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眼科DNAチップ研究会報告書

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912250910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに鎌状網膜 離は家族性滲出性硝子体網膜症の重症型などにみられることがあり,すでに重篤な視力障害をきたしているため,一般に手術適応とはならない.しかし,まれに裂孔を併発し網膜全 離をきたすことがあり,僚眼が失明している場合に限って硝子体手術の適応となることがある.筆者は過去にこのような 2 症例に対して硝子体手術を施行した経験がある1).そのうち 1 例を呈示する. 例呈示3 歳,男児,生来視力不良であったが,両親が急に手探りで歩くようになったことに気付き来院.家族歴として,従兄弟に牽引乳頭と周辺部網膜無血管野を認めた.初診時,左眼はすでに眼球癆,右眼は全周の虹彩後癒着と併発白内障で眼底透見不能であったが,超音波断層検査にて網膜全 離を認めた.視力は光覚弁であった.右眼に対して水晶体切除および硝子体手術による網膜復位術を施行した.術中所見として,全周で網膜血管形成不全を認め,耳下側に線維性増殖塊を認め,視神経乳頭から耳下側にかけて著明な網膜皺襞を形成していた.網膜は全 離の状態で,肥厚した後部硝子体膜が全周の網膜無血管帯に強固に癒着していた.硝子体切除後に,増殖膜除去と人工的後部硝子体 離を行った.術中,鎌状 離の斜面やや後極側に萎縮性円孔を認め,これが網膜全 離の原因裂孔と考えられた(図1).膜処理後に気圧伸展網膜復位術,輪状締結術,14% C3F8(パーフルオロプロパン)によるガスタンポナーデを行い復位を得た(図2).術後,矯正視力は眼前手動弁となった. 孔併発型鎌状網膜 離に対する硝子体手術上記の呈示症例を含めて自験例は 2 例とも,原因裂孔が網膜皺襞の斜面にあり,やや後極部に位置していた.この部位は黄斑部に相当する部位と考えられ,著明な網膜牽引により,最も網膜の薄い黄斑部に裂孔を形成した(67)可能性が考えられる.本疾患の硝子体手術の問題点として,肥厚した後部硝子体膜が網膜無血管野と強固に癒着しており,この部位の処理がきわめてむずかしいことがあげられる.しかし,双手法により,確実に後部硝子体膜を 離すれば復位が得られるので,このような症例には積極的に硝子体手術を施行し,完全失明から救済することが必要と考えられる.文献 1) Ikedaツꀀ T,ツꀀ Fujikadoツꀀ T,ツꀀ Tanoツꀀ Y:Combinedツꀀ tractionalツꀀ rheg-matogenous retinal detachment in familial exudative vitre-oretinopathyツꀀ associatedツꀀ withツꀀ posteriorツꀀ retinalツꀀ holes:sur-gical therapy. Retina 18:566-568, 1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載76ツꀀツꀀ ツꀀ裂孔併発型鎌状網膜ツꀀツꀀ ツꀀ 離に対する硝子体ツꀀツꀀ ツꀀ手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図 1術中所見鎌状 離の斜面やや後極側に萎縮性円孔を認める.図 2術後の眼底写真視神経乳頭から下耳側にかけて著明な網膜皺襞を認める.

