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私が思うこと17.人生のアイテム

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009805私が思うことシリーズ⑰(81)子供たちの間でゲーム機が流行っている.覗いてみると,なんでもアイテムとやらを手に入れながら,それを駆使してステージを駆け上がっていくシステムである.すべてが終わると全クリ(全部クリア)となり,卒業となるらしい.なにげなく横目で見ながら,まるで人生だなあと思った.自分の人生を振り返ってみると,「しまった,若いころにゲットしておけばよかった」というアイテムがいくつもある.まずは「座右の銘というべき書物」.私が1年前からどっぷりはまった書物がある.「山岡荘八著・徳川家康全26巻」.最近,お隣の中国で大人気らしい.時代の流行のキャッチが早いのか,時代の行き先を見据える目があるのかと自負していたら,単に「ミーハーの先端なだけ」と家族から指摘された.読みながら思わずラインマーカーを引いてしまうほど,指針になる言葉が出てくる.“がまん”“じっくり”“引かず押さず”追い風が来るのをじっと待つ.なんとまあ,せっかちな私には,ことごとく欠如していたものだ.しかも,その根底には,「自分のため」ではなく,「世の中のため,後世のため」というゆるぎない信念がある.すべて得たものは天からの授かり物という考え方である.こう考えれば,目的に向かって共に平行して進むことはあっても,人との競争なるものもありえない.人生において仲良しの人が増えるだけで,世の中を渡ることが随分ラクになる.たとえ,子育てや介護で大変なことがあっても,「世のため,天から授かった仕事」と考えれば,多少救われる(実際には,そこまで生易しいものではないが…).仕事の上下関係でむずかしいことがあっても,次世代のため,世の中のためと考えると,立腹することなどは,ぐんと減少する.この本に若いころ出会っていたら,今頃私の人生も変わっていたことだろう.後悔しきり!次は「耳を使うこと」.ジャズなどというおしゃれなものは大阪の田舎育ちの私にはとんと縁がなかった.これに最近,はまった.20年ぶりにピアノに向かった.クラシック,ポピュラー,演歌しか入れたことのない耳には何とも不協和音の連続だ.もちろん慣れればこれが結構心地よい.今までの経験から私の耳では「ド・ミ・ソの次はド」がくるはずである.ところが,これが「ド・ミ・ソ・シ」なのである.しかもテンションとやら,ありえない音が混じってくる.一度弾いていただきたい.さらに3拍子,4拍子で手を打つことしか習わなかった耳には8ビート,16ビートなるものが,どうにも忙しい.関西人の私であっても,どうにもせからしい(熊本弁でせわしないこと).ジャズにはアドリブが付き物であるが,アドリブに入った途端,私が生み出す音楽は音,リズムともに70年代歌謡曲に変わってしまう.0910-1810/09/\100/頁/JCLS佐々木香る(KaoruAraki-Sasaki)出田眼科病院大阪市立大学を卒業後,同大学の先輩のすすめで,「大阪大学眼科」に入局.今世紀最高と思われるほど,仲のよい医局で優秀な指導者に恵まれて,のびのび,ぬくぬく育つ.角膜の臨床,研究を通じて同輩,後輩,大学を越えた学兄にも恵まれ,宝となる.家族の転勤に伴い,2003年より九州人となり,土地柄,感染症への興味がさらに高まるとともに,日本の広さを実感している.(佐々木)Dr.ささき人生のアイテム26巻徳川の旦那———————————————————————-Page2806あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009この音感,リズム感なるものは人生半ばをすぎてからでは,到底身につかない.後悔しきり!さらに「習字」.子供のころに,ご多分にもれず数年間習字教室なるものに通った.手本を見ながら書く分にはいいのだが,手本がなく,しかも忙しい外来でばたばた書くとこれが乱れに乱れてくる.周りを見回すと確かに字は性格をあらわしているように思う.のびのびしたでかい字を書く人は,確かに肝っ玉もでかい.小さく緻密な字を書く人は確かに律儀な性格なようである.単純な私は字を見るだけで,「この人はいい人だ!この人は信じていい」と単純に思う.勤務先も,結婚相手も「字」で選んだ節がある.ともすれば“ちまちま”とした字になりがちな私は,最近努めて「でかーい字」を書くように心がけている.体は小さいが,でかーい人になりたいとの気持ちをこめて.子供のころから身につけていればよかった.後悔しきり!それから「顔」.帰宅後,必死で時間と戦いながらごはんをつくっているとき,よく子供から「母ちゃん,怖い顔して料理するねー.笑った方がいいよ」と言われる.いやいや,怒っているわけではなく,必死なのである.指摘されて鏡をみると確かに必死の形相.これはいかん.よく料理に愛情エキスを注ぐなどというが,これではまるでイカリ(怒り)ソースを注いでいるようなものである.そのわりに気遣いのA型なものだから,外では愛想が良いことで通っている.愛想笑いと必死の形相の繰り返しだと,だんだん顔が貧弱になってくる.生まれつきの資質は仕方がないとしても,内面は顔に出る.一段と大きく構えてポーカーフェイスを身につければよかった.後悔しきり!このように考えると,足らずのアイテムが続々と思い当たる.そのうえ,同年代である京都府立医大の外園千恵先生に「私たちも,もう人生折り返したよね.」と指摘された.「えっ,いつの間に?」しっかり,地面を踏みしめて歩んでいる先生と違って,折り返した自覚がまったくなかった.ときどき素人のマラソンレースでもあるように,気持ちよく風を感じて走っているうちに,コースをはずれて折り返しコーンを無視して,まったく違う方向へ向かって走っているようである.世の中には同じように,アイテム不足を感じる同年代の女医さんが多いようで,一旦臨床の前線から離れているものの「もう一度勉強しなおそうと思う」という声を最近,周りでよく耳にする.ところが,残念ながら大学でも,民間病院でも,個人病院でも,どこもかしこも人手不足.若者の教育すらままならないのに,中年女医に教えてあげるなどというゆとりのあるところはほとんどない.もちろん,学会やテキストなど,学ぶための教材はあるのだが,やはり患者を目の前に診ながら経過を追って勉強する,という昔ながらの手法が一番効果的で実際的だと思う.アイテムを取り忘れた本人が悪いといえばそれまでだが,前のステージに戻って得たいときに得られるシステムがあるといいと思う.後悔しきり!振り返ってばかりではいけないので,せめてこれからできるだけ「前向きに楽しく明るくそして正しく」,広い意味で世の中のためになることを目標にアイテムをゲットしながら過ごしていこうと思う.敬愛する先生のお一人である田野保雄教授が遠くへいってしまわれてから,人生はゲームと違ってリセットが効かないことに気づいた.佐々木香る(ささき・かおる)1986年大阪市立大学卒業,大阪大学眼科入局1988年公立学校共済組合近畿中央病院医長1992年東京工業大学生命理工学部研究生1994年大阪大学大学院博士課程卒業1998年多根記念病院眼科2006年出田眼科病院診療部長(82)☆☆☆怒イカリソース

