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新生血管黄斑症に対する Bevacizumab 硝子体内投与後の 一過性眼圧上昇

2009年10月29日 木曜日

———————————————————————- Page 1(123)ツꀀ 14210910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1421 1423,2009cはじめに近年,網膜領域では眼内注射は増加しており,特に新生血管黄斑症に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬剤投与は重要な治療法になっている.しかし,投与後の眼圧変化について検討した報告はわが国にはない.今回,新生血管黄斑症に対する bevacizumab 硝子体内投与後の眼圧変化について検討した.I対象および方法2007 年 8 月より 2008 年 4 月までに杏林アイセンターにて bevacizumab 硝子体内投与した新生血管黄斑症を有する33 例 33 眼(男性 18 例,女性 15 例)について retrospectiveに検討した.平均年齢は 69.3 歳(35 89 歳)であった.緑内障既往眼,硝子体手術既往眼は除外した.白内障手術既往眼は含めた.疾患の内訳は狭義の加齢黄斑変性(AMD)9 眼(27%),ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)16 眼(49%),網膜血管腫状増殖(RAP)2 眼(6%),近視性血管新生黄斑症 5眼(15%),網膜色素線状 1 眼(3%)であった.1 回投与が14 眼(42%),2 回 投 与 が 18 眼(55%),4 回 投 与 が 1 眼(3%)であった.数回投与の場合,最低 1 カ月の間隔で行った.〔別刷請求先〕山本亜希子:〒180-8611 東京都三鷹市新川 6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprint requests:Akiko Yamamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Kyorin University School of Medicine, 6-20-2 Shinkawa, Mitaka, Tokyo 180-8611, JAPAN新生血管黄斑症に対する Bevacizumab 硝子体内投与後の一過性眼圧上昇山本亜希子杉谷篤彦岡田アナベルあやめ平形明人杏林大学医学部眼科学教室Changes in Intraocular Pressure after Intravitreal Injection of BevacizumabAkiko Yamamoto,Atsuhiko Sugitani, Annabelle Ayame Okada and Akito HirakataDepartment of Ophthalmology, Kyorin University School of MedicineBevacizumab 硝子体内投与後の眼圧変化について retrospective に検討した.対象は新生血管黄斑症を有する 33例 33 眼であった.Bevacizumabツꀀ 1.25 m g/0.05 ml注入後の投与眼の眼圧を注射前,注射直後,30 分後に非接触式眼圧計にて測定した.平均眼圧の推移は,注射前が 13.44±2.99 mmHg,注射直後は 28.17±10.27 mmHg,注射 30 分後は16.94±4.45 mmHgであった.30 分後の眼圧は全例 30 mmHg以下になっていた.注射直後,30 分後とも注射前に比べ有意に眼圧上昇していた.注射前に比べ平均眼圧上昇は注射直後 15 mmHg(p<0.0001),30 分後4 mmHg(p<0.0001).緑内障の既往はないが 1 眼のみ持続性の眼圧上昇を認め,眼圧下降薬の使用を必要とした.硝子体内投与後は眼圧のモニタリングが必要であると考えられた.Weツꀀ examinedツꀀ short-termツꀀ changesツꀀ inツꀀ intraocularツꀀ pressure(IOP)inツꀀ patientsツꀀ receivingツꀀ intravitrealツꀀ injectionsツꀀ of bevacizumab.ツꀀ Theツꀀ subjectsツꀀ comprisedツꀀ 33ツꀀ patientsツꀀ whoツꀀ receivedツꀀ intravitrealツꀀ injectionsツꀀ ofツꀀ bevacizumab(1.25 m g/ 0.05 ml)forツꀀ theツꀀ treatmentツꀀ ofツꀀ neovascularツꀀ maculopathy.ツꀀ Theツꀀ short-termツꀀ e ectsツꀀ ofツꀀ bevacizumabツꀀ injectionsツꀀ onツꀀ IOP wereツꀀ analyzed.ツꀀ Theツꀀ baselineツꀀ meanツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ 13.44±2.99 mmHg. Immediately post-injection, the mean IOP was 28.17±10.27 mmHg. At 30 minutes after injection, the mean IOP was 16.94±4.45 mmHg. In one patient who had no history of glaucoma, the 30-minute post-injection IOP was 29 mmHg;this patient continued to exhibit elevated IOP requiring pressure-lowering medication. Our results suggest a need to monitor IOP following intravitreal injections.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1421 1423, 2009〕Key words:ベバシズマブ,眼圧,加齢黄斑変性,硝子体内注射.bevacizumab,ツꀀ intraocularツꀀ pressure,ツꀀ age-related macular degeneration, intravitreal injection.———————————————————————- Page 21422あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(124)総投与回数は 54 回であった.なお,bevacizumab 投与は倫理委員会の承認をもとに,書面によるインフォームド・コンセントを患者より得てから行った.方法は,キシロカイン点眼・結膜 Tenonツꀀ (穿刺部位付近の一部のみに注入)麻酔後,逆流防止しながら 30 ゲージ針にて bevacizumab 1.25 mg/0.05 ml 注入した.投与眼と僚眼の眼圧を注射前(局所麻酔前),注射直後,30 分後に非接触式眼圧計にて測定した.全例前房穿刺は行わなかった.眼圧の推移について Student-tツꀀ test にて検討し,p<0.05を統計学的な有意差ありと判定した.II結果注射前の眼圧は全例で 21 mmHg以下であった.平均眼圧の推移は,注射前が 13.44±2.99 mmHg(7 21 mmHg),注射直後は 28.17±10.27 mmHg(7 60 mmHg),注射 30 分後は 16.94±4.45 mmHg(5 29 mmHg)で あ っ た(図 1). 直後の眼圧が 50 mmHg以上に上昇した症例は 3 眼(9%)みられたが,30 分後の眼圧は全例 30 mmHg以下になっていた.30 分後眼圧が注射前に比して5 mmHg以上眼圧下降した 2例は,どちらも 9 D 以上の強度近視眼であった.この 2 例では直後の眼圧も術前の眼圧より下がっていた.強度近視眼でも注射直後に 20 mmHg以上眼圧上昇した症例も 5 例中 2例みられた.全例で注射直後,30 分後とも注射前に比べ有意に眼圧上昇していた.注射前に比べ平均眼圧上昇は注射直後15 mmHg(p<0.0001),30 分後4 mmHg(p<0.0001)であった.投与回数別の検討を行ったが有意差はなく,投与回数を重ねても眼圧上昇度は変化しないことがわかった.疾患別の眼圧上昇度を検討した.近視性脈絡膜血管新生の症例のみ有意な眼圧上昇はみられなかった.年齢については,50 歳未満(5 例)と 50 歳以上(28 例)の症例を比べ,有意差はみられなかった.1 例のみ持続的な眼圧上昇を認めた.症例は 79 歳,女性,PCV の症例であった.既往歴として糖尿病があった.それまで他の治療は受けていなかった.初回投与前眼圧 18 mmHgで直後眼圧が 33 mmHgまで上昇し,30 分後は 29 mmHgであった.60 分後はさらに 39 mmHgまで上昇したため 1% ブリンゾラミドの投与を開始した.投与 1 週間後の再診時に点眼を継続していたにもかかわらず眼圧 20 mmHgであり,その後も点眼継続とした.2 回目投与後も注射直後の眼圧が50 mmHg,30 分後 29 mmHg,1 時間後 28 mmHgと下降せず,0.5%チモロール追加とした.その後は 2 剤継続し 20 台前半で推移したが,3 回目の投与後は直後 51 mmHg,30 分後24 mmHgとなった.4 回目の投与直後は 60 mmHgまで上昇し,30 分後は 25 mmHgであった.投与 2 週間後に眼圧23 mmHgと高めであり,0.005%ラタノプラスト点眼追加となった.現在も 3 剤の点眼を継続中であり,眼圧は 20 mmHg台前半にて推移している.視神経は緑内障変化を認めず,視野検査においても緑内障を疑う異常所見はみられなかった.III考按抗 VEGF 薬剤投与の普及に伴い,その効果,合併症についての検討が必要とされている.Benz ら1)は 0.1 ml の硝子体内投与は 2.5%の硝子体容積に相当し,眼圧上昇は硝子体容積の増大が原因であるとしている.今回の検討でも一時的な眼圧上昇については同様の機序が考えられた.強度近視眼のみ有意な眼圧上昇がみられず,むしろ 30 分後に眼圧が下降した症例もみられた.これもまた硝子体容積の違いが影響していると考えられた.Benz ら1)は投与後逆流がみられない場合に眼圧が上昇することを指摘しており,強度近視の症例では強膜の菲薄化がみられる場合や硝子体の液化が進行していることが多く,穿刺部位より液化硝子体が漏出することによって眼圧が下がる可能性も否定できないと考えられた.持続性眼圧上昇をきたした 1 例について原因は明らかではなかった.Hollands ら2)は糖尿病黄斑症に対して bevaci-zumab を投与した 1 例において持続性眼圧上昇を認めたとしている.この症例は前回治療として triamcinolone を使用しており,それによる線維柱帯の障害が疑われたとしている.今回筆者らの症例では同様の機序は否定的であった.過去の報告においても bevacizumab 0.05 ml 注射後に一過性眼圧上昇がみられるとされており,平均 20 mmHg以上の眼圧上昇がみられたと報告している2).Kim ら3)は 213 回の硝子体内投与を施行し,直後の眼圧が 87 mmHgまで上昇した症例があったと報告している.また,一過性眼圧上昇により動脈閉塞の危険性が高まるとされており,VISIONツꀀ studyでは 7,545 例中 4 例で網膜動脈閉塞が起きたと報告してい る4).そのうち 1 例は pegaptanib 0.3 mg投与,4 例は pegap-tanib 1 mg投 与 後 で あ っ た.Huang ら5)は通常みられる40 mmHg以上の眼圧上昇により,網膜の微細構造や視神経,0510152025眼圧(mmHg)30354045注射前注射直後注射30分後図 1硝子体内投与後の眼圧変動———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091423(125)網膜や脈絡膜の小血管に障害を起こす可能性があると述べている.眼圧上昇はツꀀ 一過性とはいえ,注意深い経過観察が必要であると考えられる.Hollands ら2)も指摘しているように緑内障の既往がある症例では眼圧上昇によって視神経障害が進行する可能性があり,特に注意する必要がある.Byeonら6)は 0.5%チモロールと 2%ドルゾラミドの合剤投与後に房水流出が抑制されることにより bevacizumab の効果がより持続することを報告している.今後緑内障既往眼では投与後の眼圧のみではなく薬剤投与後,抗 VEGF 作用が持続する可能性も念頭におき経過観察するべきかもしれない.Bevacizumab 投与後は有意に眼圧上昇するが,ほとんどの症例では 30 分後は眼圧下降していた.前房穿刺の必要性については前房穿刺を行うことによって感染や水晶体損傷の危険性が高まるとの意見7,8)や前房穿刺を行うことによって眼圧上昇を防げる5)という意見,注射前に前房穿刺を行うことで薬剤の逆流を防げるという考え方9)もあり,意見が分かれているところではあるが,今回の検討結果からは治療を必要とする症例は 1 眼のみであり,前房穿刺は必ずしも必要はないと考えられた.しかし,まれに持続性の眼圧上昇をきたすこともあるため,投与後手動弁や指数弁の確認は全例に必要であり,症例によっては眼圧のモニタリングが必要と考えられる.文献 1) Benz MS, Albini TA, Holz ER et al:Short-term course of intraocularツꀀ pressureツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ injectionツꀀ ofツꀀ triamci-nolone acetonide. Ophthalmology 113:1174-1178, 2006 2) Hollands H, Wong J, Bruen R et al:Short-term intraocu-lar pressure changes after intravitreal injection of bevaci-zumab. Can J Ophthalmol 42:807-811, 2007 3) Kim JE, Mantravadi AV, Hur EY et al:Short-term intra-ocular pressure changes immediately after intravitreal injections of anti-vascular endothelial growth factor agents. Am J Ophthalmol 146:930-934, 2008 4) VEGF Inhibition Study in Ocular Neovascularization(V.I.S.I.O.N.)Clinicalツꀀ Trialツꀀ Group:Pegaptanibツꀀ sodiumツꀀ for neovascular age-related macular degeneration. Ophthal-mology 113:992-1001, 2006 5) Huang W-C, Lin J-M, Chiang C-C et al:Necessity of paracentesisツꀀ beforeツꀀ orツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ injectionツꀀ ofツꀀ beva-cizumab. Arch Ophthalmol 126:1314, 2008 6) Byeon SH, Kwon OW, Song JH et al:Prolongation of activity of single intravitreal bevacizumab by adjuvant topical aqueous depressant(Timolol-Dorzolamide). Greafes Arch Clin Exp Ophthalmol 247:35-42, 2009 7) Hariprasad SM, Shah GK, Blinder KJ et al:Short-term intraocular pressure trends following intravitreal pegap-tanib(Macugen)injection. Am J Ophthalmol 141:200-201, 2006 8) Lee EW, Hariprasad SM, Mieler WF et al:Short-term intraocularツꀀ pressureツꀀ trendsツꀀ afterツꀀ intravitrealツꀀ triamcinolo-ne injection. Am J Ophthalmol 143:365-367, 2007 9) Tsui Y-P, Chiang C-C, Tsai Y-Y et al:Paracentesis before intravitreal injection of bevacizumab. Can J Oph-thalmol 43:239, 2008***

小児に発症した MRSA による急性化膿性涙腺炎

2009年10月25日 日曜日

———————————————————————- Page 1(107)ツꀀ 14050910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1405 1408,2009cはじめに急性感染性涙腺炎は比較的まれな疾患であり,原因不明の上眼瞼の腫脹と疼痛を主訴として紹介されることが多い.病原体としては,ウイルス,細菌,真菌がある1 4).ウイルス性では,ムンプスが最多で,他にサイトメガロウイルス,コクサッキー A 群ウイルス,エコーウイルス,伝染性単核球症ウイルス,帯状ヘルペスウイルスなど多種類のウイルスがある.細菌性には,黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,淋菌,緑膿菌,Morax-Axenfeld 菌,Koch-Weeks 菌,トラコーマなどが知られている.局所からの細菌感染は,結膜炎,麦粒腫,眼瞼炎などから細菌が涙腺の排出管を逆行性に上がって起こるとされている.分枝菌,真菌,原虫では,ブラストマイコーシス,ヒストプラズモーシス,アクチノマイコーシス,ノカルディオーシス,スポロトリコーシス,アカントアメーバが知られている1,2).今回筆者らは,近医初診時に麦粒腫が疑われ,抗菌薬点眼,内服にて軽快せず当院紹介受診となったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantツꀀ Staphylococcusツꀀ aureus:MRSA)による急性化膿性涙腺炎の 7 歳,男児例を経験したので報告する.I症例患者:7 歳,男児.主訴:左眼の眼瞼腫脹,疼痛.〔別刷請求先〕稲垣伸亮:〒920-0293 河北郡内灘町大学 1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprint requests:Shinsuke Inagaki, M.D., Department of Ophthalmology, Kanazawa Medical University, 1-1 Daigaku, Uchinada-machi, Kahoku-gun 920-0293, JAPAN小児に発症した MRSA による急性化膿性涙腺炎稲垣伸亮北川和子永井康太萩原健太佐々木洋金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)An Infant Case of Acute Purulent Dacryoadenitis due to MRSAShinsuke Inagaki, Kazuko Kitagawa, Kouta Nagai, Kenta Hagihara and Hiroshi SasakiDepartment of Ophthalmology, Kanazawa Medical University7 歳の男児に発症したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による急性化膿性涙腺炎を経験した.左上眼瞼の腫脹と疼痛を認め,近医にて麦粒腫の診断で加療されたが増悪を認めたため,当院へ紹介された.充血,上眼瞼耳側の発赤腫脹,触診にて涙腺の腫大と圧痛,左耳前リンパ節腫脹がみられた.涙腺炎を疑い上眼瞼反転したところ,腫脹した外眼角近辺より黄色膿性分泌物が漏出した.分泌物の塗抹鏡検で多核白血球,グラム陽性球菌を多数認め,培養でMRSA が検出された.入院のうえ,抗生物質の頻回点眼,点滴静注を開始したところ,速やかに軽快した.筆者らが知る限りでは,MRSA による急性化膿性涙腺炎の報告はなく,健常な小児で本菌が起炎菌となることは少ない.本症例は,涙腺炎発症数日前にインフルエンザ罹患既往があり,免疫状態が低下した状態にあったことが MRSA 感染の要因であった可能性があるが,きわめてまれな症例と考えられた.Weツꀀ reportツꀀ theツꀀ caseツꀀ ofツꀀ aツꀀ 7-year-oldツꀀ maleツꀀ withツꀀ leftツꀀ acuteツꀀ purulentツꀀ dacryoadenitisツꀀ dueツꀀ toツꀀ methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA). In pus from the gland, many neutrophiles and gram-positive cocci were observed;culturingツꀀ revealedツꀀ MRSA.ツꀀ Theツꀀ patientツꀀ wasツꀀ admittedツꀀ andツꀀ treatedツꀀ withツꀀ frequentツꀀ topicalツꀀ antibioticsツꀀ and intravenousツꀀ antibiotics,ツꀀ resultingツꀀ inツꀀ aツꀀ rapidツꀀ cure.ツꀀ Toツꀀ ourツꀀ knowledgeツꀀ thereツꀀ areツꀀ noツꀀ reportsツꀀ ofツꀀ dacryoadenitisツꀀ with MRSA,ツꀀ butツꀀ itツꀀ shouldツꀀ beツꀀ keptツꀀ inツꀀ mindツꀀ thatツꀀ MRSAツꀀ infectionツꀀ canツꀀ occurツꀀ inツꀀ aツꀀ healthyツꀀ infant,ツꀀ asツꀀ inツꀀ theツꀀ presentツꀀ case. One cause of this infection might have been the in uenza he su ered just before this episode;the immune system may also have been somewhat depressed.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1405 1408, 2009〕Key words:涙腺炎,黄色ブドウ球菌,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),小児.dacryoadenitis,ツꀀ Staphylo-coccus aureus, methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA), infant.———————————————————————- Page 21406あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(108)現病歴:2006 年 7 月 2 日より左眼上眼瞼耳側の腫脹,疼痛を認めた.翌日近医を受診し,麦粒腫の診断にてタリビッドR眼軟膏と 0.1%フルメトロンR点眼,フロモックスR内服を投与されたが,症状の改善なく次第に下眼瞼にも腫脹が広がってきたため,7 月 5 日に当院に紹介受診となった.既往歴:2006 年 6 月 19 日手足口病,6 月 27 日インフルエンザ発症.今回退院後に流行性角結膜炎を発症.家族歴:特記事項なし.初診時所見:全身状態良好;体温 35.5℃,耳前リンパ節触知(左).視力;右眼 1.5(n.c.),左眼 1.2p(1.2×cyl 0.5 D Ax150°).眼位;正位,眼球運動:制限なし.眼 瞼;左眼瞼が著明に腫脹.特に上眼瞼耳側の発赤・腫脹が顕著で,腫脹した涙腺を触知でき,涙腺部を中心として眼瞼全体に圧痛があった(図 1).結 膜;左眼で球結膜・瞼結膜ともに充血と耳側球結膜に浮腫が存在した.角膜,中間透光体,眼底に異常所見は認められなかった.右眼には結膜炎症状を含め異常所見はみられなかった.上記所見より左眼の急性涙腺炎を疑い上眼瞼反転したところ,上円蓋部耳側涙腺部と思われる部位から大量の黄色膿性分泌物の排出を認めた(図 2).塗抹標本をグラム染色し鏡検を行うと多数の好中球とグラム陽性球菌,菌を貪食したマクロファージが確認された(図 3).血液・生化学所見では白血球増多(9,130/μl),CRP(C 反応性蛋白)(0.86 mg/dl),赤沈(37 mm)の亢進を認めた.CT(コンピュータ断層撮影)画像では眼瞼部・眼窩部涙腺の高度の腫脹があり,眼球後方までの辺縁が明瞭で均一な高吸収域を認めた.骨破壊像や周辺組織への炎症の波及は認めなかった(図 4).経過:グラム陽性球菌による左化膿性涙腺炎と診断し,即日入院のうえ,治療を開始した.タリビッドR眼軟膏 4 回を継続,ベストロンRツꀀ 1 時間毎点眼,セフェム系抗生物質(セファメジンaR 1 g 点滴用キットを 1 日 2 回)3 日間継続した.入院 2 日目より眼瞼腫脹は軽快してきた.その後,膿の培養より MRSA が分離されたが,すでに症状が改善してきていたため上記治療を継続し,10 日後には眼瞼腫脹はほぼ消失した.ちなみに,分離菌の薬剤感受性試験の結果を表 1 に示した.検討した 18 薬剤中,耐性であった薬剤は 8 剤で,そ図 2 左眼上眼瞼反転時 膿(矢印)が流出.図 1眼瞼左眼の眼瞼腫脹,結膜充血が存在.図 3膿のグラム染色所見上: 多核白血球優位で,グラム陽性球菌を多数認めた(400倍 ).下: マクロファージがグラム陽性球菌を貪食している像が認められる(1,000 倍).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091407(109)の内訳は,ペニシリン系のメチシリン(MPIPC),ベンジルペニシリン(PCG),セフェム系のセファクロル(CCL),セファゾリン(CEZ),セフメタゾール(CMZ),カルバペネム系のイミペネム・シラスタチン(IPM/CS),マクロライド系のエリスロマイシン(EM),リンコマイシン系のクリンダマイシン(CLDM)であった.感受性を示した薬剤は 10 剤で,グリコペプチド系のバンコマイシン(VCM),テイコプラニン(TEIC),アミノグリコシド系のゲンタマイシン(GM),アミカシン(AMK),アルベカシン(ABK),テトラサイクリン系のテトラサイクリン(TC),ミノサイクリン(MINO),ニューキノロン系のレボフロキサシン(LVFX),ホスホマイシン系のホスホマイシン(FOM),そしてスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)であった.II考察感染性涙腺炎の原因は,細菌性とウイルス性に大別され,細菌感染は,涙腺の排出管を逆行性に菌が進入して起こることが多いとされている.それに対し,ウイルス感染に伴うものは,体力が低下したときなどに発症し両眼性が一般的である.小児では流行性耳下腺炎のときに合併することが多い5).今回筆者らは,近医で麦粒腫が疑われ抗菌薬の点眼,内服投与で軽快せず当院紹介受診となった急性涙腺炎の小児例を経験した.急性涙腺炎はまれな疾患であり,急性結膜炎,麦粒腫,化膿性霰粒腫などの診断で抗生物質の点眼,内服療法を行い治癒していく症例のなかに急性涙腺炎が含まれている可能性がある.そのため,眼瞼部化膿性炎症所見を認める疾患の一つとして本疾患を認識しておく必要があると考えられた.左眼化膿性涙腺炎と診断した根拠は以下の通りである1).①上眼瞼耳側 1/3 に強い炎症性浮腫と圧痛が存在,眼瞼下垂と上眼瞼縁の典型的な S 字状カーブ,②多量の粘稠な眼脂,③球結膜外側の浮腫,④ CRP 陽性,⑤涙腺の触知とCT 像での涙腺腫脹と眼窩内炎症所見の存在,⑥上眼瞼結膜 耳側涙腺部からの黄色膿性の排膿がある.今回の症例は上記のすべてに合致した.眼瞼反転時に排膿がみられたが,これは診断とともに,治療的効果,また病原体同定のためのサンプルとして有用であった.本例は片側の涙腺炎で膿内から多核白血球,グラム陽性球菌が観察されたことより,細菌性涙腺炎として治療を開始した.多剤耐性の MRSA であるとの結果を得たが,その時点では薬剤感受性試験にて耐性であった薬剤を用いていた.また,近医でセフェム系抗生物質の内服が処方され,軽快を認めなかったが,広域スペクトルであるセフェム系抗生物質を再度第一選択し,静注(セファメジンaRツꀀ 2 g/日)を高濃度に行ったこと,病巣部が血管の多い組織なので,血流移行性が良く,著効したのではないかと考えられる.また,排膿したことも治療としての重要な要因の一つであると考えられた.小児の MRSA による眼感染症としては結膜炎がほとんどであり,まれに涙 炎の報告がある6).MRSA 感染症は,com-promised host に発症しやすく高度耐性の院内感染型 MRSAと,健常小児や成人に発症する中等度耐性の市中感染型MRSA に分類される.厳密には薬剤耐性遺伝子(SCCmec)の検索が必要であり,タイプ I,II,III を有するのは病院型,IV,ツꀀ V は市中型とされる.本例では遺伝子検索は行っていないが,入院歴がないこと,薬剤感受性パターンが中等度耐性,非多剤耐性であることより市中感染型と判定した7).本症例は入院前に手足口病,インフルエンザを認めており,免疫状態が低下するような全身疾患に罹患していたことが発症要因の一つではないかと考えている.なお,筆者らが検索した限りでは小児の MRSA による涙腺炎の症例報告はわが国および国外にも認められていない.しかし,小児感染症としてこのような疾患があることも念頭表 1分離菌の薬剤感受性試験の結果抗菌薬判定MIC 値抗菌薬判定MIC 値MPIPCR≧4AMKS≦2PCGR≧ 0.5ABKS≦4CCLR≦8EMR≧8CEZR≦4TCS≦1CMZR≦ 16MINOS≦4IPM/CSR≦1LVFXS≦ 0.12VCMS≦1FOMS≦8TEICS≦ 0.5CLDMR≧8GMS≦ 0.5STS≦ 10 R:耐性,S:感受性,MIC:最小発育阻止濃度.(抗菌薬の略語の説明は本文参照)図 4眼部CT像左眼窩内涙腺の著しい腫脹が観察される.———————————————————————- Page 41408あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(110)におく必要がある.文献 1) Duke-Elder S:System of Ophthalmology, In ammations of the Lacrimal Gland. XIII:601-618, London, 1974 2) Tomitaツꀀ M,ツꀀ Shimmuraツꀀ S,ツꀀ Tsubotaツꀀ Kツꀀ etツꀀ al:Dacryoadenitis associatedツꀀ withツꀀ acanthamoebaツꀀ keratitis.ツꀀ Archツꀀ Ophthalmol 124:1239-1242, 2006 3) Obata H, Yamagami S, Saito S et al:A case of acute dacryoadenitisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ herpesツꀀ zosterツꀀ ophthalmic-us. Jpn J Ophthalmol 47:107-109, 2003 4) 早川純子,谷瑞子:涙腺腫瘍とまぎらわしい所見で発症した急性涙腺炎.眼科 28:1303-1305, 1986 5) 渡辺仁:I.疾患別:薬の使い方薬を使用する前に確認しておくべき事項.眼科プラクティス 眼科薬物治療ガイド,p101-103,文光堂,2004 6) 関根寿樹:新生児の眼科疾患─新生児の結膜炎,涙 炎.周産期医学 36:469-472, 2006 7) 外園千恵:眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─ 2.市中型 MRSA による眼感染症.あたらしい眼科 25:195-196, 2008***

