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日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 10.親子でお世話になったKinoshita先生

2013年10月31日 木曜日

親子でお世話になったKinoshita先生岩田岳(TakeshiIwata)国立病院機構東京医療センター感覚器センター分子細胞生物学研究部1988年名城大学大学院農学研究科卒.1988年NEIVisitingFellow.1989年BascomPalmerEyeInstituteResearchFellow.1991年NEIVisitingScientist.1999年国立病院東京医療センター臨床研究部主任研究員.2004年国立病院機構東京医療センター感覚器センター室長.2007年同感覚器センター部長.現在に至る.JinH.Kinoshita先生には親子でたいへんお世話になりました.Kinoshita先生のお誘いをいただき,Nation-alEyeInstitute(NEI)へ留学することになりました.Kinoshita先生がいらっしゃらなければ今とは全く異なった人生を歩んでいたと思います.Kinoshita先生にお会いしたのは1967年12月で,ご自宅に私の家族が招待され,8歳の私は青いダンプトラックをクリスマスプレゼントにいただいてリビングルームを走り回ったことを覚えています.私の父,岩田修造はこの年,千寿製薬の研究員としてボストンのRetinaFoundationに留学し,2年後ハーバード大学HoweLaboratoryofOph-thalmology,MassachusettsEyeandEarInfirmaryのKinoshita先生の研究室に移籍することになりました.白内障の最初のモデルマウスであるNakanoマウスを研究室に持ち込んで精力的に研究したようです.帰国後も家族の交流は続き,Kinoshita先生と奥様のKayさんが神戸の自宅にいらっしゃいました.私が大学院生のときにはKinoshita先生のご自宅に泊めていただき,NEIを見学させていただきました.1988年,米国で分子生物学を勉強したいと考えていた私に対してKinoshita先生は「分子生物学は核酸ACGTの研究だから生物種など関係ない,眼科研究でも分子生物学は十分に勉強できる」といわれ,脳回転状網脈絡膜萎縮症(GyrateAtro-phy)の遺伝子を解明したGeorgeInana室長の研究室に留学することになりました.すでに順天堂大学から堀田先生や藤木先生そして大阪大学から笹部先生が着任されており,2カ月後には同じく順天堂大学から村上先生が参加されました.当時のNEIは眼科分子生物学のメッカであり,多く(73)の優秀な研究者が集まっておりました.一直線に伸びるBuilding6の廊下の端に立っていると,忙しく部屋を出入りする研究者の姿がありました.このような活気あるNEIのIntramuralResearchを指揮していたのがKinoshita先生です.Kinoshita先生は部長・室長に自由を与える一方,研究の質には厳しい先生でした.特にKinoshita先生がご専門のAldoseReductaseを担当していたPeterKedar先生やDebbieCarper先生らは厳しい競争にさらされておりました.右も左もわからない20代の私に対してKinoshita先生とKayさんは優しく見守ってくださいました.当時のNEIでは,Kinoshita先生によってNICHDから引き抜かれたJoramPiatigorsky先生が最新の分子生物学的手法をNEIに広め,クリスタリン遺伝子のクローニング,その転写制御因子の解明,網膜特異的な遺伝子の探索や連鎖解析などが行われていました.私もX-LinkedRetinitisPigmentosaの連鎖解析を最初の研究テーマとしていただきました.当時のNEIでは多数のCell,Nature,そしてScienceに論文が発表され,NEIの黄金時代ともいわれています.Inana先生がBascomPalmerEyeInstitute(BPEI)の助教授として着任することになり,日本人の笹部先生,村上先生と私の3名が同行して,分子生物学の研究室を立ち上げることになりました.それから2年後の1991年には再びNEIに戻った私はKinoshita先生の信頼の厚いCarper先生の研究室でAldoseReductase(AR)とSorbitolDehydrogenase(SDH)の研究を行うことになりました.Carper先生は現在NEIのDeputyDirectorとして忙しい毎日を過ごされています.このときKinoshita先生の本命であるARは厳しい競争の只中あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314170910-1810/13/\100/頁/JCOPYでした.競争は以下の順番で展開されました.まずはARcDNAクローニング,続いてARリコビナントタンパク質の発現,さらにARタンパク質の結晶化と構造解●★析による活性部位の決定,そして最後はAR阻害薬の開発競争です.私がBPEIからNEIに戻って間もなくKinoshita先生は退官され,10年後にはCarlKupfer先生(NEI初代所長)も退官されてNEIの一時代が終わりました.この27年間の間に日本人を含む多くの外国人がNEIで勉強し,このNEI海外ネットワークは今でも拡大しています.私は2013年2月にSieving先生(現NEI所長)にお呼びいただき,NEIAudaciousGoalMeeting(http://www.nei.nih.gov/agmeeting/)に参加させていただきました.世界中から集まった約200名の眼科研究者が小グループに分かれ,今後15年を見据えた眼科研究の方向性を2日間部屋に閉じこもって議論する企画です.この会議で感じたことは参加者全員が何らかの形でNEIとつながりをもっていることです.これほど世界に影響力のある眼科研究組織の基礎を構築したのはKinoshita先生の人選,長期展望,指揮力,そして面倒見の良さだと考えます.近年日本でも検討されているNIH構想を実現させるためには,日本にもこのような先生の存在が不可欠であると考えます.私は父と違ってKinoshita先生に直接指導を受けることはありませんでしたが,幼少のころからNEI留学までKinoshita先生と奥様のKayさんにはたいへんお世話になりました.心よりお二人のご冥福をお祈り申し上げます.●★1418あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(74)

現場発,病院と患者のためのシステム 21.医療情報システムが提供する情報の利活用(可視化)

