———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY的新しい疾患である.長年まれな疾患として扱われてきたが,米国 Willsツꀀ Eyeツꀀ Hospital にて 2004 年以降急激に患者数が増加している3)など AK の増加傾向が明らかになっているのが実態であろう.II症例調査から考える日本コンタクトレンズ学会および日本眼感染症学会主導で CL 関連角膜感染症全国調査が行われた.この結果の詳細については別項を参照していただきたいが,その概略について簡単に触れたい.本調査はコンタクトレンはじめに昨今,アカントアメーバ角膜炎(AK)症例数の増加が叫ばれている.コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症のなかでも最も治療に抵抗するものであり,また重篤な視機能の低下を招く可能性の高いものとして注目すべき疾患である.本稿では,AK の臨床所見,治療方針とともに発症に至るバックグラウンドとしてのコンタクトレンズケアについても言及したい.Iアカントアメーバとは土壌,沼地や池などの淡水,プールの水など自然界に広く生息する自由生活性(free living)のアメーバである.われわれの生活環境においては室内の埃,公園などの砂場,地下水,洗面周りにも存在しうるものである.栄養体(trophozoite)とシスト(cyst)の 2 つの形態をとりうる.シストは耐乾性・耐熱性・耐薬品性をもち,AK が治療に抵抗性である理由の一つと考えられている.栄養体は体長 20 40 μm,シストはやや小さく直径 10 20 μm である.シストは角膜上皮細胞の細胞核とよく似た大きさであり,鑑別に留意すべきである.臨床検体を NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので培養を行うと,偽足を出しながら移動する栄養体を観察することができる(図 1).アカントアメーバが角膜炎をひき起こすことについては 1974 年に Naginton ら1)によって,またわが国では1988 年石橋ら2)によってはじめて報告されている比較(41)ツꀀ 1199ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 790 0826ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1199 1203,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症 ─アカントアメーバ角膜炎─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Acantamoeba Keratitis ─宇野敏彦*図 1アカントアメーバ栄養体NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので角膜擦過物を培養.大腸菌を貪食しながら図中の左から右へ移動している様子が観察された.———————————————————————- Page 21200あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(42)ているものと考えられる.IIIアカントアメーバの同定角膜上皮を 離除去したものを直接検鏡と分離培養を併用してアメーバの同定を行う.染色法としてパーカーインク KOH 法・グラム染色・ギムザ染色・ファンギフローラ染色などがあげられる.AK 症例の角膜擦過物には比較的健常な角膜上皮細胞が多数存在し,そのなかに“埋もれた”アメーバを発見する必要がある.角膜擦過物のスライドガラス上に厚く塗抹されている場合,グラム染色などではアメーバが染色された角膜上皮にまぎれてしまう恐れがある.特にアメーバシストと上皮細胞核はサイズが似通っているため鑑別に注意する必要がある.パーカーインク KOH 法は角膜上皮をいわば溶解させてアメーバを観察する方法である5).きわめて有用な方法であるが,本法に適したパーカーインクの入手が困難になっているのは残念である.ファンギフローラ染色は観察に蛍光顕微鏡が必要であるが,角膜上皮内に潜んだアメーバも染色され,アメーバを見つけやすい方法と思われる.最近筆者らはシート状に 離した角膜上皮全層をなるべく損傷しないように凍結ブロックに包埋し,ズ装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療をした症例を対象としたものである.平成 19 年 4 月から 1 年間の中間報告4)では男性 129 例,女性 104 例,合計 233例が集積された.年齢は 9 90 歳(平均 28 歳)であった.角膜擦過物の塗抹検鏡にて 40 例,分離培養では 32例でアカントアメーバが確認されている.これは緑膿菌などのグラム陰性桿菌の検出頻度とほぼ同程度であった.入院加療が必要と判断された重篤な CL 関連角膜感染症では,アカントアメーバが最も頻度の高い原因微生物であるという事実には驚愕させられる.本調査対象のなかで頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)などレンズケアを行った後再装用をする SCLの装用者は 173 例(CL の種類が把握されている 216 例の 80.0%)であった.このほかにカラー CL 装用者が 11例みられていた.CL の洗浄については毎日に加え週 4 6 回行っているものを含めても 107 例であり,レンズケアを必要とされるユーザーの数を大幅に下回っていることが確認できた.