眼科医のための先端医療 105.硝子体の牽引が網膜疾患にとって良くない理由 -機械的刺激のsignal transduction

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.9,200912190910-1810/09/\100/頁/JCOPYなぜ硝子体の牽引は良くないのか?にな硝子体による網膜への牽引が性のとなっているといい文がにま)がではより糖尿病網膜症網膜症のに硝子体の牽引がているといをとににする硝子体がくてりのをてままのは性にて硝子体をいのをています)のの文をてはで()がてとによりよくにいいてかなとまかではなぜ硝子体の牽引がままな病にかかってくるのでか?機械的刺激によるVEGF発現への影響が糖尿病網膜症の増悪子でるとはよくていまがの子機はまりていまんで網膜にる理的伸展刺激の影響(図1)を検討するため血管内皮増殖因子(VEGF)に着目し,VEGFの血管細胞での発現を検討しました3).シリコーン製の培養皿の上に細胞を培養し伸展刺激を行ったところ,ウシ網膜血管周皮細胞にて,伸展刺激によりVEGF発現の増加が認められました.伸展刺激の振幅が大きいほど増加率が大きく,また刺激時間が長くなると発現もさらに増加していました(図2).さらにERK(extracellularsignal-regulatedkinase)阻害剤,PKC(proteinkinaseC)阻害剤,PI3キナーゼ阻害剤,チロシンキナーゼ阻害剤などの薬理学的阻害剤を用いて検討したところ,PI3キナーゼ阻害剤とチロシ(61)◆シリーズ第105回◆ツꀀツꀀ ツꀀ眼科医のための先端医療ツꀀツꀀ ツꀀ=坂本泰二山下英俊鈴間潔(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科視覚科学)硝子体の牽引が網膜疾患にとって良くない理由─機械的刺激のsignaltransduction390000101390139rclicstrtcrsVEGF34VEGF3493ontrolllVEGFrssionoldincras43210CyclicstretchVEGF高血圧ShearstressStretch高血糖酸化ストレス亢進(ROS)PKC活性化??AGE・ソルビトール蓄積単純網膜症(Pericyteloss)網膜虚血(毛細血管消失)糖尿病黄斑症(血管透過性亢進)増殖網膜症(血管新生)VEGF発現亢進PKCb活性化図1機械的刺激による糖尿病網膜症の増悪メカニズム図2周期的伸展刺激によるVEGFの発現ウシ網膜血管周皮細胞にストレッチをかけてVEGFの発現をノザン解析で検討した.3%,9%のストレッチで時間と伸展度依存性にVEGFの発現が増加し,9%9時間で3倍に発現が増加した.———————————————————————-Page21220あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009ンキナーゼ阻害剤がVEGFの誘導を阻害しました.ストレッチによるVEGF発現はチロシンキナーゼとPI3キナーゼを介することがわかったわけです(図4).機械的刺激の細胞死(アポトーシス)への影響糖尿病網膜症にいてはのく期に内皮細胞と細をている周皮細胞の的がるといていますで周期的細胞伸展刺激の周皮細胞アポトーシスへの影響をま)細胞に間ストレッチを化をするとの伸展では化はまんでがでは化がめまをいてにとトールではの性細胞がめの伸展を間までするとまで性が増まによの周期的伸展をとの伸展では性の増はめまんで(図3).つぎに,アポトーシスのシグナルで重要なJNK(c-JunN-ter-minalkinase)とp38の活性化が関与しているかどうかTUENL法により検討しました.伸展負荷により増加した陽性率はJNK阻害剤の投与により抑制されましたが,p38阻害剤は有意に抑制しませんでした.これらの結果から伸展により誘発されるアポトーシスはJNK活性化が主要な役割をはたしている可能性が示唆されました(図4).まとめ今回紹介した研究結果では細胞内のチロシンキナーゼやPI3キナーゼ,JNKなどのMAP(mitogenactivatedprotein)キナーゼが機械的刺激で活性化しさまざまなbiologicaleectをもたらすことが示されました.上記の細胞内シグナル分子はVEGFやFGF(broblastgrowthfactor)などの増殖因子,TNF(tumornecrosisfactor)などのdeathシグナルにおいても特異的に活性化されるのは有名です.このことは特別な増殖因子が存在しなくても機械的刺激が細胞に加わっただけでいろいろな効果が現われうるということを意味します.眼球には眼圧によりつねに周期的な機械的伸展刺激が加わっていますので,硝子体の異常な癒着による非生理的な牽引が病態にかかわってくるのでしょう.筆者らが検討した血管細胞以外では既に網膜色素上皮で機械的刺激によりVEGF(62)時間伸展度TUNEL法DNA断片度(48時間)伸展度別**p<0.01Ctl100908070605040302010048hrsStretchApoptoticcells(%)72hrs******CtlCtlStretchCtlStretch2%10%NS10090807060504030201002hrsStretchApoptoticcells(%)10hrs図3ストレッチによる周皮細胞アポトーシス細胞に48時間ストレッチを負荷しDNA断片化を検討すると,2%の伸展では断片化はみられなかったが,10%では断片化が認められた.TUNEL法を用いて同様に検討したところ,コントロールでは12%のTUNEL陽性細胞が認められ,10%の伸展を72時間まで負荷すると40%まで陽性率が増加した.つぎに2%,および10%の周期的伸展を負荷したところ,2%の伸展では陽性率の増加は認められなかった.図4機械的刺激により活性化する細胞内シグナル———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.9,20091221(63)発現が誘導されることが報告されています5).眼内にはほかにも硝子体細胞やグリア細胞,線維芽細胞などが存在し,同じ機械的刺激でも活性化される細胞内シグナルのパターンは細胞種特異的であると予想されるため,組織や細胞によって機械的刺激の効果は千差万別でまだまだその全容を解明するのには長い時間が必要かもしれません.文献1)KrebsI,BrannathW,GlittenbergCetal:Posteriorvitre-omacularadhesion:apotentialriskfactorforexudativeage-relatedmaculardegenerationAmJOphthalmol144:741-746,20072)IkedaT,SawaH,KoizumiKetal:Parsplanavitrectomyforregressionofchoroidalneovascularizationwithage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmolScand78:460-464,20003)SuzumaI,SuzumaK,UekiKetal:Stretch-inducedreti-nalvascularendothelialgrowthfactorexpressionismedi-atedbyphosphatidylinositol3-kinaseandproteinkinaseC(PKC)-zetabutnotbystretch-inducedERK1/2,Akt,Ras,orclassical/novelPKCpathways.JBiolChem277:1047-1057,20024)SuzumaI,MurakamiT,SuzumaKetal:Cyclicstretch-inducedreactiveoxygenspeciesgenerationenhancesapoptosisinretinalpericytesthroughc-junNH2-terminalkinaseactivation.Hypertension49:347-354,20075)SekoY,FujikuraH,PangJetal:Inductionofvascularendothelialgrowthfactorafterapplicationofmechanicalstresstoretinalpigmentepitheliumoftheratinvitro.InvestOphthalmolVisSci40:3287-3291,1999「硝子体の牽引が網膜疾患にとって良くない理機械的刺激のsignaltransduction」を読んで■は鈴間潔に網膜硝子体疾患の病にいての的なをていま現のは子のの発展ととになをてまのめか化的な子と子のをにがてていますか鈴間はいで現をる性をにてかりすくてますのよに鈴間は子細胞のをかって網膜硝子体疾患の子病のにいては的なを発てですかのはがりますすなは(「細胞は」といでか)理的な(機械的刺激)にするよなをっているとが子のレルでるよになってとが病のといの発になとなりるとがかりまがにのよにてのよにてていくか(をとりかのがる)といのはいのにするですにいて化のでかなりなをってを化てはですのよなかの的なをるとがでるとがか現ののかいっていいなをるとがでるとますのににでるかをめるめには鈴間が性にする硝子体のを引のはいのがりますがている疾患の病のかのにるがる性がりまのをとにがするとい良いが期でます山山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 192.生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜真菌症

