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硝子体手術のワンポイントアドバイス 145.網膜前出血を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(中級編)

2015年6月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載145145網膜前出血を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに増殖糖尿病網膜症では多量の網膜前出血を認めるものの,硝子体腔内に出血が拡散しない症例に遭遇することがしばしばある(図1).後部硝子体が未.離の若年例に多い傾向があるが,中高年でもみられる.このような症例では手術時に多少のコツが必要である.●後部硝子体膜に窓を開けるこのような症例では,通常,肥厚した後部硝子体膜が網膜前出血をパックしているとともに,膜自体の表面が平滑で光沢があり,硝子体カッターの吸引のみでは人工的後部硝子体.離作製が困難なことが多い.まず,Vランスなどの先端が鋭利な器具で肥厚した後部硝子体膜の一部を切開し(図2),その切開創を周囲に拡大するようにして人工的後部硝子体.離を作製する(図3).切開する部位は,網膜との距離がある程度確保できる部位であればどこでもよいが,通常は網膜前出血が厚い部位を選択する.後部硝子体膜に窓が開けば,その部位から網膜下出血は比較的容易に吸引できる(図4).出血を吸引したあとは,肥厚した後部硝子体膜あるいは増殖膜と網膜との癒着部位が明確に確認できるので,その後の操作が順調に行える.硝子体カッターあるいは硝子体鑷子を用いて増殖膜を周辺に向かって切除していく.大半の症例では硝子体カッターのみで処理が可能であるが,癒着が強固な部位に対しては無理をせず適宜,硝子体剪刀を用いる.肥厚した後部硝子体膜およびこれに連続する増殖膜がしだいに一塊として挙上されてくるので,あとは硝子体カッターで周辺部に向かって切除していけばよい(図5).このような症例は網膜症の活動性が高いので,図1術中所見(1)多量の網膜前出血を認めるものの,硝子体腔内に出血が拡散していない.図2術中所見(2)Vランスなどの先端が鋭利な器具で肥厚した後部硝子体膜の一部を切開する.図3術中所見(3)切開創を周囲に拡大するようにして人工的後部硝子体.離を作製する.図4術中所見(4)後部硝子体膜の窓から網膜下出血は比較的容易に吸引できる.図5術中所見(5)操作を進めるに従い,肥厚した後部硝子体膜およびこれに連続する増殖膜が一塊として挙上されてくる.網膜硝子体癒着は比較的緩く,周辺部に向かって容易に人工的後部硝子体.離が作製できることが多い.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158470910-1810/15/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 174.補償光学(AO)技術と眼科領域での展望

2015年6月30日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第174回◆眼科医のための先端医療山下英俊補償光学(AO)技術と眼科領域での展望後町清子・亀谷修平(日本医科大学千葉北総病院眼科)補償光学技術について補償光学(adaptiveoptics:AO)とは,元来,天文学分野において発達した技術です.これは大気中のゆらぎによって発生する光のゆがみを補正し,より鮮明な天体画像を得るために開発された技術です.光を波としてとらえたとき,大気中のちりなどにより到達波面に位相差が生じます(波面収差).この位相のずれを補正する技術がAO技術です.この技術は1990年代ごろから天体望遠鏡に応用されはじめました.ハワイにある日本の国立天文台のすばる望遠鏡もこのAO技術を応用しています.AOのシステムは波面センサー,制御装置,可変形鏡の3つの要素で成り立ちます.入射したゆがんだ波面は波面センサーで計測されます.計測された波面ゆがみは制御装置で解析され,この情報をもとに電磁可変形鏡がその表面の形状を変形させます.可変形鏡は,波面ゆがみに対し反対の位相を与える形状に変化することにより,歪んだ波面を整え,鮮明な画像が撮影できるというシステムです.この「波面センサー→制御装置→可変形鏡」のしくみを高速で繰り返し(ループ制御)行うことにより,リアルタイムでの補正が可能となります(図1).AO技術は眼底イメージング機器に応用可能であり,現在,AO眼底カメラ,AO適用走査レーザー検眼鏡(adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopes:AO-SLO),AO光干渉断層計(adaptiveopticsopticalcoherencetomography:AO-OCT)が臨床的あるいは研究目的に使用されています.現在市販の高解像度眼科診断器機(SLO,SD-OCT)と解像度,性能を比較すると,AO技術を搭載していない市販器機の光軸方向分解能(水平分解能)は15~20μmですが,AO技術を用いることにより分解能は3μm以下となります.補償光学と錐体細胞AO眼底検査機器でもっとも研究が進んだ分野は錐体細胞の解析です.AO技術を搭載していない機器では分解能の限界のために困難だった個々の錐体細胞の解析が,AO眼底検査機器では可能となりました.AO眼底カメラで撮影した正常者の錐体細胞を図2に示します.正常例では錐体細胞は錐体モザイク配列(conemosaic)を形成します.錐体細胞は黄斑中心ほど細胞密度が高く,個々の錐体の直径が小さくなります.黄斑中心から離れるに従い錐体細胞密度は低くなり,これに伴い錐体細胞間の距離は増大します.図2は黄斑中心から4°鼻側のAO眼底カメラ画像です.高輝度の円形信号とし眼底からの画像位相差のある波面波面収差の測定シャック・ハルトマン波面センサーコンピューターとプログラムソフトによるAO制御装置測定と補正を繰り返すこ解析と補正をとで波面収差を補正するコントロール波面収差の補正可変形鏡(デフォーマブルミラー)AO画像AOで補正された波面図1補償光学システムの原理(79)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158430910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2AO眼底カメラで撮影した正常錐体細胞黄斑中心から4°鼻側のAO眼底カメラ画像.高輝度の円形信号としてとらえられている部分は錐体細胞の外節部分と考えられている.組織像での報告と同じように,黄斑中心から離れるに従い個々の錐体の直径が大きくなるが,この部位での錐体の直径は6~8μm程度である.:10μm.てとらえられている部分は,組織学的には錐体細胞の外節部分,SD-OCTではinterdigitationzone(IZ)に相当する部分と考えられています.補償光学の可能性筆者らの使用しているAO眼底カメラ(rtx1TM,ImagineEyes社,フランス)は約2.4μmの面分解能をもちますが,黄斑中心の錐体細胞は直径が2μm以下となるため,黄斑中心では鮮明な画像を得ることができません.また,後極の杆体細胞も2μm以下であるため撮影することができません.しかし,研究用機器としては,杆体細胞や黄斑中心の錐体細胞が撮影可能なAO-SLOシステムがすでに開発されています1).蛍光眼底造影システムをAO-SLOと組み合わせることにより,鮮明に網膜毛細血管が観察可能となり,糖尿病網膜症の毛細血管瘤も明瞭に観察可能なシステムも報告されました2,3).全色盲(achromatopsia)では視細胞内節は比較的正常ですが,外節の異常のために通常のAO眼底カメラやAO-SLO撮影では錐体モザイクに相当する部分が低輝度となります.このような場合,AO眼底カメラやAO-SLOでの錐体モザイクの視認性の低下が,錐体細胞全体の異常なのか,外節の部分の異常なのか判別することが困難でした.近年,AO-SLOにsplitdetectorとよばれる光学系の新機能を搭載することにより,錐体細胞の内節を明瞭に観察可能なシステムが報告されました4).これにより,全色盲でも錐体細胞内節部分は維持されていることが明らかとなりました.また,OCTにAO技術を応用することによって,より高精細な網膜断層像を得る技術も報告されています5,6).これらの新しい技術により,視細胞変性疾患のより詳細な病理が解明することが期待されています.文献1)CooperRF,DubisAM,PavaskarAetal:Spatialandtemporalvariationofrodphotoreceptorreflectanceinthehumanretina.BiomedOptExpress2:2577-2589,20112)GrayDC,MeriganW,WolfingJIetal:Invivofluorescenceimagingofprimateretinalganglioncellsandretinalpigmentepitheliumcells.OpticsExpress14:7144-7158,20063)DubowM,PinhasA,ShahNetal:Classificationofhumanretinalmicroaneurysmsusingadaptiveopticsscanninglightophthalmoscopefluoresceinangiography.InvestOphthalmolVisSci55:1299-309,20144)ScolesD,SulaiYN,LangloCSetal:Invivoimagingofhumanconephotoreceptorinnersegments.InvestOphthalmolVisSci55:4244-4251,20145)FernandezEJ,PovazayB,HermannBetal:Threedimensionaladaptiveopticsultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyusingaliquidcrystalspatiallightmodulator.VisionRes45:3432-3444,20056)KocaogluOP,FergusonRD,JonnalRSetal:Adaptiveopticsopticalcoherencetomographywithdynamicretinaltracking.BiomedOptExpress5:2262-2284,2014■「補償光学(AO)技術と眼科領域での展望」を読んで■今回は,補償光学(AO)技術を眼底の画像解析に組織は,水を含んだ組織の一番奥に網膜があり,その応用するという先端的な研究を後町清子先生,亀谷修さらに一番奥まったところに錐体があるのですが,こ平先生(日本医科大学千葉北総病院眼科)に解説いたの観察に天体観測に利用されているAOを利用するだきました.これにより錐体一個一個が描出されるとことで,解像度を各段に上昇させることができるとののこと,技術の進歩には目をみはるばかりです.眼球発想は素晴らしいと考えます.眼科は組織学的な診断844あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(80) が,腫瘍などを除いて大変困難な診療体系をもってい日本という社会を考えたとき,日本でしか作れないます.細胞レベルまたはsubcellularのレベルでの画ものを世界に供給するという戦略を推進することが叫像解析により,患者の負担軽減と診断の精度向上といばれています.日本版NIHともいわれる日本医療研う2つの,多くの場合には二律背反になることを両立究開発機構(JapanAgencyforMedicalResearchさせたコンセプトはみごとです.andDevelopment:AMED)がめざすところも,日本医学は技術の進歩と同期して進歩するものであるこでの世界初の医薬品開発を体系的に行おうというコンとはいろいろな例により示されていますが,近年,眼セプトによるものです.医薬品に比較して医療機器に科医学における画像解析の進歩により新しい疾患概念ついてはやや危機的ともいえ,現時点で日本の医療にが出てきて,治療に貢献していることは日本眼科学会使われる多くの医療機器は輸入に頼っています.日本として誇るべきことだと考えます.いわば名人芸で初において新しい発想で医療機器を生み出していかなけめて行うことのできた診療が,多くのドクター,コメればなりません.そのためには,後町先生,亀谷先生ディカルスタッフによって患者に供給できるようになのように機器開発に卓越した眼科臨床医を多く育成ってきました.後町先生,亀谷先生も「これらの新しし,機器開発会社と共同研究を自由に行うことが重要い技術により,視細胞変性疾患のより詳細な病理が解と考えます.今後,AOを利用した精密な眼底画像解明することが期待されています」と述べておられるよ析法がますます発展すること,そこに日本が大きく貢うに,この新しい技術で,新しい疾患概念が日本から献することを願ってやみません.世界に向けて発信できるとよいなと考えます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015845

