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硝子体手術のワンポイントアドバイス 136.手術器具の接触による網膜下血腫(初級編)

2014年9月30日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載136136手術器具の接触による網膜下血腫(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術中の合併症に,器具の網膜への接触による網脈絡膜傷害がある.本合併症は術中の患者の予期せぬ体動によることもあるが,多くは術者の不注意によって生じる.最近は内境界膜.離など,より手術の繊細さを求められる症例が増加していることもあり,網膜直上で手術操作をする機会が増えている.とくに,黄斑病変を処理する際には細心の注意が必要である.●手術器具の接触による網膜下血腫図1は網膜硝子体手術のフェローを指導中に,誤って器具(硝子体鑷子)の接触により下耳側の中間周辺部に網膜前出血と大きな網膜下血腫を生じた症例である.疾患は黄斑上膜で,幸いに接触部位が黄斑部でなかったため術後矯正視力は良好であったが,寿命が縮まる思いであった.網膜硝子体手術の指導医は皆,同様の経験を一度はしているのではないだろうか.●術中に生じる網膜下血腫は凝血しやすい術中に生じた医原性の網膜下血腫は凝血しやすい傾向がある.とくに網膜だけでなく脈絡膜血管の損傷によって生じた出血は,よりその傾向が強い.本症例は,接触した網膜からの出血だけでなく,器具で脈絡膜を押してしまったことよる脈絡膜血管からの破綻性出血が主体であったと考えられる.網膜に接触した部位には医原性裂孔が生じていないようにみえたため,眼内ジアテルミーで意図的裂孔を形成し,バックフラッシュニードルで網膜下血腫を吸引しようとした.しかし,血腫は高度に凝血しており,除去は困難であった(図2).液体パーフルオロカーボンで血腫の排出を試みたが,同様にほとんど排出できなかった(図3).組織プラスミノーゲン活性化因子を網膜下に注入する方法も考えられたが,本症例ではその用意がなかったため使用できなかった.人工的後部硝子体.離が確実に作製できていたため,そのまま眼図1術中所見(1)硝子体鑷子の接触により大きな網膜下血腫を生じた.図2術中所見(2)網膜下血腫は凝血しており,意図的裂孔からの吸引除去は困難であった.図3術中所見(3)液体パーフルオロカーボンを使用したが,同様に血腫の排出は困難であった.内液空気同時置換術を行って手術を終了した.そして,術後網膜下出血が吸収された時点で光凝固を裂孔周囲に施行する方針としたが,実際には裂孔周囲は血腫の吸収後に色素沈着が生じて光凝固は不要であった.血腫の大きさにもよるが,本合併症で医原性裂孔が形成されずに網膜下血腫のみの場合は,無理に意図的裂孔を作成して血腫を除去する必要なないものと考えられる.●本合併症を避けるために手術器具を3点固定で確実に把持するのはもちろんであるが,術者は術中に器具の先端を常に意識して目をそらさないことが何より重要である.術野から目をそらす場合には,器具を引き気味にするか,トロカールからいったん器具を抜去するなど,適切な対応が求められる.(103)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413510910-1810/14/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 165.涙液のリピドミクス

