———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY線)と光軸から離れた所を通る光線(周辺光線)とでは光軸上に集光する位置が異なる(図1).これにより生じるのがSeidelの5収差の一つである球面収差である.角膜は正の球面収差をもつのに対して,若年者の水晶体は負の球面収差を有し,このことにより眼球全体の球面収差を低下させている.加齢により水晶体の球面収差が正になっていくことにより,眼球全体の正の球面収差は増大する.球面構造のIOLは,高齢者の水晶体と同様に正の球面収差をもつため,白内障手術後も眼球全体の球面収差は軽減できなかった.この球面収差を軽減させるために各屈折面の傾斜を変化させて,周辺光線と近軸光線とが同一点に集光するように開発されたIOLが非球面IOLである(図2).元々この手法は天体望遠鏡や写真レンズの分野では古くから用いられてきたが,近年はじめに近年の白内障手術は目覚しい進歩を遂げており,超音波白内障手術とfoldable眼内レンズ(IOL)による小切開白内障手術によってほぼ完成された術式となっている.その結果,現在の白内障手術は白内障を治療する開眼手術から,より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術へとその意味合いが変化してきている.IOLの分野においては,従来から用いられてきた球面構造の単焦点紫外線吸収IOLに代わり,さまざまな付加価値を追加したIOLが開発され臨床利用されている.本稿では,これらのIOLのここ数年の進歩について概説する.I非球面眼内レンズ球面構造のIOLでは,光軸近くを通る光線(近軸光(19)1025眼105846131918眼特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10251029,2009眼内レンズの進化IntraocularLensProgress柴琢也*光軸光図1球面IOLによる球面収差(模式図)周辺光線近軸光線入高図2非球面IOLによる球面収差(模式図)———————————————————————-Page21026あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(20)III多焦点眼内レンズ単焦点IOLは調節力が欠如しており,これを解決するために多焦点IOLが以前より使用されてきた.わが国では屈折型多焦点IOLであるArrayRSA40N(AMO社)が2002年より使用可能であるが,コントラスト感度の低下やグレア・ハロといった術後視機能の低下が問題視され4)あまり普及しなかった.しかしここ数年欧米を中心として,新世代の多焦点IOLが開発され良好な臨床成績が報告されている5).これら新しい多焦点IOLは屈折型と回折型の2つの型に大別され,これまでの多焦点IOLに比べてコントラスト感度が向上し,グレア・ハロが軽減し,術後視機能が格段に向上しているといわれている.またそれぞれ利点および問題点があり,片眼ずつそれぞれの多焦点IOLを挿入してそれらを分散させようという試みも行われている(MixingandMatch-ing法).多焦点IOLは遠方の裸眼視力が良好でないとその性能を発揮することができない.そのため術後の屈折度数ずれや,残余角膜乱視があると,良好な術後視機能を獲得することが困難になる.この問題点に対して近年発達している屈折矯正手術を白内障手術後に行い対処する方法も行われている(touchup法).これら新しい多焦点IOLは2007年に屈折型のNXG1ReZoomR(AMO社),2008年にアポダイズ回折型のSA60D3IOLにこのデザインが用いられるようになってきた.ここ数年新たに発売されているIOLは,ほとんどが非球面構造を有している(図3).球面収差を軽減することによりコントラスト感度が高い良好な視機能が得られるとされているが,メーカーにより球面収差の補正量が異なりその評価が行われている1).II着色眼内レンズ従来から用いられている紫外線吸収IOLはヒト水晶体に比べて,可視光線の全領域で透過度が高く,特に短波長光を多く透過している.ヒト水晶体は,加齢に伴い特に短波長光の透過性が低下する.このため,術後に明るさ感覚や色の感覚が異なることが報告されている2).着色IOLはこのことに対処するため,ヒト水晶体に近い分光透過率を取り入れることを目的にわが国を中心に開発された.さらに,短波長光は網膜光障害の原因になることが指摘されている3)が,着色IOLはこの領域の光の透過率を低下させているために,網膜光障害の発生を抑制する効果も期待されている.従来はPMMA(ポリメチルメタクリレート)製の着色IOLのみしかなかったため,白内障手術が小切開化するに伴って使用される機会が減っていった.