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白内障とエイジング

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1461.1465,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1461.1465,2014白内障とエイジングAgingandCataract久保江理*はじめに視機能低下と死亡率には,有意な相関がある1.4).特に,白内障や白内障手術の既往,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症の罹患率と死亡率には相関があることが,過去のコホート研究などより明らかになっている1).つまり,ほぼすべてのヒトが罹患する白内障による視力低下は,エイジングのマーカーであるといえる.蛋白のターンオーバーがほとんどない水晶体は,紫外線や酸化ストレス,糖化の影響を受けやすく,加齢による外因性,内因性ストレスの蓄積により蛋白の変性・凝紫外線,放射線,喫煙,虚血再還流,炎症,過酸化物活性酸素・酸化ストレスの発生ラジカル捕捉型抗酸化物脂質,蛋白,核酸の酸化生体膜,組織の損傷集が蓄積し徐々に水晶体混濁を生じる5.7).このようなストレスに対し,生体には酸化ストレスに対する防御機能がある8).しかし,この防御系のバランスが崩れると酸化ストレスが亢進し,老化および白内障など加齢に伴う生体内変化が加速する(図1).本稿では,白内障と全身のエイジングとの関与,アンチエイジングと白内障という視点から,白内障予防の可能性を概説する.予防型抗酸化物スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)カタラーゼグルタチオンペルオキシダーゼ修復,再生型抗酸化物DNA修復酵素トランスフェラーゼ老化・生活習慣病・発癌・白内障・ぺルオキシレドキシンその他眼疾患など図1生体の酸化ストレスに対する防御機構チオレドキシンペルオキシレドキシンビタミンCビタミンEユビキノール(CoQ10)カロテノイドビリルビンポリフェノールホスホリパーゼプロテアーゼ*EriKubo:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕久保江理:〒920-0293石川県河北郡内灘町字大学1-1金沢医科大学眼科学講座0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(39)1461 1462あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(40)II内的老化と白内障1.エピジェネティクスとエイジング,白内障エピジェネティクスとは,DNAの塩基配列変化を伴わず,細胞分裂後も子孫や細胞に継承される遺伝子機能(表現型)の変化のことをいう.つまり個々の体細胞が発生や老化の過程でエピジェネティクスな変化を受け種々の細胞に分化するが,分化細胞としての性質は子孫細胞に伝わるが,遺伝子レベルの変化はないことをいう.具体的にはDNAのメチル化およびヒストン修飾がある(図3).加齢により,転写因子や成長因子などさまざまな生理作用をもつ遺伝子のメチル化レベルの上昇が認められている17).ヒト水晶体においても,核白内障において,aAクリスタリン遺伝子のメチル化が上昇しており,加齢白内障との関連がいわれている18).筆者らの研究でも,水晶体における抗酸化蛋白やaBクリスタリン遺伝子を制御しているLEDGF(lensepithelialI光老化と白内障紫外線(UV)のような外的要因は,皮膚の老化(しわ,しみ,皮膚癌)の発症との関連が知られているが9),白内障や翼状片,加齢黄斑変性症の発症との深いかかわりがある10.12).UVの眼部曝露により,水晶体はUV-BとUV-Aを吸収して,網膜へのUV曝露を予防しているが12,13),一方で水晶体の加齢変化を促進させ,種々の変化が生じることがわかっている(表1).UV-Bの眼部曝露量と皮質白内障の罹患率10)は有意に相関しており,またUV-Aの眼部曝露と核白内障の罹患率との関係も報告されている14.16).よって,眼のアンチエイジング目的としてUVカットサングラスやコンタクトレンズの装用,帽子の着用などによる白内障予防は,小児期より推奨する.ただし,眼鏡装用の場合,側方からの入射光をブロックする形状のサングラス,眼鏡使用を推薦する(図2).例:メニィーナ・日本人女性の顔面形状にフィット・上方,耳側からのUVをカット・装用時被曝率:5%未満図2眼部紫外線予防に有効な眼部形状にあったUVカットサングラス上方,側方UVカット効果のあるひさしのついたサングラス装用により,側方よりの紫外線被曝(コロネオ現象)を予防できる.表1UVにより生じる水晶体の変化・キヌレニンによる修飾・細胞のDNA損傷(変異体形成)・酸化ストレスの亢進蛋白,アミノ酸,脂質,DNAの酸化・抗酸化蛋白発現上昇または低下UV量により変化・細胞死,アポトーシス・エピジェネティクス修飾の変化(表現形の変化)OOOOOHHNOOOOOOORRRRNNN5465654656NNNN3’5’5’5’5’3’RRNHHNHNHNUVCPDdipyrimidines(6-4)photoproduct(6-4PP)例:メニィーナ・日本人女性の顔面形状にフィット・上方,耳側からのUVをカット・装用時被曝率:5%未満図2眼部紫外線予防に有効な眼部形状にあったUVカットサングラス上方,側方UVカット効果のあるひさしのついたサングラス装用により,側方よりの紫外線被曝(コロネオ現象)を予防できる.表1UVにより生じる水晶体の変化・キヌレニンによる修飾・細胞のDNA損傷(変異体形成)・酸化ストレスの亢進蛋白,アミノ酸,脂質,DNAの酸化・抗酸化蛋白発現上昇または低下UV量により変化・細胞死,アポトーシス・エピジェネティクス修飾の変化(表現形の変化)OOOOOHHNOOOOOOORRRRNNN5465654656NNNN3’5’5’5’5’3’RRNHHNHNHNUVCPDdipyrimidines(6-4)photoproduct(6-4PP) 1.DNAメチル化1.DNAメチル化メチル化CH3NHN2DNAメチル基転移酵素H3CNH2シトシンN5-メチルシトシンNNOO転写因子活性化X転写因子抑制2.ヒストン修飾遺伝子発現が抑制脱アセチル化TFHDACAcAcAcAcTFTFHATAcAcAcAc抑制状態HDACRNAPIIRNAPIIH-tail活性化H-tailクロマチン弛緩クロマチン凝集DNAクロマチン弛緩遺伝子発現アセチル化HAT:ヒストンアセチル基転移酵素,HDAC:ヒストン脱アセチル化酵素図3エピジェネティクス(epigenetics):2大メカニズムエピジェネティクス制御のおもな役割は,DNAのメチル化とヒストン修飾である.DNAメチル化:DNAメチル基転移酵素(DNAmethyltransferase)の働きにより,シトシン塩基の5位の炭素がメチル化される.ヒストン修飾:ゲノムDNAは,コアヒストンに巻き付いたヌクレオソーム構造をとっている.ヒストンでは,N末端のリシン残基がアセチル化,脱アセチル化され,これが遺伝子発現の制御に関わっている.ヒストンのアセチル化は遺伝子発現を活性化させ,脱アセチル化は遺伝子の発現を抑制していると考えられている.derivedgrowthfactor)という転写因子が,UV-B照射によりヒストン修飾を受けることを報告してきた19).こIII白内障予防とサプリメントのように加齢や酸化ストレスによるエピジェネティクス1.Age.RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)と修飾が,細胞や組織の機能破綻につながり,老化と白内AREDS2研究結果障発症に関与していると考えられる.米国の国立眼研究所が行ったAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)(2001年)の大規模疫学調査にお2.疾病と白内障いて22),高用量のビタミンC,ビタミンE,bカロチン,加齢による抗酸化能低下および脂質異常,高血圧,糖ミネラル(銅,亜鉛)の摂取は,加齢黄斑変性症では進代謝異常は,血管や神経の老化や種々の慢性疾患を促進行抑制効果がみられたが,白内障抑制効果はみられなかするのみならず白内障発症と大きく関係がある.白内障った.しかし,AREDS(Report#21,#32)23,24)においのリスクファクターとなる全身疾患として,冠動脈疾てマルチビタミン・ミネラルの1日の最低限必要量を含患,虚血性心疾患,うっ血性心不全,末梢血管疾患,高有するCentrumRの服用では,5年後に核白内障の進行血圧,高脂血症糖尿病,慢性腎不全がいわれており,ま抑制効果があったことが報告された.また,AREDS2た喫煙者は,非喫煙者より白内障有病率が高いことがわ(2013年)において高容量のビタミンC,ビタミンE,かっている20,21).ルテイン・ゼアキサンチン,ミネラル(銅,亜鉛)の摂取による加齢黄斑変性症のリスク低下が明らかになっ(41)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141463 表2眼のアンチエイジング(白内障予防)法・光老化の防止:紫外線,放射線曝露を避ける→眼部形状にあったUVカットサングラス,コンタクトレンズ,つばの広い帽子装用→放射線曝露する医療従事者,労働者では,眼部の曝露予防も大切・内的老化の予防抗酸化能を高め,白内障リスクのある疾病を予防食事習慣の改善,運動十分な栄養素(抗酸化ビタミン,不足分はサプリメントなど)の摂取主治医との連携- -