2014年9月30日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第165回◆眼科医のための先端医療山下英俊涙液のリピドミクス山田昌和(杏林大学医学部眼科学教室)涙液油層の重要性ドライアイが眼表面疾患を包括する広い概念に成長するにつれ,涙液油層の重要性が再認識されてきているようです.ドライアイをサブタイプに分けた場合に,涙液減少型ドライアイよりもマイボーム腺機能不全がずっと頻度が高いことも報告されています.油層は涙液の最表面に位置する50~100nm程度の薄い膜に過ぎませんが,涙液の表面張力を下げ,涙液の蒸発を抑制することで涙液膜の安定性に寄与すると考えられています1).しかし,涙液の脂質に関してはよくわかっていないことが多いのです.採取できる涙液検体が微量であること,微量の脂質を分析する技術が十分でなかったことが関係しています.従来の脂質分析は薄層クロマトグラフィやガスクロマトグラフィ,高速液体クロマトグラフィ(highperformanceliquidchromatography:HPLC)によって行われており,分析可能な脂質クラス,検出感度にそれぞれ限界があり,分子種の同定は困難でした.また,涙液そのものではなくマイボーム腺分泌物を検体として分析を行った報告が多く,論文を読む際には検体の種類に注意を払う必要があります.最近になって質量分析計(massspectrometry),とくにHPLCと質量分析計を組み合わせた方法(HPLC-MS)による涙液脂質分析の研究が進んでいます2,3).HPLCMSは感度が高く,脂質のクラスだけでなく分子種まで同定できる点に特長があり,定量分析も可能です.新しいテクノロジーによって,涙液脂質に関するこれまでの常識は大きく変わりつつあります.涙液油層の成り立ち涙液膜の3層構造モデルがWolffによって提唱されたのは,今から60年ほど前のことです.このモデルは基本的には現在でも通用する卓越したモデルなのですが,(99)涙液膜の油層に関して多少の修正が提唱されています.それは,涙液油層をさらに表面側の非極性脂質の層と水層に接する極性脂質の2つに分ける構造モデルです1,2).極性,非極性の違いは水に対する溶解度,親和性に由来し,水に溶けにくい非極性脂質が最表面に位置し,水と親和性がある極性脂質が非極性脂質と涙液水層の間を取りもつように働くというモデルになっています.これは概念的なモデルと考えられていましたが,微小角入射X線回折,分子占有面積と表面張力の関係などの物理化学的解析手法によって,涙液油層は実際に2層構造であり,非極性脂質が表面(大気側)に位置することが最近報告されています.涙液脂質とマイボーム腺分泌物涙液中の脂質はマイボーム腺に由来するというのが従来の通説でした.しかし,Nagyovaら4)は,涙液脂質とマイボーム腺分泌物をガス液体クロマトグラフィで分析し,両者のプロファイルが異なることを示しています.この報告は定性的なものでしたが,その後にHPLC-MSを用いた詳細な分析がなされるようになり,両者の差異が明らかになってきています.この領域の研究論文は化学構造式や質量分析スペクトルが数多く出てきて理解しにくいのですが,これまでの分析結果の概要は以下のようにまとめることができます.マイボーム腺分泌物に含まれる脂質の特徴は以下のようになります2,3).1)疎水性の複合脂質であるコレステロールエステルとワックスエステルが主成分であり,両者で全体の70~90%を占め,トリアシルグリセリドが4~5%で続く.分泌物の粘張性,融点は,これらの複合脂質を構成する脂肪酸の長さと2重結合数に依存する.2)特殊な脂肪酸である(O-acyl)-omega-hydroxyfattyacid(OAHFA)が存在する.OAHFAは炭素数が28~34ときわめて長い脂肪酸を構造中に含むが,水酸基を多く有するため親水性に富む.Butovichは涙液油層の極性脂質の主成分としてOAHFAを想定しています2,3).3)従来,涙液油層の極性脂質の主成分と想定されていたフォスファチジルコリン(PC)などのリン脂質はほとんど検出されない.マイボーム腺分泌物と涙液中の脂質を比較した場合,あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413470910-1810/14/\100/頁/JCOPY 涙液脂質の特徴として,コレステロールエステルでは炭素数が少ない脂肪酸が多く含まれていること,遊離コレステロールが多いことなどが知られています.しかし,両者の最大の違いは,涙液中の脂質にはPCを主とするリン脂質が含まれていることです5).なお,正常者とマイボーム腺機能不全患者のマイボーム腺分泌物を比較した報告では,脂質のクラス分析では両者に差異がみられないが,複合脂質を形成する脂肪酸の種類(炭素数や二重結合数で規定される)まで含めると,いくつかの差異がみられるようです6).涙液脂質はマイボーム腺だけでなく涙腺からも供給される涙液脂質とマイボーム腺分泌物の相違を説明するためには,涙液脂質の由来としてマイボーム腺だけでなく,涙腺を考える必要が出てきます.涙腺からはいくつかの涙液特異的蛋白が分泌されますが,このひとつにリポカリンがあります.リポカリンは乳汁や唾液にもみられる分子量約20kDの蛋白で,幅広い脂質結合能を有しています.リポカリンが脂質を結合した形で涙腺から分泌されるという報告もあり,リン脂質もリポカリンによって涙腺から運搬されている可能性が高いようです.また,涙液中にはphospholipidtransferprotein(PLTP)というリン脂質と特異的に結合する血漿由来蛋白が存在することも報告されており,PLTPが涙腺からのリン脂質供給に関与している可能性もあります.涙液油層の非極性脂質の層を形成するのはコレステロールエステルとワックスエステルであることは多くの研究者が支持しています.しかし,極性脂質の層については,OAHFAとする研究者とリン脂質とする研究者がいて,意見の一致をみていません.以上,概説してきたように,涙液油層にはわかっていないことが数多く残されています.脂質成分だけでなく,涙液油層の由来,分泌機序,涙液中の脂質分解酵素の役割,脂質の排泄・交換メカニズムなど列挙すればきりがありません.涙液の脂質研究が今後,さらに発展していくことが望まれます.地道な研究から,ドライアイのバイオマーカーとなる脂質分子が同定され,新しい治療薬・治療法の開発に繋がることが究極の目標になりそうです.文献1)BronAJ,TiffanyJM,GouveiaSMetal:Functionalaspectsofthetearfilmlipidlayer.ExpEyeRes78:347360,20042)ButovichIA:Lipidomicsofhumanmeibomianglandsecretions:chemistry,biophysics,andphysiologicalroleofmeibomianlipids.ProgLipidRes50:278-301,20113)ButovichIA:Tearfilmlipids.ExpEyeRes117:4-27,20134)NagyovaB,TiffanyJM:Componentsresponsibleforthesurfacetensionofhumantears.CurrEyeRes19:4-11,19995)DeanAW,GasgowBJ:Massspectrometricidentificationofphospholipidsinhumantearsandtearlipocalin.InvestOphthalmolVisSci53:1773-1782,20126)LamSM,TongL,YongSSetal:MeibumlipidcompositioninAsianswithdryeyedisease.PLoSOne6:e24339,2011■「涙液のリピドミクス」を読んで■今回は山田昌和先生による極めて興味深い涙液研究山田先生の解説で興味深いのは,物質の微量分析ののトピックスです.涙液の安定が障害されるドライア手法がHPLC-MSの導入により臨床にも有意義なデーイの病態と新しい治療ターゲットを探索するために涙タが利用できることになったことです.これまで眼科液の脂質を詳細に分析することで多くの発見があった領域で得られる臨床サンプルは量が限られており,詳ことが詳しく解説されています.私のようにドライア細な分析は極めて困難でしたが,今後の分析の方法がイを専門としていない眼科医にとって,患者さんの主進歩することによりきちんとしたデータが提示できる訴をきちんと科学的,論理的に分析してエビデンスをことで眼科の種々の領域の病態研究が進歩すると考えもって適切な治療薬の選択,治療法の選択を行うことられます.このような分析により,涙液脂質とマイは大変困難です.涙液の脂質の成分分析によりかなりボーム腺分泌物は異なること,前者には涙腺からも供合理的にドライアイの治療が可能になる可能性が示さ給されることなど,これまでの我々のもっている涙液れており,本当に大切な研究であると認識しました.の概念が大きく変わることがわかりやすく示されてい1348あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(100) ます.新しい研究手法の進歩により眼の生理学的,病学者が利用できるような研究環境が整備され大発展し理学的な従来の仮設が大きく変化する可能性がありまました.しかし,脂質の微量分析という分野は研究のす.今回,山田先生の示された物質の分析は,20世難しさから発展には大きな障壁があったともいえま紀の遺伝子から蛋白質への分子生物学の研究の流れとす.今後は新しい研究手法が臨床の現場で活用されるは違った生命科学研究の流れの重要性を示しているとことにより新しい疾患概念が提示され,疾患治療開発考えられます.遺伝子を中心とした分子生物学の研究に役立つことをこころから願っております.手法はPCR,核酸の配列の解析により多くの生命科山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(101)あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141349

