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序説:眼鏡の臨床

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSいる.そこで,この時期には眼鏡が的確であるかを調べるのに検影器を使ったオーバーレフラクションが威力を発する.小学校の低学年では裸眼視力1.0未満でも近視とは限らず,1/3くらいは遠視であるので,必要に応じて調節麻痺薬の点眼や雲霧法を取り入れての屈折検査を行う.近年オートレフラクトメータが使われているが,この正しい使い方にも精通することが大切である.中学,高校にかけて近視は増加傾向にあり,高校生では裸眼視力1.0未満の90%以上が近視である2).近業が近視の発生・進行に関係することから小中学生に累進屈折力レンズを装用させる試みもある3).近視の眼鏡は近視の進行を考えて低矯正眼鏡が好んで使われている.成人になってから近視になったり,近視が進行したりする成人発生近視や成人進行近視が世界的に問題になっている4).この原因はコンピュータの使用が関与するとの推察があるが不明である.近業により調節のヒステレーシスが起こるとか近業により成人でも眼軸が延長するとの報告もある5).いずれにしても成人の眼鏡処方でも調節緊張の分を除いて過矯正にならない眼鏡処方が必要である.乱視は20歳前後までは直乱視が増加し続けるが20歳を過ぎると減少しはじめ,40歳前後から直乱視より倒乱視が増加する傾向にある6).そこで,眼鏡処方にあ屈折の矯正手段には眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズ(有水晶体眼内レンズ),屈折矯正手術などがあるが,眼鏡は簡便さ,安全性,矯正精度の高さから屈折異常や老視の矯正手段として広く使われている.そして,最近の眼鏡レンズの進歩は著しい.材料ではプラスチック,高屈折率レンズ;レンズデザインではレンズの非球面化,内面トーリック,内面累進レンズの遠近両用レンズなどである.プラスチックレンズは傷がつきやすいといわれていたが,コーティング技術の進歩によりガラスレンズと差がなくなりつつある.年齢による屈折状態の推移は乳児期には軽い遠視であるが,徐々に正視に近づき小学生になると屈折度分布曲線の頂点は正視になり,小学校高学年から中学,高校になると近視が多くなる.その後,高齢になると軽い遠視化が起こる1).乳幼児,学童期は眼球の成長期で眼軸の延長に対して,水晶体屈折力は減少し正視を保つように働くが,このバランスが崩れると屈折異常が起こる.視力発達の感受性期は68歳といわれている.この時期までに外界の物体が網膜に明瞭な像を結ばないと弱視になる可能性がある.そこで,発達期にある乳幼児の屈折異常には適切な眼鏡を装用させ明瞭な像が網膜に結ぶようにしなければならない.この時期には成長とともに眼軸は延長し,これに伴い屈折状態は常に変化して(1)725●序説あたらしい眼科26(6):725726,2009眼鏡の臨床ClinicalKnowledgeofSpectacles所敬*———————————————————————-Page2726あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(2)ある.そこで,快適な生活を送るには適切な眼鏡を処方できる知識が必要であると同時に,視機能発達過程での眼鏡処方に関しての知識ももたなければならない.今回の「眼鏡ケーススタディ」では,まず,臨床に役立つ眼鏡レンズの知識に次いで乳児,幼小児,小学生,中学生,高校生,成人,高齢者と年齢を追って眼鏡について症例を交えた臨床に直結した記載と,最後に眼精疲労に配慮した眼鏡処方が記載されている.この特集によって,あらゆる年齢層での眼鏡処方の全貌が理解できると思う.文献1)桐沢長徳,浜志津子:眼屈折度数分布曲線の年齢的差異.日眼会誌47:886-889,19432)目の屈折力に関する調査研究委員会報告(平成3年度).p1-38,日本学校保健会,19923)HasebeS,OhtsukiH,NonakaTetal:Eectofprogres-siveadditionlensesonmyopiaprogressioninJapanesechildren:aprospective,randomized,double-masked,crossovertrial.InvestOphthalmolVisSci49:2781-2789,20084)所敬:近視の発生時期による分類.あたらしい眼科19:1123-1129,20025)McBrienNA,AdamsDW:Alongitudinalinvestigationofadult-onsetandadult-progressionofmyopiainanoccu-pationalgroup.Refractiveandbiometricndings.InvestOphthalmolVisSci38:321-333,19976)神谷貞義,西信元嗣,魚里博ほか:新しい視点からみた学校近視解析.その7キヤノン・オートケラトによる角膜乱視とニデック・オートレフによる全乱視の乱視軸ならびに乱視度の比較.眼紀37:88-96,1986たって乱視の軸の変化には注意が必要である.このように乱視の軸が変化するのは加齢とともに眼瞼圧が減少することが原因と考えられる.最近は高齢化時代といわれ65歳以上の人口は増加傾向にある.老視人口である45歳以上の総人口に対する割合も増加し,人口の約半数が老視になっている.人生80年の時代には老視での生活は人生の約半分である.Qualityofvision(QOV)時代に如何に老視に対処するかは重要な問題である.単焦点の老眼鏡のほかに,遠近両用の多焦点レンズ(二重焦点レンズ,三重焦点レンズ)や累進屈折力レンズがある.二重焦点レンズ,三重焦点レンズは遠用部と近用部との間にある境界線から敬遠され,継ぎ目のない累進屈折力レンズが使われている.累進屈折力レンズは現在300種類以上あり用途によって選択できる.すなわち,遠方も近方も見える標準型,遠方から中間距離まで見えるゴルフ用,中間距離から近方が見える室内用,近方から一寸遠くが見えるコンピュータ用などの種類のレンズがある.累進屈折力レンズには遠用部から近用部にかけて屈折力が徐々に変化する累進帯をもっているが,最近は眼鏡枠の小型化に伴って累進帯が短く9mmのものもできてきている.累進屈折力レンズにはいろいろな種類があるが,うまく使えない人もいて,最近ではオーダーメイドの累進屈折力レンズも売り出されている.このように,屈折異常はなくても眼鏡は,人生のうちで必ず一度は視力矯正用として使用する用具で

MNREAD- Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(135)7150910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):715719,2009cはじめに今日,子どもたちの多くは小学校入学前に平仮名の読み書きが可能となっている.子どもたちは生活のなかで文字に関連した活動に参加し,遊びのなかで文字の読み書きを自然と覚える13).しかし,視覚障害児は視的経験の不足から意図的に文字学習を行う必要がある.視覚障害児の就学にあたっては望ましい学習環境を整えるために,就学前に十分な視機能の評価がされる必要がある.読書は学童期の学習の基礎となるが,未就学児に関する研究は少ない4).視覚障害が学習に与える影響を知るためには正常視覚児の読書傾向を把握する必要がある.今回筆者らは,正常視覚の未就学児に対して読書速度の測定を行い,成人の読書傾向と比較し,未就学児の読書に適する文字サイズについて若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,保育園検診において視力障害がなく,近見視力1.0以上で情緒障害をもたないと保育園側で判断された年長児48名のうち,平仮名の音読ができ検査可能であった40名(以下,未就学児群),年齢5歳1カ月6歳4カ月,男児〔別刷請求先〕石井雅子:〒950-2076新潟市西区上新栄町5-13-3新潟医療技術専門学校視能訓練士科Reprintrequests:MasakoIshii,OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,5-13-3Kamishinei-cho,Nishi-ku,Niigata-shi,Niigata950-2076,JAPANMNREAD-Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―石井雅子*1,2樺沢優*2張替涼子*2阿部春樹*2*1新潟医療技術専門学校視能訓練士科*2新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野InvestigationofMNREAD-JkReadingRate─TendenciesinPreschoolChildren’sReadingPerformance─MasakoIshii1,2),YuuKabasawa2),RyokoHarigai2)andHarukiAbe2)1)OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity視覚障害児の就学においては,学習環境の整備として視覚補助具や拡大教科書が必要となる.就学前にそれらの選定および客観的評価に役立てる目的で読書チャートMNREAD-Jkを用いて正常視覚の未就学児の読書速度を測定し,読書速度と文字サイズについて成人の読書傾向と比較した.その結果,最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%とすると成人では臨界文字サイズまでは読書効率は一定に保たれるが,未就学児では文字サイズが小さくなるに従って読書効率が次第に低下し,成人の読書傾向とは異なっていた.このことから未就学児の読書においても臨界文字サイズより大きい文字が読書に適しており,その大きさの選択には成人以上に検討が必要である.Toacceptvisuallyimpairedchildrenatschool,thelearningenvironmentmustbeequippedwithvisualaids,larger-fonttextbooksetc.Fortheselectionandobjectiveevaluationofsuchequipmentbeforeitsuseinschool,weusedthereadingchartMNREAD-Jktoassessthereadingrateofpreschoolchildrenwithnormalvision,andcom-paredtheirreadingrateandlettersizewiththoseinadults.Withthereadingrateusingthemaximumlettersize(55.39point)denedas100%readingeciency,thereadingeciencyinadultsremainedxeduntillettersizewasreducedtoathreshold,whereasinpreschoolchildrenthereadingeciencydeclinedwithdecreaseinlettersize.Thelettersizethatwaslargerthanthecriticalthresholdoflettersizeforpreschoolchildrenwassuitableforreading.Forpreschoolchildren,lettersizeismoreimportantthanitisforadults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):715719,2009〕Keywords:未就学児,MNREAD-Jk,文字サイズ,読書効率.preschoolchildren,MNREAD-Jk,lettersize,readingeciency.———————————————————————-Page2716あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(136)22名,女児18名である.なお,調査を行った保育園では特別な文字学習指導は行われていない.検査に先立ち,あらかじめ検査内容について保護者に説明し同意を得た.測定は,はじめに練習用チャートを使用して方法を十分に理解させたうえで実施した.MNREAD-Jkの黒文字/白背景チャート(以下,通常チャート),白文字/黒背景チャート(以下,反転チャート)の2種類のチャート(図1)を用いて,読書速度を測定した.測定条件は,書見台を用いて視距離30cmとし,両眼開放の状態とした.大きな文字サイズから小さな文字サイズへ1ブロックごとに順にできるだけ速く正確に音読するよう指示し,読みに要した時間と読み間違えた文字数を記録した.文字サイズと読みに要した時間と誤読文字数より,読書能力を評価するパラメータである最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出し,筆者らの自験データ5)である眼疾患がなく遠見・近見視力1.0以上の20歳の学生40名(以下,20歳成人群),年齢20歳1カ月20歳10カ月,男性16名,女性24名の読書のパラメータと比較した.II結果1.読書能力の評価(表1)読書能力を評価する最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出した.通常チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では96.59文字/分,20歳成人群は359.13文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.20logMAR(4.40pt),20歳成人群は0.01logMAR(2.84pt)であった.読書視力は未就学児群では0.04logMAR(3.04pt),20歳成人群は0.18logMAR(1.83pt)であった.反転チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では98.06文字/分,20歳成人群は374.97文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.24logMAR(4.82pt),20歳成人群は0.09logMAR(3.41pt)であった.読書視力は未就学児群では0.09logMAR(3.41pt),20歳成人群は0.12図1MNREAD-Jk読書チャート上段:通常チャート(黒文字/白地),下段:反転チャート(白文字/黒地).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009717(137)logMAR(2.11pt)であった.最大読書速度は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが速く,臨界文字サイズおよび読書視力は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが大きかったが,統計学的有意差は認められなかった(pairedt-test).2.文字サイズと読書速度(図2)通常チャートにおいて,未就学児群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に速度の低下がみられた.20歳成人群では0.00logMAR(2.78pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.00logMAR(2.78pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.反転チャートにおいて,未就学児群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりなだらかに速度が低下し急激な速度の低下はみられなかった.20歳成人群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.両群とも読書速度には個人差が大きかった.3.文字サイズと読書効率(図3)最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)での読書速度を読書効率100%とし,各文字サイズでの読書効率を示した.通常チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,徐々に読書効率が低下し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.20logMAR(4.40pt)での読書効率は75%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズで読書効率が向上し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.01logMAR(2.84pt)付近での読書効率は95%であった.反転チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,小さな文字サイズになるに従い徐々に読書効率が低下した.臨界文字サ表1読書能力の評価最大読書速度臨界文字サイズ読書視力未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40平均(文字/分)分散平均(文字/分)分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散通常チャート96.591988.40359.132907.580.20(4.40)0.020.01(2.84)0.010.04(3.04)0.010.18(1.83)0.00反転チャート98.062121.98374.973546.410.24(4.82)0.040.09(3.41)0.010.09(3.41)0.010.12(2.11)0.00*換算値ポイントサイズpt=tan(10logMAR値×5/60)×1,908最大読書速度………文字サイズが適当な場合に得られる最も速い読書速度:個人差が大きい.臨界文字サイズ……効率よく読める文字サイズの最小値:視機能により大きく左右される.読書視力……………読むことのできる最小文字サイズ:ほぼ近見視力に匹敵する.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕0100200300400500600読書速度(文字/分)通常チャート反転チャート文字サイズlogMAR〔pt〕文字サイズlogMAR〔pt〕◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ0100200300400500600読書速度(文字/分)図2文字サイズと読書速度———————————————————————-Page4718あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(138)イズ0.24logMAR(4.82pt)付近での読書効率は50%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズでわずかに読書効率が向上し0.60logMAR(11.05pt)まで変動がみられるものの,ほぼ最大文字サイズと同様の読書効率であるが,0.60logMAR(11.05pt)より徐々に読書効率が低下し,0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.09logMAR(3.41pt)付近での読書効率は78%であった.両群とも通常チャートより反転チャートにおいて文字サイズが小さくなると読書効率が低下した.未就学群では,20歳成人群に比べ臨界文字サイズでの読書効率が低かった.III考按視覚障害児の就学では,教科書が効率よく読めないことから学習に支障をきたす可能性があり,教科書を拡大する視覚補助具や各々の見え方に合わせた拡大教科書が必要となる.視覚補助具の処方や拡大教科書の申請にあたっては,読書検査の結果を基にアドバイスすることが望ましい6).視覚補助具は就学前に十分な指導を行い,学習に対応できるようにしておく必要がある.拡大教科書は,製作に時間を要するため,原則として就学の半年前までに市町村教育委員会に申請することとなっている.これらの理由から今回の未就学児の調査は就学前の5月から9月にかけて行った.MNREAD-Jkは,幼児の語彙の研究7)から,多くの幼児が共通して使用している284語からランダムに単語を組み合わせて作成されている.用いられる品詞は名詞,動詞,形容詞に限定されている.日本語の音節は比較的単純で,平仮名との対応がよく,ほぼ発音の自然な区切りが文字に対応している.MNREAD-Jkは,音読により読書を評価する自覚的検査であるが,平仮名を覚えたばかりの幼児においても比較的,検査の難易度が低く,今回の調査では,未就学児の83%が検査可能であった.最大読書速度は,未就学児,成人ともに個人差が大きかった.読書速度は知的発達,学習経験などに影響され,未就学児では,文字への関心および文字学習の完成度に大きく左右されると推測される.正常視覚児の読書傾向を知ることは,視覚障害が文字への関心および文字学習に与える影響を類推する手がかりとなる.文字サイズが読書速度に与える影響を知る目的で,MNREAD-Jkチャートにおける最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%と定義した.未就学児では成人に比べて小さな文字サイズでの読書効率が低かった.文字学習は小学校入学後に急速に進む.学習開始時に適切な大きさの文字で学習を進めることは重要であり,就学前に読書を評価することは意義がある.正常視覚では通常チャートに比べ反転チャートで読書速度が向上したものの有意差はみられなかった.視覚障害者の読書では視表面の白い反射が読書のパフォーマンスを低下させ白黒反転が有用であるという報告8)があり,視覚障害児の文字学習には反転チャートの利用も考慮する必要がある.MNREADにおいて効率よく読める最小の文字の大きさとされている臨界文字サイズは,読書速度が急激に低下する一つ手前の文字サイズであり,読書にとって重要な指標である.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕通常チャート反転チャート◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕95%75%50%78%最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)図3文字サイズと読書効率———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009719(139)筆者らの先行研究5)では小学生の臨界文字サイズは成人とほぼ等しく,学年による差がなかったことより,視覚正常の学童においては文字の大きさが読書効率に与える影響は成人と同様と考えた.しかし,今回の調査では,未就学児の臨界文字サイズは成人と比べて大きかった.また,読書速度を文字サイズ別に測定すると,成人では比較的大きな文字サイズでは読書速度は一定であるが,文字を次第に小さくしてゆくと,ある文字サイズで急激に読書速度が低下する.小学生では,ほぼ成人と同様の読書傾向をとる.未就学児においても,成人,小学生と同様に最も急激に読書速度が低下する一つ手前の文字サイズを臨界文字サイズとして算出できた.しかし,文字サイズが小さくなるに従って読書速度が緩やかに低下するため,はっきりとしたプラトーが得られない(図4).視覚発達の未熟性および高次大脳機能の未熟性に起因すると思われる.視覚においては,視対象が空間的に互いに接近すると認知成績が低下する読み分け困難9,10)とよばれる現象が生じる.文字サイズが小さくなることによる読み分け困難が幼児の読書に影響を及ぼす.また,文字を読むという過程は高次大脳機能の神経機構が関与しており11),小さな文字サイズになるに従い,文字の視覚的記憶から語の聴覚的記憶への変換が遅れることが考えられる.本稿の要旨は,第105回新潟眼科集談会にて発表した.文献1)HomanSJ:Playandtheacquisitionofliteracy.TheQuarterlyNewsletteroftheLaboratoryofComparativeHumanCognition7:89-95,19852)柴崎正行:幼児は平仮名をいかにして覚えるか.保育の科学,p187-199,ミネルヴァ書房,19873)内田伸子:発達心理学─ことばの獲得と教育.p185-204,岩波書店,19994)東洋:幼児期における文字獲得過程とその環境的要因の影響に関する研究.平成46年度科学研究費補助金研究報告書,19955)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視会誌35:147-154,20066)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:就学にあたり読書検査をおこなった6例の検討.日視会誌37:179-186,20087)藤友雄暉:幼児における語彙の発達的研究.北海道教育大学紀要31:71-79,19808)LeggeGE,RubinGS,SchleskeMM:Contrastpolarityeectsinlowvisionreading.LowVisionPrinciplesandApplications(edbyWooG),p288-307,SpringerVerlag,Berlin,19879)丸尾敏夫,粟屋忍(編):視能矯正学.p214-215,金原出版,200310)川嶋英嗣,小田浩一:字詰まり効果と読書困難.第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p125-128,199811)岩田誠:読み書きの脳機構.第18回日本生体磁気学会論文集16:6-7,2003***文字サイズ読書速度成人小学生未就学児(大)(小)(遅)(速)図4年齢層別による文字サイズと読書速度のシェーマ

