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インターネットの眼科応用 9.遠隔医療(続)

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.10,200913750910-1810/09/\100/頁/JCOPYインターネットを使った遠隔医療の課題遠隔医療を英訳すると,TelemedicineandTelecareとなり,診療行為だけでなく,健康指導も含まれます.先月号で紹介したように,遠隔医療は,「通信技術を活用した健康増進,医療,介護に資する行為」と定義されます1).では,現在の技術で遠隔地の患者に対して,どこまで侵襲的な医療が可能なのでしょう.アメリカの医師が大西洋を越えてヨーロッパの患者を手術することを可能にする,遠隔手術ロボット「ダヴィンチ」を簡単に紹介します2).遠隔手術用ロボットシステム〔ダヴィンチ;daVinci(図1)〕はIntuitiveSurgical社が開発・販売しています.IntuitiveSurgical社は,スタンフォード研究所からの特許ライセンスを受け,1995年に設立,2000年にIPO(上場)を実現している企業です.2008年の売上高が8億7500万ドル,営業利益率が35.5%,この遠隔手術用ロボットシステムが世界中で1年間に約14万回使用され,2008年12月31日現在で合計1,111台が普及しています〔825台(米国),194台(欧州),92台(その他)〕.また,1台の価格は約150万ドルします.このシステムの開発は,負傷した兵士を遠隔で手術できないだろうか,といったアメリカの軍事利用目的から始まりました.DARPA(国防高等研究計画局)というアメリカ国防総省の機関が推進し,1990年にスタンフォード研究所がプロトタイプ(試作品)を完成させました.そして,1995年にスタンフォード研究所から特許ライセンスを受け,IntuitiveSurgical社が設立されました.日本国内でも遠隔手術ロボットの開発は進んでいますが,ダヴィンチほど普及はしていません.技術的な課題は少なく,現在の通信技術では画像の時間遅れは,臨床上さほど問題にならないレベルのようです.今後,在宅診療などへの応用が期待される治療法ですが,法的環境が整っていない点と価格が課題です.もう一つの問題は,「ロボットに手術されても構わない」と受け入れる患者集団は限定的でしょう3).余談ですが,インターネットの前身であるARPANETを開発したのも,このDARPAというアメリカの機関です.軍事目的が絡んでいるとはいえ,アメリカの先進性を感じます.つぎに,手術などの侵襲的・物質的な医療行為ではなく,医療・健康情報などの情報医療を扱う遠隔医療について考えます.遠隔医療には3つの形態があります.医師と医師を結ぶ媒体,医師と患者を繋ぐ媒体,患者同士のコミュニケーションを医師がガイドする媒体です.それぞれを【医-医の遠隔医療】,【医-患の遠隔医療】,【患者のコミュニティ支援】と分けますが,ここでは,【医-患の遠隔医療】を取り上げます.通信手段に,電話や文書でなく,インターネットを用いる場合,医-患の遠隔医療は,インターネット上で医師集団と患者集団の両者を繋げば成立します.インターネットを用いる遠隔医療の本質はきわめてシンプルです.セキュリティに関する技術的な問題以外に,3つの課題がありますので紹介します.1.アクセス容易性医師と遠隔地の患者を繋ぐ手段として,インターネットを用いる遠隔医療事業者は現状のところ苦戦しています.基本的に日本の医療施設はフリーアクセスであるた(77)インターネットの眼科応用第9章遠隔医療(続)武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑨図1遠隔手術用ロボットシステム(ダヴィンチ)———————————————————————-Page21376あたらしい眼科Vol.26,No.10,2009め,インターネットのフリーアクセスの優位性が相対的に高くないのでしょう.また,日本はアメリカほどの国土を持ちません.受診行動に移す前の施設検索にインターネットを利用しますが,実際の医療行為をネットで完結させようと希望する人は皆無でしょう.2.医療リテラシーの格差医療に関して体系立てて学習した専門家同士の会話はスムーズです.しかし,一般書やインターネットで医療知識を学習した程度の非専門家との間には,医療リテラシーに差が大きく,会って話す以上の情報をネットで伝えるのは困難です.現在,スカイプやウェブカメラを慢性期疾患の再診の診療に利用している例が報告されていますが,初診からの治療をネットで完結させるのは容易ではありません4).一度は面談して診察する必要があります.3.事業性保険制度は対面診療を基本にしていますので,対面しない健康指導は保険制度内では課金できません.インターネットによる医療相談は,保険の対象外のため,一部の医師が患者サービスの一環として提供するにとどまっています.このような問題点を考えると,医師と患者を直接インターネットで繋ぐ媒体はまだまだ試行段階です.患者層,医療施設,医師集団をどのようにセグメントして繋ぐかを考慮しないといけません.遠隔医療の新しい形態の提案私が有志とともに運営しているNPO法人MVCでは,上述の3つの形態に当てはまらない,新しい形態の遠隔医療を企画しています.仮に【医-医-患の遠隔医療】(図2)と名付けます.簡単に概要を紹介しますと,今,眼科医が常勤できない総合病院が増えています.そのような総合病院から眼科診療の委託を受け,インターネットに蓄積された患者データを元に診療方針を決める眼科チームを結成します.眼科チームの所属は限定しません.インターネットにアクセスさえできれば大丈夫です.実際に患者を検査するのは,機器メーカーから指導を受けた医療スタッフが医師の管理のもと,実施します.患者に治療方針を伝えたり投薬したりするのは,実(78)際に当該施設に勤務している医師が担当します.患者は受診した施設に診療代を支払い,医療施設は得られた診療報酬から眼科チームに決められた顧問料を支払います.この図式により,上述した問題点はひとまず解消されます.離島やへき地などの眼科医療過疎地は日本にもまだまだあります.ご協力いただける有志の先生方はぜひ,ご連絡ください.一緒に日本の医療水準を向上させましょう.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://square.umin.ac.jp/jtta/2)http://www.intuitivesurgical.com/index.aspx3)http://www.focus-s.com/focus-s/medical/pdf/medical01.pdf4)http://square.umin.ac.jp/jtta/news/20090313telemedicine.pdf兵OCT???鶚顫???????畑?????嫣?鶚顫?霄??????穂贇???筅寃?嗜?兵赭???????????竝?愈??吮?????追?燻??坏???愈??捗?愈潛?????????貳????悌?民???募?吮?票?吮?票?柞貳?霄?躬?兵赭膽?莎椁NPO?暢MVCMedicalVentureConference2009AllRightsReserved図2医医患の遠隔医療

