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後記臨床研修医日記 30.広島大学医学部眼科学教室

2014年3月31日 月曜日

●シリーズ後期臨床研修医日記広島大学医学部眼科学教室徳毛花菜広島大学医学部眼科学教室では,2013年4月から3名の後期研修医が眼科研修をスタートしました.多忙な毎日ですが,先生方の優しいご指導のもと非常に充実した研修生活を送っています.そんな私たちの研修生活,プログラムをご紹介したいと思います.朝カンファレンス,手術,外来などの前に入院患者さんの診察を済ませないといけないので,朝は早いです.術後1日目の患者さんはさまざまな所見をとらないといけないので,時間に余裕をもって診察に臨まないといけません(とくに網膜の手術や眼内レンズを挿入した手術の場合は,散瞳前と後をチェックしないといけないので時間がかかります).といってもぎりぎりになってしまうことが多く,診察が終わり次第,次の仕事に向かいます.外来曜日によって異なりますが,検査,問診係,上級医のシュライバー,診察など仕事はさまざまです.検査のときはORTさんに混ざって視力検査,眼圧検査をすることもあれば,時間があるときはその他の基本検査の方法を教えてもらったりします.ORTさんたちはとても優しく指導してくださります.診察のシュライバーについたときは診察がスムーズにいくようにするのももちろんですが,診察方法・考え方・患者さんとの接し方を見て学びます.ポイントを説明してもらったり,わからないことは質問できる環境なので,非常に勉強になります.外来は緊張しますが,同じ診察部屋に細隙鏡が数台あり,ほかの先生方も診察されているので,わからないときは質問しながら,なんとか診察を進めていきます.(95)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY手術手術日は火(全日),木(午後),金(全日)の週3日です.研修医は手術室で顕微鏡,モニター,DVD,器械類のセッティング,全身麻酔での手術がある場合はそのオペ出しを行います.2台のベッドで並列で手術が進んでいきます.外回りは手術機器のセッティングに加えて,患者さんの点眼開始指示,呼び出し,術者の先生への連絡なども行いますが,手がまわらないので上の先生に手伝ってもらいながら手術を進行していきます.アシスタントについたときはその症例に集中できるので,術者の先生のアシストをしつつ,手術の順番などを覚えてよりよいアシストをめざしています.また,モニターと顕微鏡では,やはり見え方が全然違うのでわくわくします(とくに硝子体手術!!).症例は,全身麻酔下での小児の手術,全層角膜移植,DSAEKのような大学ならではの症例や難しい症例が多くなっています.木内教授は緑内障が専門なので小児の緑内障手術が頻繁にあり,その際は全身麻酔下で精査を写真1眼底のレーザー照射を練習する益田医師あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014399 写真2ウェットラボ(白内障手術の練習中)行い(さまざまな機械での眼圧測定など),awakeのときはできない検査を進めていくと同時に,眼圧測定(シェッツやパーキンスなど)や検査方法を学びます.また,豚眼を使ったウェットラボで白内障の手術の練習をしまずが,思ったようにうまく手を動かせないので,まだまだ練習がたりないなーと感じます.豚眼では白内障の手術のみではなく,眼底にレーザーを打つ練習もしました.白内障の手術は普段から見ることがありますが,レーザーの場合はほかの医師と一緒に見て打つことができないので,「実際はこういう感じなんだ!」と経験することができました.豚眼で練習をしても,患者さんの前に座ると緊張してしまいます….医局会医局会の目的は医局員全員に連絡事項を伝えることですが,そのあとに上中級医師が研修医向けの講義を約30分間してくださいます.最初はEKCや眼科救急など超重要基礎事項から始まり,さまざまな専門分野の講義もあります.教科書を読んでもなかなか頭に入らないこともありますが,ポイントが絞ってあるので,とても勉強になります.おなかがすくと頭に入らないので,医局でお弁当を注文して,それを食べながら講義を聴きます.当直6月から研修医も当直が始まりました.夜は病院に一人なので,どきどきしながらPHSが鳴らないことを祈ります.軽い症状の患者さんが来院されても,てんやわんやしながら診察して帰宅してもらいます.重症症例やわからないときは……寝ているオーベンの先生に電話します.手術が必要な場合は手術係の先生に連絡して来てもらいます.先生方のサポートのもと当直業務をこなしていきます.また,広島県では開業医の先生も協力してくれて,平日は夜11時まで千田町眼科救急センターが,土日・休日は当番医制度があるので,勤務医の業務が軽減するようにしてくれています.本当にありがたいです.レクリエーション広島大病院眼科は「やるときはやる!」「遊ぶときは遊ぶ!」という感じでonoffがはっきりしている雰囲気があります.毎日の業務が遅くなることが多いので,しょっちゅう遊んだり飲みに行くことはないですが,飲み会があるときはがんばって仕事を切り上げてみんな集合し,思いっきり飲みます.今年の夏レクはみんなでカープ観戦でした.今までは花火大会やBBQ大会があったそうです.夜病棟の消灯は9時なので,夕方の診察が必要な患者さんはその時間までに診察を終わらせなければなりません.お昼の業務や手術が多かった日は,迫ってくる消灯時間と戦いながら患者さんの診察,処置を行います.診察終了後は入退院の準備などの書類仕事,カンファレンスの準備,次の日の外来患者さんの検査オーダーなどをします.仕事が終わったら,医局に戻って白衣を脱いで帰宅です.おわりに私たちの生活をざっと紹介してみました.研修が始まって4カ月は非常に早かったです.わからないときや困ったときはオーベンの先生やそのほかの先生にも助けてもらい,眼科学教室全体に支えられています.また同期が3人と都会の大学病院と比較したら少なめですが,同じ目標に向かってお互いに励まし合いながらがんばれる〈プロフィール〉徳毛花菜(とくもかな)高知大学医学部卒業.広島大学病院で初期臨床研修.平成25年4月より広島大学眼科学教室後期研修医.400あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(96) 仲間に恵まれました.3人とも違う方向にマイペースなきもありますが,早く一人前の眼科医として広島で,日ところがありますが,そこは協力し合いながらなんとか本で,世界で活躍できるように日々努力していきたいとやっています.毎日あわただしく,体力的にも厳しいと思います.指導医からのメッセージ―基本的な手技を大切に―今年はやる気ある3人の新人を迎え,広島大学眼科も活気が出ています.1年目の研修はこれからの眼科医人生を決める大切な時期です.正しく視力検査ができる,細隙灯顕微鏡で前眼部所見が正しくとれる,倒像鏡で眼底が周辺部まで見える訓練をするのは今しかありません.いずれ身につくだろうということはありません.最初の1年で身につかない人は5年たっても身についていないように思います.しかし,この手技は毎日患者さんを真面目に診察すれば,自然に身につくものでもあります.診察だけでなく,患者さんへの接し方,事務的な書類など医師を続けていくうえで大切なことも多く,そのうえ,学会発表,論文作成と毎日遅くまでやらなければいけない仕事がたくさんあります.今の頑張りが,今後の長い眼科医人生を楽しく,有意義なものにしてくれますので,体には十分気をつけてがんばってください.(広島大学眼科講師・医局長山根健)☆☆☆(97)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014401

My boom 26.

