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新しい治療と検査シリーズ191.Conductive Keratoplastyによる老視の治療

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910850910-1810/09/\100/頁/JCOPYン組織内を通る際の組織抵抗により熱(約70℃)が発生し,角膜周辺部のコラーゲンを収縮し,角膜中央部が急峻化し遠視矯正効果を発揮する(図1).瞳孔中心にマーキングを行った後,専用のOptiPointCornealTemplate(図2)をマーキング位置に合わせて角膜表面に吸着固定する.ノモグラム(図3)に応じて予定した部位のTemplateの各ホールに沿って垂直に刺入凝固を行う.実際の治療適応は,正視または軽度遠視かつ乱視0.75D以下の患者で,モノビジョンを目標に手術を行う.したがって正視眼では非優位眼のみの手術となる.新しい治療と検査シリーズ(79)バックグラウンド近年,老視に対する外科的アプローチとして,マルチフォーカル眼内レンズ,老視LASIK(laserinsitukeratomileusis),モノビジョンLASIK,conductivekeratoplasty(CK)などの方法が施行されている.なかでも,CKは本来は侵襲の少ない遠視に対する治療方法として開発されたが,モノビジョンと組み合わせることより,老視治療方法としての応用が注目され,2004年に老視治療方法として米国FDA(食品医薬品局)の認可を得た1,2).治療の原理と方法Keratoplasttip(長さ450μm,直径90μm)とよばれるプローブを,角膜周辺部の実質に刺入し,先端から高周波(350kHz)の電流を作用させる.電流がコラーゲ191.ConductiveKeratoplastyによる老視の治療プレゼンテーション:戸田郁子南青山アイクリニックコメント:荒井宏幸南青山アイクリニック横浜BeforeAfter図1CKの原理(下)と術後の前眼部写真(上)図2Refratec社のViewPointsystemTemplateのホールに沿ってプローブを刺入する.8mm7mm6mm+1.0D+2.5D+1.75D+3.5D図3CKのノモグラム4つの矯正パターンがある.———————————————————————-Page21086あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009〔症例〕44歳,女性.術前の遠方視力はVD=1.5(1.5×+0.75D),VS=1.5(1.5×+0.5D).シミュレーションを行ったところ,右眼+1.0D,左眼+2.5D矯正下にて両眼遠方視力=1.5,両眼近方視力=1.0で,シミュレーションの見え方を希望された.図3のノモグラムにより実際の矯正は右眼+1.0D(8mm径8スポット),左眼+2.5D(7mm径8スポット,8mm径8スポット)を施行した.術後4カ月において,右眼遠方視力=1.5(n.c.),左眼遠方視力=0.15(1.5×2.5D(cyl-0.75DAx50),右眼近方視力=0.6(1.0×+1.0D),左眼近方視力=1.0,両眼遠方視力=1.5,両眼近方視力=1.0で,遠近ともに満足されていた.角膜形状解析にて中央部角膜の急峻化が認められた(図4).本方法の利点と欠点CKの利点は瞳孔領から離れた手術であるため,安全性が高く,また,短時間で技術的にも容易である.このため,他の屈折矯正術後のタッチアップなどにも応用できる3).しかしながら,正視眼に行う場合は遠方視力低下,惹起乱視,regressionなどの問題がある.特にregressionによる効果の減弱は遠視矯正LASIKに比較して大きく,再手術率が高いため,メーカー推奨のノモグラムよりやや強めの矯正度数選択がよいと考えられる.また,ノモグラム自体も4パターンのみであり,レーザー屈折矯正術と同等の矯正精度は期待できないので,術前の説明が大切である.1)McDonaldMB,DavidorfJ,MaloneyRKetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyper-opia:1-yearresultsontherst54eyes.Ophthalmology109:637-649;discussion649-650,20022)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.Cornea23:661-668,20043)AlioJL,RamzyMI,GalalAetal:Conductivekerato-plastyforthecorrectionofresidualhyperopiaafterLASIK.JRefractSurg21:698-704,2005(80)右眼左眼術前術後図4CK前後の角膜形状グ術のとるいリクとにするしるよにといにい本方法に方に点いし点のい視のするノモグラム術後視症例に対しる術方法上前ににい方法するとによ角膜実の部るとるよにのるの例ンートしいるのいに視ののる術とすると本術本方法に対するコメント☆☆☆

