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未熟児の全身麻酔とインフォームド・コンセント

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSトを示す.1.無呼吸発作のリスク評価「早期産児では,麻酔後に無呼吸発作(post-operativeapnea)が頻発する」3)ため,早期産児の周術期管理は,無呼吸のリスクを極力減らす管理に集約される.無呼吸のリスク因子4)をあげ,各項目について述べる.a.受胎後週数受胎後週数(在胎週数+出生後週数)(post-conceptualage:PCA)が少ないほど無呼吸発作は頻発する.推奨される手術のタイミングは,受胎後4460週以降などはじめに未熟児〔=早期産児(formerpreterminfant)〕とは,在胎37週以前に生まれた児である.免疫系が未熟なため感染症に陥りやすい,脳室内出血をきたしやすい,無呼吸発作が頻発する,体温調節が未熟である,低血糖や高血糖に陥りやすい,凝固障害をきたしやすいなど,その管理は特別な配慮を要する1).しかし,早期産児は,健康な児から,たとえば在宅酸素療法が必要な慢性肺疾患を合併している超低出生体重児まで多種多様である.手術の必要性,全身状態の把握,麻酔について,眼科医・小児科医・麻酔科医により総合的に判断することは,安全に手術を行うためには必須である.周産期医療の発達により,早期産児の数は増加しており,こういった患児群が全身麻酔を受ける機会も増えている.本稿では,全身麻酔が予定された未熟児網膜症患児における術前評価,術中・術後の管理のポイントについて麻酔科医の視点から述べる.I術前評価早期産児の手術を円滑かつ安全に行うためには,麻酔科医へのコンサルテーションが有用である2).未熟児網膜症手術患児における,当院での手術施行までの流れを示す(図1).手術適応が決定されると,術前スクリーニングが行われ,まず小児科医が全身状態を評価する.その後,麻酔科医へコンサルトされ,手術の可否を決定する.以下に,麻酔科医の視点にたった術前評価のポイン(29)461aaa麻酔・46655065麻酔・特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):461466,2009未熟児の全身麻酔とインフォームド・コンセントGeneralAnesthesiaandInformedConsentfortheFormerPretermInfant矢野華代*西脇公俊*手術応の術前スクリーン血液心図部児受診症の診理など麻酔受診のの性症のコントールなど手術の麻酔麻酔診手術図1未熟児網膜症患児のコンサルテーションの流れ———————————————————————-Page2462あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(30)あるため,リスクを考慮したうえで手術を行う場合もある.手術適応が決定した時点で,かぜ症候群に関するリスクをインフォームド・コンセントすることは,より安全に手術を行うために大切であると考える.II術中管理円滑に手術を行うために,麻酔による全身管理だけでなく,術野を的確に確保するために気管チューブを固定・保護し,手術および麻酔によるストレスや合併症を最小限に抑えるよう努めている.1.無血野の確保未熟児網膜症手術は,眼球内手術であり,無血野が必要である.麻酔により出血を助長しない管理が重要となる.a.スムーズな麻酔導入と静かな覚醒咳や怒責が眼圧を上昇させるため,スムーズな麻酔導入と覚醒が望ましい.新生児や乳児はあやせば落ち着くため,前投薬を必要としないが,なるべく泣かさないように配慮する.b.良好な気道確保未熟児網膜症患児では,人工呼吸管理の既往がある場合が多い.声門下狭窄が潜在的に存在することを考慮し,細めの気管チューブを第一選択とし,エアーリークを見ながら適切なチューブサイズを決定する.最近,新と幅があり,一定していない.また,在胎週数もしくは出生後週数のどちらかでも少ないと,無呼吸の頻度は高くなる.一般には,受胎後週数60週以上が推奨されている.b.日常的に無呼吸発作があるかどうか健康な早期産児でも,睡眠中に呼吸が不規則になったり停止したりする.日常的に15秒以上続く無呼吸・無呼吸に徐脈を伴う患児では,リスクが高い.c.貧血ヘモグロビン値が10g/dl未満の場合,術後無呼吸を起こしやすい.鉄剤などを投与し,ヘモグロビン値が10g/dl以上になるまで予定手術を延期することが推奨される.d.中枢神経障害脳室内出血,痙攣,動静脈奇形,先天性中枢性低換気症候群など重篤な中枢神経障害を合併している患児は,リスクが高い.e.慢性肺疾患(chroniclungdisease:CLD)慢性肺疾患が重症なほど術後無呼吸発作を生じるリスクが高い.現在投与されている酸素濃度や酸素投与期間は,慢性肺疾患の重症度を知るうえでよい指標となる.人工呼吸管理をした日数,持続気道陽圧(continuouspositiveairwaypressure:CPAP)の必要性の有無なども指標となる.このうち,長期人工呼吸の既往のある患児では,肺障害だけでなく,声門下狭窄(subglotticstenosis)を合併している可能性がある5).正面および側面の頸部単純X線撮影により,声門下のみならず,鼻咽腔から喉頭,気管に至る気道の状態を評価することは重要である.2.かぜ症候群の評価かぜ症候群とは,呼吸器系,特に上気道から気管支に至る急性の炎症性変化に伴う症候群である.上気道感染がある場合,気道の過敏性が増強し,喉頭・気管支痙攣・無気肺・息こらえなどの合併症が数倍増加する.当院では,かぜスコア(表1)を使用し,手術の可否を判断している.気道の過敏性は数週間にわたって持続するため,発見後26週間は手術を延期する.しかし,これだけの延期は,家族の社会的負担を重くする可能性も表1乳幼児のかぜスコア項目(各1点)1.鼻閉・鼻汁・くしゃみ2.咳漱・喀痰・嗄声3.咽頭発赤・扁桃腫脹4.呼吸音異常5.発熱(乳児38.0℃,幼児37.5℃以上)6.食思不振・嘔吐・下痢7.胸部X線写真異常8.白血球増多(乳児12,000/mm3,幼児10,000/mm3以上)9.かぜの既往(入院前2週間以内)10.年齢因子(生後6カ月未満)かぜスコア02点健常群通常どおり麻酔実施34点境界群十分な麻酔管理と合併症への対策の準備5点以上危険群麻酔中止すべき———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009463(31)チューブの深さが変わる可能性がある.手術体位を確立した後は,聴診して,気管チューブの位置を再確認しておく.2.手術操作による弊害a.気管チューブの保護手術中,気管チューブは覆布に隠れてしまう.術者の手や手術器具などが患児の口元に当たると,気管チューブが屈曲する,気管チューブと麻酔器との接続が外れるなどして,換気不全に陥る可能性がある.患児の口元を保護するため,当院では‘顔面保護器’(図4)を使用している.この器具により,患者の口元周辺に空間ができるため,万が一術中にチューブトラブルが発生しても,麻酔科医は対処しやすい.術中に使用する灌流液は,覆布に取り付けられた袋に回収される.袋の重みにより,頭部が動きやすい.早期産児では,頭部のちょっとした回転により気管チューブがずれてしまう可能性がある.この重みを軽減するため,回収した灌流液を持続吸引している(図5).b.低体温未熟児網膜症手術では,手術前後に眼内検査を行うことが多い.眼底検査や超音波による検査では,かけ水やスコピゾル点眼液を用いるが,頻回の点眼により頭部が濡れる.また,術中の灌流液が覆布を伝って,頭部を濡生児用カフ付き気管チューブが発売され,適切なサイズを決めるまで挿管をくり返す必要がなくなった.c.良好な患児の手術体位早期産児では,左右どちらかに顔を向けて寝ていることが多い.この影響のため,後頭部が張り出し,横径より縦径が長い特徴的な頭部の形(図2)となり,良好な手術体位を取ることがむずかしい.肩枕を入れ,頭頂部を円座で固定すると,まっすぐ正面を向いた顔位となる(図3).頭部の位置は挿管したときと異なるため,気管AB図2未熟児網膜症患児の頭部後頭部が張り出し,横径が縦径より短いのが特徴である.A:上から見る,B:頭頂部から見る.図3手術体位肩の下に枕を挿入し,後頭部がすっぽり入る大きさの円座(やや大きめのもの)で安定を図る.———————————————————————-Page4464あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(32)らすこともある.頭部の体表面積が大きい乳幼児にとって,この状態では体温が低下しやすい.低体温は,麻酔からの回復の遅れ,血液凝固の阻害,呼吸抑制,不整脈の誘発などをもたらす.このため,小児手術では,手術室の環境温度を24℃以上に設定する,空気ヒーター(BairHuggerR)を敷くなど加温に努めるが,特に未熟児網膜症手術では,頭部に垂れこんだ点眼液はすぐに拭き取る,または垂れこまないようにすることも重要である.c.眼心臓反射小児では,眼心臓反射(oculocardiacreex)が強力である.この反射は,眼筋を徐々に牽引するより,急に牽引したときに起こりやすい.重篤な徐脈になることもあるため,眼操作時には,細心の注意が必要である.心拍数を十分モニターし,アトロピン(0.010.02mg/kg)静注も考慮する.3.麻酔薬の選択早期産児はオピオイドや筋弛緩薬に感受性が高い.麻酔方法は,できるだけこれらの薬剤を使用しない方法を選択する.眼科手術の麻酔は,眼球が中心に固定して動かなくなるよう麻酔深度を保つ必要がある.全身麻酔が図5回収した灌流液の重みを軽減する工夫バックのビニールや小さいものが誤って吸い込まれないよう,ガーゼで包んだ持続吸引器を回収袋に挿入しておく.すべての準備が整うまで,眼瞼が自然に開かないよう,デガダームRで上下眼瞼をとめておく.AB図4顔面保護器手術操作から気管チューブを保護するために当院で開発した器具.上部板の高さは調節可能.A:顔面保護器,B:実際に使用している状態.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009465(33)る無呼吸発作は,術後12時間以内であるため,術後12時間は酸素飽和度(SpO2)をモニタリングする.無呼吸発作時に徐脈を伴う場合は,心電図のモニタリングも併用する.無呼吸のリスク因子がない健康な早期産児では,「健康な乳児では,最初に生じる無呼吸発作は,全症例で術後4時間以内に起こった」という報告6)に基づき,術後6時間SpO2モニタリングする.術中に,予想外の呼吸機能障害が生じた場合,手術時間が長時間になった場合は,無呼吸のリスク因子を合併している場合に準じたモニタリングを行っている.IVインフォームド・コンセントについてインフォームド・コンセント(informedconsent)とは,医師が患者に対して,受ける治療内容の方法や意味,効果,危険性,予期される合併症や代替方法などについて,十分かつ,わかりやすく説明し,そのうえで治療の同意を得ることである7).乳幼児では,保護者の同意のもとに治療行為が行われる.未熟児網膜症患児は,予備能力が低下しているため,予期せぬ合併症を生じる可能性も高い.特に,受胎後週数60週未満,貧血のある場合は術後無呼吸発作の頻度が高くなるため,状況に応じて集中治療室での管理が必要となること,人工呼吸の既往がある場合は全身麻酔をすることで声門下狭窄が発見されることがあること,発見された場合,集中治療室での管理が必要となること,手術当日2週間以内にかぜ症候群であった既往がある場合は手術中の呼吸器系合併症がかなり増加することは十分説明しておくべき内容である.また,くり返し手術を受けなければならない患児も多い.小児では,‘成長’による身体変化があるため,手術を受ける時期により,周術期に起こりうる合併症も異なる.手術既往のある患児でも,小児科医・麻酔科医の浅いと,しばしば眼球が上転する.吸入麻酔薬であるセボフルラン(セボフレンR)を使用することが多いが,吸入麻酔薬を主体とした麻酔管理は,その心抑制作用により血行動態の変動を招きやすい.また,吸入麻酔薬は脂肪や筋肉組織に蓄積する作用があり,長時間手術での使用は麻酔からの覚醒に時間がかかる.最近では,超短時間作用性オピオイドであるレミフェンタニル(アルチバR)を使用して管理している.レミフェンタニルの使用により吸入麻酔薬の必要量を減少させることができるため,血行動態がより安定し,覚醒が早くなった.III術後管理未熟児網膜症の術後管理は,眼圧の上昇予防と術後無呼吸発作のモニタリングとその対応がポイントとなる.1.眼圧上昇予防眼圧の上昇を防ぐためには,十分な鎮静と鎮痛が必要である.吸入麻酔薬を使用した全身麻酔では,覚醒時興奮を起こすことがある.一般的に覚醒時興奮は,セボフルランを使用した全身麻酔後に多い.対策としてまず,疼痛管理を十分に行ってから対処する.疼痛のコントロールは,アセトアミノフェン(アンヒバR)で,対処可能である.2.無呼吸発作の対応無呼吸のリスクが高い患児では,周術期管理は集中治療室で行う.無呼吸のリスク因子をもつ患児では,術後集中治療室での管理が行えるようバックアップ体制を整えておく.この場合,手術終了した時点で,集中治療室で管理するかどうか,麻酔科医が判断する.それ以外の患児は,病棟で管理する(表2).無呼吸のリスク因子を合併している場合,最初に生じ表2未熟児網膜症患児の術後管理重症無呼吸リスク患児無呼吸リスク合併患児健康な患児術前集中治療室(NICU)病棟病棟術後集中治療室(NICU)病棟(集中治療室バックアップ)病棟術後モニタリング集中治療室の管理に準ずるSpO2(12時間)SpO2(6時間)———————————————————————-Page6466あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(34)2)表圭一:コンサルテーションの流れ.麻酔科医とコンサルテーション─他科からの相談・依頼に対する適正な対応と実際(並木昭義,表圭一編),p2-3,克誠堂出版,20023)WelbornLG,RiceLJ,HannallahRSetal:Postoperativeapneainpreterminfants.Anesthesiology72:838-842,19904)Walther-LarsenS,RasmussenLS:Theformerpreterminfantandriskofpost-operativeapnoea:recommenda-tionsformanagement.ActaAnaesthesiolScand50:888-893,20065)宮坂恵子:症例検討◎小児の気道確保・未熟児出生の問題点:人工呼吸の既往のある例ではその合併症に注意.LiSA9:400-402,20026)AllenGS,CoxCS,WhiteNetal:Postoperativerespirato-rycomplicationsinex-prematureinfantsafteringuinalherniorrhaphy.JPediatrSurg33:1095-1098,19987)前田正一:医療におけるインフォームド・コンセントとその法律上の原則.インフォームド・コンセント─その理論と書式実例─,p1-15,医学書院,2005コンサルテーションを行い,インフォームド・コンセントを行うことが求められる.まとめ未熟児網膜症患児は,多種多様な全身状態にある.そのリスク評価は個々に行い周術期管理を決定するべきである.術後最も注意するべき合併症は,無呼吸発作である.受胎後週数60週未満,日常的な無呼吸発作がある,慢性肺疾患の既往,中枢神経障害,貧血がある患児では,術後無呼吸発作を起こすハイリスク群であり,厳重な術後モニタリングが必要である.文献1)StewardDJ:早期産児のための特別な配慮,小児麻酔マニュアル(共訳:宮坂勝之,山下正夫):p127-129,克誠堂出版,1997

