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私が思うこと 22.人生いろいろ

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010945シリーズ私が思うこと(85)名古屋大学眼科で38年お世話になり,平成17年に退官しました.教授在任期間は7年8カ月ときわめて短く,これは自分にとって幸運であったと思います.教授になるまでは,ある種の緊張感があり,55歳まで研究,臨床にのめり込んでいました.私の臨床研究は20歳代は基礎勉強,30歳代は黄斑部局所ERG(網膜電図)に代表される診断機器の開発と症例収集で,簡単に申しますとデータのもとを粛々と整えていた時代でした(図1).そして40歳代にこれらが実り次々に新しいデータが出てまいりました.私の学者生活での研究成果の代表作はほとんどすべてが40歳代に完成したものです.実際,私が57歳のときから4年間理事長(会長)を務めた国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV)も,最初に学会へ参加したのは40歳のときでした.もし何かの間違いで40歳代前半に教授になっていたら,忙しさに追われ多くの研究は日の目を見ることはなかったかもしれません.55歳まで教授にならず(なれず?),自分で研究することができたのは実に幸運でした.名古屋大学を退官したあとは,愛知淑徳大学という文科系の大学に勤めることになっておりました.この大学は医療にも興味をもっており,あまり大きくない附属病院の新設を予定していて,ここで院長として働きながら適当に学生教育をして,のんびり生活しようと楽しみにしておりました.ところが退官を3カ月後に控えた平成17年の1月に国立病院機構・東京医療センターの田中靖彦病院長からその附属施設で開設されたばかりである国立感覚器センターの所長になってほしいとの依頼が突然参りました.この研究所が眼科,耳鼻科にとっていかに大事かを知っておりましたので,2年という約束でお引き受けしました.この東京での生活は実に充実しており,行政との繋がりや多くの友人を得ました.そこで知り合った人たちの私を囲む会は,今でも続いております(図2).また名古屋大学を退官するときにJJO(JapanesesJournalofOphthalmology)の編集長を引き受け,東京での生活のかなりの部分をJJO編集に捧げました.0910-1810/10/\100/頁/JCOPY三宅養三(YozoMiyake)愛知医科大学理事長1942年名古屋生まれ.一族には多くの眼科医がみられ,“眼科医”という病気があると仮定すると,浸透率の高い優性遺伝病の一家系のような気がします.しかし私のように大学生活を最後まで続けた変わり者はおらず,最も重症な患者であろうと思われます.最近,島倉千代子の名曲「人生いろいろ」を口ずさんでおります.(三宅)人生いろいろ図11982年に完成した黄斑部局所ERG装置図2東京在住中にできた三宅会の面々(今年の名古屋の日本眼科学会総会の折り)946あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010あっという間に2年が経ち名古屋に戻り,ようやく愛知淑徳大学に行くことになりました.この大学は文化の香りにあふれた,本当に素晴らしい大学でした.今度こそこの大学でゆっくりしたいと夢見ておりましたが,近くにある愛知医科大学の加藤延夫理事長から愛知医科大学のためにも力を貸してほしいと頼まれ,愛知医科大学の理事を兼務することになりました.加藤理事長は名古屋大学細菌学教授であった方で,医学部長を3期と名古屋大学総長を2期務められたあと,愛知医科大学学長・理事長になられた名古屋大学にとっては最大のボス的存在の方でした.その方から愛知医科大学の今後を頼むといわれたときは,正直驚きました.私は名古屋大学時代に医学部長も病院長も経験がなく,このような大学の要職に就こうとは夢にも思っておりませんでした.平成22年1月に愛知医科大学の理事長に就任しましたが,なぜ私が理事長に選ばれたかを考えてみました.私は経営学や経済学に強いわけではありませんが,取柄として長年臨床研究を続け学問的に眼科学にある程度貢献できたことと,一緒に仕事をしてきたなかから多くの人材が育ったことであろうと自負しております.加藤先生はこの点を高く評価して下さり,大学人としてのよい価値観をもってそれを実行した人が大学を引っ張っていく人の一番大切な点であるということを強調され,私はある意味でその考えに深く感動しました.名古屋大学を退官したとき,私はこのような変化に富んだ将来をまったく想像することはできませんでした.このような自分の運命に呆然としたこともあり,島倉千代子の歌った名曲「人生いろいろ」が頭をよぎります.名古屋大学での教授生活はきわめて短いものでしたが,その後にさらに責任ある立場に次々と遭遇するとは,人生何が起こるかわかりませんね.三宅養三(みやけ・ようぞう)1967年名古屋大学医学部卒業1968年名古屋大学医学部眼科入局1976年ボストンRetinaFoundation留学1986年名古屋大学眼科助教授1997年名古屋大学眼科教授2005年国立感覚器センター所長2007年愛知淑徳大学教授2010年愛知医科大学理事長(86)☆☆☆

