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マウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)6710910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):671674,2009cはじめにアレルギー性結膜炎は,眼部の掻痒感,充血,結膜浮腫および上眼瞼結膜乳頭を主徴とする眼瞼結膜のⅠ型アレルギー性疾患である1).特に,掻痒感は患者の自覚症状として現れ,qualityoflife(QOL)を低下させる要因となっている.ヒスタミンは掻痒感を誘発させる因子として最も強力な関与があるとされている2,3).しかし,抗ヒスタミン薬だけではアレルギー性結膜炎の症状を完全には抑制しない例も報告46)されており,ヒスタミン以外のメディエーターの関与が示唆されている.そこで,BALB/c系雌性マウスを用いて,卵白アルブミン(OVA)を抗原として全身感作した後,眼部にOVAを直接点眼投与する局所感作を連続的に行うことにより,マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.さらに,この実験モデルを用いて,ヒスタミン以外の脂質メディエーターのアレルギー性結膜炎に対する関与を明らかにする目的で,〔別刷請求先〕亀井千晃:〒700-8530岡山市津島中1-1-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室Reprintrequests:ChiakiKamei,Ph.D.,DepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,1-1-1Tsushima-Naka,Okayama700-8530,JAPANマウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果西藤俊輔杉本幸雄亀井千晃岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室EectsofLipidMediator-AssociatedCompoundsonAllergicConjunctivitisinMiceShunsukeSaito,YukioSugimotoandChiakiKameiDepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences本研究では,アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果について検討した.まず,マウスにくり返し抗原(卵白アルブミン)を点眼投与することにより眼部引っ掻き行動の増加およびアレルギー症状が認められるアレルギー性結膜炎モデルを作製した.作製したモデルを用いて,H1受容体拮抗薬であるセチリジン,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.その結果,セチリジンおよびエトドラクの投与により,抗原誘発眼部引っ掻き行動が有意に抑制された.また,セチリジンおよびAA-861の投与により,抗原誘発アレルギー症状が有意に抑制された.以上の成績から,アレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効であることが示唆された.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheeectsoflipidmediator-associatedcompoundsonallergicconjunctivitisinmice.Repeatedtopicalapplicationofantigen(ovalbumin)causedincreaseineye-scratchingbehav-iorandallergicsymptoms,suchashyperemiaandedema,insensitizedanimals.Cetirizine(H1receptorantagonist)andetodolac(selectivecyclooxygenase(COX)-2inhibitor)causedinhibitionofeye-scratchingbehaviorinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.Inaddition,cetirizineandAA-861(5-lipoxygenaseinhibitor)causedinhibitionofallergicsymptomsinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.TheseresultsindicatethatH1receptorantagonistandselectiveCOX-2inhibitorareusefulforinhibitingitching,whereasH1receptorantagonistand5-lipoxygenazeinhibitorareusefulforinhibitingallergicsymptomsofallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):671674,2009〕Keywords:アレルギー性結膜炎,痒,H1受容体拮抗薬,COX-2選択的阻害薬,5-リポキシゲナーゼ阻害薬.allergicconjunctivitis,itching,H1receptorantagonist,selectiveCOX-2inhibitor,5-lipoxygenazeinhibitor.———————————————————————-Page2672あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(92)シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.I実験方法1.マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製BALB/c系雌性マウスを以下に示す方法により感作した.OVA(Sigma)1μgおよび水酸化アルミニウムゲル(LSL)100μgを生理食塩液0.2mlに懸濁し初回感作から0,5,14および21日目に腹腔内投与することにより全身感作を行った.さらに初回感作から28日目以降,局所感作として1週間に3回OVA(100mg/ml)を両眼にマイクロピペットで2μlずつ点眼した.2.眼部引っ掻き行動の測定マウスを観察用ケージ(幅31cm,奥行18cm,高さ25cm)に入れ,10分間環境に馴化させた後,OVAまたはヒスタミンを両眼にマイクロピペットで2μl/site点眼した際に誘発される後肢による眼部引っ掻き行動の回数を30分間計測することにより行った.3.アレルギー症状のスコア化発赤もしくは浮腫の症状をそれぞれ以下のスコアで判定し,浮腫と発赤のtotalscoreをアレルギー症状の指標とした.両眼で症状が異なる場合はより重症度の高いものを指標として用いた.0=無症状1=軽度の発赤または浮腫2=中等度の発赤または浮腫3=重度の発赤または浮腫4.Passivecutaneousanaphylaxis(PCA)抗体価の測定法感作したマウスの腹部大静脈から採取した血液を遠心分離して得られた血清成分を20℃で凍結保存した.血清は,未感作および初回感作から140日目のものを使用した.PCA反応は血清を2倍希釈系列とし,ラットの背部に0.1mlずつ皮内注射した.48時間後,1%Evansblue溶液とOVA5mg/ml溶液を等量混合した溶液を2ml/kgになるようにラットの尾静脈内に注射した.30分後,エーテルにより致死させ,背部皮膚を剥離し,色素斑の直径が5mm以上の場合を陽性と判定した.5.各種薬物の投与作製したモデルを用いて5%アラビアゴムに懸濁したセチリジン,エトドラクおよびAA-861を経口投与し,1時間後にOVA(100mg/ml)を2μl/site点眼投与した.6.統計処理実験データはすべて平均値±標準誤差で示した.統計学的検討は,眼部引っ掻き行動では2群間の比較にStudentのt検定を,多群間の比較にはDunnett法を用いた.アレルギー症状はMann-WhitneyUtest法およびKruskal-Wallis法を用い,危険率5%未満の場合を有意差ありと判定した.II実験成績1.マウスのOVA誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化感作したマウスにOVAを点眼した際に誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化を図1に示した.局所感作を行うことにより感作35日目以降対照群と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が誘発された(図1a).感作42日目以降は,対照群と比較して有意なアレルギー症状が誘発された(図1b).2.感作マウスにおけるPCA抗体価の測定未感作および感作したマウスにおける,血中の卵白アルブミンに対する特異的IgE(免疫グロブリンE)抗体価を,PCA反応により測定した結果を図2に示した.感作マウスではPCA抗体価は128512倍まで上昇しており,抗原特異的抗体価が上昇していることが確認された.一方,未感作マウスでは抗体価の上昇はみられなかった.(a)(b)感作後日数感作後日数705642281269811284847056422898112126123045スコア030252015105眼部引っ掻き行動(回数/30分)***********************************************図1抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の変化a:眼部引っ掻き行動,b:アレルギー症状.○:Saline,●:OVA.*:p<0.05,**:p<0.01,n=10.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009673(93)3.ヒスタミンおよびOVAの感受性の変化初回感作から0,28,56および84日目のマウスを用いてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動を測定した結果を表1に示した.初回感作から56日目および84日目においてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動は,用量依存的に増加し,ヒスタミン500nmol/siteおよびOVA200μg/siteの用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.初回感作から84日目においてOVA20μg/site以上の用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.4.抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果感作84日目のマウスを用いて,抗原の点眼により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対するセチリジン,エトドラクおよびAA-861の効果を表2に示した.セチリジンは,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状を用量依存的に抑制し,いずれの症状に対しても10mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.エトドラクも,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.アレルギー症状に対してはいずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.AA-861は,抗原により誘発されるアレルギー症状を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.眼部引っ掻き行動に対しては,いずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.III考察マウスの鼻炎モデル7)を参考にして,抗原の全身感作および局所感作によるアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.全身感作の後,両眼に抗原投与を行うことにより,有意な眼部引っ掻き行動の増加が観察された.発赤および浮腫のアレルギー症状も同様に観察された.作製したモデルの表1感作によるヒスタミンおよび卵白アルブミン(OVA)の感受性の変化感作後日数薬物0日28日56日84日ヒスタミンコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.6±0.45nmol/site3.2±1.14.8±1.25.2±1.77.1±1.650nmol/site4.7±1.15.8±1.36.9±1.312.6±2.6500nmol/site6.1±1.29.1±2.712.5±2.7**17.2±2.3**OVAコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.3±0.22μg/site3.2±1.12.6±1.34.4±1.27.4±1.620μg/site4.7±1.14.8±1.18.8±2.018.8±3.0*200μg/site6.2±1.212.9±2.916.5±3.0**20.5±3.5***:p<0.05,**:p<0.01,n=10.表2抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果薬物引っ掻き行動スコアセチリジン(p.o.)コントロール24.4±2.54.0±0.51mg/kg20.0±2.83.1±0.53mg/kg19.2±2.32.9±0.610mg/kg15.7±1.9*1.9±0.4*エトドラク(p.o.)コントロール24.4±2.93.6±0.410mg/kg19.9±3.13.2±0.430mg/kg18.1±2.13.4±0.5100mg/kg14.9±2.6*2.8±0.5AA-861(p.o.)コントロール22.7±3.33.6±0.410mg/kg20.3±2.52.6±0.430mg/kg22.6±2.62.6±0.6100mg/kg21.7±2.41.8±0.4**:p<0.05,n=14.図2感作によるPCA抗体価の変化PCA抗体価未感作マウス感作マウス1,0245122561286432168421<1———————————————————————-Page4674あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(94)PCA抗体価を測定した結果,抗原特異的IgE抗体価は著明に上昇していることが確認された.感作後のOVAおよびヒスタミン感受性の変化を検討した結果,感作によりOVAおよびヒスタミンに対する感受性が有意に亢進していることが明らかとなった.ヒトにおいてもアレルギーの発症により,抗原のみならずヒスタミンに対する過敏症が出現することが報告されており8,9),本モデルは臨床症状とも一致する病態を発現していることが明らかとなった.アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果を検討する目的でCOX-2選択的阻害薬であるエトドラクと5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861を使用し,H1受容体拮抗薬であるセチリジンの効果と比較検討した.その結果,セチリジンの投与により抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状はいずれも有意に抑制された.エトドラクは抗原誘発眼部引っ掻き行動を有意に抑制したが,アレルギー症状を抑制しなかった.AA-861は抗原誘発眼部引っ掻き行動を抑制しなかったが,アレルギー症状を有意に抑制した.プロスタグランジンE2およびD2は,モルモットに点眼することにより痒みを誘発することが報告されており3,10),ロイコトリエンC4,D4およびE4は,アレルギー症状の原因となる血管透過性を亢進することが知られている11).これらの知見は,マウスのアレルギー性結膜炎モデルでの本実験成績を支持するものである.以上の成績から,臨床においてアレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬が,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆された.文献1)山口昌彦,大橋裕一:抗ヒスタミン作用のない抗アレルギー薬─アレルギー性結膜炎─.綜合臨床46:680-684,19972)ProudD,SweetJ,SteinPetal:Inammatorymediatorreleaseonconjunctivalprovocationofallergicsubjectswithallergen.JAllergyClinImmunol85:896-905,19903)WoodwardDF,NievesAL,SpadaCSetal:Characteriza-tionofabehavioralmodelforperipherallyevokeditchsuggestsplatelet-activatingfactorasapotentpruritogen.JPharmacolExpTher272:758-765,19954)HowarthP:Antihistaminesinrhinoconjunctivitis.ClinAllergyImmunol17:179-220,20025)KameiC,IzushiK,NakamuraS:Eectsofcertainantial-lergicdrugsonexperimentalconjunctivitisinguineapigs.BiolPharmBull18:1518-1521,19956)FukushimaY,NabeT,MizutaniNetal:Multiplecedarpollenchallengediminishesinvolvementofhistamineinallergicconjunctivitisofguineapigs.BiolPharmBull26:1696-1700,20037)渡辺雅子,朝倉光司,斎藤博子ほか:鼻アレルギーマウスモデル作成の試み.アレルギー45:1127-1132,19968)浜口富美:鼻アレルギー発症の機構に関する研究.日耳鼻88:492-501,19849)CiprandiG,BuscagliaS,PesceGPetal:Ocularchallengeandhyperresponsivenesstohistamineinpatientswithallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol91:1227-1230,199310)WoodwardDF,NievesAL,FriedlaenderMH:Character-izationofreceptorsubtypesinvolvedinprostanoid-inducedconjunctivalpruritusandtheirroleinmediatingallergicconjunctivalitching.JPharmacolExpTher279:137-142,199611)GaryRKJr,WoodwardDF,NievesALetal:Character-izationoftheconjunctivalvasopermeabilityresponsetoleukotrienesandtheirinvolvementinimmediatehyper-sensitivity.InvestOphthalmolVisSci29:119-126,1988***

