‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

緑内障:ステロイド外用薬の長期使用による続発緑内障

2015年9月30日 水曜日

●連載183緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也183.ステロイド外用薬の長期使用西野和明医療法人白水会栗原眼科病院(羽生)による続発緑内障ステロイド外用薬が原因と考えられる続発緑内障に関しては,発症機序が明確ではないという状況から,その因果関係には賛否両論がある1~4).しかしながら眼科臨床においては,ステロイド外用薬が続発緑内障のもっとも高い可能性要因と考えられる症例がみられることから,その因果関係を常に念頭に置く必要がある.●ステロイド外用薬の長期使用により発症した後期緑内障:自験例筆者らは,他院他科にて原因不明の全身掻痒感のため,顔面を含む全身にステロイド薬を長期使用されていた20代男性患者が,視力低下や飛蚊症を主訴として当院を初診し,両眼ともに後期緑内障が発見された症例を経験した.患者は初診の1年前からから原因不明の全身掻痒感のため近医に通院中,顔面を含む全身にステロイド外用薬を当院初診まで継続使用していた.ステロイド薬は強度Ⅳ群(medium)を顔面に,強度II群(verystrong)が体幹に使用されていた.初診時所見:視力検査では,右眼0.02(0.9×.8.25D(cyl.1.0DAx180°),左眼0.02(0.6×.7.75D(cyl.1.0DAx10°)であった.Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定では,右眼38mmHg,左眼35mmHgと高値であったが,角膜浮腫や自覚的な違和感や頭痛,眼痛などはみられなかった.隅角検査では両眼ともにShafferGrade3~4,ScheieGrade0と開放隅角であった.外ab図1初診時眼底写真a:右眼.垂直C/Dは0.9弱で,篩板孔を透見しうる.DM/DDは2.7.b:左眼.垂直C/Dは0.9強で,篩板孔を透見しうる.DM/DDは2.7.傷などに伴う隅角後退,発達緑内障にみられるような虹彩付着部位の異常などは認められなかった.眼底検査による視神経乳頭所見は,右眼の垂直C/D比は0.9弱で,篩板孔を透見でき(図1a),DM/DD比は2.7と正常範囲内であった(正常値2.4~3.0).左眼の垂直C/Dは0.9強で,篩板孔を透見し,DM/DD比は2.7であった(図1b).その他の眼底異常はみられなかった.角膜内皮細胞密度は右眼3,016cells/mm2,左眼3,230cells/mm2,また中心角膜厚は右眼503μm,左眼495μmであった.眼軸長は右眼28.32mm,左眼28.12mmと近視性の長眼軸であった.視野検査(Humphrey302)では,右眼のMDは.24.38dB(図2b),左眼はMD.24.82dBと進行した後期の緑内障であった(図2a).OCT検査では両眼とも視神経乳頭の耳上側,耳下側の網膜神経線維層厚が減少している所見が認められた(図3).経過:初診日からただちにステロイド外用薬の休薬,初日から1週間はビマトプロスト,2週目はカルテオロール塩酸塩のそれぞれの点眼液を両眼に投薬した.治療4週後に眼圧は右眼12mmHg,左眼11mmHgと正常化し,16週を経過した現在も同様に安定している(図4).ab図2視野検査(Humphrey30-2)a:左眼MD.24.82dB.b:右眼MD.24.38dB.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201513050910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3OCT検査両眼とも視神経乳頭の耳上側,耳下側の網膜神経線維層厚が減少している所見が認められた.本症がステロイド緑内障の可能性が高いとした理由をあげる.ステロイド外用薬の中止,緑内障点眼薬の使用により眼圧が正常化したこと,既往歴・家族歴に緑内障を含む背景要因がないこと,ステロイドレスポンダーには開放隅角緑内障,強度近視,糖尿病,高齢者あるいは小児などに多いといわれているが,本症も強度近視,比較的若年者であったということ,狭義の原発開放隅角緑内障では本症のような40mmHg近い眼圧になることは珍しいこと,また「昨年から突然まぶしさを感じることがあった」というエピソードは,高眼圧による比較的急速な視野の悪化と考えることができることなどである.これらの理由から,本症はステロイド外用薬による続発緑内障と考えられた.もちろん,本患者はもともと開放隅角緑内障の素因をもっていたか,あるいは軽度の緑内障をすでに発症していたことも否定はできない.しかしながら,仮にそうであったとしても,ステロイド外用薬の長期投与が病状を悪化させたのではないかとする推論は可能である.したがって,本症の初診以前の眼科的状態の詳細は不明であるものの,包括的にステロイド緑内障と診断して問題ないと考えた.●まとめステロイド外用薬を使用することにより発症する続発眼圧(mmHg)顔面のステロイド外用薬の中止403530252015ビマトプロストカルテオロール塩酸塩右眼左眼10500481216経過観察期間(週)図4経過観察期間の眼圧の推移初診日からステロイド外用薬を中止.当日からビマトプロスト点眼薬を使用.翌週からはカルテオロール塩酸塩の点眼薬を追加.2週目には眼圧は正常化した.の緑内障などに関しては,古くから因果関係が指摘され,注意喚起をうながす論文が散見される1,2).一方,ステロイド外用薬の使用は緑内障の発症とはあまり関係がないとする報告もみられる3,4).しかしながら,局所のステロイド外用薬は全身ステロイド薬より副作用が多いとされ,そのなかでも眼圧上昇は強めのステロイドであれば数週間,弱めのステロイドであれば数カ月で発症する5)ことがあるとされている.ステロイドの吸収比率は身体の部位によって異なるため,とりわけステロイド外用薬の眼瞼周囲への使用に際しては,緑内障発症の危険性を常に念頭に置く必要がある.文献1)MormanMR:Possiblesideeffectsoftopicalsteroids.AmFamPhysician23:171-174,19812)HenggeUR,RuzickaT,SchwartzRAetal:Adverseeffectsoftopicalglucocorticosteroids.JAmAcadDermatol54:1-15,20063)HaeckIM,RouwenTJ,Timmer-deMikLetal:Topicalcorticosteroidsinatopicdermatitisandtheriskofglaucomaandcataracts.JAmAcadDermatol64:275-281,20114)MarcusMW,MueskensRP,RamdasWDetal:Corticosteroidsandopen-angleglaucomaintheelderly:apopulation-basedcohortstudy.DrugsAging29:963-970,20125)KerseyJP,BroadwayDC:Corticosteroid-inducedglaucoma:areviewoftheliterature.Eye20:407-416,20061306あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(78)

屈折矯正手術:ICLのサイズ選択

2015年9月30日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載184大橋裕一坪田一男184.ICLのサイズ選択五十嵐章史北里大学医学部眼科学教室ICLは現在もっとも安全で有効な屈折矯正手術のひとつであるが,そのレンズサイズの決定に際しては種々の前眼部解析装置の特性を理解する必要がある.近年認可されたHoleICLは房水循環が改善されているため,従来レンズと比べ,適正なサイズに対する考え方が異なる可能性がある.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズの代表であるICL(ImplantableCollamerLens,STAAR社)は,安全性が高く有効で長期的に屈折も安定している1)ため,世界的に手術件数が増加している屈折矯正手術のひとつである.一方で,合併症として眼圧上昇やトーリックレンズの回転,白内障があげられ,その原因の多くはレンズサイズの不一致によるものとされている.今回はICLのサイズ選択において重要なWTW(whitetowhite)の計測に必要な各計測機器の特徴や,適切なレンズサイズについて解説する.●ICLV4以前の旧モデルにおけるレンズサイズと合併症ICLは現在までに数回のバージョンアップを行っており,より安全性の高いレンズへ改良されてきている.とりわけ2014年に国内で承認されたHoleICL(ICLKS-AquaPORT,STAAR社)は,レンズ中央に0.36mmの貫通孔を有すことで虹彩切除なく健常眼に近い眼内の房水循環が可能となり,飛躍的に合併症が減少した.それに伴い,従来のICL(V4以前のモデル)における適切なレンズサイズとやや概念が異なってきている.そこで,本稿では従来レンズとHoleICLの適切なレンズ選択を分けて解説する.ICLは通常,ICLと水晶体とのスペースをvaultと表現し,細隙灯顕微鏡にて角膜厚と比較してそのvaultを評価する.従来レンズでは0.5~1.5CT(cornealthickness)を適切なvaultとし,0.5CT未満をlowvault,1.5CT以上をhighvaultと表現していた.術後過度にhighvaultとなる例(レンズサイズが大きすぎる例)では,ICLが虹彩を前方へ押し出すため,眼圧上昇2)や調節障害を伴うリスクがあるとされ,逆にlowvault(レンズサイズが小さすぎる例)では,ICLと水晶体のスペースが狭いことから水晶体前面の房水循環不全が生(75)じ,白内障をきたすリスクが高くなるとされていた.Schmidingerらは,水晶体の前.下混濁が生じた例では,生じていない例に比べ有意にvaultが小さかったと報告している3).また,ICLには乱視矯正を行うトーリックICLも存在するが,このレンズは眼内での固定位置が決まっている.Kamiyaらは,トーリックICLは術後3年で8%にレンズ回転のため乱視矯正効果の減弱が生じたと報告している4).レンズの回転の原因として術直後の眼内粘弾性物質の影響や外傷があげられるが,レンズサイズが小さいと当然回転は起こりやすくなる.●各計測機器別のWTW計測値と再現性ICLサイズはSTAAR社より提供される専用のカリキュレーターによって決定され,影響するのは角膜横径のWTWと前房深度である.とくにWTWは重要で,種々の前眼部解析装置を用いた自動測定法やCaliperを用いたマニュアル測定法がある.基本的にはその施設で用いている測定機器を使用することでよいと考えるが,ICLのカリキュレーターは元々OrbscanのWTW値よりレンズサイズを決定するよう作製されているため,種々の機器の測定値の傾向を理解しておかなければならない.図1,2に健常ボランティア10名20眼に対して,検者2名にて各計測器を用いて計測したWYWの平均値,再現性を示す.計測器は前眼部解析装置としてOrbscan-2(Bausch&Lomb社),PentacamHR(Oculus社),TMS-4(Tomey社),IOLMaster700(CarlZeiss社)を,マニュアル計測器としてCaliper(カストロビエホ型カリパー2810,HANDAYA)を使用した.Orbscan-2のWTW値を元に他の機器を比較すると,TMS-4は約0.3mm,IOLmaster700は約0.6mmほど有意に長く計測される傾向にあることがわかった.また,図2より,自動計測となる前眼部解析装置では2人の検者間の再現性は高いのに対し,マニュアル測定となるCaliperでは再現性が低いことがわかった.Caliperあたらしい眼科Vol.32,No.9,201513030910-1810/15/\100/頁/JCOPY はICLに熟練した検者とそうでない検者で大きく測定差があることが反映された結果であるが,元々1mm刻みであり,角膜輪部のグレーゾーンの外側を確実に捉えることができるかが測定値に大きく影響する.しかし,熟練した検者ではOrbscanの測定値と近くなる傾向があり,角膜輪部の老人環などによりグレーゾーンが大きい症例や,自動計測で11.8mmといったレンズサイズ決定に迷う例では,最終的なサイズ確認を行ううえで有効なときがある.●HoleICLにおけるレンズサイズと合併症近年,HoleICLの登場により術後合併症は減少し,術後管理においてもこれまでの考えを変える必要があ(mm)13.0p<0.00112.812.6p=0.0112.312.412.012.211.712.011.711.611.811.611.411.211.0Orbscan-2PentacamHRTMS-4IOLMaster700Caliper図1各計測機器別の平均WTW平均WTW値はOrbscan-2を基準とすると,PentacamHR(p=0.99),Caliper(p=0.97)と有意な差は認められなかったが,TMS-4(p=0.01),IOLmaster700(p<0.001)は有意に長く計測された(Dunnett検定).10.8る.当院では2007~2014年に224眼のHoleICL手術を行ったが,平均最終観察期間341.7日(1~2,160日)の平均vaultは1.1±0.7CT(0.1~4.0CT)であり,そのうち0.5~1.5CTの例は55%(124眼),highvault(>1.5CT)の例は32%(71眼),lowvault(<0.5CT)の例は13%(29眼)であった.約45%のhighvault,lowvaultの例が存在するが,現在までに眼圧上昇や白内障進行によりICLを摘出・交換した例はない.当院では従来レンズのときは術後白内障のリスクを考え,全体的にややhighvaultをめざすことが多かったが,HoleICLにおいては,トーリックICL以外は適正もしくはlowvaultで問題ないと考えている.今後,多施設,長期経過をもとにHoleICLの適正vaultについて再度検討が必要であろう.文献1)IgarashiA,ShimizuK,KamiyaK:Eight-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol157:532539,20142)KhalifaYM,GoldsmithJ,MoshirfarM:Bilateralexplantationofvisianimplantablecollamerlensessecondarytobilateralacuteangleclosureresultingfromanon-pupillaryblockmechanism.JRefractSurg26:991-994,20103)SchmidingerG,LacknerB,PiehSetal:Long-termchangesinposteriorchamberphakicintraocularcollamerlensvaultinginmyopicpatients.Ophthalmology117:1506-1511,20104)KamiyaK,ShimizuK,KobashiHetal:Three-yearfollow-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopicastigmatism.PLoSOne8:e56453,2013Orbscan-2Themeandifferencesbetween0.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8Measurement1-2Measurement1-2Measurement1-22measurementsTheupperandlowerbordersofthe95%limitofagreement-110.51111.51212.513図2各計測機器別のWTW測定再現性AverageofMeasurement1and2PentacamHRWTW値を各計測機器にてそれぞれ2人の検0.810.81TMS-4Measurement1-2Measurement1-2者で測定し,Bland-Altman法を用いて再現0.40.60.2性を評価した.実線は2回計測の差の平均0-0.2-0.4値,点線は95%信頼区間の上限値・下限値-0.6-0.8を示す.点線の幅が狭いほど再現性は良好で-110.51111.51212.51310.51111.51212.513AverageofMeasurement1and2AverageofMesurement1and2あり,マニュアル計測であるCaliperを除く各前眼部解析装置はおおむね再現性が良好で0.810.81あった.-0.6-0.4-0.200.20.40.6IOLMaster700Caliper0.610.51111.51212.5130.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8-0.8-1-110.51111.51212.513AverageofMeasurement1and2AverageofMeasurement1and21304あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(76)