眼瞼・結膜:アトピー性結核膜炎と春季カタル

2015年6月30日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人高村悦子6.アトピー性角結膜炎と春季カタル東京女子医科大学眼科学教室春季カタルはアトピー体質の学童の男児に好発し,アトピー性角結膜炎は顔面のアトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎である.アトピー性皮膚炎は春季カタルの症例でも合併している場合があり,アトピー性角結膜炎との鑑別がむずかしい症例も存在する.●はじめにアトピー性角結膜炎も春季カタルも,アレルギー性結膜疾患のなかでも重症型に位置づけられる.その理由は,結膜の増殖性変化や瘢痕といった結膜の器質的変化や角膜上皮障害を伴うことがあり,治療にも苦慮する場合が多いからである.●春季カタルの臨床像アトピー体質の学童,とくに男児に好発する.症状は通年性にみられるが,悪化時には,激しい眼掻痒感や角膜上皮障害のため,異物感,眼痛,視力低下を自覚する.上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖(図1)や,角膜輪部にはTrantas斑とよばれる炎症細胞の浸潤による白色の小隆起や堤防状隆起(図2)など,結膜の増殖性変化が認められる.また,角膜には,点状表層角膜炎,潰瘍底に堆積物が沈着し遷延性の角膜上皮欠損を伴うシールド(shield:盾型)潰瘍,潰瘍内の堆積物が蓄積し角膜面よりやや隆起して観察される角膜プラークなど多彩な所見を呈する.●アトピー性角結膜炎の臨床像アトピー性角結膜炎とは,アトピー性皮膚炎,なかでも顔面のアトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎であり,1952年にアトピー性皮膚炎に伴う特徴的な角結膜病変として,Hogan1)によって最初に報告された.顔面を中心に皮膚炎の増悪化が起こる思春期以降のアトピー性皮膚炎患者に認められる場合が多い.臨床像はバリエーションが多く,瞼結膜の乳頭増殖が目立たないものから,春季カタルに類似した石垣状乳頭を呈するものまでさまざまである.瞼結膜は全体に肥厚し,結膜下の線維化によると思われる白色の瘢痕を特徴とする2).瘢痕形成により,乳頭増殖は春季カタルに比べ突出が目立たない場合もある(図3).これらの瞼結膜の特徴的な所見は,上眼瞼のみならず下方の瞼結膜にも観察図1春季カタルの上眼瞼結膜所見石垣状乳頭増殖.図2輪部型春季カタル輪部の堤防状隆起.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158410910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3アトピー性角結膜炎の上眼瞼結膜所見瞼結膜は全体に肥厚し,結膜下の線維化によると思われる白色の瘢痕を特徴とする.される.また,結膜の線維化による結膜.短縮を伴うことがある.角膜所見として,点状表層角膜炎,血管進入,混濁,結膜の侵入などを認める.アトピー性角結膜炎の重症化には,アトピー性眼瞼炎の悪化が関与している3).難治性のアトピー性眼瞼炎では,眼瞼は硬く腫脹し,閉瞼不全を生じている場合が多い.これにより,眼表面は乾燥し涙液,瞬目によるアレルゲン,炎症細胞などの洗い流し効果が減少することが考えられる.また,アトピー性眼瞼炎には,ブドウ球菌,レンサ球菌,単純ヘルペスウイルスなどの感染を伴いやすく,これらも角結膜所見の悪化に関与する.文献1)HoganMJ:Atopickeratoconjunctivitis.TransAmOphthalmolSoc50:265-281,19522)FosterCS,CalongeM:Atopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology97:992-1000,19903)高村悦子,野村圭子,中川尚ほか:アトピー性皮膚炎患者の角結膜病変.眼紀48:1382-1386,1997☆☆☆842あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(78)

