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日常臨床における視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYII視力検査に必要な基礎知識1. 視力(visual acuity)とは物体の形や存在を認識する眼の解像力を示し,眼球から視覚中枢に至るまでの視機能全体の指標である.通常は,眼がかろうじて判別できる 2 点が眼に対してなす角(最小可視角)の逆数で表現する.よって,その値は検査距離に依存しない(図 1).2. 視標標準視標には,ランドルト環(Landolt ring)が用いられる.環の太さと切れ目の幅がともに外径の 1/5 で,視力 1.0 のときのランドルト環の切れ目は視角 1¢(1 分)である.検査距離5 mのときの 1.0 のランドルト環の大きさは,外径 7.5 m m・太さと切れ目の幅 1.5 m mである(図 2).ランドルト環以外にも, 文字や数字などの視はじめに視力検査は眼科診療において最も基本となる検査の一つである.医師自身が視力の原理や測定方法を理解し,検査時における細やかな指示や検査結果の正しい評価をすることが求められる.本稿では,日常臨床における視力検査の重要性を述べた後,視力検査時に必要な基礎知識,基本的な検査の手順,そして最後に検査結果を評価する際の注意点を紹介させていただく.I日常臨床における視力検査の重要性 (どうして視力検査が大切なのか?)診療を行っているとほぼ毎日「よく見えません」と受診される方を経験する.しかし同じ「よく見えない」のなかにもさまざまな程度や原因が含まれていることは言うまでもない.“見え”の感じ方は千差万別であり,かつ本人にしか体験できない.そのため患者自身も表現に苦労し医師やスタッフに正確に伝わっているかが心配になる.一方で,診療側も「よく見えない」と言われるだけでは,さまざまな疾患が頭をよぎり診断にも時間を要してしまう.このような場合でも視力検査は,あいまいな見え方の表現や質を共通の形で表現することができる.それにより,診断の大きな助けにもなる.たとえば屈折異常は,視力検査だけで診断と治療方法がおおよそ決定される.(3) 1443 a a a 視 062 0841 465 視 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1443 1450,2009日常臨床における視力検査Daily Assessment of Visual Acuity稗田朋子*稗田牧* 視 q(分)視力=1/θ図 1視力の表示方法最小可視角の逆数が視力である(1/最小可視角).———————————————————————- Page 21444あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(4)ズで矯正できる正乱視と矯正できない不正乱視がある.正乱視では,最も強い屈折力をもつ強主経線と最も弱い屈折力をもつ弱主経線が互いに直交している.各々の経標が使われることがある.それらは,ランドルト環との比較実験で作製されている.3. 視力の表示法国際的な標準視力表示方式は小数視力であり,わが国でも一般的に使用されている.小数視力=1/最小可視角(分)である.一方,欧米では分数視力(スネレン方式:Snellen method)を用いるところが多い.分数視力を小数に換算した値は,小数視力と同じ値である.小数視力や分数視力は視覚に反比例する数値であるため視力表の視標の各段と視力の実質的な差が一致しない.そこで,最小可視角の対数で表す logMAR(logarithmic minimum angle of resolution)が使われることもある1).4. 視力の種類裸眼・矯正視力,遠見・近見視力,字ひとつ・字づまり視力が普段よく使われる.上記以外に両眼視力,中心外視力,動体視力,対比視力,縞視力などがあり,必要に応じて測定する.5. 屈折矯正視力測定時には屈折検査が必要である.平行光線が無調節状態で網膜面に結像する眼を正視(emmetro-pia),結像しない眼を屈折異常という.屈折異常には,網膜面より後方に結像する遠視(hyperopia),前方に結像する近視(myopia),経線方向により結像位置の違う乱視(astigmatism)がある(図 3).乱視には,円柱レン1.5mm7.5mm1.5mm図 2標準視標=ランドルト環(Landolt ring)円環全体の直径:円弧の幅:輪の開いている幅=5:1:1 の比率.5 mでの測定時における 1.0(視角 1 分)のランドルト環は外径 7.5 mm・太さと切れ目の幅 1.5 mmである.正視(emmetropia)遠視(hyperopia)近視(myopia)乱視(astigmatism)図 3正視と屈折異常上から順に正視(emmetropia),遠視(hyperopia),近視(myopia),乱視(astigmatism)を表している.遠視は凸レンズ,近視は凹レンズ,正乱視は円柱レンズで矯正される.Sturmの間隔前焦線後焦線最小錯乱円図 4正乱視眼のシェーマ前焦線〔 rst(anterior)focal line〕=強主経線の焦線.後焦線〔second(posterior)focal line〕=弱主経線の焦線.焦 域(focal interval)(スタームの間隔:interval of Sturm)=乱視度の強さ.最 小錯乱円(circle of least confusion)=全光束が最も接近する位置.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091445(5)1. 測定条件普遍的な視力検査結果を得るために一定の測定条件が必要である.室内照度は 50 lux 以上で視標輝度を上回らない値とする.視力表の照度は 500±125 ラドルックス(rlx)(rlx=反射率×ルックス)であり,視標のコントラスト比は 85%以上必要である(図 5)1).原則的に,右眼の裸眼視力→左眼の裸眼視力→右眼の矯正視力→左眼の矯正視力の順に測定する.まず,視力は閾値であるので,被検者にはあらかじめぼんやりとでも判別できれば答えてくれるように説明しておく.目を細めると,焦点深度が深くなり視力が実際の値より良く測定される可能性があるので,目は細めないよう注意を促す.散瞳時に視力測定をする場合には3 m mの円孔板を用い,カルテにその旨を記載する.2. 被検者の状態を参考にする視力検査は正確でかつ迅速に行う必要がある.長時間の検査は疲労をきたし,検査の精度を落とすからである.そのためには,問診や年齢(再診の場合は疾患)などを参考に個々の症例に対して必要最低限の検査が求め線のピント(焦線)は,強主経線の焦線が前焦線〔 rst(anterior)focal line〕,弱主経線の焦線が後焦線〔second(posterior)focal line〕とよばれる.そして,焦線間距離を焦域(focal interval)(スタームの間隔:interval of Sturm)といい,乱視度の強さを示している.焦域の中央からやや前方の全光速が最も接近する位置を最小錯乱円(circle of least confusion)という(図 4).乱視眼は通常ここで見ていることが多い.強主経線と弱主経線の屈折度の平均値は等価球面屈折度(spherical equiva-lent)(球面レンズ度+1/2 の円柱レンズ度)という1,2).III視力検査の基本的手順つぎに,実際の検査手順を述べる.視力検査は,自覚的視力検査法と他覚的視力検査法に分けられる.他覚的検査法は,幼児や詐盲など自覚的検査法で信頼のおける結果が得られない場合に使用する.視運動性眼振(opto-kinetic nystagmus:OKN)・ 視 覚 誘 発 電 位(脳 波)〔visual evoked potential(response):VEP〕などがある.ここでは,日常診療時に最も多い成人の自覚的視力検査法を中心に説明する.1.0の視標0.1の視標字づまり視力表字づまり視力表5m5mAB図 5視力検査環境と遠見視力測定の準備室内照度 50 lux 以上で視標輝度を上回らない.視力表の照度は 500±125 rlx.視標のコントラスト比は 85%以上.A: 検査距離は5 m.字づまり視力表の 1.0 の視標を目線の高さに設定.B: 5 mで 0.1 の視標が見えない場合,検者が 0.1 の視標をもって近づく.この場合,視標輝度=室内照度となり,字づまり視力表と若干条件が異なる. 視力=0.1×x/5(x m:視標と被検者間の距離)———————————————————————- Page 41446あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(6)( )・視力 0 と記載する1).b. 矯正視力矯正視力は屈折検査の値を参考にしながら測定する.できるだけ調節の影響を受けないように心がけることが重要である.屈折検査は,自覚的屈折検査と他覚的屈折検査に分けられるが,最終的には自覚的屈折検査で決定することが原則である(図 6).1)他覚的屈折検査臨床でおもに使用されている他覚的屈折検査には,オートレフラクトメータと検影法の 2 種類がある.・オートレフラクトメータ(auto refractometer):赤外線光を被検眼に入れ,返ってくる赤外線光のピントの位置を調べることで他覚的屈折度が自動的に得られる.操作は簡単で,短時間に測定ができ,熟練を要さない.屈折度と同時に角膜曲率半径の測定もできる.加えて測定時に表示されるマイヤーリングで角膜前面の大まかな状態を把握することも可能である.欠点には,機械近視の影響が完全には除去できないことや強い前眼部・中間透光体混濁,測定可能範囲を超える強い屈折異常,小瞳孔で測定不可能なことがあげられる3).・検影法(skiascopy/retinoscopy):検影器と板付きレンズを用い,検者と被検者の網膜共役点を探す検査法である.検影器から瞳孔内に光を入れ,瞳孔内の光影の動きと一致する場合を「同行」・逆方向の場合を「逆行」・動きがない場合を「中和」と言う.屈折度は,中和に要した検査レンズ度数(D) 1/ 検査距離(m)で表されるられる.加えて,検査中も反応により臨機応変に検査方法を変えていき,被検者の気になった様子はカルテに記載する.3. 遠見視力の測定a. 裸眼視力通常5 mの距離でランドルト環字づまり視力表を用いて行う.1.0 の視標が被検者の視線の高さになるように設置する(図 5).遮眼子もしくは,眼鏡検眼枠と遮閉板を用いて片眼ずつ測定する.測定中は非検査眼で覗いていないかの観察が必要である.・まず,視標を上から順にさし(点灯させ)被検者に読ませる.半数以上視標が判別できた限界の段を視力とする.すなわち視標が 5 列の場合は 3/5 以上判別する必要がある.半数以下しか判別できないときに p(partial)をつけて記載する場合があるが,正式な視力は p をつけている前の段の視力である.・検査距離5 mで 0.1 の視標が判別できない場合,被検者に 0.1 の視標が見える位置まで近づいてもらうか,検者が 0.1 の視標を持ち視標を判別できるまで被検者に近づく(図 5).0.1 mの視標が判別できたときの視標と被検者間の距離(x m)を求め,x m での視力は 0.1×x/5である.たとえば2 mで判別できた視力は 0.1×2/5=0.04 となる.中心で見えない場合は視標をずらし中心外でも測定する.・指数弁:50 c mまで近づいても 0.1 の視標が見えないときは,指の数を答えさせる.30 c mの距離で判別ができた場合の記載法は,30 cm指数・30 cm/n.d.(numerous digitorum)・30 c m/c.f.(counting nger)・30 c m/F.Z.(Finger Zahl)である1).・眼前手動弁:指数が判別できないときは,被検者の眼前で手を動かしその方向を判別できるかを聞く.手動弁・m.m.(motus manus)・h.m.(hand motion)・H.B.(Hand Bewegung)と記載する1).・光覚:手の動きがわからないときは,瞳孔に光を入れて明暗が判別できるかを尋ねる.明室で光覚がない場合には暗室で再検査を行う.記載は,光覚・s.l.(sensus luminis)・l.s.(light sense)・L.S.(Licht Sinn)である.光をまったく感じないときは医学的失明を意味し,光覚自覚的屈折検査他覚的屈折検査レフラクトメータ検影法オフサルモメータ球面レンズによる矯正円柱レンズによる乱視矯正球面レンズによる補正球面レンズの再調整二色テスト(赤緑テスト)雲霧法両眼開放での確認図 6屈折検査の流れ———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091447(7)かも簡便に確認できる4).2)自覚的屈折検査自覚的屈折検査は,レンズ交換法が基本である.・検眼枠の調節:レンズの光学中心が瞳孔中心に位置するよう設置し(光学中心の調節),検眼枠に挿入されたレンズ後面から角膜頂点までの距離が 12 m mになるよう調節する(頂点間距離の調節).その後,一方のレンズホルダに遮眼板を入れ片眼ずつ測定する(図 8).・球面レンズ度の決定:他覚的検査結果や手持ち眼鏡の度数を参考にして行われることが多い.不明な場合には弱い凸レンズを入れ,矯正視力が低下すれば近視を考え,最高視力が得られる一番弱い凹レンズ度を,低下しなければ遠視を考え,最高視力の得られる一番強い凸レンズ度を求める.凸レンズは,交換レンズを入れた後に装用レンズを除去すると,調節の影響を受けにくい.2枚以上のレンズを検眼枠に入れる場合は,度が強いレンズが頂点間距離 12 m m寄りになるように(眼に近い位置に)配置する.・円柱レンズの決定:おもに乱視表を用いる方法とクロスシリンダーを用いる方法がある.乱視表を用いる場合は,網膜面上に後焦線をおき,前焦線のみを網膜面に近づけていく要領で行う(図 9).球(図 7).すなわち,一般的な検査距離 50 c mでは,中和レンズ 2 D となる.用いる器具により,鏡面法,点状法,線状法とがあるが,以下線状検影器で開散光を用いた測定方法を述べる.検者は被検者の視線を遮らないよう対座し,被検者を遠方視させる.まず,裸眼で光を瞳孔に入れ,主経線(乱視軸)を決定する.その後,主経線方向に検影器を回転させ,同行なら凸レンズを,逆行なら凹レンズを付加していき中和点を探す.主経線ごとに屈折度を求め,眼屈折度を換算する.検影法は熟練を要するが,精度が比較的高く,小児や寝たきりの方などでも測定が可能である.さらに眼鏡が合っているかどう同行逆行中和図 7検影法による影の動き検査距離 50 cmの場合,同行:2.0 D 未満の近視・正視・遠視,逆行:2.0 D を超える近視,中和:2.0 D の近視である.12mm頂点間距離瞳孔間距離遮眼板を挿入し測定BAC図 8自覚的屈折検査の準備A: 光学中心の調節(瞳孔間距離を測定し,レンズの光学中心が瞳孔中心に位置するよう設置).B: 頂点間距離(検眼枠に挿入されたレンズ後面から角膜頂点までの距離)は12 mm.C: 一方のレンズホルダに遮眼板を入れ片眼ずつ測定.———————————————————————- Page 61448あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(8)クロスシリンダー(cross cylinder)とは,同じ度数の凹と凸の円柱レンズを直交させて組み合わせたレンズであり,各々の円柱レンズの軸が刻まれている.最小錯乱円を網膜面上においたままクロスシリンダーを回転させ,前焦線と後焦線の位置を網膜面上に近づけながら(最小錯乱円を小さく)円柱レンズ度を決定する(図1 0 ).・二色テスト(赤緑テスト:red-green test):色収差を利用した検査法である.最終的な球面レンズ度の微調整に使う(図 11).赤地と緑地を背景に各々黒字の図形が描かれている.はっきりと図形が見えるのが赤地と答えた場合は,遠視の過矯正か近視の低矯正であるため凹レンズを追加し,反対に緑地と答えた場合には,遠視の低矯正か近視の過矯正なので,凸レンズを追加する.この操作を,両方の図形が一様にみえるまでくり返す.4. 近見視力の測定老視や調節障害などで近くが見えづらいときに近見視面レンズ度数を決定したのちに,他覚的屈折値乱視度数の 1/2 程度の凸球面レンズを加えて雲霧した後,乱視表を見てもらい線に濃淡がある場合,濃く見える線と直交する角度を乱視軸とし凹円柱レンズで矯正する.乱視表軸方向AB(雲霧レンズ)球面レンズ円柱レンズ図 9乱視表を用いた円柱度数決定方法A:球面レンズを用い,網膜面に後焦線を置く.B: 乱視表が均一になるように円柱レンズを足し,前焦線を網膜面に近づけていく.ABクロスシリンダー球面レンズ球面レンズ図 10クロスシリンダーを用いた円柱度数決定方法同じ度数の凹と凸の円柱レンズを直交させて組み合わせたレンズである.A:最小錯乱円を網膜面上に置く.B: クロスシリンダーを回転させ,前焦線と後焦線の位置を網膜面上に近づける.正視の状態赤=緑のとき赤黄緑赤がよく見えるとき近視の状態→凹レンズを追加赤黄緑赤黄緑遠視の状態→凸レンズを追加緑がよく見えるとき図 11二色テスト(赤緑テスト:red-green test)赤地に書いてある記号がよりはっきり見えると答えた場合は凹レンズを追加,緑地と答えた場合には凸レンズを追加する.———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091449力を測定する.わが国では通常 30 c mの距離で近距離視力表を用いて測定する. ひらがな万国式近点検査表を使用することが多い.一方,欧米では 40 c mで測定することが多く,記載法は分数視力のほかに Jaeger やPoint がある.わが国でも,体格の変化・パーソナルコンピュータ作業時の距離を考慮して老視の評価時に 25 cmから 50 c mの距離で測定可能な魚里式 LogMAR 近距離視力表などを用いる場合がある.原則的には遠見視力と同様に,球面矯正→円柱矯正→球面補正の順に矯正するが,臨床では遠見時の矯正度数と調節力の加齢変化の平均値を参考にしながら矯正度数を決定することが多い(図 12).IV診察時における視力評価のポイント(1)まず,矯正視力を確認矯正視力が良好なことを確認できればひとまず安心である.屈折異常以外の器質的な疾患はほぼ除外されるからである.矯正視力が不良なときは,視力低下の程度,他の眼症状,診察,検査所見を総合して原因を解明していく必要がある.一方,矯正視力が良好でも視力低下の訴えがある場合には,視野障害が存在したり,一般的な測定条件下では検出されなかったコントラスト感度の低下などが隠れているため必要に応じて検査の追加が必要となる.(2)裸眼視力を軽視しない最も訴えと直結しているのが裸眼視力(もしくは手持ち眼鏡視力)である.眼科医になりいろいろな疾患を覚えてきたときに陥りやすいことのなかに,矯正視力にばかり目がいきがちになることがあげられる.世間一般的には「目が悪い」≒屈折異常(特に近視・老視)をさす場合が多い.よって,矯正視力ばかりを重視していると患者との間に温度差が生じ,不満が解決しない場合がある.緑内障や網膜疾患など器質的な基礎疾患を有する場合でも裸眼視力の低下のみで不満を訴えることもある.ことさら QOV(quality of vision)が求められるこの時代では,屈折矯正手術・多焦点眼内レンズ挿入時だけではなく白内障手術・眼内レンズ挿入術前後などでも裸眼視力の把握が必須である.おわりに日常臨床における視力検査は,正確に行われることが大前提である.しかし一方で,必ずしも研究用にデータを取るときほど完璧な検査結果が必要なわけではない.一番の目的は視力検査を通して見え方を患者と診療側が共有することである.すなわち訴えによく耳を傾け,何が求められているかを考えながら,視力検査時に一番必要な情報を迅速に得ることが大切である.そのために医師は,視力検査の基本を理解したうえで,日々,愁訴や所見と視力を対比させ考える必要がある.そのうちに,視力検査の結果を見ただけでもある程度患者の状態が頭に浮かんでくるようになる.(9) 図 12近見視力の測定30 c mの距離で測定する.下の写真は,ひらがな万国式近点検査表である.———————————————————————- Page 81450あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009文献 1) 所敬:屈折異常とその矯正 第 3 版,p25-84,金原出版, 1997 2) 平井宏明:幾何光学の基礎.眼光学の基礎(西信元嗣編),p1-41,金原出版, 1990 3) 魚里博,川守田拓志:オートレフラクトメーター.眼科 49:1521-1526, 2007 4) 八子恵子:検影法のコツと意義.眼科 28:707-714, 1986(10)

