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眼内レンズ:眼内レンズ挿入眼の見え方シミュレーション(1)非球面眼内レンズ

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096410910-1810/09/\100/頁/JCLS各社から非球面眼内レンズが出ているが,ここでは,角膜の平均球面収差0.27μmを打ち消す負の球面収差をもつZ9003(AMO社)と,球面レンズで約0.2μmの球面収差をもつSA60-AT(Alcon社)の比較を行った.つまり,眼球光学系全体としては球面収差0μmと,0.47μmとの比較である.さらに,模型眼の前に,+0.5Dの検眼用のシリンダーレンズを挿入して,角膜に乱視がある場合のシミュレーションも行った.これにより最小錯乱円の位置から0.25Dずれることになる.模型眼はヒト眼の角膜の平均球面収差0.27μmをもつ模擬角膜レンズと水槽に入った眼内レンズとCCDカメラから成るものである.像の撮影には瞳孔径を5mmで,550(61)nmの中心波長をもつ干渉フィルターをその前に置き,Landolt環視標を5m,2m,1mに置いた.瞳孔を5mmにしたのは,違いがよく表れる大きさであるためである.光学像を図18に示す.図13はZ9003の光学像である.図46はSA60-ATの光学像である.図7と図8はZ9003,SA60-ATに,+0.5Dの検眼用のシリンダーレンズを挿入して,角膜に乱視がある場合のシミュレーションである.これらの画像を見ると,球面収差がないときはコントラスト,解像力が高く,すっきりとした像が得られているのがわかる.一方,球面収差があると,解像力はあるが,コントラストが低くなってい大沼一彦千葉大学大学院工学研究科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎273.眼内レンズ挿入眼の見え方シミュレーション(1)非球面眼内レンズヒト眼の角膜の平均球面収差0.27μmをもつ模擬角膜レンズと水槽に入った眼内レンズとCCDカメラから成る模型眼を用いて,各種眼内レンズの光学像を比較検討することができる.本稿では,非球面と球面の比較,および非点収差が角膜にある場合の光学像を示す.図1Z90035m視標の像図4SA60AT5m視標の像図2Z90032m視標の像図5SA60AT2m視標の像図3Z90031m視標の像図6SA60AT1m視標の像———————————————————————-Page2るのがわかる.球面収差がない場合,乱視があると,コントラストの低下より解像力の低下が大きく,logMARで0.4(少数視力でも0.4)くらいの視力になってしまい,球面収差を打ち消してくっきりすっきりの像が見えますといううたい文句がどこかへ消え去ってしまうことがわかる.一方,球面収差がある場合,そのようなうたい文句を言っていないので,文句はこないが,やはり,解像力の低下が大きい.しかし,注意してよく見ると,小さいLandolt環は二重像になっていることがわかる.筆者は老眼で,少し乱視がある眼である.つまり,SA60-ATに近い球面収差をもち,しかも乱視が少しあるので,このような見え方をする.今までどうして,近いところの文字を見ると二重像が見えるのか不思議であった.ボケるのだから図7のように見えるのではないのかと思っていたが,これで謎が解けたと思った.球面収差があると,レンズの中心と周辺では光軸と交わる位置が異なる.これを焦点距離が異なるとみれば,それと乱視の組み合わせで,2カ所で同じ焦点になるのではと思われる.そのほかの光はボケて重なるのであろう.瞳孔径が3mmの場合は大きな差は現れない.それは,球面収差はレンズの中心からの距離の4乗に比例して大きくなるからである.3mm瞳孔の場合,球面眼内レンズの光学像のコントラストも5mmの場合に比べて高い.白色での光学像はここでは示さないが,ここで示した単波長の像よりも少しコントラストが低い.それは,ヒト眼には約2.0Dの色収差があるため,他の波長ではフォーカスがずれていることによりボケが大きくなり,コントラストの低い像となるためである.しかし,ヒト眼は550nmに明るさ感度のピークをもち,青や赤では感度が低いため大きなボケ像を見ないことになる.非球面眼内レンズは,角膜の乱視対策として,術後のLASIK(laserinsitukeratomileusis)なども有効と思われる.レンズだけで補正することも考えれば,トーリック非球面という選択もあるかもしれない.次回は,二重焦点眼内レンズのシミュレーション像について紹介する.文献1)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(1)─Seidel収差とZernike多項式の関係.視覚の科学28:132-139,20072)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(3-1)─球面収差の基礎.視覚の科学28:6-14,20073)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(4-1)─色収差の基礎.視覚の科学29:3-11,2008図7Z90035m視標の像乱視+0.5D図8SA60AT5m視標の像乱視+0.5D図9実験に用いた模型眼とCCDカメラ

コンタクトレンズ:処方度数決定のための視力の測り方(1)

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096390910-1810/09/\100/頁/JCLS視力測定に先駆けて,他覚的屈折値を得るために,オートレフラクトメータ(以下,オートレフと略す)を操作している施設がほとんどだと思う.オートレフは誰が操作しても同じ結果が得られると思われがちであるが,実際には操作する人によって得られる結果には大きな差がある.処方度数決定のために最も大切なことは,オートレフの正しい操作方法を会得し,適切な他覚的屈折値を得ることである.ートレフはな正しく測定されないかオートレフに問題はない.問題はそれを操作する検者にある.角膜上に分布する涙液膜は,瞬目直後には乱れがあり,徐々に均一に分布するが,しばらくすると破綻して再び乱れる.また,水晶体の屈折力は静止していない.他覚的屈折値を経時的に観察すると,屈折値に揺らぎが検出される.これを調節微動とよぶ.すなわち,屈折値は絶対的な値ではなく,私たちが得ている他覚的屈折値は任意の代表値にすぎない.極力正しい屈折値を記録するためのオートレフ操作方法1.装置の設定たいていのオートレフには調節を排除するために雲霧機構が装備されている.ところが,購入したばかりのオートレフは測定の迅速性を図るために,1回の雲霧に続いて数回の屈折測定を行い,測定を終了するように設定されている.この状態では数回測定した意味がない.測定に時間を要するが,1回の雲霧後に1回の屈折測定を行い,これを数回くり返す測定モードに切り替えることが望ましい.このモードで測定した屈折値であれば,測定値の信頼度が評価できる.2.測定時に注意することモニター画面を観察しながら測定することが大切である.①眼瞼や睫毛が測定系を遮っていないか確認する.(59)遮っているときには開瞼を促し,それでも遮りが解除されない場合には,検者が眼瞼を軽く支える.②角膜に映されたマイヤーリングを観察しながら測定する.角膜上の涙液膜は絶えず変化している.角膜が涙液膜で均一に覆われたときにはマイヤーリングには歪みが観察されない.涙液膜が破綻するとマイヤーリングには歪みが生じる.涙液膜が破綻したときの屈折値には不安定な乱視が検出されることが多い.③瞳孔の動きを観察しながら測定する.雲霧機構が作動した直後の瞳は縮瞳する.これは検者がオートレフに内蔵された固視標を正しく見ている証拠である.反応がない場合には固視標を見るように促す必要がある.雲霧機構が適切に被検眼の調節を解除すれば,一度小さくなった瞳孔は速やかに大きくなる.瞳孔の動きのなかで,雲霧後に瞳が大きくなったときに測定された屈折値は比較的適切な値であることが多い.調節緊張症の眼では雲霧機構が作動した後の縮瞳が持続し,屈折値が測定されるタイミングまでに散瞳してこない.このような状況で測定されたときには,調節が強く関与した近視寄りの屈折値が記録されている.④最新のオートレフでは,オートトラッキングやオートスタート機能が装備されているので,適当に測定系を眼に近づければ,それらの装置が勝手に作動して,測定を開始してしまう.しかし,これらの装置に頼った測定では適切なデータは得られない.オートトラッキング機能が作動しない程度に,検者がジョイスティックを適切に操作すれば測定された他覚的屈折値の確度は高くなる.⑤オートレフ測定中にモニター画面を観察することで,屈折異常以外に視力低下をもたらす中間透光体の異常もチェックできる.マイヤーリングの歪みから円錐角膜などの不正乱視も予測できる.⑥オートケラトメータを操作するときには,オート梶田雅義梶田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純———————————————————————-Page2640あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)レフ操作時以上に十分な開瞼が必要である.他覚的屈折値を参考にした自覚的屈折検査の測定(図1)①乱視矯正を先に決定する.検眼レンズ枠に他覚的円柱屈折値から0.75Dを減じた値の円柱レンズを他覚的円柱軸度に一致(通常は10°あるいは5°間隔で近似させる)させて挿入する.②球面度数は他覚的球面屈折値から0.75D減じた値の球面度数を検眼枠に挿入する.この時点で,すでに1.0以上の矯正視力が得られている場合には,さらに0.75D減じて,矯正視力が1.0未満になる矯正度数に設定してから,矯正視力測定を開始する.③0.25Dずつ球面度数を増して,視力値を測定し,最良視力が得られる最弱屈折力の矯正レンズ度数を求める.球面度数が他覚的球面度数の値に達しても,1.0以上の矯正視力が得られない場合には,円柱レンズ度数を0.25D増して,やり直す.④円柱度数も球面度数も他覚的屈折値に達しても1.0以上の良好な矯正視力が得られない場合には,他覚的屈折値に頼らないで,最初からレンズ交換法による自覚的矯正度数を測定する.おわりにこのようにして測定した自覚的矯正度数をもとに,両眼同時雲霧法を用いて眼鏡やコンタクトレンズの処方度数を決定すれば,快適な矯正度数を提供することができる.視力値スタート球面度数に0.75Dをえる球面度数に0.25Dをえる視力値視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき球面値がオートレフ未満で視力値1.0未満球面値がオートレフ値に達しても1.0未満のとき円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える終了円柱度数オートレフの円柱値より小さい自覚的乱視検査オートレフの円柱値より大きい1.0以上1.0未満図1矯正視力測定のフローチャート

写真:角膜内皮移植後の移植片偏位と接着不良

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096370910-1810/09/\100/頁/JCLS(57)市橋慶之島潤東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦300.角膜内皮移植後の移植片偏位と接着不良図2図1のシェーマ①:下方へ偏位した移植片.②:前房内の空気.③:縫合糸.①②③③図3移植片接着不良(74歳,女性)移植片の位置は良好であるが,全体的に二重前房を認めている.この例では前房内の空気残量が少なく,このままでは移植片の接着は望めないため,再度空気の注入を行う必要がある.図4移植片整復術後(図3と同一症例)図3の症例で再度前房内に空気を注入した後の写真である.二重前房は消失し角膜の透明性も向上している.図1移植片偏位(63歳,男性)角膜内皮移植術翌日の写真.移植片が下方へ偏位した状態で接着している.前房内にはまだ空気が残存している.このような例では,移植片の位置を修正し再度空気を注入する必要がある.———————————————————————-Page2638あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)水疱性角膜症に対する手術としてはこれまで,全層角膜移植術が行われてきた.しかし近年,「角膜パーツ移植」という概念が生まれ,水疱性角膜症に対し角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty)が行われるようになってきた.角膜内皮移植術は全層角膜移植術と比較し,オープンスカイとならないため,手術中に生じうる駆逐性出血のリスクはより低いと考えられる.また,縫合糸を使用しないことにより術後の不正乱視は少なく,縫合糸による感染もないと推測される.さらに,全層角膜移植術と比較し眼球の強度が保たれるので,眼球打撲による眼球破裂の危険性も低いと考えられる.しかし,角膜内皮移植術は術中に前房内に空気を注入し,術後に仰臥位を保つことで空気の浮力を利用し移植片の接着を図るため,術後の移植片の接着が問題となる.残存空気量が多いと良好な接着が得られる可能性は高いが,術後に眼圧上昇を認めるリスクがあるため,適量でなければならない.また,空気が虹彩下へ回ってしまうケースがあるため,施設によっては周辺虹彩切除術を併用したり,術後に散瞳剤を投与したりさまざまな工夫がなされている.術後に移植片が偏位してしまっている場合には(図1),程度にもよるが移植片を外科的に中央に戻し,再度空気を注入し接着を図る必要がある.また,移植片の位置は良好であるが接着が不良で二重前房を認めている場合は,ある程度前房内に空気が残存している例では仰臥位を保持してもらい移植片の接着を図るが,空気の残存量が少ない例(図3),もしくは残存していない例では再度空気を注入し接着を図る必要がある(図4).何度も移植片の偏位や接着不良をくり返す例では,追加処置により角膜内皮細胞への侵襲も大きく,術後に浮腫が軽減しないケースもみられる.このように角膜内皮移植術において,いかに移植片の接着を図るかが重要なポイントの一つであると思われる.文献1)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothe-lialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)PriceMO,PriceFW:EndothelialcelllossafterDescemetstrippingwithendothelialkeratoplastyinuencingfactorsand2-yeartrend.Ophthalmology115:857-865,20083)内野裕一,榛村重人:内皮移植と最新の適応と術式.眼科手術20:175-178,2007