硝子体手術のワンポイントアドバイス 77.網膜色素変性に伴う黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913730910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに網膜色素変性の黄斑合併症には, 胞様黄斑浮腫,黄斑上膜,黄斑円孔などがある.網膜色素変性に黄斑円孔を伴う頻度は 1%前後とされており,網膜色素変性患者では健常人よりも黄斑円孔を合併する頻度が高い. 例ツꀀ 27 歳,男性.右眼の中心視力低下を訴えて受診した.視力は右眼 0.3(0.35),左眼 0.35(0.8).眼底は両眼とも血管アーケードより周辺側は骨小体様色素沈着を伴う典型的な網膜色素変性を認めた.また,右眼黄斑部に網膜上膜を伴った黄斑円孔が生じていた.黄斑円孔縁はやや不規則で明確なツꀀ uid cuツꀀ は認めなかった(図1). 黄斑円孔閉鎖を目的とした硝子体手術を施行した.コアの硝子体を切除した後,トリアムシノロンで硝子体を可視化し,後極部から周辺部に向かって人工的後部硝子体 離を作製した.網膜面には肥厚した後部硝子体膜が強固に癒着しており,人工的後部硝子体 離の作製は通常の特発性黄斑円孔に比較して困難であった(図2a, b).インドシアニングリーンを黄斑部に塗布して内境界膜 離を施行し,その後眼内液-空気同時置換術,20% SF6(六フッ化硫黄)によるガスタンポナーデを施行した.円孔縁の網膜は通常の特発性と比較して伸展性がやや低下している印象があった.術後,黄斑円孔は閉鎖したが,矯正視力は 0.3 と不変であった(図3). 膜色素変性に伴う黄斑円孔の特 網膜色素変性に黄斑円孔が合併する機序としては, 胞様黄斑浮腫と硝子体牽引が指摘されている.筆者は今まで網膜色素変性に伴う黄斑円孔を 5 例経験し,4 例に硝子体手術を施行した.いずれも通常の特発性黄斑円孔例よりも若年で,そのうち 3 例は黄斑上膜様の肥厚した後部硝子体膜が網膜と強固に癒着していた.一般に網膜色素変性患者では若年時から硝子体の変性を認めることが多く,過去の報告でも黄斑円孔をきたした症例の多く(75)が黄斑上膜を合併している.視力予後は,比較的良好であったとする報告と,不良であったとする報告が混在している.筆者の経験では,黄斑円孔の閉鎖が得られても視力改善が予想よりも不良である例が多かった.視力不良の原因としては, 胞様黄斑浮腫,発症後長期間経過,黄斑部の網膜色素上皮機能不全,などが考えられる.網膜色素変性患者の経過観察を行う場合には,このような黄斑合併症の生じる可能性を十分に説明し,中心視力が低下した場合には早期に受診してもらうよう啓蒙しておくことが重要と考えられる.文献 1) 今川幸宏,片岡英樹,佐藤孝樹ほか:網膜色素変性に黄斑円孔をきたした 1 例.眼科手術 19:407-410, 2006硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載77ツꀀツꀀ ツꀀ網膜色素変性に伴う黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図 1 術前の右眼眼底写真骨小体様色素沈着を伴う典型的な網膜色素変性および黄斑上膜を伴った黄斑円孔を認める.図 3 術後の右眼眼底写真黄斑円孔は閉鎖したが,矯正視力は 0.3 と不変であった.図 2硝子体手術中の所見網膜面には肥厚した後部硝子体膜が強固に癒着しており(a),人工的後部硝子体 離の作製は通常の特発性黄斑円孔に比較してやや困難であった(b).

眼科医のための先端医療 106.ベーチェット病ぶどう膜炎に対する抗TNF-α抗体療法

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.10,200913690910-1810/09/\100/頁/JCOPYベーチェット病によるぶどう膜炎ベーチェット病で不の炎患で病病をとする患ですぶどう膜炎を体としぶどう膜炎の作をすと病を体炎と病を視力不良とす膜ぶどう膜炎にす年ベーチェット病ぶどう膜炎の患者のぶどう膜炎のす者ので病に年代に初診したベーチェット病患者例と年代の初診患者例を比較したと年代初診患者に比年代の患者初診よにる視力不良例の図1),および1年当たりの眼発作回数(2.8±2.6回vs2.2±2.2回)がともに減少していました1).しかし,コルヒチンやシクロスポリンの内服治療を行っても眼発作をくり返す症例が2割程度は存在するため2),現在でも内因性ぶどう膜炎のなかで最も注意すべき疾患です.モノクローナル抗体製剤年のによ患のにをモノクローナル抗体によロックする治療とモノクローナル抗体製剤とよす炎患に対するモノクローナル抗体治療で抗a抗体製剤が注目されています.インフリキシマブ(レミケードR,以下レミケード)は2カ月に1回点滴する抗TNF-aモノクローナル抗体製剤で,わが国では関節リウマチ,クローン病,ベーチェット病による網膜ぶどう膜炎で保険適用を受けており,乾癬,強直性脊椎炎に対しても現在審査中です.関節リウマチでは骨破壊の抑制のみならず骨修復がみられる症例があるなど,従来の抗リウマチ薬にはない高い治療効果をもち,世界ですでに100万人以上に使用されています.(71)◆シリーズ第106回◆ツꀀツꀀ ツꀀ眼科医のための先端医療ツꀀツꀀ ツꀀ=坂本泰二山下英俊蕪城俊克(東京大学医学部附属病院眼科)ベーチェット病ぶどう膜炎に対する抗TNF-a抗体療法p<0.01p<0.0136%(94眼)32%(64眼)32%(64眼)47%(97眼)49%(101眼)27%(71眼)22%(56眼)29%(76眼)1980年代261眼19%(38眼)21%(42眼)1990年代203眼37%(96眼)49%(129眼)p<0.01p<0.01:0.1未満:0.1以上0.7未満:0.7以上有効性評価期間観察期間1.0±2.20.2±0.4平均4.0±2.2平均3.8±1.9p=0.031p=0.0315mg/kg(n=7)98765432109876543210有効性評価期間観察期間10mg/kg(n=6)眼発作回数(回/14週)眼発作回数(回/14週)図2ベーチェット病ぶどう膜炎に対するレミケードの第II相前期試験の成績治験は5mg/kg投与群と10mg/kg投与群の2群で行われた.シクロスポリンとステロイドを中止してレミケードに切り替えた前後での眼発作回数を比較した.いずれの投与量でも著明な眼発作抑制を示した.(文献3より,一部改変)図11980年代と1990年代に初診したベーチェット病ぶどう膜炎患者の視力の比較1990年代の初診患者では1980年代に比べ,初診時・最終観察時ともに矯正視力が著明に改善した.ベーチェット病の視力予後は近年改善していると考えられる.(文献1より,一部改変)———————————————————————-Page21370あたらしい眼科Vol.26,No.10,2009ベーチェット病ぶどう膜炎に対するレミケード治療ベーチェット病ぶどう膜炎に対するレミケードの治験クロに膜ぶどう膜炎の作をす患者を対にクロよロドをしレミケードをするロトールでした初にた第相前期試験でレミケードよとにに作した図2).その後,第II相後期試験,第III相試験でも同様の効果が確認され,2007年1月にわが国で世界に先駆けてベーチェット病による網膜ぶどう膜炎(従来の治療で効果不十分な症例に限る)に対してレミケード治療が承認されました.レミケードは体重当たり5mg/kgを生理食塩水250mlに溶解し,2時間かけて点滴静注します.これを,0,2,6週目,それ以降は8週毎に投与していきます.治験終了後に多くの症例で眼発作の再燃がみられたことから,眼発作を抑制し続けるためにはレミケードを長期間使用し続ける必要があります.筆者らの施設に通院中の若年男性の患者は,すでに5年間以上レミケードを使用し続けていますが,最近でもレミケードの投与間隔を延ばすと網膜ぶどう膜炎型の眼発作を起こすため,レミケード治療を継続しています4).副作用と効果不良例への対策レミケードの副作用ににるど炎どどす副作用としナーどと炎のどです対策とし前にベルクの診のたのどののクーをにとのるにレミケード前抗ドを用するとナーのたのットをしとレミケードにしと験のる病どとし診するとですチでレミケードの効例るとベーチェット病にしの効果不良例するとすのよう効果不例に対し用のレミケードの体たでしたルの用ののどの法すしるとす文献1)YoshidaA,KawashimaH,MotoyamaYetal:ComparisonofpatientswithBehcet’sdiseaseinthe1980sand1990s.Ophthalmology111:810-815,20042)湯浅武之助:眼科からみた病像の変遷.厚生省特定疾患ベーチェット班会議調査研究班平成3年度業績集,p39-40,19923)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Ecacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofiniximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheu-matol31:1362-1368,20044)TakamotoM,KaburakiT,NumagaJetal:Long-terminiximabtreatmentforBehcet’sdisease.JpnJOphthal-mol51:239-240,2007(72)ベーチェット病ぶどう膜炎に対する抗TNF-a抗体療法」を読んで年前のに患をしをとでる法のるうとしたののでしたにのをにしたモノクローナル抗体ですで治療不でた病どモノクローナル抗体によ治療にたで期治療効果をるとでしたしモノクローナル抗体にのにすたとモノクローナル抗体製でのをの製のにしすししモノクローナル抗体をるののようのとうでん剤のモノクローナ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.10,20091371(73)ル抗体医薬の応用力の高さのほうが重要視されています.近年はさまざまな疾患関連物質情報が網羅的に得られるようになりました.その結果,疾患原因物質がつぎつぎに同定されています.それを制御する方法として,新たな化学物質を合成するよりもモノクローナル抗体を開発したほうが,はるかに安全・確実で簡単なのです.今後も続々と新規のモノクローナル抗体医薬が現れてくるでしょう.抗TNF-a抗体は,モノクローナル抗体医薬製品のなかでも比較的初期に臨床現場で使われだしたものです.蕪城俊克先生が本文中に要領よくまとめられたように,眼科領域では,ベーチェット病治療に効果を発揮していますが,一般的にはリウマチ治療に広く用いられ,リウマチ治療を変えたといわれています.ただし,広く使われるにつれて,予想されていない副作用も現れてきました.本文中に書かれているもの以外に,2009年8月11日付でリンパ腫に罹患する確率が3倍増加する可能性があるという緊急通知がなされました.われわれ医療者は,その点にも注意して,この優れた薬magicbulletを使用する必要があります.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 193.前眼部OCTによる解析:濾過胞の観察

