特集●糖尿病網膜症2015年あたらしい眼科32(3):349~356,2015特集●糖尿病網膜症2015年あたらしい眼科32(3):349~356,2015糖尿病網膜症・黄斑浮腫の薬物治療(抗VEGF薬の効果)Anti-VEGFforDiabeticRetinopathyandDiabeticMacularEdema野崎実穂*はじめに糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態に,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与していることが明らかとなり,2014年にはわが国でも抗VEGF薬がDMEに適応となったことから,抗VEGF薬を使ったDME治療が主流となりつつある.さらに,DMEに対する抗VEGF薬大規模臨床試験の解析結果では,糖尿病網膜症の悪化を抑えることも報告されてきており,糖尿病網膜症=汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)という30年近い治療のスタンダードが今後大きく変わるかもしれない.一方で,実際の臨床の場で大規模臨床試験のようなプロトコールで抗VEGF薬治療ができるのか,さまざまな因子が関与する糖尿病網膜症やDMEの病態で,果たしてすべての症例が抗VEGF薬だけで治療が可能なのか,不明な点も多い.IVEGFと糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫VEGFは二量体からなる糖蛋白で,内皮細胞に特異的に作用する.VEGFのおもな作用は,血管新生と血管透過性亢進作用であり,糖尿病網膜症の病態との関連が早くから注目されていた.Aielloら1)が,活動性のある増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)患者の硝子体内や前房水中でVEGFが増加していること,さらにPRP後にはVEGFの増加が有意に抑制されていることも報告し,治療によりVEGFの発現を減少させることができることが明らかになった.その後,DME症例の硝子体中のVEGFも増加していることが報告され2,3),浮腫とVEGFの関連も明らかとなった.しかし,DME症例では,硝子体中の炎症性サイトカインであるMCP-1やIL-6,IL-8は有意に上昇しているものの,VEGFは有意な増加がみられないという報告もあり,PDRに比べて,炎症の関与が多い可能性も示唆されている4).IIDMEに対する抗VEGF薬大規模臨床試験1.ラニビズマブラニビズマブはすでに多数の大規模前向き臨床試験が行われ,3年という比較的長期の経過も報告されており,DMEに対する治療効果が立証されている.ここではRISE/RIDE試験,RESTORE試験を紹介する.a.RISE.RIDE試験RISE/RIDE試験は,米国で行われた第III相大規模多施設二重盲検試験で,ラニビズマブ0.3mg(米国でDMEに対して承認されている容量)あるいは0.5mg毎月投与の効果をシャム注射と比較しており,3年目からシャム注射群にラニビズマブ0.5mg毎月投与を行っている5).3年間の経過報告では,ラニビズマブ投与群ではETDRS視力で11~12文字の改善が認められているが,3年目からラニビズマブ治療を開始した群では,4.5文字の改善にとどまっていた(図1)5).*MihoNozaki:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(39)349350あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(40)に無作為に割り付け,1年の経過を追い,その後オープンラベルでさらに2年の経過が報告されている.ラニビズマブは初回3回毎月連続投与後,必要時(prorenata:PRN)投与,光凝固群では1年経過後からラニビズマブPRN投与が開始され,3群とも1年経過後から必要があれば光凝固治療も可とされた.b.RESTORE試験RESTORE試験は,ヨーロッパ主体に行われた第III相大規模臨床試験で,他の大規模試験よりも,比較的視力良好な症例(20/32)も含まれている点,光凝固との併用効果をみている点が異なる.ラニビズマブ0.5mg単独投与群,ラニビズマブ+光凝固群,光凝固群の3群図1RISE.RIDE試験ラニビズマブ0.3mgあるいは0.5mg毎月投与と,シャム注射の比較.シャム注射群も3年目からラニビズマブ0.5mg毎月投与開始されているが,視力改善はやや少ない.(文献5から改変)最高矯正視力の平均変化量(文字数)20151050-536343230282624222018161412108642012.011.72.5月Day712.411.24.5シャムシャム・0.5mgラニビズマブ0.3mgラニビズマブ0.5mg図2RESTORE試験ラニビズマブ0.5mgあるいはラニビズマブ0.5mg+光凝固と,光凝固の比較.