日本国内で使える白内障予防薬

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1455.1459,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1455.1459,2014日本国内で使える白内障予防薬CataractPreventionDrugforUseinJapan青瀬雅資*松島博之*はじめに白内障は加齢がおもな原因であるが,さまざまな因子が加わり発症,進行する疾患である.早い人では40歳代から発症し,70,80歳代では,ほぼ100%が罹患する.そのため,日常診療において白内障が原因で眼科に通院している患者の割合は非常に多い.現在,白内障の治療は手術が効果的であるが,手術加療を行うまでの間,または,白内障手術の希望がない,手術はしたいがいろいろな問題で手術加療が行えない患者のために,白内障予防薬を臨床で使用している.現在,白内障に処方する薬は白内障の進行予防することを目的とした薬で,治療薬ではない.つまり,薬剤では混濁した水晶体を透明にすることはできないのが現状である.今回,これら白内障予防薬について,わかりやすく解説する.I水晶体と白内障の予備知識最初に,白内障予防薬を理解するために必要な水晶体と白内障の基本的な予備知識について解説する.水晶体は,角膜,虹彩の後方に存在する透明な組織(中間透光体)で,蛋白質が約33%,水分が約66%,その他炭水化物や脂質などが約1%で構成されている.水晶体は,光の屈折,調節,有害光の防御など,視機能に非常に重要な役割を果たしているが,水晶体を構成している蛋白質の変化,変性により混濁が生じる1).水晶体のおもな蛋白質はクリスタリンで,大きく分けるとa,b,g-クリスタリンの3つに分類される.クリスタリンは水溶性蛋白質であるが,外界からのさまざまなストレスにより不溶性蛋白質に変化し,混濁の原因となる.透明な水晶体の蛋白質は水晶体細胞内に均一に分布しているので,外界からの光が水晶体内を透過する.しかし,加齢,酸化反応,紫外線,糖尿病,薬物などによって蛋白質が変性してゆく.変性が軽度であれば,修復機能が働き,水晶体蛋白質であるa-クリスタリンのシャペロン機能により,変性蛋白質を正常な蛋白質に修復することが可能である.しかし,さらに変性が進むと修復が追いつかなくなり,変性蛋白質が増加し,変性蛋白質同士が凝集することにより,不溶性蛋白質を生じて蛋白質同士が水晶体細胞内に均一に分布することができなくなる(図1).その結果,外界から入ってくる光が凝集した変性蛋白質の塊に反射して光の散乱を起こし,水晶体の混濁すなわち白内障を生じることとなる.II白内障予防薬の基本的作用機序白内障予防薬の作用機序にはいくつか種類がある.基本的な作用機序としては,①活性酸素の抑制作用(抗酸化反応),②還元型グルタチオン減少抑制作用,③SH基保護作用,④キノイド・蛋白質結合抑制作用が挙げられる.実際にはこれらの作用機序が複雑に関係して予防効果を得ている2,3).1.抗酸化作用(活性酸素の抑制作用)(図2)紫外線は水分と反応して活性酸素を作る働きがある.*MasamotoAose&HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕青瀬雅資:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町大字北小林880番獨協医科大学眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(33)1455 透明水晶体白内障水晶体図1水晶体混濁と光の透過性について左が透明水晶体,右が白内障水晶体,黄色い小丸が水晶体蛋白質を示す.透明水晶体では,水晶体内の蛋白質が均一に分布しており,外界からの光が蛋白質間の隙間をスムーズに通過する.白内障水晶体では,蛋白質が変性し,蛋白質同士が結合,凝集塊を形成することにより,外界からの光を散乱し,光の透過性が低下する.紫外線酸素活性酸素蛋白質変性蛋白質凝集酸化型グルタチオン還元型グルタチオン図2活性酸素と還元型グルタチオンの作用について水晶体内に曝露された紫外線は酸素を活性酸素に変え,活性酸素が水晶体内の蛋白質を変性,凝集させる.抗酸化作用のある還元型グルタチオンは,酸化型グルタチオンに変換されることにより,活性酸素の働きを抑制する.SHSHSHSHSHSH正常蛋白質図3SH基破壊による蛋白質のS.S結合蛋白質はSH基の存在により蛋白質同士は結合,凝集は起こらないが,酸化反応などによりSH基が破壊されるとHがはずれ,S-S結合を生じて蛋白質同士が結合,凝集する.SSSSSS蛋白質の凝集 蛋白質キノイド蛋白質ピレノキシンピレノキシンと蛋白質が結合キノイドと蛋白質が結合蛋白質キノイド蛋白質ピレノキシンピレノキシンと蛋白質が結合キノイドと蛋白質が結合キノイドNNOOHOCOOHピレノキシン蛋白質の凝集(白内障)蛋白質は凝集しない図4キノイド説とピレノキシン蛋白質結合抑制作用紫外線などで合成された水晶体中のキノイドは蛋白質と結合して,蛋白質の凝集を起こす.ピレノキシンは蛋白質と結合しやすいため,キノイドよりも先に蛋白質と結合してキノイドが蛋白質と結合しないようする(競合作用).ピレノキシン・蛋白質結合体は凝集しないため白内障が起こりにくくなる.説).ピレノキシンはこのキノイドと似た構造をもつために,水晶体蛋白質がキノイドと結合する前に水晶体蛋白質と結合して(競合作用),蛋白質同士の結合,凝集不溶性蛋白質の形成を抑制し,白内障の進行を予防する.III日本国内で使える白内障予防薬実際に日本国内で使用可能な白内障予防薬と作用機序を紹介する.白内障予防薬には,大きく分けて点眼薬と内服薬がある.点眼薬には,ピレノキシン点眼薬(カタリンR,カリーユニR),グルタチオン(タチオンR)がある(表1).また,内服薬には,チオプロニン(チオラR),唾液腺ホルモン(パロチンR),八味地黄丸(ハチミジオウガン),牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)などがある.作用機序は1つだけでなく,前述の基本的作用機序がいくつか組み合わさって白内障進行を予防していると考えられる(表2).ここでは主要な白内障予防薬について解説する.なお,漢方薬に関しては,作用機序はいまだ不明な点が多いため,除外する.1.ピレノキシン点眼薬(カタリンR,カリーユニR)ピレノキシンは,日本で開発された点眼薬で,現在,世界各国で販売,使用され,わが国でも最も使用されている白内障予防薬である.おもな作用機序は,キノイド・蛋白質結合抑制作用,SH基保護作用であるが,活性酸素の抑制作用もあるといわれている.ピレノキシンは歴史の古い薬剤であり,薬剤に関した研究,臨床報告も非常に古いため,現在の実験デザイン,臨床試験などの基準に比べると科学的根拠に乏しい薬と評価されている4,5).しかし,近年,ピレノキシンに関係する基礎実験や臨床研究が改めて行われ,その有用性が再評価されている6.8),60歳以上の初期皮質白内障では予防効果が報告されていて,現在わが国で使用可能な白内障治療薬のなかでは最も期待できる薬剤であると思われる.2.グルタチオン(タチオンR)グルタチオンは,そのおもな作用機序は,還元型グルタチオン減少抑制作用,それに伴う活性酸素の抑制作用であるが,SH基の保護作用もあるといわれている.この薬剤も,臨床評価報告が古いため,ピレノキシン同様,科学的根拠に乏しい薬と評価されている.今後,現(35)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141457 表1日本で使用可能な白内障予防点眼薬点眼薬名カリーユニR点眼液0.005%カタリンR点眼用0.005%カタリンRK点眼用0.005%タチオンR点眼用2%製薬会社名参天製薬千寿製薬武田薬品千寿製薬武田薬品田辺製薬成分ピレノキシンピレノキシンピレノキシングルタチオン容量5ml15ml15ml5ml用法・用量1回1.2滴を1日3.5回点眼保存方法室温保存冷所遮光保存冷所遮光保存冷所保存表2主な白内障予防薬の薬物作用ピレノキシングルタチオンチオプロニン唾液ホルモン活性酸素の抑制作用○○○×還元型グルタチオン減少抑制作用×○××SH基保護作用○○○○キノイド・蛋白質結合抑制作用○×××在の科学的根拠に基づいた評価を行っていく必要がある.3.唾液腺ホルモン(パロチンR)唾液ホルモンは,適応疾患として初期老人性白内障,進行性指掌角皮症があり,白内障に対してはSH基保護作用があるといわれている.この薬剤も,承認時期が古く,現在の科学的根拠に基づいた再評価がなされていない.また,点眼薬による局所投与と違い,内服であるため,現代の白内障予防薬としてほとんど使用されていない.4.チオプロニン(チオラR)チオプロニンは,おもに肝機能改善薬として使用されている内服薬であるが,白内障予防効果もあるといわれている.その作用機序は,活性酸素の抑制作用とSH基保護作用があるといわれているが,現在の科学的根拠に基づいた報告はない.白内障予防薬としてほとんど使用されていない.おわりに科学の進歩とともに薬や手術も進歩してきているが,同時に薬や手術の効果を評価する方法も進歩してきている.近年,科学的根拠に基づいた医療(evidence-basedmedicine:EBM)による治療方法の評価が一般的であり,白内障予防薬の評価もEBMに基づいた評価が必要である.現在使用している白内障予防薬のほとんどは,近年のEBMに基づいた評価がなされておらず,そのエビデンスが問題視されていたが4,5),ピレノキシンのように再評価が進んできているものもある.今後,白内障予防薬についてさらに現在の科学的根拠に基づいた評価を行っていく必要があるが,白内障の進行は緩慢であるため,薬剤の評価には多くの患者の水晶体を長い年月にわたって観察しなければならず,評価にかかる費用が膨大になるため,実施する企業がない.さらに加齢による変化だけでなく糖尿病,アトピー皮膚炎,ぶどう膜炎など多くの因子が白内障の発生に関与していることや,白内障の種類も核白内障,皮質白内障,後.下白内障,前.下白内障,watercleft,retrodots,vacuoleなどのさまざまな形態の白内障が存在するため9),解析も困難である.1458あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(36) -

老視治療の新しい流れ

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1449.1453,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1449.1453,2014老視治療の新しい流れLensSofteningwithFemto-secondLaserforPresbyopia荒井宏幸*Iまったく新しい老視治療が始まっている現在の老視治療は,主として多焦点眼内レンズによるものが多く,LASIK(laserinsitukeratomileusis)によるモノビジョンや,角膜インレイなどの方法がこれに続いている.どの方法も優れてはいるが,問題となるのは白内障手術にはまだ早い40歳代後半から60歳くらいまでの年齢層に対する治療方針である.この世代に対する治療プロトコールが確立されれば,老視治療は新たな局面を迎えるといっても過言ではないであろう.今回,紹介する老視治療は,その原因とされる水晶体そのものに変化を加える方法であり,今までのような「見せ方」を擬似的に作り出すものではない点が画期的である.現在もレーザーのプログラムを改良している技術ではあるが,すでに臨床応用されており,筆者も見学をしてきた手術であるので,報告を兼ねて述べてみたい.II水晶体の柔軟化―softening―フェムトセカンドレーザーによって水晶体の一部を内部破砕し,水晶体の弾性を回復させるという技術である(図1).この技術の考え方は以前から存在し,2006年にBlumらがその基礎となる考え方を示している1).2008年にはRipkenらがフェムトセカンドレーザーで柔軟化した水晶体が調節力を回復することを報告している2).老視の主要因の一つは水晶体の弾性の低下であり,その原因は個々の水晶体線維の「滑り」が悪くなることに起因しているという考え方がある(図2,3).フェムトセカンドレーザーにより,水晶体の中心部付近を破砕することにより,線維間の滑りを回復させ,結果として水晶体を柔軟化させようとする試みである.初期のフェムトセカンドレーザーのエネルギー制御は現在ほど正確ではなく,OCT(光干渉断層計)をリアルタイムでレーザーとリンクさせる技術もなかったが,白内障手術用のフェムトセカンドレーザーが市販されるに至って,水晶体のみを破砕する技術も現実的に臨床応用が可能になってきたのである.IIILensARフェムトセカンドレーザーシステム最近のトピックスでもある白内障手術用フェムトセカンドレーザーで,臨床使用されている機種は4種類ある.LensAR(LensAR社製)はそのうちの一機種であり,白内障手術に関してのFDA認可を取得している.4機種のうちで最もコンパクトであり,ポータブルな設計になっているため,使用しない際には移動しておくことが可能である(図4).眼表面とのインターフェイスは液体であるため,アプラネーションによる圧平はしない(図5).最も特徴的なのは3次元解析の方法で,他の3機種がspectraldomainOCTにより解析しているのに対して,Lens*HiroyukiArai:みなとみらいアイクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208横浜市西区みなとみらい2-3-5クイーンズタワーC棟8Fみなとみらいアイクリニック0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(27)1449 図1手術翌日の細隙灯顕微鏡写真図2水晶体線維のモデル図水晶体にグリッド状の破砕線が観察できる.(Dr.Harvey水晶体線維の流れと方向性を模式化している.のご厚意による)(Dr.Harveyのご厚意による)図3水晶体線維のシェルモデル水晶体線維を41層に分割し,線維間の「滑り」の方向性を示したシェーマ(文献3より) 図4LensARの外観コンパクトな本体と移動のためのホイールが特徴的である.本体重量は645kgである.図6LensARのシャインプルークカメラ16方向からの取り込みを行い,最大8方向での解析にて3次元の立体構築を行う.図5LensARのpatient.interface角膜は液体面とのみ接触するため圧平はしない.吸引リングの直径は12.7mmと小さい.図7Raytracingによる3次元立体構築シャインプルークカメラにより得られた情報を元に角膜から水晶体.の立体構築を行ったシェーマ. 図8LensARによる水晶体柔軟化手術中の様子手術時間は約3分であり,手術侵襲はきわめて少ないといえる.手術中および手術後の痛みもなく,感染の可能性もきわめて低い.図9手術直後の細隙灯顕微鏡写真ドーナツ状のエアバブルが観察できる.(筆者撮影)図10図1の症例の術後1カ月の細隙灯顕微鏡写真破砕線が確認できる.白内障の発生は認められない.(Dr.Harveyのご厚意による) -

