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1年以上角膜内に生息したPenicillium属による角膜真菌症の1例

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(107)11130910-1810/09/\100/頁/JCOPY45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(8):11131117,2009cはじめに糸状菌による角膜真菌症は,一般的に遷延化しやすい.初期治療に抵抗する症例は31%であり1),角膜真菌症の治療期間は平均2575日と報告されている2,3).2025%の角膜真菌症では治療的角膜移植を要し,その手術までの期間については19±40日あるいは530日間と報告されている4,5).今〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39番地出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-Tohjinmachi,Kumamoto860-0027,JAPAN1年以上角膜内に生息したPenicillium属による角膜真菌症の1例山本恭三*1佐々木香る*1砂田淳子*2園山裕子*1石川章夫*3刑部安弘*3天野史郎*4浅利誠志*2出田秀尚*1*1出田眼科病院*2大阪大学医学部付属病院臨床検査部*3東京医科大学病理学講座*4東京大学医学部眼科学教室KeratomycosisCausedbyPenicilliumsp.SurvivinginCorneaforOver1Year:CaseReportTakamiYamamoto1),KaoruAraki-Sasaki1),AtsukoSunada2),HirokoSonoyama1),AkioIshikawa3),YasuhiroOsakabe3),ShiroAmano4),SeishiAsari2)andHidenaoIdeta1)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofMedicalTechnology,OsakaUniversityHospital,3)DepartmentofPathology,TokyoMedicalUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine長期間角膜内に生息した角膜真菌症を経験した.症例は78歳,男性,右眼.他院にてPenicillium属による角膜真菌症と診断され,ピマリシンとミカファンギンナトリウム局所頻回投与にて加療されたが寛解・再燃をくり返し,1年以上も上皮欠損が持続するため出田眼科病院を紹介された.薬剤毒性と判断し,抗真菌薬を減量したところ,角膜実質深部の羽毛状病変,endothelialplaqueの出現を認めたため,ボリコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏,イトリゾール内服に変更した.角膜実質表層切除にて採取した組織からPenicillium属が多数分離された.E-testR,ASTYRに基づいた感受性試験で,ボリコナゾールは高い薬剤感受性を示したが,ミカファンギンナトリウムの感受性はボリコナゾールに比して低いことが示された.ボリコナゾールとミコナゾールの頻回点眼にて臨床所見は改善するも,菲薄化が進行し,治療的全層角膜移植を要した.Penicillium属は,感受性の低い抗真菌薬加療によって,1年以上静菌的に角膜内に生息しうることが示唆された.Wereportacaseofkeratitiscausedbyfungusthatsurvivedinthecorneaforalongperiod.Thepatient,a78-year-oldmalediagnosedwithkeratomycosiscausedbyPenicilliumsp.inhisrighteye,wasreferredtous1yearafteronset.Hesueredrepeatedepisodesofkeratomycosisremissionandrelapse,withpersistentepithelialdefect,despitefrequentinstillationoftopicalpimaricinandmicafunginsodium.Hyphalgrowthpatternsandanendothelialplaquedevelopedaftertheeyedropusewastaperedo,sowechangedthetreatmentregimentotopi-calvoriconazole,pimaricinointmentandoralitraconazole.ThePenicilliumsp.wasisolatedfromcornealbiopsies.E-testRandASTYRshowedthatvoriconazolehadhighantifungalactivityincomparisontomicafunginsodium.Theulceratedcorneabecamethinnerdespitefrequentinstillationoftopicalvoriconazoleandmiconazole,sothera-peuticpenetratingkeratoplastywaseventuallyperformed.Penicilliumsp.cansurviveinthecorneaforoverayearwithinsucientlyeectiveantifungaltherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11131117,2009〕Keywords:角膜真菌症,ペニシリウム,感受性,治療的角膜移植,ボリコナゾール.keratomycosis,Penicillium,antifungalactivity,therapeuticpenetratingkeratoplasty,voriconazole.———————————————————————-Page21114あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(108)回,筆者らは,抗真菌薬を頻回に点眼しているにもかかわらず,1年以上の長期間にわたって穿孔することなく角膜内に生息したPenicillium属による角膜真菌症を経験したので報告する.I症例および所見患者:78歳,男性.主訴:右眼の異物感.内科既往歴:ヘモグロビンA1C(HbA1C)7%前後の糖尿病,高血圧症,狭心症.眼科既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2007年2月頃に右眼の異物感と充血を自覚したため,近医眼科を受診した.病巣擦過物よりPenicillium属が検出され,角膜真菌症としてピマリシン5%点眼1時間ごと,ミカファンギンナトリウム0.1%点眼1時間ごと,フルコナゾール全身投与で加療された.一旦軽快したが,点眼のコンプライアンスの低下もあり,寛解・再燃をくり返した.1年以上経過するも,上皮欠損が残存するため,加療目的で2008年2月に出田眼科病院(以下,当院)を紹介受診した.角膜掻爬や感受性検査の施行歴はなかった.初診時(第0病日)所見:矯正視力は右眼10cm指数弁,左眼0.8.角膜中央に一部菲薄化を伴う潰瘍と遷延性上皮欠損を認めたが,毛様充血は軽度で,角膜後面沈着物やDescemet膜皺襞,endo-thelialplaque,前房蓄膿は認めなかった(図1).両眼に軽度の白内障を認めたが,角膜混濁のため,眼底の詳細な観察は不能であった.II治療経過と結果当院初診時,ピマリシン5%点眼1時間ごと,ミカファンギンナトリウム0.1%点眼1時間ごと,レボフロキサシン点眼1日4回を投与されていた.潰瘍底は硬く乾燥した感じであること,辺縁は白く隆起した遷延性上皮欠損様であること,毛様充血や実質内細胞浸潤が非常に軽度であったことから真菌症の活動性は低く,主として薬剤毒性による遷延性角膜上皮欠損と判断し,ピマリシン5%点眼1回/日,ミカファンギンナトリウム0.1%点眼(ファンガードR注射液を生理食塩水で0.1%に調整して使用)6回/日に減量した.治療経過を図2に示す.抗真菌薬減量の翌日(第1病日),臨床所見の急激な悪化を認めた.角膜実質浮腫とともにendothelialplaqueが明瞭となり,毛様充血,流涙が高度となり,上皮欠損部も拡大した(図3).真菌がまだ生存しているとの判断で,抗真菌療法を強化する目的で,ボリコナゾール1%点眼(ブイフェンドR注射液を生理食塩水で1%に調整して使用)6回/日を追加,ピマリシン眼軟膏3回/日塗布に変更し,イトラコナゾール150mg/日内服に治療を変更した.第8病日には実質浮腫,細胞浸潤は減少し,endothelialplaqueは縮小した.しかし遷延性上皮欠損が持続するため,潰瘍底の壊図1初診時の右眼前眼部写真角膜中央に一部菲薄化を伴う潰瘍と遷延性上皮欠損を認めるが,毛様充血や実質内細胞浸潤が非常に軽度.眼軟膏点眼内服点第病日結膜下注射ピマリシン眼軟膏ピマリシン5ミカファンギンナトリウム0.1ボリコナゾール1ミコナゾール0.1レボフロキサシンイトラコナゾールボリコナゾールボリコナゾール時間ごと1×1時間ごと4×0(初診)18(実質切除)28(実質切除)36(全層移植)図2治療経過図3抗真菌薬減量翌日の前眼部写真角膜実質浮腫,endothelialplaque,毛様充血が高度となり,上皮欠損部が拡大した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091115(109)死組織を除去する目的と,真菌の存在部位を確認する目的で,表層角膜切除術を施行し,組織診,培養,感受性試験を行った.組織診では,切除した角膜実質全層にわたってPAS(過ヨウ素酸Schi染色)陽性の菌糸が多数,確認された.角膜切除物および擦過物をSabouraud寒天培地にて26℃で培養し,発育コロニーをラクトフェノールコットンブルー染色にて検鏡したところ,青色の筆状構造がみられ,Penicillium属と同定された(図4).抗真菌薬感受性試験用キットのE-testR(ABBiodisk社,薬剤濃度勾配法)による最小発育阻止濃度(minimuminhibi-toryconcentration:MIC)測定結果(図5)では,ボリコナゾールのMICが0.125μg/mlと最小であった.ASTYR(極東)によるMIC測定結果では,ミコナゾールとミカファンギンナトリウムのMICは2.0μg/mlであり,ボリコナゾールに比べて感受性は低かった.本菌は,ASTYR本来の方法では測定困難なため,指定の培地で分生子を104個に調整後,各穴に接種し,測定を行った.Penicillium属を含む糸状菌は明確なブレークポイントが定められていないため,「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2007」を参考にし,投薬後の前房内および硝子体内薬剤濃度よりもMICが低いボ42272oab図4表層角膜切除片の組織診と培養結果a:角膜実質切除片の全領域にPAS陽性の菌糸を多数検出.b:Penicillium属が分離・培養された.