———————————————————————- Page 1(121)ツꀀ 12790910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1279 1285,2009cはじめに緑内障のなかでも開放隅角緑内障(open-angle glaucoma:OAG)に対する手術療法として線維柱帯切除術(trabeculec-tomy:TLE),非穿孔性線維柱帯切除術(non-penetrating trabeculectomy:NPT),線維柱体切開術(trabeculotomy:LOT),ビスコカナロストミー(viscocanalostomy:VCS)などがあげられるが,それぞれに長所と短所があり絶対的な選択肢は存在せず,術式の選択には各々の特性が深く関与する.この特性を深く理解するため,筆者らは弘前大学医学部附属病院眼科における 2002 年から 2007 年までの各種緑内障手術成績を検討した.I対象および方法1. 対象対象は 2002 年 4 月から 2007 年 3 月までに弘前大学医学部附属病院眼科で TLE,NPT,LOT,VCS が施行された233 例 322 眼を後ろ向きに検討した.白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼にかかわらず緑内障初回手術症例をすべて対象とした.今回の検討対象となった 4 つの術式を表 1 に示す.各術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.〔別刷請求先〕木村智美:〒036-8562 弘前市在府町 5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprint requests:Satomi Kimura, M.D., Department of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine, 5 Zaifu-cho, Hirosaki 036-8562, JAPAN各種緑内障手術の成績木村智美石川太山崎仁志目時友美伊藤忠竹内侯雄中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Surgical Results of Various Glaucoma SurgeriesSatomi Kimura, Futoshi Ishikawa, Hitoshi Yamazaki, Tomomi Metoki, Tadashi Ito, Kimio Takeuchi andツꀀ Mitsuru NakazawaDepartment of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine目的:各種緑内障手術成績の検討.方法:2002 年 4 月から 2007 年 3 月までに trabeculectomy(TLE),non-pen-etratingツꀀ trabeculectomy(NPT),trabeculotomy(LOT),viscocanalostomy(VCS)を施行した 233 例 322 眼の後ろ向き検討.結果:術前眼圧(平均±標準偏差 mmHg)は TLEツꀀ 21.3±6.9,NPTツꀀ 18.3±5.9,LOT 24.0±9.0,VCS 19.8±4.1,術後眼圧は TLE 11.2±3.1 mmHg,NPTツꀀ 13.9±3.0,LOTツꀀ 15.8±3.6,VCSツꀀ 20.0±0.0 であった.合併症は TLEで最も多く,VCS ではみられなかった.結論:TLE は眼圧下降が大きいが合併症が多い.NPT は合併症は少ないが,眼圧下降が TLE よりも劣る.LOT および VCS では合併症はより少ないが,眼圧下降はより劣る傾向にある.To evaluate the surgical results of various types glaucoma surgeries performed at Hirosaki University Hospital between April 2002 and March 2007, we recorded intraocular pressure(IOP), postoperative treatment and compli-cations in 322 eyes of 233 patients who underwent trabeculectomy(TLE), non-penetrating trabeculectomy(NPT), trabeculotomy(LOT)or viscocanalostomy(VCS). Postoperative IOPs were 11.2±3.1, 13.9±3.0, 15.8±3.6 and 20.0±0.0 mmHg.ツꀀ Complicationsツꀀ wereツꀀ seenツꀀ mostツꀀ inツꀀ TLE;thereツꀀ wereツꀀ noツꀀ complicationsツꀀ inツꀀ VCS.ツꀀ Theseツꀀ resultsツꀀ suggest that TLE should be chosen if lower IOP is needed, though the procedure poses signi cant complications. Complica-tions with NPT are fewer than with TLE, but the postoperative IOP is inferior to that with TLE. In addition, NPT alsoツꀀ hasツꀀ theツꀀ characteristicsツꀀ ofツꀀ requiringツꀀ re-operationツꀀ moreツꀀ oftenツꀀ thanツꀀ doツꀀ otherツꀀ methods.ツꀀ Withツꀀ LOTツꀀ andツꀀ VCS,ツꀀ the postoperative IOP is inferior to those of TLE and NPT, but the complications are fewer.