特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):189.195,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):189.195,2016網膜硝子体界面症候群ClinicalApplicationofOCTinManagementofVitreoretinalInterfaceSyndrome森實祐基*はじめに網膜硝子体界面症候群は,硝子体と網膜の境界面にみられる疾患の総称であり,具体的には硝子体黄斑癒着(vitreomacularadhesion:VMA),硝子体黄斑牽引(vitreomaculartraction:VMT),黄斑円孔(macularhole:MH),黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM),黄斑偽円孔(macularpseudohole:PH),分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)をさす.経験を積んだ眼科医であれば光干渉断層計(ocularcoherencetomography:OCT)を使用しなくても,細隙灯顕微鏡検査を含む眼底検査で,これらの疾患の診断は可能である.しかし,そうでない眼科医にとっては,硝子体が透明であるため硝子体網膜界面の詳細な状況を把握することはむずかしく,診断,鑑別は困難であった.OCTの登場はこのような状況を一変させた.眼科医の経験に関係なく,容易に本症候群の診断を行えるようになり,治療の効果を客観的に評価することや,予後を予測することが可能になった.さらに,病態の理解が飛躍的に進み,病態に即した新たな治療法の開発が行われるようになった.現在では,網膜硝子体界面症候群に対して質の高い診療を行うためには,OCTは必要不可欠な検査であるといっても過言ではない.本稿では本症候群の診療におけるOCTの活用法について疾患別に解説する.I硝子体黄斑癒着(VMA),硝子体黄斑牽引(VMT)1.診断におけるOCTの活用これまで,VMAとVMTの定義は曖昧で,明確な診断基準は存在しなかった.過去の論文の中には両病名を混同して用いている論文も散見される.しかし,2013年にTheInternationalVitreomacularTractionStudy(IVTS)GroupによってOCT所見に基づいた両疾患の定義がまとめられた1).それによれば,VMAとVMTはともに,後部硝子体が網膜から不完全に.離し,黄斑と接着している状態(傍中心窩の後部硝子体.離,perifovealPVD)であり,この接着によって黄斑の構造に変化をきたしたものがVMT,きたしていないものがVMAと定義される(図1,表1).IVTSGroupの分類では,OCT上で確認できる硝子体と網膜の接着部の長さ(図1a)によって,1,500μm以下のものをFocal,1,500μmよりも長いものをBroadと区別する(表1).1,500μmを境界とした理由はあくまで経験的なもので,科学的な根拠はないようであるが,この分類によって,接着の程度を定量的に表現できるようになった.一般に,BroadのVMTでは硝子体の接着が強く,黄斑の肥厚,網膜分離,.胞様浮腫,網膜血管漏出が起こりやすく,視力低下,変視症,小視症をきたしやすい.*YukiMorizane:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻機能再生・再建学講座眼科学分野〔別刷請求先〕森實祐基:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻機能再生・再建学講座眼科学分野0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(29)189190あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(30)量的にMHを評価することが可能になり,病態の理解や治療法の改善,開発が進んでいる.1.診断におけるOCTの活用MHの治療方針を決定するうえで病期を把握することは重要であり,Gassの分類が広く普及している5,6).しかし,Gassの分類はOCT所見に基づいた分類ではなく,定量性に欠ける.また,MH以外の網膜硝子体界面症候群との関連については考慮されていない.そこでIVTSGroupは,OCT所見に基づいた病期分類を新たに提唱した(表2,図2)1).新分類の特徴として,①円孔の最小直径によって分類している点,②MHにおける硝子体と網膜の関係をVMTの有無によって分類している点,があげられる.円孔の最小直径による分類については,最小直径が250μm以下の円孔がSmallMH,250.400μm以下の円孔がMediumMH,400μmよりも大きい円孔がLargeMHと定めている.MHにおけるVMTの有無はオクリプラスミンなどの薬剤による硝子体融解治療の適応を判断するうえで重要である.2.