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白内障術後眼内炎の発症におけるアルミニウムの関与の検討

2015年5月31日 日曜日

《第48回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科32(5):705.710,2015c白内障術後眼内炎の発症におけるアルミニウムの関与の検討山川直之片平晴己上田俊一郎水澤剛後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野InvolvementofAluminumintheOnsetofEndophthalmitispostCataractSurgeryNaoyukiYamakawa,HarukiKatahira,ShunichiroUeda,TsuyoshiMizusawaandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUnivresity目的:わが国で特定の眼内レンズを使用した白内障術後に,遅発性眼内炎が多発し,摘出された眼内レンズから微量のアルミニウムが検出され,眼内炎との関与が疑われた.そこで家兎硝子体内にアルミニウムを注入し,炎症反応の有無について検討した.方法:有色家兎の片眼にアルミニウムを,対照として僚眼にBSSPLUSRを硝子体内へ注入した.事前にアルミニウムで感作した家兎にも同様の処置を施した.経過を細隙灯顕微鏡検査,前房フレア測定,摘出眼球の病理組織学的検索によって検討した.結果:注入後1日目にはアルミニウム注入眼および対照眼ともに同程度のフィブリン析出とフレアの上昇を認めた.病理組織検索では隅角付近に存在する細胞の密度が高く観察されたが,対照と有意な差はなかった.アルミニウムで感作した家兎においてもとくに強い炎症反応は認められなかった.結論:家兎の眼内に微量のアルミニウムを懸濁液として注入しただけでは炎症反応は生じない.Objective:InJapan,delayed-onsetendophthalmitisoccurredatahighfrequencypostcataractsurgeryduetotheuseofaspecificbrandofintraocularlens(IOL).TraceamountsofaluminumweredetectedintheextractedIOLs.Therefore,involvementofaluminuminendophthalmitiswassuspected.Inthisstudy,weexaminedwhetherornotintravitrealinjectionofaluminumintorabbiteyeselicitsaninflammatoryresponse.Methods:Usingcoloredrabbits,weperformedintravitrealinjectionofaluminumintooneeyeandBSSPLUSR(AlconLaboratories,Inc.FortWorth,TX)sterileintraocularirrigationsolutionintothefelloweyeasacontrol.Thesameprocedureswerealsoperformedinrabbitspreviouslysensitizedbyaluminum.Theclinicalcoursewasobservedbyslit-lampmicroscopyexamination,measurementofflareintheanteriorchamber,andhistopathologicalexaminationofenucleatedeyes.Results:Onday1afterinjection,thesamedegreesoffibrindepositionandflarewereobservedinthealuminum-injectedandcontroleyes.Histopathologicalexaminationshowedahigherdensityofcellsinthevicinityoftheangleinthealuminum-injectedeyes,buttherewasnosignificantdifferenceinthecontroleyes.Nostronginflammatoryresponsewasfoundinthealuminum-sensitizedrabbits.Conclusions:Intravitrealinjectionoftraceamountsofaluminumsuspensionaloneintorabbiteyesdoesnotelicitinflammatoryresponse.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):705.710,2015〕Keywords:眼内レンズ,眼内炎,アルミニウム,家兎,遅発性.intraocularlens,endophthalmitis,aluminium,rabbit,lateonset.はじめに2011年11月から2013年2月にかけ,特定の眼内レンズ(intoraocularlens:IOL)iSertRMicro(モデル251,255)およびAF-1iMics1(モデルNY-60)(いずれもHOYA社製)が挿入された白内障術後に,通常より高頻度に眼内炎が発症するという報告があった.すなわち,一般的には0.052%1)と報告されている白内障術後眼内炎が,これらのIOL挿入後には0.244%と,5倍近くの数字であることが判明した(メーカー算出のIOL挿入枚数から割り出した発症頻度).その大多数が非感染性の眼内炎と思われる臨床症状を呈し,ステロイド治療によく反応したことから,toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)2)に類似した病態であることが推測された.しかし,発症のピークが術後1.2カ月と比較的遅い時期にみられた点は,通常のTASSとは異なっていた.この眼内炎の発症原因の一つとして,アルミニウムの関与〔別刷請求先〕山川直之:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:NaoyukiYamakawa,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUnivresity,6-7-1Nishishinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)705 が推定された.その理由は,シンガポールにある同IOLの製造工場で,IOLを洗浄する治具の表面処理をアルマイトからテフロンコートに変更した時期と眼内炎発症の時期が一致した点,さらに患者から摘出されたIOL表面からアルミニウムの付着が確認されたことにある3).洗浄用治具のテフロンコートへの変更は治具自体によるレンズの傷を防ぐ目的で行われたが,このテフロン樹脂が劣化によって.離し,母材であるアルミニウム合金が露出してIOL表面に付着したと考えられている.また,回収されたIOLに付着していたアルミニウムの量は,1枚あたり多くてもISOに定められている無機物付着量0.2μg以下であったとメーカーから厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)へ報告されている.以上の背景を踏まえ,本研究では家兎を用いアルミニウムが眼内に及ぼす影響について,硝子体内にアルミニウムの投与を行うことによって,炎症反応の有無を確認した.今回の実験ではアルミニウムがより長期間に眼内に滞留するよう,前房内ではなく,硝子体内への注入を行った.また,アルミニウムに感作された状態,すなわち,あらかじめアルミニウムを接種した家兎の硝子体内にアルミニウム投与を行い,同様に炎症反応が惹起されるか否かについて検討した.I実験材料および実験方法1.アルミニウム懸濁液(Al懸濁液)の作製アルミニウムは,実際にIOL洗浄治具に使用されていたものと同じA2017合金を使用し,無菌的にジルコニアセラミックスヤスリを用いて粉末状にした後,70μm(CellStrainer,BDFalcon)の篩をかけて粒子の大きさを一定に揃えた.その後,眼内灌流液0.0184%(BSSPLUSR,アル表1前眼部炎症症状の重症度判定基準症状判定基準重症度点数眼脂著明な眼脂中等度の眼脂わずかな眼脂なし3点2点1点0点結膜充血著明な充血中等度の充血軽度の充血なし3点2点1点0点角膜混濁混濁(虹彩透見不能)散在性またはびまん性の浮腫部分的な浮腫なし3点2点1点0点フィブリン析出前房全体を満たすフィブリン部分的に満たすフィブリンわずかなフィブリンなし3点2点1点0点コン)で2種類の濃度(0.4μg/100μl,4μg/50μl)に調整し,実験に使用した.2.実験動物有色家兎(ダッチラビット:体重1.5.2kg)雄8匹を実験に使用した.3.観察項目a.細隙灯顕微鏡検査硝子体注入前,硝子体注入後1,3,7,9,14,21,28,35,49,63日目に細隙灯顕微鏡による前眼部の観察を行い,表1のような重症度判定基準に従い,炎症の程度をスコア化して評価した.b.前房フレア測定興和社製FM-600(マニュアル測定モード)を使用し,硝子体注入前,硝子体注入後1,3,7,9,14,21,28,35,49,63日目にフレア値を測定した.c.病理組織学的検索硝子体注入後63日目にペントバルビタールナトリウム注射液(ソムノペンチルR,共立製薬)の静脈内投与により家兎を安楽死させ,眼球を摘出した.眼球に割を加え,10%中性緩衝ホルマリン液内に静置し,48時間以上固定した.その後は型どおり細切後,上昇エタノール系列で脱水した.パラフィンで包埋後,薄切切片を作製しヘマトキシリン・エオジン染色により光学顕微鏡による観察を行った.4.実験方法実験(1):Al懸濁液硝子体注入家兎は0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(べノキシールR,参天製薬),トロピカミド・塩酸フェニレフリン点眼液(ミドリンPR,参天製薬),レボフロキサシン点眼液(クラビットR0.5%,参天製薬)の点眼後,ペントバルビタールナトリウム(ソムノペンチルR,共立製薬)約30mg/kgとキシラジン塩酸塩(セラクタールR,バイエル製薬)約5mg/kg,および滅菌蒸留水の混合液を腹腔内に注射して全身麻酔を行った.16倍希釈のポビドンヨード液(イソジンR液10%,明治製菓)を用いて洗眼し,手術用顕微鏡下に角膜輪部から30G針で前房水を採取の後,毛様体扁平部から27G針で家兎の片眼にAl懸濁液(右眼:0.4μg/100μlまたは4μg/50μl)を硝子体内へ注入した.対照として僚眼にBSSPLUSR(左眼:100μlまたは50μl)を硝子体内へ注入した.表2Al注入処置後の点眼スケジュール硝子体注入後1.7日目8.21日目22.35日目36.63日目散瞳薬○○..ステロイド○…抗菌薬○…NSAIDs○○○.○:点眼(2回/日),.:点眼なし.706あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(96) 注入翌日から表2に示したタイムスケジュールで点眼を行っムフェナックナトリウム点眼液(ブロナックR0.1%,千寿製た.点眼薬には散瞳薬としてトロピカミド・塩酸フェニレフ薬)を使用した.リン点眼液(ミドリンPR,参天製薬),ステロイド薬として実験(2):アルミニウム感作した家兎に対するAl懸濁液デキサメタゾン点眼液(D・E・X0.1%,日東メディック)硝子体注入抗菌薬としてレボフロキサシン点眼液(クラビットR0.5%,(,)Al懸濁液(4mg/ml)と完全フロインドアジュバンド参天製薬),非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)としてブロ(DIFCO)を1:1の割合で乳化混和し,家兎の背部の皮下にab注入前日目日目日目日目日目日目日目日目日目日目0:BSSPLUS.■:BSSPLUS.■:Al懸濁液■:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μl重傷度点数3注入前日目日目日目日目日目日目日目日目日目日目0:BSSPLUS.■:BSSPLUS.■:Al懸濁液■:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μl3重傷度点数2211図1実験(1)における前眼部炎症の推移a:角膜混濁,b:フィブリン析出.各値は2例の平均値を示す.散瞳薬,NSAIDs,ステロイド,抗菌薬処置前1日目3日目7日目9日目日目日目日目日目日目日目:BSSPLUS.:BSSPLUS.:Al懸濁液:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μlPhotoncount/ms50.040.030.020.010.00.0散瞳薬,NSAIDsNSAIDs点眼なし60.0図2実験(1)における前房フレア値の推移各値は2例の平均値を示す.aabb図3実験(1)における隅角付近の病理組織染色(代表例,63日目)a:Al懸濁液(4μg),b:BSSPLUSR.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015707 注射してAlによる感作を行った.この免疫操作の1カ月後に実験(1)と同様,アルミニウムを硝子体内へ注入した.その後の点眼も実験(1)と同様に行った.II実験結果実験(1)のAl懸濁液硝子体注入後には眼脂,結膜充血,角膜混濁,前房内のフィブリン析出などの症状が認められa3た.角膜混濁とフィブリン析出をスコア化した推移を図1に示す.角膜混濁は,Al懸濁液注入および対照のいずれも非常に軽微な所見であった(図1a).フィブリンの析出は,Al懸濁液注入および対照のいずれも注入後3日目まで一過性にみられたが,両者の間に明らかな差はみられなかった(図1b).図2に前房フレア値の推移を示す.注入後1日目には前房穿刺と硝子体注入操作によって生じたと考えられるフレb3:BSSPLUS.50μl■:BSSPLUS.100μl注入前日目日目日目日目日目日目日目日目日目日目0:BSSPLUS.■:BSSPLUS.■:Al懸濁液■:Al懸濁液50μl100μl4μg/50μl0.4μg/100μl重傷度点数重傷度点数22■:Al懸濁液4μg/50μl■:Al懸濁液0.4μg/100μl11日目日目0図4実験(2)における前眼部炎症の推移a:角膜混濁,b:フィブリン析出.各値は2例の平均値を示す.散瞳薬,NSAIDs,ステロイド,抗菌薬:BSSPLUS.:Al懸濁液:Al懸濁液100μl4μg/50μl0.4μg/100μl散瞳薬,NSAIDsNSAIDs点眼なしPhotoncount/ms60.050.040.030.020.010.0:BSSPLUS.50μl0.0図5実験(2)における前房フレア値の推移各値は2例の平均値を示す.aabb図6実験(2)における隅角付近の病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色,63日目)a:Al懸濁液(4μg),b:BSSPLUSR.両者の間にとくに有意差は認められない.708あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(98) ア値の上昇がみられたが,とくにAl懸濁液注入によって強い炎症が惹起されることはなかった.図3に注入63日目における隅角付近の病理組織像の代表例を示す.Al懸濁液注入(図3a)および対照(図3b)のいずれも,線維柱帯付近に存在する細胞の密度が高く観察されたが,正常眼と比較して有意な差ではなく両者の間にも明らかな差は認められなかった.実験(2)のアルミニウム感作した家兎に対するAl懸濁液硝子体注入では,前眼部症状として眼脂,結膜充血,角膜混濁,前房内のフィブリン析出などの症状が同様に観察された.角膜混濁も実験(1)と同様に軽微な症状であった(図4a).また,フィブリンの析出は実験(1)の結果と同様,注入操作に伴う一過性の反応がみられるのみで,アルミニウムによる感作の影響は確認されなかった(図4b).前房フレア値の推移では,注入後1日目に一過性の上昇がみられるのみで,アルミニウムに感作された家兎の硝子体にアルミニウムを注入しても,とくに強い炎症反応は認められなかった(図5).病理組織学的にも実験(1)と同様,Al懸濁液注入(図6a)および対照(図6b)との間に明らかな差はみられなかった.III考按生体に対するアルミニウムの毒性4,5)については歯科用インプラント材料の分野で報告があり,培養細胞を直接アルミニウム板の表面で培養すると生存率が著しく低下することが報告されている.また,眼に対する影響については,IOL表面に付着した微量のアルミニウムを含む金属が眼内にあっても炎症反応がみられなかったとする報告6)があり,実験的に家兎前房内にアルミニウム粉末を投与した報告7)では,1眼あたり20μgのアルミニウムを投与すると結膜浮腫,フレアの出現,虹彩血管拡張,フィブリン析出などの炎症反応が生じたという.今回の実験で,家兎の眼内(有硝子体眼の硝子体中)に微量のアルミニウム懸濁液を投与したのみでは,有意な炎症反応は惹起されないことが明らかとなった.また,家兎がアルミニウムに確実に感作されたかについては確認していないが,アルミニウムを事前に免疫した家兎の眼内にアルミニウム懸濁液を投与しても,とくに強い炎症反応は惹起されなかった.その理由の一つとして,微量のアルミニウムが眼内(前房や硝子体)に存在しても,房水循環などにより眼外に速やかに排出されることでとくに問題は生じないものと考えられた.しかし,実際の眼内炎では眼内レンズとともにアルミニウムは水晶体.内に長期間留まって水晶体上皮細胞やマクローファージなどの免疫担当細胞との反応を起こす可能性やアルミニウム自身に起こる何らかの変性によって引き起こされる反応,さらに患者自身のアルミニウムに対する反応性の違いなども考えられる.こうしたアルミニウムの曝露される状況の違いによって,今回は炎症反応が生じなかったものと考えられた.これまで遅発性の眼内炎でTASS様の症状を生じた事例としては,MemoryLensRを用いた白内障手術における報告8)がある.その原因の一つとしてレンズを研磨する酸化アルミニウムの可能性が推測されているが,明らかな病因の特定には至っていない.アルミニウムはインフルエンザ9),三種混合,B型肝炎,HPVなどのさまざまなワクチンに添加されるアジュバントの原料である.アルミニウムが有するアジュバントとしてのメカニズムについては不明な点が多いとされてきたが,近年になってアルミニウムのアジュバントが直接マクロファージなどに作用してプロスタグランジンEを産生させ,Th2タイプの免疫反応を誘導10)したり,NALP3インフラマゾームを介して自然免疫を活性化するとの報告11)がみられる.なかでも好中球の遊走とその細胞死を誘導し,その細胞から放出される網状のDNA自体がアジュバントとなり,自然免疫を活性化することが明らかとなっている12).白内障手術では術中に水晶体上皮細胞が生体の免疫系に曝露され,さらには手術操作に伴い炎症細胞の局所への浸潤という眼内環境の変化が生じる.したがって白内障手術の際に,本来ならば眼内にあるはずのないアルミニウムがIOLに付着して眼内に持ち込まれ,マクロファージや水晶体上皮細胞などに直接作用して遅発性の眼内炎を生じた可能性は否定できない.今後,こうようなアルミニウムが有する免疫系への作用について,白内障手術という特殊な環境における影響を考慮した検討が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorsegmentinflammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19922)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,20073)大鹿哲郎:HOYA社眼内レンズ挿入後の眼内炎症lateonsetTASSについて.IOL&RS28:177-179,20144)岡崎義光,SethumadhavanRao,麻尾茂夫ほか:相対細胞増殖率に及ぼすTi,Al,V濃度の影響.日本金属学会誌9:890-896,19965)岡崎義光,勝田真一,古木裕子ほか:相対細胞増殖率に及ぼすAl酸化皮膜の影響.日本金属学会誌9:897-901,1996(99)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015709 6)MathysKC,CohenKL,BagnellCR:Identificationofunknownintraocularmaterialaftercataractsurgery:evaluationofapotentialcauseoftoxicanteriorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg34:465-469,20087)CalogeroD,BuchenSY,TarverMEetal:Evaluationofintraocularreactivitytometallicandethyleneoxidecontaminantsofmedicaldevicesinarabbitmodel.Ophthalmology119:e36-e42,20128)JehanFS,MamalisN,SpencerTSetal:Postoperativesterileendophthalmitis(TASS)associatedwiththememorylens.JCataractRefractSurg26:1773-1777,20009)多田善一:H5N1インフルエンザワクチン.医学のあゆみ234:185-189,201010)KurodaE,IshiiKJ,UematsuSetal:SilicacrystalsandaluminumsaltsregulatetheproductionofprostaglandininmacrophagesviaNALP3inflammasome-independentmechanisms.Immunity34:514-526,201111)EisenbarthSC,ColegioOR,O’ConnorWetal:CrucialrolefortheNalp3inflammasomeintheimmunostimulatorypropertiesofaluminiumadjuvants.Nature453:11221126,200812)MarichalT,OhataK,BedoretDetal:DNAreleasedfromdyinghostcellsmediatesaluminumadjuvantactivity.NatMed17:996-1002,2011***710あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(100)

