‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼感染アレルギー:角膜縫合糸浸潤

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,200915050910-1810/09/\100/頁/JCOPY角膜縫合糸浸潤とは,角膜上の縫合糸に認められる白色の浸潤巣を指し,角膜移植術後におもに認められる.角膜移植術の場合,発症機序として術直後の縫合糸に細胞浸潤が起こる場合と,手術後の長期経過において縫合糸から病原体が侵入して感染症が成立する場合がある.術直後の縫合糸に浸潤を生ずる場合,これが感染症の原因になるのか,菌量と関係するのかはいまだ結論が出ておらず,縫合糸に対する宿主側の免疫反応も関与していると推測される.実際,抗菌点眼薬の追加で改善することも多いが,改善しない場合にはステロイド結膜下注射で消退することもある.術後の長期経過において発症する場合は,まず縫合糸に弛緩や断裂が生じ,縫合糸が直接角膜表面に出るため,それを足場として細菌や真菌が付着して感染を起こすと考えられている.角膜移植後では弛緩した縫合糸の根元を中心に白色の浸潤巣が形成され,これを母体として,組織融解が起こり,角膜潰瘍が生じる(図1).縫合糸が緩んで,その部から細菌や真菌が侵入するが,特に真菌では,緩んだ糸が抜糸されると上皮欠損はなくなり,移植角膜片の中央や深層へと菌が移動する(逃げてい く )(図2).縫合糸に沿って広がり,宿主側の角膜中央,角膜深層に向かって感染が拡大しやすく,重症例では前房蓄膿を生じる.眼内へ移行すれば眼内炎を生じることがある1).発症時期は角膜移植後数カ月から数年であり,1 年以内は細菌,1 年以降は真菌感染が多く,また高齢者では真菌感染が多いとされる2). 膜縫合糸浸潤の起炎菌角膜移植後の縫合糸感染の起炎菌はグラム陽性球菌が多く,近年は MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が多いとされている2).緑膿菌,クレブシエラ,セラチア,モラキセラ,大腸菌といったグラム陰性桿菌,真菌との混合感染の場合もある3).真菌感染はほとんどの場合,酵母型真菌である2).起炎菌によっては縫合糸を中心にバイオフィルムを形成することがあり,これにより好中球による菌の貪食が妨げられ,また抗菌薬の病巣へ(65)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修= 木下茂 大橋裕一23. 角膜縫合糸浸潤奥島健太郎井出眼科病院角膜移植術後などの角膜上の縫合糸に白色の浸潤巣を認めることがある.このような浸潤巣は縫合糸浸潤あるいは縫合糸感染 suture abscess などとよばれる.特に術後数カ月以上を経て生じるものは細菌や真菌による感染であり,感染性角膜炎や眼内炎に発展する.このためわずかな浸潤巣を見落とさないよう,注意深い経過観察が必要である.図 1全層角膜移植後3カ月に生じた縫合糸浸潤縫合糸浸潤を認め,除去した縫合糸から MRSA を検出した.グラフト内に浅い潰瘍を認める(矢印).図 2全層角膜移植後6カ月に生じた縫合糸浸潤と真菌感染———————————————————————- Page 21506あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009の移行が不良となり,難治性になる. 膜縫合糸浸潤の治療前述したように手術後早期(1 2 週以内)の角膜縫合糸に浸潤巣を発見した場合,塩酸セフメノキシムなどの抗菌点眼薬の追加を行い経過をみる.改善しなければステロイドの結膜下注射で消退することが多い.長期の経過観察においては,定期の診察時に縫合糸の緩みや縫合糸上に浸潤巣がないか注意する.角膜縫合糸の緩みと浸潤を発見したら,縫合糸に付着した細菌を実質内にもちこまないように注意し病変部の縫合糸を除去する.除去した縫合糸に浸潤を認める場合,必ずそれを培養して病原体の有無を確認する.また角膜浸潤や潰瘍を認める場合には,擦過を行って培養と塗抹標本の検鏡を行い,グラム染色を行って起炎菌を推定する.起炎菌のうちグラム陽性球菌に対しては塩酸セフメノキシムが有効であり,陰性菌を含む広範囲にカバーするものとしてはキノロン系抗菌薬が有効である3).実際には,第 3世代キノロン系抗菌薬に塩酸セフメノキシムを併用するか,あるいは第 4 世代のキノロン系抗菌薬を用いる.真菌感染ではピマリシン点眼あるいは軟膏を用い,適宜自家調整した抗真菌薬の点眼を併用する.薬剤感受性試験の結果に応じて,治療薬を修正する.MRSA に対しては塩酸バンコマイシンの自家調整薬などを使用する1).縫合糸浸潤から感染となり重症化すると,治癒しても移植片の瘢痕化や不正乱視を生じ視力が低下する.縫合糸浸潤のうちに対処し,重症の移植後感染症に至らせないことが重要である. 内 術後の結膜輪部縫合糸浸潤近年多く行われているマイトマイシン C 併用円蓋部基底線維柱帯切除術では,房水流出を防ぐ結膜輪部縫合や濾過胞の拡大を防ぐ blocking suture が行われるが,術後早期に結膜輪部に同様の縫合糸浸潤を認めることがある.自験例では同手術を受けた 42 眼中 21 眼(50%)に術後 11 日以内に縫合糸浸潤を認めた(図3).前述のとおり術後早期のこの浸潤巣が何であるかは不明であるが,抗菌点眼薬(塩酸セフメノキシム)の追加を行い消(66)失することが多い.線維柱帯切除術後の眼内炎は約 2%に生じるとされ,短期間に眼内炎に至る.一般的には術後の長期経過のなかで生じるが,早期の縫合糸浸潤が原因となる可能性も考えられ,角膜移植後以上に注意深い観察が必要である.角膜移植後とやや異なり,濾過胞感染は表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌,レンサ球菌,インフルエンザ桿菌が原因となることが多い.まとめ角膜縫合糸浸潤は角膜移植術をはじめとする前眼部手術に生じる重要な合併症である.受診時に弛緩したり,断裂した縫合糸がないか,縫合糸に浸潤巣がないかをよく確認し,あればすぐに除去することが重要である.稿を終えるに際し,ご校閲ならびに図 1,2 の写真をご提供いただいた京都府立医科大学眼科・外園千恵先生に深謝いたします.文献 1) 松本光希:縫合糸感染.眼科診療プラクティス 101,前眼部疾患のトラブルシューティング(下村嘉一編),p113,文光堂, 2003 2) 脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌 108:354-358, 2004 3) Leahey AB, Avery RL, Gottsch JD et al:Suture abscesses after penetrating keratoplasty. Cornea 12:489-492, 1993☆ ☆ ☆図 3円蓋部基底線維柱帯切除術後結膜輪部の blocking suture に縫合糸浸潤を認める(矢印).

緑内障:緑内障におけるGenome-Wide Association Study

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,200915030910-1810/09/\100/頁/JCOPY C と一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)近年,ヒトゲノムプロジェクトの成果としてヒトゲノム配列が明らかにされ,遺伝子もしくは蛋白質といった人体を構成する要素が明らかとされた.それ以降,ゲノム情報とその解析技術の革新は臨床医学のパラダイムを変えつつある.たとえば,「一般的な病気(common dis-ease)」である 2 型糖尿病は,ケース・コントロール相関解析から,カリウムチャンネル遺伝子の一つであるKCNQ1 遺伝子内の一塩基多型(SNP)が関係していることが明らかにされている.2 型糖尿病以外にも,心筋梗塞,慢性関節リウマチ,気管支喘息,全身性エリテマトーデス(SLE)などが,多因子疾患感受性遺伝子と環境因子が関与すると考えられている(図1).緑内障,特に原発開放隅角緑内障(POAG)に関しても,環境因子の関与や浸透率の低さなどから一般的な病気(common disease)と考えられる.イノベーションによりさらに今後新たな知見が得られることが期待されている. 内障原因遺伝子の遺伝子座1990 年代からマッピングされている緑内障原因遺伝子座 GLC1A GLC1N は,家系とマイクロサテライトマーカーという数塩基対の反復配列である,遺伝子多型マーカーを用いた連鎖解析によって見つかっている.わが国では,核家族の増加や少子化の影響で,緑内障を発症している大きい家系はなかなかみられない.症例収集がむずかしいため,日本では緑内障家系の連鎖解析はほとんど行われてきていないが,2008 年には,マイクロサテライトマーカーを用いて,常染色体 2 番の GLC1B領域に正常眼圧緑内障の候補遺伝子 NCK2 が報告された1)(図2).しかし,緑内障はその原因は多様であり,原因となる候補遺伝子は多岐にわたると考えられていることから,候補遺伝子解析は数多く行われていない. 内障とGenome Wide Association Studyヒト疾患のゲノム研究は,従来のメンデル遺伝性疾患を対象とした罹患家系の遺伝的連鎖解析から,多因子疾患を対象にした罹患集団の SNP などの多型マーカーによる関連性解析へと,近年では Genome-Wide Associa-tion Study(ゲノムワイドに SNP 多型を DNA チップで解析する関連解析)へと発展してきた.ゲノム上に最も高頻度に存在するのが,「SNP」とよばれる多型であり,最も一般的な多型である.ゲノム関連研究は,一般的な疫学研究でみられる,過去に遡ることによって起こる収集のバイアスが少ない.この手法を用いて,2005 年から 2006 年にかけて補体 H 遺伝子(CFH)の Y402H 多型とセリンプロテアーゼである HTRA1 のプロモーターの SNP が加齢黄斑変性の発症と大きく相関していることが発表された.これ(63)●連載113緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄 山本哲也113. 緑内障におけるGenome Wide Association Study布施昇男東北大学大学院医学系研究科神経感覚器 病態学講座・眼科視覚学分野ヒト疾患のゲノム研究は,近年では Genome-Wide Association Study(全ゲノムで一塩基多型を DNA チップで解析する関連解析)へと発展してきた.この手法を用いて,2007 年に LOXL1 遺伝子の一塩基多型(SNP)と落屑緑内障が関連することが報告された.治療の標準化の一方で,Genome-Wide Association Study を用いた緑内障遺伝子解析は,テーラーメイド治療への架け橋となるであろう.糖尿病心筋梗塞緑内障落屑緑内障黄斑変性図 1遺伝因子と環境因子糖尿病,心筋梗塞などが,多因子疾患感受性遺伝子と環境因子が関与すると考えられている.緑内障,特に原発開放隅角緑内障(POAG)に関しても,環境因子の関与から common diseaseと考えられる.———————————————————————- Page 21504あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009は全ゲノムの解析が眼科疾患の解析に大変有効であること,内科疾患に比べて SNP の変異が示すオッズ比が高いことから注目された.翌 2007 年に LOXL1 遺伝子のSNP により落屑緑内障の疾患感受性が高まることが報告された2)が,これは約 30 万カ所の SNP マーカーを測定するチップを用いた全ゲノムのタイピングであった.2009 年には,POAG 数百検体以上を用いた Genome-Wide Association Study により POAG に相関する 3 遺伝子座が発表され,これからの解析の発展が期待され る3)(図 2).緑内障に関しては,候補遺伝子検索よりは,このGenome-Wide Association Study の手法による解析が有用であると考えられる.近年,眼科領域においてはこの手法によって大きな恩恵を受けている.このスタディからわかったことは,病態(病因)が近似している疾患を集めて解析すれば,統計学的に非常に有意な差が得られるということである.ステロイド緑内障などの原因が一元的な疾患は,これからの解析のターゲットとなりうる. れからの緑内障遺伝子解析緑内障遺伝子診断を行う大きな目的の一つは,緑内障(64)発症前診断である.将来に緑内障を発症する可能性がどのくらいか,遺伝子診断が効果を発揮することになる場合もあると考えられる.緑内障の進行速度,眼圧依存度などの診断の一助になる可能性も考えられる.現在,緑内障の治療はすぐれた薬物療法,手術療法はあるが,それでもすべての緑内障の進行を食い止めることは不可能である.治療の標準化の一方で,Genome-Wide Association Study を用いた緑内障遺伝子解析は,テーラーメイド治療への架け橋となるであろう.文献 1) Akiyama M, Yatsu K, Ota M et al:Microsatellite analysis of the GLC1B locus on chromosome 2 points to NCK2 as a new candidate gene for normal tension glaucoma. Br J Ophthalmol 92:1293-1296, 2008 2) Thorleifsson G, Magnusson KP, Sulem P et al:Common sequence variants in the LOXL1 gene confer susceptibility to exfoliation glaucoma. Science 317:1397-1400, 2007 3) Nakano M, Ikeda Y, Taniguchi T et al:Three susceptible loci associated with primary open-angle glaucoma identi ed by genome-wide association study in a Japanese population. Proc Natl Acad Sci USA 106:12838-12842, 2009図 2原発開放隅角緑内障の遺伝子座おもに家系を用いた連鎖解析によって GLC1A GLC1N の遺伝子座が見つかっている.Genome-Wide Association Study による新たな遺伝子座3)を赤で,マイクロサテライトマーカーを使った解析を青で記した2).

