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白内障術後遅発性眼内炎初診時における前眼部所見

2011年3月31日 木曜日

406(98あ)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):406.410,2011c〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,MD.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincho,Kumamoto,Kumamoto860-0027,JAPAN白内障術後遅発性眼内炎初診時における前眼部所見佐々木香る*1刑部安弘*2中村真樹*3園山裕子*1佐藤智樹*4川崎勉*1出田隆一*1*1出田眼科病院*2東京医科大学分子病理学*3東邦大学生物学*4佐藤眼科CharacteristicsofSlitLampExaminationinDelayedOnsetPostoperativeEndophthalmitisatFirstReferencetoHospitalKaoruAraki-Sasaki1),YasuhiroOsakabe2),MasakiNakamura3),HirokoSonoyama1),TomokiSatoh4),TsutomuKawasaki1)andRyuichiIdeta1)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofPathology,TokyoMedicalUniversity,3)DepartmentofBiology,TohoUniversity,4)SatohEyeClinic目的:遅発性術後眼内炎において,診断の補助とすべく,初診時前眼部所見の出現頻度を急性と比較してレトロスペクティブに検討した.対象および方法:出田眼科病院にて平成18~22年に術後眼内炎と診断された症例のうち,専門医の判断の下に硝子体手術もしくは抗菌薬の硝子体内注射を施行された16例16眼(男性8例,女性8例,平均年齢69.7歳)を対象とした.初診時における写真とカルテ記載事項をもとに検討した.結果:眼内採取物から菌が検出されたのは16眼中7眼であった.初診時所見は,急性眼内炎(平均術後5.3日発症)8眼では,豚脂様角膜後面沈着物(mf-KP)0眼,前房蓄膿5眼,フィブリン析出8眼であった.一方,遅発性眼内炎(平均術後4.3カ月発症)8眼では,mf-KP7眼(80%),前房蓄膿3眼,フィブリン析出3眼であった.また,眼内レンズと前.の間に白色プラークを認めたものは7眼(80%)であり,実験的に調整した菌液に浸漬した前.の所見と酷似していた.考按:遅発性術後眼内炎の初診時前眼部所見として,mf-KPや白色プラークは,フィブリン析出や前房蓄膿に比して,より初期により高率(約80%)に認められる.Purpose:Fordiagnosisofdelayedonsetpostoperativeendophthalmitis,weretrospectivelycomparedthecharacteristicsofslitlampobservationbetweendelayedonsetandacuteonsetpostoperativeendophthalmitis.MaterialsandMethods:Subjectsofthisstudycomprised16eyesof16cases(8male,8female,averageage:69.7yrs)diagnosedwithpostoperativeendophthalmitisbyophthalmicspecialistsatIdetaEyeHospitalfrom2008to2010.Thesecasesweretreatedbyantibioticintravitreousinjection,withorwithoutvitrectomy.Additionally,indelayedonsetendophthalmitis,casestreatedbyantibioticintravenousinjectionwererecruited.Photographsofslitlampexaminationsanddescriptionsofmedicalrecordswerereferredtoforanalysis.Result:Thecausativebacteriawasidentifiedin7ofthe16eyes.Intheacuteonsetpostoperativeendophthalmitiscases(8eyes),whichoccurredonanaverageof5.3daysaftersurgery,muttonfatkeratoprecipitate(mf-KP)wasobservedin0cases,hypopyonin5casesandfibrinmembranein8cases.Ontheotherhand,inthedelayedonsetpostoperativeendophthalmitiscases(8eyes),whichoccurredonanaverageof4monthsaftersurgery,mf-KPwasobservedin7cases(80%),hypopyonin3casesandfibrinmembranein3cases.Whiteplaquebetweenintraocularlensandanteriorcapsulewasobservedin7cases(80%)andwassimilarinappearancetodepositiononacapsulesoakedexperimentallyinbacterialsolution.Conclusion:Ascharacteristicsoftheanteriorsegmentoftheeyeindelayedonsetpostoperativeendophthalmitis,mf-KPandwhiteplaquecanbeobservedathigherpercentages(80%)andearlierthanhypopyonandfibrinmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):406.410,2011〕Keywords:術後眼内炎,遅発性眼内炎,Propionibacteriumacnes,白色プラーク,豚脂様角膜後面沈着物(mf-KP).postoperativeendophthalmitis,delayedonsetendophthalmitis,Propionibacteriumacnes,whiteplaque,muttonfatkeratoprecipitate(mf-KP).(99)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011407はじめに白内障術後眼内炎(以下,術後眼内炎)の治療には,迅速な臨床診断が不可欠である.従来から術後眼内炎を疑う前眼部所見として,前房内炎症を伴う充血,前房蓄膿,豚脂様角膜後面沈着物(mf-KP),フィブリン析出が知られている1).しかし,元来頻度の少ない疾患であることに加え,術者にとっては遭遇したくない疾患でもあり,迅速な判断ができず診断に躊躇することもある.特に,遅発性眼内炎については1990年代に話題となり多くの報告がなされ,その特徴が報告されている2~17)が,まとまった報告が少ない.また認識が広まった今日では議論される場も少なくなった.しかし,現在でも疾患の発現頻度には変わりがなく,実際の臨床現場では依然としてその診断に躊躇することが多いと思われる.近年,改めてその前眼部所見,特にmf-KPの意義について,感染の活動性を表すものとして提案する報告もなされており17),30年ほど経過した今,遅発性の前眼部所見の出現頻度を明らかにして特徴を数値化して提示することは有用と考えた.そこで,今回,遅発性眼内炎の初診時前眼部所見の出現頻度を急性と比較してレトロスペクティブに検討した.I対象および方法1.前眼部所見の観察出田眼科病院(以下,当科)にて平成18~22年に術後眼内炎と診断された症例のうち,専門医の判断の下に硝子体手術もしくは抗菌薬の硝子体内注射を施行された16例16眼(男性8眼,女性8眼,平均年齢69.7歳)を対象とした.文献に従って手術から発症までの期間で1カ月を境に急性と遅発性に分けた1).遅発性に関しては,ステロイド抵抗性であること,ぶどう膜炎の既往および関連全身疾患の既往がないこととし,上記の外科的加療症例以外に,抗菌薬点滴加療を行った症例も加えた.初診時における写真とカルテ記載事項をもとに,mf-KP,白色プラーク,前房蓄膿,フィブリン析出の有無について検討した.2.実験的白色プラークの観察患者の同意を得たうえで,白内障手術時に前.を無菌的に採取した.15mlconicaltube内に調整したコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(5ml生理食塩水に1コロニー接種)の菌液に浸漬し,37℃で7日間培養した.コントロールとして生理食塩水に同様に浸漬した.細隙顕微鏡にて患者の白色プラークを観察する際と同じ倍率(×16)にて観察し,写真撮影をした.同様の観察を3回くり返した.3.前房水polymerasechainreaction(PCR)前房水を標品としてNested-PCRを行い,16SrRNA遺伝子断片を増幅した.反応には,DNApolymerase(KODFX:東洋紡)を使用し,以下のプライマーを用いた.1stPCRでは細菌汎用プライマー(Forward:5¢-ACTCCTACGGGAGGCAGCAGT-3¢,Reverse:5¢-GTGACGGGCGGTGTGTACAAG-3¢),2ndPCRではPropionibacteriumacnes特異的プライマー(Forward:5¢-GGGTTGTAA(A/T)CCGCTTTCGCCTG-3¢とReverse:5¢-GGGACACCCATCTCTGAGCAC-3¢)を用いた.反応条件は,98℃2分間ののち,98℃10秒間,50℃30秒間,68℃60秒間を30サイクルで増幅した.1stPCRの鋳型には50℃12時間のプロテイナーゼK処理後の前房水1μlを,2ndPCRの鋳型には1stPCR増幅反応液の1/1,000希釈液1μlを用いた.増幅された断片のシークエンス(484塩基)をBLAST(basiclocalalignmentsearchtool)検索により同定した.II結果遅発性8眼では発症は術後平均4カ月(1~8カ月),急性8眼では発症は術後平均5.4日であった.検出菌は遅発性でPropionibacteriumacnes3眼,CNS1眼,前房水採取にて陰性が2眼,未施行が2眼であった.また急性ではStaphylococcussp.3眼,未施行5眼であった.以下に代表症例として遅発性2例と急性1例を示す.〔遅発性症例1〕73歳,女性.既往歴:他院にて2006年3月29日に左眼超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.術3カ月後に霧視を自覚した.抗菌薬とステロイドの局所投与にて軽快せず,同年8月24日に前部硝子体切除を施行されるも炎症が再燃し,同年12月4日に当科紹介となる.全身疾患としては糖尿病および高血圧を認めた.初診時所見:細隙灯顕微鏡所見を図1aに示す.前房炎症とともに軽度充血を認めた.角膜下方全面にmf-KPを,水晶体.には白色プラークを認めた.前房蓄膿は初診時認められなかったが,4日後受診時に軽度出現した.フィブリンの析出は認めなかった.眼底所見としては糖尿病による軽度網膜出血および白斑を認めた.経過:硝子体茎切除術,眼内レンズ摘出術および抗菌薬(セフタジジム,塩酸バンコマイシン)硝子体内注射にて消炎を得た.手術時,採取された水晶体.は,好気培養では陰性であったが,嫌気培養にてP.acnesが検出された.〔遅発性症例2〕75歳,女性.