岐阜県内で感染したと推定される東洋眼虫のヒト結膜蝗鞄 寄生例

2009年10月24日 土曜日

———————————————————————- Page 1(103)ツꀀ 14010910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1401 1404,2009cはじめに東洋眼虫(Thelaziaツꀀ callipaeda)は,イヌあるいはネコをおもな終宿主とする線虫で,中間宿主はショウジョウバエ科のメマトイ(Amiota)である.その分布には地域性が強く,おもに東南アジアや中国などの温暖な地域,日本では特に九州や西日本に多いという1 14).わが国では 1957 年に初めて熊本で人体寄生例が報告1)されて以来,九州を中心に 100 例余り報告され,筆者らが調べた限り,茨城県からの報告が最北で,つぎに東京都であった2 4).いずれも九州地方へ旅行しており感染場所の確定はできていない2 4).今回筆者らは,岐阜県内で感染したと思われる東洋眼虫症の初の 1 例を経験したので報告する.I症例患者:70 歳,女性.初診:平成 20 年 7 月 22 日.主訴:右眼の異物感.既往歴:Parkinson 病および肺結核.家族歴:特記事項なし.生活歴:岐阜県岐阜市在住の主婦.近所の竹やぶにてタケノコ狩りをするのが趣味であった.ペットの飼育歴および海外渡航歴はなし.当科受診 1 年以内に岐阜県外に出たことはない.現病歴:平成 20 年 5 月 26 日に右上眼瞼内に異物感が出現し,近医眼科を受診したところ,右外眼角付近に虫体を発見し数隻摘出された(図 1).6 月 2 日再診時にも同部位から虫体が捕獲された.その後,しばらく症状は治まっていたが,6 月 29 日に右眼の異物感が出現し再受診.虫体 1 隻が捕獲された.虫体が何隻も発見されるので,精査および加療目的で当眼科を紹介となった.〔別刷請求先〕小森伸也:〒501-1194 岐阜市柳戸 1-1岐阜大学医学部眼科学教室Reprint requests:Shinya Komori, M.D., Department of Ophthalmology, Gifu University Graduate School of Medicine, 1-1 Yanagido, Gifu-shi 501-1194, JAPAN岐阜県内で感染したと推定される東洋眼虫のヒト結膜 内 寄生例小森伸也*1小國務*1末森晋典*1望月清文*1林裕子*2高橋優三*3*1 岐阜大学医学部眼科学教室*2 眼科林クリニック*3 岐阜大学医学部寄生虫学教室A Case of Conjunctival Sac Infection with Thelazia callipaeda in Gifu PrefectureShinya Komori1), Tsutomu Oguni1), Shinsuke Suemori1), Kiyofumi Mochizuki1), Yuko Hayashi2) and Yuzo Takahashi3)1)Department of Ophthalmology, Gifu University Graduate School of Medicine, 2)Hayashi Eye Clinic,ツꀀ 3)Department of Parasitology, Gifu University Graduate School of Medicine岐阜市在住のタケノコ狩りを趣味とする 70 歳,女性の右眼にみられた東洋眼虫症を経験した.平成 20 年 5 月に右眼に違和感が出現し当科を紹介受診.数回にわたり虫体を摘出した.摘出された虫体はすべて東洋眼虫の雌であった.また,外眼角部に 腫を認め, 腫が寄生の一因と考え,結膜 腫摘出術を施行した.現在経過観察中であるが,新たな虫体は検出されていない.岐阜県内で感染したと推定される東洋眼虫症を初めて報告した.We report a case of human thelaziasis. The patient, a 70-year-old female living in Gifu Prefecture, complained ofツꀀ foreign-bodyツꀀ sensationツꀀ inツꀀ herツꀀ rightツꀀ eye.ツꀀ Herツꀀ hobbyツꀀ wasツꀀ bambooツꀀ shootツꀀ picking.ツꀀ Weツꀀ extractedツꀀ wormsツꀀ fromツꀀ the conjunctival sac;all were identi ed as female worms of the species Thelazia callipaeda. We also excised a cyst at theツꀀ lateralツꀀ canthus,ツꀀ inツꀀ whichツꀀ wormsツꀀ mightツꀀ reside.ツꀀ Afterツꀀツꀀ nalツꀀ extractionツꀀ ofツꀀ theツꀀ worms,ツꀀ weツꀀ foundツꀀ noツꀀ otherツꀀ worms. This was probably theツꀀ rst case of human thelaziasis found in Gifu Prefecture.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1401 1404, 2009〕Key words:東洋眼虫,人畜共通感染症,メマトイ,岐阜県.Thelazia callipaeda, parasitic zoonoses, Amiota, Gifu Prefecture.———————————————————————- Page 21402あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(104)初診時所見:視力は右眼 1.0(n.c.),左眼 0.3(0.9×+1.5 D(cyl 1.50 Dツꀀ Ax145°)で, 眼 圧 は 右 眼 12 mmHg, 左 眼14 mmHg であった.前眼部所見では左眼に異常所見は認められなかった.右眼では,外眼角部に 腫を認め,軽度の結膜充血がみられ,少量の眼脂を認めた.中間透光体では両眼とも後 下白内障を認めた.眼底には両眼とも軽度の動脈硬化性変化を認めた.画像所見:頭部 MRI(磁気共鳴画像)では,T2 強調像にて 5 mm 大の高信号の 胞様構造物を右外眼角部に認めたが,虫体はみられなかった(図 2).血液学的検査:白血球数は 5,090/mm3,白血球分画は正常で,IgE 値は 85.0 と正常範囲内であった.結膜 内分泌物培養:Staphylococcus haemolyticus およびEubacterium lentum が検出された.経過:初診時,細隙灯顕微鏡検査時に右外眼角上方結膜 に白色の虫体を数隻発見したので,0.4%塩酸オキシブプロカインで点眼麻酔後,無鈎鑷子にて摘出を試みた.虫体は光を当てると結膜 内の奥へ逃げるように蠕動運動をしたが,2 隻の虫体を摘出することができた.摘出した虫体を生理食塩水中に保存し,同定に供した.レボフロキサシンの点眼を開始したが,平成 20 年 7 月 31日に異物感が継続するため再受診となった.前回同様に右眼結膜 に 1 隻の虫体を確認し摘出した.その際,涙道洗浄を行ったが,虫体は確認されなかった.外眼角部の 腫内が棲図 1右眼前眼部写真外眼角部に数隻の虫体(矢印)を認める.図 3採取した虫体標本右側が口側,左側が肛門側.幼虫を排出する陰門を認める(矢印).図 2MRI所見a:拡散強調画像,b:T2 強調画像.T2 強調画像(矢印)で右眼外眼部に高信号の大きさ 5 mm 大の 胞様構造物を認める.ツꀀ ———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091403(105)みかではないかと考え同年 8 月 20 日に右眼結膜 腫摘出術を施行した.摘出前に 0.25%インドシアニングリーンにて 腫内を染色し 腫摘出を行った.摘出時, 腫内および術野から虫体は確認されなかった.現在,外来にて経過観察中であるが,右眼の違和感は継続しているが虫体は確認されていない.虫体所見:摘出された虫体は,体長 6.2 6.5 mm で,口腔は歯と口唇が欠如し,虫体の中央部付近に陰門を認め,体表には細かい鋸歯状の striation を認めた.以上の形態学的特徴および採取場所から,東洋眼虫の雌と同定した(図 3).病理学的所見:摘出された 腫内に,虫体はみられなかったが,脱皮の残骸と思われる所見を認めた(図 4).II考按東洋眼虫は,線形動物門・線虫網・螺尾虫目・眼虫科・テラジア属に属する体長 8 16 mm の白色の小線虫である5).結膜に寄生し,イヌ,ネコ,サル,タヌキおよびキツネなどの哺乳類を終宿主とし,ときにヒトの結膜 にも寄生する6).ショウジョウバエの一種であるメマトイ(マダラメマトイ,オオメマトイおよびナガタメマトイ)を中間宿主とする6,15).メマトイは哺乳類の涙液を舐める習性があり,すでに東洋眼虫に感染している終宿主の涙液を舐める際に,第一期幼虫を摂取する6).第一期幼虫はメマトイの生殖器内で 2 回脱皮後,第三期幼虫(体長 2.0 2.5 mm)となる6).メマトイが終宿主の涙液を舐める際に,この第三期幼虫が結膜に寄生し約 1 カ月後に成虫となる6).東洋眼虫の寿命は約 12 カ月である7,8)ので,虫体の発見・摘出後 1 年間は経過観察を要すると考えられる.東洋眼虫の雌雄の見分け方は,①雌のほうが雄に比べて体長が長い傾向にある,②雌成虫では子宮内に仔虫を認める,③雄成虫には左交接刺が右交接刺に比べて異常に長い,および④雌成虫の口腔には歯と口唇が欠如し,体表に鋸歯状のstriation を認めるなどがあげられる9).今回摘出した東洋眼虫は体長が 6.5 mm 前後と小振りであったが,すべて雌であった.東洋眼虫症の症状として異物感,眼脂,流涙,充血あるいは掻痒感など慢性の結膜炎様を呈することが多いが,自覚症状に乏しい症例もあるという6).寄生部位として上円蓋部結膜 内が多いとされる6)が,他に涙道内寄生例,眼瞼の肉芽腫形成例,前房内あるいは硝子体内に侵入した報告例もあ る10,16).本症例では MRI 画像にて虫体は確認されなかったが,外眼角部の 腫内が寄生部位ではないかと考え,右眼結膜 腫摘出術を施行した.摘出時および摘出された 腫内に虫体はみられなかったが,脱皮の残骸と思われる所見を認めた.治療は虫体の摘出とされる15).成虫は活動性が高く,結膜 の奥深くへ逃げ込むと摘出がときとして困難になる11).本症例では虫体の動きを抑える目的も含め 0.4%塩酸オキシブプロカインを用い,数回にわたり虫体の摘出を行った.その後現在まで,自覚症状は継続しているが新たな虫体は確認されていない.東洋眼虫は,ヒト結膜 内では産生された卵から成虫まで発育する可能性はなく,虫体を摘出すれば再発はないという7).しかしながら,中間宿主であるメマトイとの接触により再罹患することがある6 9,11 13)ので,メマトイが渓流近くのスギ,シイ,カシや竹林などで採集される7)ことからも,本症例ではタケノコ狩りの際には“ハエに注意”と指導している.今回,岐阜県で初めて東洋眼虫が発見されたが,岐阜県近隣では愛知県ならびに三重県から数例の報告が散見され る2 4,10,13 17).筆者らが調べた限り,茨城県での報告例が最北であった2).しかし茨城県からの報告は,発症 22 日ほど前に熊本県内で野外作業に従事しており熊本において感染した可能性は否定できない2).東京都の報告は,虫体発見の 3週間ほど前に福岡県八女市から上京しているので,茨城県の報告同様,感染場所について若干問題が残る3).一般に,東洋眼虫症の分布には偏在性が強く,九州を中心(特に熊本,宮崎および大分)とした西日本に報告例が多い1,4,6)が,最近では中国,四国および近畿地方や都市部でもその報告例が増加しているという5,7 9,11,12,17).地域性の原因として,一つには,中間宿主であるメマトイは九州地方から北海道まで全国的に分布しているものの,終宿主であるイヌの東洋眼虫の寄生率に地域差があることが指摘されている7).しかし今日ではイヌやネコなどをペットとしてともに移動することが予想され,その地域性が容易に変化することが危惧される.つぎに東洋眼虫がメマトイの体内で第一幼虫期から第三期幼虫(感染幼虫)に発育するのに要する日数は温度依存性である6)ので,温暖な地域での感染が多くなっている6)という.メマトイは初夏から 9 月にかけて図 4摘出した 腫の一部脱皮の残骸(矢印)を認める(HE 染色).———————————————————————- Page 41404あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(106)13℃以上で活動性が高く,低温ではその活動性が制限さ れ12),東洋眼虫は 17℃以下では生存ができないという7).一方,1883 年(岐 阜 市 気 象 台 観 測 開 始 年),1977 年 お よ び2007 年における岐阜市の平均気温を検討したところ,年平均気温ではそれぞれ 13.7℃,15.4℃および 16.4℃であった.平 均 気 温 13℃ 以 上 の 月 は, そ れ ぞ れ 5 月(15.6℃:4 月 は11.4℃)か ら 10 月(17.4℃:11 月 は 9.3℃),4 月(14.1℃)から 11 月(13.4℃)および 4 月(14.0℃)から 10 月(19.0℃:11 月は 12.2℃)であった.よって岐阜市の平均気温の上昇は明らかであり,メマトイの活動日数の増加ならびに活発化が予想され,少なくとも岐阜県での東洋眼虫によるヒト感染例に注意を要すると思われた.今後,温暖化現象ならびにペット管理の不徹底などによる東日本などへの感染地域の拡大が懸念される.ご校閲賜りました岐阜大学医学部眼科学教室教授ツꀀ 山本哲也先生に深く感謝いたします.文献 1) 萩原武雄,楠元忠雄,村上和充ほか:人結膜より摘出した線虫の二例.熊本医学会雑誌 31:179-183, 1957 2) 滝田弘子,影井昇,橋口淳一ほか:東洋眼虫 Thelazia callipaeda 寄生の 1 症例とその感染地について.眼臨 78:1909-1912, 1984 3) 影井昇,林滋生,石田常康ほか:東京都下で発見された東洋眼虫の人体寄生例.寄生虫誌 30:337-344, 1981 4) 宮原道明,讃井浩喜,保利哲也:大分県と熊本県で見出された東洋眼虫症 2 例.九州大学医療技術短期大学紀要 26:85-88, 1999 5) 高田園子,宇仁茂彦,国吉一樹ほか:大阪府で見出された東洋眼虫の 1 例.眼紀 53:150-153, 2002 6) 小池生夫,吉川洋,小池直栄ほか:東洋眼虫症の 1 例.眼紀 57:301-304, 2006 7) 森下真美,上村宏和,村主節雄ほか:香川県で見出された東洋眼虫の 3 症例.あたらしい眼科 22:554-556, 2005 8) 石川喜隆,佐藤綾子,田中俊朗ほか:山口県で見出された東洋眼中のヒト結膜 内寄生例.眼臨 98:97-99, 2004 9) 金子明生,児玉俊夫,石川明那ほか:ヒト結膜 に寄生した東洋眼虫の形態学的特徴.臨眼 61:531-536, 2007 10) 湯口幹典,馬嶋昭生,滝昌弘ほか:前房内に迷入した東洋眼虫の 3 症例.眼紀 33:1117-1122, 1982 11) 石坂拓也,水川憲一,溝上志朗ほか:香川県で発見された結膜 内寄生東洋眼虫の 1 症例.眼臨 98:383-384, 2005 12) 高静花,堀本幸嗣,壇上幸孝ほか:大阪市居住者に見られた東洋眼虫寄生の 1 症例.眼紀 54:47-50, 2003 13) 丹羽慶子,水谷聡,岩城正佳ほか:東洋眼虫の結膜多数寄生の 1 例.眼臨 94:1360, 2000 14) 吉田淳,鈴木康之,亀井喜世子:東洋眼虫の 1 症例.眼臨 101:220, 2007 15) 小木曽正博:東洋眼虫による眼感染症について教えてください.あたらしい眼科 17(臨増):201-202, 2000 16) Zakir R, Zhong-Xia Z, Chioddini P et al:Intraocular infestationツꀀ withツꀀ theツꀀ worm,ツꀀ Thelaziaツꀀ callipaeda.ツꀀ Brツꀀ Jツꀀ Oph-thalmol 83:1194-1195, 1999 17) 影井昇,原田正和,村主節雄:香川大学医学部国際医動物学教室に鑑別を依頼された眼虫属線虫類について.Clini-cal Parasitology 18:14-17, 2007***

