———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY4)緑内障以外の疾患,もしくは混在している可能性5)白内障の影響の評価II信頼性(reliability)の確認Humphrey 視野計(HFA)による測定結果を評価する際に,まず判定すべきは信頼性指標の結果である.信頼性がある程度確保されていないとまったく測定結果に意味がない,というわけではないが,異常の判定はむずかしいと言わざるをえない.HFA では固視不良,偽陽性,偽陰性の 3 項目について表示される.1. 固視不良Humphrey 視野計における固視点の監視は盲点法とゲイズ法の 2 つの方法がある.ここでの固視不良は盲点法の結果である.視標を探してしまう傾向が強い患者の場合に不良率が高くなり,一般に 20%以上で高いと判定される.固視不良率の高い場合には,得られた結果は本来の視野よりも良好に出ている可能性が高いと考える.検査に先立って盲点を検出するが,これができなかった場合にはこの方法による固視不良の判定が困難である.一方,結果的に固視不良率が高い結果が出たとしても,必ずしも固視不良ではない場合がある.たとえば,①偽陽性率が高い場合:盲点への視標提示に対して見えていないにもかかわらず,ボタンを押してしまい結果的に固視不良とカウントされる(図 1),②他眼鼻側の遮閉が不完全な場合,③検査中の盲点の位置ずれ:固視点のはじめに現在,一般に用いられている視野検査は視標の提示に対して患者が反応することによって成立する.つまり,あくまで患者の自覚に頼った主観的な検査であるという根本的,原理的な問題を理解する必要がある.特に静的視野検査は異常を検出する感度が高い反面,患者側,検査側のさまざまな不適切な条件によって「正確ではない測定結果」が検出される.また,設定時点のちょっとしたミスによってもさまざまなアーチファクトを生じてしまう.視野検査を臨床的に適切に用いるためには,検査する者,結果を読む者のいずれもが,起こりがちなミスやアーチファクトについてよく知り,その可能性についてよく理解することが必要である1).I視野で異常の有無,進行の有無を 判定する際に注意すべきこと静的量的(閾値)視野検査では,さまざまな要因によって一見すると異常所見のような不正確な測定結果がしばしば得られる.その要因として以下のようなポイントをあげることができる2).1)患者(被検者)側の要因検査の技術, 慣れ, 理解, 短期変動や長期変動, 体調,気分,性格2)検査側の要因正しい設定,適切な説明,声かけ3)不適正なベースラインの設定(29) 1605 a e c a a 視 野 51 510 54 視 野特集●視野が欠ける あたらしい眼科 26(12):1605 1611,2009この視野は異常ですか Are These Visual Field Findings Abnormalities or Artifacts 福地健郎*芳野高子*———————————————————————- Page 21606あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(30)いる(図 1).一般に偽陽性率が高い場合には結果は本来の視野よりも良好に出ていると判断する.3. 偽陰性全閾値法と SITA 法では「確実に見える光視標を提示する」という点では同様だが,提示するポイント設定という点で若干異なる.偽陽性と同様に全閾値法では 20%以上,SITA 法では 15%以上で偽陰性率が高いと判定される.患者の反応が不良な場合偽陰性率が高くなると考えられる.典型的な例が疲労とヒステリーである.間違いや,検査中に頭位がずれてしまった場合など(図2).固視監視方法には他にゲイズ法があり,両者を組み合わせて行うことが勧められるが,その詳細については成書を参照のこと1).2. 偽陽性全閾値法と SITA(Swedish interactive threshold algorithm)法では判定の方法が異なり,全閾値法では20%以上,SITA 法では 15%以上で偽陽性率が高いと判定される.患者が光の提示に対してランダムに押しているとか,音刺激に反応しているとか,いずれにしても過剰に不適切に反応している可能性が高いことを表して図 1過剰反応の例66 歳,男性,高眼圧症.検出不可能な高感度を示している.固視不良 19/31,偽陽性 12/18 と不良で,平均偏差(MD)値は+7.81 dB,修正パターン標準偏差(CPSD)値は 8.67 dB と異常な高値を示している.