眼科医にすすめる100冊の本-5月の推薦図書-

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096630910-1810/09/\100/頁/JCLSアメリカの住宅バブルがはじけて世界の経済が大変な状況になっている.投資のことなど考えたくない人も多いと思う.僕も本当に損をして(個人的なセンスによるところも多いが),ほとほと嫌になっているのだが,そうした状況のなかでちょっと新しい考えのヒントになった本に出会ったので紹介したい.1999年にアンチエイジングを始めて125歳まで生きると決め,以来“125歳への経済学”をと考えて時間の5%を経済投資に使うことにした.実際には,月の初めに1日だけ投資のことを考える.最近の研究でお金のことをあまり考えすぎると,独立心は旺盛になるものの社会との一体感が損なわれるなどごきげんから遠ざかってしまう可能性が指摘されているので,考える時間はある程度制限したほうがいいようだ.しかしまったく考えないのもよくないので5%にしている.ちょっと前には勝間和代さんの“お金は銀行に預けるな”(光文社新書)を読んで納得した.そうか,銀行じゃだめなんだと思って,投資信託に投資してみたら世界不況になってしまって大損.勝間さんは今では投資の話をせずに“会社に人生を預けるな”(同じく光文社新書)という人生を語る人になってしまった.もちろん投資をしたのは自分であり,すべての責任は自分にあるので勝間さんの責任ではない.何年か前に知り合って講演会などに呼ばれたこともある高橋誠一さんが,昨年“金持ち大家さんになろう”(PHP研究所)を出版され,そのときに本を頂いて読んだ.高橋さんはアパマンショップを立ち上げた日本でも有数の土地建物の投資専門家である.そのときに,なるほど,大家さん経営とはそんなものかと思っていたが,続けて本書“お金持ち大家さんへの道”が出版されて,とても納得してしまった.最初の本を読んで実行した人たちのストーリーがたくさん載っているのだ.本誌第18巻5号の本欄で,ロバートキヨサキの“金持ち父さん,貧乏父さん”をとりあげたが,高橋さんの資産に対する考えもかなり似ている.とにかくキャッシュフローを生み出すものが“資産”であり,お金を生まないものは資産とは言えないというはっきりとした立場で書かれている.マイカー,マイホーム,金,ダイアモンドはお金を生まないので資産ではない.投資信託,株,預金は財産だが,年利で考えたときに0.3%から4%くらいの間なのであまり得策ではない.彼のお奨めはアパート,マンション経営.だいたい710%くらいの年利で回すことができるので資産としては有利だと言う.だいたいアパート経営なんて考えたこともないし,経営するという手間を考えると通常は無理だと思う.ところがこの本のなかに基本的にこうすればよいという方法が紹介されている.1)サブリースを組む2)利回りを710%としっかり考える(そのため中古がお奨め)3)駅から徒歩で15分以内5)自己資本を2,000万円以上それぞれの4項目について本を読んでなるほどと思った.サブリースを組むということはそのアパートを丸ごと20年間にわたって借り上げてもらって自分は何もしなくていいということ.もちろん手数料はとられるが,眼科医を本業とするわれわれには必要だ.こんなシステムがあるとは知らなかったので,とっても便利な世の中になったと思った.2番目の項目,3番目の項目は特に重要.自分が住みたいと思うものではなくて,利回りと駅からの近さで選ぶというのが大切だ.どんなにきれいで素敵なアパートでも駅から遠かったり,バスを使わないとだめなものは絶対にお奨めしないという.さらには(83)■5月の推薦図書■お金持ち大家さんへの道─これで安心!究極の個人年金づくり高橋誠一著(PHP研究所)シリーズ─88◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page2664あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009経済が悪くなったり,金利が上がっても損をしないようにしっかりと自己資本を用意することを奨めている.自己資本が2,000万円あると,2,000万円の借金をして4,000万円くらいのアパートが買える計算になるそうだ.利回りが8%として年間の収入は320万円.サブリースで12%の手数料を払うので実際は270万円.年間130万円を返済にあてたとしても(おおざっぱな計算ですみません.2,000万円を20年ローンで借りると月の返済はこのくらいでしょうか)140万円の収入となる.自己資本2,000万円に対して実際の収入が140万円ならちょうど7%の利回りで回せる計算だ.これなら確かに預金や投資信託より利率がいい.20年たって建物は古くなるが,土地は自分のものになるのでその分もプラスとなる.新しいアパートを建ててもいいし,売却してもいい.本のサブタイトルにあるようにこれは個人年金づくりとも言える.年間140万円ではちょっと生活できないが,高橋さんによれば数棟やればそれなりの金額になってよいという.高橋さんに直接“それじゃ,投資はすべて不動産がいいのですか?”と聞いたら,“坪田先生,もちろんそうですよ.これ以外にありますか?株で皆さん損しているでしょ”とずばっと答えられてしまった.うーん,僕でも知っているポートフォリオという言葉.投資はリスクを分散するためにいろいろなものにしたほうがいいという考え方からすると,すべて不動産というのは少々考えてしまう.しかしまったくやってみないのもつまらないと思い,実は15年間毎月貯めてきた純金積み立てと満期保険金を使って,初の“アパート経営”をやってみようかなと考えているところだ.どうなるかわからないが,125歳まで生きると,65歳の定年から先が60年間もあるのでこれらの経済を今から考えておくことは絶対必要だ.初めての挑戦をプッシュしてくれたという意味で,ちょっと異色ですがここにお奨めの本として紹介します.もし,これを読んで自分も個人年金のためにアパート経営をしてみようと思ったら,あくまで自分のリスクでお願いします.よーく高橋さんの話を聞いて,納得がいったらあくまで自分のリスクで(しつこくてすみせん)やってみてください.(84)☆☆☆