インターネットの眼科応用 18.クラウドコンピューティングと医療2

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109430910-1810/10/\100/頁/JCOPY医療クラウドがもたらす可能性近年,クラウドコンピューティングという言葉をしばしば耳にするようになりました.これは,インターネットを通じて,アプリケーションソフトを「共有する」という仕組みです.従来は,パッケージで購入したワープロや表計算などのアプリケーションソフトを自分のパソコンにインストールして利用していましたが,クラウドコンピューティングでは,これらをすべてインターネットに接続して利用します.医療に関係する専門ソフトの例をあげますと,医事会計ソフト,予約システム,画像管理システム,電子カルテなどが臨床の現場で使われていますが,これらすべての医療ソフトもクラウドコンピューティングによって,購入せずに利用することが,理論上は可能です.今後,インターネットは,電力や上下水道や公共交通機関や金融システムなどと同様に,社会基盤の一つになるといわれており,ソフトバンク代表取締役の孫正義氏は,インターネットにアクセスする権利(情報アクセス権)を,自由権,参政権,社会権に並ぶ基本的人権の一つである,と述べています1).先月号では,クラウドコンピューティングの明るい展望・将来性について紹介しました.今月号では逆に,医療クラウドの光と影のうち,「影」の部分にスポットを当てて,問題点を検証したいと思います.医療クラウドの問題点①―技術的観点―技術的な観点から,医療クラウドの問題点を検証します.病院情報システムのクラウド化に際し,技術的な課題は,「システムへの信頼性」に集約されます.もし,クラウドコンピューティングへの回線がダウンすると,自動車の運転中にライトが消えてしまうような状態になります.ヤフー・グーグルなどのポータルサイトでは,「現在使えません」「工事中です」の案内で済みますが,医療の現場は待ってくれません.緊急用に,自前のサーバーをもつことを推奨する意見もありますが,それでは,何のためのクラウド化かわからなくなります.ただ,回線を二重化すればある程度リスクを軽減できそうです.つまり,回線は命綱といえます.また,医療現場が求めるサービスレベルとセキュリティの要求が,他の業種と比べて高いことも指摘されます.セキュリティレベルについて,数字をあげて検証します.年間を通じて動くサーバーもメンテナンスのため,どうしても休止せざるを得ない場合があります.サービスがレベル99.9%としても,年間8時間半,99.99%なら年間50分,サーバーが停止することになります.かかりつけの患者が急変して担ぎ込まれたときに「あなたは運が悪い.ちょうどシステムがダウンしてカルテを確認できません」という状況は,医療にかかわる人間として,許容されるものではありません.もし,回線・サーバーが停止した状況で不幸な出来事が起こったら,誰が法的に責任を担うのでしょう.患者の感情を考慮すると,矛先は,システム提供者だけでなく,医療機関にも向けられるでしょう.しかし,このようなシステムの信頼性に関する問題は,技術の進歩と費用をかければ,解決されるものと考えています.つぎの課題は,電子カルテを「どこに保存するか」,という責任所在の問題です.厚生労働省(厚労省)でしょうか.民間企業でしょうか.医療機関でしょうか.医療クラウドを運用するには,大規模なデータセンターが必要です.そのための設備投資をどこがリスクを背負って開発・運用するのでしょうか.医療クラウドの問題点②―医師法の観点―インターネットの情報は二つの要素で構成されます.情報が保存される「ハード=サーバー」と情報そのものである「コンテンツ」です.ハード保有者には保存場所と管理責任が求められ,コンテンツ作成者には著作権が発生し,著作内容の責任が求められます.医療情報も,この二つの要素で構成されますが,医師法の規制を受ける点が他の情報と異なります.医師法では,「医療情報(83)インターネットの眼科応用第18章クラウドコンピューティングと医療②武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑱944あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(診療録)の保存場所は同一病院機関内が好ましい」とされていましたが,近年では,病院機関の外部に保存することを認める省令が出ています2).ただし,「保存に係るホストコンピュータ,サーバー等の情報処理機器が,(中略)医療法人等が適切に管理する場所に置かれるものであること.」と制限されています.通常,電子カルテのコンテンツは医療従事者によって更新され,サーバーは施設内に設置されます.「ハード保有者=コンテンツ作成者」です.世の中に普及している電子カルテのほとんどがこの形態です.例外が一つあります.セコム医療システム株式会社が提供する「セコム・ユビキタス電子カルテ」は,先月号で紹介しましたが,利用者はインターネットを通じて電子カルテを利用します.全国のサービス利用者がアクセスするサーバーは,自分の医療機関とは別の医療機関にあります.ハード保有者とコンテンツ作成者の所在地・所属が異なる特殊なケースです.医療クラウドを用いた電子カルテではどのような課題が生じるでしょうか.医療機関が,膨大なデータ処理を要するクラウドサーバーを維持・管理できるかは,はなはだ疑問です.つまり,診療録を積極的に外部に保存する必要があります.日本の場合,サーバー管理者は震災への配慮が必要です.多くの大企業が,データセンターを東日本と西日本,あるいは国外に分けてもっています.一つのデータセンターが破壊されても,サービスは維持されます.医療クラウドもそのレベルの対応が求められるでしょう.もはや,保存場所を医療機関に限定することは無意味です.さらに,先述の省令において,診療録を外部保存した場合でも,「外部保存は,診療録等の保存の義務を有する病院,診療所等の責任において行うこと.また,事故等が発生した場合における責任の所在を明確にしておくこと.」と定められています.医療クラウドの世界において,ハード保有者(システム会社)の事故まで,コンテンツ作成者(医療者)が責任を負わないよう,われわれは毅然とした態度でリスク管理をしなければなりません.医療クラウドの問題点③―情報保全の観点―近年,ある民間企業が医療クラウドのサービスを開始した,と報道されました.これからも,同業他社が名乗りをあげることでしょう.将来性のある話に水を指すようではありますが,その運用・管理について,問題点を(84)あげます.先ほど,インターネットの情報はハードとコンテンツに分けられる,と述べました.ハードをもつ主体者には,管理責任が問われます.管理者は,全国民の健康情報,他人に知られたくない身体の状況すらも,閲覧可能になります.国民は,自分の健康情報が特定の民間企業の管理下に置かれることを,「是」とするでしょうか?また,管理者には,個人情報を漏洩しない,という高いプロ意識が求められます.国民の健康管理の主体者は,本来,厚労省でしょう.ですが,このような高度なシステム開発を厚労省が担うとは思えません.サーバーの維持費用を捻出する財源があるとも思えません.ここは,民間企業に医療人の一員として参入してもらうのが,われわれ医療者,患者にとってプラスであろうと考えます.孫正義氏は,「光の道構想」のなかで,日本国内の全回線を光ファイバーに変換し,電子教科書や電子カルテを無料で提供すると説きます.孫氏は,医療情報のデジタルインフラを構築する構想をもちます.ならば,情報管理の徹底や,システムトラブルから発生した健康被害に対する損害賠償や,場合によっては死亡した患者家族の怨念を背負う覚悟をもたねばなりません.ただ,医療情報を扱わない医療ソフト(医事会計ソフトや予約システム)の場合,医師法は適応されず,情報漏洩に関する配慮も相対的に低くなるため,電子カルテよりも容易にクラウド化が可能です.近い将来,サービスが開始され普及すると予想されます.私が主宰する,インターネット会議室「MVC-online」を開設したのが2005年8月です.この稿を執筆している頃で,ちょうど5年になりますが,MVC-onlineの基盤となる,SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)というソフトは,当時の価格は1,000万円したものです.ところが,5年経った現在,SNSは,ほぼ無料で作成できる安価なソフトになりました.ネットの世界の技術革新はすさまじく,あるとき,一瞬でソフトの値段がゼロになります.電子カルテが1,000万円以上したことが遠い昔のように語られる時代がくるかもしれません.文献1)http://www.ustream.tv/recorded/68802772)医政発第0329003号http://www.medis.or.jp/2_kaihatu/denshi/file/140405-a.pdf

硝子体手術のワンポイントアドバイス 86.網膜下索状物を有する網膜剥離に対する硝子体手術(中級編)

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109410910-1810/10/\100/頁/JCOPY●網膜下索状物を有する網膜.離の術式選択陳旧性の裂孔原性網膜.離では網膜下索状物を伴うことがある.このような症例では,硝子体手術を施行して網膜下索状物を抜去しないと網膜復位が得られないと考えがちだが,原因裂孔が周辺部に存在する症例では,大半が強膜バックリング手術を行うことで復位を得ることができる(図1a,b).裂孔閉鎖が得られれば,索状物によってテント状に持ち上げられていた網膜も徐々に伸展していくことが多い.しかし,裂孔周囲に裂孔閉鎖を妨げるような著明な網膜下索状物が存在していたり,黄斑部近くに索状物があり,視力に影響を与える症例(図2a,b)では硝子体手術により抜去したほうが,良好な(81)復位率および術後視力が得られる.●網膜下索状物の抜去法まず十分な硝子体切除を行う.網膜下索状物を生じる裂孔原性網膜.離は比較的若年者に発症することが多いので,後部硝子体は未.離のことが多い.トリアムシノロン塗布にて硝子体を可視化し,人工的後部硝子体.離を確実に作製する.引き続いて黄斑部から離れた部位で,網膜血管を避けて,網膜下索状物を抜去するための意図的裂孔を作製する.この意図的裂孔は索状物抜去の際に拡大することが多いので,その際に網膜血管を損傷しないように,意図的裂孔と血管との距離をある程度確保しておいたほうがよい.その後に,首の細い網膜下鑷子で,索状物を把持し,索状物の伸長している方向に牽引する.最初は周辺側の癒着部位がひっかかり抜去しづらいが,牽引を適度に加えることで,大半の症例では癒着が外れて一塊として抜去できる.索状物はちぎれないように,鑷子でしっかりと把持し,ゆっくりと抜去するのがコツである.索状物の範囲が広いと複数個の意図的裂孔作製を余儀なくされることもあるが,意図的裂孔の数は必要最小限に留める.その後は,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,ガスタンポナーデを行う.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載86網膜下索状物を有する網膜.離に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2硝子体手術施行例a:術前,b:術後.黄斑部近くに索状物があり,視力に影響を与える症例では硝子体手術により抜去したほうが,良好な術後視力が得られる.図1強膜バックリング手術施行例a:術前,b:術後.原因裂孔が周辺部に存在する例では,大半が強膜バックリングで復位が得られることが多い.aabb