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913670910-1810/09/\100/頁/JCOPY(隅角底,毛様体扁平部など)まで画像化できる.最新の機器ではスエプトソース(フーリエドメインの一種)という原理を使うことにより,きわめて短時間での撮影が可能となり,その結果として三次元の画像を得られる. 使用方法(検査法の実際のやり方)線維柱体切除術後の濾過胞を撮影する場合には,濾過胞のある部位を最大限に露出させるために,下鼻側あるいは下耳側を注視させ,圧力をかけないように上眼瞼を挙上させて撮影を行う(図1).この際に不要な圧をかけると,マッサージ効果により濾過胞の形状が変化してしまうため注意が必要である.強膜弁が画像の中心になるように検査を行うと,内部の形態がよく描出できる(図2).新しい治療と検査シリーズ(69) バックグラウンド前眼部 OCT(光干渉断層計)が登場したことにより,前眼部の微細構造を非侵襲的に取得できるようになった.前眼部 OCT は,従来の後眼部用 OCT を前眼部に応用した場合と比べて,より深い位置まで画像化できる利点がある.前房や隅角などの前眼部解析のスタンダードである超音波生体顕微鏡(UBM)1)と比較しても簡便に検査が可能というアドバンテージがある.非接触かつ高精度,さらに不透明組織と透明組織の両者の検査を行うことができるため,線維柱体切除術後早期から濾過胞の内部構造を描出することに適する2 4). 新しい検査法(原理)前眼部 OCT は低コヒーレンス光干渉という原理により,生体組織を非接触で描出できる.前眼部 OCT は 1.3 μm 光源(眼底用 OCT は 840 nm 光源)を使用するため,組織侵達度が高く,前眼部の深い部位にある不透明組織193.前眼部OCTによる解析:濾過胞の観察プレゼンテーション:川名啓介かわな眼科コメント:山本哲也岐阜大学大学院医学系研究科眼科学図 1前眼部OCTによる濾過胞の撮影法患者に下鼻側あるいは下耳側を注視させ,強膜弁と思われる部位が中心となり,さらに濾過胞の表面が測定軸と垂直になるようにする.上眼瞼をそっと挙上すると,広い部位の検査を行うことができる.図 2前眼部OCT画像左上:三次元再構築した濾過胞内部の水隙.右上:濾過胞の矢状断.濾過胞内部にマイクロシスト,網状の低輝度の部位,内部水隙,強膜弁が確認できる.前房中では虹彩根部の切除部位も明らかである.下:濾過胞の水平断.———————————————————————- Page 21368あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009 本方法の利点本方法の利点は,非接触(術後でも躊躇せず使用可能)かつ高解像度という点と,三次元画像化といえる.濾過胞内部の構造(内部水隙,強膜弁,マイクロシストなど)を可視化できる.内部水隙の立体的な広がりや強膜弁との関係を明らかにすることができる.さらに,三次元データを取得しているため,MRI(磁気共鳴画像)のようにいろいろな断面を作り出すことで,強膜弁や房水流出路の形状をいろいろな角度から解析することができる.濾過機能の推定や,レーザー切糸・ニードリングの必要性や,効果判定に有用である4).本方法を含めて,濾過胞を観察できる機器として,スリットランプ,UBM,前眼部 OCT,後眼部 OCT(+前眼部ユニット),共焦点顕微鏡がある.組織侵達度(深さ方向)の高い順に,UBM>前眼部 OCT>スリットランプ>後眼部 OCT(+前眼部ユニット)>共焦点顕微鏡となる.その他の特徴を表1に示した.スリットランプはおおよその内部構造の把握は可能であるが,定量性に欠ける.UBM は濾過胞を観察することができるが,熟練した検者でないと検査がむずかしく,接触式のため濾過胞を圧迫する可能性や,感染を起こす危険もある.さらに測定速度が比較的遅いために立体画像を得ることができない.後眼部 OCT(+前眼部ユニット)は前眼部 OCT よりも高精度の画像を得ることができるが,組織侵達度が低く,濾過胞の内部まで描出することはむずかしい.共焦点顕微鏡は組織レベルの解像度での検査が可能であるが,濾過胞の内部構造といった大きな構造を把握することは困難である.ツꀀツꀀツꀀツꀀ 1) Yamamoto T, Sakuma T, Kitazawa Y:An ultrasound biomicroscopicツꀀ studyツꀀ ofツꀀツꀀ lteringツꀀ blebsツꀀ afterツꀀ mitomycinツꀀ C trabeculectomy. Ophthalmology 102:1770-1776, 1995 2) Singh M, Chew PT, Friedman DS et al:Imaging of trabeculectomy blebs using anterior segment optical coherence tomography. Ophthalmology 114:47-53, 2007 3) Miura M, Kawana K, Iwasaki T et al:Three-dimensional anterior segment optical coherence tomography ofツꀀ ltering blebs after trabeculectomy. J Glaucoma 17:193-196, 2008 4) Kawana K, Kiuchi T, Yasuno Y et al:Evaluation of trabeculectomy blebs using 3-dimensional cornea and anteriorツꀀ segmentツꀀ opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography.ツꀀ Ophthal-mology 116:848-855, 2009(70)表 1濾過胞の検査が可能な前眼部解析装置一覧機器スリットランプUBM前眼部 OCT後眼部 OCT(+前眼部ユニット)共焦点顕微鏡非接触○×○○×定量性×○○○○解像度×△○○○組織侵達×○△××三次元化××○○×操作性○×○△×UBM:超音波生体顕微鏡,OCT:光干渉断層計.一方で,研究目的を除けば,OCT が濾過胞観察に用いられる機会としては濾過機能が低下して次の処置を探るときが考えられる.たとえば,OCT で encap-sulation がどこからどこまで生じているとか,強膜フラップの下のどの位置で癒着が強いとかの情報が得られれば,beb revision 前の情報として大変に心強い.ところが,現状では,UBM と同様に,そこまで特異的に判定できることはほとんどない.今後そうした方面の進化が望まれる.川名氏は濾過胞内部構造の観察機器としての前眼部OCT の有用性について解説している.述べられているとおり,濾過胞内の微細構造,組織密度,強膜フラップや線維柱帯開口部などの詳細な観察が非侵襲的に可能である.三次元表示もできる.しかも,周術期にも非接触で観察できることは感染回避の観点からもUBM に比較して格段に有利である.こうしたことから,前眼部 OCT は濾過胞観察機器として今後とも使用されていくことは間違いない. 本方法に対するコメント

