ぶどう膜炎(Vogt・小柳・原田病)Uveitis(Vogt-Koyanagi-HaradaDisease)長谷川英一*はじめにぶどう膜炎疾患では眼内全体に炎症が起こる可能性がある.とくに後眼部に炎症が波及した場合は,網膜に加えて脈絡膜にも種々の変化が起きる.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では検眼鏡的に観察のむずかしい脈絡膜の描出が可能であり,診断や治療効果判定に有用である.本稿では,ぶどう膜炎をきたす疾患として頻度が高いCVogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)におけるCOCTの活用と治療について概説する.CIVogt・小柳・原田病のOCT所見VKHは霧視や羞明などを伴う視力低下を自覚し,典型例では急性期に黄斑部や視神経乳頭周囲を中心に両眼性の漿液性網膜.離を生じる.OCTにてこの漿液性網膜.離を観察すると,視細胞外節が網膜色素上皮から.離した網膜.離の像がみられる(図1).さらに分離した視細胞内節と外節の間に滲出液が貯留し,フィブリンによる隔壁を伴い多房性を呈することがある(図2).また,OCTでみられる特徴的な所見として脈絡膜皺襞と脈絡膜肥厚がある.脈絡膜皺襞は網膜色素上皮がひだ状に波打つ像で,これは脈絡膜が肥厚することで網膜色素上皮細胞層が隆起することによる(図3).VKHでは脈絡膜に存在するメラノサイトを標的として,類上皮細胞やリンパ球など多数の炎症細胞が脈絡膜に浸潤することにより脈絡膜が肥厚する(図4).通常,脈絡膜厚は平均250CumでCOCTでは脈絡膜と強膜の境界を容易に確認することができるが,病初期には脈絡膜厚の肥厚がみられ,ときにC800Cum以上に肥厚することもあり,脈絡膜と強膜の境界が不明瞭となる.漿液性網膜.離とびまん性の脈絡膜肥厚はCVKHの診断基準に含まれており,これらの所見をCOCTで確認することは診断に重要となる.乳頭浮腫型のCVKHでは視神経乳頭炎がおもであり,漿液性網膜.離を呈さないこともあるが,脈絡膜皺襞と脈絡膜肥厚はみられるので診断の補助となる.CIIVogt・小柳・原田病の治療とOCT所見VKHでは発症早期に十分な炎症抑制を行うことが,のちの再発や遷延化の予防に重要である1,2).一般的にはステロイドパルス療法を行うことが多く,メチルプレドニゾロン(mPSL)1,000Cmg/日をC3日間点滴静注したのち,プレドニゾロン(PSL)内服をC40.60Cmg/日から開始し,5.10Cmg/日ずつ内服量を数カ月かけて漸減しながら継続する3).1回目のステロイドパルス療法でも炎症が強く残存し漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞所見の改善に乏しい場合は,続けてC2回目のステロイドパルス療法を行うこともある.ステロイドが奏効し炎症の鎮静化が得られると,漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞は消失し,肥厚した脈絡膜も正常化していく(図5).ステロイドパルス療法直後から所見が正常化し視力回復がみられる患者もいれば,PSL内服を継続しながら数週間から数カ月かかって徐々に所見が正常化し視力が回復する患者も*EiichiHasegawa:国立病院機構九州医療センター眼科〔別刷請求先〕長谷川英一:〒810-8563福岡市中央区地行浜C1-8-1国立病院機構九州医療センター眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(75)C311図1VKHでみられる漿液性網膜.離図2多房性の漿液性網膜.離隔壁内にはフィブリンの貯留もみられる.図3脈絡膜皺襞図4脈絡膜肥厚網膜色素上皮が波打っている像がみられる.脈絡膜と強膜の境界線が不明瞭となっている.図5図4の治療寛解後図6脈絡膜の菲薄化(遷延型の寛解後)漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚も正常化し,脈絡膜脈絡膜が菲薄化している.と強膜の境界線が明瞭となっている.PSLを増量し治療の強化を図る.当院では再発時のPSL投与量よりプロトコル上C2段階多いCPSL投与量へ戻したうえで,投与期間をC2倍に延ばして再度漸減を行っている.再発の場合でもステロイド治療の強化により多くの患者では炎症の鎮静化を得られるが,この際にステロイドの総投与量に気をつけておかねばならない.