特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):943.951,2015特集●ドライアイの新しい治療あたらしい眼科32(7):943.951,2015杯細胞増加とムチン産生作用をもつムコスタ点眼液FacilitationofIncreasedGobletCellsandMucinProductionbyRebamipideOphthalmicSolution横井則彦*木下茂**はじめにレバミピド[化学式:C19H15ClN2O4,分子量:370.79]は,胃炎や胃潰瘍の経口治療薬(ムコスタR)として,1990年の発売以来,長年,広く各科で使用されてきた薬物であり,ムチン産生促進作用,粘膜修復作用をもつ.そして近年,レバミピドは,ドライアイ治療薬(ムチン産生促進剤,ムコスタR点眼液UD2%,以下ムコスタ点眼液)として処方されるようになり,そのユニークな薬理作用がドライアイ治療を拡大しただけでなく,ドライアイの病態の考え方や診断にまで大きな影響を及ぼしている.本稿では,ドライアイの病態の考え方,治療,診断の新しい方向に即して,筆者の考えを交えながら,ムコスタ点眼液の現状について述べる.Iドライアイのコア・メカニズムの新しい考え方健常眼に対してドライアイに特徴的な他覚所見は,フルオレセイン破壊時間(いわゆるbreakuptimeoftearfilm:BUT)が短いことであり,これは,涙液層の安定性の低下を意味する.そして,涙液層の安定性の低下は,涙液層の破壊,ひいては上皮障害を導き,一方,上皮障害は上皮の水濡れ性低下を介して涙液層の破壊を導きうるため,涙液層の安定性の低下は,ドライアイの眼表面の悪循環(コア・メカニズム)を表現する(図1)1.4)また,涙液層の安定性の低下は,フルオレセインで可視化でき,眼乾燥感,視機能異常,眼精疲労といったドライアイの眼症状をうまく説明する.以上の理由で,わが国のドライアイの診療において,「涙液層の安定性低下」のメカニズムは非常に重視されている.一方,眼瞼結膜上皮と眼球表面上皮は,瞬目時に相互作用(涙液を介して摩擦を及ぼし合う)を有し,涙液に異常があると摩擦が増強しうる.つまり,涙液や上皮に異常のあるドライアイにおいては,「瞬目時の摩擦亢進」はもう1つの悪循環を表現し(図1)1.3),「涙液層の安定性低下」が開瞼時のドライアイのコア・メカニズムといえるのに対し,「摩擦亢進」は,瞬目時のドライアイのコア・メカニズムといえ,上流の原因.コア・メカニズム.症状からなるドライアイの階層構造に,両メカニズムを組み入れることにより,ドライアイがよりいっそう明確になるとともに,ドライアイの多彩な眼表面の表現や自覚症状が理解しやすくなる(図2)3).そして,「涙液層の安定性の低下」のメカニズムが大きく関与するドライアイとして,BUT短縮型ドライアイ(図3a)を,両メカニズムが同様に関与するドライアイとして,重症涙液減少型ドライアイ(図3b)をあげることができる.IIドライアイ治療の新しい考え方2.4)―TFOT(眼表面の層別治療)―わが国においては,2010年12月,2012年1月にそれぞれ,ムチン/水分分泌促進剤[ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,以下ジクアス点眼液)],ムコスタ点眼液がドライアイ治療薬として登場*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(21)943表層上皮障害悪循環知覚神経眼瞼上皮の水濡れ性低下目が乾く,物が見えにくい,目が疲れる症状目がゴロゴロする,痛い症状+涙液層の安定性低下炎症悪循環瞬目時の摩擦亢進涙液層表層上皮表層上皮障害悪循環知覚神経眼瞼上皮の水濡れ性低下目が乾く,物が見えにくい,目が疲れる症状目がゴロゴロする,痛い症状+涙液層の安定性低下炎症悪循環瞬目時の摩擦亢進涙液層表層上皮図1ドライアイのコア・メカニズムドライアイにおいては,開瞼時の涙液層の安定性の低下,瞬目時の摩擦亢進の2つが最も重要なコア・メカニズムといえ,これらが上皮障害あるいは炎症を生じて知覚神経を刺激し,さまざまな症状が引き起こされる.(文献1より引用改変)内因性・外因性のさまざまなリスクファクター自覚症状(眼不快感・視機能異常)眼瞼結膜上皮障害(Lidwiperepitheliopathy)眼球表面上皮障害涙液(油層を欠く)悪循環ドライアイの眼表面の表現角膜上皮障害油層開瞼時の涙液層の安定性低下瞬目時の摩擦亢進悪循環涙液層の破壊液層図2ドライアイの階層構造開瞼時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進のコア・メカニズムを階層構造として組み入れることによりドライアイが理解しやすくなる.