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1279 1285, 2009〕Key words:線維柱帯切除術,ツꀀ 非穿孔性線維柱帯切除術,ツꀀ 線維柱体切開術,ツꀀ ビスコカナロストミー,ツꀀ 手術成績,緑内障.trabeculectomy, non-penetrating trabeculectomy, trabeculotomy, viscocanalostomy, surgical out come, glaucoma.———————————————————————- Page 21280あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(122)2. 検討項目各群の術前平均眼圧,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後各時点での薬剤スコア,術中,術後合併症,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前 3 回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外した.また,Kaplan-Meier 法を用い,術前眼圧よりも 20%下降した眼圧をカットオフ値として生存率を算出した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.眼圧はすべて Goldmann 圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは 1剤につき抗緑内障点眼薬を 1 点,内服薬を 2 点とした.薬剤スコアの術前後の比較は Spearman 順位相関係数検定で行った.LOT における前房出血とそれに伴う一過性の眼圧上昇は術後に起こりうる経過であり,合併症には含めなかったが,術後 30 mmHg 以上の眼圧が 2 週間以上遷延する場合は術後高眼圧と定義して合併症に含めた.また,術後低眼圧は2 週間以上 5 mmHg 未満の眼圧が遷延した場合と定義し,2週間以内のものは一過性の低眼圧として合併症に含めなかった.再手術は何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果各群における緑内障病型,性別,年齢などの患者背景を表2 に示す.性別は男性 171 眼,女性 151 眼,年齢は 57.7±20.1 歳(平均±標準偏差),術後平均観察期間は 25.6±15.8カ 月( 平 均±標準偏差).術式の内訳は TLE 群 73 眼,NPT群 103 眼,LOT 群 124 眼,VCS 群 22 眼であった.各術式に各緑内障病型を無作為に割り当てたものではないが,全体の傾向として TLE と NPT は比較的高齢者の緑内障に,LOT と VCS は比較的若年者の緑内障に対して用いられる傾向があった.1. TLE群a. 眼圧(平均±標準偏差)TLE 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 21.3±6.9 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 11.0±4.2 mmHg,10.6±3.6 mmHg,11.2±3.9 mmHg,11.3±3.7 mmHg,12.6±4.4 mmHg,11.2±3.1 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点での生存率はそれぞ表 1手術手技【LEC】①ツꀀ 結膜輪部切開または円蓋部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製③ツꀀ 0.04% MMC 塗布④ツꀀ 300 ml 生理食塩水で洗浄⑤ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥ツꀀ 線維柱帯切除⑦ツꀀ 周辺虹彩切除⑧ツꀀ 強膜弁縫合⑨ツꀀ 結膜縫合【NPT】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜外方弁作製③ツꀀ 0.04% MMC 塗布④ツꀀ 300 ml 生理食塩水で洗浄⑤ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥ツꀀ 4×3.5 mm の強膜内方弁作製⑦ツꀀ 線維柱帯内皮網擦過,除去⑧ツꀀ 強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet 膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨ツꀀ 強膜外方弁を縫合せず整復または強膜外方弁を縫合後半円形切除 2 カ所⑩ツꀀ 結膜縫合【LOT】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製ないし 4×4 mm 強膜弁作製後,さらに 3.5×3.5 mm の強膜内方弁作製③ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)④ツꀀ Schlemm 管外壁を開放,強膜内方弁があれば切除後に線維柱帯切開⑤ツꀀ 強膜(外方)弁縫合後に半円形切除 1 カ所,小児の場合は半円形切除は非施行⑥ツꀀ 結膜縫合【VCS】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製③ツꀀ 3.5×3.5 mm の強膜内方弁作製④ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑤ツꀀ Schlemm 管外壁を開放,さらに強膜内方弁を角膜側に伸ばし Descemet 膜を露出後,強膜内方弁除去⑥ツꀀ 線維柱帯内皮網擦過⑦ツꀀ Schlemm 管内,強膜外方弁下に粘弾性物質を留置⑧ツꀀ 強膜外方弁縫合⑨ツꀀ 結膜縫合:TLE:NPT:LOT:VCS5.010.015.020.025.030.035.