———————————————————————-Page11126あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)1126(120)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(8):11261130,2009cはじめに網膜虚血が発症の主因である血管新生緑内障(NVG)の治療は網膜光凝固(PC)が基本である.しかしながら,硝子体出血が存在する場合は眼底が透見できず,汎網膜光凝固はできない.出血の吸収が長引けば,その間にNVGが進行する可能性もある.したがって,このような場合は硝子体手術を施行する必要がある1).NVG患者では硝子体および前房水中の血管内皮増殖因子(VEGF)濃度が上昇2)し,隅角新生血管の形成に関与しているため,抗VEGF薬であるbevacizumabの硝子体内注射(IVB)はNVGの治療として有効35)とされている.また,IVBは硝子体出血の吸収を速めると報告6)されている.このように,IVBは硝子体出血を伴ったNVGに有効である可能性があり,IVBは硝子体手術と比較し患者負担が少ないと予想される.今回筆者らは,硝子体出血を伴ったNVG症例に対してIVBを行ったので,その効果を報告する.〔別刷請求先〕北善幸:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科Reprintrequests:YoshiyukiKita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter,2-17-6Ohashi,Meguro-ku,Tokyo153-8515,JAPAN硝子体出血を伴った血管新生緑内障に対するBevacizumabの硝子体内注射の効果北善幸高木誠二北律子富田剛司東邦大学医療センター大橋病院眼科/東邦大学医学部眼科学第二講座IntravitrealBevacizumabintheTreatmentofNeovascularGlaucomawithVitreousHemorrhageYoshiyukiKita,SeijiTakagi,RitsukoKitaandGojiTomitaDepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter/SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine硝子体出血を伴った血管新生緑内障(NVG)3例3眼に対してbevacizumabの硝子体内注射(IVB)〔1.25mg(0.05ml)〕を行ったのでその効果を報告する.NVGのstageはpreglaucomastageが2眼,open-angleglaucomastageが1眼であった.経過観察期間は9.0±2.9カ月であった.IVB直前の眼圧は平均20.7±2.5mmHg.IVB後,平均16.3±1.7mmHgに低下した.IVB後1カ月の時点で,隅角新生血管はすべての症例で消失した.2眼は硝子体出血も消失し網膜光凝固ができ硝子体手術を回避できた.1眼は,硝子体出血が消失せず硝子体手術が必要となった.硝子体出血を伴ったNVGに対するIVBは,眼圧下降効果と硝子体出血の吸収促進効果が期待でき,有効な治療法として検討に値すると思われた.Wereporttheeectofintravitrealbevacizumab(IVB)〔1.25mg(0.05ml)〕in3patients(3eyes)intreatingneovascularglaucoma(NVG)withvitreoushemorrhage.TheNVGstagewaspreglaucomain2eyes,andopen-angleglaucomastagein1eye.Thenalfollow-upperiodwas9.0±2.9months.Theaverageintraocularpressure(IOP)justbeforeIVBwas20.7±2.5mmHg.IOPreducedtoanaverageof16.3±1.7mmHgafterIVB.At1monthoffollow-up,completeregressionofNVGwasseeninallcases.In2eyes,vitrectomycouldbeavoidedthankstovitreoushemorrhageregression,enablingadjuvantretinalphotocoagulation.Vitrectomywasnecessaryinoneeyefortheincompleteresolutionofvitreoushemorrhage.IVBresultedinmarkedregressionofvitreoushemorrhageandledtorapidIOPreductioninNVGwithvitreoushemorrhage.IVBshouldbeconsideredaneectivetreatment,andmaybeusedadjunctivelyinmanagingNVGwithvitreoushemorrhage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11261130,2009〕Keywords:bevacizumab,血管新生緑内障,硝子体出血.bevacizumab,neovascularglaucoma,vitreoushemor-rhage.