序説:視力検査のすべて

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYに応じて視力検査に求められる結果の表示方法,その精度,検査時間,費用などがまったく異なるため,各目的に対して適する方法に変化していったと考えられる.さらに近年では,白内障手術や屈折矯正手術において,視力以外のハローやグレアといった症状やコントラスト感度といった視機能評価法が,その手術適応や術後視機能評価に,視力以上に重要となる状況がありうるし,wavefront-guided LASIK(laser in situ keratomileusis)や非球面眼内レンズなどに代表されるような高次収差を含めた屈折異常を矯正する治療法が登場した結果,視力検査時にはこれら高次収差の矯正をテストすることが不可能となり,屈折検査や視力検査の限界が臨床においても実感される状態になりつつある.一方,屈折矯正手術後,多焦点眼内レンズ,あるいはトーリック眼内レンズ挿入後では,矯正視力に加えて良好な裸眼視力の獲得が重要になり,裸眼視力測定の重要性が再認識される状況も見受けられるし,黄斑疾患やロービジョンにおいては,今まで以上に低視力を正確に測定することが要求されるようになっている.このように,視機能評価のゴールドスタンダードとして視力検査は標準化されるべきであるにもかか視力検査は,19 世紀に Purkinje と Young がさまざまな大きさの文字を使用して,視力測定を開始したのが始まりとされるが,眼球が感覚器として良質な視覚情報を中枢に伝達する必要がある以上,視力検査が眼科臨床における最も重要な検査の一つであることには,視力測定が開始されて以来現在まで変わりがない.このように大変重要な視力検査ではあるが,その検査装置や検査方法には大きなバリエーションが存在する.これは,本検査の歴史が長いことや測定する施設が多彩であることもあるが,ひとつには視力検査には目的が多数存在することが原因と思われる.たとえば,眼科診療においては,眼疾患およびその治療の視機能への影響を評価するために視力測定を施行し,屈折異常がある場合には,眼鏡,コンタクトレンズの処方あるいは屈折矯正手術の矯正度数決定のために検査されている.新しい薬剤や医療機器の開発過程では,それらの安全性,有効性を評価する際には,統計学的に視力を評価することが不可欠となる.あるいは社会生活に関連しても,車の運転免許などの資格取得,特殊な職業,身体障害者や労働災害の認定などで視力検査は必須である.このように多様な目的が存在し,しかもそれぞれの目的(1)ツ黴€ 1441 1ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 視ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 2ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ●序説 あたらしい眼科 26(11):1441 1442,2009視力検査のすべてAll about Visual Acuity Measurement前田直之*1山下英俊*2———————————————————————- Page 21442あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(2)わらず,多くのことが要求され,それに対応すべく逆に多様化していると考えられ,それらをすべて把握することは決して容易でない.そこで今回は,「視力検査のすべて」として,視力検査に関連してわれわれ眼科医が理解しておくべき事項に関して特集を組ませていただいた.まず,日常臨床における視力検査に関して,稗田朋子先生と稗田牧先生に,基礎知識,手順的な部分,視力検査に必要な他覚的,自覚的屈折検査について概説していただいた.ついで,三宅三平先生には,視力検査と屈折検査の意味や目的,検査時の注意点についてご解説いただいた.屈折矯正手段の選択や処方に際しての視力測定や屈折検査と,診察に伴う検査との違いを認識することが大切である.小児の視力検査は,適切な屈折矯正がその後の視機能の発達や弱視と関連しているという点や,検査が困難である点で,視力検査の技量が問われる領域である.これに関しては,松本富美子先生と不二門ツ黴€ 尚先生にお願いした.オートレフラクトメータが普及し,検影法があまり行われなくなった今,なおさら小児の屈折異常に対する理解を深める必要がある.鳥居秀成先生と根岸一乃先生には,資格や身体障害に関する視力検査をわかりやすくまとめていただいた.視機能障害がその人の人生に及ぼす影響を考えると,個々のケースに応じて的確なアドバイスを与える義務をわれわれ眼科医は負っていることを認識すべきであろう.臨床研究や治験における視力検査では,近年視力が logMAR で表示される傾向にあるが,これに関しては前田が,その理由や現況を示した.一方,自覚的検査である視力検査をより客観的,定量的に行う手段として,心理物理学的アプローチによる視力測定を可児一孝先生にご紹介いただいた.屈折矯正手術後や多焦点眼内レンズ挿入後では,視力が良好であるにもかかわらず視機能低下を訴えることが問題となることがあり,魚里博先生と中山奈々美先生には,より視機能を精密に評価する方法としてのコントラスト感度について解説していただいた.また,眼疾患治療に対して最も大切であるqualityツ黴€ ofツ黴€ life の向上と視力の関係について,岡本史樹先生と大鹿哲郎先生にまとめていただいた.Value-based medicine の観点から眼疾患の治療による qualityツ黴€ ofツ黴€ life の向上を示すことが,眼科の重要性を世に示すという意味で,今後ますます大切になると思われる.視力検査は,視機能をワンナンバーで表示するという意味で,シンプルかつ臨床的に受け入れられやすいものであるが,その限界も見えてきている.われわれは,その有用性と限界を理解したうえで,それぞれの視力検査の目的に応じて,それに最適の方法を選択して使い分ける必要がある.今後,視力検査あるいは視機能検査がどのような方向に向かうか予測することは困難であるが,コンピュータやイメージング技術の発展に伴って,視機能の複雑な状態を,もっとわかりやすく的確に評価できるようになることを期待したい.最後に,ご多忙中にもかかわらずご執筆いただいた先生方にこの場をお借りしてお礼申し上げる.

ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ 邃「 点眼液 0.3%)の製造 販売後調査―特定使用成績調査(新生児に対する調査)―

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(131)ツꀀ 14290910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1429 1434,2009cはじめにガチフロR点眼液 0.3%(以下,本剤という)は,2004 年 9月の発売時点において 1 歳以上の小児については,その有用性の評価を終えていた.しかしながら,本剤効能である『眼瞼炎,涙 炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)』のうち,特に急性細菌性結膜炎については免疫未熟な新生児,乳幼児に集中的にみられる疾患であり,眼科医療現場ではフルオロキノロン系抗菌点眼薬が「1 歳未満」の小児に対して汎用されていることから,「1 歳未満の小児」における本剤の安全性および有効性を評価することが急務であった.そこで筆者らは,1 歳未満の小児(細菌性外眼部感染症罹患児)に対する本剤の安全性および有効性の確認を目的として,2005 年 6 月から 2006 年 6 月に特定使用成績調査を実施した.その結果,乳児(生後 28 日以上 1 年未満)110 例および新生児(生後 27 日以下)3 例を収集し,全症例において副作用が認められなかったことを本誌において報告した1).しかしながら,当該調査においては,新生児症例数が計画未達であったことから,新たに新生児を対象とした特定使用成績調査を実施し,当該症例群に対する本剤使用実態下における成績を得たので,続報として報告する.なお,当該調査は,GPSP 省令(「医薬品の製造販売後の調〔別刷請求先〕丸田真一:〒541-0046 大阪市中央区平野町 2-5-8千寿製薬株式会社 開発本部 育薬企画室Reprint requests:Shinichi Maruta, Post-Marketing Surveillance Department, Senju Pharmaceutical Co., Ltd., 2-5-8 Hiranomachi, Chuo-ku, Osaka 541-0046, JAPANガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液 0.3%)の製造 販売後調査―特定使用成績調査(新生児に対する調査)―丸田真一*1末信敏秀*1羅錦營*2*1 千寿製薬株式会社 開発本部 育薬企画室*2 羅眼科Post-Marketing Surveillance of Gatiloxacin Ophthalmic Solution(GatiloR Ophthalmic Solution 0.3%)Use-Result Surveillance Speciied for NewbornsShinichi Maruta1), Toshihide Suenobu1) and Ra Kin Ei2)1)Post-Marketing Surveillance Department, Senju Pharmaceutical Co., Ltd., 2)Ra Eye Clinic「ガチフロR点眼液 0.3%」の新生児(27 日以下)に対する安全性および有効性を検討することを目的として,プロスペクティブな連続調査方式にて特定使用成績調査を実施した.その結果,安全性評価対象として 65 例を収集し,その内訳は,外眼部感染症(眼瞼炎,涙 炎および結膜炎)が 62 例,ならびに感染予防(効能外使用)が 3 例であったが,いずれの疾患においても副作用の発現は認められなかった.また,有効性の評価対象症例 61 例における医師判定による全般改善度(有効率)は 98.4%で,高い有効率を示した.以上の結果,本剤は新生児における細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であることが示唆された.To evaluate the safety and e cacy of GATIFLOR ophthalmic solution 0.3% for newborns(0 to 27 days), use-result surveillance speci ed that patient grouping employ a prospective and continuous survey method. In the safe-ty evaluation, which involved 65 infants(57 term-newborns and 8 of low birth weight)comprising 62 with exter-nalツꀀ ocularツꀀ infection(blepharitis,ツꀀ dacryocystitisツꀀ orツꀀ conjunctivitis)andツꀀ 3ツꀀ beingツꀀ treatedツꀀ forツꀀ prophylaxis.ツꀀ Noツꀀ adverse drugツꀀ reactionsツꀀ wereツꀀ observed.ツꀀ Inツꀀ theツꀀ e cacyツꀀ evaluation,ツꀀ whichツꀀ involvedツꀀ 61ツꀀ infants(56ツꀀ term-newbornsツꀀ andツꀀ 5ツꀀ of low birth weight), the e ective rate was 98.4% . These results suggest that GATIFLOR ophthalmic solution 0.3% is a useful medication for treating external bacterial infections of the eye in newborns.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1429 1434, 2009〕Key words:ガチフロキサシン,ガチフロRツꀀ 0.3%点眼液,新生児,製造販売後調査,安全性,有効性.gati oxacin, GATIFLOR ophthalmic solution 0.3%, newborns, post-marketing surveillance, safety, e ectiveness.———————————————————————- Page 21430あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(132)査および試験の実施の基準に関する省令」平成 16 年 12 月20 日 付 厚 生 労 働 省 令 第 171 号)に 則 り,2007 年 5 月 2008 年 9 月に実施されたものである.I方法1. 調査対象本剤の効能・効果である細菌性外眼部感染症〔眼瞼炎,涙 炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)〕を目的として本剤が投与された新生児(生後 27 日以下)患者を対象とした.なお,調査の対象施設は,本剤が納入・採用され,依頼および契約が文書で交わせる施設のうち眼科を中心とする医療機関とした.2. 調査方法,登録方法対象症例を無作為に抽出するため,プロスペクティブな連続調査方式で実施した.すなわち,契約締結日以降に本剤投与が開始された症例を,投与開始順に漏れなく連続して仮登録し,そのうち再診があった症例について投与開始順に最終登録する方法とした.また,最終登録したすべての症例について,調査票を記載することとした.3. 本剤の投与方法,観察期間など承認された本剤の用法・用量である「通常,1 回 1 滴,1日 3 回点眼する」に則り投与することとした.本調査の観察期間は,担当医師が必要と判断した期間としたが,1 症例当たりの標準的な観察期間は 3 14 日とした.なお,本調査は使用実態下での調査であるため,前治療薬,併用薬,処置などについては特に規制しなかった.4. 調査項目調査項目は,患者背景〔性別,低出生体重児の別,使用理由,投与開始時の基礎疾患・合併症(眼合併症,肝機能障害,腎機能障害)など〕,本剤の使用状況,併用薬剤の使用状況,臨床経過(自覚症状,他覚的所見),有害事象,有効性評価(全般改善度)などとした.5. 安全性の判定本剤投与中あるいは投与後に発現した医学的に好ましくないすべての事象を有害事象とし,その発現の有無について調査した.有害事象「あり」の場合は,種類,発現日,重篤度,発現日以降の本剤の投与状況,有害事象に対する処置,転帰,本剤との因果関係などについて調査した.有害事象のうち,本剤との因果関係が否定できないものを副作用として取り扱った.6. 有効性(全般改善度)の判定有効性の評価は,本剤の投与開始後の臨床経過などにより担当医師が総合的に判断し,「改善」,「不変」,「悪化」,「判定不能」の 3 段階 4 区分で判定した.このうち,「改善」の症例を有効例,「不変」および「悪化」の症例を無効例とした.7. 症例の取り扱いおよび解析方法調査(登録)症例のうち,何らかの理由で調査を完了できなかった症例を脱落症例として取り扱うこととした.また,調査完了症例のうち,安全性あるいは有効性評価対象症例群について層別集計を行い,安全性評価については安全性評価対象の全例に占める副作用発現率を,有効性評価については有効性評価対象の全例に占める有効(改善)率を算出した.また,有効性評価においては,要因別に有意水準を両側 5%として,Kruskal-Wallis 検定(以下,H 検定)を実施した.II結果1. 症例構成症例構成を図 1 に示した.すなわち,240 例(24 施設)に関する契約を締結した結果,68 例(16 施設)が最終登録され,すべての調査を完了しえた.これら調査完了症例 68 例のうち,登録期間終了後に本剤投与が開始された 1 症例および調査対象外症例(生後 28 日以上経過した症例)を除外した結果,安全性評価対象症例として 65 例(16 施設)を,さらに,効能外症例 3 例および有効性判定不能症例 1 例を除外した結果,有効性評価対象症例として 61 例(16 施設)を収集しえた.2. 安全性評価対象症例の患者背景および副作用発現率安全性評価対象症例 65 例において副作用は認められなか契約症例数240例(24施設)登録症例68例(16施設)登録期間外症例1例(1施設)調査完了症例68例(16施設)調査対象外症例2例(1施設)安全性評価除外症例3例(2施設)安全性評価対象症例65例(16施設)有効性評価除外症例4例(2施設)効能外症例3例(1施設)有効性判定不能症例1例(1施設)有効性評価対象症例61例(16施設)図 1症例構成———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091431(133)った(表 1).患者背景は,男児 45 例(69.2%),女児 20 例(30.8%)であった.年齢(日齢)は,生後 1 27 日齢(平均±SD:13.4±8.18 日)であった.また,使用理由では,「涙 炎」8 例(12.3%),「結膜炎」50 例(76.9%),さらに,「眼瞼炎+結膜炎」などの「使用理由複数例」4 例(6.2%),「効能外症例(眼感染症予防)」3 例(4.6%)であった.投与開始時において肝機能障害および腎機能障害の基礎疾患・合併例は認められず,眼部における基礎疾患・合併症を有する症例は 11 例(16.9%)であり,うち,4 例が先天性鼻涙管閉塞,1 例が先天性鼻涙管狭窄であった.1 日投与回数(平均)は,用法・用量に定められた 1 日 3 回が 48 例(73.9%),投与期間 14 日以上の症例は 27 例(41.5%)であった.また,9 例において施行された併用処置はすべて涙 洗浄などの涙道に対する処置であった(表 2).さらに,7 例において初診時に細菌検査が施行(施行率:10.8%)され,coagulase-negative staphylococci(CNS)5 株(結膜炎 4 例および涙 炎 1 例)を表 1患者背景等要因別副作用発現状況要因区分安全性評価対象症例数副作用発現症例数副作用発現症例率性別男児4500.00%女児2000.00%年齢(日齢)7 日未満1800.00%7 日以上 14 日未満1000.00%14 日以上 21 日未満2300.00%21 日以上 27 日以下1400.00%使用理由別涙 炎800.00%結膜炎5000.00%眼瞼炎+結膜炎100.00%涙 炎+結膜炎300.00%効能外使用(眼感染症予防例)300.00%合併症眼合併症あり1100.00%なし5400.00%肝(機能)障害あり00─なし5400.00%不明1100.00%腎(機能)障害あり00─なし5400.00%不明1100.00%1 日投与回数別(平均)3 回未満600.00%3回4800.00%3 回超1100.00%投与期間別*1 日以上 3 日未満6500.00%3 日以上 7 日未満6500.00%7 日以上 14 日未満5000.00%14 日以上2700.00%併用薬剤の有無別あり800.00%なし5700.00%併用療法の有無別あり900.00%なし5600.00%合計6500.00%*:累積症例数.———————————————————————- Page 41432あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(134)はじめとして計 10 株が分離同定された(表 3).また,安全性評価対象 65 例においては,正期産新生児のほか,低出生体重児に該当する症例が 8 例認められた(表4).すなわち,出生時体重による区分2)において,超低出生体重児(出生時体重:1,000 g未満)4 例,その他の低出生体重児(出生時体重:1,000 2,500 g未満)4 例が認められた.このうち,超低出生体重児の全例が未熟児網膜症を合併しており,うち 3 例については眼底検査時の感染予防を目的に隔日(4 日間隔)にて 4 5 回,残り 1 例は生後 22 日目から結膜炎に対して本剤が投与されていた.3. 有効性評価対象症例の患者背景および有効率効能外症例 3 例(いずれも超低出生体重児の感染予防目的)および有効性判定不能症例 1 例(併用処置により改善したため,本剤効果判定不能)を除外した結果,有効性評価対象症例は 61 例であり,有効性判定は「改善」60 例,「不変」1例,「悪化」0 例であったことから,有効率は 98.4%(60 例/ 61 例)であった(表 5).「不変」と判定された 1 例は結膜炎(正期産新生児)に対して本剤が 12 日間投与された結果,すべての症状が消失したが,本剤投与 5 日目から併用した塩酸セフメノシキム点眼液が奏効し,本剤単独では「不変」であると評価された症例であった.また,本症例が要因別集計の「罹病期間」および「併用薬剤の有無」において,母数の少ない因子に層別された結果,有意差が認められた.III考察一般的に,新生児は免疫機能が未熟であり3)涙液分泌量が少ない4)など,眼感染症に易感染性の素因を有する.このことから,眼感染症の予防を目的として,古くは硝酸銀水溶液による Crede 法が普及したが,薬剤毒性などの理由から敬遠され,0.5%ツꀀ erythromycin,1%ツꀀ tetracycline 軟膏や povi-done-iodine が出生後における眼感染症予防に使用されるようになった5).新生児は出生後ただちに周辺環境に存在する常在菌に曝され,NICU(新生児集中管理室)においてさえ 5%の新生児に細菌性結膜炎が発症する.また,その発症リスクは出生時体重に大きく依存し,超低出生体重児(出生時体重 1,000 g未表 2涙道部に対する処置併用療法診断名(使用理由)症例数涙 指圧涙 炎23涙 炎+結膜炎1涙管ブジー涙 炎22涙 洗浄+涙 指圧涙 炎11涙 洗浄+涙管ブジー涙 炎11涙 洗浄+涙 指圧+ 涙管ブジー涙 炎22計9表 3初診時検出菌(7例)No.使用理由菌名1結膜炎Staphylococcus aureus+ Acinetobacter baumannii2Coagulase-negative staphylococci(CNS)3CNS4CNS+a-Streptococcus5MRCNS+Haemophilus in uenzae6涙 炎CNS7結膜炎+涙 炎Lactobacillus sp.表 4低出生体重児8例の概要No.出生児区分2)使用理由合併症使用期間(日)1超低出生体重児感染予防・未熟児網膜症・晩期循環不全隔日 4 回(4 日間隔)2結膜炎・未熟児網膜症・呼吸窮迫症候群223感染予防・未熟児網膜症・呼吸窮迫症候群・動脈管開存症隔日 5 回(4 日間隔)4感染予防・未熟児網膜症・晩期循環不全隔日 5 回(4 日間隔)5その他の低出生体重児涙 炎+結膜炎先天性鼻涙管閉塞366結膜炎─97結膜炎臍炎158結膜炎─12超低出生体重児:出生時体重 1,000 g未満.その他の低出生体重児:出生時体重 1,000 2,500 g未満.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091433(135)表 5患者背景等要因別有効性評価要因区分症例数症例数有効率検定結果(H 検定)改善不変悪化性別男児454500100.0%d.f.=1p0=0.0935 n.s.女児16151093.8%年齢(日齢)7 日未満181800100.0%d.f.=3p0=0.6209 n.s.7 日以上 14 日未満101000100.0%14 日以上 21 日未満22211095.5%21 日以上 27 日以下111100100.0%入院・外来別入院8800100.0%d.f.=2p0=0.8958 n.s.外来50491098.0%入院・外来3300100.0%使用理由別涙 炎7700100.0%d.f.=3p0=0.9743 n.s.結膜炎50491098.0%眼瞼炎+結膜炎1100100.0%涙 炎+結膜炎3300100.0%投与前重症度別軽度404000100.0%d.f.=1p0=0.1675 n.s.中等度21201095.2%重症0000─罹病期間3 日未満292900100.0%d.f.=3p0=0.0059***3 日以上 7 日未満121200100.0%7 日以上 14 日未満431075.0%14 日以上9900100.0%不明7700100.0%合併症眼合併症あり7700100.0%d.f.=1p0=0.7188 n.s.なし54531098.1%肝(機能)障害あり0000─検定になじまないなし505000100.0%不明11101090.9%腎(機能)障害あり0000─検定になじまないなし505000100.0%不明11101090.9%1 日投与回数別(平均)3 回未満3300100.0%d.f.=2p0=0.8616 n.s.3回47461097.9%3 回超111100100.0%投与期間別1 日以上 3 日未満0000─d.f.=4p0=0.7994 n.s.3 日以上 7 日未満121200100.0%7 日以上 14 日未満23221095.7%14 日以上 21 日未満151500100.0%21 日以上 28 日未満2200100.0%28 日以上9900100.0%併用薬剤の有無別あり431075.0%d.f.=1p0=0.0002***なし575700100.0%併用療法の有無別あり8800100.0%d.f.=4p0=0.6976 n.s.なし53521098.1%合計61601098.4%n.s.:not signi cant,d.f.:degree of freedom.***:p0=<0.05.注:「不明」は検定に含めない.———————————————————————- Page 61434あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(136)満)では,正期産新生児(同体重 2,500 g以上)に比して 7.9倍高い6).本調査においては,眼底検査時の眼感染症予防を目的として 3 例の超低出生体重児に本剤が隔日投与(4 日間隔)されたが,投与期間中における眼感染症の発現ならびに副作用は認められなかった.さらに,超低出生体重児 1 例を含めた低出生体重児 5 例の眼感染症に対して,本剤が 9 36日間投与されたが,副作用は認められなかった.また,新生児における眼感染症は結膜炎が大半を占め,本調査においても 76.9%(50/65 例)が結膜炎であった.既報において,結膜炎罹患の新生児結膜 からの分離菌としてはCNS の分離頻度が最も高く6,7),これは出生直後の正常結膜 からは vaginalツꀀ delivery あるいは cesareanツꀀ section を問わず CNS の分離頻度が高い8,9)ことに起因するものと考えられる.本調査においても,一部の症例に関する結果ではあるが,結膜炎罹患の 5 眼のうち 4 眼(80.0%)から CNS〔4 株,うち MRCNS(メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)1 株〕が分離された.一方,新生児結膜 の細菌叢は,入院日数に大きく影響され,入院日数が 2 日を超えた場合,MRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)あるいは MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)保菌率が 3 4 倍上昇する7).また,大山ら10)は,入院あるいは外来の新生児(結膜炎罹患児)から分離されたStaphylococcusツꀀ aureusツꀀ 10 株のうち 8 株が MRSA であったことを報告し,さらに中村ら11)は同じく新生児結膜 由来の Haemophilusツꀀ in uenzae をはじめとする主要検出菌に薬剤耐性株の存在を認めている.本調査においても,MRCNS検出症例(出生 15 日後に結膜炎に罹患)が認められており,新生児における細菌性結膜炎であっても,薬剤耐性を有する起炎菌である可能性を考慮し抗菌薬を選択する必要がある.また,本調査では収集されていないが,vaginalツꀀ delivery においては Chlamydia trachomatis による結膜炎にも注意が必要である.このように,新生児眼感染症における起炎菌は多岐にわたるため,幅広い抗菌スペクトルを有する抗菌薬の必要性が高いものの,全身投与による療法については,たとえ小児を含めた年長者における良好な臨床成績を有する抗菌薬であっても,新生児における生理学的,薬理学的特性から,年長者における成績を外挿することはきわめて困難である12).このような観点から,新生児眼感染症に対する薬物療法は点眼薬が中心であり,フルオロキノロン系抗菌点眼薬については成人と同様の用法・用量にて新生児に対する第一選択薬として使用されるようになって久しい.筆者らは,2007 年に新生児を含めた 1 歳未満の小児眼感染症 113 例(新生児 3 例,乳児 110 例)に対する本剤投与成績において,副作用発現症例が認められなかったことを報告するなかで,新生児に対する症例集積を追加する必要性,ならびに新生児期を対象としたフルオロキノロン系抗菌点眼薬の臨床成績に関する報告がきわめて少ないことを述べた1).そこで,今回筆者らは,正期産新生児 57 例および低出生体重児 8 例に対する投与成績を追加収集し,副作用発現症例を認めなかった.以上の結果,ガチフロR点眼液 0.3%は,注意深い観察が必要であることはいうまでもないが,新生児を含めた小児における細菌性外眼部感染症治療の一助になることが期待される.謝辞:稿を終えるにあたり,本調査にご協力賜り,貴重なデータをご提供いただきました多数の先生方に,この場をお借りし心より厚く御礼申しあげます.文献 1) 丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR 0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査).あたらしい眼科 24:975-980, 2007 2) 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増殖サルコイド網膜症に対する硝子体手術後に黄斑円孔を きたした 1 例