後期臨床研修医日記10.岩手医科大学医学部眼科学講座

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096610910-1810/09/\100/頁/JCLS火曜日火曜日から金曜日までは各専門外来があり,担当の先生方がそれぞれの曜日に月1回ずつ,朝8時から勉強会を開いてくださっています.この日は緑内障グループの勉強会でした.私達が日々疑問に思っていることや,実際の臨床で役立つポイントなどを講義してくださっています.火曜日も午前中は手術で助手に入ります.症例は白内障・緑内障・外眼部・硝子体手術などで,さまざまな症例の助手を経験することができます.午後は病棟当番といって,病棟の雑務とおもに出張などのため不在となる先生方の担当患者さんの診察をしたりします.先輩は大学病院でしか経験できないような症例が多いので頑張るようにとアドバイスをくださいますが,とにかく目の前の患者さんの診察と管理でそんなことを感じる余裕はありません.眼圧が高いけれどこのままでいいのかな,どうしよう,そばにいる先輩に聞いたり,術者に相談したり,はたまた,指示の書き換えができていませんよという看護師さんの声に,思わずうなってしまう毎日です.でも,術者や先輩方の診察所見と自(81)岩手医科大学医学部眼科学講座は,現在後期研修医が7人在籍しています(同期は3人です).決して多い人数とはいえないなかで多くの仕事をこなさなくてはならず,忙しい毎日です.しかし,それだけ豊富な症例に接する環境であるともいえ,各専門の先生方の下,日々切磋琢磨しながら学んでいます.そんな私達の1週間の様子を少しご紹介したいと思います.月曜日毎週月曜日は朝7時45分から抄読会と症例検討会があります.ここでは,その週に行われる予定手術の術前検討を行います.当科では術者と一緒に,担当医としておもに私達研修医が患者さんを受けもっているため,研修医がプレゼンを行います.「本当に手術適応があるのか」「診察所見は合っているか」「なぜその術式を選択したのか」などが検討されますが,私達がその患者・疾患についてちゃんと診察し病態などを正しく理解しているのかが試さる場でもあり,前日の日曜夜には重い気分になります.抄読会の担当と重なると,もう日曜日はパニックです.9時には一般業務が始まるので,症例検討会の前後は入院患者さんの診察のため病棟の診察台は椅子取りゲーム状態です.この日は手術日でもあるので,午前中は手術助手に入るか新患・一般外来に入ります.13時からは教授回診で経過や治療方針,今後の予定をプレゼンし,その後は引き続き手術か外来・病棟業務に戻ります.手術映像は,医局にも同時中継されますが,なかなか見る時間がないのが残念です.夕方6時からは午後のカンファランスです.術後の問題症例,難症例についての検討会が行われます.各学会前には発表練習も行われるため,学会直前はここに間に合わせるため皆必死です.カンファランス後はまた病棟に戻り,手術記録を書き山積みの書類を終えて,ようやく帰路へ…長い長い1日の終了です.後期臨床研修医日記●シリーズ⑩岩手医科大学医学部眼科学講座鎌田有紀▲後期研修医一同(上段左から横山大輔先生,玉田邦房先生,石川陽平先生,西村智治先生,下段左から筆者,早川真奈先生,浦上千佳子先生)———————————————————————-Page2662あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(82)医が輪読会を行っています.自分一人では近づき難く,慣れない英語の教科書のため,少しずつですが皆で読み進めています.こうしてじっくり読んでいるからこそ気づく発見があったり,教授からコメントを頂いたりして,新しい知識を吸収することのできる貴重な時間です.9時からは外来で新患担当です.私達の仕事は,初診の患者さんの問診をとり,診察してカルテに記入し,必要な検査をオーダーすることです.ときには新患担当の上級医の先生からその場で「炎症所見があるからもう一度診察」「どうして☆☆の検査をしてないの?」と注意されます.また,上級医が週1回その週の新患・入院患者のカルテチェックをしてくださり,私達のアナムネの取り方,カルテの記載方法,さらにそれぞれの検査所見の判断のしかたなどいろいろ質問されます.実際の症例の所見をどう考えるか聞かれると,なかなか初めは答えられませんが,実践的で一番勉強になるかもしれません.以上,1週間の流れを簡単にご紹介しました.これら通常業務以外に,角膜摘出当番や,毎日のように訪れる網膜離をはじめ角膜感染症や眼球破裂などの緊急手術の対応にも迫られます.四国と同じ面積(人口は少ないけど)の岩手県中から患者さんが大学病院目指してやって来るのですから,当然といえばそれまでですが….緊急手術は夜遅くまで,日付を越えることもあり,多忙な毎日です.しかし,これらの症例を各専門の先生方の指導の下で経験することができるのは,大学病院にいる今だけであり,貪欲に多くのことを吸収していきたいと思います.分の所見とを比べたり,一緒に見てもらって診察のポイントや適切な処置を教えていただくチャンスでもあるので頑張っています.水曜日水曜日は,私は週に1度の研究日です.本学は,社会人大学院制度を導入しており,後期研修中に臨床もしつつ研究や論文作成を行うことになります.そのため後期研修医は週に1度研究日を頂いているのです.私は現在,基礎の教室にお世話になって研究を行っていますが,臨床研究を行っている同期もいます.もちろんこの日だけでは時間が足りず,日々の診察や業務の終了後に時間をつくっては研究を行っています.臨床と研究を両立させながら充実した日々です…と書きたいのですが,それぞれ波があり,山場が重なってしまうともう大変で同期に手助けしてもらうこともあります.同期がいることのありがたさを感じる瞬間です.木曜日私にとって大学外の病院へ出張の日です.東北の地域医療の医師不足を補うべく,私たちの出張先は岩手県の病院だけでなく秋田県,青森県にまで及んでいます.午前中は外来診察です.患者数は平均60人,多いときは90人近くになることもあります.まだ自分の診断に自信をもてないこともあり,教科書を見て悩みつつ…なんとかこなしています.午後は手術です.おもに外眼部と白内障手術を行っていて,先輩が出張先の病院にまで来て,私たちの手術指導をしてくださっています.震える手を押さえながら,手術中は緊張の連続です.手術終了後,回診をして手術所見や書類を書たりすると,もう帰りの時間.新幹線に飛び乗り,盛岡に戻ったら大学の患者さんの診察をしないと….金曜日金曜日の朝8時からは黒坂大次郎教授と伴に後期研修?プロフィール?鎌田有紀(かまだゆき)平成17年岩手医科大学医学部卒業,岩手県立中央病院で初期臨床研修終了.平成19年4月より岩手医科大学眼科学講座後期研修医.平成20年4月岩手医科大学社会人大学院入学.教授からのメッセージ4年前に赴任し,この間7名の後期研修医が入局した.以前にいたところと大分勝手も違い,教育体制も試行錯誤を繰り返したが,1年くらい前から何とか落ち着いてきた.若い人は,案外と物をよく見,考えているのに驚かされる.そして彼らが驚き,うろたえ,感動する姿に日々励まされている.ただ,彼らはときに狭い視野で物事を捉えてしまうことがあるので,視野を広げるように,あの手この手を駆使しているつもりである.自分の可能性を信じ,凛として立ち,思いっきり活動して欲しい.岩手医科大学医学部眼科学・教授黒坂大次郎

