0910-1810/11/\100/頁/JCOPY過去にはさまざまな視力予後因子が報告されている.黄斑上膜に関して例をあげれば黄斑浮腫,手術までの期間,術前視力など,黄斑円孔に関しては円孔径,ステージ,年齢,瞭眼の視力などである.また硝子体手術の進歩に伴い内境界膜(ILM)?離といった手術手技やILM染色の種類なども視力予後に関連する因子として報告された.しかし,OCTの普及に伴い網膜構造そのものを画像化することが可能となり,近年ではOCTを用いた評価が相次いだ.当初は中心窩網膜厚や閉鎖形態などが視力に関与するという報告であったが,time-domainOCT(TD-OCT),spectral-domainOCT(SD-OCT)とOCTの高解像度化が進むにつれて,視細胞内節外節接合部(IS/OSjunction)の形態が視力に大きく影響するということが共通の認識となってきた.II黄斑上膜1.術前OCTから推測する術後視力Michalewskiらは黄斑上膜症例においてSD-OCTを用いて中心窩網膜厚や中心窩陥凹の有無,視細胞層の形態などいくつかのパラメータと視力との関連について報告した.その結果,視細胞層の形態が特に重要な予測因子であると結論づけた1).この報告はSD-OCTを用いて視細胞層の形態が視力に強く関与することを確認した大変意義あるものであったが,実際に硝子体手術を施行した黄斑上膜症例に対する術後視力に影響する因子に関はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)に代表される画像診断機器の進歩は近年目覚ましい.最近では,黄斑疾患の診断や治療効果の判断に使用されるのみならず,術後視機能を予測する指標としてOCTが用いられるようになってきている.画像の高解像度化に伴い,視力に大きく関与すると思われる視細胞層の形態がOCTにて明瞭に描出できるようになったからである.本稿では,黄斑上膜や黄斑円孔に代表される黄斑疾患における硝子体手術前後の視細胞OCT所見と視力との関連について,最近の知見を交えて述べたい.I硝子体手術と視力予後硝子体手術は1970年代に考案されて以来,網膜硝子体疾患治療の中枢を担ってきた.近年では,器具や術式のさらなる進歩により,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)が低侵襲かつ安全性の高い治療として台頭しつつある.特に,術後視機能が向上することを目的とする黄斑疾患において,MIVSは非常に良い適応であると考えられる.しかしながら,MIVSにより良好な経過をたどった症例でも,十分な術後視力を得られないことをわれわれはしばしば経験する.それはなぜなのか,黄斑疾患に対する硝子体手術が普及した頃から現在に至るまで視力予後因子の追究は大きなテーマであった.(11)1231*MaikoInoue&KazuakiKadonosono:横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科〔別刷請求先〕井上麻衣子:〒232-0024横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科特集●黄斑疾患の病態解明に迫る光干渉断層計あたらしい眼科28(9):1231?1237,2011硝子体手術前後の視細胞OCT所見EvaluationofPhotoreceptorLayerUsingOCTbeforeandafterMicroincisionVitrectomySurgery井上麻衣子*門之園一明*1232あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(12)をもたず,SD-OCT所見のなかではIS/OSjunctionの形態のみが有意に視力予後に関わることが明らかになった.しかし,術前IS/OSjunctionの形態を整,不整の2グループに分けて,それぞれの偽黄斑円孔,網膜内?胞様変化を有する割合について検討したところ,IS/OSjunctionが不整である群で網膜内?胞様変化を有する症例が有意に多かった.つまり,黄斑上膜による網膜牽引により視細胞層の形態悪化と同時に網膜内?胞様変化も生じている可能性が高いと考えられる.逆に,IS/OSjunctionの形態が整であっても,網膜内?胞様変化が存在すればIS/OSjunctionの形態に支障をきたす前段階である可能性があり,そのような症例に対しては,早期の硝子体手術を予定するのがよいのかもしれない(図2).2.術後の視細胞OCT所見前項では術前の視細胞層所見で視力予後が予測できるしては不明であった.実際の臨床の場では術前検査所見のみで術後経過の予測まで患者に説明する必要があるため,術前OCTを用いた術後視力の予後因子の検討は非常に重要なことであると考えられる.そこで筆者らは術前SD-OCT所見を用いて黄斑上膜の視力予後因子について検討した2).特発性黄斑上膜患者45例45眼を対象に,術前視力・白内障の程度・SDOCT所見(IS/OSjunctionの形態,中心窩網膜厚,偽黄斑円孔の有無,網膜内?胞様変化の有無)とMIVS術後1年の視力・視力改善度について重回帰分析にて検討した.その結果,IS/OSjunctionの形態と術前視力が術後1年の視力と強い相関を認めた.