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愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(109)8330910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(6):833837,2009cはじめに感染性角膜炎においては,病巣部より起炎菌を同定し,その起炎菌に感受性のある抗微生物薬を投与して治療することが求められる.しかし,実際には起炎菌の同定ができず,経験的な薬剤選択のもとに治療を開始し,その治療効果をみながら薬剤の変更を行うといった状況は少なくない.さらに第一線に立つ医療機関ですでに治療が開始された後に基幹病院に紹介されるような場合,細菌学的検査が治療開始後になることもある.近年,抗菌薬の開発と普及により,メチシリン耐性黄色ブ〔別刷請求先〕木村由衣:〒737-0046呉市中通2-3-28木村眼科内科病院Reprintrequests:YuiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KimuraEyeandIntermedicalHospital,2-3-28Nakadori,Kure-shi,Hiroshima737-0046,JAPAN愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討木村由衣*1,2宇野敏彦*1山口昌彦*1原祐子*1島村一郎*1,3鈴木崇*1山西茂喜*1大橋裕一*1*1愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野*2木村眼科内科病院*3鷹ノ子病院眼科BacterialKeratitisTreatedatEhimeUniversityHospitaloverthePastFiveYearsYuiKimura1,2),ToshihikoUno1),MasahikoYamaguchi1),YukoHara1),IchiroShimamura1,3),TakashiSuzuki1),ShigekiYamanishi1)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KimuraEyeandIntermedicalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TakanokoHospital目的:愛媛大学医学部附属病院眼科において入院加療を行った細菌性角膜炎の臨床的特徴について検討する.方法:対象は2002年11月以降5年間に入院加療を行った48例49眼.発症誘因,培養結果,視力予後などにつきレトロスペクティブに検討した.結果:発症誘因では外傷・異物が15眼,コンタクトレンズ(CL)装用10眼などであった.CL装用者は誘因のない症例より視力予後が良好であった.培養検査を行った43眼のうち,細菌検出は26眼(60%)37株であり,その内訳はcoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)8株,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methi-cillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)3株を含むStaphylococcusaureus6株,Pseudomonasaeruginosa5株などであった.培養検査時点で抗菌薬未使用の15眼のうち13眼(87%)が培養陽性であったが,使用例28眼では13眼(46%)であった.結論:細菌性角膜炎の主要起炎菌としてCNS,S.aureus,P.aeruginosaがあげられた.CL装用など,発症の誘因により起炎菌および視力予後に違いがあることが示唆された.WereviewedthecharacteristicsofbacterialkeratitiscaseshospitalizedatEhimeUniversityHospital.Thesub-jectscomprised48patients(49eyes)whowerehospitalizedandtreatedbetweenNovember2002andOctober2007.Retrospectivelyanalyzedparametersincludedinfectiontrigger,bacterialcultureresultsandvisualprognosis.Themajorfactorspredisposingtocornealinfectionwereinjury/foreignbody(15cases)andcontactlens(CL)use(10cases).ThevisualoutcomewasstatisticallybetterinCLwearers.Ofthe37casesinwhichculturingwasper-formed,19bacterialstrainswereisolatedfrom26cases(60%),including8strainsofCNS(7ofStaphylococcusepi-dermidis),6strainsofStaphylococcusaureus(3ofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA),and5strainsofPseudomonasaeruginosa.Ofthe15casesthathadnotreceivedtopicalantibiotictherapy,cultureresultswerepositivein13cases(87%).Incontrast,ofthe28casesthathadinitiatedtopicalantibiotictherapy,only13(46%)wereculturepositive.Incasesofbacterialkeratitis,themostcommonpathogenswereCNS,S.aureusandP.aeruginosa.Pathogensandvisualprognosismaybeinuencedbypredisposingfactors,suchasCLwear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):833837,2009〕Keywords:細菌性角膜炎,発症誘因,培養検査,視力予後.bacterialkeratitis,triggersoftheinfection,bacterialculture,visualprognosis.———————————————————————-Page2834あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(110)ドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)を代表とする薬剤耐性菌の台頭が叫ばれて久しい.眼科領域でもニューキノロンを中心とした広域スペクトルの抗菌点眼薬の普及は,感染性角膜炎の起炎菌プロフィールに大きな影響を与えているものと考える.今回筆者らは愛媛大学医学部附属病院眼科(以下,当科)において過去5年間に入院加療を行った感染性角膜炎の症例について,細菌学的および臨床的特徴をレトロスペクティブに検討した.一定期間に加療した感染性角膜炎を集計し,全体の臨床像を把握することは今後の治療方針の参考となり,また病診連携のあり方を考えるうえで有益であると思われるので報告する.I対象対象は2002年11月から2007年10月までの5年間,当科にて入院加療を行った細菌性角膜炎48例49眼である.この診断は細菌学的検査に基づいたもののほかに臨床所見,治療に対する効果による臨床的診断を含んだものである.細菌培養検査を施行したものは全例角膜病巣の擦過物を検体としている.なお,当院における耐性の判断は臨床検査標準協会(ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:CLSI)のものに準じている.今回は,細菌性角膜炎と診断した症例につき,発症の誘因,前医における治療,当科での培養結果,当科における治療内容,視力予後などについて検討した.対象症例は平均年齢62.15歳(794歳),男性17例,女性31例であった.なお,視力予後あるいは視力改善度の判定には視力をlogMAR視力に換算ののちKruskal-Wallis検定において有意水準5%で判定した.II.結果1.発症の誘因・背景因子について感染の直接的な誘因および背景因子は対象の48例中39例(81%)に認められた(表1).直接的な原因と考えられる外傷および異物が15眼(例),コンタクトレンズ(CL)装用が10眼(例)(うちソフトCL装用者は7眼)であった.このほか,角膜移植術を中心とした眼科手術歴を有する症例,および眼表面疾患を有する症例が多いという結果であった.2.培養検査陽性率と検出菌の内訳培養検査結果では,検査未施行例の6眼を除く43眼中,培養検査陽性は26眼で60%であった.1症例から複数菌が検出されたものも含まれるため検出株の合計は37株であった.この内訳を表2に示す.多く検出された菌としてcoag-ulasenegativeStaphylococcus(CNS),Corynebacteriumsp.,MRSAを含めたStaphylococcusaureusなどがあげられた.培養陽性となった26眼のうちCL装用者は4眼であった.この4眼からは合計6株の細菌が検出され,その内訳はPseudomonasaeruginosa3株,CNS3株であった.これとは別に紹介元の眼科施設で行った細菌学的検査が陽性であったという報告が4眼について得られた.このうち1眼からはStaphylococcusaureusとa-Streptococcusの2株が,残りの3眼からはそれぞれStaphylococcusaureus,Streptococcuspneumoniae,Moraxellasp.が1株ずつ検出されていた.Streptococcuspneumoniaeが検出された1眼については当科でも同じ菌を検出したが,そのほかの3眼においては当科の細菌学的検査では培養陰性であった.3.抗菌薬処方の有無と培養検査結果表3に当科初診時点での抗菌点眼薬使用の有無と培養陽性表1誘因・背景因子<眼局所>外傷・異物15例コンタクトレンズ装用10例眼科手術既往12例(うち角膜移植術後7例)眼表面疾患(手術既往の症例を除く)4例<全身>アトピー性皮膚炎1例糖尿病7例重複してカウント.表3抗菌薬使用の有無と培養陽性率抗菌薬使用の有無培養有(28眼)無(15眼)陽性1313陰性152培養陽性率46%87%表2培養検査結果CNS8株(うちS.epidermidis7株)Corynebacteriumsp.7Staphylococcusaureus6(うちMRSA3株)Pseudomonasaeruginosa5Streptococcuspneumoniae2b-Streptococcus2Micrococcussp.1Streptococcuspyogenes1Enterococcusfaecalis1Klebsiella1GNF-GNR(glucosenon-fermentinggram-negativerod)1Bacillus1Nocardia1———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009835(111)率の関係を示す.当科受診時点で抗菌点眼薬を使用していた例は全例,紹介元の前医によって処方されたものであった.抗菌点眼薬使用中であった28眼のうち13眼(46%)が培養陽性であり,抗菌点眼薬未使用例15眼中13眼(87%)で培養陽性であった.前医で抗菌薬が処方されていた症例で,当科初診時点での培養陽性率が低いという結果となった.4.検出菌の薬剤感受性について検出された菌の薬剤感受性試験結果から,おもな薬剤に対する耐性率とその菌種についてまとめた(表4).検出された37株中,セファゾリン耐性株6株(16.2%),レボフロキサシン耐性株10株(27.0%),ゲンタマイシン耐性株11株(29.7%)であった.今回の検討対象となったMRSA3株はセファゾリンのみならずレボフロキサシン,ゲンタマイシンにも耐性を示していた.セファゾリン・レボフロキサシン・ゲンタマイシンのいずれかに耐性を示したものは合計19株であり,17眼から検出されていた.このうち9眼は前医にてすでに抗菌薬が処方されており,さらにそのなかの3眼は慢性結膜炎や角膜移植術などの眼科手術後,長期間抗菌点眼薬が使用されていた.5.