①:ボリコナゾール②:アムリシンB③:5-FC:フルコナゾール:イトラコナゾール①③②図5EtestRによる感受性試験結果ボリコナゾールの周囲に大きな阻止帯を認めた.接種薬液量:各50μl,培養条件:25℃・3日間,培地:RPMI寒天培地.ab図6全層移植前の前眼部写真と切除組織a:全層移植直前の右眼前眼部写真.角膜中央の遷延性上皮欠損は縮小し,実質内細胞浸潤はごく軽度.b:切除角膜片組織.実質中層に菌糸(矢印)をわずかに認める.———————————————————————-Page41116あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(110)リコナゾールを高感受性,MICが高いミコナゾールとミカファンギンナトリウムを低感受性と判定した.角膜表層切除の翌日,再び臨床所見は悪化した.前房蓄膿,プラーク,毛様充血の悪化を認め,角膜真菌症の活動性が上昇したと思われた.組織診にて,まだ相当量の真菌が生存していたことから,ボリコナゾールの点眼回数を1時間ごとに増加したところ,約2週間で再び臨床所見は改善した.そこで,治療効果判定目的で第28病日に再度角膜実質切除を施行し,切除組織を培養したところ,依然としてPenicil-lium属が分離培養された.感受性試験結果に基づいて,0.1%ミコナゾール(フロリードR注射液を生理食塩水で0.1%に調整して使用)の1時間ごと点眼,ボリコナゾール結膜下注射と全身投与を追加し,臨床所見はさらに改善したが,菲薄化が進行し,患者の強い要望もあったため,第39病日に保存角膜を用いた全層角膜移植を施行した.その切除組織では,角膜実質中層にわずかな菌糸を認めるのみであった(図6).術後は2カ月かけて抗真菌薬を漸減中止するも真菌症の再発は認めず,抗真菌薬中止5カ月後,新鮮角膜を用いた全層角膜移植と水晶体再建術を施行し,2008年12月20日現在,右眼矯正視力は(0.3×sph+0.5D(cyl6.0DAx60°)である.III考按真菌の角膜感染が成立した後,真菌因子,薬剤因子,角膜因子が病態の進行に影響を及ぼす.真菌因子は,菌種と菌量であり,薬剤因子は,薬剤感受性,角膜透過性と毒性,角膜因子は,炎症反応の程度や創傷治癒力である.これらのバランスにより遷延化することがある.角膜真菌症の起因菌同定には角膜擦過物の塗抹検査,培養検査が重要であるが,その活動性については臨床所見から推測する必要がある.本症例では,初診時,潰瘍底は硬く乾燥した遷延性上皮欠損様であったこと,毛様充血や実質内細胞浸潤が非常に軽度であったことから薬剤毒性と判断し抗真菌薬を減量したところ,急激に悪化,再燃した.このことから,初診時の病態として,角膜内に真菌は静菌的に生存していたことが示唆された.すなわち1年前に分離されていたPenicillium属が当院初診時まで継続して生息していたと考えられる.Candida属は長期にわたって角膜に生息し,白色針状および分枝状の実質内混濁,無痛性で角膜や前房内に炎症所見が乏しいことを特徴とするinfectiouscrystallinekeratopathyの病態を示しうることが報告されている6).今回の症例は細隙灯顕微鏡観察にて,crystallinekeratopathyに特徴的な結晶様所見がみられなかったこと,定期的に明らかな炎症所見をくり返していたことなどから,infectiouscrystallinekeratopathyの病態を示さず長期間角膜内に生息したまれな角膜真菌症と考えられた.今回の原因菌が,長期間角膜内に生息した理由として,①原因菌の低い毒性,②低感受性抗真菌薬の使用,③潰瘍底における壊死性物質による創傷治癒阻害と薬剤透過性阻害の3つがあげられる.Penicillium属は,大気中,土壌,植物を中心とした生活環境中に広く生息する糸状菌であるが,Fusarium属やAspergillus属などが角膜破壊傾向が強く,角膜穿孔率が高いのに比して1),増殖が遅く,病原性,活動性が低い.そのため角膜真菌症にしては臨床像が鎮静化されてみえる場合があると思われる.既報のPenicillium属による角膜真菌症によると,難治で角膜移植を要した例もある7,8)が,薬剤のみで比較的速やかに瘢痕治癒した症例もある2,9).さらに,感受性試験結果から,ボリコナゾールは高い薬剤感受性を,当院初診時まで近医で頻回点眼されていたミカファンギンナトリウムの感受性はボリコナゾールに比して低く,静菌的作用にとどまる可能性が示された.この感受性の低い抗真菌薬使用によって,Penicillium属を静菌的に長期間角膜内に生存させた可能性が示唆される.加えて,長期間の上皮欠損により潰瘍底に壊死物質が蓄積され,これが除去されなかったことによって,抗真菌薬の角膜内移行を妨げたことも,長期生息につながったと考えられる.このように遷延化させないためには,糸状菌に対しても薬剤感受性試験を行うことの重要性が高まりつつある10).現在,抗菌薬投与の指標として行われている感受性検査は,敗血症や呼吸器感染症などに対する全身投与を考慮したMIC測定であるが,その測定濃度と点眼薬としての用いる濃度とは約10100万倍異なるため薬剤選択の目安にはなるが,実際の臨床効果と必ずしも一致しない.また,糸状菌に対する抗真菌薬の感受性測定はいまだ明確に確立されておらず,現在市販されているキットを用いてすべての薬剤の感受性測定を行うのは困難である.今回は,ミコナゾールおよびミカファンギンナトリウムの感受性傾向を知るため,ASTYRとE-testRとの相関は不確実ではあるが,両キットを併用し測定を行った.一般的にE-testRによる感受性検査結果は,感染性角膜炎の薬剤選択の目安にはなるが,実際の臨床効果と必ずしも一致しないとされている1113).しかし,本症例では,E-testRで高度感受性を示したボリコナゾールを中心とした抗真菌薬治療に変更してからは徐々に臨床所見も改善し,切除片の病理組織でも菌糸は減少し,その治療効果は明らかであった.糸状菌による角膜炎の視力予後は不良であり,同一菌種であっても感受性に差があることが多い14)ので,ボリコナゾールなどの新しい薬剤も含めた感受性試験のデータ蓄積が必要であると考える.ボリコナゾールは新しいアゾール系の抗真菌薬であり,広い抗真菌スペクトルを有し,従来の抗真菌薬に抵抗性であったFusarium属やAspergillus属にも有効例が報告されている.1%ボリコナゾール点眼は,角膜上皮のタイトジャンクションが障害されていなくても角膜透過性が良好で,安全性———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091117(111)が高いことが報告されている15).筆者らが検索した限り,Penicillium属による角膜真菌症に対してボリコナゾール点眼が有効であったという報告はなく,今後は治療薬の選択肢になると考えられた.今回Penicillium属は,感受性の低い抗真菌薬投与の下,1年以上もの間,角膜内に生息しうることが示された.角膜真菌症の遷延化,重症化を防ぐには,感受性試験が必須であり,その治療効果判定には,臨床所見の評価とともに組織採取による診断および培養も重要であると考えられた.文献1)LalithaP,PrajnaNV,KabraAetal:Riskfactorsfortreatmentoutcomeinfungalkeratitis.Ophthalmology113:526-530,20062)妙中直子,日比野剛,福田昌彦ほか:近畿大学眼科で1995年より経験した11例の角膜真菌症の検討.眼紀48:883-886,19973)鈴木崇,宇野敏彦,宇田高広ほか:糸状菌による角膜真菌症における病型と予後の検討.臨眼58:2153-2157,20044)VemugantiGK,GargP,GopinathanUetal:Evaluationofagentandhostfactorsinprogressionofmycotickerati-tis:Ahistologicandmicrobiologicstudyof167cornealbuttons.Ophthalmology109:1538-1546,20025)XieL,DongX,ShiW:Treatmentoffungalkeratitisbypenetratingkeratoplasty.BrJOphthalmol85:1070-1074,20016)MatsumotoA,SanoY,NishidaKetal:Acaseofinfec-tiouscrystallinekeratopathyoccurringlongafterpene-tratingkeratoplasty.Cornea17:119-122,19987)濱生仁子,足立格郁,鈴木克佳ほか:治療的全層角膜移植術が奏効した角膜真菌症の1例.臨眼57:363-366,20038)石倉涼子,池田欣史,山崎厚志ほか:Aspergillus角膜真菌症に対する治療的角膜移植後1年でPenicillium感染を起こした1例.あたらしい眼科25:379-383,20089)高橋信夫,北川和子,桜木章三ほか:角膜真菌症の治療経験.眼紀34:972-979,198310)InoueT,InoueY,AsariSetal:UtilityofEtestinchoos-ingappropriateagentstotreatfungalkeratitis.Cornea20:607-609,200111)QiuWY,YaoYF,ZhuYFetal:Fungalspectrumidentiedbyanewslidecultureandinvitrodrugsuscep-tibilityusingEtestinfungalkeratitis.CurrEyeRes30:1113-1120,200512)LalithaP,ShapiroBL,SrinivasanMetal:AntimicrobialsusceptibilityofFusarium,Aspergillus,andotherla-mentousfungiisolatedfromkeratitis.ArchOphthalmol125:789-793,200713)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeectの比較.日眼会誌110:973-983,200614)XieL,ZhaiH,ZhaoJetal:AntifungalsusceptibilityforcommonpathogensoffungalkeratitisinShandongProv-ince,China.AmJOphthalmol146:260-265,200815)HariprasadSM,MielerWF,LinTKetal:Voriconazoleinthetreatmentoffungaleyeinfections:areviewofcur-rentliterature.BrJOphthalmol92:871-878,2008***