抗VEGF治療:抗VEGF薬と脈絡膜厚

2015年6月30日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二17.抗VEGF薬と脈絡膜厚古泉英貴東京女子医科大学眼科学近年,各種黄斑疾患に対する抗VEGF治療後に,脈絡膜厚が減少することが相次いで報告されている.脈絡膜厚の減少の程度は薬剤の種類によっても異なると考えられ,最近では治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割も注目されている.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)治療は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を有する滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や病的近視,糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対して広く用いられている.抗VEGF薬はCNVや黄斑浮腫といった視機能低下に直結する病態への直接作用のみならず,さらに深部にある脈絡膜にも形態的な変化をもたらすことが近年相次いで報告されている.本稿では抗VEGF治療と脈絡膜厚に関する現時点での知見につき概説する.滲出型加齢黄斑変性(AMD)VEGFがその発生と進展に重要な役割を演じているCNVへの直接の薬理作用により治療効果を発揮するが,抗VEGF治療後には脈絡膜厚が変化することが報告されている.筆者らは滲出型AMD40眼に対しラニビズマブを治療導入期に月1回,3カ月連続で投与し,以降は毎月経過観察のうえ,必要に応じて追加投与を行った.その結果,平均中心窩下脈絡膜厚(subfovealchoroidalthickness:SCT)は治療前の244μmから3カ月後には226μmと有意に減少し,その減少率は7.4%であった1).3カ月後以降は追加治療を行ってもSCTの変化はほぼプラトーであった.SCTの減少程度と治療回数の相関はみられず,滲出型AMDのサブタイプおよび過去のAMD治療歴にかかわらず同様の減少傾向がみられた.その一方,治療を行わなかった僚眼ではSCTの変化はみられなかった.抗VEGF治療後の脈絡膜厚の減少の理由として,脈絡膜血管からの透過性の減少,あるいはVEGF阻害による直接的な脈絡膜血管収縮,および一酸化窒素阻害などを介した間接的な脈絡膜血管収縮などが推察される.しかし,Ellabbanら2),小笠原ら3)(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYは同様の検討を行い,平均SCTの減少率は最終経過観察時においてそれぞれ1.4%,3.1%であり,治療前と比較して有意な差がみられなかったとしている.したがって,ラニビズマブの脈絡膜厚に与える影響はコンセンサスが得られていないのが現状である.最近では脈絡膜厚の予後予測因子としての役割も注目されている.Kangら4)はラニビズマブ治療を6カ月間行った典型AMD40眼の治療成績と治療前SCTの関連につき検討している.同報告では筆者らの報告1)と同様に,治療前と比較して平均SCTは減少し,さらに治療前のSCTが厚いほど有意に網膜形態の改善と視力経過が良好であったとしている.典型AMDでは正常眼と比較して平均SCTがやや薄いことが知られており,ラニビズマブ治療によりさらに脈絡膜が菲薄化することが,治療成績が不良であることと関連している可能性がある.治療前アフリベルセプト3回投与後図1典型AMDに対するアフリベルセプト治療前(上),治療後(下)SCTは217μmから182μmへと減少している.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015839 より新しい抗VEGF薬であるアフリベルセプト治療後の脈絡膜厚変化はどうであろうか?筆者らは治療既往のない滲出型AMD102眼に対しアフリベルセプトを月1回,3カ月連続で投与し,3カ月間の脈絡膜厚の変化を検討した5).その結果,平均SCTは252μmから3カ月後には218μmとなり,減少率13.5%とラニビズマブの場合と比較して大きいことを報告している(図1).アフリベルセプトはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に対し,既存の抗VEGF薬と比較して治療レスポンスが高いとされているが,もともと脈絡膜が肥厚する場合が多いPCVにおいて,アフリベルセプトの脈絡膜に対する薬理作用が治療効果と関連している可能性があり,今後の研究が注目される.糖尿病黄斑浮腫(DME)近年,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対してもラニビズマブ,アフリベルセプトが適応拡大され,その治療戦略は新たな局面を迎えている.DME眼においては,脈絡膜厚は肥厚するという報告や逆に菲薄化するという報告もあり,見解の一致はみられていない.抗VEGF治療と脈絡膜厚に関してはいくつかの報告がなされており,Lainsら6)はDMEに対し,ベガプタニブ,ベバシズマブおよびラニビズマブを用いて治療を行った結果,抗VEGF治療を行った25眼ではSCTが有意に減少したのに対し,黄斑部のレーザー治療のみを行った25眼ではSCTに有意な変化がみられなかったとしている.Yiuら7)はDME59眼において,33眼でベバシズマブあるいはラニビズマブの投与を行い,26眼では治療を行わず経過観察のみとした.抗VEGF治療を行った群では平均SCTは治療前247μmから6カ月後には225μmに減少した一方,治療を行わなかった群ではSCTの変化がみられなかったとしている.治療眼におけるSCTの変化は注射回数,視力変化,中心窩網膜厚の変化とは相関がみられなかった.DMEにおいても治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割が模索されている.Rayessら8)はDME53眼においてベバシズマブあるいはラニビズマブによる治療を行ったところ,3カ月後には平均SCTは225μmから201μmに減少し,治療前のSCTが厚いほうが網膜の解剖学的改善および視力改善の程度が良好であったとしている.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)Tsuikiら9)は黄斑浮腫を伴う片眼性のCRVOに対してベバシズマブによる加療を行い,SCTの変化につい840あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015て検討している.同報告ではCRVO36例において,患眼での平均SCTは257μmであり,CRVOのない僚眼での223μmと比較して有意に肥厚していた.CRVO眼では眼内のVEGFが高値であり,VEGFによる脈絡膜血管拡張作用などの影響が推察される.そのうち22眼のCRVOに対しベバシズマブによる加療を行ったところ,平均SCTは治療前の267μmから治療後には228μmまで減少した.おわりに各種黄斑疾患における抗VEGF治療後には脈絡膜厚が減少しうる.脈絡膜厚と病態との関連や予後予測因子としての役割は今後ますます明らかになっていくものと考えられ,網膜所見のみならず,脈絡膜所見をも包括的にとらえて黄斑疾患診療を行う時代は,もうそこまで来ているのかもしれない.文献1)YamazakiT,KoizumiH,YamagishiTetal:Subfovealchoroidalthicknessafterranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology119:1621-1627,20122)EllabbanAA,TsujikawaA,OginoKetal:Choroidalthicknessafterintravitrealranibizumabinjectionsforchoroidalneovascularization.ClinOphthalmol6:837-844,20123)小笠原雅,丸子一朗,菅野幸紀ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内注入後の網脈絡膜厚変化.日眼会誌116:643-649,20124)KangHM,KwonHJ,YiJHetal:Subfovealchoroidalthicknessasapotentialpredictorofvisualoutcomeandtreatmentresponseafterintravitrealranibizumabinjectionsfortypicalexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol157:1013-1021,20145)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Short-termchangesinchoroidalthicknessafteraflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol159:627-633,20156)LainsI,FigueiraJ,SantosARetal:Choroidalthicknessindiabeticretinopathy:theinfluenceofantiangiogenictherapy.Retina34:1199-1207,20147)YiuG,ManjunathV,ChiuSJetal:Effectofanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyonchoroidalthicknessindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol158:745751,20148)RayessN,RahimyE,YingGSetal:Baselinechoroidalthicknessasapredictorforresponsetoanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol159:85-91,20159)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralretinalveinocclusion.AmJOphthalmol156:543-547,2013(76)