培養検査結果による治療変更について日常臨床では培養検査で得られた菌種や薬剤感受性結果を受けて抗菌薬の変更を行うことも少なくない.今回の対象症例において抗菌点眼薬の変更がどの程度行われたのか検討した.培養検査が陽性であった26眼のうち,使用していた抗菌薬が検出菌に対し感受性を有していることが判明し,そのまま治療を続行したものが15眼(58%)であった.使用している抗菌点眼薬に対し耐性であっても治療効果がすでに得られていたために薬剤の変更を行わなかった例は4眼(15%)であった.薬剤感受性結果を受けて点眼薬の変更を行ったものは4眼(15%)であった.このうち2眼はMRSAを検出し,セフメノキシムをアルベカシン自家調整点眼に変更したものが1眼,さらにバンコマイシン自家調整点眼およびトブラマイシンを併用していた1眼でトブラマイシンを中止しアルベカシン自家調整点眼に変更していた.残りの3眼(12%)は当初角膜真菌症を疑い抗真菌薬を投与していたもので,培養検査で細菌を検出した時点で抗菌点眼薬による治療に変更している.6.初診時視力と最終視力の検討48例中6例は痴呆などにより視力検査が不能であったため,42例43眼につき検討を行った.視力は2段階以上の改善が18眼と全体の42%を占めており,不変例が21眼(49%),悪化例が4眼で全体の9%となった.視力予後にはどのような因子が影響しているのか検討を行った.図1は当科の培養検査における細菌検出の有無と視力予後についての結果である.培養陽性であり視力経過も追えた24眼のうち2段階以上の視力改善は13眼(54%),不変10表4主要な薬剤ごとの耐性率と菌種セファゾリン耐性株耐性率16.2%MRSA3*Pseudomonasaeruginosa2Streptococcuspneumoniae1*計6レボフロキサシン耐性株耐性率27.0%MRSA3*Corynebacteriumsp.4S.epidermidimis2*Nocardia1計10ゲンタマイシン耐性株トブラマイシン耐性株耐性率29.7%MRSA3*S.epidermidimis2*b-Streptococcus2Streptococcuspneumoniae2*Streptococcuspyogenes1Enterococcusfaecalis1計11*重複してカウント.1.00.10.01n.d.m.m.s.l.null0.1初診時視力最終視力1.00.01s.l.m.m.n.d.:培養陽性:培養陰性図1菌検出の有無と視力予後培養検査未施行の3眼を除く.1.00.10.01n.d.m.m.s.l.null0.1初診時視力最終視力1.00.01s.l.m.m.n.d.:抗菌点眼薬使用:抗菌点眼薬未使用図2初診時点での抗菌点眼薬使用の有無と視力予後———————————————————————-Page4836あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(112)眼(42%),2段階以上の悪化1眼(4%)であった.培養陰性例と比較したが,菌検出の有無が視力予後に明らかな影響を与えるとはいえなかった.当科初診時点ですでに前医で処方された抗菌点眼薬を使用していたか否かと視力予後の関係をみたものが図2である.視力を追えた抗菌点眼薬使用例28眼のうち視力改善が14眼(50%),不変12眼(43%),悪化2眼(7%)であった.視力が大幅に改善した例で初診時にすでに抗菌点眼薬を使用していたものが多い傾向にあったが,統計学的に有意な差を認めることはできなかった.つぎに感染に至った誘因と視力予後の関係について検討した.図3はこれら誘因別に視力予後を検討した結果である.外傷および異物が誘因であった症例の最終視力は比較的良好であったが,誘因の認められなかった症例の視力予後と統計学的に有意差は認められなかった.一方,CLが発症の誘因であった症例は誘因の認められなかった症例と比較し,視力予後は有意に勝っていた.III考察愛媛大学眼科において過去5年間に入院加療を行った細菌性角膜炎の症例について検討したところ,培養陽性率は60%であった.過去の報告16)における菌の検出率は39.083.3%と施設によりさまざまであるが,これらを平均すると51%との考察6)もあり,筆者らの結果もほぼこれに一致するものであった.培養陽性率がそれほど高くなかったおもな理由として当科初診時点ですでに抗菌点眼薬が処方され使用中であった症例が多いことがあげられる.これはこれまでの報告6,7)でも指摘されていることであるが,筆者らの検討でも抗菌点眼薬使用中での細菌培養陽性率は46%と低い結果となった.一旦抗菌薬の使用が開始されると,起炎菌の同定は困難となり,細菌性角膜炎の確定診断の障害になりうると考えられる.第一線の医療機関においても抗菌点眼薬による治療開始前に細菌学的検査を行い,この情報を紹介先にも伝えるといった病診連携の重要性を改めて再認識させられるものである.2003年Bourcierら8)は細菌性角膜炎の検出菌の65%はグラム陽性球菌であり,このうちCNSが多くを占めていた結果を報告している.中林らの報告5)や竹澤らの報告6)はともに筆者らの報告と同様に入院加療を行った症例についてのものであり,Staphylococcusaureus,CNS,Streptococcuspneumoniae,Pseudomonasaeruginosaなどが主体であった.筆者らの今回の検討における検出菌はStreptococcuspneu-moniaeが少ない傾向にあったが,中林らおよび竹澤らの報告5,6)とほぼ同様の傾向を示しており,わが国における比較的重症な細菌性角膜炎の一般的な起炎菌プロフィールと考えてよいと思われた.竹澤ら6)の報告によると,レボフロキサシン耐性株は21.2%(7/33株),ゲンタマイシン耐性株は27.3%(9/33株)認められている.また宮嶋ら4)もオフロキサシン耐性株は22.2%(2/9株)と報告している.筆者らの検討における耐性株の割合は,これら過去の報告と比較してやや高い傾向がみられた.薬剤耐性菌を検出した症例には前医にてすでに抗菌薬が処方されていた症例や長期間の抗菌点眼薬使用の履歴がある症例が多くみられた.起炎菌が耐性菌であったために治療に難渋し当科紹介に至った例や抗菌点眼薬の長期使用により薬剤耐性菌が誘導され角膜炎が発症した症例が含まれているためと考えられる.広域スペクトルをもつニューキノロン系薬剤の普及に伴い,さらなる耐性株の増加が危惧される.今回筆者らは視力予後にどのような因子が影響しているのか,検討を行った.菌を検出し,この薬剤感受性試験の結果を受けて薬剤の選択を行うのが基本であり,これが早期の治癒に貢献するものと考えられる.しかし,今回の検討では菌検出の有無は視力予後に影響を与えないという結果であった.この理由として,前医からの抗菌点眼薬による治療で菌量が減った時点で紹介を受けた,または,元来菌量の少ない症例であったなどの要因により培養陰性例でも比較的視力予後の良いものが多かったという解釈も成り立つが,詳細は不明である.Pachigollaら9)は菌を検出できなかった例(“ster-ilegroup”)では角膜穿孔や眼内炎など重篤な併発症が少なかったと報告している.培養検査で陰性になることは起炎菌同定ができないというマイナスの側面をもつのは確かであるが,同時に視力予後を含めた治療経過の見込みについてはプラスの面もありうると考えられる.Keayら10)は感染性角膜炎の発症誘因について考察している.この報告によると最も多かった誘因は外傷で全体の36.4%,続いてCL装用が33.7%であった.CL装用が誘因となっている症例は他の誘因によるものに比べ有意に年齢が低く,グラム陰性菌の頻度が高かったと報告している.筆者らの検討では直接的な誘因として外傷・異物が最も多く,続1.00.10.01n.d.m.m.s.l.null0.1初診時視力最終視力1.00.01s.l.m.m.n.d.:外傷・異物:コンタクトレンズ*:誘因なし**p0.05(Kruskal-Wallis検定)図3発症の誘因と視力予後———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009837(113)いてCL装用であった.CL装用者の過半数はソフトCL装用者であった.これはCL装用を誘因とする角膜感染症において,ソフトCL装用が誘因となる症例のほうが多かったという過去の報告13,11,12)と一致するものである.CL装用者の起炎菌としてはCNS,Pseudomonasaeruginosa,Serratiaspp.の頻度が高いとされている15).2003年の1年間,日本全国の24施設において感染性角膜炎の動向を把握する目的で全国サーベイランスが行われた13).このサーベイランスは入院・外来を含めた検討であるが,20歳代以下の症例の9割程度がCL装用者であったという.また従来型のソフトCLおよび2週間交換などの頻回交換ソフトCLではグラム陰性桿菌が検出菌として特に頻度が高いことが示されている.今回の対象症例のなかでCL装用者での培養陽性は4眼のみであったが,このうち3眼でPseudomonasaeruginosaが検出されていた.Pseudomonasaeruginosaが起炎菌である場合,短期間で重篤になりやすいと考えられているが,入院加療を条件とした今回の検討で本菌がCL装用者の主要検出菌であったことがきわめて妥当なものと思われた.なお,筆者らのレトロスペクティブの検討では使用していたCLの種類や消毒液の情報が収集できておらず,CLケアの観点での検討を行うことはできなかった.発症の背景因子として角膜移植を中心とした眼科手術歴,あるいは眼表面疾患をもつ症例が少なくないことが判明した.角膜上皮のバリア機能の低下,長期にわたる抗菌点眼薬使用による正常細菌叢の修飾,ステロイド点眼薬の使用による易感染性といったさまざまな要因が複合的に関与していると考えられた.全身的疾患としては糖尿病が数例認められた.しかし今回の検討では糖尿病の重症度・治療経過についての検討は行っておらず,糖尿病自体の有病率が高い点を考慮すると感染性角膜炎との関連性については慎重に判断する必要があるものと思われた.文献1)杉田美由紀,田中直彦,磯部裕ほか:細菌(真菌)性角膜炎の最近7年間の統計.臨眼41:629-633,19872)北川和子,浅野浩一,佐々木一之ほか:最近6年間に経験した細菌性角膜炎.眼科34:1259-1265,19923)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,19984)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去3年間の細菌性角膜潰瘍症例の検討.あたらしい眼科17:390-394,20005)中林條,美川優子,沖波聡ほか:佐賀医科大学における最近10年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀53:368-372,20026)竹澤美貴子,小幡博人,中野佳希ほか:自治医科大学における過去5年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀56:494-497,20057)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の最近の動向.あたらしい眼科17:839-843,20008)BourcierT,ThomasF,BorderieVetal:Bacterialkerati-tis:predisposingfactors,clinicalandmicrobiologicalreviewof300cases.BrJOphthalmol87:834-838,20039)PachigollaG,BlomquistP,CavanaghHD:Microbialkera-titispathogensandantibioticsusceptibilities:a5-yearreviewofcasesatanurbancountyhospitalinnorthTexas.EyeContactLens33:45-49,200710)KeayL,EdwardsK,NaduvilathT:Microbialkeratitispredisposingfactorsandmorbidity.Ophthalmology113:109-116,200611)北川和子,都筑春美,佐々木一之ほか:細菌性角膜感染症の検討.眼紀37:435-439,198612)秦野寛:細菌性角膜炎.眼科38:567-573,199613)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,2006***

