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硝子体手術のワンポイントアドバイス70.術後疼痛緩和の重要性(初級編)

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093550910-1810/09/\100/頁/JCLS近年の網膜硝子体手術は,手術器具や術式の改良により短時間かつ低侵襲で施行できるようになり,術後の疼痛は以前よりも大幅に軽減しているものと思われる.しかし,増殖硝子体網膜症などの難治性疾患では手術侵襲が大きく,術後の疼痛に苦しむ患者が依然として存在する.手術が長時間に及んだ場合,幅広い強膜バックリングを設置した場合,再手術で既存のバックルを除去したうえで新しいバックルに置き換えた場合,角膜上皮擦過を施行した場合,術後に高度の眼圧上昇をきたした場合などに術後疼痛が強くなる傾向がある.ガスタンポナーデ施行眼では,疼痛のために術後の確実な体位保持が困難となることもある.また,糖尿病や高血圧などの全身疾患を有する患者では,術後の疼痛が全身状態を悪化させる可能性も考えられる.術後疼痛を緩和することは,患者の肉体的,精神的負担を軽減するのみならず,手術成績を向上させるうえでも重要である.剤による鎮痛効果眼科領域の術後疼痛の抑制には,従来から鎮痛剤の内服,坐薬,筋肉注射などが頻用されている.しかし,患者の疼痛がピークに達した時点で薬剤を投与しても,効果が発現するまでには一定時間を要するだけでなく,疼痛緩和効果が予防投与よりも弱くなる傾向がある.筆者は疼痛が出現しはじめた時点で,速やかに鎮痛剤を使用するように指示している.(73)術終了時の局所麻酔薬注射による鎮痛効果筆者は,強い術後疼痛が予測される症例に対して,塩酸ロピバカイン(アナペインTM)や塩酸ブピバカイン(マーカインTM)のTenon下注射(あるいは球後注射)を術終了時に行っている.これらの局所麻酔薬はリドカイン(キシロカインTM)よりも効果持続時間が約3倍長く,術後疼痛を数時間にわたって確実に軽減できる1).Tenon下注射の場合には各象限に約0.5mlの麻酔薬を注入している.瞼のテーピング角膜上皮擦過を施行した症例では,術終了時に滅菌テープで上下の眼瞼を貼り,開瞼できない状況にしておく(図1).この処置は術後疼痛緩和に有効なだけでなく,術後の上皮再生を促進する効果も期待できる2).文献1)DukerJS,NielsenJ,VanderJFetal:Retrobulbarbupiva-caineirrigationforpostoperativepainafterscleralbuck-lingsurgery.Aprospectivestudy.Ophthalmology98:514-518,19912)池田恒彦:網膜硝子体手術のトラブルと対処3.術後のトラブル.眼科41:1305-1311,1999硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載70術後疼痛緩和の重要性(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1角膜上皮擦過施行例に対する眼瞼のテーピング術後疼痛緩和に有効なだけでなく,術後の上皮再生を促進する効果も期待できる.

眼科医のための先端医療99.細胞死と生体反応―Danger associated molecular patterns(DAMPs)―

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093530910-1810/09/\100/頁/JCLS個体にとっての細胞死と生体反応生体での原因で細胞死り生に生のにの反応にの個体死とり細胞死個体のでり生細胞死細胞での生のでり個体の生にとってと細胞死わりで細胞死てお反応のりととでの原因で生細胞死に生体反応とて死細胞の細胞の反応結末(図1).この細胞死後の生体反応には,免疫が関与し,炎症反応の一つととらえることができます1).Dangerassociatedmolecularpatternsと細胞死反応とollliereceptors(s)本64(ol2o4)s生と体s生pathogenassociatedmolecularpatterns(PAMPs)とと細胞死生体反応体体生と細胞死反応とPAMPsdangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)とDAMPsalarminsendoinesdangersignalsと細胞死細胞と2)(表1).Highmobilitygroupbox1proteinHighmobilitygroupbox1protein(HM1)DAと細胞死細胞ととDAMPsHM1細胞DAMPsと細胞HM1体とreceptororadancedglycationendproducts(A)24Aadancedglycationendproducts100bなどとともにHMGB1を認識するパターン認識受容体です.(71)表1DAMPsとその受容体DAMPs受容体HMGB1RAGE,TLR2,TLR4尿酸TLR2,TLR4,CD14DNATLR9ヒートショックプロテインCD14,CD40,CD91,TLR2,TLR4ATPP1受容体,P2X/P2Y受容体S100プロテインRAGEヒアルロン酸CD44,TLR2,TLR4ヘパラン硫酸TLR4ATP:アデノシン三リン酸.(文献2より抜粋)◆シリーズ第99回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊有村昇(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学)細胞死と生体反応―Dangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)―図1細胞死の原因と結末生反応死細胞反応反応細胞死———————————————————————-Page2354あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009臨床的には,敗血症患者の血中でHMGB1が高値であり,敗血症モデルマウスにおいて抗HMGB1抗体を投与すると敗血症死が抑制できることから,敗血症の治療標的として注目されています.関節リウマチ患者の関節液中や,心筋梗塞,脳梗塞患者の血清中でも高値となることが知られ,現在さまざまな疾患におけるHMGB1の機能について研究が進められています.眼科領域では,増殖糖尿病網膜症患者,眼内炎患者3),網膜離患者4)の眼内液中でHMGB1が高値を示すことが報告されています.放出されたHMGB1は,状況に応じて,創傷治癒反応へかかわったり,他の炎症誘導物質と協働して炎症を増強したり,樹状細胞の成熟化やT細胞の活性化を促す免疫アジュバントとして働くなど,さまざまな機能をもっていることが報告されています5).おわりにDAMPsの眼疾患への関与はまだ十分に検討されていません.一方で,網膜神経節細胞死,視細胞死,網膜色素上皮細胞死など,細胞死とそれに伴う生体反応は多くの眼疾患において病態の中心となるものであり,網膜光凝固や冷凍凝固といった手術加療に伴っても生じる臨床的にもありふれた現象です.緻密に制御された眼内環境において,DAMPsがどのように機能しているかを探ることは,眼疾患のさらなる病態理解と治療の進歩につながる可能性があり,細胞死と生体反応は,眼科領域においても今後注目すべき研究分野といえます.文献1)MedzhitovR:Originandphysiologicalrolesofinamma-tion.Nature454:428-435,20082)KonoH,RockKL:Howdyingcellsalerttheimmunesys-temtodanger.NatRevImmunol8:279-289,20083)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:High-mobilitygroupbox1proteininendophthalmitis.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1053-1058,20084)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:Intraocularexpressionandreleaseofhigh-mobilitygroupbox1pro-teininretinaldetachment.LabInvest89:278-289,20095)BianchiME,ManfrediAA:High-mobilitygroupbox1(HMGB1)proteinatthecrossroadsbetweeninnateandadaptiveimmunity.ImmunolRev220:35-46,2007(72)細胞死と生体反応Dangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)―」を読んでの有村昇生の細胞死のでての生体生てにとををってととをてにをってとでわっておそ生体の()をりての生ので有村生てっのとにてそのの因にて受容体てをわりてにりとのにてとのとでわわでってのにをて細胞死にととのとででののとのでと体の()をにでりそののをりんでをのにに細胞とりわ細胞死にてのをてそののをわてとのとで有てとでとでと有村生でのにりんでととでのでをとのをりにとてており山山下英俊

