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ドルゾラミド・チモロール配合点眼液とブリンゾラミド・チモロール配合点眼液の切り替え効果

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):883.888,2015cドルゾラミド・チモロール配合点眼液とブリンゾラミド・チモロール配合点眼液の切り替え効果永山幹夫*1永山順子*1本池庸一*1馬場哲也*2*1永山眼科クリニック*2白井病院EffectsofSwitchingofBrinzolamide/TimololFixedCombinationsversusDorzolamide/TimololFixedCombinationsMikioNagayama1),JunkoNagayama1),YoichiMotoike1)andTetsuyaBaba2)1)NagayamaEyeClinic,2)ShiraiEyeHospital目的:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(以下,コソプト)をブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(以下,アゾルガ)に変更した際の眼圧変化と患者評価について検討する.対象および方法:コソプト点眼を2カ月以上継続している緑内障および高眼圧症患者48例48眼を対象とした.アゾルガに切り替え2カ月後,再度コソプトに切り替え2カ月経過をみた.切り替え後2週間の時点で患者アンケートを行い,点眼による刺激感,異物感,充血の自覚スコア,およびどちらがより好ましいかとその理由を調査した.結果:眼圧はベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±3.3mmHgで,すべての時点で差はなかった.自覚スコアの平均値はアゾルガが刺激感0.15,異物感0.30,充血0.20,コソプトではそれぞれ0.75,0.10,0.25であり,コソプトの刺激感が有意に高かった(p<0.01).「どちらがより好ましいか」に対する回答はアゾルガ切り替え時点では「アゾルガがよい」が14例29.1%,「コソプトがよい」が13例27.1%,「どちらでもよい」が21例43.8%であったのに対し,コソプト再開時点(アゾルガ切り替え2カ月後)ではそれぞれ5例10.4%,28例58.3%,15例31.3%で,おもに霧視・粘稠感がない点,点眼操作がしやすい点から「コソプトがよい」とするものが有意に増加した(p<0.01).結論:アゾルガとコソプトの眼圧下降効果は同等であった.コソプトはアゾルガより刺激感が強く,アゾルガの使用感に対する不満は点眼期間が長くなると強くなった.Purpose:Toexaminethechangesinintraocularpressure(IOP)andpatientself-assessmentaftertheswitchfromdorzolamide/timololfixedcombination(DTFC)tobrinzolamide/timololfixedcombination(BTFC).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved48eyesof48patientswithglaucomatouseyesandocularhypertensionwhocontinuouslyunderwentDTFCtreatmentfor2monthsormore.TheirtreatmentwasthenswitchedfromDTFCtoBTFC.AfterBTFCwasinstilledfor2months,itwasswitchedagaintoDTFC,andthepatientswerethenfollowedupfor2months.Twoweeksaftereachswitch,thepatientswereaskedtocompleteaquestionnairetoobtainsubjectivescoresforirritation,foreignbodysensation,andhyperemiapostinstillation,aswellastoanswerthequestion“Whicheyedropwasmorepreferable?”andexplaintheirreasonsforthepreference.Results:MeanIOPwas15.8±2.8mmHgatbaseline,15.8±2.9mmHgat2monthsafterswitchingtoBTFC,and15.7±3.3mmHgat2monthsafterresuminginstillationofDTFC;nodifferencewasobservedatallmeasurementtime-points.ThemeansubjectivescoreswithBTFCwere0.15forirritation,0.30forforeignbodysensation,and0.20forhyperemia,whereasthosewithDTFCwere0.75,0.10,and0.25,respectively.ThescoreforirritationpostinstillationofDTFCwassignificantlyhigherthanthatofBTFC(p<0.01).Asfortheresponsestothequestion“Whicheyedropismorepreferable?”,postswitchingtoBTFC,14patients(29.1%)preferredBTFC,13patients(27.1%)preferredDTFC,and21patients(43.8%)reportednopreferencebetweenthetwoeyedrops.AfterresuminginstillationofDTFC(at2-monthspostswitchingtoBTFC),5patients(10.4%)preferredBTFC,28patients(58.3%)preferredDTFC,and15patients(31.3%)reportednopreference.ThenumberofpatientswhopreferredDTFCsignificantlyincreasedprimarilyduetoitnotcausingblurredvision/sensationofviscousfluidanditseaseofinstillation(p<0.01).Conclusions:BTFCandDTFCwerecomparableintheireffectonthereductionofIOP.AlthoughDTFC〔別刷請求先〕永山幹夫:〒714-0086岡山県笠岡市五番町3-2永山眼科クリニックReprintrequests:MikioNagayama,M.D.,NagayamaEyeClinic,3-2Goban-cho,Kasaoka-shi,Okayama,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)883 causedmoresevereirritationthanBTFC,ittendedtobepreferredforcontinuoususeduetoeaseofinstillation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):883.888,2015〕Keywords:緑内障,配合点眼液,ブリンゾラミド,ドルゾラミド,チモロールマレイン酸塩.glaucoma,fixedcombination,brinzolamide,dorzolamide,timolol.はじめに緑内障患者の多くは年余にわたる点眼治療の継続が必要であり,そのうちの少なくとも半数は複数剤の点眼が必要となる1).その場合,それぞれの投与間隔を一定時間空ける必要があること,決められた投与の時間,回数を守ること,多くの点眼瓶を管理しなければならないことなどの問題が生じるため,治療のアドヒアランスが単剤投与に比べ大きく低下することが知られている2).近年相次いで国内での発売が開始された配合点眼薬は,点眼回数を減少させることでアドヒアランス向上とともに,治療効果や患者のQOL(qualityoflife)を改善させることが期待される.プロスタグランジン製剤とb遮断薬の配合点眼液は日本ではすでに2010年に発売され,臨床の場での使用経験が蓄積されてきている.炭酸脱水酵素阻害薬とb遮断薬の配合点眼液については,2010年6月にドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR配合点眼液,以下,コソプト)が発売された.さらに2013年11月にブリンゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(アゾルガR配合懸濁性点眼液,以下,アゾルガ)が新たに発売となった.両薬剤は海外での報告と同様に日本人に対しても,チモロール単剤療法よりも眼圧下降効果が強く3),単剤併用と同様の効果があり4,5),長期治療にも有効である6,7)ことが報告されている.本研究ではこれら2剤の眼圧下降作用,副作用の違いが日本人において実際にどうであるか,臨床の場で比較検証する2M以上2M2Mベースラインコソプトアゾルガコソプト眼圧測定第1回アンケート第2回アンケート図1プロトコール継続しているコソプトはウォッシュアウト期間を設けずに直接アゾルガに切り替えた(ベースライン).その後アゾルガを2カ月継続した後,再度コソプトに切り替え,2カ月間経過観察を行った.眼圧値はベースライン時,アゾルガ切り替え後2カ月,コソプト再開後2カ月で比較した.884あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015目的で,コソプトからアゾルガへ切り替えを行い,眼圧と被検者の点眼時の自覚症状の変化を調査した.なお,いわゆる「切り替え効果」の影響を避けるため,アゾルガ切り替え後に再度コソプトへの切り替えを行い,クロスオーバー試験に近い形で経過をみるデザインとした.I対象および方法対象は当院で加療中の成人開放隅角緑内障および高眼圧症で,コソプトを2カ月以上継続投与されている患者のうち,以下の条件を満たすものである.内眼手術後4カ月以内でないこと,活動性のぶどう膜炎を有さないこと,ステロイド点眼を使用していないこと.b遮断薬および炭酸脱水酵素阻害薬投与の禁忌事項に該当しないこと.重篤な腎障害を有さないこと.妊娠中および授乳中でないこと.被検者には研究の目的,内容について書面を用いて説明を行い,同意を得られたもののみをエントリーした.継続しているコソプトはウォッシュアウト期間を設けずにアゾルガに切り替え,この時点をベースラインとした.なお,切り替えの際には全例に処方前に点眼方法の注意として点眼瓶の底を押さえて滴下すること,点眼後に数分間涙.部を圧迫し眼瞼に付着した点眼液をウエットティッシュで拭くこと,点眼後数分間霧視を生じることを説明した.その後アゾルガを2カ月継続した後,再度コソプトに切り替え,2カ自覚症状について伺います(│をつけて下さい)項目症状の程度白目の部分が赤い(充血)目がゴロゴロして異物感がある点眼時しみる全くない全くない全くない我慢できないくらい赤い最高にゴロゴロしている最高に痛い図2自覚症状のアンケート充血,異物感,刺激感の3点について「全くない」を0,「非常に強い」を4として自覚がどのくらいの数値になるか被検者が直線上にマークを記入する方法でカウントした.(120) 月間経過観察を行った.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で2回連続測定し,その平均値を用いた.眼圧値はベースライン時,アゾルガ切り替え後2カ月,コソプト再開後2カ月で比較した(図1).また,それぞれの薬剤への切り替え後2週間の時点で使用感について患者アンケートを行った(図2).内容は「点眼による刺激感,異物感,充血の自覚のスコア」と「どちらがより好ましいと感じるか」と「好ましいと思った理由」である.自覚スコアについては「まったくない」を0,「非常に強い」を4として被検者の自覚がどのくらいの数値になるか直線上にマークして記入する方法でカウントした.理由については自由回答形式で複数回答可とした.アンケートの被検者への聞き取りはコメディカルが行った.併用眼圧下降薬については調査期間中変更しないこととした.両眼が対象となる条件を満たす症例についてはベースライン時の眼圧値のより高い1眼を選択し,両眼の眼圧値が同一の場合には右眼を選択した.55例55眼が試験にエントリーされ,経過中7例が脱落した.最終的に解析の対象となったのは48例48眼.内訳は男性28例,女性20例,年齢は31.88歳(70.0±12.5歳)であった.脱落した内容はアゾルガ切り替えの際に生じた副作用が原因のものが4例,コソプト再開時の副作用が原因のものが1例,併用薬のアレルギーによるものが2例であった.対象の緑内障病型の内訳は原発開放隅角緑内障36例,正常眼圧緑内障6例,落屑緑内障5例,高眼圧症1例であった.II結果眼圧はベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±p<0.010.200.300.150.250.100.750.000.100.200.300.400.500.600.700.80充血異物感刺激感■:アゾルガ:コソプトNSNS3.3mmHgですべての時点で差はなかった(対応のあるt検定)(図3).アンケートによる自覚スコアの平均値はアゾルガが刺激感0.15,異物感0.30,充血0.20,コソプトではそれぞれ0.75,0.10,0.25であり,コソプトの刺激感が有意に高かった(Wilcoxonの符号付き順位和検定p<0.01)(図4).「どちらがより好ましいか」に対する回答はアゾルガ切り替え時点では「アゾルガがよい」が14例29.1%,「コソプトがよい」が13例27.1%,「どちらでもよい」が21例43.8%であったのに対し,コソプト再開時点ではそれぞれ5例10.4%,28例58.3%,15例31.3%とコソプトをよいとするものが増加していた(c2検定p<0.01)(図5).その理由としては,アゾルガがよいと答えたものでは「しNS0510152025ベースライン1M(アゾルガ)2M(アゾルガ)1M(コソプト)2M(コソプト)NS眼圧(mmHg)図3眼圧経過ベースライン15.8±2.8mmHg,アゾルガ切り替え2カ月後15.8±2.9mmHg,コソプト再開2カ月後15.7±3.3mmHgですべての時点で差はなかった(対応のあるt検定).どちらでもアゾルガがどちらでもアゾルガが28%30%42%よいよい10%56%34%よいよいコソプトがコソプトがよいよい第1回アンケート第2回アンケート図5アンケート結果1「どちらがより好ましいと感じるか」アゾルガ切り替え時(第1回アンケート)では「アゾルガがよ図4自覚スコアい」が14例,「コソプトがよい」が13例,「どちらでもよい」充血,異物感は両者で差はなかった.コソプトは刺激感がアゾが21例であったのに対し,コソプト再開時(第2回アンケールガよりも有意に高かった(Wilcoxonの符号付き順位和検定ト)ではそれぞれ5例,28例,15例とコソプトをよいとするp<0.01).ものが有意に増加していた(c2検定p<0.01).(121)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015885 アゾルガがよい理由(n=5)さし心地がよい,14しみない点眼液が出やすい0246人数(名)コソプトがよい理由(n=28)粘稠感がない霧視がない眼瞼が白くならない点眼液が出やすい振る必要がない刺激感がない異物感がない人数(名)図6アンケート結果2「好ましいと思った理由」(第2回アンケート結果,複数回答あり)「アゾルガをよい」としたものの理由では「しみないから」がもっとも多かった.「コソプトをよい」としたものの理由では「粘稠感がないから」「霧視が少ないから」「眼瞼が白くならないから」などアゾルガが懸濁液であることからくると思われる問題を不満としたものが多かった.また,「振らなくてよいから」といった点眼のしやすさについての理由も多くみられた.みないから」がもっとも多かった.一方コソプトがよいと答えたものでは,「粘稠感がないから」が14例,「霧視が少ないから」が8例,「眼瞼が白くならないから」が5例で,アゾルガが懸濁液であることからくる問題を不満としたものが多かった.また,「振らなくてよいから」といった点眼のしやすさについての理由もみられた(図6).III考按海外の研究でアゾルガの眼圧下降はコソプトと比較して非劣性であることがすでに報告されている8,9).しかし,海外で用いられるコソプトに含有されるドルゾラミドの濃度は2%であり,わが国で使用されているコソプトに含有される1%ドルゾラミドと同一ではないため,眼圧下降効果も異なっている可能性がある.今回の試験では,全期間を通じて眼圧の有意な変化はみられず,わが国でもアゾルガはコソプトと同等の眼圧下降効果を有しているものと考えられた.ただし,今回の対象はベースライン時の平均眼圧が15.8mmHgとやや低く,切り替えによる効果の差が出にくい状態であったと思われる.また,今回は点眼から眼圧測定までの時間は症例によって統一されていなかった.効果の差をより詳細にみるためには点眼時間を一定にして眼圧の日内変動を計測するプロトコールでの試験を行うことがより望ましいと思われ886あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015113578140246810121416る.点眼の使用感についての過去の報告ではコソプトは刺激感が問題となるとされている9.11).今回の試験でも,やはりコソプトは点眼時の「刺激感」のスコアがアゾルガよりも有意に高い結果となった.これはコソプトのpHは5.5.5.812)と涙液よりもやや酸性であるが,アゾルガのpHは6.7.7.713)と中性寄りであるためであると思われる.一方,アゾルガは点眼時の霧視が問題になるとされている10,11).今回,直接の評価項目に「霧視」がなかったが,自由回答形式で「コソプトをよい」とした理由に「霧視がないこと」をあげているものが多くみられた.「どちらがより好ましいか」に対する回答については,興味深いことにアゾルガに切り替えた時点でのアンケートで「アゾルガが好ましい」と答えた14例のうち,2カ月点眼を継続した時点でも「アゾルガが好ましい」と答えたものはわずか1例に減少した.それに対して最初のアンケートで「コソプトが好ましい」と答えた13例は2カ月後も全例が同様に「コソプトが好ましい」と答えていた.過去の報告をみるとVoldら14),Rossiら15)はさし心地に対する患者評価をスコア化し比較した結果,アゾルガの満足度が有意に高かったとしている.しかし,これらの報告では評価の対象項目に「霧視」が含まれておらず,アゾルガの副作用に対する評価が十分でない可能性がある.Lanzlら16)はコソプトからアゾルガに切り替えた2,937名のうち「アゾルガがよい」としたものは82%,「コソプトがよい」としたものは8.8%であったと報告している.この報告では切り替え理由の過半数が「コソプトに対するintoleranceのため」であった.今回の検討での対象はコソプト点眼を2カ月以上継続可能であった症例に限定されていた.そのため,もともとコソプトの刺激感に耐えられなかった症例は含まれておらず,Lanzlらの報告とは対象となった症例の背景に違いがあると考えられる.またMundorfら11),およびAnaら17)は2日間両者を比較し,刺激感が少ないことからアゾルガがより好まれたと報告している.筆者らの報告はアゾルガ点眼を2カ月間継続した後に最終調査を行っており,観察期間が異なっている.以上,多くの報告でアゾルガがより好まれるとされており,今回とは食い違う結果となっている.この理由については第1に,上記のようなスタディデザインの違いがあげられる.第2に,過去の報告の対象にはアジア人種はほとんど含まれていないが,点眼に対する感受性は人種間で異なるため,これが結果の差に関与している可能性がある.第3に,アゾルガの点眼瓶はコソプトに比べてやや堅く,アゾルガは点眼液の粘稠性が高いため,滴下に若干力を要する.「コソプトを好ましい」とした理由に点眼操作のしやすさについてのコメントも多くみられたことから,点眼瓶の違いも結果に影響した可能性がある.(122) アゾルガの評価が2カ月間で大きく変化した理由として,点眼開始当初はいわゆる切り替え効果で患者本人のモチベーションが高く,霧視がそれほど問題とされなかった可能性があげられる.コソプトの刺激感は点眼を継続することにより慣れ,あまり問題とならなくなるといわれている18)がアゾルガの粘稠性,霧視の自覚は軽減せず,長期的には逆により意識されるようになる印象を受けた.実際に,切り替えてから4.26週までの期間で調査を行った報告では両者の使用感に差はなかった10)とされている.ブリンゾラミド点眼後の霧視の副作用については閉瞼のうえ涙.部の圧迫を行うこと,ウエットティッシュによる眼瞼の拭き取りを行うことによって軽減されることが報告されている19).今回試験開始の際に全例に書面を渡したうえ,アゾルガ点眼後に生じる霧視と眼瞼が白くなる点について説明を行い,涙.部圧迫,拭き取りについて十分に指導を行った.にもかかわらず2カ月後には多くの症例で霧視に対する不満が生じていた.このなかには指導内容を忘れているケースもあり,自覚症状,不満の聞き取りとともに定期的に点眼指導を行ったほうがよいと思われた.今回の検討で,コソプト点眼を継続している症例に対してアゾルガへの切り替えを行った場合,長期の使用感において不満が生じる可能性があることがわかった.ただし,コソプトの刺激感が気になるという症例にアゾルガが明確に支持されたケースも存在した.自覚症状については個人による感受性の違いが大きく関与するため,各薬剤処方の前に副作用の可能性について説明を十分行い,患者の希望と薬剤の特性を考慮したうえで選択を行うのがよいと思われる.本稿の要旨は第25回日本緑内障学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy:arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)DjafariF,LeskMR,Harasymowycz,PJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20093)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20144)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyof(123)afixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20145)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼液(MK-0507A)の第III相二重盲検比較試験.日眼会誌6:495-507,20116)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20147)磯辺美保,小泉一馬,辻智弘ほか:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合剤コソプト配合点眼液の特定使用成績調査.新薬と臨牀1:37-69,20148)SezginAB.,GuneyE,BozkurtKTetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher29:882-886,20139)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma4:293-300,200910)GrahamAA,MathewR,SimonL:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,201211)MundorfTK,RauchmanSH,WilliamsRDetal:ApatientpreferencecomparisonofAzargaTM(brinzolamide/timololfixedcombination)vsCosoptR(dorzolamide/timololfixedcombination)inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol3:623-628,200812)コソプトR配合点眼液インタビューフォーム.201313)アゾルガR配合懸濁性点眼液医薬品インタビューフォーム.201314)VoldSD,EvansRM,StewartRHetal:Aone-weekcomfortstudyofBID-dosedbrinzolamide1%/timolol0.5%ophthalmicsuspensionfixedcombinationcomparedtoBID-doseddorzolamide2%/timolol0.5%ophthalmicsolutioninpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher24:601-605,200815)RossiGC,TinelliC,PasinettiGMetal:Signsandsymptomsofocularsurfacestatusinglaucomapatientsswitchedfromtimolol0.5%tobrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombination:a6-monthefficacyandtolerability,multicenter,open-labelprospectivestudy.ExpertOpinPharmacother12:685-690,201116)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,201117)AnaS,JuanS,EmilioRSJetal:Preferenceforafixedcombinationofbrinzolamide/timololversusdorzolamide/timololamongpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol7:357-362,2013あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015887 18)StewartWC,DayDG,StewartJAetal:Short-termocu-19)亀井裕子,山田はづき,吉原文ほか:1%ブリンゾラミドlartolerabilityofdorzolamide2%andbrinzolamide1%点眼液点眼後の霧視に影響する要因.あたらしい眼科7:vsplaceboinprimaryopen-angleglaucomaandocular1007-1012,2012hypertensionsubjects.Eye9:905-910,2004***888あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(124)