近視性黄班病変はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS孔網膜離(MHRD)に至ると治療成績が芳しくないため,MFの間に診断し,手術を行うことが多い.MF術前後の網膜変化はあまりに微細なため,OCTを用いることで初めて網膜復位や残存離の有無が確認できる.また,後で詳述するが,mCNVを抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法で治療する場合も,再投与や治療効果の判定にOCTは必須である.II強度近視眼の光干渉断層計所見強度近視眼では網脈絡膜萎縮による菲薄化,後部ぶどう腫形成による後部眼球形状の変化,そして何よりも眼軸延長も相まって,OCTのシグナルが減弱している.したがって画質がよくない場合も多いが,ある程度の基礎知識で,読影が正確になる.網膜色素上皮(RPE)ははじめに強度近視はわが国で40歳以上の5.5%を占め,失明原因の上位に位置する.眼軸延長に伴い多彩な合併症を生じることは知られているが,検眼鏡検査のみで診断することは非常にむずかしい.強度近視眼では網脈絡膜萎縮のため眼底の色調が全体に明るく,網膜離や黄斑円孔など,色調変化で診断する病変が捉えにくいこと,黄斑部や視神経乳頭周囲の後部ぶどう腫形成に伴い,眼底に不規則な凹凸が多数存在することなどがあげられる.確かに,自分の勘のみに頼って診療を行う限り,診断はかなり危ういが,光干渉断層計(OCT)を的確に読むことで,かなりの部分を補うことができる.I光干渉断層計が果たす役割まずOCTの登場で,強度近視の微細な病変でも捕捉されるようになった.症例が変視を訴えて来院した場合,検眼鏡検査だけで,診断を下すことは不可能である.しかしながら,OCTを用いることでいとも簡単に視力低下の原因を類推することができる.強度近視眼では中心窩分離症(MF),脈絡膜新生血管(mCNV),単純網膜下出血,変性,黄斑円孔,lacquercrackなど微細かつ,視力低下の原因となりうる病変が数多く存在するが,悪条件下でもこれら病変を正確に捕捉し,正しい診断へ至ることが必要である.この当たり前のことがOCT登場の以前はむずかしかった.さらにOCTは治療効果の判定を容易にした.黄斑円(51)631I565087122特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):631635,2009近視性黄斑病変はこう読むOpticalCoherenceTomographyFindingsinMyopia-SpeciicMacularPathologies生野恭司*図1萎縮病変が著しい強度近視眼のOCT所見CNV周囲の萎縮性変化のため,強膜の信号が非常に強調されている.———————————————————————-Page2632あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(52)をOCTで一生懸命さがすとかなりの確率で認める1).また,MF術後,ほとんどの症例では中心窩復位が得られるが,往々にして後部ぶどう腫縁の網膜分離・離は残存する.これも水平断よりむしろ,垂直断で捉えることが多く,手術で完全に除去することができない網膜血管牽引が残存する黄斑部上下で遷延しやすいものと理解できる.かなり反射が強いため,強度近視眼でも明瞭に観察されるが,萎縮性変化の強い場合は色素上皮,視細胞,脈絡膜による信号の減弱が少なく,強膜が強調される(図1).視細胞内節外節接合部の高反射層は視力が正常であっても明瞭に描出されないこともある.後部ぶどう腫の形状はさまざまだが,後述するMFやMHRDでは後部ぶどう腫がきわめて急峻で,このような特徴的な形態変化も,診断の一助となる.III中心窩分離症,黄斑円孔(+網膜離)の読み方MFはOCTで網膜分離と網膜離の両方を呈する(図2).前述したように強度近視眼では網膜が菲薄化しており,網膜がどの層で分離しているかの見分けが困難だが,頻繁にみられるパターンは外顆粒層と外網状層の間で分離しているouterretinoschisisといわれるものと,内境界膜と神経線維層で分離するinnerretinoschisisの2つである.網膜内層は硝子体,網膜前膜,網膜血管そして内境界膜の存在によりかなり伸展性が制限されており,これが網膜分離の大きな要因であると考えられている.興味深いことに,このように強度近視眼に潜む牽引力を示唆する所見は,OCTを注意深く観察するとしばしばみられるが,代表的なものは,内境界膜離や網膜血管微小皺襞である.これら所見の出現は,牽引力の源となる網膜血管の走行や後部ぶどう腫の形状が深く関わっており,水平断よりむしろ垂直断のほうが明瞭である(図3).潜在的な網膜血管牽引の存在を示唆する所見として,傍血管微小裂孔がある(図4).ときにMFの術中に認められ,術後再離の原因として重要だが,MFの症例図2網膜離を伴う典型的な中心窩分離症所見網膜の挙上に伴い,網膜分離と離の両方が混在している.図4傍血管微小裂孔の術中眼底写真図3強度近視における同一眼での水平断(上)と垂直断(下)の比較垂直断でより多くの病変をみることができる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009633(53)神経網膜が伸展できないため,より直線に近い像になる.もし仮に,神経網膜のほうが前に凸になっており,後部ぶどう腫が著明でないような場合は,手術治療を考慮せず,蛍光眼底撮影を行って,他の原因を検討する.IV脈絡膜新生血管の読み方mCNVの診断は,検眼鏡的検査だけでもできるが,実際には多くの困難を伴う.一つはCNVが小さく,発見がむずかしいこと,また周囲に萎縮性病変が伴うと,網膜色素上皮の不規則な色調変化を伴うことがあげられる.ある程度の大きさをもつCNVでは,CNVに相当する部位に出血が薄く見分けがつきやすいが,小さいCNVだと単純出血との区別がむずかしい.mCNVの確定診断には蛍光眼底撮影が要求されるが,少なくともあたりをつける段階でOCTは有用である.加えて萎縮性変化や点状脈絡膜内層症(PIC)など炎症性の瘢痕が残る例では,過蛍光が広く認められ,ときに蛍光眼底撮影赤色調が少ない強度近視眼では,黄斑円孔が診断しづらく,OCTで診断したほうが見逃しが少ない.この場合,周囲の神経網膜の形態が非常に重要である(図5).周囲網膜が平坦なものは比較的網膜にredundancyがあり,手術により閉鎖しやすいが,周囲に分離を伴っているものは,逆に少ないため,非常に閉鎖がむずかしい.したがってこのような症例を手術する際は,術前の患者への説明が非常に重要であるとともに,後部ぶどう腫の形状を矯正するため,黄斑バックリング術の併用も考慮する.MFが硝子体切除術の適応を検討する際にまず重要なのは網膜離を伴っているか否かである.網膜分離型といわれる分離だけでのタイプも硝子体切除術の適応になりうるが,視力改善の程度は低い.一方で,中心窩に網膜離を伴う中心窩離型では手術による視力改善は大きい(図6)2).後部ぶどう腫と神経網膜の形状を参考にする.一般にこのような合併症は後部ぶどう腫に沿って図5黄斑円孔の症例周囲に分離のあるもの(上)とないもの(下)で閉鎖率は異なる.図6中心窩分離の形状による手術成績の違い網膜分離型(上)は中心窩離型(下)よりも視力改善率は低い.———————————————————————-Page4634あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(54)に注意する.変視を訴えているにもかかわらず,MFや黄斑円孔網膜離を認めない場合は,中心窩外にCNVが隠れている可能性が高い.経験上後部ぶどう腫がより深くなる中心窩下方にずれる症例が多い印象があるが,全体に見ておくことが重要である.mCNVの治療として抗VEGF薬であるbevacizumab(AvastinR)が積極的に用いられている.BevacizumabはCNVを縮小させて新生血管からの漏出を抑制し,少なくとも短中期的には有効と考えられる.mCNVに対する治療レジメで確立したものはないが,再発例や遷延例も多いことから,複数回の投与を要求されることも多い.決断にはCNVの活動性の評価が欠かせないが,蛍光眼底撮影を頻回に行うのは大きな負担である.そういった点でOCTはCNVの活動性を簡便に評価するのに非常に有用である.活動性があるCNVは全体に縁取りが柔らかく,網膜下液やフィブリンを伴うことも多い.対して鎮静化したCNVは周囲に高輝度の色素上皮による囲い込みが生じており,周囲が明瞭で,内部が均の解釈がむずかしい.したがって実際は,両者を併用しながら診断を進めてゆくことになる.典型例ではclas-sictypeの小さな隆起性病変が網膜下に認められ,好条件下では,CNVが侵入するRPEの裂隙や,CNV周囲のフィブリン反応がみられる(図7).加齢黄斑変性に比べサイズが小さい,滲出性変化に乏しい,色素上皮下の病変が少ないなどの特徴をもつ.色素表皮離など網膜下の病変が主体である場合は,occulttypeCNVやポリープ状脈絡膜血管症の存在も疑うが,頻度は少ない.単純出血との区別にときに困難である.OCTの画像を詳細に観察すると,単純出血は多少の濃淡があるものの,病変が比較的均一なのに対し(図8),CNVの場合はフィブリン,新生血管膜,漿液性離などが混在し,不均一である.いずれにせよ,確定診断には蛍光眼底撮影が必要である.まず肝心なのは,mCNVを見逃さないことである.CNVが小さく中心窩外にできることが多いので,1,2本のB-scanだけで診断せず,ある程度の範囲を注意深く走査する.ときに生じる乳頭コーヌス周囲CNVは仕方ないとしても,黄斑部にできたものは見逃さないよう図7典型的なmCNVのOCT所見網膜下に侵入するclassictypeCNVがみられ,周囲に網膜下液やフィブリン反応を伴っている.図8強度近視に伴う単純出血の典型的OCT所見網膜下に凝血塊を認める.図9OCTによるCNVの活動性の判定上:活動性のあるCNVは周囲の辺縁が不明瞭で,内部も不均一である.下:鎮静化したCNVでは,周囲の辺縁が明瞭で,しかも中身は比較的均一である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009635(55)近視は眼軸長の延長によるのだが,実際の合併症として中高年以降の後部ぶどう腫形成そして脈絡膜の菲薄化から直接失明原因となるMHRD,mCNV,そして網脈絡膜萎縮を生じるのが問題である.後部ぶどう腫形成や脈絡膜菲薄化に関しては,今まで直接定量化できる方法がなく,そのためその過程や危険因子が曖昧なままであった.しかしながら筆者らは,preliminaryにではあるが,その定量化に着手し,後部ぶどう腫や脈絡膜菲薄化にある程度の規則性があることを見出した.OCTは今後,強度近視の合併症解明やリスク予測にも役立つものと期待している.文献1)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,NishimutaAetal:Detectionofparavascularlamellarholesandotherparavascularabnormalitiesbyopticalcoherencetomographyineyeswithhighmyopia.Ophthalmology115:708-717,20082)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Fovealanatomicalsta-tusandsurgicalresultsinvitrectomyformyopicfoveo-schisis.JpnJOphthalmol52:269-276,20083)IkunoY,TanoY:Retinalandchoroidalbiometryinhigh-lymyopiceyesusingspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci,2009,inpress一である(図9).このように,定期的なルーチン検査はOCTを用い,活動性が疑われた場合のみフルオレセイン蛍光眼底撮影を行って再投与を決断するというのも一つのやり方である.V今後の展望OCTは単に合併症の診断治療だけでなく,もっと役に立つのではないか.その一つの答えとして,筆者らはOCTを用いた後眼部生体計測を検討している3)(図10).図10OCTを用いた,強度近視眼での後部眼球形状計測の例OCT所見から脈絡膜厚(CT),後部ぶどう腫丈(H)など,強度近視の合併症に関わる眼球形状の変化を数値化することが可能で,進行様式の検討や危険因子の解析なども容易になると考えられる.

糖尿病黄班浮腫はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS(図3).もし内顆粒層の低反射が連続的に追えるようであれば,中心窩を含んでいない画像である可能性が高い.ただし例外として,中心窩低形成(fovealaplasia)はじめに光干渉断層計(OCT)は,タイムドメイン(TD)方式からスペクトラルドメイン(SD)方式への進化によって,深さ方向解像度が20μmから3~5μmに向上し,測定速度は70~100倍速くなった.網膜各層,外境界膜(ELM),視細胞内節外節接合部(IS/OS)がより鮮明に描出され,黄斑の網膜厚マップが数秒で得られる.本稿ではSD-OCTを中心に糖尿病黄斑浮腫の解釈について述べる.I中心窩(臨床的)を含む網膜断層像黄斑浮腫は,原則として,中心窩を含む網膜断面によって評価する.正常眼では中心窩が陥凹している(図1)が,OCTのスキャンラインが少しずれただけで中心窩の陥凹がなくなり,網膜膨化があるかのような画像になる(図2).患者の固視が不良である場合,得られた画像が中心窩を含むものであるかを判断しなければならない.OCT画像では,神経線維層,内外網状層,IS/OS,網膜色素上皮が高反射になり,神経節細胞層,内外顆粒層,視細胞層は低反射となる.中心窩では,外網状層(Henle線維層)が最内層となり,神経線維層・内網状層の高反射帯と神経節細胞層・内顆粒層の低反射層は存在しない.OCT画像を見た場合,まず内顆粒層の低反射層が連続的に追えるかどうかに注目する.中心窩を含むOCT画像であれば,網膜膨化や胞様変化の有無にかかわらず内顆粒層の低反射は中心窩付近で途絶える(45)625TO病371851133915病特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):625~629,2009糖尿病黄斑浮腫はこう読むInterpretationofOpticalCoherenceTomographyinDiabeticMacularEdema大谷倫裕*図1正常黄斑のSDOCT(水平,6mm)図3糖尿病黄斑浮腫のSDOCT(水平,6mm)中心窩には網膜膨化と胞様変化がある.内顆粒層を示す低反射(矢印)は中心窩の付近で途切れている.図2中心窩を含まないSDOCT(水平,6mm)中心窩の陥凹がない.内顆粒層を示す低反射(矢印)が途切れず連続している.———————————————————————-Page2626あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(46)く,網膜内層の層構造は保たれる.網膜内の水分貯留によって網膜組織は膨化し,OCTでは均質無構造な低反射となる(図5).2.胞様変化(胞様黄斑浮腫)糖尿病網膜症に併発した胞様黄斑浮腫の病理組織について,Tsoは,胞様変化はおもに外網状層にあり,進行例では内顆粒層・内網状層・神経節細胞層さらに神経線維層にも拡大すると述べている3).OCTでは,胞様変化は中心小窩とその周囲に胞様の低反射として描出され,網膜実質との境界は鮮明である.中心小窩では比較的大きな胞様変化が内境界膜に接するように存在する.中心小窩には内顆粒層は存在しないため,ここの胞様変化はおもに外網状層にあると考えられるが,内顆粒層と外網状層の胞様変化が融合して大きな胞になっているようにも見える.中心小窩の周囲では外網状層と内顆粒層に胞様変化が2列に存在することが多い.まれに神経線維層の付近にも胞様変化があることがあり,Tsoの報告と一致している.胞様黄斑浮腫はフルオレセイン蛍光眼底造影で花弁状あるいは蜂巣状の蛍光色素貯留として描出される.花弁状の過蛍光は,中心窩にある大きな胞に一致し,蜂巣状過蛍光のある部位では内顆粒層に胞様変化が存在した4)(図6).3.漿液性網膜離糖尿病黄斑浮腫では15%に漿液性網膜離が存在した2).OCTでは,離した神経網膜と網膜色素上皮に囲まれた低反射領域として観察され,網膜下液の背は中心窩下で最も高い(図7).ただし,網膜下液の混濁があると,下液の反射輝度が神経網膜のそれと同等になるのでは,中心窩の陥凹が消失し,網膜内層の組織も存在する.OCTで中心窩付近をスキャンしても内顆粒層の低反射は連続的に追うことができる(図4)1).II糖尿病黄斑浮腫の網膜断層像糖尿病黄斑浮腫は,浮腫の範囲や発症機転の違いによって局所性浮腫とびまん性浮腫に分類される.基本的には病的な網膜血管からの漏出によって黄斑浮腫は起こるが,硝子体の牽引が関与していることもある.糖尿病黄斑浮腫をOCTで観察すると,その網膜断層像は,網膜膨化・胞様変化・漿液性網膜離の組み合わせによって構成されている2).さらに黄斑を牽引する部分的に離した後部硝子体皮質や硬性白斑が描出されることもある.1.網膜膨化網膜膨化は糖尿病黄斑浮腫のほぼ全例でみられるが,それが単独で起こることは少なく,胞様変化を伴っていることが多い.網膜膨化はおもに外網状層に起こる.内顆粒層にも起こるが,それよりも内層には起こりにくA4中心窩低形成A:カラー眼底.中心窩の陥凹がない.B:SD-OCT(垂直,6mm).中心窩の陥凹がなく,内顆粒層の低反射(矢印)が連続して追うことができる.B5網膜膨化SD-OCT(水平,6mm):おもに外網状層に均質無構造な網膜膨化がある(△).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009627(47)で網膜膨化とまぎらわしいことがある.糖尿病網膜症や静脈閉塞症などの網膜血管病に漿液性網膜離を合併する場合,黄斑部の神経網膜にも膨化あるいは胞様変化が必ず存在する.4.硝子体牽引Lewisらは,肥厚した硝子体皮質による黄斑牽引がある症例に対し硝子体手術が有効であることを報告し,硝子体牽引が黄斑浮腫に関与していることを示した5).このような肥厚した硝子体皮質による牽引がある場合には,硝子体牽引によって網膜が変形していることが多い(図8).