サプリメントサイエンス:ビタミンCと眼科

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1OOOHHOOHCH2OHHあたらしい眼科Vol.26,No.3,20093510910-1810/09/\100/頁/JCLSビタミンCの構造式ビタミンC(L-アスコルビン酸:VC)の構造式を図1に示す.VCは分子式C6H8O6のラクトン環構造を有する化合物である.サプリメントとして市販されるVCは淡黄色を帯びていることが多い.しかし,純粋なVCは白色の結晶である.VCは固体で安定であるため,サプリメントに含まれる固体のVCも比較的安定である.ビタミンCの薬理,生理作用VCは活性酸素を消去して酸化ストレスを軽減することが知られる.また,VCはコラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の補因子として働く.コラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の反応にはFe2+など2価の金属イオンを必要とする.酵素反応の結果,2価の金属イオンは酸化される.VCは酸化された金属イオンをすみやかに還元して,コラーゲンの重合やカテコールアミンの合成を円滑に進める.ビタミンCの1日必要量(最低必要量と最適量)日本の食事摂取基準による1日当たりのVCの推奨摂取量は100mgである.しかし,100mgが本当に最適な摂取量であるかは明らかではない.冠動脈疾患の患者ではVCを1日に500mg摂取することにより血管内皮機能に改善効果が認められている1).イギリスのビタミン・ミネラル専門家委員会ではVCの過剰摂取による影響を包括的に検証した結果,VCの1回の過剰摂取による影響はほとんど認められないが,1日に1,000mg以上のVCを継続的に摂取すると悪影響を及ぼす可能性も否定できないと報告している2).このことから,VCの摂取は食品もしくはサプリメントによって,100mgのVCを1日に数回程度摂取することが効果的であると考えられる.食品中に含まれるビタミンC量五訂増補日本食品成分表に収載されている食品について,可食部100g中に含まれるVC含有量が多い食品を表1に示した.VCはアセロラに最も多く含まれており,そのつぎに乾燥パセリ,緑茶に多く含まれる.しかし,乾燥パセリや緑茶を1回に100g食べるのはむずかしい.一方,ジャガイモはVCを効率的に摂取できる.ジャガイモにはVCが可食部100g中35mg含まれており,デンプンを多く含むため調理による損失を受けにくいこと(69)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑩監修=坪田一男10.ビタミンCと眼科佐藤安訓*1丸山直記*2石神昭人*1*1東邦大学薬学部生化学*2東京都老人総合研究所ビタミンCは抗酸化作用のほか,コラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の補因子として働く.眼科領域において,ビタミンCの摂取は白内障の発症リスクを軽減し,加齢黄斑変性の進行を抑制することが報告されている.また,ビタミンCは1日に100mg以上1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的である.表1五訂増補日本食品成分表に収載されている食品中のビタミンC含有量(抜粋)食品名ビタミンC含有量(mg/可食部100g)アセロラ乾燥パセリ緑茶グァバ焼きのり赤ピーマン芽キャベツイチゴレモン(果汁)ジャガイモ1,700820260220210170160625035図1ビタミンCの構造式———————————————————————-Page2352あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009が知られる3).1日1個のジャガイモ(約150g)を摂取することで,1日のVC推奨摂取量のうち,約50%を満たすことができる.摂取カロリーもジャガイモ1個当たり約125kcalと低いため,食品からのVC摂取源として適している.VCの摂取には,VC含有量の多い食品から摂取するのがよい.眼科領域におけるビタミンCの効果1日に150~250mgのVC摂取は,眼球のVC濃度を高い状態に維持する4).Jacquesらは,1日に400mg以上のVCサプリメントを10年以上使用していた人は,使用していない人に比べて白内障(cataract)の発症リスクが77%も少なかったと報告している5).また,Lyleらは1日に摂取した食事から総カロリー摂取量を計算して,1,000kcal当たりのVC摂取量で白内障の発症リスクを比較している.その結果,喫煙者でVCを多く摂取している集団(1,000kcal当たりVCは236mg摂取)はVC摂取量の少ない集団(1,000kcal当たりVCは19mg摂取)に比べて白内障の発症リスクが70%も少ないと報告している6).日本では食事からのVC摂取と白内障発症との関係について,約35,000人を対象とした5年間にも及ぶ大規模な追跡調査が行われた.その結果,食事から1日に平均211mgのVCを摂取した集団は,平均52mgのVCを摂取した集団に比べて,白内障の発症リスクが男性で35%,女性で41%も少なかった7).その一方でVCの摂取と白内障の発症には相関性がないという報告もある8).このように,白内障の予防についてVCの摂取が有効かどうかははっきりとした結論は出ていない.しかし,VCの摂取により白内障発症リスクが増加したという報告はない9).アメリカで加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration)に対して行われた多施設無作為化対照試験の結果から,VCを500mg,ビタミンEを400IU,b-カロテンを15mg,亜鉛を80mg含むサプリメントの長期投与により加齢黄斑変性の進行度が非投与群に比べて低下するとの報告がある10).(70)このように,VCは白内障や加齢黄斑変性に対してよい効果がいくつか報告されていることから,眼科領域におけるサプリメントとして有効であると考えられる.VCは1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的である.摂取すべきかのエビデンスレベルA:摂取すべき(1日に100mg以上1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的).文献1)GokceN,KeaneyJFJr,FreiBetal:Long-termascorbicacidadministrationreversesendothelialvasomotordys-functioninpatientswithcoronaryarterydisease.Circula-tion99:3234-3240,19992)ExpertGrouponVitaminsandMinerals:Safeupperlim-itsforvitaminsandminerals.Availableat:www.food.gov.uk/multimedia/pdfs/vitmin2003.pdf20033)HanJS,KozukueN,YoungKSetal:Distributionofascorbicacidinpotatotubersandinhome-processedandcommercialpotatofoods.JAgricFoodChem52:6516-6521,20044)CarrAC,FreiB:TowardanewrecommendeddietaryallowanceforvitaminCbasedonantioxidantandhealtheectsinhumans.AmJClinNutr69:1086-1107,19995)JacquesPF,TaylorA,HankinsonSEetal:Long-termvitaminCsupplementuseandprevalenceofearlyage-relatedlensopacities.AmJClinNutr66:911-916,19976)LyleBJ,Mares-PerlmanJA,KleinBEetal:Antioxidantintakeandriskofincidentage-relatednuclearcataractsintheBeaverDamEyeStudy.AmJEpidemiol149:801-809,19997)YoshidaM,TakashimaY,InoueMetal:ProspectivestudyshowingthatdietaryvitaminCreducedtheriskofage-relatedcataractsinamiddle-agedJapanesepopula-tion.EurJNutr46:118-124,20078)VitaleS,WestS,HallfrischJetal:Plasmaantioxidantsandriskofcorticalandnuclearcataract.Epidemiology4:195-203,19939)TaylorA,HobbsM:2001assessmentofnutritionalinuencesonriskforcataract.Nutrition17:845-857,200110)AREDSResearchGroup:Arandomized,placebo-con-trolled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,2001☆☆☆