既往歴:他院にて平成22年3月4日,左眼超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.術後経過は良好であったが,同年3月22日に霧視を自覚した.抗菌薬とステロイドの局所投与にて軽快せず,4月3日に当科紹介となる.全身疾患の既往はなかった.初診時所見:細隙灯顕微鏡所見は図1bのとおりであった.前房炎症とともに軽度充血を認めた.角膜下方全面にmf-KPを,水晶体.には白色プラークを認めた.前房蓄膿は認408あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(100)められなかったが,4日後受診時にフィブリンの析出を認めた.眼底所見としては軽度硝子体混濁を認めた.経過:抗菌薬(セフタジジム,塩酸バンコマイシン)硝子体内注射および灌流下に前房および水晶体.洗浄を施行し,消炎を得た.手術時,採取された前房水のPCRにてP.acnesが検出された.〔急性症例〕70歳,女性.既往歴:硝子体出血にて2008年10月1日に右眼硝子体茎切除術および超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.術翌日は特に異常所見を認めなかったが,術後2日目に高度のフィブリン析出を認めた.高血圧にて内服中であった.初診時所見:細隙灯顕微鏡所見は図2のとおりであった.高度の毛様充血を認め,高度フィブリン析出とともに前房蓄膿を認めた.mf-KPは認められず,高度前房内炎症のため,水晶体.における白色プラークの有無は観察不能であった.また眼底所見は観察困難であったが,網膜出血および白斑を観察することができた.経過:2008年10月3日に抗菌薬(セフタジジム,塩酸バンコマイシン)硝子体内注射および灌流下に前房洗浄を施行し,消炎を得た.手術時,採取された硝子体液の培養にてStaphylococcussp.が検出された.遅発性と急性の前眼部所見出現頻度についてまとめたものを表1に示す.遅発性ではmf-KPが7眼(80%)に認められ,白色プラークも7眼(80%)の症例でカルテに陽性所見が記載されていた.mf-KPと白色プラークは急性では認められなかった.一方,初診時における前房蓄膿やフィブリン析出は,急性で各々63%,100%と多く認められたのに対して,遅発性ではいずれも3眼(38%)と低い頻度であった.実験的白色プラークCNS菌液に浸漬した前.を細隙灯顕微鏡で観察したところ,同倍率で観察した実際の眼内炎患者の白色プラークに形状の類似した白色沈着物を認めた(図3).III考按今回の結果から,遅発性の前眼部所見として,mf-KPおよび白色プラークは,前房蓄膿やフィブリン析出に先行して,非常に高率(80%)に認められることが明らかとなった.ab図1遅発性眼内炎の前眼部所見a:遅発性代表症例1の前眼部所見.角膜下方に大きな豚脂様角膜後面沈着物を認める.b:遅発性代表症例2の前眼部所見.同じく豚脂様角膜後面沈着物を認める.表1急性と遅発性眼内炎の初診時前眼部所見の発現頻度遅発性(8眼)急性(8眼)豚脂様角膜後面沈着物7眼(88%)0眼(0%)前房蓄膿3眼(38%)5眼(63%)フィブリン析出3眼(38%)8眼(100%)白色プラーク6眼で記載あり(75%)図2急性代表症例の前眼部所見フィブリンの高度析出と前房蓄膿を認めるが,角膜後面沈着物は認めない.(101)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011409なかには特に大きなmf-KPを認めた症例もあり,眼内炎の活動性を示唆するものと思われた.mf-KPを認めなかった1例ではやや小さめの色素性角膜後面沈着物を認めており,検出菌はCNSであった.症例数が少ないので,明らかではないが,従来の報告18)からmf-KPはアジュバント作用のあるP.acnesによる眼内炎で,特異的であった可能性がある.文献的にはActinomycesによる眼内炎もP.acnes同様に遅発性で大きなmf-KPを生じるとされている19).今回の症例ではActinomycesは検出されなかったが,P.acnesと同様に弱毒菌であり,長期に存在する菌では同様の免疫反応を惹起する可能性があると思われる.mf-KPをみた場合,まず肉芽腫性のぶどう膜炎を考えるのが一般的ではあるが,眼内レンズ挿入眼では遅発性眼内炎も可能性の一つであることも頭の隅に置いておくべきだと思われる.白色プラークはすでにバイオフィルムを伴った細菌コロニーであることが電子顕微鏡で確認されている20)が,今回の実験的プラークもその形状が非常に類似していることが確認された.遅発性眼内炎では,この白色プラークの出現頻度も高率であることから,mf-KPを認めた際は,続いて白色プラークの確認を行うことが診断補助となると考えられた.今回の検討で問題となるのは,全例において菌の検出ができていないことである.しかし,術後眼内炎そのものの症例数が少ないこともあり,術後眼内炎として報告されている既報をみても必ずしも菌は検出されていない.本結果を裏付けするために,P.acnesが分離されている既報2~16)における前眼部所見を表2にまとめた.その結果,ほぼ同様に,mf-KPは80%,前房蓄膿は34%,白色プラークは80%との記載がab図379歳,男性.遅発性眼内炎の症例a:矢印は水晶体前.裏面に沈着した白色プラーク.観察倍率×16.b:CNS菌液に浸漬して37℃7日間培養した前.を細隙灯顕微鏡で観察したもの.aの白色プラークに類似した白色の小沈着物が集合して認められる(矢印).観察倍率×16.表2P.acnesによる遅発性眼内炎の前眼部所見―既報のまとめ―報告者報告年発症(術後)mf-KP前房蓄膿西ら2)19899M○遅れて+萩原ら3)19892Mベタ注○小泉ら4)19921~6M○村尾ら5)19921M○遅れて+中井ら6)19954M○○粟田ら7)19955M○○岩瀬ら8)19963M○遅れて+田辺ら9)199911M○Jaffeら10)19867M○○Meislerら11)19866M3M○3M○3M○Piestら12)198714M○遅れて+10M○遅れて+4M○16M○Rousselら13)19874M○2.5M○遅れて+Carlsonら14)1988不明○○Al-Mezaineら16)20095M○○9M○4M○2M○5M○8M○2M○○ベタ注:ベタメタゾン結膜下注射により消失.410あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(102)あり,筆者らの結果は妥当であると思われた.より早期の所見として,虹彩反応としての瞳孔径の変化や,内皮反応としての角膜厚の変化などが出る可能性もあると思われるが,手術手技による影響を受けやすく,実際の臨床の場では,患者が異常を訴えて来院する際の初診時前眼部所見が重要だと思われる.以上,白内障術後遅発性眼内炎における初診時前眼部所見について検討した.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起因菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)西佳代,西興史,AppleDJほか:水晶体.外摘出術後に見られたPropionibacteriumacnesと表皮ぶどう球菌感染による限局性眼内炎の1例.臨眼42:931-935,19883)萩原博実,今井正之,野近裕美子ほか:後房レンズ移植後に発生した持続眼内炎の3例.眼紀40:1734-1739,19894)小泉閑,井戸雅子,川崎茂ほか:眼内レンズ挿入後の感染性眼内炎.臨眼46:846-847,19925)村尾多鶴,井上博,小山内卓哉ほか:後房レンズ移植後に発生した遅発性眼内炎の2例.眼臨86:2433-2437,19926)中井義秀,北大路浩史,北大路勢津子ほか:眼内レンズ術後細菌性眼内炎3例について.眼紀46:619-623,19957)粟田正幸,田中香純,秦野寛ほか:白内障術後Propionibacteriumacnes眼内炎の1例.あたらしい眼科12:649-651,19958)岩瀬剛,柳田隆,山下陽子ほか:眼内レンズ挿入術後に発症したPropionibacteriumacnesによる遅発性眼内炎の1例.臨眼50:1669-1674,19969)田辺直樹,伊藤逸毅,堀尾直市ほか:Propionibacteriumacnesによる白内障術後眼内炎の1例.眼臨93:1652-1655,199910)JaffeGJ,WhitcherJP,BiswellRetal:Propionibacteriumacnesendophthalmitissevenmonthsafterextracapsularcataractextractionandintraocularlensimplantation.OphthalmicSurg17:791-793,198611)MeislerDM,PalestineAG,VastineDWetal:ChronicPropionibacteriumendophthalmitisafterextracapsularcataractextractionandintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol102:733-739,198612)PiestKL,AppleDJ,KincaidMCetal:Localizedendophthalmitis:Anewlydescribedcauseofthesocalledtoxiclenssyndrome.JCataractRefractSurg13:498-510,198713)RousselTJ,CulbertsonWW,JaffeNS:ChronicpostoperativeendophthalmitisassociatedwithPropionibacteriumacnes.ArchOphthalmol105:1199-1201,198714)CarlsonAN,KochDD:EndophthalmitisfollowingNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.OphthalmicSurg19:168-170,198815)OrmerodLD,PatonBG,HaafJetal:Anaerobicbacterialendophthalmitis.Ophthalmology94:799-808,198716)Al-MezaineHS,Al-AssiriA,Al-RajhiA:Incidence,clinicalfeatures,causativeorganisms,andvisualoutcomesofdelayed-onsetpseudophakicendophthalmitis.EurJOphthalmol19:804-811,200917)RousselT,OlsonER,RiceTetal:ChronicpostoperativeendophthalmitisassociatedwithActinomycesspecies.ArchOphthalmol109:60-62,199118)JaveyG,AlbiniTA,FlynnHW:ResolutionofpigmentedkeraticprecipitatesfollowingtreatmentofpseudophakicendophthalmitiscausedbyPropionibacteriumacnes.OphthalmicSurgLasersImaging9:1-3,201019)MaguireHCJr,CiprianoD:ImmunopotentiationofcellmediatedhypersensitivitybyCorynebacteriumparvum(Propionibacteriumacnes).IntArchAllergyApplImmunol75:34,198320)BusinM,CusumanoA,SpitznasM:Intraocularlensremovalfromeyeswithchroniclo-gradeendophthalmitis.JCataractRefractSurg21:679-684,1995***