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912170910-1810/09/\100/頁/JCOPY新しい治療と検査シリーズ(59) バックグラウンド1960 年代後半に,生体内の角膜の細胞の形態を直接観察するための方法として,生体共焦点顕微鏡検査(in vivo confocal microscopy)が開発された1).観察対象を円板状に並んだ多数のピンホール光で走査するタンデムスキャン式で始まった生体共焦点顕微鏡は,その後,スリット光で走査するスリットスキャン式となり,画像の解像度を向上させた.最近では,レーザー光で走査するレーザースキャン式が登場し,その解像度はさらに向上することとなった.近年,角膜真菌症に対するレーザー生体共焦点顕微鏡検査の応用の報告がなされている2,3). 新しい検査法レーザースキャン式生体共焦点顕微鏡(Heidelberg Retina Tomograph IIR:HRTツꀀ IIR)は,角膜観察用アタッチメント(Rostockツꀀ Corneaツꀀ ModuleR:RCMR)を 装着することにより,角膜全層を観察することが可能となる.今回は,角膜感染症,特に角膜真菌症に対して,その診断を目的とした検査を行った.〔症例〕66 歳,女性で,農作業中に左眼に木片が入った後,前医を受診した.前医では,左眼真菌性角膜潰瘍との診断にて,0.2%フルコナゾール点眼治療を 2 週間行われるも改善が認められず,当院を紹介となった.初診時,左眼の鼻側角膜に,角膜上皮欠損を伴う辺縁不整な角膜浸潤を認めた(図1).そこで,まず,上記のレーザー生体共焦点顕微鏡にて,角膜潰瘍部を観察したところ,直線的な糸状構造物が角膜実質内に多数認められた(図2).糸状真菌の菌体の存在を疑わせる所見であると考えられた.つぎに,角膜潰瘍部を擦過して,塗抹染色と培養検査を行った.塗抹染色では,明らかな菌体を検出することはできなかったが,Sabouraud 培地にて,糸状真菌が培養され,Paecilomyces lilacinus と同定さ192.生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜真菌症プレゼンテーション:松本幸裕慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:近間泰一郎山口大学大学院医学系研究科眼科学図 1真菌性角膜潰瘍の前眼部写真左眼の鼻側には,角膜上皮欠損と実質の菲薄化を伴う辺縁不整な角膜浸潤を認め,充血,角膜浮腫,角膜潰瘍部への血管侵入,前房内炎症を伴っていた.ツꀀ 2角膜潰瘍部における生体共焦点顕微鏡検査角膜実質内に直線的な糸状構造物が多数交叉している画像が得られた.角膜神経,実質細胞,樹状細胞とも形態学的に異なるもので,糸状真菌の存在を疑わせるものである.———————————————————————- Page 21218あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009れた.薬剤感受性試験にて,フルコナゾールに耐性(最小発育阻止濃度:MIC にて,>64 μg/ml)を示したものの,ボリコナゾールに感受性(MIC にて,1 μg/ml)を示した.1%ボリコナゾール点眼にて,角膜潰瘍は徐々に改善傾向となり,矯正視力も治療前(0.06)から治療後(1.2)となった. 使用方法まず,HRTツꀀ IIRに,RCMRを装着する.被検者の対象眼に,局所麻酔薬の点眼(0.4%ツꀀ oxybuprocaine)を行う.RCMRの対物レンズに,Comfortツꀀ gelRをつけた後,polymethyl methacrylate(PMMA)製の Tomo-CapRを装着する.角膜深度をゼロに設定し,Tomo-CapRの前面にも Comfort gelRをつけた後,被検者の顎を顎台に載せる.Tomo-CapRをゆっくり押し進め,開瞼された対象眼の角膜に接触させる.焦点面調整リングを手動で回すことにより,焦点面を Tomo-CapR前面より深くしていくことができる.それにより,任意の深さの組織の観察が可能となる.水平断の組織の画像は,リアルタイムでコンピュータのモニター画面に表示されるが,その記録開始は,フットスイッチにて操作することができる.検査時間は 5~10 分程度である. 本方法の利点生体共焦点顕微鏡の利点は,その瞬間に,非侵襲的に,生体内組織の形態を捉えることができるところである.しかも,角膜内組織は透明であるために,その全層(上皮から内皮まで)を細胞レベルで観察することが可能である.今回の検討の結果,この検査が角膜真菌症の補助診断として有用であると考えられた.角膜感染症においては,微生物学的検査として,塗抹染色や培養検査などが行われるが,特に起因菌が検出されなかったときに,この検査が早期診断に役立つと考えられる.また,非侵襲的な検査であり,くり返し検査が可能であることより,治療効果の評価にも有用であると考えられる.ツꀀツꀀツꀀツꀀ 1) Petran M, Hadravski M, Egger MD et al:Tandem-scanning re ected-light microscope. J Opt Soc Am 58:661-664, 1968 2) Babu K, Murthy KR:Combined fungal and Acanthamoeba keratitis:diagnosis by in vivo confocal microscopy. Eye 21:271-272, 2007 3) Brasnu E, Bourcier T, Dupas B et al:In vivo confocal microscopyツꀀ inツꀀ fungalツꀀ keratitis.ツꀀ Brツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 91:588-591, 2007(60)る.今回紹介されている糸状菌による角膜真菌症の場合にはその特異的な形態により診断の一助になる.一方で,アカントアメーバではシストの大きさが好中球などの血球細胞と類似し,細菌では観察系の倍率の問題で形態把握が困難であるので,診断の補助的な情報に留めるべきである.すなわち,感染症を疑う場合には塗抹検鏡および培養を行い,臨床所見などとともに総合的に診断することが重要である.生体共焦点顕微鏡は,角結膜などの生体組織を細胞レベルで非侵襲的にかつ経時的に観察できる.このことは,感染症などの病的状態で浸潤細胞あるいは角膜上皮細胞や実質細胞などといった組織固有細胞の変化をとらえることができるのみならず,治療効果の判定においても有用性を発揮する.しかしながら,病原体の同定に関しては注意が必要である.本検査は,あくまでも形態学的観察であるので異常な構造物をみた際には,その形状や大きさの判定に注意を払う必要があ 本方法に対するコメント ☆ ☆ ☆

