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糖尿病黄斑浮腫に対する防腐剤無添加トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射による無菌性眼内炎

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):909.912,2015c糖尿病黄斑浮腫に対する防腐剤無添加トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射による無菌性眼内炎布目貴康杉本昌彦松原央小林真希坂本里恵小澤摩記近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室ACaseofSterileEndophthalmitisInducedbyPreservative-FreeTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdemaTakayasuNunome,MasahikoSugimoto,HisashiMatsubara,MakiKobayashi,SatoeSakamoto,MakiKozawaandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversity,GraduateSchoolofMedicine目的:トリアムシノロン硝子体内注射(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)は糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する有効な治療法の一つである.副作用の一つとして無菌性眼内炎(sterileendophthalmitis:SE)が知られているが,防腐剤無添加のTA製剤(マキュエイドR,わかもと製薬)を用いたIVTAによる発症報告はない.今回,筆者らはわが国で初めての,本剤のIVTAによるSEを経験したので報告する.症例:60歳,男性.右眼のDMEに対しTATenon.下注射や抗血管内皮増殖因子製剤硝子体内注射を行ったが反応しなかった.続けて施行したIVTAによりDMEは改善し,右眼の矯正視力は0.2から0.3となったが,再発を繰り返し,IVTAを複数回行っていた.2014年10月に,DMEの再発に対し3回目のIVTAを施行した.IVTA5日後の再診時に硝子体混濁を認め,右眼の矯正視力も0.06に低下した.眼痛や前房の炎症性変化は認めないものの硝子体混濁の改善傾向がないため,眼内炎と診断し,硝子体手術を施行した.術中,硝子体混濁は認めたものの網膜の感染性変化は乏しかった.また,術中採取した前房水・硝子体液の培養は陰性であり,IVTA後のSEと診断した.術後,矯正視力は0.4に改善し,感染徴候も認めずDMEも改善している.結論:防腐剤無添加のTA製剤を用いることでIVTA後のSEの頻度は減少するが,防腐剤以外の原因で生じることもあり,注意が必要である.Purpose:Intravitrealtriamcinoloneacetonide(IVTA)isaneffectivetreatmentfordiabeticmacularedema(DME).However,sterileendophthalmitis(SE)isknowntobeacomplicationassociatedwiththistreatment.MaQaidR(MaQ;WakamotoPharmaceutical,Tokyo,Japan)isanewpreservative-freetriamcinoloneacetonide,andtherearenoreportstodatedescribingSEarisingfromtheuseofMaQ.Inthisstudy,wereportacaseofSEthatresultedfromtheuseofMaQ.CaseReport:A60-year-oldmalepatientwithDMEhadshownresistancetovarioustherapies.HewaseffectivelytreatedwithIVTAandhisvisualacuity(VA)improved.However,the3rdIVTAtreatmentresultedinvitreousopacitywithvisiondeteriorationto0.06diopters(D)after5days.Thoughnoobviousinflamationwasseen,wediagnosedhimasendophthalmitisandperformedavitrectomy.Duringsurgery,noinfectiouschangeswereseenandabacterialculturewasnegative,resultinginafinaldiagnosisofSE.Thepatient’sVAimprovedto0.4DwithabsorptionoftheDME.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowtheimportanceofperformingdetailedexaminationsinordertocorrectlydiagnoseSE,theonsetofwhichmightbereducedbytheuseofpreservative-freetriamcinoloneacetonide.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):909.912,2015〕Keywords:トリアムシノロンアセトニド,糖尿病黄斑浮腫,防腐剤無添加,無菌性眼内炎.triamcinoloneacetonide,diabeticmacularedema,preservativefree,sterileendophthalmitis.〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(145)909 はじめにステロイド製剤の一つであるトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)は難水溶性の薬剤で,古くから整形外科領域で用いられてきた.眼科疾患への応用も広がり,とくに黄斑浮腫に対する投与(intravitrealtriamcinoloneacetonide:IVTA)や硝子体手術時の可視化目的に使用されている1,2).国内では長年,ケナコルトR(BristolMyersSquibb社)が用いられてきたが,2010年にマキュエイドR(わかもと製薬)が市販された.本剤は眼科使用のみに特化していることと,剤型が粉末で防腐剤無添加のTA(preservativefreetriamcinoloneacetonide:PFTA)であるため無菌性眼内炎(sterileendophthalmitis:SE)の危険性が低下するという利点があり3),国内での本剤によるSEの発症報告はこれまでにない.安全性が担保されたことから,現在国内では,ほぼ本剤のみがIVTAに用いられている.今回筆者らは本剤のIVTAによって生じたSEを経験した.本症例はわが国で初めての症例であり,ここに報告する.I症例患者:60歳,男性.主訴:右眼視力障害.現病歴:2013年4月,両眼の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)加療目的で当科受診した(図1a).初診時の右眼の矯正視力は0.2であり,ケナコルトRTenon.下注射や抗血管内皮増殖因子(vascularendotheliumgrowthfactor:VEGF)製剤の硝子体内注射を施行したが改善しなかった.2013年10月にマキュエイドRを用いた右)IVTAを施行したところ,DMEは著明に改善し,矯正視力も0.3となった(図1b).以後,再発していたがマキュエイドRの追加投与で寛解していた.今回右)DMEが再発し(図2a),矯正視力も0.2に低下した.2014年10月に3回目のIVTAを施行した.IVTAはオペガードMAR(千寿製薬)に溶解し40mg/mlに調整したTA0.1ml(4mg)を,減菌下に角膜輪部4mmの部位から27G針を用いて,硝子体注射して行った.施行後翌日の診察ではとくに炎症などの異常を認めなかったが,施行5日後の受診時に視力低下を伴う硝子体混濁を認めた.IVTA後の眼内炎と診断し,加療目的に当科入院となった.既往歴:糖尿病.加療前所見:矯正視力は右眼0.06,左眼0.2.眼圧は右眼14mmHg,左眼20mmHg.前眼部所見は右眼の結膜充血や前房蓄膿,細胞浮遊は認めなかった.眼脂や眼痛も認めなかった.左眼の異常は認めなかった(図2b).中間透光体・眼底所見は両眼に軽度白内障を認めた.右眼の硝子体混濁を認め,硝子体中のTA周囲でとくに混濁は強かった(図2c矢910あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015印).左眼の異常は認めなかった.経過:臨床所見からSEが疑われたが,感染性眼内炎の可能性も否定できなかったため,入院同日に超音波乳化吸引術+硝子体切除術を施行した.硝子体中には残存するTA周囲に強い混濁を認めた.しかし,眼底には感染性眼内炎に特徴的な白斑や出血,血管の白鞘化などは認めず,網膜色調も良好であった.また,術中に前房水・硝子体液・眼内灌流液を採取し培養検査を行ったが,いずれも菌は陰性であった.術後眼内炎の再燃はみられず,前眼部は清明であった(図3a).以上から,IVTAに伴うSEと診断した.術後,硝子体混濁は消失し,DMEも軽快した(図3b,c).術後2カ月で右眼の矯正視力は0.4と改善している.II考按近年,DMEの治療に薬剤の硝子体注射が広く用いられている.抗VEGF製剤とTA製剤はその代表であり,DMEに対する成績は偽水晶体眼に限っては両者の効果はほぼ同等であるとされている4).硝子体手術時の硝子体の可視化目的にもTAは用いられており安全な術中操作が可能となっている5).しかし,硝子体可視化目的の使用に比し,IVTAは白内障や眼圧上昇などの副作用面から抗VEGF製剤ほどは用いられていない.筆者らの施設でも,IVTAはDMEに対する第一選択となってはいない.しかし,全身合併症のため抗VEGF製剤の使用を控えざるをえない症例や,抗VEGF製剤やTAのTenon.下注射に反応しない症例,そして硝子体手術が施行できない症例などに対してIVTAは有効な選択肢の一つとなっている3).とくに偽水晶体眼は白内障発症の危険がないため,IVTAの良い適応である.国内外でこれまで使用されていたTA製剤であるケナコルトRは剤型が懸濁液であるため,防腐剤が添加されている.IVTAでは低頻度ながらもSEを生じることが知られており6,7),この添加防腐剤が原因の一つとして考えられている.MaiaらはIVTAによるSEの発症頻度を防腐剤の有無で比較している.防腐剤含有TAでの発症頻度は7.3%であるが,PFTAでは1.2%と統計学的に有意な発症頻度の低下を認め,防腐剤の有無でSEの発症頻度に差を認めている7).このため,マキュエイドRが入手できなかった2010年までは,防腐剤を除去してから使用することがわが国でも推奨されていた.わが国での多施設共同研究でもSEの発生頻度は1.6%であり,前述の報告と差異はないようであった8).防腐剤の除去法としてはフィルターによる方式が推奨されていたが9),煩雑であり防腐剤の完全除去は困難であった.この欠点を補うPFTAであるマキュエイドRが国内で市販され,SE発症の危険が少ない安全な薬剤であることが期待されていた.現に市販後4年間,IVTA後のSEの報告がなかったことは如実にこれを反映している.しかし,前述のように頻(146) aab図1初診時までの加療経過当院初診時,右眼の矯正視力は0.2であり,光干渉断層計が示すような黄斑浮腫を認めた(a).IVTAを行ったところ,浮腫は速やかに吸収し,矯正視力も0.3に改善した(b).abc図2加療前の所見IVTA前,浮腫の再発を認め,右眼の矯正視力は0.2であった(a).IVTAの5日後,前眼部所見に明らかな異常は認めなかったが(b),硝子体の混濁を認め眼底透見性は低下した(c)..:混濁塊.abc図3加療後の所見硝子体手術後2カ月の所見を示す.前眼部は清明であり(a),硝子体混濁も消失し,透見性は改善した(b).トリアムシノロンアセトニド粒子の残存を認める(.).光干渉断層計に示すように黄斑浮腫も消失した(c).度が下がるもののPFTAでもSEは生じうること,また,直接接触が細胞に与える影響について報告している.TA粒硝子体切除後に本剤が眼内に残存した場合にSEを発症した子の細胞への直接接触は炎症性サイトカインの増加を誘発症例が報告されていること(マキュエイド硝子体内注用し,細胞への障害が生じることを明らかにした.彼らはこれ40mg添付文書,わかもと株式会社,2014.4改訂第4版)なを「Particle-inducedendophthalmitis」と名づけた10).Inどから防腐剤以外のSEの発症原因があることも示唆されてvivoの条件下と異なり,生体でどのような変化が生じていいる.Otsukaらは細胞をTAとともに培養し,TA粒子のるかはいまだ不明であるが,このようにIVTA後のSE発症(147)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015911 には防腐剤以外の因子があることを念頭に,IVTAは注意深く行われなければならない.加療に当たり,SEと感染性眼内炎の鑑別が本例でも問題となった.SEの臨床所見としては,結膜充血や疼痛を伴わない前房混濁であり,感染性のものと異なり,さらさらした性状の前房蓄膿として知られている11).視力低下は著明で,これらの所見は24時間以内に生じることが多いとされている.本例はIVTA翌日の炎症所見や前房混濁を認めないものの,外眼部所見が清明であったことや硝子体混濁を主体とした強い視力低下を示したことから,加療開始前にすでにSEが強く疑われた.両者の大きな差異は,SEがとくに加療を行わなくても自然治癒することであり,本例においても経過観察が可能であったかもしれない.しかし,感染性眼内炎の初期像をみていた可能性はやはり否定できず,前述の所見も翌日以降に増悪していたかもしれない.感染性眼内炎の予後は治療開始時期に依存するため,硝子体手術の安全性が向上している現在において,本例のように即日の手術加療を行うことは視機能維持に直結する.以上から,過剰加療の側面があるものの,本例では手術加療を行った.感染による網膜白斑や血管白鞘化といった著明な変化もなく,術中採取した検体の培養結果も陰性であったことからSEと確定診断し,経過良好である.加えてDMEに対する加療選択肢の一つである硝子体手術を行ったため,結果としてDMEの消失と視機能改善を得ることができた.以上,PFTAであるマキュエイドRによるわが国で初めてのSE症例を報告した.防腐剤が無添加になったことによりSE発症頻度は減少し,有用なDMEに対する加療選択肢であるIVTAは行いやすくなっている.しかし依然,SEがIVTAにより生じうることを念頭に置いて加療する必要があると考えられる.文献1)JonasJB,KreissigI,SofkerAetal:Intravitrealinjectionoftriamcinolonefordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol121:57-61,20032)PeymanGA,CheemaR,ConwayMDetal:Triamcinoloneacetonideasanaidtovisualizationofthevitreousandtheposteriorhyaloidduringparsplanavitrectomy.Retina20:554-555,20003)杉本昌彦,松原央,古田基靖ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド製剤(マキュエイドR)の硝子体内注射の効果.あたらしい眼科30:703-706,20134)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,ElmanMJ,AielloLP,BeckRWetal:Randomizedtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordiabeticmacularedema.Ophthalmology117:1064-1077,20105)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:Reducedincidenceofintraoperativecomplicationsinamulticentercontrolledclinicaltrialoftriamcinoloneinvitrectomy.Ophthalmology114:289-296,20076)MoshfeghiDM,KaiserPK,BakriSJetal:Presumedsterileendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.OphthalmicSurgLasersImaging36:24-29,20057)MaiaM,FarahME,BelfortRNetal:Effectsofintravitrealtriamcinoloneacetonideinjectionwithandwithoutpreservative.BrJOphthalmol91:1122-1124,20078)坂本泰二,石橋達朗,小椋祐一郞ほか:日本網膜硝子体学会トリアムシノロン調査グループトリアムシノロンによる無菌性眼内炎調査.日眼会誌115:523-528,20119)NishimuraA,KobayashiA,SegawaYetal:Isolatingtriamcinoloneacetonideparticlesforintravitrealusewithaporousmembranefilter.Retina23:777-779,200310)OtsukaH,KawanoH,SonodaSetal:Particle-inducedendophthalmitis:possiblemechanismsofsterileendophthalmitisafterintravitrealtriamcinolone.InvestOphthalmolVisSci54:1758-1766,201311)坂本泰二:粒子誘発性眼内炎:無菌性眼内炎の新しい病因.臨眼67:1249-1253,2013***912あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(148)