細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係

2015年6月30日 火曜日

8765106,22,No.3(00)《原著》あたらしい眼科32(6):876.882,2015c876(112)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕髙橋直巳:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:NaomiTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係髙橋直巳*1,2鄭暁東*2鎌尾知行*2坂根由梨*2山口昌彦*2白石敦*2大橋裕一*2*1市立宇和島病院*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野StudyofLacrimalPunctum-relatedSlitLampMicroscopeViewsNaomiTakahashi1,2),XiaodongZheng2),TomoyukiKamao2),YuriSakane2),MasahikoYamaguchi2),AtsushiShiraishi2)andYuichiOhashi2)1)UwajimaCityHospital,2)DepertmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine目的:流涙症の診断において,涙液メニスカス高,結膜弛緩度の評価は重要であるが,涙点にかかわる細隙灯顕微鏡所見の記載は乏しい.そこで,涙点形状と涙点部におけるMarxlineの走行に着目し,加齢性変化と導涙機能との関係について検討した.方法:対象は涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目に異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳).下涙点の涙点乳頭の隆起度を4段階,涙点上皮輪への結膜侵入を3段階で評価し,涙点からMarxlineまでの距離(P-Marxline距離)を求めた.生理食塩水5μl点眼後から30秒間における涙液メニスカスの変動を前眼部OCT(光干渉断層計)で計測し,涙液クリアランス率を算出した.結果:涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関し,涙液クリアランス率とは負の相関を示した.結論:細隙灯顕微鏡で涙点を観察することで,より簡便に導涙機能を推察できる可能性が示唆された.Purpose:Theevaluationoftearmeniscusheightandconjunctivochalasisareimportantindiagnosingepipho-ra,howeverlittlehasbeendescribedregardingslitlampmicroscopicobservationofthevicinityofthelacrimalpunctum.Inthepresentstudy,wefocusedontheshapeandMarxlineofthelacrimalpunctumvicinityandana-lyzedtherelationshipwithageandtearclearance.Methods:Thesubjectwere44eyesof44subjects(male21eyesof21subjects,female23eyesof23subjects,48.66±17.86yearsold).Thosewithlacrimalocclusion,high-degreeconjunctivochalasis,andaberrationineyelidandblinkaberrationwereexcluded.Underslitlampmicro-scopicobservation,lacrimalpunctumprominencewereclassifiedas4degrees,conjunctivalirruptionintotheepi-theliumringoflacrimalpunctumas3degrees,andthedistancebetweenlacrimalpunctumandMarxline(P-Marxlinedistance)wascalculated.Thetearclearancerateswerecalculatedbymeasuringthedifferenceoftearmeniscusimmediatelyafterinstillationof5μlsalineand30secondslater,byanteriorsegmentOCT.Result:Lacri-malpunctumprominence,theconjunctivairruptionandP-Marxlinedistancecorrelatedwithageandnegativecorrelatedwithtearclearancerate.Thetearclearancerate’snegativecorrelationwithagedecreasedwithincreas-ingage.Conclusin:Slitlampmicroscopicfindingsregardingthevicinityofthelacrimalpunctumcouldbehelpfulinevaluatingfunctionaltearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):876.882,2015〕Keywords:涙点乳頭の隆起,涙点乳頭結膜侵入,涙点部Marxline距離,導涙機能,涙液クリアランス率.promi-nenceoflacrimalpunctum,conjunctivalirruptionintoanepitheliumringoflacrimalpunctum,distancebetweenlacrimalpunctumandMarxline,functionaltearclearance,tearclearancerates.(00)《原著》あたらしい眼科32(6):876.882,2015c876(112)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕髙橋直巳:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:NaomiTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係髙橋直巳*1,2鄭暁東*2鎌尾知行*2坂根由梨*2山口昌彦*2白石敦*2大橋裕一*2*1市立宇和島病院*2愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野StudyofLacrimalPunctum-relatedSlitLampMicroscopeViewsNaomiTakahashi1,2),XiaodongZheng2),TomoyukiKamao2),YuriSakane2),MasahikoYamaguchi2),AtsushiShiraishi2)andYuichiOhashi2)1)UwajimaCityHospital,2)DepertmentofOphthalmologyEhimeUniversitySchoolofMedicine目的:流涙症の診断において,涙液メニスカス高,結膜弛緩度の評価は重要であるが,涙点にかかわる細隙灯顕微鏡所見の記載は乏しい.そこで,涙点形状と涙点部におけるMarxlineの走行に着目し,加齢性変化と導涙機能との関係について検討した.方法:対象は涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目に異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳).下涙点の涙点乳頭の隆起度を4段階,涙点上皮輪への結膜侵入を3段階で評価し,涙点からMarxlineまでの距離(P-Marxline距離)を求めた.生理食塩水5μl点眼後から30秒間における涙液メニスカスの変動を前眼部OCT(光干渉断層計)で計測し,涙液クリアランス率を算出した.結果:涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関し,涙液クリアランス率とは負の相関を示した.結論:細隙灯顕微鏡で涙点を観察することで,より簡便に導涙機能を推察できる可能性が示唆された.Purpose:Theevaluationoftearmeniscusheightandconjunctivochalasisareimportantindiagnosingepipho-ra,howeverlittlehasbeendescribedregardingslitlampmicroscopicobservationofthevicinityofthelacrimalpunctum.Inthepresentstudy,wefocusedontheshapeandMarxlineofthelacrimalpunctumvicinityandana-lyzedtherelationshipwithageandtearclearance.Methods:Thesubjectwere44eyesof44subjects(male21eyesof21subjects,female23eyesof23subjects,48.66±17.86yearsold).Thosewithlacrimalocclusion,high-degreeconjunctivochalasis,andaberrationineyelidandblinkaberrationwereexcluded.Underslitlampmicro-scopicobservation,lacrimalpunctumprominencewereclassifiedas4degrees,conjunctivalirruptionintotheepi-theliumringoflacrimalpunctumas3degrees,andthedistancebetweenlacrimalpunctumandMarxline(P-Marxlinedistance)wascalculated.Thetearclearancerateswerecalculatedbymeasuringthedifferenceoftearmeniscusimmediatelyafterinstillationof5μlsalineand30secondslater,byanteriorsegmentOCT.Result:Lacri-malpunctumprominence,theconjunctivairruptionandP-Marxlinedistancecorrelatedwithageandnegativecorrelatedwithtearclearancerate.Thetearclearancerate’snegativecorrelationwithagedecreasedwithincreas-ingage.Conclusin:Slitlampmicroscopicfindingsregardingthevicinityofthelacrimalpunctumcouldbehelpfulinevaluatingfunctionaltearclearance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):876.882,2015〕Keywords:涙点乳頭の隆起,涙点乳頭結膜侵入,涙点部Marxline距離,導涙機能,涙液クリアランス率.promi-nenceoflacrimalpunctum,conjunctivalirruptionintoanepitheliumringoflacrimalpunctum,distancebetweenlacrimalpunctumandMarxline,functionaltearclearance,tearclearancerates. あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015877(113)はじめに涙腺から分泌された涙液は,瞬目により眼表面に涙液層を形成し,上下の涙液メニスカスを通り,上下涙点から涙小管,涙.,鼻涙管へと導かれ,最終的に鼻涙管開口部から鼻腔へと排出される.こういった分泌─導涙という涙液の流れのバランスが崩れたときに流涙症が発症する1).その原因としては①涙道通過障害,②結膜弛緩,涙丘や半月ひだ,などによる涙液メニスカスの遮断,③導涙機構のポンプ機能の低下,④ドライアイ,眼瞼内反症やアレルギー性結膜炎などによる眼表面への刺激や炎症による一時的な涙液分泌過多,などが考えられ,原因別に①②③は導涙性流涙,④は分泌性流涙とよばれる.それらの因子を包括的に判断するため,流涙症の検査では,1)細隙灯顕微鏡所見:涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),結膜弛緩,角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),アレルギー性結膜炎の有無,下眼瞼の弛緩の有無(snapbacktestなど),2)Schirmerテスト,3)涙道通水テスト,4)涙道内視鏡を用いた涙道精密検査,などが行われる.①の涙道通過障害は通水検査において確認することが可能であり,②④の種々の原因に関しては細隙灯顕微鏡およびドライアイ検査などである程度の判別が可能である.一方で,③の導涙機構に関しては解剖学的な検討が行われており,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpe-bralfascia(CPF),眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告が行われているが2.5),導涙機構のポンプ機能の低下は直接的な診断法はなく,間接的に涙液クリアランスを測定することで判断されている2,6).涙点は涙液の流入口であり,導涙機能に重要な働きをしている可能性があるにもかかわらず,涙点に焦点をあてて導涙機能との関連を検討した報告は筆者らの知りうる限り存在しない.今回,日常臨床において細隙灯顕微鏡で観察可能な涙点周囲の所見と導涙機能および加齢性変化との関連について検討した.I対象および方法対象は,愛媛大学附属病院眼科を受診した,涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目の異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳)である.対象眼はすべて右眼とした.涙点周囲の所見としては下涙点乳頭の隆起(以下,涙点乳頭の隆起度)と下涙点への結膜侵入(以下,結膜侵入度)を検討した.涙点乳頭の隆起度は4段階(図1)に分類し,Grade1は平坦,Grade2は涙点周囲に隆起ができたもの,図1涙点乳頭の隆起度─グレード分類(それぞれの左上は涙点周囲の写真)Grade1:涙点周囲が平坦,Grade2:涙点周囲に隆起,Grade3:涙点周囲に鼻側が下がった形状の隆起,Grade4:涙点周囲に鼻側耳側ともになだらかな傾斜のついた隆起.Grade2Grade3Grade4Grade1あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015877(113)はじめに涙腺から分泌された涙液は,瞬目により眼表面に涙液層を形成し,上下の涙液メニスカスを通り,上下涙点から涙小管,涙.,鼻涙管へと導かれ,最終的に鼻涙管開口部から鼻腔へと排出される.こういった分泌─導涙という涙液の流れのバランスが崩れたときに流涙症が発症する1).その原因としては①涙道通過障害,②結膜弛緩,涙丘や半月ひだ,などによる涙液メニスカスの遮断,③導涙機構のポンプ機能の低下,④ドライアイ,眼瞼内反症やアレルギー性結膜炎などによる眼表面への刺激や炎症による一時的な涙液分泌過多,などが考えられ,原因別に①②③は導涙性流涙,④は分泌性流涙とよばれる.それらの因子を包括的に判断するため,流涙症の検査では,1)細隙灯顕微鏡所見:涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH),結膜弛緩,角結膜上皮障害,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT),アレルギー性結膜炎の有無,下眼瞼の弛緩の有無(snapbacktestなど),2)Schirmerテスト,3)涙道通水テスト,4)涙道内視鏡を用いた涙道精密検査,などが行われる.①の涙道通過障害は通水検査において確認することが可能であり,②④の種々の原因に関しては細隙灯顕微鏡およびドライアイ検査などである程度の判別が可能である.一方で,③の導涙機構に関しては解剖学的な検討が行われており,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpe-bralfascia(CPF),眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告が行われているが2.5),導涙機構のポンプ機能の低下は直接的な診断法はなく,間接的に涙液クリアランスを測定することで判断されている2,6).涙点は涙液の流入口であり,導涙機能に重要な働きをしている可能性があるにもかかわらず,涙点に焦点をあてて導涙機能との関連を検討した報告は筆者らの知りうる限り存在しない.今回,日常臨床において細隙灯顕微鏡で観察可能な涙点周囲の所見と導涙機能および加齢性変化との関連について検討した.I対象および方法対象は,愛媛大学附属病院眼科を受診した,涙道閉塞,高度の結膜弛緩症,眼瞼および瞬目の異常のない44例44眼(男性21例21眼,女性23例23眼,年齢48.66±17.86歳)である.対象眼はすべて右眼とした.涙点周囲の所見としては下涙点乳頭の隆起(以下,涙点乳頭の隆起度)と下涙点への結膜侵入(以下,結膜侵入度)を検討した.涙点乳頭の隆起度は4段階(図1)に分類し,Grade1は平坦,Grade2は涙点周囲に隆起ができたもの,図1涙点乳頭の隆起度─グレード分類(それぞれの左上は涙点周囲の写真)Grade1:涙点周囲が平坦,Grade2:涙点周囲に隆起,Grade3:涙点周囲に鼻側が下がった形状の隆起,Grade4:涙点周囲に鼻側耳側ともになだらかな傾斜のついた隆起.Grade2Grade3Grade4Grade1 Grade1Grade2Grade3図2涙点上皮輪への結膜侵入度─グレード分類Grade1:結膜侵入なし,Grade2:半周以下の結膜侵入,Grade3:半周.全周の結膜侵入.25歳女性図3涙点部Marxline距離(赤線)の例左:25歳女性,右:81歳女性.対物12倍でフルオレセイン染色下に撮影した.P-Marxline距離は涙点中央からMarxlineまでの最短距離.Grade3は鼻側が下がった形状,Grade4は鼻側耳側ともになだらかな傾斜のついた形状とした.結膜侵入度は3段階(図2)に分類し,Grade1は結膜侵入なし,Grade2は半周以下の結膜侵入,Grade3は半周から全周の結膜侵入とした.眼瞼結膜─皮膚移行部に形成されるMarxlineは涙点前方にも観察することができ,涙点-Marxline距離(以下,P-Marxline距離)を計測し検討した.P-Marxline距離は,対物12倍のフルオレセイン染色下の前眼部写真から画像解析ソフトのPhotoshopを使用し,涙点中央からMarxlineまでの最短距離を算出した(図3).導涙機能の評価は,2013年にZhengらによって報告された前眼部OCT(光干渉断層計)を用いた負荷涙液クリアランス試験にて行った6).具体的な測定法は,生理食塩水5μl点眼直後から自由瞬目30秒間におけるTMH,tearmeniscusarea(TMA)の変動を前眼部OCTで計測し,涙液クリアランス率を算出した(負荷涙液クリアランス試験).計算式はOCTtearclearancerate(%)=(TMH0secorTMA0sec.TMH30secorTMA30sec)/TMH0secorTMA0sec×100である6).