爪真菌症の関与を疑ってテルビナフィン内服の併用療法を行った角膜真菌症の1 例

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)401《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):401.405,2011cはじめに爪真菌症はTrichophyton属(白癬菌)によるものが多いが,非白癬菌性もまれに存在する1).非白癬菌によるものでは,原因としてAspergillus属,Fusarium属,Candida属などがあるが,これらの菌種は角膜真菌症の原因菌としてもよく知られた菌種である.爪真菌症の罹患率はわが国ではおよそ10%といわれており2),爪真菌症がリザーバーとなって角膜外傷などで易感染性となった角膜に感染症を生じる可能性も無視できない.しかしながら,爪真菌症が角膜真菌症に関与していることを示唆した報告はほとんどない.今回筆者らは,Aspergillus爪真菌症が関与したと考えられる角膜真菌症を経験し,さらに爪からの真菌分離株の形態学的・遺伝学的同定と薬剤感受性検査からいくつかの知見が得られたので報告する.〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN爪真菌症の関与を疑ってテルビナフィン内服の併用療法を行った角膜真菌症の1例星最智*1戸田祐子*2大塚斎史*3卜部公章*3*1藤枝市立総合病院眼科*2国立病院機構高知病院眼科*3町田病院ACaseofKeratomycosisThoughttobeRelatedtoOnychomycosis,TreatedwithCombinationTherapyofOralTerbinafineSaichiHoshi1),YukoToda2),YoshifumiOhtsuka3)andKimiakiUrabe3)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KochiNationalHospital,3)MachidaHospitalAspergillus爪真菌症が関与すると考えられた角膜真菌症を経験したので報告する.74歳,男性.眼外傷の3日後に国立高知病院眼科を受診した.角膜擦過を行ったところ糸状型真菌が検出されたため,ピマリシンとボリコナゾール点眼およびボリコナゾール全身投与による抗真菌薬治療を開始した.入院治療後,角膜潰瘍はいったん改善したものの徐々に悪化してきたため,町田病院に紹介となった.局所治療ではピマリシンを減量し,ボリコナゾール点眼を集中的に用いた.さらに,問診時に手足の爪真菌症を認めたことからテルビナフィン125mg/日の内服を併用したところ,20日後に角膜真菌症は沈静化した.患者の爪からはAspergillusterreusが分離された.本症例は爪真菌症が感染源となり角膜真菌症を悪化させたと考えられた.テルビナフィン内服の併用が有効と考えられた.WereportacaseofkeratomycosissuspectedofrelationtoAspergillusonychomycosis.Threedaysaftersufferingoculartrauma,a74-year-oldmaleconsultedKochiNationalHospitalforpaininhisrighteye.Topicalpimaricinandvoriconazoleeyedrops,andsystemicvoriconazole,wereinitiatedfollowingdetectionoffilamentousfungiincornealscrapings.Cornealulcerimprovedatthebeginningoftreatment,butgraduallywosened;thepatientwasthereforereferredtoMachidaHospital.Topicalpimaricinwasreducedandtopicalvoriconazolewasadministeredintensively.Oralterbinafine125mg/daywasalsoadministered,incombinationwithoralvoriconazole400mg/day,becauseoftheonychomycosiscomplication.Thekeratomycosisresolved20daysafterthetreatment.Aspergillusterreuswasdetectedfromhisfingernailspecimen.Onychomycosisasaninfectioussourcecouldaggravatekeratomycosis.Combinationtherapywithoralterbinafineshouldbeconsideredasatreatmentforkeratomycosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):401.405,2011〕Keywords:角膜真菌症,爪真菌症,アスペルギルス属,テルビナフィン,ボリコナゾール.ketratomycosis,onychomycosis,Aspergillusspecies,terbinafine,voriconazole.402あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(94)I症例患者:74歳,男性.職業は農業である.主訴:右眼の眼痛.内科既往歴:高血圧とコントロール不良の糖尿病〔Hb(ヘモグロビン)A1C=9.3%〕を認める.眼科既往歴:両眼の増殖糖尿病網膜症と眼内レンズ挿入眼を認める.現病歴:3日前に梨の木の枝による右眼の外傷後,徐々に眼痛が増強したため,2010年1月12日に国立病院機構高知病院眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力は0.15であった.前眼部所見では,右眼耳側の角膜輪部に異物が付着していたため,異物除去後にレボフロキサシンとセフメノキシムによる点眼治療を開始した(図1a).2日後の再診時,前房蓄膿と角膜潰瘍が出現したため,初診時の抗菌点眼薬に加え,エリスロマイシン・コリスチン点眼,トブラマイシン点眼を1時間ごとの点眼とし,セフォゾプラン1g/日の点滴も開始した.しかしながら翌日1月15日の診察では前房蓄膿の改善はなく,角膜裏面に白色の膜様物が出現したため,角膜真菌症を疑って角膜病巣擦過を行ったうえで入院治療を開始することとした(図1b).角膜擦過物のPAS(過ヨウ素酸Schiff)染色では,隔壁のあるやや分枝した菌糸を認めたが分生子は認めなかった(図2a).培養検査は陰性であった.抗真菌治療として,局所は1%ボリコナゾール点眼と5%ピマリシン点眼を1時間ごとに行った.全身はボリコナゾールを初日に体重1kg当たり6mgを1日2回,2日目からは体重1kg当たり3mgを1日2回の点滴とし,1月20日からボリコナゾール400mg/日の内服に切り替えた.抗菌点眼薬は少しずつ減量・中止し1月19日にレボフロキサシン1日4回として他は中止した.抗真菌薬開始2日後,前房蓄膿は消失し,角膜裏面の白色付着物も日ごとに減少した.しかしながら耳側角膜の実質浸潤病巣と角膜上皮欠損に関しては最初はゆっくりと改善してきたものの,やがて遷延化した.抗真菌薬開始10日後の1月25日,虹彩ルベオーシスと高眼圧を認めたため前房洗浄とボリコナゾール前房内投与(0.025%,0.05ml)を施行したが改善はなく,2月4日に角膜実質の浸潤病巣が拡大して2月5日に前房蓄膿が再び出現してきたたabcd図1前眼部所見a:耳側角膜輪部に異物を認める(矢印).b:前房蓄膿と角膜裏面の白色膜様物を認める.c:耳側周辺部と中間周辺部の角膜実質に境界不明瞭な白色浸潤病巣を認める(矢印).d:角膜実質混濁を残して感染症は沈静化している.(95)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011403め,2月5日に町田病院に紹介となった.町田病院の初診時,右眼視力は20cm指数弁(矯正不能)であった.前眼部所見では前房蓄膿を認め,上皮欠損部の角膜実質には浸潤病巣を2カ所認めた(図1c).薬剤性と思われるびまん性の角膜上皮障害も認めた.治療は,角膜擦過で糸状菌が検出されていたことから1%ボリコナゾール点眼を1時間ごとに行う一方,薬剤性角膜障害に対処するため5%ピマリシン点眼から1%ピマリシン眼軟膏に変更し,回数も1日3回に減らした.レボフロキサシン点眼を中止し,モキシフロキサシン点眼を1日4回とした.全身投与は,ボリコナゾール400mg/日の内服を継続した.さらに,町田病院入院時の問診で手足に爪真菌症を認めたため,白癬菌の関与を疑ってテルビナフィン125mg/日の内服を併用した.患者には手指で眼部を触らないように指導した.治療の変更後,2月8日には前房蓄膿は消失し,角膜実質の浸潤病巣も縮小傾向を認めた.さらに,フルオレセイン染色像では上皮欠損部の縮小と薬剤性角膜障害の改善を認めたため,そのままの治療を継続することとした.その後も日ごとに改善を認め,2月20日には2カ所あった角膜浸潤病巣のうち耳側周辺部の病変はほぼ消失し,角膜上皮欠損も消失した.もう1つの角膜浸潤病巣は2月25日の退院時にはほぼ消失した.4月17日の最終受診日の所見は,糖尿病網膜症による黄斑浮腫のため矯正視力は右眼0.03と不良であるものの,角膜は淡い瘢痕を残すのみで真菌症は沈静化している(図1d).爪真菌症を認めたことから,2月10日に国立病院機構高知病院皮膚科に紹介し,第1趾の爪の生検による培養同定と鏡検を依頼したところ,PAS染色にて角膜擦過物の鏡検像と同様の菌糸を認めた(図2b).培養では,PDA(PotatoDextroseAgar)培地に淡い土色のコロニーを形成し,ラクトフェノール・コットンブルー染色による分生子頭の所見からA.terreusと形態学的に同定した(図2c,d).念のため順天堂大学感染制御科学にb-tubulin遺伝子のDNAシークabcd図2真菌コロニーと鏡検像a:角膜擦過物のPAS染色像.隔壁を有する菌糸を認める.b:爪切片のPAS染色像.隔壁を有する菌糸を認める.c:PDA(PotatoDextroseAgar)培地による爪切片の培養.淡い土色のコロニーを認める.d:cのラクトフェノール・コットンブルー染色像.Aspergillusterreusの分生子頭を認める.404あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(96)エンスによる菌種同定を依頼したが,遺伝学的にもA.terreusと同定された.分離されたA.terreusの各種抗真菌薬の感受性検査を微量液体希釈法で行ったところ,最小発育阻止濃度(MIC)は,アムホテリシンBが1μg/ml,ピマリシンが2μg/ml,ボリコナゾールが0.25μg/ml,テルビナフィンが0.06μg/mlであり,ポリエンマクロライド系のアムホテリシンBとピマリシンには低感受性傾向を示した.II考按爪真菌症はわが国では約10%の罹患率といわれており,まれな疾患ではない2).糖尿病患者では爪真菌症の罹患率が高くなるとの報告もある3,4).最近わが国で行われた爪真菌症の分子疫学的研究では,白癬菌が83.0%,Aspergillus属が25.5%,Fusarium属が17.0%,Candida属が8.5%の検出率であり,非白癬菌性のなかでも特にAspergillus属の単独分離症例は10.6%と比較的多かったと報告されている1).白癬菌と異なり,Aspergillus属は環境に生息する真菌である.本症例の爪真菌症が白癬菌によるものではなく,まれなAspergillus属であったのは,農作業を契機として感染した可能性が考えられた.さらに,宿主側の背景としてコントロール不良の糖尿病がリスク因子となったと考えられた.Aspergillus属のヒト臨床分離株はA.fumigatusが多いといわれているが,non-fumigatusAspergillusと総称されるA.flavus,A.niger,A.terreusもしばしば分離される.近年,侵襲性肺アスペルギルス症においてA.terreusの分離率が1996年の1.5%から2001年の15.4%へと増加傾向にあるといわれており5),わが国においてもA.terreusを含めたnon-fumigatusAspergillusの分離率の増加が報告されているため注意が必要である6).Non-fumigatusAspergillusのうちA.terreusはアムホテリシンBに自然耐性傾向があるといわれている.最近のA.terreus臨床分離株の薬剤感受性検査の報告7)では,平均MICは,アムホテリシンBが1.67μg/ml(範囲0.5.8),ボリコナゾールが1.54μg/ml(範囲0.5.4),テルビナフィンが0.28μg/ml(0.06.1)となっており,アムホテリシンBへの低感受性傾向だけでなく,ボリコナゾールにも低感受性傾向を認めている.本症例のA.terreus分離株も,アムホテリシンBとピマリシンのMICはそれぞれ1μg/mlと2μg/mlであり,ポリエンマクロライド系抗真菌薬に低感受性傾向を示していた.このことは,ピマリシンを減量してボリコナゾール点眼を主とした治療に変更した後,短期間で臨床所見が改善した理由の一つになっていると考えられた.爪真菌症の治療は,局所治療の反応が乏しい場合にイトラコナゾール400mg/日のパルス療法やテルビナフィン125mg/日の連続4~6カ月内服療法が行われる8).このうち,テルビナフィンはアリルアミン系抗真菌薬であり,スクアレンエポキシダーゼを阻害することで真菌細胞膜のエルゴステロール含量を低下させ,静真菌的に作用する.さらに,真菌細胞内にスクアレンを蓄積させることで殺真菌的にも作用する9).テルビナフィンの抗真菌スペクトラムは広く,白癬菌,non-fumigatusAspergillus,Pecilomyces属,Penicillium属などに抗真菌作用を示すが,A.fumigatusやFusarium属には感受性が不良といわれている10).眼科での本剤の使用例としては,Pecilomyceslilacinus角膜炎でボリコナゾールとテルビナフィンの併用が有効であったと報告がある11,12).本症例では,爪真菌症の治療のためにテルビナフィンを処方した.ピマリシン減量と同時にテルビナフィン内服を開始したため,その後の改善にどの程度寄与しているかは明確にできない.しかしながら,本症例のA.terreus分離株におけるテルビナフィンのMICが0.06μg/mlと最も優れていたこと,2カ所あった角膜浸潤病巣のうち輪部血管から近い耳側の病巣から先に改善していることなどから,テルビナフィン内服も有効に働いた可能性がある.抗真菌薬を併用する場合,薬剤間相互作用を考慮する必要がある.テルビナフィンのinvitroでの薬剤間相互作用では,アムホテリシンBやボリコナゾールを含めたトリアゾール系抗真菌薬との併用で相乗または相加作用を認めるとする報告13,14)がある一方,アムホテリシンBとの併用で拮抗作用を示すとする報告15)もある.さらに,ピマリシンとの併用で拮抗作用を示すとする報告もある14).本症例において,ピマリシン減量とテルビナフィン内服の追加によって改善が得られた別の理由として,ボリコナゾールとテルビナフィンの併用が相乗または相加的に働いた可能性も考えられる.しかしながら,薬剤間相互作用は菌種や菌株ごとに異なる可能性があるため,症例ごとに注意深い経過観察が必要である.角膜真菌症では重症例や遷延する症例を経験することも多く,抗真菌薬の全身投与を行う機会も多いと考えられる.本症例においては,ボリコナゾールとテルビナフィンの点滴または内服を行っているが,血液検査において肝腎機能障害などの全身副作用を認めず全身投与を継続することが可能であった.ボリコナゾールとテルビナフィンの全身副作用としては肝障害に特に注意が必要である16,17).さらに,ボリコナゾールの全身投与を行う際は一過性視覚障害についても説明しておく必要がある17).テルビナフィンは注射薬がないため,自家調整点眼薬を使用できないが,角膜真菌症に対する0.25%テルビナフィン点眼の有効性を示した報告18)もあり,今後の臨床応用が望まれる.結論としては,本症例はコントロール不良の糖尿病を背景因子として,農作業を契機に手足のAspergillus爪真菌症を発症したと考えられた.角膜真菌症の直接原因は外傷による真菌の接種なのか,爪真菌症からの接種なのかは明確にできないが,抗真菌薬の治療にいったん反応してから悪化してい(97)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011405ることから,爪真菌症からの持続的な眼部への真菌の供給が疑われた.したがって,角膜真菌症では手指の爪真菌症の有無についても確認する必要がある.最終的な治療として,ピマリシンの局所投与を減量してボリコナゾール点眼の効果を増強させたことが有効に働いたと考えられた.さらに,テルビナフィン内服は爪真菌症の治療だけでなく,ボリコナゾールの相乗効果を期待する補助療法としても有効と考えられたが,眼科領域での有用性についてはさらなる検討が必要である.文献1)EbiharaM,MakimuraK,SatoKetal:Moleculardetectionofdermatophytesandnondermatophytesinonychomycosisbynestedpolymerasechainreactionbasedon28SribosomalRNAgenesequences.BrJDermatol161:1038-1044,20092)仲弥,宮川俊一,服部尚子ほか:足白癬・爪白癬の実態と潜在罹患率の大規模疫学調査(FootCheck2007).日本臨床皮膚科医会雑誌26:27-36,20093)MayserP,FreundV,BudihardjaD:Toenailonychomycosisindiabeticpatients:issuesandmanagement.AmJClinDermatol10:211-220,20094)新井達,小中理会,脇田加恵ほか:糖尿病入院患者を対象とした皮膚症状の調査・検討.日本皮膚科学会雑誌119:2359-2364,20095)BaddleyJW,PappasPG,SmithACetal:EpidemiologyofAspergillusterreusatauniversityhospital.JClinMicrobiol41:5525-5529,20036)田代隆良:肺アスペルギルス症の病態と呼吸器検体より分離されるAspergillus属の臨床的意義.日本臨床微生物学雑誌19:67-75,20097)Lass-FlorlC,Alastruey-IzquierdoA,Cuenca-EstrellaMetal:InvitroactivitiesofvariousantifungaldrugsagainstAspergillusterreus:GlobalassessmentusingthemethodologyoftheEuropeancommitteeonantimicrobialsusceptibilitytesting.AntimicrobeAgentsChemother53:794-795,20098)FinchJJ,WarshawEM:Toenailonychomycosis:currentandfuturetreatmentoptions.DermatolTher20:31-46,20079)DarkesMJ,ScottLJ,GoaKL:Terbinafine:areviewofitsuseinonychomycosisinadults.AmJClinDermatol4:39-65,200310)Garcia-EffronG,Gomez-LopezA,MelladoEetal:Invitroactivityofterbinafineagainstmedicallyimportantnon-dermatophytespeciesoffilamentousfungi.JAntimicrobChemother53:1086-1089,200411)AndersonKL,MitraS,SaloutiRetal:FungalkeratitiscausedbyPaecilomyceslilacinusassociatedwitharetainedintracornealhair.Cornea23:516-521,200412)FordJG,AgeeS,GreenhawST:SuccessfulmedicaltreatmentofacaseofPaecilomyceslilacinuskeratitis.Cornea27:1077-1079,200813)RyderNS,LeitnerI:SynergisticinteractionofterbinafinewithtriazolesoramphotericinBagainstAspergillusspecies.MedMycol39:91-95,200114)LiL,WangZ,LiRetal:InvitroevaluationofcombinationantifungalactivityagainstFusariumspeciesisolatedfromoculartissuesofkeratomycosispatients.AmJOphthalmol146:724-728,200815)MosqueraJ,SharpA,MooreCBetal:Invitrointeractionofterbinafinewithitraconazole,fluconazole,amphotericinBand5-flucytosineagainstAspergillusspp.JAntimicrobChemother50:189-194,200216)原田敬之:各種薬剤の副作用とその予防対策─抗真菌剤の副作用とその対策.臨牀と研究83:1274-1280,200617)松浦正樹,戸澤亜紀,石川悦子ほか:添付文書だけではわからない薬の情報─ブイフェンド.薬局7:2496-2504,200618)LiangQF,JinXY,WangXLetal:Effectoftopicalapplicationofterbinafineonfungalkeratitis.ChinMedJ122:1884-1888,2009***