インターネットの眼科応用5.インターネット手術見学

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098030910-1810/09/\100/頁/JCLSインターネットと手術動画私が医学部を卒業した平成10年当時,手術のライブ映像を医局や病棟のテレビで見ることができました.その通信技術に驚いたものですが,10年経った今日,手術映像はインターネットを使えば世界同時中継すら可能になりました.インターネットの通信容量が格段に上昇したため,テレビ番組や高画質の動画などの大容量の情報をパソコンで見ることができます.まさに情報革命といえます.ただ,革命のスピードと相対する力が,人間の意識であり倫理感です.最先端の技術を開拓する人間には,常にバランス感覚と倫理感を求められますが,遺伝子工学や再生医療といったライフサイエンスの領域だけでなく,インターネットの世界にも求められます.手術という医療行為は,ショーではなく患者の個人情報に深く関わりますので,ネット放送は技術的には可能であっても,安易に行わないよう医療人に倫理感を問いかけます.厚生労働省が平成16年12月24日に公布した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」1)によると,「医療機関等は,患者の傷病の回復等を目的として,(中略)必要に応じて他の医療機関と連携を図ったり当該傷病を専門とする他の医療機関の医師等に指導,助言等を求めたりすることが日常的に行われる.」とあります.医療機関が,診療結果の向上のために個人情報を持ち出すことは「本人の同意が得られていると考えられる場合」として認められていますが,通信手段については記載がありません.また,同ガイドラインには,「学問の自由の保障への配慮から,大学その他の学術研究を目的とする機関等が,学術研究を目的として個人情報を取り扱う場合においては,法による義務等の規定は適応しない」とあります.つまり,純粋な「学術目的」のためなら,個人情報保護法の適用外となるため,文字通りに解釈するとインターネットに手術動画などの医療情報を制限なしに公開して良いことになります.ただし,刑法134条1項に「医師(略)が正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する.」とあります.インターネットという新しいメディアを医療で扱うには,われわれ自身がインターネットの特性を理解し,患者の個人情報への配慮を今まで以上に強くもって利用しないといけません.21世紀のビジネスマンに求められるのは「会計力と英語力とITリテラシー」と言われます.なぜ,ITリテラシーなのかというと,良い書類を作るためではありません.インターネットを使えば,検索したい情報に瞬時に到達することができるからです.多忙な臨床医は,ビジネスの最先端に生きる方たちと同等の情報へのアプローチをしないといけません.時間を有効に使うためにインターネットはきわめて有効な手段です.ある手術を詳しく見たい,習得したい場合どうするか.その手術をしている施設を見学する,主催される技術講習会に参加する.が従来の方法です.当然ながら時間と労力を必要とします.いずれ,インターネットで検索して手術などの医療情報が自由に得られる時代が必ず訪れます.文献検索が容易になったように,手術動画検索はもっと効率化されるでしょう.モニターに映る情報以外に,患者の動線,スタッフの動線,モノの配置,モノの流れも貴重な手術情報です.これらの総合的な手術情報がインターネット上に掲載されれば,手術見学はきわめて効率化されます.インターネットの医療応用は時代の流れです.今後,医療コンテンツがインターネット上に整備されていくでしょう.ただし,先述したように治療行為・手術に関する医療動画は,医療者の倫理を強く求めます.各種学会(79)インターネットの眼科応用第5章インターネット手術見学武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑤———————————————————————-Page2804あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009のサイト内や,MVC-online2)のような医療者限定のサイトで行われるべきです.医療の動画がインターネット上に集まる世界では,提供する側には倫理感が求められ,閲覧する側にはITリテラシーが求められます.MVConlineでできること②(インターネット手術見学)先月号より,実例を交えて紹介しておりますが,MVC-onlineでは参加する医療者がエリアを越えて意見交換しています.学会場や手術室でしか見られなかった手術動画を自宅でも閲覧できます.ディスカッションに参加しなくても,その意見交換を見聞きするだけで自分の引き出しが増えていきます.MVC-onlineで投稿された実際の手術動画を簡単に紹介します.Case1:「白内障手術」大津日赤病院の栗山晶治先生から,白内障手術の動画をご投稿いただきました(図1)3).この症例が,MVC-onlineに投稿された初めての手術動画です.前の徹照やCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)のフラップが確実に見える画質の高さを維持したまま,メンバーであれば世界中のどこからでもインターネット上で閲覧できます.Case2:「春季カタルに対する乳頭切除術」国際医療福祉大学三田病院の藤島浩先生より,春季カタルの難治例に対する手術症例をご提示いただきました(図2)4).この症例では,術中に低濃度のマイトマイシン(80)Cを併用しています.手術の現場をインターネットで表現できる時代になりました.医師限定のSNSサイト,MVC-onlineでは,われわれ医療者の知識・ノウハウをインターネット上で共有しています.この試みは,インターネットの眼科応用の可能性を示しており,WEB2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」.厚生労働省,平成16年12月24日医政発12240012)http://mvc-online.jp3)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=76944)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=8330図2結膜乳頭切除術の手術動画図1白内障手術の手術動画

硝子体手術のワンポイントアドバイス73.内部排液のための意図的裂孔作製時の注意点(初級編)

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098010910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに網膜離に対する硝子体手術では,気圧伸展網膜復位術を施行する際に,中間周辺部に意図的裂孔を作製し,同部位から内部排液を行うことがある.この場合,意図的裂孔の作製部位としては,黄斑部からある程度距離をおき,網膜血管を避けるのが原則である.通常は,先端の鋭利な眼内ジアテルミーで,小さな裂孔を作製し,気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲に眼内光凝固を施行する.図的裂孔の作製部位と視野網膜離が黄斑部に及んでいる症例では,意図的裂孔をできるだけ後極に作製したほうが,網膜下液を吸引しやすいが,術中に眼球を適宜傾けることで,中間周辺部から後極部の排液は十分に可能である.初心者では往々にして視神経乳頭や血管アーケード近傍に意図的裂孔を作製してしまうことがあるが,この場合,視神経乳頭から周囲に伸びる網膜神経線維の走行をよく理解しておく必要がある.同じ大きさの瘢痕病巣でも視神経乳頭に近いほど,障害される神経線維束の数は当然多くなるので,視神経乳頭近傍に意図的裂孔を作製すると,術後に周辺視野狭窄をきたしやすくなる(図1a,b,c).意図的裂孔は内部排液が可能な範囲でできるだけ小さく,しかもその周囲に光凝固を施行する際には,網膜下液を確実に吸引したうえで過剰凝固にならないよう注意する.図的裂孔周囲に生じる再増殖増殖硝子体網膜症や増殖糖尿病網膜症などの眼内増殖疾患の硝子体手術後には,眼内の増殖機転が亢進しているため,往々にして意図的裂孔周囲に再増殖が生じる.また,意図的裂孔周囲の血管を損傷して出血が生じた後にも再増殖が生じやすい.このような再増殖が黄斑部に影響を与えて変視症や視力低下の原因となることがあるので,黄斑部に影響が生じにくい部位(たとえば鼻側)に意図的裂孔を作製する必要がある.(77)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載73内部排液のための意図的裂孔作製時の注意点(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科黄斑部神経線維障害範囲乳頭意図的裂孔水平縫線図1意図的裂孔による視野狭窄例増殖硝子体網膜症に対する硝子体手術後で,周辺部の過剰な冷凍凝固や輪状締結による要素もあるが,上方の血管アーケード周囲の意図的裂孔に対する過剰光凝固が下鼻側視野狭窄の一因になっていると考えられる.a:術後の眼底写真,b:術後Goldmann動的視野検査結果,c:神経線維の走行と視野障害の関係.acb

