———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYの 3 が MPS を使用している(図 1).IIMPSの消毒システムMPS は消毒剤でありながらレンズとともに眼に直接入るため,できるだけ刺激性が低く,眼障害やアレルギーをひき起こしてはならない製剤である.そのため,使用される消毒剤の濃度は 1 ppm から 10 ppm 程度であり,その消毒効果にも限界がある.こうした消毒効果の弱さを補うために,MPS ではレンズをこすり洗いすることで付着した微生物を物理的に除去し,消毒前の微生物汚染レベルを下げるような取り扱い方法が規定されている.実際に,レンズのこすり洗いで微生物汚染は1/10 から 1/100 程度減少し,さらにすすぎ洗いにより1/1,000 から 1/10,000 程度減少すると報告されている1)(図 2).IIIMPSに使用される消毒剤とその特徴以前は塩化ベンザルコニウムやクロロヘキシジンなどが使われたこともあったが,低分子であるためレンズ内Iマルチパーパスソリューション(MPS)とはMPS は日本語では「多目的用剤」と訳され,「消毒・保存・すすぎ・洗浄」の 4 つの機能を 1 本のボトルに集約した簡便なケアシステムである.以前の煮沸消毒では加熱器が必要であり,過酸化水素消毒では中和作業が必要であったが,MPS は 1 本でソフトコンタクトレンズの消毒を含むすべてのケアが可能であり,そのままレンズを眼に装用できるという簡便さからユーザーの支持を集め,日本ではソフトコンタクトレンズユーザーの 4 分(15)ツꀀ 1173 O a u Moツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ンツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 478 0032ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 5ツꀀツꀀツꀀ 1ツꀀツꀀツꀀ 10ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ ンツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●コンタクトレンズ関連角膜感染症 あたらしい眼科 26(9):1173 1177,2009マルチパーパスソリューション(MPS)の 消毒効果Disinfection E cacy of Multipurpose Solution(MPS)森理*MPS76%H2O224%図 1 MPSと過酸化水素の比率(2009 年 2 月の販売金額)4時間装用後のレンズ(付着菌数:106程度)付着菌数:104 105付着菌数:101 103消毒ツꀀ 図 2こすり洗いとすすぎによる微生物付着量の減少———————————————————————- Page 21174あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(16)IVMPSの消毒効果試験法と判定基準MPS は医薬部外品であり,発売前には医薬審 645 号「SCL 及び SCL 用消毒剤の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について(平成 15 年 7 月 2日改訂)」に従って眼科領域で問題となる細菌,真菌,ウイルスおよびアメーバへの効果を確認することが義務付けられている.具体的な試験方法は国際基準 ISO 14729 に記載されたスタンドアローン試験法(図 5)で実施することになっている.約 106個/ml 程度となるように試験菌を接種して,一定時間後に生菌数を確認することで MPS の消毒効果を評価する.初期の接種菌数をどの程度減少させたかを対数減少率(log reduction 値)として計算し,スタンドアローン試験法に記載された判定基準で合格か不合格かを判断する.ただし,スタンドアローン試験法には 2 段階の判定部への蓄積による毒性が問題となった.そのため,現在の MPS ではおもに高分子の消毒剤が使われ,日本ではビグアニド系の塩酸ポリヘキサニド(PHMB)と,4 級アンモニウム系の塩化ポリドロニウム(Polyquad)という 2 種類の消毒剤が使われている.1. PHMB(図 3),分子量2,300~3,100PHMB は細菌や真菌などに対して広い抗菌スペクトルをもち,アカントアメーバに対しても有効性が報告されている2).また,米国ではプールの消毒剤に使用されるように眼に対する安全性も高い.こうした理由から大部分の MPS では PHMB を消毒剤として使用している.ただし,一部の PHMB 製剤とコンタクトレンズの組み合わせによっては角膜上皮障害が発生するといった報告もある3,4).2. Polyquad(図 4),分子量4,600~12,000オプティ・フリーRシリーズで使われる消毒剤でPHMB よりも高分子であるため,レンズ内部への蓄積性はより少なくなっている.そのため,保存中の消毒効果の低下が少なく5),角膜上皮障害の発生率も低いという報告もある3,4).