眼科医のための先端医療 115.自然免疫と眼表面炎症疾患

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109370910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに免疫反応において補助的役割を担っていると考えられてきた自然免疫が,近年見直されて脚光を浴びています.本稿では,見直されている自然免疫の新しい知見ならびに眼表面炎症疾患とのかかわりについて筆者の知見をまじえてお伝えします.感染防御機構:自然免疫と獲得免疫細菌や真菌,ウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類されます.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されますが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日を要します.これに対して自然免疫は,獲得免疫が働く前の感染早期に働く防御機構です.従来,この自然免疫は,抗菌物質,補体,好中球やマクロファージなどの貪食細胞などを中心とした非特異的防衛機構であると考えられてきました.しかし,1966年にショウジョウバエで,Toll受容体が真菌感染に対する生体防御において必須の役割を果たすことが明らかとなりました1).このことは,獲得免疫が存在しない昆虫でToll受容体という自然免疫系が病原微生物を特異的に認識していることを示し,自然免疫は非特異的防衛機構であるという従来の概念を大きく翻しました.続いて1997年に哺乳類のToll受容体のホモログが発見され,Toll-likereceptor(TLR)と名付けられました2).現在,ヒトでは10種類(TLR1-10)まで報告されています.Toll.likereceptor(TLR)の働きToll-likereceptor(TLR)は,細菌,真菌,ウイルスといったさまざまな病原微生物の構成成分を認識する受容体です.TLR2は,グラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカン(PGN)の一成分であるリポペプチドを認識します.TLR1とTLR6は,TLR2と共役してそれぞれTLR1は細菌由来のトリアシル基をもつリポペプチドを,TLR6は,マイコプラズマ由来のジアシル基をもつリポペプチドを認識します.さらにTLR2とTLR6は,真菌の細胞壁成分であるチモザンを認識します.TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)を認識し,TLR5は,細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分であるフラジェリンを認識します.また,TLRsは,細菌や真菌だけでなくウイルスも認識します.ウイルスが多く有する非メチル化CpGDNAは,TLR9によって認識されます.RNAウイルスが有する一本鎖RNAは,TLR7とTLR8により認識されます.ウイルスの生活環中に宿主細胞質中で生じ何らかの形で細胞外に放出された二重鎖RNAは,TLR3によって認識されます.これらのTLRsは病原微生物を認識し宿主自然免疫応答を惹起することで,獲得免疫系を活性化することもわかってきました3).筆者は,眼表面にもTLRsは発現していますが,その機能は,単球などの免疫担当細胞とは異なり,容易に細菌などの菌体成分に対して炎症を惹起しない機構を保持していることを報告してきました.たとえば,白血球がTLR4のリガンドであるLPSに対して著明に炎症性サイトカインを産生するのと対照的に,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞は,LPSに対して炎症性サイトカインを産生しません4.6).また,眼表面上皮層は緑膿菌などの病原菌由来のフラジェリンを認識し炎症性サイトカインを産生するTLR5を発現していますが,その局在は基底細胞層に限局していました5.8).TLR5の上皮基底層に限局した発現は,眼表面にたとえ緑膿菌が存在しても,上皮基底層にまで到達しない限りTLR5は機能しないことを示しており,眼表面が容易に炎症を生じない機構に大きく関与していると考えられます(図1).(77)◆シリーズ第115回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊上田真由美(京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学)自然免疫と眼表面炎症疾患①②図1眼表面におけるTLR5の発現①:角膜上皮層,②:結膜上皮層.眼表面上皮層にはTLR5(緑)が発現しているが,その局在は基底層に限局している.938あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010眼表面炎症への自然免疫応答異常の関与TLRを代表とする自然免疫系は感染防御の意味で重要なばかりではなく,種々の免疫疾患にも深く関与することがわかってきています.全身性エリテマトーデスなどでは,自己のDNAに対する抗体の出現に自然免疫応答の異常が関与していることが示唆されており9),炎症性腸疾患では,腸内常在細菌の異常な自然免疫応答が炎症反応を惹起していると考えられています10).筆者らは,眼表面においても,自然免疫応答の異常が眼表面炎症に関与しうると考え解析を行ってきました.TLRのシグナル因子であり,NF-kBのregulatorの一つであるIkBzのノックアウトマウスでは,杯細胞の消失を伴う眼表面炎症を自然発症します6,11,12).このことは,眼表面炎症制御にIkBzが深くかかわっていることを示唆するものであり,自然免疫応答異常が眼表面炎症を惹起することを示しています(図2).さらに,TLR3も,眼表面炎症制御に大きく関与していることがわかりました.アレルギー性結膜炎マウスモデルを用いて,眼表面炎症におけるTLR3の役割を解析しました.その結果,TLR3欠損マウスでは,抗原点眼24時間後の結膜好酸球浸潤が野生型マウスと比較して有意に減少し,一方,TLR3過剰発現マウスでは,有意に増加していました13).常在細菌の存在する眼表面においては,自然免疫応答を感染防御の視点のみならず,常在細菌に対して炎症を生じにくい機構の存在に着目し,その破綻と関連付けて眼表面炎症性疾患を模索する必要があります.文献1)LemaitreB,NicolasE,MichautLetal:Thedorsoventralregulatorygenecassettespatzle/Toll/cactuscontrolsthepotentantifungalresponseinDrosophilaadults.Cell86:973-983,19962)MedzhitovR,Preston-HurlburtP,JanewayCAJr:AhumanhomologueoftheDrosophilaTollproteinsignalsactivationofadaptiveimmunity.Nature388:394-397,19973)AkiraS,TakedaK,KaishoT:Toll-likereceptors:criticalproteinslinkinginnateandacquiredimmunity.NatImmunol2:675-680,20014)UetaM,NochiT,JangMHetal:IntracellularlyexpressedTLR2sandTLR4scontributiontoanimmunosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.JImmunol173:3337-3347,20045)UetaM:Innateimmunityoftheocularsurfaceandocularsurfaceinflammatorydisorders.Cornea27(Suppl1):S31-40,20086)UetaM,KinoshitaS:Innateimmunityoftheocularsurface.BrainResBull81:219-228,20107)HozonoY,UetaM,HamuroJetal:Humancornealepithelialcellsrespondtoocular-pathogenic,butnottononpathogenic-flagellin.BiochemBiophysResCommun347:238-247,20068)KojimaK,UetaM,HamuroJetal:HumanconjunctivalepithelialcellsexpressfunctionalToll-likereceptor5.BrJOphthalmol92:411-416,20089)MeansTK,LatzE,HayashiFetal:Thumanlupusautoantibody-DNAcomplexesactivateDCsthroughcooperationofCD32andTLR9.JClinInvest115:407-417,200510)StroberW,MurrayPJ,KitaniAetal:SignallingpathwaysandmolecularinteractionsofNOD1andNOD2.NatRevImmunol6:9-20,200611)UetaM,HamuroJ,YamamotoMetal:SpontaneousocularsurfaceinflammationandgobletcelldisappearanceinIkappaBzetagene-disruptedmice.InvestOphthalmolVisSci46:579-588,200512)UetaM,HamuroJ,UedaEetal:Stat6-independenttissueinflammationoccursselectivelyontheocularsurfaceandperioralskinofIkappaBzeta-/-mice.InvestOphthalmolVisSci49:3387-3394,200813)UetaM,UematsuS,AkiraSetal:Toll-likereceptor3enhanceslate-phasereactionofexperimentalallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol123:1187-1189,2009(78)野生型マウスIkBz欠損マウス図2自然発症眼表面炎症モデルマウスIkBz欠損マウスIkBz欠損マウス(左)では著明な眼表面炎症を自然発症する.***(79)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010939☆☆☆■「自然免疫と眼表面炎症疾患」を読んで■感染防御の中心を担う免疫系は,自然免疫系(InnateImmunity)と獲得免疫系(AcquiredImmunity)から成り立っています.20世紀の免疫学は,獲得免疫学による非自己認識に研究の力点が置かれていました.信じられないでしょうが,自然免疫系が非自己を認識するシステムには,獲得免疫系のような特異性は存在しないと説明された時代すらあったほどです.しかし,Toll-likereceptor(TLR)の発見以来,自然免疫系にも,非自己の認識機構に特異性が存在すること,さらにはTLRによる病原体認識が自然免疫系の活性化のみならず獲得免疫系の活性化をも誘導することが明らかになってきました.眼表面は,常にさまざまな病原体に曝されており,それらから眼球を守るために,強力な防御(免疫)機構が必要です.ですから,眼表面にTLRを中心とする自然免疫システムが存在することは,当然予想されたことです.その意味では,眼表面にTLRが存在するという報告は,驚くにはあたりません.しかし,上田真由美先生の研究の素晴らしい点は,眼表面のTLRによる自然免疫機構の存在を明らかにしただけでなく,その抑制について新知見を得た点にあります.常在細菌などの無害な病原体にまで免疫機構が過剰に働くと,自己免疫疾患などの有害事象が惹起されるので,免疫にはそれを活性化するだけでなく,制御・抑制する仕組みが必要です.たとえば,眼表面と同じように,常に外界の病原体と接する消化管には,TLRによる自然免疫機構が存在しますが,消化管においても免疫が過剰に働くと,慢性下痢,消化管出血などの深刻な病態をひき起こします.そこで,自然免疫を抑制するシステムとして,消化管には免疫抑制性サイトカインinterleukin-10を産生する仕組みが存在します.このような免疫抑制の仕組みは,眼表面においてはわかっていませんでしたが,上田先生は,TLRを結膜基底細胞側にのみ発現することで,過剰な免疫反応を制御することを発見しました.つまり,結膜表面を傷害しない程度の細菌には免疫を活性化させないが,いったんそこを越えるものがあれば免疫を活性化させるというものです.きわめてシンプルではありますが,合目的的かつ効果的な仕組みであるといえます.この発見は,アレルギーの制御など疾患治療につながる重要なものですが,それだけでなく生体の不思議さや精緻さを教えてくれるものであり,科学のロマンを感じさせてくれるものと言っても言い過ぎではないでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