洗面所における微生物汚染調査

2009年10月22日 木曜日

———————————————————————- Page 1(89)ツꀀ 13870910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1387 1391,2009cはじめに細菌や真菌による角膜感染症は,日常診療において比較的よく遭遇する疾患で,ときに角膜穿孔や角膜混濁をひき起こして高度視力低下をもたらす場合もある点で,術後眼内炎とともに大きな臨床的課題となっている.発症メカニズムを考えるうえにおいて,原因病原体が角膜に接着,侵入する契機は重要であるが,先に行われた角膜感染症全国サーベイランスでは,角膜感染症(ウイルスを除く)の発症誘因として,〔別刷請求先〕鈴木崇:〒791-0295 愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprint requests:Takashi Suzuki, M.D., Department of Ophthalmology, Ehime University School of Medicine, Shitsukawa, Toon-shi, Ehime 791-0295, JAPAN洗面所における微生物汚染調査鈴木崇*1白石敦*1宇野敏彦*1江口秀一郎*2勝海修*3望月清文*4 井上康*5岡宮史武*6宮田和典*7大橋裕一*1*1 愛媛大学医学部眼科学教室*2 江口眼科病院*3 西葛西・井上眼科クリニック*4 岐阜大学医学部眼科学教室 *5 井上眼科*6 岡宮眼科*7 宮田眼科病院Microbial Contamination in SinkTakashi Suzuki1), Atsushi Shiraishi1), Toshihiko Uno1), Shuichiro Eguchi2), Osamu Katsumi3), Kiyofumi Mochizuki4), Yasushi Inoue5), Fumitake Okamiya6), Kazunori Miyata7) and Yuichi Ohashi1)1)Department of Ophthalmology, School of Medicine Ehime University, 2)Eguchi Eye Hospital, 3)Nishikasai Inouye Eye Clinic, 4)Department of Ophthalmology, School of Medicine Gifu University, 5)Inoue Eye Clinic, 6)Okamiya Eye Clinic,ツꀀ 7)Miyata Eye Hospitalコンタクトレンズ関連角膜感染症の発症には,レンズケアあるいは保管の舞台である洗面所の微生物汚染が関与している可能性がある.そこで今回,全国 6 カ所(北海道,東京,岐阜,岡山,愛媛,宮崎),計 60 家庭における夏季と冬季の洗面所の汚染状況を検討した.夏季と冬季の細菌の検出率は,それぞれ 83.3%,93.3%と冬季に高い傾向を示した.真菌のうち,糸状菌については夏季,冬季ともに 100%近く検出されたが,酵母状真菌については夏季(18.3%)よりも冬季(38.3%)に多く検出された.アカントアメーバの検出率は夏季 3.3%,冬季 6.6%とほぼ一定であった.検出菌種では,Sphingomonasツꀀ paucimobilis,Flavimonasツꀀ oryzihabitans,Pseudomonasツꀀツꀀ uorescens などのグラム陰性桿菌や Aspergillusツꀀ sp.,Penicilliumツꀀ sp. が年間を通じて多く,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,Klebsiellaツꀀ sp.,Fusarium sp. などに季節変動がみられた.わが国の洗面所の微生物汚染状況はほぼ一定ではあるが,気候や季節によって一部の菌種が変動している可能性が示唆される.Contact lens-related infectious keratitis is associated with microbial contamination of the lens, or with lens storageツꀀ inツꀀ theツꀀ sink.ツꀀ Thisツꀀ studyツꀀ investigatedツꀀ microbialツꀀ contaminationツꀀ ofツꀀ theツꀀ sinksツꀀ inツꀀ 60ツꀀ homesツꀀ inツꀀ 6ツꀀ di erentツꀀ areas(Hokkaido,ツꀀ Tokyo,ツꀀ Gifu,ツꀀ Okayama,ツꀀ Ehimeツꀀ andツꀀ Miyazaki)inツꀀ summerツꀀ andツꀀ winter.ツꀀ Bacteriaツꀀ wereツꀀ detectedツꀀ inツꀀ 83.3% or 93.3% of all homes in summer and winter, respectively;fungi were detected in 98.3% of all homes in summer andツꀀ winter.ツꀀ Furthermore,ツꀀ Acanthamoebaツꀀ wasツꀀ detectedツꀀ inツꀀ 3.3%ツꀀ andツꀀ 6.6%ツꀀ ofツꀀ allツꀀ homesツꀀ inツꀀ summerツꀀ andツꀀ winter, respectively.ツꀀ Althoughツꀀ gram-negativeツꀀ rodツꀀ suchツꀀ asツꀀ Sphingomonasツꀀ paucimobilis,ツꀀ Flavimonasツꀀ oryzihabitans,ツꀀ and Pseudomonasツꀀ uorescens andツꀀ lamentous fungi such as Aspergillus sp. and Penicillium sp. were predominant throughツꀀ theツꀀ year,ツꀀ coagulase-negativeツꀀ staphylococciツꀀ andツꀀ Fusariumツꀀ sp.ツꀀ wereツꀀ ofツꀀ tenツꀀ detectedツꀀ inツꀀ summerツꀀ andツꀀ Kleb-siella sp. was often detected in winter. Microbial contamination of sinks appears to be in uenced by climate or sea-son.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1387 1391, 2009〕Key words:コンタクトレンズ,角膜感染症,レンズケア,洗面所,細菌,真菌,アカントアメーバ.contactツꀀ lens, infectious keratitis, lens care, sink, bacteria, fungi, Acanthamoeba.———————————————————————- Page 21388あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(90)コンタクトレンズ(CL)装用が大きくクローズアップされている1).CL 装用に伴って生じる角膜感染症,すなわち CL 関連角膜感染症は,CL 装用に伴う角膜上皮障害や局所免疫の低下などのホスト側の要因に,CL 自体の微生物汚染が加わって発症すると考えられる2).CL への微生物汚染のメカニズムとしては,第一に,CL が結膜 内でブドウ球菌などの外眼部常在菌に汚染される経路,第二に,CL が眼外,すなわちレンズケースにおいて環境菌に汚染される経路とが考えられる2).特に,後者の汚染ルートにおいては,レンズケアが不十分な場合,multipurposeツꀀ solution(MPS)の消毒効果では間に合わないため,繁殖した環境微生物が容易に CL を汚染するものと思われる.さて,ほとんどの CL 装用者は,CL 装用,CL ケア,CLの管理を洗面所で行っていることから,洗面所に存在する微生物が CL やレンズケースを汚染する可能性は非常に高いと考えられるが,わが国の住環境下での洗面所にどのような微生物が存在するのかはこれまでほとんど明らかにされていない.そこで,今回,気候・風土の異なる 6 地点を全国から選抜し,家庭の洗面所にどのような微生物が存在するのか,また,微生物検出状況に季節変動は認められるかについて検討した.I方法北海道・東京・岐阜・岡山・愛媛・宮崎の各地点において,それぞれ 10 家庭(計 60 家庭)の洗面所を対象に,細菌,真菌,アカントアメーバによる汚染状況を調査した.細菌とアカントアメーバについては,直径 3 cm の滅菌広口瓶に滅菌蒸留水を入れ,蓋を開けたままで 1 週間洗面所に静置することで,多くの部位(空気中,蛇口からの水道水,手指・口内からの分泌物など)からの汚染の検出を試みた.真菌については,ポテトデキストロース培地面を上に向け,蓋を開けた状態で 1 日間洗面所に静置した.その後,両サンプルを回収し,細菌・真菌・アカントアメーバの培養・同定を財団法人ツꀀ 阪大微生物病研究会に依頼した.調査は夏季 7 月と冬季12 月の 2 回行った.また,調査時期の各地における気温と湿度も調べた.II結果1. 微生物検出率細菌,真菌,アカントアメーバの夏季・冬季の検出率を表1 に示す.細菌の検出率は,夏季で 83.3%,冬季で 93.3%と冬季で高かった.また,糸状菌が夏季・冬季ともに 98.3%と,ほぼすべての家庭で年間を通じて検出されたのに対し,酵母状真菌は,夏季で 18.3%,冬季で 38.3%と冬季で検出率が上昇した.アカントアメーバの検出率は,夏季 3.3%,冬季 6.6%とほぼ一定であった.なお,北海道と東京における細菌検出率が,夏季・冬季ともに他の地域よりも低い傾向を示した.2. 検出菌種夏季,冬季における上位検出菌種(細菌,真菌)と検出株数を表 2,3 に示す.細菌においては,夏季・冬季ともに,Sphingomonasツꀀ paucimobilis,Flavimonasツꀀ oryzihabitans,Pseudomonasツꀀ uorescens などのグラム陰性桿菌が 6 7 割を占め,coagulase-negative staphylococci(CNS)や Micrococ-cusツꀀ sp. などのグラム陽性球菌,Bacillusツꀀ sp. や Corynebacte-riumツꀀ sp. などのグラム陽性桿菌はそれぞれ 1 2 割程度であった.CL 関連角膜炎感染症の原因菌として知られる Pseu-domonasツꀀ aeruginosa,Serratiaツꀀ marcescens も検出されたが,検出菌の上位にはランクされなかった.季節変動がみられたものとしては,CNS(夏季>冬季)やStaphylococcusツꀀ aureus(夏季>冬季),Pseudomonasツꀀツꀀ uores-cens(夏季<冬季),Klebsiellaツꀀ sp.(夏季<冬季),Serratia marcescens(夏季<冬季),Streptococcusツꀀ sp.(夏季<冬季)などがあげられる.真菌では,同定ができないものも含めて糸状菌が多数を占め,Penicillium sp. と Aspergillus sp. が検出菌上位であった.夏季では,Acremoniumツꀀ sp.,Cladosporiumツꀀ sp.,Fusarium sp. が上位で検出されるなど,バリエーションが増加している.角膜炎の原因菌となりうる Aspergillus sp.,Penicillium sp., Fusarium sp. をピックアップし,地域別の検出数をみてみると,Aspergillusツꀀ sp. は全国に広く分布し夏季にやや多いこと,Penicilliumツꀀ sp. は東北日本に多く冬季に多いこと,Fusarium sp. は夏季に多いことが判明した(表 4).酵母状真菌については,冬季に増加する傾向が認められた.3. 調査時期の各地の気温と湿度表 5 に調査時期 1 週間の平均気温と平均湿度を示す.気温,湿度は夏季,冬季とも西高東低の傾向であった.表 1地域別微生物検出率─ 1 地域 10 家庭中,微生物が検出された家庭数を示す─北海道東京岐阜岡山愛媛宮崎計細菌夏季86109101053(83.3%)冬季971010101056(93.3%)酵母状真菌夏季42021211(18.3%)冬季33436423(38.3%)糸状菌夏季1010101010959(98.3%)冬季9101010101059(98.3%)アカントアメーバ夏季001001 2(3.3%)冬季000121 4(6.7%)———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091389(91)III考察CL 装用者の増加に伴って,CL 関連角膜感染症の患者数も急増しており,若年層に多発することから大きな社会的問題ともなりつつある.先にも述べたように,こうした CL 関連角膜感染症の発症メカニズムには,レンズケースを介した微生物の CL 汚染が関与している可能性が高い.ほとんどのCL ユーザーが CL ケアを洗面所で行っていることから,わが国の住居内の洗面所にどのような微生物が存在するのかを調査することはきわめて重要である.これまでのわが国における家庭の洗面所の汚染状況についての検討は 1 報のみで3),表 2検出細菌の上位菌種と検出数夏季株数冬季株数○:Bacillus sp.15W*:Pseudomonasツꀀ uorescens22*:Sphingomonas paucimobilis14△:Micrococcus sp.13S△:Coagulase-negative staphylococci12*:Sphingomonas paucimobilis13△:Micrococcus sp.11○:Bacillus sp.12*:Flavimonas oryzihabitans 9*:Flavimonas oryzihabitans10*:Acinetobacter sp. 8W*:Klebsiella oxytoca 7W*:Pseudomonasツꀀ uorescens 7○:Corynebacterium sp. 6○:Corynebacterium sp. 6W*:Klebsiella pneumoniae 6*:Methylobacterium mesophilicum 6*:ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌 6*:Brevundimonas vesicularis 5W*:Serratia marcescens 5*:Comamonas acidovorans 5*:Acinetobacter sp. 5W*:Klebsiella oxytoca 3*:Stenotrophomonas maltophilia 5S*:Pseudomonas alcaligenes 3W△:Streptococcus sp. 5S△:Staphylococcus aureus 3*:Brevundimonas vesicularis 4*:ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌 3*:Acinetobacter baumannii 3S*:Aureobasidium sp. 2S△:Coagulase-negative staphylococci 3S*:Comamonas testosteroni 2*:Pseudomonas aeruginosa 3S*:Enterobacter cloacae 2*:Comamonas acidovorans 3*:Pseudomonas aeruginosa 2*:Methylobacterium mesophilicum 3W*:Serratia marcescens 2*:Pseudomonas putida 2*:Pseudomonas stutzeri 2*:グラム陰性桿菌,△:グラム陽性球菌,○:グラム陽性桿菌.S:検出株数が夏季>冬季である菌,W:検出株数が夏季<冬季である菌.表 5調査日1週間の平均気温と平均湿度地域7月12 月気温(℃)湿度(%)気温(℃)湿度(%)北海道18.6±1.575.1±6.20.2±1.168.3±7.1東京23.8±1.273.9±7.68.9±1.256.0±12.0岐阜24.3±1.575.7±9.78.0±0.974.4±10.9岡山24.8±1.077.7±6.48.5±1.575.1±8.4愛媛24.4±1.386.1±4.911.4±2.472.5±9.1宮崎25.5±1.383.4±5.811.6±3.075.9±9.6表 3検出真菌の上位菌種と検出数夏季株数冬季株数Aspergillus sp.22Penicillium sp.20Penicillium sp.15Aspergillus sp.15Acremonium sp.14酵母様真菌(同定不能)27Cladosporium sp. 9糸状菌(同定不能)91Fusarium sp. 8Absidia sp. 6Geotrichum sp. 6Alternaria sp. 5Paecilomyces sp. 3酵母様真菌(同定不能) 4糸状菌(同定不能)74表 4角膜炎原因糸状菌の地域別検出数北海道東京岐阜岡山愛媛宮崎計Aspergillus sp.夏季63232622冬季14224215Penicillium sp.夏季12721215冬季46360120Fusarium sp.夏季1200418冬季0000000———————————————————————- Page 41390あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(92)5 家庭の洗面所を含む 90 カ所について,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,大腸菌,好気性細菌の汚染を拭き取り試験によって調査したものである.真菌やアカントアメーバを含む詳細な分離菌の解析,季節性や地域性も考慮した検討はなされていないが,黄色ブドウ球菌は洗面所において 5 家庭中 1 家庭で検出され,緑膿菌が検出された家庭は一つもみられなかったという.筆者らの調査では,洗面所に 1 週間静置した滅菌蒸留水を培養検査しているため,CL ケースへの環境微生物汚染をより模擬しうるものであると考える.今回の調査により,洗面所には細菌や真菌などの微生物が常に存在していることが再確認された.これは,レンズケースに保存するタイプの CL を使用しているユーザーの MPSの使用法やレンズケースのケアに問題があれば,細菌や真菌による汚染が容易に起きる状況にあることを示唆している.検出菌種の調査では,水場などの環境中に生息しているグラム陰性桿菌や環境汚染菌である Bacillusツꀀ sp. が,また,真菌では Aspergillusツꀀ sp. や Penicilliumツꀀ sp. が多く検出されており,洗面所がこれら環境菌の温床である可能性が高い.一方で,環境菌だけでなく, Staphylococcus sp. や Coryne-bacterium sp. など,皮膚や粘膜の常在細菌も比較的高頻度に検出された.このことは,手指や顔面の洗浄,あるいは歯磨きなどの行為によって,生体内の常在細菌が洗面所にも存在する可能性を示している.重篤な角膜炎の病原体として近年注目されているアカントアメーバの検出率は夏季 3.3%,冬季 6.6%と,今回の検討では決して高いものではなかった.これは,アカントアメーバ角膜炎の発症頻度からもうなずける数字ではあるが,レンズケース細菌により汚染されている場合には,日常のレンズケアのなかで,アカントアメーバによる汚染が十分に起こりうることを示唆している.細菌の検出率は北海道,東京で,夏季・冬季とも他の地域よりも低い傾向にあった.このことは,洗面所の細菌汚染には気候や風土,特に気温が関与していると思われる.一般に寒冷地では細菌や真菌などによる感染症が少ないとされてはいるが,近年の地球温暖化に伴って,今後は様相が変わる可能性もある.地域,季節を問わず検出される微生物がある一方で,季節変動を示すものも少なからず見受けられた,特に,CL 関連角膜感染症の主要原因菌とされる CNS が夏季に多く検出されたことは,体表面の汗などの分泌物の曝露が夏に多く,CNS が汚染しやすいためではないかと推測される.また,重篤な角膜炎をひき起こす Pseudomonasツꀀ aeruginosa や Ser-ratiaツꀀ marscescens については Pseudomonasツꀀ aeruginosa 夏季2 株,冬季 3 株,Serratiaツꀀ marscescens 夏季 2 株,冬季 5 株と,後者で冬季に多い傾向を示した.他のグラム陰性桿菌も同様な傾向を示しており,この理由としても,気温,湿度などの影響が考えられる.一方,Sphingomonas paucimobilis,Flavimonas oryzihab-itans,Pseudomonasツꀀツꀀ uorescens などのグラム陰性桿菌が 1年を通して多く検出された.しかしながら,これらは角膜に対しての病原性が確認されていないため,角膜炎の原因菌にはなりえない可能性がある.このことが,CL 関連角膜感染症が過剰に発症しない理由であると思われる.近年,CL 装用者における Fusarium 角膜炎が,アメリカやシンガポールなどで爆発的に発生し大きな問題となった4 6).Fusarium 角膜炎のアウトブレイクの原因については,感染者の MPS と同じロットナンバーにおける MPS 汚染調査において Fusariumツꀀ sp. の汚染が認められず,また,検出された Fusariumツꀀ sp. の遺伝背景が感染者によって異なることより MPS の汚染でないことが証明されている6).一方では,ReNuツꀀ Moistureツꀀ LocRの MPS を使用することで,ケース内でフィルムが形成され,このフィルムを足場に環境中のFusarium sp. が増殖したことがアウトブレイクの原因ではないかと推測されている7).そのため,わが国における洗面所の Fusariumツꀀ sp. の汚染状況を調べることは,今後の MPSの開発に多くの情報を与える.今回の検討では,Fusarium sp. は夏季のみに検出されており,気候に大きく左右される可能性が高い.わが国では,Fusariumツꀀ sp. による角膜炎は植物による角膜外傷後にみられることが一般的であり,CL装用者の報告はほとんどない.この要因の一つには,日本の気候風土,および生活習慣(靴を脱ぐ)などが関与していると思われるが,もしも ReNu Moisture LocRが販売されていたなら,同様の Fusarium 角膜炎が生じていた可能性も考えられる.今回の多施設調査により,わが国の洗面所での微生物汚染状況の輪郭が明らかになった.これらのデータは,CL 関連角膜感染症の発症機序を考えるうえで示唆を与えるものであり,レンズケアのあり方を再確認するうえでも有用である.今後,できれば学会ベースで継続的なサーベイランスを実施し,洗面所での検出菌の動向を監視していく必要があると思われる.文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972,2006 2) 大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌 48:60-67, 2006 3) Ojimaツꀀ M,ツꀀ Toshimaツꀀ Y,ツꀀ Koyaツꀀ Eツꀀ etツꀀ al:Bacterialツꀀ contamina-tion of Japanese households and related concern about sanitation. Int J Environ Health Res 12:41-52, 2002 4) Khor WB, Aung T, Saw SM et al:An outbreak of Fusari———————————————————————– Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091391(93)um keratitis associated with contact lens wear in Singa-pore. JAMA 295:2867-2873, 2006 5) Bernal MD, Acharya NR, Lietman TM et al:Outbreak of Fusarium keratitis in soft contact lens wearers in San Francisco. Arch Ophthalmol 124:1051-1053, 2006 6) Chang DC, Grant GB, O’Donnell K et al:Multistate out-breakツꀀ ofツꀀ Fusariumツꀀ keratitisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ useツꀀ ofツꀀ aツꀀ con-tact lens solution. JAMA 296:953-963, 2006 7) Zhang S, Ahearn DG, Noble-Wang JA et al:Growth and survival of Fusarium solani-F. oxysporum complex on stressedツꀀ multipurposeツꀀ contactツꀀ lensツꀀ careツꀀ solutionツꀀツꀀ lmsツꀀ on plastic surfaces in situ and in vitro. Cornea 25:1210-1216, 2006***