眼感染アレルギー:Posner-Schlossman症候群

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.9,200912150910-1810/09/\100/頁/JCOPYPosner-Schlossman症候群は,アメリカの眼科医PosnerとSchlossmanが,1948年に虹彩毛様体炎症を伴う眼圧上昇の反復発作を片眼にきたす症例を報告1)したことから命名された症候群で,別名glaucomatocy-cliticcrisisともよばれる.自覚症状は軽微で,霧視,光輪視,眼の違和感などを生じるが,充血や眼痛などの症状は少ない.ほとんどの症例は片眼発症で,同一眼にくり返し発症するとされるが,時期を違えて両眼に発症することもある.発作的に虹彩網様体炎を生じ,眼圧が高度に上昇することが特徴で,炎症は不定期に再発する.発作時の眼圧は40mmHg以上,ときに60mmHg以上となることもある.検眼鏡的には,前房に軽度の炎症細胞と,数個の色素沈着を伴わない小型中型の円形,少数の角膜後面沈着物が角膜中央から下方にかけて認められる(図1).この角膜後面沈着物は眼圧上昇にやや遅れて(多くは数日後に)出現し,しばらくの間持続するため,受診時に眼圧が正常化していた場合などにも発作の既往を示す証拠となる.著しい眼圧上昇に比して,角膜浮腫や前房炎症はごく軽微であることが多い.隅角所見では,周辺虹彩前癒着や結節はみられず,経過中に虹彩後癒着を起こすこともないが,瞳孔は検眼と比べやや散大気味で,虹彩異色を呈することがある.また,眼底には炎症所見を認めない.発作の持続は数時間数週間とされている.また,緩解期には患眼の眼圧は僚眼に比べむしろ低くなっていることが多い.ほとんどのケースは,年齢2050歳であるとされ,比較的若年者に好発し,性別は男性にやや多いとされる.フィンランドでの内因性ぶどう膜炎1,122例の集計2)によれば,人口10万人当りの年間発生率は0.4,有病率は1.9であり,Posner-Schlossman症候群は特発性急性前部ぶどう膜炎,眼サルコイドーシスに続いて3位にランクされている.眼圧上昇は線維柱帯の炎症によって生じると考えられているが,本疾患の原因はいまだ完全には明らかにされていない.アレルギーやストレスを原因とする仮説や,異型発達緑内障,サイトメガロウイルス3)や単純ヘルペスウイルス4)の感染との関連などが提案されてきたが,いずれも未確定である.発作中の前房水中にプロスタグランジンが増加するという報告5)もあり,高眼圧は線維柱帯の炎症に続発した流出抵抗増大によるとみなされるが,房水産生上昇を示唆する動物実験成績もあって一義的説明はできていない.前述のように原因が未確定の疾患であるため,診断は特徴的な臨床所見による.隅角検査で患眼の隅角線維柱帯の色素は健眼より薄いことが多く(図2a,b),本疾患(57)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一21.PosnerSchlossman症候群藤本武園田康平九州大学大学院医学研究院眼科Posner-Schlossman症候群は,軽度の虹彩毛様体炎を伴う眼圧上昇発作を片眼にくり返す疾患で,従来は視神経,視野に影響を及ぼさない良性の疾患とされてきたが,遷延化すると視神経乳頭に障害が起こり,視野欠損をきたすこともある.眼圧コントロールが不良な場合の薬物療法,手術時期の検討に注意が必要である.図1色素沈着を伴わない,小~中型の角膜後面沈着物———————————————————————-Page21216あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009の確定診断に役立つ.Posner-Schlossman症候群に似た片眼性の前眼部炎症,眼圧上昇を示すものとしては,ヘルペス(HSV,VZV)虹彩毛様体炎,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎などが鑑別除外すべき疾患となる.ぶどう膜炎以外に,原発開放隅角緑内障も鑑別の対象となる.療方発作自体は治療の有無にかかわらず自然緩解するた(58)め,発作時には副腎皮質ステロイド薬局所投与による炎症の抑制と,緑内障点眼による眼圧下降が主体となる.眼圧上昇が著しい場合には炭酸脱水酵素阻害薬の内服も併用する.薬物療法によく反応し,眼圧は通常数日で下降する.一過性の経過をたどることが多く,自然軽快も期待できるので長期の治療は必要ない.また,前述のように虹彩癒着が生じることはないため,瞳孔管理のために散瞳薬を使用する必要はない.従来,本疾患は視神経乳頭の変化や視野障害をきたさないと考えられてきたが,遷延化すると,視神経乳頭に障害が起こり,視野欠損をきたすこともある6).眼圧が十分に下降しない症例では濾過手術も行われる.また,本症に開放隅角緑内障を併発するという報告もある.ステロイドの予防的長期投与は避け,本症が眼圧コントロール不良になった際にはステロイド緑内障の合併も視野に入れて治療薬の選択,投与期間に十分な注意が必要となる.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecur-rentattacksofglaucomawithcyclitissymptoms.ArdhOphthalmol39:517-535,19482)Paivonsalo-HietanenT,TuominenJ,Vaahtoranta-Leh-tonenHetal:IncidenceandprevalenceofdierentuveitisentitiesinFinland.ActaOphthalmolScand75:76-81,19973)Bloch-MichelE,DussaixE,CerquetiPetal:PossibleroleofcytomegalovirusinfectionintheetiologyofthePosner-Schlossmansyndrome.IntOphthalmol11:95-96,19874)YamamotoS,Paven-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,19955)MasudaK,IzawaY,MishimaS:Prostaglandinsandglau-comatocycliticcrisis.JpnJOphthalmol19:368-375,19756)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosnerSchlossmansyndromebenignOphthalmology108:913-918,2001☆☆☆2隅角所見患眼(a)の隅角は開放しており,結節や周辺虹彩前癒着はみられない.僚眼(b)と比べ色素は薄い.

