———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY一方,ソフト系の歴史は1961年にWichterleがHEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)製SCLを製造したことに始まる.1972年頃からいわゆる従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)がマーケットに現れ,装用感の良さから広く普及することとなった.しかし,ソフト系の難点は酸素透過性の低さと耐久性にあり,これを克服するために,高含水,イオン性の素材による頻回交換(FRSCL)あるいは毎日使い捨て(DSCL)の世界へと移行したのである(図1).このように,CLの歴史は,酸素透過性の向上と装用感および耐久性改善との戦いであり,相反する問題を根本的には解決しえなかったというのが真実である.しかし近年,ソフト系並みの装用感とハード系以上の酸素透過性をもつシリコーンハイドロゲルレンズが登場し,まさに,トレンドは変わろうとしている.はじめに今から4年前,平成17年の日本眼科学会雑誌(以下,日眼会誌)(第109巻)の第10号に「コンタクトレンズ(CL)診療ガイドライン」が掲載された.このガイドラインは,当時,1,500万人を超えるとされた装用者が存在するなか,素材面,機能面において急速に多様化するコンタクトレンズについて,基礎的あるいは臨床的な知識を整理しておこうという趣旨でまとめられた.しかしながら,その後もCL診療の環境変化は著しく,すでに見直す必要性が生じている.この解説では基本事項を今一度整理するとともに,ガイドラインのアップデートも兼ね,最近の知見についても紹介する.ICLの歴史を知る―革命は起こるか?かのレオナルド・ダ・ヴィンチが考案したとされるCLの一般への普及は,1938年ObrigがPMMA(poly-methylmethacrylate)製の強角膜レンズを考案したことに始まる.わが国においては1951年の水谷による円錐角膜への応用が記念すべき第一歩であったことも知っておきたい.PMMAの利点は優れた生体適合性にあったが,酸素を通さないという欠点のため長期使用による角膜内皮細胞障害が問題となり,次第に淘汰されていく.その後,ハード系においては高い酸素透過性を有するガス透過性CL(RGPCL)が主流とはなるが,装用感の面でソフト系には及ばないのが現状である.(13)879AtsshiShiraishiihiOhashi71025特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):879888,2009「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の読み方PracticalGuidelinesforContactLensClinic白石敦*大橋裕一*1950196019701980199019952005(年)現在2000HCL(PMMA製)RGPCL従来型SCLシリコーンハイドロゲルレンズDSCLFRSCL図1わが国のCLの歴史———————————————————————-Page2880あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(14)材を組み合わせたシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)が登場した.従来のソフト系レンズの数倍以上の酸素透過性を有しており,装用感の良さを維持したまま,ソフト系の弱点である酸素不足を改善している点が画期的である.ただし,このレンズは先のFDA分類への組み入れが困難なため,新たなグループとしての分類が考えられている(表1).3.CLの装用方法と装用スケジュールCLはさらに装用方法や装用スケジュールなどによって細かく分類されている.これらはユーザーへの説明には不可欠な基本事項であり,必ず把握しておく必要がある.詳しくは日眼会誌(第109巻第10号)「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の表46を参照されたい.略語に慣れることも重要だが,要は,①終日装用か連続装用か,②レンズケースに保管するかしないか,の2点が起こりうる合併症を考えるうえで重要なポイントであり,前者では角膜上皮障害,後者ではレンズ汚染が問題となる.酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズの登場により,連続装用での合併症が軽減したとの報告が海外であるが,連続装用に慎重なわが国ではデータに乏しい.各種レンズの特性と適応を表2にまとめる.IIICLケアレンズケースに保管しつつ継続的に使用するCLについては適切なケアを行うことが不可欠であり,ユーザーII基本事項を理解する!1.