涙点乳頭の隆起度,涙点上皮輪への結膜侵入度,P-Marxline距離について,涙液クリアランスとの関連について検討するとともに,加齢変化との関連についても検討した.II結果涙点形状の結果は,涙点隆起度はGrade1:10例,Grade2:19例,Grade3:6例,Grade4:2例であり,平均(114) あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015879(115)Gradeは2.27±1.00であった.結膜侵入度はGrade1:26例,Grade2:7例,Grade3:2例であり,平均Gradeは1.39±0.62であった.P-Marxline距離は平均0.71±0.40mmであった.対象を20.30歳代,40.50歳代,60歳以上の3群に分類し,涙点関連所見の加齢に伴う変化をみると,涙点乳頭の隆起度は20.30歳代で平均Grade1.46±0.64,40.50歳代で平均Grade2.27±0.70,60歳以上で平均Grade3.20±0.86とすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).P-Marxline距離は20.30歳代で平均0.48±0.18mm,40.50歳代で平均0.68±0.16mm,60歳以上で平均0.99±0.51mmとすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).結膜侵入度は20.30歳代で平均Grade1.00±0,40.50歳代で平均Grade1.53±0.64,60歳以上で平均Grade1.64±0.74と,20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた(p<0.0001)(図4).また,涙点乳頭の隆起度(r=0.7120,p<0.0001),結膜侵入度(r=0.4693,p=0.0013),P-Marxline距離(r=0.3872,p<0.0001)は有意差をもって年齢との相関を示した(図5).TMH涙液クリアランス率(r=.0.3993,p=0.0073)およびTMA涙液クリアランス率(r=.0.3816,p=0.0106)は,年齢と有意差をもって負の相関を認め,加齢に伴い涙液クリアランス率は減少していた(図6).つぎに涙液クリアランス率と涙点関連所見との相関関係に00.511.522.533.5p=0.0049p=0.0021p<0.000120~30歳代40~50歳代60歳以上A:涙点乳頭隆起度の平均(Grade)00.20.40.60.811.21.41.61.8p=0.0014p=0.001120~30歳代40~50歳代60歳以上B:結膜侵入度の平均(Grade)00.20.40.60.811.2p=0.0031p=0.0002p=0.006920~30歳代40~50歳代60歳以上C:p-Marxline距離の平均(mm)図4涙点周囲の所見の年齢群別の平均涙点乳頭の隆起度,P-Marxline距離はすべての年代間で,結膜侵入度も20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた.r=0.7120p<0.00010123452030405060708090年齢(歳)(Grade)A:涙点乳頭の隆起度012342030405060708090年齢(歳)(Grade)B:結膜侵入度r=0.4693p=0.001301232030405060708090年齢(歳)(mm)C:P-Marxline距離r=0.6136p<0.0001図5涙点周囲の所見の年齢による分布涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関を認めた.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015879(115)Gradeは2.27±1.00であった.結膜侵入度はGrade1:26例,Grade2:7例,Grade3:2例であり,平均Gradeは1.39±0.62であった.P-Marxline距離は平均0.71±0.40mmであった.対象を20.30歳代,40.50歳代,60歳以上の3群に分類し,涙点関連所見の加齢に伴う変化をみると,涙点乳頭の隆起度は20.30歳代で平均Grade1.46±0.64,40.50歳代で平均Grade2.27±0.70,60歳以上で平均Grade3.20±0.86とすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).P-Marxline距離は20.30歳代で平均0.48±0.18mm,40.50歳代で平均0.68±0.16mm,60歳以上で平均0.99±0.51mmとすべての年代間で有意差を認めた(p<0.0001).結膜侵入度は20.30歳代で平均Grade1.00±0,40.50歳代で平均Grade1.53±0.64,60歳以上で平均Grade1.64±0.74と,20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた(p<0.0001)(図4).また,涙点乳頭の隆起度(r=0.7120,p<0.0001),結膜侵入度(r=0.4693,p=0.0013),P-Marxline距離(r=0.3872,p<0.0001)は有意差をもって年齢との相関を示した(図5).TMH涙液クリアランス率(r=.0.3993,p=0.0073)およびTMA涙液クリアランス率(r=.0.3816,p=0.0106)は,年齢と有意差をもって負の相関を認め,加齢に伴い涙液クリアランス率は減少していた(図6).つぎに涙液クリアランス率と涙点関連所見との相関関係に00.511.522.533.5p=0.0049p=0.0021p<0.000120~30歳代40~50歳代60歳以上A:涙点乳頭隆起度の平均(Grade)00.20.40.60.811.21.41.61.8p=0.0014p=0.001120~30歳代40~50歳代60歳以上B:結膜侵入度の平均(Grade)00.20.40.60.811.2p=0.0031p=0.0002p=0.006920~30歳代40~50歳代60歳以上C:p-Marxline距離の平均(mm)図4涙点周囲の所見の年齢群別の平均涙点乳頭の隆起度,P-Marxline距離はすべての年代間で,結膜侵入度も20.30歳代と他の2群間で有意差をもって加齢とともにGradeが上昇していた.r=0.7120p<0.00010123452030405060708090年齢(歳)(Grade)A:涙点乳頭の隆起度012342030405060708090年齢(歳)(Grade)B:結膜侵入度r=0.4693p=0.001301232030405060708090年齢(歳)(mm)C:P-Marxline距離r=0.6136p<0.0001図5涙点周囲の所見の年齢による分布涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離は年齢と相関を認めた. 880あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(116)ついて検討した.その結果,TMH涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.6305,p=0.0057),結膜侵入度(r=.0.5570,p=0.0394),P-Marxline距離(r=.0.3419,p=0.0231)と有意差をもって負の相関を示した(図7).一方,TMA涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.3356,p=0.0259),結膜侵入度(r=.0.3346,p=0.0220)と有意差をもって負の相関を示した.P-Marxline距離(r=.0.2870,p=0.0589)との相関は有意差が出なかったが,負の相関傾向は示した(図8).III考按今回,涙点形状についての検討を行った結果,涙点乳頭は加齢とともに隆起し,涙点への結膜侵入は高度となり,P-Marxline距離は延長していた.加齢に伴い涙液クリアランスが低下することはすでに報告があるが,涙点形状の変化との関連を検討した結果,涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離が増大すると,涙液クリアランスは低下することが示された.これらの結果から,加齢とともに涙点周囲に変化が起こり,導涙機能が低下するのか,加齢とともに導涙機能が低下し,涙点周囲に変化をきたすのか,が論議されるところである.まず,涙点乳頭の隆起であるが,筆者らは上涙点についても観察検討を行っているが,観察困難例もあるため,本報告では下涙点のみの結果を示した.上涙点乳頭の隆起度が判定可能であった27症例の検討結果では,上下涙点乳頭の隆起度の相関(r=0.8737,p<0.0001)は高く,上涙点乳頭の隆起度も年齢と相関(r=0.7395,p<0.0001)を認めた.一般的に筋肉は加齢とともに萎縮傾向にあり,脂肪も減少傾向を示すことを考えると,涙点から涙小管を覆うHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpebralfascia(CPF)の加齢による退縮と,眼窩脂肪の減少の結果として涙点乳頭が隆起してくると推測される.導涙機構に関して,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やCPF,眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告があるが2.5),Doaneらは,導涙機能において涙点は上下涙点が閉瞼時に会合する“kissing現象”を起こすことが導涙機能におけるポンプ作用発生に重要な役割を果たし051015202520~30歳代40~50歳代60歳以上TMHクリアランス率の平均(%)r=-0.3933p=0.00730510152025303520~30歳代40~50歳代60歳以上TMAクリアランス率の平均(%)r=-0.3816p=0.0106図6涙液クリアランスの年齢群別の平均TMHクリアランス率,TMAクリアランス率ともに負の相関を認めた.00.511.522.530102030405060TMHクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)0123450102030405060TMHクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)012340102030405060TMHクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)図7涙点周囲の所見のTMH涙液クリアランス率による分布いずれも負の相関を認めた.r=-0.3117p=0.0394r=-0.3419p=0.0231r=-0.4104p=0.0057(116)ついて検討した.その結果,TMH涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.6305,p=0.0057),結膜侵入度(r=.0.5570,p=0.0394),P-Marxline距離(r=.0.3419,p=0.0231)と有意差をもって負の相関を示した(図7).一方,TMA涙液クリアランス率は涙点乳頭の隆起度(r=.0.3356,p=0.0259),結膜侵入度(r=.0.3346,p=0.0220)と有意差をもって負の相関を示した.P-Marxline距離(r=.0.2870,p=0.0589)との相関は有意差が出なかったが,負の相関傾向は示した(図8).III考按今回,涙点形状についての検討を行った結果,涙点乳頭は加齢とともに隆起し,涙点への結膜侵入は高度となり,P-Marxline距離は延長していた.加齢に伴い涙液クリアランスが低下することはすでに報告があるが,涙点形状の変化との関連を検討した結果,涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離が増大すると,涙液クリアランスは低下することが示された.これらの結果から,加齢とともに涙点周囲に変化が起こり,導涙機能が低下するのか,加齢とともに導涙機能が低下し,涙点周囲に変化をきたすのか,が論議されるところである.まず,涙点乳頭の隆起であるが,筆者らは上涙点についても観察検討を行っているが,観察困難例もあるため,本報告では下涙点のみの結果を示した.上涙点乳頭の隆起度が判定可能であった27症例の検討結果では,上下涙点乳頭の隆起度の相関(r=0.8737,p<0.0001)は高く,上涙点乳頭の隆起度も年齢と相関(r=0.7395,p<0.0001)を認めた.一般的に筋肉は加齢とともに萎縮傾向にあり,脂肪も減少傾向を示すことを考えると,涙点から涙小管を覆うHorner筋を含む眼輪筋やcapsulopalpebralfascia(CPF)の加齢による退縮と,眼窩脂肪の減少の結果として涙点乳頭が隆起してくると推測される.導涙機構に関して,眼瞼周囲のHorner筋を含む眼輪筋やCPF,眼窩脂肪などの動きによって生じるポンプ機能によるとの報告があるが2.5),Doaneらは,導涙機能において涙点は上下涙点が閉瞼時に会合する“kissing現象”を起こすことが導涙機能におけるポンプ作用発生に重要な役割を果たし051015202520~30歳代40~50歳代60歳以上TMHクリアランス率の平均(%)r=-0.3933p=0.00730510152025303520~30歳代40~50歳代60歳以上TMAクリアランス率の平均(%)r=-0.3816p=0.0106図6涙液クリアランスの年齢群別の平均TMHクリアランス率,TMAクリアランス率ともに負の相関を認めた.00.511.522.530102030405060TMHクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)0123450102030405060TMHクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)012340102030405060TMHクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)図7涙点周囲の所見のTMH涙液クリアランス率による分布いずれも負の相関を認めた.r=-0.3117p=0.0394r=-0.3419p=0.0231r=-0.4104p=0.0057 あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015881(117)解析すると,涙点関連所見と涙液クリアランスの相関係数は縮小し,弱い負の相関傾向がみられた.つまり,涙点関連所見と涙液クリアレンスの間に強い年齢の影響があり,疑似相関の疑いも否定できないという結果であった.これらの涙点周囲所見は年齢とも相関を示し,本検討だけでは導涙機能の指標であるか,単純な加齢性変化であるかとの鑑別は不可能であり,今後の評価が待たれるところである.ていると報告している7).すなわち閉瞼直前に上下涙点が会合することにより涙小管が閉鎖腔となり,陰圧を発生することで,開瞼後に涙液は涙道に吸引されることになる.反対に,上下涙点が“kissing不全”を起こすと,導涙機能は低下すると報告している7).隆起した涙点乳頭は“kissing不全”を起こすため,さらに涙道ポンプ機能不全を引き起こすと考えられる.つまり,涙点の隆起は加齢変化により起こり,その変化により導涙機能が低下すると推測されるため,加齢性変化による導涙機能の指標となる可能性があると思われる.つぎに涙点への結膜侵入であるが,加齢に伴い侵入度が高度となっている.結膜侵入と加齢との因果関係は推測の域を出ないが,結膜・眼瞼の慢性炎症の結果として起こるのではないかと推測される.しかしながら,涙点乳頭の隆起が導涙機能を反映している可能性が示唆されるのに対し,涙点への結膜侵入は涙点口そのものの狭小化を示し,結膜弛緩などの機序と同様に,涙点上での涙液メニスカスの遮断による導涙障害と考えられる.Marxlineはマイボーム腺機能不全,結膜弛緩症により前方移動することがYamaguchiらによって報告されており,眼瞼縁における疎水性バリアの破綻が前方移動の原因であると推測されている8).P-Marxlineの延長が加齢性変化によるものか,導涙機能低下による2次性変化であるかが論点となる.HykinとBronによるとMarxlineは加齢による変化はきたさないとしているが9),Yamaguchiらは,結膜弛緩とともに涙液の前方移動が起こり,その変化としてMarxlineの前方移動が起こるため,Marxlineは年齢とともに前方移動する傾向があるとしている8).今回の結果を合わせて考察すると,導涙機能低下により,余剰の涙液が生じること,涙点乳頭の隆起により見かけ上涙点部のP-Marxlineが延長することなどが考えられ,P-Marxlineの延長は涙点乳頭の隆起および導涙機能低下の2次的変化と考えられ,前述の涙点乳頭隆起が導涙機能低下の指標となるならば,P-Marxlineの延長も導涙機能低下の指標と考えられる.本検討では,涙液クリアランス率においてTMHと涙点形状所見が有意に相関したにもかかわらず,TMA涙液クリアランス率では相関率は低かった.前眼部OCTによる涙液メニスカスの観察では,TMAはTMHに比較して結膜弛緩や内反または外反などの眼瞼形状の影響を受けていることが考えられる.本研究により,涙点周囲所見である涙点乳頭の隆起度,涙点への結膜侵入度,P-Marxlineは涙液クリアランスと相関することが示された.外来診察で涙点乳頭の隆起度,結膜侵入度,P-Marxline距離を観察することで,より簡便に導涙機能を推察でき,スクリーニング検査としても有用な所見となる可能性が示唆された.一方,年齢の影響を統計的消去し012345020406080100TMAクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)01234020406080100TMAクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)00.511.522.53020406080100TMAクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)図8涙点周囲の所見のTMA涙液クリアランス率による分布涙点乳頭の隆起度と結膜侵入度は負の相関を認め,P-Marxline距離は有意差はないが相関傾向であった.r=-0.3356p=0.0259r=-0.3446012345020406080100TMAクリアランス率(%)A:涙点乳頭の隆起度(Grade)01234020406080100TMAクリアランス率(%)B:結膜侵入度(Grade)00.511.522.53020406080100TMAクリアランス率(%)C:P-Marxline距離(mm)図8涙点周囲の所見のTMA涙液クリアランス率による分布涙点乳頭の隆起度と結膜侵入度は負の相関を認め,P-Marxline距離は有意差はないが相関傾向であった.r=-0.3356p=0.0259r=-0.3446 文献1)原吉幸,大橋裕一:涙道.眼瞼・涙器手術シリーズ第3回,眼紀54:313-320,20032)鈴木享:流涙症の原因と包括的アプローチ.眼科手術22:143-147,20093)栗橋克昭,今田正人,山下昭:涙道の解剖.眼科38:301-313,19964)栗橋克昭:導涙機構.眼科38:617-633,19965)柿崎裕彦:眼瞼から見た流涙症.眼科手術22:155-159,6)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearlyphasetearclearancebyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmol92:e105-e111,20147)DoaneMG:Blinkingandteardrainage.AdvOphthalmicPlastReconstrSurg3:39-52,19848)YamaguchiM,KutsunaM,UnoTetal:Marxline:Fluoresceinstaininglineontheinnerlidasindicatorofmeibomianglandfunction.AmJOhthalmol141:669-675,20069)HykinPG,BronAJ:Age-relatedmorphologicalchangesinlidmarginandmeibomianglandanatomy.Cornea11:334-342,1992***(118)

眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):871.875,2015c眼疲労を訴えるドライアイ患者に対するジクアス点眼液3%の有効性吉田紳一郎藤原慎太郎松本佳浩石川功吉田眼科病院EffectofDiquafosolSodiumOphthalmicSolutioninDryEyePatientswithEyeFatigueasthePrimarySubjectiveSymptomShinichiroYoshida,ShintaroFujiwara,YoshihiroMatsumotoandIsaoIshikawaYoshidaEyeHospitalドライアイは,自覚症状として目の疲れを生じる眼表面の慢性疾患である.眼疲労を主訴とするドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA)にジクアホソルナトリウム点眼液(DQS)またはシアノコバラミン点眼液(SCB)を併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.角結膜染色スコア,涙液層破壊時間(BUT)および自覚症状について,治療前および治療4週目を比較した.両群とも角結膜上皮障害は治療前に比較して有意に改善したが,DQS併用群のみBUTが有意に延長した.「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛み」は,両群とも治療前に比較して治療4週後に有意に改善した.「目の乾き」は,DQS併用群がSCB併用群に比較して有意に改善した.以上,DQSとHAの併用は眼疲労感を主訴とするドライアイ患者の治療に有用と考えられた.Dryeyeisachronicdiseaseofthetearfilmandocularsurface,anditsprimarysubjectivesymptomincludeseyefatigue.Weinvestigatedtheeffectsofthecombinationofdiquafosolsodium(DQS)andsodiumhyaluronate(HA)eyedropscomparedtotheeffectsofthecombinationofcyanocobalamin(SBC)eyedropsandHAforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.Theocularsurfacevitalstainingscore,tear-filmbreak-uptime(TBUT),andsubjectivesymptomsscorewerecomparedatbaselineandat4-weeksposttreatment.InboththeDQSandtheSCBtreatmentgroups,thestainingscorewassignificantlyimproved,butonlytheDQStreatmentsignificantlyextendedTBUT.Somesubjectivesymptoms,includingeyefatigue,wereamelioratedinbothtreatmentgroups.TheDQStreatmentsignificantlyimprovedthesensationofdrynessincomparisontoSCB.Thus,thecombinationofDQSandHAwasfoundusefulforthetreatmentofdryeyepatientswitheyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):871.875,2015〕Keywords:ドライアイ,ジクアホソルナトリウム点眼液,眼疲労.dryeye,diquafosolsodiumophthalmicsolution,eyefatigue.はじめにドライアイは,「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されており1),日常の診療においても,さまざまな不定愁訴をもつドライアイ患者に遭遇する.近年,パソコンやスマートフォンの急速な普及により,われわれはvideodisplayterminal(VDT)作業を行うような環境のなかで生活するようになったが,長時間のVDT作業は目の疲れを誘発する.不定愁訴のなかでも,「目の乾き」を訴える患者以上に「目の疲れ」を訴える患者が多く散見され2),ドライアイと眼疲労感には密接な関係が考えられる.一般的に調節性眼精疲労の治療ではシアノコバラミン点眼液(SCB:サンコバR点眼液0.02%)が用いられているが,眼精疲労でSCBを処方される患者を対象とした調査において,85%以上がドライアイ確定例またはドライアイ疑い例であったとする報告もある3).したがって,眼精疲労の改善もさることながら,同時〔別刷請求先〕吉田紳一郎:〒041-0851北海道函館市本通2丁目31-8吉田眼科病院Reprintrequests:ShinichiroYoshida,M.D.,Ph.D.,YoshidaEyeHospital,2-31-8Hondori,HakodateCity,Hokkaido041-0851,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(107)871 に目の疲れを訴える患者に対しては,原因となるドライアイの適切な診断および治療が非常に重要であり,他覚所見に加えて自覚症状の改善が不可欠な要素となる.2010年12月に発売されたジクアスR点眼液3%(DQS)は,水分およびムチンの分泌を促進することにより,ドライアイの病態形成におけるコアメカニズムである,涙液の不安定化と角結膜上皮障害の間の悪循環を涙液側から改善するドライアイ治療点眼液である4).その結果,ドライアイにより生じた角結膜上皮障害およびさまざまな自覚症状を改善する5,6).今回,眼疲労感を主訴として来院したドライアイ患者に対して,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(HA:ヒアレインR点眼液0.1%)にDQSまたはSCBを併用したときの,自覚症状および他覚所見の改善効果について比較検討した.I対象および方法1.対象2012年7月.2013年9月に吉田眼科病院を受診し,「ドライアイ診断基準」(ドライアイ研究会,2006年)に準じたドライアイの自覚症状があるドライアイ確定例または疑い例で,眼疲労を主訴としたドライアイ患者45例に対して,HA(1日4回点眼)にDQS(1日6回点眼)またはSCB(1日4回点眼)を併用して治療を行った.なお,併用するときの2剤の点眼間隔は5分としたが,順序に関してはとくに指示しなかった.エントリーした45例のうち,治療開始4週後に受診し,データ解析が可能であった39例39眼(男性2例,女性37例)を解析した.なお,解析対象眼はフルオレセイン染色による角結膜上皮染色スコアが高い眼を評価対象眼とし,スコアが両眼同じ場合は右眼を評価対象眼とした.2.方法治療前および治療4週後における自覚症状および他覚所見について,群間比較および群内比較を行った.自覚症状として,目の疲れ,目の乾き,目の不快感,目がゴロゴロする,目の痛み,物がかすんで見える,光をまぶしく感じる,目のかゆみ,目が重たい感じがする,目やにが出る,涙がでる,目が赤くなる,の12項を4段階(0:症状なし,1:少し辛い,2:辛い,3:とても辛い)で評価した.他覚所見としては,フローレス眼検査用試験紙を用いて最少量のフルオレセインを点入後,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を測定した.また,2006年ドライアイ研究会の診断基準1)に基づき角結膜上皮染色スコア(0.3段階:9点満点)を評価した.3.統計解析BUTの治療前と治療4週後の比較には対応のあるt検定を,また,HAとDQSの併用群(DQS群)およびHAとSCBの併用群(SCB群)の比較は,平均変化量(4週目の値.治療前の値)を用いてt検定を行った.自覚症状スコアおよび角結膜上皮障害スコアの治療前と治療4週後の比較には,Wilcoxon1標本検定を,DQS群とSCB群の比較は,平均変化量を用いてWilcoxon2標本検定を行った.検定の有意水準は両側5%(p<0.05)とした.II結果1.対象および背景因子解析対象39例の背景因子を表1に示す.DQS群およびSCB群の間で,性別,年齢,コンタクトレンズ装用の有無およびVDT作業時間に差は認められなかった.2.有効性および安全性の比較他覚所見において,BUTについてDQS群は,治療前3.8±1.5秒から治療4週後5.7±2.4秒と有意な改善を示したが(p=0.0001),SCB群ではそれぞれ3.8±1.2秒から4.6±1.8秒と有意な改善は認められなかった(p=0.0542)(表2).BUTの変化量に関しては2群間に有意な差はなかった(p=0.0576).角結膜上皮染色スコアは,DQS群およびSCB群ともに治療前に比較して治療4週後に有意な改善を認めた(それぞれp=0.0065およびp=0.0078).変化量について2群間に差はなかった(p=0.5792)(表3).自覚症状スコアの結果を表4に示す.自覚症状の合計スコアは,DQS群,SCB群ともに,治療前に比較して治療4週表1解析対象患者の背景因子HA+DQS群(n=21)HA+SCB群(n=19)p値性別女性男性1921800.4899a年齢(歳)51.3±17.656.2±14.10.3412b有20CL装用無19180.1100aVDT作業時間(時間)4.2±3.03.9±3.50.7808ba:Fisherの直接確立法,b:t検定.872あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(108) 表2BUTの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群3.8±1.5(秒)5.7±2.4(秒)1.9±1.8(秒)p=0.0001HA+SCB群3.8±1.2(秒)4.6±1.8(秒)0.9±1.7(秒)p=0.0542p=0.0576値は平均値±SDを示す.a):対応のあるt検定,b):t検定.表3角結膜上皮染色スコアの変化の比較治療開始前治療4週間後平均変化量群内比較a)群間比較b)HA+DQS群2.7±1.11.7±1.4.1.0±1.4p=0.0065p=0.5792HA+SCB群2.7±1.91.8±2.2.0.9±1.3p=0.0078値は平均値±SDを示す.a):Wilcoxonの1標本検定,b):Wilcoxonの2標本検定.表4自覚症状スコアの比較項目群治療前4週後変化量群内比較1)群間比較2)HA+DQS1.4±0.90.4±0.5.1.0±0.9p=0.0001目の疲れHA+SCB1.3±0.80.6±0.6.0.8±0.8p=0.0027p=0.6830HA+DQS2.0±0.90.9±0.9.1.1±1.0p=0.0003目の乾きHA+SCB1.2±0.90.7±0.8.0.4±0.7p=0.0352p=0.0370HA+DQS1.5±0.70.7±0.7.0.9±1.0p=0.0017目の不快感HA+SCB1.4±1.00.6±0.9.0.8±0.9p=0.0039p=0.8942HA+DQS1.1±0.90.6±0.7.0.5±0.9p=0.0278目がゴロゴロするHA+SCB1.3±0.90.4±0.8.0.9±0.6p=0.0001p=0.0662HA+DQS1.1±0.80.3±0.6.0.8±0.9p=0.0020目の痛みHA+SCB1.3±0.80.6±0.7.0.8±0.9p=0.0020p=0.6756HA+DQS0.8±1.00.6±0.8.0.2±0.9p=0.3984物がかすんで見えるHA+SCB0.8±0.90.6±0.9.0.3±0.8p=0.2344p=0.4664HA+DQS0.9±0.80.7±0.9.0.2±0.7p=0.3438光をまぶしく感じるHA+SCB0.8±0.80.4±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.3546HA+DQS0.3±0.70.4±0.70.1±0.5p=0.6875目のかゆみHA+SCB0.7±0.80.3±0.5.0.4±0.6p=0.0313p=0.0161HA+DQS0.8±0.90.3±0.5.0.5±0.8p=0.0156目が重たい感じがするHA+SCB0.7±0.70.4±0.6.0.3±0.8p=0.1484p=0.7556HA+DQS0.4±0.80.5±0.70.1±0.6p=1.0000目やにが出るHA+SCB0.3±0.50.2±0.4.0.2±0.4p=0.2500p=0.2103HA+DQS0.2±0.50.3±0.60.1±0.7p=1.0000涙が出るHA+SCB0.2±0.40.1±0.3.0.1±0.2p=1.0000p=0.7201HA+DQS0.6±0.90.3±0.7.0.3±0.8p=0.1719目が赤くなるHA+SCB0.7±0.80.3±0.6.0.3±0.6p=0.0625p=0.7610HA+DQS11.2±4.26.0±5.6.5.3±6.2p=0.0009自覚症状合計HA+SCB10.7±5.75.1±5.6.5.7±3.9p=0.0001p=0.8321値は平均値±SDを示す.1):Wilcoxonの1標本検定,2):Wilcoxonの2標本検定.(109)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015873 後有意に改善し(それぞれp=0.0009およびp=0.0001),そドライアイにおいて,涙液の安定性を高めることにより実用の変化量に有意な差はなかった(p=0.8321).各自覚症状を視力および高次収差を改善することが報告されており12,13),見てみると,「目の疲れ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごこの涙液安定性の効果が,目の疲れに関する自覚症状を軽減ろごろする」「目の痛み」に関して,両群とも治療前に比較したものと考えられた.して治療4週後に有意に改善した.また,「目の乾き」に関本研究では,角結膜障害スコアの改善においてSCB群おしては,DQS群がSCB群に比較して有意に改善する効果をよびDQS群ともに治療前に比して有意な改善を認め,両群示した(p=0.0370).さらに,「目が重たい感じがする」は間に顕著な差は認めなかった.この理由として,治療前の角DQS群でのみ治療前に比較して治療4週後に有意に改善し結膜上皮障害スコアの平均が2.7と比較的軽症のドライアイた.一方,「目のかゆみ」に関してはSCB群でのみ治療前に患者がエントリーされていたこと,およびHAが併用薬と比較して有意に改善し,DQS群と比較しても有意差が認めして投与されていたことで,SCB併用群とDQS併用群の間られた(p=0.0161).で上皮障害スコアの改善に顕著な差が認められなかったこと副作用は,試験を通じて認められなかった.が考えられる.そのような条件においてもDQS群ではSCBIII考按群よりもBUTでみられた涙液安定性を高める作用を示す傾向が認められた.このことは,DQSの水分分泌9)およびム本研究では眼疲労感を伴うドライアイに対してDQSはチン分泌作用13)が涙液層の安定化を改善していることを示HAとの併用ではあるが,治療効果が高いことが明らかになすものである.った.自覚症状軽減に効果のあった項目としては「目の疲本研究の限界として,つぎの2点があげられる.DQSのれ」「目の乾き」「目の不快感」「目がごろごろする」「目の痛水分分泌促進作用は点眼30分まで持続することが報告されみ」といったもので,これらの症状が強いドライアイでは,ており9),他覚所見の診察直前に点眼した患者が含まれる場そうした併用治療は効果が高いということになる.「目の乾合には,その影響が反映される可能性が考えられた.データき」以外の症状では,SCBとの併用でも自覚症状の改善がの標準偏差値をみる限り大きく外れた値はなかったことから有意にみられているが,「目の乾き」についてはDQSとのそのような患者は含まれていないと推測されるが,プロトコ併用のほうが著明に高い効果を示しており,乾きの強い症例ールに規定していないため本研究の限界として否定できないにはHAにDQSを併用する治療に優位性があるといえる.ものである.また,DQS併用群とSCB併用群では点眼回数SCBは調節性眼精疲労患者の反復測定時の調節時間,緊が異なり,その影響が結果に反映されている可能性は考えら張・弛緩運動の改善傾向がみられ,微動調節運動において有れる.本研究では対象がドライアイ患者であるので,点眼回意の改善する作用をもつ点眼液である8).一方,DQSは水分数の多さが治療効果に繋がっていないことを証明することはおよび分泌型ムチンを分泌促進することにより,涙液層を安今後の課題としてあげられる.定にして間接的に目の疲れをはじめとする自覚症状を改善す以上,DQSは眼疲労感を主訴とするドライアイ患者におる.DQSの水分分泌促進作用は点眼後30分継続することがいて,HAとの併用により自覚症状および他覚所見を有意に報告されており9),この効果がSCB群に比較して目の乾き改善し,ドライアイ治療に有用な薬剤と考えられた.を有意に改善する結果に繋がっていると考えられた.DQSはHAに抵抗するドライアイに対しても併用することで改善効果が報告10)されており,SCBにDQSまたはHAの併用利益相反:利益相反公表基準に該当なしを比較するほうが興味深い結果が出たのではないかと予想され,今後の検討課題としたい.文献DQSとHAの併用投与は,涙液層の安定性を高めるとと1)島﨑潤(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基もに「目の疲れ」をはじめとする自覚症状を改善した.ドラ準.あたらしい眼科24:181-184,2007イアイでは,通常の視力検査において1.0のような良好な視2)引地泰一,吉田晃敏,福井康夫ほか:厳しい診断基準とゆ力が得られる患者においても,1分間の連続視力を測定するるい診断基準のドライアイについての多施設共同研究.臨実用視力では顕著な視力低下が認められている11).これは,眼48:1621-1625,19943)五十嵐勉,大塚千明,矢口千恵美ほか:シアノコバラミ角膜上の涙液層が不安定な状態で短時間において涙液層が破ンの処方例におけるドライ頻度.眼紀50:601-603,1999綻するために,光学面に不整が生じてピントが合わなくなる4)NakamuraM,ImanakaT,SakamotoA:Diquafosolophためと考えられている.このようにピント調節を常時必要とthalmicsolutionfordryeyetreatment.AdvTher29:する状態の継続は毛様体筋への負荷を大きくするため,「目579-589,20125)TakamuraE,TsubotaK,WatanabeHetal:Aranの疲れ」といった自覚症状を生じると推察される.DQSは874あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(110) domised,double-maskedcomparisonstudyofdiquafosolversussodiumhyaluronateophthalmicsolutionsindryeyepatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,20126)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20127)UchinoM,YokoiN,UchinoYetal:Prevalenceofdryeyediseaseanditsriskfactorsinvisualdisplayterminalusers:theOsakastudy.AmJOphthalmol156:759-766,8)鈴村明弘:VitaminB12点眼剤による眼精疲労患者の調節機能,特にPEAGの動向.眼紀28:340-354,19779)YokoiN,KatoH,KinoshitaS:Facilitationoftearfluidsecretionby3%diquafosolophthalmicsolutioninnormalhumaneyes.AmJOphthalmol157:85-92,201410)KamiyaK,NakanishiM,IshiiRetal:Clinicalevaluationoftheadditiveeffectofdiquafosoltetrasodiumonsodiumhyaluronatemonotherapyinpatientswithdryeyesyndrome:aprospective,randomized,multicenterstudy.Eye26:1363-1368,201211)海道美奈子:ドライアイにおける視機能異常.あたらしい眼科29:309-314,201212)KaidoM,UchinoM,KojimaTetal:Effectsofdiquafosoltetrasodiumadministrationonvisualfunctioninshortbreak-uptimedryeye.JOculPharmacolTher29:595603,201313)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofdiquafosolophthalmicsolutionontheopticalqualityoftheeyesinpatientswithaqueous-deficientdryeye.ActaOphthalmol92:e671-675,201414)堀裕一:ドライアイに対する眼表面の層別診断・層別治療-4)ムチン層.眼科55:1251-1256,2013***(111)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015875

