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新しい治療と検査シリーズ 222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験

2014年11月30日 日曜日

あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416450910-1810/14/\100/頁/JCOPYことである.この涙液減少の急速相(earlyphaseもしくはinitialtearturnover)を利用して,TMHおよびTMAの減少率を求め,涙液クリアランス率を算出する(図3)4).新しい治療と検査シリーズ(79).バックグラウンド涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである.器質性または導涙機能障害による流涙症ではクリアランスが低下する.涙液クリアランス低下はドライアイの発症に関与することも知られている.涙液クリアランスの代表的な評価法を表1に示す.これまで多くの評価法が考案されてきたが,生理的に自然な状態での涙液クリアランス評価法はまだ実現していない.短時間で実施でき,かつ高精度で定量的で完全に非侵襲的な涙液クリアランス評価方法の開発が求められている..新しい検査法筆者は,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopti-calcoherencetomography:AS-OCT)を用いた「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」を考案したので紹介する.この検査法では,前眼部OCTで涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の断層像を撮影し,メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)をパラメータとして使う(図1).被検者は自然瞬目状態にて,5μl生理食塩水(30℃)を点眼涙液負荷し,点眼直後と一定時間後のTMをOCTで撮影する.点眼後TMの動態変化を図2に示す.TMは大体2分後にベースラインまで戻る.とくに重要なのは,TMが点眼直後から30秒の間に急速に下がる222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験表1涙液クリアランスの代表的な評価法名称内容メリット問題点文献Jones法フルオレセンを点眼後,鼻から色素の有無を調べる簡便偽陽性率が高い1Fluophotometry法特殊な機械にて涙液内蛍光の減弱度を調べる高精度時間がかかる2フルオレセンクリアランス試験フルオレセンを点眼後,シルマー紙にて涙液の色を調べる簡便半定量非侵襲的ではない3図1前眼部OCTによる涙液メニスカス画像TMHTMA図25μl生食点眼後の下眼瞼中央TMHの経時変化00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.5BL0s30s1min2min3min4min5minTMH(TearMeniscusHeight)Time点眼後30秒間:EarlyPhaseTearClearance(OCT涙液クリアランス試験)プレゼンテーション:鄭暁東愛媛大学大学院視機能外科学分野コメント:小野眞史日本医科大学眼科あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416450910-1810/14/\100/頁/JCOPYことである.この涙液減少の急速相(earlyphaseもしくはinitialtearturnover)を利用して,TMHおよびTMAの減少率を求め,涙液クリアランス率を算出する(図3)4).新しい治療と検査シリーズ(79).バックグラウンド涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータである.器質性または導涙機能障害による流涙症ではクリアランスが低下する.涙液クリアランス低下はドライアイの発症に関与することも知られている.涙液クリアランスの代表的な評価法を表1に示す.これまで多くの評価法が考案されてきたが,生理的に自然な状態での涙液クリアランス評価法はまだ実現していない.短時間で実施でき,かつ高精度で定量的で完全に非侵襲的な涙液クリアランス評価方法の開発が求められている..新しい検査法筆者は,前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopti-calcoherencetomography:AS-OCT)を用いた「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」を考案したので紹介する.この検査法では,前眼部OCTで涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の断層像を撮影し,メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)をパラメータとして使う(図1).被検者は自然瞬目状態にて,5μl生理食塩水(30℃)を点眼涙液負荷し,点眼直後と一定時間後のTMをOCTで撮影する.点眼後TMの動態変化を図2に示す.TMは大体2分後にベースラインまで戻る.とくに重要なのは,TMが点眼直後から30秒の間に急速に下がる222.前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験表1涙液クリアランスの代表的な評価法名称内容メリット問題点文献Jones法フルオレセンを点眼後,鼻から色素の有無を調べる簡便偽陽性率が高い1Fluophotometry法特殊な機械にて涙液内蛍光の減弱度を調べる高精度時間がかかる2フルオレセンクリアランス試験フルオレセンを点眼後,シルマー紙にて涙液の色を調べる簡便半定量非侵襲的ではない3図1前眼部OCTによる涙液メニスカス画像TMHTMA図25μl生食点眼後の下眼瞼中央TMHの経時変化00.050.10.150.20.250.30.350.40.450.5BL0s30s1min2min3min4min5minTMH(TearMeniscusHeight)Time点眼後30秒間:EarlyPhaseTearClearance(OCT涙液クリアランス試験)プレゼンテーション:鄭暁東愛媛大学大学院視機能外科学分野コメント:小野眞史日本医科大学眼科 TMH0sec-TMH30secOCTtearclearancerate(TMH)=TMH0sec×100%例:TMH0sec=0.4mm;TMH30sec=0.1mmOCTtearclearancerate(TMH)=(0.4-0.1)/0.4×100%=75%TMAwasautomaticallycorrectedor級内相関係数検定(ICC)TMH:ICC=0.92-0.94;TMA:ICC=0.89-0.91manuallycorrectbyrefractiveindexof1.343ICC:intraclasscorrelationcoefficients図3OCT涙液クリアランス率の計算式.本法の利点性が考えられる.前眼部OCTは不可視検査光源を使用するため検査光文献のまぶしさはなく,自然状態の涙液を直接観察すること1)JonesLT:Thecureofepiphoraduetocanaliculardisorができ,非接触,非侵襲的な測定が可能である.本法はders,traumaandsurgicalfailuresonthelacrimalpassages.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol66:506-524,フルオレセンクリアランス試験と有意に相関し,涙液の1962turnoverも反映できる可能性が考えられる.筆者は,2)WebberWR,JonesDP,WrightP:Fluorophotometricmeasurementsoftearturnoverrateinnormalhealthy加齢による涙液クリアランスの低下,内転眼位では正面persons:evidenceforacircadianrhythm.Eye(Lond)1:視よりクリアランスが亢進すること,また結膜弛緩症お615-620,1987よび涙道閉塞症の手術後にOCTクリアランスが術前よ3)XuKP,TsubotaK:Correlationoftearclearancerateandfluorophotometricassessmentoftearturnover.BrJOphり有意に改善したことを確認した.thalmol79:1042-1045,1995涙液クリアランスを正確に把握することは眼表面涙液4)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:Newmethodforevaluationofearly-phasetearclearancebyanteriorsegの動態,導涙機能の評価に重要であり,ドライアイ,流mentopticalcoherencetomography.ActaOphthalmologica涙症の病態の理解,発症機序の解明,治療に役立つ可能92:105-111,2014.「前眼部OCT点眼負荷涙液クリアランス試験」へのコメント.すばらしい検査方法と思います.涙液クリアランス交換率計測のためには,極少量の涙液量変化量(1~は眼表面の極微量な涙液の動態を知るうえで必須の2μl/分)を高精度で計測できる方法が必要となりまファクターであり,重症ドライアイ,涙点閉鎖評価,す.今回の検査方法は,最初の点眼負荷は必須です防腐剤,他の治療薬の影響などを評価するうえでも重が,十分少量で刺激性もほとんどないよう配慮されて要と考えます.おり,メニスカスの計測を2回とも同一位置で,かつ涙液動態を知るには,「系の動態」の評価が必要と適当な時間間隔で計測できれば,他の色素を用いた検なり,計測学上一般に静的状態に何らかの負荷を与査法より精度,侵襲性という点で明らかな優位性があえ,その後その変化を計測する必要が生じるため,完り,前眼部OCT計測器の費用を別にすれば,涙液ク全な非侵襲検査はできません.また再現性のある涙液リアランス計測法として最良と考えます.1646あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(80)

