———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY以降,波面光学が眼科領域に応用されるようになってから,視力良好である症例に対し,コントラスト感度(視力)以外に手術適応を決める方法として,波面収差測定および網膜像シミュレーションが行われるようになった.軽度白内障眼の波面収差を測定し,光学的な劣化(収差の増加)を定量化するとともに,その結果から網膜像をシミュレーションするものである.このシミュレーション網膜像は,散乱などの影響を含まないため,正確なシミュレーション像とはいえないが,臨床的には非常に有用で,二重視,三重視などの自覚症状を判別できる場合もある1).視力やコントラスト感度が比較的良好でも,自覚と他覚(光学的な劣化)の所見が一致していれば,手術適応と判断できる場合もあり,より客観的に手術適応を決定することができるようになった.2.生体計測(眼軸長測定)10年ほど前は眼軸長の測定は超音波Aモードのみで行われていた.しかし,超音波による測定は精度に限界があり,検者の熟達度によるばらつきも多く,IOL度数誤差の最も多い原因であった2).現在も眼軸長の測定には超音波Aモードが用いられているが,2002年から光学式測定法も可能となった.超音波Aモードには接触式と水浸(immersion)式がある.超音波Aモードの測定誤差は,接触式の場合,角膜の圧迫により前房深度が浅くなってしまうことが測定誤差の原因となる3).水浸式では角膜に接触しないため測定精度は高い.しかし,はじめに白内障手術の術前術後検査には,屈折検査,視力検査をはじめとする視機能評価,眼内レンズ(IOL)度数決定のための眼軸長および角膜屈折力測定,手術リスク評価のための角膜内皮細胞密度検査がある.ここ10年の変化を考えてみると,視機能および眼光学機能評価法は波面光学が眼科分野に応用されるようになった2000年ごろから格段に進歩し,自覚的評価のみならず眼球光学系の他覚的評価を行うことにより,白内障の詳細な影響も検知可能となり,手術適応決定の際に役立っている.術前検査としては,付加価値IOLの登場により,現在では瞳孔径,球面収差などが行われている.また,小切開から極小切開になったことにより,術後管理も変化している.本稿では10年前と現在を比較しながら,検査法の進歩および術後管理の変化について述べる.I術前検査1.手術適応決定のための視機能評価約10年前には,小切開手術およびフォルダブルIOLが一般に普及し術後早期から良好な視力が得られるようになっていたため,ECCE(外摘出術)の時代と比較して,視力の良好な症例でも手術が行われるようにはなっていた.視力が(1.0)以上ある症例に対して手術適応を決める際には,コントラスト感度またはコントラスト視力検査が行われていたが,それほど普及していなかった.最近ではこれらの検査が普及しつつある.2000年(53)1059160858235特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10591063,2009術前術後検査と管理の進化EvolutionofPre-andPostoperativeExaminationsandCare根岸一乃*———————————————————————-Page21060あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(54)situkeratomileusis)術後眼では角膜前面曲率のみを測定するタイプのトポグラファー(角膜換算屈折率を用いる)では,評価誤差を生じる可能性がある.角膜前後面の測定が可能な,スリットスキャン型,シャインプルーク像を用いるタイプの角膜形状解析装置もあるが,角膜後面の測定精度についてはいまだ議論がある6,7).IOL度数計算のため,白内障術前には正確な角膜屈折力評価が行われることが望ましいが,角膜形状解析装置を用いて評価誤差を減らしても計算式に含まれる誤差も大きいため,IOL度数計算の精度向上には計算式の改良が必須である.計算式の進歩については次項で述べる.4.IOL計算式IOL計算式も改良が重ねられているが,背景としてこの10年で最も大きかったのは屈折矯正手術後眼の白内障手術が増加したことであろう.10年前にはすでに第3世代の理論式が一般化し,HoerQ式,Holladay1式,SRK/T式が眼軸長測定装置のIOL度数計算ソフトウェアとして組み込まれ,使用されていた.これらの式では,正常モデル眼のパラメータに基づいて計算式が作成され,眼軸長と中央角膜曲率半径のみから術後のIOLの位置を推定している3).このため,正常眼での予測精度は比較的良好であるが,角日本では取り扱いが簡便な接触式が普及しており,水浸式が使われることはほとんどない.2002年のIOLマスター(カールツァイスメディテック社)の発売以降,光学式測定が徐々に普及しつつある.光学式測定は非接触で検者によるばらつきがほとんどなく,測定精度が高い.OlsenらはIOL度数計算誤差の絶対値の平均は,超音波Aモードで測定した場合,平均0.65D,光学式の場合は0.43Dで統計学的有意差があったと報告している4).最近では,数社から光学式測定装置が販売されている.機器改良の影響もあってか,最近の報告では,IOL度数誤差の原因としての眼軸長測定ミスの割合は以前よりも減少している5)(図1).3.生体計測(角膜屈折力測定)10年前は,角膜屈折力の測定はオートケラトメータで行われていた.角膜形状異常眼では測定誤差が大きく,IOL度数誤差が大きいことが問題であったが,角膜形状異常眼はそれほど多くはなく,一般的にはその誤差は容認されていた.