●連載◯138監修=安川力五味文118糖尿病黄斑浮腫における局所網膜加藤房枝JA愛知厚生連豊田厚生病院名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学光凝固の活用糖尿病黄斑浮腫治療においてCVEGF阻害薬に対する反応不良例はC30.40%存在し,原因に毛細血管瘤が関与していることも多い.毛細血管瘤からの漏出による中心窩外の局所性浮腫は網膜光凝固のよい適応であり,VEGF阻害薬主体の糖尿病黄斑浮腫治療においても,局所網膜光凝固の適応の見きわめは重要である.はじめに糖尿病黄斑浮腫は,高血糖により網膜血管内皮細胞や周皮細胞が障害され,血管透過性亢進や毛細血管瘤が形成され生じる.そのなかでCVEGFの発現亢進が密接に関与しており,VEGF阻害薬硝子体内注射は糖尿病黄斑浮腫治療の主体である.VEGF阻害薬の登場以前は,CEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudy(ETDRS)で局所/格子状網膜光凝固により重篤な視力低下を避けられるとされ,積極的に行われていたが,その後に網膜光凝固による瘢痕拡大や網膜下の線維性瘢痕などの合併症を生じることもあり,VEGF阻害薬登場以降はすっかり減少した.しかし,VEGF阻害薬が効きにくい患者,頻回投与が必要である抗CVEGF治療の経済的負担,VEGF阻害薬による心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクもわずかながらあり,抗CVEGF治療以外の治療法はやはり必要と考える.局所網膜光凝固は毛細血管瘤からの漏出と考えられる中心窩外の局所性浮腫にはよい適応である1).局所網膜光凝固が奏効すれば,VEGF阻害薬に比べ効果が長く持続することが期待でき,低コストで,頻回通院の負担が減るなどメリットも大きい.糖尿病黄斑浮腫診療において,局所網膜光凝固の適応を見きわめることが重要である.図1抗VEGF治療後に浮腫が残存する症例a:抗CVEGF治療前のCOCTカラーマップ.びまん性浮腫となっている.b:抗CVEGF治療をC6回行いC1年経過した時点でのCOCTカラーマップ.びまん性浮腫から局所性浮腫となり,残存している.視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫の状態であり,局所網膜光凝固を行うタイミングと考える.抗CVEGF治療などで網膜肥厚を減少させた状態で毛細血管瘤への網膜光凝固を行うと,最小限のエネルギーで凝固でき,網膜の瘢痕拡大を避けられる.c:抗CVEGF薬治療前のフルオレセイン蛍光造影とCOCTカラーマップ(b)を重ね合わせた.既報4)同様,浮腫の残存部位には治療前に毛細血管瘤が多く存在し,VEGF阻害薬に抵抗しやすいことが予測される.(69)あたらしい眼科Vol.40,No.12,202315730910-1810/23/\100/頁/JCOPY視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫に対する局所凝固光凝固ETDRSが提唱してきた中心窩を含まない糖尿病黄斑浮腫(=clinicallyCsigni.cantCmacularedema:CSME)を放置すると,中心窩に黄斑浮腫がかかり視力低下する危険があるため,わが国の糖尿病網膜症診療ガイドライン(初版)では,CSMEを「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」とわかりやすく表記し,その診断基準を明確に定義している.「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」では硬性白斑や網膜肥厚の内部に毛細血管瘤が存在することが多く,局所網膜光凝固により抗CVEGF治療が不要になることも期待できるため,局所光凝固を推奨している.抗VEGF治療と局所凝固光凝固の併用治療抗CVEGF治療に抵抗する糖尿病黄斑浮腫はC30.40%程度あることや,さまざまな研究で併用治療はCVEGF単独治療に比べ,VEGF阻害薬の注射回数が少ないことが報告されている.現時点で抗CVEGF治療と局所網膜光凝固の併用に関する明確な治療プロトコルはないが,国内の専門家により作成された治療指針では,抗VEGF治療をC6カ月以上行ったのち,毛細血管瘤が存在すれば局所光凝固治療を併用する内容が記載されている2).VEGF阻害薬により毛細血管瘤は減少するが,中心窩周囲の毛細血管瘤,高密度に集簇した毛細血管瘤や大型の毛細血管瘤がCVEGF阻害薬の反応不良例に存在し,遷延する原因となっている3.5).抗CVEGF治療中に再発する患者において,再発直前の光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)カラーマップを見ると,「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」の状態にあることがある.その場合に毛細血管瘤があれば,局所網膜光凝固を検討する(図1).局所網膜光凝固の際は,中心窩に近いほど瘢痕を残さないようにショートパルスの条件でより低侵襲な凝固を心がける.具体的には凝固時間C0.02.0.03秒,スポットサイズC50Cμm,凝固出力はC100CmW.瘢痕が出る程度まで上げる1).新しいレーザー治療装置であるナビゲーションレーザーは,従来の局所網膜光凝固に比べ,成功率が高く,再治療の頻度が少ない.また,トラッキング機能により患者の眼が動いても安全に行うことができるため,中心窩に近い局所網膜光凝固ではナビゲーションレーザーが推奨される.さらにナビゲーションレーザーC1574あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023ではCOCTや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を組み合わせた局所網膜光凝固も可能である.一方,毛細血管瘤がない場合には,閾値下凝固といった低侵襲な治療法もある.インドシアニングリーンガイド下局所凝固毛細血管瘤の評価にはフルレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)のほかに,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)も有用である.IAは浮腫に直接関連している毛細血管瘤の検出が可能であるため,FAに比べて少ない凝固数で効果が得られやすい.IA後期に染まる毛細血管瘤があると抗CVEGF治療を行っても再発しやすいという報告や,慢性糖尿病黄斑浮腫の原因として150Cμm以上の大型の毛細血管瘤をCPaquesらはとくにtelangiectaticCcapillariesとよび,局所網膜光凝固が有用であると報告している5).おわりに抗CVEGF治療単独で患者も医師側も満足な結果が得られているのであれば継続してよいと考えるが,継続がむずかしい患者や,再発も含め遷延している場合は,局所網膜光凝固を活用し双方の負担を軽減したい.文献1)NozakiM.,AndoR,KimuraT:Theroleoflaserphotoco-agulationintreatingdiabeticmacularedemaintheeraofintravitrealCdrugadministration:ACdescriptiveCreview.Medicina(Kaunas)C9:1319,C20232)YoshidaS,MurakamiT,NozakiMetal:Reviewofclini-calCstudiesCandCrecommendationCforCaCtherapeuticC.owCchartfordiabeticmacularedema.CGraefesArch.Clin.Exp.COphthalmolC259:815-836,C20213)HiranoCT,CToriyamaCY,CIesatoCYCetal:E.ectCofCleakingCperifovealmicroaneurysmsonresolutionofdiabeticmacu-laredematreatedbycombinationtherapyusinganti-vas-cularendothelialgrowthfactorandshortpulsefocal/gridlaserphotocoagulation.CJpnJOphthalmolC61:51-60,C20174)YamadaCY,CTakaniuraCY,CMoriokaCMCetal:Microaneu-rysmCdensityCinresidualoedemaCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCdiabeticCmacularCoedema.CActaOphthalmolC99:e876-e883.C20215)PaquesCM,CPhilippakisCE,CBonnetCCCetal:Indocyanine-green-guidedCtargetedClaserCphotocoagulationCofCcapillaryCmacroaneurysmsinmacularoedema:Apilotstudy.BrJ.OphthalmolC101:170-174,C2017(70)