屈折矯正手術:LASIK術後眼への多焦点眼内レンズ

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,200915010910-1810/09/\100/頁/JCOPY2000 年にエキシマレーザー屈折矯正手術が承認されてからほぼ 10 年がたち,国内でも屈折矯正手術の認知度は高まっている.特にここ数年は急速に laser in situ keratomileusis(LASIK)の手術件数が増加している.一方,新しいタイプの多焦点眼内レンズ(IOL)が2007 年に認可され,2008 年より先進医療として認められ,徐々に普及している.このような流れのなかで,最近,LASIK 術後の白内障患者で多焦点 IOL を希望する例にしばしば遭遇する.代表例をつぎに示す.〔症例〕47 歳,男性で,平成 15 年 1 月 8 日に他医で高度近視に対し LASIK を受けた.平成 20 年ごろより右眼視力低下を自覚し,近医にて右眼白内障と診断され,手術目的にて当科を紹介された.初診時視力は VD=0.16(0.8× 4.50 D),VS=1.0(1.2× 0.50 D)で,右眼に NS2 の白内障を認めた.瞳孔径は 2.64 mm であった.前医へ照会したところ,LASIK 術前視力は VD=0.04(1.5× 11.0 D(cyl 0.50 D Ax140°),VS=0.04(1.5× 10.5 D(cyl 0.75 D Ax160°),LASIK 術後 3カ月の視力は VD=1.5(n.c.),VS=1.5(n.c.)であった.平成 21 年 2 月 3 日に右眼白内障手術を施行し,多焦点IOL ZM900(AMO 社)+17.5 D を挿入した.術前検査にてオートケラトメータによる K 値は 37.00 D,眼軸長(A モード)28.44 mm,前房深度 3.33 mm,水晶体厚3.58 mm で,角膜形状解析の結果は図1のごとくであった.IOL度数は Camelline-Calossi 式で計算した.術後6 カ月において,右眼遠方視力は 1.0(1.5×+0.75 D(cyl 0.75 D Ax5°),右眼近方視力は 0.9(1.0×+0.75 D(cyl 0.75 D Ax5°)と良好であるが,高周波数領域においてコントラスト感度は低下し(図2),特に薄暮視においては低下が顕著であった.自覚的には「水の中にいるようにぼやけた感じ」があり,術後 6 カ月においても改善(61)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載114監修=木下茂大橋裕一坪田一男114. LASIK術後眼への多焦点眼内レンズ根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科LASIK 術後眼に対する多焦点眼内レンズ挿入は有効ではあるが,①屈折度数誤差による眼内レンズ入れ替えや追加 LASIK の可能性,②術後視機能低下などの問題点がある.術前にはこれらの点について厳重にインフォームド・コンセントをとるべきである.特に高度近視に対する LASIK 術後眼の場合には注意を要する.図 1LASIK術後,白内障手術前の角膜形状解析結果図 2 術後3カ月のコントラスト感度検査結果(明所視,グレアなし)全体的にコントラスト感度が低下し,特に高周波数において著明に低下している.(1.5)30020010050201052B(3)C(6)D(12)E(18)空間周波数(cycles/degree)コントラスト感度———————————————————————- Page 21502あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009はない.LASIK 術後眼に対する多焦点 IOL 挿入に関する問題点としては,①屈折度数誤差,②視機能低下があげられる.多焦点 IOL を使用する際には,術後残余屈折異常があると眼鏡装用が必要となるため,術後の正視化が重要である.LASIK 術後眼に対しては,さまざまな計算式が報告されている1)が,いまだに決定的に精度の高いIOL 度数計算方法がない.したがって,IOL 入れ替えやLASIK 追加などの可能性について術前に十分にインフォームド・コンセントをとるべきである.LASIK 術後眼でも多焦点 IOL 挿入眼でも一般にコントラスト感度低下などの視機能低下が起こることが知られている.Alfonso らは LASIK 術後に回折型多焦点 IOL を挿入した症例の術後成績について報告し,多焦点 IOL 挿入眼では遠近の二峰性の焦点深度曲線が得られるものの,遠方コントラスト視力は,LASIK 術後有水晶体眼と比較して有意に低下することを報告している2).このような視機能低下は,光学特性上避けられないものであり,術前の説明が重要である.呈示した症例は,高度近視に対する LASIK 術後眼で,白内障手術前から高次収差の増加が顕著であったため,多焦点 IOL 挿入後のコントラスト感度低下の可能性については厳重にインフォームド・コンセントを行った.その結果として,コントラスト感度低下については「受容」され,患者満足を得ている.文献 1) Ho er KJ:Intraocular lens power calculation after previous laser refractive surgery. J Cataract Refract Surg 35:759-765, 2009 2) Alfonso JF, Madrid-Costa D, Poo-Lopez A et al:Visual quality after di ractive intraocular lens implantation in eyes with previous myopic laser in situ keratomileusis. J Cataract Refract Surg 34:1848-1854, 2008(62)☆ ☆ ☆

眼内レンズ:Malyugin ring(瞳孔拡張リング)

2009年11月30日 月曜日

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法(メニコン2WEEKプレミオ)

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,200914970910-1810/09/\100/頁/JCOPY シリコーンハイドロゲルレンズ(silicone hydrogel contact lens:SHCL)は従来のソフトコンタクトレンズ(SCL)と異なり,シリコーンポリマー含量が多いほど,すなわち含水率が低いほど酸素透過係数が高くなる.含水率が低くなると乾燥しにくくなるため,従来 SCL の弱点であった,乾燥しやすさと酸素透過係数の低さが,同時に克服されることにもなる.しかし,シリコーンポリマーは親油性が高く,そのままではレンズ表面への脂質の沈着,撥水を起こす.このため,SHCL には表面加工や親水成分の添加が行われているが,それでも脂質汚れによるトラブルが起きることがある.また,低い含水率は硬さの原因にもなり,異物感や上方角膜上皮の弧状障害(SEAL),眼瞼結膜の乳頭結膜炎(CLPC)をひき起こすこともある.現在,わが国では 7 系統の SHCLが販売されているが,処方の際には,乾燥感の低減や酸素透過係数とともに,硬さ,脂質汚れの付きやすさも考慮に入れたバランスの取れた選択を行う必要がある. 例19 歳,男性.両眼とも 9.0 D の強度近視.従来素材の 2 週間交換 SCL を使用していたが,パソコン作業を行うと乾燥して頻繁に点眼が必要になる,使用期間の後半になるとくもりやすくなるという訴えのため,処方を変更することにした.強度近視のため,長時間使用することが多いことも考慮して,最も含水率が低く,酸素透過率が高く,強固なプラズマコーティング処理によって汚れに強い SHCL「A」を処方した.乾燥感は減少し,球結膜充血も軽減したが,本人は装用感が気になるため,やはり点眼回数が多いということであった.慣れを待って経過観察を行っていたが,レンズの交換時期近くになると軽度の SEAL が右眼に発現した.自覚症状はなく,矯正視力も良好であったが,異物感の訴えも改善しなかったため,SHCL のなかで最も含水率が高く,柔(57)軟な 2 週間交換 SHCL「B」(親水成分含有,表面処理なし)に処方を変更した.異物感の訴えは即座に解消し,点眼回数も著明に減ったが,装用 2 週目,特に 10 日目から乾きやすくなるという訴えで再来した.両眼ともレンズ前面に汚れ(図1)が認められ,汚れによる異物感とくもりが「乾燥感」の原因であると考えられた.残っているレンズを 1 週間ごとに交換して使用させたところ,その間は乾燥感の訴えもなく,好調であった.そこで,含水率が SHCL「A」「B」の中間であり,プラズマ表面処理を施されている「メニコン 2WEEK プレミオ(以下,プレミオ)」の試験装用を行った.異物感の訴えはなく,12 日目の再診時にもレンズ表面に汚れ,くもりは認められなかった.本格的な処方に移り,6 カ月経過した現在でも乾燥感の訴えはわずかであり,2 週間使用後のレンズと新品レンズの装用感の差もほとんど感じないとのことであった.SEAL,CLPC の発生は認めていない. 察 2に示したように,SHCL は含水率が低いほど硬く稲葉昌丸稲葉眼科コンタクトレンズセミナー 監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純 私のコンタクトレンズ選択法305. メニコン 2WEEK プレミオ 1脂質沈着と考えられる汚れSHCL「B」の装用 10 日目.前面中央部の塊状,膜状の汚れとともに,光学部の境界と推測される周辺部にも輪状の汚れが沈着している.———————————————————————- Page 21498あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(00)なる傾向がある.含水率の低さは高い酸素透過係数,乾燥しにくさをもたらすが,硬さによる問題にもつながる.今回の症例では SHCL「A」では硬さによる異物感が改善せず,硬さの関連も考えられる軽度の SEAL がみられたため,含水率の高い SHCL「B」に変更したが,表面処理がないこともあって脂質汚れによる問題が生じてしまった.多目的用剤を用いて毎回丁寧にこすり洗いし,十分なすすぎをさせるという選択もあるが,それでも脂質汚れが付着するケースが,若年男子に多い印象がある.また,レンズケアが不確実な使用者の場合には,消毒力がこすり洗いに依存しない,過酸化水素剤やポビドンヨード剤を選ばざるを得ない.このように,柔軟だが汚れにくい SHCL を処方したい場合,中庸の含水率を有し,表面に高度なプラズマ処理を施しているプレミオ(図3,表1)は好適な選択肢となる.乱視用バージョンも年内には登場すると聞いている.ところで,SCL の汚れをチェックするためには,なるべく長期間使用した状態,たとえば 2 週間交換 SCLであれば 2 週間目に入ってから,できれば 10 日目以降に来院させる習慣をつけるとよい.同時に使用期間終了時の SCL と,新品 SCL で装用感に違いがないかも確認しておきたい.順調に使用されている SCL であれば,両者の間に大きな差はないはずである.表 1メニコン2WEEKプレミオの仕様装用方法含水率ベースカーブ直径中心厚( 3.00D 時)球面度数Dk*1Dk/t*2( 3.00 D 時)2 週間交換 終日装用40%8.3 mm, 8.6 mm14.0 mm0.08 mm 0.25 D 10.00 D129161*1 酸素透過係数: ×10 11(cm2/sec)・(ml O2/ml×mmHg).*2 酸素透過率: ×10 9(cm/sec)・(ml O2/ml×mmHg).1.61.41.21.00.80.60.40.2↑硬い2030405060含水率(%)メニコン2WEEKプレミオ従来素材SCL図 2 シリコーンハイドロゲルレンズの含水率と硬さの関係含水率が低いほど,酸素透過性は高く,乾燥しにくくなるが,レンズが硬くなる傾向がある.図 3メニコン 2WEEK プレミオの表面従来の表面プラズマ処理 SHCL(左)と比較すると,プレミオ(右)の表面のほうがより緻密で滑らかなことがわかる.

