《第24回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科31(7):1029.1032,2014c身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版)瀬戸川章*1井上賢治*1添田尚一*2堀貞夫*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科InvestigationofPhysicalDisabilityCertificateDeclaredbyGlaucomaPatients(2012)AkiraSetogawa1),KenjiInoue1),ShoichiSoeda2),SadaoHori2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)Nishikasai-InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討.対象および方法:2012年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のなかで視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例,平均年齢72.4±12.5歳)を対象とした.申請時の緑内障病型,障害等級を調査した.さらに2005年に行った同様の調査と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障が46例(63.0%)と最多であった.障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)とを合わせて70%を超えていた.結論:原発開放隅角緑内障で重症例が多かった.2005年の調査と比較して,緑内障病型,障害等級に変化はなかった.Purpose:Toreporttheresultsofglaucomapatients’applicationforvisuallyhandicappedstatuscertification.ObjectsandMethod:Thisretrospectivestudyinvolved73patients(36males,37females,averageage:72.4±12.5years)whoappliedforthephysicallyhandicappedpersons’cardforvisualimpairmentfromJanuarythroughDecember2012,byregularlygoingtoInouyeEyeHospitalandNishikasai-InouyeEyeHospital.Glaucomatypeandgradeattimeofapplicationwereinvestigatedandcomparedwiththesameinvestigationconductedatourinstitutionin2005.Results:Primaryopen-angleglaucomanumbered46cases(63.0%),themostnumeroustype.Theclassesexceeded70%forthecombinedfirstgrade(13cases,17.8%)andsecondgrade(40cases,54.8%).Conclusion:Incomparisonwiththe2005surveyresults,glaucomatypeandgradeatthetimeofapplicationforthephysicallydisabledcertificatedidnotchange.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1029.1032,2014〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳.glaucoma,visualimpairment,physicallydisabilitycertificate.はじめに井上眼科病院におけるロービジョン専門外来受診者の実態を以前に報告した1).そのなかで原因疾患の第1位は緑内障(49%),第2位は網膜色素変性症(17%)であった.斉之平ら2)は,鹿児島大学附属病院のロービジョン外来受診者の原因疾患は,第1位は黄斑変性(52%),第2位は緑内障(30%)と報告した.ロービジョン外来を受診する原因疾患として緑内障は高い割合を占めると考える.身体障害者手帳申請者は井上眼科病院での2005年調査3)では,緑内障(23%),網膜色素変性症(17%),黄斑変性(12%)が原因疾患の上位を占めていた.また井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院での2009年調査4)では,第1位は網膜色素変性症(28.0%),第2位は緑内障(22.5%),第3位は網脈絡膜萎縮(11.9%)であった.視覚障害者を対象とした調査では,大澤ら5)は,変性近視,糖尿病網膜症,緑内障が,高橋6)は糖尿病網膜症,網脈絡膜萎縮,緑内障が,谷戸ら7)は糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性症が原因疾患の上位であると報告している.視覚障害の原因疾患としても,やはり緑内障は高い割合を占めると考える.ロービジョン外来受診者や身体障害者手帳取得者の原因疾患として緑内障は上位である.それらの緑内障患者の実態を知ることは失明予防の観点からは重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,また病型により重症度や身体障害者手帳該当者に違いを有する可能性もある.そこで井上眼科病院において2005年に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った緑内障患者の実態を報告した8).