———————————————————————- Page 1(107)ツꀀ 12650910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1265 1268,2009cはじめに近年の緑内障治療は症例ごとに目標眼圧を設定して治療することが推奨されている1).正常眼圧緑内障では眼圧下降率30%以上1,2)などを目標とするが,緑内障治療薬単独治療での達成は容易ではない3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降効果が不十分な場合,多剤併用治療ではなく,まず変更治療を行うべきことが記されている1).〔別刷請求先〕中元兼二:〒164-8541 東京都中野区中野 4-22-1東京警察病院眼科Reprint requests:Kenji Nakamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Tokyo Metropolitan Police Hospital, 4-22-1 Nakano, Nakano-ku, Tokyo 164-8541, JAPANラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの変更治療薬および併用治療薬としての有用性中元兼二安田典子東京警察病院眼科Usefulness of Brinzolamide Following Switch to Brinzolamide Monotherapy and Concomitant Use of Latanoprost and Brinzolamide in Normal-Tension Glaucomaツꀀ Patients Poorly Responsive to LatanoprostKenji Nakamoto and Noriko YasudaDepartment of Ophthalmology, Tokyo Metropolitan Police Hospitalラタノプロスト(LP)単独治療 8 週後の眼圧下降率が両眼ともに 10%未満の正常眼圧緑内障(NTG)7 例 14 眼において,同一症例で視野障害の強いほうの眼は LP とブリンゾラミド(BZ)の併用治療(併用治療眼),他眼は BZ 単独治療へ変更(変更治療眼)し,BZ の有用性を検討した.眼圧は,変更治療眼において BZ 単独治療変更後有意な変化はなかったが,併用治療眼においては BZ 併用後有意に下降した(p<0.01).眼圧が LP 単独治療時より下降した症例は,変更治療眼では 3 眼(43%),併用治療眼では 7 眼(100%)であった.無治療時に対する眼圧下降率は,変更治療眼 0.9±18.1%,併用治療眼 17.6±6.9%で,併用治療眼のほうが有意に大きかった(p<0.05).LP の眼圧下降効果が不十分な NTG において,BZ は LP との併用により確実な眼圧下降効果を示すが,一部の症例では,変更治療薬としても有用な薬剤である可能性がある.We investigated the usefulness of brinzolamide following the switch to brinzolamide monotherapy and concom-itant use of latanoprost and brinzolamide in 7 normal-tension glaucoma(NTG)patients poorly responsive to latano-prost. Patients were treated for 8 weeks by instillation of latanoprost to both eyes. The eye with the more serious visualツꀀ eld disorder then received latanoprost and brinzolamide concomitantly(Concomitant Therapy Eye). In the fellow eye, latanoprost was discontinued and treatment was changed to brinzolamide monotherapy(Switched Therapyツꀀ Eye).ツꀀ Switchedツꀀ Therapyツꀀ Eyesツꀀ showedツꀀ noツꀀ signi cantツꀀ reductionツꀀ inツꀀ intraocularツꀀ pressure(IOP)afterツꀀ the switchツꀀ toツꀀ brinzolamideツꀀ monotherapy.ツꀀ Concomitantツꀀ Therapyツꀀ Eyes,ツꀀ however,ツꀀ showedツꀀ signi cantツꀀ reductionツꀀ inツꀀ IOP afterツꀀ concomitantツꀀ useツꀀ ofツꀀ brinzolamide,ツꀀ asツꀀ comparedツꀀ toツꀀ latanoprostツꀀ monotherapy.ツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ reducedツꀀ inツꀀ 3ツꀀ Switched Therapy Eyes(43%)after the switch to brinzolamide monotherapy. The percent reductions in IOP were signi cantly greater in Concomitant Therapy Eyes than in Switched Therapy Eyes.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1265 1268, 2009〕Key words:ラタノプロスト,ブリンゾラミド,ノンレスポンダー,正常眼圧緑内障,変更治療,併用治療.latanoprost, brinzolamide, non-responder, normal-tension glaucoma, switching therapy, concomitant therapy.———————————————————————- Page 21266あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(108)そこで今回,ラタノプロスト単独治療で十分な眼圧下降効果が得られなかった正常眼圧緑内障において,ラタノプロストからブリンゾラミドへの変更治療およびラタノプロストとブリンゾラミドの併用治療の眼圧下降効果について調べ,ブリンゾラミドの変更治療および併用治療における有用性について比較検討した.I対象および方法対象は正常眼圧緑内障 7 例 14 眼である.年齢は 61±7.8歳,男性 4 例,女性 3 例である.選択基準は,日を変えた 2回の未治療時の左右眼圧に差がないもので,かつ,0.005%ラタノプロスト単独治療 8 週後の眼圧下降率が両眼ともに10%未満のものである.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往があるもの,内眼手術の既往のあるもの,眼圧が正確に測定できないもの,担当医が不適切と判断したものである.正常眼圧緑内障(NTG)の診断基準は,眼圧日内変動を含めた無治療時の眼圧がいずれも 21 mmHg 以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化と対応する緑内障性視野変化があること,視神経乳頭の緑内障様変化をきたしうる他の疾患がないこととした.方法は,未治療時の眼圧を,日を変えて 2 回測定し,0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)を両眼に 8 週点眼後再度眼圧を測定した.その後,休薬期間なく片眼をラタノプロストから 1%ブリンゾラミド(エイゾプトR)単独治療へ変更(変更治療眼)し,また,他眼をラタノプロストとブリンゾラミド併用治療(併用治療眼)とし,さらに 8 週治療後,眼圧を測定した.本試験開始前に眼圧下降薬を使用していたものは 4 週以上休薬後,無治療時眼圧を測定した.すべての眼圧は Goldmann 圧平眼圧計で午前 10(±1)時に同一医師が測定した.併用治療眼には,視野障害がより高度なほうの眼を割り付けた.視野障害の指標には,本試験開始日前後 6 カ月以内の Humphrey 静的自動視野計中心プログラム 30-2 のmeanツꀀ deviation(MD)を用いた.ラタノプロストは 1 日 1回 2 2(±1)時,ブリンゾラミドは 1 日 2 回 8(±1 )時 と 2 0(±1)時に点眼させた.両薬剤ともに,一滴点眼後 5 分以上涙 圧迫および眼瞼を閉瞼させた.本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭で十分に説明し同意を得た.変更治療眼では,ラタノプロスト単独治療時とブリンゾラミド単独治療変更後の眼圧を比較した.併用治療眼では,ラタノプロスト単独治療時とブリンゾラミド併用治療後の眼圧を比較した.また,無治療時に対する眼圧下降率を算出し,両治療眼を比較した.統計解析には Wilcoxonツꀀ signed-ranksツꀀ test を用い,有意水準 p<0.05(両側検定)で検定した.II結果全症例の無治療時眼圧は 16.4±2.6 mmHg であった.変更治療眼において,眼圧はラタノプロスト単独治療時 15.3±2.0 mmHg,ブリンゾラミド単独治療変更後 16.0±2.2 mmHgで,両者に有意な差はなかった(図 1).併用治療眼におい01214161820(n=7)Mean±SEブリンゾラミド変更治療無治療時ラタノプロスト単独治療眼圧(mmHg)図 1変更治療眼における眼圧の推移眼圧はラタノプロスト単独治療時 15.3±2.0 mmHg,ブリンゾラミド単独治療変更後 16.0±2.2 mmHg で,両者に有意な差はなかった.眼圧(mmHg)01214161820**ブリンゾラミド併用治療無治療時ラタノプロスト単独治療**:p<0.01(n=7)Mean±SE図 2併用治療眼における眼圧の推移眼圧は,ラタノプロスト単独治療時 15.4±1.8 mmHg,ブリンゾラミド併用治療後 13.4±1.7 mmHg で,ブリンゾラミドの併用によりラタノプロスト単独治療時より有意に下降した(p<0.01).:併用治療眼:変更治療眼眼圧下降率(%)症例1234567-20-1001020図 3ラタノプロスト単独治療時に対する眼圧下降率(全症例)ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した症例は,変更治療眼では, 3 眼(43%),併用治療眼では全眼(100%)であった.また,個々の症例の左右眼を比較すると,7 例中 6 例において,併用治療眼の眼圧下降率が変更治療眼より大きかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091267(109)て,眼圧は,ラタノプロスト単独治療時 15.4±1.8 mmHg,ブリンゾラミド併用治療後 13.4±1.7 mmHg で,ブリンゾラミドの併用によりラタノプロスト単独治療時より有意に下降した(p<0.01)(図 2).ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した症例は,変更治療眼では,7 例中 3 眼(43%)であった.一方,併用治療眼では全眼ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した.また,個々の症例の左右眼を比較すると,7 例中 6 例において,併用治療眼の眼圧下降率が変更治療眼より大きかった(図 3).無治療時に対する眼圧下降率は,ブリンゾラミド変更治療後 0.9±18.1% , ブリンゾラミド併用治療後 17.6±6.9%で,併用治療後のほうが変更治療後より有意に大きかった(p<0.05)(図 4).無治療時に対する眼圧下降率が 10%以上であった症例は,変更治療眼では3 眼(43%),併用治療眼では 6 眼(86%)であった(図 5).III考按正常眼圧緑内障においても,眼圧下降が唯一エビデンスのある治療である.ラタノプロストは,強力な眼圧下降効果を示すことから,正常眼圧緑内障に対しても第一選択薬とされることが多い薬剤である4)が,ラタノプロストでも正常眼圧緑内障への単独治療では眼圧下降率が 10%に至らないものが約 3 割ある3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降効果が不十分な場合,薬剤の追加ではなく,まず変更治療を行うべきことが記されている1)が,ラタノプロスト単独治療で十分な眼圧下降効果が得られなかった正常眼圧緑内障においてラタノプロストからブリンゾラミドへの変更治療の有効性を検討した報告はない.そこで,今回,ラタノプロスト単独治療の眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障患者の片眼をブリンゾラミド単独治療へ変更し,他眼をラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療として,ブリンゾラミドの変更治療および併用治療における有効性を調べた.その結果,全対象で解析すると,変更治療眼では,ラタノプロスト単独治療からブリンゾラミド単独治療へ変更後も,眼圧の有意な変化はなかった.一方,併用治療眼ではブリンゾラミドの併用後,眼圧はラタノプロスト単独治療時より平均 2.0 mmHg 有意に下降した.個々の症例別に検討すると,ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降したものは,変更治療眼では 3 眼(43%)であり,併用治療眼では 7 眼(100%)であった.また,ラタノプロスト単独治療時からの眼圧下降率は,症例 4 を除いたすべての症例で併用治療眼が変更治療眼より大きかった.このことから,併用治療は,変更治療より確実な眼圧下降効果が期待できることは間違いないが,半数近くの症例では,ブリンゾラミド単独治療への変更のみで 10%以上の眼圧下降率を得られることがわかった.今回の対象のうち 4 例は,変更治療ではラタノプロスト単独治療時より眼圧が上昇しているにもかかわらず,併用治療ではラタノプロスト単独治療時より明らかに眼圧は下降していた.この原因には,無治療時眼圧の評価が不十分であった可能性や季節変動による影響,あるいはラタノプロストの眼圧下降効果を判定した 8 週間という治療期間が適切でなかった可能性5)などが考えられる.正常眼圧緑内障におけるラタノプロストとブリンゾラミドの併用効果を検討した報告によると,ブリンゾラミド追加 3 カ月後の眼圧下降率の平均値は11%6),13%7)であった.本試験の眼圧下降率は 15%であったことから,確かに過去の報告より大きい値であり,ラタノプロストの眼圧下降効果判定期間が 8 週間では不十分であった可能性は否定できない.(n=7)眼圧下降率併用治療眼変更治療眼0123401234-20-1002030(%)10-20-1002030(眼)(%)10図 5無治療時に対する眼圧下降率分布無治療時に対する眼圧下降率が 10%以上であった症例は,変更治療眼では 3 眼(43%),併用治療眼では 6 眼(86%)であった.*:p<0.05(n=7)Mean±SE眼圧下降率(%)0510152025*併用治療眼変更治療眼図 4無治療時に対する眼圧下降率比較無治療時に対する眼圧下降率は,ブリンゾラミド変更治療後0.9±18.1% , ブリンゾラミド併用治療後 17.6±6.9%で,併用治療後のほうが変更治療後より有意に大きかった(p<0.05)(図 4).———————————————————————- Page 41268あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(110)多剤併用治療は,副作用の増強,アドヒアランス低下を招きやすいため,可能な限り単独治療への変更を試みなくてはならない.ブリンゾラミドは正常眼圧緑内障においてラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な場合,ラタノプロストの併用治療薬としてだけでなく,一部の症例では,変更治療薬としても有用な薬剤である可能性がある.文献 1) 日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第 2 版.日眼会誌 110:777-814, 2006 2) Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group:Comparison of glaucomatous progression between untreated patients with normal-tension glaucoma and patients with therapeutically reduced intraocular pres-sures. Am J Ophthalmol 126:487-497, 1998 3) 中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌 108:401-407, 2004 4) 中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査薬物治療.あたらしい眼科 25:1581-1585, 2008 5) Camras CB, Hedman K:Rate of response to latanoprost orツꀀ timololツꀀ inツꀀ patientsツꀀ withツꀀ ocularツꀀ hypertensionツꀀ orツꀀ glauco-ma. J Glaucoma 12:466-469, 2003 6) 江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミドの併用効果.あたらしい眼科 24:1085-1089, 2007 7) 井上賢治,小尾明子,若倉雅登ほか:ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法.あたらしい眼科 25:1573-1576, 2008***