眼内レンズ:落下水晶体処理時の後房ソフトシェル法

2015年9月30日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋346.落下水晶体処理時の後房山下敏史鹿児島大学大学院医歯学総合研究科ソフトシェル法感覚病態学眼科学落下水晶体の処理には,パーフルオロカーボンを用いて核を挙上し,超音波水晶体乳化吸引する方法があるが,核片が周辺や虹彩裏面に移動することで処理が困難になる場合がある.そこで,本手技時に粘弾性物質を用いて核を後房中央に安定させる「後房ソフトシェル法」を開発した.核処理が通常の白内障手術と同様の手技で容易に行えるようになるだけでなく,眼内組織の保護効果も期待できる.●落下水晶体の処理白内障手術時の核落下や水晶体脱臼における水晶体切除は,従来フラグマトームや20ゲージ(G)硝子体カッターで行われていたが,それに伴う術中・術後合併症は多数知られている.また,最近の硝子体手術は25Gを主とした小切開手術が主流となっているが,口径の細い硝子体カッターによる落下水晶体処理は限界があり,非効率的である.そこで,液体パーフルオロカーボン(perfluorocarbonliquid:PFCL)を併用し,網膜を保護するとともに,落下水晶体を白内障手術創から超音波水晶体乳化吸引(phacoemulsificationandaspiration:PEA)で処理する方法が報告された1,2).しかし,術中に核片が虹彩裏面の周辺部に移動してしまい核処理が困難になることがある.そこで筆者らは,本手技時に粘弾性物質を用いて核を後房中央に安定させてPEAを行う方法を考案し,「後房ソフトシェル法」と名付けたので紹介する.●手術方法通常の方法(25G3-portsparsplanavitrectomy)で手術を開始,白内障手術創は角膜切開でも問題ないが,筆者は強角膜切開で行っている.まずは広角観察システムを用いて硝子体切除を行うが,後部硝子体.離がない場合は作製し,周辺部まで可及的に硝子体を切除する.その後,PFCLを硝子体腔内に注入し落下核を虹彩面まで挙上させる.つぎに,顕微鏡下で粘弾性物質を前房内だけでなく後房内の核周辺にも十分に注入し,さらにPFCLを追加注入してからPEAを行う.角膜内皮,網膜や毛様体など周囲組織が保護されるとともに,核周辺にはきわめて安定したタイトな閉鎖空間が形成されるた(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYめ,安全で効率的な水晶体処理が可能となる(図1~3).核処理後は再度眼内を観察しながら,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入する.前.が温存されている場合はIOLの.外挿入・毛様溝固定を行う.筆者はハプティクスに柔軟性があり大口径のエタニティーナチュラルRNX-70(参天製薬)を第一選択としている(図4).PFCLの吸引はIOL挿入の前でも後でもかまわ粘弾性物質粘弾性物質粘弾性物質挙上させた落下水晶体パーフルオロカーボン図1後房ソフトシェル法(模式図)パーフルオロカーボンで落下水晶体を挙上させた後,粘弾性物質を前房内と核周囲(前部硝子体腔)に注入する.図2パーフルオロカーボンを用いた落下核挙上可及的な硝子体切除ののち,パーフルオロカーボンを注入し落下水晶体を挙上する.あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151301 図3後房ソフトシェル法による核処理粘弾性物質を前房内と核周囲(前部硝子体腔)に注入後,強角膜創から超音波水晶体乳化吸引する.核は安定し,タイトな閉鎖空間が形成されるため,通常と同じような核処理が可能となる.ないが,すべて除去することが必要である.IOL縫着や強膜内固定の場合には,後から吸引除去すれば手術操作中のIOL落下も予防できる.●効果と安全性この方法は落下水晶体の処理を通常のPEAとまったく同様の手技で行うことができ,核処理に要する時間も通常の白内障手術と同等である.まだ数例だが,当科自験例において術中・術後に合併症を認めた症例はない.眼内の組織への物理的な保護作用だけではなく,組織障害性のある物質からの生物学的な保護作用も期待できる3).●考察,今後の課題後房ソフトシェル法は効率的で安全な手術方法である.使用する粘弾性物質は核処理中に流出しにくいものが最適と考えられ,筆者はビスコートRを用いており,図4白内障手術併施硝子体手術中に後.破損を認めた症例前.は温存されていたため,エタニティーナチュラルRNX-70を.外挿入した.本レンズはハプティクスが柔らかく大口径という特徴のため,挿入時に扱いやすく,固定も良好である.適時追加することもある.また,本症例におけるPFCLは適用外使用となるため注意が必要である.この点が最大の問題かつ今後の課題であると考えられるが,将来的な適用拡大を目標とし,当科では臨床研究を行っている(UMIN000016749).文献1)JangD,LeeJ,ParkM:Phacoemulsificationwithperfluorocarbonliquidusinga23-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomyforthemanagementofdislocatedcrystallinelenses.GraefesArchClinExpOphthalmol251:1267-1272,20132)MillarR,SteelH:Small-gaugetransconjunctivalvitrectomywithphacoemulsificationinthepupillaryplaneofdenseretainedlensmatteronperfluorocarbonliquidsaftercomplicatedcataractsurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol251:1757-1762,20133)KawanoH,ItoT,YamadaSetal:Toxiceffectsofextra-cellularhistonesandtheirneutralizationbyvitreousinretinaldetachment.LabInvest94:569-548,2014