光凝固群も2年目からラニビズマブ0.5mgのPRN投与が開始され,その後ゆっくりと視力が改善している(矢印).(文献6から改変)最高矯正視力の平均変化量(文字数)36343230282624222018月1614121086420121086420-2CorestudyExtensionstudy(Ranibizumab0.5mgPRN)+7.9+7.1+2.3+7.9+6.7+5.4+8.0+6.7+6.0CorestudyassesmentInterimanalysisFullanalysis/studycompletionPrior-ranibizumab0.5mg(n=83)Prior-ranibizumab0.5mg+laser(n=83)Prior-laser(n=74)図1RISE.RIDE試験ラニビズマブ0.3mgあるいは0.5mg毎月投与と,シャム注射の比較.シャム注射群も3年目からラニビズマブ0.5mg毎月投与開始されているが,視力改善はやや少ない.(文献5から改変)最高矯正視力の平均変化量(文字数)20151050-536343230282624222018161412108642012.011.72.5月Day712.411.24.5シャムシャム・0.5mgラニビズマブ0.3mgラニビズマブ0.5mg図2RESTORE試験ラニビズマブ0.5mgあるいはラニビズマブ0.5mg+光凝固と,光凝固の比較.光凝固群も2年目からラニビズマブ0.5mgのPRN投与が開始され,その後ゆっくりと視力が改善している(矢印).(文献6から改変)最高矯正視力の平均変化量(文字数)36343230282624222018月1614121086420121086420-2CorestudyExtensionstudy(Ranibizumab0.5mgPRN)+7.9+7.1+2.3+7.9+6.7+5.4+8.0+6.7+6.0CorestudyassesmentInterimanalysisFullanalysis/studycompletionPrior-ranibizumab0.5mg(n=83)Prior-ranibizumab0.5mg+laser(n=83)Prior-laser(n=74)あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015351(41)凝固の5群に割り付けた.アフリベルセプト投与群では,52週の時点で9.7~12文字の有意な視力改善が得られたが,光凝固群では1.3文字の視力低下がみられた7)(図3).また,2mg8週毎投与群の経過の解析で,初回3回連続投与後改善していた視力,網膜中心厚が16週に一時悪化,その後毎月投与群と比べて視力の改善傾向が弱かったことから,次の第III相試験では初回毎月連続5回投与後8週毎投与というプロトコールが採用され,さらにアフリベルセプトがDMEに承認された際も,導入期に5回毎月投与することが推奨されている.b.VIVID.VISTA試験アフリベルセプトの第III相無作為大規模試験のうち,日本,ヨーロッパ,オーストラリアで行われたVIVID試験と,米国で行われたVISTA試験の1年間の経過が報告されている8).VIVID/VISTA試験は,患者を無作為に,光凝固単独群,アフリベルセプト2mg毎月投与群,アフリベルセプト2mg8週毎投与(初回5回毎月投与後)の3群に割り付けた.10文字以上の改善(少数視力で2段階以上)がみられた患者の割合が,光凝固群では25.8%であったのに対し,アフリベルセプト投与群では50%以上と有意に多く,15文字以上の改善(少数視力で3段階以上)がみられた患者の割合も,光凝固3年の結果では,ラニビズマブ単独投与で8.0文字,ラニビズマブ+光凝固群で6.7文字,2年目からラニビズマブPRN投与を開始した光凝固群でも,6.0文字の改善が得られた(図2)6).注射回数は3年間でラニビズマブ単独投与群14.2回,光凝固併用で13.8回と差はみられなかった6).注射回数は1年目と比べ,2年目,3年目と徐々に減少する傾向があり,ラニビズマブ単独投与群で1年目平均7.4回,2年目平均3.9回,3年目平均2.9回であった6).一方,2年目からラニビズマブ投与を開始した光凝固群は,初回3回連続投与の導入期はなく,PRN治療が行われているが,2年目の投与回数平均4.1回,3年目の投与回数平均2.4回で,初回からラニビズマブ治療をされていた群に,徐々に改善文字数が近づいており,DMEに関して導入期治療は不要かもしれないことが示唆される.2.