近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討

2015年5月31日 日曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(5):699.703,2015c近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討柳田淳子*1蕪城俊克*2田中理恵*2大友一義*2中原久恵*3高本光子*4松田順子*5藤野雄次郎*6*1関東労災病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科*3独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京高輪病院眼科*4東京警察病院眼科*5東京都健康長寿医療センター*6独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンター眼科ClinicalFeaturesofRecentCasesofCytomegalovirusRetinitisJunkoYanagida1),ToshikatsuKaburaki2),RieTanaka2),KazuyoshiOotomo2),HisaeNakahara3),MitsukoTakamoto4),JunkoMatsuda5)andYujiroFujino6)1)DepartmentofOphthalmology,KantoRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JapanComuunityHealthCareOrganizationTokyoTakanawaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,5)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,6)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter目的:近年のサイトメガロウイルス網膜炎(CMVR)患者の臨床像と視力予後について検討する.対象および方法:過去10年間に東京大学医学部附属病院眼科(以下,当科)を受診したCMVRの症例36例53眼を診療録からretrospectiveに検討した.結果:基礎疾患は,白血病11例,後天性免疫不全症候群(AIDS)8例,悪性リンパ腫6例,成人T細胞白血病4例,多発性筋炎1例,その他6例であった.網膜.離が10例10眼,視神経炎の合併が8例9眼に合併した.26例にガンシクロビル全身投与,22例31眼にガンシクロビル硝子体注射,7例7眼に硝子体手術を施行した.最終矯正視力0.1未満の症例は14眼で,視神経炎の合併,網膜.離,黄斑部への病変浸潤がおもな原因と考えられた.結論:当科でのCMVRは,AIDSと血液腫瘍患者が大半を占めた.視神経炎の合併,網膜.離,黄斑部への病変浸潤が視力予後不良の主要因であった.CMVRの視力予後の改善のためには早期診断が重要であり,血液内科などの診療科との密な連携が必要と考えられた.Purpose:Toexaminetheclinicalfeaturesandvisualprognosisinrecentcasesofcytomegalovirusretinitis(CMVR).MaterialsandMethods:Thisstudyinvolvedtheretrospectivereviewofthemedicalrecordsof53eyesof36CMVRpatientswhovisitedtheDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospitalfrom2003to2013.Results:Primarydiseaseswereleukemia,acquiredimmunodeficiencysyndrome(AIDS),lymphaticmalignancy,adultT-cellleukemia,polymyositis,sigmoidcoloncancer,hepatocellularcarcinoma,myelodysplasticsyndrome,anddiabetes.CMVRwascomplicatedwithretinaldetachment(RD)andopticneuritisin10eyesandin9eyes,respectively.Treatmentsincludedsystemicganciclovirtherapyin26cases,intravenousganciclovirinjectionin31eyesof22cases,andvitrectomyin7eyesof7cases.Finalbest-correctedvisualacuitywaslessthan20/200in14eyes,mostlyduetoopticneuritis,RD,andinfiltrationintothemacula.Conclusions:CMVRmostlyoccurredincaseswithbloodmalignanciesorAIDS,andcomplicationssuchasRDandopticneuritisoftenworsenedthevisualprognosis.EarlydiagnosisofCMVR,aswellascollaborationwithinternalmedicinedoctors,isneededfortheimprovementofvisualprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):699.703,2015〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,網膜.離,視神経炎の合併,免疫不全.cytomegalovirusretinitis,retinaldetachment,opticneuritis,immunodeficiency.〔別刷請求先〕柳田淳子:〒211-8510神奈川県川崎市中原区木月住吉町1-1関東労災病院眼科Reprintrequests:JunkoYanagida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KantoRosaiHospital,1-1Kizukisumiyoshi-cho,Nakaharaku,Kawasaki-shi,Kanagawa211-8510,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(89)699 はじめにサイトメガロウイルス網膜炎(cytomegalovirusretinitis:CMVR)は眼科領域では真菌性眼内炎と並んで多くみられる日和見感染症であり,とくに後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeficiencysyndrome:AIDS)患者においては主要な合併症の一つとされている.AIDS患者では,CD4陽性リンパ球数が50/μl以下の症例の40%で発症し,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の血行性感染や眼内局所での再活性化により発症する1,2).1996年に登場した多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)により,AIDS患者におけるCMVRの発症率は80.90%減少したと報告されている3).また,血液疾患や抗癌剤治療後の免疫不全状態においてもCMVRは重要な合併症である4).CMVRの臨床所見としては,白色の滲出斑が血管に沿って拡大し,網膜血管炎,出血を伴い,急性期を過ぎると瘢痕化するという特徴がある.CMVRは網膜.離,視神経炎の合併など,ときに失明に至るような深刻な眼合併症を起こす危険があり,これらの合併症の併発の有無は視力予後に大きく影響する14,15).CMVRの視力予後については,海外では多数例での報告があるが3,9,13),わが国での多数例の報告は少なく10.12),とくに近年の報告は1報告のみである10).そこで今回,わが国における近年のCMVRの臨床像および視力予後を明らかにする目的で,東京大学医学部附属病院眼科(以下,当院)での過去10年間のCMVR症例について臨床像を後ろ向きに検討したので報告する.I対象および方法2003.2013年に当院を受診したCMVRの症例36例53眼(男性19例,女性17例,年齢51.4±13.7歳)を対象とした.診療録よりCMVR症例の基礎疾患,眼合併症,治療法,視力予後,視力予後不良の原因について後ろ向きに検討した.眼合併症については眼科初診日から最終受診日までの間に観察されたものとし,CMVRと明らかに無関係な眼疾患は除外した.診断は,白色の網膜滲出性病変および網膜出血,白鞘化を伴う網膜血管炎などのCMVRに特徴的な眼底所見に加え,AIDSや骨髄移植後,血液腫瘍など免疫不全状態をもたらす基礎疾患の存在,抗CMV治療の有効性などから臨床診断した.これらと併せて補助診断として前房水中のCMV-DNAのPCR(polymerasechainreaction)法による証明や,CMVアンチゲネミアの測定によるCMV抗原血症の証明を行った.II結果今回の検討でCMVRと診断された36例53眼の基礎疾患700あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015は,白血病11例,AIDS8例,悪性リンパ腫6例,成人T細胞白血病4例,多発性筋炎1例,S状結腸癌1例,肝細胞癌1例,骨髄異型性症候群1例,間質性肺炎1例,Wegener肉芽腫症1例,糖尿病のみ1例と,全体のうち22例(61%)を血液腫瘍性疾患,8例(22%)をAIDSが占めた.臨床像は基礎疾患により差異は認めないと考えられた.CMVRの診断のために前房穿刺を施行した16例16眼のうち,CMVDNAは12眼(75%)で陽性であった.また,同じ目的で末梢血中CMVアンチゲネミア(HRP-C7法)の測定を行った29例中,陽性は24例(83%)であった.36症例のうち糖尿病を有する症例は9例あり,そのうちの1例はHbA1C5.9%と血糖コントロール良好で,他に明らかな全身疾患のない患者であった.両眼発症17例,片眼発症が19例であった.造血幹細胞移植前後に発症した症例では11例中9例(82%)が両眼性であり,両眼性が多くみられた.AIDS患者8例のCMVR発症時のCD4陽性Tリンパ球数は10/μl以下の症例が6例(75%),その他2例では48.51/μlであった.CD4陽性Tリンパ球数はAIDS患者でのみ測定した.造血幹細胞移植前後にCMVRを発症した症例は11例20眼であった.このうち移植前に発症したのは2例4眼で,いずれも移植直前の10日.2週間前にCMVRを発症した.一方,移植後に発症したのは9例16眼であり,移植からCMVR発症までの期間は,平均190±247日であった.治療としては,ガンシクロビル全身投与が26例,ガンシクロビル硝子体注射が22例31眼に行われた.経過中の合併症としては,網膜.離が10例10眼(28%),視神経炎の合併が8例9眼(22%)にみられた.網膜.離を起こした10例10眼のうち,7眼に対して硝子体手術が行われた.他の3例3眼のうち,裂孔に対する網膜光凝固が1眼に施行されたが,2眼は手術をしても視力改善が期待できないと考えられたため経過観察となった.初診時視力と最終観察時視力の相関性を図1に示す.最終矯正視力に関しては0.01未満が8眼,0.01.0.09が6眼,0.1.0.5が11眼,0.6以上が28眼であった.最終矯正視力0.1未満の視力予後不良例が14眼(26%)であったが,その原因は,5例6眼が視神経炎の合併,3例3眼が網膜.離,4例4眼が黄斑部への病変の浸潤,1例1眼が高度の角膜びらんによると考えられた.視神経炎の合併の有無とlogMAR視力の関係を検討したところ,視神経炎の合併を認めた症例では,認めなかった症例に比べ有意に最終視力が悪い結果であった(p=0.0012,MannWhitney’sU-test).経過中5例(14%)が全身状態悪化のため死亡した.全身状態悪化のため死亡した症例は視力予後が悪い症例が多かった(表1).(90) III考察CMVRはHAART導入以前にはAIDS患者の37%に発症し2),AIDS患者の最大の失明原因とされた5).1996年に登場したHAARTにより,AIDS患者におけるCMVRの発症率は80.90%減少したとされている3).初診時にCMVRをきたしていなかったAIDS患者が矯正視力0.1以下となる原因の40%が経過中生じたCMVRという報告もあり13),HAART導入以後においてもCMVRはAIDS患者の視力予後を決める重要な因子である.