インターネットの眼科応用4.インターネット会議室 

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096590910-1810/09/\100/頁/JCLS六次の隔たり(6degreesofseperation)ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SocialNet-workService:SNS)とよばれるインターネットサービスがあります.この,Web2.0を代表する交流サイトは1997年に登場し,社会的ネットワークをインターネット上で構築し,人と人のつながりを視覚化します.SNSが本格的に普及したのは2002年にスタンフォード大学の卒業生が始めたFriendsterや,Googleの一社員であったOrkutBuyukkoktenが開発したorkutなどからです.現在,世界最大のSNSコミュニティ・サイトはMySpace(マイスペース)です.2008年5月10日現在で2億320万人分のアカウントがあることが発表されています1).SNSに参加する会員は,ブログを書いたり,個々の共通の話題をもつユーザーと交流したり,音声ファイルや画像ファイルを公開したり,会員間でメールを送受信したりすることができます.日本では2004年1月にIT関係者の間で本格的に広がり,mixi,greeが最大手のSNSコミュニティです.SNSを説明する際に,一つのキーワードがあります.「六次の隔たり(6degreesofseperation)」とよばれるものです.「六次の隔たり」とは,世界中の人間は何人の知り合いでつながるか,という問いに対し,「6人でつながりますよ」という仮説です.たとえば,「ある人物Aさんが44人の知り合いをもつとします.Aさんの知り合い(F1)である44人が,Aさんとも互いにも重複しない知り合い(F2)を44人もち,F1の知り合いであるF2さんたちがAさんともF1とも互いにも重複しない知り合いを44人もつ」とすると,Aさんの六次以内の間接的な知り合いは446=7,256,313,856人となり,地球の総人口6,453,581,351人を上回ります(2005年7月13日現在CensusBureauHomePage調べ).つまりAさんは知り合いを6人たどることで,最も遠い距離にいる任意の人物Bさんとも知り合いになれます.ただし,実際にはF1の知り合い(F2)がAさんの知り合い(F1)である可能性もあるため,単純に平均の知り合いの数をもってこの計算を正当化することはできないことに注意が必要です.また同様にAさんたちがもつ「重複しない知り合いの数」が23人であるとすると,236=148,035,889人となり,日本の総人口127,055,025人〔住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数(2006年3月31日現在)調べ〕を上回ります.一般に六次の隔たりを語るうえで多く言及されるのが,Yale大学の心理学者スタンレー・ミルグラム教授によって1967年に行われたスモールワールド実験です.この実験ではネブラスカ州オマハの住人160人を無作為に選び,「同封した写真の人物はボストン在住の株式仲買人です.この顔と名前の人物をご存知でしたらその人のもとへこの手紙をお送り下さい.この人を知らない場合は貴方の住所氏名を書き加えた上で,貴方の友人の中で知っていそうな人にこの手紙を送って下さい」という文面の手紙をそれぞれに送りました.その結果42通(26.25%)が実際に届き,届くまでに経た人数は平均5.83人でした.また,日本のあるバラエティ番組で,「与那国島の日本最西端の地で最初に出会った人に友人を紹介してもらい,何人目で明石家さんまに辿り着くか」という企画が行われたことがあります.結果は7人だったそうです.つまり,知り合いの知り合いをつないで世界とつながることが可能です.SNSという交流サイトの多くが登録に招待制を基本としているのは,その「六次の隔たり」を強く意識しているからでしょう.われわれの医療界に目を移しますと,「重複しない医師の知り合いの数」が100人であれば,日本の医師(23万人)は3人でつながります.「重複しない眼科医の知り合いの数」が50人であれば,3人で日本国中の眼科医(1万人)がつながります.「医療界は三次の隔たり」というのが私の仮設です.これはきわめて現実的な数字と思います.現実世界の知り合いの輪をインターネット(79)インターネットの眼科応用第4章インターネット会議室武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ④———————————————————————-Page2660あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009上で視覚化できるのがSNSの魅力です.医療者がSNSを通じてつながることができれば,医療情報の共有がインターネット上で可能になるのではないか,と考えました.狭いはずの医療界で,情報共有が十分になされていないのは社会的損失です.私は,SNSを用いることがその突破口になると考え,2005年8月1日に医師・歯科医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpを開設しました.MVC-onlineは,日本でも最も老舗の,職種特化型SNS交流サイトです.現在,全国から1,000人を越える医師・歯科医師に参加いただいています.MVC-onlineに登録すると,所属や専門科を越えてインターネット上でつながり,医療情報の共有が容易になります.また,登録者を医師に限定することで,医療者の視点での議論が可能です.MVConlineでできること①(臨床相談)参加者がエリアを越えて交流できることが,インターネットの魅力です.医師という専門家集団がネット上で交流できると,それまでは学会場でしか相談できなかった内容をオンラインで解決することができます.ディスカッションに参加しなくても,その会話を見聞きするだけで自分の引き出しが増えていきます.MVC-onlineで行われた実際の投稿例を紹介します.Case1:「ケナコルト自主回収」日本赤十字社和歌山医療センターの宮本純孝先生から『整形分野の関節内投与で問題があったらしく,ケナコルトが自主回収されるそうなんですが,なにか良い代用品はあるんですか?教えてください.(原文まま)』という投稿がありました.この投稿に対し5カ所の所属の6人の先生から計22のコメントが寄せられました.タイムリーな話題に対し,さまざまな所属の先生方のノウハウと苦労話が寄せられました.Case2:「マウスの静脈注射」神戸理化学研究所の万代道子先生から『マウスの静注(尾静脈)のやり方,コツを教えてくださる方,あるいは近くの方でやっておられて実際に見せて頂ける方はいませんでしょうか?』という投稿がありました.この投稿に対し,5つの所属の6人の研究医の先生方がお互いのノウハウをもちより,延べ14のコメントが寄せられました.情報が徐々に洗練されて,更新されていく様子は後で振り返ってみても価値の高さを感じます.Case3:「外転障害」愛媛大学の鈴木崇先生(現在留学中)から外転障害の(80)患者について画像付きで相談が寄せられました.この症例に対して所属を越えた互助的な話合いが進みました.すべてインターネット上での出来事です(画像1).このように臨床上の相談事をインターネットでできる時代になりました.MVC-online以外にもさまざまな媒体が登場していますが,MVC-onlineでは互助的な精神を忘れずに,われわれ医療者の知識,ノウハウをインターネット上で共有することを目指します.医師限定のSNSサイトは,インターネットの眼科応用の可能性を示すものであり,Web2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】医師・歯科医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpでは,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/MySpace画像1:MVConlineで行われた投稿(Case3)例

硝子体手術のワンポイントアドバイス72.眼球破裂例に対する硝子体手術(上級編)

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096570910-1810/09/\100/頁/JCLS眼球破裂はきわめて強い鈍的外力が眼球に加わり,瞬間的な眼圧上昇をもたらし眼球壁が破裂するものである.強膜破裂に伴い,眼内組織の一部が眼外に脱出することが多い.通常,前房出血や硝子体出血を伴い,脈絡膜上腔出血,網膜下出血,網膜離,水晶体脱臼などを併発していることも多い(図1).強膜は通常,角膜輪部に平行に破裂することが多いが,強膜がもともと薄い外眼筋付着部付近ではしばしば角膜輪部に垂直な方向に破裂創が拡大する.強膜破裂創の大きな症例では,水晶体や眼内レンズが眼外に脱出することもある1).球破裂にする手術一期的か二期的か従来から眼球破裂例では,まず強膜縫合を行い,12週間後に二期的に硝子体手術を行うとする意見が多い.その利点として,①角膜透明性の回復が得られる,②網脈絡膜の炎症が鎮静化する,③後部硝子体離が発生し硝子体切除が容易になる,④脈絡膜上腔出血が溶血し排除しやすくなる,などがあげられる.欠点としては,①眼内増殖性変化が進行する,②網膜離併発例では離範囲が拡大する,③感染性眼内炎発症の危険がある,④水晶体損傷例では水晶体起因性眼内炎発症の危険がある,などが考えられる.筆者は受診時に角膜の透明性が保たれていれば,可能な限り一期的に硝子体手術まで施行する方針をとっている.その最大の理由は,感染性眼内炎を経過中に併発した場合には,予後がきわめて不良となるからである.球破裂にする硝子体手術のポイン強膜を丁寧に縫合した後,水晶体切除を併用した硝子体切除を周辺部まで確実に施行する必要がある.眼球破裂例では眼内の増殖機転が進行しているため,周辺部硝子体切除が不十分だと,前部増殖性変化を惹起して房水産生低下を招き,眼球癆になる危険が高い.眼球破裂例(77)の予後は,眼内組織の損傷や脱出の程度に大きく左右される1)が,最も重要なファクターは毛様体損傷の程度であり,これが軽度であれば,十分に視機能を温存できる可能性がある(図2).術中の出血は通常易凝血性で特に網膜下出血の処理に苦慮することが多い.筆者は眼内灌流液にヘパリンを添加し,術中に生じる出血を凝血させないようにしている2).タンポナーデ物質としては,可能な限りガスを使用するが,高度の術後炎症が予測される場合にはシリコーンオイルを使用している.文献1)立脇祐子,前野貴俊,南政宏ほか:眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討.臨眼60:989-993,20062)ImamuraY,KameiM,MinamiMetal:Heparin-assistedremovalofclottingpreretinalhemorrhageduringvitrecto-myforproliferativediabeticretinopathy.Retina25:793-795,2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載72眼球破裂例に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1眼球破裂例の前眼部所見耳側約120°にわたる眼球破裂を認め,前房出血と水晶体亜脱臼を認める.図2硝子体手術後の所見広範な脈絡膜の欠損を認めるが,毛様体の損傷は比較的軽度で,房水産生機能は温存され,眼球癆には至らなかった.

眼科医のための先端医療101.難治性眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの可能性

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096530910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに眼科の失明原因となる代表疾患にぶどう膜炎や感染性眼内炎があります.またこれらの疾患と鑑別がむずかしい眼内リンパ腫は生命予後に直結する疾患です.近年,ウイルス学や分子生物学の進歩により眼科領域でも原因不明の疾患に外来性抗原(ウイルス,細菌,寄生虫,腫瘍など)が関与していることが判明してきています.筆者らの施設では,眼の微量な検体を用いて,これらの難治性眼炎症疾患の病因となる多様な外来抗原を網羅的にスクリーニングし診断する検査システムを開発し,正確な診断とそれに合う適切な治療を行うことを検討しています.眼感染症は失明,眼内リンパ腫は生命予後にかかわるので正確で,かつ迅速な診断システムの開発が必要であると考えます.新しいpolymerasechainreaction(PCR)検査はルスウイルスの性(ルス)ルタイムをた検査システムをしの効性にいのをいした)ではのウイルスで効でた検査システムを用しウイルスではな眼炎症すにしいるれる性のんすを網羅でる検査システムをするを検しいすの具体的なですルスはを用いれれの特的イーをしでをいすイイーシーのをしをいウイルスなのの検をいすれは()なないにしたーにのをしすの性ではルのでしいしたれはなでしすた性で性でたにしのをいすを用いしすしを用いでをいす性をる的でイーーはルスはなるにしす新しいPCR検査システムの特徴ルスのは性いいでるですルにるはでにはの性に性性のでスー検査し用されすののは眼炎症性疾患(炎炎な)の検体はの性検される可能性のは用れすではでの眼検体を用いたは眼の体の性たは検査のでの検査のにをにに眼の検体はんなされいんルタイムのは治に眼のーをでるために治のの用タイのになすさにの難治性眼炎症疾患の検体の性のをスーでるので症で症にはステイの炎症をるになす具体的なPCR検査の流れ具体的な検査の流れは図1にまとめました.ぶどう膜炎,眼内炎など活動性眼内炎症を有する患者からインフォームド・コンセントを得て前房水,硝子体,虹彩などの眼内組織を採取します.眼表面炎症性疾患では,角膜擦過物や涙液,結膜組織などを採取します.検体の処理ですが,検体を遠心,分離し,沈渣の細胞成分は自動核酸抽出装置とDNA抽出キットを使用し核酸DNAを抽出します.検体の上清はPCR以外の検査(サイトカイン測定,特異抗体測定,培養など)に使用します.(1)細菌性眼内炎の診断には,一般的な培養,グラム染色,ギムザ染色に加えて,Broad-range定量PCR(細(73)◆シリーズ第101回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊杉田直(東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科眼科学)難治性眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの可能性———————————————————————-Page2654あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009菌全般保存領域の増幅:16SリボゾームRNA領域)を行います.このPCR陽性検体は,16SリボゾームRNA領域を増幅させて,直接シークエンスして,その結果をGeneBankでブラスト解析を行い,菌の同定までを行います.眼科の遅発性眼内炎の代表細菌,Propionibacte-riumacnesは別に定量PCR検査を行います.(2)真菌が疑われる場合,真菌培養およびBroad-range定量PCR(真菌全般保存領域の増幅:18SリボゾームRNA領域)も行います.その他,眼科関連性が高いと思われるカンジダ,アスペルギルス,フザリウム,アカントアメーバのそれぞれの定量PCRも行います.(3)ウイルスの診断は,ヘルペスウイルス属1型から8型(HSV-1,HSV-2,VZV,EBV,CMV,HHV6,HHV7,HHV8)までとレトロウイルスでぶどう膜炎の原因のHTLV-1(proviralDNA)の検索を行います.また,眼科関連性は不明のBKV,JCV,パルボウイルスB19に関しても検討します.上記ウイルスはいずれもマルチプレックス定性PCRおよびリアルタイム定量PCRを用いてゲノムの同定を行います.(4)眼内寄生虫の診断には,代表的なトキソプラズマとトキソカラのPCRを行います.トキソプラズマは定性・定量PCRを用いて眼内ゲノムの同定を,トキソカラはトキソカラチェック(簡易定性検査)を用いて眼内特異抗体の同定および定性および定量PCRも行います.その他ぶどう膜炎の原因となる病原体で,結核,梅毒トレポネーマ,バルトネラ菌(ネコひっかき病),クラミジアがあります.これらの外来性抗原の定性および定量PCRを用いてゲノムの同定を行います.(5)眼内腫瘍の診断として,仮面症候群を呈する眼内リンパ腫と白血病眼内浸潤の診断システムを確立させます.一般的な病理診断以外に,眼内液を利用した定性PCRでT細胞受容体(TCR)再構築(T細胞系)とIgH(免疫グロブリンH)再構築(B細胞系)を行います.PCRで陽性の検体はサザンブロットで二重解析を行います.同時に検体の上清を使用してELISA法(酵素免(74)PCR検査症例:検体採取DNA抽出①細菌全般定量②真菌全般定量③ウイルスmultiplex細菌16SrRNA領域真菌18SrRNA領域HHV1-8,HTLV-1BKV,JCVParvoB19GeneBank(ブラスト解析)各種真菌定量PCR各種ウイルス定量PCRカンジダアスペルギルスフザリウムアカントアメーバ⑤眼内リンパ腫B細胞IgH遺伝子再構成T細胞TCR遺伝子再構成④ぶどう膜炎multiplex結核,梅毒,バルトネラクラミジア,トキソカラトキソプラズマ各種定量PCR検体処理細胞成分液体成分抗体測定サイトカイン測定細菌培養真菌培養一部の細胞成分病理検査検サザンブロット図1眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの検査の流れ①細菌全般定量PCR,②真菌全般定量PCR,③ウイルスmultiplexPCR,④ぶどう膜炎multiplexPCR,⑤眼内リンパ腫PCRの5種類のPCR検査は迅速(24時間以内)に行う.その後の検査も48時間以内を目標とする.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009655(75)疫測定法)によるサイトカイン測定も行います.期待される効果の新しい検査システムの期待される効果し眼炎症のなる性をにでするで期治なすた眼ののをい治ののなすたの眼炎症性疾患新しい性のされる可能性すさには特に性疾患性疾患をするでるのでな検査なる期待されす[本稿で用いたウイルスの略語のフルターム]BKV:BKvirus,CMV:cytomegalovirus,EBV:Epstein-Berrvirus,HHV:humanherpesvirus,HSV:her-pessimplexvirus,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirus1,JCV:JCvirus,VZV:varicella-zostervirus.文献1)杉田直,岩永洋一,川口龍史ほか:急性網膜壊死患者眼内液の多項目迅速ウイルスPCRおよびリアルタイムPCR法によるヘルペスウイルス遺伝子同定.日眼会誌112:30-38,20082)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRandreal-timePCRtodetecthumanherpesvirusgenomeinocularuidsofpatientswithuveitis.BrJOph-thalmol92:928-932,20083)SugitaS,ShimizuN,KawaguchiTetal:Identicationofhumanherpesvirus6inapatientwithsevereunilateralpanuveitis.ArchOphthalmol125:1426-1427,2007「難治性眼炎症性疾患にする網羅的PCR診断システムの可能性」を読んで本稿でされいる()はのしたのですはに的をたししたれでのでのしでんでしたはにするしいでれではをしれいしたのをるは「い体にいのでた」るなのでのをするためのなのをにめしたのしのにののをにい()をたししたの本的なは杉田直れいるにいのイーをに用いをさるいのですのはを効さるでな検体の網羅的な可能でるのでなる検し診断の性になをする期待されしたししに用するなるはにしる検体のされいるのにはした検体のになる検体のには性のる果をんでした本稿ではのにいんれれいん検査に用可能なルのをするでには杉田たのなたはですのにはをするで患のに診断でるいした眼でのルにいいるのですたし眼をるで眼坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ188.人工角膜:AlphaCor邃「 