つまり,術前IS/OSjunctionの形態が整であり,術前視力が良いほど術後視力が良好であるという結果になった(図1).過去には大きな偽黄斑円孔や?胞様変化を有する症例は視力改善を得にくいとも言われているが,今回の筆者らの検討ではこれらの因子は術後視力には有意な相関性図1特発性黄斑上膜症例左:78歳,男性.術前視力(0.6).黄斑上膜の牽引により中心窩の陥凹は消失している.IS/OSjunctionは整に配列している.右:術後1年.視力(1.2)に改善.中心窩の形態はほぼ回復している.IS/OSjunctionは整を保っている.(13)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111233ったものの,術後1年までに全例が整に回復した(図3).一方,術前IS/OSjunctionが不整であった症例は,術後1年を通じて全例が不整なままであり,術前IS/OSjunctionが整である症例と比較して有意に術後視力・視力改善度は不良であった(図4,5).つまり筆者らの研究が示唆することは,術前IS/OSjunctionの形態が,可能性を示した.それでは黄斑上膜術後の視細胞層の変化はどうなるのであろうか.2009年にMitamuraらは,IS/OSjunctionの経時的変化を示し,術後経過が長くなるほどIS/OSjunctionの形態が良好となる症例の割合が増えていき,そのような症例ほど視力が有意に良好であったと報告した3).また,SuhらはIS/OSjunctionの形態が術後に悪化することがあり,術後の視力回復を妨げると述べており,術後IS/OSjunction形態が視力に重要であるという見解を示した4).しかし,これらの検討はTD-OCTを用いて行われており,IS/OSjunctionの形態がはっきり同定できない症例も存在するという問題点があった.筆者らは,前述した特発性黄斑上膜症例45例45眼においてSD-OCTを用いてIS/OSjunctionの術後形態の変化をプロスペクティブに検討した5).45眼中34眼が術前IS/OSjunctionが整であり,残る11眼が不整であった.術前IS/OSjunctionが整である症例は,術後一過性にIS/OSjunctionが不整となった症例が約半数あ術前術後3カ月術後6カ月術後12カ月図3術後SD?OCT所見(術前IS/OSjunction:整)71歳,男性.術前視力(0.4).術前IS/OSjunctionは整に配列している(矢印).MIVS施行後3カ月,6カ月では一時的なIS/OSjunctionの途絶を認めた(矢頭)が,術後12カ月では整に回復した(矢印).視力(1.2)に改善した.(文献5より)図2IS/OSjunctionの不整を認めた特発性黄斑上膜症例上:68歳,女性の術前SD-OCT.術前視力(0.4).網膜内?胞様変化(*)とIS/OSjunctionの不整(矢頭)を認める.下:術後1年のSD-OCT.黄斑上膜は除去され,網膜内?胞様変化は改善しているもののIS/OSjunctionの不整は残存している.視力(0.4)と不変であった.1234あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(14)牽引ですでに視細胞が不可逆的変化を起こしており,それ故,術後の視力改善度が劣ると思われた.つまり,IS/OSjunctionの術後一過性変化は術後視力と関連性はなく,術後視力・視力改善度に影響するのはむしろ術前のIS/OSjunctionの形態であると考えられた.しかし,黄斑上膜・ILM?離などの術中操作の際に,術後視力にも影響を与えるほどの視細胞層の不可逆的変化をひき起こす可能性も否定はできない.そのような場合,術前OCTにて術後視力が良好であると予測できても実際には視力改善を得られない可能性もある.手術器具や可視化技術の向上,照明系の進歩などによりMIVSを会得する眼科医は今後もますます増加していくと思われるが,安定した手術操作こそが術後視力を最大限にひき出すためには何よりも大事なことであると考える.III黄斑円孔術後の視細胞OCT所見OCTの普及以来,黄斑円孔においても黄斑上膜と同様に視細胞層が視力と関連するという報告が相次いだ.2004年,Kitayaらは黄斑円孔術後の視細胞層を整,不整に分類し,術後視力良好なグループにおいて術後視細胞層が整である割合が有意に高かったと報告した6).さらに,Haritoglouらは中心窩の形態,中心窩網膜厚,神経線維層厚などのOCTパラメータと術後視力との相関を検討し,視細胞層の形態のみが唯一術後視力と相関があったと結論づけた7).術後1年におけるIS/OSjunctionの形態を反映していたということである.推察ではあるが,術前のIS/OSjunctionの形態が整である症例において,一部に観察された術後IS/OSjunctionの一過性変化は術後炎症に伴う可逆的変化であると思われ,その変化自体が術後視力に影響するものではないと考えられた.一方で,術前IS/OSjunctionが不整である症例は,黄斑上膜による術前術後3カ月術後6カ月術後12カ月図4術後SD?OCT所見(術前IS/OSjunction:不整)52歳,男性.術前視力(0.5).