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(127)ツꀀ 14250910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1425 1428,2009cはじめにぶどう膜炎に続発した黄斑上膜(epiretinalツꀀ membrane:ERM)に対して,近年,硝子体手術の有用性が報告1,2)されている.今回筆者らは,サルコイドーシスに続発した線維増殖膜に対して硝子体手術を行い,術後 2 カ月以内で増殖性変化の再発と黄斑円孔(macularツꀀ hole:MH)が出現した 1 例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕田内慎吾:〒003-8510 札幌市白石区菊水 4-1-9-22勤医協札幌病院眼科Reprint requests:Shingo Tauchi, M.D., Department of Ophthalmology, Kin-I-Kyo Sapporo Hospital, 4-1-9-22 Kikusui, Shiroishi-ku, Sapporo-shi, Hokkaido 003-8510, JAPAN増殖サルコイド網膜症に対する硝子体手術後に黄斑円孔をきたした 1 例田内慎吾*1竹田宗泰*2佐藤唯*2武内利直*3大道光秀*4*1 勤医協札幌病院眼科*2 市立札幌病院眼科*3 市立札幌病院病理科*4 大道内科・呼吸器科クリニックA Case of Macular Hole Following Vitrectomy for Proliferative Sarcoid RetinopathyShingo Tauchi1), Muneyasu Takeda2), Yui Sato2), Toshinao Takeuchi3) and Mitsuhide Ohmichi4)1)Department of Ophthalmology, Kin-I-Kyo Sapporo Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Sapporo City General Hospital, 3)Department of Pathology, Sapporo City General Hospital, 4)Ohmichi Clinic of Internal and Respiratory Medicine目的:サルコイドーシスに続発したぶどう膜炎と増殖網膜症に対して硝子体手術を行い,術後,奇異な黄斑円孔(macularツꀀ hole:MH)が出現した 1 例を経験したので報告する.症例:64 歳,女性.両眼の視力低下を主訴に,近医にて両眼に硝子体混濁および眼底出血の散在を認め,精査・加療目的にて,市立札幌病院眼科へ紹介となった.初診時視力は右眼(0.1),左眼(0.4)であった.硝子体混濁は一部雪玉状で,眼底に網膜静脈炎,乳頭炎の所見あり,サルコイドーシスが疑われた.両眼硝子体手術を施行し,内境界膜(internalツꀀ limitingツꀀ membrane:ILM)は 離しなかった.術後約 2 カ月目から右眼の歪視症状が出現し,眼底では増殖膜の再燃がみられ,光干渉断層計(opticalツꀀ coherence tomography:OCT)で MH が確認された.このため,右眼硝子体再手術を行い,ILM を 離した.術後,MH は閉鎖したが,視力は(0.15)にとどまった.結論:続発性の著明な増殖膜を伴う症例では,硝子体手術の際,再増殖を防ぐために ILMツꀀ 離を行ったほうが良い可能性がある.We report a case in which we performed vitrectomy for uveitis and the proliferative retinopathy occurred in sarcoidosis,ツꀀ andツꀀ aツꀀ strangeツꀀ macularツꀀ hole(MH)occurredツꀀ postoperatively.ツꀀ Theツꀀ patient,ツꀀ aツꀀ 64-year-oldツꀀ female,ツꀀ under-went a checkup by a local doctor.Because binocular vitreous opacity and fundus hemorrhage were seen, she was referredツꀀ toツꀀ theツꀀ Sapporoツꀀ Cityツꀀ Generalツꀀ Hospital’sツꀀ Departmentツꀀ ofツꀀ Ophthalmologyツꀀ forツꀀ detailedツꀀ examinationツꀀ andツꀀ treat-ment.ツꀀ Atツꀀ initialツꀀ examination,ツꀀ herツꀀ visualツꀀ acuityツꀀ was(0.1)rightツꀀ eyeツꀀ and(0.4)leftツꀀ eye.ツꀀ Sarcoidosisツꀀ wasツꀀ doubted because the vitrous opacity was partially snowball-like, and retinal phlebitis and papillitis were seen on the fundus. Weツꀀ performedツꀀ binocularツꀀ vitrectomyツꀀ butツꀀ didツꀀ notツꀀ exfoliateツꀀ theツꀀ internalツꀀ limitingツꀀ membrane(ILM).ツꀀ Distortion occurredツꀀ inツꀀ herツꀀ rightツꀀ eyeツꀀ aboutツꀀ twoツꀀ monthsツꀀ postoperatively.ツꀀ Proliferativeツꀀ membraneツꀀ recurrenceツꀀ wasツꀀ seenツꀀ onツꀀ the fundusツꀀ andツꀀ MHツꀀ wasツꀀ con rmedツꀀ viaツꀀ opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography(OCT);weツꀀ reoperatedツꀀ onツꀀ theツꀀ rightツꀀ vitrectomy and exfoliated the ILM. The MH closed postoperatively, but visual acuity was limited to(0.15)in the right eye. In cases of vitrectomy with secondary manifest proliferative membrane,it is better to exfoliate ILM so as to prevent reproliferation.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1425 1428, 2009〕Key words:サルコイドーシス,硝子体手術,黄斑上膜,黄斑円孔,内境界膜.sarcoidosis,ツꀀ vitrectomy,ツꀀ epiretinal membrane, macular hole, internal limiting membrane.———————————————————————- Page 21426あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(128)I症例患者:64 歳,女性.現病歴:両眼の視力低下(右眼は半年前から)を主訴に,2007 年 6 月 8 日,近医受診した.両眼に硝子体混濁および眼底出血の散在を認め,精査・加療目的にて,市立札幌病院眼科へ紹介となった.既往歴:高血圧症,高脂血症,骨粗鬆症で内服治療中.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見(2007 年 6 月 15 日):視力は右眼 0.1p(0.1× 0.50 D(cyl 0.50 D Ax45°),左眼 0.1(0.4× 0.75 D(cyl 0.50 Dツꀀ Ax180°)で, 眼 圧 は 右 眼 30 mmHg,左眼13 mmHgであった.前眼部は両眼の角膜,前房に異常なく,中間透光体は両眼の皮質,後 下白内障,一部雪玉状の硝子体混濁および炎症細胞を認めた.眼底は,両眼ともに中間透光体の混濁で透見不良だった.見える範囲で,網膜静脈の拡張,血管周囲に結節,網膜出血,周辺部に網膜滲出斑の散在および右耳側下方に肉芽腫様の病変を認めた.隅角鏡では両眼ともに Scheie 分類グレード I の開大度で,虹彩前癒着や結節,新生血管は認めなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影( uoresceinツꀀ angiography:FA)(2007 年 6 月 22 日):FA 早期像で,一部,網膜血管壁の染色および滲出斑に一致した過蛍光を認めた.FA 後期像(図 1)では,両眼の網膜血管炎および乳頭炎の所見を認めた.また,右眼のアーケード外下方から下耳側にかけて,広範な無血管領域を認めた.光干渉断層計(opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography:OCT)(2007 年 6 月 22 日)(図 2):OCT は, フ ー リ エ ド メ イ ンOCT(トプコン社製 3D-OCT1000)を使用し,B スキャン(クロススキャン)で撮影した.右眼で網膜表面に増殖膜による黄斑牽引および網膜の肥厚を認めた.左眼には異常を認めなかった.これらの眼所見より,サルコイドーシスを疑って内科へ受診した.ツベルクリン反応は陽性であったが,両側肺門リンパ節腫脹,血清 ACE(アンギオテンシン変換酵素)活性高値,気管支肺胞洗浄検査でリンパ球増加および CD4/CD8比高値の 3 項目を認め,眼所見と合わせて,サルコイドーシスと臨床診断された.治療の経過:右眼の眼圧は,眼圧下降薬〔チモロール(0.5%リズモン TGR点眼×2/日),アセタゾラミド(ダイアモックスR内服 500 m g/日)〕の投与で改善した.しかし,両眼の視力 0.1 0.2 と低下し,ステロイド点眼(0.1%フルメトロンR点眼×4/日)にて視力の改善がなく,右眼に増殖膜も認められたため,2007 年 10 月 1 日に右眼,10 月 15 日に左眼の硝子体手術を施行した.手術の概要:両眼ともに,25 ゲージ 3 ポートシステムによる硝子体手術および白内障同時手術を行った.両眼底に滲出斑,肉芽腫を認め,右眼では網膜との癒着の強い新生血管を伴う増殖膜をアーケード外下方から後極部にかけて認めた.右眼では,一部新生血管を含み,黄斑部に進展した増殖膜を除去した.左眼では,増殖膜の進展はなかった.両眼ともに内境界膜(internal limiting membrane:ILM)は 離しなかった.網膜光凝固を両眼下方に行い,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)を硝子体腔に注入して終了した.病理組織(2007 年 10 月 1 日)(図 3):右眼から摘出した増殖膜の病理組織学的検査にて,多核巨細胞を含む小型の非左眼(11分25秒)右眼(12分18秒)図 1 フルオレセイン蛍光眼底造影(FA 後期)(2007 年 6 月22 日) 両眼の網膜血管炎および乳頭炎の所見を認めた.右眼左眼図 2光干渉断層計(OCT)(2007 年 6 月 22 日)右眼で網膜表面に黄斑前膜および網膜の肥厚を認めた.左眼には認めなかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091427(129)乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,サルコイドーシスと組織診断された.術後の経過:術後,中間透光体の混濁は改善し,眼底透見は良好となった.2007 年 10 月 26 日時点で,両眼ともに矯正視力(0.9)まで改善した.この時点で,術後早期に視力が回復したことより,術前の視力低下は,白内障および硝子体混濁が影響していたと思われた.その後,2007 年 11 月下旬より右眼の歪みの自覚があり,眼底で増殖膜および ERM の再発を認め,視力も 2007 年 12 月 7 日時点で(0.6)と低下し始めた(図 4).OCT(図 5,上段)で,右中心窩から下方にかけて網膜内層および網膜全体の著明な肥厚を認め,漿液性網膜 離および 胞様黄斑浮腫(cystoidツꀀ macularツꀀ edema:CME)を伴っていた.さ ら に,2008 年 4 月 23 日 の OCT(図 5, 下 段)で, スリット状の MH および網膜色素上皮の上に瘤状所見を認めた.右眼視力(0.2)まで低下したため,2008 年 5 月 19 日,右眼の硝子体手術を行った.ILM は,黄斑から vascular arcade 付近まで 離した.術後,MH は閉鎖し,眼底では ERM の再発を認めていな図 3増殖膜(右眼)の組織生検(2007年10月1日)多核巨細胞を含む小型の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた(矢印).右眼左眼再増殖した膜状組織がvascular arcadeから黄斑部に伸びる図 4 眼底所見(2007年12月7日) 右眼で増殖膜の再発を認めた.図 5右眼OCTの推移上段 (2007 年 12 月 7 日):右中心窩から下方にかけて網膜内層および網膜全体の肥厚を認めた.また,漿液性網膜 離および 胞様黄斑浮腫を呈していた.下段 (2008 年 4 月 23 日):中心窩下方の網膜内層の限局性萎縮と全層の肥厚に伴い,スリット状の黄斑円孔および網膜色素上皮の上に瘤状所見を認めた.右眼左眼図 6OCT(2008 年 10 月 17 日)右眼で術後に黄斑円孔は閉鎖したが,網膜の肥厚を認めた.左眼では黄斑上膜および網膜の肥厚を認めた.———————————————————————- Page 41428あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(130)い.しかし,OCT(図 6)では網膜の肥厚を認め,右眼視力は 2008 年 10 月 17 日時点で(0.15)にとどまった.左 眼 に つ い て は, 術 後 約 1 年 の 2008 年 10 月 17 日 のOCT(図 6)で ERM および網膜の肥厚を認めたが,視力は(1.0)を維持している.II考按サルコイドーシス眼病変の診断は,バリエーションが大きく広範な病変を伴うため,臨床的に眼所見に加えて,全身所見に基づいて臨床診断を下すことが多い.本症例では,眼所見(雪玉状硝子体混濁,網膜静脈炎,網膜滲出斑)からサルコイドーシスを疑い,内科的にも全身所見(両側肺門リンパ節腫脹,血清 ACE 活性高値,気管支肺胞洗浄検査でのリンパ球増加および CD4/CD8 比高値)を認め,サルコイドーシスと臨床診断された.今回さらに,サルコイドーシスの確定診断のために,硝子体手術の際に得られた網膜前増殖膜に対して病理組織学的検査を行った.その結果,非乾酪性類上皮細胞が検出され,サルコイドーシスによる網膜病変と組織学的にも診断が確定した.本症例と同様に,眼内の増殖膜を用いてサルコイドーシスの確定診断に至ったという報告3,4)も散見される.これまで,下眼瞼の円蓋部結膜の組織を盲目的に切除し,その生検組織から診断確定に至ったという報告5)もあるが,すでに薬物治療が始まっている場合,陽性所見を認めないこともある.手術により眼内組織が得られた場合には,積極的に病理検索を行うべきであると思われた.サルコイドーシス眼病変に対する治療として,一般的にはステロイドを中心とした薬物療法が行われる6,7).しかし,薬物療法が奏効しない症例や黄斑病変を伴う症例に対して,近年,硝子体手術の有用性が報告1,2)されている.眼底病変の予後については一般に良好であるが,CME や網膜 離,広範な虚血(新生血管→硝子体出血の出現)を伴う症例では不良な場合がある.本症例では,広範な虚血および新生血管を伴う増殖網膜症があるため,右眼の硝子体手術を施行した.術後,右眼の炎症所見は前眼部,後眼部ともに少なく,経過は良好であったため,左眼も同様に硝子体手術を施行した.また,骨粗鬆症で内服治療中で,副作用の面からステロイドの全身投与は行いにくく,ステロイド点眼のみ併用し,硝子体手術単独で加療した.今回,増殖性変化の強い右眼に対し,初回硝子体手術の際,ILMツꀀ 離は行わなかった.ILMツꀀ 離は,増殖膜の癒着が強い場合,出血や裂孔形成が懸念される.また,ILMツꀀ 離後,局所網膜電図(ERG)の b 波の回復が遅延するという報告8)もある.一方,ILMツꀀ 離によって細胞成分が増殖する足 場 が な く な る と の 報告9,10)も あ る. 横 田 ら は, 続 発 性ERM に対して ILMツꀀ 離を行った症例は,行わなかった症例と比べて再発が少なかったと報告11)している.今回筆者らの症例では,右眼に対する初回硝子体手術で増殖膜を切除したが,再増殖をきたして黄斑部に及んだため,接線方向の黄斑牽引がかかり,黄斑円孔を形成したと考えた.著明な増殖性変化を伴う症例では,初回硝子体手術の際,再増殖を防ぐために ILMツꀀ 離を行っておいたほうが良い可能性があると思われた.本論文の要旨は,第 155 回北海道眼科集談会にて報告した.文献 1) 桐生純一,田辺昌代,喜多美穂里ほか:硝子体手術によるサルコイドーシス後部ぶどう膜炎の沈静化.眼科手術 12:515-518, 1999 2) 原田麻依子,多田玲,木下茂ほか:黄斑上膜を伴った眼サルコイドーシスに対する硝子体手術の検討.眼紀 54:706-710, 2003 3) 吉田和秀,井上真,小口芳久ほか:摘出黄斑前膜に類上皮細胞肉芽腫が検出された増殖サルコイド網膜症の 1 例.臨眼 58:1085-1089, 2004 4) 村瀬耕平,後藤浩,臼井正彦ほか:眼内組織の病理組織学的検索により診断が確定したサルコイドーシスの 1 例.臨眼 57:1823-1826, 2003 5) 飯田文人:サルコイドーシスの結膜盲目的生検.眼科プラクティス 8:120-122, 2006 6) 北市伸義,合田千穂,大野重昭ほか:サルコイドーシス.臨眼 62:444-449, 2008 7) 望月學:サルコイドーシス.日本の眼科 78:1295-1300, 2007 8) Terasaki H, Miyake Y, Kondo M et al:Focal macular ERGs in eyes after removal of macular ILM during macu-larツꀀ holeツꀀ surgery.ツꀀ Investツꀀ Ophthalmolツꀀ Visツꀀ Sci 42:229-234, 2001 9) Park DW, Dugel PU, Blaisdell J et al:Macular pucker removal with and without internal limiting membrane peeling:pilot study. Ophthalmology 110:62-64, 2003 10) Bovey EH, U er S, Achache F:Surgery for epimacular membrane:impactツꀀ ofツꀀ retinalツꀀ internalツꀀ limitingツꀀ membrane removal on functional outcome. Retina 24:728-735, 2004 11) 横田幸大,橋本英明,岸章治ほか:続発性黄斑前膜に対する内境界膜 離の有用性.臨眼 59:639-642, 2005***