トラベクレクトミー術後に上脈絡膜出血を発症するも視機能を保持しえた血小板減少症例

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(105)8290910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(6):829832,2009cはじめにトラベクレクトミー(以下,レクトミーと略す)をはじめとする濾過手術の重篤な合併症として術後の上脈絡膜出血(以下,SCHと略す)があり,その頻度は26.2%といわれる13).発症の危険因子として,高齢,無水晶体,強度近視,無硝子体,術前の高眼圧,抗凝固療法,全身麻酔(手術終了時のbuckingや術後の咳,嘔吐が関連),術後の代謝拮抗剤結膜注射,低眼圧,浅前房,脈絡膜離,嘔吐,咳,いきみ〔別刷請求先〕森秀夫:〒534-0021大阪市都島区都島本通2-13-22大阪市立総合医療センター眼科Reprintrequests:HideoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospital,2-13-22Miyakojima-Hondori,Miyakojima-ku,OsakaCity,Osaka534-0021,JAPANトラベクレクトミー術後に上脈絡膜出血を発症するも視機能を保持しえた血小板減少症例森秀夫山口真大阪市立総合医療センター眼科APatientwithThrombocytopeniawhoSuferedSuprachoroidalHemorrhageafterTrabeculectomy,withMaintenanceofGoodVisionResultingHideoMoriandMakotoYamaguchiDepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospitalC型肝硬変による血小板減少症のある74歳,女性に,トラベクレクトミー(TLC)を施行したところ,術後上脈絡膜出血(SCH)が発症したが,最終的に良好な視力を得た.症例は両眼開放隅角緑内障があり,右眼は強度近視性黄斑円孔にて視力不良であった.2002年11月左眼黄斑前膜に白内障硝子体同時手術施行後に眼圧上昇し,TLCを施行した.2004年3月24日にTLCの再手術後,低眼圧・脈絡膜離を認め,術後9日目に眼痛・嘔気・嘔吐を訴え,眼圧は70mmHgに上昇し,浅前房と著明なSCHを認めた.即日経強膜的血腫除去を行うも術中再出血し,その7日目と10日目に再度経強膜的血腫除去と房水流出路再建を併施した.その後眼圧は正常化し,残存脈絡膜離は術後2年でほぼ消失した.術後4年間視力0.5を維持している.本症例では高齢・無硝子体眼・術後低眼圧などに加え,血小板減少もSCHの危険因子と考えられた.またSCHは再手術時にも初発しうるので注意を要する.A74-year-oldfemalewiththrombocytopeniafromhepatitisCcirrhosissueredsuprachoroidalhemorrhage(SCH)aftertrabeculectomy(TLE),withmaintenanceofgoodvisionresulting.Shehadopen-angleglaucomainbotheyes.Visualacuityinthelefteyewaspoorbecauseofseveremyopicmacularhole.Sheunderwentbothcata-ractextractionandvitrectomyforpremacularmembraneintherighteyeinNovember2002,followedbyTLEfortheintraocularpressure(IOP)rise.AsecondTLEwasperformedonMarch24,2004,resultinginhypotonyandchoroidaldetachment.Ontheninthpostoperativedayshesueredocularpain,nauseaandvomiting,herIOPbeingashighas70mmHg.Theanteriorchamberwasshallow,withmarkedSCH.Althoughtransscleraldrainageofthehematomawasperformedonthesameday,hemorrhagerecurred.Transscleraldrainageandaqueousoutowpathwayreconstructionwereperformedagain7daysand10dayslater,respectively.Subsequently,theIOPnor-malized.Thechoroidaldetachmentdisappearedintwoyears.Hervisualacuitywas0.5overfouryearspostopera-tively.InadditiontoseveralriskfactorsforSCH,suchasadvancedage,vitrectomyandpostoperativehypotony,thrombocytopeniawasalsoconsideredariskfactorinthiscase.ItshouldbenotedthatSCHcanoccurafterasec-ondorthirdoperation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):829832,2009〕Keywords:トラベクレクトミー,上脈絡膜出血,経強膜的血腫除去術,血小板減少症,肝硬変.trabeculectomy,suprachoroidalhemorrhage,transscleraldrainage,thorombocytopenia,livercirrhosis.———————————————————————-Page2830あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(106)などがあげられている14).今回C型肝硬変(後に肝癌発症)による血小板減少症例にレクトミー術後9日目にSCHが発症した.患眼は事実上の唯一眼であったが,3回にわたる経強膜的血腫除去術を施行し,有用な視力を保持できたので報告する.I症例患者:74歳,女性の左眼.既往歴:大阪市立総合医療センター眼科初診は2002年10月で,当時左眼の黄斑前膜にて近医より紹介された.矯正視力は0.2であった.全身的にはC型肝硬変に罹患しており,血小板数は45万/μlで,4万を下回れば血小板輸血を施行されていた.右眼は強度近視性網脈絡膜萎縮,それに引き続く黄斑円孔網膜離にて矯正視力は0.020.04と不良であったため,左眼が事実上の唯一眼であった.また,両眼の原発開放隅角緑内障をbブロッカー点眼(ベントスR)にて加療され,眼圧は20mmHg以下にコントロールされていた.左眼視神経乳頭の陥凹/乳頭比は0.8であった.2002年11月13日左眼の黄斑前膜に対して超音波白内障手術,眼内レンズ(IOL)挿入術,硝子体手術(トリアムシノロン不使用)を施行したが,術後3550mmHg(Goldmann眼圧計にて測定.以下も同様)の眼圧上昇が持続し,内科的治療や数回の前房穿刺にても眼圧がコントロールできなかったため,1週後の11月20日,耳上側に輪部基底結膜切開にてレクトミーを施行した.マイトマイシンCRは使用しなかった.術後も高眼圧が持続し,降圧点眼,眼球マッサージ,lasersuturelysis,needlingなどを施行し,1カ月後ようやく眼圧コントロールを得た.点眼はキサラタンR,0.5%チモプトールR,トルソプトRの3剤であった.矯正視力は0.4に改善した.術後4カ月の2003年3月に濾過胞は消失したが,点眼治療により眼圧は20mmHg以下にコントロールされていた.現症:初回レクトミー術後1年4カ月の2004年3月になると,上記の点眼にダイアモックスR1錠内服を加えても眼圧コントロール不良(37mmHg)となったため,レクトミーの再手術が必要となった.2004年3月24日に鼻上側に輪部基底結膜切開にてマイトマイシンCR併用(0.04%,3分塗布)レクトミーを施行した.前回のレクトミー術後に高眼圧が持続したことから,強膜弁はやや緩めに縫合した.すると術後3mmHg以下の低眼圧となり,軽度の前房硝子体出血と軽度の脈絡膜離を認めた.前房は正常の深さに形成されていた.術後5日目までは圧迫眼帯としたが,この間脈絡膜離は増強傾向を示した.低眼圧は術後8日目まで続いたが,術後9日目の4月2日朝から,突然眼痛,嘔気,嘔吐を訴え,眼圧は70mmHgに上昇した.視力は眼前手動弁であった.角膜は浮腫状で浅前房化を認め,眼底透見性は不良ながら脈絡膜離の増悪(kiss-ingに迫る)を認め,SCHの発症を疑った.後方からの圧排による毛様体前方偏位を疑い,前眼部超音波検査を試みたが,眼痛などが障害となり,よい画像が得られなかった.SCHの治療と経過:眼圧が70mmHgと非常な高値であり,高浸透圧利尿剤と炭酸脱水酵素阻害薬の点滴にても低下せず,眼痛も持続したため,即日経強膜的血腫除去術を行った.手技として3時方向で輪部より5mm後方の強膜を放射状に2mm切開し,眼球を軽く圧迫すると,最初黄色の漿液が,続いて茶褐色の血液が排出された(図1).さらにゆっくり時間をかけて多量の血液を排出した.眼圧下降を得られたので強膜創を縫合閉鎖したところ,再び急激な眼球の緊張を認めた.再出血を疑い,そのまま数分間,止血を期待して待った.その後縫合糸をはずして創を開放し,今度は圧迫を加えずに創から自然に血液を流出させた.ある程度血液が流出し,若干の眼圧下降が得られた段階で,再度の出血を恐れて創を閉鎖した.しかし術後も4050mmHgの高眼圧と角膜浮腫が持続し,降圧剤の点眼,高浸透圧利尿剤と炭酸脱水酵素阻害薬の点滴などを続けたが眼圧は下降せず,眼痛も続いたため,1週後の4月9日,再度前回の強膜創より血腫除去を行った.この再手術時には,血腫の排出後,レクトミーの強膜弁を開放し,スパーテルを前房に挿入して房水の流出を確認して手術を終了した.ところがこの術後も4050mmHgの高眼圧と浅前房が持続したため,その3日後の4月12日,再度同部より経強膜的血腫除去を施行した.このときもレクトミーの強膜弁を開放し,さらに虹彩切除孔を何らかの組織が閉鎖している可能性を疑い,切除孔を鑷子で探り,把持できた組織を切除すると,水晶体前と思われる膜状組織であった.これは毛様体が水晶体(IOLは内固定)を前方へ圧迫し,前が虹彩切除孔を閉塞していたと思われる.図1上脈絡膜血腫除去の術中写真3時の強膜創から黒褐色の血液が流出(矢印).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009831(107)上述の3回の血腫除去術の経過中の視力は指数弁であった.最後の手術後前房は深くなり,眼圧は正常化した.術後10日間は硝子体出血のため眼底透見性が不良であったが,その後徐々に眼底の透見性は向上し,著明であった脈絡膜離は後極側より徐々に減少した.視力は術後4週目に0.3を得た.脈絡膜出血は鼻側に長く残存した(図2,3)が,術後2年でほぼ消失した(図4).術後4年の現在その部は褐色の色調を呈し,若干の皺襞を残している.現在まで,視力は0.40.5を維持しており,レクトミーの扁平なブレブは保たれ,眼圧は点眼併用にてコントロールされている.術後2年半の時点でのGoldmann視野では,もともとの緑内障による鼻側階段を認めるが,遷延した脈絡膜出血は視野に異常は残していない(図5).II考按緑内障術後のSCHと,すべての内眼手術中に起こりうる駆逐性出血とは,重篤さは異なるものの同様の発症機序が想定されている.すなわち典型的には,低眼圧,脈絡膜静脈のうっ滞と漿液滲出,脈絡膜離,毛様動脈の伸展破綻の諸段階を経て生じるとされ5),この説は摘出人眼6)やウサギを使った実験7)での組織学的検討によって支持されている.本例はレクトミー術後のSCHの危険因子とされる高齢,無硝子体眼,術前の高眼圧,術後の低眼圧など14)を併せ持つものであったが,肝硬変による血小板減少と易出血性もSCHの危険因子と考えられた.特に,初回の経強膜的血腫除去術の術中,貯留血液が排出され,一旦眼圧下降を得られた直後,急激な再出血をきたしたことは,易出血性の影響を疑わせる.一般に肝硬変では血小板が10万/μl以下となり,図3血腫除去2カ月後の眼底写真脈絡膜離はやや軽減.図2血腫除去1カ月後の眼底写真乳頭鼻側に脈絡膜離著明.図4血腫除去2年半後の眼底写真脈絡膜離消失.脈絡膜離の部に網膜色素沈着・皺襞あり.図5血腫除去術後2年半の視野緑内障による鼻上側視野の欠損はあるが,遷延した脈絡膜離に相当する耳側視野は正常である.———————————————————————-Page4832あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(108)4万/μlを下回ると血小板輸血が必要で,この症例もときどき施行されていた.血液凝固系異常がSCHの危険因子となりうることは,抗凝固療法がSCHの危険因子であるとする報告3)によっても支持される.SCHの治療として,経強膜的血腫除去と自然吸収を待つ方法とがある.発症時の眼圧に着目すると,今回の症例のようにSCH発症時に非常な高眼圧をきたしている場合,一般に血腫除去が行われる4,5,8).これはもともと緑内障で障害されている視神経を保護するうえで合理的である.Frenkelら4)はレクトミー術前視力0.05であった症例が,SCH発症により眼圧が55mmHgまで上昇し,一旦光覚を喪失したが,即日血腫除去とレクトミーの流出路再建を併施し,最終視力0.07を得た症例を報告している.今回の症例ではSCH発症時眼圧は70mmHgまで上昇し,視力は指数弁に低下したが,即日血腫除去を施行し,最終視力は術前の0.45を回復できた.一方,SCHの発症時に眼圧が上がらなかった症例や,一時的に上昇しても,自然にまたは内科的治療によって眼圧下降が得られた症例については,血腫除去か自然吸収待ちかの選択は報告者によってさまざまである.SCHの程度が軽ければ自然吸収待ちが多いようである5)が,重症例の場合,早期に血腫除去を行うか9),数日経過をみてもSCHが軽快してこなければ血腫除去に踏み切る場合が多い2,5,10).しかし,kissingに至った重篤な症例でも,自然吸収が得られたとの報告もある11).血腫を手術的に除去した例にも,自然吸収を待った例にも,良好な視力が保たれたとする報告が散見される4,8,11)ものの,一般的にSCHの予後は悪く,失明光覚弁も珍しくない810).これは網膜離や増殖硝子体網膜症の合併があることも一因である811).多数例を検討した報告3)では,SCH前と後での平均logMAR視力はそれぞれ0.72と1.36(小数視力ではそれぞれおよそ0.2と0.04に相当)であったとしている.本症例のSCHは,唯一眼に発症し,非常な高眼圧を伴いkissingに迫る重症例であった.これに対する治療として,発症直後より経強膜的血腫除去術と流出路再建術を眼圧正常化が得られるまでくり返し施行した結果,有用な視力ならびに視野さえ保持できた.SCHが遷延した鼻側眼底が後に褐色の色調を呈したが,これは網膜色素上皮レベルの色素沈着と思われる.しかし,視野としてはこの部分も障害を認めなかった.文献的にもSCHの吸収後に網膜色素上皮の変化が起きたとの報告があるが,脱色素なのか色素沈着なのかは記載がない5).今回の症例では,初回レクトミー手術後はSCHが起こらず,再手術の術後発症した.再手術後には低眼圧となったが,低眼圧はSCHの必須条件ではない4,8,10).文献的にも3回目のレクトミーの後に発症した症例が報告されており5),初回であるか再手術であるかを問わず,濾過手術術後はSCH発症の可能性がある.高眼圧を伴うSCHの発症をみた場合は早急に血腫除去術を施行すべきで,血腫除去術のみで眼圧下降が得られない場合は,流出路再建術も併施して眼圧下降を図るべきと思われる.文献1)RudermanJM,HarbinTSJr,CampbelDG:Postoperativesuprachoroidalhemorrhagefollowinglterationproce-dures.ArchOphthalmol104:201-205,19862)TheFluorouracilFilteringSurgeryStudyGroup:Riskfactorsforsuprachoroidalhemorrhageafterlteringsur-gery.AmJOphthalmol113:501-507,19923)TuliSS,WuDunnD,CiullaTAetal:Delayedsuprachor-oidalhemorrhageafterglaucomaltrationprocedures.Ophthalmology108:1808-1811,20014)FrenkelRE,ShinDH:Preventionandmanagementofdelayedsuprachoroidalhemorrhageafterltrationsur-gery.ArchOphthalmol104:1459-1463,19865)GresselMG,ParrishRK,HeuerDK:Delayednonexpul-sivesuprachoroidalhemorrhage.ArchOphthalmol102:1757-1760,19846)WolterJR,GarnkelRA:Ciliochoroidaleusionaspre-cursorofsuprachoroidalhemorrhage:Apathologicstudy.OphthalmicSurg19:344-349,19887)BeyerCF,PeymanGA,HillJM:Expulsivechoroidalhemorrhageinrabbits.Ahistopathologicstudy.ArchOphthalmol107:1648-1653,19998)GivensK,ShieldsB:Suprachoroidalhemorrhageafterglaucomalteringsurgery.AmJOphthalmol103:689-694,19879)小島麻由,木村英也,野崎実穂ほか:緑内障手術により上脈絡膜出血をきたした2例.臨眼56:839-842,200210)木内良明,中江一人,堀裕一ほか:線維柱帯切除術の1週後に上脈絡膜出血を起こした1例.臨眼53:1031-1034,199911)ChuTG,CanoMR,GreenRLetal:Massivesuprachoroi-dalhemorrhagewithcentralretinalapposition.ArchOph-thalmol109:1575-1581,1991***

