1080あたらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)ー性疾患である角膜フリクテン(図1b)やマイボーム腺炎角膜上皮症(図1c)と密接に関連している.さらに,マイボーム腺炎の起炎菌であるPropionibacteriumacnesなどが白内障手術中に眼内に侵入することにより,術後眼内炎(図1d)に至るというシリアスな事態も招きうることから,日常臨床においてマイボーム腺の状態を常に監視しておくことは必須であるといえる.マイボーム腺の機能評価法としては,日常的な細隙灯顕微鏡によるマイボーム腺開口部の観察から専門的なマはじめにマイボーム腺を中心とする眼瞼縁の疾患は,眼表面の状態と密接な関係にあり,マイボーム腺の状態を適確に評価することは,眼表面疾患を診療する際に非常に重要である.マイボーム腺脂質は涙液油層形成の役割を担うため,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は蒸発亢進型ドライアイ(図1a)の主要な原因の一つであり,また,マイボーム腺の感染性疾患であるマイボーム腺炎は,再発性の角膜感染アレルギ(20)*MasahikoYamaguchi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1080?1086,2011フルオレセイン染色によるマイボーム腺機能評価─Marx’sLine─EvaluatingofMeibomianGlandFunctionviaFluoresceinStaining─Marx’sLine─山口昌彦*abcd図1マイボーム腺異常により起こりうる眼疾患a:MGDによる蒸発亢進型ドライアイ.b:角膜フリクテン.c:マイボーム腺炎角膜上皮症.d:Propionibacteriumacnesによる遅発性眼内炎.(21)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111081IIマイボーム腺脂質の眼瞼縁における役割マイボーム腺脂質には,①涙液水層の表面張力を低下させて眼表面に拡散させる作用,②涙液水層の表面を覆うことによって涙液の蒸発を抑制する作用,③眼瞼縁において涙液メニスカスとの間に疎水性のバリアを築いて涙液が皮膚側へ溢れるのを防止する作用,などがある.このうち,MGDによってマイボーム腺脂質の分泌が悪化して③の機能が低下すると,涙液メニスカスの涙液が皮膚側へ溢れ出しやすくなる可能性がある.ここで,MLに注目してみると,高齢者のMLはMOのlineを越えて皮膚側へ前方移動(図3)していることが多く,MGDによる③の機能低下とMLの前方移動がリンクしている可能性が考えられる.IIIMLscoringsystemこのようにMLは,加齢や疾患によってマイボーム腺開口部との位置関係に相違が生じるため,マイボーム腺開口部とMLとの位置関係を4段階でscoringしてみることにした4)(図4a).Scoringは,下眼瞼を内側(鼻側),中央,外側(耳側)の3カ所に分割して行い,それぞれのsectionalMLscore:0?3とtotalMLscore:0?9(図4b)とした.なお,下眼瞼と上眼瞼のMLscoreは,個々の眼においてよく相関(r2=0.794,p<0.0001)することを確認したので,下眼瞼のMLscoreのみで検イボーム腺脂質分析まで種々の方法が考案され,状況に応じてそれぞれの利点を生かしながら,複数の手法を組み合わせてマイボーム腺の状態を把握する.これらの手法のなかで,筆者らが提唱しているMarx’sline(ML)によるマイボーム腺機能評価法は,フルオレセイン染色を行うだけで簡便にマイボーム腺機能をスクリーニングする方法である.本稿では,MLによるマイボーム腺機能評価法の実際と有用性について解説する.IMarx'sLine(ML)1924年,オランダの眼科医EugenMarxは,眼瞼縁にフルオレセインやローズベンガルで染色されるlineが存在することに着目し,このlineは,若年正常者ではマイボーム腺開口部(meibomianglandorifices:MO)よりも後方(眼球側)において,スムーズで眼瞼縁に平行なlineとして観察され(図2),眼瞼縁の粘膜皮膚移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)に相当する,と推測されていた1).実際,最近の報告でもMLは解剖学的にMCJであることが実証されている2).Nornは,MLは正常若年者では図2のように観察されるが,加齢とともにirregularな走行になり,眼瞼縁炎や結膜炎などの炎症性の眼瞼あるいは眼表面疾患を有する疾患でもirregularな走行になる傾向があることを報告している3).図2若年正常者のMarx'sline(矢頭)マイボーム腺開口部(細矢印)よりも後方(眼球側)において,スムーズで眼瞼縁に平行なlineとして観察される.