白内障手術後のPaecilomyces lilacinus角膜炎・眼内炎の1例

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page11108あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(00)1108(102)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(8):11081112,2009cはじめに真菌,なかでも糸状菌による角膜炎は,進行は比較的緩徐であるが,感染が深部に至るときわめて難治であることが多い.効果的な治療のためには,早期に診断して感受性のある抗真菌薬を感染巣に十分到達させることが必要である.今回筆者らは,眼科関連の感染症としては比較的まれな糸状菌,Paecilomyceslilacinusによる白内障手術後角膜炎の症例を経験した.本症例は,Paecilomyceslilacinus感染の診断が〔別刷請求先〕稲毛道憲:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:MichinoriInage,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN白内障手術後のPaecilomyceslilacinus角膜炎・眼内炎の1例稲毛道憲鈴木久晴國重智之小野眞史高橋浩日本医科大学眼科学教室ACaseofKeratitisandEndophthalmitisCausedbyPaecilomyceslilacinusafterCataractSurgeryMichinoriInage,HisaharuSuzuki,TomoyukiKunishige,MasafumiOnoandHiroshiTakahashiDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool緒言:白内障手術後のPaecilomyceslilacinus角膜炎・眼内炎の1例を経験した.症例:74歳,女性.平成19年9月19日,近医にて左眼超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行した.翌日より虹彩炎を認め,ステロイド,抗菌薬の投与にて一時的に改善した.その後再燃し,角膜炎も出現し増悪したため,11月15日に当科紹介入院となった.初診時,左眼視力5cm指数弁,角膜潰瘍,角膜混濁,前房蓄膿を認め,抗菌薬,抗ヘルペス薬,抗真菌薬を投与したが角膜潰瘍は拡大した.入院12日目,手術創部擦過標本の培養検査よりPaecilomyceslilacinusが検出されたため,ボリコナゾールの全身,局所投与したが改善せず,創部付近の強膜菲薄化も進んだため,入院33日目,全層角膜移植,眼内レンズ摘出,硝子体手術,眼内洗浄,強膜被覆術を施行した.その後,感染は鎮静化し移植片は生着したが,眼球癆の状態となった.結論:Paecilomyceslilacinus角膜炎・眼内炎はきわめて難治であり,速やかな診断と手術的治療が必要である.WereportacaseofkeratitisandendophthalmitiscausedbyPaecilomyceslilacinusaftercataractsurgery.Thepatient,a74-year-oldfemale,underwentphacoemulsicationandintraocularlensimplantationinherlefteyebyalocalophthalmologistonSeptember19,2007.Afterthesurgery,recurrentiritisdevelopedinherlefteye,andgraduallyexacerbated;onNovember15,2007,shewasreferredtoourhospitalwithsevereiritisandkeratitis.Oninitialexamination,hervisualacuityOSwas5cmCF;slitlampexaminationrevealedcornealopacity,cornealulcerandhypopyon.Sinceshehadnotyetbeendiagnosed,weimmediatelyinitiatedgeneralandtopicalantibiotics,ananti-herpeticagentandantifungalmedications,whichshowednoeects.Onday12afterhospitalization,Paecilo-myceslilacinuswasculturedfromthecataractsurgeryincisionsite.Wetheninitiatedgeneralandtopicalvoricon-azole,butthisresultedinnoimprovement.Onday33afterhospitalization,weperformedpenetratingkeratoplasty,intraocularlensremovalandvitrectomy.Althoughtheinfectionsubsidedandthegraftwasacceptedaftersurgery,thepatientdevelopedphthisisbulbi.SinceocularinfectionbyPaecilomyceslilacinusisextremelyintractable,promptdiagnosisandsurgicalinterventionisneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11081112,2009〕Keywords:Paecilomyces,白内障手術,術後眼内炎,ボリコナゾール,全層角膜移植.Paecilomyces,cataractsurgery,postoperativeendophthalmitis,voriconazole,penetratingkeratoplasty.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091109(103)遅れたために,強力な抗真菌薬治療も奏効せず,最終的に眼内炎から眼球癆に陥った.I症例患者:74歳,女性.主訴:左眼視力低下と眼痛.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:帯状疱疹(平成11年,眼病変はない).生活歴:趣味は家庭菜園.現病歴:平成19年初めより左眼視力低下を自覚し,近医に左眼加齢性白内障と診断された.同年9月19日,同医にて,上方強角膜切開による超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.本症例は,当日同医により同手術を施行された3例中の2例目であった.術中,創口より虹彩脱出を認めたが,その他に合併症はなく手術は終了した.その後,術翌日に前房内にフィブリンの析出を認めたため,虹彩脱出に伴う虹彩炎の他,細菌性眼内炎も考え,イミペネム(IPM/CS)1g点滴,ジベカシン200mg筋注,レボフロキサシン600mg内服,0.5%モキシフロキサシン,0.3%ジベカシン,0.1%リン酸ベタメタゾンの頻回点眼を施行した.炎症は沈静化し,9月25日には矯正視力1.2となったが,10月15日,再び虹彩炎を認めたため,IPM/CS1g点滴,ジベカシン200mg筋注,レボフロキサシン600mg/day内服,0.5%モキシフロキサシン,0.3%ジベカシン,0.5%セフメノキシムの頻回点眼を開始し,さらに10月19日より,プレドニゾロン30mg/day内服,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼4回を追加した.その後,炎症は沈静化し,10月24日の矯正視力は1.0であった.しかし,11月1日より再び虹彩炎が出現し,11月2日には,矯正視力0.04,角膜浮腫,豚脂様角膜後面沈着物を認めたため,ヘルペス性角膜ぶどう膜炎を疑い,11月4日よりアシクロビル1,000mg/day内服を追加した.11月7日には,角膜浮腫は軽快し,矯正視力0.5まで改善した.ところが,再度悪化し,11月13日には視力0.02(矯正不能)と低下した.その後も症状は改善しないため,11月15日に当科紹介受診となった.初診時眼所見:左眼は,視力5cm指数弁(矯正不能),眼圧30mmHg,細隙灯顕微鏡にて,角膜潰瘍,角膜混濁,角膜浮腫,Descemet膜皺襞,豚脂様角膜後面沈着物,前房蓄膿,および手術創部付近角膜の軽度混濁を認めた(図1).中間透光体,眼底は透見不良であったが,Bモードエコーでは異常所見は認めなかった.右眼は,矯正視力0.9,眼圧19mmHgで,前眼部,中間透光体,眼底に異常は認めなかった.経過:入院後より,細菌もしくは真菌感染を考え,IPM/CS1g/day点滴,0.5%レボフロキサシン,0.3%トブラマイシン,0.5%セフメノキシム,0.1%フルコナゾール頻回点眼を開始した.同時に,抗ヘルペス治療が一時的に効果的であったことから,ヘルペス性角膜ぶどう膜炎に対する治療を強化する目的で,パラシクロビル3,000mg/day,プレドニゾロン60mg/dayの内服も開始した.同日,PCR(polymerasechainreaction)による前房水中ウイルスDNAの検索および角膜擦過物を塗抹・培養検査に提出したが,結果は陰性であった.入院5日目,症状改善なく,白内障手術創部付近の混濁が増強したため(図2),手術創部を離開したうえで擦過標本を培養検査に提出し(図3),1%バンコマイシン頻回点眼,1%ピマリシン軟膏,0.3%トブラマイシンの結膜下注射ならびにフルコナゾール200mg/dayの内服を追加するとともにバラシクロビル,プレドニゾロン内服は中止した.入院12日目の時点でも角膜所見は改善せず(図4),同日,培養よりPaecilomyceslilacinusの検出が報告されたため,ただちに,図1初診時,前眼部写真角膜混濁,角膜潰瘍,角膜浮腫,Descemet膜皺襞,豚脂様角膜後面沈着物,前房内フィブリン,前房蓄膿を認める.また,白内障手術切開創部付近に軽度の混濁を認める.図2入院5日目,前眼部写真角膜所見に改善なく,白内障手術創部付近の混濁が増悪している.———————————————————————-Page31110あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(104)感受性が高いと報告されているボリコナゾール600mg/dayの内服,1%濃度の頻回点眼,および前房内注射を開始した.しかし,その後も角膜所見は悪化した.入院28日目,図5に示すように,角膜混濁の増悪ならびに白内障手術創部付近の強膜に菲薄化を認める状況に陥ったため,入院33日目,全層角膜移植,眼内レンズ除去,硝子体切除,眼内洗浄,表層角膜片による強膜被覆術を施行した.術中,眼内レンズ表面(図6),虹彩裏面,脈絡膜下にも広範囲に菌塊を認めた(図7).虹彩の切除時に出血をきたしたため後極部は観察が不可能であったが,確認できる限りの硝子体を切除し,1%ボリコナゾールにて洗浄後,全層角膜移植術を行い,残った移植片にて融解した強膜部を被覆した(図8).術後は,ボリコナゾール600mg/dayの内服,1%濃度の頻回点眼,プレドニゾロン15mg/dayの内服,0.1%リン酸ベタメタゾンの点眼を施行した.その後,感染の再増悪は認めず,移植角膜は生着した.そして,入院48日目に退院となったが,最終図3入院5日目,前眼部写真白内障手術創部を離開し綿棒にて創口を擦過している.図5入院28日目,前眼部写真角膜潰瘍は拡大し,混濁範囲も広がっている.白内障手術切開創付近の強膜は融解し,ぶどう膜が露出している.図4入院12日目,前眼部写真角膜潰瘍の拡大がみられる.図6入院33日目,手術中写真全層角膜切除後,眼内レンズを摘出している.レンズ表面に白色の菌塊を認める.図7入院33日目,手術中写真脈絡膜下にも広範囲にわたり菌塊を認める.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091111(105)的には眼球癆となった(図9).II考按Paecilomyces属は土壌中,空中など自然界に広く分布する糸状真菌である.通常,ヒトに感染することはまれであるが,免疫不全患者における心内膜炎,腎盂腎炎,静脈洞炎,および皮膚炎などの起因菌となる1,2).眼科関連の感染症としては,コンタクトレンズや異物外傷を契機とした角膜炎を起こす37)ほか,白内障手術に関連したものとして,1970年代後半の眼内レンズ導入期に,レンズ挿入に伴うPaecilo-myces属眼内炎の報告が相つぎ,眼内レンズの汚染が原因となりうることが示唆されている811).いずれも汚染された異物侵入に伴う感染例であることが特徴である.一方,感染経路が不明な白内障手術後Paecilomyces属眼内炎としては,大久保ら12),Tarkkanenら13)の症例報告がある.2報とも白内障手術+眼内レンズ挿入術時の合併症はなく,前者では外摘出術後約1カ月,後者では小切開超音波乳化吸引術後4カ月経過した時点で原因不明の虹彩炎として発症し,最終的にPaecilomyces属が眼内液から同定されている.Tark-kanenらの報告では手術時の空調設備汚染が疑われるとしているが,感染経路は不明に近い.本症例は,虹彩炎の発症が術翌日と早いが,この時点では虹彩脱出に伴う炎症も否定できず,実際,加療による消炎後,一時的に矯正視力1.2と良好な視力を得ている.真菌感染が手術直後より強い炎症を生じることはまれであると思われることから,少なくとも術翌日の所見はPaecilomyces属感染が直接ひき起こしたものとは考えにくい.術後約1カ月経過してから再び虹彩炎が出現しているが,それ以降に再燃する虹彩炎の経過を考えると,このときの虹彩炎はPaecilo-myces属の感染が原因であったと考えるのが妥当であろう.感染経路については,同日手術を受けた他の2例には何ら問題を生じておらず,空調設備の問題もなかったということと,患者は家庭菜園を趣味としており,白内障手術前後に土いじりをしているということが,感染経路を推測させる項目としてあるが,それを裏付ける証拠はないため結局感染経路は不明である.また,本症例では,白内障手術創部の擦過培養により初めてPaecilomyces属が検出されているが,当科紹介時点で,Bモードエコーにて中間透光体,眼底に異常所見がなく,活発な角膜炎所見が目立っていたために,術創付近の混濁に対する注意が不十分であったことは否めない.一般的にPaecilomyces属感染症はきわめて難治であるとされるが,その原因として,アンホテリシンB,フルコナゾール,イトラコナゾールなど多くの抗真菌薬に抵抗性であることがあげられる.最近登場したアゾール系抗真菌薬ボリコナゾールに対しては,invitroや動物実験において感受性が高いことが報告されている14,15)が,外傷によるPaecilomyces属角膜炎に対しボリコナゾール投与を含む保存的治療は奏効せず,角膜穿孔を生じて角膜移植術を要した報告が示唆するように7),比較的薬剤が到達しやすい角膜感染症においても,一度感染が深部に成立すると保存的治療の効果は限定的と思われる.眼内炎の場合,さらに難治となるのは明らかである.汚染眼内レンズによる多発例をまとめた報告によれば,13眼中視力を保てたのは2眼のみであり,1眼が光覚弁,2眼で光覚なし,残る8眼では眼球摘出に至っている8).近年の報告でも,抗真菌薬の点眼,全身投与などの保存的治療の効果はほとんど認められず,硝子体手術により眼球は温存できても,視力は指数弁にとどまっている12,13).今回の症例において,角膜炎の初期段階でPaecilomyces属を検出できていればボリコナゾールが効果的であったかもしれないが,現実にはかなり感染巣が拡大してからの検出となってしまっ図9手術後98日目,前眼部写真角膜は生着しているが,混濁のため後極部は透見不能.眼球癆となっている.図8入院34日目,手術翌日前眼部写真全層角膜移植術および強膜融解部に対する表層角膜被覆術後.———————————————————————-Page51112あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(106)た.検出後,ただちにボリコナゾールの内服と点眼を開始したが,全く効果を認めなかった.真菌感染が疑われたとき,速やかな菌の同定が重要であることは言うまでもないが,培養検査の結果が判明するまでの間に従来の抗真菌薬が無効の場合,Paecilomyces属感染を考慮する必要がある.Paecilo-myces属による眼感染症はきわめて難治であり,強力な薬物療法と同時に,早期より角膜移植術や硝子体手術などの手術的治療を併施する必要があると思われた.文献1)SherwoodJA,DanskyAS:PaecilomycespyelonephritiscomplicatingnephrolithiasisandreviewofPaecilomycesinfections.JUrol130:526-528,19832)OrthB,FreiR,ItinPHetal:Outbreakofinvasivemyco-sescausedbyPaecilomyceslilacinusfromacontaminatedskinlotion.AnnInternMed125:799-806,19963)WilhelmusKR,RobinsonNM,FontRAetal:Fungalker-atitisincontactlenswearers.AmJOphthalmol106:708-714,19884)HirstLW:Paecilomyceskeratitis.BrJOphthalmol79:711,19955)AndersonKL,MitraS,SaloutiRetal:FungalkeratitiscausedbyPaecilomyceslilacinusassociatedwitharetainedintracornealhair.Cornea23:516-521,20046)陳光明,鈴木崇,宇野敏彦ほか:Paecilomyces属による角膜真菌症の2例.あたらしい眼科22:1397-1400,20057)椋本茂裕,井出尚史,嘉山尚幸ほか:角膜穿孔を生じたPaecilomyces属による角膜真菌症の1例.臨眼61:1049-1052,20078)PettitTH,OlsonRJ,FoosRYetal:Fungalendophthalmi-tisfollowingintraocularlensimplantation.Asurgicalepi-demic.ArchOphthalmol98:1025-1039,19809)MillerGR,RebellG,MagoonRCetal:Intravitrealanti-mycotictherapyandthecureofmycoticendophthalmitiscausedbyaPaecilomyceslilacinuscontaminatedpseu-dophakos.OphthalmicSurg9:54-63,197810)O’DayDM:FungalendophthalmitiscausedbyPaecilomy-ceslilacinusafterintraocularlensimplantation.AmJOph-thalmol83:130-131,197711)MosierMA,LuskB,PettitTHetal:Fungalendophthal-mitisfollowingintraocularlensimplantation.AmJOph-thalmol83:1-8,197712)大久保真司,島崎真人,東出朋巳ほか:白内障手術後に生じたPaecilomyceslilacinusによる眼内炎の1例.日眼会誌98:103-110,199413)TarkkanenA,RaivioV,AnttilaVJetal:Fungalendo-phthalmitiscausedbyPaecilomycesvariotiifollowingcata-ractsurgery:apresumedoperatingroomair-condition-ingsystemcontamination.ActaOphthalmolScand82:232-235,200414)MarangonFB,MillerD,GiaconiJAetal:Invitroinvesti-gationofvoriconazolesusceptibilityforkeratitisandendophthalmitisfungalpathogens.AmJOphthalmol137:820-825,200415)SponselW,ChenN,DangDetal:Topicalvoriconazoleasanoveltreatmentforfungalkeratitis.AntimicrobAgentsChemother50:262-268,2006***

