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前眼部光干渉断層計を用いたレバミピド懸濁粒子濃度測定

2014年12月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科31(12):1867.1871,2014c前眼部光干渉断層計を用いたレバミピド懸濁粒子濃度測定坂井譲*1井上康*2越智進太郎*2*1市立加西病院眼科*2医療法人眼科康誠会井上眼科MeasurementofRebamipideConcentrationwithAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyJoeSakai1),YasushiInoue2)andShintaroOchi2)1)KasaiCityHospital,2)InoueEyeClinic目的:涙液クリアランスを評価する目的で,前眼部光干渉断層計CASIAR(SS-1000,TOMEY)を用い,レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚製薬,以下,レバミピド)の涙液メニスカス中での経時的な濃度変化を測定した.対象および方法:健常ボランティア11名11眼を対象とした.CASIARを用い,レバミピド10μl点眼後の涙液メニスカス高(TMH)および涙液メニスカス内の平均輝度(MGV)を1分ごとに測定限界まで測定した.画像解析にはImageJ(アメリカ国立衛生研究所)を用いた.MGVから算出されたレバミピド濃度の経時変化よりレバミピドクリアランスおよび涙液量を求めた.結果:点眼5分後までの測定が可能であり,涙液量は7.0±8.3μlであった.TMHの有意な上昇が点眼直後から点眼2分後に認められたため(p<0.05),点眼直後から点眼2分後を点眼および反射分泌による量的負荷状態の急速相,点眼2.5分後を量的負荷のない緩徐相と仮定した.レバミピドクリアランスは急速相では122.4±84.5%/min,緩徐相では35.7±31.3%/min,であった.結論:CASIARを用いて涙液中でのレバミピドのクリアランスを測定することが可能であった.Purpose:Toevaluatetearclearance,concentrationsofrebamipideophthalmicsuspensionsweremeasuredwiththeanteriorsegmentopticalcoherencetomography.MethodsandParticipants:Enrolledinthisstudywere11eyesof11volunteers;theCASIARSS-1000(TOMEY,Japan)wasused.After10μlof2%rebamipideophthalmicsuspensionwasinstilled,tearmeniscusheight(TMH)andmeangrayvalueinthetearmeniscusweremeasuredeachminutetothedetectionlimitandanalyzedbyImageJ(NIH).Rebamipideclearanceandtearvolumewerecalculatedfromthetimecourseofrebamipideconcentration,obtainedfromthemeangrayvalue.Results:Measurementsatupto5minutesafterinstillationwerepossible.Tearvolumewas7.0±8.3μl.TMHincreasedsignificantlyjustafterandat2minutesafterinstillation(p<0.05),sowedefinedrebamipideclearanceat0-2minutesafterinstillationastheacutephaseunderreflectivehypersecretion,andrebamipideclearanceat2-5minutesafterinstillationastheslowphasewithoutquantitativeload.Therebamipideclearanceacuteandslowphaseswere122.4±84.5%/minand35.7±31.3%/min,respectively.Conclusion:WithCASIAR,therebamipideconcentrationcanbemeasuredandrebamipideclearancecanbecalculatedfromthetimecourseofrebamipideconcentration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1867.1871,2014〕Keywords:涙液クリアランス,レバミピド懸濁点眼液,前眼部光干渉断層計.tearclearance,2%rebamipideophthalmicsuspension,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.はじめに近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の普及に伴い,OCTを用いた涙液の定量評価が試みられるようになってきた.鈴木は1),OCTにより涙道閉塞の術前後の涙液メニスカスを測定し,手術による涙液量の変化を検討している.Zhengら2)は,生理食塩水点眼直後と30秒後の涙液メニスカスの変化から,量的負荷状態での涙液クリアランスを評価している.また,井上ら3)は,前眼部アダプタを装着した後眼部OCTを用いて,涙液メニスカス中のレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚〔別刷請求先〕坂井譲:〒675-2393兵庫県加西市北条町横尾1丁目13番地市立加西病院眼科Reprintrequests:JoeSakai,M.D.,DepartmentofOphthalmologyKasaiCityHospital,1-13Yokoo,Houjou-cyou,Kasaicity6752393,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)1867 製薬,以下,レバミピド)の粒子の平均輝度から粒子濃度を算出し,粒子濃度の変化から涙液クリアランスを測定する試みを行っている.今回,筆者らはより光源波長の長い前眼部OCT,CASIAR(SS-1000,TOMEY)を用いた涙液クリアランス測定を目的として,涙液メニスカス中のレバミピドの濃度変化を測定した.I対象および測定方法1.対象ドライアイ,角膜疾患,涙道通水障害を有さない健常ボランティア11名11眼(男性3名女性8名),年齢40.0±10.6歳(範囲:27.51歳)を対象とした.2.測定方法測定はCASIARのRasterVスキャンを用い,同時に撮影した上下の涙液メニスカスを比較するためスキャン幅を16mmに設定した.レバミピド濃度と平均輝度の相関を確認する目的で,オートレフラクトメータ(KR-8900R,TOPCON)のキャリブレーション用模擬眼に生理食塩水で希釈した2%,1%,0.5%,0.25%,0.125%,0.0625%,0.03125%,0.015625%,0.0078125%のレバミピド希釈液10μlをマイクロピペットにて点眼し,CASIARにて撮影した.健常ボランティアの同意を得た後,点眼前の涙液メニスカスを撮影した.撮影は自然瞬目下にて行い,撮影中は涙を拭うなど眼瞼に触れないよう指示した.その後,左眼にマイクロピペットを用いてレバミピドを10μl点眼し,点眼後は1分間隔で5分後まで撮影した.撮影した画像をJPEGに変換し,パーソナルコンピュータに取り込み,画像処理ソフトウェアImageJ1.47v(アメリカ国立衛生研究所)を用いて平均輝度(meangrayvalue:MGV),涙液メニスカス高(TMH)を算出した.本研究は加西病院倫理審査委員会の承認を得て行われた.II結果1.模擬眼での測定結果各濃度のレバミピドと模擬眼に点眼された各濃度のレバミピドのOCT画像を図1に示す.図2に眼球のX軸,Y軸,Z軸とOCT画像上のY軸,Z軸を示す.CASIARではX軸幅は点光源の直径で規定されている.模擬眼に点眼したレバミピドのMGVは,Y軸方向の測定幅には影響されないが,Z軸方向では液面から離れるに従い減衰していた(図3).Z軸方向の各解析幅におけるMGVとレバミピド濃度との相関を図4に示す.Z軸解析幅を最も相関の強い10pixelとすると(1pixel=10μm),レバミピド濃度=0.00000937041725e0.02860659276375*MGV(r2=0.967)の関係式が得られた.2.健常者での測定結果健常者でのレバミピド検出限界時間は平均約5分間であり,レバミピドの濃度曲線から予測されるレバミピドの95%消失時間は8分30秒であった.TMHは点眼直後,1分後および2分後に有意差を認めたため(図5),井上ら3)の報告と同様に点眼直後から点眼2分後までを反射分泌および量的負荷状態における急速相,点眼2分後から5分後までを量的負荷のない緩徐相とし,以下の検討を行った.2%1%0.5%0.125%0.0625%0.03125%0.015625%0.0078125%図1レバミピド原液および生理食塩水で希釈したレバミピド希釈液とCASIARで撮影したOCT像上:レバミピド原液および生理食塩水で希釈した各レバミピド希釈液.下:模擬眼に点眼したレバミピド原液および希釈液のOCT像.1868あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(130) Y軸OCT像Z軸Z軸X軸LowerlidCorneaTearMeniscusOCTの測定部位Y軸図2眼球のX軸,Y軸,Z軸とOCT像上のY軸,Z軸0.000010.00010.0010.010.11050100150200250レバミピド濃度(mg/μl):10pixel:70pixel:30pixel:90pixel:50pixely=0.00000937e0.0287×平均輝度r2=0.967MGV図4各Z軸解析幅におけるレバミピド濃度とmeangrayvalue(MGV:平均輝度)との相関模擬眼で得られた関係式を用いて涙液メニスカス内のMGVからレバミピド濃度を算出した.また,点眼直後のレバミピド濃度から涙液量を,涙液量(μl)=10μl×(点眼したレバミピド濃度.点眼直後レバミピド濃度)/点眼直後レバミピド濃度の式より算出すると,健常者の涙液量は7.0±8.3μlであった.下方涙液メニスカス内のレバミピド濃度の経時変化を図6に示す.レバミピドのクリアランスはレバミピドクリアランス(%/min)=Ln(slope)×100を用いて算出した.点眼直後から5分後までのレバミピドクリアランスは66.5±37.8%/min,急速相は122.4±84.5%/min,緩徐相は35.7±31.3%/min,であった(表1).図7に毎分ごとのレバミピドクリアランスの変化を示す.上下の涙液メニスカスを同時に撮影することができた11眼中2眼では,上下涙液メニスカス内のレバミピド濃度はほぼ同様の変化を示した(図8).Y軸Z軸①②MGV150100500Y軸MGV150100500Z軸図3模擬眼におけるY軸,Z軸とmeangrayvalue(MGV:平均輝度)の測定結果III考按今回使用した前眼部OCTCASIARは,光源波長が後眼部OCTよりも長いことが特徴である.後眼部OCTは光源波長が870.880nmであり,解像度は高いが組織深達度は低く4),前眼部OCTは光源波長が1,310nmで解像度は劣るものの組織深達度が高い.前眼部OCTを使用することにより,特に高濃度での懸濁粒子による反射の減衰を少なくすることができ,高濃度でのより正確なMGVの測定が可能になると考えられる.点眼直後の下方涙液メニスカス内のレバミピド濃度から算出された涙液量は7.0±8.3μlとMishimaら5)や清水ら6)の報告とほぼ同様であった.また,上下の涙液メニスカスを同時に撮影できたのは2眼のみであったが,上下の涙液メニスカス内のレバミピド濃度に明らかな差はなかった.これらのことから,点眼直後の瞬目により均一に混合されたレバミピド懸濁粒子はその後の測定中でも自然瞬目により涙液中での(131)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141869 *00.20.40.60.81BL0min1min2min3min4min5minTMH(mm)****点眼後の経過時間Kruskal-Wallistest多重比較:Steel:*p<0.05**p<0.01図5TMHの経時変化表1涙液量とレバミピドクリアランス年齢(歳)40.0±10.6涙液量(μl)7.0±8.3レバミピドクリアランス(%/min)点眼直後.5分後66.5±37.8急速相(点眼直後.2分後)122.4±84.5緩徐相(2分後.5分後)35.7±31.3均一性が保たれていたと考えられる.レバミピド点眼後から測定終了時までの観察では眼瞼皮膚表面にレバミピドの付着は認められなかった.涙液メニスカスに貯留可能な涙液の増加量は最大で25μlとされていることから5),今回点眼した10μlのレバミピドは健常者では眼瞼を越えてこぼれることなく涙道を経由して排出されたと考えられる.ZhengらはOCTを用い,生理食塩水点眼後の涙液メニスカスの高さおよび面積の変化を測定することにより,量的負荷状態での涙液クリアランスを測定しているが2),涙液量が一定の状態における涙液クリアランスを知るためには何らかのトレーサーが必要となる.涙液と同様の動態を示すトレーサーを選択すれば,その濃度変化から涙液クリアランスを算出することが可能になる.水溶性のトレーサーであればその挙動は涙液の動態と一致する可能性は高いが,分子量によっては組織浸透性を考慮する必要がある.実際に,フルオロフォトメータを用いた測定におけるフルオレセインNaの95%消失時間は20分,デキストラン分子と結合させたフルオレセインNaの95%消失時間は11分と報告されており7),分子量の大きなデキストラン分子と結合したフルオレセインNaは組織浸透性が少ないため,より短時間で涙液中から消失した可能性がある.1870あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014-9-8-7-6-5-4-30min1min2min3min4min5minLn(レバミピド濃度)緩徐相急速相点眼後の経過時間図6健常人ボランティアにおけるレバミピド濃度の経時変化図7点眼直後から5分間のレバミピドクリアランスの経時変化y=-75.99Ln(x)+142.1r2=0.884-100-500501001502002503000-1min1-2min2-3min3-4min4-5minレバミピドクリアランス(%/min)点眼後の経過時間-10-9-8-7-6-5-4-30min1min2min3min4min5minLn(レバミピド濃度):上方メニスカス:下方メニスカス点眼後の経過時間図8上下涙液メニスカスにおけるレバミピド濃度の経時変化一方,レバミピドは懸濁液であり組織浸透性はなく,点眼ボトル内での懸濁粒子は均一に分散しており沈殿は起こらない.涙液中でもこの分散性が維持できれば涙液に近い動態を示すことが予想される.ただし,点眼ボトル内ではpH5.5.6.5に調整されており懸濁粒子の溶解はないが,涙液中ではpHが変化するため溶解を考慮しなければならない.涙液のpHに近いと考えられるBSSPlusR500眼灌流液0.0184%(pH7.2.8.2,日本アルコン)中でのレバミピドの溶解率は7.89±1.77%/minと報告されている3).この溶解率を除外した涙液中レバミピドの95%消失時間は12分48秒となり,(132) デキストラン分子と結合したフルオレセインNaの95%消失率にほぼ等しく,懸濁製剤でありながら水溶性かつ組織浸透性のないデキストラン分子と結合したフルオレセインNaに近い動態を示していると考えられる.今回,より長時間の測定を可能にするためにレバミピド原液の点眼量は10μlに設定した.点眼量が多いことにより涙道からの涙液の排出が加速され,得られたレバミピドクリアランスはMishimaら5)や清水ら6)の報告した涙液クリアランスよりも高値を示す結果となった.今後,少ない点眼量でも長時間検出可能かつ涙液中で溶解しないトレーサーを選択し,より感度の高い検出機器を用いることにより,本手技を用いた涙液クリアランスの測定が可能になると考えている.文献1)鈴木亨:光干渉断層計を用いた涙小管閉塞症例術前後の涙液メニスカス断面積の測定.臨眼65:641-645,20112)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearly-phasetearclearancebyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:e105-e111,20133)井上康,越智進太郎,山口昌彦ほか:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとした光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,20144)佐藤学,渡辺祐輝:光コヒーレンストモグラフィーの基礎と臨床応用.JJSLSM26:229-238,20055)MishimaS,GassetA,KlyceSDetal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmolVisSci5:264-275,19666)清水章代,横井則彦,西田幸二ほか:フルオロフォトメトリーを用いた健常者の涙液量,涙液turnoverrateの測定.日眼会誌97:1048-1052,19967)TomlinsonA,KhanalS:Assessmentoftearfilmdynamics:quantificationapproach.OculSurf3:81-95,2005***(133)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141871

小児細菌性外眼部感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床的評価および原因菌の薬剤感受性

2014年12月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科31(12):1857.1866,2014c小児細菌性外眼部感染症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床的評価および原因菌の薬剤感受性大野重昭*1田中知暁*2久志本理*3*1医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科*2富山化学工業株式会社綜合研究所製品企画部*3富山化学工業株式会社開発管理部ClinicalEvaluationofTosufloxacinTosilateOphthalmicSolution0.3%fortheTreatmentofExternalBacterialOcularInfectioninChildrenandSusceptibilityofthePathogenicBacteriatoTosufloxacinShigeakiOhno1),TomoakiTanaka2)andSatoruKushimoto3)1)DepartmentofOphthalmology,AishinMemorialHospital,2)ProductPlanningDepartment,ToyamaChemicalCo.,Ltd.,3)DataScienceandAdministrationDepartment,ToyamaChemicalCo.,Ltd.トスフロキサシン(tosufloxacin:TFLX)トシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より15歳未満の小児の症例を抜粋し,小児の細菌性外眼部感染症に対するTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の有効性と安全性を検証した.また,小児由来の原因菌の薬剤感受性を測定した.TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%は,小児の外眼部感染症を認めた症例に対する有効率は96.4%(449/466例),細菌学的効果は86.7%(202/233例)であった.原因菌477株全株に対するTFLXのMIC50は≦0.06,MIC90は0.25μg/mLであった.主要な原因菌であるHaemophilusinfluenzae,StreptococcuspneumoniaeおよびStaphylococcusaureusに対してTFLXのMIC50はそれぞれ≦0.06,0.12および≦0.06μg/mLであり,moxifloxacin(MFLX)と同程度,levofloxacin(LVFX)より1.4倍,gatifloxacin(GFLX)より1.2倍,cefmenoxime(CMX)より1.32倍以上,gentamicin(GM)より8.32倍,erythromycin(EM)より32.2,048倍以上強い抗菌活性を示した.また,TFLXのMIC90はそれぞれ≦0.06,0.12および32μg/mLであり,LVFXより1.8倍,GFLXの1/4.2倍,MFLXの1/4.1倍,CMXより1.8倍以上,GMより4.64倍,EMより4.1024倍以上強い抗菌活性を示した.副作用発現率は0.2%(1/470)であった.Theefficacyandsafetyoftosufloxacin(TFLX)tosilateophthalmicsolution0.3%forthetreatmentofexternalbacterialocularinfectioninpediatricpatientswereevaluatedinaspecifiedpost-marketingsurveillance.Antibacterialactivitiesagainstpathogenicbacteriaisolatedfrompediatricpatientswerealsomeasured.Theclinicalefficacy(efficacyrate)andbacteriologicalefficacy(bacteriologicaleradicationrate)ofTFLXtosilateophthalmicsolution0.3%were96.4%(449/466patients)and86.7%(202/233patients),respectively.TheMIC50andMIC90valuesofTFLX,anactiveformofTFLXtosilateophthalmicsolution,againstthetotalpathogenicbacteriawere≦0.06μg/mLand0.25μg/mL,respectively.TheMIC50valueofTFLXwas≦0.06,0.12,and≦0.06μg/mLagainstHaemophilusinfluenzae,Streptococcuspneumoniae,andStaphylococcusaureus,respectively,thepredominantpathogensinthissurveillance.TFLXexhibitedantibacterialactivityidenticaltomoxifloxacin(MFLX),and1-4,1-2,1-32,8-32,and32-2,048foldmorepotentantibacterialactivitythanlevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),cefmenoxime(CMX),gentamicin(GM),anderythromycin(EM),respectively.TheMIC90valueofTFLXwas≦0.06,0.12,and32μg/mLagainstH.influenzae,S.pneumoniaeandS.aureus,respectively,andTFLXexhibited1-8,1/4-2,1/4-1,1-8,4-64,and4-1024foldmorepotentantibacterialactivitythanLVFX,GFLX,MFLX,CMX,GM,andEM,respectively.Anadversedrugreactionwasobservedin1of470patients(0.2%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1857.1866,2014〕〔別刷請求先〕大野重昭:〒065-0027札幌市東区北27条東1丁目1-15医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科Reprintrequests:ShigeakiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,AishinMemorialHospital,1-15North27East1,Higashi-ku,Sapporo065-0027,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(119)1857 Keywords:トスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液,トスフロキサシン,小児,製造販売後調査,薬剤感受性,有効性,安全性.tosufloxacintosilateophthalmicsolution,tosufloxacin,pediatricpatient,post-marketingsurveillance,antibacterialactivities,clinicalefficacy,safety.はじめにトスフロキサシン(tosufloxacin:TFLX)トシル酸塩水和物点眼液0.3%(販売名:オゼックスR点眼液0.3%,トスフロR点眼液0.3%)は,2006年に上市されたニューキノロン系抗菌点眼薬であり,新生児を含む小児を対象とした臨床試験を行い,国内で初めて小児に対する用法・用量が認められた抗菌点眼薬である.今回,TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より15歳未満の小児の症例を抜粋し,小児における細菌性外眼部感染症に対するTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の有効性と安全性,ならびに小児における外眼部感染症由来菌の各種抗菌薬に対する薬剤感受性を評価した.I材料および方法1.使用症例「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査─低頻度臨床分離株の集積とオゼックス/トスフロ点眼液の有効性と安全性の確認─」1)1,269例および「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査─新生児の細菌性外眼部感染症に対するオゼックス/トスフロ点眼液の有効性と安全性の検討─」2)57例のうち,15歳未満の小児の症例485例を抜粋した.なお,0歳児において,生後4週未満を新生児,生後4週.1歳未満を乳児に区分した.2.症例の組み入れ,有効性,安全性の基準a.症例の組み入れ基準眼瞼炎,涙.炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)と診断された以下の患者を対象とした.①細菌性外眼部感染症の症状が明らかに認められ,本剤投薬前に細菌学的検査の実施を予定している患者.②本剤投薬開始時に,他の抗菌薬の併用が必要ないと判断された患者.③再来院でき,経過観察が可能な患者.ただし,以下の患者は安全性解析の対象から除外した.①本剤の成分およびキノロン系抗菌薬に対し過敏症の既往歴のある患者.②本調査に一度組み入れられたことのある患者.③用法・用量を逸脱した患者.④その他,担当医師が対象として不適当と認めた患者.また,以下の患者は有効性解析の対象から除外し,これらの患者から検出された菌株は感受性測定の対象から除外した.1858あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014①本剤投薬前に,他の抗菌薬が使用された患者.②投薬開始直前および投薬7日後までに所定の観察が実施されていない患者.③投薬開始直前および投薬7日後までに所定の検査が実施されていない患者.④投薬開始直前の細菌学的検査において細菌が陰性であった患者.また,対象眼重症度は担当医師判定で行った.b.有効性判定基準担当医師が,投薬開始直前,投薬期間中ならびに投薬終了時に下記の自覚症状,他覚的所見について観察を行い,症状および所見の程度を,3+:強度または多量,2+:中等度または中等量,1+:軽度または少量,±:ごく軽度またはごく少量,.:なし,の5段階で評価した.ただし,1歳未満の乳児は自覚症状の訴えを確認できないため,他覚的所見のみで判定した.自覚症状:流涙,異物感,眼痛,羞明,霧視,そう痒感他覚的所見:眼脂,結膜充血,結膜浮腫,眼瞼発赤,眼瞼腫脹,流涙,角膜浮腫,角膜浸潤,涙.膿汁逆流担当医師が,投薬前後の症状の推移から総合的に判断し,臨床効果を1:有効,2:無効,で判定した.有効率の算出は,有効例数/(有効例数+無効例数)×100(%)とし,判定不能の症例は有効率の母数から除いた.c.安全性判定基準本剤の投与中に生じたあらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候,症状,または病気のうち,本剤との因果関係が明確に否定できないものを副作用とした.3.使用菌株「オゼックス/トスフロ点眼液0.3%特定使用成績調査」1,2)において2006.2009年に分離された菌株のうち,小児からの分離菌株を用いた.試験菌株は試験実施までスキムミルクを用い.70℃以下に凍結保存したものを用いた.4.使用薬剤被験薬剤として,TFLX,levofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),moxifloxacin(MFLX),cefmenoxime(CMX)gentamicin(GM),erythromycin(EM)の7薬剤を用いた.(,)また,Staphylococcusspp.にはoxacillin(MPIPC),Streptococcuspneumoniaeにはbenzylpenicillin(PCG),Haemophilusinfluenzaeにはampicillin(ABPC)を追加した.5.薬剤感受性測定本研究では生育が認められた菌について,病原性などを考(120) 慮しグループ分類した採用基準(表1)から上位のグループに属する菌を原因菌とし,本剤の最小発育阻止濃度(MIC)を測定した.MICの測定は,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)標準法に準じた微量液体希釈法3.6)で行った.測定にはフローズンプレート(栄研化学)を用いた.プレートは.70℃以下に保存した.測定濃度範囲は128.0.06μg/mLの2倍希釈系列,12段階とした.ただし,TFLXは16.0.06μg/mLの9段階とした.感性および耐性株の分類は,CLSIの規定4)を参考とし,StaphylococcusaureusはMPIPCのMIC値が2μg/mL以下のものを感性株(methicillin-susceptibleS.aureus:MSSA),4μg/mL以上のものを耐性株(methicillin-resistantS.aureus:MRSA)とした.S.pneumoniaeはPCGのMIC値が0.06μg/mL以下のものを感性株(penicillin-susceptibleS.pneumoniae:PSSP),0.12.1μg/mLのものを中程度耐性株(penicillin-intermediate-resistantS.pneumoniae:PISP),2μg/mL以上のものを耐性株(penicillin-resistant表1原因菌のGroup分類GroupIStaphylococcusaureusStreptococcuspyogenes(GroupA)StreptococcuspneumoniaeEnterococcussp.Citrobactersp.Enterobactersp.Escherichiasp.Proteussp.Morganellasp.SerratiamarcescensOtherEnterobacteriaceaeNeisseriagonorrhoeaeOtherNeisseriaOtherMoraxellaAcinetobactersp.Achromobactersp.Haemophilussp.PseudomonasaeruginosaOtherPseudomonassp.GroupIIStreptococcusagalactiae(GroupB)Streptococcus(GroupC)OtherStreptococcus(GroupD,G;nongrouped;viridans)Branhamella(Moraxella)catarrhalisGroupIIIStaphylococcusepidermidisOthercoagulasenegativeStaphylococcusMicrococcussp.Bacillussp.Corynebacteriumsp.(diphtheroids)PropionibacteriumacnesS.pneumoniae:PRSP)とした.H.influenzaeはCLSIに基準がないため,b-lactamase産生性が陰性で,ABPCのMIC値が1μg/mL以下のものを感性株(b-lactamase-nonproducingABPC-susceptibleH.influenzae:BLNAS),2μg/mL以上のものを耐性株(b-lactamase-negativeABPC-resistantH.influenzae:BLNAR)とした.b-lactamase定性試験はニトロセフィンスポットプレート法にて実施した.II結果1.症例構成症例構成を図1に示す.各試験から抜粋された小児の総症例数485例のうち470例を安全性解析対象症例および有効性解析対象症例とした.そこから投薬開始時に菌が陰性であったなどの理由で除外された75例を除いた395例を原因菌別臨床効果解析対象症例とした.さらに,これらから投与後の菌検査が実施されていないなどの理由で除外された162例を除いた233例を細菌図1症例構成原因菌別臨床効果集計対象症例395例安全性解析対象症例470例有効性解析対象症例470例調査完了症例485例細菌学的効果解析対象症例233例安全性解析集計対象除外症例目的外使用で1日1回のみ投薬された症例8例1日7回以上投薬された症例3例その他4例計15例有効性解析集計対象除外症例0例原因菌別臨床効果集計対象除外症例投薬開始時に菌陰性化30例臨床効果が判定不能23例その他22例計75例細菌学的効果解析対象除外症例後検査なし160例臨床効果が判定不能2例計162例(121)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141859 学的効果解析対象症例とした.2.患者背景安全性解析対象症例および有効性解析対象症例470例における人口統計学的およびその他の基準値の特性を表2に示す.年齢別の患者数は0歳(乳児)が最も多く,全体の29.6%(139/470例)を占めた.ついで3.5歳が24.0%(113/470例),1.2歳が23.4%(110/470例),0歳(新生児)が15.5%(73/470例),6.14歳が7.4%(35/470例)の順であった.対象疾患別では結膜炎が83.8%(394/470例)と最も多く,ついで涙.炎が8.9%(42/470例),麦粒腫が4.7%(22/470例),眼瞼炎が2.3%(11/470例),角膜潰瘍が0.2%(1/470例)の順であった.対象眼重症度は重症が4.0%(19/470例),中等症が57.0%(268/470例),軽症が38.9%(183/470例)であった.3.分離材料原因菌別の分離頻度を図2Aに示す.小児眼感染症患者の有効性解析対象症例470例の原因菌477株のうち,H.influenzaeが196株(41.1%)で最も多く,ついでS.pneumoniaeが79株(16.6%),S.aureusが55株(11.5%),a-hemolyticStreptococcusが34株(7.1%),Corynebacteriumspp.が28株(5.9%),Staphylococcusepidermidisが26株(5.5%),Moraxellacatarrhalisが23株(4.8%)であった.年齢別の原因菌は,0歳(新生児)ではS.aureusが一番多かったが,その他の年齢ではいずれもH.influenzaeが一番多かった.また,原因菌をグラム陽性菌とグラム陰性菌に分けると,0歳(新生児),0歳(乳児)および6.14歳ではグラム陽性菌がそれぞれ89.6%,51.4%および70.0%と過半数を占めており,1.2歳および3.5歳ではグラム陰性菌がそれぞれ75.2%および62.2%と過半数を占めていた(図2B).4.原因菌の薬剤感受性原因菌477株全株に対する各抗菌薬の抗菌活性(MICrange,MIC50およびMIC90)を表3に示す.TFLXのMIC50は≦0.06,MIC90は0.25μg/mLであった.その他の抗菌薬のMIC90をTFLXと比較すると,TFLXはMFLXと同程度,LVFXの4倍,GFLXの2倍,CMXの16倍,GMの64倍,EMの512倍以上の強い抗菌活性を示した.おもな菌種のMIC50およびMIC90を図3に示す.a.H.infl196株:うちBLNAS104株,BLNAR75株)BLNASに対するMIC50はTFLX,LVFX,GFLX,MFLXおよびCMXが≦0.06μg/mL,ついでGMが1μg/mL,EMが4μg/mLであった.MIC90はTFLX,LVFX,GFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでCMXが0.25μg/mL,表2人口統計学的およびその他の基準値の特性背景因子結膜炎n=394(83.8)涙.炎n=42(8.9)麦粒腫n=22(4.7)眼瞼炎n=11(2.3)角膜潰瘍n=1(0.2)合計n=4700歳(新生児)0歳(乳児)64(16.2)102(25.9)9(21.4)29(69.0)0(0)1(4.5)0(0)7(63.6)0(0)0(0)73(15.5)139(29.6)年齢(歳)1.2歳3.5歳100(25.4)102(25.9)3(7.1)1(2.4)4(18.2)9(40.9)3(27.3)1(9.1)0(0)0(0)110(23.4)113(24.0)6.14歳26(6.6)0(0)8(36.4)0(0)1(100)35(7.4)性別男女224(56.9)170(43.1)20(47.6)22(52.4)7(31.8)15(68.2)5(45.5)6(54.5)0(0)1(100)256(54.5)214(45.5)軽症159(40.4)7(16.7)8(36.4)9(81.8)0(0)183(38.9)対象眼重症度中等症223(56.6)31(73.8)12(54.5)2(18.2)0(0)268(57.0)重症12(3.0)4(9.5)2(9.1)0(0)1(100)19(4.0)眼の基礎疾患・なし368(93.4)30(71.4)21(95.5)10(90.9)1(100)430(91.5)合併症あり26(6.6)12(28.6)1(4.5)1(9.1)0(0)40(8.5)本剤投薬前6日以内の抗菌薬治療なしあり不明379(96.2)10(2.5)5(1.3)24(57.1)15(35.7)3(7.1)22(100)0(0)0(0)10(90.9)0(0)1(9.1)1(100)0(0)0(0)436(92.8)25(5.3)9(1.9)眼科領域のなし328(83.2)35(83.3)19(86.4)10(90.9)1(100)393(83.6)併用薬あり66(16.8)7(16.7)3(13.6)1(9.1)0(0)77(16.4)眼科領域以外の併用薬なしあり不明381(96.7)12(3.0)1(0.3)40(95.2)2(4.8)0(0)16(72.7)6(27.3)0(0)9(81.8)2(18.2)0(0)1(100)0(0)0(0)447(95.1)22(4.7)1(0.2)症例数(%)1860あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(122) AAcinetobacterspp.TheothersB小児原因菌n=477H.influenzae196,41.1%S.pneumoniae79,16.6%S.aureus55,11.5%a-hemolyticStreptococcus34,7.1%Corynebacteriumspp.28,5.9%M.catarrhalis23,4.8%S.epidermidis26,5.5%25,5.2%11,2.3%0%20%40%60%80%100%6~14歳3~5歳1~2歳0歳(乳児)0歳(新生児)■Streptococcuspneumoniae■Staphylococcusaureus■a-hemolyticStreptococcus■Corynebacteriumspp.■Staphylococcusepidermidis■陽性菌その他■Haemophilusinfluenzae■Moraxellacatarrhalis■陰性菌その他図2原因菌別分離頻度および年齢別のグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率表3原因菌に対する各抗菌薬の抗菌活性抗菌薬TFLXLVFXGFLXMFLXCMXGMEMMIC(μg/mL)RangeMIC50≦0.06.>16≦0.06≦0.06.>1280.12≦0.06.128≦0.06≦0.06.64≦0.06≦0.06.>1280.25≦0.06.>1281≦0.06.>1284MIC900.2510.50.25416>1280.010.1MIC501101001,0000.010.1MIC90110(μg/mL)1001,000S.pneumoniae(79)PSSP(47)PISP/PRSP(32)S.aureus(55)MSSA(44)MRSA(11)a-hemolyticStreptococcus(34)Corynebacteriumspp.(28)S.epidermidis(17)H.influenzae(196)BLNAS(104)BLNAR(75)M.catarrhalis(23)TFLXLVFXGFLXMFLXCMXGMEM図3各菌種のMIC50およびMIC90GMが2μg/mL,EMが8μg/mLであった.BLNARに対およびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでCMXが0.5μg/するMIC50はTFLX,LVFX,GFLXおよびMFLXが≦0.06mL,GMが2μg/mL,EMが8μg/mLであった.μg/mL,ついでCMXが0.25μg/mL,GMが1μg/mL,EMが4μg/mLであった.MIC90はTFLX,LVFX,GFLX(123)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141861 表4疾患別および重症度別の臨床効果(有効率)臨床効果有効率(%)95%信頼区間(%)有効無効判定不能合計対象疾患結膜炎38110339497.495.3.98.8涙.炎35614285.470.8.94.4麦粒腫22002210084.6.100眼瞼炎11001110071.5.100角膜潰瘍010100.97.5重症度別軽症1802118398.996.1.99.9中等症25312326895.592.2.97.6重症16301984.260.4.96.6合計44917447096.494.2.97.9有効率,95%信頼区間の算出に関しては,分母から判定不能を除く.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.b.S.pneumoniae(79株:うちPSSP47株,PISP/PRSP32株)PSSPに対するMIC50はTFLXが≦0.06μg/mL,ついでMFLXおよびCMXが0.12μg/mL,GFLXが0.25μg/mL,LVFXが0.5μg/mL,EMが2μg/mL,GMが4μg/mLであった.MIC90はTFLXおよびMFLXが0.12μg/mL,ついでGFLXおよびCMXが0.25μg/mL,LVFXが1μg/mL,GMが8μg/mL,EMが>128μg/mLであった.PISP/PRSPに対するMIC50はTFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでGFLXが0.12μg/mL,LVFXおよびCMXが0.5μg/mL,GMおよびEMが8μg/mLであった.MIC90はTFLXおよびMFLXが0.12μg/mL,ついでGFLXが0.25μg/mL,LVFXおよびCMXが1μg/mL,GMが16μg/mL,EMが>128μg/mLであった.c.S.aureus(55株:うちMSSA44株,MRSA11株)MSSAに対するMIC50はTFLX,GFLXおよびMFLXが≦0.06μg/mL,ついでLVFXが0.12μg/mL,GMおよびEMが0.5μg/mL,CMXが2μg/mLであった.MIC90はGFLXおよびMFLXが1μg/mL,ついでTFLX,LVFXおよびCMXが2μg/mL,GMが128μg/mL,EMが>128μg/mLであった.MRSAに対するMIC50はGFLXおよびMFLXが8μg/mL,TFLXが>16μg/mL,LVFXおよびCMXが32μg/mL,GMが64μg/mL,EMが>128μg/mLであった.MIC90はMFLXが8μg/mL,ついでGFLXが16μg/mL,TFLXが>16μg/mL,LVFXが64μg/mL,CMX,GMおよびEMが>128μg/mLであった.5.臨床効果a.臨床効果有効性解析対象症例470例における疾患別および重症度別の臨床効果(有効率)とその95%信頼区間を表4に示す.有効性解析対象症例において全体の臨床効果は96.4%(449/466例)であった.各対象疾患に対する有効率は,結膜炎が97.4%(381/391例),涙.炎が85.4%(35/41例),麦粒腫が100%(22/22例),眼瞼炎が100%(11/11例)であり,角膜潰瘍(0/1例)を除き,85%を超えていた.また,重症度別の有効率は,軽症で98.9%(180/182例),中等症で95.5%(253/265例),重症で84.2%(16/19例)であった.b.原因菌別臨床効果原因菌別臨床効果解析対象症例395例における原因菌別の臨床効果(有効率)とその95%信頼区間を表5に示す.本試験において検出された原因菌に対する単独菌感染症例は335例(グラム陽性菌:145例,グラム陰性菌:190例)2菌種の複数菌感染症例は56例,3菌種の複数菌感染症例(,)は4例であった.単独菌感染症例でのトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液0.3%による臨床効果は,H.influenzaeで100%(160/160例){BLNASが100%(88/88例),BLNARが100%(58/58例)},S.pneumoniaeで95.9%(47/49例){PSSPが100%(31/31例),PISP/PRSPが88.9%(16/18例)},a-hemolyticStreptococcusで100%(29/29例),S.aureusで89.7%(26/29例){MSSAが90.0%(18/20例),MRSAが88.9%(8/9例)},M.catarrhalisで100%(20/20例)であった.また,複数菌に感染した症例の臨床効果は,2菌種では98.1%(53/54例),3菌種では100%(4/4例)であった.6.細菌学的効果細菌学的効果解析対象症例233例(グラム陽性菌:92例,グラム陰性菌:103例,複数菌感染:38例)における細菌学的効果(消失率)およびその95%信頼区間を表6に示す.