サプリメントサイエンス:レスベラトロール

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910810910-1810/09/\100/頁/JCOPYレスベラトロールとはレスベラトロール(resveratrol:RSVT)はポリフェノール類のスチルベノイドに属し,短鎖の共役二重結合と両端のベンゼン環がヒドロキシル基で置換された化学構造(図1)を有する白色の天然物質である.ブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.RSVTは1940年にユリ科シュロソウ属のコバイケイソウの根から初めて単離された.植物にはフィトアレキシンという外的ストレスや感染などから生体を防御する物質が存在し,そのうちの一つと考えられていた.RSVTは植物の細菌感染やUV(紫外線)照射により植物中で合成が促進する.植物中ではスチルビンシンターゼという合成酵素によりRSVTが合成されるのだが,その酵素は限られた植物にのみ存在し,その植物中にRSVTが存在する.細菌はRSVTの分解酵素を合成することができるので,長期に細菌感染を生じた植物のRSVT量は低下する.しかし,通常はRSVT合成の速度が分解酵素合成の速度を上回るため,それらの植物は細菌感染を防御することができると考えられている.ただ,フィトアレキシンとして発見当時はあまり注目された物質ではなかった1).古くから脂肪分の過剰摂取が動脈硬化をもたらし,心血管病変をひき起こすといわれてきたが,動物性脂肪をヨーロッパで多く摂取するフランス人にはこれらの病気が少ないことが知られており,この現象は「フレンチ・パラドックス」とよばれてきた.赤ワインにポリフェノールの一種であるレスベラトロールが多く含まれていることがわかり,RSVTを含むポリフェノール類に抗酸化作用があることからその抗酸化作用がワインを多く摂取するフランス人に恩恵をもたらしているのではないかと考えられている2).ポリフェノールは芳香族炭化水素に結合した水酸基を多数分子内にもつ化合物の総称である.その水酸基は酸化還元電位が低く,自身が酸化されることで抗酸化作用を示す.その後RSVTにはシクロオキシゲナーゼを抑制する抗炎症作用が見いだされ,ほかにも血管拡張作用,抗血管新生作用,神経保護作用,抗癌作用,抗加齢作用など多くの生理活性について報告されている3).抗加齢作用2000年にcaloricrestriction(CR;カロリー摂取制限)によりsilencinginformationregulator2(Sir2)という酵素が活性化し,酵母の寿命が延長する抗加齢作用が報告された4).その後Sir2の哺乳類ホモログであるヒトSIRT1によるp53ペプチドのinvitroでの脱アセチル化を定量することにより低分子物質ライブラリーをスクリーニングし,RSVTをはじめとする植物性ポリフェノール化合物がSIRT1活性を亢進し,酵母の寿命を延長させることがわかった.そのなかでも特にRSVTは13.4倍という最も高いSIRT1活性化作用があることがわかった5).RSVT投与による抗加齢作用は酵母,線虫,ショウジョウバエ,魚類で確認されている3).眼科への応用筆者らのグループはぶどう膜炎の動物モデルとして知(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑫(最終回)監修=坪田一男12.レスベラトロール久保田俊介*1石田晋*2*1慶應義塾大学医学部眼科網膜細胞生物学研究室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野レスベラトロールはポリフェノールの一種でブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.筆者らはレスベラトロールをぶどう膜炎モデル動物に投与し,レスベラトロールの抗炎症効果を示し報告した.レスベラトロールは安全性は高いと考えられ,将来の抗炎症治療の一つとして有望な候補と考えられる.HOOHOH図1レスベラトロールの構造式———————————————————————-Page21082あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009られる,エンドドキシン誘発ぶどう膜炎モデル(EIU)におけるRSVTの治療効果を検討した.C57BL/6JマウスにRSVTを5日間内服投与し,その後リポ多糖類(LPS)を投与後24時間で網膜血管への白血球接着数と網膜・脈絡膜における白血球接着因子(ICAM-1,MCP-1)を測定した.LPS投与3時間後の網膜の酸化ストレス(8-OHdG)と脈絡膜の核内のNF-kBを測定した.その結果,LPS投与24時間後の白血球接着数はRSVT(76)の濃度依存性に抑制されることがわかった(図2).そのメカニズムとして白血球接着因子であるICAM-1,MCP-1はRSVT投与により有意に減少することがわかった(図3).LPS投与3時間後における8-OHdGとNF-kBもRSVT投与により有意に減少することがわかった(図4).抗加齢作用として重要なSIRT1生体内活性が脈絡膜において上昇することを明らかにした(図5).今回の報告により,RSVTは眼における酸化ストレスと炎症を抑制する作用を有することが示唆された(図6)6).後極部網膜中間部網膜周辺部網膜ControlVehicleEIUResveratrol(50mg/kgBW)図2網膜血管への白血球接着数*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.矢印は網膜血管内に接着している白血球を示す.〔図2~6は文献6から許可を得て引用〕JControlVehicleResveratrol(mg/kgBW)550100200白血球接着数(cells/retina)EIU***NS**300250200150100500ControlVehicleResveratrol網膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)網膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)EIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU*************2520151050605040302010060504030201005004003002001000ABCD図3ICAM1,MCP1の発現量*p<0.05,**p<0.01.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091083(77)1日の摂取レベルと摂取すべきエビデンスレベルRSVTはサプリメントとして多く販売されているが,その最適な摂取量はいまだ不明であるのが現状である.RSVTが多く含まれることで有名な赤ワインには一杯につき約3mgのRSVTが含まれる.ピーナッツには100g当たり約0.1mgのRSVTが含まれる3).RSVTは現在いくつかの臨床応用のための治験が米国にて行われている7).臨床応用としての対象疾患は2型糖尿病,癌,そしてMELAS症候群である.なかでもMELAS症候群に対しては2008年にFDA(米国食品医薬品局)よりorphandrug(希少疾病用医薬品)としての承認が下りており,臨床応用の先駆けとして注目されている.2型糖尿病の患者を対象にした臨床試験では,28日間RSVTを5g経口投与したところ有意に血糖値の効果を得たとのことである.同様の摂取量でほかの治験も行われているため,疾病の治療目的におけるRSVT摂取は用量を考えると食事からの摂取は不可能であり,サプリメントとしての摂取となる.安全性については多くの報告が寄せられているが,明らかな副作用の報告はなく安全性は高いと考えられる.RSVTの眼科的な作用というものはあまり報告が多くなく,まだ不明な点が多い.特に動物実験で使用された報告は数少ない.そのなかでは,RSVTを40mg/kg体重でラットに4日間投与することにより,酸化ストレスが減少し白内障の発生が抑制されたと2006年に報告されている8).筆者らは2009年に,RSVTを50mg/kg体重でマウスに5日間投与することにより,生体内SIRT1を活性化し酸化ストレスと炎症が減少しぶどう膜炎を抑制したと報告した.この量はヒトに換算すると1日2.5~3gとなり,米国で施行されている治験の投与量に近似していて眼科的にも応用できる量といえる.眼科的疾患の多くは酸化ストレスや炎症が関与するものが多い.人間社会も長寿社会となり,それ伴う多くの眼科的加齢性疾患も増加している.この加齢や酸化ストレス,炎症に対する効果をもつRSVTは,疾患の予防的見地から考えても非常に重要と考えられる.現在RSVTの臨床試験は進行中であり,摂取すべきエビデンスレベルはまだどちらともいえないと考えられる.*****網膜8-OHdG発現量(ng/mgtotalDNA)ControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU302520151050NF-kBp65核内移行量(ng/mgtotalprotein)109876543210AB図48OHdGの発現量(A)とNFkBの核内移行量(B)*p<0.05,**p<0.01.NS***脈絡膜SIRT1体内活性(ofcontrol)ControlVehicleResveratrolEIU11511010510095908580図5SIRT1の成体内活性*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.