2013年10月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314150910-1810/13/\100/頁/JCOPY.複数回の検査オーダ一般的に,受付をした後,①診察待ち→②診察(検査オーダ)→③検査待ち→④検査→⑤検査終了→⑥診察待ち→⑦診察(追加検査がなければ)→⑧会計待ち→⑨会計,となります.⑦の診察の結果,追加検査が必要と判断された場合には,そのオーダが出されます.このオーダがあると,③.⑦のプロセスを繰り返されることになり,患者さんが待たされる場面が多くなります.関連する検査をセットでオーダせず,1つずつオーダすると,患者さんの待ち時間を無用に増やしてしまうことにもなり,待ち時間がクレームの最多原因になっていることを勘案すると,再考が必要です.医師が追加検査をオーダし,複数回の診察になる割合をチェックしたことがあります.受け持つ患者さんの状況にもよりますが,全医師で2.8%程度でした.そのなかで,複数診察する割合が35%前後の特異なケースがみつかりました.当院では,診察待ち状況が患者さんにわかるようになっていますが,図1に示すその画面をみると,一目瞭然,頻回に追加検査をオーダ,複数診察していることがわかります.図1の状況を,システムが提供する情報を使って詳しく調べることができます.トレースした結果を図2に示します.同じ患者が何回診察を受けているかの情報から,何回の追加検査を受けていることがわかります.このように,“時間を要しているようだ”をトリガに,(71)杉浦和史*医療情報システムが提供する情報の利活用(可視化)現場発,病院と患者のためのシステム連載………………………………….*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)医療機関にはさまざまな情報システムが導入され,多くの情報を提供しています.来院数,新患数,ベッド稼働率など,即物的なものから,医師を含むスタッフの稼働率(パフォーマンス)の把握,待ち時間の分析など,経営にかかわるものまでさまざまな用途があります.システムが提供する情報を積極的に使うことで,どのようなことがわかるかを例をあげて紹介します.図1追加検査を頻回に指示c図2同じ患者が追加検査を頻回に行っている状況c区分再来再来再来再来新患再来再来再来再来再来再来再来新患再来新患再来再来再来再来再来新患新患新患新患再来新患ID開始終了所要時間3368083103390461227104819000611609:5910:0310:1010:1410:1210:2210:1710:2810:5510:3710:3710:4410:5211:1811:1311:2211:3511:3911:4712:0511:4812:0012:3312:4212:5013:0809:5610:0010:0410:0610:1210:1410:1410:1810:2210:2810:3710:4010:4611:0611:1111:1511:2511:3511:3911:4611:4812:0012:3312:3612:4912:528441195803008149548370665000084794566832702844119840703580300814954500003750000898398535000088814954794371832702947684084050000895000087500008850000878327025000088 1416あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013システムが提供する情報を使って根拠のある原因調査ができます.例えば,再来で来院したID832702の患者さんは,10:14に3分間の1回目の診察で追加検査がオーダされ,2回目の診察が始まる11:35までの1時間18分の間,検査待ち→検査→診察待ちとなっていることがわかります.2回目の診察時間は4分です.ここで再び追加検査がオーダされ,11:39.12:49までの1時間10分待って3回目の診察を受けています.3回目の診察時間はわずか1分,改善の余地がありそうな感じがします.もし,2回出している追加検査のオーダを1回目の診察時にまとめて出せたら,患者さんにとっては移動回数が減り,待ち時間も減ることが期待できます.つまり,患者さんの診察終了時刻は12:50ではなく,もっと早く終わるはずです.現在開発中のHayabusaでは,どの検査を受けているかもわかるので,より詳細な分析と,分析に基づく有効な対策を採ることが可能です.ID814954の患者さんの2回目の診察時間が0となっているのは1分以内に診察が終わったことを示していますが,新患も1分以内で診察が終わり,検査オーダが出されているケースが4人あります.これらの場合も,Hayabusaが提供する情報を使って分析し,結果に基づき,効率向上のための施策を考えることができます..診察順の妥当性「あの人は私よりも後に来たのに,先に診察を受けた」というクレームはよく聞きます.どの医療機関でも,治療上の都合でやむを得ず順番を変更することがあるとの張り紙を見かけますが,受付してからどのくらいで診察が始まっているかにつき,再来患者の場合を調べたことがあります(表1).事前にオーダしていた検査の種類(難易度)と数にも(72)よりますが,おおよそ1時間待たされていることがわかります.13分しか待たずに済んでいる患者さんもいますが,この場合がクレームになっているはずです.この582470というIDの患者さんが,その後も早く処理されているかどうかの追跡調査可能なデータも採取できるので,一時的なものなのか,意図的な特別扱いかどうかを判断することができます.なお,表1中の待ち時間0は,VIPに区分されている患者さんで,首長など費やす時間に社会性があり,診察を待っている時間をその方面に向けるべきと判断している場合の特例です.以上,例をあげて説明してきましたが,システムが提供する通り一遍の情報をみるだけではなく,提供される情報を縦横に使いこなすことで,患者満足度を向上させ,ひいては病院の経営効率化に寄与するヒントが得られる可能性があることを理解していただければ幸いです.☆☆☆表1受付から診察開始までに要する時間c08:2708:5608:5609:0209:0509:1109:1309:2309:3109:3209:4209:42840972842961842961787025844887843117582470810356668482632881944481944409:1909:2610:1910:1710:1910:3109:2610:3410:3609:3210:3911:070:520:301:231:151:141:200:131:111:050:000:571:25ID受付時刻診察開始時刻待ち時間

タブレット型PCの眼科領域での応用 17.デジタルコミュニケーションツールとしての活用-その3-

2013年10月31日 木曜日

永田眼科クリニック■タブレット型PCのコミュニケーションツールとしての意義第17章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PC“iPadRetinaディスプレイモデル(米国AppleInc)”と“iPadmini(米国AppleInc)”のiOSバージョン6.1.3です.この章では発達障害や発声障害の患者や家族に対するデジタルコミュニケーションツールとしてのタブレット型PCの活用法を,患者の声とともに紹介していきます.■私のデジタルコミュ二ケーションツール活用法「発達・発声障害者編」タブレット型PCを臨床業務へ導入する以前,私は発達障害や発声障害などのコミュニケーションに障害をもつ患者との意思疎通に有効な手段をもっていませんでした.しかし,タブレット型PCの臨床業務への導入後は,発達障害や発声障害をもつ患者に対する意思疎通の方法は大きく変化しました.2013年8月現在,私の外来ではタブレット型PCの障害者向けアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)の活用法を,患者や患者家族とのデジタルコミュケーションツールとして紹介しています.①コミュニケーション支援アプリの活用タブレット型PCには多数のコミュニケーション支援アプリが存在しています.これらのアプリを起動すると,代表的な日常動作や感情を表すアイコンが表示されます.使用者はそれらのアイコンをタップすることでアイコンの内容が音声で読み上げられ,希望する動作や感情をリアルタイムに相手に伝えることが可能です(図(69)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY第17章としての活用─その3─三宅琢(TakuMiyake)1).また,アイコンや音声は任意に作成して追加することができるため,個人のニーズに合わせて設定したアイコンを用いることで,より快適な意思疎通を行うことができます.また,主語や述語,目的語を個別に選択することで簡単な会話文を任意に作成し,音声で読み上げてくれる高度なコミュニケーション支援アプリも存在しています.私の外来では患者とのコミュニケーション用のアイコンを事前に作成して,診察時の意思疎通の補助ツールとして利用しています(図2).感情や意志の出力に障害をもつ人がリアルタイムに自らの感情を出力することができるため,自然な会話の流れの中でコミュニケーションをとることが可能となります.このようなアプリの導入により,医師患者関係のみならず患者と患者家族との関係性も向上します.実際に導入した患者の家族の声には以下のようなものがあります.あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131413「これまで息子が何を考えているのか全くわからなかったけど,はじめて息子の考えていることが理解できました.」「以前は私が質問して子供が答える形が私たちの会話でした.最近は子供が自分の意志で感情や意志を表現できるので,本当に子供の声を聞いているような感覚になります.」シンプルなアプリであるために,患者は自発的かつ直感的にアプリを操作することが可能です.また,患者家族と患者とのコミュニケーション以外にも利用できるため,このアプリが自宅でのタブレット型PC導入の契機となった症例もあります.そのような家族の声には,以下のようなものがあります.「息子が使っていないときは,祖父が使っています.ときどき息子と祖父がこのアプリを使って会話しているときもあって,見ていて微笑ましいです.」コミュニケーション支援アプリを生活に導入することで,発達・発声障害の患者のみならず,自身の感情や意志を伝えることが困難なすべての人がコミュニケーション上の不便さを軽減することができるのです.■デジタルデバイス導入の意義3章にわたり,さまざまな障害者とのコミュニケーションツールとしてのタブレット型PCの活用事例を紹介しました.コミュニケーションにおける出力や入力が困難な人々にとって,タブレット型PCの安価なアプリが与える彼らの生活の変化はとても大きな意味をもっています.インフォームド・コンセントが重要視される現代の医学教育において,医学生は患者説明に関するさまざまな教育を受けています.医療面接の際に難解な医学用語などの専門用語を使用しないことや椅子の配置や身の向きなど,われわれはさまざまな医療面接におけるスキルを教育されて来ました.しかし,実際の臨床においては,それらのスキルに加えて個々の患者─医師間の意思疎通を向上させる仕組みが必要です.すなわち,医療者は患者が最も受け止めやすい形で情報を発信し,障害の有無にかかわらず患者の意志が抽出しやすい状況を設定することは,現代の障害者医療の現場ではきわめて重要であると私は強く感じています.より多くの医療機関で,コミュニケーションツールとしてタブレット型PCが活用されることで,障害者がコミュケーションの質を向上されられる日が来ると私は信じています.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1414あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(70)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 125.妊娠により憎悪した増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(中級編)

