———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.10,200913750910-1810/09/\100/頁/JCOPYインターネットを使った遠隔医療の課題遠隔医療を英訳すると,TelemedicineandTelecareとなり,診療行為だけでなく,健康指導も含まれます.先月号で紹介したように,遠隔医療は,「通信技術を活用した健康増進,医療,介護に資する行為」と定義されます1).では,現在の技術で遠隔地の患者に対して,どこまで侵襲的な医療が可能なのでしょう.アメリカの医師が大西洋を越えてヨーロッパの患者を手術することを可能にする,遠隔手術ロボット「ダヴィンチ」を簡単に紹介します2).遠隔手術用ロボットシステム〔ダヴィンチ;daVinci(図1)〕はIntuitiveSurgical社が開発・販売しています.IntuitiveSurgical社は,スタンフォード研究所からの特許ライセンスを受け,1995年に設立,2000年にIPO(上場)を実現している企業です.2008年の売上高が8億7500万ドル,営業利益率が35.5%,この遠隔手術用ロボットシステムが世界中で1年間に約14万回使用され,2008年12月31日現在で合計1,111台が普及しています〔825台(米国),194台(欧州),92台(その他)〕.また,1台の価格は約150万ドルします.このシステムの開発は,負傷した兵士を遠隔で手術できないだろうか,といったアメリカの軍事利用目的から始まりました.DARPA(国防高等研究計画局)というアメリカ国防総省の機関が推進し,1990年にスタンフォード研究所がプロトタイプ(試作品)を完成させました.そして,1995年にスタンフォード研究所から特許ライセンスを受け,IntuitiveSurgical社が設立されました.日本国内でも遠隔手術ロボットの開発は進んでいますが,ダヴィンチほど普及はしていません.技術的な課題は少なく,現在の通信技術では画像の時間遅れは,臨床上さほど問題にならないレベルのようです.今後,在宅診療などへの応用が期待される治療法ですが,法的環境が整っていない点と価格が課題です.もう一つの問題は,「ロボットに手術されても構わない」と受け入れる患者集団は限定的でしょう3).余談ですが,インターネットの前身であるARPANETを開発したのも,このDARPAというアメリカの機関です.軍事目的が絡んでいるとはいえ,アメリカの先進性を感じます.つぎに,手術などの侵襲的・物質的な医療行為ではなく,医療・健康情報などの情報医療を扱う遠隔医療について考えます.遠隔医療には3つの形態があります.医師と医師を結ぶ媒体,医師と患者を繋ぐ媒体,患者同士のコミュニケーションを医師がガイドする媒体です.それぞれを【医-医の遠隔医療】,【医-患の遠隔医療】,【患者のコミュニティ支援】と分けますが,ここでは,【医-患の遠隔医療】を取り上げます.通信手段に,電話や文書でなく,インターネットを用いる場合,医-患の遠隔医療は,インターネット上で医師集団と患者集団の両者を繋げば成立します.インターネットを用いる遠隔医療の本質はきわめてシンプルです.セキュリティに関する技術的な問題以外に,3つの課題がありますので紹介します.1.アクセス容易性医師と遠隔地の患者を繋ぐ手段として,インターネットを用いる遠隔医療事業者は現状のところ苦戦しています.基本的に日本の医療施設はフリーアクセスであるた(77)インターネットの眼科応用第9章遠隔医療(続)武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑨図1遠隔手術用ロボットシステム(ダヴィンチ)———————————————————————-Page21376あたらしい眼科Vol.26,No.10,2009め,インターネットのフリーアクセスの優位性が相対的に高くないのでしょう.また,日本はアメリカほどの国土を持ちません.受診行動に移す前の施設検索にインターネットを利用しますが,実際の医療行為をネットで完結させようと希望する人は皆無でしょう.2.医療リテラシーの格差医療に関して体系立てて学習した専門家同士の会話はスムーズです.しかし,一般書やインターネットで医療知識を学習した程度の非専門家との間には,医療リテラシーに差が大きく,会って話す以上の情報をネットで伝えるのは困難です.現在,スカイプやウェブカメラを慢性期疾患の再診の診療に利用している例が報告されていますが,初診からの治療をネットで完結させるのは容易ではありません4).一度は面談して診察する必要があります.3.事業性保険制度は対面診療を基本にしていますので,対面しない健康指導は保険制度内では課金できません.インターネットによる医療相談は,保険の対象外のため,一部の医師が患者サービスの一環として提供するにとどまっています.このような問題点を考えると,医師と患者を直接インターネットで繋ぐ媒体はまだまだ試行段階です.患者層,医療施設,医師集団をどのようにセグメントして繋ぐかを考慮しないといけません.遠隔医療の新しい形態の提案私が有志とともに運営しているNPO法人MVCでは,上述の3つの形態に当てはまらない,新しい形態の遠隔医療を企画しています.仮に【医-医-患の遠隔医療】(図2)と名付けます.簡単に概要を紹介しますと,今,眼科医が常勤できない総合病院が増えています.そのような総合病院から眼科診療の委託を受け,インターネットに蓄積された患者データを元に診療方針を決める眼科チームを結成します.眼科チームの所属は限定しません.インターネットにアクセスさえできれば大丈夫です.実際に患者を検査するのは,機器メーカーから指導を受けた医療スタッフが医師の管理のもと,実施します.患者に治療方針を伝えたり投薬したりするのは,実(78)際に当該施設に勤務している医師が担当します.患者は受診した施設に診療代を支払い,医療施設は得られた診療報酬から眼科チームに決められた顧問料を支払います.この図式により,上述した問題点はひとまず解消されます.離島やへき地などの眼科医療過疎地は日本にもまだまだあります.ご協力いただける有志の先生方はぜひ,ご連絡ください.一緒に日本の医療水準を向上させましょう.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://square.umin.ac.jp/jtta/2)http://www.intuitivesurgical.com/index.aspx3)http://www.focus-s.com/focus-s/medical/pdf/medical01.pdf4)http://square.umin.ac.jp/jtta/news/20090313telemedicine.pdf兵OCT???鶚顫???????畑?????嫣?鶚顫?霄??????穂贇???筅寃?嗜?兵赭???????????竝?愈??吮?????追?燻??坏???愈??捗?愈潛?????????貳????悌?民???募?吮?票?吮?票?柞貳?霄?躬?兵赭膽?莎椁NPO?暢MVCMedicalVentureConference2009AllRightsReserved図2医医患の遠隔医療