現在,角膜屈折力はオートケラトメータまたは光学式測定装置に付属のオートケラトメータで測定されるのが主である.しかし,屈折矯正手術後眼の急激な増加により,角膜形状異常眼の角膜屈折力評価は無視できない課題となっている.LASIK(laserin図1IOL度数予測誤差の原因(文献5より)ACD-pred:術後IOLの予測位置,AL:眼軸長,Ch-dist:測定視標までの距離,Cor-th:角膜厚,IOL:IOLpower,Pupil:瞳孔径,Qa:角膜前面の非球面性,Qp:角膜後面の非球面性,Ra:角膜前面曲率半径,Ret-th:網膜厚,Rfx:術後眼鏡矯正度数,RI-air:空気の屈折率,RI-aqu:房水の屈折率,RI-cor:角膜の屈折率,RI-vit:硝子体屈折率,Rp:角膜後面曲率半径.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091061(55)点IOLの適応検査としては瞳孔径検査が必須であること,視機能に対する瞳孔径の影響が認識されはじめていることから,瞳孔径測定は重要視されはじめており,将来的には単焦点IOL挿入前の検査としてもルーチンになる可能性がある.2.角膜形状解析角膜屈折力測定の項で角膜形状解析については述べたが,付加価値IOLの使用や乱視矯正を行う際には角膜形状解析が必須の検査となりつつある.具体的には,多焦点IOLは角膜不正乱視がある症例は適応外となるため,多焦点IOLを使用する場合は必須の検査となっている.また,LASIK術後などの角膜形状異常眼のIOL度数決定の際や,輪部減張切開により白内障手術と同時に乱視矯正を行う際にも角膜形状解析は必須である.さらに,本年「乱視矯正IOL」が承認されたが,このIOLの適応および手術計画を決定する際にも角膜形状解析は重要である.III術後検査1.惹起乱視の評価10年前には角膜形状解析装置はかなり一般化していたが,乱視といえば正乱視の評価を指し,ごく特殊な症例を除き不正乱視を評価の対象とすることはなかった.術前後の乱視の測定はオートケラトメータで行い,惹起乱視の評価はそれに基づいてCravy法やJae法などで行われることが多かった.この時期には小切開無縫合白内障手術でも直径6.0mmのPMMA(ポリメチルメタクリレイト)IOLを用いた切開幅5.5mmとフォルダブルIOLで切開幅3.2mmの場合では,3.2mmのほうが惹起乱視は有意に少ないとの報告があった8,9).現在ではほとんどの症例でフォルダブルIOLが使用されるようになっている.3.0mm以下の小切開または極小切開白内障手術では,惹起乱視が小さく,正乱視の評価では切開幅による差が出にくく,手術成績を比較する場合には不正乱視の評価が必須である.具体的な方法としては,角膜形状解析,波面収差解析などである.現在では数多くの角膜形状解析装置が販売されており,機種によって,Fourier解析(正乱視成分,高次不正成分に分解),膜形状異常眼などでは誤差が大きくなることが問題である.現在でも,第3世代の理論式は使用されているが,さらに精度の高い計算式も発表されている.たとえば,Haigis-L式はIOL定数およびsurgeon-specic定数を3つ用い,前房深度も計算に使用する.一方,この式では角膜屈折力をIOL計算に使用しないことにより,前面角膜曲率半径の評価誤差と術後のIOLの位置の予測誤差を排除され,屈折矯正手術後眼にも使用可能である.しかし,計算式に用いる3つの定数は回帰式から求めなければならないため,さまざまな眼軸長で術者ごとに50例以上症例数が必要である点が欠点である3).Hol-laday2式は短眼軸から長眼軸まで対応している.しかし,術後のIOLの位置を計算するために7つものパラメータ(眼軸長,平均角膜屈折力,水晶体厚,水平方向の角膜径,前房深度,術前屈折,年齢)を必要とすることが煩雑である.光学式測定では水晶体厚が測定できないため,この式を使用するためには超音波Aモード(水浸式が望ましい)による測定が必要である3).屈折矯正手術後眼の急激な増加により,そのほかにも,角膜屈折矯正手術後眼をターゲットとした計算式が次々と報告されている.いずれも第3世代の理論式を使用するよりは誤差が小さいが,正常眼におけるIOL度数予測精度には至っていない.米国IOL屈折手術学会のホームページに角膜屈折矯正手術後眼のIOL度数の計算サイトがある.計算式は限られるものの,数種類の計算式の結果が一度に得られるので,有効に活用されたい.将来的には光線追跡法が主流となる可能性もある.IIその他の術前検査1.瞳孔径1990年代から数年前まで,屈折型多焦点IOL(アレイ,AMO社)が保険適用であり使用されていた.屈折型多焦点IOLのパフォーマンスは瞳孔径に依存するため,アレイを使用する際には瞳孔径検査は必須であったが,多焦点IOL自体が普及していなかった.単焦点IOLを使用する際に瞳孔径が考慮されることはなく,術前検査としては一般的ではなかった.しかし,2007年に新しい数種の多焦点IOLが承認された.屈折型多焦———————————————————————-Page41062あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(56)た.前眼部OCT(光干渉断層計)は術前後眼の解剖学的情報を得るのに非常に有用である.