コンタクトレンズ:乱視SCLレンズ

2015年9月30日 水曜日

あたらしい眼科Vol.32,No.9,201512990910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめに今までは1D程度の乱視でも,球面ソフトコンタクトレンズ(SCL)だけで矯正視力が1.0あれば,そのまま球面SCLを処方することが広く行われていた.しかし,それでは実用視力の低下や眼精疲労につながるので,積極的に乱視用SCLを処方していくことをお勧めしたい.●乱視用SCLの基本乱視用SCLは経線方向によりパワーの異なるSCLである.基本的には内面にトーリック面(楕円球面)を使用するので,トーリックSCLともよばれる(以下,トーリックSCL).角膜上で30°回転すると,乱視矯正効果がなくなることを覚えておいてほしい.回転の制御方法により,2つのタイプに分けられる.プリズムバラストタイプ(図1)はSCLの下方にプリズム様に厚い部分があり,そこが重さにより下方に位置することにより回転制御される.ダブルスラブオフタイプ(図2)は,SCLの中央が帯状に厚くなっており,その部分が瞼縁と当たることで,正しい位置に回転していくようになっている.それぞれに長所と短所がある(表1).●レンズや症例の選び方SCLによる乱視矯正には,矯正が容易な症例とむずかしい症例がある.まず容易な症例からチャレンジし,慣れてからむずかしい症例にトライすることを勧める.<容易な症例>・直乱視で1D~2.5D,全乱視=角膜乱視<少しむずかしい症例>・倒乱視で1D~2.5D・直乱視で2.5D以内,全乱視≠角膜乱視・斜乱視<むずかしく,専門家に紹介すべきもの>・不正乱視・3D以上の乱視使用するレンズは,なるべく両方のタイプから各1種類,1日使い捨てタイプと2週間交換タイプの計4種類あればベストと思われる.1日使い捨てタイプだけでは(71)コスト的に厳しい患者さんが多く,2週間交換タイプだけではアレルギーなどの条件が悪くなる場合に装用できないことが多いからである.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一16.乱視SCLレンズ岩崎直樹イワサキ眼科医院提供図1プリズムバラストタイプ下方が厚く重力で安定する.図2ダブルスラブオフタイプ上下を眼瞼に挟まれて安定する.表12タイプの特徴プリズムバラストダブルスラブオフ乱視軸の安定◎○装用感○下方に異物感◎回ると異物感矯正視力◎ハードには負ける○厚み○メーカーにより差◎メーカーにより差あたらしい眼科Vol.32,No.9,201512990910-1810/15/\100/頁/JCOPYはじめに今までは1D程度の乱視でも,球面ソフトコンタクトレンズ(SCL)だけで矯正視力が1.0あれば,そのまま球面SCLを処方することが広く行われていた.しかし,それでは実用視力の低下や眼精疲労につながるので,積極的に乱視用SCLを処方していくことをお勧めしたい.●乱視用SCLの基本乱視用SCLは経線方向によりパワーの異なるSCLである.基本的には内面にトーリック面(楕円球面)を使用するので,トーリックSCLともよばれる(以下,トーリックSCL).角膜上で30°回転すると,乱視矯正効果がなくなることを覚えておいてほしい.回転の制御方法により,2つのタイプに分けられる.プリズムバラストタイプ(図1)はSCLの下方にプリズム様に厚い部分があり,そこが重さにより下方に位置することにより回転制御される.ダブルスラブオフタイプ(図2)は,SCLの中央が帯状に厚くなっており,その部分が瞼縁と当たることで,正しい位置に回転していくようになっている.それぞれに長所と短所がある(表1).●レンズや症例の選び方SCLによる乱視矯正には,矯正が容易な症例とむずかしい症例がある.まず容易な症例からチャレンジし,慣れてからむずかしい症例にトライすることを勧める.<容易な症例>・直乱視で1D~2.5D,全乱視=角膜乱視<少しむずかしい症例>・倒乱視で1D~2.5D・直乱視で2.5D以内,全乱視≠角膜乱視・斜乱視<むずかしく,専門家に紹介すべきもの>・不正乱視・3D以上の乱視使用するレンズは,なるべく両方のタイプから各1種類,1日使い捨てタイプと2週間交換タイプの計4種類あればベストと思われる.1日使い捨てタイプだけでは(71)コスト的に厳しい患者さんが多く,2週間交換タイプだけではアレルギーなどの条件が悪くなる場合に装用できないことが多いからである.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一16.乱視SCLレンズ岩崎直樹イワサキ眼科医院提供図1プリズムバラストタイプ下方が厚く重力で安定する.図2ダブルスラブオフタイプ上下を眼瞼に挟まれて安定する.表12タイプの特徴プリズムバラストダブルスラブオフ乱視軸の安定◎○装用感○下方に異物感◎回ると異物感矯正視力◎ハードには負ける○厚み○メーカーにより差◎メーカーにより差 1300あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(00)●初心者の陥りやすいワナについてトーリックSCLの処方において,初心者の陥りやすいワナがある.以下のような場合は深追いは禁物である.①軸ずれがあり,その上から追加矯正をしてもらい,なんとか合わせようとする:合成乱視を計算するのは非常に繁雑なので,20°と160°でトライしても無理なら諦めよう.②ダブルスラブオフタイプで軸ずれが強い時:プリズムバラストのレンズでトライしてみる.それでもSCLの軸ずれを起こす場合や軸が不安定な場合は,ソフト系は無理でHCLの処方になる.しかし,倒乱視,斜乱視はハード系でもむずかしいことがある.●トーリックSCL装用者で視力が出ないときのトラブルシューティングこのようにしてトーリックSCLを処方しても,視力が思うように出ない場合がある.眼疾患や眼障害がある場合を除けば,一番多い問題は屈折によるものである.1.S面の低矯正・過矯正S面の値の変動はSCLでの視力低下の一番の原因である.若年者(25歳以下)では近視化が多く,老視年代(40歳以上)では遠視化が多くなる.いずれの場合でも常にRed/Greenでチェックが必要である.Greenは明らかな過矯正なので避けることが望ましい.過矯正は眼精疲労の原因になるからである.1~2週間低矯正にしていると,それまで毛様体筋にかかっていた緊張が取れ,本来の度数に戻るので,見えるようになるまで時間がかかることを説明しておく.2.C面の問題まず,矯正すべき乱視を矯正していないことが多い.トーリックSCLを処方してあげると視力の質が変わることを経験する.○症例:41歳,女性長年,球面SCLを使用している.1日の装用時間は6~7時間で,とくに問題を感じていなかった.車の運転をすることがあるとのことであった.定期検診にて平成23年6月16日再診時RV=0.1p(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx120)LV=0.08(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx30)アキュビューRアドバンスRV=1.0×870/.2.50/14.0LV=1.0p×870/.2.75/14.0車の運転をするので,一度乱視レンズだとどれ位の視力になるかを見るように医師からの指示があった.アキュビューRオアシス乱視用テストRV=1.2×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G)LV=1.2×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)トライアルレンズを1組さしあげて,調子をみていただくことにした.2カ月後の再診時(平成23年8月23日),夜の運転はかなり楽になったとのことで,値段の差はあるが,アキュビューRオアシス乱視用にしたいとのことだった.RV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R<G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R<G)0.25Dずつ両眼とも最終処方は落としてRV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)最終診察時(平成24年11月6日)RV=1.5×処方SCL(R≧G)LV=1.5×処方SCL(R≧G)夕方ダブって見えていたのが楽になって,装用時間は8時間くらいまで延びたとのこと.夜の信号機も何個も先まで見えて,疲れ方が全然違うので,高くても今のほうが良い!という意見をいただいた.乱視レンズとバイフォーカルレンズは,それを処方して成功したクリニックから患者さんが逃げにくいといわれているので,皆さん,積極的にトーリックSCLの処方にチャレンジを!◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS946あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(00)●初心者の陥りやすいワナについてトーリックSCLの処方において,初心者の陥りやすいワナがある.以下のような場合は深追いは禁物である.①軸ずれがあり,その上から追加矯正をしてもらい,なんとか合わせようとする:合成乱視を計算するのは非常に繁雑なので,20°と160°でトライしても無理なら諦めよう.②ダブルスラブオフタイプで軸ずれが強い時:プリズムバラストのレンズでトライしてみる.それでもSCLの軸ずれを起こす場合や軸が不安定な場合は,ソフト系は無理でHCLの処方になる.しかし,倒乱視,斜乱視はハード系でもむずかしいことがある.●トーリックSCL装用者で視力が出ないときのトラブルシューティングこのようにしてトーリックSCLを処方しても,視力が思うように出ない場合がある.眼疾患や眼障害がある場合を除けば,一番多い問題は屈折によるものである.1.S面の低矯正・過矯正S面の値の変動はSCLでの視力低下の一番の原因である.若年者(25歳以下)では近視化が多く,老視年代(40歳以上)では遠視化が多くなる.いずれの場合でも常にRed/Greenでチェックが必要である.Greenは明らかな過矯正なので避けることが望ましい.過矯正は眼精疲労の原因になるからである.1~2週間低矯正にしていると,それまで毛様体筋にかかっていた緊張が取れ,本来の度数に戻るので,見えるようになるまで時間がかかることを説明しておく.2.C面の問題まず,矯正すべき乱視を矯正していないことが多い.トーリックSCLを処方してあげると視力の質が変わることを経験する.○症例:41歳,女性長年,球面SCLを使用している.1日の装用時間は6~7時間で,とくに問題を感じていなかった.車の運転をすることがあるとのことであった.定期検診にて平成23年6月16日再診時RV=0.1p(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx120)LV=0.08(1.2×sph.3.25D=C.0.75DAx30)アキュビューRアドバンスRV=1.0×870/.2.50/14.0LV=1.0p×870/.2.75/14.0車の運転をするので,一度乱視レンズだとどれ位の視力になるかを見るように医師からの指示があった.アキュビューRオアシス乱視用テストRV=1.2×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G)LV=1.2×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)トライアルレンズを1組さしあげて,調子をみていただくことにした.2カ月後の再診時(平成23年8月23日),夜の運転はかなり楽になったとのことで,値段の差はあるが,アキュビューRオアシス乱視用にしたいとのことだった.RV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R<G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R<G)0.25Dずつ両眼とも最終処方は落としてRV=1.5×860/sph.2.50/cyl.0.75Ax120(R>G),LV=1.5×860/sph.2.75/cyl.0.75Ax20(R>G)最終診察時(平成24年11月6日)RV=1.5×処方SCL(R≧G)LV=1.5×処方SCL(R≧G)夕方ダブって見えていたのが楽になって,装用時間は8時間くらいまで延びたとのこと.夜の信号機も何個も先まで見えて,疲れ方が全然違うので,高くても今のほうが良い!という意見をいただいた.乱視レンズとバイフォーカルレンズは,それを処方して成功したクリニックから患者さんが逃げにくいといわれているので,皆さん,積極的にトーリックSCLの処方にチャレンジを!◎コンタクトレンズは高度管理医療機器です。眼科医による検査・処方をお願いします。特に異常を感じなくても定期検査は必ず受けるようにご指導ください。◎患者さんがコンタクトレンズを使用する前に、必ず添付文書をよく読み、取扱い方法を守り、正しく使用するようにご指導ください。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニー〒101-0065東京都千代田区西神田3丁目5番2号販売名:ワンデーアキュビューモイスト/ワンデーアキュビューディファインモイスト承認番号:21600BZY00408000/22300BZX00126000[効能・効果:視力補正、虹彩又は瞳孔の外観(色、模様、形)を変えること]R登録商標cJ&JKK2015*:装用感には個人差があります。シリーズ1日中続く快適な装用感*をめざして。今年、ワンデーアキュビューRモイストRは発売10周年を迎えました。〈遠近両用〉〈近視・遠視用〉〈サークルレンズ〉〈乱視用〉ZS946

写真:後部円錐角膜

2015年9月30日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦376.後部円錐角膜細谷比左志JCHO神戸中央病院眼科①②図2図1のシェーマ①瞳孔②楕円形の角膜混濁.中央部はやや透明で瞳孔領が透見できる.図1後部円錐角膜の症例(43歳,女性)左眼角膜中央部に楕円形の淡い混濁を認め,混濁の中央部は比較的透明で,瞳孔領が透見できる.図3後部円錐角膜のスリット写真中央からやや離れた位置の角膜が菲薄化している(→)ことが確認され,菲薄部の周辺の内皮側に混濁がみられる.図4後部円錐角膜症例の前眼部OCT(カシアR)写真左眼角膜のやや偏心した位置に菲薄部があり,その周辺部の内皮側にやや混濁がみられるのが,この断面図でもよくわかる.カーソルを当てることで角膜の厚みも測定できる.(69)あたらしい眼科Vol.32,No.9,201512970910-1810/15/\100/頁/JCOPY 後部円錐角膜は,出生時からみられる非進行性,非炎症性の先天異常の一つである.片眼性であることが多い.Waringらの提唱する1)ように,中胚葉性の前眼部発育不全の中の病型の一つと考えられ2,3),Peters奇形の非常に軽度の病型と考えられる.角膜中央部のやや偏心した部位に,円形または楕円形の淡い混濁がみられ(図1,2),その部位を細隙灯顕微鏡で詳しく観察すると,角膜全面のカーブは正常であるが,角膜後面のカーブが前方へ突出したようにみえる.すなわち,混濁の中央部の角膜後面が窪んでおり,菲薄化している(図3).症例は43歳の女性で,幼少時から視力不良で弱視であると考えられる.初診時の眼圧が32mmHgあり緑内障も合併している.また,眼球振盪を伴っており,診察がやや困難であった.病名に円錐角膜という名前が含まれているが,思春期に発症してくる通常の円錐角膜とは,まったく違う病態と考えられている.角膜後面の混濁部の端の部分に色素沈着を伴うことも多いが,Peters奇形にみられるような虹彩索を伴うことはない.大概のケースでは片眼性であるが,非常にまれに両眼性のものもみられる.最近では前眼部OCT(カシアRなど)により,さらに詳細な診察が可能となった4).この症例の前眼部OCTが図4である.前述したように,角膜前面カーブは,ほぼきれいな形をしており,前面への突出はみられないが,角膜後面のカーブが前方へ突出したような形状であり,その結果,混濁の中央部の角膜の菲薄化がみられる.ただし,菲薄部の角膜厚は521μmであり,その周辺部の角膜厚は813μmと,全体に角膜厚が厚いことが判明した.この点でも通常の円錐角膜と異なることがわかかる.他の眼異常を伴うこともしばしばあり,無虹彩症,ぶどう膜外反,虹彩萎縮,緑内障,前部円錐水晶体,水晶体偏位,水晶体前部混濁などが報告されている.本症例も緑内障を合併している.眼以外の合併症も報告されており,そのなかには,両眼隔離症,鼻梁部平坦化,口蓋裂,精神遅滞,低身長,泌尿器異常,歩行異常などが含まれる.後部円錐角膜は通常,治療は不要である.とくに病変部が視軸をはずれていれば,視力への影響は少ない.ここに紹介した例では,混濁部が視軸にかかっており,弱視になってしまっているが,診察時にすでに成人となっており,緑内障と眼球振盪も伴っており,角膜移植などの治療は,通常適応とならない.文献1)WaringGO,RodriguesMM,LaibsonPR:Anteriorchambercleavagesyndrome:Astepladderclassification.SurvOphthalmol20:3-27,19752)細谷比左志:乳児・新生児の角膜混濁.角膜クリニック,(眞鍋禮三,木下茂,大橋裕一監修),第2版.p92-99,医学書院,20033)HammersmithKM,RezendeRA,CohenEJetal:Congenitalcornealopacities:Diagnosisandmanagement.In:KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJ:Cornea:Fundamentals,DiagnosisandManagement,3rded.Vol.1,p239265,Mosby,20114)細谷比左志:先天性角膜混濁の鑑別.オキュラーサーフェス疾患.目で見る鑑別診断(西田幸二,天野史郎編集),p195-211,医学書院,20131298