私の緑内障薬チョイス 18.BAC濃度を最適化したプロスタグランジン関連点眼薬:タプロス®点眼液0.0015%

2014年11月30日 日曜日

連載⑱私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑱私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也18.BAC濃度を最適化したプロスタグランジン鈴木克佳関連点眼薬:タプロスR点眼液0.0015%山口大学大学院医学系研究科眼科学タプロスR点眼液0.0015%は,含有される防腐剤のベンザルコニウム塩化物をできるだけ低濃度に最適化している.緑内障点眼治療で頻度の多い副作用である眼表面障害の危険性が軽減されるため,すでに眼表面障害をきたしている患者やその発症の危険性が高いドライアイを有する患者での使用をお勧めする.緑内障患者における眼表面障害緑内障は慢性疾患で,眼圧下降治療を一生にわたって継続しなければならず,目標眼圧を達成するために,緑内障薬を1剤だけでなく複数使用している場合も多い.緑内障薬に限らず,点眼薬はその投与経路として必ず眼表面に浸透するが,とくに眼表面が点眼薬に長期間くり返し暴露される緑内障点眼治療下では,使用している点眼薬数が増えるほど,眼表面障害の発症頻度が増加し重症化すると報告されており,点状表層角膜炎に代表される眼表面障害は決してまれな副作用ではない1).また,加齢に伴い増加するドライアイが背景にある場合には,緑内障点眼治療が眼表面の状態をさらに悪い方向へ修飾し,眼表面障害を惹起しやすい.防腐剤の功罪緑内障点眼薬には主剤だけでなく,点眼薬を調整・成立させるために賦形剤が含まれる.防腐剤もそのひとつで,点眼容器内を細菌や真菌などの微生物汚染から清潔に保つために必須の成分であり,現時点ではベンザルコニウム塩化物(BAC)が防腐剤として最も用いられている.しかしながら,BACは細菌や真菌などへの殺菌作用を発揮する一方で,高濃度のBACは角膜や結膜の細胞にも細胞障害性を有する.また,BACは涙液の安定性や動態を低下させたり2),炎症細胞浸潤や角結膜細胞死や異常なターンオーバーをきたしたりすると報告されている.したがって,汚染予防作用と眼表面障害作用の絶妙なバランスをとるために,点眼薬に含まれるBAC濃度は十分に考慮されなければならない.このバランスへの配慮は,緑内障点眼薬だけに限ったことではなく,その他の種類の点眼薬にも当てはまる問題である.(77)AB図1A:タプロスR点眼液0.0015%.B:タプロスミニR点眼液0.0015%.防腐剤濃度を最適化したタプロスR点眼液0.0015%プロスタグランジン関連薬は,その強力で持続力がある眼圧下降効果を根拠に現在の緑内障点眼治療の第一選択薬であり,多剤併用療法における主軸をなしている.最も新しいプロスタグランジン関連薬であるタフルプロストを主成分としたタプロスR点眼液0.0015%は,日本で2008年に発売された(図1).防腐剤にはBACを用いているが,発売して約1年後にはBAC濃度を0.01%から0.001%へと1/10に減量し,現時点で点眼薬に含まれるBACとしては最低濃度である(表1).このBAC濃度では細胞障害性試験において防腐剤を含まな本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416430910-1810/14/\100/頁/JCOPY 表1プロスタグランジン関連点眼薬に含まれる防腐剤の比較製剤名キサラタンR点眼液0.005%トラバタンズR点眼液0.004%ルミガンR点眼液0.03%タプロスR点眼液0.0015%防腐剤ベンザルコニウム塩化物0.02%SofZiaRシステム(ホウ酸,ソルビトール,塩化亜鉛)ベンザルコニウム塩化物0.01%ベンザルコニウム塩化物0.001%ODOSABいタフルプロスト群と同等に細胞障害性が低いことがわかっている3).前述した通り,緑内障専門外来においてアプラネーション眼圧計を用いて眼圧測定するためにフルオレセイン染色を行った場合,軽症ではあるが点状表層角膜炎を認めることが意外と多い.これらの患者は自発的に眼症状を訴えることは少なく,非染色下では他覚的には認識しづらいが,軽症であっても将来にわたって長期的に緑内障点眼治療を行うことを考えると,できるだけ眼表面の状態をケアしておくことが望ましい.緑内障点眼薬の副作用による眼表面障害が重症であれば,その原因であODOS図2A:前プロスタグランジン関連点眼薬の使用下.B:タプロスR点眼液0.0015%への切り替え後.る点眼薬や治療自体の中止が速やかに必要だが,軽症の場合には,主作用としての眼圧下降効果を維持しながら眼表面の状態を改善するために,点眼薬の変更がリーズナブルだと思われる.この観点からBAC濃度を最適化したタプロスR点眼液0.0015%は,眼圧下降効果を維持しつつ,眼表面障害を低減することが期待できる(図2).なお,BACのアレルギーが懸念される場合は,防腐剤を含まない使い切りのタプロスミニR点眼液0.0015%も発売されている2)(図1).現在の緑内障薬物治療の第一選択薬で多剤併用療法の主軸であるプロスタグランジン関連薬のうち,このタプロスR点眼液0.0015%は,有用性と安全性のバランスが良く,眼表面障害をきたしている場合や,その発症の危険性が高いドライアイを有する患者での使用に適していると思われる.文献1)FechtnerRD,GodfreyDG,BudenzDetal:Prevalenceofocularsurfacecomplaintsinpatientswithglaucomausingtopicalintraocularpressure-loweringmedications.Cornea29:618-621,20102)UusitaloH,ChenE,PfeifferNetal:Switchingfromapreservedtoapreservative-freeprostaglandinpreparationintopicalglaucomamedication.ActaOphthalmol88:329-336,20103)浅田博之,七條(高岡)優子,中村雅胤ほか:0.0015%タフルプロスト点眼液のベンザルコニウム塩化物濃度の最適化検討─眼表面安全性と保存効力の視点から─.YakugakuZasshi130:867-871,20101644あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(78)

抗VEGF治療:脳梗塞既往のある加齢黄斑変性患者への治療方針

2014年11月30日 日曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二10.脳梗塞既往のある加齢黄斑変性井上麻衣子横浜市立大学大学院医学研究科視覚再生外科学患者への治療方針脳梗塞既往のある加齢黄斑変性(AMD)患者を治療する場合は脳梗塞のリスクと治療のベネフィットを考え,患者に十分説明したうえで治療を選択する.そのためには症例により治療のベネフィットがどの程度なのか予測できることが望ましい.また,患者背景や病変の特徴を捉え,抗VEGF薬の種類や投与法を選択するようにする.脳梗塞既往と抗VEGF薬加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬は,多くの症例で良好な視力改善・維持が得られるとして第一選択薬として確立してきた.しかし,副作用の懸念もあり,とくに全身性副作用として脳血管イベントの増加がいわれている.過去の大規模スタディーのプール分析では,脳血管イベントの既往のある患者に対するラニビズマブの血栓・塞栓イベントのリスクは不明確であるものの,慎重なモニタリングが必要であると結論づけている1).しかしながらAMD患者に対する抗VEGF薬は患者のQOLの改善に大きく寄与するため2),脳梗塞の既往がある場合でも治療が必要な事態にしばしば直面する.脳梗塞既往のある患者を治療する場合,脳梗塞のリスクと治療のベネフィットを考え,患者に十分説明したうえで治療を選択する.そのためには治療のベネフィットがどの程度なのか見きわめられるようになることが望ましい.たとえば,活動性の低いAMDや,発症してからの経過時間が長く治療効果が期待できない症例は,治療によるベネフィットは低いと考えられる.したがって,そのような症例の場合,脳梗塞既往がある場合はとくに血栓・塞栓のリスクを考えると抗VEGF薬治療は行わず,経過観察になる場合がしばしばみられる.また,脳梗塞のリスクに難色を示したり,脳梗塞発症後間もない場合(明確な基準はないが筆者は累積再発率が10%といわれる1年以内を目安にしている)3)でAMD治療が必要な場合は選択的VEGF阻害薬であるペガプタニブの使用や,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)なども考慮して,非選択的抗VEGF薬の使用回数をできる限り少なくするように心がける.(75)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYアフリベルセプトとラニビズマブアフリベルセプトはVEGFファミリーと強い結合親和性を示し,強力な治療効果を示す一方で血栓・塞栓イベントリスクの危険性も懸念されている.しかし,現在のところ脳血管イベントとの関連性は不明であり,今後の報告が待たれるところである.脳梗塞既往のあるAMD患者にとってアフリベルセプトとラニビズマブ,どちらの薬剤を選択するのかは非常に難しい問題である.筆者は患者背景(年齢,僚眼の視力,通院が容易か否か,など)や病変の特徴〔病変タイプ・病型,網膜色治療前導入期治療後治療後1年図1超高齢者のアフリベルセプト治療前後アフリベルセプトの導入期治療後,計画的投与で維持していき,1年経過して視力(0.6)と維持できている.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141641 治療前治療前治療後図2抗VEGF薬治療を拒否した視力良好PCVに対するPDT治療前後1回のPDTで網膜色素上皮.離はほぼ消退し,視力も(0.7)から(1.0)に改善した.素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)の大きさ・種類,など〕から総合的に抗VEGF薬の種類と投与方法を決定している.たとえば,高齢者であっても通院困難な場合は,治療効果を最大限にして通院回数を最低限にするため,脳梗塞の既往があってもVEGFに親和性の高いアフリベルセプトを勧める場合もある.正解はないのだが,患者にとっての一番のメリットは何なのかということを考えて治療にあたるようにしている.症例をつぎに示す.症例症例1:97歳,男性,ラクナ梗塞あり.車椅子使用.家族付き添いあり.僚眼はAMDのため低視力.左視力(0.3)に低下,PEDを伴いフィブリン・網膜下液が出現している(図1).症例2:66歳,男性.脳梗塞の既往はないものの血縁者に複数脳梗塞患者がいて,抗VEGF薬治療を断固として拒否している.右視力(0.7)(図2).筆者が行った治療症例1:僚眼が低視力であるため視力維持が必須だが,大きなPEDがあるため再発が多い可能性がある.また超高齢者であり,通院を最低限にする必要がある.脳梗塞のリスクや網膜色素上皮裂孔の可能性も話したうえで,アフリベルセプトの計画的投与とした.現在治療後1年が経過して,PEDは残存するものの視力(0.6)を維持できている.全身性副作用は現在のところみられない.症例2:病型はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal1642あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014choroidalvasculopathy:PCV)である.視力は(0.5)以上であったものの,本人の希望が強く,リスクも話したうえでPDTを施行した.1回の治療でPEDは改善し,視力も(1.0)に改善した.治療後6カ月では初診時に認められたポリープは消退しているものの,新たなポリープも生じており,今後追加治療する可能性もある.おわりに以上,脳梗塞既往患者に対する治療方針について述べた.脳梗塞既往患者に対する明確なAMD治療指針はないため,個々の医師の裁量に任されているのが現状である.今後はより症例を集め安全性について検討していく必要があると思われる.また,脳梗塞の再発リスクを恐れるあまりにAMD治療への対応が遅くなる事態はさけるべきである.そのような見きわめがむずしい場合は,早めに網膜専門医に送ることもときには必要であろう.文献1)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascularaccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascularizationwithranibizumabinrandomizedcontrolledtrials.Retina32:1821-1828,20122)InoueM,ArakawaA,YamaneSetal:Intravitrealinjectionofranibizumabusingprorenataregimenforage-relatedmaculardegenerationandvision-relatedqualityoflife.ClinicalOphthalmology,inpress3)HataJ,TanizakiY,KiyoharaYetal:TenyearrecurrenceafterfirsteverstrokeinaJapanesecommunity:theHisayamastudy.JNeurolNeurosurgPsychiatry76:368-372,2005(76)