コリネバクテリウムが起炎菌と考えられた感染性角膜炎の1例

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1(99)11050910-1810/09/\100/頁/JCOPY45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(8):11051107,2009cはじめにコリネバクテリウムは結膜に常在菌叢を形成している1)が,その病原性は低く,角膜炎患者で分離されることがあっても実際の起炎性については議論がある.免疫抑制状態でバイオフィルムを形成したような特殊なケースでは角膜炎の起炎菌となりうると考えられている210)が,通常の感染性角膜炎の起炎菌としてはあまり考慮されていない11).今回,免疫抑制状態にない患者においてコリネバクテリウムが起炎菌と〔別刷請求先〕稲田耕大:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学講座Reprintrequests:KoudaiInata,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago-shi683-8504,JAPANコリネバクテリウムが起炎菌と考えられた感染性角膜炎の1例稲田耕大*1前田郁世*1池田欣史*1宮大*1井上幸次*1江口洋*2塩田洋*2桑原知巳*3*1鳥取大学医学部視覚病態学講座*2徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部視覚病態学分野*3徳島大学大学院ヘルスサイエンス研究部分子細菌学分野ACaseofInfectiousKeratitisCausedbyCorynebacteriumKoudaiInata1),IkuyoMaeda1),YoshifumiIkeda1),DaiMiyazaki1),YoshitsuguInoue1),HiroshiEguchi2),HiroshiShiota2)andTomomiKuwahara3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualNeuroscience,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchool,3)DepartmentofMolecularBacteriology,InstituteofHealthBiosciences,TheUniversityofTokushimaGraduateSchoolコリネバクテリウムが起炎菌と考えられた感染性角膜炎の1例を経験したので報告する.症例は23歳,男性.頻回交換ソフトコンタクトレンズを1週間連続装用していた.主訴は左眼の眼痛,羞明,視力低下.矯正視力は0.01であった.左眼角膜中央に大きさ2mm程度の不整形の上皮欠損とその辺縁の淡い浸潤を認め,小さい白色の角膜後面沈着物および角膜浮腫・Descemet膜皺襞,高度の毛様充血を伴っていた.角膜擦過物の塗抹検鏡にて多数のグラム陽性桿菌を認め,擦過培養にてCorynebacteriummastitidisが分離された.コリネバクテリウムは免疫抑制状態でバイオフィルムを形成したような特殊なケースでは角膜炎の起炎菌となりうると考えられているが,今回のように通常の感染性角膜炎でも起炎菌となりうる可能性が示唆された.コリネバクテリウム感染と判断する際に塗抹検鏡でのグラム陽性桿菌の検出が重要と考えられた.WereportacaseofinfectiouskeratitiscausedbyCorynebacterium.Thepatient,a23-year-oldmale,hadusedfrequentreplacementsoftcontactlenseswithovernightwearfor1week.Hecomplainedofpain,photophobiaandreducedvisioninhislefteye;hisleftvisualacuitywas0.01.Slit-lampexaminationrevealeda2mmirregularepi-thelialdefect,withmildinltrationofthedefectmargin,inthecenteroftheleftcornea,togetherwithsmallwhitekeraticprecipitates,cornealedema,Descemet’sfoldsandsevereciliaryinjection.NumerousGram-positiverodswereobservedinasmearfromthefocus,andCorynebacteriummastitidiswasisolated.AlthoughitisthoughtthatCorynebacteriumcancausekeratitisonlyinspecialcases,suchasbiolmformationinimmunosuppressedcondition,thepresentcaseindicatesthatCorynebacteriumcanbeacausativeagentincasesoftheusualinfectiouskeratitis.ThiscasealsoindicatesthatthedetectionofGram-positiverodsisakeytothediagnosisofCorynebacteriuminfec-tions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(8):11051107,2009〕Keywords:コリネバクテリウム,感染性角膜炎,グラム陽性桿菌,コンタクトレンズ.Corynebacterium,infec-tiouskeratitis,Gram-positiverods,contactlens.———————————————————————-Page21106あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(100)考えられた1例を経験したので報告する.I症例患者:23歳,男性.初診:2008年2月17日.主訴:左眼眼痛,羞明,視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズをインターネットで購入し,1週間連続装用していた.2008年2月15日,仕事中にコンクリートの薄い溶解液が左眼に飛入したが市販の点眼薬で経過をみていた.2月16日より左眼眼痛,羞明出現.2月17日より左眼視力低下をきたしたため同日鳥取大学医学部附属病院救急外来を受診した.初診時所見:左眼視力は0.01(n.c.),眼圧は20mmHgであった.高度な睫毛内反のため睫毛の角膜への接触を認めた.角膜中央に2mm程度の不整形の上皮欠損とその辺縁の淡い角膜浸潤を認め,角膜浮腫およびDescemet膜皺襞を呈していた.小さい白色の角膜後面沈着物と軽度の前房細胞も認めた(図1).経過:2月17日,感染性角膜炎の診断にて眼脂および角膜擦過物を採取し,レボフロキサシンおよびセフメノキシムの1時間ごとの点眼を開始した.2月18日,角膜浸潤の悪化を認め,セフタジジム2g点滴を開始.角膜擦過物の塗抹検鏡にてグラム陽性桿菌を多数検出した(図2).2月19日より入院.睫毛抜去を施行し,以後もレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,セフタジジム点滴を継続した.初診時の眼脂よりCorynebacteriumspp.およびStaphylococcusepidermidis,角膜擦過物よりCorynebacteriumspp.が分離された.その後は順調に軽快し,3月2日退院となった.後日,角膜擦過物から分離されたコリネバクテリウムの遺伝子解析を徳島大学にて行いrRNAの塩基配列を調べたところ,結膜常在菌として圧倒的多数を占めるC.macginleyiではなく,比較的少ないC.mastitidis近縁種であることが判明した.また,その薬剤感受性は表1のごとくであり,フルオロキノロン系も含めて多くの抗菌薬に良好な感受性を示した.II考按コリネバクテリウムは結膜の常在菌として知られているが,その病原性は低く,角膜炎の起炎菌としてもあまり考慮されていない.しかし近年になって,コリネバクテリウムは結膜炎および眼瞼結膜炎をひき起こすことが報告され1214),免疫抑制状態でバイオフィルムを形成したような特殊なケースでは角膜炎の起炎菌にもなりうると認識されるようになった210).しかし,今回筆者らが経験したような,免疫抑制状態にない患者においてコリネバクテリウムが起炎菌と考えられた症例の明確な報告はあまりなされていない.本症例において,結膜の培養では表皮ブドウ球菌とコリネバクテリウムが分離されているが,角膜擦過物からはコリネバクテリウムのみが分離された.また,角膜擦過物の塗抹検鏡でグラム陽性桿菌を認め,その結果が一致していることは本症例がコリネバクテリウム感染であることを裏付けている.病原性が表1本症例のコリネバクテリウムの薬剤感受性(MIC)シプロフロキサシン0.125エリスロマイシン<0.016ノルフロキサシン1クロラムフェニコール4レボフロキサシン0.064ドキシサイクリン0.5ガチフロキサシン0.016イミペネム0.008モキシフロキサシン0.016セフトリアキソン0.125トブラマイシン0.064バンコマイシン0.5ゲンタマイシン<0.064テイコプラニン0.5単位(μg/ml)図1初診時前眼部写真2mm程度の不整形の上皮欠損とその辺縁の淡い角膜浸潤を認める.病巣部からコリネバクテリウムが分離された.図2角膜擦過物の塗抹検鏡好中球に加えグラム陽性桿菌を認める.各視野で認められる菌体は多くないが,塗抹の広い範囲にわたって認められた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091107(101)低いコリネバクテリウムによる感染としては強い角膜浮腫など初診時の所見が強すぎるが,これは薄いコンクリート溶解液飛入による炎症を伴っていたためと考えると説明がつくと思われる.コリネバクテリウムが角膜炎をひき起こした機序としては,睫毛内反やコンタクトレンズの誤使用に伴い常に角膜上皮が傷害されていた可能性が高く,病原性の低い菌であっても角膜で増殖する下地を形成していたと考えられる.今回の分離菌がC.macginleyiではなく,結膜常在菌として比較的少ないC.mastitidisであったことは,外傷に伴って外部からC.mastitidisが飛入した可能性が考えられる.あるいは,従来から頻回交換レンズの連続装用,睫毛内反などがあり,結膜常在菌として少数ながら認められるとの報告があるC.mastitidisが眼表面に常在しており,さらに外傷が加わって角膜感染となった可能性も考えられる.残念ながら,結膜から分離されたコリネバクテリウムは分離後すぐに廃棄されたため,結膜にいる菌もC.mastitidisかどうかの確認はとれなかった.本症例のように,コリネバクテリウムは通常の感染性角膜炎でも起炎菌となる可能性が示唆され,これまでも軽症で比較的容易に治癒したものや,起炎菌不明とされてきた角膜炎のなかにコリネバクテリウムによってひき起こされたものが含まれていた可能性も考えられる.本症例で分離されたコリネバクテリウムはフルオロキノロン系抗生物質に対し感受性を認めたが,Eguchiら15)は,わが国におけるフルオロキノロン系点眼薬の使用量の増加により,近年眼科領域でフルオロキノロン系抗菌薬に対して耐性を示すコリネバクテリウムの報告が増加していると指摘している.このことを考慮すると,抗菌薬に対する耐性を獲得したコリネバクテリウムによる難治性の角膜炎が増加する可能性も危惧される.コリネバクテリウムは結膜常在菌であるため,外眼部感染症患者において分離されても起炎菌であるかどうかの判断はむずかしい.コリネバクテリウム感染と判断する際には塗抹検鏡でのグラム陽性桿菌の検出が重要と考えられる.文献1)InoueY,UsuiM,OhashiYetal:Preoperativedisinfec-tionoftheconjunctivalsacwithantibioticsandiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmol52:151-161,20082)RubinfeldRS,CohenEJ,ArentsenJJetal:Diphtheroidsasocularpathogens.AmJOphthalmol108:251-254,19893)HeidemannDG,DunnSP,DiskinJAetal:Corynebacteri-umstriatuskeratitis.Cornea10:81-82,19914)鹿島佳代子,百瀬隆行,石引美貴ほか:角膜移植片に起こったコリネバクテリウム感染症の1例.あたらしい眼科13:1587-1590,19965)LiA,LalS:Corynebacteriumpseudodiphtheriticumkera-titisandconjunctivitis.ClinExpOphthalmol28:60-61,20006)中島秀登,山田昌和,真島行彦:角膜移植眼に生じた感染性角膜炎の検討.臨眼55:1001-1006,20017)柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の1例.あたらしい眼科21:801-804,20048)岸本里栄子,田川義継,大野重昭:多剤耐性のCorynebac-teriumspeciesが検出された角膜潰瘍の1例.臨眼58:1341-1344,20049)柿丸晶子,寺坂祐樹,三原悦子ほか:3種の異なる起炎菌により感染を相ついで生じた難治性角膜炎の1例.あたらしい眼科22:795-799,200510)SuzukiT,IiharaH,UnoTetal:Suture-relatedkeratitiscausedbyCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol45:3833-3836,200711)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,200712)FunkeG,Pagano-NiedererM,BernauerW:Corynebacte-riummacginleyihastodatebeenisolatedexclusivelyfromconjunctivalswabs.JClinMicrobiol36:3670-3673,199813)JoussenAM,FunkeG,JoussenFetal:Corynebacteriummacginleyi:aconjunctivaspecicpathogen.BrJOphthal-mol84:1420-1422,200014)原二郎,横山順子,田聖花ほか:外眼部感染症からの臨床分離菌の薬剤感受性.あたらしい眼科18:89-93,200115)EguchiH,KuwaharaT,MiyamotoTetal:High-leveluoroquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,2008***