蛍光眼底造影による病態解析

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSは至らなかった.近年,乳幼児用の接触型広画角デジタル眼底カメラ(RetCamR)が開発され,ベッドサイドにて仰臥位で簡便に広範囲の眼底撮影をすることが可能となった.解像度や立体感はやや劣るが,画角が120°(RetCam120R)~130°(RetCamIIR)と広く,未熟児網膜症の周辺部病変の撮影にも適している.RetCamRは未熟児の眼底所はじめに蛍光眼底造影は,網膜の血管病態を捕らえるために必須の検査として成人に汎用されているが,未熟児網膜症に対しては,これまで簡便な撮影方法がなく日常診療における応用がむずかしかった.近年,広画角デジタル眼底カメラ〔RetCamR(MassieResarchLaboratories,Inc.,Pleasanton,CA)〕が開発され,未熟児の眼底記録のみならず,蛍光眼底撮影も容易に施行することが可能となり,病態解析や治療適応・効果の評価に非常に有用な手段となっている.本稿では,RetCam120Rを用いた蛍光眼底造影を未熟児網膜症の臨床に応用した結果を提示し,重症未熟児網膜症に対するよりよい治療について考察したい.I未熟児の蛍光眼底撮影法1.蛍光眼底撮影法の変遷未熟児網膜症に対する蛍光眼底造影に関しては1969~1977年に眼底カメラを用いて122例を撮影したFlynnの報告1)がある.わが国では手持眼底カメラ(倒像法)を用いた木村2),上原3)の報告,眼底カメラ(直像法)を用いた高木4)の報告などがあり,病態の解明に有用と評価されたが,鎮静や全身麻酔を要し,目的とする部位を撮影するために体幹・頭位や眼球の固定を要すること,網膜症の一部分しか撮影できないこと,短時間に連続撮影が必要であるが焦点を合わせにくく検者,介助者ともに熟練を要することから,臨床に広く普及するに(23)455achioishina眼15785352101眼特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):455~460,2009蛍光眼底造影による病態解析FundusFluoresceinAngiographyforInvestigatingPathologyinRetinopathyofPrematurity仁科幸子*図1RetCamRを用いたベッドサイドでの蛍光眼底造影———————————————————————-Page2456あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(24)を主とする新生血管増殖因子が過剰に放出され異常血管吻合・新生血管の増生が起こる網膜症の病態と活動性,自然治癒または治療による鎮静化の過程について詳しく解析することが可能となった.2.I型網膜症I型網膜症では,一般に国際分類のzone,stage,plusdiseaseの有無に基づいたprethresholdROPを基準に光凝固治療の適応・時期を判断する9).しかし重症瘢痕(瘢痕期3度以上)のみならず,牽引乳頭(瘢痕期2度)の形成を防止し,より良好な視力予後を獲得するには,II型の鑑別はもとより,I型に対しても重症型にはより早期の治療が望ましい.蛍光眼底造影を行うと,網膜血管の発達が全域にわたってよく描出され,重症化しやすいzoneIROPが一部でも発症していないか,早期に判別することができる(図2).I型では,網膜血管が正常に構築されて発達するが,国際分類stage2になると,境界線の後極側の毛細血管が拡張し,細動静脈の吻合と周囲の毛細血管網の消失が起こり,ridgeやtuftに蛍光漏出像を認めるようになる.Stage3になると,さらに分岐した周辺血管が拡張して血管透過性が亢進し,硝子体へ向かう線維血管増殖組織から著明な漏出を認めるようになる.硝子体血管から漏出を認めることもあり,網膜症が進行しやすい.後極部の静脈拡張・動脈蛇行も増加する.検眼鏡的にzoneIIで治療適応を決める際には増殖病変の程度,位置,範囲も重要な所見であり,鼻側や後極側の増殖病変の有無,硝子体への立ち上がり,融合,厚み,充血,網膜との接面をよく観察することが大切である.蛍光眼底造影によって後極側の網膜血管の変化,硝子体血管の残存,増殖病変の蛍光漏出を検出すると,血管の活動性をより的確に評価できるため,光凝固の適応,凝固条件,凝固部位(後極側有血管野の凝固の必要性)の決定に有用である(図3).光凝固治療を行うと新生血管増殖因子の放出が抑制され,I型では約1週間で活動性が低下するが,血管の拡張・蛇行が軽快せず,線維血管増殖が残存し充血しているときは追加凝固を行う.検眼鏡的には退縮しているように見えても,蛍光眼底造影を行うと,残存した増殖組見の記録,眼底スクリーニング,telemedicineなどに利用されているが5,6),蛍光眼底造影を観察し撮影することもできるため,簡便な撮影法として普及しつつある(図1).2.RetCamRを用いた蛍光眼底造影7,8)RetCamRの蛍光眼底造影ユニットを用い,フルオレセインナトリウム0.1ml/kgを静脈内投与(生理食塩水3.0mlでフラッシュ)して撮影を行う.仰臥位で未熟児用開瞼器を用い,ヒドロキシエチルセルロース(スコピゾルR)を十分に角膜に滴下して手持ちカメラ部を接触させ,ディスプレイの画像を見ながらフットスイッチで焦点を調節して連続撮影する.一般に未熟児ではフルオレセインが網膜中心動脈に達する時間に遅延やばらつきがある.また硝子体血管の残存,新生血管からの漏出が著しい場合には,ごく短時間(約2~3分)のうちに左右眼の目的とする病変を捕らえて撮影しなくてはならない.あらかじめ撮影する順番や部位を確認しておくことが肝要である.これまでフルオレセインによる重篤な副作用は認めていないが,患児の全身状態を十分に考慮し,家族のインフォームド・コンセントを得て,新生児科医師の管理のもと施行すべきである.II未熟児網膜症の蛍光眼底所見と病態1.蛍光眼底造影の有用性未熟児網膜症に対する治療の基本は,未熟児の眼底所見を的確に捕らえて病型・病期を診断し,至適時期に網膜レーザー光凝固を施行することである.特に厚生省分類II型(aggressiveposteriorretinopathyofprematu-rity:AP-ROP)では,初期に診断してただちに光凝固を行うのが鉄則であり,I型でも重症化する兆候を早期に見きわめて検査間隔,治療時期を決めることが大切である.蛍光眼底造影は,検眼鏡所見に比して微細な血管変化を明瞭に観察できるため,早期診断・治療に有用である.また蛍光眼底造影によって,網膜の血管構築の未熟性,虚血による血管収縮,毛細血管消失・無灌流域の形成,続いてVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009457(25)芽病変を生じていたり,血管の拡張・蛇行を起こしはじめていたら,ただちに光凝固を実施する.2,3日のうちに網膜血管の著明な蛇行・怒張が起こり,滲出および増殖性変化が急速に進んで光凝固治療が困難となってしまう.しかし,初期には網膜血管が細く,眼底の色調が淡く,無血管野を区別しにくいうえ,しばしば硝子体血管や水晶体血管膜が残存し,異常所見を十分に観察しにく織に蛍光漏出(血管活動性)を認め,凝固不足の領域(skiparea)を容易に検出できる.3.II型網膜症II型網膜症10~12)では,初期兆候として網膜血管はむしろ細く発育不良である.網膜血管の先端領域に異常吻合や走行異常,出血を認め,鼻側や後極側に境界線や発ab2ZoneI,stage3ROP(在胎24週,690g出生,修正35週,左眼)a:眼底所見.硝子体血管残存のためhazyであるが,耳側にridgeおよび線維血管増殖を形成.b:蛍光眼底所見.周辺血管が分岐・拡張し,周囲の毛細血管網が消失.耳側弯入部はzoneIに蛍光漏出を伴う増殖病変を形成していることがわかる.硝子体血管からの漏出も認める.光凝固治療の適応.ab3ZoneII,stage3ROPwithplusdisease(在胎31週,578g出生─IUGR(intrauterinegrowthretardation),修正40週,右眼)a:眼底所見.耳側に線維血管増殖を形成し,後極部血管の拡張・蛇行を認める.b:蛍光眼底所見.幅広く融合した線維血管増殖に顕著な蛍光漏出を認める.後極側の血管の拡張・蛇行も明瞭に観察される.光凝固治療の適応.———————————————————————-Page4458あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(26)であり,治療後に鎮静化しても後極部血管の構築に異常が残る3,13).したがって,新生血管増殖因子の著明な放出を抑制して高度の血管活動性を低下させるためには,初期に無血管野のみならず有血管野にも広汎に光凝固を施行する必要がある.初回に未凝固部位が残らないように全周を密に強力に凝固し,周辺部網膜まで十分に凝固,有血管野も後極側の異常血管吻合や増殖を含めて広汎に凝固すい.全身状態が不良であると施行できないが,蛍光眼底造影を行うと,網膜血管の発育不全,狭細化,異常吻合・走行異常,新生血管の増殖を早期に検出することができる.さらに蛍光眼底造影によってII型網膜症(AP-ROP)では広汎な無血管野の存在のみならず,後極部網膜の血管構築の異常が特徴的であることが明らかとなった(図4)13).II型では初期に後極側の有血管野に広汎な毛細血管網の消失がみられ,異常吻合や走行異常が顕著ab4II型網膜症の初期像(在胎27週,920g出生,修正33週,右眼)a:眼底所見.眼底の色調が淡く判別しにくいが,鼻側の血管がzoneIで途絶し,異常吻合や小出血がみられる.b:蛍光眼底所見.後極部血管の異常吻合や走行異常が顕著であり,広汎な毛細血管網の消失がみられる.ただちに光凝固.ab5II型網膜症,光凝固治療後の所見(在胎28週,2,118g出生─胎児水腫,修正32週,左眼)a:眼底所見.光凝固治療後3日目,最周辺部から後極側まで全周に光凝固を施行したが,後極部上方に顕著な異常血管吻合が残存している.b:蛍光眼底所見.後極部上方に蛍光漏出を認め,凝固不足の領域が明瞭となった.ただちに追加凝固を施行.全周無血管野を密に凝固,有血管野をさらに後極側まで凝固した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009459(27)のみで鎮静化することが困難である.II型では,光凝固が奏効せずに増殖が立ち上がり始めたら1~2週間のうちに硝子体手術を実施する必要がある14).I型でも,少しでも牽引性変化を生じたら(stage4A初期),光凝固治療は無効であり,無理に凝固すると裂孔を形成する.早期に硝子体手術や輪状締結術の適応を検討する.蛍光眼底造影を行うと,術前の増殖組織の範囲や活動性(蛍光漏出),血管の拡張・蛇行,異常血管吻合の存在が明瞭に描出されるが,早期硝子体手術後1~2週以内に蛍光漏出や血管拡張が消失し,活動性が著しく低下することがわかる(図6).蛍光眼底造影によって硝子体る.また通常1回の凝固では十分な効果が得られないため,毎日または隔日検査して網膜症の悪化をみたら,ただちに追加凝固を実施する.蛍光眼底造影を行うと,検眼鏡的に判別困難な増殖病変や異常血管吻合部の蛍光漏出(血管活動性)を検出できるため,追加凝固の際にも有用である(図5).4.早期硝子体手術の適応と効果II型網膜症では,初期の光凝固治療が奏効していったん鎮静化しても,修正34~42週頃にしばしば再増殖を起こし追加凝固が奏効しにくい.また最重症型は光凝固cdab6早期硝子体手術前後の所見(在胎24週,428g出生,修正40週にて手術,左眼)a:眼底所見(術前).光凝固瘢痕部に耳側半周にわたる線維血管増殖が立ち上がり,硝子体手術目的で紹介された.b:蛍光眼底所見(術前).耳側の増殖組織に著明な蛍光漏出を認め,上方の網膜血管の拡張・蛇行がみられる.c:眼底所見(術後2週).増殖組織が退縮し瘢痕化している.d:蛍光眼底所見(術後2週).蛍光漏出は消失し,血管拡張も軽減した.———————————————————————-Page6460あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(28)5)SchwartzSD,HarrisonSA,FerronePJetal:Telemedicalevaluationandmanagementofretinopathyofprematurityusingberopicdigitalfunduscamera.Ophthalmology107:25-28,20006)RothDB,MoralesD,FeuerWJetal:Screeningforretin-opathyofprematurityemployingtheRetCam120:sensi-tivityandspecicity.ArchOphthalmol119:268-272,20017)NgEYJ,LaniganB,O’KeefeM:Fundusuoresceinangiographyinthescreeningforandmanagementofretinopathyofprematurity.JPediatrOphthalmolStrabis-mus43:85-90,20068)AzadR,ChandraP,KhanMAetal:Roleofintravenousuoresceinangiographyinearlydetectionandregressionofretinopathyofprematurity.JPediatrOphthalmolStra-bismus45:36-39,20089)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Revisitedindicationforthetreatmentofretinopathyofprematurity.ArchOphthalmol121:1684-1696,200310)植村恭夫,塚原勇,永田誠ほか:未熟児網膜症の診断および治療に関する研究─厚生省特別研究費補助金昭和49年度研究報告.日本の眼科46:553-559,197511)森実秀子:未熟児網膜症II型(劇症型)の初期像及び臨床経過について.日眼会誌80:54-61,197612)植村恭夫,塚原勇,永田誠ほか:未熟児網膜症の分類(厚生省未熟児網膜症診断基準,昭和49年度報告)の再検討について.眼紀34:1940-1944,198313)YokoiT,HiraokaM,MiyamotoMetal:Vascularabnor-malitiesinaggressiveposteriorretinopathyofprematuritydetectedbyuoresceinangiography.Ophthalmology,inpress14)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol142:636-643,2006手術や輪状締結術の治療適応や効果を評価することができる.III今後の展望RetCamRを用いた蛍光眼底造影の導入によって,未熟児網膜症の血管病態がより明瞭に捕らえられるようになった.重症網膜症の病態の解明,光凝固治療や硝子体手術治療のよりよい適応,さらには今後の抗VEGF治療の適応や効果を検討するためにも,蛍光眼底造影は必須の手段であると考えられる.重症未熟児網膜症に対するこの数年の治療の進歩はめざましく,より高度な未熟児診療が要求される昨今のNICU(新生児集中治療室)においてRetCamRの普及は急務である.現在RetCamIIRが入手可能であるが,高額機器のため一般の施設では設備しにくい.この撮影技術の有用性が十分に評価され,広く応用されることが今後の第一の課題である.文献1)FlynnJT,CassadyJ,EssnerDetal:Fluoresceinangiog-raphyinretrolentalbroplasia:experiencefrom1969-1977.Ophthalmology86:1700-1723,19792)木村肇二郎:倒像螢光眼底撮影法による未熟児網膜症の臨床的研究.臨眼30:207-215,19763)上原雅美,上野明広,糸田川誠也:未熟児網膜症の蛍光眼底撮影による研究.日眼会誌80:1204-1215,19764)高木郁江,岡義祐,西村みえ子:未熟児網膜症の進行と治癒─蛍光眼底撮影所見による検討─.日眼会誌81:950-957,1977

光凝固の適応と病期分類

