプトR点眼液はチモプトールR単剤と比較し毒性が弱く,長期にわたり緑内障治療薬を使用する患者にとって非常に有効な点眼薬となりうることを明らかにした.さらに,これまで報告してきた培養細胞を用いたinvitro系評価法の結果が3),invivo系の解析結果と類似していることを示すとともに,点眼薬による角膜傷害治癒遅延は,筆者らが確立したinvitro系評価法により解析される慢性毒性と強い相関性を示すことを明らかにした.本研究は,過去の成果を支持するとともに,緑内障患者に対する薬剤の決定をより容易にするうえで非常に重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NagaiN,MuraoT,OkamotoNetal:Comparisonofcornealwoundhealingratesafterinstillationofcommerciallyavailablelatanoprostandtravoprostinratdebridedcornealepithelium.JOleoSci59:135-141,20102)NagaiN,MuraoT,OeKetal:Aninvitroevaluationforcornealdamagesbyanti-glaucomacombinationeyedropsusinghumancornealepithelialcell(HCE-T).YakugakuZasshi131:985-991,20113)長井紀章,大江恭平,森愛里ほか:各種保存剤を用いた市販緑内障治療(配合)点眼液における角膜傷害性のキネティクス解析.あたらしい眼科30:1023-1028,20134)KusanoM,UematsuM,KumagamiTetal:Evaluationofacutecornealbarrierchangeinducedbytopicallyappliedpreservativesusingcornealtransepithelialelectricresistanceinvivo.Cornea29:80-85,20105)UematsuM,KumagamiT,KusanoMetal:Acutecornealepithelialchangeafterinstillationofbenzalkoniumchlorideevaluatedusinganewlydevelopedinvivocornealtransepithelialelectricresistancemeasurementmethod.OphthalmicRes39:308-314,20076)長井紀章,村尾卓俊,伊藤吉將ほか:点眼薬含有添加剤であるポリソルベート80およびEDTA点眼が角膜上皮傷害治癒へ与える影響.あたらしい眼科27:1299-1302,20107)長井紀章,伊藤吉將,岡本紀夫ほか:ラット角膜上皮.離モデルを用いた点眼薬の角膜傷害性評価:粘稠化剤添加に伴うベンザルコニウム塩化物角膜傷害性の変化.YakugakuZasshi132:837-843,20128)ThoftRA,FriendJ:TheX,Y,Zhypothesisofcornealepithelialmaintenance.InvestOphthalmolVisSci24:1442-1443,1983***424あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(114)

難治性角膜疾患に続発した緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント挿入術の短期成績

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):413.418,2015c難治性角膜疾患に続発した緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント挿入術の短期成績呉文蓮*1,2松下賢治*2河嶋瑠美*2桑村里佳*2臼井審一*2西田幸二*2*1淀川キリスト教病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室Short-TermOutcomeofBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryforSecondaryGlaucomaAssociatedwithRefractiveCornealDiseaseBunrenGo1,2),KenjiMatsushita2),RumiKawashima2),RikaKuwamura2),ShinichiUsui2)andKohjiNishida2)1)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversity,GraduateSchoolofMedicine目的:緑内障インプラントは難治性緑内障への適応が期待される.筆者らは従来型の緑内障手術が奏効しなかった難治性角膜疾患の続発緑内障症例に対しバルベルト緑内障インプラント挿入術(BGI)を施行し1年間の観察を行った.方法:平成23年10月.平成24年3月,大阪大学医学部附属病院眼科でBGIを施行した難治性角膜疾患の続発緑内障3症例の眼圧,点眼スコア経過,合併症を検討した.結果:全例BGI直線チューブタイプを使用し,強膜弁作製1例,2例に強膜パッチを併用した.平均眼圧は術前33±5mmHg,術後1日目12±3.8mmHg,1週目16±10.1mmHg,1カ月目11±6.1mmHg,3カ月目12±2.1mmHg,1年後11±3.5mmHgと1カ月以降下降した.点眼スコアは術前5.7±0.6,術後1日目0±0,1週目2±0,1カ月目2±2,3カ月目0.7±1.2,1年目1.3±1.2と術前より減少した.重篤な合併症を認めなかった.結論:難治性角膜疾患の続発緑内障に対するBGIは,1年間安定した経過を示した.Purpose:Toreporttheshort-termoutcomeofBaerveldtglaucomaimplant(BGI)drainagesurgeryforsecondaryglaucomaassociatedwithrefractivecornealdisease.Methods:Thisstudyinvolved3patientswithsecondaryglaucomacausedbyrefractivecornealdiseasewhounderwentBaerveldtRBG101-350GlaucomaImplant(AbbotMedicalOptics,AbbotPark,IL)surgerybetweenOctober2011andMarch2012andwhowerefollowedupattheDepartmentofOphthalmologyofOsakaUniversityHospital,Osaka,Japan.Inall3cases,intraocularpressure(IOP),anti-glaucomatreatmentscore,andcomplicationswererecorded.Results:ThepreoperativemeanIOPwas33±5mmHg.At1day,7days,1month,3months,and1yearpostoperative,themeanIOPwas12±3.8mmHg,16±10.1mmHg,11±6.1mmHg,12±2.1mmHg,and11±3.5mmHg,respectively.Themeananti-glaucomatreatmentscoredecreasedfrom5.7±0.6to0±0,2±0,2±2,0.7±1.2,1.3±1.2at1day,7days,1month,3months,and1yearpostoperative,respectively.Nocomplicationswereobservedduringthefollow-upperiod.Con-clusion:BGIwasfoundtobeaneffectivetreatmentforcontrollingsecondaryglaucomaassociatedwithrefractivecornealdiseasefor1yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):413.418,2015〕Keywords:緑内障,インプラント挿入術,バルベルト,難治性角膜疾患,短期成績.glaucoma,glaucomadrainageimplant,Baerveldt,refractivecorneadisease,shorttermoutcome.