私が思うこと18.緑内障の木陰で

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091095私が思うことシリーズ⑱(89)この欄は若くてアクチヴな眼科医たちの熱烈な思いが述べられる場と理解していたが,どうゆうわけか高齢の代表みたいな私にお鉢が回ってきた.当方,高齢症状の自覚がないままに,思うことのみぞ多かりけるの心境でいるためであろうか.わが愛するシューベルトが,菩提樹の木蔭でまどろんでは甘い夢をみたり,愛の言葉を幹に刻み込んだりしたように,50年以上も付き合ってきた緑内障の大樹の蔭にまどろみながら,四次元の世界をさまよってみるのも悪くはあるまい.私が付き合いはじめた頃は,緑内障(学)の樹木は今からみればとても未熟であった.この樹木は西暦が始まるはるか前のヒポクラテスの時代から立っていたが,発育停止の状態が長い間つづき,ようやく150年ほど前になってフォン・グレーフェが緑内障学の樹木として科学的に手を加え,樹形も大きくなり,一応形が整えられた.だが,その後も本態不明のままに再び発育停止し,最近まで野ざらしのままであった.私が眼科医になった50数年前当時もそんな状況で,細隙灯はVogtの天然記念物的なもの,眼底カメラはノルデンゾンの写らない壊れ物,眼圧計は錆びているシェッツ・トノメーター,視野計はフェルステルのこれも天然記念物.眼圧下降剤はエゼリン,ピロカルピンのみ.眼底検査はピロカルピン縮瞳下の倒像検査で乳頭陥凹の有無さえ透見できればよいといった低レベルで,現在からは想像もできない貧困な状況であった.近年の幾人かの天才たちによる新分野の開拓に加えて,その普及化に休むことなく努力を続けてきた眼科医たちのお蔭で今日があること,そしてその発展経過の一部始終を自ら体験し,自分のからだに緑内障学発展の歴史が刻まれていると思うと不思議な気持ちだ.現在,緑内障の木は巨木に育ったようで,その幹にも年輪の重なりとともに,歴史が刻みこまれている.私はその木蔭でまどろんだり,いじめたり,いじめられたり,シューベルトの菩提樹にあるように,愛の言葉を幹に刻んだりしてきたようだ.「あばたもえくぼ」のうちは幸せだ.「山に入りて山を見ず」という諺があるが,山に入ると,林や谷間が見えても山全体も頂上もみえなくなるというもので,物ごとに深く入り込むと,全体像がわからず,兎角,目先のことのみに囚われて,本当の姿,真理が見えなくなることを諫めた言葉である.緑内障の大樹の蔭にはいると,同じように,全体像がつかめなくなり,おまけに良い気分になってまどろんだりする誘惑のままに,満足で平和の世界に溶け込み勝ちになる.最近の豊かな情報のお蔭で,国際的なスリーピングがはじまり,まどろみに漬かっているような雰囲気となった.このまどろみの世界を脱出するには,創造力を生むための強烈なエネルギーを爆発寸前まで蓄えなければならない.既成概念の殿堂であるアカデミズムに浸っていては,孫悟空のごとくどんな凄いことをやってもそれはお釈迦様の掌の中の蠢きにすぎず,脱出もできなければ新しい世界も生まれはしない.幸か不幸か,緑内障の巨木をいまだ見きわめた人はいないのだ.近代のフランス絵画の革命をもたらしたゴッホにしろ,セザンヌにしろアカデミーとは関係ない素人であったし,印象派の巨匠モネーにしろ,世紀の天才と評価されているピカソにしろ,アカデミーから得るところなしとて脱出した人たちである.健全で着実な発展はアカデ0910-1810/09/\100/頁/JCOPY岩田和雄(KazuoIwata)新潟大学名誉教授国際的にも数少ない徹底した緑内障学メカニカル・テオリスト.類例のない正常眼圧緑内障の病理所見をベースにした理論体系を樹立.エッセーが趣味で「緑内障百話」執筆中.クラッシック音楽や雑話的エッセーも盛ん.エーデルワイス,エンチアン,数十種類の石楠花などの栽培が道楽.BMWを乗り回す.スペクトラルドメイン3D-OCT(光干渉断層計)で篩状板病態に挑戦中.(岩田)緑内障の木蔭で———————————————————————-Page21096あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009ミズムによるとしても,それは着実にレベルを上げることにすぎず,飛躍は困難である.大志を抱く人は,奥深い教養を蓄えながらも,研ぎ澄まされた創造心にあふれ,飛躍する夢を持ち続けねばなるまい.だが単なる無謀の創造心ではどうにもならない.若い頃,そんな体験をした.私が眼科入局3年のころ,春季カタールで,コーチゾンを点眼すると眼がかすむという人を診察し,眼圧が高いことに驚き,検討の結果,コーチゾン点眼で眼圧が上昇していることを確認し,まだ文献に見ない新しい病気として恐る恐る学会で発表した.だが教養もなく,学問の進め方も知らぬアマチュアではどうにもならず,症例報告に留まった.その後10年ほどしてArmaly,Beckerらがステロイドレスポンス学説を樹立して国際的に有名になったのをみて臍(ほぞ)をかんだものだ.だが,私の報告から50数年も経た現在,なお,その本態はわかってはいない.当時,緑内障の主因は隅角にありというわけで,電顕もなくて,強拡大による隅角生態観察に熱中し,サルコイドジスの線維柱帯壁につらなる隅角結節を発見し,それによる続発眼圧上昇機構をも解明した.結節タイプが他の肉芽性炎症と異なることから,診断に重要なポテンシァルとなり,現在に至っている.さらに,シュレンム管を血液逆流法で可視化し動態観察する装置を考案し,線維柱帯メッシュワークや管腔の房水流出の病態,アウトレットに流れ込む状態などを16ミリ映画に撮り,国内外でデモした.ドイツの学会ではトラベクロトミーの元祖Harms教授や,光凝固の元祖Mayer-Schwickerat教授に大変にお褒めをいただき,Tuebingen大学に招待された.アメリカではNEI(NationalEyeInstitute)に招待されて,コーガン,カッパー,クワバラら超大家の控えている前でデモしたものだ.また「君のおかげでシュレンム管というものがよく理解できた」と4代前の東北大学の桐沢教授に握手を求められたことを思い出した.実際,血液で彩られた房水が,いろいろなパターンで管腔に留まったり流出したりする状況は我ながら感動的で,病態を知るのにずいぶんと役立った.シュレンム管のアウトレット部のメッシュワークに限局して色素が点々と沈着し,そこが房水流出の主路であることも明らかにした.VascularTheoryの大元締めで,尊敬されていたバンクーバーのDrance教授とシンポジユームを担当したときに,私はMechanicalTheoryを病理組織所見をベースに主張し,Drance教授の血管説に反論したが,「ドクター・イワタは前から私の親しい友であるが,緑内障の視神経障害に関しては相容れないのは学問の上のことで,やむを得ないことだ…」.彼我ともにリタイヤーして久しく,当時を懐かしく思い出している.だが相容れない状況は現在も変わってはいない.緑内障の木蔭でまどろんだ夢が次々と思い出されて止めどがない.紙面の都合もあり,話題を変えてみよう.なんといっても,緑内障学が新しい世界に踏み出す契機を作ったのは,多治見スタディである.その十年ほど前に,私は日本眼科学会の特別講演で,眼圧が高くとも,正常でも,より低く眼圧を保持したほうが視野障害を緩めたり,停止させたりすることを後ろ向き調査で明らかにし,眼圧が正常でも進行することを強調し,タイプやステージごとに目標眼圧を設定した.多治見スタディは原発開放隅角緑内障(POAG)の92%は正常眼圧緑内障(NTG)であることを実証したが,私どもの成績とともに眼圧の高いのが緑内障という古典的コンセプトを覆す革命的事実となった.研究者の常識としては,正常眼圧でも緑内障性視神経障害(GON)をきたすのは血流障害など多因子の作用している疾患(multifactorialdisease)だからだと思い込むことになる.その後の研究でNTGでもGONに眼圧依存性の強いことがエヴィデンスとして確認された.しかしそれでも緑内障は進行することから,緑内障の本態がちらりとその姿を露見させたわけで,研究者はそこに喰らい付かねばなるまい.統計学では無視されるが,observationalstudyが新たなモチベーションを与えてくれるに違いない.科学は観察から始まるのだ.GONの解明のために日本に与えられた絶好のチャンスなのだ.話題のNTGの低脳圧現象は病態生理学的にはGONを説明できない.また緑内障で皮質中枢まで障害されるとは,単純には考えにくい.精密な追試が必要だ.現在緑内障の視神経障害は国際的に緑内障視神経症(glau-comatousopticneuropathy:GON)とよばれている.そして緑内障は視神経自身の病気と理解されている.これはきわめていい加減な表現で,惑わされてはならない.GONが自発的な視神経自身の病気とすべき根拠はどこにもない.私はGONという表現は,視神経が退行変性し消えてゆくmolecularbiologicalな複雑な処理過程を示しているにすぎず,病理所見からも視神経炎みたいな自発的疾患ではないとするのが妥当と考える.視神(90)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091097(91)経自身の疾患ならば解決は簡単だ.だが,それは本末転倒で,真の病態がますます見えなくなるのではないか.現在,臨床的に緑内障が進行しているか否かの判定法を巡って視野とか視神経線維層の厚みの変化を対象に論争が激しい.だが,それは年単位程度のごく大まかなものにすぎない.現時点で緑内障の本態がactiveに活動していることを「微分」的に確認する方法はないであろうか.未来の超高解像力OCT(光干渉断層計)が鍵を握っているのではあるまいか.私のフーリエ・ドメインOCTによる探索では,GONで視神経萎縮が起こる場合には,萎縮の前の段階で,視神経線維が腫脹することを確認できた.これこそが現在リアルタイムで観察可能な唯一のactiveなサインと考えている.また私どもは失敗したが,眼圧自動調整中枢のレベルを,エアコンの目盛りを下げてリセットし,室温を下げるみたいに調整できないか.緑内障の巨木の木蔭で見る,夢がつづく.(2009年5月,みどりの日に)岩田和雄(いわた・かずお)1927年生まれ19611963年Bonn大学留学1972年新潟大学教授1993年退官,名誉教授日本眼科学会,日本緑内障学会,日本臨床眼科学会,各総会特別講演☆☆☆

