写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史藤本優福岡秀記476.角膜蜂刺傷京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①浮腫・混濁図1初診時前眼部写真角膜中央瞳孔領近傍にCDescemet膜皺襞を伴う浮腫・混濁を認める.図3図1のフルオレセイン画像角膜浮腫に一致した上皮障害を認める.図4最終受診時の前眼部写真角膜浮腫は消失した.(51)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C510910-1810/24/\100/頁/JCOPY蜂による角膜外傷はこれまで多数報告されており,角膜に対する刺傷と蜂毒によりさまざまな病態を発症することが知られている.受傷すると水疱性角膜症から角膜移植に至る可能性や1),また蜂毒に接触するだけで失明する可能性もあり,適切な処置を行うことが重要である.また,局所だけでなく,全身状態としてアナフィラキシーになっていないかの確認も重要である.既報ではミツバチ・アシナガバチ・スズメバチでの受傷が多く,またこの順に局所反応は強く重篤になりやすいといわれている.ミツバチは刺すとその蜂は死ぬが,アシナガバチとスズメバチは繰り返し刺すことが可能である.とくにスズメバチは針が約C7Cmmあり,また針の先端から毒液を噴射することもできる.その毒液の量も他種の蜂と比べ多いため,刺されていなくても毒液の接触のみで受診が必要となった症例1)も報告されている.どの種類の蜂であっても,刺される部位によっては前房もしくは硝子体内まで毒液が侵入する可能性があり,重篤な状態へと進展しやすい2,3).蜂毒にはヒスタミン・セロトニンなどを含むアミン,疼痛の原因となる蜂毒キニンといった低分子ペプチド,組織破壊にかかわるプロテアーゼなどを含む加水分解酵素など,さまざまな成分が混在している.症状はこれらの成分により引き起こされ,自覚症状として霧視・眼痛・視力低下,他覚所見として結膜充血や,眼内にまで炎症が進行すると前房蓄膿・白内障・虹彩萎縮・ぶどう膜炎などが認められる4).診断は患者の病歴聴取により容易につくることが多い.問診では眼瞼を刺されたか眼球面に刺されたかを確認する.また,毒液の接触のみでも発症するため,刺されていない場合も入念な細隙灯所見の取得が必須である.また蜂の種類によっても予後が変わってくるため,可能なかぎり把握したいところである.治療は保存的治療と外科的治療に分けられる.まず細隙灯下にて針が残存していれば抜去する.眼内に炎症が波及していなければ抗菌点眼とステロイド局所および全身投与による保存的治療で経過をみていくが,前房内にまで蜂毒が波及すると眼内組織を持続的に破壊していき,点眼のみでは炎症を鎮静化することはむずかしいため,可及的速やかに前房洗浄による毒素の除去も組み合わせて施行する.症例はC81歳,男性.近医にて加齢黄斑変性症でフォロー中であった.左眼を蜂に刺されたとのことで近医を受診し,左眼視力低下・眼瞼浮腫・結膜充血・結膜浮腫・Descemet膜皺襞を伴った角膜混濁を認めたため,ガチフロキサシン点眼液C4回/日,ベタメタゾン点眼液0.1%C4回/日,ベタメタゾン眼軟膏C1回/日,セレスタミン配合錠で治療開始となった.翌日再診時には自覚症状は改善していたが,Descemet膜皺襞が悪化していたため,筆者らの病院に紹介受診となった.当院受診時には局所的な角膜浮腫と上皮障害(図1~3)を認めたが,その他の所見は改善傾向であったため投薬は変更することなく継続とし,経過観察の方針とした.3日後再診時には角膜浮腫は消失していたため(図4),近医にてフォローとなった.今回の症例では原因となる蜂はミツバチであり,症状も軽度であったので局所ステロイドのみで改善傾向を示したが,刺された蜂の種類がスズメバチだとわかっている場合や眼内炎症が強い場合は,前房洗浄やステロイドの全身投与を躊躇せずに施行することが重要である.文献1)高望美,千葉桂三,菊池道晴ほか:蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例.あたらしい眼科C25:549-552,C20082)三原現,山本裕樹,鷲尾紀章ほか:アシナガバチによる角膜蜂症のC1例.眼科64:291-295,C20223)NowroozzadehCMH,CHamidCA,CBolkheirCACetal:Cornealwaspsting:acasereportandreviewofliterature.CJCurrOphthalmolC31:95-97,C20194)岩見達也,西田保裕,村田豊隆ほか:角膜蜂刺症のC2症例.あたらしい眼科20:1293-1295,C2003