眼感染アレルギー:コンタクトレンズ汚染と角膜炎

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913650910-1810/09/\100/頁/JCOPYコンタクトレンズ(CL)が普及する前,感染性角膜炎は高齢者特有の疾患であり,若年者にはまれなものであった.最近実施された感染性角膜炎サーベイランス1)によると,症例の年齢分布は明瞭な二峰性を示しており,20 代および 60 代にピークがみられた.また,20 代あるいはそれ以下の症例の約 9 割が CL に関連するものであった.CL というたった一つの要因により感染性角膜炎の発症年齢分布が一変してしまったわけである.このサーベイランスでは使用している CL の種類と起炎菌との関連についても興味深い結果が得られた.ソフトコンタクトレンズ(SCL)のなかでも頻回(2 週間など)交換型 SCL(FRSCL),あるいは従来型の SCL のようにレンズケアを必要とし,同じレンズを再装用するユーザーの感染性角膜炎の起炎菌にはグラム陰性桿菌が多いことが判明した.その多くは Pseudomonasツꀀ aerugino-sa および Serratiaツꀀ sp. の 2 菌種であるが,この 2 菌種は洗面所などの水周りを発端とする院内感染でも問題となっている環境菌である.家庭においても CL ケアを行う洗面所がこれらの菌に汚染され,手指を介して CL・CLケースあるいは多目的用剤(multi-purpose solution:MPS)に付着あるいは混入し,角膜の微細な上皮障害部分から感染が成立すると考えるのが妥当であろう. CL関連角膜感染症全国調査より日本コンタクトレンズ学会および日本眼感染症学会主導で CL 関連角膜感染症全国調査が行われた.本調査はコンタクトレンズ装用が原因と考えられる角膜感染症で入院治療をした症例を対象としたものである.平成 19年 4 月から 1 年間の中間報告2)では男性 129 例,女性104 例,合計 233 例が集積された.年齢は 9 90 歳(平均 28 歳)であった.このなかで FRSCL などレンズケアを行った後再装用をする SCL の装用者は 173 例(CLの種類が把握されている 216 例の 80.0%)と多くを占めていた.このほかにカラー CL 装用者が 11 例みられていた.CL の洗浄については毎日に加え週 4 6 回行っているものを含めても 107 例であり,レンズケアを必要とされるユーザーの数を大幅に下回っていることが確認できた.(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=ツꀀツꀀ ツꀀ木下茂ツꀀツꀀ ツꀀ 大橋裕一22.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀコンタクトレンズ汚染と角膜炎宇野敏彦松山赤十字病院眼科30 歳未満の感染性角膜炎のほとんどがコンタクトレンズ(CL)装用者である.CL は環境に普遍的に存在しているさまざまな微生物を眼表面にもち込む,いわば“キャリアー”として働く.また CL ケースは微生物の“保管庫”となり,ときにアカントアメーバの“えさ場”ともなりうる.図ツꀀツꀀ ツꀀ1CLケースに残ったMPS中のアカントアメーバシストMPS をスライドグラスに滴下し,無染色でそのまま観察した.シストが塊状となり多数存在していた.図ツꀀツꀀ ツꀀ2ツꀀツꀀ ツꀀ図1と同一症例のCLケースサフラニン染色を行い,細菌などの付着状況を確認した.赤く染色された部分は,細菌などの微生物による汚染があったと考えられる.———————————————————————- Page 21366あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009 CL・CLケース汚染の実態25 歳のアカントアメーバ角膜炎症例の CL および CLケースについて提示したい.図1はアカントアメーバ角膜炎症例の CL ケースに残っていた MPS を観察したものである.繊維状の異物とともにアカントアメーバのシストが多数塊状となっていた.本症例の CL ケースの汚染状況を確認したものが図2である.CL を保存する部分の底に菌(バイオフィルム?)の付着が認められた.CL ケースが高度に細菌およびアカントアメーバに汚染されていたことが確認された症例である.なお,本症例が角膜炎発症時に装用していた SCL を走査電子顕微鏡にて観察したところ,感染眼のみならず非感染眼の CLも多量のアカントアメーバの付着がみられていた.先の CL 関連角膜感染症全国調査でも 17 例(10.6%)が両眼性の角膜炎で入院加療されている.これまで両眼発症のアカントアメーバ角膜炎の報告もあり3),この要因として CL および CL ケースが両眼とも高度に汚染されていることがあげられよう. 染CLによる非感染性角膜炎?図3aは角膜中央部に淡い浸潤病巣をきたした症例で(68)ある.本症例の装用 CL の所見を図3bに示す.CL の角膜側に付着していた白色沈着物からは多数の糸状真菌が検出された.しかし,本症例は CL 装用を中止することにより速やかに消炎しており,真菌による感染は成立していなかったと推測される症例である.今後の慎重な検討が必要であるが,CL 装用者の角膜炎には角膜内に起炎菌が存在する病態とともに,汚染CL に付着している細菌などの微生物による二次的に起こる非感染性の角膜浸潤も加味されているように思われる.感染病巣は小さいが角膜実質表層全体がすりガラス状に淡い浸潤をきたしているような症例に遭遇することは多い.CL による機械的,あるいは多目的用剤(MPS)による化学的上皮障害の要因ももちろん否定はできないが,CL に付着している微生物より放出される“毒素”あるいは微生物に対する免疫反応が病態を修飾している可能性が高いと考えられる.文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌 110:961-972, 2006 2) 福田昌彦,コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査委員会:コンタクトレンズ関連角膜感染症の実態と疫学.日本の眼科 80:693-698, 2009 3) 石橋康久:アカントアメーバ角膜炎 37 自験例の分析.眼科 44:1233-1239, 2002☆ ☆ ☆図ツꀀツꀀ ツꀀ3a汚染CLによる非感染性角膜炎を疑った症例角膜中央部に境界不鮮明な淡い浸潤病巣を認めた.角膜浮腫はなく,前房内の炎症も軽微であった.図ツꀀツꀀ ツꀀ3bツꀀツꀀ ツꀀ装用していたCLの概観CL の角膜側に白色の沈着物を認めた.これを一部擦過後検鏡したところ,多数の糸状菌が確認された.

