———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYがって臨床的には NMO と OSMS はかなりオーバーラップすることとなったが,NMO において特異的な自己抗体(NMO-IgG)の発見と,同抗体が日本人 OSMS においても高頻度(30 70%)で認められることから,病態の面でも NMO と OSMS は同様の機序を共有している可能性が高まった.この機序は MS とはまったく異なるとする意見もあるが,OSMS に対するインターフェロンb治療の奏効例の存在や MS と同様の頭部病巣を呈する例があるなど,共通の土台がある可能性もあり,まだ議論すべき点は多い.本稿では,疫学的・病理的特徴にも簡単に触れながら,現在想定されている病態機序について概説する.I多発性硬化症の病態・機序MS の病理像はその名が示すように慢性期では,神経軸索に比してミエリンの消失が目立ち,グリオーシスを伴う硬化した脱髄病巣(プラーク)の形成が特徴であり,血管周囲に炎症細胞浸潤を伴って形成される.脱髄の活動性により浸潤細胞の構成は変化するが,基本的にはリンパ球とマクロファージが主体であり,特に急性期はマクロファージの割合が高く,分解されたミエリンがマクロファージ内部に認められる.このような多発性の病巣を形成する動物モデルが EAE である.EAE はもともとホモジネートした脊髄をマウスに接種することで発症する脳脊髄炎のモデルであったが,その抗原がミエリン塩基性蛋白(myelin basic protein:MBP)であることがはじめに多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)は,臨床的には症状および画像を含む検査上,2 カ所以上の中枢神経の脱髄が,それぞれ明らかに区別された時間に生じた疾患をさす.すなわち中枢神経に時間的・空間的に脱髄が散在する疾患である.これは病理学的な対応では中枢神経にみられる急性期の炎症性脱髄と軸索傷害を伴う限定的な再髄鞘化であり,最終的にはその名前が示すように硬化したプラークを形成する.こうした病像を作り出す機序については,臨床上の情報,病理上の情報,および動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎,experimental autoimmune encephalomy-elitis:EAE)を含む基礎医学からの情報が相互にフィードバックしながら徐々にその詳細が明らかになってきた.一方で動物モデルが確立した際に予想されたほど,単純な機序ではないことも示されている.視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO,Devic病)はもともと重篤な両側性視神経炎と脊髄炎が連続して生じる疾患として報告され,のちに急性・亜急性視神経炎と横断性脊髄炎が 8 週間以内に連続して起こる単発性の脱髄疾患として定義された1).しかし症例の集積・解析により視神経,脊髄病巣の時間的な散在,再発がありうることが示され,その疾患概念は大きく拡張され た2,3).一方,日本における MS 症例では視神経と脊髄を病変の首座とする例が多く,視神経脊髄型 MS(optic-spinalツꀀ formツꀀ ofツꀀ MS:OSMS)と分類されていた4).した(17)ツꀀ 1315 Tツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ Mツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀ 神経ツꀀ 学ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 812 8582ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 3 1 1ツꀀツꀀツꀀ 学 学ツꀀ 学ツꀀツꀀ 神経ツꀀ 学特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1315 1322,2009多発性硬化症・視神経脊髄炎の免疫学的背景Immunological Background of Multiple Sclerosis and Neuromyelitis Optica松下拓也*吉良潤一*———————————————————————- Page 21316あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(18)成されるポリペプチドの混合物であるが,CD8 陽性 T細胞の HLA-E を介して CD4 陽性 T 細胞を選択的に傷害していることが示されており7),CD8 陽性 T 細胞を介した病原性 CD4 陽性 T 細胞の除外システムも病態に関与している可能性がある.しかし CD4 陽性 T 細胞だけでなく,CD8 陽性 T 細胞も病態形成に寄与していると考えられている.MS 病変部では数のうえでは CD8 陽性 T 細胞のほうが CD4陽性 T 細胞より多く,少数例の検討ではあるが,T 細胞レセプターの解析から,病変部における CD8 陽性 T細胞のクローナルな増殖が報告されている8).CD8 陽性T 細胞により誘発される EAE も作製されており9),これらの所見は CD8 陽性 T 細胞の関与を示唆している.