総説:涙道内視鏡検査実践ガイド

2015年9月30日 水曜日

あたらしい眼科32(9):1293~1296,2015c総説涙道内視鏡検査実践ガイドMicroendoscopySafetyGuideforLacrimalPassageExamination鈴木亨*1白石敦*2横井則彦*3堀裕一*4杉本学*5嘉鳥信忠*6井上康*7大橋裕一*8はじめに涙道は眼表面の涙液を持続的に下鼻道へ排出する管組織で,上下眼瞼鼻側にある涙点とそれに続く上下涙小管,総涙小管,涙.,鼻涙管から構成されている.涙点から下鼻道に到達するまでの約40mmの経路には複数の屈曲が存在し,内腔面は扁平上皮あるいは円柱上皮で覆われた微細な組織である.涙道に炎症や閉塞(以下,狭窄も含む)が生じたときには,流涙や眼脂,疼痛などの自覚症状のほか,眼瞼に発赤や腫脹などの他覚症状が発生する.これまで,その病変の局在同定や原因特定のための検査方法として,通水試験や涙.ブジー法,涙道造影,さらにコンピュータ断層撮影(computedtomography:CT),磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)検査が行われてきたが,直接原因部位の観察を行うことは不可能であった.近年,涙道内視鏡によって涙道内を直接的に観察することが可能になり,涙道疾患の診断精度が向上した1~12).涙道内視鏡検査の導入により涙道診療は大きな変革期を迎えており,涙道診療に対するガイドラインの速やかな策定が必要とされている.今回,その第一歩として,涙道内視鏡を用いた涙道内視鏡検査を安全に施行するための実践ガイドを作成した.I検査目的涙道疾患において,病変の直接的な観察が必要と判断された場合に行う.II涙道検査の手順涙道検査の手順を図1に示した.涙道の検査を始めるにあたっては,まず分泌性流涙を除外できていることが前提となる(導涙性流涙).視診によって眼瞼の腫脹や涙.の膨隆がみられる症例をはずして涙管通水検査を行い,その結果が良好でないと判断された症例について涙道内視鏡検査を行う.III適応と禁忌検査適応は,18歳以上で全身状態が不良でない患者に対して,流涙や眼脂の原因が涙道内に存在するかどうか調べたい場合や,涙道閉塞の局在および原因を確かめる必要がある場合,あるいは直接観察による治療評価が必要な場合である.急性涙.炎や外傷などの急性涙道疾患は検査適応外とする.また,眼瞼に腫脹の認められる場合は,検査による病変増悪リスクがあるので比較的禁忌とし,治療法選択のための参考所見が必要な場合にのみ慎重に行う.18歳未満の場合は,涙道内視鏡の取り扱いに十分な知識と経験を有する眼科医が,既存の涙道検査法との比較を含め,本検査のリスクベネフィットを総合的に考慮したうえで,慎重に適応を判断する.*1ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック,*2AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野,*3NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学,*4YuichiHori:東邦大学医療センター大森病院,*5ManabuSugimoto:すぎもと眼科医院,*6NobutadaKatori:聖隷浜松病院眼科,*7YasushiInoue:井上眼科,*8YuichiOhashi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東ニ島4-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(65)1293 導涙性流涙視診と触診導涙性流涙視診と触診Yes眼瞼腫脹No涙.膨隆DCG,CT,MRI,鼻内視鏡検査機能性流涙の検査眼瞼および眼表面の異常の有無を確認するYes通水良好No涙管通水検査涙道内視鏡検査図1涙道検査の進め方DCG:Dacryocystography涙.造影検査(涙道造影検査と同義語)視診,涙管通水検査,涙道内視鏡検査の順番を守ることが大切.IV注意点乳幼児に対しては,全身麻酔を標準とする.高齢者では流涙症の原因はさまざまであり,また涙道閉塞があっても流涙を生じない場合もあるので,他の流涙要因の十分な検討のもとに涙道内視鏡検査の適否を考慮する.また,涙道内視鏡の観察視野角度は正面70°に限定されているため,涙道壁から垂直に立ち上がる憩室や瘻孔の観察には適さない.涙道閉塞には涙道外部からの圧迫が原因となっていることがあり,その場合は涙道内視鏡検査が誤った治療判断を引き起こす場合がある.したがって,適宜,涙道造影検査やCT,MRIなどの精密画像診断を併用して治療計画を立てることが必要である.V検査方法1.麻酔検査前には,眼表面点眼麻酔に加え,必要に応じて点眼麻酔薬による涙道内麻酔や滑車下神経ブロックなどの局所麻酔を追加する.注射を行う場合は麻酔による合併症に十分配慮する.とくに眼窩内に注射液が浸潤するような麻酔法では,眼動脈を虚血に導く可能性のあるエピネフリンが添加されていない麻酔液が望ましい.2.内視鏡の挿入患者を処置ベッド上で仰臥位で安静にさせ,必要に応じて涙点を拡張針で拡張し,眼瞼を耳側に牽引しながら涙点から内視鏡を挿入する.1294あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(66) 3.涙道内での内視鏡操作の基本生理食塩水による灌流を行いながら,適宜照明光の強さを調整しながら観察する.屈曲部位では内視鏡先端が涙道壁に押し付けられないようにハンドピースを操作することにより,粘膜損傷を回避する.回避できない場合は,仮道形成の危険性があるため,それより遠位に進まない.とくに鼻涙管では,約30%の症例でその傾斜角度が内視鏡プローブ湾曲と逆方向の後方寄りとなっているため,十分に注意する13).また,閉塞のある涙道では,灌流圧が高すぎると疼痛を生じるので灌流量は適宜加減するが,灌流を止めると内視鏡チャンネル内に血液や分泌物などが逆流して内視鏡汚染の原因になるので,少量でも持続的に灌流を続ける.涙道から内視鏡を引き出した直後には,加圧通水を行うことで内視鏡通水チャンネル内への逆流物の残留や固着を防止する.VI検査の結果検査結果は診療録に記録する.検査中の涙道内の様子は動画で記録することが望ましい.VII涙道内視鏡検査と他の検査法との比較代表的な涙道検査の利点と欠点を表にまとめた(表1).色素残留試験は導涙障害の有無を判断できるもっとも低侵襲な方法であるが,その通過障害が涙道閉塞によるものか機能性流涙14)によるものか区別ができない.涙管通水検査は簡便な方法で,涙洗針による触診,通水抵抗と逆流の様子を総合的に判断することで通過障害の有無や局在のより具体的な診断が可能であるが,診断確定には涙道造影検査か涙道内視鏡検査が必要な場合がある.涙道造影検査では病変の局在がわかりやすい反面,その病変を直接観察できないので原因の特定には適さない.また,検査による被曝の問題や,造影検査薬の目的外使用も避けられない.涙道内視鏡検査では病変を直接観察できて原因の特定が可能な反面,正確な局在同定には熟練を要する.また,被曝の問題を避けることができ,使用目的に準ずる範囲での検査が可能である.VIII合併症ガイドラインに定める使用法を超えて屈曲部を回避せずに内視鏡を進めた場合や,閉塞の穿破を行った場合には,疾患の増悪や仮道形成の危険性がある.滑車下神経(67)表1涙道検査法の比較利点欠点色素残留試験涙管通水検査通過障害の有無をもっとも低侵襲に判断できる通過障害をより具体的に判断できる涙道閉塞と機能性流涙の区別ができない閉塞部位の確定はできない場合がある涙道造影検査閉塞部位の確定診断ができる閉塞原因の特定はできないX線被曝,時間を要する涙道内視鏡検査閉塞部位の確定と原因の特定ができる機器がやや高価で手技に熟練を要するブロック麻酔を行った場合には球後出血の危険性がある.IXインフォームド・コンセント涙道内視鏡検査は,患者に苦痛を与える可能性だけでなく,偶発的な危険が伴う可能性もある.そのため,検査の必要性や危険性などを説明して患者の同意書を得る必要がある.患者への説明と同意書には以下の内容を含む.1)他の検査方法による診断2)涙道内視鏡検査の目的,方法,必要性,期待できる効果など3)予想される危険性の内容と対処方法について4)代替検査方法について5)患者が内視鏡検査を受け入れない場合に予想される事態についてX感染対策涙道内視鏡検査は,涙道感染症のみならずさまざまな全身状態の患者に行うことが想定されるため,内視鏡を介した感染を予防する必要がある.涙道内視鏡は消化器や気管支の内視鏡と同様に,粘膜または健常ではない皮膚に接触する器材であり,Spauldingの分類では「やや危険な器材」にあたる15).したがって,検査ごとの洗浄・高水準消毒が求められる.また内視鏡従事者は傷のある皮膚,粘膜への感染防御を恒常的に行う標準予防策を実施しなければならない.XI内視鏡の衛生管理と保管1.洗浄まず,検査直後に内視鏡外表面を流水で洗う.そのあたらしい眼科Vol.32,No.9,20151295 際,洗浄剤を含ませたガーゼなどで表面を拭うとともに,チャンネルへの通水と通気を十分に行うことで,粘性のある涙道内分泌物や血液の固着を防ぐ.とくにチャンネル内の汚染物の固着は内視鏡の故障の原因になるばかりでなく,滅菌や消毒の効果を損なうので,使用中の加圧通水と使用後の洗浄は重要である.2.消毒と滅菌Spauldingの分類に従って高水準消毒が行わなければならない.涙道内視鏡の消毒に用いられる高水準消毒薬としては,グルタラールかフタラールが適当である.これら薬剤では,10分間の薬液浸漬により結核菌,ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiencyvirus:HIV),B型肝炎ウイルス(hepatitisBvirus:HBV),C型肝炎ウイルス(hepatitisCvirus:HCV)の不活化が可能である.また,適宜,EOG滅菌でハンドピース以外の部分についても清潔を保つ必要がある.3.保管消毒後の内視鏡はチャンネルにアルコール,空気の順に注入して内部を乾燥させて保管する.使用するアルコールは無水エタノールが望ましい.涙道内視鏡の製造元では,各社,添付文書内に洗浄や消毒,滅菌,保管方法などについて表示しているので確認する.まとめ涙道内視鏡を用いた涙道診療は未だ発展途上にあり,今後さらなるエビデンスの蓄積が必要とされている.本実践ガイドが,その核となる安全な涙道内視鏡検査の普及に貢献することを期待している.文献1)EmmerichKH,Meyer-RusenbergHW,SimkoP:EndoskopiederTranenwege.DerOphthalmologe94:732-735,19972)MullerK,BodnerE,MannorGE:Endoscopyofthelacrimalsystem.BrJOphthalmol83:949-952,19993)佐々木次壽:涙道内視鏡による涙小管炎の診断と治療.眼科42:1043-1047,20004)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科45:20152023,20035)SasakiT,NagataY,SugiyamaK:Nasolacrimalductobstructionclassifiedbydacryoendoscopyandtreatedwithinferiormeataldacryorhinotomy.Part1:Positionaldiagnosisofprimarynasolacrimalductobstructionwithdacryoendoscope.AmJOphthalmol140:1065-1069,20056)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,20117)SasakiT,MiyashitaH,MiyanagaTetal:Dacryoendoscopicobservationandincidenceofcanalicularobstruction/stenosisassociatedwithS-1,anoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,20128)鈴木亨:涙道内視鏡を利用した停留チューブの治療経験.眼科47:1241-1248,20059)白石敦:リサミングリーン染色を用いた涙道粘膜上皮再生の評価.眼科手術26:129-132,201310)AmatoJ,HartsteinME:chapter6.Evaluationofthetearingpatient.In:TheLacrimalSystem(CohenAJ,etaleds),66-73,Springer,Germany,200611)鈴木亨:流涙症の原因と包括的アプローチ.眼科手術22:143-147,200912)後藤英樹,後藤聡,森寺威之:3涙道─涙道の解剖・涙道検査─.眼科診療クオリファイ(野田実香編),p136-146,中山書店,201213)NariokaJ,MatsudaS,OhashiY:Inclinationofthesuperomedialorbitalriminrelationtothatofthenasolacrimaldrainagesystem.Ophthalmicsurgery,laser&imaging39:167-70,200814)ChanW,MalhotraR,KakizakiHetal:Perspective:whatdoesthetermfunctionalmeaninthecontextofepiphora?ClinExpOphthalmol40:749-754,201215)SpauldingEH:Chemicaldisinfectionofmedicalandsurgicalmaterials.In:Disinfection,sterilizationandpreservation(LawrenceCA,BlockSS,eds).p517-531,Lea&Philadelphia,517-531,1968☆☆☆1296あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(68)