緑内障:線維柱帯切除術の効果の限界と可能性

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913630910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は,観血的に眼内から眼外への房水流出路をつくり,その濾過効果によって眼圧下降を図る術式である.現在ある眼圧効果療法の手段のなかでは,最も大きな眼圧下降が短期間でほぼ確実に得られることは周知の事実である.ところが,TLE にはいくつかの問題点がある.低眼圧症などの合併症以外に,長期間の濾過効果を得られないケースもあり得るということがあげられる.人体には生来に創傷治癒機構が備えられていて「自然44に4傷は治る」が当たり前だが,TLE はその自然な生体反応に相反する手術である(図1).つまり,十分な濾過効果を得るために,切開して作製された強膜弁が治らず444に4,ずっと解離している必要がある.逆にいえば,「いかに傷が治りにくいか」が術後の長期の眼圧コントロールを左右する.そもそも手術療法とは,「解剖学的に元の状態に近い組織構造に戻して(骨折手術など),その生理機能を維持させる」もしくは「余計なもの(癌など)を取り除いて,その臓器の生理機能の悪化を防ぐ」という理論に基づくものが多い.そのなかでは,TLE という手術療法は,「元の状態に戻っては困る」というユニークな手術とも考えられる. えてツꀀ 悪に4444みたTLEの術後成績TLE の術後成績の報告は多いが,術中のマイトマイシンC 併用などによって,短期-中期的に良好な眼圧下降が得られていることは間違いない事実である.しかしながら,術後数カ月後にマイトマイシンC の薬効が消失した後の長期的な眼圧コントロールに着目した場合,一旦は目標眼圧に到達しても,約 30%の確率で目標眼圧を維持できない結果となる(図2).実際に,TLE 後の数年後に,濾過胞再建術や再度 TLE を要する症例を経験することもしばしばである.したがって,TLE は万4能ではなく44444,術後の長期にわたる眼圧下降を確保するには,何らかの工夫が必要になる.(65)●連載112緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄ツꀀツꀀ ツꀀ 山本哲也112.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀ線維柱帯切除術の効果の限界とツꀀツꀀ ツꀀ可能性金本尚志広島大学大学院医・歯・薬学総合研究科 視覚病態学(眼科学)緑内障の手術療法において,線維柱帯切除術に勝るものは存在せず,比較的安全に適切な眼圧下降が得られることは周知の事実である.しかしながら,創傷治癒のために眼圧下降効果が有限であっても何ら不思議なことではなく,それに対する対処法の開発が現在進行形で検討されている.:Criteria A:Criteria B:Criteria C1.00.80.60.40.20.010020経過期間(週)3040生存率強膜弁の作製房水の結膜下への濾過強膜弁の閉鎖眼圧の再上昇眼圧の下降図ツꀀツꀀ ツꀀ2有水晶体に対するTLE後の眼圧の生存率Criteria A:眼圧 18 mmHg 以下・20%眼圧下降率.Criteria B:眼圧 15 mmHg 以下・25%眼圧下降率.Criteria C:眼圧 12 mmHg 以下・30%眼圧下降率.術後 1 年後から生存曲線の低下がみられ,術後 3 年後には生存率が大きく低下してくる. (文献 1 より)図ツꀀツꀀ ツꀀ1濾過手術と創傷治癒自然な生体反応としては,創傷治癒機構によって,創である強膜弁はいずれ閉鎖してしまうはずである(点線).しかし,それでは TLE で得られた眼圧下降効果が持続しない.———————————————————————- Page 21364あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009 過胞維持のための工夫創傷治癒に伴って濾過効果が減弱してきた際に,濾過機能を復活させる観血的処置としてニードリングがある.つまり,針などを用いて結膜下瘢痕組織を切開し,癒着した強膜弁を開放する手法である.短期的には明らかな効果があるが,長期的にみると,約 50%以下の確率で目標眼圧を維持できなくなる.創傷治癒の理論を考えると当たり前ともいえるが,それに反して長期の良好な眼圧コントロールを得ることが一部の症例にみられることは確かである(図3).したがって,濾過胞再建術を検討する前に,可能であればぜひトライすべきである.一方で,分子生物学的アプローチに基づく濾過効果持続の可能性も検討されている.その一つに,ROCK 阻害薬があげられる.ROCK 阻害薬は線維柱帯房水流出路を増大させる点眼薬である3)が,別の薬効も期待できるかもしれない.すなわち,TLE 後の濾過胞での創傷治癒を抑制する効果である.ROCK 阻害薬が Tenonツꀀ 由来の線維芽細胞の機能を抑制することは基礎実験などですでに証明されている4).したがって,TLE 後にROCK 阻害薬の点眼を併用することが,濾過効果を維持して,長期的な眼圧コントロールに貢献するかもしれな い(図4).(66)おわりに主として TLE の負の側面に着目して述べてきたが,だからといって TLE がダメなわけでは,もちろんない.なにしろ,TLE に匹敵する治療法はほかにはないのだから.実際に,小生自身も困ったら TLE を即座に選択する.しかしながら,患者が超音波白内障手術のように1 回きりの手術を希望するのは当然で,その期待に応えるために,万全を期して,術中・術後療法を含めたTLE に臨みたい.そのためには,TLE の手術ストラテジー全体を今後進化させる必要があるのかもしれない.文献 1) Fontana H, Nouri-Mahdavi K, Lumba J et al:Trabeculec-tomy with mitomycin C:outcomes and risk factors for failure in phakic open-angle glaucoma. Ophthalmology 113:930-936, 2006 2) Rotchford AP, King AJW:Needling revision of trabe-culectomy:Bleb morphology and long-term survival. Ophthalmology 115:1148-1153, 2008 3) Honjo M, Tanihara H, Kameda T et al:Potential role of Rho-associated protein kinase inhibitor Y-27632 in glau-comaツꀀ ltration surgery. Invest Ophthalmol Vis Sci 48:5549-5557, 2007 4) Honjo M, Tanihara H, Inatani M et al:E ects of rho-associated protein kinase inhibitor Y-27632 on intraocular pressure and out ow facility. Invest Ophthalmol Vis Sci 42:137-144, 20011.00.80.60.40.20.0123経過期間(年後)生存率45線維芽細胞MMCROCK阻害薬濾過胞の瘢痕化TGF?b筋性線維芽細胞図ツꀀツꀀ ツꀀ3ニードリング施行後の眼圧の生存率実線:TLE 後 3 カ月以内にニードリングを施行した群.点線:TLE 後 3 カ月以降にニードリングを施行した群.施行後 1 年後には大きく生存率が低下するが,数年経ても目標眼圧を維持している症例が約 20 40%存在する. (文献 2 より)図ツꀀツꀀ ツꀀ4ROCK阻害薬と創傷治癒Tenonツꀀ 由来線維芽細胞は,房水からもたらされた TGF-b(transforming growth factor-b)によって,アクチンなどの強固な瘢痕組織を形成する筋性線維芽細胞に誘導される.ROCK阻害薬は,術後中期-後期の濾過胞瘢痕化の役割を担う筋性線維芽細胞の機能を抑制する.MMC:マイトマイシンC.☆ ☆ ☆