インターフェロン-γおよびリポ多糖による併用刺激処理したヒト水晶体上皮細胞株SRA 01/04における過剰産生一酸化窒素の細胞膜Ca2+-ATPase遺伝子発現に対する影響

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(129)7090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):709713,2009c〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPANインターフェロン-gおよびリポ多糖による併用刺激処理したヒト水晶体上皮細胞株SRA01/04における過剰産生一酸化窒素の細胞膜Ca2+-ATPase遺伝子発現に対する影響長井紀章*1伊藤吉將*1,2臼井茂之*3平野和行*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3岐阜薬科大学薬剤学研究室EectofEnhancedNitricOxideProductiononPlasmaMembraneCa2+-ATPaseExpressioninHumanLensEpithelialCellLineSRA01/04TreatedwithCombinationofInterferon-gandLipopolysaccharideNoriakiNagai1),YoshimasaIto1,2),ShigeyukiUsui3)andKazuyukiHirano3)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KindaiUniversity,3)LaboratoryofPharmaceutics,GifuPharmaceuticalUniversity本研究はヒト水晶体上皮由来細胞株SRA01/04(HLE細胞)を用いインターフェロン-g(IFN-g)およびリポ多糖(LPS)併用刺激により誘導される誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)が細胞膜Ca2+-ATPase(PMCA)遺伝子発現に与える影響について検討を行った.HLE細胞では4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA1,2,3および4)のうちPMCA1および4のみの発現が確認された.iNOS遺伝子発現を介した過剰な一酸化窒素(NO)産生がみられるIFN-g1,000IU/ml)およびLPS(100ng/ml)の併用処理を行ったところ処理時間に従ってPMCA1および4両遺伝子発現量が増加し,この増加は処理後6時間以降18時間まで未処理群と比較し顕著に上昇した.これらIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量の上昇はiNOSの選択的阻害薬であるアミノグアニジン(250μM)を添加することで有意に抑制された.さらに,PMCA1および4両遺伝子発現量の上昇はNO産生量と高い相関関係を示した.以上の結果からHLE細胞においてiNOS誘導を介したNOの過剰産生はPMCA1および4両遺伝子発現量増加をひき起こすことを明らかとした.WeinvestigatedthechangesinplasmamembraneCa2+-ATPase(PMCA)mRNAexpressioninhumanlensepithelialcelllineSRA01/04(HLEcell)followingtreatmentwithinterferon-gamma(INF-g,1,000IU/ml)andlipopolysaccharide(LPS,100ng/ml),whichinduceinduciblenitricoxidesynthase(iNOS)expression.PMCAhasseveralisoforms(PMCA1-4);PMCA1and4mRNAwereexpressedintheHLEcell.PMCA1and4mRNAexpressionlevelsintheHLEcellwereincreasedwithdurationofincubationwithINF-gandLPS.Furthermore,aminoguanidine,aselectiveinhibitorofiNOS,attenuatedtheincreaseinexpressionofPMCA1and4mRNA.AcloserelationshipwasobservedbetweenPMCA1and4mRNAexpressionandNOproduction.Inconclusion,thepresentstudydemonstratedthatexcessiveproductionofNObyiNOSmaycauseincreasedPMCA1and4mRNAexpressionintheHLEcell.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):709713,2009〕Keywords:ヒト水晶体上皮細胞,細胞膜Ca2+-ATPase,一酸化窒素,白内障,アミノグアニジン.humanlensepithelialcell,plasmamembraneCa2+-ATPase,nitricoxide,cataract,aminoguanidine.———————————————————————-Page2710あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(130)はじめに白内障とは水晶体が白く混濁するすべての現象をいい,現在日本において最も多いのが加齢白内障である1).この加齢白内障のおもな発症機構として,紫外線などにより誘導される酸化的ストレスが水晶体上皮細胞に傷害を与えることで細胞内恒常性が破綻をきたし水晶体Ca2+量上昇をひき起こす2,3).この水晶体中Ca2+上昇はCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインを活性化し,これにより,クリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体が白く混濁するという報告がなされている2,3).このように,水晶体混濁には水晶体中Ca2+量の変化が大きな役割を果たしていると考えられる.筆者らは遺伝性白内障モデル動物を用いたこれまでの研究で,この水晶体中Ca2+量上昇に誘導型一酸化窒素(iNOS)由来一酸化窒素(NO)の過剰産生が関与することを明らかとした4).したがって,過剰なNO産生は水晶体上皮細胞においてCa2+制御機構の崩壊をひき起こすことが示唆された.これら水晶体Ca2+量の調節には,細胞内のATP(アデノシン三リン酸)を駆動力とし細胞内から細胞外へとCa2+を汲み出す細胞膜Ca2+-ATPase(PMCA)が知られているため5),このPMCAの障害が水晶体Ca2+量の上昇に関与することが予想された.しかしこれらの予想に反し,ヒト水晶体上皮細胞において水晶体Ca2+量上昇の要因とされる過剰な一酸化窒素産生はCa2+-ATPase活性の増加をひき起こした6).iNOSの選択的阻害薬であるアミノグアニジン(AG)の投与により,このCa2+-ATPase活性の増加は強く抑制された7,8).したがって,ヒト水晶体における詳細なNOと水晶体中Ca2+制御機構の関わりを明らかとすることは,白内障発症機構解明を進めていくうえできわめて重要であると考えられた.ヒト白内障発症機構解明に関する研究を進めていくうえで培養細胞の使用は有効である.しかし,ヒトからの正常水晶体上皮細胞は入手することが非常に困難であり,個々間でばらつきがみられる.一方,HLE細胞はヒト由来であり,世代によるばらつきが少ないため基礎研究において使用されている.筆者らも,これまでの研究で水晶体上皮の基礎研究に有効であることを報告している6).そこで今回,ヒト水晶体上皮由来細胞株SRA01/04(HLE細胞)9)におけるPMCAアイソフォームの存在を確認するとともに,iNOS誘導能が知られるインターフェロン-g(IFN-g)およびリポ多糖(LPS)併用刺激がHLE細胞中PMCA遺伝子発現へ与える影響について検討を行った.I対象および方法1.HLE細胞培養および薬物処理実験HLE細胞は10%ウシ胎児血清を含むDMEM(Dulbecco変法Eagle培地)(GIBCO社製,東京,日本)を用い37oC,5%CO2条件下で80%コンフルエンスになるまで培養した.薬物処理実験では80%コンフルエンス状態のHLE細胞にIFN-g(終濃度1,000IU/ml,PeproTech社製,ロンドン,UK)を添加し1時間インキュベーションを行った.その後,LPS(終濃度100ng/ml,シグマ・ケミカル社製,東京,日本)を添加し,それぞれ618時間インキュベーションを行った後,細胞を回収した.AG(終濃度250μM,ナカライテスク社製,京都,日本)処理はLPS添加12時間後にそれぞれを添加し,その6時間後に細胞の回収を行った.2.PMCA遺伝子発現量の測定0,6,12,18時間IFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞をスクレイパーにて回収を行った.この回収したHLE細胞をRNeasyminkit(QIAGEN社製,東京,日本)を用いてtotalRNAを抽出し,oligodTプライマー(宝酒造社製,京都,日本)と逆転写酵素(宝酒造社製,京都,日本)を用い1μgのtotalRNAからcDNAを合成した4).合成したcDNAに各遺伝子特異的プライマーを加え,TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造社製,京都,日本)を用いpoly-merasechainreaction(PCR)反応を行った.PCR条件はdenaturation(94oC,30s),annealing(62oC,30s),exten-sion(72oC,45s)で30または35cycle行い,プライマーは以下のものを用いた.5¢-ACTGAGTCTCTCTTGCTTCGGAAAC-3¢および5¢-ACGAAATGCATTCACCACTCG-3¢(PMCA1),5¢-ACAGTGGTACAGGCCTATGTCG-3¢および5¢-CGAGCCGTGTTGATATTGTCG-3¢(PMCA2),5¢-CACACTGGTCAAAGGGATTATCG-3¢および5¢-AGAGCTGCATCATGACGAACG-3¢(PMCA3),5¢-GTTCTCCATCATCCGAAACGG-3¢および5¢-CAAGCATCCAAGTGCCGTACTAG-3¢(PMCA4),5¢-CATCACCATCTTCCAGGAGCGAGA-3¢および5¢-CCACCACCCTGTTGCTGTAGCCA-3¢(glyceraldehydes-3-phosophatedehydroge-nase:GAPDH).PCR増幅産物はアガロースゲル電気泳動を行いエチジウムブロマイドにより染色し,写真撮影を行った.得られた結果はハウスキーピング遺伝子であるGAPDHに対する比として表した.3.NO産生量の測定0,6,12,18時間IFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞の培地をNO測定に用いた.回収した培地にエイコム社製マイクロダイアリシスプローブ(A-1-20-05,5mmlength)を浸し,酸化窒素分析システムENA-20(エイコム社製,京都,日本)にて水晶体中NO量を測定した.本研究でのNO産生量は,NO2とNO3の総和として表した.4.総蛋白質量の測定回収した細胞の総蛋白質量はBradfordの方法10)に従いBio-RadProteinAssayKit(Bio-RadLaboratories社製,CA,USA)を用いて測定した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009711(131)5.細胞内Ca2+含量の測定未処理およびIFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞を,冷Ca2+,Mg2+-freebuer(NaCl145mM,KCl5mM,NaHCO35mM,4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazine-ethanesulfonicacid(HEPES)15mM,Tris8mM,EDTA0.5mM,pH7.4,290mOsm)にて洗浄し,スクレイパーにて細胞の回収を行った.回収した細胞に等張緩衝液(mannitol10mM,HEPES5.75mM,Trisbase6.25mM,pH7.4)を添加しホモジナイズ後,遠心分離(1,500rpm,10min)により上清を採取した.この得られた上清を用い細胞内Ca2+量の測定を行った.細胞内Ca2+含量の測定にはカルシウムE-テストワコー(Wako社製,大阪,日本)を用い,総蛋白質量当たりの量として表した.II結果1.HLE細胞におけるPMCAアイソフォームの発現図1にはPCR法を用い,HLE細胞におけるPMCAアイソフォーム(PMCA1,2,3および4)遺伝子発現について示した.HLE細胞において4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA14)のうちPMCA1および4が強く発現していることが確認されたが,PMCA2および3遺伝子発現は認められなかった.2.HLE細胞へのIFNg,LPS併用刺激がCa2+制御機構へ及ぼす影響図2にはHLE細胞へのIFN-g,LPS併用処理がPMCA1および4遺伝子発現へ与える影響について示した.iNOS遺12345図1HLE細胞におけるPMCA遺伝子発現1:PMCA1,2:PMCA2,3:PMCA3,4:PMCA4,5:マーカー.0.00.21.01.20.40.60.8PMCA1/GAPDH0.00.21.01.20.40.60.8PMCA4/GAPDH*p0.005,vs.Controln=4~5*p<0.005,vs.Controln=4~5Control18hr6hr12hrTreatmentwithIFN-g(1,000IU)andLPS(100ng/m?)Control18hr6hr12hrTreatmentwithIFN-g(1,000IU)andLPS(100ng/m?)PMCA4PMCA1***図2HLE細胞へのIFNg,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現量の経時的変化Control0.00.21.01.20.40.60.8PMCA1/GAPDH0.00.21.01.20.40.60.8PMCA4/GAPDH*p<0.005,vs.Control**p<0.005,vs.TreatmentwithIFN-gandLPSn=4~5*p<0.005,vs.Control**p<0.005,vs.TreatmentwithIFN-gandLPSn=4~5******IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)AG(250?M)ControlIFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)AG(250?M)図318時間IFNg,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現量の変化とAGによる影響———————————————————————-Page4712あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(132)伝子発現およびNOの誘導がみられるIFN-g,LPS併用処理することでPMCA1および4両遺伝子発現量の増加が認められ,PMCA1では処理後18時間で,PMCA4では処理後12時間以降18時間まで未処理群と比較し有意に上昇した.このIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量および細胞内Ca2+含量の上昇は選択的iNOS阻害薬であるAGを添加することで有意に抑制された(図3).さらに,IFN-g,LPS併用処理によるNO産生量とPMCA1および4遺伝子発現量には高い相関関係が認められた(図4).III考按水晶体混濁には水晶体中Ca2+量の変化が大きな役割を果たしていることが考えられる.筆者らはこれまで遺伝性白内障モデルUPLラットにおいて,iNOS由来の過剰なNO産生がこの水晶体中Ca2+量上昇に関与することを明らかとした4).さらに選択的iNOS阻害薬として知られるAGを遺伝性白内障モデルラットへ経口投与することで水晶体中Ca2+量の上昇および混濁化を強く抑制することも報告した7,8).また,白内障患者では正常人と比較し水晶体中NO量の増加が報告されており11),ヒトにおいてもNO産生量は水晶体中Ca2+量と密接に関わることが示唆された.しかしながら,水晶体中Ca2+量調整に重要なPMCA発現とNOの関係については未だ明らかとされていない.そこで今回,ヒト水晶体上皮細胞であるHLE細胞9)を用い,iNOS誘導がPMCAへ与える影響について検討を行った.PMCAには複数のアイソフォームが存在し,臓器によりその発現が異なることが報告されている5,12).本研究では始めに,HLE細胞中のPMCAアイソフォーム(PMCA14)遺伝子発現に関する検討を行った.HLE細胞では4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA14)のうちPMCA2および3遺伝子発現は認められず,PMCA1および4のみが強く発現していることが確認された.そこでつぎにiNOS由来NO過剰産生がこれらPMCA1および4遺伝子発現量へ与える影響について検討を行った.iNOS遺伝子発現を誘導する生理活性物質はIFN-g,IL(インターロイキン)-1,TNF(腫瘍壊死因子),LPSなど数多く知られている13).これまでの報告から,iNOS遺伝子発現にはinterferon-gammaactivat-edsite(GAS)やnuclearfactorkappaBが関与し,これらはIFN-gおよびLPS刺激によって活性化することが知られている14,15).筆者らもすでに12時間以上IFN-gおよびLPSにより併用刺激を行ったHLE細胞にて,iNOS遺伝子発現およびNO産生が有意に上昇することを明らかとし報告している6).そこで本研究では,iNOS由来NO産生誘導にIFN-g,LPS併用処理を用いた.このNO産生の誘導がみられるIFN-g,LPS併用処理により,PMCA1および4両遺伝子発現量の増加が認められた.Bartlettらは水晶体中へのCa2+流入量増加はCa2+-ATPaseの増加をひき起こすことを報告している16).本研究においても,PMCA遺伝子発現量の有意な上昇がみられた12時間IFN-g,LPS併用処理時に,細胞内Ca2+含量の上昇が認められた(未処理群;1.83±0.34,12時間IFN-g,LPS併用処理群;6.94±1.52μmol/mgpro-tein,n=6).したがって,これらIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現誘導にはCa2+流入量増加が関与するものと示唆された.さらに,IFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量の上昇は選択的iNOS阻害薬AGをiNOSおよびNOの上昇が開始する12時間の時点で添加することで抑制され,PMCA遺伝子発現とNO産生量間で高い相関関係が認められた.これらの結果から,ヒト水晶体上皮細胞内でiNOS由来のNO過剰産生時にはPMCA1および4遺伝子発現の誘導が起こり,細胞内Ca2+量の制御が行われるものと示唆された.以上の結果はヒト培養細胞を用いたinvitro実験系のものであるが,筆者らは遺伝性白内障UPLラットにおいても39日齢において急速なNO上昇に伴った水晶体混濁を認めており,同時にPMCA遺伝子発現上昇という現象を報告しており,実際の生体内においてもこれらの作用機構により水晶体中Ca2+制御が行われるものと十分考えられる.一方,このラットにおいて長期にわたるiNOS由来の過剰なNO産生は,ミトコンドリアの電子伝達系終末にあたるチトクロムcオキシダーゼ活性低下によるATP産生低下をひき起こし,PMCA機能不全が起0.00.20.40.60.81.01.2PMCA1/GAPDHPMCA4/GAPDH0.00.20.40.60.81.01.2y=0.2478x+0.3513r=0.97430.00.51.01.52.02.53.0y=0.3853x+0.117r=0.9701NOrelease(nmol/106cells)0.00.51.01.52.02.53.0NOrelease(nmol/106cells):Control:6hr:12hr:18hr:Control:6hr:12hr:18hr図40,6,12,18時間IFNg,LPS併用刺激時におけるPMCA遺伝子発現量とNO量の関係———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009713(133)こることも明らかとしてきた4).したがって,初期の過剰なNOによるCa2+上昇はPMCA1および4遺伝子により制御されるが,長期にわたるNO過剰産生は細胞内ATPの枯渇を招きPMCA機能停止により最終的にはCa2+上昇をひき起こすことが示唆された.現在,筆者らはiNOS由来NOによるヒト水晶体上皮細胞でのCa2+恒常性破綻をより明確にするため,HLE細胞へのIFN-g,LPS併用処理時間増加がチトクロムcオキシダーゼへ与える影響について解析を行っているところである.以上,本研究ではHLE細胞において4種のPMCAのうち,PMCA1および4が発現していることを明らかとした.また,iNOS誘導能を有するIFN-g,LPS併用刺激がPMCA1および4両遺伝子発現量増加をひき起こすことを明らかとし,このPMCA遺伝子発現量上昇が急速なNO過剰産生を介したCa2+恒常性破綻の結果として誘導される可能性を示唆した.このように,白内障発症以前の段階で関与する因子がヒト水晶体へ与える影響を明確にしていくことは,白内障発症機構解明を進めていくうえできわめて重要であると考える.文献1)HardingJJ:Cataract;biochemistry,epidemiologyandpharmacology.ChapmanandHall,London,19912)ShearerTR,DavidLL,AndersonRSetal:Reviewofsel-enitecataract.CurrEyeRes11:357-369,19923)SpectorA:Oxidativestress-inducedcataract:mecha-nismofaction.FASEBJ9:1173-1182,19954)NagaiN,ItoY:AdverseeectsofexcessivenitricoxideoncytochromecoxidaseinlensesofhereditarycataractUPLrats.Toxicology242:7-15,20075)CarafoliE:TheCa2+pumpoftheplasmamembrane.JBiolChem267:2115-2118,19926)NagaiN,LiuY,FukuhataTetal:Inhibitorsofinduciblenitricoxidesynthasepreventdamagetohumanlensepi-thelialcellsinducedbyinterferon-gammaandlipopolysac-charide.BiolPharmBull29:2077-2081,20067)InomataM,HayashiM,ShumiyaSetal:InvolvementofinduciblenitricoxidesynthaseincataractformationinShumiyacataractrat(SCR).CurrEyeRes23:307-311,20018)NabekuraT,KoizumiY,NakaoMetal:DelayofcataractdevelopmentinhereditarycataractUPLratsbydisul-ramandaminoguanidine.ExpEyeRes76:169-174,20039)IbarakiN,ChenSC,LinLRetal:Humanlensepithelialcellline.ExpEyeRes67:577-585,199810)BradfordMM:Arapidandsensitivemethodforthequantitationofmicrogramquantitiesofproteinutilizingtheprincipleofprotein-dyebinding.AnalBiochem72:248-254,197611)OrnekK,KarelF,BuyukbingolZ:Maynitricoxidemole-culehavearoleinthepathogenesisofhumancataractExpEyeRes76:23-27,200312)KeetonTP,BurkSE,ShullGE:Alternativesplicingofexonsencodingthecalmodulin-bindingdomainsandCterminiofplasmamembraneCa(2+)-ATPaseisoforms1,2,3,and4.JBiolChem268:2740-2748,199313)平田結喜:血管系におけるNO合成酵素とその制御.実験医学13:917-922,199514)LowensteinCJ,AlleyEW,RavalPetal:Macrophagenitricoxidesynthasegene:twoupstreamregionsmedi-ateinductionbyinterferongammaandlipopolysaccharide.ProcNatlAcadSciUSA.90:9730-9734,199315)XieQW,WhisnantR,NathanC:Promoterofthemousegeneencodingcalcium-independentnitricoxidesynthaseconfersinducibilitybyinterferongammaandbacteriallipopolysaccharide.JExpMed177:1779-1784,199316)BartlettRK,BieberUrbauerRJ,AnbanandamAetal:OxidationofMet144andMet145incalmodulinblockscalmodulindependentactivationoftheplasmamembraneCa-ATPase.Biochemistry42:3231-3238,2003***

フーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guided LASIKの臨床効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(125)7050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):705708,2009cはじめにレーザー屈折矯正手術の臨床成績の向上は,laserinsitukeratomileusis(LASIK)の技術的な進歩による寄与が大きい.球面度数と円柱度数と矯正するconventionalLASIK(C-LASIK)に加えて,レーザー照射時の眼球運動を追尾するトラッキング機能,さらに,患者眼がもっている収差を〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANフーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guidedLASIKの臨床効果宮田和典*1加賀谷文絵*1子島良平*1宮井尊史*1尾方美由紀*1南慶一郎*1天野史郎*2*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学ClinicalOutcomesofWavefront-guidedLASIKUsingFourierTransformAblationPatternReconstructionKazunoriMiyata1),FumieKagaya1),RyoheiNejima1),TakeshiMiyai1),MiyukiOgata1),KeiichiroMinami1)andShiroAmano2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,TheUniversityofTokyo目的:フーリエ変換を使ったwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis(WF-LASIK)の視機能に対する効果を従来のconventionalLASIK(C-LASIK)と比べて,後向きに検討した.方法:C-LASIKを行った16例32眼(C群)とWF-LASIKを行った22例44眼(W群)の術後1,3,6カ月時の裸眼視力,屈折誤差,波面収差,コントラスト感度を比較検討した.波面収差は,6mm径全屈折における3次,4次,全高次のRMS(rootmeansquare)値を評価した.コントラスト感度は,縞コントラスト感度(CSV-1000,VectorVision)から求めたAULCSF(areaunderlogcontrastsensitivityfunction)と文字コントラスト(CSV-1000LC,VectorVision)で評価した.結果:裸眼視力,屈折誤差には両群間で差はなかった.収差は,術後全期間で3次,4次,全高次ともW群が有意に減少した(p<0.001).コントラスト感度は,AULCSFが術後3カ月でW群が有意に向上し(p=0.037),文字コントラストでも術後全期間で有意に良かった(p<0.05).結論:フーリエ変換を使ったWF-LASIKは,C-LAIKに比べて惹起高次収差を有意に低減し,より高いコントラスト感度が得られると考えられた.Weretrospectivelyexaminedtheimprovementinvisualfunctionbetweenwavefront-guidedlaserinsituker-atomileusis(WF-LASIK)usingFourierpatternreconstructionandconventionalLASIK(C-LASIK).In32eyesof16patientswhounderwentC-LASIKand44eyesof22patientswhounderwentWF-LASIK,wemeasureduncor-rectedvisualacuity(UCVA),refractionerror,wavefrontaberration(3rd,4thandhigherorders),andcontrastsen-sitivityat1,3,and6monthspostoperatively.Contrastsensitivityincludedareaunderlogcontrastsensitivityfunc-tion(AULCSF)ofCSV-1000(VectorVision)dataandlettercontrastsensitivityofCSV-1000LC(VectorVision).TherewasnodierenceinUCVAbutwavefrontaberrationinWF-LASIKwassignicantlylowertheninC-LASIK.TherewassignicantdierenceinAULCSFat3monthandlettercontrastforallpostoperativeperiods.WF-LASIKusingFourierpatternreconstructionsignicantlyreducedresidualhigh-orderaberrationandprovidedhighercontrastsensitivitythandidC-LASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):705708,2009〕Keywords:laserinsitukeratomileusis(LASIK),wavefront-guided,波面収差,コントラスト感度,エキシマレーザー.laserinsitukeratomileusis(LASIK),wavefront-guided,wavefrontaberration,contrastsensitivity,excimerlaser.———————————————————————-Page2706あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(126)Hartmann-Shackセンサーで測定し,矯正後の全収差を最小になるように矯正を行うwavefront-guidedLASIK(WF-LASIK)が開発され,広く臨床使用されている1).このWF-LASIKは,不正乱視症例への治療が可能となるだけでなく,C-LASIKでみられた高次収差の増加とコントラスト感度の低下2,3)の抑制も期待されている.波面収差データからカスタムメードの照射パターンを作製する処理においても,従来はZernike多項式に基づいて行われていたが,フーリエ変換を用いた方法が開発された4).汎用性が高いフーリエ変換を用いることで,精巧な照射パターン作製が可能となった5).これらの高度な技術が導入され,それによって臨床結果が向上すると期待できるが,実際に臨床結果を評価した報告は少ない6,7).本論文では,フーリエ変換を使ったWF-LASIKの臨床的な効果を従来のC-LASIKと比べて,後向きに検討した.I対象および方法対象は,2005年6月から2007年11月まで宮田眼科病院にてC-LASIKを行った16例32眼(C群)と,2007年5月から2008年1月までフーリエ変換アルゴリズムで照射パターンを作製しWF-LASIKを行った22例44眼(W群)である.両群の年齢,術前の屈折値,暗所瞳孔径は表1のとおりで,両群間に有意差はなかった.C群は術前の自覚屈折度数から正視狙いで矯正度数を決定し,W群は術前に波面収差をHartmenn-ShackセンサーWaveScan(AMO)で測定し,照射パターンを作製した.両群とも,マイクロケラトームMK-2000(ニデック)にて9mm径の吸引リング,160μmヘッドを用いて角膜フラップを作製した.エキシマレーザーVISXエキシマレーザーS4またはS4IR用いて,眼球トラッキング下で,opticalzone6mm径,transitionzone8mm径で照射を行った.レーザー切除量は,C群は56.4±19.6μm,W群は73.1±21.7μmとW群が有意に大きかった(p<0.01).術前,1週間,1,3,6カ月時に測定した,裸眼視力,自覚屈折誤差,波面収差,コントラスト感度を後向きに検討した.波面収差は,Hartmenn-Shackセンサーを有する波面収差センサーKR-9000PW(トプコン)で測定し,光学径6mmの全屈折における,球面様(Zernike4次),コマ様(Zernike3次),全高次収差のRMS(rootmeansquare)値を評価した8).コントラスト感度は,CSV-1000(VectorVision)で縞コントラスト感度を測定し,AULCSF(areaunderlogcontrastsensitivityfunction)を求めた.さらに,CSV-1000LV(VectorVision)で文字コントラスト測定し,正しく読解された文字数で評価した8).統計処理は,群間に対しては対応のないt検定,または,Mann-Whitney検定を行い,p<0.05を有意差ありとした.波面収差の群内の変化に対しては,Steel-Dwass多重検定を行った.結果は,平均±SDで表記した.II結果裸眼視力(図1)は,C群では術前平均0.05が術後1週間で1.54と回復し,6カ月まで安定していた.W群も同様に術前平均0.07が術後1週間1.60,6カ月時1.55と回復した.両群間では,術後1カ月のみW群が有意に大きかった(p=0.018,Mann-Whitney検定)が,それ以外では差がなかった.術後の屈折誤差は,C群では術後1週間で0.09±0.24で6カ月(0.25±0.38)まで安定していた.W群も同様に術後1週間(0.16±0.27)から6カ月(0.22±0.34)と安定していた.両群の間に有意な差はなかった.光学径6mmの全屈折の収差を図3に示す.3次のコマ様収差(図2a)は,両群とも術後に有意に増加したが,術後においてC群(1カ月時平均0.52μm)はW群(同0.33μm)に比べて有意に大きくなった.4次の球面様収差(図2b)も,両群とも術後に有意に増加したが,W群(1カ月時平均0.26μm)はC群(同0.48μm)に比べて有意に少なかった.全高次収差(図2c)は,両群とも術後に有意に増加したが,W群はC群に比べてその増加は有意に少なかった.両群とも術後1カ月から6カ月の間,各収差の値は有意な変動はなく,安定していた.縞コントラスト感度から求めたAULCSF(図3)は,術後3カ月でW群が有意に良くなっていた(p=0.037,t検定)が,術後1,6カ月で群間に差はなかった.各時の縞コントラスト(図4)では,術後1カ月では空間周波数6cpdのみW群が有意に良かった.3カ月後は,空間周波数6,12,18cpdでW群が有意に良くなった.6カ月後は群間のコント表1両群の年齢,術前の屈折値,暗所瞳孔径の術群群年齢±7.728.1±6.9矯正屈折量(D)5.5±1.94.7±1.7暗所瞳孔径(mm)5.2±0.65.3±0.82.01.51.00.50.0p<0.001:C-LASIK:WF-LASIK術前1週1カ月3カ月6カ月裸眼視力図1術前,術後1,3,6カ月の裸眼視力術後1カ月でW群が有意に良くなった(p<0.001,Mann-Whitney検定).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009707(127)ラスト感度の差は小さくなり,有意差はなくなった.文字コントラストは,術後全期間でW群が有意に大きくなった(図5).III考按WF-LASIKは,C-LASIKに比べて裸眼視力,屈折誤差に差はなく,高次波面収差(3次,4次,全高次)とコントラスト感度の向上がみられた.視力の改善という点では両LASIKは同等であった.WF-LASIKは,LASIK手術で惹起する高次収差がC-LASIKより少なく,その結果コントラスト感度が上がり2),視機能が改善することが確認された.しかし,WF-LASIKによる高次収差の抑制は全高次収差で0.3μm(RMS)程度で,コントラスト感度への寄与はそれほど多くなく,縞コントラスト感度検査では顕著にはみられなかった.明所に加えて,瞳孔径が大きくなる暗所での検討も必要と思われる.コントラスト感度向上の効果は,文字コントラストでは安定していたが,縞コントラスト感度は術後3カ月から6カ月(図4)で効果は小さくなっている.LASIK術後長期では,中心角膜厚の増加にみられる角膜のゆっくりした変化9)などにより,WF-LASIKの効果が減少する可能性が考えられる.C-LASIKは,フラップを作製しないPRK(photorefrac-tivekeratectomy)に比べて高次収差が増加する10).これは,角膜フラップの作製と照射による収差増加と考えられる7).1.00.80.60.40.20.0:C-LASIK:WF-LASIK:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(μm)a.全屈折6mm径コマ様収差1.00.80.60.40.20.0:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(?m)♯♯♯♯♯♯†††b.全屈折6mm径球面様収差1.21.00.80.60.40.20.0術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(?m)c.全屈折6mm径全高次収差図2光学径6mmの全屈折収差(RMS)の変化a:3次のコマ様収差,b:4次の球面様収差,c:全高次収差.†:p<0.001群間のt検定.#:p<0.05群内でのSteel-Dwass多重比較.2.52.01.51.0p=0.024p=0.037:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月AULCSF図3AULCSFの変化術後3カ月のみでW群が有意に向上(t検定).2.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.0:C-LASIK:WF-LASIK3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd対数コントラスト対数コントラスト対数コントラスト対数コントラスト18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd術前コントラスト術後1カ月コントラスト術後3カ月コントラスト術後6カ月コントラストp=0.045p=0.011p=0.002p=0.002p=0.047図4術前,術後1,3,6カ月時の縞コントラスト感度p値はt検定で有意差ありの場合のみ表示.2524232221201918p=0.011p=0.007p<0.001:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月文字コントラスト(文字数)図5文字コントラスト感度の変化p値はt検定で有意差ありの場合のみ表示.———————————————————————-Page4708あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(128)Pallikarisらの報告11)では,鼻側角膜フラップ作製によって高次収差(6mm径)は術前RMS値0.344±0.125μmから作製後0.440±0.221μmに増加し,球面収差(Z40)とヒンジ軸に沿ったコマ収差(Z31)が変化した.WF-LASIKにおける術後1カ月の高次収差は0.46±0.12μmであり,フラップ作製後の高次収差とほとんど同じであった.このことから,フーリエ変換を使ったWF-LASIKでは,照射による高次収差の増加は良好に減少していると考えられた.フーリエ変換を用いたWF-LASIKの高次収差を抑制する効果をより詳細に調べるため,術後1カ月時の6mm径波面収差のZernike係数をC-LASIKと比較した(表2).コマ収差のZ31,球面収差Z40,さらに,6次高次収差のZ60,Z62が両群間で有意に減少した.従来のZernikeに基づくWF-LASIKでも,ZernikeのZ31とZ40(球面収差)は減少できると考えられる4)が,Z60,Z62のより高次収差の減少は詳細な照射パターンが可能なフーリエ変換も用いた照射によると考えられた.高次収差が減少するとコントラスト感度は良くなることが知られている2)が,両群において,術前後で高次収差もコントラスト感度は増加している.コントラスト感度検査時には,最良矯正とするために矯正レンズが加入される.加入された度数をW群の術前と術後1カ月で比較してみると,術前は,球面4.29±1.80D,円柱0.87±0.71Dであったが,術後1カ月で球面0.13±0.21D,円柱0.07±0.27Dと顕著に減少した(p<0.001,t検定).加入度数が大きくなると,矯正レンズのステップ(球面0.25D,円柱0.5Dごと)による矯正誤差に加えて,加入した球面,円柱レンズによる収差(球面収差など)が増加する影響により,術前のコントラスト感度が過少測定されと考えられる.文献1)宮田和典,宮井尊史:Wavefront-guidedLASIK.IOL&RS19:150-153,20052)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefrac-tivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmol-ogy109:1154-1158,20023)YamaneN,MiyataK,SamejimaTetal:Ocularhigher-orderaberrationsandcontrastsensitivityafterconven-tionallaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci45:3986-3990,20044)DaiG:ComparisonofwavefrontreconstructionswithZernikepolynomialsandFouriertransforms.JRefractSurg22:943-948,20065)南慶一郎,宮田和典:レーザー照射としてのゼルニケvsフーリエ.IOL&RS21:223-226,20076)VongthongsriA,PhusitphoykaiN,NaripthapanP:Com-parisonofwavefront-guidedcustomizedablationvs.con-ventionalablationinlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:332-335,20027)AizawaD,ShimizuK,KomatsuMetal:Clinicalout-comesofwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis:6-monthfollow-up.JCataractRefractSurg29:1507-1513,20038)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Contrastsensitivityfunctionandocularhigh-orderaberrationsfollowingover-nightorthokeratology.InvestOphthalmolVisSci48:550-556,20079)MiyaiT,MiyataK,NejimaRetal:Comparisonoflaserinsitukeratomileusisandphotorefractivekeratectomyresults:long-termfollow-up.JCataractRefractSurg34:1527-1531,200810)OshikaT,KlyceS,ApplegateRetal:Comparisonofcor-nealwavefrontaberrationsafterphotorefractivekeratec-tomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol127:1-7,199911)PallikarisI,KymionisG,PanagopoulouSetal:Inducedopticalaberrationsfollowingformationofalaserinsitukeratomileusisap.JCataractRefractSurg28:1737-1741,2002表2術後1カ月のZernike係数Zernike係数C群W群p値(t検定)Z330.062±0.1860.047±0.1310.708Z310.344±0.2820.122±0.190<0.001Z310.039±0.2740.021±0.2000.759Z330.018±0.1530.047±0.1090.371Z440.006±0.0620.012±0.0550.640Z420.019±0.0560.005±0.0540.280Z400.395±0.1770.193±0.118<0.001Z420.106±0.1550.045±0.0800.052Z440.024±0.0860.039±0.0600.429Z550.004±0.0390.005±0.0450.897Z530.005±0.0430.002±0.0360.473Z510.001±0.0560.011±0.0510.469Z510.001±0.0490.004±0.0470.805Z530.002±0.0300.003±0.0390.882Z550.012±0.0510.007±0.0430.641Z660.004±0.0390.000±0.0270.660Z640.001±0.0200.002±0.0180.491Z620.000±0.0270.002±0.0200.692Z600.075±0.0650.043±0.0540.033Z620.023±0.0480.000±0.0310.029Z640.007±0.0340.001±0.0200.379Z660.005±0.0580.003±0.0340.846