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月眼圧(mmHg)図 1平均眼圧経過———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091281(123)れ 90%,86%,84%,81%,73%,71%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で TLE 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 19.7±6.3 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 11.0±3.8 mmHg,11.1±3.5 mmHg,11.7±4.0 mmHg,11.8±3.8 mmHg,12.7±4.3 mmHg,11.2±3.1 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 24.7±7.1 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 9.5±2.3 mmHg,9.4±2.3 mmHg,10.3±3.0 mmHg,10.6±2.9 mmHg,11.8±3.7 mmHg,10.0±2.5 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 26.2±6.5 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ11.5±7.6 mmHg,8.5±5.6 mmHg,9.8±3.9 mmHg,9.8±3.6 mmHg,13.4±5.3 mmHg,12.9±2.9 mmHg であった.表 2患者背景TLENPTLOTVCS性差(男性:女性)40:3355:4867:579:13年齢(歳・平均±標準偏差)67.6±12.363.9±12.047.9±24.845.3±14.3病型POAG+NTG32834114EXG116180DEV13396SG(EXG を除く)2810232計(眼)7210212122白内障手術併施(眼)5279130術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)21.3±6.918.8±5.924.0±9.019.8±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)3.1±1.62.9±1.02.9±1.52.6±1.2 POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,EXG: 性緑内障,DEV:発達緑内障,SG:続発緑内障,TLE:trabeculectomy,NPT:non-penetrating trabeculectomy,LOT:trabeculotomy,VCS:visco-canalostomy.00.20.40.60.811.20510152025303540観察期間(月)生存率TLENPTLOTVCS*p 0.05,ツꀀ **p<0.001,ツꀀ *** p<0.00001******図 2各術式の眼圧生存率Kaplan-Meier 法を用い,術前眼圧よりも 20%下降した眼圧をカットオフ値とした.ログランク検定(危険率 5%)で,TLEと NPT,TLE と VCS の眼圧下降率には有意差があった.0.05.010.015.020.025.030.035.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)a:TLE0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月b:NPT0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月c:LOT:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼図 3水晶体の状態別眼圧経過TLE(a)では,水晶体の状態によらず安定した眼圧下降がみられ,NPT(b)では水晶体温存では他に比較して術後平均眼圧が高い傾向があった.LOT(c)では白内障手術併施のほうがより低値で安定する傾向がみられたが,水晶体温存でも眼圧下降は十分に得られていた.———————————————————————- Page 41282あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(124)b. 眼圧下降率TLE 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 43.1%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 53 眼(68.8%),20%以上 30%未満の症例は 3 眼(3.9%),20%未満の症例は 16 眼(22.2%)であった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)TLE 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 3.1±1.6 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.3±1.2 点,0.2±0.6 点,0.3±0.7 点,0.8±1.2 点,0.9±1.0 点,1.0±1.1 点であり,術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術後の前房消失,脈絡膜 離が 4 眼(5.2%),術後の追加縫合が 3 眼(3.9%),前房出血が 2 眼(2.6%),濾過胞炎が 2眼(2.6%),術後の濾過胞穿孔が 1 眼(1.3%),術後低眼圧が 5 眼(6.5%)みられた.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 7 眼(9.1%)であった.2. NPT群a. 