α1 遮断薬使用中の超音波白内障手術成績―術中虹彩緊張低下症候群の発生頻度と特徴

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(129)ツꀀ 12870910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1287 1292,2009cはじめに白内障手術中に起こる合併症の一つとして,術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome:IFIS)が最近注目されている.IFIS は,前立腺肥大症に対する排尿改善剤a1遮断薬を服用している患者で,超音波白内障手術中「水流による虹彩のうねり」,「虹彩脱出・嵌頓」,「進行性〔別刷請求先〕一色佳彦:〒737-0046 呉市中通 2 丁目 3-28木村眼科内科病院Reprint requests:Yoshihiko Isshiki, M.D., Kimura Eye & Internalツꀀ Medicine Hospital, 2-3-28 Nakadori, Kure-shi 737-0046, JAPANa1遮断薬使用中の超音波白内障手術成績―術中虹彩緊張低下症候群の発生頻度と特徴一色佳彦*1木村亘*1横山光伸*1正化圭介*2木村徹*1武田哲郎*1 宮崎婦美子*1*1 木村眼科内科病院*2 焼山木村眼科Results of Phacoemulsi cation Cataract Surgery on Systemic or Topical a1-Adrenoceptor Antagonist―Incidence and Characteristics of Intraoperative Floppy Iris SyndromeYoshihiko Isshiki1), Wataru Kimura1), Mitsunobu Yokoyama1), Keisuke Syoge2), Tohru Kimura1), Tetsuro Takeda1) and Fumiko Miyazaki1)1)Kimura Eye & Internal Medicine Hospital, 2)Yakeyama Kimura Eye Clinic目的:a1遮断薬使用中の白内障手術における術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeツꀀ oppy iris syndrome:IFIS)の薬剤関連性と特徴を比較検討した.方法:対象は,超音波白内障手術施行患者のうちa1遮断薬使用患者 75 例132 眼.これらの症例の,a1遮断薬使用状況,器質的眼疾患の有無,術前前房深度,術前散瞳状態,IFIS の有無,IFIS に対する処置,術中・術後合併症を検討した.結果:男性は塩酸タムスロシン内服,女性は塩酸ブナゾシン点眼を多く使用していた.術前前房深度は,男性 27.6%,女性 69.6%が浅前房であり,男性 33.3%,女性 38.8%は術前散瞳不良であった.IFIS は男性 14.1%,女性 6.0%であった.男性は塩酸タムスロシン内服,女性は塩酸ブナゾシン点眼で発生が多かった.術中合併症は,後 破損や虹彩離断を認めた.全白内障手術患者に対する IFIS 発生頻度は 0.49%であった.結論:IFIS は,散瞳不良のa1A受容体サブタイプ高選択性薬剤使用者に発症する傾向であり,前房深度が浅い症例では重篤な合併症を起こしやすかった.Toツꀀ evaluateツꀀ theツꀀ incidenceツꀀ andツꀀ characteristicsツꀀ ofツꀀ intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome(IFIS)inツꀀ relationツꀀ toツꀀ the use of a1-adrenoceptor antagonists, we conducted a prospective study of 75 patients(132 eyes)receiving systemic or topical a1-adrenoceptor antagonists who underwent cataract surgery. Use of a1 antagonist, eye disease, anterior chamber depth, presurgery mydriasis, IFIS occurrence, IFIS treatment and complications were studied. The a1 antagonistsツꀀ mostツꀀ commonlyツꀀ usedツꀀ wereツꀀ systemicツꀀ tamsulosinツꀀ inツꀀ malesツꀀ andツꀀ bunazosinツꀀ inツꀀ females.ツꀀ Theツꀀ preoperative anterior chamber was shallow in 27.6% of the males and 69.6% of the females;presurgery mydriasis was poor in 33.3%ツꀀ ofツꀀ malesツꀀ andツꀀ 38.8%ツꀀ ofツꀀ females.ツꀀ IFISツꀀ wasツꀀ observedツꀀ inツꀀ 17ツꀀ eyes(0.49%),ツꀀ ofツꀀ whichツꀀ 15ツꀀ wereツꀀ inツꀀ malesツꀀ andツꀀ 2 were in females. IFIS developed systemic tamsulosin use in males and bunazosin use in females, especially after 70 years of age. Posterior capsule rupture occurred in 1 eye;iridodialysis occurred in 3 eyes. IFIS occurred more eas-ily in eyes with poor mydriasis receiving a1-adrenoceptor antagonists.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1287 1292, 2009〕Key words:術中虹彩緊張低下症候群,a1遮断薬,超音波白内障手術,a1A受容体サブタイプ,塩酸タムスロシン.intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome, a1-adrenoceptorツꀀ antagonists,ツꀀ phacoemulsi cation, a1Aツꀀ receptorツꀀ subtype, systemic tamsulosin.———————————————————————- Page 21288あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(130)の縮瞳」の 3 徴を生じるものである.2005 年に Chang らが提唱した1)のが初めであり,以後種々の施設から同様の報 告2,9 14)がされている.しかし,発生頻度は各報告によって異なっており,また多施設調査が多く単独施設による調査は少ない.今回筆者らは,a1遮断薬使用中の超音波白内障手術において,a1遮断薬使用状況,術前前眼部状態,IFIS の発生頻度,術中・術後合併症などを prospective に調査し比較検討したので報告する.I対象および方法1. 対象対象は,2005 年 9 月 21 日 2007 年 10 月 31 日に木村眼科内科病院(以下,当院)で超音波白内障手術を施行した連続 症 例 1,955 例 3,219 眼(男 性:807 例 1,296 眼, 女 性:1,148 名 1,923 眼)のうちa1遮断薬使用患者 75 例 132 眼(男性 57 例 99 眼,女性 18 例 33 眼).年齢は男性 45 89 歳(75±8.3 歳, 平 均値±標 準 偏 差), 女 性 64 87 歳(74.5±8.16歳,平均値±標準偏差)であり,白内障の硬度はそれぞれEmelly-Little 分類 1 4 度(平均で男性 2.24 度,女性は 2.15度)であった.なお,本研究は超音波白内障手術のみを対象としており,硝子体手術や緑内障手術など他手術併用例,眼内手術既往例は除外した.2. 手術方法手術方法は,超音波乳化吸引術を行いすべて眼内レンズ(intraocularツꀀ lens:IOL)挿入術を併施した.超音波白内障手術装置は,アキュラス 600DS(アルコン社)を用い,超音波出力 50%ツꀀ 吸引圧 200 mmHgツꀀ パルスモード 15 で設定し,核の硬度などさまざまな条件により設定を術中随時変更した.粘弾性物質は中間分子量(オペリードR)を用い必要に応じて適宜追加し,Devideツꀀ &ツꀀ Conquer 法(フェイコチョップ法も併施)で乳化吸引を行った.切開は上方強角膜切開で,自己閉鎖創を作製した.IOL は,後 破損例を除いて全例 内固定した.3. 検討項目と方法以上の症例におけるa1遮断薬使用状況,術前散瞳状態〔トロピカミド(ミドリン PR)・フェニレフリン(ネオシネジンコーワR)を 15 分間隔で 2 回点眼したあと 30 分後測定.6 mm 未満を散瞳不良とした〕,術前前房深度(周辺部前房深度計測の目安である van Herick 法で測定),器質的眼疾患の有無,IFIS の発生頻度と発生状況(白内障手術中に水流のうねり,虹彩脱出や嵌頓,進行性の縮瞳の所見 3 徴すべてを認めたものを「IFIS 完全型」,2 徴候以下を「IFIS 不全型」とした),手術の転帰・IFIS に対する処置,術中・術後合併症を prospective に調査し比較検討した.なお,手術前にa1遮断薬使用に関する詳細な問診ならびに他科かかりつけ医に対して過去のものも含めて内服薬の調査を行い,a1遮断薬使用症例に手術終了後すぐ執刀医が IFIS の発生の有無・状況など検討項目を記載した.II結果1. a1遮断薬使用状況(図 1)a1遮断薬使用例は,男性 57 例(全男性白内障手術患者に対し 7.0%),女性 18 例(全女性白内障患者に対し 1.5%)であった.男性は塩酸タムスロシン(ハルナールRなど,34 例)が多く,ナフトピジル(フリバスR,アビショットRなど,10 例),メシル酸ドキサゾシン(カルデナリンR,6 例)と続いた.a1遮断薬を重複使用例もあり(6 例),すべて塩酸タ(例)メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服0510152025303540:散瞳良 :散瞳不良図 2術前散瞳状況散瞳不良は,女性はすべて塩酸ブナゾシン点眼例であったが,男性は塩酸タムスロシンをはじめとしてさまざまな薬剤でみられた(グラフ左側男性,右側女性).:*併用(例)5101520253035400メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服図 1a1遮断薬使用状況併用例はすべて塩酸タムスロシンを併用していた(グラフ左側男性,右側女性).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091289(131)ムスロシンが含まれていた.女性は,塩酸ブナゾシン点眼(デタントールR,12 例)が多く,メシル酸ドキサゾシン(3例),塩酸ブナゾシン内服(1 例)と続いた.2. 術前散瞳状態(図 2)男性19例(a1遮断薬使用男性手術患者に対し 33.3%),女性5例(a1遮断薬使用女性手術患者に対し 27.7%)に術前散瞳不良を認めた.そのうち男性では,片眼手術例が 4 例〔うち偽落屑症候群(pseudo-exfoliationツꀀ syndrome:PE)1例〕,両眼手術例で片眼のみ不良例が 1 例(PE1 例)あった.女性では,片眼手術例が 2 例,片眼のみ不良例が 1 例あった.女性はすべて塩酸ブナゾシン点眼例であったが,男性は塩酸タムスロシン 11 例をはじめとして,ナフトピジル,シドロシン(1 例は塩酸タムスロシン併用),メチル酸ドキザゾシン,塩酸ブナゾシン点眼とさまざまに認めた.3. 術前前房深度(図 3)Gradeツꀀ 3 4 は 男 性 71 眼(71.7%), 女 性 10 眼(30.3%),Gradeツꀀ 2 は男性 17 眼(17.1%),女性 9 眼(27.2%),Grade 1 は男性 11 眼(11.1%),女性 14 眼(42.4%)であった.女性では,塩酸ブナゾシン点眼使用例で前房深度が浅かった.4. 器質的眼疾患の有無器質的眼疾患を,男性 42 眼(42.4%),女性 18 眼(54.5%)に認めた.前述の術前前房深度に関係するが,閉塞隅角緑内障や原発閉塞隅角症(疑い)など浅前房眼が男性 14 眼(14.1%),女性 7 眼(21.2%)にあった.ほか糖尿病網膜症をはじめとする網膜硝子体疾患(男性 24 眼,女性 8 眼)などさまざまな眼疾患を認めた.5. IFISの発生頻度と発生状況(図 4)「IFIS 完全型」は男性 12 例 15 眼(23.4%),女性 1 例 2 眼(6.0%),「IFIS 不全型」は男性 49 眼(2 徴候 20 眼,1 徴候29 眼), 女 性 12 眼(2 徴 候 2 眼,1 徴 候 10 眼)に 認 め た.IFIS 完全型は,塩酸タムスロシン(8 眼),女性は塩酸ブナゾシン点眼(2 眼)で最も多かった.2 種のa1遮断薬併用例は男性 3 眼にあり,すべて塩酸タムスロシンと併用(シドロシン 2 眼,塩酸ブナゾシン 1 眼)していた.術前散瞳径が 3 mm と散瞳不良で,手術開始から虹彩リトラクター(グリスハーバー社製)を用いた例が男性 1 眼あり,IFIS 発生状況は不明とした.6. 手術の転帰・IFISに対する処置対処により手術続行したものは男性 41 眼(66.6%),女性7 眼(50%)であった.対処として,男性はフェニレフリン前房内注入(37 眼)が大半であったが,viscoadaptive 粘弾性物質であるビスコートRを使用(5 眼)例や,虹彩リトラクターや分散型粘弾性物質であるヒーロンR V の使用,虹彩縫合を行ったものもそれぞれ 1 眼ずつ認めた.女性はフェニレフリンを使用した 5 眼のみであった.「IFIS 完全型」では,対処により手術続行した例は男性13 眼,女性 2 眼あり,男性 12 眼にフェニレフリン,2 眼にビスコートR,1 眼にヒーロンR V を使用した.女性は 2 眼ともフェニレフリンを使用した.7. 術中合併症術中合併症は男性 7 眼であり,後 破損 3 例 3 眼,虹彩離断 3 例 3 眼,ほか連続円形破 術裂孔,皮質残存,前房出血を 1 眼ずつ認めた.女性では術中合併症を認めなかった.そのうち「IFIS 完全型」では,男性で虹彩離断 3 眼,後 破損 1 眼,連続円形破 術裂孔 1 眼が発生した.8. 術後合併症術後合併症は,男性 17 例 20 眼(18.1%),女性 2 例 3 眼(6.0%)に認めた.男性は,角膜浮腫 10 眼,瞳孔不整 7 眼,(例)メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服05101520253035:G3 4:G2:G1図 3術前の前房深度浅前房例もみられる(グラフ左側男性,右側女性).メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服:1つ:2つ:3つ510015202530354045図 4薬剤別IFISの発生頻度と発生状況a1遮断薬使用者は,IFIS 徴候を発現しやすい(グラフ左側男性,右側女性).———————————————————————- Page 41290あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(132)続発緑内障 3 眼,IOLツꀀ 外固定 3 眼,その他 2 眼であり,女性は,皮質残存(続発緑内障)2 眼,角膜浮腫 1 眼であった.角膜浮腫というのは術後に出た一過性の炎症性の強い浮腫である.「IFIS 完全型」では,男性は,瞳孔不整 4 眼,IOLツꀀ 外固定 1 眼などを認めたが,女性では大きな術後合併症は認めなかった.III考按a1遮断薬は排尿改善薬以外にも降圧薬,眼科では眼圧下降薬として使われている.IFIS は,当初排尿改善薬である塩酸タムスロシン使用患者に特異的に IFIS が発症するとされていた1)が,現在ではa1受容体サブタイプ(a1A,a1B,a1D)のうちa1A受容体サブタイプに選択性が高い薬剤(塩酸タムスロシン,ナフトピジル,シドロシン)により生じやすいといわれている2).これは,a1A遮断薬が前立腺のみならず虹彩散大筋でも同受容体がドミナントとなっているからである.また,a1A受容体サブタイプと同様a1a 遺伝子由来でありながら代表的なa1作動薬 prazosin 低親和性のa1L受容体サブタイプも最近報告されており3,4),ヒト瞳孔散大筋に分布するa受容体のサブタイプはa1L受容体であることを示唆する試験報告もある5).本研究では,塩酸タムスロシン以外にもナフトピジル,シドロシン(塩酸タムスロシン併用),メシル酸ドキサゾシン,塩酸ブナゾシンで IFIS を認めた.村松ら3)は,シドロシンや塩酸タムスロシンは,a1Lサブタイプにもa1Aサブタイプ同様の高い親和性を示すが,ウラピジルなどはa1Lサブタイプにきわめて低い親和性を示し,ナフトピジルはすべてのa1サブタイプで親和性は低いがa1Dサブタイプ選択的と報表 1IFIS患者一覧番号服用期間術前散瞳不良転帰IFIS に対する処置術中合併症術後合併症その他眼疾患前房深度(男性)1①メシル酸ドキサゾシン120 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 42②塩酸タムスロシン(0 . 2)4 8 Mなしなしなしなしなし原発閉塞隅角症疑いG-13③塩酸タムスロシン(0 . 2)3 6 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用虹彩離断前 離断瞳孔不整角膜浮腫原発閉塞隅角症疑いG-24④塩酸タムスロシン(0 . 2)3 6 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 4⑤あり対処で手術続行なしなしなしなしG-3 45⑥塩酸タムスロシン(0 . 2)6 0 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 46⑦ナフトピジル3 6 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用ビスコートR使用後 破損眼内レンズ 外固定なしG-3 47⑧シドロシン8 4 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし加齢性黄斑変性症注視麻痺G-3 4⑨(塩酸タムスロシン併用)なし対処で手術続行フェニレフリン使用なし皮質残存加齢性黄斑変性症注視麻痺G-3 48⑩メシル酸ドキサゾシン120 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし翼状片G-3 49⑪塩酸ブナゾシン点眼8 4 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし甲状腺眼症G-2⑫(塩酸タムスロシン併用)8 4 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用虹彩離断連続円形破 術裂孔瞳孔不整角膜浮腫原発閉塞隅角症疑いG-210⑬塩酸タムスロシン6 0 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なし瞳孔不整角膜浮腫なしG-3 411⑭塩酸タムスロシン(0 . 2)4 8 Mあり対処で手術続行ビスコートR使用なしなし網膜静脈分枝閉塞症G-1⑮あり対処で手術続虹彩縫合,ヒーロンR V 使用虹彩離断瞳孔不整なしG-1(女性)12⑯塩酸ブナゾシン点眼6 0 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なし皮質残存・続発緑内障なしG-1⑰あり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-1———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091291(133)告している.緑内障治療として用いられているa1遮断薬点眼の塩酸ブナゾシンは,虹彩に対する影響を直接検討されていないが,点眼後の瞳孔径変化を検討した報告が複数あ り6,7), いずれも縮瞳傾向を示しているが点眼濃度においては有意な差はなかったと述べている.塩酸ブナゾシンは,a1L受容体への親和性が有意に低かったという報告もある8).これらから塩酸ブナゾシンは瞳孔散大筋に分布するといわれているa1Aサブタイプに作用するがa1Lへの親和性が低く,瞳孔径に対する影響が軽微であると解釈できる.また,メシル酸ドキサゾシン9)や塩酸テラゾシン10)にも IFIS 発生の報告があるが,これらもa1Aサブタイプが関与していると考えられている.IFIS の発生頻度は,海外では 1 2%1),わが国では大鹿ら11)が約 1%と報告している.本研究では,超音波白内障手術患者の 0.49%(男性 1.08%,女性 0.10%)と他の報告に比べ低値であった.a1遮断薬頻度が少ない女性の母集団が多いからと思われたが,a1遮断薬使用者の IFIS の割合が 12.1%(男性 14.1%,女性 6.0%),a1A遮断薬使用者の IFIS 割合が 10.0%(男性 10.4%,女性 8.3%)と他の報告12)(40 60%)に比べ低値であったことからも,本研究は IFIS の頻度が少ないといわざるをえない.IFIS の重篤な術中合併症である虹彩離断を起こした 3 眼は,すべて塩酸タムスロシンを使用し前房が浅めの症例であった.IFIS は 3 徴以外に術前散瞳状態が悪い1)といわれているが,前房深度との関係を示した報告はない.今回比較的客観性が高い検査法である vanツꀀ Herick 法を用いたが,van Herick Grade 2 以下の IFIS 症例は 8 眼であった.女性にa1遮断薬使用例で浅前房が多かったのは,浅前房・狭隅角に対し塩酸ブナゾシン点眼が使用されていたためと考えられるが,IFIS がa1遮断薬使用浅前房例で起こると仮定すると,浅前房が多かった女性で IFIS が少なく,重篤な合併症例を認めなかったことは矛盾する.塩酸タムスロシンをはじめとした虹彩に影響が強いと考えられるa1A遮断薬を使用し前房が浅めの白内障手術例は,IFIS を生じた場合重篤な合併症を生じやすいのではないかと考えている.IFIS は薬剤の使用目的・白内障手術という観点からも高齢者に多いことが示唆される.本報告の IFIS 症例 13 例 17眼のうち,男性は塩酸ドキサゾシン使用者の 40 歳代 1 眼を除くとすべて 70 歳代以上,女性は 80 歳代であった.IFISにa1遮断薬使用期間は関与しないという報告6)もあるが,塩酸タムスロシンは半減期が長く,長期間受容体を阻害し,虹彩の瞳孔散大筋の廃用性萎縮をさせる13).3 年前から点眼していたメラニン親和性の高い塩酸ブナゾシンが,虹彩色素に沈着し平滑筋の空胞形成をひき起こした14)という報告からも,瞳孔散大筋の萎縮が起こるある一定期間以上a1遮断薬を使用している場合は,IFIS を起こしやすいと考えら れる.小瞳孔,成熟白内障,角膜内皮細胞が少ない,落屑症候群などを伴った白内障手術は,さまざまな術中・術後合併症を起こす可能性がありハイリスク症例といわれる15).IFIS を起こすa1遮断薬も今後ハイリスク因子となるであろう.最近では IFIS を起こす要因として,a1遮断薬以外にクロルプロマジンなどの薬剤16)や糖尿病や高血圧症,うっ血性心不全などの疾病17)や硝子体手術眼,高度近視眼など18)も示唆されている.当院では,a1遮断薬使用症例を「IFIS 注意例」,加えて散瞳不良で前房が浅めの症例を,「IFIS 要注意例」として術前再確認している.このような症例には,非常時に備えて前房深度と散瞳径を保つため分散型粘弾性物質ビスコートR19)や散瞳薬フェニレフリンをすぐに使用できるよう常に準備している.また,今回は示してはいないが,本研究では「IFIS 完全型」の僚眼に「IFIS 不全型」例が多かった.IFIS 症例は,両眼注意が必要と考えられる.IFIS の概念が浸透した現在,IFIS が予測されるa1遮断薬使用超音波白内障手術例では,術者の技量による症例の選択,散瞳を促す非ステロイド抗炎症薬術前点眼や低濃度アドレナリンの術中前房灌流,場合により術中虹彩リトラクターの使用や高分子量粘弾性物質による viscomydriasis の必要があると考えている.このようにa1遮断薬使用者の超音波白内障手術時には,IFIS を十分留意し重篤な合併症を起こさないようにしなければならない.本研究より,IFIS は点眼・内服すべてa1遮断薬使用症例で発症する可能性があると判明した.今回はa1遮断薬使用症例を術前確認し IFIS の検討を行ったため,ニプラジノールを含めたa作用もあるといわれるb遮断薬の内服・点眼による検討は行っていない.また,a1遮断薬未使用症例での IFIS 様所見を呈した症例も少数であったが見受けられた.Retrospective 研究も含め今後検討する予定である.本論文は,第 47 回日本白内障学会総会・第 23 回日本眼内レンズ屈折手術学会総会にて「a1 遮断薬使用中の白内障手術成績─術中虹彩緊張低下症候群の年齢別発生状況と特徴─」で発表した.文献 1) Chang DF, Campbell JR:Intraoperativeツꀀ oppy iris syn-drome associated with tamsulosin. J Cataract Refract Surg 31:664-673, 2005 2) 大鹿哲郎:術中虹彩緊張低下症候群(IFIS).眼科手術 20:195-199, 2007 3) 村松郁延,鈴木史子,田中高志ほか:a1アドレナリン受容体の分類とa1遮断薬の最新情報.薬学雑誌 126:187-198, 2006 4) Hiraizumi-Hiraoka Y, Tanaka T, Yamamoto H et al:Identi cation of alpha-1L adrenoceptor in rabbit earar-tery. J Pharmacol Exp Ther 310:995-1002, 2004———————————————————————- Page 61292あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(134) 5) Nakamuraツꀀ S,ツꀀ Taniguchiツꀀ T,ツꀀ Suzukiツꀀ Fツꀀ etツꀀ al:Evaluationツꀀ of a1-adrenocepters in the rabbit iris:pharmacological characterizationツꀀ andツꀀ expressionツꀀ ofツꀀ mRNA.ツꀀ Brツꀀ Jツꀀ Pharma-col 127:1367-1374, 1999 6) 渡邊敏夫,内海隆,杉山哲也ほか:最近の緑内障点眼薬の瞳孔に及ぼす影響.神経眼科 22:42-45, 2006 7) 大鹿哲郎,新家眞:塩酸ブナゾシン点眼による正常人眼及び房水動態の変化.日眼会誌 94:762-768, 1990 8) Maruyamaツꀀ K,ツꀀ Ohmuraツꀀ N,ツꀀ Yagiツꀀ Yツꀀ etツꀀ al:Alpha-1ツꀀ adreno-ceptor subtypes in canine aorta. Jpn J Pharmacol 62:263-267, 1993 9) Herd MK:Intraoperativeツꀀ oppy-iris syndrome with dox-azosin. J Cataract Refract Surg 33:562, 2007 10) Venkatesh R, Veena K, Gupta S et al:Intraoperativeツꀀ oppy iris syndrome associated with terazosin. Indian J Ophthalmol 55:395-396, 2007 11) Oshika T, Ohashi Y, Inamura M et al:Incidence of intra-operativeツꀀ oppy iris syndrome in patients on either sys-temic or topical a1-adrenocepter antagonist. Am J Oph-thalmol 143:150-151, 2007 12) Chadha V, Borooah S, Tey A et al:Floppy iris behaviour during cataract surgery:associations and variations. Br J Ophthalmol 91:40-42, 2007 13) 清水盛充,吉田正至,石原兵冶ほか:塩酸タムスロシン長期服用により IFIS をきたした 1 例.眼臨 100:874-876, 2006 14) 後関利明,清水公也,石川均ほか:デタントールR点眼使用中に生じた Intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome.眼科手術(日本眼科手術学会誌臨時増刊号) 20:95, 2007 15) 松島博之,佐々木洋,松田章男ほか:白内障手術の傾向と対策術中・術後合併症と難治症例.臨眼 58:20-99, 2004 16) Unal M, Yucel I, Tenlik A:Intraoperativeツꀀ oppy-iris syn-drome associated with chronic use of chlorpromazine. Eye 21:1241-1242, 2007 17) Schwinn DA, Afshari NA:Alpha 1-adrenergic antago-nists andツꀀ oppy iris syndrome:tip of the icebergツꀀ Oph-thalmology 112:2059-2060, 2005 18) 安間哲史:IFIS(術中虹彩緊張低下症候群).眼科手術 20:457-463, 2007 19) 大鹿哲郎:排尿障害改善剤による Intraoperative Floppy Iris Syndrome. IOL&RS 21:55-58, 2007***