緑内障:緑内障における生活不自由度

2014年11月30日 日曜日

●連載173緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也173.緑内障における生活不自由度朝岡亮東京大学医学部附属病院眼科緑内障患者において,機械学習法(ランダムフォレスト法など)を用いて視力と視野の各測定点の感度を総合的に勘案することが,visionrelatedqualityoflife(VRQoL)を正確に推定するために有用であった.また,日常生活の各タスクに視野のどの部位が重要であるかについても解析を行った.●緑内障におけるVisionrelatedqualityoflife解析緑内障患者治療の根源的な目標は患者のvisionrelatedqualityoflife(VRQoL)保持であることは論を待たず,視力や視野から正しくVRQoLを推測することは,重要である.過去のさまざまな研究で,重要な視野部位はタスクによって異なると報告されている.これまではVRQoLと視機能のパラメータの関係は,各視機能パラメータ(視野各測定点の感度など)ごとに別個に解析されているが,視野の測定点同士や,中心視野と視力1)は密接に関連していることは明らかであり,視野や視力からVRQoLを予測,解析する際には,本来単におのおのの関係を別々に調べるべきではない.そこで筆者らは機械学習法を用いて視力と全測定点の感度を総合的に勘案し,VRQoLを予測することが有用ではないかと考え,検証を行った2,3).とくにランダムフォレスト(RF)法はブートストラップリサンプリングを行うことで多数の決定木を作成するもので,最も精度の良い機械学習法の一つとして知られている.●方法164例の緑内障患者にSumiらの質問票を用いてVRQoLの聞き取りを行い,この結果と30-2視野(HFA)の各測定点のtotaldeviation(TD)値と,視力および年齢との関係を解析した.まず最初に,良い眼の視力,悪い眼の視力,両眼視野(integratedvisualfield:IVF)4)のmeandeviation(IVFMD)のおのおのを別個に用い,leave-one-out交差検証法により,各VRQoL予測スコアと予測誤差を計算し,rootmeansquarederror(RMSE)を算出した.つぎに,種々の機械学習法(RF法,SVM:サポートベクターマシン法,Boost:グラ(73)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYディエントブースティング法)を用いて各測定点のTD値と,視力および年齢を同時に解釈し,同様にleaveone-out交差検証法により,各VRQoL予測時のRMSEを算出した.比較のため,各測定点のTD値と,視力および年齢を用いたstepwiseAIC変数選択法(線形回帰法)によるRMSEを計算した.●予測誤差図1と表1はタスクごとのRMSEを示す.いずれにおいても,視力やIVFMDを一つずつ用いたり,線形回帰法で各測定点のTD値と視力および年齢を組み合わせて解釈したりするよりも,機械学習法を用いて予測したほうがVRQoL予測の際のRMSEは小さくなった.RMSE43210VA(worse)VA(better)IVFMDVAsandMDLinearAICRandomForestSVMBoostLinearmodelsMachinelearningalgorithmsGeneralVRQoLscorerange;0to14points2.683.152.422.353.201.991.992.21図1種々の方法によるvisionrelatedqualityoflife(totalscore)予測の予測誤差予測誤差はleave-one-out交差検証法を用いてrootmeanofthesquaredpredictionerror(RMSE)として求めた.VA(worse):悪い眼の視力,VA(better):良い眼の視力,IVFMD:integratedvisualfield(両眼視野)のmeandeviation,VAsandMD:両眼の視力とIVFMD(重回帰分析),LinearAIC:stepwiseAIC変数選択法(線形回帰法),RF:RandomForests法,SVM:supportvectormachine法,Boosting:GradientBoosting法あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141639 表1種々の方法によるvisionrelatedqualityoflife(lettersandsentences,walking,goingout,dining)予測の予測誤差lettersandsentencesrankwalkingRMSErankgoingoutRMSErankdiningRMSErankVF(worse)1.0260.3960.4360.406VA(better)1.1470.4670.5380.437IVFMD0.9440.3440.4250.385VAsandMD0.9230.3440.3940.384AIC1.3180.5080.5070.528RF0.8510.3020.3210.332SVM0.9550.3330.3730.353Boosting0.8620.2910.3320.321予測誤差はleave-one-out交差検証法を用いてrootmeanofthesquaredpredictionerror(RMSE)として求めた.VA(worse):悪い眼の視力,VA(better):良い眼の視力,IVFMD:integratedvisualfield(両眼視野)のmeandeviation,VAsandMD:両眼の視力とIVFMD(重回帰分析),LinearAIC:stepwiseAIC変数選択法(線形回帰法),RF:RandomForests法,SVM:supportvectormachine法,Boosting:GradientBoosting法とくにRF法ではその弱学習器(内部構造)である決定木において,各パラメータが同時に使用されたりされなかったりするため,相互に関連したパラメータを総合的に使用するのに向いており,この結果が反映されたものと考えられる.●視野部位つぎに,各VRQoLにどの視野部位が重要であるかを検証した.検証の際にはRF内部の決定木おのおので,各パラメータを変化させ,その影響の多寡を観察した.各活動,総合スコアともに,良い眼の視力が最も重要であった.悪い眼の視力は3番目(lettersandsentences,goingout,diningの各活動および総合スコア)ないし16番目(walking)に重要であった.各視野測定点の重要度は図2の通りであるが,各活動とも水平線沿いに広く分布した部位に加え,各々に特異的な部位(lettersandsentences:左上下方,walking:下方とくに左側,goingout:上方,dining:広く分布)が重要であった2).●おわりに本稿では機械学習法を用いたVRQoLの予測の正確な推定方法と,さらに,その中身を詳細に解析することで特定された重要な視野部位について紹介した.本稿の内容以外にも,近年アンケート結果の解釈にはさまざまな進歩がみられる.たとえばアンケート結果の解釈の際には単純な算数和を用いるのでなく,Rasch法を用いて解釈することが推奨されており,実際筆者らの検証でもその有用性が明らかとなっている5).今後はこれらの点を1640あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014図2種々のVisionrelatedqualityoflifeに重要な視野検査点視野検査点はRandomForests法の中の,各々の決定木のパラメータを任意に動かし,その予測結果に対する影響を比較することによって同定された.a.lettersandsentencesb.walkingc.goingoutd.dininge.totalscore1102026110202611020261102026110202630degrees30degrees30degrees30degrees網羅した一層の研究の発展が期待されるところである.文献1)AsaokaR:Therelationshipbetweenvisualacuityandcentralvisualfieldsensitivityinadvancedglaucoma.BrJOphthalmol97:1355-1356,20132)MurataH,HirasawaH,AoyamaYetal:Identifyingareasofthevisualfieldimportantforqualityoflifeinpatientswithglaucoma.PLoSOne8:e58695,20133)HirasawaH,MurataH,Mayamaetal:Evaluationofvariousmachinelearningmethodstopredictvision-relatedqualityoflifefromvisualfielddataandvisualacuityinpatientswithglaucoma.BrJOphthalmol98:1230-1235,20144)AsaokaR,CrabbDP,YamashitaTetal:Patientshavetwoeyes!:binocularversusbettereyevisualfieldindices.InvestOphthalmolVisSci52:7007-7011,20115)HirasawaH,MurataH,MayamaCetal:ValidatingtheSumiqualityoflifequestionnairewithraschanalysis.InvestOphthalmolVisSci55:5776-5782,2014(74)

屈折矯正手術:円錐角膜眼に対する有水晶体眼内レンズ

2014年11月30日 日曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載174大橋裕一坪田一男174.円錐角膜眼に対する井手武南青山アイクリニック有水晶体眼内レンズ円錐角膜治療はハードコンタクトレンズ(HCL)が困難であれば全層角膜移植というのが以前の治療戦略であった.現在はその間を埋める角膜治療も出てきている.通常は正常眼の屈折矯正に利用されるフェイキックIOL(phakicimplantablecontactlens:P-IOL)も適応を理解し,期待値をコントロールすれば有力な治療ツールとなりうる.●円錐角膜治療全般円錐角膜は軽症から重症に進行するにつれて,眼鏡,ソフトコンタクトレンズ(SCL),HCL(球面・非球面・多段階カーブ),ピギーバック(SCLの上にHCLを重ねて装用)で対応し,進行してコンタクトレンズ(CL)不耐症になれば全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)というのが従来の治療方針であった.CLと移植では精神的・経済的・社会的など患者にとって多くの意味で隔たりがあるため,その間を埋める治療法が渇望されていた.それらが角膜内リング,クロスリンキング,熱形成などである.パーツ移植については知識や経験が広まり,角膜・屈折矯正を専門としない医師の間にも円錐角膜にはPKPだけでなく深層層状角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)という選択肢もあることは知られるようになった.しかし,現在でもHCLやピギーバックがだめなら移植(PKP,DALK)という説明を受けている患者が多い.●P.IOL治療円錐角膜に対する基本治療戦略の例を図1に示す.樹系図の左側には円錐角膜の進行がある際の治療選択を示した.最近の流れでは,進行がある場合には視力が良好でも早めにクロスリンキングを施行することが多くなっている.樹系図の右側に示された進行がない場合には,円錐角膜の軽重に応じて移植に至るものから,眼鏡矯正視力が良好な場合にはP-IOLまである.P-IOL治療は角膜そのものに加療するものではないが,円錐角膜の進行がなく眼鏡矯正視力が良好なものが基本適応となる.円錐角膜患者のなかには基礎疾患としてアトピーやアレルギー性結膜炎があるためにCL不耐(71)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1円錐角膜の治療方針判断の1例円錐角膜の治療方針は進行の有無,矯正視力,角膜厚みなどにより判断される.しかし,これらの判断基準は施設・医師などによっても変わる.症例では,眼鏡をおもな矯正手段とせざるをえない.しかし,左右眼で非対称性に円錐角膜が進行して大きな不同視がある症例の場合,片眼の矯正視力が良くても両眼では装用不可となる.そのような症例では現実的な対応として,進行があったとしても不同視をできるだけ消すためにもP-IOLが適応になる.しかし,円錐角膜眼のP-IOLの適応については留意しなくてはならない点が大きく3つある.1.角膜が歪んでいる以上度数ずれが起こりやすいこと.しかし,白内障手術と異なり計算式はレンズ位置を眼前12mmから虹彩前面もしくは裏面に持ってくる式であるため,角膜K値のずれによる大きな度数ずれにはつながりにくい.2.円錐角膜において,乱視は不可避な問題であること.自覚,レフケラトメータ,トポグラフィーやトモグあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141637 図2円錐角膜患者の1例右眼だけであると形状は正常にみえるが,左眼が典型定期な円錐角膜所見を呈する.円錐角膜は両眼性の疾患であるため,外科的治療を考慮する場合には右眼も円錐角膜眼として考える必要がある.ラフィーのデータが大きく異なる場合もあるため,トーリックの角度を回転しなくてはならない場合や,術後眼鏡やコンタクトレンズが必要なこともある.3.P-IOLにはTORICとNON-TORICレンズがあること.進行が止まっており眼鏡矯正視力がよい場合にはTORICレンズを挿入すればよいが,進行している症例の場合,術直後は良くても,角膜形状が変化しHCL装用が必要になった場合に,眼内レンズの乱視が顕在化してより矯正が困難になることがありえるため,進行症例ではTORICレンズの挿入は推奨しにくい.手術自体は非円錐角膜眼に対する手術と変わりがないので型通りの手術を行う.しかし,円錐角膜眼ではヤングモジュール(弾性)が低く,創傷治癒過程が正常眼に比べて劣るということもあり1),ARTIFLEX(OPHTEC社)のような通常は縫合しないことが多いP-IOLでも,創離解をできるだけ避けるために1針縫うのが望ましいかもしれない.●症例提示:33歳,男性視力は右眼0.06(0.9×1Sph.8.5(cyl.1.0A×180°),左眼0.15(0.5×Sph.2.0(cyl.2.0A×40°),角膜厚は右眼515μm,左眼479μmで,視力向上を期待され当院を紹介受診された.眼鏡矯正視力の出る右眼に対するARTIFLEX挿入術を施行,左眼は円錐角膜用HCLを処方した.術後1年で右眼0.9(N.C),左眼0.7×HCLである.初診時トポグラフィーを図2に示す.ここで右眼の屈折が近視度数が.8.5Dではなく,.3.0Dだった場合にはどうなるであろうか?形状は正常で残存角膜厚みも十分なため,LASIKという判断がされるかもしれないが,円錐角膜の特徴は「両眼の進行性疾患」であるので,片眼が円錐角膜である場合,その療眼も円錐角膜であるという前提で治療を行う必要がある.したがって進行がなく,角膜厚み・形状が正常“様”であっても,LASIKが適応になることはない.●おわりに円錐角膜の治療戦略は,新しい臨床知見が出るごとに選択閾値が変わっていく.大きな過渡期を我々は経験しているため,注目し続けていく必要がある.文献1)CheungIM,McGheeCN,SherwinT:Deficientrepairregulatoryresponsetoinjuryinkeratoconicstromalcells.ClinExpOptom97:234-239,20141638あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(72)