専用リーダーを用いた新しいアデノウイルス迅速診断法の臨床評価

2015年6月30日 火曜日

《第51回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科32(6):865.869,2015c専用リーダーを用いた新しいアデノウイルス迅速診断法の臨床評価中川尚*1宮田和典*2木村泰朗*3箕田宏*4大橋秀行*5栗田正幸*6中村聡*7弓狩健一*8金子久俊*9松本治恵*10加藤陽子*11平山優子*12前野淳子*13秦野寛*14*1徳島診療所*2宮田眼科病院*3上野眼科*4とだ眼科*5大橋眼科*6くりた眼科クリニック*7吉野町眼科*8弓狩眼科医院*9ほばら眼科*10松本眼科*11あおと眼科*12平山眼科クリニック*13前野眼科*14ルミネはたの眼科ClinicalEvaluationofaRapidDiagnosticKitforAdenoviruswithaDedicatedDigitalReaderHisashiNakagawa1),KazunoriMiyata2),TairouKimura3),HiroshiMinoda4),HideyukiOhashi5),MasayukiKurita6),SatoshiNakamura7),KenichiYukari8),HisatoshiKaneko9),HarueMatsumoto10),YokoKato11),YukoHirayama12),AtsukoMaeno13)andHiroshiHatano14)1)TokushimaEyeClinic,2)MiyataEyeHospital,3)UenoEyeClinic,4)TodaEyeClinic,5)OhashiEyeClinic,6)KuritaEyeClinic,7)YoshinochoEyeClinic,8)YukariEyeClinic,9)HobaraEyeClinic,10)MatsumotoEyeClinic,11)AotoEyeClinic,12)HirayamaEyeClinic,13)MaenoEyeClinic,14)HatanoEyeClinic目的:専用リーダーを用いて客観的に判定を行うアデノウイルス抗原迅速検出キット「BDベリターTMシステムAdeno」(以下,ベリター)の臨床評価を行った.対象および方法:全国14施設において,結膜炎症状で受診した計245例を対象に,ベリター,チェックAdまたはBDAdenoエグザマンTM(以下,エグザマン)による抗原検出を実施し,あわせてPCR(polymerasechainreaction)法によるアデノウイルス遺伝子の検出を行った.結果:ベリターとチェックAdとの全体一致率は96.0%(48/50),ベリターとエグザマンの全体一致率は93.1%(189/203)であった.PCR法を基準とした各キットの検出感度はベリターで75.9%(63/83),チェックAdで78.6%(11/14),エグザマンで75.4%(52/69)であった.ベリターにおいて目視で陰性,リーダーで陽性と判定された5例中4例はPCR法にて陽性であった.結論:ベリターは既存2製品と同等の性能があると考えられた.また,専用リーダーにより結果を客観的に判定できる利点があると考えられた.Inthisstudy,weconductedaclinicalevaluationofthe“BDVeritorTMSystemAdeno”(Becton,DickinsonandCompany,FranklinLakes,NJ),anewlydevelopedrapiddiagnostickitforadenoviruswithadedicateddigitalreader.Threerapiddiagnostickits,BDVeritorTM,BDCheckAd,andBDAdenoExaman,werecomparedusingconjunctivalscrapingspecimensobtainedfrom245patientswithconjunctivalsymptomsat14hospitalsandeyeclinics.Polymerasechainreaction(PCR)fordetectionofadenoviruswasalsoconducted.ThetotalagreementrateforBDVeritorTMandBDCheckAd,andBDVeritorTMandBDAdenoExamanwere96.0%(48/50)and93.1%(189/203),respectively.SensitivitybasedonPCRforBDVeritorTM,BDCheckAd,andBDAdenoExamanwere75.9%(63/83),78.6%(11/14),and75.4%(52/69),respectively.FivenegativeresultsbyvisualjudgmentweredeterminedpositivebytheBDVeritorTMdedicateddigitalreader.FourofthosewerefoundtobepositivebyPCR.Thefindingsofthisstudysuggestthatintheclinicalsetting,theaccuracyoftheBDVeritorTMSystemAdenoisequivalenttothatoftwocurrentlymarketeddiagnostickits,yethastheadvantageofprovidingtheabilitytomakeanobjectivejudgmentbyuseofadedicateddigitalreader.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):865.869,2015〕〔別刷請求先〕中川尚:〒189-0024東京都東村山市富士見町1-2-14徳島診療所Reprintrequests:HisashiNakagawa,M.D.,TokushimaEyeClinic,1-2-14Fujimi-cho,Higashimurayama-shi,Tokyo189-0024,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(101)865 Keywords:アデノウイルス結膜炎,イムノクロマト法,迅速診断キット,専用リーダー,客観的判定.adenoviralconjunctivitis,immunochromatography,rapiddiagnostictesting,dedicatedreader,objectiveresult.はじめに結膜炎を起こすウイルスにはアデノウイルス,エンテロウイルス,単純ヘルペスウイルスなどさまざまなものがあるが,なかでもアデノウイルスは伝染力が強く,ときに院内感染を引き起こすため,迅速な診断と対応が重要である1,2).近年,イムノクロマト法を原理とするアデノウイルス抗原検出の迅速診断キットが次々と発売され,日常診療において汎用されている3.8).これらのキットはテストプレート上に現れるテストラインを目視にて判定を行うものが主流であるが,ラインが薄い場合などその判定に苦慮する場合がある.今回,筆者らは,イムノクロマト法を原理とするテストプレートを専用のデンシトメトリー分析装置を用いて判定するBDベリターTMシステム(日本ベクトン・ディッキンソン〔株〕)を臨床評価する機会を得たので報告する.I対象および方法1.対象対象はアデノウイルス結膜炎を疑われた患者245例,271眼で,年齢は0.90歳,平均39歳であった.性別は男性116例,女性129例であった.2.方法a.迅速診断キット今回は,評価対象としたBDベリターTMシステムを既存の2つの抗原検出キットと比較検討した.BDベリターTMシステムは,イムノクロマト法を原理とするテストプレート「BDベリターTMシステムAdeno」(以下,ベリター)とテストラインを読み取る専用のデンシトメトリー分析装置「BDベリターTMシステムリーダー」(以下,専用リーダー)からなり,判定を目視ではなくリーダーによって客観的に行うシステムである(図1).対照キットはチェックAd(大蔵製薬〔株〕)とBDAdenoエグザマンTM(以下,エグザマン,〔株〕タウンズ)で,いずれもイムノクロマト法を原理とし,目視にて判定を行う製品である.それぞれのキットの特徴を表1にまとめた.b.検体採取と抗原検出の実施検査の同意が得られた患者から,各診断キットに付属の専用綿棒を用いて結膜擦過物を採取した.検体の採取順および擦過回数は統一せず検者に任せた.検体採取後すぐにベリターおよびチェックAd,またはベリターおよびエグザマンの組み合わせで抗原検出を実施した.各迅速診断キットの実施方法は添付文書に従い,判定時間はベリターが10分,チェックAdおよびエグザマンは15分とした.ベリターの判定は,リーダーでの結果を用いた.c.PCR法PCR(polymerasechainreaction)法はチェックAdまたはエグザマンの抽出液の残液を用い,アデノウイルスDNA同定,ウイルスゲノムコピー数の半定量,および遺伝子系統解析による型判定を〔株〕LSIメディエンス(旧〔株〕三菱化学メディエンス)に委託した.図1専用リーダーによる判定(検査陽性例)表1評価したアデノウイルス迅速診断キットの特徴BDベリターTMシステムAdenoBDAdenoエグザマンTMチェックAd製造販売元測定原理標識物質判定時間判定方法採取用綿棒日本ベクトン・ディッキンソンイムノクロマト法金コロイド10分専用リーダーフロックドスワブタウンズイムノクロマト法白金.金コロイド3.15分目視コットンスワブ大蔵製薬イムノクロマト法金コロイド10.15分目視コットンスワブ866あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(102) II結果対象の245例のうち検査未実施などの脱落例を除く228例,253眼を解析対象とした.ベリターは228例253眼,チェックAdは50例50眼,エグザマンは178例203眼が解析対象となった.検査病日は0.23日で,3病日以内が208眼(82%),7病日以内が244眼(96%)と,ほとんどが発病1週間以内の症例であった.1.ベリターとチェックAdの相関性ベリターとチェックAdの陽性一致率は100%(11/11),陰性一致率は94.9%(37/39),全体一致率は96.0%(48/50)で(表2)で,両者の結果に差はみられなかった.このうち,ベリター陽性でチェックAd陰性の2検体はPCR法でアデノウイルスDNAが検出された.2.ベリターとエグザマンの相関性ベリターとエグザマンの陽性一致率は84.9%(45/53),陰性一致率は96.0%(144/150),全体一致率は93.1%(189/203)で(表3),両者の結果に差はみられなかった.このうち,ベリター陽性でエグザマン陰性の6検体中5検体,およびベリター陰性でエグザマン陽性の8検体中7検体はPCR法でアデノウイルスDNAが検出された.すなわち,キットで陽性を示したがPCRが陰性を示したものが2検体表2ベリターとチェックAdとの相関性チェックAd+.Total+11213ベリター.03737Total113950(ベリターはリーダーによる判定)陽性一致率:100%(11/11),95%CI[71.5%,100%]陰性一致率:94.9%(37/39),95%CI[82.7%,99.4%]全体一致率:96.0%(48/50),95%CI[86.3%,99.5%]p=0.500(McNemar’stest)あった(ベリター1検体,エグザマン1検体).3.PCR法を基準とした各診断キットの感度および特異度PCR法を基準とした各キットの感度および特異度は,ベリターで75.9%(63/83)および99.4%(169/170),チェックAdで78.6%(11/14)および100%(36/36),エグザマンで75.4%(52/69)および99.3%(133/134)であった(表4).また,ウイルスゲノムコピー数が1.0×104copies/ml以下において迅速診断キットの陽性率が低く,感度は40%未満であった.4.アデノウイルス血清型と各診断キットの検出感度PCR法によるアデノウイルス血清型と各診断キットの検出感度を表5に示した.検体数の少ない血清型もあり,血清型による検出感度の差については明らかなことはわからなかった.D種の型同定不能(notidentified),E種の4型におけるウイルス半定量値は他と比較して1.2管低い値(D種の型同定不能:4.0×105copies/ml,E種4型:9.2×104copies/ml)であり,これらでは迅速診断キットの陽性率が低い傾向が認められた.5.