眼圧(平均±標準偏差)NPT 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 18.8±5.9 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 13.6±3.2 mmHg,13.5±3.1 mmHg,14.1±3.2 mmHg,13.9±3.3 mmHg,13.8±2.3 mmHg,13.9±3.0 mmHg であった.20%下降30%下降20%下降30%下降20%下降30%下降20%下降30%下降0510152025303540455055606505101520253035404550556065c:LOT0510152025303540010203040術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)051015202530350102030b:NPT051015202530051015202530d:VCSa:TLE図 4眼圧下降率平均眼圧下降率は TLE(a)43.1%,NPT(b)20.2%,LOT(c)25.1%,VCS(d)7.9%であった.:TLE:NPT:LOT:VCS術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月0.01.02.03.04.05.0薬剤スコア図 5平均薬剤スコア薬剤スコアは各群で術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman 順位相関係数検定).———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091283(125)Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ78%,74%,63%,52%,48%,42%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で NPT 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 17.8±4.2 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 13.5±3.0 mmHg,13.3±3.2 mmHg,13.6±2.9 mmHg,13.8±2.4 mmHg,13.4±2.0 mmHg,13.2±2.4 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 20.2±6.3 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ14.1±3.4 mmHg,14.1±2.8 mmHg,15.6±3.4 mmHg,14.4±5.3 mmHg,15.6±2.4 mmHg,15.8±3.4 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 29.5±12.0 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 11.2±4.2 mmHg,15.5±2.5 mmHg,17.7±5.0 mmHg,15.0±0.0 mmHg,12.0±0.0 mmHg,18.5±0.0 mmHg であった.b. 眼圧下降率NPT 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 20.2%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 29 眼(28.4%),20%以上 30%未満の症例は 21 眼(20.6%),20%未満の症例は 47 眼(46.0%)であった.なお,術中合併症の生じた症例(2 眼)と術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)NPT 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.9±1.0 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.3±0.6 点,0.5±0.7 点,0.7±0.8 点,0.9±0.9 点,1.1±0.9 点,1.3±1.0 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術中前房穿孔が 2 眼(2.0%)みられたが,重篤な術後合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 11 眼(10.8%)あった.3. LOT群a. 眼圧(平均±標準偏差)LOT 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 24.0±9.0 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 15.4±4.0 mmHg,16.1±5.0 mmHg,16.4±5.2 mmHg,16.1±3.8 mmHg,15.2±3.1 mmHg,15.8±3.6 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ73%,70%,68%,65%,63%,58%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で LOT 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 21.3±6.0 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 14.7±2.9 mmHg,13.0±2.5 mmHg,13.7±3.0 mmHg,13.7±2.7 mmHg ,14.5±2.2 mmHg,14.9±2.9 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 24.4±9.6 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ15.6±4.2 mmHg,17.1±5.1 mmHg,17.2±5.6 mmHg,16.6±3.8 mmHg,15.5±3.4 mmHg,16.1±3.8 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 34.7±6.0 mmHg,術後1,3,6,12,24 カ月での眼圧はそれぞれ 17.6±5.9 mmHg,18.4±5.2 mmHg,16.9±2.8 mmHg,17.8±3.8 mmHg,12.3±0.0 mmHg であった.b. 