0910-1810/10/\100/頁/JCOPYalbicansあるいはガンシクロビル耐性サイトメガロウイルスなどによる眼感染症も最近では珍しくない.すなわち,抗微生物薬の開発とそれに対する耐性微生物の出現との関係は永遠に終わることはない.このような状況下では,既存ならびに新規抗微生物薬の適正使用および新規抗微生物薬に関するエビデンスの速やかな把握がきわめて大切である.それは新規抗菌薬に対する耐性菌の出現を未然に防ぐ第一歩ともいえる.ところで,眼感染症の治療では眼血液関門を考慮すると多くの場合眼局所での抗微生物薬の投与を選択せざるをえない.本稿で取り上げた点眼薬あるいは眼軟膏以外で市販されている抗微生物薬を眼局所に用いる際にはほとんどの場合適応外使用(投与法も含めて:点眼,結膜下注射,前房内投与および硝子体内投与など)となるので,現在の医療事情では使用する際に,各施設での倫理委員会の承認と十分な患者への説明を要する.抗微生物薬として,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬あるいは抗原虫薬などがある.本稿において,抗菌薬のうち全身投与薬剤では最近上市された薬剤の眼局所投与への応用について,また点眼薬では日本未認可の薬剤について述べる.ついで抗真菌薬ではおもに眼局所投与量を,さらに抗ウイルス薬では上市された薬剤の眼科領域での展望を中心に紹介する.はじめに抗微生物薬,特に抗菌薬における開発の現状と将来への展望を論ずる際,冒頭にあげるべきはペニシリンの登場である.1928年に発見,そして1940年代に実用化され抗菌化学療法の幕開けとなった薬剤であり,わが国では第二次世界大戦後の1946年から使用され数多くの感染症治療に貢献した.しかし残念ながら眼科領域ではその子孫であるペニシリン系点眼薬(サルペリンR:スルベニシリン)は先ごろ途絶えてしまった.テラマイシン眼軟膏R(オキシテトラサイクリン:テトラサイクリン系)およびサンテマイシン点眼液0.3%R(ミクロノマイシン:アミノ配糖体系)も販売中止となった.新規抗微生物薬,特に抗菌薬や抗真菌薬の開発に関しては,抗ウイルス薬に比し現在低迷期といえる(開発が進められている抗ウイルス薬の多くは抗HIV薬)1,2).しかしながら高度先進医療の発達に伴い抗微生物薬の果たす役割は眼科領域においてもますます重要となっている.たとえば,悪性腫瘍,臓器移植あるいは自己免疫疾患に生じる日和見感染症としての内因性細菌性眼内炎,内因性真菌性眼内炎,サイトメガロウイルス網膜炎あるいは眼トキソプラズマ症などに時として遭遇する.各抗微生物薬投与により失明から救うことができる一方で,薬剤の耐性化を生じる可能性があり,メチシリン耐性Staphylococcusepidermidis(MRSE),メチシリン耐性Staphylococcusaureus(MRSA),ペニシリン耐性Streptococcuspneumoniae,フルコナゾール耐性Candida(41)1363*KiyofumiMochizuki:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕望月清文:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野特集●眼科薬物療法の新たな展開あたらしい眼科27(10):1363.1370,2010抗微生物薬OcularAntimicrobialTherapy望月清文*1364あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(42)b.ピペラシリン.タゾバクタム(tazobactam/piperacillin:TAZ/PIPC,ゾシンR)bラクタマーゼのTAZと,ペニシリン系抗生物質PIPCを1:8の力価比で配合した注射製剤で,適応症は敗血症,肺炎,腎盂腎炎および複雑性膀胱炎である.各種グラム陽性菌,グラム陰性菌および嫌気性菌に対して広い抗菌スペクトルを有し,Pseudomonasaeruginosaを考慮すべき状況下で選択されることが多い.またESBL(extended-spectrumb-lactamase,基質特異性拡張型b-ラクタマーゼ)を不可逆的に阻害する.眼科領域では従来の薬剤では難治のP.aeruginosaによる角膜炎症例に10%TAZ/PIPC点眼を行い有効であったという7).また,P.aeruginosaによる眼内炎を想定して家兎を用い安全な硝子体内投与量を検討したところTAZ/PIPC250μg/0.1mlであったという8~10).2.点眼薬(日本未認可)a.アジスロマイシン1%点眼薬(azithromycinhydrate:AZM,AzaSiteR)11~13)(表1.3)海外で上市されたアジスロマイシン1%点眼薬(アジスロマイシン水和物)はマクロライド系抗菌薬である.