後房型Phakic IOLの有用性

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1283~1289,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1283~1289,2015後房型PhakicIOLの有用性EfficacyofPosteriorChamberPhakicIOL中村友昭*IPhakicIOLとは?水晶体を残したまま眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入し,近視,乱視などの屈折矯正を行う手術をPhakicIOL(有水晶体眼内レンズ)挿入術という.そのなかで後房型のレンズであるICL(implantablecollamerlens,スターサージカル社)は,1997年に現行のタイプが発売され,2005年に米国FDAから認可された.わが国でも2010年のICLの認可に引き続き,2011年には乱視矯正可能なトーリックICLも認可され,それを導入する施設が増えてきた.ICLはコラーゲンと水酸化エチルメタクリル酸塩(HEMA)の共重合体であるコラマーとよばれる生体適合性に優れた素材でできており,虹彩など眼内組織への刺激がほとんどないのが特長である(図1).毛様溝に固定され,サイズは0.5mm刻みで4種類ある.光学径はレンズの球面度数によって異なり4.65~5.50mmである.近視は.19Dまで,乱視は5Dまでと,幅広く矯正できる.2014年には,北里大学の清水公也教授により開発された,レンズの中心に0.36mmの小さな穴を開けたKS-AquaPORT,通称HoleICLがわが国でも承認され,術前のレーザー虹彩切開が不要となり,その安全性から主流となりつつある(図2).ICLは登場以来25年が経過し,その有効性とともに安全性も数多く報告され,確認されている.そして,一定のレベルの内眼手術,とくにIOL挿入術を行っている術者であれば,経験豊富な指導者の下で慎重に手術を始め,若干の注意点を守るかぎり,安全に行われる手術である.さらに,問題があれば元の状態に戻せる,つまり可逆性があることも特長である.ただし,健康な眼に対する手術であることを十分留意したうえで,以下に示す屈折矯正手術のガイドライン(表1)に基づいて慎重に手術を行う必要がある.ガイドラインのほか,筆者の施設では①18歳以上45歳以下で屈折が安定していること.②前房深度(角膜裏面から水晶体前面までの距離)が2.8mm以上あること.③散瞳剤にて8mm以上散瞳すること.④白内障,その他の眼疾患がないこと.⑤角膜内皮細胞密度が2,000/mm2以上あること.を適応基準としてあげている.その適応範囲から,レーシックと対比し,適切な術式の選択を行っている(図3).さて,ICLは適切なレンズの度数とサイズを選択する必要がある.これは,施設認定後にスターサージカル社から提供されるICL度数計算ソフトウェア(図4)にて決定されるが,以下にその入力のために必要なパラメータをあげる.①屈折値(屈折検査)②角膜屈折力(角膜曲率半径計測)④中心角膜厚⑤前房深度*TomoakiNakamura:名古屋アイクリニック〔別刷請求先〕中村友昭:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町25-1名鉄金山第一ビル3階名古屋アイクリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(55)1283 1284あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(56)II使用機器白内障手術で使用する手術顕微鏡や超音波乳化吸引装置(ただし使用するのはI/Aのみ),および通常使用の鑷子類や開瞼器などのほかに,ICL特有の器具としては,ICLをセットするためのローディング鑷子,ICLを毛様溝に固定する際に使用するスパチュラが必要である.III手術の実際手術そのものが白内障手術に準ずるものであり,内眼手術に対し一定の技量をもつ術者であれば,短時間に,安全かつ容易に手術を行うことができる.また,切開創が小さく,術中にほとんど痛みを感じることなく,視力の回復も非常に早いため,患者側の負担も軽いと考える.術中合併症として水晶体損傷,角膜内皮障害,前房出血があげられているが,筆者は過去に一度も経験していない.ただし,術中合併症を起こさないためには,⑥水平角膜径(WTW)適切なサイズの選定(4サイズから選択)により,水晶体との最適な距離が保たれ,あとに述べる合併症が軽減される(図5,6).ICL虹彩水晶体図1ICL(ImplantableCollamerLens)後房型の有水晶体眼内レンズで,虹彩の裏面,水晶体の前面の位置で,毛様溝に固定される.コラーゲンとHEMAの共重合体であるコラマーとよばれる生体適合性に優れた素材でできている.図2ICLKS.AquaPORT中心に0.36mmの穴が開けられており,この穴を通じて房水が循環することが可能.そのため,術前処置としてのレーザー虹彩切開が不要となった.ICL虹彩水晶体図1ICL(ImplantableCollamerLens)後房型の有水晶体眼内レンズで,虹彩の裏面,水晶体の前面の位置で,毛様溝に固定される.コラーゲンとHEMAの共重合体であるコラマーとよばれる生体適合性に優れた素材でできている.図2ICLKS.AquaPORT中心に0.36mmの穴が開けられており,この穴を通じて房水が循環することが可能.そのため,術前処置としてのレーザー虹彩切開が不要となった. 表1屈折矯正手術のガイドライン2010適応①6Dを超える近視とし,15Dを超える強度近視には慎重に対応する.ここでの屈折矯正量は等価球面度数での表現を意味する.②患者本人の十分な判断と同意を求める趣旨と,late-onsetmyopiaを考慮に入れ,18歳以上とする.なお,未成年者は親権者の同意を必要とする.水晶体の加齢変化を十分に考慮し,老視年齢の患者には慎重に施術する.適応外①円錐角膜②活動性の外眼部炎症③白内障(核性近視)④ぶどう膜炎や強膜炎に伴う活動性の内眼部炎症⑤重症の糖尿病や重症のアトピー性疾患など,創傷治癒に影響を与える可能性の高い全身性あるいは免疫不全疾患⑥妊娠中または授乳中の女性⑦浅前房および角膜内皮障害慎重実施①緑内障②全身性の結合組織疾患②ドライアイ④円錐角膜疑い症例ICLはとくに手術準備が重要となる.若者が対象なので緊張緩和のため手術日に抗不安薬を内服させることと,十分散瞳させること(8mm以上)がとても大切である.ICLは,患者入室前に専用カートリッジに折りたたんでセットする.スムーズにレンズが開くためにレンズセッティングはとても重要である.これは専用の器具(ICLローディング鑷子)で行う(図7).洗眼やドレーピングは白内障手術に準じて施設毎の方法で行えばよいと思われる.まずは,1カ所ないしは2カ所の1mmのサイドポートを置く.次に房水を粘弾性物質(筆者の施設ではオペガンRを使用)で置換する.3mmの角膜耳側切開創を作製し,その創からICLを回転しないよう,また+30-6-10DICLLASIKICL図3術式の選択屈折度数によって,適切な術式を選択する.図4オンラインICL度数計算ソフトウェア施設認定取得後,IDがセットアップされる.求められるパラメータを入力することにより自動的に最適なICLのレンズ度数,サイズが計算される.(57)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151285 図5Vault(ICLと水晶体との距離)最適なvaultは角膜の中心厚(0.5mm)くらいで,その前後±0.25mmがよいといわれている.図7ICLのインジェクターへの装.患者入室直前に専用カートリッジ(インジェクター)に山折に折りたたんでセットする.専用の鑷子にてカートリッジの先端へゆっくりと移動させる.図6ICL術後の前眼部OCTによる画像ICLが鮮明に描出され,水晶体との距離(vault)を正確に計測することが可能である.経時的にこれをチェックするようにしている. 図8ICL挿入回転しないよう,また角膜内皮と水晶体に接触しないようにレンズの動き(方向)に注意しながら,ゆっくりレンズが開くようにして挿入し,まず前房内にレンズを置く.図9ICLハプティクスを虹彩の裏側(毛様溝に当たる部分)に入れるサイドポートから専用スパーテルを挿入し,慎重にハプティクスを虹彩下に入れる.中心部(光学部)は絶対触らない.あくまでも周辺で行う.レンズを押し入れると水晶体と接触してしまうので,レンズの端を紙をめくり上げるように折りたたみ,滑り込ませるよう行う. 図10ICL術後の前.下混濁- あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151289(61)follow-up.Ophthalmology111:1683-1692,20042)吉田陽子,小島隆司,中村友昭ほか:後房型有水晶体眼内レンズ挿入術の臨床成績:IOL&RS24:457-461,20103)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:One-yearfollow-upofposteriorchambertoricphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopicastigmatism.Ophthalmology117:2287-2294,20104)FernandesP,Gonzalez-MeijomeJM,Madrid-CostaDetal:Implantablecollamerposteriorchamberintraocularlenses:areviewofpotentialcomplications.JRefractSurg27:765-776,20115)SandersDR:Anteriorsubcapsularopacitiesandcataracts5yearsaftersurgeryinthevisianimplantablecollamerlensFDAtrial.JRefractSurg24:566-570,20086)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplanta-tionformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20097)AllanBD,Argeles-SabateI,MamalisN:Endophthalmitisratesafterimplantationoftheintraocularcollamerlens:Surveyofusersbetween1998and2006.JCataractRefractSurg35:766-769,20098)MoriT,YokoyamaS,KojimaTetal:Factorsaffectingrotationofaposteriorchambercollagencopolymertoricphakicintraocularlens.JCataractRefractSurg38:568-573,2012