眼科医のための先端医療102.Small-interfering RNAを眼内に投与してもよいのか?

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097970910-1810/09/\100/頁/JCLSSmall-interferingRNA(siRNA)について今の生のしのをに抑制として干渉望てい干渉についてにしと干渉と細胞内にいてのメ()をにしで)図1に概略を示しますが,二本鎖RNA(double-strandedRNA:dsRNA)は細胞内に入ると,DicerというRNA分解酵素により2123ヌクレオチドの長さのdsRNAに分解されます(①).これがsiRNAで,RNA干渉のなかで重要な役割を果たします.細胞内でsiRNAは幾つかの蛋白質分子と結合してRNA-inducedsilencingcomplex(RISC)を形成した後(②),そのRISCがsiRNAと相補的な配列をもつmRNAを認識し(③),結合し,分解します(④).RNA干渉の利点はRISCが標的遺伝子の分解のためにくり返し再利用されることです(⑤).標的遺伝子に対して特異的配列をもつsiRNAを作製することは可能ですから,従来の中和抗体などの薬物は標的分子の作用を1対1の割合で阻害するところを,siRNAの場合は理論上,たとえば1対10といった割合で発現自体を阻害しますので,従来の薬物よりも効果的と思われます.そのため,さまざまな領域で種々の難治性疾患の標的分子の発現を選択的に阻害する治療手段として臨床応用が期待されています.NakedsiRNAと脈絡膜血管新生抑制眼でも脈絡膜新生血管をのにし血管新生にを血管内()をとしのもの()()◆シリーズ第102回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊武田篤信(九州大学大学院医学研究院眼科学)Small-interferingRNAを眼内に投与してもよいのか?AAAsiRNADicerPO4PO4-OHOH-PO4PO4PO4図1RNA干渉のメカニズム(文献1より改変)———————————————————————-Page2798あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009を硝子体中に投与する治験が行われており,合併症もなく治療効果があると報告されました.ところが,nakedsiRNAを直接生体内に投与しても組織中の細胞内には取り込まれず,RNA干渉が作動しないことが知られています2).ですから,この治験はメカニズムが不明ですが,ドラッグデリバリーシステムを利用せずにRNA干渉が利用できる例外例として報告されてきました3).これに対し,筆者らのグループは実験的脈絡膜血管新生モデルを用いた検討により,nakedsiRNAによる血管新生抑制効果はRNA干渉によるものではなく,脈絡膜血管内皮細胞表面に発現している,dsRNAの配列とは無関係にdsRNAを認識する受容体Toll-likereceptor3(TLR3)を介した免疫反応からの抑制によるものであることを示しました4).ある長さ以上のdsRNAであれば,配列とは無関係に脈絡膜血管新生を抑制する可能性があります.siRNAの細胞内導入と脈絡膜血管新生抑制のによをで膜細胞にしていの膜のとし)で投与によ新生血管抑制でとして膜生かもしん眼内にいてものとを導に干渉によをにを細胞内に導入とを細胞内に導入としてをといをしをてい)でを(図1:siRNAの赤い鎖)の3¢末端に共役結合させたマウスVEGFA特異的siRNAを作製し,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルでこのsiRNAの効果を検討しました.このsiRNAの硝子体中への投与により野生型マウスでもTLR3欠損マウスでもVEGFAの発現がmRNAレベルで抑制され,脈絡膜血管新生が抑制されました4).このsiRNAは細胞内に移行しており,TLR3とは無関係に,RNA干渉により血管新生を抑制できたと考えています.今後の展望のよにを望ていによ眼ののしいにかにてていの眼内にを投与とでしも膜生とんの投与にかもしんをいて干渉といをにを細胞内に導入と今いよにをしをとによ眼にしてよかつと文献1)RanaM:Illuminatingthesilence:understandingthestructureandfunctionofsmallRNAs.NatureRevMolCellBiol8:23-36,20072)CoreyDR:Chemicalmodication:thekeytoclinicalapplicationofRNAinterferenceJClinInvest117:3615-3622,20073)deFougerollesA,VornlocherHP,MaraganoreJetal:Interferingwithdisease:aprogressreportonsiRNA-basedtherapeutics.NatureRevDrugDiscov6:443-453,20074)KleinmanME,YamadaK,TakedaAetal:Sequence-andtarget-independentangiogenesissuppressionbysiRNAviaTLR3.Nature452:591-597,20085)YangZ,StrattonC,FrancisPJetal:Toll-likereceptor3andgeographicatrophyinage-relatedmaculardegenera-tion.NEngJMed359:1456-1463,2008(74)Small-interferingRNAを眼内に投与してもよいのか?」を読んで今武田篤信生のの眼についてのでとてい脈絡膜血管新生ののをしかしていしいのとして血管内()にでもかにでよにしのいでで脈絡膜血管新生のに与していとかにてしにもと今後眼のにいてをしでてのでてのでのでで———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009799(75)ません.臨床的にはVEGF以外にも多くの因子が関与する可能性があること,VEGFの制御についてもVEGFが発現されたあとに叩く抗VEGF薬による治療で本当に十分かという疑問などがでてきます.いろいろな作用機序をもつ治療薬候補が臨床の現場にもたらされることにより治療の対象となる重症度,病期が広がる可能性があります.また,脈絡膜血管新生の動物モデルがヒトの疾患とすべてが同じということは考えにくいので,十分な事前研究のあとに臨床治験を行うことでわれわれの脈絡膜血管新生に分子病態についての理解が深まるという利点もあります.今後,さまざまな角度から研究が進行し,研究の成果が臨床に応用されることにより,治療の進歩と病態の研究があたかも車の両輪のようにあいまって眼科治療の進歩がもたらされると考えます.眼疾患はいろいろな治療薬候補のアクセスがしやすく,その効果の検証もこれまでの眼科学の進歩により十分に高いレベルで行うことができるようになってきております.眼科から有効で安全な新しい治療薬が提示できると考えます.今回の武田先生の解説はまさに眼科学の臨床と基礎の研究レベルがきわめて高く,臨床医学をリードできる可能性を示すものとしてきわめて重要と考えます.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ189.抗VEGF抗体による血管新生緑内障の治療