一方,硝子体が中心窩にピンポイントで接着して胞様黄斑浮腫が起こっていることがある.後部硝子体離や硝子体手術によって,硝子体と中心窩との接着がなくなると胞様黄斑浮腫が消失することから,このような場合にも硝子体牽引が黄斑浮腫に関与している可能性が高い6).ただし,正常眼でも中心窩の周囲で部分図6胞様変化A:蛍光眼底造影.中心窩に大きな花弁状の蛍光貯留があり,耳側に蜂巣状過蛍光がある.B:SD-OCT(水平,6mm).中心窩に大きな胞様変化があり,その耳側には外網状層に網膜膨化,内顆粒層に胞様変化(矢印)がある.BA7漿液性網膜離SD-OCT(水平,6mm):漿液性網膜離は離した神経網膜と網膜色素上皮に囲まれた低反射領域として観察される(△).網膜下液の背は中心窩下で最も高い.網膜内には,おもに外網状層に網膜膨化がある.図8硝子体牽引A:SD-OCT(水平,6mm):中心窩が,部分的に離した硝子体皮質(矢印)に牽引されている.その結果,胞様変化と網膜変形をきたしている.視力は0.2であった.B:SD-OCT(水平,6mm):1カ月後,硝子体の牽引は自然に解除された(矢印).胞様変化はまだ残っている.視力は0.3.C:SD-OCT(水平,6mm):4カ月後,胞様変化は消失している.視力は0.4.ABC———————————————————————-Page4628あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(48)6.ELMとISOS抗VEGF(血管内皮増殖因子)やステロイドの眼内投与によって,劇的に黄斑浮腫が改善しても視力は向上しないことがある.そのような症例ではOCTでIS/OSやELMが観察されないことが多い.また黄斑浮腫の程度が同じでも,ELMやIS/OSが消失している眼のほうが視力不良であり,黄斑網膜厚よりもこれらの状態が視力への影響が大きい(図10).OCT3でもIS/OSは観察可能であったが,ELMは描出できなかった.さらに黄斑浮腫があるとIS/OSもほとんど描出不能であった.SD-OCTは,高度な黄斑浮腫でなければELM・IS/OSの観察は可能である.ただし,網膜膨化や硬性白斑などによる測定光の減衰があるとELMやIS/OSが欠損しているように見えることがあるので注意が必要である.図11は胞様黄斑浮腫のSD-OCTであるが,胞様変化がない部位ではきれいにELMとIS/OSが描出されている.矢印の部位でIS/OSが脱落しているように見えるが,これは網膜膨化による測定光の減衰によるアーチファクトである.OCT画像上の大きな胞様変化的に硝子体皮質が離していることはまれではなく,中心窩周囲に部分的な硝子体離があるからといって網膜を牽引しているとまでは言い切れない.5.硬性白斑硬性白斑は網膜血管から漏出した脂質や血漿蛋白の沈着によって起こる.OCTの測定光は硬性白斑において強い反射が起こるため,硬性白斑は強い反射塊として描出される.一方,硬性白斑によって測定光がブロックされるため,その後方(強膜方向)は低反射領域となる(図9).これは超音波エコーのアコースティックシャドーに似ている.病理組織の報告では硬性白斑は外網状層に貯留する7).OCTでも,硬性白斑は外網状層に蓄積していることが多いが,さらに内層の網膜内に存在することもある.びまん性黄斑浮腫が吸収される過程で,硬性白斑が中心窩に沈着し高度な視力障害を残すことがある.このような場合,OCTでは硬性白斑と網膜色素上皮が融合しているように描出され,硬性白斑が網膜下に沈着していると考えられる8).図9硬性白斑A:カラー眼底.びまん性黄斑浮腫と硬性白斑がある.B:SD-OCT(水平,6mm).外網状層にある硬性白斑が測定光をブロックしているため,網膜外層にすじ状の低反射がある(矢印).AB10黄斑浮腫と外境界膜(ELM)および視細胞内節外節接合部(IS/OS)A:SD-OCT(水平,6mm).中心小窩には大きな胞様変化が内境界膜に接するようにある.ELMはわずかに観察されるが,IS/OSは消失している.視力は0.1であった.B:SD-OCT(水平,6mm).Aと同様に胞様変化があるが,ELM・IS/OSともに明瞭に観察できる.視力は1.0を維持している.AB———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009629(49)になり,より詳細に糖尿病黄斑浮腫を評価できるようになった.しかし,光の干渉現象によって網膜の断層画像を描出するOCTの基本原理は同じであり,OCT特有のアーチファクトに注意して画像を読影することが重要である.文献1)MarmorMF,ChoiSS,ZawadzkiRJetal:Visualinsigni-canceofthefovealpit:reassessmentoffovealhypoplasiaasfoveaplana.ArchOphthalmol126:907-913,20082)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacu-laredemawithopticalcoherencetomography.AmJOph-thalmol127:688-693,19993)TsoMO:Pathologyofcystoidmacularedema.Ophthal-mology89:902-915,19824)OtaniT,KishiS:Diabeticmacularedema─Correlationbetweenopticalcoherencetomographyanduoresceinangiography.Ophthalmology114:104-107,20075)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrecto-myfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753-759,19926)YamaguchiY,OtaniT,KishiS:Resolutionofdiabeticcystoidmacularedemaassociatedwithspontaneousvitre-ofovealseparation.AmJOphthalmol135:116-118,20037)MurataT,IshibashiT,InomataH:Immunohistochemicaldetectionofextravasatedbrinogen(brin)inhumandia-beticretina.GraefesArchClinExpOphthalmol230:428-431,19928)OtaniT,KishiS:Tomographicndingsoffovealhardexudatesindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol131:50-54,2001の下にわずかに確認できるELMは網膜色素上皮側に弯曲しており(▽),IS/OSは確認できず,この部位では視細胞外節が消失していると考えられる.まとめSD-OCTによってELMやIS/OSが観察できるよう図11黄斑浮腫と外境界膜(ELM)および視細胞内節外節接合部(IS/OS)A:SD-OCT(水平,6mm),B:補足画像.中心窩とその周囲に胞様変化がある.胞様変化がない部位ではきれいにELMとIS/OSが描出されている.矢印の部位でIS/OSが脱落しているように見えるが,これは網膜膨化による測定光の減衰によるアーチファクトである.中心窩では,ELMは網膜色素上皮側に弯曲しており(▽),IS/OSは確認できず,この部位では視細胞外節が消失していると考えられる.BA

加齢黄班変性はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS本稿でのOCT画像は白黒表示としたが,高反射領域はより黒く,低反射領域はより白く表示されている.正常網膜では,硝子体は白色系,神経線維層や網膜色素上皮は黒色系で表わされている.【AMDのOCT読影ポイント】わが国の新しいAMDの分類と診断基準1)(表1,2)に沿ってOCT読影ポイントをあげる.AMDは,おもに網膜色素上皮レベルに病巣の起源があることより,まず網膜色素上皮のラインを確認し,主要所見となる網膜色素上皮と付近の形態変化を読影し診断をつける.ついで随伴所見となる二次的に生じる網膜の形態変化を読影する.網膜色素上皮と付近の形態変化1.前駆病変前駆病変として軟性ドルーゼン,網膜色素上皮異常がはじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の診断および治療法の選択,治療効果の判定には従来から行われているフルオレセイン蛍光眼底造影(FA),インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)に加えて光干渉断層法(OCT)は必須の検査となっている.AMDに罹患している患者は,高齢者であることから可能な限り侵襲性の低い検査を行うことが望ましい.最近のスペクトラルドメインOCTは分解能が高まり,高速に鮮明な画像所見を得ることが可能となり,造影剤を静脈注射する侵襲性の検査であるFAやIAを施行しなくてもOCTだけで病態が把握でき診断が可能となる症例も多くなっている.滲出型AMDの新しい治療法である血管内皮増殖因子阻害薬(マクジェンR,ルセンティスR)の硝子体内注射は,初回治療後の長期間,追加治療の可否を決めるために定期的に頻回の診察を行う必要があるが,従来のように造影検査は毎回施行せず,OCTが補助診断として重要視されており,OCTの正確な読影が必要となる.しかし,OCTだけでなくFA,IAの所見を合わせたほうがAMDの病態の解釈がしやすい.本稿で,提示するOCT画像は,SpectralisRHRA+OCT(HeidelbergEngineering社)の機種で撮影されたものである.このSpectralisRHRA+OCTはスペクトラルドメインOCTを装備した共焦点走査型眼底検査装置で,FA,IAの造影画像とOCTの画像とが位置がずれることなく同時に得られる.(33)613RyabM10183091813特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):613623,2009加齢黄斑変性はこう読むOpticalCoherenceTomographyinAge-RelatedMacularDegeneration森隆三郎*表1加齢黄斑変性の分類1.前駆病変1)軟性ドルーゼン2)網膜色素上皮異常2.加齢黄斑変性1)滲出型加齢黄斑変性*2)萎縮型加齢黄斑変性*滲出型加齢黄斑変性の特殊型①ポリープ状脈絡膜血管症②網膜血管腫状増殖(文献1より)———————————————————————-Page2614あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(34)eration:RAP)は,滲出型AMDの特殊型に含まれている.a.滲出型AMD主要所見には,脈絡膜新生血管(choroidalneovasuc-ularization:CNV),漿液性PED,出血性PED,線維性瘢痕があげられ,少なくとも1つを満たせば確診例となる.CNV網膜色素上皮のラインに接して存在するCNVを示唆する反射領域が網膜色素上皮のどの位置に認められるのかを確認する.病理組織学的な分類ではあるがCNVの存在が網膜色素上皮の下に認めるものをType1CNV,網膜色素上皮の上に認めるものをType2CNVとするGass分類がある2).Type1CNVが20%,Type2CNVが30%,網膜色素上皮の上下にCNVを認めるType1+2CNVが50%と報告されている3).Type2CNVは網膜色素上皮のライン上に高反射塊として捉えやすい(図3).Type1CNVでは,網膜色素上皮により測定光が減弱して,CNVの反射を捉えにくいが,網膜色素上皮のラインが不整に隆起していればCNVの存在が示唆される(図4).Type1+2CNVでは,網膜色素上皮とType2CNVによりその範囲はさらに測定光が減弱するのでType1CNVは捉えにくい(図5).あげられている.軟性ドルーゼン直径63μm以上の大きさと定義されている.OCTでは網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板の間に認める均一な高反射を示し,網膜色素上皮を押し上げる.癒合したドルーゼンでは網膜色素上皮は不規則なラインを示す(図1).滲出型AMDへ移行する可能性が高いので注意が必要である.網膜色素上皮異常色素脱出,色素沈着,色素むらに加え小型の漿液性網膜色素上皮剥離(retinalpigmentepithelialdetach-ment:PED)(直径1乳頭径未満)をさす.色素沈着部位はFA,IAではブロックによる低蛍光となり,OCTではその部位に一致してRPEの高反射が周囲より増強する(図2).小型の漿液性PEDでは網膜色素上皮がドーム状に隆起するが,軟性ドルーゼンとの鑑別はドーム内が液成分で満たされるので内部反射がみられない低反射となることである.2.AMD滲出型AMDと萎縮型AMDに分類され,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousprolif-表2加齢黄斑変性の診断基準年齢50歳以上の症例において,中心窩を中心とする直径6,000μm以内の領域に以下の病変がみられる.1.前駆病変軟性ドルーゼン,網膜色素上皮異常が前駆病変として重要である.2.滲出型加齢黄斑変性主要所見:以下の主要所見の少なくとも1つを満たすものを確診例とする.①脈絡膜新生血管②漿液性網膜色素上皮剥離③出血性網膜色素上皮剥離④線維性瘢痕随伴所見:以下の所見を伴うことが多い.①滲出性変化:網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン),硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜剥離②網膜または網膜下出血3.萎縮型加齢黄斑変性脈絡膜血管が透見できる網膜色素上皮の境界鮮明な地図状萎縮を伴う.4.除外規定近視,炎症性疾患,変性疾患,外傷などによる病変を除外する.(文献1より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009615(35)図1軟性ドルーゼン上左:黄斑部に軟性ドルーゼンが多発している.上右:IA早期.ドルーゼンに一致した部位に低蛍光がみられる.下左:OCT水平断.下右:OCT拡大.ドルーゼンは網膜色素上皮(矢印①)と脈絡膜毛細血管板の間に認める均一な高反射を示す(矢頭).癒合したドルーゼン上の網膜色素上皮は不規則なラインを示す(矢印①).IS/OS(矢印②),外境界膜(矢印③).図2色素沈着上左:IA早期.黄斑部に色素沈着のblockによる低蛍光がみられる(矢印).上右:OCT垂直断.下右:OCT拡大.低蛍光部位に一致してRPEの高反射が周囲より増強している(矢頭).———————————————————————-Page4616あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(36)図3Type2CNVと随伴所見(胞様黄斑浮腫,漿液性網膜剥離,網膜下出血)上左:FA早期.上右:FA後期.矢印で挟まれた範囲に早期から境界鮮明な過蛍光を示し,後期には増強するclassicCNVの造影パターンがみられる.中心の過蛍光(矢頭)は,胞内への色素のpoolingによるものである.網膜下出血の範囲は,blockによる低蛍光を示している(※).下:OCT垂直断.矢印(FA後期と同じ位置)で囲まれ範囲に網膜色素上皮上のCNVを示唆する高反射塊がみられる.CNVの随伴所見である胞様黄斑浮腫(矢頭),漿液性網膜剥離(◎),網膜下出血(※)がみられる.網膜下出血は高反射を示し,CNVとの境界が不鮮明である.図4Type1CNV上左:FA早期.上中:FA後期.PED内は時間の経過とともにpool-ingによる過蛍光を示すが,CNVを示唆する過蛍光は中心窩周囲にはみられない.上右:IA4分.PED内は下液のblockによる低蛍光がみられ,その中央の矢印で挟まれた範囲に網膜色素上皮下のCNVを示唆する過蛍光を認める.下:OCT垂直断.矢印(IAと同じ位置)で囲まれ範囲の網膜色素上皮が不規則な隆起を示し網膜色素上皮下のCNVの存在を示唆するが,その直下のCNVの反射は強くない.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009617(37)膜毛細管板がより明瞭にみられる(図7).b.萎縮型AMD脈絡膜血管が透見できる程度の網膜色素上皮の地図上萎縮であるが,OCTでは,網膜色素上皮の高反射のラインが周囲よりも薄くなる.