眼研究こぼれ話 15.医学講義について 生徒が先生を“採点”

2011年3月31日 木曜日

(83)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011391医学講義について生徒が先生を“採点”バークレイのカリフォルニア大学動物学教室にイーケン教授という友人がいる.この先生は持っている素質と,若いときに受けた舞台役者としての訓練と経験を生かせて,本式のメンデルになったり,ダーウィンに化けたりして,遺伝学や分化論を講義するのである.服装,舞台装置ばかりでなく,言葉もその昔のものを使うのである.講義にあきあきしている学生も,イーケン教授の話には異常なほどの興味を見せたと聞いている.このような,例外的な名教授はさておき,カレッジ級の学校では,講義をする先生は,学生の興味をとらえるために,色々と努力をしている.全般的な知識を教えねばならない教養課程では,先生の質と技術によって,学生の将来を決定することさえある.教えることは,非常に重要な意義を持っているのである.ところが,医学部の学生となると,勉強の仕方は十分に知っているし,予備知識もふんだんに持っているから,だれでも知っているような教科書的なことを話したのでは,学生が相手にしてくれない.そこで,先生の方が頭痛はち巻となるのである.私はハーバード大学で長い間,教壇に立ち,今も,時間数を減らせはしたが,毎年教えているので,その経験を述べてみたい.ハーバード大学医学部では講堂で行われる本式の講義は,普通毎朝8~9時の1時間だけに限られている.学生数の約5倍いる教職員のなかから,数人の学生が選び出されて講義プログラムが作られ,あとの時間は全部小人数単位のセミナーの形で,方々で個々の学生と交わるようになっている.講堂での講義は現在の新しい考え方,特に教授自身の研究産物を披露するのがしきたりとなっていて,すでに教科書に書いてあることなどを話すと,学生からブーを言われるのである.また,たいへんなことは講義のあと,学生が,先生の点をつけることにもなっている.学期の終わり頃,教育委員会から点数が通知され,自分の講義の科学的なメリットももちろんながら,教え方の態度から,技術にいたるまで,細部にわたって批判を受けるのである.点が悪いと,翌年のプログラム編成の際,お声がかからない.20年以上このようなクラスで学生と付き合っていると,他校で教壇に立ったとき,ひどくとまどうことがある.ワシントン市に,最近の学識水準全米0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑮▲レンズの細胞を体外で培養していると,細胞が集まって小さいレンズようの小体を作ることがある.これは,京都大学・岡田教授の発見である.この写真は,私の研究所で黄博士の観察したレンズ小体(1,000倍).392あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011眼研究こぼれ話(84)ビリより2番目という医学部がある.ここで講義をしたときは,全く壁に向かって話をしているような気がしたことを思い出す.そうして,翌年からは,こちらから招待をお断りした.眼科の専門医となるための資格試験を目指す医者たちの集まる夏季コースがアメリカ全国に2,3ある.普通,高い授業料をとる商業コースである.その一つで,涼しいメイン州の湖畔のカレッジに宿かりをして,150人ばかりの医者が3カ月を過ごすコースがあって,私もそこの教授として,毎年,夏休みを兼ねて行くことにしている.ここでは本当に,ピンからキリまでの学生が集まっていて,専門医試験合格の目的に沿って,箇条書き的な話をパンフレットを追って話して行かねばならない.ここで,うっかりハーバード流の講義をすると,学生の半分はさっさと出て行ってしまう.これも面白くないが,私たちはいい謝礼をもらっているから文句は言えない.講義のあとで,質問に寄って来る学生と,メイン特産のロブスターに舌づつみを打つのである.私の現在働いているNIHは教育機関でないので,学生に対する講義はない.この研究所で歳を重ね,大学での講義をしたことのないような研究者が,黒板の前で,1,2の技術者に向かって高々と講義をしているのを見かける.ハーバードなどでは見られない景色である.少し偉くなると,人に教えたくなる本性の表れかもしれない.私の最近の楽しい思い出は,愛媛大学医学部での講義である.学生たちの輝かしい眼は,ちょうど,ハーバードでのように私を射たのである.昨年,日本を訪れたときの最も楽しいひと時であった.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

インターネットの眼科応用 26.6億人の交流サイト

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113890910-1810/11/\100/頁/JCOPY世界を席巻するFacebookインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.手術,セミナーなどの医療情報も動画として共有することが可能です.さまざまなネットツールが誕生するなか,近年,世界のコミュニケーションインフラとして確立したFacebook(フェイスブック)という交流サイトがあります.Facebookは,Facebook,Inc.の提供する,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)です.ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグが2004年にアメリカ合衆国の大学生向けにサービスを開始しました.公開後,急速にユーザー数を増やし,2010年にサイトのアクセス数がGoogleを抜いたとして話題になりました.2011年現在,世界中に6億人近いユーザーをもつ世界最大のSNSになりました.日本国内のユーザー数は2010年12月現在,約308万人.急速に利用者が増えているとはいえ,主要国のなかでは非常に低い普及率です.世界の人間の約10%が参加する情報の渦がFacebookにあります1).中東における民衆デモの拡大にも大きな役割を果たしました.新しい技術が普及する際の指標として用いられる,「キャズム理論」(GeoffreyMoore,1991)というものがあります.GeofferyMooreによると,ハイテク製品技術においては,新技術が市場に浸透する際には5パターンの採用タイプの間にクラック(断絶)があり,そのなかでも特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間(16%のライン)には「深く大きな溝」があるとし,これをキャズム(Chasm)とよびます(図1).この理論によると,キャズムを超えアーリー・マジョリティに採用されることこそ,新技術が広く普及するためのキーであると説かれています.この理論は,新薬や,新しい医療機器の普及にも当てはまる考え方でしょう.Facebookは,すでに世界102カ国でキャズムを超えています.具体的にいうと,総人口に対する浸透率で16%を超えている国が102カ国あるということです.Facebookがここまで巨大になった理由は,いくつか紹介されていますが,根源的な要素は,「実名登録制」にあります.ネット先進国の米国においても,Facebookの登場以前は,ビジネス利用のLinkedInを除き,My-Spaceなどの匿名性の高いソーシャルネットワークが主流でした.国民性の違いはあるにせよ,実名制に対する(81)インターネットの眼科応用第26章6億人の交流サイト武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ図1キャズム理論①イノベーター(2.5%):技術に惚れて採用するハイテクオタク.②アーリー・アダプター(13.5%):技術ではなく実利面を評価して採用する人々.③アーリー・マジョリティ(34%):先行者の成功事例を確認してから採用する実務者.④レイト・マジョリティ(34%):みんなが使ってから使う慎重な人々.⑤ラガード(16%):ハイテク嫌い.イノベーターアーリーアダプターアーリーマジョリティレイトマジョリティラガード2.5%13.5%34%34%16%390あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011ハードルが高いのは,日本だけでなく多くの国々でも同様です.Facebookには,実名制を支えるさまざまな仕掛けがあります.実名制だからこそ旧知の友人などをすばやく探し出すことができます.つまり,名前で検索し,アイコンやプロフィールで人物特定ができます.これがメール離れを誘発し,Facebookがコミュニケーションインフラとしての地位を築きつつある要因でしょう.米国高校生の間では,2009年12月と2010年12月を比べると,Webメールの利用が59%減となっているのは象徴的な出来事です.実名制を背景に,Facebookは世界のソーシャルグラフ(人間関係図)とコミュニケーションを独占する,圧倒的な支配力をもつサイトとなるでしょう.絶好時のMicrosoftやGoogleに並ぶ,強大な影響力をもつ可能性があります.近々登場するであろうFacebookPhoneは,FacebookのIDが電話番号の代わりになり,Facebookの友人がそのまま電話帳になることが予想されています.つまり電話やメールなどの連絡手段から考えるのではなく,友人を先に選択し,その後に連絡ツールを直感的に選びます.その際,既存の電話番号や携帯アドレスはまったく必要のないものになります2,3).日本の特殊性インターネットとどのように付き合うか,それぞれの国によって国民性がありますが,日本の特殊性を二点あげます.一つは,実名制のSNS,Facebookの普及が進んでいない,という点.もう一つは,携帯電話の有料コンテンツというビジネスモデルが確立している点です.この二つを背景に,日本のインターネットは独自の方向に進化します.システム事業者の立場からすると,携帯電話上に,いかに多くの利用者が集まるヒットコンテンツを作るか,という点に開発資源を集中します.インターネットに関わる日本の頭脳が,携帯電話のコンテンツ作りに向けられています.そのコンテンツの多くは,ゲームに代表される娯楽コンテンツです.世界標準で考えると,娯楽は外貨をよび込むツールですが,日本ではネット産業を潤(82)すツールとなっています.ゲームを通じたコミュニケーションには実名制である必要性はまったくありません.日本独自のインターネットの進化は,ゲーム上でのコミュニケーションを創造しますが,リアルなコミュニケーションを補完し,新たな人的交流を促進する方向に向かいません.世界の潮流とかけ離れていくことを危惧します.規制の多い中国とは別の理由で,情報の鎖国となる可能性をもちます.今後,Facebookが日本で普及するのか,注目されます.そのなかで,私が有志と運営していますMVC-onlineはFacebookと同じく,実名での交流を基本にしている,日本では数少ない交流サイトです.また,会員を医師・歯科医師に限定しています.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続け,臨床現場に還元される世界を,「Medical2.0」と定義しました(第24,25章).MVC-onlineのような,実名で議論ができるインターネット空間を保つことが,医療界のコミュニケーションインフラを創造し,Medical2.0を具現化できる,と考えています.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/Facebook2)http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2011/02/facebook-36b1.html3)http://blogs.itmedia.co.jp/saito/2011/01/facebookhtc-cde.html☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス 94.増殖病変を有する網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術(中級編)

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113870910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に起因する硝子体出血は,硝子体手術の適応症例としては比較的難易度が低いことが多く,多くの症例で単純硝子体切除術により良好な視力改善が得られる.しかし,なかには眼内に高度な増殖性病変を有するBRVO例に遭遇することがある.●増殖病変を有するBRVOの臨床的特徴網膜虚血が広範囲かつ高度なBRVOでは,しばしば増殖糖尿病網膜症(PDR)類似の線維血管性増殖膜を生じることがある(図1).一般にこのような症例は硝子体出血を併発していないことが多く,後部硝子体未.離例も多い.また,部分的な後部硝子体.離の進行により,牽引性網膜.離をきたしていることもあり,PDRの牽引性網膜.離と同等かそれ以上に難易度が高い症例も多い.BRVOの虚血範囲はPDRよりも狭いが,主幹静脈が閉塞しているので,局所的な虚血はPDRよりも高度であると考えるべきである.網膜中心静脈閉塞症でも同様の病変を有する症例もあり,この場合には広範な網膜虚血のために血管新生緑内障を併発しやすい.●硝子体手術における注意点PDRと同様に丁寧な増殖膜処理を行う必要がある.一般に乳頭新生血管を生じている症例は,PDRと同様に虚血が高度で難治例が多い1).増殖膜の周辺部は後部硝子体が未.離なことが多く,増殖膜処理後には周辺部まで確実に人工的後部硝子体.離を作製しておく必要がある.そのためには,若年であっても水晶体切除を併用したほうが良好な手術成績が得られることが多い.また,網膜虚血範囲が周辺部まで広範囲に存在していることが多く,最周辺部に至る十分な眼内光凝固を施行しておかないと,術後にしばしば再増殖をきたす(図2a,b).牽引性網膜.離を併発している場合には,気圧伸展網膜復位術により確実に網膜を復位させる.(79)文献1)IkunoY,IkedaT,SatoYetal:Tractionalretinaldetachmentafterbranchretinalveinocclusion.Influenceofdiscneovascularizationontheoutcomeofvitreoussurgery.Ophthalmology105:417-423,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載94増殖病変を有する網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2網膜虚血が広範な網膜静脈分枝閉塞症例a:術前,b:術後.見かけより網膜虚血範囲が広く,周辺部に至る広範な光凝固が必要であった.ab図1線維血管性増殖膜を有する網膜静脈分枝閉塞症例硝子体出血は認めなかったが,後部硝子体は未.離で,周辺部に至る人工的後部硝子体.離の作製が必要であった.