ただし,Polyquad は一部の真菌やアカントアメーバへの効果が低いため,海外で販売されている Polyquad 製剤では Aldox という低分子のアミン系殺菌剤を併用して Polyquad の効果を補っている6).NC(CH2)3(CH2)3(CH2)3(CH2)3NH2・HCLNHNHNHHNHNHNCHNHCLnHNC図 3塩酸ポリヘキサニド(PHMB)(CH2CH2OH)3N N (CH2CH2OH)3CH2CH2CHCHCH2CH2N CH3CH3HCHCn図 4 塩化ポリドロニウム(Polyquad)規定時間ツꀀ (4時間)試験菌細菌(緑膿菌,黄色ブドウ球菌,セラチア)真菌(カンジダ,フザリウム)MPS(10ml)初期の菌濃度(105 106個/ml)生菌数の確認図 5ISO 14729に記載されたスタンドアローン試験法———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091175(17)って,国内の市販されている 14 種類の MPS について消毒効果試験を実施し,5 種類の MPS が第一基準に合格していることが報告されている(表 1 の上段から 5 種類 ). オ プ テ ィ ・ フ リ ーRおよびオプティ・フリーRプラスは Polyquad を消毒剤として使用しているが,それ以外はすべて PHMB を使用しており,その使用濃度もすべて 1 ppm 付近であるにもかかわらず,各々の PHMB製剤によっては消毒効果に差があることが示された.本来,PHMB は消毒効果の強い消毒剤であり,1 ppm という低濃度でもスタンドアローン試験の第一基準に合格する効果をもっている.しかし,MPS には消毒剤以外に界面活性剤,緩衝剤,等張化剤,キレート剤,粘稠化剤,湿潤剤などのさまざまな添加剤が配合されており,こうした添加剤が消毒成分の働きを妨害している可能性が指摘されている7).PHMB や Polyquad はカチオン性(プラス電荷)の消毒剤であり,微生物の細胞膜にあるリン脂質部分(マイナス電荷)へ静電的に結合することで細胞膜の機能を破基準があり(図 6),第一基準に合格しない MPS でも,第二基準+こすり洗い試験で基準以上であれば合格となる.なお,市販されている MPS はどの基準に合格しているかの表示義務がないため,ユーザーが判断できないという問題点もある.V国内で市販されているMPSの消毒効果ISO 14729 に記載されたスタンドアローン試験法に従表 1市販MPSの消毒効果の比較有効成分(濃度)消毒効果(log reduction 値)細菌真菌緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアカンジダフザリウムレニューRマルチプラスPHMB(1.1 ppm)>4.66>4.72>4.734.432.78レニューRPHMB(0.7 ppm)>4.66>4.724.263.081.00エピカRコールドPHMB(1.0ppm)>4.92>4.93>5.043.38>3.58バイオクレンRゼロ>5.234.82>4.742.693.48ソフトワンRモイス>4.89>4.744.821.193.38コンプリートRモイストプラス>4.66>4.72>4.730.870.71コンプリートアミノモイストR>4.66>4.72>4.731.150.86ワンボトルケア>4.66>4.72>4.730.820.79クリアモイストケアR>4.924.334.340.751.73バイオクレンRワン>4.922.544.130.470.71ソフトワンRクール>4.92>4.93>5.040.992.47フレッシュルックRケア(10 min)>4.66>4.724.260.941.14オプティ・フリーRプラスPolyquad(11 ppm)>4.684.132.950.043.01オプティ・フリーR>4.684.743.760.073.61スタンドアローン第一基準3.0 以上1.0 以上第一基準認可認可細菌3種を3log以上真菌2種を1log以上それぞれ減少細菌3種の合計が5log以上真菌2種は増殖させないこすり洗い+すすぎで基準以下に減少第二基準こすり洗い試験未認可図 6ISO 14729に記載されたスタンドアローン試験の判定基準———————————————————————- Page 41176あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(18)ション)に悪影響を与える可能性が報告されている9)(図7).角膜上皮障害の発生も消毒剤の種類によって異なることも報告されている3,4)(図 8).VI不適切な使用状況でのMPSの消毒効果2003 年に日本で実施された感染性角膜炎の全国サーベイランスでは,10 代および 20 代の低年齢層コンタクトレンズユーザーにおける感染症患者が増加しており,不適切な使用方法が一因となっている可能性が指摘されている10).また,米国では 2004 年頃からアカントアメーバ角膜炎,2006 年にはフザリウム角膜炎がコンタクトレンズ使用者に急増した.その後の米国疾病予防管理センター(CDC)の疫学的調査により特定の MPS での発症リスクが高いことが判明したが,他のリスク要因として不適切な使用方法があげられている.たとえば,感染性角膜炎を発症した患者の 54%が MPS の継ぎ足し使用を行っており,これは通常の使い方に比べて 4.4 倍の壊して殺傷している.しかし,添加剤としてイオン強度が強い成分を使用すると,消毒剤と添加剤が競合し合い,消毒剤の静電的吸着を妨げてしまう.その結果,消毒剤が本来もっている効力を発揮できなくなる可能性も示唆されている7).さらに,近年の MPS ではソフトコンタクトレンズユーザーの乾燥感を低減し快適なレンズ装用ができるように,レンズの保湿性を上げるための潤い成分の開発競争も盛んに行われている.しかし,高分子の潤い成分の中には消毒効果に影響を与えるものも報告されており,安易な潤い成分の添加は MPS 本来の消毒効果を損なうリスクもある8).一方で,消毒剤の効果を補足する添加剤も存在する.たとえば,PHMB とホウ酸を併用することでカンジダなどの真菌への消毒効果は増強する7).