網膜内浮腫を認め,術前IS/OSjunctionは不整である.MIVS施行後12カ月の経過にてもIS/OSjunctionの不整は残存しており,術後視力も(0.7)にとどまっている.(文献5より)術前術後3カ月術後6カ月術後12カ月1.21.00.50.3小数視力(対数表示)***:IS/OS整群:IS/OS不整群*p<0.01図5術前IS/OSjunctionの形態別の視力の推移両群ともに術前と比較して,術後視力の有意な改善を認めた.術前IS/OSjunction整群と不整群は,術前視力の有意差は認めなかったものの,術後視力はIS/OSjunction整群で有意に良好であった.(文献5より)(15)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111235射層であり,TD-OCTでは同定困難である.Wakabayashiらは,SD-OCTを用いて黄斑円孔術後のELMとIS/OSjunctionの変化を検討している10).彼らは,黄斑円孔術後の変化においてELMの回復が,IS/OSjunctionの回復に先駆けて起こり,術後3カ月におけるさらに,BabaらはTD-OCTを用いて黄斑円孔術後の視細胞層と視力との関連を経時的に検討し,術後経過が長くなるほどIS/OSjunctionが整となる割合が増加し,術後3,6カ月においてIS/OSjunctionが整である症例ほど術後視力が有意に良好であったと報告した8).この報告により,黄斑円孔術後のIS/OSjunctionが術後経過とともに回復していくことが示された.その後SD-OCTの登場に伴い,IS/OSjunctionの定量的評価が試みられるようになった.筆者らは黄斑円孔術後1年以上経過観察可能であった53例54眼を対象に,術後1年での視力と,IS/OSjunctionの欠損長・欠損面積との関係について検討した.その結果,これらの間に負の相関があることを報告した9)(図6).つまり,術後1年でのIS/OSjunctionの欠損が大きいほど,術後視力も悪い傾向にあった(図7).近年ではより詳細な網膜層構造の解析が進み,外境界膜(ELM)の存在がクローズアップされるようになった.ELMは外顆粒層の直下に位置する一層の中等度反050100150200250300IS/OSjunction欠損長(μm)1.00.80.40.20.1小数視力(対数表示)p<0.01図6術後1年におけるIS/OSjunction欠損長と視力の相関(文献9より)術前術後1年図7黄斑円孔術後のIS/OSjunctionの変化左:59歳,女性.術前視力(0.1).Gass分類Stage3黄斑円孔を認めた.この症例にMIVSを施行した.術後1年で視力(1.0)に改善.IS/OSjunctionの形態は回復し,欠損を認めない.右:59歳,女性.術前視力(0.1).左の症例と同様にGass分類Stage3黄斑円孔を認めた.この症例にMIVSを施行したが,術後1年で視力(0.4)にとどまった.IS/OSjunctionの欠損(235μm)を認めた.1236あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(16)にすでにIS/OSjunctionの不整を認めている症例でも術後視力は有意に改善した.視細胞層の完全回復には至らなくても黄斑上膜の牽引が除去されることで,ある程度の機能回復を認めることが示唆される.当院では現在,明らかに黄斑上膜を認めれば視力が比較的良好でもIS/OSjunctionの形態が悪化する前に手術を施行するようにしているが,IS/OSjunctionの形態がすでに悪化している症例でも積極的に手術を行うことが推奨される.Wakabayashiらの黄斑円孔の検討においても,手術までの期間が長く円孔径が大きかった症例が,ELM,IS/OSjunctionの回復を得られなかったと述べている.円孔径が大きい症例は円孔の閉鎖が得られても視細胞層が回復せずにグリア細胞に置き換わるため,視力改善に至らないためであると思われる(図8).また,筆者らの検討でも術後IS/OSjunctionの欠損が大きかった症例ELM回復が術後1年の視力と強い相関があったと結論づけた.黄斑円孔術後早期のELMの再構築がその後のIS/OSjunctionの回復につながり,良好な視力を得るうえで重要であることが示された.IV黄斑疾患に対する手術時期II,III章では特発性黄斑上膜・黄斑円孔術後の視細胞層の変化について文献を交えて述べてきた.両疾患に共通することは硝子体手術後のIS/OSjunctionがすべての症例において回復するわけではないということである.黄斑上膜に対する筆者らの検討でも45眼中11眼(24%)が術前よりIS/OSjunctionが不整であり,術後1年の経過でもIS/OSjunctionの完全な回復を得られなかったが,理由の一つとして発症から手術までの期間が長く,長期にわたり黄斑上膜による網膜への牽引力がかかっていたためと考えられる.しかしながら,初診時図8黄斑円孔術後にELM,IS/OSjunctionの回復を認めなかった症例68歳,女性.術前視力(0.09).Gass分類Stage3黄斑円孔を認め,円孔径1,136μmであった.