老視の予防および治療法の探索

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1443~1448,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1443~1448,2014老視の予防および治療法の探索ResearchforthePreventionandTreatmentofPresbyopia樋口明弘*坪田一男**はじめにわが国では社会の高齢化が進んでおり,平成26年の厚生労働省の報告では,平成24年における65歳以上の老年人口割合は24.1%となっている.今後も老年人口割合は増大することが予測されており,眼科領域においても,加齢に伴う視機能低下の問題は重要な課題となっている.加齢による視機能低下の例として老視があげられる.老視は水晶体の弾性消失による調節力の低下が原因であり,疾患などによる影響はあるが,誰にでも起こりうる現象である.そのため,社会全体で考えたとき老視の影響は非常に大きなものとなる.筆者らは水晶体弾性変化を中心に老視発症機序を明らかにし,老視予防,治療薬の開発に取り込んでいる.I水晶体ヒト水晶体は直経9mm,厚さ4mm程度の凸レンズ状で,約1,000層の細胞からなる,ほぼ無色透明の組織である.水晶体の成分は,およそ1/3が蛋白質,2/3が水であり,その他1%程度のミネラルを含む,ヒトの中でもっとも蛋白質の多い組織の一つである.主要な蛋白はa,b,およびgの3種類のクリスタリンであり,重量比で1/3~1/2を占めている.a-クリスタリンが最も多く含まれ,シャペロン機能をもつことが知られている.水晶体は,上皮細胞が合成したコラーゲンなどで構成される水晶体.に包まれている.角膜側の前.の下に一層の上皮細胞が存在している.上皮細胞は赤道部まで続き,そこから内部に移動している.水晶体中心部への移動に伴い,核やミトコンドリアなどの細胞小器官は消失し,水晶体線維となっていく1).図1はラット水晶体のヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)写真である.ヒトと同様に核を有する一層の上皮細胞と,核などを失い水晶体線維となった細胞が観察される(図1a,b).また,赤道付近では内部に移行する上皮細胞が散見される(図1c).水晶体の透明性を保つために,水晶体を構成する細胞は規則正しく並んでおり,細胞内器官も消失している.この細胞内器官の消失にはアポトーシスが関与している.水晶体細胞は細胞分裂により新しい細胞に置き換わることはほとんどなく,細胞内器官ももたないため,水晶体の組織修復性はきわめて低く,水晶体蛋白の再生産も起こらない.このため,水晶体蛋白の変性は経年的に蓄積され,クリスタリンの異常なジスルフィド結合の形成,アスパラギン酸のラセミ化などにより,クリスタリンの会合が生じ2),老視,白内障の要因である,水晶体弾性の低下,透明度の減少が引き起こされることになる.II老視診断法老視診断は,現状では視力表などを用いた自覚的検査に頼っており,客観的評価が困難であることが問題とな*AkihiroHiguchi:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター**KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕樋口明弘:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部総合医科学研究センターe-mail:ahiguch@z6.keio.jp0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(21)1443 1444あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(22)このシステムは開発中であるため,老視予防,治療薬の開発のためのツールとして用いることはできない.そのため,現状では水晶体弾性を電子天秤とハイトゲージを組み合わせたシステム(図2)で測定している.III老視モデル動物老視予防,治療薬の開発のためには,老視モデル動物が必須である.ラットやマウスなどの加齢動物を用いることは,研究に必要な数を確保することに多大な労力が必要となる.老視と白内障は,いずれも発症に水晶体蛋っている.筆者らは理化学研究所らとの共同研究により,老視の客観的診断システムを開発中である.このシステムの原理は,水晶体に対してレーザー光を照射して発生する弾性波を測定し,弾性波より老視指標となる水晶体弾性を定量的に算定するものである.この測定系は水晶体弾性を非侵襲的に定量測定することができるため,ヒトだけでなく実験動物に対しても適用することが可能であり,老視予防,治療薬の開発に有用である.abc図1ラット水晶体のヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)写真水晶体(前眼部)の画像(図1a)および高倍率画像(図1b).水晶体(赤道部)の画像(図1c).ヘマトキシリンによって細胞核が,エオジンによって細胞質が染色されている.a図2水晶体弾性測定システムシステムの全体写真(図a).摘出した水晶体を電子天秤上のシャーレに置き,ハイトゲージの先端部を水晶体に接する(図b).天秤およびハイトゲージの目盛りを0に合わせる.ハイトゲージを水晶体の厚みの10%程度動かし,水晶体に負荷をかけ,負荷による電子天秤の数値変化を測定する.変化した電子天秤の値をハイトゲージの数値で割り,水晶体弾性値とした.babc図1ラット水晶体のヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)写真水晶体(前眼部)の画像(図1a)および高倍率画像(図1b).水晶体(赤道部)の画像(図1c).ヘマトキシリンによって細胞核が,エオジンによって細胞質が染色されている.a図2水晶体弾性測定システムシステムの全体写真(図a).摘出した水晶体を電子天秤上のシャーレに置き,ハイトゲージの先端部を水晶体に接する(図b).天秤およびハイトゲージの目盛りを0に合わせる.ハイトゲージを水晶体の厚みの10%程度動かし,水晶体に負荷をかけ,負荷による電子天秤の数値変化を測定する.変化した電子天秤の値をハイトゲージの数値で割り,水晶体弾性値とした.b あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141445(23)ことが必要となった.これまでの研究により,喫煙行為が白内障および老視発症のリスクファクターであることがわかっているため5,6),ラットをタバコ主流煙に対して曝露することによる水晶体弾性への影響を検討した.ラット主流煙曝露系は,タバコ主流煙全身曝露の生体に対する影響を検討白質の変性が関与し,両者の発症には相関関係があるため3,4),比較的容易に入手可能な白内障を伴う糖尿病モデルラットを検討することにした.日本クレアが供給しているSDTラットを用いて,血糖値上昇確認後,正常ラットと水晶体弾性を比較検討したが,差違は認められなかった.このため他の方法を用いてモデルを作製する図3タバコ主流煙曝露システム実験には7~8週齢のSDラット雄を用いた.実験用に作製したチャンバー内にラットの入ったケージを入れ(図a),主流煙をシリンジに吸入し(図b),チャンバー内に注入した(図c).主流煙は1回に300ml注入し,30分後にさらに300ml注入した.注入は1日6回,曝露時間は1日あたり3時間とした.曝露中,ポンプを使用してチャンバー内に新鮮な空気を送った.曝露は12日間連続して実施した.abc非曝露主流煙曝露**■非曝露■主流煙曝露■非曝露■主流煙曝露3.02.52.01.51.00.50.020151050035035DayDayFluoresceinScoreTearVolume(mm)図4タバコ主流煙曝露による影響ラットに対する主流煙曝露処理により,角膜障害および涙液量低下が生じた.これらは経時的に変化し,5日間の曝露で非曝露群に対して有意な差が生じた.有意差検定にはDunnett法を用いた(*:p<0.05,mean±S.D.,n=6).図3タバコ主流煙曝露システム実験には7~8週齢のSDラット雄を用いた.実験用に作製したチャンバー内にラットの入ったケージを入れ(図a),主流煙をシリンジに吸入し(図b),チャンバー内に注入した(図c).主流煙は1回に300ml注入し,30分後にさらに300ml注入した.注入は1日6回,曝露時間は1日あたり3時間とした.曝露中,ポンプを使用してチャンバー内に新鮮な空気を送った.曝露は12日間連続して実施した.abc非曝露主流煙曝露**■非曝露■主流煙曝露■非曝露■主流煙曝露3.02.52.01.51.00.50.020151050035035DayDayFluoresceinScoreTearVolume(mm)図4タバコ主流煙曝露による影響ラットに対する主流煙曝露処理により,角膜障害および涙液量低下が生じた.これらは経時的に変化し,5日間の曝露で非曝露群に対して有意な差が生じた.有意差検定にはDunnett法を用いた(*:p<0.05,mean±S.D.,n=6). 25μm25μm表1主流煙曝露による水晶体遺伝子発現変動GeneCyp1a1Cyp1b1Gstm1Gstm2Gpx1ΔCt非曝露16.51±0.8315.08±1.195.78±0.375.83±0.235.39±0.27主流煙曝露14.30±0.5016.74±1.143.63±1.565.33±0.494.81±0.32発現変動(曝露/非曝露)4.60.34.41.41.5GeneGpx4Hmox1CryaCrygΔCt非曝露4.87±0.185.43±0.77.6.21±0.22.6.16±0.27主流煙曝露4.04±0.294.42±0.53.6.99±0.10.6.96±0.08発現変動(曝露/非曝露)1.82.01.71.7主流煙曝露処理後,水晶体よりRNAを抽出し,TaqManプローブを用いたリアルタイムRT-PCR法により,遺伝子発現解析を実施した.各サンプルおよび内部標準であるグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)のCt値を測定し,ΔΔCt法を用いて発現変動を解析した.発現変動比は非曝露時の発現量を1とした(mean±S.D.,n=6).ΔCt値は小さいほど発現量が大きい.ΔΔCt法の詳細についてはメーカーサイト参照.https://www.lifetechnologies.com/content/dam/LifeTech/migration/jp/filelibrary/pdf.par.98970.file.dat/sds077a1303ob-qpcr-handbook-hb-68.pdfCyp1a1:CytochromeP4501A1,Cyp1b1:CytochromeP4501b1,Gstm1:GlutathioneS-transferase(GST)μ1,Gstm2:GlutathioneS-transferaseμ2,Gpx1:Glutathioneperoxidase-1,Gpx4:Glutathioneperoxidase-4,Hmox1:Hemeoxygenase-1,Crya:a-Crystallin,Cryg:g-Crystallin.するために開発された実験系で(図3),筆者らの研究により角膜障害および涙液量低下を伴うドライアイを発症することが示されている(図4)7).このモデルでは角膜上皮および涙腺における酸化ストレス上昇が観察され,酸化ストレスが障害に関与していると考えられる(図5)7).白内障発症における水晶体蛋白変性も酸化ストレ非曝露主流煙曝露CYP1A1角膜上皮8-OHdG図5角膜免疫染色写真主流煙曝露処理後,眼球を摘出し,凍結切片を作製した.抗シトクロムP4501A1(CYP1A1)抗体あるいは抗8-OHdG抗体を用いて免疫染色を行った.喫煙により肺などで発現が上昇するCYP1A1の発現上昇が角膜においても確認できた(上段).酸化ストレスマーカーである8-OHdGの上昇が認められた(下段).スと関連しているため8),主流煙曝露処理による水晶体の硬化が期待できた.実際に曝露処理を行って水晶体弾性を測定すると,1週間では影響を与えなかったが,2週間以上の曝露処理を行うと弾性の低下が確認できた.次に主流煙曝露の水晶体遺伝子発現に対する影響をTaqManリアルタイムRT-PCR法を用いて解析した(表1).通常の水晶体では,解毒代謝に関与するCYPは発現量が低いが,抱合反応に関与するGSTの発現は抗酸化に関与するGPxやHmox1と同レベルの発現が認められた.これらに対して,クリスタリンは強く発現していることがわかった.主流煙曝露処理により,角膜と同様にCYP1A1発現が上昇し,主流煙が影響していることが確認できた.同様にGstm1も上昇しており,主流煙曝露に応答していることがわかった.この他に酸化ストレスに応答するHmox1の発現が上昇していた.IV老視予防,治療薬の開発上記の水晶体弾性低下老視モデルラットを用いて,老視予防,治療薬の探索を開始した.これまでの研究から蛋白変性を抑制するもの,抗酸化作用をもつものなどがターゲットとなり得ると予測し,いくつかの化合物の点1446あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(24) OHOHOHHOHOHOCH3CH3OHResveratrolDimethylresveratrolDimethylpiceatannolOHOHCH3CH3OH(R)(DR)(DHR)図6レスベラトロールとその誘導体==== 1448あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(26)8)CaiS1,FujiiN,SaitoTetal:SimultaneousultravioletB-inducedphoto-oxidationoftryptophan/tyrosineandracemizationofneighboringaspartylresiduesinpeptides.FreeRadicBiolMed65:1037-1046,2013nese:TheBeijingEyeStudy.ActaOphthalmol89:e210-e212,20117)HiguchiA,ItoK,DogruMeta:Cornealdamageandlac-rimalglandsdysfunctioninasmokingratmodel.FreeRadicBiolMed51:2210-2216,2011

調節メカニズムのサイエンス

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1437~1441,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1437~1441,2014調節メカニズムのサイエンスScienceoftheAccommodationMechanism中島伸子*中村芳子**はじめに日常臨床において調節障害が主因となる症状とは頻繁に遭遇する.老視による視力低下,テクノストレス眼症やむちうち損傷などの外傷後にみられる眼疲労や眼精疲労,全身の自律神経失調を伴う眼不定愁訴などがあげられる.これらの症状や病状は多岐にわたり診断や治療に苦慮することも多い.正常な調節状態を理解し,各症例の調節状態を把握することが診断に不可欠であり,治療の近道であることはいうまでもない.本稿では調節のメカニズムについて述べ,その検査方法と測定例を提示するとともに,新しい検査機器を紹介する.I調節のメカニズム調節とは見ている対象の距離に応じて焦点を合わせるために屈折度を変化させることをいい,その神経支配は図1のごとく自律神経系によると考えられる.調節は近方調節(positiveaccommodation)と遠方調節(negativeaccommodation)のバランスにより成り立っており,前者には副交感神経系が後者には交感神経系が関与していると考えられる1).正常眼の場合,刺激のない状態では調節安静位で屈折度は安定している.この屈折度は調節遠点よりはやや近方に位置する.刺激のない状態としては暗視野や一様視野などが考えられるが,近方調節の働かない調節弛緩状態(雲霧状態)でも類似の状態になると考えられてい【正常時】遠方調節(交感神経系)調節遠点調節安静位近方調節(副交感神経系)調節近点図1調節と自律神経る1~3).一方,近方視標を見ている状態では副交感神経系が優位に働き視標の距離に応じた屈折度で安定している.これら調節機能の要素としては絶対値としての調節力の他に調節緊張や弛緩の速度,屈折度の安定性があり,その障害が種々の症状の一因となっている.II検査方法石原式近点計,アコモドポリレコーダ,アコモドメータなどの従来よりの検査機器は,近点や遠点や調節力などの調節機能を測定する自覚的検査である.これら自覚的検査法には限界があり他覚的検査法が切望されるなか,鵜飼ら4)が発表した赤外線オプトメータは他覚的ではないが屈折度を連続的に測定することが可能な画期的な検査機械であった(図2).赤外線オプトメータでは,内部視標を変化させることによりさまざまな条件下での屈折度の状態を連続的に測定することが可能であった.暗視野(darkfocusofaccommodation)や雲霧下,視標追随時などの屈折度を*NobukoNakajima:中島眼科クリニック**YoshikoNakamura:オリックス株式会社グループ健康推進室〔別刷請求先〕中島伸子:〒560-0002大阪府豊中市緑丘1-4-11中島眼科クリニック0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(15)1437 図2赤外線オプトメータ図3ニデック社製自覚屈折測定機能付きレフケラトメーター1412108642010203040506070年齢(歳)図4自覚的調節力の加齢変化〔眼科学体系(限定分冊版)加齢と眼,中山書店より〕連続測定し調節波形としてとらえることで調節機能を評価することができた.しかし,外部にコンピュータを必要とした大型機械のため,スペースの問題,操作の煩雑性や評価のむずかしさもあり,一般病院には普及せず現在では入手困難である.近年,数社より調節機能検査も可能なオートレフラクトメータが発売されているが,ニデック社製自覚屈折測調節力(D)暗視野下瞳孔面積調節雲霧下(+2D負荷)図5調節安静位の正常波形赤外線オプトメータにて測定.暗視野下では屈折度は調節安静位で安定している.30歳代.図6雲霧下での正常調節波形赤外線オプトメータにて測定.+2Dの負荷を行った後,近方へ視標を変化させ測定を行っている.20歳代.1438あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(16) 瞳孔径調節視標瞳孔径調節視標図8等速度応答の正常波形赤外線オプトメータにて測定.雲霧下で屈折度は安定してお図7近方固視時の正常波形り,近方負荷時も視標に安定して追随していることがわかる.ARK-1にて測定..6D負荷の視標を固視させた際の調節波20歳代.形.視標よりやや遠方よりの屈折度で安定している.20歳代.図9等速度応答の正常波形ARK-1にて測定.雲霧下では屈折度は安定しており,近方負荷時も視標に安定して追随していることがわかる.20歳代.縦線は瞬目による影響. 図10調節障害(老視)の異常波形左はARK-1,右は赤外線オプトメータで測定.両者とも屈折度は安定しているが調節反応は認めない.左は50歳代,右は40歳代.図11調節麻痺(眼精疲労)の異常波形図12調節痙攣の異常波形赤外線オプトメータにて測定.近方負荷時の調節反応量の低下赤外線オプトメータによる測定.近方負荷に対して追随すると雲霧下での調節変動量の増大が認められ屈折度は安定しなが,測定中常に屈折度は近方へ偏位し調節変動量は増大していい.20歳代.る.20歳代. 【正常時】【調節麻痺時】【調節痙攣時】図13調節障害と自律神経正常時では自律神経系の平衡が保たれており調節安静位は安定しているが,調節麻痺時や調節痙攣時では自律神経系は不均衡となり調節安静位は不安定になっている.調節安静位遠方調節(交感神経系)近方調節(副交感神経系)遠方調節(交感神経系)近方調節(副交感神経系)遠方調節(交感神経系)近方調節(副交感神経系)