強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-flap Advanced NPT)の手術成績

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1700あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):700704,2009cはじめにAdvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-NPT)は,トラベクレクトミーと比較して重篤な合併症が少なく,比較的行いやすい術式であるが,術後の眼圧コントロールはトラベクレクトミーと比較するとやや劣るとの報告15)が多い.以前,筆者らはad-NPTの効果・安全性を維持しつつ,より良好な術後濾過胞の形成を目指して,強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を考案し,その手術成績を報告6)した.このときは,術後の前房形成不良の危険を最小限にするため,すべて白内障との同時手術の症例を対象としたが,特に重篤な合併症などはみられなかったため,今回は単独手術も施行した.札幌医科大学眼科(以下,当科)で行ったfree-apadvancedNPTの手術成績および単独手術と同時手術の比較検討を合わせて報告する.I対象および方法1.対象対象は,緑内障手術既往を問わない原発開放隅角緑内障で,当科でfree-apadvancedNPTを行い,1カ月以上経過観察できた18例27眼とした.年齢は平均68.1±5.4(60〔別刷請求先〕田中祥恵:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SachieTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S1W16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績田中祥恵鶴田みどり片井麻貴石川太大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学教室OutcomesofFree-apAdvancedNon-penetratingTrabeculectomySachieTanaka,MidoriTsuruta,MakiKatai,FutoshiIshikawa,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を行い,その手術成績および単独手術と同時手術の比較について検討した.対象は術後1カ月以上経過観察できた原発開放隅角緑内障18例27眼(単独手術8例10眼,白内障手術との同時手術12例17眼).年齢は平均68.1±5.4(6081)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.平均眼圧は術前17.0±3.2mmHgであったのに対し,術後1,6,12カ月の眼圧は13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,13.7±3.2mmHgと有意に低下し,術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は70.6%であった.単独手術と同時手術では,手術成績に有意差はみられなかった.Weevaluatedthesurgicaloutcomeafterfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(NPT)andcom-paredfree-apadvancedNPTonlywithfree-apadvancedNPTplusphacoemulsicationandintraocularlensimplantation(combinedsurgery).Free-apadvancedNPTwasperformedin18eyesof27primaryopen-angleglaucomapatients(10eyesof8patientsunderwentfree-apadvancedNPTonly,17eyesof12patientsunder-wentcombinedsurgery).Meanagewas68.1±5.4years;meanfollow-upperiodwas11.6±7.6months.intraocularpressure(IOP)at1,6and12monthspostoperativelywas13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,and13.7±3.2mmHg,respectively,signicantlylowerthanthebaselineIOPof17.0±3.2mmHg.TheprobabilityofIOPsuccessfullyreaching14mmHgat12monthswas70.6%.TherewasnosignicantdierenceineciencyofIOPreductionbetweenthefree-apadvancedNPTonlygroupandthecombinedsurgerygroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):700704,2009〕Keywords:強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー,手術成績,同時手術.free-apadvancedNPT,surgicaloutcome,combinedsurgery.700(120)0910-1810/09/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009701(121)81)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.そのうち単独手術は8例10眼,白内障手術との同時手術は12例17眼であった(表1).2.術式手術方法を表2に示す.強膜内方弁切除までは,従来のマイトマイシンC(MMC)併用ad-NPTと同じである.その後,従来のad-NPTでは強膜外方弁を縫合するが,free-apadvancedNPTでは,縫合せずに整復するのみとした.手術終了時に前房深度を確認し,前房形成が不良の場合は,サイドポートよりbalancedsalinesolusion(BSS)を注入して前房を形成した.3.検討項目a)全体(単独手術+同時手術),単独手術,同時手術それぞれについて,術前後の眼圧,抗緑内障薬点眼数,術後処置,合併症につき検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて,術後1,3,6(以後3カ月ごと)カ月に測定した.眼圧経過の判定は,術前後の平均眼圧を対応のあるt-検定を用いて検定した.また,眼圧下降率,眼圧コントロール率についても検討した.眼圧下降率(%)は術前眼圧術後眼圧/術前眼圧×100の式を用いて算出し,眼圧コントロール率はKaplan-Meier法を用いて検討した.そのエンドポイントは,①2回連続して14mmHgを超えた最初の時点,または②アセタゾラミドの内服や追加の緑内障手術を行った時点とした.抗緑内障点眼薬数の増減の判定は,術前の平均点眼薬数に対して,術後の平均点眼薬数をWilcoxonsignedranktestを用いて検定した.b)上記a)のそれぞれの項目について,単独手術と同時手術の比較を行った.2群間の統計学的検討方法は,平均眼圧の比較には対応のないt-検定,眼圧コントロール率の比較にはlog-ranktestを用い,抗緑内障点眼薬数の減少程度の比較には分散分析,術後処置・合併症の頻度の比較にはc2検定を用いた.II結果a),b)合わせて示す.1.眼圧経過術前後の眼圧経過を表3と図1に示す.全体において術前17.0±3.2mmHgの眼圧が,術後1カ月で13.0±3.9mmHg,3カ月で13.4±3.3mmHg,6カ月で13.1±2.5mmHg,12カ月後には13.7±2.7mmHg,最終観察時には14.0±3.6mmHgと有意に低下した(p<0.05).単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差は認めなかった.2.眼圧下降率術後の眼圧下降率を表4に示す.最終観察時における眼圧下降率は,全体では17.3±17.2%,単独手術では13.7±13.1%,同時手術では19.3±19.3%であった.表1患者背景全体18例27眼単独手術8例10眼同時手術12例17眼p値病型POAGPOAGPOAG年齢(歳)68.1±5.4(6081)65.6±2.5(6167)69.6±6.1(6081)<0.05術前眼圧(mmHg)17.0±3.2(1426)18.1±4.4(1426)16.2±2.0(1422)術後観察期間(カ月)11.6±7.6(124)10.6±6.5(121)12.1±8.4(124)手術既往*症例の重複含むLEC2眼PEA-IOL+VCS1眼ICCE1眼ECCE-IOL1眼PEA-IOL1眼ALT1眼SLT2眼LEC1眼LOT1眼POAG:原発開放隅角緑内障,LEC:トラベクレクトミー,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,VCS:ビスコカナロストミー,ICCE:水晶体内摘出術,ECCE:水晶体外摘出術,ALT:レーザー線維柱帯形成術,SLT:選択的レーザー線維柱帯形成術,LOT:トラベクロトミー.表2術式1.結膜切開(fornix-base)2.強膜外方弁作製(4×4mmの四角形)3.0.02%マイトマイシンC塗布(3分間)4.生理食塩水250mlで洗浄5.同時手術ではPEA-IOL(角膜切開)6.強膜内方弁作製(4×3mmの四角形)7.線維柱帯内皮網擦過8.強膜内方弁を角膜側Descemet膜まで進める9.強膜内方弁切除10.強膜外方弁を整復(強膜弁は縫合しない)11.結膜縫合fornix-base:円蓋部基底,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術.———————————————————————-Page3702あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(122)3.眼圧コントロール率眼圧コントロール率を図2に示す.術後12カ月の時点での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.単独手術と同時手術において統計学的な有意差はみられなかった.4.抗緑内障点眼薬数(表5)点眼薬数は,単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(p<0.05).単独手術と同時手術では有意な差はみられなかった.5.術後処置(表6)YAG-laserによるgonio-punctureを施行して,眼圧調整をしたものは全体では16眼(59.3%)で,術後平均7.9±10.5(124)日に施行されていた.単独手術と同時手術においてgonio-punctureの施行率に有意差はみられなかった.Gonio-punctureの施行時期は,同時手術のほうが単独手術表3術前後の眼圧術前1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体17.0±3.213.0±3.9**13.4±3.3*13.1±2.5**13.7±2.7**14.0±3.6**単独手術18.4±4.4(n=10)14.6±4.5(n=10)13.8±4.2*(n=9)13.6±2.2**(n=8)15.2±3.4(n=6)15.7±3.6同時手術16.2±2.0(n=17)12.1±3.3**(n=17)13.3±2.7**(n=13)12.7±2.7**(n=12)12.8±1.9**(n=10)13.0±3.3***p<0.05,**p<0.01.(mmHg)全体においては,術前に比べ術後有意に眼圧は下降した.単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差はみられなかった.表4眼圧下降率(%)の推移術後1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体23.2±20.018.4±17.317.9±14.914.7±13.617.3±17.2単独手術19.6±22.3(n=10)21.0±18.8(n=10)17.1±13.7(n=9)12.4±16.8(n=8)13.7±13.1(n=6)同時手術25.3±18.9(n=17)16.7±16.7(n=17)18.5±16.3(n=13)16.1±12.1(n=12)19.3±19.3(n=10)0510152025術前13612眼圧(mmHg)経過観察期間(月):全体:単独手術:同時手術図1術前後の眼圧経過率術後経過術術図2眼圧コントロール率術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.表5抗緑内障点眼薬数全体単独手術同時手術術前3.7±1.14.3±1.33.3±0.7術後(最終観察時)0.9±1.11.4±1.20.5±0.8(剤)単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(Wilcoxonsignedranktest).2群間において有意な差はみられなかった(分散分析).表6術後処置:YAG-lasergonio-puncture全体単独手術同時手術眼数施行時(日)16(59.3%)7.9±10.56(60%)2.3±1.5(15)10(58.8%)11.3±12.2(124)単独手術と同時手術において有意な差はみられなかった(c2検定).***———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009703(123)よりも遅かった.Gonio-puncture施行後の眼圧推移を図3に示す.同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.6.術後併発症術後併発症を表7に示す.全体としては,術後早期併発症として軽度中等度の浅前房を4眼(29.3%),軽度中等度の前房出血を3眼(11.1%),5mmHg以下の低眼圧を2眼(7.4%)に認めたが,いずれも保存療法で数日のうちに軽快した.また経過観察中1眼(3.7%)にgonio-puncture部位に虹彩嵌頓を認めたが,嵌頓虹彩へのYAG-laserおよびlasergonioplastyにて解除され,以後眼圧コントロールも良好であった.輪部結膜切開部位から房水漏出がみられたものが3眼(11.1%)あったが,いずれもヒアルロン酸製剤の点眼で軽快した.単独手術と同時手術の比較では,前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(p<0.05).III考按筆者らはad-NPTの安全性を維持しつつ,より良好な濾過胞形成を目指して,free-apadvancedNPTを考案し,その手術成績を報告した6).その手術成績から,free-apadvancedNPTはad-NPT同様の眼圧下降効果および安全性を有すること,下降した眼圧を維持するためには,適宜YAGlasertrabeculopuncture(YLT)を施行して濾過量を調整していくことが必要であることがわかった.Free-apadvancedNPTでは強膜弁を縫合しないため,術後のlasersuturelysisが不要であるため,術後処置が軽減されるという利点をもつ.その反面,術後の過剰濾過・前房形成不良などの併発症が増すことが懸念される.このため,前回はすべて白内障との同時手術で行ったが,術後重篤な合併症などを認めなかったため,今回はfree-apadvancedNPTの単独手術も施行し,同時手術と単独手術の比較検討も行った.ad-NPTの術後眼圧については,黒田1)が術後12カ月で,単独手術13.4mmHg,白内障との同時手術では13.0mmHgと報告している.溝口2)は単独手術で術後6カ月13.9mmHg,12カ月13.6mmHg,山本ら7)は3カ月で,単独手術,同時手術合わせて13.5mmHgと報告している.Free-apadvancedNPTの術後眼圧については,前回,筆者らは同時手術では,術後3カ月で12.9mmHgと報告6)した.今回のfree-apadvancedNPTの結果は,術後12カ月の眼圧13.7mmHgとこれまでのad-NPTの報告1,2,7)と同等であり,また前回の筆者らの報告とも同等であった.しかしながら,14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%と穿孔性トラベクレクトミー4,8)には及ばなかった.ad-NPTにおける単独手術と白内障との同時手術の術後眼圧に関しては,Kurodaら9)は単独手術と同時手術では,術後眼圧コントロール率に有意差はなかったと報告している.今回筆者らの行ったfree-apadvancedNPT単独手術と同時手術の比較では,統計学的な有意差はなかったが,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示した.この理由としては,単独手術群のほうに緑内障手術既往例が多いことが関係している可能性が考えられた.抗緑内障薬点眼数に関しては,術前に比べ,術後有意に減少しており,これまでのad-NPTでの報告1,2,7)と同様であった.術後gonio-punctureの施行に関しては,初期の報告においては,黒田1)が4/56眼(7.1%),溝口2)は2/32眼(6.3%)と報告しているが,積極的に施行した場合では,山本ら7)は9/14眼(64.3%)と報告し,前回の筆者らのデータでも5/10眼(50%)程度であった.今回も,眼圧上昇傾向や,濾過胞の縮小傾向がみられた場合に積極的に施行したため,施行率が60%程度になったと思われる.単独手術と同時手術の比較では,施行率に差はなかったが,施行時期に関しては,同時手術のほうが遅かった.術後の併発症に関しては,単独手術で,同時手術に比べて,前房出血が多くみられた.症例数が少なく,原因は不明であるが,今後症例数を増やして,再度検討が必要と考えている.懸念された前房形成不全はみられず,free-ap表7術後併発症全体単独手術同時手術p値浅前房4(29.3%)04前房出血3(11.1%)30<0.01低眼圧(5mmHg以下)2(7.4%)02虹彩嵌頓1(3.7%)01Seidel陽性3(11.1%)21前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(c2検定).前直後翌日1W1M経過観察期間3M6M9M12M*p<0.0135302520151050眼圧(mmHg):全体:単独:同時*****図3Gonio-puncture施行後の眼圧の推移同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.———————————————————————-Page5704あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(124)advancedNPTは単独手術,同時手術ともにad-NPT同様,術後併発症の少ない安全な術式と思われた.文献1)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,20002)溝口博夫:AdvancedNPT─テクニックと中期成績─.眼科手術14:305-309,20013)福地健郎,阿部春樹:非穿孔性線維柱帯切除術(NPT)術式と中期成績.眼科手術14:311-314,20014)FukuchiT,SudaK,HaraHetal:MidtermresultandtheproblemsofnonpenetratinglamellartrabeculectomywithmitomycinCforJapaneseglaucomapatients.JpnJOph-thalmol51:34-40,20075)川嶋美和子,山崎芳夫,水木健二ほか:原発開放隅角緑内障に対する非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績の検討.日眼会誌108:103-109,20046)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20067)山本陽子,大黒幾代,大黒浩ほか:弘前大学眼科における改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績.あたらしい眼科22:813-816,20058)FontanaH,Nouri-MahdaviK,LumbaJetal:Trabeculec-tomywithmitomycinC.Ophthalmology113:930-936,20069)KurodaS,MizoguchiT,TerauchiHetal:Advancednon-penetratingtrabeculectomy(advancedNPT)andcom-binedsurgeryofadvancedNPTandphacoemulsicationandintraocularlensimplantation.SeminOphthalmol16:172-176,2001***