遷延性中心性漿液性脈絡網膜症に対してベバシズマブ硝子体内投与と光線力学的療法を行った 1 例

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(119)ツꀀ 14170910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1417 1420,2009cはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralツꀀ serousツꀀ chorioretinopa-thy:CSC)は,黄斑部の漿液性網膜 離(serousツꀀ retinal detachment:SRD)を特徴とし,30 40 歳代の男性の片眼に多くみられ,小視症,変視症などの症状を認める.ただ矯正視力は比較的良好であることが多く,一般的には 3 4 カ月で自然治癒が可能であるが,遷延化,再発をくり返すことで矯正視力の低下をきたすことがある1,2).今回筆者らは,CSC が 10 年以上もの長期間寛解と再発をくり返したために,視力低下に至った症例に対し,ベバシズマブ(アバスチンR)の硝子体内投与と光線力学的療法による治療を試みたので報告する.I症例患者:55 歳,女性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:特になし.現病:10 年前より左眼に CSC を発症し,何度も再発をくり返し,徐々に視力低下をきたした.レーザー光凝固は受けていない.眼所見:初診時の視力は右眼 0.8(n.c.),左眼 0.06(0.08×sph 1.0 D),眼圧は右眼 18 mmHg,左眼 16 mmHg であっ〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024 大阪市西区境川 1-1-39多根記念眼科病院Reprint requests:Toshiya Sakurai, M.D., Tane Memorial Eye Hospital, 1-1-39 Sakaigawa, Nishiku, Osaka 550-0024, JAPAN遷延性中心性漿液性脈絡網膜症に対してベバシズマブ 硝子体内投与と光線力学的療法を行った 1 例櫻井寿也山田知之田野良太郎福岡佐知子竹中久張國中真野富也多根記念眼科病院A Case of Chronic Central Serous Chorioretinopathy, Treated with Bevacizumab Intravitreal Injection and Photodynamic TherapyToshiya Sakurai, Tomoyuki Yamada, Ryotaro Tano, Sachiko Fukuoka, Hisashi Takenaka, Kokuchu Choツꀀ and Tomiya ManoTane Memorial Eye Hospital遷延性中心性漿液性脈絡網膜症はときに視力予後不良となることがある.今回ベバシズマブ(アバスチンR)と 光線力学的療法(PDT)を用いた治療効果について検討した.55 歳,女性.左眼に 10 年以上にわたって中心性漿液性脈絡網膜症の再発をくり返し,矯正視力が 0.08 となったため,ベバシズマブ 1.25 mg(0.05 ml)を硝子体内注入した.その後,漿液性網膜 離(SRD)が残存したため 3 カ月後に PDT を追加治療した.PDT 治療後 SRD も消退し,術後再発を認めていない.矯正視力は 0.1 にとどまっている.遷延性中心性漿液性脈絡網膜症に対してベバシズマブ硝子体内投与だけでは不十分であり PDT を追加治療が有効であった.Weツꀀ reportツꀀ theツꀀ e cacyツꀀ ofツꀀ intravitrealツꀀ bevacizumabツꀀ injectionツꀀ andツꀀ photodynamicツꀀ therapy(PDT)inツꀀ theツꀀ treat-ment of chronic central serous chorioretinopathy(CSC). The patient, a 55-year-old female, presented with serous retinal detachment and chronic CSC of 10 years’ duration. Bevacizumab(1.25 mg)intravitreal injection was admin-istrered. Three months later, photodynamic therapy was performed. Visual acuity improved from 0.08 before treat-mentツꀀ toツꀀ 0.1ツꀀ atツꀀ 1ツꀀ yearツꀀ afterツꀀ treatment.ツꀀ Intravitrealツꀀ bevacizumabツꀀ injectionツꀀ andツꀀ addedツꀀ PDTツꀀ compriseツꀀ anツꀀ e ective treament for chronic CSC.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1417 1420, 2009〕Key words:中心性漿液性脈絡網膜症,漿液性網膜 離,べバシズマブ,光線力学的療法.central serous choriore-tinopathy, serous retinal detachment, bevacizumab, photodynamic therapy.———————————————————————- Page 21418あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(120)た.細隙灯顕微鏡検査では両眼ともに軽度の白内障を認めた.右眼眼底は特に異常を認めなかった.左眼の眼底は黄斑部に漿液性網膜 離を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の初期 中期に中心窩下方に点状漏出点を認め,その周囲へ時間とともに過蛍光の漏出拡大を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)では FA の過蛍光に一致した部位での脈絡膜血管の透過性亢進を示す蛍光漏出を認める(図 1).光干渉断層計(opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography:OCT)で SRD が確認された.3 カ月経過観察後も変化なく,当院倫理委員会承認のもと,ベバシズマブ(アバスチンR)1.25 mgツꀀ 0.05 ml を硝子体内投与した.ベバシズマブ投与後,左眼視力は 0.1(n.c.)にやや改善するも,OCT による SRDは投与により以前より減少はみられたが,3 カ月経っても投与後の SRD がこれ以上減少しないと判断し(図 2),追加治療としてベルテポルフィン(ビスダインR)を用いた光線力学的療法(PDT)を当院倫理委員会承認のもと施行した.ビスダインRツꀀ 6 mg/m2を 5%ぶとう糖液で調整して 30 ml としたものを 10 分間静脈内に連続投与した.投与後 5 分後にビズラス PDT システム 690S(カールツァイス社製)を用いて波長 689 nm のレーザーを 83 秒間 FA の蛍光漏出点を中心に PDT スポットサイズ 2,800 μm の径で照射した.照射径の決定は FA の蛍光漏出部分が 1,800 μm であったので1,000 μm 加えたサイズとした.PDT 施行後約 2 週間で SRDは消失し,その後 1 年間 SRD はみられていない.PDT 施行後 12 カ月の FA では黄斑部周辺に windowツꀀ defect と考えられる顆粒状の多数の過蛍光点を認めるが,後期に拡大することはなかった.また,IA において初診時のような蛍光漏出は認められなかった(図 3).しかし,左眼の矯正視力は 0.1(n.c.)にとどまっていた.II考按CSC は自然治癒が期待され,予後良好と期待できる疾患ではあるが,一定期間 SRD が残存していることによる視細胞層へのダメージが考えられ,罹病期間を短縮し,再発を防DABC図 1初診時所見A:眼底写真.B:フルオレセイン蛍光眼底撮影(FA,造影 14 分後),矢印は点状漏出点.C:インドシアニングリーン蛍光眼底撮影(IA,造影左眼 1 分,右眼 5 分後),FA で過蛍光が認められた部位に脈絡膜血管の透過性亢進を示す蛍光漏出を認める.D:OCT において SRD を認める.図 2 ベバシズマブ硝子体内投与後3カ月のOCT 減少した SRF が残っている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091419(121)ぐことが望まれる.CSC の病態としてはまず脈絡膜血管の循環障害,血管透過性亢進により網膜色素上皮細胞が障害され,SRD が生じると考えられる.そこで,今回,強力な血管透過性亢進抑制作用を有する抗血管内皮増殖因子(vascu-larツꀀ endothelialツꀀ growthツꀀ factor:VEGF)製剤に注目し,抗VEGF 製剤としてベバシズマブの硝子体内注入を試み た3).これまで筆者らは CSC の脈絡膜循環障害から VEGFの発生が病態に関与するものと推測し,CSC に対するベバシズマブ硝子体内投与治療を施行した.ベバシズマブR硝子体内投与後 6 例中 4 例が 1 カ月後に SRD の消失を認めた.残りの 2 例は追加投与を行い初回投与から 2 カ月後には全例SRD の消退を認めた.治療後 3 カ月の矯正視力は全例において視力の改善もしくは維持が認められた.以上の結果を得て第 47 回日本網膜硝子体学会で発表した(あたらしい眼科投稿中).CSC への PDT の応用はこれまでも報告され4,5),作用機序は PDT によって脈絡膜の血管透過性亢進が抑制されるとしている.今回の症例はかなり視力が低下しており,さらに,治療前の OCT からも網膜厚が菲薄化していることから,PDT を施行することで炎症を惹起し,さらなる VEGF の発生をきたす可能性6),および PDT によるレーザー照射範囲の正常脈絡膜血管の閉塞を伴いさらに網膜色素上皮細胞層の萎縮が推測されたために7),まずベバシズマブの投与を先に行った.しかし,SRD の大きさは減少したが完全に消退しなかったことから結果として PDT を追加治療として行った.今回の症例では罹病期間も長く,再発をくり返すことにより網膜厚が菲薄化しており,最終的には SRD の消失を認めたが視力改善には至らなかった.CSC の治療の第一選択はレーザー光凝固であるが,蛍光漏出点が黄斑近傍に存在する場合や SRD の丈が高いと効果的には使用できない.また,レーザー光凝固により脈絡膜新生血管が生じる例がある.CSCに対する治療は罹病期間を短縮し,できるだけ侵襲の少ないものが望まれる.これは本症が自然治癒傾向のある疾患であり,治療そのものによる合併症が生じると視力予後不良となってしまう可能性があるからである.今後は CSC への治療として早期に SRD を消退させ視機能を保護する新しい治療方法として抗 VEGF 製剤を試みる価値はあると考えられ,そのうえで効果が不十分な場合には PDT を検討すべきではないかと考えられた.本論文の要旨は第 32 回日本眼科手術学会総会にて発表した.図 3PDT施行後12カ月の所見A:眼底写真.B:FA 像(造影 15 分後).Windowツꀀ defect を多数認めるが蛍光の拡大はなかった.C:IA 像(造影 5 分後)での蛍光漏出は認めない.D:SRD は消失している.ツꀀツꀀツꀀ ———————————————————————- Page 41420あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(122)文献 1) 古泉英貴,飯田知弘:中心性漿液性網脈絡膜症の病態と治療.あたらしい眼科 22:567-572, 2005 2) 飯田知弘,村岡兼光,萩村徳一ほか:中心性漿液性網脈絡膜症における脈絡膜血管病変.臨眼 48:1583-1593, 1994 3) 石田晋:抗血管新生療法の奏功機序と将来の展望.日本の眼科 79:435-439, 2008 4) Taban M, Boyer DS, Thomas EL et al:Chronic central serous chorioretionpathy:photodynamic therapy. Am J Ophthalmol 137:1073-1080, 2004 5) Yannuzzi LA, Slakter JS, Gross NE et al:Indocyanine green angiography-guided photodynamic therapy for treatment of chronic central serous chorioretinopathy. A pilot study. Retina 23:288-298, 2003 6) Schmidt-Erfurth U, Schlotzer-Schrehard U, Cursiefen C etツꀀ al:In uenceツꀀ ofツꀀ photodynamicツꀀ terapyツꀀ onツꀀ expressionツꀀ of vasucular endothelial growth factor(VEGF), VEGF receptor 3, and pigment epithelium-deriverd factor. Invest Ophthalmol Vis Sci 44:4473-4480, 2003 7) Dewi NA, Yuzawa M, Tochigi K et al:E ects of photo-dynamic therapy on the choriocapillaris and retinal pig-mentツꀀ epitheliumツꀀ inツꀀ theツꀀ irradiatedツꀀ area.ツꀀ Jpnツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 52:277-281, 2008***