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091127(121)I対象および方法2007年2月6月までの期間に東邦大学医療センター大橋病院で硝子体出血を伴ったNVGのためIVBを施行した3例3眼を対象とした.IVBの適応は,PCが不可能な程度の硝子体出血を伴ったNVGで,硝子体出血が消失しPCの追加治療をすることによって眼圧コントロールができる可能性があり,眼底の状態からも硝子体手術の必要性が少ないと判断した症例とした.Closed-angleglaucomastageのNVGは適応外とした.内訳は,男性2例2眼,女性1例1眼で,年齢は平均54.3歳であった.硝子体出血の原因疾患は増殖糖尿病網膜症(PDR)が2眼,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)が1眼であった.NVGstageはpreglaucomastageが2眼,open-angleglaucomastageが1眼であった.IVB直前の眼圧(平均±SD)は20.7±2.5mmHgであった.IVBは本院倫理委員会の承認を得て文書によるインフォームド・コンセントを取得のうえ,施行した.手術室において術野をポビドンヨードで消毒した.そして,結膜下麻酔を施行し,32ゲージ針を用いてbevacizumab1.25mg(0.05ml)を角膜輪部から3.5mm後方の毛様体扁平部より硝子体内に注射した.眼圧調整の目的で前房穿刺を行った.IVB前後の隅角鏡検査による隅角所見およびGoldmann圧平眼圧計による眼圧を比較した.また,硝子体出血の消退を診察した.眼圧測定は注射後1日目と注射後1カ月までは1週間おきに施行し,その後は23週間おきに施行した.II症例と経過〔症例1〕70歳,女性.主訴:左眼視力低下.現病歴:左眼CRVO(図1)の診断のもと7カ月前に組織プラスミノーゲンアクチベーターの硝子体内注射施行.その後,来院しなくなった.数日前から主訴出現し来院した.眼所見:視力右眼(1.2×cyl1.50DAx90°),左眼30cm指数弁.眼圧右眼16mmHg,左眼20mmHg.左眼隅角および虹彩新生血管(図2)を認め,周辺虹彩前癒着(PAS)はなかった.硝子体出血のため,眼底は透見不能であったが,超音波検査では網膜離を認めなかった.経過:左眼CRVOによる硝子体出血を伴ったNVG(pre-glaucomastage)と診断し,IVBを施行した.IVB前の眼圧は20mmHgであった.IVBから1週間後眼圧14mmHgになり,24日後には眼圧は13mmHgに下降し,隅角新生血管は減少し,硝子体出血も減少していた(図3a,b).そのため,汎網膜光凝固を開始した.1カ月後の眼圧は17mmHg,2カ月後の眼圧18mmHgであった.10カ月後,左眼視力(0.08×2.00D),眼圧は降圧剤の点眼なしで18mmHg.検眼鏡的には虹彩および隅角新生血管や硝子体出血の再発を認めない.〔症例2〕49歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:左眼のPDR,硝子体出血,NVG(preglaucomastage)のため,14カ月前に硝子体手術施行.術後,隅角および虹彩新生血管は消失していたが,術後9カ月目より,虹彩新生血管が出現した.眼圧上昇がないため,経過観察した.10日前より主訴出現し来院.眼所見:視力右眼(0.7×0.50D(cyl0.75DAx60°),左眼手動弁.眼圧右眼16mmHg,左眼18mmHg.左眼の虹彩と隅角に新生血管(図4)を認めたがPASはなかった.左眼白内障を軽度認めた.硝子体出血のため眼底は透見不可能であったが,超音波検査では網膜離を認めなかった.図1初診時眼底写真左眼に網膜中心静脈閉塞症がある.耳下側に光凝固が施行されている.図2前眼部蛍光造影(59秒)虹彩新生血管を認める.———————————————————————-Page31128あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(122)経過:左眼硝子体手術後の強膜創血管新生による硝子体出血が疑われ,硝子体出血を伴ったNVG(preglaucomastage)と診断した.1カ月間,経過観察したが改善しないのでIVBを施行した.IVB前眼圧16mmHg.IVBから1週間後眼圧20mmHgで硝子体出血は減少傾向があった.1カ月後の眼圧は18mmHgで隅角新生血管は消失した.2カ月後,眼圧18mmHg,硝子体出血は消失し汎網膜光凝固が不十分であったので,さらにPCを追加(415発)した.12カ月後,左眼視力(1.2×+0.25D(cyl0.75DAx90°),眼圧は降圧剤の点眼なしで19mmHg.