日本では現在内服薬のみが発売され,呼吸器感染症,Chlamydiatrachomatisによる子宮頸管炎およびAIDS(後天性免疫不全症候群)に伴う播種性Mycobacteriumaviumcomplex症などの治療に用いられている.AZM点眼液は2007年4月に米国FDA(食品医薬品局)に承認されAzaSiteR(InSiteVision社)として上市された.徐放化技術であるDuraSiteR(polycarbophil,edentatedisodiumおよびsodiumchloride)により点眼薬に製剤化され,AZMの半減期は長くなり,組織内に特に角膜表面での滞留時間を増加させた.そのため,従来の抗菌点眼薬に比し低用量でかつ1日の点眼回数を減らすことが可能となった.適応疾患はCDCcoryneformgroupG,Haemophilusinfluenzae,S.aureus,StreptococcusmitisgroupおよびS.pneumoniaeなどに起因した細菌性結膜炎である.用法・用量として最初の2日間は8~12時間ごとに1回1滴,つぎの5日間は1日1回点眼とされている.小児でも使用可能で,1歳以上の細菌性結膜炎患者に対して適応が取得されている.I抗菌薬1.全身投与薬a.リネゾリド(linezolid:LZD,ザイボックスR)オキサゾリジノン系合成抗菌薬でその作用機序はリボソーム50Sサブユニットに結合し,70S開始複合体の形成を阻害する.蛋白合成過程のきわめて初期段階で抑制するので,従来の蛋白合成阻害薬とは異なった作用機序を有し,その作用は静菌的である.LZDの対象となる菌種はグラム陽性菌で,Staphylococcus属,Enterococcus属あるいはStreptococcus属に抗菌力を発揮するが,グラム陰性菌に対してはほとんど無効である.適応疾患はバンコマイシン耐性E.faeciumによる各種感染症およびMRSAによる敗血症,深部性皮膚感染症,慢性膿皮症,外傷・熱傷および手術創などの二次感染ならびに肺炎である.各種組織移行性に優れ,経口薬でも吸収は非常に良好である.全身的な投与量では1回600mgを12時間ごとに点滴静注あるいは経口投与する.また耐性菌の出現に十分な注意を行い投与する.投与期間の上限は原則として“28日を超えないことが望ましい”とされている.副作用として骨髄抑制による血小板減少,貧血あるいは白血球減少などが2週間以上の投与で発現頻度が高くなる傾向が認められている.末梢神経障害,乳酸アシドーシスあるいは視神経症なども報告されている.特に視神経症では28日を越える場合注意を要する.全身投与による眼内への移行性は比較的良好でLZD600mg単回経口投与で前房内および硝子体内最高濃度はそれぞれ6.8μg/mlおよび5.3μg/mlという3,4).しかしながら十分な眼局所濃度を得るためには点眼あるいは硝子体内投与となる.ヒトで使用された報告は調べた限りないが,白色家兎を用いた角膜炎モデルで0.2%LZD点眼後の結膜,角膜および前房内濃度はそれぞれ3μg/g以上,4μg/g以上および2.17μg/mlであったという5).また,Dukeら6)は有色家兎を用いLZD300μg/0.1ml硝子体内投与では網膜への影響はみられなかったという.(43)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101365ta,S.aureus,S.epidermidis,Staphylococcushominis,Staphylococcuslugdunensis,S.mitisgroup,Streptococcusoralis,S.pneumoniaeおよびStreptococcussalivariusなどによる細菌性結膜炎である.用法・用量は1日3回各1滴を7日間投与とされている.おもな副作用として結膜充血(2%)がある.1歳以下の乳児での安全性は確立されていない.塩化ベンザルコニウムを0.01%含有している.フルオロキノロン系抗菌薬の中で最もMRSAに有効な点眼薬として注目されている16).c.レボフロキサシン1.5%点眼液(levofloxacin:LVFX,IQUIXR)LVFXの高用量化された抗菌点眼薬(高濃度抗菌点眼薬)で,2004年3月に米国FDAに承認(参天製薬の米国子会社サンテン・インク社)された.元来,LVFXは中性pH域における水溶性が高いので,既存製剤の3倍の1.5%という高濃度点眼液の製剤化が可能となった.広範囲のグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌に対し効果を発揮し,適応疾患はCorynebacteriumsp.,S.aureus,S.epidermidis,S.pneumoniae,Viridans従来の点眼薬に比べ,少ない点眼回数で効果が得られるということからコンプライアンスの向上が期待されている.b.ベシフロキサシン0.6%点眼液(besifloxacin,BesivanceR)14,15)(表4,5)これまでのフルオロキノロン系抗菌薬と異なり,全身用に開発された経口薬や注射薬を点眼薬に発展したものではなく最初から点眼薬として開発されたもので,全身用の剤型はない.2009年5月に米国FDAに承認されたベシフロキサシン点眼薬はエスエス製薬で創製されAZM点眼液と同様な徐放化技術DuraSiteRを用いBausch&Lombで開発された.