各種緑内障手術の成績

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(121)ツꀀ 12790910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1279 1285,2009cはじめに緑内障のなかでも開放隅角緑内障(open-angle glaucoma:OAG)に対する手術療法として線維柱帯切除術(trabeculec-tomy:TLE),非穿孔性線維柱帯切除術(non-penetrating trabeculectomy:NPT),線維柱体切開術(trabeculotomy:LOT),ビスコカナロストミー(viscocanalostomy:VCS)などがあげられるが,それぞれに長所と短所があり絶対的な選択肢は存在せず,術式の選択には各々の特性が深く関与する.この特性を深く理解するため,筆者らは弘前大学医学部附属病院眼科における 2002 年から 2007 年までの各種緑内障手術成績を検討した.I対象および方法1. 対象対象は 2002 年 4 月から 2007 年 3 月までに弘前大学医学部附属病院眼科で TLE,NPT,LOT,VCS が施行された233 例 322 眼を後ろ向きに検討した.白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼にかかわらず緑内障初回手術症例をすべて対象とした.今回の検討対象となった 4 つの術式を表 1 に示す.各術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.〔別刷請求先〕木村智美:〒036-8562 弘前市在府町 5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprint requests:Satomi Kimura, M.D., Department of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine, 5 Zaifu-cho, Hirosaki 036-8562, JAPAN各種緑内障手術の成績木村智美石川太山崎仁志目時友美伊藤忠竹内侯雄中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Surgical Results of Various Glaucoma SurgeriesSatomi Kimura, Futoshi Ishikawa, Hitoshi Yamazaki, Tomomi Metoki, Tadashi Ito, Kimio Takeuchi andツꀀ Mitsuru NakazawaDepartment of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine目的:各種緑内障手術成績の検討.方法:2002 年 4 月から 2007 年 3 月までに trabeculectomy(TLE),non-pen-etratingツꀀ trabeculectomy(NPT),trabeculotomy(LOT),viscocanalostomy(VCS)を施行した 233 例 322 眼の後ろ向き検討.結果:術前眼圧(平均±標準偏差 mmHg)は TLEツꀀ 21.3±6.9,NPTツꀀ 18.3±5.9,LOT 24.0±9.0,VCS 19.8±4.1,術後眼圧は TLE 11.2±3.1 mmHg,NPTツꀀ 13.9±3.0,LOTツꀀ 15.8±3.6,VCSツꀀ 20.0±0.0 であった.合併症は TLEで最も多く,VCS ではみられなかった.結論:TLE は眼圧下降が大きいが合併症が多い.NPT は合併症は少ないが,眼圧下降が TLE よりも劣る.LOT および VCS では合併症はより少ないが,眼圧下降はより劣る傾向にある.To evaluate the surgical results of various types glaucoma surgeries performed at Hirosaki University Hospital between April 2002 and March 2007, we recorded intraocular pressure(IOP), postoperative treatment and compli-cations in 322 eyes of 233 patients who underwent trabeculectomy(TLE), non-penetrating trabeculectomy(NPT), trabeculotomy(LOT)or viscocanalostomy(VCS). Postoperative IOPs were 11.2±3.1, 13.9±3.0, 15.8±3.6 and 20.0±0.0 mmHg.ツꀀ Complicationsツꀀ wereツꀀ seenツꀀ mostツꀀ inツꀀ TLE;thereツꀀ wereツꀀ noツꀀ complicationsツꀀ inツꀀ VCS.ツꀀ Theseツꀀ resultsツꀀ suggest that TLE should be chosen if lower IOP is needed, though the procedure poses signi cant complications. Complica-tions with NPT are fewer than with TLE, but the postoperative IOP is inferior to that with TLE. In addition, NPT alsoツꀀ hasツꀀ theツꀀ characteristicsツꀀ ofツꀀ requiringツꀀ re-operationツꀀ moreツꀀ oftenツꀀ thanツꀀ doツꀀ otherツꀀ methods.ツꀀ Withツꀀ LOTツꀀ andツꀀ VCS,ツꀀ the postoperative IOP is inferior to those of TLE and NPT, but the complications are fewer.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1279 1285, 2009〕Key words:線維柱帯切除術,ツꀀ 非穿孔性線維柱帯切除術,ツꀀ 線維柱体切開術,ツꀀ ビスコカナロストミー,ツꀀ 手術成績,緑内障.trabeculectomy, non-penetrating trabeculectomy, trabeculotomy, viscocanalostomy, surgical out come, glaucoma.———————————————————————- Page 21280あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(122)2. 検討項目各群の術前平均眼圧,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後各時点での薬剤スコア,術中,術後合併症,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前 3 回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外した.また,Kaplan-Meier 法を用い,術前眼圧よりも 20%下降した眼圧をカットオフ値として生存率を算出した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.眼圧はすべて Goldmann 圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは 1剤につき抗緑内障点眼薬を 1 点,内服薬を 2 点とした.薬剤スコアの術前後の比較は Spearman 順位相関係数検定で行った.LOT における前房出血とそれに伴う一過性の眼圧上昇は術後に起こりうる経過であり,合併症には含めなかったが,術後 30 mmHg 以上の眼圧が 2 週間以上遷延する場合は術後高眼圧と定義して合併症に含めた.また,術後低眼圧は2 週間以上 5 mmHg 未満の眼圧が遷延した場合と定義し,2週間以内のものは一過性の低眼圧として合併症に含めなかった.再手術は何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果各群における緑内障病型,性別,年齢などの患者背景を表2 に示す.性別は男性 171 眼,女性 151 眼,年齢は 57.7±20.1 歳(平均±標準偏差),術後平均観察期間は 25.6±15.8カ 月( 平 均±標準偏差).術式の内訳は TLE 群 73 眼,NPT群 103 眼,LOT 群 124 眼,VCS 群 22 眼であった.各術式に各緑内障病型を無作為に割り当てたものではないが,全体の傾向として TLE と NPT は比較的高齢者の緑内障に,LOT と VCS は比較的若年者の緑内障に対して用いられる傾向があった.1. TLE群a. 眼圧(平均±標準偏差)TLE 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 21.3±6.9 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 11.0±4.2 mmHg,10.6±3.6 mmHg,11.2±3.9 mmHg,11.3±3.7 mmHg,12.6±4.4 mmHg,11.2±3.1 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点での生存率はそれぞ表 1手術手技【LEC】①ツꀀ 結膜輪部切開または円蓋部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製③ツꀀ 0.04% MMC 塗布④ツꀀ 300 ml 生理食塩水で洗浄⑤ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥ツꀀ 線維柱帯切除⑦ツꀀ 周辺虹彩切除⑧ツꀀ 強膜弁縫合⑨ツꀀ 結膜縫合【NPT】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜外方弁作製③ツꀀ 0.04% MMC 塗布④ツꀀ 300 ml 生理食塩水で洗浄⑤ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥ツꀀ 4×3.5 mm の強膜内方弁作製⑦ツꀀ 線維柱帯内皮網擦過,除去⑧ツꀀ 強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet 膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨ツꀀ 強膜外方弁を縫合せず整復または強膜外方弁を縫合後半円形切除 2 カ所⑩ツꀀ 結膜縫合【LOT】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製ないし 4×4 mm 強膜弁作製後,さらに 3.5×3.5 mm の強膜内方弁作製③ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)④ツꀀ Schlemm 管外壁を開放,強膜内方弁があれば切除後に線維柱帯切開⑤ツꀀ 強膜(外方)弁縫合後に半円形切除 1 カ所,小児の場合は半円形切除は非施行⑥ツꀀ 結膜縫合【VCS】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製③ツꀀ 3.5×3.5 mm の強膜内方弁作製④ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑤ツꀀ Schlemm 管外壁を開放,さらに強膜内方弁を角膜側に伸ばし Descemet 膜を露出後,強膜内方弁除去⑥ツꀀ 線維柱帯内皮網擦過⑦ツꀀ Schlemm 管内,強膜外方弁下に粘弾性物質を留置⑧ツꀀ 強膜外方弁縫合⑨ツꀀ 結膜縫合:TLE:NPT:LOT:VCS5.010.015.020.025.030.035.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月眼圧(mmHg)図 1平均眼圧経過———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091281(123)れ 90%,86%,84%,81%,73%,71%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で TLE 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 19.7±6.3 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 11.0±3.8 mmHg,11.1±3.5 mmHg,11.7±4.0 mmHg,11.8±3.8 mmHg,12.7±4.3 mmHg,11.2±3.1 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 24.7±7.1 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 9.5±2.3 mmHg,9.4±2.3 mmHg,10.3±3.0 mmHg,10.6±2.9 mmHg,11.8±3.7 mmHg,10.0±2.5 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 26.2±6.5 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ11.5±7.6 mmHg,8.5±5.6 mmHg,9.8±3.9 mmHg,9.8±3.6 mmHg,13.4±5.3 mmHg,12.9±2.9 mmHg であった.表 2患者背景TLENPTLOTVCS性差(男性:女性)40:3355:4867:579:13年齢(歳・平均±標準偏差)67.6±12.363.9±12.047.9±24.845.3±14.3病型POAG+NTG32834114EXG116180DEV13396SG(EXG を除く)2810232計(眼)7210212122白内障手術併施(眼)5279130術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)21.3±6.918.8±5.924.0±9.019.8±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)3.1±1.62.9±1.02.9±1.52.6±1.2 POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,EXG: 性緑内障,DEV:発達緑内障,SG:続発緑内障,TLE:trabeculectomy,NPT:non-penetrating trabeculectomy,LOT:trabeculotomy,VCS:visco-canalostomy.00.20.40.60.811.20510152025303540観察期間(月)生存率TLENPTLOTVCS*p 0.05,ツꀀ **p<0.001,ツꀀ *** p<0.00001******図 2各術式の眼圧生存率Kaplan-Meier 法を用い,術前眼圧よりも 20%下降した眼圧をカットオフ値とした.ログランク検定(危険率 5%)で,TLEと NPT,TLE と VCS の眼圧下降率には有意差があった.0.05.010.015.020.025.030.035.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)a:TLE0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月b:NPT0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月c:LOT:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼図 3水晶体の状態別眼圧経過TLE(a)では,水晶体の状態によらず安定した眼圧下降がみられ,NPT(b)では水晶体温存では他に比較して術後平均眼圧が高い傾向があった.LOT(c)では白内障手術併施のほうがより低値で安定する傾向がみられたが,水晶体温存でも眼圧下降は十分に得られていた.———————————————————————- Page 41282あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(124)b. 眼圧下降率TLE 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 43.1%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 53 眼(68.8%),20%以上 30%未満の症例は 3 眼(3.9%),20%未満の症例は 16 眼(22.2%)であった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)TLE 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 3.1±1.6 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.3±1.2 点,0.2±0.6 点,0.3±0.7 点,0.8±1.2 点,0.9±1.0 点,1.0±1.1 点であり,術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術後の前房消失,脈絡膜 離が 4 眼(5.2%),術後の追加縫合が 3 眼(3.9%),前房出血が 2 眼(2.6%),濾過胞炎が 2眼(2.6%),術後の濾過胞穿孔が 1 眼(1.3%),術後低眼圧が 5 眼(6.5%)みられた.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 7 眼(9.1%)であった.2. NPT群a. 眼圧(平均±標準偏差)NPT 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 18.8±5.9 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 13.6±3.2 mmHg,13.5±3.1 mmHg,14.1±3.2 mmHg,13.9±3.3 mmHg,13.8±2.3 mmHg,13.9±3.0 mmHg であった.20%下降30%下降20%下降30%下降20%下降30%下降20%下降30%下降0510152025303540455055606505101520253035404550556065c:LOT0510152025303540010203040術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)051015202530350102030b:NPT051015202530051015202530d:VCSa:TLE図 4眼圧下降率平均眼圧下降率は TLE(a)43.1%,NPT(b)20.2%,LOT(c)25.1%,VCS(d)7.9%であった.:TLE:NPT:LOT:VCS術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月0.01.02.03.04.05.0薬剤スコア図 5平均薬剤スコア薬剤スコアは各群で術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman 順位相関係数検定).———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091283(125)Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ78%,74%,63%,52%,48%,42%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で NPT 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 17.8±4.2 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 13.5±3.0 mmHg,13.3±3.2 mmHg,13.6±2.9 mmHg,13.8±2.4 mmHg,13.4±2.0 mmHg,13.2±2.4 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 20.2±6.3 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ14.1±3.4 mmHg,14.1±2.8 mmHg,15.6±3.4 mmHg,14.4±5.3 mmHg,15.6±2.4 mmHg,15.8±3.4 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 29.5±12.0 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 11.2±4.2 mmHg,15.5±2.5 mmHg,17.7±5.0 mmHg,15.0±0.0 mmHg,12.0±0.0 mmHg,18.5±0.0 mmHg であった.b. 眼圧下降率NPT 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 20.2%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 29 眼(28.4%),20%以上 30%未満の症例は 21 眼(20.6%),20%未満の症例は 47 眼(46.0%)であった.なお,術中合併症の生じた症例(2 眼)と術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)NPT 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.9±1.0 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.3±0.6 点,0.5±0.7 点,0.7±0.8 点,0.9±0.9 点,1.1±0.9 点,1.3±1.0 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術中前房穿孔が 2 眼(2.0%)みられたが,重篤な術後合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 11 眼(10.8%)あった.3. LOT群a. 眼圧(平均±標準偏差)LOT 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 24.0±9.0 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 15.4±4.0 mmHg,16.1±5.0 mmHg,16.4±5.2 mmHg,16.1±3.8 mmHg,15.2±3.1 mmHg,15.8±3.6 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ73%,70%,68%,65%,63%,58%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で LOT 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 21.3±6.0 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 14.7±2.9 mmHg,13.0±2.5 mmHg,13.7±3.0 mmHg,13.7±2.7 mmHg ,14.5±2.2 mmHg,14.9±2.9 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 24.4±9.6 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ15.6±4.2 mmHg,17.1±5.1 mmHg,17.2±5.6 mmHg,16.6±3.8 mmHg,15.5±3.4 mmHg,16.1±3.8 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 34.7±6.0 mmHg,術後1,3,6,12,24 カ月での眼圧はそれぞれ 17.6±5.9 mmHg,18.4±5.2 mmHg,16.9±2.8 mmHg,17.8±3.8 mmHg,12.3±0.0 mmHg であった.b. 眼圧下降率LOT 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 25.1%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 54 眼(43.5%),20%以上 30%未満の症例は 21 眼(16.9%),20%未満の症例は 41 眼(33.1%)であった.なお,術中合併症の生じた症例(2 眼)と術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)LOT 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.9±1.5 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.6±1.0 点,0.9±1.2 点,1.1±1.2 点,1.2±1.5 点,1.0±1.0 点,1.3±1.2 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術後眼内炎が 1 眼(0.8%),術後高眼圧が 3 眼(2.4%)みられた以外,重篤な合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 7 眼(5.6%)であった.4. VCS群a. 眼圧(平均±標準偏差)VCS 群の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 19.8±4.1 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 16.6±3.0 mmHg,16.2±4.4 mmHg,18.2±3.9 mmHg,18.0±2.7 mmHg,19.0±3.2 mmHg,20.0±0.0 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ50%,50%,30%,25%,19%,19%であった(図 2).b. 眼圧下降率VCS 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 7.9%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 0 眼(0%),20%以上 30%未満の症例は 5 眼(22.7%),20%未満の———————————————————————- Page 61284あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(126)症例は 14 眼(63.6%)であった.なお,術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)VCS の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.6±1.2 点,術後各時点での薬剤スコアはそれぞれ 1.2±0.9 点,1.5±1.0 点,1.5±1.0 点,1.6±1.0 点,1.0±0.5 点,2.0±0.0 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症VCS 群においては重篤な合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 3 眼(13.6%)であった.一番生存率の高かった TLE とそれぞれの術式の累積生存率をログランク検定により比較すると,TLE は NPT(p<0.001),VCS(p<0.00001)より有意に生存率が高かったが,LOT との間には有意な差はみられなかった(図 2).III考按OAG に対するおもな緑内障手術としては TLE,NPT,LOT,VCS などがあげられる.これらの手術はそれぞれ長所と短所を内包しており,絶対的な手術法選択ができないという現状がある.手術方法の選択には各方法の特性が深く関与し,これを深く理解するためには,これまでの手術成績を振り返ることが重要である.そこで,筆者らは今回の検討を行った.手術方法の選択を考える場合,進行期緑内障では眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い1).なかでも TLE は主流の術式である.今回の検討では TLE 群全体で術後 10 mmHg 台前半であり(図 1),眼圧下降率も下降率 30%以上の症例が 73.6%,20%以上が77.8%という結果が得られた(図 4).眼圧下降効果の面からは目標眼圧が 10 mmHg 台前半の後期緑内障や眼圧下降率が20%以上ないし 30%以上が求められる正常眼圧緑内障の良い適応であるといえる.薬剤スコアも術後各時点で術前よりも有意に減少していた(図 5).TLE は OAG,慢性閉塞隅角緑内障,落屑緑内障,その他の続発緑内障などさまざまな病型の緑内障に効果があるとされる1)が,今回の検討でもTLE 群では背景に続発緑内障が多い傾向にあったものの眼圧はよく下降していた.また,水晶体の状態別の眼圧経過は,水晶体温存,白内障手術併施,眼内レンズ眼でも経過に大きな差異はないようである(図 3).これらは TLE の長所であるといえる.一方で TLE は過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多いことも知られている2).今回の検討でも術後前房消失・脈絡膜 離が4 眼(5.6%),術後の追加縫合が 3 眼(4.2%),前房出血が 2眼(2.8%),濾過胞炎が 2 眼(2.8%),術後の濾過胞穿孔が 1眼(1.4%),術後低眼圧が 5 眼(6.9%)と他群にみられないさまざまな合併症がみられた.このように視機能を著しく低下させる重篤な合併症に加え,術後数年経過してからの晩期合併症があることに特徴がある.また,再手術に至った例が7 眼(9.1%)あった.TLE の合併症の多さから前房に穿孔しない NPT が考え出された.今回の検討では NPT 群全体で術後 10 mmHg 台前半の眼圧であった(図 1)が,背景因子が近い TLE と比較すると術後いずれの時点でも平均眼圧は TLE に劣る.眼圧下降率も下降率 30%以上が 28.4%,20%以上が 49.0%であり(図 4),TLE に劣る結果であった.また,水晶体の状態別の眼圧経過は,水晶体温存では他に比較して術後平均眼圧が高い傾向がある(図 3)3).また,再手術に至った例が 11 眼(10.8%)あった.これらの点は NPT の短所であり,水晶体の状態,目標眼圧などの面からは TLE よりも症例を選ぶ必要があると考えられた.しかし,検討期間中にみられた合併症は術中前房穿孔が 2 眼(2.0%)のみで,TLE のような重篤な合併症はみられず,術後管理は TLE よりも容易であるという利点があった.TLE,NPT は濾過胞を形成する手術であり,濾過胞感染の危険性を考えると眼球上方から手術を施行せざるをえない共通の短所がある.したがって同一方法での再手術回数は限られ,適応は慎重に選ばなくてはならない.一方で LOT に代表される流出路再建術は濾過胞が不要であり,眼球下方からの手術施行が可能である.また LOT は発達緑内障,ステロイド緑内障,落屑緑内障など特定の病型に対して効果が高いとされ,若年で眼圧が高く視神経乳頭の変化が軽度な場合に良い適応とされている4).今回の検討でも,これらの報告から LOT を選択した傾向がみられ,LOT群では TLE 群, NPT 群に比較して発達緑内障の症例が多く,患者年齢平均が低かった(表 1).眼圧経過は術後 16 mmHg前後であり(図 1),眼圧下降率 30%以上の症例が 44.6%,20%以上が 62.0%であった(図 4).目標眼圧が 10 mmHg 台後半ならば十分な値であるが,目標眼圧が 10 mmHg 台前半の後期緑内障や正常眼圧緑内障の手術適応には眼圧下降面から不十分である5).合併症は術後眼内炎が 1 眼(0.8%),術後高眼圧が 3 眼(2.5%)と頻度が低かった.水晶体の状態別の眼圧経過も,白内障手術併施のほうがより低値で安定する傾向がみられた(図 2)が,水晶体温存でも眼圧下降は十分に得られていた.この点からも LOT は病期が早期ないし中期,若年の患者には良い方法と考える.VCS 群は,22 眼ですべて白内障手術非併施であった.また,LOT 群同様に TLE 群,NPT 群より若年の患者に施行していた.眼圧経過は 17 mmHg 程度であり(図 1),術後———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009128512 24 カ月頃より再上昇する傾向がみられた6).眼圧下降率も 30%以上の症例は 0%,20%以上が 22.7%,20%未満の症例は 63.6%と高くはない(図 4).再手術に至った例は 3眼(13.6%)であった.VCS の場合,白内障手術併施のほうが術後眼圧は良好との報告がある7).一方で重篤な合併症はまったくみられず,安全性については非常に優秀である.以上より,白内障非併施の VCS は LOT 同様に目標眼圧が 10 mmHg 台前半の症例,正常眼圧緑内障の手術には眼圧効果面からは不適応と考えられる.VCS は症例こそ選ぶが多剤点眼している症例の負担を減らす目的,少しでも眼圧のベースラインを下げるための早期手術などには良い選択である可能性がある.このようにいずれの手術を選択するにせよ,それぞれ長所,短所があるが故に,それぞれの方法の特性を含めて患者に十分な情報を与え術式を選択することが必要であると考えられた.なお,今回の検討では術後平均観察期間が 25.6 カ月であり,全症例が 36 カ月や 48 カ月経過観察されていない点と,無作為に各術式に症例を振り分けたものではなく症例ごとに術式の選択がなされた結果である点が問題となる.しかしながら従来いわれているような各術式の適応病型について術後に想定される眼圧下降度や薬剤スコアの予想については参考となるデータであると思われる.また各術式については,各病型によって効果が異なるため,今後は緑内障各病型ごとの各術式の術後成績をまとめることも検討課題であると考えられた.文献 1) 東出朋巳:流出路手術か濾過手術か.臨眼 60(増刊号):60-64, 2006 2) Jongsareejitツꀀ B,ツꀀ Tomidokoroツꀀ A,ツꀀ Mimuraツꀀ Tツꀀ etツꀀ al:E cacy and complications after trabeculectomy with mitomycin C in normal-tension glaucoma. Jpn J Ophthalmol 49:223-227, 2005 3) 村上智昭,宮本秀樹,倉員敏明ほか:非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績.臨眼 58:187-191, 2004 4) 小松務,横田香奈,松下恵理子ほか:緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績.臨眼 61:1039-1043, 2007 5) 大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科 20:821-824, 2003 6) 三宅三平:Viscocanalostomy ─原法と中期成績.眼科手術 14:315-319, 2001 7) Gimbel HV, Penno EE, Ferensowicz M:Combined cata-ract surgery, intraocular lens implantation, and visco-canalostomy. J Cataract Refract Surg 25:1370-1375, 1995(127)***

