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薬物粒子径変更に伴うブリンゾラミド懸濁性点眼液の眼内薬物移行性評価

2015年4月30日 木曜日

《第34回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科32(4):545.549,2015c薬物粒子径変更に伴うブリンゾラミド懸濁性点眼液の眼内薬物移行性評価長井紀章*1真野裕*1松平有加*1山岡咲絵*1吉岡千晶*1伊藤吉將*1岡本紀夫*2下村嘉一*2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2近畿大学医学部眼科学教室NanosizingoftheParticleinBrinzolamideOphthalmicSuspensionEnhancesItsIntraocularPenetrationNoriakiNagai1),YuMano1),YukaMatsuhira1),SakieYamaoka1),ChiakiYoshioka1),YoshimasaIto1)Okamoto2)andYoshikazuShimomura2),Norio1)FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine本研究では,市販緑内障治療薬である炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミド(BLZ)懸濁性点眼液の薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性について検討を行った.市販BLZ懸濁性点眼液(エイゾプトR)の薬物粒子微細化には,ビーズミルによる水中破砕法を用いた.市販BLZ懸濁性点眼液の平均粒子径は7.05±0.416μmであったが,ビーズミル法を用いることで,平均粒子径0.423±0.221μmまで微細化でき,ナノオーダーの粒子径を有するBLZ分散液が調製できた(Milled-BLZ分散液).これらMilled-BLZ分散液の眼内薬物移行性について評価したところ,薬物粒子径をナノオーダーにしたことで主薬の角膜透過性および薬物網膜到達量が有意に向上した.以上,微細化によりBLZ懸濁性点眼液の眼内薬物移行性が高まることが明らかとなった.本研究は,点眼用懸濁液の製剤設計およびバイオアベイラビリティー向上につながるものと考えられる.Inthisstudy,weinvestigatedtheeffectofparticlesizeinbrinzolamide(BLZ)ophthalmicsuspensionontheintraocularpenetrationofthedrug.AsuspensioncontainingBLZnanoparticles(BLZNPssuspension;particlesize:0.423±0.221μm)waspreparedbyuseofthebeadmillmethod.Next,theBLZNPssuspensionandanon-milledBLZsuspension(particlesize:7.05±0.416μm),respectively,wereinstilledinrateyes,andintraocularpenetrationofthedrugwasthenanalyzed.ThecornealpenetrationofBLZfromtheBLZNPssuspensionwasfoundtobesignificantlyhigherthanthatinthenon-milledBLZsuspension.Inaddition,theamountofBLZintheretinasofeyesinstilledwiththeBLZNPssuspensionwasapproximately2-foldhigherthanthatintheretinasofeyesinstilledwiththenon-milledBLZsuspension.TheseresultssuggestthatthenanosizingoftheparticleinBLZophthalmicsuspensionenhancestheintraocularpenetrationofthedrug,andthatanoculardrugdeliverysystemusingnanoparticlesmayexpandtheirusagefortherapyinthefieldofophthalmology.Thefindingsofthisstudyprovideimportantinformationthatshouldproveusefulfordesigningfurtherstudiestodevelopanti-glaucomadrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(4):545.549,2015〕Keywords:ブリンゾラミド,粒子径,ビーズミル,薬物眼内移行性,エイゾプトR.brinzolamide,particlesize,beadmill,drugintraocularpenetration,AzoptRophthalmicsuspension.はじめにであり,現在臨床現場ではb遮断薬,プロスタグランジン緑内障は,眼圧上昇により視神経・網膜が圧迫され,その製剤,炭酸脱水酵素阻害薬,選択的交感神経a1遮断薬,a,結果視神経障害がみられる眼疾患であり,先進国において失b受容体遮断薬,副交感神経作動薬など,異なる作用機序を明の第一要因である.この緑内障治療の第一選択は薬物療法有する緑内障治療薬の単剤または併用使用が行われている.〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(81)545 これら緑内障治療薬の一つである炭酸脱水酵素阻害薬の眼圧下降機序は,毛様体無色素上皮細胞においてH2O+CO2.H2CO3.H++HCO3.の反応を触媒している炭酸脱水酵素(carbonicanhydraseII)の働きを阻害し,HCO3.の生成を抑制することにより,Na+の能動輸送機構を抑え,その結果房水産生が抑制されるというものである.さらに,点眼により網膜や脈絡膜へ薬物が移行した際には,網膜のMuller細胞や網膜色素上皮細胞,脈絡膜毛細血管に存在する炭酸脱水酵素を阻害し網膜血流が増加するなど,眼圧下降作用のほかに眼循環に好影響を与える可能性が示唆されている1.3).一方,炭酸脱水酵素阻害薬点眼により網膜血流を高めるためには,血管拡張をきたすほどの十分な薬物濃度を網膜へ供給する必要があり1.5),現場では炭酸脱水酵素阻害薬の眼内移行性を高めることが期待されている.点眼薬の眼内移行性を高める方法として,粘稠化剤により薬物の結膜.内滞留性を向上させる手法が知られている.しかし,粘稠化剤により滞留性を高めただけでは網膜などの眼後部への到達はわずかである.一方,筆者らは近年“医薬品ナノ結晶点眼製剤”を提案し,点眼液中の薬物粒子サイズをナノオーダーにすることで角膜透過性や結膜からの体内移行性が飛躍期に上昇することを見出し報告している6).したがって,懸濁点眼薬の薬物粒子径をナノオーダーにすることでバイオアベイラビリティ向上が期待される.本研究では,市販緑内障治療薬である炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミド(BLZ)懸濁性点眼液の薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には日本白色種雄性ウサギ(2.3kg)および雄性Wistarラット(7週齢)を用いた.これら実験動物は25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,CR-3,日本クレア)および水は自由に摂取させた.また,動物実験は近畿大学実験動物規定に従い行った.2.ビーズミル法によるブリンゾラミド懸濁液破砕処理市販緑内障治療薬BLZ懸濁性点眼液1%(エイゾプトR懸濁性点眼液1%,日本アルコン)の薬物粒子微細化は,直径0.1mmのジルコニアビーズおよびBeadSmash12(和研薬社製)を用いた水中破砕法(ビーズミル法)にて行い,BeadSmash12による破砕条件は冷却下(4℃)5,500rpmにて30sec×20回とした6).得られた分散液中BLZ濃度は0.91%であり(ビーズやチューブへの吸着率9%),分散液中のBLZ濃度を生理食塩水にて0.8%に調製したものを本研究ではMilled-BLZ分散液とした.また,BLZ懸濁性点眼液を生理食塩水にて0.8%に調製したものをBLZ分散液として用いた.薬物粒子径の測定はナノ粒子径分布測定装置SALD-546あたらしい眼科Vol.32,No.4,20157100(島津製作所)にて行い,平均値および標準偏差は内蔵の解析ソフトで算出した(屈折率1.95.0.05i).3.HPLC法によるBLZの定量試料40μlに,氷冷した0.1μg/mlp-オキシ安息香酸メチル(内標準物質,MeOHにて溶解)80μlを加え,この液をクロマトディスク4A(0.45μm,クラボウ)で濾過後高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に注入した.HPLC装置はLC-20AT(島津製作所)を使用した.カラムは,InertsilRODS-3(3μm2.1×50mm,ジーエルサイエンス)を用い,室温にて移動相(リン酸カリウム/アセトニトリル,80/20)で平衡化した.移動相の流速は0.25ml/minとし,255nmの紫外部吸収を測定した.4.Invitroウサギ角膜薬物透過実験実験にはメタアクリル樹脂製角膜透過セルを使用した6).日本白色種雄性ウサギをペントバルビタール(東京化成工業社製)過剰投与により安楽死後,眼球を摘出し,生理食塩水で洗浄した.角膜は,眼球後部の視神経の部位よりハサミを入れ,強膜部位を1.2mm残し切り取った.この角膜を角膜透過セルに装着し,リザーバー側(房水側)にリザーバー液としてHEPES(+Glc)緩衝液(10mMHEPES,136.2mMNaCl,5.3mMKCl,1.0mMK2HPO4,1.7mMCaCl2・2H2O,5.5mMGlucose,pH7.4)を3.0ml注加した.ドナー側(涙液側)にはBLZあるいはMilled-BLZ分散液を3.0ml注加した.角膜透過セルは,恒温槽中で35oCに保った.BLZ透過量は,リザーバー液を経時的に50μlずつ採取し,上記HPLC法により測定した.得られたデータは,次式に従い,非線形最小二乗法コンピュータプログラムMULTIを用いて当てはめ計算を行い,速度論的パラメータの算出を行った.t=d26D(1)JC=Km・D・CBLZ=KpCBLZd(2)Qt=Jc・A・(t.t)(3)ここで,JcはBLZの透過速度,Kmは角膜/製剤の分配係数,Dは角膜内での拡散係数,tlagはラグタイム,dは角膜の厚さ(平均0.0625cm),Aは用いた角膜の有効角膜面積(0.78cm2),Qはt時間にリザーバー側に透過した積算薬物量,CBLZはBLZ分散液中のBLZ濃度である.JCおよびtは(3)式に当てはめ算出した.角膜透過係数KpはJc/CBLZから算出した6).5.Invivoウサギ眼内薬物移行実験日本白色種雄性ウサギに,耳静脈よりペントバルビタール(0.6ml/kg)を投与し全身麻酔した.麻酔後,眼球に局所麻酔薬0.4%ベノキシール液を点眼し,マイクロシリンジで(82) ファイコンチューブ(0.5-1.0,冨士システムズ)と連結した29ゲージ注射針を角膜近傍の強膜部分より前眼房に挿入することによりカニューレを装着した.