特集●最先端の硝子体手術あたらしい眼科32(2):209.217,2015特集●最先端の硝子体手術あたらしい眼科32(2):209.217,2015加齢黄斑変性に対する再生医療の実際と可能性ActualandPotentialRegenerativeMedicineforAge-RelatedMacularDegeneration栗本康夫*I加齢黄斑変性治療の現況加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,欧米先進国において成人の中途失明原因の第1位を占める眼疾患である.以前はわが国での本疾患の頻度は比較的少ないと考えられていたが,近年,増加している.Population-basedの疫学調査である久山町スタディの報告によると50歳以上のAMDの有病率は1998年調査時の0.8%に対して2007年には1.3%とわずか9年の間に5割近くも上昇し1),これにわが国の人口構成比における高齢者人口の増加を加味すると患者数は急増しているといってよい.本疾患の原因は加齢に伴う網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の疲弊・劣化にあり,加齢に加えて喫煙などの環境因子や遺伝的背景も発症リスクになっていることが知られている.AMDは脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が関与する滲出型とCNVの関与なくRPEが萎縮し引き続いて視細胞も変性していく萎縮型の二型に分けられ,わが国では滲出型の頻度が高く1),視機能の障害は萎縮型よりも滲出型のほうがより急速かつ深刻である.萎縮型のAMDには今のところ有効な治療法がないが,滲出型AMDに対しては,近年,光線力学療法や抗VEGF治療などのCNVを選択的に抑制する治療法が導入され,現在では抗VEGF療法がAMDに対するファーストラインの治療法となっている(図1)2).網膜も含めて病変部を光凝固するより他に治療法がなかった10年余り昔に比べて,抗VEGF治療が標準治療として普及した現況は画期的な進歩を遂げたといって良いだろう.多くの滲出型AMD症例で視機能を維持し,部分的には視機能の改善も得られるようになった.しかしながら,抗VEGF治療が画期的な治療であるといっても,AMD発症の背景にあるRPEを治療しているわけではなく,原因治療ではない.また,多くの症例ではCNVを持続的に抑制するために延々と抗VEGF薬の硝子体内注射を行い続けなければならず,長期的な予後にも限界がある.また,抗VEGF薬への反応には個体差があり,治療への反応不良例も稀ではない.抗VEGF薬によりCNVを抑制する現行標準治療は滲出型AMDの予後を大きく改善したが,やはり対症療法ゆえの限界は免れ得ない.一方で,AMD発症の背景にある加齢により劣化したRPEそのものを治療することができれば本疾患の原因治療になり得る.II加齢黄斑変性に対する網膜色素上皮移植とiPS細胞AMDにおいて加齢により疲弊・劣化したRPEを健常なRPEをもって換えるという治療法の着想は以前から存在した.実際に健常なRPEをAMD患者の黄斑下に移植する試みはこれまでに多数なされており,胎児組織移植3,4),自家虹彩組織5),自家RPE細胞懸濁液移植6),自家RPE細胞シート7,8)などのクリニカルトライアルが*YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科・先端医療センター病院眼科〔別刷請求先〕栗本康夫:〒650-0047神戸市中央区港島南町2丁目1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(37)209網膜色素上皮(RPE)の加齢劣化前駆病変萎縮型AMD・経過観察・ライフスタイルと食生活の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取加齢黄斑変性(AMD)滲出型AMD中心窩を含むCNV中心窩を含まないCNV典型AMDPCVRAP規定の間隔で経過観察(矯正視力,眼底検査,OCT)/維持期の追加治療抗VEGF薬PDTあるいは抗VEGF薬または併用療法PDT-抗VEGF薬併用療法レーザー光凝固新生血管の抑制新生血管の抑制網膜色素上皮(RPE)の加齢劣化前駆病変萎縮型AMD・経過観察・ライフスタイルと食生活の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取加齢黄斑変性(AMD)滲出型AMD中心窩を含むCNV中心窩を含まないCNV典型AMDPCVRAP規定の間隔で経過観察(矯正視力,眼底検査,OCT)/維持期の追加治療抗VEGF薬PDTあるいは抗VEGF薬または併用療法PDT-抗VEGF薬併用療法レーザー光凝固新生血管の抑制新生血管の抑制図1加齢黄斑変性に対する現行の標準治療滲出型AMDに対しては光線力学療法や抗VEGF薬によるCNVの抑制が標準治療であるが,これは対症療法であり,AMD発症の背景になっているRPEには手がつけられていない.