図6RSVTの作用機序———————————————————————-Page41084あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(78)文献1)CucciollaV,BorrielloA,OlivaAetal:Resveratrol:frombasicsciencetotheclinic.CellCycle6:2495-2510,20072)DoreS:Uniquepropertiesofpolyphenolstilbenesinthebrain:morethandirectantioxidantactions;gene/proteinregulatoryactivity.Neurosignals14:61-70,20053)BaurJA,SinclairDA:Therapeuticpotentialofresvera-trol:theinvivoevidence.NatRevDrugDiscov5:493-506,20064)GuarenteL,KenyonC:Geneticpathwaysthatregulateageinginmodelorganisms.Nature408:255-262,20005)HowitzKT,BittermanKJ,CohenHYetal:Smallmole-culeactivatorsofsirtuinsextendSaccharomycescerevisi-aelifespan.Nature425:191-196,20036)KubotaS,KuriharaT,MochimaruHetal:Preventionofocularinammationinendotoxin-induceduveitiswithres-veratrolbyinhibitingoxidativedamageandnuclearfac-tor-kappaBactivation.InvestOphthalmolVisSci50:3512-3519,20097)BoocockDJ,FaustGE,PatelKRetal:PhaseIdoseesca-lationpharmacokineticstudyinhealthyvolunteersofres-veratrol,apotentialcancerchemopreventiveagent.Can-cerEpidemiolBiomarkersPrev16:1246-1252,20078)DoganayS,BorazanM,IrazMetal:Theeectofres-veratrolinexperimentalcataractmodelformedbysodiumselenite.CurrEyeRes31:147-153,2006☆☆☆

眼感染アレルギー:Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910790910-1810/09/\100/頁/JCOPY1906年にFuchs1)によって報告されたFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は,慢性虹彩毛様体炎,患眼の虹彩萎縮(異色),併発白内障を特徴とする疾患である.びまん性の小さな白色角膜後面沈着物や瞳孔縁の小結節,硝子体混濁などの所見に加え,白内障手術時や前房穿刺に際して前房出血をきたすことが知られている(Amslar徴候).続発緑内障に至る例も多い.青壮年期に片眼の後下水晶体混濁をきたす慢性の虹彩毛様体炎では,本症を疑って虹彩の左右差を確認することが大切である.病因についてはこれまでにもさまざまな推察がされてきたが,近年になって風疹ウイルスとの関係が注目されるようになっている.れまでに推察されてきた病因1.変性疾患説本症はステロイド薬に反応せず,虹彩萎縮に至ることから,その本態を変性疾患とする考えがある.新生児期の交感神経障害に虹彩萎縮が生じることや,本症とHorner症候群との合併例が報告されたことも,変性疾患としての可能性が疑われた根拠となっている.2.血管異常説本症の虹彩組織にはリンパ球や形質細胞の浸潤に加え,血管内皮細胞や周皮細胞の変性がみられることから,何らかの虹彩血管の異常が病態に関与している可能性が指摘されている.3.免疫異常説本症の発症に関して,免疫複合体や抑制性T細胞の異常について言及した報告のほか,角膜抗原や水晶体蛋白に対する自己免疫としての発症メカニズムを考察した(73)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑳監修=木下茂大橋裕一20.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因後藤浩東京医科大学眼科Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の原因として風疹ウイルスの関与が注目されている.眼内液(前房水)中の風疹ウイルスに対する特異抗体の上昇に加え,PCR法によるウイルスゲノムの検出,さらには分離培養の成功など,外堀が埋まりつつある.発症メカニズムの解析など,今後の研究の展開が期待される.図1Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の患眼(A)と健眼(B)患眼は虹彩が全体に粗で,萎縮傾向にあり,健眼と比較してやや明るく見える.患眼には併発白内障もみられる.白内障は急速に進行し,短期間で全白内障の状態となることがある.AB———————————————————————-Page21080あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009研究がある.また,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と特発性前部ぶどう膜炎患者の前房水を比較すると,前者ではCD8陽性T細胞の浸潤が多いほか,インターフェロン(IFN)-gやインターロイキン(IL)-10が多く,IL-12が少なかったという2).硝子体中よりT細胞を分離,培養し,そのサイトカイン産生能を調べたところ,IL-10の産生が多かったとする報告もある3).遺伝的素因については,T細胞上に発現する抑制性の補助刺激分子であるCTLA4の遺伝子多形性が本症の疾患感受性に関与するという報告がみられる4).染症1.これまでの報告従来からさまざまな病原微生物が本症の原因として候補にあがっている.本症では眼底に網脈絡膜瘢痕巣がみられることがあり,トキソプラズマとの関係が注目されたこともあるが,眼底には異常のない症例も多いうえ,血清中のトキソプラズマ抗体価が上昇していないこともあるため,懐疑的である.前房水中から単純ヘルペスウイルスDNAが検出された報告や,血清トキソカラ抗体価の上昇がみられたとの報告もあるが,追試は少ない.2.最近になって注目されるようになった風疹ウイルス前房水と血清中の風疹ウイルス抗体価を測定して抗体率を求めると,本症では風疹ウイルスの抗体率が上昇していること,18%の症例からRT-PCR(real-timepoly-merasechainreaction)法で前房水中に風疹ウイルスゲノムが検出されたとの報告がある5).また,予防接種の既往のある米国人と既往のない移民では,後者のほうが本症の発症率が高いことが示されている6).筆者らもFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の診断のもと,併発白内障もしくは続発緑内障に対して手術を行った8例を対象に,眼内液を用いて同様の検討を行ったところ,8例全例で前房水中の風疹ウイルス抗体価が上昇していることが確認され,抗体率はいずれも6以上の高値を示した.なかでも硝子体を検索した1例では抗体率が30.6ときわめて高値を示した.対照として行ったその他のぶどう膜炎では,風疹ウイルスの抗体率の上昇は(74)みられなかった.さらに3例についてはRT-PCR法により前房水中から風疹ウイルスのゲノムが検出され,RK-13細胞を用いたウイルス分離を試みたところ,2例でウイルスが検出され,1例でウイルス分離にも成功した(未発表データ).これまで硝子体液での検討やウイルス分離に関する報告はなく,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の発症や病態形成における風疹ウイルスの関与をさらに支持するデータと考えている.後の展昨今の研究結果から,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病態に風疹ウイルスが関与している可能性は高いと考えられる.おそらく,ある種の背景因子をもった個体では風疹ウイルスが抗原となり,免疫反応が生じて眼内に炎症が発症するプロセスが推察される.しかし,ウイルスの感染経路や部位,感染の時期などについては何も解明されておらず,今後の課題である.また,本症の前房水からサイトメガロウイルス(CMV)のDNAが検出されることも報告されていることから,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は複数の病原微生物によって発症する可能性もある.文献1)FuchsE:UberKomplikationenderHeterochromie.ZAugenheilk15:191-212,19062)MuhayaM,CalderV,TowlerHMetal:CharacterizationofTcellsandcytokinesintheaqueoushumour(AH)inpatientswithFuchs’heterochromiccyclitis(FHC)andidiopathicanterioruveitis(IAU).ClinExpImmunol111:123-128,19983)MuhayaM,CalderVL,TowlerHMetal:Characteriza-tionofphenotypeandcytokineprolesofTcelllinesderivedfromvitreoushumourinocularinammationinman.ClinExpImmunol116:410-414,19994)GoverdhanSV,LoteryAJ,HowellWM:HLAandeyedisease:asynopsis.IntJImmunogenet32:333-342,20055)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20046)BirnbaumAD,TesslerHH,SchultzKL:EpidemiologicrelationshipbetweenFuchsheterochromiciridocyclitisandtheUnitedStatesrubellavaccinationprogram.AmJOphthalmol144:424-428,2007☆☆☆