図3高齢者のMarx'sline(矢頭)マイボーム腺開口部(細矢印)のlineを越えて皮膚側へ前方移動しているのが見て取れる.1082あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(22)scoreに性差はみられなかったが,男女とも61歳以上の群では外側のscoreがきわめて高く(図5),40歳以下では男女とも各部位で差はなかったが,41?60歳では男性が中央と外側,女性が中央と外側および内側と外討をすすめることにした.IVMLの加齢性変化MLscoringsystemを用いて,MLの加齢性変化について検討してみた.TotalMLscoreは,性別に関係なく加齢とともに有意に上昇(男性:t-MLs=2.887+0.109×age,r2=0.548,女性:t-MLs=3.142+0.112×age,r2=0.588)することがわかった.SectionalMLscoreは,内側(鼻側)と外側(耳側)において,男女とも加齢に伴い有意な上昇がみられ,中央においても性差に関係なく弱い相関関係をもって上昇がみられた.結論として,MLは加齢に伴い前方移動(皮膚側へ移動)し,中央よりも内側や外側においてその変化は大きいと考えられた.VMLの部位別変化MLは内側,外側では中央よりも加齢性変化を受けやすい傾向があるため,さらに年代別にそれぞれの部位のMLscoreを比較してみた.各年齢群とも各部位のabGGGG図4Marx'sline(ML)scoringsystema:Grade0:MLがマイボーム腺開口部(MO)のラインよりも眼球側に存在し,どの部位においてもMOに接触しない.Grade1:MLの一部がMOに接触する.Grade2:MLがほぼすべてのMOに一致して走行する.Grade3:MLがすべてのMOを越えて皮膚側に形成される.b:眼瞼の部位によってMLとMOの位置関係が異なる場合があるため,眼瞼を内側,中央,外側の3つのパートに分け,MLscoringsystemに準じてそれぞれの部位をscoringした.この場合,sectionalscoreは内側2点,中央1点,外側3点となり,この眼の下眼瞼のtotalscoreは6点になる.男性女性男性女性男性女性外側内側中央スコア32.521.510.50Group3(61yo≦)Group2(41~60yo)Group1(≦40yo)図5各年齢群の内側?中央?外側のMLscore各年齢群とも,内側,中央,外側各部位のスコアに性差はなかったが,男女ともに61歳以上の群では外側のscoreが特に高かった.(23)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111083る,4:まったく出ない,とした.MLscoreとmeibomianglandexpressionscoreはよく相関(Spearmanrankcorrelationanalysis,r=0.599,p<0.0001)した.3.MGDとnon?MGDにおけるMLscoreの比較年齢をマッチさせたMGD群とnon-MGD群において,内側,中央,外側3カ所のtotalMLscoreを比較したところ,MGD群:5.93±1.55,non-MGD群:2.77±1.59(p<0.001)と明らかにMGD群においてMLscoreは高かった.なお,MGDの診断基準は,MOのpluggingがびまん性に存在し,そのplug部分のexpressionscoreが2以上のものとした.4.MLscoringsystemの有用性を示す症例40歳,男性のnon-MGDの症例では,MLは全体にわたってgrade0を示すのに対し,60歳,男性のMGDの症例では,MLは全体にわたってgrade2を示している(図7).また,17歳,女性の眼瞼結膜炎にマイボーム腺炎を合併している症例では,治療前の上下MLはgrade3を示すが,抗菌薬およびステロイド点眼と眼瞼縁の清拭を行い治療したのちには,マイボーム腺炎は軽快しMLscoreはgrade1に改善している(図8).この例は,MLがマイボーム腺機能と関連して可逆的に変化する可能性があることを示している.側で,61歳以上では女性の中央と内側以外の組み合わせにおいて差がみられた(表1).