緑内障:交通事故と緑内障

2015年6月30日 火曜日

●連載180緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也180.交通事故と緑内障結城賢弥ハーバード大学医学部ボストン小児病院わが国では平成26年度に約4,113人が交通事故により亡くなっており,交通事故は社会が克服すべき大きな問題である.筆者らの研究では,後期緑内障患者は,視野に異常のないものと比較し,交通事故を経験している頻度が有意に高かった.交通事故と緑内障に関し,さらなる研究が必要である.●はじめにわが国における平成26年度の交通事故件数は約57万件であり,交通事故死者数は4,113人である.交通事故は疾病による死亡と異なり100%予防可能な死である.それゆえに社会にとってきわめて重要な問題である.●交通事故と後期緑内障McGwinらは,視野障害の悪い眼のAGISscoreが6以上の中期緑内障患者は,視野障害がない緑内障患者と比較し約3.6倍,AGISscoreが12以上の後期緑内障患者では約4.4倍,交通事故を起こすリスクが高かったと報告している.筆者らの多施設共同研究では,緑内障患者199名,対照群187名に対し,過去5年間に経験した交通事故を聴取し解析した結果,対照群の事故経験率は16.0%,初期緑内障18.5%,中期緑内障23.2%,後期緑内障29.8%と,視野障害が悪化するとともに交通事故経験率が有意に増加した(傾向検定p=0.03)(図1)1,2).後期緑内障患者の対照群に対する交通事故経験に関するオッズ比は2.3であった.また,視野障害以外の交通事故に関する危険因子は,若年(10歳年をとるごとに26%リスク低下)と長距離の運転(週の運転距離が10km増すごとに2%リスク増加)であった.後期緑内障患者が交通事故を経験する可能性は,視野障害がない者と比較すると高いと考えられる.●後期緑内障患者は運転をやめたほうがよい?では,後期緑内障患者は運転をやめたほうが良いのであろうか?車の運転は生活と密接に関連しており,車の運転をやめることで失職する可能性もある.高齢者の運転の制限はうつ,介護施設への入所や早期の死亡と関連しており,過剰な運転の制限は緑内障患者のQOLの障害につながる.2.510,000km運転当たりの交通事故件数10,000km運転当たりの交通事故件数3.53.02.52.02.01.51.00.50.50初期緑内障群中期緑内障群後期緑内障群対照群1.51.0(n=187)(n=92)(n=60)(n=47)0012345図1緑内障重症度と交通事故頻度の関係悪いほうの眼のMD値が.6dB以上を初期緑内障,.6~.12dBを中期緑内障,.12dB以下を後期緑内障とした.視野重症度の悪化に伴い,有意に交通事故率が増加した(p=0.03傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY運転を制限する状況の数図2運転制限数と交通事故頻度の関係男性緑内障患者において,夜間,霧中,雨天,高速道路,車線変更の5つの運転環境を避ける頻度が高いほど,交通事故率が減少した(p=0.01傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015837 10,000km運転当たりの交通事故件数3.53.02.52.01.51.00.50対照群初期緑内障群中期緑内障群後期緑内障群(n=187)(n=165)(n=20)(n=6)図3両眼重ね合わせ視野による重症度と交通事故頻度の関係両眼重ね合わせ視野MD値が.6dB以上を初期緑内障,.6~.12dBを中期緑内障,.12dB以下を後期緑内障とした.視野障害が悪化しても交通事故頻度の間には明らかな関係は認められない(p=0.12傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).筆者らは夜間,雨天,霧中,高速道路の運転や車線変更を日常の運転において避けているかという質問を行い,それらと交通事故経験率との関係を解析した.男性緑内障患者において一つも運転制限を行っていない者の交通事故経験率は30.8%であり,一つでも制限している者は13.6%と有意に低く(p=0.01),年齢,運転距離などで補正後の数値でも,前者の交通事故経験率は後者の約2.3倍であった(図2).また,運転制限の数が一つ増えるごとに約60%交通事故経験率が低下した3).とくに夜間の運転を控えている者は有意に交通事故経験率が低値であった(未発表データ).本研究から緑内障患者で視野障害があったとしても,夜間等の運転を控えることにより,交通事故リスクを低下させることできる可能性があると考えられた.また筆者らは,視野障害のどの部位が交通事故と関連しているかの検討を,両眼重ね合わせ視野を用いて解析を行った.興味深いことに,McGwinらの研究と筆者らの2つの研究では,悪いほうの眼の視野障害が交通事故に関係していると報告している.片方の眼に視野障害があっても,もう片眼が正常であれば,交通事故を起こすリスクはあまり上がらないのではないかと考えるのが一般的と思われる.そこで両眼重ね合わせ視野を作成し,交通事故経験者と非経験者の間で視野52点の一点一点を比較したが,視野障害のいずれの部位も交通事故と明らかな関係がなかった4).また,IVF値により重症度を分けた表と交通事故率からも明らかな関係は見出せない(図3).この結果はやはり筆者らやMcGwinらの悪いほうの眼の視野障害が交通事故とより関連しているという結果と矛盾しない.運転はきわめて複雑な行為であり,単純に見えない部分があるから交通事故を起こすというものではない可能性がある.●まとめ緑内障と交通事故の関係は,今後もさらに追加の研究が必要である.現在,筆者は視野障害を有する緑内障患者に運転に関するアドバイスを求められた場合,視野障害の自覚がない場合にはまずどの部分が見えないのかを自覚してもらい,運転の際にその部分が見えていない可能性があることを意識すること,ならびに可能であれば夜間の運転や不慣れな場所の運転は避けることを勧めている.近年の自動運転技術の発達は,緑内障患者への福音に思える.文献1)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:Theassociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20112)OnoT,YukiK,Awano-TanabeSetal:GlaucomatousvisualfielddefectseverityandtheprevalenceofmotorvehiclecollisionsinJapanese:ahospital/clinic-basedcross-sectionalstudy.JournalofOphthalmology:497067,20153)OnoT,YukiK,Awano-TanabeSetal:Drivingself-restrictionandmotorvehiclecollisionoccurrenceinglaucoma.OptomVisSci92:357-364,20144)YukiK,AsaokaR,TsubotaK:Therelationshipbetweencentralvisualfielddamageandmotorvehiclecollisionsinprimaryopen-angleglaucomapatients.PLoSOne29:e115572,2014☆☆☆838あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(74)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入眼でのwavefront-guided LASIKによる屈折誤差矯正