術後屈折誤差に対するタッチアップ法

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1277.1282,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1277.1282,2015術後屈折誤差に対するタッチアップ法TheRetreatmentofRefractiveErrorPostCataractSurgery荒井宏幸*I術後屈折誤差対策の必要性近年では光学的眼軸長測定装置などの発達により,白内障手術時における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の度数計算の精度は飛躍的に向上している.以前であれば,術後の眼鏡装用は必然のような印象であったが,現在では良好な裸眼視力が当然のように求められるケースも多い.また,使用されるIOLにも,トーリックIOLや多焦点IOLといった付加価値の付いた眼内レンズが臨床使用されており,このことは手術を受ける側のニーズがより高くなっていることを反映していると考えられる.今や白内障術後の裸眼視力は術後結果の最大のポイントの1つとなっている.一方でLASIK(laserinsitukeratomileusis)を中心としたエキシマレーザーによる屈折矯正手術は,すでに25年以上の歴史を経て屈折異常の外科的矯正方法として定着している.そして,軽度から中等度の屈折異常に対するLASIKの矯正精度は,ほぼ±0.25Dの領域である.また,LASIKによるタッチアップは単焦点レンズのみならず多焦点レンズにおいても有効である1,2).最近では,二次挿入用の追加レンズ(Addonレンズ)も開発されている.球面度数と乱視度数だけではなく,回折構造を有した多焦点レンズもラインナップされている.今回は,白内障術後の屈折矯正誤差対策として,LASIKおよびAddonレンズを中心にその有用性を述べる.1.エキシマレーザーによるタッチアップa.LASIKかPRKかさまざまな基礎疾患を有する可能性がある高齢者に対して,角膜上皮の治癒過程が結果に大きな影響を及ぼすPRK(photorefractivekeratectomy)は選択しにくい.マイクロケラトームやフェムトセカンドレーザーを使用しないPRKは,比較的瞼裂の狭い高齢者には有利であるが,視力回復の早さや角膜上皮の回復状態に影響を受けないLASIKを第一選択としたいところである.そして「翌日に見える」LASIKは,とくに高齢者において,無用な不安を抱かせない手技として優れている.b.マイクロケラトームかフェムトセカンドレーザーか多くのタイプのマイクロケラトームは角膜上皮を擦過しながら角膜フラップを作製する.角膜上皮に接着不良などがある場合には,角膜上皮.離などによる不正乱視が遷延するケースもある.フェムトセカンドレーザーの場合,角膜上皮は圧平されたまま角膜フラップが作製できるので,上皮傷害を誘発する可能性は低い.白内障術後の屈折誤差には,近視性乱視のほかにも混合性乱視が相当数存在する.混合性乱視や遠視をLASIKにて矯正する場合,レーザーの照射径は大きく取る必要があり,大きな角膜フラップを正確に作製できるフェムトセカンドレーザーを使用したいところである.しかし,普及型のフェムトセカンドレーザーはサクションリングが比較的大きく,高齢者の瞼裂の小さい目には装着できないケースがあることが難点である.*HiroyukiArai:みなとみらいクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208横浜市西区みなとみらい2-3-5クイーンズタワーC8Fみなとみらいクリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(49)1277 単焦点~3M3M~6M6M~12M多焦点12M~0%50%100%図1白内障手術からタッチアップまでの時期多焦点IOLを希望するケースは,良好な裸眼視力を求める傾向があるため,タッチアップの時期も単焦点IOLの群に比較して早いことがわかる.全症例1%15%61%22%●とても満足●満足●やや不満●不満図3満足度の分布ほぼ80%の症例にて満足が得られているが,やや不満・不満症例も存在し,今後の課題となり得ると思われる.c.WavefrontguidedLASIK現在のLASIKにおいては,術後のハロー,グレアといった視機能の低下を防ぐために,波面収差解析に基づくレーザーの照射が可能になっており,wavefrontguidedLASIKといわれている.最近のIOLには球面収差補正がなされているものもあるが,術後の全眼球収1278あたらしい眼科Vol.32,No.9,20150.90.90.930.830.940.810.850.820.820.80.890.870.840.480.530.480.46全例単焦点多焦点多焦点(近方)0.881.00.940.550.360.40.380.310.1術前1W1M3M6M1Y図2裸眼視力の経緯安定した結果が得られている.多焦点IOLの場合には近方裸眼視力も向上している.多焦点レンズでは6カ月以降に後発白内障に対するYAGレーザーを施行することが多いため,図のような変化を示した.差には個体差があり,同一規格の収差補正値では限界があると思われる.IOL眼に対するwavefrontguidedLASIKでは,手術によって誘発された高次収差も含めての矯正が可能であり,また虹彩紋理を認識して乱視軸を決定するシステムにより軸ずれもきわめて少ない.d.対象と結果対象は1年間の経過が観察可能であった95眼.そのうち単焦点は47眼,多焦点は48眼である.平均年齢は63.9歳であった.男性39人,女性56人であった.白内障術後のタッチアップまでの時期を図1に,裸眼視力の経過を図2に,満足度の分布を図3に示す.また,タッチアップ前後のコントラス感度の比較をレンズ種類ごとに図4に示す.2.AddonレンズによるタッチアップLASIKによるタッチアップは有効であるが,エキシマレーザーが必要なため一般の施設での普及には限界がある.一方,二次挿入用に開発されたいわゆるAddonレンズであれば,白内障手術に必要な設備があれば導入することができるため,広く普及する可能性は高いと思われる.現在,国内でおもに使用されているAddonレンズは,HumanOpthtics社製Addonレンズと1stQ社製AddOnRレンズがある.筆者がおもに使用している(50) のは1stQ社製AddOnRレンズであるため,そちらを中になっており,光学部はシリコーン製でループ部は心に述べることにする.PMMA(polymethacrylate)である(図5).球面レンa.HumanOpthtics社製Addonレンズの特徴ズ・乱視用レンズ・多焦点レンズ(乱視用あり)がライHumanOpthtics社製Addonレンズは3ピース構造ンナップされている.レンズ形状はどのタイプも同じでコントラスト感度の変化(グレアoff)全症例単焦点多焦点60.060.060.045.045.045.030.030.030.015.015.015.0000361218361218361218術前術後空間周波数図4タッチアップ前後のコントラスト感度の変化単焦点IOLに比べ多焦点IOLのコントラスト感度が低いことがわかる.多焦点IOLにおいては術後に低下傾向にはあるが,全症例・単焦点・多焦点ともタッチアップにより優位なコントラスト感度の低下を認めなかった.コントラスト感度図5HumanOphtics社製Addonレンズの外観乱視用レンズの外観である.球面レンズ・多焦点レンズも外観形状は同様である.ループの先端が凹凸になっており安定性を確保するデザインになっている.光学部はシリコーン,ループはPMMAである.(HumanOphtics社HPより抜粋)(51)あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151279図61stQ社製AddOnRの外観独特の4つのリング状ループである.図は球面レンズである.乱視用レンズ・多焦点レンズの外観も同様である.レンズ素材は親水性アクリルである. 図7AddOnRのループ部の動き大きさの異なる円周においてもループが変形することにより光学部の中心安定性を確保できるようになっている.図8AddOnRの製作範囲表白内障術後の屈折誤差に対しての矯正範囲としては十分なラインナップであるが,多焦点レンズにおける乱視用の開発が待たれるところである. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151281(53)に示す.AddOnRの最大の特徴は,アクリルレンズであるため,.内での開き方が緩徐な点である.前房内のみでのレンズの展開はイメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要である.切開創は約3mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると前身する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下に入れることも可能で,ストレスなく手術を終了することができる.多焦点レンズは,加入度数が+3.0Dであり,中心部が3mmの回折構造をもつアポダイズレンズである.Alcon社製ReStoreRと同様の原理で作られている.1stQ社製AddOnRの成績を図9,10に示す.n数が少ないため傾向としてのデータであるが,裸眼視力・多焦点における近方視力の改善が認められることがわかる.今回の症例の中には,中等度以上の円錐角膜や角膜移植後も含まれており,そうした背景を考えると良好な成績であるといえよう.乱視矯正においても改善が認められ,残余乱視の矯正方法として効果的であることがわかる(図11).IILASIKかAddonレンズか矯正精度からいえばLASIKに軍配が上がるであろう.LASIKは0.5D程度の軽度の屈折異常にも対応できるという優位性ももっている.しかしLASIKでは,フラップトラブルや術後のドライアイなどの合併症に対する対応も念頭におかなければならない.RK(radialkeratotomy)後眼,円錐角膜眼,角膜移植後眼など,IOL計算が困難な場合などは,Addonレンズという選択肢があると非常に有用であろう3).術後の屈折誤差が比較的大きい場合には,Addonレンズで0.340.710.810.830.220.620.640.650.11.0術前1-Day1W1M遠方近方(多焦点)図9AddOnRの術後裸眼視力(n=9)術後の視力は安定して推移している.条件の厳しい症例としては良好な結果であった.-3.8-0.75-0.80-0.5-0.25-1-0.5-0.25-9-2.5-3case1case2case3case40-2.75-10-9-8-7-6-5-4-3-2-10術前1-Day1W1M図10AddOnR乱視用レンズの乱視度数の推移(n=4)手術翌日より安定した乱視矯正効果が得られていることがわかる.case4は角膜移植眼である.図11乱視用AddOnRの細隙灯顕微鏡写真角膜移植後眼の術後乱視に対して,乱視用AddOnRを挿入した.2-8時に見えるのがトーリックラインである.0.340.220.710.620.810.64遠方近方(多焦点)0.830.650.1術前1-Day1W1M図9AddOnRの術後裸眼視力(n=9)術後の視力は安定して推移している.条件の厳しい症例としては良好な結果であった.図11乱視用AddOnRの細隙灯顕微鏡写真角膜移植後眼の術後乱視に対して,乱視用AddOnRを挿入した.2-8時に見えるのがトーリックラインである.に示す.AddOnRの最大の特徴は,アクリルレンズであるため,.内での開き方が緩徐な点である.前房内のみでのレンズの展開はイメージよりも窮屈なものであり,レンズのコントロール性がきわめて重要である.切開創は約3mmであり,専用のカートリッジにて挿入する.慣れてくると前身する2つのループをレンズ挿入時に虹彩下(53)0-0.8-0.5-0.750-0.25-1-2.5-3.8-3case1case2case3case4-90-0.25-0.5-1-2-2.75-3-4-5-6-7-8-9-10術前1-Day1W1M図10AddOnR乱視用レンズの乱視度数の推移(n=4)手術翌日より安定した乱視矯正効果が得られていることがわかる.case4は角膜移植眼である.に入れることも可能で,ストレスなく手術を終了することができる.多焦点レンズは,加入度数が+3.0Dであり,中心部が3mmの回折構造をもつアポダイズレンズである.Alcon社製ReStoreRと同様の原理で作られている.1stQ社製AddOnRの成績を図9,10に示す.n数が少ないため傾向としてのデータであるが,裸眼視力・多焦点における近方視力の改善が認められることがわかる.今回の症例の中には,中等度以上の円錐角膜や角膜移植後も含まれており,そうした背景を考えると良好な成績であるといえよう.乱視矯正においても改善が認められ,残余乱視の矯正方法として効果的であることがわかる(図11).IILASIKかAddonレンズか矯正精度からいえばLASIKに軍配が上がるであろう.LASIKは0.5D程度の軽度の屈折異常にも対応できるという優位性ももっている.しかしLASIKでは,フラップトラブルや術後のドライアイなどの合併症に対する対応も念頭におかなければならない.RK(radialkeratotomy)後眼,円錐角膜眼,角膜移植後眼など,IOL計算が困難な場合などは,Addonレンズという選択肢があると非常に有用であろう3).術後の屈折誤差が比較的大きい場合には,Addonレンズであたらしい眼科Vol.32,No.9,20151281 1282あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(54)また,追加レンズとしてのAddonレンズも開発され,特殊な装置がなくても術後屈折矯正が可能となってきた.比較的大きな屈折誤差が残り,何らの理由で入れ替えがリスクを伴う場合などには良い適応であろう.また,今まではIOLの交換という手段しか方法がなかったような,円錐角膜・角膜移植後といった症例に対するタッチアップ法として有用な手段である.Addonレンズでは多焦点レンズも開発されており,以前の白内障術後眼であっても多焦点化させることができる.新しいニーズの開拓となる可能性があり,今後の普及が期待されるところである.文献1)KimP,BrigantiEM,SuttonGLetal:Laserinsituker-atomileusisforrefractiveerroraftercataractsurgery.JCataractRefractSurg31:979-986,20052)PineroDP,EspinosaMJ,AlioJL:LASIKoutcomesfollow-ingmultifocalandmonofocalintraocularlensimplantation.JRefractSurg11:1-9,20093)ThomasBC,AuffarthGU,ReiterJetal:Implantationofthree-piecesiliconetoricadditiveIOLsinchallengingclin-icalcaseswithhighastigmatism.JRefractSurg29:187-193,2013の矯正がとくに効果的と考えられる.術後の経過観察のポイントも通常の白内障手術と同様であり,その点は術者にとってのストレスは少ないと考えられる.まとめ白内障手術の裸眼視力向上に対するオプションの一つとして,術後のLASIKによるタッチアップは有効な方法であると思われる.トーリックIOLの選択や術中のLRIなどの方法を施行しても,術後の屈折異常が残存し裸眼視力が不良なケースにおいては,最終的な手段ともなり得るであろう.「見え方」は「視力」という数字ではなく,感覚であり,術者が数値上ではわずかに思える乱視度数でも,「見え方」に対する不満を訴えるケースも多い.こうしたわずかな屈折誤差を矯正するには,現在の0.5DステップのIOL製作単位では限界がある.LASIKを中心とするエキシマレーザーにより,こうした微少な誤差をも矯正できる時代になってきている.多くの白内障術者に,LASIKによるタッチアップが,大きなリスクを伴わず有効な手段であることを認識していただければ幸いである.