眼感染アレルギー:ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093490910-1810/09/\100/頁/JCLS眼瞼,結膜にはブドウ球菌を主として常在菌が存在する.これらの菌は眼表面に侵入,定着,増殖し,感染症の原因となるが,たとえ侵入しなくとも,その菌体外毒素によって角膜に免疫反応を生じる.これがブドウ球菌による周辺部角膜浸潤である.菌体としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ほか,黄色ブドウ球菌,アクネ菌,コリネバクテリウムがある.従来さまざまな疾患名でよばれており,ブドウ球菌性周辺部角膜浸潤以外に,たとえば,カタル性角膜辺縁潰瘍,カタル性潰瘍,辺縁部潰瘍など混沌としている.名称はさまざまであっても,すべて同様の病態と考えられる.一般外来にて最も多く遭遇する細菌性角膜炎は,この疾患であると思われる.それほど馴染み深いものであるが,実はその治療にはいくつかの落とし穴が存在する.態病態としては,角膜と接したブドウ球菌をはじめとする眼瞼常在菌の菌体成分あるいは外毒素が抗原となり,輪部血管からの抗体と抗原抗体複合体を形成する.これを受けて補体の古典経路が活性化され,多核白血球,リンパ球が遊走する.この細胞浸潤の状態から,さらに多核白血球から蛋白分解酵素が分泌されて潰瘍を生じる場合もある.いわゆるIII型アレルギーの病態を呈する.床所見中高年女性に好発するといわれている.角膜が眼瞼と接する2時,4時,8時,10時に円形の白色浸潤として観察される.典型所見を図1に示す.同部の軽度毛様充血を伴うが,輪部血管からの抗体が反応しているため,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.侵入,定着,増殖した感染症と違い,その場での細菌増殖に伴う外毒素の加速度的産生は少ないので,びまん性の角膜浮腫は認めにくい.数回にわたり再発をくり返すことが多いため,患眼,僚眼ともに以前の浸潤によると思われる小円形の白濁を認めることがあり,鑑別の一助となる.眼瞼縁の炎症も併発していることが多い.意すべき鑑別周辺部に存在することから,いわゆるリウマチ,膠原病,Mooren潰瘍などの免疫原性角膜潰瘍と鑑別が必要である.①輪部との間に透明帯が存在すること,②自己免疫疾患などの既往がない,③潰瘍形状が深彫れしていない,などのポイントが免疫原性角膜潰瘍の否定とな(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑮監修=木下茂大橋裕一15.ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤佐々木香る出田眼科病院感染には生体防御という免疫反応が必ず伴う.この両者のバランスを考えたとき,ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤は,最も生体防御側に偏った状態である.病態としては,ブドウ球菌の菌体あるいは外毒素に対するⅢ型アレルギー反応である.重要な点は2つ.①治療にステロイドが必須であること,②非典型的な緑膿菌感染症との鑑別,である.図12WDSCL装用者(24歳,女性)角膜が眼瞼と接する8時方向に円形の白色浸潤を認める.同部の軽度毛様充血を伴い,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.びまん性の角膜浮腫は認めず,その他の部位の角膜は透明である.さらに,マイボーム腺の閉塞も認める.———————————————————————-Page2350あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009る.また,上皮欠損が線状に存在することも多いため,ヘルペスとの鑑別を要されることもある.本疾患では,①terminalbalbがないこと,②眼瞼常在菌の慢性刺激が存在するため,広い範囲で微少な血管侵入を認めることが鑑別となる.さらに,近年特に増加している2週間頻回交換型コンタクトレンズ(2WDSCL)装用者における緑膿菌性角膜感染症が本疾患の鑑別対象となりうる.従来,緑膿菌性角膜潰瘍は輪状膿瘍を中心として高度な角膜浮腫,前房蓄膿など比較的特徴的な所見を呈するとされてきた(図2a).ところが,2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍はその病態が修飾される.円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,前房炎症も軽く,全体に臨床所見が軽症化し,ブドウ球菌による周辺部潰瘍に類似した所見を呈する(図2b).その軽症化の機序は不明であるが,コンタクトレンズ装用による低酸素状態も一因であると思われる.療治療は抗菌薬点眼とステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点)である.コンタクトレンズ装用による緑膿菌感染症との鑑別が困難な症例もあるので,まず抗菌薬の加療を先行させて,その後ステロイドを追加するのが(68)安全であると思われる.再発予防として眼瞼縁清拭指導などのマイボーム腺のケアが必要となる.マイボーム腺機能不全(MGD)が高度な場合には,ステロイドや抗菌薬(ミノサイクリンやテトラサイクリン)の内服投与を考慮する.ミノサイクリンに関しては文献的には23カ月の内服投与が推奨されているが,膀胱炎症状を呈する場合も多く,テトラサイクリンは小児では,歯芽の着色も報告されているので,眼科単独で処方する場合には注意を要する.文献1)北川和子,浅野浩一,佐々木一之:カタル性角膜辺縁潰瘍の臨床像.臨眼46:720-721,19922)佐々木香る:カタル性角膜浸潤.眼科インストラクションコース16アレルギー性眼疾患とドライアイ(高松悦子,前田直之編),p118-121,メジカルビュー社,20083)山田利津子,栗山茂,久志本晋ほか:移行性角膜浸潤を伴うカタル性角膜潰瘍.あたらしい眼科15:109-112,19984)庄司純,伊藤眞由美,稲田紀子ほか:カタル性角膜潰瘍における結膜内検出菌.あたらしい眼科10:247-251,1993図2a典型的な緑膿菌角膜感染症(18歳,男性)輪状膿瘍を認め,周辺部角膜を含めた高度な角膜浮腫,前房蓄膿が特徴的である.図2b2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍(24歳,男性)円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,また前房炎症も軽い.病巣部の角膜擦過物から緑膿菌が検出された.☆☆☆