適応疾患(菌種)はCDCcoryneformgroupG,Corynebacteriumpseudodiphtheriticum,Corynebacteriumstriatum,H.influenzae,Moraxellalacuna-表11%アジスロマイシン点眼液1滴点眼後の有色家兎各眼組織における薬物動態パラメータCmax(μg/g)Tmax(h)T1/2(h)AUC0~144h(μg・h/g)結膜角膜涙液前房水10840.410,5390.0760.0830.0830.0830.083636715807378373,0160.689(文献11より改変)表31%アジスロマイシンおよび0.5%モキシフロキサシン点眼液1滴点眼後の健常ヒト結膜への薬物動態パラメータCmax(μg/g)Tmax(h)T1/2(h)AUC0~∞(μg・h/g)1%アジスロマイシン0.5%モキシフロキサシン1313.770.502.0024.42.732,31024.0(文献12より改変)表21%アジスロマイシン点眼液7日間点眼後の有色家兎各眼組織における薬物動態パラメータCmax(μg/g)Tmax(h)AUC144~288h(μg・h/g)AUC:MIC90比結膜角膜眼瞼前房水177.39252.00180.300.410.08310.250.0833,10116,4028,1479.191941,025509─MIC90にはAZM点眼液にて細菌性結膜炎を治療した際に検出された496菌から得られたMIC値16μgを用いている.(文献11より改変)表40.6%ベシフロキサシン点眼液1滴点眼後の有色家兎およびサル各眼組織ならびにヒト涙液への薬物動態パラメータ有色家兎サルヒトCmax(μg/g)T1/2(h)AUC0~24h(μg・h/g)Cmax(μg/g)T1/2(h)AUC0~24h(μg・h/g)Cmax(μg/g)T1/2(h)AUC0~24h(μg・h/g)結膜角膜涙液前房水62.87.212,7601.696.06.16.112.192.88.563,2402.086.432.102,3100.79613.97.87.45.329.412.46,4402.14──610───3.4───1,232─(文献14より改変)1366あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(44)3.眼軟膏バンコマイシン眼軟膏1%グリコペプチド系抗生物質製剤で,2009年10月に厚生労働省から承認された.適応菌種はバンコマイシン感性のMRSAおよびMRSEの2菌種のみとされ,眼科領域で初めてMRSAおよびMRSEを適応とした抗菌薬である.適応疾患は既存治療で効果不十分な結膜炎,眼瞼炎,瞼板腺炎および涙.炎などである.使用上の注意として“感染症の治療に十分な知識と経験を持つ医師又はその指導の下で投与すること”と記載されている.用法・用量は適量を1日4回塗布,投与期間は14日間以内を目安とされている.副作用として眼瞼浮腫および結膜充血などを生じることがある.小児に対する安全性は確立されていない.耐性菌を発生させないために濫用は避けるべきである.II抗真菌薬従来,抗真菌薬は抗菌薬より種類が少なくその選択肢が限られていたが,最近新しい薬剤が次々に登場しその選択に幅が広がった.具体的に抗真菌薬としてポリエン系ではピマリシン(別名ナタマイシン,PMR),アムホテリシンB(AMPH-B,ファンギゾンR)およびリボゾーム化アムホテリシンB(L-AMB,アムビゾームR),ピリミジン系ではフルシトシン(5-FC,アンコチル),トリアゾール系ではフルコナゾール(FLCZ,ジフルカンR)とそのFLCZをリン酸エステル化したプロドラッグであるホスフルコナゾール(F-FLCZ,プロジフR),ミコナゾール(MCZ,フロリードR),イトラコナゾール(ITCZ,イトリゾールR)およびボリコナゾール(VRCZ,ブイフェンドR),キャンディン系ではミカファgroupstreptococci,P.aeruginosaおよびSerratiamarcescensなどによる細菌性角膜潰瘍である.なお,本点眼薬には塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を含んでいない.6歳以下の小児での使用に関してはその安全性は確立されていない17).1.5%LVFXの眼内移行性の特徴(白色家兎)は点眼1時間後に最高濃度(Tmax)に達し,他の点眼薬(0.5%モキシフロキサシンおよび0.3%ガチフロキサシン)に比し移行濃度が高く,またLVFXのみが点眼12時間後においても前房内濃度を測定可能であった17)(表6).よってLVFXのAUC(areaunderthecurve)は他の抗菌薬に比し大きいので,より高い臨床ならびに抗菌効果とともに耐性化抑制効果が期待される.d.