現在のところ,CD8 陽性 T 細胞は CD4 陽性 T 細胞によって惹起された炎症反応の増強と組織傷害を仲介していると考えられている.特に軸索傷害については CD8陽性 T 細胞の関与が示されている.一方,古くから MS ではオリゴクローナルバンドの存在や IgG インデックスの高値から髄液中の免疫グロブリン産生が亢進していることが示されており,これらはB 細胞の関与を疑わせる所見である.MS では髄液中にMBP,PLP,MOG,MAG といったミエリン蛋白に対する自己抗体を認めることが多く10),ミエリンだけでなく軸索に発現する蛋白質である neurofascin11),Contac-tin-212)に対する抗体も報告されている.病理上も急性期病変に補体と免疫グロブリン(おもに IgG)が認められている13).以上のような所見から病態に自己抗体が関与していると考えられ,B 細胞の影響が示唆される.また,CD20 に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブにより,急性期病変の迅速な改善が得られていることから,B 細胞は当初考えられていたより MS の病態に広範に関与している可能性がある.II多発性硬化症とサイトカイン・ケモカイン上記のように,EAE,MS の病態に関与する,type II HLA に拘束される CD4 陽性 T 細胞は炎症を促進するサイトカイン(IFN-g,TNF-aなど)を分泌しており,健常人ではミエリン反応性 CD4 陽性 T 細胞は炎症を制御するサイトカイン(IL-4,IL-5 など)を分泌する割合わかり,さらに MBP で刺激をした脾臓細胞を受動免疫することで,EAE を惹起できることが明らかとなった.これらの所見は病理像の相同性から MS の動物モデルと考えられ,MS の病態解析に大きな影響を及ぼしている.EAE における病巣形成は CD4 陽性 T 細胞に依存することから,MS においても免疫細胞,特に T 細胞の関与に注目が集まった.抗原として MBP のみではなく,ミエリン関連糖蛋白(MAG),ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG),プロテオリピッド蛋白(PLP)といったその他のミエリン関連蛋白やミエリン以外の蛋白質であるaB-クリスタリン,S-100 蛋白も EAE を惹起することから,さまざまな抗原が MS の自己抗原候補にあげられるようになった.ヒト MS においても,EAE の研究結果を受けミエリン蛋白と T 細胞の反応性について解析が行われた.MBP に応答する T 細胞は,健常人と異なりメモリー T 細胞の占める割合が高いことが示され,その T 細胞はインターフェロンg(IFN-g)などの炎症促進性サイトカインを分泌していることが明らかになった5,6).以上のように MS は中枢神経の抗原(特にミエリンが有力な候補であるが)を標的にした自己免疫性疾患であると考えられている.また,免疫反応と多発性硬化症の関係を示すさまざまな研究結果から,免疫システムに関連する遺伝子を候補に遺伝学的解析が行われた.この結果欧米白人種においてクラス II HLA(組織適合抗原)分子をコードする特定のハプロタイプが遺伝学的リスクであることが明らかになった(DRB1*1501 と DRB5*0101).このことは抗原提示分子が病態に関与していることを示しており,CD4 陽性 T 細胞の関わりをさらに示唆する結果である.免疫システムの調整異常が MS の病態に関与している可能性もある.これは EAE モデルで詳しい検討がなされているが,CD25 を発現している CD4 陽性 T 細胞(転写因子として Foxp3 を発現している)は IL-10 を分泌し,直接的もしくはサイトカインを介して間接的に自己応答性 T 細胞を抑制している.このような調節性 T 細胞の異常が MS の発症に影響している可能性もあるが,ヒトにおける調節性 T 細胞の詳細は今のところまだ明らかにはなっていない.MS の治療薬として欧米で使用されている glatiramerツꀀ acetate は,4 つのアミノ酸で構———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091317(19)トでの分化には IL-1bと IL-6 がその役割を果たしていると考えられている18,19)(図 1).IL-23 は IL-12 と p40サブユニットを共有しており,p40 の抑制が EAE の発症を抑制したのは結局 IL-23 の抑制効果に基づいたもので,研究結果の矛盾も解決した.MS においてもIL-17 mRNA を発現する髄液中・血中の単核球数の増加20),単球から分化させた樹状細胞の IL-23 産生亢進および CD4 陽性 T 細胞からの IL-17 の産生亢進21)といった Th17 細胞の関与を示す所見が得られている.Th17 細胞の増殖にはスフィンゴシン一リン酸レセプター(sphingosine-1-phosphate type 1 receptor:S1P1R)からの経路が影響を与えていることが示されており22),現在日本でも治験が行われているフィンゴリモド(FTY720)は,このレセプターのモデュレーターであることから,Th17 細胞への直接的な影響による治療効果も期待されている.IL-17 はもともと炎症促進性サイトカインとして知られており,特に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)やIL-8 を介して好中球の遊走を誘導している.