今回筆者らは,井上〔別刷請求先〕瀬戸川章:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:AkiraSetogawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(103)1029眼科病院と西葛西・井上眼科病院で2012年に身体障害者手帳の申請に至った疾患の第1位である緑内障患者の実態を再び調査した.さらに2005年調査8)と比較した.I対象および方法2012年1.12月までに井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者39,745例のうち,同時期に視覚障害による身体障害者手帳の申請を行った73例(男性36例,女性37例)を対象とし,後向きに研究を行った.年齢は35.92歳で,平均年齢は72.4±12.5歳(平均±標準偏差)であった.身体障害者手帳申請時の緑内障病型,視力,視野,障害等級を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.2005年に井上眼科病院で行った同様の調査8)と緑内障病型ならびに視覚障害等級の内訳をIBM統計解析ソフトウェアSPSSでANOVAおよびc2検定を用いて比較した.有意水準はp<0.05とした.なお,緑内障病型については続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障の4群として検討した.2005年調査8)と今回調査の違いは,対象者が2005年調査8)では井上眼科病院通院中の患者のみだったため35例で,今回の73例より少なかった.また,2007年にも井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院で視覚障害による身体障害者手帳申請者の調査を行った4)が,そのなかの緑内障患者についての詳細な検討は行わなかったため,表1視力障害と視野障害の内訳視力1級2級3級4級5級6級申請なし視野2級042928195級0001022申請なし8225252005年■原発開放隅角緑内障2012年n=35■正常眼圧緑内障n=73■原発閉塞隅角緑内障今回は2005年調査8)と比較した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障46例(63.0%),続発緑内障18例(ぶどう膜炎後10例,落屑緑内障6例,血管新生緑内障2例)(24.7%),原発閉塞隅角緑内障5例(6.8%),正常眼圧緑内障4例(5.5%)であった.視覚障害等級は1級13例(17.8%),2級40例(54.8%)3級2例(2.7%),4級7例(9.6%),5級6例(8.2%),6級(,)5例(6.8%)であった.病型別の障害等級は,原発開放隅角緑内障では1級10例(21.7%),2級28例(60.9%),3級1例(2.2%),4級2例(4.3%),5級3例(6.5%),6級2例(9.4%)であった.続発緑内障では1級3例(16.7%),2級8例(44.4%),3級1例(5.6%),4級3例(16.7%),5級1例(5.6%),6級2例(11.1%)であった.原発閉塞隅角緑内障では2級2例(40.0%),4級2例(40.0%),5級1例(20.0%)であった.正常眼圧緑内障では2級2例(50.0%),5級1例(25.0%),6級1例(25.0%)であった.緑内障の病型別に障害等級に差はなかった(p=0.3265).視力障害を申請したのは52例,視野障害を申請したのは49例であった.その内訳は,視力障害は1級8例,2級6例,3級4例,4級15例,5級4例,6級15例で,視野障害は2級44例,5級5例であった.重複障害申請を行ったのは28例であった.その内訳は視野障害2級・視力障害2級が4例,視野障害2級・視力障害3級が2例,視野障害2級・視力障害4級が9例,視野障害2級・視力障害5級が2例,視野障害2級・視力障害6級が8例,視野障害5級・視力障害4級が1例,視野障害5級・視力障害6級が2例であった(表1).2005年調査8)では,緑内障病型は原発開放隅角緑内障15例(42.9%),正常眼圧緑内障7例(20.0%),原発閉塞隅角緑内障4例(11.4%),血管新生緑内障4例(11.4%),落屑緑内障2例(5.7%),ぶどう膜炎による続発緑内障1例(2.93級2012年n=35■4級■5級■6級n=732005年■1級■2級42.92011.425.7635.56.824.7■続発緑内障22.942.9011.414.38.517.854.82.79.68.26.8図1緑内障病型の比較図2視覚障害等級の比較2005年調査と今回調査で緑内障病型に有意差はない.2005年調査と今回調査で視覚障害等級に有意差はない.1030あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(104)%),白内障手術による続発緑内障1例(2.9%),外傷性緑内障1例(2.9)であった.視覚障害等級は1級8例(22.9%),2級15例(42.9%),4級4例(11.4%),5級5例(14.3%),6級3例(8.5%)であった.今回と2005年調査8)との比較では,緑内障病型(p=0.066,図1)と障害等級(p=0.706,図2)ともに同等であった.III考按ロービジョンサービスの対象者は日本眼科医会では約100万人と推定している9).ロービジョン外来あるいは視覚障害の原因疾患として高い割合を占める緑内障患者の身体障害者手帳申請について今回は検討した.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院し,視覚障害による身体障害者手帳を申請した患者は236例で,原因疾患は緑内障73例,網膜色素変性症41例,黄斑変性症25例,糖尿病網膜症22例の順に多かった.