エタンブトール視神経症が合併し,急速に進行したようにみえた正常眼圧緑内障の1例

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(101)8250910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(6):825828,2009cはじめにエタンブトール視神経症は,典型的には視力低下,中心暗点を特徴とする.したがって,通常,エタンブトール視神経症が緑内障に合併しても,その認識や鑑別は比較的容易である.しかし,エタンブトール視神経症のなかには,まれに周辺視野狭窄を生ずるものも報告されている.その認識がないと,エタンブトール視神経症を緑内障と診断する可能性がある.さらに,緑内障にそのようなエタンブトール視神経症を合併すると,あたかも緑内障が急速に進行したようにみえ,点眼追加や手術加療など,誤った治療を選択する可能性がある.今回筆者らは,実際に経過観察していた緑内障患者に,周辺視野に視野欠損を生じるエタンブトール視神経症が合併し,あたかも緑内障の視野の悪化のようにみえた症例を経験〔別刷請求先〕井上由希:〒889-1692宮崎県宮崎郡清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学Reprintrequests:YukiInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,5200Kihara,Kiyotake,Miyazaki889-1692,JAPANエタンブトール視神経症が合併し,急速に進行したようにみえた正常眼圧緑内障の1例井上由希*1中馬秀樹*1河野尚子*1中馬智巳*1直井信久*1沖田和久*2*1宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学*2国民健康保険中部病院眼科ACaseofNormal-TensionGlaucoma(NTG)withApparentlyRapidProgressionduetoComplicationofEthambutol-ToxicOpticNeuropathyYukiInoue1),HidekiChuman1),NaokoKawano1),TomomiChuman1),NobuhisaNao-i1)andKazuhisaOkita2)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,2)DepartmentofOphthalmology,KokuhoTyubuHospital緑内障に,周辺視野に視野欠損を生じる非典型的なエタンブトール視神経症を合併し,あたかも緑内障が急速に進行したようにみえた症例を報告する.症例は65歳,女性.近医にて緑内障を指摘され,外来にて経過観察されていたが,眼圧コントロール良好にもかかわらず急速に視野が悪化したとして紹介された.結核の既往があり,エタンブトール内服中であった.緑内障に対してはラタノプロストが点眼されていた.Humphrey静的視野にて上下に弓状に広がる視野欠損を認め,4カ月前と比較してMD(meandefect)値で右眼は2.74Dから17.46D,左眼は4.0Dから17.81Dへ悪化していた.エタンブトール内服を中止し,7カ月後右眼は5.82D,左眼は4.36Dへ改善した.典型例ではないエタンブトール視神経症では,周辺視野の狭窄をみる例がある.緑内障に周辺視野の狭窄が重なれば,あたかも緑内障が悪化したようにみえるため,注意が必要である.Wereportacaseofglaucomathatappearedtoprogressrapidlybecauseitwasassociatedwithatypicalethambutolopticneuropathy.Thepatient,a65-year-oldfemale,wasreferredtoourhospitalforevaluationofrap-idlyprogressingvisualelddefectinglaucoma,despitegoodcontrolofintraocularpressure.Shehadbeentreatedwith750mg/dayethambutolfortuberculosis.Humphreystaticvisualeldexaminationshowedanerveberbun-dletypedefect,whichwasconsistentwiththelocationoftheopticdiscrimdefect.Themeandefect(MD)wors-enedfrom2.74dBto17.46dBoculusdexter(OD)andfrom4.0dBto17.81dBoculussinister(OS)overthe4-monthevaluationperiod.MDrecoveredto5.82dBODand4.36dBOSat7monthsafterethambutoldis-continuation.Ethambutoltoxicopticneuropathyrarelydevelopsasaperipheralvisualelddefect.Inglaucomapatientswithethambutoltoxicopticneuropathy,thevisualelddefectappearstoprogressrapidly.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):825828,2009〕Keywords:正常眼圧緑内障,エタンブトール視神経症,周辺視野狭窄.normal-tensionglaucoma,ethambutol-toxicopticneuropathy,constrictionofperipheralvisualeld.———————————————————————-Page2826あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(102)したので報告する.I症例および臨床経過症例は,65歳,女性.2006年末頃より両眼のちらつきを自覚していた.2007年4月,近医眼科を受診した.眼圧は両眼14mmHgであったが,緑内障性視神経乳頭所見を認め,それに一致した視野欠損を呈していたため,両眼の正常眼圧緑内障と診断された.このときの中心フリッカー値は右眼47Hz,左眼48Hzであった.ラタノプロスト点眼が開始され,外来にて経過観察されていた.同年10月,眼圧コントロールが良好であるにもかかわらず,急速に視野が悪化してきたとして宮崎大学眼科(以下,当科)紹介初診となった.この間自覚症状には変化はなかった.既往歴として,40歳頃肺結核を指摘され,1998年よりエタンブトールを断続的に投与されていた.2000年に右肺上葉を切除され,2006年8月からエタンブトール750mg/day内服中であった.高脂血症を指摘されていたが,高血圧や糖尿病は指摘されていない.また,片頭痛や急速な血圧低下の既往もなかった.当科初診時,視力はVD=0.5(1.2×sph+3.50(cyl1.50DAx50°),VS=0.5(1.2×sph+3.25(cyl1.25DAx95°)であった.瞳孔は正円,同大.対光反応は迅速,完全で,RAPD(relativeaerentpupillarydefect)は陰性であった.眼球運動は正常で,眼位は正位.眼圧は,両眼16mmHgであった.隅角は両眼とも開放隅角で,Shaer分類でGrade4,Scheie分類でGrade0であった.色覚は石原式色覚検査表ですべて正答した.中心フリッカー値は,右眼37Hz左眼38Hz.前眼部,中間透光体は,両眼とも軽度白内障を認めた.眼底では,視神経乳頭が両眼ともに垂直C/D(cup/図1本症例の眼底写真視神経乳頭は垂直C/D比0.8.特に下方のリムの菲薄化を認めた.左:右眼,右:左眼.図2当科初診時の静的視野MD値は右眼17.46dB,左眼17.81dB.〔左眼〕〔右眼〕———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009827(103)disc)比0.8で,下方のリムの菲薄化を認めた(図1).Hum-phrey静的視野検査にて上下に弓状に広がる視野欠損を認め(図2),当科受診4カ月前の視野(図3)と比較すると,MD値で右眼は2.74dBから17.46dBへ,左眼は4.0dBから17.81dBへと悪化していた.静的視野検査の結果は視野の信頼係数も良好で,また,再現性も認められ,有意な視野欠損と考えた.2007年4月に前医を受診して以来,本人の自覚症状に変化はなかった.図4エタンブトール中止7カ月後の静的視野MD値は右眼5.82dB,左眼4.36dBと改善している.〔左眼〕〔右眼〕図3当科受診4カ月前の静的視野MD値は右眼2.74dB,左眼4.0dB.〔左眼〕〔右眼〕———————————————————————-Page4828あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(104)エタンブトール視神経症の可能性を考え,エタンブトール中止としたうえで経過観察を行った.抗緑内障薬の追加やその他の点眼,内服の追加は行わなかった.エタンブトール中止後,静的視野検査の結果は次第に改善し,エタンブトール中止7カ月後にはMD(meandefect)値は右眼が17.46dBから5.82dBに,左眼が17.81dBから4.36dBに改善した(図4).II考按本症例では,当科初診時の静的視野(図2)における視野欠損の形態からは,一見緑内障が進行したかのようにみえた.しかし,眼圧コントロールが良好であったにもかかわらず,きわめて急速に視野障害が進行していること,視野障害の進行に一致した緑内障性視神経乳頭陥凹所見を認めないこと,2006年8月以来1年以上にわたってエタンブトール内服中であり,前医初診時と比較すると中心フリッカー値の著明な悪化を認めたことなどから,非典型的ではあったが,エタンブトールの関与を考えた.そのほか,アーチファクトや,心因性のものも考慮された.しかし,視野検査の再現性が良かったこと,視野の信頼係数も良好であったことから,アーチファクトや,心因性のものは除外した.加えて,抗緑内障薬の追加をせず,エタンブトール中止のみで,視野は次第に改善したことから,本症例においてみられた視野の悪化は,緑内障によるものではなく,エタンブトール視神経症の合併によるものであったと考えた.現在でも結核治療の主要薬剤として使用されているエタンブトールは,Carrら1)による最初のエタンブトール視神経症の報告以来,数多くの報告がなされており2),眼科領域では中毒性視神経症の原因薬剤として広く認識されている.典型的な臨床症状としては視力低下,中心暗点,色覚異常,中心フリッカー値の低下を特徴とする.一方で,こうした典型的な臨床症状を呈さないタイプのエタンブトール視神経症も数多く報告されている.Leibold3,4)はエタンブトール視神経症を中心暗点型と周辺視野狭窄型の2つに分け,そのほかに特殊なタイプとして視神経乳頭の発赤・腫脹をきたす乳頭網膜障害型があることを報告している.近年でも,頻度は少ないながら,両耳側半盲や周辺視野感度が低下する症例も報告されている5).通常,典型的なエタンブトール視神経症が緑内障に合併しても,視力低下や中心暗点が表現され,その認識や,鑑別は比較的容易であることが多い.しかし,本症例のように,緑内障に,周辺視野狭窄を生ずるエタンブトール視神経症を合併すると,あたかも緑内障が急速に進行したようにみえる可能性がある.エタンブトール視神経症では早期発見し薬剤を中止することにまさる治療法はなく,発見が遅れ高度に視力低下が進んだ症例では,視機能の改善がみられない,あるいは視機能障害が残存することが報告されている6).緑内障および他疾患にて経過観察中の場合でも急激な視力低下,視野欠損をみたときには,エタンブトール視神経症を念頭において内服の有無を確認する必要があると考えられた.本症例では,あたかも緑内障が進行したかのような弓状暗点の増悪をみた.この点については,エタンブトールは網膜神経節細胞(RGC)に有害であるとの研究報告もあることから7),緑内障眼にエタンブトール視神経症が合併した場合,Bjerrum領域のRGCが傷害されやすい可能性が示唆されると考えられた.近年opticalcoherencetomography(OCT)による視神経線維層厚の解析はさかんに行われており,エタンブトール視神経症についても,エタンブトールの中止および視機能の改善に伴い,浮腫の軽減などによると思われる視神経線維層厚の減少を認めることが報告されている8,9).今回はOCTによる視神経線維層厚の解析を行っていないが,今後の経過観察をするにあたってはこうした点にも留意していく必要があると思われた.また,本症例ではエタンブトール中止7カ月後の静的視野でも投与前のMD値まで回復していない.エタンブトール中止を継続していくが,緑内障が進行している可能性も否定できない.今後も注意深く経過観察を継続する必要があると思われた.文献1)CarrRE,HenkindP:Ocularmanifestationofethambutol.ArchOphthalmol67:566-571,19622)BarronGJ,TepperL,IovineG:Oculartoxicityfromethambutol.AmJOphthalmol77:256-260,19743)LeiboldJE:Theoculartoxicityofethambutolanditsrelationtodose.AnnNYAcadSci135:904-909,19664)LeiboldJE:Drugshavingatoxiceectontheopticnerve.IntOphthalmolClin11:137-157,19715)比嘉利沙子,塩川美菜子,深作貞文ほか:エタンブトール視神経症の耳側感度低下.臨眼62:473-478,20086)横山哲朗,田川博,菅野晴美ほか:高度に視力低下したエタンブトール視神経症.あたらしい眼科9:1623-1626,19927)HengJE,VorwerkCK,LessellEetal:Ethambutolistoxictoretinalganglioncellsviaanexcitotoxicpathway.InvestOphthalmolVisSci40:190-196,19998)ZoumalanCI,SadunAA:Opticalcoherencetomographycanmonitorreversiblenerve-verlayerchangesinapatientwithethambutol-inducedopticneuropathy.BrJOphthalmol91:839-840,20079)ChaiSJ,ForoozanR:Decreasedretinalnerveberlayerthicknessdetectedbyopticalcoherencetomographyinpatientwithethambutol-inducedopticneuropathy.BrJOphthalmol91:895-897,2007