紫色光ブロック眼内レンズZCB00Vを用いた白内障手術の術後早期成績:視力,屈折度,QOLの検討

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):898.903,2015c《原著》あたらしい眼科32(6):898.903,2015c898(134)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕岡義隆:〒820-0067福岡県飯塚市川津364-2岡眼科ビル1F岡眼科クリニックReprintrequests:YoshitakaOka,M.D.,OkaEyeClinic,1FOkaEyeClinicBldg.,364-2Kawazu,Iizuka,Fukuoka820-0067,JAPAN紫色光ブロック眼内レンズZCB00Vを用いた白内障手術の術後早期成績:視力,屈折度,QOLの検討岡義隆*1貞松良成*2*1岡眼科クリニック*2さだまつ眼科クリニックEarlyClinicalOutcomesofaVioletBlockingIntraocularLensZCB00VPostCataractSurgery:EvaluationofVisualAcuity,Refraction,andQualityofLifeYoshitakaOka1)andYoshinariSadamatsu2)1)OkaEyeClinic,2)SadamatsuEyeClinic目的:紫外線と紫色光をブロックし青色光を透過させる新しい着色眼内レンズ(IOL)であるテクニスオプティブルー(ZCB00V,エイエムオー・ジャパン)について,白内障手術後早期の視力,屈折度,QOL(qualityoflife)における臨床転帰を評価する.対象および方法:32人60眼(年齢73.1±6.0歳)を対象に,ZCB00Vを挿入する白内障手術を実施し,手術1カ月後に裸眼遠方視力,矯正遠方視力,自覚的屈折度,視覚に関連したQOLを評価する多施設前向き研究を行った.QOLの評価はNEIVFQ-25(the25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestion-naire)によるアンケート調査により行った.結果:術中合併症の発生はなかった.術前から手術1カ月後にかけ,裸眼遠方視力(logMAR値)は0.58±0.40から0.02±0.16,矯正遠方視力(logMAR値)は0.14±0.24から.0.06±0.06といずれも有意に改善した(ともにp<0.01).等価球面度数は.0.07±2.24Dから.0.39±0.46Dと推移したが,有意な変化ではなかった(p=0.21).手術1カ月後の片眼裸眼遠方視力(logMAR値)は,対象眼数の81.67%(49眼/60眼)で0.0以下,93.33%(56眼/60眼)で0.1以下,そして96.67%(58眼/60眼)で0.3以下であった.片眼矯正遠方視力(logMAR値)は,対象眼数の97.96%(48眼/49眼)で0.0以下,そして100%で0.3以下であった.手術1カ月後のQOLはNEIVFQ-25の12の下位尺度すべてで有意に改善した(いずれもp≦0.01).結論:ZCB00Vは白内障手術後早期の視機能改善において有効性と安全性を備えたIOLである.Purpose:ToevaluateearlyclinicaloutcomesoftheTECNISROptiBlue(ZCB00V;AbbottMedicalOptics,Inc.)intraocularlens(IOL),anew,yellow-tinted,violetlightblockingIOL,postcataractsurgery.Methods:Thestudycomprised60eyesof32patients(meanage:73.1±6.0years)fromtwoeyeclinicsthatunderwentcataractsurgerywithimplantationoftheTECNISROptiBlueIOL.Uncorrecteddistancevisualacuity(UDVA),correcteddistancevisualacuity(CDVA),manifestrefraction,andvision-relatedqualityoflifewereexaminedprospectivelyat1-monthpostoperative.Qualityoflifewasmeasuredwiththe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire(NEIVFQ-25).Results:Nocomplicationsoccurredduringsurgery.ThemeanUDVA(logMAR)valueswere0.58±0.40and0.02±0.16atbeforesurgeryandat1-monthpostoperative,respectively,andthemeanCDVA(logMAR)valuesatthosesameevaluationtime-pointswere0.14±0.24and.0.06±0.06,respectively,thusshowingthatbothUDVAandCDVAweresignificantlyimprovedat1-monthpostoperative(p<0.05).Beforesur-geryandat1-monthpostoperative,themeansphericalequivalentvalueswere.0.07±2.24diopters(D)and.0.39±0.46D,respectively,thusshowingnosignificantchangebetweenbeforeandaftersurgery.At1-monthpost-operative,81.67%(49/60)oftheeyesachievedanUDVAof≦0.0,93.33%(56/60)achievedanUDVAof≦0.1,and96.67%(58/60)achievedanUDVAof≦0.3,and97.96%(48/49)oftheeyesachievedaCDVAof≦0.0and100%achievedaCDVAof≦0.3.TheNEIVFQ-25scoresweresignificantlyimprovedinallofthe12subscalesat1-monthpostoperative(p≦0.01).Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthesafetyandefficacyoftheTECNISROptiBluevioletblockingIOLwithrespecttoearlypostoperativevisualoutcomesfollowingcataractsur-gery. 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):898.903,2015〕Keywords:眼内レンズ,青色光,裸眼遠方視力,矯正遠方視力,等価球面度数,NEIVFQ-25,QOL.intraocularlens,bluelight,uncorrecteddistancevisualacuity,correcteddistancevisualacuity,sphericalequivalent,NEIVFQ-25,QOL.はじめに白内障手術に使用される眼内レンズ(IOL)は1980年代後半以降,光毒性により網膜損傷を引き起こす紫外線(UV)の透過防止を目的として,レンズ材料成分にUV吸収能をもつ発色団を添加し,UVフィルター機能をもたせたIOLが一般的となっている1,2).これらのIOLでは当初,可視光の全波長領域を透過させる非着色タイプのIOLが普及した2).しかし,短波長可視光が網膜に及ぼす悪影響に関して,動物実験により青色光の光毒性が網膜傷害の原因となることが明らかにされた3).また,疫学的研究により,青色光への曝露が加齢黄斑変性の発症と関連する可能性が示された4).こうしたエビデンスの蓄積を背景に,青色光吸収能を有する発色団の添加によって,UVから青色光までの波長スペクトルに対するフィルター機能をもたせた着色タイプの青色光ブロックIOLが開発され5),近年臨床への普及が進んでいる.青色光ブロックIOLを従来の非着色IOLと比較した術後成績に関しては,視力,コントラスト感度,色覚といった視機能や視覚に関連したQOL(qualityoflife)について,両IOLで同等に良好であったという報告がある6,7).一方で,青色光ブロックIOL挿入眼では非着色IOL挿入眼と比較し,暗所視や薄明視における視機能が低下する可能性が指摘されている2).暗所視では,最大視感度の波長が明所視よりも短波長側にシフトするPurkinje現象により,視覚における青色光の重要度が増すと考えられる8).また,青色光ブロックIOL挿入による青色光遮断に伴い,概日リズム同調に必要な網膜神経節細胞での光受容が妨げられ,体内時計や睡眠に関連した問題を生じる可能性も指摘されている9).こうしたなか,青色光ブロックIOLの臨床的有用性の評価をめぐり,いまだ議論が続いているのが現状である10).2013年から使用可能となった新しい着色IOLのテクニスオプティブルー(ZCB00V,エイエムオー・ジャパン)では,従来の青色光吸収剤ではなく紫色光吸収剤が添加されており,UVから400.440nmの紫色光までの波長スペクトルに対するフィルター機能を備えている.440.500nmの青色光は暗所視下に最大視感度を示す波長の近傍であり,かつ概日リズム同調に必要とされる領域を含むが,ZCB00Vは,この青色光領域に対する分光透過率が従来の青色光ブロックIOLと比べて高い8).このためZCB00Vでは,従来の青色光ブロックIOLに対し指摘される上記のデメリットが改善される可能性がある.(135)本研究は,青色光透過性をもつ紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの術後成績についての最初の臨床報告である.ZCB00Vを挿入する白内障手術を行い,手術1カ月後までの視力,屈折度,および視覚に関連したQOLの臨床経過を検討した.I対象および方法1.対象患者研究対象は,2施設の眼科専門クリニック(岡眼科クリニック,福岡;さだまつ眼科クリニック,埼玉)にて,1ピース非球面タイプの紫色光ブロックIOLであるZCB00Vを用いて白内障手術を施行した32人(男性11人,女性21人)60眼である.患者の選択基準はつぎのとおりとした:①年齢21歳以上,②術後の正視を希望,③必要となるIOLの度数が15.26D,④本研究への参加についてインフォームド・コンセントが実施されている,⑤本研究への参加意思があり,術後フォローアップスケジュールに従った受診が可能.また,除外基準をつぎのように定めた:①視力に影響する可能性のある薬剤を全身投与もしくは点眼投与により使用中,②視力もしくは本研究の検討結果に影響を及ぼす可能性がある疾患やその他の病的状態(急性,慢性を問わない)を有する,③術前もしくは術後の診察で水晶体.とZinn小帯の両方もしくはどちらか片方に異常所見があり,それを原因としたIOLの偏位によって術後の視力が影響を受ける可能性がある,④瞳孔の異常(瞳孔無反応,瞳孔強直,瞳孔形態異常,薄明視もしくは暗所視下で瞳孔径4mm以上に拡大しない),⑤散瞳点眼剤へのアレルギーを有する.本研究は各施設の倫理審査委員会による承認を受けており,1964年のヘルシンキ宣言において採択された臨床研究の倫理規範に従って実施された.2.術前・術後臨床評価項目術前臨床評価として,すべての対象患者につぎの項目の一般的な眼科検査を実施した:①裸眼遠方視力,②矯正遠方視力,③自覚的屈折度,④細隙灯顕微鏡検査,⑤生体計測(IOLマスター,カールツァイスメディテック),⑥眼底検査.また,視覚に関連したQOLについて,測定尺度として信頼性・妥当性が確立されているアンケート調査方法であるNEIVFQ-25(The25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire)11)を用いて評価した.NEIVFQ25は25項目から構成され,全体的健康感や視覚,各種の活あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015899 動を行ううえで感じる困難さ,視力低下がもたらす影響をどの程度重大にとらえているかについて,患者への質問によって測定する.視覚に関連した各種の活動に対して感じる困難さについて,「(1)まったく難しくない」「(2)あまり難しくない」「(3)難しい」「(4)とても難しい」「(5)見えにくいのでするのをやめた」「(6)別の理由でするのをやめた/もともとしない」の回答により6段階に評価した(回答(6)は欠損データとして扱った).また,視力低下の影響によるさまざまな役割の制限について尋ねた13項目のうち,5項目については「(1)いつも」.「(5)まったくない」,8項目については「(1)まったくそのとおり」.「(5)ぜんぜんあてはまらない」の回答により,いずれも5段階に評価した.なおNEIVFQ-25は,患者が普段の状態で各種の活動を行うことができるかどうかを尋ねるものであり,患者は眼鏡の使用が許容されるものとして回答する.術後臨床評価として,手術翌日,1週間後,1カ月後の来院時につぎの検査を行った:①裸眼遠方視力,②矯正遠方視力,③自覚的屈折度,④細隙灯顕微鏡検査.また手術1カ月後にNEIVFQ-25を用いて再度,QOLを評価した.3.使用したIOLZCB00Vは,UV・紫色光吸収剤が添加された柔軟で折り畳み可能なアクリル素材からなる1ピース非球面IOLで,光学部直径6.0mm,全長13.0mmである.後.混濁予防のため,光学部はフロスト加工処理され,また後面全周に直角エッジデザインが施されている.紫色光吸収剤によって遮断されるおもな波長域は,網膜損傷を引き起こす可能性のある440nm未満の短波長域8)に限られている.暗所視下の良好な視機能や概日リズム同調のために必要となる440.500nmの青色光領域に対しては,ZCB00Vは従来の青色光ブロックIOLと比べて高い分光透過率を示す8).本レンズは,選択可能な全度数範囲+6.0.+30.0D(0.50D刻み)を通じて分光透過率曲線の形状がほぼ同一となるように設計されている.また,角膜の球面収差を補正することにより術後の眼球全体の球面収差をほぼ0とすることを目的として,レンズ後面は非球面形状となっている.メーカー推奨A定数は118.8である.4.手術手技手術は全例,熟練した術者が局所麻酔下で施行した.岡眼科クリニックでは耳側角膜2.4mm切開,さだまつ眼科クリニックでは耳側経結膜2.4mm切開を行い,CCC(continuouscurvilinearcapsulorhexis)による前.切開に続いて超音波水晶体乳化吸引術を行った後,IOL挿入器アンフォルダーRプラチナ1システム(エイエムオー・ジャパン)を使って水晶体.内にZCB00Vを挿入した.術後管理として全例にステロイド点眼薬投与を行った.5.統計解析統計解析ソフトウェアSPSSversion19.0(IBM)を使用して統計学的検討を行った.各評価項目における経時的変化をみるため,術前後の各評価時点間でWilcoxon順位和検定を用いて比較した.いずれの場合も統計学的有意水準はp<0.05とした.QOLについてのNEIVFQ-25による調査結果を解析するため,米国国立眼病研究所(NEI)の実施要綱に従い,全25項目を構成する12の下位尺度についてのスコア化を行った11).調査時に,視機能が良好なほど高スコアとする採点ルールに従って全25項目のスコア値を記録した後,各項目のスコア値をそれぞれ最低スコア値0.最高スコア値100のスケールに変換した.そして関連性のある項目のスコア値の平均値を求めることで,12の下位尺度のスコア値を算出した.II結果1.患者背景本研究はプロスペクティブな検討として実施され,参加した患者は男性11人(34.4%),女性21人(65.6%),年齢73.1±6.0歳(平均値±SD,範囲:64.83歳),対象とした60眼の内訳は右目29眼(48.3%),左目31眼(51.7%)であった.挿入されたIOLの度数は21.42±3.02D(平均値±SD,中央値:21.00D,範囲:12.50.27.00D)であった.23眼(38.3%)に眼疾患既往があり,23眼(38.3%)に眼底の異常所見がみられた.術前臨床評価時に検出された眼疾患や眼の病的状態は以下のとおりであった:加齢黄斑変性1眼(1.7%),動脈硬化性網膜症1眼(1.7%),糖尿病網膜症4眼(6.7%),緑内障10眼(16.7%),糖尿病網膜症を併存する緑内障2眼(3.3%),黄斑部網膜上膜を併存する緑内障1眼(1.7%),高血圧性網膜症3眼(5.0%),偽落屑緑内障1眼(1.7%).術中合併症の発生はなかった.2.視力と屈折度表1に視力と屈折度の術前.手術1カ月後における経時的推移を示す.片眼裸眼遠方視力(logMAR値,平均値±SD)は術前の0.58±0.40から手術1カ月後に0.02±0.16,片眼矯正遠方視力(logMAR値,平均値±SD)は術前の0.14±0.24から手術1カ月後に.0.06±0.06といずれも有意に改善していた(Wilcoxon順位和検定,いずれもp<0.01;図1).等価球面度数(平均値±SD)は術前の.0.07±2.24Dから手術1カ月後に.0.39±0.46Dと推移したが,有意な変化ではなかった(Wilcoxon順位和検定,p=0.21;図2).手術1カ月後の片眼裸眼遠方視力(logMAR値)が0.0以下であった眼数の割合は81.67%(49眼/60眼),0.1以下は93.33%(56眼/60眼),0.3以下は96.67%(58眼/60眼)であった(図3a).同様に手術1カ月後の片眼矯正遠方視力(logMAR値)が0.0以下,0.1以下の割合はともに97.96%(48(136) あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015901(137)眼/49眼)であり,0.3以下は100%であった(図3b).3.QOL表2にNEIVFQ-25で評価したQOLを術前と手術1カ月後で比較した結果を示す.手術1カ月後に12の下位尺度のすべてにおいてスコア値の有意な改善がみられた(Wilcox-on順位和検定,いずれもp≦0.01).III考察裸眼遠方視力(logMAR値)の平均値±SDは手術1カ月後に0.02±0.16(範囲:.0.08.1.00)まで改善した.この結果から,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの挿入眼では,視力の良好な予後が期待できることが示された.表1術前後の片眼視力および屈折度の臨床経過術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後術前vs.手術1カ月後の比較†UDVA0.58(0.40)0.52(.0.08.1.70)0.08(0.16)0.00(.0.08.1.00)0.02(0.14)0.00(.0.08.0.82)0.02(0.16)0.00(.0.08.1.00)p<0.01CDVA0.14(0.24)0.10(.0.08.1.30).0.01(0.11).0.08(.0.08.0.52).0.06(0.05).0.08(.0.08.0.15).0.06(0.06).0.08(.0.08.0.22)p<0.01等価球面度数(D).0.07(2.24)+0.25(.6.00.+4.63).0.10(0.35)0.00(.0.75.+0.63).0.08(0.37)0.00(.1.00.+0.75).0.39(0.46).0.50(.2.50.0.00)p=0.21上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値.†:Wilcoxon順位和検定.図1フォローアップ期間中の片眼裸眼遠方視力と片眼矯正遠方視力の変化UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値(平均値±標準偏差).p値:Wilcoxon順位和検定.logMAR値-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後UDVACDVA0.58±0.400.02±0.16-0.06±0.060.14±0.24術前vs.手術1カ月後:p<0.01術前vs.手術1カ月後:p<0.01図2フォローアップ期間中の等価球面度数の変化平均値±標準偏差.p値:Wilcoxon順位和検定.等価球面度数(D)-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.0術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後-0.39±0.46術前vs.手術1カ月後:p=0.21-0.07±2.24図3フォローアップ期間を通じた片眼裸眼遠方視力(a)と片眼矯正遠方視力(b)の分布変化術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合logMAR値■0.0以下■0.1以下■0.3以下100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%abあたらしい眼科Vol.32,No.6,2015901(137)眼/49眼)であり,0.3以下は100%であった(図3b).3.QOL表2にNEIVFQ-25で評価したQOLを術前と手術1カ月後で比較した結果を示す.手術1カ月後に12の下位尺度のすべてにおいてスコア値の有意な改善がみられた(Wilcox-on順位和検定,いずれもp≦0.01).III考察裸眼遠方視力(logMAR値)の平均値±SDは手術1カ月後に0.02±0.16(範囲:.0.08.1.00)まで改善した.この結果から,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vの挿入眼では,視力の良好な予後が期待できることが示された.表1術前後の片眼視力および屈折度の臨床経過術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後術前vs.手術1カ月後の比較†UDVA0.58(0.40)0.52(.0.08.1.70)0.08(0.16)0.00(.0.08.1.00)0.02(0.14)0.00(.0.08.0.82)0.02(0.16)0.00(.0.08.1.00)p<0.01CDVA0.14(0.24)0.10(.0.08.1.30).0.01(0.11).0.08(.0.08.0.52).0.06(0.05).0.08(.0.08.0.15).0.06(0.06).0.08(.0.08.0.22)p<0.01等価球面度数(D).0.07(2.24)+0.25(.6.00.+4.63).0.10(0.35)0.00(.0.75.+0.63).0.08(0.37)0.00(.1.00.+0.75).0.39(0.46).0.50(.2.50.0.00)p=0.21上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値.†:Wilcoxon順位和検定.図1フォローアップ期間中の片眼裸眼遠方視力と片眼矯正遠方視力の変化UDVA:裸眼遠方視力,CDVA:矯正遠方視力.いずれもlogMAR値(平均値±標準偏差).p値:Wilcoxon順位和検定.logMAR値-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後UDVACDVA0.58±0.400.02±0.16-0.06±0.060.14±0.24術前vs.手術1カ月後:p<0.01術前vs.手術1カ月後:p<0.01図2フォローアップ期間中の等価球面度数の変化平均値±標準偏差.p値:Wilcoxon順位和検定.等価球面度数(D)-3.0-2.5-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.02.53.0術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後-0.39±0.46術前vs.手術1カ月後:p=0.21-0.07±2.24図3フォローアップ期間を通じた片眼裸眼遠方視力(a)と片眼矯正遠方視力(b)の分布変化術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合logMAR値■0.0以下■0.1以下■0.3以下100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%術前手術翌日手術1週間後手術1カ月後眼数の割合100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%ab 表2NEI.VFQ25の12の下位尺度を用いて評価した術前後のQOL変化NEI-VFQ25下位尺度術前手術1カ月後p値†全体的健康感53.13(15.23)50.00(25.00.100.00)64.06(21.94)50.00(25.00.100.00)0.01全体的見え方55.63(17.40)60.00(20.00.80.00)91.25(10.08)100.00(80.00.100.00)<0.01目の痛み83.59(17.52)87.50(37.50.100.00)93.95(9.05)100.00(62.50.100.00)0.01近見視力による行動60.94(24.54)66.67(0.00.100.00)92.47(12.79)100.00(50.00.100.00)<0.01遠見視力による行動65.63(20.60)66.67(25.00.100.00)98.39(3.98)100.00(83.33.100.00)<0.01運転56.88(25.16)50.00(25.00.100.00)96.71(8.17)100.00(75.00.100.00)<0.01周辺視覚70.16(21.81)75.00(25.00.100.00)99.22(4.42)100.00(75.00.100.00)<0.01色覚87.10(12.70)75.00(75.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による社会生活機能82.81(17.32)87.50(25.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による自立75.78(24.99)75.00(25.00.100.00)99.46(2.99)100.00(83.33.100.00)<0.01見え方による心の健康69.73(23.12)68.75(25.00.100.00)100.00(0.00)100.00(100.00.100.00)<0.01見え方による役割制限76.56(24.75)81.25(25.00.100.00)99.19(2.67)100.00(87.50.100.00)<0.01上段に平均値(標準偏差),下段に中央値(範囲)を示す.†:Wilcoxon順位和検定(術前vs.手術1カ月後の比較).本研究で裸眼遠方視力と矯正遠方視力により評価したZCB00Vの視力予後は,従来タイプの着色IOLである青色光ブロックIOLについて過去に報告された予後評価の結果と同等であった12.15).加えて,非着色タイプの非球面IOLについて過去に報告された結果とも同等,もしくはそれらより良好な結果であった16,17).Baghiらは,TecnisZ9000(AbbottMedicalOpticsInc.USA)とAkreosAO(Bausch&LombInc.USA)の2種類の非球面非着色IOLで視力予後を比較し,各IOL挿入眼の手術3カ月後の裸眼視力(logMAR値)平均値がそれぞれ0.18,0.25であったと報告している16).これに対し,同じ2種類のIOLについてJohanssonらが行った比較検討では,手術10.12週後の裸眼視力(logMAR値)平均値についてTecnisZ9000で0.08,AkreosAOで0.11とより良好な結果が報告されている17).これらの既報の結果との比較から,ZCB00Vは非球面非着色IOLや青色光ブロックIOLと比べ,視力予後が同等,もしくはそれらより良好と考えられる.視力予後に加え,ZCB00Vの挿入が視覚に関連するQOLに及ぼす影響について,NEIVFQ-25を用いたアンケート調査により評価した.NEIVFQ-25は当初,各種の眼疾患に伴う視力低下がさまざまな日常行動に影響を及ぼすことにより,QOLにどう影響するかを測る目的で開発された11).その後の検証により,調査対象者の視力のレベルや健康状態によらず,信頼性・妥当性をもってQOLを評価可能な測定尺度として確立されている18).また近年は,調節型IOLや回折多焦点IOLといった各種のIOLを用いて白内障手術を施行した後のQOLの変化を評価する目的で,NEIVFQ-25が使用されている19,20).本研究では,NEIVFQ-25の12の下位尺度すべてで術後に有意な改善が認められ,そのなかでも平均値増加幅が比較的大きかった下位尺度が「運転」(術前ベースライン値:56.88,増加幅:39.8),「全体的見え方」(同:55.63,同:35.6),「遠見視力による行動」(同:65.63,同:32.8),「近見視力による行動」(同:60.94,同:31.5)であった.Espindleらは青色光ブロックIOLについて,白内障手術前後の視覚に関連したQOLの変化を,NEIVFQ25と同一の12の下位尺度をもち39項目から構成されるNEIVFQ-39を用いて調べた6).その結果,手術120.180日後に「全体的健康感」を除く11の下位尺度すべてでQOL(138) が有意に改善しており,平均値増加幅が比較的大きかった尺度は「運転」(術前ベースライン値:58.37,増加幅:31.17),「全体的見え方」(同:60.04,同:28.59),「近見視力による行動」(同:66.28,同:26.72)「遠見視力による行動」(同:68.89,同:26.17)と本研究の果と共通していた.本研究の観察期間は手術後1カ月間と短いため単純な比較はできないものの,青色光を透過する紫色光ブロックIOLであるZCB00Vは,青色光ブロックIOLと同様に術後の視覚に関連したQOLを改善させると考えられる.結論として,青色光を透過し紫色光.UVを遮断する紫色光ブロックIOLのZCB00Vは,白内障手術後早期の視機能改善において有効性と安全性を備えたIOLであり,従来タイプの青色光ブロックIOLと比較し,遜色ない臨床成績が期待できる.今後の検討課題に関しては,ZCB00Vでは,暗所視において重要度を増す青色光に対し高い分光透過率を示す8)ため,青色光ブロックIOLについて問題視されてきた暗所視でのコントラスト感度低下が起きにくいと予想される.したがって今後,ZCB00V挿入眼におけるコントラスト感度と色覚について検証することが必要と考えられる.また,ZCB00Vでは,患者の視機能低下につながる可能性があるグリスニングやsub-surfacenanoglistening(SSNG)が発生しにくい疎水性アクリル素材が用いられており21),本IOL挿入眼におけるグリスニングやSSNG発生についても検証が必要である.さらに,ZCB00Vの使用によって安定結(,)した長期予後が得られるかに関連して,IOLの.内安定,後.混濁(PCO)の検証も必須である.文献1)MainsterMA:Thespectra,classification,andrationaleofultraviolet-protectiveintraocularlenses.AmJOphthalmol102:727-732,19862)HendersonBA,GrimesKJ:Blue-blockingIOLs:acompletereviewoftheliterature.SurvOphthalmol55:284289,20103)GrimmC,WenzelA,WilliamsTetal:Rhodopsin-mediatedblue-lightdamagetotheratretina:effectofphotoreversalofbleaching.InvestOphthalmolVisSci42:497505,20014)TaylorHR,WestS,MunozBetal:Thelong-termeffectsofvisiblelightontheeye.ArchOphthalmol110:99-104,19925)DavisonJA,PatelAS:Lightnormalizingintraocularlenses.IntOphthalmolClin45:55-106,20056)EspindleD,CrawfordB,MaxwellAetal:Quality-of-lifeimprovementsincataractpatientswithbilateralbluelight-filteringintraocularlenses:clinicaltrial.JCataractRefractSurg31:1952-1959,20057)ZhuXF,ZouHD,YuYFetal:Comparisonofbluelight-filteringIOLsandUVlight-filteringIOLsforcataractsurgery:ameta-analysis.PLoSOne7:e33013,20128)MainsterMA:Violetandbluelightblockingintraocularlenses:photoprotectionversusphotoreception.BrJOphthalmol90:784-792,20069)TurnerPL,MainsterMA:Circadianphotoreception:ageingandtheeye’simportantroleinsystemichealth.BrJOphthalmol92:1439-1444,200810)YangH,AfshariNA:Theyellowintraocularlensandthenaturalageinglens.CurrOpinOphthalmol25:40-43,201411)StelmackJA,StelmackTR,MassotRW:Measuringlow-visionrehabilitationoutcomeswiththeNEIVFQ-25.InvestOphthalmolVisSci43:2859-2868,200212)Kara-JuniorN,EspindolaRF,GomesBAFetal:Effectsofbluelight-filteringintraocularlensesonthemacula,contrastsensitivity,andcolorvisionafteralong-termfollow-up.JCataractRefractSurg37:2115-2119,201113)LeibovitchI,LaiT,PorterNetal:Visualoutcomeswiththeyellowintraocularlens.ActaOphthalmolScand84:95-99,200614)MarshallJ,CionniRJ,DavisonJetal:Clinicalresultsoftheblue-lightfilteringAcrySofNaturalfoldableacrylicintraocularlens.JCataractRefractSurg31:2319-2323,200515)LandersJ,TanTH,YuenJetal:ComparisonofvisualfunctionfollowingimplantationofAcrysofNaturalintraocularlenseswithconventionalintraocularlenses.ClinExperimentOphthalmol35:152-159,200716)BaghiAR,JafarinasabMR,ZiaeiHetal:VisualOutcomesofTwoAsphericPCIOLs:TecnisZ9000versusAkreosAO.JOphthalmicVisRes3:32-36,200817)JohanssonB,SundelinS,Wikberg-MatssonAetal:VisualandopticalperformanceoftheAkreosAdaptAdvancedOpticsandTecnisZ9000intraocularlenses:Swedishmulticenterstudy.JCataractRefractSurg33:1565-1572,200718)HymanLG,KomaroffE,HeijlAetal:Treatmentandvision-relatedqualityoflifeintheearlymanifestglaucomatrial;fortheEarlyManifestGlaucomaTrialGroup.Ophthalmology112:1505-1513,200519)RamonML,PineroDP,Blanes-MompoFJetal:Clinicalandqualityoflifedatacorrelationwithasingle-opticaccommodatingintraocularlens.JOptom6:25-35,201320)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Opticalanalysis,readingperformance,andquality-of-lifeevaluationafterimplantationofadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:27-37,201121)ColinJ,PraudD,TouboulDetal:Incidenceofglisteningswiththelatestgenerationofyellow-tintedhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1140-1146,2012***(139)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015903