光学部径 7 mm 眼内レンズの白内障・硝子体同時手術 における有用性

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(115)ツꀀ 14130910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1413 1415,2009cはじめに近年,白内障,硝子体手術の進歩に伴い,白内障,硝子体同時手術を行うことが増加している.白内障硝子体同時手術を行う際に挿入する眼内レンズのサイズや安定性により,硝子体手術時の眼底の視認性が影響されることがあり,挿入する眼内レンズの選択には注意が必要である.今回筆者らは,折りたたみ可能な光学部径 7 mm 眼内レンズ,ETERNITYR X-70(参天製薬)を白内障・硝子体同時手術に使用し,眼底視認性,前房深度の変化を観察し白内障・硝子体同時手術における有用性を検討した.I対象および方法対象は 2008 年 5 10 月までに東京慈恵会医科大学附属病院において白内障,硝子体同時手術時に光学部径 7 mm 眼内レンズ ETERNITYRツꀀ X-70 を挿入した 22 例 22 眼である.術後経過観察期間は 3 9 カ月,平均 6.2 カ月であった.白〔別刷請求先〕渡辺朗:〒105-8461 東京都港区西新橋 3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprint requests:Akira Watanabe, M.D., Department of Ophthalmology, The Jikei University School of Medicine, 3-25-8 Nishi-shinbashi, Minato-ku, Tokyo 105-8461, JAPAN光学部径 7 mm 眼内レンズの白内障・硝子体同時手術 における有用性渡辺朗岡野喜一朗柴田朋宏加藤秀紀常岡寛東京慈恵会医科大学眼科学講座Clinical E cacy of 7 mm Intraocular Lens for Combined Pars Plana Vitrectomy, Phacoemulsiication and Intraocular Lens ImplantationAkira Watanabe, Kiichiro Okano, Tomohiro Shibata, Hideki Kato and Hiroshi TsuneokaDepartment of Ophthalmology, The Jikei University School of Medicine22 例 22 眼の白内障・硝子体同時手術に光学部径 7 mm 眼内レンズ,エタニティーR(参天製薬)を用いて有用性を検討した.白内障手術を 2.4 mm 強角膜切開創から行い眼内レンズを挿入後,23 ゲージシステムにて硝子体手術を行った.13 眼でガス置換を行った.術中の眼底の視認性および,前眼部解析装置 PENTACAMR(OCULUS 社)を用いて術前後の前房深度を測定した.術中の眼底の視認性は良好で,特に周辺部の観察時に良好であった.ガス置換を行った症例では術前の前房深度は平均 3.10 mm,術後 1 日 3.56 mm,1 週間 4.22 mm,1 カ月 4.25 mm となった.ガス置換を行っていない症例では術前の前房深度は平均 2.73 mm,術後 1 日 4.13 mm,1 週間 4.08 mm,1 カ月で 4.05 mm となった.術中の眼底の観察に優れ,硝子体内ガスの有無による術後の前房深度の変化が少ないエタニティーRは白内障・硝子体同時手術において有用である.We evaluated the clinical e cacy of a 7 mm intraocular lens(ETERNITYR, Santen Pharmaceutical Co., Ltd.)for combined pars plana vitrectomy, phacoemulsi cation and intraocular lens implantation. Subjects comprised 22 eyes of 22 cases in whom we observed retinal visibility during vitrectomy and measured anterior chamber depth before and after surgery, using the PENTACAMR. During vitrectomy, retinal visibility ─ especially of the peripheral reti-na ─ wasツꀀ good.ツꀀ Inツꀀ casesツꀀ involvingツꀀ gasツꀀ tamponade,ツꀀ anteriorツꀀ chamberツꀀ depthツꀀ averagedツꀀ 3.10 mmツꀀ preoperatively,ツꀀ and 3.56, 4.22 and 4.25 mm at 1 day, 1 week and 1 month postoperatively. In cases without gas tamponade the respec-tiveツꀀツꀀ guresツꀀ wereツꀀ 2.73,ツꀀ 4.13,ツꀀ 4.08ツꀀ andツꀀ 4.05 mm.ツꀀ Becauseツꀀ ofツꀀ goodツꀀ visibilityツꀀ duringツꀀ vitrectomyツꀀ andツꀀ stabilityツꀀ forツꀀ gas tamponade, ETERNITYR was useful for triple procedures.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1413 1415, 2009〕Key words:7 mm 眼 内 レ ン ズ, エ タ ニ テ ィーR, 硝 子 体 手 術, 有 用 性.7 mmツꀀ intraocularツꀀ lens,ツꀀ ETERNITYR, vitrectomy, e cacy.———————————————————————- Page 21414あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(116)内障手術は 2.4 mm 強角膜切開創から行い,同じ創口からHOYA E1 カートリッジRに装 した ETERNITYR X-70 を眼内に挿入した.眼内レンズ挿入後,強角膜創からわずかでも漏出がみられた場合は,硝子体手術中の圧迫などによる前房虚脱を避けるため強角膜縫合を行い,23 ゲージシステムにて硝子体手術を行った.強角膜創を縫合した場合は,硝子体手術終了時に抜糸した.硝子体手術の適応となった疾患は,網膜 離 8 眼,黄斑円孔 5 眼,黄斑前膜 4 眼,増殖糖尿病網膜症 5 眼であった.網膜 離と黄斑円孔の 13 眼でガス置換を行った.ガス置換は 20%六フッ化硫黄(SF6)ガスを用い,硝子体腔を全置換した.術後 10 14 日で SF6ガスが消失した症例を対象とした.術中,術後の眼底の視認性および合併症について検討した.さらに,前眼部解析装置 PENTACAMR(OCULUS 社)を用いて術前,術後 1 日,1 週間,1 カ月に前房深度を測定し検討した.術前前房深度は角膜後面から水晶体前面まで,術後前房深度は角膜後面から眼内レンズ前面までの距離とした.II結果ETERNITYRツꀀ X-70 挿入眼では,7 mm 程度に散瞳した症例では瞳孔領を眼内レンズの光学部がほとんど占めるため,硝子体手術時は,光学部の有無により屈折が変化することなく硝子体切除時の視認性はきわめて良好であった.散瞳が8 mm 以上と良好な症例では光学部と瞳孔の間に隙間を生じるが,おもに術操作を行う領域には光学部の有無による屈折の 変 化 は な く, 硝 子 体 切 除 時 の 視 認 性 は 良 好 で あ っ た.ETERNITYR X-70 挿入眼では,後極部の観察時も瞳孔領のほとんどを眼内レンズの光学部が覆っており,明瞭に観察できる範囲が 6.5 mm 光学部径の眼内レンズに比較し広かった.硝子体鉗子を動かしながら把持した黄斑前膜を 離,除去していく場合,6.5 mm 光学部径の眼内レンズでは,鉗子で把持している部位は明瞭に観察できる.しかし,光学部のない周辺部では 離している黄斑前膜の端が明瞭に観察できないことがあったが,ETERNITYR X-70 挿入眼では,鉗子で把持している部位のみではなく, 離している黄斑前膜を端まで,網膜との付着部位を明瞭に確認しながら手術を行うことができた(図 1).周辺部の硝子体切除の際には,6.5 mm 光学部径眼内レンズ挿入眼よりも軽度の強膜圧迫で観察が可能であった(図 2).ガス置換時に眼内レンズの安定性は高く,眼底視認性も良好であった.術中および術後に網膜裂孔を認めた症例が,それぞれ 1 眼あり,術中,術後にレーザー光凝固を裂孔周囲に行った.光学部径が 7 mm あることにより周辺部の観察もしやすく,周辺部の新裂孔の観察やガス残存した状態でのレーザー治療の際にも安定した視認性が得られた(図 3).ガス置換症例でも眼内レンズによる虹彩捕獲や虹彩後癒着がみられた症例はなかった.術後経過観察期間中に明らかなグリスニングの発生や後 切開を要する後発白内障の発生がみられた症例はなかった.PENTACAMRを用いた前房深度の測定では,ガス置換を行った症例では術前の前房深度は平均 3.10±0.34 mm であり, 術 後 1 日 に 3.56±0.36 mm,1 週 間 で 4.22±0.26 mm,1 カ月で 4.25±0.27 mm となった.ガス置換を行っていない図 1後極部の観察6.5 mm 眼内レンズ挿入眼では光学部がない周辺部はピントが合わず不明瞭(矢印).ETERNITYRツꀀ X-70 挿入眼では 6.5 mm眼内レンズより広い範囲が明瞭に観察できる.6.5 mm 眼内レンズ挿入眼ETERNITYR X-70 挿入眼図 2強膜圧迫による周辺部観察ETERNITYR X-70 挿入眼では,光学部の有無によって屈折が変化することによる視認性の低下は少なく,軽度の強膜圧迫で周辺部の観察を行うことが可能であった.6.5 mm 眼内レンズ7 mm 眼内レンズツꀀ 3術後眼底観察術後の眼底マネージメントにおいても 7 mm 光学部径により周辺部の観察もしやすく,周辺部の新裂孔の観察やガス残存した状態でのレーザー治療の際にも安定した視認性が得られた.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091415(117)症例では,術前の前房深度は平均 2.73±0.32 mm であり,術後 1 日に 4.13±0.55 mm,1 週 間 で 4.08±0.47 mm,1 カ月で 4.05±0.41 mm となった.ガス置換の有無により術後 1日の前房深度に差はあるが,眼内ガスが約 40%残った術後1 週間以降ではガス置換の有無による前房深度の差はなくなった(図 4).III考按眼内レンズ眼は一般的に眼内視認性が低下することが知られており,その原因は後発白内障や,眼内レンズに発生したグリスニングやヘイズ,混濁,前 の混濁,収縮などがあげられる.このようなレンズの透明性の低下によるもの以外にも,眼内レンズの光学部がヒト水晶体より小さいために瞳孔領に眼内レンズの光学部により覆われない隙間が生じ,光学部の有無により屈折が変化し,その境目では視認性が低下する.また,ループやレンズエッジが観察の邪魔をしたりすることもある.7 mm 光学部径の眼内レンズは 6 mm 眼内レンズに比較し光学部面積は 36%,6.5 mm 眼内レンズより 16%増加する.周辺部の眼底視認性に影響する光学部と瞳孔との隙間は,瞳孔径が 8 mm の場合,6 mm 眼内レンズで 46.5%,6.5 mm 眼 内 レ ン ズ で 30.8% 減 少 す る. こ れ に よ り7 mm 眼内レンズを挿入すると,硝子体手術を行う際に眼底視認性が 6 mm 眼内レンズや 6.5 mm 眼内レンズに比較して向上すると考えられる.3 9 カ月の短期間の経過観察期間ではあるが,明らかなグリスニングや著明な後発白内障がみられた症例はなく,7 mm 光学部径を有する ETERNITYR X-70 は硝子体手術中,術後の良好な眼底の視認性への貢献が期待できると考えられた.硝子体手術時には,疾患や術中合併症により硝子体腔を 液-ガス置換することがあるが,その際に眼内レンズの安定性は眼底視認性や虹彩捕獲の発生に影響する1).今回,白内障・硝子体同時手術の術翌日に測定した前房深度は,ガス置換をした症例のほうが浅かった.これはガス置換により眼内レンズが圧迫され前方に移動するためと考えられる.ETER-NITYR X-70 では,眼内にガスが約 40%貯留した状態である手術後 1 週間では前房深度にガス置換の有無による差はなくなった.アクリル 1 ピース眼内レンズの場合手術後 1 週間ではガス置換の有無により前房深度に差があることが報告されている2)が,今回用いた ETERNITYR X-70 ではガス置換を行っても前房深度の変化が少なく早期に安定するものと考えられた.虹彩捕獲の発生は,ガスタンポナーデによる眼内レンズの前方移動や眼内レンズの光学部径に比較し,大きな前 切開が一因と考えられており1,3),ガスタンポナーデによる前方移動の程度が少なく,7 mm の光学部径を有するETERNITYR X-70 は虹彩捕獲の発症が低下すると考えられた.眼内レンズの安定性には,眼内レンズの光学部径のサイズばかりではなく,ETERNITYR X-70 光学部素材が硬いことが眼内安定性に貢献しているものと思われた.以上,眼底視認性や眼内安定性にすぐれた光学部径 7 mmを有する ETERNITYR X-70 は,白内障・硝子体同時手術において有用であると考えられた.文献 1) 西口文,南政宏,植木麻理ほか:白内障と硝子体同時手術の虹彩捕獲.IOL&RS 18:299-303, 2004 2) Iwase T, Sugiyama K:Investigation of the stability of one-piece acrylic intraocular lenses in cataract surgery and in combined vitrectomy surgery. Br J Ophthalmol 90:1519-1523, 2006 3) Rahman R, Rosen PH:Pupillary capture after combined management of cataract and vitreoretinal pathology. J Cataract Refract Surg 28:1607-1612, 2002***54.54.3.53.2.521.5術前術後1日術後1週間術後1カ月前房深度(mm):ガス置換:ガス置換なし図 4白内障・硝子体同時手術による前房深度の変化ガス置換の有無により術後 1 日の前房深度に差はあるが,眼内に約 40%残った術後 1 週間ではガス置換の有無による前房深度の差はなくなった(t 検定 p<0.01).