(文献2,3より引用改変)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015945(23)wiper(LW)と名付けられた10,11),この領域と角膜表面との摩擦が亢進すると,LWの上皮障害(lid-wiperepi-theliopathy:LWE)や,それと対面する角膜上皮障害,ひいては悪循環が形成され,慢性の眼不快感の原因となる.一方,LWから後方の眼瞼結膜とそれと対面する角結膜との間には,Kessingspaceとよばれる間隙が存在し11),瞬目時の摩擦が回避されている(図4).重症の涙液減少においても,眼瞼結膜や上方の角結膜に必ずしも上皮障害が生じていないことから,涙液がほとんど存在しない状況においてもKessingspaceは虚脱することなく確保されていると考えられる(図4左列a,c).一方,上輪部角結膜炎(superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)や加齢に伴う上方の結膜弛緩(図3b)では,強膜し,日本発,世界初のドライアイ治療の考え方である,眼表面の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)が生まれた.これは,涙液層と上皮からなる眼表面に対して,その不足成分を補充することで,涙液層の安定性を最大限に高め,ドライアイのコア・メカニズムの1つである「涙液層の安定性低下」を治療しようとするドライアイの眼局所治療の革新的な考え方である.涙液層の安定性には,涙液層からは,油層および液層の水分と分泌型ムチンが,上皮層からは膜型ムチンが大きく関与すると考えられるため,これらの異常は,涙液層の安定性低下を引き起こす要因となる.(油分),水分,分泌型ムチン,膜型ムチンを補充しうるジクアス点眼液,分泌型ムチン,膜型ムチンを補充しうるムコスタ点眼液は,52週間の長期試験に基づけば,BUTをそれぞれ約2秒5)と約1.25秒6)延長し,涙液層の安定性の改善効果が得られている.そして,このことが,臨床試験5,6),実臨床におけるドライアイの他覚所見,自覚症状の改善7.9)につながっていると考えられる.IIIドライアイ診断の新しい考え方―TFOD(眼表面の層別診断)―TFOTを活用するためには,眼表面に不足する成分を看破できるドライアイの診断法,すなわちTFOD(tearfilmorienteddiagnosis:眼表面の層別診断)が必要であり,筆者らは,涙液層のブレイクパターンに基づくTFODを開発した2).詳細は,他2)に譲るが,ブレイクパターンとして,水分量の絶対的不足によるareabreak,膜型ムチンの不足が推定されるspotbreakやdimplebreak,水分量の相対的不足によるlinebreak,水分の蒸発亢進によるrandombreakが区別され,本分類により,ドライアイの分類,眼表面の不足成分の看破,TFOTの選択肢が判定できるため,TFOTに最大活用できる方法である.IV隠れたドライアイのコア・メカニズム―瞬目時の摩擦亢進―先に述べたように,ドライアイコア・メカニズムの一つに「瞬目時の摩擦亢進」がある.瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼結膜部位は,Korbらによってlidab図3BUT短縮型ドライアイ(a)と重症涙液減少型ドライアイ(b)BUT短縮型ドライアイでは涙液層の安定性低下のメカニズムがおもに働き,重症涙液減少型ドライアイでは開瞼時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進の両方のメカニズムがともに働きうる(眼瞼に隠れた結膜に強い上皮障害が見られることに注目).ブルーフリーフィルター下での観察.ab図3BUT短縮型ドライアイ(a)と重症涙液減少型ドライアイ(b)BUT短縮型ドライアイでは涙液層の安定性低下のメカニズムがおもに働き,重症涙液減少型ドライアイでは開瞼時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進の両方のメカニズムがともに働きうる(眼瞼に隠れた結膜に強い上皮障害が見られることに注目).ブルーフリーフィルター下での観察.946あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(24)まだない.それはこの領域の研究の歴史がまだ浅いことにもよるが,これが瞬目という動的関係に基づく眼瞼背後に隠れた悪循環であること,および上皮障害を生じる前のサブクリニカルな異常の検出方法が存在しないことによると考えられる.そのため,現在までのところ,異物感や痛みといった摩擦の亢進を想定させる症状を頼りに診断を進めるしかない.そして,このメカニズムの手がかりとして,LWE,SLK,糸状角膜炎,結膜弛緩症といった疾患群,重症涙液減少眼の球結膜の上皮障害,球結膜のコイル状の血管異常(cork-screwsign)(図5)などがある.より乖離した弛緩結膜がKessingspaceを占めることで,摩擦の亢進が生じることがある.しかし,一般には角膜との摩擦亢進の鍵を握る眼瞼結膜部位はLWに他ならない.以上のような瞬目時の摩擦亢進に基づく角結膜上皮障害は,Cherによってblink-relatedmicrotrau-ma(BRMT)と名付けられ12),LWEもこの一部として捉えることができる.V瞬目時の摩擦亢進の診断「瞬目時の摩擦亢進」のコア・メカニズムに対しては,TFODやTFOTに相当する診断や治療のコンセプトがabc角膜Lidwiper上眼瞼KessingspaceLidwiperと摩擦を生じる角膜部位d図4LidwiperおよびKessingspaceの模式図(d)および重症涙液減少眼における眼表面の上皮障害重症涙液減少眼では,上・下眼瞼のlidwiperに高度の上皮障害(lid-wiperepitheliopathy)がみられるが,Kessingspaceに相当する上方の眼瞼結膜と上方の角膜には一般に上皮障害がみられない.a,c:リサミングリーン染色所見,b:フルオレセイン染色所見,ブルーフリーフィルター下での観察.(b:文献2より引用改変)abc角膜Lidwiper上眼瞼KessingspaceLidwiperと摩擦を生じる角膜部位d図4LidwiperおよびKessingspaceの模式図(d)および重症涙液減少眼における眼表面の上皮障害重症涙液減少眼では,上・下眼瞼のlidwiperに高度の上皮障害(lid-wiperepitheliopathy)がみられるが,Kessingspaceに相当する上方の眼瞼結膜と上方の角膜には一般に上皮障害がみられない.a,c:リサミングリーン染色所見,b:フルオレセイン染色所見,ブルーフリーフィルター下での観察.(b:文献2より引用改変)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015947(25)によるのかもしれない.VII抗摩擦点眼液としてのムコスタ点眼液ムコスタ点眼液は,その第II相臨床試験22)において,乾燥感,羞明,霧視,異物感,眼痛の症状で,プラセボと比較し,有意な効果が認められたが,第III相臨床試験23)においては,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(6回/日)に比べて,点眼回数が4回と少なかったにもかかわらず,異物感,眼痛で有意に効果が大きかったことは注目に値する.ここに,乾燥感,羞明,霧視といった症状が涙液層の安定性低下のメカニズムで説明しうるのに対し,異物感,眼痛(眼痛の一部は,涙液層の安定性低下に関係している可能性もある)が,瞬目時の摩擦亢進のメカニズムで説明しやすいことを考えると,ムコスタ点眼液は,すでに臨床試験の段階で瞬目時の摩擦亢進に効果があることを示していたと思われる.しかも,第II,III相の対象が,Schirmer試験5mm/5分以下の,瞬目時の摩擦が増強しやすい涙液減少型ドライアイであったことを考えると,さらにその効果は興味深く思える.また,その後,瞬目時の摩擦亢進を第一のメカニズムとする糸状角膜炎32)やLWEやSLKにおいて従来の点眼液では効果の乏しい例でムコスタ点眼液の効果が報告されている25.27)ことから,ドライアイ治療におけるムコスタ点眼液の「抗摩擦点眼液」としての役割は大きいと筆者は考えている(図6).しかし,なぜ,ムコスタ点眼液が「瞬目時の摩擦亢VIムコスタ点眼液のヒト角結膜上皮細胞に対する作用マウス,ラット,家兎といった動物の眼表面上皮に対する非臨床試験の結果を受けて,レバミピド,ムコスタ点眼液のヒトの眼表面上皮に対する薬理作用,薬効についても,近年,新知見が増えてきている.たとえば,角膜上皮細胞に対する膜型ムチンの発現促進作用13),抗炎症作用14,15),バリア機能保護作用14,15)が報告され,結膜上皮細胞に対しても,杯細胞の増加作用16),抗炎症作用17)などの報告がみられる.一方,動物のドライアイモデルにおける眼表面ムチンおよび角膜上皮障害の改善18.20),抗炎症作用21),第II相22),第III相23),長期試験6)の臨床試験の結果を受けて,発売後も,ドライアイ8,9),アレルギー性結膜疾患24),瞬目時の摩擦亢進に関連した疾患群25.27)への効果を示す報告が増えてきている.しかし,胃潰瘍に対するレバミピドの使用歴のなかで,その奏効メカニズムが未だ明確ではないのと同様,ムコスタ点眼薬がなぜドライアイあるいはそれに関連するメカニズムに有効なのかは,未だ明らかではない.