屈折矯正手術:ボストンレンズによるケラテクタジアの矯正

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913610910-1810/09/\100/頁/JCOPYレーシック(laserツꀀ inツꀀ situツꀀ keratomileusis:LASIK)などのレーザー屈折矯正術後の合併症にケラテクタジア(keratectasia,角膜拡張症)がある.術後に角膜が脆弱化し菲薄化,前方突出する状態で,角膜の不正乱視により裸眼視力および矯正視力の低下をもたらす.現在,角膜トポグラフィなどを用いた術前のスクリーニングで危険因子が指摘されているが,危険因子がなくても発症したという報告もあり,完全に予防することは困難と思われる1 4).発生率は報告によって異なるが 0.04 0.09%程度と報告されている2,4).円錐角膜と同様,軽度のケラテクタジアであれば眼鏡矯正にて視力矯正は可能だが,進行すると眼鏡矯正は困難になる.この場合,ハードコンタクトレンズ(HCL)による矯正が選択肢となる.ただし,HCL のフィッティングは,角膜突出部と角膜周辺部の間に角膜曲率半径の差が大きいため容易ではない.また,もともとドライアイ患者が多いことや,レーシック術後のドライアイがある場合もあり,装用感が優れず継続的な装用が困難な場合がある.また,患者がレーシック後にコンタクトレンズから解放されると期待している背景があるため,コンタクトレンズ装用が精神的に受けいれられない場合もあり処方に苦慮する.ケラテクタジアのコンタクトレンズによる屈折矯正の手順としては円錐角膜の屈折矯正と同じく,眼鏡矯正ができない場合は球面 HCL を,それがむずかしければ非球面の HCL,ピギーバックを試してみる.筆者らの施設では,従来の方法でもレンズ装用が不可能な患者に対してボストンスクレラルレンズの処方を行っている.ボストンレンズは治療用強角膜レンズで,ガス透過性HCL と同じ素材で作製されており,現在の素材では Dk値は 85×10 11(cm2/sec)・(ml O2/ml×mmHg)であ(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載113監修=木下茂大橋裕一坪田一男113.ツꀀツꀀ ボストンレンズによるケラテクタジア の矯正小島隆司慶應義塾大学医学部眼科/ 名古屋アイクリニックケラテクタジアでは,角膜不正乱視とドライアイなどの背景から通常のハードレンズ装用が困難なことが多い.ボストンレンズは角膜と直接レンズが触らないために装用感に優れ,かつ不正乱視矯正効果もある.ただし,レンズの装用方法が通常のコンタクトレンズと異なるため適切な装脱練習が必要である.角膜移行部涙液強膜ハプティクス光学部液体の貯留部位図 1ボストンレンズの断面図図 2ボストンレンズ装用後のスリットランプ写真スリットランプで観察するとレンズと角膜の間にスペース(vault)が確認できる.———————————————————————- Page 21362あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009る.図1に示したようにボストンレンズは強膜の部分で眼球と接し,角膜とレンズの間には液体が貯留する.この液体は装用時に生理食塩水が貯留しており,徐々に涙液に置換されていく.ボストンレンズの特徴は大きく分けて 2 つある.第 1 は,HCL として角膜の不正乱視を矯正する効果があること,第 2 は,レンズと角膜の間に貯留した液体の効果で眼表面の上皮障害改善,消炎効果をもつことである.この特長を生かして,表1にあげたような疾患が適応となる4).筆者らはレーシック後ケラテクタジア 3 例 4 眼に対して,屈折矯正目的でボストンレンズの処方を行った.すべての患者に対してはじめに通常の球面 HCL,非球面の HCL 処方を行うも,異物感および乾燥感が強く継続的な使用は困難であった.HCL による矯正視力,ボストンレンズによる矯正視力を表2に示すが,ボストンレンズにおいても同等の視力が得られた.また,装用後の異物感,乾燥感は従来の HCL に比べて軽度で日常装用に十分耐えるうるものであった.ボストンレンズの欠点は,通常のレンズと装用方法が異なるため装用練習に時間的,精神的負担がかかることである.しかし,レンズの装用はレンズの見た目に比べてはるかに簡単であり,筆者らの施設では視能訓練士とともに患者とマンツーマンでできるようになるまで根気よく指導をしている.今回の患者 3 名のうち,2 名は 2回の装用練習で問題なく装用できるようになったが,1名は練習に 7 回来院してもらい最終的に自分で装用できるようになったことを経験した.レーシック後のケラテクタジアは今後レーシック患者の増加に伴って増える可能性が考えられる.術前の涙液,眼表面状態からレーシック術後に HCL を使用していくことは困難な場合があるため,ボストンレンズは一つの屈折矯正オプションになりうると思われた.* ボストンレンズは国内未承認コンタクトレンズのため名古屋アイクリニック(名古屋市熱田区)にて院内倫理委員会の承認を得て処方を行っています.なお,Boston Founda-tion for Sight よりボストンレンズの提供を受けるには規定のトレーニングを受ける必要があります.文献 1) Binder PS, Lindstrom RL, Stulting RD et al:Keratoconus and corneal ectasia after LASIK. J Cataract Refract Surg 31:2035-2038, 2005 2) Randleman JB, Trattler WB, Stulting RD:Validation of the Ectasia Risk Score System for preoperative laser in situ keratomileusis screening. Am J Ophthalmol 145:813-818, 2008 3) Klein SR, Epstein RJ, Randleman JB et al:Corneal ectasia after laser in situ keratomileusis in patients without apparent preoperative risk factors. Cornea 25:388-403, 2006 4) 中村友昭:特集ケラテクタジア角膜形状による予防法.IOL&RS 22:152-163, 2008 5) Rosenthalツꀀ P,ツꀀ Croteauツꀀ A:Fluid-ventilated,ツꀀ gas-permeable scleral contact lens is an e ective option for managing severe ocular surface disease and many corneal disorders that would otherwise require penetrating keratoplasty. Eye Contact Lens 31:130-134, 2005(64)☆ ☆ ☆表 1ボストンレンズの適応疾患1.角膜不正乱視(重症円錐角膜など)2.重症眼表面疾患(Stevens-Johnson 症候群など)3.兎眼4.重症ドライアイ表 2眼鏡・HCL・ボストンレンズの矯正視力の比較症例自覚屈折矯正視力眼鏡HCLボストンレンズ1Sph 8 D, Cyl 2 D Ax30°0.41.01.02Sph 1.5, Cyl 5 D Ax80°0.81.21.03Cyl 3 DAx90°0.71.21.04Sph 1 D, Cyl 2 D Ax120°1.21.21.2

眼内レンズ:Surgical Media Center(SMC)