その後,片眼にBLZまたはMilled-BLZ分散液40μlを点眼し,定めた時間間隔でカニューレより房水を5μlずつ採取し,房水中BLZ濃度を上記HPLC法により測定した(図1).また,得られたデータから台形法を用い房水中BLZ濃度-時間曲線下面積(areaundertheBLZconcentration-timecurve:AUC)を算出した6).6.網膜中薬物到達量の測定BLZまたはMilled-BLZ分散液をWistarラットに点眼し,点眼1時間後にペントバルビタール(東京化成工業)を過剰投与することで安楽死させた.その後,眼球を摘出し,網膜を回収した.網膜中BLZ量は上記HPLC法にて測定した.7.統計解析データは,平均値±標準誤差(SE)として表した.各々の実験値の解析にはStudentのt-testを用い,p値が0.05以下を有意差ありとした.II結果1.ビーズミル処理に伴う市販BLZ懸濁液の薬物粒子径変化図2はBLZおよびMilled-BLZの粒度分布曲線を示す.BLZ分散液の平均粒子径は7.09±0.413μmであり,市販BLZ懸濁性点眼液1%の平均粒子径と比較し差はみられなかった(7.05±0.416μm,平均値±標準偏差).一方,MilledBLZ分散液の平均粒子径は0.423±0.221μmと,ナノオーダーまでBLZの粒子を微細化することが可能であった.2.BLZ懸濁液中薬物粒子径の違いが眼内薬物移行性に与える影響図3はBLZおよびMilled-BLZ分散液のinvitroウサギ角膜透過性を,表1は図3中のデータから算出した速度論的パラメータを示す.両分散液ともに実験開始1時間後から薬物図1Invivoウサギ眼内薬物移行実験操作写真Cumulativedistribution(%)Cumulativedistribution(%)8015601040520000.010.050.10.5151050100500Particlediameter(μm)10020100A:BLZsuspensions20Frequency(%)Frequency(%)80B:Milled-BLZsuspensions15601040520000.010.050.10.5151050100500Particlediameter(μm)図2BLZおよびMilled.BLZ分散液における粒度分布薬物粒子径はナノ粒子径分布測定装置SALD-7100にて測定した.実線は相対粒子量の頻度を,点線は相対粒子量の積算を示す.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015547 の角膜透過が認められたが,粒子径の違いによる差はみられなかった.図4はBLZおよびMilled-BLZ分散液のinvivoウサギ角膜透過性について示す.Invitroウサギ角膜透過実験の結果と異なり,Milled-BLZ分散液処理群のラグタイム(t)は,BLZ処理群のそれより低かった.また,MilledBLZ分散液処理群のAUCは,BLZ処理群のそれの2倍高値であった(AUC,BLZ71±12,Milled-BLZ分散液142±4,μM・min,平均値±SE,n=6).図5にはBLZおよびMilledBLZ分散液点眼後の網膜中薬物含量を示す.Milled-BLZ分散液点眼1時間後の網膜中BLZ濃度は,BLZ分散液点眼後0120BLZconcentration(μM)80160100401406020:BLZsuspensions:Milled-BLZsuspensions0123456のそれと比較し有意に高かった.III考按炭酸脱水酵素阻害薬の点眼は眼圧降下作用だけでなく,網膜血流の改善効果が期待できる.本研究では,炭酸脱水酵素阻害薬であるBLZ懸濁性点眼液を用い,薬物粒子径変更に伴う眼内薬物移行性改善効果について検討を行った.まず初めに,ビーズミル法を用い市販BLZ懸濁性点眼液の薬物粒子微細化を試みた(図2).その結果,平均粒子径7.05±0.416μmであった市販BLZ懸濁性点眼液を,平均粒子径0.423±0.221μmとナノオーダーまで微細化することに成功した.一方,BLZ分散液中薬物濃度を測定したところ,破砕処理過程で使用したチューブやジルコニアビーズへの薬物の付着により,破砕処理前には1%であったBLZが破砕処理後には0.91%と減少が認められた.このため,本研究では生理食塩水にて0.8%に濃度調製した市販BLZ懸濁性点眼液(BLZ分散液)およびビーズミル法にて破砕後のBLZ懸濁液(Milled-BLZ分散液,0.8%)を比較検討に用いた.Invitroウサギ角膜透過実験にて,BLZおよびMilledBLZ分散液の角膜透過性を検討したところ,両分散液間で差はみられなかった(図3および表1).これらinvitroウサTime(h)図3BLZおよびMilled.BLZ分散液におけるinvitroギ角膜透過実験はドナー側(涙液側)にBLZあるいは角膜透過性(ウサギ)Milled-BLZ分散液を用いており,薬物の溶解を促進する因平均値±標準誤差,n=6羽6眼,n.s.(notsignificant).子である涙液がなく,角膜表面において薬物の供給が十分に表1Invitroウサギ角膜透過法におけるBLZおよびMilled.BLZ点眼液の速度論的パラメータJc(nmol/cm2/h)Kp(×10.4cm/h)Kmt(min)D(×10.5cm2/h)BLZ1.41±0.270.77±0.140.45±0.0960.7±1.01.07±0.02Milled-BLZ1.52±0.110.83±0.060.52±0.0765.1±5.71.02±0.08速度論的パラメータは式(1).(3)を用いて算出した.平均値±標準誤差,n=6.040103040506070BLZconcentration(μM)26351:BLZsuspensions:Milled-BLZsuspensions******BLZconcentration(nmol/g)*1612840BLZMilled-BLZsuspensionssuspensions20Time(min)図5BLZおよびMilled.BLZ分散液における薬物図4BLZおよびMilled.BLZ分散液におけるinvivo網膜移行性(ラット)角膜透過性(ウサギ)網膜は薬物点眼1時間後に回収した.平均値±標準誤平均値±標準誤差,n=6羽6眼,*p<0.05,vs.BLZsus-差,n=6羽6眼,*p<0.05,vs.BLZsuspensionspensions(Student’st-test).(Student’st-test).548あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(84) 満たされている条件下での薬物透過性を評価する方法である.したがって,本結果から瞬目などにより涙液代謝がみられない系では,粒子径の違いによる薬物の透過性に差はみられないことが明らかとなった.また,両分散液ともに角膜表面で溶解したBLZが角膜内部へ取り込まれ眼内へ移行することが示唆された.一方,これらinvitroウサギ角膜透過実験の結果と異なり,invivoウサギ角膜透過性実験では,Milled-BLZ分散液処理群のラグタイム(t)は,BLZ処理群のそれより低く,Milled-BLZ分散液処理群のAUCは,BLZ処理群のそれの2倍高値であった(図4).さらに,Milled-BLZ分散液点眼1時間後の網膜中BLZ濃度は,BLZ分散液点眼後のそれと比較し有意に高かった(図5).一般に,粒子径が小さいほど比表面積が高まり,薬物の溶解速度が高まることが知られている.本結果においても薬物粒子径の小さいMilled-BLZ分散液中のBLZ結晶はBLZ分散液中の結晶と比較し,点眼後涙液により速やかに溶解されるものと考えられる.これら角膜表面での溶解速度の向上は角膜内への薬物供給量の増加につながり,その結果Milled-BLZ分散液点眼時のtの短縮や眼房水および網膜への薬物到達濃度の増加がみられるものと示唆された.BLZ懸濁性点眼液と網膜血流改善に関してはこれまで多くの報告がなされている.Barnesら1)は家兎に7日間連続してBLZを点眼した際,視神経乳頭部血流が約10%増加したと報告している.また,ヒトに関する報告では,正常眼圧緑内障患者を対象とし,BLZを2週間連続点眼することで,網膜中心動脈で最低流速の上昇,末梢血管抵抗の低下がみられることを江見ら2)が示している.さらに,前田ら3)は,BLZは緑内障眼において,神経乳頭辺縁部および傍乳頭網膜組織血流を増加させることを報告している.一方,BLZ点眼後においても網膜血流改善がみられないとの報告もされており4,5),これら異なる結果の仮説として,BLZ点眼後の組織内CO2濃度が血管拡張をきたすレベルに達するかどうかが一つのキーとして考えられている.このように,BLZによる眼圧と網膜循環血流を同時標的とした治療には,十分な薬物量を網膜まで到達させることが必要である.本研究では,市販BLZ懸濁性点眼液の薬物粒子径を変更することで網膜への薬物到達濃度が増加することを明らかとした.これら粒子径を中心とした処方変更は今後の緑内障治療にきわめて有用であると考えられる.一方,市販点眼製剤を用いた今回の系では計20回ものビーズミル破砕処理が必要であり,より効率的な調製法の確立は今後の薬物への応用において重要な課題である.しかし,筆者らはすでにより破砕に適した添加物(デキストリンやセルロース系化合物など)を選択することで効果的かつ効率的な薬物破砕が可能であることを見出し報告している6).したがって,今後これらの添加物を用い,ナノオーダーの薬剤生成法の改良を試みる予定である.以上,本研究ではビーズミル法を用い市販BLZ懸濁性点眼液の薬物微細化を行うことにより,主薬の角膜透過性および薬物網膜到達量が向上すること見出した.本研究は,点眼用懸濁液の製剤設計およびバイオアベイラビリティ向上につながるものと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BarnesGE,LiB,DeanTetal:Increasedopticnerveheadbloodflowafter1weekoftwicedailytopicalbrinzolamidetreatmentinDutch-beltedrabbits.SurvOphthalmol44:S131-140,20002)江見和雄:正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの眼血流に対する効果.あたらしい眼科21:535-538,20043)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20054)前田祥恵,今野伸介,大塚賢二:ブリンゾラミド1回点眼の正常人傍乳頭網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:271-274,20045)SampaolesiJ,TosiJ,DarchukVetal:Antiglaucomatousdrugseffectsonopticnerveheadflow:design,baselineandpreliminaryreport.IntOphthalmol23:359-367,20016)NagaiN,ItoY,OkamotoNetal:Ananoparticleformulationreducesthecornealtoxicityofindomethacineyedropsandenhancesitscornealpermeability.Toxicology319:53-62,2014***(85)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015549

My boom 39.