はじめに様体扁平部挿入タイプに分けられ,直線チューブタイプにはバルベルト(Baerveldt)緑内障インプラントは弁のないシプレートの面積の違いによりBG101-350とBG103-250がリコーンチューブとシリコーンプレートが連結して構成されあり,毛様体扁平部挿入タイプにはBG102-350がある4).る.チューブタイプの違いによって直線チューブタイプと毛2011年,マイトマイシンC(mitomycinC:MMC)併用線〔別刷請求先〕呉文蓮:〒533-0024大阪市東淀川区柴島1-7-50淀川キリスト教病院眼科Reprintrequests:BunrenGo,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital,1-7-50,Kunijima,HigashiYodogawa-ku,Osaka533-0024,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(103)413 表1対象症例症例123性別女性男性男性年齢76歳57歳27歳原疾患角膜感染偽類天疱瘡Stevens-Jhonson症候群角膜移植PKPなしLKP/AMT/COMETTLEC2回1回手術既往TLOT1回1回TSCPC3回濾過胞再建術1回一過性眼圧上昇に(以前の濾過胞をニードリング)施行せず――対する対策Sherwoodslit施行せず2カ所2カ所インプラントの種類BG101-350BG101-350BG101-350術式インプラント位置下耳側上耳側上耳側フラップ強膜移植4×4mm強膜移植視力0.01(n.c.)0.01P(n.c.)10cm/HM(n.c.)眼圧33mmHg28mmHg38mmHgTLEC:trabeculectomy(線維柱帯切除術),TLOT:trabeculotomy(線維柱帯切開術),TSCPC:transscleralcyclophotocoagulation(経強膜毛様体光凝固術),PKP:penetratingkeratoplasty(全層角膜移植),LKP:lamellarkeratoplasty(表層角膜移植),AMT:amnioticmembranetransplantation(羊膜移植),COMET:culturedoralmucosalepithelialtransplantation(培養口腔粘膜上皮移植)維柱帯切除術と350mm2バルベルト緑内障インプラント手術の比較試験(TheTubeVersusTrabeculectomystudy:TVTstudy)の結果が発表され,術後5年における両者の眼圧下降効果,術後視力,術後の眼圧下降薬の併用状態(点眼スコア)はほぼ同等で,手術成功率ではインプラント手術が線維柱帯切除術を上回り,合併症も少ないことが明らかにされた1.3).日本では2011年8月に厚生労働省に認可され,2012年4月より保険診療が可能になり,今後緑内障治療用インプラント(glaucomadrainageimplant:GDI)は従来の緑内障手術が奏効しない難治性緑内障への適応が期待されている5).今回,筆者らは複数回の緑内障手術が奏効せず眼圧コントロール不良となった難治性角膜疾患の続発緑内障症例に対して,バルベルト緑内障インプラント(Barveldtglaucomadrainageimplant:BGI)挿入術を施行し,1年間の短期経過観察を行ったので報告する.I対象および方法対象は,平成23年10月.平成24年3月の間に大阪大学医学部附属病院眼科を受診した難治性角膜疾患の続発緑内障患者のうち,GDI挿入術を施行した3例3眼である(表1).症例の内訳は女性1例1眼(76歳),男性2例2眼(57歳および27歳)であった.全例重症角膜疾患に続発する緑内障で,原疾患は陳旧性ヘルペス性角膜実質炎1例1眼,偽類天疱瘡1例1眼,Stevens-Johnson症候群1例1眼であった.また,陳旧性ヘルペス性角膜実質炎とStevens-Johnson症候群の2例は角膜移植の既往があった.いずれの症例もこれまでに複数回の緑内障手術が施行されており,薬物治療を行うも眼圧コントロールが不良であった.すべての症例でBGI直線チューブタイプ(BG101-350)を使用し,プレートの挿入部位は下耳側1例,上耳側2例であった.強膜弁作製が1例で,強膜軟化症を合併していると判断した2例に強膜パッチを併用した.術直後に生じる一過性眼圧上昇への対策として,2例は術中にSherwoodslitを作製し,残りの1例は術後に以前の濾過胞にニードリングを加えることで対応する予定にしていた.しかし,その1例は術後の眼圧経過は良好であったため,ニードリングを用いることはなかった(表1).また,術後低眼圧予防策として術中にチューブ結紮をプレートから3mm程度の位置で,8-0バイクリル糸を用いて行った.経過中,術前後の平均眼圧値,点眼スコアを比較し,手術の合併症についても検討した.点眼スコアは緑内障点眼薬1剤を1点,配合点眼薬1剤を2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服は2点とした.手術方法は,まず結膜切開を行い,強膜フラップ作製例では作製した後,強膜パッチ併用例ではただちに,BGIのチューブに対してプライミングを行い,チューブを結紮して閉塞させた.その後,外直筋と上直筋または下直筋の下へプレー414あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(104) ト部分を挿入し7-0ないし9-0ナイロン糸にて強膜に固定した.23G針で前房穿刺したのち,前房へチューブを挿入し,チューブを9-0ナイロン糸にて強膜に固定した.閉塞部より前方のチューブにSherwoodslitを2カ所作製し,チューブの露出部分を強膜フラップまたは強膜パッチで覆い10-0ナイロン糸で縫合した.最後に8-0バイクリル糸にて結膜縫合し,術創を覆った4).結膜の脆弱性が強い症例では,結膜縫合に対して10-0ナイロン糸を用いた.〔代表症例〕27歳,男性.現病歴:2歳8カ月時,発熱時近医で処方されたコスモシンとバッファリン内服後,顔面や全身の粘膜に水疱状発疹,結膜炎症状が出現,Stevens-Johnson症候群と診断され,近隣の大学付属病院皮膚科に紹介された.その後近医眼科でフォローされていた.2001年から近隣の大学医学部附属病院眼科および当科で両眼複数回の角膜移植術を施行された(表2).経過中,左眼続発緑内障が発症し,2004年7月に左眼トラベクレクトミーも施行された.2010年3月25日,右眼に続発緑内障を発症し,眼圧コントロール不良となったため,手術加療目的にて当科緑内障外来へ紹介受診となった.2010年4月6日に右眼トラベクロトミー施行するも眼圧は再上昇した.2010年,2011年,および2012年に合計3回の右眼に対する経強膜毛様体光凝固術(表3)を施行するもチモロール点眼,ビマトプロスト点眼,ジピベフリン点眼,アセタゾラミド内服を(点眼スコア5点)併用しても眼圧コントロール不良であったため,最終的にBGIの適応を考えた.既往歴:気管支喘息.術前所見:視力はVD=眼前/手動弁(矯正不能),VS=10cm/手動弁(矯正不能)と不良であったが,自覚的に視覚障害は進行していた.眼圧は,右眼38mmHg,左眼10mmHgと右眼は著明に上昇していた.図1Aで示すとおり,細隙灯顕微鏡検査にて,Stevens-Johnson症候群による重篤な角結膜障害が認められ,著明な角膜混濁のため隅角の状態は不明であった.