また,術後の胞状黄斑浮腫は10年前には検眼鏡的に評価するか蛍光眼底撮影を行うしかなかったが,現在では後眼部OCTにより他覚的かつ非侵襲的に検査可能となった.IV術後管理の変化ここ10年ほどの間に3mm以上の小切開手術(SICS)から2mm前後の極小切開手術(MICS)に切開幅が減少し,術後屈折の安定時期はさらに早くなった.10年前は眼鏡をつくる時期は1カ月以降が一般的であったが,極小切開手術で行えば,術後1カ月以内の処方が十分可能である.HayashiらはMICS(2.0mm)とSICS(2.65mm)を比較した報告10)で,角膜形状変化の平均値を示している(図2).これを見る限りMICSを行った平均的な症例では術後2週間で眼鏡処方しても何ら問題ないZernike解析(球面収差,コマ収差などに分解)などが可能である.2.波面収差解析,前眼部OCT,後眼部OCT従来,術後の合併症が視機能に及ぼす影響については,定量的評価が困難であった.しかし,最近では,IOL偏位などのIOL位置異常(術前の水晶体の位置異常でもよい)に対しては波面収差解析で高次収差の測定および網膜像シミュレーションを行うことにより,視機能への影響をある程度定量的に推定することが可能となっ図22.0mmコアクシャル手術の平均角膜形状変化(文献10の図2より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091063(57)lation.JCataractRefractSurg18:125-129,19923)LeeAC,QaziMA,PeposeJS:Biometryandintraocularlenspowercalculation.CurrOpinOphthalmol19:13-17,20084)OlsenT:ImprovedaccuracyofintraocularlenspowercalculationwiththeZeissIOLMaster.ActaOphthalmolScand85:84-87,20075)NorrbyS:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercal-culation.JCataractRefractSurg34:368-376,20086)ChengAC,HoT,LauSetal:EvaluationoftheapparentchangeinposteriorcornealpowerineyeswithLASIKusingOrbscanIIwithmagnicationcompensation.JRefractSurg25:221-228,20097)Perez-EscuderoA,DorronsoroC,SawidesLetal:Minorinuenceofmyopiclaserinsitukeratomileusisontheposteriorcornealsurface.InvestOphthalmolVisSci,2009Apr22[Epubaheadofprint]8)OshikaT,NagaharaK,YaguchiSetal:Threeyearpro-spective,randomizedevaluationofintraocularlensimplan-tationthrough3.2and5.5mmincisions.JCataractRefractSurg24:509-514,19989)OlsonRJ,CrandallAS:Prospectiverandomizedcompari-sonofphacoemulsicationcataractsurgerywitha3.2-mmvsa5.5-mmsuturelessincision.AmJOphthalmol125:612-620,199810)HayashiK,YoshidaM,HayashiH:Postoperativecornealshapechanges:microincisionversussmall-incisioncoaxialcataractsurgery.JCataractRefractSurg35:233-239,200911)ElkadyB,PineroD,AlioJL:Cornealincisionquality:microincisioncataractsurgeryversusmicrocoaxialpha-coemulsication.JCataractRefractSurg35:466-474,2009だろう.術後創傷治癒や術後炎症も切開幅の減少により確実に早く,少なくなっている.Elkadyらの報告11)によれば,2.2mmの同軸手術で行った25眼のうち,術翌日にSeidel(+)だった症例はなく,術後平均フレア値は翌日が30.2,1週間後が4.2,1カ月後が0.0であったという.明確な基準はないが,これを見る限り術後の生活制限(洗眼,洗髪,運動など)もごく早期から解除可能であり,術後点眼もごく早期に中止できると考えられる.おわりにここ10年で超音波水晶体乳化吸引術という基本術式は変わっていないにもかかわらず,術式の小切開化,極小切開IOLおよび付加価値IOLの登場と検査機器の進歩により白内障の術前術後検査と管理は大きく変化している.今後もさまざまな付加価値IOLが登場することが見込まれており,それによって検査や術後管理のスタンダードも変化していくことだろう.文献1)FujikadoT,ShimojyoH,HosohataJetal:Wavefrontanalysisofeyewithmonoculardiplopiaandcorticalcata-ract.AmJOphthalmol141:1138-1140,20062)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalcu-