監修=坂本泰二◆シリーズ第176回◆眼科医のための先端医療山下英俊萎縮型加齢黄斑変性の発症メカニズムと治療の可能性平野佳男(名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学)はじめに萎縮型加齢黄斑変性では,黄斑部の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞が徐々に萎縮して不可逆的に変化し,視力低下をきたします.筆者らのグループは,萎縮型加齢黄斑変性患者の網膜色素上皮細胞で,DICER1という酵素の発現低下と,それに伴うAluRNAの過剰蓄積がRPE細胞の細胞死を引き起こしている可能性について報告しました1).今回は,そのメカニズムの解明とそこから考えられる治療法の可能性について紹介します.AluRNAはTLRsやRNAsensorで認識されない生体防御においてもっとも重要なのは病原体などの異物を排除する免疫で,自然免疫と獲得免疫がありますが,まずは自然免疫が働きます.自然免疫は病原体に特有の成分をパターン認識受容体(patternrecognitionreceptors:PRR)で感知し,炎症性サイトカインを産生し,その排除を行います2).筆者らはRPE細胞内で過剰に蓄積したAluRNAがこのPRRで感知されるのではないかと考えました.PRRはその存在様式によって大きく2種類に分けられます.ひとつは細胞外の病原体を認識するTLRs(Toll-likereceptors)で,もうひとつは細胞質で働くRLHs(rRIG-I-likehelicase)ファミリーやNLR(NOD-likereceptors)ファミリーです3).筆者らはAluRNAという一本鎖と二重鎖をもつRNAを認識する見張り役を見つけるために,TLRsやRLHsを含めたさまざまなRNAsensorを調べましたが,関与は否定的でした4).AluRNAがNLRP3インフラマソームを活性化するインフラマソームは細胞質内の病原微生物や尿酸などの結晶を認識して活性化する蛋白質の複合体で,炎症性サイトカインを活性型へ誘導することで炎症応答を惹起します5).代表的なものに,NLRP3(NLRfamily,pyrindomaincontainingprotein3),PYCARD(PYDandCARDdomaincontaining),Caspase-1よりなるNLRP3インフラマソームがありますが,筆者らはAluRNAがこのNLRP3インフラマソームを活性化することをマウスやヒトRPE細胞による実験で発見しました4).NLRP3インフラマソームは通常,マクロファージや樹状細胞などの免疫担当細胞でおもに機能すると考えられていますが,Cre-loxPシステムを用いた筆者らの実験では,RPE細胞でも機能していることが確認できました4).また,最近の研究で,NLRP3インフラマソームの活性化にはミトコンドリアが重要な役割を果たしていることが報告6)されていますが,筆者らの実験系でもAluRNAの蓄積がミトコンドリアを傷害し,ミトコンドリア由来のROS(ReactiveOxygenSpecies)がNLRP3インフラマソームの活性化を誘導することを見いだしました4).AluRNAによる細胞死はMyD88とIL.18を介するインフラマソームは活性化されると,IL-1bやIL-18が成熟型となり,細胞外に分泌され,炎症反応や好中球の遊走を誘導します.また,これらIL-1ファミリーを認識する受容体はMyD88(myeloiddifferentiationprimaryresponse88)という細胞質内にあるアダプター因子と会合し,NF-kBに至るシグナル伝達経路を活性化し7),炎症の促進やアポトーシスに関与します.この経路において,MyD88とIL-18がAluRNAによる細胞死に関与していることが判明しました4).これは萎縮型加齢黄斑変性を有するヒトRPE細胞でも同様の結果でした.また,RPE細胞特異的にMyD88をノックアウトしたコンディショナルノックアウトマウスの実験でも同様の結果が得られ4),これらがRPE細胞内で起こっていることが証明されました.これらの結果より,AluRNAがRPE細胞の細胞死を引き起こすメカニズムとして図1に示すようなものが考えられました.