その範囲に一致して視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandouterseg-ments:IS/OS)の欠損を認める場合がある(図8).3.二次的に生じる網膜の形態変化フィブリン,硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜剥離の滲出性変化が滲出型AMDの随伴所見としてあげられ,網膜または網膜内出血もCNVに伴う二次的な所見として随伴所見に含まれている.治療によりCNVの活動性が低下すれば滲出や出血も減弱もしくは消失するので網膜の形態変化は治療効果と追加治療の判定に用いられる.診断基準には含まれないが,中心窩陥凹や視細胞外節内節接合部(IS/OS)の消失もAMDの二次的な所見でありOCTで捉えることができる所見である.漿液性PED診断基準では,1乳頭径未満は,前駆病変となり,CNVを伴わなくても1乳頭径以上であれば主要所見となる.PEDは網膜色素上皮のラインが後述するポリープ病巣のような急峻な立ち上がりではなくドーム状の隆起所見として認め,ドーム内は下液により低反射を呈する.時間が経過したPEDでは網膜色素上皮に色素沈着が生じていて,その部位に一致して網膜色素上皮の高反射が周囲より増強している(図6).出血性PED診断基準では,大きさは問われない.ドーム状の隆起所見として認めドーム内は血液成分により漿液性PEDよりも高反射を呈する.線維性瘢痕線維性瘢痕部位は高反射塊として認める.網膜色素上皮裂孔(診断基準以外の所見)網膜色素上皮のラインが断裂して認められる.ロールした網膜色素上皮は,内層側に隆起した高反射所見として認める.網膜色素上皮の欠損部位は,Bruch膜と脈絡図5Type1+2CNV上左:FA早期.上右:FA後期.ClassicCNV(矢頭)とoccultCNV(brovascularPED)(矢印)の造影パターンがみられる.耳側のPED(※)はpoolingによる過蛍光を示す.中左:IA早期.中右:IA後期.早期にFAのoccultCNV範囲には血管網が明瞭にみられる(矢印),後期は面状の過蛍光を示す(矢印).ClassicCNVの範囲は強い漏出を認めない(矢頭).PEDはblockによる低蛍光を示す(※).下:OCT水平断.網膜色素上皮上のCNVを示唆する高反射塊がみられる(矢頭).網膜色素上皮は隆起しその直下は網膜色素上皮下のCNVを示唆する反射がみられる(矢印).平坦なPEDもみられる(※).———————————————————————-Page6618あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(38)図7網膜色素上皮裂孔〔RAPに対するbevacizumab(AvastinR)硝子体内注射併用光線力学的療法前後〕上:治療前.上左:IA.網膜内新生血管を示唆する過蛍光(矢頭)がみられる.PEDの範囲は下液のblockによる低蛍光がみられる.上右:OCT垂直断.網膜色素上皮がドーム状に隆起し,内部は下液により低反射となる.網膜浮腫(矢印),漿液性網膜剥離(※)がみられる.下:治療3カ月後.下左:IA.網膜色素上皮裂孔部位は脈絡膜中大血管が明瞭にみられる(矢印で挟まれた範囲).ロールした網膜色素上皮による低蛍光がみられる(矢頭).下右:OCT垂直断.矢印(IAと同じ位置)で囲まれた範囲に網膜色素上皮は認めず,Bruch膜と脈絡膜毛細管板がより明瞭に認められる.ロールした網膜色素上皮が隆起している(矢頭).網膜浮腫,漿液性網膜剥離は認められない.図6漿液性PED上左:FA早期.上中:FA後期.PED内は時間の経過とともにpoolingによる過蛍光を示す.色素沈着のblockによる低蛍光がみられる(矢印).上右:IA2分.PED内は下液と色素沈着のblockによる低蛍光がみられる(矢印).下:OCT水平断.網膜色素上皮がドーム状に隆起し,内部は下液により低反射となる.色素沈着を伴う部位は高反射が増強している(矢印).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009619フィブリン検眼鏡的には,網膜下灰白色病巣として認めるが,OCTではCNVやポリープ状病巣に隣接する高反射所見として認める(図9).硬性白斑網膜内に高反射所見として認め,それより直下の外層の反射は減弱する.網膜浮腫軽度な網膜浮腫から,胞を形成する胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)(図3)まで形態はさまざまである.漿液性網膜離網膜色素上皮と感覚網膜の間の均一な低反射所見として認める(図3).(39)図8萎縮型AMD上:IA10分.網膜色素上皮の地図上萎縮は境界鮮明な円形な範囲である(矢印で挟まれた範囲).下:OCT垂直断.矢印(IAと同じ位置)で囲まれた地図上萎縮の範囲は網膜色素上皮の高反射のラインが周囲より薄くなっている.またその範囲に一致してIS/OSの欠損を認める.中心窩の陥凹は認めるが網膜厚は薄い(矢頭).図9フィブリンを伴うPCV上左:FA早期.上右:FA後期.早期から後期にかけてIAのポリープ状病巣に一致して過蛍光を示す(矢印).IAの異常血管網の範囲はwin-dowdefectの過蛍光を示す(小矢頭).後期に拡大する過蛍光はフィブリンのstainingである(大矢頭).中左:IA早期.中右:IA後期.ポリープ状病巣は瘤状の過蛍光を示す(矢印).異常血管網は小矢頭で囲まれた範囲に認める.フィブリンのblockによる低蛍光が見られる(大矢頭).下:OCT垂直断.ポリープ状病巣は,網膜色素上皮が急峻な立ち上がりを示す隆起性高反射所見として認められる(矢印).その上方にポリープ状病巣から析出したフィブリンは高反射所見として認める(矢頭).Type2CNVの高反射塊との鑑別はFA所見を参考にする.———————————————————————-Page8620あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(40)図10ポリープ状病巣と異常血管網上左:IA早期.上右:IA後期.ポリープ状病巣は,早期には,細血管の形態を示し,後期に瘤状の過蛍光を示す(矢印).異常血管網は口径不同,拡張,蛇行などの走行異常が認められ,後期は面状の過蛍光を示す(矢頭).下左:水平断.下右:拡大像.ポリープ状病巣は,網膜色素上皮が急峻な立ち上がりを示す隆起性高反射として認められる(大矢頭).内部の血管構造は点状の高反射として認める(矢印).異常血管網の範囲は網膜色素上皮を示す高反射帯とそれより外層にみられる高反射帯の間に間隙が認められ,その所見はdouble-layersignとよばれる(小矢頭).図11網膜下出血によりIAで検出できないポリープ状病巣上左:網膜下出血と出血性色素上皮剥離を認める.上右:IA7分.出血によるblockのためポリープ状病巣が検出できない.下:OCT水平断.網膜色素上皮の急峻な立ち上がりを示す隆起性病巣はポリープ状病巣を示唆する(矢頭).網膜剥離内に認める網膜下出血は高反射を呈する(※).矢印はIAの矢印と同一部位.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009621網膜下出血網膜剥離内に認める出血は高反射所見を呈する(図11).FA,IAで出血によりblockされる場合にCNVの大きさはOCTで判断するが,Type2CNVに伴う出血の場合,反射が同程度でCNVとの判別がしにくい症例もある(図3).中心窩陥凹(診断基準以外の所見)中心窩への滲出が軽度であれば中心窩陥凹は保たれる.一旦消失した中心窩陥凹が治療により回復することもあり,治療効果の判定に用いられる. 視細胞外節内節接合部(IS/OS)(診断基準以外の所見)網膜色素上皮のラインより内層に認めるIS/OSラインの欠損の有無は,病態の進行度や治療効果の判定の指標となる(図8).4.滲出型AMDの特殊型PCVPCVのポリープ状病巣や異常血管網は網膜色素上皮より下に存在するので網膜色素上皮のラインから確認する.ポリープ状病巣は網膜色素上皮が急峻な立ち上がりを示す隆起性高反射として認められる4,5).ポリープ状病巣内の血管構造は点状の高反射として認められる場合がある(図10).異常血管網は網膜色素上皮とそれより外層にみられるBruch膜を示唆する高反射帯の間に間隙(double-layersign)を認める6)(図10).ポリープ状病巣がフィブリンに覆われる場合には網膜色素上皮の隆起性高反射の上に厚い高反射の所見がみられるが,網膜色素上皮の上に認めるType2CNVとの鑑別がむずかしいことがある7)(図9).網膜下出血によりIAでポリープ状病巣が検出できない場合でも,出血下の網膜色素(41)外境界膜図12RAPStage1網膜内新生血管(対側眼はRAPStage3)上:FA早期.周中心窩毛細血管の鼻側(A)と耳側(B)に網膜内新生血管を示唆する瘤状過蛍光を認める.下左:OCTAの垂直断.下右:OCTBの水平断.A(黒矢頭:FAの矢印と同じ位置)とB(白矢頭:FAの矢印と同じ位置)の網膜内新生血管は高反射所見を示すが,外境界膜に達していない.———————————————————————-Page10622あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009上皮の急峻な立ち上がりを示すポリープ状病巣を捉えることができることもある(図11).RAPOCTでは網膜内新生血管は,高反射所見として描出される.網膜内新生血管(図12)が網膜外層に伸展し網膜下新生血管と一体となり高反射所見としてみられる(図13).その下の網膜色素上皮は断裂している場合がある8).網膜色素上皮下のCNVは,網膜内および網膜下新生血管と網膜色素上皮により測定光が減弱して捉えにくいのでIA所見と合わせて読影する(図14).胞様浮腫,網膜剥離,PEDもOCTで確認する.Yannuzziらは3つの病期を提唱している9).Stage1は,網膜内新生血管である(図12).Stage2は,網膜内新生血管が下方に伸展し,網膜下新生血管を伴うもので,PEDを伴わない場合と伴う場合がある(図13).Stage3は,さらに伸展してCNVを伴うものである(図14).しかし,Gassらは,このStage1および2の時点で,すでにCNVが存在していると考え,異なった病期分類をしている10).最近ではYannuzziが,RAPをType3neovascularizationと命名し,CNVに起因するもの,網膜内新生血管に起因するもの,および網膜内新生血管とCNVが同時に起因するものがあると報告している11,12).TruongらのフーリエドメインOCTによるRAP5眼の検討では,4眼では網膜内新生血管はPEDに接し網膜色素上皮の断裂を通して網膜色素上皮の前後に認めたがCNVは認められないことより新生血管は網膜内から発生,1眼のみ網膜下および網膜色素上皮下新生血管を認めたことから新生血管は網膜色素上皮下から発生したと報告している8).(42)図13Stage2(PEDを伴わない)網膜内および網膜下新生血管上左:FA早期.上中:FA後期.網膜血管と吻合する網膜内および網膜下新生血管を示唆する瘤状過蛍光を認める(矢印).上右:IA早期.網膜内および網膜下新生血管を示唆する瘤状過蛍光を認める(矢印).下:OCT垂直断.網膜内新生血管が網膜外層に伸展し網膜下新生血管と一体となり高反射所見としてみられる.その下の網膜色素上皮は断裂している(矢印).網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板の間に認める均一な高反射はドルーゼンである(※).———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009623おわりに本稿では,新しいAMDの分類と診断基準に沿って読影ポイントをあげた.これはAMDの分類と診断基準にはOCT所見は含まれていないが,OCT所見を含めることでより正確に診断できると考えたからである.AMDは主要所見と随伴所見にさまざまなバリエーションがあり,OCT所見の解釈もむずかしい場合がある.今後は,さらに高速で高解像度の画像が得られるOCTが登場し,より詳細な病態が把握できるようになるが,これまでの解釈とは異なるものがでてくると思われる.文献1)髙橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎,湯澤美都子(厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性診断基準作成ワーキンググループ):加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,20082)GassJDM:Biomicroscopicandhistopathologicconsider-ationsregardingthefeasibilityofsurgicalexcisionofsub-fovealneovascularmembranes.AmJOphthalmol118:285-298,19943)GreenRW,EngerC:Age-relatedmaculardegenerationhistopathologicstudies.Ophthalmology100:1519-1535,19934)IijimaH,ImaiM,GohdoTetal:Opticalcoherencetomographyofidiopathicpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.AmJOphthalmol127:301-305,19995)IijimaH,IidaT,ImaiMetal:Opticalcoherencetomogra-phyoforange-redsubretinallesionineyeswithidiopathicpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol129:21-26,20006)SatoT,KishiS,WatanabeGetal:Tomographicfeaturesofbranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina27:589-594,20077)尾辻剛,津村晶子,高橋寛二ほか:自然観察中にclassic脈絡膜新生血管の所見を示したポリープ状脈絡膜血管症の検討.日眼会誌110:454-461,20068)TruongSN,AlamS,ZawadzkiRJetal:HighresolutionFourier-domainopticalcoherencetomographyofretinalangiomatousproliferation.Retina27:915-925,20079)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.Retina21:416-434,200110)GassJD,AgarwalA,LavinaAMetal:Focalinnerretinalhemorrhagesinpatientswithdrusen:Anearlysignofoccultchoroidalneovascularizationandchorioretinalanas-tomosis.Retina23:741-751,200311)YannuzziLA,FreundKB,TakahashiBS:Reviewofreti-nalangiomatousproliferationortype3neovascularization.Retina28:375-384,200812)FreundKB,HoIV,BarbazettoIAetal:Type3neovas-cularization:theexpandedspectrumofretinalangioma-tousproliferation.Retina28:201-211,2008(43)図14RAPStage3網膜内,網膜下新生血管およびCNV上左:FA早期.上中:FA後期.網膜血管と吻合する網膜内および網膜下新生血管を示唆する過蛍光を認める.後期に蛍光色素の強い漏出を認める(矢印).OccultCNV(小矢印)の所見がみられる.上右:IA3分.網膜内および網膜下新生血管を示唆する瘤状過蛍光を認める(矢印).PED内は下液のblockによる低蛍光がみられる(矢頭).網膜色素上皮下のCNVを示唆する過蛍光がみられる(小矢印).下:OCT水平断.網膜内および網膜下新生血管は一体となり高反射所見としてみられ(矢頭).その下の網膜色素上皮に接する.その部位の網膜色素上皮は断裂しCNVを示唆する反射所見がみられる(矢印).PEDを認める(※).