フィッティング理論を知るCLの種類は素材により大きくハードコンタクトレンズ(HCL)とSCLに分類されるが,そのフィッティング原理も大きく異なる.HCLの場合,レンズと角膜間に貯留した涙液により生ずる接着力が重要で,重力とのバランスのなかで良好な動きを生みだされるが,SCLの場合は,レンズ周辺部の弾性が鍵であり,瞬目で引き伸ばされたときの復元力が安定したフィッティングにつながる.2.レンズ素材を覚える快適な装用感のなかで,いかに良好な視力と酸素透過性を得るかがレンズ素材開発のポイントである.現在のHCLではシロキサン化合物などを導入した結果,PMMAとは異なり,含水率がほぼゼロのなかで良好な通気性を得ているが,反面,機械的強度や水濡れ性に劣り,汚れやすいという欠点がある.SCLについては,含水率(50%未満かそれ以上)とイオン性(1mol%未満かそれ以上)の違いによってFDA(米国食品医薬品局)によりIからIVまでの4グループに分類されており,1999年4月にわが国にも導入された.通常,含水率やイオン性が高いほど酸素透過性が良いが,汚れやすく耐久性が低いという欠点がある.近年,高い酸素透過性をもつシリコーンに含水性の素表1SCLの材質分類現行低含水(含水率50%未満)高含水(含水率50%以上)非イオン性グループI主に従来型のSCLグループII従来型および一部のDSCL,FRSCLイオン性グループIIIほとんどないグループIVほとんどのDSCL,FRSCL米国食品医薬品局(FDA)分類新分類案低含水(含水率50%未満)高含水(含水率50%以上)グループⅤSHCL非イオン性グループI主に従来型のSCLグループII従来型および一部のDSCL,FRSCLイオン性グループIIIほとんどないグループIVほとんどのDSCL,FRSCL———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009881(15)洗い」である.適切に行われた場合,前者は1/1,000以下に,後者は1/100以下にSCLに付着した微生物を減少させると報告されている.3.消毒SCLに対して行うもので,煮沸,過酸化水素,ポビドンヨード,MPSの4つの様式があり,それぞれの特徴は日眼会誌のCL診療ガイドラインの表14を参照されたい.表3に現在市販されているおもなSCL消毒液についてまとめる.現在の主流であるMPSは,操作が簡便ではあるものの,消毒力が十分ではないため,前述した擦り洗い,すすぎの操作を併用しないとCLの汚染を招きやすくなる.また,MPSは主剤である消毒成分(polyhexamethylenebiguanide:PHMBなど)以外にも,界面活性剤,保湿剤,キレート剤などの多くの配合成分を含んでおり,互いの相互作用がMPSのトータルとしての消毒効果に影響を与えることがわかってきた.つぎに使用者の多い過酸化水素製剤は,MPSよりもはるかに消毒効果が得られるが,中和作業の煩雑さが普及の障害となっていた.より簡便なワンステップタイプが登場したが,消毒開始後すぐに中和が開始するため,使用状況によっては十分な消毒効果が得られない場合もある.ポビドンヨード製剤も操作が煩雑で一部のSCLに使用できないなどの問題点を抱えていたが,最近発売に対してその重要性を伝える必要がある.CLケアの基本は,CLをはずした後,付着した汚れや微生物を除去する“洗浄”,CLから遊離した汚れ,微生物や薬剤を洗い流す“すすぎ”,CLを安定した状態で保管する“保存”,SCLではこれに微生物の繁殖防止を目的とした“消毒”からなる.現在,MPS(multi-purposesolu-tion:多目的用剤)がSCLケアの中心となっているが,近年,頻回交換型SCLとMPSの使用者に角膜感染症が増加しているほか,特定のMPS使用者に発症した真菌性角膜炎やアカントアメーバ角膜炎が報告されるなど,CLケアのあり方が大きな論点となっている.CLケアにおいては,ユーザーのライフスタイルや使用法,性格などをよく見きわめて指導し,コンプライアンスが不良な場合には,見直しを検討すべきである.ここでは,CLケアの重要ポイントについて解説する.1.手指の洗浄手指には常在細菌あるいは環境菌が多数存在するため,十分に手洗いをしてからケアを行うように指導する.基本中の基本と言える.2.洗浄とすすぎ原理は物理的な除去であるが,CLケアでは最も重要なステップといえる.