アフリベルセプトa.DAVINCI試験DAVINCI試験は,北米とオーストリアで行われた第II相二重盲検多施設無作為試験で,①アフリベルセプト0.5mg毎月投与,②アフリベルセプト2mg毎月投与,③アフリベルセプト2mg8週毎投与(3回毎月投与後),④アフリベルセプト2mgPRN(3回毎月投与後),⑤光最高矯正視力の平均変化量(文字数)週14121086420-252484440363228242016128400.5q4*2q4*2q8*2PRN*Laser図3DAVINCI試験アフリベルセプト2mg8週毎投与群では,3回毎月連続投与後,16週に視力が低下し(矢印),2mg毎月投与群,2mgPRN投与群と比べて視力の改善がやや不良であった.この結果を受け,投与法として導入期は5回の毎月投与が推奨されている.(文献7から改変)最高矯正視力の平均変化量(文字数)週14121086420-252484440363228242016128400.5q4*2q4*2q8*2PRN*Laser図3DAVINCI試験アフリベルセプト2mg8週毎投与群では,3回毎月連続投与後,16週に視力が低下し(矢印),2mg毎月投与群,2mgPRN投与群と比べて視力の改善がやや不良であった.この結果を受け,投与法として導入期は5回の毎月投与が推奨されている.(文献7から改変)352あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(42)ている10)(図5).さらに漿液性網膜.離タイプではCMEタイプ,スポンジ状網膜膨化タイプと比べて,炎症性サイトカインのひとつであるIL-6が硝子体内に有意に多く存在していることから11),漿液性網膜.離タイプには抗VEGF薬よりもステロイド治療が有用な可能性が示唆されている.IVDMEに対する抗VEGF薬と光凝固併用の意義DMEに対する治療は,抗VEGF薬登場以前の第一選択治療は,ETDRS光凝固であった.抗VEGF薬のDMEに対する大規模臨床試験では,抗VEGF薬が光凝固治療より有効であることが証明されたが,光凝固と抗VEGF薬を併用するメリットは明らかにはなっていない.一方最近,次世代の網膜光凝固装置がいくつか登場しており,ナビゲーション機能搭載網膜光凝固装置NavilasR(OD-OS社)が注目されている.造影結果を元に,光凝固を照射する毛細血管瘤をマーキングでき,トラッキング機能もあるため,確実に毛細血管瘤を照射することが可能である(図6).ラニビズマブ単独治療群(32例)と,ラニビズマブ(初回3回毎月投与)+NavilasR光凝固群(34例)とを比較した1年の結果では,改善した文字数に有意な差はみられなかったものの,NavilasR光凝固併用群では3回の導入投与後に必要なラニビズマブ投与回数は平均0.88回であったのに対し,ラニビズマブ単独群では3.88回と有意に回数が多かった12).この結果から,的確に毛細血管瘤を照射することにより,抗VEGF薬の治療回数を減らすことが期待され,さらなる長期成績が待たれる.また,最近,超広角走査レーザー検眼鏡2000Tx(Optos社)の登場により,周辺部の網膜虚血が詳細に把握できるようになっている.周辺部網膜無灌流がある場合,DMEのリスクが有意に高いという報告もあり13),周辺部の網膜虚血が内因性VEGF増加の一因となり,DMEの病態にも関与している可能性が考えられる.Takamuraらは,DME症例を抗VEGF薬(ベバシズマブ)硝子体単独投与群と,蛍光眼底造影で認めた虚血網膜に対して選択的レーザー光凝固(targetedretinalphotocoagulation:TRP)を併用した群に無作為に割り付け,6群では9.1%であったのに対し,アフリベルセプト投与群では30%以上と有意に多かった8).III光干渉断層計による分類別の抗VEGF薬の効果DMEは光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見にもとづいて,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)タイプ,スポンジ状網膜膨化タイプ,漿液性網膜.離タイプの3つに分類することができる9)(図4).Shimuraらは,OCTによるDMEタイプ別にベバシズマブの効果を検討し,スポンジ状網膜膨化タイプとCMEタイプのほうが,漿液性網膜.離タイプよりも抗VEGF薬治療によく反応すると報告しABC図4OCTに基づいたDMEの分類A:CMEタイプ,B:スポンジ状網膜膨化タイプ,C:漿液性網膜.離タイプ.実際にはいくつかのタイプが混在している場合も多く,スポンジ状網膜膨化タイプ(B)にも一部漿液性網膜.離が認められる(*).Cは抗VEGF薬が効きにくい.ABC図4OCTに基づいたDMEの分類A:CMEタイプ,B:スポンジ状網膜膨化タイプ,C:漿液性網膜.離タイプ.