眼科医のための先端医療 123.眼内悪性リンパ腫の新たな治療法

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113830910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに眼内リンパ腫は眼内原発のprimaryintraocularlymphoma(PIOL)と他部位(脳を除く)から転移・播種してきた続発眼内リンパ腫(secondaryintraocularlymphoma)に分類されます.前者のPIOLは中枢神経系悪性リンパ腫(centralnervoussystemlymphoma:CNSlymphoma)の一亜型と考えられ,眼・中枢神経系悪性リンパ腫とも分類されます.PIOLの診断時には25%にしかCNSlymphomaは発症していませんが,その後60.80%と高率にCNSlymphoma(いわゆる脳病変)が発症します1).PIOLはCNSlymphoma発症により,5年生存率が5.30%と,きわめて悪性度の高いリンパ腫とされます.PIOLのほとんどは非Hodgkinびまん性大細胞型B細胞リンパ腫です(図1).B細胞由来なので,CD19やCD20の表面マーカーを有しています.T細胞やNK(naturalkiller)細胞系の眼内悪性リンパ腫の報告も散見されますがまれです.ぶどう膜炎の眼内ではT細胞が優位となっていることと対照的です.近年は,悪性リンパ腫の診断に必須の細胞診(病理診断)に加え,遺伝子再構成,硝子体中のインターロイキン-10(IL-10)濃度などの補助診断が普及しつつあります.そこで,この悪性度の高いリンパ腫に対する最近の治療に関して触れたいと思います.治療法1.中枢神経系リンパ腫(脳病変)を伴う場合a.全身治療①化学療法:中枢神経リンパ腫の標準治療は大量メトトレキサート(MTX)療法になりつつあります1).高濃度にすることで,血液脳関門を通過すると考えられています.白質脳症(認知症様症状)をはじめとした副作用がありますが,生存率は向上しました.ほかにCHOP療法も選択されています.近年は生物学的製剤である抗CD20抗体(rituximab)を加えた治療の有効性が報告されています2).②放射線治療:悪性リンパ腫は感受性が高いため,放射線治療が主流でした.ただ,放射線治療単独では腫瘍の一時的な寛解導入ができても,再発率が高く,近年は化学療法との併用が考慮されています.一方で,放射線治療後にMTX大量投与を行うと高頻度で白質脳症をきたすことも知られています.なお,放射線治療単独でも高齢者では白質脳症が生じやすいことが問題となります.③造血幹細胞移植:治療抵抗症例や再発時に行われることがあります.b.局所投与①MTXの眼内注射:短期的には有効とされます.全身療法後に残存した場合もしくは眼内のみに再発した場合が適応と思います.MTX400μg/0.1mlの週2回の硝子体内注射から始め,月1回の維持療法が述べられています3).ただ,角膜上皮障害の副作用が生ずると,注射継続が困難となることがあります.②Rituximab(抗CD20抗体)の眼内注射:B細胞リンパ腫に補体関与の細胞障害,抗体関与の細胞障害,アポトーシスを誘導させる治療です.わが国からもMTX治療継続困難症例での有効例が報告されています4).2.眼内限局の場合施設により治療方針が立てにくい可能性があります.脳内病変などがない場合,血液内科などでMTX治療を(75)◆シリーズ第123回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊太田浩一(松本歯科大学歯学部眼科)眼内悪性リンパ腫の新たな治療法図1硝子体生検による硝子体細胞(May-Giemsa染色)切れ込みを有する大きな核と明瞭な核小体を有する大型の異型リンパ球を認める.384あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011行ってくれないことがあるからです.血液内科医にとって,末梢血や骨髄から「リンパ腫」が証明されず,治療指標がありません.近年,前述のような眼局所治療の有効性が報告され,「まずは眼科で局所治療をしてください」になる危険があります.基本治療はあくまでMTX大量療法などの化学療法に可能なら放射線療法,残存病変にMTX局所治療と考えます.悪性度についてとにかく,眼内悪性リンパ腫は悪性であることを眼科医は常に覚えていてほしいと思います.自験例でも最終的にすべて脳内病変を起こし,予後不良でした5).これらの症例で予防的な大量MTX療法は行われておりません.眼・中枢神経系悪性リンパ腫は精巣に生ずる悪性リンパ腫とともにimmuneprivilegedsiteに生じ,悪性度の高いものです.眼内には血液眼関門,脳には血液脳関門があり,薬剤が移行しにくいことがその理由にあげられます.さらに,immuneprivilegedsiteでは過剰な炎症が抑制されており6),悪性細胞を“外来異物”と認識できず,攻撃できない免疫学的な弱点によりその悪性度が高まると個人的には考えます.マウスにおいて,悪性リンパ腫の脳から眼内7),眼内から脳への転移8)が証明されており,ヒトの眼・中枢神経系悪性リンパ腫の再発パターンを裏付けており,局所療法のみの無効性を確認できます.おわりにMTXやrituximabの硝子体内注射は,眼内悪性リンパ腫に対し,有効な新しい治療手段と思われます.しかし,高率に生命予後がきわめて不良な脳内病変が生じうる中枢神経系悪性リンパ腫への全身的な治療を基本にした治療戦略が必要であることを心に留める必要があると思います.文献1)ChanCC:Molecularpathologyofprimaryintraocularlymphoma.TransAmOphthalmolSoc101:275-292,20032)BoehmeV,SchmitzN,ZeynalovaSetal:CNSeventsinelderlypatientswithaggressivelymphomatreatedwithmodernchemotherapy(CHOP-14)withorwithoutrituximab:ananalysisofpatientstreatedintheRICOVER-60trialoftheGermanHigh-gradeNon-HodgkinLymphomaStudyGroup(DSHNHL).Blood113:3896-3902,20093)SmithJR,RosenbaumJT,WilsonDJetal:Roleofintravitrealmethotrexateinthemanagementofprimarycentralnervoussystemlymphomawithocularinvolvement.Ophthalmology109:1709-1716,20024)OhguroN,HashidaN,TanoY:Effectofintravitreousrituximabinjectionsinpatientswithrecurrentocularlesionsassociatedwithcentralnervoussystemlymphoma.ArchOphthalmol126:1002-1003,20085)OhtaK,SanoK,ImaiHetal:Cytokineandmolecularanalysesofintraocularlymphoma.OculImmunolInflamm17:142-147,20096)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:Therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20037)HochmanJ,AssafN,Decker-SchluterMetal:Entryroutesofmalignantlymphomaintothebrainandeyesinamousemodel.CancerRes61:5242-5247,20018)LiZ,MaheshSP,ShenDFetal:EradicationoftumorcolonizationandinvasionbyaBcell-specificimmunotoxininamurinemodelforhumanprimaryintraocularlymphoma.CancerRes66:10586-10593,2006(76)■「眼内悪性リンパ腫の新たな治療法」を読んで■眼内悪性リンパ腫の発生頻度が年々増加しています.これは非Hodgin悪性リンパ腫のすべてについていえることであり,1970年代から1990年代にかけて激増しました.1990年代後半には増加はプラトーに達したと思われましたが,それからも毎年1%ずつ増加しています.その結果,眼内悪性リンパ腫は,ぶどう膜炎のまれな原因疾患とされていたものが,今では主要原因疾患といわれています.原因としては,診断技術の向上,エイズなどの免疫抑制性疾患の拡大,オゾン層の破壊などの環境要因があげられていますが,それだけでは増加数全体の半分しか説明できず,不明とされています.幸いなことに,悪性リンパ腫(特にB細胞リンパ腫)は以前から化学療法が奏効する疾患でしたが,最近開発された薬物はさらに高い奏効率を示します.その一つが本文に紹介されている抗CD20抗体薬rituximabです.欧米で行われた大規模試験では,従来のCHOP治療と組み合わせることで,なんと90%の患者に有効性が見出されました.これは先端医療が治療成績を飛躍的に向上させた例として特筆すべきもので(77)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011385す.そして,それだけでなく続々と新薬が開発されつつあります.たとえば,プロテインキナーゼC(PKC)b抑制薬は,糖尿病網膜症治療薬として,以前このコラムで紹介されましたが,PKCb抑制薬enzastaurinがB細胞リンパ腫にも奏効することがわかってきました.また,脾臓チロシンキナーゼ抑制薬fostamatinibdisodiumはB細胞リンパ腫にアポトーシスを起こして,リンパ腫を退縮させることが報告されました.それ以外にも,プロテアーゼインヒビターなどが有効性を示す新薬として注目を集めています.太田浩一先生が本文で述べられているように,眼内悪性リンパ腫が治癒しても,その後の中枢神経系悪性リンパ腫は悪性度が高いので,決して油断してはいけないことを,われわれ眼科医は強く認識して治療に当たるべきです.しかし,新たな治療薬が次々に開発されており,その未来は必ずしも暗いとはいえないでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