眼圧下降率LOT 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 25.1%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 54 眼(43.5%),20%以上 30%未満の症例は 21 眼(16.9%),20%未満の症例は 41 眼(33.1%)であった.なお,術中合併症の生じた症例(2 眼)と術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)LOT 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.9±1.5 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.6±1.0 点,0.9±1.2 点,1.1±1.2 点,1.2±1.5 点,1.0±1.0 点,1.3±1.2 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術後眼内炎が 1 眼(0.8%),術後高眼圧が 3 眼(2.4%)みられた以外,重篤な合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 7 眼(5.6%)であった.4. VCS群a. 眼圧(平均±標準偏差)VCS 群の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 19.8±4.1 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 16.6±3.0 mmHg,16.2±4.4 mmHg,18.2±3.9 mmHg,18.0±2.7 mmHg,19.0±3.2 mmHg,20.0±0.0 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ50%,50%,30%,25%,19%,19%であった(図 2).b. 眼圧下降率VCS 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 7.9%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 0 眼(0%),20%以上 30%未満の症例は 5 眼(22.7%),20%未満の———————————————————————- Page 61284あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(126)症例は 14 眼(63.6%)であった.なお,術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)VCS の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.6±1.2 点,術後各時点での薬剤スコアはそれぞれ 1.2±0.9 点,1.5±1.0 点,1.5±1.0 点,1.6±1.0 点,1.0±0.5 点,2.0±0.0 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症VCS 群においては重篤な合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 3 眼(13.6%)であった.一番生存率の高かった TLE とそれぞれの術式の累積生存率をログランク検定により比較すると,TLE は NPT(p<0.001),VCS(p<0.00001)より有意に生存率が高かったが,LOT との間には有意な差はみられなかった(図 2).III考按OAG に対するおもな緑内障手術としては TLE,NPT,LOT,VCS などがあげられる.これらの手術はそれぞれ長所と短所を内包しており,絶対的な手術法選択ができないという現状がある.手術方法の選択には各方法の特性が深く関与し,これを深く理解するためには,これまでの手術成績を振り返ることが重要である.そこで,筆者らは今回の検討を行った.手術方法の選択を考える場合,進行期緑内障では眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い1).なかでも TLE は主流の術式である.今回の検討では TLE 群全体で術後 10 mmHg 台前半であり(図 1),眼圧下降率も下降率 30%以上の症例が 73.6%,20%以上が77.8%という結果が得られた(図 4).眼圧下降効果の面からは目標眼圧が 10 mmHg 台前半の後期緑内障や眼圧下降率が20%以上ないし 30%以上が求められる正常眼圧緑内障の良い適応であるといえる.薬剤スコアも術後各時点で術前よりも有意に減少していた(図 5).TLE は OAG,慢性閉塞隅角緑内障,落屑緑内障,その他の続発緑内障などさまざまな病型の緑内障に効果があるとされる1)が,今回の検討でもTLE 群では背景に続発緑内障が多い傾向にあったものの眼圧はよく下降していた.また,水晶体の状態別の眼圧経過は,水晶体温存,白内障手術併施,眼内レンズ眼でも経過に大きな差異はないようである(図 3).これらは TLE の長所であるといえる.一方で TLE は過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多いことも知られている2).今回の検討でも術後前房消失・脈絡膜 離が4 眼(5.6%),術後の追加縫合が 3 眼(4.2%),前房出血が 2眼(2.8%),濾過胞炎が 2 眼(2.8%),術後の濾過胞穿孔が 1眼(1.4%),術後低眼圧が 5 眼(6.9%)と他群にみられないさまざまな合併症がみられた.