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097950910-1810/09/\100/頁/JCLS使用方法Bevacizumabの使用は適応外使用であり,治療を行うには事前に各所属施設の倫理委員会などによる承認を受けること,患者に効果,副作用および適応外使用であることを伝えて文書で同意を得ることが不可欠である.実際の投与手順は,術野の消毒,点眼麻酔の後に30ゲージ針を用いて硝子体内投与は毛様体扁平部より,前房内投与は角膜輪部より,結膜下投与は直接結膜を穿刺して投与する.投与量は1.25mg(0.05ml)が一般的であるが,筆者の施設では硝子体内投与については低用量(0.25mg)での効果を検討中である.投与後,後眼部への合併症の有無をチェックし,感染予防を目的とした抗生物質の投与を併用する.ただ,bevacizumabの効果持続期間は1~3カ月であり,新生血管が消失した後も最低6カ月間は再発の有無をチェックしている.本方法の良い点(表1)血管新生緑内障に対する抗VEGF抗体の効果として新しい治療と検査シリーズ(71)バックグラウンド血管新生緑内障は,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などによる眼内虚血に起因して発症する難治性の緑内障であり,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管内皮細胞に作用することで新生血管が形成され房水流出路を閉塞するために眼圧上昇をきたす.眼圧が上昇すると,それに伴って眼内虚血が増悪,新生血管が増加し,さらに眼圧上昇につながるという悪循環におちいると加速度的に病状が増悪する.治療として,眼内虚血の改善に対しては網膜光凝固術や硝子体手術,眼圧上昇に対しては薬物治療および線維柱帯切除術が施行されているが,新生血管自体に対する治療方法はなかった.それに対して,新生血管に直接作用する抗VEGF抗体の応用が,血管新生緑内障の新しい治療として注目されている(図1).新しい治療法現在,国内で眼科領域において認可されている抗VEGF抗体には,ranibizumab(LucentisR)とpegap-tanib(MacugenR)があるが,適応疾患は滲出型加齢黄斑変性に限られており,血管新生緑内障は適応疾患になっていない.そのため,血管新生緑内障に対しては,再発性大腸癌に対して認可されているが,眼科領域では適応外使用になるbevacizumab(AvastinR)が投与されている.一般に行われているbevacizumabの投与は硝子体内投与1.25mg(0.05ml)であり,血管新生緑内障に対する効果も多数報告されているが,投与方法に関して隅角・虹彩への効果を考慮した前房内投与,投与手技による合併症が少ない結膜下投与が,また,用量に関して正常組織に対する合併症を予防することを目的とした低用量投与など,本症により適した治療法をめざした模索が試みられている.189.抗VEGF抗体による血管新生緑内障の治療プレゼンテーション:馬場哲也香川大学医学部眼科学講座コメント:東出朋巳金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)図1血管新生緑内障の病態と抗VEGF抗体の作用部位抗VEGF抗体は,新生血管に直接作用してVEGF活性を抑制するとともに,線維柱帯切除術による出血や術後炎症を抑制する.———————————————————————-Page2796あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009は,まず虹彩・隅角新生血管の抑制があげられ(図2),特筆すべきは効果が速やかなことである.投与翌日には効果が発現し,数日中に新生血管は消退する.また,開放隅角期の症例では投与により眼圧が下降し,緑内障手術の中止,延期ができることもある.さらに,速やかに血管新生緑内障の活動性を低下させることで,網膜光凝固,硝子体手術,緑内障手術による永続的な効果が発現するまでの期間に,閉塞隅角期への進行を遅延させる緊急避難的な効果もある.線維柱帯切除術に対する効果としては,術中・術後出血が減少したことで術後早期の合併症も減少した.それに伴い,患者にとっては術後合併症や術後処置が少なくなったことで精神的・肉体的苦痛が軽減されたこと,われわれ眼科医にとっては眼圧コントロールを達成するまでの労力が軽減されたことが福音となっている.また,線維柱帯切除術の術後長期成績向上についても期待されている.文1)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbeva-cizumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol142:155-158,20062)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intra-vitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasein41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,20083)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695-1705,20064)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:Theinternationalintravitrealbevacizumabsafety:usingtheinteresttoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,2006(72)表1期待される血管新生緑内障に対する抗VEGF抗体の効果1.虹彩・隅角新生血管の抑制2.眼圧下降3.閉塞隅角期への進行抑制4.線維柱帯切除術の術中・術後合併症減少5.線維柱帯切除術の術後成績向上の可能性図2Bevacizumab投与前後の前眼部写真a:投与前には瞳孔領に著明な新生血管を認める.b:投与7日目には新生血管はほぼ消失している.ab本方法に対するコメント☆☆☆