原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeep Sclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)8210910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(6):821824,2009cはじめに流出路再建術である線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)は,濾過胞を形成しないため,術後感染症などの重篤な合併症が少ない安全な手術である反面,期待眼圧が1618mmHgであり,眼圧下降は十分とはいえなかった13).しかし,術後短期間での一過性高眼圧を抑制する目的でsinusotomy(SIN)を併施することで,一過性高眼圧の頻度が低下しただけでなく,期待眼圧も1516mmHgに下降し,適応の範囲が広がった37).さらに,LOTと白内障手術(phacoemulsicationandaspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)の同時手術では単独手術よりも術後眼圧が低いという報告8)もあり,LOT+SINとPEA+IOLの同時手術では,約1415mmHgの術後眼圧が期待できるとされている911).〔別刷請求先〕後藤恭孝:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:YasutakaGoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi631-0844,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeepSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績後藤恭孝黒田真一郎永田誠永田眼科Long-TermResultsofTrabeculotomyCombinedwithSinusotomyandDeepSclerectomyinEyeswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaYasutakaGoto,ShinichiroKurodaandMakotoNagataNagataEyeClinic線維柱帯切開術(LOT)にsinusotomy(SIN)とdeepsclerectomy(DS)を併施し,術後の長期成績について検討した.対象は永田眼科でLOT+SIN+DSを施行した原発開放隅角緑内障40眼である.白内障手術を同時に施行した同時群は13眼,単独群は27眼であった.術前平均眼圧は同時群18.8±2.7mmHg,単独群19.9±4.3mmHg,術後5年での平均眼圧は同時群15.1±1.6mmHg,単独群13.9±2.2mmHg,Kaplan-Meier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,同時群が53.8%,単独群が36.0%であった.術後の視野障害進行速度の平均値は0.15dB/Yであり,経過観察可能であった27眼中15眼で進行は停止していた.LOT+SIN+DSはLOT+SINとほぼ同等かより良好な眼圧下降効果が得られ,LOT+SIN+DSは,視野障害の進行を予防できる症例があることが示された.Weevaluatedthelong-termresultsoftrabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepsclerectomyin40eyeswithprimaryopen-angleglaucoma.Trabeculotomywithsinusotomyanddeepsclerectomycombinedwithcataractsurgerywasperformedin13eyes.Trabeculotomywithsinusotomyanddeepsclerectomywasperformedin27eyes.Postoperativeintraocularpressure(IOP)during5yearsaftersurgeryaveraged15.1±1.6mmHgintheformergroupand13.9±2.2mmHginthelatter.WhenthesuccessfulpostoperativeIOPlevelwasdenedas14mmHgandtheKaplan-Meierlifetablemethodwasapplied,thesuccessratewas53.8%intheformergroupand36.0%inthelatter.Thepostoperativevisualelddefectworseningrateaveraged0.15dB/Y;visualelddefectworseningceasedin15of27eyes.Trabeculotomywithsinusotomycombinedwithdeepsclerectomyseemstohaveasomewhathighersuccessratethantrabeculotomywithsinusotomyonly,andalleviatesworseningofvisualelddefect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):821824,2009〕Keywords:原発開放隅角緑内障,線維柱帯切開術,深部切除術,Schlemm管外壁開放術,視野進行速度.prima-ryopen-angleglaucoma(POAG),trabeculotomy,deepsclerectomy,sinusotomy,meandeviationslope.———————————————————————-Page2822あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(98)また,deepsclerectomy(DS)では術後DS単独で約15mmHgへ,PEA+IOLとの同時手術で約13mmHgへの眼圧下降が期待できる12)とされており,現在当施設では,さらなる眼圧下降を期待し,DSも併施している.今回は,LOT+SINにDSを追加しその長期成績を検討したので報告する.I対象および方法対象は,永田眼科において2001年4月から2002年3月までの間に,原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)に初回手術としてLOT+SIN+DSを行い,5年間以上経過観察できた32例40眼,術前の平均眼圧は19.5±3.8mmHg,術前の点眼数は2.4±1.1剤である.手術時の平均年齢は63.4±16.4歳であった.そのうち,白内障手術を併施しなかった単独群は21例27眼,術前の平均眼圧は19.9±4.3mmHg,術前の点眼数は2.9±0.8剤,手術時の平均年齢は57.7±16.1歳であり,白内障手術を併施した同時群は11例13眼,術前の平均眼圧は18.8±2.7mmHg,術前の点眼数は1.4±1.0剤,手術時の平均年齢は75.2±8.0であった.眼圧測定にはすべてGoldmannの圧平式眼圧計を用いた.術前の眼圧値は点眼治療下の眼圧で手術直前3回の平均とし,術後5年間の眼圧経過を検討した.眼圧コントロール率に関しては,眼圧値が14mmHg以下であれば,Goldmann視野では,経過年数にかかわらず視野障害の進行が停止したと報告されている13)ことを考慮して,術後6カ月以降に,眼圧が2回続けて14mmHgを超えた時点,眼圧下降剤の数が術前より増加した時点,アセタゾラミドの内服および追加手術を行った時点をコントロール不良とし,Kaplan-Meier生命表法を用いて検討した.視野障害は静的視野計としてHumphrey自動視野計(HFA:ZEISS社)を用い,そのmeandeviation(MD)で評価した.また,視野障害の進行度は,HFAlesR(B-line社)上で5回以上視野測定を行ったMDslopeによる視野進行速度で評価した.II結果1.眼圧経過単独群,同時群ともに術後6カ月目から有意(p<0.05)に眼圧下降し,術後5年目での眼圧は単独群13.9±2.2mmHg,同時群15.1±1.6mmHg,眼圧下降率は単独群27.5±17.9%,同時群18.8±10.9%であった(図1).2.眼圧コントロール率Kaplan-Meier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,術後5年で,単独群が34.5%,同時群が47.4%であった(図2).Logrank検定にて両群間に有意差(p<0.05)は認めなかった.3.点眼数術前の平均点眼数は単独群で2.9±0.8剤,同時群で1.4±1.0剤であった.術後5年目での点眼数は単独群が1.5±1.1剤,同時群が0.5±0.8剤と単独群,同時群とも有意(p<0.05)に減少していた.4.術後併発症術後の平均前房出血持続期間は,単独群が2.5±2.4日,同時群が2.77±3.1日とほぼ同等であった.術後1週間以内の30mmHg以上の一過性高眼圧は単独群で1例に認められただけであった.持続性低眼圧,網脈絡膜離,低眼圧黄斑症は認めなかった.経過観察中に術後感染症も認めなかった.5.視野経過視野に関しては,術後5年経過時まで,Humphrey自動視野計のSITAstandard30-2プログラムで経過観察可能であった27眼(単独群20眼,同時群7眼)について検討した.視野進行速度に関しては,0dB/Y以上の場合,すべて0dB/Yとし,進行停止として評価した.術前の平均のMDは11.29±7.3dB(2.5724.79),術後の視野進行速度の平均値は0.15±0.31dB/Y(1.370)であり,27眼中15眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた.術前の視野0510152025061224364860観察期間(M)眼圧(mmHg):Student-ttestp<0.05************図1術後眼圧経過に術後以に眼圧下生率図2KaplanMeier生命表法による14mmHg以下への術後眼圧コントロール成績にめ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009823(99)障害の程度で,MD>6dBを初期群として,MD≦6dBを中期以降群として分類した場合,初期群では術前の平均のMDは3.13±2.1dB(5.910)で,術後の視野進行速度の平均値は0.17±0.27dB/Y(0.820)であり,9眼中5眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた.中期以降は術前の平均のMDは15.50±4.8dB(24.797.85)で,術後の視野進行速度の平均値は0.15±0.33dB/Y(1.370)であり,18眼中10眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた(表1).また,術前後でMDslopeの評価が可能であった9眼では,視野進行速度は,術前が0.77±0.71dB/Y(2.290)であったものが,術後は0.20±0.44dB/Y(1.370)になっていた.術前の視野障害の程度で分類すると,初期群では術前が0.18±0.09dB/Y(0.260.08)であったものが,術後は0.06±0.11dB/Y(0.20)に,中期以降群では術前が0.94±0.76dB/Y(2.290)であったものが,術後は0.27±0.54dB/Y(1.370)となっていた(表2).III考按術後期待眼圧はLOT単独では術後3年で18.4mmHg3),術後5年で16.1mmHg2),10年で16.7mmHg1)という報告があり,また,SINの併施によって術後2年で13.5mmHg4),術後35年で約15mmHg3,57)まで下降したと報告されている.LOT+SINにPEA+IOLを併施した場合,術後1年で14.6mmHg10),術後5年で13.6mmHg11)という報告もある.DSは非穿孔手術であり,その作用機序は,前房内から強膜内のlakeに染み出した房水が,DSの強膜床を通って,経ぶどう膜強膜路から吸収されるか,強膜創を通って結膜下に濾過されるかによるものであるとの報告14)があり,DS単独では約15mmHg,PEA+IOLとの併施で約13mmHgへの眼圧下降が期待できるとされている12).さらに,LOTにDSを併施した場合,眼圧が術後1年で14.4mmHgに下降したと報告されている15).また,LOTに内皮網除去のみを併施した場合の短期成績では,約15mmHgへの眼圧下降が期待できるとされている16).今回の結果では,術後5年目の平均眼圧は単独群においては13.9mmHgであり,以前のLOT+SIN,DS,LOT+DS,LOT+内皮網除去とほぼ同等かやや低い結果となった.同時群においては15.1mmHgとなっており,LOT+SIN+PEA+IOLおよびDS+PEA+IOLとほぼ同等かやや高い結果となった.この結果から,期待眼圧においてはLOT+SINにDSを併施することによる効果は少ない可能性が考えられた.しかし,14mmHg以下への眼圧コントロール率においては,LOT単独では術後10年で12%1),LOT+SINでは術後5年で26%11),LOT+SIN+PEA+IOLでは術後5年で31%という報告11)があるが,今回は単独群で34.5%,同時群で47.4%と,以前のLOTおよびLOT+SINの報告よりもやや良好な結果であった.今回の結果とは観察期間,死亡の定義が異なるため直接比較はできないが,LOTに内皮網除去を併施した場合,術後1年での21mmHg未満へのコントロール率は,単独で約60%,PEA+IOL併施だと約95%であり,LOT+内皮網除去ではLOTの効果を減弱させる可能性があるという報告16)がある一方で,DSにSkGelを使用した場合,術後5年で16mmHg以下へのコントロール率が89.7%であったという報告17),あるいは,DSにPEA+IOLを併施した場合の術後1年の18mmHg以下へのコントロール率は50%であったという報告15)がある.内皮網除去の併施だけでは眼圧コントロールは向上しなかったのかもしれないが,今回はDSも併施したため,DSの眼圧下降効果が相乗的に作用した結果,LOTおよびLOT+SINより長期に眼圧コントロールが維持できた可能性があると考えられた.点眼数は,LOT3),LOT+SIN35,7),LOT+PEA+IOL8),LOT+SIN+PEA+IOL9,11)の報告と同様の傾向を示し,術前は単独群で2.9±0.8剤,同時群で1.4±1.0剤であったものが,術後5年で,単独群が1.5±1.1剤,同時群が0.5±0.8剤と有意に減少していた.前房出血持続期間は以前のLOT+SIN10)の報告と同様であり,DSを併施することで,前房出血が増加していないことが確認された.今回術後一過性高眼圧の発生率が低かったことは,内皮網除去は一過性眼圧上昇を減少させる可能性が表1術後の視野障害進行速度(MDslope)術前平均MD術後視野進行度進行停止11.29±7.3dB(2.5724.79)0.15±0.31dB/Y(1.370)15/27眼(56%)術前MD術前平均MD術後視野進行度進行停止≧6.0dB3.13dB±2.1dB(5.910)0.17±0.27dB/Y(0.820)5/9眼(56%)6.0dB>15.50±4.8dB(7.8524.79)0.15±0.33dB/Y(1.370)10/18眼(56%)上段:観察可能であった全症例,下段:視野障害の程度で分類.表2術前後の視野障害進行速度の変化(MDslope)術前術後進行停止0.77±0.71dB/Y(2.290)0.20±0.44dB/Y(1.370)5/9眼(56%)術前MD術前術後進行停止≧6.0dB0.18±0.09dB/Y(0.260.08)0.06±0.11dB/Y(0.20)2/3眼(67%)6.0dB>0.94±0.76dB/Y(2.290)0.27±0.54dB/Y(1.370)3/6眼(50%)上段:観察可能であった全症例,下段:視野障害の程度で分類.———————————————————————-Page4824あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(100)ある16)とされていることから,内皮網除去を併施したことも影響していると思われた.緑内障ガイドラインでは,緑内障は眼圧を十分下降させれば,視神経障害を改善もしくは抑制しうる疾患であると定義されている.ということは,視神経障害つまり視野障害の進行が抑制されているかどうかが重要であり,眼圧下降が十分であったかどうかの評価となると考えられる.LOT単独では初回手術で眼圧コントロールが良好であった症例の32%で1),LOT+SINでは術後23%で3,5),LOT+SIN+PEA+IOLでは18%で11)視野障害が進行していたとの報告があるが,すべてGoldmann視野検査での評価であった.Goldmann視野では,視野障害の進行の細かな評価が困難であると考えられ,今回は,視野進行速度について静的視野計のMDslopeで評価することとした.今回視野障害が評価可能であった症例の,術後の視野進行速度の平均は0.15dB/Yであった.手術時の平均年齢63.4歳から推定すると平均余命は約20年であり,平均余命中には3.0dBしか進行せず,術前の平均のMD値11.29dBを考慮すると,十分視機能は保持できると考えられた.手術時のMD値を6dBで分け,MD≧6dBを初期群,MD<6dBを中期以降群としても,術後の視野障害の進行速度の平均はそれぞれ0.17dB/Yおよび0.15dB/Yであり,術前の平均のMD値がそれぞれ3.13dBおよび15.50dBであったことを考慮すれば,やはり十分視機能,あるいは視力が保持できる可能性が高いと考えられた.また,視野障害の程度に関係なく,全例中約半数で視野障害の進行が停止しており,LOT+SIN+DSで眼圧を1415mmHgに下降させることで,十分管理可能な症例も存在することが示唆された.さらに,術前の視野進行速度が評価可能であった9症例について検討すると,術後の平均の進行速度は術前より低く,視野障害の進行は術後に抑えられていることが確認された.初期群では,術後,平均でもほぼ0dB/Yとなっており,早期手術を行う意義があることが示された.また,中期以降群でも,術後,進行速度が抑制されており,1415mmHgに眼圧を下降させることで,視野障害の進行を抑えることができることが示唆された.今回の検討から,LOT+SIN+DSはLOT+SINと比較し,期待眼圧を大きく低下させることはできなかったが,LOT+SINより眼圧コントロール率が向上する可能性があり,LOT+SIN+DSの効果が持続している間は,十分視野障害の進行が抑えられていることが示された.LOT+SIN+DSは重篤な術後併発症の発生頻度が低いことから考えると,早期手術として,眼圧が高値の視野障害が中期以降の症例に対しても,十分適応があると考えられた.文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicalefectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,19932)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20003)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19964)青山裕美子,上野聡:ジヌソトミー併用トラベクロトミーの術後中期眼圧推移.あたらしい眼科12:1297-1303,19955)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19966)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicalefectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20007)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.臨眼57:1609-1613,20038)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Phacoemulsica-tion,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytotreatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg24:781-786,19989)溝口尚則,松村美代,門脇弘之ほか:眼内レンズ手術がシヌソトミー併用トラベクロトミーの術後眼圧におよぼす効果.臨眼52:1705-1709,199810)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科18:813-815,200111)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,200212)D’EliseoD,PastenaB,LonganesiLetal:ComparisonofdeepsclerectomywithimplantandCombinedglaucomasurgery.Ophthalmologica217:208-211,200313)岩田和雄:低眼圧緑内障および開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)MarchiniG,MarrafaM,BrunelliCetal:Ultrasoundbio-microscopyandintraocular-pressureloweringmecha-nismsofdeepsclerectomywithreticulatedhyaluronicacidimplant.JCartaractRefractSurg27:507-517,200115)LukeC,DietleinTS,LukeMetal:Prospectivetrialofphaco-trabeculotomycombinedwithdeepsclerectomyversusphaco-trabeculectomy.GraefesClinExpOphthal-mol246:1163-1168,200816)塩田伸子,岡田丈,稲見達也ほか:内皮網除去を併用したトラベクロトミーの手術成績.あたらしい眼科22:1693-1696,200517)GalassiF,GiambeneB:DeepsclerectomywithSkGelimplant:5-yearresults.JGlaucoma17:52-56,2008