一方,井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に同時期に通院した患者は130,281例であった.疾患別の内訳は緑内障39,745例,糖尿病網膜症18,796例,黄斑変性症11,458例,網膜色素変性症2,838例などであった.疾患別の視覚障害による身体障害者手帳の申請率は各々緑内障0.18%,網膜色素変性症1.44%,黄斑変性症0.22%,糖尿病網膜症0.12%であった.網膜色素変性症患者の割合が高く,他の疾患はほぼ同等であった.2012年1.12月までに井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院した緑内障患者は39,745例であった.これらの症例の緑内障病型は不明である.一方,2012年3月12.18日までに両院を含めた39施設で行った緑内障実態調査では正常眼圧緑内障47.6%,原発開放隅角緑内障27.4%,続発緑内障10.3%,原発閉塞隅角緑内障7.6%などであった10).今回の結果と比べると,今回のほうが正常眼圧緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障と続発緑内障が多く,原発閉塞隅角緑内障はほぼ同等であった.つまり正常眼圧緑内障では身体障害者手帳に該当するほどの重症例は少なく,原発開放隅角緑内障や続発緑内障では重症例が多いと考えられる.しかし,緑内障の病型別に障害等級に差はなく,身体障害者手帳に該当するほどの重症例においては個々の症例で重症度が異なり,一定の傾向はない.今回,視力障害の申請は1.6級まですべての等級に及んだが,視野障害の申請は2級と5級のみであった.これは1995年の身体障害者手帳の視覚障害の基準が改定され,視野障害の基準が緩やかになったが,やはり緑内障の視野障害の特徴が評価しがたいためではないかと思われる.今後,緑内障の視野障害も段階的に評価できるような,視覚障害の基準が制定されることを願う.しかし,視力障害と視野障害の重複障害により障害等級が上がった症例も6例あり,それら(105)の症例では制度の恩恵を受けていると考えられる.視覚障害を自覚してロービジョン外来を受診しても,身体障害者に該当しない患者がいる1).このことは,身体障害者手帳の申請に至っていない緑内障患者のなかにも,視覚障害の問題を抱える多くの患者が存在していることを示唆している.緑内障は末期まで視力が比較的よいのが特徴である.現在の視覚障害等級の基準だけで,患者のQOLをすべて評価することはむずかしく,視覚障害による身体障害者手帳の該当がなくてもロービジョンケアの必要性を考慮すべきである.身体障害者に該当するにもかかわらずさまざまな理由で身体障害者手帳の申請がなされていない患者についても報告されている5,7).藤田らは手帳取得に該当することを知らされていないこと,手帳を有した場合の福祉サービスについて情報が十分に伝達されていないことなどが要因の一つと報告している11).また,低い等級では該当していても申請を行わない症例もあるためと思われる.身体障害者手帳の取得は障害の告知と受容を意味するばかりでなく,ロービジョンサービスを充実させるための一つの手段である.2005年調査8)と今回調査の結果はほぼ同等であった.2005.2012年までの7年間にさまざまな緑内障点眼薬が新たに使用可能になった.しかし,依然として視覚障害による身体障害者手帳申請者の上位を緑内障が占め,緑内障病型や障害等級も変化はなかった.今後は2012年に緑内障チューブシャント手術が認可されたので緑内障による視覚障害者が減少することが期待される.2012年に井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院に通院中で,視覚障害による身体障害者手帳を申請した緑内障患者73例について調査した.病型は原発開放隅角緑内障が63.0%で最多で,障害等級は2級以上が72.6%を占めていた.2005年調査8)との変化は特になかった.今後も社会の高齢化に伴い視覚障害者も増加すると考えられる.改めて,円滑なロービジョンケアの提供,妥当な身体障害者手帳申請が日常外来において必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)鶴岡三恵子,井上賢治,若倉雅登ほか:井上眼科病院におけるロービジョン専門外来の実際.臨眼66:645-650,20122)斉之平真弓,大久保明子,坂本泰二:鹿児島大学附属病院ロービジョン外来における原因疾患別のニーズと光学的補助具.眼臨紀5:429-432,20123)引田俊一,井上賢治,南雲幹ほか:井上眼科病院における身体障害者手帳の申請.臨眼61:1685-1688,20074)岡田二葉,鶴岡三恵子,井上賢治ほか:眼科病院におけるあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141031視覚障害による身体障害者手帳申請者の疾患別特徴(2009年).眼臨紀4:1048-1053,20115)大澤秀也,初田高明:外来における視覚障害患者の検討.臨眼51:1186-1188,19976)高橋広:北九州市内19病院眼科における視覚障害者の実態調査.第1報.視覚障害者と日常生活訓練.臨眼52:1055-1058,19987)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,8)久保若菜,中村秋穂,石井祐子ほか:緑内障患者の身体障害者手帳の申請.臨眼61:1007-1011,20079)日本眼科医会(編):あきらめないでロービジョン─社会復帰への道.199110)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科30:851-856,201311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***1032あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(106)