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緑内障:交通事故と緑内障

2015年6月30日 火曜日

●連載180緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也180.交通事故と緑内障結城賢弥ハーバード大学医学部ボストン小児病院わが国では平成26年度に約4,113人が交通事故により亡くなっており,交通事故は社会が克服すべき大きな問題である.筆者らの研究では,後期緑内障患者は,視野に異常のないものと比較し,交通事故を経験している頻度が有意に高かった.交通事故と緑内障に関し,さらなる研究が必要である.●はじめにわが国における平成26年度の交通事故件数は約57万件であり,交通事故死者数は4,113人である.交通事故は疾病による死亡と異なり100%予防可能な死である.それゆえに社会にとってきわめて重要な問題である.●交通事故と後期緑内障McGwinらは,視野障害の悪い眼のAGISscoreが6以上の中期緑内障患者は,視野障害がない緑内障患者と比較し約3.6倍,AGISscoreが12以上の後期緑内障患者では約4.4倍,交通事故を起こすリスクが高かったと報告している.筆者らの多施設共同研究では,緑内障患者199名,対照群187名に対し,過去5年間に経験した交通事故を聴取し解析した結果,対照群の事故経験率は16.0%,初期緑内障18.5%,中期緑内障23.2%,後期緑内障29.8%と,視野障害が悪化するとともに交通事故経験率が有意に増加した(傾向検定p=0.03)(図1)1,2).後期緑内障患者の対照群に対する交通事故経験に関するオッズ比は2.3であった.また,視野障害以外の交通事故に関する危険因子は,若年(10歳年をとるごとに26%リスク低下)と長距離の運転(週の運転距離が10km増すごとに2%リスク増加)であった.後期緑内障患者が交通事故を経験する可能性は,視野障害がない者と比較すると高いと考えられる.●後期緑内障患者は運転をやめたほうがよい?では,後期緑内障患者は運転をやめたほうが良いのであろうか?車の運転は生活と密接に関連しており,車の運転をやめることで失職する可能性もある.高齢者の運転の制限はうつ,介護施設への入所や早期の死亡と関連しており,過剰な運転の制限は緑内障患者のQOLの障害につながる.2.510,000km運転当たりの交通事故件数10,000km運転当たりの交通事故件数3.53.02.52.02.01.51.00.50.50初期緑内障群中期緑内障群後期緑内障群対照群1.51.0(n=187)(n=92)(n=60)(n=47)0012345図1緑内障重症度と交通事故頻度の関係悪いほうの眼のMD値が.6dB以上を初期緑内障,.6~.12dBを中期緑内障,.12dB以下を後期緑内障とした.視野重症度の悪化に伴い,有意に交通事故率が増加した(p=0.03傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY運転を制限する状況の数図2運転制限数と交通事故頻度の関係男性緑内障患者において,夜間,霧中,雨天,高速道路,車線変更の5つの運転環境を避ける頻度が高いほど,交通事故率が減少した(p=0.01傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015837 10,000km運転当たりの交通事故件数3.53.02.52.01.51.00.50対照群初期緑内障群中期緑内障群後期緑内障群(n=187)(n=165)(n=20)(n=6)図3両眼重ね合わせ視野による重症度と交通事故頻度の関係両眼重ね合わせ視野MD値が.6dB以上を初期緑内障,.6~.12dBを中期緑内障,.12dB以下を後期緑内障とした.視野障害が悪化しても交通事故頻度の間には明らかな関係は認められない(p=0.12傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).筆者らは夜間,雨天,霧中,高速道路の運転や車線変更を日常の運転において避けているかという質問を行い,それらと交通事故経験率との関係を解析した.男性緑内障患者において一つも運転制限を行っていない者の交通事故経験率は30.8%であり,一つでも制限している者は13.6%と有意に低く(p=0.01),年齢,運転距離などで補正後の数値でも,前者の交通事故経験率は後者の約2.3倍であった(図2).また,運転制限の数が一つ増えるごとに約60%交通事故経験率が低下した3).とくに夜間の運転を控えている者は有意に交通事故経験率が低値であった(未発表データ).本研究から緑内障患者で視野障害があったとしても,夜間等の運転を控えることにより,交通事故リスクを低下させることできる可能性があると考えられた.また筆者らは,視野障害のどの部位が交通事故と関連しているかの検討を,両眼重ね合わせ視野を用いて解析を行った.興味深いことに,McGwinらの研究と筆者らの2つの研究では,悪いほうの眼の視野障害が交通事故に関係していると報告している.片方の眼に視野障害があっても,もう片眼が正常であれば,交通事故を起こすリスクはあまり上がらないのではないかと考えるのが一般的と思われる.そこで両眼重ね合わせ視野を作成し,交通事故経験者と非経験者の間で視野52点の一点一点を比較したが,視野障害のいずれの部位も交通事故と明らかな関係がなかった4).また,IVF値により重症度を分けた表と交通事故率からも明らかな関係は見出せない(図3).この結果はやはり筆者らやMcGwinらの悪いほうの眼の視野障害が交通事故とより関連しているという結果と矛盾しない.運転はきわめて複雑な行為であり,単純に見えない部分があるから交通事故を起こすというものではない可能性がある.●まとめ緑内障と交通事故の関係は,今後もさらに追加の研究が必要である.現在,筆者は視野障害を有する緑内障患者に運転に関するアドバイスを求められた場合,視野障害の自覚がない場合にはまずどの部分が見えないのかを自覚してもらい,運転の際にその部分が見えていない可能性があることを意識すること,ならびに可能であれば夜間の運転や不慣れな場所の運転は避けることを勧めている.近年の自動運転技術の発達は,緑内障患者への福音に思える.文献1)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:Theassociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20112)OnoT,YukiK,Awano-TanabeSetal:GlaucomatousvisualfielddefectseverityandtheprevalenceofmotorvehiclecollisionsinJapanese:ahospital/clinic-basedcross-sectionalstudy.JournalofOphthalmology:497067,20153)OnoT,YukiK,Awano-TanabeSetal:Drivingself-restrictionandmotorvehiclecollisionoccurrenceinglaucoma.OptomVisSci92:357-364,20144)YukiK,AsaokaR,TsubotaK:Therelationshipbetweencentralvisualfielddamageandmotorvehiclecollisionsinprimaryopen-angleglaucomapatients.PLoSOne29:e115572,2014☆☆☆838あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(74)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入眼でのwavefront-guided LASIKによる屈折誤差矯正

2015年6月30日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載181大橋裕一坪田一男181.多焦点眼内レンズ挿入眼でのwavefront.guided中村邦彦たなし中村眼科クリニックLASIKによる屈折誤差矯正回折型多焦点眼内レンズ挿入眼での屈折誤差矯正において,wavefront-guidedLASIKの有用性が期待されている.新しい波面収差解析装置iDesignを使用したwavefront-guidedLASIKによる屈折誤差矯正では,con-ventionalLASIKより高次収差増加が抑制される.●多焦点IOL挿入眼でのtouchupの意義多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼において,大きな屈折誤差は遠方,近方とも裸眼視力を低下させ,多焦点IOLの性能を半減させる結果となる.この屈折誤差は眼鏡装用にて矯正可能だが,多焦点IOLの挿入を希望する患者では,裸眼での生活を強く期待することが少なくない.IOLマスターをはじめとする光学式眼軸測定が普及してIOL度数選択の精度は高くなり,屈折誤差の主体は乱視が占めるようになった.トーリックIOLであれば乱視にも対処できるが,多焦点IOLではまだ一部のモデルにしかない.このため,多焦点IOL挿入後の術後屈折誤差に対してlaserinsitukeratomileusis(LASIK)による屈折誤差矯正(touchup)が行われているが,精度も高く,球面度数と乱視両方の屈折誤差を矯正できる.また,現在の多焦点IOLは,単焦点IOLに比べてレンズパワーの作製範囲が狭く,高度近視の症例などで,最小のレンズパワーを選択しても残余近視が生じる場合があるが,このような場合でもtouchupは有効である.多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,屈折型は裸眼視力が角膜乱視の影響を比較的受けにくい傾向がある.適切なレンズパワーがないときは別として,多くは回折型挿入眼がtouchupの適応となる.●Wavefront.guidedLASIKによるtouchupの意義回折型多焦点IOL挿入眼では,以前のモデルのときより改善しているが,単焦点IOLと比較してコントラスト感度の低下が生じることが知られている.また,LASIK施行眼では角膜収差が増加することが知られて(71)いる1,2).多くの場合,IOL挿入後のLASIKによる屈折誤差矯正はわずかな矯正量にとどまるので,LASIKによる角膜収差の増加はそれほど大きくはないと思われる.しかし,回折型多焦点IOL挿入眼で軽度のコントラスト感度の低下が生じているところに,LASIKを加えることにより,角膜収差を増加させ,コントラスト感度をさらに低下させることが懸念される.実際にはconventionalLASIKでもtouchupにおける矯正量はわずかで,患者がLASIK後にコントラスト感度の低下を訴えるようなことはない.しかし,この点でwavefront-guidedLASIKによる屈折誤差矯正は角膜の高次収差の増加を避けることに寄与できる可能性があり,信頼できるデータが得られれば施行したほうがよいと思われる3).ConventionalLASIKでは自覚的屈折誤差をもとに矯正量を設定して照射することで問題はないが,wavefront-guidedLASIKではまず波面収差解析装置で座位にて測定解析を行う.屈折型多焦点IOLでは波面収差解析装置での値は信頼性がないが,回折型多焦点IOLでは測定が可能であれば有効である.回折型では光学部の回折構造により入射光が2つに振り分けられるが,通常,波面収差解析装置では遠方視を反映した眼内からの出射光をもとにHartmann-Shackイメージを作製する.念のため,測定された結果を自覚の屈折誤差と近似しているかを確認してから使用するのがよい.次に解析結果をエキシマレーザー装置に入力して照射を行う.Touchupでは矯正量はわずかであるが,乱視が矯正の主体であるので虹彩紋理認証(irisregistration:IR)による廻旋補正は有効性が高く,wavefront-guidedLASIKの効果を十分に得るためにも,可能であれば積極的に使用するのがよい4).新しい波面収差解析装置Abbott社製iDesignRアドあたらしい眼科Vol.32,No.6,20158350910-1810/15/\100/頁/JCOPY 等価球面度数絶対値円柱度数絶対値(D)0.550.17※0.710.25※(D)後前1.460.30※0.30※1.41後前2.02.01.01.00前後前後0(※Wilcoxon検定p<0.05)■Wevefront-guidedLASIKConventionalLASIK図1回折型多焦点IOL挿入眼でのTouchup前後での屈折の変化LASIK後に等価球面度数,円柱度数とも絶対値は減少している.Wavefront-guidedLASIKconventionalLASIKとconventionalLASIK間に差はない.(μm)0.120.090.080.120.220.150.100.080.080.50.40.30.20.10Rootmeansquare※※(Tukey多重比較検定p=0.0013)Conventional-LASIK■Wavescan■iDesign図3全眼球高次収差比較3次,4次では差はないが全高次収差でiDesignがconventionalLASIKより良好である.バンストウェイブスキャン(iDesign)は最大波面収差解析箇所数1,275となっており,前機種のウェイブスキャンウェイブフロントRシステム(WaveScan)が240箇所であったのと比較すると,約5倍に増加している.また,虹彩紋理,輪部認識機能の向上が図られており,IR下でのwavefront-guidedLASIK可能率の増加が期待される.●Wavefront.guidedLASIKによるtouchupの成績回折型多焦点IOL挿入眼でのwavefront-guidedLASIKによるtouchup前後での屈折誤差の変化をみると,LASIK後に等価球面度数,円柱度数とも絶対値は減少した(図1).Wavefront-guidedLASIK後に裸眼視力は遠方,近方とも改善した(図2).WavefrontguidedLASIKとconventionalLASIKの比較では,屈836あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015裸眼遠方視力裸眼近方視力1.01.00.10.1(※Wilcoxon検定p<0.05)■Wevefront-guidedLASIKConventionalLASIK図2回折型多焦点IOL挿入眼でのtouchup前後での裸眼視力の変化LASIK後に遠方,近方とも裸眼視力は改善している.Wavefront-guidedLASIKconventionalLASIKとconventionalLASIK間に差はない.折,視力には差はなく,コントラスト感度も両者とも全周波数において正常範囲内で差はなかった.しかし,高次収差については,WavescanではconventionalLASIKと差がなかったが,iDesignでは全高次収差でconventionalLASIKより良好であった(図3).Wavefront-guidedLASIKのtouchupにおける有用性は,これまであまり明確ではなかったが,新しい波面収差解析装置iDesign使用によるwavefront-guidedLASIKでは,波面収差解析機能向上と合わせてIR率向上が高次収差増加抑制に寄与でき,積極的な使用が薦められる.文献1)YamaneN,MiyataK,Samejimaetal:Ocularhigher-orderaberrationsandcontrastsensitivityafterconventionallaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci45:3986-3990,20042)OshikaT,TokunagaT,SamejimaTetal:Influenceofpupildiameterontherelationbetweenocularhigher-orderaberrationandcontrastsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci47:1334-1338,20063)JendritzaBB,KnorzMC,MortonSetal:WavefrontguidedLASIKissafeandeffectiveindiffractivemultifocalIOLstocorrectresidualrefractiveerror,buthigherorderaberrationsdidnotimprove.JRefractSurg24:274-279,20084)KhalifaM,El-KatebM,ShaheenMS:Irisregistrationinwavefront-guidedLASIKtocorrectmixedastigmatism.JCataractRefractSurg35:433-437,2009(72)1.000.49※1.010.58※0.590.38※0.640.48※前後前後前後前後