緑内障:血管新生緑内障眼における抗VEGF薬による新生血管の変化

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113810910-1810/11/\100/頁/JCOPY●血管新生緑内障の病態血管新生緑内障は1期:血管新生期,2期:開放隅角緑内障期,3期:閉塞隅角緑内障期の順に進行する.1期は虹彩や前房隅角に新生血管が生じているが,眼圧上昇はない時期である.2期の隅角は開放しているが,虹彩や前房隅角に形成された新生血管のために眼圧が上昇する時期である.この時期の眼圧上昇には2つの機序が考えられる.1つは新生血管からの血液成分の透過性が高いことによるものである.新生血管の内皮細胞には窓構造があり,血液の成分は容易に前房内に漏出する.他の1つは線維柱帯血管新生によるものである.線維柱帯間隙に新生血管が進入する.ほぼ同時に線維柱帯内皮網表面を内皮細胞が覆う1).3期は周辺虹彩前癒着が起こって隅角が閉塞し,不可逆性の眼圧上昇をきたす時期である.治療はまず原因である網膜の虚血性変化を改善することである.●抗VEGF薬による新生血管の変化近年,抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬が広く用いられるようになった.この治療は保険診療適用外で,ベバシズマブの硝子体注入を用いることが多い.硝子体内に1.25mg(0.05ml)を注入すると,細隙灯顕微鏡で観察する限り早期に虹彩および隅角の新生血管はほぼ消失するようにみえる.新生血管にどのような変化が起こっているかを調べるために,HeidelbergRetinaAngiograph2(HRA2)に前眼部アタッチメントを装着して,フルオレセインとインドシアニングリーンを用いた前眼部隅角造影検査を行った.フルオレセインは新生血管から容易に漏出するが,分子量が大きいインドシアニングリーンは新生血管からも漏出しないために,後期まで血管構築の観察が可能である2).フルオレセイン造影では新生血管から旺盛に漏出した.インドシアニングリーン造影では新生血管の構築が後期まで可能であった.ベバシズマブを硝子体内注射した後,数日後にもう一度前眼部蛍光造影検査を行った.フルオレセイン造影では新生血管からの漏出は明らかに減少していた.インドシアニングリーン造影では新生血管が描出され,その構築はベバシズマブ注入前と変化はなかった.このことからルベオーシス眼にベバシズマブを注入した変化としては新生血管からの漏出は抑えられるが,新生血管の構築には変化がないことがわかった3)(図1).血管新生緑内障眼でベバシズマブを硝子体内に注入した後に線維柱帯切除術を行った組織標本を観察した.線(73)●連載129緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也129.血管新生緑内障眼における抗VEGF薬による新生血管の変化久保田敏昭*1石橋真吾*2*1大分大学医学部眼科*2産業医科大学眼科ルベオーシス眼では新生血管が虹彩,隅角線維柱帯にみられる.新生血管の内皮細胞には窓構造があり,血液の成分は容易に前房内に漏出する.抗VEGF薬であるベバシズマブの効果は新生血管の窓構造を消失させることにより,新生血管からの漏出,すなわち血液房水関門の破綻を修復することであると考えられる.acbd図1ルベオーシス眼のベバシズマブ注入前後の造影検査所見a,b:フルオレセイン造影検査.c,d:インドシアニングリーン造影検査.a,c:注入前,b,d:注入後.ベバシズマブ注入により,フルオレセイン造影で漏出は減少しているが,インドシアニングリーン造影で血管構築に変化はほぼみられない.382あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011維柱帯には血管構築が多数認められた.血管内皮細胞のマーカーであるCD34免疫染色を行った標本を図2に示す.電子顕微鏡で観察すると,血管構造を形成する細胞には基底膜が観察され,血管内皮細胞であることがわかる.この内皮細胞には窓構造が認められなかった4)(図3).VEGFは血管内皮細胞の窓構造の維持の機能をもつとされる.ベバシズマブを注入することで,新生血管の内皮細胞の窓構造が消失したことが考えられる.おわりにベバシズマブ硝子体内注入は血管新生緑内障眼の病勢を一時的にストップさせる.前眼部造影検査と組織学所見からみたベバシズマブの効果は新生血管の窓構造を消失させることにより,新生血管からの漏出,すなわち血液房水関門の破綻を修復することがその1つである.細隙灯検査では新生血管が消失したようにみえるが,新生血管の血流が減少しているためと考えられる.ベバシズマブの効果がなくなると新生血管の再燃が起こることは組織所見からも明らかである.(74)文献1)KubotaT,TawaraA,HataYetal:Neovasculartissueintheintertrabecularspacesineyeswithneovascularglaucoma.BrJOphthalmol80:750-754,19962)川崎貴子,後藤美和子,久保田敏昭ほか:走査レーザー検眼鏡を用いた前眼部新生血管の蛍光造影検査.臨眼51:999-1001,19973)IshibashiS,TawaraA,SohmaRetal:Angiographicchangesinirisandiridocornealangleneovascularizationafterintravitrealbevacizumab.ArchOphthalmol128:1539-1545,20104)KubotaT,AokiR,HaradaYetal:Trabecularmeshworkinneovascularglaucomaeyesaftertheintravitrealinjectionofbevacizumab.BrJOphthalmol93:557-558,2009☆☆☆図2ベバシズマブ注入後の線維柱帯CD34免疫染色標本.線維柱帯に新生血管が多数存在する.SC:Schlemm管.ab図3ベバシズマブ注入後の線維柱帯にみられた新生血管の電子顕微鏡写真新生血管に窓構造は観察されない.矢印は血管内皮細胞の基底膜,矢頭はマイクロファイブリル.

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーフラップの高次収差

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113790910-1810/11/\100/頁/JCOPYLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,現在屈折矯正手術の主流となっているが,ときに夜間視機能の低下を生じるなどといった問題も残されている.見え方の質(qualityofvision)に影響を及ぼす因子の一つに高次収差があり,一般に近視矯正LASIKでは,角膜中央部の切除によりprolateからoblateへと角膜形状の変化をきたして球面収差が増加したり,照射ずれによりコマ収差が増加することが知られている1).Wavefront-guidedLASIKとは,術前に存在する高次収差を測定し,それを切除デザインに組み入れ,惹起される高次収差の抑制を試みるカスタム照射であり,臨床で広く用いられている2).しかし術後の高次収差は,エキシマレーザー装置の照射profileだけでなく,フラップ作製方法の違いによってもその増加量が異なることが報告されるようになってきている3.5).近年フラップ作製に関して,従来の機械式マイクロケラトームではなく,フェムトセカンド(femtosecond:FS)レーザーを使用することが注目されている.FSレーザーは波長1,053nmの超短パルスの近赤外線レーザーで,角膜実質内で光切断した点を連続させて角膜を切開し,高精度なフラップを作製することが可能である.その歴史については,1999年に米国食品医薬品局(FDA)に認可され,翌年にパルスレート6kHzのプロトタイプが登場した.2001年には当時のIntralase社から10kHzの第一世代のFSレーザーが販売されたが,フラップ作製に必要な照射エネルギーは高く,照射時間は約90秒を要した.その後,照射エネルギーの削減や照射時間の短縮などの改善が図られ,2003年に第二世代のIntralaseFS15TM(15kHz)が,2005年には第三世代のIntralaseFS30TM(30kHz)が登場し,現在ではAMO社から第四世代のIntralaseFS60TM(60kHz)と第五世代のIntralaseiFSTM(150kHz)が販売され広く普及している(図1).その他にも各社よりそれぞれ特徴をもったFSレーザーが開発されている.2010年6月にはAMO社のIntralaseFS60TMがわが国において承認を受けた.一般に,マイクロケラトームでは不均一な厚さのフ(71)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載130監修=木下茂大橋裕一坪田一男130.フェムトセカンドレーザーフラップの高次収差山村陽*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学LASIK(laserinsitukeratomileusis)術後の高次収差は,見え方の質(qualityofvision)に影響を及ぼす因子の一つであるため重要であるが,エキシマレーザー装置の照射profileだけでなく,フラップ作製方法の違いによってもその増加量が異なり,フェムトセカンドレーザーを用いて均一な厚さのフラップを作製したほうが術後の高次収差が少ない可能性がある.図1IntralaseFS60TM(左図)とIntralaseiFSTM(右図)の外観380あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011ラップ(meniscusflap)が作製されるのに対して,FSレーザーでは均一な厚さのフラップ(planarflap)が作製できる.このフラップ厚の均一性によって惹起される高次収差に違いが生じ,FSレーザーを用いてフラップを作製したほうが術後の高次収差が少ないと考えられている.実際マイクロケラトーム(MK-2000TM,NIDEK社)とFSレーザー(IntralaseFS60TM,AMO社)でそれぞれフラップ作製をし,VisxStarS4IRTM(AMO社)を用いてwavefront-guidedLASIKを施行した症例の術前後における高次収差の増加量を比較検討したところ,図2に示すような結果が得られた5).すなわち,術後6カ月での全高次収差(3.6次),コマ様収差(3次),球面様収差(4次),球面収差の増加量は,コマ様収差を除きいずれもFSレーザーを使用したほうが有意に増加量が少なかった.このように,FSレーザーでフラップを作製して施行するLASIKはマイクロケラトームを用いるよりも,惹起される高次収差は少ない可能性がある.FSレーザーに関してはLASIKにおけるフラップ作製以外にも,角膜内リング挿入や角膜移植,白内障手術などへの応用がすでに始まっており,今後もその動向からしばらく目が離せない状況が続きそうである.文献1)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Highorderwavefrontabberationsofcorneaandmagnitudeofrefractivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmology109:1154-1158,20022)JabburNS,KraffC:Wavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisusingtheWaveScansystemforcorrectionoflowtomoderatemyopiawithastigmatism:6-monthresultsin277eyes.JCataractRefractSurg31:1493-1501,20053)TranDB,SaraybaMA,BorZetal:RandomizedprospectiveclinicalstudycomparinginducedaberrationswithIntraLaseandHansatomeflapcreationinfelloweyes:potentialimpactonwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg31:97-105,20054)MedeirosFW,StapletonWM,HammelJetal:WavefrontanalysiscomparisonofLASIKoutcomeswiththefemtosecondlaserandmechanicalmicrokeratomes.JRefractSurg23:880-887,20075)山村陽,稗田牧,木下茂ほか:フェムトセカンドレーザーフラップによるLASIKの治療成績.臨眼63:903-908,2009(72)☆☆☆図2高次収差の増加量(術前と術後6カ月)高次収差はOPDscanTM(NIDEK社)で6次までの眼球の収差をZernike多項式を用いて解析径6mm(散瞳下)で測定し,波面収差量としてrootmeansquare(RMS)値を用いた.0.240.150.180.210.130.090.110.160.60.50.40.30.20.10波面収差量(μm)*****■:MK-2000■:IntralaseFS60全高次収差コマ様収差球面様収差球面収差*p<0.05**p<0.01

