———————————————————————- Page 1(77)ツꀀ 12350910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀ 19回 日本緑内障学会 原著》 あたらしい眼科 26(9):1235 1238,2009cはじめに2001 年に行われた多治見スタディの結果,40 歳以上の緑内障の有病率は 5.0%であり,年齢が高くなるほどその有病率は上昇する傾向のあることが示された1).多治見スタディにおいては,緑内障のスクリーニング法の一つとして眼底カメラにより得られた平面のデジタル眼底像が用いられているが,一般的には緑内障を診断する目的における視神経乳頭の観察には立体観察がゴールドスタンダードであると考えられている2).しかしながら実際の臨床の現場においては,眼底を常に立体的に観察することは,散瞳の手順などを考えればやや煩雑であり,特に視神経乳頭を立体写真像として記録しそれを立体的に解析することは現時点ではルーチンに行われ〔別刷請求先〕高木誠二:〒153-8515 東京都目黒区大橋 2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprint requests:Seiji Takagi, M.D., Department of Ophthalmology, Toho University Ohashi Medical Center, 2-17-6 Ohashi, Meguro-ku, Tokyo 153-8515, JAPAN視神経乳頭陥凹の立体視判定と平面視判定の比較高木誠二富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科/東邦大学医学部眼科学第二講座Comparison of Stereoscopic and Monoscopic Evaluations of Optic Disc TopographySeiji Takagi and Goji TomitaDepartment of Ophthalmology, Toho University Ohashi Medical Center/Second Department of Ophthalmology,ツꀀ Toho University School of Medicine目的:C/D 比(陥凹乳頭比)の判定には,通常,立体像による立体的観察により判定されるが,平面像から判定した C/D 比が立体像を用いたそれと大きく異なるのか否かについては,不明な点もある.今回筆者らは正常眼と緑内障眼においてオート無散瞳カメラを用いて C/D 比の判定を立体視と平面視で行った.対象および方法:無散瞳孔眼底カメラ AFC-210(NIDEK 社)のステレオ撮影モードにて正常 40 眼,緑内障 40 眼を撮影し,ファイリングシステムNAVIS-Lite を用いて,マウスで視神経のトレーシングを行い C/D 比(垂直,水平および面積比)を測定した.1 人の検者が 2 週間隔で平面視と立体視(ステレオビューワ装用)の測定を 2 回ずつ行い,平面視と立体視における C/D 比測定の再現性および値の差異を解析した.結果:C/D 比は,緑内障眼における水平 C/D 比を除き,平面視と立体視の間で有意な差はなく,級内相関係数は 0.72 0.92 であり,平面視,立体視とも測定再現性は良好であった.結論:視神経乳頭の計測に関しては,平面視と立体視で大きな違いを認めなかった.Weツꀀ investigatedツꀀ theツꀀ di erencesツꀀ betweenツꀀ stereoscopicツꀀ andツꀀ monoscopicツꀀ opticツꀀ discツꀀ assessmentsツꀀ usingツꀀ digital optic disc images taken by a non-mydriatic fundus camera. Stereo-digital optic disc photographs were taken of 40 eyesツꀀ withツꀀ glaucomaツꀀ andツꀀ 40ツꀀ eyesツꀀ ofツꀀ normalツꀀ volunteers,ツꀀ usingツꀀ aツꀀ digitalツꀀ fundusツꀀ camera(AFC-210,ツꀀ NIDEKツꀀ Ltd., Japan)with a software package that enables the operator to de ne the optic disc parameters(vertical and horizon-talツꀀ cup/discツꀀ ratiosツꀀ andツꀀ cupツꀀ area/discツꀀ areaツꀀ ratio).ツꀀ Aツꀀ maskedツꀀ observerツꀀ measuredツꀀ theツꀀ opticツꀀ discツꀀ parametersツꀀ stereo-scopicallyツꀀ andツꀀ monoscopically,ツꀀ twiceツꀀ each,ツꀀ onツꀀ separateツꀀ occasions.