眼内レンズ:前部円錐水晶体例

2015年6月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋344.前部円錐水晶体例溝手秀秋*1野間一列*2*1みぞて眼科*2のま眼科医院腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼性の前部円錐水晶体に対して白内障手術を行ったので報告する.前部円錐水晶体の診断には波面収差解析が有用であった.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際に前.が脆弱で,CCCが困難であった.前部円錐水晶体の白内障手術の際には,CCCに十分に注意することが重要である.●はじめに水晶体の前面の中央が突出している状態を前部円錐水晶体という.Alport症候群は前部円錐水晶体を合併することが多く1),IV型コラーゲンa鎖遺伝子の異常により,糸球体腎炎,感音性難聴,さまざまな眼症状を主症状とする2).今回,腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼性の前部円錐水晶体に対して白内障手術を行ったので報告する.●症例症例:69歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:肺気腫.家族歴:特記事項なし.現病歴:1年前から両眼視力低下を自覚し,2012年5月14日当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.05(0.5×.7.50D),左眼0.05(0.6×.7.75D(cyl.0.50DAx70o).眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHg.角膜曲率半径は右眼7.34mm7.44mm,左眼7.30mm7.44mm.IOLマスターR(ZEISS)による眼軸長は右眼22.83mm,左眼22.69mm.両眼とも角膜,虹彩,前房に異常なく,水晶体前面は中央で凸型に突出し,軽度の核硬化があった(図1).眼底は両眼とも血管アーケード内の網膜に白点が散在していた.OPD-ScanIII(NIDEK)で波面収差解析を行った結果,両眼とも眼屈折,眼内屈折は瞳孔の中央で強く近視化し,高次収差が著明に増加しており(図2),水晶体前面中央の突出が原因と考えられたため,前部円錐水晶体と診断した.軽度の核混濁とretrodots以外に図1初診時前眼部写真(左:右眼,右:左眼)(69)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158330910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2初診時波面収差解析結果(上:右眼,下:左眼)は視機能に影響する混濁がなかったため,視力低下の主因は高次収差の増加と考えた.経過:2012年6月中旬,両眼水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を行った.左眼はオペガンハイRを前房内に注入して,チストトームでCCCを行った.右眼はビスコートRとオペガンハイRを前房に注入して,河合式鑷子でCCCを行った.両眼ともCCCの際に前.が脆弱で,滑らかな円形にならず,ギザギザした前.切開縁となった.また,水晶体前面が突出していたため,CCCが赤道部に流れやすい傾向にあった.後.には異常なく,眼内レンズは.内固定とした(図3).術後視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)で,その後2年6カ月間良好な視力を維持している.図3術後の前眼部写真(左:右眼,右:左眼)●考察前部円錐水晶体の診断には波面収差解析が有用であり,白内障手術前のルーティン検査の一つに採用すれば,水晶体形状異常も検出しやすいと思われる.本疾患では水晶体中央部の突出により水晶体中央の屈折力増加および高度の高次収差増加を生じるため,水晶体混濁がなくても近視化と視力障害を生じる.また,Alport症候群では前.が薄く脆弱で,CCCが困難である3)が,本症例もCCCが困難であった.腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼前部円錐水晶体の白内障手術でも,Alport症候群の前部円錐水晶体の白内障手術と同様にCCCには十分に注意することが重要である.文献1)HentatiN,SellamiD,MakniKetal:OcularfindingsinAlportsyndrome:32casestudies.JFrOphthalmol31:597-604,20082)貝藤裕史,野津寛大:Alport症候群.安田隆,平和伸仁,小山雄太(編):臨床腎臓内科学,第1版,p719-722,南山堂,20133)鈴木香,鈴木幸彦,中澤満:片眼性の成熟白内障でみつかった両眼性前部円錐水晶体の家系.眼科手術21:507511,2008

コンタクトレンズ:患者指導2(レンズケア)

2015年6月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一13.患者指導2(レンズケア)●はじめに初めてコンタクトレンズ(CL)を処方するときは,CLの取り扱いについて説明し,同時に,正しいケアの方法を指導しておくことが非常に重要である.●ケアの必要性(なぜケアが必要なのか)もっとも大きな理由は,レンズやケースに微生物が付着し,角膜に上皮障害があれば,汚染されたCLを装着することによって角膜感染症が成立する1)ということを予防するためで,蛋白質や脂質などの汚れが付着するのを防ぐためでもある.そのため,前号で述べたが,手洗いを正しく行い,それとともにレンズやケースを清潔にしておくことが重要である.●ケア用品の種類当然,ハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)とではケア用品が異なるが,なかには両者に使用可能なケア用品も存在する.これらのケア用品についていくつか問題点はある2)が,HCLの場合は,レンズを洗浄し保存するための液,蛋白除去剤,アルコールの入った洗浄液,研磨剤の入った洗浄剤などを用いる.SCLの場合は,1本で洗浄,保存,消毒,す宮本裕子アイアイ眼科医院すぎを行うマルチパーパスソリューション(MPS)が簡便でもっともよく使用されているが,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤のほうが微生物に対する消毒効果は高い.SCLに対しても,蛋白除去剤,アルコール入り洗浄液,研磨剤入り洗浄剤を併用することもある.●レンズの基本的なケア方法HCLの場合は,レンズをはずしたあと,こすり洗いを行うが,手のひらにHCLを乗せ,(表面処理されていないレンズの場合は研磨剤入りの)洗浄剤でレンズをこする(図1).図2のように,3本の指ではさんで洗浄する方法もある.その後,水道水ですすいでレンズホルダーに正しく入れ,洗浄保存液に浸けて保存する.さらに,必要に応じて蛋白除去剤を使用する.レンズを装着するときは,再度洗浄保存液でこすり洗いと十分なすすぎを行ってからレンズを装着する.洗浄は毎日行うが,月に1度,強力蛋白除去を行うとより良い.一方,SCLの場合は,レンズをはずしたのち,MPSあるいはすすぎ液で図3のようにレンズの表と裏を各20~30回こすって洗う.爪を立てずに指の腹でこするが,回転させるとレンズが破れることがあるので,前後にこするようにする.その後は図4のように勢いよく液図1ハードコンタクトレンズの洗浄方法(手のひらの上で)図2ハードコンタクトレンズの洗浄方法(3本の指で)(67)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158310910-1810/15/\100/頁/JCOPY 832あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(00)をかけてすすぐが,水道水は使えない.MPSの場合は,レンズをケースに入れ浸漬させる.そのとき,レンズの一部が液面から出ていると,蓋を閉めるときにレンズを挟んでしまったり,乾燥の原因になったりするので,必ず十分な量のMPSを入れ,レンズ全体を液内に沈めておくことが重要である.過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤の場合は,すすぎ液(MPSでも可)でレンズのこすり洗いをしてすすいでから,指定されたレンズケースホルダーにレンズを入れ,所定の消毒液と中和剤(液)を入れる.過酸化水素水を中和するためには,白金ディスクを用いる場合と0.5%チオ硫酸ナトリウムやカタラーゼを使用する方法がある.白金ディスクが必要な場合,指定外のケースを使用すると中和されないため,過酸化水素水が直接目に入る危険性がある3).また,2ステップのものは,消毒のあと,中和の作業を忘れずに行う.さらに気をつけることは,消毒終了後効果が持続しないので,中和後24時間以上経っていれば,レンズ使用前に再度消毒を行う必要がある.●レンズケースのケアレンズを装着している間は,レンズケースを洗浄し乾燥させることが非常に大切である.HCLのケースは複雑なので,可能な限り分解して水道水で洗浄し乾燥させる.SCLのケースも水道水でこすり洗いし,乾燥させる.両者とも,定期的に新しいケースと交換することも大切である.●おわりに近年,とくにカラーCL使用者に多いのが,ケア方法の指導を受けないままレンズを使っている例である.なかにはケア自体を知らない例もある3).最初に正しいケア方法を指導し,さらに定期検査のときに正しいケアができているか確認することが,眼障害を減らすために非常に重要である.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)宮本裕子:今日のコンタクトレンズ診療.1.コンタクトレンズ洗浄保存液の諸問題.眼科54:585-593,20123)宮本裕子:「CLバトルロイヤルサードステージ」第38回ソフトコンタクトレンズケア用品の選択.日コレ誌56:289-293,2014ZS943図3ソフトコンタクトレンズの洗浄方法(前後にこする)図4ソフトコンタクトレンズのすすぎ方(00)をかけてすすぐが,水道水は使えない.MPSの場合は,レンズをケースに入れ浸漬させる.そのとき,レンズの一部が液面から出ていると,蓋を閉めるときにレンズを挟んでしまったり,乾燥の原因になったりするので,必ず十分な量のMPSを入れ,レンズ全体を液内に沈めておくことが重要である.過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤の場合は,すすぎ液(MPSでも可)でレンズのこすり洗いをしてすすいでから,指定されたレンズケースホルダーにレンズを入れ,所定の消毒液と中和剤(液)を入れる.過酸化水素水を中和するためには,白金ディスクを用いる場合と0.5%チオ硫酸ナトリウムやカタラーゼを使用する方法がある.白金ディスクが必要な場合,指定外のケースを使用すると中和されないため,過酸化水素水が直接目に入る危険性がある3).また,2ステップのものは,消毒のあと,中和の作業を忘れずに行う.さらに気をつけることは,消毒終了後効果が持続しないので,中和後24時間以上経っていれば,レンズ使用前に再度消毒を行う必要がある.●レンズケースのケアレンズを装着している間は,レンズケースを洗浄し乾燥させることが非常に大切である.HCLのケースは複雑なので,可能な限り分解して水道水で洗浄し乾燥させる.SCLのケースも水道水でこすり洗いし,乾燥させる.両者とも,定期的に新しいケースと交換することも大切である.●おわりに近年,とくにカラーCL使用者に多いのが,ケア方法の指導を受けないままレンズを使っている例である.なかにはケア自体を知らない例もある3).最初に正しいケア方法を指導し,さらに定期検査のときに正しいケアができているか確認することが,眼障害を減らすために非常に重要である.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)宮本裕子:今日のコンタクトレンズ診療.1.コンタクトレンズ洗浄保存液の諸問題.眼科54:585-593,20123)宮本裕子:「CLバトルロイヤルサードステージ」第38回ソフトコンタクトレンズケア用品の選択.日コレ誌56:289-293,2014ZS943図3ソフトコンタクトレンズの洗浄方法(前後にこする)図4ソフトコンタクトレンズのすすぎ方

写真:Schnyder角膜ジストロフィ

2015年6月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦373.Schnyder角膜ジストロフィ加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜中央部に輪状の結晶沈着,②角膜周辺部には老人環様の強い混濁がみられる.図1SCCDの60代女性の前眼部所見角膜中央部に輪状の結晶沈着,角膜周辺部には老人環様の強い混濁がみられる.図3図1の子(40代女性)の前眼部所見角膜中央部の実質浅層に結晶沈着,角膜周辺部には老人環様の淡い混濁が観察される.図4図1の孫(幼児)の前眼部所見角膜中央部の実質浅層に微細な結晶沈着がみられる.(65)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158290910-1810/15/\100/頁/JCOPY Schnyder角膜ジストロフィ(Schnydercrystallinecornealdystrophy:SCCD)は,角膜に脂質が沈着することにより両眼の角膜混濁をきたす実質ジストロフィであり,わが国では非常にまれな常染色体優性遺伝の疾患である.SCCDの原因遺伝子は第1染色体短腕に存在するUBIAD1遺伝子(コレステロールの代謝に関連すると考えられている)の変異である1).角膜混濁は幼少期から始まるが,進行は緩徐であり,30代以降に診断される例が多い.SCCDはアメリカやヨーロッパ,台湾,トルコ,日本などあらゆる人種において家系が報告されている.細隙灯顕微鏡では,角膜中央部に円盤状またはリング状の混濁が観察される.SCCDの約50%で針状結晶を伴う2).混濁はBowman膜から実質浅層にかけて生じることが多いが,進行例では実質深層にまで混濁がみられる.通常,角膜への血管侵入はみられない.また,進行例では角膜知覚が低下すると報告されているが,これはコレステロールの沈着により角膜上皮下の神経叢が障害されるためと考えられている3).SCCDの患者では高脂血症を合併していることが多いと報告されている2)が,高脂血症の重症度と角膜混濁の程度とは相関しないようである4).診断は細隙灯顕微鏡所見と家族歴から行う.鑑別疾患として脂質代謝異常症(魚眼病,LCAT(lecithincholesterol-acyltransferase)欠損症,Tangier病など)があるが,遺伝形式が常染色体劣性遺伝であること,高脂血症以外の検査値の異常を呈する疾患であるため鑑別は比較的容易である.また,先に述べたUBIAD1遺伝子検査も診断に有用である.SCCDの患者では,初期には全般的に視力は保たれるが,やがて明所での視力が羞明のために低下する.進行して混濁が角膜深層にまで及ぶと,暗所での視力も低下する.視力低下が著しい場合には深層あるいは全層角膜移植術が必要となるが,角膜混濁は再発する5).筆者は3世代にわたってSCCDの発症がみられている1家系を経験したが,幼少期の軽度の角膜混濁から,中年期の中等度角膜混濁,老年期の強い角膜混濁へと,まるで1人の患者を時系列的にみているようで非常に興味深かった.なお,全層角膜移術を施行したSCCD患者(図1)では,術後約3年で角膜中央部に結晶様の角膜混濁が出現した.文献1)WeissJS,KruthHS,KuvaniemiHetal:MutationinUB1AD1geneinchromosomeshortarm1,region36,causeSchnydercrystallinecornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci48:5007-5012,20072)WeissJS:Schnyderdystrophyofthecornea.ASwede-Finnconnection.Cornea11:93-101,19923)VasaluomaMH,LinnaTU,SankilaEMetal:InvivoconfocalmicroscopyofafamilywithSchnydercrystallinecornealdystrophy.Ophthalmology106:944-951,19994)LischW,WeidleEG,LischCetal:Schnyder’sdystrophy.Progressionandmetabolism.OphthalmicPaediatrGenet7:45-56,19865)WeissJS:Visualmorbidityin34familieswithSchnydercrystallinecornealdystrophy(AnAmericanOphthalmologicalSocietythesis).TransAmOpthalmolSoc105:616-648,2007830