中心性漿液性脈絡網脈症はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSたい.ICSCの分類CSCは臨床的には,上述したような典型的なclassicCSC,漿液性網膜離が遷延・慢性化した慢性型CSC,および劇症型のbullousretinaldetachment(胞状網膜離)に分類される.ClassicCSCは,片眼性に中心窩を含む漿液性網膜離を生じ,変視や小視,中心暗点,視力低下をひき起こす.自然軽快することも多く,約半数の症例では23カ月で,後遺症もなく改善するとされる.ただし,残り半数の症例では,ときに症状が遷延し,治療に苦慮することになる.フルオレセイン蛍光眼底造影で造影初期から漏出が確認され,徐々に拡大する.漏出の強い症例ではフィブリンの析出をみることがある.慢性型CSCは,やや高齢者に多くみられ,両眼性のこともある.再発をくり返し長い経過をとる.網膜色素上皮の変性・萎縮所見がみられることが多く,フルオレセイン蛍光眼底造影では,造影早期から同部位の網膜色素上皮異常によるwindowdefectと淡い蛍光漏出が観察される.漏出部位は点状には同定されず,びまん性に観察される.インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,classicCSCよりも広範囲にわたる脈絡膜血管透過性亢進が観察される.網膜色素上皮異常が高度になると,加齢黄斑変性,特にポリープ状脈絡膜血管症(PCV)との鑑別が必要になることがある.はじめに中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は,黄斑部に漿液性網膜離を生じることで視機能障害をきたす疾患である.以前には中心性網膜炎とよばれていた.中高年の男性に好発し,古くからストレスやA型気質との関連が指摘されている.またステロイド療法による発症も多く報告されている.フルオレセイン蛍光眼底造影によって,造影初期より網膜色素上皮レベルからの点状蛍光漏出が1カ所または数カ所で証明され,徐々に拡大する.漏出の形態には,噴出型や円形増大型などがある.インドシアニングリーン蛍光眼底造影では,脈絡膜血管透過性亢進,脈絡膜充盈遅延などが高率に生じており,その範囲がフルオレセイン蛍光眼底造影における漏出部位より広範に観察される1).このことから本疾患は脈絡膜血管障害が,その本態であり,網膜色素上皮は二次的に障害されていることがわかってきている.光干渉断層計(OCT)は,1997年にわが国に紹介されて以来,非侵襲的・他覚的に網膜構造を観察できるツールとして,研究分野だけでなく,臨床的にもなくてはならないものとなっており,所見の解釈についても一定の共通理解が得られている2).最近ではスペクトラルドメインOCTの登場によりさらなる高速化・高解像度化に成功し,さしずめ生体顕微鏡ともよべるほどに進化している.本稿では,この現在進化中のOCTを用いて古くからわれわれ眼科医にとってなじみ深いCSCを紐解いてみ(25)605IchiroMaruoTomohiroIida96012951特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):605612,2009中心性漿液性脈絡網膜症はこうむOpticalCoherenceTomographyofCentralSerousChorioretinopathy丸子一朗*飯田知弘*———————————————————————-Page2606あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(26)感覚網膜と網膜色素上皮層の間に低反射域が観察される(図1).ここに漿液性網膜下液が貯留している.断層像ではなく,網膜に水平な面としてみると(いわゆるC-スキャン),中心に下液の貯留した低反射域とそれを円周状に囲むように感覚網膜の層構造が観察される(図2).急性期には変視や小視を訴えるが,これは網膜の層構造自体は保たれているものの,網膜全体の浮腫や肥厚が起こっているためと考えられている.視力が早期から低下する例,仕事などのために早期から視力回復を希望する例や遷延または再発する症例に対しては,フルオレセBullousretinaldetachmentは,わが国では多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)ともよばれ,現在はCSCの疾患概念に含まれている.両眼性の漿液性網膜離が胞状にみられる.高度なフィブリン析出が観察されることも特徴である.漿液性網膜離が遷延化すると,高度な視力障害をきたすこととなる.IIOCT所見の特徴1.ClassicCSC急性期の典型例では,中心窩を含む漿液性網膜離がみられるが,OCTでは網膜の層構造は保たれたまま,漿液性網膜離漏出部位図146歳,女性のclassicCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)左眼視力(0.9).眼底写真:中心窩を中心とした円形の漿液性網膜離がみられる.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):初期像.蛍光漏出部位が確認される.光干渉断層計(SpectralisOCT):中心窩下に漿液性網膜離がみられる.SpectralisOCTでは他のOCTと異なり白黒が反転して表示されている.①OCT-C7C-スキャン②OCT-C7C-スキャン①②図240歳,男性のclassicCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)右眼視力(1.0).光干渉断層計(OCT-C7):垂直断.中心窩に漿液性網膜離がみられる.眼底写真:中心窩を中心とした円形の漿液性網膜離がみられる.OCT-C7Cスキャン像:同心円状の漿液性網膜離がみられる.OCT垂直断の①②に対応した所見である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009607(27)外節部位が高反射を示し,場所によっては一部突出した所見や網膜外層全体が肥厚している所見が観察されることがある(図5a)5).これは以前には下液が濃縮したことによる脂質の蓄積とされていたが,現在では視細胞外節が,網膜色素上皮細胞での貪食が行われないことで伸長した結果であり,視細胞外節障害を示唆する所見と考えられている.漿液性網膜離の自然吸収過程や網膜レーザー治療後には,検眼鏡的に点状の白色斑であるプレシピテートやそれよりもやや大きいdepositといった網膜下黄色沈着物が観察されることがある.プレシピテートはOCTでも点状の高反射組織として感覚網膜直下に,伸長したと考えられる視細胞外節の一部として確認されるが,よく見てみると網膜直下だけでなく,網膜色素上皮層の上や網膜内,特に網膜外層内に観察されることがある(図5b)6).最近ではこのプレシピテートやdepositが眼底自イン蛍光眼底造影での漏出部位に対しレーザー光凝固術を施行することがある(図3).OCTでは残存した薄い漿液性網膜離もよく観察できる.早期の復位例では視細胞内節外節境界であるIS/OSが早期から描出されるものが多い.このIS/OSはCSCの視力予後を判断するための指標になると考えられている3).CSCでは変視はあるものの視力は一般的によく保たれている.最近の筆者らの検討では,自覚症状発症から1カ月以内の裂孔原性網膜離症例とCSC症例の離網膜の構造をOCTで比較検討したところ,裂孔原性網膜離時の離網膜では外顆粒層が有意に厚くなっていた(図4)4).その厚みと網膜離の丈の高さだけが術後の視力予後との相関をもっていた.このことからも,CSCでは網膜層構造が比較的保たれているため視力が維持されていると考えられている.離期間が長くなってくると,離網膜直下の視細胞3D-OCT初診時レーザー1カ月後図357歳,男性のclassicCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)術前後で左眼視力は(1.0)から(1.2)に改善.眼底写真:初診時.中心窩に漿液性網膜離がみられる.光干渉断層計(3D-OCT):上段─初診時.中心窩に漿液性網膜離がみられる.下段─レーザー光凝固後1カ月.漿液性網膜離は消失している.外顆粒層の膨化裂孔SpectralisOCT図457歳,女性の裂孔原性網膜離初診時左眼視力(0.2).眼底写真:裂孔原性網膜離.下方に裂孔.中心窩まで網膜離が及んでいる.光干渉断層計(SpectralisOCT):離は中心窩まで及んでいる.網膜外層,特に外顆粒層の膨化が観察される.周辺にいくに従って,網膜外層が波打ったように歪んでいるのがわかる.———————————————————————-Page4608あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(28)中等度の反射領域として観察される.ときにその中心に低反射領域がみられ,同部位は漏出液のルートとなっていると考えられている(輪状の白色斑紋,図6)8).漏出部位を正確にOCTで観察すると小さな網膜色素上皮離や網膜色素上皮の不整がみられると報告されており,最近のさらに高解像度のスペクトラルドメインOCTで発蛍光を示すことから,離網膜内や網膜下腔のマクロファージなどが網膜下に蓄積した視細胞外節を含む老廃物を貪食・代謝することで形成されたものではないかと推察されている7).蛍光漏出部位には検眼鏡的にはフィブリンと考えられる白色斑紋がみられることがあるが,これはOCTでは①水平断②垂直断漏出部位漏出部位FA①②SpectralisOCT離網膜下の高反射a眼底写真:中心窩に漿液性網膜離が観察される.光干渉断層計(SpectralisOCT):上段─水平断.中心窩に漿液性網膜離がみられる.中心窩網膜下に高反射組織が観察される.下段─垂直断:水平断と同様に中心窩網膜下に高反射が確認できる.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):初期(左),中期(右)─漏出点が確認できる.?離網膜内,下および網膜色素上皮上の高反射SpectralisOCT②垂直断拡大b光干渉断層計(SpectralisOCT):垂直断の拡大像.高反射組織は網膜下だけでなく,離網膜内,および網膜色素上皮上に観察される.図556歳,男性のclassicCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)右眼視力(1.2).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009609(29)Fibrin漏出のルートCirrusOCT図639歳,男性のclassicCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)右眼視力(1.0).眼底写真:中心窩に漿液性網膜離.中心窩上鼻側に輪状の白色斑があり,フィブリンと考えられる.光干渉断層計(CirrusOCT):輪状白斑部位に一致して高反射.その中心を漏出液が通っていると推察される.漏出部位漏出点拡大SpectralisOCTFA漿液性網膜離網膜色素上皮の断裂図747歳,男性のclassicCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)左眼視力(1.2).眼底写真:中心窩を中心とした漿液性網膜離が観察される.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):初期像.漏出部位が確認できる.光干渉断層計(SpectralisOCT):漏出部位の垂直断.漿液性網膜離が確認され,網膜色素上皮のわずかな隆起がみられる.垂直断の拡大像:網膜色素上皮の断裂像がみられる.FA菲薄化した網膜SpectralisOCT図846歳,男性の慢性型CSC(中心性漿液性脈絡網膜症)右眼視力(0.2).眼底写真:縦に伸びた中心窩を含む漿液性網膜離が観察される.網膜色素上皮の萎縮所見がみられる.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):windowdefectとその内側に多発する淡い蛍光漏出がみられる.光干渉断層計(SpectralisOCT):垂直断.広く薄い漿液性網膜離と中心窩を含み菲薄化した網膜が観察される.———————————————————————-Page6610あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(30)IS/OSや外境界膜が観察されず,視力も回復しない場合がある.慢性型ではすでに網膜色素上皮自体にも障害が及んでいるため,急性期症例よりも網膜色素上皮離や網膜色素上皮の不整がみられ,その範囲も広い.感覚網膜が菲薄化すると視力予後も悪化することが示されており,レーザー光凝固術などにより早期に網膜下液の吸収を図る必要がある10).さらに進行してくると網膜の内外層に胞様変化を伴う症例もある.このような症例ではフルオレセイン蛍光眼底造影をすると,windowdefectが観察されるのみで胞への漏出所見がみられないことがあり,これは胞はそのなかに網膜色素上皮の断裂像が明瞭に確認できるものもある(図7)9).2.慢性型CSC急性期症例では離網膜自体が肥厚するのに対して慢性型のCSCでは感覚網膜は,むしろ菲薄化していることが多い(図8).急性期にみられていた視細胞外節の伸長や網膜外層の肥厚は少なくなり,逆に網膜外層が薄くなっている.症例によっては,外境界膜が描出されないこともある.そこまで感覚網膜の障害が進むと,漿液性網膜離が消失したとしても,復位後のOCT所見で胞様変性SpectralisOCT図983歳,男性の慢性型CSC(中心性漿液性脈絡網膜症)におけるCMD(胞様黄斑変性)右眼視力(0.2).眼底写真:網膜色素上皮の萎縮が広範囲に確認できる.光干渉断層計(SpectralisOCT):胞様黄斑変性が観察される.オカルト型ポリープ状病巣ポリープ状病巣に一致した網膜色素上皮の隆起FAIASpectralisOCT図1068歳,女性のポリープ状脈絡膜血管症(PCV)右眼視力(0.4).眼底写真:中心窩鼻側を中心に漿液性網膜離と一部灰白色病変がみられる.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):病変部に一致してオカルト型脈絡膜新生血管の所見がみられる.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA):病変部にポリープ状病巣が確認できる.光干渉断層計(SpectralisOCT):ポリープ状病巣に一致した網膜色素上皮の急峻な隆起が観察される.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009611様黄斑浮腫(CME)に対して胞様黄斑変性(CMD)とよばれる(図9)11).網膜色素上皮の障害が高度な症例では,加齢黄斑変性,特にオカルト型脈絡膜新生血管やPCVとの鑑別が困難な症例が存在する.このような場合には,OCTで中心窩を水平断や垂直断で観察するだけでなく,漿液性網膜離部位全体を捉え,網膜色素上皮離や網膜色素上皮の不整の存在部位を注意深くみることが大事である.50歳以上の症例においては,中心窩下に活動性病変がなくても,ほんの少しずれたところにでも,網膜色素上皮の急峻な突出を見つけたら,PCVの可能性が強く示唆されることから,造影検査をして確認する必要がある(図10).今後はこのように非侵襲的検査であるOCTで病変を探索し,必要な場合に造影検査をするようになっていく可能性もあり,小さな病変でも逃さないようにすることは大事である.そのためにはスペクトラルドメインOCTにおいて病変部全体を観察し3D画像を取得し,まんべんなく観察することも重要である.(31)FAOCT-C7漏出部位網膜色素上皮離網膜色素上皮離①①②②図1152歳,男性のbullousretinaldetachment(胞状網膜離)右眼視力(0.1).眼底写真:中心窩に大きな漿液性網膜離が観察される.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):多発する漏出点と網膜色素上皮離が観察される.光干渉断層計(OCT-C7):①水平断,②垂直断.丈の高い漿液性網膜離と網膜色素上皮離が観察できる.図1282歳,女性の原田病右視力(0.1).眼底写真:中心窩に漿液性網膜離が観察できる.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):広範囲に多発点状漏出点が確認できる.光干渉断層計(3D-OCT):漿液性網膜離がみられるが,その内部は隔壁によって仕切られている.FA多発点状漏出網膜離内が隔壁で仕切られている3D-OCT———————————————————————-Page8612あたらしい眼科Vol.26,No.5,20093.Bullousretinaldetachment(胞状網膜離)わが国ではかつてMPPEともよばれていたが,現在ではCSCの劇症型と考えられている.その名のとおり,眼底後極部から下方にかけて高度な胞状の網膜離を呈する.フルオレセイン蛍光眼底造影では多発する蛍光漏出が証明される.離の丈が高い症例でOCTではその全体像を把握することはむずかしい.急性期では離網膜の膨化が観察されることが多いが,滲出が長期化してくると感覚網膜の菲薄化が生じてくる.離部位では,大小さまざまな程度の網膜色素上皮離が生じている.離が高度の場合には検眼鏡的に観察するのは困難な場合もあるが,OCTでは適切な部位の断面をみれば容易に観察できる(図11).胞状の網膜離を呈することから裂孔原性網膜離,原田病との鑑別がむずかしいこともある.他の検査を行えば鑑別は可能であるが,OCT所見においては,裂孔原性網膜離では感覚網膜の変化が強いこと(前述,図4),原田病では,フィブリンにより形成されると考えられる網膜下の隔壁が観察されること(図12)などの点が異なる.おわりに以上のようにCSCをclassicCSC,慢性型CSCおよびbullousretinaldetachmentの3つに分類し,それぞれのOCTにおける特徴について述べた.CSCは視力予後がよい疾患と安易に診断されている傾向があるが,視力では測れない視機能異常が残存することも多く,形態的評価だけでなく,機能的評価も合わせて病態を評価することが重要と考えられる.今後はOCTだけでなく,眼底自発蛍光,微小視野計,多局所網膜電図などを用いた網膜機能評価も合わせて行っていくことが必要になると思われる.それらを組み合わせてCSCのさらなる病態解明が進むことが望まれる.文献1)IidaT,KishiS,HagimuraNetal:Persistentandbilateralchoroidalvascularabnormalitiesincentralserouschori-oretinopathy.Retina19:508-512,19992)岸章治(編):OCT眼底診断学.