このように視機能を著しく低下させる重篤な合併症に加え,術後数年経過してからの晩期合併症があることに特徴がある.また,再手術に至った例が7 眼(9.1%)あった.TLE の合併症の多さから前房に穿孔しない NPT が考え出された.今回の検討では NPT 群全体で術後 10 mmHg 台前半の眼圧であった(図 1)が,背景因子が近い TLE と比較すると術後いずれの時点でも平均眼圧は TLE に劣る.眼圧下降率も下降率 30%以上が 28.4%,20%以上が 49.0%であり(図 4),TLE に劣る結果であった.また,水晶体の状態別の眼圧経過は,水晶体温存では他に比較して術後平均眼圧が高い傾向がある(図 3)3).また,再手術に至った例が 11 眼(10.8%)あった.これらの点は NPT の短所であり,水晶体の状態,目標眼圧などの面からは TLE よりも症例を選ぶ必要があると考えられた.しかし,検討期間中にみられた合併症は術中前房穿孔が 2 眼(2.0%)のみで,TLE のような重篤な合併症はみられず,術後管理は TLE よりも容易であるという利点があった.TLE,NPT は濾過胞を形成する手術であり,濾過胞感染の危険性を考えると眼球上方から手術を施行せざるをえない共通の短所がある.したがって同一方法での再手術回数は限られ,適応は慎重に選ばなくてはならない.一方で LOT に代表される流出路再建術は濾過胞が不要であり,眼球下方からの手術施行が可能である.また LOT は発達緑内障,ステロイド緑内障,落屑緑内障など特定の病型に対して効果が高いとされ,若年で眼圧が高く視神経乳頭の変化が軽度な場合に良い適応とされている4).今回の検討でも,これらの報告から LOT を選択した傾向がみられ,LOT群では TLE 群, NPT 群に比較して発達緑内障の症例が多く,患者年齢平均が低かった(表 1).眼圧経過は術後 16 mmHg前後であり(図 1),眼圧下降率 30%以上の症例が 44.6%,20%以上が 62.0%であった(図 4).目標眼圧が 10 mmHg 台後半ならば十分な値であるが,目標眼圧が 10 mmHg 台前半の後期緑内障や正常眼圧緑内障の手術適応には眼圧下降面から不十分である5).合併症は術後眼内炎が 1 眼(0.8%),術後高眼圧が 3 眼(2.5%)と頻度が低かった.水晶体の状態別の眼圧経過も,白内障手術併施のほうがより低値で安定する傾向がみられた(図 2)が,水晶体温存でも眼圧下降は十分に得られていた.この点からも LOT は病期が早期ないし中期,若年の患者には良い方法と考える.VCS 群は,22 眼ですべて白内障手術非併施であった.また,LOT 群同様に TLE 群,NPT 群より若年の患者に施行していた.眼圧経過は 17 mmHg 程度であり(図 1),術後———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009128512 24 カ月頃より再上昇する傾向がみられた6).眼圧下降率も 30%以上の症例は 0%,20%以上が 22.7%,20%未満の症例は 63.6%と高くはない(図 4).再手術に至った例は 3眼(13.6%)であった.VCS の場合,白内障手術併施のほうが術後眼圧は良好との報告がある7).一方で重篤な合併症はまったくみられず,安全性については非常に優秀である.以上より,白内障非併施の VCS は LOT 同様に目標眼圧が 10 mmHg 台前半の症例,正常眼圧緑内障の手術には眼圧効果面からは不適応と考えられる.VCS は症例こそ選ぶが多剤点眼している症例の負担を減らす目的,少しでも眼圧のベースラインを下げるための早期手術などには良い選択である可能性がある.このようにいずれの手術を選択するにせよ,それぞれ長所,短所があるが故に,それぞれの方法の特性を含めて患者に十分な情報を与え術式を選択することが必要であると考えられた.なお,今回の検討では術後平均観察期間が 25.6 カ月であり,全症例が 36 カ月や 48 カ月経過観察されていない点と,無作為に各術式に症例を振り分けたものではなく症例ごとに術式の選択がなされた結果である点が問題となる.しかしながら従来いわれているような各術式の適応病型について術後に想定される眼圧下降度や薬剤スコアの予想については参考となるデータであると思われる.また各術式については,各病型によって効果が異なるため,今後は緑内障各病型ごとの各術式の術後成績をまとめることも検討課題であると考えられた.文献 1) 東出朋巳:流出路手術か濾過手術か.臨眼 60(増刊号):60-64, 2006 2) Jongsareejitツꀀ B,ツꀀ Tomidokoroツꀀ A,ツꀀ Mimuraツꀀ Tツꀀ etツꀀ al:E cacy and complications after trabeculectomy with mitomycin C in normal-tension glaucoma. Jpn J Ophthalmol 49:223-227, 2005 3) 村上智昭,宮本秀樹,倉員敏明ほか:非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績.臨眼 58:187-191, 2004 4) 小松務,横田香奈,松下恵理子ほか:緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績.臨眼 61:1039-1043, 2007 5) 大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科 20:821-824, 2003 6) 三宅三平:Viscocanalostomy ─原法と中期成績.眼科手術 14:315-319, 2001 7) Gimbel HV, Penno EE, Ferensowicz M:Combined cata-ract surgery, intraocular lens implantation, and visco-canalostomy. J Cataract Refract Surg 25:1370-1375, 1995(127)***