2014年3月31日 月曜日

監修=大橋裕一連載MyboomMyboom第26回「福田憲」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載MyboomMyboom第26回「福田憲」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介福田憲(ふくだ・けん)高知大学医学部眼科学講座私は産業医科大学医学部(というかラグビー部?)を卒業後,平成8年に山口大学眼科学教室に入局しました.大学院修了後にちょうど日本で初めて眼科の寄附講座(山口大学医学部眼病態学講座)ができ,その講座でさらに4年間基礎研究を続けました.その後,眼科学教室に戻り,平成19年から2年間,米国ジョージア州アトランタにあるエモリー大学眼科に留学しました.帰国後半年して,平成22年4月から高知大学医学部眼科学講座で働いています.研究のMyboom:薬を使わずに,お金も使わずに,眼疾患を治す山口大学では,春季カタルや感染で生じる角膜潰瘍の病態解明,治療薬の開発を目標に,角膜上皮・実質細胞を用いた細胞生物学的研究を行ってきました.エモリー大学留学中はSantaOno教授の下で,マウスの骨髄からマスト細胞を培養して,マスト細胞欠損マウスの結膜に移入することで再構築して,アレルギー性結膜疾患におけるマスト細胞あるいはマスト細胞の単一の因子(ケモカインやケモカイン受容体など)の役割を調べました.高知大学に移った現在は,より臨床応用が可能な研究をめざして,おもに動物を用いてアレルギー性結膜疾患や感染性角膜潰瘍の研究を続けています.その中で2つの研究を紹介したいと思います.一つは農業生物資源研究所の高岩先生との共同研究で,花粉症の治療薬としての遺伝子組み換え“米”を用いた治療の研究です.スギ花粉の主要なアレルゲンであるCryj1とCryj2を,遺伝子改変により分断化や(93)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYシャッフリングすることで立体構造を変え,それを米に発現させた「スギ花粉症治療米」を食べることで,経口免疫寛容を誘導して花粉症の予防・根治をしようという考えです.スギ花粉性結膜炎モデルのマウスにこの花粉症治療米をあらかじめ食べさせておくと,スギ花粉症が発症しないことがわかりました.この「スギ花粉症治療米」の優れた点は,アレルゲンの立体構造を変えて発現しているので,抗原特異的IgEには結合せず,免疫療法(減感作療法)のもっとも重篤な副反応であるアナフィラキシーを生じにくいという点です.アナフィラキシーを生じにくいので一度に大量に摂取でき,それゆえ短期間で免疫寛容を誘導できる可能性があります.また通常のお米と同様の方法で栽培できるため,安価で大量に生産可能で,病原性や毒性がなく,加工の必要もない,室温での長期保存や輸送も可能なことも実際の臨床応用では非常に優れた点といえます.もちろんこの米の抗原性は熱にも耐えうるので,通常のお米のように炊いて食べることができます.日本人の主食である白飯を食べることでスギ花粉症の予防や根治ができるのは,負担が少ない治療法といえます.小学校の給食で一定期間このお米を食べれば,数十年後にはスギ花粉症患者はいなくなるのではと夢見ています.今は,白樺やブタクサ花粉抗原を発現した米の効果の検討をしています.欧米ではブタクサ花粉症がもっとも多いので,この米で作ったカリフォルニアロールや米粉パンを食べることで全世界から花粉症を根絶したいと思っています.もう一つは,バクテリオファージによる眼感染症の治療の研究です.バクテリオファージとは,特定の細菌に感染し菌体を溶かして増殖するウイルスです.ファージは1915年に発見され,その溶菌活性を利用して抗菌薬として用いるファージ療法の研究が始まりました.ところが,その後最初の抗生物質であるペニシリンが発見されたために,西欧諸国では抗菌薬としての主役は完全に抗生物質に奪われることとなった残念なウイルスです.あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014397 写真1娘とシュノーケリングしたときの1枚ところが時代はめぐって,抗生物質の濫用により薬剤耐性菌が出現してからは西欧諸国でもファージ療法の研究が再開され,すでに米国では食品添加物として認可され,薬剤耐性緑膿菌に対する臨床研究も行われています(詳細は「あたらしい眼科」30巻,p1267-1269参照).高知大学微生物学講座と共同で,ファージ療法の眼感染症への臨床応用の研究をしており,マウスの緑膿菌性角膜潰瘍に対してファージを1回点眼するだけで治療効果があることを報告しました.この研究に用いたファージは高知大学の近くの河川水から分離したもので,非常に安価に大量に調整でき,また病原菌が存在すればファージはその中で自己複製を繰り返して増殖して次々と病原菌を死滅させますし,ファージはヒトの細胞には感染しないので病原菌が死滅すればファージも死滅するという手間のかからない画期的な治療です.起炎菌はわかっているのに,薬剤耐性で抗菌薬が効かないという症例には極めて有効な治療になるのではと期待しています.私たちは現在MRSAや腸球菌特異的ファージなどが感染性眼内炎の治療に応用できないか,またファージそのものではなく,ファージが産生する溶菌酵素の眼感染症の治療への応用をめざして研究しています.趣味のMyboom:ウェアラブルカメラ趣味で今はまっているのが,ウェアラブルコンピュータのアイテムです.数年前にウェアラブルカメラを買ったのが最初ですが,これは文字通り身につけることにより,ハンズフリーの状態で迫力ある映像を撮影できるカメラで,アクションカムとかスポーツカムとも呼ばれます.このカメラはゴーグルやヘルメット,自転車やスノーボードやサーフボードなどに取りつけて撮影できる写真2水中から撮った沖縄の青の洞窟という面白さがあります.色々なメーカーから発売されていますが,私の持っている国内メーカーのカメラは,今では1万数千円で買えます.手のひらサイズととても小型ですが,防水・耐衝撃・防塵・耐低温などのタフな作りなので,私は家族で海やプールに遊びに行ったときに撮影しています.子供と一緒にウォタースライダーで滑ったとき,海でバナナボートに乗ったときや,シュノーケリングやダイビングなどで水中でも撮影できるので,今までとは違った迫力のある写真や動画を手軽に記録できるのでおすすめです.また最近,NikeFUELBANDという腕にはめただけで勝手に活動量を測定して,iPhoneやパソコンでデータを同期して管理できるアイテムを買って,運動不足解消のために役立てています.この次に狙っているのはスキーのゴーグルです.ゴーグルにヘッドアップディスプレイが内蔵されていて,GPSで自分や仲間の居る場所を追跡できたり,滑っている速度や傾斜度などが出たり,iPhoneなどとワイヤレスで接続が可能で音楽やメールにもアクセスできるというすごいゴーグルがあるので,それを使いたいがために,久しぶりにスキーに行こうかと思っています.次回のプレゼンターは広島の近間泰一郎先生(広島大学)です.山口大学のときに角膜の臨床・研究についてご指導いただいたとてもパワフルな先生です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.398あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(94)