実際にはいくつかのタイプが混在している場合も多く,スポンジ状網膜膨化タイプ(B)にも一部漿液性網膜.離が認められる(*).Cは抗VEGF薬が効きにくい.あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015353(43)図5ラニビズマブで治療したDMEの1例74歳,男性.A:左眼視力(0.3).網膜中心厚530μm.CMEとスポンジ状網膜膨化が混在しており,網膜前膜を認める.B:ラニビズマブ硝子体注射2カ月後.左眼視力(0.9).網膜中心厚324μm.浮腫は消失している.AB図6ナビゲーション機能搭載網膜光凝固装置NavilasRA:眼底カメラと網膜光凝固が一体となっており,細隙灯顕微鏡で眼底をみながら凝固する従来の光凝固装置とは異なり,カメラで眼底をモニタリングしながら,凝固を行う.B:他の機種で撮影した造影結果をナビラスに取り込み,凝固する毛細血管瘤をマーキングする.トラッキング機能もあるため,正確な凝固が可能である.AB図5ラニビズマブで治療したDMEの1例74歳,男性.A:左眼視力(0.3).網膜中心厚530μm.CMEとスポンジ状網膜膨化が混在しており,網膜前膜を認める.B:ラニビズマブ硝子体注射2カ月後.左眼視力(0.9).網膜中心厚324μm.浮腫は消失している.AB図6ナビゲーション機能搭載網膜光凝固装置NavilasRA:眼底カメラと網膜光凝固が一体となっており,細隙灯顕微鏡で眼底をみながら凝固する従来の光凝固装置とは異なり,カメラで眼底をモニタリングしながら,凝固を行う.B:他の機種で撮影した造影結果をナビラスに取り込み,凝固する毛細血管瘤をマーキングする.トラッキング機能もあるため,正確な凝固が可能である.AB354あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015(44)RISE/RIDE試験の蛍光眼底造影結果の解析では,ラニビズマブ毎月投与群もシャム注射群も徐々に網膜無灌流領域が増加していたが,その増加スピードはシャム注射群で有意に高かった18).しかし,ラニビズマブ毎月投与でも,無灌流領域の増加を止めることはできず,毛細血管閉塞にはVEGFだけでなく他の要因も関与していることが示唆された.VII副作用糖尿病患者は心血管疾患を合併している場合も多いため,抗VEGF薬投与には慎重さが必要である.ラニビズマブもアフリベルセプトも,DMEに対する大規模多施設無作為試験において,全身の重篤な合併症の頻度は光凝固群と同等であり,心血管合併症や動脈塞栓系の合併症の頻度も低かった.しかし,大規模臨床試験では,もともと高血圧や梗塞の既往といった全身合併症のリスクの高い症例は除外されているため,実際の臨床では加齢黄斑変性同様,注意が必要であろう.VIII今後予定されている臨床試験DRCR.netが,DMEに対するベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトの効果を比較検討した研究(プロトコールT)を行い,その結果がもうすぐ報告される予定である.また,主な大規模臨床試験の対象DME症例は,視力0.05以上0.5以下という基準が多く,視力が比較的良好な症例は含まれていなかった.そこでDRCR.netは,視力が0.8以上と良好であるが中心窩に黄斑浮腫が存在する症例に対して,経過観察(悪化したらアフリベルセプト),すぐにアフリベルセプト治療開始,局所凝固治療(悪化したらアフリベルセプト治療)の3群にわけて,比較検討する研究(プロトコールV)も現在進めている.最終的に視力が悪化した割合を主要評価項目としているが,早期に治療を開始したほうが,結果的に抗VEGF薬注射回数は少なくすむのか,多くなるのかも,興味深い.また,糖尿病網膜症に関してもDRCR.netが,PDR症例を,すぐにPRP治療を開始する群とラニビズマブ0.5mgを硝子体注射し悪化の場合はPRPを後から行う群に分け,視力悪化の割合,視野の感度,黄斑浮腫の出現カ月の経過を追っている14).抗VEGF薬単独治療では6カ月の経過観察中に浮腫が再燃したが,抗VEGF薬とTRPを併用した群では浮腫の再燃が認められず,虚血領域と黄斑浮腫の再発の程度には有意な相関があり,虚血網膜への選択的レーザー光凝固により,浮腫の再燃や抗VEGF薬の投与回数減少が期待できるとしている14).実際の臨床の場では,大規模臨床試験のようなプロトコールで抗VEGF薬を投与し続けることは不可能であり,ナビラスR光凝固併用や,選択的レーザー光凝固併用というアプローチが,抗VEGF薬の投与回数を減らすためにも,非常に有用であると期待される.V硝子体手術眼と抗VEGF薬DME症例では,すでに硝子体手術が施行してある場合も多く,抗VEGF薬を使うか悩ましい.一般的に,硝子体手術眼では硝子体内に投与した薬剤のクリアランスが短くなる.