●連載183緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也183.ステロイド外用薬の長期使用西野和明医療法人白水会栗原眼科病院(羽生)による続発緑内障ステロイド外用薬が原因と考えられる続発緑内障に関しては,発症機序が明確ではないという状況から,その因果関係には賛否両論がある1~4).しかしながら眼科臨床においては,ステロイド外用薬が続発緑内障のもっとも高い可能性要因と考えられる症例がみられることから,その因果関係を常に念頭に置く必要がある.●ステロイド外用薬の長期使用により発症した後期緑内障:自験例筆者らは,他院他科にて原因不明の全身掻痒感のため,顔面を含む全身にステロイド薬を長期使用されていた20代男性患者が,視力低下や飛蚊症を主訴として当院を初診し,両眼ともに後期緑内障が発見された症例を経験した.患者は初診の1年前からから原因不明の全身掻痒感のため近医に通院中,顔面を含む全身にステロイド外用薬を当院初診まで継続使用していた.ステロイド薬は強度Ⅳ群(medium)を顔面に,強度II群(verystrong)が体幹に使用されていた.初診時所見:視力検査では,右眼0.02(0.9×.8.25D(cyl.1.0DAx180°),左眼0.02(0.6×.7.75D(cyl.1.0DAx10°)であった.Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定では,右眼38mmHg,左眼35mmHgと高値であったが,角膜浮腫や自覚的な違和感や頭痛,眼痛などはみられなかった.隅角検査では両眼ともにShafferGrade3~4,ScheieGrade0と開放隅角であった.外ab図1初診時眼底写真a:右眼.垂直C/Dは0.9弱で,篩板孔を透見しうる.DM/DDは2.7.b:左眼.垂直C/Dは0.9強で,篩板孔を透見しうる.DM/DDは2.7.傷などに伴う隅角後退,発達緑内障にみられるような虹彩付着部位の異常などは認められなかった.眼底検査による視神経乳頭所見は,右眼の垂直C/D比は0.9弱で,篩板孔を透見でき(図1a),DM/DD比は2.7と正常範囲内であった(正常値2.4~3.0).左眼の垂直C/Dは0.9強で,篩板孔を透見し,DM/DD比は2.7であった(図1b).その他の眼底異常はみられなかった.角膜内皮細胞密度は右眼3,016cells/mm2,左眼3,230cells/mm2,また中心角膜厚は右眼503μm,左眼495μmであった.眼軸長は右眼28.32mm,左眼28.12mmと近視性の長眼軸であった.視野検査(Humphrey302)では,右眼のMDは.24.38dB(図2b),左眼はMD.24.82dBと進行した後期の緑内障であった(図2a).OCT検査では両眼とも視神経乳頭の耳上側,耳下側の網膜神経線維層厚が減少している所見が認められた(図3).経過:初診日からただちにステロイド外用薬の休薬,初日から1週間はビマトプロスト,2週目はカルテオロール塩酸塩のそれぞれの点眼液を両眼に投薬した.治療4週後に眼圧は右眼12mmHg,左眼11mmHgと正常化し,16週を経過した現在も同様に安定している(図4).ab図2視野検査(Humphrey30-2)a:左眼MD.24.82dB.b:右眼MD.24.38dB.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513050910-1810/15/\100/頁/JCOPY図3OCT検査両眼とも視神経乳頭の耳上側,耳下側の網膜神経線維層厚が減少している所見が認められた.本症がステロイド緑内障の可能性が高いとした理由をあげる.ステロイド外用薬の中止,緑内障点眼薬の使用により眼圧が正常化したこと,既往歴・家族歴に緑内障を含む背景要因がないこと,ステロイドレスポンダーには開放隅角緑内障,強度近視,糖尿病,高齢者あるいは小児などに多いといわれているが,本症も強度近視,比較的若年者であったということ,狭義の原発開放隅角緑内障では本症のような40mmHg近い眼圧になることは珍しいこと,また「昨年から突然まぶしさを感じることがあった」というエピソードは,高眼圧による比較的急速な視野の悪化と考えることができることなどである.これらの理由から,本症はステロイド外用薬による続発緑内障と考えられた.もちろん,本患者はもともと開放隅角緑内障の素因をもっていたか,あるいは軽度の緑内障をすでに発症していたことも否定はできない.しかしながら,仮にそうであったとしても,ステロイド外用薬の長期投与が病状を悪化させたのではないかとする推論は可能である.したがって,本症の初診以前の眼科的状態の詳細は不明であるものの,包括的にステロイド緑内障と診断して問題ないと考えた.●まとめステロイド外用薬を使用することにより発症する続発眼圧(mmHg)顔面のステロイド外用薬の中止403530252015ビマトプロストカルテオロール塩酸塩右眼左眼10500481216経過観察期間(週)図4経過観察期間の眼圧の推移初診日からステロイド外用薬を中止.当日からビマトプロスト点眼薬を使用.翌週からはカルテオロール塩酸塩の点眼薬を追加.2週目には眼圧は正常化した.の緑内障などに関しては,古くから因果関係が指摘され,注意喚起をうながす論文が散見される1,2).一方,ステロイド外用薬の使用は緑内障の発症とはあまり関係がないとする報告もみられる3,4).しかしながら,局所のステロイド外用薬は全身ステロイド薬より副作用が多いとされ,そのなかでも眼圧上昇は強めのステロイドであれば数週間,弱めのステロイドであれば数カ月で発症する5)ことがあるとされている.ステロイドの吸収比率は身体の部位によって異なるため,とりわけステロイド外用薬の眼瞼周囲への使用に際しては,緑内障発症の危険性を常に念頭に置く必要がある.文献1)MormanMR:Possiblesideeffectsoftopicalsteroids.AmFamPhysician23:171-174,19812)HenggeUR,RuzickaT,SchwartzRAetal:Adverseeffectsoftopicalglucocorticosteroids.JAmAcadDermatol54:1-15,20063)HaeckIM,RouwenTJ,Timmer-deMikLetal:Topicalcorticosteroidsinatopicdermatitisandtheriskofglaucomaandcataracts.JAmAcadDermatol64:275-281,20114)MarcusMW,MueskensRP,RamdasWDetal:Corticosteroidsandopen-angleglaucomaintheelderly:apopulation-basedcohortstudy.DrugsAging29:963-970,20125)KerseyJP,BroadwayDC:Corticosteroid-inducedglaucoma:areviewoftheliterature.Eye20:407-416,20061306あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(78)