トブラマイシン0.3%およびデキサメタゾン0.1%配合点眼液(TobraDexR)米国Alcon社から発売されている.多糖類の一つであるキサンタンガム(xanthangum)を用いたデキサメタゾン0.05%配合のTobraDexSTRが開発中である18).適応は表在性の細菌性眼感染症あるいは細菌感染が疑われ,ステロイド治療も要する症例とされ,眼瞼結膜炎や白内障術後点眼薬として用いられている18).塩化ベンザルコニウムを0.01%含有している.禁忌として,単純ヘルペス角膜炎,その他多くのウイルス性角膜炎あるいは結膜炎,Mycobacteriumによる眼感染症および真菌性角膜疾患などがある.副作用として眼瞼の.痒感,腫脹あるいは結膜充血(トブラマイシン:アミノ配糖体系)および眼圧上昇,後.白内障あるいは創傷治癒遅延(デキサメタゾン)などがある.このような抗菌薬とステロイド薬との配合点眼薬は欧米では臨床治験で数種検討されている.表53種のフルオロキノロン点眼液1滴点眼後の健常ヒト結膜への薬物動態パラメータ点眼15分後(μg/g)AUC0~24h(μg・h/g)平均滞留時間(h)0.6%ベシフロキサシン0.5%モキシフロキサシン0.3%ガチフロキサシン2.3010.74.036.6511.16.104.73.02.9(文献15より改変)表63種のフルオロキノロン点眼液1滴点眼後の白色家兎前房内への薬物動態パラメータCmax(μg/ml)Tmax(h)T1/2(h)AUC0~∞(μg・h/ml)1.5%レボフロキサシン0.5%モキシフロキサシン0.3%ガチフロキサシン0.7361.00370.4371.00.51.02.610.691.992.66282.04191.0080(文献16より改変)(45)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101367する目的で開発されたL-AMBが上市された.家兎を用いた全身投与モデルでL-AMBはAMPH-Bに比し角膜および前房水への移行が良好であった22).また白色家兎を用いた結膜下投与では1.5mg/0.3mlが眼毒性を認めず角膜組織に対し有効濃度が得られている23).一方,臨床的に0.5%L-AMB点眼24)あるいは5μg/0.1ml硝子体内投与25)などに用いられその有効性が報告されている.真菌性眼内炎では術中に眼内灌流液中への抗真菌薬の添加あるいは術後硝子体内投与が併用されることがある26~31)(表7).なお,家兎を用いたVRCZ前房内および硝子体内投与による半減期はそれぞれ22分および2.5時間であったという32).つぎに現在開発中で近い将来臨床応用が期待される抗真菌薬を2,3紹介する2).a.イサブコナゾール(isavuconazole)広域抗真菌スペクトルを有する新規アゾール系抗真菌薬で,注射薬および経口剤の両剤形で開発が進められている.FLCZやITCZに耐性の真菌にも有効という.Awater-solublepro-drugにて体内で速やかにエラスターゼにより分解され,イサブコナゾールに変換される.高いバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)を有し,血清中の薬剤濃度半減期は長い.副作用として頭痛,鼻炎様症状および刺入部痛などがある.侵襲型Aspergillus症およびCandida血症を対象とし第3相臨床試験が米国,欧州などにおいて実施されている.b.Corifungin水溶性でポリエン系に属する.Candida属に対してAMPH-BやVRCZと同等のinvitroでの抗真菌活性をンギン(MCFG,ファンガードR)などがある.そのなかでわが国において眼局所に使用が認められている抗真菌薬はポリエン系のピマリシン(5%点眼および1%眼軟膏)のみで,他は全身投与薬である.ほとんどの薬剤が眼血液関門のため眼内,特に硝子体内への移行性は不良である.そこで感染部位や菌種に応じて薬剤ならびに投与法を選択する必要がある19).しかし使用に際しては倫理委員会の承認および十分なインフォームド・コンセントを要する.点眼あるいは結膜下投与における注意すべき点は,副作用としての結膜刺激症状,上皮障害あるいは眼瞼炎や薬剤そのものの安定性である.また,前房内あるいは硝子体内投与では薬剤による角膜あるいは網膜への影響および手技による白内障,網膜出血あるいは網膜.離などの発生に留意すべきである.VRCZは幅広い抗真菌スペクトラムを有しかつ3.0.4.0mg/kg12時間毎の投与で眼内移行性が良好な薬剤ではある20)が,肝機能障害や視覚障害(投与開始1週間以内に30~50%)などの副作用に注意を要する.特に真菌性眼内炎では投与期間が長期に及ぶことがあるので,投与期間中の血中モニタリングが望ましい.キャンディン系薬剤のMCFGは細胞壁合成阻害作用という新しい作用機序を有し副作用の少ない抗真菌薬であるが,その有効な全身投与量に関しては定まっていない.また眼内,特に硝子体内への移行は不良である.Suzukiら21)は白色家兎を用いMCFG10mg/kg静脈内投与後の眼内移行性を検討したところ網脈絡膜には最大20.18μg/gに達したが硝子体内では検出限界以下であったという.AMPH-Bは毒性が強いので第一選択として眼局所に使用されることはわが国では少ない.