写真:ヘルペスによる栄養障害性潰瘍

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,200914950910-1810/09/\100/頁/JCOPY(55)写真セミナー 監修/島﨑潤横井則彦306. ヘルペスによる栄養障害性潰瘍図 1上皮型ヘルペスに続いて生じた長期の遷延性上皮欠損不整形の上皮欠損に向かって血管侵入を認める.上皮欠損の周囲は浮腫を認め,潰瘍底は白濁が少なく,ターミナルバルブは認めない.図 3a ヘルペスによる角膜ぶどう膜炎に栄養障害性潰瘍が併発した症例高度の前房内炎症および周辺部角膜炎を認め,不整形の上皮欠損を生じている.図 2壊死性角膜炎に併発した栄養障害性潰瘍の重症例全周からの血管侵入を伴う角膜混濁の中央部に遷延性上皮欠損を認める.不整形であり,ターミナルバルブは認めない.潰瘍底はやや白濁している.図 3b図3aのフルオレセイン染色所見不整形の上皮欠損を認める.一見地図状のようにみえるが,ターミナルバルブを認めない.佐々木香る出田眼科病院———————————————————————- Page 21496あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(00)ヘルペスは,上皮型(樹枝状,地図状),実質型(円板状,壊死性),内皮型,そしてぶどう膜炎型に分類される1).ヘルペスが三叉神経麻痺を生じ,知覚低下を招くことはよく知られているが,この三叉神経麻痺を生じた角膜上皮の接着は脆弱となり,容易に不整形の上皮欠損を生じる2 4).この上皮接着不全を上皮型に併発した場合は遷延性上皮欠損となり,実質型に併発した場合は栄養障害性潰瘍とよばれる.特に壊死性角膜炎によく併発する.アシクロビルの登場によって制しやすくなったヘルペスではあるが,この栄養障害性潰瘍については,実際の臨床現場で治療に難渋することも多い.近年,都会では減少したといわれる角膜ぶどう膜炎型においてこの栄養障害性潰瘍を認めると,さらに診断が困難となる.ヘルペスによる上皮型,実質型を何度も再発した後に,次第に血管侵入を伴う実質混濁を生じたものが壊死性角膜炎である5,6).病態としては,ヘルペス抗原に抗体が沈着した免疫複合体を形成し,好中球が集まり蛋白分解酵素を産生して炎症を生じた状態である.したがってステロイドと抗ウイルス薬にて治療を行う.このような状態に栄養障害性潰瘍を生じた場合はさらに,DSCL(disposable contact lens)による上皮保護あるいは瞼板縫合が必要となる.図1は上皮型に続いて生じた遷延性上皮欠損が長期に続いた状態で,図2は壊死性角膜炎に併発した栄養障害性潰瘍である.ステロイドの内服あるいは点眼+抗ウイルス薬の内服あるいは軟膏+DSCL にて,血管侵入は残存するものの上皮は安定した状態となった.同じような栄養障害性潰瘍はぶどう膜炎型にも併発することがある.図3は,毛様体炎から周辺部角膜ぶどう膜炎を生じ炎症が高度になった状態に,栄養障害性潰瘍が併発し不整形の上皮欠損を認めた症例である.抗ウイルス薬内服+ステロイド内服+抗生物質軟膏+閉瞼にて消炎した.これら栄養障害性潰瘍の鑑別疾患は上皮型ヘルペスあるいは細菌,真菌感染である.上皮型ヘルペスとの鑑別は主としてターミナルバルブの有無による.また,細菌・真菌との鑑別点として栄養障害性潰瘍の潰瘍底は,細菌,真菌感染に比して透明であり,眼脂が少ないこと,ヘルペスの既往歴の有無などがあげられる.文献 1) 大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科 37:759-764, 1995 2) Araki K, Ohashi Y, Kinoshita S et al:Delayed corneal epithelial wound healing after trigeminal denervation. Curr Eye Res 13:203-211, 1994 3) 荒木かおる,木下茂,桑山泰明ほか:三叉神経切断眼における角膜上皮の創傷治癒について.日眼会誌 97:906-912, 1993 4) 荒木かおる,木下茂,孫乃学ほか:三叉神経切断眼の家兎角膜上皮に及ぼす影響.日眼会誌 96:710-714, 1992 5) 佐々木香る,子島良平,関山勝好ほか:壊死性角膜炎患者における EIA 法による抗単純ヘルペス IgG 測定の意義.あたらしい眼 23:233-236, 2006 6) 西田幸二,井上幸次,下村嘉一ほか:壊死性角膜炎の発生経過について.臨眼 44:304-305, 1990