そこで,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)で観察したところ,隅角が全体的に狭いが,前房は深く,上方での表2代表症例の手術歴2001年7月右)表層角膜上皮移植+羊膜移植2001年8月左)表層角膜上皮移植+羊膜移植2004年3月右)表層角膜上皮移植+羊膜移植2004年7月左)トラベクレクトミー+羊膜移植2005年1月18日右)輪部移植+羊膜移植2005年2月8日右)表層角膜上皮移植+培養口腔粘膜上皮移植+羊膜移植2010年4月6日右)トラベクロトミー2010年9月1日右)経強膜毛様体光凝固2011年12月7日右)経強膜毛様体光凝固2012年右)経強膜毛様体光凝固表3術後経過症例123術前視力直前0.01(n.c.)0.01P(n.c.)10cm/HM(n.c.)術後視力2カ月後15cm/CF(n.c.)0.01P(n.c.)10cm/HM(n.c.)1週後2811104週後1867眼圧経過3カ月後1014116カ月後10981年後91591週後2224週後420点眼スコア3カ月後2006カ月後2001年後220インプラント位置前房前房後房追加処置なしなしなし3症例とも術後眼圧経過,術後点眼スコアの経過は良好であった.症例1は術後眼圧コントロール良好のため,術後9カ月目で全層角膜移植術が施行された.角膜移植術後もしばらくは眼圧良好であった.角膜移植術後4カ月目でチューブ閉塞のため,眼圧上昇を認めたが,閉塞部の線維膜を除去し眼圧は下降した.表中n.c.は矯正不能,CFは指数弁,HMは手動弁を示す.(105)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015415 術前術後DCBAE術前術後DCBAE図1代表症例の術前後所見術前はStevens-Johnson症候群による重篤な角結膜障害を認める.前眼部OCTでは隅角が狭くなっていた.術後,角膜の浮腫はやや軽快,前房形成は維持されていた.チューブ先端が後房に迷入していることがUBMで確認された.チューブ挿入が可能であることが確認された(図1B).術式:結膜切開は円蓋部基底で行い,プライミングによりチューブの通水性を確認し,チューブを8-0バイクリル糸にて結紮しチューブの閉塞を確認し,プレートを上耳側の上直筋と外直筋の下に挿入し,プレートを強膜に7-0ナイロン2糸にて固定した.前房穿刺は23G針を用い,その創から長さを調整したチューブを前房内へ挿入し,7-0ナイロン2糸で強膜に固定した.チューブ創入口からのSeidelのないことを確認し,チューブに対してSherwoodslitを8-0バイクリル糸の角針で2カ所作製,強膜パッチを10-0ナイロン6糸で縫合し,チューブを覆った.いずれも角結膜上皮がきわめて脆弱であるため,抜糸を前提として炎症の起きにくい10-0ナイロン糸にて結膜縫合し閉創した.術後経過:2013年3月12日,全身麻酔下で右眼にBGI挿入術を施行した.右眼圧は術翌日10mmHg,1週間後10mmHg,1カ月後7mmHg,3カ月後11mmHg,6カ月後11mmHg,1年後9mmHgと術前より下降した(表3,図2A).点眼スコアも,術翌日0,1週間後0,1カ月以降は0と術前より下降した(表3).術後細隙灯顕微鏡とAS-OCTによる観察では,角膜浮腫はやや軽快し,前房形成は維持されたが,チューブの先端が前房内で観察できなかった(図1C,D).術後,角膜上皮が安定した2カ月後に,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)検査を行ったところ,チューブの先端が後房に迷入していることが確認された(図1E).II結果代表症例では術後の高眼圧はアセタゾラミド内服で抑えられ,術後10日過ぎをピークに下降し,術1カ月後からは薬剤治療なしでコントロール良好であった(図2A).3例の平均眼圧は,図2Bに示すように,術前の平均眼圧が点眼内服を含めた緑内障薬物治療下で33±5mmHgであったのに対し,術後の平均眼圧は1日目12±3.8mmHg,1週目16±10.1mmHg,2週目15±4.7mmHg,1カ月目10±6.7mmHg,2カ月目12±2.5mmHg,3カ月目12±2.1mmHg,6カ月目9±1mmHg,1年目11±3.5mmHgで,2週間以降に下降しその後1年間安定していた(図2B,術前後のpairedt-testp<0.05).緑内障点眼スコアは術前5.7±0.6に対して,416あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(106) 術後1日目0±0,1週目2±0,2週目3.3±2.3,1カ月目2±2,2カ月目0.7±1.2,3カ月目0.7±1.2,6カ月目0.7±1.2,1年目0.7±1.2と術前に比べ有意に減少し(図2C,術前後のpairedt-testp<0.05),術後1年目以降1例は点眼無しで,2例はチモロール+ドルゾラマイド配合剤点眼のみで眼圧コントロール良好であった(表3).術後に症例1で若干の視力低下を認めたが,眼圧下降による移植片のDescemet膜皺によるもので,3例とも著明な視力低下を認めず,眼圧や緑内障点眼スコアは有意に下降し経過良好であった.また,全例で術後の追加処置が必要なかった(表3).インプラントの挿入位置は症例3のみ後房に迷入し,その他の2例は前房に挿入されていた(図1E,表3)が,炎症もなく眼圧は維持された.術後合併症に関する調査では,3症例とも重症な角膜疾患を有するため,角膜内皮細胞の測定や.胞状黄斑浮腫の確認はできなかった.また低視力のため,複視は確認できなかった.さらに遅発性脈絡膜出血,網膜.離や硝子体出血がないことはB-modeエコーで確認した.その他,前房出血,前房消失,術後低眼圧(6mmHg以下),遷延性低眼圧(6mmHg以下,1カ月以上),術後高眼圧(22mmHg以上),チューブの露出,強膜穿孔,眼内炎は認めなかった.術直後の一過性眼圧上昇に対し,2症例はSherwoodslitを2カ所作製し,他の1症例は,以前の濾過胞にニードリングを加えることで対応する予定であったが,点眼と内服で眼圧コントロールが良好であったため施行しなかった.III考按緑内障治療用インプラント挿入術後の眼圧管理は,術直後からプレート周囲の線維膜が形成するまでの間の過剰濾過を防ぐために,強膜にプレートを縫着して約1カ月後に二次的にチューブ挿入を行う二段階的手術か,あらかじめチューブを結紮してから挿入する方法などの予防措置を取らねばならない.それらによって術直後の濾過量が制限されるため,約4.6週間の高眼圧期が続き,その後二次的チューブ挿入あるいは結紮糸の溶解により,眼圧が下降する.一般的には術直後の高眼圧期には薬物ないし術中のチューブに対するSherwoodslitによって濾過量を確保することが眼圧コントロール上必要である4).筆者らは現在あらかじめチューブを結紮する方法で術直後の過剰濾過を予防しているが,術後早期約1カ月の高眼圧期対策として2例ではSherwoodslit,残りの1例は当科における初回手術症例であり,術後高眼圧をコントロールしやすくする目的で,経験のある以前の濾過手術濾過胞に対してニードリングを行い対応することを予定していた.結果的に全例で薬物による眼圧コントロールが良好のために施行しなかった.また,薬物による眼圧管理については,今回の症例で(107)0510152025303540A:代表症例眼圧050100150200250300350400(日)0510152025303540B:平均眼圧050100150200250300350400(日)01234567C:平均投薬スコア050100150200250300350400(日)図2術前後の経過A:代表症例の術前後眼圧経過,B:3症例の平均眼圧経過,C:3症例の平均薬物スコア経過.インプラントの挿入位置は前房を予定したが,代表症例のみ術後後房であることが確認された.術後の平均眼圧経過,術後平均点眼スコアの経過は良好であった(pairedt-testp<0.05).は,角膜疾患のため,角膜上皮管理も重要であったことから,可能な限り点眼の使用を避け,アセタゾラミド内服治療を最初に選択した.追加点眼は末期緑内障が観察できた1例と途中で眼圧上昇のあった1例の合計2例であった.今回観察した3症例ともに重篤な高眼圧期がなかったのは,重症角膜疾患の続発緑内障が一般に前眼部炎症を伴い,術後の房水産生低下が眼圧経過に影響した可能性が考えられた.また,前房挿入口とチューブにわずかな間隙があることから,肉眼で確認されない房水漏出があった可能性も考えられる.