眼内レンズ:浅前房・閉塞隅角眼の白内障手術適応

2014年11月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋337.浅前房・閉塞隅角眼の白内障手術適応栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院眼科白内障手術は閉塞隅角に対する強力な治療手段である.しかし,浅前房・閉塞隅角症例の白内障手術は合併症リスクが通常よりも高いので,前房が少し浅いようだから,あるいは隅角が少し狭いようだからといって安易に手術を適応すべきではない.白内障の程度と隅角閉塞のリスクをよく吟味したうえで治療適応を決める必要がある.●はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は,隅角が閉塞することで房水の流出路が閉ざされて眼圧が上昇する緑内障病型であり,一般に狭い隅角や浅い前房を解剖学的特徴とする.治療の第一義は狭隅角の原因となっている解剖学的問題の解決にあり,そのための治療として白内障手術はきわめて有効な選択肢である.ただし,原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)とPACGの白内障手術は,通常の白内障症例における手術に較べて合併症リスクが高いので,その適応は慎重に検討されねばならない.●手術適応手術適応の大原則は,手術のリスクに対してベネフィットが上回ることであるが,PACの白内障手術では白内障による視機能障害と閉塞隅角のリスクの2つの観点から適応を検討する.以下に,閉塞隅角に対する白内障手術の適応について,対象症例が白内障そのものの治療適応を有するかどうかに分けて述べる.閉塞隅角については,病期別に手術適応を考えていく.白内障の治療適応がある場合:原発閉塞隅角症疑い(primaryangleclosuresuspect:PACS),PAC,PACGのすべての病期において,白内障手術を閉塞隅角治療の第一選択とすべきである.白内障手術による閉塞隅角の治療効果は強力で汎用性も高いので,レーザー治療などを迂回することなく,一期的に白内障手術を施行すべきである.白内障の治療適応が弱い,もしくはない場合:まずは閉塞隅角に対する治療適応があるかどうかを検討し,治療適応ありと診断されれば,白内障手術が最適な治療選(69)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY択肢かどうかの検討を行う.PACにおける隅角閉塞のメカニズムは,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,悪性緑内障因子の4つに分類され,隅角閉塞のメカニズムが異なれば有効な治療方法も異なる(表1).白内障手術は,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,および水晶体因子の3つのメカニズムに対して有効なので,これらのメカニズムに基づく閉塞隅角は白内障手術の適応となりえる.以下,病期別に適応について述べる.●PACS(原発閉塞隅角症疑い)まだ疾患は発症していないので,原則は経過観察とし,PACに進行した時点で治療を検討する.ただし,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)発症のリスクが高い眼は予防的治療の適応となる.APAC発症を予見することはむずかしいが,筆者の多数例の経験からは,中心前房深度2.0mm以下の症例ではAPACを発症するリスクがあり,1.7mm未満の症例ではAPACのリスクはかなり高い.前房深度1.7mm未満の症例と1.7~2.0mmで強い瞳孔ブロックを認めるか,暗室うつむき試験で陽性もしくは疑い陽性を示す症例では予防的治療を検討する.APACにおける主要な隅角閉塞メカニズムは瞳孔ブロックなので,レー表1隅角閉塞メカニズムと治療の有効性瞳孔ブロックプラトー虹彩形状水晶体因子悪性緑内障因子レーザー虹彩切開術◎×××レーザー隅角形成術×~○○××白内障手術◎○◎×~?◎:著効,○:有効,×:無効あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141635 手術前手術後手術前手術後図1浅前房・閉塞隅角眼に対図2浅前房・閉塞隅角眼に対する白内障手術する白内障手術前後浅前房・閉塞隅角眼に対する白浅前房・閉塞隅角眼に白内障手内障手術は通常症例よりも難易術を施行すると,劇的に前房は度が高いので,個々の症例に応深化し,隅角は開大する.じて手術適応とリスクを丁寧に検討する必要がある.ザー虹彩切開術を選択してもよい.ただし,PAC症例には遠視が多く,高齢者では老視もある.こうした症例では屈折矯正上のメリットも考慮してよいだろう.また,レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症を避けるため,あるいはPACGへの進行を防ぐために長期的な観点から白内障手術を優先的に選択すべきと考える専門家は多く,筆者もその1人であるが,この点については議論がある.高齢者のPACS症例では程度の差はあれども白内障を認めない症例はないので,白内障手術を他の治療方法と比較したメリットとデメリットおよびリスクをよく説明し,患者と相談のうえで治療方法を決定するのがよいだろう.●PAC(原発閉塞隅角症)すでに閉塞隅角が生じており,放置すれば緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)を発症してPACGに進行する可能性が高い.したがって,原則として治療適応である.ただし,隅角所見にてPACに分類される症例でも,眼圧が正常で負荷試験でも問題を認めない症例については,慎重な経過観察でもよい可能性がある.治療方法については,瞳孔ブロックが支配的な症例ではレーザー虹彩切開術,プラトー虹彩形状が主体の症例ではレーザー隅角形成術を選択してもよいが,屈折矯正上のメリットや長期的予後の観点から白内障手術を選択すべきとの考え方があるのはPACSの項で述べたとおりである.白内障を認めず調節力も健常な若年のプラトー虹彩形状主体の症例に対しては,レーザー隅角形成術や低濃度ピロカルピン点眼を先行し,その効果を見きわめたうえで白内障手術の適応を検討するのがよいだろう.一方,高齢者のマルチメカニズムによるPAC症例では白内障手術を第一選択に考えるのが合理的である.●PACG(原発閉塞隅角緑内障)PACGは失明リスクの高い緑内障病型であり,適切に治療しなければ,短期間にGONが進行することも珍しくない.最も汎用性が高く強力な治療法である白内障手術を第一選択にすべきと筆者は考えている.ただし,若年者については,GONが軽度で視野にまだ余裕があるならば,まず他の治療を施行し,その経過をみたうえで白内障手術の適応を検討するのもよいだろう.一方,GONが進行している症例では,より低い術後眼圧を得るために濾過手術との同時手術も検討する.●おわりに白内障手術はPACにおける機能的隅角閉塞を解除する治療として最強の治療手段で,病初期に施行すれば事実上の治癒に持ち込むことが可能である.その一方で手術のリスクは通常の白内障症例よりも高く,手術合併症のために,緑内障進行例では視神経が致命的なダメージを受けかねない.白内障手術の効力をPACG診療で存分に発揮するためには,個々の症例に応じて適応とリスクを丁寧に検討すると同時に,術者の技量や手術設備と術後管理体制についても,慎重な吟味を行うことが重要である.