鳥取大学における若年者の角膜感染症の現状

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(91)8150910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(6):815819,2009cはじめに近年,角膜感染症の若年化が問題となっており,2003年に行われた感染性角膜炎の全国サーベイランス1)においても,年齢分布は二峰性を示し,60歳代以外に20歳代にもピークを生じていた.さらに,若年層ではコンタクトレンズ(CL)使用中の感染が9割以上を占め,わが国の感染性角膜炎の発症の低年齢化の大きな原因として,CLの使用がある1,2).この10数年間に,使い捨てソフトCL(DSCL)や頻回交換ソフトCL(FRSCL)の登場により,装用者は急激に増加し,CLの使用状況は大きく変わっている.約1,500万人を超えるといわれるCL装用者がいるなか,近年,CL使用の低年齢化が起こり,10歳代,20歳代の若者の使用が増〔別刷請求先〕池田欣史:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:YoshifumiIkeda,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN鳥取大学における若年者の角膜感染症の現状池田欣史稲田耕大前田郁世大谷史江清水好恵唐下千寿石倉涼子宮大井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学CurrentStatusofInfectiousKeratitisinStudentsatTottoriUniversityYoshifumiIkeda,KohdaiInata,IkuyoMaeda,FumieOtani,YoshieShimizu,ChizuToge,RyokoIshikura,DaiMiyazakiandYoshitsuguInoueDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity近年,角膜感染症の若年化が問題となっており,重症例が増加している.今回,当院での若年者の角膜感染症の現状を報告する.2004年1月2008年2月に入院加療した角膜感染症患者のうち,発症年齢が30歳未満であった13例14眼を対象に,コンタクトレンズ(CL)使用状況・治療前後の視力・起炎菌について検討した.発症年齢1428歳.男性5例5眼,女性8例9眼.11例で頻回交換ソフトCL,1例でハードCLを使用していた.初診時視力が0.5以下は9例10眼,0.1以下は6例7眼であった.治療後の最高視力は比較的良好であったが,0.04にとどまった例が1例,治療的角膜移植施行例が1例あった.推定起炎菌はアカントアメーバ4眼,細菌10眼であり,分離培養で確認されたものは緑膿菌2眼,黄色ブドウ球菌2眼,セラチア1眼,コリネバクテリウム1眼であった.若年者角膜感染症でも特に重症例が増加しており,早期の的確な診断・治療の重要性とともにCL装用における感染予防策の必要性が示唆された.WereportthecurrentstatusofinfectiouskeratitisinstudentsatTottoriUniversity.Wereviewedtherecordsof14eyesof13patientsbelow30yearsofageamongthosetreatedforinfectiouskeratitisatTottoriUniversityHospitalfromJanuary2004toFebruary2008.Patientswereevaluatedastomethodofcontactlensuse,visualacuitybeforeandaftertreatmentandmicrobiologicaletiology.Theagedistributionrangedfrom14to28years.Ofthe13patients,11usedfrequent-replacementsoftcontactlensesand1usedhardcontactlenses.Atinitialvisit,thevisualacuityof10eyes(9patients)waslessthan20/40,andthatof7eyes(6patients)waslessthan20/200.Bettervisualacuitywasnotedaftertreatmentinallbut2cases,1ofwhichhadpoorvisualacuity,theotherhav-ingreceivedpenetratingkeratoplasty.ThepresumedcausativeagentswereAcanthamoebaspeciesin4eyesandbacteriain10eyes.SomeofthesewereprovenbyculturingtobePseudomonasaeruginosa(2eyes),Staphylococ-cusaureus(2eyes),Serratiamarcescens(1eye)andCorynebacterium(1eye).Reportsofyoungercasesofcontactlens-relatedsevereinfectiouskeratitishavebeenontheincrease.Theimportanceofearlyproperdiagnosisandtreatmentisindicated,asistheneedforstrategyinpreventingcontactlens-relatedinfectiouskeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):815819,2009〕Keywords:角膜感染症,若年者,アカントアメーバ,緑膿菌,コンタクトレンズ.infectiouskeratitis,younggeneration,Acanthamoeba,Pseudomonasaeruginosa,contactlens.———————————————————————-Page2816あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(92)加している.今後ますます若年者のCL原因の感染性角膜炎が増加すると予想される.啓発活動も含めた意味で,今回筆者らは,鳥取大学における角膜感染症のうち,特に30歳未満の若年者を対象に,CLの使用状況・起炎菌・初診時視力・治療後視力などについて検討し,予防策について考察したので報告する.I対象および方法対象は,鳥取大学医学部附属病院眼科において2004年1月から2008年2月までの約4年間に,入院加療を要した角膜感染症117症例(ヘルペス感染を含む)のうち,30歳未満の13例14眼(男性5例5眼,女性8例9眼)である.117症例に対する若年者の割合と若年者全例の年齢・性別・発症から当院紹介までの日数・初診時視力・治療後最高視力・起炎菌・前医での治療の有無・ステロイド使用歴の有無・CLの種類や使用状況についての検討を行った.II結果角膜感染症117症例全体の若年者の年代別の割合を図1に示す.2004年は5.9%,2005年は0%,2006年は9.5%と低かったが,2007年には21.4%と上昇し,2008年には1月,2月のみで,42.9%と高かった.なお,30歳未満13例表1全症例(13例14眼)の内訳症例年齢(歳)性別患眼発症から当院初診までの日数起炎菌初診時視力治療後最高視力前医での治療114女右42アカントアメーバ0.81.2あり(ステロイド)217女右4細菌0.81.2なし322男右11細菌0.091.0なし注1415女左3セラチア0.91.2あり528女右14アカントアメーバ0.21.0あり(ステロイド)621男左22アカントアメーバ0.41.5あり719男左2緑膿菌0.51.0あり(ステロイド)816女左3細菌手動弁/30cm0.9あり928男左3細菌1.21.5なし1024女右4黄色ブドウ球菌0.030.9なし24女左4黄色ブドウ球菌0.011.2なし1118女左33アカントアメーバ指数弁/15cm1.2注2あり(ステロイド)1216女左4緑膿菌手動弁/10cm0.04あり1323男左2コリネバクテリウム0.030.6なし注1:知的障害およびアレルギーあり.注2:治療的全層角膜移植術施行後の視力.症例CLの種類CL誤使用の有無1FRSCL(1M)無2FRSCL(2W)有(就寝時装用)3なし4FRSCL(2W)無5FRSCL(2W)無6FRSCL(2W)無7FRSCL(1M)有(使用期限超え,消毒不適切)8FRSCL(1M)有(連続装用,消毒不適切)9FRSCL(2W)有(連続装用,消毒不適切)10HCL有(消毒不適切)HCL有(消毒不適切)11FRSCL(1M)有(消毒不適切)12FRSCL(1M)有(就寝時装用,消毒不適切)13FRSCL(2W)有(連続装用,消毒不適切)05101520253035402004年2005年2006年2007年2008年(12月):30歳以上:30歳未満2/34(5.9)0/27(0)2/21(9.5)6/28(21.4)3/7(42.9)症例数(人)図1鳥取大学における角膜感染症の若年者の割合の推移(13/117症例)上段の数値は年別の若年者数/全症例数(若年者の割合)を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009817(93)14眼の内訳(表1)は,男性5例5眼,女性8例9眼で,発症年齢は1428歳(平均20±5歳)であり,10歳代が7例と半数近くを占めていた.初診時矯正視力は0.5以下が9例10眼で,0.1以下が6例7眼と重症例が目立った.治療後最高視力は0.6以上が11例12眼で,1.0以上が9例9眼と比較的良好であった.しかし,最終的に1例は治療的角膜移植術を行い,1例は最終視力0.04と視力不良であった.症例3は知的障害とアレルギー性結膜炎があり,角膜潰瘍を生じた例で,それ以外は,全例CL使用者で,11例にFRSCL,1例にハードCL(HCL)の装用を認めた.なお,CLの洗浄,擦り洗い,CLケースの定期交換などの適切な消毒を行っていない症例や,CLの使用期限を守らない,就寝時装用,連続装用など不適切なCL装用状況が8例9眼で認められた.推定起炎菌は細菌が10眼,アカントアメーバが4眼で,細菌10眼のうち6眼が分離培養できたが,アカントアメーバは分離培養できておらず,検鏡にて確認した.HCL使用の1例2眼で黄色ブドウ球菌が検出され,FRSCLでは緑膿菌が2眼,セラチアとコリネバクテリウムが1眼ずつ検出された.なお,セラチアは主要な細菌性角膜炎の起炎菌であり1),病巣部より分離培養できたことから起炎菌と判断した.コリネバクテリウムは結膜の常在菌であり,角膜での起炎性は低いが,この例では病巣部よりグラム陽性桿菌を多量に認め,分離培養結果も一致し,好中球の貪食像も認められたため起炎菌とした.また,発症から当院へ紹介されるまでの日数は平均11日であるが,アカントアメーバ角膜炎は平均28日と約1カ月かかっていた.さらに,前医で治療を受けた8例中半数の4例にステロイドの局所または全身投与がなされており,そのうち,3例がアカントアメーバであった.ここで重症例の症例11と12の経過を報告する.〔症例11〕18歳,女性.現病歴:平成19年12月7日左眼眼痛と充血を主訴に近医を受診し,角膜上皮障害にてSCL装用を中止し,抗菌薬,図3症例11:左眼前眼部写真(平成20年1月22日)ステロイド中止後に角膜混濁は悪化した.図5症例11:ホスト角膜の切片(ファンギフローラYR染色)ホスト角膜にアカントアメーバシスト(矢印)が散在した.図2症例11:初診時左眼前眼部写真(平成20年1月8日)角膜中央に円形の角膜浸潤と毛様充血を認め,角膜擦過物よりアカントアメーバシストを認めた.VS=15cm/指数弁.図4症例11:左眼前眼部写真(平成20年3月12日)2月26日に治療的全層角膜移植術を施行した.VS=(1.0).———————————————————————-Page4818あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(94)角膜保護薬の点眼にて経過観察されていた.12月26日に,角膜後面沈着物が出現し,ヘルペス性角膜炎と診断され,ステロイド点眼・内服を追加されるも,改善しないため,平成20年1月7日に鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介となった.なお,CLは1日15時間以上使用し,CLの消毒はマルチパーパスソリューション(multi-purposesolution:MPS)を使用し,週に23回しか消毒しておらず,CLケースもほとんど交換していなかった.初診時所見:左眼視力は15cm指数弁で,角膜中央に円形で境界不明瞭な角膜浸潤と角膜浮腫および上皮欠損を生じており,特に下方では潰瘍となっていた(図2).治療:角膜擦過物のファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストが確認されたため,アカントアメーバ角膜炎との診断で,ステロイド中止のうえ,角膜掻爬に加え,イトラコナゾール内服,0.02%クロルヘキシジン・フルコナゾール・1%ボリコナゾール点眼,オフロキサシン眼軟膏の三者併用療法を開始した.ステロイド中止後,角膜混濁は悪化し(図3),ピマリシン点眼に変更するも,治療に反応せず,角膜混濁もさらに悪化したため,平成20年2月26日に治療的全層角膜移植術を施行した(図4).術後,再発を認めず,矯正視力1.2と安定した.なお,角膜移植時に切除したホスト角膜片の病理検査でのファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストが認められた(図5).〔症例12〕16歳,女性.現病歴:平成20年2月7日からの左眼眼痛にて翌日近医を受診し,角膜上皮離の診断にて点眼加療された.2月9日角膜混濁が出現し,抗菌薬の点眼・内服を追加されるも改善せず,2月10日に,角膜潰瘍と前房蓄膿が出現したため,同日,鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介となった.なお,CLは1日16時間以上使用し,毎日MPSにて消毒はしていたが,擦り洗いは週に1回程度であり,ときどき装用して就寝することもあった.初診時所見:左眼視力は10cm手動弁で,角膜中央に輪状膿瘍,角膜潰瘍を認め,さらに,前房蓄膿を伴っていた(図6).治療:急速な進行と臨床所見から,緑膿菌感染と判断し,イミペネムの点滴,ミクロノマイシン点眼,オフロキサシン眼軟膏にて治療を開始した.角膜擦過物の塗抹鏡検にてグラム陰性桿菌を認め,後日培養にて緑膿菌を検出した.治療にはよく反応し,翌日には前房蓄膿は消失し,角膜潰瘍は徐々に軽快した.しかし,最終的に角膜中央に混濁を残して治癒し(図7),最終視力は0.04と良好な視力を得られなかった.III考按2003年の角膜サーベイランス1)での年齢分布のグラフにおけるCL非使用の感染性角膜炎の年齢分布は,1972年から1992年にかけての報告を集計した金井らの論文にみられる60歳代にピークをもつ感染性角膜炎の年齢分布2)とあまり変わっていない.このことから,使用しやすいSCL(DSCL,FRSCL)の登場により,CL使用者(おもに若年者)が急激に増加し,その安易な使用によって,CL使用者の感染性角膜炎が上乗せされた形となり,10歳代,20歳代にもう1つのピークが生じたとみてとれる.さらに,10歳代の感染はほぼ100%CL関連であり,20歳代もCL使用が89.8%であったと報告されている.しかも,20歳代の割合が60歳代を上回る状況となっている1,3).20歳代のCL関連の感染の増加はCL使用割合がその年代に多いためと推察されるが,10年後,20年後には,これがさらに上の年代へと拡大していく危険性をはらんでいる.今回,筆者らは30歳未満の若年者を対象にデータ解析を行ったが,CL関連が92.3%であり,レンズの不適切な使用によると思われる感染が大半を占めていた.若年者の失明は以後のQOL(qualityoflife)を大きく損なうため,早期発見と適切な早期治療が必須である.図6症例12:初診時左眼前眼部写真(平成20年2月10日)角膜中央に輪状膿瘍と前房蓄膿を認めた.VS=10cm/手動弁.図7症例12:左眼前眼部写真(平成20年3月11日)最終的に角膜中央に混濁を残して治癒した.VS=0.04(n.c.).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009819(95)今回の4例のアカントアメーバ角膜炎では,症状発生から適切な治療までに2週間から約1カ月半が経過しており,そのうち3例はヘルペス感染との診断にて,ステロイド加療がされており,最終的に1例に治療的角膜移植術を施行した.そのため,眼科医の早期の適切な診断と治療が重要となってくる.CL装用者の場合には,ヘルペスと思われる上皮・実質病変が存在しても,ヘルペスよりもアカントアメーバの感染をまず念頭に置き,前房内炎症が生じていても,ステロイド投与の開始については慎重に考慮する必要がある.また,SCL装用による両眼性アカントアメーバ角膜炎も報告46)されており,診断,治療が困難な場合には,早急に角膜疾患の専門家のいる病院へ紹介することが重要である.一方,細菌感染の場合は,アメーバと異なり進行が速いため,症状発生から紹介までは約4日と短く,抗菌薬頻回点眼・点滴を含めた早期治療が大切となる.細菌性角膜感染炎ではアカントアメーバ角膜炎よりも診断が容易であるが,緑膿菌では進行が速く,重症化するため,症例12のように治癒しても社会的失明の状態となる.若年者の角膜感染による失明を防止するには,CL関連感染角膜感染症の存在とその予防策について,若年のCL装用者に十分知識をもってもらうことが重要である.さらに,CLケースの洗浄や交換が行われていなかった例や,インターネットにて購入した例もあり,眼科専門医の適切な指導のもと,CLの処方のみならず,洗浄液も処方箋による販売が行われる体制が望ましいのではないかと思われる.現にシリコーンハイドロゲルレンズにおいて,洗浄液との相性があわず,上皮障害をひき起こす場合もあり79).眼科医がしっかりとCL装用者のCL使用状況を把握するうえでも,CLと洗浄液とを同時に眼科医が処方できるようにすべきではないかと考える.今回の症例に使用されたSCLはすべてFRSCLであり,適切に使用した症例でも,感染をひき起こしていることを考慮すると,感染予防という点では,現行のMPSでは限界があり,煮沸消毒に及ばないと考えられる10).また,適切に使用すれば外部からの細菌の持ち込みがないという点において,DSCLへの変更も留意する必要がある.一番の問題点はCL使用者がCLの利便性のみにとらわれ,CLの危険性に関して無知であることである.これは,各CLメーカーの宣伝の影響が大きいと考える.SCLのパンフレットには注意事項は裏面に小さな字で記載されているのみで,内容も「調子よく使用し,異常がなくても,定期検査は必ず受けてください」・「少しでも異常を感じたら,装用を中止し,すぐに眼科医の診察を受けてください」といった,当たり障りのない文句が書かれている.適切な使用を怠ると,感染性角膜炎になり,失明する可能性があることを説明し,実際の感染性角膜炎の写真を掲載するなどして,視覚的に訴えていく必要がある.タバコの外箱に記載されている肺癌の危険性と同様に,常時手にとるCLのパッケージへも失明の可能性ありとの記載があると,CL装用者への啓発となると考える.今後も,若年性CL関連角膜感染症は増加していくと推察されるため,CL装用指導と角膜感染症発症についてのCL装用者への啓発の重要性を改めて認識する必要性がある.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20062)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用による角膜感染症.日コレ誌40:1-6,19983)宇野敏彦:コンタクトレンズの角膜感染症予防法.あたらしい眼科25:955-960,20084)WilhelmusKR,JonesDB,MatobaAYetal:Bilateralacanthamoebakeratitis.AmJOphthalmol145:193-197,20085)VoyatzisG,McElvanneyA:Bilateralacanthamoebakera-titisinanexperiencedtwo-weeklydisposablecontactlenswearer.EyeContactLens33:201-202,20076)武藤哲也,石橋康久:両眼性アカントアメーバ角膜炎の3例.日眼会誌104:746-750,20007)JonesL,MacdougallN,SorbaraLG:Stainingwithsili-cone-hydrogelcontactlens.OptomVisSci79:753-761,20028)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,20079)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,200510)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現況および問題点.日本の眼科79:727-732,2008***