2013年10月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載125125妊娠により増悪した増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●妊娠と糖尿病網膜症近年,糖尿病罹患率の増加により,糖尿病を有する女性の妊娠,出産が増加している.妊娠は糖尿病網膜症の悪化因子の一つとされており,活動性の高い網膜症を有する場合には,網膜症の沈静化を待つか,光凝固により網膜症の活動性を低下させたうえで,妊娠するように指導する計画妊娠が勧められている.また,妊娠後に増殖糖尿病網膜症(PDR)と診断されたときは,治療的妊娠中絶を選択することもある.●妊娠が硝子体手術後の予後不良の一因と考えられた1例症例は33歳,女性.初診時に両眼とも活動性の高いPDRを認めた(図1).光凝固を開始したが経過中に右眼の牽引性網膜.離が進行し,増殖膜処理中,特に出血の処理に苦慮することなく手術を終了した.術後視力は(0.4)に改善した.その後,左眼も同様に牽引性網膜.離が進行した(図2).しかし,その後妊娠(11週)していることが判明した.内科医,産科医と協議し,胎児奇形,糖尿病の悪化,網膜症の悪化などの妊娠継続のリスクを説明し,人工的妊娠中絶を勧めたが,本人および家族が妊娠の継続を強く希望したため,硝子体手術を妊娠16週に施行した.しかし,右眼と違い増殖膜処理時の出血は易凝血性であり,多数の医原性裂孔を形成した(図3).その後も左眼は再出血,再増殖をくり返し視力は(0.04)にとどまった.●妊娠が硝子体手術に与える影響妊娠が糖尿病網膜症に影響を与える因子として,心拍出量の増加による網膜血流量の増加,血中脂肪の増加,1412あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図1初診時の左眼眼底写真活動性の高い増殖糖尿病網膜症を認め,下方に硝子体出血をきたしていた.右眼もほぼ同じ所見であった.図2硝子体手術前の左眼眼底写真鼻側に増殖膜を認め,牽引性網膜.離が進行してきたため硝子体手術を施行した.眼底所見としては右眼の硝子体手術前とほぼ同様であった.図3左眼の硝子体手術中の所見増殖膜処理時の出血は易凝血性であり,多数の医原性裂孔を形成した.胎盤から分泌される各種ホルモンの影響,血小板凝集能の亢進などが指摘されている.本症例では,網膜症の重症度は硝子体手術施行時には左右ともほぼ同程度と考えられたが,妊娠16週に行った左眼の硝子体手術では出血は易凝固性で多数の医原性裂孔を形成し,再出血や再増殖の原因となった.妊娠中に血液凝固能が亢進することは知られているが,血小板数は非妊娠時から妊娠後期まで変化がない一方で,血小板粘着能は妊娠中期ごろより上昇するとされている.良好な視機能を温存するためには妊娠中であっても硝子体手術を施行するケースは今後もあり得るが,手術時に血小板凝集能や血小板粘着能の亢進により手術の難易度が高くなる可能性を念頭におく必要がある.(68)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 154.眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して