コンタクトレンズ:屈折検査(1)オートレフケラトメータ,視野・眼底検査

2014年11月30日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一6.屈折検査(1)オートレフケラトメータ,梶田雅義梶田眼科視野・眼底検査オートレフラクトメータとオートケラトメータの機能を備えた装置がオートレフケラトメータである.最近の新しい検査装置は自動制御で,作働もスピーディになっており,データ取得に要する時間も非常に短くなっている.●オートレフラクトメータ部分オートレフラクトメータ(以下,オートレフ)のデータを読むときに注意しなければならないのは,生体の眼の屈折は常に動いており,動きの中の代表値として結果を記録しているということである(図1).安定したデータが取得できれば,円柱度数の信頼度は高いと考える.球面度数には必ず調節が介入していると考えて,次の自覚的屈折検査に進むことが大切である.従来の自覚的屈折検査は,球面レンズで最小錯乱円の屈折を求めてから,乱視矯正を行う手順であるが,オートレフが普及した現在では,オートレフの値を参照して円柱レンズ度数と円柱軸を先に決めてから球面度数を求めると,検査の能率がアップする.そのために,図2に示すようなフローチャートの利用をお勧めしたい.もちろん,自覚的屈折検査で求めた屈折値は,片眼で最良視[D]-638歳女性-5-4測定結果-3-3.50D-2-10[sec][D]時間-622歳女性-5-4測定結果-3-4.75D-2-10024681012[sec]時間図1屈折値の揺れ無限遠視標を見ているときの屈折値を12秒間記録したものである.上段の38歳女性では屈折値の揺れは少なく屈折値は比較的正しい値が記録されているが,下段の22歳女性では屈折値の揺れが大きく屈折値もかなり近視寄りの値で記録されていることがわかかる.(67)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY0屈折値屈折値24681012力が得られる最弱屈折値を求めただけで,その値が,眼鏡やコンタクトレンズの度数にして快適である保障はまったくない.必ず,両眼同時雲霧法1)を用いて,両眼視で適切な矯正度数を求めて,矯正用具を処方して欲しい.●オートケラトメータ部分角膜曲率半径はハードコンタクトレンズの処方に必要なデータである.かつてのオフサルモメータによる測定では,そのままハードコンタクトレンズのベースカーブに使用できるデータが得られた.しかし,眼内レンズの普及に伴い,術後予測屈折値を決定するために角膜中心部分の曲率をさらに正確に測定する必要がでてきた.そのため,オフサルモメータでは直径4.5mm程度で測定したのが,ケラトメータでは直径3.0mm程度で測定が行われるようになった.白内障術後予測屈折値の精度は上がったが,ハードコンタクトレンズの処方には利用しにくい値になっている.ハードコンタクトレンズの処方に必要なデータは直径5~6mmの角膜曲率半径である視力値1.0以上スタート球面度数に+0.75Dを加える円柱度数オートレフの円柱値より小さい自覚的乱視検査オートレフの円柱1.0未満球面度数に-0.25Dを加える値より大きい円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える球面値がオートレフ未満で視力値球面値がオートレフ値に達しても視力値1.0未満1.0未満のとき視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき終了図2自覚屈折測定のフローチャートスタート地点では,円柱度数はオートレフで得られた円柱度数から0.75D減じた値で,軸度はオーレフの値に10°ステップで近似させる.球面度数はオートレフの値から.0.75Dを減じた値を検眼枠に装入する.一度は1.0未満の視力になる屈折値を導き出し,そこから測定をするのがポイントである.あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141633 1634あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(00)ため,フルオレセインによるフィッティング検査が重要になってきている(図3).ソフトコンタクトレンズの処方にはそれよりもさらに周辺の曲率半径が必要であるため,オートケラトメータの測定値はある程度参考にはなるものの信頼度は低い.レンズのセンタリングが良いこと,瞬目ごとに適切な動きが認められること,レンズ周辺部分が浮き上がったり,角膜や結膜を圧迫していないことなどのフィッティング確認が非常に大切である.特にサークルレンズやカラーコンタクトレンズはクリアレンズに比べてベースカーブの曲率半径は小さく設計されている.日本人の角膜曲率半径は欧米に比べて大きくなっており,現在市販されているカラーコンタクトレンズのベースカーブでは3割くらいの人で,フィッティング不良が生じている.フィッティング不良は眼障害の原因になるので,フィッティング確認を忘れてはならない.正しくフィッティングできない場合には希望があっても処方すべきではない.●眼底検査コンタクトレンズ診療は眼疾患の発見に絶好の機会である.眼底疾患は視神経乳頭と上耳側動静脈と下耳側動静脈で囲まれる血管アーケードと呼ばれる部分に異常が出やすいので,初診時には観察しておくことが望ましい.また,網膜裂孔は網膜最周辺部に起こりやすいので,飛蚊症の自覚がある場合などには散瞳を行い周辺網膜まで検査を行うことが望ましい.網膜裂孔があることに気づかないで,コンタクトレンズ装用練習のため眼球を強く押したりすることが原因で網膜.離に発展することもある.●視野検査自覚症状がなくても眼底検査で視神経乳頭陥凹拡大などの視神経乳頭に異常が確認できる場合には,視野検査を行うことが望ましい.視野検査はGoldmann視野計で行う動的量的視野とHumphrey視野計などで行う静的量的視野検査がある.動的量的視野検査では検査に対する熟練が必要であるが,静的量的視野検査は自動音声まで内蔵されており,装置のマニュアルに沿って操作を行えば,適切に検査が遂行されるようになってきている.コンタクトレンズ診療で緑内障や視路疾患が発見されることも少なくない.文献1)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科学20:11-14,1999ZS936角膜曲率半径(水平方向7.72mm,垂直方向7.52mm)HCL(7.50/-3.00/8.8)HCL(7.60/-3.00/8.8)HCL(7.70/-3.00/8.8)HCL(7.80/-3.00/8.8)SteepSteepGoodFlat図3ハードレンズのフィッティングオートケラトメータの値は角膜の中心部分の曲率を測定しているので,ハードレンズのフィッティングには参考程度の値にしかなっていない.フルオレセイン染色で,適切なフィッティングが得られるベースカーブを決定することが必要である.スティープなときにはレンズの周辺辺部が角膜に強く当たっている(矢印の内側).フラットなときにはレンズの中央部分が角膜に強く当たっている.直径6mm径内くらいが角膜に均等に接触するフィッティングが良好である.

写真:ランドルト環型角膜上皮炎

2014年11月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦366.ランドルト環型角膜上皮炎細谷比左志JCHO神戸中央病院図2図1のシェーマCの字を連ねたような形の上皮の盛り上り病変を認める.図1初診時左眼.拡大写真.フルオレンセイン染色写真Cの字を連ねたようなフラクタル図形の角膜上皮の盛り上がりを認めるが,前房炎症や細胞浸潤はない.図3初診から4日後の左眼.フルオレンセイン染色写真図1にみられた病変の広がりを認める.図4図3と同時期の右眼.拡大写真.フルオレンセイン染色写真左眼と同様のCの字を連ねたようなフラクタル図形の角膜上皮の盛り上がりを認めるが,前房炎症や細胞浸潤はない.(65)あたらしい眼科Vol.31,No.11,201416310910-1810/14/\100/頁/JCOPY ランドルト環型角膜上皮炎は,異物感や羞明を主訴とする角膜上皮の病変で,ほとんどが両眼性で非対称性である.1992年に大橋らが最初に報告1)して以来,数例の報告がみられる2,3).所見は非常に特徴的で,両眼の角膜上皮レベルに図1のような,アルファベットのCの字(あるいは視力検査で用いるランドルト環)を並べてくっつけたような形の上皮の盛り上がりを認め,炎症所見はなく,細胞浸潤も認めない.筆者の経験した症例は,67歳の女性で,初診は2007年12月21日.左眼の異物感を主訴に受診.視力は,両眼とも矯正で(1.0)と低下しておらず,眼圧も正常,角膜知覚も低下していなかった.両眼の角膜に図1のような病変を認め,フルオレセインで染色すると,少しフルオレセインをはじくような所見がみられ,上皮の盛り上がりを認めた.図1は左眼であるが,右眼も同様の所見であり病変は左よりやや小さかった.肺癌の既往があり1年前から抗癌剤のTS-1Rを内服している.クラビットR点眼と0.1%フルメトロン点眼を処方して経過をみたが,改善せず病変は拡大した(図3,4).患者の同意を得て,4日後の12月25日に病変のやや大きかった左眼の上皮を掻爬し,同時にサンプルを採取した.2日後には上皮はほぼ治癒し,右眼も上皮掻爬した.PCRにて涙液および掻爬した上皮検体のウイルスを調べた.単純ヘルペス1型,2型,水痘帯状疱疹ウイルス,EBウイルス,サイトメガロウイルス,ヘルペス6型,7型,8型を調べたがいずれも陰性であった.上皮は治癒したが,1月15日にTS-1R内服を再開したところ4日後に上皮病変が再発.TS-1Rを中止し,クラビットR点眼,0.1%リンデロン点眼,ヒアレインR点眼を1日4回点眼を再開.上皮掻爬は患者が希望せず,点眼だけで経過を観察していたところ,2週後には完全に治癒した.その後再発はない.最近,Inoueらは,ランドルト環型角膜上皮炎の11例をまとめて報告している4).その特徴は,異物感,羞明を主訴とする両眼性,非対称性の上皮に限局した病変で,炎症所見を伴わない.特徴的な所見は,本症例のようなCの字を連ねたようなフラクタル図形の病変で,全体として環をなしている.上皮は盛り上がったようになっている.ロストック共焦点顕微鏡により,角膜上皮層のうち,表層細胞レベルでは細胞のballooningと細胞質の高輝度反射像が,翼細胞レベルでは細胞核と細胞膜の高輝度の反射像が,基底細胞レベルではランドルト環型になったリッジ形成が,さらに基底細胞の最基底レベルでは高反射のprecipitatesが観察された.炎症所見はなかった.年齢は17~73歳,うち40~50代が大半の64%を占めている.91%が両眼性である.Inoueらの論文でもHHV(humanherpesvirus)の1~8型まで調べているが陰性であった.冬季に悪化する傾向があり3カ月程で改善するという傾向があり,筆者の症例とも一致する.こういった症例は,比較的身近で経験するかも知れず,これを読んでいるあなたの外来にも,明日にでもこのような病変をもった患者が受診するかもしれない.(ウイルス分離については当時大阪大学に在籍されていた井上智之先生にご協力いただきました.深謝いたします.)文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎の1例.臨眼46:594-595,19922)小池美香子,栃久保哲男,飯野直樹ほか:ランドルト環型角膜上皮炎の2例.眼紀49:31-34,19983)細谷比左志,神鳥美智子,真下永ほか:花弁状角膜上皮炎(ランドルト環型角膜上皮炎)の1例.角膜カンファランス・日本角膜移植学会抄録集.3:91,20094)TInoue,NMaeda,XZhengetal:Landoltring-shapedepithelialkeratopathy.Anovelclinicalentityofthecornea.JAMAOphthalmol.doi:10.1001/jamaophthalomol.2014.2381PublishedonlineJuly17,20141632