この現象については,のちに詳しく考察する.VIMLscoreによるマイボーム腺機能評価MLscoringsystemをマイボーム腺機能評価に応用するため,従来のマイボーム腺機能評価法との相関性を検討した.1.Meibographyとの相関性下眼瞼の内側,中央,外側においてmeibographyを施行し,各部位のMLscoreと比較した.Meibographyscoreは既報5)に従い,0:腺構造の喪失なし,1:腺構造の喪失は半分以下,2:腺構造の喪失は半分以上,とした.MLscoreとmeibographyscoreはよく相関(Spearmanrankcorrelationanalysis,r=0.643,p<0.0001)した.2.Meibomianglandexpressionとの相関性下眼瞼の中央を指で圧迫し,選択された1つのMOのmeibomianglandexpressionを下記のようにscoringし,その選択されたMOのMLscore(図6)と比較した.Meibomianglandexpressionscoreは,0:透明で速やかに出る,1:やや黄色味を帯びているが速やかに出る,2:黄白色でやや粘性が高い,3:練歯磨き様に出Grade0Grade1Grade2Grade3TheselectedorificeMarx’sline図6選択された1つのマイボーム腺開口部(MO)とそのMLscore図4のMLscoreに準じて,選択されたMOとMLとの位置関係により,Grade0から3に分類した.表1年代別の下眼瞼部位別におけるMarx'slinescoreの相違GroupGroup1(≦40years)Group2(41?60years)Group3(≦61years)MenInnervsmiddleNSNS<0.005InnervsouterNSNS<0.0001MiddlevsouterNS<0.05<0.0001WomenInnervsmiddleNSNSNSInnervsouterNS<0.05<0.0001MiddlevsouterNS<0.0001<0.0001Inner=Marxlinescorefortheinnerlowereyelidregion.Middle=Marxlinescoreforthemiddlelowereyelidregion.Outer=Marxlinescorefortheouterlowereyelidregion.NS=nosignificantdifference.ScheffeFtest.(文献4より)1084あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(24)Grade0Grade2acbd図7MGDとnon?MGDのMLscoreの比較a:40歳,男性のMGDを有さない症例では,b:MLscoreは0を示す.c:60歳,男性のMGDの症例では,d:MLscoreは2を示している.Grade3治療前治療後Grade0~1acbd図8マイボーム腺炎治療前後のMLscoreの比較a:17歳,女性の眼瞼結膜炎にマイボーム腺炎を合併している症例.b:治療前の上下MLは3を示すが,c:治療後,マイボーム腺炎は軽快し,d:MLscoreは0?1に改善している.(25)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111085報告されている8).広谷らは,加齢に伴うMCJ(=ML)の前方移動と結膜弛緩症の重症度とに有意な相関があり,さらに内側,中央,外側それぞれのMCJの部位別変化も結膜弛緩症の重症度と相関している,としている.これらの理由として,結膜弛緩症の重症化が涙液の皮膚側へのシフトを招き,眼瞼縁における疎水性バリアが崩壊し,conjunctivalizationの進行によってMCJが前方移動するという現象に至るのではないかと推察している.筆者らは,MGDによる眼瞼縁の疎水性バリアの崩壊がMLの前方移動をひき起こすという立場でMLのマイボーム腺機能との関連性を主張してきたが,MGDと同様,結膜弛緩症も眼瞼縁に生じる加齢性変化の一つであるため,両者のメカニズムが働いている可能性は十分にあると考えられる.一方,Bronらは,MCJすなわちMLと接する涙液メニスカスの涙液蒸発亢進が,涙液メニスカスの涙液浸透圧上昇を招き,そのうえ,蒸発亢進の結果生じる涙液メニスカス中の炎症性産物の濃縮も加わることによって,MCJの上皮障害が生じやすくなり,種々の生体染色材料にて一定の幅をもって染色されるようになるのではないか,との説を唱えている9).また,涙液メニスカスと接するMCJで生じるこれらの変化が,マイボーム腺開口部やマイボーム腺導管上皮の障害をひき起こし,MGD発症の一因になっている可能性があるとしている10).ML観察の際,MOがspot状にフルオレセイン以上,MLscoreがmeibographyscoreおよびmeibomianglandexpressionscoreと相関していること,さらにMGDとnon-MGDではMLscoreに差があることから,MLscoreをマイボーム腺機能評価に利用できる可能性が示された.VII考察MLは加齢に伴い前方(皮膚側)へ移動することを示したが,マイボーム腺機能も加齢に伴い機能低下することが報告されている6).また,外側(耳側)においてMLは有意に前方移動するが,これは外側のマイボーム腺組織が中央や鼻側と比較すると短く(図9),余剰能力が低いために機能低下を起こしやすくなり,MLも有意に前方移動するのではないかと考えられる.