2013年10月31日 木曜日

第154回◆眼科医のための先端医療a0.5e/104M-1眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して向井亮(群馬大学医学部眼科学講座)はじめにイリジウム錯体(iridiumcomplex)は,腫瘍領域における腫瘍細胞のイメージングを目指して開発されてきたSNNIrSOOCH3H3CbIntensity(arbitaryunit)-111化合物です1).そのイメージングの基本原理は,低酸素状態でのみリン光を発しエネルギー状態を変遷させることができるイリジウム錯体の性質を利用したものです.腫瘍細胞では,著明な低酸素環境が生じていることが知られており,その結果,低酸素に対する生体応答であるcm0.500HIF-1aを介した転写因子により調節される系が働き,VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)やGlut-1などの標的遺伝子が誘導されます.従来のイメージングではこれらの因子をターゲットにし,ラジオアイソトープを用いた基材,PET(positronemissiontomography)による検出を目指した低酸素細胞の検出方法が開発されてきました.一方,イリジウム錯体を用いた低酸素領域の検出は,リン光の出現をイメージングする方法であり,従来の方法に比べ,安全に基材を調整することが可400500600700Wavelength/nmす3).眼灌流量の低下により網膜組織での酸素分圧の減弱がもたらされることが予想されますが,現在の一般検査機器では網膜内の低酸素状態をリアルタイムで検出することはできません.能です.また,検出器械の設備が簡素化するために,大変大きなメリットが見込まれます.今回,筆者らはこのイリジウム錯体を用いて,眼科領イリジウム錯体を用いた眼内のイメージングを行う実域における虚血性疾患での眼底イメージングの実現を目際のプロセスは,イリジウム錯体の静脈内投与を行い,指した基礎実験について紹介させていただきます.その後,眼底自発蛍光(fundus:FAF)のカメラを用い,500.600nmの励起光を用いて眼内を撮影する,という簡便な方法です.イリジウム錯体を投与前にFAFカ眼科領域における虚血性疾患としては,網膜動脈閉塞症を始め,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,未熟児網膜症,虚血性視神経症,眼虚血症候群などが,そして脈絡膜レベルでの虚血が関与する疾患として加齢黄斑変性などがあげられます.糖尿病網膜症においては,レーザードップラーの方法により,網膜動脈の血流が低下することが報告されています2).眼内への全血流量が低下する疾患がある一方で,網膜動脈分枝閉塞症では眼内の局所での網膜血流の減弱が生じていることが報告されていま(65)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYメラにて撮影した像が図2であり,イリジウム錯体が励起されているのがわかります.その後静脈内投与を行い,眼底を撮影することで,血管内に広がるイリジウム錯体をFAFカメラにて検出することが可能です.図3は正常家兎に対しイリジウム錯体の静脈内投与を行い数分後に眼底を撮影したものです.血管内と一部硝子体内に播種しているのがわかります.現在,筆者らは網膜血管の灌流領域内に虚血状態を作製し,その部位での低酸素状態に関しイリジウム錯体をあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131409用いて検討しております.眼科領域での虚血性動物実験モデル作製には,網膜血管を直接に光凝固する方法4),眼動脈を直接遮断する方法5)がありますが,現在,筆者らは前者の方法を利用して,眼虚血モデルを作製したうえでイリジウム錯体を静脈内投与し,その後低酸素領域にあるイリジウム錯体から放射されるリン光をFAFカメラにより検出することを試みています.現在までのところ,日本白色家兎を用い網膜血管の直接光凝固を行い,その翌日にイリジウム錯体を耳静脈から投与し,FAFカメラにて眼底撮影を行ったところ,レーザー領域に一致した部位で,眼底自発蛍光の増強が確認されています.図3正常家兎にイリジウム錯体を静注し眼底自発蛍光カメラにて観察した眼底像文献1)ZhangS,HosakaM,YoshiharaTetal:Phosphorescentlight-emittingiridiumcomplexesserveasahypoxia-sens-ingprobefortumorimaginginlivinganimals.CancerRes70:4490-4498,20102)NagaokaT,SatoE,TakahashiAetal:Impairedretinalcirculationinpatientswithtype2diabetesmellitus:reti-nallaserdopplervelocimetrystudy.InvestOphthalmolVisSci51:6729-6734,20103)大前恒明,高橋淳士,長岡泰司ほか:【症例】網膜動脈循環動態変化を測定した網膜動脈分枝閉塞症の1例.日眼会誌113:800-807,20094)HillDW,YoungS:Retinalvascularocclusioninthecatbyphotocoagulation:trialofanewinstrument.ExpEyeRes16:467-473,19735)FujinoT,HamasakiDI:Theeffectofoccludingthereti-nalandchoroidalcirculationsontheelectroretinogramofmonkeys.JPhysiol180:837-844,1965■「眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して」を読んで■今回は向井亮先生(群馬大学眼科)の意欲的な眼行うことにより,リアルタイムに網膜が低酸素状態に科検査法開発についての解説です.網膜の虚血によりあるかどうかを臨床的に調べることができる可能性を多くの疾患,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などが発示したことに大きな意義があります.今後,ヒトに投症することはよく知られ,虚血網膜から産生される血与することのできる安全で有効な検査薬が開発されれ管内皮増殖因子(VEGF)が網膜血管バリアー機能障ば,いままで困難であった直接的な網膜の低酸素状態害や血管新生を引き起こす分子病態が明らかになってを検出することができるようになります.きているのは,眼科医の常識になりつつあります.網現在の網膜循環障害に対する治療法開発のトピック膜の虚血を調べる臨床検査は,実は「網膜が低酸素状スは抗VEGF薬の開発です.今後,糖尿病網膜症の態にあるか?」を調べているのではなく血流が低下し特に黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の治療ている状態を調べています.向井先生のユニークな研薬として期待されている抗VEGF薬の大きな問題は,究は,イリジウム錯体を用いた眼内のイメージングをどのような症例にどのようなプロトコールで投与する1410あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(66)かという問題を臨床検査をもとにエビデンスをもって清水弘一教授,岸章治教授と続く網膜疾患研究の解決することです.網膜が現時点で低酸素状態にあるメッカであり,このような教室から新しい網膜疾患検ことが明確に示されれば治療法決定に大きな助けとな査法が開発されることは偶然ではなく大きな意義を有ります.また,治療ターゲットを低酸素状態にするこすると考えます.この研究がぜひ,臨床現場で使用可とで新しい発想の治療薬の開発が進むかもしれませ能な検査法として確立されることを願ってやみません.ん.今回の向井先生の所属しておられる群馬大学眼科は山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131411

新しい治療と検査シリーズ 210.α2受容体作動薬-ブリモニジン

2013年10月31日 木曜日

210.a2受容体作動薬―ブリモニジンプレゼンテーション:相原一四谷しらと眼科コメント:山本哲也岐阜大学大学院医学系研究科眼科学.バックグラウンド交感神経a2受容体作動薬は鎮静鎮痛薬としてのキシラジンが古くから有名であるが,非選択的交感神経作動薬であるエピネフリンが眼圧を下降させることから,選択性のあるa2受容体作動薬であるクロニジンが開発された経緯がある.残念ながらクロニジンは眼圧下降効果はあるものの中枢性のa2受容体刺激による低血圧,傾眠などの副作用が著明であり,眼圧下降薬として開発さHClれなかった.その後,血液脳関門を通過しにくいアプラクロニジンが開発されたが,散瞳,結膜蒼白,眼瞼退縮,口渇感により長期連用できず現在は前眼部のレーザー照射時に一時的に使用されていることはご存じのとおりである.血液脳関門を通過しにくく,副作用の少ない薬剤探索の結果,ブリモニジンが開発され,日本でもようやく海外に遅れること10年,2012年に上市された(図1).1日2回点眼により有意な眼圧下降効果が得られ,基本的に主要な眼圧下降薬と併用効果もあり,全身[クロニジン塩酸塩][アプラクロニジン塩酸塩]HOHHO2CCO2HHOH[ブリモニジン酒石酸塩]分子量:442.22(酒石酸塩),292.13(遊離塩基)図1a2受容体刺激薬ブリモニジン酒石酸塩と類薬の化学構造(61)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201314050910-1810/13/\100/頁/JCOPY視野障害進行患者割合0.70.60.50.40.30.20.10.0図2a2作動薬ブリモニジンの眼圧下降以外の神経保護効果の可能性ブリモニジン群がチモロール群より.副作用(アレルギー)で脱落が多い(28.3%vs11.4%)..視野の進行例が有意に少ない(9.1%vs39.2%).初めて大規模スタディにより眼圧下降以外の作用による緑内障神経保護効果を示した報告.(KrupinT,etal:AmJOphthalmol2011)048121620242832経過(月)性の副作用もb遮断薬より少なく使用しやすい薬剤である.興味深いことに古典的a2受容体作動薬のキシラジンと同様に,神経保護効果に対する報告がきわめて多い薬剤であり,培養細胞実験系から動物実験まで幅広く眼圧負荷だけでなく神経細胞死を起こすストレスに対しての保護効果が示唆されている.唯一多施設無作為化並行群間比較試験による眼圧下降以外の神経保護効果を示唆する臨床効果が報告されている薬剤であり(図2)1),眼圧下降効果だけでなく,将来の神経保護薬としての可能性を秘めた薬剤である..新しい治療法ブリモニジンは血液脳関門を通過しにくく,なおかつa2受容体選択性の高い薬剤であり,交感神経シナプス末端および毛様体に存在するa2受容体に結合し刺激する.房水動態ではブリモニジンにより房水産生抑制と主としてぶどう膜強膜路経由の房水流出促進が得られるこ36404448とで眼圧が下降する.a2受容体にはサブタイプがあるが,特にa2A受容体に選択性が高いため全身末梢性a2受容体刺激がきわめて少なく,呼吸器系や循環器系に末梢レベルでの副作用を惹起しない.既存の主要な眼圧下降選択薬であるプロスタグランジン関連薬,交感神経b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とは作用点が異なることで併用効果が得られる.眼圧下降は単独ではプロスタグランジン関連薬には劣るが,プロスタグランジン関連薬への追加効果では点眼b遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬と同等の効果が得られる2)..使用方法1日2回点眼を他の薬剤により十分な眼圧下降効果が得られないときに追加処方することが基本である.作用機序から非選択性交感神経作動薬であるピバレフリンとは併用すべきではないが,他の眼圧下降薬とは併用可能である.副作用として中枢神経系に作用した場合,傾表1交感神経a2受容体作動薬ブリモニジン酒石酸塩の特徴製品名アイファガンR(千寿製薬)作用点交感神経a2受容体刺激眼圧下降機序房水産生抑制とぶどう膜強膜路房水流出促進眼圧下降効果b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬とほぼ同等他の薬剤で十分な眼圧下降効果が得られないときの追加適応併用点眼薬使用方法1日2回点眼慎重投与循環器系のリスクが高い高齢者緑内障,脳血管障害,起立性低血圧の患者禁忌低出生体重児,新生児,乳児,2歳未満の幼児おもな副作用アレルギー性結膜炎,ふらつき,めまい,低血圧1406あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(62)眠,中枢性a2A受容体を介した血圧低下が起こりうる.しかし,基本的には血液脳関門を通過しにくい薬理学的性質をもつが,個人差があることに留意する.また,局所的には長期使用により濾胞性アレルギー性結膜炎が生じやすい.慎重投与は循環器系のリスクが高い高齢者緑内障,脳血管障害,起立性低血圧の患者,また血液脳関門が十分発達していない低出生体重児,新生児,乳児,2歳未満の幼児には禁忌である..本方法の良い点プロスタグランジン関連薬には劣るものの十分な眼圧下降効果が得られ,全身的に副作用が少なく,既存の眼圧下降薬のほとんどと併用効果がある使用しやすい薬剤である.プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬についで有用な選択肢が増えたことにより,点眼眼圧下降治療は一層充実したものとなった.特に呼吸器系,循環器系疾患によりb遮断薬が使用できない患者にも,製剤としては塩化ベンザルコニウム非含有であり,それに対してアレルギーが認められる患者にも使用可能である.文献1)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Low-Pres-sureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbri-monidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20112)ChengJW,LiY,WeiRL:Systematicreviewofintraocu-larpressure-loweringeffectsofadjunctivemedicationsaddedtolatanoprost.OphthalmicRes42:99-105,2009.本治療薬に対するコメント.ブリモニジンは昨年日本に導入された新規薬理作用作用である.後者は遅発性(通常2.3カ月以上使用を有する緑内障治療薬であり,良くも悪くもユニーク例)かつ頻度の高いことに留意する必要がある.ブリな薬剤である.眼圧下降効果はb遮断薬と同等あるモニジンの神経保護作用に関して眼圧下降に差のないいはやや弱い程度であり,また1日2回点眼であるこチモロール投与例と比較して視野変化が少なかったととからも第一選択薬としては使用しにくい.また,幼いう報告(図2)が確かにある.しかしながら,当該児には使えない.しかしながら,b遮断薬と比較して論文についてはAJOのEditorial(2011年11月号)全身副作用が軽度である,他剤との併用時にも相性がなどの批判もあり,可能であれば日本人正常眼圧緑内良い,などの使いやすさがある.傾眠とアレルギー性障患者を対象とした追試験が望まれる.結膜炎は処方開始時に伝えておかなければいけない副☆☆☆(63)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131407

私の緑内障薬チョイス 5.ルミガン®

2013年10月31日 木曜日

5.ルミガンR一戸唱中元兼二日本医科大学眼科学教室ルミガンRの長所は,1日1回の点眼で24時間にわたって強力な眼圧下降効果を有し,かつ,全身的副作用がない点である.特に,ほかのプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬あるいは配合剤で眼圧下降効果が少ないときに処方することをお勧めする.ただし,眼局所副作用は比較的強く,処方時には十分説明する必要がある.優れた眼圧下降効果を有するルミガンRわが国において2009年10月に発売されたルミガンRは,現在,使用されているプロスト系PG関連薬のうち,最後に発売されたものである(図1).従来のPG関連薬はPGF2a誘導体で,角膜などに存在するエステラーゼで代謝されて活性型となるプロドラッグであるのに対して,ルミガンR(ビマトプロスト)はプロスタマイド誘導体であり,未変化体で薬理活性を示す1).その(図2)眼圧下降効果は強力でラタノプロストと同等あるいはそれ以上の可能性があり2),特に,ラタノプロスト・ノンレスポンダー症例におけるルミガンRへの変更治療の有効性に関しては,読者の先生方も臨床の場においてしばしば経験するところであろう.そのほか,ラタノプロストを上回る長期眼圧変動抑制効果,ラタノプロストとチモロール0.5%併用治療あるいはラタノプロスト/チモロール0.5%配合点眼薬と同等の眼圧下降効果を示したとする報告まである.また,筆者らの検討では,ルミガンRは正常眼圧緑内障患者においても眼圧を24時間有意に下降させ(図3),眼圧日内変動幅も有意に縮小させたが,このルミガンの24時間眼圧下降効果は,同様の手法で行ったラタノプロストやゲル基剤チモロール0.5%単独治療より大きかった3).以上からわかるように,ルミガンRは,眼圧下降効果に関しては良いことずくめであるといえる.ほかのPG関連薬より強い眼局所副作用一方,結膜充血や上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)などの眼局所副作用は,ほかのPG関連薬より強い.結膜充血は,PG関連薬にとって治療継続上最初の障(57)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY壁となる重大な副作用であるが,多数例を評価したわが国での報告では,充血により7%程度が中止に至っている4).また,DUESに関しては.Sakataらは,ラタノプロストをルミガンRに変更すると,6カ月で60%の症例にDUESがみられたが,ラタノプロストに戻して2カ月後には,85%の症例で改善がみられたと報告している5).ルミガンRの新規処方のコツ筆者らは,ルミガンRを新規で処方する際,主に以下の3点を患者に説明している.①ルミガンRは,緑内障薬として最も必要な眼圧下降効果がきわめて良好であること.②緑内障は超慢性疾患であるので,長期にわたり使本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131401図2ビマトプロスト(ルミガンR)およびプロスタグランジンF2a誘導体の化学構造(文献1より引用)用する必要があり,そのために全身副作用の有無は重要であるが,b遮断薬などとは異なりルミガンRには全身副作用がないこと.③ルミガンRの眼局所副作用には,結膜充血,眼瞼多毛,睫毛伸長,DUESなどがあるが,個人差があり,もし気になるようであれば,点眼の中止または他剤への変更により副作用は改善または消失すること.眼圧(mmHg)*:p<0.01Mean±S.E.18161412108101316192213測定時刻(時)図3ルミガンR点眼前後の眼圧日内変動眼圧日内変動をルミガンR治療前後で比較すると,眼圧はすべての時刻で有意に下降していた.正常眼圧緑内障患者(14例14眼)(文献3より改変)ルミガンRの処方をお勧めしたい症例ルミガンRは全身的に安全で優れた眼圧下降効果を有している一方,その強力な眼局所副作用から,第一選択薬としては使用しにくい.しかし,特に,ほかのPG関連薬あるいは配合剤では有効な眼圧下降効果が得られない場合でも,ルミガンR1剤で十分眼圧が下降することも少なくない.特に,このような症例では,患者の生涯にわたるQOV(qualityofvision)およびQOL(qualityoflife)の維持のために,ぜひルミガンRを処方していただきたい.文献1)和田智之,WheelerLA,WoodwardDF:ビマトプロストの作用機序の特徴プロスタグランジン誘導体との比較.医学と薬学62:525-534,20092)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20083)中元兼二,里誠,小川俊平ほか:正常眼圧緑内障におけるビマトプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果.あたらしい眼科29:1693-1696,20124)井上賢治,長島佐知子,塩川美菜子ほか:ビマトプロスト点眼薬の球結膜充血.眼紀4:1159-1163,20115)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Recoveryfromdeep-eningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfrombimatoprosttolatanoprost.JpnJOphthalmol57:179-184,2013●1402あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(58)