新しい治療と検査シリーズ 220.眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術

2014年9月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413450910-1810/14/\100/頁/JCOPYた合併症がある一定の割合で避けられず,保存強膜は入手困難な施設が大多数であるといった問題点がある.また,挙筋のhinge切開,Muller筋切除や眼瞼全層切開は非常に侵襲の大きな手術であるうえに,後に眼瞼下垂手術など再手術を要する場合は挙上困難となる可能性がある.筆者らは,他院での眼瞼下垂の術後に過矯正により兎眼となった症例に対する上眼瞼延長術を行う際に,眼窩隔膜を翻転することで挙筋を延長する方法を用いた.この症例をきっかけに,顔面神経麻痺による兎眼,眼瞼下垂術後の過矯正,甲状腺眼症による上眼瞼後退に対して,眼窩隔膜翻転法を用いて簡便で安全な上眼瞼延長術を適応してきた4).過去の報告をみると,2002年にLaiらが上眼瞼後退に対する1例を報告している5)..眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際ここでは顔面神経麻痺による兎眼に対する眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際を示す.新しい治療と検査シリーズ(97).バックグラウンド上眼瞼延長術は,兎眼や上眼瞼後退に対する手術治療であり,適応疾患としては顔面神経麻痺による麻痺性兎眼,外傷後などの瘢痕性兎眼,眼瞼下垂手術による過矯正の修正,甲状腺眼症による上眼瞼後退などがある.とくに,近年の眼形成手術への関心の高まりとともに,眼瞼下垂の手術が盛んに行われるようになっているが,眼瞼下垂術後に上眼瞼延長術を要する可能性がある状態として,過矯正や兎眼による角膜障害があげられる..眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術これまでに報告されている上眼瞼延長術には,挙筋または挙筋とMuller筋を後転し,糸のみで瞼板と連続させる術式1),ゴアテックスRや保存強膜をスペーサーとして用いる術式2),挙筋のhinge切開による延長術,Muller筋の切除,眼瞼全層切開3)などがある.しかし,ゴアテックスRは異物であるがゆえに感染・露出といっ220.眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術図1眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術①顔面神経麻痺による兎眼.②瞼板の露出.③Muller筋と結膜の.離.④眼窩隔膜を上流で切開.⑤眼窩隔膜の翻転による延長.⑥挙筋およびMuller筋の内側・外側を切開.⑦翻転した眼窩隔膜を瞼板上縁に固定.⑧手術終了時,兎眼改善.①②③④⑤⑥⑦⑧プレゼンテーション:渡辺彰英京都府立医科大学眼科コメント:田邉吉彦社会保険中京病院眼科あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413450910-1810/14/\100/頁/JCOPYた合併症がある一定の割合で避けられず,保存強膜は入手困難な施設が大多数であるといった問題点がある.また,挙筋のhinge切開,Muller筋切除や眼瞼全層切開は非常に侵襲の大きな手術であるうえに,後に眼瞼下垂手術など再手術を要する場合は挙上困難となる可能性がある.筆者らは,他院での眼瞼下垂の術後に過矯正により兎眼となった症例に対する上眼瞼延長術を行う際に,眼窩隔膜を翻転することで挙筋を延長する方法を用いた.この症例をきっかけに,顔面神経麻痺による兎眼,眼瞼下垂術後の過矯正,甲状腺眼症による上眼瞼後退に対して,眼窩隔膜翻転法を用いて簡便で安全な上眼瞼延長術を適応してきた4).過去の報告をみると,2002年にLaiらが上眼瞼後退に対する1例を報告している5)..眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際ここでは顔面神経麻痺による兎眼に対する眼窩隔膜翻転法を用いた上眼瞼延長術の実際を示す.新しい治療と検査シリーズ(97).バックグラウンド上眼瞼延長術は,兎眼や上眼瞼後退に対する手術治療であり,適応疾患としては顔面神経麻痺による麻痺性兎眼,外傷後などの瘢痕性兎眼,眼瞼下垂手術による過矯正の修正,甲状腺眼症による上眼瞼後退などがある.とくに,近年の眼形成手術への関心の高まりとともに,眼瞼下垂の手術が盛んに行われるようになっているが,眼瞼下垂術後に上眼瞼延長術を要する可能性がある状態として,過矯正や兎眼による角膜障害があげられる..眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術これまでに報告されている上眼瞼延長術には,挙筋または挙筋とMuller筋を後転し,糸のみで瞼板と連続させる術式1),ゴアテックスRや保存強膜をスペーサーとして用いる術式2),挙筋のhinge切開による延長術,Muller筋の切除,眼瞼全層切開3)などがある.しかし,ゴアテックスRは異物であるがゆえに感染・露出といっ220.眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術図1眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術①顔面神経麻痺による兎眼.②瞼板の露出.③Muller筋と結膜の.離.④眼窩隔膜を上流で切開.⑤眼窩隔膜の翻転による延長.⑥挙筋およびMuller筋の内側・外側を切開.⑦翻転した眼窩隔膜を瞼板上縁に固定.⑧手術終了時,兎眼改善.①②③④⑤⑥⑦⑧プレゼンテーション:渡辺彰英京都府立医科大学眼科コメント:田邉吉彦社会保険中京病院眼科 図1①に示すように兎眼のある症例である.重瞼切開から眼輪筋を上下に.離した後,瞼板を露出する(図1②).つぎに挙筋およびMuller筋を瞼板および結膜から.離し(図1③),眼窩隔膜を上方レベルで切開する(図1④).つぎに眼窩隔膜を翻転し,挙筋およびMuller筋の延長を図る(図1⑤).挙筋およびMuller筋の内側と外側を切開して後転しやすくする(図1⑥).翻転した眼窩隔膜の先端を瞼板上縁に固定し,術中定量で兎眼の改善を確認した後,瞼板への固定を追加する(図1⑦).本症例では翻転した眼窩隔膜のみで十分な延長効果が得られ,兎眼は改善した(図1⑧)..本方法の利点眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術は,感染や露出といった可能性のある異物を必要とせず,保存強膜のような入手の手間もない.また,挙筋切開や眼瞼全層切開,Muller筋切除による方法と比較して侵襲が少ないうえ,簡便である.ただし,個人の解剖学的問題(眼窩隔膜が非常に薄い)や術後の瘢痕などで本方法が困難な症例もありうるため,本方法はすべての上眼瞼延長術に適応となるわけではないことを理解したうえで手術に臨む必要がある.文献1)MouritsMP,SasimIV:AsingletechniquetocorrectvariousdegreeofupperlidretractioninpatientswithGraves’orbitopathy.BrJOphthalmol83:81-84,19992)MouritsMP,KoornneefL:LidlengtheningbysclerainterpositionforeyelidretractioninGraves’ophthalmopathy.BrJOphthalmol75:344-347,19913)HintschichC,HaritoglouC:Fullthicknesseyelidtranssection(blepharotomy)foruppereyelidlengtheninginlidretractionassociatedwithGraves’disease.BrJOphthalmol89:413-416,20054)WatanabeA,ShamsPN,KatoriNetal:Turn-overorbitalseptalflapandlevatorrecessionforupper-eyelidretractionsecondarytothyroideyedisease.Eye27:1174-1179,20135)LaiCS,LinTM,TsaiCCetal:Anewtechniqueforlevatorlengtheningtotreatuppereyelidretraction:theorbitalseptalflap.AestheticPlastSurg26:31-34,2002.「眼窩隔膜翻転法による上眼瞼延長術」へのコメント.上眼瞼後退症の矯正には,スペーサーを使う方法と家組織に勝る素材はない.ただ,従来使われてきた自挙筋自体に操作を加える方法があり,後者には,さら家組織は大腿広筋膜,硬口蓋粘膜などであり,いずれに自家組織を使う場合と人工物や同種移植材を利用すも採取に余計な手術が必要である.しかし,眼窩隔膜る場合がある.各々に利点や欠点があるが,挙筋自体であればextrasurgeryはほとんど必要ない.これはに操作を加える方法は過矯正になった場合,また挙筋大きな利点である.ただし,眼窩隔膜の支持力は大腿に手を加えねばならないが,スペーサーなら,挿入し広筋膜,硬口蓋粘膜に比べ弱いので定量性が問題であたスペーサーを適当に切除すれば良いので比較的簡単ろう.今後,症例を積み重ねて,眼窩隔膜である程度に矯正できる.つぎにスペーサーに関していえば,自の定量性が確立されれば非常に有力な方法となる.☆☆☆1346あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(98)