2015年6月30日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載181大橋裕一坪田一男181.多焦点眼内レンズ挿入眼でのwavefront.guided中村邦彦たなし中村眼科クリニックLASIKによる屈折誤差矯正回折型多焦点眼内レンズ挿入眼での屈折誤差矯正において,wavefront-guidedLASIKの有用性が期待されている.新しい波面収差解析装置iDesignを使用したwavefront-guidedLASIKによる屈折誤差矯正では,con-ventionalLASIKより高次収差増加が抑制される.●多焦点IOL挿入眼でのtouchupの意義多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼において,大きな屈折誤差は遠方,近方とも裸眼視力を低下させ,多焦点IOLの性能を半減させる結果となる.この屈折誤差は眼鏡装用にて矯正可能だが,多焦点IOLの挿入を希望する患者では,裸眼での生活を強く期待することが少なくない.IOLマスターをはじめとする光学式眼軸測定が普及してIOL度数選択の精度は高くなり,屈折誤差の主体は乱視が占めるようになった.トーリックIOLであれば乱視にも対処できるが,多焦点IOLではまだ一部のモデルにしかない.このため,多焦点IOL挿入後の術後屈折誤差に対してlaserinsitukeratomileusis(LASIK)による屈折誤差矯正(touchup)が行われているが,精度も高く,球面度数と乱視両方の屈折誤差を矯正できる.また,現在の多焦点IOLは,単焦点IOLに比べてレンズパワーの作製範囲が狭く,高度近視の症例などで,最小のレンズパワーを選択しても残余近視が生じる場合があるが,このような場合でもtouchupは有効である.多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,屈折型は裸眼視力が角膜乱視の影響を比較的受けにくい傾向がある.適切なレンズパワーがないときは別として,多くは回折型挿入眼がtouchupの適応となる.●Wavefront.guidedLASIKによるtouchupの意義回折型多焦点IOL挿入眼では,以前のモデルのときより改善しているが,単焦点IOLと比較してコントラスト感度の低下が生じることが知られている.また,LASIK施行眼では角膜収差が増加することが知られて(71)いる1,2).多くの場合,IOL挿入後のLASIKによる屈折誤差矯正はわずかな矯正量にとどまるので,LASIKによる角膜収差の増加はそれほど大きくはないと思われる.しかし,回折型多焦点IOL挿入眼で軽度のコントラスト感度の低下が生じているところに,LASIKを加えることにより,角膜収差を増加させ,コントラスト感度をさらに低下させることが懸念される.実際にはconventionalLASIKでもtouchupにおける矯正量はわずかで,患者がLASIK後にコントラスト感度の低下を訴えるようなことはない.しかし,この点でwavefront-guidedLASIKによる屈折誤差矯正は角膜の高次収差の増加を避けることに寄与できる可能性があり,信頼できるデータが得られれば施行したほうがよいと思われる3).ConventionalLASIKでは自覚的屈折誤差をもとに矯正量を設定して照射することで問題はないが,wavefront-guidedLASIKではまず波面収差解析装置で座位にて測定解析を行う.屈折型多焦点IOLでは波面収差解析装置での値は信頼性がないが,回折型多焦点IOLでは測定が可能であれば有効である.回折型では光学部の回折構造により入射光が2つに振り分けられるが,通常,波面収差解析装置では遠方視を反映した眼内からの出射光をもとにHartmann-Shackイメージを作製する.念のため,測定された結果を自覚の屈折誤差と近似しているかを確認してから使用するのがよい.次に解析結果をエキシマレーザー装置に入力して照射を行う.Touchupでは矯正量はわずかであるが,乱視が矯正の主体であるので虹彩紋理認証(irisregistration:IR)による廻旋補正は有効性が高く,wavefront-guidedLASIKの効果を十分に得るためにも,可能であれば積極的に使用するのがよい4).新しい波面収差解析装置Abbott社製iDesignRアドあたらしい眼科Vol.32,No.6,20158350910-1810/15/\100/頁/JCOPY 等価球面度数絶対値円柱度数絶対値(D)0.550.17※0.710.25※(D)後前1.460.30※0.30※1.41後前2.02.01.01.00前後前後0(※Wilcoxon検定p<0.05)■Wevefront-guidedLASIKConventionalLASIK図1回折型多焦点IOL挿入眼でのTouchup前後での屈折の変化LASIK後に等価球面度数,円柱度数とも絶対値は減少している.Wavefront-guidedLASIKconventionalLASIKとconventionalLASIK間に差はない.(μm)0.120.090.080.120.220.150.100.080.080.50.40.30.20.10Rootmeansquare※※(Tukey多重比較検定p=0.0013)Conventional-LASIK■Wavescan■iDesign図3全眼球高次収差比較3次,4次では差はないが全高次収差でiDesignがconventionalLASIKより良好である.バンストウェイブスキャン(iDesign)は最大波面収差解析箇所数1,275となっており,前機種のウェイブスキャンウェイブフロントRシステム(WaveScan)が240箇所であったのと比較すると,約5倍に増加している.また,虹彩紋理,輪部認識機能の向上が図られており,IR下でのwavefront-guidedLASIK可能率の増加が期待される.●Wavefront.guidedLASIKによるtouchupの成績回折型多焦点IOL挿入眼でのwavefront-guidedLASIKによるtouchup前後での屈折誤差の変化をみると,LASIK後に等価球面度数,円柱度数とも絶対値は減少した(図1).Wavefront-guidedLASIK後に裸眼視力は遠方,近方とも改善した(図2).WavefrontguidedLASIKとconventionalLASIKの比較では,屈836あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015裸眼遠方視力裸眼近方視力1.01.00.10.1(※Wilcoxon検定p<0.05)■Wevefront-guidedLASIKConventionalLASIK図2回折型多焦点IOL挿入眼でのtouchup前後での裸眼視力の変化LASIK後に遠方,近方とも裸眼視力は改善している.Wavefront-guidedLASIKconventionalLASIKとconventionalLASIK間に差はない.折,視力には差はなく,コントラスト感度も両者とも全周波数において正常範囲内で差はなかった.しかし,高次収差については,WavescanではconventionalLASIKと差がなかったが,iDesignでは全高次収差でconventionalLASIKより良好であった(図3).Wavefront-guidedLASIKのtouchupにおける有用性は,これまであまり明確ではなかったが,新しい波面収差解析装置iDesign使用によるwavefront-guidedLASIKでは,波面収差解析機能向上と合わせてIR率向上が高次収差増加抑制に寄与でき,積極的な使用が薦められる.文献1)YamaneN,MiyataK,Samejimaetal:Ocularhigher-orderaberrationsandcontrastsensitivityafterconventionallaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci45:3986-3990,20042)OshikaT,TokunagaT,SamejimaTetal:Influenceofpupildiameterontherelationbetweenocularhigher-orderaberrationandcontrastsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci47:1334-1338,20063)JendritzaBB,KnorzMC,MortonSetal:WavefrontguidedLASIKissafeandeffectiveindiffractivemultifocalIOLstocorrectresidualrefractiveerror,buthigherorderaberrationsdidnotimprove.JRefractSurg24:274-279,20084)KhalifaM,El-KatebM,ShaheenMS:Irisregistrationinwavefront-guidedLASIKtocorrectmixedastigmatism.JCataractRefractSurg35:433-437,2009(72)1.000.49※1.010.58※0.590.38※0.640.48※前後前後前後前後