また,萎縮型AMDに対しては有効な治療法がない.表1滲出型加齢黄斑変性に対する過去の網膜色素上皮移植の問題点ドナー組織問題点胎児RPE倫理的問題,拒絶自家虹彩組織効果不十分自家RPE細胞懸濁液生着不良自家RPEシート過大な手術侵襲すでに報告されている.しかし,胎児組織移植は倫理的な問題をはらんでいるうえに,他家移植であるがゆえの免疫学的拒絶の問題があり,自家虹彩組織の移植では十分な効果が得られなかった.自家RPE移植については,RPE懸濁液では生着不良であったものの,自家RPEシートを移植した場合には,症例によっては良好な治療効果が報告されており8),RPEシート移植が滲出型AMDの治療パラダイムとなり得るproofofconcept(POC:概念実証)となっている.しかしながら,自家RPEシート移植についても,ドナー組織として患者本人の(文献2の図より改変)RPEを周辺部網膜下から切り出す操作の手術侵襲が大きく,合併症リスクの問題などにより,標準治療とはなり得ていない(表1).このようにAMDに対するRPE移植はドナーの供給が大きなネックとなっていたが,最近になって幹細胞研究が飛躍的に進歩し,幹細胞を実験室でRPEに分化させて移植に使用できる可能性がでてきた.哺乳類でも網膜組織幹細胞が存在することが示され,網膜幹細胞からドナー組織を得る方法が模索されたが,網膜組織幹細胞は数も少なくて採取培養がむずかしく,治療効果を得るのに必要な大量の細胞培養もむずかしいと思われた.そうしたなか,胚性幹(embryonicstem:ES)細胞より網膜色素上皮細胞を分化させることができるようになり9),多能性幹細胞をソースとするRPE移植への見通しが開けたのである.しかし,ES細胞を用いる場合でも,依然として,他家移植による拒絶の問題と,ヒト胚を用いることによる倫理的な問題はついて回っていた.210あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(38)遺伝子導入iPS細胞ES細胞大量の細胞を準備可能受精卵多能性幹細胞内部細胞塊本人の体細胞倫理的問題免疫学的問題分化網膜細胞移植網膜神経細胞患者網膜色素上皮細胞図2ES細胞とiPS細胞による細胞治療多分化能と自己複製能を有するES細胞を用いると細胞治療に必要な大量の体細胞を比較的容易に得ることができる.ただし,ES細胞には受精卵を破壊するという倫理的問題と他家移植ゆえの免疫学的問題を有していた(図左側).これに対し,iPS細胞(図右側)はES細胞と同等の能力を有しながら,患者の体細胞から得られるので,倫理的問題と免疫学的問題をクリアできる.212あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(40)ために,iPS細胞およびRPEの培養方法も動物実験の研究で用いた手法をそのまま臨床に用いることはできない.移植細胞の作製過程で他動物由来の細胞との接触あるいは血清などの他動物由来の成分を使用しての培養は避けるべきである.そこで,培養工程で動物細胞を使用せず,血清も使用しない方法に改良し,さらに分化誘導に使用する合成蛋白も低分子化合物で置き換えるなど,RPEの分化培養方法の全面的な見直しを行った.また,iPS細胞を移植治療に用いるうえでもっとも懸念されていたのが,移植細胞の腫瘍化の可能性である.ヒトiPS細胞の発明当初は遺伝子導入にレトロウイルスが使用されていたため12),染色体にレトロウイルスベクターが組み込まれることによりランダムな遺伝子の活性化が起こって移植細胞が腫瘍化する可能性があった.また,それとは別に,移植RPEに未分化なiPS細胞が混入することによって,未分化細胞が増殖して奇形腫を形成する可能性もある.iPS細胞の作製については,ウイルスを使用せずプラスミドベクターにより遺伝子導入を行うことで,iPS細胞にゲノムへの遺伝子導入が起こらない方法13,14)を採用し,染色体へのベクター組み込みによる腫瘍化の危険は回避された.また,RPE細胞の分化誘導においては,RPEが有する色素をマーカーとして分化RPE細胞の選別が可能で,RPE細胞だけを増殖させて細胞シートを作製することができ,なおかつRPE細胞以外の未分化の細胞が混入しても0.01%の精度で検出することができることを筆者らのグループは確認した.