その効果は,ドライアイに関係するさまざまなメカニズム,すなわち先に述べた,涙液層の安定性低下や瞬目時の摩擦亢進といったドライアイのコア・メカニズム1.4)以外に,眼表面炎症28),酸化ストレス29)といったさまざまなドライアイの病態に奏効しうる薬理作用6,8,9,13.25,27,30,31)図5摩擦の亢進に関係する血管異常眼瞼と瞬目時の摩擦亢進を生じている結膜領域には,しばしばcork-screwsignとよばれる血管の走行異常がみられ(a),結膜弛緩症でよくみられる(b).その部には,本症例のように上皮障害を伴うこともある.ab図5摩擦の亢進に関係する血管異常眼瞼と瞬目時の摩擦亢進を生じている結膜領域には,しばしばcork-screwsignとよばれる血管の走行異常がみられ(a),結膜弛緩症でよくみられる(b).その部には,本症例のように上皮障害を伴うこともある.ab948あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(26)眼瞼の速度(v)涙液の厚み(t)涙液の粘度(h)眼瞼の速度(v)×涙液の粘度(h)涙液の厚み(t)S=図7涙液が介在する状況での眼瞼と眼球表面の間の摩擦力(S=剪断応力)の式瞬目時の摩擦(剪断応力)は,涙液の存在下においては,涙液の厚み,瞬目時の眼瞼の速度,涙液の粘度からなる式よって決まり,早い瞬目,涙液の粘度の上昇,涙液減少により,摩擦力は増強する.abcd図6糸状角膜炎およびLid.wiperepitheliopathy(LWE)に対するムコスタ点眼液の効果ムコスタ点眼液により人工涙液の頻回点眼では効果のなかった糸状角膜炎および下方のLWEは消失した.a,b:点眼前,c,d:点眼3カ月後,a,c:フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルター下での観察),b,d:リサミングリーン染色.眼瞼の速度(v)涙液の厚み(t)涙液の粘度(h)眼瞼の速度(v)×涙液の粘度(h)涙液の厚み(t)S=図7涙液が介在する状況での眼瞼と眼球表面の間の摩擦力(S=剪断応力)の式瞬目時の摩擦(剪断応力)は,涙液の存在下においては,涙液の厚み,瞬目時の眼瞼の速度,涙液の粘度からなる式よって決まり,早い瞬目,涙液の粘度の上昇,涙液減少により,摩擦力は増強する.abcd図6糸状角膜炎およびLid.wiperepitheliopathy(LWE)に対するムコスタ点眼液の効果ムコスタ点眼液により人工涙液の頻回点眼では効果のなかった糸状角膜炎および下方のLWEは消失した.a,b:点眼前,c,d:点眼3カ月後,a,c:フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルター下での観察),b,d:リサミングリーン染色.眼瞼涙液角膜/球結膜高図8ストライベック曲線と瞬目時の摩擦相対運動する2面間の潤滑状態(摩擦)を説明するために1902年Stribeckによって提唱された関係図.上段には,眼瞼─涙液─角膜および球結膜の関係図を加えた.上段左図は,lid-wiperepitheliopathy(LWE)の状態が想定され,LWEが修復され,分泌型ムチンが涙液中に加わることで,潤滑状態は境界潤滑から混合潤滑にシフトし,大きな摩擦の軽減が得られることがわかかる.このグラフの横軸の速度は眼瞼の速度,潤滑油の粘度は涙液の粘度,荷重は眼瞼圧と言い変えられるため,涙液中のムチンの増加は,眼瞼と眼球表面の間に十分な涙液が存在する流体潤滑の状態では,摩擦が増強することに注意する.0荷重摩擦係数(μ)境界潤滑混合潤滑流体潤滑(速度)×(潤滑油の粘度)図9Sjogren症候群に伴う涙液減少眼の結膜上皮障害に対するムコスタ点眼液の効果人工涙液の頻回点眼(上段)やジクアホソルナトリウムの1年の点眼(中段)では,効果が得られなかったが,ムコスタ点眼液の1カ月点眼後(下段)には著明な改善がみられ,結膜上皮障害はほぼ消失した.(27)あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015949950あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(28)進」のメカニズムの救世主となっているのであろうか.その答えはまだない.角膜が涙液層の安定性低下のメカニズムが大きく関与する組織であるのに対して,結膜は広い範囲で眼瞼に隠れ,LWで仕切られ,かつ,その中に粘液である涙液を満たしたコンパートメントを形成していることから,ムコスタが効果的な消化管粘膜と構造的に何らかの類似点があるのかも知れない.