重要な作業は「すすぎ」と「擦り表2各種CLの特性と適応RGPCL従来型SCLFRSCLDSCLSHCL乱視矯正◎△△△△装用感△◎◎◎◎スポーツ時装用△◎◎◎◎夜間のグレア△◎◎◎◎酸素透過性◎▲△△◎角膜上皮障害危険性○△▲○△アレルギー性結膜炎(GPC)△▲▲○△ドライアイ△△▲▲○レンズケア(簡便さ)○▲△◎△消毒不要要要不要要蛋白除去要要不要不要不要費用◎○△▲△———————————————————————-Page4882あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(16)開始となった製品はすべてのSCLに使用可能であり,使用方法も比較的簡便なことから,アカントアメーバに対する優れた消毒効果からも,その有用性が見直されるべきであろう.4.StandAlone(スタンドアロン)試験とは?MPSの消毒効果を把握するうえで,SCL消毒評価試験(ISO14729standardduringdevelopmentoftheproducts),いわゆる“スタンドアロン試験”について知っておく必要がある.スタンドアロン試験とは,CL感染の原因となりやすい5菌種〔細菌3株:緑膿菌(ATCC9027),黄色ブドウ球菌(ATCC6538),セラチア(ATCC13880),真菌2株:カンジダ(ATCC10231),フザリウム(ATCC36031)〕を対象に消毒効果を評価するもので,第一・第二の2つの基準がある.第一基準では,一定時間で細菌を3log(1/1,000)に,真菌を1log(1/10)に減少させることが要求され,合格すれば“コンタクトレンズ消毒液”として認められる.第一基準に合格しなかった場合には,第二基準で判定される(図2)が,細菌に対する最低限の消毒効果(3種類の細菌に対し1log以上で,かつその和が5log以上)と真菌を増殖させないとの条件をクリアする必要がある.これを満たせば,さらに擦り洗い試験(十分な擦り洗いとすすぎを併用することにより,レンズ上の微生物が除去できるかを確認する試験)を行い,合格すれば初めて表3洗面所の汚染状況菌種分離株数細菌グラム陰性桿菌Pseudomonas属Klebsiella属Sphingomonas属Flavimonas属Acinetobacter属Serratia属Stenotrophomas属他のグラム陰性桿菌2913131075521計103株グラム陽性桿菌Bacillus属Corynebacterium属他のグラム陽性桿菌12623計41株グラム陽性球菌Micrococcus属Streptococcus属他のグラム陽性球菌1355計23株真菌糸状菌Penicillium属Aspergillus属同定不能な糸状菌201592計127株酵母様真菌Candida属同定不能な酵母様真菌127計28株その他アカントアメーバ4株Multi-purposesolutionMPDSMulti-purposedisinfectingsolution3log1log5log図2ISO/FDAスタンドアロン基準———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009883(17)6.レンズケースの管理「擦り洗い」などに比べて,意外に見過ごされているのがレンズケースの管理である.最近の調査でも,適切なCLケアを行っているユーザーのほとんどがレンズケースのケア(管理)を行っていない事実が浮かび上がっている.一般に,レンズケースの汚染率は4080%とされるが,これはおもにCLケアを行う場所が洗面所であることに起因している可能性もある.筆者らが行った洗面所の環境菌調査では,細菌,真菌ともに検出率はほぼ100%で,ほとんどの調査においてグラム陰性桿菌や“コンタクトレンズ消毒システム”として認められる.5.保存つぎの装用までの間,CLの恒常性,清浄性を維持しつつ,レンズケース内に保管するステップである.通常,オーバーナイトとなるが,万一,レンズケース内に微生物が生息している場合にはCLが汚染する危険性が高くなる.表4主要SCL消毒液の組成分類製品名メーカー消毒薬洗浄成分緩衝剤MPSレニューマルチプラスBausch&Lomb1.1ppmPHMBHYDRANATE,ポロキサミンホウ酸,リン酸コンプリートアミノモイストAMO1ppmPHMBポロクサマーリン酸エピカコールドメニコン1ppmPHMBPOE硬化ヒマシ油()オプティフリープラスAlcon11ppmPolyquadポロキサミンクエン酸,ホウ酸バイオクレンワンオフテクス1ppmPHMBポロクサマーホウ酸,リン酸フレッシュルックケア10ミニッツチバビジョン1ppmPHMBポロクサマーリン酸ロートCキューブソフトワンモイストロート1ppmPHMBポロクサマーリン酸過酸化水素剤製剤コンセプトワンステップAMO3.0w/v%過酸化水素()()エーオーセプトクリアケアチバビジョン3.42w/v%過酸化水素ポロクサマーリン酸ヨード製剤エファールオフテクス0.05%ポビドンヨードポロクサマーホウ酸分類製品名等張化剤その他の成分/中和剤MPSレニューマルチプラスNaClEDTA(安定化剤)コンプリートアミノモイストNaCl,KClHPMC(浸潤成分),EDTA(安定化剤),プロピレングリコール(保湿成分),蛋白分解酵素エピカコールドプロピレングリコール,フルーツ酸,AMPD,アミノ酸EDTA(安定化剤),プロピレングリコール(保湿成分),蛋白分解酵素オプティフリープラスNaClEDTA(安定化剤),蛋白分解酵素バイオクレンワンNaClEDTA(安定化剤),蛋白分解酵素フレッシュルックケア10ミニッツNaCl,KClEDTA(安定化剤),蛋白分解酵素ロートCキューブソフトワンモイストNaClHPMC(浸潤成分),蛋白分解酵素過酸化水素剤製剤コンセプトワンステップ()HPMC(浸潤成分),中和剤・カタラーゼエーオーセプトクリアケアNaCl中和・白金ディスクヨード製剤エファールNaClEDTA(安定化剤),中和・亜硫酸ナトリウム():無添加または不明.