緑内障:光干渉断層計(OCT)でみる篩状板構造変化

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109350910-1810/10/\100/頁/JCOPY●緑内障と篩状板緑内障性視神経症の病態は現在まで不明である.一つに「機械障害説」があり,篩状板孔が屈曲,蛇行することにより視神経線維が絞扼される結果,軸索輸送に障害,ひいては視神経線維に障害が生じると考えられている.篩状板は強膜,軟膜中隔に連続する結合組織性の板状構造を成し,視神経線維の支持組織を担うと考えられているが,摘出眼による病理組織学的研究により慢性緑内障眼での篩状板の菲薄化,後方湾曲などの変形がQuigleyらにより報告されている1).患者眼ではSLO(走査型レーザー検眼鏡)による篩状板の表面形状の研究が行われてきた2).しかしながら光干渉断層計(OCT)の進歩以前には患者眼の篩状板全層に及ぶ形態研究を可能にする検査手段はなかった.近年,正常眼圧緑内障患者群の脳脊髄液圧が高眼圧緑内障患者群や対照患者群の脳脊髄液圧より下がっており,篩状板を挟む眼圧と脳脊髄液圧の較差による篩状板の変形が緑内障性視神経障害をきたすことを示唆する報告もあり,緑内障性視神経障害の発症に篩状板が関係している可能性を示すものとして注目される3).●OCTでみる篩状板サル眼ではスペクトラルドメインOCTでの撮影により組織断面での篩状板部分とOCT画像の視神経乳頭陥凹底の高輝度な部分が一致することが示されている4).京都大学では2005年11月からスペクトラルドメインOCTプロトタイプ機にて緑内障患者眼,高眼圧患者眼の視神経乳頭の3次元画像を撮影してきた.得られた3次元画像から再構築した視神経乳頭陥凹底直下のCスキャン画像における低輝度な点状画像と従来のカラー眼底写真上の‘laminardotsign’は一致した(図1).低輝度な点状画像は眼球後方へ連続しており,篩状板孔の抽出,篩状板全層の撮影,篩状板厚の計測がスペクトラル(75)●連載121緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也121.光干渉断層計(OCT)でみる篩状板構造変化井上亮*1板谷正紀*2*1大津赤十字病院眼科*2京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学眼科学緑内障眼においては摘出ドナー眼による病理組織学的研究により,篩状板の菲薄化や後方湾曲が示唆されてきた.これらの観察に基づき緑内障の「機械障害説」では篩状板の病的形態変化が網膜神経線維の障害をもたらすとされる.スペクトラルドメイン光干渉断層計(OCT)を用いて患者眼の篩状板の菲薄化が確認された.図1カラー写真のlaminardotsignとOCTのCスキャン画像による篩状板孔位置の対比左:カラー眼底写真のlaminardotsignと,右:OCTのCスキャン画像の低輝度な点状画像の一致が確認された.936あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010ドメインOCTによって可能になった.2007年11月からはスペクトラルドメインOCTの商用機(SpectralisTMHRA+OCT,HeidelbergEngineering社)にても撮影を行い篩状板全層がプロトタイプ機と同様に撮影できることが確認できた.どちらの撮影でも眼底血管や乳頭リムの後方部分にある篩状板は撮影できない.また,他社商用機では機器固有の設定の違いにより篩状板の撮影が困難な場合がある.撮影機を患者眼方向へ押し込むことにより画像を上下反転表示させ,enhanceddepthimagingを行うことにより篩状板がより明瞭に撮影されることもある.●OCTでみる篩状板の構造変化プロトタイプ機では緑内障眼30眼の計測を行い(図2),平均篩状板厚は190.5±52.7μm(80.5.329.0)で(76)Humphrey24-2MD(平均偏差)値との相関を認めた(Spearmantestr=0.744,p<0.001)5)(図3).商用機では40眼の計測を行い,平均篩状板厚は157.4±46.5μm(76.0.273.0)でHumphrey24-2MD値との相関を認めた(Spearmantestr=0.577,p<0.001).まとめ篩状板厚は緑内障の進行とともに薄くなることがOCTにより確認された.緑内障の進行度を測る一つの尺度となる可能性がある.文献1)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWRetal:Opticnervedamageinhumanglaucoma.II.Thesiteofinjuryandsusceptibilitytodamage.ArchOphthalmol99:635-649,19812)MaedaH,NakamuraM,YamamotoM:Morphometricfeaturesoflaminarporesinlaminacribrosaobservedbyscanninglaserophthalmoscopy.JpnJOphthalmol43:415-421,19993)BerdahlJP,AllinghamRR,JohnsonDH:Cerebrospinalfluidpressureisdecreasedinprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology115:763-768,20084)AlbonJ,MorganJE,PovazayBetal:Three-dimensionalultrahighresolutionOCToftheopticnerveheadinthetreeshrew.InvestOphthalmolVisSci28(Suppl):4259,20075)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflaminacribrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,200935030025020015010050-36-30-24-18-12-60篩状板厚(μm)Humphrey24-2MD値(dB)6図3篩状板厚とHumphrey24.2MD値篩状板厚とHumphrey24-2MD値に相関を認めた(Spearmantestr=0.744,p<0.001).(文献5より改変)図2Bスキャン画像での篩状板厚の計測例上:撮影画像.中:篩状板の前後縁を確認.下:篩状板厚を計測(A線からB線の間の距離を計測).(文献5より改変)AB