眼内レンズ:前部円錐水晶体例

2015年6月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋344.前部円錐水晶体例溝手秀秋*1野間一列*2*1みぞて眼科*2のま眼科医院腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼性の前部円錐水晶体に対して白内障手術を行ったので報告する.前部円錐水晶体の診断には波面収差解析が有用であった.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際に前.が脆弱で,CCCが困難であった.前部円錐水晶体の白内障手術の際には,CCCに十分に注意することが重要である.●はじめに水晶体の前面の中央が突出している状態を前部円錐水晶体という.Alport症候群は前部円錐水晶体を合併することが多く1),IV型コラーゲンa鎖遺伝子の異常により,糸球体腎炎,感音性難聴,さまざまな眼症状を主症状とする2).今回,腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼性の前部円錐水晶体に対して白内障手術を行ったので報告する.●症例症例:69歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:肺気腫.家族歴:特記事項なし.現病歴:1年前から両眼視力低下を自覚し,2012年5月14日当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.05(0.5×.7.50D),左眼0.05(0.6×.7.75D(cyl.0.50DAx70o).眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHg.角膜曲率半径は右眼7.34mm7.44mm,左眼7.30mm7.44mm.IOLマスターR(ZEISS)による眼軸長は右眼22.83mm,左眼22.69mm.両眼とも角膜,虹彩,前房に異常なく,水晶体前面は中央で凸型に突出し,軽度の核硬化があった(図1).眼底は両眼とも血管アーケード内の網膜に白点が散在していた.OPD-ScanIII(NIDEK)で波面収差解析を行った結果,両眼とも眼屈折,眼内屈折は瞳孔の中央で強く近視化し,高次収差が著明に増加しており(図2),水晶体前面中央の突出が原因と考えられたため,前部円錐水晶体と診断した.軽度の核混濁とretrodots以外に図1初診時前眼部写真(左:右眼,右:左眼)(69)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158330910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2初診時波面収差解析結果(上:右眼,下:左眼)は視機能に影響する混濁がなかったため,視力低下の主因は高次収差の増加と考えた.経過:2012年6月中旬,両眼水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を行った.左眼はオペガンハイRを前房内に注入して,チストトームでCCCを行った.右眼はビスコートRとオペガンハイRを前房に注入して,河合式鑷子でCCCを行った.両眼ともCCCの際に前.が脆弱で,滑らかな円形にならず,ギザギザした前.切開縁となった.また,水晶体前面が突出していたため,CCCが赤道部に流れやすい傾向にあった.後.には異常なく,眼内レンズは.内固定とした(図3).術後視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)で,その後2年6カ月間良好な視力を維持している.図3術後の前眼部写真(左:右眼,右:左眼)●考察前部円錐水晶体の診断には波面収差解析が有用であり,白内障手術前のルーティン検査の一つに採用すれば,水晶体形状異常も検出しやすいと思われる.本疾患では水晶体中央部の突出により水晶体中央の屈折力増加および高度の高次収差増加を生じるため,水晶体混濁がなくても近視化と視力障害を生じる.また,Alport症候群では前.が薄く脆弱で,CCCが困難である3)が,本症例もCCCが困難であった.腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼前部円錐水晶体の白内障手術でも,Alport症候群の前部円錐水晶体の白内障手術と同様にCCCには十分に注意することが重要である.文献1)HentatiN,SellamiD,MakniKetal:OcularfindingsinAlportsyndrome:32casestudies.JFrOphthalmol31:597-604,20082)貝藤裕史,野津寛大:Alport症候群.安田隆,平和伸仁,小山雄太(編):臨床腎臓内科学,第1版,p719-722,南山堂,20133)鈴木香,鈴木幸彦,中澤満:片眼性の成熟白内障でみつかった両眼性前部円錐水晶体の家系.眼科手術21:507511,2008

コンタクトレンズ:患者指導2(レンズケア)