2015年4月30日 木曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第39回「菅原岳史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第39回「菅原岳史」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介菅原岳史(すがわら・たけし)千葉大学大学院医学研究院眼科学以前,帰省先の田舎で小4男児が,家庭用打ち上げ花火が点火しないためにのぞきこみ,顔面直撃,救急搬送されました.両目の間が撃ちぬかれ,髪は焼けただれ,皮膚は火傷,角膜には無数の火薬が残存,一晩中麻酔され,両角膜異物除去を施行.翌日まで両眼帯でした.少年は,育ててくれた親への罪悪感,人生の喪失感を味わったそうです.私は日眼雑誌の談話室に「PMDAとレギュラトリーサイエンス」で何度か投稿しているのでご存知の方もいると思われますが,厚労省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に2年半在籍し,その後は千葉大学臨床試験部に異動したので,眼科医は通常経験しないことを多数経験しております.筑波大学の加治先生からのバトンを受け,薬事目線で記載します.興味を抱いてくれる眼科医がいれば,ぜひご連絡をお願いします.Letitgo的なmyboom現在,眼科の枠を超え,千葉大のみならず国家行政案件に関与しており,PMDA遠征?帰りというだけで,貴重なキャリアと人脈が増え続けております.相手をリスペクトし,理解しつつ,言いたいことは伝える,ありのまま的なmyboomをしているだけですが.グローバル的なmyboom世界眼科学会(WOC2014)時に日本を訪問されたFDAデバイス部門(眼科・耳鼻科)長官のMalvina先生(澤先生らとの宴席,写真1)と各国規制当局によるセミナーを実施,PMDAにも招いてセミナーをしても(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYらいました.WOCにはミシガン大学時代のボスであるSieving先生(現NIE長官)と奥様も来ていたので,スカイツリーの下でミシガン会(近藤&町田先生同席,写真2)をしました.今でも英語を使う機会は少なくないので,英語を使う2週間前から,「3倍速の英会話テープ」聴きまくりで英語スイッチ入れ,ゾーンに入るようにしているのが,以前からの英会話的なmyboomです.アカデミア的なmyboom眼科と二足の草鞋ですが,臨床試験部の業務はPMDAとはまったく異なっており,新鮮です.各科のプロトコールを見て,本質的に直させるのが主たる業務です.コピペ・一夜漬けで皆さん作成してきますが,プロトコール作成スキルはPMDAに数年いないと得られません.一流企業ですらプロトコール作成には何カ月もかかっており,それでもPMDA側にかなり修正させられます.プロトコール作成に関しては,2013年および2014年の日本臨床眼科学会インストラクションコース,千葉大学,東北大学および慶應大学の一部スタッフ,さらに神戸の臨床研究情報センター(TRI)で勉強会をいたしました.呼んでいただければ全国どこにでも講義に行きます.一般臨床医的にはまったく知らない,開発の世界を啓発する活動です.レギュラトリーサイエンス的なmyboomレギュラトリーサイエンスには二つの面があります.一つは承認審査上のモノサシです.開発はp値では決められず,左右するのは意義です.イメージとして,左が承認で,右が不可のシーソーとすると,左に倒して承認した科学的な判断の経緯を,シーソーに乗せた要因(さまざまな意義)を根拠として説明することです.レギュラトリーには,規制,調整,審査などの意味がありますので,社会を見据えた行政科学(判断材料)ともいえます.もう一方は哲学です.このレギュラトリーサイエンスあたらしい眼科Vol.32,No.4,2015527 写真1FDAのMalvina先生を囲んで世界眼科学会(WOC2014)に来日されたFDA(米国規制当局)の眼科デバイス部門長官,マルビーナ先生と夕食会.哲学はmyboomです.そもそも,わが国における臨床試験は空浮かぶサーキットのように,一般道を走れない治療法(DRUG,DEVICE)に対する研究が永遠に回り続けます.つまり,選ばれた学会サーキットを走り続けることだけでも業績は上がり研究費も獲得しますが,国民の利益に還元されず,実用化しない研究が目立つという解釈です.なぜそうなのかというと,それは薬事というカラクリを知らないからです.レギュラトリーサイエンス哲学で考えると,患者さんへの実用化への出口目線でロードマップを描き,研究プロジェクトを立ち上げ,PMDAと相談し,品質,非臨床,PI,PII,PIII,申請承認で,新しい最良の医療を真に届けられるのです.医学教育過程で薬事を習わなかった影響か,シーズ数は世界トップクラスでも,臨床応用数では激減し,改善傾向がありません.大多数の疾患領域でそうです.一方,わが国でも悪性腫瘍や循環器領域は進んでおり,学会として実用化するための術を知っています.遅れている分野の臨床研究医師が,どうやって実用化をみすえた研究をするのかには,レギュラトリーサイエンス哲学を学ぶ必要があります.僕を呼んでもらえば全国どこにでもレギュラトリーサイエンスの講義に行けます.講演的なmyboomです.ベタ,バカッコイイ的なmyboom仕事は忙しいですが,今が一番ハッピーです.いつの時代も,自分は今が一番.とくに,日本のために,大勢の患者のために,何かできるのは楽しいです.厳しい職場で仕事していても,すこしも寒くないわ♪ですね.罪悪感と喪失感のあと,どうやって生き抜くか2日間考え,幸運なことに失明しませんでした.冒頭の花火事故のおバカさんは僕自身ですが,あの時の後悔と恐怖を超える思いは,いまだに未経験です.絶望の中,どうしたら見えなくても生き抜けるか,必死で考えた2写真2米国留学時代のボスPaulSieving先生を囲んで世界眼科学会(WOC2014)に来日されたNIHの現NEI長官であるポール先生との夕食会.日間でした.千葉大眼科の治験で,最終来院日の網膜色素変性の女性患者さんに,「本当に治るようになるクスリができるのですか?私が治らないのはわかっています.」と言われぼう然,翌年の3月11日に東日本大震災が起こり,岩手医大の黒坂教授や大関先生に頼んでボランティアに駆けつけ,絶望の中で生き抜こうとしている子供たちの姿を見ました.千葉大眼科教授の山本先生にPMDAに行けといわれたのは数日後,大変な職場だったけど,行ってよかった.眼科学会の著名な先生方と親しくなりましたし,PMDA内で気が合う仲間数名と出会って,いつのまにか忘れかけていた,大事なスイッチが再び入りました.目が見えない不安をわずかな時間でも味わった者として,眼科をはじめ日本の臨床研究をレギュラトリーサイエンス哲学で実用化に導くため,ギアセカンドに入ります.貫くには,どこまでもブッ飛んでないと,限りなくポジティブじゃないと,世界は変えられません.両眼帯で車椅子の10歳のときですら,ネガティブにならないように必死で考えたのですから,ベタでバカッコイイ的な姿勢を,ブレることなく貫いて,先生たちの研究を実用化へ導くように牽引したいものです.レギュラトリーサイエンスの業界にも,myboom押し続けてくれる仲間が何人もいるから,これからも声を出して行きます.次のプレゼンターは,慶應義塾大学出身で東京歯科大学市川病院から,現在,厚生労働省に在籍中の許斐健二先生です.僕の大事な仲間の一人です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.528あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(64)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 143.術中の脈絡膜下灌流(初級編)

2015年4月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載143143術中の脈絡膜下灌流(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術の術中合併症の一つとして,網膜下灌流あるいは脈絡膜下灌流がある.いずれもインフュージョンポートの先端が硝子体腔に正確に挿入されていない場合に生じる.先端から人工房水が毛様体無色素上皮下に灌流されると前者,脈絡膜と強膜の間(脈絡膜上腔)に灌流されると後者となる.以前の20G(ゲージ)硝子体手術のときにはときどきみられたが,近年のトロカールを使用するmicro-incisionvitrectomysurgery(MIVS)では,その頻度は激減している.しかし,トロカールを使用していてもまれに本合併症が生じることがある.●術中所見と対処法網膜下灌流では,インフュージョンポートが設置してある象限から胞状の網膜.離が生じる(毛様体無色素上皮と感覚網膜は解剖学に連続している).脈絡膜下灌流では脈絡膜.離が生じる.図1は脈絡膜下灌流をきたしたときの術中所見であるが,駆逐性出血との鑑別が必要である.通常,駆逐性出血では眼圧が上昇するが,脈絡膜下灌流では極端に上昇することはない.●術中の対処法術中にこのような所見を認めた場合には,まず灌流を止めてトロカールの状態を確認する.この症例ではトロカールが脱落しかけており(図2),強膜と脈絡膜の間に灌流液が迷入していた.インフュージョンポートを別の象限のトロカールに挿入しなおし,灌流を開始する(図3).通常は誤灌流した強膜創から脈絡膜上腔液が排出され,脈絡膜.離は速やかに消失する(図4).ついで誤灌流した強膜創の状態を確認し,必要に応じて眼内光凝固(61)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1脈絡膜下灌流をきたした症例術中に急速に拡大する脈絡膜.離を認める.図2トロカールの状態トロカールが脱落しかけている.図3インフュージョンポートの変更インフュージョンポートを別の象限のトロカールに挿入しなおし,灌流を開始する.図4再灌流後の眼底所見脈絡膜.離は速やかに消失している.図5眼内光凝固誤灌流した強膜創の状態を確認し,必要に応じて眼内光凝固を施行しておく.を施行しておく(図5).網膜下灌流でも同様の処置を行うが,脈絡膜下灌流よりも誤灌流された人工房水が排出されにくいことがある.また,しばしば毛様体無色素上皮.離をきたし,その部位に裂孔を形成していることが多いので,眼内光凝固に引き続き,必要に応じてガスタンポナーデを施行しておく.あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015525