抗VEGF治療:遺伝子多型と抗VEGF薬

2013年10月31日 木曜日

7.遺伝子多型と抗VEGF薬本田茂神戸大学医学部附属病院眼科現在,さまざまな疾患の発症リスクや治療効果には遺伝要因が関与していると考えられている.本稿では抗VEGF療法の治療効果に関連する遺伝子多型について,特に同療法が中心的役割を担っている加齢黄斑変性に対する治療報告をもとに概説する.はじめに遺伝因子(ゲノム情報)は,疾患への感受性に関与するだけでなく,さまざまな治療の結果にも影響を及ぼすものと考えられている.眼科領域では加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenaration:AMD)発症にかかわるさまざまな遺伝因子が有名であるが,それらがAMDの治療にも影響するのか,あるいはほかの特異的な因子が治療効果を左右するのかはまだ十分にわかっていない.本稿では今,眼科の臨床現場で不可欠になった抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)療法の効果に影響する遺伝因子について,特にAMD治療の観点から紹介する.遺伝子多型とは遺伝子多型とは,母集団中に1%以上の頻度で存在する遺伝子配列の差異のことである.なかには生成される蛋白質の量や性質に影響するものもある.本稿では特に断りがない限り,遺伝子中の一つの塩基が置換される一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)が抗VEGF療法の治療効果に影響する可能性について述べる.原疾患の感受性遺伝子は治療経過にも影響するAMDの感受性(疾患へのなりやすさに関連する)遺伝子として有名な補体H因子(ComplimentfactorH:CFH)やage-relatedmaculopathysusceptibility2(ARMS2)/high-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1)のSNPと抗VEGF療法の関連についてはすでにいくつもの報告がみられる(表1).特にCFHY402H多型に関しては,リスクアレル(C)をもつ群ではAMD発症にかかわる慢性炎症の存在が示唆されるため,多くの報告では非リスクアレル(T)保有者に比べて抗VEGF療法の予後が良くない.これは遺伝的に疾患感受性が高い場合,治療の有無と関係なく原疾患の進行あるいは病変再発のリスクが高まるため,治療予後にとっては負の影響があると考えられる.ただ,なかにはアレルの有益性が逆転している報告もみられ,各臨床試験における治療前のAMDサブタイプ(典型AMD,ポ表1CFHY402H遺伝子多型と抗VEGF療法の効果著者抗VEGF薬症例(眼)数主要評価項目有益性Smaihodzic1)ranibizumab4203カ月後視力(logMAR連続変数)TT>CCGruissem2)ranibizumab243(63/63)12カ月後視力(視力変化量分布上位25%/下位25%)TT,CT>CCLee3)ranibizumab1569カ月の再治療回数TT>CCOrlin4)ranibizumabbevacizumab150平均22カ月後視力(悪化なし/あり)有意差なしMcKibbin5)ranibizumab1046カ月後視力(5文字より改善/否)CC,CT>TTChang6)ranibizumab1023,6カ月後視力(logMAR連続変数)CC>CT>TT(有意差なし)Yamashiro7)ranibizumab753,12カ月後視力(logMAR),滲出変化改善あり/なし有意差なし(55)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201313990910-1810/13/\100/頁/JCOPY表2VEGF.A遺伝子内のSNPと抗VEGF療法SNPIDlocationメジャー/マイナーアレル主要評価項目有益性rs1413711Intron1C/T6カ月後>5文字の視力改善CC,CT>TT5)rs833069Intron2A/G3カ月後網膜中心窩厚の変化3カ月後logMAR視力の変化GG>AA6)有意差なし1)rs3025000Intron3C/T6カ月後ETDRS視力変化CC<CT,TT9)rs699947プロモーター領域C/A3カ月後logMAR視力の変化12カ月後logMAR視力の変化有意差なし1)有意差なし10)rs699946プロモーター領域G/A12カ月後logMAR視力の変化GG>GA>AA10)リープ状脈絡膜血管症;PCV,網膜血管腫状増殖;RAPなど)分布や病勢,人種差などが関与している可能性がある.一般に遺伝子多型に関する知見は同一SNPにおける複数の報告をもとにメタ解析を行うことで立証されるが,Chenら8)によるCFHY402Hのメタ解析結果では,CCの遺伝子型をもつ群はTTの遺伝子型をもつ群よりも抗VEGF療法の効果が低いとの結論であった.一方でARMS2/HTRA1の遺伝子多型と抗VEGF療法の関連も多く研究されているが,有意な相関を認めたとする報告は少ない.VEGF.A遺伝子多型と抗VEGF療法一方で,抗VEGF療法の標的分子であるVEGF-AのSNPに関する報告もある(表2).VEGF-A遺伝子領域の複数のSNP(多くはイントロンに存在)について抗VEGF療法の視力予後との関連が示唆されているが,報告数がまだ少ないため,メタ解析による立証には至っていない.また,関連を示唆されたSNPがどのようなメカニズムで産生されるVEGF-A蛋白の量や質に影響を与えているのかを解明することで,新たな抗VEGF療法の開発や発展につながる可能性もある.遺伝子多型と個別化医療現在,わが国ではAMDに対する抗VEGF療法の効果に関連するSNPを,ゲノムワイド関連解析を用いて網羅的に探索するための全国レベルの多施設研究が進行中であり,近日中に最初の報告が出される予定である.将来的には治療方針の決定における遺伝情報の応用gene-basedmedicine(遺伝情報に基づいた個別化医療)で患者のbenefit/riskを高めることが可能になるかも知れない.1400あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013文献1)SmailhodzicD,MuetherPS,ChenJetal:CumulativeeffectofriskallelesinCFH,ARMS2,andVEGFAontheresponsetoranibizumabtreatmentinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2304-2311,20122)Kloeckener-GruissemB,BarthelmesD,LabsSetal:Geneticassociationwithresponsetointravitrealranibi-zumabinpatientswithneovascularAMD.InvestOphthal-molVisSci52:4694-4702,20113)LeeAY,RayaAK,KymesSMetal:PharmacogeneticsofcomplementfactorH(Y402H)andtreatmentofexudativeage-relatedmaculardegenerationwithranibizumab.BrJOphthalmol93:610-613,20094)OrlinA,HadleyD,ChangWetal:Associationbetweenhigh-riskdiseaselociandresponsetoanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentforwetage-relatedmaculardegeneration.Retina32:4-9,20125)McKibbinM,AliM,BansalSetal:CFH,VEGFandHTRA1promotergenotypemayinfluencetheresponsetointravitrealranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.BrJOphthalmol96:208-212,20126)ChangW,NohDH,SagongMetal:Pharmacogeneticassociationwithearlyresponsetointravitrealranibizumabforage-relatedmaculardegenerationinaKoreanpopula-tion.MolVis19:702-709,20137)YamashiroK,TomitaK,TsujikawaAetal:Factorsasso-ciatedwiththeresponseofage-relatedmaculardegenera-tiontointravitrealranibizumabtreatment.AmJOphthal-mol154:125-136,20128)ChenH,YuKD,XuGZ:AssociationbetweenvariantY402Hinage-relatedmaculardegeneration(AMD)sus-ceptibilitygeneCFHandtreatmentresponseofAMD:ameta-analysis.PLoSOne7:e42464,20129)AbediF,WickremasingheS,RichardsonAJetal:Vari-antsintheVEGFAgeneandtreatmentoutcomeafteranti-VEGFtreatmentforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology120:115-121,201310)NakataI,YamashiroK,NakanishiHetal:VEGFgenepolymorphismandresponsetointravitrealbevacizumabandtripletherapyinage-relatedmaculardegeneration.JpnJOphthalmol55:435-443,2011(56)