ツꀀ Intra-observerツꀀ reproducibilityツꀀ ofツꀀ measurements wasツꀀ assessedツꀀ usingツꀀ intraclassツꀀ correlationツꀀ coe cients(ICC);measurementツꀀ di erencesツꀀ betweenツꀀ stereoscopicツꀀ and monoscopicツꀀ evaluationsツꀀ wereツꀀ assessedツꀀ viaツꀀ theツꀀ pairedツꀀ t-test.ツꀀ Thereツꀀ wasツꀀ noツꀀ signi cantツꀀ di erenceツꀀ inツꀀ cup/discツꀀ ratio measurements between the stereoscopic and monoscopic observations, excepting horizontal cup/disc ratio in glau-comatous eyes. Intra-observer reproducibility of measurements was excellent in both stereoscopic and monoscopic evaluations(ICC=0.72 0.92).ツꀀ Inツꀀ measurementツꀀ ofツꀀ opticツꀀ discツꀀ cupping,ツꀀ thereツꀀ mayツꀀ beツꀀ noツꀀ signi cantツꀀ di erences between stereoscopic and monoscopic observations.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1235 1238, 2009〕Key words:陥凹乳頭径比,乳頭トポグラフィ,再現性,緑内障.cup/discツꀀ ratio,ツꀀ glaucoma,ツꀀ reproducibility,ツꀀ optic disc topography.———————————————————————- Page 21236あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(78)ていないのが現状といえる.視神経乳頭を立体解析する際の問題点として,まず,検者が像を立体視するためには特殊なミラーや装置などが必要なことがあげられる.また,眼底像の評価は検者の主観であり,立体視により高い診断力が得られたと報告しているのは通常は緑内障のエキスパートとされるグループからである2).したがって立体視により視神経乳頭を観察しても,エキスパートとそうでないものでは差がある可能性は高い.そういった意味では緑内障をスクリーニングするうえで,立体眼底像を解析することが平面像を解析する場合と比較してどれほどのメリットをもたらすかは不明な点も残っている3).今回筆者らは,陥凹乳頭径比(C/D 比)などの乳頭陥凹パラメータが判定可能なプログラムが付属しているオート無散瞳眼底カメラを用いて,正常眼と緑内障眼において,視神経乳頭の撮影を行い,平面と立体視での視神経乳頭パラメータの比較を行い,視神経乳頭陥凹を平面的に解析した場合と立体像を立体視して解析した場合の違いについて若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,2008 年 2 月 3 月までの 1 カ月間に東邦大学医療センター大橋病院眼科に受診した原発開放隅角緑内障(広義)患者 32 例 40 眼(平均年齢 64 歳,男性 17 例,女性 15例)と眼科医局員や看護師を中心とした正常ボランティア25 例 40 眼である(平均年齢 48 歳,男性 15 例,女性 10 例).緑内障の診断は,垂直 C/D 比が検眼鏡にて 0.7 以上で明らかな乳頭辺縁部萎縮か,あるいはそれに加えて,網膜神経線維層欠損が認められ,変化に一致した部位に通常の自動視野計にて視野欠損を認めた場合とした.正常眼の定義は,細隙灯顕微鏡,検眼鏡にて異常所見がなく,Humphrey 自動視野計のプログラム SITAツꀀ 24-2 にて,Anderson の緑内障判定基準4)に合致する異常点がなく,緑内障半視野テストにて正常と判定された場合とした.本研究は東邦大学医療センター大橋病院倫理委員会の承認を受け,被検者には研究の目的などを十分に説明したうえでインフォームド・コンセントを得た.眼底撮影には NIDEK 社の無散瞳眼底カメラ AFC-210 を使用した(図 1).正常ボランティアにおいては基本的に 1 例2 眼,緑内障患者においては乳頭陥凹の大きい側を撮影し,両眼同程度の場合は両眼撮影した.なお,白内障や眼球運動などで眼底写真の鮮明度が低い眼や立体観察が困難であった眼は除外した.視神経乳頭を中心に置いてステレオ撮影モードにて立体視角を 2 mm として 2 ショット撮影した.ついで,カメラに付属している画像解析プログラム(NAVIS-Lite)にてステレオ観察用画像を作成した(図 2a).立体観察は付属のステレオビューワを用いて行った(図 2b).乳頭陥凹パラメータは,検者がマウス操作にて乳頭縁と陥凹縁を決定すると自動的に算出される(図 3).