私の緑内障薬チョイス 16.プロスト系プロスタグランジン関連薬の先駆け:キサラタン®

2014年9月30日 火曜日

連載⑯私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑯私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也16.プロスト系プロスタグランジン関連薬の坂田礼東京都健康長寿医療センター眼科先駆け:キサラタンR1999年,日本に臨床導入されたラタノプロスト(キサラタンR)は,開放隅角緑内障に対して1日1回の点眼で強力な眼圧下降作用を示す点眼薬でありながら全身的な副作用はほとんどない.眼局所の副作用も他のプロスト系プロスタグランジン関連薬と比較して軽微であり,効果と忍容性にバランスの取れた薬剤であるといえる.低眼圧の緑内障に対してキサラタンRを投与した1例58歳,男性.正常眼圧緑内障の診断で紹介.前医にて両眼に処方された緑内障点眼薬を使用した状態で右眼10mmHg,左眼8mmHgであった.中心角膜厚は右眼472μm,左眼482μm,等価球面値は右眼.5.5D,左眼.4.25D,矯正視力は両眼1.2であった.両眼とも開放隅角であり,全身的な既往はなかった.両眼ともいったん緑内障点眼薬を中止し,日中日内変動(幅)を確認したところ,右眼11~13mmHg,左眼10~12mmHgであった.視神経乳頭写真と視野検査結果は図1の通りであった.当初の方針として,両眼とも低眼圧であったため,まずは無治療で経過観察を開始した.その後,視野検査でのmeandeviation(MD)値は多少の変動はあるものの,徐々に感度の低下を認め(ただし視力は不変),経過観察約2.5年目で右眼MDslope.0.99dB/year(p=0.03),左眼MDslope.0.35dB/yearを示した(図2).右眼は治療開始のタイミングと判断,左眼の進行はやや緩徐であったが,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR,ファイザー)を患者とも相談して両眼に開始した.その後,さらなる眼圧下降[右眼は平均.1.7mmHg(p=0.05),左眼は平均.1.6mmHg(p=0.03)]が得られ,開始後の右眼MDslopeは.0.06dB/year,左眼MDslopeは+0.45dB/yearとなった(図2).解説本症例は初診時から左眼に中期の視野障害を認めたが,眼圧は低かったので(角膜厚はやや薄いことは念頭に置きつつ),まずは無治療での経過観察を開始した.緑内障治療の目的は眼圧を下げることではなく視機能維(95)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1視神経乳頭ステレオ写真経過観察当初の両眼の視神経乳頭ステレオ写真.両眼とも豹紋状眼底であり,網膜視神経層欠損は判別しづらいが,広い範囲のリムの菲薄化を認め,乳頭陥凹の拡大を認める(上図:右眼,下図:左眼).持であることはいうまでもないが,その進行判定は視野や視神経乳頭の経時変化を追っていくのが一般的であろう.経過観察から約2.5年で,両眼の視神経乳頭の悪化はなかったが,右眼に視野進行を認めたため,この時点を治療開始のタイミングと判断した.緑内障ガイドライン(第3版)で示されている通り,一般的な原発開放隅角緑内障(広義)治療においての薬物治療の導入には単剤(単薬)投与から開始とするが,本症例のように眼圧がもともと低い症例では,その薬剤導入開始時期に悩むことも多い.点眼しても眼圧下降幅はせいぜい数mmHg程度と考えられ,また,そもそも本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141343 キサラタンR開始2.400.411.422.5R_IOP1314101410101114111212L_IOP111410121010111291212991310119101099138812101191010881100.40.91.41.9-2-4-6-8-10-12-14-16図2視野推移,眼圧経過縦軸はMD(dB),横軸は時間経過(年)を表す.右眼は青色四角印,左眼は朱色四角印で表す.経過観察当初は両眼ともに視野進行を認めていたが,キサラタンR点眼開始後(背景が肌色部分)はその進行が緩徐となった.点眼前後で常に低眼圧であったが,点眼後の平均眼圧は点眼前と比較し,さらに低いものとなった.このような低眼圧の緑内障では,目標眼圧が設定しづらく,かつ眼圧自体が緑内障性視神経症にどの程度関与しているかが不明な点もあるからである.点眼薬選択の考え方さて,点眼の選択肢としては,プロスタグランジン(PG)関連薬のほかにb遮断薬,あるいは別カテゴリーからの点眼が考えられるが,眼圧メタ解析論文1)からもその強力な眼圧下降効果が裏付けされ,しかも全身的な副作用がほとんどないPG関連薬が第一に選択されるのに異論はないであろう.しかし,そのPG関連薬もプロスト系の4剤(キサラタンR,トラバタンズR,ルミガンR,タプロスR)から選択しなければならず,どの薬剤を選択するのかはこれまた悩むところである.眼圧下降効果を一番に期待することには違いないが,反面,眼局所の副作用が強く出てしまっては長期にわたる良好なアドヒアランスは望みにくい.いずれの4剤もピーク時・トラフ時また日内眼圧下降作用に優れた薬剤であり,眼圧下降の面から考えていくと,上記4薬剤ともに選択の候補となる.一方で,PG関連薬使用時の眼局所の副作用として,薬剤間でその発症頻度が異なる代表的なものは,結膜充血と上眼瞼溝の深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)であろう.結膜充血はとくに初期の点眼開始時に強く認めるが,1344あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014一般的には点眼を継続することで次第に和らいでいくことが多いとされる.点眼を自己中断してしまう原因にもなるので,患者にはしっかりとした説明が必要である.PG関連薬に関連した結膜充血のメタ解析2)では,(タプロスRは市場に出てあまり時間が経過していないので対象外),キサラタンRが他の2剤よりも充血の頻度が低いとの結果がでている.一方,DUESに関しては可逆的な変化とされるが,美容的な問題でもあり,使用開始時には結膜充血と同様に説明しておく必要がある.日本国内の前向き研究でその発症頻度が判明してきており,点眼開始後6カ月目の時点で,トラバタンズRとルミガンRはそれぞれ約50%3),約60%4),タプロスRは約15%5)の発症率と報告されている.しかし,キサラタンRは市場に出て一番古いプロスト系PG関連薬であるにもかかわらず,その発症頻度は不明である.発症がないか,軽微な変化しか認めない可能性が高い.まとめキサラタンRの眼圧下降効果は他のプロスト系PG関連薬とほぼ同等でありながら,眼局所の代表的な副作用である結膜充血やDUESの発症頻度が相対的に低く,本症例のような低眼圧の緑内障に対しても第一選択となりうる薬剤である.ただし,点眼が無効(キサラタンノンレスポンダー)の可能性もあり,そのような症例に対しては他のPG関連薬,あるいは別の点眼に順次変更していく必要がある.文献1)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,20092)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,20093)MaruyamaK,ShiratoS,TsuchisakaA:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusaftertopicaluseoftravoprostophthalmicsolutioninjapanese.JGlaucoma23:160-163,20144)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,20115)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusontreatmentwithatafluprostophthalmicsolution.JpnJOphthalmol58:212217,2014(96)

抗VEGF治療:網膜色素上皮剥離の抗VEGF療法

2014年9月30日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二8.網膜色素上皮.離の抗VEGF療法脇山はるみ日本赤十字社長崎原爆病院眼科網膜色素上皮.離を伴う滲出型加齢黄斑変性の抗VEGF療法は,治療抵抗性を示したり,あるいは治療反応性であっても投与を中断すると直ちに再発を生じたりする症例が多く,長期継続投与が必要となる場合が多い.また,網膜色素上皮裂孔の合併症にも注意が必要である.はじめに網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を伴う滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の抗VEGF療法は,しばしば,治療に抵抗したり,治療を中断すると再発したりして,長期継続投与が必要となる場合が多い.また,初診時には視力が良好であるにもかかわらず,治療開始後,網膜色素上皮裂孔(retinalpigmentepithelialtear:RPEtear)などを生じ視力低下が進行することもあり,AMD診療においてもっとも苦慮する病態の一つである.PEDを伴う病変を認めた場合,それぞれの病態により治療反応性が異なるので,まず,フルオレセインおよびインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査を施行し,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の同定とAMDsubtypeの鑑別診断を行う.CNVが明らかでない漿液性PEDCNVが同定できない漿液性PEDも,1乳頭径以上のものは滲出型AMDと定義される1)ので,抗VEGF療法の適応となり,それによりPEDの消失がみられることもある.典型AMDに伴うPED1.漿液性PEDアフリベルセプト硝子体内投与(intravitrealaflibercept:IVA)がラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumab:IVR)より著効する例が多い(図1).ただし,投与中止により再発もみられやすいため,継続投与となる症例もあり,投与方法はfixeddosingまたはtreatandextend(TAE)が望ましい.2.fibrovascularPEDIVRにより中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の減少はみられるものの,PEDや網膜下液(subretinalfluid:SRD)は残存しやすい.IVAでPEDの減少とSRDの消失が得られることもあるが,維持期において8週毎の投与ではSRDが再発することもあり,TAEで投与しながら,症例毎に適切な投与間隔で治療を行う(図2).ポリープ状脈絡膜血管症に伴うPEDポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)でもしばしばPEDを認めることがあるが,IVRではポリープ状病巣の閉塞率が低く2),光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の併用を要することもある.IVAではポリープ状病巣がIVRのそれ治療前R.V.=(1.0)IVR1回後R.V.=(0.9)IVA3回後R.V.=(1.2)図1典型AMDに伴う漿液性PEDIVRでPEDが増悪したため,IVAへswitchingしたところ,PEDは消失した.(93)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413410910-1810/14/\100/頁/JCOPY 治療前R.V.=(0.6)IVR24回後R.V.=(0.7)IVA導入期後R.V.=(0.7)IVA維持期(8W毎投与)R.V.=(0.6p)図2典型AMDに伴うfibrovascularPEDIVRでCRTの減少を認め毎月投与するもSRDは完全に消失せず,IVAへswitchingしたところ,PEDは消失した.しかしながら,維持期において投与間隔を8Wに延長したところ,SRDの再発がみられた.より高く,単独療法でポリープ状病巣の閉塞とともにPEDの改善が得られやすいが,反応がみられない場合,PDTを併用する.網膜血管腫状増殖に伴うPED網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の進行例(stageIII)ではPEDがみられる.IVRが比較的有効なので,RAPの発症年齢がより高齢で85歳以上の症例も多いため,全身合併症を考慮し,まずIVRを行う.RPEの萎縮が強く形態学的に改善しても視力改善が得られない場合も多いので,多発するsoftdrusenやreticularpseudodrusenがある症例は注意して経過観察を行い,早いstageで治療できるよう努める.おわりにPEDの抗VEGF療法でもっとも気をつけなければならない眼合併症はRPEtearであろう.抗VEGF薬による急激なCNVの収縮が原因とされ,とくに初回投与後に生じやすい3).もちろん,RPEtearはPDTなど他の治療でも生じるリスクがあり,自然経過でも起こりうるので,できるだけPEDが拡大する前に,十分なリスク説明を行い,抗VEGF療法を開始する.中心窩下にSRDがなくPEDのみの場合,治療開始時に比較的視力が良好な症例も少なくない.とくに片眼発症の場合など患者側に重篤感がないこともあるので,自然経過では予後不良であること,長期間継続的な治療が必要であることをしっかり説明し,さらに合併症のリスクを踏まえたうえで,PEDの抗VEGF療法に臨むことが重要である.文献1)高橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎ほか:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,20082)NagielA,FreundKB,SpaideRFetal:Mechanismofretinalpigmentepitheliumtearformationfollowingintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyrevealedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol156:981-988,20133)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-64,20121342あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(94)