緑内障:緑内障患者のロービジョンケア

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910770910-1810/09/\100/頁/JCOPYロービジョンケアは,残存視機能を最大限に使うことにより,生活の質(qualityoflife:QOL)を向上させることを目的とする.適応となる視力・視野障害の程度の基準はなく,見づらさを訴えている患者が対象になる.内障患者のロービジョンケア導入のポイント慢性緑内障では,患者自身が見づらさに慣れてしまうことにより,日常生活にあまり不自由を感じていないことがある.また,治療経過が長いため,患者が見づらさを感じていても,それを担当医に訴えることが少ないこともあり,ロービジョンケア導入のタイミングがつかみにくい.しかし,見づらさの訴えがない,もしくは訴えが少ない場合でも,補助具を使用することにより,QOLが向上することがあり,医師側が,ロービジョンケアが必要であると感じた場合,声かけが必要である.声かけにあたっては,「不自由なことはないですか」という漠然とした質問よりも,「文字が読みづらいことはないですか」「人ごみの中で,ぶつかりませんか」など,具体的な質問のほうが,患者も答えやすい.もちろん,治療中の患者に対して,ロービジョンケアを勧めると,言い方によっては「見放された」と勘違いされることもあり,治療と並行して行う旨,慎重に話をしなくてはいけない.内障患者のロービジョンケアの方緑内障患者のロービジョンケアを行う場合は,まずは,視野障害のパターンを把握し,患者がどのようなことに不自由を感じているかを聞き出す.このとき,生活不自由度の定量にふさわしいとされている問診票13)を使用してもよい.つぎに,患者のニーズにあわせて,ルーペや単眼鏡,遮光眼鏡,拡大読書器といった光学的補助具や,調理道具・文具・白杖など日常生活用具を紹介する.1.使用頻度の高い光学的補助具は?柳沢らは,ロービジョン外来で使用頻度の高い光学的補助具について,疾患別に調査した4).それによると,緑内障(87名),黄斑変性(37名),糖尿病網膜症(41名)と,どの疾患に対しても,一番使用頻度の高いものは拡大読書器であった.緑内障患者では,拡大読書器(85%),ドーム型ルーペ(40%),単眼鏡(29%),ライト付き手持ちルーペ(29%)の順であった.2.どのような日常生活用具を紹介するとよいか?緑内障患者の場合,視野狭窄により,「人ごみの中でぶつかりやすい」という訴えを聞くことがある.緑内障患者は,外見上は,健常人と見分けがつかないため,自分の身を守るため,白杖の使用を勧めている.近所の方(71)●連載110緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也110.緑内障患者のロービジョンケア国松志保自治医科大学眼科徐々に進行する緑内障という疾患の場合,患者が見づらいと訴えることが少なく,ロービジョンケア導入のタイミングがつかみにくい.しかし,ロービジョンケアを導入することにより,文字が見やすくなったり,将来の失明に対する不安が薄れたりと,有用であることも少なくない.ab図1日常生活用具の例a:折りたたみ式の白杖.b:タイポスコープ.———————————————————————-Page21078あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009には目が悪いことを知られたくない,という患者には,折りたたみ式の白杖を案内し,ふだんはかばんの中に収納し,駅などの人ごみの中で伸ばして使用することを勧めている(図1a).視野狭窄により文字や文章を目で追うことがむずかしくなり,「文章の読み書きの不自由」を訴えることがしばしばある.このような場合,タイポスコープを用いることにより,文字の読み書きがしやすくなり,周囲の余白による羞明も防げるため,有用である(図1b).3.若年の末期緑内障患者への対応?すでに末期の緑内障性視野障害のある患者では,緑内障が進行性の病気であると知ると,失明するのではないか,という将来に対する不安を抱くことが多い.この場合,「万が一視野障害が進行して,日常生活に不自由をきたした場合でも,さまざまな補助をする道具がある」と,光学的補助具や日常生活用具を紹介することにより,患者は,漠然とした不安から解放され,前向きに治療に取り組めることがある.内障患者のロービジョンケアの意外な盲点最後に,緑内障患者のロービジョンケアを行うにあたり,意外な盲点になりうる事項について述べる.1.近用眼鏡を処方して,解決?!視野の狭窄した緑内障患者では,「矯正しても見えるようにならないから」と,近用眼鏡が処方されていないことがある.また,遠近両用眼鏡を処方されている場合で,視野障害が下方に強い例や,中心視野がわずかに残る例では,遠近両用眼鏡の近用部分からのぞいてみることができず,「眼鏡をかけても見えない」とあきらめてしまっていることがある.このような患者で,近方矯正をしたうえで拡大鏡を使うことにより,スムーズに本や新聞を読むことができる症例を経験する(図2).文字や文章の読みづらさを訴える患者には,近用眼鏡の使用状況を確認する必要がある.2.手術適応を見逃さずに!治療経過の長い患者では,白内障が進行しているケースがある.視野障害が高度な場合は,患者の訴える見づらさが,どの程度,白内障によるものなのかを判断するのはむずかしいが,白内障によりQOLが改善すると考えられる場合は,白内障手術を勧める(図3).日頃から,定期的な視神経乳頭・視野検査のチェックに加えて,視力を測定し,白内障進行の有無を細隙灯顕微鏡検査で確認するべきである.(72)文献1)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20012)MangioneCM,BerryS,SpritzerKetal:Identifyingthecontentareaforthe51-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire:resultsfromfocusgroupswithvisuallyimpairedpersons.ArchOphthalmol116:1496-1504,19983)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualeldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20034)柳澤美衣子,国松志保,加藤聡ほか:眼科ロービジョン外来における使用頻度の高い光学的補助具.臨眼61:363-366,2007図2正常眼圧緑内障患者(62歳,男性)のHumphrey視野中心302プログラム「眼鏡をかけても見えないから」と眼鏡を持っていなかった.近方矯正をして拡大鏡を使用したところ,文字を読むことができた.VS=(0.1)VD=(0.6)VS=(0.1)VD=(0.1)図3原発開放隅角緑内障患者(61歳,男性)1987年初診時視力は右眼(1.2),左眼(1.2).2003年ロービジョン外来受診時には右眼(0.01),左眼(0.01)であった.拡大読書器を利用して,文字が読めると喜んだが,両眼とも強い白内障を認めたため,手術を勧めた.2004年両眼水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行,視力は右眼(0.1),左眼(0.1)へと回復.Humphrey視野中心10-2プログラムでは,依然として高度の視野狭窄を認めるが,「明るくなった,人から顔がよく動くようになったと言われた」と喜ばれた.その後,ロービジョン外来にて,遮光眼鏡,拡大読書器を購入した.