マウスの線維芽細胞は IL-17 存在下で CCL2,CCL7,CXCL1,CCL20,matrixツꀀ metalloprotease(MMP)3 および 13 の発現を増加させており16),このような走化性因子(ケモカイン)と血液脳関門の傷害が病変部へのマクロファーが高い.前者のような T 細胞は転写因子として T-betを発現し炎症を誘発する type 1 ヘルパー T 細胞(Th1),後者は GATA-3 を転写因子として発現し,typeツꀀ 2 ヘルパー T 細胞(Th2)とよばれており喘息やアトピーなどアレルギー疾患にかかわる.転写因子は相互に排他的に働くことから,分化の状況によりどちらかの状態にシフトすることになる.MS,EAE は Th1 にシフトした病態と考えられ,Th1 細胞が病態形成のうえでも最も決定的な役割を果たすと考えられた.MS に対して IFN-g投与が行われた際に病状の悪化がみられた14)こともこれらの想定を補強するものであり,現在 MS 治療に広く使用されている IFN-bは Th1 から Th2 へのシフトをきたすことがその効果の原因と考えられている.しかしIFN-gノックアウトマウスでもEAEが誘発され,IFN-g産生 Th1 細胞への熟成効果を有する IL-12 の抑制は MS の治験において効果がみられないなど,Th1仮説に矛盾する研究結果も提示されていた.そして現在では EAE の検討から,発症に最も重要な T 細胞はIL-17 を産生するヘルパー T 細胞(Th17)であると考えられている15,16).これは Th1,Th2 に属さない別の系統に属するヘルパー T 細胞であり,転写因子としてROR-gを発現し IL-23 の影響下で増殖,ナイーブ T 細胞からの分化には IL-6 と TGF-bが必要である17).ヒツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ b/IL-10( +ツꀀツꀀツꀀツꀀ #ツꀀツꀀ ( , F 7N aツꀀ # .pF 7N aG&GpGoG2G $D @( +ツꀀツꀀツꀀツꀀ #ツꀀツꀀ ( , G %7, F 7N a+ツꀀ dツꀀ $7$D @ツꀀ $71″‘ツꀀツꀀツꀀ BIL-27IL-12IFN-gIL-4TGFb+IL-6TGFb(IL-6?敍圜辣)IL-23IL-2Na ve T cellDendritic cells(APC)逃?Th1T-betIFN-gRORgt図 1T細胞の分類———————————————————————- Page 41318あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(20)制御する分子的ポイントを抑制する治療法が効果をあげている.プロセス(2)については,先ほど述べたフィンゴリモド(FTY720)が作用する.フィンゴリモドはS1P1R の細胞表面への発現を抑え,S1P が作用できず,リンパ組織から血中へとリンパ球が移行しない.フィンゴリモドには MS に対し優れた再発抑制効果が確認されている24).サイトカイン・ケモカインは血管内皮細胞上にVCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)やICAM-1(intercellularツꀀ adhesionツꀀ molecule-1)といった細胞接着分子を誘導する.これは活性化した T 細胞の血管内皮への接着を促進し,中枢神経への免疫細胞の移行を促進させる.このプロセス(3)に関わる接着因子のうち,活性化したリンパ球表面に発現するa4 integrinに対するモノクローナル抗体(ナタリズマブ)が作製されており,進行性多巣性白質脳症の発症という問題があるものの,MS において MRI 画像上の増強効果と再発を抑制する効果が得られている25,26).また,非選択的にリンパ球を除去する CD52 に対するモノクローナル抗体(アレンツズマブ)27),B 細胞を選択的に除去するCD20 に対するモノクローナル抗体(リツキシマブ)28)も MS に対して画像上,臨床上の効果をあげている.ジの集簇およびさらなる自己反応性 T 細胞の中枢神経への移行をひき起こし,炎症を増幅させていくというカスケードが病態として想定されている.III病態プロセスと分子標的治療図 2 に MS に想定されている病態機序を示す.MS の発症,再発には大きく分けて 4 つのステップがあり,まずは(1)末梢リンパ組織において抗原を提示され自己反応性の T 細胞を形成し,(2)これらのリンパ球が血中に移行,(3)血中から中枢神経へ移行,(4)自己抗原の提示により炎症性サイトカインの分泌,炎症カスケードの惹起,といった経路が考えられる.治療薬のターゲットとしては,根本的な治療法として自己抗原を同定し,その自己反応を抑制する点に目が向く.MBP を抗原と考え,これに対する免疫寛容の導入を目的とした DNA ワクチン治療の試験が行われており,MRI 上の増強病変の出現を減少させる効果が認められている23)が,その効果は十分とは言いがたい.MS の病態は heterogene-ity があり,抗原も多様なものが想定されている.標的抗原を限定すると治療効果も一部の例に限定されてしまう可能性がある.