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズの術前検査

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113770910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)の術前検査は基本的には単焦点IOLの場合と同じであるが,多焦点IOLの特徴を念頭に置きながら検査を進めることが必要である.多焦点IOLには保険適用がなく患者の術後視機能に対する期待が高い.そのため,症例の見きわめや術後視機能の予測への検査を随時追加し,それらをもとに十分な説明をして医師と患者両方が納得したうえで手術に臨むべきである(図1).問診・一般診察による評価問診は単焦点IOLのときよりも慎重に行い,屈折矯正手術を含めた眼内手術の既往や網膜疾患・緑内障などの眼病歴はもちろん,今までの矯正方法や職業・ライフスタイル・術後の見え方の希望を詳細に把握する必要がある.加えて,実際に直接話をしたときの印象で性格を感じることも大切である.完璧主義者や神経質な方に挿入する場合は要注意である.一般診察時,細隙灯検査では,白内障の混濁の様子,角膜疾患の有無,コントラスト感度に影響するような網膜・硝子体疾患や緑内障などの眼合併の有無の確認を行う.偽落屑症候群,瞳孔癒着などZinn小帯が脆弱で,術後経過でIOLが偏位してくる可能性がある症例は適応から除外するほうが無難である.ぶどう膜炎の既往など術後.胞様黄斑浮腫が起こる可能性が高い症例も注意が必要である.視力検査時には視力(遠近),屈折度,眼鏡度数・コンタクトレンズの度数を参考にしながら普段の矯正方法・過去の屈折状態の予測を行う.眼内レンズ度数決定多焦点IOLでは基本的に術後に眼鏡使用をしないことを目的としているため,単焦点IOLのときよりも精確な度数設定が求められる.まずは精確な眼軸長・前房深度・角膜屈折力の測定が必要となる.狙いは基本的には正視だが,微調節は各々のIOLの種類によりコツがあるのでそれらを参考に決定する.眼軸長測定:光学式のIOLマスターで測定したほうがより精確に測れるが,皮質混濁が強く測定ができない症例では超音波式で測定をする.しかしその場合,超音波Aモードでは平均等価音速を用いて測定するため,22.0.26.0mmから外れる短眼軸・長眼軸ではどうしても誤差が出てしまう.どちらの測定方法でも,眼軸長測定時には数回測定を行い,再現性を確認する.角膜屈折力:オートケラトメータでは直径3.0mmの傍中心部を測定するため,屈折矯正術後の症例や角膜乱視の強い症例では注意が必要である.追加検査瞳孔径:屈折型多焦点IOLでは明視下の近方視時の瞳孔径の測定が必要である.その場合,より日常視に近い赤外線瞳孔径測定機での測定が望まれる.回折型多焦点IOLでは必ずしも瞳孔径による制限があるわけではないが,小さすぎる瞳孔径ではコントラスト感度の低下(69)●連載⑮多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子15.多焦点眼内レンズの術前検査稗田朋子稗田牧京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学多焦点眼内レンズ挿入術前検査には,適応決定のための検査・眼内レンズ度数決定のための検査・オプションが必要である.眼内レンズ度数決定には通常の単焦点眼内レンズよりも精確な度数設定が求められる.問診・一般診察による評価ライフスタイル屈折状態眼内レンズ度数決定の検査追加検査適応決定・患者説明瞳孔径角膜形状解析コントラスト感度OCT視野検査図1多焦点眼内レンズの手術までの流れ378あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011による視機能不良,大きい瞳孔径では回折型・屈折型を問わずハロー・グレア症状が強く出る可能性が高いので注意が必要である.角膜形状解析・角膜収差:多焦点IOLでは1.0Dを超える角膜乱視があると裸眼視力に影響をきたす.多焦点IOLでは角膜の不正乱視が視機能低下に強く影響する.そのため,術前に角膜形状解析を確認しておいたほうがよい(図2).コントラスト感度:通常多焦IOLを挿入すると,正(70)常範囲であるがやや中央より低くなる.そのため,術前にコントラスト感度が良い症例では挿入にあたり注意が必要である.特にclearlensectomyや核白内障の症例では術前にコントラスト感度の測定を行い,術後のコントラスト感度低下の可能性があることを本人へ説明する必要がある.その他:黄斑部の機能障害による視機能低下も多焦点IOL挿入時には除外対象となる.白内障があり詳細が不明だが視力が出にくい症例などはOCT(光干渉断層計)などで確認したり,視野検査など,単焦点IOLでは術後でもよかった検査を術前にする必要がある.適応決定・患者説明すべての検査結果と問診を踏まえたうえで,最終的に説明をして両者が納得した場合に手術を行う.破.により.外固定をせざるを得なくなった場合,単焦点IOLに変更する可能性があること,乱視矯正などの追加矯正を必要とする場合に自費診療になること,多焦点IOLによりコントラスト感度が低下しwaxyvisionが発生する可能性があること,中間距離が見えにくくなる可能性があること,などを十分に説明したうえで最終的に患者に選択してもらう.☆☆☆図2角膜形状不正患者のトポグラフィ上下に角膜形状の非対称がある.術後のグレアについてよく説明したうえで適応を決める.

眼内レンズ:水晶体核混濁形態と光学特性変化

2011年3月31日 木曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.3,20113750910-1810/11/\100/頁/JCOPY水晶体核混濁は白内障3主病型の一つである.日本人に最も多くみられるのは皮質混濁であるが,70歳以上になると核混濁の有所見率も20%を超える.また,若年者においても高度近視眼に核混濁が発症していることも多い.各混濁病型が視機能へ及ぼす影響において,瞳孔中央に局在する後.下混濁,瞳孔中央部まで進行した皮質混濁眼では顕著な視力低下をきたすが,水晶体中心部の混濁にもかかわらず,核白内障眼では顕著な視力低下をきたさないことが多い.程度I1)の核混濁が単独で存在しても,視力は1.0を確保していることが多く,程度IIになると同年代の透明水晶体眼に比べ視機能は有意に低下するが,視力は0.9程度,薄暮でのコントラスト視力も0.22(透明水晶体眼:0.35)を維持している2).核白内障眼の視機能低下が少ない理由の一つとしては,核の混濁形態が考えられる.核混濁は皮質や後.下混濁のような不規則形状ではなく,水晶体層構造に沿った規則正しい混濁である.瞳孔中心に皮質・後.下混濁がわずかでも存在すると,眼に入射してくる光は顕著な眼内散乱を起こし,鮮明な網膜像は得られなくなるが,核混濁の場合は程度IIを超えても,眼内散乱光の乱れは少ない.ただし,水晶体を透過していく光の波長成分は明らかに変化する.図1は,赤・緑・青の3色分解フィルターを用いて撮影したScheimpflugスリット像である3).短波長光(青色光)は水晶体皮質部でほぼ散乱・吸収され,赤色光撮影では水晶体後部まで鮮明に撮影されていることから,水晶体を透過していくのはほぼ中・長波長光(緑・赤色光)のみであることが推測される.つまり中程度の核混濁までは,黄色いサングラスのようなコントラスト向上効果があると考えられる.もう一つの理由としては,核混濁程度に伴う球面収差の低下現象がある.眼内の球面収差は加齢に伴い増加す(67)るが,核混濁眼では核部の散乱が増強するに従い,「負」の球面収差が増強し,角膜の「正」の収差を相殺する.程度IIの混濁では眼球全体の球面収差をほぼ「0」にする場合もある4).ただし,核混濁の形態は眼軸長によって異なる傾向がある.普通眼軸長を有する核混濁眼では水晶体厚・核部厚とも加齢水晶体と同様に肥厚し,水晶体および核部前面の弯曲度が大きく,核混濁程度の上昇に伴う「負」の球面収差の増加量も上記のように多くはない.しかし,長眼軸長眼における核白内障眼では,水晶体厚・核部厚は同年代の透明水晶体眼より薄く,弯曲度も少ない.つまり「負」の球面収差量は混濁程度以上に極度に大きくなり,網膜像の質の低下につながる(図2).加齢に伴う坂本保夫東北文化学園大学医療福祉学部視覚機能学専攻眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎295.水晶体核混濁形態と光学特性変化中程度までの核白内障眼では,観察される核混濁程度ほどには視機能の低下は少ないことが多い.これは核混濁による分光透過率の変化と「負」の球面収差の発生に起因する.核混濁を発症した長眼軸長眼では水晶体厚・核部厚が薄く,「負」の球面収差の増強が顕著となり,明らかな視機能障害をきたす.図13色分解フィルター(R:赤,G:緑,B:青)によるScheimpflugスリット撮影像長波長光(赤色光)ほど核後部まで撮影される.核混濁眼ではおもに緑と赤色光が水晶体を透過し,網膜像を形成している.いわゆる,黄色のサングラスによるコントラスト向上効果もあると考えられる.単眼三重視は水晶体の「正」の球面収差が一因であるが,核白内障眼の場合は過剰な「負」の球面収差に起因している5).核混濁程度がII以上で,核の硬度が高い症例では,図3のように徹照像でも瞳孔領内に円盤状の陰影として観察することができる.このような場合,瞳孔中央部と周辺部での水晶体屈折率に大きく差ができ,単眼複視が強くなると考えられる.文献1)ThyleforsB,ChylackLTJr,KonyamaKetal;WHOCataractGradingGroup:Asimplifiedcataractgradingsystem.OphthalmicEpidemiol9:83-95,20022)佐々木洋,坂本保夫:IV.中間透光体,8.水晶体の混濁.眼科プラクティス25,眼のバイオメトリー“眼を正確に測定する”,大鹿哲郎編,p154-159,文光堂,20093)SakamotoY,SasakiK,KojimaM:Analysisofcrystallinelenscolorationusingablackandwhitecharge-coupleddevicecamera.GermanJOphthalmol3:58-60,19944)坂本保夫:水晶体混濁と高次収差,あたらしい眼科24:1427-1433,20075)坂本保夫:IV.中間透光体,8.水晶体の光学特性.眼科プラクティス25,眼のバイオメトリー“眼を正確に測定する”,大鹿哲郎編,p160-167,文光堂,2009図3高度核白内障眼のスリット像(左)と徹照像(右)核混濁塊が小さく,混濁程度が高い核白内障眼では,徹照像においても核混濁の陰影が円盤状(↑↑)に観察できる.このような症例では,単眼複視の症状が強いと考えられる.…………….73F…………71F……..23.3mm31.3mm…………+2.0D-20.0DScheimpflug……….(EAS-1000)…………..(KR-9000PW)図2眼軸長によって核混濁の発症形態は異なる普通眼軸長眼では角膜の「正」の球面収差を相殺するように,混濁程度とともに「負」の球面収差が増加する.一方,長眼軸長眼では水晶体厚・核部厚とも薄く,弯曲度も小さいことから,「負の球面収差」が角膜の「正」の収差を上回り,網膜像の質の低下を招く危険性がある.