テクニス®1 ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入後1年の成績

2015年6月30日 火曜日

8945106,22,No.3《原著》あたらしい眼科32(6):894.897,2015cはじめに白内障手術時に,回折型多焦点眼内レンズ(IOL)を挿入することで良好な遠方および近方の裸眼視力が得られることが報告され,近年,これら数多くの臨床報告がまとめられている1,2).多焦点IOL挿入例においては,良好な裸眼視力を得るために,精度の高いIOL度数計算のみならず,視力に影響する乱視をできるだけ軽減することが求められる3).術後乱視は1.0D以下が望ましいとされ4),術後乱視の予測性を高めるには,手術による惹起乱視を最小限に抑える,すなわちより小さな切開が有利である.このことは,多焦点IOLのみならず単焦点,特にトーリックIOLにおいても重要で,眼内レンズの形状は3ピースから,より小さな切開から挿入可能な1ピース形状が好まれている.回折型多焦点IOLにおいて,3ピース(ZMA00:AMO社)と1ピース(ZMB00:AMO社)を比較し,術後1カ月において,1ピースタイプのほうが安定した裸眼遠方および894(130)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANテクニスR1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入後1年の成績ビッセン宮島弘子吉野真未平沢学大木伸一南慶一郎東京歯科大学水道橋病院眼科One-YearPostoperativeResultsofTECNISRMultifocal1-PieceDiffractiveIntraocularLensInsertionHirokoBissen-Miyajima,MamiYoshino,ManabuHirasawa,ShinichiOkiandKeiichiroMinamiDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital回折型多焦点眼内レンズ(IOL)は近方加入度数やIOL形状の異なるものが開発されている.今回,アクリル製で支持部が前方に偏位したテクニスR1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00:AMO社)が挿入され,術後1年の経過観察が行えた症例の臨床成績を後向きに検討した.症例は109例167眼(平均年齢56.4±12.1歳)で,遠方視力(裸眼・矯正),近方視力(裸眼・遠方矯正下),自覚等価球面度数(MRSE),高次収差,コントラスト感度,眼鏡装用率,Nd:YAGレーザー後.切開施行率を調べた.遠方裸眼視力は術後1週より1年にわたり平均小数視力1.1以上,近方は0.7以上,MRSEは術後早期から後期にわずかに遠視化したが視力への影響はなかった.平均コントラスト感度は正常範囲内で,眼鏡装用率は7.8%,レーザー後.切開施行率は3.6%であった.テクニスR1ピース回折型多焦点眼内IOLは挿入後1年にわたり,良好で安定した視機能が得られ,有用なIOLと考えられた.Multifocalintraocularlenses(IOLs)withdifferentnearadditionalpowersanddesignshavebeendeveloped.Inthisstudy,weretrospectivelyexaminedtheclinicaloutcomesineyeswithTECNISRMultifocal1-PieceIOL(ZMB00;AbbotMedicalOptics)upto1-yearpostoperative.Thisstudyinvolved169eyesof109patients(meanage:56.4±12.1years).Meanuncorrecteddistancedecimalvisualacuity(VA)was≧1.1andnearVAwas≧0.7.Meanmanifestrefractionsphericalequivalentwasstableandmeancontrastsensitivitywaswithinthenormalrange.Therateofspectacleusagewas7.8%andtherateofeyesthatunderwentNd:YAGlaserposteriorcapsu-lotomywas3.6%.ThefindingsofthisstudyshowthattheTECNISRMultifocal1-PieceIOLprovidesgoodandstablevisualfunctionfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):894.897,2015〕Keywords:多焦点レンズ,1ピース,裸眼視力,術後屈折.multifocallens,1-piece,uncorrectedvision,postop-erativerefraction.テクニスR1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入後1年の成績ビッセン宮島弘子吉野真未平沢学大木伸一南慶一郎東京歯科大学水道橋病院眼科One-YearPostoperativeResultsofTECNISRMultifocal1-PieceDiffractiveIntraocularLensInsertionHirokoBissen-Miyajima,MamiYoshino,ManabuHirasawa,ShinichiOkiandKeiichiroMinamiDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital回折型多焦点眼内レンズ(IOL)は近方加入度数やIOL形状の異なるものが開発されている.今回,アクリル製で支持部が前方に偏位したテクニスR1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00:AMO社)が挿入され,術後1年の経過観察が行えた症例の臨床成績を後向きに検討した.症例は109例167眼(平均年齢56.4±12.1歳)で,遠方視力(裸眼・矯正),近方視力(裸眼・遠方矯正下),自覚等価球面度数(MRSE),高次収差,コントラスト感度,眼鏡装用率,Nd:YAGレーザー後.切開施行率を調べた.遠方裸眼視力は術後1週より1年にわたり平均小数視力1.1以上,近方は0.7以上,MRSEは術後早期から後期にわずかに遠視化したが視力への影響はなかった.平均コントラスト感度は正常範囲内で,眼鏡装用率は7.8%,レーザー後.切開施行率は3.6%であった.テクニスR1ピース回折型多焦点眼内IOLは挿入後1年にわたり,良好で安定した視機能が得られ,有用なIOLと考えられた.Multifocalintraocularlenses(IOLs)withdifferentnearadditionalpowersanddesignshavebeendeveloped.Inthisstudy,weretrospectivelyexaminedtheclinicaloutcomesineyeswithTECNISRMultifocal1-PieceIOL(ZMB00;AbbotMedicalOptics)upto1-yearpostoperative.Thisstudyinvolved169eyesof109patients(meanage:56.4±12.1years).Meanuncorrecteddistancedecimalvisualacuity(VA)was≧1.1andnearVAwas≧0.7.Meanmanifestrefractionsphericalequivalentwasstableandmeancontrastsensitivitywaswithinthenormalrange.Therateofspectacleusagewas7.8%andtherateofeyesthatunderwentNd:YAGlaserposteriorcapsulotomywas3.6%.ThefindingsofthisstudyshowthattheTECNISRMultifocal1-PieceIOLprovidesgoodandstablevisualfunctionfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):894.897,2015〕Keywords:多焦点レンズ,1ピース,裸眼視力,術後屈折.multifocallens,1-piece,uncorrectedvision,postoperativerefraction.はじめに白内障手術時に,回折型多焦点眼内レンズ(IOL)を挿入することで良好な遠方および近方の裸眼視力が得られることが報告され,近年,これら数多くの臨床報告がまとめられている1,2).多焦点IOL挿入例においては,良好な裸眼視力を得るために,精度の高いIOL度数計算のみならず,視力に影響する乱視をできるだけ軽減することが求められる3).術後乱視は1.0D以下が望ましいとされ4),術後乱視の予測性を高めるには,手術による惹起乱視を最小限に抑える,すなわちより小さな切開が有利である.このことは,多焦点IOLのみならず単焦点,特にトーリックIOLにおいても重要で,眼内レンズの形状は3ピースから,より小さな切開から挿入可能な1ピース形状が好まれている.回折型多焦点IOLにおいて,3ピース(ZMA00:AMO社)と1ピース(ZMB00:AMO社)を比較し,術後1カ月において,1ピースタイプのほうが安定した裸眼遠方および〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANあたらしい眼科Vol.32,No.6,20150910-1810/15/\100/頁/JCOPY894894894(130) 近方視力が得られることがすでに報告されている5).また,同一プラットフォームの単焦点IOLにおいて,前方に偏位した支持部をもつ1ピースタイプは,水晶体.内において光学部が後.側に押され,より確実な固定が示唆されている6).これらの検討結果から,同デザインの支持部を有する1ピース回折型多焦点IOLは,良好で安定した術後成績が期待されるが,術後長期経過についての報告は筆者らの知る限りではない.そこで,今回,1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00)が挿入され,術後1年間経過観察できた症例の臨床成績を後向きに検討した.I対象および方法対象は,2011年7月から2013年11月までに東京歯科大学水道橋病院眼科にて白内障手術時に1ピース回折型多焦点IOL(ZMB00:AMO社)が挿入された症例である.選択基準は視力に影響を及ぼす緑内障,網膜疾患(糖尿病性網膜症,黄斑変性など)の既往がなく,術中合併症がなく,IOLが水晶体.内固定され,術後1週の矯正遠方視力が0.7以上,術後1年間の経過観察がなされており,術後にエキシマレーザーによる追加屈折矯正手術やIOLの摘出または交換が行われていない症例とした.本研究は,東京歯科大学の倫理審査委員会の承認(承認番号:466)を得たのち,ヘルシンキ宣言に沿って実施された.白内障手術は,点眼麻酔下,2.4mm幅の角膜耳側切開から水晶体超音波乳化吸引術を行い,ZMB00を専用インジェクターにて水晶体.内に挿入した.本IOLにおける近見加入度数は4Dで,およそ30cmの近方視力が期待できる.IOL度数は,眼軸長と角膜屈折力を光干渉式IOLマスター(Zeiss)で測定し,ULIBで指定されたA定数119.5とSRK/T式を用いて,正視狙いで決定した.検討項目は,術後1週,1,3,6カ月,1年における遠方視力(裸眼,矯正),30cmにおける近方視力(裸眼,遠方矯正下),自覚屈折等価球面度数(manifestrefractionsphericalequivalent:MRSE),術後1年における高次収差,コントラスト感度,眼鏡装用率,Nd:YAGレーザー後.切開術の施行率である.視力は小数視力をlogMAR視力に変換して解析を行った.MRSEは,遠方矯正視力測定時の屈折値から求めた.高次収差は,散瞳後にウェーブフロントアナライザーKR-1W(Topcon)を用い,瞳孔径4,6mmにおける全高次収差(RMS値)を求めた.コントラスト感度は,CSV-1000(VectorVision)を用いてグレアなしのコントラスト感度を測定した.視力の経時的な変化に対しては,Kruskal-Wallis検定を行い,有意な変動がある場合は,Steel-Dwassの多重比較を行った.MRSEには,分散分析(ANOVA)を行った.p<0.05を統計学的に有意差ありとした.結果は,平均±標準偏差で表記する.II結果研究期間中,ZMB00は346眼に挿入されていたが,選択基準に合わない症例(術後に追加屈折矯正手術が施行されていた15眼,術後1年まで経過観察できなかった症例など)を除き,109例(男性43例,女性66例)167眼を解析対象とした.平均年齢は56.4±12.1歳であった.術前の平均眼軸長は25.0±1.7mm,平均角膜乱視度数は0.80±0.56D,挿入されたIOLの平均度数は17.4±5.4Dであった.術後1週から1年までの遠方視力および近方視力を表1に示す.遠方視力は裸眼,矯正ともに平均小数視力が1.1以上と良好で,術後1年間にわたり有意な変化はなかった.近方視力も裸眼,遠方矯正下ともに平均小数視力0.7以上と良好であった.経過観察時期による有意差は,遠方矯正下近方視力で術後3,6カ月と術後1年に認められた(p<0.016)が,その差は0.05logMARであった.各経過観察時期の自覚屈折等価球面度数は.0.12±0.36D,.0.12±0.38D,.0.12±0.33D,.0.04±0.35D,.0.03±0.39Dで,観察時期で統計学的に有意な変化はなかった(p=0.072).術後1年における全高次収差は,4mm径で0.15±0.08μm,6mm径で0.57±0.32μm(ともにRMS値)であった.術後1年の平均コントラスト感度は,18cycleperdegree(cpd)のみ正常値下限レベルで,他の空間周波数では正常範囲内で表1術後logMAR視力(平均±標準偏差)観察時期視力logMAR術後1週術後1カ月術後3カ月術後6カ月術後1年p値*裸眼遠方.0.05±0.13.0.05±0.14.0.05±0.11.0.05±0.12.0.07±0.130.51矯正遠方.0.14±0.07.0.14±0.08.0.14±0.09.0.14±0.10.0.15±0.080.074裸眼近方0.10±0.160.10±0.140.11±0.130.12±0.120.09±0.130.093遠方矯正下近方0.07±0.120.07±0.140.10±0.12†0.10±0.11†0.05±0.120.002*:術後1年間の変動に対するp値(KruskalWallis検定),†:術後1年に対して有意差あり(p<0.05,Steel-Dwass多重比較)(131)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015895 CSV-1000ContrastSensitivitySpatialFrequency─(CyclesPerDegree)図1術後1年時のコントラスト感度あった(図1).眼鏡を装用していたのは13例18眼で,使用目的は遠方視用が7眼,近方視用が6眼,中間視用(おもにパソコン使用時)が6眼で,装用率は7.8%であった.Nd:YAGレーザーによる後.切開術施行率は3.6%(6眼)で,施行時期は術後5カ月から11カ月であった.III考按1ピース多焦点IOLZMB00挿入眼の術後視力は,遠近両方において術後1週から1年まで良好であった.同多焦点IOLの報告は,術後1カ月で平均遠方裸眼logMAR視力が0.03,矯正視力が.0.15,近方裸眼視力が0.105),術後4.6カ月で平均遠方裸眼logMAR視力が0.25±0.10,近方裸眼視力が0.15±0.30と7),本検討の結果と差異はなかった.術後1年以降の報告はないが,本多焦点IOLと同じ光学部デザインをもつシリコーン製多焦点IOLの長期観察結果8)と比較しても,術後1年の視力は同等であった.また,apodized回折型多焦点IOL(SA60D3,Alcon)の術後1年の成績では,裸眼遠方視力は0.7以上が88%,裸眼近方視力は0.4以上が全例と報告されている9).本検討における該当する割合を求めると,97%,98%であり,apodized回折型と同等以上と考えられた.以上より,ZMB00挿入後,早期から良好な遠方および近方視力と,長期の安定性が示された.術後の屈折において,テクニスR1ピースIOL挿入眼における遠視化が指摘され5,6),その要因として前方に偏位した支持部が示唆されている.一方,本検討におけるMRSEは術後早期に0.14-0.15Dの近視化傾向を示したが,屈折誤差は少なかった.これは,理論値のA定数(118.8)を用いず,ULIBの最適化されたA定数を使用したためと考えられ,多焦点IOLにおいては,このように最適化したA定数を用いることで屈折誤差を最小限にすることが重要と考えられた5).MRSEの1年までの長期経過をみると,観察期間で有意な差はないものの,術後6カ月に平均で0.08D増加しており,IOLの約0.1mm前方偏位に相当する5).これは,本IOLの支持部が前方に偏位しているため,.への接触力が大きくなり10),術後に起こる.収縮の影響を受けやすかった可能性がある.後発白内障について,本検討では術後1年までに3.6%にNd:YAGレーザー後.切開術が施行されていた.多焦点IOLにおいては,軽度な後発白内障でも視力に影響し,とくに近方視力でその傾向が強く,Nd:YAGレーザーを早期に要する傾向がある2).後発白内障の抑制,すなわち水晶体上皮細胞の増殖を抑えるためには,IOL後面と後.の接着やIOLのシャープエッジ形状が有用とされている11,12).テクニスR1ピースの支持部による光学部の後.への強い密着は,invitro9)およびinvivo6)で検討されており,支持部もシャープエッジ形状のため,支持部根部からの水晶体内皮細胞の迷入の抑制も期待できる13).以上,テクニスR1ピース回折型多焦点IOLは,従来の多焦点IOL同様,良好な術後遠方および近方視力が得られ,術後1年まで安定した結果であった.IOL形状から,多焦点IOLに重要な後発白内障抑制面ですぐれている可能性があり,今後さらに長期の経過観察が望まれる.文献1)AgrestaB,KnorzMC,KohnenTetal:Distanceandnearvisualacuityimprovementafterimplantationofmultifocalintraocularlensesincataractpatientswithpresbyopia:asystematicreview.JRefractSurg28:426-435,20122)deVriesNE,NuijtsRM:Multifocalintraocularlensesincataractsurgery:literaturereviewofbenefitsandsideeffects.JCataractRefractSurg39:268-278,20133)deVriesNE,WebersCA,TouwslagerWRetal:Dissatisfactionafterimplantationofmultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg37:859-865,20114)HayashiK,ManabeS,YoshidaMetal:Effectofastigmatismonvisualacuityineyeswithadiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg36:1323-1329,20105)宮田和典,片岡康志,本坊正人ほか:1ピース回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における屈折誤差と視力:3ピースとの比較.あたらしい眼科30:269-272,20136)MiyataK,KataokaY,MatsunagaJetal:ProspectiveComparisonofOne-PieceandThree-PieceTecnis(132) AsphericIntraocularLenses:1-yearStabilityanditsEffectonVisualFunction.CurrEyeRes2014Oct13:1-6.[Epubaheadofprint]7)SchmicklerS,BautistaCP,GoesFetal:Clinicalevaluationofamultifocalasphericdiffractiveintraocularlens.BrJOphthalmol97:1560-1564,20138)YoshinoM,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:Two-yearfollow-upafterimplantationofdiffractiveasphericsiliconemultifocalintraocularlenses.ActaOphthalmol89:617621,20119)ビッセン宮島弘子,林研,平容子:アクリソフApodized回折型多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズ挿入成績の比較.あたらしい眼科24:1099-1103,200710)BozukovaD,PagnoulleC,JeromeC:Biomechanicalandopticalpropertiesof2newhydrophobicplatformsforintraocularlenses.JCataractRefractSurg39:1404-1414,201311)NishiO,YamamotoN,NishiKetal:Contactinhibitionofmigratinglensepithelialcellsatthecapsularbendcreatedbyasharp-edgedintraocularlensaftercataractsurgery.JCataractRefractSurg33:1065-1070,200712)ZemaitieneR,JasinskasV,AuffarthGU:Influenceofthree-pieceandsingle-piecedesignsoftwosharp-edgeoptichydrophobicacrylicintraocularlensesonthepreventionofposteriorcapsuleopacification:aprospective,randomized,long-termclinicaltrial.BrJOphthalmol91:644-648,200713)NixonDR,WoodcockMG:Patternofposteriorcapsuleopacificationmodels2yearspostoperativelywith2single-pieceacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:929-934,2010***(133)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015897