屈折矯正手術:角膜輝点でのレーザー照射

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109330910-1810/10/\100/頁/JCOPY●角膜輝点でのレーザー照射エキシマレーザーによる屈折矯正手術において,照射中心と照射軸をどのように設定するかということは,これまでにさまざまな議論がなされてきた.理論的には,眼光学における視軸(visualaxis)に合わせて照射することが理想である.視軸は固視点と第一節点を結ぶ線,または,中心窩と第二節点を結ぶ線と定義される.節点とはそこを通る光線がどのような角度からきても屈折せず直進する点で,通常,レンズの中心であり,厚いレンズでは2つある.視軸はこの2つの線であるが,厳密にはつながらず平行であり,中間透光体を通して眼底の観察を行う限り,中心窩や節点の他覚的な測定は不可能であり,視軸を決定することは不可能であると考えられている.これに対して,広く屈折矯正手術の照射軸として用いられているのが照準線である.照準性は固視点と入射瞳(角膜の屈折により生じる瞳孔の見かけの像)の中心を結ぶ線である.入射瞳中心を通った光線と射出瞳中心を通って中心窩に達する線は互いに平行ではなく,入射瞳中心を通った光線は中心窩に達しない.しかし固視点を注視しているときは,入射瞳中心を通った光線が水晶体で屈折されて中心窩に届き,参照点(入射瞳中心)が臨床的に実測可能であるために,他覚的な眼の注視方向を示す軸としては最も有用とされている.ただ,問題点としては,瞳孔は光量によって径が変化し,しかも解剖学的な変位があるために,個人差があり,同一人でも明るさなどの外的要因によって一定ではないことである.これに対してvertexnormalは,Meyerリングの中心(cornealvertex)における角膜前面の法線であり照準線のやや鼻側を通る.入射瞳中心は通らないが,決定が非常に容易である.角膜輝点とは注視時のcornealvertexを指し,角膜輝点によるレーザー照射とは,照射軸を,固視した場合のvertexnormalにとる照射方法を指している.ニデックエキシマレーザーのトポグラファーでありウェーブフロントアナライザーであるOPDスキャンは,測定をこのcornealvertexを中心として行う.OPDスキャンはこのほかに虹彩画像を取得して眼球の回旋を検出し,瞳孔径を測定する.このときの瞳孔径,瞳孔中心と角膜輝点を測定し,その距離と角度を記録する.ニデックエキシマレーザーの照射プログラムソフトウェアであるfinalfitTMは,手術中に測定した瞳孔中心を中心として,レーザー照射中心を任意の位置に移動し設定することが可能である.筆者らは,OPDスキャンとfinalfitTMを用いて,照射中心を瞳孔中心に設定した場合と,瞳孔中心から角膜輝点側に80%変位させて照射し,その結果を比較検討した.●方法岡本眼科クリニックで2007年1月から2008年12月までにLASIK(laserinsitukeratomileusis)を行った586眼について検討した(表1).明所視の瞳孔中心から角膜輝点までの距離をPDistとし,瞳孔中心から角膜輝点寄りに80%変位させた点を照射中心とし,角膜輝点群とした.角膜輝点群317眼と,照射中心を瞳孔中心においた269眼について,術後3カ月時点での安全性,有効性,高次収差,コントラスト視力について検討した(図1).具体的には,角膜輝点群では手術中の観察光を調節し(73)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載122監修=木下茂大橋裕一坪田一男122.角膜輝点でのレーザー照射岡本茂樹岡本眼科クリニックエキシマレーザー近視矯正手術のレーザー照射中心を,瞳孔中心から角膜輝点(vertexnormal)に80%変位させて照射(角膜輝点群)し,術後視力,高次収差,コントラスト視力を瞳孔中心に照射した群(瞳孔中心群)と比較した.角膜輝点群は瞳孔中心群に比べ,安全性,有効性が高く,高次収差,コマ収差,コントラスト視力の低下が有意に低かった.エキシマレーザー照射中心として,角膜輝点を考慮するべきである.934あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010てOPDスキャン測定時の瞳孔径に合わせ,術中の瞳孔中心から角膜輝点に80%変位させて照射した.これに対して瞳孔中心群では瞳孔変位の影響を少なくするために,できるだけ観察光を暗くし,瞳孔が散大する条件下でレーザー照射を行った.●結果2群を比較すると,安全性,有効性はともに角膜輝点群で高く(表2),高次収差,コマ収差は角膜輝点群で有意に低かった(表3,図2).コントラスト感度の低下は,角膜輝点群で低くかった.また,PDistが0.25mm以上の症例では,角膜輝点群は瞳孔中心群に比べて有意に安全係数が高く,瞳孔中心と角膜輝点中心の差が大きな症例ほど,角膜輝点に変位させて照射したほうが安全性が高いことが示唆された.まとめエキシマレーザー近視矯正手術においてレーザー照射中心を瞳孔中心から角膜輝点に80%変位させることで,術後視機能を向上させることができた.特にコマ収差の低減に効果的であった.(74)表1対象および方法角膜輝点群瞳孔中心群眼数男性/女性年齢(歳)手術時期術前標準偏差使用器械317146/17133.7±7.82008/1~12月.5.02±1.54DEC-5000CX3269115/15432.0±8.52007/1~12月.5.02±1.66DEC-5000multipoint(両群間に有意差なし)表2術後成績(3カ月)角膜輝点群瞳孔中心群安全性1.19*1.14術後矯正視力平均1.731.64術前矯正視力平均1.471.46(術後矯正視力/術前矯正視力)(*p=0.001)有効性1.06#1.00術後裸眼視力平均1.531.43術前矯正視力平均1.471.46(術後裸眼視力/術前矯正視力)(#p=0.001)表3角膜輝点群および瞳孔中心群における術前後の高次・球面・コマ収差角膜輝点群瞳孔中心群高次収差術前0.329±0.1330.365±0.135術後0.521±0.1750.629±0.245球面収差術前0.097±0.0780.117±0.090術後0.250±0.1410.283±0.195コマ収差術前0.170±0.1050.169±0.094術後0.276±0.1530.348±0.203(μm)PDist……………………..Offset:80%図180%OffsetShotdataPDist:明所視の瞳孔中心から,角膜輝点中心までの距離.80%offset:上記2点間を結んだ直線上で,距離の80%角膜輝点寄りの点.術後3カ月0.15>0.15≦0.25<0.25≦PDist(mm):角膜輝点:瞳孔中心0.450.400.350.300.250.200.150.100.050.00コマ収差p=0.182p=0.003**p=0.002**図2コマ収差の比較角膜輝点群は瞳孔中心群に比べPDist:0.15mm以上で有意に低い.**Wilcoxonsignedranktest.