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS因子であるvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)が関与する.VEGFは網膜の低酸素状態が刺激となり血管内皮細胞に作用し血管の発育を誘導する3,4).低出生体重児では,出生時には網膜血管の発育はまだ中途である.出生直後の酸素投与や全身状態の影響により血液循環動態は大きく変わり,網膜は出生前と比べ相対的に高酸素状態となりやすい.高酸素状態はVEGFの産生を低下させ,網膜血管の発育は一時的に停止する(図1).早ければ修正週数30週頃には網膜は再び虚血状態となりやすく,VEGFの産生が亢進し網膜血管の発育が促される.網膜血管の発育が生理的な状態に近いときは周辺部に向かう血管の発育が再開し自然寛解となる.一方,高度の網膜虚血やVEGFの発現亢進があると病的な新生血管が硝子体に向かって形成される.新生血管とそれをとりまく増殖組織の形成は硝子体の変性による網膜の牽引を生じ,網膜離をひき起こす.網膜離が進行するに従い増殖膜は水晶体裏面に一塊となり,いわゆる白色瞳孔を形成する.2.活動期進行度分類活動期の未熟児網膜症は以上のような自然経過をとるが,国際分類では進行度をstage1~5の5段階に分けている(図1)5).Stage1~2は出生早期に網膜血管の発育が停止した際に無血管領域との境界に一致して境界線(demarca-はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は網膜離の併発により失明を余儀なくされる代表的な乳幼児眼底疾患であり,網膜離への進行を回避するために網膜凝固による治療が行われてきた.近年,網膜光凝固の時期・適応を評価し,標準化する試みが奏効し,多くの症例で網膜離への進行を阻止することができている1,2).しかし,超低出生体重児の増加とともに,未熟児網膜症の管理と治療は変わりつつある.在胎週数が短く網膜症発症の危険性が高い児であっても,タイムリーかつ十分な光凝固治療により網膜離への進行が抑止できるが,重症例ほど適切な治療のタイミングは限られ,より早期の治療が必要である.光凝固は有効な治療法である一方,過剰に治療を行うと,患児が成長したのちに晩発性網膜離などの合併症を惹起する懸念もある.このため,未熟児網膜症の病態を理解し,各症例に適した光凝固治療の適応を考慮することがますます重要となっている.本稿では,活動期の未熟児網膜症の病期分類と重症度所見を整理し,光凝固治療の適応を概説する.I活動期未熟児網膜症の自然経過と病期分類1.未熟児網膜症の自然経過未熟児網膜症は生理的な網膜血管の発育を基盤として発症する.胎生初期には網膜は無血管であり,胎生14週より視神経を起点として周辺部へ向かう血管の発育が始まる.網膜血管の発育には,血管内皮細胞特異的成長(17)449irouiondo814018041特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):449~453,2009光凝固の適応と病期分類StagingandIndicationsforLaserTreatmentofRetinopathyofPrematurity近藤寛之*———————————————————————-Page2450あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(18)tionline)が形成される時期である.境界線はグリア細胞の網膜内での増殖所見であり,白色で細く平坦な所見を呈する.境界線が出現した時期がstage1である.境界線の高さと厚みが増した所見を隆起(ridge)とよぶ.隆起がみられるとstage2と定義する.隆起は初め白色調でありやがて赤みを帯びる.この病変は蛍光眼底造影検査では動静脈シャントの所見を呈し,網膜内に限局した増殖性変化と考えられている.孤立性の球状の発芽病変tuftが隆起付近に散在することがある.Stage3は網膜外線維血管増殖を伴った隆起(ridgewithextraretinalbrovascularproliferation)とよばれ,線維増殖を伴う新生血管が硝子体に向かって垂直に立ち上がり,発芽病変も多発する.網膜内には滲出物が増加する.隆起の後極側では網膜血管の多分岐と怒張所見が顕著となる.新生血管が破綻すると硝子体出血を生じる.Stage3は網膜虚血の亢進が顕著となった時期であり,網膜症の予後を決定する分岐点であるため,一般的には光凝固療法の適応を考慮するタイミングである.す発症前自然寛解Stage1Stage2ABCDabcfdeeStage3Stage5Stage4図1未熟児網膜症の自然経過と進行度分類国際分類5)による進行度(stage1~5)を示す.出生後は血管の発育は一時的に停止するが,のちに再開して自然寛解となる症例がある一方(破線A),網膜虚血が高度となった症例では網膜症に進行する(実線矢印B).Stage1~3の時期では自然寛解が起こりうる(四角で囲んだ部分).Stage3は,自然寛解により網膜血管が再び周辺に向かって発育するか(破線C),増殖病変がさらに悪化して網膜離を併発するか(実線D),網膜症の予後を決定する分岐点であり,原則的には光凝固療法の適応を考慮するタイミングである.a:境界線(demarcationline),b:隆起(ridge),c:網膜外線維血管増殖を伴った隆起(ridgewithex-traretinalbrovascularproliferation),d:増殖膜,e:牽引性網膜離,f:水晶体裏面線維血管増殖(retrolentalbro-vascularproliferation).図2Stage3(網膜外線維血管増殖を伴った隆起)の眼底所見病変はzoneIIの後極寄りに位置し,隆起付近に網膜血管の怒張と発芽病変が多数みられる.後極部の動脈の蛇行がみられるが静脈の怒張は軽度であり,pre-plusdisease6)の所見を呈する.Stage3病変の範囲が拡大するか,plusdiseaseとなった場合には網膜光凝固の適応である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009451(19)の改訂では,plusdiseaseよりも軽度な後極部動静脈の変化をpre-plusdiseaseとして重視し,plusdiseaseへの進行への注意を促した(図2)6).IIAggressiveposteriorROPAggressiveposteriorROP(AP-ROP)も2005年の国際分類の改訂により定義された概念であるが,これまでわが国でII型とよばれてきた劇症型の網膜症と同一である6~8).AP-ROPは隆起や新生血管の形成(stage2~stage3早期)の時期を経ることなく,急激かつ高度の硝子体出血や線維血管増殖所見を呈するもので,近年の超低出生体重児の増加に伴い増加傾向にある.AP-ROPは血管の伸びが悪い未熟な症例にみられ,網膜血管の発育はzoneIまたはzoneIIの後極側までである.後極部血管の怒張・蛇行(plusdisease)が顕著である一方,新生血管は平坦であるために見逃しやすい.蛍光眼底造影検査では隆起部以外にも網膜血管のシャントがみられることがあるが肉眼では観察しにくいなど,早期の診断は容易ではない.しかし,病変の進行が始まると光凝固治療に対する反応が悪く,網膜離を併発しやすい.このため,zoneI病変で,plusdisease所見を認めた場合はより早期,すなわちstage3となる前に光凝固を行うことが望ましい(後述).一旦網膜離を併発すると進行も早いため,stage4A早期での手術が推奨されている.III光凝固の適応Stage3は,未熟児網膜症が自然寛解して網膜血管がなわち,網膜症はこの時期を境として自然寛解により網膜血管が再び増殖領域を越えて鋸状縁に向かって発育するか,網膜離を生じるかに分かれる(図1,2).Stage4~5は網膜症の活動性が低下せず,網膜離を生じた時期をさす.網膜離が局所的な時期がstage4であり,網膜が全離となるとstage5と定義する.Stage4は,網膜離が黄斑部に及ぶ前までのstage4Aと網膜離が黄斑部に及んだstage4Bに分けられる.3.血管の発育度在胎週数が少ないほど網膜血管の発育は未熟である.出生時にみられる網膜血管の長さが短いほど,のちに網膜の虚血が高度となりやすく,血管の発育の悪さは重症度を反映する.国際分類では網膜血管の発育度を血管先端部の位置によりzoneI~IIIに分類している(図3)5).ZoneIは視神経乳頭-黄斑間の距離の2倍を半径とした円の内側,zoneIIは視神経乳頭-鼻側網膜端を半径とした円の内側,zoneIIIは残りの外側の領域をさす.Zoneの分類は網膜血管の伸びが一番短い部分で表記する.増殖組織が形成された場合,その範囲は時計の時間と同様に表し,1時間は30°である.4.Plusdisease後極部の静脈の怒張と動脈の蛇行は病変の進行が切迫していることを示す所見である.このような所見が2象限以上みられた場合をplusdiseaseと定義し,光凝固の適応を考慮する2,5).2005年の未熟児網膜症の国際分類12ZoneIII黄斑部視神経乳頭鋸状縁ZoneIIZoneI693右眼ZoneIII黄斑部視神経乳頭ZoneIIZoneI12639左眼図3未熟児網膜症のzone分類の記載法国際分類では網膜血管の発育度を血管先端部の位置によりzoneI~IIIに分類している.ZoneIは視神経乳頭-黄斑間の距離の2倍を半径とした円の内側,zoneIIは視神経乳頭-鼻側網膜端を半径とした円の内側,zoneIIIは残りの外側の領域をさす.Zoneの分類は網膜血管の伸びが一番短い部分で表記する.増殖組織が形成された場合,その範囲は時計の時間と同様に表示する.(原図「文献5」をもとに改変)———————————————————————-Page4452あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(20)たものをさす.Type2ROPは,(1)plusdiseaseのみられないzoneI病変がstage1または2となったものか,(2)plusdiseaseのみられないzoneII病変がstage3となったものをさし,注意深く観察すべきであるとした(表1).光凝固は無血管領域と隆起部を隙間なく埋めるようにする.光凝固により網膜症が改善されると網膜血管の怒張・蛇行が軽減するが,効果の発現は数日から数週間とばらつきも大きい.光凝固後に未施行部分に新たに増殖性変化がみられた場合には追加凝固を行う.一旦網膜離を併発した場合には凝固斑が網膜裂孔となる危険があるため,追加凝固は避ける.すでに凝固した部分への重ね凝固は行わない.AP-ROPなど活動性が高いと思われる症例では隆起の後極側に数列程度凝固を追加する9).このようにETROPStudyによる限界域前網膜症のtype1ROPが現在受け入れられている光凝固の適応である.CRYO-ROPStudyによる限界域網膜症と比べ,解剖学的な不良例は減少したが,視力予後不良例の減少は限られており,現在の治療適応には限界があることも銘記すべきである1,2).まとめ未熟児網膜症の活動期病期分類と光凝固の適応についてまとめた.病期分類はstage1~5の5段階に分けられ,stage3は網膜症の予後を決定する分岐点である.光凝固の適応はstage3が原則であるが重症例ではより早期に行う.その診断には病期(stage)だけでなく,網再び周辺に向かって発育するか,増殖病変がさらに悪化して網膜離を併発するか,予後を決定する分岐点であり,光凝固治療の適応を考慮すべき重要な時期である.このような考えに基づき,米国のCryotherapyforRetinopathyofPrematurity(CRYO-ROP)Study(多施設前向き研究)をもとに,光凝固の適応とされたのが限界域網膜症(thresholdROP)である(表1)1).限界域網膜症は血管先端部がzoneIかIIに位置し,stage3網膜症(線維血管増殖組織)の範囲が5時間(150°)連続,または合計して8時間(240°)を超えたものと定義された.しかし,実際には,網膜症の予後は進行度だけでなく,網膜の未熟さ(網膜血管の発育程度)や血管所見からみた病勢(plusdisease)も加えて評価する必要がある.網膜血管の発達が未熟であるほど網膜症は重症化しやすい(進行が早く治療が間に合わないために,網膜離を併発する危険が高い).実際のところ劇症型であるAP-ROPの多くはzoneI病変である.また,plusdis-easeを示す症例も重症化しやすい.このような考えから,現在は,重症化が予測される症例では限界域網膜症より早期〔限界域前網膜症(prethresholdROP)〕に光凝固を考慮することが一般的となっている(表1)2).米国のEarlyTreatmentforRetinopathyofPrema-turity(ETROP)Studyでは,限界域前網膜症をtype1ROPとtype2ROPにわけ,type1ROPを光凝固の適応とした.Type1ROPは,(1)plusdiseaseがみられるzoneI病変すべて(stage1~3),(2)zoneI病変でplusdiseaseはないがstage3となったもの,(3)plusdiseaseを示すzoneII病変がstage2または3に進行し表1進行度(stage分類)と血管の発育度(zone),病勢(plusdiseaseの有無)からみた光凝固の適応Zone分類進行度ZoneIZoneIIZoneIIIPlusdiseaseありPlusdiseaseなしPlusdiseaseありPlusdiseaseなしPlusdiseaseありPlusdiseaseなしStage1Type1Type2Stage2Type1Type2Type1Stage3(限界域前)Type1Type1Type1Type2Stage3(限界域)ThresholdThreshold光凝固の適応を灰色で示した.限界域前網膜症はType1ROPとType2ROPに分かれる2).Stage3は限界域前網膜症と限界域網膜症に分けた(二重線と矢印).限界域網膜症(Threshold)は血管先端部がzoneIかIIに位置し,stage3網膜症(線維血管増殖組織)の範囲が5時間(150°)連続,または合計して8時間(240°)を超えたものをさす1).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009453(21)hypoxia’isthestimulusfornormalretinalvasculogenesis.InvestOphthalmolVisSci36:1201-1214,19954)SmithLE:Pathogenesisofretinopathyofprematurity.GrowthHormIGFRes14(SupplA):S140-144,20045)TheCommitteefortheClassicationofRetinopathyofPrematurity:Aninternationalclassicationofretinopathyofprematurity.ArchOphthalmol102:1130-1134,19846)InternationalCommitteefortheClassicationofRetinopa-thyofPrematurity.TheInternationalClassicationofRetinopathyofPrematurityrevisited.ArchOphthalmol123:991-999,20057)植村恭夫,馬嶋昭生,永田誠ほか:未熟児網膜症の分類(厚生省未熟児網膜症診断基準,昭和49年度報告)の再検討について.眼紀34:1940-1944,19838)森実秀子:未熟児網膜症第II型(劇症型)の初期像及び臨床経過について.日眼会誌80:54-61,19769)林英之:未熟児網膜症の光凝固療法.あたらしい眼科18:1467-1472,2001膜血管の発育度(zone)と活動性所見(plusdisease)も重要である.AP-ROPは近年増加傾向にあり,治療に難渋しやすいためより早期の光凝固治療を考慮すべきである.文献1)CryotherapyforRetinopathyofPrematurityCooperativeGroup:Multicentertrialofcryotherapyforretinopathyofprematurity.One-yearoutcome─structureandfunction.ArchOphthalmol108:1408-1416,19902)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Revisedindicationsforthetreatmentofretin-opathyofprematurity:resultsoftheearlytreatmentforretinopathyofprematurityrandomizedtrial.ArchOph-thalmol121:1684-1694,20033)Chan-LingT,GockB,StoneJ:Theeectofoxygenonvasoformativecelldivision.Evidencethat‘physiological