Dynamic Contour Tonometerによる眼圧測定と緑内障治療

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(115)6950910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):695699,2009cはじめに現在,精密眼圧測定にはGoldmann圧平眼圧計(GAT)が一般的に使用されている.しかし,圧平式眼圧計は角膜厚や前眼部のさまざまな影響を受けることが知られている1,2).近年,角膜厚・形状の影響をほとんど受けない眼圧計としてdynamiccontourtonometer(DCT)が開発された.緑内障の視神経障害の機序は,いまだに詳細不明であるが,眼圧下降によって視野障害の進行を阻止することができるとされている35).現在の臨床において眼圧測定の標準はGATである.DCTがより真の眼内圧に近い眼圧を測定しても,GATと同様に緑内障治療において安定して眼圧を計測できなければ意味がない.これまでDCTの有用性についてGATと比較した報告はいくつかなされており,DCTはGATより高い眼圧値を示しさらに中心角膜厚の影響が少ないとされている69).また,角膜屈折矯正手術の術前後でDCTとGATの眼圧値を比較した報告もあり,GATでは術前と比べ術後低い眼圧値を示したがDCTでは術前後で差を認めなかったとされている10,11).今回筆者らは,DCTを用いて健常眼および緑内障眼の治療前後で眼圧を測定し,同時に測定したGATの眼圧値と比較し検討した.〔別刷請求先〕山口泰孝:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YasutakaYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療山口泰孝梅基光良木村忠貴植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUseinGlaucomaTherapyYasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemoto,TadakiKimuraandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospitalDynamiccontourtonometer(DCT)で測定した眼圧値の緑内障治療における有用性につき,Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較し検討した.対象は,健常眼50例100眼,トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する緑内障72例125眼である.緑内障治療眼ではDCT眼圧測定値はGATと同様に有意な下降を認めた.健常眼と比較し無治療緑内障眼で眼球脈波(OPA)は有意に高値を示し,トラベクロトミー術後とラタノプロスト点眼後に有意に下降した.チモロール点眼後は有意な変動を示さなかった.DCTは緑内障眼の眼圧測定において,GATと同様に用いることができた.Theaimofthisstudywastoinvestigatethereliabilityofintraocularpressuremeasurementusingthedynamiccontourtonometer(DCT),incomparisontotheGoldmannapplanationtonometer(GAT),specicallyasusedinglaucomatherapy.Thesubjectscomprised50normaleyesof100patients,18glaucomatouseyesof16patientsthathadundergonetrabeculotomyand125glaucomatouseyesof72patientsthathadreceivedmonotherapywithlatanoprostortimolol.Followingtreatmentbyallmethods,bothDCTandGATmeasurementsshowedsignicantlowering.Theocularpulseamplitude(OPA)oftheglaucomatouseyeswasremarkablyhigherthanthatofthenor-maleyes.OPAdecreasedsignicantlyaftertrabeculotomyortreatmentwithlatanoprost,whiletimololelicitednosignicantchange.BothDCTandGATwereusefulinmeasuringintraocularpressureinglaucomatouseyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):695699,2009〕Keywords:ダイナミックカンタートノメーター,Goldmann圧平眼圧計,トラベクロトミー,ラタノプロスト,チモロール.dynamiccontourtonometer,Goldmannapplanationtonometer,trabeculotomy,latanoprost,timolol.———————————————————————-Page2696あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(116)I対象および方法対象は,白内障以外の内眼疾患を有さない健常眼50例100眼(男性22例,女性28例,平均年齢72.4±1.1歳),トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼(男性8例,女性8例,平均年齢69.2±3.8歳)および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する隅角の開放した緑内障72例125眼(男性36例,女性36例,平均年齢68.5±1.0歳)である.緑内障眼は視神経乳頭所見および視野から診断された.各症例でdynamiccontourtonometer(PascalR,ZeimerOphthalmic社)を用いて眼圧ならびに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)を測定し(信頼度の高いQ=13を用いた),同時にGAT(Haag-Streit社)でも眼圧を測定し比較した.また,各症例の角膜厚は,超音波角膜厚測定装置(AL-1000,TOMEY社)によって測定した.各値の相関は直線回帰分析によって解析し,Pearsonの相関係数を求めた.検定はt検定を用い,有意水準は5%とした.トラベクロトミー症例は術前日と術翌日午前に眼圧を測定した.術前点眼数は平均2.2±0.3剤で,術後は無点眼下で測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障3眼,原発開放隅角緑内障4眼,落屑緑内障5眼,ステロイド緑内障4眼および続発緑内障2眼であった.緑内障点眼はwashout後,24週間の点眼期間を設け,その前後で眼圧を測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障89眼,狭義の原発性開放隅角緑内障26眼および落屑緑内障10眼であった.また,視野欠損の進行した症例はすでに緑内障手術を施行されているものが多いため,今回はGold-mann型動的視野計において湖崎分類IIaIIIbを示す内眼手術の既往のない症例103眼と偽水晶体眼22眼とを対象とした.II結果1.健常眼におけるDCT今回筆者らの計測した健常眼100眼の平均値はGAT眼圧測定値13.9±0.3mmHg,DCT眼圧測定値18.9±0.3mmHg,OPA2.4±0.1mmHg,中心角膜厚536.0±3.4μmであった.GATとDCTの眼圧測定値は強い相関(r=0.61,p<0.0001,図1a)があった.中心角膜厚はGAT測定値に影響(r=0.29,p=0.003,図1b)したが,DCT測定値には影響しないようであった(r=0.002,p=0.98,図1c).中心角膜厚値が小さいほど,DCT測定値はGAT測定値より高くなった(図1d).また,OPAは1.53.0mmHgに多く分布し,DCT測3025201510551015GAT測定値(mmHg)202530DCT測定値(mmHg)図1a健常眼のGAT測定値とDCT測定値中心角膜厚測定値図1c健常眼の中心角膜厚とDCT測定値測定値図1e健常眼のDCT測定値とOPA30252015105400450500m550600650GAT測定mm図1b健常眼の中心角膜厚とGAT測定値中心角膜厚測定値図1d健常眼の中心角膜厚とDCT,GAT測定値の差———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009697(117)定値と弱い相関があった(r=0.31,p=0.02,図1e).2.緑内障眼におけるDCT今回緑内障点眼の対象となった125眼の無点眼下での値について検討した.平均値はGAT眼圧測定値17.9±0.4mmHg,DCT眼圧測定値23.6±0.4mmHg,OPA2.9±0.1mmHgであり,いずれの値も健常眼より有意に高かった(p<0.0001,p<0.0001,p<0.0001).中心角膜厚は521.1±3.5μmであり,健常眼より角膜は有意に薄かった(p<0.0001).健常眼と同様に,GATとDCTの測定値は強い相関(r=0.85,p<0.0001,図2a)があった.無治療緑内障眼でもOPAはDCT測定値と弱い相関があった(r=0.26,p=0.003,図2b).DCT測定値の同一範囲内(26.8mmHg以下)で比較しても健常眼に比べ緑内障眼は有意にOPAが高値であり(p=0.0007),これは特に眼圧の低い症例で顕著であった.3.緑内障治療前後の比較DCTによる眼圧測定値は,トラベクロトミー術前31.7±2.4mmHgから術後20.6±1.3mmHg(p<0.0001)に,緑内障点眼は点眼前23.6±0.5mmHgからラタノプロスト点眼後19.5±0.4mmHg(p<0.0001)に,またチモロール点眼後20.7±0.4mmHg(p<0.0001)に,いずれの治療でも治療後で有意な下降を認めた(図3a).GAT測定でも各治療で有意な眼圧下降を認めた(図3b).OPAはトラベクロトミー術前3.6±0.3mmHgから術後2.6±0.3mmHg(p=0.0006)に有意に下降した.緑内障点眼は点眼前2.9±0.1mmHgからラタノプロスト点眼後2.5±0.1mmHgに下降した(p<0.0001).一方,チモロール点眼後は2.8±0.1mmHgと下降する傾向があったが有意差はなかった(p=0.08,図3c).また,各治療前後のDCT測定値とOPAの関係を比較した(図3d,各症例の分布は数が多く煩雑なため,回帰線のみ示した).トラベクロトミー術後およびラタノプロスト点眼後は健常眼の分布に近づく傾向にあった.チモロール点眼後はDCT測定値は下降するもののOPAの明らかな変化はみられなかった.4.緑内障点眼の比較ラタノプロスト点眼とチモロール点眼について,DCTお453525155515GAT測定値(mmHg)253545DCT測定値(mmHg)図2a緑内障眼のGAT測定値とDCT測定値測定値図2b緑内障眼のDCT測定値とOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールGAT測定値(mmHg)図3b各治療前後のGAT測定値治療前治療後<0.0001p<0.0001NSチモロールOPA(mmHg)図3c各治療前後のOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールDCT測定値(mmHg)図3a各治療前後のDCT測定値———————————————————————-Page4698あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(118)よびGATによる眼圧測定値の眼圧下降率を図4a,bに示した.ほぼ同様の分布と思われた.DCT測定での30%および20%眼圧下降の達成率は,ラタノプロスト単剤使用でそれぞれ17%と41%,チモロール単剤使用では8%と21%であった(図4c,d).また,2剤とも有効がそれぞれ5%と14%であり,2剤とも無効が80%と52%であった.III考按DCTは角膜カーブに合わせた凹型のセンサーチップを用いることで,圧平時の角膜の歪みや変形を最小限にし,角膜厚・角膜剛性の影響を受けずに眼圧を直接測定するよう理論づけられている.Kniestedtら12)は,摘出眼の検討で直接測定した真の眼内圧は,GAT測定値よりもDCT測定値により近かったと報告している.角膜形状とチップ先端形状の完全な一致は困難と考えられるが,今回の筆者らの検討でもDCTによる眼圧測定値はGATに比べ角膜厚の影響が少ないことが改めて確認され,DCTはより正確に眼内圧を計測していると考えられる.今回の検討で,DCTは緑内障治療前後における眼圧の相対的変動の指標として,GATと同様に用いることができた.緑内障眼の眼圧管理において,視野の欠損に応じた目標眼圧の設定が望ましいといわれており13,14),DCTの眼圧測定値86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)トラベクロトミー:健常眼:治療前:治療後86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)ラタノプロスト:健常眼:治療前:治療後6420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)チモロール:健常眼:治療前:治療後図3d各治療前後のDCTOPA分布60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4aDCT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効1280(%)35n=125無効無効図4c30%眼圧下降達成率(DCT)60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4bGAT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効2752(%)714n=125無効無効図4d20%眼圧下降達成率(DCT)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009699(119)がより真の眼内圧に近い値であるのならば,DCTを用いて,改めて視神経障害の程度に合わせた目標眼圧を検討せねばならない.今後もDCTのデータを重ねて,長期的に眼圧の変動と視野の変化の関わりを解析することで,さらにDCTを有効に利用できると考えられる.ただし,眼圧は緑内障のリスクファクターとして大きい35)とはいえ,特に日本人において正常眼圧緑内障が多いとの報告15)もあり,今後はより症例の状態を細分化したうえでの検討にならざるをえないと思われる.DCTは眼圧と同時にOPAも測定できる.今回の検討では,緑内障眼のOPAは健常眼より有意に高値を示した.またOPAの変動は治療法により異なることが明らかになった.血液動態や循環系に作用があると考えられるb-blockerでOPAへの作用がより少なかったが,その機序は不明である.各種薬剤の眼圧下降機構は詳細に解析されているわけではなく,OPAへの作用を介して点眼の作用機構や治療効果の解析が可能となるかもしれない.文献1)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocu-larpressure.TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19972)GunvantP,BaskaranM,VijayaLetal:EfectofcornealparametersonmeasurementsusingthepulsatileocularbloodlowtonographandGoldmannapplanationtonome-ter.BrJOphthalmol88:518-522,20043)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Compari-sonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswith-therapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOph-thalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)GordonMO,KassMA:TheOcularHypertensionTreat-mentStudy:designandbaselinedescriptionofthepar-ticipants.ArchOphthalmol117:573-583,19996)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20047)KotechaA,WhiteET,ShewryJMetal:TherelativeefectsofcornealthicknessandageonGoldmannapplana-tiontonometryanddynamiccontourtonometry.BrJOphthalmol89:1572-1575,20058)FrancisBA,HsiehA,LaiMYetal:Efectsofcornealthickness,cornealcarvature,andintraocularpressurelevelonGoldmannapplanationtonometryanddynamiccontourtonometry.Ophthalmology114:20-26,20079)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200810)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,200311)SiganosDS,PapastegioiuGI,MoedasC:AssessmentofthePascaldynamiccontourtonometerinmonitouringintraocularpressureinunoperatedeyesandeyesafterLASIK.JCataractRefractSurg30:746-751,200412)KniestedtC,MichelleN,StamperRL:Dynamiccontourtonometry:acomparativestudyonhumancadavereyes.ArchOphthalmol122:1287-1293,200413)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudyInvestiga-tors:AdvancedGlaucomaInterventionStudy:2.Visualeldtestscoringandreliability.Ophthalmology101:1445-1455,199415)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004***