カラーコンタクトレンズによる眼障害を生じた患者への対応

2014年11月30日 日曜日

特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1621.1626,2014特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1621.1626,2014カラーコンタクトレンズによる眼障害を生じた患者への対応AdviceforPatientsWhoHaveSufferedEyeDamageDuetoCosmeticColoredContactLensUsees月山純子*はじめにカラーコンタクトレンズ(カラーCL)による眼障害を生じた患者への対応は難しい.治療はさておき,患者との信頼関係の築き方が難しい.多くの眼科医やスタッフが感じておられるのではないだろうか?筆者も以前は,患者に対して怒って厳しく注意をしていたが,重症であっても再診しないことが多いため,最近は怒らないようにしている.カラーCLにより眼障害を起こす患者は,これまでの患者と異なる傾向がある.眼障害を起こして初めて眼科を受診するという患者も多い.そもそも彼らにはCLは眼科で処方を受けるものという概念がないように思う.なぜなら,わが国では眼科を受診しなくても,雑貨店やインターネット通販などで,簡単にCLが買えるからである.芸能人が装用し,ファッション雑誌などでカラーCLをアイメイクの一部として紹介されているような現在の状況では,CLを装用するには眼科を受診してからという基本的な考えが欠落していても不思議ではない.特に10代の若い世代では,CL装用年齢になったときからすでにこの状況なので,CLが医療機器という認識がないように思う.日本眼科学会,眼科医会,コンタクトレンズ学会,コンタクトレンズ協会,国民生活センターなどからの啓発活動が国民に浸透し,一日も早く法整備が整って,この状況が改善されることを願うが,われわれ眼科医療従事者は,まず目の前の患者の対応をしなければならない.本稿では,少しでも説得力のある説明をし,患者と良好な信頼関係を築くために知っておきたいことについて述べる.IカラーCL患者の約半数は問題があっても眼科を受診しない2014年5月に発表された国民生活センターの調査1)によると,10代,20代のカラーCLユーザー1,000名へのアンケート調査では,最近の1年間に眼の調子が悪くなったことがあったかという質問には,23.7%があったと回答したが,そのうち49.4%が眼科を受診していなかった.カラーCLの患者の約半数は問題があっても眼科を受診しないという結果は眼科医療従事者にとって残念である.自覚症状は,多い順に「異物感」「充血」「目の痛み」であった.ソフトCL(SCL)は,絆創膏を貼ったように痛みを軽減させるバンテージ効果があるために自覚症状が出にくく,重症化が懸念される.カラーCLによる眼障害で眼科を受診したら,頭ごなしに怒るのではなく,まず眼科に来たことを認めることが大切である.今後の信頼関係を築くうえで大切なステップであると思う.もしも来ていなかったら,もっと大変なことになっていたと患者に伝え,病状を写真や図を見せながら説明する.放置した場合に起こりうる怖い合併症の写真なども用いる.患者は,いきなり怒られると異常があっても眼科受診をためらうようになってしまい,少し良くなったら,再び眼科医を介さないインターネット通販や雑貨店での購*JunkoTsukiyama:博寿会山本病院眼科/近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕月山純子:〒648-0072和歌山県橋本市東家6-7-26博寿会山本病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(55)1621 1622あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(56)名を特定しようと詳しく聞くと,インターネットを通じて購入したカラーCLであることが判明した.少しでも怪しいと思ったら,カラーCLの使用を疑って詳細に問診する必要がある.III気をつけたい個人輸入の未承認カラーCLカラーCLのなかでも,安全性に対して特に心配なのが,個人輸入の未承認カラーCLである.図2は個人輸入の未承認カラーCLを使用していて角膜炎を生じた症例の片眼の写真である.さすがに角膜炎を生じている患眼は,CLを装用して来院しなかったが,痛くないほうの眼は,カラーCLを装用して来院した.非常に大きなサイズのカラーCLであることがわかる.その場で購入したWebサイトから製品名を確認し,後で詳しく調べたところ,そのカラーCLは国内未承認の個人輸入カラーCLであることが判明した.また,患眼に使用していたカラーCLの培養検査を行ったところ,Serattiamarcescens(3+)が検出された.直径15mmを超えるような,いわゆるデカ目カラコンといわれるカラーCLは,個人輸入の未承認カラーCLの可能性が高くなる.未承認のカラーCLは,生物学的,物理化学的要求事項といった最低限の安全基準でさえクリアしているかどうかわからない.個人輸入代行業者のWebサイトは,ほとんどが日本語で書かれており,通常のインターネット通販と同様,日本語でのやり取りになるので,購入者自身も個人輸入をしているということに気がついていないことも多い.個人輸入の場合は,海外から届くので到着までの日数がかかることが多く,1回の購入レンズの数が2カ月分程度までに制限さ入をし続ける可能性が高い.眼科受診を躊躇したことで,重篤な眼障害や後遺症が生じるという事態は避けなければならない.反抗的な態度の患者に対応するのは骨が折れるが,その場では,ふてくされている患者でも,内心は自分でも何となく悪いと思っていることも多い.調子の悪いときには,眼科医を頼って欲しいと願いながら,怒りを抑え修行をしているような気持ちで筆者も診療している.II初診時に聞くべきこと,できることをなるべく全てやる残念ながら,カラーCLによる眼障害の患者は,重症であっても約束どおり来院しないことが多い.カラーCLの種類の特定や,ケア方法や使用法に関する問診,検査,治療など初診の際にできることは,なるべく全てやるようにしたい.購入ルートがインターネット通販や雑貨店であることが多いので,買ったCLの種類を特定するために,その場でスマートフォンなどからWebサイトを確認させると,レンズの種類が判明することがある.また,芸能人がプロデュースしているカラーCLでは,その芸能人の名前から判明することもある.医師が聞き出しにくければ,スタッフを通じて問診する.少なくとも個人輸入の未承認レンズか承認レンズかの確認はしておきたい.また,カラーCLを使用していたことを言わない患者もいる.図1は痛くなったときのみ,眼科に繰り返し来院していた症例である.使用していたのは,1日使い捨てのSCLとのことであったが,何度も角膜浸潤を生じており,新生血管も侵入してきた.使用していたレンズabc図1繰り返し角膜浸潤を生じたが,カラーCLを装用していることがわからなかった症例a:2011年6月4日右眼,b:2012年4月4日左眼,c:2012年7月9日左眼.繰り返し角膜浸潤を生じたが,カラーCLを装用していることがわからなかった症例.疑わしいと思ったら,カラーCLの使用歴をこちらから確認する.abc図1繰り返し角膜浸潤を生じたが,カラーCLを装用していることがわからなかった症例a:2011年6月4日右眼,b:2012年4月4日左眼,c:2012年7月9日左眼.繰り返し角膜浸潤を生じたが,カラーCLを装用していることがわからなかった症例.疑わしいと思ったら,カラーCLの使用歴をこちらから確認する. 図2直径15mmを超える個人輸入未承認カラーCL大きなカラーCLを見たら,日本で未承認の個人輸入カラーCLの可能性も考え,購入先を確認する.= 図3カラーCLを使用していて角膜新生血管を生じた症例角膜新生血管を診たら慢性的に低酸素負荷があったことを疑い,使用レンズや使用方法について詳細に問診する. あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141625(59)VIII角膜曲率半径や屈折値に注意する角膜曲率半径や屈折値にも注意する必要がある.低含水性HEMA素材は含水率が約38%と少なく,SCLのなかでも比較的固めで,形状保持性が高い.このため,本来は複数のベースカーブやサイズのトライアルのなかから,トライ&エラーでフィッティング検査を行って処方されるべきであるが,インターネット通販や雑貨店などを通じた購入では,眼科を受診せずに使用されていることが多い.また,ほとんどのカラーCLはサイズもベースカーブも種類が一つしかない.このため,フィッティング不良による眼障害に注意する.フィッティングが悪いと,高含水性のSCLであっても角膜が変形することがある.変形により屈折値が大きく変化していることもあり注意を要する.図5は,インターネット通販で購入したカラーCL装用者で生じた角膜変形の症例である10).患者は2週間頻回交換型で高含水のカラーCLを使用していた.もとも止するだけで改善することが多く,経過は良好であることが多い.しかし,再診を指示しても次回来院しないことも多い.軽快したためであると思われるが,同じ様なCLを同じ様に使用すれば,また繰り返す.受診時に,患者教育をしっかり行うことが大切である.S-3.75R18.32R27.95角膜乱視-2.0DAx167°S-3.5R18.28R28.04角膜乱視-1.25DAx170°bcS-1.5R18.69R28.16角膜乱視-2.75DAx174°aS-4.75R18.26R27.95角膜乱視-1.75DAx170°d図5カラーCL装用者でみられた角膜変形の症例a:初診時,b:1週間後,c:1カ月後,d:2カ月後.SCLであっても角膜の変形により,屈折度数や角膜曲率が大きく変動することがある.安定するまでCLの装用を中止するが,この症例のように時間がかかることもある.(文献10より転載許可を得て掲載)図4輪部充血タイトフィッティングや酸素不足で生じやすい.S-3.75R18.32R27.95角膜乱視-2.0DAx167°S-3.5R18.28R28.04角膜乱視-1.25DAx170°bcS-1.5R18.69R28.16角膜乱視-2.75DAx174°aS-4.75R18.26R27.95角膜乱視-1.75DAx170°d図5カラーCL装用者でみられた角膜変形の症例a:初診時,b:1週間後,c:1カ月後,d:2カ月後.SCLであっても角膜の変形により,屈折度数や角膜曲率が大きく変動することがある.安定するまでCLの装用を中止するが,この症例のように時間がかかることもある.(文献10より転載許可を得て掲載)図4輪部充血タイトフィッティングや酸素不足で生じやすい. -消費者が医療機関を受診医療機関.医師にしか因果関係がわからない情報.消費者は「自分が悪い」と思っているが,実は製品にも問題があると思われる情報など医療機関から消費者庁に報告図6消費者庁への情報提供の流れ