しかし,こうした補助的な添加剤を配合する場合には,細胞毒性などの安全性に注意する必要もある.実際に細胞毒性の強いMPS では,角膜上皮層のバリア機能(タイトジャンク図 7 正常な角膜(左)とMPSで影響を受けた角膜(右)のタイトジャンクション(倍率 400 倍)図 8 添加剤が異なるPHMB製剤での角膜上皮障害の違い(同一眼,同一レンズで比較)———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091177(19)ズケース内では細菌が繁殖しバイオフィルムを形成することもあるので,毎日清潔にして乾燥させることが,コンタクトレンズに起因する感染性角膜炎を予防するためには重要であると考えられる.なお,レンズのこすり洗いやレンズケースの手入れなどを十分に指導できないと考えられる場合,たとえば低年齢の患者などについては過酸化水素製剤を薦めるのも選択肢の一つと考えられる.文献 1) Sutton SV, Proskin HM, Keister DA et al:A critical eval-uation of the multi-item microbial challenge test in oph-thalmic disinfectant testing. CLAO J 18:155-160, 1992 2) 田村博明:ポリアミノプロピルビグアニドの防腐効果.Fragrance J 34(4):28-33, 2006 3) 松澤亜紀子,針谷明美,河西雅之ほか:ソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの生体適合性.日コレ誌 50:105-110, 2008 4) 糸井素純:シリコーンハイドロゲルとケア製品との適合性.日コレ誌 50(補遺):S11-S15, 2008 5) Rosenthal RA, McDonald MM, Schlitzer RL et al:Loss of bactericidal activity from contact lens storage solutions.CLAO J 23:57-62, 1997 6) Caroline EC, Maillard JY, Russell AD et al:Aspects of the antimicrobial mechanisms of action of a polyquaterni-um and an amidamine. J Antimicro Chemo 51:1153-1158, 2003 7) 柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌 49(補遺):S13-S18, 2007 8) Levy B, Heiler D, Norton S:Report on testing from an investigation of Fusarium keratitis in contact lens wear-ers. Eye Contact Lens 32:256-261, 2006 9) Imayasu M, Shiraishi A, Ohashi Y et al:E ects of multi-purpose solutions on corneal epithelial tight junctions. Eye Contact Lens 34:50-55, 2008 10) 井上幸次,感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 11) Elmer YT:FDA Ophthalmic Devices Panel Meeting,June 10, 2008(http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/08/slides/2008-4363s1-03-VERANI-CDC.pdf) 12) 宇野敏彦,大橋裕一,今安正樹ほか:コンプライアンスの低い使用環境における多目的用剤の消毒効果試験.日コレ誌 51:36-41, 2009リスク要因であったことが報告されている11).前述の表 1 に示した各 MPS の消毒効果は理想的な状態での試験結果であるが,MPS の継ぎ足し使用などで液を毎日交換しないといった不適切な使用状況では,MPS の本来の効果を十分に発揮できない可能性がある.実際にレンズを浸漬して消毒した後に,使用済みの液を交換せず同じ MPS をくり返し使用する場合には,消毒成分がレンズに吸着して徐々に濃度が減っていくことから,消毒効果が低下していくことが報告されている12)(図 9).まとめMPS は眼障害やアレルギーをひき起こさないように消毒剤を低濃度で使用しているため,MPS の消毒効果には限界がある.これを補うという意味でも,消毒する前にはレンズをこすり洗いし,十分にすすぐことで消毒前の微生物汚染レベルを下げることが重要である.装用後のレンズには微生物以外に脂質や蛋白質の汚れも付着しており,こうした汚れがレンズケースに持ち込まれると微生物のエサとなるだけでなく,低濃度の消毒剤と相互作用し,その効果を妨害する可能性もある.そのため,MPS の消毒機能を十分に維持するためには「レンズのこすり洗いとすすぎ」が必要不可欠である.使用後の MPS は毎回必ず捨て,きちんとレンズケースも洗浄することも重要である.洗浄が不十分な場合には,レン103543210消毒効果(log reduction 値):PHMB製剤:PHMB製剤:PHMB製剤:PHMB製剤:Polyquad製剤図 9 くり返し使用によるMPSの消毒効果低下(試験菌:カンジダ)