緑内障:強度近視における視神経乳頭の特徴

2013年10月31日 木曜日

160.強度近視における視神経乳頭の特徴生野恭司浅井智子大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室近視は緑内障の危険因子である.眼球変形による眼圧感受性の上昇が疑われるが,詳細は明確でない.近視の乳頭は,緑内障と共通部分があり,特に正常眼圧緑内障のメカニズムを考えるうえで,興味深い.また,光干渉断層計の登場も,大きくその理解を進めた.本稿では,強度近視の乳頭を緑内障との関連性から整理する.強度近視では,眼球の伸展に伴い特徴的な乳頭性状を呈する.近視は緑内障の危険因子だが,このような変形が篩状板の眼圧感受性を高めて緑内障性神経障害を誘発すると考えられている.特に正常眼圧緑内障の成因を考えるとき,強度近視の乳頭病理所見は大きなヒントとなるかもしれない.今回は強度近視の特徴的な乳頭所見を解説する.●強度近視と視神経の変化正視眼の視神経は,強膜に対して垂直に貫通して眼内へ到達する.強度近視においては,眼球壁の伸展が一様でなく,特に後極部が著しく進展して後部ぶどう腫を形成し,また強膜,脈絡膜,網膜の伸展許容度にも組織による差があるため,視神経と眼球壁の位置関係は変化する.Kimらは,近視の進行とともに,乳頭耳側が後退して傾斜すること,耳側強膜が牽引され,強膜管(scleralcanal)の一部が平坦化して乳頭周囲萎縮(PPA)となると仮説した(図1)1).Jonasらは,強度近視では接線方向への張力によって視神経乳頭が拡大し,全体に平坦化すると報告している2).組織学的にも,強度近視では視神経乳頭縁で神経線維層を除く網膜およびBruch膜,脈絡膜が欠損し,強膜flangeの菲薄化を認め,眼球後部の脳脊髄液腔と視神経乳頭後部の交通など,眼球伸展による視神経乳頭周囲組織の変化があるとされている3)(図2).これらの視神経乳頭の傾斜や平坦化といった所見は,視神経乳頭周囲組織の変化と大きく関与しているが,視神経乳頭内部ではさらに複雑な力学変化が生じている.●強度近視における視神経内部の変化強度近視では,視神経内部にも構造変化が生じる.強度近視眼の篩状板は有意に菲薄し,後退する.また強膜(53)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図2乳頭周囲の組織図非強度近視眼(緑内障眼)(左)と強度近視眼(右).強度近視眼では乳頭周囲の強膜が延長し菲薄化している(矢印C).非強度近視眼では緑内障眼と非緑内障眼いずれにも視神経乳頭縁での強膜の延長や菲薄化は認めない.(文献3より引用)の菲薄化により,くも膜下腔が硝子体腔へ接近することが,OCTでしばしば確認される(図3).最新の画像診断では強度近視の篩状板もしくは耳側コーヌス内に小窩が見られることが注目されている4).小窩の一部は,かなり深部まで達しており,場合によってはくも膜下腔とあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131397図3高侵達スウエプトソースOCTで撮影した強度近視眼の視神経乳頭乳頭傾斜や強膜・脈絡膜の菲薄とともに,くも膜下腔(SAS,矢印で挟まれた低反射部分)が,硝子体側に近接している様子が描出される.強度近視の乳頭周囲に見られるintra-choroidalcavitationは,検眼鏡的には,乳頭周囲の橙色病変として見られ,OCTでは脈絡膜レベルの空隙として観察される(*印).の交通が疑われる.本病態が眼軸長伸展による,単なる横方向のストレスか,強膜.脈絡膜の血管の脱落によるものかは定かではない.緑内障でも篩状板が薄くなり5),一部に欠損ができる6).このように強度近視における視神経内部変化は緑内障と共通することが多く,非常に重要である.また,視神経内部ではないが,強度近視の乳頭周囲にはintra-choroidalcavitationと呼ばれる.胞様変化が生じることから(図3),高レベルのストレスの存在が想像される.●強度近視と乳頭傾斜強度近視眼では,後部眼球の形状変化により,後部強膜が異常に後方に突出して後部ぶどう腫を形成する.したがって,視神経と後部強膜の関係にも異常をきたし,強膜内を斜めに貫通するいわゆるobliqueinsertionと呼ばれる状態となる.強度近視における後部ぶどう腫の分類は,古くから検眼鏡に基づくCurtin分類が用いられ,そのすべてが視神経乳頭の全体または一部を含む後部ぶどう腫であったが,この分類を用いても,視神経刺入部の3次元的形態変化の定性的評価は不可能であった.その理由は,乳頭傾斜が,前後のねじれだけでなく,回旋も含まれるためである.先述の強度近視眼の篩状板や視神経乳頭周囲の形態変化仮説では,乳頭周囲傾斜は重要なパラメータの一つである.筆者らは,トプコン社と協力して乳頭周囲の傾斜の評価を試みた.すなわち,スウェプトソースOCTの画像から,乳頭周囲の色素上皮の位置を測定し,乳頭周囲の傾斜の定量化を試みたところ,強度近視眼では耳下側に著明に傾斜することがわかった.乳頭傾斜は,近視におけるNTGにも特徴的で,乳頭回旋と緑内障の視野障害部位に関連があるとされる7).乳頭傾斜がどのように緑内障にかかわるかは今のところ議論の余地があり,今後の研究成果が待たれる.おわりに強度近視の乳頭は,今まで観察が非常に困難であったが,少しずつその状態が明らかになってきた.ただ現状では,篩状板や乳頭深部,そして乳頭周囲の強膜については,まだまだ検討の余地がある.今後の技術革新により,乳頭のさらに深部まで観察可能になれば,大きく理解が進むに違いない.文献1)KimTW,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangewithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:21-26,20122)JonasJB,DichtlA:Opticdiscmorphologyinmyopicpri-maryopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOph-thalmol235:627-633,19973)JonasJB,JonasSB,JonasRAetal:Histologyofthepara-papillaryregioninhighmyopia.AmJOphthalmol152:1021-1029,20114)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Acquiredopticnerveandperipapillarypitsinpathologicmyopia.Ophthalmology119:1685-1692,20125)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflami-nacribrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,20096)YouJY,ParkSC,SuDetal:Focallaminacribrosadefectsassociatedwithglaucomatousrimthinningandacquiredpits.JAMAOphthalmol131:314-320,20137)ParkHY,LeeK,ParkCK:Opticdisctorsiondirectionpredictsthelocationofglaucomatousdamageinnormal-tensionglaucomapatientswithmyopia.Ophthalmology119:1844-1851,20121398あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(54)