———————————————————————-Page6884あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(18)コーンハイドロゲルレンズの登場によりすべての問題がクリアされたわけではなく,その特性をよく理解したうえで処方することが必要である.表5に現在わが国において市販されているシリコーンハイドロゲルレンズの詳細をまとめる.シリコーンハイドロゲルレンズは,親水性のハイドロゲルと,疎水性で酸素透過性の高いシリコーンポリマーを重合した素材からなる.疎水性のシリコーンポリマーが表面に露出するため,各メーカーは水濡れ性を高めるべく表面処理に工夫を施している.疎水性で酸素透過性の高いシリコーンポリマーを重合したことにより水分中の蛋白質との結合は少なくなったが,一方で,脂質とは結合しやすくなった.このため,付着した脂質による撥水作用が生じ,くもりが生じることがある,また脂質汚れに起因するCPLC(contactlens-inducedpapillaryconjunctivitis)を起こしやすいとの報告もある.シリコーンハイドロゲルレンズは含水率が低くなるほど硬くなるため,従来のハイドロゲルレンズに比べて硬くなっているが,これによる高い形状保持能を通じて良好なセンタリングが得られる.他方,硬いレンズの宿命的な合併症であるSEALs(superiorepithelialarcuatelesions)やムチンボールの発生率が高いとことも念頭に置く必要がある.現在,シリコーンハイドロゲルレンズとMPSとの相性による一過性の角膜上皮障害が注目されている.特にPHMB系のMPSと特定のシリコーンハイドロゲルレン糸状菌を中心に数菌種が検出されており,レンズケースが汚染される条件は整っているといえる(表4).このように,HCLケースも含めたレンズケースはグラム陰性桿菌を主体とする環境菌の温床であり,ケース内に形成されたバイオフィルム内の細菌はMPSなどにより除菌することは困難となる.したがって,CL装用後にはケース内の液を捨てて洗浄し,よく乾燥させておくとともに,定期的に交換することが肝要である.IVCLアップデート日眼会誌(第109巻第10号)のCL診療ガイドラインのうち,第4章CLの適応と選択,第5章CL処方,第7章特殊なCL処方について,最近の話題を一括して解説したい.1.シリコーンハイドロゲルレンズ酸素透過性が高く,装用感にも優れる.欧米ではSCL処方の50%以上がシリコーンハイドロゲルレンズとなったとの報告もあり,今後,わが国においても第一選択として処方されていく可能性が高い.しかし,シリ表5わが国で市販されているシリコーンハイドロゲルレンズO2オプティクスエアー/オプティクスボシュロムメダリストプレミア[1週間連続装用](旧ピュアビジョン)ボシュロムメダリストプレミアアキュビューアドバンス装用期間1カ月終日1カ月連続2週間終日1週間連続2週間終日2週間終日製造者CIBAVISIONCIBAVISIONBausch&LombBausch&LombJohnson&Johnson素材lotalconAlotralconBbatalconAbalalconAgalylconA含水率2433363647Dk1401101019160Dk/t17513811010186アキュビューオアシスメニコン2WEEKプレミオ装用期間2週間終日2週間終日製造者Johnson&Johnsonメニコンプレミオ素材senolconA含水率3840Dk103129Dk/t147161———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009885ズの組み合わせにより角膜上皮障害が発生しやすいとの報告がなされており,装用後に違和感を訴える場合,レンズを外して角膜上皮の観察を注意深くする必要がある.現在のところ臨床的には問題となってはいないが,高度の角膜上皮障害を認めた場合には,消毒剤とレンズ,またはどちらかを変更する必要もある(図3).2.カラーコンタクトレンズいわゆるおしゃれ用度なしカラーCLで,一般名は,非視力補正用色付コンタクトレンズである.