緑内障:新しい静的視野経過観察プログラム

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.9,200912130910-1810/09/\100/頁/JCOPY緑内障における視野検査の重要な役割に視野の進行評価がある.経過中に有意な視野進行が確認された場合,薬物療法の追加,観血的手術など眼圧下降療法をそれまでより厳重に行うなどの対応が必要となる.自動静的視野計を用いた視野進行判定には,視野を時系列に直線回帰解析を行うトレンド解析,ならびに基準視野と観察時の視野を比較し進行判定するイベント解析が広く用いられている.しかしながら,どの手法にも長所短所があり,一つの手法ですべてを完全に網羅できる標準的な視野進行評価法はいまだ確立されていない.近年,新しい視野解析方法としてHumphrey視野計のGuidedProgressionAnalysis(GPA2),Octopus視野計のEye-SuitePerimetryが発表された.そのなかでも,新たに導入された2つの新しいトレンド解析法についてその特徴をみていきたい.GuidedProgressionAnalysis(GPA2)今回新しく開発されたGPA2では,VisualFieldIndex(VFI)とよばれる新しい視野指標が導入されている1).これは,臨床上最も重要な,そして構造的にもより多くの網膜神経節細胞により構成されている視野中心部に重みづけを置いた新しい視機能の指標で,正常で100%,視野消失で0%となるように設計されている.GPA2では,このVFIを患者の実年齢を横軸にとったグラフであらわし,患者の実際の生命予後を含めたより実践的な評価が可能となっている(図1,2).さらに新しい試みとして,数年先のVFIを予測することも可能となっている.統計学的でのいわゆる外挿予測は,その精度の面で,あくまで参考データとなるが,患者とともに長期的な立場にたった治療方針のよい参考材料となる.(55)●連載111緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也111.新しい静的視野経過観察プログラム松本長太近畿大学医学部眼科視野進行判定の代表的な手法に,時系列に直線回帰解析を行うトレンド解析がある.近年,Humphrey視野計のGPA2では,中心視野に重みづけを置いた新しい視野指標VisualFieldIndexが導入された.またOcto-pus視野計のEyeSuitePerimetryでは,クラスタ解析が導入された.これら新しいトレンド解析法は,緑内障患者のqualityofvisionにより重点を置いた視野進行評価法として期待される.35歳-0.8%/yearVFI:92%73歳-3.2%/yearVFI:55%図135歳,男性:狭義原発開放隅角緑内障VFI92%で視野進行は0.8%/yearと緩徐である.図273歳,男性:狭義原発開放隅角緑内障VFI55%で視野進行は3.2%/yearと速い.5年後の進行予測ではVFIが40%を切っている.———————————————————————-Page21214あたらしい眼科Vol.26,No.9,2009EyeSuitePerimetry従来のMDなどの視野指標を用いたトレンド解析では,視野を全体として一つの数値でとらえるため,暗点の進行など局所的な変化を評価することができない.特徴的なパターンを呈する緑内障性視野障害は,網膜神経線維走行パターンに基づいており,視神経乳頭から広がるセクターとよばれる同時に障害されやすい範囲(クラスタ)が存在する.HAAG-STREIT社のEyeSuitePerimetryでは,Octopus視野計で用いられている測定プログラムGの測定点を11個のクラスタに分類し,それぞれ個々のクラスタにおける視野進行をトレンド解析で評価している(図3).クラスタに分けることにより,局所の視野進行をより正確にとらえることが可能とな(56)り,臨床上特に重要となる固視点近傍の情報など,個々の症例のqualityofvision(QOV)を考慮した評価が可能となっている.さらにPolargraphとよばれる視野測定結果を網膜神経線維走行パターンに基づき,視神経乳頭周囲に再配置し,乳頭所見と視野所見の対応をより明確にする解析手法も新たに導入されており2),Polartrendでは実際の乳頭所見と対応をとりながら視野進行評価が可能となっている(図4).おわりに日常診療において,個々の緑内障患者の視野進行を的確に把握するためには,従来の画一的なMDslopeのみによる評価では不十分である.視野としてどの部位の進行が速いのか,それが患者のQOVにどのように影響するのか,さらに年齢などの背景を考慮して,今後どのような治療戦略をたてるべきかなど,視野検査で得られた情報をより詳細にしかも明確に応用する必要がある.これら新しいトレンド解析法は,特に個々の緑内障患者のQOV評価により重点を置いた実践的な視野進行評価法として今後期待される.文献1)BengtssonB,HeijlA:Avisualeldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,20082)七部史,有村英子,松本長太ほか:緑内障における新しい視野解析プログラムPolarGraphの使用経験.あたらしい眼科26:1269-1274,2009図3aEyeSuitePerimetryにおけるクラスタ配置図図3b51歳,男性:正常眼圧緑内障固視点近傍のクラスタで視野進行が認められる.??????????????????????????Polartrend(2002~2006)PolargraphCOgrayscale図455歳,女性:狭義原発開放隅角緑内障2002年の視野では,Polargraphにて2時方向に,眼底と対応する感度低下が確認されている.2006年の視野では2002年に認めていた6時の乳頭出血に対応した部位に新たに感度低下が出現している.Polartrendでは4年間の経過中に悪化した部位が赤で表現されている.