時の人 相原 一 先生

2015年6月30日 火曜日

人の時東京大学医学部眼科学教室教授相あい原はら一まこと先生人の時東京大学医学部眼科学教室教授相あい原はら一まこと先生本年3月,人々の耳目をあつめる東京大学医学部眼科学教室の第11代教授に相原一先生が就任した.*相原先生は1963年,鹿児島県生まれの51歳.名門,ラ・サール高校から東大に進み,1989年に同大医学部を卒業し……と書くと,いかにも順当にレールの上を走ってきたようにみえるが,実は,中学卒業までに8回も転居転校を経験した“苦労人”なのだ.しかし,そのおかげで「新しい環境になじむ能力と,幅広い視野を身につけた」そうだから,たび重なる転居や転校は相原少年の成長に大いに寄与したことになる.ただし「同じ環境には飽きやすくなったかもしれない」とのこと.半分は冗談だとしても,その言葉の奥には,現状に甘んじることを潔(いさぎよ)しとしない,先生の前向きな姿勢がみられる.さて,先生は医学部卒業後,増田寛次郎・第8代東大眼科学教室教授の元で助手,医局長として腕を磨いたのち,大学院生化学教室で生理活性脂質と中枢神経系の基礎研究に励んだ.その後,新家眞・第9代教授の元でも医局長を務め,2000年から3年間,カリフォルニア大学サンディエゴ校ハミルトン緑内障センターで臨床と基礎研究に従事した.帰国後,東大に戻って講師,准教授を歴任したが,2012年に大学を辞し,四谷しらと眼科に移った.そこで副院長として診療にあたる傍ら,多くの病院で緑内障の臨床と研究指導を行い,そしてこのたび,教授として古巣の東大眼科に戻ったわけである.*相原先生の専門は緑内障である.学生の頃から神経系が好みで,2年生のときに当時,東京逓信病院部長だった小澤哲磨先生に神経眼科・斜視弱視を学んだことと,4年生のときに東大講師だった白土城照先生に緑内障の魅力を教えられたことから,迷わず緑内障に決めた.ただし「細かい手術が好き」なので,今でもジャンルを問わず「いろんな手術をしたい」のだそうだ.(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY緑内障は今はまだ治せる疾患ではないが,先生は「患者さんの視野を一生残せるようにと願い,長いつきあいを大事に」診療に当たっている.研究面では「大学院で神経と生理活性脂質を学んだおかげで,その後,緑内障の第一選択薬となったプロスタグランジン関連にとくに興味があります」とのこと.先生は,米国留学中にマウスの眼圧測定方法を確立したことをきっかけに,緑内障のモデル動物の開発とそれを用いた基礎研究で多くの業績を上げてきた.また,緑内障薬物治療と薬理学的研究,手術方法や創傷治癒に重点を置いた研究で業績を上げている.今後の研究の方向性について先生は「緑内障の最大の危険因子であると同時に,眼球構造を保ち視機能を維持するために必要な眼圧,この眼圧の制御機序を解明することが生涯のテーマです」と語っておられた.先生に医師としての信条を伺った.「それは,やはり患者と向き合う“お医者さん”でありたいということと,患者さんから学び,それを研究して患者さんに還元することです.これは開業医でも大学にいても,どのような環境でも自分次第で実行できるはずです」「私は幼少時から転居が多く,どんなところでも適応して頑張ってきましたし,また,多くの人々とのご縁があって,ここまで育てていただいたという思いもありますから,今の立場なら何をやるべきか,目標をもって向き合うことが大事だと思っています」.では,東大眼科学教授という立場では何を?「このポストの責任はきわめて重いです.私はまず,若い先生たちが伸び伸びと成長できるように診療・臨床教育・研究体制を改善し,そして大学や日本の眼科のために役立つことを焦らず,着実に実行してきたいと思います」.先生の趣味は自然に囲まれて風景写真を撮ったり,渓流釣りや昆虫採集をしたり,山に登ること.しかし,そのような自由な暮らしは,まだまだ先になりそうだ.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015827

緑内障の古典手術の新知識

2015年6月30日 火曜日

特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):821~826,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):821~826,2015緑内障の古典手術の新知識CuttingEdgeTechniquesforConventionalGlaucomaSurgeries井上俊洋*はじめに近年多くのMIGS(micro-invasiveglaucomasurgery)やチューブシャント手術が開発,臨床応用され,それらの発展や新知見の報告には眼をみはるものがある.一方で,それら以外のトラベクレクトミーやトラベクロトミーといった緑内障の古典手術に対する研究も新しい診断機器や治療手段との組み合わせなどにより,新たな知見が得られている.これらの知識は緑内障の古典手術の理解を深めるのみならず,新しい術式を理解するうえでも有意義な点が多い.本稿ではこれら緑内障の古典手術における新知見を紹介する.I観察手段の進歩トラベクレクトミーは房水を結膜下に導く濾過手術の一種である.結膜下に溜まった房水はブレブを形成し,ブレブ壁からの吸収や経結膜的な涙液への房水流出によって眼圧が下降すると考えられている.したがって,ブレブの構造は眼圧コントロールと密接に関連しており,これを詳細に観察することが術後成績の評価に重要と考えられる.この観点から前眼部写真や超音波生体顕微鏡などを用いてブレブの観察が古くから試みられてきたが,近年,三次元前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)を用いて得られたデータの蓄積により,新たな知見が得られてきた.三次元AS-OCTの利点は,短時間で非侵襲的にブレブ内部まで観察でき,高解像度で三次元再構築が可能な点である(図1).筆者らはこれを用いてブレブ内部の強膜フラップ下から液腔に連続する低輝度領域が存在することを見出し,これが房水の通過経路であることを症例報告で示した1).また,この経路が機能的ブレブの9割以上で観察可能であることを横断的研究で示し,強膜フラップ縁における開口部の分布が結膜フラップの基底方向に影響を受けることを明らかにした2).さらに前向き研究によって,この強膜フラップ縁における開口部は経時的に閉塞すること(図2),術後早期の開口部の幅がその後の眼圧コントロールと関連していることを示した3).これらの知見は三次元AS-OCTを用いることで初めて得られるものであり,表面からブレブを観察しているだけでは将来的な眼圧コントロールは予測がむずかしいことを示唆している.近年,偏光感受型AS-OCTを用いて膠原線維を検出可能な機器が試作されている4~6).この機器は複屈折サンプルから集められた光の偏光特性を測定することが可能である.複屈折とは,特定の材料が光を2つの偏光状態に分解し,一方に光学的遅延を与えることをいい,生体ではコラーゲンやケラチンが強い複屈折性をもつため,これを検出することが筋肉や皮膚の構造を把握するために有用であることが知られている.ブレブの瘢痕化組織にはコラーゲンが多く含まれていることから,偏光感受型OCTを用いることでブレブ内部の瘢痕化組織を非侵襲的に描出することが可能とされており,さらに新*ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕井上俊洋:〒860-8556熊本市本荘1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(57)821 2週3カ月房水通過経路と思われる開口部6カ月1年図2強膜フラップ縁における開口部が経時的に閉塞することを示したシェーマ(文献3より許可を得て転載,改変)図13次元AS.OCTによって撮影されたトラベクレクトミー術後ブレブの3次元再構築図断面図内に房水の通過経路と思われる開口部(矢印)がみえる.(文献3より許可を得て転載) 表1近年報告されたトラベクレクトミー成績のリスク因子文献番号症例数対象リスク因子9195トラベクレクトミーもしくは水晶体再建術既往の症例円蓋部基底結膜弁1030内眼手術既往のない開放隅角緑内障高濃度の房水MCP-11156急性閉塞隅角症/PACG高濃度の房水MCP-1とMCP-31464小児緑内障Tenon.切除なし15165POAG/PACGマイトマイシンCの結膜下塗布(vs強膜フラップ下塗布)PACG:原発閉塞隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障.的新しい緑内障点眼についても,この点注意が必要かもしれない.原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)と比較して,血管新生緑内障においてはVEGFのみならず,複数の炎症性サイトカインの房水内濃度が高く,抗VEGF治療ではその濃度は高くなることこそあれ,下降させることはできないということを筆者らはみいだしている13).炎症性サイトカインが慢性的に存在すると,創部への炎症細胞の誘導が遷延化し,過剰な瘢痕化につながる可能性が考えられる(図3).抗VEGF治療とトラベクレクトミーとの組み合わせによって手術成績を向上させようとする試みについては後述するが,術後経過のメカニズムを考えるとき,VEGF以外の炎症性サイトカインについても考慮に入れる必要があることが示唆される.その他の論点としては,小児の緑内障に対するトラベクレクトミーにおいて,Tenon.切除を行うと成績が良いという無作為化臨床比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)の報告や14),マイトマイシンC塗布を結膜下群と強膜フラップ下群とに分けた後ろ向き研究で前者の成績が良好であったという報告もある15).これらの論点の結論については必ずしもコンセンサスが得られたわけではないが,考慮に入れるべき知見と思われる.III分子標的薬の応用眼科領域において,分子標的薬は加齢黄斑変性症などの網膜硝子体疾患に対する抗VEGF治療の急速な普及によって広く知られることとなった.緑内障手術治療に関しては,抗TGF-b抗体による手術成績改善の試みが有名である.TGF-bは創傷治癒過程において中心的な毛様体強膜水晶体角膜ブレブ生理活性物質房水の流れ図3トラベクレクトミー術後に,房水内の生理活性物質がブレブに及ぼす影響を示したモデル図役割を果たす分子の一つであり,線維芽細胞を筋線維芽細胞に分化誘導する作用がある.筋線維芽細胞に分化すると細胞増殖,細胞外マトリックス(コラーゲンなど)産生,組織収縮などが促進され,瘢痕形成に寄与する.瘢痕形成の反応が過剰に作用することでブレブの瘢痕化に伴う濾過機能の低下を導くと推測されており,これをコントロールすることができれば手術成績が改善するこ(59)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015823 824あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(60)ング期と経過することが知られている.増殖期の組織は線維芽細胞由来の新生細胞外マトリックスが主となるが,ここに新生血管を誘導するためにVEGFが重要な働きを担っている.したがって,ブレブの形跡過程にもVEGFが少なからず寄与していると考えられており,おもに抗VEGF治療薬を結膜下注射することで血管新生緑内障以外の緑内障に対するトラベクレクトミーに応用する試みも報告されている.マイトマイシンC塗布の代わりにラニビズマブ結膜下注射を用いた1年間のRCTでは,ラニビズマブ群がより多くの追加手術を要している21).同様にマイトマイシンC塗布とベバシズマブ結膜下注射を比較したRCTでは,術後(平均7~8カ月後)眼圧が後者で有意に高かった22).また,5FUの代わりにベバシズマブ結膜下注射を用いた非無作為化前向き研究では,やはり同群が1年後により多くの術後緑内障点眼を必要としている23).以上の結果から,抗VEGF抗体の結膜下注射をマイトマイシンC塗布の代用として良好なトラベクレクトミー成績を得ることはむずかしいことが示唆される.一方で抗VEGF治療をマイトマイシンCに追加した場合の効果については,FakhraieらはPOAGおよび落屑緑内障を対象にベバシズマブ前房内投与追加群のRCTを行い,平均10カ月観察したところ,眼圧コントロールは優るものの術後房水漏出の合併症頻度が約3.7倍と高率であったと報告している24).一方でKiddeeらの報告によると,POAGを対象にしたベバシズマブ結膜下注射追加群のRCTで,1年後の眼圧コントロールに有意差はなかったとしている25).ベバシズマブ結膜下注射を2回目のトラベクレクトミーに併用したRCTでも,2年間の術後成績に有意差が認められていない26).マイトマイシンC併用ニードリングにおけるRCTではベバシズマブ結膜下注射追加群は,6カ月後の眼圧に有意差がないものの,より無血管で広い範囲のブレブが形成されたと報告している27).以上のことから,抗VEGF治療薬を結膜下注射の形でマイトマイシンCに併用した場合に,理論的に有用である可能性は否定できないが,短期間の成績をみるかぎその効果は限定的で,さらなる投与手段や投与回数の検討が必要と考えられる.抗VEGF治療の効果としては前述のようにブレブにとが期待される.これらのことから,トラベクレクトミーに抗TGF-b抗体治療を組み合わせることは理にかなった選択肢と考えられたが,大規模臨床治験の結果では有意差が出なかったと報告されている16).近年,網膜硝子体疾患に対して盛んに行われるようになった抗VEGF治療を,トラベクレクトミーに組み合わせて手術成績を改善させる,あるいは安全性を向上させる試みが多く報告されている.血管新生緑内障において,虹彩や隅角の新生血管が豊富であると,術中,術後の前房出血の原因となり,視力低下や眼圧上昇をきたす可能性がある.新生血管を強力に誘導するVEGFに対して,抗VEGF治療薬を前房もしくは硝子体注射することで虹彩や隅角の新生血管を一時的に消退させることが可能である.この効果により,トラベクレクトミーの術前に抗VEGF治療を行うことによって,トラベクレクトミーに伴う術中,術後の前房出血の合併症を減らすことが報告されている17).ただし,一般的に抗VEGF治療の効果は一過性であるため,トラベクレクトミーとの組み合わせによって長期の眼圧コントロールを改善することができるかどうかについては報告によって異なり,まだ一定の見解が得られていない17~20).一般的な創傷治癒過程は,炎症期,増殖期,リモデリ抗VEGF治療薬VEGF線維芽細胞の活性化血管新生創傷治癒/瘢痕化図4術後創傷治癒の過程にVEGFと抗VEGF治療薬が及ぼす影響を示したモデル図抗VEGF治療薬VEGF線維芽細胞の活性化血管新生創傷治癒/瘢痕化図4術後創傷治癒の過程にVEGFと抗VEGF治療薬が及ぼす影響を示したモデル図 あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015825(61)ているかもしれない.しかしながら,古典的トラベクロトミーはMIGSの先駆けであり,これらの知識はトラベクロトミーに限らず,近年隆興している複数のSchlemm管シャント手術の理解にも応用できる可能性がある.おわりに以上,緑内障の古典手術における新知識をある程度フォーカスを絞った形でいくつかまとめてみた.これらの知識は緑内障の古典手術の理解を深めるのみならず,新しい術式を理解するうえでも有意義な点が多いと推測される.本稿が手術の効果と安全性を高める上で一助となれば幸いである.文献1)KojimaS,InoueT,KawajiTetal:Filtrationblebrevisionguidedbythree-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma23:312-315,20142)InoueT,MatsumuraR,KurodaUetal:Preciseidentificationoffiltrationopeningsonthescleralflapbythree-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:8288-8294,20123)KojimaS,InoueT,NakashimaKetal:Filteringblebsusing3-dimensionalanterior-segmentopticalcoherencetomography:aprospectiveinvestigation.JAMAOphthalmol133:148-156,20154)TsudaS,KunikataH,YamanariMetal:Associationbetweenhistologicalfindingsandpolarization-sensitiveopticalcoherencetomographyanalysisofapost-trabeculectomyhumaneye.ClinExperimentOphthalmol,inpress5)YamanariM,TsudaS,KokubunTetal:Fiber-basedpolarization-sensitiveOCTforbirefringenceimagingoftheanterioreyesegment.BiomedOptExpress6:369389,20156)FukudaS,BeheregarayS,KasaragodDetal:Noninvasiveevaluationofphaseretardationinblebsafterglaucomasurgeryusinganteriorsegmentpolarization-sensitiveopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:5200-5206,20147)KumarRS,JariwalaMU,SathideviAVetal:Apilotstudyonfeasibilityandeffectivenessofintraoperativespectral-domainopticalcoherencetomographyinglaucomaprocedures.TranslVisSciTechnol4:2,20158)ZeppaL,AmbrosoneL,GuerraGetal:Usingcanalographytovisualizetheinvivoaqueoushumoroutflowconventionalpathwayinhumans.JAMAOphthalmol132:1281,2014おける血管新生の抑制が期待されるが,これに加えて線維芽細胞のコラーゲン産生や細胞増殖28),さらにはTGF-b1とTGF-b2の発現を抑制することも報告されており29),線維芽細胞の機能そのものに対する作用も期待できるかもしれない(図4).また,TGF-bシグナルの下流で働くp38MAPキナーゼの阻害薬や30),VEGFやPDGFなどの複数の受容体をターゲットにした薬剤Sunitinibも動物実験レベルで有用性が報告されており31),この分野における有用な薬物の探索はしばらく続くと思われる.IVトラベクロトミーの新知見Iwaoらは17の日本の施設を対象に後ろ向きに調査を行った結果を報告している32).これによると,42例のステロイド緑内障と108例のPOAGにトラベクロトミーが行われ,基準眼圧を21mmHgとした場合にそれぞれの3年後の成功確率は78.1%と55.8%であった.基準眼圧を18mmHgとした場合はそれぞれ56.4%と30.6%であり,いずれもステロイド緑内障の成績が有意に良好であった.ステロイド緑内障においては,基準眼圧21mmHgにかぎるとこの成績はトラベクレクトミーの成功率と同等であった.ステロイド緑内障に対するトラベクロトミーのリスク因子は硝子体手術既往と,ステロイドの全身投与の既往であった.また,Amariらはトラベクロトミー術後,眼圧コントロール不良となった眼に対してトラベクレクトミーを行い,このときに切除した線維柱帯,Schlemm管組織を病理学的に詳細に観察し,全13眼のうち2眼についてはSchlemm管内腔が前房側に開放されていた33).したがって,これらの症例ではSchlemm管内皮と線維柱帯の房水流出抵抗は十分下降しているにもかかわらず,眼圧コントロールが不良となっていることを示唆している.近年のSchlemm管マイクロシャント手術においても眼圧下降が不十分な症例が少なくないことから,Schlemm管以降にも房水流出抵抗が存在することが推測される.古典的なトラベクロトミーに関する新知見はトラベクレクトミーのそれと比較して少ないが,これは欧米におけるトラベクロトミーの手術件数が少ないことも関連し 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緑内障の新手術2:MIGSとこれに関連した新しい術式

2015年6月30日 火曜日

特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):813.820,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):813.820,2015緑内障の新手術2:MIGSとこれに関連した新しい術式NewSurgeryforGlaucoma2:MIGSandRelatedNewProcedures庄司信行*はじめに近年,低侵襲の緑内障手術としてMIGSという名称が知られるようになってきた.ただし,MIGSという名称は,microinvasiveglaucomasurgeryの略だといわれたり,minimallyinvasiveglaucomasurgeryあるいはmicroincisionalglaucomasurgeryの略だともいわれ,まちまちである.MIGSという名称の名付け親はIkeAhmedといわれている1)が,時が経つにつれてMIGSの意味するところも変化してきている.Ahmedらのグループは,MIGSは基本的に以下のような特徴をもった術式であると述べている1).1)小切開による眼内からのアプローチによるもの.角膜小切開により結膜への侵襲を加えないため,将来の濾過手術に影響を与えない.眼内からのアプローチは,隅角を直視下に見ながら手術を行うことを可能とし,白内障手術との同時施行も容易である.小切開のために前房は安定し,眼球の形状を保ち,屈折への影響も少ない.2)組織への侵襲が少ない.術後炎症は少なく,術後の回復も早い.解剖学的にも生理的にも房水流出経路を維持することができる.そのため,濾過手術のような低眼圧に起因する合併症を防ぐことができる.3)中等度の効果が得られる.他の濾過手術やチューブシャント手術と比べて高い効果は得られないものの,その分危険性は低い.4)何よりも重要なのは安全性の高い術式ということである.眼外からのアプローチで行われる従来の術式で経験するような低眼圧や脈絡膜滲出,上脈絡膜腔出血,浅前房や白内障の進行,濾過胞感染などの重篤な合併症を避けることができる.5)患者のQOLへの影響が少なく,手術からの回復が早いため,術後の早期社会復帰が見込める.緑内障専門家だけでなく一般の眼科医にも使いやすく,直接的なアプローチが可能な手術なので,白内障のような他の術式と組み合わせて施行しやすい.このように,MIGSという名称は特定の術式を指すのではなく,さまざまな術式を含んだ総括的な名称ということができる.今後もさまざまな器具や術式が考案される可能性があるが,眼圧下降を得るメカニズムとして,基本的には表1に示したように,①線維柱帯におけるバイパスの作製,②Schlemm管の拡張,③上脈絡膜腔への房水流出路の作製,④結膜下への房水流出路の作製,⑤毛様体における房水産生の抑制,に分けられる.現在,わが国で使えるMIGSはTrabectome手術のみであるが,米国のFoodandDrugAdministration(FDA)の認可を受けていないものも含め,近い将来,日本でも使えるようになる可能性が高いと考えられるものを本稿で取り上げた.なお,MIGSの多くは開放隅角緑内障が対象だが,線維柱帯やSchlemm管に操作を加える術式の場合,上強膜静脈圧の亢進が疑われる疾患は適応外である.*NobuyukiShoji:北里大学医療衛生学部視覚機能療法学〔別刷請求先〕庄司信行:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(49)813 814あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(50)った2).これがtrabectomeであり,米国では2004年にFDAの認可を得ている(米国のNeoMedix社,Tustin,CA).フットプレートの先端で電気焼灼が可能であり,線維柱帯を幅広く切除できるだけでなく,先端部分は多層ポリマー加工によって絶縁されており,Schlemm管内壁や集合管の開口部を損傷しないように工夫されている(図1a,b).さらに,術中に生じる逆流性出血による視認性の悪化に対処し,かつ前房深度を保ちながら対側の隅角へのアプローチを容易にするために,灌流と吸引を行いながら操作することができる.直視下で隅角を90.120°の範囲で切開するため(図1c),隅角鏡による隅角の観察が可能な開放隅角緑内障が適応であり,15.16mmHg程度の眼圧が目標と考えられる症例が対象となる.b.術後の成績と合併症緑内障点眼薬に関しては,術後すべてやめるのではなく,眼圧に応じて漸減することが推奨されている.2013年末までに当院で施行した101例117眼の経過をまとめると,平均15.2カ月の観察で,術前の平均眼圧31.6mmHg(点眼スコア約5)が術後15.16mmHg(同約3)で経過し,追加手術や眼圧21mmHgをカットオフとする生命表解析では,2年間で約70%の生存率であった.病型としては,続発緑内障,とくに落屑緑内障やステロイド緑内障は80%近い生存率を維持していたが,原発開放隅角緑内障で不良であった.水晶体温存例もあまり成績は良くなかった.全例に前房出血がみられI線維柱帯におけるバイパスを作製する術式房水の80%前後は古典的流出路である線維柱帯からSchlemm管に流出する.とくにSchlemm管に接する傍Schlemm管組織で房水流出抵抗がもっとも強いことが知られている.そこで,この傍Schlemm管組織を含めて線維柱帯を切開すれば,房水が流出しやすくなり,眼圧下降が期待される.この目的で古くから隅角切開術や眼外から行う線維柱帯切開術が行われてきた.とくに後者はわが国で広く行われている術式であるが,結膜切開や強膜弁の作製など,侵襲は決して少なくない.そこで,必要最小限の角膜切開創から眼内にアプローチし,線維柱帯にバイパスを作製する方法がいくつか考案された.眼内から線維柱帯を切開して開放する方法としてtrabectome手術が知られ,線維柱帯からSchlemm管内に器具を刺入する方法としてはiStentが知られている.1.Trabectomea.術式の概要先に述べたように,眼内からアプローチして線維柱帯を切開する方法に隅角切開術があるが,Schlemm管の内壁や集合管を傷つけずに線維柱帯を切開・開放することはむずかしい.そこでBaerveldtらは,線維柱帯を切開してSchlemm管に挿入する器具の先端部分をフットプレート状にすることによって,Schlemm管内壁を傷つけたり強膜まで切開が及ぶことのないような工夫を行表1おもなMIGSの分類器具を留置する器具を留置しない線維柱帯におけるバイパスの作製iStentTrabecularMicro-Bypass,iStentInject,TrabecutomeSchlemm管の拡張HydrusMicrostent上脈絡膜腔への房水流出路の作製GoldMicro-Shunt,STARfloGlaucomaDrainageImplant,Aquashunt,CyPassMicro-Stent,iStentsupra結膜下への房水流出路の作製AquesysXENglaucomaimplant,InnFocusMicroshunt毛様体における房水産生の抑制EndoscopicCyclophotocoagulation(ECP)表1おもなMIGSの分類器具を留置する器具を留置しない線維柱帯におけるバイパスの作製iStentTrabecularMicro-Bypass,iStentInject,TrabecutomeSchlemm管の拡張HydrusMicrostent上脈絡膜腔への房水流出路の作製GoldMicro-Shunt,STARfloGlaucomaDrainageImplant,Aquashunt,CyPassMicro-Stent,iStentsupra結膜下への房水流出路の作製AquesysXENglaucomaimplant,InnFocusMicroshunt毛様体における房水産生の抑制EndoscopicCyclophotocoagulation(ECP) a.ハンドピースの先端のフットプレートの形状b.線維柱帯切開のシェーマc.フットプレートがSchlemm管内に入り,線維柱帯を切開している様子図1トラベクトーム この部分が前房側に出ているこの部分がSchlemm管内に入るSchlemm管の外壁側は開放されていて,集合管への流れを妨げないように設計されている.この部分が前房側に出ているこの部分がSchlemm管内に入るSchlemm管の外壁側は開放されていて,集合管への流れを妨げないように設計されている.a.iStentのシェーマb.インサーターの先端部に装着されたiStentc.第二世代のiStent(iStentInject)d.インサーターに装着されたiStentInject図2iStentTrabecularMicro.Bypass 1.器具の概要HydrusMicrostentはScaffold-likeimplantとよばれ,湾曲した筒状の骨組みのような構造の器具である.イメージとしては,刀の鞘のような形で,後面(つまり刀の刃が向いているほう)は集合管を塞がないように開放してあり,湾曲の内側(つまり刀のみねに当たるほうで線維柱帯側)には大きな3つの開口部がある.片方の端は湾曲をややきつく設計してあり,Schlemm管から前房に顔を出すようになっていて,房水が流入しやすいように設計されている.Schlemm管の拡張だけでなく,直接前房との交通を作ることによって房水が流出しやすいように作られた器具ということになる(http://www.ivantisinc.com/).素材は心血管のインプラントとして用いられている弾性の高い,生体適合性の高いニッケルとチタンの合金で,全長8mmの器具である.専用のインサーターを利用して眼内からSchlemm管内に挿入・留置する.現在,FDAの認可に向けて臨床試験中である.2.おもな手術成績と合併症術前の眼圧が21.6mmHg(点眼スコア1.7)であったのが,1年で17.9mmHg(点眼スコア0.2)と報告されている.1年間の検討では,低眼圧や角膜機能不全,眼内炎などの重篤な合併症はみられず,器具の脱落や組織障害もみられなかった.一方,全長8mmということは,Schlemm管の約1/4周を占めることになる.はたして金属製の器具がSchlemm管内できちんと固定されるのか,また,眼球のゆがみや長年の圧迫でSchlemm管から突き出たり抜けたり,あるいは強膜を損傷しないのかなどの懸念もある.生体適合性に関しては,サル眼の実験でSchlemm管やその周囲の組織に慢性炎症や線維化,変性などの所見はみられないことが報告されているが,やはり長期的な観察が必要である.III上脈絡膜腔への流出を促進する術式ぶどう膜強膜流出路は,毛様体と上脈絡膜腔,脈絡膜,強膜から構成されている.前房から上脈絡膜腔への流出は,両者の間の圧較差および,上脈絡膜腔における高い吸収力によるといわれている.近年,生体適合性の(53)高い素材や,小型のステント,シャントなどの開発により,これらの器具を上脈絡膜腔に挿入してぶどう膜強膜流出路を利用する術式の研究が盛んになってきた.GoldMicro-Shunt(SOLX社,Waltham,MA,USA),CyPassMicro-Stent(TranscendMedical,MenloPark,CA,USA),STARfloGlaucomaDrainageImplant(DeviceTechnologies,Belrose,NewSouthWales,Australia),Aquashunt(OpkoHealth,Inc,Miami,FL,USA),iStentSupra(GlaukosCorporation,LagunaHills,CA,USA)などである.MIGSの現在の解釈では,これらのうち眼内から挿入するCyPassMicro-StentとiStentSupraがMIGSに該当すると思われるが,GoldMicro-Shuntはよく知られたデバイスなので,簡単に触れることとする.1.CyPassMicro.Stent(CyPass)a.器具・術式の概要CyPassは,長さ6.35mm,外径は約500μm,内腔が300μmで,根元の部分に襟のようなストッパーがついたポリイミド製の筒状の器具である.イメージとしては,やや湾曲した縦笛という感じである.CyPassを貫いているガイドワイヤの先端を強膜岬と虹彩根部に刺入し,根元の襟にあたるような太い部分を隅角に残した状態でガイドワイヤを引き抜き,CyPassを留置する(http://www.transcendmedical.com/).現時点では,米国での臨床使用はまだ認可されていない.b.おもな成績ヨーロッパからのデータ(CyCLEstudy)をみると,術後1年でCyPass単独手術例は26%の眼圧下降と33%の点眼スコアの減少,白内障との同時手術例(238眼)では33%の下降と50%の減少が得られたと報告されている.軽度の前房出血と浅前房がみられたものの,脈絡膜下出血,網膜.離などの重篤なものはみられなかった.ただし,一部の症例ではCyPassが被膜に覆われ,眼圧下降効果が失われたことから,その原因や対処法などの検討が必要であろう.2.iStentSupraImplantiStentの第3世代にあたるもので,眼内から上脈絡膜あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015817 818あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(54)CyPassと同様に浅前房や前房出血,炎症の遷延化などがみられたとのことである.米国ではFDAの認可待ちである.3.GoldMicro.Shunt(GMS)GMSは強膜内に挿入して用いるが,サイズが大きいため,結膜や強膜に切開を加えなければならない.したがって,冒頭に述べた現在のMIGSの概念からははずれてしまうが,MIGSの一つとして取り上げられることも多いようだ.また,米国ではまだ認可されていないものの,カナダやヨーロッパのいくつかの国で使用されており,比較的早い時期にわが国にも導入される可能性が高い.a.器具・術式の概要GMSは,前房と上脈絡膜の間に交通を作るプレート状の器具で,2枚の純金の板を貼り合わせたものである.生体適合性の良い金を用いることで,フィンブリン反応などによる房水流出の阻害を防ぐ.内面は図4aのとおりである.デバイス本体の全長は5.2mm,幅3.2mm,厚さ44μmである.厚めの強膜弁を作製後,専用のインサーターを用いて半円形の部分を強膜側の上脈絡膜腔腔に挿入し,房水流出を促す器具である.長さ4mm,内腔165μmの筒状で,Polyethersulfoneの本体とチタン製のスリーブからなる.先述したCyPassの形状と似た筒状で,胴体部分には抜けないように返しがついている(図3).専用の使い捨てインジェクターを用いて隅角を観察しながら挿入する.現時点では欧州連合(EU)で使用可能であり,1年の経過ではほとんどの症例で20%以上の眼圧下降が得られ,点眼を1剤以上減らすことができたと報告されている.合併症に関しては,a.2枚の板をはがしたときのGMSの内面.この面同士を貼り合わせた形をしていて,丸い形状の先端を上脈絡膜腔に,ひれのような形状の方が前房内に顔を出すように,強膜下に挿入する.GMS内部を通ってさまざまな方向に房水が流出していくことが考えられる.b.GMSが挿入された隅角のシェーマ.GMSの一部は前房側に顔を出しているが,本体の大部分は上脈絡膜腔に留置される.図4GoldMicro.Shunt図3iStentSupraチタン製のスリーブをもったポリエーテルスルフォンで作られており,透明な部分が上脈絡膜腔に挿入される.a.2枚の板をはがしたときのGMSの内面.この面同士を貼り合わせた形をしていて,丸い形状の先端を上脈絡膜腔に,ひれのような形状の方が前房内に顔を出すように,強膜下に挿入する.GMS内部を通ってさまざまな方向に房水が流出していくことが考えられる.b.GMSが挿入された隅角のシェーマ.GMSの一部は前房側に顔を出しているが,本体の大部分は上脈絡膜腔に留置される.図4GoldMicro.Shunt図3iStentSupraチタン製のスリーブをもったポリエーテルスルフォンで作られており,透明な部分が上脈絡膜腔に挿入される. あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015819(55)に差し込み,ひれのような出っ張りがあるほうを前房内に挿入する(古いモデルは逆にデザインされている)(図4b).貼り合わせる面にはいくつもの突起が出ていて,その間隙を房水が上脈絡膜腔のさまざまな方向に流れるようになっている.GMSの前房側には20個ほどのチャンネルが設けてあり,もともと開放しているのは10個ほどで,眼圧コントロールが不良の場合にはレーザーで穿孔することにより,残ったチャンネルを開放することが可能である.b.おもな成績と合併症術後1年の成績は,緑内障点眼ありで79%の症例が5.22mmHgの範囲の眼圧に落ち着き,平均眼圧は術前27.6mmHgから術後18.2mmHgに下降したと報告されている.合併症でもっとも多かったのは前房出血(38眼中8眼)だったが,一過性であったとのことである.難治緑内障に対するAhmedglaucomavalveとの比較試験でも,5年間でほぼ同等の成績が得られたと報告されている.手術が不成功に終わり,チューブシャント手術を行った症例で摘出したGMSを調べたところ,前房側にも上脈絡膜腔側にもCyPassでもみられたような線維性被膜が厚く覆っていたと報告されており,本術式の大きな課題である.IV結膜下への房水流出路の作製冒頭に記載したように,濾過胞関連の合併症を防ぐことがMIGSの目的の一つであれば,結膜下への濾過をめざした手術はこれに該当しないが,眼内からのアプローチで小さな切開ですむため,MIGSの一つとして取り上げられることが多い.1.TheXENGlaucomaImplant(XEN)a.器具・術式の概要XENはゲル・ステントともよばれ,生体内での異物反応が少ないゼラチンでできた軟らかい円筒形の器具である.全長は6mmで,内腔の大きさはモデルにより異なる.XEN専用インサーターは25Gまたは27Gの針が用いられており,内部にはXENが納められている.強膜岬とシュワルベ線の間の適当な部位にインサーターを刺入し,強膜内のトンネルが2.5.3.5mm程度になるように調節して,インサーターの先端部を結膜下に出す.そして,眼内レンズを挿入するときのような要領でXENを留置し,インサーターを抜去する.ZENが正しい位置に留置されれば,インサーターを取り除くと同時に房水が結膜下に流れるのが観察される.再手術例などの難治例でなければマイトマイシンCは使用しない.周辺虹彩切除も不要である.b.手術成績と合併症米国やその他の国が参加して行われた臨床試験では,107眼の手術成績が報告され,術前21.9mmHg(点眼約3剤)の眼圧が術後1年で15.9mmHg(点眼約1剤)に下降し,その後も大体14.15mmHgの眼圧で推移していた.重篤な合併症は報告されていない.2.InnFocusMicroshunt冠動脈疾患で用いられる薬物溶出ステントの素材として,生体に使用して10年以上の実績があるSIBS(Sty-rene-block-IsoButylene-block-Styrene)を用いており,全長8.5mm,直径0.35mm,内腔の直径0.07mmの軟らかい直針様の器具である.先端から4.5mm位のところに幅1.1mmの菱形の突起が出ていて,翼状針を小さくしたようなデザインである.術式に関する詳しい情報はないものの,InnFocus社のホームページ上のシェーマ(http://innfocusinc.com/index.php/microshunt/whathappens/)をみると,結膜を切開・.離して眼外から隅角に差し込むようである.後端の部分は円蓋部側の結膜・Tenon.下に挿入している.ヨーロッパで行われた79眼のレポートでは,術前23.0mmHgが術後3年まで11.12mmHgまで下降し,点眼スコアも術前平均2.8が術後平均0.5程度に減少したと報告されている.重篤な合併症は報告されていない.現在米国では第I相の試験が終わった段階で,現時点ではまだ臨床使用の認可は下りていない.V毛様体における房水産生を抑制する術式侵襲という意味では決して小さいとはいえない毛様体破壊術も,眼内からのアプローチが可能な手技,とくに白内障手術と同時施行が可能なものはMIGSの範疇に 820あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(56)含むと考えられている.Endocyclophotocoagulation(ECP)がそれで,経強膜毛様体破壊術(transscleralcyclophotocoagulation:TSCPC)に比べて,眼圧コントロールが容易でしかも合併症が少ないと報告されている.EndoOptiksInc(LittleSilver,NJ)が開発したエンドスコープシステムは,キセノンを光源とし,810nmの波長のダイオードレーザーを用いている.プローブの太さが3種類あり,太さによって照射できる範囲や焦点深度が異なる.白内障手術との同時使用時にはおよそ270°の範囲で照射ができるので,創口から離れた部位に1.5mmのサイドポートを作製すれば,360°の照射が可能となる.最大耐用量の薬物治療下での眼圧が35mmHgを超えていた症例を対象としたアーメド・バルブとの比較試験では,術後2年の眼圧(約14mmHg)や成功率(約74%)はほぼ同等であったが,ECP群では脈絡膜.離が少なく,前房出血はやや多かったことが報告されている.おわりに以上述べてきたように,MIGSは特定の術式をさすのではなく,さまざまな術式を含んだ総括的な名称ということができるが,前房内での操作が多いことから,内眼手術に慣れている白内障術者を中心に広まりつつあるように感じられる.しかし,眼圧下降を目的として行われる緑内障手術であるからには,緑内障専門医による評価も重要である.とくに高眼圧による緑内障が多い海外では評価が高いものの,術後の眼圧はおおむね15mmHg前後と報告されている.わが国で頻度の高い正常眼圧緑内障に対して,どの程度の効果があるかは慎重に考える必要があり,前向きの検討が必要であることを強調しておきたい.文献1)KahookMY(編).MIGSadvancedinglaucomasurgery.p13-55,SLACKIncoporated.NJ,20142)MincklerDS,BaerveldtG,AlfaroMRetal:Clinicalresultswiththetrabectomefortreatmentofopen-angleglaucoma.Ophthalmology112:962-967,20053)CravenER,KatzLJ,WellsJMetal;iStentstudygroup:Cataractsurgerywithtrabecularmicro-bypassstentimplantationinpatientswithmild-to-moderateopen-angleglaucomaandcataract:two-yearfollow-up.JCata-ractRefractiveSurg38:1339-1345,2012

緑内障の新手術1:チューブシャント手術

2015年6月30日 火曜日

特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):805.812,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):805.812,2015緑内障の新手術1:チューブシャント手術NewSurgeryforGlaucoma1:TubeShuntSurgery石田恭子*はじめに緑内障治療は,視神経症の進行を緩徐にして,患者の中途失明を防ぐことを目的として行われるが,そのための唯一確実な方法は眼圧下降である.薬物やレーザー治療を行った後も十分眼圧が下降せず,進行する症例に対しては,リスクとベネフィトを考慮し手術治療を選択する.長らくわが国では,線維柱帯切除術が緑内障手術治療のゴールドスタンダードであった.複数回の線維柱帯切除術が奏効しない症例や輪部の結膜瘢痕の著しい症例では,視機能に与える影響を危惧しつつも,毛様体破壊術を選択せざるを得ない場面が少なからず存在した.また,術中合併症や術後低眼圧の危険性が高い無硝子体眼や,出血が危惧される症例などに対しても,十分な眼圧下降が必要な場合は線維柱帯切除術の選択肢しかなかった.しかしながら,2012年,わが国で待ち望まれていたインプラント手術が認可され,バルベルト,エクスプレスが,2014年にはアーメドバルブの使用が可能となり,緑内障手術治療の選択肢が広がった.本稿では,3種の器具を用いたチューブシャント手術それぞれの特徴,手術適応,手術成績について記載する.Iエクスプレス緑内障フィルトレーションデバイスエクスプレス緑内障フィルトレーションデバイス(ア鍔かえし2.64mm房水の流れ・素材:ステンレス鋼製・全長:2.64mm・Shaftの太さ:27Gと同じ(400μm)・内腔:50μm・房水の入り口:2つ・房水の出口:VerticalChannel・固定:かえしと鍔図1エクスプレス.器具の特徴ルコン社製)(図1)は,ステンレス鋼製の調圧弁をもたない緑内障ドレナージデバイスで,全長2.64mm,シャフトの太さは400μm,内腔は50μm,前房内への迷入防止のために後端には鍔が,また眼外への脱落防止のために先端はかえしがついた形状となっている.房水の入り口は2カ所あり,虹彩などが陥頓した場合に対応するために,先端部以外にリリーフポートを備えており,出口はバックプレートについたverticalchannelにより,より後方へ房水が流れるように工夫されている.エクス*KyokoIshida:東邦大学大橋医療センター病院眼科〔別刷請求先〕石田恭子:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学大橋医療センター病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(41)805 結膜濾過胞エクスプレスba房水の流れ図2エクスプレス併用濾過手術例の写真と房水の流れa:術後症例写真.水色矢印=房水の流れ.b:エクスプレス移植眼における房水の流れ.眼圧分散(mmHg2)100806040200■EX-PRESS■Trabeculectomy**術翌日診察時術翌日処置後術7日目診察時術7日目処置後p=0.081p=0.668p=0.003p=0.039図3術翌日と7日目の眼圧値の分散(ばらつき)術翌日の診察時(処置前)眼圧のばらつきはエクスプレスで少ない傾向にある(p=0.081)が,マッサージや切糸の処置後,有意差はない(p=0.668).術7日目診察時(処置前)眼圧のばらつきは,エクスプレスで有意に少なく(p=0.003),処置後の眼圧のばらつきもエクスプレスで有意に少ない(p=0.039).(文献1から改変)プレスは,専用のデリバリーシステムに搭載されている.エクスプレス併用濾過手術では,デバイスを通じて房水を結膜下に導き結膜濾過胞に貯留させ,眼圧を下降させる(図2).線維柱帯切除術と同様に結膜濾過胞ができなければ眼圧が下降しないため,輪部濾過胞の形成に適した結膜を有することが手術の絶対適応条件である.輪部結膜濾過胞の形成可能な開放隅角緑内障では,初回手術例のみならず白内障および緑内障手術既往例,白内障同時手術例などでも奏効する.しかしながら,エクスプレス併用濾過手術では,線維柱帯切除術とは異なり,デバイス内腔が閉塞する可能性のあるぶどう膜炎に伴う続発緑内障や,デバイスを挿入するスペースが十分確保できない閉塞隅角緑内障,金属アレルギーの既往を有する症例では,禁忌である.また,発達緑内障の早発型に対しては本器具の使用報告が少なく,推奨されない.手技については,線維柱帯切除術と同様に作製した強膜弁下から,25ゲージ針で挿入路を作製したのち,前房内にデバイスを挿入するため,線維柱帯および虹彩切除を行わない.このため,術中の前房開放時間が短く,一般に前房出血を起こしにくく,術後炎症も少なく視力回復が早い1,2).また,線維柱帯切除術では,房水を眼内から眼外に導くために強膜窓を作製する必要があるが,どんなに熟練した術者であっても強膜窓を毎回同一の大きさで作製することは不可能である.一方,エクスプレス併用濾過手術では,内腔50μmの器具を通じて房水を導くため,濾過量が常に一定で術後の眼圧値のばらつきが少なく,再現性のある手術が可能となることが報告されている(図3)1).術翌日の診察時(処置前)眼圧のばらつきは,エクスプレスで少ない傾向にある(p=0.081)が,マッサージや切糸の処置後での有意差はない(p=0.668).術7日目診察時(処置前)眼圧のばらつきは,エクスプレスで有意に少なく(p=0.003),処806あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(42) レクトミー後過剰濾過による浅前房例,眼圧1~2mmHg合併症論文数発生数/母数リスク(95%信頼区間)p値エクスプレス線維柱帯切除術低眼圧726/24674/2890.29(0.13,0.65)0.003脈絡膜滲出624/23146/2740.65(0.24,1.80)0.41前房消失59/1908/1921.06(0.36,3.07)0.92低眼圧黄斑症24/1267/1350.56(0.16,1.98)0.37前房出血74/24920/2710.36(0.13,0.97)0.043濾過胞からの漏出638/22634/2491.41(0.84,2.39)0.20眼内炎21/601/611.04(0.10,10.49)0.97図4合併症.エクスプレスvsレクトミーメタ解析(文献2)から,低眼圧と前房出血はエクスプレスで有意に少ない.= BG101-350・シリコン製・Plateの横長:31mm・Plateの縦長:14.7mm・Plateの厚み:1mm・Plateの表面積:350mm2・Tubeの長さ:29mm・Tubeの内腔:300μm・房水流出抵抗は:0~2mmHgBG101-350BG102-350ホフマンエルボー前房挿入扁平部挿入図5バルベルト緑内障インプラント.器具の特徴右:BGI101-350の前房挿入,BGI-102の扁平部挿入図. あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015809(45)膜ができあがるまでに約1カ月かかり,この被膜が濾過胞となるため,術直後,とくに4週間未満のチューブ解放処置は低眼圧を起こす可能性があり注意を要する.近年,米国では多施設共同前向き比較試験としてTubeversusTrabeculectomyStudy(TVTStudy)が4),チューブシャント手術(Tube)とマイトマイシンC併用線維柱帯切除術(Trab)の効果と安全性を直接比較した.Tube群ではプレートサイズが350mm2のBGIを,術早期の低眼圧予防措置としてチューブを結紮したのち,耳上側に移植した.Trab群では,マイトマイシンC(0.4mg/ml,術中4分間塗布)併用線維柱帯切除術を上方の象限に施行した.表1に手術前後の眼圧値と投薬数を示す.術後5年の時点では,眼圧はTube群で14.4±6.9mmHg,Trab群で12.6±5.9mmHg,投薬数はTube群で1.4±1.3,Trab群1.2±1.5と,両群間に有意差はなかった.後3カ月目以降の眼圧が22mmHg以上または5mmHg以下を2回連続して記録した場合,術前と比較し20%未満の眼圧下降しか得られない場合,緑内障再手術を試行した場合,光覚喪失の場合,手術不成功と定義された.手術後5年の累積手術不成功率は,Tube群で29.8%,Trab群で46.9%であった(p=0.002).同様に不成功の定義が眼圧17mmHgを超える場合の累積手術不成功率は,Tube群で31.8%,Trabチューブは後房へ挿入プレートチューブ自己強膜弁図6バルベルト緑内障インプラント後の虹彩角膜内皮症候群例複数回手術歴(線維柱帯切除術歴2回,needling歴3回,白内障手術歴1回)があり,バルベルトを耳上側に移植.チューブは自己強膜弁下から,後房(虹彩後面で眼内レンズの前)に挿入.眼圧は,緑内障点眼なしで10.12mmHgにコントロールされている.表1TheTubeVersusTrabeculectomyStudyの手術前後の眼圧値と投薬数Tube群Trabeculectomy群p値術前眼圧(mmHg)25.1±5.325.6±5.30.56投薬数3.2±1.13.0±1.20.171年眼圧(mmHg)12.5±3.912.7±5.80.73投薬数1.3±1.30.5±0.9<0.012年眼圧(mmHg)13.4±4.812.1±5.00.101投薬数1.3±1.30.8±1.20.0163年眼圧(mmHg)13.0±4.913.3±6.80.78投薬数1.3±1.31.0±1.50.304年眼圧(mmHg)13.5±5.412.9±6.10.58投薬数1.4±1.41.2±1.50.335年眼圧(mmHg)14.4±6.912.6±5.90.12投薬数1.4±1.31.2±1.50.23データは平均±SDで示す.p値はStudent’st-testによる.術後5年の時点では,眼圧はTube群で14.4±6.9mmHg,Trab群で12.6±5.9mmHg,投薬数はTube群で1.4±1.3,Trab群1.2±1.5と,両群間に有意差はなかった.(文献4より)チューブは後房へ挿入プレートチューブ自己強膜弁図6バルベルト緑内障インプラント後の虹彩角膜内皮症候群例複数回手術歴(線維柱帯切除術歴2回,needling歴3回,白内障手術歴1回)があり,バルベルトを耳上側に移植.チューブは自己強膜弁下から,後房(虹彩後面で眼内レンズの前)に挿入.眼圧は,緑内障点眼なしで10.12mmHgにコントロールされている.表1TheTubeVersusTrabeculectomyStudyの手術前後の眼圧値と投薬数Tube群Trabeculectomy群p値術前眼圧(mmHg)25.1±5.325.6±5.30.56投薬数3.2±1.13.0±1.20.171年眼圧(mmHg)12.5±3.912.7±5.80.73投薬数1.3±1.30.5±0.9<0.012年眼圧(mmHg)13.4±4.812.1±5.00.101投薬数1.3±1.30.8±1.20.0163年眼圧(mmHg)13.0±4.913.3±6.80.78投薬数1.3±1.31.0±1.50.304年眼圧(mmHg)13.5±5.412.9±6.10.58投薬数1.4±1.41.2±1.50.335年眼圧(mmHg)14.4±6.912.6±5.90.12投薬数1.4±1.31.2±1.50.23データは平均±SDで示す.p値はStudent’st-testによる.術後5年の時点では,眼圧はTube群で14.4±6.9mmHg,Trab群で12.6±5.9mmHg,投薬数はTube群で1.4±1.3,Trab群1.2±1.5と,両群間に有意差はなかった.(文献4より) 表2TheTubeVersusTrabeculectomyStudyの1カ月以降の合併症Tube群(N=107)Trab群(N=105)遷延性角膜浮腫17(16%)9(9%)違和感1(1%)8(8%)遷延性複視6(6%)2(2%)濾過胞の被覆化2(2%)6(6%)濾過胞漏出06(6%)脈絡膜滲出2(2%)4(4%)黄斑浮腫5(5%)2(2%)低眼圧黄斑症1(1%)5(5%)Tube露出5(5%)─濾過胞炎/眼内炎1(1%)5(5%)慢性/再発性虹彩炎2(2%)1(1%)Tube閉塞3(3%)─網膜.離1(1%)1(1%)角膜潰瘍01(1%)浅前房/前房消失1(1%)0合計36(34%)38(36%)実数(%)を示す.合併症の発生率は同程度であるが,Tube独特の合併症を認める.赤字:tube手術でとくに注意する合併症.(文献4より)群で53.6%(p=0.002),眼圧14mmHgを超える場合の累積手術不成功率は,Tube群で52.3%,Trab群で71.5%(p=0.017)であった.すなわち,眼圧定義(21,17,14mmHg)にかかわらず,累積手術不成功率は,Trab群で有意に高かった.術中合併症の発生率に有意差はなかったが,術後1カ月以内の早期合併症では,Tube群(21%)と比較しTrab群(37%)が有意に多かった(p=0.012).一方,術後1カ月目以降の合併症(表2)では,Tube群(34%)とTrab群(36%)で有意差を認めなかったが,Tube群では重症度が高い合併症が存在した.従来,インプラント手術は難治性緑内障に対してのみ行われ,術後眼圧は薬物を併用してもhigh-teenになることが多く手術成功率はあまり高くないと考えられてきた4).しかしながら,手術対象例そのものが難治性であったため,インプラント手術の成績が正しく評価されてきたとはいいがたいものであった.TVTStudy4)では,緑内障そのものの予後が比較的よい症例を対象とした場合,バルベルトの手術成績は線維柱帯切除術と比較し,手術成績がよく早期合併症の発生頻度も少ないことが証810あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015明されたが,チューブ独特の重篤な合併症の発症には十分注意する必要がある.IIIアーメド緑内障バルブアーメド緑内障バルブは,調圧弁をもつ緑内障フィルトレーションデバイス(図7)で,チューブとプレートからなる.わが国で認可され使用可能なモデルは,シリコーン製のプレート面積が184mm2のFP-7と小児や眼窩部の狭い症例に適応となる面積96mm2のFP-8の2種で,両モデルとも直線チューブタイプであり,一般に前房挿入か,あるいは眼内レンズ眼では後房挿入も可能である.硝子体挿入用のパルスプラナクリップ装着モデルはわが国では販売されていないため,硝子体切除眼で毛様体扁平部に挿入する場合は,直線タイプを用いる.アーメドもバルベルトと同様に難治性緑内障が手術適応となる.アーメドは,2枚のシリコーン膜でできた弁をもち,実験的には眼圧が6.8mmHg以下では,弁が閉じて房水が流れないため術後低眼圧を起こしにくい.しかしながら,2枚の膜が接触しているため,移植前に必ずチューブからゆっくりとbalancedsaltsolution(BSS)を流し入れて弁が開くことを確認する(プライミング).プレートは縦長の形状のため,隣り合う2直筋の間に挿入し,輪部から8mm程度の位置で強膜に縫合固定する.その後チューブの長さを切断し調整したのちに眼内に挿入する.露出を防ぐために輪部チューブを被覆する.バルベルトと異なり,低眼圧対策(チューブ結紮やステント挿入),高眼圧対策(シャーウッドスリット)が不必要で,術直後からプレート周囲に房水が流れる.アーメドとバルベルトの手術成績を比較した無作為割り付け試験の一つであるTheAhmedBaerveldtComparison(ABC)Study5)では,モデルFP7とBGI101350が使用され,バルベルト群では術中にチューブ結紮やリップコードで早期の低眼圧予防措置が施された.術後1週間までの眼圧,投薬数は,アーメド群で有意に低いが,術後5年の時点では,眼圧はバルベルト群12.7±4.5mmHgでアーメド群14.7±4.4mmHgと比較し有意差に低くなる(p=0.015)が,投薬数はそれぞれ2.2±1.4,1.8±1.5で有意差はなかった(p=0.28)(表3).術(46) あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015811(47)後3カ月以降の眼圧が22mmHg以上または5mmHg以下を2回連続して記録した場合,術前と比較し20%未満の眼圧下降しか得られない場合,緑内障再手術を試行した場合,光覚喪失の場合,手術不成功と定義すると,累積不成功率はアーメド群で44.7±4.6%,バルベルト群で39.4±4.6%と有意差はなかった(p=0.65).ただし,アーメド群では眼圧コントロール不良が原因でModelFP7ModelFP8ModelFP7の説明16.00mm13.00mmSurfaceArea184.00mm2ValveThickness0.9mm225.00mmTubeLengthTubeDiameter0.305mm0.635mm図7アーメド緑内障バルブの特徴(ジャパンフォーカス株式会社提供)表3TheAhmedBaerveldtComparisonStudyの手術前後の眼圧値と投薬数Ahmed群Baerveldt群p値術前眼圧(mmHg)31.2±11.231.8±12.50.71投薬数3.4±1.13.5±1.10.341年眼圧(mmHg)15.4±5.513.4±6.90.02投薬数1.8±1.31.5±1.40.082年眼圧(mmHg)14.5±5.514.2±6.00.76投薬数1.9±1.30.8±1.20.023年眼圧(mmHg)14.4±4.713.1±4.50.08投薬数2.0±1.41.5±1.40.024年眼圧(mmHg)15.5±6.213.4±4.40.02投薬数2.2±1.71.7±1.40.035年眼圧(mmHg)14.7±4.412.7±4.50.02投薬数2.2±1.41.8±1.50.28データは平均±SDで示す.p値はStudent’st-testによる.術後5年の時点では,眼圧はバルベルト群12.7±4.5mmHgでアーメド群14.7±4.4mmHgと比較し有意差に低くなる(p=0.015)が,投薬数はそれぞれ2.2±1.4,1.8±1.5で有意差はなかった(p=0.28).(文献5より)表4TheAhmedBaerveldtComparisonStudyの手術不成功理由Ahmed(n=143)Baerveldt(n=133)眼圧コントロール不良(緑内障再手術なし)23(40%)17(36%)緑内障再手術23(40%)8(17%)合併症による摘出3(5%)4(8%)持続低眼圧1(2%)6(13%)光覚消失7(12%)12(26%)総数5747眼圧コントロール不良:術3カ月目以降でIOp>21mmHgを連続2回記録.持続低眼圧:術3カ月目以降でIOp<5mmHgを連続2回記録.(文献5より)ModelFP7ModelFP8ModelFP7の説明16.00mm13.00mmSurfaceArea184.00mm2ValveThickness0.9mm225.00mmTubeLengthTubeDiameter0.305mm0.635mm図7アーメド緑内障バルブの特徴(ジャパンフォーカス株式会社提供)表3TheAhmedBaerveldtComparisonStudyの手術前後の眼圧値と投薬数Ahmed群Baerveldt群p値術前眼圧(mmHg)31.2±11.231.8±12.50.71投薬数3.4±1.13.5±1.10.341年眼圧(mmHg)15.4±5.513.4±6.90.02投薬数1.8±1.31.5±1.40.082年眼圧(mmHg)14.5±5.514.2±6.00.76投薬数1.9±1.30.8±1.20.023年眼圧(mmHg)14.4±4.713.1±4.50.08投薬数2.0±1.41.5±1.40.024年眼圧(mmHg)15.5±6.213.4±4.40.02投薬数2.2±1.71.7±1.40.035年眼圧(mmHg)14.7±4.412.7±4.50.02投薬数2.2±1.41.8±1.50.28データは平均±SDで示す.p値はStudent’st-testによる.術後5年の時点では,眼圧はバルベルト群12.7±4.5mmHgでアーメド群14.7±4.4mmHgと比較し有意差に低くなる(p=0.015)が,投薬数はそれぞれ2.2±1.4,1.8±1.5で有意差はなかった(p=0.28).(文献5より)表4TheAhmedBaerveldtComparisonStudyの手術不成功理由Ahmed(n=143)Baerveldt(n=133)眼圧コントロール不良(緑内障再手術なし)23(40%)17(36%)緑内障再手術23(40%)8(17%)合併症による摘出3(5%)4(8%)持続低眼圧1(2%)6(13%)光覚消失7(12%)12(26%)総数5747眼圧コントロール不良:術3カ月目以降でIOp>21mmHgを連続2回記録.持続低眼圧:術3カ月目以降でIOp<5mmHgを連続2回記録.(文献5より) 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選択的レーザー線維柱帯形成術の現状

2015年6月30日 火曜日

特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):797.803,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):797.803,2015選択的レーザー線維柱帯形成術の現状UpdatesonSelectiveLaserTrabeculoplastyforGlaucoma新田耕治*はじめに点眼治療をもってしても眼圧のコントロールが得られないときに点眼を追加することによりアドヒアランスが低下することが危惧される.そのような場合,眼圧下降治療の選択肢の一つとして選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)がある.とくに最大耐用点眼を使用しても緑内障が進行する症例で手術に同意が得られないときなどに有用なことがある.さらにSLTは追加治療としてのみならず,点眼治療の代わりに第一選択治療として施行する場合がある.しかし,日本人に多い正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)に対する第一選択治療としてのSLTの有効性についての報告はこれまでにはなく,最近筆者が報告したものもあわせて,SLTの現状を紹介する.I選択的レーザー線維柱帯形成術の適応現在では,緑内障と最初に診断した際に,多くの施設ではプロスタグランジン(prostaglandin:PG)点眼薬を使用し管理を開始することが多い.PG点眼薬は既存の緑内障点眼薬のなかで眼圧下降効果がもっとも優れていることは誰もが認めることである.しかし,緑内障患者にとっては,第一選択治療は治療の始まりにすぎない.これから何十年ものあいだ緑内障治療が続くことに思いをめぐらせながら点眼している患者はほとんどいないと思われる.むしろ,多くの患者は治療開始時には視力障害を自覚していないので,本当に緑内障なのであろうか…,他院へのセカンドオピニオンを考えようか…,本当に緑内障なら自分はいずれ失明するのだろうか…?などと緑内障管理のほんの入り口でとまどいやためらいの念を抱き,不安になっていることが多いのではないだろうか.眼科医は,予測される今後の自然経過も説明しながら,緑内障治療の玄関口でためらっている患者をうまく誘導してあげるべきである.その際には,点眼薬を長期的に使用することによる全身合併症や眼局所合併症も考慮に入れて治療方法を選択してあげるべきである.筆者の場合,狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)や落屑緑内障ではPG点眼を初期治療として使用することが多いが,日本人の多くを占めるNTGの場合は,年齢,性別,病期などを加味して初期治療を選択している.PG点眼を長期間使用することで眼瞼色素沈着,睫毛多毛,睫毛伸長,上眼瞼溝の深化などがかなりの頻度で発生するので,患者本人の顔貌がかなり変化してしまう症例も少なくない.眼鏡を常用している症例では眼鏡枠の影が眼瞼周囲に存在するので,PG点眼による顔貌の変化をカモフラージュできることが少なくないので本人が気にならない場合が多い.しかし,片眼のみの緑内障症例で片眼のみにPG点眼を使用している場合には,眼鏡を常用している症例でも眼周囲の変化に左右差が生じるので気になってしまうことが多い.また,女性の場合には毎朝化粧をする際に鏡で自分の顔貌を観察するので,少々の眼周囲の変化も非常に気にされる場合が少なくない.このようにPG*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8235福井県福井市和田中町船橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(33)797 798あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(34)III選択的レーザー線維柱帯形成術の照射範囲の違いによる治療比較90°に25発,180°に50発照射して32例をprospec-tiveに眼圧下降効果を検討したChenの報告1)では,両群に眼圧下降効果の差は認めなかったが,別のretro-spectivestudyで長期間の経過をみると,90°照射のほうが作用持続期間が短かったので,90°と180°では180°照射を推奨している.同様に180°と360°照射を比較した報告2,3)では,両者に有意差がないとする報告がある一方で,360°照射のほうが眼圧下降効果は優れているとする報告も多い4.8).森藤らは,半周照射と全周照射とを比較して,眼圧下降率は半周群10.9±12.6%,全周群18.3±11.8%で全周群が有意に高く,Kaplan-Meier生存分析による2年生存率は半周群44.0%,全周群58.0%と全周群のほうが高かったと述べている4).このような結果から最近ではSLTを施行する場合には,360°全周に照射するのが主流と思われる.IV追加治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績狭義POAGにおける追加治療としてのSLT治療の眼圧下降効果についての報告は多数あり,いずれの報告でも眼圧下降率は20.30%程度となっている.NTGへの追加治療としてのSLTの報告もあり,ElMallahら9)がその成績はSLT前の平均眼圧14.3±2.6mmHgがSLT後に平均眼圧12.2±1.7mmHgへ平均14.7%の眼圧下降が得られたと報告している.追加治療としてのSLTの効果は期待できるが,SLTを施行しても眼圧下降が得られないnon-responderが3割程度存在するので,SLT施行前にそのことを患者に説明し同意を得たうえで施行しなければならない.また,筆者らのグループは最大耐用薬剤使用中のPOAGにSLTを施行した結果,施行前眼圧20.9±3.4mmHgが施行後18.7±4.6mmHgと下降したが,下降率は10.0%,Kaplan-Meier法による12カ月後の眼圧累積生存率は23.2%と不良であったことを報告した10).3剤以上緑内障点眼薬を使用している症例では,房水産生抑制作用やぶどう膜強膜流出路促進作用は点眼薬にて図られているためと思われる.SLT点眼を開始することによる治療へのベネフィットと副作用などのデメリットを,症例ごとに熟慮したうえで初期治療方法を選択すべきと考えている.SLTが適応となる緑内障病型は,NTGを含めた広義POAGおよび落屑緑内障,高眼圧症である.これらの病型は隅角が広く線維柱帯への照射も容易である.ステロイド緑内障もSLTを試してみる価値のある病型である.一方,SLT施行後に炎症を惹起しかえって眼圧上昇を招いてしまうおそれのあるぶどう膜炎緑内障はSLTの適応外と考えられる.最近ではminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)として,すでに日本でも導入されているtra-becutomeや,すでに欧米で報告されているiStentやCypassなど,新しい流出路再建方法が開発されている.これらの手術療法が将来になされる可能性がある症例においても,SLTが施行すみであることがそれらの手術の妨げにならないことも魅力の一つではないであろうか.II選択的レーザー線維柱帯形成術の照射手順SLT施行後の一過性眼圧上昇を予防するために,施行前1時間と施行直後にアプラクロニジンを点眼しておく.Q-swichedNd:YAGレーザーを使用し,照射時間は3nsec,照射スポットは直径400μmで,これらは変更不可能な設定条件であり,術者はレーザーのパワーのみ調整可能である.照射の際には隅角鏡を要するが,筆者はLatinaの1面鏡を使用している.このレンズは隅角を拡大して観察可能なのでレーザー照射が容易である.線維柱帯色素帯を中心に照射するが,レーザーのパワーは照射部位に気泡が生じる最小のエネルギーとするのが一般的である.しかし,色素沈着が生じている部位はより小さいエネルギーでも気泡が生じ,色素沈着のない部位ではより大きいエネルギーでも気泡が生じないことが多く,その場合は2.3発に1度程度気泡が生じるエネルギーで照射する.照射スポットが重ならない程度に詰めて照射することになっているが,網膜光凝固のように照射斑は生じないため注意を要する. あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015799(35)POAG群で照射前と照射後30カ月の眼圧はそれぞれ23.2±3.0mmHg,17.6±2.8mmHgで24.1%の眼圧下降率が得られ,両群ともに第一選択治療としてのSLTによく反応した.照射後30カ月の生存率(追加治療なし)は落屑緑内障群で74%,狭義POAG群で77%であった14).VII正常眼圧緑内障に第一選択治療として選択的レーザー線維柱帯形成術を施行した成績筆者らは日本人NTG40例40眼に第一選択治療としてSLTを施行し,その治療成績についてprospectiveに3年間観察し検討した結果15),眼圧は照射前15.8±1.8mmHg,照射1カ月後13.0±2.1mmHg,照射3カ月後13.4±2.1mmHg,照射6カ月後13.3±1.7mmHg,照射1年後13.2±1.9mmHg,照射2年後13.5±1.9mmHg,照射3年後13.5±1.9mmHgで,照射後3年間は術前と比べて常に有意に下降した(p<0.001,pairedt-test)(図1).SLTのみの治療にて経過観察可能であった群は照射36カ月後まで常に有意な眼圧下降が得られた(p<0.001,pairedt-test)が,点眼を追加した群は照射18カ月以降に有意な眼圧下降は得られなかった(p<0.05,pairedt-test).また,照射を再照射した群も,照射15カ月以降に有意な眼圧下降は得られなかった(p<0.05,pairedt-test)(図2).眼圧下降率は,照射1カ月後18.0±8.4%,照射3カ月後15.6±7.4%,照射6カ月後15.1±9.5%,照射1年後15.8±8.6%,照射2年後13.2±9.4%,照射3年後12.7±10.2%であった.照射1カ月後のΔoutflowpressure改善率が20%以上の著効群は37/40(92.5%),Δoutflowpressure改善率が0%以下の無効群はなかった.眼圧下降効果に関するエンドポイントを,1)照射後1カ月以降にΔoutflowpressure改善率が2回連続20%未満になったときの1回目の測定日,2)点眼追加,3)SLT再照射,4)内眼手術施行時,としてKaplan-Meier生命表解析を用いて生存率を検討した.その結果,照射1年後の累積生存率は87.5±5.2%,照射2年後の累積生存率は65.0±7.5%,照射3年後の累積生存率は40.0±7.7%であった(図3).エンドポイントに達した症例の原因は,Δoutflowpres-sure改善率20%未満が2回続いた症例は,11/40(27.5は線維柱帯を介する主経路からの房水流出促進作用があるので,最大耐用薬剤使用中の症例にも理論上は効果が期待できるが,施行後の眼圧下降効果は不良であった10).V第一選択治療として選択的レーザー線維柱帯形成術を選択した場合と点眼を選択した場合との成績の比較McIlraithらは,POAGに対して,第一選択治療としてSLT(下半周に照射)を施行した症例は照射前眼圧26.0±4.3mmHgが照射1年後に17.8mmHg(31.0%下降)と有意に下降し,第一選択治療としてラタノプロスト点眼治療を行った群(30.6%下降)と同等の眼圧下降を示したと報告している11).Nagarらは,POAGや高眼圧症に対してSLT(360°照射)によって約60%の症例でベースライン眼圧よりも30%以上の眼圧下降が得られ,その効果はラタノプロストと同等であったと報告した12).Katzらの狭義POAGあるいは高眼圧症に対し第一選択治療としてSLTあるいはPG点眼治療を施行したランダム化比較試験では,SLT群がベースライン眼圧24.5mmHg,9.12カ月後の眼圧18.2mmHg(下降量6.3mmHg),点眼群がベースライン眼圧24.7mmHg,9.12カ月後の眼圧17.7mmHg(下降量7.0mmHg)であった13).さらに目標眼圧に到達しなかった場合には,SLT群は半周ずつ再照射,点眼群はb遮断薬→a1作動薬→炭酸脱水酵素阻害薬あるいは配合剤へと強化したが,治療を開始して1年間にSLT群で11%が再照射,点眼群で27%が点眼追加となり,両群に統計学的な有意差は認めなかったと報告している13).VI落屑緑内障および狭義原発開放隅角緑内障に第一選択治療として選択的レーザー線維柱帯形成術を施行した成績落屑緑内障および狭義POAGに第一選択治療としてSLTを施行し,術後成績をprospectiveに比較検討したShazlyらの報告によると,落屑緑内障群で照射前と照射後30カ月の眼圧はそれぞれ25.5±3.4mmHg,18.3±4.7mmHgで28.2%の眼圧下降率が得られた.狭義 800あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(36).5.86±4.91dB,照射1年後MD.5.69±5.19dB,照射2年後MD.5.88±4.45dB,照射3年後MD.5.29±4.08dBで観察期間中に有意な変化はなかった.また,MDslopeは.0.18±0.58dB/年,VFIslopeは.0.87±1.44%/年で3年間の進行速度は緩徐であった.合併症に関しては,照射1時間後の眼圧─照射直前眼圧は平均.2.8±2.2mmHg(+2..6mmHg)で,5mmHg以上の一過性眼圧上昇は1例もなく,照射1週間後や1カ月後でも皆無であった.これは,SLT施行前1時間と施行直後にアプラクロニジン水を点眼した効果である可能性がある.結膜充血21/40(52.5%),眼重圧感5/40(12.5%),視力障害(霧視や羞明)4/40(10.0%),眼痛2/40(5.0%)を認めたが,いずれも照射後数日間で消失し,虹彩炎などの重篤な合併症は出現しなかった.第一選択薬として使用されることが多いPG点眼の代表薬であるラタノプロスト点眼におけるNTGへの単剤%),点眼治療を開始した症例が10/40(25.0%),SLT再照射を施行した症例が6/40(15.0%)で,再照射を施行した症例のうち,その後点眼治療を開始した症例が2/40(5.0%)であった.