エルゼビア・ジャパン,20063)OjimaY,HangaiM,SasaharaMetal:Three-dimensionalimagingofthefovealphotoreceptorlayerincentralserouschorioretinopathyusinghigh-speedopticalcoher-encetomography.Ophthalmology114:2197-2207,20074)MarukoI,IidaT,SekiryuTetal:Morphologicchangesintheouterlayerofthedetachedretinainrhegmatoge-nousretinaldetachmentandcentralserouschorioretinop-athy.AmJOphthalmol147:489-494,20095)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphoto-receptoroutersegmentincentralserouschorioretinopa-thy.AmJOphthalmol145:162-168,20086)KonY,IidaT,MarukoIetal:Theopticalcoherencetomography-ophthalmoscopeforexaminationofcentralserouschorioretinopathywithprecipitates.Retina28:864-869,20087)SpaideRF,KlancnikJMJr:Fundusautouorescenceandcentralserouschorioretinopathy.Ophthalmology112:825-833,20058)SaitoM,IidaT,KishiS:Ring-shapedsubretinalbrinousexudateincentralserouschorioretinopathy.JpnJOph-thalmol49:516-519,20059)FujimotoH,GomiF,WakabayashiTetal:Morphologicchangesinacutecentralserouschorioretinopathyevaluat-edbyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology115:1494-1500,200810)FurutaM,IidaT,KishiSetal:Fovealthicknesscanpre-dictvisualoutcomeinpatientswithpersistentcentralserouschorioretinopathy.Ophthalmologica223:28-31,200911)IidaT,YannuzziLA,SpaideRFetal:Cystoidmaculardegenerationinchroniccentralserouschorioretinopathy.Retina23:1-7,2003(32)

黄班円孔はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSのベクトルに働き,中心窩網膜の前方牽引がみられる.検眼鏡的所見でも中心窩陥凹の減弱ないし消失がみられる.Gassは細隙灯顕微鏡による観察で,この時期に中心小窩に網膜離が存在すると想定したが,OCT所見では網膜表層に小さな胞を形成することはあるが,網膜離が先行することはなさそうである.図2はstage1-Aのなかでも胞形成のない段階である.中心窩のみ後部硝子体皮質の癒着がみられ,前方へ牽引されて中心窩が浮腫状に描出されている.この前段階として中心窩の形態変化はないが中心窩に後部硝子体の前方牽引がみられるものがあり,一部の研究者はこれをstage0とよんでいる4)が,自覚症状はなく黄斑円孔の僚眼をOCT検査した際に偶発的に見つかることがある.硝子体皮質は自然に離し寛解することが多い.さらに進行すると後部硝子体皮質の牽引は強くなり,図3に示すように中心窩表層に胞形成がみられる.検眼鏡的に胞を確認するのは困難であるが,中心窩に黄色点がみられることがある.2.Stage1BGassは中心窩にみられる黄色輪(yellowring)は網膜離であり,中心窩に裂隙を生じるが濃縮した後部硝子体皮質に覆われている潜伏円孔(occulthole)とし,stage1-Bと分類した.OCTでも黄色輪のみられる症例では,中心窩の胞は網膜全層の裂隙となり,図4のように裂隙周囲の網膜浮腫(層間分離)や網膜離(検はじめに黄斑円孔の分類として現在もGassの新分類1)が使われているが,本来スリットランプでの観察による分類であり,光干渉断層計(OCT)の出現で多くの修正分類や新分類が報告されている.OCT所見の詳細な検討で黄斑円孔の成因は解明されつつあり,これらはそれに則った分類といえる.しかしながら本稿では黄斑円孔の成因を追究することが目的ではないので,これらの諸説には詳しくは言及せず,新しい知見に触れつつも基本的には従来のGass新分類に沿ってOCT所見を解説することにする.図1にGass新分類を示した.Gassは中心窩網膜表面に接した硝子体皮質が網膜接線方向に収縮し,この機械的牽引で中心窩に裂隙が生じると考えた.これに対し岸は,加齢変化による硝子体の液化の際に「後部硝子体皮質ポケット」2)を形成するとし,この後壁をなす硝子体皮質の弧が弦になるような前方に向かうベクトルが働き,特に硝子体皮質の接着の強い中心窩では強い牽引がかかり,中心窩に胞が形成されるとした3).OCT所見からも実際の術中所見からも,現在では岸の考え方が多くの支持を得ていると思われる.I黄斑円孔のステージ別OCT像1.Stage1A後部硝子体離が起き始め,中心窩のみ後部硝子体皮質の癒着がみられる.後部硝子体皮質の牽引は前後方向(17)597TssOtsaTaaas57058071015特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):597603,2009黄斑円孔はこうむOpticalCoherenceTomographyFindingsofMacularHole尾辻剛*髙橋寛二**———————————————————————-Page2598あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(18)A.NormalfoveaVCB.Stage1-AImpendingholeC.Stage1-BImpendingholeD.Stage1-BOccultholeF.Stage2HoleG.Stage2HoleH.Stage3HoleI.Stage4HoleE.Stage1-BOcculthole図1Gassの新ステージ分類Gassは中心小窩の網膜離に始まり(stage1-A),離が中心窩に拡大し(stage1-B),濃縮した後部硝子体皮質の後方にoccultholeが形成されるとした.さらに後部硝子体皮質が眼球接線方向に移動し,occultholeが拡大すると,濃縮した後部硝子体皮質が眼球前方に移動し,pseudo-operculumとなり,この一部に裂隙が生じる(stage2).Stage3では円孔が拡大し,後部硝子体離(PVD)が起きるとstage4となる.(文献1より改変)後部硝子体皮質黄斑浮腫図2Stage1A胞形成のないもの66歳,女性.視力は矯正0.6.中心窩で後部硝子体皮質の癒着が残存しており,中心窩網膜は前方へ牽引されて浮腫状になっている.後部硝子体皮質?胞様図3Stage1A胞形成のあるもの58歳,男性.視力は矯正0.6.後部硝子体皮質の中心窩への強い牽引がみられ,中心窩表層に胞形成がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009599(19)5.Stage4検眼鏡的な後部硝子体離の完成,すなわちWeissringが確認できればstage4である.OCTでは円孔の形態はstage3と同様である.図8のように症例によっ眼鏡的にみられるuidcu部)がみられることもある.3.Stage2検眼鏡的に黄色輪の内側に裂隙を生じた状態がstage2である.OCTでも黄斑円孔を蓋のように覆う部分に裂隙があるのがわかる(図5,6)が,この蓋の部分はGassが「pseudo-operculum」と言うように濃縮した後部硝子体皮質であるのか,あるいは胞前壁,すなわち網膜内層の一部であるのかはOCTでも組織学的にも決着はついていないが,近年のOCTでみると症例によってどちらもありうるのかもしれない.4.Stage3部分的な裂隙が拡大し,黄斑円孔が完成した状態である.検眼鏡的に蓋(あるいはpseudo-operculum)は円孔の直前に存在し,後部硝子体離は未完成である.OCTでは図7のように後部硝子体皮質の中心窩への牽引は円孔の完成とともに解除され,円孔前方に後部硝子体皮質に連続して蓋がみえる.蓋の部分は比較的厚く,均一な反射として描出されており,この症例では濃縮した後部硝子体皮質としても矛盾はない.後部硝子体皮質円孔底の残渣様の所見蓋(pseudo-operculum)全層円孔図6Stage265歳,男性.視力は矯正0.2.図5と同様に蓋の一部に裂隙が生じている.この症例ではOptovue(スペクトラルドメインOCT)でみると内顆粒層と思われる反射帯と蓋の反射との連続性があるようにみられる.後部硝子体皮質層間分離網膜?離図4Stage1B61歳,男性.視力は矯正0.5.中心窩の胞は網膜全層の裂隙となり,その周囲にHenle層の層間分離や網膜離がみられるが,網膜最表層の構造物は残存している.後部硝子体皮質層間分離蓋(pseudo-operculum)全層円孔図5Stage266歳,女性.視力は矯正0.4.後部硝子体皮質の牽引はさらに強くなり,黄斑円孔を蓋のように覆う網膜最表層の構造物に裂隙が生じている.OCT3000(タイムドメインOCT)では網膜最表層の構造物が網膜の一部なのか,濃縮した後部硝子体皮質なのかはよくわからない.———————————————————————-Page4600あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(20)るとOCT像は完璧に理解できる.網膜表層には細胞成分を含む網膜上膜がみられ,網膜内の2層の胞様腔は,内側の小さい胞は内顆粒層,外層の大きい胞様腔は外網状層にあるのがわかる.また,網膜が挙上した円孔縁のuidcu部では,視細胞層は萎縮して細胞数が減少して菲薄化し,内節の減少と外節の消失がみられる.III黄斑円孔の特殊例1.分層黄斑円孔Stage1の胞形成から裂隙を生じ全層黄斑円孔となることはすでに述べたが,この段階で,視細胞などの網膜外層の構造は残したままで胞に裂隙ができて分層円孔となることがある.OCTでもIS/OSラインは確認でき,全層円孔でみられる円孔底の残渣様の所見とは異なるが,円孔周囲には全層円孔と同様に網膜浮腫(層間分離)がみられる(図10).2.黄斑円孔の自然治癒例Stage1では後部硝子体皮質の中心窩への牽引が自然に解除されることがある.図11の症例は55歳,女性.中心暗点を自覚していては,後部硝子体皮質が網膜のかなり前方にみられることもあるが,一般的には後部硝子体皮質は画像の撮影範囲外に出てしまい,描出されないことが多い.術前にWeissringがあっても,術中に後部硝子体皮質が残存していることを経験することがあるが,実際の後部硝子体離の有無にかかわらず,Weissringがあればstage4である.II黄斑円孔のOCT組織相関黄斑円孔stage4の組織像はかなり詳細に調べられている.OCT像の解釈には組織像が不可欠なのでOCT像と組織像を対比して解説する.図9の上段はstage4のOCT像の典型例であり,下段はSpencerの教科書から引用した黄斑円孔の組織像である.完成したstage4のOCT像では円孔縁の網膜は挙上し,そのなかに網膜内の胞様変化がみられる.この症例ではよく見ると胞様変化は感覚網膜内の2層にわたって胞様腔がみられ,挙上した網膜外層には視細胞内節外節接合部(IS/OS)ラインが一部みられるが途中で消失している.網膜表層には薄い網膜上膜の反射がみられる.OCT像の白枠で囲んだ部位を組織像と対比して考え後部硝子体皮質層間分離蓋(pseudo-operculum)図7Stage360歳,女性.視力は矯正0.3.黄斑円孔は完成し,円孔周囲には層間分離がみられる.円孔前方に後部硝子体皮質に連続して蓋と思われる均一な厚い反射がみえる.この症例では,蓋は網膜の一部というより濃縮した後部硝子体皮質の可能性もある.後部硝子体皮質層間分離網膜?離図8Stage467歳,女性.視力は矯正0.2.円孔の形態はstage3と同様であるが,この症例では,後部硝子体皮質が網膜の前方にみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009601(21)12のように中心窩に後部硝子体離が起きていた.自覚的にも中心暗点が改善し,矯正視力は1.5であった.図13の症例は64歳,女性.変視症と数日前からの飛蚊症を自覚し受診,視力は矯正0.9であった.OCTでは中心窩に胞様変化があるが,すでに後部硝子体皮たが視力は矯正1.2.検眼鏡的には中心窩陥凹の消失を認め,OCTでは後部硝子体皮質の中心窩への牽引と中心窩の網膜浮腫がみられ,stage1-Aと診断した.半年おきにOCTで経過観察とし,約2年後のOCTでは図内顆粒層の?胞様腔外網状層の?胞様腔視細胞層の萎縮Fluidcu?部薄い網膜上膜(細胞成分あり)網膜上膜?胞様腔Fluidcu?部IS/OSラインが途中で消失図9Stage4のOCT所見と病理組織切片との比較本文中に述べたようにスペクトラルドメインOCTと病理組織切片の所見には一致点が数多くみられる.(組織像は「SpencerWH:Ophthalmicpathology:anatlasandtextbook-4thed,p1069,WBSaunders,Philadelphia,PA,1996」から引用した)後部硝子体皮質(網膜上膜)層間分離網膜外層は残存図10黄斑分層円孔76歳,女性.視力は矯正0.6.円孔は網膜外層には及んでおらず,IS/OSラインは確認できる.円孔周囲には全層円孔と同様に層間分離がみられる.後部硝子体皮質網膜浮腫図11Stage1Aの自然治癒例55歳,女性.視力は矯正1.2.後部硝子体皮質の中心窩への牽引と中心窩の網膜浮腫がみられる.———————————————————————-Page6602あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(22)IV黄斑円孔の硝子体手術後経過図15に術後比較的早期のOCT画像で円孔閉鎖の様子が捉えられた症例を提示する.症例は54歳,女性.質の中心窩への牽引は解除され,よく見ると後部硝子体皮質に蓋と思われる反射がみられる.15カ月後には図14のように後部硝子体皮質は撮影範囲内からはずれ,中心窩の形態は正常化した.矯正視力は1.5に回復した.後部硝子体皮質中心窩陥凹は正常化図12図11の2年後後部硝子体皮質による中心窩への牽引は解除されており,中心窩陥凹も正常化していた.視力は1.5に回復した.後部硝子体皮質胞蓋(pseudo-operculum)図13Stage1Bの自然治癒例64歳,女性.視力は矯正0.9.中心窩に胞様変化があるが,すでに後部硝子体皮質の中心窩への牽引は解除され,中心窩前方の後部硝子体皮質に連続する部位に蓋と思われる反射がみられる.中心窩陥凹は正常化図14図13の15カ月後後部硝子体離の完成に伴って後部硝子体皮質は撮影範囲内からはずれ,胞は消失し中心窩の形態は正常化した.矯正視力は1.5に回復した.術後19日術後10日術前図15円孔閉鎖の様子が捉えられた症例54歳,女性.上段は術前でstage4である.中段は術後10日で円孔周囲の層間分離と網膜離は消失しているが,完全な円孔閉鎖は得られていない.下段は術後19日であるが,黄斑円孔は閉鎖し中心窩陥凹もほぼ正常化している.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009603上段は術前でstage4である.中段は術後10日で下段が術後19日である.多くの症例では術後早期に円孔閉鎖すると考えられているが,この症例では比較的緩徐に円孔閉鎖した.図16は図8のstage4の症例の術後8カ月目のOCTである.中心窩の形態は正常化したものの中心窩下でIS/OSラインの途絶を認め,矯正視力は術前の0.2から0.5までの改善にとどまっており,変視も残存している.図17は図5のstage2の症例の術後12カ月めのOCTである.IS/OSラインは回復し,中心窩の形態も正常化している.自覚的な変視は残存するものの矯正視力は術前の0.4から1.2まで回復した.近年,このようなIS/OSラインの回復と視機能回復の間には相関関係があるとの報告がなされている5).おわりにOCTによる画像診断の飛躍的な進歩により,黄斑円孔をはじめとする網膜硝子体疾患の病態解明が進んできた.一般臨床においても,白内障などで他疾患との鑑別が困難な場合OCTを用いると確実に診断できる.文献1)GassJD:Reappraisalofbiomicroscopicclassicationofstagesofdevelopmentofamacularhole.AmJOphthal-mol119:752-759,19952)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19903)KishiS,TakahashiH:Three-dimensionalobservationsofdevelopingmacularholes.AmJOphthalmol130:65-75,20004)ChanA,DukerJS,SchumanJSetal:Stage0macularholes:observationsbyopticalcoherencetomography.Ophthalmology111:2027-2032,20045)InoueM,WatanabeY,ArakawaA:Spectral-domainopti-calcoherencetomographyimagesofinner/outersegmentjunctionsandmacularholesurgeryoutcomes.GraefesArchClinExpOphthalmol247:325-330,2009(23)中心窩陥凹は正常化IS/OSラインの途絶図16図8の症例(stage4)の硝子体手術8カ月後中心窩の形態は正常化したものの中心窩下でIS/OSラインの途絶を認め,矯正視力は術前の0.2から0.5までの改善にとどまっている.IS/OSラインも回復中心窩陥凹は正常化図17図5の症例(stage2)の硝子体手術12カ月後術後12カ月でIS/OSラインは回復し,中心窩の形態も正常化している.自覚的な変視は残存するものの矯正視力は術前の0.4から1.2まで回復した.