緑内障:OCT各機種の緑内障診断能

2014年9月30日 火曜日

●連載171緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也171.OCT各機種の緑内障診断能金森章泰神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科学OCTはいくつかの機種があり,撮影法のみならず,その測定結果にも違いがある.同一のサンプルを対象に3機種のOCTで撮影したデータをもとに,機種間での緑内障診断能を比較した.●はじめに緑内障診療において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は非常に有用なツールである.乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnervefiberlayer:cpRNFL)解析は以前からOCTでの主な評価項目であったが,スペクトラルドメインOCT(SDOTC)では,黄斑部網膜内層解析が可能となった.黄斑部網膜神経線維層(macularretinalnervefiberlayer:mRNFL)や網膜神経節細胞層+内顆粒層(ganglioncelllayerandinnerplexiformlayer:GCLIPL),さらにmRNFLとGCLIPLの和であるganglioncellcomplex(GCC)を測定することができる.RNFL走行に基づいた黄斑部の構造的変化の検出も可能である1).SD-OCTは現在,主に6社から発売され,各機種とも基本的原理は同じであるが,いくつかの違いがある.●cpRNFLの各機種間の比較cpRNFLは各機種とも同様の解析を行っているはずであるが,同一患者を対象に3機種でOCT解析を行った研究により,機種間の違いが指摘されている.シラス(Cirrus),スペクトラリス(Spectralis),RTVue-100を比較した報告では,RTVueでは他の2機種に比べcpRNFLが厚く測定されることが報告されている2).また,Cirrus,RTVue,3DOCT-2000を比較した筆者らの研究では,Cirrusが他の2機種より薄くcpRNFLが測定され,また,測定円の中心がRTVueでは他の2機種に比べ若干上鼻側に存在することがわかった3).これらの違いは,網膜各層を分離する方法の違いによると推定される.また,各機種とも視神経乳頭中心を自動的に設定することでcpRNFL測定部位を決定するが,視神経乳頭中心の判定のための具体的方法は各機種とも明らかにされておらず,機種間の差につながっているものと(91)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYCirrus3D-OCTRTVueRS-3000図1解析対象範囲の比較Cirrus(赤色),3D-OCT(青色),RTVue(緑),RS-3000(黄色)の黄斑部解析範囲を示す.思われる.このように,OCTによるcpRNFL測定値は機種間によって異なり,互換性はないことに留意する必要がある.●黄斑部解析の各機種間の違い黄斑部解析は各機種でかなりの違いがある.まず解析対象範囲が異なり,Cirrusがもっとも狭い領域を解析している(図1).それぞれ解析結果として出力されるパラメータも異なるが,正常眼からの逸脱具合を示すデビエーションマップはどの機種とも搭載しており,緑内障性障害のパターンとしての変化を捉えることができる.●各機種の緑内障診断能緑内障(平均MD=.5.85dB)を対象にCirrus,Spectralis,RTVueで測定したcpRNFLの診断能を比較した報告では,全周cpRNFLの診断能は各機種間で有意な差はなかったものの,鼻側90°象限cpRNFLはCirrusが他の2機種に比べ診断能が低かったとしている4).また,筆者らも強度近視を伴わない(.6D以上)の緑内障(平均MD=.7.12dB)を対象にCirrus,RTVue,あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141339 AveragecpRNFLthickenssAverageGC/IPLthickenssAveragemRNFLthickenss100-Specificitiy100-Specificitiy100-Specificitiy100-SpecificitiyAverageGCCthickenssSensitivitySensitivitySensitivitySensitivityABCDAveragecpRNFLthickenssAverageGC/IPLthickenssAveragemRNFLthickenss100-Specificitiy100-Specificitiy100-Specificitiy100-SpecificitiyAverageGCCthickenssSensitivitySensitivitySensitivitySensitivityABCD図2緑内障診断能の比較正常87眼を対象として,強度近視を伴わない初期緑内障75眼の検出能を3機種で比較した.A:全周cpRNFL厚,B:averageGCC厚,C:averageGCLIPL厚,D:averagemRNFL厚の受信者操作特性曲線(ROCカーブ)を示す.縦軸は敏感度(%),横軸は100-特異度(%)を示す.(文献5から改変して掲載)3DOCT-2000で同様の検討を行った結果,全周cpRNFLの診断能は各機種間で有意な差はなかったものの,RTVueにおいて,鼻側90°象限cpRNFLで他の2機種に比べ診断能が高く,耳側象限cpRNFLで3DOCTよりも高い診断能を示した5).しかし,実際の臨床では明らかな緑内障でOCTにその診断を迷うことはなく,初期緑内障(平均MD=.2.61dB)に症例をしぼったところ,どのcpRNFLパラメータでも有意な機種間の差は検出されなかった(図2)5).鼻側象限cpRNFLは初期緑内障では重要ではない領域であり,機種間の差は臨床的意義をもたないかもしれないが,鼻側cpRNFLはRTVueが鋭敏である可能性がある.全病期緑内障を対象とした黄斑部解析の比較ではaverageGCCは3機種に有意差はなかったものの,上半分GCCがRTVueが高い診断能を有していた5).これは初期緑内障に対象を限定しても同様の結果であった.RTVueではRNFLとGCLを分離できないため,mRNFLとGCLIPLをCirrusと3DOCTで比較したところ,mRNFLは3DOCTが,GCLIPLはCirrusが高い診断能を有していた5).1340あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014●強度近視を伴う緑内障の各機種の診断能近視(.6D以上)をもつ緑内障(平均.7.36dB)に対してCirrus,RTVue,3DOCT-2000の診断能の検討を行った6).全周cpRNFLの診断能は各機種間で有意な差はなかったものの,鼻側90°象限cpRNFLはRTVueが他の2機種に比べ診断能が高かった.黄斑部解析ではGCC,GCLIPLに有意な機種間の差はなかったものの,mRNFLは3DOCTがCirrusよりも高い診断能を有していた.また,各機種でcpRNFLとGCCで診断能を比較したところ,両者間に有意差はなく,cpRNFL,GCCともにどの機種でも同等の近視緑内障の検出能をもつ結果であった.●おわりにSD-OCT各機種ともほぼ同様の緑内障診断能を示すと思われる.しかし,どのOCTが日常診療における緑内障診断に優れているかは上記の測定値のみの解析では単純に比較することができず,それぞれで得られるパラメータや撮影方法,解析時間などが異なり,一長一短がある.文献1)KanamoriA,NakaM,AkashiAetal:Clusteranalysesofgrid-patterndisplayinmacularparametersusingopticalcoherencetomographyforglaucomadiagnosis.InvestOphthalmolVisSci54:6401-6408,20132)LeiteMT,RaoHL,WeinrebRNetal:Agreementamongspectral-domainopticalcoherencetomographyinstrumentsforassessingretinalnervefiberlayerthickness.AmJOphthalmol151:85-92e81,20113)KanamoriA,NakamuraM,TomiokaMetal:Agreementamongthreetypesofspectral-domainopticalcoherenttomographyinstrumentsinmeasuringparapapillaryretinalnervefibrelayerthickness.BrJOphthalmol96:832837,20124)LeiteMT,RaoHL,ZangwillLMetal:ComparisonofthediagnosticaccuraciesoftheSpectralis,Cirrus,andRTVueopticalcoherencetomographydevicesinglaucoma.Ophthalmology118:1334-1339,20115)AkashiA,KanamoriA,NakamuraMetal:ComparativeassessmentfortheabilityofCirrus,RTVue,and3D-OCTtodiagnoseglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:4478-4484,20136)AkashiA,KanamoriA,NakamuraMetal:TheabilityofmacularparametersandcircumpapillaryretinalnervefiberlayerbythreeSD-OCTinstrumentstodiagnosehighlymyopicglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:6025-6032,2013(92)