さらにこすり洗いなど日常の CL ケアが不足していること,定期検査を受けていないことなど,CL ユーザーの杜撰な実態も浮き彫りになっており,アカントアメーバ角膜炎発症のバックグラウンドになっ図 2ファンギフローラ染色所見a:蛍光所見,b:対比染色所見(矢印はaの矢印に相当する).蛍光所見と対比染色所見を見比べることにより,アメーバの上皮内での形態を明瞭に観察することが可能である.ab———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091201(43)V臨床所見1. 初期特徴的な所見として,角膜上皮および上皮下混濁・放射状角膜神経炎・偽樹枝状角膜炎があげられる.角膜上皮および上皮下混濁は初期の症例のほとんどでみられるものである.中央部角膜の淡い表層性の小浸潤であり,多発していることが多い.ちょうど流行性角結膜炎の後にみられる表在性点状角膜炎と酷似している(図 3).放射状角膜神経炎は AK に最も特徴的なもので10 15 μm の凍結切片作製ののちファンギフローラ染色を行う方法を考案した6).やや煩雑なプロセスではあるが,角膜上皮内でのアメーバの状態を自然な形で明瞭に観察できること,連続切片を作製することにより見落としが少なくなること,上皮内の栄養体の観察も可能なことが利点としてあげられる.ファンギフローラ染色は対比染色としてヘマトキシリン染色が行われる.蛍光顕微鏡での所見と対比染色での染色像を比較することにより異物による偽陽性を避けることができる(図 2).分離培養は大腸菌(あらかじめ熱処理を行った死菌)などを塗布した NN 寒天培地などを使用する.培養開始数日後にアメーバが観察される.最初はアメーバ栄養体が盛んに大腸菌を貪食しながら遊走する様子がみられ,その後培養条件の悪化とともにシスト化したものが観察できる.なお,詳細については成書を参照されたい.IVAKの病態・病期感染性角膜炎ガイドライン7)に AK について詳細な記載がある.本項ではこれに準じて解説を試みたい.AK は本来外傷を契機として発症するものである.しかし現状では AK 症例のほとんどが CL 装用者である.CL およびそのケースは緑膿菌など,環境に存在する細菌に汚染されやすいが,普遍的に存在しうるアカントアメーバも手指などを介して CL ケースに混入すると考えられる.アカントアメーバは細菌を「栄養源」として増殖する.CL ケアが杜撰であると CL 自体に大量のアカントアメーバが付着し感染源となる.CL 装用による機械的刺激などによる角膜上皮障害が起こるとそこからアメーバが侵入し感染が成立する.AK の進行はきわめて緩徐である.感染の成立した中央部角膜から周辺部へと拡大するが輪部まで到達することは基本的にない.角膜深層への進展はさらに時間を要する.AK では経過とともに特徴的臨床所見を呈する.石橋ら8)は“初期-移行期-完成期”,続いて塩田ら9)は“初期-成長期-完成期-消退期-瘢痕期”の病期分類を提唱している.本項では臨床的に接する機会の多いものとして初期と完成期について述べることとする.図 3角膜上皮および上皮下混濁中央部角膜に散在性の上皮 上皮下混濁(浸潤)を認める.本症例は比較的細く明瞭な放射状角膜神経炎もみられる.図 4放射状角膜神経炎11 時方向はやや太い数珠状の神経炎が認められる(5 時方向の周辺部角膜にも存在).———————————————————————- Page 41202あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(44)る11).自験例においても輪状浸潤はインテンシブな治療にもかかわらず輪状膿瘍に移行し,輪部からの強い血管侵入,隅角閉塞をきたすものが認められた.移行期(成長期)で取り上げられている“リング状浸潤(輪状潰瘍)”は短期間で円板状となるとされている12)が,完成期における輪状浸潤(膿瘍)との鑑別は今後の課題と思われる.VI治療方針AK の診断が得られれば病期にかかわらず最大限の治療を行っていく必要がある.アカントアメーバに対して即効性のある薬剤はないと考え,物理的な病巣除去も躊躇なく行っていく必要がある.点眼加療の中心はクロルヘキシジンなどの消毒薬である.ヒビテンRなどの商品名で術野の消毒などで汎用され多種類存在するが,そのなかでも 0.02%(あるいは0.05%)で結膜 の洗浄の適応をもったものが使用可能である.このほか PHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)も使用可能である.これはコンタクトレンズ消毒目的で多目的用剤(MPS)にも低濃度ながら含まれているものである.0.02%程度に調整して使用する.アゾール系の薬剤も自家調整のうえ,眼局所に対して使用する.教科書的にはフルコナゾール(原液をそのまま使用)・ミコナゾール(生理食塩水などで 10 倍希釈しある.輪部から角膜中央部まで連続的につながるものもあるが,多くは輪部に長さ 2 3 mm 程度,線状あるいは数珠状の浸潤である(図 4).周辺部ということもあり,意識的に探さないと見落としがちな所見でもある.偽樹枝状角膜炎は点眼薬毒性による上皮障害でみられるものとよく似ている(図 5).アカントアメーバから放出される物質が角膜上皮細胞に障害を与えるという報 告10)があるが,アポトーシスその他の機序で角膜上皮の脱落が亢進し,中央部に向かう“上皮の流れ”とともに偽樹枝状角膜炎としての所見が現れる.帯状ヘルペスによる偽樹枝状角膜炎とは起こっている機序がまったく異なっていることに留意すべきである.2. 完成期輪状浸潤と円板状浸潤がある.両者とも角膜中央を中心とした横長楕円の形態をとり,実質内に浸潤と浮腫を伴っている(図 6).