治療におけるOCTの活用現在のMHの標準術式は「硝子体切除+内境界膜.離+ガスタンポナーデ+術後伏臥位」である7).本術式に対しては,さまざまな改良や新しい試みが今日まで行われてきており,その多くはOCTから得られた知見に基づくものである.代表的なものを以下に記す.2.治療におけるOCTの活用OCTを用いたVMAとVMTの鑑別は,治療方針の決定に重要である.VMAは正常な加齢変化として起こる後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)の一段階であるので,治療を必要としない.VMTやMHへの進行,黄斑上膜の形成がなければ経過観察となる.一方で,VMTに対しては,黄斑への牽引を解除することを目的として硝子体手術が行われる.しかし,硝子体手術の明確な適応基準はなく,VMTによる黄斑構造の変化をOCTで観察しつつ,視力や患者の自覚症状を考慮して手術の時期を決定することになる.VMTに対する硝子体手術の治療効果について,これまでの報告によれば,Snellen視力で2ライン以上(logMAR視力で約0.3以上)視力が改善した症例の割合は32.9%であった(n=217)2).視力改善の程度としてはそれほどよい結果とはいえないが,視力改善以外に,変視症や不等像視などの自覚症状の改善が期待できる.なお,術前後のOCT所見で,.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜分離がみられる症例では視力改善効果が制限される3,4).II黄斑円孔MHの診断は通常の眼底検査で可能であり,OCTは必ずしも必要ない.しかし,OCTを用いて詳細かつ定ab図1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)a:硝子体黄斑癒着(VMA).両矢印は硝子体と網膜の接着部の長さを示す.b:硝子体黄斑牽引(VMT).表1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)の定義共通の特徴1)傍中心窩に硝子体.離を認める2)中心窩から半径3mm以内に硝子体黄斑癒着を認める硝子体黄斑癒着(VMA)黄斑の構造に変化を認めない硝子体黄斑牽引(VMT)1)黄斑の構造に変化を認める2)網膜全層に及ぶ組織間隙を認めない硝子体と網膜の接着部の長さによる分類Focal:≦1,500μmBroad:>1,500μmab図1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)a:硝子体黄斑癒着(VMA).両矢印は硝子体と網膜の接着部の長さを示す.b:硝子体黄斑牽引(VMT).表1硝子体黄斑癒着(VMA)と硝子体黄斑牽引(VMT)の定義共通の特徴1)傍中心窩に硝子体.離を認める2)中心窩から半径3mm以内に硝子体黄斑癒着を認める硝子体黄斑癒着(VMA)黄斑の構造に変化を認めない硝子体黄斑牽引(VMT)1)黄斑の構造に変化を認める2)網膜全層に及ぶ組織間隙を認めない硝子体と網膜の接着部の長さによる分類Focal:≦1,500μmBroad:>1,500μma.ガス下で撮影したOCT画像の活用:術後の伏臥位期間の短縮MH術後に伏臥位を維持したほうが,維持しない場合よりも円孔の閉鎖率が向上することが,とくにLargeMH(直径が400μmよりも大きい円孔)で明らかにされている8).そのため現在では,MHの大きさにかかわらず術後に伏臥位を保つのが一般的であるが,伏臥位の維持期間については明らかな基準はない.2012年にswept-sourceOCTが登場し,眼内にガスが充満した状態でもMHを撮影することが可能になった.その結果,多くのMHは術後数日以内に閉鎖することがわかった.そこで,Yamashitaらは,術後にガス下でOCTを撮影し,MHが閉鎖していれば伏臥位を解除するプロトコールを提案した9,10).この報告によれば,円孔直径が300μm以下であれば早期に伏臥位を解除できる可能性が高い.患者の負担を減らす方法として有効であるといえる.b.難治性MHに対する新しい術式の開発1999年にImaiらは,OCTを用いてMHの術後形態を3つに分類した(図2e.g)11).そして,Wタイプの閉鎖形態を示す症例は視力予後が不良であることを見出した.その後,Wタイプの閉鎖に陥りやすいMHの特徴が明らかになり,一般に難治性MHとよばれるようになった(表3).しかし,近年まで難治性MHに対する有効な術式は存在しなかった.2010年にMichalewskaらによって内境界膜翻転法が考案された12).この術式では,内境界膜をMHの辺縁部で接着した状態で.表2黄斑円孔のStage分類の比較StageGass分類IVTSGroupによるOCT所見に基づいた分類0─硝子体黄斑癒着1切迫黄斑円孔硝子体黄斑牽引(VMT)2小さな黄斑円孔VMTを伴う小.中型の円孔3大きな円孔(円孔の拡大)VMTを伴う中.大型の円孔4後部硝子体.離を伴う黄斑円孔VMTを伴わない円孔(大きさを問わない)小型:直径≦250μm,中型:250<直径≦400μm,大型:直径>400μm.abcdefg図2黄斑円孔とその閉鎖形態a:硝子体黄斑牽引(VMT)を認める.b:VMTを伴う小型の黄斑円孔.c:完全PVDは起こっていないがVMTを伴わない中型の黄斑円孔.d:完全PVDが起こった中型の黄斑円孔.e:Uタイプの閉鎖,もっとも視力予後がよい閉鎖形態.f:Vタイプの閉鎖.g:Wタイプの閉鎖,網膜色素上皮が露出している.もっとも視力予後が悪い.(31)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016191192あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(32)が普及するためには術式の改良が必要である.内境界膜の遊離片がMH内に移植されたかどうかを術中に確認するには,OCT付き顕微鏡が有用である(図3).c.OCTによる術後のMHの観察標準術式,内境界膜翻転法,内境界膜自家移植のいずれにおいても,術後にOCTを用いてMHを観察し,円孔の閉鎖を確認する必要がある.筆者らは眼内のガスが半分以下となった時点(術後約1週間)で非閉鎖であれば再手術を行うようにしている.また,網膜外層構造,とくにellipsoidzone(EZ)の回復は術後視力の予測に有用である.術後の回復過程でEZの欠損や網膜に高輝度像がみられることは珍しくなく,標準術式や内境界膜翻転法では数カ月で正常な構造に回復することが多い15,16).内境界膜自家移植の術後については,20例を対象とした自験例の結果では,術後1年の時点でEZの連続性が保たれていた症例は26%に留まった.また,移植片に一致してみられた高輝度像は術後4カ月を経過しても残存する傾向にあった.III黄斑上膜(ERM),黄斑偽円孔(MPH),分層黄斑円孔(LMH)1.診断におけるOCTの活用ERMの診断は,OCTを用いなくても,細隙灯顕微鏡検査を含む眼底検査で可能である.しかし,MPHとLMHはともに,ERMやMHと似た形態を示すため鑑別は困難である.このような場合に,OCTを用いて網膜断層像を観察すれば,きわめて容易に鑑別することができる.離し,その後に内境界膜を翻転してMHを被覆する.その結果,Wタイプの閉鎖をきたす確率は標準術式の10分の1に低下した.現在ではさまざまな難治性MHに対して翻転法が施行されるようになっている15).初回手術でMHに対して標準術式を行い,内境界膜を.離除去すると,再手術が必要となったときに翻転法を行うことができない.そのため,初回手術時に翻転法の適応についてよく検討することが重要である.現在のところ明確な適応基準はないので,眼科既往歴,発症後の期間,強度近視の有無,OCT所見(円孔径,網脈絡膜変性の有無など)から総合的に判断する.翻転法の手技そのものは,内境界膜.離を行える術者にとってはむずかしくない.筆者らは内境界膜を翻転した状態を維持するために翻転した内境界膜の上に粘弾性物質を塗布してから液.空気置換を行っている13).初回手術で内境界膜を.離除去し,閉鎖が得られなかったMHに対しては,内境界膜自家移植が有効である14).この術式は,残存している内境界膜の一部を切り取り,遊離片としてMHに移植する方法である.内境界膜の遊離片の取り扱いは難易度が高く,今後この術式表3難治性黄斑円孔巨大黄斑円孔(円孔径>400μm)陳旧性黄斑円孔近視性黄斑円孔外傷性黄斑円孔増殖性網膜病変に合併ぶどう膜炎,網膜色素変性に合併黄斑分離症に対する硝子体術後ab図3自家内境界膜移植における移植片の観察a:OCT付き顕微鏡によって撮影された移植片(.).円孔内に移植片が位置しているのがわかる.b:顕微鏡に付属するモニター.スキャン位置と撮影画像が把握できる.表3難治性黄斑円孔巨大黄斑円孔(円孔径>400μm)陳旧性黄斑円孔近視性黄斑円孔外傷性黄斑円孔増殖性網膜病変に合併ぶどう膜炎,網膜色素変性に合併黄斑分離症に対する硝子体術後ab図3自家内境界膜移植における移植片の観察a:OCT付き顕微鏡によって撮影された移植片(.).円孔内に移植片が位置しているのがわかる.b:顕微鏡に付属するモニター.スキャン位置と撮影画像が把握できる.abde図4黄斑上膜(ERM),黄斑偽円孔(MPH),分層黄斑円孔(LMH)a:ERM(.).b,c:MPH.黄斑に円形の偽円孔を認める(.).d:網膜内層のLMH.膜状構造物(.)と網膜の内層と外層の間の解離(.)を認める.e:網膜外層のLMH.194あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(34)に残す術式を考案した(図5)22).LMH22眼に本手術を施行した結果,82%の症例において,術後の黄斑形態がUタイプとなった.また,logMAR0.2よりも大きな視力改善が19眼,86%にみられた.おわりに以上,網膜硝子体界面症候群の診療におけるOCTの活用法について述べた.OCTは現在も日々進歩しており,網膜硝子体界面症候群の診療の質をさらに向上させる原動力としてますます重要な検査になると考えられる.文献1)DukerJS,KaiserPK,BinderSetal:TheInternationalVitreomacularTractionStudyGroupclassificationofvit-reomacularadhesion,traction,andmacularhole.Ophthal-2.治療におけるOCTの活用ERMとMPHに対しては,硝子体切除+ERM.離を行う.術後には,ERMの再発の有無やEZの連続性をOCTで観察することが重要である.Cobosらによれば,ERMの再発は術後約20%にみられる19).そこでERM再発の足場を完全に除去することを目的としてILM.離を併施することが一般的になってきている20).Sanda-liらは,ILM.離を行うとERMの再発率は5%に留まったと報告している21).先述のように,LMHの網膜表面には膜状構造物がみられることが多い.そこで,LMHに対して,ERMやMPHと同様に硝子体切除と膜状構造物の.離およびILMの.離が試みられてきたが,術後の黄斑形態が不整になる頻度が高く,視力予後が不良であった.筆者らは,先述の膜状構造物の特徴に鑑み,術後の黄斑形態や機能を改善することを目的として,膜状構造物を意図的abcdefghij図5分層黄斑円孔(LMH)の特徴と治療a:LMHでみられる膜状構造物.黄斑色素に富む.b:特発性黄斑上膜よりも伸展性に富む.c:LMHの円孔縁と一体化しており容易に.離除去することができない.d:膜状構造物を意図的に残存させ,その周囲の内境界膜(*)を.離除去する(.は.離範囲).e:LMHの模式図.黄色は膜状構造物,緑色は内境界膜を示す.f:膜状構造物を.離し意図的に黄斑上に残す.g:黄斑周囲の内境界膜を.離除去する(.).h:術前のOCT.i:術後7日目のOCTで,残存させた膜状構造物の隆起が確認できる(.).j:術後1カ月.膜状構造物は消失した.abcdefghij図5分層黄斑円孔(LMH)の特徴と治療a:LMHでみられる膜状構造物.黄斑色素に富む.b:特発性黄斑上膜よりも伸展性に富む.c:LMHの円孔縁と一体化しており容易に.離除去することができない.d:膜状構造物を意図的に残存させ,その周囲の内境界膜(*)を.離除去する(.は.離範囲).e:LMHの模式図.黄色は膜状構造物,緑色は内境界膜を示す.f:膜状構造物を.離し意図的に黄斑上に残す.g:黄斑周囲の内境界膜を.離除去する(.).h:術前のOCT.i:術後7日目のOCTで,残存させた膜状構造物の隆起が確認できる(.).j:術後1カ月.膜状構造物は消失した.2.治療におけるOCTの活用ERMとMPHに対しては,硝子体切除+ERM.離を行う.術後には,ERMの再発の有無やEZの連続性をOCTで観察することが重要である.Cobosらによれば,ERMの再発は術後約20%にみられる19).そこでERM再発の足場を完全に除去することを目的としてILM.離を併施することが一般的になってきている20).Sandaliらは,ILM.離を行うとERMの再発率は5%に留まったと報告している21).先述のように,LMHの網膜表面には膜状構造物がみられることが多い.そこで,LMHに対して,ERMやMPHと同様に硝子体切除と膜状構造物の.離およびILMの.離が試みられてきたが,術後の黄斑形態が不整になる頻度が高く,視力予後が不良であった.筆者らは,先述の膜状構造物の特徴に鑑み,術後の黄斑形態や機能を改善することを目的として,膜状構造物を意図的に残す術式を考案した(図5)22).LMH22眼に本手術を施行した結果,82%の症例において,術後の黄斑形態がUタイプとなった.また,logMAR0.2よりも大きな視力改善が19眼,86%にみられた.おわりに以上,網膜硝子体界面症候群の診療におけるOCTの活用法について述べた.OCTは現在も日々進歩しており,網膜硝子体界面症候群の診療の質をさらに向上させる原動力としてますます重要な検査になると考えられる.文献1)DukerJS,KaiserPK,BinderSetal:TheInternationalVitreomacularTractionStudyGroupclassificationofvitreomacularadhesion,traction,andmacularhole.Ophthal-194あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(34)—