セプラフィルム R 併用線維柱帯切除術を施行した緑内障の5例

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(117)ツꀀ 12750910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1275 1278,2009cはじめに緑内障に対する線維柱帯切除術の不成功例のおもな原因は強膜弁の瘢痕形成によるものであり1),この瘢痕形成を抑制する線維芽細胞増殖阻害薬マイトマイシン C(MMC)が併用されるようになり,術後成績が格段に向上した2,3).しかし,MMC の併用によっても,結膜下癒着および強膜弁癒着により再び眼圧上昇をきたす難治性の緑内障症例に対し治療に難渋することが少なくない.今回筆者らは,通常腹腔内手術や骨盤内手術において術後の癒着防止目的にて使用されている癒着防止吸収性バリア(セプラフィルムR,科研製薬株式会社,図 1)4 6)が,強膜弁および強膜結膜間の物理的なバリアとして存在することにより癒着を軽減,濾過胞の維持に効果的と考え,強膜および結膜の癒着が強く濾過胞形成不全をきたしやすいと考えられる結膜瘢痕を有する緑内障 5 例 6 眼に対し,セプラフィルムR併用線維柱帯切除術を施行したので報告する.I対象および方法対象は,2007 年 8 月から 2008 年 4 月の間に,当科にてセプラフィルムR併用線維柱帯切除術を施行し,術後 2 カ月以上経過観察した緑内障患者 5 例 6 眼である.病型は落屑緑内障 1 例 2 眼,原発開放隅角緑内障(狭義)1 例 1 眼,続発緑内障 2 例 2 眼,慢性閉塞隅角緑内障 1 例 1 眼であった.内訳は,男性 3 例,女性 2 例,年齢は 59 79 歳(平均値±標準偏差;69.2±9.1 歳),全例 2 回以上の内眼手術の既往があった(表 1).眼圧下降薬 2 6 剤(4.3±1.4 剤:アセタゾラミ ド 内 服 は 2 剤 と し て 換 算)使 用 下 に て 術 前 眼 圧 は 21 47 mmHg(32.3±8.5 mmHg),術後経過観察期間は 2 13〔別刷請求先〕鶴田みどり:〒060-8543 札幌市中央区南 1 条西 16 丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprint requests:Midori Tsuruta, M.D., Department of Ophthalmology, Sapporo Medical University School of Medicine, S1W16, Chuo-ku, Sapporo 060-8543, JAPANセ プ ラフィル ムR併用線維柱帯切除術を施行した 緑内障の 5 例鶴田みどり田中祥恵稲富周一郎片井麻貴大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座Trabeculectomy Using Sepra lmR in Five Cases of GlaucomaMidori Tsuruta, Sachie Tanaka, Syuichiro Inatomi, Maki Katai, Ikuyo Ohguro and Hiroshi OhguroDepartment of Ophthalmology, Sapporo Medical University School of Medicine目的:緑内障症例に対しセプラフィルムR併用線維柱帯切除術を施行した 5 症例の報告.対象および方法:全例 2回以上の内眼手術の既往のある結膜瘢痕を有する緑内障 5 例 6 眼.術式は,強膜弁下にセプラフィルムRを留置,強膜弁とともに縫合した.結果:2 眼では術後 2 カ月でさらなる眼圧下降手術を要したが,4 眼では良好な経過であった.重篤な合併症は認められなかった.結論:セプラフィルムR併用により安定した濾過胞と眼圧下降が得られる可能性があるが,今後適応および術式につきさらなる検討を要する.Weツꀀ reportツꀀ onツꀀ 5ツꀀ patients(6ツꀀ eyes)whoツꀀ underwentツꀀ trabeculectomy,ツꀀ usingツꀀ Sepra lmR,ツꀀ forツꀀ refractoryツꀀ glaucoma(exfoliation glaucoma, primary open-angle glaucoma, secondary glaucoma, chronic closed-angle glaucoma)and who had undergone intraocular surgery at least twice. Postoperative intraocular pressure(IOP)was signi cantly lower than the baseline IOP, but 2 eyes required additional glaucoma surgery. There were no severe complications. Tra-beculectomyツꀀ usingツꀀ Sepra lmRツꀀ isツꀀ expectedツꀀ toツꀀ beツꀀ aツꀀ safeツꀀ andツꀀ e ectiveツꀀ method;furtherツꀀ studyツꀀ isツꀀ neededツꀀ forツꀀ evalua-tion of this technique.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1275 1278, 2009〕Key words:線維柱帯切除術,セプラフィルムR,緑内障.trabeculectomy,Sepra lmR,glaucoma.———————————————————————- Page 21276あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(118)カ月(6.0±4.5 カ月)であった.学内倫理委員会の承認を得た後,すべての患者より手術に先立ち,術式・結果および合併症に関する十分な情報提供を行い,文書による同意を得た.6 眼中 1 眼に水晶体超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)との同時手術を施行,3 眼が偽水晶体眼であり,2 眼が術後無水晶体眼であった.術式は,①円蓋部基底結膜切開,② 4×4 mm(四角形)の強膜外方弁作製,③ 4×3.5 mm の強膜内方弁を作製,切除,④線維柱帯切除,⑤周辺部虹彩切除,⑥強膜弁下に約 5×6 mm のセプラフィルムRを留置,⑦強膜弁をセプラフィルムRとともに 10-0 ナイロン糸にて 2 4 糸縫合した(図 2).硝子体切除術,水晶体再建術および線維柱帯切開術の既往があり,結膜の癒着が強いと思われた症例⑤および複数回にわたる線維柱帯切除術の既往があり結膜瘢痕が強いと思 わ れ た 症 例 ⑥ に 対 し MMC を 併 用 し た(表 2). な お,MMC は強膜外方弁作製後 0.04%の濃度で 3 分間接触させたのち生理食塩水 250 ml にて洗浄した.当術式における術後眼圧値,術後処置および合併症につき検討した.なお,眼圧はすべて Goldmann 圧平眼圧計を用いて測定し,有意差の検定には paired-t 検定を用いた.図 1セプラフィルムR12.7×14.7 cm の半透明のフィルム.:セプラフィルムR図 2術式模式図表 1症例の内訳症例年齢(歳)性別病型手術の既往(施行順)①R79FPEGPEA,ALT,ALT,adNPT②L79FPEGPEA,ALT,ALT,LEC,GSL+A-vit,LOT,A-vit+濾過胞再建③L59MSEG(色素散布性)PEA+IOL,LEC,LEC LOT④R59MPOAGLEC,LEC⑤R67FSEG(ぶどう膜炎)VIT+PEA+IOL,LOT⑥L72MCACGLI,LEC,LEC,PEA+IOL L:左眼,R:右眼,M:男性,F:女性,PEG:落屑緑内障,SEG:続発性緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,CACG:慢性閉塞隅角緑内障,PEA:超音波水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術,ALT:アルゴンレーザー線維柱帯形成術,adNPT:改良型非穿孔性トラベクレクトミー,LEC:トラベクレクトミー,LOT:トラベクロトミー,GSL:隅角癒着解離術,A-vit:前部硝子体切除,VIT:硝子体手術,LI:レーザー虹彩切開術.表 2術式と経過症例術式眼圧経過(mmHg)観察期間追加治療術前1 カ月2 カ月3 カ月最終①LEC+セプラフィルムR4789121613 カ月②LEC+セプラフィルムR32746── 2 カ月毛様体光凝固③LEC+セプラフィルムR32622181610 カ月IOL 縫着術④LEC+セプラフィルムR+PEA-IOL212026── 2 カ月濾過胞再建術⑤LEC+セプラフィルムR+MMC346141717 4 カ月⑥LEC+セプラフィルムR+MMC281613147 5 カ月———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091277(119)II結果1. 術後眼圧(平均値±標準偏差)(表 3)術前眼圧値 32.3±8.5 mmHg に比べ,術後 1 週目の眼圧値は 6.2±2.4 mmHg(p<0.001),術後 2 週目は 9.2±2.0 mmHg(p<0.001)と有意に下降した.また,術後 2 カ月で 2 眼がさらなる眼圧下降手術を要したのに対し,有血管性でびまん性の良好な濾過胞例 4 眼(図 3)では,それぞれ術後 2 カ月で 2 眼,4 カ月で 1 眼に眼圧下降薬を併用したものの,眼圧は術後 1 カ月,2 カ月および 3 カ月目の眼圧値はそれぞれ 10.5±6.0 mmHg,15.3±2.8 mmHg,15.0±1.4 mmHg と良好な眼圧下降が得られた.2. 術後処置術後,全例で laserツꀀ suturelysis(LSL)を要し,術後 13 日目から 20 日目に施行した.眼球マッサージも全例で併用した.4 症例 5 眼(83.3%)で needling を要した.症例⑤では厚い Tenonツꀀ により LSL が困難であったため,needling にて切糸した.3. 術後合併症(表 4)2 眼に術後低眼圧による脈絡膜 離が眼底周辺部に限局してみられたが,術後 8 20 日で消失した.房水漏出は 3 眼(50%)あり,3 眼ともに輪部切開部からの漏出であり,セプラフィルムRの吸収とともに 2 眼は自然に治癒,1 眼は縫合を追加し房水漏出が消失した.また,セプラフィルムRの前房内迷入が 1 眼あったが前房洗浄で除去でき,その後の眼圧,濾過胞の維持に影響はなく角膜内皮障害なども認められなかった.なお,浅前房,持続性低眼圧など重篤な合併症は認めなかった.III考按緑内障に対する MMC 併用線維柱帯切除術は,現在最も有効な手術である2,3)が,結膜瘢痕を有する症例に対する線維柱帯切除術は MMC を使用しても不成功に終わることが少なくない.MMC 以外に成功率を高める方法の一つとして,新井らはセプラフィルムRを強膜フラップ間の物理的バリアとして用いた新しい緑内障手術を報告した(血管新生緑内障に対するセプラフィルムR併用線維柱帯切除術,第 61 回日本臨床眼科学会総会).セプラフィルムRはヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシルメチルセルロースを重量比 2:1 で含有する合成生体吸収性癒着防止剤で,通常腹腔内手術や骨盤内手術において術後の癒着防止目的にて広く使用されている4 6).セプラフィルムRはおよそ 7 日間適用部位にとどまり,体内に吸収された後 28 日以内に体外へ排出され,物理表 3眼圧下降例の術後眼圧の推移(平均±標準偏差)眼圧(mmHg)術前1 週間2 週間1 カ月3 カ月6 カ月12 カ月32.3±8.56.2±2.4**9.2±2.0**10.5±6.0**15.3±2.8*15.0±1.4*16(n=6)(n=6)(n=6)(n=6)(n=4)(n=2)(n=1) *p<0.05,**p<0.001.表 4術後合併症合併症眼 数脈絡膜 離2 眼(8,20 日でそれぞれ消失)房水漏出3 眼(結膜縫合 1 眼)セプラフィルムR前房内迷入1 眼(前房洗浄)図 3術後13日の前眼部写真有血管性,びまん性の濾過胞(症例③).セプラフィルムR強膜弁図 4術後10日のUBM強膜弁下にセプラフィルムRを認める.(今回の症例とは別の経過良好な症例.73 歳,男性,POAG)———————————————————————- Page 41278あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(120)的なバリアとして存在することにより癒着を軽減する9)ことから,緑内障の術後濾過胞の維持にも効果的と思われる(図4).セプラフィルムRは毒性がなく,免疫反応を起こさないことが証明されており10,11),頭蓋内の皮下組織および硬膜の癒着を防止する目的で頭蓋内での使用も報告されている12).したがって本症例のような MMC 併用濾過手術不成功である緑内障進行例に対し,術後早期に眼圧値を 7 12 mmHgに調整する必要性13)から,合成生体吸着性癒着防止剤であるセプラフィルムR併用にて術後早期の癒着を防止することにより眼圧コントロールできないか考えた.今回 6 眼中 2 眼でさらなる緑内障手術を要したが,複数回の手術既往で結膜瘢痕があり,また,セプラフィルムRは創傷治癒を抑制するものではなく14),本法の限界を示しているのかもしれない.一方,MMC を併用した 2 症例は観察期間が短いものの,いずれも良好な濾過胞を維持しており,併用が可能な症例では MMC も併用することでより良好な成績が得られることが示唆された.濾過胞を維持するための術後処置として,全例で LSL および眼球マッサージを要した.術後合併症として房水漏出が3 眼(50%)とこれまでの報告 7 10%15)と比べ頻度が高く,セプラフィルムRが輪部切開部の癒着も遅延させてしまった可能性が考えられたが,1 週間程度の経過観察および縫合の追加で房水漏出に対処することができると思われた.また,セプラフィルムRの前房内迷入が 1 例あったが問題なく経過しており,浅前房,持続性低眼圧など重篤な合併症は認められず,比較的安全性の高い手法と思われた.結膜瘢痕を有する緑内障に対する線維柱帯切除術では,セプラフィルムRを使用することにより安定した濾過胞と眼圧下降が得られる可能性がある.しかしながら,術後比較的早期に濾過胞の消失がみられる症例もあり,セプラフィルムR併用に関して今後適応および術式につき,さらなる検討を要する.文献 1) Scuta GL, Parrish PK:Wound healing in glaucomaツꀀ ltering surgery. Surv Ophthalmol 32:149-170, 1987 2) Kitazawaツꀀ Y,ツꀀ Kawaseツꀀ K,ツꀀ Matsushitaツꀀ Hツꀀ etツꀀ al:Trabeculec-tomy with mitomicin C. Arch Ophthalmol 109:1693-1698, 1991 3) 八百枝潔,阿部春樹,白柏基宏ほか:マイトマイシン Cを併用した線維柱帯切除術後の長期眼圧下降効果.あたらしい眼科 14:395-398, 1997 4) 貞廣荘太郎,鈴木俊之,石川健二ほか:泌尿器科医に必要な新しい医療材料の知識合成吸収性癒着防止剤.臨床泌尿器科 56:45-49, 2002 5) 赤羽勉,佐藤耕一郎,橋本有ほか:開腹手術における癒着防止シート(セプラフィルムR)による術後早期イレウス防止効果の検討.外科治療 87:557-562, 2002 6) 登内仁,小林美奈子,楠正人:合成吸収癒着防止剤(セプラフィルムR)による腸管癒着防止法.外科 64:187-188, 2002 7) 山本哲也,北澤克明:線維芽細胞増殖阻害薬を併用するトラベクレクトミー:その光と影.眼科 37:39-46, 1995 8) 宮田博:トラベクレクトミーその併発症と対策.眼科 41:979-984, 1999 9) 毛利靖彦,内田恵一,楠正人:癒着防止フィルム.外科 69:1168-1172, 2007 10) Sueda J, Sakuma T, Nakamura H et al:In vivo and in vitroツꀀ feasibilityツꀀ atudiesツꀀ ofツꀀ intraocularツꀀ useツꀀ ofツꀀ Sepea lmツꀀ to close retinal breaks in bovine and rabbit eyes. Invest Oph-thalmol Vis Sci 47:1142-1148, 2006 11) Burnsツꀀ JW,ツꀀ Coltツꀀ MJ,ツꀀ Burgessツꀀ LSツꀀ etツꀀ al:Preclinicalツꀀ evalua-tion of Sepra lm bioresorbable membrane. Eur J Surg 163:40-48, 1997 12) 一ノ瀬努,宇田武弘,日下部太ほか:外減圧後頭蓋形成術における癒着防止吸収性バリア(セプラフィルムR)の有用性.脳神経外科 35:151-154, 2007 13) 清水美穂,丸山幾代,八鍬のぞみほか:マイトマイシン C併用トラベクレクトミーの術後成績に影響を及ぼす臨床因子.あたらしい眼科 17:867-870, 2000 14) Akyol N, Aydogan S, Akpolat N:E ect of membrane adhesion barriers on wound healing reaction after glauco-maツꀀ ltration surgery. Eur J Ophthalmol 15:591-597, 2005 15) 狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌 109:75-82, 2005***