最近の新生児管理

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSI出生数と死亡率の推移わが国の出生数は第二次ベビーブームの1970年代には約200万人であったのに対し,2007年には約100万人と半数近くまで減少し,1人の女性が生涯に生む子どもの平均数を表す合計特殊出生率は1.34まで低下した.このように出生数が著しく減少している一方で,低出生体重児の占める割合は増加している.これには出産年齢の高齢化,不妊治療の進展に伴う多胎の増加,女性の喫煙率の上昇などが大きな要因となっている.また在胎22週,23週で出生した児の成育例が報告されるようになったことをうけ,1991年には優生保護法(現母体保護法)の改正により,人工妊娠中絶が可能な期間がそれまでの妊娠24週未満から22週未満となったことも,低出生体重児の出生数増加の大きな要因となった.新生児死亡率(出生千対)は1950年の27.4から2004はじめに近年わが国では出生数が年々減少している反面,低出生体重児の出生数は増加しており,なかでも出生体重1,500g未満の極低出生体重児が全出生に占める割合は年々増加する傾向にある1)(図1).いうまでもなく極低出生体重児の救命には集中治療が不可欠であるが,近年の医療技術の進歩によりその死亡率は徐々に改善されている.本稿では近年の出生数・新生児死亡率の現況について触れた後,未熟性の強い極低出生体重児の救命の向上に大きく寄与していると考えられる,最近の胎児,新生児管理の進歩,退院後の管理と今後の課題について述べる.(9)44112児466855065特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):441447,2009最近の新生児管理CurrentMedicalCareofNewbornInfants中山淳*1山本ひかる*2早川昌弘*119801990200020012002200320041905.0.40.40.50.0.0.0.0.85.26.38.68.899.49.1生児生児10.09.08.0.06.05.04.03.02.01.00図1全出生数に占める低出生体重児および極低出生体重児の割合極低出生体重児,低出生体重児ともに年々増加傾向にあり,1970年に比し,2004年では極低出生体重児で約1.6倍,低出生体重児で2倍となっている.(厚生労働省:人口動態統計)8.76.84.93.42.62.21.81.61.71.71.510.08.06.04.02.00.0死亡率(出生千対)19701975198019851990199520002001200220032004(年)図2新生児死亡率の年次推移1970年に比し2004年では1/5以下に減少した.(厚生労働省:人口動態統計)———————————————————————-Page2442あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(10)などの可能性を示唆するため,さらなる妊娠継続が可能かどうか判断する必要に迫られる.また羊水過多・過少は胎児消化管奇形,腎・尿路奇形や染色体異常症の存在を示唆し,その進行具合や奇形の種類によっては分娩時期を適切に判断する必要がある.胎児心拍モニターでは,子宮収縮と胎児心拍数の変動の関係を観察して胎児の活動性を推定することが可能であるが,正確な評価には観察者の経験と長時間のモニタリングが必要であり,常時観察できないことが難点である.早産出生の要因は,母体側要因(常位胎盤早期離,頸管無力症,切迫早産など)と胎児側要因(胎児発育不良,胎児切迫仮死など)に大別されるが,両要因が絡み合っている場合も多く,必ずしも厳密に区別できない.やむをえず早産となる場合,児の予後は胎児の肺成熟度に左右されるとの報告があるため,羊水マイクロバブルテストなどで胎児肺の成熟が不十分と判断された場合には,保険適用はないものの母体に糖質コルチコイド投与を行って胎児肺成熟を促す,という治療がなされている.母体への糖質コルチコイド投与は胎児肺成熟の促進以外にも,出生後の循環動態を安定させる,頭蓋内出血を減少させるなどの効果も報告されており,人工肺サーファクタントが普及した今日でも児の予後改善に有効と考えられる.年には1.5と著しく低下し,世界最高の新生児医療水準といわれている1)(図2).わが国では,ハイリスク新生児医療に関する全国調査が1981年以降ほぼ5年に一度ずつ行われており,その結果から,いずれの出生体重群においても,死亡率の改善が認められるが,特に500999g,1,0001,499gの群では,1985年にそれぞれ41.2%,11.6%であった死亡率が,2000年には15.2%,3.8%と約1/3に低下している.しかしながら,出生体重500g未満の児に関しては,1985年に91.2%であった死亡率は2000年には62.7%と低下が認められてはいるものの,いまだ半数以上の児が死亡しているのが現状である(図3).在胎期間と死亡率との調査結果では,いずれの在胎期間においても死亡率の改善がみられるが,特に在胎2629週では,死亡率が約1/3に減少している(図4).II胎児管理母体内にいる胎児の状態を客観的に把握する方法は限られており,一般的に行われているのは,超音波検査と胎児心拍モニターである.前者では胎児発育,奇形の検索,羊水量の評価,臍帯血流の評価などが可能であり,後者では胎児心拍数やその変動の様子から胎児の「元気さ」を評価する.超音波検査において,胎児発育の不良や臍帯血流の途絶や逆流といった所見は,胎盤機能低下1009080706050403020100()5005009991,0001,4991,5001,9992,0002,499出生体重(g):1985年:1990年:1995年:2000年図3出生体重別新生児死亡の年次推移いずれの出生体重群においても死亡率の改善が認められるが,特に5001,499gの群では,1985年に比し2000年では約1/3に低下した.(文献2より,一部改変)70605040302010022,2324,2526,2728,2930,3132,3334在胎期間(週):1990年:1995年:2000年:2005年()図4在胎期間別新生児死亡の年次推移いずれの在胎期間においても死亡率の改善がみられるが,特に在胎26週以降では,死亡率が1/3以下に減少している.(文献2,3より,一部改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009443(11)慢性肺疾患は,早産出生に伴う気管気管支肺胞構造の未熟性に,無気肺,肺炎,胃食道逆流症,長期人工呼吸管理などによる肺損傷と未熟な修復機転が加わって,肺の線維化,気腫化が進行して発症すると考えられている.このうち,人工呼吸管理では過剰な酸素,過剰な圧設定による圧損傷・量損傷などがおもな肺損傷の要因である.早産児では呼吸中枢の未熟性に加え,呼吸筋が未発達であることから修正30週頃まで何らかの呼吸補助を必要とする場合が多い.その期間は在胎24週で出生した児では2カ月半にも及ぶため,いかに肺損傷なく管理して慢性肺疾患を減らすかが重要となり,これは退院後の予後の改善へと通じる.具体的には,①可能な限り早期に抜管し人工呼吸器から離脱して,鼻腔式持続陽圧呼吸法(nasalcontinuouspositiveairwaypres-sure:n-CPAP)に移行する,②胎児の血液酸素分圧と同等に,早産児の経皮的動脈血酸素飽和度を90%前後で管理して酸素投与量を減らす,③肺の虚脱を防ぎ,吸気圧をなるべく低くする観点から,呼気終末陽圧(posi-tiveend-expiratorypressure:PEEP)を高めに,最大吸気圧・吸気時間を低めに設定する,といった呼吸管理方法がとられるようになっており,これらを肺保護戦略とよんでいる.実際この戦略により慢性肺疾患の発症は抑えられるようになっているが,その一方で低酸素血症は未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)の発症リスクを高めるため,肺と眼の両者を守るバランスよい管理が必要であろう.3.新しい人工呼吸器前項で述べた肺保護戦略を人工呼吸管理で実践するためには,呼吸数が毎分4060回と生理的に多呼吸で,一回換気量が510mlしかない超低出生体重児の呼吸を感知し,間髪入れず同期して呼吸を補助する高性能な人工呼吸器が必要である.医療スタッフ,医療機器メーカーの協力の下,2000年頃より体重500g程度の児にも使用可能な同期型間欠的陽圧換気(synchronisedinter-mittentmandatoryventilation:SIMV)モードを搭載した新しい人工呼吸器が登場し,現在臨床の場で活躍中である.一般的なIMV,SIMVモードと違ったタイプの換気III新生児の呼吸管理1.人工肺サーファクタント肺サーファクタントは肺胞上皮II型細胞により産生・分泌される界面活性物質で,出生時に新生児が外界に適応する際,肺の表面張力を下げ,肺呼吸を可能にする.肺サーファクタントは一般的に妊娠2224週頃から産生が開始されるが,妊娠34週以前では分泌量が十分ではなく,この場合呼吸窮迫症候群(respiratorydistresssyndrome:RDS)を発症する.人工肺サーファクタント(サーファクテンR)は1987年に薬事承認され新生児医療に導入されて以来,RDSに著しい効果を示しており,早産児救命率の飛躍的向上に寄与している.以前は,陥没呼吸,多呼吸,チアノーゼなどの呼吸困難症状があり,胸部単純X線写真上で網状顆粒状陰影や気管支透亮像を認め,人工呼吸管理下においても高設定・高濃度酸素の投与を要する場合にのみ人工肺サーファクタントの気管内投与が行われていた.近年,出生後早期のサーファクタント投与が有効であるという報告もなされており,臨床所見からRDSと診断すれば出生直後に投与する場合も増えている.一方,新生児肺炎,胎便吸引症候群,肺出血,慢性肺疾患といった疾患では,肺サーファクタントを十分に産生する能力があっても,肺胞液中に漏出した蛋白成分によってサーファクタントの不活化が起こり,二次的欠乏を生じ呼吸困難をひき起こす場合がある.このような病態は二次性RDSと考えられ,やはりサーファクタント投与が有効なため,補充療法が考慮されることもある.2.慢性肺疾患と肺保護戦略厚生労働省研究班では「先天性奇形を除く肺の異常により酸素投与を必要とするような症状が,新生児期に始まり日齢28を超えて続くもの」を慢性肺疾患と定義しており,出生時RDSの有無,絨毛膜羊膜炎の有無,胸部単純X線写真の所見から慢性肺疾患をIVI型に分類している.一方,米国では修正36週時点で酸素投与が必要な場合に慢性肺疾患としている場合が多い.どちらにせよ,慢性肺疾患の有病率は早産児の呼吸器系の短期予後の指標と考えられている.———————————————————————-Page4444あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(12)(動脈管の閉鎖,過剰な容量負荷を避ける)や後負荷の軽減(血管拡張剤による末梢血管抵抗の軽減)といった戦略を併せてとることにより,未熟で小さな心臓が最大限の力を発揮し,全身の血液循環がスムーズに行えるようにする管理方法に移行し,以前ほど血圧を上昇させることに重きを置かなくなってきている.2.循環不全に起因する合併症極低出生体重児にみられる合併症のうち,頭蓋内出血,脳室周囲白質軟化症,壊死性腸炎などはさまざまな因子が絡み合って生じる重篤な合併症であるが,循環不全がその発症に関与する.これらの合併症を抑えることは,慢性肺疾患やROPなどの慢性期合併症の発症リスクも下げることにもつながり,また精神・運動発達などの長期予後を改善させるうえで非常に重要である.頭蓋内出血は従来,未熟血管の脆弱性に起因する動脈性出血が主因であると考えられてきた.このため急激な血圧変動により出血のリスクが増大するため,塩酸モルヒネなどの鎮静薬の投与が行われてきた.しかし近年はこれに加えて,人工呼吸管理などによる胸腔内圧上昇や心不全に伴って静脈還流が悪化し,これにより脳うっ血をきたして静脈壁が破綻する静脈性出血の要素もある,と考えられるようになっている.したがって前項で述べたような血液循環をスムーズにする循環管理を行うことは,頭蓋内出血の発症を抑えるのに有効であると考えられる.同様に脳室周囲白質軟化症や壊死性腸炎も,それぞれ脳血流,腸管血流を超音波検査で観察しつつ循環管理をすることにより,発症を抑えられる可能性がある.V新生児の栄養管理低出生体重児や早産児の栄養管理は,その救命率が上がるにつれて近年ますます重要視されている.脳をはじめ,全身臓器の健全な成長・成熟には至適な栄養投与が必要で,これが神経学的予後に大きく関わってくるからである.近年の栄養管理を経腸栄養と経静脈栄養に分けて述べる.1.経腸栄養早産児では出生直後からの経腸栄養が進めにくい.そ方法の呼吸器も存在する.高頻度振動換気法は日本で考案,開発された呼吸管理法で,その換気に関するメカニズムはいまだ不明であるが,高めのPEEPと毎秒15回の振動で空気対流を生じさせ換気を行う方法である.その有用性についてはまだ議論の余地はあるが,肺胞の伸縮が少ないため,理論的には肺に優しいとされている.一方,n-CPAPは鼻に装着したプラスチック製のプロングから持続的に空気を送り込み,肺の虚脱を防ぎ,機能的残気量を増加させ呼吸仕事量を減少させるという呼吸補助装置である.1970年代に人工呼吸器のはしりとして導入され,その後一旦廃れていたものが肺に優しいという理由から再び注目を浴びてきている.出生時RDSを有した児に対して,気管内挿管のうえサーファクタントを投与し,直後に抜管してn-CPAPで管理をするといった手法がとられることもあり,今後も早産児管理には必須のデバイスとなると考えられる.IV新生児の循環管理1.近年の極低出生体重児の循環管理従来の極低出生体重児の循環管理は,塩酸ドパミンや塩酸ドブタミンなどの強心作用をもつカテコールアミン製剤や生理食塩水や血液製剤などの循環血漿量増加輸液製剤を用いた強心・昇圧に重点が置かれていた.これは,極低出生体重児では血圧と関係なく脳血流を一定に保つ血管反射(divingreex)が十分に働かないため,平均血圧が30mmHg未満の場合に血圧依存性に脳血流が減少するという報告があったため,脳保護の観点から平均血圧を30mmHg以上に保とうとしたことに起因する.しかし,血圧は心拍出量と血管抵抗の積で表されるため,血圧の上昇は必ずしも心拍出量の増加を意味せず,したがって脳血流をはじめ全身の臓器血流の増加とは必ずしも相関しない,という指摘がなされた.このため,血圧を上げる治療よりも,各臓器を流れる臓器血流を増加させる方法が考えられるようになった.極低出生体重児の未熟な心筋は,成人のものと比較して「伸びにくく縮みにくい」という性質であるため,出生に伴う前負荷や後負荷の上昇に耐えきれず容易に心不全となる.これに対して,ただ単に強心薬による心収縮力増強で解決しようとするのではなく,前負荷の軽減———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009445(13)ている.積極的な経腸栄養とともに積極的な経静脈栄養を導入することにより神経学的予後が改善したとする報告は今のところなされていないが,体重増加や頭囲の発育は明らかに改善しているため,非常に有効な手段であると考えられる.VI退院後の管理1.退院にあたって極低出生体重児をはじめとする早産児は,経過が順調であれば,分娩予定日頃には体重が2,500gに到達し,体格的には退院が視野に入ってくることが多い.しかし,実際に退院に到達するには慢性肺疾患,ROP,未熟児骨減少症(未熟児くる病),未熟児貧血などの慢性期疾患に目途を立てる必要がある.特に慢性肺疾患は,肺高血圧症を合併して不可逆的変化をきたすこともあるため,酸素飽和度の低下を認めたり,肺高血圧症の徴候がみられる場合には,在宅酸素療法が積極的に導入される必要がある.2.感染症対策児の免疫系は出生と同時に成熟を始めるが,妊娠後期に母体から移行抗体を獲得することのできない早産児では,やはり免疫力は通常の新生児よりも劣っている.一旦感染症に罹患すると,慢性肺疾患を合併している児では容易に呼吸困難をきたすため注意が必要である.特に乳児の細気管支炎の原因となるRSウイルス(respira-torysyncytialvirus)は冬季に流行し,早産児で重症化しやすく,人工呼吸管理を要することも少なくないため,近年では抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体であるパリビズマブの予防投与が行われている.三種混合などのワクチンは,多くの場合通常の接種が可能とされている.3.発育退院時点では体格が小さめであることが多く,慢性肺疾患などのため哺乳量が増えにくいため,極低出生体重児では一般的に成長がゆっくりめである.極低出生体重児用の標準成長曲線も作成されており,これを参考に適切な栄養指導をしていく必要がある.の要因として,①出生後早期は循環動態が不安定で,腸管の血流が不十分となりやすく壊死性腸炎のリスクがある,②細い腸管に粘稠な胎便がつまっており通過障害をきしやすい,③母乳が手に入りにくい,などが考えられる.このため従来は,全身状態が落ち着き,排便を認め,腹部単純X線上で腸管ガスが進んでくるまで経腸栄養は開始されず,生後1週間以上絶食となっている例も珍しくなかった.これに対して生後24時間以内に経腸栄養を始めることの是非を調査すべく,平成1316年度にかけて厚生科学研究で「超低出生体重児における超早期授乳の検討」と題した多施設共同研究が行われた.その結果,生後早期に経腸栄養を開始しても有害事象が増えないことが確認され,現在では全身状態が安定し次第,速やかに経腸栄養が開始されるようになっている.この早期経腸栄養導入によって,経腸栄養が進むだけでなく,腸内細菌叢の早期確立,免疫能の強化による重症感染症の減少,頭蓋内出血,慢性肺疾患,胆汁うっ滞などの合併症の減少も報告されている.2.経静脈栄養妊娠中期の胎児はその成長に1日当たり34g/kgの蛋白質を必要とし,胎盤を通して母体から供給されている.しかし早産児の場合,出生後はこの供給が絶たれるうえ,経腸栄養が確立するのに順調でも10日2週間程度を要し,それまでの期間は体の異化が進行してしまう.経静脈栄養には肝機能障害,血糖異常,高アンモニア血症,易感染性などの有害事象が知られている.早産児ではこれらの有害事象が生じやすいと考えられており,従来は経腸栄養が順調に増量できれば経静脈栄養が併用されないことも多く,また経静脈栄養を行う場合も,全身状態が落ち着いた生後1週頃より開始され,アミノ酸や脂質の投与量も1日当たり0.250.5g/kgの少量から開始され,数日おきに増量していくものであった.しかし近年,生後24時間以内に経静脈栄養を開始しても有害事象は増えないとの報告や,経静脈栄養によるアミノ酸や脂質の初期投与量を1日当たり23g/kgで開始しても安全に施行できるとの報告がなされ,経静脈栄養はより早期に,より多量に行われるようになってき———————————————————————-Page6446あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(14)VII今後の課題極低出生体重児をはじめとする早産児の救命率は,周産期医療に携わる多くの関係者の努力の結果劇的に改善している.しかし,そのなかにはさまざまなハンディキャップを抱えている児も多く含まれている.1990年に出生した超低出生体重児548人を対象に,6歳時点での予後を日本小児科学会新生児委員会が全国調査したところ,脳性麻痺13.5%,知的障害17.5%,重度聴覚障害2%,両眼失明2.2%などの後遺障害を有していることが判明した46)(表1).このため,救命もさることながら,これらのハンディキャップを減らしていくことが重要と考えられるようになっており,近年の新生児医療のキーワードは,「救命から後遺症なき生存」へと変化している.また,長期予後の結果を急性期の新生児医療の現場にフィードバックし,管理方法の見直しなどにつなげていく必要がある.在胎週数に比し体格が小さい児をSGA(smallforgestationalage)児とよぶが,SGA児のうち約10%は成人になっても身長が2SD未満であることが疫学調査から判明している.そこで,3歳以上の「骨端線閉鎖を伴わないSGA性低身長」の児を対象として在宅成長ホルモン療法が2008年から保険適用となった.4.発達入院中に頭蓋内出血など明らかな中枢神経系異常を認めなかった児でも,その後に神経学的異常を認める場合があるため注意深い経過観察が必要である.発達は大きく運動発達と精神発達(知的発達)の2つに分けて評価する.痙性などで運動発達に問題が生じた場合には,速やかに理学療法を開始する.精神発達は言語発達のほか,広汎性発達障害や注意欠陥・多動性障害などの社会性の異常や,就学後に明らかとなる学習障害などにも注意が必要である.発達検査は修正18カ月,3歳では新版K式発達検査が,それ以降は田中・ビネー式知能検査,WISC-III(WechslerIntelligenceScaleforChildren-ThirdEdition),WISC-R(WechslerIntelligenceScaleforChildren-Revised)などの知能検査がおもに行われており,この結果を参考に,得意・苦手分野の把握や育児指導などが行われる.5.養育支援極低出生体重児では妊娠中期に予期せぬ分娩となり,その後も長期のNICU(neonatalintensivecareunit)入院で母子(親子)分離を余儀なくされるため,親子間の愛着形成が通常よりも形成されにくい.また退院後も,各種の合併症のため病弱であり,同年齢の児と比較して体格が小さく,発達も遅めであり,いわゆる育てにくい児となることも少なくない.これに加えて「早産出生させてしまった」という母親自身の悔悟の念から児の存在を受け入れられず,前向きに育児ができない場合もある.そのような場合児童虐待などにつながる危険性もあるため,入院中から,医師,看護師のみならず,臨床心理士,保健師など他職種が関わっての支援体制作りも必要である.表1わが国における1990年出生の超低出生体重児の3歳,6歳,小学3年生の予後年齢3歳6歳小学3年生施設数19313768症例数853548257脳性麻痺13.1%13.5%14.5%知的障害13.4%17.5%16.4%視覚障害両眼失明片眼失明弱視斜視眼鏡使用2.2%0.6%5.5%2.2%0.9%12.6%11.1%3.7%1.6%11.1%5.3%35.7%聴覚障害(重度)1.6%2.0%2.0%てんかん4.2%5.8%9.8%注意欠陥/多動性障害3.3%4.3%反復性呼吸器感染10.9%4.0%0.0%喘息9.1%7.8%8.8%在宅酸素療法3.8%0.0%0.0%超低出生体重児は生存退院をしても,その後も各種のハンディキャップを有している.(文献46より,一部改変)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009447文献1)厚生労働省「人口動態統計」2)日本小児科学会新生児委員会新生児医療調査小委員会:わが国の主要医療施設におけるハイリスク新生児医療の現状(2001年1月)と新生児死亡率(2000年112月).日児誌106:603-613,20023)板橋家頭夫:超低出生体重児の死亡率の推移.周産期医学38:141-143,20044)中村肇:超低出生体重児3歳時予後に関す全国調査成績.日児誌99:1266-1274,19955)中村肇:超低出生体重児6歳時予後に関す全国調査成績.日児誌103:998-1006,19996)中村肇:1990年度出生の超低出生体重児9歳時予後の全国調査集計結果平成11年度厚生科学研究報告書(主任研究者中村肇)2,p97-101,2002(15)