ウサギで硝子体手術を行いラニビズマブを投与した研究では,半減期は短くなるという報告15),変わらないという報告16)があるが,サルで硝子体手術を行いベバシズマブ,ラニビズマブを投与した研究では,硝子体手術を施行した眼のほうが,やはり半減期が短くなっていた17).ヒトでも,おそらく硝子体手術眼では抗VEGF薬の半減期は短くなると考えられるため,無硝子体眼のDMEに対しては,ステロイド後部Tenon.下注射や,次世代の網膜光凝固など,抗VEGF薬ではないアプローチを考える必要があろう.VI糖尿病網膜症に対する抗VEGF薬DMEに対する抗VEGF薬の大規模臨床試験の解析で,糖尿病網膜症も抗VEGF薬により改善したと報告され,注目されている.RESTORE試験の3年間の結果では,ラニビズマブ単独群で14.8%,ラニビズマブ+光凝固群で28.3%,光凝固(+1年後からラニビズマブPRN)群で16.0%の症例でETDRS糖尿病網膜症重症度スコア3段階以上の改善がみられた6).VIVID/VISTA試験でも,1年間の経過でETDRS糖尿病網膜症重症度分類が2段階以上改善した患者の割合は,光凝固群では7.5%であったが,アフリベルセプト投与群では30%前後と有意に多い割合であった8).あたらしい眼科Vol.32,No.3,2015355(45)する割合などを比較する臨床試験を行っている(プロトコールS).実際の臨床の場では,PDR患者が糖尿病腎症の悪化や糖尿病足病変(壊疽)の悪化などのため,急に外来に来なくなることもあり,本臨床試験の結果で,“抗VEGF薬治療を継続すれば,PDRにPRPは不要”というようなエビデンスが報告されても,PDRの実際の治療方針を大きく変えることになるのかどうかは不明である.おわりにDMEに対する抗VEGF治療は,多数の大規模臨床試験で長期にわたる治療効果が証明され,DME治療の第一選択となりつつある.しかし,浮腫再発のため,抗VEGF薬を繰り返し投与する必要があり,今後どのようにしたら少ない抗VEGF薬投与回数で最善の治療効果を得ることができるか,という治療戦略の確立が非常に重要であろう.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)FunatsuH,YamashitaH,SakataKetal:Vitreouslevelsofvascularendothelialgrowthfactorandintercellularadhesionmolecule1arerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology112:806-816,20053)FunatsuH,NomaH,MimuraTetal:Associationofvitreousinflammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,20094)YoshimuraT,SonodaKH,SugaharaMetal:Comprehensiveanalysisofinflammatoryimmunemediatorsinvitreoretinaldiseases.PLoSOne4:e8158,20095)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal:Long-termoutcomesofranibizumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20136)Schmidt-ErfurthU,LangGE,HolzFGetal:Three-yearoutcomesofindividualizedranibizumabtreatmentinpatientswithdiabeticmacularedema:theRESTOREextensionstudy.Ophthalmology121:1045-1053,20147)DoDV,NguyenQD,BoyerDetal:One-yearoutcomesofthedaVinciStudyofVEGFTrap-Eyeineyeswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology119:1658-1665,20128)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravitrealafliberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmology121:2247-2254,20149)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol127:688.693,199910)ShimuraM,YasudaK,YasudaMetal:Visualoutcomeafterintravitrealbevacizumabdependsontheopticalcoherencetomographicpatternsofpatientswithdiffusediabeticmacularedema.Retina33:740-747,201311)SonodaS,SakamotoT,YamashitaTetal:Retinalmorphologicchangesandconcentrationsofcytokinesineyeswithdiabeticmacularedema.Retina34:741-748,201412)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabetic■用語解説■ラニビズマブ(ルセンティスR)):VEGFアイソフォームすべてを阻害するモノクローナル抗体のFab断片のVEGFに対する親和性をさらに高めた薬剤.アフリベルセプト(アイリーアR):VEGF受容体1(VEGFR-1)と受容体2(VEGFR-2)の細胞外ドメインを融合させた蛋白VEGF-Aの他にPlGF(placentagrowthfactor),VEGF-Bとも結合するという特徴がある.ETDRS視力:糖尿病網膜症に対する臨床試験EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)で用いられた視力検査表.特徴として,低視力が正確に測定できることがあげられ,視力測定の標準化,視力の経時的変化観察に優れているため,多くの臨床試験で汎用されている.5文字の変化が,ほぼ少数視力1段階の変化と同等である.ETDRS糖尿病網膜症重症度スコア分類:上述のETDRSで定められ,実際に使われた糖尿病網膜症の重症度をスコア化した分類.眼底7領域のカラー眼底写真に基づいて判定する糖尿病網膜症の重症度分類で,「網膜症なし」から「進展した増殖糖尿病網膜症」までの13段階に分類されている.3段階以上変化した場合,臨床的に明らかな改善あるいは悪化と判断される.蛍光眼底造影所見ではなくカラー眼底所見に基づく判定で,評価方法が煩雑なため,日常臨床では用いられていないが,客観的で標準化されているため,糖尿病網膜症の臨床試験では広く用いられている.DRCR.net:DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net)は米国で設立された糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫といった糖尿病関連の眼疾患について多施設共同臨床試験を行うグループで,現在109の施設が登録されている.米国眼研究所(NEI)がサポートし,さまざまな臨床試験を行っている.■用語解説■ラニビズマブ(ルセンティスR)):VEGFアイソフォームすべてを阻害するモノクローナル抗体のFab断片のVEGFに対する親和性をさらに高めた薬剤.アフリベルセプト(アイリーアR):VEGF受容体1(VEGFR-1)と受容体2(VEGFR-2)の細胞外ドメインを融合させた蛋白VEGF-Aの他にPlGF(placentagrowthfactor),VEGF-Bとも結合するという特徴がある.ETDRS視力:糖尿病網膜症に対する臨床試験EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)で用いられた視力検査表.特徴として,低視力が正確に測定できることがあげられ,視力測定の標準化,視力の経時的変化観察に優れているため,多くの臨床試験で汎用されている.5文字の変化が,ほぼ少数視力1段階の変化と同等である.ETDRS糖尿病網膜症重症度スコア分類:上述のETDRSで定められ,実際に使われた糖尿病網膜症の重症度をスコア化した分類.眼底7領域のカラー眼底写真に基づいて判定する糖尿病網膜症の重症度分類で,「網膜症なし」から「進展した増殖糖尿病網膜症」までの13段階に分類されている.3段階以上変化した場合,臨床的に明らかな改善あるいは悪化と判断される.蛍光眼底造影所見ではなくカラー眼底所見に基づく判定で,評価方法が煩雑なため,日常臨床では用いられていないが,客観的で標準化されているため,糖尿病網膜症の臨床試験では広く用いられている.DRCR.net:DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net)は米国で設立された糖尿病網膜症,糖尿病黄斑浮腫といった糖尿病関連の眼疾患について多施設共同臨床試験を行うグループで,現在109の施設が登録されている.米国眼研究所(NEI)がサポートし,さまざまな臨床試験を行っている.