現場発,病院と患者のためのシステム 26.院内の医療情報システムを担う人材

2014年3月31日 月曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*院内の医療情報システムを担う人材.必要な人材“パソコンに詳しい人”,一般的にはそうですが,より一定規模以上の企業では,情報システム部門があり,この部門が当該企業の経営をサポートするシステムの企画,開発,運用などの面倒をみます.一方,医療機関でそのような専任の部門を設けているところは少なく,眼科単科病院ではさらに少ないでしょう.しかし,規模の大小を問わず,院内には多種多様なシステムが入り込んでいます.システムを有効に使うために必要な人材とは,どのような人なのでしょう.重要なのは,現場に通じていて,業務全般を俯瞰できる人です.パソコンの操作,Excelなどの操作に詳しくても,その対象となる業務を知らなければ使いようがありません.また,その気になれば比較的容易に習得できる前者に対し,後者は時間を要します.例外処理,業務間の関連などの知識は,業務マニュアルがない場合が多く,あっても更新されずに陳腐化し,実態を踏まえていないことが多々あります.業務知識は,一般的に属人的で,「あの人に聞けばわかる」とされ,ノウハウの継承は人から人へ伝える徒弟的な場合が多いのが現状だと思われます.当院で開発中の院内業務総合電子化計画Hayabusaでも,業務の整理整頓作業で,糖尿関係はあの人,労災処理はこの人,のように,業務ノウハウが属人的であることがよくあります.担当業務を知り,複数業務間で授受される情報とタイミング,伝達方法につき,整理されていないと,パソコンなどIT知識があっても活かすことができません..資格紹介医療分野には,医師をはじめ,薬剤師,看護師,臨床検査技師など,国家試験に合格して付与される資格があります.もちろん,IT分野にも各種あり,経済産業省,文部科学省などが国家試験合格者に付与する資格と民間団体の資格とがあります.当初,国が認定する資格は通産省(当時)の2種,1種,特種と科学技術庁(当時)の技術士(情報工学)しかありませんでした.今では時代を反映し,専門分化した多種多様な資格があります.1.経済産業省,文部科学省ITパスポート/基本情報技術者/応用情報技術者/(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYITストラテジスト/システムアーキテクト/プロジェクトマネージャ/ネットワークスペシャリスト/データベーススペシャリスト/エンベデッドシステムスペシャリスト/情報セキュリティスペシャリスト/ITサービスマネージャ/システム監査技術者/技術士(情報工学部門).2.民間団体…医療系医療情報システム監査人/医療情報技師/診療情報管理士.どのような資格をもっている人が必要なのかですが,医療情報システムに限らず,情報システムを企画,開発,運用するには,資格をもっている必要はありません.資格はもっているものの,実務を知らないので何もできない有資格者もいます.逆に無資格でも抜群の実務能力をもっている技術者もいます.しかし,仕事をさせてみて,できるできないを判断するのではなく,事前にある程度の技量,知識経験を知っておきたいものです.その目安となるもの,それが資格であると理解して問題はないでしょう.では,どの資格をもっていれば多少は安心できるのでしょう.経産省の資格でいえば(私見ですが),応用情報技術者+その他の専門的な資格をもっている人物ではないかと思います..医療業務の知識システムを企画・構築するIT技術者をSE(エス*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014395 イー:system’sengineer)と呼んでいます.SEは,金融証券,製造業,流通業,サービス業,自治体など,各種ある業界業種のシステムを担当することで,その分野での業務知識を身につけます.銀行員よりも銀行業務に詳しいSEもいます.もちろん長年医療分野を担当しているSEは,医療業務に詳しくなります.詳しいとは?医療業界の専門用語,通称,省略語を理解し,医事会計,検査,診察,処置,薬剤,手術,病棟,給食などの業務内容と,業務間を流れる情報を把握していることです.そのうえで,作業をシステムに置き換えて効果のある部分を見極められる能力が必要です.理事長,院長などの経営陣,事務長,医師など,権限をもつ層と臆せず意見交換できるコミュニケーション力はじめ,基本リテラシも必要になります.いずれも,お仕着せのパッケージソフトを当てはめるだけの教育を受けたSEにはできないことです..役割分担どこまでやるかにもよりますが,教育したり,採用しても,すべてを病院スタッフでまかなうことは,不可能に近いでしょう.また,SIer(システム開発会社)に丸投げも禁物です.複雑な病院業務全般の理解をSEに期待しても無理ですし,ヒアリングされる病院側も疲れます.複雑な業務の流れすべてを,快刀乱麻のようにBPRをすることは,チャレンジングではあるものの現実的ではありません.餅は餅屋をわきまえ,しかし頼り切りにせず,できるだけ守備範囲を広げることが良いシステムを装備できる条件になります.業務知識実現するための技術医事会計受付入退院給食検査手術薬剤診察勤務緊急対応ソフトウェア(OS,データベース,言語etc)ハードウェア(サーバ,パソコン,タブレットetc)信頼性(品質,性能,BCPetc)監査治験処置カバーする範囲Sler(SE)…深く入り組んだ業務知識を理解するには無理がある結果的に,この範囲が疎かにSler(SE)知識の深さ(餅は餅屋+a)な役割分担意思疎通病院(スタッフ)Sler(SE)図1病院とSIerの役割分担当院のHayabusaプロジェクトでは,病院スタッフを教育して仕様を作れるようにしました.しかし,もの作りは,プロであるSIerに頼みました.“生兵法はケガの元”になる怖れがあるからです.ただし,専門が異なる双方で,円滑な意思疎通をするために必要な教育は行いました.その結果,病院スタッフとは思えない議論ができるようになっています(図2).図2病院側とSIerとの仕様レビュー,プロジェクトメンバによるテスト.アウトソーシングとインソーシング当院では役割分担を考え,図3に示すように仕様作成までをインソーシング,もの作りをアウトソーシングにしました.病院の規模,経営方針にもよりますが,一般的な方針決定のプロセスを図3に示します.プロジェクト※経営方針に依存.No内部でやる※人材が集まる首都圏か,捜しにくいYes地方かでも事情が異なる.技術的,経験的YesにできるかNoスタッフ養成養成する教育体制設備養成しない(できない)・内容・時間+費用・期間・指導者etc・指導方法中途採用・評価方法etc採用できたできないアウトソーシングインソーシング図3アウトソーシングかインソーシングか396あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(92)

ブックレビュー:坪田一男著 『ブルーライト 体内時計への脅威』

2014年3月31日 月曜日

ブックレビューブックレビュー■坪田一男著『ブルーライト体内時計への脅威』(新書判・並製,本文194頁,定価720円+税),ISBN978-4-08-720716-3/C0247,集英社新書)ブルーライトと聞くと,眼科医としてはブルーライトハザードという言葉をまず思い浮かべるのではないでしょうか?可視光線のうち,青領域(広く紫も含む)は波長が短くエネルギーが高いので,加齢黄斑変性の発症に関与するのではないかと考えられています.皮膚には光老化という考え方がありますが(シミやシワですね),どうやら眼にもありそうです.そして,坪田先生といえば眼科学を超えて抗加齢医学(アンチエイジング)をライフワークにしているユニークな先生です.多くの眼疾患もアンチエイジングの視点から眺めてみると本質が見えてきて,ぼくもとても興味のある領域です.しかしながら,この本で扱っている内容は,はるかに壮大です.生命の進化や光の定義,発光の原理,さらに時計遺伝子の生物学まで,本書を理解するうえで必要となる幅広い知識を余すところなく,しかも,大変わかりやすく説明しています.そして,ブルーライトのみをキャッチする特殊な網膜節細胞によって我々の体内時計が調節されている,という大発見をもとに多くの健康にまつわる話を展開しています.え,でも体内時計っていったって眠気に関係するだけでしょ?と思っていませんか?いやいや,体内時計は血圧,血糖,脂質代謝など生命活動の根幹に密接にリンクしていて,ということは,糖尿病などの生活習慣病に深く関係があるのです.さらに驚くことに,癌や骨粗鬆症,認知症そして自殺にまで関係あることが多くの基礎データ,臨床データから科学的に解説されています.ブルーライトを制する者アンチエイジングを制す,といったところでしょうか.さて,ブルーライトを夜に浴びるとサーカディアンリズムが崩れて健康被害のもとになるのなら,見なければいいでしょ,と思いますよね.ところが,我々の身の回りにある白色LED照明もLED液晶ディスプレイも,なんとブルーライトで作られているのです.そして,世界的なエネルギー不足から発光効率のいいLEDは至るところで重宝されていますので,ブルーライトを浴びないわけにはいかないのです.夜の明るさは豊かさの象徴でもあり,我々は夜も活動できることで文明を謳歌しているわけです.そして,強調すべきは,ブルーライトは体内時計のコントロールのために日中は太陽光からきちんと浴びるべきなのです.この点で,ブルーライトは諸刃の剣といえましょう.我々が豊かで健康な生活を享受するうえで,ブルーライトとのうまい付き合い方を知っておく必要があることを痛感させられる科学読本でした.(北海道大学大学院医学研究科眼科学分野・教授石田晋)☆☆☆394あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(0(90)0)0)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY

WOC2014への道

2014年3月31日 月曜日

さあ,いよいよWOC2014がやってきます.世界中から,数千人の眼科医が東京にやってきます.基礎研究から臨床まで,検査から治療まで,薬物治療から手術まで,疫学から再生医療まで,人材育成から医政まで,眼科に関するあらゆるトピックスが5日間にわたって議論されます.こんな大きな学会が日本にやってくることは,数十年に1回しかありません.皆さん,大いに盛り上げてください!専門医制度の単位も6単位×5日分用意しています.さて,WOC2014の見どころをご紹介します.学術プログラムは非常に多岐にわたります.4月2日(水)に行われるWOCSubspecialtyDayでは,世界のエキスパートが,その分野の現在のトピックスを余すところなく解説してくれます.一日その会場にいれば世界の最先端の話題を広く理解することができます.国際学会では,SubspecialtyDayが本体の学会より人気が高いことも少なくありません.会期を通して行われるWOCシンポジウムでは,世界の一流の研究者・臨床家に混じって,多くの日本の先生方が登壇されます.日本眼科学会が発信するWOCシンポジウムも会期中を通していくつか行われます.ぜひ,応援に駆けつけてください.日眼総会としてのプログラムも,いつものように用意しています.特別講演,評議員会指名講演,シンポジウム,教育セミナー,スキルトランスファー,サブスペシャリティ・サンデーなどは通例の構成で,日本語で行われます.そのほかのイベントです.まず,オープニングセレモニーが4月2日(水)の夕方からホールAで行われます(写真).1978年に京都で行われた国際眼科学会では,当時の皇太子同妃両殿下(現在の天皇皇后両陛下)を開会式にお迎えしましたが,今回も皇室よりのご臨席を賜る予定となっています.社交行事委員会が全力を傾けて準備した式典は必見です.日本の眼科が世界に果たしてきた貢献から,未来の眼科医療まで,日本ならではの最新映像をご覧いただきます.セキュリティの関係で入り口は時間前に閉められます.ぜひ,早めのご入場をお願いいたします.ジャパンナイトと銘打った懇親会が4月4日(金)夜,東京ビックサイトで行われます.日本の祭をイメージした楽しい催し物で,3,000名の参加者を見込んだ非常に大規模なものです.有料でのご案内となりますが,その価値は十分にあります.WOC2014ウェブサイトでのチケット購入をお願いいたします.我々は今,準備作業のラストスパートに入っています.WOCの日本招致にご尽力された田野保雄先生は誠に残念なことに急逝されてしまいましたが,日本眼科学会は準備委員会,組織委員会,各種委員会を設け,7年間にわたって全力で開催準備を行ってきました.日本眼科医会,スポンサー企業,関係団体の皆様にも多大なご協力をいただきました.満開の綺麗な桜の中,WOC2014が大成功裡に終わるよう,皆さん一緒に祈ってください.WOC2014への道あとカ月大鹿哲郎WOC2014会長写真オープニングセレモニーのイメージ図4月2日(水)の夕方にホールAで行われます.社交行事委員会が全力で準備した必見の式典です.ぜひご参加ください.終了後にレセプション(懇親会)が行われます.0さあ,いよいよWOC2014がやってきます.世界中から,数千人の眼科医が東京にやってきます.基礎研究から臨床まで,検査から治療まで,薬物治療から手術まで,疫学から再生医療まで,人材育成から医政まで,眼科に関するあらゆるトピックスが5日間にわたって議論されます.こんな大きな学会が日本にやってくることは,数十年に1回しかありません.皆さん,大いに盛り上げてください!専門医制度の単位も6単位×5日分用意しています.さて,WOC2014の見どころをご紹介します.学術プログラムは非常に多岐にわたります.4月2日(水)に行われるWOCSubspecialtyDayでは,世界のエキスパートが,その分野の現在のトピックスを余すところなく解説してくれます.一日その会場にいれば世界の最先端の話題を広く理解することができます.国際学会では,SubspecialtyDayが本体の学会より人気が高いことも少なくありません.会期を通して行われるWOCシンポジウムでは,世界の一流の研究者・臨床家に混じって,多くの日本の先生方が登壇されます.日本眼科学会が発信するWOCシンポジウムも会期中を通していくつか行われます.ぜひ,応援に駆けつけてください.日眼総会としてのプログラムも,いつものように用意しています.特別講演,評議員会指名講演,シンポジウム,教育セミナー,スキルトランスファー,サブスペシャリティ・サンデーなどは通例の構成で,日本語で行われます.そのほかのイベントです.まず,オープニングセレモニーが4月2日(水)の夕方からホールAで行われます(写真).1978年に京都で行われた国際眼科学会では,当時の皇太子同妃両殿下(現在の天皇皇后両陛下)を開会式にお迎えしましたが,今回も皇室よりのご臨席を賜る予定となっています.社交行事委員会が全力を傾けて準備した式典は必見です.日本の眼科が世界に果たしてきた貢献から,未来の眼科医療まで,日本ならではの最新映像をご覧いただきます.セキュリティの関係で入り口は時間前に閉められます.ぜひ,早めのご入場をお願いいたします.ジャパンナイトと銘打った懇親会が4月4日(金)夜,東京ビックサイトで行われます.日本の祭をイメージした楽しい催し物で,3,000名の参加者を見込んだ非常に大規模なものです.有料でのご案内となりますが,その価値は十分にあります.WOC2014ウェブサイトでのチケット購入をお願いいたします.我々は今,準備作業のラストスパートに入っています.WOCの日本招致にご尽力された田野保雄先生は誠に残念なことに急逝されてしまいましたが,日本眼科学会は準備委員会,組織委員会,各種委員会を設け,7年間にわたって全力で開催準備を行ってきました.日本眼科医会,スポンサー企業,関係団体の皆様にも多大なご協力をいただきました.満開の綺麗な桜の中,WOC2014が大成功裡に終わるよう,皆さん一緒に祈ってください.WOC2014への道あとカ月大鹿哲郎WOC2014会長写真オープニングセレモニーのイメージ図4月2日(水)の夕方にホールAで行われます.社交行事委員会が全力で準備した必見の式典です.ぜひご参加ください.終了後にレセプション(懇親会)が行われます.0(89)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143930910-1810/14/\100/頁/JCOPY

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 15. Jin Kinoshita先生とNEIでの思い出