眼感染アレルギー:周辺部角膜ヘルペスMarginal herpes

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097930910-1810/09/\100/頁/JCLS単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)による角膜ヘルペスは,角膜のどの部位に生じてもよさそうなものだが,通常は角膜の中心部や傍中心部に発症することが多い.特にウイルスの増殖が主体となる上皮型ヘルペスはほとんどがそれらの部位に発症する.これはウイルス増殖を抑制する免疫系から最も遠い部位,つまりウイルスにとってはより増殖しやすい部位に生じると考えると納得がいく.しかし,周辺部に角膜ヘルペスを発症することもあり,その診断はかなりむずかしい.このようなmarginalherpesはまれと考えられているが,実際にはヘルペスと診断されぬままに免疫によってウイルス増殖が抑え込まれて瘢痕を残して治癒している例が結構あるのではないかと思われる.いずれにしても文献的に詳細に述べられたものがあまりなく,本稿では,筆者の経験に基づいてmarginalherpesの特徴についてまとめてみたい.例〔症例1〕77歳,男性.主訴:左眼の充血と掻痒感.現病歴と経過:左眼翼状片の先進部に浸潤と上皮欠損を認め,ステロイド治療に反応せず,次第に欠損部の辺縁が偽樹枝状を呈してきた(図1).そこで角膜擦過物をreal-timePCR(polymerasechainreaction)によるHSV-DNA検索に供したところ,7.7×105コピーのHSV-DNAが検出された.アシクロビル眼軟膏投与を行ったところ,すみやかに上皮欠損部は縮小し,軽快した.〔症例2〕77歳,男性.主訴:左眼の異物感.現病歴と経過:2週前に木の枝で左眼を受傷したが,その後異物感が継続するため来院した.角膜下方に不整形の混濁を認め(図2),フルオレセインで染色すると樹枝状に染色された(図3).フルオレセインできれいな縁どりを認めることから角膜ヘルペスが疑われたが,混濁が強い点,外傷の既往がある点は非定型的であり,確認のため角膜擦過物を採取してreal-timePCRを行ったところ5.1×107コピーのHSV-DNAが検出された.アシクロビル眼軟膏の投与にてすみやかに軽快した.Marginalherpesの特徴角膜周辺部は前述したように,中心部よりも免疫力が強いためにヘルペスが発症したときに定型的な形をとらず,非定型的な形をとることが多く,症例1のように偽樹枝状を呈することもある.あるいは症例2のように強い免疫力の影響で当初から強い角膜浸潤を伴ってくることも多い.最近,Gabisonらは輪部からはじまって半島状に伸びるように角膜中心へ向かって進展していく角膜上皮炎をarchipelagokeratitisと名づけ,上皮型角膜ヘルペスの一つの病型としてまとめている1)が,これは(69)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑱監修=木下茂大橋裕一18.周辺部角膜ヘルペスMarginalherpes井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学単純ヘルペスウイルスによる角膜ヘルペスは通常中心部から傍中心部に発症するが,たまに周辺部に生じることもあり,その場合は非定型的な所見・経過をとるとともに強い混濁を生じやすく,診断がむずかしい.診断には臨床所見のみならず,real-timePCR(polymerasechainreacton)などのlaboratorytestを駆使してウイルスの存在を確かめる必要がある.図1翼状片の先進部に生じたmarginalherpes翼状片の先進部に沿ってフルオレセインで染色され,下方に偽樹枝状の部分を認める.———————————————————————-Page2794あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009marginalherpesとして発症したものが診断がつかずに経過をみているうちに免疫力の弱い中心へ向かって進展したものではないかと思われる.Marginalherpesの診断Marginalherpesの細隙灯顕微鏡所見のみによる診断はむずかしく,また,角膜知覚低下は上皮型角膜ヘルペスの特徴とされているが,周辺部の発症例,特に初発ではあまり低下しないために,診断上は役に立たないことが多い.あるいはヘルペスの既往があれば情報として重要であるが,周辺部のヘルペスはしばしば初発の形をとる.このように臨床所見や問診だけで診断することは困難なことが多く,ウイルス分離や蛍光抗体法,PCRによって診断を確かめることが必要になってくる.PCRの場合注意しなければならないのは,HSVは人体に潜伏感染しており,病変をつくらないときでもウイルスが少量検出されるsheddingという現象がある2)ので,たとえPCRで検出されてもそのまま病因とは断定できない.Real-timePCRにて量的な評価を行い,ある程度の量(目安として104コピー以上のHSV-DNA)が検出されることを確認する必要がある3).Marginalherpesと鑑別すべき疾患鑑別すべき疾患として,つぎのようなものを考える必要がある.①カタル性角膜潰瘍(浸潤):Marginalherpesは輪部に沿って広がるときに決して輪部に平行に伸びることはないが,カタル性角膜浸潤は透明帯(lucidinterval)を保ちながら輪部に平行に広がる点が特徴である.②周辺部細菌性,真菌性角膜炎:周辺部に感染した(70)場合,混濁は好中球浸潤が主体となるため,非常に濃い混濁となり,加えて,炎症所見が強い(前房細胞・角膜後面沈着物・Descemet膜皺襞).③Mooren潰瘍:周辺部に透明帯なしに生じる下掘れ状の特徴的な潰瘍を呈する.④関節リウマチに伴う周辺部角膜潰瘍:Mooren潰瘍に似るが前房反応が強いことが多い.関節症状や血中のリウマチ因子陽性を伴う.Marginalherpesの治療アシクロビル眼軟膏投与(5回/日)を行うことになる.強い角膜混濁が当初からあったり,上皮型の消退後に角膜混濁が強くなることがあるが,瞳孔領が障害されていないので,多少の混濁は生じてもよい.ただし,炎症が遷延して上皮欠損が継続する症例や血管侵入を伴ってきた症例では軽いステロイド(フルオロメトロン0.1%など)を短期で使用する.Evidenceはないが経験的には,周辺部ヘルペスで混濁がかなり残った例では免疫によってウイルスが制御された状態となるため,かえって再発が生じにくいと思われる.文献1)GabisonEE,AlfonsiN,DoanSetal:Archipelagokeratitis.AclinicalvariationofrecurrentherpetickeratitisOph-thalmology114:2000-2005,20072)KaufmanHE,AzcuyAM,VarnellEDetal:HSV-1DNAintearsandsalivaofnormaladults.InvestOphthalmolVisSci46:241-247,20053)Kakimaru-HasegawaA,KuoC-H,KomatsuNetal:Clini-calapplicationofreal-timepolymerasechainreactionfordiagnosisofherpeticdiseasesoftheanteriorsegmentoftheeye.JpnJOphthalmol52:24-31,2008図2下方角膜周辺部に生じたmarginalherpes上皮型であるにもかかわらず強い角膜浸潤を伴っている.図3図2の症例をフルオレセイン染色したもの角膜下方に樹枝状の病変を認め,樹枝状角膜炎に特徴的な縁どりが認められる.