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096490910-1810/09/\100/頁/JCLS手術方法・術後管理1.手術方法(図3)二段階手術で施行する.1期目の手術は,角膜実質層間にAlphaCorTMを挿入することが主目的である.全身麻酔での手術が推奨されているが,局所麻酔でも可能で新しい治療と検査シリーズ(69)バックグラウンド混濁した角膜を,何らかの透明な構造物で置き換えることで視力を取り戻そうという構想は,すでに200年以上前にGuillaumePellierdeQuengsyによって具現化されていたと考えられている.わが国でも,高橋光春が1891年(明治24年)に亀甲製の人工角膜を臨床応用していた1).その後,さまざまな素材・デザインの人工角膜が開発されたが,素材の生体適合性や術式の問題から製品開発・大量生産には至らなかった.全世界には,1,500万人以上の角膜疾患での失明患者がいるといわれているなか,特定の地域を除きドナー角膜は不足している.仮にドナー角膜での移植を施行しても,拒絶反応や続発緑内障の結果,移植片機能不全をきたす危険を伴う.移植片の透明性という観点からすると,全層角膜移植では手術回数が増えるほど成績は悪くなる.もし,ドナー角膜に置き換わる人工角膜が大量生産可能になれば,世界的なドナー不足は解消されることが期待できる.新しい治療法1980年代初頭にChirilaによって開発された人工角膜は,2002年10月にAlphaCorTMとして製品化された.そのデザインは,直径7mm,中央の光学部直径4.5mm,厚さ0.6mm,周辺部は幅約1.2mmの白色支持部からなる(図1).素材にpoly(2-hydoxyethylmethacry-late):PHEMAを用いることで,無色透明の光学部と微小孔構造の支持部とが,相互侵入高分子網目(inter-penetratingpolymernetwork:IPN)で接合し,分子レベルでシングルピース構造(図2)の柔軟な人工角膜とした.組織への機械的ストレスが少ないこと,前房の構造を維持できる術式から,良好な術後成績が期待されている.188.人工角膜:AlphaCorTMプレゼンテーション:江口洋徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座眼科学分野コメント:川北哲也慶應義塾大学医学部眼科学教室図1AlphaCorTM移植眼結膜被覆をしない方法3)での第1期手術後.図2IPNの走査電子顕微鏡像微小孔(矢印)をもつ支持部と均一な構造の光学部(矢頭)は接着している15μm———————————————————————-Page2650あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009ある.2期目は,1期目の術後3カ月以降に,視路の再建を目的として局所麻酔で施行する.<第1期目手術>結膜を輪部で360°全周切開し,結膜被覆弁を作製78mm幅の強角膜切開創作製角膜層間離で,実質層間ポケットを作製ポケット後方角膜の中央を穿孔(直径3mmの皮膚生検用トレパンが有用)AlphaCorTM挿入層間でのAlphaCorTMの移動を防ぐため前方・後方実質を10-0ナイロン糸で23針縫合10-0ナイロン糸で強角膜切開創を縫合角膜上皮を全面掻爬結膜弁で眼表面を被覆し,8-0バイクリル糸で適宜縫合<第2期目手術>点眼麻酔後に,被覆結膜の中央を直径約3mm切開止血しながら,前方角膜も同様に切開し,Alpha-CorTM前面を露出させる必要に応じ治療用コンタクトレンズを装着2.術後管理1期目術後は,結膜被覆弁の穿孔が生じないか,角膜融解がないかをみる.角膜融解は,結膜を透かして見えているAlphaCorTMの位置や,眼表面の突出の具合から判断する.その際,OCT(光干渉断層計)も有用である.2期目術後は,前方角膜切開部の拡大の有無,retro-prostheticmembraneの有無,眼底の検査をする.角膜融解予防のために,術後は一貫して酢酸メドロキシプロゲステロンの点眼薬を使用し続ける.本法の良い点AlphaCorTM移植そのものは,白内障術後であればさほどむずかしい手技を必要とせず2),lamellarsurgeryの経験があれば施行できる.特殊な器具を必要とせず,前房内の構造を崩すこともない.輪部機能が保たれている症例では,結膜被覆弁を利用しない方法も考案されており3),その場合,術式はより平易で手術時間も短縮される.また,術後早期の経過観察も細隙灯顕微鏡で可能である.眼圧の正確な測定は困難であるが,AlphaCorTMが柔らかいため,ProviewTMなどで比較的信頼性の高い眼圧モニタリングが可能である.角膜の融解などでやむを得ずAlphaCorTMを摘出しても,ドナー角膜での全層角膜移植や再度AlphaCorTM移植で視路の再建も可能であり,AlphaCorTM移植が角膜再建術の最終手段ではない.1)HirschbergJ:LettertoInoueTatsuya(inGerman).Chu-gaiIjiShimpo(NationalandInternationalMedicalNews).366:758-759,18952)EguchiH,HicksCR,CrawfordGJetal:CataractsurgerywiththeAlphaCorarticialcornea.JCataractRefractSurg30:1486-1491,20043)CrawfordGJ,EguchiH,HicksCR:TwocasesofAlpha-Corsurgeryperformedusingasmallincisiontechnique.ClinExpOphthalmol33:10-15,2005(70)結膜被覆弁角膜層間のAlphaCorTM前房体第1期手術後第2期手術後図3術式の模式図第1期でAlphaCorTMを挿入し,第2期に視軸を作製する.図4術中写真角膜層間にAlphaCorTMを挿入している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009651(71)が一のときも再移植,通常の角膜移植も可能である.また支持部の生体適合性と中央部の細胞接着抑制など,コンセプトはよさそうである.しかし輪部機能,涙液分泌機能がほぼ正常なことが条件であり,重症瘢痕性角結膜症には用いられない.また,角膜実質に埋め込むため,ある程度の厚さが必要であるなど,適応症例に制約が多い.ホルモン剤点眼の長期使用が必要な点も気になるところである.人工角膜は,生体素材を用いているかどうか,で大きく2つに分けられる.人工物のみのものは,生体適合性,透明性維持などが大きな問題となる.人工角膜を用いた手術は,通常の角膜移植では救うことができない症例(拒絶反応を頻回に起こすケース,角膜実質融解をくり返すなど)に対する最終手段として,選択をすることが多い.このAlphaCorTMは,角膜全層として移植するというわけではなく,角膜実質移植に近いものである.術後も角膜の形態は保持しており,万本方法に対するコメント☆☆☆