検査方法をよく理解させ,落ち着いて検査するよう指導する.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091607(31)b. 反応不良(図 4)患者自身のコンディションではなく,正確に,慎重に検査をしようという意識が強すぎた場合には,視標提示に対して反応が消極的になり,結果的により感度が低い結果が得られる.図 4A は検査に際して「はっきりとわかったときだけボタンを押してくださいと言われた」とのこと.偽陰性率が高い.「視野の中でどこか光ったら押してください」が適当で,複数回の検査の経験があり,十分に熟練していると考えられる患者には「いつものように」との助言も大切である.c. 矯正レンズ(図 5A,B)矯正レンズに関わる問題として,①位置のミス,②矯正度数のミス,がある.通常,中心 30°閾値検査では,近見矯正レンズを前置して計測を行うが,このレンズが患者の眼前からの距離が離れすぎていると周辺部に境界鮮明なリング状の暗点を示す(図 5A).高齢者などでは反応低下のために周辺部にリング状暗点が検出することIII代表的なアーチファクト1. 異常に感度が低い場合a. 疲労,眠気,体調不良(図 3)視野検査は典型的な自覚的検査である.当然,測定の際の患者のコンディションは結果に大きな影響を及ぼす.偽陰性率が高く周辺の感度低下を伴っている場合には,疲労による感度低下が疑われる.また,仮に偽陰性率が低くても,このような現象はしばしば起こる(図3).検査に先だって,前日の睡眠不足,飲酒,勤務後の受診,体調不良などがないことは確認しておく.あまりに体調が不良な場合には視野検査を行っても正確な結果が得られる可能性は少なく,後日,改めて行うことを勧める.検査に長時間を要した場合には,さらに検査そのものによる疲労が加わったことでさらに感度が低下している可能性があることにも注意が必要である.図 2検者が固視点を勘違いした例68 歳,男性,正常眼圧緑内障.A:Humphrey 視野計では視野測定の固視点の下方にある 4 点の中心で中心窩閾値を測定する.B:この点を視野検査の固視点と勘違いして測定すると,Mariotte 盲点および暗点が下方に約 10°スライドしたような結果が得られる.盲点そのものがずれており,したがって固視不良は 28/29 である.C:後日,再検査し本来の結果が得られた.BAC———————————————————————- Page 41608あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(32)リング状暗点を示すことがある(図 5B). 一方,矯正度数を間違えて設定した場合には,網膜像がぼやけることになり,全体的な感度低下を示す.があり,鑑別が必要である.もし,レンズを適切な位置に設定して検査を開始しても,測定中に額が離れたり,顎を引きすぎたり,顔の位置がずれた場合に,部分的に図 4検者の説明により被検者が必要以上に慎重になりすぎた例53 歳,男性,原発開放隅角緑内障.A:前回測定に比べてきわめて悪化した結果を示した.患者に聞いてみると,「はっきりとわかったときだけボタンを押すよう言われた」とのこと.偽陰性は 9/16 と 20%をオーバーしていた.B:後日,「いつも通りに光を感じたら押してください」と説明し,再検査したところ,本来の結果が得られた.BA図 3日常業務の疲労による悪化例36 歳,男性,正常眼圧緑内障.A:いつも勤務後に受診し,検査中に疲労感や眠気を感じていた.B:休暇時に午前に受診していただいたところ,経過中で最も良好な結果が得られた.信頼係数が良好であっても,患者の疲労,睡眠不足,体調などが結果に影響していることがあることに注意する必要がある.AB———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091609(33)強度近視眼では,ときに巨大乳頭や広いコーヌスを伴うことがあり,この場合には Mariotte 盲点の拡大がみられるが,病的な所見ではない.f. 瞳孔径たとえばピロカルピンを点眼し,瞳孔径が2 m m以下の状態で視野検査を行うと,光の回折効果の影響で網膜感度は有意に低下する.一方,トロピカミドを点眼した散瞳状態で視野検査を行うと,背景輝度の上昇と収差増大の影響もあり,網膜感度は有意に低下する.g. 練習効果(learning e ect)(図 6)単回の測定結果におけるアーチファクトという意味ではないが,視野検査の結果を読む際に重要なポイントの一つである.緑内障診療において視野検査は,①視野欠損の有無の判定(診断),だけでなく,②現在の視機能d. 上眼瞼(図 5C)加齢とともに眼瞼下垂の傾向を示す患者は多い.しだいに上眼瞼の影響を受け,上方辺縁の視野が水平に欠損したように検出されることがある.検査時に眼瞼を十分に挙上して測定すると改善する(図 5C).e. 屈折異常の影響傾斜乳頭症候群の症例では眼底後極が非対称で,正常眼とは異なり黄斑部で最良の視力を得られるレンズを用いても,しばしば 30°以内の網膜に焦点を結ばない領域が生じてしまう.この部分は見かけ上の感度低下を生じ,「屈折暗点」とよばれる.典型的には上方に楔形暗点を生ずる.屈折暗点が疑われた場合には,レンズを数ジオプトリー変えて再検査する.感度が上昇したら屈折暗点と判定する.図 530°周辺部の境界鮮明な視野欠損A:欠損が全周にみられる場合は,矯正レンズと眼球の距離が開きすぎていることが多い.B:検査中に検者の額がしだいに離れた例で,矯正レンズ枠によって部分的リング状欠損を示す.C:眼瞼挙上が不十分な場合には,上方に上眼瞼による境界鮮明な視野欠損を示す.BAC———————————————————————- Page 61610あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(34)査結果全体に影響を与える.つまり,最初の検査点 4 個のうちの 1 点の感度が,非常に高感度の点として計測されると,測定結果はその象限全体に影響し,正常の感度を示しても Statpac では「感度低下」と判定されてしまうことがある.3. 位置の異常a. 固視点の間違いHFA の場合,視野測定に先だって,一般に中心窩閾値を測定する.この場合,視野測定の固視点の下方,4点の中心に視標を提示して測定する(図 2A).患者がこの点をその後の閾値検査の固視点と勘違いして測定を行うと,図 2B のように Mariotte 盲点が下方に約 10°移動した測定結果が得られる.検者の説明不足,患者の理解不足が原因で,測定に際しては基本的なポイントについては毎回,説明し,確認する.b. 検査中の顔ずれ検査の進行に伴って,患者の顔が横にずれる,傾く,に関する評価,③進行の判定,などの意味がある.自動視野計による計測には患者自身の測定技術と熟練も必要で,しばしば測定回ごとに改善傾向がみられる.初回の検査結果のみでは病期をより重く判定してしまう危険がある.トレンド解析法,イベント解析法のいずれの方法であっても,できるだけ早く,できるだけ正確に進行の有無を判定するために,改善のピークを早く検出する必要がある.図 6 の症例では 3 回目以降に有意な悪化がみられることから,初回の測定結果は実際よりも平均偏差で 3 dB 以上低い結果が得られていたことが疑われる.2. 異常に感度が高い場合過剰反応ときに一般には見えない 40 dB を超えるような光刺激にも反応し,不規則な測定結果が表示されることがある(図 1).このような場合は,おそらく「光視標」に対してだけでなく,しばしば「音刺激」に反応してボタンを押した結果である.検査開始直後の過剰反応はときに検図 6練習効果視野障害進行を判定する際に練習効果による改善を考慮する必要がある.53 歳,男性,正常眼圧緑内障.初回,2 回と改善し,3回目をピークとして悪化傾向を示した.A:平均偏差(MD)変化率を初回から計算すると 0.01 dB/yr で,有意な進行とは判定されない.B:3 回目以降のみで再計算すると 0.26 B/yr であり,有意に進行していると判定される.観察開始当初は視野検査の測定回数を増やし,改善のピークを早く検出する.AB———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091611離れる,など,設定した位置が移動してしまうことがある.当然,盲点の位置が変わり,固視不良率が高くなる可能性が高い.得られた結果が以前の測定結果と比べて暗点の位置が移動したように検出された場合には,位置ずれを疑い,検者に確認する.文献 1) Anderson DR, Patella VM:Automated Static Perimetry. 2nd edition. Mosby, St Louis, 1999 2) 根木昭(編):眼科プラクティス 15,視野,文光堂, 2007(35)