特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1257~1265,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1257~1265,2015多焦点眼内レンズの選択CurrentOptionsofMultifocalIOLs:ChangingfromBifocalIOLstoRefractiveVarifocalIOLsorDiffractiveTrifocalIOLs真野富也*はじめに多焦点眼内レンズは,わが国では2008年に回折型多焦点眼内レンズのReSTORR(Alcon社)とReZOOMR,TECNISRMulti(いずれもAMO社)が承認され,その後,乱視付きのReSTORRToric(Alcon社)と屈折型のiSiiR(HOYA社)も発売された.そして,先進医療にも認定され徐々に普及してきている.しかし,これらの承認された多焦点眼内レンズはあくまで遠近の2焦点レンズ(bifocallens)であり,中間距離(1mから50cmあたり)が見えにくいという欠点があり,同時に単焦点眼内レンズとは異なるハローやグレアといった異常光視症や回折型にみられる曇った感じ(waxyvision)などの合併症もあることから,まだ一般に普及するまでにはいたらず,限られた施設で行われているのが現状である.一方,おもにヨーロッパでは,2焦点レンズから中間距離も見やすくした回折型3焦点レンズ(diffractivetrifocalIOL)1~4)や遠方,近方のみならず中間視力も良い分節状屈折型多焦点レンズ(segmentedrefractivemultifocalIOLs)4~6)などが普及している.そして,これらのレンズには乱視付き多焦点眼内レンズも発売されており,適応症例もかなり拡大している.また,これまでの臨床経験から,ヒトの脳によるハローやグレアの抑制に対する認識も深まってきており,多焦点眼内レンズの適応症例と不適応症例の鑑別などが多焦点眼内レンズを扱う術者に理解されるようになってきた.その結果,患者の満足度が向上し,多焦点眼内レンズはさらに普及しつつある.本稿では,わが国では未承認であるが多根記念眼科病院(以下,当院)でおもに使用している分節状屈折型多焦点眼内レンズ(LENTISMplusR(Oculentis社)5)を中心に,その成績と多焦点眼内レンズの選択方法について解説する.I多焦点眼内レンズの適応多焦点眼内レンズは術後の眼鏡への依存度を減らすことが最大のメリットである.したがって,術後眼鏡をかけることをいとわない患者は現段階では適応外である.ただ特殊な例としては,40歳以下の調節力のある近視眼の片眼の白内障例に多焦点眼内レンズを入れることによって,同じ度数の近視の眼鏡をかけて遠方も近方も見られるようにするという用法がある.先進医療保険を利用する場合に選択できるレンズは,認可を受けている回折型多焦点レンズ(2焦点レンズ)のReSTORRかTECNISRMultiあるいは屈折型のiSiiRだけとなる.ただし,これらのレンズは+6D~+30Dが製造範囲(iSiiRは+14D~+25D)なので,この範囲を超える場合は他のレンズを使用することとなり,先進医療は受けられない(表1参照).また,2015年1月よりReSTORRは術後眼内炎が多発したために回収され,ReSTORRToricも含め現在使用できない.TECNISRMultiとiSiiRにはトーリックレンズがないため,.2D以上の直乱視や.1.25D以上の倒乱視および斜乱視症例*TomiyaMano:多根記念眼科病院〔別刷請求先〕真野富也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(29)12571258あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(30)表1多焦点眼内レンズの種類と特徴メーカーレンズ名モデル認可種類power加入度(眼鏡上)レンズ形状S面C面デザイン材質光学径全径前面後面着色AlconReSTORSA60D3○アポダイズ回折6.0~30.0D─4.0D(3.2D)1P疎水性アクリル6.013.0多焦点凸─ReSTOR(非)SN6AD310.0~30.0─4.0D(3.2D)多焦点(非)○ReSTOR(3.0D)SN6AD1中心3.6mm6.0~34.0D─3.0D(2.5D)ReSTORT(3.0D)SND1T3~66.0~30D1.5~6.0D※1多焦点(非)トーリックAMOReZOOMNXG1屈折6.0~30.0D─3.5D(2.0~2.5D)3P───TECNISMultifocalZM900回折5.0~30.0D─4.0D(3.2D)シリコーン非球面多焦点ZMA00疎水性アクリルZMB001PHOYAiSiiPY-60MV屈折14.0~25.0D─3.0D(2.5D)3P12.5──○ZeissATLISAAcri.LISA366D×回折0.0~32.0D─3.75D(3.0~3.25D)プレート親水性アクリル11.0非球面多焦点(非)─○※4─○※4Acri.LISAToric466TD.10.0~32.0D1.0~12.0Dトーリック(非)ATLISAtri839MP0~32.0D─1.66D(1.25D)非球面ATLISAtritoric939MP.10.0~28.0D1.0D~4.0D3.33D(2.5D)トーリック(非)OculentisLENTISMplusLS-313MF20セクター屈折.10.0~36.0D※2─2.0D(1.5D)両凸非球面LS-313MF303.0D(2.5D)LU-313MFT0.0~36.0D※30.25D~12.0D※3LENTISMplusX※5LS-313MF30.10.0~36.0D※2─3.0D(2.5D)LU-313MFT0.0~36.0D※30.25D~12.0D※3PhysIOLFINEVISIONMICROFアポダイズ回折10.0~35.0D─1.75D(1.25D)3.5D(3.0D)1P6.1510.8両凸・非球面○PODF6.0~35D─6.011.4FINEVISIONTORICPODFT1.0~6.0D※6※7種類(0.75Dstep)1.10.0~.1.0Dは1.0Dstep※2※30.01Dstep※着色ありなし選択可4※近軸非球面性を付加5※8種類(1.0D・1.5Dから0.75Dstep)6現在製造中止現在ReSTORは出荷中止(H27.1~)ReSTORReZOOMTECNISMulti3PTECNISMulti1PiSiiATLISALENTISMplusFINEVISIONあたらしい眼科Vol.32,No.9,20151259(31)的に有意差はないものの,中間距離の1mおよび50cmでLENTISRMplusXのほうがLENTISRMplusより少し良い結果となっている(図2).さらに,LENTISRMplusXでは,下方の近用部分をレンズ周辺まで滑らかにし,同時に遠用部から近用部への移行部もさらに滑らかにすることにより,瞳孔が拡大したときのハローやグレアを軽減している(surfacedesignoptimization:SDO).では,術後残余乱視のためあまり良い裸眼視力は期待できない.そのため,術後にエキシマレーザーによるタッチアップやaddonレンズの二次挿入による矯正が必要になることがある.また,これら多焦点眼内レンズは,術後の水晶体.の収縮によりレンズのセンタリングがずれたり,傾斜したりすると,術後の見え方に大きく影響する.そのため,万全を期すのであればフェムトセカンドレーザーを使用して連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulor-rhexis:CCC)を行うことが望ましい.フェムトセカンドレーザーを使用した場合も現段階では先進医療は受けられない.また,別途レーザーの費用が必要となる.先進医療保険を利用しない場合は,未承認ではあるが,ヨーロッパで広く使用されている分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusやLENTISRMplusXおよび回折型3焦点眼内レンズのFINEVISIONR(PhysI-OL社)やATLisaR(CarlZeissMeditec社)があり,これらレンズにはトーリックレンズもあり適応症例も広い.代表的な多焦点眼内レンズの種類と特徴を表1に示す.II分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusとLENTISRMplusX図1に分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusとその改良レンズであるLENTISRMplusXのシェーマを示す.LENTISRMplusはすでに約6年以上の実績がある分節状の新しい世代の屈折型2焦点レンズである5,6).しかし,小瞳孔例では近方が見にくかったり,分節状構造に特有のグレアやハローが気になることもあった6).これに対してLENTISRMplusXは2013年に改良された新しいレンズであり,おもな改良点は,中心部の丸い遠用部分の直径を1.15mmから0.70mmと小さくし,その近傍を非球面化したことである(additiveparaxialasphericity:APA).その結果,2mmの小瞳孔でも近用部分が28%以上カバーできるようになり,小さい瞳孔径でも近方が見やすくなった.また,中心近傍の非球面化により焦点深度が深くなり中間視力がさらに向上した(varifocalIOL).