近年副作用を軽減表7抗真菌薬の眼局所投与量抗真菌薬(商品名)点眼(%)結膜下注射前房内投与(μg/0.1ml)硝子体内投与(μg/0.1ml)眼内灌流(μg/ml)AMPH-B(ファンギゾン)MCZ(フロリード)FLCZ(ジフルカン)ITCZ(イトリゾール)MCFG(ファンガード)VRCZ(ブイフェンド)0.10.10.1~0.21.00.10.1~1.0─0.1~0.2%/0.3ml0.2%/0.3ml───5~35────10~200540100105100101020───1368あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(46)ている38).適応外ではあるが,サイトメガロウイルスによる角膜内皮炎への効果が期待される.3.アデノウイルスに対する抗ウイルス薬アデノウイルスに対する特異的抗ウイルス薬の研究および開発が進められ,核酸系逆転写酵素阻害薬,レセプター阻害薬,抗菌ペプチド,生理活性物質およびインターフェロンなどがアデノウイルス結膜炎起炎の型に抗アデノウイルス作用を有するという.具体的にはザルシタビン(ハイビッドR:抗HIV薬),スタブジン(ゼリットR:抗HIV薬),N-chlorotaurine,hCAP-18(humancationicantimicrobialprotein18),INF(インターフェロン)-bおよびINF-gなどがある39).しかしながら臨床例に対する評価は今後の課題という.4.ワクチン療法子宮頸癌を予防するためにヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンが開発された.HPV-16とHPV-18に対する2価ワクチン(CervarixR:2009年日本承認)とHPV-6とHPV-11を加えた4価ワクチン(GARDASILR:2009年米国FDA承認,日本未認可)がある.眼科領域でも結膜乳頭腫などではHPV-6とHPV-11が,結膜上皮内新形成(CIN)や扁平上皮癌など悪性腫瘍ではHPV-16とHPV-18が検出されることが多いので,将来的にこれらのワクチンによる結膜腫瘍発生予防が期待される40).IVその他:角膜クロスリンキングリボフラビン・長波長紫外線治療本来は円錐角膜・角膜拡張症(keratectasia)の進行を停止させる治療法であるが,病原微生物への殺傷効果による感染性角膜炎への応用が提言されている41,42).おわりに抗微生物薬の使用に際し重要なことは適正な薬剤使用(既存あるいは新規薬剤)と適切な感染管理である.そして,われわれ眼科医は各々の薬剤において常に眼内組織移行性ならびに眼局所投与における有効性と安全性の有し,またAspergillus属,Alternalia属,Cladosporium属およびScopulariopsis属などの糸状菌に対してもAMPH-Bと同等の抗真菌活性を有する.c.カスポファンギン(caspofungin,CancidaR)キャンディン系薬剤の一つで2001年1月に米国で承認されている.L-AMB,ITCZに不応性もしくは継続不能例の侵襲型Aspergillus症のサルベージ療法として位置付けられている.MCFGと同じく眼内移行(硝子体内)は不良で33),0.5%点眼液が臨床試用された報告34)がある.マウスを用いた実験結果からヒトへの安全な硝子体内投与量は20μgという35).III抗ウイルス薬1.全身投与薬ファムシクロビル(famciclovir,ファムビルR)2008年わが国で発売されたファムシクロビルはペンシクロビルの吸収性を高めたプロドラッグである.経口投与後,肝代謝によりペンシクロビルに変換され,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染細胞内で活性型であるペンシクロビル3リン酸となりVZVの増殖を阻害する.適応は帯状疱疹とされているが,欧米では単純ヘルペスウイルス感染にも使用されている.1回500mg1日3回経口投与を原則とし,効果はバラシクロビルと同等という.ファムシクロビル内服(500mg×3)後の平均硝子体内濃度は1.2μg/mlで血清比は0.28%であった36)という.急性網膜壊死におけるアシクロビル点滴静注後の内服療法の選択肢の一つとして注目されている37).2.ゲル化点眼薬Ganciclovirophthalmicgel0.15%(ZirganR)ガンシクロビルのゲル化点眼薬で2009年9月に単純ヘルペス角膜炎の治療薬としてFDAから承認された.用法・用量は1回1滴1日5回を角膜潰瘍治癒まで,その後7日間1日3回投与とされている.副作用として視力障害,眼刺激症状,点状角膜炎および結膜充血などがある.2歳以下の乳幼児への安全性は確立されていない.pHは7.4で,塩化ベンザルコニウム0.075mgを含有し(47)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101369検証および把握に努める姿勢を忘れてはならない.