屈折矯正手術:オルソケラトロジー

2014年9月30日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載172大橋裕一坪田一男172.オルソケラトロジー福本光樹南青山アイクリニック・南城眼科現在,わが国では4社のオルソケラトロジーレンズが認可され,うち3社から販売されている.近年オルソケラトロジーレンズの近視進行抑制効果が注目され,症例数の増加・低年齢化が認められている.実際に処方するうえでは,3種類のレンズの特徴や装用開始後の経過もよく理解しておくことが大切である.●はじめにオルソケラトロジーレンズは後面が多段階カーブになっていて,装用することにより角膜中心部を扁平化させ,近視性乱視を矯正するハードコンタクトレンズである.現在,4社のオルソケラトロジーレンズが厚生労働省より認可され,3社のレンズが製造販売されている.裸眼で日中生活できる,また装用を中止すると角膜は基本的には元の形状に戻るという利点だけでなく,国内外より近視進行抑制効果が認められる1,2)という発表がされるようになったこともあり,症例数の増加ならびに低年齢化が進んでいる.●オルソケラトロジーレンズの形状診療の際にはオルソケラトロジーレンズの基本的な形状を理解しておくことが必要である.図1のように角膜後面は多段階カーブになっている.43Dの角膜を3D変化させようとするとベースカーブは理論上40Dとなる.しかし,レンズをはずした後の戻りを加味して,com図1オルソケラトロジーレンズの形状後面は中央よりベースカーブ,リバースカーブ,アライメントカーブ,ペリフェラルカーブと多段階カーブとなっている.pressionfactorという補正(3社とも+0.75D)がされており,実際のベースカーブは39.25Dとなっている.●形状の比較3社のレンズを切断し,断面を比較してみると,それぞれのレンズの特徴がわかる(図2).Dk/L値は,メーカーが公表しているDk値を,本比較検証で行ったレンズ中心厚(実測値)で割った値である.1.aオルソ.K(アルファコーポレーション社製)Dk/L値:47×10.9(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)ペリフェラルカーブの幅が最も短く,アライメントカーブが最も広いが,後面光学部(BCOZ)は最も狭い.ペリフェラルカーブからベースカーブの内面中心部までの深さが最も深い.全体的に突出のある角膜に適していると考察できる.a厚い広い薄い深い低い長い狭い短いb厚い深い高い短い長いc薄い低い浅い広い長い図2形状の比較a:aオルソ-K,b:マイエメラルド,c:ブレスオーコレクト.(89)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413370910-1810/14/\100/頁/JCOPY (D)0.500.00-0.50-1.00-1.50-2.00-2.50-3.00-3.50-4.00-2.64-1.19-0.40-0.28-0.26-0.14(n=86)*****装用前1日1週2週4週*p<0.01(装用前との比較:pairedt-test)12週図3屈折度数変化角膜上皮細胞層の変化に伴い屈折度数も変化するため,装用開始後数日は見えづらさを自覚することが多い.2.マイエメラルド(テクノピア社製)Dk/L値:43×10.9(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)エッジリフトは高く広く,アライメントカーブの幅が3社中最も狭い.アライメントカーブとリバースカーブのジャンクション部から内面中心部までの深さが最も深い.角膜中心部が突出した角膜に適したレンズと考察できる.3.ブレスオーコレクト(ユニバーサルビュー社製)Dk/L値:78×10.9(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)後面光学部は最も広い,レンズの深さが最も浅い.全体的な厚みが最も薄く設計されている.角膜中央部の突出の少ない角膜に適したレンズと考察できる.●屈折度数変化自験例86眼の装用開始後の屈折度数変化を図3に示す.LASIKなどの屈折矯正手術などと比べて,目標屈折に達するまでに時間がかかることを理解しておくことが大切である.装用開始後も,それまで使用していたコンタクトレンズ,眼鏡を使用しているという症例も経験している.●近視抑制効果近視進行の原因となる眼軸長の伸展には,網膜ぼけ理論(incrementalretinaldefocustheory)が関与していると考えられている.網膜ぼけ理論には,近方視時における網膜後方へのデフォーカス(調節ラグ)と周辺網膜の後方へのデフォーカス(図4a,b)があるが,オルソケラトロジーレンズは後者を軽減する作用があると考えられている.また,後者がより近視の進行に影響があると1338あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014ab図4周辺網膜の後方へのデフォーカスa:眼鏡で矯正した場合は,周辺網膜において後方へのデフォーカスが認められる.b:オルソケラトロジーレンズの場合は,角膜中央が扁平化し,周辺は扁平化することはなくむしろ急峻化するため,周辺網膜において後方へデフォーカスしない.動物実験において実証されている3).アトロピン点眼など薬物による近視進行抑制効果について報告されているが4,5),散瞳による羞明感や調節麻痺による近見障害などの副作用があり,実用的でない.オルソケラトロジーレンズによる眼軸長伸展抑制効果は,低年齢であるほど効果が大きいと考えられている.今後もガイドラインで適用とされていない20歳未満の希望者が増加する可能性も否定できないが,長期的な安全性が確認されておらず,より慎重な対応が必要と考えている.その一方,将来的に病的近視などへのリスクが高まる眼軸長伸展を抑制できる光学療法として,その可能性や今後の研究のためにも正しく熟知したうえで処方していくことが大切である.文献1)KakitaT,HiraokaT,OshikaT:Influenceofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia.IOVS52:2170-2174,20112)Santodomingo-RubidoJ,Villa-CollarC,GilmartinBetal:MyopiacontrolwithorthokeratologycontactlensesinSpain:refractiveandbiometricchanges.InvestOphthalmolVisSci53:5060-5065,20123)SmithEL3rd,KeeCS,RamamirthamRetal:Peripheralvisioncaninfluenceeyegrowthandrefractivedevelopmentininfantmonkey.InvestOphthaomolVisSci46:3965-3972,20054)ChiaA,ChuaWH,CheungYBetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia:safetyandefficacyof0.5%,0.1%,and0.01%doses(AtropinefortheTreatmentofMyopia2).Ophthalmology119:347-354,20125)ChuaWH,BalakrishnanV,ChanYHetal:Atropineforthetreatmentofchildhoodmyopia.Ophthalmology113:2285-2291,2006(90)