2015年6月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一13.患者指導2(レンズケア)●はじめに初めてコンタクトレンズ(CL)を処方するときは,CLの取り扱いについて説明し,同時に,正しいケアの方法を指導しておくことが非常に重要である.●ケアの必要性(なぜケアが必要なのか)もっとも大きな理由は,レンズやケースに微生物が付着し,角膜に上皮障害があれば,汚染されたCLを装着することによって角膜感染症が成立する1)ということを予防するためで,蛋白質や脂質などの汚れが付着するのを防ぐためでもある.そのため,前号で述べたが,手洗いを正しく行い,それとともにレンズやケースを清潔にしておくことが重要である.●ケア用品の種類当然,ハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)とではケア用品が異なるが,なかには両者に使用可能なケア用品も存在する.これらのケア用品についていくつか問題点はある2)が,HCLの場合は,レンズを洗浄し保存するための液,蛋白除去剤,アルコールの入った洗浄液,研磨剤の入った洗浄剤などを用いる.SCLの場合は,1本で洗浄,保存,消毒,す宮本裕子アイアイ眼科医院すぎを行うマルチパーパスソリューション(MPS)が簡便でもっともよく使用されているが,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤のほうが微生物に対する消毒効果は高い.SCLに対しても,蛋白除去剤,アルコール入り洗浄液,研磨剤入り洗浄剤を併用することもある.●レンズの基本的なケア方法HCLの場合は,レンズをはずしたあと,こすり洗いを行うが,手のひらにHCLを乗せ,(表面処理されていないレンズの場合は研磨剤入りの)洗浄剤でレンズをこする(図1).図2のように,3本の指ではさんで洗浄する方法もある.その後,水道水ですすいでレンズホルダーに正しく入れ,洗浄保存液に浸けて保存する.さらに,必要に応じて蛋白除去剤を使用する.レンズを装着するときは,再度洗浄保存液でこすり洗いと十分なすすぎを行ってからレンズを装着する.洗浄は毎日行うが,月に1度,強力蛋白除去を行うとより良い.一方,SCLの場合は,レンズをはずしたのち,MPSあるいはすすぎ液で図3のようにレンズの表と裏を各20~30回こすって洗う.爪を立てずに指の腹でこするが,回転させるとレンズが破れることがあるので,前後にこするようにする.その後は図4のように勢いよく液図1ハードコンタクトレンズの洗浄方法(手のひらの上で)図2ハードコンタクトレンズの洗浄方法(3本の指で)(67)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158310910-1810/15/\100/頁/JCOPY 832あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(00)をかけてすすぐが,水道水は使えない.MPSの場合は,レンズをケースに入れ浸漬させる.そのとき,レンズの一部が液面から出ていると,蓋を閉めるときにレンズを挟んでしまったり,乾燥の原因になったりするので,必ず十分な量のMPSを入れ,レンズ全体を液内に沈めておくことが重要である.過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤の場合は,すすぎ液(MPSでも可)でレンズのこすり洗いをしてすすいでから,指定されたレンズケースホルダーにレンズを入れ,所定の消毒液と中和剤(液)を入れる.過酸化水素水を中和するためには,白金ディスクを用いる場合と0.5%チオ硫酸ナトリウムやカタラーゼを使用する方法がある.白金ディスクが必要な場合,指定外のケースを使用すると中和されないため,過酸化水素水が直接目に入る危険性がある3).また,2ステップのものは,消毒のあと,中和の作業を忘れずに行う.さらに気をつけることは,消毒終了後効果が持続しないので,中和後24時間以上経っていれば,レンズ使用前に再度消毒を行う必要がある.●レンズケースのケアレンズを装着している間は,レンズケースを洗浄し乾燥させることが非常に大切である.HCLのケースは複雑なので,可能な限り分解して水道水で洗浄し乾燥させる.SCLのケースも水道水でこすり洗いし,乾燥させる.両者とも,定期的に新しいケースと交換することも大切である.●おわりに近年,とくにカラーCL使用者に多いのが,ケア方法の指導を受けないままレンズを使っている例である.なかにはケア自体を知らない例もある3).最初に正しいケア方法を指導し,さらに定期検査のときに正しいケアができているか確認することが,眼障害を減らすために非常に重要である.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)宮本裕子:今日のコンタクトレンズ診療.1.コンタクトレンズ洗浄保存液の諸問題.眼科54:585-593,20123)宮本裕子:「CLバトルロイヤルサードステージ」第38回ソフトコンタクトレンズケア用品の選択.日コレ誌56:289-293,2014ZS943図3ソフトコンタクトレンズの洗浄方法(前後にこする)図4ソフトコンタクトレンズのすすぎ方(00)をかけてすすぐが,水道水は使えない.MPSの場合は,レンズをケースに入れ浸漬させる.そのとき,レンズの一部が液面から出ていると,蓋を閉めるときにレンズを挟んでしまったり,乾燥の原因になったりするので,必ず十分な量のMPSを入れ,レンズ全体を液内に沈めておくことが重要である.過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤の場合は,すすぎ液(MPSでも可)でレンズのこすり洗いをしてすすいでから,指定されたレンズケースホルダーにレンズを入れ,所定の消毒液と中和剤(液)を入れる.過酸化水素水を中和するためには,白金ディスクを用いる場合と0.5%チオ硫酸ナトリウムやカタラーゼを使用する方法がある.白金ディスクが必要な場合,指定外のケースを使用すると中和されないため,過酸化水素水が直接目に入る危険性がある3).また,2ステップのものは,消毒のあと,中和の作業を忘れずに行う.さらに気をつけることは,消毒終了後効果が持続しないので,中和後24時間以上経っていれば,レンズ使用前に再度消毒を行う必要がある.●レンズケースのケアレンズを装着している間は,レンズケースを洗浄し乾燥させることが非常に大切である.HCLのケースは複雑なので,可能な限り分解して水道水で洗浄し乾燥させる.SCLのケースも水道水でこすり洗いし,乾燥させる.両者とも,定期的に新しいケースと交換することも大切である.●おわりに近年,とくにカラーCL使用者に多いのが,ケア方法の指導を受けないままレンズを使っている例である.なかにはケア自体を知らない例もある3).最初に正しいケア方法を指導し,さらに定期検査のときに正しいケアができているか確認することが,眼障害を減らすために非常に重要である.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)宮本裕子:今日のコンタクトレンズ診療.1.コンタクトレンズ洗浄保存液の諸問題.眼科54:585-593,20123)宮本裕子:「CLバトルロイヤルサードステージ」第38回ソフトコンタクトレンズケア用品の選択.日コレ誌56:289-293,2014ZS943図3ソフトコンタクトレンズの洗浄方法(前後にこする)図4ソフトコンタクトレンズのすすぎ方