水晶体の光学特性

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1431.1436,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1431.1436,2014水晶体の光学特性CrystallineLensOpticalProperties川守田拓志*はじめに水晶体は眼屈折の約3分の1を担い,近見視に最も大きく寄与している.また,眼内に入射する光線はすべて水晶体を通過する.それだけに光学的な役割は非重要に大きい.加齢変化や疾患により,収差*1や散乱*2特性が変化し,光学特性が低下することは視覚の質を大きく低下させることにつながる.水晶体は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)と比べても遜色のない光学特性を有し,周辺網膜の結像性の向上に寄与している1).また,遠方から近方まで効率的に明視するための形状や屈折率分布を有しており,調べれば調べるほど奥深い組織である.さらに,近年ブルーライト*3が問題になっているため,このことも含めた水晶体の光学特性についてまとめる2).I水晶体の形状と屈折率代表的なGullstrand模型眼によると,調節前の水晶体の前面の曲率半径,後面の曲率半径,厚みは各々10.0mm,.6.0mm,3.6mmである.また,調節後は5.3mm,.5.3mm,4.0mmとなる(図1)3).このモデルにおいて,水晶体の屈折力は調節前19.1Dから調節後33.1Dまで変化し,前面の曲率変化が大きいことがわかる.また,水晶体は核が存在することで水晶体形状が変化しやすくなることがわかっている(清水公也.第66回日本臨床眼科学会総会特別講演).さらに,シャインプルーク(Scheimpflug)カメラ*4を用いてより詳細に水晶体形状を計測した報告も存在し,Dubbelmanらによると,球面収差*5を減らすように非球面形状*6となっており,その係数であるconicconstant(k)は調節とともにマイナス側へ変化する4).屈折率*7は核が存在する中心で高く,周辺では徐々に低くなっていく屈折率分布構造(gradientrefractiveindex:GRIN)をしている5)*8.これは,水晶体に負の球面収差を持たせることで角膜の正の球面収差を低減させる機能的な役割がある(図2a).さらに,近見視時に瞳孔が小さくなったとき,高屈折力の領域に光線が通過し,屈折力が高まるような構造となっている(図2b).ヒトの眼は偏心光学系であり,カメラのようにレンズ系が一直線に並んでいない.Schaeffelら6)によると,水晶体は耳側への水平偏心が0.13±0.15mm,水平傾斜は4.62±3.18degであり,垂直の偏心は瞳孔中心から下方に0.32±0.07mm,垂直傾斜は-1.70±0.49degとされる.この偏心光学系は,単に重力などによる力学的な作用や解剖学的構造の結果にすぎないとする説がある一方で,遠方から近方まで効率よく見えるようにしたり,明視域の拡大や調節を手がかりに利用する適度な収差を発生させたりするという機能的な役割を有する可能性がある.水晶体形状の加齢変化については,既報のモデル4,7.9)を基に図3に示した.加齢とともに前面曲率半径が大きくスティープ化し,後面も若干スティープ化する.核の前後面の曲率半径はほとんど変わらない.水晶体全厚は*TakushiKawamorita:北里大学医療衛生学視覚機能療法学〔別刷請求先〕川守田拓志:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(9)1431 均質モデル球面収差正屈折率分布型モデル球面収差負図1Gullstrand模型眼における水晶体の構成左側が調節前で右側が調節後である.光学設計ソフトaZemaxOpticStadio14(RadiantZEMAX社)にて作成した.15.0水晶体前面曲率半径10.0水晶体核前面曲率半径5.00.0水晶体核後面曲率半径-5.0水晶体後面曲率半径-10.020304050607080年齢(歳)図3加齢に伴う水晶体の形状変化曲率半径(mm)b図2均質モデルと屈折率分布型モデルの球面収差aは各々のモデルにおける球面収差を示し,bは近見縮瞳時の光線の概念図を示している. 網膜側-0.20角膜側-0.25-2-1012Primarywavesphericalaberration(wavelengths)0246810-2024水晶体Lenspower22DShapefactor-0.30-0.35-0.4020406080Lenspower10D年齢(歳)図5加齢に伴うShapefactorの変化ShapefactorXCorn/HOInt/HOOPD/HO図4IOL形状と波面球面収差の関係(文献12より改変引用)この図では,光軸は左から右向きを正の向きにしている.左側に凸の場合を正の曲率半径,右側に凸の場合を負の曲率半径と定義した.AxialmapInternalOPD図6水晶体による角膜乱視の補償OPDScanII(Nidek社)より計測した(32歳,男性).100角膜+房水C400.23-0.230.00C3-1-0.430.32-0.11図7水晶体による角膜高次収差の補償OPDScanII(Nidek社)より計測した(33歳,男性).解析径6.0mm.Corn/HO:Cornealhigherorderaberration,Int/HO:internalhigherorderaberration,OPD/HO:Opticalpassdifferencehigherorderaberration.C40:球面収差,C3.1:垂直コマ収差.過後の透過率分布である15).水晶体は紫外線をおもに吸収し,可視光のなかではエネルギーが比較的高い380020406080透過率(%)+水晶体+硝子体02004006008001,0001,2001,400波長(nm)図8眼の中間透光体における波長と積算光線透過率(文献15より改変引用)から400nmの透過率が低くなる.また,加齢とともにブルーライトの透過率は特に減少する.近年,このブルーライトをカットするべきか否か話題になっている.なぜこのようにブルーライトがカットされやすくなるかは議論があり,網膜障害を起こさないようバリア機能としての役割があるという説がある.ただし,ブルーライトはサーカディアンリズムの維持に必要で2),血圧コントロール16)や睡眠,心理的沈静化などに関与していることから単純にすべて取り除けばよいという問題ではなさ不正乱視の増加,後述する疾患などによるものと思われそうである.光学的観点から考えると,ブルーライトはる.散乱しやすい光であり3),取り除けば色収差は減少する光線の透過率に関して,図8は積算した中間透光体通が,メラノプシン含有網膜神経節細胞(melanopsincon(11)あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141433 1434あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(12)折率差が大きく上昇するために散乱が上昇する18).また,Morgani白内障のような核偏位が起こるような場合は,コマ収差が大きく変化する19)(図10).その他にもMarfan症候群などの水晶体偏位をきたす疾患では,乱視成分やコマ収差を増加させ,円錐水晶体は高次収差を増加させる.また,瞳孔領内の水晶体浅層に発生するwatercleft*10は遠視化の原因になる20)(図11).このように水晶体疾患は屈折や高次収差,散乱が変化しやすく,定量評価することが重要と思われる.tainingretinalganglioncell:mRGC)を刺激し,持続手的な縮瞳を誘発することから,収差や明視域制御にも関与している可能性がある.いまだ不明な点も多く,多くの領域に関与していることから,今後もさまざまな角度からの研究が必要と思われる.III水晶体の疾患と光学特性最も罹患頻度が高く,かつ光学特性の低下をきたす水晶体の疾患は白内障である.一般に,白内障は加齢に伴う屈折率低下とは逆で屈折率が上昇するが,核と皮質の変化で大きくその影響が異なる.核白内障は近視化し,中心光線の進行が遅くなるため波面が遅れ,球面収差が負の方向にシフトする17)(図9).したがって,収差量を示すrootmeansquare(RMS)値は上昇する.また,皮質白内障では遠視化し,球面収差が正の方向にシフトする17).また,前.下や後.下白内障は屈折変化や収差の大きな変化は起こりにくいものの,房水と水晶体との屈Higherorderaberrations図9核白内障における眼球全体の高次収差マップとZernike係数KR-9000PW(Topcon社)より計測した(46歳,男性).偏心なし下方偏心1.0mmComay-1.29μmComay0.00μm図10Morgani白内障の水晶体核下方偏心に伴うコマ収差変化と網膜像シミュレーション光学設計ソフトZemaxOpticStadio14(RadiantZEMAX社)にて計算を行った.小数視力1.0視標の拡大図.S.E.+1.04D図11水晶体watercleftと屈折値変化シミュレーション光学設計ソフトCodeV10.6(Synopsis社)および照明解析ソフトLihtTools8.1(Synopsis社)にて計算を行った.左上の図は水晶体浅層にwatercleftを擬似的に作成した図を示し,右下の図は光線の挙動を示している.光学シミュレーション上では房水と同じ設定にしてある.Higherorderaberrations図9核白内障における眼球全体の高次収差マップとZernike係数KR-9000PW(Topcon社)より計測した(46歳,男性).偏心なし下方偏心1.0mmComay-1.29μmComay0.00μm図10Morgani白内障の水晶体核下方偏心に伴うコマ収差変化と網膜像シミュレーション光学設計ソフトZemaxOpticStadio14(RadiantZEMAX社)にて計算を行った.小数視力1.0視標の拡大図.S.E.+1.04D図11水晶体watercleftと屈折値変化シミュレーション光学設計ソフトCodeV10.6(Synopsis社)および照明解析ソフトLihtTools8.1(Synopsis社)にて計算を行った.左上の図は水晶体浅層にwatercleftを擬似的に作成した図を示し,右下の図は光線の挙動を示している.光学シミュレーション上では房水と同じ設定にしてある. あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141435(13)9)KoretzJF,CookCA,KaufmanPL:Agingofthehumanlens:changesinlensshapeatzero-diopteraccommoda-tion.JOptSocAmAOptImageSciVis18:265-272,200110)AtchisonDA,SmithG:OpticsoftheHumanEye.p213-220,Butterworth-Heinemann,Edinburgh,UK,200211)HermansEA,DubbelmanM,vanderHeijdeGLetal:Changeintheaccommodativeforceonthelensofthehumaneyewithage.VisionRes48:119-126,200812)AtchisonDA:Opticaldesignofintraocularlenses.I.On-axisperformance.OptomVisSci66:492-506,198913)KellyJE,MihashiT,HowlandHC:Compensationofcor-nealhorizontal/verticalastigmatism,lateralcoma,andsphericalaberrationbyinternalopticsoftheeye.JVis4:262-271,200414)ArtalP,BerrioE,GuiraoAetal:Contributionofthecor-neaandinternalsurfacestothechangeofocularaberra-tionswithage.JOptSocAmAOptImageSciVis19:137-143,2002おわりに水晶体の形状や屈折率,調節時の変化はおそらくラフに構成されているわけでなく,長い年月をかけた進化の過程で形成された機能的役割を有する組織と思われる.白内障が進行した場合,IOLに置き換えられ,最近では多くの設計コンセプトを持つレンズが登場している.具体的には,非球面IOL,着色IOL,トーリックIOL,多焦点IOL,調節性IOLなどであり,術後の球面収差量や乱視量,分光分布をどのようにすればいいかという議論がある.この点に関しては,ヒトの水晶体を見習って作製することが一つの解になるのかもしれない.本稿では水晶体を光学特性という観点からのみまとめたが,生化学や水晶体周囲を流れる房水の流体力学に与える影響などの観点からも非常によくできた組織と思われる.最近では,調節関連の研究報告は決して多くはないが,光学特性だけに限定してみてもIOLや眼鏡,屈折矯正手術などの屈折矯正分野における諸問題点を解決するヒントが隠れている可能性が高く,今後も水晶体に着目した研究は重要と思われる.文献1)JaekenB,MirabetS,MarinJMetal:Comparisonoftheopticalimagequalityintheperipheryofphakicandpseu-dophakiceyes.InvestOphthalmolVisSci54:3594-3599,20132)坪田一男:〔眼とブルーライト,体内時計〕ブルーライト問題概論.あたらしい眼科31:165-168,20143)魚里博,平井宏明,福原潤ほか:眼光学の基礎.眼光学の基礎(西信元嗣編),金原出版,20014)DubbelmanM,VanderHeijdeGL,WeeberHA:Changeinshapeoftheaginghumancrystallinelenswithaccom-modation.VisionRes45:117-132,20055)LiouHL,BrennanNA:Anatomicallyaccurate,finitemodeleyeforopticalmodeling.JOptSocAmAOptImageSciVis14:1684-1695,19976)SchaeffelF:Binocularlenstiltanddecentrationmeasure-mentsinhealthysubjectswithphakiceyes.InvestOph-thalmolVisSci49:2216-2222,20087)DubbelmanM,VanderHeijdeGL:Theshapeoftheaginghumanlens:curvature,equivalentrefractiveindexandthelensparadox.VisionRes41:1867-1877,20018)DubbelmanM,VanderHeijdeGL,WeeberHAetal:Changesintheinternalstructureofthehumancrystallinelenswithageandaccommodation.VisionRes43:2363-2375,2003■用語解説■*1収差:レンズを通る光線が一点に集まらず不完全な像ができること.*2散乱:光線が媒質表面や異種媒質などと衝突や相互作用したとき,光線の進行方向や空間的分布に変化をもたらすこと*3ブルーライト:波長380.495nmの可視光線*4シャインプルークカメラ:「被写体面と光軸が直交していない状態で,被写体面,レンズ主面,像面の3者を延長した面が1カ所に交われば,像面全体でピントが合う」というシャインプルークの原理を用いたカメラ.歪みの補正は必要であるが,角膜から水晶体まで比較的深度の高い画像が得られる.*5球面収差:光軸に対し種々の平行光線束が光学系に入射したとき,その対応した像点が一点に結像しない現象.*6非球面形状:収差を減らすため,球面から面形状をわずかに変形された状態で,球面でないことを指す.楕円面や放物面などで表される.*7屈折率:Shapefactorは,(C1+C2)/(C1-C2)で表される.C1:レンズ前面曲率半径,C2:レンズ後面曲率半径*8屈折率分布構造レンズ:媒質内である空間座標関数で表される屈折率が連続的に変化するレンズ.勾配屈折率レンズ,グリンレンズともよばれる.*9コマ収差:光軸外の1点から出た光が像面において一点に収束しない収差.*10watercleft:水晶体皮質浅層にあるY字縫合に沿って皮質層が分離し隙間が生じた状態.■用語解説■*1収差:レンズを通る光線が一点に集まらず不完全な像ができること.*2散乱:光線が媒質表面や異種媒質などと衝突や相互作用したとき,光線の進行方向や空間的分布に変化をもたらすこと*3ブルーライト:波長380.495nmの可視光線*4シャインプルークカメラ:「被写体面と光軸が直交していない状態で,被写体面,レンズ主面,像面の3者を延長した面が1カ所に交われば,像面全体でピントが合う」というシャインプルークの原理を用いたカメラ.歪みの補正は必要であるが,角膜から水晶体まで比較的深度の高い画像が得られる.*5球面収差:光軸に対し種々の平行光線束が光学系に入射したとき,その対応した像点が一点に結像しない現象.*6非球面形状:収差を減らすため,球面から面形状をわずかに変形された状態で,球面でないことを指す.楕円面や放物面などで表される.*7屈折率:Shapefactorは,(C1+C2)/(C1-C2)で表される.C1:レンズ前面曲率半径,C2:レンズ後面曲率半径*8屈折率分布構造レンズ:媒質内である空間座標関数で表される屈折率が連続的に変化するレンズ.勾配屈折率レンズ,グリンレンズともよばれる.*9コマ収差:光軸外の1点から出た光が像面において一点に収束しない収差.*10watercleft:水晶体皮質浅層にあるY字縫合に沿って皮質層が分離し隙間が生じた状態. 1436あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(14)134:1-9,200218)ArtalP,BenitoA,PerezGMetal:Anobjectivescatterindexbasedondouble-passretinalimagesofapointsourcetoclassifycataracts.PLoSOne6:e16823,201119)川守田拓志:〔白内障症例検討会〕核白内障.日本白内障学会誌26:38-40,201420)初坂奈津子,三田哲大,渋谷恵理ほか:皮質白内障眼とWatercleftsの遠視化への影響.日本白内障学会誌24:70,201215)SchwiegerlingJ:Fieldguidetovisualandophthalmicoptics.In:FieldGuidetoVisualandOphthalmicOptics(edbyGreivenkampJE),オプトロニクス,201016)IchikawaK:Changesinbloodpressureandsleepdura-tioninpatientswithbluelight-blocking/yellow-tintedintraocularlens(CHUKYOstudy).HypertensRes37:659-664,201417)KurodaT,FujikadoT,MaedaNetal:Wavefrontanalysisineyeswithnuclearorcorticalcataract.AmJOphthalmol