この方法でヒトiPS細胞から分化誘導したRPE細胞を100匹以上の免疫不全マウスに移植して,6カ月間以上観察してもRPE細胞から腫瘍は発生しなかった.こうした造腫瘍試験の結果から,iPS細胞由来RPEが移植後に腫瘍化する可能性はきわめて低いと考えている.また,iPS由来RPE細胞シートの安全性の問題とは別に,RPEシートを移植する手術の安全性も担保する必要がある.この移植手術工程の大半はCNV抜去手術の手技を用いることで遂行可能であるが,iPS細胞由来RPEシートを黄斑部網膜下に移植する手技については専用デバイスを開発し,実験動物などで移植実験を重ね,安全性と信頼性の確認を行った.上述のような「魔の川」を乗りきるための準備を整え夢の治療として現実味に乏しかった網膜の再生医療が現実のものになろうとしている.幹細胞を利用しての中枢神経系の再生医療は,大きく分けて,内在性幹細胞の賦活,組織幹細胞もしくは前駆細胞の移植,幹細胞より作製した体細胞の移植の3つのストラテジーが想定されている.ただし,前二者については生体内での細胞の分化や脱分化,あるいは増殖を制御するための知見が不十分で技術も確立していないので現時点での臨床応用はむずかしい.現在,臨床応用への期待が高まっているのは,多能性幹細胞から治療に必要な体細胞を分化させて移植するストラテジーである.体細胞移植による網膜の再生を考える場合,神経網膜においては移植細胞がホスト網膜の神経ネットワークと有機的な結合をすることが機能の再建には必須である.その点で,神経ネットワークがより複雑となる中枢側,すなわち網膜内層にいくほどホスト神経ネットワークとの有機的な結合を得ることがむずかしく,末梢側の網膜外層のほうが容易であると考えられる.したがって,細胞治療による網膜再生治療は外層から着手されるのが自然な流れといえる.とくに神経細胞ではないRPEは移植細胞がホストの神経ネットワークに組み込まれる必要がなく,移植されたRPEがinsituにてホスト組織と生理的に接着して細胞固有の機能を発揮してくれれば目的を達する.網膜再生医療の実現をめざすうえで,最初の細胞治療ターゲットにRPEが選ばれるのが必然であり,疾患の原因がRPEの加齢劣化に根ざすAMDが最初の対象疾患になるのも合理的帰結である.IV加齢黄斑変性に対するiPS細胞を用いた臨床研究多能性幹細胞からRPEを分化培養させる技術の確立と,倫理的問題と免疫学的問題をクリアできる多能性幹細胞であるiPS細胞を得て,AMDに対して多能性幹細胞を用いRPE移植を臨床応用する下地は整ったといえる.しかし,臨床応用への下地は整ったといってもラボにおける動物実験とベッドサイドでの臨床治療との間には大きな隔たりがある.俗にいう「魔の川」である.臨床応用にあたって第一に優先されるのは安全性であり,未知の感染症や予期せぬ生理的反応を可及的に除外するAMD患者RPE細胞シートの作製RPE細胞RPE細胞の分化誘導皮膚線維芽細胞遺伝子導入(リプログラミング)細胞シート移植手術iPS細胞AMD患者RPE細胞シートの作製RPE細胞RPE細胞の分化誘導皮膚線維芽細胞遺伝子導入(リプログラミング)細胞シート移植手術iPS細胞図3自家iPS細胞由来RPEシート移植治療の流れ滲出型AMD患者より直径4mmの皮膚を採取し皮膚線維芽細胞を培養.線維芽細胞よりiPS細胞を樹立し,さらにRPEへの分化を誘導.RPEは細胞シート状に培養し,患者の黄斑部網膜下に本人のiPS細胞由来のRPE培養シートを移植する.神経網膜CNVRPE自家iPS細胞由来RPEシートRPEシートの網膜下移植CNVの抜去RPEシートをレーザーでカット0.65.0.65mm1.3mm3.0mm図4自家iPS細胞由来RPEシート移植手術手順硝子体手術を行って黄斑部下のCNVを抜去.CNV抜去後に生じたホストRPEの欠損部位にiPS細胞由来のRPEシートを移植する.RPEシートは表裏が確認できるように一隅にカットをいれておく.表2臨床研究症例選択基準と除外基準選択基準1)少なくとも一眼が滲出型AMD(特殊型を含む)と診断されている患者2)同意取得時の年齢が50歳以上の患者3)中心窩下にCNV,瘢痕形成または網膜色素上皮裂孔を認める滲出型AMDの患者4)被験眼の矯正視力が手動弁以上0.3未満の患者5)被験眼が標準治療後も,滲出性変化が残存する,もしくは再発を繰り返す患者6)マイクロペリメトリー(MP-1)による視感度測定において,中心半径4°以内の平均感度が5dB以下の患者7)本臨床研究について十分に理解したうえで,文書による同意が得られた患者除外基準1)眼感染症を合併している患者2)その他の網膜疾患(糖尿病網膜症,高血圧網膜症,血管閉塞など)を合併している患者3)視神経萎縮の確認された患者4)眼圧コントロールのできない緑内障の患者5)重度の肝障害(ASTまたはALTが100IU/L以上)の患者6)透析を要する重度の腎機能障害の患者7)B型肝炎ウイルス抗原,C型肝炎ウイルス抗体,ヒト免疫不全ウイルス抗体,成人T細胞白血病ウイルス抗体,梅毒血清反応陽性の患者8)抗生物質(ペニシリン,ストレプトマイシン),ウシ血清にアレルギーのある患者9)抗凝固薬または抗血小板薬を,移植前に中止できないと当該診療科の主治医が判断した患者10)全身麻酔に不適切と麻酔医が判断した患者11)悪性腫瘍の合併または5年以内の既往のある患者12)インドシアニングリーンおよびフルオレセインに対して薬剤アレルギーの既往を有する患者13)妊娠中もしくは授乳中の患者.