眼科医にすすめる100冊の本-6月の推薦図書-

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098070910-1810/09/\100/頁/JCLS以前からなんとなくポックリ死ねたらよいなあと思っていた私は,この本のタイトルを見て思わず購入してしまいました.これまでに自分の頭のなかにあった『ポックリ死』というものは,まだボケる前にそして自分の身の回りの世話ができている間に,あっさりと死ぬといったような漠然としたイメージでした.しかし,ポックリ死ぬというのは,どうもそういうものではないようです.そもそも,「ポックリ」という言葉は「長く久しく永久にご利益を保ってくださる」との意味を持つ浄土宗の言葉,「保久利」が語源とのことです.つまり,『ポックリ死』というのは浄土へ往生するということなのでしょう.ということは,日頃から何の功徳も積んでいない凡夫の鑑のような私には,とても叶わぬ夢ということになります.しかし「ポックリ死ぬこと」は,もともとは「功徳を積んだ人の死に方」だったのが,長い年月を経て徐々に意味が変わり,「長生きして自分も苦しまず,家族にも迷惑をかけない死に方」になったそうです.こういう意味なら,まだ私にもポックリ死できるチャンスはありそうです.加齢老年医学に長く携わってこられた佐藤琢磨先生による『ポックリ死』についての考え方をまとめてみます.まずは,死に方の3つのパターンです.脳が体より先に衰えるパターン,体が脳より先に衰えるパターン,脳と体が同じように衰えるパターンの3つですが,最初のパターンの代表例は認知症になります.2番目のパターンの代表例は心筋梗塞や脳梗塞,脳出血ということになるでしょう.最後のパターンが『ポックリ死』に近いようですね.この最後のパターンをとるのはかなり高齢まで健康で長生きした人が多いようで,著者は『ポックリ死』の条件として,①健康に長生きしたこと,②脳と体が同じような時期に衰え,体調が悪くなってから比較的短い期間で,しかも苦しまずに他界したこと,③家族も「長生きしてもらった」という達成感や納得感,安堵感,満足感を得られたこと,の3つをあげています.私の頭の中では『突然死』という要素が,なんとなく『ポックリ死』のなかに入っていました.突然死というのは,後に残された家族の苦しみ・悲しみが付き物ですし,本人もその瞬間はきっと恐怖と苦しみ・痛みを感じるものなのでしょう.そう考えると,『突然死』と『ポックリ死』はまったく違うものだということに気づかされました.さて,それでは,脳と体が同じように衰えるには,どうしたらよいのでしょうか.一言で言うと「健康で長生きすること」ということになりそうです.健康で長生きする人というのは,まず,マイペース型人間,これには私もまあまあ当てはまるかなと思います.かなりアバウトな性格ですので.つぎに,高齢になるまで仕事を続けられる環境にある人ということになりますが,眼科開業医というのは理想的な環境かもしれません.つぎに,男性.日本人の平均寿命は男性が78.53歳,女性が85.49歳(2005年厚生労働省)といことになり,年齢だけからいうと,女性のほうが『ポックリ死』には有利なようですが,夫婦の場合,先に要介護状態になるのはたいていが男性とのことです.夫が老衰によって病院で終末期を迎える場合,介護を続けてきた妻は過度の医療や延命治療はほとんど望まないとのことで,過度な医療を受けない夫は自然な死,つまり,『ポックリ死』を迎えることができるのだそうです.それに引き替え,夫を看取った女性は,子供たちがなんらかの事情で介護できず病院に任せていた場合,終末期にはやや積極的な延命治療を希望しがちで,自然な死を迎えたいと思っていても,叶わ(83)■6月の推薦図書■ポックリ死ぬためのコツ佐藤琢磨著(アスベクト出版)シリーズ─89◆小玉裕司小玉眼科医院———————————————————————-Page2808あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009ないことが多々あるそうです.この点も私はクリアしそうだと思って読み進めると,なんと,これはあくまでも奥さんに大切にされた場合とのことです.そうでない男性が要介護状態になると,在宅での介護を妻から拒否されて早々に入院となって,過剰医療や延命治療を施され,『ポックリ死』とはほど遠い死に方になりかねないと書いてありました.『ポックリ死』をしたい男性は,日頃から奥さんを大切にしたほうがよいかもしれません,と読み進むうちに,私の『ポックリ死』にはちょっと危険信号が灯ってしまいました.ポックリ死ぬために必要なこととして,脳と体の老化を一致させることが大切で,そのためには,まず,脳のなかでも古脳を活性化しなければならないようです.古脳を活性化する方法としては,①早寝早起きを心掛ける,②三食きちんと食べる,③身だしなみを整える,④趣味を持つ,⑤コミュニケーションを積極的に図るの5つのポイントがあげられています.私自身は①②が駄目で③④⑤はクリアできそうです.体の強化のポイントは下半身の強化だそうです.下半身の運動系と神経系を鍛える方法がいくつか書かれていますので,ぜひ,参考にされればよいと思います.つぎに食生活ですが,ポックリ死した人の共通点として,①好き嫌いがなく,三食しっかり食べる,②節制しない,③タンパク質の摂取量が多い,④旬の野菜や果物を多く食べている,の4つがあげられています.私は好き嫌いはないのですが,三食はきちんと食べないことが多いので,①は半分クリアということになるのでしょう.②③④はクリアしています.さて,40~50代の死因として,真っ先に頭に浮かぶものは,やはり癌だと思います.実際,その年代の死亡原因の第1位は癌が占めているとのことです.早期発見,早期治療で,かなり癌を克服している人が増えてきてはいますが,それでもやはり癌と告知を受けた場合の不安感や恐怖感は,その経験者でなければわからないほど大きなものだと思います.癌の臓器別死亡数をみると,男性では1位が肺癌,2位が胃癌,3位が肝癌,4位が大腸癌,女性では1位が胃癌,2位が大腸癌,3位が肺癌,4位が乳癌となります.私自身,3年ほど前に,人間ドッグにて便潜血反応が出て,大腸癌の疑いのもとに大腸ファイバー検査を受けましたが,幸いなことに大腸ポリープが発見されただけで,内視鏡による摘出手術により完治したようです.しかし,一時的なものでも,癌ではないかという不安は,予想を遙かに超えたものでした.癌は自覚症状が出たときは,すでに手遅れになっていることもありますので,早期発見,早期治療のためにも,定期的な検査を受けておくことが,『ポックリ死』を迎える必要条件かもしれません.この本に書いてある項目別にチェックすると,ある程度の条件はクリアするものの,喫煙,飲酒,不摂生という生活を送っていた私などは,到底『ポックリ死』を迎えることは叶いそうもなく,『突然死』への道を邁進していたことになるのでしょう.先日も同年齢の眼科医5人で話す機会があったのですが,話題は自然と健康のことになり,最後にやはり「ポックリ死にたいよね!」という結論に達しました.ところが『ポックリ死』への道のりはそんなに甘いものではないみたいです.『ポックリ死』を迎えたい眼科医は皆さん!!ぜひ,本書をお読みください.(84)☆☆☆

私が思うこと17.人生のアイテム

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009805私が思うことシリーズ⑰(81)子供たちの間でゲーム機が流行っている.覗いてみると,なんでもアイテムとやらを手に入れながら,それを駆使してステージを駆け上がっていくシステムである.すべてが終わると全クリ(全部クリア)となり,卒業となるらしい.なにげなく横目で見ながら,まるで人生だなあと思った.自分の人生を振り返ってみると,「しまった,若いころにゲットしておけばよかった」というアイテムがいくつもある.まずは「座右の銘というべき書物」.私が1年前からどっぷりはまった書物がある.「山岡荘八著・徳川家康全26巻」.最近,お隣の中国で大人気らしい.時代の流行のキャッチが早いのか,時代の行き先を見据える目があるのかと自負していたら,単に「ミーハーの先端なだけ」と家族から指摘された.読みながら思わずラインマーカーを引いてしまうほど,指針になる言葉が出てくる.“がまん”“じっくり”“引かず押さず”追い風が来るのをじっと待つ.なんとまあ,せっかちな私には,ことごとく欠如していたものだ.しかも,その根底には,「自分のため」ではなく,「世の中のため,後世のため」というゆるぎない信念がある.すべて得たものは天からの授かり物という考え方である.こう考えれば,目的に向かって共に平行して進むことはあっても,人との競争なるものもありえない.人生において仲良しの人が増えるだけで,世の中を渡ることが随分ラクになる.たとえ,子育てや介護で大変なことがあっても,「世のため,天から授かった仕事」と考えれば,多少救われる(実際には,そこまで生易しいものではないが…).仕事の上下関係でむずかしいことがあっても,次世代のため,世の中のためと考えると,立腹することなどは,ぐんと減少する.この本に若いころ出会っていたら,今頃私の人生も変わっていたことだろう.後悔しきり!次は「耳を使うこと」.ジャズなどというおしゃれなものは大阪の田舎育ちの私にはとんと縁がなかった.これに最近,はまった.20年ぶりにピアノに向かった.クラシック,ポピュラー,演歌しか入れたことのない耳には何とも不協和音の連続だ.もちろん慣れればこれが結構心地よい.今までの経験から私の耳では「ド・ミ・ソの次はド」がくるはずである.ところが,これが「ド・ミ・ソ・シ」なのである.しかもテンションとやら,ありえない音が混じってくる.一度弾いていただきたい.さらに3拍子,4拍子で手を打つことしか習わなかった耳には8ビート,16ビートなるものが,どうにも忙しい.関西人の私であっても,どうにもせからしい(熊本弁でせわしないこと).ジャズにはアドリブが付き物であるが,アドリブに入った途端,私が生み出す音楽は音,リズムともに70年代歌謡曲に変わってしまう.0910-1810/09/\100/頁/JCLS佐々木香る(KaoruAraki-Sasaki)出田眼科病院大阪市立大学を卒業後,同大学の先輩のすすめで,「大阪大学眼科」に入局.今世紀最高と思われるほど,仲のよい医局で優秀な指導者に恵まれて,のびのび,ぬくぬく育つ.角膜の臨床,研究を通じて同輩,後輩,大学を越えた学兄にも恵まれ,宝となる.家族の転勤に伴い,2003年より九州人となり,土地柄,感染症への興味がさらに高まるとともに,日本の広さを実感している.(佐々木)Dr.ささき人生のアイテム26巻徳川の旦那———————————————————————-Page2806あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009この音感,リズム感なるものは人生半ばをすぎてからでは,到底身につかない.後悔しきり!さらに「習字」.子供のころに,ご多分にもれず数年間習字教室なるものに通った.手本を見ながら書く分にはいいのだが,手本がなく,しかも忙しい外来でばたばた書くとこれが乱れに乱れてくる.周りを見回すと確かに字は性格をあらわしているように思う.のびのびしたでかい字を書く人は,確かに肝っ玉もでかい.小さく緻密な字を書く人は確かに律儀な性格なようである.単純な私は字を見るだけで,「この人はいい人だ!この人は信じていい」と単純に思う.勤務先も,結婚相手も「字」で選んだ節がある.ともすれば“ちまちま”とした字になりがちな私は,最近努めて「でかーい字」を書くように心がけている.体は小さいが,でかーい人になりたいとの気持ちをこめて.子供のころから身につけていればよかった.後悔しきり!それから「顔」.帰宅後,必死で時間と戦いながらごはんをつくっているとき,よく子供から「母ちゃん,怖い顔して料理するねー.笑った方がいいよ」と言われる.いやいや,怒っているわけではなく,必死なのである.指摘されて鏡をみると確かに必死の形相.これはいかん.よく料理に愛情エキスを注ぐなどというが,これではまるでイカリ(怒り)ソースを注いでいるようなものである.そのわりに気遣いのA型なものだから,外では愛想が良いことで通っている.愛想笑いと必死の形相の繰り返しだと,だんだん顔が貧弱になってくる.生まれつきの資質は仕方がないとしても,内面は顔に出る.一段と大きく構えてポーカーフェイスを身につければよかった.後悔しきり!このように考えると,足らずのアイテムが続々と思い当たる.そのうえ,同年代である京都府立医大の外園千恵先生に「私たちも,もう人生折り返したよね.」と指摘された.「えっ,いつの間に?」しっかり,地面を踏みしめて歩んでいる先生と違って,折り返した自覚がまったくなかった.ときどき素人のマラソンレースでもあるように,気持ちよく風を感じて走っているうちに,コースをはずれて折り返しコーンを無視して,まったく違う方向へ向かって走っているようである.世の中には同じように,アイテム不足を感じる同年代の女医さんが多いようで,一旦臨床の前線から離れているものの「もう一度勉強しなおそうと思う」という声を最近,周りでよく耳にする.ところが,残念ながら大学でも,民間病院でも,個人病院でも,どこもかしこも人手不足.若者の教育すらままならないのに,中年女医に教えてあげるなどというゆとりのあるところはほとんどない.もちろん,学会やテキストなど,学ぶための教材はあるのだが,やはり患者を目の前に診ながら経過を追って勉強する,という昔ながらの手法が一番効果的で実際的だと思う.アイテムを取り忘れた本人が悪いといえばそれまでだが,前のステージに戻って得たいときに得られるシステムがあるといいと思う.後悔しきり!振り返ってばかりではいけないので,せめてこれからできるだけ「前向きに楽しく明るくそして正しく」,広い意味で世の中のためになることを目標にアイテムをゲットしながら過ごしていこうと思う.敬愛する先生のお一人である田野保雄教授が遠くへいってしまわれてから,人生はゲームと違ってリセットが効かないことに気づいた.佐々木香る(ささき・かおる)1986年大阪市立大学卒業,大阪大学眼科入局1988年公立学校共済組合近畿中央病院医長1992年東京工業大学生命理工学部研究生1994年大阪大学大学院博士課程卒業1998年多根記念病院眼科2006年出田眼科病院診療部長(82)☆☆☆怒イカリソース