眼感染アレルギー:多発性小円形病巣を呈する特異な角膜炎-能登角膜炎と銭型角膜炎

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096470910-1810/09/\100/頁/JCLS1983年に石川県能登地方で,これまでに経験したことのない奇妙な角膜炎が多発した(図1).片眼の散在性円形病巣を特徴とし,角膜知覚は正常で,抗ウイルス薬に反応はなく,ステロイド点眼が著効した.「多発性円形病巣を呈した角膜炎」と題して筆者らが初めて4例を報告1)したが,患者数はその後も増加を続けた.その後,当教室の山村らにより,1986年に34例2),1990年に67例が追加報告3)された.能登地方で多発したことより,「能登角膜炎」とよばれている.ここにその特徴と,本角膜炎と同様に農村地区に多発する銭型角膜炎との違い,鑑別疾患について解説する.登角膜炎の臨床患者は農林業を営む中高年の女性に多く,発症時期は秋が最多であるが,春にもみられている.ときに泥などの異物の飛入歴が認められる.同一集落内での発症はあるものの,家族内・施設内での流行はみられていない.ほとんどが片眼性で,異物感,充血,流涙,羞明,視力低下などを訴えて受診した.結膜充血,毛様充血を伴う場合が多く,結膜濾胞は認めない.初診時の角膜病変と(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑰監修=木下茂大橋裕一17.多発性小円形病巣を呈する特異な角膜炎―能登角膜炎と銭型角膜炎―北川和子金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)能登角膜炎,銭型角膜炎ともに農業従事者に発症する角膜炎であり,片眼の多発性円形の角膜混濁を特徴とする.充血や虹彩炎の有無,混濁の形状において,この両角膜炎には相違があるが,共通点も多い.どちらも病因は不明であるが,ステロイド点眼が著効することより,外的要因による角膜の過敏反応の関与が疑われる.富山県図1能登半島における多発地帯(で示した地域)図3能登角膜炎―実質浮腫図2とは別の症例.病巣がより大きく,中央では癒合傾向があり不整型となり,角膜浮腫もみられる.毛様充血も存在.図2能登角膜炎―小円形混濁多発性小円形散在性の病巣が4時~10時の角膜周辺部と瞳孔領上方に存在.毛様充血もみられる.この症例は虹彩コロボーマを合併.———————————————————————-Page2648あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009して,上皮内点状多発混濁あるいはフルオレセインで星状,線状に染色される微細な散在性病巣,上皮下実質の円形混濁(図2),上皮病変と実質病変の混在の3型がみられた.大きい病変や角膜中央の病変では浮腫状となることが多く,また癒合する傾向もみられた(図3).虹彩炎,角膜後面沈着物も多くの症例でみられた.角膜への血管侵入や実質浮腫の周囲に免疫輪様の混濁が出現することもあった.角膜知覚低下はみられず,ペア血清でアデノウイルス,帯状ヘルペス,単純ヘルペス抗体価の上昇もみられなかった.結膜培養では一部で常在菌が分離されるのみであった.当初は角膜ヘルペスを疑い抗ウイルス薬を投与したがまったく効果はなく,ステロイド点眼が奏効し数日~3カ月で治癒した.再燃がみられた症例が少数あったが,ステロイド点眼の再開で治癒し,最終視力は良好であった.形角膜炎の臨床能登角膜炎に最も類似した疾患として銭型角膜炎があげられる4,5).銭型角膜炎は1905年にDimmerにより報告された疾患で,Dimmer’snummularkeratitisとよばれる.Nummularの意味は「貨幣状」で,混濁の形が硬貨に似ていることに由来する.若い農夫に発症し,時期的には秋の収穫後にみられることが多く,通常は片眼である.ときに眼外傷の既往があり,結膜炎症状は認めないか軽度である.円形の角膜混濁はBowman膜直下に出現し,その数は10~20個,大きさは0.5~3mm程度とされる.初期には上皮病変がみられ,ついでBowman膜下の実質に小さい円形混濁が出現する.角膜中央部の混濁はより深層まで及ぶ傾向がある.輪部からの血管侵入,小円形混濁の癒合による不整型混濁がみられる場合もある.2年以上の経過で自然治癒するが,その治癒過程で,円形混濁の中央に濃い混濁(核)とそれを囲んで暈輪(halo)が出現し,その後,核混濁が吸収されるにつれてその部に陥凹(facet)がみられるという特徴がある.Dimmerの報告以後,ヨーロッパを中心に小流行が散見されている.わが国での報告例はこれまでに10数例ある6,7)が,集団発症の報告はない.ステロイド点眼によりいずれも1~2カ月以内に治癒し,視力予後は良好である.(68)者の鑑別および病因能登角膜炎と銭型角膜炎の共通点は多い.すなわち,伝染性はなく農業従事者で収穫期ごろに多発する,主として片眼性である,多発性の角膜上皮および実質浅層の円形病巣が出現する,病巣が癒合し浮腫状となる,ときに血管侵入がみられる,ステロイド点眼が著効し予後が良好である,ときに再燃することもあるがステロイド点眼で改善する,などである.相違点としては,能登角膜炎では,結膜充血,毛様充血,虹彩炎を伴う症例が多く,より重篤感があり,混濁もさらに大きく,単純ヘルペスによる円板状角膜炎に類似の所見を呈する場合もあること,さらに,核やfacetを形成しないで治癒していくことがあげられる.銭型角膜炎の病因は,いまだ推定の域を出ないが,ウイルス,細菌,寄生虫などの外的要因による角膜の過敏反応が最も疑われている.能登角膜炎でも病因は不明であるが,やはりステロイドが著効することより,外因が異なるとしても同様の免疫学的過敏反応の関与が疑われる.鑑別疾患としては,Thygeson点状表層角膜炎,帯状ヘルペス角膜炎,単純ヘルペス角膜炎,流行性角結膜炎があげられる.臨床所見,治療に対する反応が異なることより,経過を振り返れば明らかに異なる疾患と判断できるが,初期には角膜ヘルペスとして治療が開始される可能性も高い.上に述べたような発症状況や角膜知覚,ウイルス学的検査結果が参考になる.文献1)北川和子,富井隆夫:多発性円形病巣を呈した角膜炎.眼臨79:1444,19852)山村敏明,北川和子,富井隆夫ほか:石川県能登地方で多発した特異な角膜炎.臨眼40:156-157,19863)藤沢来人,生駒尚秀,山村敏明:能登地方で多発した角膜炎(第3報).眼臨84:2173,19904)Duke-ElderS:Nummularkeratitis.SystemofOphthal-mology.VolVIII,part2,p746-751,Henry-Kimptin,Lon-don,19655)内田幸男:銭型角膜炎.臨床眼科全書(大塚任,鹿野信一編),3-2眼底各論I.角膜・強膜・眼窩,p362-363,金原出版,19726)土至田宏,中安清夫,金井淳ほか:銭型角膜炎と思われる1例.眼紀46:799-802,19957)井尾晃子,松田彰,田川義継:銭型角膜炎の6症例.臨眼52:1595-1598,1998