ステロイドの総投与量が増えるにつれて,白内障や緑内障などの眼疾患はもちろん大腿骨頭壊死や胸腰椎圧迫骨折などの全身合併症の出現するリスクが高くなるとされる5).再発を繰り返す患者では,炎症鎮静化を得るためにも,またステロイドの総投与量が増えることを避けるためにも,免疫抑制薬や生物学的製剤の導入が必要である.CIII免疫抑制薬と生物学的製剤による治療免疫抑制薬のシクロスポリン(CYA)はC2013年に非感染性ぶどう膜炎に対して保険適用となり,VKHでも使用される.CYAはステロイドを減量するたびに再発する難治患者に対してステロイド内服薬と併用することで,ステロイドを減量することを目的として用いられている.CYAを導入する場合は,ステロイドを有効容量まで増量し消炎が得られたのちにCCYAを導入する.炎症所見の軽快,再燃がないことをCOCTでも確認しながら,ステロイドは漸減していく.CYAの投与量については2.3.mg/kg/日から開始し,1.2.mg/kgずつ増減しながら,最終投与からC12時間後の血中濃度(トラフ値)がC100.ng/mlを目標としC150.ng/mlを超えないようにする.CYAの代表的な副作用として腎障害や肝障害があり,使用中は血中濃度の定期的な測定と同時に肝腎機能のモニタリングも必要である.CYAによる副作用が出現した場合は使用を中止し,生物学的製剤の導入を検討する.生物学的製剤である抗腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)Ca抗体のアダリムマブ(ADA)はC2016年に非感染性の中間部,後部または汎ぶどう膜炎に適応となった.ステロイド増量やCCYA併用による治療強化を行っても再発を繰り返す難治性のCVKHではCADAを導入する.ADAは結核やCB型肝炎などの各種感染症や悪性疾患の出現リスクがあり,導入に際して事前のスクリーニング検査が必須である.また,使用中も全身状態の定期的な観察が必要であり,内科医との密な連携が求められる.Behcet病による難治性ぶどう膜炎に対して使用されているCTNF阻害薬のインフリキシマブは点滴静注による投与であるのに対し,ADAは自己による皮下投与であるため比較的安易に導入され管理が不十分になる可能性があることから,日本眼炎症学会から使用する医師と施設の基準が示されている6).医師基準は,眼科専門医かつ眼炎症学会の会員でぶどう膜炎診療の十分な経験があること,eラーニング講習を受講しCTNF阻害薬の知識を習得することである.また,施設基準は,副作用の定期的な検査や副作用に迅速に対応できること,TNF阻害薬の使用に精通した内科医との連携が可能なこととされている.ADAの投与方法は,初回にC80Cmgを皮下投与し,1週間後にC40Cmgを,以降はC2週間ごとにC40Cmgを投与する.投与開始後はC2.3カ月ごとに眼所見,全身所見の経過観察をしっかり行う.ADAの導入もやはり炎症の改善とともにステロイドの減量が目的であり,投与後は炎症所見の改善を確認しながらステロイドを漸減していく.日本人の非感染性ぶどう膜炎患者に対するCADA使用の市販後調査では,炎症所見の改善に伴い導入前にはC14.6Cmg/日であった平均ステロイド投与量が,導入C1年後にはC7.2Cmg/日まで減量されており,ADAのステロイド減量効果が示されている7).おわりにVKHの治療においては炎症抑制のための早期の治療導入,また病状に合わせたステロイド量の調整,免疫抑制薬や生物学的製剤の適切な導入が重要である.OCTで病状を正しく把握し治療を行うことで,早期寛解や再発の防止につなげたい.文献1)IwahashiCC,COkunoCK,CHashidaCNCetal:IncidenceCandCclinicalCfeaturesCofCrecurrentCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-easeCinCJapaneseCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC59:157-163,C20152)LaiCTY,CChanCRP,CChanCCKCetal:E.ectsCofCtheCdurationCofCinitialCoralCcorticosteroidCtreatmentConCtheCrecurrenceCofCin.ammationCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CEye(Lond)C23:543-548,C2009(77)あたらしい眼科Vol.C41,No.3,2024C313