●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二17.抗VEGF薬と脈絡膜厚古泉英貴東京女子医科大学眼科学近年,各種黄斑疾患に対する抗VEGF治療後に,脈絡膜厚が減少することが相次いで報告されている.脈絡膜厚の減少の程度は薬剤の種類によっても異なると考えられ,最近では治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割も注目されている.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)治療は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を有する滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や病的近視,糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対して広く用いられている.抗VEGF薬はCNVや黄斑浮腫といった視機能低下に直結する病態への直接作用のみならず,さらに深部にある脈絡膜にも形態的な変化をもたらすことが近年相次いで報告されている.本稿では抗VEGF治療と脈絡膜厚に関する現時点での知見につき概説する.滲出型加齢黄斑変性(AMD)VEGFがその発生と進展に重要な役割を演じているCNVへの直接の薬理作用により治療効果を発揮するが,抗VEGF治療後には脈絡膜厚が変化することが報告されている.筆者らは滲出型AMD40眼に対しラニビズマブを治療導入期に月1回,3カ月連続で投与し,以降は毎月経過観察のうえ,必要に応じて追加投与を行った.その結果,平均中心窩下脈絡膜厚(subfovealchoroidalthickness:SCT)は治療前の244μmから3カ月後には226μmと有意に減少し,その減少率は7.4%であった1).3カ月後以降は追加治療を行ってもSCTの変化はほぼプラトーであった.SCTの減少程度と治療回数の相関はみられず,滲出型AMDのサブタイプおよび過去のAMD治療歴にかかわらず同様の減少傾向がみられた.その一方,治療を行わなかった僚眼ではSCTの変化はみられなかった.抗VEGF治療後の脈絡膜厚の減少の理由として,脈絡膜血管からの透過性の減少,あるいはVEGF阻害による直接的な脈絡膜血管収縮,および一酸化窒素阻害などを介した間接的な脈絡膜血管収縮などが推察される.しかし,Ellabbanら2),小笠原ら3)(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYは同様の検討を行い,平均SCTの減少率は最終経過観察時においてそれぞれ1.4%,3.1%であり,治療前と比較して有意な差がみられなかったとしている.したがって,ラニビズマブの脈絡膜厚に与える影響はコンセンサスが得られていないのが現状である.最近では脈絡膜厚の予後予測因子としての役割も注目されている.Kangら4)はラニビズマブ治療を6カ月間行った典型AMD40眼の治療成績と治療前SCTの関連につき検討している.同報告では筆者らの報告1)と同様に,治療前と比較して平均SCTは減少し,さらに治療前のSCTが厚いほど有意に網膜形態の改善と視力経過が良好であったとしている.典型AMDでは正常眼と比較して平均SCTがやや薄いことが知られており,ラニビズマブ治療によりさらに脈絡膜が菲薄化することが,治療成績が不良であることと関連している可能性がある.治療前アフリベルセプト3回投与後図1典型AMDに対するアフリベルセプト治療前(上),治療後(下)SCTは217μmから182μmへと減少している.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015839より新しい抗VEGF薬であるアフリベルセプト治療後の脈絡膜厚変化はどうであろうか?筆者らは治療既往のない滲出型AMD102眼に対しアフリベルセプトを月1回,3カ月連続で投与し,3カ月間の脈絡膜厚の変化を検討した5).その結果,平均SCTは252μmから3カ月後には218μmとなり,減少率13.5%とラニビズマブの場合と比較して大きいことを報告している(図1).アフリベルセプトはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に対し,既存の抗VEGF薬と比較して治療レスポンスが高いとされているが,もともと脈絡膜が肥厚する場合が多いPCVにおいて,アフリベルセプトの脈絡膜に対する薬理作用が治療効果と関連している可能性があり,今後の研究が注目される.糖尿病黄斑浮腫(DME)近年,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対してもラニビズマブ,アフリベルセプトが適応拡大され,その治療戦略は新たな局面を迎えている.DME眼においては,脈絡膜厚は肥厚するという報告や逆に菲薄化するという報告もあり,見解の一致はみられていない.抗VEGF治療と脈絡膜厚に関してはいくつかの報告がなされており,Lainsら6)はDMEに対し,ベガプタニブ,ベバシズマブおよびラニビズマブを用いて治療を行った結果,抗VEGF治療を行った25眼ではSCTが有意に減少したのに対し,黄斑部のレーザー治療のみを行った25眼ではSCTに有意な変化がみられなかったとしている.Yiuら7)はDME59眼において,33眼でベバシズマブあるいはラニビズマブの投与を行い,26眼では治療を行わず経過観察のみとした.抗VEGF治療を行った群では平均SCTは治療前247μmから6カ月後には225μmに減少した一方,治療を行わなかった群ではSCTの変化がみられなかったとしている.治療眼におけるSCTの変化は注射回数,視力変化,中心窩網膜厚の変化とは相関がみられなかった.DMEにおいても治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割が模索されている.Rayessら8)はDME53眼においてベバシズマブあるいはラニビズマブによる治療を行ったところ,3カ月後には平均SCTは225μmから201μmに減少し,治療前のSCTが厚いほうが網膜の解剖学的改善および視力改善の程度が良好であったとしている.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)Tsuikiら9)は黄斑浮腫を伴う片眼性のCRVOに対してベバシズマブによる加療を行い,SCTの変化につい840あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015て検討している.同報告ではCRVO36例において,患眼での平均SCTは257μmであり,CRVOのない僚眼での223μmと比較して有意に肥厚していた.CRVO眼では眼内のVEGFが高値であり,VEGFによる脈絡膜血管拡張作用などの影響が推察される.そのうち22眼のCRVOに対しベバシズマブによる加療を行ったところ,平均SCTは治療前の267μmから治療後には228μmまで減少した.おわりに各種黄斑疾患における抗VEGF治療後には脈絡膜厚が減少しうる.脈絡膜厚と病態との関連や予後予測因子としての役割は今後ますます明らかになっていくものと考えられ,網膜所見のみならず,脈絡膜所見をも包括的にとらえて黄斑疾患診療を行う時代は,もうそこまで来ているのかもしれない.文献1)YamazakiT,KoizumiH,YamagishiTetal:Subfovealchoroidalthicknessafterranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology119:1621-1627,20122)EllabbanAA,TsujikawaA,OginoKetal:Choroidalthicknessafterintravitrealranibizumabinjectionsforchoroidalneovascularization.ClinOphthalmol6:837-844,20123)小笠原雅,丸子一朗,菅野幸紀ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内注入後の網脈絡膜厚変化.日眼会誌116:643-649,20124)KangHM,KwonHJ,YiJHetal:Subfovealchoroidalthicknessasapotentialpredictorofvisualoutcomeandtreatmentresponseafterintravitrealranibizumabinjectionsfortypicalexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol157:1013-1021,20145)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Short-termchangesinchoroidalthicknessafteraflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol159:627-633,20156)LainsI,FigueiraJ,SantosARetal:Choroidalthicknessindiabeticretinopathy:theinfluenceofantiangiogenictherapy.Retina34:1199-1207,20147)YiuG,ManjunathV,ChiuSJetal:Effectofanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyonchoroidalthicknessindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol158:745751,20148)RayessN,RahimyE,YingGSetal:Baselinechoroidalthicknessasapredictorforresponsetoanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol159:85-91,20159)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralretinalveinocclusion.AmJOphthalmol156:543-547,2013(76)