今回のような眼表面疾患が関与する重症角膜疾患の続発緑内障は疾患自体と手術歴が結膜へ強く影響しており,過去の緑内障手術は奏効せず眼圧コントロールが困難で視力予後不良と思われていた症例である.これまではこのような通常の緑内障手術が奏効しない場合には,毛様体光凝固術や冷凍凝固術といった毛様体破壊術による管理しかなかった6).今回,筆者らはこのような難治性角膜疾患に伴う続発緑内障に対してGDIを適応したが,合併症もなく,眼圧経過,点眼スコア経過ともに良好であった.このような症例に対するBGIあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015417 挿入術は,適切な管理のもとでは安全で有効な治療となりうると考えられる.現在,緑内障チューブシャント手術に関するガイドラインでは初回GDIの適応は制限されているが5),今回の症例のように従来の手術が奏効しないと予測される難治性緑内障疾患には,今後早期のGDIの適応が望ましいと考えられる.しかし,今回の検討は少数例の検討で,かつ1年間の短期成績であり,今後多数例の長期経過検討が必要と思われる.本稿の要旨は第24回日本緑内障学会(2013)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TubeversusTrabeculectomyStudyGroup:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Studyafterfiveyearoffollow-up.AmJOphthalmol153:789-803,20122)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:Treatmentoutcomesinthetubeversustrabeculectomystudyafteroneyearoffollow-up.AmJOphthalmol143:9-22,20073)GeddeSJ,HeuerDK,ParrishRK2nd;TubeVersusTrabeculectomyStudyGroup:ReviewofresultsfromtheTubeVersusTrabeculectomyStudy.CurrOpinOphthalmol21:123-128,20104)濱中輝彦:Baerveldtインプラントの特徴と手術手技(前房型).緑内障チューブシャント手術のすべて(千原悦夫編.p26-39,メジカルビュー社,20135)緑内障診療ガイドライン(第3版)補遺緑内障チューブシャント手術に関するガイドライン.日眼会誌116:388393,20126)KnapeRM,SzymarekTN,TuliSSetal:Five-yearoutcomesofeyeswithglaucomadrainagedeviceandpenetratingkeratoplasty.JGlaucoma21:608-614,2012***418あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(108)

非定型的な角膜上皮欠損症例に対する単純ヘルペスウイルス抗原検出キットの有用性

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):409.411,2015c非定型的な角膜上皮欠損症例に対する単純ヘルペスウイルス抗原検出キットの有用性湯浅勇生近間泰一郎戸田良太郎柳昌秀木内良明広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学UsefulnessoftheHerpesSimplexVirusAntigenDetectionKitforCasesofAtypicalCornealEpithelialDefectYukiYuasa,TaiichiroChikama,RyotaroToda,MasahideYanagiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedical&HealthSciences,HiroshimaUniversity目的:非定型的な角膜上皮欠損を有する症例に対して,単純ヘルペスウイルス(HSV)抗原検出キット(チェックメイトRヘルペスアイ,わかもと製薬)を用いてHSVの抗原検出を試み,その臨床的有用性について検討すること.対象:広島大学病院角膜外来において原因不明の非定型的な角膜上皮欠損を有した患者16例16眼を対象とした.結果:非定型的な角膜上皮欠損16例中6例でHSV抗原検出キットが陽性を示した.陽性所見はアシクロビル眼軟膏による治療が奏効した.陰性は10例であり,うち5例でアシクロビル眼軟膏による治療を行い,5例が奏効した.結論:HSV抗原検出キットは,単純ヘルペスウイルスによる角膜炎に対する即時診断に有用であった.しかしながら,陰性になる症例もみられることから,複数の診断法を併用し総合的に診断することが望ましいと考える.Purpose:Toevaluatetheusefulnessofaherpessimplexvirus(HSV)antigendetectionkit(CheckmateRHerpesEye,WakamotoPharmaceuticalCo.,Ltd.)inatypicalcornealepithelialdefect.Subjects:IncludedinthisstudyatHiroshimaUniversityHospitalwere16eyesof16patientsthathadatypicalcornealepithelialdefect.Results:Ofthe16patients,6werepositive;allwerehealedwithacyclovir.Ofthe10negativepatients,5of5casesweresuccessfullytreatedwithacyclovirophthalmicointment.Conclusion:TheHSVantigendetectionkitisusefulforquickdiagnosisofherpetickeratitis.However,diagnosisshouldbeachievedcomprehensivelybycombiningseveraldiagnosticmethods,especiallyinnegativecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):409.411,2015〕Keywords:上皮型角膜ヘルペス,単純ヘルペスウイルス抗原検出キット,角膜上皮欠損.herpeticepithelialkeratitis,herpessimplexvirusantigendetectionkit,cornealepithelialdefect.はじめに上皮型角膜ヘルペスは,その上皮欠損の形態から樹枝状病変,地図状病変に大別される.しかしながら,非定型的な角膜上皮欠損を呈することもあり,形態のみでは診断が困難なことがある.従来の上皮型角膜ヘルペスの診断方法に加えて,近年,即時診断が可能である単純ヘルペスウイルス(HSV)抗原検出キット(チェックメイトRヘルペスアイ,わかもと製薬株式会社)が,臨床使用可能となった.病巣部位の角膜上皮細胞を擦過し,免疫クロマト法によりHSV抗原と抗HSVモノクローナル抗体が免疫複合体を形成することで角膜上皮細胞中の単純ヘルペスウイルス抗原を検出する.今回,非定型的な角膜上皮欠損症例に対して本キットを用いて,その臨床的有用性を検討したので報告する.I対象2012年1.9月の間に広島大学病院角膜外来において非定型的な角膜上皮欠損を有した患者16例16眼(男性7例,女性9例,平均年齢65.8±17.1歳)を対象とした.〔別刷請求先〕湯浅勇生:〒734-8551広島県広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学Reprintrequests:YukiYuasa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedical&HealthSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(99)409 II結果非定型的な角膜上皮欠損16例のうち6例で陽性であった.