硝子体出血や虹彩および隅角新生血管の再発を認めない.〔症例3〕44歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:左眼PDR,NVG(preglaucomastage)の診断のもと他院より紹介された.初診時所見:視力右眼(0.9×3.25D(cyl1.25DAx90°),左眼(0.05×3.00D(cyl1.25DAx90°).眼圧右眼14mmHg,左眼14mmHg.虹彩および隅角に新生血管を認めたが,PASはなかった.眼底は両眼PDRであった.経過:眼科的治療が未施行なので,PCを開始した.その3カ月後より硝子体出血が出現した(図5).その後,硝子体出血が増加,眼圧が24mmHgに上昇しNVGのopen-angleglaucomastageになった.以前のフルオレセイン蛍光眼底造影では黄斑部の虚血が強く視力改善には限界があり,牽引性網膜離がなかったのでIVBを予定した.注射前眼圧は2%カルテオロール塩酸塩(2%ミケランR)点眼液を点眼し24mmHg.IVBから1週間後眼圧は12mmHg,隅角新生血管は消失した.1カ月後の眼圧は14mmHg,硝子体出血は減少傾向を認めたが,PCの追加はできなかった.超音波検査では牽引性網膜離の出現はなかった.2カ月後,眼圧は14mmHg.5カ月後,眼圧は12mmHg,隅角および虹彩新生血管は消失したままであったが,硝子体出血が消失しない図3IVBから24日後a:フルオレセイン蛍光眼底造影(3分47秒):硝子体出血がほぼ消退した.無灌流域がある.b:前眼部蛍光造影(59秒):蛍光漏出が軽減している.図4前眼部蛍光造影(95秒)虹彩新生血管がある.図5眼底写真硝子体出血が出現してきている.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091129(123)ため,硝子体手術を施行した.III結果IVB後1カ月の時点で,検眼鏡的には隅角新生および虹彩新生血管の消失が全例にみられた.IVB後1カ月の眼圧は降圧剤の点眼治療なしで平均16.3±1.7mmHgとなり,全例で正常眼圧を保てた.硝子体出血は2眼で消失しPCができ硝子体手術が回避できたが,1眼は消退傾向があったがPCはできず硝子体手術が必要となった.経過観察期間(症例3は硝子体手術までの期間)は9.0±2.9カ月であり,この時点での眼圧は16.3±3.1mmHg,検眼鏡的に隅角および虹彩新生血管は消失したままであった.IVBによる眼局所および全身の合併症はなかった.IV考按一般的にNVGに対する治療は,隅角などの新生血管の活動性を弱め消退させることが第一であり,このため,いずれの病期にも赤道部を越える広範かつ高密度の汎網膜光凝固を実施することが重要である7).しかし,硝子体出血があるとPCができず硝子体手術を施行し術中にPCをするか網膜冷凍凝固をする必要がある.現在,硝子体出血を伴ったNVGに対しては,硝子体出血で十分なPCができない場合は早期の硝子体手術が必要とされている8).これはNVGを伴った糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績の報告8)で,術前が正常眼圧群は術後も96%が眼圧正常であったのに対し,術前が高眼圧群は術後に緑内障手術の追加をしても58%しか眼圧が正常にならず,眼圧上昇する前に硝子体手術をしたほうが術後の眼圧コントロールが良好であるためである.最近,IVBがNVGに対して使用され,隅角新生血管や虹彩新生血管が減少し,眼圧も下降したと報告35)されている.ただし,closed-angleglaucomastageでは,IVB後93%に緑内障手術が必要であったと報告9)されている.また,硝子体出血を伴うPDRに対し,SpaideらはIVBを施行し硝子体出血の吸収に有効であったと報告6)している.これらのことより今回は,硝子体出血を伴ったpreglauco-mastageおよびopen-angleglaucomastageのNVGに対して早期硝子体手術ではなくIVBを行った.IVB施行後,硝子体出血が消退するのを待つ間にPASが出現し房水流出路が閉塞し眼圧のコントロールが困難になることが危惧されたが,IVB後に隅角新生血管は消失し,眼圧は下降または維持でき,PASが出現することはなかった.そして,その間に3例中2例で硝子体出血が吸収し,PCの追加をすることができ,硝子体手術を回避することができた.今回の症例を初めから硝子体手術を施行した場合,佐藤らの報告8)のように,術後の眼圧コントロールは良好である可能性がある.ただ,一般的には硝子体手術は入院が必要であり,手術時間もIVBと比較して長く患者負担が少なくない.そのため,IVBは硝子体出血を伴ったNVGに対し,硝子体出血が消退する期間のNVGの進行を予防しPCを可能とすることより患者負担の少ない治療の一つになると思われた.この3例の内訳は,CRVOによる硝子体出血が1眼,PDRによる硝子体出血が1眼,PDRに対する硝子体手術後の硝子体出血が1眼であった.