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ術前説明のポイント

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109310910-1810/10/\100/頁/JCOPY●説明する前にまず聞くことから始める多焦点眼内レンズのインフォームド・コンセントについては,いわゆる「術後不満」を如何に回避するかという観点から解説されることが多い.このことについて最も重要なことは術前の患者の訴えをどこまで把握できるかということと筆者は考えている.つまり言うなれば「術前不満」を知り,それを改善するのに適したレンズ選択,度数設定を行うことが「術後不満」の発生を抑えるのに最も有効と考えている.したがって,術前説明を行う前に,患者の悩みを聞き,さらに患者の生活上の背景を把握することが非常に重要になる.日本人の生活が多様化し,高齢者でも多彩な趣味や仕事をもつ現在では,個々の患者に1対1で向き合い,話を聞き,話をするという姿勢が求められているといっても過言ではない.以下にあげる項目は筆者がほとんどすべての患者に聞く必須事項である.1.現在,何が見にくくて困っているか2.特に眼を使う仕事や趣味があるか3.自動車の運転をするか4.自転車に乗るか5.眼鏡は使用するのか1)常時使用しているか2)いわゆる老眼鏡のみ使用するのか3)遠方のみ眼鏡使用で,近方では使用しないのか4)術後の眼鏡使用に不満はないのか5)可能なら眼鏡をかける頻度を減らしたいのか●「現在,何が見にくくて困っているか」を知るこれは説明する前に必ず把握しておかなければならない.ただ単に遠方が見にくいとか近方が見にくいという聞き方ではなくて,具体的に聞き出すことが重要である.遠方視力に不満があるのであれば,運転時の道路標識なのか,駅の運賃表なのか,テレビの画面なのか,ゴルフのボールの行き先なのか.近方視力の不満については,読書であれば活字の大きさはどれくらいなのか,新聞を読むときか文庫本を読むときか,やや中間距離の楽譜なのか,調理時のまな板上の作業なのか,裁縫なのか,などなどをしっかり聞くことが重要で,この話を通じて患者の仕事や趣味についても同時に把握していくことができる.また「術前に見づらくて不満であるもの」は「術後に見えたら嬉しいもの」ということにもなるので,術後満足度を上げるためのヒントにもなる.患者の悩みを改善することが手術の目的である以上は,それを知ってから術前の説明を始めることになる.(71)●連載⑦多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子7.多焦点眼内レンズ術前説明のポイント大木孝太郎大木眼科多焦点眼内レンズが患者の望む術後生活に合致した場合の満足度は非常に高いが,コントラスト感度低下などの弱点が術後生活に悪影響を及ぼす場合に問題になる.患者のライフスタイルが多様化している現在では,術前に1対1で患者と話し合い,患者の望んでいる見え方を探りだすことが術前説明のスタートになる.表1多焦点眼内レンズ術前説明のポイント1.術前の見え方に対する不満や悩みの抽出1)具体的な見えにくい悩みごと2)見えにくい距離2.1と並行して特に眼を使う仕事や趣味の有無3.自動車の運転(夜間運転の頻度)4.自転車の運転5.眼鏡の使用状況1)常用2)近方のみ使用3)遠方のみ使用(近方は外して見る)4)術後も眼鏡は使用できる5)できれば術後は使用機会を減らしたい6.1.5の患者背景と多焦点眼内レンズとのマッチング1)多焦点眼内レンズが悩みの解消に有効か2)眼鏡使用機会を減らす希望が強いか3)多焦点眼内レンズの欠点が術後生活へ影響しないか4)自己負担額について7.多焦点眼内レンズの使用が決定した場合1)遠近両用レンズであることの理解932あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010●「その患者に多焦点眼内レンズが本当に必要か」を考える患者の悩みを聞き出し,その改善を図るうえで,多焦点眼内レンズが有効かどうか,必要かどうかを患者と一緒に話しながら説明していくことが筆者の方法である.また,最初から術後も眼鏡を使用することを容認する患者には,多焦点眼内レンズを無理に勧める必要はまったくない.注意しなければいけないことは,多焦点眼内レンズのほうが単焦点眼内レンズより優秀なレンズであると思い込んでいる患者がいることである.なかには高額だというだけで,より良いレンズと考えてしまう患者もいる.多焦点眼内レンズには回折型ではコントラスト感度の低下,屈折型ではハロー,グレアといった欠点もあることを説明して,その欠点がその患者の術後生活に影響が強いと考えられれば,単焦点レンズを勧めるべきである.たとえば,微細な色の濃淡や配色が重要なデザイナーや写真家にとってはコントラスト感度の低下は職種上容認できる可能性が低く,もし回折型の多焦点眼内レ(72)ンズを挿入した場合は術後不満につながる危険性は非常に高い.これらの場合に単焦点レンズの鮮明な見え方を説明して,レンズ選択はレンズの優劣の問題ではなく,向き不向きの問題であることを説明することが術前説明では非常に重要である.●「どこでも見えるレンズではないこと」を理解してもらう多焦点という言葉からは「多くの焦点,どこでも見えるレンズ」という誤解が生まれやすい.回折型多焦点レンズは,表面の特殊な回折構造によって入射光を遠近2つに振り分ける二焦点レンズである.また,屈折型多焦点レンズは,2つの異なるレンズ度数を同心円状に配置した二焦点レンズである.したがって厳密には,患者には「二焦点レンズ」もしくは「遠近両用レンズ」と説明すべきと筆者は考える.遠近両用レンズという説明からは,どこでも見えるという過剰な期待は生じにくく,中間距離などの見にくい距離があることをあらかじめ理解してもらうことが可能になる.☆☆☆

