———————————————————————- Page 1(123)ツꀀ 14210910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1421 1423,2009cはじめに近年,網膜領域では眼内注射は増加しており,特に新生血管黄斑症に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬剤投与は重要な治療法になっている.しかし,投与後の眼圧変化について検討した報告はわが国にはない.今回,新生血管黄斑症に対する bevacizumab 硝子体内投与後の眼圧変化について検討した.I対象および方法2007 年 8 月より 2008 年 4 月までに杏林アイセンターにて bevacizumab 硝子体内投与した新生血管黄斑症を有する33 例 33 眼(男性 18 例,女性 15 例)について retrospectiveに検討した.平均年齢は 69.3 歳(35 89 歳)であった.緑内障既往眼,硝子体手術既往眼は除外した.白内障手術既往眼は含めた.疾患の内訳は狭義の加齢黄斑変性(AMD)9 眼(27%),ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)16 眼(49%),網膜血管腫状増殖(RAP)2 眼(6%),近視性血管新生黄斑症 5眼(15%),網膜色素線状 1 眼(3%)であった.1 回投与が14 眼(42%),2 回 投 与 が 18 眼(55%),4 回 投 与 が 1 眼(3%)であった.数回投与の場合,最低 1 カ月の間隔で行った.〔別刷請求先〕山本亜希子:〒180-8611 東京都三鷹市新川 6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprint requests:Akiko Yamamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Kyorin University School of Medicine, 6-20-2 Shinkawa, Mitaka, Tokyo 180-8611, JAPAN新生血管黄斑症に対する Bevacizumab 硝子体内投与後の一過性眼圧上昇山本亜希子杉谷篤彦岡田アナベルあやめ平形明人杏林大学医学部眼科学教室Changes in Intraocular Pressure after Intravitreal Injection of BevacizumabAkiko Yamamoto,Atsuhiko Sugitani, Annabelle Ayame Okada and Akito HirakataDepartment of Ophthalmology, Kyorin University School of MedicineBevacizumab 硝子体内投与後の眼圧変化について retrospective に検討した.対象は新生血管黄斑症を有する 33例 33 眼であった.Bevacizumabツꀀ 1.25 m g/0.05 ml注入後の投与眼の眼圧を注射前,注射直後,30 分後に非接触式眼圧計にて測定した.平均眼圧の推移は,注射前が 13.44±2.99 mmHg,注射直後は 28.17±10.27 mmHg,注射 30 分後は16.94±4.45 mmHgであった.30 分後の眼圧は全例 30 mmHg以下になっていた.注射直後,30 分後とも注射前に比べ有意に眼圧上昇していた.注射前に比べ平均眼圧上昇は注射直後 15 mmHg(p<0.0001),30 分後4 mmHg(p<0.0001).緑内障の既往はないが 1 眼のみ持続性の眼圧上昇を認め,眼圧下降薬の使用を必要とした.硝子体内投与後は眼圧のモニタリングが必要であると考えられた.Weツꀀ examinedツꀀ short-termツꀀ changesツꀀ inツꀀ intraocularツꀀ pressure(IOP)inツꀀ patientsツꀀ receivingツꀀ intravitrealツꀀ injectionsツꀀ of bevacizumab.ツꀀ Theツꀀ subjectsツꀀ comprisedツꀀ 33ツꀀ patientsツꀀ whoツꀀ receivedツꀀ intravitrealツꀀ injectionsツꀀ ofツꀀ bevacizumab(1.25 m g/ 0.05 ml)forツꀀ theツꀀ treatmentツꀀ ofツꀀ neovascularツꀀ maculopathy.ツꀀ Theツꀀ short-termツꀀ e ectsツꀀ ofツꀀ bevacizumabツꀀ injectionsツꀀ onツꀀ IOP wereツꀀ analyzed.ツꀀ Theツꀀ baselineツꀀ meanツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ 13.44±2.99 mmHg. Immediately post-injection, the mean IOP was 28.17±10.27 mmHg. At 30 minutes after injection, the mean IOP was 16.94±4.45 mmHg. In one patient who had no history of glaucoma, the 30-minute post-injection IOP was 29 mmHg;this patient continued to exhibit elevated IOP requiring pressure-lowering medication. Our results suggest a need to monitor IOP following intravitreal injections.