瞬目時の摩擦が閉瞼時に鼻下側方向へ作用し12),その方向に杯細胞が多いこと33)や,瞬目時の摩擦の鍵となる部位であるLWに,杯細胞がcryptを形成しながら密に分布していること11),加えて杯細胞をムコスタ点眼液が増やしうること16),ムチンが潤滑剤としての働きをもつことを考えると,ムコスタ点眼液による杯細胞の増加と瞬目時の摩擦の軽減との間には,何らかの関係があるように思える.しかし,瞬目時の摩擦力(剪断応力)は,涙液の存在下においては,涙液の厚み,瞬目時の眼瞼の速度,涙液の粘度からなる式よって決まり(図7),早い瞬目,涙液の粘度の上昇,涙液減少により摩擦力は増強する.したがって,ムチンの産生を促進し,涙液の粘度を増加しうるムコスタ点眼液の効果は,この摩擦の関係式では説明できない.しかし,ストライベック曲線(図8)に基づけば,LWと角膜は密に接しているため,両者の間には境界潤滑が関係しやすく,とくにLWEが生じているような状況では,粘膜表面の潤滑性や涙液の粘性の増加が,境界潤滑から混合潤滑へのシフトを生むことで,大きな摩擦の軽減を生む可能性が十分に考えられる.つまり,ムコスタ点眼液は,とくにLW部での粘膜障害改善作用20),杯細胞増加による分泌型ムチン増加作用16),および膜型ムチン増加作用13)により摩擦軽減を促しているのではないかと考えられる.おわりにムコスタ点眼液の登場で,瞬目時の摩擦亢進というドライアイの隠れたコア・メカニズムの重要性が明らかになってきたように思える.非臨床では,さまざまな薬理作用が報告されている本薬剤であるが,いざ臨床での効果となるとその顕著な効果をうまく説明するのがむずかしい例(図9)もあり,まだまだ興味の尽きない薬剤である.眼表面は胃粘膜に比べてアプローチのしやすい領域である.この深い謎の解答が眼表面から見出され,さらにこの点眼液の活用の道が大きく広がることを望む次第である.文献1)横井則彦:眼表面からみた眼瞼下垂手術の術前・術後対策.あたらしい眼科32:499-506,20152)横井則彦:ドライアイの治療方針:TFOT.あたらしい眼科32:9-16,20153)横井則彦:ドライアイ治療のフロンティアTFOT(TearFilmOrientedTherapy).MedicalScienceDigest40:112-115,20144)横井則彦:ドライアイの新しい治療戦略─眼表面の層別治療─.日本の眼科83:1318-1322,20125)山口昌彦,坪田一男,渡辺仁ほか:3%ジクアホソルナトリウム点眼液のドライアイを対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科29:527-535,20126)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKelat:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20147)YamaguchiM,NishijimaT,ShimazakiJetal:Clinicalusefulnessofdiquafosolforreal-worlddryeyepatients:aprospective,open-label,non-interventional,observationalstudy.AdvTher31:1169-1181,20148)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,20139)ArimotoA,KitagawaK,MitaNetal:Effectofrebamip-ideophthalmicsuspensiononsignsandsymptomsofkera-toconjunctivitissiccainSjogrensyndromepatientswithorwithoutpunctalocclusions.Cornea33:806-811,201410)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyanddry-eyesymptomsincontactlenswearers.CLAOJ28:211-216,200211)KnopN,KorbDR,BlackieCAetal:Thelidwipercon-tainsgobletcellsandgobletcellcryptsforocularsurfacelubricationduringtheblink.Cornea31:668-679,201212)CherI:Blink-relatedmicrotrauma:whentheocularsur-faceharmsitself.ClinExpOphthalmol31:183-190,200313)ItohS,ItohK,Sh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