2014年3月31日 月曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑮責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ⑮責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生とNEIでの思い出藤木慶子(KeikoFujiki)順天堂大学医学部眼科非常勤講師1957年熊本大学理学部卒,同生物学科助手.1975年広島大学にて理学博士の学位取得.同年熊本大学理学部講師.1977年順天堂大学医学部眼科協力研究員.1987~1988年NIH(NationalInstituteofHealth),NEI(NationalEyeInstitute)留学.1990年より順天堂大学医学部非常勤講師,現在に至る.私がNEIに留学させていただくことになりましたのは,順天堂大学の中島章教授(現,名誉教授)の強いご意向で,うちの研究室で分子生物学の研究ができるようにしたいというのがきっかけでありました.当時,すでに当教室の堀田喜裕先生(現浜松医科大学教授)がNEIのMolecularPathologySectionのGeorgeInana先生の所(Inanaラボ)に留学されており,帰国されたらすぐに研究が始められるように整えておきたいとのお考えであったと思います.そのような訳で私もInanaラボに留学させていただくこととなりました.初めてJinH.Kinoshita先生(Jin先生)にお目にかかったのはInanaラボにお世話になってほどなく,Jin先生がラボに訪ねてみえたときでした.当時,廊下を挟んだ前の実験室には,本特集の責任編集者としてお世話下さっている浜松医科大学の堀田教授とシリーズ①の筆者,京都府立医科大学の矢部千尋教授が留学しておられました.このお二人をお訪ねになったあと,私にも優しく声をかけてくださいました.その後もたびたびお出でになり,私に話しかけてくださるときは必ずなにか困っていることはないか,仕事は順調に進んでいるか,生活費は足りているかと尋ねてくださいました.私は大変緊張して口頭試問でも受けているようでしたが,なにかしら心安らぐものを感じたものでした.私にとって憧れのNIHはすべてが新鮮でした.この時代は今のようなKitなどはなく,bufferなど全部手作りでした.Inana先生,堀田先生にはもちろんのこと,ラボのメンバーに丁寧に教えていただきました.私はInanaラボのみならずNEIにある機器の一つひとつ,bufferの処方,実験の手法などを細かく実験ノートに記録し,帰国してからのsettingに備えました.写真1と2は毎日通った思い出のNEIの建物と私が日々過ごした実験室です.ラボからの帰りはNEIの建物の近くにあるバス停(NIHの中には5,6個所のバス停があったと思います)の芝生の上に座って,脱兎のごとく飛ばし写真1毎日通った思い出のNEIの建物写真2Inanaラボの実験室にて(筆者)(87)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143910910-1810/14/\100/頁/JCOPY 写真3帰国される広瀬先生と小松先生の送別会に集まったNEIのメンバーてくるバスを待っていたものでした.時にはNIHに留学しておられる日本人の方が拾ってくださり,寄宿していた家まで送ってくださったこともありました.私がお世話になっていた頃は日本人の研究者が最も多かった時代で,本特集のシリーズ③の筆者であられる沖坂重邦先生(防衛医科大学校名誉教授)によりますと,一番多かった1980~1989年には25名であったと記るされております.写真3は北海道大学と弘前大学から来ておられたお二人の先生が帰国されるときの送別会に集まった日本人研究者の方々です.これを見ましてもいかに多くの日本人研究者がNEIに留学の機会を与えていただいたかがわかります.これもひとえに日米眼科研究協力にJin先生の大きなお力添えがあったればこそ実現したことと思っています.私がラボでやらせていただいたことは,Inanaラボに送られてくる網膜変性疾患の方々の血液からDNAを抽出して,gyrateatrophyの原因遺伝子であるornithineaminotransferaseのcDNAをprobeにしたSouthern●★blot解析でした.その結果をARVO(TheAssociationforReserchinVisionandOphthalmology)で発表させていただけたことはその後の研究生活の大きな励みとなり,ARVOに出席することが一つの目標にすらなりました.6カ月の予定が,10カ月になり,帰国してからは順天堂大学の眼科研究室の片隅にmolecularbiologyのミニラボを作りました.当時,順天堂大学には共同機器室があり,ここに高価な機器を揃えて共同で使う制度で,今も生体分子研究部門として存在しております.当時,各種の遠心機から超遠心機まで,さらにはオリゴの合成機まで揃っておりました.現在は眼科の研究室にもありますが,共同細菌室(現,細胞機能研究部門)にはプラスミドを増やすシェーカー,培養器,クリーンベンチ,オートクレーブなどが揃っておりましたので,ラボを作ったというほど大げさなものではありませんが,必要な機器や薬品を一つひとつ増やして行くのが大きな喜びでした.私にとってNEIで学んだことは以後の研究生活の大きな糧となり,研究分野も集団遺伝学から分子遺伝学へと大きく飛躍させていただきました.このような貴重な機会を与えて下さった中島先生,Jin先生,Inana先生に深く感謝致しております.とくにJin先生から優しくお言葉をかけていただいたことは生涯忘れられない想い出です.Jin先生のご逝去を知ったのは先生がお亡くなりになってからだいぶあとのことでしたが,本当に寂しく思いました.このたび,「あたらしい眼科」誌,新シリーズ企画でJin先生にお礼を申し上げる機会を与えていただきましたことに深く感謝しております.最後にJin先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます.●★392あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(88)