視力検査とQuality of Life

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYを除く 11 の下位尺度の平均を総合得点として算出し,視覚関連 QOL 全体の評価として用いる.VFQ-25 の優れているところは患者の主観に偏りがちな QOL をある程度客観的に定量評価できるところにある.2001 年に Mangione らがこの VFQ-25 を発表した1)が,2001 年から 2009 年までの間に前眼部,後眼部疾患のみならず視神経・眼窩疾患まで実にさまざまな眼科疾患の評価に使われており,その有用性が示されている(表 3).II視力とQOLが関連する疾患眼科疾患を有する患者ではほとんどの場合,視覚関連QOL が低下する.それでは QOL の低下する原因はなんだろうか?まずわれわれの頭に思い浮かぶのは視力である.物が見えないから QOL が低下する.これは当たり前のようであるが,現代の眼科診療において“視力”という指標が一番重要視されているからである.前述したように,視力は視機能の一部を表すにすぎないが,形態覚という重要な機能の指標である.そのため,視力と QOL には非常に密接な関係がある.現在までに視力と視覚関連 QOL との関連が論文として明確にされている疾患は多数ある(表 4).1. 角膜疾患円錐角膜患者 1,166 人を対象とした大規模な study では,両眼視力 0.5 未満のものや+52 D 以上の角膜屈折力はじめに視機能は形態覚,光覚,色覚,視野,立体視などさまざまな要素から成り立っている.形態覚は視機能のなかで最も重要な因子であり,視力は形態覚の一部を表している.そのため日常診療において視力は視機能の最も基本となる指標といえる.また,日常生活においてヒトが外界から得る情報の 80 90%は視覚とされている.したがって視力と quality of life(QOL)との間には密接な関係があると考えられる.IQOLを評価する指標―VFQ 25―われわれが医療を行うにあたり,治療の最終目標は患者の QOL を改善することである.眼科領域において疾患や治療の効果を従来の視力などの視機能の面からのみ評価するのではなく,患者の日常生活機能や健康関連QOL の面から評価する指標を視覚関連 QOL という.視覚関連 QOL を評価するものとして近年 National Eye Institute-Visual Function Questionnaire 25(VFQ-25)という自己記入式の質問表が用いられるようになった.わが国では日本語に翻訳されたものがある.このVFQ-25 は視覚関連 QOL を評価するための 25 項目の質問から成る.そしてその質問を 12 の小項目(下位尺度)に分類し,それぞれの下位尺度を 0 100 点に変換して評価する.点数が良いほど患者の視覚関連 QOL が高いということになる.25 の質問と 12 の下位尺度は表1,2 のとおりである.12 の下位尺度のうち,健康全般(49) 1489 Fu i i O a oto etsuro Os i a 3 5 8575 1 1 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1489 1493,2009視力 と Quality of LifeVisual Acuity and Quality of Life岡本史樹*大鹿哲郎*———————————————————————- Page 21490あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(50)をもつ患者の QOL が有意に低かったとしている2).2. 中間透光体疾患白内障では手術による QOL の改善度と視力改善度との間に有意な相関関係があったとしている.すなわち,視力が改善すればするほど QOL も向上するということ表 1VFQ 25(日本語版)の質問内容 1. あなたの全身の健康状態はどうですか? 2.現在,あなたの両眼での「ものの見えかた」は,どうですか? 3.自分の「ものの見えかた」について,不安を感じますか? 4.今まで,目や,目のまわりに,痛みや不快感,例えば熱っぽさ,かゆみ,痛みなどは,どの程度ありましたか? 5.ものが見にくいために,新聞の記事を読むのは,どのくらい難しいですか? 6. ものが見えにくいために,物を近くで見る作業(例えば料理や裁縫をしたり,家の中で修理をしたり工具を使ったり,など)をするのはどのくらい難しいですか? 7.ものが見えにくいために,たくさん物が置いてある棚から特定の物を見つけるのは,どのくらい難しいですか? 8.ものが見えにくいために,道路標識や商店の看板の文字を読むのは,どのくらい難しいですか? 9.ものが見えにくいために,夜や薄暗いところで,階段をおりたり,歩道の段差をおりたりするのはどのくらい難しいですか?10.ふだん道を歩くとき,ものが見えにくいために,まわりのものに気が付かないことがありますか?11.ものが見えにくいために,あなたが何か言った時に相手がどう反応するかをみるのはどのくらい難しいですか?12.ものが見えにくいために,その日に着る服を自分で選んだり,組み合わせたりするのはどのくらい難しいですか?13.ものが見えにくいために,誰かの家を訪ねたり,何かの集まりやレストランに行ったりするのはどのくらい難しいですか?14.ものが見えにくいために,映画や芝居を観たり,スポーツを観戦しに行ったりするのは,どのくらい難しいですか?15.車の運転について伺います.現在,あなたは車を運転することがありますか?16.夜間の運転はどのくらい難しいですか?17.ものが見えにくいために,物事を思いどおりにやりとげられないことがありますか?18.ものが見えにくいために,仕事などのふだんの活動が長く続けられないことがありますか?19.目や,目のまわりの,痛みや不快感が原因で,やりたいことができないことがありますか?20.ものが見えにくいために, 家にいることが多いですか?21.ものが見えにくいために,欲求不満を感じますか?22.ものが見えにくいために,したいことが思うようにできませんか?23.ものが見えにくいために,他の人が話すことにたよらなければなりませんか?24.ものが見えにくいために,誰かの手助けを必要とすることが多いですか?25.ものが見えにくいために,自分が気まずい思いをしたり,他の人を困らせたりするのではないかと心配ですか?表 2VFQ 25の12個の下位尺度 1.健康全般(General health) 2.視覚全般(General vision) 3.眼痛,眼刺激感(Ocular pain) 4.近見障害に伴う不都合(Near activities) 5.遠見障害に伴う不都合(Distance activities) 6.視覚障害による社会生活への影響(Social functioning) 7.視覚障害による精神面への影響(Mental health) 8.視覚障害による社会的役割への制限(Role di culties) 9.視覚障害による他者への依存(Dependency)10.自動車運転(Driving)11.色覚(Color vision)12.周辺視野(Peripheral vision) ※1. を除く 11 の下位尺度の平均が総合得点(Composite score).表 4視力と視覚関連QOLに関連があると考えられている疾患角膜円錐角膜中間透光体白内障網膜糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症,黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症,birdshot retinopathy視神経・眼窩緑内障,多発性硬化症,下垂体腫瘍表 3VFQ 25で評価されている眼科疾患外眼ドライアイ, 斜視, 眼瞼痙攣, アレルギー性結膜炎角膜円錐角膜中間透光体白内障網膜糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症,網膜 離,黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症,birdshot retinopathy,網膜色素変性症視神経・眼窩緑内障, 多発性硬化症, Basedow 病, 下垂体腫瘍———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091491(51)で行われるため,患者の QOL は健眼の視力=better eye に影響を受ける.Birdshot retinopathy や下垂体腫瘍のような軽度の視力障害が片眼または両眼にある場合には両眼を用いて日常生活を行うため,患者の QOL はworse eye の視力に影響を受ける4).網膜中心静脈分枝閉塞症は,患眼=worse eye が軽度の視力障害,そして健眼は正常であり,worse eye の視力に QOL が関連していることを考えると,患者の日常生活は両眼主体で行われているのかもしれない.増殖糖尿病網膜症の 51 名の患者を対象として片眼の硝子体手術前後で QOL を評価した論文では,術前は better eye の視力と QOL が関連し,術後は better eye, worse eye ともに QOL に関連したと報告している5).増殖糖尿病網膜症のような両眼性の視力不良な疾患では,術前は術眼=worse eye の視力がかなり不良なため,僚眼=better eye 主体で日常生活を送っている.そのために術前は better eye とQOL が関連する.しかし術後は視力レベルが低いながらも一般的に術眼は僚眼と同程度の視力まで改善するため,better eye, worse eye ともに QOL と関連すると考えられる.QOL と視力との関連を考える場合,このように各々の視力の水準を考慮しなければならないため,両眼開放下視力と QOL との関連を評価するべきだという意見もある.黄斑円孔や黄斑前膜,加齢黄斑変性などの疾患において両眼開放下視力と QOL との間に関連があったとの報告がある.IV視力以外の要素がQOLに関連すると 考えられる疾患 QOL が視力と密接な関係にあることは前述したとおりだが,QOL=視力ではない.日常診療において,視力が良いから必ずしも QOL が高いとは限らない患者に遭遇することはしばしばある.矯正視力 1.0 の白内障患者が霧視や薄暮時の見づらさを訴える,視力良好な網膜 離術後の患者がなんとなく見づらくてものが小さく見える,同じく視力良好な黄斑前膜術後の患者が変視を訴える,などなど….中心視野の残る緑内障や網膜色素変性症患者もしかりである.視機能は視力だけではない.表 5 に視力以外の要素と QOL に関連があると考えられになる.3. 網膜疾患網膜疾患では糖尿病網膜症や黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜静脈閉塞症など,視力と QOL との関連を記した論文が多数みられる.糖尿病網膜症ではVFQ-25 の下位尺度のうち,近見視力や遠見視力のQOL に関する項目が視力と関連すると報告されている.増殖糖尿病網膜症では視力が良好なほうの眼(better eye)の視力が QOL に関連があるとされている5).黄斑円孔や黄斑前膜では両眼視力が低下していると QOL も低下し,加齢黄斑変性は better eye の視力が下がるとQOL が低下するといわれている.網膜中心静脈閉塞症は better eye(健眼)の視力と QOL との間に有意な相関を示し,網膜中心静脈分枝閉塞症では視力が不良なほうの眼(worse eye;ここでは患眼ということになる)の視力が QOL との間に有意な相関を示している.また,birdshot retinopathy では worse eye の視力と QOL に関連があったとしている.4. 視神経・眼窩疾患その他緑内障や多発性硬化症,下垂体腫瘍などの疾患でも視力と QOL との関連が報告されている.初期の緑内障 255 人を対象にした study では better eye の視力と QOL との間に関連があることが明らかとなり3),下垂 体 腫 瘍 の 患 者 154 人 を 対 象 に し た も の で は better eye, worse eye ともに QOL との間に関連があることがわかった4).このように,何気なくわれわれが感じていた視力とQOL との関係が VFQ-25 という指標で評価することにより科学的に証明されつつある.多発性硬化症や下垂体腫瘍などの視路疾患などにおいても視力と QOL の関連が明らかにされたことは興味深い.IIIBetter eyeとWorse eye,QOLとの関係ここで注意しなければならないのが患眼と健眼,どちらの視力と QOL が関連するかということである.たとえば,網膜中心静脈閉塞症のように患眼の視力が悪く,健眼の視力が良好な場合には患者の日常生活は健眼主体———————————————————————- Page 41492あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(52)黄斑円孔の変視量と QOL の関係を調べた論文では,両疾患ともに視力やコントラスト感度ではなく変視が一番QOL に関連する因子であることがわかっている6,7).3. 視野緑内障や網膜色素変性症,下垂体腫瘍の患者は視野とQOL に関わりがあるとされている.軽度の緑内障 255例を解析した結果では better eye の視力のみならずworse eye の静的視野の MD(平均偏差)値が QOL に関連していた3).また,網膜色素変性症患者では周辺視野欠損の程度が大きいほど QOL が低下することがわかった.下垂体腫瘍の患者では視力,中心フリッカー値,静的視野感度,罹病期間のすべてに QOL が関連したが,多変量解析で better eye の静的視野 MD 値と罹病期間が選択された4).その他ドライアイでは重症度,Basedow 病では複視の存在が QOL を低下させることが知られており,各疾患それぞれ特有の因子があることがわかる.このように,視力と QOL との間には非常に密接な関係がある.しかし視力は QOL の低下を説明できる万能な指標ではない.われわれが眼科疾患を有する患者を治療する最終の目的は,視力を改善させることではなく患者の QOL を向上させることである.日常臨床において患者の QOL を向上させるためには,疾患ごとに QOLに影響する特有な視機能因子を理解し,視力以外の視機能にも目を配ることが大切である.文献 1) Mangione CM, Lee PP, Gutierrez PR et al;National Eye Institute Visual Function Questionnaire Field Test Investi-gators:Development of the 25-item National Eye Insti-tute Visual Function Questionnaire. Arch Ophthalmol 119:1050-1058, 2001 2) Kymes SM, Walline JJ, Zadnik K et al;Collaborative Lon-gitudinal Evaluation of Keratoconus Study Group:Quality of life in keratoconus. Am J Ophthalmol 138:527-535, 2004 3) Hyman LG, Komaro E, Heijl A et al;Early Manifest Trial Group:Treatment and vision-related quality of life in the early manifest glaucoma trial. Ophthalmology 112:1505-1513, 2005ている疾患をあげた.1. コントラスト感度糖尿病網膜症や網膜 離術後,birdshot retinopathy,多発性硬化症の患者ではコントラスト感度が QOL と関連するといわれている.しかも網膜 離術後の患者は視力と QOL に関連はなく,コントラスト感度にのみ QOLが関連することがわかっている.コントラスト感度は視機能のなかで形態覚全体を表すものであり,視力よりも鋭敏に QOV を表すことができる指標とされている.2. 変視黄斑前膜や黄斑円孔の患者は視力と QOL に関連があり,変視とは関連がなかったとの論文がある.しかしそれらの論文では変視量を評価する指標としてアムスラーチャートを用いている.アムスラーチャートは変視の広がりを的確に捉えることはできるが変視の程度や定量評価するのが困難である.近年,変視量,特に変視の程度を容易に定量評価できる指標として M-CHARTSRが用いられている.この M-CHARTSRを用いて黄斑前膜や表 5 視力以外の要素と視覚関連QOLに関連があると考えられている疾患疾患名視覚関連 QOL と関連のある要素ドライアイ重症度白内障核硬度糖尿病網膜症コントラスト感度,中心視野増殖糖尿病網膜症コントラスト感度網膜 離(術後)コントラスト感度黄斑前膜変視黄斑円孔変視網膜中心静脈閉塞症全身疾患Birdshot retinopathyコントラスト感度網膜色素変性症周辺視野緑内障静的視野(MD 値)多発性硬化症コントラスト感度下垂体腫瘍静的視野(MD,PSD 値),中心フリッカー,罹病期間Basedow 病複視MD:mean deviation,PSD:pattern standard deviation.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091493(53)tomy for epiretinal membrane on visual function and vision-related quality of life. Am J Ophthalmol 147:869-874, 2009 7) Fukuda S, Okamoto F, Yuasa M et al:Vision-Related Quality of Life and Visual Function in Patients undergoing Vitrectomy, Gas tamponade, and Cataract Surgery for Macular Hole. Br J Ophthalmol, 2009 Jun 30. [Epub ahead of print] 4) Okamoto Y, Okamoto F, Hiraoka T et al:Vision-related quality of life in patients with pituitary adenoma. Am J Ophthalmol 146:318-322, 2008 5) Okamoto F, Okamoto Y, Fukuda S et al:Vision-related quality of life and visual function following vitrectomy for proliferative diabetic retinopathy. Am J Ophthalmol 145:1031-1036, 2008 6) Okamoto F, Okamoto Y, Hiraoka T et al:E ect of vitrec-