超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(109)6890910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):689694,2009c〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科医院Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmicClinic,10-4-1,Tsukisamuchu-o-dori,Toyohiraku,Sapporo062-0020,JAPAN超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障西野和明*1吉田富士子*1齋藤三恵子*1齋藤一宇*1山本登紀子*2岡崎裕子*3木村早百合*4*1医療法人社団ひとみ会回明堂眼科医院*2山本内科・眼科クリニック*3江別市立病院眼科*4西岡眼科クリニックPrimaryPhacoemulsicationandAspirationandIntraocularLensImplantationforAcutePrimaryAngle-ClosureandAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaKazuakiNishino1),FujikoYoshida1),MiekoSaitoh1),KazuuchiSaitoh1),TokikoYamamoto2),HirokoOkazaki3)andSayuriKimura4)1)KaimeidohOphthalmicClinic,2)YamamotoInternalMedcine&OphthalmicClinic,3)DepartmentofOphthalmology,EbetsuCityHospital,4)NishiokaOphthalmicClinic目的:急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し初回手術として,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った症例について,手術の有効性と安全性につき検討した.対象および方法:急性原発閉塞隅角症4例6眼および急性原発閉塞隅角緑内障1例1眼の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).平均年齢69.6±8.4歳.平均観察期間7.6±8.2カ月.術前,術後の眼圧,視力,角膜内皮細胞密度,周辺前房深度(vanHerick法)などを比較検討するとともに,術後の合併症についても検討した.結果:発作時の眼圧58.7±14.7mmHgは,術翌日14.7±4.0mmHgに低下,さらに最終観察日の眼圧も9.9±1.8mmHgと良好な結果が得られた.また,術前の矯正視力0.63±0.24は術後0.93±0.11に改善(p<0.05).角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は,術前2,587.3±548.3が,術後2,278.4±657.9へと大きな減少は認められなかったものの(p=0.25),54%の減少が1眼,20%の減少が1眼に認められた.周辺前房深度は十分に深くなり(p<0.00005),隅角も開大した.しかしながら,手術時間が22±7.7分とやや長いこと,また眼内レンズ挿入後に円形の前切開の変形(楕円)が4眼に認められたほか,術後,中等度の角膜浮腫が2眼,前房内に中等度のフィブリン析出が2眼に認められた.結論:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障に対する第一選択の超音波水晶体乳化吸引術は,前房深度や隅角の開大により眼圧を正常化する有用な方法の一つと考えられるが,角膜内皮細胞密度の減少や術後の炎症などに注意する必要がある.Toevaluatetheecacyandsafetyofprimaryphacoemulsicationandaspiration(PEA)andintraocularlens(IOL)implantationforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-closureglaucoma,weanalyzed5eyesof4Japanesefemalepatientsand2eyesof1Japanesemalepatientwho,undertopicalanesthesia,hadundergoneprimaryPEA+IOLforacuteprimaryangle-closure(6eyesof4patients)andacuteprimaryangle-closureglauco-ma(1eyeof1patient),withoutlaseriridotomy.Averageagewas69.6±8.4;meanfollowupdurationwas7.6±8.2months.Outcomessuchasvisualacuity,intraocularpressure(IOP),endothelialcelldensity,depthofperipheralanteriorchamber(vanHerick)andinammationwerecomparedpre-andpostoperatively.PreoperativeIOP,58.7±14.7mmHg,decreasedto14.7±4.0mmHgontherstpostoperativeday.ThenalobservedIOPwas9.9±1.8mmHg.Meanpreoperativebestcorrectedvisualacuity,0.63±0.24,improvedto0.93±0.11postoperatively(p<0.05).Meanpreoperativeendothelialcelldensityof2,587.3±548.3cells/mm2showedanon-signicantdecreaseto2,278.4±657.9cells/mm2postoperatively(p=0.25),but54%decreasein1eyeand20%decreasein1eyewere———————————————————————-Page2690あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(110)はじめに急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障は視神経に緑内障性の変化が認められるかどうかで区別される1)が,それぞれで治療が異なるわけではない.初期治療として点眼,点滴などを十分に行った後,レーザー虹彩切開術(laseriri-dotomy:LI)あるいは,観血的な虹彩切除術が行われるのが一般的である.急激な眼圧上昇を早期に改善する必要があるため,LIは比較的簡単でかつ有効な治療法であるが,施行した後に問題がないわけではない.軽症なものでは虹彩後癒着や白内障の進行から,重篤なものでは内皮細胞密度の減少から水疱性角膜症をきたし失明につながる疾患までさまざまである2,3).また近年,急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムは,単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられるようになり4),LI単独だけでは,解決しない場合があることがわかってきた.つまり隅角を開大する目的のLI後にも,暗室うつむき試験が陰性化せず,機能的閉塞が残存し,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の拡大が停止しないことなどは,それらの複雑なメカニズムによるものと思われる.そこで近年,十分に前房および隅角を開大することで,それらのメカニズムをまとめて解決する有用な方法として,最初から超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)を選択する報告がみられるようになり,しかも良好な結果が得られている58).しかし急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障は,極端な浅前房,Zinn小帯の脆弱性,散瞳が不十分,眼軸が短く度数の高い厚めの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入しなければならないなど,技術的にはむずかしい手術と考えられ,有効性はもちろんのこと,合併症の有無や頻度について冷静で詳細な検討が必要になる.そこで今回筆者らは,急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し,LIを行わず,最初からPEAおよびIOL挿入術(PEA+IOL)を施行した症例を経験したので,その安全性や有効性など臨床経過につき報告する.I対象および方法2006年12月から2008年9月までの間,回明堂眼科医院(当院)で,LIを行わず,PEA+IOLを治療の第一選択とした,急性原発閉塞隅角症(4例6眼)および急性原発閉塞隅角緑内障(1例1眼)の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).発作時の平均年齢は69.6±8.4(標準偏差)歳,平均観察期間7.6±8.2カ月.主訴,既往歴などについては表1に別記した.各眼の眼軸長の平均は22.13±0.62mm,等価球面度数の平均は0.75±1.79D(diopters)と軽度の近視であった.白内障の核硬度の程度はEmery-Little分類で平均2以下と軽度であった(表2).眼圧(mmHg)は発作日,手術日,手術翌日,最終観察日に,矯正視力(少数視力)は手術日,最終観察日に,角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は手術前日,最終観察日に,周辺前房深度(vanHerick法)は手術日,最終観察日にそれぞれ測定し比較検討した.予想屈折度と術後屈折度の差についても検討した.使用機種はすべてAlcon社製INFINITITM(OZILTM)であるが,症例1の両眼と他の症例では,異なる超音波振動を用いたため,手術の侵襲を検討する際の超音波積算値(cumula-tivedissipatedenergy:CDE)をつぎのように計算した.従来の縦振動の超音波のみを使用した症例2から症例5では,CDE=平均超音波パワー(%)×超音波使用時間(秒)として計算,症例1では縦振動の超音波とtorsional(横振動)を併用したので,CDE=平均超音波パワー×超音波使用時間+0.4×(torsionalパワー×torsional使用時間)として計算した.すべての患者にLIおよびPEA+IOLの利点,合併症などを説明した後,PEA+IOLを初回手術として選択することの同意を得た.手術はすべて同一術者(K.N.)により行われた.今回の対象となる症例数はごくわずかであり,統計学的な解析をするには不十分ではあるが,参考までに検討した.視力はWilcoxon符号付順位和検定,その他はそれぞれ対応のfound.Peripheralanteriorchamberdepthimprovedinalleyes(p<0.00005).Meanoperationtime,22±7.7minutes,wasslightlylong;continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)in4eyeswastransformedtoovalafterIOLimplantation.Middlecornealedemawasfoundin2eyesandmiddlebrinofanteriorchamberwasfoundin2eyes.PEA+IOLmightbeaneectiveprimaryprocedureforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma,butitisnecessarytopayattentiontoinammationoftheanteriorsegmentanddecreaseinendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):689694,2009〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障,第一選択の治療,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術.acuteprimaryangle-closure,acuteprimaryangle-closureglaucoma,primaryprocedure,phacoemulsi-cationandaspiration(PEA),intraocularlensimplantation(IOL).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009691(111)あるt検定を用いた.危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果手術時のデータを表3に示した.手術は塩酸リドカインの局所麻酔下に,PEA+IOLを行った.切開はやや角膜よりの強膜切開で行い,粘弾性物質は通常のヒアルロン酸ナトリウムのほか,角膜内皮細胞の保護を目的としてヒアルロン酸ナトリウム・コンドロイチン硫酸ナトリウム配合(ビスコートR)を使用した.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際には前染色としてindocyaninegreen(ICG)を全例に使用.散瞳不良の症例1の左眼と虹彩後癒着がみら表1患者の背景症例12345年齢(発作発症時)(歳)5678747268性別女性女性女性女性男性患眼両眼左眼右眼左眼両眼診断APACAPACAPACGAPACAPAC主訴頭痛眼痛視力低下頭痛充血充血充血違和感霧視嘔気霧視過去の発作様所見2カ月前3カ月前既往歴統合失調症左耳下腺腫瘍切除観察期間(月)226532APAC=acuteprimaryangle-closure:急性原発閉塞隅角症.APACG=acuteprimaryangle-closureglaucoma:急性原発閉塞隅角緑内障.表2各眼の術前のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左等価球面度数(D)0.880.2540.9201.25術前中央前房深度(mm)2.12n.r.2.322.062.442.082.09水晶体厚(mm)5.36n.r.5.345.865.275.895.71眼軸長(mm)21.621.622.922.721.322.522.3白内障の核硬度1.51.522.521.51.5術前中央前房深度や眼軸長は角膜後面からの距離.使用機種はTOMEY社製AL-1000.n.r.=記録なし.白内障の核硬度はEmery-Little分類を用いた.表3手術時のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左手術日06.12.1206.12.1908.4.2208.5.708.7.208.8.608.8.19発作から手術日までの日数(日)6370172114ICG使用使用使用使用使用使用使用瞳孔拡張せず施行せずせずせず癒着解除せず超音波振動横と縦横と縦縦縦縦縦縦CDE31.0719.8017.2211.749.745.4IOLパワー(D)2727.523.523.525.525.524.5手術時間(分)14151919223233ICG=indocyaninegreen.縦=従来の縦振動の超音波(phaco).横=横振動の超音波(torsional).CDE=cumulativedissipatedenergy(超音波積算値).———————————————————————-Page4692あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(112)れた症例5の右眼に対しては機械的に瞳孔を拡張した.手術時間が22±7.7分と通常よりやや長めであった.各眼の術前術後の眼圧の推移(図1a)およびその平均値と標準偏差(図1b)を示した.観察期間が2カ月から22カ月とばらつきがあり,しかも平均観察期間が7.6±8.2カ月と短かったため,最終受診日を最終観察日とした.発作日の高眼圧(58.7±14.7mmHg)は点眼などの初期処置により,術直前には正常化した(12.9±2.7mmHg).術翌日は術後の炎症などでやや眼圧が上昇したものの(14.7±4.0mmHg),最終観察日には落ち着いている(9.9±1.8mmHg).症例3のみ緑内障で,視野がAulhorn分類Greve変法のstage5と進行した緑内障であったため,ラタノプロストを点眼中である.各眼の術前術後の視力を比較した結果を図2に示した.手術前の矯正視力0.63±0.24は,手術後0.93±0.11と有意に改善している(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定).症例3は緑内障による暗点が中心部まで及んでいるためか,視力の回復が十分でない.各眼の術前術後の角膜内皮細胞密度を比較した結果を図380706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察:症例1右:症例1左:症例2左:症例3右:症例4左:症例5右:症例5左図1a各眼の眼圧の推移術後術前図2各眼の白内障手術前後の矯正視力の比較術前術後の少数視力をlogMARに換算して比較検討した.(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定)80706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察図1b眼圧の推移(平均値と標準偏差)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000術後(cells/mm2)05001,0003,5002,5003,0002,0001,500術前(cells/mm2)#1#2図3白内障手術前後の角膜内皮細胞密度の比較#1:症例3の右眼(約54%減少),#2:症例5の左眼(約20%減少).表4周辺前房深度(vanHerick法)の術後の比較1右1左2左3右4左5右5左術前1111111術後4443343周辺前房深度はvanHerick法により,Grade0からGrade4までに分類.手術直前のvanHerickは1/4未満であったので,Grade1として統計処理した.周辺前房深度は十分に深くなり隅角も開大した(p<0.00005:対応のあるt検定).表5術後の合併症症例1右1左2左3右4左5右5左角膜浮腫なしなしなし少中中少前房フィブリンなしなしなし少中中少CCCの変形なしなしなし楕円楕円楕円楕円瞳孔変形なしなしなしなしなし散大なし角膜浮腫の少は,その程度が角膜の1/3以下,中は角膜の1/32/3と定義した.フィブリンの少は,その程度が瞳孔領域内,中は瞳孔領域を超えるが全体に及んでないと定義した.CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)の変形とは,ほぼ円形であったCCCが,IOL挿入後に,CCCが楕円形に変形したことを意味する.症例5の右眼の瞳孔変形は,左眼に対して2mm以上の麻痺性散大していることを意味する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009693(113)に示した.術前の角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は2,587.3±548.3で,術後2,278.4±657.9と全体では大きな減少は認められなかった(p=0.25:対応のあるt検定).しかし症例3では約54%,症例5の左眼では約20%減少している.各眼の術前術後の周辺前房深度(vanHerick法)を比較した結果を表4に示した.術後の合併症を表5に,予想屈折度と術後屈折度の比較を表6に示した.III考按急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する治療は従来,LIあるいは観血的な虹彩切除術が一般的であった.ところが近年,初回手術としてPEA+IOLを行い良好な結果が得られているとの報告が相ついでいる59).これは白内障手術の技術的な進歩にもよるが,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)などの各種検査機器の発達により,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムが単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられようになり4),LI単独では,解決しない場合があるという考え方が大きな背景となっている.今回の筆者らの経験では,すべての症例で周辺前房深度や隅角が広がり,眼圧も翌日には,正常化するという良好な手術成績が得られた.さらに視力が改善しただけでなく,術後の屈折度も予想と変わらず,軽度の近視が得られたことで,副産物的な患者の満足感も得られた.そのなかで一番重要なのは,術後に多少の角膜浮腫や前房の炎症は認められたものの,早期に眼圧下降という目的が達成されたということである.しかしその一方で,角膜内皮細胞密度がかなり減少する症例も経験した.症例3では約54%,症例5の左眼では約20%の減少で,短期間にこのような合併症を経験し,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する手術の危険性を改めて痛感した.ただいずれの症例も,とりわけトラブルのない手術であっただけに,角膜内皮細胞密度のほとんど減少していない症例と減少した症例のどこに違いがあったのか疑問が残る.そこでその要因として,中央前房深度,水晶体厚,眼軸長,白内障の核硬度(表2)や発症から手術までの期間,CDE,手術時間(表3)などを考え,角膜内皮細胞密度の減少との関係についても検討してみた.その結果,症例3と症例5の左眼で,中央前房深度が2.1mm以下,水晶体厚が5.7mm以上という共通点がみられた.症例5の右眼も同様の共通点をもつが,減少はみられない.これは症例3で角膜内皮細胞密度の減少という経験をし,術者がビスコートRを増量して使用するなど工夫したためと思われる.もちろん角膜内皮細胞に及ぼす影響は単一ではなく,白内障の核硬度,CDE,手術時間などが複合的に関与すると思うが,とりわけ術前の検査で中央前房深度が2mm近く,水晶体厚が6mm近い症例では手術の侵襲が,角膜内皮細胞に及ぼす影響が大きいと考え,相当の注意が必要であると考えた.術後の隅角鏡検査で,症例3以外の4例6眼ではPASを認めなかったことから,LIも眼圧を正常化させるという目的では結果的には成功したと思われる.しかしながら症例3のように3/4以上のPASが存在するような症例では,長期的にみればLI単独では十分な効果は得られなかったであろう.一方,このようなPASの多い症例に対しては,白内障手術だけでは不十分で,PEA+IOLと同時に隅角癒着解離術の併用を行うことが有効であるとの報告もある9).今回の症例3では,術前かなりのPASを認めたが,その詳細な範囲がはっきりせず,術後に詳細な隅角鏡検査をしたうえで,隅角癒着解離術の適否を検討することにしたため,最初から併用を行わなかった.また,隅角癒着解離術そのものにも,前房出血やそれに伴う一過性の眼圧上昇など,合併症が発症する可能性もあると考えたことも併用しなかった理由である.仮に解除しないPASが存在しても,術後の眼圧が安定していれば,経過観察するか,あるいは眼圧の推移をみながら,追加の手術として隅角癒着解離術を検討してもよいと思われる.症例3は,今後の眼圧の推移を注意深く見守りながら,隅角癒着解離術の適否を検討していきたい.今後は手術の技術的な議論だけでなく,手術をしなければわからない急性発作のメカニズムも検討していく必要があると思われる.今回の手術で感じたのは「Zinn小帯の脆弱性も急性発作に関与しているのではないか」ということである.今回のすべての症例でCCCの際,水晶体表面の張りが少なく,また7眼中4眼で,ほぼ円形であったCCCがIOL挿入後に楕円形に変形した事実は,Zinn小帯が脆弱であったことを意味すると思う.この脆弱性は急性発作の後遺症と考えることもできるが,発作以前からZinn小帯が何らかの原因で脆弱化していたとすれば,その結果,水晶体が前方に移動し,瞳孔ブロックをひき起こしたと考えることもでき,メカニズムを知るうえで貴重な経験であったと思う.急性ではない原発閉塞隅角症あるいは原発閉塞隅角緑内障に対してでさえ,LIとPEA+IOLのいずれを選択するべきか,議論の多いところである1012).なぜならこのような症例に対するPEA+IOLは,利点は多いものの,やはりLIと比較すれば,危険性も高く,ある程度以上の技術が必要にな表6予想屈折度(D)と術後屈折度(D)の比較症例1右1左2左3右4左5右5左予想屈折度(D)1.471.21.311.370.941.631.61術後屈折度(D)111.251.750.751.752術前の予想屈折度(D)は1.36±0.24Dで,術後は1.35±0.24Dと有意差を認めなかった(p=0.97:対応のあるt検定).———————————————————————-Page6694あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(114)るためと思われる.ましてや症例が急性である場合や,白内障がわずかな症例であれば,初回手術としてPEA+IOLを選択するという考え方に対する批判は多くなるかもしれない.もちろん筆者らが経験した症例数はわずかであり,しかも短期間の経過観察であったので,どちらの立場を支持するというレベルにはない.急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の発症機序は複雑であり,しかも来院時の状況は千差万別である.今後さらに症例を追加し,長期の経過観察をするとともに,従来,当院で行っていた,「LIを治療の第一選択とした群や,LIを最初に施行し,後日白内障が進行した場合にPEA+IOLを行った群」と比較検討する予定である.そのうえで急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内症に対するより安全でかつ有効な治療法につきさらに検討していきたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)島潤:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況─.あたらしい眼科24:851-853,20073)澤口昭一:レーザーか手術か:古くて新しい問題─レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clearlensectomyを含む)─.あたらしい眼科23:1013-1018,20064)上田潤:閉塞隅角の画像診断:瞳孔ブロックと非瞳孔ブロックメカニズム.あたらしい眼科24:999-1003,20075)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma.AmJOphthamol135:534-536,20036)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphaco-emulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20027)MiuraS,IekiY,OginoKetal:Primaryphacoemulsi-cationandaspirationcombinedwith25-gaugesingle-portvitrectomyformanagementofacuteangleclosure.EurJOphthamol18:450-452,20088)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsicationversusperipheraliridoto-mytopreventintraocularpressureriseafteracuteprima-ryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20089)大江敬子,秦裕子,塩田洋ほか:ヒーロンVRを用いた隅角癒着解離術の成績.眼科手術21:251-254,200810)野中淳之:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,200711)大鳥安正:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?.あたらしい眼科24:1015-1020,200712)山本哲也:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,2007***

正常人での眼圧の季節変動

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(105)6850910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):685688,2009cはじめに眼圧には季節変動があるといわれている.正常人の眼圧の季節変動に関しては多数の報告15)があるが,プロスペクティブに検討した報告1)は少ない(表1).これらの報告に共通しているのは,正常眼の眼圧には季節変動があり,12月から2月にかけて高く,7月から9月にかけて低いことである.しかし眼圧の測定方法は,Schiotz眼圧計1),Goldmann圧平式眼圧計24),非接触型眼圧計5)とそれぞれ異なる.また対象は同一症例を1年間にわたって経過観察した報告は少なく1),健康診断などでその期間に得られた多数例の結果をレトロスペクティブに検討している報告が多い25).眼圧の季節変動を検討する際は個人差を排除する必要があり,そのためには同一症例での比較が好ましいと考える.そこで今回筆者らはプロスペクティブに,正常人の同一症例を1年間にわたり毎月眼圧を測定し,眼圧の季節変動を検討した.I対象および方法2007年1月から12月まで,毎月眼圧を測定できた正常人48例48眼を対象とした.男性22例,女性26例,年齢は〔別刷請求先〕設楽恭子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KyokoShidara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常人での眼圧の季節変動設楽恭子*1井上賢治*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座SeasonalVariationofIntraocularPressureinNormalSubjectsKyokoShidara1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:プロスペクティブに,正常人における眼圧の季節変動の有無を検討する.対象および方法:2007年1月から12月に毎月眼圧を測定できた正常人48例48眼を対象とした.眼圧は毎月20±3日にGoldmann圧平式眼圧計で測定した.季節の振り分けは春35月,夏68月,秋911月,冬122月とし,各季節の平均眼圧値を比較した.さらに年間の眼圧変動幅が小さい(4mmHg以下,13例)症例と大きい(5mmHg以上,35例)症例に分け,各季節の平均眼圧値を比較した.結果:各季節の眼圧は全症例では春14.4±2.7mmHg,夏14.1±2.5mmHg,秋13.4±2.5mmHg,冬14.5±2.9mmHgで,秋の眼圧が有意に低かった.眼圧変動幅が小さい症例では各季節の眼圧に差がなく,大きい症例では秋の眼圧が有意に低かった.結論:正常人の眼圧には季節変動がある.眼圧は秋に低い傾向が認められた.Weprospectivelyinvestigatedtheintraocularpressure(IOP)in48eyesof48normalsubjects(males:22eyes,females:26eyes;meanage:39.1±10.0yrs).WecheckedIOPviaGoldmannapplanationtonometeronthe20thofeverymonth(±3days)for1yearandcomparedthemeanIOPsoftheseasons.WedenedspringasMarchtoMay,summerasJunetoAugust,autumnasSeptembertoNovemberandwinterasDecembertoFebru-ary.Wedividedthesubjectsintotwogroups(IOPvariationmorethan5mmHgorlessthan4mmHg)andcom-paredthemeanIOPforeachseason.ThemeanseasonalIOPsforallsubjectswerespring:14.4±2.7mmHg,sum-mer:14.1±2.5mmHg,autumn:13.4±2.5mmHgandwinter:14.5±2.9mmHg.ThemeanIOPforautumnwassignicantlylowerthanthemeansforotherseasons;itwasalsosignicantlylowerthanforotherseasonsinsub-jectswhoseIOPvariedmorethan5mmHg.ThisstudysuggeststhatIOPofnormaleyesundergoesseasonalvaria-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):685688,2009〕Keywords:季節変動,眼圧,前向き試験,正常人.seasonalvariation,intraocularpressure,prospective,normalsubjects.———————————————————————-Page2686あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(106)2258歳,39.1±10.0歳(平均±標準偏差)であった.正常人の判定は,近視や乱視以外の眼科的疾患を有さず,眼底検査で視神経乳頭陥凹拡大など緑内障性の変化を認めず,Humphrey静的視野検査で異常がなく,かつ初回眼圧値が21mmHg以下とした.眼圧の測定方法は毎月20±3日の午前中に,Goldmann圧平式眼圧計で同一検者が同一の細隙灯顕微鏡を用いて測定した.眼圧は両眼測定したが,解析には右眼のデータを用いた.なお,検者には対象の前月までの眼圧値がわからない状況とした.1年間にわたり測定された眼圧値を以下の3項目で検討した.1)全例での年間の眼圧変動の有無.2)全例での眼圧の季節変動の有無.3)年間の眼圧の変動幅が4mmHg以下と5mmHg以上に分け,眼圧の季節変動の有無.季節の振り分けは気象庁のホームページと過去の報告3)により春は35月,夏は68月,秋は911月,冬は122月とした.ただし,年間の眼圧の変動幅は1年間で月別の眼圧の最高値と最低値の差とした.検定方法はANOVA(analysisofvari-ance,分散分析)およびBonferroni/Dunnet法を用いた.調査の実施にあたり対象には調査の主旨を説明し,インフォームド・コンセントを得た.II結果全症例での年間の眼圧変動はなかった(図1).全症例での各季節の眼圧は春14.4±2.7mmHg,夏14.1±2.5mmHg,秋13.4±2.5mmHg,冬14.5±2.9mmHgであった(図2).秋の眼圧は春,夏,冬に比べて有意に低かった(p<0.0001).年間の変動幅が4mmHg以下の症例は13例(27.1%),男性3例,女性10例,年齢は2251歳,34.0±10.6歳であった.各季節の眼圧は春13.5±2.9mmHg,夏13.8±2.9mmHg,秋13.3±3.0mmHg,冬13.4±2.9mmHgであった(図3).季節ごとで変動はなかった.年間の眼圧の変動幅が5mmHg以上の症例は35例(72.9%),男性19例,女性16例,年齢は2358歳,40.9±9.2歳であった.各季節の眼圧は,春14.9±2.9mmHg,夏14.3±2.4mmHg,秋13.4±2.4mmHg,冬15.0±2.9mmHgであった(図4).季節ごとの眼圧変動を認め,秋が春,夏,冬に比べて有意に低かった(p<0.0001).表1正常眼の眼圧変動地域対象(人)最高眼圧(mmHg)時期最低眼圧(mmHg)時期Blumenthal1)イスラエル6317.7±0.51,2月14.1±0.47,8月Klein2)アメリカ4,92615.714月15.279月逸見3)山梨県1915.72,4月13.69月Giufre4)イタリア1,06215.4±4.4冬14.3±3.4秋森5)岩手県6,33612.1±2.712月11.0±2.58月01月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月2月眼圧(mmHg)201816141210図1年間の眼圧変動眼圧図3年間の変動幅が4mmHg以下の症例での各季節の眼圧***眼圧図2全症例での各季節の眼圧*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009687(107)III考按正常人の眼圧の季節変動に関する報告がある15).Blu-menthalら1)はイスラエルで63人の正常人の眼圧をSchiotz眼圧計で1年間のうち8回以上は測定して比較した.眼圧は11月から2月にかけて有意に高く,7月と8月が低かった.Kleinら2)はアメリカで住民健診での4,926人(男性2,135人,女性2,721人)の眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は1月から4月にかけて有意に高く,7月から9月にかけて低かった.Giufreら4)はイタリアで住民健診での1,062人(男性474人,女性588人)の眼圧をGold-mann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は冬が春,夏,秋に比べて有意に高かった.日本では逸見ら3)は19人の正常人の眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は2月と4月が高く,7月から9月にかけて低かった.森ら5)は集団検診で6,336人(男性3,687人,女性2,649人)の眼圧を非接触型眼圧計で測定して比較した.眼圧は12月が高く,8月が低かった.12月の眼圧は11月を除いた4月から10月までのすべての月に対して有意に高かった.しかし対象月は4月から12月までで,1月から3月までは調査から除外されていた.いずれの報告15)も眼圧は季節変動を有し,冬が高かった.今回の1年間にわたる正常人48名の眼圧変動は各月ごとには差はなかったが,9月から12月にかけて眼圧が低い傾向を認めた.これは眼圧には季節変動を呈するという過去の報告15)と一致するが,冬に眼圧が高くはなく,秋に眼圧が低かった.さらに,今回は年間の眼圧の変動幅での季節変動を検討した.年間の眼圧の変動幅が5mmHg以上の変動の大きい症例では眼圧は季節変動を呈しており,そのような症例が72.9%存在した.しかし,今回は症例数が少なく,また60歳以上の高齢者が対象に含まれていないため今後さらなる検討が必要である.ヒトの眼圧調整機序については自律神経機能が深く関与していると考えられ,第一は,交感神経のa受容体刺激により毛様体血管が収縮して限外濾過が減少する.第二は,毛様体のb受容体を介してATP(アデノシン三リン酸)よりサイクリックAMP(アデノシン一リン酸)を生じる過程が房水産生に重要な役割を果たし,b遮断薬が房水産生を抑制する.第三は,副交感神経刺激により毛様体筋が収縮し線維柱帯間隙を拡大することによって房水排出率を増加させることが知られている6).交感神経機能は寒冷にさらされたときに亢進し,血中および尿中カテコラミン含量は冬に有意な上昇が認められ,そのため冬に交感神経機能が亢進すると考えられている.その結果,カテコラミンの上昇がb受容体を介した房水産生を増加させ,寒冷期に眼圧が上昇すると考えられている7,8).気象庁から発表されたデータによると,2007年の年平均気温は全国的に高く,東京も同様で,さらに記録的な暖冬であった9).特に,1月,2月,8月,9月は例年に比し平均気温は1.5度高く,4月と7月は低温であった.今回,季節の振り分けを春は35月,夏は68月,秋は911月,冬は122月としており,春の気温は例年通りであり,夏は7月が低く8月が高かったことから気温は例年通り,秋は9月が例年以上に気温が高く,冬も1月,2月に気温が高かったことから1年を通してみると,例年よりも秋と冬の気温が高かったことがわかる.このことが,今回秋の眼圧が他の季節に比して低かったことの一因と考えられる.また,冬は過去の報告15)と同様に眼圧が高い傾向は認めたが,有意差がなかったのは,冬が例年より気温が高かったことが影響していると考えられる.逸見ら3)によると過去の報告で眼圧の季節変動を認めているのはいずれも年間の平均気温の差が15℃以上の地域である.2007年の東京の年平均気温は,最低気温は2月の8.6℃,最高気温は8月の29.0℃で,最高と最低気温で15℃以上の差がある.日本では年間の寒暖の差があり,冬に気温が下がるので眼圧の季節変動が起こりやすいと考えられる.今回筆者らは,プロスペクティブに正常人の眼圧変動を調査した.正常人には従来から指摘されているとおり眼圧の季節変動があり,秋に低かった.今後は緑内障患者での眼圧の季節変動を検討する予定である.文献1)BlumenthalM,BlumenthalR,PeritzEetal:Seasonalvariationinintraocularpressure.AmJOphthalmol69:608-610,19702)KleinBEK,KleinR,LintonKLPetal:Intraocularpres-sureinanAmericancommunity.InvestOphthalmolVisSci33:2224-2228,19923)逸見知弘,山林茂樹,古田仁志ほか:眼圧の季節変動.日眼会誌98:782-786,19944)GiufreG,GiammancoR,DardanoniGetal:Prevalenceofglaucomaanddistributionofintraocularpressureinapopulation.ActaOphthalmolScand73:222-225,19955)森敏郎,谷藤泰寛,玉田康房ほか:集団検診受診者から***0春秋冬夏眼圧(mmHg)201816141210図4年間の変動幅が5mmHg以上の症例での各季節の眼圧*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page4688あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(108)測定した眼圧の分析.あたらしい眼科14:437-439,19976)BartelesSP,RothO,JumbrattMMetal:Pharmacologicalefectsoftopicaltimololintherabbiteye.InvestOphthal-molVisSci19:1189-1197,19807)長滝重智,比嘉敏明:房水産生機構.緑内障の薬物療法(東郁郎編),p12-19,ミクス,19908)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20019)気象庁.平成20年報道発表資料.気象統計情報:http://www.date.jma.go.jp***