一方で,そのプロセス自体に目を向け,各プロセスをツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ b+IL-6IL-23VCAM-1LFA-1ICAM-1VLA-4IL-17敏????????????????IL-1IL-6IL-8G-CSFMMP???????VEGF???????IL-6IFN-g舁????舁鉄?鉄B cell??????????CD8T????????敏?????敏?曉?Th17Th17図 2MSの病態———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091319(21)を傷害し,病像を修飾すると考えられる.ただし,抗体単独では発症せず,T 細胞を介した免疫反応が必要であり,T 細胞系の関与が必要と考えられる.また,補体価は抗 AQP4 抗体陽性患者では再発期に上昇しており,全身的な炎症反応を反映していると考えられ,補体消費傾向は認められていない37).病理上は軸索傷害,壊死を反映する空洞形成を伴った脱髄像がみられ,急性期はマクロファージの浸潤と血管周囲に好中球・好酸球の集簇が認められる.T 細胞の浸潤は少なく,血管周囲に補体と免疫グロブリンの沈着があり,血管壁の肥厚もみられる38).MS でも補体沈着が認められるが,これは病変の辺縁で生じており,NMOとは分布が異なっている.また,NMO の病変部では急性期・慢性期ともに AQP4 の染色性がミエリン蛋白に比して低下39,40),AQP4 の発現低下に伴いアストロサイトに特異的な蛋白質である GFAP の発現も低下している所見が報告されている39).この所見はミエリン蛋白は染色性が低下し,グリオーシスのため GFAP の発現が亢進している MS とは異なる所見である.NMO のサイトカイン・ケモカインの特徴については,脳脊髄液中の単核球において MOG 反応性に IL-5,IL-6,抗 MOGツꀀ IgG および IgM 抗体の産生,髄液中のeosinophil cationic protein(好酸球の顆粒に含まれる蛋白質),エオタキシン 2,3(好酸球の走化性因子)のレベルが MS に比較して高いことが報告されている41).これらは NMO の病変部に好酸球が認められる所見と矛盾せず,MS に比較して液性免疫へシフトしていることを示唆しており,病理上,抗体と補体の血管周囲の沈着が認められる所見と合致している.臨床的にも NMO 患者は NMO-IgG 以外にも SS-A など自己抗体が陽性になることが多く,この点も液性免疫の亢進を示唆している.また,日本人 OSMS においては髄液中の IL-17,IL-8 濃度が通常型 MS と比較して高いことが確認されており42),これは病変部に好中球浸潤がみられる病理所見と合致する.以上のように NMO においては MS と比較してアストロサイト傷害が主体で,免疫反応としては液性免疫の影響が強いと考えられている.AQP4 に対する自己抗体はAQP4 発現に影響を及ぼしていると思われるが,その臨このような治療効果は,MS の病態機序の想定に対する臨床面からの裏付けとなっている.IV視神経脊髄炎の病態・機序NMO に関する病態・機序については MS に比較すると不明な点が多いが,前述のように特異的抗体であるNMO-IgG の発見29)と,この抗体の対応抗原が水チャネルであるアクアポリン 4(aquaporin-4:AQP4)であることが判明し30),病態解明への大きな手がかりになると考えられている.AQP4 は水を選択的に通過させるチャネルで,単量体は 6 回膜貫通型で両末端は細胞内に存在し,基本的には細胞膜上で四量体を形成している.中枢神経ではアストロサイトの,特に軟膜や血管周囲に面した足突起に多く発現がみられ,脳以外でも腎臓の遠位集合管,胃の壁細胞,網膜の Muller 細胞,内耳や骨格筋にも発現がみられる.脳における分布は,AQP4 が脳内水分の in-outを司っていることを示唆している.NMO-IgG 陽性血清を用いた研究では,補体とともにアストロサイトに反応させることで細胞膜上の AQP4の発現を低下させる作用が確認されている31)が,TNC- 1 細胞に AQP4 を発現させた系では,NMO-IgG による水分調整への影響は認められなかったとする報告もあ る32).現時点で AQP4 の機能障害が何をもたらすかについて,明らかなことはわかっていないが,AQP4 ノックアウトマウスにおいては低浸透圧負荷や虚血による脳浮腫(細胞傷害性浮腫)は軽減され33),一方で血管原性浮腫が増悪することが報告されている34).抗 AQP4 抗体陽性患者において時にみられる白質の巨大な T2 延長病変は拡散強調画像と ADCツꀀ map の所見から血管原性浮腫と考えられ35),このような AQP4 の機能異常を示唆する所見である.MBP を抗原とした EAE を誘発したうえに,抗 AQP4 抗体陽性患者から精製した IgG を投与すると,EAE が重症化し,AQP4,およびアストロサイトに特異的な蛋白質である glialツꀀ brillary acidic pro-tein(GFAP)の消失,補体の沈着といった NMO に近い病理像が得られた36).