視力検査とコントラスト感度

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYIIIコントラスト感度空間周波数で表されるような縞を識別できる最小コントラストをコントラスト閾値(contrast threshold),コントラスト閾値の逆数をコントラスト感度(contrast sensitivity)という.縦軸のコントラスト感度は 1 から始まり,決して 0 ではない.ただし,感度あるいは閾値を常用対数のベキ指数で表示する場合には下限値は 0 となる.IVコントラスト感度と時間周波数特性正弦波刺激の明暗をある周期で反転し,時間周波数を制御しコントラスト感度を測定することで空間周波数に依存した時間周波数特性を測定することができる.刺激の大きさが時間周波数特性に影響することもあり,大きな刺激であるほど感度の最大が高い周波数になる.これまでの研究では空間周波数特性と時間周波数特性の関連性が報告されており,低時間周波数領域で時間的に帯域通過型となり,低空間周波数領域で時間的に帯域通過型の特性を示す2).VMTFと眼光学コントラスト感度測定は視覚系の空間周波数特性modulation transfer function(MTF)を測定している.この MTF はもともと光学分野でレンズやカメラの画像処理能力を評価する方法として用いられたものであり,Iコントラストとはコントラスト(contrast)とは,一般に白黒の明暗対比を表し,基本的には規則的な正弦波状の縞の明暗対比をコントラスト C=(Lmax Lmin)/( Lmax+Lmin)で表示する.これを Michelson contrast という.数式上,コントラストが高ければ明暗の差が強く,コントラストが低ければ明暗の差が小さくなる.Lmaxおよび Lminはそれぞれ明暗の最大輝度と最小輝度を示している.コントラストは定義から 0 1 の値(無次元量であり,単位はない)を取り,これを%コントラスト(0 100%)で表すことが多い.II空間周波数縞の細かさや粗さを表す指標として,空間周波数(spatial frequency)を用いる.単位長さ当たり(あるいは単位視角当たり)に正弦波状の明暗縞が何組あるかで表現している.つまり cycles/mm あるいは cycles/deg(cpd とも略記する)の単位を用いる.空間周波数が高いということは縞が細かいということであり,空間周波数が低いということは縞が太いということを意味する1).空間周波数 30 cpd での縞間隔(白あるいは黒の縞幅)は 1min of arc(視角 1 分)で,視力 1.0 の分解能に相当する.コントラスト感度曲線の終末点を遮断周波数cut-o frequency といい,通常の視力値に相当する.(43) 1483 U N N 228 8555 1 15 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1483 1487,2009視力検査とコントラスト感度Visual Acuity and Contrast Sensitivity Testing魚里博*中山奈々美*———————————————————————- Page 21484あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(44)ラスト感度に影響を受ける.視力表に近付いたり,字ひとつ視標を近づけたりして視力 0.1 未満を測定する場合,空間周波数特性からすれば,コントラスト感度の低い領域に持ち込んで検査を実施しており,その評価には注意が必要である.VIコントラスト感度に影響する疾患・因子1. 視力一般的に,「どのくらい見えているか」という見え方を評価する場合には視力(visual acuity)が用いられる.しかしながら,視力では見え方の質までは評価することができず,日常の見え方を評価するには不十分だといえる.眼科およびその他医学一般で用いられている視力検査では,高コントラスト(コントラスト約 100%)の視標を用いた最小分離閾(あるいは最小可読閾)で評価される.この場合の視力とはそのほとんどが矯正視力であり,遠見での中心視力を意味している.ものの形を見分ける機能である形態覚は,最小視認閾,最小分離閾,最小可読閾および副尺視力に分類することができる.前述したように,臨床的な視力検査は,このうちの最小分離閾を高コントラスト視標で判定しているため,最も条件の良い高コントラスト視標での判別可能な最小切れ目を求めていることになる.すなわち,視力は細かい視覚刺激の像限界のみを与えるのとは異なり,コントラスト感度は広い周波数領域にわたる感度(分布)を示す.そのため,視標サイズだけでなくコントラストも考慮したコントラスト感度測定や,視力はコントラストが比較的高い間はそれほど低下せず低コントラストになると急激に低下するため,低コントラスト視力5)の重要性が近年高まっている.2. その他疾患視力以外にもコントラスト感度は,白内障6)および眼内レンズの種類,弱視7),laser in situ keratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術8)だけでなくさまざまな疾患によっても大きく影響を受ける.白内障や屈折異常眼ではおもに高周波領域のコントラスト低下が認められる一方で,中心性漿液性網脈絡膜炎では全周波数領域でコントラストの低下が起こる.視神のちに Campbell ら3)によってコントラスト感度測定として眼科臨床に応用され始めた.眼光学系の空間周波数特性は右下がりのローパス型を示すのに対し,正常眼の視覚系全体のコントラスト感度曲線は,数 cpd 付近にピークを有するバンドパス型を示している.これは眼光学系以外にも網膜以降の視覚伝達系が関与しているためであり,網膜受容野の側方抑制やマッハ効果などが関連していることが理由である.コントラスト感度曲線は,さまざまな大きさの空間周波数の縞に対するコントラスト感度を求め,通常横軸に空間周波数(cpd),縦軸にコントラスト感度(あるいは閾値)を対数スケールで表示している(図 1)4).光学系のレスポンス関数 MTF は一般にローパス型であり,眼球光学系も同様であるが,ニューラル系はバンドパス型であるため,トータルとしての視覚系はバンドパス型を呈している.コントラスト感度の最大ピークは数 cpd 付近にあるため,通常の視力表では 0.1 0.2 の視標は,視覚系にとっては比較的見やすい視標であることがわかる.MTF は空間的な明暗コントラストの二次元周波数応答を取り扱い,種々の細かさの縞を見たときに,その縞のコントラストがどの程度に認められるかを伝達関数として表している.ただし,厳密には正弦波と矩形波の違いはあり矩形波状の格子などの視標を用いると,正弦波状の基本周波数以外に高周波成分を含むことになるため,多少のコント図 1明所でのコントラスト感度曲線コントラスト感度曲線は空間周波数が高すぎても低すぎても,コントラスト感度は低下するバンドパス型を示す.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091485(45)2. モニターなどに縞などコントラストの異なる視標を提示するもの紙などに印刷されたコントラスト感度装置に比べ,環境照度など外部の影響が少ないことや視標平均輝度の自動キャリブレーション機能などが利点である.近年ではコンパクトな装置が多く開発されている反面,装置の種類が多くあり統一化されていないのが欠点である.代表的 な 装 置 と し て は,CAT-2000(NEITS 社)(図 3),CGT-1000(タ カ ギ セ イ コ ー 社)(図 4),Optec 6500(JFC 社)などがある.多施設間での臨床治験を行うような場合には,環境照度などの測定上の問題はきわめて経疾患に関しては,低周波領域の感度低下があるなど疾患によってコントラスト低下の領域が異なるのも特徴である.3. 因子健常眼でも加齢9)で特に高周波領域のコントラスト感度の低下があると報告されている.これは加齢に伴う瞳孔径の変化や,水晶体の光の散乱などが原因として考えられる.他に健常眼においてコントラスト感度に影響する因子として代表的なものには視標輝度,環境照度,屈折,瞳孔径などもあげられる.視標輝度は網膜照度を変化させるため,ある程度平均輝度が低下することでコントラスト感度は低下する.環境照度の低下に伴い薄暮視,暗所視では著しいコントラストの低下が認められる.また,瞳孔径は網膜照度や収差に密接に関連しているため,コントラストへも影響すると考えられている.VII検査方法および装置検査対象は眼光学系の異常(屈折異常や中間透光体の混濁),網脈絡膜疾患(糖尿病網膜症,網膜 離など)などに代表される視力低下をきたす疾患である.しかしながら,後述のように微妙な視機能低下を検出可能な検査であるため,視力良好症例(LASIK 術後など)にも有用とされる.臨床におけるコントラスト感度測定装置にはさまざまなものがあるが,以下のように大きく 3 種に大別される.1. 印刷した視標を用いるものこれが最も一般的で普及されている装置である.他の装置に比べ安価であり,測定法が簡便なこと,測定時間が短く結果の解釈が比較的容易なことが長所としてあげられる.しかし,印刷紙のため印刷面の劣化や環境照度の影響を受けやすいことがあげられる.Vision Contrast Test System(Vistech 社)(図 2)が臨床上しばしば用いられている.CSV-1000(Vector Vision 社)(図 3)などの投影式もここに分類される.そのため,多施設でのデータ収集時には,検査上での測定環境の影響を受けやすいので,注意が必要である.図 2 VISION CONTRAST TEST SYSTEM:VCTS(Vistch 社) 壁掛け式で視標が紙に印刷されているタイプ.図 3CSV 1000(Vector Vision 社)上下 2 列のうち,正弦波のあるほうを選ぶ強制二択.———————————————————————- Page 41486あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(46)contrast sensitivity function(AULCSF)10)という方法が近年は一般的に用いられるようになった.この方法を用いる場合は,各空間周波数帯における有意な変化を捉えることができないが,全体的なコントラスト感度の低下などを反映することができる利点がある.つまり空間周波数による影響を無視して,コントラスト感度特性の変化を 1 変数にて評価できる利点を有するが,しかし,コントラスト感度の変化が空間周波数に大きく依存するような場合は,AULCSF の方法では注意が必要である.IXグレア検査グレア障害とは,眼球透光体の光の散乱(scattering)により注視している物体の網膜像のコントラストを低下させ,その像の詳細部を不明瞭にさせることである.この障害は中間透光体である水晶体混濁に起因する白内障眼,photorefractive keratectomy(PRK)や LASIK などの角膜屈折矯正手術施行眼,ドライアイなどでグレア障害が健常眼に比べより多く認められるとの報告がある.特に白内障眼に代表される薄暮視下におけるグレア障害は,著しいコントラスト低下が認められると報告されている.グレア検査は視標の周囲あるいは中央にグレア光源をおいてコントラスト感度や視力を測定する装置がある11).少なく,今後標準化が進んで普及するものと思われる.3. 網膜上に直接レーザー干渉縞を投影するものレーザー光を用いて網膜上に直接干渉縞を形成し,その縞の周波数やコントラストを調整して感度を測定する方法である.この装置の一番のメリットは,装置から発光した光束が直接網膜上に投影されるため,眼光学系の結像作用の影響をまったく受けないところである(眼球光学系の影響をバイパスできる利点がある).すなわち,進行した白内障などの術前検査として有用な装置である.ラムダ 100 レチノメーター(エムイーテクニカ社)などを用いる.コントラスト感度の測定は従来の視力検査に比べて,より視覚系の統合的な光学的評価法であるが,上記の他にも市販されている装置によって視標が異なること,その他視標呈示時間や検査距離が異なることが多く,各装置で測定されたコントラスト感度が厳密には異なることに注意する必要がある.VIIIコントラスト感度とAULCSFこれまでコントラストを統計学的に評価する場合,空間周波数ごとの評価は容易にされてきたが,コントラスト感度曲線全体に対する評価はむずかしいとされてきた.そこで,得られたコントラスト感度を対数値に換算し, そ の 対 数 グ ラ フ の 面 積 を 求 め る area under log 図 4CAT 2000(NEITS 社)視標は Landolt 環を用いているコントラスト視力測定装置.図 5CGT 1000(タカギセイコー社)視標はダブルリングで光学的遠方に位置されている.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091487(47) 2) Kelly DH:Adaptation e ects on spatio-temporal sine-wave thresholds. Vision Res 12:89-101, 1972 3) Campbell FW, Robson JG:Application of Fourier analysis to the visibility of gratings. J Physiol 197:1551-1566, 1968 4) 魚里博:コントラスト感度と視力.Tomey Ophthalmolo-gy News 40:11, 2007 5) 魚里博:低コントラスト視力.IOL&RS 15:200-204, 2001 6) Packer M, Fine IH, Ho man RS:Contrast sensitivity and measuring cataract outcomes. Ophthalmol Clin North Am 19:521-533, 2006 7) Harvey EM:Development and treatment of astigmatism-related amblyopia. Optom Vis Sci 86:634-639, 2009 8) Ho man RS, Packer M, Fine IH:Contrast sensitivity and laser in situ keratomileusis. Int Ophthalmol Clin 43:93-100, 2003 9) Werner JS, Peterzell DH, Scheetz AJ:Light, vision, and aging. Optom Vis Sci 67:214-229, 1990 10) Applegate RA, Howland HC, Sharp RC et al:Corneal aberrations and visual performance after radial keratoto-my. J Refract Surg 14:397-407, 1998 11) 中山奈々美,川守田拓志,魚里博:グレアが他覚的屈折値と瞳孔径に及ぼす影響.視覚の科学 28:72-76, 2007おわりに日常の環境照度は暗所や薄暮状態から明所まで変化し,目標物の細かさやコントラスト(明暗,あるいは色)もさまざまである.光学設計の分野では,光学系の分解能(解像力)だけでなく空間周波数特性 modulation transfer function(MTF)が半世紀前から利用され,このような概念が眼科臨床にも導入されてきたが,最近の視覚の質(quality of vision:QOV)への要求が高まるにつれて,眼科臨床でもコントラスト感度が汎用されるようになっている.今後,眼科臨床における QOV への高いニーズに対応するためには,視力だけではなくコントラスト感度特性への配慮が重要となる.特に屈折矯正手術や白内障・眼内レンズ挿入術(多焦点や非球面など)では,コントラスト感度の評価が必須になるものと考えられる.文献 1) 魚里博,平井宏明,福原潤ほか:生理光学の基礎.眼光学の基礎,p145-196,金原出版, 1990