未熟児網膜症発症の背景

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSI新生児死亡率の最近の推移全国主要施設を対象にハイリスク新生児医療に関する調査が5年ごとに実施されており,集計報告では周産期医療評価の重要指標として超低出生体重児の死亡率が示されている1,3).それによると調査時点ごとにすべての出生体重群において死亡率は低下している.たとえば,未熟児網膜症の発症リスクが高い在胎週数でみると,22~25週区分での新生児死亡率は2000年で39.6%,2005年で29.5%である.また,出生体重500g未満の新生児死亡率は2000年で68.7%,2005年で47.7%とともに顕著な改善を認めている1).このようにNICU(neonatalintensivecareunit)病床の拡充に象徴されるハイリスク新生児医療は全般に向上する傾向であるが,同時に施設により医療内容のレベルに差があることも指摘されている3).II未熟児網膜症の発症因子1.動脈血酸素濃度の影響未熟児網膜症は在胎週数と出生体重に規定される未熟性,とりわけ網膜血管の未熟性を基盤に多因子が作用する反応である.なかでも動脈血酸素動態の影響が大きいと考えられる.ただし,これは未熟児網膜症が一疾患として確認された1940年代の高濃度酸素投与に対する再考の時代は遠く過ぎ,新生児管理の向上した近年においては網膜血管の成長に関与する血管内皮増殖因子(vas-はじめに近年,周産期医療の発達,ハイリスク新生児管理の向上により1,000g未満の超低出生体重児の出生率および生存率の上昇が顕著である1).より未熟性の高い児が未熟児網膜症の発症母集団に含まれる結果,未熟児網膜症の重症化が懸念されるところである.実際,修正在胎32,3週以前,網膜血管の発達初段階で急性発症する劇症型の未熟児網膜症(aggressiveposteriorretinopathyofprematurity:AP-ROP)2)が注目されている.この未熟児網膜症の診療環境の変化に対して,新生児科および眼科それぞれにおいて以前の管理方法,治療基準の見直しがなされている.前者で注目すべきは低出生体重児を対象に従来の基準より血中酸素濃度を低めに維持する管理方法physiologicreducedoxygenprotocol(PROP)である.また,眼科管理面では早期の治療判断を推奨する米国のEarlyTreatmentforRetinopathyofPrema-turity(ETROP)の影響が大きい.本稿では未熟児網膜症の発症因子について概説したうえで,重要因子である動脈血酸素動態に関与するPROPの主旨を解説,その成果を紹介する.早期治療については未熟児網膜症の予後不良例の減少に有効であることは明らかであるが,同時に自然治癒の可能性がある例に対しても治療を許容する側面があることを認識する必要がある.(3)435oora6540081111特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):435~440,2009未熟児網膜症発症の背景ContextsofRetinopathyofPrematurityDevelopment野村耕治*———————————————————————-Page2436あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(4)にて在胎23週5日,出生体重590gで出生.直後より高換気条件を要し合成肺サーファクタントを投与,生後9日目に気胸と右肺門部小胞を発症した.このため,通常より遅い28週からPROPによる酸素管理が可能となった.32週4日,後極部網膜血管の全象限で迂曲,怒張を確認,AP-ROPと診断のうえ,翌日,レーザー光凝固術を施行,治療反応は良好であった.外科手術や侵襲の高い検査なども全身麻酔に伴う動脈血酸素濃度の変動をきたす点においては未熟児網膜症の発症因子になる可能性がある.当院における新生児の麻酔管理を例にあげると,セボフルラン麻酔を使用することが多く,吸入気酸素濃度(FIO2)を21~30%程度に,あるいは,SpO2:90~95%を基準に酸素および空気を混合し,2~3%のセボフルランで麻酔を維持している.酸素濃度を低値に保つべく留意して管理をしているが,挿管の前後や覚醒時にはFIO2:50~100%の高濃度酸素管理が必要となる場合もある9).動脈血酸素濃度の変動ということでは眼底検査もその誘因になる.未熟児鈎で眼筋を牽引する際に呼吸抑制が起こるが,酸素管理中の児の場合,SpO2の低下に対してFIO2の調整が必要になる.眼底検査中はSpO2にも注意し,的確かつ迅速に眼底の観察を行うことが大切である.III新生児の酸素管理方法が未熟児網膜症に与える影響既述のごとく未熟児網膜症の発症因子として動脈血酸素動態の影響が大きいと考えられるが,このことは臨床面でも確認されつつある.1.低出生体重児の酸素管理に関する新しい考え方2003年にChowらは酸素管理と未熟児網膜症発症との関連について以下の報告をしている.彼らは超低出生体重児に対して出生直後から2週間ないし8週間,FIO2の増減の微調整をはじめ,緻密な酸素管理を徹底するとともにSpO2の基準値を90~98%から85~93%に下げた結果,未熟児網膜症進行例は12.5%から2.5%に,また,未熟児網膜症治療率は4.5%から0%に減少したとしている10).この研究成果をもとに同グループのcularendothelialgrowthfactor:VEGF)との関連で論じられる問題である.未熟児網膜症の発症機序として以下のことが想定される.生後早期の未熟児は子宮内の胎児と異なり,比較的高酸素の状態におかれる.このため成長段階に見合って本来,必要であるVEGFの産生が抑制される.その結果,未熟な網膜において血管の伸長抑制と高酸素による閉塞が起こり,さらに人為的,受動的な酸素濃度の動揺がVEGFの変調をきたすことで未熟児網膜症が発症する4,5).その後,網膜周辺部の虚血がVEGFの過剰な産生を介して有血管野と無血管野の境界において異常新生血管の発芽と線維組織増殖を促す.新生児は通常,パルスオキシメーターにより動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定,監視が行われる.上記,発症機序に関連した臨床応用として米国では未熟児のSpO2を以前より低い基準値で酸素管理することが推奨されている(後述).2.全身疾患や手術の影響未熟児に好発する全身疾患のうち,未熟児網膜症の発生に関係するものとしては呼吸窮迫症候群と新生児慢性肺疾患がある.呼吸窮迫症候群は肺胞表面に分泌され肺胞の維持に働く肺サーファクタントの欠乏,低活性が原因となり,肺胞の虚脱や肺内シャントにより肺胞低換気,低酸素血症をきたす.処置として人工サーファクタント補充療法が行われるが,その前後,人工呼吸器による呼吸管理が必要となる6).最近の報告によると,呼吸窮迫症候群の発症率は未熟児網膜症の発症母集団である在胎28週未満の児の50%に達する7).新生児慢性肺疾患は肺の未熟性を背景に人工呼吸管理による肺の損傷をはじめ,感染や動脈管開存症など種々の要因により炎症が遷延する病態である.即効性のある治療はなく,比較的長期間の人工呼吸管理が必要となる8).両疾患ともに,超低出生体重児の出生率,生存率の上昇により,今後も増加傾向にあると予想される.肺の機能不全に加え人工呼吸管理による動脈血酸素濃度の変動が避けられず,未熟児網膜症の発症因子として注意が必要である.【自験例】患児は胎胞形成のため緊急母胎搬送,帝王切開———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009437(5)ったとする代表的な報告の成績を示す10,11,13,14).わが国でもすでに同様の酸素管理方法を採用している施設があり,今後,増加するものと思われる.2.兵庫県立こども病院における未熟児網膜症の状況図1に当院における1997年以降の未熟児網膜症の発症および治療状況の推移を示す.2001年頃より発症率,治療率はともに減少傾向にある.また,一定数の発症があった瘢痕期分類3度以上の重症瘢痕形成例についても2005年後期以降は認めていない.新生児管理の向上が未熟児網膜症の発症および進行の抑制にも寄与することはすでに指摘されるところである15,16)が,当院の場合,従来の傾向であるI型の改善のみならずII型をはじめ重症未熟児網膜症の発症も減少している点で過去の報告と大きく異なる17).未熟児網膜症の診療状況の改善がはじまった2001年,当院では人工呼吸器離脱後の無呼吸発作や新生児慢性肺疾患などの呼吸管理にnasalCPAP(nasalcontinuouspositiveairwaypressure;鼻腔式持続陽圧呼吸法)を導入している.同装置は鼻腔経由で送られる陽圧の空気が舌根の周囲の軟部組織を拡張することで吸気時の気道狭Wrightらは新しい酸素管理の方法をphysiologicreducedoxygenprotocol(PROP)として推奨するとともに,人種構成の異なる地域でも未熟児網膜症の改善があったと報告している11).PROPは子宮内の胎児が動脈血酸素分圧(PaO2):22~25mmHg程度の「生理的低酸素状態」にあることに注目し,この制御された低酸素状態がVEGFの産生を介して全身の血管の発達を促すとの考えに基づいている.つまり,早期に出生する低出生体重児を対象に生後早期の一定期間,酸素濃度を低めに維持することでVEGFの産生が確保され,その結果,網膜血管の伸長抑制ではじまる未熟児網膜症の発症が予防できるとの主張である.また,SpO2の管理基準値を下げることはFIO2などの調整頻度が減少することを意味し,結果的に児の酸素飽和度の変動が小さくなる.これもVEGFの安定という形で未熟児網膜症の発症抑止に有効と考えられる.なお,網膜血管の発達は酸素に依存しない成長ホルモンの一種,insulin-likegrowthfactorI(IGF-I)の制御も受けるとされる12)が,PROPがIGF-Iに及ぼす影響は未検討のようである.表1にPROPに準ずる酸素管理により未熟児網膜症の発症,治療状況に改善があ表1PROPにより未熟児網膜症の改善があったとする報告報告者(報告年)検討対象未熟児SpO2の管理基準値光凝固の治療率Tinら(2001)13)<27週高値群88~98%低値群70~90%27%6%Chowら(2003)10)500~1,500g高値群90~98%低値群85~93%4.5%1.3%~0%Andersonら(2004)14)<1,500g高値群>92%低値群<92%3.3%1.3%VanderVeenら(2005)<1,250g高値群87~97%低値群85~93%限界および限界前ROPが60%の減少Wrightら*(2006)11)施設CSMC高値群>90%低値群83~93%3/92(3.3%)0/88(0%)GSH高値群89~94%低値群83~93%8/54(14.8%)2/41(4.9%)NUH高値群90~95%低値群83~93%3/45(6.7%)0/30(0%)兵庫県立こども病院(2007)<1,000g高値群>90%低値群>85%33.5%11.1%*NUH(NationalUniversityHospital)はシンガポールの施設で,CSMC,GSHは在ロサンゼルスの施設.———————————————————————-Page4438あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(6)RetinopathyofPrematurityCooperativeGroupにより26施設,出生体重1,250g以下の828例を対象に未熟児網膜症の早期治療に関する前向き研究が行われた.CRYO-ROP(CryotherapyforRetinopathyofPrema-turity)Study以来の治療時期であるthresholdROPより早期のprethresholdROP(表2a)を定義し,この病態に至った場合,危険因子分析(RM-ROP218))で網膜離の危険性が高いとされるhighriskgroupについて無作為抽出のうえ,48時間以内に治療を行った.その結果,9カ月時点における重症瘢痕形成例の割合がthresholdROP治療群における15.6%からprethresholdROP治療群では9.1%と有意に減少し,また,視力もTAC(TellerAcuityCard)にて1.85cycles/degree,すなわち小数視力0.05/50cm相当以下の不良例の割合が19.5%から14.5%と減少した.この結果をもとに,同研究グループはEarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurity(ETROP)として未熟児網膜症の新しい治療基準が提示された.すなわち,type1ROPの3病態およびtype2ROPの2病態を定義するとともにtype1ROPは即時治療が望ましく,type2ROPは経過観察を継続しtype1ROPに至った時点で治療を行う19)(表2b).さらに,prethresholdROPの4病態自体が治療時期として推奨されている20).窄を回避する利点がある.NasalCPAPの使用は肺虚脱を予防し,無呼吸発作によるSpO2の変動を抑制する効果がある.さらに2003年より生後2週以降の児について,SpO2を従来の90%から85%での管理に移行した.このPROPを参考にした基準値の変更により,呼吸動態が不安定な児における一過性のSpO2低下に際して過剰な酸素投与の適応が減少した.これら酸素管理方法の変更と運用の向上が児の動脈血酸素濃度の安定,ひいては未熟児網膜症診療の成績改善に寄与しているものと考える.なお,SpO2の基準値を下げることにより未熟児動脈管開存症,脳質周囲白質軟化症などの増加を危惧する意見もあるが,当院において,また,Chowらの報告でもこれら合併症の発症頻度に変化はない.IV治療時期について1.早期治療に関する米国での多施設共同研究米国で2000~2002年にかけEarlyTreatmentfor(年)()1997199819992000200120022003200420052006200720081009080706050403020100naselCPAPの使用開PROPに移行:発症率:治療率:重症瘢痕形成率図1兵庫県立こども病院における未熟児網膜症の発症と治療状況:年次推移対象の臨床特徴はつぎのとおり.超低出生体重児,前期(1997~2001年)218例,後期(2002~2006年)225例において,出生体重,在胎週数および生存率は前期,後期で有意差なし.ただし,ROPのハイリスクグループである在胎22~24週(前期53例,後期54例)の生存率は56.4%から73.6%に,出生体重700g未満の生存率は63%から76%と後期で有意に改善し対象の未熟性は高まる傾向.(厚生省新分類の活動期分類2期以上を発症,瘢痕期分類3度以上を重症瘢痕形成とした.治療の判断はI型では3期中期以上で増殖性変化の進行が認められる場合に,II型は診断次第,原則,全身麻酔下にて網膜光凝固術を施行している.)表2aETROPが規定するprethresholdROP①ZoneI,anyROP②ZoneII,stage2ROPwithplusdisease③ZoneII,anyamountofstage3ROPandnoplusdisease④ZoneII,stage3ROP(<5contiguousor8cumulativehours)withplusdiseasePlusdisease:2象限以上に及ぶ後極部網膜血管の迂曲,怒張.表2bETROPの治療基準Type1ROP①ZoneI,anystageROPwithplusdisease②ZoneI,stage3ROPwithorwithoutplusdisease③ZoneII,stage2or3ROPwithplusdiseaseType2ROP①ZoneI,stage1or2ROPwithoutplusdisease②ZoneII,stage3ROPwithoutplusdiseaseType1ROPが治療の適応でType2ROPは経過観察のうえType1ROPに至った時点で治療を行う.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009439(7)児網膜症に対する診療経験値も例外ではない.筆者は過去20年間の未熟児網膜症の経過,特に近年の改善を通じて,改めて未熟児網膜症の発症および進行に対し新生児科が主体となる全身管理の影響が大きいと感じている.眼科医としては網膜症の病態診断,治療に責任をもつことはもちろんであるが,同時に児の合併症や酸素動態など全身の因子にも注意を向ける必要がある.この姿勢は今後,治療対象に占める劇症型未熟児網膜症の相対的な増加が予想されるなか,ますます重要と考える.文献1)板橋家頭夫:超低出生体重児の死亡率の推移.周産期医学38:141-143,20082)InternationalCommitteefortheClassicationofRetinopa-thyofPrematurity:TheInternationalClassicationofRetinopathyofPrematurityrevised.ArchOphthalmol123:991-999,20053)堀内勁,猪谷泰史,大野勉ほか:わが国の主要医療施設におけるハイリスク新生児医療の現状(2001年1月)と新生児死亡率(2000年1~12月),日本小児科学会新生児委員会新生児医療調査小委員会,日児誌106:603-613,20024)PierceEA,FoleyED,SmithLE:Regulationofvascularendothelialgrowthfactorbyoxygeninamodelofretin-opathyofprematurity.ArchOphthalmol114:1219-1228,19965)PennJS,HenryMM,WallPTetal:TherangeofPaO2variationdeterminestheseverityofoxygen-inducedretinopathyinnewbornrats.InvestOphthalmolVisSci36:2063-2070,19956)境武男:呼吸窮迫症候群.新生児疾患35:96-99,20037)千田勝一:呼吸窮迫症候群.周産期医学36:478-479,20068)河野寿夫:慢性肺疾患.新生児疾患35:106-110,20039)DonlonJV,DoyleDJ,FeldmanMA:眼科,耳鼻咽喉科手術の麻酔.ミラー麻酔科学MillerRD編武田純三監修,p1957-1978,メディカルサイエンスインターナショナル,2007ETROPのtype1ROPおよびprethresholdROPをわが国の治療基準と比較すると,zoneIROPは厚生省新分類のII型と重なるが,zoneIIROPにはI型3期の初期から中期の病期が含まれる.つまり,I型ROPについては3期中期で進行性のあるものとするわが国の治療基準より早い病期での治療判断と言える.2.早期治療の問題点早期治療で対応した場合,自然治癒の可能性がある例についても治療を行うことになる.これはETROPの研究でも確認されている.同研究においてhighriskgroupでprethresholdROPに至りながら経過観察した372例中,thresholdROPにさえ至らず,結果的に治療不要で予後も良好であった例が136例(36.6%)あった(表2c).対策として,早期治療を保留して良い群として,比較的,重症化の危険性が低いplusdiseaseのないzoneIのstage1とstage2ROP,および,zoneIIのstage3ROPをあげ,これらは従来のthresholdでの治療であっても予後不良となる割合は5%以下であるとしている19).ETROPにおける早期治療群の重症瘢痕率は9.1%であるが,わが国における未熟性の高い児を管理する施設の治療成績をみると同割合は5%以下である17,21~23).コントロールされた多施設研究と施設単位の成績を同列に扱うことはできないが,少なくともETROPの成績は治療時期の早期化のみで未熟児網膜症が克服できないことを示しているといえる.おわりに現在,医療環境,レベルの地域間および施設間格差が深刻な問題となっているが,周産期医療や眼科医の未熟表2cETROPの研究で早期治療を行わなかった例の予後Low-riskprethreshold(n=292)Conventionallymanagedhigh-riskprethreshold(n=372)6カ月での評価Thresholdに至らなかった例Thresholdに至った例Thresholdに至らなかった例Thresholdに至った例予後良好24544136205重症瘢痕を形成12427(文献23より)———————————————————————-Page6440あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(8)studies.BrJOphthalmol86:1122-1126,200217)野村耕治:最近の網膜症の発症および治療状況.臨眼63:130-136,200918)HardyRJ,PalmerEA,DobsonVetal:Riskanalysisofprethresholdretinopathyofprematurity.ArchOphthalmol121:1697-1701,200319)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Revisedindicationforthetreatmentofretin-opathyofprematurity:ResultoftheEarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityRandomizedTrial.ArchOph-thalmol121:1684-1696,200320)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Theincidenceandcourseofretinopathyofprematurity:FindingsfromtheEarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityStudy.Pediatrics116:15-23,200521)菅波絵理,原徳子,松浦豊明ほか:奈良県立医科大学における未熟児網膜症の検討.臨眼54:427-431,200022)吉村圭子:福岡市立こども病院における極低出生体重児の未熟児網膜症の検討.眼臨98:518-521,200423)平岡美依奈,渡辺とよ子,川上義ほか:超低出生体重児における未熟児網膜症:東京都多施設研究.日眼会誌108:600-608,200410)ChowLC,WrightKW,SolaA:CanchangesinclinicalpracticedecreasetheincidenceofsevereretinopathyofprematurityinverylowbirthweightinfantsPediatrics111:339-345,200311)WrightKW,SamiD,ThompsonLetal:Aphysiologicreducedoxygenprotocoldecreasestheincidenceofthresholdretinopathyofprematurity.TransAmOphthal-molSoc104:78-84,200612)HellstromA,PerruzziC,JuMetal:LowIGF-1sup-pressesVEGF-survivalsignalinginretinalendothelialcells:Directcorrelationwithclinicalretinopathyofpre-maturity.ProcNatlAcadSciUSA98:5804-5808,200113)TinW,MilliganDW,PennefatherPetal:Pulseoximetry,severeretinopathy,andoutcomeatoneyearinbabiesoflessthan28weeksgestation.ArchDisChildFetalNeona-talEd84:106-110,200114)AndersonCG,BenitzWE,MadanA:Retinopathyofpre-maturityandpulseoximetry:anationalsurveyofrecentpractices.JPerinatol24:164-168,200415)伊藤大藏,大庭静子,秋元政博ほか:出生体重1000g以下の未熟児の推移─症例数・死亡率・網膜症状況─.眼臨93:591-595,199916)LarssonE,CarlePetreliusB,CernerudGetal:IncidenceofROPintwoconsecutiveSwedishpopulationbased

序説:未熟児網膜症診療─最近の考え方

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS多方面にわたって取り上げている.発症の背景には,網膜の未熟性とともに全身状態とその管理が大きく関与しており,われわれ眼科医がNICUの診療を十分に理解しておくことが必要である.ROPの治療においては,光凝固が最も重要であることは依然変わりがない.時宜を得て,十分な光凝固が行われていれば,たとえ網膜離に進行したとしても,その後に行われる治療の予後に非常に良い影響を与える.広角度眼底カメラの導入は,眼底の全体像把握に大きく寄与したが,これに蛍光眼底造影を行うと,重症例の病態をさらによく理解することができる.この設備を持つ施設は少なく,常用することは無理であるが,今回の特集で示された写真を見れば,ROPでは通常とはまったく異なる循環動態が起こっていることが理解できる.網膜離に対する治療は,近年大きく進歩したが,I型/classicROPとII型/AP-ROPでは大きく異なり,前者は比較的緩徐に進行し治療法の選択肢も幾つかあるが,後者は急速に進行するうえに治療法も限られる.最近は,成人の糖尿病網膜症などと同様に,ROPにも血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor)に対する抗体の投与が試みられている.既存の光凝固や硝子体手術に取って代わるまでには至らないであろうが,新たな治療法として期待されている.また,これらの治療には全身麻酔が必未熟児網膜症(ROP)は発達途上の網膜血管が異常増殖する疾患であり,在胎週数が短く出生体重が少ないほど発現頻度や程度が高い.最近,新生児集中治療室(NICU)の管理の進歩によって,出生体重が300400gのような極端に少ない超低出生体重児も救えるようになり,重症例が急増している.ことに,急速に進行する厚生省分類II型/国際分類aggressiveposteriorROP(AP-ROP)の増加は大きな問題である.盲学校の小児失明原因統計でもROPの占める比率が増加して40%に達し,疾患の重篤化を示している.ROPがある程度まで進むと光凝固治療を行い,この段階で治癒できれば予後は比較的良いが,進行して網膜離へ至ればきわめて悪くなり,このギャップは大きい.また,重症化しやすい網膜症では,治療のタイミングがごく短期間に限られる.したがって,進行を予測しつつ,診断・治療を行う必要がある.このような疾患の状況の一方で,ROP診療に関する教育は十分に行われているとは言い難い.最近は,多くの病院でNICUの整備が進みつつあるので,教育が不十分のまま未熟児網膜症の診療を行う機会が増えることは,大きな問題である.いきなり,ROP診療の場に直面して戸惑っている眼科医も多いのではないかと思う.本企画では,現在のROPに関する最新の診療を,(1)433療●序説あたらしい眼科26(4):433434,2009未熟児網膜症診療最近のえ方Up-to-DatePracticeinRetinopathyofPrematurity東範行*———————————————————————-Page2434あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(2)て,大きく進歩している.しかし,ROPが今後さらに増加するとともに難治例も多くなることが危惧される.一方で,診療に関わる眼科医が少ないなど,解決すべき課題も多い.このような状況において,本特集がROPの診療を行ううえでの一助となれば幸いである.要になることが多い.全身状態によってはさまざまなリスクを伴うので,ROPの状態だけで治療方針を決めることはできない.新生児科,麻酔科との連携は重要である.ROPの診療は,光凝固治療の基準がEarlyTreat-mentforROPStudyで定められ,網膜離に対しては早期に硝子体手術などが行われるようになっお方法:おとりつけの,また,その宜のない場は直あてごください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2009Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2009Vol.22■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544??://www.medical-aoi.co.jp