黄班上膜はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は1997年に日本に導入され,その後,機器の性能も向上し,現在では黄斑疾患の診療には欠かせないものとなっている.OCTを用いることで,定量的に網膜厚や黄斑体積の評価を行えるようになり,治療効果を瞬時に把握できるようになった.Z軸方向の変化を把握することが可能となり,中心窩の陥凹や黄斑部の肥厚の程度などが詳細に観察できるようになったのは画期的な進はじめに網膜の表面はMuller細胞の基底膜である内境界膜によって覆われている.硝子体皮質は内境界膜に接し,網膜と硝子体の境界面を形成している.硝子体皮質は硝子体ゲルの最外層であるが,黄斑部では硝子体皮質の前方に液化腔(後部硝子体皮質前ポケット)1)(図1上)があり,硝子体皮質がポケットの後壁を構成している.黄斑上膜は黄斑部を中心に網膜上に残存した硝子体皮質が内境界膜上で細胞増殖と線維性結合組織を形成して肥厚・収縮する疾患である.偽黄斑円孔は,黄斑上膜の収縮により中心窩の陥凹が深くなり,一見黄斑円孔のようにみえるが,偽円孔の底の網膜外層は保たれており,網膜色素上皮は露出していない.細隙光を当てると円孔ではくびれを自覚するが,偽円孔では均一の幅の細隙光として認識される(Watz-ke-Allentest).黄斑上膜のほとんどは後部硝子体離(posteriorvit-reousdetachment:PVD)を伴う.この場合,PVDの際に網膜側に残存した硝子体皮質が前膜の骨格となる(図1下左).PVDがない場合でも黄斑前皮質はコラーゲン線維膜として存在しているので,それが前膜としてふるまえば,特発性黄斑上膜となりうる(図1下右).硝子体黄斑牽引症候群は,黄斑部において硝子体皮質が黄斑で癒着し,その周囲でPVDが生じ,中心窩が前後方向に牽引されることによるもので,不完全なPVDを伴った黄斑上膜の病態と同様である(図1下中).(11)59146786021特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):591595,2009黄斑上膜はこうOpticalCoherenceTomographyinEpimacularMembrane平野佳男*図1黄斑上膜と後部硝子体皮質前ポケット上:後部硝子体皮質前ポケット.下左:PVDの際に,ポケット後壁が網膜に残存して黄斑上膜の骨格になる.下中:不完全PVDの場合は硝子体黄斑牽引症候群と同じ病態になる.下右:PVDがなくてもポケット後壁が黄斑上膜としてふるまえば黄斑上膜が発症する.———————————————————————-Page2592あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(12)から黄斑上膜の立体的な構造や範囲を把握することが可能で,きっかけを作る場所を術前より想定することができ,手術の戦略を立てやすい(図4).術後のOCTを図5に示す.網膜上に認められた黄斑上膜は除去されている.この症例では中心窩の陥凹が回復し,術後視力も良好だが網膜の肥厚は残存している.Niwaらは,特発性黄斑上膜の術後に視力は改善し,浮腫が軽減するが,浮腫は依然残存し,多局所網膜電図で僚眼の90%以上にまで回復したものは29眼中3眼にす歩である.硝子体は生体内では眼球運動に伴い絶えず動いており,スキャン速度の遅い初期のOCTでは後部硝子体膜を描出することが容易ではなかった.近年発売されたspectraldomainOCTではスキャン速度が高速化され,後部硝子体膜を描出する性能が格段に向上した.また,3D網膜厚マップでは疑似カラーで網膜厚が表示される.暖色系(赤や白)ほど厚く,寒色系(青や黒)ほど薄いことを示す.3D網膜厚マップで網膜の厚みだけでなく,黄斑上膜の範囲も同定することができる.内境界膜と網膜色素上皮を分離して3D表示するカラーセグメンテーションマップもあり,内境界膜と網膜色素上皮の変化もマップで表示される.以下に黄斑上膜,偽黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群のOCT所見を供覧し,解説する.なお,今回掲載したOCT画像はすべてシラスHD-OCT(CarlZeissMeditec)によるものである.I黄斑上膜OCTでは網膜表面に肥厚した膜様組織がみられ,網膜が肥厚し,中心窩の陥凹が消失する(図2).網膜皺襞を伴っている場合には,波打つ内境界膜の各頂点に黄斑上膜が癒着するようにみえる.通常網膜内層の変化が主で網膜外層に影響が及ぶことは少ない.偽黄斑円孔は黄斑上膜の収縮に伴い黄斑の端が肥厚し,中心窩の陥凹が深くなったもの2)だが,偽円孔の底の網膜外層は保たれており,視力は比較的良好である(図3).黄斑上膜の治療は手術により膜を離することが原則である.通常黄斑上膜離においてはmicro-hookedneedleを使用し,膜組織を引っかけてきっかけを作り,その後,鉗子で把持して離を行う.手術に際しては,きっかけ作りが重要である.きっかけを作る部位は膜の境界がわかればそこから,わからなければ網膜皺襞や膜の肥厚が高度の部位より行うが,OCTを用いると術前図271歳,男性の特発性黄斑上膜視力(0.7).網膜表面に黄斑上膜がみられ,網膜は肥厚し中心窩の陥凹が消失している.黄斑上膜は波打つ内境界膜(網膜皺襞)の各頂点に癒着している.図379歳,女性の偽黄斑円孔視力(0.8).中心窩以外の部分に黄斑上膜がある.黄斑の端は肥厚し,中心窩の陥凹が円筒形に深くなっている.偽円孔の底の網膜外層は保たれている.図4図2と同一症例A:網膜表面に肥厚した黄斑上膜があり,その辺縁では網膜から分離している(矢印).B:共焦点画像と網膜厚マップの重ね合わせ画像.眼底上に疑似カラーで網膜厚が表示され,網膜の肥厚が高度な場所(矢印)がわかる.C:3D網膜厚マップ.疑似カラーで網膜厚が表示される.黄斑上膜の立体的な広がりがわかる.矢印の所は急峻な立ち上がりがあり,黄斑上膜が網膜(内境界膜)から分離しているものと推測される.網膜色素上皮にはほとんど変化はみられない.D:この症例においては中心窩の耳側に網膜から分離した黄斑上膜の断端があり,中心窩の下方が網膜の肥厚の強い所であることがわかる.そういった場所から膜離を開始していこうという手術戦略が立てられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009593(13)AILMRPEILM-RPE500um400um300um200um100umBD図4図2と同一症例(図説明はp.592参照)———————————————————————-Page4594あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(14)硝子体皮質が黄斑部を前後方向に牽引する.その結果,黄斑部に胞様変化や網膜離を合併する疾患である(図6).硝子体黄斑牽引症候群が黄斑上膜を伴うものがあり,また黄斑上膜で硝子体黄斑牽引症候群を伴うものもあり,重なりのある疾患であると考えられている4)(図7).OCTでは一見すると派手にみえるが,網膜外層が保たれていれば視力障害はそれほど顕著ではない.術後のOCT(図6C)では硝子体の牽引が除去され,網膜離が消失している.網膜内の胞様変化が減弱し,中心窩の陥凹も認められるようになっている.おわりに以上,黄斑上膜,偽黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群のOCT所見について解説した.ぎなかったと報告している3).II硝子体黄斑牽引症候群硝子体黄斑牽引症候群はPVDの進行が黄斑近傍で停止すると,後部硝子体皮質前ポケットの後壁である薄いABC図5図4の症例の術後1カ月A:網膜表面にあった黄斑上膜は取り除かれ中心窩の陥凹が回復している.網膜皺襞も軽快している.視力(1.5).B:術後1カ月の3D網膜厚マップ.図4Cと比較すると暖色系(網膜の厚い所)の部分は減ってはいるが,僚眼と比較すると依然として網膜が肥厚していることがわかる.また内境界膜の皺も残存している.C:同一症例の僚眼の3D網膜厚マップ.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009595(15)これらの疾患の診療に関しては,OCTの登場で,構造的な評価はかなりのレベルで可能となったが,微小視野計,多局所網膜電図などを含めた機能的な評価も組み合わせ,病態を評価していくことが必要である.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)WilkinsJR,PuliatoCA,HeeMRetal:Characterizationofepiretinalmembraneusingopticalcoherencetomogra-phy.Ophthalmology103:2142-2151,19963)NiwaT,TerasakiH,KondoMetal:Functionandmor-phologyofmaculabeforeandafterremovalofidiopathicepiretinalmembrane.InvestOphthalmolVisSci44:1652-1656,20034)LegarretaJE,GregoriG,KnightonRWetal:Three-dimentionalspectral-domainopticalcoherencetomogra-phyimagesoftheretinainthepresenceofepiretinalmembranes.AmJOphthalmol145:1023-1030,2008ACB667歳,男性の硝子体黄斑牽引症候群A:視力(0.2).硝子体が黄斑を前方に牽引している.それに伴い,網膜内に胞様変化と網膜離(*)がみられる.B:眼底写真.C:術後1カ月.視力(1.5).黄斑の牽引が解除され,中心窩の陥凹が回復している.網膜離は消失しているが,胞様変化が軽度残存している.AB748歳,女性の硝子体黄斑牽引症候群偽黄斑円孔を伴っている.A:視力(0.9).硝子体が黄斑を前方に牽引している(矢印).網膜表面に黄斑上膜がみられ(矢頭),網膜内には胞様変化がみられるが,網膜離はなく,網膜外層も保たれている.B:眼底写真.