眼内レンズ:縫着カプセルエキスパンダー

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109290910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめにZinn小帯断裂例に対する超音波水晶体乳化吸引術(PEA)は,術中や術後の合併症も多く難症例の1つとされている.カプセルエキスパンダー1)は,連続円形破.術(CCC)の切開縁と一緒に.赤道部を支えるため.全体の安定化が得られ,水晶体振盪や水晶体亜脱臼のような重度のZinn小帯脆弱例においてもPEAが可能となる2).この場合,エキスパンダーはPEA後に取り外し眼内レンズ(IOL)は強膜に縫着して固定するのが一般的である.PEA後にも支えを失った水晶体.を強膜に固定できれば,通常の白内障手術と同様にIOLは.内に挿入できる.そこで水晶体.を温存できる強膜縫着型のカプセルエキスパンダー(縫着エキスパンダー)を開発した3).本稿では,縫着エキスパンダーの使用法を述べてみたい.●縫着エキスパンダーとは縫着エキスパンダーは,弱彎針(長さ15mm)付きの5-0ポリプロピレン縫合糸(太さ150μm)から成る(図1).糸の先端は1.2mmの長さでU字型に折れ曲がりフック形状となっており,フック先端にはT字型パッド部をもつ.パッド部の幅はエキスパンダーの2mmに対して縫着エキスパンダーでは3.7mmと長くなっており,より広い幅で.赤道部を支える構造になっている.弱彎針を毛様溝に穿刺することにより,.を牽引した本体のエキスパンダーを強膜に固定することができる.縫着エキスパンダーの適応は90°を超えるZinn小帯断裂で断裂部以外のZinn小帯が健常な症例である.断裂範囲に合わせて1本から3本を使用する.(69)●手術方法提示する症例は外傷による180°のZinn小帯断裂で前谷口重雄昭和大学藤が丘リハビリテーション病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎287.縫着カプセルエキスパンダー従来であれば水晶体全摘術と眼内レンズ(IOL)縫着術を施行せざるを得ない180°を超えるZinn小帯断裂症例に対して,カプセルエキスパンダーを用いて超音波水晶体乳化吸引術(PEA)を行った後,縫着型のカプセルエキスパンダー(縫着エキスパンダー)を強膜に留置することにより水晶体.を温存してIOLを.内に固定できる.図1~8縫着エキスパンダーおよび手術方法1:縫着エキスパンダー.2:27ゲージ針を用いてCCCを行う.3:25ゲージ針と弱彎針を瞳孔領で連結する.4:T字のパッド部を前房内に挿入する.5:フック部をCCC縁にかける.6,7:オプテンプRで先端を扁平にする.8:術後13カ月の前眼部写真.…………….房内への硝子体脱出を認めた.手術は2%テトラカインにて点眼麻酔後,前房をヒーロンVRで置換し27ゲージの注射針を用いてCCCを行った(図2).断裂部に合わせて4時と8時方向の角膜輪部に作製したサイドポートからエキスパンダーを装着してPEAを施行した.PEA後,前房をヒーロンVRで満たしエキスパンダーは取り外した.つぎにTenon.下麻酔後,4時と8時方向に縫着エキスパンダーを使用して.を強膜に固定した.角膜輪部を基底とする強膜フラップを作製し,フラップ下で輪部から1.5mm離れてガイド用の25ゲージ針を毛様溝に向け刺入し,虹彩裏面と前.との隙間を通り前房内へと針先を進めた.対側のサイドポートから縫着エキスパンダーの弱彎針を前房内に挿入し,瞳孔領で25ゲージ針に連結した後(図3),強膜外に弱彎針を引き出した.サイドポートの外にあるフック部分はT字のパッド部から創口に差し込み,折り畳むようにして前房内に挿入した(図4).弱彎針を引いてフック部をCCC縁にかけて.を牽引した後(図5),外側の5-0糸は強膜側に5.6mm残して弱彎針から切り離した.強膜フラップ下での縫着エキスパンダー(5-0糸)の固定であるが,まず鑷子で5-0糸を引いて,前.縁がフックで十分に引かれていることを確認した.この引かれている位置を保った状態で強膜から露出した5-0糸の根元を鑷子で把持し先端を1.5mm残して切断した.先端は眼科医療用焼灼器(オプテンプR)を用いて丸く扁平にした(図6,7).IOLを.内に挿入し,前房内に脱出している硝子体を硝子体カッターで切除した.10-0プロリン糸Rによる強膜フラップの縫合,8-0バイクリル糸Rによる結膜縫合を行い終了した.つぎに術中の注意点について述べてみたい.強膜フラップ下で25ゲージ針を毛様溝に向けて刺入する際,針先を倒して虹彩の裏側に向けて進める.こうすると縫着エキスパンダーも虹彩のすぐ裏側に固定される.25ゲージ針の針先が立っていて強膜に直角に刺入するとフック先端が硝子体側に傾きやすいので注意する.縫着エキスパンダーは単純なフック構造であるため強膜への固定には工夫が必要である.当初の症例ではバラッケ持針器で強く把持して作製した膨大部を10-0糸で絡めて強膜に固定していた.先端を短くしても立ったように残っていると,長期経過で強膜フラップや結膜を破って露出してしまう可能性ある.そこで最近ではオプテンプRで先端を硝子体手術時に使用する強膜プラグのように扁平な形状にして固定している.強膜フラップはIOL縫着術のときよりも大きく,フラップを厚く作製する.図8は180°Zinn小帯断裂の術後13カ月の前眼部写真である(術中写真とは別の症例).矯正視力は1.2で,IOLの偏位,振盪はなく,経過中に眼圧上昇,硝子体出血,前房炎症なども認めていない.縫着エキスパンダーの固定部は強膜と結膜でよく被われていた.おわりに縫着エキスパンダーは眼科領域で使用する針付き5-0ポリプロピレン糸(水晶体.縫着針)として2010年4月に認可されている.しかし手術手技は煩雑であり長期経過については不明な点も多い.臨床使用に当たっては,豚眼による模擬手術を行って手技を習得し,当該施設倫理委員会の審議を受け,患者に十分なインフォームド・コンセントを行う必要がある.長期予後を観察し,合併症が生じた場合には適切な処置を迅速に行うことが重要である.文献1)谷口重雄:カプセルエキスパンダー.IOL&RS18:82-83,20042)浅野泰彦,谷口重雄,西村栄一ほか:水晶体の動揺・亜脱臼を認める重度Zinn小帯脆弱症例に対する超音波水晶体乳化吸引術.臨眼63:1441-1445,20093)谷口重雄,西村栄一,浅野泰彦ほか:水晶体亜脱臼に対する水晶体.を強膜に縫着固定するフックの試作.臨眼63:881-885,2009

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 ワンデーアキュビュー®トゥルーアイTM

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109270910-1810/10/\100/頁/JCOPY●眼表面への影響の軽減をめざしてジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社のワンデーアキュビューRトゥルーアイTMは世界で初めてのシリコーンハイドロゲル素材の毎日使い捨てのレンズである(図1).海外でのシリコーンハイドロゲルレンズ(SiHCL)の開発のきっかけは,エキシマレーザーによる近視矯正手術が普及しはじめ,それに対抗できる1カ月間連続装用CLの開発が目的であった.1987年,筆者がボストンに留学していた頃に,ボシュロム社のアメリカ本社に招かれ,SiHCLの可能性について相談された.1980年頃,日本でハイシリックというシリコンラバーCLが固着して角膜潰瘍を頻発した失敗をくり返さないためにどのようにしたらよいかということであった.その後,ボシュロム社やチバビジョン社では,シリコーンレンズの欠点を改善するために,1)疎水性の改善として,親水性素材との重合を行い,2)不透明性の改善として,シリコーンとアクリレートの重合材を使用し,3)汚れの付着と水濡れ性の改善として表面加工の改善などを行った.このように,ボシュロム社やチバビジョン社は,安全な1カ月間連続装用CLを目標に開発してきたが,日本の眼科医は連続装用を好まず,SiHCLも終日装用が主流である.ジョンソン・エンド・ジョンソン社のSiHCLは,連続装用を目指したコンセプトと異なり,シリコーン含有量をやや少なくして,レンズが軟らかく装用感の向上を優先した.また,保湿剤のHYDRACLEARを含有させて保湿効果を高めている(図2~4,表1).(67)また,同社の他のCLと同様に,紫外線カット(紫外線B波約99%カット,紫外線A波約97%カット)の機能がある.渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法313.ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM図1ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMの外箱モジュラス(弾性係数)1.51.00.500.660.430.721.001.501.52ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMシリコーンハイドロゲル製品Aシリコーンハイドロゲル製品Bシリコーンハイドロゲル製品CアキュビューRアドバンスRアキュビューRオアシスTM図3弾性係数の比較最近のSiHCLは眼表面の機械的刺激を軽減するために素材は柔軟になってきている.(出典:Johnson&JohnsonVisionCare,Inc.データより)1009080706050403020100020406080100120140160180酸素流量率*(%)(裸眼の状態を100%とした場合)Dk/LDk/L:×10-9(cm・mLO2/sec・mL・mmHg)測定条件35℃(-3.00の場合)*AModelofOxygenFlux:Brennan2001(開瞼時)に基づく/レンズ中心部における測定.「酸素流量率」とは,コンタクトレンズ装用時に角膜に届く酸素の量/裸眼時に角膜に届く酸素の量を示す.97%98%98%98%98%99%一般的なソフトコンタクトレンズ「シリコーンハイドロゲルレンズB」「ワンデーアキュビュートゥルーアイ」「シリコーンハイドロゲルレンズC」「アキュビューオアシス」「シリコーンハイドロゲルレンズA」「アキュビーアドバンス」図2酸素流量率の比較オアシスTMのほうがDk/L値は高いが,裸眼開瞼時のトゥルーアイTMは裸眼開瞼時の98%の酸素量を角膜に供給する.928あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(00)ハードレンズよりも高い酸素透過性とソフトレンズの装用感の良さの両方を備えたSiHCLは,頻回交換ソフトCLではすでに主流になってきている.毎日使い捨ての分野でもシェアを拡大するのは当然のことと考える.●毎日捨てるというメリット2009年の12月の消毒液の有効性についての報道はいろいろな波紋を広げた.アカントアメーバに対してマルチパーパスソリューション(MPS)は消毒力が弱いという報告であったが,消毒力が強いMPSを使用すると角膜上皮細胞を障害することがある.消毒力と細胞毒性の軽減の2つを天秤にかけなくてはならない.毎日使い捨てにすれば消毒液は必要がなく,これらの問題からは解放される.ほかに,ケアによる汚染のリスクが少ない,レンズケースからの汚染が少ない,蛋白質や脂質の付着が少ないなどがある.●処方のコツ前述のように,現在ある素材のなかでは最も理想的なものを毎日使い捨てにするため,単焦点レンズのソフトCLのなかでは患者に最も勧めたいCLである.ひとつ,処方のコツがある.SiHCLは滑りやすいので,脱着時にはずしにくいという訴えが出ることがある.トライアルレンズを渡す際には,「滑りやすいレンズですから,はずす時はゆっくりと(スローモーションで)はずしてください.」と説明しておくことである.それでもはずしにくい場合は,「上方を向き,下方の白目(球結膜)までずらして,そこでつまんではずすと必ずはずれます.」と説明する.また,SiHCLは,蛋白質の汚れは付着しにくいが,脂質の汚れは取れにくい.化粧品がSiHCLについて見えにくいという訴えが多いが,化粧をする前にCLを装着することを勧めることも必要である.表1ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMの性状素材NarafilconA含水率46%ベースカーブ(mm)9.0/8.5直径(mm)14.2度数範囲.0.50~.12.00/+0.50~+5.00中心厚(@.3.00D;mm)0.085Dk*100Dk/L**118弾性率(Mpa)0.66装用法1日使い捨て(DW)表裏マーク1-2-3UVカット紫外線B波を約99%,紫外線A波を約96%カット着色あり(ブルー)*×10.11(cm2/sec)・(mLO2/mL・mmHg).**×10.9(cm・mLO2/sec・mL・mmHg).独自のシリコーンポリマー親水性高分子(うるおい成分)〈レンズ内部の拡大図〉(イメージ図)本来疎水性のシリコーン素材に親水性高分子を組み込むことに成功しました.レンズ全体に組み込まれた親水性高分子が水分を引き寄せ,優れた水濡れ性となめらかさを実現します.図4高い親水性(HYDRACLEAR)の開発親水性を高くするために親水性高分子PVP(ポリビニルピロリドン)を組み込み,レンズの親水性と潤滑性を向上させた.