眼科医のための先端医療 172.網膜光凝固と硝子体

2015年4月30日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第172回◆眼科医のための先端医療山下英俊網膜光凝固と硝子体武山正行(愛知医科大学眼科学教室)はじめに網膜光凝固は網膜疾患治療に欠かせないものです.たとえば糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固の凝固条件は,網膜内層傷害を避けながら治療効果を得るために「血管と網膜出血を避け,照射直後に淡い白濁がみられる凝固」が適切とされています.しかしながら,出血や血管の上から照射してしまう誤凝固や,網膜や中間透光体の条件の違いによる過剰凝固を,たとえば2,000発の汎網膜光凝固において100%回避することはできません.少々?の誤凝固に配慮していたら,パターンスキャンレーザーで1照射25発凝固なんてまったく不可能です.硝子体手術中の汎網膜光凝固では,低倍率の観察下で施行するため,照準は不正確で誤凝固になることが多く,また過剰凝固にもなりやすいと思われます.網膜光凝固による内境界膜の変化光凝固条件と組織傷害というテーマについては多くの研究があります.網膜色素上皮で発生する熱エネルギーが大きく,照射時間が長いほど,網膜内層への傷害が大きくなります.過剰凝固では傷害が網膜内層に及び,網膜出血や網膜血管の上からの凝固では神経線維層や内境界膜が高度に傷害されます.筆者らはニワトリ眼に網膜光凝固を行い,硝子体を除去して網膜表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ,一部の凝固斑では内境界膜に円孔が観察されました1)(図1).同一条件で照射した全凝固斑にみられるわけで*ABDILMC図1走査型電子顕微鏡で観察した凝固斑の内境界膜一部凝固斑で内境界膜に円孔を認めた.A:凝固斑(*)の内境界膜表面.B:凝固斑の内境界膜表面の高倍率像.C:凝固斑の内境界膜にみられた円孔(→).D:円孔縁の高倍率像.倍率:A=180倍,B=600倍,C=700倍,D=1,300倍.ILM:内境界膜.(文献1より改変して転載)(57)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155210910-1810/15/\100/頁/JCOPY MMP-2HE染色2次抗体のみ2次抗体のみ光凝固前光凝固6時間後図2光凝固6時間後網膜のMMP.2免疫染色像凝固斑の内境界膜・網膜内層にMMP-2局在を認める(→).MMP-2は硝子体からの移行と考えられる.はないので,網膜厚の差や,照射角度や焦点合わせの微妙なずれにより,過剰凝固になった凝固斑に発生したものと思われます.この円孔が,熱変性によって起こるのか,隆起による物理的な伸展が関与するのか,あるいは硝子体除去など実験操作によるものか,明確な機序は不明です.図2は,硝子体に多量に含まれるmatrixmetalloproteinase-2(MMP-2)が,凝固斑の内境界膜に局在することを示します1).傷害を受けた内境界膜に硝子体からMMP-2が移行したと考えられます.これらは,光凝固の条件次第では内境界膜が傷害を受け,また硝子体から網膜への物質移行が発生する可能性を示しています.内境界膜を介した硝子体の影響糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固において,硝子体から移行したMMP-2が網膜内に拡散して活性型にな(文献1より改変して転載)ると,血管内皮のtightjunction傷害により黄斑浮腫を悪化させるかもしれません.反対に,内境界膜傷害により網膜から硝子体腔への物質拡散が容易となり,血管内皮細胞増殖因子など悪化因子が網膜で減少するならば,疾患に対し良い影響を与える可能性もあります.過剰凝固や誤凝固で発生した内境界膜傷害による影響は,後部硝子体.離の有無によっても異なると考えられます.多くの網膜疾患の病態において,硝子体は重要な役割を果たしています.網膜光凝固においても,硝子体はレーザーを透過してくれるだけの,寡黙な存在ではないのかもしれません.文献1)TakeyamaM,YonedaM,TakeuchiMetal:Increaseinmatrixmetalloproteinase-2levelinthechickenretinaafterlaserphotocoagulation.LasersSurgMed42:433441,2010522あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(58) ■「網膜光凝固と硝子体」を読んで■網膜光凝固が糖尿病網膜症の増悪防止に効果的な治療法であることについては異論がないと思いますが,そのメカニズムについては十分に解明されたわけではありません.たとえば,虚血網膜を壊死させることで,血管内皮増殖因子(VEGF)などの網膜症増悪因子の産生を抑制させるというのはわかりやすい説明ですが,それだけでは説明できない事象も多くありました.その一つが,網膜光凝固と硝子体との関係です.1980年代から,糖尿病網膜症眼に汎網膜光凝固を行うと,後部硝子体.離が起こるということが報告されていました1).その当時は後部硝子体.離自体があまり理解されていなかったため,注目を集めませんでした.しかし,1990年代になって,糖尿病網膜症の進展に後部硝子体が大きなかかわりをもつことが理解されると,光凝固による網膜硝子体界面の変化について関心が集まりました.多くの研究者によって,光凝固後に炎症が惹起されるため後部硝子体.離が起こると説明されましたが,炎症と後部硝子体.離を直接結びつける十分な証拠は不足していました.本稿で解説されたように,網膜光凝固によるMMP-2の活性化誘導という現象は,不足したパズルを埋めるために重要な証拠になりえます.網膜光凝固により炎症が惹起され,それによりMMP-2が活性化されると,コラーゲンが分解されます.コラーゲン分解はすなわち硝子体の液化ですから,後部硝子体.離を誘導することに矛盾はありません.現在,治療時の疼痛軽減や網膜傷害軽減のために新しい光凝固器具が登場していますが,MMP-2の活性化が網膜症改善に有効なことが証明されれば,光凝固の条件や器具も変化する可能性があります.本稿は,このような可能性をもつ重要な研究だといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二文献1)SebagJ,BuzneySM,BelyeaDAetal:Posteriorvitreousdetachmentfollowingpanretinallaserphotocoagulation.GraefesArchClinExpOphthalmol228:5-8,1990☆☆☆(59)あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015523