屈折矯正手術:瞳孔径の多焦点眼内レンズへの影響

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910750910-1810/09/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(multifocalintraocularlens:以下,多焦点IOL)の術後視機能に瞳孔径が関与することが知られているが,個々のIOLデザインにより,その影響は異なる.今回は,多焦点機構により屈折型多焦点IOL(refractivemultifocalintraocularlens:以下,屈折型IOL)と回折型多焦点IOL(diractivemultifocalintraocularlens:以下,回折型IOL)に分け,多焦点IOL挿入時に必要な基礎知識を紹介させていただく.光学的瞳孔評価の基礎知識瞳孔は眼光学的に絞り(stop)の役割を果たしている.われわれが日常で観察できる角膜面上の瞳孔(入射瞳)は,実際の瞳孔径(実瞳孔径)より角膜・前房水の屈折のため約13%拡大されている1).瞳孔測定器のなかには補正した値を表示しているものもあり,多焦点IOL使用に際する評価時には念頭におく必要がある.以下記載は実瞳孔径の値である.折型IOL遠用と近用の屈折ゾーンが同心円状に配置されており,各IOLでゾーンの数・幅・遠近の配置が異なる.構造上どの種類でも十分な近用ゾーンの露出がないと近見視力は得られない.たとえばReZoomTM(AMO社)では,近用ゾーンの直径は2.13.45mmであり,中央遠用部の第1ゾーンの2.1mmに実瞳孔径が満たない場合,単焦点IOLと同等の役割しか果たさない(図1).加齢により縮瞳することは知られているが,Nakamuraらは60歳以上では近見時の平均瞳孔径が2.0mm程度になると報告しており2),高齢者では特に瞳孔径の確認が必要である.一方で,屈折型IOLで問題となるグレア・ハローは,瞳孔径が大きいほどその影響は大きく,夜間の見え方に注意が必要になる.折型IOL入射光をレンズ表面に作った多数の溝で回折させる原(69)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載111監修=木下茂大橋裕一坪田一男111.瞳孔径の多焦点眼内レンズへの影響稗田朋子稗田牧京都府立医科大学病院眼科多焦点眼内レンズ(IOL)挿入の際,レンズデザインの把握と術後瞳孔状態の予測が成功に関与する.屈折型多焦点IOLは,近見時に十分な近用ゾーンの露出を得られる瞳孔径が必須であり,回折型多焦点IOLは小瞳孔でも良好な近方視力が得られる.瞳孔を考慮した適応決定,経過観察が望まれる.0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.52.53.54.5瞳孔径(mm):遠距離(distance):近距離(near)相対エネルギー図2回折型IOL(TecnisTMMultifocal)の理論的光エネルギーバランス瞳孔径にかかわらず,遠方と近方の両方に光エネルギーが均等に配分される.0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.52.53.54.5瞳孔径(mm):遠距離(distance):近距離(near)相対エネルギーZone5Zone4Zone3Zone2Zone1543214.60mm~4.60mm4.30mm3.45mm2.10mm図1屈折型IOL(ReZoomTM)の外観写真とデザインと理論的光エネルギーバランス5ゾーンの設計,中心部より遠用ゾーン・近用ゾーンと交互に配置されており,遠近各屈折ゾーンの露出面積が直接光エネルギーバランスに反映される.———————————————————————-Page21076あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009理のIOLで,遠近の比率と加入度数は回折部のデザインで調節が可能である.回折型IOLの利点は,近方視力が瞳孔径に依存しにくいことである.一方で,入射光を遠近へ配分するため,コントラスト低下が生じる.特に夜間で瞳孔径が大きい場合は収差の増加も加わり,また,極端に小さい場合3)でも光量減少によりコントラスト低下の増悪に注意が必要である.1)TecnisTMMultifocal(AMO社)は,レンズ全面に同じ高さのステップと同じ曲率の回折領域を有し,光エネルギーは瞳孔径にかかわらず遠近両方に均等に配分される(図2).よって瞳孔径に依存しにくく,良好な遠近の視力が得られる.また,非球面構造のため,瞳孔径が大きくなる場合のコントラスト低下が従来の回折型IOLと比較し軽減される.2)ReSTORTM(Alcon社)は,光学径6.0mmに対し回折ゾーンの径は中心3.6mmであり,その周辺は単焦点の遠用ゾーンである.回折ステップは周辺に向かうに従い低くなり(apodization),瞳孔が小さいときは遠近の光エネルギーはほぼ等しく,瞳孔径の大きい夜間などは遠方焦点が優先されコントラスト感度の低減を抑える設計である(図3).瞳孔径が3.6mmより大きな場合では遠方優位となるため,十分な近方視力を得られない可能性があり注意を要する.多焦点IOL検討時の瞳孔径評価の注意点・問題点1.測定方法瞳孔は自律神経支配であり,近見刺激や精神状態などさまざまな因子により変化を生じるため評価がむずかしく,多焦点IOL挿入時も統一された評価方法がないのが現状である.術前測定が必須なのは,屈折型IOLを考慮する場合で,明所(400500lux)・両眼開放・近方視での瞳孔径が必要になる.FP-10000R(TMI社)など,自然瞳孔に近い状態で測定可能な赤外線瞳孔径での評価が望ましいが,装置がない場合には「入射瞳は実瞳孔径より約13%拡大・両眼開放下では単眼視下より縮瞳4)・測定機器による差」などを考慮し,手持ちの瞳孔径測定値を各自修正することで代用が可能と考えられる.加えて,各々の生活照度にあった測定を行い,起こりえる視機能を予測し,IOLを選択・説明することも重要である.2.術後の瞳孔変化白内障術後の瞳孔径は,術前と同等もしくはやや縮小するといわれており,術前測定値時の参考になると考えられる.しかし,術前後で屈折力・調節力が大幅に変化する症例などには予測時に注意が必要である.また,手術当初は瞳孔径が十分に確保されていても加齢に伴い必要な瞳孔径に満たなくなる可能性も指摘されているが,加齢による縮瞳原因のなかには調節力低下の代償との説もあり,今後多焦点IOL挿入眼での短期・長期的な瞳孔径の変化と視機能の経過観察を術前適応評価にフィードバックしていく必要がある.文献1)西信元嗣:眼光学の基礎,第Ⅳ章眼球光学.p134-136,金原出版,19902)NakamuraK,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:PupilsizesindierentJapaneseagegroupsandtheimplicationsforintraocularlenschoice.JCataractRefractSurg35:134-138,20093)中村邦彦:多焦点眼内レンズ─回折型.眼科手術21:297-302,20084)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,2005(70)瞳孔径(mm):遠方:近方瞳孔径明るさ小明大対エネルギー(%)100806040200123456図3Apodize型回折型IOL(ReSTORTM)の理論的光エネルギーバランス瞳孔径が小さいうちは遠近等配分であるが,大きくなるにつれ遠距離への光配分が大きくなる.(DavisonJA,SimpsonMJ:Historyanddevelopmentoftheapodizidderactiveintraocularlens.JCataractRefractSurg32:849-858,2006より引用)