水晶体の細胞生物学:なぜ透明なのか?

2014年10月31日 金曜日

特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1425.1429,2014特集●水晶体を科学するあたらしい眼科31(10):1425.1429,2014水晶体の細胞生物学:なぜ透明なのか?CellBiologyoftheCrystallineLens山本直樹*はじめに人体は,1kg当たり約1兆個の細胞で構成されている.そして人体には大きく分けて体細胞と生殖細胞があり,そのうち体細胞はおよそ200種類以上あるといわれている.組織・器官はさまざまな種類の細胞によって構成されているが,細胞内部に存在する細胞内小器官には,大きな違いはほとんどない.角膜や水晶体は,多くの細胞の集合体であるにもかかわらず,眼球の奥に存在する網膜まで光を届けるために透明性が維持されており,人体のなかでも特殊な役割を果たしている組織・器官といえる.本稿では物を見るために必要な水晶体(crystallinelens)の“水晶のように澄んだ透明性(crystal)”と“ピント調整(lens)”について,細胞を中心とした基礎的な内容を解説する.I水晶体の構造水晶体は眼球の中心より角膜側にある楕円球体の構造で,周囲をtype-Ⅳcollagenを主成分とする水晶体.(カプセル)で包まれている(図1).水晶体.の角膜側を前.,網膜側を後.とよび,前.の中心部を前極部,後.の中心部を後極部という.水晶体で最大径の円周を赤道部とよび,水晶体の前極部から赤道部にいたる水晶体.の内側には,水晶体上皮細胞が単層で並んでいる.水晶体上皮細胞は,水晶体赤道部よりやや後極寄りの領域(弯曲部)で水晶体.から離れ,水晶体の前極部と後極部に向かって伸長し水晶体線維細胞に分化する(図2).水晶体線維細胞は水晶体の中心に向かってさらに分化し,細胞核,ミトコンドリア,ゴルジ体などの細胞内小器官が減少・消失し,やがて水晶体線維となって水晶体核を取り囲んでいく.水晶体は水晶体上皮細胞,水晶体線維細胞,そして水晶体線維による数千ともいわれる層が秩序正しく並んで形成されており,水晶体の断面は“たまねぎ”に似ている.水晶体の中心に存在する水晶体核は,大きく2つの領域で構成されている.水晶体核の中心,つまり水晶体の中心に存在する領域は,水晶体の発生の段階で形成された水晶体核(胎生核)である.そして,その胎生核の周囲を取り囲むように生後に形成された水晶体線維が成人核となって水晶体核を形成していく.この胎生核を構成している部位は細胞内小器官をもっておらず,胎児期に形成された細胞の一部が排除されることなく,一生涯にわたって存在したまま長期間透明性を維持する.逆に言えば,細胞内小器官が存在しないため,長期にわたって水晶体の中心で存在できるのであろう.II水晶体の透明性:水晶体の成り立ち水晶体の透明性には,水晶体を構成している細胞の並び方が重要な役割を果たしている.水晶体は,水晶体プラコードとよばれる領域から発生する(図3).網膜の原基となる眼胞が眼杯に分化するのに伴い,水晶体プラコ*NaokiYamamoto:藤田保健衛生大学共同利用研究施設分子生物学〔別刷請求先〕山本直樹:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学共同利用研究施設分子生物学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(3)1425 1426あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(4)んで細胞核が消失して水晶体線維(図4),水晶体核(胎生核)となる.生後も水晶体の成長は続いており,マウスの水晶体は生後1日から2週間程度は著しく大きくなっていくが,その後の水晶体の大きさの変化はゆるやかとなる(図5,6).水晶体の発生・形成期において,眼杯側の細胞が後.側から前.側に向かって伸長していく(図3)のは,その後の水晶体を形成する細胞配列の“方向性”を決定する最も大切な細胞挙動であり,水晶体の特徴である.この細胞配列の“方向性”によってその後に増殖してくる細胞が整然と配列し,水晶体の前.側と後.側の極性(前極,後極)を形成していく.この規則正しく細胞が配列していることで,水晶体の外から入った光が散乱・反射することなく水晶体を透過することができるため,水晶体は“透明”にみえるのであろう.III水晶体の透明性:水晶体を構成する細胞や線維水晶体が“透明”に見えるもう一つの理由は,水晶体を構成している大部分の水晶体線維の内部構造である.生命の設計図となるDNAを格納している細胞核,細胞の活動エネルギーなどを作るために必要な細胞質に存在するさまざまな細胞内小器官が細胞に存在すると,細胞の中を光が進むときにそれらに光が当たって反射や屈折が起こり,光が直進できなくなるため細胞は濁って見えードは眼杯の中に陥没するような形でくぼんで,最終的には袋状(胞状)となり,水晶体の原基となる水晶体胞が形成される.形成された水晶体胞の角膜側に並んでいる細胞は,増殖し続けながら成長して水晶体上皮細胞となる.一方,水晶体胞の眼杯側の細胞は,眼杯からの因子の影響を受けて細胞増殖が停止し,前.側に向かって伸長しながら水晶体線維細胞に分化し,さらに分化が進前極部後極部赤道部前.水晶体.(カプセル)水晶体上皮細胞水晶体線維細胞水晶体線維弯曲部水晶体核(胎児核)増殖帯水晶体核(成人核)皮質水晶体核(胎児核)角膜網膜視神経【ヒト水晶体組織】【マウス眼球標本】【水晶体模式図】後.図1水晶体の構造ABC図2ヒトの水晶体ヒト水晶体は透明ではなく黄色味を帯びている.この黄色味によって紫外線などの短波長を吸収するため,網膜を保護している(A).水晶体前.側の水晶体.の内側には,1層の水晶体上皮細胞が並んでいる(B).水晶体赤道部よりもやや後.側の弯曲部で水晶体上皮細胞は水晶体.から離れて水晶体線維細胞となり,前極部と後極部に向かって伸長する(C).前極部後極部赤道部前.水晶体.(カプセル)水晶体上皮細胞水晶体線維細胞水晶体線維弯曲部水晶体核(胎児核)増殖帯水晶体核(成人核)皮質水晶体核(胎児核)角膜網膜視神経【ヒト水晶体組織】【マウス眼球標本】【水晶体模式図】後.図1水晶体の構造ABC図2ヒトの水晶体ヒト水晶体は透明ではなく黄色味を帯びている.この黄色味によって紫外線などの短波長を吸収するため,網膜を保護している(A).水晶体前.側の水晶体.の内側には,1層の水晶体上皮細胞が並んでいる(B).水晶体赤道部よりもやや後.側の弯曲部で水晶体上皮細胞は水晶体.から離れて水晶体線維細胞となり,前極部と後極部に向かって伸長する(C). あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141427(5)とでZinn小帯がゆるみ,水晶体がもっている元々の厚みに戻ることでピントを合わせる(図7).加齢に伴い水晶体は固くなるため,近くをみるのにピントが合うまでに時間がかかる,あるいは近くがみえにくいという老視,いわゆる老眼の症状が現れてくる.VI細胞配列と透明性の関係さまざまな原因によって水晶体に入った光の反射や屈折がおこるようになると,水晶体は光を透過できなくなり混濁して見えるようになる,つまり白内障である.これは加齢に伴い,水晶体の蛋白質中のアミノ酸残基のさまざまな構造変化,蛋白質の重合化,細胞の配列の変化る.水晶体の中心部分を構成している水晶体線維や水晶体核には,こうした細胞内小器官がほとんど存在しないため,水晶体に入った光が散乱・反射することなく透過することができる.この特殊な細胞や線維の内部構造も水晶体が“透明”に見えるもう一つの理由であろう.IV水晶体の透明性:水晶体を構成する水分と蛋白質水晶体は水分66%,蛋白質33%,その他の成分1%から構成されている親水性の高い組織・器官である.水晶体の透明性は,含水量を調整するアクアポリン(水チャネル蛋白質)と水晶体蛋白質の大部分を占めるクリスタリン蛋白質によって維持されている.なお,ヒトの水晶体は黄色味を帯びていて(図2A),角膜を透過した紫外線(UVB)などが水晶体によって吸収されるため,網膜まで紫外線を到達させないためのフィルターの役目も果たしている.V水晶体によるピント調整水晶体を形成している細胞の配列は,透明性を維持するとともにピントを合わせるために水晶体の形が変化するのに適した配列であるといえる.中心に楕円体の水晶体核が存在し,その周囲を水晶体線維や水晶体線維細胞が水晶体の前極部と後極部を中心として弓状に配列しているため,柔軟に水晶体の厚みを変化させることができる.遠くをみるためには毛様体筋がゆるむことでZinn小帯によって水晶体は引っ張られて薄くなり,ピントを合わせる.逆に近くをみるためには毛様体筋が収縮するこ眼胞水晶体プラコード眼杯眼杯水晶体胞水晶体胞眼杯細胞の伸長角膜水晶体上皮細胞水晶体線維細胞眼杯図3水晶体の発生(文献1より改変引用)図4ブタの水晶体線維ブタ水晶体の皮質を走査型電子顕微鏡で観察すると,緻密な水晶体線維がみられる.眼胞水晶体プラコード眼杯眼杯水晶体胞水晶体胞眼杯細胞の伸長角膜水晶体上皮細胞水晶体線維細胞眼杯図3水晶体の発生(文献1より改変引用)図4ブタの水晶体線維ブタ水晶体の皮質を走査型電子顕微鏡で観察すると,緻密な水晶体線維がみられる. 1428あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(6)しておこる混濁を後発白内障という.後発白内障のなかで水晶体のような細胞の配列が観察される現象として,Soemmeringringがある.このSoemmeringringが形成されている領域は,肉眼的には混濁して見える(図など水晶体の秩序が乱れることでおこるが,その原因はさまざまである.ここでは細胞の配列の変化による透明性について具体例をあげて解説する.白内障術後に水晶体.の中に残存した細胞などが増殖生後1日生後7日生後12日生後16日図5生後のマウス水晶体の成長生後2週間ごろまでのマウス水晶体は身体の成長に合わせて著しく大きくなっていく.ABC弯曲部図6マウス眼球と水晶体マウスはヒトと比べて眼球に対する水晶体の割合が大きい(A).太陽光をほとんど浴びない環境でマウスは生存するため,紫外線などに曝露される可能性が低いことから水晶体はヒトのように黄色味はなく,透明である(B).水晶体弯曲部よりも前極側に水晶体上皮細胞が増殖している増殖帯が存在している(C).AB毛様体筋の弛緩Zinn小帯のテンションが上がるZinn小帯のテンションがゆるむ毛様体筋の収縮水晶体は薄くなる水晶体は厚くなる図7水晶体のピント調整遠くをみているときは水晶体は薄くなり(A),近くをみているときは厚くなる(B)ことでピントを調整している.生後1日生後7日生後12日生後16日図5生後のマウス水晶体の成長生後2週間ごろまでのマウス水晶体は身体の成長に合わせて著しく大きくなっていく.ABC弯曲部図6マウス眼球と水晶体マウスはヒトと比べて眼球に対する水晶体の割合が大きい(A).太陽光をほとんど浴びない環境でマウスは生存するため,紫外線などに曝露される可能性が低いことから水晶体はヒトのように黄色味はなく,透明である(B).水晶体弯曲部よりも前極側に水晶体上皮細胞が増殖している増殖帯が存在している(C).AB毛様体筋の弛緩Zinn小帯のテンションが上がるZinn小帯のテンションがゆるむ毛様体筋の収縮水晶体は薄くなる水晶体は厚くなる図7水晶体のピント調整遠くをみているときは水晶体は薄くなり(A),近くをみているときは厚くなる(B)ことでピントを調整している. あたらしい眼科Vol.31,No.10,20141429(7)る組織幹細胞に関する研究も進んでおり,水晶体の透明性維持のメカニズム解明が白内障の発症予防や進行を遅らせる創薬の開発につながることを期待したい.文献1)岩田修造(編著):水晶体その生化学的機構.メディカル葵出版,19862)YamamotoN,MajimaK,MarunouchiT:Astudyoftheproliferatingactivityinlensepitheliumandtheidentificationoftissue-typestemcells.MedMolMorphol41:83-91,20083)山本直樹.水晶体と白内障─基礎研究と臨床研究のCollaboration─.日本白内障学会誌20:12-19,20088A).Soemmeringringを構成している細胞を詳しく観察すると,細胞は水晶体.の内側に配列し,Soemmeringringの最も幅が広い部位(図8B)で細胞が水晶体.から離れて伸長する(図8C).Soemmeringringの内部では細胞核が小さくなり(図8D),内側に向かっていく細胞の核は消失する(図8E).一見するとSoemmeringringは,水晶体と同じような細胞の配列をしているが,秩序ある細胞配列ができていないため光の散乱・反射がおこり,水晶体のように透明ではなく混濁して見える.おわりに水晶体は長期間にわたって透明性を維持する.水晶体の透明性は水晶体を通過する光の透過性と関連があり,水晶体を構成する細胞の配列と細胞内に高密度に存在するクリスタリンなどの蛋白質の秩序ある分子配列に起因する.水晶体線維細胞から水晶体線維に分化する際,DNAやさまざまな細胞内小器官は消失するが,クリスタリン蛋白質は保持されるという水晶体に特有な細胞機構こそが,水晶体の透明性に深く関与している.水晶体の研究は約100年前から始まっているが,水晶体透明性維持のメカニズム,または水晶体混濁のメカニズムはいまだ完全に解明されていない.近年,水晶体に存在す■用語解説■眼内レンズ:白内障手術の後に水晶体の代わりに挿入する人工水晶体レンズ.後発白内障:白内障術後に水晶体.の中に残存した細胞などが増殖することで混濁する.Soemmeringring:後発白内障で観察される混濁した細胞集団.白内障手術時に切除した水晶体前.の縁が後.と接触することで袋状になった領域で観察される.水晶体.眼内レンズACBDE図8Soemmeringring内部の細胞配列白内障術後に水晶体.内に観察された混濁.Soemmeringringの内部は水晶体のような細胞配列をしているが,配列の秩序性が乏しいため光が散乱・反射して白く見える.■用語解説■眼内レンズ:白内障手術の後に水晶体の代わりに挿入する人工水晶体レンズ.後発白内障:白内障術後に水晶体.の中に残存した細胞などが増殖することで混濁する.Soemmeringring:後発白内障で観察される混濁した細胞集団.白内障手術時に切除した水晶体前.の縁が後.と接触することで袋状になった領域で観察される.水晶体.眼内レンズACBDE図8Soemmeringring内部の細胞配列白内障術後に水晶体.内に観察された混濁.Soemmeringringの内部は水晶体のような細胞配列をしているが,配列の秩序性が乏しいため光が散乱・反射して白く見える.