全例アシクロビル眼軟膏による治療が奏効したが,うち3例はバラシクロビルの内服を併用した.陰性は10例であり,うち5例でアシクロビル眼軟膏による治療を行い,5例が奏効した.その他の5例は擦過細胞診などから,自己免疫疾患による周辺部角膜潰瘍,細菌性または真菌性角膜潰瘍と診断され,それらに対してはそれぞれの治療が奏効した.以下,代表症例を提示する.症例は,74歳女性で,主訴は左眼視力低下であった.既往歴には心筋梗塞(2009年)および両眼白内障手術(2005年),両上涙点閉鎖術(2008年)があり,全身疾患として関節リウマチに対してプレドニン5mg/日の内服で加療中であ図1初診時.左眼前眼部フルオルセイン染色写真角膜上皮は全欠損であった.った.家族歴には特記事項はなかった.現病歴は,2011年12月,左眼鼻上側に角膜上皮欠損が出現し徐々に拡大した.関節リウマチに対する周辺部角膜潰瘍を疑われ,リン酸ベタメタゾン点眼が開始され関節リウマチに対して内服していたプレドニゾロンを10mg/日へ増量したが症状の改善には至らなかった.2012年1月,左眼視力低下を自覚した.数日後,近医眼科を受診したところ角膜上皮が全欠損し,角膜穿孔によって前房が消失していたため加療目的に広島大学病院角膜外来を紹介され受診した.初診時所見:視力は,右眼1.0(n.c.),左眼30cm指数弁(n.c.)であった.左眼は角膜上皮が全欠損し,実質は上方が部分的に薄く,10時の周辺部角膜は穿孔しており,前房水が漏出して前房は消失していた(図1).臨床経過:関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍を疑われ紹介されたが,角膜上皮欠損の範囲が広かった.実質融解もあり非定型的ではあるがヘルペス感染の可能性を考え,本キットによる精査を行ったところ,結果は陽性であった.付属の綿棒で上皮欠損の最周辺部を擦過し,検査に供した.上皮型角膜ヘルペスの感染と診断し,上皮欠損がほぼ全範囲であったためアシクロビル眼軟膏を左眼1日3回で開始した.関節リウマチに対するステロイドは5mg/日内服を継続したままリン酸ベタメタゾン点眼を中止した.治療開始3日目で,上皮欠損は周辺部から縮小し(図2),治療開始2週間で上皮欠損は消失した(図3).0.1%フルメトロン点眼を再開し,再発予防のためアシクロビル眼軟膏を左眼1日1回に減量し継続とした.以降,上皮型角膜ヘルペスの再発はなく,最終受診時,左眼矯正視力は(0.5)と改善した.III考按上皮型角膜ヘルペスの確定診断には,ウイルスを分離する方法と蛍光抗体法によりウイルス抗原を検出する方法があ図2治療3日目.左眼前眼部フルオルセイン染色写真角膜上皮欠損は大幅に改善した.図3治療開始14日目.左眼前眼部フルオルセイン染色写真角膜上皮欠損は消失し,角膜上皮障害を残すのみとなった.410あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(100) る.前者は迅速性に欠け,感度は低いという欠点があるが,陽性の場合は確定診断が可能である.後者は迅速性,感度の点からも優れているが,偽陽性を除外しなければならない.HSV抗原検出キットは,上皮型角膜ヘルペスの補助診断として感度は低い.井上らの報告ではHSVshedding濃度が条件によって陽性になりにくい可能性があるが,特異度はほぼ100%であり,偽陽性がほぼないといえる1,2).判定時間も15分と迅速に結果が得られる.上皮型角膜ヘルペスは,上皮欠損の先端にterminalbulbを呈する樹枝状病変と,dendritictailを呈する地図状病変に大別される3).樹枝状病変の場合,その特徴的形態から上皮型角膜ヘルペスと診断することが比較的容易である.地図状病変は,樹枝状病変が拡大,膨化したような形状を呈し,副腎皮質ステロイド薬やシクロスポリンなど長期にわたる免疫抑制剤を使用している患者に多い4).今回の対象症例では,HSV抗原検出キットが陽性であった場合,上皮型角膜ヘルペスと診断し全例でアシクロビル眼軟膏による治療が奏効した.つまり,陽性例は上皮型角膜ヘルペスとして積極的に抗ウイルス薬による治療を開始できると考えられた.一方,HSV抗原検出キット陰性であっても,HSV-1およびHSV-2による感染をすぐに否定せず,ウイルス量の不足や水痘帯状疱疹ヘルペスウイルス(VZV)によるウイルス感染の可能性を考える必要がある.陰性例10例のうち,抗ウイルス薬を使用した5例および抗ウイルス薬を使用しなかった5例に関する鑑別は前眼部フルオルセイン染色による形態の観察,薬剤使用歴,既往歴聴取を参考に患者背景に基づいて総合的に行った.抗ウイルス薬を使用した5症例は上皮欠損周囲の融解傾向および実質膿瘍が軽度であることから,細菌,真菌による感染が疑いにくく,ヘルペス感染を疑った.5例中5例で抗ウイルス薬が奏効した.そのうち1例はバラシクロビル内服を併用することで治癒した.抗ウイルス薬を使用しなかった5症例は,擦過細胞診や角膜病変の形態(潰瘍,実質内膿瘍など)からヘルペス感染よりもむしろ細菌や真菌による感染症,あるいは自己免疫疾患を疑い,それらに対してはそれぞれの治療が奏効した.角膜知覚検査は16例中8例で施行した.キット陽性であった6例中3例で角膜知覚検査を行い,うち2例で40mm未満であった.キット陰性であった10例のうち抗ウイルス薬で治療した5例中3例で角膜知覚検査を行い,うち2例で40mm未満であったのに対し,それ以外の治療を行った5例中2例の角膜知覚検査はいずれも低下がみられなかった.眼局所免疫不全がある状態では,HSVに拮抗する生体側の免疫反応や角膜上皮修復能,ウイルス増殖能のバランスが破綻し上皮欠損の範囲が拡大し不定型な形をとる.不定型な上皮欠損とは,いわゆる「飛び地」状になっているものも含まれ,このような場合は角膜ヘルペス感染を疑う根拠となる5).しかしながら,代表症例のように角膜上皮がほぼ全欠損である場合,初診時に即座に上皮型角膜ヘルペスを疑うことはむずかしいと考える.形態による判断が困難な症例では,より詳細な病歴聴取を行い,患者背景を明確にする必要がある.HSV抗原検出キットが陽性であれば積極的に上皮型角膜ヘルペスと判断し治療を開始できる.非定型的な角膜上皮欠損をみた場合,HSVのみならずVZVによるウイルス性角膜炎の可能性も考慮し,HSV抗原検出キットを行うとともに病巣掻爬による多核巨細胞の検出,前眼部フルオルセイン染色による形態変化の観察,ステロイドや免疫抑制剤の使用歴の聴取など,他の検査を組み合わせて診断精度の向上を図ることが肝要である.文献1)InoueY,ShimomuraY,FukudaMetal:Multicentreclinicalstudyoftheherpessimplexvirusimmunochromatographicassaykitforthediagnosisofherpeticepithelialkeratitis.BrJOphthalmol97:1108-1112,20132)UchioE,AokiK,SaitohWetal:Rapiddiagnosisofadenoviralconjunctivitisonconjunctivalswabsby10-minuteimmunochromatography.Ophthalmology104:1294-1299,19973)ArffaRC:ViralDiseasesInGrayson’softheCornea.4thEd,p289-299,Mosby,StLouis,19974)切通洋,井上幸次,根津永津ほか:角膜移植後拒絶反応治療中に発生した非定型的上皮型角膜ヘルペスの1例.あたらしい眼科11:1923-1925,19945)鈴木正和,宇野敏彦,大橋裕一ほか:眼局所免疫不全状態において経験した非定型的な上皮型角膜ヘルペスの3例.臨眼57:137-141,2003***(101)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015411

難治性角膜フリクテンの1例