選択的レーザー線維柱帯形成術の白内障手術の有無における 治療成績の比較

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(111)ツꀀ 14090910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1409 1412,2009cはじめに近年,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveツꀀ laser trabeculoplasty:SLT)は Nd:YAG レーザーを利用した治療法で,薬物治療と手術治療の間の低侵襲で有効な治療 法1 8)として,緑内障治療の選択肢となりつつある.複数回照射の安全性と効果などの学会報告もみられるが,内眼手術(白内障手術)前後での安全性と効果に関する検討は,わが国においては報告されていない.今回筆者らは,SLT の適応と安全性の確立を目的に,白内障手術前後における SLT の効果をレトロスペクティブに検討した.また,線維柱帯切除術施行後に眼圧上昇をきたした症例に対して施行した SLT の効果に関しても検討したので報告する.I対象眼圧コントロール不良な開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障のうち,2003 年 8 月 2004 年 12 月までの間に木村眼科クリ ニ ッ ク で SLT を 施 行 し た 症 例, お よ び 2003 年 7 月 2006 年 3 月までの期間に東海大学医学部附属病院で施行した症例のうち,6 カ月以上観察可能であったものを対象とし〔別刷請求先〕岩崎紳一郎:〒259-1193 伊勢原市下糟谷 143東海大学専門診療学系眼科学Reprint requests:Shinichiro Iwasaki, M.D., Department of Ophthalmology, Tokai University School of Medicine, 143 Shimokasuya, Isehara-shi 259-1193, JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の白内障手術の有無における治療成績の比較岩崎紳一郎*1斉藤信夫*1松倉修司*1尾内宏美*1河合憲司*1木村肇二郎*2*1 東海大学専門診療学系眼科学*2 木村眼科クリニックComparison of Clinical Results for Selective Laser Trabeculoplasty with or withoutツꀀ Cataract SurgeryShinichiro Iwasaki1), Nobuo Saito1), Shuji Matsukura1), Hiromi Onouchi1), Kenji Kawai1) and Choujirou Kimura2)1)Department of Ophthalmology, Tokai University School of Medicine, 2)Kimura Eye Clinic目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveツꀀ laserツꀀ trabeculoplasty:SLT)における内眼手術の既往別での眼圧下降効果について検討した.対象:白内障手術の既往がない 31 例 33 眼,白内障手術の既往がある 26 例 29 眼,線維柱帯切除術の既往がある 12 例 13 眼.結果:Out owツꀀ pressure(房水流出圧)下降率(以下,ΔOP)は照射後 6 カ月において白内障手術の既往がない症例で 32.8%,白内障手術の既往がある症例で 33.7%,線維柱帯切除後術の既往がある症例で 29.8%であった.各群間に統計学的な有意差はなかった.結論:SLT は白内障手術の既往の有無にかかわらず,有効な眼圧下降率を認めた.Purpose and Object:I examined the intraocular pressure drop e ect in selective laser trabeculoplasty(SLT), following inner eye surgery front and back, in 33 eyes of 31 patients with no history of inner eye surgery that had required SLT, 29 eyes of 26 patients with a history of cataract surgery, and 13 eyes of 12 patients with a history ofツꀀ trabeculectomy. Result:Theツꀀ averageツꀀ intraocularツꀀ pressureツꀀ showedツꀀ aツꀀ meaningfulツꀀ dropツꀀ inツꀀ phakic/pseudophakic eyesツꀀ atツꀀ sixツꀀ monthsツꀀ afterツꀀ SLT(p<0.0001).ツꀀ Althoughツꀀ Iツꀀ didツꀀ notツꀀ recognizeツꀀ it,ツꀀ theツꀀ signi cantツꀀ di erenceツꀀ acceptedツꀀ an e ective intraocular pressure drop in after trabeculectomy. Conclusion:SLT did not a ect presence of the past of inner eye surgery(cataract), and it was thought that e ective intraocular pressure drop was achieved.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1409 1412, 2009〕Key words:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧,内眼手術,白内障手術,線維柱帯切除術,有水晶体眼,偽水晶体眼.selective laser trabeculoplasty, intraocular pressure, inner eyes surgery, cataract surgery, trabeculectomy, phakia, pseudophakia.———————————————————————- Page 21410あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(112)た.内訳は白内障手術の既往がない 31 例 33 眼(以下,有水晶体眼とする).白内障手術の既往がある 26 例 29 眼(以下,偽水晶体眼とする).線維柱帯切除術の既往がある症例が 12例 13 眼(以下,線維柱帯切除後眼とする)であり,年齢はそれぞれ有水晶体眼で 67.2±15.1(平均値±標準偏差)歳,偽水晶体眼で 79.7±7.1 歳,線維柱帯切除後で 75.0±9.7 歳であった.また,それぞれの照射発,総エネルギー,および範囲は有水晶体眼では 68.6±26.1 発(総エネルギー 72.9±25.8 mJ)であり,そのうち下半周照射は 22 眼(36.3%)で全周照射は 21 眼(63.6%),偽水晶体眼では 84.1±21.5 発(総エネルギー 70.6±21.5 mJ)ですべて全周照射,線維柱帯切除後では 79.0±41.0 発(総エネルギー 105.0±23.4 mJ)ですべて全周照射であった.II方法SLT の 照 射 装 置 は,Coherent 社 Selectaツꀀ 7000 お よ びLUMENIS 社 SELECTA duet で Q スイッチ半波長 Nd:YAG レーザーを使用した.レーザー波長は 532 nm,スポットサイズは 400 μm,照射時間 3 nsec にて,一般的には気泡を生じない最大エネルギーで行うのが一般的であったが,今回はわずかに気泡を生じる程度のエネルギー(0.6 1.3 mJ/回)にて,半周から全周に約 30 100 発照射した.また,術後一過性高眼圧防止のため,術前後に塩酸アプラクロニジン(アイオピジンR)を使用し,術前後で点眼の変更は行わなかった.III検討項目眼圧は Goldmann 圧平眼圧計で測定し,1 カ月,3 カ月,6 カ月後の①平均眼圧,②術前眼圧からの差(以下, ΔIOP),③ΔOP を Studentツꀀ t 検定を用いて統計学的に解析し,比較検討した.ΔIOP は術前眼圧 照射後圧で,ΔOP は眼圧下降 量(ΔI O P )/( 術 前 眼 圧 上強膜静脈圧)×100 の式で算出し,上強膜静脈圧を 10 mmHgとした.また,薬剤変更・他のレーザー治療・手術(白内障も含む)を追加したものはそれ以降の眼圧は他の要因が加味されるため脱落とし,除外した.生命表(Kaplan-Meier)は 2 回眼圧が 21 mmHg以上になった時点をエンドポイントと定義した.IV結果照射前・後の平均眼圧を図 1 に示した.照射前での眼圧はそれぞれ有水晶体眼で 19.5±4.1 mmHg,偽水晶体眼で 19.3±3.7 mmHg,線維柱帯切除後眼で 18.3±2.7 mmHgであった.1 カ月,3 カ月,6 カ月後でほぼ同様の眼圧下降が得られ,照射後 6 カ月では有水晶体眼で 16.1±2.9 mmHg,偽水晶体眼で 16.2±4.2 mmHgと術前と比べ優位な眼圧下降を認めた(p<0.0001).線維柱帯切除後眼では 16.2±5.2 mmHgで,統計学的に有意ではないものの緩やかに眼圧下降を認め,6 カ月後では他の群とほぼ同様の眼圧値を認めた.図 2 は同症例の平均ΔIOP を示す.1 カ月後では有水晶体眼で 3.1 mmHg,偽水晶体眼で 3.2 mmHg,線維柱帯切除後眼で 1.6 mmHgであった.1 カ月,3 カ月,6 カ月後でそれぞれ大きな変化なく,照射後 6 カ月で有水晶体眼で 3.5 mmHg,偽水晶体眼で 3.1 mmHg,線維柱帯切除後眼で 2.1 mmHgで,術後 1 カ月との間で有意差も認めなかった(p>0.0001).図3にΔOP を示す.1 カ月では有水晶体眼で 30.6%,偽水晶体眼で 34.5%,線維柱帯切除後眼で 21.5%であった.照射後 6 カ月において有水晶体眼で 32.8%,偽水晶体眼で33.7%,線維柱帯切除後で 29.8%であった.ΔOPは20%以上が有効とされている4)が,各群の間に統計学的な有意差は照射前1カ月平均眼圧(mmHg)****24222018161412103カ月6カ月:有水晶体眼ツꀀツꀀツꀀ (n=33):偽水晶体眼ツꀀツꀀツꀀ (n=29):線維柱帯切除後(n=13)図 1平均眼圧(mmHg)・ 平均値±標準偏差,片側表示.・ 症例数は各群で術後 6 カ月まですべて同数.・ 各群において術前眼圧との比較(*:p<0.0001,**:p>0.0001).1カ月***0123456783カ月6カ月:有水晶体眼(n=33):偽水晶体眼(n=29):線維柱帯切除後(n=13)平均IOP(mmHg)Δ図 2平均ΔIOP(mmHg)・平均値±標準偏差,片側表示.・症例数は各群で 1 カ月,3 カ月,6 カ月ですべて同数.・各群において術後 1 カ月との比較(*:p>0.0001).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091411(113)なく(p>0.0001),常に 20%以上で経過し,6 カ月後で 20%以上は有水晶体眼で 33 眼中 26 眼(約 79%),偽水晶体眼で 29 眼中 20 眼(約 69%)認めた.今回,有水晶体眼,偽水晶体眼は 6 カ月後でともに 33%前後のΔOP を認めた.一方,線維柱帯切除後眼では 29.8%と有効な値ではあったものの,他の 2 群と比べると効果はやや劣っていた.また,照射 6 カ月以内に5 mmHg以上の眼圧上昇をきたした症例は有水晶体眼で 2 例 2 眼,偽水晶体眼で 2 例 2 眼であった.生命表(Kaplan-Meier)の分析結果を図 4 に示した.1 カ月,3 カ 月,6 カ 月 後 の 生 存 率(症 例 数)は 有 水 晶 体 眼 で90.0%(45 眼),76.0%(38 眼),66.0%(33 眼), 偽 水 晶 体眼 で 90.5%(38 眼),80.9%(34 眼),69.0%(29 眼), 線 維柱帯切除後眼で 95.0%(19 眼),70.0%(14 眼),65.0%(13眼)であった.それぞれ生存期間に有意差は認めなかった(Logrank 検定).また,各群の平均観察期間は有水晶体眼で 15.3±7.8 週,偽水晶体眼で 19.3±7.6 週,線維柱帯切除後眼で 16.0±7.2 週であった.V考按今回筆者らは内眼手術の既往が SLT の効果に与える影響を検討した.今回の検討で術後 6 カ月の時点で,ΔOPツꀀ 20%以上を反応群とすると,反応率は約 70%であり,これまでの報告と同等の結果であった.さらに白内障手術前後において有意差を認めることなく有効な眼圧下降効果が得られ,重症な合併症も少ないことから,SLT は白内障手術の既往の有無にかかわらず,必要であれば施行可能であり,一定の効果が期待できると考えられた.今日まで,SLT の安全性と有効性の報告が多くなされるようになり,最近では SLT により濾過手術を行う時期を引き延ばせるという報告も散見される.しかしこの問題に関しては,手術を引き伸ばす間に神経障害が進行するのではという意見もあり,賛否両論みられる.一方,白内障手術を先に行い後にレクトミー単独で行った群と,白内障同時手術群との比較においては,前者のほうが経過が良いということは報告されている9,10).今回,偽水晶体眼に対する SLT の有効性が得られたことから,白内障手術後ある程度の期間の後にレクトミー単独手術を検討している症例においては,白内障手術を行ってからレクトミーを行うまでの期間の視神経保護を目的に SLT を施行することにより,ある一定の眼圧下降を得られる可能性があると考えられた.線維柱帯切除後に SLT を施行した群は,ΔOP で 29.8%と有効な効果が得られたものの,症例数が少なかったこともあるが他の 2 群よりも眼圧下降効果が劣っていた.原因として,手術を行う時点で SLT ノンレスポンダーが含まれ,すでに他の 2 群と比べて線維柱帯機能が劣っている難治例が含まれていたこと,術前眼圧が他の 2 群より低いことなどが原因として考えられたが,詳細は不明である.今回の筆者らの統計は Kaplan-Meier 法においてそれぞれの生存期間に有意差は認めなかった(Logrank 検定).ただ,症例数,観察期間ともに不十分なので,今後の経過観察および再検討が必要である.また,今回の問題点として,白内障手術後に SLT を試行するまでの期間が不均一であったことがあげられ,照射時期により眼圧下降効果に有意差があるか検討が必要である.また,白内障術後に眼圧下降が認められた症例と,認められなかった症例に対する SLT の効果も検討が必要である.そして今後,白内障手術後に認められる眼1カ月*********01020304050607080903カ月6カ月:有水晶体眼(n=33):偽水晶体眼(n=29):線維柱帯切除後(n=13)平均OP(%)Δ図 3平均ΔOP(%)・平均値±標準偏差,片側表示.・症例数は各群で 1 カ月,3 カ月,6 カ月ですべて同数.・術後 1 カ月,ツꀀ 3 カ月,ツꀀ 6 カ月において,各群間での比較(*:p>0.0001).生存率(%)生存期間(月数)0123456100806040200:有水晶体眼:偽水晶体眼:線維柱帯切除後眼図 4Kaplan Meier生存分析・2 回眼圧が 21 mmHg以上になった時点をエンドポイントと定義した.・6 カ月生存率は有水晶体眼は 33 眼で 66.0%,偽水晶体眼は 29 眼で 69.0%,線維柱帯切除後眼では 13 眼で 65.0%であった.・3 群間に生存期間の有意差は認められなかった(Logrank検定).———————————————————————- Page 41412あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(114)圧下降の機序,SLT の作用機序やさらなる長期の安全性などが明らかにされれば,より正確な適応基準を決定できると考えられた.わずかな眼圧下降効果でいたずらに手術時期を延期し,視神経障害を進行させてはならないが,観血手術が安全確実でなく,複数回の施行が困難である現状では,SLT を積極的に行い,効果が不十分であれば速やかに観血手術ができる体制での注意深い経過観察が必要である.緑内障の治療方針決定には,視神経障害の程度・ベースラインとなる眼圧・年齢などの社会的背景などが絡み,明解な基準を作ることは困難である.その方針決定には客観的データの蓄積が不可欠であり,今回のデータがその一つとして役立てば幸いである.本稿の要旨は第 17 回日本緑内障学会で発表した.文献 1) 佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術とアルゴンレーザー線維柱帯形成術の効果比較.眼臨 99:633-637, 2005 2) 前田貴美人,大黒浩,丸山幾代:Selectiveツꀀ Laserツꀀ Trabe-culoplasty の治療成績.あたらしい眼科 18:515-518, 2001 3) 前田祥恵,今野伸介,大口修史ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の長期術後成績および眼圧日内変動との関連.臨眼 60:781-785, 2006 4) 大口修史,今野伸介,鈴木康夫ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術が緑内障患者の眼圧日内変動に及ぼす影響.あたらしい眼科 21:812-814, 2004 5) Melamedツꀀ S,ツꀀ Benツꀀ Simonツꀀ GJ,ツꀀ Levkovitch-Verbinツꀀ H:Selec-tive laser trabeculoplasty as primary treatment for open-angle glaucoma. Arch Ophthalmol 121:957-960, 2003 6) Latina MA, Sibayan SA, Shin DH et al:Q-switched 532-nmツꀀ Nd:YAGツꀀ laserツꀀ trabeculoplasty(selectiveツꀀ laserツꀀ trabe-culoplasty). Ophthalmology 105:2082-2090, 1998 7) Latina MA, Gulati V:Selective laser trabeculoplasty:stimulating the meshwork to mend its ways. Int Ophthal-mol Clin 44:93-103, 2004 8) Cvenkel B:One-year follow-up of selective laser trabe-culoplasty in open-angle glaucoma. Ophthalmologica 218:20-25, 2004 9) 朝岡亮,尾﨏雅博,尾﨏扇子ほか:白内障・緑内障同時手術と緑内障単独手術の術後成績の比較.あたらしい眼科 17:871-877, 2000 10) 鈴木三保子,狩野廉,桒山泰明:原発閉塞隅角緑内障に対するトラベクレクトミー白内障同時手術の成績.眼紀 56:270-273, 2005***