写真:再発性角膜上皮びらん

2010年7月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.7,20109250910-1810/10/\100/頁/JCOPY(65)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦314.再発性角膜上皮びらん内野裕一東京電力病院眼科図1角膜上皮びらん(通常写真)5歳,男児.輪部近くの角膜上皮が.離し,一部欠損している.欠損部位の周囲は楕円状に上皮が浮き上がっている.図3図1と同一症例のフルオレセイン染色写真上皮びらんは均一に強くフルオレセインで染色され,上皮接着不良の範囲まで染色がはじかれている.図4図1と同一症例に対するanteriorstoromalpunctateの写真26ゲージ針などの注射針の先を白内障手術時のシストトームのごとく曲げてpunctateする.①③②(輪部)図2図1のシェーマ①:角膜上皮びらん,②:めくれ上がった角膜上皮,③:上皮が浮き上がっている.角膜上皮びらん部位よりも瞳孔側に向かって上皮が浮き上がっている.本来びらん部位にあったと思われる上皮がめくれ上がっている.926あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(00)再発性角膜上皮びらん(recurrentcornealerosion)(図1)は角膜上皮.離を数週から数カ月間隔でくり返し発症する疾患である.上皮.離を起こす病因は角膜上皮と基底膜の接着異常にあり,そのような病態に至る原因には,外傷の既往,糖尿病,角膜上皮基底膜変性症,特発性で原因不明のものなど多岐にわたる.発症は突然で激烈な痛みを伴い,夜間や起床時に多いため,患者は大きな不安を抱えて受診する.原因の種類によらず,本症には共通する典型的な臨床所見があるので,問診および診察時にその特徴を見落とさない限り,診断自体は容易である.特徴の第一として「発症をくり返している」という既往があり,約2週間から数カ月程度の間隔で発症していることが多い.第二に「夜間・起床時の発症が多い」ことである.これは睡眠中に涙液分泌量が低下して角膜表面が乾燥状態のまま上眼瞼の結膜側に密着しているところを,起床時の瞬目による物理的刺激が加わることで角膜上皮.離を起こすと考えられている.第三に「均一な角膜上皮欠損所見」があげられる.フルオレセイン染色で角膜上皮を診察すると,上皮欠損部は均一に染まり,びらんの範囲がはっきりとわかる(図3).この疾患の病態は角膜上皮基底細胞と基底膜の接着異常であるため,実際の角膜上皮欠損部よりも周辺の角膜上皮が浮いていることも多く,実際の上皮欠損の面積よりも広い範囲で接着異常が起きていると考えられる.発症直後の処置としては,完全に.離した浮腫状の上皮は再接着させるのが困難なことが多いため,点眼麻酔下で鑷子などを用いて余分な上皮を除去する.その際には自分の意図した以上に上皮が.離していくので,必要最小限に留めるよう注意する.上皮びらんの感染予防のために抗菌薬の点眼や眼軟膏の点入を行い,疼痛管理として圧迫眼帯か1週間連続装用ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用させる.特にSCLの場合はバンテージ効果により劇的に痛みを抑えることができ,また上皮欠損周囲のわずかに浮きあがった上皮も再接着を促すことができる.ただし,治療目的のSCL使用の際には角膜が易感染性の状態であることを常に念頭におき,抗菌薬点眼の併用と頻繁な外来診療でのチェックを心がけ,SCLの水濡れ性を確保するために,眼軟膏は併用しないようにする.角膜びらんの部分が上皮化しても,再度発症させないよう患者に指導するのも重要である.就寝前の眼軟膏の点入により上眼瞼結膜と角膜上皮との瞬目による物理的刺激を減少させ,毎朝起床時における人工涙液やヒアルロン酸含有点眼を習慣化させることで,角膜表面が最も乾燥状態になる起床時の影響を最小限とすることができる.上記の再発予防を徹底しても上皮びらんをくり返し発症する患者も多くいるため,さらなる治療法として手術的治療法も把握していたほうがよい.まず外来スリットランプ下でも対応可能な処置として,角膜表層穿刺(anteriorstromalpuncture:ASP)がある1)(図4).これは26ゲージ針などの注射針の先を白内障手術時のチストトームのごとく曲げて,接着不良になりやすい上皮ごと実質内へ約1/4から1/3まで穿刺する方法である.穿刺部の瘢痕化から上皮.離再発を予防する効果があるが,瘢痕部が淡く混濁として残ることもあるので,瞳孔領の範囲には施行しないほうが無難である.上記治療に奏効しない広範囲に及ぶ角膜上皮接着不良の場合にはエキシマレーザーを用いた治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutickeratectomy:PTK)がある2).ただし,角膜屈折値が遠視化したり,角膜変性症がある場合には再発のリスクがあることに留意する必要がある.文献1)McleanEN,MacRaeSM,RichLF:Recurrenterosion.Treatmentbyanteriorstromalpuncture.Ophthalmology93:784-788,19862)JainS,AustinDJ:Phototherapeutickeratectomyfortreatmentofrecurrentcornealerosion.JCataractRefractSurg25:1610-1614,1999