すなわち,血液脳関門が破綻した状態では抗 AQP4 抗体は補体存在下にアストロサイト———————————————————————- Page 61320あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(22)るともいえる.NMO については病理所見や免疫反応の相違,そしてNMO-IgG の存在から,MS とはまったく異なる病態機序を有する疾患とする意見が強い.しかし,NMO-IgG陽性患者においても,その臨床像・画像所見はかなりのheterogeneity がみられ,MS 自体,B 細胞の関与が指摘されており,先ほど述べたように単純な免疫学的機序に還元できない以上,NMO と MS の背景に共通する要因が存在する可能性はある.OSMS における髄液中IL-17 の高値は,EAE と同様の免疫学的機序の存在を疑わせる.また,日本人 OSMS では欧米白人種とは異なり HLA-DPB1*0501 が関連するリスクファクターとして知られており,特に抗 AQP4 抗体陽性患者でそ床的な影響については今のところ不明である(図 3,表1 ).まとめ上記のように,MS の病態については実験的・臨床的な証拠が積み上がっており,理論上の構築は進んでいるが,それに伴い関連する病態の範囲は拡大を続けており,単純な病因に収束するとは今後も考えにくい.実際,現在もミエリン関連蛋白が重要な抗原の候補であることは間違いないが,確定的なエピトープは EAE とは異なり明らかではない.これは免疫反応が進むにつれ,認識する抗原の範囲が広がっていく epitopeツꀀ spreadingも原因と考えられるが,MS の複雑な病態を示唆していツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ AQP4舁AQP4舁鉄/NMO-IgGB cell悗単?悗????敏?曉?B cellT??超圜磔?渧??粳鞐?????????渧?図 3NMOの病態表 1NMO IgG/抗AQP4抗体の病原性支持する所見矛盾する所見 抗 AQP4 抗体は NMO に特異的に認められる 抗 AQP4 抗体は細胞表面の AQP4 に結合し,補体を活性化する NMO の病巣で AQP4 の消失が認められる AQP4 の分布は NMO の病変分布と相同的 抗 AQP4 抗体価と疾患活動性が相関するという報告 EAE を増悪させる作用 AQP4 は中枢神経より抗体のアクセスが容易な腎臓や筋にも発現しているがこれらの臓器病変の合併がない AQP4 の発現が高い小脳や大脳皮質,腰髄灰白質の傷害はまれ 抗 AQP4 抗体が中枢神経に到達するために,先行する血液脳関門の傷害が必要 AQP4 のノックアウトマウスには NMO 様症状は出現しない 抗体が存在しても再発が長期間ない例が存在する———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091321(23)の頻度が高いとする報告がある.このような遺伝的相違が現れてくる病像の違いに影響している可能性もある.NMO における AQP4 に対する抗体の発見は,今後,研究の焦点を決めるうえで重要な指針となるであろう.現在のところ AQP4 に対する抗体反応と,病理上認められるようなマクロファージの浸潤や組織傷害との間には,まだ多くの解明されなければならない段階がある.抗体の存在は病像へ影響していると考えられるが,現時点では抗体単独で発症する動物モデルは形成されていない.MOG 抗原特異的な T 細胞,B 細胞を導入されたマウスは NMO と同様に視神経と脊髄に強く病変が出現する EAE を自然発症する43,44).T 細胞による免疫反応とB 細胞による反応(および自己抗体の発現)のバランスが病像を決定している可能性も考えられる.文献 1) Stansbury F:Neuromyelitis optica;presentation ofツꀀ ve cases, with pathologic study, and review of literature. Arch Ophthalmol 42:465-501, 1949 2) Wingerchuk DM, Hogancamp WF, O’Brien PC et al:The clinical course of neuromyelitis optica(Devic’s syndrome). Neurology 53:1107-1114, 1999 3) Wingerchuk DM, Lennon VA, Pittock SJ et al:Revised diagnostic criteria for neuromyelitis optica. Neurology 66:1485-1489, 2006 4) Kira J:Multiple sclerosis in the Japanese population. Lan-cet Neurol 2:117-127, 2003 5) Lovett-Rackeツꀀ AE,ツꀀ Trotterツꀀ JL,ツꀀ Lauberツꀀ Jツꀀ etツꀀ al:Decreased dependence of myelin basic protein-reactive T cells on CD28-mediated costimulation in multiple sclerosis patients. A marker of activated/memory T cells. J Clin Invest 101:725-730, 1998 6) Scholz C, Patton KT, Anderson DE et al:Expansion of autoreactive T cells in multiple sclerosis is independent of exogenousツꀀ B7ツꀀ costimulation.