しかし,数年前よりfoldableIOLの製品が開発され,世界的に多く用いられるようになっている.着色の度合いは各メーカーにより異なっているが,いずれもヒト水晶体よりは分光透過率が高い(図4).非着色IOL206080ヒト水晶体AN6(OWA)SN60WF(Alcon)YA-65BB(HOYA)着色IOL相対透過率(%)波長(nm)020406080100350400450500550600650700図4ヒト水晶体と着色・非着色IOLの分光透過率各IOLは異なる分光透過率を有するが,いずれもヒト水晶体よりも高い.図3非球面IOL各IOLは異なる負の球面収差を有する〔0.27μm(ZA9003),0.18μm(SN60WF),0.17μm(FY60AD)〕.ZA9003(AMO)SN60WF(Alcon)FY60AD(HOYA)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091027(21)V極小切開対応眼内レンズ数年前より,切開幅3.0mm前後の小切開白内障手術よりも,さらに小さな2mm前後の切開創から白内障手術を行う,極小切開白内障手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)が行われている7).最初は灌流スリーブを外した超音波チップと灌流カニューラを用いて水晶体摘出を行うbimanualmicrophacoのみが行われていたが,その後になりフレアチップに細いスリーブを装着して水晶体摘出を行うco-axialmicrophacoが登場して選択の幅が広がった6).MICSの開発当初は,水晶体摘出は2.0mm前後の切開創から行うことはできても,ReSTORR(Alcon社),同IOLに非球面構造および着色を付加したSN6AD3ReSTORRAspheric(Alcon社),非球面構造を有する回折型のZM900TecnisTMMultifo-cal(AMO社),2009年に同IOLをアクリル素材にしたZMA00TecnisTMMultifocalAcrylic(AMO社)が相次いでわが国でも発売された(図5).これらIOLは価格面より,現在の日本の保険診療内では使用することができないため,自費診療にて用いられている.IV大光学径眼内レンズ数年前より7.0mmの光学径を有するfoldableIOLが発売されている(図6).このIOLは,大きな光学径を有することにより,眼底検査時により周辺部までの観察を行いやすくなっている.そのため硝子体手術と白内障手術の同時手術時や,眼底疾患を有する症例の術後診察に有用であると考えられている.また,CCC(continu-ouscurvilinearcapsulorrhexis)が予定よりも大きくなってしまったときや,後破損時にIOLを外固定するときなどの術中合併症に対しても適しており,いわゆるレスキューレンズとして重要である.さらに,インジェクターの改良により,光学径が大きくても挿入は2.4mmから3.2mm程度と現在の小切開白内障手術に対応しているため,合併症時以外の通常手術時にも広く用いられている.NXG1(AMO)SA60D3(Alcon)SN6AD3(Alcon)ZM900(AMO)ZMA00(AMO)図5多焦点IOLX-70(参天製薬)VA-70AD(HOYA)図6大光学径IOL両IOLとも光学径7.0mmであり,X-70は球面構造,VA-70ADは非球面構造を有する.———————————————————————-Page41028あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(22)装方法を間違えて術中合併症の原因になってしまうこともある.そういったことに対処すべく開発されたのが,すでにインジェクターにIOLが装されているプリセットIOLである(図8).そのメリットとして,装時の手間が省ける以外に,IOLに触れることなく挿入までを完了することが可能なため,より感染予防に対しては有用であると考えられている8).VII乱視矯正IOL2006年にAcrySofRToric(Alcon社)がFDA(米国食品医薬品局)の許認可を得て,欧米で発売された(図9).このIOLは,シングルピースfoldableIOLであるSN60AT(Alcon社)に柱面度数を追加した構造になっている.そのラインナップは柱面度数よりSN60T3(矯正度数1.50D,角膜面上で1.03D),SN60T4(同2.25D,1.55D),SN60T5(同3.00D,2.06D)の3種類からなる.2009年に入りこれらを非球面構造にしたSN6AT3,SN6AT4,SN6AT5が加わり,わが国ではこのモデルから導入される.使用する際に術者は,web上よりSur-gicallyInducedAstigmatismCalculatorというファイルをダウンロードして,シングルピースのAcrySofRを用いた際の臨床データを入力して,自身の惹起角膜乱視を算出する.つぎに専用のwebsiteのアプリケーションに角膜屈折力,AcrySofRを用いる際のIOL度数,そして先ほど求めた自分の惹起乱視量を入力する.そうすると適切なIOLおよびそれを固定する軸角度が算出される仕組みになっている(図10).IOL挿入時に最低でも3.0mm弱まで切開創を拡大する必要があり,このことが本術式が一般的に行われるための最大の障害となっていた.しかし現在では,極小切開創から安全に挿入可能なIOLがわが国でも用いることができるようになった(図7).いずれのIOLもインジェクターを用いて,2.0mm以下の創口から安全に挿入可能である.VIプリセットIOLFoldableIOLの挿入方法は,鑷子を用いる方法と,インジェクターを用いる方法があり,インジェクターを用いたほうが,必要な切開幅が小さく,IOL挿入時に眼内に細菌を持ち込むリスクを軽減できる.最近のfold-ableIOLの特徴として,インジェクター挿入に対応しているものが多いことがあげられる.しかし,インジェクターへのIOLの装に手間が掛かったり,ときにはPY-60AD(HOYA)図8プリセットIOLインジェクターにあらかじめIOLが装されている(図中矢印).図9乱視矯正IOL乱視軸が光学部にマーキングされている.NY-60(HOYA)SN60WF(Alcon)図7極小切開対応IOL両IOLともインジェクターを用いることにより,2.0mm以下の切開創から挿入可能である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091029(23)おわりにより質の高い白内障術後視機能を獲得するために,現在はさまざまな付加価値を追加したIOLが使用されている.さらに,これらの付加価値をいくつか組み合わせたIOLが主流となっている.IOLの選択は症例に最も適した付加価値を考慮して行う必要があり,術者はそれらについて十分に理解して選択・使用することが求められている.文献1)BellucciR,ScialdoneA,BurattoLetal:VisualacuityandcontrastsensitivitycomparisonbetweenTecnisandAcry-SofSA60ATintraocularlenses:Amulticenterrandom-izedstudy.JCataractRefractSurg29:652-660,20052)三戸岡克哉:眼内レンズの色感覚.Vision11:75-79,19993)ErnestPH:Light-transmission-spectrumcomparisonoffoldableintraocularlenses.JCataractRefractSurg30:1755-1758,20044)PiehS,WeghauptH,SkorpikC:Contrastsensitivityandglaredisabilitywithdiractiveandrefractivemultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg24:659-662,19985)PeposeJS,QaziMA,DaviesJetal:VisualperformanceofpatientswithbilateralvscombinationCrystalens,ReZoom,andReSTORintraocularlensimplants.AmJOphthalmol145:593-594,20076)AlioJ,Rodriguez-PratsJL,GalalAetal:Outcomesofmicroincisioncataractsurgeryversuscoaxialphacoemulsi-cation.Ophthalmology112:1997-2003,20057)TsuneokaH,ShibaT,TakahashiY:Feasibilityofultra-soundcataractsurgerywitha1.4mmincision.JCataractRefractSurg27:934-940,20018)小松真理:新しいフォーダブルIOLの臨床評価インジェクター.IOL&RS17:259-262,2003図10乱視矯正IOLの軸角度計算画面インターネット上のソフトウェアを用いて,乱視矯正IOLを固定する乱視軸を求める.