浸潤直上の上皮は部分的あるいは全面的に欠損していることが多い.完成期の実質浸潤をよく観察すると小さな顆粒状の浸潤が多数集合したようにみえる.角膜ヘルペスでも円板状角膜炎という類似した所見があるが,ここでは角膜実質内の浸潤は均一であり,鑑別の重要なポイントであろう.完成期における輪状浸潤は予後不良と考えられてい 図 5偽樹枝状角膜炎点状表層角膜症とともに中央部角膜を横に走る偽樹枝状角膜炎を認める.本症例のように,点眼薬毒性による上皮障害と鑑別が困難なものも存在する.図 6円板状浸潤中央部角膜に浮腫と浸潤を認める.顆粒状の小浸潤が多数集合しているようにみえる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091203(45)いとされているが,無血管の角膜への移行性には不明な点が多い.完成期で角膜実質から前房に炎症の主座がある場合,角膜内への血管侵入があるなど,症例に応じて全身投与を考慮していくべきであろう.文献 1) Nagintonツꀀ J,ツꀀ Watsonツꀀ PG,ツꀀ Playfairツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Amoebicツꀀ infec-tion of the eye. Lancet 2:1537-1540, 1974 2) 石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮ほか:Acanthamoeba keratitis の 1 例.日眼会誌 92:963-972, 1988 3) Thebpatiphat N, Hammersmith KM, Rocha FN et al:Acanthamoeba keratitis:a parasite on the rize. Cornea 26:701-706, 2007 4) 福田昌彦,コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 5) 石橋康久:パーカーインク染色.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:230-231, 2009 6) 白石敦:凍結切片法.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:232, 2009 7) 井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 8) 石橋康久,木村幸子:アカントアメーバ角膜炎の臨床所見─初期から完成期まで─.日本の眼科 62:893-896, 1991 9) 塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼 48:1149-1154, 1994 10) Hurtツꀀ M,ツꀀ Neelamツꀀ S,ツꀀ Niederkornツꀀ Jツꀀ etツꀀ al:Pathogenicツꀀ Acan-thamoeba spp secrete a mannose-induced cytolytic pro-tein that correlates with the ability to cause disease. Infect Immun 71:6243-6255, 2003 11) Porツꀀ YM,ツꀀ Mehtaツꀀ JS,ツꀀ Chuaツꀀ JLツꀀ etツꀀ al:Acanthamoebaツꀀ kerati-tisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ contactツꀀ lensツꀀ wearツꀀ inツꀀ Singapore.ツꀀ Amツꀀ J Ophthalmol 148:7-12.e2, 2009 12) 太刀川貴子,石橋康久,高沢朗子ほか:初期から完成期に至るまで経過観察できたアカントアメーバ角膜炎の 1 例.眼紀 46:1035-1040, 1995て用いる)が取り上げられてきたが,フルコナゾールがホスフルコナゾールに切り替えとなったり,ミコナゾールの採用中止など,個々の医療施設の事情もあり,現在ではボリコナゾールが主体となっている.ボリコナゾールは 1%で調整して眼局所に使用するという報告があり汎用されているが,眼刺激感は強く濃度について再検討が必要と思われる.このほか市販されている抗真菌薬であるピマリシンも有効と考えられている.点眼製剤は眼瞼炎などの副作用が強いので眼軟膏製剤を 1 日 5 回を目安に使用するとよい.なお,当然のことながら AK に対して公的に承認された治療薬およびその投与方法は存在しない.各施設の倫理委員会の承認を受ける,インフォームド・コンセントを取るなど適切な対応が必要である.AK において特に初期は角膜上皮内にアメーバが存在しており,角膜上皮 離はきわめて有効な治療法である.アメーバの存在する病的な上皮は基底膜との接着は緩く,簡単に がれることが多い.上皮 離の範囲は病的な上皮を含めて十分広くとったほうが望ましい. 離後の上皮の修復は比較的速やかである.上皮欠損が修復すると上皮内の浸潤が再び増加してくる.これは再度の擦過を行うサインとなる.重症症例では角膜実質への薬剤移行性を高める目的もあり週 2 回程度上皮 離を行う必要がある.一方,比較的軽症のものでは診断目的を含めた 1 回の上皮 離で治癒させることも不可能ではなく,柔軟な対応が必要と思われる.抗真菌薬の全身投与は議論のあるところである.イトラコナゾール,ミコナゾールは元来眼部への移行性が低い.ボリコナゾールは眼部(網膜など)への移行性が良