副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon蝗渇コ注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(141)4230910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):423426,2009cはじめに乳頭血管炎は主として健康な若年者の片眼に発症し,視神経乳頭部もしくは篩板付近の網膜中心静脈の炎症によるもので,視神経乳頭の著しい発赤・腫脹や網膜中心静脈閉塞症様の所見で発症する疾患である.治療は副腎皮質ステロイド薬の全身投与による加療が一般的である15).乳頭血管炎は一般的に予後良好ではあるものの,乳頭上の新生血管の形成や白鞘化を残すという報告もある.筆者らは中年女性に発症した本症に副腎皮質ステロイド薬内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,女性.主訴:左眼霧視.現病歴:2007年10月22日頃から左眼霧視を自覚し,1〔別刷請求先〕田片将士:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasashiTakata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,Mukogawacho1-1,Nishinomiya,Hyogo663-8501,JAPAN副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎田片将士*1,2岡本紀夫*1村上尊*2岡本のぶ子*2三村治*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2岡本病院眼科Sub-TenonInjectionofTriamcinoloneAcetonideCombinedwithSystemicAdministrationofOralCorticosteroidforOpticDiscVasculitisinMiddle-agedFemaleMasashiTakata1,2),NorioOkamoto1),TakashiMurakami2),NobukoOkamoto2)andOsamuMimura1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OkamotoHospital乳頭血管炎(typeⅠ)に副腎皮質ステロイド薬の内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験した.症例は52歳の女性,左眼の霧視にて岡本病院眼科を受診した.眼底検査で左眼視神経乳頭の発赤・腫脹を認めたが,限界フリッカ値や静的視野検査は正常であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で視神経乳頭より蛍光色素の漏出を認めた.以上より左眼乳頭血管炎と診断し副腎皮質ステロイド薬を開始した.しかし,視神経乳頭の所見の改善がみられないのでトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用したところ速やかに乳頭血管炎が消失した.乳頭血管炎が強い場合は副腎皮質ステロイド薬の全身投与に加えてトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用することが有効と考えられた.Wereportcaseofopticdiscvasculitistreatedeectivelywithsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideandsystemicadministrationofcorticosteroid.Thepatient,a52-year-oldfemale,presentedwithblurringinherlefteye.Ophthalmoscopicexaminationdisclosedareddishandswollenopticdiscintheeye.Criticalickerfrequencyandstaticvisualeldexaminationwerenormal.Fluoresceinangiographydemonstrateddyeleakagefromtheleftopticdisc.Wediagnosedopticdiscvasculitisinthelefteye,andadministeredcorticosteroidorally;however,thetherapywasinsucienttoreducetheopticdiscvasculitis.Triamcinoloneacetonidewasthereforeinjectedtothesub-Tenonspaceinthelefteye.Afterinjection,theopticdiscvasculitisimprovedquickly.Sub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide,incombinationwithsystemicadministrationofcorticosteroid,maybeeectiveinthetreatmentofsevereopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):423426,2009〕Keywords:乳頭血管炎,トリアムシノロンアセトニド,Tenon下注射.opticdiscvasculitis,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection.———————————————————————-Page2424あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(142)週間後から左眼に白点の地図状のものが見えはじめたとのことで,10月29日に岡本病院眼科を受診した.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.0(1.5×sph+4.50D),左眼0.5(1.5×sph+4.75D),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg.前眼部・中間透光体に異常はなく,眼球運動は制限なく眼位も正位であった.対光反射は迅速かつ十分で相対的瞳孔求心路障害は認めなかった.眼底検査で右眼は正常,左眼は視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた(図1).限界フリッカ値は右眼30Hz,左眼29Hzと左右差は認めなかった.静的視野検査では両眼とも正常範囲内であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間,網膜内循環時間ともに正常範囲内であり,後期にかけては視神経乳頭からの旺盛な蛍光漏出がみられた(図2,3).頭蓋内,眼窩内の磁気共鳴画像(MRI)撮影を行ったが,異常所見はみられなかった.初診時の血液データを表1に示す.経過:年齢は中年であるが,臨床所見より左眼視神経乳頭血管炎と診断した.プレドニゾロン錠30mgを14日連続投与し,20mgからはそれぞれ7日間ごとに5mgずつ漸減投与し,その後5mg隔日投与を3回行った(総量はプレドニゾロン換算で885mg).経過中11月9日再診時(プレドニゾロン30mg内服中)に視神経乳頭の発赤・腫脹の軽快がみられなかったため,トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を併用した(図4).トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射4日後には受診時視神経乳頭の発赤・腫脹の著明な改善を認めた.網膜血管の蛇行・拡張もほぼ消失した.1月8日受診時には,視神経乳頭・網膜血管の所見は消失表1初診時の血液データT-Cho202mg/dlRBC394×104/μlHDL-Cho59mg/dlHb11.8g/dlTG122mg/dlHt36.2%空腹時血糖77mg/dlPlt22.8×104/μlCRP0mg/dl血沈1h15mmWBC7,200/μl2h37mm検査項目に異常値を認めなかった.T-Cho:総コレステロール,HDL-Cho:高比重リポ蛋白コレステロール,TG:中性脂肪,CRP:C反応性蛋白,WBC:白血球数,RBC:赤血球数,Hb:ヘモグロビン,Ht:ヘマトクリット,Plt:血小板数.図3図2と同一症例の蛍光眼底写真(9分42秒)視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図12007年10月29日時点の左眼眼底写真左眼視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた.図22007年10月29日時点の蛍光眼底写真(34.7秒)FAで初期は腕網膜循環時間は約12秒とほぼ正常で,網膜内循環時間も約10秒とほぼ正常内であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009425(143)していた(図5).II考察乳頭血管炎は1972年にHayreh6)がopticdiscvasculitisの疾患概念を提唱し,乳頭腫脹が強くみられるtypeⅠと網膜中心静脈閉塞症様所見が前面にみられるtypeⅡに分類した.また,HayrehはtypeⅠは篩板前部での毛様血管の非特異的炎症によるもので,typeⅡは乳頭部もしくは篩板後部での網膜中心静脈の炎症ではないかとの見解を示している.一般的に乳頭血管炎はおもに若年者の片眼性に認められ,Mariotte盲点の拡大以外は視機能の異常は認められないとされている.今回,筆者らが経験した症例は乳頭腫脹が非常に強くみられ,FAの結果や臨床所見からも網膜中心静脈閉塞症様の所見とは異なっているため,typeⅠに分類されると思われる.また,HayrehはtypeⅠに関しては副腎皮質ステロイド薬の全身投与が効果的であると述べている.本症例の特殊性としてはつぎの点があげられる.わが国での他の報告ではほとんどが若年者であり1030歳代がおもである13,5).本症例は52歳と中年であり,比較的まれであるといえる.さらに高度遠視が認められ,強い乳頭浮腫が認められている.高度遠視には強膜の相対的肥厚や小乳頭を伴うことが多く,本症例の危険因子と考えられる.つまり,篩板前域の乳頭血管の非特異的炎症により血管透過性の亢進がみられ,粗な篩板前域組織に組織液の貯留がみられる.それにより強い乳頭浮腫が生じ,篩板前域の静脈路が圧迫される6).それに加えて高度遠視眼での相対的強膜肥厚と小乳頭が加わり,さらに篩板前域の静脈路の圧迫が強化されるという機序が予想される.乳頭血管炎の加療としては,副腎皮質ステロイド薬の全身投与16)や本疾患が一般的に予後良好であることから自然治癒を期待し無治療にて様子をみている報告7,8)もある.一方で予後不良例も報告されている.しかし,初診時の眼底所見や経過で予後良好か不良かを判断する指標が示されていないのが現状である.城間ら4)は抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎で視力不良であった症例を報告している.小暮ら5)は後遺症として乳頭上新生血管や乳頭上の静脈の白鞘形成がみられた症例を,窪田ら8)は無治療にて経過観察を行い,自然治癒を得たものの視神経乳頭の軽度萎縮と乳頭の上下に白鞘を後遺症として残した症例を報告している.Hayreh6)は副腎皮質ステロイド薬を投与せず経過観察を行った症例で発症前の視力に回復するのに4カ月以上かかり,発症約8カ月で視神経乳頭腫脹は消失したものの視神経乳頭の蒼白化を生じた症例に言及するとともに,副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用はより早急な加療で後遺症の発現を防ぎ,病期の短縮を図るためにも有用であるとしている.また,別の報告9)では45歳以上で病期が長引くこと,ステロイド治療群と無治療群との比較において前者で病期の短縮を図れたこと,無治療で中心視野欠損を生じた症例があることなどを報告している.本症例では年齢が中年齢で45歳以上であることなどから積極的加療を行った.副腎皮質ステロイド薬内服で加療を開始し,さらにプレドニゾロン30mg内服後も劇的な改善が得られないためトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した.その結果,内服開始の約1週間後,Tenon下注射の4日後には左眼の視神経乳頭の発赤や腫脹および網膜血管の拡張・蛇行が軽快している.今回筆者らは副腎皮質ステロイド薬の内服投与に加えてトリアムシノロンのTenon下注射を行い著効を得た.トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射の単独加療も有用ではないかと思われるが,これに関しては今後単独加療での検討が必要であると思われた.文献1)吉田祐介,伴由利子,小林ルミ:抗カルジオリピン抗体図52008年1月8日時点の左眼眼底写真ほとんど視神経乳頭や網膜血管の病変は消失した.35302520151050プレドニゾロン錠(mg)H19.11.6H19.11.13H19.11.20H19.11.27H19.12.4H19.12.11H19.12.18図4副腎皮質ステロイド薬投与量の推移トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を11月9日(矢印)に施行した.———————————————————————-Page4426あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(144)陽性であった乳頭血管炎の1例.臨眼61:1341-1345,20072)小栗真千子,近藤永子,近藤峰生ほか:14歳の女子に発症した乳頭血管炎の1例.眼臨99:389-391,20053)井内足輔,白石久子:長時間のVDT作業をしていた24歳女性に発症した乳頭血管炎.眼臨紀1:131-133,20084)城間正,照屋明子,早川和久ほか:抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎の1症例.眼紀52:886-888,20015)小暮奈津子,阿部真知子,大西裕子ほか:乳頭血管炎と思われる8症例について.眼臨71:1236-1241,19776)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,19727)山本正洋,西尾陽子,大賀正一:視神経乳頭血管炎を呈した慢性活動性EBウイルス感染症の1例.臨眼53:975-977,19998)窪田靖夫,野村恭子:乳頭血管炎の1例.眼臨73:1431-1434,19799)OhKT,OhDM,HayrehSS:Opticdiscvasculitis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:647-658,2000***

網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴った1 例

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(137)4190910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):419422,2009cはじめに網膜血管腫には,vonHippleが報告した先天性(vonHip-pel-Lindau病1))と,Shieldsらが報告した片眼性,孤立性,非家族性の後天性のもの2)がある.本疾患は,通常進行が緩除で,比較的予後良好とされているが,合併症として,黄斑上膜や滲出性網膜離が起きると視力低下をきたすことがある35).今回筆者らは,孤立性の網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴い,さらに,滲出性網膜離を合併したため硝子体手術に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:30歳,女性.主訴:左眼の視力低下.既往歴,家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成15年8月に約1週間前から左眼の視力低下を自覚し,徐々に悪化するため当院を受診した.初診時所見:視力は右眼1.0(n.c.),左眼0.1(0.3×sph1.0D)で,眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHgであった.両眼とも前眼部,中間透光体は清明であった.左眼眼底には,黄斑部浮腫を認め,耳上側血管は著しい蛇行と拡張を認め,耳上側周辺部に橙赤色に一部白色が混在した1から2乳頭径大の球状の腫瘤が認められた(図1a).インドシアニングリーン蛍光眼底撮影において,腫瘤は強い過蛍光を示し,血管腫への導入出血管を認めた(図1b).右眼眼底には異常は認められなかった.経過:頭部computedtomography(CT),magneticreso-nanceimaging(MRI)検査では異常なく,後天性網膜血管腫と診断した.その後,約6カ月間来院されず放置され,再診時には左眼視力0.04(n.c.)まで低下していた.左眼前眼部,中間透光体は異常なく,眼底所見としては,黄斑部には〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,TaneMemorialEyeHospital,1-1-39Sakaigawa,Nishi-ku,Osaka550-0024,JAPAN網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴った1例櫻井寿也前野貴俊木下太賀山田知之田野良太郎福岡佐知子竹中久張國中真野富也多根記念眼科病院ACaseofSubmacularChoroidalNeovasucularizationwithRetinalHemangiomaToshiyaSakurai,TakatoshiMaeno,TaigaKinoshita,TomoyukiYamada,RyotaroTano,SachikoFukuoka,HisashiTakenaka,KokuchuChoandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital後天性網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴い,さらに,滲出性網膜離を合併したため硝子体手術に至った症例を経験したので報告する.30歳,女性が後天性網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管のために視力障害を生じた.硝子体手術を施行し腫瘍に対し光凝固術を行った.術後合併症もなく,黄斑下脈絡膜新生血管の消退を認め,今回の網膜血管腫に対する硝子体手術は有効な治療法と考えられた.Wereportontheecacyofvitrectomyinaneyewithsubmacularchoroidalneovascularizationandserousretinaldetachmentwithacquiredretinalhemangioma.Thepatient,a30-year-oldfemale,experiencedvisualdistur-bancebecauseofsubmacularchoroidalneovascularizationwithacquiredretinalhemangioma.Sheunderwentvit-rectomyandintraoperativephotocoagulationtreatmentofthetumor.Aftersurgery,thechoroidalneovasculariza-tiondisappeared,withoutcomplications.Vitrectomyisconsideredeectiveforretinalhemangioma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):419422,2009〕Keywords:脈絡膜新生血管,硝子体手術,網膜血管腫.choroidalneovasculalization,vitrectomy,retinalhemangioma.———————————————————————-Page2420あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(138)黄斑下に脈絡膜新生血管と考えられる隆起性変化と漿液性黄斑部網膜離を認めた.初診時に認められた網膜血管腫の大きさおよび導入出血管の太さ,蛇行も著明な変化はなかった.さらに下方の網膜は6時方向を中心にほぼ半周にわたり滲出性網膜離を広範囲に認めた.インドシアニングリーン蛍光眼底撮影にて初期より黄斑部に過蛍光を示し,さらに光干渉断層計の所見から,この過蛍光部分の隆起は脈絡膜新生血管と考えた(図2).網膜血管腫に対し光凝固を開始,条件は色素レーザー黄色(577nm),スポットサイズ200400μm,照射時間0.4秒,パワー200300mWで導入血管と腫瘤に直接凝固を試みるも,最終的には患者の協力が得られず十分な凝固は施行できなかった.その後再診時から8カ月ab図1初診時所見a:初診時眼底写真,b:初診時インドシアニングリーン蛍光眼底撮影(血管腫部分).acb図2再診時所見a:術前眼底写真,b:術前インドシアニングリーン蛍光眼底撮影,c:術前光干渉断層像.矢印:脈絡膜新生血管.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009421(139)後に眼内からの光凝固を希望され硝子体切除術を施行した.II硝子体手術所見通常の3ポート(20ゲージ)法にてcorevitrectomyを行った.後部硝子体は未離であったのでトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)を用いて黄斑部より周辺に向かって人工的後部硝子体離を作製した.腫瘤と硝子体の癒着は硝子体カッターではずすことは可能であったが,少量の出血を認めた.周辺部硝子体は可能なかぎり切除した.腫瘤と導入血管に対しては眼内光凝固を用いて直接凝固した.眼内光凝固の条件は波長532nm,照射時間0.2秒,出力300mWにより照射数75発行った.術後視力は次第に回復し,術後6カ月に矯正視力は0.1に改善した.術前黄斑下に認めた,脈絡膜新生血管の退縮に伴い漿液性網膜離も消退した(図3).III考察先天性の網膜血管腫で全身症状を伴わないものはvonHippel病,小脳などに血管腫を合併しているものはvonHippel-Lindau病とよばれている1).後天性網膜血管腫は,Shieldsらによって家族歴がなく,片眼性,孤立性で,全身,中枢神経に異常がなく,多くは30歳以降に発症すると報告された2).今回の症例についても眼底所見からは典型的な血管腫,および著明な流入流出血管の拡張を認めることから,先天性の可能性が非常に高いものの年齢,家族歴,全身中枢神経異常のないことから,完全に先天性と断定することはできない.今回の症例に関しては後天性網膜血管腫の可能性も考えられる.また,発症後5年経過した現時点においても小脳などのhemangioblastomaなども認められない.後天性網膜血管腫に合併する網膜病変としては,硬性白斑,網膜出血,硝子体出血,滲出性網膜離,網膜上膜,胞様黄斑浮腫などがある.これまで合併症に対する硝子体手術の多くは黄斑上膜であり,筆者らの知る限り,黄斑下脈絡膜新生血管を合併した症例の報告はない.脈絡膜新生血管の成因については不明な点も多いが,網膜血管腫などで血管の透過性が亢進していることが推測され,種々のサイトカインなどの細胞増殖を促進する物質が硝子体腔内へ放出されたためと考えられる7).網膜血管腫の治療法としては現在光凝固が第一選択とされている.比較的予後良好とされる本疾患ではあるが,滲出性網膜離などの合併症を伴って予後不良となる可能性があることから併発症が起こる前に光凝固を開始すべきとの考えもある8).今回の症例では,滲出性網膜離,黄斑下脈絡膜新生血管を生じ,最終的に硝子体手術に踏み切った.手術所見としては,後部硝子体離を人工的に起こす際にも血管腫からの出血が少量であったが,比較的安全に操作が行われた.また,腫瘤と流入血管を眼内光凝固することで瘢痕化が得られた.術後,黄斑下脈絡膜新生血管は,検眼鏡的に線維化を呈し,黄斑部周辺の漿液性網膜離も消失した.これは,術中の血管腫への光凝固による血管増殖因子などの物質の減少,さらに術中,硝子体可視化の目的で使用したトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)の血管透過性亢進抑制作用および,抗炎症作用によるものと考えられる9).網膜血管腫に対する治療は光凝固治療をできるだけ早期に行い,滲出性網膜離などの合併症が出現する前に血管腫の瘢痕形成を行う必要があり,合併症が出現し視力低下した場合には硝子図3術後6カ月所見a:術後6カ月の眼底写真,b:術後6カ月の光干渉断層像.ab———————————————————————-Page4422あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(140)体手術を考慮すべきである.今回,後天性網膜血管腫に合併した黄斑下脈絡膜新生血管に対する治療としては,硝子体手術が効果的ではあったが,今後は,腫瘍などの病的新生血管を伴う疾患の病態には血管内皮細胞増殖因子(vasucularendotherialgrowthfactor:VEGF)が深く関与すること10)からも,抗VEGF剤の使用や腫瘍に集積する特性をもった光感受性物質を用いた光線力学的療法11,12)も選択肢の一つとして期待される.本論文の要旨は第46回日本網膜硝子体学会総会にて発表した.文献1)vonHippelE:UebereinesehrselteneErkrankungderNetzhaut.vonGraefesArchOphthalmol59:93-106,19042)ShieldsJA,DeckerWL,SanbornGEetal:Presumedacquiredretinalhemangioma.Ophthalmology90:1292-1300,19833)ShieldsCL,ShieldsJA,BarretJetal:Vasoproliferativetumorsoftheocularfundus.Classicationandclinicalmanifestationsin103patients.ArchOphthalmol113:615-623,19954)今泉寛子,竹田宗泰,奥芝詩子ほか:硝子体手術を施行した後天性網膜血管腫の3例.眼臨88:1594-1597,19945)筑田真,高橋一則,橋本浩隆ほか:網膜血管腫による網膜・硝子体病変への硝子体手術.日眼会誌49:975-978,19956)飯田知子,南政宏,今村裕ほか:黄斑上膜を伴う網膜血管腫に硝子体手術を施行した1例.眼科手術16:545-548,20037)MachemerR,WilliamsJMSr:Pathogenesisandtherapyoftractionretinaldetachmentinvariousretinalvasculardiseases.AmJOphthalmol105:170-181,19888)戸張幾生:網膜血管腫の診断と治療.眼科MOOK19:104-113,19839)CiullaTA,CriswellMH,DanisRPetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonideinhibitschoroidalneovascuralizationinalaser-treatedratmodel.ArchOphthalmol119:399-404,200110)DvorakHF,BrownLF,DetmarMetal:Vascularperme-abilityfactor/vascularendotherialgrowthfactor,micro-vascularhyperpermeability,andangiogenesis.AmJPathol146:1029-1039,199511)尾花明,郷渡有子,生馬匡代:乳頭上血管腫に対して光線力学療法を行ったvonHippel-Lindau病の1例.日眼会108:226-232,200412)AtebaraNH:Retinalcapillaryhemangiomatreatedwithvertepornphotodynamictherapy.AmJOphthalmol134:788-790,2002***