この症例にMIVSを施行したところ,円孔の閉鎖を認めたが,ELM,IS/OSjunctionの回復は認めず,術後視力も(0.1)にとどまった.あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111237は術前の円孔径が大きい傾向にあった.そのため,診断がつけば比較的早期に手術を予定するのが良好な視力予後につながるだろう.術後視力の予測と同時に手術時期の適切な判断にもOCTは有用である.おわりに以上,SD-OCTを中心に黄斑疾患における硝子体手術前後のOCT所見について解説した.OCTを用いることで硝子体手術前後の視細胞層の形態変化が詳細に観察できるようになり,術後視力の予測が可能になった.また,IS/OSjunctionの形態を診断することで,患者・家族への説明や手術適応の判断にも役立てることができる.今後,OCTの精度が向上することは間違いなく,さらなる病態解明が期待されるが,視細胞層が視機能評価の指標になることはゆるぎないものであろう.文献1)MichalewskiJ,MichalewskaZ,CisieckiSetal:Morphologicallyfunctionalcorrelationsofmacularpathologyconnectedwithepiretinalmembraneformationinspectralopticalcoherencetomography(SOCT).GraefesArchClinExpOphthalmol245:1623-1631,20072)InoueM,MoritaS,WatanabeYetal:Preoperativeinnersegment/outersegmentjunctioninspectral-domainopticalcoherencetomographyasaprognosticfactorinepiretinalmembranesurgery.Retina31:1366-1372,20113)MitamuraY,HiranoK,BabaTetal:Correlationofvisualrecoverywithpresenceofphotoreceptorinner/outersegmentjunctioninopticalcoherenceimagesafterepiretinalmembranesurgery.BrJOphthalmol93:171-175,20094)SuhMH,SeoJM,ParkKHetal:Associationsbetweenmacularfindingsbyopticalcoherencetomographyandvisualoutcomesafterepiretinalmembraneremoval.AmJOphthalmol147:473-480e3.,20095)InoueM,MoritaS,WatanabeYetal:Innersegment/outersegmentjunctionassessedbyspectral-domainopticalcoherencetomographyinpatientswithidiopathicepiretinalmembrane.AmJOphthalmol150:834-839,20106)KitayaN,HikichiT,KagokawaHetal:Irregularityofphotoreceptorlayeraftersuccessfulmacularholesurgerypreventsvisualacuityimprovement.AmJOphthalmol138:308-310,20047)HaritoglouC,NeubauerAS,ReinigerIWetal:Longtermfunctionaloutcomeofmacularholesurgerycorrelatedtoopticalcoherencetomographymeasurements.ClinExperimentOphthalmol35:208-213,20078)BabaT,YamamotoS,AraiMetal:Correlationofvisualrecoveryandpresenceofphotoreceptorinner/outersegmentjunctioninopticalcoherenceimagesaftersuccessfulmacularholerepair.Retina28:453-458,20089)InoueM,WatanabeY,ArakawaAetal:Spectral-domainopticalcoherencetomographyimagesofinner/outersegmentjunctionsandmacularholesurgeryoutcomes.GraefesArchClinExpOphthalmol247:325-330,200910)WakabayashiT,FujiwaraM,SakaguchiHetal:Fovealmicrostructureandvisualacuityinsurgicallyclosedmacularholes:spectral-domainopticalcoherencetomographicanalysis.Ophthalmology117:1815-1824,2010(17)