インターネットの眼科応用7.インターネット学会

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910930910-1810/09/\100/頁/JCOPY学会の意義「世界中のすべての情報をネット上に整理し,世界中の人々がアクセスして使えるようにする」1)は,Googleという巨大企業のミッションです.私は,以前にインターネットの利用方法が,軍事→通信→アダルト→物販→交流,と移行していることを紹介しました2).インターネット上の交流にはさまざまな形態があります.参加者が自由に投稿できる掲示板機能は「交流」のひとつです.ただ,静的な情報交流であってリアルタイムではありません.近年では,通信技術の発展に伴い,動的なリアルコミュニケーションがネット上で可能になりました.パソコンにウェブカメラを繋ぎ,遠隔地を繋いで会議をする事例が企業を中心に報告されています.肉声すらデジタル化され,テキスト化され議事録となります.インターネットの本質は「繋ぐ」ことにあります.人とモノを繋ぎ,人と情報を繋ぎ,人と人を繋ぎます.情報がデジタル化されるに伴い,マッチングに要する時間が圧倒的に効率化されました.では,医療現場において「現場臨床医」と「最先端の医療情報」を繋ぐ方法は何でしょうか.従来は,学会であり,論文です.論文はすでにデジタル化されインターネットで検索可能になりました.では学会はどうでしょう.インターネットとどのように融合するでしょう.学会の本質は知の結集です.その場に参加することで最先端の知に触れることができます.参加した人にしか触れることができない「神聖性」は,その場に参加するインセンティブになりますが,本来,学会が担うべき医療水準の向上には,この神聖性は,逆に閉鎖性となり,情報流通のネックとなります.結果として,学会に参加しやすい臨床医と学会に参加できない臨床医の間に,知識格差を生みます.多忙な臨床医は遠いエリアの学会には参加することができません.インターネットはその不自由さをどのように解決して,医療情報の流通をスムーズにするのでしょうか.ひと昔前は,スライドを現像してから学会に参加したものです.何度もでき栄えをチェックして,修正は学会の5日前でないと間に合いません.そんな時代がありました.今ではデジタルプレゼンテーションが主流となり,学会のデジタル化は完了しました.学会の次の進化はIT化です.インターネット上で学会が運営される日が必ず訪れます.物事が大きく変わる際には3つの段階を踏みます.まず,技術的に可能になって,つぎに法律や行政などの外部環境が整備されて,最後に人間の意識が変わって世の中に普及します.学会のIT化も医療のIT化も同じ流れを進んでいます.現在は,「技術的には可能」という段階です.以下に,インターネットを応用した先駆的な実例を紹介します.インターネット学会インターネットを用いた新しい論文投稿の形態として,PLoSONEというオンラインジャーナルがあります3).このオンラインジャーナルは,研究(実験)の方法に特に問題がなければ,結果の意義を問わず,初回投稿から数カ月で掲載されます.研究者はインターネット(87)インターネットの眼科応用第7章インターネット学会武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑦図1オンラインジャーナル「PLoSONE」———————————————————————-Page21094あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009を通じて投稿し,論文はインターネット上に掲載され,世界中の読者からコメントが寄せられます.このシステムでは,有意義な知見が査読者の一存で掲載されない可能性は減るものの,不適切なコメント・修正が増える可能性があります.読者の立場としては,玉石混淆のなかから本物を拾い出す眼力を求められます.投稿の容易さが研究者の間で話題となり,また,来年度以降にはインパクトファクターが認められるため,急速に論文数を増やしています.PLoSONEは,インターネットの特性を活用した,きわめて革新性の高い試みです.サイトの文化を決めるのは,事業者でなく参加者である,というインターネットの潮流を学界に持ち込んでいます.今後の展開に注目です(図1).インターネット学会INABIS(InternetAssociationforBiomedicalScienc-es)という国際学会があります.1994年当時,三重大学の村瀬澄夫先生が世界に先駆けて,インターネット上ですべてが完結した国際会議を開催しました4).演題審査もインターネット上で行われ,発表はポスターセッションと掲示板討論でした.このようなインターネット学会が,通信容量の少ない15年前に可能でした.主催者の先見性に驚かされるばかりです(図2).MVConlineでできること④(インターネット学会)5月号より,インターネットの医療応用の実例を紹介(88)しています.MVC-onlineでは参加する医師・歯科医師がエリアや所属を越えて意見交換しています.臨床に関する相談事が可能です.手術動画を会員限定で共有し,議論を深めることが可能です.演者の同意を得られた講演をインターネット上で共有すれば,地方都市で開催された研究会が全国学会に変貌します(図3).【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://www.google.co.jp/corporate/2)武蔵国弘:インターネットの歴史.あたらしい眼科26:221-222,20093)http://www.plosone.org/home.action4)LarkinM:Websiteinbrief.Lancet355:665-666,2000図3MVConlineで講演動画を放送中図2インターネット学会INABIS'98のホームページ☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス75.硝子体手術後に発症するドライアイ(初級編)

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910910910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに近年,眼科手術における術後のドライアイが問題となっている.なかでもLASIK(laserinsitukeratomileu-sis)では術後高率にドライアイを発症することが知られているが,硝子体手術後に発症するドライアイに関する報告は少ない.筆者らは過去に増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術施行後にドライアイを発症した症例を経験している1).例64歳,女性.左眼の増殖糖尿病網膜症に起因する硝子体出血と牽引性網膜離に対して硝子体手術を施行した.以前に両眼の白内障手術を施行されている.手術は通常のスリーポートシステムで硝子体切除,増殖膜処理,眼内汎網膜光凝固術,ガスタンポナーデを行った.手術時間は約2時間で,術中に角膜上皮擦過は施行しなかった.術直後の経過は良好で退院時の左眼視力は0.6(矯正不能)であった.しかし退院1週間後の外来受診時から左眼に点状表層角膜症(図1)が出現し,視力は0.2(矯正不能)に低下した.涙液分泌量はSchirmerI法にて左眼11mmと右眼の22mmと比較して低下しており,角膜中央部の知覚はCochetandBonnet角膜知覚計での圧力換算値が132.5g/mm3と右眼の2.79g/mm3に比べて上昇し角膜知覚の低下を認めた.ドライアイによる角膜障害と考え防腐剤を含まない人工涙液点眼およびヒアルロン酸を処方したが改善傾向はなく,上下涙点に涙点プラグを挿入したところ1週間後には点状表層角膜症は軽減(図2)し,視力は0.8(矯正不能)まで改善した.子体手術後のドライアイの特自験例では術後に使用される点眼薬およびそれらに含まれる防腐剤による涙液分泌量の低下や手術侵襲による瞬目回数の減少によって涙液クリアランスが低下し,ドライアイが発症したものと考えられる.術後点眼をいたずらに長期間投与することは控えるべきであるが,硝子(85)体手術では術後の炎症が他の手術よりも遷延することが多く,ついつい長期に点眼を使用してしまい,ドライアイが生じやすい環境を提供している可能性がある.バックリングを併用した硝子体手術では,結膜を広範囲に切開することにより不規則な隆起を眼表面に形成し,正常の涙液層が保持しにくい環境をつくっている可能性もあり,硝子体手術ではこれらのことに注意しながら術中・術後管理を行う必要がある.また,糖尿病患者は角膜知覚がもともと低下しており,それによって涙液分泌量が減少することからドライアイになりやすく,上皮細胞のバリアー機能の低下や上皮の接着不良も加わって上皮障害を起こしやすい.以上のことから,特に糖尿病網膜症の硝子体手術後の経過観察の際にはドライアイによる角膜障害に注意する必要がある.文献1)勝村浩三,佐藤孝樹,片岡英樹ほか:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に発症したドライアイの1例.眼紀56:908-910,2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載75硝子体手術後に発症するドライアイ(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1退院1週間後の前眼部写真角膜中央~下方にびまん性の点状表層角膜症を認め,矯正視力は(0.2)であった.(文献1より)図2涙点プラグ挿入1カ月後の前眼部写真涙液メニスカスは上昇と点状表層角膜症の軽減を認め,矯正視力は(0.8)まで改善した.(文献1より)

眼科医のための先端医療104.酸化ストレスと網膜色素変性症

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910870910-1810/09/\100/頁/JCOPY網膜色素変性症における錐体細胞死の謎網膜色素変性症とのとお変で細胞る性性ののとで一にので体細胞のにでのを錐体細胞たてののにとい症ると下てに体細胞るの体細胞のにるのでいのとのい錐体細胞でをて細胞死を今のとていんのに体細胞細胞死をとにをによて錐体細胞るとる説体細胞死によて性化たマ細胞にをるたに錐体細胞るとる説体細胞の細胞るたにをてお体細胞死ととにるたに錐体細胞死るとる説といの説の説体細胞に死たとに錐体細胞にたてけるのるい錐体細胞死るにるのといをに説るとでん酸化ストレス仮説でていたののよ仮説をてたでにの酸素をる体細胞死ると網膜でにた酸素錐体細胞に酸化ストレスを与てに細胞死をのでいとい仮説での仮説にのとる実験たのマウスをとい酸素下でるとの発て網膜るけで細胞で変性をるといのでた実のよていのでにでにによて細胞の酸素性てい網膜色素変性症にのを用マウスを用いた実験での仮説いとをよとたrdマウスを用いた実験にた仮説をるたにトのマウスでるマウスおよマウスを用いて下にたいの実験をいたの実験でマウスにの抗酸化薬aリポ酸,MnTBAP)を生後21日から35日まで腹腔内に注射して錐体細胞のレスキュー効果があるかどうかを調べました.その結果,無治療群に比べて錐体細胞数は有意に維持され,錐体細胞機能を反映する錐体ERG(網膜電図)も有意に大きい振幅を得ました.また,この抗酸化薬をそれぞれ単独で投与してみたところ,脂溶性抗酸化薬であるビタミンEとaリポ酸のみにその効果を認めました3).第二の実験では,マウスをrd1よりも変性の速度が遅いrd10マウスを用いてP18からP35まで同様の抗酸化薬を投与したところ,錐体細胞数,錐体細胞機能ともに有意に維持されました(図1).また,驚いたことに(81)◆シリーズ第104回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊米今敬一(名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座)酸化ストレスと網膜色素変性症酸化25355050505050505050図1抗酸化薬投与による錐体細胞のレスキュー効果rd10マウスに生後21日から4種類の抗酸化薬(ビタミンE,ビタミンC,aリポ酸,MnTBAP)を腹腔内投与した群と,溶剤のみを投与した群の生後25日および35日の代表的錐体ERG(網膜電図)の波形.———————————————————————-Page21088あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009一時的にではありますが,杆体細胞数,杆体細胞機能も有意に維持されるという結果を得ました4).これは杆体細胞数が減少する過程で網膜内酸素濃度が上昇し,錐体細胞だけでなく残っている杆体細胞にも酸化ストレスがかかってくるため,抗酸化薬によって杆体細胞死の速度が多少緩徐になったためと解釈できます.第三の実験では,抗酸化薬の代わりに4種類の一酸化窒素合成酵素阻害薬(L-NNA,L-NAME,L-NMMA,アミノグアニジン)をrd1に腹腔内注射して同様の実験を行いました.一酸化窒素(NO)は生体内で血管拡張や神経伝達に不可欠な生理的役割を果たしていますが,酸化ストレスのかかる環境下ではスーパーオキシドと反応して非常に強い細胞障害能をもつペルオキシナイトライトに変化します.筆者らは,NOもまたRPの錐体細胞死に関与しているのではないかと考えてこの実験を行いました.その結果,錐体細胞が形態学的,機能的に有意にレスキューされることが確認されました5).最後に,留学先で筆者の実験を引き継いでくださった大阪大学眼科の臼井審一先生の仕事を紹介します.ヒトの体の中には生体内で生じたフリーラジカルを消去する機能が存在します.おもにミトコンドリアで生じるスーパーオキシドは,SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)という酵素によって過酸化水素に変化し,さらに過酸化水素はカタラーゼあるいはGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)という酵素によって水に変えられます.そこで,このスーパーオキシドを消去して酸化ストレスから細胞を保護するために,ミトコンドリアに特異的に発現しているSODであるSOD2とミトコンドリア移行シグナルを連結したカタラーゼを視細胞特異的に過剰共発現するトランスジェニックマウスを作製してrd10マウスと交配し,視細胞死に対する影響を調べました.その結果,杆体細胞死には効果はありませんでしたが,錐体細胞に関しては生存細胞数およびその機能に関して有意にレスキュー効果を得ることができました6).酸化ストレスに対する生体内の防御機構を強化することでRPモデルマウスの錐体細胞死を抑制できたわけです.網膜色素変性症の治療法開発に向けて網膜色素変性症のているけで治療をるで一とのににるといのにストに実でんたてのにる細胞死のをにるとによてのにる実法てるとた今たのの錐体細胞死に酸化ストレスといーたので用にのていの実験で抗酸化薬一酸化素素薬のるい抗酸化のをのマウスのとい法を用いて果をたで抗酸化薬の薬をマウス投与た実験でい果をるとでんでた薬のたのにてでる薬のいたのいいとのとよんでたた抗酸化薬のによる性でいで今細胞を効に酸化ストレスるいーの開発文献1)YamadaH,YamadaE,HackettSFetal:Hyperoxiacausesdecreasedexpressionofvascularendothelialgrowthfactorandendothelialcellapoptosisinadultretina.JCellPhysiol179:149-156,19992)NoellWK:Visualcelleectsofhighoxygenpressures.FedProc14:107-108,19553)KomeimaK,RogersBS,LuLetal:Antioxidantsreduceconecelldeathinamodelofretinitispigmentosa.ProcNatlAcadSciUSA103:11300-11305,20064)KomeimaK,RogersBS,CampochiaroPA:Antioxidantsslowphotoreceptorcelldeathinmousemodelsofretinitispigmentosa.JCellPhysiol213:809-815,20075)KomeimaK,UsuiS,ShenJetal:Blockadeofneuronalnitricoxidesynthasereducesconecelldeathinamodelofretinitispigmentosa.FreeRadicBiolMed45:905-912,20086)UsuiS,KomeimaK,LeeSYetal:Increasedexpressionofcatalaseandsuperoxidedismutase2reducesconecelldeathinretinitispigmentosa.MolTher17:778-786,2009(82)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091089(83)酸化ストレスと網膜色素変性症を読んで今米今敬一によ網膜色素変性症における網膜細胞のよにてをけるといを酸化ストレスのでをていたいたとてい説で網膜色素変性にのとているの発網膜色素細胞網膜細胞にていると変にているととてでのにるとてー果をていたたのに治療のとるとるとにをるで網膜色素変性の治療でおに治療療網膜開発といでてたので今の米今のとたでの治療とてに効果をる性酸素をーに用いるとによ発ー効をにい化てたとをんたのとての性酸素体でていい酸化てといたてたたをるたに体でる性酸素を化るスを発てた米今の説にてる抗酸化性酸素の素にてる性酸素による効酸のをけるよにているけでののによのるとてたで治療のートとてのでとた性酸素をる治療法治療薬開発てていーーとているの症網膜症てでにているースに細胞にて性酸素にていると実でで性酸素を用とる薬の開発ておん体ているに治療薬とてたのた性酸素による網膜症ののにいの献をているのをにるとでると開発ていいでいでのよ網膜症の治療薬の開発で米今の説をお読て網膜色素変性でのの果網膜症の治療薬開発ににたのでいとたで米今ののの発をてい山山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ191.Conductive Keratoplastyによる老視の治療