視力補正の目的ではないため,眼球に直接接触するにもかかわらず,医療機器の承認を受けていない雑貨として長らく取り扱われてきた.しかし,眼障害が多発したことから,国民生活センターが高度管理医療機器の承認を受けている2製品と受けていない12製品の安全性試験を行ったところ,承認を受けていないほとんどの製品では細胞毒性を認め,なかには色素や金属元素の流出する製品が認められた.これらの報告を受け,医療機器に指定することを定めた薬事法施行令の改正が閣議決定され,今年(平成21年)の11月からは,視力矯正用の度付きコンタクトレンズと同様,都道府県知事の許可がなければ販売できなくなり,販売店は管理者を置くことが義務付けられる.一方で,カラーCLは透明なCLに比べて眼障害の発生率が高いことや,アカントアメーバ角膜炎の発生例も報告されたこともあってか,昨年(平成20年)12月で従来型およびFRSCL型のカラーCLはすべて販売中止となり,現在承認を得ている製品はワンデータイプの2種類のみとなっている(表6).カラーCL処方時に注意しないといけない点として,表6でもわかるように酸化鉄や,酸化チタンなどの金属を着色剤として含有していることがある.添付文書にも注意喚起がなされているが,MRI(磁気共鳴画像)検査を受けると発熱による角膜や眼球への障害の可能性があるため,カラーCLをはずしてMRI検査を受けるよう指示することが必要である.3.オルソケラトロジーレンズオルソケラトロジー(オルソK)レンズは,“屈折異常を一時的に除去または軽減するためのRGPCL”と定義される.一般的名称は,角膜矯正用コンタクトレンズで,睡眠時に装用して角膜の形状を変化させることにより,日中の裸眼視力の向上を図る目的で使用される.オルソKの歴史は1962年に“Orthofocus”としてJessenが報告したことに始まり,現在では図4に示すように4つのカーブからなる第3世代のオルソKレンズへと移行している.わが国においても4種類のレンズ〔エメラルドレンズ(テクノピア),ドリームレンズ(アルファコーポレーション),コンテックスレンズ(ボシュロム),マウントフォードBE(エイコー)〕の治験がすでに終了(19)表6カラーCLに含有される着色剤着色剤ワンデーアキュビューディファインフレッシュルックデイリーズ酸化チタン○○酸化鉄○○アントラキノン系着色剤○酸化第二クロム○フタロシアニン系着色剤○図3MPSによる角膜上皮障害———————————————————————-Page8886あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009し,ドリームレンズが本年の2月に承認を受けた.これを受け,平成21年の日眼会誌(第113巻)の第6号に「オルソケラトロジー・ガイドライン」が掲載された.これまでは,眼科専門医によるオルソKの処方よりも並行輸入などによる非眼科医による処方が中心であり,小児などへの安易な処方から重大な合併症をひき起こすケースも散見された.そこでガイドラインでは,オルソKレンズが有効かつ安全に行われるようにまとめられている.詳細は日眼会誌のガイドラインを参照していただきたいが,重要点は処方者をオルソKレンズに精通している眼科専門医とし,適応者として患者本人の十分な判断と同意を得られることとして20歳以上とした点にある.また,禁忌または慎重処方症例としても,眼表面の詳細な検査のみならず,全身状態・疾患に対しても詳細にまとめ,処方前の十分なスクリーニングを求めている.今後は,ガイドラインのもと,眼科専門医によって承認を受けたレンズが適切に処方されることとなろう.以下に,オルソKの代表的処方例,合併症につき述べる.a.オルソKの処方処方時には,HCL,SCLともに23週間装用を中止する.ベースカーブ(BC)の決定方法は各種レンズに共通であり,BC=FlatK(弱主経線)からtargetpower(TP:目標矯正度数)とcompressionfactor(0.75D)を加えた値を引いた値となる.つまり,例)FlatK(弱主経線)=43.0Dtargetpower(TP:目標矯正度数)=3.0Dの場合BC=43.0(3.0+0.75)=39.25Dとなる.b.オルソKの合併症(1)角膜上皮障害:睡眠時に装用するため,閉瞼と涙液交換減少による低酸素状態は不可避であり,opticalzoneが常にレンズに接触しているため,角膜上皮障害が容易にひき起こされる.(2)角膜感染症:低酸素状態と角膜上皮障害は角膜感染症の重大なリスクファクターであり,不適切なレンズケアにより感染症の発生につながることがある.海外からはオルソKに起因したアカントアメーバ角膜炎の報告も多くなされており,十分な指導と観察が必要である.(3)Tightlenssyndrome:レンズのセンタリングを重視するあまりタイト気味に処方されたときに生じる.患者は,疼痛,羞明,充血,流涙を訴える.