ベリターにおける目視と専用リーダーによる判定結果の比較ベリターの目視と専用リーダーの判定結果は全体で96.8%の一致率であった.目視により陰性と判断されたが,専用表3ベリターとエグザマンとの相関性エグザマン+.Total+45651.8144152Totalベリター53150203(ベリターはリーダーによる判定)陽性一致率:84.9%(45/53),95%CI[72.4%,93.3%]陰性一致率:96.0%(144/150),95%CI[91.5%,98.5%]全体一致率:93.1%(189/203),95%CI[88.7%,96.2%]p=0.791(McNemar’stest)表4PCR法を基準とした各迅速診断キットの感度および特異度PCR抗原検出キット(copies/ml)ベリターチェックAdエグザマン感度1.0×107≦97.2%(35/36)100%(8/8)96.4%(27/28)1.0×10668.4%(13/19)60.0%(3/5)85.7%(12/14)1.0×10573.3%(11/15)0.0%(0/1)78.6%(11/14)1.0×10437.5%(3/8)NoData25.0%(2/8)1.0×10333.3%(1/3)NoData0.0%(0/3)1.0×1020.0%(0/2)NoData0.0%(0/2)Total75.9%(63/83)78.6%(11/14)75.4%(52/69)特異度99.4%(169/170)100%(36/36)99.3%(133/134)(103)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015867 表5アデノウイルス血清型と各迅速診断キットの陽性率種型copies/ml*ベリターチェックAdエグザマンB31.2×10788.9%(16/18)66.7%(2/3)86.7%(13/15)NI†5.8×10650.0%(1/2)NoData100%(2/2)C23.1×1030.0%(0/1)NoData0.0%(0/1)D83.6×107100%(4/4)NoData100%(4/4)19A1.6×107100%(2/2)NoData100%(2/2)37/533.4×10678.9%(15/19)80.0%(4/5)71.4%(10/14)542.3×10785.7%(6/7)NoData100%(7/7)NI†4.0×10561.1%(11/18)100%(4/4)64.3%(9/14)E49.2×10466.7%(8/12)50.0%(1/2)50.0%(5/10)*平均値,†notidentified(同定不能)表6ベリターの目視と専用リーダーによる判定結果の比較目視+.Total+59564リーダー.3185188Total62190252陽性一致率:95.2%(59/62)陰性一致率:97.4%(185/190)全体一致率:96.8%(244/252)リーダーにより陽性と判定された例が5件あった(表6).このうち4件はPCR法にてアデノウイルスDNAが検出されたが1例は陰性であった.また,逆に目視にて陽性と判断されながら専用リーダーにより陰性と判定された例が3件あった(表6).これら3件はすべてPCR法にてアデノウイルスDNAが検出された.III考察今回,専用リーダーを用いて客観的に判定を行う迅速診断キット「BDベリターTMシステム」の評価を行った.ベリターと対照2製品との結果の一致率は比較的高く,感度,特異度も対照2製品と同等の結果であり,従来のキットとほぼ同等の性能を有するものと考えられた.しかし,ベリターとエグザマンでは結果の不一致が7%程度にみられ,とくに陽性一致率が85%程度と低値を示した.そのもっとも大きな要因は検体採取の方法と思われる.今回は2つのキットのために2回の結膜擦過を行い,それぞれの抽出液を用いて検査を行った.採取の順番は決めずに,採取器具もキットに付属のもの(綿棒あるいはフロックドスワブ)を用いたため統一されていない.結膜という面積の小さな感染部位では,十分量の検体を複数回採取するのはむずかしいと予想され,検体量の差が結果の差に反映し,不一致例が増えたものと考えられる.また,検者の擦過手技の適否も検体量を左右する要因の868あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015一つと考えられる.正確にキットの性能を比較するためには,同一の試料を用いて検査を行うのが理想であろう.今回の検討では,PCR法によるウイルス検出をベリター抽出液からではなく,対照キットのチェックAdあるいはエグザマンの抽出液を試料として行った.同時期に連続して採取した試料中には同程度のウイルスが含まれているという前提で今回の解析を行ったが,前述したように一部では抽出液中のウイルス量に差があった可能性もあり,ベリターの感度・特異度を正確に評価できていない可能性は否定できない.イムノクロマト法のアデノウイルス抗原検出キットは,特異性が高く偽陽性がないことが一つの特徴であるが,今回の研究ではPCR陰性でキット陽性,すなわち「偽陽性」と考えられる検体が2検体(ベリター陽性1検体,エグザマン陽性1検体)あった.ベリターの試料から直接PCR法を行っていないため,ベリター陽性検体が「偽陽性」か否かの判断はむずかしく,PCR用試料のエグザマン抽出液中のウイルス量が少なかったためPCRが陰性になった可能性もある.エグザマンの偽陽性については,目視判定の誤り,試料の展開の問題などが考えられるが,明らかな原因はわからなかった.イムノクロマト法のキットは簡便で短時間で実施でき,アデノウイルス結膜炎の補助病因診断として欠かせない検査である9).しかし,PCR法を基準とした感度は,今回検討したいずれのキットも80%に達せず十分とはいいがたい.ウイルス半定量の結果から,迅速診断キットが陽性を示すためには1.0×105copies/ml以上のウイルスDNA量が必要と考えられ,そのためには十分量の結膜擦過物を得ることが重要と考えられる.本製品の検体採取綿棒は植毛タイプのフロックドスワブであり,一般の綿棒と比べて検体採取量が多く,かつ抽出効率がよいことが示されているが10,11),今回の検討では陽性率に有意な差は認められず,患部の小さい結膜炎を対象とした場合にはその優位性が発揮されにくいのかもしれな(104) い.今回評価したベリターの最大の特色は,プレート上のテストラインを目視でなくリーダーで読み取って判定する点にある.一般にイムノクロマト法を原理とする迅速診断キットは,目視により判定を行うため簡便であるが主観的であり,ラインが非常に薄い場合など判定に苦慮することもある.山口ら12)は,テストラインの濃さと目視による判定結果のばらつきを検証し,個人差,とくに判定者の熟練度が目視判定に影響を与えることを示し,客観性のあるBDベリターTMシステムの有用性を示している.今回の検討でも,目視で陰性でリーダーで陽性と判定されたものが5件あり,これらは目視では判定のむずかしい極薄いテストラインをリーダーが読み取ったもので,その有用性を示すものと考えられる.しかし一方で,目視で陽性と判定されながらリーダーが陰性を示したものが3件あった.この3件中2件はメンブレン上の抽出液の展開が不均一で,金コロイドの赤紫色がメンブレン上に斑状になっていた.専用リーダーはバックグランドとなるメンブレンとテストラインの濃淡を利用して判定を行うため,不均一な展開により濃淡の差が正確に読み取れなかったものと推察された.テストプレートの検体滴下部に対し斜め方向または滴下部に沿わせながら抽出液を滴下した場合,展開が不均一になる場合があり,検体を垂直に滴下するなど滴下方法に注意が必要と考えられた.ベリターには検体採取効率のよい植毛タイプの採取綿棒が付属され,客観的に結果判定が行えるという他のキットにはない利点がある.判定に際して目視による結果も考慮すべき事例があり,これについては今後のさらなる検討や事例の蓄積が必要であるが,検体採取やイムノクロマトの結果判定に不慣れな場合でも,ベリターがそれを補ってくれる可能性があり,アデノウイルス結膜炎の迅速病因診断キットとして有用と考えられた.<謝辞>本研究の実施にあたり,試薬提供およびPCR検査実施にご協力いただいた日本ベクトン・ディッキンソン株式会社に深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野重昭,内尾英一,岡本茂樹ほか:ウイルス性結膜炎ガイドライン.日眼誌107:1-35,20032)中川尚:とことんわかる!ウイルス性結膜炎.眼科ケア13:74-78,20113)斉藤和香,内尾英一,青木功喜ほか:免疫クロマトグラフィー法によるアデノウイルス結膜炎の迅速診断.臨眼51:1073-1076,19974)竹内聡,中川尚,米本淳一ほか:高感度アデノウイルス結膜炎迅速診断キットの評価─アデノウイルス結膜炎迅速診断キット,キャピリアRアデノとアデノチェックの比較─.あたらしい眼科23:921-924,20065)清水英明,石丸陽子,藤本嗣人:白金─金コロイドイムノクロマトグラフ法を使用したアデノウイルス検査キットの有用性.感染症誌83:64-65,20096)北市伸義,明尾潔,熊埜御堂隆ほか:白金-金コロイド標識抗体を用いたアデノウイルス迅速診断検査キットの評価.医学のあゆみ237:210-214,20117)三田村敬子,清水英明,安倍隆ほか:新しいアデノウイルス抗原検出試薬クリアビューアデノの検討.医学と薬学67:131-136,20128)宮永嘉隆,中川尚,秦野寛ほか:新しいアデノウイルス迅速診断法「クイックナビ-アデノ」の臨床評価.あたらしい眼科29:659-663,20129)平田憲:眼科における感染対策.臨床と研究88:559562,201110)DaleyP,CastricianoS,CherneskyMetal:Comparisonoffllockedandrayonswabsforcollectionofrespiratoryepithelialcellsfromuninfectedvolunteersandsymptomaticpatients.JClinMicrobiol44:2265-2267,200611)藤本嗣人,榎本美貴,小長谷昌未ほか:フロックドスワブのアデノウイル検体採取での有用性.感染症誌83:398400,200912)山口育男,青山知枝,山本優ほか:イムノクロマト法インフルエンザウイルス抗原検出キットBDベリターシステムFluにおける機器判定の感度とその目視判定に対する優越性の検討.臨床微生物23:213-218,2013***(105)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015869

ニュープロダクツ

2015年6月30日 火曜日

ニュープロダクツニュープロダクツ●ジャパンフォーカス株式会社楽しみながら視機能訓練が行える<オクルパッドR>(株式会社JFCセールスプラン)最新のホワイトスクリーン技術により,周辺視野と手の動きは両眼視を保ったまま,訓練眼にのみ映像刺激を与えることができる世界初のタブレット型弱視訓練器.株式会社JFCセールスプランより,4月16日から販売を開始した.主な特徴■片眼遮閉を行わない両眼開放(両眼視)下の弱視訓練・日常視に近い訓練条件・遮閉による瞳孔散大がない・遮閉弱視の危険性なし立体視の発達を妨げないなど副作用の心配がない■ゲーム性を取り入れた訓練(タッチandタンジブル)・楽しんでゲームをすることが即ち視機能訓練・複数のゲームを組み合わせ視機能訓練プログラムを作成できる■固視および追従運動を自然に促す有効な刺激・両眼で認識できるタブレットの枠が周辺視野を確保・画面をタッチする指(ブロック)も両眼で認識しながら患眼でのみ見える画像を追従する眼球運動を行う■訓練時間(状況)の記録と効果の確認・訓練効果の検証ができる使用履歴(訓練日,訓練時間)が確認できる・家庭でも訓練効果が見えるVisnutsLEVEL(両眼開放下における視力同等簡易検査)■視機能発達支援・視機能の発達を支援する特許出願中医療機器届出番号13B1X00049YG0001標準販売価格:オープン価格〔問合せ先〕<総発売元>株式会社JFCセールスプラン〒113-0033東京都文京区本郷4-3-4明治安田生命本郷ビル電話(03)5684-8531<製造販売元>ジャパンフォーカス株式会社〒113-0033東京都文京区本郷4-37-18IROHA-JFCビル電話(03)3815-2611本欄に紹介した製品は,すべて当該社の提供資料による.(87)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015851

My boom 41.