屈折矯正手術:高度円錐角膜に対する角膜内リング手術

2013年10月31日 木曜日

161.高度円錐角膜に対する角膜内リング手術福岡佐知子多根記念眼科病院高度円錐角膜に対する角膜内リング手術は角膜が局所で菲薄化,突出しているためトンネル作製時に穿孔の可能性があり積極的に行われていない.術前の綿密な手術計画や手術中の角膜厚計測,フェムトセカンドレーザーによるトンネル作製位置の微調整を行うことにより,手術が可能であったので紹介する.はじめに角膜内リング(intracornealringsegments:ICRS)手術は,PMMA(ポリメタクリレート)製の弧状のリング片2本を角膜周辺部実質内に挿入する手術で,角膜中央部を平坦化し,角膜形状を整える.1987年にFle-mingらが近視矯正手術用に開発したが1),2000年にColinら2)が円錐角膜への使用を提唱した.中等度以下の円錐角膜に対するICRS手術の報告は多数あるが,高度円錐角膜には全層角膜移植が施行されており報告は少ない3.5).これは従来トンネル作製はマニュアル操作であり,角膜屈折値が55Dを超えるような症例には角膜穿孔の可能性があるため,積極的に治療を行うことが困難であったからである.近年,フェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser:FSレーザー)の登場により,トンネルが正確に作製でき,そのような症例にも手術が行えるようになった.●手術計画ICRS手術は,リングを最も適正な位置と深さに設置することによって有効な治療法となる.安定した検査結果を基に綿密な手術計画を行うことが手術の成功の秘訣である.最初に角膜形状解析装置(PentacumRなど)で角膜厚分布を計測して,リング挿入部位の角膜厚がすべて450μm以上であることを確認する.同時にリングの選択を各メーカーのノモグラムから決定する.現在使用されているおもなICRSを表1に示す.メーカーは各症例のケースアドバイスも行っている(図1).高度円錐角膜は中心の角膜が菲薄化しているため,矯正効果が強いといわれているKeraringは角膜厚を確保できず,実際には手術適応外となることが多い.当院ではリング内周径6.0mmのIntacsSKを使用し,それでも角膜厚が確保できない場合は安全な方向へトンネル作製位置を変更している.●手術座位から仰臥位における眼球回旋を補正する基準点,エントリーカット部,トンネルと円錐角膜のconeが接して穿孔しそうな部位にマーキングを行う.つぎにその部位をパキメトリーで測定し角膜厚が十分あることを確認する.つぎにFSレーザーでトンネルを作製する.当院はiFSAdvancedFemtosecondlaser(iFSTM,150kHz:AMO社)を使用しているが,ドッキング時のモニター表1角膜内リングの種類IntacsRIntacsSKRKeraringR材質PMMAPMMAPMMAリング内径の角度150°150°90/120/160/210°リング内周径6.8mm6.0mm4.7mmリング厚作製範囲0.21.0.450.02mm刻み0.21mm.0.25.0.450.05mm刻み0.15/0.2/0.25/0.3/0.35mmメーカーAdditionTechnology社AdditionTechnology社Mediphacos社挿入するリングの種類や組み合わせ,挿入の方向は球面度数・円柱度数・角膜形状をもとに,各メーカーのノモグラムから決定する.リング厚が大きいほど,内径が小さいほど矯正効果が強い.(51)あたらしい眼科Vol.30,No.10,201313950910-1810/13/\100/頁/JCOPY画面には予定トンネル作製部位の外側ラインが表示される.それを参考にさらに安全な場所へ微調整する.トンネルが完成したらリングを挿入し,エントリーカット部を1針縫合し,コンタクトを装用させて手術は終了である.●実際の症例36歳,女性.高度円錐角膜で,HCL不耐症であった.メーカー推奨プランは図1であり,耳側は角膜厚が398μmと薄く穿孔の可能性があるため,1mm耳側にトンネル作製部位を変更した.先述した手順で手術を行い,術後3カ月でHCLを再作製した(図2).術前と術後1年の裸眼視力,HCL視力,装用時間,TMSによるK耳側に移動図1Additiontechnology社推奨の角膜内リング予定作製位置推奨プランは0.4mmのIntacsSKを0°のエントリーカットより450μmnの深さのトンネルを作製し挿入する.耳側は角膜厚が薄く穿孔の可能性があるため,1mm耳側にトンネル作製部位を変更した.図2術前(左),術後HCL装用(右)前眼部写真HCL不耐症であったが術後終日装用可能となりHCL視力は0.6から1.2に改善した.(steep),AveKは0.01/0.2,0.6/1.2,装用1時間/終日装用可能,58.4D/54.8D,56.4D/53.9と角膜形状は改善し,QOV(qualityofvision)も改善した.当院で行った上記症例を含む高度円錐角膜6眼は全例ICRS挿入可能で,角膜形状は術前/術後1年のAveK,Ks,球面成分(6mm),正乱視成分(6mm)は58.3±3.8/54.8±3.3,60.5±3.7/56.0±3.6,56.7±3.3/52.8±2.5,2.14±1.4/1.20±1.2(すべてp<0.05,t検定)と有意に改善した.2症例はHCL不耐症であったが全例終日HCL装用可能となり平均HCL視力は1.17であった.●当院の高度円錐角膜眼に対するICRS手術のまとめ1)メーカー推奨プランを参考にICRS設置場所をより安全な部位へ変更.2)手術中に角膜厚を計測.3)FSレーザーを使用.4)角膜厚の薄い場所をマーキングし,トンネル作製回避の指標とした.5)FSレーザーのモニター画面で,トンネル設置場所を微調整した.今回紹介した方法ですべての高度円錐角膜症例にICRS手術が可能となるのではなく,慎重に手術適応を決める必要があり,また手術が可能であった症例に対しても今後長期的な経過観察が必要であるが,高度円錐角膜眼でも,ICRSによって角膜形状が改善し,コンタクトレンズ不耐症患者に良好な結果が得られたので,角膜移植前に試みる価値があると考える.文献1)FlemingJR,ReynoldsA.E,KilmerLetal:Theintra-stromalcornealring-twocasesinrabbits.JCataractRefractSurg3:227-232,19872)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:CorrectingKeratoco-nuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20003)HamdiIM:PreliminaryresultsofintrastromalcornealringsegmentimplantationtotreatmoderatetosevereKeratoconus.JCataractRefractSurg37:1125-1132,20114)SansanayudhW,BaharI,KumarNLetal:IntrastromalcornealringsegmentSKimplantationformoderatetosevereKeratoconus.JCataractRefractSurg36:110-113,20105)ErtanA,Kamburo.luG:Intacsimplantationusingafem-tosecondlaserformanagementofkeratoconus:Compari-tionof306casesindifferentstages.JCataractRefractSurg34:1521-1526,20081396あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(52)