眼瞼・結膜:結膜アレルギーの基礎知識

2015年4月30日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人4.結膜アレルギーの基礎知識上田真由美京都府立医科大学眼科学教室本稿では,まずアレルギー性結膜疾患の発症機序の基礎知識について記載し,その後,アレルギー性結膜疾患を診療していて感じていることをまとめてみた.●アレルギー性結膜疾患の発症機序現在,アレルギー性結膜疾患の発症機序は,I型アレルギー反応が主体と考えられている.結膜局所の抗原提示細胞により,Th2型リンパ球の感作が起こり,Th2型リンパ球から指示を受けたB細胞は,抗原特異的IgEを分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞に結合後,再び侵入した抗原により架橋され肥満細胞の脱顆粒を引き起こす.肥満細胞の脱顆粒により放出されたヒスタミンは,ヒスタミン受容体に結合し,抗原暴露数十分以内に生じる即時相の反応として結膜浮腫,充血,かゆみ,眼瞼浮腫,粘液性の眼脂を生じる.一方,抗原暴露8~24時間後に生じる結膜局所への好酸球の浸潤を主体とした遅発相の炎症反応には,肥満細胞の脱顆粒により放出されたロイコトリエン(LT),プロスタグランジンD(PGD2),血小板活性化因子(PAF)が関与していると考(2)えられている.また,遅発相の炎症反応には,肥満細胞だけではなく,線維芽細胞1),T細胞2),さらには,上皮細胞3)も関与していることが明らかとなってきている(図1).アレルギー性角結膜疾患の遅発相は,臨床において角結膜炎の病態形成に大きく関与する.春期カタルやアトピー性角結膜炎などの組織障害を伴うアレルギー性角結膜疾患は,I型アレルギー遅発相がその病態の主体と考えられている.●各臨床病型1.アレルギー性結膜炎図2に症例を示す.患者は20歳の女性で,眼の掻痒感を訴えて来院(図2a).毎年,春先になると痒くなる.上眼瞼結膜を拡大してよく観察すると,多数の小乳頭を認める(図2b).下眼瞼結膜には,多数の濾胞を認める(図2c).乳頭と濾胞の違いは,乳頭は浸潤細胞が集まり結合組織が増殖したもので,血管が隆起病変の中央部に存在し,一方,乳頭は増殖したリンパ球の集合体で,血管が隆起病変の周囲に存在するのが特徴とされる.筆者は,アレルギー性結膜疾患の患者に対して,血清中(55)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1アレルギー性結膜疾患の発症機序totalIgEと,抗原特異的IgE検査としてMAST33を施行しているが,結膜に大きな増殖性変化を認めないアレルギー性結膜炎の患者では,血清中totalIgEは正常範囲のことが多く,またMAST33では,スギなど原因と考えらえる抗原1つまたは少数の項目のみ陽性のことが多い.2.春季カタル春季カタルは,小児から青年期に多い.アトピー性皮膚炎を有しない患者も存在するが,多くは軽度から中等度のアトピー性皮膚炎を合併している.眼瞼型では,上眼瞼に巨大乳頭を認め(図3a),点状表層角膜炎,ときにシールド潰瘍を認める(図3b).輪部型では,角膜輪部に炎症を生じ,堤防状隆起やTrantas斑を認める(図3c).掻痒感や異物感とともに眼痛を訴えて来院することも珍しくない.眼脂も多く,ギムザ染色では好酸球が多く観察される.軽度から中等度のアトピー性皮膚炎を合併していることが多いことより,血清中totalIgEも正常380単位以下のところ,数百単位まで上昇しており,またMAST33でも複数項目陽性のことが多い.3.アトピー性角結膜炎重症のアトピー性皮膚炎,とくに顔面にアトピー性皮あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015519 abcab図2季節性アレルギー性結膜炎の症例20歳,女性.一見,前眼部は正常(a)であるが,眼瞼を翻してよく観察すると,上眼瞼には多数の小乳頭(b)が存在する.また,下眼瞼に多数の濾胞(c)が存在することも多い.図3春季カタルの症例7歳,男児.上眼瞼に多数の巨大乳頭(a)を認め,角膜上方にシールド潰瘍(b)を認める.別の輪部型の症例であるが,輪部に炎症が生じ,結節状のTrantas斑(c)を認める.膚炎を伴う患者にみられることが多い.春季カタルと同じように上眼瞼に巨大乳頭を伴う患者(図4ab)と,増殖性変化を伴わない患者(図5ab)の両方がいる.ともに眼瞼の充血,浮腫,ビロード状の肥厚を認める(図4c,5c).角膜には点状表層角膜症を認めることも多く,ときにシールド潰瘍を認める(図4de,5de).重症のアトピー性皮膚炎患者であることが多いため,血清中totalIgEが1万単位を超えることも珍しくなく,MAST33でも多くの項目が陽性のことが多い.ステロイド点眼,免疫抑制薬の点眼で症状は軽快するが,ヘルペス性角膜炎を発症しやすい患者も存在するので注意を要する.われわれ眼科医は,重症のアトピー性皮膚炎患者のほとんどがアトピー性角結膜炎を合併するように錯覚しがちだが,実はアトピー性皮膚炎の重症度とアトピー性角結膜炎の重症度は必ずしも相関しない.アトピー性皮膚炎患者における眼所見の重症度が何に起因しているかを調べることは,今後の課題であり,アトピー性角結膜炎の病態を考えるうえで重要である.●治療治療において,もっとも気をつけることとして,ステ520あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015abcde図4アトピー性皮膚炎の症例37歳,男性.上眼瞼に巨大乳頭(b)を認める.下眼瞼にも充血,浮腫,ビロード状の肥厚(c)を認め,角膜には大きなシールド潰瘍(d,e)を認めた.abcdec図5アトピー性皮膚炎の症例上眼瞼に増殖性変化は認めず,上下眼瞼ともに充血,浮腫,ビロード状の肥厚(b,c)を認め,角膜にはシールド潰瘍(d,e)を認めた.ロイド点眼は有効な治療薬である一方,ステロイド緑内障などの合併症を生じることをよく覚えておく必要がある.これは,とくに若年者に生じやすく,経過観察中の小児の眼圧検査は必須である.一方,タクロリムス点眼などの免疫抑制薬は,眼圧上昇の副作用がなく,使いやすい.ここでは,筆者がアレルギー性結膜疾患を診療して感じていることを簡単にまとめてみた.本稿で不十分な部分については,「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」を参照してほしい4).文献1)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Roleofstructuralcellsofthecorneaandconjunctivainthepathogenesisofvernalkeratoconjunctivitis.ProgRetinEyeRes25:165187,20062)FukushimaA,OzakiA,JianZetal:Dissectionofantigen-specifichumoralandcellularimmuneresponsesforthedevelopmentofexperimentalimmune-mediatedblepharoconjunctivitisinC57BL/6mice.CurrEyeRes30:241-248,20053)UetaM,KinoshitaS:Ocularsurfaceinflammationisregulatedbyinnateimmunity.ProgRetinEyeRes31:551575,20124)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン:日眼会誌114:833-870,2010(56)

抗VEGF治療:難治性糖尿病黄斑浮腫に対する治療方針

2015年4月30日 木曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二15.難治性糖尿病黄斑浮腫に対する志村雅彦東京医科大学八王子医療センター治療方針抗VEGF治療に反応しにくい糖尿病黄斑浮腫に対しては,ステロイド,光凝固,硝子体手術といった別の局所治療が選択されることが多く,しばしば改善をみることもある.その一方で,腎機能低下など全身状態の悪化に起因している場合もあり,内科専門医との緊密な連携が治療の鍵となることも少なくない.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態は,血管透過性の亢進のみならず,炎症性組織障害や黄斑部牽引が複雑に絡みあっており,いまだによくわかっていない.したがって,DMEに対する治療として抗VEGF薬や抗炎症ステロイドに代表される保存的療法のほかに,局所光凝固,格子状光凝固,硝子体手術といった侵襲的療法が存在し,本来病態に合わせて選択すべきものであるが,臨床では治療選択の決め手がないのが実情である.すなわち,DMEそのものがすでに難治疾患であるだけに,「難治性」DMEの定義はむずかしいが,ここではDMEの主たる原因である血管透過性亢進を抑制する「抗VEGF薬に反応しないDME」として述べる.漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫DMEに対する治療の第1選択が抗VEGF薬であることは大規模スタディの結果から明らかとなっているものの1),すべてに効果があるわけではなく,病態によっては治療抵抗性の症例があることが報告されている2).形態別としては,漿液性網膜.離を伴うDMEは抗VEGF阻害薬に対して抵抗性の症例が多い.DMEにおいて漿液性網膜.離が引き起こされる理由は不明であるが,このような症例では炎症性サイトカイン濃度が上昇していることが最近報告され3),網膜血管の透過性亢進により,炎症性物質が外境界膜を傷害して,網膜色素上皮前面にまで漿液が貯留すると考えられている.したがって,このような症例では抗炎症ステロイドが有効とされ,自験例においても抗VEGF抗体の複数回投与によっても抵抗する症例に対し,抗炎症ステロイドTenon.下投与が有効であった症例がある(図1).(53)Beforetreatment①BeforeSTTA④(0M)VA=(0.3)(4M)VA=(0.2)After1stIVB②After2MSTTA⑤(1M)VA=(0.3)(6M)VA=(0.5)After3rdIVB③After4MSTTA⑥(3M)VA=(0.3)(8M)VA=(0.6)図1VEGF阻害薬治療に抵抗し,抗炎症ステロイド局所治療が奏効したDME症例62歳,女性.糖尿病歴10年.左眼の糖尿病黄斑浮腫にて加療目的に紹介受診.初診時視力:左眼(0.3).漿液性網膜.離を伴うびまん性浮腫であり(①),抗VEGF抗体ベバシズマブを毎月3回硝子体内投与(IVB)する(②)も浮腫は改善せず(③),抗炎症ステロイドのトリアムシノロンをTenon.下投与(STTA)する(④)と著明な改善がみられ(⑤),効果は4カ月持続し,視力は(0.6)まで改善した(⑥).一方,漿液性網膜.離を伴うDMEでは,蛍光眼底造影検査において周中心窩での蛍光漏出が有意に大きく,網膜厚とも相関することから,周中心窩への局所光凝固が有効である可能性もまた報告されている4).いずれにせよ,漿液性網膜.離を伴うDMEは比較的進行した病態であると考えられており,治療に難渋することが多く,抗VEGF薬のみで対応することはむずかしい.トリアムシノロンアセトニドのTenon.下あるいは硝子体内投与,さらには蛍光眼底造影検査をして周中心窩からの漏出血管を局所光凝固,という選択肢を検討する必あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155170910-1810/15/\100/頁/JCOPY VA=(0.2)VA=(0.1)①②VA=(0.1)VA=(0.1)③④VA=(0.2)VA=(0.1)⑤⑥VA=(0.3)VA=(0.1)⑦⑧BeforetreatmentAfter3timesofIVB3monthsafterHD12monthsafterHD3monthsafterSTTABeforetreatment3monthsafterHD12monthsafterHDVA=(0.2)VA=(0.1)①②VA=(0.1)VA=(0.1)③④VA=(0.2)VA=(0.1)⑤⑥VA=(0.3)VA=(0.1)⑦⑧BeforetreatmentAfter3timesofIVB3monthsafterHD12monthsafterHD3monthsafterSTTABeforetreatment3monthsafterHD12monthsafterHD図2局所薬物治療に反応せず,透析によって著明な改善が認められたDME症例59歳,男性.糖尿病歴14年.腎機能低下(Cr:4.8mg/dl,BUN:43.2mg/dl,eGFR:14.1%)により腎臓内科通院中,両眼の視力低下にて紹介受診.初診時視力は右(0.2),左(0.1)であり,両眼ともスポンジ様のびまん性黄斑浮腫を認め,中心窩網膜厚(CMT)は右432μm(①),左眼は542μm(②)であった.右眼はベバシズマブを毎月3回投与(IVB),左眼はトリアムシノロンをTenon.下投与(STTA)するも,3カ月後にCMTは右眼で596μm(③),左眼で576μm(④)と増悪した.腎機能の悪化により血液透析(HD)開始され,HD後3カ月にて黄斑浮腫は著明に改善し,CMTは右眼299μm(⑤),左眼314μm(⑥)まで改善するも視力は変わらず,12カ月後,右眼はCMT265μmで視力は(0.3)まで改善した(⑦)が,左眼は314μmで視力は(0.1)のまま(⑧)であった.要がある.全身状態の悪化した糖尿病黄斑浮腫DMEに対して保存的治療法,侵襲的治療法のいずれに対してもまったく反応しない症例をみることがある(図2).このような場合,腎機能が悪化していることが少なくない.われわれ眼科医は血糖コントロールをHbA1cの値で評価することが多いが,腎機能の悪化した症例では体内の水分量が多くなるため,血液量に対する糖化ヘモグロビン比であるHbA1cは低く出る傾向があり,あまりあてにならない.BUNやCrによる評価のほか,現在ではeGFRという指標を用いることが多い.腎機能の改善は腎臓内科専門医に任せるしかないが,DMEは腎透析の開始によって劇的に改善することが多い.一方,浮腫が長期にわたって遷延した場合は,すでに視細胞が不可逆的な損傷を受けていることがあり,形態的な浮腫の改善がみられながら視機能が改善しないこともある.局所の治療法に反応せず,腎機能が低下しているDME症例については,積極的に腎臓内科と連携し,腎透析とまではいかなくても,緊急血液浄化などで一時的に浮腫を改善させ,視細胞の不可逆変化を防止するという治療戦略も必要になるだろう.文献1)ArevaloJF:Diabeticmacularedema:Changingtreatmentparadigms.CurrOpinOphthalmol25:502-507,20142)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,20133)SonodaS,SakamotoT,YamashitaTetal:Retinalmorphologicchangesandconcentrationsofcytokinesineyeswithdiabeticmacularedema.Retina34:741-748,20144)MurakamiT,UjiA,OginoKetal:Associationbetweenperifovealhyperfluorescenceandserousretinaldetachmentindiabeticmacularedema.Ophthalmology120:2596-2603,2013☆☆☆518あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(54)