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1421 1423, 2009〕Key words:ベバシズマブ,眼圧,加齢黄斑変性,硝子体内注射.bevacizumab,ツꀀ intraocularツꀀ pressure,ツꀀ age-related macular degeneration, intravitreal injection.———————————————————————- Page 21422あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(124)総投与回数は 54 回であった.なお,bevacizumab 投与は倫理委員会の承認をもとに,書面によるインフォームド・コンセントを患者より得てから行った.方法は,キシロカイン点眼・結膜 Tenonツꀀ (穿刺部位付近の一部のみに注入)麻酔後,逆流防止しながら 30 ゲージ針にて bevacizumab 1.25 mg/0.05 ml 注入した.投与眼と僚眼の眼圧を注射前(局所麻酔前),注射直後,30 分後に非接触式眼圧計にて測定した.全例前房穿刺は行わなかった.眼圧の推移について Student-tツꀀ test にて検討し,p<0.05を統計学的な有意差ありと判定した.II結果注射前の眼圧は全例で 21 mmHg以下であった.平均眼圧の推移は,注射前が 13.44±2.99 mmHg(7 21 mmHg),注射直後は 28.17±10.27 mmHg(7 60 mmHg),注射 30 分後は 16.94±4.45 mmHg(5 29 mmHg)で あ っ た(図 1). 直後の眼圧が 50 mmHg以上に上昇した症例は 3 眼(9%)みられたが,30 分後の眼圧は全例 30 mmHg以下になっていた.30 分後眼圧が注射前に比して5 mmHg以上眼圧下降した 2例は,どちらも 9 D 以上の強度近視眼であった.この 2 例では直後の眼圧も術前の眼圧より下がっていた.強度近視眼でも注射直後に 20 mmHg以上眼圧上昇した症例も 5 例中 2例みられた.全例で注射直後,30 分後とも注射前に比べ有意に眼圧上昇していた.注射前に比べ平均眼圧上昇は注射直後15 mmHg(p<0.0001),30 分後4 mmHg(p<0.0001)であった.投与回数別の検討を行ったが有意差はなく,投与回数を重ねても眼圧上昇度は変化しないことがわかった.疾患別の眼圧上昇度を検討した.近視性脈絡膜血管新生の症例のみ有意な眼圧上昇はみられなかった.年齢については,50 歳未満(5 例)と 50 歳以上(28 例)の症例を比べ,有意差はみられなかった.1 例のみ持続的な眼圧上昇を認めた.症例は 79 歳,女性,PCV の症例であった.既往歴として糖尿病があった.それまで他の治療は受けていなかった.初回投与前眼圧 18 mmHgで直後眼圧が 33 mmHgまで上昇し,30 分後は 29 mmHgであった.60 分後はさらに 39 mmHgまで上昇したため 1% ブリンゾラミドの投与を開始した.投与 1 週間後の再診時に点眼を継続していたにもかかわらず眼圧 20 mmHgであり,その後も点眼継続とした.2 回目投与後も注射直後の眼圧が50 mmHg,30 分後 29 mmHg,1 時間後 28 mmHgと下降せず,0.5%チモロール追加とした.その後は 2 剤継続し 20 台前半で推移したが,3 回目の投与後は直後 51 mmHg,30 分後24 mmHgとなった.4 回目の投与直後は 60 mmHgまで上昇し,30 分後は 25 mmHgであった.投与 2 週間後に眼圧23 mmHgと高めであり,0.005%ラタノプラスト点眼追加となった.現在も 3 剤の点眼を継続中であり,眼圧は 20 mmHg台前半にて推移している.視神経は緑内障変化を認めず,視野検査においても緑内障を疑う異常所見はみられなかった.III考按抗 VEGF 薬剤投与の普及に伴い,その効果,合併症についての検討が必要とされている.Benz ら1)は 0.1 ml の硝子体内投与は 2.5%の硝子体容積に相当し,眼圧上昇は硝子体容積の増大が原因であるとしている.今回の検討でも一時的な眼圧上昇については同様の機序が考えられた.強度近視眼のみ有意な眼圧上昇がみられず,むしろ 30 分後に眼圧が下降した症例もみられた.これもまた硝子体容積の違いが影響していると考えられた.Benz ら1)は投与後逆流がみられない場合に眼圧が上昇することを指摘しており,強度近視の症例では強膜の菲薄化がみられる場合や硝子体の液化が進行していることが多く,穿刺部位より液化硝子体が漏出することによって眼圧が下がる可能性も否定できないと考えられた.持続性眼圧上昇をきたした 1 例について原因は明らかではなかった.Hollands ら2)は糖尿病黄斑症に対して bevaci-zumab を投与した 1 例において持続性眼圧上昇を認めたとしている.この症例は前回治療として triamcinolone を使用しており,それによる線維柱帯の障害が疑われたとしている.今回筆者らの症例では同様の機序は否定的であった.過去の報告においても bevacizumab 0.05 ml 注射後に一過性眼圧上昇がみられるとされており,平均 20 mmHg以上の眼圧上昇がみられたと報告している2).Kim ら3)は 213 回の硝子体内投与を施行し,直後の眼圧が 87 mmHgまで上昇した症例があったと報告している.また,一過性眼圧上昇により動脈閉塞の危険性が高まるとされており,VISIONツꀀ studyでは 7,545 例中 4 例で網膜動脈閉塞が起きたと報告してい る4).