2015年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(3):405.408,2015c難治性角膜フリクテンの1例新澤恵*1冨田隆太郎*1伊勢重之*1齋藤昌晃*1伊藤健*1,2石龍鉄樹*1*1福島県立医科大学医学部眼科学講座*2伊藤眼科ACaseofSeverePhlyctenularKeratitisMegumiShinzawa1),RyutaroTomita1),ShigeyukiIse1),MasaakiSaito1),TakeshiIto1,2)andTetsujuSekiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)ItoEyeClinic難治性角膜フリクテンに,抗菌薬の局所および全身投与が有効であった症例を経験した.症例は14歳,女児.4年前から結膜炎・霰粒腫を繰り返していた.複数の医療機関を受診し,確定診断がつかないまま点眼による加療が行われたが,眼痛と視力低下が進行し福島県立医科大学眼科へ紹介された.初診時,視力は右眼矯正0.4,左眼矯正1.0,両眼に球結膜の充血・角膜周辺に複数の小円型の浸潤病巣を,右眼には角膜耳側に結節性細胞浸潤とそれに向かう血管侵入,瞳孔領に及ぶ角膜上皮下混濁を認め,角膜フリクテンと診断した.また,マイボーム腺開口部に閉塞を認めた.抗菌薬とステロイド薬の点眼にて加療したが改善せず,ステロイド薬の中止と抗菌薬の頻回点眼,ミノマイシンの内服で加療したところ,治療に反応し右眼矯正視力は1.2に改善した.本症例はマイボーム腺炎に関連した病態を呈しており,マイボーム腺炎角結膜上皮症を示唆する症例と考えられた.A14-year-oldfemalewithoverfouryears’historyofrecurrentconjunctivitisandchalazionwasreferredtoourhospital.Shealsocomplainedofeyepainandblurredvisionatpresentation.Althoughshehadbeentreatedwitheyedropsatseveralclinics,herconditionhadnotimproved.Oninitialexamination,herbest-correctedvisualacuity(BCVA)was20/50righteyeand20/20lefteye.Shehadbilateralconjunctivalhyperemiaandinfiltrations,withanoduleinherrighteyeconsistingofsub-epithelialtostromalcellularinfiltration,andsuperficialcornealneovascularization.Meibomianglandorificeobstructionswerealsoobserved.Shewasthereforediagnosedwithphlyctenularkeratitisandtreatedwithtopicalantibioticsandcorticosteroids,netherofwhich,however,waseffective.Wechangedthetreatmenttotopicalandoralantibioticswithoutcorticosteroids.Finally,theinflammationsubsided.Inthisparticularcase,mibomitismayhavebeenstronglyrelatedtothephlyctenularkeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(3):405.408,2015〕Keywords:角膜フリクテン,マイボーム腺炎角結膜上皮症,マイボーム腺機能不全,プロピオニバクテリウムアクネス,抗菌薬.phlyctenularkeratitis,meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis,meibomianglanddysfunction,Propionibacteriumacnes,antibiotictherapy.はじめに角膜フリクテンは,マイボーム腺炎を高率に合併し再発を繰り返すことが知られている.近年,細菌増殖によると考えられるマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を生じる疾患群を,マイボーム腺炎角結膜上皮症として捉えることが提唱されている1,2).その病型は,角膜に結節性細胞浸潤と血管侵入を伴う「フリクテン型」と,点状表層角膜症を主体とした「非フリクテン型」の2つに大別される1,2).両病型ともに,マイボーム腺内における細菌増殖がその病因であると考えられている1,3).今回,フリクテン型のマイボーム腺炎角結膜上皮症に対し,抗菌薬を使用し改善をみたが,抗菌薬減量とステロイド薬点眼の追加により悪化した症例を経験したので報告する.I症例患者:14歳,女性.主訴:右眼視力低下,眼痛,流涙.既往歴:アレルギー性鼻炎.現病歴:2009年頃から,結膜炎・霰粒腫を繰り返し,複数の医療機関を受診していた.2013年1月頃より,眼痛と〔別刷請求先〕新澤恵:〒960-1295福島県福島市光が丘1番地福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MegumiShinzawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukushimaMedicalUniversity,1Hikarigaoka,Fukushima960-1295,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)405 abcdeabcde図1初診時の右眼前眼部写真a:著明な球結膜充血,角膜耳側に結節性細胞浸潤と血管侵入.b,c:上下眼瞼縁全体に,マイボーム腺開口部の閉塞と炎症.d,e:角膜上皮下混濁は瞳孔領に及び,一部潰瘍を形成.e:フルオレセイン染色.abcde図2初診時の左眼前眼部写真a:球結膜充血.b,c:眼瞼縁の不整と瞼結膜の充血.d,e:輪部中心に角膜浸潤病巣が多発.e:フルオレセイン染色.視力低下が進行したため,近医眼科より福島県立医科大学眼科(以下,当科)へ紹介され,2013年7月,当科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.4(n.c.),左眼0.8(1.0)であった.右眼前眼部は,球結膜の著明な充血と,角膜耳側に結節性細胞浸潤と血管侵入を認めたため,角膜フリクテンと診断した(図1).角膜上皮下混濁は瞳孔領に及び,一部潰瘍を形成しており,視力低下の原因と考えられた.また,上下眼瞼縁全体に,マイボーム腺開口部の閉塞と炎症所見を認めた(図1b,c).左眼前眼部にも球結膜充血を認め,角膜輪部を主体に角膜浸潤病巣が多発しており,上下眼瞼縁の不整と瞼結膜の充血を認めた(図2).また,顔面には著明な皮疹を認めた.結膜.ぬぐい液,マイボーム腺分泌物の培養を施行したが,結果は陰性であった.顔面の皮疹に関しては,皮膚科専門医により.瘡と診断された.皮膚膿疱の培養も施行したが,結果は陰性であった.406あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015経過:マイボーム腺炎が原因の角膜フリクテンと考えられたため,抗菌薬の局所投与による治療を開始した.0.5%セフメノキシム点眼,0.3%トブラマイシン点眼,エリスロマイシン眼軟膏を投与したところ,初診より10日目には,球結膜充血と角膜浸潤所見が軽快したため,抗菌薬の減量と0.1%フルオロメトロン点眼を追加したところ,19日目,マイボーム腺炎および角膜病変が悪化した(図3).そこで,0.1%フルオロメトロン点眼の中止,上下眼瞼縁全体のマイボーム腺梗塞に対しマイボーム腺圧迫鉗子での圧出を,マイボーム腺炎の強いところには開口部にメスでの小切開を加え圧出を施行,および抗菌薬を,0.5%セフメノキシムと0.5%モキシフロキサシンの頻回点眼(1時間毎),0.3%オフロキサシン眼軟膏に変更し,ミノマイシン200mgの内服を追加したところ,数日で速やかに眼表面の炎症は軽減し,右眼視力は24日目には(0.9),39日目には1.2(n.c.)