心理物理学的研究における視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY維)で調べることができる.ヒトにおいては,光,音,電気などの刺激を与えてそれに対する反応を自覚的な応答で検出する方法がとられることが多い.すなわち,心理物理学的検査法である.心理物理学とは,視力,視野,色覚など心理的な感覚を数値で記載し,数式化する学問をいう.心理物理学では,感覚を数値化する必要がある.たとえば 100 asb の輝度の面,波長 500 n mの光,視角 10分の円形の視標などの刺激に対して,どのような感覚が起こったかを定量的に答えてもらうことは非常にむずかしい.これに対し,100 asb の面に投影された円が識別できる最小の輝度差,500 n mの色と識別できる最も近い波長というようにして,閾値を測ることは比較的容易である.閾値測定においては,被験者は,見えるか否はじめに眼科臨床において心理物理学的検査が多く行われる.しかし,最も代表的な眼科検査である視力測定は必ずしも心理物理学的方法によって行われてはいない.研究的な意味での視力測定の方法,さらに臨床応用について考えてみたい.I心理物理学的方法一般の神経細胞は細胞内が約 70 mV に保たれており,電気刺激すると,ある電流以下では興奮が起こらないが,ある値を超えると細胞膜全体に興奮が起こる.この興奮はパルス状で,その高さや持続時間は一定である.興奮の程度はパルスの頻度で決められる.一方,網膜内の神経細胞の興奮は,神経節細胞を除き,緩徐で興奮の程度により膜電位が異なるアナログである.図 1 は錐体に光を当てたときの光の強度(横軸)と錐体の膜電位(縦軸)の関係を表したグラフである.光の強度は対数,膜電位は最大を 1 とした値である.膜電位は波線の曲線を中心とした範囲に存在している.この曲線の中間部は直線状で,光のごく弱いところおよび強いところでは,水平に近づいた形の曲線になっている.感覚は刺激の対数に比例するといわれるが,これはこの中間部のことであり,刺激全域あるいは知覚全域について当てはまるのではない1).動物実験においては,神経に微小電極を挿入して電位を測る方法で,刺激に対する反応を単一の神経細胞(線(37) 1477 a taka ani 学 658 16 3 4 5特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1477 1482,2009心理物理学的研究における視力検査Visual Acuity Measurement in Psychophysiology可児一孝* -6.0-4.8-3.6入射光の強さ(対数;log I)-2.4-1.20膜電位(Vi/Vmax)図 1錐体の膜電位横軸は入射光の強さ(対数),縦軸は膜電位で,最大値を 1 とした相対値である(Baylor & Fuortes, 1970).———————————————————————- Page 21478あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(38)前述したように,実験や検査で知覚の強さを定量することはむずかしいので,参照刺激と比較するなどして識別できる閾値を測定するというような方法がとられる.すなわち,図 2 の a に対する刺激連続体の分布(a¢)または b に対する知覚連続体の分布(b¢)を求めるのである.III閾値測定1. 恒常法による閾値測定図 3 に視力測定結果の一例を示した.横軸はラ環の切れ目の視角,縦軸は正答率である.ここでは,0.12 から 0.64 までの 8 種類のラ環をランダムに各 150 回呈示して,正答した割合をプロットした.S 字形の曲線は知覚確率曲線とよばれる.これは図 2 の刺激連続体と知覚連続体のグラフの曲線のばらつき(b¢)を見たものである.直線部はない.一般にこのばらつきは正規分布するので,知覚確率曲線は累積正規分布関数(ogive)となる.S 字曲線の確率 50%の値が閾値とされる.このように,あらかじめ刺激の強度(ここでは視角)と呈示回数を定めておき,ランダムに呈示して正答率をか,ランドルト(Landolt)環(以下,ラ環)の切れ目はどの方向か,合致しているか否か,というような単純な応答を要求される.ラ環では方向が 4 つあるが,データとしては正答か誤答かの 2 つである.応答が単純であるほうが信頼度が高い.心理物理学的測定の基本は閾値測定である.感覚は受容器に与えられる個々の刺激の感受の過程で,知覚はそれを認知することであるとして厳密に区別することもあるが,ここでは知覚と感覚を厳密に区別せずに使用する.II刺激連続体と知覚連続体心理物理学的測定では,多くの神経機構を経由して反応が生ずるので,刺激と感覚との関係は,光の強さと錐体の膜電位の関係(図 1)のように単純ではないが,同様の関係があり,一般に図 2 のように表される.横軸は刺激の強さで刺激連続体といい,縦軸は知覚の強さで知覚連続体という.いずれも対数である.左下の水平線部分が感覚を生じない閾下刺激,右上は感覚が飽和した部分である.この中間部は直線に近い2).ある一定の刺激に対して常に一定の感覚が生ずるわけではなく,ばらつきがある.ばらつきは正規分布になるといわれている.また,一定の感覚を生じさせる刺激も同様に正規分布する.刺激の強さ(対数)(刺激連続体)感覚(対数)(知覚連続体)aa bb 一定の強さの刺激で生じる感覚は一定ではなく,ある分布を示す一定の感覚を起こす刺激は,ある分布を示す図 2刺激と感覚の関係横軸は刺激の強さ,縦軸は感覚の大きさで,ともに対数である.ある刺激強度(c)より弱い刺激ではほとんど感覚が起こらないが,これを超えるとほぼ直線の関係になる.刺激と感覚は点対点の関係ではなく,ある感覚(a)を起こすための刺激はある範囲(a¢)に分布している.また,ある刺激(b)によって起こる感覚もある範囲(b¢)に分布した形をとる.0.10.20.30.40.60.81.0+1.0+0.8+0.6+0.4+0.2010050正答率(%)視標図 3恒常法で求めた知覚確率曲線横軸はラ環の切れ目の視角で,視角の逆数の小数値(小数視力に対応)と視角の対数値(logMAR に対応),縦軸は正答率である.実線は各視標での正答率,波線はその微分値で感覚の分布状態を示す.強制選択法で測定し,まぐれ当たりを補正してある.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091479(39)2. 調整法(method of adjustment)被験者が自分で刺激を変化させて行う方法である.刺激光の輝度をつまみで変えられるようにしておき,被験者につまみを自由に回させて刺激光がやっと見えるレベルに合わせさせる.刺激光が明るければ暗くなる方向に,暗ければ明るくなる方向に操作し,これを何回かくり返して,最後にこれと思われるところに決定する.つまみの操作は個人差が大きく,信頼度は低い.短時間で行えるので,予備実験で大まかな閾値を知るためには便利な方法である.3. 極限法(method of limits)刺激の強度を増大する方向(上昇系列)あるいは減少する方向(下降系列)のどちらかに,刺激を一定のステップで変化させ,反応の変化が現れた(見えないのが見えるようになった,など)ところで系列を打ち切る.変化の前と後ろの中間を閾値とする.上昇系列と下降系列を何回か行って平均を取り閾値とする.刺激の変化のステップ幅,系列の数などはあらかじめ決めておき,それに従って験者が操作する.被験者は,明るい・暗い・同じというような決まった答をするだけであるから,調整法と比べて信頼性が高い.4. 上下法(up-and-down method)はじめ明らかに見える刺激強度からスタート(下降系列),あるいは見えない強度からスタート(上昇系列)し,被験者の応答が変化する(「見える」から「見えない」,誤答から正答など)と系列を切り替える.そして,応答が変化した前後の刺激の値の間に閾値があると考えて中間値を取る.応答の変化の回数をあらかじめ定めておき,その回数になったら試行を止める.中間値を平均して閾値とする(図 5).恒常法では,すべての刺激強度で同じ回数の試行が行われるのに対し,この方法では,閾値の前後を多く測定するのが特徴である.しかし,知覚確率曲線の端のほうはほとんど測らないので,分布を求めるには難がある.あらかじめ試行回数を決めておく方法もある.また,すべての測定の刺激強度を平均する方法もある.求める方法を恒常法(constant method)という.プロットされた点から閾値を求める方法がいくつかある3).a. 直線補間法50%の上下の点を直線で結び 50%との交点を求める.簡便であるが,2 つの刺激のみのデータが用いられ,他のデータが無視されるのは大きな欠点である.b. 正規グラフ法縦軸を累積正規分布に取ったグラフ用紙で正規確率紙といわれるものがある.正規確率紙に図 3 をプロットすると図 4 のようになる.プロットされた点が直線に乗っておれば正規分布であると判断できる.直線と縦軸 50%との交点の刺激強度を閾値とする.15.9%と 84.1%が標準偏差となる.直線は「めのこ」で引く方法と最小二乗法で計算する方法がある.0%に近い領域と 100%に近いところは大きく離れるので,「めのこ」の場合は無視し,計算の場合は 50%に近いところを重視する方法(Mueller-Urban 法)などがある3 6).0.199.99503010510.10.017090999599.90.20.30.40.60.81.0+1.0+0.8+0.6+0.4+0.20+0.55+0.140.28(0.20~0.39)視標正答率(%)図 4正規確率紙にプロットした正答率図3の知覚確率曲線を正規確率紙にプロットした.直線は最小二乗法で引いたものである.プロットが直線にほぼ乗っているので,感覚のばらつきは正規分布であると推定できる.直線と50%の横線との交点が閾値,矢印のある横線との交点が標準偏差である.この例では,logMAR で+0.55±0.14 の視力である.小数視力では中心が 0.28 で標準偏差は 0.20 0.39 となる.———————————————————————- Page 41480あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(40)国際眼科学会(1909 年)で,minimum angle of reso-lution(MAR)の逆数で表すことが決められた.小数表示である.小数値は直感的でわかりやすいこともあり,わが国では広く使用されてきた.感覚は刺激の対数に比例するので,統計処理などの際は,視力値を対数に直して処理する必要がある.また,視力表の段階が対数系列であると,何段階の増減といった表現を用いることができる.1994 年の ISO(国際標準化機構)や 2002 年の JIS(日本工業規格)では,小数表現であるが,対数が等間隔になるような系列にするように決められたが,臨床では使われていない.ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)chartではじめて対数視力が実用化された.欧米では小数視力より前から Snellen 視力表の分数表示が用いられ現在に至っている.