眼内レンズ:小角膜症例の水晶体摘出術

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910730910-1810/09/\100/頁/JCOPY(67)宮城秀考木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎276.小角膜症例の水晶体摘出術小角膜症例で水晶体内摘出あるいは外摘出を行う場合,角膜径に比べ水晶体容積が大きくいずれの術式も容易ではない.従来の強角膜輪部切開に加えて放射状に強膜切開を追加することで,比較的簡便に創口を拡大する方法を紹介する.図2クライオプローブによるICCE角膜径に比べ巨大な球状の水晶体が娩出された.図4豚眼による実践②中央に放射状の強膜切開を1本加えると,創口の横径が拡大した.図1強膜放射状切開輪部切開の中央に放射状に減張切開を加える.この症例の角膜横径は8mmであり,ぶどう膜欠損を伴っていた.小瞳孔・Zinn小帯脆弱であったため,計画的ICCEを選択した.図3豚眼による実践①型通りに180°の輪部切開を作製し,創口の両端を一定の力(15g程度)で横方向に引く.———————————————————————-Page2小角膜は角膜の直径が10mm未満のものと定義され,胎生4~16週に胎生裂の閉鎖から角強膜境界の形成に至る期間の異常により生じ1),先天白内障や緑内障,ぶどう膜欠損を合併することも多い.小角膜症例の白内障手術として小切開超音波乳化吸引術の報告もある2,3)が,必ずしも容易ではなく,水晶体内摘出(ICCE)もしくは外摘出(ECCE)を選択せざるをえない場合もある.しかし,小角膜症例では眼球の発生段階において前眼部と後眼部の成長過程が異なるため,小角膜でありながら水晶体の大きさは正常であると報告4)されており,ICCEやECCEを行うにしても,角膜径と比べ相対的に水晶体の体積が大きく,180°に及ぶ従来の強角膜切開だけでは水晶体の摘出に難渋する.そこで,従来の強角膜輪部切開に加えて放射状に強膜切開を追加することで創口を拡大し,水晶体を摘出する方法を紹介する.まず,従来どおりの方法で180°の強角膜創を作製する.つぎに,小角膜症例では散瞳不良例が多いため,12時の虹彩に減張切開を加えておく.ここまでで水晶体の娩出が困難であると判断した場合,輪部切開の中央に放射状の減張切開を加えることで,創口径を拡大することができる(図1,2,5).さらに,この方法であれば,1本の放射状切開では水晶体の娩出が困難な場合に,切開の数を増やすことにより,さらなる創口の拡大を図ることも可能である(図3,4).文献1)LaibsonPR,WaringGO:Diseaseofcornea.PediatricOphthalmology,3rded,p191,WBSaunders,Philadelphia,19912)渡辺交世,中野淳雄,並木泉ほか:ぶどう膜欠損における白内障手術.眼科手術21:519-523,20083)BrannanSO,KyleG:Bilateralmicrocorneaandunilateralmicrophthalmiaresultinginincorrectintraocularlensselection.JCataractRefractSurg25:1016-1018,19994)AuarthGU,BlumM,FallerUetal:Relativeanteriormicrophthalmosmorphometricanalysisanditsimplicationforcataractsurgery.Ophthalmology107:1555-1560,2000図5強膜放射状切開輪部切開に放射状の強膜切開を加えることで,理論的には切開の2倍の長さの創口が延長される.

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法(フォーカスデイリーズ※プログレッシブ)

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910710910-1810/09/\100/頁/JCOPYフォーカスデイリーズRプログレッシブ(チバビジョン株式会社)は,このような人に最適!パターン①:会議に出席することが多く,手元の資料と,遠方のスライドや白板の文字が同時に見えなくては困る.パターン②:結婚式,パーティーに出席することが多く,遠くの人の顔と,結婚式の座席表やメニューが同時に見えないと困る.的な年齢53歳の女性.職業:医師.今までは2種類の度数の1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)を遠用と近用で使い分けていたが,学会へ参加するときには,抄録とスライドが同時に見えないので不便であった.何とか1種類のコンタクトレンズ(CL)で遠くも近くも見えるようにしたい.使用していたSCL:遠用右)9.0/4.0/14.2ワンデーアキュビューRモイスト左)9.0/3.75/14.2ワンデーアキュビューRモイスト中間距離・近用右)9.0/3.25/14.2ワンデーアキュビューRモイスト左)9.0/3.00/14.2ワンデーアキュビューRモイスト自覚的屈折検査:VR=0.06(1.2×4.5D)VL=0.07(1.2×4.25D)当院での対応:1日使い捨てSCL装用者で,自覚的屈折検査で乱視がなく,今回のCLの使用目的がocca-sionaluseであったため,表1,2,図1の規格のフォーカスデイリーズRプログレッシブを処方した.定期検査時,遠見CL矯正視力,近見CL矯正視力ともに,片眼ずつでは,多少の不満を感じるが,両眼視では遠見,近(65)見ともに問題なく使用できるということであった.当院で処方したCL:右)8.6/3.25/13.8フォーカスデイリーズRプログレッシブ左)8.6/3.00/13.8フォーカスデイリーズRプログレッシブ糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法302.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀフォーカスデイリーズRプログレッシブ表1フォーカスデイリーズRプログレッシブの素材物性構成ポリマーPVA(改良ポリビニルアルコール)着色剤フタロシアニン系着色剤SCL分類グループII(非イオン性・高含水)酸素透過係数(Dk値)26×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)酸素透過率(Dk/t)23.6×109(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)含水率69%表2フォーカスデイリーズRプログレッシブのレンズ設計外面非球面設計(3段カーブデザイン)内面球面設計(3段カーブデザイン)光学部径光学部径7.8mm/近用光学径1.85mm製造方法モールド製法(ライトストリームテクノロジー)染色アクアブルー中心厚0.11mm(3.00D)レンズ径13.8mmベースカーブ8.6mm度数遠用度数:+5.00D~6.00D(0.25D間隔)加入度数:最大+3.00D(累進屈折力)図1フォーカスデイリーズRプログレッシブのレンズデザイン近用光学部およ行部7.8mm光学部径7.8mm光学部径近用光学部径1.85mm近用光学部径1.85mm13.8mmレンズ径13.8mmレンズ径遠用光学部Diotes5.04.54.03.53.02.52.01.51.00.50.0———————————————————————-Page21072あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)フォーカスデイリーズRプログレッシブの患者選択遠近両用CLの処方を成功させるコツは,それぞれのCLのデザインを熟知して,適正な患者を厳密な基準で選択することである.フォーカスデイリーズRプログレッシブは表3の製品特徴をもち,このレンズを処方する際は表4の適応しやすい患者の要件を満たす人を選択するようにしている.特に表4①~⑤の要件を満たすことが,患者選択における必要条件である.また⑥の要件に当てはまる人には積極的に通常の1日使い捨てSCLとフォーカスデイリーズRプログレッシブの使い分けを提唱している.一方,患者が希望しても,表5の適応しにくい患者の要件を一つでも満たす人には,フォーカスデイリーズRプログレッシブを含め,遠近両用SCLの処方は行っていないフォーカスデイリーズRプログレッシブの処方方法1.自覚的屈折検査値をもとに,等価球面度数を求める.その際に,±4.0D以上は角膜頂点距離補正を行う.2.年齢を目安に加入度数を求める.ただし,調節力は個人差が大きいため患者が求める近用の明視距離にあわせ加入度数を決定する.3.イニシャルトライアルレンズとして,遠用の等価球面度数に加入度の1/2を加えた度数のものを選択する.この際に,メーカーが提供しているレンズ度数選定早見表を用いると簡便にイニシャルトライアルレンズの度数を選択できる.4.左右のバランスを合わせ,その後,両眼視(両眼開放)の状態で追加矯正を行い,処方度数を決定する.表3フォーカスデイリーズRプログレッシブの製品特徴1.1日使い捨てSCL2.同心円型,同時視型,中心近用,累進屈折力設計遠見,近見ともに直方視でみえるレンズの回転や像ジャンプによる見え方への影響が少ない処方が単純である中心遠用のものに比べ,近くがより見やすい視界が若干暗く,見え方の鮮明さにやや欠ける3.単一加入度数(最大+3Dの累進屈折力)表4適応しやすい患者①遠見と近見の視力が同時に必要な人②加入度数が+1.0D以上,+2.5D未満③全乱視が1.0D未満④SCLあるいは眼鏡を使用している人⑤遠近両用SCLに興味のある人⑥生活スタイルに合わせて遠近両用SCLと通常のSCLを使い分けたい人表5適応しにくい患者①遠見,近見ともに良好な視力を要求する人②CLも眼鏡も使用したことがない人③全乱視が1D以上④ハードCLを使用している人⑤加入度数が+2.5D以上