緑内障:緑内障の進行解析

2015年4月30日 木曜日

●連載178緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也178.緑内障の進行解析三木篤也大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室進行の判定は,緑内障の治療方針決定に不可欠である.進行している症例に対しては治療の強化が必要になり,逆に長年進行を認めない症例では薬物を減量することも可能かもしれない.本項では,緑内障の進行解析法について概略を説明したい.●はじめに緑内障の3大要素は眼圧,視神経,視野であり,このうち視神経と視野が経時的に悪化するかどうかをみるのが進行解析である.検査にはばらつき(変動)があるので,検査パラメータが低下したとしても,低下の程度が小さければ真の進行か単なる変動かをみわけるのはけっして簡単ではない1.3).変動の影響を取り除いて真の進行を捉えるために,統計学的な手法が必要とされるのである.●トレンド解析とイベント解析(表1)進行解析の手法には,大きく分けてトレンド解析とイベント解析がある.トレンド解析とは,注目するパラメータの単位時間あたりの変化量(進行速度)を求めるもので,進行の速度がわかることが最大の利点である(図1).しかし,変動の影響を除くためには数回検査を繰り返す必要があり,結果を得るまでに時間がかかる.また,進行の有無は統計学的に有意であるかどうかで決定され,臨床的な意義が明確ではない.A一方,イベント解析では,最初の何回かの検査(ベースライン)からある一定以上低い閾値を決める.計測値が閾値を下回ったときにイベント発生とする.実際には,複数回閾値を下回って初めてイベント発生とすることが多い.一般的に,イベント解析はトレンド解析よりも短期間で進行の有無を判定できる.また,進行の有無についてはっきりした答えが出るので,介入の効果を検証する研究には向いている.一方,イベント解析の最大の欠点は,進行の速度がわからないことである.進行の指標とするパラメータとして何を選択するかという問題もある.視野では,meandeviation(MD)やvisualfunctionindex(VFI)などのグローバルインデッ表1トレンド解析とイベント解析トレンド優劣イベント経過観察長い<短い進行判定の基準曖昧<明確進行速度わかる>わからないBベースラインパラメータ(MDなど)イベント閾値時間図1トレンド解析とイベント解析A:トレンド解析では,パラメータ(MDなど)を縦軸に,時間を横軸にとって直線回帰し,単位時間あたりの変化(スロープ)を求める.B:イベント解析では,最初の何回かの検査をベースラインとし,ベースラインより統計学的に有意な減少を閾値と設定するフォローアップ検査の測定値が閾値を下回れば,イベント発生とする(実際には複数回下回ったときにイベントとすることのほうが多い).(51)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155150910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2GPAのフォローアップレポートの一例パターン偏差プロットにおいて,ベースラインよりも1度低下していれば△,2度連続して低下していれば,3度連続して低下していれば▲で示される.この場合▲が3カ所あるので,likelyprogression(日本語版では「進行の可能性が高い」)と判定される.クスを用いるほかに,各刺激点の閾値を対象とするポイントワイズ法,いくつかの刺激点をグループにして解析するクラスター法などがある.概して,グローバルインデックスを用いる方法は全体的な進行度が把握しやすく,信頼度の高い結果が得られやすいが,局所の変化に対する検出力が劣る.ポイントワイズ法はグローバルインデックスと反対の特徴があり,クラスターは両者の中間の性質をもっている.●視野の進行解析これまで緑内障進行の詳細な統計解析は,自動静的視野検査において普及,発展してきた.そのうち代表的なトレンド解析法はMDスロープである.自動静的視野検査のMD値を時系列でプロットし,1年あたりの下降速度を求める方法である.Humphrey静的視野計のguidedprogressionanalysis(GPA)でも測定可能であるし,電子カルテプログラムから自動で測定してくれるものもある.最近のバージョンのGPAではVFIスロープもある.ポイントワイズのトレンド解析プログラムも種々開発されている.GPAプログラムのglaucomachangeprobabilitymap(GCPM)は代表的なイベント解析法である.GPAではパターン偏差プロットを使用し,最初の2回の検査からベースラインを決定する.そして,フォローアップ検査において連続2回以上の進行が3カ所以上で認められると進行の可能性あり,連続3回以上の進行が3カ所以上認められると進行の可能性が高いと判定される(図2).GPAのほかにもさまざまなイベント解析の方法が開発されている.●構造的進行解析従来の視神経観察は眼底検査,眼底写真を中心として516あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015行われてきたが,これらの検査は主観的,定性的であるために統計学的な解析に不向きであった.しかし,最近の画像診断機器の発展により,視神経障害についても視野と同様の定量的進行解析が可能となった.視神経障害の定量解析として,現在もっとも期待されるのはOCTである.現時点では,OCTの進行解析は研究者が統計プログラムを用いて自ら解析するものが多く,臨床の現場に広く普及しているとはいえない.しかし,各OCTメーカーは進行解析プログラムを続々と開発,搭載しており,近い将来臨床の現場においてもOCTの進行解析が標準化するものと考えられる.●おわりに緑内障の進行解析は,最近急速に発展した分野の一つである.進行が緩徐な正常眼圧緑内障などでは,トレンド解析やイベント解析などの統計的な解析を用いないと正確な進行判定はほぼ不可能である.進行判定の原理を理解し,日常臨床に活かすことは緑内障のフォローアップを担当する眼科医にとって最低限の責務である.文献1)KeltnerJL,JohnsonCA,LevineRAetal:NormalvisualfieldtestresultsfollowingglaucomatousvisualfieldendpointsintheOcularHypertensionTreatmentStudy.ArchOphthalmol123:1201-1206.20052)TannaAP,BudenzDL,BandiJetal:Glaucomaprogressionanalysissoftwarecomparedwithexpertconsensusopinioninthedetectionofvisualfieldprogressioninglaucoma.Ophthalmology119:468-473,20123)HeijlA,BuchholzP,NorrgrenGetal:Ratesofvisualfieldprogressioninclinicalglaucomacare.ActaOphthalmol91:406-412,2013(52)