さらに,Korbらもカスタムメイドの装置を用いて下眼瞼の内側,中央,外側においてmeibomianexpressionの量を比較し,外側ではexpressibilityが有意に低下していることを報告している7).これらの事実を総合的に解釈すると,マイボーム腺機能の低下とMLの前方移動との相関性は,より確実なものになるのではないかと思われる.MLの前方移動に関しては,結膜弛緩症との関連性が上眼瞼下眼瞼図9赤外線マイボグラフィでの観察上下眼瞼ともに中央ではマイボーム腺組織はよく発達して長いが,内外側へいくに従い短くなっている.図10Spot状に染色されているMO(矢印)このようなMOの圧出物は量・質ともに低下していることが多い.1086あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011で染色(図10)されることがあり,そのMOのmeibomianexpressibilityは低下していることを経験するが,BronらのいうMOにおける上皮障害の表現型の一つといえるかもしれない.Bronらの概念は,MLが染色線として観察される事実の裏付けとして非常に興味深く,これらの現象がMGDの発症と関連しているとすれば,MLの不整な走行や前方移動とMGDの進行とを結びつける有力な証拠になるのではないかと思われる.おわりにMLによるマイボーム腺機能評価法の有用性について述べた.MLは,われわれが日常診療でルーチンに行うフルオレセイン染色によって簡便に観察が可能であり,いかなる診療施設においてもマイボーム腺機能を簡単にスクリーニングすることができる.もちろん,MLを観察するだけでマイボーム腺機能を詳細に把握することは不可能であり,種々のマイボーム腺機能評価法を組み合わせることによって,より適確な評価に近づいていけるのはいうまでもない.しかしこのような過程において,MLの観察は,さまざまな眼疾患との関連を有するMGDの存在を最初に想起するための検査になりうると思われる.文献1)MarxE:UbervitaleFarbungdesAugesundderAugenlider.I.UberAnatomie,PhysiologieundPathologiedesAugenlidrandesundderTranenpunkte.AlbrechtvGraefe’sArchfOphthal114:465-482,19242)KnopE,KnopN,ZhivovAetal:Thelidwiperandmuco-cutaneousjunctionanatomyofthehumaneyelidmargins:aninvivoconfocalandhistologicalstudy.JAnat218:449-461,20113)NornMS:MeibomianorificesandMarx’sline.Studiedbytriplevitalstaining.ActaOphthalmol63:698-700,19854)YamaguchiM,KutsunaM,UnoTetal:Marxline:fluoresceinstaininglineontheinnerlidasindicatorofmeibomianglandfunction.AmJOphthalmol141:669-675,20065)ShimazakiJ,SakataM,TsubotaK:Ocularsurfacechangesanddiscomfortinpatientswithmeibomianglanddysfunction.ArchOphthalmol113:1266-1270,19956)MathersWD,LaneJA,ZimmermanMB:Tearfilmchangesassociatedwithnormalaging.Cornea15:229-234,19967)広谷有美,横井則彦,小室青ほか:下眼瞼皮膚粘膜接合部及び結膜弛緩症の程度の加齢性変化と両者の関連.日眼会誌107:363-368,20038)KorbDR,BlackieCA:Meibomianglanddiagnosticexpressibility:correlationwithdryeyesymptomsandglandlocation.Cornea27:1142-1147,20089)BronAJ,YokoiN,Ga?neyEAetal:Asolutegradientinthetearmeniscus.I.ahypothesistoexplainMarx’sline.OculSurf9:70-91,201110)BronAJ,YokoiN,Ga?neyEAetal:Asolutegradientinthetearmeniscus.II.Implicationsforlidmargindisease,includingmeibomianglanddysfunction.OculSurf9:92-97,2011(26)