そのうち 1 例は pegaptanib 0.3 mg投与,4 例は pegap-tanib 1 mg投 与 後 で あ っ た.Huang ら5)は通常みられる40 mmHg以上の眼圧上昇により,網膜の微細構造や視神経,0510152025眼圧(mmHg)30354045注射前注射直後注射30分後図 1硝子体内投与後の眼圧変動———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091423(125)網膜や脈絡膜の小血管に障害を起こす可能性があると述べている.眼圧上昇はツꀀ 一過性とはいえ,注意深い経過観察が必要であると考えられる.Hollands ら2)も指摘しているように緑内障の既往がある症例では眼圧上昇によって視神経障害が進行する可能性があり,特に注意する必要がある.Byeonら6)は 0.5%チモロールと 2%ドルゾラミドの合剤投与後に房水流出が抑制されることにより bevacizumab の効果がより持続することを報告している.今後緑内障既往眼では投与後の眼圧のみではなく薬剤投与後,抗 VEGF 作用が持続する可能性も念頭におき経過観察するべきかもしれない.Bevacizumab 投与後は有意に眼圧上昇するが,ほとんどの症例では 30 分後は眼圧下降していた.前房穿刺の必要性については前房穿刺を行うことによって感染や水晶体損傷の危険性が高まるとの意見7,8)や前房穿刺を行うことによって眼圧上昇を防げる5)という意見,注射前に前房穿刺を行うことで薬剤の逆流を防げるという考え方9)もあり,意見が分かれているところではあるが,今回の検討結果からは治療を必要とする症例は 1 眼のみであり,前房穿刺は必ずしも必要はないと考えられた.しかし,まれに持続性の眼圧上昇をきたすこともあるため,投与後手動弁や指数弁の確認は全例に必要であり,症例によっては眼圧のモニタリングが必要と考えられる.文献 1) Benz MS, Albini TA, Holz ER et al:Short-term course of intraocularツꀀ pressureツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ injectionツꀀ ofツꀀ triamci-nolone acetonide. Ophthalmology 113:1174-1178, 2006 2) Hollands H, Wong J, Bruen R et al:Short-term intraocu-lar pressure changes after intravitreal injection of bevaci-zumab. Can J Ophthalmol 42:807-811, 2007 3) Kim JE, Mantravadi AV, Hur EY et al:Short-term intra-ocular pressure changes immediately after intravitreal injections of anti-vascular endothelial growth factor agents. Am J Ophthalmol 146:930-934, 2008 4) VEGF Inhibition Study in Ocular Neovascularization(V.I.S.I.O.N.)Clinicalツꀀ Trialツꀀ Group:Pegaptanibツꀀ sodiumツꀀ for neovascular age-related macular degeneration. Ophthal-mology 113:992-1001, 2006 5) Huang W-C, Lin J-M, Chiang C-C et al:Necessity of paracentesisツꀀ beforeツꀀ orツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ injectionツꀀ ofツꀀ beva-cizumab. Arch Ophthalmol 126:1314, 2008 6) Byeon SH, Kwon OW, Song JH et al:Prolongation of activity of single intravitreal bevacizumab by adjuvant topical aqueous depressant(Timolol-Dorzolamide). Greafes Arch Clin Exp Ophthalmol 247:35-42, 2009 7) Hariprasad SM, Shah GK, Blinder KJ et al:Short-term intraocular pressure trends following intravitreal pegap-tanib(Macugen)injection. Am J Ophthalmol 141:200-201, 2006 8) Lee EW, Hariprasad SM, Mieler WF et al:Short-term intraocularツꀀ pressureツꀀ trendsツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ triamcinolo-ne injection. Am J Ophthalmol 143:365-367, 2007 9) Tsui Y-P, Chiang C-C, Tsai Y-Y et al:Paracentesis before intravitreal injection of bevacizumab. Can J Oph-thalmol 43:239, 2008***