屈折矯正手術:術前・術後の角膜形状解析

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,200912110910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀ 今回は,屈折矯正手術の適応検査のうちの角膜形状検査について記載する.角膜形状異常疾患である円錐角膜,円錐角膜疑い,ペルーシド角膜変性を除外し,ker-atectasia を予防することが大切である.角膜形状解析において,局所的急峻化を認めるもの,角膜屈折力が瞳孔領内や頂点と周辺部の差の大きいもの,上下差など非対称性のあるもの,角膜強主経線の曲線化を認めれば円錐角膜,円錐角膜疑い,そしてペルーシド角膜変性を疑い,同時に左右眼の対称性を確認する(図1). 後屈折矯正手術後の屈折誤差の原因としては,①レーザー照射自体が低矯正の場合,②眼軸長の延長や水晶体の核硬化のため,近視が進行する場合,③術後の創傷治癒で regression を生じる場合,および④ keratectasiaの 4 つが考えられる.これらの 4 つを鑑別するためには,術後の経過が安定した時期,たとえば 1 カ月後と,定期診察のときに,角膜前面と後面の形状を測定できる機種で角膜形状解析を行い,経時的変化を確認することが大切である.たとえば,スリットスキャン式角膜形状解析装置のオーブスキャン(キヤノン社製)の elevation map で,定期診察時と安定した時期の結果を差し引いた di erence map と,術後数年経ったころと,安定した時期の map を引いた map を表示し,中央部の前方偏位量を求めるとよい(図2,3).① 低矯正:術後の屈折誤差は安定していて,角膜形状でも経時的な変化は認められない.この場合は,残存角膜厚が十分であれば追加照射が可能である.② 近視の進行:術後の角膜形状には,経時的な変化を認めない.近視の原因が白内障であれば水晶体再建術を考慮する.眼軸の延長なら進行が止まるまで待つ.③ Regression:これは,創傷治癒によって近視化する場合で,角膜実質が瘢痕化する場合と,上皮の厚みが(53)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載112監修=木下茂大橋裕一坪田一男112.ツꀀツꀀ 術前・術後の角膜形状解析島袋幹子友紘会総合病院眼科屈折矯正手術の適応判断で大切な角膜形状検査をみるポイント,術後の屈折誤差の原因である①レーザー照射自体が低矯正の場合,②近視が進行する場合,③ regression を生じる場合,および④ keratectasia の 4 つの鑑別点についてを述べる.図 1円錐角膜疑いのTMS 4(トーメー社製)画像スリットで異常を認めなかった LASIK(laserツꀀ inツꀀ situツꀀ keratomileusis)希望の 2 症例である.いずれの症例も円錐角膜自動診断プログラムで 0%であるが,どちらの症例も角膜屈折力に上下差があり非対称なことから,円錐角膜疑いと診断し,屈折矯正手術の適応から除外した.———————————————————————- Page 21212あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009増加する場合がある.角膜形状解析で後面には変化がないが,前面の屈折力が増加する.強度近視の場合,術後3 カ月以上にわたり進行することがあり1),屈折値が安定してから追加照射を考慮する(図3).④ Keratectasia:過剰照射ないしは,円錐角膜,円錐角膜疑い,またはペルーシド角膜変性に気づかず屈折矯正手術を施行した場合に生じる.レーザーによる角膜実質切除により,角膜が菲薄化したため実質の強度が保てなくなり,眼圧で実質が前方偏位する状態をさす.角膜形状解析において前面,後面ともに前方偏位する.文献 1) Perez-Santonja JJ, Ayala MJ, Sakla HF et al:Retreat-ment after laser in situ keratomileusis. Ophthalmology 106:21-28, 1999(54)☆ ☆ ☆図 2LASIK術後で経過が順調な症例LASIK 術後で経過が順調な症例のオーブスキャンの画像である.向かって左画像が術後 3 年目と術後 1 カ月目の,向かって右画像が術後 6 カ月と術後 1 カ月目の角膜前面の elevation の di erenceツꀀ map である.角膜中央のelevation の色彩が,両方の画像とも緑色で,経時的変化がないことがわかる.角膜後面にも変化を認めなかった.図 3術後8年目にregressionを生じた症例これらは,LASIK 術後に regression を生じた症例のオーブスキャンにおける,角膜前面の elevationツꀀ のdi erence map である.向かって左画像が術後 3 カ月目から 1 カ月目を,向かって右画像が 8 年目から 1 カ月目を引いた左眼の di erenceツꀀ map である.経時的にみると,角膜中央部が水色から緑色に変化しており,角膜前面の中央部がやや前方突出していることがわかる.角膜後面には変化がなかった.以下のように自覚的屈折値もやや近視化していた.術後 3 カ月目 VS=1.0(1.5×cyl 0.5 Dツꀀ Ax90° ),術後 8 年目ツꀀ VS=0.7(1.5×sph 0.5 D(cyl-0.5 D Ax90°).

眼内レンズ:アクアレース

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コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法(メニコン・ティニュー)

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写真:コリネバクテリウムによる結膜炎,角膜炎

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コンタクトレンズ関連角膜感染症-アカントアメーバ角膜炎-