眼内レンズ:Sub-Surface Nano Glisteningsと視機能

2014年9月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋335.Sub-SurfaceNanoGlisteningsと視機能高橋依子金沢医科大学眼科学教室疎水性アクリル眼内レンズのSub-SurfaceNanoGlistenings(以下SSNG)は術後経過とともに増加し,視機能への影響が懸念されている.SSNGの光学シミュレーションではSSNGの密度やサイズが増大すると前方散乱の増加および網膜照度の低下を生じるが,Modulationtransferfunction(MTF,空間周波数特性)の低下はきわめて軽度であった.網膜疾患のない症例においては,SSNGの視機能への影響は軽微であると考えられた.疎水性アクリル眼内レンズでは挿入後長期経過とともに表面散乱光が増加し,光学部前後面が混濁することがある(図1)1).これはホワイトニングやSub-SurfaceNanoGlistenings(以下SSNG)と呼ばれ,眼内レンズ表面下に発生した約100nmサイズの水粒子である.SSNGの原因は水相分離現象で,疎水性アクリル眼内レンズは,生体内で温度上昇するとポリマー内の含水率が増加するが,温度が下がると析出した水分がポリマー内の空洞に貯留する.光学部表面と内部では表面のほうがアクリルポリマー重合が弱いため,眼内レンズ表面下に小水粒子が発生する2).疎水性アクリル眼内レンズのなかでもアクリソフ眼内レンズにおけるSSNGの発生は顕著であり,経年的に増え続け細隙灯顕微鏡で眼内レンズ光学部が白く混濁し図1SSNG症例の細隙灯顕微鏡写真アクリル眼内レンズの光学部表面に白色の混濁を認める.て見えるため,視機能への影響が懸念されている.しかし,アクリソフ眼内レンズの表面散乱光強度は術後経過に伴い増加するが,視力およびコントラスト感度への影響は少ないと報告1)されている.筆者らがアクリソフ眼内レンズを挿入した64症例について検討した結果でも,表面散乱光強度は術後経過期間に伴い増加するが(図2),視力,コントラスト視力,全高次収差および網膜像コントラストには影響がなかった.Ongらは,摘出眼内レンズを電子顕微鏡で観察し,SSNGは眼内レンズ表面から約120μm(多くは60μm)までの深さに発生し,直径は約200nm以下であると報告している3).論文データから推定すると,SSNGが発生する眼内レンズ表面付近におけるSSNGの体積比は最大で0.05.0.1%程度であると考えられる.これらの情報をもとに光学設計ソフトCODEV&LightTools(Synopsys社)を使用した光学シミュレーションを行った.SSNGの密度やサイズが増大すると前方散乱の増加(図3)および網膜照度の低下(図4)を生じるが,MTFの低下はきわめて軽度であり視機能への影響は低いこと後方散乱光強度(cct)2502001501005005y=0.0482x+19.93R2=0.708(p<0.01)10手術後経過年数(year)図2術後経過期間と眼内レンズ前面後方散乱光強度眼内レンズ挿入後術後経過年数が経つにつれて,眼内レンズ前面後方散乱光強度は長期にわたり有意に増加した.(87)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413350910-1810/14/\100/頁/JCOPY SSNG体積比率0%SSNG体積比率0.1%粒子サイズ200nm深さ:0~120μmSSNG体積比率0%SSNG体積比率0.1%粒子サイズ200nm深さ:0~120μm光線本数:10,000本図3SSNGと前方散乱SSNGのサイズや体積比率が増加するにつれ前方散乱は増加した.Volumeratio0.00%0.10%0.20%Peakvalueof100%93.0%86.5%irradiance図4SSNGの体積比率と網膜放射照度ピーク値SSNGの体積比率が増加すると網膜放射照度ピーク値は減少した.が示唆された(図5)4).シミュレーションではSSNGの粒子サイズの増大,密度の増加につれて網膜放射照度は低下し,SSNGにより前方散乱を認めたが,臨床上では生じる可能性のない密度0.2%(サイズ150nm,深さ120μm,前後面)というきわめて高度のSSNGでも,網膜照度の低下は13.5%程度であり,網膜照度低下による視機能低下は考えにくいことが明らかになった(図4).一方で高度のSSNG症例において,アクリソフ眼内レンズを摘出・交換し術後視機能が改善したという報告5)もある.これまでのレンズ摘出症例に関する報告は,ほとんどが網膜疾患のある症例あるいは硝子体術後症例1.00.80.60.40.20.0MTF粒子サイズ150nm深度0~60μm体積比率0%体積比率0.10%020406080100120140160180200空間周波数(c/mm)図5SSNG体積比率とMTFSSNGの体積比率が増加してもMTFの低下は認められなかった.であり,網膜機能が低下している場合,高度のSSNGが視機能へ影響する可能性は否定できない.しかし,網膜機能に異常がない健常眼であれば,日常臨床でみられる程度のSSNGにより視機能低下を生じる可能性はきわめて低いと考えて良い.近年,アクリソフ眼内レンズはその製造工程を変えており,改良型アクリソフ眼内レンズの表面散乱光強度は改良前と比較し大幅に低減される可能性が高く,SSNGによる視機能への影響は今後さらに軽減すると考えられる.文献1)MiyataK,HonboM,OtaniSetal:Effectonvisualacuityofincreasedsurfacelightscatteringinintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:221-226,20122)MatsushimaH,MuraiK,NagataMetal:Analysisofsurfacewhiteningofexteractedhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg35:1932-1934,20093)OngMDetal:Etiologyofsurfacelightscatteringonhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg38:1833-1844,20124)TakahashiY,KawamoritaT,MitaNetal:Opticalsimulationforsub-surfacenanoglistening.JCataractRefractSurg,inpress5)YoshidaS,MatsushimaH,NagataMetal:Decreasedvisualfunctionduetohigh-levellightscatteringinahydrophobicacrylicintraocularlens.JpnJOphtalmol55:62-66,2011