In Vitro 薬剤感受性検査によるトスフロキサシン単剤投与 有効性の検証

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(95)ツꀀ 13930910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1393 1399,2009c〔別刷請求先〕井上幸次:〒683-8504 米子市西町 36-1鳥取大学医学部視覚病態学教室Reprint requests:Yoshitsugu Inoue, M.D., Division of Ophthalmology and Visual Science, Faculty of Medicine, Tottori University, 36-1 Nishimachi, Yonago-shi 683-8504, JAPANIn Vitro 薬剤感受性検査によるトスフロキサシン単剤投与 有効性の検証佐伯有祐*1宮 大*1井上幸次*1藤原弘光*2谷本綾子*2岡崎俊朗*2*1 鳥取大学医学部視覚病態学教室*2 鳥取大学医学部附属病院検査部Veriication by In Vitro Antibacterial Activity of Efectiveness of Tosuloxacin AloneYusuke Saeki1), Dai Miyazaki1), Yoshitsugu Inoue1), Hiromitsu Fujiwara2), Ayako Tanimoto2) and Toshiro Okazaki2)1)Division of Ophthalmology and Visual Science, Faculty of Medicine, Tottori University, 2)Division of Clinical Laboratory, Clinical Facilities, Tottori University Hospital細菌性角膜炎などの重症外眼部感染症に対する点眼治療としてニューキノロン系点眼と cefmenoxim(CMX)点眼の併用療法が広く行われているが,最近はよりグラム陽性球菌に対する効果が増強された新しいニューキノロン系点眼が使用できるようになり,単剤投与による治療も可能ではないかと思われる.そこで今回,その点を inツꀀ vitro の薬剤感受性検査で検証した.鳥取大学医学部附属病院にて分離された細菌 72 株を用いて,levo oxacin(LVFX),tosu- oxacin(TFLX),gati oxacin(GFLX),moxi oxacin(MFLX),および CMX の MIC(最小発育阻止濃度)を測定したところ,全株に対する MIC80(μg/ml)は LVFX>16,TFLXツꀀ 4,GFLXツꀀ 8,MFLX>16,CMX>16 であった.また5 株の主要菌(Staphylococcusツꀀ aureus,Staphylococcusツꀀ epidermidis,Streptococcusツꀀ pneumoniae,Pseudomonasツꀀ aerugi-nosa,Haemophilusツꀀ in uenzae)を用いて TFLX 単剤の場合と LVFX と CMX を混合した場合(LVFX+CMX)のpostantibioticツꀀ e ect(PAE)および postantibioticツꀀ bactericidalツꀀ e ect(PABE)を測定したところ S.ツꀀ epidermidis,P. aeruginosa,H.ツꀀ in uenzae に対して TFLX は LVFX+CMX よりも PAE が延長していた.また PABE の測定では,5つの主要菌すべてに対して TFLX は LVFX+CMX と同等あるいはそれ以上の殺菌率を示した.PAE,PABE の結果から,TFLX 点眼が従来の LVFX と CMX の点眼併用に比肩する治療となりうる可能性が示された.Variousツꀀ antibioticツꀀ eyedropsツꀀ haveツꀀ beenツꀀ usedツꀀ forツꀀ treatingツꀀ bacterialツꀀ ocularツꀀ infection.ツꀀ Theツꀀ combinationツꀀ ofツꀀ uoroquinoloneツꀀ andツꀀ cefmenoxim(CMX)ophthalmicツꀀ solutionsツꀀ inツꀀ particularツꀀ hasツꀀ beenツꀀ widelyツꀀ usedツꀀ againstツꀀ severe infectious diseases such as bacterial keratitis. Novelツꀀ uoroquinolone ophthalmic solutions with improved antibacteri-alツꀀ activityツꀀ againstツꀀ gram-positiveツꀀ cocciツꀀ haveツꀀ recentlyツꀀ becomeツꀀ available,ツꀀ soツꀀ itツꀀ hasツꀀ beenツꀀ thoughtツꀀ thatツꀀ useツꀀ ofツꀀ aツꀀ uoroquinoloneツꀀ ophthalmicツꀀ solutionツꀀ aloneツꀀ isツꀀ su cientツꀀ forツꀀ treatingツꀀ bacterialツꀀ keratitis.ツꀀ Inツꀀ theツꀀ presentツꀀ studyツꀀ we veri ed this point on the basis of in vitro antibacterial activity. First, we determined the minimum inhibitory con-centration(MIC)ofツꀀ levo oxacin(LVFX),ツꀀ tosu oxacin(TFLX),ツꀀ gati oxacin(GFLX),ツꀀ moxi oxacin(MFLX),ツꀀ and CMXツꀀ againstツꀀ 72ツꀀ clinicalツꀀ isolatesツꀀ collectedツꀀ fromツꀀ patientsツꀀ withツꀀ eyeツꀀ infectionツꀀ atツꀀ Tottoriツꀀ Universityツꀀ Hospital.ツꀀ Itツꀀ was found that the MIC80(μg/ml)against all 72 isolates was 16 or more with LVFX, 4 with TFLX, 8 with GFLX, 16 or more with MFLX and 16 or more in CMX. We then examined in vitro the postantibiotic e ect(PAE)and the post-antibioticツꀀ bactericidalツꀀ e ect(PABE)ofツꀀ TFLXツꀀ aloneツꀀ andツꀀ theツꀀ combinationツꀀ ofツꀀ LVFXツꀀ withツꀀ CMX(LVFX+CMX)againstツꀀ Staphylococcusツꀀ aureus,ツꀀ Staphylococcusツꀀ epidermidis,ツꀀ Streptococcusツꀀ pneumoniae,ツꀀ Pseudomonasツꀀ aeruginosa,ツꀀ and Haemophilusツꀀ in uenzae.ツꀀ Theツꀀ PAEツꀀ ofツꀀ TFLXツꀀ againstツꀀ S.ツꀀ epidermidis,ツꀀ P.ツꀀ aeruginosa,ツꀀ andツꀀ H.ツꀀ in uenzaeツꀀ wasツꀀ longer thanツꀀ thatツꀀ ofツꀀ LVFX+CMX.ツꀀ Theツꀀ PABEツꀀ ofツꀀ TFLXツꀀ againstツꀀ theツꀀ 5ツꀀ isolatesツꀀ wasツꀀ equalツꀀ orツꀀ superiorツꀀ toツꀀ thoseツꀀ ofツꀀ LVFX+CMX.ツꀀ Ourツꀀ resultsツꀀ indicateツꀀ thatツꀀ treatmentツꀀ ofツꀀ bacterialツꀀ keratitisツꀀ withツꀀ TFLXツꀀ isツꀀ possiblyツꀀ compatibleツꀀ withツꀀ thatツꀀ by LVFX+CMX.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1393 1399, 2009〕Key words:トスフロキサシン(TFLX),最小発育阻止濃度(MIC),postantibioticツꀀ e ect(PAE),postantibiotic bactericidalツꀀ e ect(PABE).tosu oxacin(TFLX),ツꀀ minimumツꀀ inhibitoryツꀀ concentration(MIC),ツꀀ postantibioticツꀀ e ect(PAE), postantibiotic bactericidal e ect(PABE).———————————————————————- Page 21394あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(96)はじめに現在,多くの抗菌点眼薬が外眼部感染症治療に対し使用されているが,ニューキノロン系抗菌点眼薬がそのなかで中核的な役割を担っている.ニューキノロン系抗菌点眼薬は強い抗菌力をもち,抗菌スペクトルも広く妥当な選択であると考えられる.一方,外眼部感染症の起炎菌としては,グラム陰性菌よりも,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌などのグラム陽性菌のほうが多い1,2)が,従来のニューキノロン系抗菌点眼薬はセフェム系抗菌点眼薬に比べて,グラム陽性菌に対する抗菌力が劣ることが報告されている3).そのため,細菌性角膜炎などの比較的重症の外眼部感染症には,ニューキノロン系抗菌点眼薬とセフェム系抗菌点眼薬を併用する処方が従来から広く使用されていた1).近年, tosu oxacin(TFLX), moxi oxacin(MFLX), gati- oxacin(GFLX)などの新しいタイプのニューキノロン系点眼薬が開発され臨床的に使用されているが,それらのなかでも TFLX はグラム陰性菌,嫌気性菌に対する抗菌力を保持したまま,グラム陽性菌に対する抗菌力が増強されており4),セフェム系抗菌点眼薬の併用を行わなくても単独で使用できる可能性を有している.そのことが立証されれば TFLX 単独点眼が角膜炎などの重症外眼部感染症に対する新たな治療法となり,点眼本数の減少によるコンプライアンスの向上ならびに医療費の削減が期待できる.しかし,実際の臨床例で点眼薬の優劣を検証することはかなり困難であり,倫理的な問題を伴う.そこで今回筆者らは,inツꀀ vitro の手法を用い,眼感染症患者由来の臨床分離株を用いて最小発育阻止濃度(MIC)を測定することにより,TFLX の抗菌力を他のニューキノロン系抗菌点眼薬 GFLX,MFLX,levo oxacin(LVFX),およびセフェム系抗菌点眼薬 cefmenoxim(CMX)の抗菌力と比較し,さらに TFLX 単独での抗菌力と,従来から汎用されている LVFX と CMX の併用した場合の抗菌力を臨床現場における点眼使用により近い指標である postantibiotic e ect(PAE)ならびに postantibiotic bactericidal e ect(PABE)を測定することにより比較し,検討したので報告する.I対象および方法1. 菌株の収集と保存菌株は2006年6月1日から2007年5月31日までの間に鳥取大学医学部附属病院(以下,当院)眼科を受診した前眼部・外眼部感染症患者の結膜 ・角膜・涙 など感染局所より分離された 72 菌株を対象とした.菌の分離,同定,保存は当院検査部で行い 80℃にて保存した.2. 薬剤感受性測定当院検査部にて保存されていた上記 72 菌株にて,ニューキ ノ ロ ン 系 抗 菌 薬(TFLX,LVFX,GFLX,MFLX)とCMX に対する MIC を測定した.TFLX は 富 山 化 学 工 業 株 式 会 社 に て,LVFX,GFLX,MFLX,CMX は神戸天然物化学株式会社にて合成されたものを使用した.薬剤感受性測定は CLSI M11-A6,CLSI M7-A7 およびCLSI M100-S17 に準じた微量液体希釈法で実施した.3. PAE測定1.で使用した臨床分離菌のうち Staphylococcusツꀀ aureus,Staphylococcusツꀀ epidermidis,Streptococcusツꀀ pneumoniae,Pseudomonasツꀀ aeruginosa,Haemophilusツꀀ in uenzae 各 1 菌株について TFLX 単独と LVFX+CMX 併用の PAE を測定した.測定方法は,羊血液寒天培地 M58(栄研化学)またはチョコレート寒天培地(BBL)にて S.ツꀀ aureus,S.ツꀀ epidermidis,S. pneumoniae,P. aeruginosa,H. in uenzae 各菌株を培養後,滅菌生理食塩液を用いて懸濁し,McFarlandツꀀ 0.5(約108 CFU/ml)に調製して被検菌液とした.TFLX,LVFX+CMX を 5,ツꀀ 8,ツꀀ 200×MIC 濃度となるよう滅菌生理食塩液にて調製した後,被検菌液を混和し,5MIC は 60 分,8 MICは 30 分および 200 MIC は 2 分間静置した.静置後,10 μlを採取し,測定培地 10 ml に接種し混和した後,12,000×gで 10 分間遠心分離し菌体を沈殿させ,上清を除去して測定培地 10 ml を添加し再懸濁した.測定培地は薬剤感受性測定時と同様,S.ツꀀ aureus,S.ツꀀ epidermidis および P.ツꀀ aeruginosaは Muellerツꀀ Hintonツꀀ broth,S.ツꀀ pneumoniae は 5%ウマ溶血液添加 Muellerツꀀ Hintonツꀀ broth,H.ツꀀ in uenzae は HTM ブロスを用いた.再懸濁後ただちに 50 μl を採取し,滅菌生理食塩液を用いて 10 倍希釈系列を作製し(n=2,同一の再懸濁液より希釈),50 μl ずつ羊血液寒天培地 M58 またはチョコレート寒天培地に塗抹した.再懸濁液は引き続き 35℃で静置培養し,1 時間ごとに 12 時間後まで上記同様に行った.対象として薬剤不含有の滅菌生理食塩液を用いて同様に操作を行った.35℃,16 24 時間ツꀀ 好気培養後,発育したコロニー数を計測し,2 枚の平板に発育したコロニー数を平均して1 ml 当たりの生菌数(CFU/ml)を求めた.PAE は薬物処理後の菌が 1 log10増殖するのに要した時間から,薬物無処理対照の菌が 1 log10増殖するのに要した時間を差し引いた値とした.4. PABE測定3.で使用した S. aureus,S. epidermidis,S. pneumoniae,P.ツꀀ aeruginosa,H.ツꀀ in uenzae 各 1 菌株に対する TFLX 単独と LVFX+CMX 併用,オゼックスR点眼液(0.3%),クラビットR点眼液(0.5%),ベストロンR点眼液(0.5%),クラビットR点眼液(0.5%)+ベストロンR点眼液(0.5%)併用の PABE を測定した.測定方法は,羊血液寒天培地 M58 ま———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091395(97)たはチョコレート寒天培地にて 18 時間培養後,滅菌生理食塩液にて McFarland 0.5(約 108 CFU/ml)に調製し接種菌液とした.調 製 後 の 菌 液 を 滅 菌 小 試 験 管 に 10 μl 分 注 し,TFLX,LVFX+CMX を各 200×MIC,100×MIC,10×MIC に調製したもの,あるいは各種点眼液を原液のまま 50 μl 加え軽く攪拌した.4 分間室温にて静置後,滅菌生理食塩液を 10 ml 加え(約 200 倍希釈)よく攪拌した.さらに,滅菌生理食塩液を用いて 10 倍希釈系列を作製し(n=2,同一の被験液より希釈),50μl ずつ寒天平板培地に塗抹した.塗布後培地は,35℃で 24 時間好気培養後,発育したコロニーを計測し求めた 2 枚の平板の平均コロニー数より 1 ml 当たりの生菌数(CFU/ml)を求めた.対象(薬剤無添加)と比較し殺菌率(実測値%)を求め PABE(%)とした.II結果当院で前眼部・外眼部感染症患者より分離された 72 株の菌種を図 1 に示した.ブドウ球菌が半数を占めており,なかでも MRSA が 17 株と最も多かった.またその他の細菌のなかでは Corynebacterium 属がやはり 17 株と最も多く検出された.当院で分離された 72 株に対する MIC 分布を図 2 に示した.MIC80(μg/ml)でみると LVFX>16,TFLXツꀀ 4,GFLX 8,MFLX>16,CMX>16 との結果であった.S. aureus,S. epidermidis,S. pneumoniae,P. aerugino-sa,H.ツꀀ in uenzae 各 1 菌株に対する TFLX 単独と LVFX+CMX 併用の PAE の値を図 3 に示した.S.ツꀀ aureus に対しては 5 MIC 60 分曝露,8 MIC 30 分曝露では TFLX の PAE のほうが短いが,200 MIC,2 分間曝露の PAE は,TFLX が1.82 時間,LVFX+CMX は 1.76 時間と TFLX がやや良好であった(図 3A).S.ツꀀ epidermidis に対しては 5 MICツꀀ 60 分曝露では TFLX のほうがやや短い PAE を示したが,8 MIC 30 分曝露,200 MICツꀀ 2 分曝露では,TFLX が 2 倍またはそれ以上の PAE を示した(図 3B).S.ツꀀ pneumoniae に対してはいずれの条件においても TFLX のほうが LVFX+CMXよりも短い PAE を示した(図 3C).P.ツꀀ aeruginosa に対しては TFLX がいずれの条件でも LVFX+CMX よりも著明に良好な PAE を示した(図 3D).H. in uenzae については5MIC,8MIC の LVFX+CMX の PAE が負の値を示しており,CMX,LVFX,TFLX+CMX の PAE 測定も追加して行 っ た.CMX の H.ツꀀ in uenzae に 対 す る PAE は 5 MIC, 8 MIC,ツꀀ 200 MIC すべての濃度で負の値を示しており,200 MIC において TFLX の PAE が 0.24 時間なのに対し TFLX+CMX が 0.08 時間と PAE が短縮していた.なお,LVFXと併用した場合においても LVFX の PAE が 0.69 時間なのに対し LVFX+CMX が 0.60 時間と PAE が短縮していた(図 3E).S. aureus,S. epidermidis,S. pneumoniae,P. aerugino-sa,H.ツꀀ in uenzae 各 1 菌株に対する TFLX 単独と LVFX+CMX 併用の PABE の値を図 4 に示した.S.ツꀀ aureus に対する PABE は設定した 3 つの条件すべてにおいて TFLX がLVFX+CMX よりも良好な発育阻止率を示した(図 4A).S. epidermidis に対しては PABE は TFLX,LVFX+CMX ともに不良であった.S.ツꀀ pneumoniae に対しては 10 MIC,100 MIC では両者とも不良であったが,200 MIC では TFLX が37.5%,LVFX+CMX は 16.7%と TFLX が 2 倍以上良好なPABE を呈した(図 4C).P.ツꀀ aeruginosa に対しては条件にMSSA16.7%(12株)MRSA23.6%(17株)MSSE 5.6%(4株)MRSE 2.8%(2株)Streptococcus spp.(S. pneumoniaeを除く)18.1%(13株)S. pneumoniae1.4%(1株)Corynebacterium spp.23.6%(17株)H. in uenzae 1.4%(1株)Staphylococcus haemolyticus 1.4%(1株)P. aeruginosa 1.4%(1株)Stenotrophomonas maltophilia 1.4%(1株) acillus cereus 2.8%(2株)図 1分離菌(72 株)の菌種と菌株数ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 菌薬ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ >16CMX>16図 2分離菌(72 株)の薬剤感受性分布———————————————————————- Page 41396あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(98)よ っ て ば ら つ く も の の 200 MIC で は TFLX が 65.0%,LVFX+CMX は 66.7%でありほぼ同等であった(図 4D).H.ツꀀ in uenzae に対しては 10 MIC,100 MIC では TFLX のほうが良好であり,200 MIC では TFLX が 28.6%,LVFX+CMX も 28.6%と同等の値であった(図 4E).S. aureus,S. epidermidis,S. pneumoniae,P. aerugino-sa,H. in uenzae 各 1 菌株に対するオゼックスR点眼液,クラビットR点眼液,ベストロンR点眼液,ツꀀ クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液併用の PABE を図 5 に示した.S. aureus に対する PABE はオゼックスR点眼液が 45.0%,クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液併用が 26.7%であり(図 5A),S.ツꀀ epidermidis に対してはオゼックスR点眼液が4.03.63.22.82.42.01.61.20.80.40.0PAE(hr)4.03.63.22.82.42.01.61.20.80.40.0PAE(hr)TFLX1.471.631.822.651.731.760.911.021.761.130.530.740.160.290.990.600.581.140.170.110.24-0.02-0.63-0.01-0.06-0.77-0.77-0.73-0.180.080.060.690.600.441.011.03-0.030.400.39:5MIC 60分間: 8MIC 30分間:200MIC2分間:5MIC 60分間: 8MIC 30分間:200MIC2分間〔MIC(?g/m?):TFLX 0.12,LVFX 0.25,CMX 1〕〔MIC(?g/m?):TFLX 0.06,LVFX 0.25,CMX 0.25〕LVFX+CMXA. ????????B. ?????????????TFLXLVFX+CMX2.01.81.61.41.21.00.80.60.40.20.0PAE(hr)2.01.81.61.41.21.00.80.60.40.20.0-0.2PAE(hr)TFLX:5MIC 60分間: 8MIC 30分間:200MIC2分間:5MIC 60分間: 8MIC 30分間:200MIC2分間:5MIC 60分間: 8MIC 30分間:200MIC2分間〔MIC(?g/m?):TFLX 0.12,LVFX 1,CMX 1〕〔MIC(?g/m?):TFLX 0.25,LVFX 0.5,CMX 16〕LVFX+CMX1.00.80.60.40.20.0-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0PAE(hr)TFLXLVFXCMXLVFX+CMXLVFX+CMXC. ????????????〔MIC(?g/m?):TFLX 0.008,LVFX 0.008,CMX 0.015〕E. ???????????D. ????????????TFLXLVFX+CMX図 3各臨床分離株に対するPAE———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091397(99)16.0%,クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液併用が 2.0%(図 5B)とどちらもオゼックスR点眼液が良好な PABEを示した.S.ツꀀ pneumoniae に対する PABE はオゼックスR点眼液が 60.3%,クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液併用が 64.3%であり(図 5C),P. aeruginosa に対してはオゼックスR点眼液が 97.1%,クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液併用が 91.2%(図 5D),H.ツꀀ in uenzae に対してはオゼックスR点眼液が 99.5%,クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液併用が 100%(図 5E)とそれぞれほぼ同等の値を示した.III考按ニューキノロン系抗菌点眼薬は優れた抗菌力ならびに広い抗菌スペクトルを有し,眼感染症治療の中核を担っていることは言うまでもないが,現在国内で使用されているニューキノロン系抗菌点眼薬は多種にわたり,それぞれの抗菌力を比較検討することは非常に有用であると考えられる.そこでまず,眼科由来の臨床分離株に対する各ニューキノロン系抗菌点眼薬 MIC を測定したところ TFLX は薬剤感受性分布において MFLX,GFLX 同様 LVFX に比較して良好な分布を示し た. ニ ュ ー キ ノ ロ ン 系 抗 菌 薬 は Staphylococcus 属,Streptococcus 属などのグラム陽性菌に対し効果が不十分という報告3,5)があるが,TFLX は構造式の一部をジフルオロフェニル基に変更することによりグラム陽性球菌に対する抗菌力を強めた薬剤であり,このことによりグラム陰性桿菌のみならずグラム陽性球菌に対しても強力な抗菌力を有してお1009080706050403020100.0PABE(%)TFLX14.022.041.47.516.730.60.00.04.00.08.08.00.00.037.50.00.016.714.314.328.60.00.028.638.345.065.016.758.366.7:ツꀀ 10MIC 4分間:100MIC 4分間:200MIC 2分間1009080706050403020100.0PABE(%)1009080706050403020100.0PABE(%)1009080706050403020100.0PABE(%)1009080706050403020100.0PABE(%):ツꀀ 10MIC 4分間:100MIC 4分間:200MIC 2分間:ツꀀ 10MIC 4分間:100MIC 4分間:200MIC 2分間:ツꀀ 10MIC 4分間:100MIC 4分間:200MIC 2分間〔MIC(?g/m?):TFLX 0.12,LVFX 0.25,CMX 1〕〔MIC(?g/m?):TFLX 0.06,LVFX 0.25,CMX 0.25〕LVFX+CMXA. ????????B. ?????????????TFLXLVFX+CMXTFLX〔MIC(?g/m?):TFLX 0.12,LVFX 1,CMX 1〕〔MIC(?g/m?):TFLX 0.25,LVFX 0.5,CMX 16〕LVFX+CMXTFLXLVFX+CMXC. ????????????〔MIC(?g/m?):TFLX 0.008,LVFX 0.008,CMX 0.015〕E. ???????????D. ????????????TFLXLVFX+CMX:ツꀀ 10MIC 4分間:100MIC 4分間:200MIC 2分間図 4 各臨床分離株に対するTFLXならびにLVFX+CMXのPABE———————————————————————- Page 61398あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(100)り,今回の結果でも良好な値を示している.つぎに筆者らは,PAE を測定することによりそれぞれの抗菌薬を比較検討した.PAE は薬剤消失後の静菌作用持続時間の指標であり,点眼薬が高濃度で菌に作用し結膜 内において短時間で希釈されることを考えると,眼感染症領域における点眼薬の効果判定に有用であり,これまで多くの論文にて報告されてきた6,7)が,2 剤併用下での PAE を測定した報告は筆者らが検索した限りでは認められず,新しいニューキノロン系抗菌薬である TFLX 単剤とこれまで臨床で処方されてきた LVFX+CMX 併用の PAE を比較検討することは非常に意義があると考えられた.TFLX の PAE は LVFX+CMX と比較して S.ツꀀ aureus ではほぼ同等,S.ツꀀ epidermidis では延長していたが,S.ツꀀ pneu-moniae に対しては劣っていた.P.ツꀀ aeruginosa に対しては著明に長い PAE を示していた.これらの結果により TFLX はグラム陰性桿菌のみならず,グラム陽性球菌に対してもLVFX と CMX とを併用した場合と比較しても同等以上の薬剤消失後の静菌作用を有することが証明された.S. pneumo-niae についてはツꀀ CMX の良好な殺菌力を反映して LVFX+CMX の PAE が非常に良い結果を示していると考えられ,その意味で経験的に行われているレボフロキサシンとセフメノキシムの併用がこの菌に関しては決して誤っていないことを示していると思われる.CMX の H.ツꀀ in uenzae に対するPAE は驚くべきことに負の値を示しており,TFLX,LVFXと併用した場合においても PAE を短縮した.これまでにもCMX の P.ツꀀ aeruginosa,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対する PAE が負の値を示す論文6,7)が認められ,その理由として CMX は細胞壁合成に干渉し細胞分裂を阻害することで静菌作用を有するため,菌との短時間接触では作用1009080706050403020100.01009080706050403020100.0PABE(%)1009080706050403020100.0PABE(%)45.020.031.326.7オゼックス クラビット ベストロン クラビット +ベストロン?PABE(%)A. ????????B. ?????????????C. ????????????E. ???????????D. ????????????16.014.016.02.060.361.957.964.399.5100.099.5100.097.192.226.591.2オゼックス?クラビット?ベストロン?クラビット?+ベストロン?1009080706050403020100.01009080706050403020100.0PABE(%)オゼックス?クラビット?ベストロン?クラビット?+ベストロン?PABE(%)オゼックス?クラビット?ベストロン?クラビット?+ベストロン?オゼックス?クラビット?ベストロン?クラビット?+ベストロン?図 5各臨床分離株に対する各点眼液のPABE———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091399点に結合できず低い PAE 値を呈することが推測されている.しかし,負の値となることについては何か他の作用機序が働いている可能性があり,今後の検討,実験の蓄積を要すると考えられた.また,他剤との併用においても PAE を短縮したことから多剤併用投与が場合によっては感染治癒の弊害となる可能性を有すると推測された.たとえば H. in uenzaeがよく分離される小児の結膜炎に LVFX+CMX の併用を選択するようなことはしてはならないであろう.つぎに筆者らは,近年抗菌薬の新しい指標として考案された PABE を 測 定 す る こ と に よ り 比 較, 検 討 を 行 っ た.PABE は,薬剤の短時間の殺菌力と薬剤消失後の持続効果の両方を加味した指標として用いられており,点眼薬の臨床効果に最も近い手法として砂田らによって報告されたものである6).TFLX の PABE は LVFX+CMX と比較して,今回の 5種類の菌に対して濃度を問わずほぼ同等またはそれ以上の値であり,実際に市販されているオゼックスR点眼液においてもクラビットR点眼液+ベストロンR点眼液と比較して同様の結果が得られた.特に S.ツꀀ aureus,S.ツꀀ epidermidis についてはオゼックスR点眼液単独のほうが明らかに良好な発育阻止率を示した.また今回の結果より 200 MIC,100ツꀀ MIC,10 MIC の各種薬剤と比べ,実際に使用されている抗菌点眼薬のほうが明らかに良好な PABE 値を呈した.なお,CMXの H.ツꀀ in uenzae に対する PAE は負の値であったが,ベストロンR点眼液の H.ツꀀ in uenzae に対する PABE は 99.5%,クラビットR点眼液+ベストロンR点眼液も 100%と良好であり,抗菌力を考える際に,指標によってまったく異なる結果が得られることに注意する必要があると思われた.一方,Staphylococcus 属に対してはオゼックスR点眼液,クラビットR点眼液,ベストロンR点眼液いずれも PABE 値が比較的低い傾向が認められた.これは砂田らの報告の結果と一致しており6),これまで臨床的に処方されてきたクラビットR点眼液とベストロンR点眼液の併用においても良好な値は得られておらず,ブドウ球菌感染においてはアミノグリコシド系など別系統の点眼液の使用が見直されるべきかと思われた.今回の結果より in vitro において TFLX は, PAE, PABEのどちらの指標においても LVFX+CMX と比較し同等以上の値が認められ,TFLX 単剤点眼が従来の LVFX と CMXの点眼併用に比肩する治療となりうる可能性が示された.しかし,今回は種々の方法を試みたため各種 1 菌株での測定であり,株数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌 110:961-972, 2006 2) 東堤稔:眼感染症起炎菌─最近の動向─.あたらしい眼科 17:181-190, 2000 3) 宮永嘉隆:5.眼科領域/局所療法.キノロン系薬剤の使い方(嶋田甚五郎ツꀀ 編著),p140-155,医薬ジャーナル社,1989 4) 神山朋子,杉浦陽子,久田晴美ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の薬効評価(1)─細菌学的評価─.あたらしい眼科 23(別巻):3-11, 2006 5) 内田幸夫:Lome oxacin(NY-198)点眼液の細菌性外眼部感染症に対する臨床効果の研究─多施設二重盲検法による臨床第三相試験─.眼紀 42:59-70, 1991 6) 砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibiotic e ect の比較.日眼会誌 110:973-983, 2006 7) 浅利誠志,豊川真弘,大橋裕一ほか:抗生物質点眼液の多剤耐性ブドウ球菌に対する postantibiotic e ect(PAE).眼科 33:1223-1229, 1991(101)***