また,近年ではAIDS患者のみでなく血液腫瘍性疾患や臓器移植,抗癌剤治療による免疫不全に伴うCMVR症例も重要性を増している16.18).今回の検討ではAIDS患者に加え,血液腫瘍患者や免疫抑制剤を要する基礎疾患のある免疫不全患者が大半を占めていた.また,今回,HbA1C5.9%と比較的血糖コントロール良好な糖尿病患者に併発したCMVRの症例を経験した.明らかな免疫不全のない健常者においてもCMVRが発症しうることが知られており7),注意が必要である.CMVRの視力予後については,AIDS患者では多数例での報告があるが3,9,13),AIDS以外での報告は少ない.米国ではAIDS患者のHAART療法後のCMVRにおける最終視力0.1以下の頻度は,100人あたり3.4/Eye/Yearと報告されている3).臓器移植後のCMVR症例では,9例14眼のうち1眼(7.4%)は最終視力0.1以下であったとの報告がある9).近年の濱本らの報告では,HAARTを施行したAIDS患者261例のうち,HAART開始前に23例,開始後に16例にCMVRを生じ,最終視力0.2以下は7眼(15%)であったこと,HAART開始後発症例のほうが,軽症例が多く,視力予後が良いことが報告されている10).これに対し,今回の症例は最終視力0.1未満の症例が14眼(26%)であったことから,過去のAIDS患者を対象にした報告に比べやや悪い結果であった.視力予後に大きく影響しうるCMVRの合併症としては,網膜.離14)や視神経炎の合併15)があげられる.本検討では視神経炎の合併が9眼で全体の16.9%にみられ,そのうち6眼が最終視力0.1以下となったこと,黄斑部への病変の浸潤をきたした4眼(7.5%)は全例最終視力0.1以下であったことが全体の予後不良の要因と考えられる.HAART導入以前のAIDS患者ではCMVR147例中41例(28%)に網膜.離を生じたとの報告がある8)が,HAART導入以後には網膜.離の発症率は10分の1程度に減少したといわれている6).臓器移植後でのCMVRで約半数に網膜.離を生じているとの報告もある19).本検討では53眼中10眼(18.9%)に網膜.離を生じたが,AIDS患者に限ると11眼中1眼(9.0%)と差を認めた.単に基礎疾患による違いのみではなく,基礎疾患のコントロール状況や随伴する治療内(91)0.00010.0010.010.1110最終観察時視力0.0010.010.1110初診時視力図1初診時視力と最終観察時視力CMVR症例36例53眼の初診時矯正視力と最終観察時矯正視力の相関性を示す.ただし,指数弁を0.004,手動弁を0.002,光覚弁を0.001,光覚弁なしを0.0001とした.容・全身の免疫状態などと,眼合併症の発症頻度や視力予後との関係は詳細な検討を要すると考えられた.わが国からの報告で,末梢血CD4陽性Tリンパ球が50μl以下のAIDS患者を対象とした研究で,眼科定期検査を行った群では18眼中14眼(78%)で最終観察時の視力が0.5以上を維持できていたのに対し,非定期検査群では0.5以上の視力を得たものは10眼中4眼(40%)のみであったとされている11).また,AIDS患者のCMVR症例9例15眼に対し徐放性ガンシクロビルの硝子体挿入を複数回の挿入を含め19件行った報告では,挿入後の最終受診日の矯正視力は1眼を除きすべてにおいて0.5以上の良好な視力が保たれていたとの報告があり12),早期の発見と治療開始が良好な視力予後に大きく貢献すると考える.視神経炎の合併や網膜.離を防ぐには早期の診断,治療開始が重要と考えられる20).血液内科などの診療科との密な連携がCMVRの視力予後の改善のために必要であると思われた.IV結語当院でのCMVRは,血液腫瘍患者とAIDS患者が大半を占めた.最終視力0.1未満の症例が26%にみられ,視神経炎の合併,網膜.離,黄斑部への病変の浸潤が視力予後不良のおもな原因であった.CMVRの視力予後の改善のためには早期診断が重要であり,血液内科などの診療科との密な連携が必要と考えられた.したがって,今回のような臨床像の解析が役立つであろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なしあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015701 表1患者背景と臨床像症例基礎疾患造血幹細胞移植移植後日数*両眼/片眼最終矯正視力(右/左)網膜.離視神経炎の合併ガンシクロビル全身投与硝子体注射手術転帰CMVアンチゲネミア前房水PCR1.33歳女性AIDS両sl./sl+右○両(相当回)死去2.44歳女性AIDS右1.2○..3.40歳女性ALLPBSCT125両1.2/1.2左○++4.57歳男性MDSPBSCT63両0.7/1.0右○右7回左5回右PPV+5.62歳女性ML両0.5/0.7右○右4回死去+6.66歳女性AMLPBSCT31両0.06/1.2○右5回死去+7.43歳女性MLPBSCT114両0.2/0.4右○右PPV+8.59歳男性AMLBMT186右0.01右+9.39歳女性AIDS両0.9/1.010.48歳女性ALL左1.2左○+11.31歳男性ALLPBSCT464両m.m./sl±両○右6回左4回死去+12.73歳男性間質性肺炎左sl.○左1回++13.71歳女性Wegener肉芽腫症左1.0右○左(前医)+14.42歳男性ATLL両0.07/1.2右○+15.63歳男性ATLL右0.02左○右数回+16.51歳男性ML左m.m.左+(前医)17.77歳男性ML左sl.○左1回左PPV..18.36歳男性CMMoLBMT167左0.8++19.32歳男性AIDS左0.8○左1回++20.75歳男性ML両0.4/0.15左○右7回左17回+21.46歳男性ALLBMT820両1.2/0.1○右4回左4回+.22.38歳男性ALL左1.5○+23.62歳女性S状結腸癌両0.4/0.8左○右4回左3回左PPV+24.58歳男性ML両0.3/1.0○+25.35歳男性AIDS左0.6○左3回+26.59歳男性AML右m.m.右右3回右PPV.+27.59歳女性AMLPBSCT.14両1.0/1.0右3回左4回死去+(前医)28.63歳女性ATLL右0.05右右PPV29.49歳女性ATLLPBSCT.11両0.1/1.0右右3回左5回右PPV+30.38歳女性AIDS左0.07○左3回++31.55歳女性多発性筋炎左1.2○.+32.28歳男性AIDS両1.5/1.5左○右3回左3回右PC+33.46歳女性AMLBMT143両1.2/1.2○+34.35歳男性AIDS左1.2左3回++35.69歳男性肝細胞癌左0.3.36.67歳男性DM左0.5左○左6回.+*:移植からCMVR発症までの日数.AIDS:後天性免疫不全症候群,ALL:急性リンパ性白血病,MDS:骨髄異形成症候群,ML:悪性リンパ腫,AML:急性骨髄性白血病,ATLL:成人T細胞白血病/リンパ腫,CMMoL:慢性骨髄単球性白血病,DM:糖尿病,PBSCT:末梢血幹細胞移植,BMT:骨髄移植,sl:光覚弁,m.m.:手動弁,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,PC:網膜光凝固術.702あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(92) 文献1)SongMK,KaravellasMP,MacdonaldJCetal:CharacterizationofreactivationofCMVretinitisinpatientswhohealedwithhighlyactiveantiretroviraltherapy.Retina20:151-155,20012)VrabecTR:PosteriorsegmentmanifestationsofHIV/AIDS.SurvOphthalmol49:131-157,20043)JabsDA,AhujaA,VanNattaMetal:Courseofcytomegalovirusretinitisintheeraofhighlyactiveantiretroviraltherapy:five-yearoutcomes.Opthalmology117:2152-2161,20104)高本光子:サイトメガロウイルスぶどう膜炎.臨眼66:111-117,20125)StudiesofOcularComplicationsofAIDSResearchGroup,AIDSClinicalTrialsGroup:Foscarnet-GanciclovirCytomegalovirusRetinitisTrial:5.Clinicalfeaturesofcytomegalovirusretinitisatdiagnosis.AmJOphthalmol124:131-157,19976)JabsDA:AIDSandophthalmology,2008.ArchOphthalmol126:1143-1146,20087)高橋健一郎,藤井清美,井上新ほか:健常人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.臨眼52:615-617,19988)SandyJC,BloomPA,GrahamEMetal:RetinaldetachmentinAIDS-relatedcytomegalovirusretinitis.Eye9:277-281,19959)EidAJ,BakriSJ,KijpittayaritSetal:Clinicalfeaturesandoutcomesofcytomegalovirusretinitisaftertransplantation.TransplInfectDis10:13-18,200810)濱本亜裕美,建林美佐子,上平朝子ほか:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者のHAART導入前後の眼合併症.日眼会誌116:721-729,201211)北川真由美,永田洋一,藤野雄次郎ほか:後天性免疫不全性症候群患者のサイトメガロウイルス網膜炎に対する定期的眼科検査の有用性.日眼会誌105:31-36,200112)望月學,池田英子,吉村浩一ほか:AIDS患者のサイトメガロウイルス網膜炎に対する徐放性ガンシクロビル硝子体内挿入療法.日眼会誌102:515-521,199813)ThorneJE,HolbrookJT,JabsDAetal:EffectofcytomegalovirusretinitisontheriskofvisualacuitylossamongpatientswithAIDS.Ophthalmology114:591-598,200714)GoldbergDE,WangH,AzenSPetal:Longtermvisualoutcomeofpatientswithcytomegalovirusretinitistreatedwithhighlyactiveantiretroviraltherapy.BrJOphthalmol87:853-855,200315)MansorAM,LiHK:Cytomegalovirusopticneuritis:characteristics,therapyandsurvival.Ophthalmologica209:260-266,199516)XhaardA,RobinM,ScieuxCetal:Increasedincidenceofcytomegalovirusretinitisafterallogeneichematopoieticstemcelltransplantation.Transplantation83:80-83,200717)SongWK,MinYH,KimYRetal:Cytomegalovirusretinitisafterhematopoieticstemcelltransplantationwithalemtuzumab.Ophthalmology115:1766-1770,200818)EidAJ,BakriSJ,KijpittayaritSetal:Clinicalfeaturesandoutcomesofcytomegalovirusretinitisaftertransplantation.TransplInfectDis10:13-18,200819)WagleAM,BiswasJ,GopalLetal:Clinicalprofileandimmunologicalstatusofcytomegalovirusretinitisinorgantransplantrecipients.IndianJOphthalmol50:115-121,200220)HenderlyDE,JampolLM:Diagnosisandtreatmentofcytomegalovirusretinitis.JAcquirImmuneDeficSyndr4:6-10,1991***(93)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015703