緑内障:トリアムシノロンと眼圧上昇

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093470910-1810/09/\100/頁/JCLS慢性関節リウマチ患者に対する最初のステロイドの臨床治療が行われてから5年後にはすでに,Sternによってステロイドによる続発性の眼圧上昇(ステロイド緑内障)が報告されており1),ステロイド緑内障は非常に古くから知られている代表的なステロイドの副作用であるといえる.ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には,細胞外マトリックスの異常沈着がみられることから,ステロイドが線維柱帯細胞からの細胞外マトリックスの産生を異常亢進させたり,線維柱帯細胞の貪食機能を低下させたりして,細胞外マトリックスが線維柱帯組織に蓄積し房水流出抵抗が低下してしまうことが,ステロイドによる眼圧上昇機序であると考えられている.ステロイドによって眼圧が上昇しやすい素因がある人(ステロイドレスポンダー)が知られている.ステロイドレスポンダーの素因として,年齢が大きく寄与しており,若年者にステロイドレスポンダーが多く,小児にステロイドを点眼するときは,眼圧上昇が高頻度にみられるため注意が必要である2).Garbeらによると,ステロイドの投与量が多くなればなるほど,投与期間が長くなれば長くなるほど,眼圧上昇のリスクが上がることが示されており,休薬すれば眼圧上昇のリスクがなくなる,つまり,ステロイドによる眼圧上昇は可逆性であることがわかる3).しかし,一方で,長期間投与すると眼圧が正常化しない,不可逆な変化を起こすという症例も報告されている4).リアムシノロン誘発性眼圧上昇の点2000年代に入ってから,徐放性のステロイド薬トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-AR)が,硝子体手術における硝子体の可視化に用いられ,トリアムシノロンの使用が,硝子体手術における合併症の減少に有効であることや,黄斑浮腫の軽減や脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることが知られ,網膜硝子体疾患の治療薬としてや手術補助薬としてトリアムシノロンが広く用いられるようになった.トリアムシノロンは,長期間の効果の持続が長所である反面,いったん眼圧上昇が起こってしまうと,点眼薬のようにすぐに休薬することができず,眼圧上昇が遷延してしまうのが難点である.トリアムシノロン誘発性眼圧上昇多施設調査でわかったこと筆者らは,全国6施設で,過去にトリアムシノロンを投与された患者を対象に眼圧上昇のリスクファクターを(65)●連載105緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也105.トリアムシノロンと眼圧上昇稲谷大熊本大学医学部附属病院眼科徐放性ステロイド薬トリアムシノロンは,硝子体手術時の合併症減少や黄斑浮腫の治療のために,網膜硝子体疾患で近年広く用いられるようになった.しかし,長期間の効果の持続性の反面,眼圧上昇が遷延し,ステロイド緑内障になる症例がある.若年者,高いベースライン眼圧値,硝子体内注射,大量のトリアムシノロンの注射は高頻度に眼圧上昇を合併する.くり返し注射のときは,1回目に眼圧上昇した症例(ステロイドレスポンダー)は避けるべきである.表1トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)硝子体内注射ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.950.98)1.89(1.412.52)1.15(1.051.27)<0.0001<0.00010.003(文献5より)表2トリアムシノロンTenon下注射による眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)用量(mg)ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.940.99)1.07(1.031.12)1.31(1.131.52)0.0030.00060.0003(文献5より)———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009解析した5).ステロイドレスポンダーとして過去に指摘されていた報告どおり,若年者が眼圧上昇しやすいことが確認された.また,もともと眼圧が高めの患者は眼圧上昇をきたしやすい(表1).さらに,多量のトリアムシノロンの投与(表2)や,Tenon下注射よりも硝子体内注射を行うことが眼圧上昇の頻度を上げることがわかった.黄斑浮腫の再発に対して,トリアムシノロンの投与をくり返す場合も,大量のトリアムシノロンをくり返したり,硝子体内注射をくり返したりすると,眼圧上昇を合併しやすい.1回目の投与の際に,眼圧上昇した症例は,ステロイドレスポンダーなので,2回目の投与のときも眼圧上昇しやすい.眼圧上昇の頻度とトリアムシノロンの薬効とのバランスを考えると,硝子体内注射では4mg,Tenon下注射では20mgが適量と考える.テロイド緑内障の治療ステロイドによる眼圧上昇がみられた場合は,すみやかにステロイドの投薬を中止する.膠原病などの全身疾患でステロイドを中止できない患者やトリアムシノロン誘発性眼圧上昇がみられた患者の場合は,緑内障点眼薬を処方し,眼圧下降を試みる.眼圧上昇が遷延し,視神経障害が出現した場合は,観血治療が必要になる6).ス(66)テロイド緑内障には,トラベクロトミーが効きやすい.筆者らのグループでステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの術後成績は,5年生存率(21mmHg以下)で83.6%であった7).海外では,トラベクレクトミーが選択されることが多く,その術後経過も良好であるので,トラベクレクトミーも有効な選択肢である.文献1)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19532)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,19913)GarbeE,LeLorierJ,BoivinJFetal:Riskofocularhypertensionoropen-angleglaucomainelderlypatientsonoralglucocorticoids.Lancet350:979-982,19974)EspildoraJ,VicunaP,DiazE:Cortisone-inducedglauco-ma:areporton44aectedeyes.JFrOphtalmol4:503-508,19815)InataniM,IwaoK,KawajiTetal:Intraocularpressureelevationafterinjectionoftriamcinoloneacetonide:amulticenterretrospectivecase-controlstudy.AmJOph-thalmol145:676-681,20086)稲谷大:ステロイド緑内障.眼科手術20:41-43,20077)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabecu-lotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,2000☆☆☆図140mgのトリアムシノロンTenon下注射で眼圧上昇した胞様黄斑浮腫の27歳,男性の患者もともと正常視野であったのにもかかわらず(A),眼圧値が30mmHg以上で遷延し,注射後10カ月目には緑内障視神経障害と視野障害を出現したため(B),トラベクロトミーを行い(C),眼圧を下降させた.(文献6より)ABC