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910850910-1810/09/\100/頁/JCOPYン組織内を通る際の組織抵抗により熱(約70℃)が発生し,角膜周辺部のコラーゲンを収縮し,角膜中央部が急峻化し遠視矯正効果を発揮する(図1).瞳孔中心にマーキングを行った後,専用のOptiPointCornealTemplate(図2)をマーキング位置に合わせて角膜表面に吸着固定する.ノモグラム(図3)に応じて予定した部位のTemplateの各ホールに沿って垂直に刺入凝固を行う.実際の治療適応は,正視または軽度遠視かつ乱視0.75D以下の患者で,モノビジョンを目標に手術を行う.したがって正視眼では非優位眼のみの手術となる.新しい治療と検査シリーズ(79)バックグラウンド近年,老視に対する外科的アプローチとして,マルチフォーカル眼内レンズ,老視LASIK(laserinsitukeratomileusis),モノビジョンLASIK,conductivekeratoplasty(CK)などの方法が施行されている.なかでも,CKは本来は侵襲の少ない遠視に対する治療方法として開発されたが,モノビジョンと組み合わせることより,老視治療方法としての応用が注目され,2004年に老視治療方法として米国FDA(食品医薬品局)の認可を得た1,2).治療の原理と方法Keratoplasttip(長さ450μm,直径90μm)とよばれるプローブを,角膜周辺部の実質に刺入し,先端から高周波(350kHz)の電流を作用させる.電流がコラーゲ191.ConductiveKeratoplastyによる老視の治療プレゼンテーション:戸田郁子南青山アイクリニックコメント:荒井宏幸南青山アイクリニック横浜BeforeAfter図1CKの原理(下)と術後の前眼部写真(上)図2Refratec社のViewPointsystemTemplateのホールに沿ってプローブを刺入する.8mm7mm6mm+1.0D+2.5D+1.75D+3.5D図3CKのノモグラム4つの矯正パターンがある.———————————————————————-Page21086あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009〔症例〕44歳,女性.術前の遠方視力はVD=1.5(1.5×+0.75D),VS=1.5(1.5×+0.5D).シミュレーションを行ったところ,右眼+1.0D,左眼+2.5D矯正下にて両眼遠方視力=1.5,両眼近方視力=1.0で,シミュレーションの見え方を希望された.図3のノモグラムにより実際の矯正は右眼+1.0D(8mm径8スポット),左眼+2.5D(7mm径8スポット,8mm径8スポット)を施行した.術後4カ月において,右眼遠方視力=1.5(n.c.),左眼遠方視力=0.15(1.5×2.5D(cyl-0.75DAx50),右眼近方視力=0.6(1.0×+1.0D),左眼近方視力=1.0,両眼遠方視力=1.5,両眼近方視力=1.0で,遠近ともに満足されていた.角膜形状解析にて中央部角膜の急峻化が認められた(図4).本方法の利点と欠点CKの利点は瞳孔領から離れた手術であるため,安全性が高く,また,短時間で技術的にも容易である.このため,他の屈折矯正術後のタッチアップなどにも応用できる3).しかしながら,正視眼に行う場合は遠方視力低下,惹起乱視,regressionなどの問題がある.特にregressionによる効果の減弱は遠視矯正LASIKに比較して大きく,再手術率が高いため,メーカー推奨のノモグラムよりやや強めの矯正度数選択がよいと考えられる.また,ノモグラム自体も4パターンのみであり,レーザー屈折矯正術と同等の矯正精度は期待できないので,術前の説明が大切である.1)McDonaldMB,DavidorfJ,MaloneyRKetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyper-opia:1-yearresultsontherst54eyes.Ophthalmology109:637-649;discussion649-650,20022)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.Cornea23:661-668,20043)AlioJL,RamzyMI,GalalAetal:Conductivekerato-plastyforthecorrectionofresidualhyperopiaafterLASIK.JRefractSurg21:698-704,2005(80)右眼左眼術前術後図4CK前後の角膜形状グ術のとるいリクとにするしるよにといにい本方法に方に点いし点のい視のするノモグラム術後視症例に対しる術方法上前ににい方法するとによ角膜実の部るとるよにのるの例ンートしいるのいに視ののる術とすると本術本方法に対するコメント☆☆☆