一方で,従来の抗微生物薬によらない,たとえばワクチン療法(HPV以外)や分子標的治療薬など(広義では抗微生物薬として取り扱われるかもしれないが)を用いた新たな治療法の開発が望まれる.文献1)八木澤守正:抗菌薬開発の現状と展望.日化療会誌52:761-770,20042)掛屋弘,河野茂:現在開発中の抗真菌薬.化学療法の領域26:608-616,20103)PrydalJI,JenkinsDR,LoveringAetal:Thepharmacokineticsoflinezolidinthenon-inflamedhumaneye.BrJOphthalmol89:1418-1419,20054)HorcajadaJP,AtienzaR,SarasaMetal:Pharmacokineticsoflinezolidinhumannon-inflamedvitreousaftersystemicadministration.JAntimicrobChemother63:550-552,20095)SalehM,JehlF,DoryAetal:Ocularpenetrationoftopicallyappliedlinezolidinarabbitmodel.JCataractRefractSurg36:488-492,20106)DukeSL,KumpLI,YuanYetal:Thesafetyofintraocularlinezolidinrabbits.InvestOphthalmolVisSci51:3115-3119,20107)ChewFL,SoongTK,ShinHCetal:Topicalpiperacillin/tazobactamforrecalcitrantPseudomonasaeruginosakeratitis.OculPharmacolTher26:219-222,20108)Ozkiri.A,EverekliogluC,Konta.Oetal:Determinationofnontoxicconcentrationsofpiperacillin/tazobactamforintravitrealapplication.Anelectroretinographic,histopathologicandmorphometricanalysis.OphthalmicRes36:139-144,20049)Ozkiri.A,EverekliogluC,AkgunHetal:Acomparisonofintravitrealpiperacillin/tazobactamwithceftazidimeinexperimentalPseudomonasaeruginosaendophthalmitis.ExpEyeRes80:361-367,200510)SinghTH,PathengayA,DasTetal:Enterobacterendophthalmitis:treatmentwithintravitrealtazobactam-piperacillin.IndianJOphthalmol55:482-483,200711)AkpekEK,VittitowJ,VerhoevenRSetal:Ocularsurfacedistributionandpharmacokineticsofanovelophthalmic1%azithromycinformulation.JOculPharmacolTher25:433-439,200912)TorkildsenG,O’BrienTP:Conjunctivaltissuepharmacokineticpropertiesoftopicalazithromycin1%andmoxifloxacin0.5%ophthalmicsolutions:asingle-dose,randomized,open-label,active-controlledtrialinhealthyadultvolunteers.ClinTher30:2005-2014,200813)岩尾岳洋,塚本仁,政田幹夫:外用抗菌薬・点眼抗菌薬.医薬ジャーナル45:541-544,200914)ProkschJW,GranvilCP,Siou-MermetRetal:Ocularpharmacokineticsofbesifloxacinfollowingtopicaladministrationtorabbits,monkeys,andhumans.JOculPharmacolTher25:335-344,200915)TorkildsenG,ProkschJW,ShapiroAetal:Concentrationsofbesifloxacin,gatifloxacin,andmoxifloxacininhumanconjunctivaaftertopicalocularadministration.ClinOphthalmol26:331-341,201016)SandersME,MooreQC3rd,NorcrossEWetal:EfficacyofbesifloxacininanearlytreatmentmodelofmethicillinresistantStaphylococcusaureuskeratitis.JOculPharmacolTher26:193-198,201017)McDonaldMB:Researchreviewandupdate:IQUIX(levofloxacin1.5%).IntOphthalmolClin46:47-60,200618)ScoperSV,KabatAG,OwenGRetal:Oculardistribution,bactericidalactivityandsettlingcharacteristicsofTobraDexSTophthalmicsuspensioncomparedwithTobraDexophthalmicsuspension.AdvTher25:77-88,200819)KaurIP,RanaC,SinghH:Developmentofeffectiveocularpreparationsofantifungalagents.JOculPharmacolTher24:481-493,200820)HariprasadSM,MielerWF,HolzERetal:Determinationofvitreous,aqueous,andplasmaconcentrationoforallyadministeredvoriconazoleinhumans.ArchOphthalmol122:42-47,200421)SuzukiT,UnoT,ChenGetal:Oculardistributionofintravenouslyadministeredmicafungininrabbits.JInfectChemother14:204-207,200822)GoldblumD,RohrerK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,200423)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200924)TouvronG,DenisD,DoatMetal:SuccessfultreatmentofresistantFusariumsolanikeratitiswithliposomalamphotericinB.JFrOphtalmol32:721-726,2009[.ArticleinFrench]25)KocA,OnalS,YeniceOetal:ParsplanavitrectomyandintravitrealliposomalamphotericinBinthetreatmentofCandidaendophthalmitis.OphthalmicSurgLasersImaging2010Mar9:1-3[.Epubaheadofprint]26)矢野啓子:眼科領域.深在性真菌症の診断・治療のガイドライン2007.深在性真菌症のガイドライン作成委員会編,協和企画,p112-118,200727)ShenYC,WangMY,WangCYetal:Pharmacokineticsofintracameralvoriconazoleinjection.AntimicrobAgentsChemother53:2156-2157,200928)ShenYC,WangCY,TsaiHYetal:Intracameralvoriconazoleinjectioninthetreatmentoffungalendophthalmitisresultingfromkeratitis.AmJOphthalmol149:916-921,201029)鈴木崇:抗真菌薬の使い方.臨眼57:311-316,200330)ThomasPA:Fungalinfectionsofthecornea.Eye17:852-862,200331)宇野敏彦:抗真菌薬:眼科プラクティス28.眼感染症の謎1370あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010を解く(大橋裕一編),文光堂,p434-435,200932)ShenYC,WangMY,WangCYetal:Clearanceofintravitrealvoriconazole.InvestOphthalmolVisSci48:2238-2241,200733)GoldblumD,FauschK,FruehBEetal:Ocularpenetrationofcaspofungininarabbituveitismodel.GraefesArchClinExpOphthalmol245:825-833,200734)Hurtado-SarrioM,Duch-SamperA,Cisneros-L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