網膜色素変性症に伴う.胞様黄斑浮腫に対して硝子体手術が有効と思われた1 例

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(131)4130910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):413417,2009cはじめに網膜色素変性症(RP)に伴う黄斑病変として,黄斑円孔や黄斑前膜,黄斑浮腫が報告1)されている.今回筆者らは,1年以上持続した薬物治療に抵抗するRPに伴う胞様黄斑浮腫(CME)に対して硝子体手術を行い,術後改善が認められた1例を経験したので報告する.I症例患者:47歳,男性.現病歴:3年前からの夜盲,視力低下を主訴に,2005年8月10日,近医を受診した.硝子体中に軽度の炎症細胞および黄斑浮腫を認め,後部ぶどう膜炎の疑いで,当院紹介とな〔別刷請求先〕田内慎吾:〒060-8604札幌市中央区北11西13市立札幌病院眼科Reprintrequests:ShingoTauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,West13,North11,Chuo-ku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8604,JAPAN網膜色素変性症に伴う胞様黄斑浮腫に対して硝子体手術が有効と思われた1例田内慎吾木下貴正竹田宗泰市立札幌病院眼科ACaseinwhichVitrectomySeemedtobeEectiveforCystoidMacularEdemaAssociatedwithRetinitisPigmentosaShingoTauchi,TakamasaKinoshitaandMuneyasuTakedaDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital目的:網膜色素変性症(RP)に伴う胞様黄斑浮腫(CME)に対して,硝子体手術が有効と思われた1例を経験したので報告する.症例:47歳,男性.3年前からの夜盲,視力低下を主訴に,2005年8月10日,近医を受診した.硝子体に軽度の炎症細胞および黄斑浮腫を認め,後部ぶどう膜炎の疑いで,当院紹介となった.初診時視力は右眼(0.8),左眼(0.9)であった.眼底は網膜動脈狭細化,色素沈着を伴う網膜変性があり,網膜電図(ERG)は消失型で典型的なRPを認めた.黄斑部に高度のCMEを伴っていた.炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の投与を行い,一時的に改善傾向があるものの再燃と視力低下をくり返した.術前視力は右眼(0.8)(2007年8月8日)で,同年9月10日,右眼硝子体手術を施行した.術後,CMEは改善し,2008年4月15日,矯正視力は右眼(0.9)となった.結論:薬物治療に抵抗するRPに伴うCMEに対する硝子体手術は有効である可能性がある.Wereportacaseinwhichvitrectomyseemedtobeeectiveforcystoidmacularedema(CME)associatedwithretinitispigmentosa(RP).Thepatient,a47-year-oldmale,hadacheckupfromalocaldoctoronAugust10,2005,withchiefcomplaintofnightblindnessanddecreasedvisualacuityofthreeyears’duration.Mildinammatoryvitreouscellsandmacularedemawereseen.Becauseofsuspectedposterioruveitis,hewasreferredtoourdepartment.Atinitialexamination,hisvisualacuitywas(0.8)righteyeand(0.9)lefteye.Thefundusshowedretinalarterynarrowingandretinaldegenerationwithpigmentation.Asfortheelectroretinogram(ERG),itsatnessreectedtypicalRP.ExtensiveCMEwasalsonotedinthemaculararea.Weadministeredcarbonicanhydraseinhibitor(acetazolamide)fortheCME,butitshowedonlytemporaryimprovement,followedbyrecur-renceandvisualloss.OnApril8,2007,visualacuitywas(0.8)righteye;weperformedvitrectomyonSeptember10.CMEdecreasedpostoperatively;correctedvisualacuityhadimprovedto(0.9)righteyeonApril15,2008.Vit-rectomymaybeeectiveforCMEwithpharmacotherapy-resistantRP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):413417,2009〕Keywords:網膜色素変性症,胞様黄斑浮腫,硝子体手術.retinitispigmentosa,cystoidmacularedema,vitrectomy.———————————————————————-Page2414あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(132)った.既往歴:高血圧症で内服中.家族歴:母親に夜盲(+).初診時所見(2005年8月23日):視力は,右眼0.6(0.8×0.75D),左眼0.7(0.9×0.75D).眼圧は,右眼12mmHg,左眼13mmHg.細隙灯顕微鏡では,前眼部:角膜,前房は異常なし.中間透光体:初発白内障(両眼),硝子体cell+(右眼2+,左眼1+).眼底:両眼底で網膜動脈の狭細化,アーケード外の網膜の変性を認めた.視神経萎縮は認めなかった.両眼にCMEと思われる所見を認めた.フルオレセイン蛍光造影(FA)(2005年9月2日):右眼のFA早期像(図1)で,周辺部には点状の色素沈着が散在していた.Vasculararcade付近から赤道部にかけて,網膜色素上皮の萎縮によるびまん性顆粒状の過蛍光(windowdefect)があり,左眼も同様の所見を呈していた.FA後期像(図2)では,両眼のCMEと思われる蛍光貯留および乳頭部に蛍光漏出を認めた.GP(Goldmann視野計測)(2005年8月26日):両眼に地図状の暗点を認めた.フラッシュERG(網膜電図)(2005年8月26日):a波,b波の振幅低下(消失型)を認めた.光干渉断層計(OCT)(2005年9月2日):両眼の中心窩網膜の肥厚および内部に胞様変化を認めた.以上の所見より,RPおよびそれに伴うCMEと診断した.治療の経過:図3に示すように,2006年7月11日より,アセタゾラミド750mg/日(3×n)およびアスパラKR3T/日(3×n)の内服を開始した.9月13日,両眼の矯正視力1.0まで改善し,アセタゾラミドを休薬した.1カ月後,両眼の視力低下を認めたため,内服を再開した.再開後の視力は改善傾向で,アセタゾラミドの長期投与による全身性の副作用も懸念されたため,翌年2月28日,再び休薬とした.OCTの推移(図4)では,アセタゾラミド休薬後,両眼のCMEの悪化を認めた.内服再開後,CMEは左眼では軽減したが,右眼ではわずかな軽減にとどまった.経過のなかで,OCT上,両眼ともに後部硝子体膜は後極部網膜に広範囲で接着しており,膜の肥厚や黄斑にかかる牽引は認められなかった.図5に示すように,2月28日のアセタゾラミド休薬後,再び両眼の視力低下を認め,中心窩網膜は肥厚した.4月アセタゾラミド750mg/日数視力右眼OCT左眼OCT左眼右眼1.41.210.80.60.40.22006年7/118/99/13①④②⑤③⑥10/1812/202/282007年図3治療の経過(1)OCT欄の①⑥の数字は図4のOCT像に対応.図1フルオレセイン蛍光造影(右眼早期,2005年9月2日)周辺部に点状の色素沈着の散在を認めた.また,網膜色素上皮の萎縮による過蛍光(windowdefect)を認めた.右眼(12分53)左眼(13分43)図2フルオレセイン蛍光造影(後期,2005年9月2日)両側のCMEと思われる蛍光の貯留を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009415(133)13日に内服再開後,6月15日時点で両眼ともに視力は改善し,中心窩網膜厚も改善した.しかし,右眼ではわずかな改善にとどまり,8月8日の時点でCMEが持続していたため,患者への十分な説明と同意を得て,9月10日,右眼のみ硝子体手術を行った.手術の概要:アルコン社の23ゲージシステムを用いた.トリアムシノロンを使用して後部硝子体離(PVD)を作製し,内境界膜(ILM)は離しなかった.水晶体は温存した.術中,特に合併症はなかった.術後の経過:図5にみるように右眼硝子体手術後,OCTで中心窩網膜厚は244.2297.9μmと改善し,視力は,2008年4月15日現在,0.9を保っている.これに対して,左眼はアセタゾラミド休薬後,中心窩網膜の肥厚が449.3527.4μmと持続し,視力も(0.4)(0.7)と低下傾向である.2008年1月11日のOCT(図6)上,右眼のCMEは軽減し,左眼はCMEが持続している.現在まで手術を行っていない左眼に対し,硝子体手術を施行した右眼のみ,視力およびCMEの改善を認めた.II考按RPでCMEが生じるメカニズムとして,網膜色素上皮のポンプ作用の障害2),抗網膜抗体による自己免疫反応による炎症3),硝子体による黄斑の機械的牽引4),などが報告されているが,まだ不明なところが多い5).RPにおけるCMEの発生率は1020%という報告6,7)もある.本症例では,術前のOCT上,硝子体による黄斑の牽引は確認されなかった.RPに伴うCMEに対する治療は,薬物治療として,ステロイドや炭酸脱水酵素阻害薬の内服,眼内局所投与が報告8,9)①③②⑤④⑥悪化悪化軽減わずかに軽減図4OCTの推移①→②:CME悪化,②→③:CMEわずかに軽減,④→⑤:CME悪化,⑤→⑥:CME軽減.経過のなかで,OCT上,両眼ともに硝子体による黄斑の牽引は認められなかった.1.41.210.80.60.40.27006005004003002001000中心窩網膜厚小数視力右眼OCT⑦9/10,右眼硝子体手術施行アセタゾラミド750mg/日視力1.41.210.80.60.40.26005004003002001000(μm)2/282007年2008年4/136/158/810/411/1512/271/114/15中心窩網膜厚小数視力左眼OCT⑧視力図5治療の経過(2)図中の⑦,⑧の数字は図6のOCT像に対応.———————————————————————-Page4416あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(134)されている.海外では,アバスチンRを硝子体腔に投与したという報告10)もある.今回筆者らは,CMEに対してアセタゾラミドを3度にわたり750mg/日(3×n)使用し,一時的に効果を認めたが,休薬により再燃をくり返した.このため,右眼のみ硝子体手術を実施した.RPに伴うCMEに対する薬物治療については,投与間隔および効果の持続,長期投与による副作用などの問題点が残されている.RPに伴うCMEに対して硝子体手術を行った最近の報告では,国内では,玉井らが,術後2カ月でCMEが再発したと報告4)している.海外では,Garciaらが,術後観察期間1年で,12例中10例(83.3%)で視力,CMEが改善したと報告11)している.今回筆者らは,薬物治療に抵抗するRPに伴うCMEに対して硝子体手術を施行し,術後の経過は良好であった.このような病態に対して,症例によっては硝子体手術は有効である可能性があり,薬物治療に抵抗し,中心窩網膜厚や視力が進行性に悪化する症例には試みても良い治療と考えられる.しかし,今回は1例のみの経験であり,引き続き慎重な経過観察をしていく予定である.本論文の要旨は,第46回北日本眼科学会(ポスター講演)にて報告した.文献1)高橋政代:網膜色素変性の黄斑病変.眼科44:65-70,20022)NewsomeDA:Retinaluoresceinleakageinretinitispig-mentosa.AmJOphthalmol101:354-360,19863)HeckenlivelyJR,JordanBL,AptsiauriN:Associationofantiretinalantibodiesandcystoidmacularedemainpatientswithretinitispigmentosa.AmJOphthalmol127:565-573,19994)玉井洋,和田裕子,阿部俊明ほか:網膜色素変性に伴う胞様黄斑浮腫と硝子体手術.臨眼56:1443-1446,20025)高橋牧,岸章治:胞様黄斑浮腫をきたす疾患.眼科50:721-727,20086)FetkenhourCL,ChoromokosE,WeinsteinJetal:Cystoidmacularedemainretinitispigmentosa.TransSectOph-thalmolAmAcadOphthalmolOtolaryngol83:515-521,19777)FishmanGA,MaggianoJM,FishmanM:Foveallesionsseeninretinitispigmentosa.ArchOphthalmol95:1993-1996,1977⑦右眼左眼⑧図6術後のOCT(2008年1月11日)硝子体手術を施行した右眼にCMEの改善が認められた.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009417(135)8)KimJE:Intravitrealtriamcinoloneacetonidefortreat-mentofcystoidmacularedemaassociatedwithretinitispigmentosa.Retina26:1094-1096,20069)ScorolliL,MoraraM,MeduriAetal:Treatmentofcys-toidmacularedemainretinitispigmentosawithintravit-realtriamcinolone.ArchOphthalmol125:759-764,200710)MeloGB,FarahME,AggioFB:Intravitrealinjectionofbevacizumabforcystoidmacularedemainretinitispig-mentosa.ActaOphthalmolScand85:461-463,200711)Garcia-ArumiJ,MartinezV,SararolsLetal:Vitreoreti-nalsurgeryforcystoidmacularedemaassociatedwithretinitispigmentosa.Ophthalmology110:1164-1169,2003***

ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR 0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(123)4050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):405412,2009cはじめに現在,緑内障の薬物治療においては,b遮断薬やプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が第一選択薬として用いられているが,単剤では十分な眼圧下降が得られず,多剤併用を要する症例も少なくない.また,長期にわたる治療では副作用などの問題で薬剤の変更を余儀なくされる場合もある.そのため,緑内障治療には複数の作用機序の異なる治療薬から患者の状態に応じて選択できることが望ましい.デタントールR0.01%点眼液(以下,「本剤」と略す)は参天製薬株式会社が開発し,2001年9月に発売した緑内障・高眼圧症治療点眼薬である.本剤は,ブナゾシン塩酸塩を有効成分とし,選択的交感神経a1受容体遮断作用を有する唯〔別刷請求先〕樋口直子:〒533-8651大阪市東淀川区下新庄3-9-19参天製薬株式会社市販後調査グループReprintrequests:NaokoHiguchi,PMSGroup,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-9-19Shimoshinjo,Higashiyodogawa-ku,Osaka533-8651,JAPANブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討樋口直子*1宮本悦代*1神田佳子*1岡本紳二*1橋本公子*1國廣英一*1石田智恵美*2柳井知子*2福本充*2*1参天製薬株式会社市販後調査グループ*2参天製薬株式会社安全性管理室SafetyandEcacyofBunazosinHydrochlorideOphthalmicSolution(DetantolR0.01%OphthalmicSolution)inaPost-marketingObservationalStudyNaokoHiguchi1),EtsuyoMiyamoto1),YoshikoKanda1),ShinjiOkamoto1),MasakoHashimoto1),EiichiKunihiro1),ChiemiIshida2),TomokoYanai2)andMitsuruFukumoto2)1)PMSGroup,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)Drug&DeviceSafetyInformationManagementOce,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR0.01%点眼液)の市販後の使用実態下における安全性および有効性を検討するため,ブナゾシン塩酸塩点眼液が新たに投与された緑内障および高眼圧症患者を対象とし,中央登録方式による前向きな使用成績調査を実施した.852施設より6,740例を収集した.副作用発現症例率は4.11%(254/6,178)で,おもな副作用は眼充血(結膜充血を含む)107件などの眼障害が233例(3.77%)279件であった.眼圧は,平均観察期間76.5日で,投与開始時19.2±5.8mmHgに対して2.7±5.0mmHgの有意な下降を示した(p<0.001).ブナゾシン塩酸塩点眼液は市販後の使用実態下においてもその安全性および有効性が確認され,緑内障および高眼圧症治療の第二選択薬として有用な薬剤であると考えられた.Toclarifythesafetyandecacyofbunazosinhydrochlorideophthalmicsolution(DetantolR0.01%ophthalmicsolution)inareal-worldsetting,weprospectivelyperformedthispost-marketingobservationalstudyonpatientswithglaucomaorocularhypertensionwhowereadministeredbunazosinhydrochlorideforthersttime.Atotalof6,740caseswerecollectedfrom852medicalinstitutions.Theincidenceofadversedrugreactions(ADR)was4.11%(254/6,178).AstomajorADR,279eyedisorderswerenotedin233patients(3.77%)includedhyperaemia(1.73%).Meanintraocularpressurewassignicantlydecreasedby2.7±5.0mmHgatamean76.5daysafteradminis-tration,ascomparedto19.2±5.8mmHgbeforeadministration(p<0.001).Thisstudyshowsbunazosinhydrochlo-rideophthalmicsolutiontobesafeandeectiveasasecond-linedrugforthetreatmentofglaucomaorocularhypertension,inareal-worldsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):405412,2009〕Keywords:ブナゾシン塩酸塩点眼液,使用成績調査,安全性,有効性.bunazosinhydrochlorideophthalmicsolution,post-marketingobservationalstudy,safety,ecacy.———————————————————————-Page2406あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(124)一の緑内障治療薬で,ブドウ膜強膜流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させる13).本剤は他の緑内障治療薬で効果不十分な場合,または副作用などにより他の緑内障治療薬の使用が継続できない場合に使用される第二選択薬であり,おもに併用あるいは他の緑内障治療薬から切り替えて使用されるが,このような使用状況における開発時のデータは限られている4,5).今回,承認後6年間の再審査期間中に,本剤の市販後の使用実態下における安全性および有効性に関する情報収集を目的とした使用成績調査を実施した.その結果を基に,使用状況による影響も含め,本剤の安全性および有効性につき検討したので報告する.I対象および方法1.調査方法本調査は「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に従い,目標症例数を6,000例,調査期間を2001年9月2004年8月で実施した.調査対象は,本調査の契約を締結した医療機関にて本剤が新たに投与された症例とし,中央登録方式にて実施した.すなわち,医療機関との契約締結日以降,本剤を投与開始した症例について投与開始から2週間以内に症例登録し,登録症例について標準4週間の観察期間終了後,調査票に記入することとした.調査項目は,患者背景,緑内障治療歴,本剤の投与状況,併用薬剤,眼圧などの臨床経過,有害事象とした.2.安全性の検討本剤の投与中または投与後に発現した医学的に好ましくないすべての事象を有害事象とし,有害事象のうち本剤との因果関係が否定できないものを副作用とした.収集症例のうち,登録の不備および初診以降来院がなく有害事象の有無を確認できなかった症例を除いた集団を安全性解析対象とし,副作用の種類,重篤度,発現率などを検討した.また,安全性に影響を及ぼす要因を探索するため,要因別の副作用発現率を検討した.さらに,本剤と併用される可能性の高いb遮断点眼薬やPG関連点眼薬では角膜障害の副作用が知られているため68),角膜障害の発現状況について検討した.なお,副作用用語はMedDRA/J(MedicalDictionaryforReg-ulatoryActivities/Japaneseedition:ICH国際医薬用語集日本語版)のVer.8.1を用いて集計した.3.有効性の検討有効性の指標には眼圧変化値(最終観察時眼圧値投与開始時眼圧値)を用いた.安全性解析対象症例のうち,効能・効果外使用および眼圧変化値評価不能症例を除いた集団を有効性解析対象とし,眼圧の推移を検討した.有効性評価対象眼は,本剤投与眼のうち,投与開始時眼圧値の高いほうの眼を,同じ場合には右眼とした.有効性に影響を及ぼす要因を探索するため,要因別,使用状況別の眼圧の推移を検討した.なお,眼圧および眼圧下降度は平均±標準偏差mmHgで示した.4.統計解析手法要因別の副作用発現率の検討にはc2検定を,眼圧の推移には対応のあるt検定を使用し,また,投与開始時眼圧値と眼圧変化値との関連性を検討するため,ピアソン(Pearson)の積率相関係数と回帰係数を求めた.有意水準は両側5%とした.II結果1.症例構成(図1)852施設より6,740例の調査票を収集した.このうち,登録の不備および初診以降来院なしの症例562例を除く6,178例を安全性解析対象症例とした.また,安全性解析対象症例より効能・効果外使用および眼圧変化値評価不能の症例727例を除いた5,451例を有効性解析対象症例とした.2.安全性a.副作用発現状況(表1)安全性解析対象症例6,178例における副作用発現率は4.11%(254/6,178)で,承認時までの臨床試験における副作用発現率3.30%(17/515)と比較して有意差は認められなかった(p=0.435,c2検定).おもな副作用の種類は,眼障害233例(3.77%)279件で,内訳は,眼充血(結膜充血を含む)107件,眼刺激および霧視が各16件,角膜炎15件,角膜びらんおよび眼の異物感が各14件,眼そう痒症および眼瞼炎が各12件,眼痛および点状角膜炎が各10件などであった.重篤な副作用は脳梗塞1件であった.本症例は85歳,女性で,本剤投与開始後1カ月以内に脳梗塞を発症し,本剤投与継続中に軽快した.b.要因別副作用発現状況(表2)検討した要因のうち,性別,年齢別,医薬品副作用歴有無別,緑内障薬物治療歴有無別および本剤1日平均投与回数別安全性解析対象除外症例562例安全性解析対象症例6,178例有効性解析対象除外症例727例有効性解析対象症例5,451例調査票収集症例6,740例図1症例構成———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009407(125)の副作用発現率に有意差が認められた.性別では女性,年齢別では65歳未満の非高齢者,医薬品副作用歴有無別では副作用歴「有」,緑内障薬物治療歴有無別では治療歴「有」で副作用発現率が高かったが,要因ごとの層別における副作用の種類に差は認められなかった.本剤1日平均投与回数別では,1日2回投与の症例が99.2%(6,129/6,178)を占めていたが,1日2回未満の副作用発現率が最も高く,投与回数の多い層で副作用が多いわけではなかった.緑内障治療点眼薬の併用が安全性に及ぼす影響を検討したところ,併用の有無で副作用発現率に有意差は認められず,表1副作用発現状況一覧表承認時迄の状況使用成績調査計安全性解析対象症例数5156,1786,693副作用発現症例数17254271副作用発現件数27308335副作用発現症例率3.30%4.11%4.05%副作用の種類承認時迄の状況使用成績調査計副作用種類別発現症例(件数)率(%)精神障害1(0.02)1(0.01)不眠症1(0.02)1(0.01)神経系障害2(0.39)11(0.18)13(0.19)異臭感頭痛頭皮異常感覚脳梗塞浮動性めまい2(0.39)1(0.02)7(0.11)1(0.02)1(0.02)1(0.02)1(0.01)9(0.13)1(0.01)1(0.01)1(0.01)眼障害16(3.11)233(3.77)249(3.72)アレルギー性眼瞼炎アレルギー性結膜炎ブドウ膜炎角膜びらん角膜炎角膜障害角膜上皮欠損角膜浸潤乾性角結膜炎眼そう痒症眼の異物感眼の違和感眼の乾燥感眼圧迫感眼乾燥眼刺激眼充血(結膜充血を含む)眼精疲労眼痛眼部不快感眼瞼そう痒症眼瞼炎眼瞼下垂眼瞼紅斑眼瞼湿疹眼瞼皮膚炎1(0.19)1(0.19)1(0.19)4(0.78)4(0.73)11(2.14)1(0.19)1(0.02)5(0.08)1(0.02)14(0.23)15(0.24)2(0.03)2(0.03)1(0.02)1(0.02)12(0.19)14(0.23)3(0.05)3(0.05)1(0.02)1(0.02)16(0.26)107(1.78)1(0.02)10(0.16)1(0.02)2(0.03)12(0.19)2(0.03)1(0.02)1(0.02)8(0.13)1(0.01)6(0.09)1(0.01)14(0.21)16(0.24)2(0.03)2(0.03)1(0.01)1(0.01)13(0.19)18(0.27)3(0.04)3(0.04)1(0.01)1(0.01)20(0.30)118(1.76)2(0.03)10(0.15)1(0.01)2(0.03)12(0.18)2(0.03)1(0.01)1(0.01)8(0.12)副作用の種類承認時迄の状況使用成績調査計副作用種類別発現症例(件数)率(%)眼障害(つづき)眼瞼浮腫強膜炎結膜炎結膜出血結膜乳頭状増殖結膜浮腫結膜濾胞点状角膜炎虹彩毛様体炎霧視網膜静脈閉塞流涙増加涙液分泌低下1(0.19)1(0.19)2(0.03)1(0.02)1(0.02)2(0.03)1(0.02)1(0.02)1(0.02)10(0.16)2(0.03)16(0.26)1(0.02)3(0.05)1(0.02)2(0.03)1(0.01)1(0.01)2(0.03)1(0.01)1(0.01)2(0.03)10(0.15)2(0.03)17(0.25)1(0.01)3(0.04)1(0.01)心臓障害4(0.06)4(0.06)動悸4(0.06)4(0.06)血管障害2(0.03)2(0.03)高血圧潮紅1(0.02)1(0.02)1(0.01)1(0.01)呼吸器,胸郭および縦隔障害1(0.02)1(0.01)喘息1(0.02)1(0.01)胃腸障害2(0.03)2(0.03)悪心2(0.03)2(0.03)全身障害および投与局所様態2(0.03)2(0.03)気分不良浮遊感1(0.02)1(0.02)1(0.01)1(0.01)臨床検査6(0.10)6(0.09)眼圧上昇血圧上昇血圧低下4(0.06)1(0.02)1(0.02)4(0.06)1(0.01)1(0.01)———————————————————————-Page4408あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(126)発現率を高めるような種類の併用薬もなかった.また,併用薬剤数別の検討で発現率に有意差が認められたが,薬剤数が多いほど発現率が高いという傾向はなかった.c.角膜障害発現状況(表3)角膜障害の発現率は0.71%(44/6,178)であった.内訳は,角膜炎15件,角膜びらん14件,点状角膜炎10件などで,重篤なものはなかった.緑内障治療点眼薬の併用が角膜障害表2要因別副作用発現状況一覧表要因症例数副作用発現症例数副作用発現症例率(%)検定安全性解析対象症例6,1782544.11性男性女性2,6023,576831713.194.78p=0.002年齢平均:67.7歳65歳未満65歳以上2,0314,147991554.873.74p=0.041使用理由緑内障高眼圧症その他複数疾患5,461634127122724034.163.7904.23p=0.869合併症無有不明・未記載1,5124,5181485619353.704.273.38p=0.375医薬品副作用歴無有不明・未記載4,87791238916367243.347.356.17p<0.001緑内障薬物治療歴無有不明・未記載1,5864,555374620712.904.542.70p=0.006本剤1日平均投与回数平均:2.0回2回未満2回2回超256,129244250016.004.080p=0.007緑内障治療併用点眼薬無有不明・未記載1,9974,181378217214.114.112.70p=1.000薬剤種類プロスタグランジン関連点眼薬無有3,2992,8791231313.734.55p=0.119b遮断点眼薬無有4,0012,177188664.703.03p=0.002ab遮断点眼薬無有5,787391242124.183.07p=0.347交感神経作動点眼薬無有6,1255325134.105.66p=0.824副交感神経作動点眼薬無有6,04613224954.123.79p=1.000炭酸脱水酵素阻害点眼薬無有5,532646237174.282.63p=0.058薬剤数無1剤2剤3剤4剤5剤1,9972,5111,24838536182118467014.114.703.691.820100p<0.001検定手法:c2検定(不明・未記載を除く).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009409(127)発現に及ぼす影響を検討したところ,併用の有無および併用薬剤数別で発現率に有意差は認められず,発現率を高めるような種類の併用薬もなかった.3.有効性a.眼圧の推移有効性解析対象症例5,451例における眼圧変化値は2.7±5.0mmHgで,投与開始時の19.2±5.8mmHgから最終観察時(平均観察期間76.5日)の16.5±5.0mmHgへ有意な下降を示した(p<0.001).また,投与開始時眼圧値と眼圧変化値には相関が認められ(r2=0.340,p<0.001,y=0.494x+6.802),投与開始時眼圧値が高いほど眼圧変化値は大きかった(図2).b.要因別使用状況別の眼圧の推移(表4)性別,使用理由別,投与開始時眼圧値別,緑内障薬物治療歴有無別でそれぞれ眼圧の推移を検討した.眼圧変化値は,各要因とも投与開始時眼圧値に相応した差は認められるものの,いずれの層も有意な下降を示した.使用状況別として,他の緑内障治療薬から切り替えて本剤を使用した場合,すでに使用されている緑内障治療薬に本剤を追加投与した場合,および少なくとも最終観察時に他の緑内障治療薬を併用していた場合についてそれぞれ検討した.他剤から切り替えて本剤を使用した症例は14.0%(763/5,451)であり,前治療薬の種類は,PG関連点眼薬(切り替え症例の45.5%),b遮断点眼薬(38.8%)が多かった.眼圧変化値は,切り替え例全体で1.0±4.9mmHg,前治療薬の種類別で0.92.8mmHgで,いずれも有意な下降を示した.他剤への追加併用で本剤を使用した症例は44.1%(2,404/5,451)であり,被併用薬剤の種類は,PG関連点眼薬(追加併用症例の67.5%),b遮断点眼薬(53.2%)が多かった.眼圧変化値は,追加併用症例全体で2.7±4.0mmHg,被併用20-15-10-505100510152025303540投与開始時眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)r=-0.583y=-0.494x+6.802r2=0.340p<0.001図2投与開始時眼圧値と眼圧変化値の散布図表3角膜障害発現状況要因症例数角膜障害発現検定症例数症例率(%)安全性解析対象症例6,178440.71併用薬剤数無1剤2剤3剤4剤5剤1,9972,5111,2483853611316132000.650.641.040.5200p=0.748併用薬剤種類プロスタグランジン関連点眼薬無有3,2992,87918260.550.90p=0.130b遮断点眼薬無有4,0012,17731130.770.60p=0.525ab遮断点眼薬無有5,7873914130.710.77p=1.000交感神経作動点眼薬無有6,125534310.701.89p=0.841副交感神経作動点眼薬無有6,0461324400.730p=0.645炭酸脱水酵素阻害点眼薬無有5,5326464040.720.62p=0.960検定手法:c2検定.———————————————————————-Page6410あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(128)薬剤の種類別で2.53.5mmHgと,いずれも有意な下降を示した.他の緑内障治療薬を最終観察時に併用していた症例は67.4%(3,675/5,451)であった.内訳は,1剤併用2,252例(併用症例の61.3%),2剤併用1,095例(29.8%),3剤併用299例(8.1%)で,4剤以上の併用も29例あった.投与開始時眼圧値は,併用症例が19.8±6.0mmHg,非併用症例(本剤単剤治療症例)が18.0±5.3mmHgと併用症例のほうが高く,また,併用薬剤数が多いほど高かった.投与開始時眼圧値に相応した眼圧変化値の差は認められたものの,併用薬の有無あるいは併用薬剤数にかかわらず眼圧は有意な下降を示した.III考按現在,臨床に供されているおもな緑内障治療薬の種類には,房水産生抑制作用を有するb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI),房水流出促進作用を有するPG関連薬,房水産生抑制と房水流出促進作用を併せもつab遮断薬があり,a1遮断薬である本剤は房水流出促進系の薬剤に分類される.このうち,緑内障治療の第一選択薬はb遮断薬,PG関連薬およびab遮断薬であり,CAIおよびa1遮断薬は第二選択薬に位置付けられる.第二選択薬の多くは緑内障治療の2剤目,3剤目として使われるため,他剤併用時の安全性および有効性の検討が必要だが,表4要因別使用状況別の眼圧推移要因症例数眼圧値眼圧変化値(mmHg)検定投与開始時(mmHg)最終観察時(mmHg)有効性解析対象症例5,45119.2±5.816.5±5.02.7±5.0p<0.001性男性女性2,3063,14520.0±6.418.7±5.417.0±5.316.2±4.82.9±5.52.5±4.5p<0.001p<0.001使用理由緑内障高眼圧症4,84660518.8±5.922.6±4.016.2±5.118.8±3.72.6±5.03.8±4.7p<0.001p<0.001投与開始時眼圧値15mmHg未満15mmHg以上20mmHg未満20mmHg以上25mmHg未満25mmHg以上1,1001,8861,73872712.3±1.717.0±1.421.7±1.429.4±6.212.0±2.715.4±3.018.6±3.821.1±7.20.3±2.41.6±2.93.1±3.78.2±8.8p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001緑内障薬物治療歴無有不明・未記載1,3904,0342720.0±7.018.9±5.319.2±9.115.8±4.516.8±5.115.0±4.34.2±6.02.2±4.44.2±7.3p<0.001p<0.001p=0.006他剤からの切替無有4,68876319.5±5.917.5±5.316.5±4.916.4±5.53.0±4.91.0±4.9p<0.001p<0.001前治療薬種類(重複集計)プロスタグランジン関連点眼薬b遮断点眼薬ab遮断点眼薬炭酸脱水酵素阻害点眼薬3472961354517.2±5.417.7±5.117.5±5.419.6±6.316.3±4.916.4±5.716.1±4.916.8±6.40.9±4.91.3±5.11.4±4.22.8±8.1p<0.001p<0.001p<0.001p=0.027他剤への追加併用無有3,0472,40419.1±6.319.3±5.216.4±5.116.6±4.92.7±5.62.7±4.0p<0.001p<0.001被併用薬剤種類(重複集計)プロスタグランジン関連点眼薬b遮断点眼薬ab遮断点眼薬炭酸脱水酵素阻害点眼薬1,6221,27823132219.3±5.119.8±5.219.0±4.821.8±6.816.6±4.817.1±5.116.5±4.618.3±6.22.7±4.12.7±4.22.5±3.53.5±5.2p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001緑内障治療併用点眼薬無有1,7763,67518.0±5.319.8±6.015.8±4.716.9±5.12.2±4.32.9±5.2p<0.001p<0.001薬剤数1剤2剤3剤4剤5剤2,2521,09529928119.0±5.320.6±6.622.4±7.024.5±5.147.016.2±4.517.8±5.718.3±5.919.4±7.120.02.8±4.62.9±5.94.1±6.25.1±8.727.0p<0.001p<0.001p<0.001p=0.004平均±標準偏差.検定手法:対応のあるt検定(投与開始時との比較).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009411開発時に把握できる事項は限られる.したがって,市販後の使用実態下において,種々の使用状況における安全性および有効性を検討し,適正使用情報として提供することが重要と考える.本調査では,使用状況別に十分検討できるよう,目標症例数6,000例にて実施し,その結果,全国852施設より6,740例の調査票を収集した.安全性は6,178例において検討し,副作用は254例(4.11%)308件に認められた.1990年以降に上市された他の緑内障治療点眼薬,ベタキソロール塩酸塩,ニプラジロール,イソプロピルウノプロストンおよびラタノプロストの市販後の調査における副作用発現率はそれぞれ10.17%(ベトプティックR添付文書),8.07%(ハイパジールRコーワ添付文書),13.70%(レスキュラRインタビューフォーム),25.5%(キサラタンR添付文書)であり,調査時期や調査方法の違いを考慮する必要はあるものの,本剤の副作用発現率はこれらの薬剤と比べ高いものではなかった.おもな副作用の種類は眼障害で,233例(3.77%)に認められた.このうち,最も高頻度であったのは眼充血(結膜充血を含む)で,発現率は1.73%であったが,重篤なものはなかった.眼充血は,本剤のa1遮断作用により,眼局所の末梢血管が拡張して起こるものと考えられた.全身性の副作用に関しては,b遮断点眼薬で全身性の副作用が問題とされていること9),また,本剤の有効成分ブナゾシン塩酸塩の内服薬は高血圧治療薬として使用され,起立性低血圧,動悸などの副作用が知られていることから,循環器系副作用の発現状況を検討した.本調査における循環器系副作用は,動悸4件,高血圧,潮紅,血圧上昇および血圧低下が各1件であり,いずれも非重篤であった.安全性に影響を及ぼす要因の検討で,性別,年齢別,医薬品副作用歴有無別などで副作用発現率に有意差が認められたが,各層別の副作用の種類に差はなく,安全性に影響を与える患者集団は見当たらなかった.また,他の緑内障治療薬の併用についても,本剤の安全性に影響を及ぼすような薬剤はなく,併用薬剤数と副作用発現率との間にも一定の傾向は認められなかった.b遮断点眼薬やPG関連点眼薬では角膜障害の副作用が知られており68),これらの併用時には発現頻度が高まるとの報告もあることから6),角膜障害の発現状況を検討した.本調査において,角膜炎,角膜びらんなどの角膜障害の発現率は0.71%であった.前述の4種類の緑内障治療薬では,市販後の調査において,ベタキソロール塩酸塩で角膜びらん,角膜炎などの角膜障害が1.50%,ニプラジロールで表層角膜炎が1.17%,イソプロピルウノプロストンで角膜びらん,角膜炎などの角膜症状が5.49%,およびラタノプロストで点状表層角膜炎が4.8%,角膜びらんが2.5%認められている.副作用用語の集計方法,調査方法などに違いはあるものの,本剤の角膜障害発現率はこれらの薬剤と比べ高いものではなかった.また,緑内障治療薬の併用の有無,薬剤数および種類と角膜障害発現との関連を検討したが,併用による影響は認められなかった.有効性は5,451例において検討した.本剤投与後に眼圧は平均2.7mmHg下降し,投与開始時眼圧値が高いほど眼圧の下降は大きかった.有効性に影響を及ぼす要因として,性別,使用理由別などの要因別に眼圧の推移を検討したところ,いずれの層も有意な眼圧の下降を示した.各層別で眼圧下降度にやや差が認められたものの,いずれも投与開始時眼圧値に相応したものと推察された.使用状況別では,他の緑内障治療薬から切り替えて本剤を使用した症例は14.0%で,眼圧は切り替え後に平均1.0mmHg下降した.また,他の緑内障治療薬への追加併用で本剤を使用した症例は44.1%で,眼圧は本剤追加後に平均2.7mmHg下降した.なお,被併用薬剤の種類により眼圧の下降は2.53.5mmHgとやや差が認められた.併用効果が最も小さかったものはab遮断薬で,投与開始時眼圧値は19.0mmHgであった.一方,最も大きかったものはCAIで,投与開始時眼圧値は21.8mmHgであった.これより,眼圧変化値の差は投与開始時眼圧値に相応したもので,本剤の追加併用効果は被併用薬剤の種類には関連しないと考えられた.以上の調査結果より,デタントールR0.01%点眼液は,市販後の使用実態下においても安全性および有効性が確認され,他の緑内障治療薬と併用した場合にも,その種類にかかわらず安全性に問題点を認めず,明らかな眼圧下降を示したことから,緑内障・高眼圧症治療の第二選択薬として有用な薬剤であると考えられた.謝辞:稿を終えるにあたり,本調査にご協力賜り,貴重なデータをご提供いただきました多数の先生方に厚く御礼申し上げます.文献1)NishimuraK,KuwayamaY,MatsugiTetal:SelectivesuppressionbyBunazosinofalpha-adrenergicagonistevokedelevationofintraocularpressureinsympathecto-mizedrabbiteyes.InvestOphthalmolVisSci34:1761-1766,19932)景山正明,西村和夫,松木雄ほか:家兎における塩酸ブナゾシン点眼液の眼圧下降作用機序.眼紀46:1066-1070,19953)西村和夫,白沢栄一,木下満紀子ほか:a1遮断点眼剤Bunazosinのウサギおよびネコにおける眼圧下降作用.日眼会誌95:746-751,19914)土坂寿行,金恵媛,石綿丈嗣ほか:塩酸ブナゾシン(DE-(129)———————————————————————-Page8412あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009070)点眼液,b遮断剤からの切り替え試験.眼臨88:1562-1568,19945)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の併用効果の検討─塩酸ジピベフリン点眼液との比較─.あたらしい眼科19:261-266,20026)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19997)橘信彦,木村泰朗,石井るみ子ほか:イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)点眼液によると思われる角膜上皮障害.あたらしい眼科13:1097-1101,19968)田聖花,中島正之,植木麻理ほか:ラタノプロストによると考えられる角膜上皮障害.臨眼55:1995-1999,20019)福地健郎:緑内障の治療─緑内障の薬物治療,緑内障治療薬・交感神経阻害剤b遮断薬.眼科44:1458-1463,2002(130)***