円錐角膜の白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した4症例

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):889.893,2015c円錐角膜の白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した4症例力石洋平*1満川忠宏*1大澤亮子*2湯口琢磨*2大城三和子*3海谷忠良*1*1海谷眼科*2みどり台海谷眼科*3かけ川海谷眼科EfficacyofToricIntraocularLensImplantationforPatientswithKeratoconusYoheiChikaraishi1),TadahiroMitsukawa1),RyokoOsawa2),TakumaYuguchi2),MiwakoOshiro3)andTadayoshiKaiya1)1)KaiyaEyeClinic,2)MidoridaiKaiyaEyeClinic,3)KakegawaKaiyaEyeClinic円錐角膜患者4症例5眼の白内障手術にトーリック眼内レンズ挿入を行った.使用した眼内レンズはAcrysofRIQTORIC(Alcon社)でT4が1眼,T7が1眼,T9が3眼であった.視力は全例改善し,他覚的円柱度数は4例4眼において改善した.一方,自覚的円柱度数は不変3眼,改善1眼,悪化1眼とばらつきがみられた.進行の止まった円錐角膜患者の白内障手術にはトーリック眼内レンズが有効である可能性が示唆された.Purpose:ToinvestigatetheefficacyofToricintraocularlens(IOL)implantationinpatientswithkeratoconus.SubjectsandMethods:ToricIOLswereimplantedin5eyesof4cataractpatientswithkeratoconuscorneas.TheimplantedIOLswereAcrySofRIQToricT4(1eye),T7(1eye),andT9(3eyes)IOLs(Alcon,FortWorth,TX),respectively.Results:Visualacuitywasimprovedinall5IOLimplantedeyes.Objectivecylindricalpowerdecreasedin4eyes,however,subjectivecylindricalpowerwasfoundtohaveworsenedin1eye,beunchangedin3eyes,andtohaveimprovedin1eye.Conclusions:ToricIOLimplantationisapossibleusefulsurgicalmodalityforthetreatmentofcataracteyesinpatientswithkeratoconus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):889.893,2015〕Keywords:白内障手術,円錐角膜,トーリック眼内レンズ.cataractsurgery,keratoconus,toricIOL.はじめに円錐角膜は角膜中央部が進行性に菲薄化し,円錐状に突出する疾患である.これによって強い近視と乱視をきたし著しい視機能の障害をきたす.その治療には眼鏡による矯正,コンタクトレンズ装用,全層角膜移植などがあるが,近年角膜クロスリンキングなどの報告もある1).円錐角膜の白内障患者に対しては眼内レンズ挿入術が行われている.トーリック眼内レンズは白内障手術の際に強い乱視の矯正を目的に開発され,近年その効果について報告されている2,3).トーリック眼内レンズの適応については1.4Dの角膜正乱視が適応であり,円錐角膜などの角膜不正乱視は慎重適応であり,わが国での使用報告はほとんどされていない.今回,円錐角膜の乱視矯正と視機能に関してのトーリック眼内レンズの使用について文献的考察を含めて,その有用性について検討したので報告する.I対象および方法対象は海谷眼科(以下,当院)で角膜形状解析装置(TMS5,TOMEY)のKeratoconusScreeningにてKlyce/MaedaandSmolek/Klyceに異常値を示した4症例5眼,平均年齢44.6±14.0歳(男性2名,女性2名)の白内障手術施行例である.眼内レンズの選択はオートレフケラトメータで測定した術前のケラト値や軸,眼軸長などをトーリックカリキュレータに入力し,算出された結果を参考に術者が最終決定した.術前のマーキング方法は座位にて6時マーク法を用い,30ゲージ(G)針にて周辺部角膜に上皮擦過を行い,手術時にはトーリック軸マーカーを6時の擦過痕と一致させ,挿入軸のマーキングを行った.使用レンズは,AcrysofRIQ〔別刷請求先〕力石洋平:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207番地琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:YoheiChikaraishi,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207Uehara,Nishiharacho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)889 TORIC(Alcon社)T4が1眼,T7が1眼,T9が3眼であった.患者には全例術前にトーリック眼内レンズについての十分な説明を行い,その使用について了承を得た.術前と術後1カ月の時点での視力,屈折,円柱度数について検討した.〔症例1〕71歳,女性.平成23年4月28日に近医より左眼の緑内障と白内障の治療目的に当院紹介された.全身的にはアレルギー疾患などの既往はない.眼圧は右眼13mmHg,左眼30mmHg.進行した視野狭窄(湖崎IV度)を認めた.細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図1)で平均K値49.4Dの中等度の円錐角膜を認めた.まず緑内障の治療のために点眼治療を開始した.眼圧は点眼でコントロールされたため,平成23年6月2日に左眼に対して超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT4)の移植・挿入術を行った.術前ケラト値は.4.0D,146°,挿入軸は20°であった.術前視力0.15(0.2×sph.4.00D)は術後1カ月で0.4(矯正不能)となった.〔症例2〕34歳,男性.図1症例1.中等度の円錐角膜を認める近医より右白内障手術の依頼により平成24年10月17日当院,紹介受診した.アトピー性皮膚炎を合併していた.右眼視力は0.4(0.5×sph+0.75D(cyl.3.00DAx95°).細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の軽度前方突出を認め,TMS(図2)で平均K値44.9Dの軽度の円錐角膜と診断された.眼圧,眼底に異常は認めなかった.前.と皮質に強い白内障による混濁を認めた.平成24年11月12日,右眼超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT7)の挿入術を行った.術前ケラト値は.0.50D,95°,挿入軸は97°であった.術後1カ月の視力は0.15(1.2×sph.2.0D(cyl.1.75DAx120°)と向上した.〔症例3〕32歳,男性.平成24年7月25日に近医より白内障の手術目的にて紹介され受診した.既往歴に気管支喘息があり,ステロイドを吸引していた.右眼視力は0.1(0.7×sph.3.75D(cyl.3.00DAx55°).細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図3)で平均K値47.5Dの軽度の円錐角膜と診断された.眼圧,眼底に異常を認めなかった.後.下混濁が強く,本人の視力低下の自覚も強いため,平成25年8月8日,右超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT9)の挿入術を行った.術前ケラト値は.6.25D,46°,挿入軸は156°であった.術後視力は0.4(0.9×sph.6.50D(cyl.3.00DAx180°)と向上した.〔症例4〕43歳,女性.平成24年4月26日,両眼の白内障と円錐角膜の診断で近医より治療目的にて当科紹介受診.全身的にはアレルギー疾患などの既往歴はなかった.視力は右眼0.08(0.3×sph.4.00D(cyl.1.00DAx65°),左眼0.2(0.4×sph.4.25D)であった.眼圧,眼底に異常を認めなかった.細隙灯顕微鏡検査にて左右とも角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図4,5)では右眼には平均K値52.0Dの進行した,また左眼には平均K値48.5Dの中等度の円錐角膜の所見を認図2症例2.軽度の円錐角膜を認める図3症例3.軽度の円錐角膜を認める890あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(126) 図4症例4の右眼.進行した円錐角膜を認める図5症例4の左眼.中等度の円錐角膜を認める1.201.0-20.8-4T9T7T9T9T4T9T9T9T7T4術後術後術後-6-80.60.40.2-100.0-120.00.20.40.60.8-12-10-8-6-4-20術前術前図6矯正視力の変化図7他覚円柱度数T4T9II結果0-2全症例の結果についてまとめてみる.T7T9T91.矯正視力.矯正視力の変化を術前と術後で比較した(図-46).すべての症例で矯正視力の改善がみられた.また,症例-62を除いて裸眼視力の改善も認めた.-82.術前後の他覚円柱度数の変化(ニデック社製オートレ-10図8自覚円柱度数めた.白内障は軽度であったため,まずコンタクトレンズによる治療を開始したが装用時痛があるため中止し,平成24年7月23日に左眼の白内障手術を,ついで平成25年8月26日に右眼の白内障手術を行った.左右眼とも眼内レンズはAcrysofRIQTORICSN6AT9を使用した.術前ケラト値は右眼.10.75D,10°,挿入軸は93°であり,左眼.6.00,174°,挿入軸は82°であった.術後1カ月後の視力は右眼0.4(0.5×sph+1.00D(cyl.9.00DAx180°)で左眼0.6(矯正不能)であった.フラクトメータでの測定値).図7に手術前後の他覚円柱度数の変化を示した.T4を挿入した症例1で軽度の悪化を認めているが,その他の症例は全例改善を認めた.3.術前後の自覚円柱度数の変化(最良矯正視力に必要な円柱度数).図8に自覚円柱度数の術前後での変化を示した.進行した円錐角膜の症例4の右眼では自覚円柱度数の明らかな悪化を認めた.症例1から3までの中等度以下の円錐角膜症例では不変あるいは改善を示した.III考按円錐角膜は思春期に発症し,進行性に角膜中央部が菲薄化し,円錐状に突出する疾患である.発症に性差はなく,30歳代以降にその進行は停止する.比較的まれな疾患であり,発症率は年間1.3.25人/100,000人であり,また8.8.229人/100,000人の有病率と報告されている4).しかしながら,-10-8-6-4-20術前(127)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015891 近年の角膜画像解析機器の進歩によりその有病率は増加している可能がある.今回の症例においても症例1から4までは前医で診断されておらず,軽度な円錐角膜はその多くが見逃されている可能性が示された.また,病期の進行によって角膜の変形とともに生じる近視と不正乱視のために最終的に高度の視機能障害をきたすことが知られている.治療には初期にはまず眼鏡による屈折矯正が試みられるが,近視,乱視の進行とともにコンタクトレンズの装用が,さらに角膜移植が最終的に実施される.近年クロスリンキングによる治療の報告が相ついでいるが,現時点ではその長期予後を含め不明な点が少なからずあり,今後一般臨床へと普及するには多施設での大規模な前向き研究が必要であるとされている4).また,角膜移植は8年の経過観察中に約12%の患者に実施されており,大部分の本症患者は眼鏡あるいはコンタクトレンズでの屈折矯正が行われているものと考えられる4).本疾患は青壮年期にはほぼ進行は停止し,多くの本症患者は角膜移植を経ずにいずれ白内障の発症,進行とともに屈折矯正を兼ねた白内障手術が適応とされることが推定される.円錐角膜患者の白内障手術に用いる眼内レンズとその手術成績に関する報告として,Watsonらは1996.2010年における円錐角膜患者で白内障手術を球面眼内レンズを挿入した64症例,92眼について報告している5).彼らはその後ろ向き研究で,角膜移植未施行群で,ダウン症候群を除いた平均K値が48Dまでの軽症群(35眼),平均K値が48.55Dまでの中等症群(40眼)と平均K値が55D以上の進行群(17眼)に分類してその結果を報告している.軽症群では術後球面度数の平均は0.0Dであったが屈折誤差は+5.2..3.0Dと幅広く分布し,中等症群では平均術後球面度数は.0.3Dで,屈折誤差は軽症群と同様に+3.2..3.8Dまで広く分布したと述べている.この2群間に有意差はなかった.しかしながら進行群で,実測(measured)K値を用いた8眼では術後球面度数は平均+6.8Dでその範囲は+0.2.+17Dであった.また,標準(standard)K値を用いた9眼では術後平均球面度数は+0.6Dでその範囲は+6.2..5.8Dの範囲であったと報告している.彼らは円錐角膜患者の生体計測にはさまざまな因子が関与し,精度の高い屈折値は特に進行した症例では予測することは困難であると結論している.一方,近年,白内障手術の際に乱視矯正用にトーリック眼内レンズが普及している.円錐角膜は近視性の不正乱視をきたすことから,この乱視軽減を目的とした使用の可能性が示唆される.しかしながら,円錐角膜患者はすでに述べたように頻度が少なく,トーリック眼内レンズを用いた白内障手術の報告は少ない.Sauderらは2例の報告を行っている6).1例(66歳,女性)は白内障手術の際にトーリック眼内レンズを挿入し,他の1例(68歳,女性)は無水晶体眼にトーリック眼内レンズを毛様溝に縫着している.2例とも乱視の軽減と視力の向上を得ている.Navasらも同様に2例のトーリック眼内レンズを円錐角膜患者の白内障手術に用いている7).症例1は55歳,男性で,症例2は46歳,男性であった.両者とも著しい裸眼視力の向上と,乱視の軽減を認めている.さらに最近,Nanavatyらは円錐角膜9症例12眼(平均年齢63.4±3.5歳)における白内障手術にトーリック眼内レンズを挿入し,術後裸眼視力の改善と,近視の減少,乱視の減少を報告している8).彼らは術後裸眼視力は75%で0.5以上,近視の量は術前.4.80±5.60Dから術後0.3±0.5Dへ,また乱視の絶対量は3.00±1.00Dから0.7±0.80Dへと改善したことを報告した.今回の筆者らの結果では,視力に関しては裸眼視力では症例2で軽度の低下を認めたが他のすべての症例で向上した.また,症例2においても矯正視力は1.2と改善した.ほぼ全例における術後視力の向上はもともと軽度以上の白内障が存在しており,この結果は妥当と考えられた.また症例4の右眼を除いては中等度以下の円錐角膜であり,これまでの報告と同様に良好な結果となった.一方,症例4の右眼は進行した円錐角膜であり,十分な視力の改善が得られなかった.Watsonらも進行した円錐角膜患者では白内障手術によっても視力の改善の予測が困難であると報告しており5),またNanavatyらもトーリック眼内レンズの適応をgrade1.2と比較的軽度の円錐角膜に限定して手術を行っており8),進行した円錐角膜ではもともとの屈折予測が困難であることからトーリック眼内レンズに限らず一般の球面レンズの度数計算,さらに視力の改善は困難である可能性が改めて示された.このような症例はWatsonらの勧めるようにstandardK値を用いて,眼内レンズを挿入するか,角膜移植と同時に白内障手術を行うか,あるいは角膜移植後に時期をおいてから白内障手術を行うほうがよいのか,その治療手段の選択には今後の検討が必要である.自覚と他覚での円柱度数に相違が大きくなっている症例は円錐角膜による高度の乱視によって検査結果にばらつきがみられることが大きな要因と考えられる.今回引用したトーリック眼内レンズの報告の経過観察期間は1年以内であり,その長期予後については明らかでない.今後,その長期予後,さらに角膜移植が適応となった場合の対応について検討する必要があると考えられる.円錐角膜を伴う白内障症例についてトーリック眼内レンズを挿入した症例を経験した.術後矯正視力の改善,乱視の軽減が認められた.円錐角膜の重症度分類における軽度.中等度例に関してはトーリック眼内レンズによる正乱視の矯正が有効であると考えられ,今後のトーリック眼内レンズの適応拡大も期待される.また,進行した高度な円錐角膜ではトーリック眼内レンズだけでは十分矯正できないため,このような症例に対しては角膜移植を含め,慎重に適応を考慮する必要がある.892あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(128) 文献1)加藤直子:角膜クロスリンキング.日本の眼科83:13301334,20122)寺田和世,三木恵美子,松田智子:トーリック眼内レンズの術後成績.IOL&RS25:242-246,20113)鳥山佑一,今井章,金児由美ほか:トーリック眼内レンズの術後短期成績.眼臨紀4:846-850,20114)VariraniJ,BasuS:Keratoconus:currentperspectives.ClinOphthalmol7:2019-2030,20135)WatsonMP,AnandS,BhogalMetal:Cataractsurgeryoutcomeineyeswithkeratoconus.BrJOphthalmol98:361-364,20146)SauderG,JonasJB:Treatmentofkeratoconusbytoricfoldableintraocularlenses.EurJOphthalmol13:577579,20037)NavasA,SuarezR:One-yearfollow-upoftoricintraocularlensimplantationinformefrustekeratoconus.JCataractRefractSurg35:2024-2027,20098)NanavatyMA,LakeDB,DayaSM.Outcomeofpseudophakictoricintraocularlensimplantationinkeratoconiceyeswithcataract.JRefractSurg28:884-889,2012***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015893

ドルゾラミド・チモロール配合点眼液とブリンゾラミド・チモロール配合点眼液の切り替え効果

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):883.888,2015cドルゾラミド・チモロール配合点眼液とブリンゾラミド・チモロール配合点眼液の切り替え効果永山幹夫*1永山順子*1本池庸一*1馬場哲也*2*1永山眼科クリニック*2白井病院EffectsofSwitchingofBrinzolamide/TimololFixedCombinationsversusDorzolamide/TimololFixedCombinationsMikioNagayama1),JunkoNagayama1),YoichiMotoike1)andTetsuyaBaba2)1)NagayamaEyeClinic,2)ShiraiEyeHospital目的:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(以下,コソプト)をブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(以下,アゾルガ)に変更した際の眼圧変化と患者評価について検討する.対象および方法:コソプト点眼を2カ月以上継続している緑内障および高眼圧症患者48例48眼を対象とした.アゾルガに切り替え2カ月後,再度コソプトに切り替え2カ月経過をみた.切り替え後2週間の時点で患者アンケートを行い,点眼による刺激感,異物感,充血の自覚スコア,およびどちらがより好ましいかとその理由を調査した.結果:眼圧はベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±3.3mmHgで,すべての時点で差はなかった.自覚スコアの平均値はアゾルガが刺激感0.15,異物感0.30,充血0.20,コソプトではそれぞれ0.75,0.10,0.25であり,コソプトの刺激感が有意に高かった(p<0.01).「どちらがより好ましいか」に対する回答はアゾルガ切り替え時点では「アゾルガがよい」が14例29.1%,「コソプトがよい」が13例27.1%,「どちらでもよい」が21例43.8%であったのに対し,コソプト再開時点(アゾルガ切り替え2カ月後)ではそれぞれ5例10.4%,28例58.3%,15例31.3%で,おもに霧視・粘稠感がない点,点眼操作がしやすい点から「コソプトがよい」とするものが有意に増加した(p<0.01).結論:アゾルガとコソプトの眼圧下降効果は同等であった.コソプトはアゾルガより刺激感が強く,アゾルガの使用感に対する不満は点眼期間が長くなると強くなった.Purpose:Toexaminethechangesinintraocularpressure(IOP)andpatientself-assessmentaftertheswitchfromdorzolamide/timololfixedcombination(DTFC)tobrinzolamide/timololfixedcombination(BTFC).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved48eyesof48patientswithglaucomatouseyesandocularhypertensionwhocontinuouslyunderwentDTFCtreatmentfor2monthsormore.TheirtreatmentwasthenswitchedfromDTFCtoBTFC.AfterBTFCwasinstilledfor2months,itwasswitchedagaintoDTFC,andthepatientswerethenfollowedupfor2months.Twoweeksaftereachswitch,thepatientswereaskedtocompleteaquestionnairetoobtainsubjectivescoresforirritation,foreignbodysensation,andhyperemiapostinstillation,aswellastoanswerthequestion“Whicheyedropwasmorepreferable?”andexplaintheirreasonsforthepreference.Results:MeanIOPwas15.8±2.8mmHgatbaseline,15.8±2.9mmHgat2monthsafterswitchingtoBTFC,and15.7±3.3mmHgat2monthsafterresuminginstillationofDTFC;nodifferencewasobservedatallmeasurementtime-points.ThemeansubjectivescoreswithBTFCwere0.15forirritation,0.30forforeignbodysensation,and0.20forhyperemia,whereasthosewithDTFCwere0.75,0.10,and0.25,respectively.ThescoreforirritationpostinstillationofDTFCwassignificantlyhigherthanthatofBTFC(p<0.01).Asfortheresponsestothequestion“Whicheyedropismorepreferable?”,postswitchingtoBTFC,14patients(29.1%)preferredBTFC,13patients(27.1%)preferredDTFC,and21patients(43.8%)reportednopreferencebetweenthetwoeyedrops.AfterresuminginstillationofDTFC(at2-monthspostswitchingtoBTFC),5patients(10.4%)preferredBTFC,28patients(58.3%)preferredDTFC,and15patients(31.3%)reportednopreference.ThenumberofpatientswhopreferredDTFCsignificantlyincreasedprimarilyduetoitnotcausingblurredvision/sensationofviscousfluidanditseaseofinstillation(p<0.01).Conclusions:BTFCandDTFCwerecomparableintheireffectonthereductionofIOP.AlthoughDTFC〔別刷請求先〕永山幹夫:〒714-0086岡山県笠岡市五番町3-2永山眼科クリニックReprintrequests:MikioNagayama,M.D.,NagayamaEyeClinic,3-2Goban-cho,Kasaoka-shi,Okayama,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)883 causedmoresevereirritationthanBTFC,ittendedtobepreferredforcontinuoususeduetoeaseofinstillation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):883.888,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,ブリンゾラミド,ドルゾラミド,チモロールマレイン酸塩.glaucoma,fixedcombination,brinzolamide,dorzolamide,timolol.はじめに緑内障患者の多くは年余にわたる点眼治療の継続が必要であり,そのうちの少なくとも半数は複数剤の点眼が必要となる1).その場合,それぞれの投与間隔を一定時間空ける必要があること,決められた投与の時間,回数を守ること,多くの点眼瓶を管理しなければならないことなどの問題が生じるため,治療のアドヒアランスが単剤投与に比べ大きく低下することが知られている2).近年相次いで国内での発売が開始された配合点眼薬は,点眼回数を減少させることでアドヒアランス向上とともに,治療効果や患者のQOL(qualityoflife)を改善させることが期待される.プロスタグランジン製剤とb遮断薬の配合点眼液は日本ではすでに2010年に発売され,臨床の場での使用経験が蓄積されてきている.炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の配合点眼液については,2010年6月にドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR配合点眼液,以下,コソプト)が発売された.さらに2013年11月にブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(アゾルガR配合懸濁性点眼液,以下,アゾルガ)が新たに発売となった.両薬剤は海外での報告と同様に日本人に対しても,チモロール単剤療法よりも眼圧下降効果が強く3),単剤併用と同様の効果があり4,5),長期治療にも有効である6,7)ことが報告されている.本研究ではこれら2剤の眼圧下降作用,副作用の違いが日本人において実際にどうであるか,臨床の場で比較検証する2M以上2M2Mベースラインコソプトアゾルガコソプト眼圧測定第1回アンケート第2回アンケート図1プロトコール継続しているコソプトはウォッシュアウト期間を設けずに直接アゾルガに切り替えた(ベースライン).その後アゾルガを2カ月継続した後,再度コソプトに切り替え,2カ月間経過観察を行った.眼圧値はベースライン時,アゾルガ切り替え後2カ月,コソプト再開後2カ月で比較した.884あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015目的で,コソプトからアゾルガへ切り替えを行い,眼圧と被検者の点眼時の自覚症状の変化を調査した.なお,いわゆる「切り替え効果」の影響を避けるため,アゾルガ切り替え後に再度コソプトへの切り替えを行い,クロスオーバー試験に近い形で経過をみるデザインとした.I対象および方法対象は当院で加療中の成人開放隅角緑内障および高眼圧症で,コソプトを2カ月以上継続投与されている患者のうち,以下の条件を満たすものである.内眼手術後4カ月以内でないこと,活動性のぶどう膜炎を有さないこと,ステロイド点眼を使用していないこと.b遮断薬および炭酸脱水酵素阻害薬投与の禁忌事項に該当しないこと.重篤な腎障害を有さないこと.妊娠中および授乳中でないこと.被検者には研究の目的,内容について書面を用いて説明を行い,同意を得られたもののみをエントリーした.継続しているコソプトはウォッシュアウト期間を設けずにアゾルガに切り替え,この時点をベースラインとした.なお,切り替えの際には全例に処方前に点眼方法の注意として点眼瓶の底を押さえて滴下すること,点眼後に数分間涙.部を圧迫し眼瞼に付着した点眼液をウエットティッシュで拭くこと,点眼後数分間霧視を生じることを説明した.その後アゾルガを2カ月継続した後,再度コソプトに切り替え,2カ自覚症状について伺います(│をつけて下さい)項目症状の程度白目の部分が赤い(充血)目がゴロゴロして異物感がある点眼時しみる全くない全くない全くない我慢できないくらい赤い最高にゴロゴロしている最高に痛い図2自覚症状のアンケート充血,異物感,刺激感の3点について「全くない」を0,「非常に強い」を4として自覚がどのくらいの数値になるか被検者が直線上にマークを記入する方法でカウントした.(120) 月間経過観察を行った.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で2回連続測定し,その平均値を用いた.眼圧値はベースライン時,アゾルガ切り替え後2カ月,コソプト再開後2カ月で比較した(図1).また,それぞれの薬剤への切り替え後2週間の時点で使用感について患者アンケートを行った(図2).内容は「点眼による刺激感,異物感,充血の自覚のスコア」と「どちらがより好ましいと感じるか」と「好ましいと思った理由」である.自覚スコアについては「まったくない」を0,「非常に強い」を4として被検者の自覚がどのくらいの数値になるか直線上にマークして記入する方法でカウントした.理由については自由回答形式で複数回答可とした.アンケートの被検者への聞き取りはコメディカルが行った.併用眼圧下降薬については調査期間中変更しないこととした.両眼が対象となる条件を満たす症例についてはベースライン時の眼圧値のより高い1眼を選択し,両眼の眼圧値が同一の場合には右眼を選択した.55例55眼が試験にエントリーされ,経過中7例が脱落した.最終的に解析の対象となったのは48例48眼.内訳は男性28例,女性20例,年齢は31.88歳(70.0±12.5歳)であった.脱落した内容はアゾルガ切り替えの際に生じた副作用が原因のものが4例,コソプト再開時の副作用が原因のものが1例,併用薬のアレルギーによるものが2例であった.対象の緑内障病型の内訳は原発開放隅角緑内障36例,正常眼圧緑内障6例,落屑緑内障5例,高眼圧症1例であった.II結果眼圧はベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±p<0.010.200.300.150.250.100.750.000.100.200.300.400.500.600.700.80充血異物感刺激感■:アゾルガ:コソプトNSNS3.3mmHgですべての時点で差はなかった(対応のあるt検定)(図3).アンケートによる自覚スコアの平均値はアゾルガが刺激感0.15,異物感0.30,充血0.20,コソプトではそれぞれ0.75,0.10,0.25であり,コソプトの刺激感が有意に高かった(Wilcoxonの符号付き順位和検定p<0.01)(図4).「どちらがより好ましいか」に対する回答はアゾルガ切り替え時点では「アゾルガがよい」が14例29.1%,「コソプトがよい」が13例27.1%,「どちらでもよい」が21例43.8%であったのに対し,コソプト再開時点ではそれぞれ5例10.4%,28例58.3%,15例31.3%とコソプトをよいとするものが増加していた(c2検定p<0.01)(図5).その理由としては,アゾルガがよいと答えたものでは「しNS0510152025ベースライン1M(アゾルガ)2M(アゾルガ)1M(コソプト)2M(コソプト)NS眼圧(mmHg)図3眼圧経過ベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±3.3mmHgですべての時点で差はなかった(対応のあるt検定).どちらでもアゾルガがどちらでもアゾルガが28%30%42%よいよい10%56%34%よいよいコソプトがコソプトがよいよい第1回アンケート第2回アンケート図5アンケート結果1「どちらがより好ましいと感じるか」アゾルガ切り替え時(第1回アンケート)では「アゾルガがよ図4自覚スコアい」が14例,「コソプトがよい」が13例,「どちらでもよい」充血,異物感は両者で差はなかった.コソプトは刺激感がアゾが21例であったのに対し,コソプト再開時(第2回アンケールガよりも有意に高かった(Wilcoxonの符号付き順位和検定ト)ではそれぞれ5例,28例,15例とコソプトをよいとするp<0.01).ものが有意に増加していた(c2検定p<0.01).(121)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015885 アゾルガがよい理由(n=5)さし心地がよい,14しみない点眼液が出やすい0246人数(名)コソプトがよい理由(n=28)粘稠感がない霧視がない眼瞼が白くならない点眼液が出やすい振る必要がない刺激感がない異物感がない人数(名)図6アンケート結果2「好ましいと思った理由」(第2回アンケート結果,複数回答あり)「アゾルガをよい」としたものの理由では「しみないから」がもっとも多かった.「コソプトをよい」としたものの理由では「粘稠感がないから」「霧視が少ないから」「眼瞼が白くならないから」などアゾルガが懸濁液であることからくると思われる問題を不満としたものが多かった.また,「振らなくてよいから」といった点眼のしやすさについての理由も多くみられた.みないから」がもっとも多かった.一方コソプトがよいと答えたものでは,「粘稠感がないから」が14例,「霧視が少ないから」が8例,「眼瞼が白くならないから」が5例で,アゾルガが懸濁液であることからくる問題を不満としたものが多かった.また,「振らなくてよいから」といった点眼のしやすさについての理由もみられた(図6).III考按海外の研究でアゾルガの眼圧下降はコソプトと比較して非劣性であることがすでに報告されている8,9).しかし,海外で用いられるコソプトに含有されるドルゾラミドの濃度は2%であり,わが国で使用されているコソプトに含有される1%ドルゾラミドと同一ではないため,眼圧下降効果も異なっている可能性がある.今回の試験では,全期間を通じて眼圧の有意な変化はみられず,わが国でもアゾルガはコソプトと同等の眼圧下降効果を有しているものと考えられた.ただし,今回の対象はベースライン時の平均眼圧が15.8mmHgとやや低く,切り替えによる効果の差が出にくい状態であったと思われる.また,今回は点眼から眼圧測定までの時間は症例によって統一されていなかった.効果の差をより詳細にみるためには点眼時間を一定にして眼圧の日内変動を計測するプロトコールでの試験を行うことがより望ましいと思われ886あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015113578140246810121416る.点眼の使用感についての過去の報告ではコソプトは刺激感が問題となるとされている9.11).今回の試験でも,やはりコソプトは点眼時の「刺激感」のスコアがアゾルガよりも有意に高い結果となった.これはコソプトのpHは5.5.5.812)と涙液よりもやや酸性であるが,アゾルガのpHは6.7.7.713)と中性寄りであるためであると思われる.一方,アゾルガは点眼時の霧視が問題になるとされている10,11).今回,直接の評価項目に「霧視」がなかったが,自由回答形式で「コソプトをよい」とした理由に「霧視がないこと」をあげているものが多くみられた.「どちらがより好ましいか」に対する回答については,興味深いことにアゾルガに切り替えた時点でのアンケートで「アゾルガが好ましい」と答えた14例のうち,2カ月点眼を継続した時点でも「アゾルガが好ましい」と答えたものはわずか1例に減少した.それに対して最初のアンケートで「コソプトが好ましい」と答えた13例は2カ月後も全例が同様に「コソプトが好ましい」と答えていた.過去の報告をみるとVoldら14),Rossiら15)はさし心地に対する患者評価をスコア化し比較した結果,アゾルガの満足度が有意に高かったとしている.しかし,これらの報告では評価の対象項目に「霧視」が含まれておらず,アゾルガの副作用に対する評価が十分でない可能性がある.Lanzlら16)はコソプトからアゾルガに切り替えた2,937名のうち「アゾルガがよい」としたものは82%,「コソプトがよい」としたものは8.8%であったと報告している.この報告では切り替え理由の過半数が「コソプトに対するintoleranceのため」であった.今回の検討での対象はコソプト点眼を2カ月以上継続可能であった症例に限定されていた.そのため,もともとコソプトの刺激感に耐えられなかった症例は含まれておらず,Lanzlらの報告とは対象となった症例の背景に違いがあると考えられる.またMundorfら11),およびAnaら17)は2日間両者を比較し,刺激感が少ないことからアゾルガがより好まれたと報告している.筆者らの報告はアゾルガ点眼を2カ月間継続した後に最終調査を行っており,観察期間が異なっている.以上,多くの報告でアゾルガがより好まれるとされており,今回とは食い違う結果となっている.この理由については第1に,上記のようなスタディデザインの違いがあげられる.第2に,過去の報告の対象にはアジア人種はほとんど含まれていないが,点眼に対する感受性は人種間で異なるため,これが結果の差に関与している可能性がある.第3に,アゾルガの点眼瓶はコソプトに比べてやや堅く,アゾルガは点眼液の粘稠性が高いため,滴下に若干力を要する.「コソプトを好ましい」とした理由に点眼操作のしやすさについてのコメントも多くみられたことから,点眼瓶の違いも結果に影響した可能性がある.(122) アゾルガの評価が2カ月間で大きく変化した理由として,点眼開始当初はいわゆる切り替え効果で患者本人のモチベーションが高く,霧視がそれほど問題とされなかった可能性があげられる.コソプトの刺激感は点眼を継続することにより慣れ,あまり問題とならなくなるといわれている18)がアゾルガの粘稠性,霧視の自覚は軽減せず,長期的には逆により意識されるようになる印象を受けた.実際に,切り替えてから4.26週までの期間で調査を行った報告では両者の使用感に差はなかった10)とされている.ブリンゾラミド点眼後の霧視の副作用については閉瞼のうえ涙.部の圧迫を行うこと,ウエットティッシュによる眼瞼の拭き取りを行うことによって軽減されることが報告されている19).今回試験開始の際に全例に書面を渡したうえ,アゾルガ点眼後に生じる霧視と眼瞼が白くなる点について説明を行い,涙.部圧迫,拭き取りについて十分に指導を行った.にもかかわらず2カ月後には多くの症例で霧視に対する不満が生じていた.このなかには指導内容を忘れているケースもあり,自覚症状,不満の聞き取りとともに定期的に点眼指導を行ったほうがよいと思われた.今回の検討で,コソプト点眼を継続している症例に対してアゾルガへの切り替えを行った場合,長期の使用感において不満が生じる可能性があることがわかった.ただし,コソプトの刺激感が気になるという症例にアゾルガが明確に支持されたケースも存在した.自覚症状については個人による感受性の違いが大きく関与するため,各薬剤処方の前に副作用の可能性について説明を十分行い,患者の希望と薬剤の特性を考慮したうえで選択を行うのがよいと思われる.本稿の要旨は第25回日本緑内障学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)DjafariF,LeskMR,Harasymowycz,PJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20093)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20144)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyof(123)afixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20145)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌6:495-507,20116)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20147)磯辺美保,小泉一馬,辻智弘ほか:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合剤コソプト配合点眼液の特定使用成績調査.新薬と臨牀1:37-69,20148)SezginAB.,GuneyE,BozkurtKTetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher29:882-886,20139)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma4:293-300,200910)GrahamAA,MathewR,SimonL:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,201211)MundorfTK,RauchmanSH,WilliamsRDetal:ApatientpreferencecomparisonofAzargaTM(brinzolamide/timololfixedcombination)vsCosoptR(dorzolamide/timololfixedcombination)inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol3:623-628,200812)コソプトR配合点眼液インタビューフォーム.201313)アゾルガR配合懸濁性点眼液医薬品インタビューフォーム.201314)VoldSD,EvansRM,StewartRHetal:Aone-weekcomfortstudyofBID-dosedbrinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsuspensionfixedcombinationcomparedtoBID-doseddorzolamide2%/timolol0.5%ophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher24:601-605,200815)RossiGC,TinelliC,PasinettiGMetal:Signsandsymptomsofocularsurfacestatusinglaucomapatientsswitchedfromtimolol0.5%tobrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombination:a6-monthefficacyandtolerability,multicenter,open-labelprospectivestudy.ExpertOpinPharmacother12:685-690,201116)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,201117)AnaS,JuanS,EmilioRSJetal:Preferenceforafixedcombinationofbrinzolamide/timololversusdorzolamide/timololamongpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol7:357-362,2013あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015887 18)StewartWC,DayDG,StewartJAetal:Short-termocu-19)亀井裕子,山田はづき,吉原文ほか:1%ブリンゾラミドlartolerabilityofdorzolamide2%andbrinzolamide1%点眼液点眼後の霧視に影響する要因.あたらしい眼科7:vsplaceboinprimaryopen-angleglaucomaandocular1007-1012,2012hypertensionsubjects.Eye9:905-910,2004***888あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(124)

細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係

2015年6月30日 火曜日

8765106,22,No.3(00)《原著》あたらしい眼科32(6):876.882,2015c876(112)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕髙橋直巳:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:NaomiTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係髙橋直巳*1,2鄭暁東*2鎌尾知行*2坂根由梨*2山口昌彦*2白石敦*2大橋裕一*2*1市立宇和島病院*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野StudyofLacrimalPunctum-relatedSlitLampMicroscopeViewsNaomiTakahashi1,2),XiaodongZheng2),TomoyukiKamao2),YuriSakane2),MasahikoYamaguchi2),AtsushiShiraishi2)andYuichiOhashi2)1)UwajimaCityHospital,2)DepertmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine目的:流涙症の診断において,涙液メニスカス高,結膜弛緩度の評価は重要であるが,涙点にかかわる細隙灯顕微鏡所見の記載は乏しい.そこで,涙点形状と涙点部におけるMarxlineの走行に着目し,加齢性変化と導涙機能との関係について検討した.方法:対象は涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目に異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳).下涙点の涙点乳頭の隆起度を4段階,涙点上皮輪への結膜侵入を3段階で評価し,涙点からMarxlineまでの距離(P-Marxline距離)を求めた.生理食塩水5μl点眼後から30秒間における涙液メニスカスの変動を前眼部OCT(光干渉断層計)で計測し,涙液クリアランス率を算出した.結果:涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関し,涙液クリアランス率とは負の相関を示した.結論:細隙灯顕微鏡で涙点を観察することで,より簡便に導涙機能を推察できる可能性が示唆された.Purpose:Theevaluationoftearmeniscusheightandconjunctivochalasisareimportantindiagnosingepipho-ra,howeverlittlehasbeendescribedregardingslitlampmicroscopicobservationofthevicinityofthelacrimalpunctum.Inthepresentstudy,wefocusedontheshapeandMarxlineofthelacrimalpunctumvicinityandana-lyzedtherelationshipwithageandtearclearance.Methods:Thesubjectwere44eyesof44subjects(male21eyesof21subjects,female23eyesof23subjects,48.66±17.86yearsold).Thosewithlacrimalocclusion,high-degreeconjunctivochalasis,andaberrationineyelidandblinkaberrationwereexcluded.Underslitlampmicro-scopicobservation,lacrimalpunctumprominencewereclassifiedas4degrees,conjunctivalirruptionintotheepi-theliumringoflacrimalpunctumas3degrees,andthedistancebetweenlacrimalpunctumandMarxline(P-Marxlinedistance)wascalculated.Thetearclearancerateswerecalculatedbymeasuringthedifferenceoftearmeniscusimmediatelyafterinstillationof5μlsalineand30secondslater,byanteriorsegmentOCT.Result:Lacri-malpunctumprominence,theconjunctivairruptionandP-Marxlinedistancecorrelatedwithageandnegativecorrelatedwithtearclearancerate.Thetearclearancerate’snegativecorrelationwithagedecreasedwithincreas-ingage.Conclusin:Slitlampmicroscopicfindingsregardingthevicinityofthelacrimalpunctumcouldbehelpfulinevaluatingfunctionaltearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):876.882,2015〕Keywords:涙点乳頭の隆起,涙点乳頭結膜侵入,涙点部Marxline距離,導涙機能,涙液クリアランス率.promi-nenceoflacrimalpunctum,conjunctivalirruptionintoanepitheliumringoflacrimalpunctum,distancebetweenlacrimalpunctumandMarxline,functionaltearclearance,tearclearancerates.(00)《原著》あたらしい眼科32(6):876.882,2015c876(112)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕髙橋直巳:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:NaomiTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係髙橋直巳*1,2鄭暁東*2鎌尾知行*2坂根由梨*2山口昌彦*2白石敦*2大橋裕一*2*1市立宇和島病院*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野StudyofLacrimalPunctum-relatedSlitLampMicroscopeViewsNaomiTakahashi1,2),XiaodongZheng2),TomoyukiKamao2),YuriSakane2),MasahikoYamaguchi2),AtsushiShiraishi2)andYuichiOhashi2)1)UwajimaCityHospital,2)DepertmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine目的:流涙症の診断において,涙液メニスカス高,結膜弛緩度の評価は重要であるが,涙点にかかわる細隙灯顕微鏡所見の記載は乏しい.そこで,涙点形状と涙点部におけるMarxlineの走行に着目し,加齢性変化と導涙機能との関係について検討した.方法:対象は涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目に異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳).下涙点の涙点乳頭の隆起度を4段階,涙点上皮輪への結膜侵入を3段階で評価し,涙点からMarxlineまでの距離(P-Marxline距離)を求めた.生理食塩水5μl点眼後から30秒間における涙液メニスカスの変動を前眼部OCT(光干渉断層計)で計測し,涙液クリアランス率を算出した.結果:涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関し,涙液クリアランス率とは負の相関を示した.結論:細隙灯顕微鏡で涙点を観察することで,より簡便に導涙機能を推察できる可能性が示唆された.Purpose:Theevaluationoftearmeniscusheightandconjunctivochalasisareimportantindiagnosingepipho-ra,howeverlittlehasbeendescribedregardingslitlampmicroscopicobservationofthevicinityofthelacrimalpunctum.Inthepresentstudy,wefocusedontheshapeandMarxlineofthelacrimalpunctumvicinityandana-lyzedtherelationshipwithageandtearclearance.Methods:Thesubjectwere44eyesof44subjects(male21eyesof21subjects,female23eyesof23subjects,48.66±17.86yearsold).Thosewithlacrimalocclusion,high-degreeconjunctivochalasis,andaberrationineyelidandblinkaberrationwereexcluded.Underslitlampmicro-scopicobservation,lacrimalpunctumprominencewereclassifiedas4degrees,conjunctivalirruptionintotheepi-theliumringoflacrimalpunctumas3degrees,andthedistancebetweenlacrimalpunctumandMarxline(P-Marxlinedistance)wascalculated.Thetearclearancerateswerecalculatedbymeasuringthedifferenceoftearmeniscusimmediatelyafterinstillationof5μlsalineand30secondslater,byanteriorsegmentOCT.Result:Lacri-malpunctumprominence,theconjunctivairruptionandP-Marxlinedistancecorrelatedwithageandnegativecorrelatedwithtearclearancerate.Thetearclearancerate’snegativecorrelationwithagedecreasedwithincreas-ingage.Conclusin:Slitlampmicroscopicfindingsregardingthevicinityofthelacrimalpunctumcouldbehelpfulinevaluatingfunctionaltearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):876.882,2015〕Keywords:涙点乳頭の隆起,涙点乳頭結膜侵入,涙点部Marxline距離,導涙機能,涙液クリアランス率.promi-nenceoflacrimalpunctum,conjunctivalirruptionintoanepitheliumringoflacrimalpunctum,distancebetweenlacrimalpunctumandMarxline,functionaltearclearance,tearclearancerates. あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015877(113)はじめに涙腺から分泌された涙液は,瞬目により眼表面に涙液層を形成し,上下の涙液メニスカスを通り,上下涙点から涙小管,涙.,鼻涙管へと導かれ,最終的に鼻涙管開口部から鼻腔へと排出される.こういった分泌─導涙という涙液の流れのバランスが崩れたときに流涙症が発症する1).その原因としては①涙道通過障害,②結膜弛緩,涙丘や半月ひだ,などによる涙液メニスカスの遮断,③導涙機構のポンプ機能の低下,④ドライアイ,眼瞼内反症やアレルギー性結膜炎などによる眼表面への刺激や炎症による一時的な涙液分泌過多,などが考えられ,原因別に①②③は導涙性流涙,④は分泌性流涙とよばれる.それらの因子を包括的に判断するため,流涙症の検査では,1)細隙灯顕微鏡所見:涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),結膜弛緩,角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),アレルギー性結膜炎の有無,下眼瞼の弛緩の有無(snapbacktestなど),2)Schirmerテスト,3)涙道通水テスト,4)涙道内視鏡を用いた涙道精密検査,などが行われる.①の涙道通過障害は通水検査において確認することが可能であり,②④の種々の原因に関しては細隙灯顕微鏡およびドライアイ検査などである程度の判別が可能である.一方で,③の導涙機構に関しては解剖学的な検討が行われており,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpe-bralfascia(CPF),眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告が行われているが2.5),導涙機構のポンプ機能の低下は直接的な診断法はなく,間接的に涙液クリアランスを測定することで判断されている2,6).涙点は涙液の流入口であり,導涙機能に重要な働きをしている可能性があるにもかかわらず,涙点に焦点をあてて導涙機能との関連を検討した報告は筆者らの知りうる限り存在しない.今回,日常臨床において細隙灯顕微鏡で観察可能な涙点周囲の所見と導涙機能および加齢性変化との関連について検討した.I対象および方法対象は,愛媛大学附属病院眼科を受診した,涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目の異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳)である.対象眼はすべて右眼とした.涙点周囲の所見としては下涙点乳頭の隆起(以下,涙点乳頭の隆起度)と下涙点への結膜侵入(以下,結膜侵入度)を検討した.涙点乳頭の隆起度は4段階(図1)に分類し,Grade1は平坦,Grade2は涙点周囲に隆起ができたもの,図1涙点乳頭の隆起度─グレード分類(それぞれの左上は涙点周囲の写真)Grade1:涙点周囲が平坦,Grade2:涙点周囲に隆起,Grade3:涙点周囲に鼻側が下がった形状の隆起,Grade4:涙点周囲に鼻側耳側ともになだらかな傾斜のついた隆起.Grade2Grade3Grade4Grade1あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015877(113)はじめに涙腺から分泌された涙液は,瞬目により眼表面に涙液層を形成し,上下の涙液メニスカスを通り,上下涙点から涙小管,涙.,鼻涙管へと導かれ,最終的に鼻涙管開口部から鼻腔へと排出される.こういった分泌─導涙という涙液の流れのバランスが崩れたときに流涙症が発症する1).その原因としては①涙道通過障害,②結膜弛緩,涙丘や半月ひだ,などによる涙液メニスカスの遮断,③導涙機構のポンプ機能の低下,④ドライアイ,眼瞼内反症やアレルギー性結膜炎などによる眼表面への刺激や炎症による一時的な涙液分泌過多,などが考えられ,原因別に①②③は導涙性流涙,④は分泌性流涙とよばれる.それらの因子を包括的に判断するため,流涙症の検査では,1)細隙灯顕微鏡所見:涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),結膜弛緩,角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),アレルギー性結膜炎の有無,下眼瞼の弛緩の有無(snapbacktestなど),2)Schirmerテスト,3)涙道通水テスト,4)涙道内視鏡を用いた涙道精密検査,などが行われる.①の涙道通過障害は通水検査において確認することが可能であり,②④の種々の原因に関しては細隙灯顕微鏡およびドライアイ検査などである程度の判別が可能である.一方で,③の導涙機構に関しては解剖学的な検討が行われており,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpe-bralfascia(CPF),眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告が行われているが2.5),導涙機構のポンプ機能の低下は直接的な診断法はなく,間接的に涙液クリアランスを測定することで判断されている2,6).涙点は涙液の流入口であり,導涙機能に重要な働きをしている可能性があるにもかかわらず,涙点に焦点をあてて導涙機能との関連を検討した報告は筆者らの知りうる限り存在しない.今回,日常臨床において細隙灯顕微鏡で観察可能な涙点周囲の所見と導涙機能および加齢性変化との関連について検討した.I対象および方法対象は,愛媛大学附属病院眼科を受診した,涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目の異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳)である.対象眼はすべて右眼とした.涙点周囲の所見としては下涙点乳頭の隆起(以下,涙点乳頭の隆起度)と下涙点への結膜侵入(以下,結膜侵入度)を検討した.涙点乳頭の隆起度は4段階(図1)に分類し,Grade1は平坦,Grade2は涙点周囲に隆起ができたもの,図1涙点乳頭の隆起度─グレード分類(それぞれの左上は涙点周囲の写真)Grade1:涙点周囲が平坦,Grade2:涙点周囲に隆起,Grade3:涙点周囲に鼻側が下がった形状の隆起,Grade4:涙点周囲に鼻側耳側ともになだらかな傾斜のついた隆起.Grade2Grade3Grade4Grade1 Grade1Grade2Grade3図2涙点上皮輪への結膜侵入度─グレード分類Grade1:結膜侵入なし,Grade2:半周以下の結膜侵入,Grade3:半周.全周の結膜侵入.25歳女性図3涙点部Marxline距離(赤線)の例左:25歳女性,右:81歳女性.対物12倍でフルオレセイン染色下に撮影した.P-Marxline距離は涙点中央からMarxlineまでの最短距離.Grade3は鼻側が下がった形状,Grade4は鼻側耳側ともになだらかな傾斜のついた形状とした.結膜侵入度は3段階(図2)に分類し,Grade1は結膜侵入なし,Grade2は半周以下の結膜侵入,Grade3は半周から全周の結膜侵入とした.眼瞼結膜─皮膚移行部に形成されるMarxlineは涙点前方にも観察することができ,涙点-Marxline距離(以下,P-Marxline距離)を計測し検討した.P-Marxline距離は,対物12倍のフルオレセイン染色下の前眼部写真から画像解析ソフトのPhotoshopを使用し,涙点中央からMarxlineまでの最短距離を算出した(図3).導涙機能の評価は,2013年にZhengらによって報告された前眼部OCT(光干渉断層計)を用いた負荷涙液クリアランス試験にて行った6).具体的な測定法は,生理食塩水5μl点眼直後から自由瞬目30秒間におけるTMH,tearmeniscusarea(TMA)の変動を前眼部OCTで計測し,涙液クリアランス率を算出した(負荷涙液クリアランス試験).計算式はOCTtearclearancerate(%)=(TMH0secorTMA0sec.TMH30secorTMA30sec)/TMH0secorTMA0sec×100である6).涙点乳頭の隆起度,涙点上皮輪への結膜侵入度,P-Marxline距離について,涙液クリアランスとの関連について検討するとともに,加齢変化との関連についても検討した.II結果涙点形状の結果は,涙点隆起度はGrade1:10例,Grade2:19例,Grade3:6例,Grade4:2例であり,平均(114) あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015879(115)Gradeは2.27±1.00であった.結膜侵入度はGrade1:26例,Grade2:7例,Grade3:2例であり,平均Gradeは1.39±0.62であった.P-Marxline距離は平均0.71±0.40mmであった.対象を20.30歳代,40.50歳代,60歳以上の3群に分類し,涙点関連所見の加齢に伴う変化をみると,涙点乳頭の隆起度は20.30歳代で平均Grade1.46±0.64,40.50歳代で平均Grade2.27±0.70,60歳以上で平均Grade3.20±0.86とすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).P-Marxline距離は20.30歳代で平均0.48±0.18mm,40.50歳代で平均0.68±0.16mm,60歳以上で平均0.99±0.51mmとすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).結膜侵入度は20.30歳代で平均Grade1.00±0,40.50歳代で平均Grade1.53±0.64,60歳以上で平均Grade1.64±0.74と,20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた(p<0.0001)(図4).また,涙点乳頭の隆起度(r=0.7120,p<0.0001),結膜侵入度(r=0.4693,p=0.0013),P-Marxline距離(r=0.3872,p<0.0001)は有意差をもって年齢との相関を示した(図5).TMH涙液クリアランス率(r=.0.3993,p=0.0073)およびTMA涙液クリアランス率(r=.0.3816,p=0.0106)は,年齢と有意差をもって負の相関を認め,加齢に伴い涙液クリアランス率は減少していた(図6).つぎに涙液クリアランス率と涙点関連所見との相関関係に00.511.522.533.5p=0.0049p=0.0021p<0.000120~30歳代40~50歳代60歳以上A:涙点乳頭隆起度の平均(Grade)00.20.40.60.811.21.41.61.8p=0.0014p=0.001120~30歳代40~50歳代60歳以上B:結膜侵入度の平均(Grade)00.20.40.60.811.2p=0.0031p=0.0002p=0.006920~30歳代40~50歳代60歳以上C:p-Marxline距離の平均(mm)図4涙点周囲の所見の年齢群別の平均涙点乳頭の隆起度,P-Marxline距離はすべての年代間で,結膜侵入度も20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた.r=0.7120p<0.00010123452030405060708090年齢(歳)(Grade)A:涙点乳頭の隆起度012342030405060708090年齢(歳)(Grade)B:結膜侵入度r=0.4693p=0.001301232030405060708090年齢(歳)(mm)C:P-Marxline距離r=0.6136p<0.0001図5涙点周囲の所見の年齢による分布涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関を認めた.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015879(115)Gradeは2.27±1.00であった.結膜侵入度はGrade1:26例,Grade2:7例,Grade3:2例であり,平均Gradeは1.39±0.62であった.P-Marxline距離は平均0.71±0.40mmであった.対象を20.30歳代,40.50歳代,60歳以上の3群に分類し,涙点関連所見の加齢に伴う変化をみると,涙点乳頭の隆起度は20.30歳代で平均Grade1.46±0.64,40.50歳代で平均Grade2.27±0.70,60歳以上で平均Grade3.20±0.86とすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).P-Marxline距離は20.30歳代で平均0.48±0.18mm,40.50歳代で平均0.68±0.16mm,60歳以上で平均0.99±0.51mmとすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).結膜侵入度は20.30歳代で平均Grade1.00±0,40.50歳代で平均Grade1.53±0.64,60歳以上で平均Grade1.64±0.74と,20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた(p<0.0001)(図4).また,涙点乳頭の隆起度(r=0.7120,p<0.0001),結膜侵入度(r=0.4693,p=0.0013),P-Marxline距離(r=0.3872,p<0.0001)は有意差をもって年齢との相関を示した(図5).TMH涙液クリアランス率(r=.0.3993,p=0.0073)およびTMA涙液クリアランス率(r=.0.3816,p=0.0106)は,年齢と有意差をもって負の相関を認め,加齢に伴い涙液クリアランス率は減少していた(図6).つぎに涙液クリアランス率と涙点関連所見との相関関係に00.511.522.533.5p=0.0049p=0.0021p<0.000120~30歳代40~50歳代60歳以上A:涙点乳頭隆起度の平均(Grade)00.20.40.60.811.21.41.61.8p=0.0014p=0.001120~30歳代40~50歳代60歳以上B:結膜侵入度の平均(Grade)00.20.40.60.811.2p=0.0031p=0.0002p=0.006920~30歳代40~50歳代60歳以上C:p-Marxline距離の平均(mm)図4涙点周囲の所見の年齢群別の平均涙点乳頭の隆起度,P-Marxline距離はすべての年代間で,結膜侵入度も20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた.r=0.7120p<0.00010123452030405060708090年齢(歳)(Grade)A:涙点乳頭の隆起度012342030405060708090年齢(歳)(Grade)B:結膜侵入度r=0.4693p=0.001301232030405060708090年齢(歳)(mm)C:P-Marxline距離r=0.6136p<0.0001図5涙点周囲の所見の年齢による分布涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関を認めた. 880あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(116)ついて検討した.その結果,TMH涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.6305,p=0.0057),結膜侵入度(r=.0.5570,p=0.0394),P-Marxline距離(r=.0.3419,p=0.0231)と有意差をもって負の相関を示した(図7).一方,TMA涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.3356,p=0.0259),結膜侵入度(r=.0.3346,p=0.0220)と有意差をもって負の相関を示した.P-Marxline距離(r=.0.2870,p=0.0589)との相関は有意差が出なかったが,負の相関傾向は示した(図8).III考按今回,涙点形状についての検討を行った結果,涙点乳頭は加齢とともに隆起し,涙点への結膜侵入は高度となり,P-Marxline距離は延長していた.加齢に伴い涙液クリアランスが低下することはすでに報告があるが,涙点形状の変化との関連を検討した結果,涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離が増大すると,涙液クリアランスは低下することが示された.これらの結果から,加齢とともに涙点周囲に変化が起こり,導涙機能が低下するのか,加齢とともに導涙機能が低下し,涙点周囲に変化をきたすのか,が論議されるところである.まず,涙点乳頭の隆起であるが,筆者らは上涙点についても観察検討を行っているが,観察困難例もあるため,本報告では下涙点のみの結果を示した.上涙点乳頭の隆起度が判定可能であった27症例の検討結果では,上下涙点乳頭の隆起度の相関(r=0.8737,p<0.0001)は高く,上涙点乳頭の隆起度も年齢と相関(r=0.7395,p<0.0001)を認めた.一般的に筋肉は加齢とともに萎縮傾向にあり,脂肪も減少傾向を示すことを考えると,涙点から涙小管を覆うHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpebralfascia(CPF)の加齢による退縮と,眼窩脂肪の減少の結果として涙点乳頭が隆起してくると推測される.導涙機構に関して,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やCPF,眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告があるが2.5),Doaneらは,導涙機能において涙点は上下涙点が閉瞼時に会合する“kissing現象”を起こすことが導涙機能におけるポンプ作用発生に重要な役割を果たし051015202520~30歳代40~50歳代60歳以上TMHクリアランス率の平均(%)r=-0.3933p=0.00730510152025303520~30歳代40~50歳代60歳以上TMAクリアランス率の平均(%)r=-0.3816p=0.0106図6涙液クリアランスの年齢群別の平均TMHクリアランス率,TMAクリアランス率ともに負の相関を認めた.00.511.522.530102030405060TMHクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)0123450102030405060TMHクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)012340102030405060TMHクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)図7涙点周囲の所見のTMH涙液クリアランス率による分布いずれも負の相関を認めた.r=-0.3117p=0.0394r=-0.3419p=0.0231r=-0.4104p=0.0057(116)ついて検討した.その結果,TMH涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.6305,p=0.0057),結膜侵入度(r=.0.5570,p=0.0394),P-Marxline距離(r=.0.3419,p=0.0231)と有意差をもって負の相関を示した(図7).一方,TMA涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.3356,p=0.0259),結膜侵入度(r=.0.3346,p=0.0220)と有意差をもって負の相関を示した.P-Marxline距離(r=.0.2870,p=0.0589)との相関は有意差が出なかったが,負の相関傾向は示した(図8).III考按今回,涙点形状についての検討を行った結果,涙点乳頭は加齢とともに隆起し,涙点への結膜侵入は高度となり,P-Marxline距離は延長していた.加齢に伴い涙液クリアランスが低下することはすでに報告があるが,涙点形状の変化との関連を検討した結果,涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離が増大すると,涙液クリアランスは低下することが示された.これらの結果から,加齢とともに涙点周囲に変化が起こり,導涙機能が低下するのか,加齢とともに導涙機能が低下し,涙点周囲に変化をきたすのか,が論議されるところである.まず,涙点乳頭の隆起であるが,筆者らは上涙点についても観察検討を行っているが,観察困難例もあるため,本報告では下涙点のみの結果を示した.上涙点乳頭の隆起度が判定可能であった27症例の検討結果では,上下涙点乳頭の隆起度の相関(r=0.8737,p<0.0001)は高く,上涙点乳頭の隆起度も年齢と相関(r=0.7395,p<0.0001)を認めた.一般的に筋肉は加齢とともに萎縮傾向にあり,脂肪も減少傾向を示すことを考えると,涙点から涙小管を覆うHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpebralfascia(CPF)の加齢による退縮と,眼窩脂肪の減少の結果として涙点乳頭が隆起してくると推測される.導涙機構に関して,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やCPF,眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告があるが2.5),Doaneらは,導涙機能において涙点は上下涙点が閉瞼時に会合する“kissing現象”を起こすことが導涙機能におけるポンプ作用発生に重要な役割を果たし051015202520~30歳代40~50歳代60歳以上TMHクリアランス率の平均(%)r=-0.3933p=0.00730510152025303520~30歳代40~50歳代60歳以上TMAクリアランス率の平均(%)r=-0.3816p=0.0106図6涙液クリアランスの年齢群別の平均TMHクリアランス率,TMAクリアランス率ともに負の相関を認めた.00.511.522.530102030405060TMHクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)0123450102030405060TMHクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)012340102030405060TMHクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)図7涙点周囲の所見のTMH涙液クリアランス率による分布いずれも負の相関を認めた.r=-0.3117p=0.0394r=-0.3419p=0.0231r=-0.4104p=0.0057 あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015881(117)解析すると,涙点関連所見と涙液クリアランスの相関係数は縮小し,弱い負の相関傾向がみられた.つまり,涙点関連所見と涙液クリアレンスの間に強い年齢の影響があり,疑似相関の疑いも否定できないという結果であった.これらの涙点周囲所見は年齢とも相関を示し,本検討だけでは導涙機能の指標であるか,単純な加齢性変化であるかとの鑑別は不可能であり,今後の評価が待たれるところである.ていると報告している7).すなわち閉瞼直前に上下涙点が会合することにより涙小管が閉鎖腔となり,陰圧を発生することで,開瞼後に涙液は涙道に吸引されることになる.反対に,上下涙点が“kissing不全”を起こすと,導涙機能は低下すると報告している7).隆起した涙点乳頭は“kissing不全”を起こすため,さらに涙道ポンプ機能不全を引き起こすと考えられる.つまり,涙点の隆起は加齢変化により起こり,その変化により導涙機能が低下すると推測されるため,加齢性変化による導涙機能の指標となる可能性があると思われる.つぎに涙点への結膜侵入であるが,加齢に伴い侵入度が高度となっている.結膜侵入と加齢との因果関係は推測の域を出ないが,結膜・眼瞼の慢性炎症の結果として起こるのではないかと推測される.しかしながら,涙点乳頭の隆起が導涙機能を反映している可能性が示唆されるのに対し,涙点への結膜侵入は涙点口そのものの狭小化を示し,結膜弛緩などの機序と同様に,涙点上での涙液メニスカスの遮断による導涙障害と考えられる.Marxlineはマイボーム腺機能不全,結膜弛緩症により前方移動することがYamaguchiらによって報告されており,眼瞼縁における疎水性バリアの破綻が前方移動の原因であると推測されている8).P-Marxlineの延長が加齢性変化によるものか,導涙機能低下による2次性変化であるかが論点となる.HykinとBronによるとMarxlineは加齢による変化はきたさないとしているが9),Yamaguchiらは,結膜弛緩とともに涙液の前方移動が起こり,その変化としてMarxlineの前方移動が起こるため,Marxlineは年齢とともに前方移動する傾向があるとしている8).今回の結果を合わせて考察すると,導涙機能低下により,余剰の涙液が生じること,涙点乳頭の隆起により見かけ上涙点部のP-Marxlineが延長することなどが考えられ,P-Marxlineの延長は涙点乳頭の隆起および導涙機能低下の2次的変化と考えられ,前述の涙点乳頭隆起が導涙機能低下の指標となるならば,P-Marxlineの延長も導涙機能低下の指標と考えられる.本検討では,涙液クリアランス率においてTMHと涙点形状所見が有意に相関したにもかかわらず,TMA涙液クリアランス率では相関率は低かった.前眼部OCTによる涙液メニスカスの観察では,TMAはTMHに比較して結膜弛緩や内反または外反などの眼瞼形状の影響を受けていることが考えられる.本研究により,涙点周囲所見である涙点乳頭の隆起度,涙点への結膜侵入度,P-Marxlineは涙液クリアランスと相関することが示された.外来診察で涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離を観察することで,より簡便に導涙機能を推察でき,スクリーニング検査としても有用な所見となる可能性が示唆された.一方,年齢の影響を統計的消去し012345020406080100TMAクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)01234020406080100TMAクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)00.511.522.53020406080100TMAクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)図8涙点周囲の所見のTMA涙液クリアランス率による分布涙点乳頭の隆起度と結膜侵入度は負の相関を認め,P-Marxline距離は有意差はないが相関傾向であった.r=-0.3356p=0.0259r=-0.3446012345020406080100TMAクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)01234020406080100TMAクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)00.511.522.53020406080100TMAクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)図8涙点周囲の所見のTMA涙液クリアランス率による分布涙点乳頭の隆起度と結膜侵入度は負の相関を認め,P-Marxline距離は有意差はないが相関傾向であった.r=-0.3356p=0.0259r=-0.3446 文献1)原吉幸,大橋裕一:涙道.眼瞼・涙器手術シリーズ第3回,眼紀54:313-320,20032)鈴木享:流涙症の原因と包括的アプローチ.眼科手術22:143-147,20093)栗橋克昭,今田正人,山下昭:涙道の解剖.眼科38:301-313,19964)栗橋克昭:導涙機構.眼科38:617-633,19965)柿崎裕彦:眼瞼から見た流涙症.眼科手術22:155-159,6)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearlyphasetearclearancebyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:e105-e111,20147)DoaneMG:Blinkingandteardrainage.AdvOphthalmicPlastReconstrSurg3:39-52,19848)YamaguchiM,KutsunaM,UnoTetal:Marxline:Fluoresceinstaininglineontheinnerlidasindicatorofmeibomianglandfunction.AmJOhthalmol141:669-675,20069)HykinPG,BronAJ:Age-relatedmorphologicalchangesinlidmarginandmeibomianglandanatomy.Cornea11:334-342,1992***(118)

眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):871.875,2015c眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性吉田紳一郎藤原慎太郎松本佳浩石川功吉田眼科病院EffectofDiquafosolSodiumOphthalmicSolutioninDryEyePatientswithEyeFatigueasthePrimarySubjectiveSymptomShinichiroYoshida,ShintaroFujiwara,YoshihiroMatsumotoandIsaoIshikawaYoshidaEyeHospitalドライアイは,自覚症状として目の疲れを生じる眼表面の慢性疾患である.眼疲労を主訴とするドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA)にジクアホソルナトリウム点眼液(DQS)またはシアノコバラミン点眼液(SCB)を併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.角結膜染色スコア,涙液層破壊時間(BUT)および自覚症状について,治療前および治療4週目を比較した.両群とも角結膜上皮障害は治療前に比較して有意に改善したが,DQS併用群のみBUTが有意に延長した.「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛み」は,両群とも治療前に比較して治療4週後に有意に改善した.「目の乾き」は,DQS併用群がSCB併用群に比較して有意に改善した.以上,DQSとHAの併用は眼疲労感を主訴とするドライアイ患者の治療に有用と考えられた.Dryeyeisachronicdiseaseofthetearfilmandocularsurface,anditsprimarysubjectivesymptomincludeseyefatigue.Weinvestigatedtheeffectsofthecombinationofdiquafosolsodium(DQS)andsodiumhyaluronate(HA)eyedropscomparedtotheeffectsofthecombinationofcyanocobalamin(SBC)eyedropsandHAforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.Theocularsurfacevitalstainingscore,tear-filmbreak-uptime(TBUT),andsubjectivesymptomsscorewerecomparedatbaselineandat4-weeksposttreatment.InboththeDQSandtheSCBtreatmentgroups,thestainingscorewassignificantlyimproved,butonlytheDQStreatmentsignificantlyextendedTBUT.Somesubjectivesymptoms,includingeyefatigue,wereamelioratedinbothtreatmentgroups.TheDQStreatmentsignificantlyimprovedthesensationofdrynessincomparisontoSCB.Thus,thecombinationofDQSandHAwasfoundusefulforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):871.875,2015〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,眼疲労.dryeye,diquafosolsodiumophthalmicsolution,eyefatigue.はじめにドライアイは,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されており1),日常の診療においても,さまざまな不定愁訴をもつドライアイ患者に遭遇する.近年,パソコンやスマートフォンの急速な普及により,われわれはvideodisplayterminal(VDT)作業を行うような環境のなかで生活するようになったが,長時間のVDT作業は目の疲れを誘発する.不定愁訴のなかでも,「目の乾き」を訴える患者以上に「目の疲れ」を訴える患者が多く散見され2),ドライアイと眼疲労感には密接な関係が考えられる.一般的に調節性眼精疲労の治療ではシアノコバラミン点眼液(SCB:サンコバR点眼液0.02%)が用いられているが,眼精疲労でSCBを処方される患者を対象とした調査において,85%以上がドライアイ確定例またはドライアイ疑い例であったとする報告もある3).したがって,眼精疲労の改善もさることながら,同時〔別刷請求先〕吉田紳一郎:〒041-0851北海道函館市本通2丁目31-8吉田眼科病院Reprintrequests:ShinichiroYoshida,M.D.,Ph.D.,YoshidaEyeHospital,2-31-8Hondori,HakodateCity,Hokkaido041-0851,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)871 に目の疲れを訴える患者に対しては,原因となるドライアイの適切な診断および治療が非常に重要であり,他覚所見に加えて自覚症状の改善が不可欠な要素となる.2010年12月に発売されたジクアスR点眼液3%(DQS)は,水分およびムチンの分泌を促進することにより,ドライアイの病態形成におけるコアメカニズムである,涙液の不安定化と角結膜上皮障害の間の悪循環を涙液側から改善するドライアイ治療点眼液である4).その結果,ドライアイにより生じた角結膜上皮障害およびさまざまな自覚症状を改善する5,6).今回,眼疲労感を主訴として来院したドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA:ヒアレインR点眼液0.1%)にDQSまたはSCBを併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.I対象および方法1.対象2012年7月.2013年9月に吉田眼科病院を受診し,「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)に準じたドライアイの自覚症状があるドライアイ確定例または疑い例で,眼疲労を主訴としたドライアイ患者45例に対して,HA(1日4回点眼)にDQS(1日6回点眼)またはSCB(1日4回点眼)を併用して治療を行った.なお,併用するときの2剤の点眼間隔は5分としたが,順序に関してはとくに指示しなかった.エントリーした45例のうち,治療開始4週後に受診し,データ解析が可能であった39例39眼(男性2例,女性37例)を解析した.なお,解析対象眼はフルオレセイン染色による角結膜上皮染色スコアが高い眼を評価対象眼とし,スコアが両眼同じ場合は右眼を評価対象眼とした.2.方法治療前および治療4週後における自覚症状および他覚所見について,群間比較および群内比較を行った.自覚症状として,目の疲れ,目の乾き,目の不快感,目がゴロゴロする,目の痛み,物がかすんで見える,光をまぶしく感じる,目のかゆみ,目が重たい感じがする,目やにが出る,涙がでる,目が赤くなる,の12項を4段階(0:症状なし,1:少し辛い,2:辛い,3:とても辛い)で評価した.他覚所見としては,フローレス眼検査用試験紙を用いて最少量のフルオレセインを点入後,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を測定した.また,2006年ドライアイ研究会の診断基準1)に基づき角結膜上皮染色スコア(0.3段階:9点満点)を評価した.3.統計解析BUTの治療前と治療4週後の比較には対応のあるt検定を,また,HAとDQSの併用群(DQS群)およびHAとSCBの併用群(SCB群)の比較は,平均変化量(4週目の値.治療前の値)を用いてt検定を行った.自覚症状スコアおよび角結膜上皮障害スコアの治療前と治療4週後の比較には,Wilcoxon1標本検定を,DQS群とSCB群の比較は,平均変化量を用いてWilcoxon2標本検定を行った.検定の有意水準は両側5%(p<0.05)とした.II結果1.対象および背景因子解析対象39例の背景因子を表1に示す.DQS群およびSCB群の間で,性別,年齢,コンタクトレンズ装用の有無およびVDT作業時間に差は認められなかった.2.有効性および安全性の比較他覚所見において,BUTについてDQS群は,治療前3.8±1.5秒から治療4週後5.7±2.4秒と有意な改善を示したが(p=0.0001),SCB群ではそれぞれ3.8±1.2秒から4.6±1.8秒と有意な改善は認められなかった(p=0.0542)(表2).BUTの変化量に関しては2群間に有意な差はなかった(p=0.0576).角結膜上皮染色スコアは,DQS群およびSCB群ともに治療前に比較して治療4週後に有意な改善を認めた(それぞれp=0.0065およびp=0.0078).変化量について2群間に差はなかった(p=0.5792)(表3).自覚症状スコアの結果を表4に示す.自覚症状の合計スコアは,DQS群,SCB群ともに,治療前に比較して治療4週表1解析対象患者の背景因子HA+DQS群(n=21)HA+SCB群(n=19)p値性別女性男性1921800.4899a年齢(歳)51.3±17.656.2±14.10.3412b有20CL装用無19180.1100aVDT作業時間(時間)4.2±3.03.9±3.50.7808ba:Fisherの直接確立法,b:t検定.872あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(108) 表2BUTの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群3.8±1.5(秒)5.7±2.4(秒)1.9±1.8(秒)p=0.0001HA+SCB群3.8±1.2(秒)4.6±1.8(秒)0.9±1.7(秒)p=0.0542p=0.0576値は平均値±SDを示す.a):対応のあるt検定,b):t検定.表3角結膜上皮染色スコアの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群2.7±1.11.7±1.4.1.0±1.4p=0.0065p=0.5792HA+SCB群2.7±1.91.8±2.2.0.9±1.3p=0.0078値は平均値±SDを示す.a):Wilcoxonの1標本検定,b):Wilcoxonの2標本検定.表4自覚症状スコアの比較項目群治療前4週後変化量群内比較1)群間比較2)HA+DQS1.4±0.90.4±0.5.1.0±0.9p=0.0001目の疲れHA+SCB1.3±0.80.6±0.6.0.8±0.8p=0.0027p=0.6830HA+DQS2.0±0.90.9±0.9.1.1±1.0p=0.0003目の乾きHA+SCB1.2±0.90.7±0.8.0.4±0.7p=0.0352p=0.0370HA+DQS1.5±0.70.7±0.7.0.9±1.0p=0.0017目の不快感HA+SCB1.4±1.00.6±0.9.0.8±0.9p=0.0039p=0.8942HA+DQS1.1±0.90.6±0.7.0.5±0.9p=0.0278目がゴロゴロするHA+SCB1.3±0.90.4±0.8.0.9±0.6p=0.0001p=0.0662HA+DQS1.1±0.80.3±0.6.0.8±0.9p=0.0020目の痛みHA+SCB1.3±0.80.6±0.7.0.8±0.9p=0.0020p=0.6756HA+DQS0.8±1.00.6±0.8.0.2±0.9p=0.3984物がかすんで見えるHA+SCB0.8±0.90.6±0.9.0.3±0.8p=0.2344p=0.4664HA+DQS0.9±0.80.7±0.9.0.2±0.7p=0.3438光をまぶしく感じるHA+SCB0.8±0.80.4±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.3546HA+DQS0.3±0.70.4±0.70.1±0.5p=0.6875目のかゆみHA+SCB0.7±0.80.3±0.5.0.4±0.6p=0.0313p=0.0161HA+DQS0.8±0.90.3±0.5.0.5±0.8p=0.0156目が重たい感じがするHA+SCB0.7±0.70.4±0.6.0.3±0.8p=0.1484p=0.7556HA+DQS0.4±0.80.5±0.70.1±0.6p=1.0000目やにが出るHA+SCB0.3±0.50.2±0.4.0.2±0.4p=0.2500p=0.2103HA+DQS0.2±0.50.3±0.60.1±0.7p=1.0000涙が出るHA+SCB0.2±0.40.1±0.3.0.1±0.2p=1.0000p=0.7201HA+DQS0.6±0.90.3±0.7.0.3±0.8p=0.1719目が赤くなるHA+SCB0.7±0.80.3±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.7610HA+DQS11.2±4.26.0±5.6.5.3±6.2p=0.0009自覚症状合計HA+SCB10.7±5.75.1±5.6.5.7±3.9p=0.0001p=0.8321値は平均値±SDを示す.1):Wilcoxonの1標本検定,2):Wilcoxonの2標本検定.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015873 後有意に改善し(それぞれp=0.0009およびp=0.0001),そドライアイにおいて,涙液の安定性を高めることにより実用の変化量に有意な差はなかった(p=0.8321).各自覚症状を視力および高次収差を改善することが報告されており12,13),見てみると,「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごこの涙液安定性の効果が,目の疲れに関する自覚症状を軽減ろごろする」「目の痛み」に関して,両群とも治療前に比較したものと考えられた.して治療4週後に有意に改善した.また,「目の乾き」に関本研究では,角結膜障害スコアの改善においてSCB群おしては,DQS群がSCB群に比較して有意に改善する効果をよびDQS群ともに治療前に比して有意な改善を認め,両群示した(p=0.0370).さらに,「目が重たい感じがする」は間に顕著な差は認めなかった.この理由として,治療前の角DQS群でのみ治療前に比較して治療4週後に有意に改善し結膜上皮障害スコアの平均が2.7と比較的軽症のドライアイた.一方,「目のかゆみ」に関してはSCB群でのみ治療前に患者がエントリーされていたこと,およびHAが併用薬と比較して有意に改善し,DQS群と比較しても有意差が認めして投与されていたことで,SCB併用群とDQS併用群の間られた(p=0.0161).で上皮障害スコアの改善に顕著な差が認められなかったこと副作用は,試験を通じて認められなかった.が考えられる.そのような条件においてもDQS群ではSCBIII考按群よりもBUTでみられた涙液安定性を高める作用を示す傾向が認められた.このことは,DQSの水分分泌9)およびム本研究では眼疲労感を伴うドライアイに対してDQSはチン分泌作用13)が涙液層の安定化を改善していることを示HAとの併用ではあるが,治療効果が高いことが明らかになすものである.った.自覚症状軽減に効果のあった項目としては「目の疲本研究の限界として,つぎの2点があげられる.DQSのれ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛水分分泌促進作用は点眼30分まで持続することが報告されみ」といったもので,これらの症状が強いドライアイでは,ており9),他覚所見の診察直前に点眼した患者が含まれる場そうした併用治療は効果が高いということになる.「目の乾合には,その影響が反映される可能性が考えられた.データき」以外の症状では,SCBとの併用でも自覚症状の改善がの標準偏差値をみる限り大きく外れた値はなかったことから有意にみられているが,「目の乾き」についてはDQSとのそのような患者は含まれていないと推測されるが,プロトコ併用のほうが著明に高い効果を示しており,乾きの強い症例ールに規定していないため本研究の限界として否定できないにはHAにDQSを併用する治療に優位性があるといえる.ものである.また,DQS併用群とSCB併用群では点眼回数SCBは調節性眼精疲労患者の反復測定時の調節時間,緊が異なり,その影響が結果に反映されている可能性は考えら張・弛緩運動の改善傾向がみられ,微動調節運動において有れる.本研究では対象がドライアイ患者であるので,点眼回意の改善する作用をもつ点眼液である8).一方,DQSは水分数の多さが治療効果に繋がっていないことを証明することはおよび分泌型ムチンを分泌促進することにより,涙液層を安今後の課題としてあげられる.定にして間接的に目の疲れをはじめとする自覚症状を改善す以上,DQSは眼疲労感を主訴とするドライアイ患者におる.DQSの水分分泌促進作用は点眼後30分継続することがいて,HAとの併用により自覚症状および他覚所見を有意に報告されており9),この効果がSCB群に比較して目の乾き改善し,ドライアイ治療に有用な薬剤と考えられた.を有意に改善する結果に繋がっていると考えられた.DQSはHAに抵抗するドライアイに対しても併用することで改善効果が報告10)されており,SCBにDQSまたはHAの併用利益相反:利益相反公表基準に該当なしを比較するほうが興味深い結果が出たのではないかと予想され,今後の検討課題としたい.文献DQSとHAの併用投与は,涙液層の安定性を高めるとと1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基もに「目の疲れ」をはじめとする自覚症状を改善した.ドラ準.あたらしい眼科24:181-184,2007イアイでは,通常の視力検査において1.0のような良好な視2)引地泰一,吉田晃敏,福井康夫ほか:厳しい診断基準とゆ力が得られる患者においても,1分間の連続視力を測定するるい診断基準のドライアイについての多施設共同研究.臨実用視力では顕著な視力低下が認められている11).これは,眼48:1621-1625,19943)五十嵐勉,大塚千明,矢口千恵美ほか:シアノコバラミ角膜上の涙液層が不安定な状態で短時間において涙液層が破ンの処方例におけるドライ頻度.眼紀50:601-603,1999綻するために,光学面に不整が生じてピントが合わなくなる4)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosolophためと考えられている.このようにピント調節を常時必要とthalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:する状態の継続は毛様体筋への負荷を大きくするため,「目579-589,20125)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Aranの疲れ」といった自覚症状を生じると推察される.DQSは874あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(110) domised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,20126)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20127)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,8)鈴村明弘:VitaminB12点眼剤による眼精疲労患者の調節機能,特にPEAGの動向.眼紀28:340-354,19779)YokoiN,KatoH,KinoshitaS:Facilitationoftearfluidsecretionby3%diquafosolophthalmicsolutioninnormalhumaneyes.AmJOphthalmol157:85-92,201410)KamiyaK,NakanishiM,IshiiRetal:Clinicalevaluationoftheadditiveeffectofdiquafosoltetrasodiumonsodiumhyaluronatemonotherapyinpatientswithdryeyesyndrome:aprospective,randomized,multicenterstudy.Eye26:1363-1368,201211)海道美奈子:ドライアイにおける視機能異常.あたらしい眼科29:309-314,201212)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595603,201313)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofdiquafosolophthalmicsolutionontheopticalqualityoftheeyesinpatientswithaqueous-deficientdryeye.ActaOphthalmol92:e671-675,201414)堀裕一:ドライアイに対する眼表面の層別診断・層別治療-4)ムチン層.眼科55:1251-1256,2013***(111)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015875

専用リーダーを用いた新しいアデノウイルス迅速診断法の臨床評価

2015年6月30日 火曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(6):865.869,2015c専用リーダーを用いた新しいアデノウイルス迅速診断法の臨床評価中川尚*1宮田和典*2木村泰朗*3箕田宏*4大橋秀行*5栗田正幸*6中村聡*7弓狩健一*8金子久俊*9松本治恵*10加藤陽子*11平山優子*12前野淳子*13秦野寛*14*1徳島診療所*2宮田眼科病院*3上野眼科*4とだ眼科*5大橋眼科*6くりた眼科クリニック*7吉野町眼科*8弓狩眼科医院*9ほばら眼科*10松本眼科*11あおと眼科*12平山眼科クリニック*13前野眼科*14ルミネはたの眼科ClinicalEvaluationofaRapidDiagnosticKitforAdenoviruswithaDedicatedDigitalReaderHisashiNakagawa1),KazunoriMiyata2),TairouKimura3),HiroshiMinoda4),HideyukiOhashi5),MasayukiKurita6),SatoshiNakamura7),KenichiYukari8),HisatoshiKaneko9),HarueMatsumoto10),YokoKato11),YukoHirayama12),AtsukoMaeno13)andHiroshiHatano14)1)TokushimaEyeClinic,2)MiyataEyeHospital,3)UenoEyeClinic,4)TodaEyeClinic,5)OhashiEyeClinic,6)KuritaEyeClinic,7)YoshinochoEyeClinic,8)YukariEyeClinic,9)HobaraEyeClinic,10)MatsumotoEyeClinic,11)AotoEyeClinic,12)HirayamaEyeClinic,13)MaenoEyeClinic,14)HatanoEyeClinic目的:専用リーダーを用いて客観的に判定を行うアデノウイルス抗原迅速検出キット「BDベリターTMシステムAdeno」(以下,ベリター)の臨床評価を行った.対象および方法:全国14施設において,結膜炎症状で受診した計245例を対象に,ベリター,チェックAdまたはBDAdenoエグザマンTM(以下,エグザマン)による抗原検出を実施し,あわせてPCR(polymerasechainreaction)法によるアデノウイルス遺伝子の検出を行った.結果:ベリターとチェックAdとの全体一致率は96.0%(48/50),ベリターとエグザマンの全体一致率は93.1%(189/203)であった.PCR法を基準とした各キットの検出感度はベリターで75.9%(63/83),チェックAdで78.6%(11/14),エグザマンで75.4%(52/69)であった.ベリターにおいて目視で陰性,リーダーで陽性と判定された5例中4例はPCR法にて陽性であった.結論:ベリターは既存2製品と同等の性能があると考えられた.また,専用リーダーにより結果を客観的に判定できる利点があると考えられた.Inthisstudy,weconductedaclinicalevaluationofthe“BDVeritorTMSystemAdeno”(Becton,DickinsonandCompany,FranklinLakes,NJ),anewlydevelopedrapiddiagnostickitforadenoviruswithadedicateddigitalreader.Threerapiddiagnostickits,BDVeritorTM,BDCheckAd,andBDAdenoExaman,werecomparedusingconjunctivalscrapingspecimensobtainedfrom245patientswithconjunctivalsymptomsat14hospitalsandeyeclinics.Polymerasechainreaction(PCR)fordetectionofadenoviruswasalsoconducted.ThetotalagreementrateforBDVeritorTMandBDCheckAd,andBDVeritorTMandBDAdenoExamanwere96.0%(48/50)and93.1%(189/203),respectively.SensitivitybasedonPCRforBDVeritorTM,BDCheckAd,andBDAdenoExamanwere75.9%(63/83),78.6%(11/14),and75.4%(52/69),respectively.FivenegativeresultsbyvisualjudgmentweredeterminedpositivebytheBDVeritorTMdedicateddigitalreader.FourofthosewerefoundtobepositivebyPCR.Thefindingsofthisstudysuggestthatintheclinicalsetting,theaccuracyoftheBDVeritorTMSystemAdenoisequivalenttothatoftwocurrentlymarketeddiagnostickits,yethastheadvantageofprovidingtheabilitytomakeanobjectivejudgmentbyuseofadedicateddigitalreader.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):865.869,2015〕〔別刷請求先〕中川尚:〒189-0024東京都東村山市富士見町1-2-14徳島診療所Reprintrequests:HisashiNakagawa,M.D.,TokushimaEyeClinic,1-2-14Fujimi-cho,Higashimurayama-shi,Tokyo189-0024,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(101)865 Keywords:アデノウイルス結膜炎,イムノクロマト法,迅速診断キット,専用リーダー,客観的判定.adenoviralconjunctivitis,immunochromatography,rapiddiagnostictesting,dedicatedreader,objectiveresult.はじめに結膜炎を起こすウイルスにはアデノウイルス,エンテロウイルス,単純ヘルペスウイルスなどさまざまなものがあるが,なかでもアデノウイルスは伝染力が強く,ときに院内感染を引き起こすため,迅速な診断と対応が重要である1,2).近年,イムノクロマト法を原理とするアデノウイルス抗原検出の迅速診断キットが次々と発売され,日常診療において汎用されている3.8).これらのキットはテストプレート上に現れるテストラインを目視にて判定を行うものが主流であるが,ラインが薄い場合などその判定に苦慮する場合がある.今回,筆者らは,イムノクロマト法を原理とするテストプレートを専用のデンシトメトリー分析装置を用いて判定するBDベリターTMシステム(日本ベクトン・ディッキンソン〔株〕)を臨床評価する機会を得たので報告する.I対象および方法1.対象対象はアデノウイルス結膜炎を疑われた患者245例,271眼で,年齢は0.90歳,平均39歳であった.性別は男性116例,女性129例であった.2.方法a.迅速診断キット今回は,評価対象としたBDベリターTMシステムを既存の2つの抗原検出キットと比較検討した.BDベリターTMシステムは,イムノクロマト法を原理とするテストプレート「BDベリターTMシステムAdeno」(以下,ベリター)とテストラインを読み取る専用のデンシトメトリー分析装置「BDベリターTMシステムリーダー」(以下,専用リーダー)からなり,判定を目視ではなくリーダーによって客観的に行うシステムである(図1).対照キットはチェックAd(大蔵製薬〔株〕)とBDAdenoエグザマンTM(以下,エグザマン,〔株〕タウンズ)で,いずれもイムノクロマト法を原理とし,目視にて判定を行う製品である.それぞれのキットの特徴を表1にまとめた.b.検体採取と抗原検出の実施検査の同意が得られた患者から,各診断キットに付属の専用綿棒を用いて結膜擦過物を採取した.検体の採取順および擦過回数は統一せず検者に任せた.検体採取後すぐにベリターおよびチェックAd,またはベリターおよびエグザマンの組み合わせで抗原検出を実施した.各迅速診断キットの実施方法は添付文書に従い,判定時間はベリターが10分,チェックAdおよびエグザマンは15分とした.ベリターの判定は,リーダーでの結果を用いた.c.PCR法PCR(polymerasechainreaction)法はチェックAdまたはエグザマンの抽出液の残液を用い,アデノウイルスDNA同定,ウイルスゲノムコピー数の半定量,および遺伝子系統解析による型判定を〔株〕LSIメディエンス(旧〔株〕三菱化学メディエンス)に委託した.図1専用リーダーによる判定(検査陽性例)表1評価したアデノウイルス迅速診断キットの特徴BDベリターTMシステムAdenoBDAdenoエグザマンTMチェックAd製造販売元測定原理標識物質判定時間判定方法採取用綿棒日本ベクトン・ディッキンソンイムノクロマト法金コロイド10分専用リーダーフロックドスワブタウンズイムノクロマト法白金.金コロイド3.15分目視コットンスワブ大蔵製薬イムノクロマト法金コロイド10.15分目視コットンスワブ866あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(102) II結果対象の245例のうち検査未実施などの脱落例を除く228例,253眼を解析対象とした.ベリターは228例253眼,チェックAdは50例50眼,エグザマンは178例203眼が解析対象となった.検査病日は0.23日で,3病日以内が208眼(82%),7病日以内が244眼(96%)と,ほとんどが発病1週間以内の症例であった.1.ベリターとチェックAdの相関性ベリターとチェックAdの陽性一致率は100%(11/11),陰性一致率は94.9%(37/39),全体一致率は96.0%(48/50)で(表2)で,両者の結果に差はみられなかった.このうち,ベリター陽性でチェックAd陰性の2検体はPCR法でアデノウイルスDNAが検出された.2.ベリターとエグザマンの相関性ベリターとエグザマンの陽性一致率は84.9%(45/53),陰性一致率は96.0%(144/150),全体一致率は93.1%(189/203)で(表3),両者の結果に差はみられなかった.このうち,ベリター陽性でエグザマン陰性の6検体中5検体,およびベリター陰性でエグザマン陽性の8検体中7検体はPCR法でアデノウイルスDNAが検出された.すなわち,キットで陽性を示したがPCRが陰性を示したものが2検体表2ベリターとチェックAdとの相関性チェックAd+.Total+11213ベリター.03737Total113950(ベリターはリーダーによる判定)陽性一致率:100%(11/11),95%CI[71.5%,100%]陰性一致率:94.9%(37/39),95%CI[82.7%,99.4%]全体一致率:96.0%(48/50),95%CI[86.3%,99.5%]p=0.500(McNemar’stest)あった(ベリター1検体,エグザマン1検体).3.PCR法を基準とした各診断キットの感度および特異度PCR法を基準とした各キットの感度および特異度は,ベリターで75.9%(63/83)および99.4%(169/170),チェックAdで78.6%(11/14)および100%(36/36),エグザマンで75.4%(52/69)および99.3%(133/134)であった(表4).また,ウイルスゲノムコピー数が1.0×104copies/ml以下において迅速診断キットの陽性率が低く,感度は40%未満であった.4.アデノウイルス血清型と各診断キットの検出感度PCR法によるアデノウイルス血清型と各診断キットの検出感度を表5に示した.検体数の少ない血清型もあり,血清型による検出感度の差については明らかなことはわからなかった.D種の型同定不能(notidentified),E種の4型におけるウイルス半定量値は他と比較して1.2管低い値(D種の型同定不能:4.0×105copies/ml,E種4型:9.2×104copies/ml)であり,これらでは迅速診断キットの陽性率が低い傾向が認められた.5.ベリターにおける目視と専用リーダーによる判定結果の比較ベリターの目視と専用リーダーの判定結果は全体で96.8%の一致率であった.目視により陰性と判断されたが,専用表3ベリターとエグザマンとの相関性エグザマン+.Total+45651.8144152Totalベリター53150203(ベリターはリーダーによる判定)陽性一致率:84.9%(45/53),95%CI[72.4%,93.3%]陰性一致率:96.0%(144/150),95%CI[91.5%,98.5%]全体一致率:93.1%(189/203),95%CI[88.7%,96.2%]p=0.791(McNemar’stest)表4PCR法を基準とした各迅速診断キットの感度および特異度PCR抗原検出キット(copies/ml)ベリターチェックAdエグザマン感度1.0×107≦97.2%(35/36)100%(8/8)96.4%(27/28)1.0×10668.4%(13/19)60.0%(3/5)85.7%(12/14)1.0×10573.3%(11/15)0.0%(0/1)78.6%(11/14)1.0×10437.5%(3/8)NoData25.0%(2/8)1.0×10333.3%(1/3)NoData0.0%(0/3)1.0×1020.0%(0/2)NoData0.0%(0/2)Total75.9%(63/83)78.6%(11/14)75.4%(52/69)特異度99.4%(169/170)100%(36/36)99.3%(133/134)(103)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015867 表5アデノウイルス血清型と各迅速診断キットの陽性率種型copies/ml*ベリターチェックAdエグザマンB31.2×10788.9%(16/18)66.7%(2/3)86.7%(13/15)NI†5.8×10650.0%(1/2)NoData100%(2/2)C23.1×1030.0%(0/1)NoData0.0%(0/1)D83.6×107100%(4/4)NoData100%(4/4)19A1.6×107100%(2/2)NoData100%(2/2)37/533.4×10678.9%(15/19)80.0%(4/5)71.4%(10/14)542.3×10785.7%(6/7)NoData100%(7/7)NI†4.0×10561.1%(11/18)100%(4/4)64.3%(9/14)E49.2×10466.7%(8/12)50.0%(1/2)50.0%(5/10)*平均値,†notidentified(同定不能)表6ベリターの目視と専用リーダーによる判定結果の比較目視+.Total+59564リーダー.3185188Total62190252陽性一致率:95.2%(59/62)陰性一致率:97.4%(185/190)全体一致率:96.8%(244/252)リーダーにより陽性と判定された例が5件あった(表6).このうち4件はPCR法にてアデノウイルスDNAが検出されたが1例は陰性であった.また,逆に目視にて陽性と判断されながら専用リーダーにより陰性と判定された例が3件あった(表6).これら3件はすべてPCR法にてアデノウイルスDNAが検出された.III考察今回,専用リーダーを用いて客観的に判定を行う迅速診断キット「BDベリターTMシステム」の評価を行った.ベリターと対照2製品との結果の一致率は比較的高く,感度,特異度も対照2製品と同等の結果であり,従来のキットとほぼ同等の性能を有するものと考えられた.しかし,ベリターとエグザマンでは結果の不一致が7%程度にみられ,とくに陽性一致率が85%程度と低値を示した.そのもっとも大きな要因は検体採取の方法と思われる.今回は2つのキットのために2回の結膜擦過を行い,それぞれの抽出液を用いて検査を行った.採取の順番は決めずに,採取器具もキットに付属のもの(綿棒あるいはフロックドスワブ)を用いたため統一されていない.結膜という面積の小さな感染部位では,十分量の検体を複数回採取するのはむずかしいと予想され,検体量の差が結果の差に反映し,不一致例が増えたものと考えられる.また,検者の擦過手技の適否も検体量を左右する要因の868あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015一つと考えられる.正確にキットの性能を比較するためには,同一の試料を用いて検査を行うのが理想であろう.今回の検討では,PCR法によるウイルス検出をベリター抽出液からではなく,対照キットのチェックAdあるいはエグザマンの抽出液を試料として行った.同時期に連続して採取した試料中には同程度のウイルスが含まれているという前提で今回の解析を行ったが,前述したように一部では抽出液中のウイルス量に差があった可能性もあり,ベリターの感度・特異度を正確に評価できていない可能性は否定できない.イムノクロマト法のアデノウイルス抗原検出キットは,特異性が高く偽陽性がないことが一つの特徴であるが,今回の研究ではPCR陰性でキット陽性,すなわち「偽陽性」と考えられる検体が2検体(ベリター陽性1検体,エグザマン陽性1検体)あった.ベリターの試料から直接PCR法を行っていないため,ベリター陽性検体が「偽陽性」か否かの判断はむずかしく,PCR用試料のエグザマン抽出液中のウイルス量が少なかったためPCRが陰性になった可能性もある.エグザマンの偽陽性については,目視判定の誤り,試料の展開の問題などが考えられるが,明らかな原因はわからなかった.イムノクロマト法のキットは簡便で短時間で実施でき,アデノウイルス結膜炎の補助病因診断として欠かせない検査である9).しかし,PCR法を基準とした感度は,今回検討したいずれのキットも80%に達せず十分とはいいがたい.ウイルス半定量の結果から,迅速診断キットが陽性を示すためには1.0×105copies/ml以上のウイルスDNA量が必要と考えられ,そのためには十分量の結膜擦過物を得ることが重要と考えられる.本製品の検体採取綿棒は植毛タイプのフロックドスワブであり,一般の綿棒と比べて検体採取量が多く,かつ抽出効率がよいことが示されているが10,11),今回の検討では陽性率に有意な差は認められず,患部の小さい結膜炎を対象とした場合にはその優位性が発揮されにくいのかもしれな(104) い.今回評価したベリターの最大の特色は,プレート上のテストラインを目視でなくリーダーで読み取って判定する点にある.一般にイムノクロマト法を原理とする迅速診断キットは,目視により判定を行うため簡便であるが主観的であり,ラインが非常に薄い場合など判定に苦慮することもある.山口ら12)は,テストラインの濃さと目視による判定結果のばらつきを検証し,個人差,とくに判定者の熟練度が目視判定に影響を与えることを示し,客観性のあるBDベリターTMシステムの有用性を示している.今回の検討でも,目視で陰性でリーダーで陽性と判定されたものが5件あり,これらは目視では判定のむずかしい極薄いテストラインをリーダーが読み取ったもので,その有用性を示すものと考えられる.しかし一方で,目視で陽性と判定されながらリーダーが陰性を示したものが3件あった.この3件中2件はメンブレン上の抽出液の展開が不均一で,金コロイドの赤紫色がメンブレン上に斑状になっていた.専用リーダーはバックグランドとなるメンブレンとテストラインの濃淡を利用して判定を行うため,不均一な展開により濃淡の差が正確に読み取れなかったものと推察された.テストプレートの検体滴下部に対し斜め方向または滴下部に沿わせながら抽出液を滴下した場合,展開が不均一になる場合があり,検体を垂直に滴下するなど滴下方法に注意が必要と考えられた.ベリターには検体採取効率のよい植毛タイプの採取綿棒が付属され,客観的に結果判定が行えるという他のキットにはない利点がある.判定に際して目視による結果も考慮すべき事例があり,これについては今後のさらなる検討や事例の蓄積が必要であるが,検体採取やイムノクロマトの結果判定に不慣れな場合でも,ベリターがそれを補ってくれる可能性があり,アデノウイルス結膜炎の迅速病因診断キットとして有用と考えられた.<謝辞>本研究の実施にあたり,試薬提供およびPCR検査実施にご協力いただいた日本ベクトン・ディッキンソン株式会社に深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野重昭,内尾英一,岡本茂樹ほか:ウイルス性結膜炎ガイドライン.日眼誌107:1-35,20032)中川尚:とことんわかる!ウイルス性結膜炎.眼科ケア13:74-78,20113)斉藤和香,内尾英一,青木功喜ほか:免疫クロマトグラフィー法によるアデノウイルス結膜炎の迅速診断.臨眼51:1073-1076,19974)竹内聡,中川尚,米本淳一ほか:高感度アデノウイルス結膜炎迅速診断キットの評価─アデノウイルス結膜炎迅速診断キット,キャピリアRアデノとアデノチェックの比較─.あたらしい眼科23:921-924,20065)清水英明,石丸陽子,藤本嗣人:白金─金コロイドイムノクロマトグラフ法を使用したアデノウイルス検査キットの有用性.感染症誌83:64-65,20096)北市伸義,明尾潔,熊埜御堂隆ほか:白金-金コロイド標識抗体を用いたアデノウイルス迅速診断検査キットの評価.医学のあゆみ237:210-214,20117)三田村敬子,清水英明,安倍隆ほか:新しいアデノウイルス抗原検出試薬クリアビューアデノの検討.医学と薬学67:131-136,20128)宮永嘉隆,中川尚,秦野寛ほか:新しいアデノウイルス迅速診断法「クイックナビ-アデノ」の臨床評価.あたらしい眼科29:659-663,20129)平田憲:眼科における感染対策.臨床と研究88:559562,201110)DaleyP,CastricianoS,CherneskyMetal:Comparisonoffllockedandrayonswabsforcollectionofrespiratoryepithelialcellsfromuninfectedvolunteersandsymptomaticpatients.JClinMicrobiol44:2265-2267,200611)藤本嗣人,榎本美貴,小長谷昌未ほか:フロックドスワブのアデノウイル検体採取での有用性.感染症誌83:398400,200912)山口育男,青山知枝,山本優ほか:イムノクロマト法インフルエンザウイルス抗原検出キットBDベリターシステムFluにおける機器判定の感度とその目視判定に対する優越性の検討.臨床微生物23:213-218,2013***(105)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015869

ニュープロダクツ

2015年6月30日 火曜日

ニュープロダクツニュープロダクツ●ジャパンフォーカス株式会社楽しみながら視機能訓練が行える<オクルパッドR>(株式会社JFCセールスプラン)最新のホワイトスクリーン技術により,周辺視野と手の動きは両眼視を保ったまま,訓練眼にのみ映像刺激を与えることができる世界初のタブレット型弱視訓練器.株式会社JFCセールスプランより,4月16日から販売を開始した.主な特徴■片眼遮閉を行わない両眼開放(両眼視)下の弱視訓練・日常視に近い訓練条件・遮閉による瞳孔散大がない・遮閉弱視の危険性なし立体視の発達を妨げないなど副作用の心配がない■ゲーム性を取り入れた訓練(タッチandタンジブル)・楽しんでゲームをすることが即ち視機能訓練・複数のゲームを組み合わせ視機能訓練プログラムを作成できる■固視および追従運動を自然に促す有効な刺激・両眼で認識できるタブレットの枠が周辺視野を確保・画面をタッチする指(ブロック)も両眼で認識しながら患眼でのみ見える画像を追従する眼球運動を行う■訓練時間(状況)の記録と効果の確認・訓練効果の検証ができる使用履歴(訓練日,訓練時間)が確認できる・家庭でも訓練効果が見えるVisnutsLEVEL(両眼開放下における視力同等簡易検査)■視機能発達支援・視機能の発達を支援する特許出願中医療機器届出番号13B1X00049YG0001標準販売価格:オープン価格〔問合せ先〕<総発売元>株式会社JFCセールスプラン〒113-0033東京都文京区本郷4-3-4明治安田生命本郷ビル電話(03)5684-8531<製造販売元>ジャパンフォーカス株式会社〒113-0033東京都文京区本郷4-37-18IROHA-JFCビル電話(03)3815-2611本欄に紹介した製品は,すべて当該社の提供資料による.(87)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015851

My boom 41.

2015年6月30日 火曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第41回「山田教弘」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第41回「山田教弘」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介山田教弘(やまだ・のりひろ)群馬大学眼科学教室慶應義塾大学の許斐健二先生からバトンを渡していただきました.群馬大学病院眼科で網膜硝子体疾患・角膜疾患を担当しています.弘前大学を平成9年に卒業.その後2年間,東北大学眼科で研修をさせていただき,平成11年から故郷の群馬県に戻り,群馬大学で眼科医をしています.大学院に群馬大学生体調節研究所という別組織の研究所に行かせていただいたり,平成22年には東京歯科大学市川総合病院に角膜フェローとして参加させていただいたり,平成25年からアトランタのエモリー大学に留学させていただいたりと大学以外でもたくさんの経験をさせていただいています.今回はmyboomということで,仕事におけるmyboomと遊びにおけるmyboomをご紹介させていただきたいと思います.仕事におけるMyboom臨床,とくに手術が好きなので,新しい手術や技術にはいつも興味をもっています.東京歯科大学市川総合病院で角膜フェローをさせていただいてから,角膜の手術の繊細さや美しさに魅かれています.東京歯科大学では島﨑教授のDSAEKやDALKの助手をさせていただき,最後は私のDSAEKやDALKに先生自らDirectorとしてついてくださり,教えてくださいました.また,東京歯科大学にいらしていた加藤先生のご紹介で,金沢大学の小林先生のところにも見学に行かせていただきました.それらの教えをもとに群馬大学でもDSAEKと(85)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYDALKを行うようになっています.今でも東京歯科大学で教えてくださったたくさんの先生方から,多くの知識や刺激をいただき続けています.最近では平成26年の臨眼中にDMEKの研究会に誘っていただき,その術後のきれいさに夢中になっています.一刻も早く群馬大学でもDMEKを始めたいと考えています.大学院修了後,基礎研究からすっぱり足を洗っていた私も,エモリー大学での留学で久しぶりに研究どっぷりの生活になりました.おもに網膜へのドラッグデリバリーの研究をしていました.ボスのティモシー・オルセン教授はエモリーアイセンターのトータルディレクターも兼ねていてお忙しいのに,とても優しくしてくださり,英語もろくにできない,研究者としても二流な私を見捨てることなく,沢山のことを教えてくださいました.米国で使っていた研究器材と同じものを帰国後に注文し,それがこのほどできあがってきたので,これからもエモリー大学とコラボで仕事ができるのが楽しみです.写真1は東京で開催されたWOC2014にオルセン先生がいらっしゃったときに,私のボス,岸章治教授と一緒に撮った写真です.岸教授に誘っていただいて参加したマクラソサエティ2014でもオルセン教授とご一緒する機会があり,世界中の著明な網膜硝子体専門家だけが会員のこの学会をちょっとだけ覗けて,私にとっては一生に一度の貴重な体験となりました.もう一つ,最近仕事で考えているmyboomは人との付き合いかたです.日本で働いているときは常に忙しくしていて,イライラして余裕のない態度で人と接することも多かった私ですが,留学生活という環境で自分と向き合う本当によい時間をもつことができました.帰国してから患者さんはもとより,職場の看護師さんや後輩の先生など,常に相手を尊敬してともに歩んでいく大切さあたらしい眼科Vol.32,No.6,2015849 写真1岸教授,オルセン教授との昼食会WOC2014Tokyoにいらっしゃったエモリー大学のオルセン教授と岸教授と一緒に.オルセン教授と岸教授は1995年にロンドンの郊外バース(Bath)で行われたマクラワークショップで知り合いそれからずっと仲のいい友人同士でいらしゃいます.を実感しながら働くように心がけています.写真2は群馬大学角膜チームのみんなと角膜カンファに行ったとき,観光で訪れた桂浜で撮った写真です.いつも肝心なところの詰めが甘い私を助けてくれる大切で優しい仲間たちです.みんなで龍馬が日本の未来を思い描いたこの浜をみつめながら,それぞれが自分なりの未来を心の中で思い描いたはずです.遊びにおけるMyboom仕事より遊びが得意な私は,思いつく限りの趣味を試してみることに余念がありません.大学院を卒業したあとに始めた趣味は,スキューバダイビングに始まり,ゴルフ,バイクツーリング,スキー,スノーボード,マラソンなど.休暇と収入のほとんどを趣味に費やしてしまっています.そんな中でも今一番推している趣味はフライフィッシングです.アトランタにいたときに知り合った友達に釣り道具の一切を貸してもらって,グレートスモーキー国立公園の渓流に連れて行ってもらいました.手取り足取り教えてもらいながら何とか竿をふり,初めてのニジマスを釣ったときの感動は忘れられないほどす写真2群馬大学角膜グループ角膜カンファ2015で群馬大学角膜グループのみんなと.いつも自分を助けてくれる大切な仲間たちです.ばらしく,すっかりフライフィッシングの虜になっています.帰国の直前に映画,「リバー・ランズ・スルー・イット」の舞台,モンタナ州のブラックフットという釣り場にも連れて行ってもらい,念願だった野生のブラウントラウトも釣ることができました.趣味はそれを通して沢山の友達が作れることに大きな魅力があると思います.釣り場に向かって歩きながらアメリカに渡ってきたばかりの頃の苦労話を聞かせてもらったり,ツーリングの途中で休憩しながら昔のアメリカの国道の話を聞かせてもらったりして,自分の人生が豊かになっていくのを実感しています.次回のプレゼンターは東京大学の小畑亮先生です.キーラーゴで開催されたマクラソサイティでお友達になった楽しくて優しくてすばらしい先生です.どんなmyboomを聞かせていただけるか興味津々です.よろしくお願いいたします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆850あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(86)