に改善した(図4).その後は点眼を漸減継続し,寛解を維持している(96) (図5).II考按角膜フリクテンは若年女性に好発し,再発を繰り返す難治性の疾患である.その所見は,角膜に結節性細胞浸潤とそれに向かう表層性血管侵入を認め,対応する球結膜に充血を認ab図3悪化時の右眼前眼部写真(病日19)a:マイボーム腺炎の悪化と同期して,角膜病変も悪化した.b:マイボーム腺部の拡大.開口部にメスでの小切開を加えた.めるのが特徴的である1).フリクテンの発症には,遅延型過敏反応(IV型アレルギー反応)が関与すると考えられており,種々の細菌をはじめとする病原体成分が抗原になると考えられてきた4).1950年代の結核蔓延期には,非衛生的な環境で暮らすツベルクリン反応陽性の小児に多いとされ,抗原として結核菌が注目された5).また,1951年には,Thygesonにより非結核性のフリクテン症例でStaphylococcusaureusによるものが報告されている5).他にも,Candida,Chlamydia,Coccidioides,線虫などさまざまな報告がある6,7).わが国でも,結膜.および眼瞼縁などの細菌培養から,Corynebacterium,a-Streptococcus,coagulasepositiveStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Staphylococcusepidermidis,Neisseriaなどが報告されているが,各菌種の検出率は11.75%とばらつきがあり,いずれも症例数が4.8例と少ない8.10).角膜フリクテンではマイボーム腺炎を高率に合併し,マイ図4寛解時の右眼前眼部写真(病日39)マイボーム腺炎は改善し,結節病巣は瘢痕化した.図5治療経過抗菌薬の点眼を開始し一旦軽快したが,抗菌薬の減量とステロイド薬点眼の追加で悪化した.ステロイド薬点眼の中止とマイボーム腺の切開・圧出,および抗菌薬の頻回点眼と全身投与で速やかに改善し,その後は寛解を維持している.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015407 ボーム腺炎の改善に伴って角膜病変も改善することが知られており,稲毛らは,自験例15眼において,マイボーム腺梗塞や霰粒腫の合併または既往は73%にみられたと報告している8).2005年,鈴木らは,角膜フリクテン患者20例におけるマイボーム腺分泌物の細菌培養において,12例(60%)でPropionibacteriumacnesが検出され,コントロール群に比べ有意差があったことから,P.acnesが角膜フリクテンの起炎菌となりうる可能性を報告し,角膜フリクテンを含めたマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を主体とする疾患群を「マイボーム腺炎角結膜上皮症」と呼ぶことを提唱した1,3).本症例は,若年女性の角膜フリクテンで,霰粒腫の既往があり,マイボーム腺炎と角膜病変の増悪と軽快が同期していたことから,マイボーム腺炎角結膜上皮症(フリクテン型)と考えられた.起因菌としてP.acnesを疑い培養などを行ったが,同定には至らなかった.培養が陰性であった理由には,採取できる検体量が少なかったこと,嫌気培養ができなかったことなどが考えられ,採取および培養条件の再検討が必要であると考えられた.筆者らは,培養が陰性であることから,カタル性角膜浸潤,ブドウ球菌性眼瞼炎,酒.性眼瞼炎なども鑑別し治療を行った.角膜フリクテンは,前眼部感染アレルギーと認識されており,治療には病巣の消炎療法としてのステロイド薬と,感染病巣の治療としての抗菌療法に分けて考えられている4).ステロイド薬の使用は,一見,遅延型過敏反応の病態の理に沿うものと考えられるが,一時的な効果はみられるものの,遷延化する症例も多いことや感染症を悪化させることが報告されている11).本症例の経過から,初診時には結節および潰瘍が形成され細胞浸潤が角膜実質深層に及んでおり,旺盛な結節形成期であったと考えられる.抗菌薬の点眼を開始し一旦軽快したが,抗菌薬の減量とステロイド薬点眼の追加で悪化した.ステロイド薬点眼の中止とマイボーム腺の切開・圧出,および抗菌薬の頻回点眼と全身投与で改善を得るに至った.既報でも,ステロイド薬の併用は必須ではなく,ステロイド薬単独あるいは不十分な抗菌薬とステロイド薬の併用投与では再発あるいは遷延化を促す可能性について報告されていることからも,注意を要する12).しかしながら本症例では,当初,培養結果の確認までの間,前医よりの抗菌薬をそのまま継続してしまったこと,培養が陰性であったことより,鑑別疾患を広くカバーしようと抗菌薬の選択に一貫性を欠く結果となった.初期の段階で,的を絞った抗菌薬の投与ができなかったところに,ステロイド薬を併用したため,マイボーム腺内の除菌が不十分となり,細菌関連抗原が残留したことで再燃に至り,難治性となったものと推測される.ステロイド薬を併用する際には,抗菌薬の適切な使用による十分な除菌が重要であると考えられた.この経過は,マイボーム腺内における細菌増殖がその病因と捉える「マイボーム腺炎角結膜上皮症」の定義を裏付けるものと考えられた.既報にも,難治性角膜フリクテンの治療として,抗生物質点滴大量療法が有効であったとする報告もあり13),本症例においても,十分な抗菌薬投与によりアレルギー反応を引き起こす起因菌を除去することが治療の鍵であったと考えられた.本症例は,2014年3月現在も経過観察を続けているが,寛解を維持し,視力も良好に保たれている.寛解増悪を繰り返す若年女性の角膜フリクテンでは,マイボーム腺炎角結膜上皮症を念頭に置き,本症例のような重症例では抗菌薬の頻回点眼,全身投与が有効であると考える.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT:Meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:implicationsandclinicalsignificanceofmeibomianglandinflammation.Cornea31:S41-S44,20123)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20054)齋藤圭子:フリクテン.眼科46:667-673,20045)ThygesonP:Theetiologyandtreatmentofphlyctenularkeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol34:1217-1236,19516)ThygesonP:Observationsonnontuberculousphlyctenularkeratoconjunctivitis.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol58:128-132,19547)JefferyMP:Oculardiseasescausedbynematodes.AmJOphthalmol40:41-53,19558)稲毛佐知子,齋藤圭子,伊東眞由美ほか:角膜フリクテン10例の臨床的検討.日眼会誌102:173-178,19989)西信亮子,原英徳,日比野剛ほか:角膜フリクテンの起炎菌に関する検討.眼紀49:821-825,199810)窪野裕久,水野嘉信,重安千花ほか:難治性とされたフリクテン性角結膜炎,カタル性角膜潰瘍の要因.あたらしい眼科27:809-813,201011)金指功,秦野寛,内尾英一ほか:フリクテン性角膜炎の臨床的検討.眼臨88:1222-1227,199412)高橋順子,外園千恵,丸山邦夫ほか:免疫不全症に合併したマイボーム腺炎角膜上皮症に抗菌薬投与が奏功した1例.眼紀55:364-368,200413)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科15:11431145,1998408あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(98)

My boom 38.

2015年3月31日 火曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第38回「加治優一」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第38回「加治優一」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介加治優一(かじ・ゆういち)筑波大学医学医療系眼科1994年に東京大学医学部を卒業し,男ばかり9人が同期となり東大眼科で研修医となりました.研修後は大学院生として人体病理学教室でトレーニングを受けつつ,水流先生(国際医療福祉大学)・山下英俊先生(山形大学)・小幡博人先生(自治医科大学)より角膜の創傷治癒とサイトカインの研究指導を受けました.大学院修了後に方向の定まらない私を天野史郎先生が拾ってくださり,現在まで続く研究テーマを与えてくださるとともに,臨床の疑問を研究で解決し,その成果を臨床に還元する姿勢を教えてくださいました.電子顕微鏡と組織化学の技術修得のため新潟大学口腔解剖学教室に国内留学後,ハーバード大学へ約1年半留学.帰国時に大鹿哲郎先生がチャンスを与えてくださり,2002年から筑波大学講師,2012年から准教授となっています.臨床のMyBoom私が入局したときには准教授の先生は雲の上のような存在で,話しかけることさえできませんでした.今,自分がその立場になっても,雲の上どころか,未だ雲の中で視界が開けず悩んでいることが多く,このままで良いのだろうかと不安になることがあります.筑波大学では主に眼感染症や角結膜疾患に力を注いでいます.筑波大には手術の神様,大鹿先生がおられますので,私の興味は手術手技とは異なる方向に向かいぎみです.具体的には,アカントアメーバ・真菌・ニキビダ(81)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYニなどの感染症に興味をもっています.感染症の診断には顕微鏡による検鏡が必須です.外来・研究室・外勤先・自宅を含めて10台の光学顕微鏡+蛍光顕微鏡に囲まれて,週に約10人分の検鏡を行っています.最近のお気に入りは睫毛根に生息するニキビダニです.初めて見たときには気味が悪かったのですが,最近は愛らしく思えてきました.雄雌・卵・幼虫・成虫の区別もつくようになると,ライフサイクルを実感でき,不思議な感覚になります.もう一つのお気に入りは,手のひらに載るようなポータブル蛍光顕微鏡です.PARTEC社のCyscopeminiはデザインが美しく,かつコンセントにつなぐとすぐに蛍光が観察できるため,アメーバや真菌の検査が楽しくなります.研究のMyBoom1日の時間の8割は臨床,2割は研究にあてています.忙しい臨床の合間に実験するのはつらいこともありますが,いまだに大学院生並みに実験を続けていることを考えると,たぶん実験が好きなのだと思います.研究テーマは「自分にしかできない仕事を」(大鹿先生),「一度テーマを決めたら10年間しがみつけ」(東大病理・町並先生)を守っているため,流行とはかけ離れた「蛋白質の異常凝集」一筋です.たしかに他の誰もやっていない仕事ではありますが,正直言うと,再生医療の分野がちょっとうらやましいです.眼科だけでは太刀打ちできないテーマのため,京都大学原子炉実験所・藤井紀子先生(D-アミノ酸),大阪大学蛋白質研究所・後藤祐児先生(アミロイド),明治大学理学部・榊原潤先生(流体力学),筑波大学理学部・加納英明先生(ラマン顕微鏡)を含めて,多数の施設と密な共同研究を行っています.時間があれば,各施設に赴いて実験や話し合いを行っています.同じ現象(たとあたらしい眼科Vol.32,No.3,2015391 写真1得意技は美しいパラフィン切片作りと免疫染色写真1得意技は美しいパラフィン切片作りと免疫染色えば角膜ジストロフィ)をみたとしても,眼科医と科学者の見地や解釈は異なります.お互いに議論をぶつけ合うことで徐々に距離が縮まり,検証すべき実験内容が明らかになってきます.この過程は知的好奇心を強烈に刺激するため,その夜は眠れなくなるほどです.この研究分野の研究者は理学部出身者が多くを占めています.そのため私は「眼科」ではなく「医学全般」担当となっており,目だけではなく脳・腎臓・動脈・椎間板を含めて全身の臓器を扱います.早く医学出身の仲間が増えてほしいと願っています.現在は,研究と臨床の両立が可能な後継者を育てることにもエネルギーを注いでいます.成長した彼らとともに研究ネタで話が盛り上がる,そんな時期ももうすぐやってきます!プライベートのMyBoom息子と遊ぶときには,卓球・レゴブロック作り・忍者ごっこなど,どんな内容でも100%のエネルギーを注ぎます.趣味の押しつけで息子に顕微鏡をプレゼントしたのですが,塩の結晶を1回見ただけで埃をかぶっています.写真2ハロウィンも全力で仮装仕事が行き詰まったときには,近所の染井温泉に行くことがあります.悩みをいくつか頭の中に携えてぬる湯につかると,突然アイデアが浮かび,いてもたってもいられない状況になることがあります.さらにしばらく湯につかり,頭の中で妄想がグルグル巡るに任せます.頭が爆発する寸前に温泉から上がって調べごとをすると,すばらしい研究テーマにつながることがあります.しかし研究面では1割バッター,つまりアイデアの9割はただの妄想で終わってしまいます.次のプレゼンターは千葉大学の菅原岳史先生です.趣味も仕事も多芸多才のスーパーマンです.こんな先生と一緒に仕事ができれば,毎日楽しく過ごせそうです.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆392あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(82)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 142.硝子体手術中に生じる一過性白内障(初級編)

2015年3月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載142142硝子体手術中に生じる一過性白内障(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術に関連する一過性白内障としては,ガスタンポナーデを施行した有水晶体眼の術後に生じるガス白内障がよく知られている1)が,硝子体手術の術中にも一過性白内障が生じることがある.とくに増殖糖尿病網膜症に対する水晶体温存硝子体手術時には一過性後.下白内障が生じやすい.これは増殖糖尿病網膜症では硝子体中のグルコース濃度が通常の疾患より上昇しており,これを灌流液と置換することで浸透圧の急激な変化をきたし,その結果として後.下白内障が生じるものと考えられる.●術中に生じる一過性後.下白内障の特徴ガス白内障と同様に,通常は羽毛状の後.下混濁が生じる.形態としては車軸状を呈するが,通常の皮質白内障と違い,周辺部だけでなく後.の中央部にも混濁が及んでいることが多い(図1).混濁が軽度であればそのまま手術を続行できるが,視認性が極端に悪くなると水晶体切除を余儀なくされることもある(図2).●術中の対処法後.下白内障が生じ,眼底の視認性が低下したら,ひとまずは増殖膜処理などの繊細な手技を要しない部分の操作を続行して,白内障が徐々に軽減してくるのを待つ.通常は30~40分で少し視認性が改善することが多い(図3)が,症例によっては改善しないこともある.灌流液にグルコースを添加する方法も考えられるが,いったん後.下白内障が生じてから灌流液に添加しても効果は少ない.手術開始前から灌流液にグルコースを添加する方法も考えられるが,硝子体中のグルコース濃度は症例によって非常にばらつきがあり,白内障の発生を完全に抑制することは困難である.(79)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1術中に生じる一過性後.下白内障車軸状かつ羽毛状の形態を呈する.図2術中の視認性若年の増殖糖尿病網膜症例.手術開始時には良好な視認性が得られていたが(a),後.下白内障が生じると視認性が低下した(b).ab図3術終了時の所見術中に後.下白内障は徐々に軽快し,手術終了時にはほぼ消退した.●液空気置換時にも注意裂孔原性網膜.離などで何度も液空気置換を繰り返していると,同様に一過性後.下白内障が生じやすいので,水晶体温存硝子体手術では液空気置換の回数を必要最小限にすべきである.文献1)池田恒彦,田野保雄,細谷比左志ほか:ガス白内障.臨眼43:956-959,1989あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015389