屈折矯正手術:オルソケラトロジーによる近視進行抑制効果

2015年4月30日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載179大橋裕一坪田一男179.オルソケラトロジーによる近視進行平岡孝浩筑波大学医学医療系眼科抑制効果オルソケラトロジーによる学童期の近視進行抑制効果が多数報告されるようになった.既報によれば32~63%の抑制効果が期待できる.過去にさまざまな近視進行抑制法が試みられたが,エビデンスが確認された手法は少なく,その中でもオルソケラトロジーは有効性と安全性のバランスに優れ,小児期に導入しやすい方法といえる.オルソケラトロジー(orthokeratology:OK)の近視進行抑制効果が学術論文として初めて報告されたのは2004年である.Cheungらは,左眼のみOK治療を受けていた11歳男児の眼軸長変化を2年間追跡調査したところ,左眼は0.13mmしか延長しなかったのに対して,治療を受けていない右眼は0.34mmの眼軸長伸長を認めたと報告した1).なお,OKにおける近視進行を評価する場合には眼軸長変化が指標として用いられる.なぜなら,OK治療中は角膜がフラット化しているため屈折は常に正視に近い状態となっているため,屈折変化を経時的に調べてもほとんど変化しないことになってしまうからである.その後,2つのパイロットスタディが施行され,2年間の観察期間においてOK治療群は眼鏡群やソフトコンタクトレンズ(SCL)群よりも50%前後の眼軸長伸長抑制効果を有することが示された(表1).そこで筆者らは日本人において類似の臨床研究を行ったところ,OK群は対照群よりも眼軸長伸長が36%抑制されたことを確認した2).最近では,香港でエビデンスレベルの高いランダム化臨床試験が施行され,その結果においてもOK群は眼鏡対照群よりも43%の眼軸長伸長抑制を示したと報告された3).上記にあげた臨床研究はいずれも2年間に限局されていたため,つぎに筆者らは5年間へと観察期間を延長して前向き研究を行ったところ,きわめて興味深い結果が得られた.まず,5年の長期にわたっても約30%の眼軸伸長抑制効果を有することが判明した.しかし,治療開始後3年間は有意な抑制効果がみられるものの,4年目以降はその効果が減弱することも明らかとなった4)(図1).また,治療開始年齢が早いほど近視進行抑制効果が強いこともわかり,この知見は他の研究でも確認されるようになっている.さらに最近では,partialreductionortho-kといって,強度近視眼に対してOKで4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させるというスタディが施行され,眼鏡対照群よりもきわめて強い表1オルソケラトロジー(OK)の小児眼軸長伸長抑制効果著者(雑誌,発行年)年齢(歳)OK群の眼軸伸長(2年間)対象群の眼軸伸長(眼鏡orSCL)対照群と比較した抑制効果Choetal(CurrEyeRes.2005)7~120.29mm0.54mm(眼鏡)46%Wallineetal(BrJOphthalmol.2009)8~110.25mm0.57mm(SCL)56%Kakitaetal(InvestOphthalmolVisSci.2011)8~160.39mm0.61mm(眼鏡)36%Santodomingo-Rubidoetal(InvestOphthalmolVisSci.2012)6~120.47mm0.69mm(眼鏡)32%Choetal(InvestOphthalmolVisSci.2012)6~100.36mm0.63mm(眼鏡)43%CharmJetal(OptomVisSci.2013)8~110.19mm0.51mm(眼鏡)63%(49)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155130910-1810/15/\100/頁/JCOPY 眼軸長(mm)2726252423オルソケラトロジー眼鏡①*②*③*④⑤pre1Y2Y3Y4Y5Y経過(year)眼軸長伸長オ眼鏡群(mm)(mean±SD)ルソケラトロジー群(mm)(mean±SD)p値①0.38±0.200.19±0.090.0002*②0.33±0.180.26±0.130.0476*③0.29±0.160.19±0.150.0385*④0.24±0.180.18±0.170.0938⑤0.17±0.140.16±0.130.8633*対応のないt検定図1オルソケラトロジー群と眼鏡群における5年間の眼軸長変化両群とも年々眼軸長は伸長していくが,群間比較を行うと1~3年目(①~③)は眼軸長の変化量に有意差がみられ,オルソケラトロジー群で有意に伸びが抑制されている.4年目(④)もオルソケラトロジー群のほうが眼軸伸長が抑制されているが有意差は認められなかった.5年目(⑤)はほぼ同値であった.(文献4)より引用改変)眼軸伸長抑制効果(63%)が得られたと報告されている.OK開始時の近視度数が大きいほうが眼軸長伸長抑制効果は強いとの報告は他にも散見されており,この点に関しては今後の検証が必要である.また,乱視を有する近視眼を対象としてトーリックOKを施行した場合も有意な眼軸伸長抑制効果が確認されたと報告されており5),近視進行抑制治療を目的としたOKの適応が拡大している.上記のような効果が得られる理由として,周辺部遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)の改善がそのメカニズムであると推測されているが(図2),真のメカニズムは残念ながら解明されていない.過去にさまざまな近視進行抑制法が試みられてきたが,もっとも強い効果を示したのは1%アトロピン点眼である.これと比較するとOKの抑制効果は若干劣ることは否めないが,アトロピンがもたらす調節麻痺や散瞳,近方視力低下,さらには全身副作用出現などの危険性を考えると,OKは明らかに小児に導入しやすいといえる.また,アトロピン点眼は視機能を犠牲にして近視進行を抑制するという側面を有するのに対して,OKは514あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015周辺部遠視性デフォーカス結像面結像面遠視性デフォーカスの改善A.眼鏡(凹レンズ)による矯正B.オルソケラトロジー治療後図2眼鏡矯正とオルソケラトロジーでの網膜結像面の違いA:近視眼に対して通常の眼鏡で矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じ,これが眼軸を伸長(近視を進行)させるトリガーとなると考えられている.B:オルソケラトロジー治療後は角膜中央はフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜は肥厚・スティープ化するため周辺での屈折力が増し,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.その結果,眼軸長伸長が抑制され,近視が進行しにくくなるという仮説が支持されている.裸眼視力を向上させるため,視機能の改善を図りながら,近視進行抑制効果を得るというメリットがある.ただし,CL装用に起因する感染性角膜潰瘍を発症した場合はきわめて重篤な視力障害をきたす可能性があり,レンズケアを含めた患者教育には細心の注意を払う必要がある.未解決の問題点としては,1)治療を中止するとリバウンド現象が出るのか,2)リバウンド現象を避けるためには,どの程度の治療継続が必要か,3)最大限の効果を得るための最適の治療開始年齢は何歳か,4)アトロピン点眼など他の治療法との併用療法の効果,などがあげられる.さらなる研究の蓄積が待たれる.文献1)CheungSW,ChoP,FanD:Asymmetricalincreaseinaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratologypatient.OptomVisSci81:653-636,20042)KakitaT,HiraokaT,OshikaT:Influenceofovernightorthokeratologyonaxialelongationinchildhoodmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:2170-2174,20113)ChoP,CheungSW:RetardationofmyopiainOrthokeratology(ROMIO)Study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.InvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,20124)HiraokaT,KakitaT,OkamotoFetal:Long-termeffectofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy.InvestOphthalmolVisSci53:3913-3919,20125)CharmJ,ChoP:Highmyopia-partialreductionorthok:a2-yearrandomizedstudy.OptomVisSci90:530539,2013(50)

眼内レンズ:分節状屈折型多焦点眼内レンズ

2015年4月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋342.分節状屈折型多焦点眼内レンズ荒井宏幸みなとみらいアイクリニック欧州を中心に使用されている分節状屈折型多焦点眼内レンズLentisRMplusを紹介する.近用部を分節状に配置することで,光学的なロスを低減している.乱視用の度数設定は100分の1D単位となり,ほぼオーダーメイドである.最近は中間視力の向上を目的にLentisRMplusXが開発された.●分節状屈折型多焦点眼内レンズOculentis社製LentisRMplusはおもに欧州で発売されており,日本では未承認である.LentisRMplusの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が加入部分に相当する構造になっている.2013年11月には中間視力をより重視した設計のLentisRMplusXが発売された.遠用部と近用部の接合部分の角度と形状が変化している(図2).屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能で,レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲は0D~+36Dであり,toricレンズにおいては0.25~12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisRMplusの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型多焦点レンズと回折型レンズである.同心円状の屈折型眼内レンズには,遠方と近方のzone部分のギャップがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このギャップ部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に約20%の入射光が減弱する.残りの80%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それがむずかしいために躊躇することも多い.LentisRMplusは光学的なロスを最小限に留めるよう(47)図1LentisRMplusの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.図2LentisRMplusとMplusXのシェーマMplusXでは中央の陥凹部が少し小さくなり,接合部の傾斜が水平方向に変更されている.中間視力を向上させるための設計変更である.LENTIS.LENTIS.に設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視が担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のギャップは1本のラインしかなく,したがって,瞳孔径が大きくなっても表出するギャップはラインの1部分のみである.そのギャップも非常に精緻に作製されている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisRMplusおよびMplusXにはtoricレンズの設定がある.Toricレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である(図3).レンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデーあたらしい眼科Vol.32,No.4,20155110910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3LentisRMplustoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.1.61.41.21Lentis遠方LentisX遠方Lentis近方0.80.6LentisX近方0.40.20図5LentisRMplusとLentisRMplusXの術後裸眼視力の経過遠方視力はMplusが良好であり,近方視力はMplusXが優れている.n=149(Mplus:101,MplusX:48)タを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転をつけて位置づけされており,.内での固定位置は球面レンズと同様に12時.6時の縦方向に固定すればよい.納期は約5週間である(図4).●MplusとMplusXの使い分け現在の欧州における傾向は,より中間視を確保する方向にあり,すでに3重焦点の多焦点眼内レンズが発売されている.その傾向にあわせるようにLentisRMplusXが開発された.中間~近方への光学分布が強化される反術前1W1M3M6M1Y図4LentisRMplustoricの細隙灯顕微鏡写真下方の加入部分の反射とtoricラインが観察される.面,遠用部の面積が小さくなったため,遠方視力の立ち上がりはやや低下傾向にある(図5).瞳孔径の大きい場合には従来のMplusにても十分な近方視力が確保できるため,個々の症例での使い分けが必要であろう1).●今後の展望多焦点眼内レンズの使用頻度は,今後も増加することが予想される.それぞれのレンズには特性があり,個々の症例に応じたレンズの選択が重要である2).今回紹介したLentisRMplusは術後満足度の高いレンズとして重要な選択肢の一つになると思われる3).文献1)BerrowEJ,WolffosohnJS,BikhuPSetal:Visualperformanceofnewbi-aspheric,segmented,asymmetricmulti-focalIOL.JRefractSurg305:84-858,20142)Braga-MeleR,ChangD,DeweySetal:Multifocalintraocularlenses:relativeindicationsandcontraindicationsforimplantation.JCataractRefractSurg40:313-322,20143)VenterJA,PelouskovaM,CollinsBMetal:Visualoutcomesandpatientsatisfactionin9366eyesusingarefractivesegmentedmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg39:1477-1484,2013