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———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY的新しい疾患である.長年まれな疾患として扱われてきたが,米国 Willsツꀀ Eyeツꀀ Hospital にて 2004 年以降急激に患者数が増加している3)など AK の増加傾向が明らかになっているのが実態であろう.II症例調査から考える日本コンタクトレンズ学会および日本眼感染症学会主導で CL 関連角膜感染症全国調査が行われた.この結果の詳細については別項を参照していただきたいが,その概略について簡単に触れたい.本調査はコンタクトレンはじめに昨今,アカントアメーバ角膜炎(AK)症例数の増加が叫ばれている.コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症のなかでも最も治療に抵抗するものであり,また重篤な視機能の低下を招く可能性の高いものとして注目すべき疾患である.本稿では,AK の臨床所見,治療方針とともに発症に至るバックグラウンドとしてのコンタクトレンズケアについても言及したい.Iアカントアメーバとは土壌,沼地や池などの淡水,プールの水など自然界に広く生息する自由生活性(free living)のアメーバである.われわれの生活環境においては室内の埃,公園などの砂場,地下水,洗面周りにも存在しうるものである.栄養体(trophozoite)とシスト(cyst)の 2 つの形態をとりうる.シストは耐乾性・耐熱性・耐薬品性をもち,AK が治療に抵抗性である理由の一つと考えられている.栄養体は体長 20 40 μm,シストはやや小さく直径 10 20 μm である.シストは角膜上皮細胞の細胞核とよく似た大きさであり,鑑別に留意すべきである.臨床検体を NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので培養を行うと,偽足を出しながら移動する栄養体を観察することができる(図 1).アカントアメーバが角膜炎をひき起こすことについては 1974 年に Naginton ら1)によって,またわが国では1988 年石橋ら2)によってはじめて報告されている比較(41)ツꀀ 1199ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 790 0826ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1199 1203,2009コンタクトレンズ関連角膜感染症 ─アカントアメーバ角膜炎─Contact Lens-Related Corneal Infections ─ Acantamoeba Keratitis ─宇野敏彦*図 1アカントアメーバ栄養体NN 寒天培地に大腸菌の死菌を塗布したもので角膜擦過物を培養.大腸菌を貪食しながら図中の左から右へ移動している様子が観察された.———————————————————————- Page 21200あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(42)ているものと考えられる.IIIアカントアメーバの同定角膜上皮を 離除去したものを直接検鏡と分離培養を併用してアメーバの同定を行う.染色法としてパーカーインク KOH 法・グラム染色・ギムザ染色・ファンギフローラ染色などがあげられる.AK 症例の角膜擦過物には比較的健常な角膜上皮細胞が多数存在し,そのなかに“埋もれた”アメーバを発見する必要がある.角膜擦過物のスライドガラス上に厚く塗抹されている場合,グラム染色などではアメーバが染色された角膜上皮にまぎれてしまう恐れがある.特にアメーバシストと上皮細胞核はサイズが似通っているため鑑別に注意する必要がある.パーカーインク KOH 法は角膜上皮をいわば溶解させてアメーバを観察する方法である5).きわめて有用な方法であるが,本法に適したパーカーインクの入手が困難になっているのは残念である.ファンギフローラ染色は観察に蛍光顕微鏡が必要であるが,角膜上皮内に潜んだアメーバも染色され,アメーバを見つけやすい方法と思われる.最近筆者らはシート状に 離した角膜上皮全層をなるべく損傷しないように凍結ブロックに包埋し,ズ装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療をした症例を対象としたものである.平成 19 年 4 月から 1 年間の中間報告4)では男性 129 例,女性 104 例,合計 233例が集積された.年齢は 9 90 歳(平均 28 歳)であった.角膜擦過物の塗抹検鏡にて 40 例,分離培養では 32例でアカントアメーバが確認されている.これは緑膿菌などのグラム陰性桿菌の検出頻度とほぼ同程度であった.入院加療が必要と判断された重篤な CL 関連角膜感染症では,アカントアメーバが最も頻度の高い原因微生物であるという事実には驚愕させられる.本調査対象のなかで頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)などレンズケアを行った後再装用をする SCLの装用者は 173 例(CL の種類が把握されている 216 例の 80.0%)であった.このほかにカラー CL 装用者が 11例みられていた.CL の洗浄については毎日に加え週 4 6 回行っているものを含めても 107 例であり,レンズケアを必要とされるユーザーの数を大幅に下回っていることが確認できた.さらにこすり洗いなど日常の CL ケアが不足していること,定期検査を受けていないことなど,CL ユーザーの杜撰な実態も浮き彫りになっており,アカントアメーバ角膜炎発症のバックグラウンドになっ図 2ファンギフローラ染色所見a:蛍光所見,b:対比染色所見(矢印はaの矢印に相当する).蛍光所見と対比染色所見を見比べることにより,アメーバの上皮内での形態を明瞭に観察することが可能である.ab———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091201(43)V臨床所見1. 初期特徴的な所見として,角膜上皮および上皮下混濁・放射状角膜神経炎・偽樹枝状角膜炎があげられる.角膜上皮および上皮下混濁は初期の症例のほとんどでみられるものである.中央部角膜の淡い表層性の小浸潤であり,多発していることが多い.ちょうど流行性角結膜炎の後にみられる表在性点状角膜炎と酷似している(図 3).放射状角膜神経炎は AK に最も特徴的なもので10 15 μm の凍結切片作製ののちファンギフローラ染色を行う方法を考案した6).やや煩雑なプロセスではあるが,角膜上皮内でのアメーバの状態を自然な形で明瞭に観察できること,連続切片を作製することにより見落としが少なくなること,上皮内の栄養体の観察も可能なことが利点としてあげられる.ファンギフローラ染色は対比染色としてヘマトキシリン染色が行われる.蛍光顕微鏡での所見と対比染色での染色像を比較することにより異物による偽陽性を避けることができる(図 2).分離培養は大腸菌(あらかじめ熱処理を行った死菌)などを塗布した NN 寒天培地などを使用する.培養開始数日後にアメーバが観察される.最初はアメーバ栄養体が盛んに大腸菌を貪食しながら遊走する様子がみられ,その後培養条件の悪化とともにシスト化したものが観察できる.なお,詳細については成書を参照されたい.IVAKの病態・病期感染性角膜炎ガイドライン7)に AK について詳細な記載がある.本項ではこれに準じて解説を試みたい.AK は本来外傷を契機として発症するものである.しかし現状では AK 症例のほとんどが CL 装用者である.CL およびそのケースは緑膿菌など,環境に存在する細菌に汚染されやすいが,普遍的に存在しうるアカントアメーバも手指などを介して CL ケースに混入すると考えられる.アカントアメーバは細菌を「栄養源」として増殖する.CL ケアが杜撰であると CL 自体に大量のアカントアメーバが付着し感染源となる.CL 装用による機械的刺激などによる角膜上皮障害が起こるとそこからアメーバが侵入し感染が成立する.AK の進行はきわめて緩徐である.感染の成立した中央部角膜から周辺部へと拡大するが輪部まで到達することは基本的にない.