カラーコンタクトレンズ使用者のコンプライアンス

2014年11月30日 日曜日

特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1613~1619,2014特集●カラーコンタクトレンズの安全性を問うあたらしい眼科31(11):1613~1619,2014カラーコンタクトレンズ使用者のコンプライアンスColoredContactLensUserCompliance宇津見義一*はじめに日本眼科医会(以下,日眼医)は,コンタクトレンズ(CL)の眼障害調査から,CL使用者の7~10%に眼障害が発生していると予想している1).その原因はCLの処方,定期検査,装用法,ケア方法にて,患者が眼科医の指導や添付文書の内容を守らなかったというコンプライアンスの低下が挙げられ,特におしゃれ用カラーコンタクトレンズ(カラーCL)で問題と考えられている2).カラーCLによるトラブルは急増している.カラーCLはレンズ側と使用者側の問題点が指摘されている.さらに販売側,処方医側の問題がある.カラーCLは薬事法で認可された高度管理医療機器であってもトラブルが非常に多く注意が必要である.個人輸入などでは認可されていない粗悪品も少なくなく,レンズ規格など多くの問題点がある.また,インターネット・通信販売店,雑貨店,大型ディスカウントショップなどでは,眼科医師の処方を受けていない者などにカラーCLを販売しているために,使用者は使用方法もわからないでいる者も少なくないのが現状である.使用者の問題点としてはコンプライアンスの低下がある.日常診療においてカラーCL使用者はコンプライアンスの低い者に多く遭遇する.一般のCL使用者とは病識,常識,知識などが異なっている場合が少なくない.今回はCL(カラーCL含む)の各調査において得られたCL使用者のコンプライアンスの現状,さらにコンプライアンスへの対応を述べる.IカラーCLの使用状況カラーCLの一般での正確な使用率のデータはない.しかし,学校での使用率は徐々に報告されている.一般の使用率は,平成15年(2003年)に日本コンタクトレンズ学会,日眼医,日本コンタクトレンズ協会が共同で組織した日本コンタクトレンズ協議会の母集団を特定した46施設4,974例の報告では0.4%3)がある.学校での使用率は,日眼医の調査では,全国の学校でのカラーCL使用者では中学生は平成21年(2009年)が0.2%,平成24年(2012年)が0.4%,高校生は平成21年(2009年)が0.6%,平成24年(2012年)が3.2%と年度毎に増加し,高校生では有意に増加していた.また,使用経験のある中学生は平成21年(2009年)が2.2%,平成24年(2012年)が4.4%,高校生は平成21年(2009年)が3.3%,平成24年(2012年)が11.6%と中高生ともに有意に増加していた4~5).使用経験では学校により使用率の頻度差が大きく,某大阪府立高校が83.3(全体のCL使用率13.87〔以下同様〕)%,某埼玉県立高校が73.3(19.3)%,某東京都立高校が34(32.85)%など高い使用率のある高校もある.また,坂本ら都市部の1高校の報告では使用率は20.8%6)などがある.以上のように,カラーCL使用経験者が高率の高校もあり大きな問題であり,生徒のコンプライアンス,学校関係者,学校医の啓発,指導などの点に考慮する必要がある.従来,使用者は接客業の者が多かったが,学校現*YoshikazuUtsumi:宇津見眼科医院〔別刷請求先〕宇津見義一:〒231-0066横浜市中区日ノ出町2-112宇津見眼科医院0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(47)1613 場でも増加し問題となっている.IICL調査でのコンプライアンス平成21年(2009年)に日眼医はインターネット・通信販売によるCL眼障害を調査した.インターネット・通信販売により障害を生じたCL種類は図1に示すが,度数のあるカラーCLが16.7%,度数のないカラーCLが29.2%で,カラーCL眼障害が全体の45.9%を占めていた.インターネット・通信販売使用者は10~30代が多く,購入先はインターネット販売が76.9%,通信販売が19.8%であり,これらのCL使用者の60.0%は医師の処方を受けておらず(図2),定期検査はまったく受け0.0%0.0%1.0%3.1%0.0%HCL従来型SCL1日使い捨てSCL0.0%1週間連続装用使い捨てSCL2週間交換SCL30日間連続装用使い捨てSCL定期交換(1~3カ月)SCL度数のあるカラーSCL度数のないカラーSCLオルソKレンズその他5.2%0.0%無回答図1インターネット・通信販売のCL眼障害症例のCL種類237医療機関中66機関から回答(眼障害94症例).カラーCLの眼障害が全体の45.9%を占めている(文献7より改変)0.0%0.0%0.0%1カ月に1回3カ月に1回不定期6.7%6カ月に1回1年に1回不定期に受けていたほとんど受けていなかったまったく受けていないその他無回答図3インターネット・通信販売のCL眼障害症例の定期検査状況237医療機関中66機関から回答(眼障害94症例).(文献7より改変)29.2%度数なしカラーSCL16.7%1DSCL28.1%FRSCL16.7%度数あるカラーSCL3.4%55.1%まったく受けない27.0%ほとんど受けず3.4%4.5%ていないが55.1%,ほとんど受けていないが27.0%と半数以上は医師の管理を受けていなかった(図3).さらにCL使用期限の超過,終日装用CLの連続装用,不適切なレンズケアをしているものが数多くおり,コンプライアンスが著しく低下していた7).インターネット・通信販売による購入者は眼障害が悪化してから眼科を受診する傾向がある.長時間装用・洗浄不良・消毒不適・使用期限を超えた装用など使用の問題や,定期検査の不徹底・不適切な説明指導・不適切な処方などの問題が多くある.インターネット・通信販売利用者の大半はカラーCL使用者であり,患者のコンプライアンスの低下が非常に懸念されるところである.CL自体の問題は少ないが,アンケート調査ではCL自体の問題は抽出しにくいと考える(表1).平成20年(2008年)に日眼医はインターネットを利用してCL使用者9,904名のアンケート調査を行った8).表2のようにインターネットでのCL購入者は12.4%,18%眼科診療所60%医師の処方なし2%1%4%6%0%眼鏡店隣接診療所9%CL量販店隣接診療所一般病院(大学病院を除く)大学病院一般眼科診療所眼鏡店隣接の眼科診療所CL量販店に隣接する眼科診療所医師の処方は受けていないその他無回答図2インターネット・通信販売のCL眼障害症例のCL処方場所237医療機関中66機関から回答(眼障害94症例).(文献7より改変)表1CL眼障害の主な原因.眼障害のおもな原因はCL自体よりむしろ・コンプライアンスの問題長時間装用,洗浄の不良,消毒の不適,使用期限を超えた装用など・定期検査の不適・不適切な説明指導・不適切な処方など→アンケート調査ではCL自体の問題は現れにくい1614あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(48) あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141615(49)%であるのに対してカラーCLによる眼障害が大幅に増加している.平成24年(2012年)の日眼医のCL眼障害調査のカラーCL使用者は10~20代の女性が多く,定期検査を受診している者が僅か3.6%など,コンプライアンスに問題があることが明らかになった10).平成24年(2012年)日本コンタクトレンズ学会のカラーCL眼障害調査報告(395例)では,年齢層は10~14歳が2.0%,15~19歳が40.5%,20~24歳が30.1%,25~29歳が15.9%であり,中高生から使用する者が多いと考えられた.購入先はネット・通信販売が52.7%,ディスカウントショップ,雑貨店・化粧品店が28.4%,量販店が9.6%,眼科隣接CL販売店が5.1%であり,15歳以下はネット・通信販売が60%,ディスカウントショップ,雑貨店・化粧品店が35%で,眼科隣接CL販売店での購入はなかった.若い者ほどインターネット・通信販売などで購入する傾向がある(図4).また,購入時に眼科受診をしなかった者は全年齢で80.3%,15歳以下が95.0%で,ほとんどの中学生は初めてのCLがカラーCLと推測された.カラーCL使用者の大半はコンプライアンスなど関係なく,眼科医を受診する必要のあることを理解していない(図5).また,カラーCL使用者に眼障害が多い理由は,患者のコンプライアンスが低いこと,一部のカラーCLの性能に問題があることを挙げている11).平成26年(2014年)5月22日に国民生活センターはカラーCLの使用注意を呼びかけた.薬事法で認可された17製品を調査し,着色部分がレンズ最表面に確認されたものが17銘柄中11銘柄あり,色素が角膜,まぶたに直接触れていた.9銘柄は色素が表面に確認されているにもかかわらず,色素がレンズ内部に埋め込まれていると広告表示していた.6銘柄はレンズの厚さ,直径,曲率半径,度数などの基準を満たしていなかった.酸素透過性の低い低含水性素材のレンズは短期使用でも眼障害を生じやすい.度数入りの16銘柄中15銘柄が8時間使用で角膜浮腫,角結膜上皮障害,輪部充血などの治療や使用中止が必要な眼障害を生じた.カラーCLは酸素の通りにくい素材が多く,着色の影響が透明のCLより眼障害を生じやすいなど製品の危険性について警告している12).さらに,カラーCLを使用している者(10代,定期検査を医師の指示どおりに受けているは23.5%,医師・添付文書の指示どおり,ほぼ指示どおりCLを使用しているのは57.3%であり,コンプライアンスの低下が目立った.日本コンタクトレンズ協議会は,平成21年(2009年)にインターネットを利用したCL使用者のコンプライアンス調査を実施した.対象としてインターネットを利用している102,624名にアンケートを行い,CL使用者29,194名の中からハードCLと従来型ソフトCL(SCL)使用者を除いた,1日使い捨てSCL,2週間頻回交換SCL,おしゃれ用カラーCL使用者10,008名を調査した2).表2のようにインターネット販売・通信販売など非対面販売でCLを購入している者が24.8%と前述の平成20年(2008年)のインターネット調査の約2倍と増加していた.1カ月または3カ月ごとに定期検査を受けている者は18.8%,普段使用方法を守っている者は21.7%と著しくコンプライアンスが低下していた.さらに視力補正用SCLに比較し視力補正用カラーCLのコンプライアンスは多くの項目で低下しており(表3),視力補正用SCLに比較し,度なしおしゃれ用SCLはほとんどの項目で有意にコンプライアンスが低下しており,特に「医師の定期検査を受けている」が僅か6.4%であった(表4).初診時医師の処方を受けてCLを購入している者は92.4%であるのに定期検査を受けている者が19.0%であることは,初回は医師の処方を受けても,その後は医師の処方を受けずにインターネット・通信販売でCLを購入している者が多いと考えられる.実際,今までに定期検査に来ていた患者が受診しなくなり,その間はインターネット・通信販売でCLを購入し1年後位に再診する場合が多い.筆者はこのような患者が増加しているのを実感している.再診する患者の共通点は医師の診察を受けないのが心配であるとのことであり,インテリジェンスが高い者が多く,コンプライアンスはまだ少しは保たれており再診するのだと考える.平成23年(2011年)の日眼医のCL眼障害調査では,インターネット・通信販売でCLを購入し眼障害を生じた者の中でカラーCL使用者が64.8%であった9).前述の平成21年(2009年)度の日眼医の同調査では7)45.9 1616あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(50)を理解した上で,必ず眼科医を受診し,眼科医の処方に従ったレンズを選び,粗悪品を消費者が見分けることは困難なので,必ず眼科を受診して眼科医と相談の上で選んで欲しい.異常時は眼科を受診し,異常がなくても必ず眼科医の定期検査を受診するよう推奨している.さらに,業界団体に安全な商品開発を望み,厚生労働省には20代の各500名,計1,000名)にアンケート調査を実施した.カラーCL購入時に43.5%が眼科を受診したことがなく,3カ月に1回以上の定期検査を受診している者が17%と少なく,まったく受けていない人が30.6%であり,眼異常があった約23%のうち半数は眼科を受診しなかった.