My boom 40.

2015年5月31日 日曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第40回「許斐健二」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第40回「許斐健二」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介許斐健二(このみ・けんじ)厚生労働省私は平成10年から東京歯科大学市川総合病院眼科および角膜センターアイバンクで,おもに角膜移植に関連する臨床や研究に携わってきました.また,平成15年9月から平成17年12月末まで,米国マサチューセッツ州ボストンにあるスケペンス眼研究所に留学し,角膜内皮細胞の研究をさせていただきました.帰国後は臨床業務を主体に行っておりましたが,平成25年3月から平成27年5月まで,厚生労働省で医系技官として行政に携わることとなり,現在に至っています.臨床のMyboom角膜移植医療に携わるようになって15年以上経ちましたが,その間に技術はどんどん進歩し,今では角膜移植術といってもさまざまな術式が選択できるようになりました.移植が必要な部分だけを移植する,いわゆるパーツ移植は正しい方向ですが,究極はできるだけ移植をせずに治すことだと考えています.角膜移植が必要となる疾患の一つである円錐角膜は比較的若年で発症し,その進行状況はさまざまで重症例では移植の適応がありますが,進行を抑制あるいは停止させることができれば,角膜移植が不要になります.この進行の抑制および停止を目的として,欧米では約10年前からリボフラビン(VitaminB2)と紫外線Aを用いた角膜クロスリンキングが行われています.角膜のコラーゲン間の架橋を増やして角膜の強度を上げるイメージで,治療効果は100(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY%とはいえませんが,改良が加えられながら定着しつつある療法です.わが国でも少しずつ症例を増やし,有効性と安全性を確認しながら,新しい治療法として確立していきたいと考えています.行政のMyboomこの2年間は厚生労働省大臣官房厚生科学課と医政局研究開発振興課および経済課に勤務し,医療行政に携わってきました.とくに臨床研究関係の仕事として,「遺伝子治療臨床研究に関する指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の改定など,また,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」の施行のための作業などをしてきたわけですが,普段の眼科臨床の業務とはまったく違う仕事内容でした.さらに,現在の日本が抱えている問題,とくに少子高齢化社会を今後どのように乗り越え,社会保障制度を保っていくのか,国や行政機関に任せるだけでなく,医師一人一人が(本当は国民全員で)もっと真剣に考えないといない時代に突入していることを肌で感じた期間でもありました.これまで角膜移植医療に携わってきましたので,「臓器の移植に関する法律」に関連する仕事をしたいと思い勤務してきましたが,結果的に配属された課は臓器移植とほとんど関係していませんでした.ですので,myboomとしてできなかったことがいくつかありますが,それらは今後もmyboomのリストに載せておきます.ちなみに日本の眼科医数は約1万4千人(医師数は約30万人)ですが,厚生労働省に勤務している眼科医はわずか2名(2015年3月末)ですので,人数だけでしたら眼科教授より希少です.プライベートのMyboom国家公務員は24時間,公務員としての自覚をもってあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015683 写真1厚生労働省で執務中の筆者医局のように間仕切りはなく,積み上がった書類が間仕切りの代わりになることも.夏場は28度以上にならないと冷房が入りません.よって半袖です.また,昼休みは省エネのために部屋の明かりが消えます….右下は義眼台.薬事承認されたものはありません….行動しなくてはなりませんので(これが以外と大変です…),プライベートでも言動などを含めて留意した2年間でした.海外旅行に行くにも事前に届出が必要で,結局私用では海外に一度も行かずに過ぎてしまいました.ちなみに公務で海外出張する際は公務用のパスポートが発給されますが,1回限りで色も違います.また,国会会期中(読者の多くは通常国会や臨時国会の期間を気にされないと思われますが)は終業時間後の夜も待機(帰れない)などがかかり,翌日に帰宅することもしばしばありました.公務員というと定時に仕事を終えて家に帰るイメージかもしれませんが,少なくとも中央省庁はそんなイメージとは大分異なっています.そんななか,プライベートでやりたいこと(myboom)がいくつかありました.今のところ思うように進んではいませんが,達成したいと思っています.1.義眼台を!角膜移植後の転倒などによって角膜創離開が生じた場合,状態によってはやむなく眼球内容除去術を行うことがあります.その際の義眼床を形成するために用いる義眼台が,実は薬事承認されていないことを厚生労働省に勤務して初めて知りました.薬事承認されていない医療機器(義眼台は医療機器扱い)を用いた医療技術は通常,保険請求ができないのですが,義眼台包埋術はすでに術式として診療報酬の点数が付いているという不思議な状況に以前からなっています.この問題を解決すべく,日684あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015写真221年前のマサイマラ国立保護区と厚生労働省から見える日比谷公園本眼腫瘍学会などの先生方が厚生労働省の「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」に,義眼台についての要望書を提出してくださいました.結果として,ニーズの高い医療機器として一定の理解が得られましたので,義眼台の製造販売について,どこかの医療機器メーカーが手を上げてくれるとよいのですが,現状はなかなか見つからず良い方法を模索しています.いつかmyboomのリストから消したいと思っています.2.本当のプライベート医師になった頃は海外に出かけて動物写真をとったり,ダイビングをしたりと動きまわっていましたが,気がつくと動物写真は家族写真やビデオに代わり,ダイビングはたまの温泉となり,「趣味は○○で,これにハマっています!」と言えるものが,myboomのコーナーにもかかわらず今はない状況です.世の中,アンチエイジングや健康長寿といった言葉が目につくなか,40代後半に入ってきましたので,ここは再び体を動かすためにもミラーレス一眼でもぶら下げて,フラフラしようかなと思っております.次のプレゼンターは群馬大学の山田教弘先生です.山田先生は本当に多趣味で,網膜硝子体がご専門ですが,なぜか東京歯科大学市川総合病院に来てくださったことのある先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(74)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 144.網膜細動脈瘤に対する硝子体手術(初級編)