角膜深層への進展はさらに時間を要する.AK では経過とともに特徴的臨床所見を呈する.石橋ら8)は“初期-移行期-完成期”,続いて塩田ら9)は“初期-成長期-完成期-消退期-瘢痕期”の病期分類を提唱している.本項では臨床的に接する機会の多いものとして初期と完成期について述べることとする.図 3角膜上皮および上皮下混濁中央部角膜に散在性の上皮 上皮下混濁(浸潤)を認める.本症例は比較的細く明瞭な放射状角膜神経炎もみられる.図 4放射状角膜神経炎11 時方向はやや太い数珠状の神経炎が認められる(5 時方向の周辺部角膜にも存在).———————————————————————- Page 41202あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(44)る11).自験例においても輪状浸潤はインテンシブな治療にもかかわらず輪状膿瘍に移行し,輪部からの強い血管侵入,隅角閉塞をきたすものが認められた.移行期(成長期)で取り上げられている“リング状浸潤(輪状潰瘍)”は短期間で円板状となるとされている12)が,完成期における輪状浸潤(膿瘍)との鑑別は今後の課題と思われる.VI治療方針AK の診断が得られれば病期にかかわらず最大限の治療を行っていく必要がある.アカントアメーバに対して即効性のある薬剤はないと考え,物理的な病巣除去も躊躇なく行っていく必要がある.点眼加療の中心はクロルヘキシジンなどの消毒薬である.ヒビテンRなどの商品名で術野の消毒などで汎用され多種類存在するが,そのなかでも 0.02%(あるいは0.05%)で結膜 の洗浄の適応をもったものが使用可能である.このほか PHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)も使用可能である.これはコンタクトレンズ消毒目的で多目的用剤(MPS)にも低濃度ながら含まれているものである.0.02%程度に調整して使用する.アゾール系の薬剤も自家調整のうえ,眼局所に対して使用する.教科書的にはフルコナゾール(原液をそのまま使用)・ミコナゾール(生理食塩水などで 10 倍希釈しある.輪部から角膜中央部まで連続的につながるものもあるが,多くは輪部に長さ 2 3 mm 程度,線状あるいは数珠状の浸潤である(図 4).周辺部ということもあり,意識的に探さないと見落としがちな所見でもある.偽樹枝状角膜炎は点眼薬毒性による上皮障害でみられるものとよく似ている(図 5).アカントアメーバから放出される物質が角膜上皮細胞に障害を与えるという報 告10)があるが,アポトーシスその他の機序で角膜上皮の脱落が亢進し,中央部に向かう“上皮の流れ”とともに偽樹枝状角膜炎としての所見が現れる.帯状ヘルペスによる偽樹枝状角膜炎とは起こっている機序がまったく異なっていることに留意すべきである.2. 完成期輪状浸潤と円板状浸潤がある.両者とも角膜中央を中心とした横長楕円の形態をとり,実質内に浸潤と浮腫を伴っている(図 6).浸潤直上の上皮は部分的あるいは全面的に欠損していることが多い.完成期の実質浸潤をよく観察すると小さな顆粒状の浸潤が多数集合したようにみえる.角膜ヘルペスでも円板状角膜炎という類似した所見があるが,ここでは角膜実質内の浸潤は均一であり,鑑別の重要なポイントであろう.完成期における輪状浸潤は予後不良と考えられてい 図 5偽樹枝状角膜炎点状表層角膜症とともに中央部角膜を横に走る偽樹枝状角膜炎を認める.本症例のように,点眼薬毒性による上皮障害と鑑別が困難なものも存在する.図 6円板状浸潤中央部角膜に浮腫と浸潤を認める.顆粒状の小浸潤が多数集合しているようにみえる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091203(45)いとされているが,無血管の角膜への移行性には不明な点が多い.完成期で角膜実質から前房に炎症の主座がある場合,角膜内への血管侵入があるなど,症例に応じて全身投与を考慮していくべきであろう.文献 1) Nagintonツꀀ J,ツꀀ Watsonツꀀ PG,ツꀀ Playfairツꀀ TJツꀀ etツꀀ al:Amoebicツꀀ infec-tion of the eye. Lancet 2:1537-1540, 1974 2) 石橋康久,松本雄二郎,渡辺亮ほか:Acanthamoeba keratitis の 1 例.日眼会誌 92:963-972, 1988 3) Thebpatiphat N, Hammersmith KM, Rocha FN et al:Acanthamoeba keratitis:a parasite on the rize. Cornea 26:701-706, 2007 4) 福田昌彦,コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 5) 石橋康久:パーカーインク染色.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:230-231, 2009 6) 白石敦:凍結切片法.眼感染症の謎を解く.眼科プラクティス 28:232, 2009 7) 井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 111:769-809, 2007 8) 石橋康久,木村幸子:アカントアメーバ角膜炎の臨床所見─初期から完成期まで─.日本の眼科 62:893-896, 1991 9) 塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼 48:1149-1154, 1994 10) Hurtツꀀ M,ツꀀ Neelamツꀀ S,ツꀀ Niederkornツꀀ Jツꀀ etツꀀ al:Pathogenicツꀀ Acan-thamoeba spp secrete a mannose-induced cytolytic pro-tein that correlates with the ability to cause disease. Infect Immun 71:6243-6255, 2003 11) Porツꀀ YM,ツꀀ Mehtaツꀀ JS,ツꀀ Chuaツꀀ JLツꀀ etツꀀ al:Acanthamoebaツꀀ kerati-tisツꀀ associatedツꀀ withツꀀ contactツꀀ lensツꀀ wearツꀀ inツꀀ Singapore.ツꀀ Amツꀀ J Ophthalmol 148:7-12.e2, 2009 12) 太刀川貴子,石橋康久,高沢朗子ほか:初期から完成期に至るまで経過観察できたアカントアメーバ角膜炎の 1 例.眼紀 46:1035-1040, 1995て用いる)が取り上げられてきたが,フルコナゾールがホスフルコナゾールに切り替えとなったり,ミコナゾールの採用中止など,個々の医療施設の事情もあり,現在ではボリコナゾールが主体となっている.ボリコナゾールは 1%で調整して眼局所に使用するという報告があり汎用されているが,眼刺激感は強く濃度について再検討が必要と思われる.このほか市販されている抗真菌薬であるピマリシンも有効と考えられている.点眼製剤は眼瞼炎などの副作用が強いので眼軟膏製剤を 1 日 5 回を目安に使用するとよい.なお,当然のことながら AK に対して公的に承認された治療薬およびその投与方法は存在しない.各施設の倫理委員会の承認を受ける,インフォームド・コンセントを取るなど適切な対応が必要である.AK において特に初期は角膜上皮内にアメーバが存在しており,角膜上皮 離はきわめて有効な治療法である.アメーバの存在する病的な上皮は基底膜との接着は緩く,簡単に がれることが多い.上皮 離の範囲は病的な上皮を含めて十分広くとったほうが望ましい. 離後の上皮の修復は比較的速やかである.上皮欠損が修復すると上皮内の浸潤が再び増加してくる.これは再度の擦過を行うサインとなる.重症症例では角膜実質への薬剤移行性を高める目的もあり週 2 回程度上皮 離を行う必要がある.一方,比較的軽症のものでは診断目的を含めた 1 回の上皮 離で治癒させることも不可能ではなく,柔軟な対応が必要と思われる.抗真菌薬の全身投与は議論のあるところである.イトラコナゾール,ミコナゾールは元来眼部への移行性が低い.ボリコナゾールは眼部(網膜など)への移行性が良