妊娠している可能性のある患者(男性または閉経後2年以上経過している患者,不妊手術を受けているものを除く).患者本人もしくはパートナーが妊娠を希望している患者14)同意取得前1カ月以内に他の治験または臨床研究に参加していた患者15)その他,研究責任者または研究分担医師が不適当と判断した患者表3臨床研究の評価項目主要評価項目(1)iPS細胞由来RPEシートに起因する有害事象1.移植片の生着不全,免疫拒絶反応2.腫瘍化(2)移植手術・手技に伴う有害事象1.網膜・脈絡膜出血,硝子体出血2.網膜裂孔および網膜.離副次評価項目(1)安全性1.iPS細胞由来RPEシートに起因するその他の有害事象の重症度および発現頻度2.移植手術・手技に伴う,その他の有害事象の重症度および発現頻度その他,CTCAEv4.0-JCOGに基づき,すべてのGrade2以上の有害事象の種類,重症度および発現頻度(2)有効性1.OCTによる網膜厚2.蛍光眼底造影による新生血管の有無3.多局所ERG,MP-1による網膜感度4.視力5.QOLの変化(VFQ-25スコアによる評価)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015215(43)シートの枚数を増やす,もしくはより大きなシートの移植を行う予定である.術後は1年間にわたって経過観察し,後述の評価項目について検討する.患者選択基準と除外基準を表2に,主要評価項目と副次評価項目を表3に示した.本臨床研究は,iPS細胞を用いた細胞治療の世界初の症例であり,安全性の確認が今回の臨床研究の主たる目的となる.したがって,主要評価項目は本プロトコール治療の安全性の検討になっている.安全性の検討は,移植したiPS細胞による有害事象の有無と手術による有害事象に分けて検討する.また,副次項目として,その他のあらゆる有害事象を検証し,治療による効果についても検討を行う.ただし,今回の対象は現行の標準治療を行っても病状が進行してすでに黄斑部の視細胞が変性してしまった症例に限定している.したがって,治療が成功しても,大幅な視機能の回復は望めない.それでも,本治療によりエンドレスに続く抗VEGF治療から離脱して視機能の低下が食い止められれば,それだけでも患者にとっては大きなメリットがあると考えられる.第1例目の症例は2013年8月よりリクルートを開始し,十分な説明を行ってインフォームド・コンセントを取得できた患者に対してスクリーニング検査を行って選択基準を満たし除外基準をクリアしていることを確認したうえで,臨床研究に登録した.皮膚採取の施行からiPS樹立とRPE細胞の培養には当初の予定どおり約10カ月間を要し,2014年の9月12日に患者iPS由来RPEシートの移植手術を施行した.術中の様子を図5に示す.特段の術中および術後合併症はなく,現在は術後1年間の経過観察中である.V今後の可能性AMDに対するRPE移植治療はまだ1例の移植手術を実施したところで,多くを語ることはできないが,本治療の安全性が確認されれば,視細胞が残存しており視力の回復が期待できるより早期の症例へと対象症例の範囲を拡大していくことになろう.視機能の維持あるいは改善の治療効果が確認できれば,当面は,抗VEGF治療への反応が不良な症例に対するセカンドラインの治療となると思われる.iPS細胞由来RPEシートがいかに安全なドナー組織であっても,移植のために必要な黄斑下手術は手術合併症のリスクを免れることはできない.本治療が加齢黄斑変性のファーストラインの治療になるためには,移植手技の安全性の向上と低侵襲化が必要であろう.移植手術が,たとえば現在の白内障手術に準じる安全性と信頼性を獲得すれば,視細胞がほとんど障害を受ける前の病初期の段階で劣化したRPEの細胞治療を行い,AMDの根治的治療を行えるようになるかもしれない.CNV移植用デバイス先端RPEシート網膜切開創図5自家iPS細胞由来RPEシート移植術中所見網膜黄斑部の耳側より網膜下ニードルを刺入し人工的網膜.離を作製したのち,CNVと網膜との癒着を慎重に.がしながらCNVを抜去(写真上).CNV抜去で生じた網膜層創を切開拡張して移植用デバイスを網膜下に挿入し,RPEシート片を黄斑下に移植(写真下).