コンタクトレンズ:製品選択

2015年4月30日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一11.製品選択●はじめに適正なコンタクトレンズ(CL)を処方するためには,特別な条件がある場合を除いて,眼科医がCLの適応者に対してハードCLとソフトコンタクトレンズ(SCL)のどちらの適応なのかを判断し,レンズの種類(表1)を選択する必要がある1).そして,処方可能なメーカーのCLを漠然と選択するのではなく,患者のさまざまな条件に応じて適当な製品を選択し処方する必要がある.本稿ではSCLの適応となった場合を想定した製品選択ついて解説する.●SCLの選択の考え方SCLの選択の考え方の流れは,まずSCLの使用期間分類からレンズの種類を選択し,乱視を考慮しSCLの機能分類からレンズの種類を選択する.ここで球面レンズを選択することになった場合には,調節補助の必要性の有無を考慮して焦点分類から種類を選択する.トーリックレンズを選択することになった場合には,円柱軸の安定化デザイン分類から種類を選択する.つぎに素材分類から種類を選択し,最終的に各メーカーの製品特性から具体的なSCLの製品を選択する(図1).●使用期間分類からの選択SCLはレンズの使用期間によって分類(使用期間分類表1コンタクトレンズの分類ハードコンタクトレンズ球面レンズ単焦点レンズ遠近両用レンズトーリックレンズ前面トーリックレンズ後面トーリックレンズ両面トーリックレンズ球面レンズ単焦点レンズソフトコンタクト遠近両用レンズレンズトーリックレンズ前面トーリックレンズ後面トーリックレンズ塩谷浩しおや眼科使用期間分類からの選択(1日交換)(1週間交換)(頻回交換)(定期交換)(従来型)機能分類からの選択(球面レンズ)(トーリックレンズ)焦点分類からの選択円柱軸の安定化デザインからの選択(単焦点レンズ)(遠近両用レンズ)(プリズムバラスト)(ダブルスラブオフ)素材からの選択(シリコーンハイドロゲル)(ハイドロゲル)製品選択図1ソフトコンタクトレンズの選択の考え方または装用スケジュール分類:1日交換,1週間交換,頻回交換,定期交換,従来型)されており,想定されるCLの使用スタイル(たとえば,スポーツやイベント時などの必要時のみの使用)を考慮し,簡便性を求めている場合,レンズの汚れに配慮する必要がある場合,若年者でレンズの扱いに不安がある場合,より高い安全性を求める場合には,使用期間が最短で常に一定のレンズ性能を期待できる1日交換SCLを選択する.コストを考慮する必要がある場合など状況に応じて,最長2週間までの使用期間の頻回交換SCLや1カ月あるいは3カ月と使用期間が長い定期交換SCLを選択する.より広いレンズ規格の製作範囲を必要とする場合や,より低いコストを考慮する必要がある場合には最長使用期間を設けていない従来型SCLを選択する.また,とくに連続装用を要する場合には1週間交換SCLを選択する.(45)あたらしい眼科Vol.32,No.4,20155090910-1810/15/\100/頁/JCOPY 510あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(00)●機能分類からの選択使用期間分類からレンズの種類を選択したら,通常は機能分類(球面レンズ,トーリックレンズ)から球面レンズを選択し,調節補助の必要性の有無を考慮して焦点分類から種類を選択する.角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D以上で球面レンズでの矯正視力が不良であったり,自覚的な見え方の質が不良となったりすることが想定される場合には,機能分類からトーリックレンズを選択し,円柱軸の安定化デザイン分類(プリズムバラストデザイン,ダブルスラブオフデザイン)から種類を選択する2).トーリック面の部位(前面,後面)を考慮して選択する場合もある.●焦点分類からの選択機能分類から球面レンズを選択したら,通常は焦点分類(単焦点レンズ,遠近両用レンズ)から単焦点レンズを選択する.加齢に伴い調節力の低下した老視患者,ときには近業による眼精疲労の訴えのある患者,眼内レンズ挿入眼の患者へは,調節補助を目的に遠近両用レンズを選択する.遠近両用レンズは製品により光学部特性が異なるため,それぞれの患者に合わせて適正なデザインのレンズを選択する.●素材分類からの選択焦点分類からレンズを選択したら,素材分類(シリコーンハイドロゲル,ハイドロゲル)から種類を選択する.想定される装用時間(1日の装用時間,装用を開始する年齢を考慮したCL処方後の延べ装用時間)が長い場合,装用スタイルが連続装用や不規則装用の場合,乾燥による角結膜変化がある場合,装用時に乾燥感が強い場合には,酸素透過性が高く乾燥しにくいシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)を選択する.SHCL装用時に素材の硬さやレンズ周辺部形状により異物感が強い場合,SHCLではフィッティングが不良の場合,SHCLで角結膜障害が発生しやすい場合(SHCL非適応眼)にはハイドロゲルレンズを選択する.●メーカーの製品特性からの選択素材分類からレンズを選択したら,各メーカーの製品特性からレンズを選択する.SHCLを選択した場合には,患者に応じて耐汚染性や耐乾燥性を考慮する必要がある場合には表面処理や表面加工の特性から製品を選択する.また,装用感を考慮する必要がある場合には,これに加えて素材の柔軟性,含水率,周辺部デザインから製品を選択する.ハイドロゲルレンズを選択した場合には,装用感や見え方の質,取り扱いの容易さなどを考慮する必要がある場合にはFDA分類,光学部デザイン(球面,非球面),周辺部デザイン,中心厚,UVカット,ハンドリング,レンズパッケージの特徴から製品を選択する.文献1)塩谷浩:はじめてのCL処方3HCLの適応・SCLの適応.日コレ誌56:67-69,20142)塩谷浩ほか:ソフトコンタクトレンズの乱視矯正効果.日コレ誌42:171-177,2000ZS941あたらしい眼科Vol.32,No.4,2015(00)●機能分類からの選択使用期間分類からレンズの種類を選択したら,通常は機能分類(球面レンズ,トーリックレンズ)から球面レンズを選択し,調節補助の必要性の有無を考慮して焦点分類から種類を選択する.角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D以上で球面レンズでの矯正視力が不良であったり,自覚的な見え方の質が不良となったりすることが想定される場合には,機能分類からトーリックレンズを選択し,円柱軸の安定化デザイン分類(プリズムバラストデザイン,ダブルスラブオフデザイン)から種類を選択する2).トーリック面の部位(前面,後面)を考慮して選択する場合もある.●焦点分類からの選択機能分類から球面レンズを選択したら,通常は焦点分類(単焦点レンズ,遠近両用レンズ)から単焦点レンズを選択する.加齢に伴い調節力の低下した老視患者,ときには近業による眼精疲労の訴えのある患者,眼内レンズ挿入眼の患者へは,調節補助を目的に遠近両用レンズを選択する.遠近両用レンズは製品により光学部特性が異なるため,それぞれの患者に合わせて適正なデザインのレンズを選択する.●素材分類からの選択焦点分類からレンズを選択したら,素材分類(シリコーンハイドロゲル,ハイドロゲル)から種類を選択する.想定される装用時間(1日の装用時間,装用を開始する年齢を考慮したCL処方後の延べ装用時間)が長い場合,装用スタイルが連続装用や不規則装用の場合,乾燥による角結膜変化がある場合,装用時に乾燥感が強い場合には,酸素透過性が高く乾燥しにくいシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)を選択する.SHCL装用時に素材の硬さやレンズ周辺部形状により異物感が強い場合,SHCLではフィッティングが不良の場合,SHCLで角結膜障害が発生しやすい場合(SHCL非適応眼)にはハイドロゲルレンズを選択する.●メーカーの製品特性からの選択素材分類からレンズを選択したら,各メーカーの製品特性からレンズを選択する.SHCLを選択した場合には,患者に応じて耐汚染性や耐乾燥性を考慮する必要がある場合には表面処理や表面加工の特性から製品を選択する.また,装用感を考慮する必要がある場合には,これに加えて素材の柔軟性,含水率,周辺部デザインから製品を選択する.ハイドロゲルレンズを選択した場合には,装用感や見え方の質,取り扱いの容易さなどを考慮する必要がある場合にはFDA分類,光学部デザイン(球面,非球面),周辺部デザイン,中心厚,UVカット,ハンドリング,レンズパッケージの特徴から製品を選択する.文献1)塩谷浩:はじめてのCL処方3HCLの適応・SCLの適応.日コレ誌56:67-69,20142)塩谷浩ほか:ソフトコンタクトレンズの乱視矯正効果.日コレ誌42:171-177,2000ZS941