分子はその視標を標準視力の人がやっと識別できる距離ということで,米国では 20(20 feet),欧州では 6(6 m)が用いられることが多い.分母は被験者がやっと識別できた距離という意味であるが,実際は視標の大きさである.文字視標であるから,MAR ではなく,MAR が 1.0 と等価の視標を 20/ 20 としている.Snellen 視力表は対数等間隔の系列に近いので 1 段階の改善とか 3 段階の悪化のような表現には使えるが,計算には使えない.分数の計算はむずかしいので計算しようとしないのが分数視力の特徴であるとさえいわれる.各種視力表系列を図 6 に示す.視力の対数値が等間隔になるように並べてある.視標の大きさの誤差は標準検査装置では±5%,準標準検査装置では±10%とされている.誤差を入れて考えると,小数視力では,1.0 から 0.6 の間が対数の 0.5 段階になっていること,0.3 と0.2 の間および 0.15 と 0.2 の間が 2 段階であることを除けば,ほぼ等間隔である.このように考えると,現在使用している小数視力表を対数系列のものに取り替える必要はない.Snellen 視力表には 0.9 と 0.7 がない.これが良いというのではなく,小数視力表には正常と異常の境目の0.9 と 0.7 が加えられていると考えるのが適当であろう.欧文の文献では 20/20 までしか測定していないことが多く,40/20 などは滅多に見られない.彼らは視力測定5. Bracketing法臨床の静的視野測定に用いられる方法で,刺激強度の変化をはじめは粗く,応答が変化するごとに細かくして閾値に挟み込んでいく方法である.視標が見えた場合,4 dB 暗くし,これが見えればさらに 4 dB 暗くする,見えなければ 2 dB 明るくする.見えればその視標強度の1 dB 弱い値を閾値とし,見えなければ 1 dB 明るい値を閾値とする.最低 3 回の試行で閾値を決定するので,臨床に有用である.一方,応答が一つ間違うとデータが大きく誤る.また,視標のステップより細かい視力値は得られない.臨床における静的視野測定のように多数のデータをできるだけ少ない試行回数で得る必要がある場合には用いられるが,心理物理学的実験には不適当である.IV視力測定における諸問題1. 視力値の系列視力の表し方に,小数視力,分数視力,対数視力,logMAR などが用いられている.1.02.03.00.50.10.35101520対数:(log 1.28+log 1.53)/2=0.146小数:1.40小数:2.21対数:(log 2.55+log 1.91)/2=0.344視標試行回数閾値=(0.146+0.146+0.344+0.146+0.146+0.072+0.072+0.072+0.344+0.344)/10=0.183図 5上下法0.91 の視標から下降系列で始めた.0.91, 1.09, 1.28 は正答したが,1.53 は誤答であった.1.28 と 1.53 の中間値,対数で0.146,小数で 1.40 をここでの閾値とする.応答が正から誤に変わったので,上昇系列に切り替え 1.28 を呈示すると正答であったので,ここの閾値は対数で 0.146,小数で 1.40 となる.上昇,下降をくり返し,変化点が 10 回になるところで試行を打ち切る.閾値とした値を対数で平均すると,閾値は対数で0.183,小数で 1.524 となる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091481(41)たときとを誤答とすることが多い.心理物理学的実験では,わからないという選択肢を許さず,何かを答えさせる強制選択法が用いられる.わからないという選択肢は他の選択肢と同じ重みではなく,結果の計算に支障をきたすためである.上下左右のラ環で測定する場合,でたらめに答えても25%はまぐれ当たりする.そのため,知覚確率曲線の下は 25%に近づく.この場合,25%と 100%の中間で62.5%を閾値とする.正規確率紙にプロットする場合は,25%のバイアスがあると計算式が異なるので,次式により 0 100%に補正する必要がある6).EN=R N×pN( 1 p)図 7 の上の実線は 4 肢強制選択法で測定した知覚確率曲線で,下の実線は補正したものである.N は呈示回数でこの例では 100 回である.R は正答数で,このなかにはまぐれ当たりが含まれている.p はまぐれ当たりの確率で,視標の種類が上下左右の 4 であるから確率は1/4 である.N×p は呈示回数にまぐれ当たりの確率 pをかけたもので,まぐれ当たりの数である.これを全正答数から引くと,まぐれ当たりを除いた正答数になる.N×(1 p)はまぐれ当たりを除いた呈示数である.したの厳密さをあまり重要視していないのではないかと思われる.われわれは,臨床で,1.0 の視力は少し低いと感じる.正常は 1.2 1.5 であろう.1.0 は許容できる値として考えている.0.9 は異常であろう.ここに 0.9 の存在価値がある.心理物理学では MAR や logMAR がよく用いられてきた.ETDRS が logMAR を用いたのは,欧米の一般的な視力表示が分数で,紛らわしくないためであろうと邪推している.筆者らのように小数視力を使っている者にとっては小数視力か logMAR 表示かをいちいち断らなければならず,非常に煩雑になる.dB 表示を採用すればわかりやすかったのにと悔やまれる.1.0 を 0 dB として,0.9 を 0.5 dB,0.8 を 1.0 dB,0.1 を 1 0 d B の ように表すとわかりやすい.2. 強制選択法視力を測定する場合,臨床では「わからない」という選択肢を許し,誤った答えとわからないという答えをしLogMAR分数小数対数-1.0-0.9-0.8-0.7-0.6-0.5-0.4-0.3-0.2-0.10.0+0.1+0.2+0.3+1.0+0.9+0.8+0.7+0.6+0.5+0.4+0.3+0.2+0.10.0-0.1-0.2-0.30.11.00.80.640.50.40.320.240.20.160.1251.251.62.020/20020/10020/7020/5020/4020/3020/2520/2020/1520/1320/100.90.72.01.00.80.50.40.30.20.10.61.21.50.15dB3.02.01.00.0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0-6.0-7.0-8.0-9.0-10.01/MAR-1.5-0.5図 6分数視力,小数視力,logMARの関係視角の対数が等間隔になるように配置した.小数視力とlogMAR との差は,1.5 と 0.15 で 5.7%,0.3,1.2,0.6,0.3 で約 5%であるが,その他は 1%以内である.0.125 と 0.24 を加えると対数系列として十分使用できるものである.しかも,0.6 と 1.0 の間は 1/2 段階と細かく測定できる利点もある.正答率(%)025507510062.5%1.01.52.03.0-0.1-0.2-0.3-0.402.5-0.550%視標図 7強制選択法と「わからない」を許した測定上下左右のラ環を用い,7 視標,各視標 100 回試行の恒常法で測定した.上の実線は強制選択法で,下の実線はまぐれ当たりを補正したものである.点線は「わからない」を許して同様に測定したものである.———————————————————————- Page 61482あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(42)近似させる方法を考案している.臨床に使用する段階には至っていないが,実用化が期待される.5. 測定時間心理物理学的測定は時間がかかるといわれる.正常例での測定では,通常の方法では 48.7±5.9 秒,上下法(系列の切り替わり数 10 回)では 1¢01 ±4.2 ,恒常法では 2¢09 ±0.4 であった.恒常法で両端の 0%,100%に近い視標の呈示回数を少なくするなど最適な方法をとることによって改善することが可能であろう.おわりに眼科臨床においても実験的研究においても,視力は最も基本的な視覚の値として測定されてきた.しかし,100 年以上もの間大きな改良はなされていない.最近のコンピュータやディスプレイの進歩は大きく,これを使った視力測定装置も作られている.心理物理学的測定法に則った strategy をプログラミングすることはむずかしくないが,現在市販されている安価な液晶ディスプレイはドットピッチが 0.25 0.3 m mで 2.0 の視標の切れ目が 0.7 m mであることを考えると十分な解像力ではない.容易に心理物理学的な視力測定が行える装置の開発が望まれる.文献 1) 金子章道:眼球.生理学 1(入来正躬,外山敬介編),p187-212,文光堂, 1986 2) 山下由己男:視覚情報処理ハンドブック.朝倉書店,2000 3) 池田光男:視覚の心理物理学.p19-24,森北出版, 1975 4) 福田秀子,可児一孝:閾値とその測定法.神経眼科 7:291-298, 1990 5) 可児一孝,西田保裕:視力の生理学 1視覚生理学的側面.神経眼科 18:246-251, 2001 6) 可児一孝:視力について.理解を深めよう視力検査屈折検査(松本富美子,大牟禮和代,仲村永江編),p1-14,金原出版, 2008 7) 三田哲大,原平八郎,可児一孝ほか:統計解析を用いた視力測定.第 45 回日本眼光学学会総会,2009がって,右辺は,まぐれ当たりを除いて真の正答数を真の呈示数で割ったもので,これが真の正答確率になる.図 7 の波線は「わからない」を許す方法で測ったものである.強制選択法の結果とほとんど差は出ていなかった.「わからない」を許す方法は,理論的には強制選択法より劣るが,試行回数が少なくてすむ利点がある.切れ目が縦横の 4 方向の強制選択法で,被験者がそれを知っている場合は,まぐれ当たりの確率は 25%であるが,斜めを加えた 8 方向の場合は,12.5%である.ETDRS chart では 10 文字が用いられているので被験者が用いられている文字を知っていれば 10%であるが,アルファベットすべての文字があると思っていると約 4%になる.強制選択法の場合は,被験者への説明が大切である.3. 刺激の値についてここで示した測定において,刺激(視標)の強さは対数で等間隔にはなっていない.これは,視標に液晶ディスプレイを用いたことで,対数で線形の視標を作ることができなかったためである.心理物理学的実験では,刺激ができるだけ対数で線形になるように作るが,出来上がった視標を実測して横軸にプロットするのが一般的である.刺激のステップが必ずしも等間隔になっている必要はない.4. 視力における統計的手法視力を測るためにはかなり多数の視標を呈示している.静的視野の 1 点の閾値決定のための試行回数とは比較にならない.しかし,データとしては,0.9 とか 1.2とかという単一の数値しか現れない.心理物理学的にいえば+0.55±0.14(logMAR)というように平均±標準偏差という表し方であるべきである.このような表示をすれば,視力変化の有意差検定も可能になり,治療の効果判定などに有益であると思われる.視力をこのような値としてとらえる考え方は今までなかった.三田ら7)は,恒常法で視力を測定しながら試行ごとに累積正規分布に