ツꀀ Jツꀀ Immunol 160:1532-1538, 1998 7) Tennakoonツꀀ DK,ツꀀ Mehtaツꀀ RS,ツꀀ Ortegaツꀀ SBツꀀ etツꀀ al:Therapeutic induction of regulatory, cytotoxic CD8+ T cells in multiple sclerosis. J Immunol 176:7119-7129, 2006 8) Babbe H, Roers A, Waisman A et al:Clonal expansions of C D 8(+)T cells dominate the T cell in ltrate in active multipleツꀀ sclerosisツꀀ lesionsツꀀ asツꀀ shownツꀀ byツꀀ micromanipulation and single cell polymerase chain reaction. J Exp Med 192:393-404, 2000 9) Ji Q, Goverman J:Experimental autoimmune encephalo-myelitis mediated by CD8+ T cells. Ann NY Acad Sci 1103:157-166, 2007 10) Crossツꀀ AH,ツꀀ Trotterツꀀ JL,ツꀀ Lyonsツꀀ J:Bツꀀ cellsツꀀ andツꀀ antibodiesツꀀ in CNS demyelinating disease. J Neuroimmunol 112:1-14, 2001 11) Matheyツꀀ EK,ツꀀ Derfussツꀀ T,ツꀀ Storchツꀀ MKツꀀ etツꀀ al:Neurofascinツꀀ as aツꀀ novelツꀀ targetツꀀ forツꀀ autoantibody-mediatedツꀀ axonalツꀀ injury.ツꀀ J Exp Med 204:2363-2372, 2007 12) Derfuss T, Parikh K, Velhin S et al:Contactin-2/TAG-1-directed autoimmunity is identi ed in multiple sclerosis patients and mediates gray matter pathology in animals. Proc Natl Acad Sci USA 106:8302-8307, 2009 13) Lucchinetti C, Bruck W, Parisi J et al:Heterogeneity of multipleツꀀ sclerosisツꀀ lesions:implicationsツꀀ forツꀀ theツꀀ pathogene-sis of demyelination. Ann Neurol 47:707-717, 2000 14) Panitch HS, Hirsch RL, Schindler J et al:Treatment of multiple sclerosis with gamma interferon:exacerbations associated with activation of the immune system. Neurolo-gy 37:1097-1102, 1987 15) Harrington L, Hatton R, Mangan P et al:Interleukin 17-producingツꀀ CD4+ツꀀ e ectorツꀀ Tツꀀ cellsツꀀ developツꀀ viaツꀀ aツꀀ lineage distinct from the T helper type 1 and 2 lineages. Nat Immunol 6:1123-1132, 2005 16) Parkツꀀ H,ツꀀ Liツꀀ Z,ツꀀ Yangツꀀ Xツꀀ etツꀀ al:Aツꀀ distinctツꀀ lineageツꀀ ofツꀀ CD4ツꀀ T cellsツꀀ regulatesツꀀ tissueツꀀ in ammationツꀀ byツꀀ producingツꀀ interleu-kin 17. Nat Immunol 6:1133-1141, 2005 17) Veldhoen M, Hocking RJ, Atkins CJ et al:TGFbeta in the context of an in ammatory cytokine milieu supports de novo di erentiation of IL-17-producing T cells. Immunity 24:179-189, 2006 18) Acosta-Rodriguez E, Napolitani G, Lanzavecchia A et al:Interleukins 1beta and 6 but not transforming growth fac-tor-betaツꀀ areツꀀ essentialツꀀ forツꀀ theツꀀ di erentiationツꀀ ofツꀀ interleukin 17-producing human T helper cells. Nat Immunol 8:942-949, 2007 19) Wilson N, Boniface K, Chan J et al:Development, cytokine pro le and function of human interleukin 17-pro-ducing helper T cells. Nat Immunol 8:950-957, 2007 20) Matusevicius D, Kivisakk P, He B et al:Interleukin-17 mRNAツꀀ expressionツꀀ inツꀀ bloodツꀀ andツꀀ CSFツꀀ mononuclearツꀀ cellsツꀀ is augmented in multiple sclerosis. Mult Scler 5:101-104, 1999 21) Vaknin-Dembinsky A, Balashov K, Weiner H:IL-23 is increased in dendritic cells in multiple sclerosis and down-regulation of IL-23 by antisense oligos increases dendritic cell IL-10 production. J Immunol 176:7768-7774, 2006 22) Liao JJ, Huang MC, Goetzl EJ:Cutting edge:Alternative signaling of Th17 cell development by sphingosine 1-phosphate. J Immunol 178:5425-5428, 2007 23) Garren H, Robinson W, Krasulova E et al:Phase 2 trial of a DNA vaccine encoding myelin basic protein for multiple sclerosis. Ann Neurol 63:611-620, 2008 24) O’Connorツꀀ P,ツꀀ Comiツꀀ G,ツꀀ Montalbanツꀀ Xツꀀ etツꀀ al:Oralツꀀツꀀ ngolimod(FTY720)in multiple sclerosis:two-year results of a ———————————————————————- Page 81322あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009phase II extension study. Neurology 72:73-79, 2009 25) Polmanツꀀ CH,ツꀀ O’Connorツꀀ PW,ツꀀ Havrdovaツꀀ Eツꀀ etツꀀ al:Aツꀀ random-ized,ツꀀ placebo-controlledツꀀ trialツꀀ ofツꀀ natalizumabツꀀ forツꀀ relapsing multiple sclerosis. N Engl J Med 354:899-910, 2006 26) Rudickツꀀ RA,ツꀀ Stuartツꀀ WH,ツꀀ Calabresiツꀀ PAツꀀ etツꀀ al:Natalizumab plusツꀀ interferonツꀀ beta-1aツꀀ forツꀀ relapsingツꀀ multipleツꀀ sclerosis.ツꀀ N Engl J Med 354:911-923, 2006 27) Bourdette D, Yadav V:Alemtuzumab versus interferon beta-1aツꀀ inツꀀ earlyツꀀ multipleツꀀ sclerosis.ツꀀ Currツꀀ Neurolツꀀ Neurosci Rep 9:341-342, 2009 28) Hauser SL, Waubant E, Arnold DL et al:B-cell depletion with rituximab in relapsing-remitting multiple sclerosis. N Engl J Med 358:676-688, 2008 29) Lennon V, Wingerchuk D, Kryzer TJ et al:A serum autoantibody marker of neuromyelitis optica:distinction from multiple sclerosis. Lancet 364:2106-2112, 2004 30) Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ et al:IgG marker of optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 202:473-477, 2005 31) Hinson SR, Roemer SF, Lucchinetti CF et al:Aquaporin-4-binding autoantibodies in patients with neuromyelitis optica impair glutamate