緑内障:網膜神経節細胞の可視化モデル

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097910910-1810/09/\100/頁/JCLS眼は体内で唯一生きたままの細胞を見ることができる臓器であり,網膜というおもに神経細胞とグリア系細胞で構成された組織を対象にすれば,表面に網膜神経節細胞(RGC)が無数に並んでいるのである.緑内障性疾患に限らず,どんな網膜障害疾患でもRGCを細胞レベルで観察できればこんなに望ましいことはない.最近の画像解析の進歩によりヒトでも高解像度のspec-traldomainOCT(光干渉断層計)ではRGCを可視化することが現実のものとなりつつある.この方法は大動物では可能になるであろうが,小動物ではいまだ光学系と解像度の問題で容易ではない.しかし,基礎実験には欠かせない小動物モデルでもRGCの可視化は重要なテーマである.もちろん,以前より実験動物を用いてRGC障害モデルにおける細胞死を可視化して評価する方法が試みられており,最も汎用されているのは脳内上丘付近に細胞に取り込まれる色素を注入する逆行性染色法である.細胞内に取り込まれた色素は顆粒状であり軸索を含めた細胞質に存在するので,それを組織切片にして蛍光顕微鏡で確認するのが通常の方法であるが,ラットでは走査レーザー検眼鏡(SLO)を用いて確認することができるようになった1).このようにあらかじめRGCを染色しておく方法では生き残った細胞を評価することになるが,逆に死にゆく細胞を評価する方法もある.細胞死の一形態であるアポトーシスの際に細胞質表面に表れるマーカーであるphosphatidylethanolamineを染色する蛍光色素がついたAnnexinVを硝子体中に注入する方法である2).ほかにも過去にはウイルスベクターによる遺伝子導入も試みられている.これら細胞死を示すマーカー分子を標識する方法,遺伝子導入,前者の逆行性染色法も,欠点としては侵襲的操作を必要とすることと,不均一な発現あるいは染色になる可能性があることがあげられる.また,逆行性染色法の色素は分解されにくいため,細胞死の後も残り貪食されてミクログリアなどに取り込まれるため,RGCの検出力に誤差を生じる.これらの欠点を克服する可能性がある方法は,遺伝子改変マウスで,RGC特異的に標識蛋白が発現するように組み込まれた動物を用いた解析である3,4).筆者らはB6.Cg-Tg(Thy1-CFP)23Jrs/Jという系統を用いているが,このマウスでは組織学的にはRGCにほとんど蛍光蛋白CFPが発現することが確認済みであり,逆行性染色の色素と異なり蛋白質で細胞質に均一に存在するため,細胞体全体が捉えられ計数しやすいうえに,細胞死に至ると蛋白合成も止まるため,死後も蛍光蛋白が分解されて残らないことが利点である(図1).(67)●連載108緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也108.網膜神経節細胞の可視化モデル相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学蛍光蛋白を網膜神経節細胞(RGC)特異的に発現するマウスを対象に眼底カメラによる写真撮影でinvivoで経時的に単一の細胞減少を追うことができるようになった.無侵襲に経時的に単一個体でのRGC死を観察できることは,RGC障害の機序,パターン,治療法の確立に役立つ有用な方法である.acb図1B6.CgTg(Thy1CFP)23Jrs/Jマウス(CFPマウス)におけるCFP発現とDiIによる逆行性染色蛍光顕微鏡を用いてa:CFP,b:DiIそれぞれの波長で撮影した画像.c:その合成画像.CFPは細胞体全体と軸索に均一に分布しているのに対し,DiIは顆粒として細胞体内に蓄積している点に注目.———————————————————————-Page2792あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009さて,いくらRGCが標識されてもそれを捉える眼,すなわちカメラの撮影技術が重要である.しかも,invivoで経時的に捉える必要がある.SLOも解像度がよいが,本来は動画用であり,画角が小さいのが難点である5,6).筆者らは通常の眼底カメラに高感度CCDカメラを装して高分解能の広画角画像を得ている3).本法によりRGC障害モデルの経時的な細胞減少を追うことができ,単一細胞レベルでの細胞死を観察することが可能となった(図2).無侵襲に経時的に単一個体でのRGC死を観察できることは,将来的にはヒトでも可能となるだろうが,当面はRGC障害の機序,治療法の確立に役立つ方法として有用であると考える.文献1)HigashideT,KawaguchiI,OhkuboSetal:Invivoimag-(68)ingandcountingofratretinalganglioncellsusingascan-ninglaserophthalmoscope.InvestOphthalmolVisSci47:2943-2950,20062)CordeiroMF,GuoL,LuongVetal:Real-timeimagingofsinglenervecellapoptosisinretinalneurodegeneration.ProcNatlAcadSciUSA101:13352-13356,20043)MurataH,AiharaM,ChenYNetal:Imagingmousereti-nalganglioncellsandtheirlossinvivobyafunduscam-erainthenormalandischemia-reperfusionmodel.InvestOphthalmolVisSci49:5546-5552,20084)WalshMK,QuigleyHA:Invivotime-lapseuorescenceimagingofindividualretinalganglioncellsinmice.JNeu-rosciMethods169:214-221,20085)LeungCK,LindseyJD,CrowstonJGetal:Invivoimag-ingofmurineretinalganglioncells.JNeurosciMethods168:475-478,20086)LeungCK,LindseyJD,CrowstonJGetal:Longitudinalproleofretinalganglioncelldamageafteropticnervecrushwithblue-lightconfocalscanninglaserophthalmo-scopy.InvestOphthalmolVisSci49:4898-4902,2008☆☆☆図2CFPマウスを用いた虚血再灌流モデルにおけるRGC障害術前および1週から4週までのCFP発現を追った画像とRGC生存細胞のグラフ.最初の1週間で7割程度の細胞が障害されるものの,その後生き残っていることがわかる.術前1週2週3週4週1007550250012期間(週)34RGC(%):対照:虚血再灌流モデル