2015年6月30日 火曜日

監修=大橋裕一連載.MyboomMyboom第41回「山田教弘」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載.MyboomMyboom第41回「山田教弘」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介山田教弘(やまだ・のりひろ)群馬大学眼科学教室慶應義塾大学の許斐健二先生からバトンを渡していただきました.群馬大学病院眼科で網膜硝子体疾患・角膜疾患を担当しています.弘前大学を平成9年に卒業.その後2年間,東北大学眼科で研修をさせていただき,平成11年から故郷の群馬県に戻り,群馬大学で眼科医をしています.大学院に群馬大学生体調節研究所という別組織の研究所に行かせていただいたり,平成22年には東京歯科大学市川総合病院に角膜フェローとして参加させていただいたり,平成25年からアトランタのエモリー大学に留学させていただいたりと大学以外でもたくさんの経験をさせていただいています.今回はmyboomということで,仕事におけるmyboomと遊びにおけるmyboomをご紹介させていただきたいと思います.仕事におけるMyboom臨床,とくに手術が好きなので,新しい手術や技術にはいつも興味をもっています.東京歯科大学市川総合病院で角膜フェローをさせていただいてから,角膜の手術の繊細さや美しさに魅かれています.東京歯科大学では島﨑教授のDSAEKやDALKの助手をさせていただき,最後は私のDSAEKやDALKに先生自らDirectorとしてついてくださり,教えてくださいました.また,東京歯科大学にいらしていた加藤先生のご紹介で,金沢大学の小林先生のところにも見学に行かせていただきました.それらの教えをもとに群馬大学でもDSAEKと(85)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYDALKを行うようになっています.今でも東京歯科大学で教えてくださったたくさんの先生方から,多くの知識や刺激をいただき続けています.最近では平成26年の臨眼中にDMEKの研究会に誘っていただき,その術後のきれいさに夢中になっています.一刻も早く群馬大学でもDMEKを始めたいと考えています.大学院修了後,基礎研究からすっぱり足を洗っていた私も,エモリー大学での留学で久しぶりに研究どっぷりの生活になりました.おもに網膜へのドラッグデリバリーの研究をしていました.ボスのティモシー・オルセン教授はエモリーアイセンターのトータルディレクターも兼ねていてお忙しいのに,とても優しくしてくださり,英語もろくにできない,研究者としても二流な私を見捨てることなく,沢山のことを教えてくださいました.米国で使っていた研究器材と同じものを帰国後に注文し,それがこのほどできあがってきたので,これからもエモリー大学とコラボで仕事ができるのが楽しみです.写真1は東京で開催されたWOC2014にオルセン先生がいらっしゃったときに,私のボス,岸章治教授と一緒に撮った写真です.岸教授に誘っていただいて参加したマクラソサエティ2014でもオルセン教授とご一緒する機会があり,世界中の著明な網膜硝子体専門家だけが会員のこの学会をちょっとだけ覗けて,私にとっては一生に一度の貴重な体験となりました.もう一つ,最近仕事で考えているmyboomは人との付き合いかたです.日本で働いているときは常に忙しくしていて,イライラして余裕のない態度で人と接することも多かった私ですが,留学生活という環境で自分と向き合う本当によい時間をもつことができました.帰国してから患者さんはもとより,職場の看護師さんや後輩の先生など,常に相手を尊敬してともに歩んでいく大切さあたらしい眼科Vol.32,No.6,2015849 写真1岸教授,オルセン教授との昼食会WOC2014Tokyoにいらっしゃったエモリー大学のオルセン教授と岸教授と一緒に.オルセン教授と岸教授は1995年にロンドンの郊外バース(Bath)で行われたマクラワークショップで知り合いそれからずっと仲のいい友人同士でいらしゃいます.を実感しながら働くように心がけています.写真2は群馬大学角膜チームのみんなと角膜カンファに行ったとき,観光で訪れた桂浜で撮った写真です.いつも肝心なところの詰めが甘い私を助けてくれる大切で優しい仲間たちです.みんなで龍馬が日本の未来を思い描いたこの浜をみつめながら,それぞれが自分なりの未来を心の中で思い描いたはずです.遊びにおけるMyboom仕事より遊びが得意な私は,思いつく限りの趣味を試してみることに余念がありません.大学院を卒業したあとに始めた趣味は,スキューバダイビングに始まり,ゴルフ,バイクツーリング,スキー,スノーボード,マラソンなど.休暇と収入のほとんどを趣味に費やしてしまっています.そんな中でも今一番推している趣味はフライフィッシングです.アトランタにいたときに知り合った友達に釣り道具の一切を貸してもらって,グレートスモーキー国立公園の渓流に連れて行ってもらいました.手取り足取り教えてもらいながら何とか竿をふり,初めてのニジマスを釣ったときの感動は忘れられないほどす写真2群馬大学角膜グループ角膜カンファ2015で群馬大学角膜グループのみんなと.いつも自分を助けてくれる大切な仲間たちです.ばらしく,すっかりフライフィッシングの虜になっています.帰国の直前に映画,「リバー・ランズ・スルー・イット」の舞台,モンタナ州のブラックフットという釣り場にも連れて行ってもらい,念願だった野生のブラウントラウトも釣ることができました.趣味はそれを通して沢山の友達が作れることに大きな魅力があると思います.釣り場に向かって歩きながらアメリカに渡ってきたばかりの頃の苦労話を聞かせてもらったり,ツーリングの途中で休憩しながら昔のアメリカの国道の話を聞かせてもらったりして,自分の人生が豊かになっていくのを実感しています.次回のプレゼンターは東京大学の小畑亮先生です.キーラーゴで開催されたマクラソサイティでお友達になった楽しくて優しくてすばらしい先生です.どんなmyboomを聞かせていただけるか興味津々です.よろしくお願いいたします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆850あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(86)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 145.網膜前出血を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(中級編)

2015年6月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載145145網膜前出血を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに増殖糖尿病網膜症では多量の網膜前出血を認めるものの,硝子体腔内に出血が拡散しない症例に遭遇することがしばしばある(図1).後部硝子体が未.離の若年例に多い傾向があるが,中高年でもみられる.このような症例では手術時に多少のコツが必要である.●後部硝子体膜に窓を開けるこのような症例では,通常,肥厚した後部硝子体膜が網膜前出血をパックしているとともに,膜自体の表面が平滑で光沢があり,硝子体カッターの吸引のみでは人工的後部硝子体.離作製が困難なことが多い.まず,Vランスなどの先端が鋭利な器具で肥厚した後部硝子体膜の一部を切開し(図2),その切開創を周囲に拡大するようにして人工的後部硝子体.離を作製する(図3).切開する部位は,網膜との距離がある程度確保できる部位であればどこでもよいが,通常は網膜前出血が厚い部位を選択する.後部硝子体膜に窓が開けば,その部位から網膜下出血は比較的容易に吸引できる(図4).出血を吸引したあとは,肥厚した後部硝子体膜あるいは増殖膜と網膜との癒着部位が明確に確認できるので,その後の操作が順調に行える.硝子体カッターあるいは硝子体鑷子を用いて増殖膜を周辺に向かって切除していく.大半の症例では硝子体カッターのみで処理が可能であるが,癒着が強固な部位に対しては無理をせず適宜,硝子体剪刀を用いる.肥厚した後部硝子体膜およびこれに連続する増殖膜がしだいに一塊として挙上されてくるので,あとは硝子体カッターで周辺部に向かって切除していけばよい(図5).このような症例は網膜症の活動性が高いので,図1術中所見(1)多量の網膜前出血を認めるものの,硝子体腔内に出血が拡散していない.図2術中所見(2)Vランスなどの先端が鋭利な器具で肥厚した後部硝子体膜の一部を切開する.図3術中所見(3)切開創を周囲に拡大するようにして人工的後部硝子体.離を作製する.図4術中所見(4)後部硝子体膜の窓から網膜下出血は比較的容易に吸引できる.図5術中所見(5)操作を進めるに従い,肥厚した後部硝子体膜およびこれに連続する増殖膜が一塊として挙上されてくる.網膜硝子体癒着は比較的緩く,周辺部に向かって容易に人工的後部硝子体.離が作製できることが多い.(83)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158470910-1810/15/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 174.補償光学(AO)技術と眼科領域での展望

2015年6月30日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第174回◆眼科医のための先端医療山下英俊補償光学(AO)技術と眼科領域での展望後町清子・亀谷修平(日本医科大学千葉北総病院眼科)補償光学技術について補償光学(adaptiveoptics:AO)とは,元来,天文学分野において発達した技術です.これは大気中のゆらぎによって発生する光のゆがみを補正し,より鮮明な天体画像を得るために開発された技術です.光を波としてとらえたとき,大気中のちりなどにより到達波面に位相差が生じます(波面収差).この位相のずれを補正する技術がAO技術です.この技術は1990年代ごろから天体望遠鏡に応用されはじめました.ハワイにある日本の国立天文台のすばる望遠鏡もこのAO技術を応用しています.AOのシステムは波面センサー,制御装置,可変形鏡の3つの要素で成り立ちます.入射したゆがんだ波面は波面センサーで計測されます.計測された波面ゆがみは制御装置で解析され,この情報をもとに電磁可変形鏡がその表面の形状を変形させます.可変形鏡は,波面ゆがみに対し反対の位相を与える形状に変化することにより,歪んだ波面を整え,鮮明な画像が撮影できるというシステムです.この「波面センサー→制御装置→可変形鏡」のしくみを高速で繰り返し(ループ制御)行うことにより,リアルタイムでの補正が可能となります(図1).AO技術は眼底イメージング機器に応用可能であり,現在,AO眼底カメラ,AO適用走査レーザー検眼鏡(adaptiveopticsscanninglaserophthalmoscopes:AO-SLO),AO光干渉断層計(adaptiveopticsopticalcoherencetomography:AO-OCT)が臨床的あるいは研究目的に使用されています.現在市販の高解像度眼科診断器機(SLO,SD-OCT)と解像度,性能を比較すると,AO技術を搭載していない市販器機の光軸方向分解能(水平分解能)は15~20μmですが,AO技術を用いることにより分解能は3μm以下となります.補償光学と錐体細胞AO眼底検査機器でもっとも研究が進んだ分野は錐体細胞の解析です.AO技術を搭載していない機器では分解能の限界のために困難だった個々の錐体細胞の解析が,AO眼底検査機器では可能となりました.AO眼底カメラで撮影した正常者の錐体細胞を図2に示します.正常例では錐体細胞は錐体モザイク配列(conemosaic)を形成します.錐体細胞は黄斑中心ほど細胞密度が高く,個々の錐体の直径が小さくなります.黄斑中心から離れるに従い錐体細胞密度は低くなり,これに伴い錐体細胞間の距離は増大します.図2は黄斑中心から4°鼻側のAO眼底カメラ画像です.高輝度の円形信号とし眼底からの画像位相差のある波面波面収差の測定シャック・ハルトマン波面センサーコンピューターとプログラムソフトによるAO制御装置測定と補正を繰り返すこ解析と補正をとで波面収差を補正するコントロール波面収差の補正可変形鏡(デフォーマブルミラー)AO画像AOで補正された波面図1補償光学システムの原理(79)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158430910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2AO眼底カメラで撮影した正常錐体細胞黄斑中心から4°鼻側のAO眼底カメラ画像.高輝度の円形信号としてとらえられている部分は錐体細胞の外節部分と考えられている.組織像での報告と同じように,黄斑中心から離れるに従い個々の錐体の直径が大きくなるが,この部位での錐体の直径は6~8μm程度である.:10μm.てとらえられている部分は,組織学的には錐体細胞の外節部分,SD-OCTではinterdigitationzone(IZ)に相当する部分と考えられています.補償光学の可能性筆者らの使用しているAO眼底カメラ(rtx1TM,ImagineEyes社,フランス)は約2.4μmの面分解能をもちますが,黄斑中心の錐体細胞は直径が2μm以下となるため,黄斑中心では鮮明な画像を得ることができません.また,後極の杆体細胞も2μm以下であるため撮影することができません.しかし,研究用機器としては,杆体細胞や黄斑中心の錐体細胞が撮影可能なAO-SLOシステムがすでに開発されています1).蛍光眼底造影システムをAO-SLOと組み合わせることにより,鮮明に網膜毛細血管が観察可能となり,糖尿病網膜症の毛細血管瘤も明瞭に観察可能なシステムも報告されました2,3).全色盲(achromatopsia)では視細胞内節は比較的正常ですが,外節の異常のために通常のAO眼底カメラやAO-SLO撮影では錐体モザイクに相当する部分が低輝度となります.このような場合,AO眼底カメラやAO-SLOでの錐体モザイクの視認性の低下が,錐体細胞全体の異常なのか,外節の部分の異常なのか判別することが困難でした.近年,AO-SLOにsplitdetectorとよばれる光学系の新機能を搭載することにより,錐体細胞の内節を明瞭に観察可能なシステムが報告されました4).これにより,全色盲でも錐体細胞内節部分は維持されていることが明らかとなりました.また,OCTにAO技術を応用することによって,より高精細な網膜断層像を得る技術も報告されています5,6).これらの新しい技術により,視細胞変性疾患のより詳細な病理が解明することが期待されています.文献1)CooperRF,DubisAM,PavaskarAetal:Spatialandtemporalvariationofrodphotoreceptorreflectanceinthehumanretina.BiomedOptExpress2:2577-2589,20112)GrayDC,MeriganW,WolfingJIetal:Invivofluorescenceimagingofprimateretinalganglioncellsandretinalpigmentepitheliumcells.OpticsExpress14:7144-7158,20063)DubowM,PinhasA,ShahNetal:Classificationofhumanretinalmicroaneurysmsusingadaptiveopticsscanninglightophthalmoscopefluoresceinangiography.InvestOphthalmolVisSci55:1299-309,20144)ScolesD,SulaiYN,LangloCSetal:Invivoimagingofhumanconephotoreceptorinnersegments.InvestOphthalmolVisSci55:4244-4251,20145)FernandezEJ,PovazayB,HermannBetal:Threedimensionaladaptiveopticsultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyusingaliquidcrystalspatiallightmodulator.VisionRes45:3432-3444,20056)KocaogluOP,FergusonRD,JonnalRSetal:Adaptiveopticsopticalcoherencetomographywithdynamicretinaltracking.BiomedOptExpress5:2262-2284,2014■「補償光学(AO)技術と眼科領域での展望」を読んで■今回は,補償光学(AO)技術を眼底の画像解析に組織は,水を含んだ組織の一番奥に網膜があり,その応用するという先端的な研究を後町清子先生,亀谷修さらに一番奥まったところに錐体があるのですが,こ平先生(日本医科大学千葉北総病院眼科)に解説いたの観察に天体観測に利用されているAOを利用するだきました.これにより錐体一個一個が描出されるとことで,解像度を各段に上昇させることができるとののこと,技術の進歩には目をみはるばかりです.眼球発想は素晴らしいと考えます.眼科は組織学的な診断844あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(80) が,腫瘍などを除いて大変困難な診療体系をもってい日本という社会を考えたとき,日本でしか作れないます.細胞レベルまたはsubcellularのレベルでの画ものを世界に供給するという戦略を推進することが叫像解析により,患者の負担軽減と診断の精度向上といばれています.日本版NIHともいわれる日本医療研う2つの,多くの場合には二律背反になることを両立究開発機構(JapanAgencyforMedicalResearchさせたコンセプトはみごとです.andDevelopment:AMED)がめざすところも,日本医学は技術の進歩と同期して進歩するものであるこでの世界初の医薬品開発を体系的に行おうというコンとはいろいろな例により示されていますが,近年,眼セプトによるものです.医薬品に比較して医療機器に科医学における画像解析の進歩により新しい疾患概念ついてはやや危機的ともいえ,現時点で日本の医療にが出てきて,治療に貢献していることは日本眼科学会使われる多くの医療機器は輸入に頼っています.日本として誇るべきことだと考えます.いわば名人芸で初において新しい発想で医療機器を生み出していかなけめて行うことのできた診療が,多くのドクター,コメればなりません.そのためには,後町先生,亀谷先生ディカルスタッフによって患者に供給できるようになのように機器開発に卓越した眼科臨床医を多く育成ってきました.後町先生,亀谷先生も「これらの新しし,機器開発会社と共同研究を自由に行うことが重要い技術により,視細胞変性疾患のより詳細な病理が解と考えます.今後,AOを利用した精密な眼底画像解明することが期待されています」と述べておられるよ析法がますます発展すること,そこに日本が大きく貢うに,この新しい技術で,新しい疾患概念が日本から献することを願ってやみません.世界に向けて発信できるとよいなと考えます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(81)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015845