角膜サイドポートからの鑷子を用いた周辺虹彩切除の試み

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(101)6810910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):681684,2009cはじめに周辺虹彩切除術は1857年のVonGraefeによる報告に始まり1),閉塞隅角緑内障に対して確立されてきた重要な術式である.しかしレーザー虹彩切開術の広がりとともに施行される機会は減少し,いざ必要となった際には経験のない術者には心理的な負担を伴う.また基本的に結膜や強角膜切開を行うため2),将来濾過手術が必要となった場合に障害となる可能性がある.欧米では以前から結膜切開を行わず角膜切開創から鑷子を用いて行う周辺虹彩切除の報告3,4)があり,わが国では角膜から硝子体カッターを挿入して行った報告4)はあるが,鑷子によるものは見受けられない.そこで筆者らは角膜サイドポートよりイリデクトミー鑷子を用いて周辺虹彩切除を行ったので,その2症例を報告する.I症例〔症例1〕50歳,女性.主訴:緑内障精査加療希望.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:幼少時より両眼の視力低下があり,6歳時で0.4程度であった.平成8年から近医眼科で両眼滴状角膜,視神経萎縮,高眼圧症の診断で点眼加療されるも徐々に眼圧が20mmHgを超えるようになり,2007年10月31日に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.2(0.4×+1.25D(cyl1.50DAx45°),左眼0.2(0.3×+0.75D(cyl+1.25DAx50°)で,眼圧は眼圧下降点眼を用いず3%食塩水点眼使用して右眼21mmHg,左眼20mmHgであった.両眼ともに角膜は中央に軽度な実質の浮腫と混濁を認め,前房は浅く隅角は〔別刷請求先〕河原純一:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:JunichiKawahara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN角膜サイドポートからの鑷子を用いた周辺虹彩切除の試み河原純一杉本洋輔望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学PeripheralIridectomyUsingTranscornealIridectomyForcepsJunichiKawahara,YosukeSugimoto,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity周辺虹彩切除はわが国では一般に結膜,強角膜切開で行われるが,今回角膜サイドポートからイリデクトミー鑷子を用いて周辺虹彩切除術を行ったので報告する.症例1は50歳,女性で,閉塞隅角緑内障に滴状角膜を合併しており,角膜から周辺虹彩切除を単独で行った.症例2は60歳,男性で,色素緑内障があり,線維柱帯切開術に周辺虹彩切除を組み合わせた.両症例とも十分な大きさの虹彩切除が作製され,合併症は認めなかった.本術式は手技が比較的容易で習得しやすく,結膜が温存できる,他の術式と組み合わせやすいといった利点があると考えられた.InJapan,peripheraliridectomygenerallyrequiresconjunctivalandsclerocornealincision.Weherereporttwocasesofperipheraliridectomyusingtranscornealiridectomyforceps.Incase1,a50-year-oldfemalewhohadangle-closureglaucomaandcornealguttata,weperformedonlytranscornealperipheraliridectomy.Incase2,a60-year-oldmalewhohadpigmentaryglaucoma,wecombinedtrabeculotomyandperipheraliridectomy.Bothcas-eshadsucientlysizediridectomycolobomas,andnocomplications.Thistechniquecanbeacquiredrelativelyeas-ilyandoferstheadvantagesofconjunctivalpreservationandeasycombinationwithothermethods.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):681684,2009〕Keywords:周辺虹彩切除,角膜サイドポート,イリデクトミー鑷子.peripheraliridectomy,transcorneal,iridec-tomyforceps.———————————————————————-Page2682あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(102)Shafer分類2度,Scheie分類III度であった.周辺虹彩前癒着は存在せず,水晶体はわずかに前皮質混濁を認めた.非接触型スペキュラーマイクロスコープでは,角膜内皮細胞は個々の同定ができないほどに減少しており,光学的な角膜厚測定はできなかった.眼底の透見は角膜混濁のため不良で,視神経乳頭は耳側が蒼白でC/D(cup/disc)比は0.7であった.Goldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIb,左眼IIaであり,Humphrey視野検査は中心30-2プログラムで両眼とも全体的な感度低下を認めた.以上より両眼の滴状角膜,閉塞隅角緑内障と診断し,角膜内皮細胞が減少したことによる角膜の混濁,浮腫が視力低下の原因と考えた.経過:閉塞隅角緑内障への対策として両眼ともに周辺虹彩切除を選択することにした.手術はTenon下麻酔の後に11時の角膜輪部に20ゲージサイドポートを作製し(図1a)粘弾性物質を注入して前房を確保した.つぎに,サイドポートよりアリオ氏イリデクトミー鑷子(アシコ社)を挿入して(図1b)虹彩を掴み出し鑷子で切除した(図1c).虹彩を整復し(図1d),粘弾性物質を除去して終了した.術後は十分な大きさの虹彩切除が形成され,結膜は切開されていないため無侵襲で保存された(図2).術後炎症は軽度で0.1%フルオロメトロン点眼のみで速やかに消炎され,術後眼圧は両眼とも眼圧下降点眼を用いず1819mmHgであった.術後8カ月の時点で,虹彩切除創は閉塞せず経過していた.〔症例2〕60歳,男性.主訴:緑内障精査加療希望.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:平成13年から近医で緑内障の診断で点眼加療されてきたが,徐々に眼圧が上昇するために,2008年3月5図1術中写真(症例1)a:20ゲージサイドポートを作製.b:アリオ氏イリデクトミー鑷子で虹彩を把持.c:引き出した虹彩を切除.d:虹彩を整復.図2術後前眼部写真(症例1)a:右眼,b:左眼.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009683(103)日に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.1(1.2×3.00D),左眼0.1(1.2×2.50D(cyl1.50DAx90°)で,眼圧はラタノプロスト,0.5%チモロール,0.1%ジピベフリン点眼使用して右眼23mmHg,左眼18mmHgであった.両眼ともに角膜後面には紡錘形ではないが多くの色素が付着し,前房は深く隅角はShafer分類4度,Scheie分類0度で高度の色素沈着を認めた.水晶体はわずかに前皮質の混濁を認めた.超音波生体顕微鏡(UBM)では虹彩が後方に屈曲しreversepupillaryblockが観察された(図3).虹彩のtransilluminationdefectはみられなかった.視神経乳頭のC/D比は右眼0.7,左眼0.6で,Goldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIIa,左眼Ia,Humphrey視野検査は中心30-2プログラムで右眼にBjer-rum領域の感度低下があり,左眼は正常範囲内であった.以上の所見を総合して両眼の色素緑内障と診断した.経過:眼圧が高く視野障害も進行していた右眼に対して,線維柱帯切開術と周辺虹彩切除を行うこととした.手術はまず外下方より通常の線維柱帯切開術を行い,その後に症例1と同様に11時の角膜に20ゲージサイドポートを作製し,アリオ氏イリデクトミー鑷子で虹彩を掴み出し切除した.その際に虹彩前葉は切除されたが後葉が残ったため,後葉のみ鑷子で掴み出して除去した.今回,粘弾性物質は使用しなかった.術後は後葉が一部残存していたが十分な周辺虹彩切除となっていた(図4).術後のUBMでは後方に屈曲していた虹彩形状が平坦化し(図5),前後房の圧格差が改善しているようであった.術後4カ月後の時点で右眼眼圧は眼圧下降点眼を用いず20mmHgとなっており,虹彩切除部の閉塞はなかった.II考按閉塞隅角緑内障の治療としてレーザー虹彩切開が広く行われるようになり,周辺虹彩切除術を行う機会は減少した.さらに白内障手術が小切開の超音波水晶体乳化吸引術に進化して,白内障手術時にも周辺虹彩切除は行われなくなった.周辺虹彩切除術は眼科医として習得すべき基本の術式の一つと認識されるものの,強角膜輪部に垂直に切り込む機会がほとんどないために,その施行をためらい,ときには忌避されることがある.一方,透明角膜にサイドポートを作製することは小切開白内障手術のときに常時行っている慣れた操作である.そこで多くの術者にとって手慣れた切開層から周辺虹彩切除を行うことができないか,その有用性と新たな手技に伴う前眼部組織の挙動を検討してみた.症例1は両眼の滴状角膜を伴う閉塞隅角緑内障であった.閉塞隅角緑内障の管理として白内障手術,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術をそれぞれ検討したが,滴状角膜で高度の角膜内皮障害があるため白内障手術とレーザー虹彩切開術は角膜内皮への影響6)が避けられず将来の内皮障害進行が危惧されたため,周辺虹彩切除を行った.症例2では色素緑内障に対してレーザー虹彩切開術は有効である7)との報告がある一方,それのみでは長期間の眼圧コントロールは困難であ図3術前UBM(症例2)虹彩が後方に屈曲しreversepupillaryblockが観察された.図5術後UBM(症例2)虹彩形状が平坦化している.図4術後前眼部写真(症例2)一部に虹彩後葉が残っているが,十分な切除が行われている.———————————————————————-Page4684あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(104)る8)との報告があるため,眼圧下降とreversepupillaryblockの両者の改善を狙って線維柱帯切開術と周辺虹彩切除を組み合わせて行った.術後は両症例とも十分な大きさの虹彩切除となり,機能的に満足のできるものであると考えた.本術式は角膜サイドポートから行うことにより新たな結膜や強膜の切開が不要となるため,将来の濾過手術に備えて術野を保存することができ,異なった手術と組み合わせる場合でも有効である.また角膜サイドポートを通した手技は白内障手術時に多くの術者が経験しており,新たな技術習得を要せず比較的簡便に行えるというのも,術者の負担を減少させる大きな利点である.今回はアリオ氏イリデクトミー鑷子を用いたが,一般的に使用されている前切開鑷子のように角膜サイドポートから挿入できる器具であれば,虹彩の把持は可能で代用できると考える.注意点としては,把持できる虹彩幅が小さいために一度に虹彩全層を切除することはむずかしく,後葉が残った際には鑷子で確実に除去しておくことがあげられる.前葉が切除されていれば,残った後葉は鑷子で容易にがし取ることができるため,小切開からでも確実な全層切除が行える.切除がなされているかどうかは,徹照させて確認することが望ましい.またサイドポートを作製する際に,角膜内の走行が長くなると輪部近くの虹彩が把持できず瞳孔中央に近い切除になってしまう.虹彩切除術は文字通り虹彩周辺部で行われるべき術式であり,なるべく短い角膜創で前房に到達する必要がある.粘弾性物質に関しては症例1では初めての症例ということもあり使用した.術中の操作は容易であったが,前房に残った粘弾性物質を除去する際に前房が不安定になり,かえって角膜内皮の損傷が危惧された.そのため症例2では粘弾性物質を使用しなかったが,前房保持が不安定になることはなかった.むしろ粘弾性物質を使用しないほうが,虹彩が創に嵌頓しやすく,虹彩切除が容易になった.症例1は浅前房で症例2は十分な前房深度があるという違いがあり,粘弾性物質の使用に関しては個々の症例で検討されるべきである.また今回は本来最も周辺虹彩切除術の適応になる急性緑内障発作眼に試みることができなかったため,その適応につき今後の検討課題としたい.角膜サイドポートから鑷子を用いて行う周辺虹彩切除術は,手技が比較的容易で合併症がなく有効な方法であった.今後,急性緑内障発作眼でも適応の可否を検討していくとともに,輪部切開による周辺虹彩切除とそれぞれの優劣を比較検討する予定である.文献1)VonGraefeA:UeberdieIridectomiebeiGlaucomundueberdenglaucomatosenProcess.ArchOphthalmol3:456-555,18572)黒田真一郎:緑内障手術手技周辺虹彩切除術.臨眼58:1140-1144,20043)AhmadN:Transcornealperipheraliridectomy.Ophthal-micSurg11:124-127,19804)HoferKJ:Pigmentvacuumiridectomyforphakicrefrac-tivelensimplantation.JCataractRefractSurg27:1166-1168,20015)岩脇卓司,山城健児,野中淳之ほか:偽水晶体眼に対する硝子体カッターによる周辺虹彩切除.眼科手術19:109-112,20066)松永卓二,阿部達也,笹川智幸ほか:アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の検討.眼紀52:1011-1015,20017)KarickhofJR:Pigmentarydispersionsyndromeandpig-mentaryglaucoma:anewmechanismconcept,anewtreatment,andanewtechnique.OphthalmicSurg23:269-277,19928)ReistadCE,ShieldsMB,CampbellDGetal:Theinu-enceofperipheraliridotomyontheintraocularpressurecourseinpatientswithpigmentaryglaucoma.JGlaucoma14:255-259,2005***