2015年5月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載144144網膜細動脈瘤に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに中高年の硝子体出血の原疾患の一つに網膜細動脈瘤からの破綻性硝子体出血がある.片眼性の硝子体出血で僚眼に目立った眼底変化がみられないときには,裂孔原性硝子体出血と並んで,鑑別診断の一つとして念頭においておくべき疾患である.●網膜細動脈瘤からの破綻性出血の臨床的特徴網膜細動脈瘤では通常,網膜細動脈瘤周囲の網膜下および網膜前両方に出血が生じる.眼底透見可能で網膜下出血が中心窩に及んだ場合には,ガスタンポナーデによる網膜下血腫移動術を施行するのが一般的である.しかし,多量の硝子体出血をきたした場合には硝子体手術の適応となる.●硝子体手術のポイント網膜細動脈瘤の破裂による硝子体出血例は,単純硝子体切除のみで視力改善が得られることが多いため,難易度は比較的低いとされているが,なかにはやや複雑な症例が存在する.本疾患の硝子体手術のポイントは,網膜細動脈瘤周囲の出血がどの深さに存在しているかを的確に同定することである.通常は網膜細動脈瘤に硝子体ゲルが癒着しているので,まずその周囲の硝子体を切除する(図1).筆者の経験では,この癒着はほぼ全例にみられるが,網膜細動脈瘤の破裂に硝子体牽引が関与しているのか,あるいは網膜細動脈瘤破裂の結果として癒着が形成されるのは不明である(図2).ついで,網膜細動脈瘤周囲の網膜前出血を除去するが,内境界膜下血腫になっていることも多く,その場合には内境界膜を.離除去して血腫を吸引する必要がある(図3).出血が厚い図1術中所見(1)まず網膜細動脈瘤周囲の硝子体を切除し,人工的後部硝子体.離を作成する.図2術中所見(2)網膜細動脈瘤部位には通常,硝子体が癒着している.図3術中所見(3)網膜細動脈瘤周囲の網膜前出血を吸引除去する.内境界膜下血腫になっていることも多い.図4術中所見(4)網膜下出血が中心窩に及んでいなければ自然吸収を待つ.と,このときに誤って医原性裂孔を形成することがあるので注意が必要である.網膜下出血は中心窩に及んでいないか,ぎりぎりかかっている程度であれば自然吸収を待つ(図4).中心窩を含む広範囲に網膜下血腫をきたしている症例は比較的まれだが,もしそのような症例に遭遇した場合には,ガスタンポナーデによる血腫移動術を併用するか,意図的裂孔から血腫を除去する.(71)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156810910-1810/15/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 173.白内障とサーチュイン

2015年5月31日 日曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第173回◆眼科医のための先端医療山下英俊白内障とサーチュイン近藤亜紀・三村達哉・松原正男(東京女子医科大学東医療センター眼科)サーチュインとはサーチュインはヒストン脱アセチル化酵素で,ヒストンとDNAの結合に作用し,遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすと考えられています.ヒトのサーチュインにはSIRT1(silentinformationregulatorT1)からSIRT7まで7種類あり,このなかでSIRT1が細胞老化にかかわる重要な分子です.また,サーチュインのなかで酵母から初めて見つかったSIRT2と構造や機能が類似しているものとしてSIRT1に注目が集まっています.サーチュインの機能不全と加齢疾患が関係しており,悪性腫瘍,2型糖尿病,肥満に伴う代謝性疾患,神経変性,心疾患,環境ストレスに対する反応などとも関連があります.動物実験レベルでは,SIRT1の発現上昇によって白内障,網膜変性症,視神経炎,ぶどう膜炎など,さまざまな眼疾患を防ぐ効果があります.したがってSIRT1は,白内障,加齢黄斑変性症,緑内障患者の視神経変性など,酸化ストレスが引き起こす眼障害が関係する疾患を防ぐ効果がある可能性が示唆されます.SIRT1の眼内局在マウス眼においてSIRT1は角膜,水晶体,虹彩,毛様体,網膜などほぼすべての正常眼構造を構成する細胞核,細胞質に存在しています(図1).角膜では,SIRT1は上皮細胞の核と細胞質,実質細胞と内皮細胞の核に存在します.一方,角膜実質の無細胞部分には存在しませ図1マウス眼におけるSIRT1の局在SIRT1は角膜,水晶体(上皮細胞),虹彩,毛様体,網膜,とほぼすべての眼組織に存在する.角膜では上皮細胞,実質細胞,内皮細胞に存在する.網膜では網膜色素上皮(RPE),外顆粒層(ONL),内顆粒層(INL),神経節細胞層(GCL)に存在する.(文献1,Fig.3を許可を得て転載)(67)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156770910-1810/15/\100/頁/JCOPY 2.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.2236x+0.5599R2=0.13582.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.171x+0.3176R2=0.08832.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.2236x+0.5599R2=0.13582.521.510.50SIRTI(μg/ml)y=0.171x+0.3176R2=0.08832.521.510.50-0.5術前logMAR視力図2前房水中SIRT1濃度と術前logMAR視力の関係術前視力が低いほど前房水中SIRT1濃度は高い.ん.毛様体では,SIRT1はおもに毛様体突起,毛様体無色素上皮層,毛様体色素上皮層の細胞核に存在しています.成人マウス水晶体では,SIRT1は水晶体.には存在していませんが,水晶体核,水晶体上皮細胞,水晶体線維内には存在しています.マウスの網膜では,SIRT1は網膜色素上皮細胞の核と,脈絡膜血管内皮細胞の細胞質に存在しています.また,insituhybridizationでは網膜外顆粒層,内顆粒層,神経節細胞層にも存在します.ヒト眼において,SIRT1は老人性白内障患者の水晶体上皮細胞中と網膜に存在します.正常ヒト角膜上皮において,SIRT1は50%は認められず,30%はわずかに認め,20%は有意に認めます1).白内障と前房水中SIRT1濃度白内障手術時に前房水を採取してSIRT1濃度を測定し,年齢,性別,全身疾患(高血圧,糖尿病,高脂血症,心疾患,脳血管疾患,抗血栓薬内服の有無),白内障の程度(術前logMAR視力,水晶体厚,核硬度,皮質白内障,後.下混濁,前.下混濁),眼軸長,術前角膜内皮細胞数,術前前房深度との関連性を検討すると,結果は術前logMAR視力と核硬度で正の相関を認めました.つまり,術前視力が低いほど,また核硬度が高いほど前房水中SIRT1濃度は高い,という結果が得られます(図2,3)2).水晶体上皮細胞中でのSIRT1発現率は,白内障を有する患者では,51歳以上のグループのほうが50歳以下のグループより少なく,年齢と負の相関をするという報告があります3).これは,水晶体上皮細胞中のSIRT1の減少が,白内障の程度と患者の年齢に関連する可能性678あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015012345核硬度図3前房水中SIRT1と核硬度の関係核硬度が高いほど前房水中SIRT1濃度は高い.を示唆します.一方,水晶体上皮細胞中SIRT1は年齢とともに減少するが,50歳以上に限定すると,白内障を有する患者では,白内障がない患者よりも増加しているとの報告があります4).まだ結論は定まりませんが,以上より,SIRT1が老人性白内障の形成になんらかのかかわりをもつ可能性が考えられます.レスベラトロールと白内障レスベラトロールはおもにブドウの皮に存在するポリフェノールの一種です.レスベラトロールはSIRT1と相互作用し,その活性を著しく増加させます.ラットの白内障モデルでレスベラトロールはサーチュインを活性化し,PGC-1a(peroxisomeproliferatoractivatedreceptorgammacoactivator-1a)を脱アセチル化させて白内障の形成を抑制します.レスベラトロールを与えられた成人マウスは加齢疾患と白内障形成が著明に減少しました.この結果は,レスベラトロールによってSIRT1が活性化され,白内障形成が抑制されている可能性を示します.現在,すでにSIRT1活性化剤として,レスベラトロールより数千倍の活性をもつ薬剤(SRT1720など)が同定され,糖尿病治療薬などとして開発が進められています5).今後の展望SIRT1は眼加齢を調節し,酸化ストレスから眼組織を守ることが多数の動物実験によって示されています.これらのデータより,SIRT1は眼加齢を防ぐ治療法の魅力的な候補であるといえます.しかし,どの動物実験データがヒトの眼疾患に適応可能かは現段階でははっき(68) りしません.心血管疾患,悪性腫瘍,糖尿病,アルツハイマー病などにおけるSIRT1活性化物質の臨床試験はすでに進められています.眼疾患についても,眼加齢におけるSIRT1の役割をより明らかにし,より多くの臨床試験が行われることで,SIRT1が白内障などを防ぐ治療薬となる可能性があります.文献1)MimuraT,KajiY,NomaHetal:TheroleofSIRT1inocularaging.ExpEyeRes116:17-26,20132)近藤亜紀,三村達哉,松原正男ほか:白内障における前房水中SIRT1濃度.臨床眼科学会学術展示,20143)LinTJ,PengCH,ChiouSHetal:Severityoflensopacity,age,andcorrelationofthelevelofsilentinformationregulatorT1expressioninage-relatedcataract.JCataractRefractSurg37:1270-1274,20114)ZhengT,LuY:ChangesinSIRT1expressionanditsdownstreampathwaysinage-relatedcataractinhumans.CurrEyeRes36:449-455,20115)太田秀隆:長寿遺伝子Sirt1について.日老医誌47:1116,2010■「白内障とサーチュイン」を読んで■今回は近藤亜紀先生,三村達哉先生,松原正男教授ていることになります.なぜ,老化が起きるのか,なにより,遺伝的な調節を行うことで寿命を延ばすサーぜ白内障が起きるのか,生物にとってとても一般的なチュインという酵素のお話です.この酵素は老化と関問いですが,とてもむずかしい問題です.この方面か連していること,酸化ストレスから細胞を守ることらの研究が老化のメカニズム解明の大きなブレイクスで,加齢に伴う疾患を抑制する可能性を秘めた大変魅ルーになる可能性があります.力的な蛋白質です.この蛋白質は2つの意味で本当に2つ目の期待は,レスベラトロールというポリフェ魅力的です.ノールがサーチュインと相互作用し,その活性を著1つ目は,サーチュインがヒストン脱アセチル化酵しく増加させることが解明されているので,疾患治療素で,ヒストンとDNAの結合に作用し遺伝子発現への応用(近藤先生の総説では糖尿病治療薬としてのを調節すること,つまり疾患の病態生理をエピジェネ期待)がすぐ手の届くところにあることです.有効でティックスの面から解明するキーになる可能性があり安全な薬剤が開発されると,その機能を解析することます.遺伝子異常に伴う疾患は現在の進んだ核酸配列でヒトの老化の研究がさらに進み,また新たな治療薬検査により検出することが可能になってきましたが,が開発される可能性が考えられます.近藤先生のご提遺伝子配列のとくに蛋白質に読まれる部分には異常が示になった最先端の研究成果は,眼科疾患の病態と治なく,遺伝子発現を調節する部分が機能異常を起こす療戦略を変えるブレイクスルーになるのではないかと場合,とても検出しにくいものです.サーチュインの考えます.変化が老化,酸化ストレスと関連した疾患になること山形大学眼科山下英俊が解明されていることは,いわば出口がきちんと見え☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015679