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913590910-1810/09/\100/頁/JCOPY眼内レンズや白内障手術方法の進歩により白内障術後視機能は向上した.そのため,若手術者は早い段階での手術手技のスキルアップを求められ,指導医にとっても頭の痛いところである.自分の手術手技を録画し確認することは重要であるが,通常の録画で超音波ハンドピースの動きは観察できるが,フットペダルの動きまで確認することは不可能である.車の運転でもハンドルだけでなくアクセル,ブレーキの動きが重要なのと同様に,白内障手術においてもフットペダルの動きは白内障手術手技の向上に重要なポイントとなる.Surgical Media Center(SMC, AMO 社)を使用すると,これまで観察が不可能であった超音波パワー,吸引,流量などの動きを手術動画と同じ画面で閲覧することができる.すなわち,フットペダルの動きを客観的にグラフ化し可(61)松島博之獨協医科大学眼科眼内レンズセミナー 監修/大鹿哲郎278.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀSurgicalツꀀツꀀ ツꀀMediaツꀀツꀀ ツꀀCenter(SMC)白内障手術技術をスキルアップするためには,録画した自分の手術手技を確認することが重要である.SMCを使用すると通常の録画では得ることのできない超音波パワー,吸引圧,流量などの詳細な情報を手術動画と同時に閲覧できるため,効果的である.図 1SMC接続方法手術顕微鏡,フェイコマシンのケーブルを SMC コンバータに接続後コンピュータにつなぐと手術画像と術中超音波パワー,吸引,流量の情報をウィンドウ上に同時に表示できる.図 3SMC表示例(核破砕吸引)分割後の核片をチョップして破砕操作しているが,超音波と吸引を急速に発振し核片の一部を破砕した後,吸引だけで核片を把持しながら分割していることを画面情報から読み取ることができる.図 2SMC表示例(溝掘り)左グラフ上段より超音波パワー(黄),吸引圧(青),流量(緑)を示す.他にボトル高,フットペダル位置,超音波積算値などの情報も得ることができる.画面情報より,溝掘り操作では低い吸引圧で,超音波が規則正しく発振している様子がわかる.1324———————————————————————- Page 2視化するので,これまで捉えることのできなかった術者の隠れた操作を評価することができる.SMC のセットアップには専用ソフトウェアの入ったコンピュータとコンバータが必要で,このソフトウェアは SovereignR,SovereignR Compact,次世代の WHIT-ESTAR SignatureRにも対応する.手術顕微鏡,フェイコマシンのケーブルを SMC コンバータに接続し,コンピュータにアウトプットすると手術画像と同時に超音波パワー,吸引圧,流量,ボトル高,フットペダル位置,超音波積算値などの情報をウィンドウ上に表示することができる(図1).図2, 3に実際に表示されたウィンドウを示す.超音波パワー,吸引,流量がグラフ化されて表示されるので経時的に変化を観察することができる.図2は溝掘り操作を示すが,グラフをみると,吸引圧が低い状態で超音波が規則正しく発振している様子がわかる.図3は分割後の核片をチョップ破砕操作しているところであるが,一時的に超音波と吸引を急速に発振し核片の一部を破砕した後,吸引だけをかけて核片を把持しながら破砕していることをグラフから読み取ることができる.このように動画だけではわからなかった情報が可視化されるところに SMC の利点がある.隠れた手術手技を可視化できる SMC は教育にも効果的である.図4に豚眼を使用したウェットラボ教育方法の例を示す.フェイコチョップの手技を示したものだが,特に超音波パワーの波形(黄色)に着目してほしい.熟練者では鋭角な超音波発振の後吸引がかかった状態を保ち,核片をしっかり把持していることがわかるが,初心者では最初の超音波発振の後にしばらく超音波の波形が続いており,フットペダルの切り替えがうまくいっていないことがわかる.動画だけではわからない情報がSMC から得ることができ,術中の波形を解析することで術者の欠点を明確にし,的確な手術指導ができる.SMC はまだ新しく,応用方法にはさらなる検討は必要であるが,筆者の印象で SMC は,現在は一般化され簡便さから広く普及している車のナビゲーションシステムのようなイメージがある.今後ソフトの改良と使用方法の検討が進めば,臨床や教育現場で新たな可能性を見いだすことができる有効なマテリアルと考えている.図 4SMCによる初診者と熟練者の手術手技比較初診者(左)では無駄な超音波発振が続いているのに対し,熟練者(右)では無駄な超音波発振をせず効率よく核片を破砕していることが,SMC 画面情報のグラフ波形から読み取れる.初心者熟練者

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法(ニチコン・ローズK2※PG)

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913570910-1810/09/\100/頁/JCOPY角膜移植後の患者に十分な視力を回復させるためには,術後角膜乱視への矯正が必要となりコンタクトレンズ(CL)の処方は,角膜に対しての安全性や可逆性などを考えると有用な方法である.実際角膜移植後の不正乱視の発生起因としては,① 宿主角膜と移植角膜の曲率半径の相違② 縫合部周辺の角膜形状③ 創傷治癒の違い④ 縫合糸による牽引 などさまざまな要因が関与していると考察される.このように非常に複雑な形状である移植後眼1)に対して,CL の処方は有用2)でありながら実際の処方にはレンズが不安定になったり,矯正が不十分であったりと苦慮させられる.今回は,そういった症例に対して,新しい角膜移植後用ガス透過性ハード CL(RGPCL):Rose K2TM PG(post graft)レンズを紹介する.円錐角膜などの不正乱視眼の患者を対象に,ローズ Kインターナショナル社のデザインによる RGPCL がRose KTMレンズである.このレンズを改良し,角膜移植後用として新しくデザインされたものが,Roseツꀀ K2TM PG である.レンズ材料は従来の Rose KTMレンズと同様で米国:Polymerツꀀ Technology 社の Boston 材料(Dk値 100)を使用している.レンズデザインを図1に示す.従来の Roseツꀀ KTMレンズと比較して,標準レンズ直径を大きくし逆形状多段カーブ(リバースジオメトリック)デザインにすることで,角膜上でのレンズセンタリングや装用感,さらに収差を軽減し視機能の向上を目的に考慮されたデザインとなっている.受注規格は表1に示す. 際の処方をしてみてレンズベースカーブ(BC)の選択は,フィッティングガイドでは第一選択は角膜曲率半径平均値より 0.3 m mスティープとなっているが,実際の処方傾向から考察してみると,移植片が抜糸済みか否かでかなり選択に違い(59)が出る.縫合糸がない移植片では平均して約 0.40 m mほどのスティープ選択となり,縫合糸が残存している症例では,現時点では平均化がむずかしくトライ&エラーでの選択が必要かと考える.またエッジクリアランスの評価には多少の慣れが必要だろうが,最適な周辺部のフィッテイングが選択できるように 5 段階のエッジリフト高を選択指定できることは有効な手段といえる.レンズ直径の標準規格は 10.4 m mであるが,経験値からみて約 6 割強は 10.0 m m以上のサイズ選択であった.処坂田実紀ワキタ眼科コンタクトレンズセミナー 監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純 私のコンタクトレンズ選択法304.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀニチコン・ローズ K2TMツꀀツꀀ ツꀀPG 面 学部(BC)ベベルベベルリバース部リバース部図 1 リバースジオメトリックデザイン:内面形状イメージ(断面)表 1Rose K2TM PGレンズ受注規格ベースカーブ(BC)5.70 9.30 mm(0.1step)直径(DIA)標準 10.4 mm(9.4 11.0 mm)度数(power)+5.00ツꀀ 25.00 Dエッジリフト5 段階選択可0.50-0.5-0.1-1.5-2.0-2.0-1.5-1.0-0.500.5log(Rose KTM PG視力)log(以前使用CL視力)(n=33)図 2 Rose K2TM PGレンズ対数視力vs以前使用CL対数視力t 検定の結果:危険率 p=0.0004,統計学的に有意差あり.———————————————————————- Page 21358あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(00)方後の視力は,以前使用していた CL と比較しても良好な結果を示した(図2).文献 1) Gruenauer-Kloevekorn C, Kloevekorn-Fischer U, Duncker GI:Contactツꀀ lensesツꀀ andツꀀ specialツꀀ backツꀀ surfaceツꀀ designツꀀ after penetrating keratoplasty to improve contact lensツꀀ t and visual outcome. Br J Ophthalmol 89:1601-1608, 2005 2) 柳井亮二,植田喜一:特殊コンタクトレンズを用いたコンタクトレンズ処方.日コレ誌 48:240-245, 2006症例1:2006/12 全層角膜移植前 C L(左):ピギーバック法(RGPCL+SCL)矯正視力 0.9後 C L(右):Rose K2TM PG8.40/+1.5D/10.4 mm矯正視力 1.0症例2:2006/9 深層角膜移植前 C L(左):非球面 RGPCL矯正視力 0.8後 C L(右):Rose K2TM PG7.90/ 3.75D/10.4 mm矯正視力 1.0症例3:1999/9 全層角膜移植前 C L(左):Rose KTM矯正視力 0.3後 C L(右):Rose K2TM PG600/ 16.5D/9.6 mm矯正視力 0.7