(89)あたらしい眼科Vol.32,No.8,201511550910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1萎縮型加齢黄斑変性の発症メカニズム(文献4より改変)IL-18receptorMyD88InflammasomecomplexformationIRAK4IRAK1MatureIL-18RPEdegenerationGeographicatrophyAluRNADICER1PYCARDNLRP3Pro-Casp-1Pro-IL-18IL-18receptorMyD88InflammasomecomplexformationIRAK4IRAK1MatureIL-18RPEdegenerationGeographicatrophyAluRNADICER1PYCARDNLRP3Pro-Casp-1Pro-IL-18萎縮型加齢黄斑変性に対する治療への応用これらの結果は,萎縮型加齢黄斑変性の発症メカニズムの解明のみならず,新たな分子標的治療薬の開発につながる可能性を秘めています.文献1)KanekoH,DridiS,TaralloVetal:DICER1deficitinducesAluRNAtoxicityinage-relatedmaculardegeneration.Nature471:325-330,20112)TakeuchiO,AkiraS:Patternrecognitionreceptorsandinflammation.Cell140:805-820,20103)AkiraS,UematsuS,TakeuchiO:Pathogenrecognitionandinnateimmunity.Cell124:783-801,20064)TaralloV,HiranoY,GelfandBDetal:DICER1lossandAluRNAinduceage-relatedmaculardegenerationviatheNLRP3inflammasomeandMyD88.Cell149:847859,20125)AksentijevichI,KastnerDL:Geneticsofmonogenicautoinflammatorydiseases:pastsuccesses,futurechallenges.NatRevRheumatol7:469-478,20116)SubramanianN,NatarajanK,ClatworthyMRetal:TheadaptorMAVSpromotesNLRP3mitochondriallocalizationandinflammasomeactivation.Cell153:348-361,20137)MuzioM,NiJ,FengPetal:IRAK(Pelle)familymemberIRAK-2andMyD88asproximalmediatorsofIL-1signaling.Science278:1612-1615,1997■「萎縮型加齢黄斑変性の発症メカニズムと治療の可能性」を読んで■加齢黄斑変性は,滲出型と萎縮型に大きく分けられ縮型加齢黄斑変性は,滲出型に比べあまり研究が進んます.滲出型加齢黄斑変性の治療成績は,抗血管内皮でいませんでしたが,滲出型の治療に一定の目途が立増殖因子(VEGF)薬の登場により,大幅に向上しまった現在,多くの研究者がこの分野に参入して,しのした.さらなる新薬も開発されつつあり,研究が一定ぎを削っています.そのなかで,今回取り上げられての成果を上げている分野であるといえます.一方,萎いるAmbati博士のグループは,きわめて重要な結果1156あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(90)を報告し続けています.萎縮型加齢黄斑変性は加齢に加齢黄斑変性眼でも証明した点です.脳や他臓器にともなって徐々に進行することから,細胞恒常性維持も,同じメカニズムによって引き起こされる加齢性・機構のなんらかの破綻が原因であろうことは推測され慢性疾患は存在するでしょう.しかし,病変部位を細ていました.しかし,加齢性変化はほとんど無数に存胞レベルで特定することがむずかしく,ヒトの疾患で在するので,まさに雲をつかむような状態だったとい証明することはきわめて困難だと推測されます.それえます.今回,平野先生が本文で述べられている,に比べて,眼球においては,病変部位や細胞を同定すDICER1の活性低下によってAluRNAが蓄積して網ることはきわめて容易です.このことが,細胞レベル膜色素上皮に障害を及ぼすというメカニズムは,萎縮の発見をヒトの疾患に結びつけることに成功した大き型加齢黄斑変性の病態を合理的に説明することができな要因だといえます.世界中の多くの研究者が「眼のるものです.それだけでなく,これは眼科のみならず研究」に注目しているのは,このような理由もあるの全身臓器の老化研究においても,まったく新しい発見ではないでしょうか.でした.とくに素晴らしいのは,これをヒトの萎縮型鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆(91)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151157