インターネットの眼科応用5.インターネット手術見学

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098030910-1810/09/\100/頁/JCLSインターネットと手術動画私が医学部を卒業した平成10年当時,手術のライブ映像を医局や病棟のテレビで見ることができました.その通信技術に驚いたものですが,10年経った今日,手術映像はインターネットを使えば世界同時中継すら可能になりました.インターネットの通信容量が格段に上昇したため,テレビ番組や高画質の動画などの大容量の情報をパソコンで見ることができます.まさに情報革命といえます.ただ,革命のスピードと相対する力が,人間の意識であり倫理感です.最先端の技術を開拓する人間には,常にバランス感覚と倫理感を求められますが,遺伝子工学や再生医療といったライフサイエンスの領域だけでなく,インターネットの世界にも求められます.手術という医療行為は,ショーではなく患者の個人情報に深く関わりますので,ネット放送は技術的には可能であっても,安易に行わないよう医療人に倫理感を問いかけます.厚生労働省が平成16年12月24日に公布した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」1)によると,「医療機関等は,患者の傷病の回復等を目的として,(中略)必要に応じて他の医療機関と連携を図ったり当該傷病を専門とする他の医療機関の医師等に指導,助言等を求めたりすることが日常的に行われる.」とあります.医療機関が,診療結果の向上のために個人情報を持ち出すことは「本人の同意が得られていると考えられる場合」として認められていますが,通信手段については記載がありません.また,同ガイドラインには,「学問の自由の保障への配慮から,大学その他の学術研究を目的とする機関等が,学術研究を目的として個人情報を取り扱う場合においては,法による義務等の規定は適応しない」とあります.つまり,純粋な「学術目的」のためなら,個人情報保護法の適用外となるため,文字通りに解釈するとインターネットに手術動画などの医療情報を制限なしに公開して良いことになります.ただし,刑法134条1項に「医師(略)が正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する.」とあります.インターネットという新しいメディアを医療で扱うには,われわれ自身がインターネットの特性を理解し,患者の個人情報への配慮を今まで以上に強くもって利用しないといけません.21世紀のビジネスマンに求められるのは「会計力と英語力とITリテラシー」と言われます.なぜ,ITリテラシーなのかというと,良い書類を作るためではありません.インターネットを使えば,検索したい情報に瞬時に到達することができるからです.多忙な臨床医は,ビジネスの最先端に生きる方たちと同等の情報へのアプローチをしないといけません.時間を有効に使うためにインターネットはきわめて有効な手段です.ある手術を詳しく見たい,習得したい場合どうするか.その手術をしている施設を見学する,主催される技術講習会に参加する.が従来の方法です.当然ながら時間と労力を必要とします.いずれ,インターネットで検索して手術などの医療情報が自由に得られる時代が必ず訪れます.文献検索が容易になったように,手術動画検索はもっと効率化されるでしょう.モニターに映る情報以外に,患者の動線,スタッフの動線,モノの配置,モノの流れも貴重な手術情報です.これらの総合的な手術情報がインターネット上に掲載されれば,手術見学はきわめて効率化されます.インターネットの医療応用は時代の流れです.今後,医療コンテンツがインターネット上に整備されていくでしょう.ただし,先述したように治療行為・手術に関する医療動画は,医療者の倫理を強く求めます.各種学会(79)インターネットの眼科応用第5章インターネット手術見学武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑤———————————————————————-Page2804あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009のサイト内や,MVC-online2)のような医療者限定のサイトで行われるべきです.医療の動画がインターネット上に集まる世界では,提供する側には倫理感が求められ,閲覧する側にはITリテラシーが求められます.MVConlineでできること②(インターネット手術見学)先月号より,実例を交えて紹介しておりますが,MVC-onlineでは参加する医療者がエリアを越えて意見交換しています.学会場や手術室でしか見られなかった手術動画を自宅でも閲覧できます.ディスカッションに参加しなくても,その意見交換を見聞きするだけで自分の引き出しが増えていきます.MVC-onlineで投稿された実際の手術動画を簡単に紹介します.Case1:「白内障手術」大津日赤病院の栗山晶治先生から,白内障手術の動画をご投稿いただきました(図1)3).この症例が,MVC-onlineに投稿された初めての手術動画です.前の徹照やCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)のフラップが確実に見える画質の高さを維持したまま,メンバーであれば世界中のどこからでもインターネット上で閲覧できます.Case2:「春季カタルに対する乳頭切除術」国際医療福祉大学三田病院の藤島浩先生より,春季カタルの難治例に対する手術症例をご提示いただきました(図2)4).この症例では,術中に低濃度のマイトマイシン(80)Cを併用しています.手術の現場をインターネットで表現できる時代になりました.医師限定のSNSサイト,MVC-onlineでは,われわれ医療者の知識・ノウハウをインターネット上で共有しています.この試みは,インターネットの眼科応用の可能性を示しており,WEB2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」.厚生労働省,平成16年12月24日医政発12240012)http://mvc-online.jp3)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=76944)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=8330図2結膜乳頭切除術の手術動画図1白内障手術の手術動画

硝子体手術のワンポイントアドバイス73.内部排液のための意図的裂孔作製時の注意点(初級編)

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098010910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに網膜離に対する硝子体手術では,気圧伸展網膜復位術を施行する際に,中間周辺部に意図的裂孔を作製し,同部位から内部排液を行うことがある.この場合,意図的裂孔の作製部位としては,黄斑部からある程度距離をおき,網膜血管を避けるのが原則である.通常は,先端の鋭利な眼内ジアテルミーで,小さな裂孔を作製し,気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲に眼内光凝固を施行する.図的裂孔の作製部位と視野網膜離が黄斑部に及んでいる症例では,意図的裂孔をできるだけ後極に作製したほうが,網膜下液を吸引しやすいが,術中に眼球を適宜傾けることで,中間周辺部から後極部の排液は十分に可能である.初心者では往々にして視神経乳頭や血管アーケード近傍に意図的裂孔を作製してしまうことがあるが,この場合,視神経乳頭から周囲に伸びる網膜神経線維の走行をよく理解しておく必要がある.同じ大きさの瘢痕病巣でも視神経乳頭に近いほど,障害される神経線維束の数は当然多くなるので,視神経乳頭近傍に意図的裂孔を作製すると,術後に周辺視野狭窄をきたしやすくなる(図1a,b,c).意図的裂孔は内部排液が可能な範囲でできるだけ小さく,しかもその周囲に光凝固を施行する際には,網膜下液を確実に吸引したうえで過剰凝固にならないよう注意する.図的裂孔周囲に生じる再増殖増殖硝子体網膜症や増殖糖尿病網膜症などの眼内増殖疾患の硝子体手術後には,眼内の増殖機転が亢進しているため,往々にして意図的裂孔周囲に再増殖が生じる.また,意図的裂孔周囲の血管を損傷して出血が生じた後にも再増殖が生じやすい.このような再増殖が黄斑部に影響を与えて変視症や視力低下の原因となることがあるので,黄斑部に影響が生じにくい部位(たとえば鼻側)に意図的裂孔を作製する必要がある.(77)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載73内部排液のための意図的裂孔作製時の注意点(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科黄斑部神経線維障害範囲乳頭意図的裂孔水平縫線図1意図的裂孔による視野狭窄例増殖硝子体網膜症に対する硝子体手術後で,周辺部の過剰な冷凍凝固や輪状締結による要素もあるが,上方の血管アーケード周囲の意図的裂孔に対する過剰光凝固が下鼻側視野狭窄の一因になっていると考えられる.a:術後の眼底写真,b:術後Goldmann動的視野検査結果,c:神経線維の走行と視野障害の関係.acb

眼科医のための先端医療102.Small-interfering RNAを眼内に投与してもよいのか?

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097970910-1810/09/\100/頁/JCLSSmall-interferingRNA(siRNA)について今の生のしのをに抑制として干渉望てい干渉についてにしと干渉と細胞内にいてのメ()をにしで)図1に概略を示しますが,二本鎖RNA(double-strandedRNA:dsRNA)は細胞内に入ると,DicerというRNA分解酵素により2123ヌクレオチドの長さのdsRNAに分解されます(①).これがsiRNAで,RNA干渉のなかで重要な役割を果たします.細胞内でsiRNAは幾つかの蛋白質分子と結合してRNA-inducedsilencingcomplex(RISC)を形成した後(②),そのRISCがsiRNAと相補的な配列をもつmRNAを認識し(③),結合し,分解します(④).RNA干渉の利点はRISCが標的遺伝子の分解のためにくり返し再利用されることです(⑤).標的遺伝子に対して特異的配列をもつsiRNAを作製することは可能ですから,従来の中和抗体などの薬物は標的分子の作用を1対1の割合で阻害するところを,siRNAの場合は理論上,たとえば1対10といった割合で発現自体を阻害しますので,従来の薬物よりも効果的と思われます.そのため,さまざまな領域で種々の難治性疾患の標的分子の発現を選択的に阻害する治療手段として臨床応用が期待されています.NakedsiRNAと脈絡膜血管新生抑制眼でも脈絡膜新生血管をのにし血管新生にを血管内()をとしのもの()()◆シリーズ第102回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊武田篤信(九州大学大学院医学研究院眼科学)Small-interferingRNAを眼内に投与してもよいのか?AAAsiRNADicerPO4PO4-OHOH-PO4PO4PO4図1RNA干渉のメカニズム(文献1より改変)———————————————————————-Page2798あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009を硝子体中に投与する治験が行われており,合併症もなく治療効果があると報告されました.ところが,nakedsiRNAを直接生体内に投与しても組織中の細胞内には取り込まれず,RNA干渉が作動しないことが知られています2).ですから,この治験はメカニズムが不明ですが,ドラッグデリバリーシステムを利用せずにRNA干渉が利用できる例外例として報告されてきました3).これに対し,筆者らのグループは実験的脈絡膜血管新生モデルを用いた検討により,nakedsiRNAによる血管新生抑制効果はRNA干渉によるものではなく,脈絡膜血管内皮細胞表面に発現している,dsRNAの配列とは無関係にdsRNAを認識する受容体Toll-likereceptor3(TLR3)を介した免疫反応からの抑制によるものであることを示しました4).ある長さ以上のdsRNAであれば,配列とは無関係に脈絡膜血管新生を抑制する可能性があります.siRNAの細胞内導入と脈絡膜血管新生抑制のによをで膜細胞にしていの膜のとし)で投与によ新生血管抑制でとして膜生かもしん眼内にいてものとを導に干渉によをにを細胞内に導入とを細胞内に導入としてをといをしをてい)でを(図1:siRNAの赤い鎖)の3¢末端に共役結合させたマウスVEGFA特異的siRNAを作製し,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルでこのsiRNAの効果を検討しました.このsiRNAの硝子体中への投与により野生型マウスでもTLR3欠損マウスでもVEGFAの発現がmRNAレベルで抑制され,脈絡膜血管新生が抑制されました4).このsiRNAは細胞内に移行しており,TLR3とは無関係に,RNA干渉により血管新生を抑制できたと考えています.今後の展望のよにを望ていによ眼ののしいにかにてていの眼内にを投与とでしも膜生とんの投与にかもしんをいて干渉といをにを細胞内に導入と今いよにをしをとによ眼にしてよかつと文献1)RanaM:Illuminatingthesilence:understandingthestructureandfunctionofsmallRNAs.NatureRevMolCellBiol8:23-36,20072)CoreyDR:Chemicalmodication:thekeytoclinicalapplicationofRNAinterferenceJClinInvest117:3615-3622,20073)deFougerollesA,VornlocherHP,MaraganoreJetal:Interferingwithdisease:aprogressreportonsiRNA-basedtherapeutics.NatureRevDrugDiscov6:443-453,20074)KleinmanME,YamadaK,TakedaAetal:Sequence-andtarget-independentangiogenesissuppressionbysiRNAviaTLR3.Nature452:591-597,20085)YangZ,StrattonC,FrancisPJetal:Toll-likereceptor3andgeographicatrophyinage-relatedmaculardegenera-tion.NEngJMed359:1456-1463,2008(74)Small-interferingRNAを眼内に投与してもよいのか?」を読んで今武田篤信生のの眼についてのでとてい脈絡膜血管新生ののをしかしていしいのとして血管内()にでもかにでよにしのいでで脈絡膜血管新生のに与していとかにてしにもと今後眼のにいてをしでてのでてのでのでで———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009799(75)ません.臨床的にはVEGF以外にも多くの因子が関与する可能性があること,VEGFの制御についてもVEGFが発現されたあとに叩く抗VEGF薬による治療で本当に十分かという疑問などがでてきます.いろいろな作用機序をもつ治療薬候補が臨床の現場にもたらされることにより治療の対象となる重症度,病期が広がる可能性があります.また,脈絡膜血管新生の動物モデルがヒトの疾患とすべてが同じということは考えにくいので,十分な事前研究のあとに臨床治験を行うことでわれわれの脈絡膜血管新生に分子病態についての理解が深まるという利点もあります.今後,さまざまな角度から研究が進行し,研究の成果が臨床に応用されることにより,治療の進歩と病態の研究があたかも車の両輪のようにあいまって眼科治療の進歩がもたらされると考えます.眼疾患はいろいろな治療薬候補のアクセスがしやすく,その効果の検証もこれまでの眼科学の進歩により十分に高いレベルで行うことができるようになってきております.眼科から有効で安全な新しい治療薬が提示できると考えます.今回の武田先生の解説はまさに眼科学の臨床と基礎の研究レベルがきわめて高く,臨床医学をリードできる可能性を示すものとしてきわめて重要と考えます.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