写真:生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:マイボーム腺

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,200913550910-1810/09/\100/頁/JCOPY(57)写真セミナー 監修/島﨑潤横井則彦305.ツꀀツꀀ ツꀀツꀀツꀀ ツꀀ生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:ツꀀツꀀ ツꀀマイボーム腺←ツꀀ 図 1マイボーム腺腺房像(37 歳,男性)腺房は密に配列され,外側は 1 列の高輝度陰影,内部は低輝度陰影を示す.本症例はマイボーム腺開口部にcapping が少量散在するが,分泌圧出試験は良好.図 3マイボーム腺機能不全症例の腺房像(70 歳,男性)腺房の拡張変化と思われる.腺小葉基底部付近は部分的に高輝度陰影がみられる.本症例はマイボーム腺開口部周囲の血管拡張,瞼縁の不整を認め,開口部の閉塞変化が強い.分泌物圧出試験1)は gradeツꀀ 3,BUT(涙液層破壊時間)は 1 秒と短縮している.①図 2図1のシェーマ①:マイボーム腺腺房.図 4 (重症)マイボーム腺機能不全症例の腺房像(67 歳,女性)図1,3と同様の観察深度でも腺房構造が不明瞭.点在する滴状の高輝度陰影は,変性萎縮した腺房と思われる.本症例のマイボーム腺開口部は閉塞変化が強く,分泌物圧出試験は grade 3.瞼縁は不整で,BUT は 4 秒と短縮し,図3症例と臨床像は類似するが,腺機能の低下は著しいことを示唆する.久保田久世東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座・視覚科学分野———————————————————————- Page 21356あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(00)マイボーム腺は眼瞼後葉に存在する皮脂腺の一種で,中央に 1 個の導管があり,その周囲に円形の腺組織(腺房)が集合して配置しており,大小の小葉を形成している2).腺房の外側はやや好塩基性の細胞が一列に配列しており,内部は淡明で胞体を有する細胞が充満している.さらに分化した細胞は,中央で変性し脂質を導管へ排出する.マイボーム腺開口部から分泌される油脂は涙液油層を構成し,涙液の蒸発を防ぐとともに涙液層の安定性を高める働きをもつ.マイボーム腺機能不全は,分泌物に量的あるいは質的な異常を生じて蒸発亢進型ドライアイを生じる疾患であり,成因は不明であるが閉塞型では病理学的には導管上皮の角化異常をきたしていると考えられている3).マイボーム腺の機能評価としては,細隙灯顕微鏡での観察や分泌物圧出試験1),マイボメーター4)などが用いられており,マイボーム腺の組織構造を生体観察する方法としては,マイボグラフィ法と前述症例提示した,レーザー生体共焦点顕微鏡がある.近年マイボグラフィシステムの発展は目覚ましく,低侵襲でより鮮明な観察像が得られるようになった.しかし,マイボグラフィ法では腺小葉の形態としてとらえており,全体的な残存機能評価には有効であるが,腺房や導管内部レベルの解析は困難である.レーザー生体共焦点顕微鏡 Heidelbergツꀀ Retinaツꀀ Tomo-graph II は,元来視神経乳頭の三次元画像を取り込み,形態解析するための走査型顕微鏡検査であるが,2005年に Kobayashi らによってこれに角膜観察用アタッチメントを装着することにより,角膜の層別観察以外にもマイボーム腺構造も低侵襲的に,生体観察が可能であると報告された5).光源はダイオードレーザー 670 nm,ツꀀ デジタル解像度(X-Y 軸)384/384 pixels(1 μm/pixel),撮像範囲は 400×400 μm であり,検査法は点眼麻酔下で先端部光学レンズ部分(滅菌カバーあり)を眼瞼結膜面に接触させ観察する.焦点深度は 50 105 μm で,マイボーム腺構造として導管・腺房・間質の描出,炎症性細胞浸潤についての観察が可能である.近年マイボーム腺機能不全症例では,健常者と比べ有意に腺房の密度低下と腺房径拡大がみられることが報告されており6),前述の図1,3,4の比較にても同様の結果であった.この検査によって組織障害の重症度と腺機能の予備能が評価できる.今後さらなる臨床研究によって,マイボーム腺のより詳細な組織障害の変化,また治療前後の評価についてもリアルタイムにとらえることができる可能性があり,今後の発展が期待できる.文献 1) Shimazaki J, Goto E, Tsubota K et al:Meibomian gland dysfunction in patients with Sjogren syndrome. Ophthal-mology 105:1485-1488, 1998 2) 加瀬諭,小幡博人,林暢紹ほか:眼瞼部眼瞼後葉.眼科プラクティス 8,いますぐ役立つ眼病理(石橋達朗ほか編),p38-55,文光堂, 2006 3) Obata H:Anatomy and histopathology of human meibo-mian gland. Cornea 21:S70-74, 2002 4) Komoro A, Yokoi N, Kinoshita S et al:Assessment of meibomian gland function by a newly-developed laser meibometer. Adv Exp Med Biol 506:517-520, 2002 5) Kobayashi A, Yoshita T, Sugiyama K:In vivoツꀀ ndings of theツꀀ bulbar/palpebralツꀀ conjunctivaツꀀ andツꀀ presumedツꀀ meibomi-anツꀀ glandsツꀀ byツꀀ laserツꀀ scanningツꀀ confocalツꀀ microscopy.ツꀀ Cornea 24:985-988, 2005 6) Matsumoto Y, Sato EA, Tsubota K et al:The application ofツꀀ inツꀀ vivoツꀀ laserツꀀ confocalツꀀ microscopyツꀀ toツꀀ theツꀀ diagnosisツꀀ and evaluationツꀀ ofツꀀ meibomianツꀀ glandツꀀ dysfunction.ツꀀ Molツꀀ Vis 14:1263-1271, 2008