正常眼はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS深さ方向の情報を得るために参照鏡を機械的に動かすことが必要であった.これに対し,フーリエドメインOCTは,光波の干渉をフーリエ空間(周波数領域または波長領域)で行う.すなわち,1回のAスキャンに含まれる波長を分光器を用いフーリエ変換によりスペクトル分解して,一気に深さと反射強度の情報を計算で求めてしまう.よって,フーリエドメインOCTは,深さ方向の機械的走査が不要となるため高速になる.各フーリエドメインOCT製品はAスキャン速度が17~55kHzであり,400HzのタイムドメインOCTよりも43~138倍高速に撮影可能となり,信号感度(シグナル/ノイズ比)も数十倍高くなる.なお,フーリエドメインOCTは,波長固定光源と分光器を用いてフーリエ空間で検出するスペクトラルドメインOCTと光源の発信波長を高速に変化させることにより光波の干渉を同じくフーリエ空間で行う方式である波長走査型OCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)とがあるが,近年製品化された眼底用フーリエドメインOCTはすべてスペクトラルドメインOCTのほうである.IIIOCTのBスキャン画像の質を決める因子1.分解能(resolution)OCTによる画像の分解能(resolution)は,深さ分解能(axialresolution)とXY面分解能(lateralresolu-tion)に分けられる(図1).眼底に入る光に平行な方向はじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の製品が国内だけでも5社から発売され,高解像度のOCT画像を用いて診療を行うことが可能となったが,「見える」分だけ読影の複雑さも増している.本稿では,初めにOCTの読影や解析を行う際に役に立つであろうと思われる基礎的な知識を紹介し,ついで正常眼の読み方・解析方法について述べる.各論にて諸先生方が述べられる内容の理解にも役立てていただきたい.I光干渉断層計概観1990年に山形大学の丹野らがOCTの原理を提案し,1991年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のFujimo-toらがOCTの画像化に成功し,5年後の1996年(国内では1997年)にHumphrey社(現在CarlZeissMed-itec社)から最初の眼底用商用モデルOCT2000が発売された.最初に開発されたのはタイムドメイン(time-domain)という検出方式をとったが,OCTが市場に出て10年目に至り,フーリエドメイン(Fourier-domain)とよばれる異なる検出技術の一つであるスペクトラルドメイン(spectral-domain)方式を用いた新しいOCT製品群の登場に至った.IIタイムドメインとフーリエドメインOCT3000などのタイムドメインOCTは,原則的に1回の測定で1点の情報を得ることしかできないため,(3)583StarOtasariHaai眼6068507眼特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):583~560,2009正常眼はこう読むOpticalCoherenceTomographyinNormalEyes大音壮太郎*板谷正紀*———————————————————————-Page2584あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(4)らの報告である1).粗いOCT2000の画像を9枚加算平均(multipleB-scanaveraging)してスペックルノイズを取り除くとSD-OCT並の画像に変身することが示された(図2).加算平均処理とはいかなる方法であろうか?画像をの分解能が深さ分解能である.この方向をZ方向ともいうためZ方向分解能ともいう.一方,眼底に入る光に垂直な面がXY面である.単にOCTの分解能をいうとき深さ分解能を指す場合が多い.OCTの深さ分解能は光源によって決まる.すなわち,光源の波長帯域が広ければ広いほど深さ分解能は高くなる.タイムドメインOCTでは深さ分解能が10μm程度であったが,近年,実用化されたスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)の製品の深さ分解能はメーカー公表値で3~7μmである.深さ分解能の向上により,外境界膜が可視化されるようになった.また,より正確な網膜厚の測定が可能となる.OCTではXY面分解能は高くない.角膜や水晶体の収差がXY面分解能を不良にする最大の攪乱因子であり,従来のOCT診断装置のXY面分解能は20μm程度であった.これは,SD-OCTになっても変わらない.2.スペックルノイズ(specklenoise)深さ分解能に匹敵してBスキャンの解像力に関係する重要な因子にスペックルノイズがある.OCTの画像が,ブツブツとしたノイズの多い画像であることはお気づきのことと思う.スペックルノイズは,レーザー光で物体を照明すると出現する斑点模様のことである.OCTは,スペックルノイズに埋もれている画像なのである.OCTにおけるスペックルノイズの影響の大きさ,言い換えるとスペックルノイズを除去するといかに画像が良くなるか,を最初に示したのが,2005年のSander図2加算平均処理(multipleB-scanaveraging)によるスペックルノイズ除去効果A:OCT2000による1枚の断層像.B,C:OCT2000の断層像を9枚加算平均処理し,スペックルノイズを除去した画像.疑似カラー(B),グレースケール(C).(文献1より)図3スペックルノイズを減らすための加算平均法(multipleB-scanaveraging)を説明する模式図スペックルノイズは重ね合わせる枚数で除した強さに弱まる.図1眼底における深さ分解能(Z)とXY分解能———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009585(5)OCT3000には,アラインメント機能(alignment)があり,網膜色素上皮の高さをそろえ直線化することで,歪みを解消していた.より問題となるのは,黄斑部網膜厚や視神経周囲網膜神経線維厚を計測するときに,スキャンラインが歪む,あるいはサークルスキャンや放射スキャンにおける中心(中心窩や乳頭中心)がずれる,といった問題が生じ(図5),計測値が同じ日に同じ検者が検査しても数値が異なるリスクがあることである.ましてや,経過観察において,撮影日が異なる,検者が異なる場合,そのリスクは大きい.そして,固視の不良な患重ね合わせ,重ね合わせた枚数で割ると実体は元と変わらないが,虚像であるノイズはランダムであるため,重ね合わせた枚数で除した分だけノイズシグナルは希釈される(図3).しかし,実際には,スペックルノイズを取り除くには,まったく同じ部位でBスキャンを何枚も撮影することが必要であり,撮影速度の遅いタイムドメインOCTでは困難であった.この点において,スペクトラルドメインOCTの高速性が重要となってくる2,3).ここで,加算平均処理においてもう一つ問題になるのは,後述する固視微動である.スペクトラルドメインOCTの撮影速度をもってしても固視の悪い患者では,同一部位でBスキャンを得ることがむずかしく,加算平均処理を行うと,かえってぼやけた画像になってしまう(図4).Heidelberg社のHRAOCTSpectralisは三次元的に固視微動を追尾して撮影するeyetrackingシステムを導入し固視微動の問題を解決し,加算平均処理の成功率を向上させた.100枚重ねることも可能となった.これにより,スペックルノイズが激減した画像を見ることが可能になり,実に驚くべき病変の情報が描出されるに至っている.3.固視微動(eyemovement)固視微動の問題は,タイムドメインOCTでは,1枚のBスキャン画像の波打つ歪みとして認められた.図4加算平均法の失敗例A:4枚スキャンのうち1枚の撮影のみ眼が動いたため重ね合わせがうまくいかず,亡霊のような画像(矢印)がかぶっている.B:糖尿病網膜症の同一眼における加算平均法の失敗と成功例.図5固視微動によるスキャンラインの歪みやスキャン中心(中心窩や乳頭中心)のずれ———————————————————————-Page4586あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(6)インOCTであるOCT3000の後極部水平断である.図8がスペクトラルドメインOCTであるHRA-OCTSpectralisによる後極部の水平断・垂直断で,それぞれ50枚加算平均している.図9のアズール染色をしたヒト眼組織切片と同様の構造を示している.図10は3DOCT-1000による黄斑部6mm×6mmの三次元画像である.①反射強度OCT像と組織切片は同様の層状構造を示している.者ほどこのリスクは高まる.スペクトラルドメインOCTで高速化し,1枚のBスキャン画像の歪みは解消され,OCT3000と同じスキャンプロトコールを用いる範囲では上記したリスクは解消された.しかしながら,三次元撮影が可能になったことで,ここに新たな固視微動の問題が生じている.すなわち,どのメーカーの製品でも,三次元撮影に2秒程度あるいはそれ以上の時間がかかるため,固視微動による三次元像の歪みが生じる(図6).また,中心窩を中心にして三次元スキャンを行った場合,2秒の間に中心がずれたり(図6),スキャン予定範囲をはみ出したりする.すなわち,OCT3000において二次元のBスキャンで起こったのと同じ問題が,スペクトラルドメインOCTでは三次元において起きる.真に三次元を生かすためには,固視微動の問題を解決する必要があり,それには二つの方法がある.一つは,スキャン速度をさらに10倍高速化すること.二つめは,眼球運動を追いかけて(追尾して)スキャンも移動しながら行うこと(eyetracking).現時点で,撮影速度を10倍にする技術の実用化はすぐにはできないため,製品レベルで行われているのはeyetrackingのほうである.最初にeyetrackingを行ったのは,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpectralisで,同時撮影するSLO画像のパターンからX,Y,Zの3方向にeyetrackingを行っている.IV正常黄斑部網膜像このような技術的な進歩を経て,組織切片に近いOCT像を得ることが可能になった.図7はタイムドメ図6スキャン中心のずれ(A)や固視微動によるスキャンラインのずれ(B)AB7OCT3000における正常網膜水平断ILM:内境界膜,IS/OSline:視細胞内節外節接合部,RPE:網膜色素上皮.ABC図8HRAOCTSpectralisにおける正常網膜黄斑部A:水平断(左が鼻側,右が耳側).矢印:血管によるブロック,矢頭:血管,NFL:神経線維層.B:垂直断(左が下側,右が上側).C:水平断の拡大図.GCL:神経節細胞層,IPL:内網状層,INL:内顆粒層,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層,ELM:外境界膜,IS/OS:視細胞内節外節接合部,RPE:網膜色素上皮.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009587(7)しかし,組織切片で濃染されている顆粒層はOCT像では低反射層になっており,逆に組織切片で淡染された神経線維層と網状層が高反射層になっている.網膜では神経線維成分が多いところ(神経線維層・内外網状層)では反射波が大量に発生する一方,細胞体から構成されている層(神経節細胞層・内外顆粒層)では反射波の発生が少なく,薄く表現される.②測定光のブロック測定光が物体で強く反射したり吸収されると,その後方では測定光が急激に減少する.この場合,物体の後方では反射波が生じずにシャドーとなる.正常眼でも網膜大血管の後方はシャドーとなる(図8).また,網膜色素上皮で測定光は反射・吸収され,急速に減少するため脈絡膜の詳細な画像は得られにくい.③神経線維層(NFL)神経線維層(NFL)は線維の方向が測定光に対し直角であるために高反射になっている.神経線維層は水平断では非対称となる.NFLGCLIPLINLOPLGGNNHHHHISOSRPERPEISOSOPLONLONLChoroidChoroidFoveacentralis図9ヒト眼網膜の中心窩矢状断組織切片H:Henle線維層,NFL:神経線維,G,GCL:神経節細胞層,IPL:内網状層,N,INL:内顆粒層,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層,ELM:外境界膜,IS:視細胞内節,OS:視細胞外節接合部,RPE:網膜色素上皮.(岩崎雅行,猪俣孟:中心窩(黄斑)の構築.臨眼40:1248-1249,1986より改変して引用)図103DOCT1000における正常網膜黄斑部三次元画像左上:三次元画像.右上:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyで定義されたセクターにおける平均網膜厚.右下:Thicknessmap表示.———————————————————————-Page6588あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(8)⑦網膜色素上皮(RPE)単層立方上皮で,後極部では個々の細胞の直径は約14μm,高さは約12μmである.周辺では個々の細胞の径は大きくなり,高さは小さくなる.色素上皮は最も強い後方反射をひき起こすため,輝度の最も高い反射帯として描出される.⑧脈絡膜(choroid)脈絡毛細血管板も高反射帯であるが,網膜色素上皮と脈絡膜の間のBruch膜は2μmしかないため,色素上皮と脈絡毛細血管板は一体化した高反射帯となる.網膜色素上皮離が起こったときなどはBruch膜の界面が分離される.V網膜厚の測定OCTを利用した網膜厚の測定は黄斑浮腫の診断や各種黄斑疾患の治療効果判定に大変有用である.網膜厚の測定・解析時に注意するポイントについて述べる.1.セグメンテーションまだ,聞き慣れない言葉であるが,OCT2000より用いられてきた画像処理用語であり,「画像の注目する部分を抽出する」という意味である.網膜の前縁と網膜色素上皮前縁をセグメンテーションすると神経網膜の厚みが計測できるわけである.自動セグメンテーションにおける問題は,エラーである.OCT3000でセグメンテーションエラーが調べられているが,42~92%もの画像にエラーが生じているとされる4).セグメンテーションエラーは,網膜厚や網膜神経線維厚の自動計測において重大な問題になる.スペクトラルドメインOCTになり,深さ分解能が高くなり,鮮明な画像になったことで,セグメンテーションエラーが減ることが期待されるが,実際には図11や図6に示すようなエラーも認められる.このような例では再測定や手動でのセグメンテーション補正を検討する必要がある.2.網膜厚の定義実は,単純な網膜厚の計測に問題がある.網膜厚の定義の問題である.OCT3000は,視細胞内節外節接合部(IS/OS)の前縁までを網膜厚として計測していたため黄斑の乳頭よりにはpapillomacularbindleが存在し,厚い神経線維層を示すのに対し,中心窩の耳側はrapheに相当し,神経線維層がない領域となる.これに対し垂直断では対称な厚みとなる(図8).④顆粒層と網状層(GCL,IPL,INL,OPL,ONL)中心窩外では神経線維層(NFL)の外側に中等度反射の神経節細胞層(GCL),高反射の内網状層(IPL)を認める.つぎに低反射の内顆粒層(INL)が存在し,さらには高反射の外網状層(OPL),低反射の外顆粒層(ONL)と続く.中心窩には錐体系の視細胞が集中している.中心小窩では低反射の外顆粒層が網膜のほとんどの層を占めており,表層にわずかなHenle線維層を認めるだけである.⑤外境界膜(ELM)外境界膜(ELM)は膜ではなく,視細胞とMuller細胞の接合部に相当するが,光学顕微鏡では連続したラインに見える.視細胞内節と外節は外境界膜から外側に突出している.タイムドメインOCTでは外境界膜の可視化は困難であったが,スペクトラルドメインOCTでは外境界膜が可視化される.⑥視細胞内節外節接合部(IS/OS)OCT1000およびOCT2000モデルで網膜色素上皮層(RPE)と考えられていた外側の高反射層はOCT3000では2層に分離された.内側の層が視細胞内節(IS)と外節(OS)の接合部(IS/OS)であり,外側の層が網膜色素上皮層である(図7).さらにスペクトラルドメインOCTではIS/OSと網膜色素上皮層の間にさらに1本の高反射帯を認める.この線が何を示すかは明らかでないが,中心窩では錐体細胞の外節の先ではないかと推測されている.内節はミトコンドリアが豊富で,低反射である.外節は円板状の内部構造をもち,光粒子を効率的に受け止められるようになっており,多量の反射波を発生する.特に外節の始まりの部分で強い反射波が生じると考えられる.これはOCTの測定光は同質の物体内では急速に減衰し,異質な物体に到達すると再び反射のピークを作るという性質があるためである.組織学的検討では内節が約30μm,外節が約50μmである.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009589実際には外節分だけ短く計測していた(図12の①,図7).Optovue社のRTVue-100も当初IS/OSの前縁までを網膜厚として計測していたが,最新のバージョンでは網膜色素上皮の後縁(図12の③)へ変更になった.CarlZeissMeditec社のCirrusやトプコン社の3DOCT-1000は網膜色素上皮の前縁までを網膜厚として計測する.理想的には,網膜色素上皮の前縁まで(図12の②)が本当の神経網膜と考えられるが,実際には網膜色素上皮とIS/OSに挟まれているもう1本の高反射ラインがセグメンテーションエラーの原因となりやすい.高分解能になったが故の悩みでもある.妥協策として,厚みにばらつきの少ないと考えられる網膜色素上皮層を含む網膜色素上皮の後縁(③)の採用が増えそうである.セグメンテーションが高度化すれば,網膜色素上皮の前縁(図12の②)に回帰する可能性もある.網膜厚は多くのソフトでEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)で定められた9つのセクターにおける平均網膜厚として表示される(図10).3.スキャン方法タイムドメインOCTを用いての網膜厚測定ではわずか6つ以下のBスキャン(図13)を用いて平均網膜厚が(9)図11セグメンテーションエラー矢印の部分では硝子体混濁を網膜前縁と誤認識してセグメンテーションエラーが発生している.図12複数ある網膜厚の定義①:OCT3000,Optovue社のRTVue-100の前バージョン.②:トプコン社の3DOCT-1000やCarlZeissMeditech社のCirrus.③:RTVue-100の最新のバージョン,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpectralis,3DOCT-1000変更予定.理想的には,②が本当の神経網膜厚と考えられるが,実際には網膜色素上皮とIS/OSに挟まれているもう1本の高反射ライン(青矢印)がセグメンテーションエラーの原因となる.次善の策として③を採用する機種が増えている.———————————————————————-Page8590あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009測定されていた.これはスキャンスピードが遅く,黄斑部の全領域を密にスキャンすることが不可能であったためである.そのため各部位の正確な網膜厚算出は困難であったといえる.スペクトラルドメインOCTでは高速化により,黄斑部の全領域をくまなくスキャンすることが可能となった.OCT3000では6つのradialscan上の768点で計測を行っていたが,トプコン社の3DOCT-1000では3Dラスタースキャンを用いると黄斑部6mm×6mmの領域を65,536点で計測可能である(図10).このようにスペクトラルドメインOCTの三次元スキャンを用いることにより,正確で再現性の高い網膜厚解析が可能になると考えられる.VI日本人の正常黄斑部網膜厚最後に筆者らが行った日本人の正常黄斑部網膜厚に関する研究について紹介する.国内7施設(東京大学・群馬大学・大阪大学・新潟大学・金沢大学・多治見市民病院・京都大学)の共同研究として,三次元光干渉断層計(3D-OCT)を用いて日本人健常眼の黄斑部網膜厚を測定し,正常黄斑部網膜厚に関与する因子について検討したところ,男女間で黄斑部平均網膜厚に差を認め(男性の平均網膜厚>女性の平均網膜厚),男性では年齢に相関して中心窩以外の黄斑部網膜厚が減少することが示された(投稿中).網膜厚に年齢・性別が関与していることは大変興味深い.網膜厚の検討には,年齢・性別による補正が必要であると考える.文献1)SanderB,LarsenM,ThraneLetal:Enhancedopticalcoherencetomographyimagingbymultiplescanaverag-ing.BrJOphthalmol89:207-212,20052)HangaiM,YamamotoM,SakamotoAetal:Ultrahigh-resolutionversusspecklenoise-reductioninspectral-domainopticalcoherencetomography.OpticsExpress17:4221-4235,20093)SakamotoA,HangaiM,YoshimuraN:Spectral-domainopticalcoherencetomographywithmultipleB-scanaver-agingforenhancedimagingofretinaldiseases.Ophthal-mology115:1071-1078:20084)SaddaSR,JoeresS,WuZetal:Errorcorrectionandquantitativesubanalysisofopticalcoherencetomographydatausingcomputer-assistedgrading.InvestOphthalmolVisSci48:839-848,2007(10)図13タイムドメインOCTでの網膜厚測定6つ以下のBスキャン像で黄斑部平均網膜厚を測定.