緑内障における新しい視野解析プログラムPolar Graphの使用経験

2009年9月30日 水曜日

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In this study, we investigated the correlation between structural and functional changes as eval-uated by Polar Graph. Methods:In patients with open-angle glaucoma, Polar Graphツꀀ ndings were compared with morphologicalツꀀツꀀ ndingsツꀀ forツꀀ opticツꀀ discツꀀ andツꀀ retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ ber,ツꀀ asツꀀ obtainedツꀀ byツꀀ stereoツꀀ fundusツꀀ photography(SFP), Heidelbergツꀀ Retinalツꀀ Tomographyツꀀ 3(HRT3)andツꀀ Stratusツꀀ OCT(OCT3). Result:Theツꀀ abnormalツꀀ areasツꀀ indicatedツꀀ by Polar Graph correlated well with those indicated by SFP, HRT3 and OCT3. Moreover, the abnormal areas described by Polar Graph were smaller than those described by SFP, HRT3 and OCT3. Conclusion:Polar Graph is a useful tool for evaluating the correspondence between structural and functional changes in glaucoma patients.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1269 1274, 2009〕Key words:ポーラーグラフ,緑内障,網膜神経線維層,視神経乳頭,オクトパス視野計.Polarツꀀ Graph,ツꀀ glaucoma, retinal nerveツꀀ ber layer, optic disc, Octopus perimeter.———————————————————————- Page 21270あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(112)的変化と機能的変化の対応を評価する場合,診断者は視神経乳頭およびその周囲の網膜神経線維の所見から実際には明確に観察できない網膜神経線維走行を念頭に置いて,さらに上下を反転させ,得られた視野障害が妥当なものであるかを確認することになる.Polarツꀀ Graph はこのような緑内障における構造的変化と機能的変化の対応評価を支援するために開発された新しい視野の表現方法で,解剖学的な網膜神経線維走行を考慮し,視神経乳頭部での障害部位を機能的変化より予測すると示唆されている.2006 年に Polar Graph の前身である Polar diagramが,H.ツꀀ Bebieツꀀ と Haag-Streit 社によって開発され,研究者用に Octopus Field Analysis(旧名 evaluate PVD)として無償で公開された.このプログラムは現在でも同社のサイトからダウンロード可能となっている.その後 2008 年に,同社の Octopusツꀀ 900 シリーズの視野測定,解析用プログラムとして開発されていた Eyeツꀀ Suite(Ver.ツꀀ 1.22)に Polarツꀀ Graphが導入され一般使用できるようになった.I目的緑内障症例においてこの Polar Graph を用いた機能障害の表現と眼底写真ならびに眼底 3 次元画像解析装置から得られた視神経乳頭・網膜神経線維の構造的変化との対応関係を比較し,臨床における Polar Graph の有用性および問題点について検討すること.II対象緑内障各病期(早期,中期,後期)の典型的な緑内障症例3 例ならびに緑内障と網膜中心静脈分枝閉塞症との合併症例を対象とした.III方法今回の症例では,Octopusツꀀ 101ツꀀ G2ツꀀ program を用い,nor-malツꀀ strategy にて測定された結果を Polarツꀀ Graph で表現し,眼底所見と比較した.1. Polar Graphの原理Polarツꀀ Graph の概要を図 1 に示す.Polarツꀀ Graph は単一視野の表現方法の一つであり,視野の各測定点の値を原因病巣である視神経乳頭周囲へ再配置させることで視野変化と視神経乳頭ならびにその周囲の網膜神経線維層所見を直接比較しながら評価することができる.まず,視野検査で実測された各測定点の値は,年齢別正常値からの欠損量(Comparison)として算出される(図 1a).つぎに,各測定点に対応する網膜神経節細胞の軸索が視神経乳頭のどの部位に入るかが網膜神経線維走行のパターンより算出され(図 1b)(このプログb:網膜神経走行とComparisond:Polar Grapha:Comparisonc:眼底写真d-1d-2反転図 1Polar Graphの原理———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091271(113)ラムでは網膜神経線維走行パターンは,一つのモデルから作成されている),各測定点の結果は乳頭周囲へ円形に 360°再配置され,欠損量が 0 dB なら円周上に,欠損量が大きいと突出するグラフとして描写される(図 1d).さらに,最終的には眼底所見(図 1c)との対応を容易にするために上下反転して表現される(図 1d).2. 眼底所見とPolar Graphの比較方法眼底の評価には,立体眼底写真(NIDEK 3DX),眼底写真(Canon 60UV),Heidelberg Retinal Tomography 3(HRT3:Heidelberg 社製)および Stratusツꀀ OCT(OCT3:Carlツꀀ Zeiss 社製)を用いた.HRT3 は,Moore eldツꀀ regres-sionツꀀ analysis の解析結果を使用し,OCT3 は,Fastツꀀ Retinal Nerveツꀀ Fiberツꀀ Layerツꀀ Thickness(Ver.3.4)で scan し,Aver-ageツꀀ Nerveツꀀ Fiberツꀀ Layerツꀀ Thickness の解析結果を使用した.Polarツꀀ Graph で表示されている異常部位(時計回りで 1 時から 12 時区分)と実際に眼底写真,OCT3 と HRT3 で観察される視神経乳頭および乳頭周囲の視神経線維層の構造的変化(時計回りで 1 時から 12 時区分)の一致範囲について検討した.IV結果〔症例1〕56 歳, 男 性. 原 発 開 放 隅 角 緑 内 障(狭 義)(POAG)の早期症例.この症例の Polarツꀀ Graph では,1 時方向に突出したグラフが得られた.これは Octopusツꀀ 101 における G2ツꀀ program のgrayツꀀ scale の鼻側下方の感度低下を表現する.眼底写真では11 時から 2 時方向に網膜神経線維層欠損(NFLD)と 1 時方向の視神経乳頭辺縁部(rim)の菲薄化が認められた.OCT3では 1 時方向(p<1%の赤色の部位)と 12 時と 2 時方向(p<5%の黄色の部位)に網膜神経線維層厚(RNFLT)の菲薄化を認めた.また HRT3 では 10 時から 2 時方向に異常部位を認めた.これらから,機能的障害を評価する Polarツꀀ Graph と,構造的障害を評価する眼底写真の異常部位はよく一致していた.さらに,OCT3 においては p<1%の部分がよく一致 し て い た が, そ の 周 囲 に p<5% の 部 分 が 認 め ら れ,RNFLT の菲薄化は Polarツꀀ Graph と比較するとやや広く検出されていた.さらに HRT3 においても Polarツꀀ Graph の異常部位よりも広い異常部位が認められた(図 2).〔症例2〕51 歳,女性.POAG の中期症例.Polarツꀀ Graphツꀀ では 5 時から 8 時方向および 11 時方向に突出が認められた.これは G2 program のビエルム(Bjerrum)領域を含む鼻上側と鼻下側の感度低下を示す.眼底写真では5 時から 9 時方向および 11 時から 1 時方向に rim の菲薄化が み ら れ,OCT3 で は 5 時 か ら 8 時 と 11 時 方 向(p<1%)および 12 時と 2 時方向(p<5%)に RNFLT の菲薄化を認めた.また,HRT3 では 12 時から 7 時方向までが異常部位であった.これらの異常部位は Polar Graph とほぼ一致していたが,HRT3 や OCT3 の異常部位は症例 1 と同様に Polar Polar GraphHRT3OCT3眼底写真CO Gray scale651128051877364655148100%95%5%1%0%48115図 2症例1:56歳,男性,POAGの早期Polar Graph で 1 時方向に突出を認め,それに対応する部位の異常を眼底写真・OCT3・HRT3 で認めた.———————————————————————- Page 41272あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(114)Graph で表現される異常部位よりやや広い傾向を認めた(図3).〔症例3〕45 歳,男性.POAG の後期.Polarツꀀ Graph で 1 時から 2 時および 5 時から 6 時方向に突出を認めた.これは G2ツꀀ program での Bjerrum 領域を含む上下鼻側の感度低下を示す.眼底写真では 1 時から 2 時および 5 時から 7 時の rim の菲薄化と 11 時から 2 時および 5 時から 7 時の NFLD が認められ,OCT3 では 12 時から 2 時と5 時から 6 時方向(p<1%)および 7 時から 8 時方向と 10 時から 11 時方向(p<5%)に RNFLT の菲薄化を認めた.また,HRT3 では 12 時から 8 時方向まで異常部位が検出されていた.この結果より Polar Graph と眼底写真の異常部位はほぼ一致していた.OCT3 においても p<1%の RNFLT の菲薄化部位は Polar Graph とよく一致していたが,その周囲に確率 5%以下の RNFLT の菲薄化部分があり,Polarツꀀ Graph の異常部位は OCT3 で示される異常部位より狭く異常が検出されていた.そして HRT3 においても同様の傾向が認められた(図 4).〔症例4〕58 歳,男性.POAG の網膜中心静脈分枝閉塞症(BRVO)合併例.1997 年の Polarツꀀ Graph では,上方のアーケード内にあるBRVO に対応する下方の視野欠損が表現され,11 時方向に突出を認めた.2003 年の眼底写真では,BRVO のあった 11時方向には rim の菲薄化を伴わない著明な NFLD を認め,7時方向には POAG が進行したと考えられる rim の菲薄化を伴う NFLD が認められた.Polarツꀀ Graph においては以前の11 時方向の突出に加え新たに 7 時方向に著明な突出が認められており,これは G2ツꀀ program での上方の視野欠損を示す.11 時方向の障害は網膜疾患によるものであるため眼底の NFLD に一致していたが,乳頭所見とは一致していなかった.7 時方向の障害は緑内障によるものであり,眼底のNFLD および視神経乳頭の所見に一致していた(図 5).V考按今回の症例を通して Polarツꀀ Graph と眼底写真,HRT3,OCT3 の異常部位はよく一致していた.単一視野の表現方法には,grayツꀀ scale,数値表示や probabilityツꀀ plot などさまざまな手法がある.しかし,Polarツꀀ Graph は,測定結果を解剖学的網膜神経線維走行に基づき,視神経乳頭周囲に再配置するという新しい方法で,今までできなかった視神経乳頭局所における直接的な構造的障害と機能的障害の対応評価を可能とした.さらに従来の視野所見から眼底所見,あるいは眼底所見から視野所見を類推するというステップが不要となり,忙しい日常診療の場においても十分用いることのできる評価法である.さらに,Polarツꀀ Graph を用いることで,一般眼科医においても,もし緑内障であれば視神経乳頭のどの部位にPolar GraphHRT3OCT3眼底写真CO Gray scale75335791363148795552100%95%5%1%0%5933図 3症例2:51歳,女性,POAGの中期Polar Graph の 2 つに分かれた突出部位と眼底写真・OCT3・HRT3 での異常部位は一致していた.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091273(115)Polar GraphHRT3OCT3眼底写真CO Gray scale48497751604649594646100%95%5%1%0%3344図 4症例3:45歳,男性,POAGの後期Polar Graph では 1 時から 2 時,5 時に突出を認め,眼底写真・OCT3・HRT3 での異常はほぼ一致していた.2003年1997年Polar GraphCO Gray scale図 5症例4:58歳,男性,POAGに網膜中心静脈分枝閉塞症を合併上段は 1997 年,下段は 2003 年の眼底写真と Polarツꀀ Graph である.1997 年には網膜中心静脈分枝閉塞症とそれに対応する 11 時方向の突出があり,2003 年には 7 時方向に緑内障によると考えられる突出が生じている.11 時方向の所見は NFLD の所見と一致するが,視神経乳頭の所見とは一致しない.———————————————————————- Page 61274あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(116)異常がある可能性が高いかを示す指針ができたことも大きな利点と考えられた.今回の症例においては,基本的に Polar Graph で異常が指摘された部位に構造的異常が確認された.しかしながら,眼底 写 真,OCT3 や HRT3 で 検 出 さ れ た 構 造 的 異 常 範 囲 はPolarツꀀ Graph よりも広く検出された.緑内障では一般的な視野検査で検出される機能的障害は,構造的変化より遅れて出現することが多くの研究者により報告されている4 6).Polar Graph を用いた場合,Polarツꀀ Graph で表現される視野障害と視神経乳頭の構造的障害の部位を厳密に比較することで,その傾向はより顕著に認められたと考えた.実際の臨床でPolarツꀀ Graph を用い眼底所見との比較を行う場合には,この構造的異常範囲が広く検出される点を理解したうえで対応し評価を行う必要がある.そして,症例 4 のように,逆に Polar Graph で示される異常部位に視神経乳頭の異常所見が認められない場合は,緑内障以外の原因を考慮する必要がある.Polarツꀀ Graph を用いることでこのような症例でもより明確に眼底所見と視野異常の不一致を判定できると考えられた.一方,現在の Polar Graph は,一定の網膜神経線維層の走行モデルを使用して解析を行っている.実際の症例では,眼軸,屈折,眼球の回旋,網膜神経線維走行の個体差などの影響で解析にある程度のずれが生じる可能性は否定できない.現時点では,これらの要因が Polar Graph の解析結果へどれほど影響するかについては不明であるが,今後の検討が必要であると考えられた.文献 1) 日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第 2 版).日眼会誌 110:777-814, 2006 2) Hogan MJ, Alvarado JA, Weddell JE:History of the Human Eye. WB Saunders, Philadelphia, 1971 3) Mincklerツꀀ DS:Theツꀀ organizationツꀀ ofツꀀ nerveツꀀツꀀ berツꀀ bundlesツꀀ in the primate optic nerve head. Arch Ophthalmol 98:1630-1636, 1980 4) Quigleyツꀀ HA,ツꀀ Addicksツꀀ EM:Quantitativeツꀀ studiesツꀀ ofツꀀ retinal nerveツꀀ ber layer defects. Arch Ophthalmol 100:807-814, 1982 5) Quigley HA, Dunkelberger GR, Green WR:Retinal gan-glion cell atrophy correlated with automated perimetry in humanツꀀ eyesツꀀ withツꀀ glaucoma.ツꀀ Amツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 107:453-464, 1989 6) Harwerth RS, Carter-Dawson L, Shen F et al:Ganglion cell losses underlying visualツꀀ eld defects from experimen-tal glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci 40:2242-2250, 1999***

ラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの変更治療薬および併用治療薬としての有用性

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(107)ツꀀ 12650910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1265 1268,2009cはじめに近年の緑内障治療は症例ごとに目標眼圧を設定して治療することが推奨されている1).正常眼圧緑内障では眼圧下降率30%以上1,2)などを目標とするが,緑内障治療薬単独治療での達成は容易ではない3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降効果が不十分な場合,多剤併用治療ではなく,まず変更治療を行うべきことが記されている1).〔別刷請求先〕中元兼二:〒164-8541 東京都中野区中野 4-22-1東京警察病院眼科Reprint requests:Kenji Nakamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Tokyo Metropolitan Police Hospital, 4-22-1 Nakano, Nakano-ku, Tokyo 164-8541, JAPANラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの変更治療薬および併用治療薬としての有用性中元兼二安田典子東京警察病院眼科Usefulness of Brinzolamide Following Switch to Brinzolamide Monotherapy and Concomitant Use of Latanoprost and Brinzolamide in Normal-Tension Glaucomaツꀀ Patients Poorly Responsive to LatanoprostKenji Nakamoto and Noriko YasudaDepartment of Ophthalmology, Tokyo Metropolitan Police Hospitalラタノプロスト(LP)単独治療 8 週後の眼圧下降率が両眼ともに 10%未満の正常眼圧緑内障(NTG)7 例 14 眼において,同一症例で視野障害の強いほうの眼は LP とブリンゾラミド(BZ)の併用治療(併用治療眼),他眼は BZ 単独治療へ変更(変更治療眼)し,BZ の有用性を検討した.眼圧は,変更治療眼において BZ 単独治療変更後有意な変化はなかったが,併用治療眼においては BZ 併用後有意に下降した(p<0.01).眼圧が LP 単独治療時より下降した症例は,変更治療眼では 3 眼(43%),併用治療眼では 7 眼(100%)であった.無治療時に対する眼圧下降率は,変更治療眼 0.9±18.1%,併用治療眼 17.6±6.9%で,併用治療眼のほうが有意に大きかった(p<0.05).LP の眼圧下降効果が不十分な NTG において,BZ は LP との併用により確実な眼圧下降効果を示すが,一部の症例では,変更治療薬としても有用な薬剤である可能性がある.We investigated the usefulness of brinzolamide following the switch to brinzolamide monotherapy and concom-itant use of latanoprost and brinzolamide in 7 normal-tension glaucoma(NTG)patients poorly responsive to latano-prost. Patients were treated for 8 weeks by instillation of latanoprost to both eyes. The eye with the more serious visualツꀀ eld disorder then received latanoprost and brinzolamide concomitantly(Concomitant Therapy Eye). In the fellow eye, latanoprost was discontinued and treatment was changed to brinzolamide monotherapy(Switched Therapyツꀀ Eye).ツꀀ Switchedツꀀ Therapyツꀀ Eyesツꀀ showedツꀀ noツꀀ signi cantツꀀ reductionツꀀ inツꀀ intraocularツꀀ pressure(IOP)afterツꀀ the switchツꀀ toツꀀ brinzolamideツꀀ monotherapy.ツꀀ Concomitantツꀀ Therapyツꀀ Eyes,ツꀀ however,ツꀀ showedツꀀ signi cantツꀀ reductionツꀀ inツꀀ IOP afterツꀀ concomitantツꀀ useツꀀ ofツꀀ brinzolamide,ツꀀ asツꀀ comparedツꀀ toツꀀ latanoprostツꀀ monotherapy.ツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ reducedツꀀ inツꀀ 3ツꀀ Switched Therapy Eyes(43%)after the switch to brinzolamide monotherapy. The percent reductions in IOP were signi cantly greater in Concomitant Therapy Eyes than in Switched Therapy Eyes.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1265 1268, 2009〕Key words:ラタノプロスト,ブリンゾラミド,ノンレスポンダー,正常眼圧緑内障,変更治療,併用治療.latanoprost, brinzolamide, non-responder, normal-tension glaucoma, switching therapy, concomitant therapy.———————————————————————- Page 21266あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(108)そこで今回,ラタノプロスト単独治療で十分な眼圧下降効果が得られなかった正常眼圧緑内障において,ラタノプロストからブリンゾラミドへの変更治療およびラタノプロストとブリンゾラミドの併用治療の眼圧下降効果について調べ,ブリンゾラミドの変更治療および併用治療における有用性について比較検討した.I対象および方法対象は正常眼圧緑内障 7 例 14 眼である.年齢は 61±7.8歳,男性 4 例,女性 3 例である.選択基準は,日を変えた 2回の未治療時の左右眼圧に差がないもので,かつ,0.005%ラタノプロスト単独治療 8 週後の眼圧下降率が両眼ともに10%未満のものである.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往があるもの,内眼手術の既往のあるもの,眼圧が正確に測定できないもの,担当医が不適切と判断したものである.正常眼圧緑内障(NTG)の診断基準は,眼圧日内変動を含めた無治療時の眼圧がいずれも 21 mmHg 以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化と対応する緑内障性視野変化があること,視神経乳頭の緑内障様変化をきたしうる他の疾患がないこととした.方法は,未治療時の眼圧を,日を変えて 2 回測定し,0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)を両眼に 8 週点眼後再度眼圧を測定した.その後,休薬期間なく片眼をラタノプロストから 1%ブリンゾラミド(エイゾプトR)単独治療へ変更(変更治療眼)し,また,他眼をラタノプロストとブリンゾラミド併用治療(併用治療眼)とし,さらに 8 週治療後,眼圧を測定した.本試験開始前に眼圧下降薬を使用していたものは 4 週以上休薬後,無治療時眼圧を測定した.すべての眼圧は Goldmann 圧平眼圧計で午前 10(±1)時に同一医師が測定した.併用治療眼には,視野障害がより高度なほうの眼を割り付けた.視野障害の指標には,本試験開始日前後 6 カ月以内の Humphrey 静的自動視野計中心プログラム 30-2 のmeanツꀀ deviation(MD)を用いた.ラタノプロストは 1 日 1回 2 2(±1)時,ブリンゾラミドは 1 日 2 回 8(±1 )時 と 2 0(±1)時に点眼させた.両薬剤ともに,一滴点眼後 5 分以上涙 圧迫および眼瞼を閉瞼させた.本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭で十分に説明し同意を得た.変更治療眼では,ラタノプロスト単独治療時とブリンゾラミド単独治療変更後の眼圧を比較した.併用治療眼では,ラタノプロスト単独治療時とブリンゾラミド併用治療後の眼圧を比較した.また,無治療時に対する眼圧下降率を算出し,両治療眼を比較した.統計解析には Wilcoxonツꀀ signed-ranksツꀀ test を用い,有意水準 p<0.05(両側検定)で検定した.II結果全症例の無治療時眼圧は 16.4±2.6 mmHg であった.変更治療眼において,眼圧はラタノプロスト単独治療時 15.3±2.0 mmHg,ブリンゾラミド単独治療変更後 16.0±2.2 mmHgで,両者に有意な差はなかった(図 1).併用治療眼におい01214161820(n=7)Mean±SEブリンゾラミド変更治療無治療時ラタノプロスト単独治療眼圧(mmHg)図 1変更治療眼における眼圧の推移眼圧はラタノプロスト単独治療時 15.3±2.0 mmHg,ブリンゾラミド単独治療変更後 16.0±2.2 mmHg で,両者に有意な差はなかった.眼圧(mmHg)01214161820**ブリンゾラミド併用治療無治療時ラタノプロスト単独治療**:p<0.01(n=7)Mean±SE図 2併用治療眼における眼圧の推移眼圧は,ラタノプロスト単独治療時 15.4±1.8 mmHg,ブリンゾラミド併用治療後 13.4±1.7 mmHg で,ブリンゾラミドの併用によりラタノプロスト単独治療時より有意に下降した(p<0.01).:併用治療眼:変更治療眼眼圧下降率(%)症例1234567-20-1001020図 3ラタノプロスト単独治療時に対する眼圧下降率(全症例)ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した症例は,変更治療眼では, 3 眼(43%),併用治療眼では全眼(100%)であった.また,個々の症例の左右眼を比較すると,7 例中 6 例において,併用治療眼の眼圧下降率が変更治療眼より大きかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091267(109)て,眼圧は,ラタノプロスト単独治療時 15.4±1.8 mmHg,ブリンゾラミド併用治療後 13.4±1.7 mmHg で,ブリンゾラミドの併用によりラタノプロスト単独治療時より有意に下降した(p<0.01)(図 2).ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した症例は,変更治療眼では,7 例中 3 眼(43%)であった.一方,併用治療眼では全眼ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した.また,個々の症例の左右眼を比較すると,7 例中 6 例において,併用治療眼の眼圧下降率が変更治療眼より大きかった(図 3).無治療時に対する眼圧下降率は,ブリンゾラミド変更治療後 0.9±18.1% , ブリンゾラミド併用治療後 17.6±6.9%で,併用治療後のほうが変更治療後より有意に大きかった(p<0.05)(図 4).無治療時に対する眼圧下降率が 10%以上であった症例は,変更治療眼では3 眼(43%),併用治療眼では 6 眼(86%)であった(図 5).III考按正常眼圧緑内障においても,眼圧下降が唯一エビデンスのある治療である.ラタノプロストは,強力な眼圧下降効果を示すことから,正常眼圧緑内障に対しても第一選択薬とされることが多い薬剤である4)が,ラタノプロストでも正常眼圧緑内障への単独治療では眼圧下降率が 10%に至らないものが約 3 割ある3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降効果が不十分な場合,薬剤の追加ではなく,まず変更治療を行うべきことが記されている1)が,ラタノプロスト単独治療で十分な眼圧下降効果が得られなかった正常眼圧緑内障においてラタノプロストからブリンゾラミドへの変更治療の有効性を検討した報告はない.そこで,今回,ラタノプロスト単独治療の眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障患者の片眼をブリンゾラミド単独治療へ変更し,他眼をラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療として,ブリンゾラミドの変更治療および併用治療における有効性を調べた.その結果,全対象で解析すると,変更治療眼では,ラタノプロスト単独治療からブリンゾラミド単独治療へ変更後も,眼圧の有意な変化はなかった.一方,併用治療眼ではブリンゾラミドの併用後,眼圧はラタノプロスト単独治療時より平均 2.0 mmHg 有意に下降した.個々の症例別に検討すると,ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降したものは,変更治療眼では 3 眼(43%)であり,併用治療眼では 7 眼(100%)であった.また,ラタノプロスト単独治療時からの眼圧下降率は,症例 4 を除いたすべての症例で併用治療眼が変更治療眼より大きかった.このことから,併用治療は,変更治療より確実な眼圧下降効果が期待できることは間違いないが,半数近くの症例では,ブリンゾラミド単独治療への変更のみで 10%以上の眼圧下降率を得られることがわかった.今回の対象のうち 4 例は,変更治療ではラタノプロスト単独治療時より眼圧が上昇しているにもかかわらず,併用治療ではラタノプロスト単独治療時より明らかに眼圧は下降していた.この原因には,無治療時眼圧の評価が不十分であった可能性や季節変動による影響,あるいはラタノプロストの眼圧下降効果を判定した 8 週間という治療期間が適切でなかった可能性5)などが考えられる.正常眼圧緑内障におけるラタノプロストとブリンゾラミドの併用効果を検討した報告によると,ブリンゾラミド追加 3 カ月後の眼圧下降率の平均値は11%6),13%7)であった.本試験の眼圧下降率は 15%であったことから,確かに過去の報告より大きい値であり,ラタノプロストの眼圧下降効果判定期間が 8 週間では不十分であった可能性は否定できない.(n=7)眼圧下降率併用治療眼変更治療眼0123401234-20-1002030(%)10-20-1002030(眼)(%)10図 5無治療時に対する眼圧下降率分布無治療時に対する眼圧下降率が 10%以上であった症例は,変更治療眼では 3 眼(43%),併用治療眼では 6 眼(86%)であった.*:p<0.05(n=7)Mean±SE眼圧下降率(%)0510152025*併用治療眼変更治療眼図 4無治療時に対する眼圧下降率比較無治療時に対する眼圧下降率は,ブリンゾラミド変更治療後0.9±18.1% , ブリンゾラミド併用治療後 17.6±6.9%で,併用治療後のほうが変更治療後より有意に大きかった(p<0.05)(図 4).———————————————————————- Page 41268あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(110)多剤併用治療は,副作用の増強,アドヒアランス低下を招きやすいため,可能な限り単独治療への変更を試みなくてはならない.ブリンゾラミドは正常眼圧緑内障においてラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な場合,ラタノプロストの併用治療薬としてだけでなく,一部の症例では,変更治療薬としても有用な薬剤である可能性がある.文献 1) 日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第 2 版.日眼会誌 110:777-814, 2006 2) Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group:Comparison of glaucomatous progression between untreated patients with normal-tension glaucoma and patients with therapeutically reduced intraocular pres-sures. Am J Ophthalmol 126:487-497, 1998 3) 中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌 108:401-407, 2004 4) 中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査薬物治療.あたらしい眼科 25:1581-1585, 2008 5) Camras CB, Hedman K:Rate of response to latanoprost orツꀀ timololツꀀ inツꀀ patientsツꀀ withツꀀ ocularツꀀ hypertensionツꀀ orツꀀ glauco-ma. J Glaucoma 12:466-469, 2003 6) 江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミドの併用効果.あたらしい眼科 24:1085-1089, 2007 7) 井上賢治,小尾明子,若倉雅登ほか:ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法.あたらしい眼科 25:1573-1576, 2008***

強膜軟化症を呈した骨髄性ポルフィリン症の1例

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(103)ツꀀ 12610910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1261 1264,2009cはじめにポルフィリンは,ヘム合成の中間代謝産物あるいは副生成物である.ヘムはヘモグロビン,ミオグロビン,ペルオキシダーゼなど,多くの酵素や蛋白質の構成成分であり,ポルフィリン代謝は生体にとって重要である1).ポルフィリン症はポルフィリン体の過剰産生の場所により骨髄性と肝性に分かれる.臨床症状から,大きく皮膚型ポルフィリン症と急性ポルフィリン症の 2 つに分類される2).骨髄性ポルフィリン症は皮膚型ポルフィリン症の一つに分類され,日光過敏症,骨軟骨の欠損,溶血性貧血など,ポルフィリン症のなかでも最も重篤な症状を呈する疾患である.原因は,ヘム合成経路の 4 番目の酵素であるウロポルフィリノーゲン III 合成酵素(uroporphyrinogenツꀀ IIIツꀀ synthase)の活性低下である.わが国ではポルフィリン症の報告があるが皮膚病変などが主体である.筆者らが調べる限り,海外ではポルフィリン症の強膜軟化症の報告が散見される3 5)が,わが国における眼科領域の報告は劉らの網膜下出血6),Tsuboi らの視神経萎 縮7),久富木原らの外転神経麻痺8),佐藤らの一過性脳性盲9)そして,強膜軟化症については栗原ら10)の報告がある.今回,栗原らに続いてわが国 2 例目と考えられたポルフィリン症に伴うまれな強膜軟化症を経験したので報告する.I症例患者:42 歳,男性.主訴:左眼視力低下.家族歴:特記事項はない.既往歴:骨髄性ポルフィリン症(平成 3 年),糖尿病,ポルフィリン症の皮膚潰瘍に対する手術.現病歴:平成 3 年に骨髄性ポルフィリン症と診断を受けた.その時点より強膜軟化症を指摘されていたが,定期受診は怠っていた.最近 4 年間の受診がなく,左眼視力低下を主訴に市立四日市病院受診.強膜軟化症悪化のため平成 20 年8 月 19 日三重大学医学部附属病院(以下,当院)を紹介受診した.視力は右眼 1.2(n.c.),左眼 0.2(0.3× 5.0 D),眼圧両眼20 mmHg であった.両眼の瞼裂部に強膜軟化症を呈し,左眼に角膜浮腫を認めた(図 1,2).上方,下方球結膜には異常はなかった.コントロール不良の糖尿病があったが,中間透光体,眼底に糖尿病性病変は認めなかった.顔面部皮膚に〔別刷請求先〕中世古直成:〒514-8507 津市江戸橋 2-174三重大学大学院医学研究科神経感覚医学講座眼科学教室Reprint requests:Naoshige Nakaseko, M.D., Department of Ophthalmology, University of Mie Graduate School of Medicine, 2-174 Edobashi, Tsu-city, Mie 514-8507,ツꀀ JAPAN強膜軟化症を呈した骨髄性ポルフィリン症の 1 例中世古直成杉本昌彦中世古幸成佐宗幹夫宇治幸隆三重大学大学院医学研究科神経感覚医学講座眼科学教室A Case of Erythropoietic Protoporphyria with ScleromalaciaNaoshige Nakaseko, Masahiko Sugimoto, Yukishige Nakaseko, Mikio Sasou and Yukitaka UjiDepartment of Ophthalmology, University of Mie Graduate School of Medicine両眼に強膜軟化症を発症した骨髄性ポルフィリン症の 1 例の報告をする.症例は 42 歳,男性で,両眼の強膜軟化症に対して保存強膜を用いた強膜移植術,結膜被覆術を施行したが,術後に結膜の創傷治癒遅延がみられ,結膜による創の被覆に長期間を要した.We report a rare case of erythropoietic protoporphyria associated with scleromalacia. The patient, a 42-year-oldツꀀ male,ツꀀ hadツꀀ undergoneツꀀ scleralツꀀ graftingツꀀ surgeryツꀀ usingツꀀ preservedツꀀ scleralツꀀ andツꀀ conjunctivalツꀀ coveringツꀀ inツꀀ bothツꀀ eyes. However, conjunctival wound healing was delayed, a long time being required to cover the conjunctiva.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1261 1264, 2009〕Key words: 強 膜 軟 化 症, ポ ル フ ィ リ ン 症, 強 膜 移 植 術.scleromalacia,ツꀀ erythropoieticツꀀ protoporphyria,ツꀀ scleral grafting.———————————————————————- Page 21262あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(104)は眼瞼皮膚を含め露出部に色素沈着,硬化を認め,鼻は変形して萎縮を認めた(図 3).両手にも顔面同様,露出部皮膚に色素沈着,硬化を認めた.同時に皮膚潰瘍の跡も見受けられた(図 4).経過:入院のうえ,糖尿病は食事療法のみでコントロール良好になった.初診時より感染予防のため,ガチフロキサシン点眼(ガチフロR点眼液)両眼 1 日 3 回を行い,左眼には角膜浮腫を伴っており消炎のため,アトロピン硫酸塩点眼(1%アトロピンR点眼液)左眼 1 日 3 回を開始した.感染症,創傷治癒の問題もありステロイド薬の使用はしなかった.平成 20 年 9 月 4 日保存強膜による左眼強膜移植術と結膜被覆術を施行したが,縫合不全で結膜が離開したため,9 月 8 日結膜被覆術を施行するも結膜は再度離開した.9 月 14 日にも左眼結膜被覆術を施行したが,同様に離開した.しかし,時間の経過ともに結膜は伸展していった.術後は強膜移植術を施行した 9 月 4 日からは抗生物質の全身投与,フルモキセフナトリウム(フルマリンR 1 g 点滴)朝,夕を 3 日間行い,ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液)は継続した.結膜離開のため,9 月 6 日より自己血清の点眼も開始した.9月 25 日保存強膜による右眼強膜移植術と結膜被覆術に羊膜移植術も施行した.羊膜移植は提供者および患者への説明を行い,文書による同意を得たうえで施行した.しかし,左眼と同様に結膜が離開した(図 5).結局両眼とも結膜は離開したが,保存強膜上に 2 週間後より結膜組織と血管の侵入がみられ,結膜による被覆が進んでいる(図 6).術後は左眼同様の抗生物質の全身投与を手術当日より 3 日間と翌日より抗生物質の点眼,血清点眼も開始した.両眼とも経過中は感染症,創傷治癒の問題もあり,ステロイド薬の全身投与および,点眼は使用しなかった.両眼とも感染徴候はみられなかった.左眼の角膜浮腫も改善され,左眼視力(1.2)まで回復した.右眼に関しては視力は 1.2(n.c.)で不変である.入院中,念のため膠原病の合併がないか全身検査を行ったが,膠原病は否定的であった.図 1右眼前眼部写真瞼裂部に強膜軟化症を認める.図 3顔面写真露出部に色素沈着,硬化,鼻は変形して萎縮を認めた.図 2左眼前眼部写真瞼裂部に強膜軟化症,角膜浮腫も認められる.図 4両手写真色素沈着,硬化を認め皮膚潰瘍の跡も見受けられた.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091263(105)II考按骨髄性ポルフィリン症の病因は,ヘム合成経路の酵素である uroporphyrinogenツꀀ IIIツꀀ synthase の先天異常で常染色体劣性遺伝である1,2).酵素活性低下により,尿・血漿・赤血球中の uroporphyrin I,coproporphyrin I が著しく増加し,その毒性によって光線過敏症を生じる.本症は,他のポルフィリン症と同様に露出部皮膚の水疱形成,潰瘍形成,硬化などの光線過敏症状に加えて,骨軟骨の欠損による鼻や耳介の欠損,溶血性貧血,脾腫などを呈するのが特徴である.本例でも露出部に上記の症状を呈していた.栗原ら10)が報告したのと同様,眼瞼に覆われている上方および下方の球結膜,無血管組織である角膜,結膜に異常を認めなかった.病因として,結膜・強膜血管中に蓄積した uroporphyrinツꀀ I,copro-porphyrinツꀀ I の光毒性が考えられた.瞼裂部結膜のみ光毒性による障害を生じ,水疱形成・硬化を反復した結果,結膜は欠損し強膜軟化症に陥ったと考えられた.本症に対する積極的な治療法はない.予防として,光線を避けること,皮膚の外傷を起こさないようにするなどの手段がとられている.本例も日中の外出を避けたり,サングラス装用を気にはかけていたが,車の運転の仕事をしていて,強膜軟化症は認めていたにもかかわらず定期受診を怠り,重度になるまで放置し,厳密な遮光は行っていなかった.手術に関して重要なのは,①病巣を周囲の健常部を含めて完全に除去すること,ならびに②強膜移植片を結膜で完全に被覆することである.①は強膜軟化症の再発,進行防止と移植片を確実に縫着し,縫合糸の術後早期の脱落を防ぐために必要であり,②は機械的な刺激から移植片を保護するのみならず,血流の供給による移植片の生着,同化の役割をもち,術後早期の消炎と眼表面の安定した再構築のために必要だからである11).症例によっては結膜による完全な被覆は不可能なこともあり,その場合自己結膜移植,羊膜の移植の追加も有効である.本例では術後,移植した強膜片の生着は良好であるが,結膜の被覆に関しては,栗原らの報告と同様創傷治癒が遅延した10).また,羊膜を使用しても結膜の創傷治癒は遅れた.病巣部結膜の進展性が乏しいため結膜の創傷治癒が遅延したものと考えられるが,結局,創傷治癒機転そのものに異常があることが考えられる.そのため,ポルフィリン症患者の強膜軟化症に対する強膜移植は,結膜の被覆は時間がかかることを念頭におくべきである.本症例では露出部である手の皮膚潰瘍の手術を何度も行っているが,同様に創傷治癒は遅れていることも踏まえて,ポルフィリン症の創傷治癒に関して露出部については注意が必要である.現在,遮光による眼球保護と進行予防を行い経過観察中であるが,今後生活環境や季節変化などにより,眼症状は反復するものと考えられる.文献 1) 近藤雅雄,青木洋祐:ポルフィリン代謝に関する最近の知見.医学のあゆみ 155:859-863, 1990 2) 高村昇,谷川健,難波裕幸ほか:先天性赤芽球性ポルフィリン症の遺伝子解析と遺伝子治療の可能性.ポルフィリン 5:129-137, 1996 3) Mohanツꀀ M,ツꀀ Goyalツꀀ JL,ツꀀ Pakrasiツꀀ Sツꀀ etツꀀ al:Corneoscleralツꀀ ulcer-ation in congenital erythropoietic porphyria(a case report). Jpn J Ophthalmol 32:21-25, 1988 4) Ueda S, Rao GN, LoCascio JA et al:Corneal and conje-unctival changes in congenital erythropoietic porphyria. Cornea 8:286-294, 1989 5) Sevel D, Burger D:Ocular involvement in cutaneous por-phyria. Arch Ophthalmol 85:580-585, 1971 6) 劉美智,山田浩喜,北岡隆:網膜下出血を合併した先天性赤芽球性ポルフィリン症の一例.眼臨紀 1:596, 2008 7) Tsuboiツꀀ H,ツꀀ Yonemotoツꀀ K,ツꀀ Katsuokaツꀀ K:Erythropoieticツꀀ por-図 5右眼手術後移植強膜の生着は良好であるが結膜は離開した.図 6右眼手術後時間とともに結膜血管が侵入し徐々に被覆されている.———————————————————————- Page 41264あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(106)phyria with eye complication. J Dermatol 34:790-794, 2007 8) 久富木原真,後藤良三:複視を主訴とした急性ポルフィリン症の 1 例.臨眼 44:916-917, 1990 9) 佐藤昌保,富崎安夫:一過性脳性盲を呈した急性間歇性ポルフィリン症の 1 例.眼紀 43:1378-1381, 1992 10) 栗原久美子,今泉信一郎,原田拓二ほか:強膜壊死を呈した先天性赤芽球性ポルフィリン症の 1 例.眼紀 51:657-660, 2000 11) 酒井義生,山之内頬一,中塚和夫:強膜軟化症に対する強膜移植術の 3 例.眼紀 41:717-721, 1990***