タブレット型PCの眼科領域での応用 22.さまざまな障害児童におけるタブレット型PCの活用①

2014年3月31日 月曜日

タブレット型PCの眼科領域での応用タブレット型PCの眼科領域での応用シリーズ三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第22章さまざまな障害児童におけるタブレット型PCの活用①■はじめに第22章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や東京大学先端科学技術研究センターにおいて,さまざまな障害をもつ児童とのコミュニケーションに活用しているタブレット型PC“iPadAir”と“iPhone5s”(いずれも米国AppleInc)のiOSバージョン7.0.6です.この章では学習障害や発達障害をもつ児童の現状について紹介させていただきます.■読み書き障害(ディスレクシア)とはディスレクシア(Dyslexia)は,1884年にドイツの眼科医RudolfBerlinにより報告され,命名された学習障害の疾患概念です.「学習障害とは,基本的には全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する,または推論する能力のうち,特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態をさすもの図1DO.ITの年次レポートDO-ITJapanのWebページでは過去の活動レポートを閲覧・ダウンロードすることができる(http://doit-japan.org/doit/index.php/).であり,その原因として中枢神経系になんらかの機能障害があると推定されるが,視覚障害,聴覚障害,知的障害,情緒障害などの障害や,環境的な要因が直接の原因となるものではない」と定義されています.現在,私の所属する東京大学先端科学技術研究センターでは,「DO-ITプロジェクト」などで,学習障害やアスペルガー症候群,注意欠陥・多動性障害などに代表される発達障害を含むさまざまな障害をもつ児童とのコミュニケーションに,タブレット型PCやスマートフォンを活用することが試みられています(図1).私はこれまで視覚障害の分野でのタブレット型PCやスマートフォン活用の意義を紹介してきましたが,同プロジェクトに代表されるように,デジタル機器を活用することでコミュケーション障害や情報へのアクセス障害をもつ人々の生活を改善しようという試みが始まっていて,私自身も眼科医としてこれらプロジェクトに参加することで,さらなる活用の可能性を発見できると確信しています.■眼科医として学習障害・発達障害に向きあう眼科医の私にはこれらの障害はあまりなじみがなく,プロジェクトに参加する以前は,これらの障害を外来で意識したことはあまりありませんでした.しかし,これ(85)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143890910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図2病院の電子式視力検査器対象となる指標がわかりやすい.らの障害をもつ児童らの言葉に耳を傾けることで,眼科医にとってもとても興味深い障害であることに気づかされました.ある発達障害をもつ児童の言葉につぎのようなものがありました.「周りの音がうるさくて,先生が何を言っているか聞きとれない」発達障害をもつ児童の一部には,高周波数の音が過剰に大きく聞こえるなどの聴覚過敏の症状のある児童がいます.そのような場合は,高周波数の雑音を軽減するノイズキャンセル機能のあるヘッドフォンを使用することで,聴覚過敏による障害が軽減され,快適に授業に参加することが可能になります.聴覚過敏によって,授業についていくことが困難になる児童が存在するのです.また,臨床の現場で,学校と病院での視力検査の結果に大きな乖離を認める児童に遭遇することがあります.これまでは眼科疾患や視機能の異常の有無のみを精査して,眼科的な異常所見が認められなかった場合は,集中力や小児特有の精神的な問題として経過観察をしてしまう傾向がありました.実際に学校と病院での視力検査に乖離を認めた児童の言葉には以下のようなものがありました.「学校では壁に張られた紙の視力表を使った視力検査なので,先生が指さす先がどこを意味しているのか理解できない.病院の視力検査では,視力表の電子ボードが390あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014光るので,どこを見ればいいかすぐに理解できるから,答えることができる」これは,物の配置や位置関係の把握にかかわる空間認識能力が低く,先生の指さしている場所を正確に把握することが困難なために,実際よりも低い視力と評価されていることがわかりました(図2).小学校の視力検査で「異常」となり,眼科の医療機関を受診したものの,視機能に異常はないとされ,そのまま放置される児童が多くいますが,空間認識能力の低下や聴覚過敏を有するために「視力異常」となる児童も存在することを実感しました.これらの児童が最初に受診する機関が眼科であることは,われわれ眼科医にとって非常に重要な意味をもっています.また,読み書き障害の児童の言葉には以下のようなものがあります.「文字を見ていると,文字の順番が入れ替わってしまったり,鏡文字に見えてしまったりして,想像しながら内容を理解するのでとても疲れます」視機能の低下を伴わない読字障害のメカニズムは未だ不明な点も多いのですが,彼の言葉からもわかるように,視機能に異常を伴わなくても,社会生活において情報へのアクセス障害をもつ人々は確実に存在しています.局所的ロービジョンともいえるこれらの疾患の存在を認識することは,デジタルデバイスでロービジョンケアを推奨する私にとって必須であると強く実感しています.聴覚過敏や空間認識能力の低下に伴う視力検査への影響は,とくに視力低下を主訴とする児童や,学校と医療機関での視機能に乖離を認める児童を扱う際には,意識すべきであると私は感じています.一人でも多くの眼科医が,読み書き障害や発達障害の存在を意識することが,小児における局所的ロービジョンケアの入り口として,とても重要であると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(86)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 130.Nd:YAGレーザーによる外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2014年3月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載130130Nd:YAGレーザーによる外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●Nd:YAGレーザーによる外傷性黄斑円孔の特徴Nd:YAGレーザーによる黄斑外傷は過去に数多くの報告があり,工学部や企業の研究室などで発生することが多い.大半は保護用眼鏡を装用せずに誤ってレーザーの反射光が眼内に照射されることで生じる.受傷直後は網膜に出血や浮腫が生じるが,黄斑部の傷害が大きいと外傷性黄斑円孔に進行することがある.●症例提示自験例を提示する.症例は30歳,女性.微粒子粉の研究のための実験中に工業用のNd:YAGレーザーの反射光を左眼に受け,直後より視力低下と中心暗点を自覚し近医受診.翌日当科紹介受診となった.左眼視力は0.09(0.3).硝子体出血のため眼底の透見性がやや不良であったが,黄斑出血とその周囲の網膜浮腫を認めた(図1).この時点のOCTでは網膜内出血と浮腫を認めたが,黄斑円孔は生じていなかった.しかし,初診10日後には約1/3乳頭径大の全層性黄斑円孔となった(図2a,b)ため,硝子体手術を施行した.若年のため後部硝子体.離作製はやや困難であったが,トリアムシノロンで硝子体を可視化し,後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.その後,黄斑円孔周囲の内境界膜を.離し,バックフラッシュニードルで黄斑円孔縁の網膜を求心的に牽引して(図3),眼内液空気同時置換術を行った.術後円孔は閉鎖したが,徐々に瘢痕化し,視力は0.05(0.2)に留まった(図4).●特発性黄斑円孔との違い通常の特発性黄斑円孔との相違点は,1)比較的若年者に生じることが多いので,人工的後部硝子体.離がやや難しい,2)網膜出血や浮腫を伴うことが多い,3)円孔縁がやや不規則,4)網膜組織だけでなく色素上皮も傷害されていることが多く,病巣が瘢痕化しやすいため(83)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1受傷直後の左眼眼底写真軽度の硝子体出血に加えて黄斑出血とその周囲の網膜浮腫を認めた.図2受傷10日後の左眼眼底写真(a)とOCT(b)約1/3乳頭径大の全層性黄斑円孔を認めた.OCTでは色素上皮の傷害も認めた.図3硝子体手術中の所見黄斑円孔縁の網膜の伸展性はやや低下しており,バックフラッシュニードルで黄斑円孔縁の網膜を求心的に牽引した.図4術後の眼底黄斑円孔は閉鎖したが,徐々に瘢痕化し,視力は(0.2)に留まった.ab視力改善度はあまり良くない,などの特徴がある.防止には保護眼鏡を義務づけることがなにより重要である.あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014387