序説:水晶体を科学する

2014年10月31日 金曜日

●序説あたらしい眼科31(10):1423.1424,2014●序説あたらしい眼科31(10):1423.1424,2014水晶体を科学するScienceoftheLens坪田一男*佐々木洋**「水晶体は濁っても白内障手術をすれば大丈夫」という考えが強い.したがって従来,研究の重要性は残念ながら注目されてこなかったのが事実である.しかしながら近年,混濁を超えて,水晶体の弾性や,ブルーライト透過性などの研究が進み流れが変わりつつある.さらにはアコモダティブIOLや,マルチフォーカル眼内レンズなどの機能性IOLの進歩によって理想的な水晶体のあり方についてのサイエンスが始まった.本来の水晶体の機能からみた新しい機能科学が始まったのだ.そこで今回は,水晶体の機能と加齢変化をあらためて考えてみよう.1.透明である.これは加齢により濁ることは周知のとおりである.2.弾性があり,調節を行う.加齢により水晶体の弾性が失われることも周知のとおりである.3.可視光を透過する.加齢により短波長領域(ブルーライト)の透過率が激減する.4.紫外線を通さない.これは加齢の影響は少ない.5.眼内の酸素を使う.眼内酸素濃度を下げる働きが注目されつつある.6.前房と後房を物理的に分離する.これらの機能のうち,特に1,2,3が加齢と関連し超高齢化社会では重要な課題となってきている.今回の「水晶体を科学する」の特集では,水晶体の基本から特にこの3つの領域について,現在日本を代表する臨床家・研究家の先生に執筆をお願いした.まずは水晶体の生物学:なぜ透明なのか?について山本直樹先生(藤田保健衛生大学共同利用研究施設分子生物学)に,水晶体の基本的な機能である透過性の秘密についてご説明をお願いした.そして可視光線を通し,紫外線を透過させないなど水晶体の光学特性については,川守田拓志先生(北里大学医療衛生学部視覚機能療法学)に詳細に語っていただいた.ここでは加齢によるブルーライトの透過性低下についても触れていただいている.水晶体のもうひとつの大きな機能である弾性については,調節メカニズムのサイエンスとして中島伸子先生(中島眼科クリニック)と中村芳子先生(オリックス株式会社グループ健康推進室)に,老視発症機序の解明と予防,治療法の探索については樋口明弘先生(慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター)に,そして老視治療の新しい流れについては荒井宏幸先生(みなとみらいアイクリニック)に執筆をお願いした.従来,老視については,水晶体の弾性が低下するため“年だからしょうがない”とあきらめられていたが,メガネ,コンタクトレンズに加えて眼内レ*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室**HiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(1)1423 1424あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(2)ンズや,角膜への手術などによりさまざまな対症療法が開拓されつつあることも理解できると思う.また,まだ先にはなるが,老視の予防薬や治療薬についての可能性も見えてきている.これらの流れの中で,日本国内で使える白内障予防薬について青瀬雅資先生・松島博之先生(獨協医科大学眼科学教室)に網羅していただいた.白内障予防薬は世界でもユニークなものであるが,これらの薬剤のメカニズムは大変興味深いものがある.さらに白内障は加齢が大きなリスクファクターであるため,これをエイジングの立場から「白内障とエイジング」というタイトルで久保江理先生(金沢医科大学眼科学講座)に執筆していただいた.エイジングに介入することによって白内障の予防が将来できるようになれば,こんなに素晴らしいことはない.最後に,近年提唱されている白内障のアンチエイジング手術としての側面について,ずばり“アンチエイジング手術としての白内障手術”として根岸一乃先生(慶應義塾大学医学部眼科学教室)に大胆な切り口で執筆をお願いした.20年前までは白内障手術を受けた患者の方が寿命が短かったが,最近の疫学研究では早めに白内障手術を受けた方のほうが健康指標が良いという結果が出つつあり,非常に興味深い.白内障手術が安全に行われるようになって,手術の社会的な価値も変化しているものと考えられる.今回の特集「水晶体を科学する」は,あらたに水晶体の臨床,研究が活発化するひとつの流れの一端としてご理解いただければ幸いである.老視問題や,ブルーライト問題など,単に視力改善というばかりでなく,クオリティー・オブ・ライフ(QOL)の改善という方面からもさらに注目されていくものと考える.