術中収差計の可能性

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1273~1276,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1273~1276,2015術中収差計の可能性PotentialofIntraoperativeAberrometer後藤憲仁*はじめに白内障手術は,多焦点眼内レンズ,トーリック眼内レンズに代表される付加価値眼内レンズの登場や,フェムトセカンドレーザーに代表される白内障手術装置の進歩により,単に混濁した水晶体を摘出する開眼手術から,より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術へとその意味合いが変化してきている.術後視機能の満足度として重要なポイントは術後屈折であり,さまざまな眼内レンズ度数計算や方法が考案されている.しかしながら,未だに屈折誤差が0.5ジオプトリー(D)以内の症例は71%で1),約3人中1人は0.5D以上の屈折誤差を生じており,laserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表される屈折矯正手術の精度には及んでいない.そのなかで,白内障術中に手術顕微鏡に装着された術中収差計を用いて,球面度数や円柱度数などをリアルタイムで測定し,最適化した眼内レンズの球面度数やトーリック度数を決定するシステムが米国を中心に注目されている.本稿では術中収差計の代表であるORATMsystemwithVerifEye+RTechnology(Alcon社)(図1)について解説する.I術中収差計とは術中収差計とは,手術顕微鏡に装着した収差計を用いて,術中に球面・円柱度数を測定できる装置である.ORAsystemwithVerifEye+RTechnologyは780nmの赤外線LED光が波面収差測定を行い,4つの880nmBA図1ORAsystemwithVerifEye+RTechnology(Alcon社)顕微鏡に搭載された収差計(A)で球面度数,円柱度数・軸などの測定を行う.介助者がBのタッチパネルを操作して,各種モードの切り替え,眼内レンズの選択,顕微鏡視野へのオーバーレイの切り替えなどを行う.LED光がアライメントレーザーとなり,球面度数,円柱度数と軸,瞳孔径の測定(4~10mm)の測定,IOL挿入後の屈折の確認が可能である.簡潔にいうと,手術顕微鏡にオートレフケラトメータが搭載されている装置で*NorihitoGoto:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕後藤憲仁:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町大字北小林880獨協医科大学眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(45)1273 1274あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(46)⑥トーリック眼内レンズの固定軸確認(図2F)最終的に「NoRotationRecommended」が表示される部分にトーリック眼内レンズを固定し,手術を終了する.III術中収差計の臨床成績術中収差計の初めての臨床報告は,2010年にPackerMによりLRIによる乱視矯正効果を比較したものである.ORAsystemwithVerifEye+RTechnologyの先行機であるORangewavefrontaberrometer(WaveTecVision社)を使用することで,乱視矯正効果が有意に良好であった2).その後,Cantoらは角膜屈折矯正術後の眼内レンズ屈折誤差について,術中収差計(ORange)による計算,IOLマスターによるSRK-T式,中心アベレージK値による計算,ASCRSウェブサイトによる計算で比較し,術中収差計による計算が良好であったと報告している3).一方で,放射状角膜切開術(radialkera-totomy:RK)症例では術中収差計を使用しても不良であった3).Ianchulevらは,LASIK,photorefractivekeratectomy(PRK)後の眼内レンズ屈折誤差については,Haigis-L式,ShammasIOL計算と比較して,術中収差計が有意に良好であったと報告している4).同様にLASIK,PRK後の屈折誤差について,ORAsystemとHaigis-L式,Masket法,スペクトラドメインOCTによるOptovueRTVue(Optovue社)によるIOL計算を比較し,ORAsystemでもっとも良好であったという報告もある5).また,トーリック眼内レンズの軸固定に関しても,術中収差計を使用した場合は術後残余乱視0.5D未満が,2.4倍であったと報告されている6).術中収差計による測定は,一般的に眼内レンズ度数ずれが生じやすいといわれる角膜屈折矯正手術後に眼内レンズパワー計算に有効であり,トーリック眼内レンズの軸固定にも効果的であると思われる.おわりに術中収差計は言い換えれば手術顕微鏡に搭載されたオートレフケラトメータであり,屈折矯正的な意味合いが大きくなりつつある白内障手術において魅力的なツールである.数年前のASCRS(米国白内障屈折矯正学会)ある.最大の特徴は,術中リアルタイムに球面・円柱度数の測定が可能なことである.それにより,最適化した眼内レンズの選択・固定が可能になる.とくにトーリック眼内レンズのガイドや眼内レンズ挿入後の屈折の確認に有効である.Alcon社のVERIONTMやCarlZiessMed-itec社のCALLISTOeyeに代表されるサージカルガイダンスシステムは,術前に測定したイメージデータを手術顕微鏡にデジタルマーカーとしてオーバーレイすることができるが,眼内レンズ挿入後の屈折確認を行うことはできない点が,術中収差計と異なる.II術中収差計の使用方法ORAsystemwithVerifEye+RTechnologyはわが国では未承認であり,筆者も使用経験がない.Alcon社のホームページより得られた実際の使用方法を解説する.①測定条件選択画面(図2A)タッチパネル方式のモニターから,AphakicかPseu-dophakicを選択する.AphakicにはPowercalculation,LimbalRelaxingIncision(LRI),LRIEnhancementが選べる.PseudophakicではAfterIOLImplantNon-Toric,LRI,LRIEnhancement,AfterToricImplantが選べる.Pseudophakicセッティングは基本的に眼内レンズ挿入後の屈折確認に用いられる.②術中リアルタイム測定(図2B)継続的にリアルタイムで球面度数,円柱度数と軸を測定できる.安定したところでデータをキャプチャする.③推奨眼内レンズ選択(図2C)②の測定値を元に推奨眼内レンズを選択できる.④トーリック眼内レンズ選択の場合(術前ケラト値との比較)(図2D)術前に測定したケラト値と術中収差計によるリアルタイム測定値を比較し,眼内レンズモデルと固定軸を決定する.⑤トーリック眼内レンズに対するデジタルマーカー(オーバーレイ)(図2E)顕微鏡視野にオーバーレイで360°の軸が表示され,トーリック眼内レンズ挿入角度に軸に固定できる.その際にもリアルタイムで円柱度数を測定する. 図2ORAsystemwithVerifEye+RTechnology使用方法 1276あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(48)4)IanchulevT,HofferKJ,YooSHetal:Intraoperativerefractivebiometryforpredictingintraocularlenspowercalculationafterpriormyopicrefractivesurgery.Ophthal-mology121:56-60,20145)FramNR,MasketS,WangLetal:Comparisonofintra-operativeaberrometry,OCT-basedIOLformula,Hagis-L,andmasket.FormulaeforIOLpowercalculationafterlaservisioncorrection.Ophthalmology122:1096-1010,20156)HatchKM,WoodcockEC,TalamoJH:Intraocularlenspowerselectionandpositioningwithandwithoutintraop-erativeaberrometry.JRefractSurg31:237-242,2015文献1)BehndigA,MontanP,SteneviUetal:Aimingforemme-tropiaaftercataractsurgery;SwedishNationalCataractRegisterstudy.JCataractRefractSurg38:1181-1186,20122)PackerM:Effectofintraoperativeaberrometryontherateofpostoperativeenhancement:retrospectivestudy.JCataractRefractSurg36:747-755,20103)CantoAP,ChhadvaP,CabotFetal:ComparisonofIOLpowercalculationmethodsandintraoperativewavefrontaberrometerineyesafterrefractivesurgery.JRefractSurg29:484-489,2013