写真:ラタノプロストによる虹彩色素増加

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910690910-1810/09/\100/頁/JCOPYラタノプロスト(キサラタンR)がわが国で発売開始され,すでに10年以上経過している.虹彩の色素増加はラタノプロストの,というよりもプロスタグランジン製剤の特徴と考えられており,ラタノプロスト以前よりわが国で入手可能であったウノプロストン(レスキュラR)1),後に発売となったトラボプロスト(トラバ(63)タンズR)2),わが国では未発売のビマトプロスト(ルミガンR)3)でも虹彩の色素増加が報告されており,最近わが国で発売された国内産のタフルプロスト(タプロスR)4)でも,同様の発症が予想される.欧米では,副作用として「iriscolorchange:虹彩の色調変化」が注目された.青,緑,黄色の色調の虹彩が茶色に変化するた写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦303.ラタノプロストによる虹彩色素増加図1点眼開始前もともと2時,4時,7時,11時方向の色素が放射状に濃い.図3点眼開始12カ月色素増加はさらに増強し,コントラストが顕著になっている.図2点眼開始1カ月もともと色素の濃かったところが増強している.図4点眼開始8年背景光の違いで色調が異なるが,色素の濃いところはそのまま濃く,全体が均一になることはない.原岳原眼科病院———————————————————————-Page21070あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)め,診察する医師のみならず,家族,親しい友人から指摘されたり,本人が自覚することもあった.特に茶色と青,緑の混ざったHazaleyeで色調変化の頻度が高いと報告されていた5).これに対し,日本人に多い単色茶色ではあまり変化はなかったとも報告されていたため,わが国では発売前にはあまり問題視されていなかったが,実際に市販後に細隙灯顕微鏡で観察してみると,徐々に色調が濃くなる変化が出てくることがわかった6).日本人の場合,本人も自覚しないことが多く,欧米での色調変化に対し,「increasedpigmentation:色素増加」と表現するのが適していると思われる.また,当初は虹彩の色素増加が問題視されていたが,実際に発売後,広く使用されるようになると,むしろ,睫毛の延長,剛毛化,ならびに眼瞼の色素増加7)のほうが患者の自覚が強く,美容的な問題も生じる事態となり,点眼継続のアドヒアランスを考えたうえでも無視できない問題となっている.変化は早い例では使用2,3カ月より出始め,経時的に増加する.ラタノプロスト使用を中止した場合,色素増加の進行も停止し,筆者の印象では,可逆的に微減していく.文献1)小田江里子,松元俊,鷲見泉ほか:イソプロピルウノプロストン点眼液によると思われた虹彩色素沈着.眼科41:1479-1483,19992)HuangP,ZhongZ,WuLetal:Increasediridialpigment-ationinChineseeyesafteruseoftravoprost0.004%.Glaucoma18:153-156,20093)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenK:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP:a3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1031,20014)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20085)WistrandPJ,StjernschantzJ,OlssonK:Theincidenceandtime-courseoflatanoprost-inducediridialpigmenta-tionasafunctionofeyecolor.SurvOphthalmol41:129-138,19976)原岳:ラタノプロスト点眼で生じた単色茶色の日本人の虹彩における色素増加.日眼会誌105:314-321,20017)原岳,小島孚允:ラタノプロスト点眼で生じる睫毛変化の評価.あたらしい眼科17:1567-1570,2000

白内障手術教育の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYれている.手術訓練をするにあたりヒトの眼が入手できれば,最も良い.ただ,わが国では,人眼の使用は,使用目的が限られており,白内障などの練習用に用いることはできない.したがって,比較的入手がやさしく人眼に近い動物の眼として豚眼が利用されてきた.ただ,この豚眼は,人眼に比べ一回り大きく強膜なども厚い.白内障手術を行うと,水晶体前は厚く,張力が強い(張力の強さは,小児の人眼に似ているが,厚みはかなり厚い).前切開をヒトと同じ感覚で行おうとすると,切開線が流れてしまいうまく完成できない.豚眼でいくら研修して豚眼での前切開のコツをつかんでも,豚眼と同じような感覚で人眼水晶体の前切開を行うと,これもうまくはいかない.また,豚眼は若いブタの眼であるので,白内障はなく,核娩出,核分割などの手技を学ぶことはできなかった.豚眼実習は,あくまでも顕微鏡操作や,顕微鏡下での器具の操作をするときの手の動かし方,器具の持ち方,ペダル操作の練習などに有用であった.これら基本的な手足の動かし方は,手術において最も基本的な操作であり重要なものではあったが,PEA操作に習熟するのには限界があった.1998年頃,これらを改良する試みとして,組織固定液であるホルマリンを用いて,水晶体や水晶体核蛋白を変性させ,人眼に近い感覚で手術ができるよう豚眼を加工する工夫が始まった.当時,筆者も参天製薬が開設したウエットラボ室を研修医の教育用に使うなかでウはじめに白内障手術の細かなバリエーションは,かなりの数にのぼり標準化されていない.教育方法についてもさまざまな方法があり,施設ごとの教育環境(教育機器などのハード面や人材などのソフト面)により現在でもさまざまであると思われる.したがって,白内障手術教育の進化といっても統一されたものがあるわけではないが,それでも,この10年で特記すべきことがいくつかあった.まず第1に,ウエットラボ用の豚眼の加工技術や練習用模擬眼が開発されたことである.第2に,ウエットラボの提供施設が大都市には常設されたこと.第3に,指導医講習会が開催されるようになったことである.これらの概略を辿ってみたい.I豚眼実習の加工技術・練習用の模擬眼の開発白内障手術に超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi-cationandaspiration:PEA)が導入され普及し一般化されると,術後早期よりの安定した視機能回復が可能となった.手術時間も,水晶体外摘出術の時代には,40分程度かかるのが当たり前だったものが,20分を切るような時代となった.それに伴い,研修医の手術も水晶体外摘出術は行われなくなり,教育も初めからPEAが行われるようになった.患者からの術後早期からの視機能回復の要求が強くなるとともに,PEA教育をいきなり人眼から開始することはなくなり,ウエットラボでの実習を経てから人眼手術を行うことが一般化さ(59)1065手020505内11手特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10651068,2009白内障手術教育の進化ProgressofTrainingforCataractSurgery黒坂大次郎*———————————————————————-Page21066あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(60)しばらくして,豚眼水晶体を使うのではなく,水晶体内容を除去した空の水晶体内に人工物を注入し人眼に似た核を作るカートンが開発された(図3).カートンで作った核では,人眼水晶体とは違うものの,溝掘り,核分割,核片除去などの操作が可能であり,豚眼水晶体をホルマリンやアルコールなどで処理した核にある粘りや硬さの不均一性などが解消された.ただ,このカートンは,注入方法にコツがあり,うまく水晶体内に注入しないと練習に適切な核を作ることができない.徐々に注入のコツがわかり,現在はカートンを使ってのPEAの核処理の実習が広く行われるようになった.これとは別に,豚眼などをまったく使わず人工物で眼エットラボ室に在籍していた参天製薬(当時)の植月氏とともにこの開発に加わった14).ホルマリンを粘弾性物質やヒドロキシエチルセルロース(スコピゾルR)に混ぜ前上に留置すると1分足らずで前が固定され人眼に近い感覚での前切開の練習ができる(図1).水晶体核にホルマリンを注入すると核が出来上がるが,粘着性が残ったり,硬くなりすぎたりであった.その後電子レンジで蛋白質を熱変性させ核を作る方法も行われた(図2).この方法では,粘着性がなく割れる核ができたが,水晶体の硝子体側半分程度の核作製で,それ以上に電子レンジ処理をすると水晶体が破裂してしまい限界があった.図1ホルマリン固定した前でのCCC前が裏返せ,人眼に似た感じで行える.2電子レンジで作製した核での分割分割可能な白い核ができている.図3カートンで作製した核での分割(杏林大学・永本敏之先生提供)図4白内障手術練習用模擬眼机太郎(飽浦淳介先生開発).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091067(61)出して何度も伝えることができ,実際の手術中の指導の場でのストレスも軽減できる.しかしながら,不定期に開催されるウエットラボでは,タイミングよく行えるとは限らないし,次回の開催も確かではない.そうなると,勢い限られた時間内に多くのことを学ぼう・教えようとして,消化不良になることが多い.個々の手技は荒くなり,最終的には練習したという思いだけが残り,なかなか実効が得られにくい.ウエットラボ室が,常時設置され,定期的に開催されているとなると研修医も指導者もある程度余裕をもって,教育ができるようになり,その意義は大きい.また,大学内に常時設置されている場合と別の場所に設置されている場合の違いは,大学内だといつでもできる反面,指導者も研修医もさまざまな臨床の用事(患者に呼ばれたり)で結局不定期になりがちであるが,外の場合には場所を変えるので,計画が守られやすい利点がある.さらに,多くのウエットラボ室では,粘弾性物質や眼内レンズなどが準備されており,手術環境としても優れていることが多い.企業のメセナとして持続が望まれる.III指導医講習会の始まり白内障手術は,年間100万件行われ,多くの術者が存在する.研修医もそのほとんどが手術教育を受けるが,白内障手術教育を実りあるものとするためには,良を模し,白内障手術を練習する人眼模型が開発されている.以前より人眼模型は存在したが,比較的高価で,そのわりに人眼とあまり似ていなかったために普及しなかった.最近,新しい模擬眼が開発された(図4).このセットは,顕微鏡やPEA機器を使わずに練習できるものである.それゆえ実際とは異なる点があるが,手術設備を必要としないという点で汎用性が高く,今後普及されていくことが期待される.IIウエットラボ環境の変化10年前までは,ウエットラボといえば,大学や病院の一室で,器械メーカーや製薬会社が準備した顕微鏡とPEA装置を使って行うことが主流であった.しかしながら,大都市を中心に常設のウエットラボ室が準備されるようになり,単にその会社の製品を試用する目的ばかりでなく,教育用に開放されているところが多い(図5).ウエットラボの利用においては,理想的には,自分が行う部分の(多くの初心者は,初めは一部の過程のみ手術をするので)練習をくり返し行い,納得したうえで人眼の手術を行い,再び勝手が違った部分を豚眼で確認していくことが望ましい.しかも実際に手術を指導する医師に教わりながらウエットラボを行うことができれば,さらに効果が上がる.指導医も研修医の実力や問題点を豚眼を通じて把握できるし,自分の伝えたいことも声を図5メーカーによるウエットラボ室での実習図6JSCRS白内障手術セミナーの様子毎年7月に東京で開催される.———————————————————————-Page41068あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(62)おわりに白内障手術は,年間100万件にも達する手術であり,眼科医にとって誰でもがかかわる手術である.眼科専門医であれば,ほぼ例外なく白内障手術の経験があるといっても過言ではないであろう.ここ10年のさまざまな進歩は,白内障手術をより安定化させ,さらに最近は,さまざまな付加価値がつく眼内レンズも開発され,術後視機能はより向上している.この現状をさらに持続し白内障治療が進歩し続けるためには,多くの優秀な術者を育て,患者側からの理解を得ることが重要である.初心者が行う手術へのインフォームド・コンセントなど倫理面も含め,白内障手術教育がさらに発展することを願いたい.文献1)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル.(1)核処理の練習用.あたらしい眼科15:1553-1554,19982)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル.(2)Divide&Conquer法.あたらしい眼科16:61-62,19993)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル.(3)CCCの練習用.あたらしい眼科16:355-356,19994)HashimotoC,KurosakaD,UetsukiY:Teachingcontinu-ouscurvilinearcapsulorhexisusingapostmortempigeyewithsimulatedcataract.JCataractRefractSurg27:814-816,2001質な指導医が必要である.一部の経験豊かな術者が直接に教えられる人数には限界があり,白内障手術の全国的なレベルアップのためには,研修医を指導する立場にある指導医の教育が大切である.このような考えの下,日本眼内レンズ屈折手術学会では,4年前より指導医を対象に白内障手術セミナーを行っている.約80名前後の指導者に対し,教科書をもとに2日間にわたる講義と,1日間のウエットラボを行っている(JSCRSのホームページアドレス:http://www.jscrs.jp/index.html).図7JSCRS白内障手術セミナーで使われるテキスト市販されている.