transport by down-regulating EAAT2. J Exp Med 205:2473-2481, 2008 32) Nicchiaツꀀ GP,ツꀀ Mastrototaroツꀀ M,ツꀀ Rossiツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Aquaporin-4 orthogonal arrays of particles are the target for neuromy-elitis optica autoantibodies. Glia 57:1363-1373, 2009 33) Manleyツꀀ GT,ツꀀ Fujimuraツꀀ M,ツꀀ Maツꀀ Tツꀀ etツꀀ al:Aquaporin-4ツꀀ dele-tion in mice reduces brain edema after acute water intoxi-cation and ischemic stroke. Nat Med 6:159-163, 2000 34) Papadopoulos MC, Manley GT, Krishna S et al:Aqua-porin-4 facilitates reabsorption of excessツꀀ uid in vasogenic brain edema. FASEB J 18:1291-1293, 2004 35) Matsushita T, Isobe N, Matsuoka T et al:Extensive vasogenic edema of anti-aquaporin-4 antibody-related brain lesions. Mult Scler 15:1113-1117, 2009 36) Kinoshitaツꀀ M,ツꀀ Nakatsujiツꀀ Y,ツꀀ Kimuraツꀀ Tツꀀ etツꀀ al:Neuromyelitis optica:Passiveツꀀ transferツꀀ toツꀀ ratsツꀀ byツꀀ humanツꀀ immunoglobu-lin. Biochem Biophys Res Commun 386:623-627, 2009 37) Doi H, Matsushita T, Isobe N et al:Hypercomplement-emia at relapse in patients with anti-aquaporin-4 anti-body. Mult Scler 15:304-310, 2009 38) Lucchinetti CF, Mandler RN, McGavern D et al:A role for humoral mechanisms in the pathogenesis of Devic’s neuromyelitis optica. Brain 125:1450-1461, 2002 39) Misuツꀀ T,ツꀀ Fujiharaツꀀ K,ツꀀ Kakitaツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Lossツꀀ ofツꀀ aquaporinツꀀ 4 inツꀀ lesionsツꀀ ofツꀀ neuromyelitisツꀀ optica:distinctionツꀀ fromツꀀ multi-ple sclerosis. Brain 130:1224-1234, 2007 40) Roemerツꀀ SF,ツꀀ Parisiツꀀ JE,ツꀀ Lennonツꀀ VAツꀀ etツꀀ al:Pattern-speci c loss of aquaporin-4 immunoreactivity distinguishes neuro-myelitis optica from multiple sclerosis. Brain 130:1194-1205, 2007 41) Correale J, Fiol M:Activation of humoral immunity and eosinophils in neuromyelitis optica. Neurology 63:2363-2370, 2004 42) Ishizu T, Osoegawa M, Mei FJ et al:Intrathecal activa-tion of the IL-17/IL-8 axis in opticospinal multiple sclero-sis. Brain 128:988-1002, 2005 43) Bettelli E, Baeten D, Jager A et al:Myelin oligodendro-cyte glycoprotein-speci c T and B cells cooperate to induce a Devic-like disease in mice. J Clin Invest 116:2393-2402, 2006 44) Krishnamoorthy G, Lassmann H, Wekerle H et al:Sponta-neous opticospinal encephalomyelitis in a double-transgen-ic mouse model of autoimmune T cell/B cell cooperation. J Clin Invest 116:2385-2392, 2006(24)