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズToric ICL 邃「 の乱視矯正効果

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097890910-1810/09/\100/頁/JCLSToricICLTM(STAARRSurgical社,米国)は乱視矯正効果をもった後房固定の有水晶体眼内レンズである(図1).球面矯正度数範囲は3.023.0Dで乱視矯正度数範囲は1.06.0Dであり,おもにLASIK(laserinsitukeratomileusis)で矯正が困難な高度近視および乱視を伴う場合の屈折矯正手術に用いられる.ToricICLTMの挿入術後の屈折値はLASIKの術後と比べて術後長期にわたり安定しており,regressionという近視の戻りに対して行われる追加矯正の割合が少ない.さらに,術前後での矯正視力の変化をみる安全係数(術後矯正視力/術前矯正視力)や裸眼視力の改善効果をみる有効係数(術後裸眼視力/術前矯正視力)においてもToricICLTMを挿入した症例ではLASIK術後と比べ優秀な成績が報告されている1).筆者らの施設におけるToricICLTMの術後成績としては術後6カ月以上経過観察できた124眼(術前平均球面度数9.40±3.17D,乱視度数1.58±0.96D)において安全係数1.02,有効係数0.95と良好な成績であった.ToricICLTMは後房固定の乱視矯正有水晶体眼内レンズであるため,前房に固定される虹彩支持型の乱視矯正有水晶体眼内レンズ(ARTISANRToric,OphtecBV社,オランダ)と比べ,前房内へ慢性の炎症をひき起こしにくく瞳孔より後方にレンズが位置することによる生理的な利点がある一方で,手術手技には比較的熟練を要するためライセンスが必要になる.選択するレンズ支持部の径が小さいとレンズと水晶体の距離であるvaultingが小さくなり白内障を惹起する可能性が指摘されているということと,反対にvaultingが大きくなりすぎると隅角が狭くなり眼圧上昇をひき起こす原因となりうる点が指摘されている.乱視矯正効果についての特色としてはToricICLTM挿入後に6080%程度の乱視軽減効果(術後に減少した自覚乱視度数/術前の自覚乱視度数)が認められることが多い1).筆者らの施設における124眼の術後6カ月時での乱視軽減効果としては82%であり,術後残存乱視0Dが49%,0.5D以内が93%,1.0D以内が99%でいずれも良好な成績であった.高度近視症例で乱視を伴う場合の屈折矯正手術において高い近視矯正効果と乱視軽減効果が認められるという一方で,ToricICLTMでは選択したレンズ支持部の径がレンズが固定される毛様溝間距離より相対的に小さすぎるとレンズ挿入術後しばらくしてからのレンズの回旋により軸ずれが起こり,乱視矯正効果が減少した症例があったという報告も散見される2).(65)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載109監修=木下茂大橋裕一坪田一男109.後房型有水晶体眼内レンズToricICLTMの乱視矯正効果原修哉社会保険中京病院眼科ToricICLTMは乱視を伴う強度近視に対する屈折矯正手術に用いられる毛様溝固定の有水晶体眼内レンズである.術後屈折誤差や近視の戻りが少なくLASIK(laserinsitukeratomileusis)では矯正困難な円錐角膜や角膜厚が薄い症例に対しても有効な屈折矯正効果が得られる.切開創による惹起乱視の軽減と適切なレンズ支持部径の選択が重要である.図1ToricICLTMToricICLTMは4.655.50mmの光学部と11.013.0mmの支持部からなる(左図).眼内に挿入した写真を右図に示した.———————————————————————-Page2790あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009これらの問題点を解決するために最近では,ToricICLTMの適切なレンズ支持部径を選択することで術後のレンズの回旋を予防する方法の開発が期待されている.眼球を横からみた断面にて向かい合う毛様溝を直接同時に観察できるような超音波生体顕微鏡(UBM)を用いることにより,今まで測定が困難であった毛様溝間距離を直接計測することができるようになってきた.一方で,術後のvaultingが経時的に変化することがわかってきており,これらのことを踏まえて術前に適切なレンズ支持部径を予想する方法が研究されている(図2).いずれの乱視矯正有水晶体眼内レンズを挿入する場合においても重要なことであるが,レンズの乱視度数選択において創口切開によって生じる惹起乱視を念頭にいれたレンズ度数計算のノモグラムを設定する必要がある.この際に創口切開に求められることとして惹起乱視が少ないことはもちろんであるが,惹起される乱視量にばらつきが少ないことも重要な要素となる.切開により惹起される乱視量が正確に予想されれば,その分を加味して有水晶体眼内レンズの乱視度数を計算した場合の計算誤差が少なくなり,乱視軽減効果の成績も良好にすることが可能になるからである.弧状ブレイドR(BD社,米国)(図3)を用いて角膜切開を行うと自己閉鎖が良く創口の安定性も増すことから,水平ナイフにて角膜切開を行った場合と比べ惹起乱視量が少なくばらつきも少なくなるため,有水晶体眼内レンズ挿入術の際には弧状ブレイドRを使用することを選択肢の一つとしてみるとよいと思われる3).ToricICLTMの適応は広がってきており,最近では円錐角膜に対して乱視矯正を行うためにToricICLTMを挿入する場合もある4).この場合,眼鏡矯正にて良好な視力が得られており,かつ円錐角膜の進行が停止して屈折が安定している症例が適応になる.円錐角膜の乱視矯正のためにToricICLTMを挿入した場合,術後に予期せぬ乱視軸方向に乱視が残存することがある.このような場合,もし術後の残存乱視に対しての矯正を通常の円錐角膜症例のようにハードコンタクトレンズ(HCL)にて行おうとしても,HCLにより角膜乱視が矯正されても挿入したToricICLTMによってひき起こされる,いわば医原性のinnerastigmatismにより乱視が出現してしまうため,HCLによる乱視矯正ができなくなるので注意が必要である.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:ComparisonofCollamertoricimplantable[corrected]contactlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopicastigmatism.JCataractRefractSurg34:1687-1693,2008.Erratumin:JCataractRefractSurg34:2011,20082)磯谷尚輝,中村友昭,吉田陽子ほか:乱視矯正可能な有水晶体眼内レンズを使用した屈折矯正手術.臨眼60:1769-1774,20063)KojimaT,KagaT,WatanabeMetal:Clinicalevaluationofthearchedbladeforcataractsurgery.ActaOphthalmolScand83:306-311,20054)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:PhakictoricImplantableCollamerLensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,2008(66)図2術後の前眼部スリットとUBMToricICLTM後面から水晶体前面までの距離(vaulting)が正常に保たれている(左図).UBMにて毛様溝間距離と固定されているICLTMが観察できる(右図).図3弧状ブレイドR弧状ブレイドRを使用すると角膜切開の強度が高まり術後惹起乱視の程度およびばらつきが減少する.

眼内レンズ:眼内レンズ挿入眼の見え方シミュレーション(2)多焦点眼内レンズ

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097870910-1810/09/\100/頁/JCLS各社から多焦点球面眼内レンズが出ているが,ここでは,角膜の平均球面収差を打ち消す負の球面収差をもつZM900R(AMO社)の構造と視標の像を示す.このレンズを取り上げた理由は,各社のレンズの比較を行ったとき1)に,優れた特性をもっていたからである.図1にZM900Rの写真を,図2には1nmまで読み取れるキーエンスのカラー3Dレーザー顕微鏡で取得した高さマップを示す.このレンズの回折を起こす輪体の段差は2.12μmでどこでも同じである.この段差Dは2つの焦点に振り分ける強度の比率が5:5の場合はD(nLnw)=0.5lとなる.この式は同じ輪体での両端の光路長の差(=段差×屈折率の差)が波長の半分であることを意味している.ここで,lは波長(e線なら=0.546μm),nL=1.46(レンズの屈折率(ZM900R)),nw=1.336(房水の屈折率)であり,これらの条件から計算される段差Dは2.20μmで,計算どおり良くできていることがわかる.さて,瞳孔径を3mm,5mmとして,波長550nmで,Landolt環視標を5mから1mに置いたものと,33cmに置いた10ポイント,8ポイントの文字の像を図3,(63)4に示す.この像は光学像のコントラストを少し高くしてある.これは,ヒトの網膜大脳系でのコントラスト強調処理を考慮してのことである.ただ,どのくらいのコントラスト強調であるかは?なので,あくまで推定である.これらの像をみると,3mm瞳孔では,遠方の像からは十分な視力がでること,近方の文字も十分に読めることは期待できる.しかし,遠方の像のコントラストをみると,大きなLandolt環では十分にあるが,小さいものではコントラストが低いのがわかる.これは,小さいLandolt環の周りが白一色で,そのボケがコントラストを低下させているためである.また,近方の文字のコントラストは低いのがわかる.5mm瞳孔では,3mm瞳孔に比べて,どの距離の視標の像もコントラストが低下しているのがわかる.ひょっとすると,球面収差を完全には補正していないかもしれない.球面収差が残っていて,コントラストを下げている可能性はあるように思われる.前回,非球面眼内レンズのところでつぎのように書いた.非球面眼内レンズは,角膜の乱視対策として,術後のLASIK(laserinsitukeratomileusis)なども有効と大沼一彦千葉大学大学院工学研究科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎274.眼内レンズ挿入眼の見え方シミュレーション(2)多焦点眼内レンズヒト眼の角膜の平均球面収差0.27μmをもつ模擬角膜レンズと水槽に入った眼内レンズとCCDカメラから成る模型眼を用いて眼内レンズの光学像を得ることができる.本稿では,非球面で多焦点眼内レンズZM900Rの構造と瞳孔径を変化させたときの視標の像を示す.図1テクニスマルチ(ZM900R)図2テクニスマルチ(ZM900R)の断面中心付近顕微鏡画像高さマップ———————————————————————-Page2思われる.レンズだけで補正することも考えれば,トーリック非球面という選択もあるかもしれない.そうすると,非球面のマルチにも同じことがいえると思われる.文献1)大沼一彦:多焦点眼内レンズの光学特性.あたらしい眼科25:1055-1060,20085m5m4m4m3m3m2m2m1m1m0.33m0.33m図3テクニスマルチZM900R瞳孔径3mm図4テクニスマルチZM900R瞳孔径5mm

