———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009805私が思うことシリーズ⑰(81)子供たちの間でゲーム機が流行っている.覗いてみると,なんでもアイテムとやらを手に入れながら,それを駆使してステージを駆け上がっていくシステムである.すべてが終わると全クリ(全部クリア)となり,卒業となるらしい.なにげなく横目で見ながら,まるで人生だなあと思った.自分の人生を振り返ってみると,「しまった,若いころにゲットしておけばよかった」というアイテムがいくつもある.まずは「座右の銘というべき書物」.私が1年前からどっぷりはまった書物がある.「山岡荘八著・徳川家康全26巻」.最近,お隣の中国で大人気らしい.時代の流行のキャッチが早いのか,時代の行き先を見据える目があるのかと自負していたら,単に「ミーハーの先端なだけ」と家族から指摘された.読みながら思わずラインマーカーを引いてしまうほど,指針になる言葉が出てくる.“がまん”“じっくり”“引かず押さず”追い風が来るのをじっと待つ.なんとまあ,せっかちな私には,ことごとく欠如していたものだ.しかも,その根底には,「自分のため」ではなく,「世の中のため,後世のため」というゆるぎない信念がある.すべて得たものは天からの授かり物という考え方である.こう考えれば,目的に向かって共に平行して進むことはあっても,人との競争なるものもありえない.人生において仲良しの人が増えるだけで,世の中を渡ることが随分ラクになる.たとえ,子育てや介護で大変なことがあっても,「世のため,天から授かった仕事」と考えれば,多少救われる(実際には,そこまで生易しいものではないが…).仕事の上下関係でむずかしいことがあっても,次世代のため,世の中のためと考えると,立腹することなどは,ぐんと減少する.この本に若いころ出会っていたら,今頃私の人生も変わっていたことだろう.後悔しきり!次は「耳を使うこと」.ジャズなどというおしゃれなものは大阪の田舎育ちの私にはとんと縁がなかった.これに最近,はまった.20年ぶりにピアノに向かった.クラシック,ポピュラー,演歌しか入れたことのない耳には何とも不協和音の連続だ.もちろん慣れればこれが結構心地よい.今までの経験から私の耳では「ド・ミ・ソの次はド」がくるはずである.ところが,これが「ド・ミ・ソ・シ」なのである.しかもテンションとやら,ありえない音が混じってくる.一度弾いていただきたい.さらに3拍子,4拍子で手を打つことしか習わなかった耳には8ビート,16ビートなるものが,どうにも忙しい.関西人の私であっても,どうにもせからしい(熊本弁でせわしないこと).ジャズにはアドリブが付き物であるが,アドリブに入った途端,私が生み出す音楽は音,リズムともに70年代歌謡曲に変わってしまう.0910-1810/09/\100/頁/JCLS佐々木香る(KaoruAraki-Sasaki)出田眼科病院大阪市立大学を卒業後,同大学の先輩のすすめで,「大阪大学眼科」に入局.今世紀最高と思われるほど,仲のよい医局で優秀な指導者に恵まれて,のびのび,ぬくぬく育つ.角膜の臨床,研究を通じて同輩,後輩,大学を越えた学兄にも恵まれ,宝となる.家族の転勤に伴い,2003年より九州人となり,土地柄,感染症への興味がさらに高まるとともに,日本の広さを実感している.(佐々木)Dr.ささき人生のアイテム26巻徳川の旦那———————————————————————-Page2806あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009この音感,リズム感なるものは人生半ばをすぎてからでは,到底身につかない.後悔しきり!さらに「習字」.子供のころに,ご多分にもれず数年間習字教室なるものに通った.手本を見ながら書く分にはいいのだが,手本がなく,しかも忙しい外来でばたばた書くとこれが乱れに乱れてくる.周りを見回すと確かに字は性格をあらわしているように思う.のびのびしたでかい字を書く人は,確かに肝っ玉もでかい.小さく緻密な字を書く人は確かに律儀な性格なようである.単純な私は字を見るだけで,「この人はいい人だ!この人は信じていい」と単純に思う.勤務先も,結婚相手も「字」で選んだ節がある.ともすれば“ちまちま”とした字になりがちな私は,最近努めて「でかーい字」を書くように心がけている.体は小さいが,でかーい人になりたいとの気持ちをこめて.子供のころから身につけていればよかった.後悔しきり!それから「顔」.帰宅後,必死で時間と戦いながらごはんをつくっているとき,よく子供から「母ちゃん,怖い顔して料理するねー.笑った方がいいよ」と言われる.いやいや,怒っているわけではなく,必死なのである.指摘されて鏡をみると確かに必死の形相.これはいかん.よく料理に愛情エキスを注ぐなどというが,これではまるでイカリ(怒り)ソースを注いでいるようなものである.そのわりに気遣いのA型なものだから,外では愛想が良いことで通っている.愛想笑いと必死の形相の繰り返しだと,だんだん顔が貧弱になってくる.生まれつきの資質は仕方がないとしても,内面は顔に出る.一段と大きく構えてポーカーフェイスを身につければよかった.後悔しきり!このように考えると,足らずのアイテムが続々と思い当たる.そのうえ,同年代である京都府立医大の外園千恵先生に「私たちも,もう人生折り返したよね.」と指摘された.「えっ,いつの間に?」しっかり,地面を踏みしめて歩んでいる先生と違って,折り返した自覚がまったくなかった.ときどき素人のマラソンレースでもあるように,気持ちよく風を感じて走っているうちに,コースをはずれて折り返しコーンを無視して,まったく違う方向へ向かって走っているようである.世の中には同じように,アイテム不足を感じる同年代の女医さんが多いようで,一旦臨床の前線から離れているものの「もう一度勉強しなおそうと思う」という声を最近,周りでよく耳にする.ところが,残念ながら大学でも,民間病院でも,個人病院でも,どこもかしこも人手不足.若者の教育すらままならないのに,中年女医に教えてあげるなどというゆとりのあるところはほとんどない.もちろん,学会やテキストなど,学ぶための教材はあるのだが,やはり患者を目の前に診ながら経過を追って勉強する,という昔ながらの手法が一番効果的で実際的だと思う.アイテムを取り忘れた本人が悪いといえばそれまでだが,前のステージに戻って得たいときに得られるシステムがあるといいと思う.後悔しきり!振り返ってばかりではいけないので,せめてこれからできるだけ「前向きに楽しく明るくそして正しく」,広い意味で世の中のためになることを目標にアイテムをゲットしながら過ごしていこうと思う.敬愛する先生のお一人である田野保雄教授が遠くへいってしまわれてから,人生はゲームと違ってリセットが効かないことに気づいた.佐々木香る(ささき・かおる)1986年大阪市立大学卒業,大阪大学眼科入局1988年公立学校共済組合近畿中央病院医長1992年東京工業大学生命理工学部研究生1994年大阪大学大学院博士課程卒業1998年多根記念病院眼科2006年出田眼科病院診療部長(82)☆☆☆怒イカリソース