サプリメントサイエンス:レスベラトロール

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910810910-1810/09/\100/頁/JCOPYレスベラトロールとはレスベラトロール(resveratrol:RSVT)はポリフェノール類のスチルベノイドに属し,短鎖の共役二重結合と両端のベンゼン環がヒドロキシル基で置換された化学構造(図1)を有する白色の天然物質である.ブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.RSVTは1940年にユリ科シュロソウ属のコバイケイソウの根から初めて単離された.植物にはフィトアレキシンという外的ストレスや感染などから生体を防御する物質が存在し,そのうちの一つと考えられていた.RSVTは植物の細菌感染やUV(紫外線)照射により植物中で合成が促進する.植物中ではスチルビンシンターゼという合成酵素によりRSVTが合成されるのだが,その酵素は限られた植物にのみ存在し,その植物中にRSVTが存在する.細菌はRSVTの分解酵素を合成することができるので,長期に細菌感染を生じた植物のRSVT量は低下する.しかし,通常はRSVT合成の速度が分解酵素合成の速度を上回るため,それらの植物は細菌感染を防御することができると考えられている.ただ,フィトアレキシンとして発見当時はあまり注目された物質ではなかった1).古くから脂肪分の過剰摂取が動脈硬化をもたらし,心血管病変をひき起こすといわれてきたが,動物性脂肪をヨーロッパで多く摂取するフランス人にはこれらの病気が少ないことが知られており,この現象は「フレンチ・パラドックス」とよばれてきた.赤ワインにポリフェノールの一種であるレスベラトロールが多く含まれていることがわかり,RSVTを含むポリフェノール類に抗酸化作用があることからその抗酸化作用がワインを多く摂取するフランス人に恩恵をもたらしているのではないかと考えられている2).ポリフェノールは芳香族炭化水素に結合した水酸基を多数分子内にもつ化合物の総称である.その水酸基は酸化還元電位が低く,自身が酸化されることで抗酸化作用を示す.その後RSVTにはシクロオキシゲナーゼを抑制する抗炎症作用が見いだされ,ほかにも血管拡張作用,抗血管新生作用,神経保護作用,抗癌作用,抗加齢作用など多くの生理活性について報告されている3).抗加齢作用2000年にcaloricrestriction(CR;カロリー摂取制限)によりsilencinginformationregulator2(Sir2)という酵素が活性化し,酵母の寿命が延長する抗加齢作用が報告された4).その後Sir2の哺乳類ホモログであるヒトSIRT1によるp53ペプチドのinvitroでの脱アセチル化を定量することにより低分子物質ライブラリーをスクリーニングし,RSVTをはじめとする植物性ポリフェノール化合物がSIRT1活性を亢進し,酵母の寿命を延長させることがわかった.そのなかでも特にRSVTは13.4倍という最も高いSIRT1活性化作用があることがわかった5).RSVT投与による抗加齢作用は酵母,線虫,ショウジョウバエ,魚類で確認されている3).眼科への応用筆者らのグループはぶどう膜炎の動物モデルとして知(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑫(最終回)監修=坪田一男12.レスベラトロール久保田俊介*1石田晋*2*1慶應義塾大学医学部眼科網膜細胞生物学研究室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野レスベラトロールはポリフェノールの一種でブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.筆者らはレスベラトロールをぶどう膜炎モデル動物に投与し,レスベラトロールの抗炎症効果を示し報告した.レスベラトロールは安全性は高いと考えられ,将来の抗炎症治療の一つとして有望な候補と考えられる.HOOHOH図1レスベラトロールの構造式———————————————————————-Page21082あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009られる,エンドドキシン誘発ぶどう膜炎モデル(EIU)におけるRSVTの治療効果を検討した.C57BL/6JマウスにRSVTを5日間内服投与し,その後リポ多糖類(LPS)を投与後24時間で網膜血管への白血球接着数と網膜・脈絡膜における白血球接着因子(ICAM-1,MCP-1)を測定した.LPS投与3時間後の網膜の酸化ストレス(8-OHdG)と脈絡膜の核内のNF-kBを測定した.その結果,LPS投与24時間後の白血球接着数はRSVT(76)の濃度依存性に抑制されることがわかった(図2).そのメカニズムとして白血球接着因子であるICAM-1,MCP-1はRSVT投与により有意に減少することがわかった(図3).LPS投与3時間後における8-OHdGとNF-kBもRSVT投与により有意に減少することがわかった(図4).抗加齢作用として重要なSIRT1生体内活性が脈絡膜において上昇することを明らかにした(図5).今回の報告により,RSVTは眼における酸化ストレスと炎症を抑制する作用を有することが示唆された(図6)6).後極部網膜中間部網膜周辺部網膜ControlVehicleEIUResveratrol(50mg/kgBW)図2網膜血管への白血球接着数*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.矢印は網膜血管内に接着している白血球を示す.〔図2~6は文献6から許可を得て引用〕JControlVehicleResveratrol(mg/kgBW)550100200白血球接着数(cells/retina)EIU***NS**300250200150100500ControlVehicleResveratrol網膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)網膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)EIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU*************2520151050605040302010060504030201005004003002001000ABCD図3ICAM1,MCP1の発現量*p<0.05,**p<0.01.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091083(77)1日の摂取レベルと摂取すべきエビデンスレベルRSVTはサプリメントとして多く販売されているが,その最適な摂取量はいまだ不明であるのが現状である.RSVTが多く含まれることで有名な赤ワインには一杯につき約3mgのRSVTが含まれる.ピーナッツには100g当たり約0.1mgのRSVTが含まれる3).RSVTは現在いくつかの臨床応用のための治験が米国にて行われている7).臨床応用としての対象疾患は2型糖尿病,癌,そしてMELAS症候群である.なかでもMELAS症候群に対しては2008年にFDA(米国食品医薬品局)よりorphandrug(希少疾病用医薬品)としての承認が下りており,臨床応用の先駆けとして注目されている.2型糖尿病の患者を対象にした臨床試験では,28日間RSVTを5g経口投与したところ有意に血糖値の効果を得たとのことである.同様の摂取量でほかの治験も行われているため,疾病の治療目的におけるRSVT摂取は用量を考えると食事からの摂取は不可能であり,サプリメントとしての摂取となる.安全性については多くの報告が寄せられているが,明らかな副作用の報告はなく安全性は高いと考えられる.RSVTの眼科的な作用というものはあまり報告が多くなく,まだ不明な点が多い.特に動物実験で使用された報告は数少ない.そのなかでは,RSVTを40mg/kg体重でラットに4日間投与することにより,酸化ストレスが減少し白内障の発生が抑制されたと2006年に報告されている8).筆者らは2009年に,RSVTを50mg/kg体重でマウスに5日間投与することにより,生体内SIRT1を活性化し酸化ストレスと炎症が減少しぶどう膜炎を抑制したと報告した.この量はヒトに換算すると1日2.5~3gとなり,米国で施行されている治験の投与量に近似していて眼科的にも応用できる量といえる.眼科的疾患の多くは酸化ストレスや炎症が関与するものが多い.人間社会も長寿社会となり,それ伴う多くの眼科的加齢性疾患も増加している.この加齢や酸化ストレス,炎症に対する効果をもつRSVTは,疾患の予防的見地から考えても非常に重要と考えられる.現在RSVTの臨床試験は進行中であり,摂取すべきエビデンスレベルはまだどちらともいえないと考えられる.*****網膜8-OHdG発現量(ng/mgtotalDNA)ControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU302520151050NF-kBp65核内移行量(ng/mgtotalprotein)109876543210AB図48OHdGの発現量(A)とNFkBの核内移行量(B)*p<0.05,**p<0.01.NS***脈絡膜SIRT1体内活性(ofcontrol)ControlVehicleResveratrolEIU11511010510095908580図5SIRT1の成体内活性*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.図6RSVTの作用機序———————————————————————-Page41084あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(78)文献1)CucciollaV,BorrielloA,OlivaAetal:Resveratrol:frombasicsciencetotheclinic.CellCycle6:2495-2510,20072)DoreS:Uniquepropertiesofpolyphenolstilbenesinthebrain:morethandirectantioxidantactions;gene/proteinregulatoryactivity.Neurosignals14:61-70,20053)BaurJA,SinclairDA:Therapeuticpotentialofresvera-trol:theinvivoevidence.NatRevDrugDiscov5:493-506,20064)GuarenteL,KenyonC:Geneticpathwaysthatregulateageinginmodelorganisms.Nature408:255-262,20005)HowitzKT,BittermanKJ,CohenHYetal:Smallmole-culeactivatorsofsirtuinsextendSaccharomycescerevisi-aelifespan.Nature425:191-196,20036)KubotaS,KuriharaT,MochimaruHetal:Preventionofocularinammationinendotoxin-induceduveitiswithres-veratrolbyinhibitingoxidativedamageandnuclearfac-tor-kappaBactivation.InvestOphthalmolVisSci50:3512-3519,20097)BoocockDJ,FaustGE,PatelKRetal:PhaseIdoseesca-lationpharmacokineticstudyinhealthyvolunteersofres-veratrol,apotentialcancerchemopreventiveagent.Can-cerEpidemiolBiomarkersPrev16:1246-1252,20078)DoganayS,BorazanM,IrazMetal:Theeectofres-veratrolinexperimentalcataractmodelformedbysodiumselenite.CurrEyeRes31:147-153,2006☆☆☆

眼感染アレルギー:Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910790910-1810/09/\100/頁/JCOPY1906年にFuchs1)によって報告されたFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は,慢性虹彩毛様体炎,患眼の虹彩萎縮(異色),併発白内障を特徴とする疾患である.びまん性の小さな白色角膜後面沈着物や瞳孔縁の小結節,硝子体混濁などの所見に加え,白内障手術時や前房穿刺に際して前房出血をきたすことが知られている(Amslar徴候).続発緑内障に至る例も多い.青壮年期に片眼の後下水晶体混濁をきたす慢性の虹彩毛様体炎では,本症を疑って虹彩の左右差を確認することが大切である.病因についてはこれまでにもさまざまな推察がされてきたが,近年になって風疹ウイルスとの関係が注目されるようになっている.れまでに推察されてきた病因1.変性疾患説本症はステロイド薬に反応せず,虹彩萎縮に至ることから,その本態を変性疾患とする考えがある.新生児期の交感神経障害に虹彩萎縮が生じることや,本症とHorner症候群との合併例が報告されたことも,変性疾患としての可能性が疑われた根拠となっている.2.血管異常説本症の虹彩組織にはリンパ球や形質細胞の浸潤に加え,血管内皮細胞や周皮細胞の変性がみられることから,何らかの虹彩血管の異常が病態に関与している可能性が指摘されている.3.免疫異常説本症の発症に関して,免疫複合体や抑制性T細胞の異常について言及した報告のほか,角膜抗原や水晶体蛋白に対する自己免疫としての発症メカニズムを考察した(73)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑳監修=木下茂大橋裕一20.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因後藤浩東京医科大学眼科Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の原因として風疹ウイルスの関与が注目されている.眼内液(前房水)中の風疹ウイルスに対する特異抗体の上昇に加え,PCR法によるウイルスゲノムの検出,さらには分離培養の成功など,外堀が埋まりつつある.発症メカニズムの解析など,今後の研究の展開が期待される.図1Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の患眼(A)と健眼(B)患眼は虹彩が全体に粗で,萎縮傾向にあり,健眼と比較してやや明るく見える.患眼には併発白内障もみられる.白内障は急速に進行し,短期間で全白内障の状態となることがある.AB———————————————————————-Page21080あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009研究がある.また,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と特発性前部ぶどう膜炎患者の前房水を比較すると,前者ではCD8陽性T細胞の浸潤が多いほか,インターフェロン(IFN)-gやインターロイキン(IL)-10が多く,IL-12が少なかったという2).硝子体中よりT細胞を分離,培養し,そのサイトカイン産生能を調べたところ,IL-10の産生が多かったとする報告もある3).遺伝的素因については,T細胞上に発現する抑制性の補助刺激分子であるCTLA4の遺伝子多形性が本症の疾患感受性に関与するという報告がみられる4).染症1.これまでの報告従来からさまざまな病原微生物が本症の原因として候補にあがっている.本症では眼底に網脈絡膜瘢痕巣がみられることがあり,トキソプラズマとの関係が注目されたこともあるが,眼底には異常のない症例も多いうえ,血清中のトキソプラズマ抗体価が上昇していないこともあるため,懐疑的である.前房水中から単純ヘルペスウイルスDNAが検出された報告や,血清トキソカラ抗体価の上昇がみられたとの報告もあるが,追試は少ない.2.最近になって注目されるようになった風疹ウイルス前房水と血清中の風疹ウイルス抗体価を測定して抗体率を求めると,本症では風疹ウイルスの抗体率が上昇していること,18%の症例からRT-PCR(real-timepoly-merasechainreaction)法で前房水中に風疹ウイルスゲノムが検出されたとの報告がある5).また,予防接種の既往のある米国人と既往のない移民では,後者のほうが本症の発症率が高いことが示されている6).筆者らもFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の診断のもと,併発白内障もしくは続発緑内障に対して手術を行った8例を対象に,眼内液を用いて同様の検討を行ったところ,8例全例で前房水中の風疹ウイルス抗体価が上昇していることが確認され,抗体率はいずれも6以上の高値を示した.なかでも硝子体を検索した1例では抗体率が30.6ときわめて高値を示した.対照として行ったその他のぶどう膜炎では,風疹ウイルスの抗体率の上昇は(74)みられなかった.さらに3例についてはRT-PCR法により前房水中から風疹ウイルスのゲノムが検出され,RK-13細胞を用いたウイルス分離を試みたところ,2例でウイルスが検出され,1例でウイルス分離にも成功した(未発表データ).これまで硝子体液での検討やウイルス分離に関する報告はなく,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の発症や病態形成における風疹ウイルスの関与をさらに支持するデータと考えている.後の展昨今の研究結果から,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病態に風疹ウイルスが関与している可能性は高いと考えられる.おそらく,ある種の背景因子をもった個体では風疹ウイルスが抗原となり,免疫反応が生じて眼内に炎症が発症するプロセスが推察される.しかし,ウイルスの感染経路や部位,感染の時期などについては何も解明されておらず,今後の課題である.また,本症の前房水からサイトメガロウイルス(CMV)のDNAが検出されることも報告されていることから,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は複数の病原微生物によって発症する可能性もある.文献1)FuchsE:UberKomplikationenderHeterochromie.ZAugenheilk15:191-212,19062)MuhayaM,CalderV,TowlerHMetal:CharacterizationofTcellsandcytokinesintheaqueoushumour(AH)inpatientswithFuchs’heterochromiccyclitis(FHC)andidiopathicanterioruveitis(IAU).ClinExpImmunol111:123-128,19983)MuhayaM,CalderVL,TowlerHMetal:Characteriza-tionofphenotypeandcytokineprolesofTcelllinesderivedfromvitreoushumourinocularinammationinman.ClinExpImmunol116:410-414,19994)GoverdhanSV,LoteryAJ,HowellWM:HLAandeyedisease:asynopsis.IntJImmunogenet32:333-342,20055)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20046)BirnbaumAD,TesslerHH,SchultzKL:EpidemiologicrelationshipbetweenFuchsheterochromiciridocyclitisandtheUnitedStatesrubellavaccinationprogram.AmJOphthalmol144:424-428,2007☆☆☆