カラーCLを使用する場合はそのリスク表3視力補正用SCLと視力補正用カラーSCLの比較(%)視力補正用SCL視力補正用カラーSCL2週間交換1日ディスポ2週間交換1日ディスポ医師の処方を受けている93.191.094.092.5対面販売で購入している74.871.776.282.1定期検査を受けている20.018.610.712.3装用方法を守っている24.322.523.813.2規定の交換時期で交換39.378.844.065.1過去1年でトラブルなし51.349.747.641.5トラブル時に眼科を受診41.945.236.454.8毎日こすり洗いを実施55.0─44.0─ケースを3カ月以内で交換37.2─20.2─(文献2より改変)表4視力補正用SCLと度なしおしゃれ用SCLの比較(%)視力補正用SCL度なしおしゃれ用SCL比率の差の検定医師の処方を受けている92.494.3定期検査を受けている19.06.4購入時に定期検査を受けることが伝達されている54.837.6p<0.01トラブル時1週間以内眼科受診43.625.9p<0.05レンズケース3カ月以内交換36.96.6p<0.05SCLを毎日消毒57.545.4p<0.05(文献2より改変)表2インターネットを利用したCL使用者調査インターネットでのCL購入者初診時医師の処方を受けてCL購入定期検査を医師の指示どおりに受けている医師・添付文書の指示どおり,ほぼ指示どおりCLを使用普段装用方法を守っている平成20年(2008年)(9,904名)インターネットCL使用調査*112.4%23.5%57.3%平成21年(2009年)(10,008名)インターネットCL使用者のコンプライアンス調査*224.8%92.4%18.8%21.7%(*1文献8より,*2文献2より.)表3視力補正用SCLと視力補正用カラーSCLの比較(%)視力補正用SCL視力補正用カラーSCL2週間交換1日ディスポ2週間交換1日ディスポ医師の処方を受けている93.191.094.092.5対面販売で購入している74.871.776.282.1定期検査を受けている20.018.610.712.3装用方法を守っている24.322.523.813.2規定の交換時期で交換39.378.844.065.1過去1年でトラブルなし51.349.747.641.5トラブル時に眼科を受診41.945.236.454.8毎日こすり洗いを実施55.0─44.0─ケースを3カ月以内で交換37.2─20.2─(文献2より改変)表4視力補正用SCLと度なしおしゃれ用SCLの比較(%)視力補正用SCL度なしおしゃれ用SCL比率の差の検定医師の処方を受けている92.494.3定期検査を受けている19.06.4購入時に定期検査を受けることが伝達されている54.837.6p<0.01トラブル時1週間以内眼科受診43.625.9p<0.05レンズケース3カ月以内交換36.96.6p<0.05SCLを毎日消毒57.545.4p<0.05(文献2より改変)表2インターネットを利用したCL使用者調査インターネットでのCL購入者初診時医師の処方を受けてCL購入定期検査を医師の指示どおりに受けている医師・添付文書の指示どおり,ほぼ指示どおりCLを使用普段装用方法を守っている平成20年(2008年)(9,904名)インターネットCL使用調査*112.4%23.5%57.3%平成21年(2009年)(10,008名)インターネットCL使用者のコンプライアンス調査*224.8%92.4%18.8%21.7%(*1文献8より,*2文献2より.) 5%:15歳以下不明2.0%:全年齢0%その他2.3%0%眼科隣接CL販売店5.1%0%CL量販店9.6%雑貨店・35%28.4%大型ディスカウントショップ60%ネット・通信販売52.7%図4カラーCL購入先状況カラーCL眼障害例:395例〔男性2.3%(9例),女性97.7%〕(文献11より改変)不明受診した受診していない6.3%13.4%5.0%80.3%95.0%0%:15歳以下:全年齢図5カラーCL購入時の眼科受診の有無カラーCL眼障害例:395例〔男性2.3%(9例),女性97.7%〕(文献11より改変) 1618あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(52)コンタクトレンズの安全性」についての要望が通知17)された.内容は,消費者がカラーCLを適正に購入,使用できるよう,カラーCLの販売業者が販売時に適切な情報提供などを行うよう指導することの要望である.さらに消費者庁消費者安全課長から「カラーコンタクトレンズの安全性」について要請する通知18)が発出され,国民生活センター通知と同様にカラーコンタクトレンズ販売業者に対する指導の要請があった.内容は前述の平成24年(2012年)7月18日通知14)と平成25年(2013年)6月28日の再周知16)の指導に基づき,CLについての適切な情報提供などが行われるよう再度周知徹底することを要望し,特に未成年者へのカラーCLの販売の際には,適正な使用方法について十分な説明を行うとともに,購入時の医療機関への受診勧奨を徹底することなどの注意喚起を要望している.前述のように,行政による再三の注意喚起によってもカラーCL使用者のコンプライアンスの向上は困難と考える.カラーCL販売業者の中には店頭,販売所(ネット含む)での購入にはCL処方せんは不要と広告する営利優先の販売が横行している.したがって,眼科ではCL処方目的にて来院する患者の減少を実感している.以上の行政通知はいずれも法的な罰則がないために,行政の今後の適切な対応が必要である.Vカラーコンタクトレンズの処方筆者は平成20年(2008年)頃まではカラーCL処方には否定的であった.しかし,一般眼科での処方を拒めば,使用者は不適切な販売所で眼科医の介在なしに購入し,さらなる眼障害の増加が懸念されたために,どうしてもカラーCLを希望する場合には処方している.現在,薬事法で認可されたカラーCLは約300品目である.3社からの販売以外は酸素透過性の低い素材で1カ月の従来型使用方法が多い.そのために筆者はコンプライアンスが保たれている者,酸素透過性の高い素材,1日使い捨てタイプ,1日6~8時間の短い時間での使用,そして通常は透明なCLを使用し,カラーCL使用が必要な場合のみの使用を推奨している.カラーCLの使用は美容目的であり風紀上の問題もあるため,学校現場には好ましくないと考える.たが,現在は同様の質問をすると多数の者が正解する.学校,地区などでの啓発活動そしてマスコミ報道などにより,正しいCLの知識が周知されつつある.しかし,一部の地区でコンプライアンス向上のために啓発活動を実施しても限度がある.カラーCLを含むCLコンプライアンスの向上を図るために日本コンタクトレンズ学会,日眼医,日本コンタクトレンズ協会,日本コンタクトレンズ協議会は,今迄に学会発表,論文,ポスター,冊子・チラシの作成,インターネットのホームページを通じての注意喚起,テレビ,ラジオ,新聞,雑誌などメディアによる啓発,学校現場での健康教育,行政によるものなど膨大な啓発活動を実施してきた.しかし,現実には眼科医の診察を受けないでCLを購入するものがさらに増加し,眼障害を生じている.最近の行政の対応としては,平成24年(2012年)7月に厚生労働省医薬品食品局長から各都道府県に発せられた「CL販売時の取り扱いについて」の通知において,CL販売では,CLを購入する者に,医療機関の受診状況を確認し,それを記載,保存し,医療機関を受診していない場合は,CLの健康被害などの情報提供を行い,医療機関を受診するよう勧奨した.さらに,日本コンタクトレンズ協会が制定した「CLの販売自主基準」を徹底するように通達した.その基準には,CL販売店はCLの販売にあたっては,眼科医療機関のCL指示書(CL処方せんと同様)に基づいて販売するよう努めること,CL使用者に対しては,眼科医の指示を受け,それを守ることが記載されている14).その後,平成24年(2012年)度厚生労働科学研究(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)による「コンタクトレンズ販売の実態調査に基づく販売規制のあり方に関する研究」の研究報告書15)により,CLの販売に際し,使用者への必要事項の確認や適切な情報提供が不十分な事例があるという実態が報告され,平成25年(2013年)6月28日付にて,各都道府県知事に対してCLの販売業者に平成24年(2012年)7月の通知14)の遵守が図られるように再通知16)がされた.その後,平成26年(2014年)5月22日に国民生活センター商品テスト部長から厚生労働省に対して「カラー あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141619(53)おわりにカラーCL使用者のコンプライアンスを改善するのは難しく,さらに販売業者の不適切な販売などにより,カラーCLがインターネット・通信販売,営利優先の販売店などでは処方せんなし,眼科医の介在なしで販売している場合が多い.カラーCLの不適切販売がきっかけとなり,通常のCL使用者が同様に眼科医の介在なしでCL購入をするケースが増加しているのを筆者は実感している.ここまで来ると行政の罰則のある積極的な介入が必要と考える.文献1)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成20年度).日本の眼科80:940-946,20102)植田喜一,上川眞己,田倉智之ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,20103)日本コンタクトレンズ協議会CL眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一ほか):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査,日本の眼科74:497-507,20034)宇津見義一,宮浦徹,柏井真理子ほか:平成21年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査.日本の眼科83:1097-1114,20125)宇津見義一,宮浦徹,柏井真理子ほか:平成24年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査.日本の眼科85:346-366,20146)坂本則敏,宇津見義一(神奈川県眼科医会):高校生におけるコンタクトレンズ汚染の感染経路の検討.平成25年度第44回全国学校保健・学校医大会第5分科会(眼科)詳録集,p39-44,20137)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:インターネット・通信販売による購入者のコンタクトレンズ眼障害の集計結果報告(平成21年度).日本の眼科81:75-84,20108)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:インターネットを利用したコンタクトレンズ使用者の実態調査,日本の眼科80:947-953,20099)高橋和博,宇津見義一,藤堂勝巳ほか:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成23年度).日本の眼科83:513-520,201210)高橋和博,魚谷純,山下秀明ほか:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成24年度).日本の眼科94:801-810,201311)渡邉潔,植田喜一,佐渡一成ほか:カラーコンタクトレンズ装用にかかわる眼障害調査報告.日コレ誌56:2-10,201412)国民生活センター報道発表:カラーコンタクトレンズの安全性─カラコンの使用で目に障害も─.独立行政法人国民生活センター報道発表資料,p1~57,平成26年(2014年)5月22日13)宇津見義一,池田桐子,戸倉純ほか:横浜市中学・高等学校のコンタクトレンズ教育による装用状況の効果.第44回日本コンタクトレンズ学会総会展示発表,平成13年6月30日~7月1日,東京,200114)厚生労働省医薬食品局長:コンタクトレンズの適正使用に関する情報提供等の徹底について.厚生労働省医薬食品局長通知,薬食発0718第17号,平成24年7月18日15)田倉智之:コンタクトレンズ販売の実態調査に基づく販売規制のあり方に関する研究.厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業(指定型)研究事業)総括研究報告書,平成24年3月31日16)厚生労働省医薬食品局長:コンタクトレンズの適正使用に関する情報提供等の徹底について(再周知).厚生労働省医薬食品局長通知,薬食発0628第17号,平成25年6月28日17)独立行政法人国民生活センター商品テスト部長:カラーコンタクトレンズの安全性.独立行政法人国民生活センター商品テスト部長通知,26独国生商第41号,平成26年5月22日18)消費者庁消費者安全課長:カラーコンタクトレンズの安全性.消費者庁消費者安全課長通知,消安全第186号,平成26年5月28日