遺伝性白内障ICR/fラットの水晶体混濁におけるインターロイキン18およびDNA分解酵素の関与

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(95)6750910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):675680,2009cはじめに白内障とは水晶体が白く混濁するすべての現象をいい,現在まで数多くの研究がなされている1).白内障は全世界の失明の約40%を占めており,罹患率は加齢に伴って増加し,80歳以上の高齢者ではほとんどが何らかの形で白内障の症状を示すことが報告されている2).この白内障のおもな発症〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN遺伝性白内障ICR/fラットの水晶体混濁におけるインターロイキン18およびDNA分解酵素の関与長井紀章*1伊藤吉將*1,2竹内典子*3臼井茂之*4平野和行*4*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3名城大学薬学部生理学研究室*4岐阜薬科大学薬剤学研究室InvolvementofInterleukin18andDNaseII-likeAcidDNaseinCataractFormationinICR/fRatNoriakiNagai1),YoshimasaIto1,2),NorikoTakeuchi3),ShigeyukiUsui4)andKazuyukiHirano4)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KindaiUniversity,3)SectionofBiochemistry,FacultyofPharmacy,MeijoUniversity,4)LaboratoryofPharmaceutics,GifuPharmaceuticalUniversityIharacataractrat(ICR/fラット)はヒト加齢白内障に類似した水晶体混濁を示す遺伝性白内障モデル動物である.本研究ではこのICR/fラット白内障発症機構を明らかにするために,近年白内障発症の要因として報告されたインターロイキン18(IL-18)およびDNA分解酵素(DNaseII-likeacidDNase:DLAD)のICR/fラット水晶体混濁における関与について検討した.2263日齢の間ではICR/fラット水晶体は透明性を維持し,混濁は認められなかった.しかしながら,77日齢より水晶体混濁が開始し,91日齢では成熟白内障に達した.水晶体混濁開始直前の63日齢および成熟白内障時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Rおよびcaspase-1)および成熟型IL-18蛋白発現量の上昇が認められた.一方,DLAD遺伝子発現量は,いずれの日齢においても変化はみられず,ICR/fラット水晶体核部への未切断ゲノムDNA残存も認められなかった.これらの結果はIL-18がICR/fラット水晶体混濁に関与する可能性を強く示唆した.また,ICR/fラット水晶体ではDNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存が起こらないことを明らかとした.TheIharacataractrat(ICR/frat)isarecessivehereditarycataractstrainwhosemechanismofcataractdevelopmentissimilartothatofsenilecataractsinhuman.Inthisstudy,wedemonstratedtheinvolvementofinterleukin18(IL-18),whichleadstointerferon-gamma,andDNaseII-likeacidDNase(alsocalledDNaseIIb,DLAD)inthelensesofICR/fratsduringcataractdevelopment.AlthoughthelensesofICR/fratsweretranspar-entatage22to63days,lensopacicationstartedat77days,thelensesof91-day-oldICR/fratsbecomingentire-lyopaque.ThegeneexpressionlevelscausingIL-18activation(IL-18,IL-18receptorandcaspase-1)increasedat63daysofage;theexpressionofmatureIL-18proteinintheICR/fratlensesalsoincreaseswithage.Ontheoth-erhand,theDLADmRNAexpressionlevelsdidnotchangewithage,whileundigestedDNAwasdegradedinthelensnucleiof91-day-oldICR/frats.TheseresultssuggestthatincreasedIL-18activityisrelatedtocataractdevelopment.Inaddition,DLADdysfunctionandaccumulationofundigestedDNAwerenotobservedincataractdevelopmentinICR/frats.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):675680,2009〕Keywords:白内障,ICR/fラット,インターロイキン18,DNA分解酵素,未切断DNA.cataract,Iharacataractrat,interleukin18,DNaseII-likeacidDNase,undigestedDNA.———————————————————————-Page2676あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(96)機構としては,紫外線などにより誘導される酸化的ストレスが水晶体上皮細胞に傷害を与えることで細胞内恒常性が破綻をきたし水晶体中カルシウムイオン(Ca2+)量の上昇を導くことが起因とされている3,4).さらに,この水晶体中Ca2+量上昇によりCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインが活性化され,これによりクリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体が白く混濁するという報告がなされている3,4).また,近年ではDNA分解酵素の欠乏が水晶体核部へのゲノムDNA残存をひき起こし,このゲノムDNA残存が水晶体混濁につながるといった機構が注目されている5).筆者らはこれまで急速に水晶体混濁がみられる遺伝性白内障動物UPLラットを用い,水晶体混濁以前に強力なインターフェロン-gの産生誘導,ナチュラルキラー細胞活性化,誘導型一酸化窒素合成酵素の誘導能などの生理活性を有することが知られているインターロイキン18(IL-18)が発現すること6)や,水晶体混濁時に核部でのゲノムDNA残存が認められることを明らかとしてきた7).このUPLラットは寿命,体重曲線,血液学的パラメータ,血液生理学的パラメータ,血糖値において正常ラットと変わらないことが確認されており,眼異常を除く生物学的特性はほぼ正常であることが明らかとなっている8).したがって,UPLラットは白内障発症機構の解明を行ううえできわめて適切なモデルであると考えられている.しかしながら,UPLラットの水晶体混濁は短期間で急速に認められることから,その水晶体混濁機構解明を目指した研究では有効だが,抗白内障薬の有効性における研究には不向きであり,ヒト加齢白内障のように水晶体混濁化がゆっくりと進行するモデル動物の開発が望ましいと考えられた.Iharacataractrat(ICR/fラット)は遺伝性白内障発症動物であり,その発症率は100%である9).これまでの研究から,生後75日頃から水晶体の混濁が徐々に進行し,生後90日頃には成熟白内障に達する9).また,水晶体混濁時のCa2+濃度は透明時のそれと比較し約10倍に上昇し,水晶体中カルパインの活性化およびクリスタリン蛋白質の分解・凝集も確認されている9).したがって,ICR/fラットは,抗白内障薬の有効性検討を行ううえで適切なモデルであると考えられた.本研究ではUPLラットと比較し徐々に水晶体混濁化が進行するICR/fラット白内障発症における,IL-18およびDNA分解酵素(DNaseII-likeacidDNase:DLAD)の関与ついて検討した.I対象および方法1.実験動物実験には名城大学から分与された2291日齢のICR/fラットを用いた.ICR/fラットはともに25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.2.前眼部画像解析22,63および91日齢のICR/fラットの前眼部スリット像の撮影は,前眼部画像解析装置EAS-1000(ニデック社製)を用いて行った.3.遺伝子発現量の測定摘出した水晶体よりインビトロジェン社製Trizol試薬(1ml)を用いてAcidguanidium-phenol-chloroform法により全RNAを抽出し,RNAPCRkit(AWVVer2.1,タカラ社製)を用い1μgの全RNAからcDNAを合成した.合成したcDNAにGenBankTMからのデータベースより設計した各遺伝子特異的プライマーを加え,半定量および定量poly-merasechainreaction(PCR法)を行った.半定量PCR法表1定量RTPCR法における各種プライマー塩基配列PrimerSequence(5′-3′)GenBankAccessionNo.IL-18FORCGCAGTAATACGGAGCATAAATGACNM_019165REVGGTAGACATCCTTCCATCCTTCACIL-18RaFORAGCAGAAAGAGACGAGACACTAACXM_237088REVCTCCACCAGGCACCACATCIL-18RbFORGACCACAGGATTTAACCATTCAGCAJ550893REVAGCAGGACCTAGTGTTGATGATGIL-18BPFORTTGGTGGGTCCTGCTTCTATATGAF154569REVGGTCAGCGTTCCATTCAGTGCaspase-1FORTGAAGATGATGGCATTAAGAAGGCNM_012762REVCAAGTCACAAGACCAGGCATATTCDLADFORTTGCTCTTCGTTGCCCTGTCAF178974REVTCCTCTGCTGGTCCTTCTGGGAPDHFORACGGCACAGTCAAGGCTGAGANM_017008REVCGCTCCTGGAAGATGGTGAT———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009677(97)は以下のプライマーを用い30cycleにて行った.5′-TCAGATGTGTGCCAAGTCCAGTGCCTC-3′および5′-AATACAGGTCCAGCGAGCCTGAGAGTC-3′(DLAD,GenBankaccessionNo.AF178974);5′-GGTGCTGAGTATGTCGTGGAGTCTAC-3′および5′-CATGTAGGCCATGAGGTCCACCACC-3′(glyceraldehyde-3-phosophatedehydrogenase(GAPDH),GenBankaccessionNo.NM_017008).これにより得られたPCR生成物は1.5%アガロースゲルにて泳動後,エチジウムブロマイド照射によって撮影された.定量PCR法は,LightCycler(ロシュ社製)を用い遺伝子発現量の測定を行った.表1には今回使用した各種プライマー塩基配列を示した.本研究では各種遺伝子発現量はGAPDHに対する比から求めた.4.ウエスタンブロッティングICR/fラットの水晶体に生理食塩水200μlを加え氷中でホモジナイズした.水晶体ホモジネートは20分間氷中で超音波処理後,遠心分離(1,500rpm,10min,4℃)により上清を採取した.この上清に等量のLoadin緩衝液(12.5mmol/lTris-HCl,pH6.8,0.4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS),2%グリセロール,1%2-メルカプトエタノール,0.004%ブロモフェノールブルー)を加え,3分間煮沸することで標品を作製した.この標品(10μg)を15%ポリアクリルアミドSDSゲルで100V,90min泳動することで分離し,SEMI-DRYTRANSFERCELL(BIO-RAD社製)を用い,蛋白質をポリビニルデンフッ化メンブラン(BIO-RAD社製)に転写した(20V,2.0A,50min).転写後,トリス緩衝液(20mMTris-HCl,500mMNaCl,pH7.5)で5分間洗浄し,さらにメンブランの非特異部位をブロッキングするため,3%低脂肪粉ミルク含有トリス緩衝液中に8時間浸した.ウエスタンブロッティングは2時間室温で15μg/lgoatanti-ratIL-18ポリクロナール抗体(プロメガ社製)で標識した.2次抗体には15μg/lanti-goatIgG(1:7000希釈,プロメガ社製)を用いて2時間室温で反応させた.その後,アルカリホスファターゼ(プロメガ社製)に対する基質10mlとともに15minインキュベートすることで発色させた.5.水晶体中ゲノムDNAの測定ICR/fラットから摘出した水晶体を皮質部と核部に分離後試料とした.ゲノムDNA抽出にはQuickPickTMgDNAkit(BIO-NOBILE社製)を用いた.DNA抽出後,サンプルを1.0%アガロースゲルに添加し,Mupid-21ミニゲル電気泳動槽(コスモバイオ)を用いて電気泳動(100V,40min)を行った.泳動後,エチジウムブロマイド溶液(0.5μg/ml)にて25min染色しdiethylpyrocarbonate(DEPC)水にて15min洗浄した.写真は泳動終了後ImageMaster-CLを用い,ゲルに紫外線を照射することで確認されるバンドを撮影した.II結果1.水晶体混濁に伴うICR/fラット水晶体中IL18遺伝子および蛋白発現量の変化図1にはEAS-1000によるICR/fラット水晶体の前眼部スリット像を示した.2263日齢のICR/fラット水晶体は透明であり混濁は認められなかったが,77日齢では水晶体の混濁の開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.図2には22,63および91日齢のICR/fラット水晶体中IL-18の活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Ra,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1)遺伝子発現量の変化について示した.IL-18Raはいずれの週齢においても変化はみられなかった.一方,水晶体混濁開始直前の63日齢および水晶体混濁時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1の上昇がみられた.さらに,18kDaのIL-18蛋白も水晶体混濁直前の63日齢および成熟白内障時である91日齢でその発現上昇が認められた(図3).2.水晶体混濁に伴うICR/fラット水晶体中DLAD遺伝子およびゲノムDNAの変化図4に水晶体中DLAD遺伝子発現量を示した.22,63および91日齢のICR/fラットいずれにおいても水晶体中DLAD遺伝子発現量は一定であった.図5には22および91日齢ICR/fラット水晶体皮質部および核部におけるゲノムDNA残存性について示した.ICR/fラット水晶体皮質部では,日齢にかかわらず未切断DNAが高度に存在しており,核部では未切断ゲノムDNAは認められなかった.774963229135days図1ICR/fラットにおける水晶体前眼部スリット像———————————————————————-Page4678あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(98)III考按前眼部画像解析装置EAS-1000は,動物を殺傷せずに経時的に水晶体混濁の測定が可能である.本研究でははじめに,この前眼部画像解析装置EAS-1000を用いICR/fラットの水晶体混濁発現時期について検討した.その結果,22および63日齢のICR/fラット水晶体は透明性を維持しており,混濁は認められなかったが,77日齢では混濁開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.この結果から本研究では22日齢を透明な水晶体,63日齢を水晶体混濁直前の水晶体,そして91日齢を成熟白内障水晶体とし,ICR/fラット白内障発症へのIL-18およびDNA分解酵素の関与について検討した.IL-18の塩基配列から推測される蛋白質は分子量24kDのIL-18前駆体であることが知られている.この24kDの22day63day91day20kDa15kDa図3ICR/fラットにおける成熟型IL18蛋白発現量IL-18BPmRNACaspase-1mRNAIL-18RbmRNAIL-18RamRNAIL-18mRNA912263Age(days)9101234567891002468101214012345670123456780.50.51.01.52.02.53.03.5IL-18/GAPDH(×10-3)IL-18Ra/GAPDH(×10-5)IL-18Rb/GAPDH(×10-5)IL-18BP/GAPDH(×10-3)Caspase-1/GAPDH(×10-4)図2ICR/fラットにおけるIL18,IL18Ra,IL18Rb,IL18BPおよびcaspase1遺伝子発現量の変化(n=34)BAAge(days)400bp300bp0510152025226322day91day91DLAD/GAPDH(×10-2)図4ICR/fラットにおけるDLAD遺伝子発現量の変化A:半定量PCR法,B:定量PCR法.(n=34)10kb3kb22dayCorNuc91dayCorNuc図5ICR/fラット水晶体皮質部(Cor)および核部(Nuc)における未切断ゲノムDNA———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009679(99)IL-18前駆体は一般の分泌蛋白に存在するリーダーペプチドをもっておらず,生理活性も有していない.近年,この24kDaのIL-18前駆体がcaspase-1によるプロセッシングを受け,生理活性をもつ18kDaの分子(成熟型IL-18)になることが明らかとされた10).また,成熟型IL-18がIL-18レセプター(IL-18R)に作用することで,インターフェロン-g(IFN-g)誘導などの生理活性を発現することが明らかとされている.このIL-18RにはIL-18Ra鎖(IL-1Rrp)およびIL-18Rb鎖(AcPL)が存在し,IL-18Ra鎖とIL-18Rb鎖はヘテロ二量体のIL-18R複合体である.IL-18はIL-18Ra鎖に結合し,IL-18Rb鎖の作用活性を増強する10).特にIL-18Rb鎖はIL-1receptor-associatedkinase(IRAK)など,その後の生理活性作用増強と活性化に不可欠の物質として知られる10).そこで本研究では22,63および91日齢のICR/fラット水晶体におけるIL-18活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Ra,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1)発現量の変化について示した.IL-18aはいずれの週齢においても変化はみられなかったが,水晶体混濁開始直前の63日齢および水晶体混濁時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18,IL-18Rbおよびcaspase-1遺伝子発現量および成熟型IL-18蛋白発現量上昇がみられICR/fラット水晶体混濁にIL-18発現が関与することが強く示唆された.一方,IL-18の特異的内因性阻害薬であるIL-18bindingprotein(IL-18BP)11,12)も63および91日齢水晶体において上昇が認められた.Hurginらは,IFN-gの増加はIL-18BP発現を誘発することを明らかとしている13).したがって,ICR/fラット水晶体中IL-18BP発現量の増加は,IL-18の活性化を介したIFN-g過剰産生によりひき起こされるのではないかと示唆された.他の白内障発症要因として,水晶体の線維化不全が注目されている5).水晶体は,通常の組織にみられるように基底膜上に上皮細胞があるのではなく,水晶体が周囲を覆いその内側に上皮細胞が存在する.細胞分裂は増殖帯でのみ観察され,分化した細胞は新たに分化した細胞に押され水晶体中心部に移動する.この水晶体中心部で水晶体核を形成している線維細胞は核をもっておらず,線維細胞の脱核は細胞分化が起こり伸展した線維細胞からなる水晶体皮質が中心部へ移動する過程で起こるとされている.このように線維細胞の分化は細胞内小器官などの消失を伴うことが知られており,特に細胞核を含む細胞内小器官の消失は,水晶体に透明性をもたらす重要な変化であると考えられている.近年,DLADが水晶体線維化過程ゲノムDNAの消失を担っており,このDLADが欠損すると,本来除去されるはずのゲノムDNAが核部に残存し,水晶体が混濁する原因になると報告された5).そこで先のICR/fラットにおける水晶体混濁と水晶体中ゲノムDNA残存性について検討を行った.その結果,ICR/fラット水晶体皮質部では,日齢にかかわらず未切断DNAが高度に存在しており,核部では未切断ゲノムDNAは認められなかった.したがって,DNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存はICR/fラット水晶体混濁には影響しないことが明らかとなった.IL-18産生はUPLラットおよびICR/fラットでともに認められたのに対し,DNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存はUPLラットのみで認められ,ICR/fラット水晶体混濁には関与しなかったことから,UPLラット白内障にはICR/fラットと比較し,より複数の要因が関与し発症するものと示唆された.これらの結果は,UPLラットは多角的な視点による水晶体混濁機構解明を目指した研究に有効であり,ICR/fラット白内障はヒト加齢白内障と類似していることから,抗白内障薬の有効性における研究に適していると考えられた.これらIL-18活性発現と水晶体混濁の関連性を明確にするためにはさらなる研究が必要である.したがって,現在筆者らはIL-18阻害薬がICR/fラット水晶体混濁へ与える影響について検討しているところである.以上,本研究ではIL-18産生がICR/fラット水晶体混濁に関与する可能性を強く示唆した.また,ICR/fラットではDNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存がないことを明らかとした.これらの報告は今後の抗白内障薬開発研究の確立に有用であるものと考える.文献1)HardingJJ:Cataract;biochemistry,epidemiologyandpharmacology.ChapmanandHall,London,19912)佐々木一之:白内障.医学と薬学33:1271-1277,19953)ShearerTR,DavidLL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