———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098070910-1810/09/\100/頁/JCLS以前からなんとなくポックリ死ねたらよいなあと思っていた私は,この本のタイトルを見て思わず購入してしまいました.これまでに自分の頭のなかにあった『ポックリ死』というものは,まだボケる前にそして自分の身の回りの世話ができている間に,あっさりと死ぬといったような漠然としたイメージでした.しかし,ポックリ死ぬというのは,どうもそういうものではないようです.そもそも,「ポックリ」という言葉は「長く久しく永久にご利益を保ってくださる」との意味を持つ浄土宗の言葉,「保久利」が語源とのことです.つまり,『ポックリ死』というのは浄土へ往生するということなのでしょう.ということは,日頃から何の功徳も積んでいない凡夫の鑑のような私には,とても叶わぬ夢ということになります.しかし「ポックリ死ぬこと」は,もともとは「功徳を積んだ人の死に方」だったのが,長い年月を経て徐々に意味が変わり,「長生きして自分も苦しまず,家族にも迷惑をかけない死に方」になったそうです.こういう意味なら,まだ私にもポックリ死できるチャンスはありそうです.加齢老年医学に長く携わってこられた佐藤琢磨先生による『ポックリ死』についての考え方をまとめてみます.まずは,死に方の3つのパターンです.脳が体より先に衰えるパターン,体が脳より先に衰えるパターン,脳と体が同じように衰えるパターンの3つですが,最初のパターンの代表例は認知症になります.2番目のパターンの代表例は心筋梗塞や脳梗塞,脳出血ということになるでしょう.最後のパターンが『ポックリ死』に近いようですね.この最後のパターンをとるのはかなり高齢まで健康で長生きした人が多いようで,著者は『ポックリ死』の条件として,①健康に長生きしたこと,②脳と体が同じような時期に衰え,体調が悪くなってから比較的短い期間で,しかも苦しまずに他界したこと,③家族も「長生きしてもらった」という達成感や納得感,安堵感,満足感を得られたこと,の3つをあげています.私の頭の中では『突然死』という要素が,なんとなく『ポックリ死』のなかに入っていました.突然死というのは,後に残された家族の苦しみ・悲しみが付き物ですし,本人もその瞬間はきっと恐怖と苦しみ・痛みを感じるものなのでしょう.そう考えると,『突然死』と『ポックリ死』はまったく違うものだということに気づかされました.さて,それでは,脳と体が同じように衰えるには,どうしたらよいのでしょうか.一言で言うと「健康で長生きすること」ということになりそうです.健康で長生きする人というのは,まず,マイペース型人間,これには私もまあまあ当てはまるかなと思います.かなりアバウトな性格ですので.つぎに,高齢になるまで仕事を続けられる環境にある人ということになりますが,眼科開業医というのは理想的な環境かもしれません.つぎに,男性.日本人の平均寿命は男性が78.53歳,女性が85.49歳(2005年厚生労働省)といことになり,年齢だけからいうと,女性のほうが『ポックリ死』には有利なようですが,夫婦の場合,先に要介護状態になるのはたいていが男性とのことです.夫が老衰によって病院で終末期を迎える場合,介護を続けてきた妻は過度の医療や延命治療はほとんど望まないとのことで,過度な医療を受けない夫は自然な死,つまり,『ポックリ死』を迎えることができるのだそうです.それに引き替え,夫を看取った女性は,子供たちがなんらかの事情で介護できず病院に任せていた場合,終末期にはやや積極的な延命治療を希望しがちで,自然な死を迎えたいと思っていても,叶わ(83)■6月の推薦図書■ポックリ死ぬためのコツ佐藤琢磨著(アスベクト出版)シリーズ─89◆小玉裕司小玉眼科医院———————————————————————-Page2808あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009ないことが多々あるそうです.この点も私はクリアしそうだと思って読み進めると,なんと,これはあくまでも奥さんに大切にされた場合とのことです.そうでない男性が要介護状態になると,在宅での介護を妻から拒否されて早々に入院となって,過剰医療や延命治療を施され,『ポックリ死』とはほど遠い死に方になりかねないと書いてありました.『ポックリ死』をしたい男性は,日頃から奥さんを大切にしたほうがよいかもしれません,と読み進むうちに,私の『ポックリ死』にはちょっと危険信号が灯ってしまいました.ポックリ死ぬために必要なこととして,脳と体の老化を一致させることが大切で,そのためには,まず,脳のなかでも古脳を活性化しなければならないようです.古脳を活性化する方法としては,①早寝早起きを心掛ける,②三食きちんと食べる,③身だしなみを整える,④趣味を持つ,⑤コミュニケーションを積極的に図るの5つのポイントがあげられています.私自身は①②が駄目で③④⑤はクリアできそうです.体の強化のポイントは下半身の強化だそうです.下半身の運動系と神経系を鍛える方法がいくつか書かれていますので,ぜひ,参考にされればよいと思います.つぎに食生活ですが,ポックリ死した人の共通点として,①好き嫌いがなく,三食しっかり食べる,②節制しない,③タンパク質の摂取量が多い,④旬の野菜や果物を多く食べている,の4つがあげられています.私は好き嫌いはないのですが,三食はきちんと食べないことが多いので,①は半分クリアということになるのでしょう.②③④はクリアしています.さて,40~50代の死因として,真っ先に頭に浮かぶものは,やはり癌だと思います.実際,その年代の死亡原因の第1位は癌が占めているとのことです.早期発見,早期治療で,かなり癌を克服している人が増えてきてはいますが,それでもやはり癌と告知を受けた場合の不安感や恐怖感は,その経験者でなければわからないほど大きなものだと思います.癌の臓器別死亡数をみると,男性では1位が肺癌,2位が胃癌,3位が肝癌,4位が大腸癌,女性では1位が胃癌,2位が大腸癌,3位が肺癌,4位が乳癌となります.私自身,3年ほど前に,人間ドッグにて便潜血反応が出て,大腸癌の疑いのもとに大腸ファイバー検査を受けましたが,幸いなことに大腸ポリープが発見されただけで,内視鏡による摘出手術により完治したようです.しかし,一時的なものでも,癌ではないかという不安は,予想を遙かに超えたものでした.癌は自覚症状が出たときは,すでに手遅れになっていることもありますので,早期発見,早期治療のためにも,定期的な検査を受けておくことが,『ポックリ死』を迎える必要条件かもしれません.この本に書いてある項目別にチェックすると,ある程度の条件はクリアするものの,喫煙,飲酒,不摂生という生活を送っていた私などは,到底『ポックリ死』を迎えることは叶いそうもなく,『突然死』への道を邁進していたことになるのでしょう.先日も同年齢の眼科医5人で話す機会があったのですが,話題は自然と健康のことになり,最後にやはり「ポックリ死にたいよね!」という結論に達しました.ところが『ポックリ死』への道のりはそんなに甘いものではないみたいです.『ポックリ死』を迎えたい眼科医は皆さん!!ぜひ,本書をお読みください.(84)☆☆☆