今回,1 人の検者(S.T.:緑図 1無散瞳眼底カメラAFC 210の外観ツꀀ 図 2乳頭の立体観察a:眼底カメラに付属する画像解析プログラム(NAVIS-Lite)にて作成されたステレオ観察用画像.b:立体観察は付属のステレオビューワを用いて行う.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091237(79)内障専門 3 年目)が 2 週間隔で平面視(ステレオ観察用画像のうち片方の画像を使用)と立体視(ステレオビューワ使用)における測定を,解析対象眼の情報がわからない状態で交互に 2 回ずつ行い,平面視と立体視における乳頭陥凹パラメータの判定の再現性と結果の差異を検討した.乳頭径,陥凹径,陥凹面積は画素数で表示され,眼の屈折による画像拡大の補正は行われないため,今回の評価には,垂直および水平C/D 比,陥凹・乳頭面積比(以下,面積比)を用いた.測定再現性の解析は,級内相関係数(ICC)を算出して行った.平均値の差の検定には,対応のある t 検定を用いた.有意水準は p<0.05 とした.II結果1. 平面視における測定再現性(表 1)全眼における平面視の 1 回目と 2 回目の測定結果の平均値は, 垂 直 C/D 比 で, そ れ ぞ れ 0.75,0.76 で あ り,ICC は0.87 であった.水平 C/D 比では,同じく 0.75,0.71,ICC=0.72 であり,面積比は,0.56,0.53,ICC=0.81 であった.緑内障眼と正常眼に分けて解析すると,正常眼では ICC はすべてのパラメータで 0.85 以上であり,良好な再現性があったが,緑内障眼では水平 C/D 比において ICC が 0.66 であり,他と比べて低かった.2. 立体視における測定再現性(表 2)全眼における平面視の 1 回目と 2 回目の測定結果の平均値±標準偏差は,垂直 C/D 比で,それぞれ 0.71,0.72 であり,ICC は 0.88 で あ っ た. 水 平 C/D 比 で は, 同 じ く,0.71,0.71,ICC=0.83 であり,面積比は,0.50,0.53,ICC=0.86であった.緑内障眼と正常眼に分けて解析すると,正常眼,緑内障眼とも,ICC はすべてのパラメータで 0.80 以上と良好な再現性があった.3. 平面視と立体視における測定結果の比較(表 3)各眼における 2 回の測定の平均値について,平面視と立体視の測定結果に違いがあるか検討した.全眼において,垂直図 3乳頭陥凹パラメータ乳頭陥凹パラメータは,検者がマウス操作にて乳頭縁と陥凹縁を決定すると自動的に算出される.表 1平面視における測定再現性1 回目平均値2 回目平均値ICC全体眼垂直 C/D 比0.750.760.87水平 C/D 比0.750.710.72面積比0.560.530.81正常眼垂直 C/D 比0.650.650.89水平 C/D 比0.630.620.88面積比0.420.430.87緑内障眼垂直 C/D 比0.820.810.86水平 C/D 比0.840.740.66面積比0.660.620.75 ICC:級内相関係数.表 2立体視における測定再現性1 回目平均値2 回目平均値ICC全体眼垂直 C/D 比0.710.720.88水平 C/D 比0.710.710.83面積比0.500.530.87正常眼垂直 C/D 比0.610.620.89水平 C/D 比0.590.600.90面積比0.400.380.88緑内障眼垂直 C/D 比0.810.810.87水平 C/D 比0.820.810.82面積比0.650.650.85 ICC:級内相関係数.表 3平面視と立体視における測定結果の比較平面視立体視差の SDp値全体眼垂直 C/D 比0.760.750.050.16水平 C/D 比0.740.700.080.02面積比0.540.510.050.11正常眼垂直 C/D 比0.650.640.040.23水平 C/D 比0.630.610.040.21面積比0.430.410.040.26緑内障眼垂直 C/D 比0.810.800.060.12水平 C/D 比0.830.810.10<0.01面積比0.640.650.070.18 対応のある t-検定.———————————————————————- Page 41238あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(80)C/D 比,面積比においては平面視と立体視で測定値に差はなかったが,水平 C/D 比において,平面視 0.74,立体視0.70 であるが有意に平面視が大きい値であった(p=0.02).正常眼と緑内障眼別に解析すると,正常眼においては,平面視と立体視で差はなかったが,緑内障眼においては,水平C/D 比が,平面視で 0.83,立体視で 0.81 であり,平面視で有意に大きな値となった(p<0.01).III考按今回筆者らは,眼底写真において,視神経乳頭陥凹を一人の検者が平面的に解析した場合と立体像を立体視して解析した場合の違いについて検討した.その結果,緑内障眼,正常眼を合わせた全眼においては,垂直および水平 C/D 比,面積比のすべてで,平面視と立体視の間で有意な差はなかった.級内相関係数は平面視の水平 C/D 比が 0.7 であった以外,すべて 0.8 以上であり,測定再現性は良好であった.