眼瞼・結膜:アレルギー性結膜炎のエッセンス

2015年5月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人佐竹良之5.アレルギー性結膜炎のエッセンス東京歯科大学市川総合病院眼科アレルギー性結膜疾患は,日常診療で診察することが多い眼表面疾患の一つであり,根治することが難しい疾患でもある.治療の中心は点眼薬でのメディカルケアであるが,予防として抗原を回避するセルフケアも非常に重要である.●はじめにアレルギー性結膜疾患は,日常診療で診察する機会も非常に多く,眼表面の炎症にとどまらずQOLの低下を招くことも多々ある.近年,抗原特異的免疫療法が食物アレルギーや耳鼻科領域のスギ花粉症に対する唯一の根治的治療法として臨床応用されているが,眼科領域ではまだ普及していないのが現状である.治療の中心はメディカルケア(薬物療法)となるが,あくまでも対症療法であり,抗原回避などのセルフケアも非常に重要である1).メディカルケア,セルフケアを効果的に行うためには,医師と患者が十分なコミュニケーションをとることが重要となる.●メディカルケア薬物療法を進めるうえで,疾患の病態の把握ならびに点眼薬の特徴を十分に理解し,病態に即した点眼薬を選択することが重要である.1.抗アレルギー薬ヒスタミンH1受容体拮抗薬は,マスト細胞から放出されたヒスタミンがその受容体と結合することを阻害する.効果発現は即効性であり,ヒスタミンにより引き起こされる眼.痒感,充血,浮腫(図1)を主症状とするスギ花粉症(季節性アレルギー性結膜炎)などで第一選択薬となる.メディエーター遊離抑制薬は,マスト細胞の膜安定化作用だけでなく,種々の炎症細胞の組織への集積や活性化も抑制する.ヒスタミンH1受容体拮抗薬とは異なり,その効果発現は緩やかで1週間ほど時間を要することから,花粉飛散開始1,2週間前から始める初期療法2)や,炎症細胞がより病態に関与する春季カタル,アトピー性角結膜炎などでよりその効果を発揮する.2.免疫抑制薬免疫抑制薬は,巨大乳頭増殖(図2)を伴う春季カタルやアトピー性角結膜炎が適応疾患となる.結膜組織に浸潤し,炎症の司令塔であるT細胞の働きを抑制し,その影響下にある炎症細胞の働きを制御することでアレルギー炎症をコントロールする.3.ステロイド薬ステロイド薬は,炎症細胞の結膜組織への浸潤やその図1結膜充血と浮腫(スギ花粉症,季節性アレルギー性結膜炎)図2巨大乳頭増殖(春季カタル)(65)あたらしい眼科Vol.32,No.5,20156750910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3落屑様角膜上皮障害図4シールド潰瘍活性化の抑制,血管透過性抑制など広汎な抗炎症作用を示す.抗アレルギー点眼薬で効果不十分の場合や,春季カタルやアトピー性角結膜炎で上皮障害(図3,4)を併発するほど瞼結膜の炎症が強い状況で併用する.副作用として眼圧上昇や感染症の誘発,白内障があり,とくに小児や若年者でその頻度が高いので,定期的な診察が必要となる.●セルフケアアレルギー性疾患は,原因抗原との接触の回避や除去を効果的に行うことで発症予防や症状緩和が期待できる.患者自身がセルフケアとして抗原の回避,除去を効果的に行うためには,日常診療の場で医師と患者が十分なコミュニケーションをとり,患者の状況にあった医療情報を提供することが重要である.そこではじめて適切な対応が可能となる.花粉症では,原因植物の花粉飛散時期だけでなく,飛散範囲などその花粉の特徴を理解することが重要である.スギなどの樹木花粉は飛散距離が長く,広範囲に飛散するが,雑草類やイネ科などの花粉は飛散距離が短く,生息地域に限局する.これらを基にして屋外で花粉防止眼鏡やマスクを装用することは,花粉抗原との接触を減らし,症状を軽減するものとして効果的である.一方,ハウスダスト,ダニなど室内抗原に対しては,室内の環境,掃除を年間を通して工夫する必要がある.とくに,夜間に眼.痒感が強く,よく目を擦る場合には,寝具の対策が重要となる.●近未来の治療概念感作時の抗原の侵入経路には議論の余地はあるもの676あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015の,結膜での抗原暴露がアレルギー反応の直接の誘因になっていることは明白である.近年,自然免疫から獲得免疫までの一連の免疫応答の過程で,上皮細胞が抗原侵入の初期段階で重要な役割を担っていることが明らかになっている3).結膜上皮に関連するバリア機能には,涙液やムチンによる機能的バリアと,結膜上皮そのものによる物理(構造)的バリアがある.アレルギー炎症が発症していない時期でも,結膜上皮の細胞間接着機能が脆弱であったり4),杯細胞数が減少しているとの報告5)もあり,臨床的に正常と判断される段階でも組織学的には障害されていることを示している.この潜在的な結膜上皮障害が結膜のバリア機能を低下させ,抗原の侵入を容易にすることで,アレルギー反応の誘因となる可能性も考えられる.結膜上皮を常に健全な状態にしておくことは,アレルギー性結膜疾患などの眼表面疾患の発症予防に繋がるものとして期待される.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版).日眼会誌114:833-870,20102)高村悦子:アレルギー性結膜炎の治療・初期治療,季節前投与.アレルギーの臨床14:650-654,19943)CayrolC,GirardJP:IL-33:analarmincytokinewithcrucialrolesininnateimmunity,inflammationandallergy.CurrOpinImmunol31:31-37,20144)HughesJL,LackiePM,WilsonSJetal:Reducedstructuralproteinsintheconjunctivalepitheliuminallergiceyedisease.Allergy61:1268-1274,20065)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandMUC5ACalterationsinatopicpatientswithcornealshieldulcers.CurrEyeRes30:897-908,2005(66)

抗VEGF治療:臨床におけるベバシズマブ(アバスチン®

2015年5月31日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二16.臨床におけるベバシズマブ木村雅代名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(アバスチンR)VEGFは血管新生や血管透過性亢進に関与するサイトカインであり,現在,加齢黄斑変性,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞症および糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫などに抗VEGF薬が臨床応用されている.これまではベバシズマブがoff-labelで使用されていたが,ラニビズマブおよびアフリベルセプトの登場と適応拡大により,今後はベバシズマブを使用すべき症例は限られる.ベバシズマブを使用する最大の利点は,患者の経済的負担が軽減されることである.その一方,眼科的使用としては認可されていない薬剤であるため,使用に際しては各施設での倫理委員会での承認と十分なインフォームド・コンセントが必要であり,また眼内炎や全身合併症に十分に注意が必要である.加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して,2009年にラニビズマブ(ルセンティスR)が国内でも認可され,AMDの治療の主体はベバシズマブ(アバスチンR)からラニビズマブへと移ったが,承認薬の薬価が高額であるため,施設によってはベバシズマブのoff-labelな使用は継続されている.米国では保険制度の違いもあって,低所得層にはおもにベバシズマブが用いられている.このような背景から,米国NationalEyeInstituteの助成により医師主導の臨床研究であるComparisonofAMDTreatmentsTrials(CATT)studyが実施され,AMDに対するラニビズマブとベバシズマブの比較および毎月投与と必要時(asneeded)投与の比較が行われた.結果は,毎月投与のほうが,必要時投与よりもわずかに改善した視力の維持に優れていた.薬剤の比較では,視力改善においては薬剤間に有意差は認めなかった.ただ,必要時投与での注射回数はベバシズマブのほうが多く,全身的な副作用もベバシズマブのほうが多かった1).以上のように,AMDに対してベバシズマブは費用対効果に優れる治療薬であるが,眼内炎の集団発生の報告もあり,眼内炎や脳血管障害などの全身合併症のリスクを念頭において使用すべきであろう.黄斑浮腫網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫や糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対しても,ラニビズマブやアフリベルセプト(アイリーアR)が適応拡大されてきて,治療の選択肢が増えたことは喜ばしいが,DMEなどではますます医療(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY経済の圧迫が懸念される.RVOに伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブとラニビズマブの後ろ向き比較研究では,視力改善および網膜厚減少に有意差はなく,ベバシズマブからラニビズマブへの変更群では,変更後の視力改善および網膜厚減少に有意差は認めないと報告されている2).また,アフリベルセプトはラニビズマブやベバシズマブより有効である可能性がある.DMEに対してもベバシズマブとラニビズマブの効果は同等であるが,ベバシズマブのほうが少ない投与回数ですむという報告もある3).最近では,アフリベルセプトのほうが平均視力の改善効果に優れる可能性が示されている.増殖糖尿病網膜症と血管新生緑内障黄斑浮腫のない増殖糖尿病網膜症や血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対して抗VEGF薬で承認されたものはなく,ベバシズマブの適応外使用は意義をもつ.増殖糖尿病網膜症に対しては,手術の数日前のベバシズマブ硝子体内注射により手術時の出血を減少させて増殖膜処理を容易にし,術後の再出血も減らすことができる4).しかし,抗VEGF薬は増殖膜の線維化を促進し,牽引性網膜.離を増悪させると報告されており,その適応と注射のタイミングに関して慎重な判断が必要である.NVGに対する線維柱帯切除術は,術中・術後の出血や炎症の遷延などにより術後成績は良好とはいえない.ベバシズマブ硝子体内注射は,隅角新生血管を強力かつ速やかに退縮させ,汎網膜光凝固を完成させれば手術しなくても眼圧下降が得られる場合がある5).また,線維柱帯切除術前にベバシズマブ硝子体内注射を行うことにあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015673 治療前治療後1カ月治療後1.5年治療前治療後1カ月治療後1.5年図1網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対しベバシズマブが著効した1例上段:初診時.矯正視力0.06.RVOに伴う黄斑浮腫を認め,ベバシズマブ硝子体内注射を施行した.中段:1カ月後.矯正視力0.6.黄斑浮腫は軽快した.下段:初診時から1.5年後.矯正視力1.2.網膜無灌流域に網膜光凝固術および必要時投与でベバシズマブ硝子体内注射を合計4回施行し,最終投与から10カ月後,黄斑浮腫の再発を認めない.(金沢大学井尻茂之先生のご厚意による)より,術後の前房出血の軽減や術後の濾過胞生存の向上も報告されている6).しかし,眼虚血症候群によるNVGに対するベバシズマブ硝子体内注射または前房内注射によって,網膜中心動脈閉塞症を併発したという報告があり,ベバシズマブ使用に際し,リスク・ベネフィットを十分考慮する必要がある7).未熟児網膜症未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)の発症にもVEGFが重要な役割を果たし,その治療法は網膜光凝固術が一般的である.しかし,網膜光凝固術に伴う全身麻酔の負担や,黄斑近くまで網膜光凝固が必要な症例での将来的な視機能への懸念など,多くの問題が存在する.そこで,ベバシズマブ硝子体内注射の併用もしくは単独療法が注目されている.2011年に報告されたBevacizumabEliminatestheAngiogenicThreatforROP(BEAT-ROP)studyでは,ベバシズマブ硝子体内注射はzoneI症例には増殖組織の再発が有意に少なかったが,zoneII後極症例では網膜光凝固術と同等であった8).未熟児の発育や網膜への影響など,全身および局所的674あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015ABCD図2増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対しベバシズマブの硝子体内注射を施行した1例投与前(A,B),虹彩ルベオーシスを認める.ベバシズマブ投与後(10日後:C,D),速やかに新生血管の消退を得た.その後,汎網膜光凝固術を施行した.(文献5より引用)な副作用に関して長期的な観察が必要であり,また適応外治療となるため慎重な判断が求められるが,今後有用な治療法となる可能性があると思われる.文献1)MartinDF,MaguireMG,FineSLetal;ComparisonofAge-relatedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)ResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relatedmaculardegeneration:two-yearresults.Ophthalmology119:13881398,20122)YuanA,AhmadBU,XuDetal:Comparisonofintravitrealranibizumabandbevacizumabforthetreatmentofmacularedemasecondarytoretinalveinocclusion.IntJOphthalmol7:86-91,20143)EkinciM,CeylanE,CakiciOetal:Treatmentofmacularedemaindiabeticretinopathy:comparisonoftheefficacyofintravitrealbevacizumabandranibizumabinjections.ExpertRevOphthalmol9:139-143,20144)SharmaS,MahmoudT:Surgicalmanagementofproliferativediabeticretinopathy.OphthalmicSurgLasersImagingRetina45:188-193,20145)木村雅代,東出朋巳:続発緑内障.眼科54(臨増):13181324,20126)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,20107)HigashideT,MurotaniE,SaitoYetal:Adverseeventsassociatedwithintraocularinjectionsofbevacizumabineyeswithneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:603-610,20128)Mintz-HittnerHA,KennedyKA,ChuangAZ;BEATROPCooperativeGroup:Efficacyofintravitrealbevacizumabforstage3+retinopathyofprematurity.NEnglJMed364:603-615,2011(64)

緑内障:吉と出るか? 凶と出るか? エクスプレス手術

2015年5月31日 日曜日

●連載179緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也179.吉と出るか?凶と出るか?丸山勝彦東京医科大学医学部医学科眼科学分野エクスプレス手術アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイス(以下,エクスプレス)を用いた緑内障チューブシャント手術(以下,エクスプレス手術)の適応は線維柱帯切除術と一部重複する.本稿ではエクスプレス手術を適応したことが吉と出た症例と凶と出た症例を供覧し,同手術の実態を考えてみたい.●眼球虚脱を生じなかった無水晶体眼水晶体.内摘出術後無水晶体眼,続発緑内障の症例.眼球虚脱に伴う硝子体脱出や駆逐性出血を防ぐためエクスプレス手術を行った.強膜弁にあらかじめ10-0ナイロン糸を通糸し,エクスプレス挿入後,ただちに強膜弁縫合を行ったところ(図1),眼球虚脱は生じず,合併症なく手術を終了した.●ニードリング後に駆逐性出血をきたした症例原発閉塞隅角緑内障の症例.白内障手術時に核落下し,硝子体手術,眼内レンズ縫着が行われている.その後高眼圧となりエクスプレス手術施行.濾過胞不全となったためニードリングを行い,眼圧が急激に下降した.同日の夜,激しい眼痛が生じ再診,駆逐性出血を生じていた(図2).●出血や過度な炎症反応が生じなかった血管新生緑内障症例増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障,硝子体術後図1無水晶体眼に対するエクスプレス手術強膜弁にあらかじめ10-0ナイロン糸を通糸し,エクスプレス挿入後,ただちに強膜弁縫合して眼球虚脱を予防した.(61)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY眼内レンズ挿入眼の症例.出血や術後炎症を防ぐためエクスプレス手術を行った.術後,前房出血や過度な炎症反応はなく(図3),型通りの術後管理が可能であった.●エクスプレス手術でも前房出血を生じた症例原発開放隅角緑内障,眼内レンズ挿入眼の症例.エクスプレス手術を行ったところ,術中に前房出血を生じ(図4),凝血塊による管腔閉塞のため術後に眼圧が上昇した.ab図2ニードリング後に生じた駆逐性出血a:前眼部写真.b:超音波Bモード.あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015671 図3血管新生緑内障に対するエクスプレス手術後1日目の前眼部写真前房出血や過度な炎症反応は認めない.図4エクスプレス手術中に前房出血を生じた症例凝血塊による管腔閉塞のため,術後に眼圧が上昇した.●レーザー照射で虹彩嵌頓を解除した症例原発開放隅角緑内障に対する白内障とエクスプレス手術の同時手術後の症例.虹彩がエクスプレスに陥頓して高度な眼圧上昇が生じたが(図5a),レーザー照射で解除した(図5b).●管腔内閉塞のためエクスプレスを摘出した症例落屑緑内障に対する白内障とエクスプレス手術の同時手術1年後,濾過胞不全を生じた.ニードリングやエクスプレス管腔へのYAGレーザー照射を行ったが奏効せず,観血的濾過胞再建術を施行した.強膜弁を開放してエクスプレスのプレート部を露出したが濾過は認めず(図6),管腔内閉塞が示唆された.●おわりにエクスプレス手術のメリットを生かして同手術を適応してもすべての症例に有効なわけではなく,管腔閉塞が672あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015ab図5白内障とエクスプレス手術の同時手術後に生じた虹彩陥頓a:高度な眼圧上昇を生じた.b:レーザー照射後.図6エクスプレス術後に管腔内閉塞が示唆された症例強膜弁を開放してエクスプレスのプレート部を露出したが,濾過は認めなかった.解除できない場合にはエクスプレスの摘出を余儀なくされる.また,エクスプレスの診療報酬点数は線維柱帯切除術より約1万点高いことからも,同手術の適切な適応決定,患者への説明は必須と考える.(62)