眼科ドックにおける眼科疾患の発見

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1413.1416,2014c眼科ドックにおける眼科疾患の発見井上賢治黒栁優子高松俊行井上智子小栗真美岡山良子井上眼科病院OphthalmicDiseaseFindingsinOphthalmicCheckUpKenjiInoue,YukoKuroyanagi,ToshiyukiTakamatsu,SatokoInoue,ManamiOguriandRyokoOkayamaInouyeEyeHospital目的:井上眼科病院(以下,当院)では眼科疾患の早期発見を目的として眼科ドックを開始した.眼科ドックを受診した患者の特徴を検討した.対象および方法:眼科ドックを受診した249例(男性102例,女性147例)を対象とした.視力検査,視野検査(Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点),眼圧測定,眼位検査,涙液検査,調節機能検査,両眼視機能検査,細隙灯検査,眼底写真撮影,光干渉断層法(OCT)検査を施行し,異常を有する症例は「2次検査必要」と診断した.2次検査を当院で行った症例の結果を調査した.結果:2次検査必要症例は30例(12.0%)だった.内訳は緑内障疑い16例,白内障4例,黄斑異常2例,ドライアイ疑い2例などだった.2次検査を19例(7.6%)が当院で行い,最終診断は白内障3例,緑内障2例,黄斑上膜2例などだった.結論:眼科ドックは自覚症状を有さない眼科疾患の早期発見に有用である.Purpose:Toreportonearly-stageeyeproblemdiscoveryinthosewhounderwentophthalmiccheckupatInouyeEyeHospital.SubjectsandMethods:Subjectswere249caseswhounderwenttheophthalmiccheckupcomprisingvisualacuity,visualfield,tonometry,eyeposition,lacrimalfluid,adjustmentfunction,binocularfunction,slit-lampexamination,fundusphotographyandopticalcoherencetomography(OCT)examination.Unusualcasesunderwentasecondinspection.Theresultsofthesecondinspectionwereinvestigated.Results:Thosereceivingasecondinspectionnumbered30cases(12.0%).Classificationwas:suspectedglaucomain16cases,suspectedcataractin4cases,maculaabnormalityin2casesandsuspecteddryeyein2cases.Ofthe30casesrequiringasecondinspection,19(7.6%)receiveditatourhospital.Finaldiagnosiswas3casesofcataract,2casesofglaucomaand2casesofepiretinalmembrane.Conclusion:Ophthalmiccheckupisusefulintheearlydetectionofeyediseasesthatdonothavesubjectivesymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1413.1416,2014〕Keywords:眼科ドック,眼科疾患,緑内障,白内障,黄斑上膜.ophthalmiccheckup,eyedisease,glaucoma,cataract,epiretinalmembrane.はじめに眼科疾患は全身性の疾患と同様に早期発見・早期治療が重要である.疫学調査での有病率は緑内障では40歳以上の5%1),加齢黄斑変性症では50歳以上の1.3%(滲出型1.2%,萎縮型0.1%)2)と報告されている.眼科疾患の早期発見のむずかしい点として,目は両眼あり,たとえ片眼に異常が生じてももう片眼がそれをカバーしてしまう点がある.また,緑内障のように初期には自覚症状が出現しない疾患もあり,早期発見がむずかしい.眼科疾患の早期発見の試みとして,住民健診を自治体が,企業健診を企業が,人間ドックを民間の業者が行っている.しかし,全国の自治体での成人眼検診の実施状況を調査した報告では,成人眼検診を実施している自治体は全体の16.3%と低率だった3).さらに,これらの健診での眼科検査は視力検査,眼圧測定,眼底写真撮影のみの場合が多い.そして,眼底写真撮影を受診者全員に行っている自治体においても,その41.7%の自治体では眼科医師が本来行うべき判定を眼科医師以外が行っている3).このような状況のなかでの眼科疾患の早期発見は困難と考え,井上眼科病院(以下,当院)では全身のスクリーニング〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(165)1413 (例)10100908070605040302010030歳代40歳代を行う人間ドックの眼科版である眼科ドックを2012年5月より開始した.今回,当院の眼科ドックを受診した人の特徴を後ろ向きに調査した.I対象および方法2012年5月から2013年3月の間に当院の眼科ドックを受診した249例を対象とした.眼科的な自覚症状を有さない人を対象とし,自覚症状を有する人には眼科ドックではなく,眼科受診を勧めた.性別は男性102例,女性147例だった.平均年齢は52.8±11.8歳(平均値±標準偏差),年齢は20.87歳までだった.年代別には40歳代が78例(31.3%)で最多だった(図1).眼科ドックには2つのコースがあり,通常コースは他覚的屈折検査,自覚的視力検査,眼圧測定,眼位検査,眼底写真撮影,涙液検査(Schirmerテスト),スペシャルコースは通常コースに加えて調節機能検査,両眼視検査,視野検査(Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点),三次元眼底解析検査〔opticalcoherencetomography(OCT)による黄斑部の観察〕を施行した.対象の内訳は,通常コース99例,スペシャルコース150例だった.各種検査を施行後,眼科医師が細隙灯顕微鏡による診察を行った.4人の眼科医師が交代で担当した.各検査での異常の有無を確認し,それらの結果を基として,「異常なし」「経過に注意しましょう」「診察を受けましょう」「治療を受けましょう」の4段階で評価し,総合判定とした.なお,緑内障疑いは22mmHg以上の高眼圧,視野検査による異常,視神経乳頭陥凹拡大,網膜神経線維層欠損のいずれかを認める症例とした.調節機能検査の異常は調節機能が年齢との解離を認める症例とした.「診察を受けましょう」と「治療を受けましょう」と診断された症例には2次検査を受けるように指導した.年代ごとに2次検査必要症例と非必要症例の頻度を1414あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014図1眼科ドック受診者の年齢8例,3.2%20歳代20例,8.0%78例,31.3%74例,29.7%44例,17.7%20例,8.0%5例,2.0%■:男:女50歳代60歳代70歳代80歳代算出し比較した(c2検定).その後,2次検査を当院で行った症例について結果を調査した.II結果眼科ドックの総合判定は「異常なし」114例(45.8%),「経過に注意しましょう」105例(42.2%),「診察を受けましょう」27例(10.8%)「治療を受けましょう」3例(1.2%)だった(図2).2次検査必(,)要症例は30例(12.0%)だった.年代別の総合判定では20歳代が70歳代,80歳代に比べて有意に2次検査必要症例が少なかった(p<0.05)(図3).2次検査必要症例(30例)における各検査の異常は,矯正視力1.0未満の症例10例(33.3%),視野異常6例(20.0%),21mmHgを超える高眼圧症0例(0%),眼位異常1例(3.3%),Schirmerテスト10mm以下4例(13.3%),調節機能検査異常5例(16.7%),両眼視機能異常4例(13.3%),眼底異常17例(56.7%),OCT検査異常12例(40.0%)だった.2次検査必要症例の内訳は,緑内障疑い16例(53.3%),白内障4例(13.3%),黄斑部異常2例(6.7%),ドライアイ疑い2例(6.7%),表層角膜炎1例(3.3%),眼球振盪1例(3.3%),網膜色素変性症疑い1例(3.3%),外斜視1例(3.3%),網膜血管硬化症1例(3.3%),眼瞼下垂1例(3.3%)だった(図4).2次検査で当院を受診した症例は19例だった.それら19例の最終診断は,白内障3例,緑内障2例,黄斑上膜2例,視神経乳頭陥凹拡大2例,眼瞼下垂1例,ドライアイ1例,網膜色素変性症1例,外斜視1例,網脈絡膜萎縮1例,異常なし5例だった.2次検査で緑内障と診断された2例は,62歳男性と66歳男性で正常眼圧緑内障だった.眼圧は前者は右眼15mmHg,左眼14mmHg,後者は両眼13mmHgだった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardのmeandeviation値は前者は右眼.1.37dB,左(166) 治療を受け診察を受けましょうましょう3例,1.2%27例,10.8%異常なし114例,45.8%経過に注意しましょう105例,42.2%図2眼科ドックの総合判定緑内障疑い16例,53.3%白内障4例,13.3%その他6例,20.0%ドライアイ疑い2例,6.7%黄斑異常2例,6.7%図4眼科ドックの2次検査必要症例眼.1.32dB,後者は右眼.1.16dB,左眼.6.07dBだった.III考按人間ドックや健康診断における眼科疾患の検出の有用性についての報告は多い4.14).緑内障に関しては緑内障の受診機転の調査4,5)や2次検査での緑内障発見率の報告6)がある.また,糖尿病網膜症7),黄斑部病変8),白内障9)の検出にも役立っている.2010年に人間ドックを受診した694施設3,077,352例の調査では,眼科に関しては要経過観察が288,764例(9.4%),要医療が100,420例(3.3%),要精査199,516例(6.5%)だった10).今回の2次検査必要症例は12.0%だったので笹森の報告10)の要医療+要精査9.8%より多かった.これは今回のドックのほうが眼科に関する検査項目が多いためと考えられる.人間ドックや健康診断での従来の検査に追加してfrequencydoublingtechnology(FDT)視野計による視野検査を導入したところ,緑内障の検出率が上昇したとの報告が多数ある11.13).宮本らは人間ドックにおいて緑内障の発見率が眼底写真,眼圧のみの検査では0.23%だったが,FDTによる視野検査を加えたところ,1.68%に上昇したと報告した11).(167)40.0%60.0%80歳代5.0%95.0%70歳代20.5%79.5%60歳代**10.8%89.2%50歳代11.5%88.5%40歳代5.0%95.0%30歳代100.0%20歳代0.0%20.0%40.0%60.0%80.0%100.0%■:2次検査必要:2次検査不要*p<0.05(c2検定)図3年齢別の眼科ドックの総合判定筆者らも人間ドックでの緑内障の有病率をFDT視野検査導入前後で検討した12,14).FDTによる視野検査導入前は視力測定,眼圧測定,眼底写真撮影を行っていた.緑内障の有病率はFDT導入前14)は1.17%,FDT導入後12)は1.76%に向上した.稲邊らは職員健診の際に238例の受診者に対して眼圧測定,眼底写真撮影,FDT視野検査を行った13).FDT検査で30例(12.6%)に視野異常を認め,そのうち10例が眼科を受診し,7例が緑内障あるいは緑内障疑いと診断された.一方,FDTで異常を認めず眼底写真で異常を認めた12例のうち8例が眼科を受診したが,緑内障疑いが1例認められたのみだった.Tatemichiらは,企業健診で14,814例の受診者にFDT視野検査を付加して導入したところ,過去の健診で発見されなかった緑内障を167例(1.13%)で検出した9).今回視野検査としてFDTではなく,Humphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点を用いた.この検査はHumphrey視野閾値検査に比べて短時間で施行できる.また30°内76点の検査を行い,通常の緑内障診断で使用するHumphrey視野プログラム中心30-2と同様の配列検査点であり,緑内障検出に優れていると考えられる.林らは健診にて視野異常が疑われた症例にHumphrey視野計の全視野スリーゾーンスクリーニングプログラム120点を施行し,有用であったと報告した15).今回の眼科ドックには通常コースとスペシャルコースがあるが,緑内障検出の面からの違いは,スペシャルコースで視野検査を行っている点である.通常コースとスペシャルコースを比較すると,2次検査必要症例は通常コース12.1%(12例/99例),スペシャルコース12.0%(18例/150例)で同等だった.そのなかで緑内障疑い症例は通常コース5.1%(5例/99例),スペシャルコース7.3%(11例/150例)で,スペシャルコースのほうがやや多かった.2次検査を当院で施行した症例の最終診断における緑内障は通常コース0例,スペシャルコース2例だった.視あたらしい眼科Vol.31,No.9,20141415 野検査が緑内障の検出に過去の報告9,11.13)と同様に有用であった.緑内障の定義は「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である.」と記されている16).今回視野検査を行うことで眼底検査による視神経の観察と合わせて緑内障疑いの診断が向上したと思われる.しかし,緑内障以外の疾患による視野障害を検出したり,初回検査ゆえに検査に対する十分な理解が得られず異常を検出(偽陽性)したりする可能性がある.これらの欠点を取り除くために視野検査として短時間で施行できるHumphrey視野スクリーニング検査プログラム中心76点を用いた.今回視野検査に異常が検出された6例のうち当院で2次検査を施行した症例は5例だった.視野異常の原因は緑内障2例,網膜色素変性症1例,眼瞼下垂1例,Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardでは異常なし1例だった.Humphrey視野プログラム中心30-2SITAStandardで異常が検出されなかった症例は視神経乳頭形状も正常だった.今回の視野検査による視野障害の部位から頭蓋内疾患を疑わせる症例はなかった.眼科ドックで検出された眼疾患は,白内障,緑内障,黄斑上膜,眼瞼下垂,ドライアイ,網膜色素変性症,外斜視,網脈絡膜萎縮と多岐にわたっていた.また,疾患ではないが視神経乳頭陥凹拡大を認める症例もあった.過去の報告10)においても緑内障以外に白内障,網膜中心動・静脈閉塞症,網膜色素変性,黄斑変性症,糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮などを検出した.当院の眼科ドックでは視力検査,眼圧検査,眼底写真撮影の他に通常コースにおいては眼位検査,涙液検査,細隙灯顕微鏡検査,スペシャルコースにおいては調節機能検査,両眼視検査,視野検査,三次元眼底解析検査を行っている.細隙灯顕微鏡検査から眼瞼下垂,涙液検査からドライアイ,眼位検査や両眼視検査から外斜視,三次元眼底解析検査や眼底写真撮影から黄斑部異常(黄斑上膜)が検出できたと考えられる.一方,2次検査を当院で行った19例のうち5例(26.3%)では特に疾患はなく,これらは偽陽性例と考えられる.通常の健康診断や人間ドックよりも今回の眼科ドックにおいて多数の検査を行っているためと考えられる.当院で眼科疾患の早期発見を目的として眼科ドックを開始した.その後の2次検査により,白内障,緑内障,黄斑上膜などが検出された.眼科ドックは自覚症状を有さない人の眼科疾患の発見に有用だった.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulation.theHisayamaStudy.Ophthalmology116:2135-2140,20093)川島素子,阿久根陽子,山田昌和:公的な成人眼検診の実施状況.日本の眼科83:1036-1040,20124)相馬久実子,大竹雄一郎,石川果林ほか:広義の開放隅角緑内障の受診機転および家族歴.あたらしい眼科22:1401-1405,20055)佐藤裕理,谷野富彦,大竹雄一郎ほか:慶應義塾大学病院における正常眼圧緑内障患者の受診機転.あたらしい眼科21:405-408,20046)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:人間ドックで緑内障が疑われた症例.あたらしい眼科22:683-685,20057)野村工,堀田一樹.人間ドックでの糖尿病患者の網膜症新規発症と背景.あたらしい眼科22:1577-1581,20058)元勇一,文鐘聲,黒住浩一ほか:当院における成人病健診の眼底スクリーニングと健診アンケート結果.人間ドック19:403-408,20049)TatemichiM,NakanoT,TanakaKetal:Performanceofglaucomamassscreeningwithonlyavisualfieldtestusingfrequency-doublingtechnologyperimetry.AmJOphthalmol134:529-537,200210)笹森典雄:2010年人間ドック全国集計成績.人間ドック26:638-683,201111)宮本祐一,木村美樹,柿本陽子ほか:人間ドックへの視野検査導入の意義について.人間ドック27:36-40,201212)井上賢治,奥川加寿子,後藤恵一:FrequencyDoublingTechnology導入後の人間ドックにおける緑内障の有病率.あたらしい眼科21:117-121,200413)稲邊富實代,高谷典秀,場集田寿ほか:正常眼圧緑内障早期発見を目的としたFrequencyDoublingTechnology視野計の予防医療導入の検討.人間ドック24:31-38,200914)荻原智恵,奥川加寿子,井上賢治:人間ドックにおける緑内障の有病率.あたらしい眼科19:521-524,200215)林裕美,木村奈都子,小林昭子ほか:Humphrey自動視野計によるスクリーニング─全視野スリーゾーンの臨床試用─.眼科39:1507-1511,199716)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,2012***1416あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(168)

妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例

2014年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科31(9):1407.1412,2014c妊娠後期に発症し無治療で改善したVogt-小柳-原田病の1例笠原純恵*1,2市邉義章*2清水公也*2*1独立行政法人地域医療機能推進機構相模野病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室ACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasethatDevelopedLaterinPregnancyandImprovedwithoutTreatmentSumieKasahara1,2),YoshiakiIchibe2)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofOphthalmology,SagaminoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:妊娠29週でVogt-小柳-原田病(原田病)を発症し無治療で改善した1例を報告する.症例:36歳,女性.妊娠29週に右眼の視力低下を自覚し受診.矯正視力は右眼0.7,左眼1.2,両眼の虹彩炎,漿液性網膜.離を認め,発症前に感冒様症状,頭痛を認めた.妊婦のため蛍光造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行せず,Readらの診断基準をもとに不全型原田病と診断し経過観察を開始.発症2日目,両眼ともに網膜.離は増悪し,矯正視力は右眼0.4,左眼0.5まで低下.しかし,発症7日目より無治療で網膜.離は改善傾向となり,矯正視力も上昇した.発症57日目,妊娠37週目に正常児を出産.発症65日目,矯正視力は両眼ともに1.2,網膜.離は消失したままで,眼底は夕焼け状を呈していた.発症から5年現在再発はない.結論:妊娠後期に発症し,無治療で改善した原田病の1例を経験した.妊娠が漿液性網膜.離の早期改善に好影響を及ぼした可能性がある.Purpose:ToreportacaseofVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH)thatdevelopedat29weeksofgestationandimprovedwithouttreatment.Case:A36-yearoldfemalenoticedlossofvisioninherrighteyeat29weeksofgestationandconsultedourclinic.Bestcorrectedvisualacuities(BCVA)ofrightandlefteyeswere0.7and1.2,respectively.Shehadthebinoculariritisandserousretinaldetachmentandhadhadcommoncoldsymptomsandheadachebeforeonsetoftheaboveocularsymptoms.Inviewofthesesymptoms,wediagnosedincompleteVKHbasedonthereviseddiagnosticcriteriawithoutfluoresceinangiographyorcerebrospinalfluidexamination,duetohergravidstatus,andmonitoredherdiseaseconditionwithnomedicaltreatment.AlthoughthebinocularserousretinaldetachmentsprogressivelydeterioratedandtheBCVAoftherightandlefteyesdecreasedto0.4and0.5,respectivelyattheseconddayafteronset,thesesymptomsshowedimprovingtendencyattheseventhdayafteronset.Atthe57thdayafteronset,shesuccessfullygavebirthafter37weeksofpregnancy.AlthoughBCVAofbotheyesimprovedto1.2andtheserousretinaldetachmentsdisappeared,sunsetglowfunduspresentedatthe65thdayafteronset.Therehasbeennorecurrence,asof5yearsthusfar.Conclusions:WeexperiencedapatientwithVKHthatdevelopedlaterinpregnancy,inwhichthediseasesymptomsimprovedwithoutmedicaltreatment.Thereisapossibilitythatthegravidconditioninfluencedtheearlyimprovementofretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(9):1407.1412,2014〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,妊娠,ステロイド,光干渉断層計,漿液性網膜.離.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,pregnancy,steroid,OCT(opticalcoherencetomography),serousretinaldetachment.はじめにされており,投与の要,不要は最終結論が出ていない.まVogt-小柳-原田病(原田病)はメラノサイトに対する自己た,原田病に対するステロイド全身投与中は,その副作用に免疫性疾患と考えられており,ステロイド治療によく反応すは十分な配慮,対策が必要である.妊娠中に発症した原田病る.一方,ステロイドの全身投与なしでの視力回復例も報告の報告はいくつかあるが,ステロイドの使用の有無,投与〔別刷請求先〕笠原純恵:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(159)1407 法,使用量などはさまざまである.今回,筆者らは点眼薬も含め無治療で視力の回復を認めた妊娠後期である妊娠29週目で発症した原田病の1例を経験したので報告する.I症例症例は36歳,女性.既往歴は特記すべきことはない.右眼2002年8月に女児出産歴がある.2008年11月12日,妊娠29週3日目(発症0日),右眼の視力低下を自覚し近医を受診.両眼の網膜浮腫を指摘され,同日に北里大学病院眼科を紹介受診した.視力は右眼0.4(0.7×+0.75D),左眼0.15(1.2×.2.25D).眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なし.両眼の前房は深く,左眼発症0日目発症2日目acd発症65日目egf発症282日目図1眼底写真発症0日目(a,b).両眼性の漿液性網膜.離を認める.発症2日目(c,d).両眼ともに漿液性網膜.離発症の増悪を認める.発症65日目(e,f).漿液性網膜.離の消失と軽度夕焼け状眼底の所見を認める.発症282日目(g,h).眼底は夕焼け状を呈し,写真には写っていないが,眼底周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮が認められた.bh1408あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014(160) 28270635649423528211470軽度の炎症細胞と,少量の豚脂状角膜後面沈着物を認めたが,Koeppe結節は認めなかった.中間透光体に異常はなく,眼底には両眼に軽度乳頭発赤と,両眼の上側アーケード近傍に限局性の漿液性網膜.離を認め,右眼は黄斑にも網膜.離が及んでいた(図1).受診時,妊娠29週3日目であり,妊娠中の合併症もなく妊娠経過は良好であった.妊娠中のためフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査などの侵襲的な検査は施行しなかったが,発症2週間前に感冒様症状と2日前に頭痛,耳鳴りの既往があり,眼底所見とあわせ,Readらの診断基準1)をもとに不完全原田病と診断し経過観察を始めた.視力検査のほかに侵襲の少ない前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC)(図2),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)(図3)検査を行いながら臨床経過を観察した.ACD,OALはIOLMasterTM(CarlZeiss)を,FIACはLaserFlareMeter(KowaFM-500Ver1.4)を,OCTはOCT3000(CarlZeiss)を用いて測定した.発症2日目,漿液性網膜.離は両眼ともに悪化し,矯正視力も右眼(0.4×+1.50D),左眼(0.5×+1.00D(cyl.1.00DAx90°)と低下した.この時期に頭痛の症状も悪化したため,ステロイドの全身投与も念頭に入れ産科にステロイドの使用の可否,また使用した場合の母体,胎児の管理につき相談をした.しかし,発症7日目,前房内フレア,細胞数は増加したものの,網膜.離は明らかに改善したため,そのまま無治療で経過観察を続ける方針となった.その後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,発症42日後には黄斑部の漿液性網膜.離は消失した.矯正視力も右眼(0.7×.2.00D),左眼(0.8×.2.25)と改善した.発症57日目,妊娠37週と4日で通常の経腟分娩で2,516gの女児を出産した.出生後の検査で女児に心室中隔欠損がみつかったが,程度は軽度であり小児科で経過観察を行っている.発症65日目,矯正視力は右眼(1.2×.2.25D),左眼(1.2×.2.25D)まで改善した.両眼ともに前房内に軽度炎症細胞は残存したものの,OCT上,黄斑部の漿液性網膜.離は消失したままであった.発症155日目,両眼の前房内の炎症細胞,豚脂状角膜後面沈着物は消失した.発症282日目,眼底は夕焼け状を呈し(図1),周辺には網膜色素上皮の消失による局所的な網脈絡膜萎縮がみられた.経過観察中の血圧に問題はなかった.採血検査は血算,生化学に異常所見はなく,血清梅毒反応陰性,ウイルス検査ではアデノウイルス,インフルエンザB,サイトメガロウイルス,帯状疱疹ウイルス,麻疹,風疹のCF抗体価は<4×,インフルエンザAは8×,単純ヘルペスウイルス16×,HLA検査ではDR4が陽性であった.出産後5年が経過した現在,再発はない.(161):右眼:左眼FIAC(photoncounts/msec)OAL(mm)ACD(mm)対数視力282706356494235282114702827063564942352821147010.13.653.63.553.53.453.43.353.33.253.2262827063564942352821147025.52524.52423.52322.52221.5302520151050経過日数(日)図2経過観察上から対数視力,前房深度(anteriorchamberdepth:ACD),眼軸長(ocularaxiallength:OAL),前房内フレア(flareintheanteriorchamber:FIAC).横軸は発症からの経過日数.ACDは最も視力が低下した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなった.その後,正常化へ向かった.それに対しFIACは発症初期には軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなり,その後は急速に減少し,ACD,OALの変化とは異なる変化を示した.II考按原田病は全身のメラノサイトに対する自己免疫疾患といわれている.病初期には髄膜のメラノサイトの障害で頭痛や感冒様症状を引き起こし,内耳では耳鳴り,難聴を生じ,その後に眼球のメラノサイトの傷害でぶどう膜炎が生じる症例が多い.本症例は感冒様症状から始まり,頭痛や耳鳴りを伴った両眼性のぶどう膜炎,胞状の漿液性網膜.離が認められた.妊娠中であることから,侵襲性のある蛍光眼底造影検査や髄液検査は行っていないが,臨床所見,経過,採血上のHLA-DR4陽性,後期の夕焼け状眼底所見から最終的に不完全型原田病と診断した.原田病に対してはステロイドの大量投与療法2)やパルス療法3)が行われており,一般的にステロあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141409 右眼左眼発症0日目発症2日目発症7日目発症14日目発症30日目発症42日目発症57日目分娩発症65日目図3OCT所見経時的に漿液性網膜.離の改善がみられる.出産8日目(発症65日目)以降,漿液性網膜.離の再発は認めていない.イドは奏効する.その一方,ステロイドの全身投与を行わずに改善した報告4,5)や,ステロイド全身大量投与中の死亡事例6)も報告されており,ステロイドの要否は最終的な結論は出ていない.過去に本例のように妊娠中に発症した原田病の報告も散見されるが,その多くがステロイドの全身投与が行われている7.12).ステロイドを使用しても出生児には問題がなかったという報告が多いが,低体重,小奇形の報告13)もある.さ1410あたらしい眼科Vol.31,No.9,2014らに,本症とほぼ同時期に発症した妊婦に対しプレドニゾロン200mg/日からの大量療法を行い,18日後に胎児が死亡した症例が1例報告されている14).一方,全身投与を行わずに,局所療法(点眼,結膜下,Tenon.下注射)で改善したという報告もある.佐藤らは妊娠10週で発症した26歳の症例に対し,アトロピンの点眼とコルチコステロイドの点眼と結膜下注射を行い,原田病が治癒し正常児を出産した1例を報告している15).田口らは「妊娠がぶどう膜炎に好影響を(162) 与えたと考えられた2例」として原田病とBehcetdisease妊婦2例を報告している.原田病の症例は妊娠10週0日の30歳であり,コルチコステロイドの点眼加療のみで漿液性網膜.離は消失し,夕焼け状眼底を呈したものの視力は回復し,正常児出産に至っている16).松本らは妊娠12週で発症した31歳の症例に対し,トリアムシノロンのTenon.下注射のみの治療で治癒した1例を報告している17).SnyderやLanceも同じように妊娠が原田病の経過によい影響を与えた例を報告している18,19).さらに,妊娠12週で発症した原田病に対し,ステロイドの局所も全身投与も行わずに視力が回復した24歳の日本人の1例も報告されている20).しかし,本症のように妊娠29週という妊娠後期に発症し,無治療で改善した報告は筆者の知るところではない.本症例の改善の基準としては,①視力改善,②前房内炎症の消失,③漿液性網膜.離の消失,④前房深度の回復の4項目のすべてを満たすものとしている.また,無治療にもかかわらず比較的早期に漿液性網膜.離の改善が認められた.その要因は明らかではないが,妊娠により増加した内因性ステロイド16)や血液中免疫担細胞が好影響15,21,22)を及ぼした可能性が示唆される.妊娠中の内因性ステロイドは妊娠末期まで増加していき,分娩とともに急速に減少するとされている.本症例の発症は妊娠により内因性ステロイドが増加している時期であり,比較的早期に無治療で漿液性網膜.離が改善し,視力も回復したものと考えられる.しかし,分娩後の再発には十分注意する必要があり,本症例も分娩後に入念に経過観察を行ったが,発症から5年が経過した現在再発はない.本症例の再発の基準としては,①視力低下,②前房内炎症の再出現,③漿液性網膜.離の再出現,④前房深度の浅前房化の4項目のうち1つでも認めるものとしている.本症例は経過中に改善が認められなかった場合,ステロイドの局所投与(トリアムシノロンのTenon.下注)を選択肢として考えていた.産科医からはステロイドの全身投与の許可は得ていたが,妊娠後期のステロイド投与は胎盤を通過し胎児の下垂体に作用し,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌低下による副腎萎縮をきたす可能性も指摘されており,妊娠後期のステロイドの全身投与は慎重であるべきであると考える.さらに,妊娠中は侵襲的な検査による妊婦,胎児への影響も考慮しなくてはならない.本症例ではフルオレセイン蛍光眼底造影検査や髄液検査は行わず,経過中は視力,眼底検査(写真)の他に,侵襲性の少ないACD,OAL,FIAC,OCTを用いて観察を行った.大槻らはIOLMasterTMを用いてACD,OALを測定し,原田病の病状評価に対する有用性を報告している23).本症例ではACDは最も症状が悪化した発症2日目で最も浅くなり,OALは最も短くなったが経過とともに正常化していった.それに対しFIACは発症初期は軽度であり,次第に増強し,発症30日でピークとなりその(163)後に急速に減少し,ACD,OALとは異なる変化をした.Blood-aqueousbarrierが破壊されてから前房中に蛋白が出現するまでのタイムラグが生じた可能性が考えられた.OCTが今回の経過観察に最も役立ったことはいうまでもないが,薬剤を使用せず,ACD,OALなどの侵襲性の少ない検査での病状の評価は,妊婦には有用だと考える.文献1)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:Reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20012)増田寛次郎,谷島輝雄:原田氏病初期の治療.臨眼23:553-555,19693)小竹聡,大野重昭:原田病におけるステロイド剤のパルス療法.臨眼38:1053-1058,19844)山本倬司,佐々木隆敏,斉藤春和ほか:原田病の経過と予後.副腎皮質ホルモン剤の全身投与を行わなかった症例について.臨眼39:139-144,19855)吉川浩二,大野重昭,小竹聡ほか:ステロイド剤の局所治療を行った原田病の2症例.臨眼83:2493-2496,19866)岩瀬光:原田病ステロイド治療中の成人水痘による死亡事例.臨眼55:1323-1325,20017)瀬尾晶子,岡島修,平戸孝明ほか:良好な経過をたどった原田病患者の視機能の検討.臨眼41:933-937,19878)FriedmanZ,GranatM,NeumannE:ThesyndromeofVogt-Koyanagi-Haradaandpregnancy.MetabPediatrSystOphthalmol4:147-149,19809)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.臨眼85:52-55,199110)渡瀬誠一,河村佳世子,長野斗志克ほか:妊娠に発症しステロイド剤の全身投与を行った原田病の1例.眼紀46:1192-1195,199411)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TreatmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,200112)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:12291234,201213)DoiM,MatsubaraH,UjiY:Vogt-Koyanagi-Haradasyndromeinapregnantpatienttreatedwithhigh-dosesystemiccorticosteroids.ActaOphthalmolScand78:93-96,200014)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,200715)佐藤章子,江武瑛,田村博子:妊娠早期に発症し,ステロイド局所療法で軽快した原田病不全型の1例.眼紀37:46-50,198616)田口千香子,池田英子,疋田直文ほか:妊娠がぶどう膜炎に好影響を与えたと考えられた2症例.日眼会誌103:66-71,199917)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセあたらしい眼科Vol.31,No.9,20141411 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