臨床研究や治験における視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY的に記載した.たとえば,視力が 20/200 とは,被検者が 20 フィートで見える視標を,助手が見えるところまで後ろへ下がってみると,200 フィートの地点まで視標が見えたということを意味する.このように,分数として表示されるので,この方法は分数視力とよばれている.当初は視標の大きさが一定で,測定距離を変更していたが,その後,測定距離を一定にして,逆に視標を小さくするようになった.遠見視力を Snellen チャートで測定するときは,たとえば 20 フィートの距離で行う場合,視標は上より20/200,20/100,20/70,20/50,20/40,20/30,20/25,20/20,20/15,20/13,20/10 の 合 計 11 段 となる.20/200 は 1 文字のみであるが,20/10 は 9 文字ある.測定距離は国によって異なり,20 フィート,6 m,および5 mの場合がある.その場合,小数視力の1.0 は,それぞれ 20/20,6/6,5/5,小数視力の 0.1 は20/200,6/60,5/50 と表示される.つまり分数視力の分子は測定距離であり,小数視力を分数視力に換算する際には注意が必要である.分数視力の具体的な測定方法としては,暗室でプロジェクターを用い文字視標が投影されていることが多い.Snellen 視力表の問題点としては,暗室で検査が行われていること,電球の消耗などで視標の条件が変化しやすいことがあげられる.また,列ごとの文字の縮小率が異なっているので,同じ 2 段階の視力改善でも,その変化率は違ってくる.加えて,視力表の一段の文字数が異はじめに近年,臨床研究において視力を統計的に解析する場合,あるいは,治験のエンドポイントとして視力が用いられる場合においては,小数視力や分数視力が使用されず,logMAR 視力と ETDRS チャートが用いられる傾向にある.これは,視力検査が主観的な測定法であるため,定量化する際の問題点を是正し,適切な統計処理をするためlogMAR 視力およびその測定法としての ETDRS チャートが採用されているためである.本稿では,欧米や日本で長い間使われている方法にどのような問題があるかと対比させながら解説させていただく.I分数視力,小数視力の問題点視力は,視空間に存在する点や線,それらの組み合わせとしての物の形などを弁別できる閾値,2 次元的に広がっている物の形や位置を見分ける眼の能力,あるいは形態覚の鋭敏さなどに定義することができる.そして,実際の視力測定では,形態覚の鋭敏さを最小分離域,すなわち,2 点または 2 線を認める閾値を用いて表示されている.現在欧米では Snellen チャートを使用して視力検査をすることが一般的である(図 1 左).Hermann Snellenは 1863 年に文字視力表を開発した1).彼は,被検者の視力を,彼の助手で完璧な視力をもつ者の視力と,その識別できる視標までの距離を比較することによって定量(31) 1471 o M 研究 視 565 0 1 2 2 研究 視 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1471 1476,2009臨床研究や治験における視力検査Visual Acuity Measurement for Clinical Research and Trial前田直之*———————————————————————- Page 21472あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(32)る装置や,材質が紙であるものやプラスティックで背景に照明があるもの,あるいは液晶モニターを使用するもの,視標も,Landolt 環のみを使用するもの,ひらがなのみを使用するものなど多彩である.小数視力の視力検査の問題点としては,つぎのようなものがあげられる.一つは検査間,検者間で測定結果の再現性が悪いという点である.現在の視力表は,1 列の視標がすべて読めて初めて,下の列を読むことになっている.たとえば,ある列の一つの視標が読めなければ,1 列あるいは,2 列下の視標のいくつかを認識できても,視力としては,認識できなかった視標がある列の視力となってしまう.これが,検査間の測定値のばらつきの一因になっていると考えられる.つぎに,視標が等間隔でないという問題点がある.一般的に,心理的な感覚量は,刺激の強度ではなく,その対数に比例して知覚され,これはウェーバー・フェヒナー(Weber-Fechner)の法則とよばれている.つまり,感覚は,その強度が 10 倍,100 倍になったとしても,2 倍,3 倍というように,元の情報量の対数として知覚されていると考えられている.このことによって,たとえば聴覚であれば,ささやき声より騒音まで,視覚でも,月あなると,1 回の誤りの意味が列によって異なってくる.さらに,A と L は E より認識しやすいといった文字の読みやすさ難易度は考慮されていない.これに対して,小数視力は,視力を最小視角を分で表し,その逆数を小数で表示したものである.すなわちV(視力)=1/A(最小視角)と定義される.たとえば,視角 1¢(分)で視力 1.0,視角 10¢で視力0.1 となる.また,分数視力は,分数を小数に変換すると,そのまま小数視力になる.1909 年の第 11 回国際眼科学会において,視力検査の国際的な標準化が提唱された.そこでは,視力の測定は最小分離域によること,視力の単位として視角 1¢を用いること,視力の表示は最小視角の逆数である小数とすること,および標準視標として Landolt 環を使用することが定められた.わが国では,これに従って小数視力を使用することが一般的である.具体的には明室にて5 mで測定されることが多く,視力表は JIS(日本工業規格)で規格が決められている.図 1 右のような,Landolt 環とひらがなが混在する準標準視力表を使用しているところが多いと思われるが,距離に関しても5 mでなく3 mで測定す図 1 現在欧米およびわが国で一般的に使用される視力表分数視力の Snellen チャート(左)と小数視力の準標準視力表(右).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091473(33)よって測定される視力はばらつきが大きくなる.そのため,視力をエンドポイントとして使用して治療効果のエビデンスを示す場合には,従来の視力検査は問題が多かった.これらを解決すべく登場したのが,logMAR 視力および ETDRS チャートである.ここで MAR は,minimal angle of resolution(最小分離角)の略であり,logMAR は文字通り,最小分離角の対数値である.LogMAR と小数視力の関係は,LogMAR=log(1/小数視力)となる.表 2 に,分数視力,小数視力,logMAR 視力および視角の換算を示す.ちなみに遠見,近見視力を含めた詳細な換算表が,Journal of Cataract & Refractive Surgery に Visual Acuity Conversion Chart として毎号掲載されていて便利である.ETDRS 視力表は,logMAR 視力を用いた視力表の一つである.最初に Bailey と Lovie によって開発され2),その後,1982 年に Ferris らによって改良された3).その後 ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy かりから,日中の砂浜まで,あるいは光と影の強いコントラストのある風景など,広範な範囲の刺激に対応することが可能となっている.実際,聴力検査や視野検査での感度は dB で対数表示されている.視力を小数視力として表示すると,対数に変換した場合,刺激の間隔が等間隔でない(表 1).あるいは,小数視力のままで平均を取ることには問題がある.このような意味で治療効果の統計処理で問題が生じる.さらに,0.1 の文字数が 5 文字ないこと,Landolt 環とひらがなが混在している視力表が使われている.あるいは黄斑疾患やロービジョンなど低視力を測定することが困難であることや,屈折矯正手術など矯正視力が良好である場合に視標の大きさが適当ではないなどの問題がある.加えて,視標の大きさと視標間の距離の比率が一定でないために,字づまりによる影響が列によって異なっていることも問題となる.IILogMAR視力,ETDRSチャート上述した小数視力と分数視力自体の問題点や測定方法での問題点によって,検査間,検者間,あるいは施設に表 1小数視力で2段階の改善小数視力LogMAR 視力0.1 から 0.20.3 から 0.50.8 から 1.00.08 から 0.10.01 から 0.030.70 1.0= 0.30.3 0.5= 0.20 0.1= 0.11.0 1.1= 0.11.5 2= 0.5(3 段階)(2 段階)(1 段階)(1 段階)(5 段階)表 2各種視力の換算Snellen小数LogMAR視角(分)20/20020/10020/4020/2020/1620/100.10.20.51.01.252.0+1.0+0.7+0.30 0.1 0.3105210.750.5図 2ETDRSチャート左から chart R,chart 1,chart 2.———————————————————————- Page 41474あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(34)していく.その文字は Sloan letters とよばれる 10 種類の文字(図 2)が使用され,文字のデザインも統一されている.そして文字認識の難易度(di culty score)を,各段で同じにするべく,文字の組み合わせも定められている.英語圏以外で使用する場合,あるいは小児や高齢者で使用する場合には,視標がアルファベットでは問題がある.このような場合には,特殊なデザインの数字(図 3)や Landolt 環(図 4)が用いられることもある.視力測定は,通常4 mの距離で行うが,各段の縮小Study)が,視力をエンドポイントとする前向き多施設研究で正式に採用したことで有名となり,現在では,エビデンスレベルの高い視力をエンドポイントとする臨床研究や治療効果を視力で判定する治験における視力検査としては,多くの場合 ETDRS チャートを使用することが国際標準となっている.ETDRS チャートでは,白色背景に黒色でアルファベットの視標が使用されている(図 2).各列は 5 文字に固定されている.さらに各列は,対数で等間隔,すなわち logMAR として 0.1 ステップで文字の大きさが縮小図 4さまざまなETDRSチャート左から Light House 社製,Vector Vision 社製,トプコン社製.図 3数字のETDRSチャート左から chart R,chart 1,chart 2.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091475(35)め 1 列の変化で有意になる.このように,視力の結果をどのように表示するかは大変重要であり,表示を列ごとでなく,可読文字数とするだけで,検査間,検者間のばらつきは減少し,視力の統計処理が容易になると考えられる.このほかにも,視力測定を行う部屋の照明,視力測定装置の設置方法,内部照明の蛍光灯の交換方法,視力測定時の質問の方法や,矯正レンズの交換の方法,あるいは屈折値の決定法など細部にわたって標準化することが提案されており5),単に視力表が従来と異なるだけでなく,視力のばらつきに関与する因子をできる限り排除することによって,主観的な視力検査をできるだけ定量的にする努力がなされている.これが,実際多くの臨床研究や治験で,ETDRS チャートを用いて logMAR 視力が測定されている理由である.IIILogMAR視力,ETDRSチャートの限界このように,ETDRS チャートを使用した視力測定法が,現時点では視力をエンドポイントとする臨床研究や治験で最も適していると考えられるが,問題も残っている6).たとえば,現在筆者らの施設で施行している 3 つの治験を比較したものを表 3 に示すが,標準化されているといっても,測定距離,視標,結果の表示方法,検者の資格などが微妙に異なるし,屈折検査でも,読めた文字列によってかざすレンズの度数や実際追加するレンズの度数が異なっている.あるいは,ETDSRS チャート自体で問題とされる,字づまりの影響も解決されていないし,一人の測定に大変時間がかかり,実際の臨床でルーチンに使用できるも率が均一なので同じ視力表を使用して 3.2,2.5,2.0,1.6,1.3,1 mで測定しても,4 mでの logMAR 視力にそれぞれ 0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6 を加えることによって,換算することができる.これによって,短い距離で黄斑疾患やロービジョンなどに対して今までより詳細に低視力の測定が可能となるし,逆に屈折矯正手術など視力が良好な症例における視力測定が必要な際には,検査距離を長くすることにより良好な視力の測定も可能となる.ETDRS チャートは,chart R,chart 1,chart 2 の 3つのテストフェースよりなり(図 2, 3),他覚的屈折値を求めた後に chart R で完全矯正し,その後 chart 1 で右眼の,chart 2 で左眼視力を測定するのが正式である.さらに結果は,読めた列で判断するのではなく,可読文字数から logMAR を計算する.たとえば logMAR 値が+0.1 の列(小数視力で 0.8)まですべて読め,さらにその下列の 2 文字が読めたとすると,0.1 (0.02×2)=0.06 が測定値となる.ETDRS チャートの利点として,視標の大きさの縮小率が対数で等間隔となっている点,低視力,高視力への対応の容易さが強調されているが,上述したごとく列ごと(row-by-row)でなく,可読文字数(letter-by-let-ter)で評価していることも大変重要である.1 文字に0.02 logMAR 値の重みをつけることによって,従来より 5 倍細かい目盛りで視力測定がなされる.視力を列ごとで記録した場合,検査の信頼区間はlogMAR で 0.2,すなわち 2 列とされる.これは,日常われわれが列ごとに視力を記録して,2 段階以上の変化を有意な変化としていることに一致している.しかし視力を可読文字数として記録すると,信頼区間は 0.1 に減少する4).つまり,視力測定のばらつきが半分になるた表 3治験間の測定法の違い治験距離視標結果表示検者認定A4 m数字可読文字 20 以上で 30 を加える20 未満では,1 mで+0.75D 加えて 30 文字読ませ,可読文字に追加する講義のみB4 mアルファベット同上試験ありC2 m数字可読文字に 15 を加える,ただし,誤読 2 文字以上は次の列へ進めない3 文字未満では,1 mで+0.5D 加えて 15 文字読ませ,可読文字に追加する試験あり———————————————————————- Page 61476あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(36)方法をどのようにして開発するかは,診断と治療が急速に発展し,視覚の質が問われている現在,今後の大きな課題であると思われる.文献 1) Miller D:Optics of the normal human eye. In:Ophthal-mology, Eds:Yano M, Duker JS, Mosby, London, 2.7.1-2.7.8, 1999 2) Bailey IL, Lovie JE:New design principles for visual acu-ity letter charts. Am J Optom 53:740-745, 1976 3) Ferris FL, Kasso A, Bresnick GH et al:New visual acu-ity charts for clinical research. Am J Ophthalmol 94:91-96, 1982 4) Bailey IL, Bullimore MA, Raasch TW et al:Clinical grad-ing and the e ects of scaling. Invest Ophthalmol Vis Sci 32:422-432, 1991 5) Ferris FL, Bailey IL:Standardizing the measurement of visual acuity for clinical research studies. Guidelines from the eye care technology forum. Ophthalmology 103:181-182, 1995 6) Williams MA, Moutray TN, Jackson AJ:Uniformity of visual acuity measures in published studies. Invest Oph-thalmol Vis Sci 49:4321-4327, 2008 7) Ehrmann K, Fedtke C, Radi A:Assessment of computer generated vision charts. Cont Lens Anterior Eye 32:133-140, 2009のでは到底ない.また,実際には従来の視力表を用いて小数視力で測定し,それを単に logMAR 換算して表示される研究も多く認められ,これらの結果に及ぼす影響に関して十分な検討はなされていない.測定装置についても,図 4 に示すように,さまざまな装置で logMAR 視力は測定可能である.左の Light House 社 製 の も の が 最 も 標 準 的 で, 中 央 の Vector Vision 社製のものは,フェースを交換するとコントラスト感度が測定可能な装置である.そして右のトプコン社製は液晶モニターを使用したもので,通常の小数視力も測定できるなど,視標の選択肢が大きい.これら測定装置間の結果の差異について,検討されつつある7).おわりに視力検査は,眼科において普遍的な検査であり,感覚としての視機能を評価する最も基本的な検査である.それにもかかわらず,上述したごとく臨床検査として標準化されていない.この自覚的な視力検査をどこまで客観的な検査として発展させるか,あるいは,それ以外の客観的,定量的な