(4)不正乱視:睡眠時(閉瞼時)のCLのセンタリング不良により,不正乱視が起こる.(5)グレア:瞳孔径に比してopticalzoneが小さいときにグレアが生じることがある.夜間や黄昏時に問題となりやすい.(6)Dimpleveil:ルーズなフィッティングで,レンズ下に迷入した空気が泡状となってBC部後面に移動した場合,角膜上皮面に多数の点状陥凹が生じ,霧視をひき起こすことがある.VCL合併症CL装用に伴う眼合併症は,その病態から,CLのフィッティング不良,CLの汚染,酸素不足,ドライアイなどに分けられる.ガイドラインでは,結膜障害と角(20)FC:0.6mmAC:1.0mmBC:6mmPC:0.4mmオルソK用コンタクトレンズフィッティング白く染まっている部分が涙液層.図4第3世代オルソケラトロジーレンズのデザインAC:Alignmentcurve,BC:Basecurve,FC:Fittingcurve,PC:Peripheralcurve.(吉野健一:オルソケラトロジー.あたらしい眼科20:465-470,2003より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009887膜障害に分けて記載されているが,ここではよりプラクティカルな立場からおもな合併症についてのみ解説する.1.CLのフィッティング異常SEALs(superiorepithelialarcuatelesions)(図5):別名,epithelialsplittingともよばれる.SCL装用者にみられる弓状の上皮びらんで,角膜上方,輪部から12mm離れた部位にみられる.異物感を伴うこともあるが,無症状のなか,定期検査で発見されることも多い.SCLの変形,素材の固さ,角膜周辺部とレンズのフィッティング不良などが原因と考えられている.中止すれば23日で治癒するが,CL処方の変更を考慮する必要がある.シリコーンハイドロゲルレンズでは従来のSCLより素材の硬い製品が多く,SEALsの発症頻度が高くなる可能性がある.2.CL汚染CL関連角膜感染症不適切なレンズケア,過剰装用などが原因となり,環境菌や常在菌による感染が生じる.CLユーザーの増加に伴って急増中であり,若年層に多発する点で,大きな社会的問題ともなりつつある.(1)細菌性角膜炎:起炎菌として頻度が高いのは緑膿菌,セラチアなどのグラム陰性桿菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)を主体とするブドウ球菌属である.前者はレンズケース内の微生物汚染を介して,後者は過剰装用に伴う上皮障害をベースに生じる.なかでも,緑膿菌感染は最も炎症所見が強く,輪状膿瘍と強い実質浮腫をきたすため注意が必要である(図6).角膜擦過物あるいはレンズケースなどを培養して起炎菌を同定するとともに,ニューキノロン系を軸とした抗菌薬の点眼を行う.(2)アカントアメーバ角膜炎:レンズケアのルーズなCL装用者に生じ,近年,増加傾向を示している.初期像として,多発性の斑状角膜上皮下浸潤,偽樹枝状角膜炎,放射状角膜神経炎などが特徴的で,進行すれば輪状浸潤,円板状浸潤に至る(図7).レンズケース内で増殖したアカントアメーバがCLを介して角膜に侵入し,薬(21)図5SEALs6緑膿菌図7アカントアメーバ———————————————————————-Page10888あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009剤抵抗性の強いシストとして角膜に残存するため難治となる.特効薬はなく,角膜掻爬,抗真菌薬およびクロルヘキシジンやPHMB(polyhexamethylenebiguanide)などの抗シスト薬(消毒薬)の点眼により治療する.3.ドライアイLid-wiperepitheliopathy(LWE)(図8):2002年,Korbにより初めて記載された疾患で,眼瞼縁結膜に特異な帯状の染色所見を認める.CL装用者に好発し,ドライアイ症状を訴えるが,発症には瞬目による摩擦が関与していると考えられている.図8に示すようにLWEは上眼瞼のみならず下眼瞼にも認められ,無症状であることも多い.しかし,無症状でも下眼瞼にLWEを認める患者がCLを装用するとLWEが悪化し,症状を訴えることもあるためCL処方前に眼瞼結膜の状態も観察することが重要である.治療にはCL装用の中止が必要だが,症状が軽い場合は,ヒアルロン酸あるいは人工涙液の点眼で改善することもある.おわりに以上,「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の読み方と題して,おもに最近の知見を中心に解説した.ガイドライン制定時から診療環境は大きく変化しており,今後のバージョンアップは急務である.なお,誌面の都合上,最終章の基礎知識については割愛させていただいた.(22)図8Lidwiperepitheliopathy