全対象症例における細菌学的効果は86.7%(202/233例)1862あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(124) 表5原因菌別臨床効果(有効率)原因菌臨床効果合計(例)有効率(%)95%信頼区間(%)有効無効判定不能単独菌感染グラム陽性菌S.pneumoniae47215095.986.0.99.5PSSP31013210088.8.100PISP/PRSP16201888.965.3.98.6a-hemolyticStreptococcus29013010088.1.100S.aureus26302989.772.6.97.8MSSA18202090.068.3.98.8MRSA810988.951.8.99.7S.epidermidis14101593.368.1.99.8S.capitis10011002.5.100CoagulasenegativeStaphylococcus110250.01.3.98.7Corynebacteriumspp.17101894.472.7.99.9小計1358214594.489.3.97.6グラム陰性菌H.influenzae1600016010097.7.100BLNAS88008810095.9.100BLNAR58005810093.8.100M.catarrhalis20002010083.2.100Acinetobacterspp.410580.028.4.99.5P.aeruginosa300310029.2.100K.pneumoniae10011002.5.100Moraxellaspp.010100.97.5小計1882019098.996.2.99.9複数菌感染2菌種53125698.190.1.1003菌種400410039.8.100合計38011439597.295.0.98.6有効率,95%信頼区間の算出に関しては,分母から判定不能を除く.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.であった.また,グラム陽性菌に対しては84.8%(78/92例),グラム陰性菌に対しては89.3%(92/103例)であった.7.安全性および副作用発現症例安全性解析対象症例470例における副作用について表7に示す.全対象症例における副作用発現率は0.2%(1/470例)であり,眼瞼炎を発現した1件で投与日数1日,1日量1滴の結膜炎の6カ月女児であった.III考察今回,筆者らは,TFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の特定使用成績調査より,小児の結果を抜粋し,新生児を含む小児に対する有効性および安全性を検証した.同時に,小児より分離された原因菌を用いて各種抗菌薬の薬剤感受性を測定した.本調査におけるTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%の臨床効果(有効率)は全体で96.4%(449/466例)であり良好な成績であった.対象疾患別では,最も頻度の高かった結膜(125)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141863 表6原因菌別細菌学的効果原因菌細菌学的効果合計(例)消失率(%)95%信頼区間(%)消失推定消失一部消失消失せず単独菌感染グラム陽性菌S.pneumoniae210072875.055.1.89.3PSSP110041573.344.9.92.2PISP/PRSP100031376.946.2.95.0a-hemolyticStreptococcus163012095.075.1.99.9S.aureus122051973.748.8.90.9MSSA91001010069.2.100MRSA3105944.413.7.78.8S.epidermidis111011392.364.0.99.8S.capitis100011002.5.100CoagulasenegativeStaphylococcus010011002.5.100Corynebacteriumspp.100001010069.2.100小計7170149284.875.8.91.4グラム陰性菌H.influenzae6910108087.578.2.93.8BLNAS430064987.875.2.95.4BLNAR181032286.465.1.97.1M.catarrhalis130001310075.3.100Acinetobacterspp.5000510047.8.100P.aeruginosa2001366.79.4.99.2K.pneumoniae100011002.5.100Moraxellaspp.100011002.5.100小計91101110389.381.7.94.5複数菌感染2菌種264513683.367.2.93.63菌種2000210015.8.100合計1901252623386.781.6.90.8消失率の算出に関しては,消失および推定消失を合わせて消失とした.信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.表7副作用発現率と内訳副作用発現件数/解析対象例数1/470発現率(%)0.295%信頼区間(%)0.0.1.2内訳眼瞼炎1件信頼区間は,F分布に基づく正確な信頼区間を算出した.炎は97.4%(381/391例)であった.本調査の臨床効果は,申請時の12歳以上の患者を対象としたオープン試験の成績7)(有効率:全体で93.7%,結膜炎に対して93.8%)よりもやや高かった.原因菌別の臨床効果では,単独菌感染症例に対して,97.0%(323/333例)の有効率であった.菌別では,BLNAR,PISP/PRSP,MRSAにそれぞれ100%,88.9%,88.9%と,耐性株を含む主要な菌種に対して高い臨床効果を示した.細菌学的効果(消失率)は全体で86.7%(202/233例)であった.これも申請時の結果〔消失率:79.2%(114/1441864あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(126) 例)〕7)と比較してやや高かった.原因菌別の分離頻度では,H.influenzaeが最も高く40%程度を占めていた.ついでS.pneumoniae,S.aureus,a-hemolyticStreptococcusの順に分離頻度が高かった.秋葉らは4歳未満の乳幼児107例の細菌性結膜炎から検出された検出菌82株において,H.influenzaeが52.4%と最も多く,ついでS.pneumoniaeの20.7%,S.aureusの7.3%であったと報告しており8),今回の結果は既報と同じ傾向を示していた.さらに,月齢別でのグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率において,生後1.6カ月ではS.pneumoniaeやS.aureusなどのグラム陽性菌が過半数を占めていたが,それ以降グラム陰性菌の比率が増え,生後25.48カ月ではグラム陰性菌が100%になったことを報告している8).今回も同様の傾向がみられ,新生児ではグラム陽性菌が89.6%と過半数を占めていたが,徐々にその比率が下がり,1.2歳ではグラム陽性菌が24.8%を占めていた.また,3.5歳,6.14歳と年齢が上がるにつれて再びグラム陽性菌の比率が増え,6.14歳ではグラム陽性菌が70.0%を占めていた.松本らは,全症例中73.3%が40歳以上を占める集団の解析において,グラム陽性菌が全体の67.4%を占めていたことを報告しており9),年齢の上昇に伴い再びグラム陽性菌が主要な原因菌となることが示唆された.今回分離された原因菌において,S.pneumoniaeでは,79株のうち40.5%がPISPまたはPRSPであった.PISPまたはPRSPに対するLVFXのMIC90は1μg/mLであったが,その他のキノロン系抗菌薬のMIC90は0.12または0.25μg/mLであり,強い抗菌活性を示した.一方で,EMはMIC90が>128μg/mLであり,耐性化が認められた.S.aureusでは,20.0%がMRSAであった.2004年から2007年に細菌性結膜炎患者から分離された検出菌において,S.aureus97株中19.6%(19株)がMRSAであったことを松本らが報告している9)が,今回のMRSAの分離頻度と類似していた.MRSAは今回感受性測定を実施したいずれの抗菌薬に対しても感受性の低下が認められた.H.influenzaeでは,196株のうち38.3%の75株がBLNARであった.堀らは市中病院における外眼部感染症から分離されたH.influenzae412株のうち,BLNARは46.6%の192株であったと報告しているが10),今回の結果でも40%近くの分離頻度であった.BLNARに対して,キノロン系抗菌薬のMIC90はいずれも≦0.06μg/mLであり,強い抗菌活性を示した.H.influenzaeは小児の細菌性結膜炎の主要な起炎菌であるが,今回の結果からはキノロン系抗菌薬はBLNARに対して強い抗菌活性を示した.副作用は,安全性解析対象症例470例中,6カ月の結膜炎女児に発現した眼瞼炎1件であった.本結果からは安全であると考えられるが,今後も情報収集に努める必要がある.(127)近年,成人領域ではキノロン耐性のH.influenzaeも分離され11),S.pneumoniaeもキノロン耐性化率の上昇が懸念される.小児では,生後6カ月から5歳くらいまでは自己の免疫能が未熟なため,S.pneumoniaeやH.influenzaeの鼻咽頭の健常保菌率が50.60%程度と非常に高い12,13).このように普段から病原菌を保菌している小児に対し,広くキノロン系抗菌点眼薬を使用すれば,キノロン耐性H.influenzaeやS.pneumoniaeが生じやすくなることは容易に想像できる.眼科医の小児に対するキノロン系抗菌薬の処方については今後さらに十分検討していくことが重要である.しかしながら,病状の経過を自分で表現できない子供の場合,小児眼感染症が重症化する前に短期間でしっかりと病原菌をたたき,治療を行うことは重要であると考える.また,TFLXトシル酸塩水和物点眼液の「用法用量に関連する使用上の注意」には,「小児においては,成人に比べて短期間で治療効果が認められる場合があることから,経過を十分観察し,漫然と使用しないよう注意すること」と注意喚起もされ,短期治療を念頭に処方されていることから,TFLXトシル酸塩水和物点眼液により耐性菌を生じやすくする恐れは必ずしも高くないと考える.一方,CMXなどのb-ラクタム系薬も治療の選択肢として有効ではあるが,TFLXに比し主要な眼感染症起因菌に対し抗菌活性が劣る.また,近年,眼感染症起因菌においても,バイオフィルム形成が臨床的に問題となっており,バイオフィルム形成菌に対してはb-ラクタム系薬よりもキノロン系薬を,また,キノロン系薬のなかでも目標とする菌に対して,より強い抗菌活性を示す薬剤を選択すべきである14)といわれている.小児の眼感染症は早期に十分治療しなければ,将来のある幼小児の視機能を損ないかねないこともある.キノロン系薬は耐性菌の出現にも十分注意を払う必要があることも念頭におきながら,キノロン系薬での治療が有効であると思われる症例では,短期間で集中的に治療を行うことも重要である.以上,本調査で分離された原因菌の分離頻度ならびに耐性化率は,これまでの報告と同様の傾向が認められた.また,臨床効果ならびに細菌学的効果ともに申請時の試験と比べて低下は認められなかった.耐性菌の動向に注意を払う必要はあるが,小児の細菌性外眼部感染症においてTFLXトシル酸塩水和物点眼液0.3%は高い有効性と安全性を有する薬剤であると考えられた.文献1)西田輝夫,宮永嘉隆,大野重昭:トスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性・安全性および低頻度分離株に対する有効性の確認.臨眼68:1509-1519,20142)宮永嘉隆,東範行,大野重昭:新生児の外眼部細菌感染あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141865 症に対するトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液の有効性と安全性の検討.臨眼65:1043-1049,20113)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsfordilutionantimicrobialsusceptibilitytestsforbacteriathatgrowaerobically;Approvedstandard-seventhedition.M7-A7.CLSI,Wayne,PA,20064)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;seventeenthinformationalsupplement.M100-S17.CLSI,Wayne,PA,20075)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsforantimicrobialdilutionanddisksusceptibilitytestingofinfrequentlyisolatedorfastidiousbacteria;Approvedguideline.M45-A.CLSI,Wayne,PA,20066)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.Methodsforantimicrobialsusceptibilitytestingofanaerobicbacteria;Approvedstandard-seventhedition.M11-A7.CLSI,Wayne,PA,20077)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の細菌性外眼部感染症を対象とするオープン試験.あたらしい眼科23:68-80,20068)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,20019)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,200710)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,198911)YokotaS,OhkoshiY,SatoKetal:Emergenceoffluoroquinolone-resistantHaemophilusinfluenzaestrainsamongelderlypatientsbutnotamongchildren.JClinMicrobiol46:361-365,200812)HashidaK,ShiomoriT,HohchiNetal:NasopharyngealHaemophilusinfluenzaecarriageinJapanesechildrenattendingday-carecenters.JClinMicrobiol46:876-881,200813)HashidaK,ShiomoriT,HohchiNetal:NasopharyngealStreptococcuspneumoniaecarriageinJapanesechildrenattendingday-carecenters.IntJPediatrOtorhinolaryngol75:664-669,201114)井上幸次,池田欣史,藤原弘光ほか:眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果.あたらしい眼科29:91-98,2012***1866あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(128)

My boom 35.

2014年12月31日 水曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第35回「松田淳平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第35回「松田淳平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介松田淳平(まつだ・じゅんぺい)山之手眼科(愛知)2001年に岡山大学を卒業後,角膜移植や当時認可されたばかりのLASIKなど角膜手術を将来やりたいと思い,当時の白神史雄・岡山大学助教授(現・教授)の勧めで,京都府立医科大学眼科(木下茂教授)に入局しました.関連病院に勤務した後,2008年に当時LASIKで圧倒的な症例数を誇っていた品川近視クリニック(以下,品近)に入職しました.最初に赴任した大阪院は症例数が飛躍的に増加しており,最初の1年間で1万症例ほど経験することができました.2009年には名古屋院に責任者として異動し,運営業務も担当することになりました.その後5年間,「屈折矯正手術のみ」「自由診療のみ」を行う毎日の中で,自由診療と保険診療のバランスや眼科医としてのあり方など色々と思うことが積み重なり,後述するようにクリニックの体制が一段落ついた2014年秋に退職しました.仕事のMyboom:やりたいと感じることをやる尊敬する先生から「1年後のことは頑張れば見通せるようになるかもしれないが,3年後のことは誰も見通せない」と聞いたことがあります.Myboomとして「こだわり」を紹介するページということですので,私の仕事への「こだわり」を書かせていただきますと,「長期的に計算して動くよりも(=そもそもそんな先のことは見通せない),やりたいと感じることをやる.いったんやると決めたことは,カタがつくまではやめな(107)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYい(=経験的にその方が満足度が高まり自分の幸福度が上がる)」です.2008年当時,品近には非常に多くの臨床データが未整理のまま存在していました.学会では30症例程度で発表が行われていましたが,品近では1週間に300症例のペースでデータが増えていましたので,休日を使ってデータを整理し学会に発表するのが楽しみでした.純粋に(!?)眼科の仕事,自分の興味のある屈折矯正手術のことだけに専念できた幸せな1年だったように思います.2009年,名古屋院の責任者になると経営的な仕事が加わりました.手術希望者の増加で名古屋院の規模は2倍,3倍と拡大し,それに伴って院内労務の仕事が増えていきました.人数が増えると大なり小なりスタッフ間,スタッフ・ドクター間,ドクター・運営サイド間の問題は生じており,何かのタイミングで噴出するのを待っているだけです.とくに品近ではドクターもスタッフも即戦力重視で,経験者の転職で組織していましたので,それぞれのスタッフ・ドクターが自分の意見をもっていました.トラブルが起こるのが悪いわけではなく,それをうまくマネージメントできるかどうかで,結果として悪いかどうかが決まる,と経験上思うようになりました.2013年後半からは手術希望者の減少に合わせて規模を縮小することになります.開業される先生は周りに多いのですが,廃業(!)された先生はあまり存じ上げません….60名体制の名古屋院を半分以下の体制に縮小する未知の作業でした.ドクター・スタッフの雇用打ち切りや異動辞令,退職勧奨など,憂鬱な経験と通常は知らなくても済む労務知識を得ました.これらは決して「やりたいこと」ではありませんでしたが,「やめないこと」によって否応なく知識と経験が得られました.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141845 写真1子どものプール遊びをみながらパパ友と昼間からビール!2014年に退職を決定した後は,総合病院で勤務医をしようと思っていたのですが,結果的には①開業医,②他のクリニックで手術をする非常勤医,③複数の眼科クリニックでの運営アドバイザー,と3足のワラジを履くことになり,毎日バタバタと過ごしています.開業については,想定していなかったのですが,先方からの強い要望もあり話がどんどん進み,1カ月ほどで継承を決めてしまいました(①).継承した眼科には手術設備がありませんが,やはり手術はしたいので顧問を務める他のクリニックで行うことにしました(②).かつて名古屋院では,常勤・非常勤合わせて約15名の眼科医と約60名のスタッフを抱え年中無休で診療していましたので,シフトや院内ルールの作成,ドクター・スタッフの調整に日々追われていました.それらの経験と後半の1年で得た労務知識を運営アドバイザーとして活用できる場を授かりました(③).この6年,やりたい(あるいは,やらないといけない)とその時々の自分が感じることをやってきました.今後もその「こだわり」で仕事を続けようと思っています.趣味のMyboom:育児一般的なゴルフや車にほとんど興味のない私ですが,趣味を「無条件に楽しい時間」と定義すれば,現在は「育児」が趣味といえるかもしれません.ハイハイしかできなかった娘が伝い歩きをするようになったり,ちょ1846あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014写真2パパ友・ママ友とバーベキュー場でスマイル!こちょことストライダーにまたがっていた息子が足を浮かせて坂道を下れるようになったりする成長をみるのは,恐らくゴルフスコアが100を切るようになったときと同じ喜びがあるのではないかと感じています.(さらにいうと,ゴルフは来年でもできると思いますが,子供の伝い歩きは来年にはもうみられなくなるので希少度合いが高いと思っています…笑)この趣味友達にあたるのがパパ友です.年齢や職業,出身地がまったく異なるパパ友と一緒に遊びに行ったり,飲みに行ったりすることによりリフレッシュしています.また,育児をすることで「母親」に対する理解や共感度合いが増したように感じます.育児中の女医さんやスタッフへも心情的なレベルで共感を感じますし,電車の乗り降りや地下街での階段などで居合わせた見知らぬお母さんにも自然にお手伝いできるようになりました.かつては苦手だった小児眼科も,子どもが好きになると苦手でなくなってきました.不思議なものですが「育児は育自」という言葉を実感しながら,今日も子どもと遊んでいます.次回のプレゼンターは岡山大学の木村修平先生です.岡山大学時代の同級生で,岡山大学にそのまま入局し,大学院,博士号,医局長,と僕とはまったく違う進路を進まれています(話しているとお互いそんなに違和感を感じないんですけどね).よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(108)

現場発,病院と患者のためのシステム 35.医療データ(ビッグデータ)のマイニング

2014年12月31日 水曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム医療データ(ビッグデータ)のマイニング杉浦和史*.データマイニング経験ある製品の需要の予測をしていたときに経験したことを紹介します.その製品は一定面積以上のビルの設備となるものでした.この製品の需要予測をして生産計画に反映することを目的に,通産省(当時)工業統計を元データ(鉱山)にして多変量解析手法を用いて分析しました.その結果,景気が良くなる前に製品が納入される規模のビル着工件数が増え,その前にビルを建てるために必要な資材の需要が高まることがわりました.相関が深いとして寄与率とともにピックアップされた資材は,コンクリート,棒鋼,サッシ,エレベータなどです.また,先行指標といわれる影響を及ぼすまでのリードタイムもわかってきました.これらの情報を生産計画に反映することで,できるだけ機会損失(売り損じ)がなく,そうかといって作り過ぎず(不良在庫要因)生産することができるようになりました.筆者は当該製品を作る立場でも売る立場でもなかったものの,人手では不可能な大量データ間の因果関係を当時の大型汎用コンピュータ身体情報n個の情報バイタル情報n×実施回数分の情報検査情報n×検査回数分の情報最近,ビッグデータという言葉が氾濫しています.10数年前はDWH(DataWareHouse/データの倉庫)といわれていたものです.その倉庫の中から価値ある情報を見つけることを鉱山から宝石を発掘(mining)することにたとえ,データマイニング(datamining)と呼んでいました.気にしていなかった相関が深い因果関係(宝石)をminingによって発見することがありますが,常識ができている当該業務の専門家が先入観から見落としている相関を,常識をもたない者が発見することが多々あります.を使って分析した結果,生産計画担当者が気がつかなかったことを発見し,かつ,“おぼろげに感じていた”ことを定量的に説明することができました.第一次石油ショックのときの話です..医療情報のマイニング医療分野においても図1に示すように大量の患者データから,思わぬ因果関係を発見する可能性があります.最近ではデータを画面から入力したり,検査機器から自動的に入力されることが多くなり,コンピュータを使って分析できる環境が整ってきました.どの情報とどの情報がどのような関係にあるか?相関の深さはどの程度か?何十万,何百万件という大量データを人手で処理するのは効率が悪い,あるいは不可能・多変量解析を使ったデータマイニング・ニューロ,ファジー応用のデータマイニング今まで気がつかなかった因果関係の発見図1医療データマイニングイメージ*KazushiSugiura:杉浦技術士事務所(情報工学部門)http://sugi-tec.tokyo/(105)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418430910-1810/14/\100/頁/JCOPY .マイニング事例事例1医療関係者の間では未熟児が死亡する原因の多くが感染症であることは知られていました.未熟児は,感染を起こしてから治療しても手遅れの場合が多く,また体力的に処置ができないケースも多く,家族が悲嘆にくれる事態に陥る状況を救えないでいました.これに対処すべく,感染症を発症しそうだという予知ができないかについて,研究が進められていましたが,有効な成果は出ていなかったようです.あるとき,証券会社で金融工学を駆使して株価の推移を分析していた専門家が大学に転じ,研究対象としてこの問題に取り組みました.未熟児で生まれ,感染症で死亡した事例の出産から発症に至るまでのデータの推移をみていて気がついたのは,以下の値の変化具合,周期,相互の関係のパターンです.①血中の酸素濃度②呼吸数③心拍数などこれらが,ある特定のパターンに当てはまると,やがて感染症を発症する傾向があるということです.この研究成果により,パターンに当てはまっていた未熟児を発症前に発見し,事なきを得るケースが増えた事例が報告されています.事例2ある大企業の健保組合の例です.未熟児を産む女性社員と正常な出産をする女性社員との違いが何に起因するかを健診データから発見しようと調査した結果,BMIで示す値と未熟児出産との間に,有為な相関があることを発見しました.医療の専門家ではないものの,データを眺めていて発見した事実に基づき,この健保組合では女性社員に説得力のある統計値(証拠)を見せ,過度な痩せすぎへの注意を喚起しました.その結果,この健保組合の女性社員が未熟児を出産する件数が激減し,負担が軽減されたこの組合は黒字に転換したそうです.これは,回りまわって医療費抑制にも通じることで,厚生労働省からも注目されています.以上,いずれも,医師ではない素人の成果です.どうしてそれができたのでしょう?数学的な処理能力ではなく,先入観にとらわれなかったことが最大のポイントだと思います.専門家は専門領域の視点でしかデータをみない傾向にありますが,それでは既知の延長線上でしか判断できず,関連性が未知のデータの間に有為な相関がある場合,これをみつけることができません.現在,幸いにも医療現場へのIT導入が進み,大量のデータを電子的に扱える環境になってきました.コンピュータの処理能力を利用して新たな視点での因果関係の発見,傾向分析ができる条件が整ってきたということです.医療ビッグデータをknowledge-discoveryindatabases視点でマイニングし,data→information→intelligenceとなるよう新たな視点でデータを見直し,大量データの鉱山からの宝石発見を期待したいところです..その他“風が吹けば桶屋が儲かる”という話があります.図2に示すように,いささかこじつけな遷移ではありますが,実際に起こったことを長期間観察すると思いもつかない因果関係があることを言い表したもので,ある意味でデータマイニングの過程に通じるものがあると思います.風が吹くホコリが舞う目にホコリが入る目の悪い人が増える目の不自由な人の代表的な職業である三味線引きが多くなる三味線のために猫の皮が必要になる猫が少なくなるネズミは食料難になる天敵が少ないのでネズミが増える仕方なく桶をかじる桶の修理や注文が増える桶屋が儲かる図2“風が吹けば桶屋が儲かる”の因果関係☆☆☆1844あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(106)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 139.Terson症候群の発症機序(研究編)

2014年12月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載139139Terson症候群の発症機序(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにTerson症候群は,くも膜下出血に続発する硝子体出血である.本疾患の発症機序としては,くも膜下出血による急激な頭蓋内圧亢進により視神経内の網膜中心静脈を圧迫する説,視神経周囲のくも膜下腔に流入したくも膜下出血が眼内に直接流入する説がある.前者は眼底に網膜中心静脈閉塞症様の所見がみられないので否定的と考えられるが,後者では視神経周囲のくも膜下腔の出血がなぜ眼内に流入するのかが今まで不明であった.●Terson症候群の眼底所見とMRI所見くも膜下出血をきたした早期の症例の眼底検査を行うと,大半の例で視神経乳頭周囲に内境界膜下血腫をきたしている(図1).硝子体手術を施行した際にも,視神経乳頭周囲に内境界膜下血腫および内境界膜.離を多くの症例で認める.このことは,くも膜下出血発症初期には内境界膜下血腫が生じ,その後に内境界膜が破綻して硝子体出血に進展する可能性を強く示唆している.筆者らはTerson症候群の発症初期の網膜前出血をきたした症例のMRIを撮影し,興味深い所見を得た.MRIのT2強調画像では,視神経周囲くも膜下腔周囲に高輝度の陰影を認め,くも膜下腔が出血で拡大している所見が観察された.さらに3DMRangiographyでは,視神経の中心部位が篩状板からその後方の約10mmの範囲にわたって高輝度を呈していた(図2).この部位は網膜中心動静脈の走行と一致していた.●くも膜下腔とVirchow.Robinspace中枢神経系実質の血管周囲にはVirchow-Robin腔といわれる間隙があり,くも膜下腔に通じていることが報告されている.網膜も脳の一部と考えられるので,視神経内に進入してくる網膜中心動静脈周囲にも,くも膜下(103)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1Terson症候群発症早期の眼底写真大半の例で視神経乳頭周囲に内境界膜下血腫をきたしている.図23DMRangiography所見視神経乳頭の中心部が,篩状板からその後方の約10mmの範囲にわたって高輝度を呈している.これは網膜中心動静脈の走行に一致している.図3Terson症候群の発症機序くも膜下腔の出血が視神経周囲のくも膜下腔に流入し,さらに網膜中心動静脈周囲の空隙に流入して,視神経乳頭周囲の血管周囲腔を伝って内境界膜下出血をきたす.腔から連続するVirchow-Robinspace様の空隙が伸びている可能性が考えられる.そして,その空隙の先端が視神経乳頭周囲血管の周囲まで伸びているとすると,この経路を伝ってくも膜下腔の出血が内境界膜下に流れ込み,内境界膜下血腫を形成する可能性がある.●Terson症候群の発症機序に関する新しい説以上の結果から,筆者らはTerson症候群の発症機序を以下のように推察している.まず,くも膜下出血が視神経周囲のくも膜下腔に流入し,さらに網膜中心動静脈の血管周囲腔をつたって眼内に流入する.視神経乳頭周囲の血管に沿って存在する空隙に出血が流入し,内境界膜下血腫を形成し,その後内境界膜が破綻して硝子体出血に至る(図2).この説によって,過去に筆者らが観察しえた臨床所見のほぼすべてを説明することが可能であり,現時点ではもっとも可能性の高い発症機序ではないかと考えられる.文献1)SakamotoM,NakamuraK,ShibataM,IkedaT:MagneticresonanceimagingfindingsofTerson’ssyndromesuggestingapossiblevitreoushemorrhagemechanism.JpnJOphthalmol54:134-139,20102)池田恒彦,坂本理之,柴田真帆,中村公俊:テルソン症侯群の発症機序.眼科54:159-164,2012あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141841

眼科医のための先端医療 168.アンジオポエチン様因子2と角膜血管・リンパ管新生

2014年12月31日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第168回◆眼科医のための先端医療山下英俊アンジオポエチン様因子2と角膜血管・リンパ管新生豊野哲也JohnsHopkinsUniversity,WilmerEyeInstitute東京大学眼科角膜の透明性と血管・リンパ管新生角膜の透明性には,「無血管組織であること」が大きく貢献していますが,さまざまな刺激や侵襲により角膜内へのマクロファージ浸潤や,炎症性サイトカインの発現上昇などが生じると,角膜実質内に血管新生が生じる場合があります.血管が侵入した角膜では,脂質やタンパクの漏出が起こり,混濁や瘢痕が生じて視機能が脅かされますが,一般臨床で用いられるような角膜内への血管新生を防ぐ治療法は存在せず,透明性が失われた後は角膜移植術に依存しているのが現状です.ところが,血管侵入を伴う混濁角膜に対する全層角膜移植では,術後の拒絶反応発症率が約2倍,移植片不全発症率が約1.3倍に上昇することが報告されております1).さらに,新生血管が生じている角膜には,同時にリンパ管の侵入もみられます.炎症に伴い角膜内に浸潤したマクロファージの一部(CD11b陽性)が,直接リンパ管内皮細胞に分化することが報告されております2).角膜へのリンパ管侵入は,炎症局所で抗原を認識した抗原提示細胞の所属リンパ節やリンパ組織への移動を容易にさせ,さらなる炎症反応を引き起こします.アンジオポエチン様因子とはアンジオポエチン様因子(angiopoietinlikeprotein:Angptl)は,血管新生因子のひとつで,angiopoietinの構造上の特徴であるcoiled-coildomain,fibrinogenlikedomainをもつものの,Tie1やTie2といったangiopoietin受容体には結合しない分子群の総称で,8種類同定されています.その中で,Angptl2は慢性炎症を基盤としたさまざまな疾患(関節リウマチ,皮膚筋炎,メタボリックシンドローム,癌,癌転移など)で強く発現し,病態に関与していることが示唆されています3).また,眼内の実験的急性炎症モデルにおいても病態に関1838あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014与していることが報告されています4).Angptl2と炎症性角膜血管・リンパ管新生筆者らは,炎症性血管・リンパ管新生角膜におけるAngptl2の影響についてマウスモデルを用いた検討を行いました5).角膜実質通糸によるマウス炎症性角膜血管・リンパ管新生モデルでは,Angptl2の発現が角膜上皮細胞,実質細胞,浸潤マクロファージおよび新生血管内皮細胞に上昇することが確認できました.そこで,Angptl2ノックアウトマウスおよびAngptl2過剰発現トランスジェニックマウス(角結膜の基底細胞に強制発現)を用いてAngptl2の発現の有無が角膜血管新生およびリンパ管新生に影響するかどうかを検討しました.野生型(WT)マウスと比較して,Angptl2ノックアウトマウスでは血管・リンパ管新生が抑制され,Angptl2過剰発現トランスジェニックマウス(K14-Angptl2)では血管・リンパ管新生の亢進がみられました(図1).また,Angptl2は角膜へのマクロファージ浸潤,炎症性サイトカインの発現を亢進させることが確認されました.これらの結果から,Angptl2は角膜血管新生,リンパ管新生の両方に促進的に働く因子であることがわかりました.Angptl2は血管内皮細胞,リンパ管内皮細胞,マクロファージのようにa5b1インテグリンが発現する細胞に作用することが報告されており6),角膜では上皮細胞,実質細胞(ケラトサイト)に発現しています.a5b1インテグリンの活性化は,Racを介したシグナル伝達による細胞運動性の向上,NF-kBシグナル経路の活性化に伴う炎症性サイトカインの発現上昇,p38MAPKの活性化を介したMMPの上昇などを引き起こし3),炎症角膜において血管およびリンパ管新生を促進させたと考えられます.新たな治療への可能性治療ターゲットとしてのAngptl2の可能性を検討するため,RNA干渉を用いて角膜のAngptl2遺伝子の発現を抑制し,炎症性角膜血管・リンパ管新生に影響するかどうかをマウスモデルで評価しました.その結果,炎症性角膜血管・リンパ管新生が共に抑制されることを確認しました.将来,核酸製剤などを用いて角膜血管・リンパ管新生の促進因子であるAngptl2の発現を抑制することができれば,臨床現場でしばしば遭遇するヘルペ(100)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY AK14Angptl2100μm野生型CD31LYVE-1BAreaofhemangiogenesis(%)C25*AreaofLymphangiogenesis(%)10987654321*201510500図1WTおよびK14.Angptl2における炎症性角膜血管・リンパ管新生A:角膜血管・リンパ管新生誘導後の角膜組織を摘出し,CD31(血管内皮マーカー)およびLYVE-1(リンパ管内皮マーカー)で免疫染色した.B,C:血管新生領域,リンパ管新生領域ともにK14-Angptl2群で有意に拡大した(*p<0.05,各n=6)ス実質炎後の角膜血管新生や全層移植後の拒絶反応予防2372,2005などへの新たな治療戦略に繋がる可能性を秘めていま3)KadomatsuT,EndoM,MiyataKetal:Diverserolesofす.今後さらなる研究が行われ検証されることが期待さANGPTL2inphysiologyandpathophysiology.TrendsinEndocrinology&Metabolism25:245-254,2014れます.4)KandaA,NodaK,OikeYetal:Angiopoietin-likeprotein2mediatesendotoxin-inducedacuteinflammationintheeye.LaboratoryInvestigation92:1553-1563,2012文献5)ToyonoT,UsuiT,YokooSetal:Angiopoietin-likepro-1)BachmannB,TaylorRS,CursiefenC:Cornealneovascu-tein2isapotenthemangiogenicandlymphangiogenicfactorincornealinflammation.InvestOphthalmolVisScilarizationasariskfactorforgraftfailureandrejectionafterkeratoplasty:anevidence-basedmeta-analysis.54:4278-4285,2013Ophthalmology117:1300-1305,20106)TabataM,KadomatsuT,FukuharaSetal:Angiopoietin2)MaruyamaK,IiM,CursiefenCetal:Inflammation-likeprotein2promoteschronicadiposetissueinflammationandObesity-RelatedSystemicInsulinResisinducedlymphangiogenesisinthecorneaarisesfromCD11b-positivemacrophages.JClinInvest115:2363-tance.CellMetabolism10:178-188,2009WTK14-Angptl2WTK14-Angptl2■「アンジオポエチン様因子2と角膜血管・リンパ管新生」を読んで■血管新生は多くの眼科疾患の増悪因子であり,以前尿病黄斑症の治療に大きな進歩をもたらしたのはご存から精力的に研究されてきましたが,その成果は抗血じのとおりです.管内皮増殖因子(VEGF)薬として結実しました.抗しかし,抗VEGF薬が多くの症例に使用された結VEGF薬が加齢黄斑変性治療に希望の灯を燈し,糖果,その問題点が明らかになってきました.VEGF(101)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141839 は恒常性維持に必要であり,抗VEGF薬を長期間使新生誘導力もあまり強くないと予想されていました.用すると,血管関連の合併症が現れることがありまところが豊野先生たちの研究で,ANGPTL2の抑制す.また,血管新生の父といわれたFolkman博士がで十分な血管新生抑制効果があることが証明されまし予言した現象,単一薬物による治療は必ず薬剤耐性をた.つまり,抗ANGPTL2薬は,抗VEGF薬の代替生じるという問題も危惧されています.そのため,現薬あるいは併用薬として十分な効果が期待できる可能在でもVEGF以外の多くの血管新生因子について継性があるのです.続的に研究されています.その一つが,今回紹介されFolkman博士が,初めて血管新生因子について報たangiopoietinlikeprotein(ANGPTL)2です.告したのは,前眼部を用いた実験でしたが,その結果この分子がユニークな点は,glucose,lipid,エネが全身でも適用可能なことがわかり,血管新生は大きルギー代謝に関連し,肥満,糖尿病といったいわゆるな学問に発展しました.とくに角膜は介入と観察が容メタボ疾患における増悪因子であるということです.易であり,invitroでみられた現象がinvivoで再現また,分泌量に日内変動がある点はホルモンと似通っ可能であるかを調べることができる臓器です.今回のています.ANGPTL2は通常量では正常組織構造を角膜を用いた研究成果は,角膜治療に留まらず,後眼維持する方向に働きますが,ある量を超えると炎症,部あるいは全身的血管新生の抑制治療に発展して行く血管新生などの有害事象を誘導します.このような分ことが期待される重要なものであるといえます.子は,一般的には副次的働きをすることが多く,血管鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆1840あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(102)

新しい治療と検査シリーズ 223.光干渉断層計レバミピドクリアランス試験

2014年12月31日 水曜日

新しい治療と検査シリーズ223.光干渉断層計レバミピドクリアランス試験プレゼンテーション:井上康・越智進太郎眼科康誠会井上眼科コメント:藤本雅大京都大学医学部眼科学教室宮崎千歌兵庫県立塚口病院眼科.バックグラウンド涙液動態の解析を目的とした涙液クリアランス測定の歴史は古く,Maurice1)が開発したフルオロフォトメーターを用いて,Mishima2)らが1966年に最初の報告を行っている.その後,涙液のみならず房水などの動態解析に関しても多くの報告があるものの,現在国内ではフルオロフォトメーターが市販されていないこともあり,臨床応用には至っていない.近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の普及はめざましく,眼底や前眼部の解析には必須の検査法となりつつある.涙液の分野においてもOCTの光源が赤外光であるため被検者が眩しくなく,非侵襲下での測定が可能であることから,涙液メニスカスの測定などへの応用が始まっている..新しい検査法OCTにより懸濁性点眼液の粒子を撮影することが可能であり,懸濁粒子の平均反射輝度(meangrayvalue:MGV)から懸濁粒子濃度を算出し,濃度変化から懸濁粒子のクリアランス率を求めることができる.懸濁粒子の動態が涙液の動態と一致すれば,懸濁粒子クリアランスは涙液クリアランスと一致すると考えられる.レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,大塚製薬)は他の懸濁点眼液と比べて粒子径が2μmと最小で粘度も低く,その動態が涙液の動態と近いことが予測されること,懸濁粒子濃度がもっとも高く,長時間の測定が可能なことから,トレーサーとして用いた.RS-30002%1%0.5%0.125%0.0625%0.03125%0.015625%0.0078125%CASIAレバミピド濃度(mg/ml)10.10.010.0010.00010.00001RS-3000:y=0.0000552e0.0299xMGVR2=0.993CASIA:y=0.00000937e0.0286xMGVR2=0.967050100150200250MGVRS-3000CASIA図1上:模擬眼におけるレバミピド希釈液のOCT像.下:MGVとレバミピド濃度の相関(97)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418350910-1810/14/\100/頁/JCOPY 急速相--2-30.5-4-40.40.5-5TMH(mm)Ln(レバミピド濃度)-6-7緩徐相0.40.30.2Ln(レバミピド濃度)TMH(mm)-50.3-6-7-80.20.1-9-8BL0min1min2min3min4min点眼後の経過時間n=38レバミピド濃度TMH5min00.1図3点眼麻酔下でのレバミピド濃度とTMHの経時変化レバミピド濃度TMH0-9BL0min1min2min3min4min5min6min7min8min点眼後の経過時間n=16図2レバミピド濃度とTMHの経時変化TMHとレバミピド濃度の経時変化を示す.TMHは点模擬眼での測定において,後眼部OCT(RS-3000,ニデック)ではレバミピド濃度=0.0000552e0.0299×MGV…①(R2=0.993)3)前眼部OCT(SS-1000CASIA,トーメーコーポレーション)ではレバミピド濃度=0.00000937e0.0286×MGV(R2=0.967)の関係式が得られ,MGVとレバミピド濃度の間には強い相関が得られた(図1)..実際の検査法本稿では前眼部アダプターを装着したRS-3000を用いての測定方法について述べる.オートコントラストはオフにし,下方涙液メニスカスのみを高解像度で測定するため,垂直方向の測定幅を2mmに設定する.マイクロピペットを用いて10μlのレバミピドを点眼し,点眼前と点眼直後から1分間隔で点眼5分後まで撮影を行う.ImageJ1.48v(NIH)を用いて撮影した画像のMGV,涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)を解析する.①式により涙液メニスカス内のMGVからレバミピド濃度を求め,涙液クリアランス率(%/min)=Ln(slope)×100から涙液クリアランス率を算出する..本法の良い点前眼部OCTのみならず前眼部アダプターを装着すれば,広く普及している後眼部OCTでも涙液クリアランスを測定することができる.図2に正常人38眼の1836あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014眼直後から点眼2分後まで増加を示し,点眼後3分後以降は点眼前の状態に戻っている.点眼直後から点眼2分後までは反射分泌による量的負荷状態の,点眼後2~5分後は量的負荷のなくなった状態での涙液クリアランスを示していると考えられる.点眼麻酔を用いない本法では,点眼後約5分でMGVが測定下限以下になるため,従来報告されている5分以降の基礎分泌下の涙液クリアランスを測定することができない.点眼麻酔の5分後に同量のレバミピドを点眼すれば,点眼刺激による涙液クリアランスの亢進を抑制し,急速相における濃度低下を抑えることにより長時間の測定が可能であり,基礎分泌下の涙液クリアランス率を測定することができる.図3に点眼麻酔下のレバミピド濃度の経時的変化を示す.点眼後5分以降は直線的に減少しており,涙液クリアランス率が一定の値に達した基礎分泌下の状態にあると考えられる.得られた基礎分泌下の涙液クリアランス率は21.4±13.8%/minであった.本法に改良を加えることでさらに精度を高めることが可能であり,今後,流涙症の診断および治療の評価に用いられることを期待している.文献1)MauriceDM:Anewobjectivefluorophotometer.ExpEyeRes2:33-38,19632)MishimaS,GassetA,KlyceSDetal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmol5:264-275,19663)井上康,越智進太郎,山口昌彦:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとした光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,2014(98) あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141837(99)涙液クリアランス率算出へとつなげる点,スマートな検査法といえる.気になる点は,涙液クリアランス率のデータ結果にややばらつきがあり,正常値と異常値の境界の決定がむずかしいことである.涙道閉塞があったとしても,結膜からのレバミピドの吸収や,分泌される涙液による希釈などにより,レバミピドの濃度が低下することが予想され,またその濃度低下に個体差も生じると考えられる.さらに精度の高い涙液クリアランス測定の確立を期待する.涙道外来で一般的に行われている検査として,涙液メニスカス高(TMH)測定,蛍光色素残留試験,涙管通水検査などがあげられる.とくにTMH測定に関しては,今回の報告と同様,前眼部OCTを使用した測定の報告があり,より正確な量的データが得られることとなる.今回の検査法は涙液動態という側面から量的データを得ようとする試みである.トレーサーとして懸濁液であるレパミピドへの着目,OCT画像のImageJによる輝度解析で輝度とレバミピド濃度相関を計算し,.「光干渉断層計レバミピドクリアランス試験」へのコメント.☆☆☆あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141837(99)涙液クリアランス率算出へとつなげる点,スマートな検査法といえる.気になる点は,涙液クリアランス率のデータ結果にややばらつきがあり,正常値と異常値の境界の決定がむずかしいことである.涙道閉塞があったとしても,結膜からのレバミピドの吸収や,分泌される涙液による希釈などにより,レバミピドの濃度が低下することが予想され,またその濃度低下に個体差も生じると考えられる.さらに精度の高い涙液クリアランス測定の確立を期待する.涙道外来で一般的に行われている検査として,涙液メニスカス高(TMH)測定,蛍光色素残留試験,涙管通水検査などがあげられる.とくにTMH測定に関しては,今回の報告と同様,前眼部OCTを使用した測定の報告があり,より正確な量的データが得られることとなる.今回の検査法は涙液動態という側面から量的データを得ようとする試みである.トレーサーとして懸濁液であるレパミピドへの着目,OCT画像のImageJによる輝度解析で輝度とレバミピド濃度相関を計算し,.「光干渉断層計レバミピドクリアランス試験」へのコメント.☆☆☆

私の緑内障薬チョイス 19.サンピロ®

2014年12月31日 水曜日

連載⑲私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑲私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也19.サンピロR三嶋弘一東京逓信病院眼科サンピロRは副交感神経の刺激により瞳孔括約筋の収縮をうながし,縮瞳させる点眼薬である.サンピロRは長期に使用すると虹彩後癒着を起こすことがあるほか,毛様体筋への作用により最周辺部隅角狭小化効果もあるなど注意が必要であるが,本症例のような原発閉塞隅角緑内障(PACG)の眼圧上昇に対して,外科的治療までのつなぎとして有用であることもある.症例76歳,男性.現病歴:平成26年2月21日,他院より紹介状持参にて初診となる.以前は中国にて眼科通院していたが,平成24年より日本在住となり,前医初診となる.緑内障と診断され,トラボプロスト左眼1回点眼にて加療されていた.眼圧は両眼ともに10~15mmHgにて推移していたとのことである.転居に伴い,転院となった.現症:右眼眼圧14mmHg,左眼眼圧17mmHg.前房浅めにてvanHerick法にて右3度,左1度.隅角鏡検査ではShaffer分類にて両眼とも上下0度,耳側1度,鼻側スリット状.右眼は上方に小さな周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が2つあり,左眼は上方象限の半分くらいPASのようであった.静的隅角鏡検査では,両眼とも第一眼位にて3象限にて線維柱帯下端までは見えず,occludableangleの状態と考えられた.眼底にて右視神経乳頭には緑内障性変化を認めなかったが,左眼は陥凹拡大を認め,上耳側に網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)を認めた.超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)を施行したところ,暗所にて右3象限,左4象限にて隅角閉塞をきたしていた.以上より原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)と考えられた.経過UBMの画像(図1,2)からは虹彩の膨隆やや認めるが,プラトー虹彩のメカニズムもありそうで,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)のみで十分な効果があるか不明である.白内障にて視力低下もきたしてお(93)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1左眼耳側隅角,暗所下でのUBM画像隅角閉塞が認められる.図2左眼耳側隅角,明所下でのUBM画像生理的縮瞳により隅角はスリット状に開いている.り,できれば最大の隅角開大効果が見込める白内障手術が望ましいと考えられた.しかし,家庭の事情や言葉の問題(日本語でのコミニュケーション不可)などからすぐの手術は不可能とのことで,ひとまずトラボプロスト点眼継続にて経過観察とした.5月23日再診時,右眼本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141831 眼圧17mmHg,左眼眼圧23mmHgと左眼の眼圧上昇を認めた.PACGの進行に伴う眼圧上昇と考えられたため,家族とも相談のうえ,白内障手術を検討していく方針となった.その間の隅角閉塞を抑えることを目的に,サンピロR2%左眼点眼4回を開始した.5月29日再診時,右眼眼圧15mmHg,左眼眼圧15mmHgと左眼眼圧が下降していたため,手術までサンピロR継続とした.6月17日左眼に超音波乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ挿入術(IOL)を施行した.術後経過良好にて,緑内障点眼なしにて,左眼眼圧14mmHg前後にて経過している.まとめ本症例はPACGにて眼圧上昇してきたものであるが,治療の原則としては(機能的を含む)隅角閉塞により眼圧上昇をきたしていると考えられるので,隅角の開大が期待できる治療が望まれる.LI,あるいは白内障手術が適応となるが,白内障にて視力低下きたしていることもあり,白内障手術を選択した.待機中の高眼圧に対しLIを施行することは,後に白内障手術を施行することを考えると角膜内皮への負担が最大となると考えられ,避けたい.bブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)などの点眼薬はPGほどの降圧効果は見込めず,また隅角開大をめざす基本原則に反する.サンピロR点眼薬は縮瞳による隅角閉塞抑制効果が見込めることから,良い適応と考えられる.この場合,サンピロR使用も短期間であることから,虹彩後癒着を起こす心配もない.本症例のような原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇に対して,外科的治療までのつなぎとして有用であると思われる.●1832あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(94)

抗VEGF治療:標準治療と個別化医療

2014年12月31日 水曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二11.標準治療と個別化医療柳靖雄東京大学滲出型加齢黄斑変性(AMD)の抗VEGF療法における標準治療(ラニビズマブ0.5mgの場合には毎月投与,アフリベルセプト2.0mgの場合には8週ごとの投与)と個別化治療(必要時投与PRN[prorenata]およびT&E[treatandextend])にはメリットとデメリットがある.実臨床の現場では標準治療より個別化医療が選択されていることが多く,わが国ではPRNが,米国ではT&Eが選択されることが多いが,最適な個別化治療の方法はいまだ模索段階にある.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療の目標は,治療導入期で視機能を改善し,長期にわたり視機能を維持することである.大規模臨床試験の結果からは,ラニビズマブ(ルセンティスR)で良好な視力予後を得るためには,毎月画一的に投与することが望ましいことが示されている1~3).一方,アフリベルセプト(アイリーアR)では,導入期では3回の毎月投与を行い,その後2カ月に1度投与を行うことによって,多数の症例で良好な視力予後が得られることが示されている4).個別化医療は治療薬に対する反応性を個別に評価し,治療薬の投与方法を改変する投与方法である.AMDでは治療薬に対する反応がさまざまであり,まだ初診時の所見から適切な治療プロトコールを計画することは困難である.さらに,治療反応性を規定するような遺伝子の候補はいくつか報告されているものの,治療を行う際の一般的な検査と考えるには時期尚早である.このため,AMDの個別化治療においては初期治療(導入期の治療)が行われた後に経過観察により再発のタイミングを観察することで個々の症例に適切な投与を行うことが一般的である.方法はPRNとT&Eである(図1).PRNについてPRN〔prorenata(ラテン語:必要時投与の意味.頓用などの意味にも使われる)〕とは導入期で病態の安定(滲出性変化のコントロール,黄斑のドライ化)が得られた後に,毎月1度の経過観察に基づいて投与を決定する方法である(図2).PRNは厳密に行うことが肝要であり良好な視力を得るためには,SpectraldomainOCT(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYで定性的に滲出性変化を検討し,滲出性変化を認めた場合にはなるべく早めに追加投与を行うプロトコールがよいと認識されている3).患者ごとに個別の対応が可能であり,過剰な治療が避けられ,投与回数を少なくできる点がこの方法のメリットであると考えられる.しかしながら,滲出性変化が出現してから投与を行うため,事後対応的な要素(reactivecomponent)を含んだ治療と位置づけられる.短期間の滲出性変化であっても網膜への障害は避けられないため,毎月の投与と比較して視力予後は若干劣っている.さらに,実臨床における問題点は滲出性がみられた時点で投与を行えない場合があることや,滲出の残存,再発を認めても自覚症状,視力の悪化がなければ投与を躊躇する場合があることも問題点と考えられる.また,長期にわたって継続的に診療を行うことが必要であり,多くの患者を診療する施設では外来診療患者数が増え,適切な患者管理が行えなくなっていることも問題点である.このため過小投与になる傾向があり,長期の視力予後が悪くなる可能性に留意しなければならない.滲出性変化が見られれば,治療:事後対応的投与予防的投与黄斑のドライ化治療,診療間隔の延長滲出性変化の残存もしくは出現診療,治療期間の短縮(カ月)1023456789101112PRN(asneeded)Bi-monthly*TreatandExtend黄斑がドライ化:診療,注射間隔の延長*TreatandExtend滲出性の残存が見られた場合図1加齢黄斑変性の維持期の個別化治療あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141829 図2PRNの症例T&EについてT&Eは来院時には必ず抗VEGF薬の投与を行い,投与時の所見に基づいて次回の治療日を決定するプロセスを数回経て,最終的に患者ごとの適切な固定投与間隔を決定する方法である(図3).定まった方法が存在しないが,海外で行われている一般的な治療5)では,黄斑に滲出性変化が消失しドライ化が得られるまで毎月投与を継続し,滲出性変化が消失した後は,来院,投与間隔を2週間ずつ延長する.ただし,投与間隔を延長した後に滲出の再発が認められた場合には,来院,投与間隔を2週間ずつ短縮,つまり,黄斑のドライ化が得られていた間隔まで短縮する.何度か延長と短縮を行い,再発がみられない適切な投与間隔を決定し,滲出性変化をきたす前に抗VEGF薬を定期的に投与する.予防的治療(proactivetreatment)を行い,病態悪化を避けることを目標にしている.実際には適切な投与間隔を決定するまでに事後対応的な要素がまったく含まれないということではないが,再発がみられない適切な投与間隔をみつければ,期間を固定して予防的に投与することが可能であ1830あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014図3T&Eの症例る.投与間隔は,最小で4週間,最大で8~12週間とすることが多い.また,投与間隔の調整は投与時のOCT検査による滲出性変化以外に新規の出血も考慮して行う.PRNと比較しての最大のメリットは,病状の悪化する前に投与可能であることであり,このため,年間の投与回数は比較的多くなるが良好な視力を維持できる可能性がある.また,T&EではPRNと比較すると病状の悪化を告げられる患者の精神的負担が軽減される点,投与間隔の個別化や来院回数の減少が可能である点,投与日があらかじめ決定されているため患者,付添人のスケジュール調整や医療機関の来院,投与当日のスケジュール管理が比較的容易となる点もメリットである.さらに院内フローも視力,OCT検査を終えた後に,検査結果に基づいて次回の来院,注射日を決定した後に注射を行えるため,PRNと比較してシンプルである.文献1)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,20062)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)MartinDF,MaguireMG,YingGSetal:CATTResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20114)Schmidt-ErfurthU,KaiserPK,KorobelnikJFetal:Intravitrealafliberceptinjectionforneovascularage-relatedmaculardegeneration:ninety-six-weekresultsoftheVIEWstudies.Ophthalmology121:193-201,20145)GuptaOP,ShienbaumG,PatelAHetal:Atreatandextendregimenusingranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegenerationclinicalandeconomicimpact.Ophthalmology117:2134-2140,2010(92)

緑内障:スウェプトソース前眼部OCTを用いた狭隅角眼における隅角閉塞の網羅的解析

2014年12月31日 水曜日

●連載174緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也174.スウェプトソース前眼部OCTを用いた三嶋弘一東京逓信病院眼科狭隅角眼における隅角閉塞の網羅的解析前眼部画像解析は狭隅角眼の隅角閉塞の検出に有用である.スウェプトソース前眼部OCTは,高速かつ高解像に画像取得可能であるため,隅角ほぼ全周における隅角閉塞領域の網羅的解析ができる可能性がある.●狭隅角眼における前眼部画像解析狭隅角眼における隅角の評価は,主に隅角鏡検査で行われてきた.近年,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)や前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)などの前眼部画像解析装置が開発され,隅角解析に応用されている.これらの前眼部画像解析では,隅角閉塞の起こりやすい暗所下での隅角の断層像が取得可能であり,機能的隅角閉塞をより高頻度に検出できる(図1).前眼部OCTはUBMと比較し,撮像範囲が広いため両端隅角を含む前眼部断層像が得られる.フーリエドメイン方式の一つであるスウェプトソース前眼部(anteriorsegmentswept-source:AS-SS-)OCTであるSS-1000CASIA(トーメーコーポレーション)では,より高速かつ高解像の測定が可能であり,約2秒にて128枚のBスキャン画像を軸回転方向に取得でき,これらの128枚の画像からほぼ全周に近い隅角画像を得ることができる.●AS.SS.OCTを用いた狭隅角眼における隅角閉塞の網羅的解析SS-1000CASIAに搭載されているITC(iridotrabecularcontact:虹彩線維柱帯接触)解析ツールを用いることで,ほぼ全周隅角における隅角閉塞の網羅的解析を行うことができる.ITCとは,前眼部画像解析による隅角画像上において隅角閉塞をきたしている状態と定義され,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)と機能的隅角閉塞を含む概念である.隅角画像において,強膜岬(SS)と線維柱帯面と虹彩表面との接触端点(EP)を同定することで,ITCの範囲とその高さを定量的に解析することが可能となる(図2,3).図3は59歳,女性,耳側vanHerick1度の狭隅角症例の右眼暗所下でのITC解析結果である.隅角鏡検査ではPASはなく,Shaffer分類にて上方,耳側,下方が1度,鼻側が2度の状態であった.ITC解析からは,暗所下では上方と下方において散発的なITCが認められている.また,全周のうち,28%の領域で隅角閉塞をきたしていることがわかった.筆者らは,耳側vanHerick2度以下の狭隅角眼43例図1前眼部OCTでとらえられた機能的隅角閉塞明所下にて縮瞳状態(右)では隅角は開放しているのに対し,暗所下にて生理的散瞳状態(左)では隅角閉塞が認められる.(89)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418270910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2SS.1000CASIAでのITC解析強膜岬(SS:赤色×)および虹彩線維柱帯接触端点(EP:黄色十字)をプロットする.EPがSSを超えていなければITC(.)(右図),EPがSSを超えていればITC(+)となる(左図).(文献1より改変)図3SS.1000CASIAでのITC解析ITCの範囲,高さ,面積がチャート形式,グラフ,数値によって示される.EP(緑線)がSS(赤線)を超えた部分がITC(+)となる.表1狭隅角眼におけるITC範囲の比較PAS(.)眼(n=33)PAS(+)眼(n=10)p*合計p†明所21.9±20.9%46.9±24.5%0.00627.7±24.0%0.0001暗所44.4±24.0%61.6±26.4%0.0848.4±25.4%PAS:peripheralanteriorsynechia*MannWhitneytest,†Wilcoxonsignedranktest43眼において隅角鏡検査,UBMによる上方,耳側,下方,鼻側の4方向隅角画像解析,そしてAS-SS-OCTによるITC解析を行った.その結果,隅角鏡検査で認められたPASは,すべてAS-SS-OCTにおいてITCとして認められた.また,UBMにてITCが1カ所以上認められたものは43眼中,明所下,暗所下にてそれぞれ22眼(51.1%),36眼(83.7%)であったのに対し,AS-SS-OCTではそれぞれ40眼(93.0%),42眼(97.7%)であり,明所下ではAS-SS-OCTはUBMよりも有意に高頻度にITCを検出した(p=0.0001,signtest).ITC範囲を比較したところ,暗所下では明所下よりも有意に広いITC範囲が検出された(p=0.0001).また,明所下ではPAS(+)眼においてPAS(.)眼よりも有1828あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(文献1より改変)意に広いITC範囲が検出されたのに対し(p=0.006),暗所下では有意な差はなかった(p=0.08)(表1).このことから,明所下においても広い隅角閉塞領域が存在することがPASの形成につながる可能性が示唆された.AS-SS-OCTを用いた隅角の網羅的ITC解析ではITCの検出頻度が高く,またITC範囲というパラメータが狭隅角眼の隅角解析に有用である可能性が示唆された.文献1)MishimaK,TomidokoroA,SuramethakulPetal:Iridotrabecularcontactobservedusinganteriorsegmentthree-dimensionalOCTineyeswithashallowperipheralanteriorchamber.InvestOphthalmolVisSci54:46284635,2013(90)