全距離視力でも,統計学AdditiveParaxialAsphericity(APA)(近軸非球面性を付加)O中間の見え方が良好SurfaceDesignOptimisation(SDO)(デザインの最適化)O中心部の近方セグメントの改良O遠見部への移行部の改良→ライトロス減少O支持部への移行部の改良→グレア,ハローなどの軽減図1分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusとLENTISRMplusXのシェーマ.5m3m1m50cm30cmATLisa14眼LENTISMplus107眼LENTISMplusX68眼ReSTOR+3D28眼ReSTOR+4D23眼ReZOOM16眼TECNISMulti16眼単焦点30眼視力1.00.80.50.30.2距離図2全距離視力の結果AdditiveParaxialAsphericity(APA)(近軸非球面性を付加)O中間の見え方が良好SurfaceDesignOptimisation(SDO)(デザインの最適化)O中心部の近方セグメントの改良O遠見部への移行部の改良→ライトロス減少O支持部への移行部の改良→グレア,ハローなどの軽減図1分節状屈折型多焦点眼内レンズLENTISRMplusとLENTISRMplusXのシェーマ.5m3m1m50cm30cmATLisa14眼LENTISMplus107眼LENTISMplusX68眼ReSTOR+3D28眼ReSTOR+4D23眼ReZOOM16眼TECNISMulti16眼単焦点30眼視力1.00.80.50.30.2距離図2全距離視力の結果1260あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(32)3.33D,中間にその半分の+1.66Dが付加された設計になっている1,3,4)(表1参照).これまでの報告ではこれら新しい3焦点レンズと2焦点眼内レンズでハローやグレアに大差はないとのことである2~4).なかには3焦点レンズのほうが光の散乱が少ないという報告もある7).IV臨床成績当院では2008年2月から多焦点眼内レンズの使用を始め,2015年6月までに803眼を挿入した.当院でこれまで使用した多焦点眼内レンズの見え方の特徴を調べるために,術後矯正視力が1.0以上,術後乱視が1.25D以内かつ等価球面度数が0~+1.25D以内というすべての条件を満たす487眼で遠方から中間,そして近方までの裸眼視力を測定した.結果を図2と表2に示す.視力はすべてlogMAR視力に換算している.図2は表2の平均値をわかりやすくするために小数視力に再び変換し,標準偏差を略したものである.視力の測定は,5mは通常の視力表(イナミ)を使用し,3m,1mは半田屋製新井氏1M視力表を,50cmは半田屋製近点視力表,30cmは半田屋製新標準近距離視力表を用いた.回折型のTECNISRMultiとReSTORR+4Dはどちらも近方に+4Dを付加しており,遠方5m,3mと近方30cmでは裸眼視力はほぼ1.0と良好であるが,中間の1m,50cmでは0.5前後と低下している.これに対し,ReSTORR+3Dでは,やはり遠方は良好な視力が得られており,近方30cmと中間50cmが0.7程度で中間距離50cmでの落ち込みがマイルドである.しかし,同じ中間でも1mではやはり視力は低下している.一方,屈折型のLentisRMplusおよびLENTISRMplusXの近用加入度数は+3Dであるが,視力は遠方も近方30cmも1.0と非常に良好であり,しかも中間(1m,50cm)での落ち込みも軽度で,1.0に近い視力が得られている.次にコントラスト感度の結果を図4と表3に示す.回折型のReSTORR+4Dと屈折型のReZOOMRは各周波数域で低下していたが(p<0.01),その他の多焦点レンズは単焦点レンズとほとんど変わらず,有意差はみられなかった.III回折型3焦点眼内レンズのFINEVISIONRとATLisaR図3に回折型3焦点眼内レンズであるFINEVISIONRの回折パターンをわかりやすく示す.図のように,このレンズは近用部に+3.5Dの回折パターンを,そして中間にはその半分の+1.75Dの回折パターンを加えたものである.その結果,遠方,近方のみならず中間にもピントが合う構造となっている2,3).回折構造による若干のコントラストの低下とハローはあるものの,グレアは少ない特徴がある4,5).