術前術後検査と管理の進化

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY以降,波面光学が眼科領域に応用されるようになってから,視力良好である症例に対し,コントラスト感度(視力)以外に手術適応を決める方法として,波面収差測定および網膜像シミュレーションが行われるようになった.軽度白内障眼の波面収差を測定し,光学的な劣化(収差の増加)を定量化するとともに,その結果から網膜像をシミュレーションするものである.このシミュレーション網膜像は,散乱などの影響を含まないため,正確なシミュレーション像とはいえないが,臨床的には非常に有用で,二重視,三重視などの自覚症状を判別できる場合もある1).視力やコントラスト感度が比較的良好でも,自覚と他覚(光学的な劣化)の所見が一致していれば,手術適応と判断できる場合もあり,より客観的に手術適応を決定することができるようになった.2.生体計測(眼軸長測定)10年ほど前は眼軸長の測定は超音波Aモードのみで行われていた.しかし,超音波による測定は精度に限界があり,検者の熟達度によるばらつきも多く,IOL度数誤差の最も多い原因であった2).現在も眼軸長の測定には超音波Aモードが用いられているが,2002年から光学式測定法も可能となった.超音波Aモードには接触式と水浸(immersion)式がある.超音波Aモードの測定誤差は,接触式の場合,角膜の圧迫により前房深度が浅くなってしまうことが測定誤差の原因となる3).水浸式では角膜に接触しないため測定精度は高い.しかし,はじめに白内障手術の術前術後検査には,屈折検査,視力検査をはじめとする視機能評価,眼内レンズ(IOL)度数決定のための眼軸長および角膜屈折力測定,手術リスク評価のための角膜内皮細胞密度検査がある.ここ10年の変化を考えてみると,視機能および眼光学機能評価法は波面光学が眼科分野に応用されるようになった2000年ごろから格段に進歩し,自覚的評価のみならず眼球光学系の他覚的評価を行うことにより,白内障の詳細な影響も検知可能となり,手術適応決定の際に役立っている.術前検査としては,付加価値IOLの登場により,現在では瞳孔径,球面収差などが行われている.また,小切開から極小切開になったことにより,術後管理も変化している.本稿では10年前と現在を比較しながら,検査法の進歩および術後管理の変化について述べる.I術前検査1.手術適応決定のための視機能評価約10年前には,小切開手術およびフォルダブルIOLが一般に普及し術後早期から良好な視力が得られるようになっていたため,ECCE(外摘出術)の時代と比較して,視力の良好な症例でも手術が行われるようにはなっていた.視力が(1.0)以上ある症例に対して手術適応を決める際には,コントラスト感度またはコントラスト視力検査が行われていたが,それほど普及していなかった.最近ではこれらの検査が普及しつつある.2000年(53)1059160858235特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10591063,2009術前術後検査と管理の進化EvolutionofPre-andPostoperativeExaminationsandCare根岸一乃*———————————————————————-Page21060あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(54)situkeratomileusis)術後眼では角膜前面曲率のみを測定するタイプのトポグラファー(角膜換算屈折率を用いる)では,評価誤差を生じる可能性がある.角膜前後面の測定が可能な,スリットスキャン型,シャインプルーク像を用いるタイプの角膜形状解析装置もあるが,角膜後面の測定精度についてはいまだ議論がある6,7).IOL度数計算のため,白内障術前には正確な角膜屈折力評価が行われることが望ましいが,角膜形状解析装置を用いて評価誤差を減らしても計算式に含まれる誤差も大きいため,IOL度数計算の精度向上には計算式の改良が必須である.計算式の進歩については次項で述べる.4.IOL計算式IOL計算式も改良が重ねられているが,背景としてこの10年で最も大きかったのは屈折矯正手術後眼の白内障手術が増加したことであろう.10年前にはすでに第3世代の理論式が一般化し,HoerQ式,Holladay1式,SRK/T式が眼軸長測定装置のIOL度数計算ソフトウェアとして組み込まれ,使用されていた.これらの式では,正常モデル眼のパラメータに基づいて計算式が作成され,眼軸長と中央角膜曲率半径のみから術後のIOLの位置を推定している3).このため,正常眼での予測精度は比較的良好であるが,角日本では取り扱いが簡便な接触式が普及しており,水浸式が使われることはほとんどない.2002年のIOLマスター(カールツァイスメディテック社)の発売以降,光学式測定が徐々に普及しつつある.光学式測定は非接触で検者によるばらつきがほとんどなく,測定精度が高い.OlsenらはIOL度数計算誤差の絶対値の平均は,超音波Aモードで測定した場合,平均0.65D,光学式の場合は0.43Dで統計学的有意差があったと報告している4).最近では,数社から光学式測定装置が販売されている.機器改良の影響もあってか,最近の報告では,IOL度数誤差の原因としての眼軸長測定ミスの割合は以前よりも減少している5)(図1).3.生体計測(角膜屈折力測定)10年前は,角膜屈折力の測定はオートケラトメータで行われていた.角膜形状異常眼では測定誤差が大きく,IOL度数誤差が大きいことが問題であったが,角膜形状異常眼はそれほど多くはなく,一般的にはその誤差は容認されていた.現在,角膜屈折力はオートケラトメータまたは光学式測定装置に付属のオートケラトメータで測定されるのが主である.しかし,屈折矯正手術後眼の急激な増加により,角膜形状異常眼の角膜屈折力評価は無視できない課題となっている.LASIK(laserin図1IOL度数予測誤差の原因(文献5より)ACD-pred:術後IOLの予測位置,AL:眼軸長,Ch-dist:測定視標までの距離,Cor-th:角膜厚,IOL:IOLpower,Pupil:瞳孔径,Qa:角膜前面の非球面性,Qp:角膜後面の非球面性,Ra:角膜前面曲率半径,Ret-th:網膜厚,Rfx:術後眼鏡矯正度数,RI-air:空気の屈折率,RI-aqu:房水の屈折率,RI-cor:角膜の屈折率,RI-vit:硝子体屈折率,Rp:角膜後面曲率半径.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091061(55)点IOLの適応検査としては瞳孔径検査が必須であること,視機能に対する瞳孔径の影響が認識されはじめていることから,瞳孔径測定は重要視されはじめており,将来的には単焦点IOL挿入前の検査としてもルーチンになる可能性がある.2.角膜形状解析角膜屈折力測定の項で角膜形状解析については述べたが,付加価値IOLの使用や乱視矯正を行う際には角膜形状解析が必須の検査となりつつある.具体的には,多焦点IOLは角膜不正乱視がある症例は適応外となるため,多焦点IOLを使用する場合は必須の検査となっている.また,LASIK術後などの角膜形状異常眼のIOL度数決定の際や,輪部減張切開により白内障手術と同時に乱視矯正を行う際にも角膜形状解析は必須である.さらに,本年「乱視矯正IOL」が承認されたが,このIOLの適応および手術計画を決定する際にも角膜形状解析は重要である.III術後検査1.惹起乱視の評価10年前には角膜形状解析装置はかなり一般化していたが,乱視といえば正乱視の評価を指し,ごく特殊な症例を除き不正乱視を評価の対象とすることはなかった.術前後の乱視の測定はオートケラトメータで行い,惹起乱視の評価はそれに基づいてCravy法やJae法などで行われることが多かった.この時期には小切開無縫合白内障手術でも直径6.0mmのPMMA(ポリメチルメタクリレイト)IOLを用いた切開幅5.5mmとフォルダブルIOLで切開幅3.2mmの場合では,3.2mmのほうが惹起乱視は有意に少ないとの報告があった8,9).現在ではほとんどの症例でフォルダブルIOLが使用されるようになっている.3.0mm以下の小切開または極小切開白内障手術では,惹起乱視が小さく,正乱視の評価では切開幅による差が出にくく,手術成績を比較する場合には不正乱視の評価が必須である.具体的な方法としては,角膜形状解析,波面収差解析などである.現在では数多くの角膜形状解析装置が販売されており,機種によって,Fourier解析(正乱視成分,高次不正成分に分解),膜形状異常眼などでは誤差が大きくなることが問題である.現在でも,第3世代の理論式は使用されているが,さらに精度の高い計算式も発表されている.たとえば,Haigis-L式はIOL定数およびsurgeon-specic定数を3つ用い,前房深度も計算に使用する.一方,この式では角膜屈折力をIOL計算に使用しないことにより,前面角膜曲率半径の評価誤差と術後のIOLの位置の予測誤差を排除され,屈折矯正手術後眼にも使用可能である.しかし,計算式に用いる3つの定数は回帰式から求めなければならないため,さまざまな眼軸長で術者ごとに50例以上症例数が必要である点が欠点である3).Hol-laday2式は短眼軸から長眼軸まで対応している.しかし,術後のIOLの位置を計算するために7つものパラメータ(眼軸長,平均角膜屈折力,水晶体厚,水平方向の角膜径,前房深度,術前屈折,年齢)を必要とすることが煩雑である.光学式測定では水晶体厚が測定できないため,この式を使用するためには超音波Aモード(水浸式が望ましい)による測定が必要である3).屈折矯正手術後眼の急激な増加により,そのほかにも,角膜屈折矯正手術後眼をターゲットとした計算式が次々と報告されている.いずれも第3世代の理論式を使用するよりは誤差が小さいが,正常眼におけるIOL度数予測精度には至っていない.米国IOL屈折手術学会のホームページに角膜屈折矯正手術後眼のIOL度数の計算サイトがある.計算式は限られるものの,数種類の計算式の結果が一度に得られるので,有効に活用されたい.将来的には光線追跡法が主流となる可能性もある.IIその他の術前検査1.瞳孔径1990年代から数年前まで,屈折型多焦点IOL(アレイ,AMO社)が保険適用であり使用されていた.屈折型多焦点IOLのパフォーマンスは瞳孔径に依存するため,アレイを使用する際には瞳孔径検査は必須であったが,多焦点IOL自体が普及していなかった.単焦点IOLを使用する際に瞳孔径が考慮されることはなく,術前検査としては一般的ではなかった.しかし,2007年に新しい数種の多焦点IOLが承認された.屈折型多焦———————————————————————-Page41062あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(56)た.前眼部OCT(光干渉断層計)は術前後眼の解剖学的情報を得るのに非常に有用である.また,術後の胞状黄斑浮腫は10年前には検眼鏡的に評価するか蛍光眼底撮影を行うしかなかったが,現在では後眼部OCTにより他覚的かつ非侵襲的に検査可能となった.IV術後管理の変化ここ10年ほどの間に3mm以上の小切開手術(SICS)から2mm前後の極小切開手術(MICS)に切開幅が減少し,術後屈折の安定時期はさらに早くなった.10年前は眼鏡をつくる時期は1カ月以降が一般的であったが,極小切開手術で行えば,術後1カ月以内の処方が十分可能である.HayashiらはMICS(2.0mm)とSICS(2.65mm)を比較した報告10)で,角膜形状変化の平均値を示している(図2).これを見る限りMICSを行った平均的な症例では術後2週間で眼鏡処方しても何ら問題ないZernike解析(球面収差,コマ収差などに分解)などが可能である.2.波面収差解析,前眼部OCT,後眼部OCT従来,術後の合併症が視機能に及ぼす影響については,定量的評価が困難であった.しかし,最近では,IOL偏位などのIOL位置異常(術前の水晶体の位置異常でもよい)に対しては波面収差解析で高次収差の測定および網膜像シミュレーションを行うことにより,視機能への影響をある程度定量的に推定することが可能となっ図22.0mmコアクシャル手術の平均角膜形状変化(文献10の図2より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091063(57)lation.JCataractRefractSurg18:125-129,19923)LeeAC,QaziMA,PeposeJS:Biometryandintraocularlenspowercalculation.CurrOpinOphthalmol19:13-17,20084)OlsenT:ImprovedaccuracyofintraocularlenspowercalculationwiththeZeissIOLMaster.ActaOphthalmolScand85:84-87,20075)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercal-culation.JCataractRefractSurg34:368-376,20086)ChengAC,HoT,LauSetal:EvaluationoftheapparentchangeinposteriorcornealpowerineyeswithLASIKusingOrbscanIIwithmagnicationcompensation.JRefractSurg25:221-228,20097)Perez-EscuderoA,DorronsoroC,SawidesLetal:Minorinuenceofmyopiclaserinsitukeratomileusisontheposteriorcornealsurface.InvestOphthalmolVisSci,2009Apr22[Epubaheadofprint]8)OshikaT,NagaharaK,YaguchiSetal:Threeyearpro-spective,randomizedevaluationofintraocularlensimplan-tationthrough3.2and5.5mmincisions.JCataractRefractSurg24:509-514,19989)OlsonRJ,CrandallAS:Prospectiverandomizedcompari-sonofphacoemulsicationcataractsurgerywitha3.2-mmvsa5.5-mmsuturelessincision.AmJOphthalmol125:612-620,199810)HayashiK,YoshidaM,HayashiH:Postoperativecornealshapechanges:microincisionversussmall-incisioncoaxialcataractsurgery.JCataractRefractSurg35:233-239,200911)ElkadyB,PineroD,AlioJL:Cornealincisionquality:microincisioncataractsurgeryversusmicrocoaxialpha-coemulsication.JCataractRefractSurg35:466-474,2009だろう.術後創傷治癒や術後炎症も切開幅の減少により確実に早く,少なくなっている.Elkadyらの報告11)によれば,2.2mmの同軸手術で行った25眼のうち,術翌日にSeidel(+)だった症例はなく,術後平均フレア値は翌日が30.2,1週間後が4.2,1カ月後が0.0であったという.明確な基準はないが,これを見る限り術後の生活制限(洗眼,洗髪,運動など)もごく早期から解除可能であり,術後点眼もごく早期に中止できると考えられる.おわりにここ10年で超音波水晶体乳化吸引術という基本術式は変わっていないにもかかわらず,術式の小切開化,極小切開IOLおよび付加価値IOLの登場と検査機器の進歩により白内障の術前術後検査と管理は大きく変化している.今後もさまざまな付加価値IOLが登場することが見込まれており,それによって検査や術後管理のスタンダードも変化していくことだろう.文献1)FujikadoT,ShimojyoH,HosohataJetal:Wavefrontanalysisofeyewithmonoculardiplopiaandcorticalcata-ract.AmJOphthalmol141:1138-1140,20062)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalcu-