———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYとなっている.このことから2.8mm以上の切開創から2001年に若干小切開化が進み,バイマニュアルによる白内障手術が出現1,2)し,2005年前後から極小切開からのコアクシアルの超音波白内障手術3)が行われるようになってきていることがわかる.最近ではマニー株式会社のように1.03.5mmまでほぼ0.1mm刻みのサイズでスリットナイフを生産している会社もある.また,スリットナイフだけでなく,クレセントナイフやサイドポート作製のためのMVR(microvitreoretinal)まで,切れ味や剛性の向上のため各社ともナイフの形状や製法を改良している4,5)ほか,刃先のコーティングなども改良しているが,詳細は明らかにされていないことも多い.2005年からは使用時以外は刃先をハンドル内に収納でき,安全性を向上した製品(セーフティーナイフ,図2)なども日本ベクトン・ディッキンソン株式会社やカイインダストリーズ株式会社,フェザー株式会社などから販売されている.II前鑷子前鑷子(図3)も進歩し改変が続いている白内障手術器具の一つである.1995年頃Duckworth&Kent社より稲村式カプシュロレクシス鑷子6)が発売され,白内障手術の小切開化に伴い改良されバージョンアップしながら現在でもたくさんの眼科医に使用されている.その後サイドポートから容易に挿入可能な23ゲージの池田式マイクロカプセル鑷子7)がEyeTechnology社より河はじめに白内障手術の技術の進化は著しく,小切開白内障手術から最近では極小切開白内障手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)に移り変わってきている.白内障を行うにはもちろんフェイコマシンは必須だが,その他にさまざまな補助器具を使用する.補助として使用する手術器具にはさまざまなものがあり,歴代の眼科医がいろいろなアイディアを絞って生まれてきたもので,現在でも頻用されているものがたくさんある.今回は手術器具の進歩についていくつかの企業にも協力していただき,調査を試みた.たくさんのものがあるため,正直なところすべてを調べきれている自信はないが,できるだけこれまでの歴史を振り返ってみよう.(発売年度に若干のずれがある可能性があるが,ご勘弁願いたい.)Iマイクロサージェリーナイフ(スリットナイフ,他)手術器具の進歩と言えばスリットナイフの進歩は著しい(図1).白内障手術の切開創が小さくなるたびに小さい創口を作製するナイフが生産されてきた.スリットナイフの発売時期を調べるといつ頃から白内障手術の小切開化が進んだかよくわかる.たとえば,AMO社が発売しているスリットナイフを調べると1999年発売当初より2.83.2mmのナイフが作られていたが,2001年6月に2.65mm,2005年10月に1.4mm,1.6mm,2006年6月に2.2mm,2.4mmのスリットナイフが販売開始(25)1031iii3210293880特集●白内障手術の進化―ここ10年余りの変遷あたらしい眼科26(8):10311038,2009白内障手術補助器具の変遷と進化HistoryandEvolutionofSurgicalToolsforAssistingCataractSurgery松島博之*———————————————————————-Page21032あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(26)FGABCDE正面拡大像側面図1各社スリットナイフの形状比較AEが2.8mm,FとGが1.4mmスリットナイフの先端形状を示す.同じスリットナイフでも各社で異なった製法をしており,先端形状は大きく異なる.A:SU28AG(AMO社),B:ClearCutHP(Alcon社),C:MSL28(マニー社),D:72-2831(Sharpoint社),E:CLEARCORNEA(ベクトン・ディッキンソン社),F:SU14(AMO社),G:P-7614(フェザー社).図2セーフティーナイフ必要時以外はカバーをすることで安全にメスを取り扱える.必要時は右図のように先端をカバーから出して使用する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091033(27)ルの原案が生まれ,改良を重ねて“分割君”(新川橋フック,イナミ)が発売11)された.現在も最も売れている核分割スパーテルの一つであり,Divide&Concur法に有効な補助器具となっている(図6).1993年には永原・三好式フェイコチョッパー(Geuder社)が生まれフェイコチョップ法には現在も主流の分割器具として使用されている12).その他にも図5に示すようにさまざまな核分割スパーテルが考案され,変遷を遂げている13).最近では核分割後の水晶体片の角膜内皮細胞への衝突を防ぐために開発された福山・吉富式核分割コブラシャフトスパーテル14)(イナミ社)もそのユニークな形から印象深い.バイマニュアル白内障手術のためには灌流がついたイリゲーションチョッパーが開発された.核分割はあらかじめ核を分割し,1手法での効率的な超音波乳化吸引を可能にした赤星式フェイコプレチョッパー15)(図7,Duckworth&Kent社)も有名である.プレチョッパーは1996年頃から発売されているが先端形状も改良が加わり,先端面積を増加することにより,軟らかい核でも分割を可能にしている.その他,先端が長方形形状で平らな核分割鑷子は核分割が苦手な初心者が溝掘り後に核分割を行うのに有効(図8)である.IV瞳孔拡張小瞳孔はしばしば遭遇する術中合併症で,対応法に苦慮する.条件を改善するためには瞳孔拡張をしなければ合式CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)鑷子8)がASICO社,イナミ社より発売され,使用頻度が増加傾向にある.これらのマイクロカプセル鑷子は,前切開が流れたときのリカバリーや後CCCなどに有効であり,MICSによる白内障手術の質の向上に伴い必要な手術器具の一つとなってきている.前鑷子と関連して前染色も白内障手術進化に貢献した技法の一つである.インドシアニングリーン9)とトリパンブルー10)の2種類の色素を使用する方法があり,過熟白内障など進行した白内障の前切開(図4)に有効である.III核分割器具超音波白内障手術は2手法になり格段と手術効率が良くなった.図5に各種分割スパーテルを示す.1990年に総合新川橋病院の德田,吉富によって核分割スパーテ稲村式カプシュロレクシス鑷子河合式CCC鑷子図3前鑷子2種類の前鑷子の先端形状を示す.図4トリパンブルーによる前染色トリパンブルーで前染色をすることで視認性が悪い状態でも前切開ができるようになった.———————————————————————-Page41034あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(28)図6術式と分割スパーテルの使い分け白内障術式の相違で分割スパーテルを使い分けることが大切である.例をあげると溝掘り後の分割には分割君(新川橋フック)のような先端面積が大きいもののほうが分割しやすい.フェイコチョップ法では先端が細く長いスパーテルが使用しやすい.左図は先端が分割君形状をした核分割コブラシャフトスパーテルによる核分割,右図は永原・三好式核分割スパーテルによるフェイコチョップを示す.図5各種核分割スパーテルさまざまな形状の核分割スパーテルが開発されている.術式に合わせて先端形状が工夫されている.左側および中央の4つのスパーテルはDivide&Concur法で溝掘り後の核分割に有効である.右側の2つのスパーテルはフェイコチョップ法に有効である.分割君(新川橋フック)分割スパーテル永原・三好式フェイコチョッパーMフック核分割用フック中京式スパーテル福山・吉富式核分割コブラシャフトスパーテル———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091035(29)ションリングは挿入が困難であったがテンションリングインジェクター(Geuder社)が開発され,比較的容易に挿入できるようになった.しかし,Zinn小帯断裂の範囲が広いときはカプセルテンションリングを使用しても超音波による白内障手術が不可能になる場合がある.2003年に小澤,谷口がカプセルエキスパンダー22,23)(はんだや)を開発し,高度のZinn小帯断裂症例でも小切開からの超音波白内障手術が可能(図11)になった.近年ではZinn小帯脆弱例でも予防的に使用することで術中合併症を抑制できるため注目されている.VIその他その他開発された器具をあげればきりがない.開瞼器も欧米で使用されていたものから改良が進み,日本での開発も行われるようになり,手術する環境を容易にしている.ハイドロダイセクションを容易にしたハイドロダイセクション針24)や上方12時部位に残存した皮質を吸引する上方吸引針25)などの開発も白内障手術手技を容ならない.瞳孔拡張をする機器には虹彩リトラクター16)(グリスハーバー社),瞳孔エキスパンダー17)(EagleVision社),ベーラー氏瞳孔拡張器18)(Moria社)などがある.これらの方法は術中の散瞳は得られるが,術後に瞳孔が散瞳したままの状態となり,羞明を伴うことがある.最近では,八重氏マイクロ虹彩剪刀19)(EyeTech-nology社)を用いた瞳孔スピンデクトミー(図9)が瞳孔拡大に有効で,術後も正常に近い瞳孔径に縮小できる.2006年にロシアのMalyuginが開発したMalyuginring20)(AMO社)もマイルドな瞳孔拡張を得られることから最近着目されている.VZinn小帯断裂Zinn小帯断裂に対応する手術機器も開発されている.Zinn小帯断裂範囲が狭いときはカプセルテンションリング21)(Morcher社)が有効(図10)である.現在では個人輸入で入手するため費用がかさむが近年国内でも販売される可能性があるという情報がある.カプセルテン図7プレチョッパー当初は先端形状が鋭角なプレチョッパーが開発されたが,先端形状を変えることで軟らかい核,硬い核にも対応できるバージョンが作られている.図8核分割鑷子核分割鑷子を使用すると過熟白内障などの難症例でも比較的容易に核分割を行うことができる.———————————————————————-Page61036あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(30)図9瞳孔スピンデクトミー小瞳孔症例には瞳孔縁を細かく切開することで散瞳を得られる.八重氏マイクロ虹彩剪刀が有効で,左右のサイドポートから使用することで360°瞳孔縁を切開することができる.図10カプセルテンションリングZinn小帯脆弱例,Zinn小帯断裂軽度の症例はカプセルテンションリングを使用することでZinn小帯の補強をして,手術を継続することができる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091037易にし,術中合併症を減少させる.単純な構造ではあるが,超音波乳化吸引術中の前房内圧変動を抑制するオペセーバー(サージカルジャパン社)26)も有効(図12)である.白内障手術手技の進化は今後もとどまることがなく,さまざまなアイディアからいろいろな方法が生まれてくるであろう.面白いのはそのアイディアが生まれてくるのは決してベテランの先生ばかりではなく,ビギナーの先生の思い付きからも良い機器が開発されるところである.皆さんもふと浮かんだ新しいアイディアを日本の白内障手術の進歩に役立ててみてはいかがだろうか?本稿執筆にあたり,さまざまな情報を提供していただいた,AMO株式会社,カイインダストリーズ株式会社,イナミ株式会社,エムイーテクニカ株式会社の担当各位,ご意見・ご指導をいただいた大木孝太郎先生(大木眼科),小沢忠彦先生(小沢眼科病院),德田芳浩先生(井上眼科病院),永本敏之先生(杏林大学)に感謝の意を表します.(31)図11カプセルエキスパンダー外傷によるZinn小帯断裂が高度な症例も,カプセルエキスパンダーを断裂部にかけることで,通常の超音波白内障手術を施行できる.図12オペセーバー灌流側にオペセーバーを設置するだけで,前房内圧の安定化を図ることができる.以前のものより軽量化され,扱いやすくなっている.———————————————————————-Page81038あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009以下に各社のホームページアドレスを示す.アールイーメディカル株式会社http://www.re-medical.co.jp/イナミ株式会社http://www.inami.co.jp/エムイーテクニカ株式会社http://www.metechnica.co.jp/カイインダストリーズ株式会社http://www.metechnica.co.jp/日本ベクトン・ディッキンソン株式会社http://www.bdj.co.jp/日本AMO株式会社http://www.amo-inc.co.jp/site/はんだやhttp://www.handaya.co.jp/フェザー株式会社http://www.feather.co.jp/jMedical.htmホワイトメディカル株式会社http://www.whitemedical.co.jp/マニー株式会社http://www.mani.co.jp/モリアジャパン株式会社http://www.moriajapan.com/有限会社サージカルジャパンhttp://www.opesaver.com/※Duckworth&Kent社,Geuder社,EyeTechnology社の製品は日本ではエムイーテクニカ株式会社,ASICO社の製品は日本ではアールイーメディカル株式会社,EagleVision社の製品はホワイトメディカル株式会社で取り扱っている.文献1)TsuneokaH,ShibaT,TakahashiY:Feasibilityofultra-soundcataractsurgerywitha1.4mmincision.JCataractRefractSurg27:934-940,20012)三戸岡克哉:Bimanualによる極小切開白内障手術.眼科手術18:471-476,20053)黒坂大二郎:Coaxialによる極小切開白内障手術.眼科手術18:477-480,20054)松島博之,野堀秀穂:白内障切開創の極小化におけるスリットナイフの精度.眼科手術20:49-53,20075)野堀秀穂,松島博之,高橋佳二ほか:各種スリットナイフによる創形成および切開創への負荷.眼科手術20:247-250,20076)稲村幹夫:稲村式前鑷子.IOL&RS16:352-355,20027)池田宏一郎:サイドポート用前切開鑷子を用いたCCC.IOL&RS16:356-361,20028)河合憲司:白色白内障に対する新型前鑷子.IOL&RS18:245-250,20049)HoriguchiM,MiyakeK,OhtaIetal:Stainingofthecap-suleforcircularcontinuouscapsulorhexisineyeswithwhitecataract.ArchOphthalmol116:535-537,199810)MellesGRJ,deWaardPW,PameyerJHetal:Trypanbluecapsulestainingtovisualizethecapsulorhexisincat-aractsurgery.JCataractRefractSurg25:7-9,199911)徳田芳浩:眼科手術における切開と縫合:核分割のコツとバイオメカニズムクロス分割の勧め.眼科診療プラクティス44:44-45,199912)永原国宏:超音波白内障手術核乳化(水晶体内二手法)のこつ核分割法.IOL5:283-287,199113)南宣慶:M-フックTMの多角的機能性とその使い方(M-Cutテクニック).あたらしい眼科13:1129-1132,199614)吉富文昭:核分割コブラシャフトスパーテル.眼科手術17:369-370,200415)赤星隆幸:PhacoPrechop新しい核分割手技による一手法手術の再評価.あたらしい眼科16:1219-1233,199916)湯口琢磨,大鹿哲郎,沢口昭一ほか:虹彩レトラクターを使用した白内障手術後の瞳孔動態.臨眼52:1395-1400,199817)猪狩栄利子,水村幸之助,滝澤寛重ほか:小瞳孔白内障手術における瞳孔エキスパンダーの使用経験.眼科手術16:203-206,200318)飯野倫子,市側稔博,大下雅世:小瞳孔白内障手術でのベーラー氏瞳孔拡張器TMの使用経験.眼科手術12:91-95,199919)八重康夫:八重氏虹彩マイクロ剪刀.IOL&RS17:449-452,200320)ChangDF:UseofMalyuginpupilexpansiondeviceforintraoperativeoppy-irissyndrome:resultsin30consec-utivecases.JCataractRefractSurg34:835-841,200821)徳田芳浩:術中合併症の予防と対処:チン小帯断裂.臨眼58(増刊):66-72,200422)小澤忠彦:チン小帯脆弱例に対するカプセルエキスパンダー.IOL&RS18:237-244,200423)小澤忠彦,谷口重雄:チン小帯脆弱例の超音波白内障手術におけるカプセルエキスパンダーの試作.臨眼59:333-339,200524)大木孝太郎,吉富文昭:SW型ハイドロダイセクション用カニューラ.あたらしい眼科19:323-324,200225)常岡寛:術中合併症の予防と対処:皮質吸引困難.臨眼58(増刊):84-89,200426)小出義博,松島博之,大木孝太郎:オペセーバーの効果.IOL&RS21:433-436,2007(32)