屈折矯正手術:角膜のHysteresis

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096430910-1810/09/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表される角膜屈折矯正手術後の重篤な合併症の一つとして角膜拡張症(keratectasia)があげられるが,角膜生体力学(バイオメカニクス)特性が著しく低下することが原因と考えられている.また,本特性は屈折矯正手術における安全性や予測精度にも少なからず影響を及ぼすことが報告されている1).さらに,屈折矯正手術後の眼圧は見かけ上低く測定されることが知られており,眼圧を正確に評価するうえでも本特性を把握する必要がある.しかしながら,これまでinvivoにおける測定方法が十分に確立されておらず,臨床における本特性の評価はきわめて困難であった.OcularResponseAnalyzerTM(Reichert社)の登場によって,バイオメカニクス特性を定量的に評価することが可能となった.OcularResponseAnalyzerTMは,両方向性の動的な圧平過程を通じて角膜生体力学特性および眼圧を測定する装置である.空気の噴流によって角膜を変形させるという圧平式原理は,現状の非接触式空気眼圧計と同様である.本装置では,角膜が平坦化するだけでなく陥凹するまで加圧し,その後減圧することにより,角膜が再び(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載108監修=木下茂大橋裕一坪田一男108.角膜のHysteresis神谷和孝北里大学医学部眼科角膜組織は粘弾性体構造をとり,外力変化に対して本来の形状に回復する過程で時間的な遅れを生じる.この遅れは角膜のhysteresisとされ,角膜組織がエネルギーを吸収し分散する能力を示し,バイオメカニクスの指標の一つとなる.本指標はさまざまな角膜屈折矯正手術後に低下し,安全性や術後成績にも影響を及ぼす.InSignalPeakOutSignalPeak図1OcularResponseAnalyzerTMの測定波形角膜生体力学特性による影響で,内向きおよび外向きに平坦化する過程に遅れが生じるが,この内向きの圧と外向きの圧の差をcornealhysteresis(CH)とする.68101214Cornealhysteresis(mmHg)眼圧(mmHg)101520図3正常眼におけるcornealhysteresis(CH)と眼圧の相関眼圧が高い症例ほど,CHが低下する.(文献2より)68101214450500550600Cornealhysteresis(mmHg)中心角膜厚(?m)図2正常眼におけるcornealhysteresis(CH)と中心角膜厚の相関角膜が薄い症例ほど,CHが低下する.(文献2より)———————————————————————-Page2644あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009平坦化するまでの経時的な測定を行う.角膜中央部3mmを約20msec電気光学的にモニターすることにより,内向きおよび外向きに平坦化する時間を正確に測定し,その時点での空気圧を算出する.角膜組織は粘弾性体としての構造をとるため,外力変化に対して本来の形状に回復する過程で時間的な遅れを生じるが,この内向きの圧(P1)と外向きの圧(P2)の差をcornealhystere-sis(CH)と定義する(図1)1).このCHは,角膜固有の粘性ダンピング,つまり角膜組織がエネルギーを吸収し,分散する能力を示すと考えられている.自験例による正常眼での検討では,角膜が薄く,眼圧が高い症例ほどCHが低下すること(図2,3)2),日本人におけるCHは欧米の報告に比較してわずかながら低値を示すこと2,3),加齢によって角膜厚に依存せずCHが低下すること3)が判明した.今後バイオメカニクス特性を評価するうえで,角膜厚や眼圧だけでなく人種差や年齢についても考慮する必要がある.患のhysteresis1.LASIK後のhysteresisLASIK術後は,術前に比較してCHが有意に低下する.矯正量が大きいほど,この傾向は顕著であった4).自験例による検討でも,CHが低下する症例ほど,術後屈折が近視化する傾向を認めた.バイオメカニクスが低下する症例ほど,眼内圧に対して角膜の形状を維持できず,前方へ突出しスティープ化する機序が考えられている.2.PRK後のhysteresisPhotorefractivekeratectomy(PRK)術後も,CHが有意に低下する.しかしながら,同一矯正量におけるLASIK術後より有意に低下しにくいことが判明した4).PRKはフラップ作製を要せず,より実質浅層の切除を行うためにLASIKよりバイオメカニクスに及ぼす影響が少ない可能性がある.3.PTK後のhysteresisPhototherapeutickeratectomy(PTK)術後も,CHが有意に低下する.顆粒状角膜変性におけるCHは正常眼とほぼ同様であり,CHと角膜厚は弱いながらも有意な相関を認めた5).正常角膜だけでなく病的な角膜においても,バイオメカニクスを評価するうえで角膜厚が一定の役割を果たすことが示唆された.4.角膜拡張症のhysteresis角膜拡張症(keratectasia)は,フラップ作製や角膜切除に伴いバイオメカニクスが著明に低下することによって,進行性に角膜が前方へ突出する疾患であり,最も重篤な合併症の一つとされている.実際にLASIK手術後に角膜拡張症を生じた症例では,CHは大幅に低下していた6).しかしながら,角膜拡張症を発症した眼とそうでない眼のCHに相違がみられず,測定波形の詳細な解析や収差測定との併用が有用であったという報告7)もあり,さらなる検討が必要である.角膜のhysteresisは,屈折矯正手術後だけでなく円錐角膜やペルーシド角膜変性症といった角膜菲薄化疾患や正常眼圧緑内障においても低下することが明らかになっている.従来円錐角膜における進行の判定や重症度評価においてトポグラフィが主体であったが,これは角膜のバイオメカニクス低下に伴う二次的な変化を捉えているにすぎない.自験例における検討では,円錐角膜眼では同年代の正常眼に比較してCHは低下しており,重症例ほどその傾向は顕著であった8).今後CHは,円錐角膜のスクリーニングだけでなく,些細な病状の進行や重症度を考えるうえで新たな定量的指標の一つとなる可能性がある.わが国に多いとされる正常眼圧緑内障においても,CHは篩状板の脆弱性を反映している可能性がある.このように正確な眼圧評価という側面だけでなく,緑内障における病態解明や診断精度の向上に役立つ可能性があり,今後さらなる研究の進展が期待される.文献1)LuceDA:Determininginvivobiomechanicalpropertiesofthecorneawithanocularresponseanalyzer.JCataractRefractSurg31:156-162,20052)KamiyaK,HagishimaM,FujimuraFetal:Factorsaectingcornealhysteresisinnormaleyes.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1491-1494,20083)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Eectofagingoncor-nealbiomechanicalparametersusingtheocularresponseanalyzer.JRefractSurg,inpress4)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Comparisonofthechangesincornealbiomechanicalpropertiesfollowingphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileu-sis.Cornea,inpress5)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Thechangesincornealbiomechanicalparametersafterphototherapeutickeratec-tomyineyeswithgranularcornealdystrophy.Eye,2008Dec19.[Epubaheadofprint]6)神谷和孝:ケラテクタジア新しい予防法OcularResponseAnalyzerTM.IOL&RS22:164-167,20087)KerautretJ,ColinJ,TouboulDetal:Biomechanicalchar-acteristicsoftheectaticcornea.JCataractRefractSurg34:510-513,20088)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyz-erTMによる円錐角膜における角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-216,2008(64)

緑内障:濾過胞感染の背景

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096450910-1810/09/\100/頁/JCLS代謝拮抗薬の使用により線維柱帯切除術後の眼圧調整成績は格段に向上した1).しかし,代謝拮抗薬併用後に形成された乏血管性の濾過胞は濾過胞感染の危険性を著しく増大させた1).当科における年度別濾過胞感染症発生件数でみると,最近5年間で重症例は若干減少してはいるものの,依然として存在する2).また,無血管領域が少なく広い濾過胞を作製する目的で試みられている円蓋部基底結膜切開でも濾過胞感染は発症している.すなわち,濾過胞機能を有する限り,濾過胞感染は永続的に続く問題といえる(自験例では術後17年目でも発症).その問題を少しでも解決するためには,その発症危険因子を把握し線維柱帯切除術後の患者を管理することが重要といえる.過胞感染のならびにその特徴2)代謝拮抗薬の併用で晩期感染症の発症頻度はやや高い傾向にある(表1).自験例では代謝拮抗薬未使用群,5-フルオロウラシル使用群およびマイトマイシンC使用群において,それぞれ1.3%,3.5%および2.7%であった.起因菌あるいは検出菌としては,早期感染症では表皮ブドウ球菌が,晩期感染症ではレンサ球菌,ブドウ球菌属,インフルエンザ菌および嫌気性菌などが多く報告されている.なかでもレンサ球菌は高頻度に検出されるという.視力予後の観点からは,レンサ球菌,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌あるいはグラム陰性菌ではその予後は不良で,表皮ブドウ球菌では比較的予後は良好という.自験例において濾過胞炎ではブドウ球菌属が多く,眼内炎ではレンサ球菌が多い傾向がみられた.また,病期の進行に伴い細菌の検出率も増加する傾向がみられたが,菌同定陽性率のいっそうの向上と迅速診断の目的で,Broad-rangePCR(polymerasechainreaction)法など遺伝子解析技術の応用を当科では現在試みている.感染を生じやすい濾過胞の特徴としては,代謝拮抗薬の使用,下方に形成された濾過胞,無血管領域を有するかあるいは菲薄化した濾過胞および房水漏出などがある(表2).ほかに,男性,60歳未満,糖尿病や悪性新生(65)●連載107緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也107.濾過胞感染の背景望月清文岐阜大学医学部附属病院眼科濾過胞感染症の危険因子として,若年者(60歳未満),糖尿病を有する患者,抗菌点眼薬の間欠的あるいは継続的使用および濾過胞からの房水漏出があげられる.季節として初夏に発生が多く,原因菌の検出率は病期の進行とともに高くなる.また,重症例では発症時の眼圧は高いことが多い.表1晩期濾過胞感染症の発症頻度代謝拮抗薬同時手術(白内障およびMMC併用)未使用5-FUMMC頻度(%)0.2~1.51.9~5.71.6~3.11.4~1.6自験例1.33.52.7(2007年まで)1.7(2007年まで)5-FU:5-フルオロウラシル,MMC:マイトマイシンC.表3岐阜大学における濾過胞感染症の特徴危険因子若年者(60歳未満)糖尿病抗菌薬の使用房水漏出季節初夏原因菌レンサ球菌表2濾過胞感染症の危険因子代謝拮抗薬下方に作製された濾過胞濾過胞の状態(無血管領域,菲薄化)房水漏出性別年齢人種(黒人)糖尿病,膠原病や悪性新生物眼内レンズ挿入眼コンタクトレンズ装用季節(冬季)“濾過胞炎”の既往眼瞼縁炎・涙?炎・結膜炎など———————————————————————-Page2646あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009物など易感染性疾患,術後の低眼圧,間欠的あるいは継続的な抗菌点眼薬の使用,濾過胞再建術あるいは内眼手術などの手術既往,眼内レンズ挿入眼,濾過胞炎の既往,結膜炎や眼瞼炎の既往,鼻涙管閉塞,コンタクトレンズ装用,冬季,黒人,開放隅角緑内障,眼軸の延長(平均25.8mm以上)ならびに上気道感染などが濾過胞感染の危険因子として報告されている(表2).自験例では,若年者,糖尿病,抗菌点眼薬の使用および濾過胞からの房水漏出が危険因子としてあげられ,季節として初夏に発生が多かった(表3).また,重症例では発症時の(66)眼圧は低眼圧よりむしろ高眼圧になる傾向にあり,これは濾過胞内あるいは前房内が膿瘍で満たされるためと推測される.文献1)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:Incidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunc-tivemitomycinCor5-uorouraciltreatment.BrJOph-thalmol81:877-883,19972)堀暢英,望月清文,石田恭子ほか:線維柱帯切除術後の濾過胞感染症の危険因子と治療予後.日眼会誌(印刷中)☆☆☆