眼科医のための先端医療 159.網膜細胞分化におけるエピジェネティック機構とmicroRNAの役割

2014年3月31日 月曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第159回◆眼科医のための先端医療山下英俊網膜細胞分化におけるエピジェ網膜細胞の分化脊椎動物の神経網膜は7種類の細胞から構成され層構ネティック機構とmicroRNA造を形成していますが,これらの多様な細胞は,網膜発の役割生過程において,胎生期に存在する同じ多能性網膜前駆臼井亜由美細胞が,内因性因子(転写因子など)や外因性因子(増(順天堂大学医学部附属浦安病院・眼科)殖因子など)の制御により,その分化能を変化させながら発生時期特異的に分化してきます1).マウス網膜では,胎生期12日頃から細胞の分化が始まり,次第に層構造を形成して,生後14日頃に成熟した網膜が完成します.初めに神経節細胞が分化し,つぎに錐体,アマクリン細古くから網膜は,中枢神経発生の基礎研究において良胞,水平細胞がほぼ同時期に発生し,発生後期にかけていモデル系として広く用いられてきましたが,そのメカ桿体,双極細胞,最後にミュラーグリア細胞が分化発生ニズムを解明することは,先端医療として世界中で研究するという順序をとります.これまでの研究により,が進められている網膜再生医療において,重要な研究課WntやNotchなどシグナル伝達経路,細胞特異的な転題です.とくに近年の研究により,エピジェネティック写因子の組み合わせによって,この時期特異的な細胞の機構やmicroRNA(miRNA)が網膜細胞分化に重要な役運命決定がなされることが知られていますが,近年の研割を果たしていることが解明されてきています.本稿で究により,この時期特異的,細胞特異的な遺伝子発現がはその一端を紹介したいと思います.エピジェネティック機構やmiRNAによって制御されてはじめにいることが明らかとなってきました(図1).Let-7miRNAの発現DicermiR-9miR-125などクロマチンリモデリングBrg1Brmヒストンの脱アセチル化HDAC1シグナル伝達経路WntNotch分化能の変化網膜前駆細胞Math5Pax6など神経節細胞Math3Ptf1Six3Prox1など早期分化型水平細胞網膜細胞NeuroDMash1CrxOtx2Sox11など錐体細胞NeuroDMath3Ptf1Pax6Six3などアマクリン細胞NeuroDMash1CrxOtx2など桿体体細胞Mash1Math3Chx10など後期分化型双極細胞網膜細胞Hes1Hes5Hesr2RaxなどミュラーグリアE11E14E17出生P3P6P9P12マウス網膜発生過程図1脊椎動物(マウス)の網膜発生過程における経時的網膜細胞分化(79)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143830910-1810/14/\100/頁/JCOPY エピジェネティック機構と網膜発生エピジェネティック機構と網膜発生エピジェネティック機構とは,DNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現制御を行う機構ですが,DNAメチル化,クロマチン構造変換,ヒストン修飾(アセチル化,脱アセチル化,メチル化,リン酸化など)といった3つの互いに相関した機構が,クロマチン動態を介してエピジェネティクスを制御しています.ヒストンの脱アセチル化はヒストンへのDNAの巻き付きを強めて,おもに遺伝子発現を抑制するエピジェネティック遺伝子制御機構ですが,ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)が抑制された状態では網膜細胞の分化が阻害されることから2),ヒストンの脱アセチル化は,網膜細胞の分化において重要なファクターを担っていることがわかっています.さらに網膜発生過程で多くの転写因子のヒストン修飾が変化することで,網膜細胞分化に必要な遺伝子の活性化が起こっています3,4).また,クロマチンリモデリング複合体はATP依存的にヌクレオソームの構造を変化させ,DNA二重鎖へのDNA結合蛋白質の集積を制御することにより,DNAの転写,複製,修復など,細胞生存に必須な活動を統御するエピジェネティック遺伝子制御機構ですが,なかでもSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体を形成する蛋白質をコードする遺伝子群は,網膜細胞の分化に重要な役割をもつことが報告されています.SWI/SNF複合体は,触媒サブユニットとしてBrmまたはBrg1のいずれか一方を1分子ずつもつことが知られていますが,Brmは網膜前駆細胞の未分化性を維持するNotchシグナルを5),Brg1は,神経発生に重要なMAPキナーゼに作用して網膜細胞分化に関与することなどが報告されています6).microRNAと網膜発生miRNAは長さ20塩基ほどの蛋白質へ翻訳されない一本鎖non-cordingRNAです.さまざまな生物種において,遺伝子発現の抑制に働くことで多様な生命現象を制御していることが知られています.miRNAは,まず核内でゲノムから転写されたprimarymiRNA(primiRNA)から,Drosha-DGCR8複合体によってprecursormiRNA(pre-miRNA)が切り出されます.PremiRNAは核外に輸送されたのち,Dicerによって切断され,一本鎖化された成熟miRNAが標的mRNAに結384あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014合することによって,標的遺伝子の発現を転写後レベルで抑制します.これまでに網膜特異的Dicer欠損マウスが,網膜前駆細胞の分化能の変化により,早期分化型の網膜細胞が過剰に産生され,後期分化型の網膜細胞の産生が抑制されるなどの分化異常を示し7),網膜前駆細胞のアポトーシスが亢進することで小眼球をきたす表現型を呈したことから,miRNAの発現が適切な網膜細胞分化と網膜前駆細胞の生存に必須であることが示されました8).近年,個々のmiRNAにおいても,let-7,miR-9,miR1259),miR-129,miR-155,miR-214,miR-22210)などが網膜細胞分化に重要であり,miR-24a11),miR-124a12)などが網膜細胞の生存に重要であることなどが解明されてきています.おわりにこれまで発生学研究では,転写因子やシグナル伝達経路に注目して研究が展開されていました.近年は,このようにエピジェネティック機構や機能性RNAなどが新たな役者として注目を集め,従来のメカニズムとの関係性が明らかにされつつありますが,未知なる部分が多いのが現状です.網膜再生医療がまさに臨床応用されようとしている現在,人体における網膜発生過程のこれらのメカニズムを解明することは,再生医療の有用性や安全性を考えるうえでも急務であると考えられます.文献1)LiveseyFJ,CepkoCL:Vertebrateneuralcell-fatedetermination:Lessonsfromtheretina.NatRevNeurosci2:109-118,20012)YamaguchiM,Tonou-FujimoriN,KomoriAetal:Histonedeacetylase1regulatesretinalneurogenesisinzebrafishbysuppressingWntandNotchsignalingpathways.Development132:3027-3043,20053)UsuiA,MochizukiY,IidaAetal:TheearlyretinalprogenitorexpressedgeneSox11regulatesthetimingofthedifferentiationofretinalcells.Development140:740-750,20134)UsuiA,IwagawaT,MochizukiYetal:ExpressionofSox4andSox11isregulatedbymultiplemechanismsduringretinaldevelopment.FEBSLett14:358-363,20135)DasAV,JamesJ,BhattacharyaSetal:SWI/SNFchromatinremodelingATPaseBrmregulatesthedifferentiationofearlyretinalstemcells/progenitorsbyinfluencingBrn3bexpressionandNotchsignaling.JBiolChem282:35187-35201,20076)GreggRG,WillerGB,FadoolJMetal:Positionalcloning(80) oftheyoungmutationidentifiesanessentialrolefortheBrahmachromatinremodelingcomplexinmediatingretinalcelldifferentiation.ProcNatlAcadSci27:6535-6540,20037)GeorgiSA,RehTA:Dicerisrequiredforthetransitionfromearlytolateprogenitorstateinthedevelopingmouseretina.JNeurosci30:4048-4061,20108)IidaA,ShinoeT,BabaYetal:Dicerplaysessentialrolesforretinaldevelopmentbyregulationofsurvivalanddifferentiation.InvestOphthalmolVisSci52:3008-3017,20119)LaTorreA,LaGeorgiS,Reh,TA:ConservedmicroRNApathwayregulatesdevelopmentaltimingofretinalneurogenesis.ProcNatlAcadSci110:2362-2370,201310)DecembriniS,BressanD,VignaliRetal:MicroRNAscouplecellfateanddevelopmentaltiminginretina.ProcNatlAcadSci106:21179-21184,200911)WalkerJC,HarlandRM:microRNA-24aisrequiredtorepressapoptosisinthedevelopingneuralretina.GenesDev23:1046-1051,200912)SanukiR,OnishiA,KoikeCetal:miR-124aisrequiredforhippocampalaxogenesisandretinalconesurvivalthroughLhx2suppression.NatNeurosci14:1125-1134,2011■「網膜細胞分化におけるエピジェネティック機構とmicroRNAの役割」を読んで■今回,臼井先生に網膜発生におけるエピジェネティすいことになりますが,これは加齢黄斑変性患者にはクス機構の重要性を解説していただきました.このIL17RC陽性の単球が増加しているという過去の報告コーナーを担当させていただいて久しくなりますが,をうまく説明できます.また,別の研究では,加齢黄研究の意義について,これほどわかりやすく,かつ明斑変性患者の網膜色素上皮において,抗酸化作用をも確に執筆していただいたことはあまり記憶にありませつGlutathioneStransferasesのプロモーター領域にん.私が付け加えることはないので,エピジェネティ強いメチル化がしばしばみられると報告されました.クス機構と一般疾患について,少し解説いたします.これは逆に活性酸素毒性を減弱させる作用が不足する加齢黄斑変性の発症過程には,DNA変異が重要なことになるので,加齢黄斑変性が起こりやすいことと役割を果たしていることが広く知られていますが,エ矛盾しません.ピジェネティクス機構も関与していることが証明されかつてはDNA研究こそが病態解明の本質と思われつつあります.たとえば,遺伝子がまったく同一であていましたが,現在はエピジェネティクス機構の解明る一卵性双生児ペアのうちで,一方だけが加齢黄斑変も同じように重要な研究領域とされています.臼井先性に罹患したペアについて調べると,加齢黄斑変性に生をはじめとした若い研究者が,この未知の領域を開罹患したグループにはIL-17RCやIL-17Aの受容体拓してくれることを大いに期待しています.のプロモーター領域のメチル化が少ないことが報告さ鹿児島大学眼科坂本泰二れました.つまり,Th17炎症反応が過剰に起こりや☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014385

新しい治療と検査シリーズ 215.ストリップメニスコメトリー(Strip Menisucometry)

2014年3月31日 月曜日

新しい治療と検査シリーズ215.ストリップメニスコメトリー(StripMeniscometry)プレゼンテーション:村戸ドール慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:山口昌彦愛媛大学大学院医学系研究科眼科学.バックグラウンド涙液貯留量の評価は,眼表面涙液量を評価する点で有用であり,その検査値はドライアイにおける上皮障害の病態を理解するうえで重要なパラメーターとなりうる.流涙メニスカス(tearmeniscus)に眼表面に存在している涙液量の7~9割が貯留していると報告されており,涙液貯留量とテストの間に相関性があるといわれている.Schirmerテストは未だに涙液量の測定法としてゴールデンスタンダードとされているが,再現性に乏しいことや痛みに伴って涙の反射性分泌を起こす欠点がある.横井らは,メニスコメトリーを用いての涙液メニスカスの測定が,ドライアイのスクリーニングにもっとも有用であることをすでに報告している..新しいドライアイ検査法筆者らは,涙液メニスカスにおける涙液貯留量の新測定法としてストリップメニスコメトリー(stripmeniscometry:SM)を開発した.具体的にSMは,おもにニトロセルロース,レーヨン,アセテート,親水性ポリエテルスルホンよりからなる細長い吸収材を含んでおり,吸収部材中央の長さ方向にわたってプレス加工により溝が施されている.また,SMに吸収される涙液が横に広がらず上にギュッとあがるように真ん中の溝の両側仕様:おもに,親水性ポリエテールスルホン(低蛋白吸着性)レーヨン,アセテート,ニトロセルロースサイズ:幅:3mm長さ:45mmプレス溝プレス溝の幅:0.5mmプレス溝の深さ:~100μmメンブランのボアーサイズ:8μmメンブランマスキング5mm天然青色1号涙液図1ストリップの構造,寸法および実物(75)あたらしい眼科Vol.31,No.3,20143790910-1810/14/\100/頁/JCOPY ab図2SM検査の様子a:ストリップを結膜に触れさせないで軽く流涙メニスカス内に浸す.b:5秒後の試験の様子.涙液がストリップの真ん中の溝に吸収されている.検査の値は5.5mmである.ab図2SM検査の様子a:ストリップを結膜に触れさせないで軽く流涙メニスカス内に浸す.b:5秒後の試験の様子.涙液がストリップの真ん中の溝に吸収されている.検査の値は5.5mmである.に防水性のマスキングフィルムが設けられており,検査の値を正確に測定するため,先端部からある距離をおいて天然青色1号がつけられている.図1にストリップの寸法および実物を示す.SM検査ではストリップを下眼瞼耳則より眼表面に当たらない程度で軽く5秒間,流涙メニスカスの中に入れ,涙液に触れさせ,ストリップに吸収される涙液の高さを検査の値とした(図2)..検査の実際筆者らは,本検査法をさまざまな臨床試験を通じて試した.日本ドライアイ研究会「ドライアイ診断基準」にてドライアイと確定診断された50例100眼(男性:19人,女性:31人;平均年齢:54.3歳)と全身疾患ならびに眼疾患を認めない正常人40例80眼(男性:12人,女性:28人;平均年齢:50.8歳)を対象とした.これ380あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014表1SM検査と涙液機能検査・生体染色検査を併用した場合の感受性と特異度併用検査感受性(%)特異度(%)SM83.358.1SM+Schirmer38.3100SM+BUT80.599SM+F65.5100SM+RB48.0100SM:ストリップメニスコメトリー.BUT:涙液層破壊時間.F:フルオレセイン染色.RB:ローズベンガル染色.ら症例に涙液機能検査としてDR-1による涙液油層干渉像の観察,SM検査,涙液層破壊時間検査(BUT),Schirmerテスト第1法,眼表面検査としてフルオレセイン染色およびローズベンガル染色を施行した.また,涙点プラグ挿入術を行った17眼において,プラグ挿入2週目の時点で上述した涙液機能検査ならびに眼表面検査を施行した.また,追加検討項目としてSMを他のドライアイ検査と併用した場合の検査の感受性と特異度を調べた.SMの平均値の比較は,正常人では5.5±1.3mmに対し,ドライアイ症例で0.82±0.43mmと有意に低値を示していた.Spearman’scorrelationbyrankテストにてSMと各涙液機能・生体染色検査の値の間の相関を調べたところ,SchirmerテストとSMの値の間に有意な相関性が認められた.BUTとSMテストの値の間にも有意な相関があった.フルオレセイン染色スコアにおいてもローズベンガル染色スコアにおいても有意な相関を認めた.DR-1グレードとSMの値の間にも有意な相関がみられた.SM検査の感度と特異度に関しては,ROC法にてAUC値は0.93で検査のcut-off値を4mmに設定した場合の感度は86%,特異度は96%になっていた.SM検査をBUTと併用した場合の感受性と特異度はそれぞれ80.5%と100%であった(表1).涙点プラグ挿入術を行った17眼において,プラグ挿入2週目の時点で涙液機能および眼表面所見の改善が得られ,SM値も7.0±1.7mmと高くなっていることがわかった..検査の利点筆者らが開発したSMの特徴としては,親水性素材を含んでいることにより水分が吸収されやすいことや,吸収部材真ん中の長さ方向にわたってプレス加工により溝とその両側に防水性のマスキングフィルムが施されていることによって,吸収される水が短期間で横に広がらず,上に上がれる構造などがあげられる.SMは“capil(76) larytubeeffect”によるシンプルな原理に基づいており,涙液メニスカスの貯留程度を短時間で定量的に測定することを可能としている.本検査の値はドライアイ例では低く,また,Schirmerテストの値,涙液の安定性,DR-1グレード,生体染色スコアとも有意な相関をもっている.SM検査は短期間で施行できるのでドライアイの大規模な疫学調査の際に容易に応用できると思われる.本検査法は再現性もよく,今回のstudyでは検査時に“不快感や痛み”を訴えるものもいなかったので非浸襲的な方法であると思われる.よって本検査法による涙液の反射性分泌が少ないことが推測される.涙点プラグを挿入した症例においてSMの値が改善し,SMは治療効果の評価にも便利であると思われる..StripMeniscometryに対するコメント.ドライアイ診断における涙液貯留量定量の重要性はを要するように見受けられるが,実際,検者が誰で議論の余地がないところであり,StripMeniscometryあっても再現性よく測定できることが,広く普及する(SM)法は,その涙液貯留量を簡便な装置により短時うえで重要なポイントになると思われる.また,SM間で定量できる点において,オリジナリティに富む方は他の涙液検査との相関は良好であるが,他の涙液貯法であるといえる.Schirmer試験は,その再現性に留量の評価法(とくに臨床的に確立された方法である問題はあるものの,涙液分泌能の評価法としてはゴーOCTを用いた涙液メニスカス高・面積の定量やメニルデンスタンダードであり,その理由の一つに,コメスコメトリー法)とSMとの相関性も良いということディカルでも検査が簡単に行える点があげられる.になれば,簡便に行えるSMの臨床的価値がさらに高SMは,テクニック上,Schirmer試験よりも精密さまるであろう.☆☆☆(77)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014381