屈折矯正手術:術前・術後の収差の評価-種類の数値の見方など- 

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093450910-1810/09/\100/頁/JCLS高次波面収差を測定する機器として,ニデック社製のOPD-Scanはユニークな特徴をもっている1).まず,全眼球の屈折度マップを測定して,その後にZernike多項式を用いて波面収差を計算する(図1).角膜輝点を測定中心にしているのもユニークな点である.OPD-Scanの良い点は,収差変化の大きい眼でもほとんどの場合測定が可能な点である.Hartmann-Shackセンサーは現在の高次収差測定のスタンダードといえる方法で,トプコン社のKR-9000PW,AMO社のWavescan,ボシュロム社のZywaveなどのメーカーがこの方法を採用している.図2のごとく,レンズレットアレイで波面の歪みを直接測定しているので,レンズを細かくすることで細密な収差変化まで計測できる.測定時間が短いので,1回の測定で複数回計測を行い平均化することが可能である.測定の参照軸は照準線(瞳孔中心を測定中心とする)のことが多い.常OPD-Scanで解析径6mmの高次収差を測定しようとすると5.5mm程度の瞳孔径は必要となる.自然瞳孔で5.5mm以上瞳孔径があった症例のみを対象として,屈折矯正術前の高次収差を測定すると約0.4μmRMS(rootmeansquare)wavefronterrorの高次収差が認められた2).瞳孔径6mmであれば,RMSwavefronterror×0.7がdefocus換算されるので,0.4μmは0.28Dとなり,トライアルレンズの最も薄い1枚分である.正視の定義が±0.5Dであることを考えると,この高次収(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載106監修=木下茂大橋裕一坪田一男106.術前・術後の収差の評価―種類や数値の見方など―稗田牧バプテスト眼科クリニック波面収差とはプリズム,近視,乱視などを含む屈折異常の総称である.このうち高次収差は眼鏡で矯正できないより細かい屈折異常で,以前は不正乱視とよばれていたものである.高次収差の自覚的視機能に与える影響は不明な点が多いが,高次収差が多い眼では原因が水晶体にあるのか角膜にあるのか見きわめて術式を決定する必要がある.屈折度マップ波面収差変換図1波面収差とは瞳孔内の屈折度分布である屈折度マップが作成できれば波面収差に変換可能である.図2HartmannShack型波面センサー黄斑部からランダム反射された光が眼外に出て形成する波面を直接計測する.———————————————————————-Page2346あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009差が視機能に与える影響は少ないと考えられる.LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術を行うと,Munnerlynフォーミュラを使ったスタンダード照射では,おおよそ1Dにつき瞳孔径6mmにおいて0.1μmRMSwavefronterrorの高次収差が増加し,球面収差が主体である.Wavefront-guidedablation全眼球の波面収差から,それを打ち消すような切除プロフィールでレーザー照射するのが,wavefront-guid-ed(W-G)ablationである3).眼球の高次収差が矯正されれば,視機能は飛躍的に改善するものと期待されたが,角膜を切除することによる誘発高次収差が大きく,現時点では高次収差を減少させることはできないが,コマ収差の増大は抑えられる.球面収差も矯正していないわけではないので,著しく術前に球面収差が大きければ,それがさらに大きくなることは防げる.ーザー照射(laserablation)の使い分け図3に現時点で筆者が考える高次収差による照射方法の選択基準を示す.角膜高次収差よりも全眼球高次収差が著しく大きい場合以外はW-Gablationで対応可能である.1.全眼球高次収差が多い場合角膜高次収差,全眼球高次収差とも大きい眼の場合では,角膜高次収差で矯正(topography-guidedablation)すると症例ごとに高次収差は過・低矯正になってしまう可能性がある.できれば全眼球収差について矯正を行う4).つぎに,角膜高次収差が小さく,全眼球高次収差が大きい場合には,水晶体の収差が大きいのであるから,少しでも白内障があり,調節力が低下していれば非球面眼内レンズを用いたrefractivelensexchange,もしくは多焦点眼内レンズを使用した老視矯正手術を行い,必要があればLASIKを追加する.2.全眼球高次収差が少ない場合非球面照射は術前高次収差に関係なく,球面収差誘発を抑制する照射方法である.高次収差の増加量だけでみれば,矯正量が5Dより多い場合では非球面照射が有利といえる.ただレーザー機種によっては,厳密なレジストレーションがW-Gablationでしか使えない.W-Gablationでも照射径を広くすれば球面収差の誘発は抑制できる.現時点ではW-Gablationで瞳孔中央部のコマ収差の増大を抑制しておいたほうが良い影響があるものと考えて,全例にW-GablationによるカスタムLASIKを行っている.おわりに筆者自身LASIKを受けてみた.約3年たって,すでに眼鏡での見え方や生活をすっかり忘れている.角膜・全眼球高次収差は増大しているが,波面センサーで出てくるシミュレーションほどには,見えている像はぼやけていない.屈折矯正術後眼に関して,高次収差の自覚的視機能に与える影響の評価方法が確立されていないのは確かである.文献1)HiedaO,KinoshitaS:MeasuringofocularwavefrontaberrationinlargepupilsusingOPD-Scan.SemininOph-thalmol18:35-40,20032)稗田牧:屈折矯正手術(LASIK)と高次収差.あたらしい眼科24:1455-1460,20073)稗田牧:ウェーブフロント・レーシック(wavefront-guidedLASIK).IOL&RS18:394-399,20044)稗田牧:トポガイドレーシック(CornealTopography-GuidedLASIK).IOL&RS19:162-167,2005(64)Topography-guidedWavefront-guidedWavefront-guided非球面照射非球面照射Wavefront-guidedRefractivelensexchange角膜高次収差大角膜高次収差小眼球高次収差大眼球高次収差小図3高次収差を考えた術式選択Wavefront-guidedablationによる角膜屈折矯正手術の適応範囲が最も広い.

眼内レンズ:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093430910-1810/09/\100/頁/JCLS本稿では,1994~1995年当時に勤務していた施設(国立療養所多摩全生園)で経験したことをおもにまとめて述べる.前のック目Hansen病の基礎知識まずスタート地点に立つ前に,本疾患をある程度知る必要がある1~3).施設の医療設備などの充実度最新の装置・器具の有無,スタッフの数など.1994年当時,筆者が勤務していた施設では手術時,医師は1人で,助手・外回りは眼科外来の看護師がすべて担当した.今ある手持ちのコマで何とかする.年齢高齢の場合,水晶体の核硬化が進行し手術の難易度が増す.極端な小瞳孔のため事前に核の硬化度がわかりにくい.(61)角膜混濁の範囲・程度(図1,2)角膜混濁は,部位により大まかに上方,下方,中央,全体の4つのタイプに分類できる.各タイプの混濁の範上甲覚武蔵野赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎271.Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎一般の白内障手術は,陸上競技にたとえると「100メートル競走」,ぶどう膜炎併発白内障手術は「障害物競走」といえる.ゴール地点(目的)は同じでも険しい障害を乗り越える必要がある.ただし,Hansen病の場合,小瞳孔や虹彩後癒着のみではなく,強い虹彩萎縮・Zinn小帯脆弱,さらには高率に角膜混濁も合併.技術的難易度は高い.「急がば回れ」,まずは術前の基礎について述べた.図2角膜混濁が全体に強い症例白内障手術単独では改善が困難.Hansen病は高率に角膜疾患も合併する.図3極端な小瞳孔・虹彩萎縮がみられる症例車軸状の虹彩萎縮とよばれている.この症例の手術の結果は実践編で解説する.図1下方の角膜混濁が強い症例どのような術式を選択したか,実践編で解説する.———————————————————————-Page2囲や強さが,白内障手術単独あるいは外科的角膜治療を優先するべきか,術式選択の重要な判断材料となる.また,角膜厚にも注意が必要である.図2の症例は,白内障手術単独では視力の改善は無理である.くれぐれも現実を見据えた対処が望まれる.眼内炎症の術前鎮静期間一般のぶどう膜炎同様,3カ月は鎮静期間を置いて手術を行った.この場合,絶対的基準はない.Hansen病のぶどう膜炎は,ステロイドの反応に良好なので,炎症の再燃が心配な場合は,抗消炎症薬の点眼回数を最小限にして長期に継続する.ただし,角膜疾患にも十分注意して使用する必要がある.虹彩の癒着,小瞳孔,虹彩萎縮の有無(図3)極端な小瞳孔と強い虹彩萎縮の症例が多い.Hansen病性ぶどう膜炎の好発部位は,虹彩と毛様体である.Zinn小帯は脆弱と予測して手術に臨むのがよい.転ばぬ先の杖.備えあれば憂いなし?(続発)緑内障の有無将来の緑内障手術も考慮して,切開創をどうするかの判断材料の一つ.兎眼(閉瞼不全)の有無兎眼があると高率に角膜病変を併発する.術後の角膜疾患の管理は大切である.感染性角膜炎で失明した症例の報告がある.その他:一般の白内障手術と同様の術前チェック高齢者が多いので,全身状態も十分考慮する.手術中は,何が起こるかわからない.当時,術中に抗精神薬を筋注した患者,ショックを起こした症例などを経験した.次回は,実践編を紹介する.文献1)上甲覚:Hansen病の眼合併症と今日的意義について教えてください.あたらしい眼科15(臨増):67-69,19982)上甲覚:ハンセン病のぶどう膜炎.新図説臨床眼科講座─感染症とぶどう膜炎(望月學編),p124-125,メジカルビュー社,19993)井上慎三,上甲覚:眼科.ハンセン病医学─基礎と臨床(大谷藤郎監),p251-264,東海大学出版会,19974)吉野真未:一人勤務医の悩み.日本の眼科76:1331-1332,20055)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌65:170-173,19966)小郷卓司,渡邊正樹,大月洋ほか:らい患者における白内障手術の検討.眼臨88:859-862,1994