眼瞼・結膜:アトピー性結核膜炎と春季カタル

2015年6月30日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人高村悦子6.アトピー性角結膜炎と春季カタル東京女子医科大学眼科学教室春季カタルはアトピー体質の学童の男児に好発し,アトピー性角結膜炎は顔面のアトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎である.アトピー性皮膚炎は春季カタルの症例でも合併している場合があり,アトピー性角結膜炎との鑑別がむずかしい症例も存在する.●はじめにアトピー性角結膜炎も春季カタルも,アレルギー性結膜疾患のなかでも重症型に位置づけられる.その理由は,結膜の増殖性変化や瘢痕といった結膜の器質的変化や角膜上皮障害を伴うことがあり,治療にも苦慮する場合が多いからである.●春季カタルの臨床像アトピー体質の学童,とくに男児に好発する.症状は通年性にみられるが,悪化時には,激しい眼掻痒感や角膜上皮障害のため,異物感,眼痛,視力低下を自覚する.上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖(図1)や,角膜輪部にはTrantas斑とよばれる炎症細胞の浸潤による白色の小隆起や堤防状隆起(図2)など,結膜の増殖性変化が認められる.また,角膜には,点状表層角膜炎,潰瘍底に堆積物が沈着し遷延性の角膜上皮欠損を伴うシールド(shield:盾型)潰瘍,潰瘍内の堆積物が蓄積し角膜面よりやや隆起して観察される角膜プラークなど多彩な所見を呈する.●アトピー性角結膜炎の臨床像アトピー性角結膜炎とは,アトピー性皮膚炎,なかでも顔面のアトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎であり,1952年にアトピー性皮膚炎に伴う特徴的な角結膜病変として,Hogan1)によって最初に報告された.顔面を中心に皮膚炎の増悪化が起こる思春期以降のアトピー性皮膚炎患者に認められる場合が多い.臨床像はバリエーションが多く,瞼結膜の乳頭増殖が目立たないものから,春季カタルに類似した石垣状乳頭を呈するものまでさまざまである.瞼結膜は全体に肥厚し,結膜下の線維化によると思われる白色の瘢痕を特徴とする2).瘢痕形成により,乳頭増殖は春季カタルに比べ突出が目立たない場合もある(図3).これらの瞼結膜の特徴的な所見は,上眼瞼のみならず下方の瞼結膜にも観察図1春季カタルの上眼瞼結膜所見石垣状乳頭増殖.図2輪部型春季カタル輪部の堤防状隆起.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158410910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3アトピー性角結膜炎の上眼瞼結膜所見瞼結膜は全体に肥厚し,結膜下の線維化によると思われる白色の瘢痕を特徴とする.される.また,結膜の線維化による結膜.短縮を伴うことがある.角膜所見として,点状表層角膜炎,血管進入,混濁,結膜の侵入などを認める.アトピー性角結膜炎の重症化には,アトピー性眼瞼炎の悪化が関与している3).難治性のアトピー性眼瞼炎では,眼瞼は硬く腫脹し,閉瞼不全を生じている場合が多い.これにより,眼表面は乾燥し涙液,瞬目によるアレルゲン,炎症細胞などの洗い流し効果が減少することが考えられる.また,アトピー性眼瞼炎には,ブドウ球菌,レンサ球菌,単純ヘルペスウイルスなどの感染を伴いやすく,これらも角結膜所見の悪化に関与する.文献1)HoganMJ:Atopickeratoconjunctivitis.TransAmOphthalmolSoc50:265-281,19522)FosterCS,CalongeM:Atopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology97:992-1000,19903)高村悦子,野村圭子,中川尚ほか:アトピー性皮膚炎患者の角結膜病変.眼紀48:1382-1386,1997☆☆☆842あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(78)

抗VEGF治療:抗VEGF薬と脈絡膜厚

2015年6月30日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二17.抗VEGF薬と脈絡膜厚古泉英貴東京女子医科大学眼科学近年,各種黄斑疾患に対する抗VEGF治療後に,脈絡膜厚が減少することが相次いで報告されている.脈絡膜厚の減少の程度は薬剤の種類によっても異なると考えられ,最近では治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割も注目されている.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)治療は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を有する滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や病的近視,糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対して広く用いられている.抗VEGF薬はCNVや黄斑浮腫といった視機能低下に直結する病態への直接作用のみならず,さらに深部にある脈絡膜にも形態的な変化をもたらすことが近年相次いで報告されている.本稿では抗VEGF治療と脈絡膜厚に関する現時点での知見につき概説する.滲出型加齢黄斑変性(AMD)VEGFがその発生と進展に重要な役割を演じているCNVへの直接の薬理作用により治療効果を発揮するが,抗VEGF治療後には脈絡膜厚が変化することが報告されている.筆者らは滲出型AMD40眼に対しラニビズマブを治療導入期に月1回,3カ月連続で投与し,以降は毎月経過観察のうえ,必要に応じて追加投与を行った.その結果,平均中心窩下脈絡膜厚(subfovealchoroidalthickness:SCT)は治療前の244μmから3カ月後には226μmと有意に減少し,その減少率は7.4%であった1).3カ月後以降は追加治療を行ってもSCTの変化はほぼプラトーであった.SCTの減少程度と治療回数の相関はみられず,滲出型AMDのサブタイプおよび過去のAMD治療歴にかかわらず同様の減少傾向がみられた.その一方,治療を行わなかった僚眼ではSCTの変化はみられなかった.抗VEGF治療後の脈絡膜厚の減少の理由として,脈絡膜血管からの透過性の減少,あるいはVEGF阻害による直接的な脈絡膜血管収縮,および一酸化窒素阻害などを介した間接的な脈絡膜血管収縮などが推察される.しかし,Ellabbanら2),小笠原ら3)(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYは同様の検討を行い,平均SCTの減少率は最終経過観察時においてそれぞれ1.4%,3.1%であり,治療前と比較して有意な差がみられなかったとしている.したがって,ラニビズマブの脈絡膜厚に与える影響はコンセンサスが得られていないのが現状である.最近では脈絡膜厚の予後予測因子としての役割も注目されている.Kangら4)はラニビズマブ治療を6カ月間行った典型AMD40眼の治療成績と治療前SCTの関連につき検討している.同報告では筆者らの報告1)と同様に,治療前と比較して平均SCTは減少し,さらに治療前のSCTが厚いほど有意に網膜形態の改善と視力経過が良好であったとしている.典型AMDでは正常眼と比較して平均SCTがやや薄いことが知られており,ラニビズマブ治療によりさらに脈絡膜が菲薄化することが,治療成績が不良であることと関連している可能性がある.治療前アフリベルセプト3回投与後図1典型AMDに対するアフリベルセプト治療前(上),治療後(下)SCTは217μmから182μmへと減少している.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015839 より新しい抗VEGF薬であるアフリベルセプト治療後の脈絡膜厚変化はどうであろうか?筆者らは治療既往のない滲出型AMD102眼に対しアフリベルセプトを月1回,3カ月連続で投与し,3カ月間の脈絡膜厚の変化を検討した5).その結果,平均SCTは252μmから3カ月後には218μmとなり,減少率13.5%とラニビズマブの場合と比較して大きいことを報告している(図1).アフリベルセプトはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に対し,既存の抗VEGF薬と比較して治療レスポンスが高いとされているが,もともと脈絡膜が肥厚する場合が多いPCVにおいて,アフリベルセプトの脈絡膜に対する薬理作用が治療効果と関連している可能性があり,今後の研究が注目される.糖尿病黄斑浮腫(DME)近年,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対してもラニビズマブ,アフリベルセプトが適応拡大され,その治療戦略は新たな局面を迎えている.DME眼においては,脈絡膜厚は肥厚するという報告や逆に菲薄化するという報告もあり,見解の一致はみられていない.抗VEGF治療と脈絡膜厚に関してはいくつかの報告がなされており,Lainsら6)はDMEに対し,ベガプタニブ,ベバシズマブおよびラニビズマブを用いて治療を行った結果,抗VEGF治療を行った25眼ではSCTが有意に減少したのに対し,黄斑部のレーザー治療のみを行った25眼ではSCTに有意な変化がみられなかったとしている.Yiuら7)はDME59眼において,33眼でベバシズマブあるいはラニビズマブの投与を行い,26眼では治療を行わず経過観察のみとした.抗VEGF治療を行った群では平均SCTは治療前247μmから6カ月後には225μmに減少した一方,治療を行わなかった群ではSCTの変化がみられなかったとしている.治療眼におけるSCTの変化は注射回数,視力変化,中心窩網膜厚の変化とは相関がみられなかった.DMEにおいても治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割が模索されている.Rayessら8)はDME53眼においてベバシズマブあるいはラニビズマブによる治療を行ったところ,3カ月後には平均SCTは225μmから201μmに減少し,治療前のSCTが厚いほうが網膜の解剖学的改善および視力改善の程度が良好であったとしている.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)Tsuikiら9)は黄斑浮腫を伴う片眼性のCRVOに対してベバシズマブによる加療を行い,SCTの変化につい840あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015て検討している.同報告ではCRVO36例において,患眼での平均SCTは257μmであり,CRVOのない僚眼での223μmと比較して有意に肥厚していた.CRVO眼では眼内のVEGFが高値であり,VEGFによる脈絡膜血管拡張作用などの影響が推察される.そのうち22眼のCRVOに対しベバシズマブによる加療を行ったところ,平均SCTは治療前の267μmから治療後には228μmまで減少した.おわりに各種黄斑疾患における抗VEGF治療後には脈絡膜厚が減少しうる.脈絡膜厚と病態との関連や予後予測因子としての役割は今後ますます明らかになっていくものと考えられ,網膜所見のみならず,脈絡膜所見をも包括的にとらえて黄斑疾患診療を行う時代は,もうそこまで来ているのかもしれない.文献1)YamazakiT,KoizumiH,YamagishiTetal:Subfovealchoroidalthicknessafterranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology119:1621-1627,20122)EllabbanAA,TsujikawaA,OginoKetal:Choroidalthicknessafterintravitrealranibizumabinjectionsforchoroidalneovascularization.ClinOphthalmol6:837-844,20123)小笠原雅,丸子一朗,菅野幸紀ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内注入後の網脈絡膜厚変化.日眼会誌116:643-649,20124)KangHM,KwonHJ,YiJHetal:Subfovealchoroidalthicknessasapotentialpredictorofvisualoutcomeandtreatmentresponseafterintravitrealranibizumabinjectionsfortypicalexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol157:1013-1021,20145)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Short-termchangesinchoroidalthicknessafteraflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol159:627-633,20156)LainsI,FigueiraJ,SantosARetal:Choroidalthicknessindiabeticretinopathy:theinfluenceofantiangiogenictherapy.Retina34:1199-1207,20147)YiuG,ManjunathV,ChiuSJetal:Effectofanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyonchoroidalthicknessindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol158:745751,20148)RayessN,RahimyE,YingGSetal:Baselinechoroidalthicknessasapredictorforresponsetoanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol159:85-91,20159)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralretinalveinocclusion.AmJOphthalmol156:543-547,2013(76)