このあと,パーフルオロカーボンで網膜を復位させ,シリコーンオイルタンポナーデを行って手術を終了.シリコーンオイルは8週間後に抜去した.CNV移植用デバイス先端RPEシート網膜切開創図5自家iPS細胞由来RPEシート移植術中所見網膜黄斑部の耳側より網膜下ニードルを刺入し人工的網膜.離を作製したのち,CNVと網膜との癒着を慎重に.がしながらCNVを抜去(写真上).CNV抜去で生じた網膜層創を切開拡張して移植用デバイスを網膜下に挿入し,RPEシート片を黄斑下に移植(写真下).このあと,パーフルオロカーボンで網膜を復位させ,シリコーンオイルタンポナーデを行って手術を終了.シリコーンオイルは8週間後に抜去した.216あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(44)ただし,本治療が標準治療となるには他の問題もある.現状は患者本人の細胞からiPS細胞を樹立しRPEを得るまでに約10カ月の月日と多額の費用を要している.今後,より高い治療効果をめざすうえで,移植細胞の培養準備に要する時間のために最適な治療タイミングを逸しかねないし,高額な費用は誰もが受けられる標準治療となるためには大きな障害となる.こうした問題を解決するために,健常ボランティアよりさまざまなタイプの主要組織適合抗原(majorhistocompatibilitycom-plex:MHC)のiPS細胞株を樹立しバンク化する構想が進んでいる.iPS細胞バンクが整備され,あらゆるMHCタイプのiPS細胞が即座に手に入るようになれば,拒絶の問題を回避しつつ,治療までの期間を短縮し費用も低く抑えることが可能となる.今後,わが国の保険診療による標準治療に向けてはこの方向性で進んでいくと予想され,自家移植は一部の患者を対象に限定的に施行される医療となるかもしれない.ただし,今後,技術的なブレークスルーにより状況が変化する可能性はある.なお,本臨床研究の当初計画では症例毎に安全性を確認するインターバルをとりながら,治療症例を逐次追加し6例を行う予定であった.しかしながら,本計画が認可された後の2014年秋に再生医療新法が施行され,現行の枠組みでの臨床研究が継続できなくなった.このため,同じプロトコロールで新たに臨床研究の申請を行うか,京都大学iPS細胞研究所で構築中のiPS細胞バンクによる他家移植に移行するかを検討中である.RPEの次に来る網膜再生医療のターゲットは前述のように神経網膜の最外層に位置し,視覚路の末梢端にあたる視細胞であろう.視細胞の移植も古くより動物実験が試みられてきたが,必要量のドナーの確保や移植細胞の生着効率などの問題により臨床応用への道は遠いと思われていた.最近,ES細胞から立体的な層構造をもった網膜を作製する方法が報告され15,16),この方法を用いれば網膜本来の立体的構造を有する大量の視細胞を細胞シートの状態で作製することができるため,移植における生着率が大幅に改善することが期待される.この方法を用いて,筆者らのグループはマウスでiPS細胞から作製した視細胞3次元シート移植を行い,ホスト網膜下に生着して形態学的にホスト網膜双極細胞とシナプスを形成することを報告した17).今後,電気生理学的にホスト網膜との情報伝達が確認され,視細胞変性モデル動物で視機能改善が認められるようであれば,視細胞移植の臨床応用の実現に向けて大きく前進すると期待される.文献1)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthal-mology116:2135-2140,20092)高橋寛二,小椋祐一郎,石橋達郎ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1156,20123)AlgverePV,BerglinL,GourasPetal:Transplantationoffetalretinalpigmentepitheliuminage-relatedmaculardegenerationwithsubfovealneovascularization.GraefesArchClinExpOphthalmol232:707-716,19944)AlgverePV,GourasP,DafgardKoppE:Long-termout-comeofRPEallograftsinnon-immunosuppressedpatientswithAMD.EurJOphthalmol9:217-230,19995)AbeT,YoshidaM,TomitaHeta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