また,緑内障眼と正常眼に分けて検討した場合でも,緑内障眼における平面視の水平 C/D 比においてのみ,ICC が 0.66 であり,他と比べて再現性が低く,測定値も平面視で 0.83,立体視で 0.81 であり,平面視で統計学的に有意に大きな値となったものの,他のパラメータにおいては,平面視と立体視で測定再現性に差はなく,測定値にも差はなかった.一般的に,乳頭陥凹は三次元的構造をしており,陥凹の深さと広がりを確認するためには,それを立体的に観察することが最も適切であると考えられる.しかしながら日常臨床の場において,眼底を常に立体的に記録しそれをさらに立体的に解析して診断に応用することは,特殊な研究目的以外には装置やコストの面も含めて容易ではない.一方,眼底を平面的に記録することは通常行われており,カルテへの添付も電子カルテも含めて容易である.また,人間ドックなどで行われる眼底写真検査も,ほぼすべて平面的な眼底写真であり,多治見スタディにおいても平面写真をもとに一次スクリーニングが行われている.さらに,視神経乳頭を立体的に観察することが,緑内障を診断するうえで平面的に解析する場合と比べて明らかに優れているというエビデンスを示した結果は比較的少なく,逆にメリットはほとんどないという報告もある3).Morgan ら5)は,彼らが開発した立体ステレオ眼底像解析ソフトを用いて,3 人の検者が視神経乳頭を平面的に解析した場合と立体画像を解析した場合を比較検討している.この結果,平面視においても立体視においても検者間の測定一致度は級内相関係数における解析において良好であったが,立体視では 3 人の検者間においてすべて 0.7 以上とより良好であったと報告している.しかしながら,同一検者において,平面視と立体視での測定結果の違いについては言及していない.今回の筆者らの結果では,緑内障眼に対する水平C/D 比の測定において,平面視と立体視で測定値が有意に異なり,平面視の測定再現性が低かった.このことは,血管走行から陥凹縁を判断する平面視での測定の弱点かもしれない.緑内障性乳頭陥凹の判定には垂直 C/D 比がより重要視されているが,耳側の乳頭陥凹には黄斑部の視野障害の原因となる部分も含まれているので,平面視にて判定する場合はこの点に注意して判定する必要があると考えられた.今回使用した眼底カメラは,通常のカメラバックは付いておらず,得られた眼底写真はすべてデジタル画像としてコンピュータ内に記録される.デジタル眼底写真は,画像を構成する画素数に像の解像度が影響され,従来のいわゆるアナログ写真と比べて,細部の構造の鮮明度が落ちる懸念もある.しかしながら,本眼底カメラは 1,280 万画素の高精細なデジタル眼底画像を得られることができ,画像の鮮明性に関しては問題なかったと考える.また,立体視角が常に 2 mm と一定にすることができ,標準性のあるステレオ画像の作成が可能であった.以上,結論として,乳頭陥凹の判定において,平面視と立体視の間で測定再現性,測定結果ともに,少なくとも 1 人の検者が判定するうえでは大きな違いは見出せなかったが,乳頭内の血管走行が判定しにくいような部位がある場合は,測定にばらつきが出る可能性はあると思われた.そのため,適切 な 間 隔 で の 立 体 視 あ る い は HRT(Heidelbergツꀀ retina tomograph)や OCT(光干渉断層計)などの機器を使用した立体的な観察による判定も必要であると考えられた.文献 1) Iwase A, Suzuki Y, Araie M et al:The prevalence of pri-mary open-angle glaucoma in Japanese:the Tajimi Study. Ophthalmology 111:1641-1648, 2004 2) Caprioliツꀀ J:Clinicalツꀀ evaluationツꀀ ofツꀀ theツꀀ opticツꀀ nerveツꀀ inツꀀ glau-coma. Trans Am Ophthalmol Soc 92:590-641, 1994 3) Parkinツꀀ B,ツꀀ Shuttleworthツꀀ G,ツꀀ Costenツꀀ Mツꀀ etツꀀ al:Aツꀀ comparison of stereoscopic and monoscopic evaluation of optic disc topographyツꀀ usingツꀀ aツꀀ digitalツꀀ opticツꀀ discツꀀ stereoツꀀ camera.ツꀀ Brツꀀ J Ophthalmol 85:1347-1351, 2001 4) Andersonツꀀ DR,ツꀀ Patellaツꀀ VM:Automatedツꀀ Staticツꀀ Perimetry. 2nd ed, p152-153, Mosby, 1999 5) Morganツꀀ JE,ツꀀ Sheenツꀀ NJL,ツꀀ Northツꀀ RVツꀀ etツꀀ al:Digitalツꀀ imaging of the optic nerve head:monoscopic and stereoscopic analysis. Br J Ophthalmol 89:879-884, 2005***