また,回折型3焦点レンズには他にもAT.LisaRもあり,このレンズは近方に+ab2種類の2焦点IOLのコンビネーション①2焦点デザイン:《遠方&近方》②2焦点デザイン:《遠方&中間》①+②3焦点デザイン:《遠方中間近方》ApodisationAddpower▲THEFINEVISIONOPTIC・2焦点IOLよりロスエナジーが少ない・遠・中・近と3点に焦点が合うので,メガネの使用頻度が2焦点IOLに比べ少なくなる(MixMatchも不要)・乱視矯正も同時に可能図3回折型3焦点多焦点眼内レンズFINEVISIONRtrifocala:遠近と遠中の2焦点デザインを組み合わせて3焦点IOLにしている.b:3焦点レンズ断面の模式図.ab2種類の2焦点IOLのコンビネーション①2焦点デザイン:《遠方&近方》②2焦点デザイン:《遠方&中間》①+②3焦点デザイン:《遠方中間近方》ApodisationAddpower▲THEFINEVISIONOPTIC・2焦点IOLよりロスエナジーが少ない・遠・中・近と3点に焦点が合うので,メガネの使用頻度が2焦点IOLに比べ少なくなる(MixMatchも不要)・乱視矯正も同時に可能図3回折型3焦点多焦点眼内レンズFINEVISIONRtrifocala:遠近と遠中の2焦点デザインを組み合わせて3焦点IOLにしている.b:3焦点レンズ断面の模式図.あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151261(33)V各種多焦点眼内レンズの代表症例症例1両眼TECNISRMulti50歳,女性.両眼の後.下白内障が進行したため視力低下し,先進医療の適用となる多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を希望され,2015年に紹介受診された.生来強度近視があり,乱視用2weekDSCLを使用していた.〈初診時視力〉RV=0.02(0.8×sph.10.0D(cyl.1.0DAx80°)LV=0.02(0.4×sph.11.5D(cyl.1.0DAx145°)表2各レンズの裸眼視力(平均値,標準偏差,標準誤差)※視力:logMAR視力レンズ種類眼数距離平均値標準偏差標準誤差LENTISMplus(T)1075m.0.0570.0740.0073m.0.0240.0880.0091m0.0920.1140.01150cm0.1160.1410.01430cm0.0830.1350.013LENTISMplusX(T)685m.0.0640.0720.0093m.0.0360.1110.0141m0.0650.1220.01550cm0.0670.0970.01230cm0.0460.0910.011ReSTOR+3D285m.0.0390.0940.0183m0.0420.1250.0241m0.1570.2020.03850cm0.1820.1770.03330cm0.1670.1870.035TECNISMultifocal2015m.0.0390.0970.0073m.0.0010.1230.0091m0.1790.1590.01150cm0.2450.1640.01230cm0.0530.0900.006単焦点305m0.0210.1210.0223m0.1170.1160.0211m0.2040.1280.02350cm0.3960.1590.02930cm0.6520.1690.031表3各レンズごとのコントラスト感度(平均値,標準偏差)※CSV1000による測定レンズ種類眼数cycle/degreeコントラスト感度値標準偏差LENTISMplus(T)7931.7210.19861.9240.218121.6130.256181.1400.216LENTISMplusX(T)5431.7000.21761.8810.185121.5950.221181.1370.220ReSTOR+3D2231.7410.18361.8700.185121.5230.183181.0620.206TECNISMultifocal16131.7630.18361.9240.192121.5970.230181.1040.244単焦点(SA60AT)2931.7670.16461.9560.200121.5780.243181.1140.215LENTISMplus(T)79眼LENTISMplusX(T)54眼ReSTOR+3D22眼ReSTOR+4D10眼ReZOOM5眼TECNISMultifocal161眼単焦点29眼*図4コントラスト感度の結果表2各レンズの裸眼視力(平均値,標準偏差,標準誤差)※視力:logMAR視力レンズ種類眼数距離平均値標準偏差標準誤差LENTISMplus(T)1075m.0.0570.0740.0073m.0.0240.0880.0091m0.0920.1140.01150cm0.1160.1410.01430cm0.0830.1350.013LENTISMplusX(T)685m.0.0640.0720.0093m.0.0360.1110.0141m0.0650.1220.01550cm0.0670.0970.01230cm0.0460.0910.011ReSTOR+3D285m.0.0390.0940.0183m0.0420.1250.0241m0.1570.2020.03850cm0.1820.1770.03330cm0.1670.1870.035TECNISMultifocal2015m.0.0390.0970.0073m.0.0010.1230.0091m0.1790.1590.01150cm0.2450.1640.01230cm0.0530.0900.006単焦点305m0.0210.1210.0223m0.1170.1160.0211m0.2040.1280.02350cm0.3960.1590.02930cm0.6520.1690.031表3各レンズごとのコントラスト感度(平均値,標準偏差)※CSV1000による測定レンズ種類眼数cycle/degreeコントラスト感度値標準偏差LENTISMplus(T)7931.7210.19861.9240.218121.6130.256181.1400.216LENTISMplusX(T)5431.7000.21761.8810.185121.5950.221181.1370.220ReSTOR+3D2231.7410.18361.8700.185121.5230.183181.0620.206TECNISMultifocal16131.7630.18361.9240.192121.5970.230181.1040.244単焦点(SA60AT)2931.7670.16461.9560.200121.5780.243181.1140.215LENTISMplus(T)79眼LENTISMplusX(T)54眼ReSTOR+3D22眼ReSTOR+4D10眼ReZOOM5眼TECNISMultifocal161眼単焦点29眼*図4コントラスト感度の結果1262あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(34)NLV=0.7(1.0×sph+1.25D(cyl.0.5DAx75°)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.01.21m0.40.40.650cm0.90.81.030cm0.60.70.8術後,遠方と中間50cmで,それぞれ両眼で1.2,1.0と良好であった.中間1mでは両眼でも0.6とやはり2焦点レンズに特徴的な落ち込みがみられた.また,近方30cmでも加入度数が+3Dのため若干低下しており,両眼で0.8であった.しかし,グレア,ハローとも徐々に慣れ,まったく眼鏡を使用せずに快適に生活している.症例3両眼LENTISRMplusX58歳,女性.両眼白内障手術目的にて2015年2月に紹介受診された.先進医療でない多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.06(0.8×sph.6.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.04(0.6×sph.6.5D(cyl.1.25DAx110°)フェムトセカンドレーザーを併用し,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.5×sph+0.5D(cyl.0.75DAx140°)LV=1.2(1.5×cyl.0.5DAx20°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m1.01.01.050cm1.01.01.030cm1.01.01.0遠方,近方のみならず中間も視力はすべて良好であり,長年使用してきた眼鏡,コンタクトレンズなしで非常に快適に過ごせている.また,術後グレア,ハローもわずかで,夜間の車の運転にも問題ないとのことであっ軽度の倒乱視と斜乱視を認めたが,許容範囲内の乱視と判断しTECNISRMultiを使用して両眼の白内障手術を行った.先進医療では多焦点トーリック眼内レンズが使えない状況にあったため,術後残余乱視のため裸眼視力が悪い場合には,術後にエキシマレーザーによるタッチアップが必要となる可能性があることを説明したうえで手術を施行した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx160°)NRV=0.8(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.21.21m0.81.31.350cm0.50.50.630cm0.81.01.0中間50cmで両眼とも裸眼視力0.5(両眼視力0.6)と2焦点レンズに特徴的な視力の落ち込みが認められたが,遠方,近方とも両眼視力はそれぞれ1.2,1.0と良好で,パソコン使用時のみ近用眼鏡(+1.5D)が必要だが,そのほかは眼鏡を必要としないとのことであった.症例2両眼ReSTORRToric70歳,女性.近医で白内障を指摘され,2014年8月に受診された.先進医療の多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.2(1.0×sph+2.0D(cyl.4.0DAx70°)LV=0.2(1.0×sph+2.25D(cyl.3.5DAx100°)両眼とも.2.5D程度の角膜乱視(倒乱視)を認めたためReSTORRToricを選択した.また,手術に際して乱視軸の決定にはサージカルガイダンスシステムを使用した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.0×sph+0.75D(cyl.1.0DAx85°)LV=1.0(1.2×sph+0.25D(cyl.0.5DAx75°)NRV=0.6(1.0×sph+1.0D(cyl.1.0DAx85°)右眼左眼両眼5m1.01.01.21m0.40.40.650cm0.90.81.030cm0.60.70.8術後,遠方と中間50cmで,それぞれ両眼で1.2,1.0と良好であった.中間1mでは両眼でも0.6とやはり2焦点レンズに特徴的な落ち込みがみられた.また,近方30cmでも加入度数が+3Dのため若干低下しており,両眼で0.8であった.しかし,グレア,ハローとも徐々に慣れ,まったく眼鏡を使用せずに快適に生活している.症例3両眼LENTISRMplusX58歳,女性.両眼白内障手術目的にて2015年2月に紹介受診された.先進医療でない多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.06(0.8×sph.6.75D(cyl.0.75DAx130°)LV=0.04(0.6×sph.6.5D(cyl.1.25DAx110°)フェムトセカンドレーザーを併用し,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.5×sph+0.5D(cyl.0.75DAx140°)LV=1.2(1.5×cyl.0.5DAx20°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m1.01.01.050cm1.01.01.030cm1.01.01.0遠方,近方のみならず中間も視力はすべて良好であり,長年使用してきた眼鏡,コンタクトレンズなしで非常に快適に過ごせている.また,術後グレア,ハローもわずかで,夜間の車の運転にも問題ないとのことであっ軽度の倒乱視と斜乱視を認めたが,許容範囲内の乱視と判断しTECNISRMultiを使用して両眼の白内障手術を行った.先進医療では多焦点トーリック眼内レンズが使えない状況にあったため,術後残余乱視のため裸眼視力が悪い場合には,術後にエキシマレーザーによるタッチアップが必要となる可能性があることを説明したうえで手術を施行した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.1.0DAx160°)NRV=0.8(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.01.21.21m0.81.31.350cm0.50.50.630cm0.81.01.0中間50cmで両眼とも裸眼視力0.5(両眼視力0.6)と2焦点レンズに特徴的な視力の落ち込みが認められたが,遠方,近方とも両眼視力はそれぞれ1.2,1.0と良好で,パソコン使用時のみ近用眼鏡(+1.5D)が必要だが,そのほかは眼鏡を必要としないとのことであった.症例2両眼ReSTORRToric70歳,女性.近医で白内障を指摘され,2014年8月に受診された.先進医療の多焦点眼内レンズを希望された.〈初診時視力〉RV=0.2(1.0×sph+2.0D(cyl.4.0DAx70°)LV=0.2(1.0×sph+2.25D(cyl.3.5DAx100°)両眼とも.2.5D程度の角膜乱視(倒乱視)を認めたためReSTORRToricを選択した.また,手術に際して乱視軸の決定にはサージカルガイダンスシステムを使用した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.0(1.0×sph+0.75D(cyl.1.0DAx85°)LV=1.0(1.2×sph+0.25D(cyl.0.5DAx75°)NRV=0.6(1.0×sph+1.0D(cyl.1.0DAx85°)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151263(35)た.症例4TECNISRMultiとLENTISRMplusX41歳,男性.2009年頃より左眼の霧視が出現し,近医にて白内障と診断されて経過をみていたが,左眼の視力障害が進行したため,多焦点眼内レンズ挿入術目的で当院紹介となる.右眼には異常は認められなかった.この当時,当院で使用していた多焦点眼内レンズはTECNISRMultiかReSTORRであった.〈初診時視力〉RV=1.2(1.2×sph+0.5D(cyl.0.5DAx130°)LV=0.1(0.3×sph+2.5D(cyl.1.0DAx40°)乱視も軽度であったので,眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.25D(cyl.0.5DAx120°)LV=1.5(n.c.)NRV=1.0NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.51.51m2.01.02.050cm1.00.71.030cm1.01.01.0右眼はまだ白内障を認めておらず,調節力もあったため,遠方から中間,近方まで問題なく良く見えている.一方,手術をした左眼は術後のグレア,ハローは気にならないが,中間50cmが0.7で少しぼやけるとのことであった.デスクトップのパソコンが少し見にくいが,右眼は良く見えていたので,とくに不満はなかった.5年後(2014年),右眼の霧視が出現したため再び紹介受診された.左眼は変わりなかったが,右眼の白内障が進行していたので手術となった.〈再診時視力〉RV=0.5(1.5×sph.0.5D(cyl.0.75DAx95°)LV=1.5(2.0×sph+0.5D(cyl.0.5DAx85°)今回は中間距離がもう少し見えるレンズにしたいという希望があったため,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.5D(cyl.1.0DAx130°)LV=1.5右眼(LENTISRMplusX)の見え方はクリアで,遠方,近方のみならず中間距離の視力も良好であった.一方,左眼(TECNISRMulti)は少しもやがかかった感じがするとのことで,中間1mで0.8,50cmで0.5と低下していたが,両眼ではとても快適に過ごせているとのことだった.〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.52.01m1.00.81.350cm0.80.51.030cm1.01.01.0症例5TECNISRMultiとLENTISRMplusX43歳,女性.両眼白内障のため2011年8月に受診された.既往歴に喘息がありステロイドの内服をしていた.しばらく経過をみていたが,2012年9月に右眼の白内障が急激に進行したため手術となった.左眼には白内障はあるもののまだ視力は良好であり日常生活に支障はなかった.眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈再診時視力〉RV=0.01(n.c.)LV=1.0(1.0×sph+0.5D(cyl.0.25DAx180°)手術後1カ月視力RV=1.2(1.5×sph+0.75D(cyl.0.5DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+1.0D(cyl.0.5DAx160°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.9p1.01.050cm0.71.01.030cm1.01.01.0右眼左眼両眼5m1.51.51.51m2.01.02.050cm1.00.71.030cm1.01.01.0右眼はまだ白内障を認めておらず,調節力もあったため,遠方から中間,近方まで問題なく良く見えている.一方,手術をした左眼は術後のグレア,ハローは気にならないが,中間50cmが0.7で少しぼやけるとのことであった.デスクトップのパソコンが少し見にくいが,右眼は良く見えていたので,とくに不満はなかった.5年後(2014年),右眼の霧視が出現したため再び紹介受診された.左眼は変わりなかったが,右眼の白内障が進行していたので手術となった.〈再診時視力〉RV=0.5(1.5×sph.0.5D(cyl.0.75DAx95°)LV=1.5(2.0×sph+0.5D(cyl.0.5DAx85°)今回は中間距離がもう少し見えるレンズにしたいという希望があったため,眼内レンズはLENTISRMplusXを選択した.〈手術後1カ月視力〉RV=1.5(1.5×sph+0.5D(cyl.1.0DAx130°)LV=1.5右眼(LENTISRMplusX)の見え方はクリアで,遠方,近方のみならず中間距離の視力も良好であった.一方,左眼(TECNISRMulti)は少しもやがかかった感じがするとのことで,中間1mで0.8,50cmで0.5と低下していたが,両眼ではとても快適に過ごせているとのことだった.〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.51.52.01m1.00.81.350cm0.80.51.030cm1.01.01.0症例5TECNISRMultiとLENTISRMplusX43歳,女性.両眼白内障のため2011年8月に受診された.既往歴に喘息がありステロイドの内服をしていた.しばらく経過をみていたが,2012年9月に右眼の白内障が急激に進行したため手術となった.左眼には白内障はあるもののまだ視力は良好であり日常生活に支障はなかった.眼内レンズはTECNISRMultiを選択した.〈再診時視力〉RV=0.01(n.c.)LV=1.0(1.0×sph+0.5D(cyl.0.25DAx180°)手術後1カ月視力RV=1.2(1.5×sph+0.75D(cyl.0.5DAx15°)LV=1.2(1.2×sph+1.0D(cyl.0.5DAx160°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.9p1.01.050cm0.71.01.030cm1.01.01.0術後,右眼は遠方,近方とも裸眼視力は良好でそれぞれ1.2,1.0であったが,やはり2焦点レンズの特徴で中間1m,50cmで若干の視力低下がみられた.ハローは少しあるがほとんど気にならないとのことであった.その後,経過は良好であったが,1年後の2013年10月,左眼の白内障が進行し,矯正視力も0.8に低下したため左眼の手術となった.左眼には中間視力も良いLENTISRMplusを選択した.〈左眼手術後1カ月視力〉RV=1.2(1.2×sph+1.25D(cyl.1.5DAx180°)LV=1.2(1.2×sph+0.75D(cyl.0.75DAx100°)NRV=1.0(1.0×遠見レンズ)NLV=1.0(1.0×遠見レンズ)〈裸眼視力〉右眼左眼両眼5m1.21.21.51m0.81.01.050cm0.81.01.030cm1.01.01.0左眼(LENTISRMplus)は遠方,近方のみならず中間視力も良好であったが,夜間と室内で光の散乱とにじみがあり,見にくいという強い訴えがあった.一方,右眼(TECNISRMulti)は傘がかかっているがこちらのほうがわずかによいとのことであった.患者本人による見え方のスケッチを図5に示す.左眼はLENTISRMplusに特有のレンズの遠用部と近用部の移行部に由来する光の散乱(グレア)と判断し,徐々に慣れて,2~3カ月で気にならなくなると説明したが,納得されなかった.そこ夜間の光視(患者によるスケッチ)左眼:LENTISRMplusX右眼:TECNISTMMulti→2%ピロカルピン点Lx4にて光視は改善図5患者のハローのスケッチ(分節屈折型LENTISRMplusと回折型TECNISRMulti)1264あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015で,瞳孔径を縮めてこの光の散乱(グレア)を軽減する目的で2%ピロカルピンを処方した.2週間後の再診時には,「すごく良く見え,久しぶりに夜景がきれいに見えた」と喜ばれていた.その後,ピロカルピンを使用せずとも快適に過ごされている.VI多焦点眼内レンズの使い分け最初にも述べたが,眼鏡をかけることをいとわない人は,現時点では単焦点眼内レンズがよく,多焦点眼内レンズは避けるべきであろう.しかし,多焦点眼内レンズは進化し続けており,近い将来さらに適応が拡大していくと思われる.図6は横軸に年齢を,縦軸に屈折度数をプロットして,多焦点眼内レンズの使い分けをわかりやすく示したものである.多焦点眼内レンズは20~80歳まで幅広い年齢層に適応がある.高齢者では,認知症や瞳孔径を考慮して適応とレンズ選択に注意をしなければならない.一方,40歳以下の調節力がある年齢層では遠方と近方の2焦点レンズは中間が見にくいため問題となるので,中間視力も良い分節状屈折型多焦点レンズのLENTISRMplusXや回折型3焦点眼内レンズ(TrifocalIOL)がよい適応である.これに対し,40歳以上で調節力の低下した(老視が進行した)+2D以上の遠視症例では,若いときは良く見えていたものの,老視が進行するとともに,遠方も近方も中間もどこにも焦点が合わなくなっているため,先進医療を希望されれば認可されている2焦点レンズでも満足度は高くよい適応となる.同様に.6D以上の強度近視例でも老視年齢であれば認可されて屈折度数年齢+1.0D+2.0D+3.0D+4.0D+5.0D-1.0D-2.0D-3.0D-4.0D-5.0D-6.0D-7.0D-8.0D-9.0D-10.0D1020304050607080多焦点IOL遠方重視中間重視2焦点でも可2焦点でも可先進医療適応可LENTISor3焦点LENTISor3焦点調節力のある人多焦点禁忌認知症,神経質瞳孔径の小さい人?図6多焦点眼内レンズの使い分け(36)-