屈折矯正手術:角膜移植後のPhakic IOL

2015年5月31日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載180大橋裕一坪田一男180.角膜移植後のPhakicIOL福井正樹南青山アイクリニック,国立病院機構東京医療センター角膜移植術後の屈折変化・異常はしばしば角膜移植術後に起こる問題の一つである.角膜移植後の屈折異常への対応法はいくつかあるが,完全に問題を解決する方法は確立されていない.角膜移植後の屈折矯正法の一つとしてphakicIOLがあるので紹介する.●はじめに角膜移植は1905年にEduardZirmが初めて行って以来の歴史があり,もともとは角膜の透明性の改善を目的に行われた.しかし,術式の向上や術式の多様性に伴い,角膜移植後の屈折精度も求められるようになってきた.角膜移植後に矯正視力が良くても,不同視や高度な近視化や遠視化は日常生活上でのqualityofvision(QOV)を低いものとしてしまう.これらを解決するために,術式の選択,縫合糸での調節,眼鏡矯正,コンタクトレンズ矯正,白内障手術・眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入による矯正,乱視矯正角膜切開術やcompressionsuture,エキシマレーザーによる屈折矯正手術などがある1)が,それぞれにメリットとデメリットがある.●角膜移植後の屈折・乱視矯正法術式の選択では,角膜内皮移植術であるDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),non-Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(nDSAEK),Descemt’smem-brane(DMEK)はgraftが縫合不要である点から,角膜の屈折を大きえ変えることなく手術を行える方法ということで大きな意義をもつ手術である.しかし,lamellarkeratoplastyやdeepanteriorkeratoplastyなど縫合を要する角膜移植では屈折や乱視の問題が残っている.縫合糸による屈折・乱視調節も理論的には可能である.術中に縫合を強く行えば遠視化し,緩く行えば近視化する.また,ネビアスライトRやケラトリングを用いて術終了時に乱視を調節して終わることで軽減化を図っている.しかし,実際には術後の屈折は予想できず,乱視も大きく出てしまうこともしばしばである.端端縫合糸を術後に抜糸したり縫合を追加したり,連続縫合糸をずらして乱視を調節することで術後にある程度の乱視調節も行うことができるが,定量的に行うこと(59)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYはできない.眼鏡矯正は不同視や乱視が強く,完全矯正眼鏡が作製困難になることがある.コンタクトレンズは矯正力が強いが,ときにフィッティングが悪かったり,コンタクトレンズ不耐症に処方しづらかったりする.角膜移植後の白内障手術の際のIOLでの屈折の調整は実際によく行う方法である.しかし,前提として白内障があること,また角膜移植術が再移植の必要になりうる術式であること,術中の屈折測定検査が一般的ではないことから,toricIOLを挿入するかは患者の状態を考慮しなくてはならない.Photorefractivekeratectomy(PRK)やlaser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)といったエキシマレーザーによる屈折矯正手術は,角膜移植後に可能な屈折矯正法として知られている.しかし,角膜厚による制限や角膜収差の増加,経年的な戻りなど短所も有する.●有水晶体IOL有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)は屈折矯正幅が広いこと,角膜収差に影響がないことから,LASIKなどの屈折矯正手術の適応にならない場合にも適応となりえる屈折矯正法である2).PhakicIOLは前房型と後房型に分類され,さらに前房型は隅角支持型と虹彩支持型に分類される.筆者の施設では隅角支持型を多く使用してきたことから,角膜移植術後の屈折異常に対し,他の屈折矯正法で治療が困難,抵抗性であると判断した際に虹彩支持型phakicIOLを行った症例があるので紹介する.当院では平成20年12月~平成22年12月の2年間に6例6眼(男性4例4眼,女性2例2眼)の虹彩支持型phakicIOLの挿入を行った(図1,表1).原疾患は全員が円錐角膜であり,5例が全層角膜移植,1例が深層層状角膜移植を行っていた.PhakicIOL術前の平均矯正視力がlogMAR視力で.0.06±0.13,少数視力で0.87と良好の視力であったが,裸眼視力はlogMAR視あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015669 abab図1角膜移植術後のPhakicIOL(表1の症例No.5)a:円錐角膜に対し全層角膜移植後,photorefractivekeratectomy(PRK)を2回行ったが,屈折異常の戻りにより再度屈折矯正手術を希望された.b:PhakicIOL術後.前房内に虹彩支持型phakicIOLが挿入されている.表1角膜移植後にphakicIOLを行った症例症例年齢性別手術年月phakicIOL原疾患移植術式裸眼視力矯正視力SphCylAxsS.E.123男H20.12ArtisanToric円錐角膜右)PKP後0.051.01.01.0.7.000.00.6.250.001800.10.130232女H21.2ArtisanToric円錐角膜右)PKP後0.601.01.21.2+0.750.00.7.00.1.25180100.2.75.0.625332男H21.4Artiflex円錐角膜右)PKP後0.050.80.81.2.13.500.50.2.50.1.00170180.14.750417男H21.7ArtisanToric円錐角膜左)PKP後0.30.50.50.9+3.750.75.6.00.6.00175170+0.75.2.25539男H22.12ArtisanToric円錐角膜右)PKP後0.031.00.91.0.11.000.00.4.500.00700.13.250641女H22.12Artiflex円錐角膜左)DALK後0.21.01.01.0.2.500.00.1.000.00400.3.000PKP:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植,Sph:球面度数,Cyl:乱視度数,Axs:乱視軸(°),S.E.:等価球面度数,■術前データ,□術後データ.術前のデータは手術直前のデータを,術後のデータは術後の最高矯正視力時のデータを用いた.力で.0.93±0.52,少数視力で0.12であった.術後は平均矯正視力がlogMAR視力で+0.02±0.05,少数視力で1.0と有意差はなかったが,裸眼視力ではlogMAR視力で.0.07±0.12,少数視力で0.86と有意差をもって向上していた(Mann-WhitneyUtest).それを裏付けるかのように,phakicIOL術前後で等価球面度数,乱視度数が改善していた.●角膜移植術後の有水晶体IOLの考察当院で行った角膜移植術後のphakicIOLでは裸眼視力の向上が明らかであり,非常に良い成績であった.今回の症例はすべて円錐角膜が原疾患であり,円錐角膜は一般的に予後が良いが,移植後の屈折異常が強い可能性がある.また,年齢が比較的若いことも裸眼視力・矯正視力が出やすかった理由の一つである可能性がある.また,今回のデータは術後の最高視力をもとに比較してい670あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015る.長期の安定性など今後検討すべき点がある.しかし,phakicIOLであれば角膜移植片に侵襲を与えることがなく,エキシマレーザー後のような屈折の戻りも理論的には起きないと考えられる.また,全層角膜再移植の際にもphakicIOLの取り出しが容易に行えるのも利点となる.また,当院では虹彩支持型のphakicIOLを行ったが,今後は後房型レンズも適応となりえる.文献1)FaresU,SarhanAR,DuaHS:Managementofpost-keratoplastyastigmatism.JCataractRefractSurg38:20292039,20122)MoshirfarM,BarsamCA,ParkerJW:ImplantationofanArtisanphakicintraocularlensforthecorrectionofhighmyopiaafterpenetratingkeratoplasty.JCataractRefractSurg30:1578-1581,2004(60)

眼内レンズ:眼内レンズ強膜内固定術

2015年5月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋343.眼内レンズ強膜内固定術秋元正行大阪赤十字病院眼科カテーテル針の内針と外筒の間に眼内レンズハプティックを固定して導出する強膜内固定術(Lock&Lead法)を考案した.ハプティックスの強膜内トンネル埋没方法についても,ガイド針を用いることでより細く長いトンネル内に挿入できる.特別な器具を必要としないため,どこでも対応できるなどの特長がある.●はじめに2007年にGaborとPavlidisによって眼内レンズ強膜内固定術が発表1)されてから,縫着術に代わる手術方法として注目され,国内でも太田らのY-fixation2),山根らのDouble-Needle法3)などさらなる変法がつぎつぎと報告されているが,専用鉗子などの器具が必要であったり,熟練した介助者のアシストが必要だったりする.また,縫合糸などの支えのない眼内レンズは,術中に硝子体内落下のリスクがあった.筆者らは従来の強膜内固定術には足りない縫着術の長所である対面通針による単純な眼内操作,縫合糸による眼内レンズの落下防止について再考し,それらを強膜内固定術にも導入するために,カテーテル針の内針と外筒の間に眼内レンズハプティックを固定して導出する本法(Lock&Lead法)を考案した4~6).●方法1.用意するもの24Gカテーテル針(Jelco4053,SmithsMedical,Dublin,OH):2本30G肉薄針(TSK社)または27G針:2本22G針3mmスリットナイフステリストリップカリパー,縫合鑷子,持針器など眼内レンズは3ピースタイプが適している.本法の利点を最大限に生かすためには,PVDFなど柔らかい材質のハプティックスを有する眼内レンズが使いやすく,筆者らはNX70(参天)を第一選択としている.2.カテーテル針の準備スリットナイフを彫刻刀のように使用して,外筒に横(57)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY穴を作製して曲げる.横穴の位置はスリットナイフの横幅全幅または中央までを目安に,先行ハプティック用は先端から3mmの位置,後行ハプティック用は先端から1.5mmの位置としている.3.強膜穿刺部位のデザイン強角膜創が12時として,4時-10時,角膜輪部から1.5mm後方に,輪部と平行方向に22G針で強膜を穿刺する.4.眼内レンズの準備眼内レンズをインジェクター先端ぎりぎり,先行ハプティックが解放されるまで押し込む.5.先行ハプティックの処理(IOL挿入まで)先行ハプティック用カテーテル針を,左強膜穿刺部位より刺入.強角膜創へ穿通させる.インジェクターにセットした眼内レンズの先行ハプティックをカテーテル針外筒の先端から挿入し,先行ハプティックを固定する.インジェクターの先端を差し込み眼内レンズ光学部を挿入.カテーテル針が先行ハプティックを固定しているため,眼内レンズ落下を防止できる(図1).6.後行ハプティックの処理4時に作製した角膜ポートから後行ハプティック用カテーテル針を刺入し,強角膜創へ穿通.後行ハプティックを横穴からカテーテル針先端に向かって挿入し,固定する(図2).22G針を10時の強膜穿刺部位から瞳孔下まで刺入して,対面通針にてカテーテル針と後行ハプティックを眼外へ導出.先行ハプティックも眼外へ導出し,カテーテル針を緩めて固定をはずす.7.ハプティックの埋没先端から4mm程度に曲げた肉薄30G針または27G針を強膜穿刺創から反時計回りに穿刺して強膜トンネルを作製し,先端は強膜外へ露出させる.1本目の針をガイドに2本目の針を対面通針する(図3).2本目をガイあたらしい眼科Vol.32,No.5,2015667 図1先行ハプティックの処理カテーテル針内針と外筒の間に眼内レンズハプティックが強固に固定されている.図3ハプティックの埋没①肉薄30G針を強膜に対面通針することで,強膜トンネルを作成しながら,ハプティック挿入のガイドとして留置する.ドにハプティックを強膜トンネル内に挿入する(図4).●まとめ眼内レンズの偏位や傾斜由来の乱視は,他の強膜内固定術と同様に同一術者の縫着術と比べて良好であった.本術式は介助者による積極的介入がなくとも施術可能である,強膜弁を作製せず,縫合糸も使用しないため,習熟すると比較的短時間に手術を完遂できる,特別な器具を必要としないため,多くの手術室においてすぐに対応できる,などの特長があり,数ある強膜内固定術変法の中の選択肢の一つとなりうると考える.一方で,カテーテル針は加工が必要であり,その外径は22Gと他の方法と比べてやや太い.また,太さの近い2本の針を用いた対面通針は,縫着術の対面通針と異なり,一定の習練が必要である.現在,これらの問題を解決する新しい用具を開発中である.図2後行ハプティックの処理眼内レンズ先行ハプティックは眼内でカテーテル針に支えられている.後行ハプティックもカテーテル針に固定して挿入する.図4ハプティックの埋没②留置した2本目の針をガイドに,ハプティックスを強膜内に挿入する.文献1)GaborSG,PavlidisMM:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlensfixation.JCataractRefractSurg33:1851-1854,20072)OhtaT,ToshidaH,MurakamiA:Simplifiedandsafemethodofsuturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlensfixation:Y-fixationtechnique.JCataractRefractSurg40:2-7,20143)YamaneS,InoueM,ArakawaAetal:Sutureless27-gaugeneedle-guidedintrascleralintraocularlensimplantationwithlamellarscleraldissection.Ophthalmology121:61-66,20144)AkimotoM,TaguchiH,TakahashiT:Usingcatheterneedlestodeliveranintraocularlensforintrascleralfixation.JCataractRefractSurg40:179-183,20145)AkimotoM,TaguchiH,TakahashiT:Reply.JCataractRefractSurg40:854-855,20146)AkimotoM,TaguchiH,TakayamaKetal:Intrascleralfixationtechniqueusingcatheterneedlesand30-gaugeultrathinneedles:lock-andleadtechnique.JCataractRefractSurg41:257-261,2015