写真:Schnyder角膜ジストロフィ

2015年6月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦373.Schnyder角膜ジストロフィ加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜中央部に輪状の結晶沈着,②角膜周辺部には老人環様の強い混濁がみられる.図1SCCDの60代女性の前眼部所見角膜中央部に輪状の結晶沈着,角膜周辺部には老人環様の強い混濁がみられる.図3図1の子(40代女性)の前眼部所見角膜中央部の実質浅層に結晶沈着,角膜周辺部には老人環様の淡い混濁が観察される.図4図1の孫(幼児)の前眼部所見角膜中央部の実質浅層に微細な結晶沈着がみられる.(65)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158290910-1810/15/\100/頁/JCOPY Schnyder角膜ジストロフィ(Schnydercrystallinecornealdystrophy:SCCD)は,角膜に脂質が沈着することにより両眼の角膜混濁をきたす実質ジストロフィであり,わが国では非常にまれな常染色体優性遺伝の疾患である.SCCDの原因遺伝子は第1染色体短腕に存在するUBIAD1遺伝子(コレステロールの代謝に関連すると考えられている)の変異である1).角膜混濁は幼少期から始まるが,進行は緩徐であり,30代以降に診断される例が多い.SCCDはアメリカやヨーロッパ,台湾,トルコ,日本などあらゆる人種において家系が報告されている.細隙灯顕微鏡では,角膜中央部に円盤状またはリング状の混濁が観察される.SCCDの約50%で針状結晶を伴う2).混濁はBowman膜から実質浅層にかけて生じることが多いが,進行例では実質深層にまで混濁がみられる.通常,角膜への血管侵入はみられない.また,進行例では角膜知覚が低下すると報告されているが,これはコレステロールの沈着により角膜上皮下の神経叢が障害されるためと考えられている3).SCCDの患者では高脂血症を合併していることが多いと報告されている2)が,高脂血症の重症度と角膜混濁の程度とは相関しないようである4).診断は細隙灯顕微鏡所見と家族歴から行う.鑑別疾患として脂質代謝異常症(魚眼病,LCAT(lecithincholesterol-acyltransferase)欠損症,Tangier病など)があるが,遺伝形式が常染色体劣性遺伝であること,高脂血症以外の検査値の異常を呈する疾患であるため鑑別は比較的容易である.また,先に述べたUBIAD1遺伝子検査も診断に有用である.SCCDの患者では,初期には全般的に視力は保たれるが,やがて明所での視力が羞明のために低下する.進行して混濁が角膜深層にまで及ぶと,暗所での視力も低下する.視力低下が著しい場合には深層あるいは全層角膜移植術が必要となるが,角膜混濁は再発する5).筆者は3世代にわたってSCCDの発症がみられている1家系を経験したが,幼少期の軽度の角膜混濁から,中年期の中等度角膜混濁,老年期の強い角膜混濁へと,まるで1人の患者を時系列的にみているようで非常に興味深かった.なお,全層角膜移術を施行したSCCD患者(図1)では,術後約3年で角膜中央部に結晶様の角膜混濁が出現した.文献1)WeissJS,KruthHS,KuvaniemiHetal:MutationinUB1AD1geneinchromosomeshortarm1,region36,causeSchnydercrystallinecornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci48:5007-5012,20072)WeissJS:Schnyderdystrophyofthecornea.ASwede-Finnconnection.Cornea11:93-101,19923)VasaluomaMH,LinnaTU,SankilaEMetal:InvivoconfocalmicroscopyofafamilywithSchnydercrystallinecornealdystrophy.Ophthalmology106:944-951,19994)LischW,WeidleEG,LischCetal:Schnyder’sdystrophy.Progressionandmetabolism.OphthalmicPaediatrGenet7:45-56,19865)WeissJS:Visualmorbidityin34familieswithSchnydercrystallinecornealdystrophy(AnAmericanOphthalmologicalSocietythesis).TransAmOpthalmolSoc105:616-648,2007830

時の人 相原 一 先生

2015年6月30日 火曜日

人の時東京大学医学部眼科学教室教授相あい原はら一まこと先生人の時東京大学医学部眼科学教室教授相あい原はら一まこと先生本年3月,人々の耳目をあつめる東京大学医学部眼科学教室の第11代教授に相原一先生が就任した.*相原先生は1963年,鹿児島県生まれの51歳.名門,ラ・サール高校から東大に進み,1989年に同大医学部を卒業し……と書くと,いかにも順当にレールの上を走ってきたようにみえるが,実は,中学卒業までに8回も転居転校を経験した“苦労人”なのだ.しかし,そのおかげで「新しい環境になじむ能力と,幅広い視野を身につけた」そうだから,たび重なる転居や転校は相原少年の成長に大いに寄与したことになる.ただし「同じ環境には飽きやすくなったかもしれない」とのこと.半分は冗談だとしても,その言葉の奥には,現状に甘んじることを潔(いさぎよ)しとしない,先生の前向きな姿勢がみられる.さて,先生は医学部卒業後,増田寛次郎・第8代東大眼科学教室教授の元で助手,医局長として腕を磨いたのち,大学院生化学教室で生理活性脂質と中枢神経系の基礎研究に励んだ.その後,新家眞・第9代教授の元でも医局長を務め,2000年から3年間,カリフォルニア大学サンディエゴ校ハミルトン緑内障センターで臨床と基礎研究に従事した.帰国後,東大に戻って講師,准教授を歴任したが,2012年に大学を辞し,四谷しらと眼科に移った.そこで副院長として診療にあたる傍ら,多くの病院で緑内障の臨床と研究指導を行い,そしてこのたび,教授として古巣の東大眼科に戻ったわけである.*相原先生の専門は緑内障である.学生の頃から神経系が好みで,2年生のときに当時,東京逓信病院部長だった小澤哲磨先生に神経眼科・斜視弱視を学んだことと,4年生のときに東大講師だった白土城照先生に緑内障の魅力を教えられたことから,迷わず緑内障に決めた.ただし「細かい手術が好き」なので,今でもジャンルを問わず「いろんな手術をしたい」のだそうだ.(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY緑内障は今はまだ治せる疾患ではないが,先生は「患者さんの視野を一生残せるようにと願い,長いつきあいを大事に」診療に当たっている.研究面では「大学院で神経と生理活性脂質を学んだおかげで,その後,緑内障の第一選択薬となったプロスタグランジン関連にとくに興味があります」とのこと.先生は,米国留学中にマウスの眼圧測定方法を確立したことをきっかけに,緑内障のモデル動物の開発とそれを用いた基礎研究で多くの業績を上げてきた.また,緑内障薬物治療と薬理学的研究,手術方法や創傷治癒に重点を置いた研究で業績を上げている.今後の研究の方向性について先生は「緑内障の最大の危険因子であると同時に,眼球構造を保ち視機能を維持するために必要な眼圧,この眼圧の制御機序を解明することが生涯のテーマです」と語っておられた.先生に医師としての信条を伺った.「それは,やはり患者と向き合う“お医者さん”でありたいということと,患者さんから学び,それを研究して患者さんに還元することです.これは開業医でも大学にいても,どのような環境でも自分次第で実行できるはずです」「私は幼少時から転居が多く,どんなところでも適応して頑張ってきましたし,また,多くの人々とのご縁があって,ここまで育てていただいたという思いもありますから,今の立場なら何をやるべきか,目標をもって向き合うことが大事だと思っています」.では,東大眼科学教授という立場では何を?「このポストの責任はきわめて重いです.私はまず,若い先生たちが伸び伸びと成長できるように診療・臨床教育・研究体制を改善し,そして大学や日本の眼科のために役立つことを焦らず,着実に実行してきたいと思います」.先生の趣味は自然に囲まれて風景写真を撮ったり,渓流釣りや昆虫採集をしたり,山に登ること.しかし,そのような自由な暮らしは,まだまだ先になりそうだ.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015827