コンタクトレンズ:処方度数決定のための視力の測り方(2)

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097850910-1810/09/\100/頁/JCLS矯正視力測定は最良視力値が得られる矯正度数を求める検査である.最良視力が得られる矯正が日常視で快適と感じるか否かには個人差がある.快適と感じる適切な矯正度数を求めるためには両眼同時雲霧法が有用である.なぜ片眼視力よりも両眼視力のほうが良好なのか生体の組織である毛様体筋は常に緊張状態にある.私たちは毛様体筋の力を抜いてボーッとしているときには,正視眼でおよそ1m付近の距離にピントが合った状態にある.これは調節安静位とよばれ,毛様体筋の生理的緊張状態と考えられている.矯正視力を測定するときには片眼を遮閉しているので,両眼視の情報が失われ,遠近感が得られにくくなる.このため,片眼で測定する場合には屈折値が不安定になり,調節安静位付近の(61)値で測定される可能性が高くなる.両眼を開放した状態ならば,距離感が失われないため,視標提示位置にピントを合わせた眼の屈折値を検出しやすく,快適な矯正度数が求められる.両眼同時雲霧法の手技と適正な矯正度数の求め方(1)円柱レンズ度数の設定:矯正視力検査で得られた矯正度数の円柱レンズ度数を採用する.(2)円柱レンズ軸度の設定:矯正視力検査で得られた矯正度数の円柱レンズ軸度を採用する.(3)球面レンズ度数の初期値:矯正視力検査で得られた矯正度数の球面レンズ度数に+3.00Dを加えた値を用いる.(4)測定開始:雲霧時間は設けないで,すぐに測定を開始する.梶田雅義梶田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純①凸レンズの交換法②凹レンズの交換法スタート前のレンズを前置するスタート前のレンズ新しいレンズ前のレンズ前のレンズ新しいレンズを前置新しいレンズを正しい位置にセットする前のレンズを抜き取る前のレンズ新しいレンズ新しいレンズ前のレンズ前のレンズを抜き取る前のレンズを抜き取る新しいレンズを正しい位置にセットする新しいレンズ新しいレンズ新しいレンズ図1レンズ交換法———————————————————————-Page2786あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(00)①両眼開放の状態で,字づまり視力表を読ませて視力値を確認する.レンズ交換法(図1)を用いて,両眼の球面度数に0.50Dずつ加えた値の検眼レンズに交換しながら,視力値が0.5~0.7に達するまでくり返す.②左右眼を交互に遮閉して,両眼の見え方を問い,左右眼のバランスを整える.最初の調整では見やすいと答えたほうの眼の矯正度数を0.25D減じる.この状態でも同じ眼が見やすいと答えた場合には次からは見づらいと答えたほうの眼の矯正度数を0.25D増して左右眼のバランスを整える.0.25Dの差で,左右眼のバランスが逆転して,左右の見え方が同じにならない場合には,日常視での優位眼(通常無意識のうちに片目を閉じて見るときに開いている眼)が見やすいと答える状態を採用する.③両眼開放の状態で,視力値を確認しながら両眼の球面度数を0.25Dずつ加えて,最良矯正視力値が得られる球面度数を求める.これらの一連の操作は速やかに行う必要があり,遅くても1分30秒以内で終了するのが望ましい.(5)試し装用に用いる矯正度数の決定:両眼同時雲霧法で得られた最良矯正視力値が1.2以下の場合には,両眼同時雲霧法で得られた矯正度数をそのまま採用して,試し装用を行う.両眼同時雲霧法で得られた最良矯正視力値が1.5以上の場合には,1.2の矯正視力が得られた矯正度数を採用して,最初の試し装用を行う.(6)処方度数の調整:試し装用では視力値は測定しないで,日常視での見え方が十分に満足できるかをチェックしてもらう.雑誌や新聞紙を読んで近方視を確認し,必要に応じて,パソコン画面なども見てもらう.テレビを見たり,歩いたり,屋外に出て,信号機や道路標識の見え方に不満がないかも確認してもらう.もし,疲れる感じや視野の歪みを訴える場合には,矯正度数を0.25D減じて,試し掛けをくり返す.反対に遠方視力に物足りなさを訴える場合には0.25D加えて,試し掛けをくり返し,全体的な満足が得られる矯正度数を求める.遠方の見え方に不満が強く,矯正視力測定時の矯正度数を超えてしまう場合には,そのときの調節が緊張状態あるいはけいれん状態にあると判断し,処方を見送り,後日やり直す.なぜ,緊張状態にあるときには矯正用具を処方しないか緊張状態にある眼は見え方が不安定で,ピントが合いにくい.網膜像がぼけたという情報は調節中枢を刺激して,ピントを合わせるために毛様体筋を収縮させる.毛様体筋の収縮は眼屈折を近視寄りにシフトさせるため,遠くの見え方はさらに悪くなり,網膜像のぼけは強くなる.この悪循環が調節緊張状態を強めることになる.このような状況下で遠くが見えるように矯正度数を提供すれば,近視眼では過矯正に,遠視眼では低矯正になり,常用した場合には眼精疲労発症の原因になる.方を断するときのさんの調節機能が正常状態ではないために,毛様体筋が異常に興奮しており,近視を強めている可能性がある.この状態で眼鏡度数を決めると,強過ぎになり快適な眼鏡にはならない.調節機能を整えてから眼鏡度数を決め直す必要がある.節機能を整えるための点眼液と対応調節改善のための点眼液(ミオピンR点眼液)を1日3~4回点眼,調節けいれんが予測される場合には低濃度サイプレジン点眼液(0.05%サイプレジン点眼液)注)を就寝前に1日1回点眼を加える.1週間後に矯正視力を測定し,両眼同時雲霧法からやり直す.注)低濃度サイプレジンは処方薬としては存在しない.検査治療用として採用されている1%シクロペントラート点眼液を希釈して作製する必要がある.