Toric眼内レンズ挿入におけるマーキングを必要としない術中ガイドシステム

2015年9月30日 水曜日

特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1267~1272,2015特集●屈折矯正的な水晶体手術の今あたらしい眼科32(9):1267~1272,2015Toric眼内レンズ挿入におけるマーキングを必要としない術中ガイドシステムIntraoperativeImageGuidedSystemforToricIOLImplantation谷口紗織*ビッセン宮島弘子*はじめに白内障手術は単に視力の回復を目的とするだけではなく,屈折矯正手術としての役割も大きくなってきている.白内障手術患者に対する乱視矯正の方法としては,保存的治療として術後の眼鏡,コンタクトレンズ装用,外科的治療として角膜輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI),laserinsitukeratomileusis(LASIK)などのエキシマレーザー屈折矯正手術,乱視矯正眼内レンズ(toricintraocularlens:ToricIOL)がある.外科的治療のなかで,ToricIOLは,角膜に侵襲を加えることなく白内障手術と同時に乱視矯正を行うことが可能である唯一の方法であり,術後早期から良好な裸眼視力が得られることが大きな利点となっている.ToricIOLは1994年に清水ら1)によって最初に報告されて以来,これまで数多く開発されてきており,正確かつ安定した乱視矯正効果が報告されている2~5).ToricIOLは,レンズの弱主経線上の軸マークを角膜の強主経線に合わせることで乱視を低減させる.つまり,互いの強主径線を直交するように配置するというクロスシリンダー法での乱視矯正となる.そのためレンズの乱視軸が合わないと矯正効果が減弱し,軸が1°ずれると乱視矯正効果が3.3%失われるとされており,30°ずれてしまうと乱視矯正効果はほとんど得られない1,6).そのため,軸ずれを防ぐことがToricIOLの最大のポイントとなる.手術中に起こる軸ずれの原因として,姿勢変化による眼球回旋がある.術前検査で得られた乱視軸度数は座位での測定であり,手術顕微鏡下の仰臥位への姿勢変化で眼球の回旋(多くは内方回旋)が生じるため,手術時には異なる角度に変化してしまう7~9).術前の座位で計測された乱視軸を,仰臥位で行われる白内障手術の際に同定し,乱視軸の位置決めを正確に行うことが軸ずれを防ぐうえでもっとも重要になってくる.正確な乱視軸のマーキングを行うためには,術前に施行した角膜形状解析画面中にある前眼部の基準マークを術中に手術眼中に直接確認できること,この基準マークと角膜乱視検査データとが確実にリンクしていることが必要である.以上を満たす方法として,角膜形状解析データと角結膜上の軸マーキングを用いた乱視軸のaxisregistration10)があり,角膜形状解析機器として角膜形状解析装置11),前眼部光干渉断面解析装置(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:OCT)12),光干渉式眼軸長計測装置(IOLマスター)13)などが用いられている.しかし,角結膜上の軸マーキングは,外来で事前に行わなくてはならないこと,インクはにじみ洗眼時に落ちやすいこと,インクや圧痕が消えた場合は再度マーキングの必要があることなど,正確さに欠け煩雑であることが問題点としてあった.以上の問題を解消した方法として,マーキングを必要としない方法が登場した.術前のマーキングを必要としない乱視軸の決定方法として,結膜の特徴的な血管走行を基準マークとするもの*SaoriYaguchiandHirokoBissenMiyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕谷口紗織:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(39)1267 図1IOLMasterR500緑色光にてリファレンス画像を撮影する. 図2CALLISTOeyeR使用時のリファレンス画像IOLマスターからのリファレンス画像(左画面)と手術用顕微鏡からのリファレンス画像(右画面)を同期させている.図3CALLISTOeyeRによるToricIOL挿入軸表示青線3本でIOL挿入軸を表示している. 図4CALLISTOeyeRによるCCCガイド図5CALLISTOeyeRによる角膜切開ガイド青いリングでCCCガイドを表示している.黄線で角膜切開ガイドを表示している. あたらしい眼科Vol.32,No.9,20151271(43)マニュアルでの手術と比べて,より精密で正確かつ一定の手術が可能となっていることである.VERIONTMは眼科用レーザー手術装置(LenSxR)と連動させることができ,顕微鏡下手術同様,眼回旋の影響を考慮し,プラン通りの位置にレーザー照射が可能である.3.FLACSとVERIONTMを用いたToricIOLによる乱視矯正手術の手順術前に外来にてメジャメント・モジュールで角膜の計測とデジタル画像撮影を行い,測定データに基づき,ビジョン・プランナーで術後残存乱視を最小限にするような角膜切開のプランニングを行う.手術室では,眼科用レーザー手術装置(LenSxR)に装着されたデジタル・マーカーL(digitalmarkerforLenSxR)に,撮影・計測・プランニングした情報が移動される.手術台に仰臥位になった患者に開瞼器を装着した状態で,LenSxRに取り付けたpatientinterface(PI)をさげてゆき,角膜中央とPIの中心が合うように水平にドッキングする.仰臥位での前眼部撮影は,PIの装着前後の2回行われる.これにより座位から仰臥位の眼球回旋のほか,PI装着による位置ずれも補正することができる.前眼部OCT検査により前眼部の正確な形状解析を行い,その結果を確認しながら前.および角膜への照射域を最終確認し決定する.あとは,術者がフットスイッチを押し続けることで,前.切開→核分割→必要に応じて乱視矯正用の角膜減張切開→角膜切開創(主切開とサイドポート)のフェムトセカンドレーザー照射がプログラム通りに遂行される.レーザー実施後は,レーザーで作製された角膜切開創からのマニュアルでの水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)となる.手術顕微鏡(LuxORR)に装着されたデジタル・マーカーMによりライブ画像が登録され,眼球追尾機能でToricIOL挿入軸が術者視野また術野映像上にリアルタイムに表示される.4.ToricIOLによる乱視矯正とFLACSにおけるVERIONTMの有用性角膜切開創の再現性と精度が上がることにより,IOLV今後の可能性1.アシスタント機能による角膜切開とCCCガイドの有用性ToricIOLによる乱視矯正を確実にするためには,角膜形状解析で得られた角膜の強主経線上にToricIOLの乱視軸を正確な位置に挿入することのほかに,手術時の切開位置が正確であること,ToricIOLのセンタリングが重要である.トーリックカリキュレーターでは,手術眼の計測データのほかに,術者の切開位置を入力することで,ToricIOLの挿入軸が決定されている.そのため,入力した切開角度と実際の手術時の切開位置が一致していることが前提となっている.また,ToricIOLによる乱視矯正を術後長期にわたって安定して得るためには,挿入されたIOLのセンタリングが良好に保たれていることが重要であり,そのためには前.の中心部に適切な大きさでCCCを作製し,ToricIOLの中心がずれないように.内固定することが重要である.さらに,術後に前.と後.が接触していると癒着しIOL偏位をきたすため,光学部が前.によって全周性に覆われている状態が望ましい.CALLISTOeyeRとVERIONTMのアシスタント機能により角膜切開とCCCのガイダンスが得られ,適切かつ正確な位置に角膜切開とCCCが作製できることは,ToricIOLによる乱視矯正効果をより確実なものにすると考えられる.2.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術と術中ガイドシステム近年,フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術(femtosecondlaser-assistedcataractsurgery:FLACS)が急速に普及してきている.FLACSは,フェムトセカンドレーザーを用いて,白内障手術における水晶体前.切開,水晶体核分割,角膜切開,乱視矯正切開を行うことであり,2008年にハンガリーのNagyら17)により白内障手術への臨床使用が開始された.FLACSの利点は,前眼部光干渉断層計(opticalcoherenttomograhy:OCT)で測定した結果に基づき,コンピューターでの精密な制御のもと,先鋭なフェムトセカンドレーザーで前.切開と角膜切開が行われるため,従来の 1272あたらしい眼科Vol.32,No.9,2015(44)es:correctingastigmatismwhilecontrollingaxisshift.JCataractRefractSurg20:523-536,19942)BauerNJ,deVriesNE,WebersCAetal:Astigmatismmanagementincataractsurgery.JCataractRefractSurg34:1483-1488,20083)Ruiz-MesaR,Carrasco-SanchezD,Diaz-AlvarezSBetal:Refractivelensexchangewithfoldabletoricintraocu-larlens.AmJOphthalmol147:990-996,20094)AhmedII,RochaG,SlomovicARetal:Visualfunctionandpatientexperienceafterbilateralimplantationoftoricintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:609-916,20105)Bissen-MiyajimaH,NegishiK,HiedaOetal:Microinci-sionhydrophobicacrylicaspherictoricintraocularlensforastigmatismandcataractcorrection.JRefractSurg31:358-364,20156)NovisC:Astigmatismandtoricintraocularlenses.CurrOpinOphthalmol11:47-50,20007)SmithEMJr,TalamoJH,AssilKKetal:Comparisonofastigmaticaxisintheseatedandsupinepositions.JRefractCornealSurg10:615-620,19948)ChangJ:Cyclotorsionduringlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg34:1720-1726,20089)KimH,JooCK:Ocularcyclotorsionaccordingtobodypositionandflapcreationbeforelaserinsitukeratomileu-sis.JCataractRefractSurg34:557-561,200810)MiyataK,MiyaiT,MinamiKetal:Limbalrelaxinginci-sionsusingareferencepointandcornealtopographyforintraoperativeidentificationofthesteepestmeridian.JRefractSurg27:339-344,201111)宮田和典:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:373-378,201012)根岸一乃:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:363-368,201013)大木孝太郎:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:379-383,201014)WeinandF,JungA,SteinA:Rotationalstabilityofasin-gle-piecehydrophobicacrylicintraocularlens:newmeth-odforhigh-precisionrotationcontrol.JCataractRefractSurg33:800-803,200715)LesieurG:CallistoEye:Seamlessintegrationwithotherproducts.Cataract&RefractiveSuegeryTodayEurope50-52,201416)後岡克典,林良子,夏目恵治:乱視矯正眼内レンズ使用時の乱視軸マーキング法の検討.IOL&RS28:86-89,201417)NagyZ,TakacsA,FilkornTetal:Initialclinicalevalua-tionofanintraocularfemtosecondlaserincataractsur-gery.JRefractSurg25:1053-1060,2009定数や各術者のSIA値の検討を行うことができ,屈折精度を継続して改善していくことが可能となる.また,ToricIOLにおける術後の軸ずれの検討など,1°単位の軸ずれを検証している場合には,その精度を高めることができる.FLACSにより正確な場所に再現性をもって正確な大きさで作製された前.切開と,正確なToricIOLの軸固定により,IOL挿入位置の安定性を高めることができる.中心設定については,角膜中心のほか,術前の無散瞳時の瞳孔中心,視軸の中心を表示することもでき,ToricIOLによる乱視矯正効果をさらに高めることができる.おわりにToricIOLは白内障手術と同時に乱視矯正を行うことが可能であり,術後早期から良好な裸眼視力が得られるため,患者のQOL(qualityoflife),QOV(qualityofvision)においても大きな利点がある.また,手術においては困難な手技や特別な設備を必要としないため,乱視矯正の第一選択としてさらに広く普及していくと考えられる.ToricIOLによる乱視矯正効果を確実なものとするためには,正確に乱視軸を合わせたIOL挿入が必要であり,より確実に可能にするために開発されたマーキングを必要としない乱視軸の表示システムについて紹介した.乱視軸表示以外にもアシスタント機能としてついている角膜切開位置ガイドとCCCガイドも,ToricIOLの術後成績を改善するうえでとても有用である.将来的には,アベロメータ.の機能により,術中にリアルタイムで全乱視量が計測でき,乱視量がもっとも小さくなる位置にToricIOLを固定することが可能になる予定である.今後,さらなる技術の発展により,より簡便で確実な術中ガイドシステムが登場することを期待する.文献1)ShimizuK,MisawaA,SuzukiY:Toricintraocularlens-