私の工夫とテクニック 家庭用ハイビジョンカメラによる手術ビデオ撮影

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(85)ツꀀ 13830910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに2008 年 4 月 21 日の共同通信社配信による各新聞紙上で「手術態勢が十分整っているとされる全国の 621 病院のうち,手術中に患部(術野)を録画しているのは『顕微鏡・内視鏡』で 285 病院(46%),『それ以外の(通常の)手術』では 132病院(21%)にとどまることが,厚生労働省研究班のアンケートで分かった.」と報道された.録画された映像は医事紛争時に有力な証拠となるにもかかわらず,録画している施設が少ない背景には,従来の撮影システムが高価で採算性が低いという事情があるものと思われる.消化管内視鏡の分野ではハイビジョン電子内視鏡による画像診断はもはや一般化しており,従来画質では検出できなかったかもしれない微小な病変の発見に大きく寄与している1,2).ハイビジョンとは社団法人電子情報技術産業協会(Japanツꀀ Electronicsツꀀ andツꀀ Infor-mationツꀀ Technologyツꀀ Industriesツꀀ Association)による定義では,垂直画素数 650 以上で表示できる画質とされている.従来の標準画質である,640×480 の解像度に比べ情報量が多いために他の医療機器でも今後普及するものと思われる.しかし内視鏡で得たハイビジョン映像をその画質で動画として録画するには,対応する入力端子をもつ録画装置が必要で,これらはきわめて高価である.消化管内視鏡の分野では,静止画をプリントアウトし,動画が必要であればアナログ標準画質に落として録画しているのが現状である.パソコンにデジタルキャプチャーボードを取り付けハイビジョン画質のままハードディスクに録画する方法もあるが一般的とはいえない.その一方で,家庭用のフルハイビジョンデジタルビデオカメラはどんどん小型軽量化され,安価で販売されるようになった.フルハイビジョンとはハイビジョンのうち 1,920×1,080 の解像度のものをそうよぶことが家電業界で一般化しているが,正式に統一された呼称ではない.映像はフラッシュメモリーカードやハードディスクなどにデジタルファイルとして保存される.パソコンで編集しやすいうえ,保存にも場所をとらない.眼科手術の場合,手術用顕微鏡にこれら家庭用フルハイビジョンビデオカメラを取り付けられれば,高画質録画システムが安価に構築できる.録画の必要性を感じながらもコスト的に導入に踏み切れなかった施設でも検討する価値があると思われる.今回眼科手術顕微鏡に家庭用ビデオカメラを取り付けるアダプタのうち,3 製品について試用することができたのでその使用経験を報告する.I方法1. 手術顕微鏡取り付けた手術顕微鏡は Carlツꀀ Zeissツꀀ Opmiツꀀ Visuツꀀ 200 である.ビームスプリッタで術者側とカメラ側の光量を 8:2 に分光した.2. 使用したカメラアダプタとビデオカメラビデオカメラはアダプタメーカー推奨のものを使用した.組み合わせは,使用した順に下記の通りである.(1)美舘(みかん)イメージング顕微鏡用ハイビジョンカメラアダプター MA-HDS(定価 10.5 万円)+SONY デジタル HD ビデオカメラレコーダー HDR-SR11.(2)ルキナポータブルハイビジョンカメラアダプター SD-HAD-CZ(定価 34 万円)+Panasonic デジタルハイビ*Tetsuji Takeshita:上天草市立上天草総合病院眼科〔別刷請求先〕竹下哲二:〒866-0293 上天草市龍ヶ岳町高戸 1419-19上天草市立上天草総合病院眼科あたらしい眼科 26(10):1383 1385,2009わたしの工夫とテクニックツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 家庭用ハイビジョンカメラによる手術ビデオ撮影Intraoperative Video Recording with High-Vision Camera Adaptor竹下哲二*家庭用ハイビジョンビデオカメラを眼科手術顕微鏡に取り付けるカメラアダプタ 3 製品を試用した.いずれのアダプタでもハイビジョン画質で手術映像の録画が可能であった.従来の標準画質による撮影システムより安価に高画質録画システムを構築でき,映像の保存にも場所をとらないため導入を検討する価値があると思われた.キーワード:ハイビジョン,録画,ビデオカメラ,手術顕微鏡.要約———————————————————————- Page 21384あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(86)ジョンビデオカメラ HDC-SD3.(3)SCEIMEN DESIGN Home video camera adaptor SD-010(定価 30 万円)+Panasonic デジタルハイビジョンビデオカメラ HDC-SD100.MA-HDS は C マウントに取り付ける方式のためビームスプリッタとの間に C マウントアダプタを介して装着した.他の 2 機種はビームスプリッタに直接装着した.SD-010 とHDC-SD100 を取り付けた様子を図 1 に示す.3. 映像のモニタカメラ本体の液晶モニタは小さくて手術室内のスタッフ全員で映像を共有することができない.HDMI(High-De nition Multimediaツꀀ Interface)入 力 端 子 を 備 え た 解 像 度 1,920×1,080(WUXGA)のパソコン用 24 インチ液晶モニタと各カメラを HDMI ケーブルで接続し,ハイビジョン画質のまま表示した.4. 画像の調整いずれの組み合わせでもカメラのズームは最大(望遠側)にしないと十分な大きさの画像が得られなかった.ホワイトバランスと焦点合わせは手動とし,外部液晶モニタを見ながら手術開始前に調整する.ホワイトバランスがオートのままだと顕微鏡の照明の影響で黄色味を帯びた映像となった.オートフォーカスにしていると常に角膜頂点に合焦する.ズームと焦点位置は電源停止のたびに初期設定値に戻るため毎回調節が必要だった.5. 録画方式3 機種ともメモリースティックRもしくは SD カードにAVCHD(Advancedツꀀ Videoツꀀ Codecツꀀ Highツꀀ De nition)形式で録画する仕様だった.AVCHD は,正式に批准制定された方式ではないが,採用するメーカーが徐々に増えており当面主流となりそうな記録方式である.保存画質はカメラの初期設定値の画質とした.II結果アナログ CCD カメラによる標準画質(640×480)で録画(MPEG2 形式)した画像と各家庭用ハイビジョンカメラで撮影・保存した画像を図 2 に示す.いずれも動画から 1 フレームずつを取り出した.ハイビジョンで撮影したものは 16:9の横に長い画像となる.拡大してみるとわかるが,アナログ標準画質では階調が飛びがちでジャギー(ギザギザ)やノイズが目立つのに対し,ハイビジョンで録画したものはそれらが少ない.今回は使用したカメラがすべて違ううえ,細かな調整をする時間的余裕がなかったため,カメラアダプタによる画質の違いは比較できない.ただ MA-HDS と HDR-SR11 の組み合わせでは画像が幾分ぼやけて写った.いずれのアダプタでもビームスプ図 1 Carl Zeiss Opmi Visu 200顕微鏡にSD 010とHDCツꀀ SD100を取り付けたところ 助手用鏡筒とも干渉しない.図 2各組み合わせによる実際の映像A:従来のアナログ CCD カメラによる標準画質(640×480)の画像.他の 3 組と比較してジャギーやノイズが目立ち,階調も跳びがちである.B:MA-HDS と HDR-SR11.C:SD-HAD-CZ と HDC-SD3.D:SD-010 と HDC-SD100.ABCD———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091385(87)リッタからの出力が円形であることと,顕微鏡内にある光軸の角度を変えるプリズムの影響で四隅に陰が出る.SD-HAD-CZ ではこれが一番広く出たが中心部分の画質には影響がなかった.アダプタ 3 製品の特性と使用経験をまとめたものを表 1 に示す.III考按眼科手術の多くは顕微鏡下で行われるため,顕微鏡にカメラを取り付けることで腹部や胸部の手術に比べて比較的容易に手術映像が録画できる.録画・保存することは手術手技の向上や事故発生後の原因検証のために重要であるが,既存の録画システムは高価だった.驚異的な開発速度で小型・軽量・低価格化が進む家庭向けハイビジョンビデオカメラを眼科手術顕微鏡に取り付けられるカメラアダプタが販売されはじめたのは必然ともいえる.いずれの製品もビデオカメラにフィルタを取り付けるためのネジの部分に取り付ける方式だった.家庭用ハイビジョンビデオカメラの多くはフィルタ径が 37 mm で,今回使用したアダプタもすべてフィルタ径37 mm に対応したものだった.しかし本稿執筆時点でカメラのモデルチェンジに伴い,フィルタ径を変更したメーカーもあるため,購入時には確認が必要である.モデルチェンジのサイクルは非常に速く,どの機種が最適であるかはその時々で変わる.白い強膜と暗い眼内では照度が大きく異なるため,露出測光領域を選べたり露出を切り替えられる機種が好適かもしれない.今回はカメラアダプタメーカーよりビデオカメラも一緒にお借りした.借用期間はいずれも 1 日のみで,映像を見た後で設定などを変更することはできなかったが,3 組の製品はいずれもアナログ標準画質に比較して高画質だった.MA- HDS と HDR-SR11 の組み合わせでは映像がややぼやけて写ったが,販売元に確認したところ通常はもっときれいに写るはずであるという回答だったため,調整上の問題だった可能性がある.MA-HDS は別途 C マウントアダプタが必要となるが,既存システムに C マウントアダプタがついている施設では MA-HDS が最も安価に手に入るハイビジョンカメラアダプタとなる.録画した映像を保存するにはいくつかの方法がある.SDカードに記録するカメラの場合は価格の下がった SD カードを手術の都度買い足していくという方法もある.コスト的には,パソコンを介して外部ハードディスク(HDD)にファイルを移して SD カードは再利用したほうが安くつく.内蔵HDD に記録するカメラの場合はパソコンを介して外部HDD に保存するのが簡便である.いずれの方式でも DVDや Blue-ray のディスクにハイビジョン画質のまま保存することも可能ではあるが,作業時間とコストの面でメリットは薄い.外部 HDD に保存する場合は故障に備えてバックアップを取っておくべきである.外部 HDD に保存した映像を再生するには対応するソフトウェアが必要となる.カメラに付属しているソフトウェアのほか,無料で配布されているフリーウェアソフトを使う方法もある.「K-Liteツꀀ Codecツꀀ Pack」というフリーウェアソフトを使うと Windows に標準で備わっている「Windows Media Player」で AVCHD 形式の動画が再生できるようになる.また「GOMツꀀ Player」というソフトはインストール操作をしなくても単独で AVCHD ファイルを再生可能である.プレゼンテーションなどのために編集作業を行う場合,カメラに付属するソフトウェアでは機能が足りないことが多い.その場合は別途市販編集ソフトウェアを購入する必要がある.今回 3 種類のカメラアダプタを使用し,いずれのアダプタでも家庭用ハイビジョンビデオカメラで眼科顕微鏡手術の撮影・録画が可能だった.民生品のカメラを使用するため調整や工夫は必要であるが,低予算でハイビジョン画質の録画ができ,導入を検討する価値があると思われた.謝辞:機器の借受に関し,ご尽力いただいた木村医療器株式会社の坂井宏通氏に深謝いたします.文献 1) 川口淳,永尾重昭,佐藤知己ほか:新しい内視鏡観察法の分類画像強調観察を中心に画像強調観察デジタル法(Digitalツꀀ Method)適応型強調処理,IHb.臨床消化器内科 24:19-25, 2008 2) 高橋寛:プライマリ・ケア医のための上部・下部消化器内視鏡術最近の電子内視鏡の種類と簡単なスペック.治療 88:43-48, 2006表 13種のカメラアダプタの特性と使用経験アダプタ特性使用経験MA-HDS単体では最も安価だが別途 C マウントアダプタが必要画像がやや不鮮明になったが原因不明SD-HAD-CZ側視鏡と同じ側には取り付け不可四隅の黒い陰が一番広かったSD-010最もコンパクトで価格は中間側視鏡との干渉もなく,一番目立たない

眼科医にすすめる100冊の本-10月の推薦図書-

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.10,200913770910-1810/09/\100/頁/JCOPY本を読む魅力の一つとして,常日頃考えていることが自分に代わって上手く言語化されていて感動するということがあります.この本に出会ったときも,似たような感覚を覚えました.アメリカの3人の経営コンサルタントによって書かれた本書の原書に出会ったのは,昨年(2008年),アメリカで開催された組織の人材開発に関する世界最大のカンファレンスASTD(AmericanSocietyforTraining&Development,米国人材開発機構)に参加したときでした.私の会社では,人材開発やリーダーシップ開発などについての海外の最新動向・最新情報を得るために,年に数回このようなカンファレンスに参加し情報収集をしています.その国際大会で,本書の著者による分科会に出たことがきっかけでした.「自分は悪くない」─自分を被害者だと思い込み,被害者ぶった態度に出る人がビジネスの世界には数多く存在する.個人の成果,組織の成果を飛躍的に向上させるには,<被害者意識の悪循環>を克服し,ここで述べる<アカウンタビリティのステップ>をのぼらねばならない.(本文より)本書の原書である『TheOzPrinciple』はアメリカで50万部を超えるベストセラーとなっています.アメリカで最もポピュラーな童話の一つ『オズの魔法使い』の登場人物たちが「被害者意識から脱し,自分の願いをかなえる能力は自分にあると気づく」過程を引用しながら,個人と組織がアカウンタビリティを高めていく方法を紹介しているところに本書の特徴があります.現在,日本においては,「アカウンタビリティ(accountability)」という言葉は会計用語と受け取られることが多く,その場合「会計責任」「説明責任」などと訳されます.英語としてはもう少し意味の範囲が広く,単に「責任」「義務」と訳せることもあるようですが,アメリカでもビジネスの場では,日本同様に会計用語として使われるのが普通でした.ところが本書の出版後は,本書の中に述べられているような「主体的に仕事や事業の責任を引き受けていく」ことという意味で使われることが多くなっているようです.本書の影響の大きさがよくわかります.そして初版発行から10年後の2004年,ビジネスの世界の現状にアップデートし,さらに本書によるアカウンタビリティをもったことで成功した企業や個人の事例も豊富に盛り込んだ形で改訂版が出版され,再び好評を博しました.本書はその改訂版を訳したものです.すべての経営者と管理職にとって,「主体的に動く」社員をどうしたら育てられるのかは切実な問題でしょう.私は25歳のときに起業して以来30年以上にわたって人のアカウンタビリティを高めるコミュニケーションの研究と実践に携わってきました.現在は,企業にコーチングを導入して次世代リーダーを育成する会社であるコーチ・トゥエンティワンおよびコーチ・エイの経営にあたるとともに,自分自身でも経営者に対し,エグゼクティブ・コーチングを行っています.コーチングとはまさに個人と組織のアカウンタビリティをはぐくむことが主要な目的の一つですから,本書を読んで,これまで自分が考え実践してきたことが非常にわかりやすくまとめられていると感じ,すぐに翻訳出版することを決めました.組織に有効な何かを求めて,相次いで現れる幻想に振(79)■10月の推薦図書■主体的に動くアカウンタビリティ・マネジメントロジャー・コナーズ,トム・スミス,クレイグ・ヒックマン著/伊藤守監訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン)シリーズ─90◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン———————————————————————-Page21378あたらしい眼科Vol.26,No.10,2009り回されていたのでは,真実は見えない.最新の経営ソリューションという幻想から,それに潜む罠,トリック,テクニック,手法,哲学といったものをすべてそぎ落とすと,ひとつの動かしがたい事実がはっきりと現れる.「求める結果を得られるかどうかは,その結果に対してどれだけの責任を背負うかにかかっている」のだと.(本文より)これまでリーダーとは与えられた権限とイコールだと考えられてきました.課長になったから,部長になったから,すわなち「リーダー」であり,就任したその日からリーダーシップを発揮するものと思われてきました.しかし,課長,部長になったからといって,突然リーダーシップを発揮できるわけではありません.権限がものを言う時代に,人はその権限に従おうとしました.しかし,権限に従うことと,真のリーダーシップに従うことの違いを理解するようになれば,もはや,簡単に権限にだけ従うことはなくなります.リーダーシップと権限の関係はもちろんゼロではありません.しかし,権限だけがものごとを推進する動力源ではありません.では,これからのリーダーには何が求められているのか?それはどのように身につけるのか?鍵となる言葉が「アカウンタビリティ」です.リーダーとはアカウンタビリティの頂点を目指す人のことです.同時にメンバーのアカウンタビリティを開発することが求められます.私がこれまで出会ってきたリーダーに共通していることがあります.それは,みな「ビジョン」「影響力」そして「勘」を備えている,ということです.リーダーには,「直感」=「勘」が求められます.何かを決断するとき,そしてその決断のタイミングについても,「勘」を働かせて,より望ましい結果へと導く必要があるからです.ですから,リーダーがリーダーシップを発揮するためには,「勘」を鍛えなければなりません.それでは,リーダーとしての「勘」はどのようにして育つのでしょうか.「勘」は経験を通してしか生まれません.さらに,「勘」がいい人,「勘」が働いている人は,見ているもの,すなわち視点が違います.そして,その視点は縦横無尽にシフトします.たとえば,優れた棋士は,最後の一手を打つときに,「勘」が働きます.この「勘」は,よりたくさんの定跡を覚えることで生まれるのではなく,それまでの棋士としての思考と経験が,柔軟な視点と「勘」を与えているのです.これは,経営者やリーダーにも同じことが言えます.日ごろから,リーダーとしての視点をもって世界を見る,考える,経験することでしか,リーダーとしての「勘」は育ちません.誰かから与えられ,聞き伝えられたことを「victim(被害者)」の立場で受け入れるのではなく,「accountable(アカウンタブル)」な立場から,自分の眼で見る,実際に経験する,そして考えることでリーダーの「勘」は育つのです.本書には,「被害者意識」が個人の生産性を落とし,企業を弱体化させている現実の分析から,アカウンタビリティを育成し,組織に浸透させ,それによって問題を解決し成果を出していく方法までが詳しく書かれています.(80)☆☆☆