コンタクトレンズ:強度乱視眼へのハードコンタクトレンズ処方(1)

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093410910-1810/09/\100/頁/JCLS3つのタイプ軽度乱視眼に対してはやや広めのベベル幅を有するハードコンタクトレンズ(HCL)をフラットめに合わせれば,ほぼ問題なく良好なフィッティングが得られる(図1)が,中程度以上の乱視眼においては,角膜形状を考慮してHCLの種類を選択する必要性に迫られることが多い.角膜乱視をフォトケラトスコープにて撮影し,カラーコードマップにてその角膜乱視の及ぶ範囲によって分類すると,乱視が角膜周辺部まで及んでいる周辺部型(タ(59)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1軽度乱視眼へのHCL処方ややベベル幅の広いデザインをもったHCLをフラットめに処方する.図2周辺部型(タイプI)角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図5倒乱視周辺部型(タイプIt)倒乱視で角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図3中央部型(タイプII)角膜乱視が中央部に限局している.図6倒乱視中央部型(タイプIIt)倒乱視で角膜乱視が中央部に限局している.図4混合型(タイプIII)角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.図7倒乱視混合型(タイプIIIt)倒乱視で角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)イプⅠ,図2),角膜中央部に限局した中央部型(タイプⅡ,図3),その2つが混じった混合型(タイプⅢ,図4)の3つのタイプに分けることができる1).その割合は27眼中,タイプⅠが15眼,タイプⅡが5眼,タイプⅢが7眼であった.このような分類は直乱視のみに限らず倒乱視においても認められる.これらを倒乱視周辺部型(タイプⅠ-t,図5),倒乱視中央部型(タイプⅡ-t,図6),倒乱視混合型(タイプⅢ-t,図7)とよぶことにする.中央部型倒乱視中央部型に対するHCL処方以前,強度乱視眼にサイズの大きいHCLを処方して装用感,矯正視力とも満足のいく結果を得られたことがあり,漠然と強度乱視眼にはラージサイズHCLを処方したほうが上手くいくのだという印象をもっていた.しかし,実際はラージサイズHCLを処方しても上手くいかないケースも多々あり,そのような症例には後面トーリックHCLを処方して対応していた.角膜形状をカラーコードマップにて分類することによって,中央部に乱視が限局したタイプⅡやタイプⅡ-tにおいては,乱視の及んでいない部位にベベル部分が存在するようなサイズを選択すれば,良好な装用感を得られることが判明した(図8,9).このような症例では,ラージサイズHCLを処方することによって,ベベル幅が全周で均一となり,良好な装用感が得られる.文献1)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,20068タイプIIに対する通常サイズHCLの処方サイズ8.5mmのHCLを処方.水平方向のベベル幅が狭く,機械的刺激により良好な装用感が得られなかった.9タイプIIに対するラージサイズHCLの処方サイズ9.2mmのHCLを処方.ベベル部分が角膜乱視の及ぶ範囲の周囲に存在し,全周のベベル幅が均一になり,良好な装用感が得られた.

写真:糸条角膜炎

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093390910-1810/09/\100/頁/JCLS(57)御宮知達也鶴見大学歯学部眼科学講座写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦298.糸条角膜炎図2図1のシェーマ①:糸状物.②:点状表層角膜炎.①②①図3図1と同一症例の細隙灯顕微鏡写真症例のような比較的大きい糸状物は見落とす可能性が少ないが,フルオレセイン染色により確実に診断できる.図4ドライアイに生じた軽度の糸状角膜炎(55歳,男性)初期段階の糸状物で,染色することで発見された.未治療のドライアイであり,糸状物の除去後ヒアルロン酸点眼と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼にて経過観察中である.図1薬剤起因性角膜上皮障害に生じた糸状角膜炎(48歳,女性)ドライアイの診断に対してヒアルロン酸点眼を使用していたが,異物感,眼痛の症状が悪化するため当科受診となった.保存液による上皮障害を疑い,糸状物を除去した後,保存液を含まない人工涙液の頻回点眼にて改善し,再発していない.———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)糸状角膜炎は角膜に付着する変性上皮や粘液からなる糸状物であり,瞬目により眼痛,流涙,異物感,羞明をきたす.慢性にくり返すことが多く,従来の灌流液点眼のみの治療では不十分となることがあった.細隙灯顕微鏡検査にて容易に診断できる(図3)が,フルオレセイン染色にてよりはっきりと観察できる(図1).糸状物の長さは0.510mmと幅があり,はじめ短く細い糸状物が瞬目によりさらに長く絡みついた構造となる.糸状物の付着する角膜の上皮下には顆粒状混濁がみられることがある.ドライアイが主要な原因となる(図4)が,兎眼・上輪部角膜炎・角膜浮腫や,屈折矯正手術・白内障手術・角膜移植手術などの各種手術に伴うこともある.その発生機序は明らかにはされていない.上皮基底膜やBowman膜へのダメージが瞬目により局所の上皮基底膜の離を生じ,糸状物の付着する足場になるといわれている1).糸状物の存在が強い自覚症状をもたらし,より強い炎症を惹起して悪性サイクルに陥る可能性がある.治療として筆者はすべての糸状物を機械的に除去するようにしている.このとき糸状物を引き抜いてしまうと,糸状物の付着部位となる上皮離をさらに拡大させ,また上皮欠損をひき起こす可能性もあるので注意が必要である.機械的除去は糸状角膜炎を悪化させるだけであるとの意見もある.しかし適切な除去により,速やかな症状の改善が得られ,患者の満足とともに瞬目の軽減,炎症の改善は再発防止にもつながると考えている.先の鋭い鑷子(Jeweler鑷子が一般的に用いられる.筆者はミクラの無鈎を愛用している)にて,接線方向のみに力を加え,つまみ切るようにする綿棒などによる擦過では上皮障害が生じる可能性があると考えている.糸状物の除去とともに原因疾患に対する治療および再発防止に努める.人工涙液の点眼に加え,必要に応じてヒアルロン酸点眼,涙点プラグ,自己血清点眼などのドライアイ治療をする.人工涙液は頻回点眼が必要なことが多く,防腐剤の添加されていないものが望ましい.血清点眼は適切な使用により重症なドライアイに対しても劇的な効果をもたらすことがあるが,感染症の危険性を認識する必要がある.医療用コンタクトレンズの使用は,症状の軽減および上皮のバンデージ効果が期待できる.機械的除去をしなくても使い捨てコンタクトレンズの装用のみで完全に消失することがあり,試してみる価値はあると思われる.ただし,常に感染症には注意が必要で,一時的な治療法ととらえるべきである.筆者には使用経験がないが5%の高浸透圧食塩水の点眼は,脱水効果により上皮の接着を補強し,再発の予防効果が報告されている2).糸状物の付着部には炎症細胞や線維芽細胞が存在し,これらがBowman膜に浸潤し上皮基底膜を破壊する.糸状角膜炎の増悪機序には炎症も考えられている1).このためステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の点眼の効果が確認されており,難治症例に対しては検討されるべきである.ステロイド点眼は慢性の経過をたどる本疾患の性質上,長期使用には白内障,感染症,高眼圧に対する注意が必要であり,急性期の短期治療での使用がすすめられる.一方で,ジクロフェナクの長期投与による糸状角膜炎の消失および再発予防の報告がある3).近年入手が容易となったシクロスポリン点眼もドライアイ治療として使用される国もあり,糸状角膜炎に対しても効果的であると考えられる4).文献1)ZaidmanGW,GeeraetsR,PaylorRRetal:Thehistopa-thologyoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol103:1178-1181,19852)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmol93:466-469,19823)GrinbaumA,YassurI,AnviI:Thebenecialeectofdiclofenacsodiuminthetreatmentoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol119:926-927,20014)PerryHD,Doshi-CarnevaleS,DonnefeldEDetal:Topi-calcyclosporineA0.5%asapossiblenewtreatmentforsuperiorlimbickeratocinjunctivitis.Ophthalmology110:1578-1581,2003