コンタクトレンズ:問診について

2014年9月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一4.問診について岩崎直樹イワサキ眼科医院コンタクトレンズ(CL)処方を希望する初診の患者さんが来院したとしよう.処方を始めるにあたり,問診で必要な項目と,その詳細について解説してゆく.●まずコミュニケーション初診の患者さんと接するにあたっては,まずは患者さんの目を見て挨拶する.私はイスを勧めて「どうぞこちらにお掛けください」ということにしている.まずコミュニケーションをとることが第一である.できれば簡単なお話をして緊張をほぐし,「アイスブレイク」ができるとベターである.●動機について動機によってニーズが変わり,患者さんのニーズに応えるのがCL処方の最終的な目標であるため,動機の聴取は必須である.CLをしてみたいという動機にはさまざまなものがあげられる.1)整容的に使いたい:メガネを使いたくない,カラーCLで角膜の色や大きさを変えたい.2)スポーツ時に使用したい.3)CLでないと視力が出ないので使用したい.→円錐角膜など4)その他の疾患で使用したい.→無虹彩/角膜白班/メディカルユースのCL動機により,どれだけCLをする必要性が高いかが異なる.また常用するのか,一時的に使用するだけ(オケージョナルユース)なのかにより,CLの種類の選択が変わるため,細かく装用方法や時間の希望について聞いておく.オケージョナルユースにはハードコンタクトレンズ(HCL)は向かず,1日使い捨て型ソフトコンタクトレンズ(SCL)がベストであるためである.例えば「週3日程度,スポーツで4~5時間使用したい」というのであれば,1日使い捨て型SCLが良い適応である.またクラブ活動を行う学生で「毎日4~5時間使用したい,できれば授業もそのまま受けたい」というのであれば,2週間交換型SCLが良い適応になると思われる.(85)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY表1レンズケアの要点眼表面で付いた汚れと微生物を除去する・こすり洗い・すすぎ洗い・MPS浸漬による消毒ケース内でCLが汚染される場合を考える─水回りにいる菌/アメーバによる汚染─MPSの消毒力ではCLケース内を無菌化できない・すすぎ洗い・レンズケースの洗浄/乾燥,定期交換●CL経験の有無,ケア方法の聴取CLの装脱には経験が必要であり,またHCLとSCLで装脱方法が異なるため,どちらのレンズの経験があるかは必ず聞かないといけない.ただし,まったく未経験で初めて装用してみたいと来院した場合や,他院ですでにCLの処方を受けていて,自院には初診である場合などは明らかである.その際の落とし穴は,経験があるからといって正しい装脱やケアができているとはかぎらないことである.1日使い捨てSCL以外では,必ずCLを洗浄/消毒/保存して再使用に備えるための「レンズケア」が必要になる.SCLで一般的なMPS(多目的用材)のケア方法は表1のようになる1)が,すべてを聞くのは冗長なので,1)こすり洗いを毎日しているか.2)CLを取り出した後のレンズケースを水洗いして乾燥させているか.そして定期的に交換しているか.の2点につき問診し,できていない場合はケア方法を細かく問診するのが良い.●既往歴CLの装用を妨げる慢性障害であるアレルギー2),ドライアイ,酸素不足(図1)について聞く.酸素不足に関しては装用時間と着けたまま睡眠していないかを,ドライアイに関しては乾燥感や眼精疲労の有無を問診してあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141333 1334あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(00)おく.特に重要なのはアレルギー要因の聴取である.幼少時からのアトピー体質や喘息をもっている患者さんに初めてCLを処方する場合には,初めからアレルギーにベストである1日使い捨てSCLを装用すべきだからである.以上をまとめると,CLの処方で最低限聞く必要があるのは,1)CLを使用する動機.2)オケージョナルユースか,常用したいか.3)CL装用の経験はあるか.あれば,HCLかSCLか.4)経験がある場合,SCLでMPSを使っているか.使っていればこすり洗いとレンズケースの洗浄・乾燥・交換をしているかどうか.5)アレルギー要因がないか.ということになる.診察を進めると,今までの装用方法などに問題があると考えられるさまざまな所見が出てくることが多い.たとえば,角膜輪部から強い血管侵入があれば,長時間装用や無理な装用パターンを行って酸素不足であったことが考えられる.また,上眼瞼に乳頭増殖が強ければ(図2),アレルギー要因があることや,定期交換型SCLを交換せず使用していた疑いが出てくる.その場合には,その部分に関してより突っ込んだ問診が必要となる.文献1)岩崎直樹:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点.あたらしい眼科28:1687-1689,20112)岩崎直樹:コンタクトレンズによる乳頭性結膜炎.あたらしい眼科25:1681-1682,2008ZS934図1CL装用による慢性障害ドライアイアレルギー性結膜炎酸素不足装用中止血管侵入CLの曇り内皮減少PigmentslideSPK掻痒感乾燥感眼脂図2CLによるアレルギー性結膜炎にみられる上眼瞼の乳頭増殖

写真:サルコイドーシス

2014年9月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦364.サルコイドーシス永田健児京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ図1サルコイドーシスの典型的な眼底(56歳,女性)眼底下方に.様の滲出斑を認める.サルコイドーシスでは,このような滲出斑は上方と比べて圧倒的に下方に多い.滲出斑が瘢痕化すると光凝固斑様の委縮病巣となる.図3サルコイドーシスの隅角所見(67歳,女性)隅角にはテント状周辺虹彩前癒着を認める.周辺の虹彩がテントのように引き上げられたような形で癒着するのが特徴的である.図4蛍光眼底造影検査(57歳,女性)静脈に竹の節のような形の過蛍光を認める.また視神経も過蛍光で,黄斑部にもリークを認める.(83)あたらしい眼科Vol.31,No.9,201413310910-1810/14/\100/頁/JCOPY サルコイドーシスは原因不明の多臓器疾患で,病理組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めることが特徴である.標的臓器としては肺,眼,リンパ節,皮膚が多く,その他種々の臓器に生じる.女性に多く,20歳代と50~60歳に多いとされるが,後者のほうが多い.眼病変としてはぶどう膜炎が多く,日本においては大学病院を中心とした疫学調査にて,ぶどう膜炎の原因疾患の中でもっとも多いことが報告されている1).眼病変としては,その特徴的な所見が多数あり,その多くは肉芽腫の形成を示唆する所見である.前眼部では豚脂様角膜後面沈着物や虹彩結節,隅角結節やその後の変化であるテント状周辺虹彩前癒着が認められる.したがって,テント状周辺虹彩前癒着のある部位には,かつて隅角結節が存在したことが示唆される.ただし隅角結節があったからといって,必ずしも周辺虹彩前癒着をきたすわけではなく,眼炎症がみられた場合は隅角検査も必ず治療開始前に行うことが重要である.後眼部の特徴的所見は雪玉状硝子体混濁,網膜血管周囲炎,.様網脈絡膜滲出斑やその後の変化としての光凝固斑様の網脈絡膜委縮病巣などが多く,とくに眼底下方周辺部に認められることが多い.また,視神経乳頭肉芽腫や脈絡膜肉芽腫がときにみられることもある.その他,黄斑上膜や黄斑浮腫を認めることも多いが,これらはサルコイドーシスに限ったことではなく,後眼部に炎症を伴うぶどう膜炎には認めることが多いものである.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では静脈を中心に炎症がみられ,竹節状の網膜血管周囲炎を示す過蛍光がみられることが特徴的である.このような眼病変をみた場合,診断のためには全身検査が必須である.ACE活性やカルシウムをはじめとした血液検査,胸部X線やCTのほか,ツベルクリン反応も有用である.ツベルクリン反応はサルコイドーシスであれば陰性となることが多く,眼所見の似ている結核性ぶどう膜炎との鑑別にも有用である.また,皮膚病変の生検で診断できる場合も多く,顔面など皮膚病変の観察も忘れず行う2).さらには硝子体解析も診断に有用であることも近年わかってきた3).治療としては前眼部病変にはステロイド点眼,後眼部病変にはステロイドテノン.下注射や内服,場合によっては硝子体手術も奏効する.診断がつくまでは安易なステロイド全身投与は行わないことが原則である.文献1)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20122)NagataK,MaruyamaK,SugitaSetal:Agedifferencesinsarcoidosispatientswithposteriorocularlesions.OculImmunolInflamm22:257-262,20143)KojimaK,MaruyamaK,InabaTetal:TheCD4/CD8ratioinvitreousfluidisofhighdiagnosticvalueinsarcoidosis.Ophthalmology119:2386-2392,20121332