以前筆者らは硝子体手術後のNVGに対するIVBは,無硝子体眼であるため,bevacizum-abの半減期が短くなっており効果が十分ではないと報告10)したが,NVGがpreglaucomastageであれば無硝子体眼であっても効果が得られると思われた.PDRが原因の症例3においては眼圧下降やPASの出現の予防には有用であったが,硝子体出血の消退には効果がなく硝子体手術が必要となった.重症のPDRに対しIVBを行うと,膜の収縮を増強し牽引性網膜離が5.2%に生じた11)り,黄斑偏位が生じたと報告12)されているため,IVB後に経過観察することで牽引性網膜離が黄斑部に及び視力予後を不良にする可能性がある.症例3は初診時から黄斑部がフルオレセイン蛍光眼底造影上で虚血になっており,視力予後が不良であると考えられたためIVBを施行したが,牽引性網膜離は出現することはなかった.今後,硝子体出血を伴ったPDRにIVBを行う際には,IVB後に超音波検査で注意深く経過観察し,牽引性網膜離が出現または悪化するような場合は硝子体手術を施行する必要があり,また,黄斑偏位は超音波検査では判断が困難であるが,眼底検査を注意深く行い硝子体出血が減少し,黄斑偏位が疑われる場合は硝子体手術を施行する必要がある.今回はNVG症例であっても開放隅角で眼圧上昇がみられないか軽度の症例であったので,良好な経過をたどった例があったが,今後,どの程度までの眼圧上昇には有効であるかなど検討する必要がある.Bevacizumabの硝子体注射は1,000人に1人の確率で眼内炎などの危険が伴うと報告されている13)が,硝子体出血を伴ったNVGに対するIVBは慎重に症例を選べば,硝子体手術を回避し患者負担を減らすことができる非常に有用な方法と考えられた.文献1)松村美代:糖尿病網膜症による血管新生緑内障に取り組んで.眼紀58:459-464,20072)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19943)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20064)MasonJOIII,AlbertMAJr,MaysAetal:Regressionof———————————————————————-Page51130あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(124)neovascularirisvesselsbyintravitrealinjectionofbevaci-zumab.Retina26:839-841,20065)IlievME,DomigD,Wolf-SchnurrburschUetal:Intravit-realbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofneovascu-larglaucoma.AmJOphthalmol142:1054-1056,20066)SpaideRF,FisherYL:Intravitrealbevacizumab(Avas-tin)treatmentofproliferativediabeticretinopathycompli-catedbyvitroushemorrhage.Retina26:275-278,20067)佐藤幸裕:血管新生緑内障と汎網膜光凝固.眼科診療プラクティス3,レーザー治療の実際(田野保雄ほか編),p178-181,文光堂,19938)佐藤幸裕,佐藤わかば,李才源ほか:虹彩隅角新生血管を伴う糖尿病網膜症に対する硝子体手術の長期予後.眼紀49:997-1001,19989)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-albevacizumabtotreatirisneovacularizationandneovas-cularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasesin41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,200810)北善幸,高木誠二,北律子ほか:硝子体手術後に発症した血管新生緑内障に対しBevacizumab(AvastinR)の硝子体内注射を施行した4例.あたらしい眼科25:1719-1723,200811)ArevaloJF,MaiaM,FlynnHJretal:Tractionalretinaldetachmentfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthalmol92:213-216,2008,Epub26Oct200712)北善幸,佐藤幸裕,北律子ほか:Bevacizumabの硝子体内注射で硝子体手術時期が延期できた増殖糖尿病網膜症の1例.あたらしい眼科25:885-889,200813)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealbevaci-zumab.JOculPharmacolTher23:240-242,2007***