視野に関しては,照射前MD図1選択的レーザー線維柱帯形成術施行後の眼圧推移眼圧は,照射前15.8±1.8mmHg,照射3カ月後13.4±2.1mmHg,照射6カ月後13.3±1.7mmHg,照射1年後13.2±1.9mmHg,照射2年後13.5±1.9mmHg,照射3年後13.5±1.9mmHgで照射後3年間は術前と比べて常に有意に下降した(p<0.001,pairedt-test).眼圧(mmHg)*:p<0.001************n=393737383637353230282826101520baseIOP3M6M9M12M15M18M21M24M27M30M33M36M図2選択的レーザー線維柱帯形成術施行後の処置別の眼圧推移第一選択治療としてのSLT後の経過別の眼圧推移を示す.●はSLTのみの治療にて経過観察可能であった症例(26眼),◇は経過中に緑内障用の点眼薬での治療を追加した症例(8眼),.はSLTを再照射した症例で点眼薬での治療も追加した症例(6眼).SLTのみの治療にて経過観察可能であった群は照射36カ月後まで常に有意な眼圧下降が得られた(p<0.001,pairedt-test)が,点眼を追加した群は照射18カ月以降に有意な眼圧下降は得られなかった(p>0.05,pairedt-test).また,照射を再照射した群も,照射15カ月以降に有意な眼圧下降は得られなかった(p>0.05,pairedt-test).眼圧(mmHg)●:SLTのみ(26眼):点眼追加(8眼):再照射(+点眼追加)(6眼)101520baseIOP3M6M9M12M15M18M21M24M27M30M33M36M図3第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術による眼圧下降効果に関する生命表解析エンドポイントを,1)照射後1カ月以降にoutflowpres-sure改善率が2回連続20%未満になったときの1回目の測定日.2)点眼追加,3)SLT再照射,4)内眼手術施行時とし生命表解析を用いて眼圧下降効果に関する生存率を検討した結果,照射1年後の累積生存率は87.5±5.2%,照射2年後の累積生存率は65.0±7.5%,照射3年後の累積生存率は40.0±7.7%であった.累積生存率生存月数(M)1年生存率:87.5±5.2%2年生存率:65.0±7.5%3年生存率:40.0±7.7%00.20.40.60.81010203040506070図1選択的レーザー線維柱帯形成術施行後の眼圧推移眼圧は,照射前15.8±1.8mmHg,照射3カ月後13.4±2.1mmHg,照射6カ月後13.3±1.7mmHg,照射1年後13.2±1.9mmHg,照射2年後13.5±1.9mmHg,照射3年後13.5±1.9mmHgで照射後3年間は術前と比べて常に有意に下降した(p<0.001,pairedt-test).眼圧(mmHg)*:p<0.001************n=393737383637353230282826101520baseIOP3M6M9M12M15M18M21M24M27M30M33M36M図2選択的レーザー線維柱帯形成術施行後の処置別の眼圧推移第一選択治療としてのSLT後の経過別の眼圧推移を示す.●はSLTのみの治療にて経過観察可能であった症例(26眼),◇は経過中に緑内障用の点眼薬での治療を追加した症例(8眼),.はSLTを再照射した症例で点眼薬での治療も追加した症例(6眼).SLTのみの治療にて経過観察可能であった群は照射36カ月後まで常に有意な眼圧下降が得られた(p<0.001,pairedt-test)が,点眼を追加した群は照射18カ月以降に有意な眼圧下降は得られなかった(p>0.05,pairedt-test).また,照射を再照射した群も,照射15カ月以降に有意な眼圧下降は得られなかった(p>0.05,pairedt-test).眼圧(mmHg)●:SLTのみ(26眼):点眼追加(8眼):再照射(+点眼追加)(6眼)101520baseIOP3M6M9M12M15M18M21M24M27M30M33M36M図3第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術による眼圧下降効果に関する生命表解析エンドポイントを,1)照射後1カ月以降にoutflowpres-sure改善率が2回連続20%未満になったときの1回目の測定日.2)点眼追加,3)SLT再照射,4)内眼手術施行時とし生命表解析を用いて眼圧下降効果に関する生存率を検討した結果,照射1年後の累積生存率は87.5±5.2%,照射2年後の累積生存率は65.0±7.5%,照射3年後の累積生存率は40.0±7.7%であった.累積生存率生存月数(M)1年生存率:87.5±5.2%2年生存率:65.0±7.5%3年生存率:40.0±7.7%00.20.40.60.81010203040506070 あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015801(37)29.6%下降,休薬前眼圧から19.7%下降)であった.照射6カ月後の点眼追加なしでの休薬後眼圧からの20%以上の眼圧下降率を61.4%で達成,点眼追加ありでの休薬後眼圧から20%以上の眼圧下降率を28.5%で達成した18).X正常眼圧緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術による眼圧日内変動への影響点眼治療を施行してもなお進行するNTGに対してSLTを全周に施行し,SLT施行前後の眼圧の日内変動についてSENSIMEDトリガーフィッシュコンタクトレンズセンサーを使用して検討した結果,照射前の眼圧が13.5±2.5mmHg,照射1カ月後10.1±2.3mmHg,11.2±2.7mmHg,11.3±2.4mmHgで,照射前の夜間眼圧変動が290±86mVEq,施行後の夜間眼圧変動が199±31mVEqで有意に施行後に変動が小さくなっていた.眼圧の日々変動がNTGにおける進行の危険因子の一つとしてあげられている報告があり19),SLTにより眼圧の変動が小さくなるのであれば,より有効な治療と期待されるところである.XI正常眼圧緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の治療効果予測JWらは,NTGに追加治療としてSLTを施行して,治療効果に影響する因子を検討し,SLT前の眼圧がより高値の症例およびSLT後1週間の眼圧下降が強い症例ほどSLTの効果が強いと報告した20).SLTは選択的な色素細胞の障害による炎症反応の過程で,線維柱帯細胞や貪食細胞が活性化され,線維柱帯の機能的再構築が行われて房水流出抵抗が減弱した結果,眼圧が下降するのではないかと考えられている.しかし,SLTを施行しても約3割のnon-responderが存在するとされ,SLT施行前に正確に治療効果を予測できればnon-responderを減少させる可能性があり,今後の研究に期待したいところである.XII選択的レーザー線維柱帯形成術の合併症SLT施行後の合併症として,前房出血,虹彩炎,黄斑浮腫,角膜浮腫などの報告があるが,筆者の検討対象での眼圧下降効果について,Kashiwagiらは眼圧下降率が点眼開始1年で15.5%,2年で13.0%,3年で13.4%であったと報告している16).よってNTGに対する第一選択治療としてのSLTの眼圧下降効果とPG点眼単剤の眼圧下降効果は,3年間でほぼ同等であり,追加治療としてのSLTだけでなく,SLTはNTGの第一選択治療としても安全で効果的な緑内障治療方法と考えられる.VIII原発閉塞隅角症に第一選択治療として選択的レーザー線維柱帯形成術を施行した成績一般的には,原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角緑内障に対しては,隅角が狭くSLTの適応外と考えられるが,180°以上線維柱帯が観察可能な原発閉塞隅角症に,SLTあるいはPG点眼を無作為に選択した治療成績の報告がある17).それによると,6カ月後の眼圧下降はSLT4.0mmHg,PG点眼4.2mmHgと両群に差がなく,眼圧下降率もSLT16.9%,PG点眼18.5%と両群に差はなく,PG点眼と同等の眼圧下降が得られた.しかし,追加治療なしで21mmHg以下をcompletesuccessと定義した場合,6カ月後の成功率はSLT群60.0%,PG点眼84.0%で有意差を認めた.原発閉塞隅角症に対しては水晶体再建術などの外科的治療が選択されることが多いが,手術に同意が得られない症例に対する治療方法としてSLTも選択肢の1つとなりえる可能性が示唆された.IX点眼治療中の連続正常眼圧緑内障症例に点眼を休薬して施行した選択的レーザー線維柱帯形成術の効果Leeらは,点眼治療中の連続NTG46例83眼に点眼を休薬してSLTを施行し,その治療成績についてpro-spectiveに3年間観察し検討した結果18),眼圧は休薬後照射前16.1±2.2mmHg,照射1カ月後点眼なしで12.7±2.0mmHg(休薬後眼圧から21.6%下降,休薬前眼圧から10.6%下降),照射3カ月後平均0.9±0.9の点眼を使用して11.2±1.8mmHg(休薬後眼圧から30.9%下降,休薬前眼圧から21.1%下降),照射6カ月後平均1.1±1.0の点眼を使用して11.4±1.6mmHg(休薬後眼圧から 802あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(38)初回のSLT治療による眼圧下降効果が減衰した場合に再照射が考慮されるが,SLTの場合でも細胞質内のクラック形成など軽微な器質的変化が生じるとされており26),反復照射により線維柱帯における構造的変化が出現し,初回ほどの眼圧下降効果が得られなくなる可能性がある.SLT再照射の有効性についてはまだ報告が少なく,効果や安全性についてSLT再照射前に十分説明しておく必要がある.おわりに緑内障は主として点眼による眼圧下降治療が行われてきたが,アドヒアランスが不良な症例や自然脱落症例をよく経験する.一方,SLTは,1度施行すればrespond-erの場合は数年間眼圧下降効果が持続するので,アドヒアランス不良の患者に有用であると思われる.また,複数の緑内障用点眼による薬剤アレルギー症例に点眼をすべて中止し,SLTを施行し有効だったとの報告もあるので27),はじめからSLTを意図した症例でなくてもSLT単独治療に切り替えられる可能性もある.しかし,SLTは点眼薬1種2.3年分の費用がかかり,non-responderが約3割存在する現状においては,点眼と比較して費用対効果という点で劣っている.SLTの特徴をよく理解したうえで施行すれば,緑内障患者の治療の一つの選択肢になりうると考える.文献1)ChenC,GolchinS,BlomdahlS:Acomparisonbetween90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucoma13:62-65,20042)田中祥恵,今野伸介,大黒浩:選択的レーザー線維柱帯形成術における180°照射と360°照射の比較.あたらしい眼科24:527-532,20073)GoyalS,Beltran-AgulloL,RashidSetal:Effectofprima-ryselectivelasertrabeculoplastyontonographicoutflowfacility:arandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol94:1443-7,20104)森藤寛子,狩野廉,桑山泰明ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の照射範囲による治療成績の違い.眼臨紀1:573-577,20085)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Aran-domised,prospectivestudycomparingselectivelasertra-beculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.では結膜充血,霧視,重圧感などの合併症の出現頻度は26/40(65.0%)と高率であったが,すべて数日間で消失し,重篤な合併症は経験していない15).第一選択治療としてのSLTでの合併症の報告としては,McIlraithら下半周照射は,照射1時間後にcell1+程度の前眼部炎症を48%で認めたが,次回の受診日にも炎症が持続していたものはなかったと報告した11).Melamedら鼻側半周照射は,照射1日以内に結膜充血や軽微な前房炎症を67%に,58%に眼痛を認めたと報告した21).一過性眼圧上昇に関しては,第一選択治療としてのSLTの場合,Melamedらは照射後1時間以内に5mmHg以上の眼圧上昇が11%,2.5mmHgの上昇が7%であったと報告している21).追加治療としてのSLT治療の場合,筆者の施設では2/113(1.8%)の頻度にて照射後に5mmHg以上の眼圧上昇を認め,SLT治療後に線維柱帯切除術を施行せざるをえなかった1症例を経験した(unpublisheddata).森藤ら4)は,5mmHg以上の眼圧上昇が6.7%,上野ら22)は4.1%と報告した.いずれにしても照射した直後には眼圧上昇をきたす可能性があるので,照射して1時間後には必ず眼圧の確認が必要である.XIII選択的レーザー線維柱帯形成術再照射の有効性SLTは理論上,線維柱帯の構造には影響を与えないとされており,反復照射が可能とされている23).Hongらも,初回に360°照射を施行したのち,効果が減弱し照射前の眼圧水準に達した症例に,再度360°照射を施行した結果から,安全で効果的な治療方法であると述べている24).Khouriらは,初回照射後平均28.3カ月後に再照射を施行し,24カ月後に再照射前と比較して15%以上の眼圧下降効果が得られた症例が39%,20%以上の眼圧下降効果が得られた症例が29%であったと報告している24).症例によっては再照射によって眼圧下降効果が得られることがわかる.しかし,初回SLT照射24カ月後に照射前と比較して15%以上の眼圧下降効果が得られた症例が54%,20%以上の眼圧下降効果が得られた症例が36%であったとも報告している25).よって, 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