時の人

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009337(55)高知大学医学部眼科学教室は開講27年という若い歴史ではあるが,現在,高知県に最先端の「眼科情報」を提供している.本教室は1976(昭和51)年に開設の(旧)高知医科大学に,1981(昭和56)年に開講され,初代の教授として玉井嗣彦先生が就任された.1981年10月に医学部附属病院が開院し,眼科は15床をもって診療を開始した.その後,1982年に20床,翌年には30床に増床された.1986年には第83回中国四国・第35回四国合同眼科学会を主催された.1990年,第2代教授として上野脩幸先生が就任された.2003(平成15)年に国の方針「国立学校設置法改正案」に従って,高知大学と統合され現在に至っている.そして,今回福島敦樹先生が第3代教授として就任された.福島先生は「本教室は歴史が浅いので,玉井先生・上野先生が築かれたベースを元に伝統と呼べるものを造っていきたい.毎日が伝統造りです.」と述べておられる.教室の歴史を振り返ると,玉井教授時代には「電気生理」,上野教授時代は「眼病理」が主な研究テーマであり,大学院生は,以前は基礎の講座において「生理・病理・免疫」の勉強を重ねておられたが,最近の10年位は眼免疫研究室で研鑽を積み,医学博士号を取得してこられたという.現在,臨床的には網膜硝子体領域に興味をもつ医師が多く,先端医療や高知県の地域医療の分野で活躍しておられる.研究ではここ10年来「眼免疫」が中心となっており,なかでも「アレルギー性結膜疾患の発症メカニズムに関する研究」は国際的な評価を得ている.*福島先生は,私立土佐高校を卒業後,1990年に高知医科大学を卒業された生粋の土佐っ子である.その後,199395年の米国国立眼研究所免疫学部門への留学ののち,19962004年に当教室の助手を務められたが,その間,再度の米国国立眼研究所免疫学部門への留学のほか,ジョージア医科大学分子医学遺伝学研究所への留学を経験されている.そして2004年の助教授就任(2007年准教授)を経て,今回,2008年8月に第3代教授に就任された.この間,日本眼科学会学術奨励賞,日本眼炎症学会学術奨励賞,ロートアワード,日本アレルギー学会学術大会賞など,数々の賞を受けられた.福島先生は大学院時代に免疫学教室の藤本重義教授に免疫反応における特異性の重要性を学ばれ,その時の感動が今に続いていると言われ,また留学中にはIgalGery博士,岩島牧夫博士というキャラクターの異なる師匠のもとで多くのことを学ぶことができたと言われた.福島先生の研究テーマは,眼免疫疾患発症機序の解析,特に「T細胞が難治性眼免疫疾患発症においてどのように関与しているか」である.その研究成果の一つとして「アレルギー性結膜疾患重症化のメルクマールである結膜好酸球浸潤にT細胞が重要である」ことを証明された.この事実は実際の臨床においても,シクロスポリンやタクロリムスといったT細胞を選択的に抑制する点眼薬が春季カタルに奏効することを裏付けるものである.今後は,動物モデルでの実験からヒトへの展開を進め,臨床に直結する研究への展開を目指されているとのことである.*福島先生の信念・信条は,大阪大学(故)田野保雄先生から頂いた言葉「継続は力なり」を実証すること,また,留学中の師匠である岩島牧夫先生から頂いた言葉「常にBigPictureを意識せよ」を肝に銘じて研究を続けることであるという.最後に,地方大学である高知大学からでも,世界に向けてキラリと光るような仕事を発信していきたいと力強く述べられた.0910-1810/09/\100/頁/JCLS人の時高知大学医学部眼科学教室・教授福ふく島しま敦あつ樹き先生