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未熟児網膜症発症の背景

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSI新生児死亡率の最近の推移全国主要施設を対象にハイリスク新生児医療に関する調査が5年ごとに実施されており,集計報告では周産期医療評価の重要指標として超低出生体重児の死亡率が示されている1,3).それによると調査時点ごとにすべての出生体重群において死亡率は低下している.たとえば,未熟児網膜症の発症リスクが高い在胎週数でみると,22~25週区分での新生児死亡率は2000年で39.6%,2005年で29.5%である.また,出生体重500g未満の新生児死亡率は2000年で68.7%,2005年で47.7%とともに顕著な改善を認めている1).このようにNICU(neonatalintensivecareunit)病床の拡充に象徴されるハイリスク新生児医療は全般に向上する傾向であるが,同時に施設により医療内容のレベルに差があることも指摘されている3).II未熟児網膜症の発症因子1.動脈血酸素濃度の影響未熟児網膜症は在胎週数と出生体重に規定される未熟性,とりわけ網膜血管の未熟性を基盤に多因子が作用する反応である.なかでも動脈血酸素動態の影響が大きいと考えられる.ただし,これは未熟児網膜症が一疾患として確認された1940年代の高濃度酸素投与に対する再考の時代は遠く過ぎ,新生児管理の向上した近年においては網膜血管の成長に関与する血管内皮増殖因子(vas-はじめに近年,周産期医療の発達,ハイリスク新生児管理の向上により1,000g未満の超低出生体重児の出生率および生存率の上昇が顕著である1).より未熟性の高い児が未熟児網膜症の発症母集団に含まれる結果,未熟児網膜症の重症化が懸念されるところである.実際,修正在胎32,3週以前,網膜血管の発達初段階で急性発症する劇症型の未熟児網膜症(aggressiveposteriorretinopathyofprematurity:AP-ROP)2)が注目されている.この未熟児網膜症の診療環境の変化に対して,新生児科および眼科それぞれにおいて以前の管理方法,治療基準の見直しがなされている.前者で注目すべきは低出生体重児を対象に従来の基準より血中酸素濃度を低めに維持する管理方法physiologicreducedoxygenprotocol(PROP)である.また,眼科管理面では早期の治療判断を推奨する米国のEarlyTreatmentforRetinopathyofPrema-turity(ETROP)の影響が大きい.本稿では未熟児網膜症の発症因子について概説したうえで,重要因子である動脈血酸素動態に関与するPROPの主旨を解説,その成果を紹介する.早期治療については未熟児網膜症の予後不良例の減少に有効であることは明らかであるが,同時に自然治癒の可能性がある例に対しても治療を許容する側面があることを認識する必要がある.(3)435oora6540081111特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):435~440,2009未熟児網膜症発症の背景ContextsofRetinopathyofPrematurityDevelopment野村耕治*———————————————————————-Page2436あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(4)にて在胎23週5日,出生体重590gで出生.直後より高換気条件を要し合成肺サーファクタントを投与,生後9日目に気胸と右肺門部小胞を発症した.このため,通常より遅い28週からPROPによる酸素管理が可能となった.32週4日,後極部網膜血管の全象限で迂曲,怒張を確認,AP-ROPと診断のうえ,翌日,レーザー光凝固術を施行,治療反応は良好であった.外科手術や侵襲の高い検査なども全身麻酔に伴う動脈血酸素濃度の変動をきたす点においては未熟児網膜症の発症因子になる可能性がある.当院における新生児の麻酔管理を例にあげると,セボフルラン麻酔を使用することが多く,吸入気酸素濃度(FIO2)を21~30%程度に,あるいは,SpO2:90~95%を基準に酸素および空気を混合し,2~3%のセボフルランで麻酔を維持している.酸素濃度を低値に保つべく留意して管理をしているが,挿管の前後や覚醒時にはFIO2:50~100%の高濃度酸素管理が必要となる場合もある9).動脈血酸素濃度の変動ということでは眼底検査もその誘因になる.未熟児鈎で眼筋を牽引する際に呼吸抑制が起こるが,酸素管理中の児の場合,SpO2の低下に対してFIO2の調整が必要になる.眼底検査中はSpO2にも注意し,的確かつ迅速に眼底の観察を行うことが大切である.III新生児の酸素管理方法が未熟児網膜症に与える影響既述のごとく未熟児網膜症の発症因子として動脈血酸素動態の影響が大きいと考えられるが,このことは臨床面でも確認されつつある.1.低出生体重児の酸素管理に関する新しい考え方2003年にChowらは酸素管理と未熟児網膜症発症との関連について以下の報告をしている.彼らは超低出生体重児に対して出生直後から2週間ないし8週間,FIO2の増減の微調整をはじめ,緻密な酸素管理を徹底するとともにSpO2の基準値を90~98%から85~93%に下げた結果,未熟児網膜症進行例は12.5%から2.5%に,また,未熟児網膜症治療率は4.5%から0%に減少したとしている10).この研究成果をもとに同グループのcularendothelialgrowthfactor:VEGF)との関連で論じられる問題である.未熟児網膜症の発症機序として以下のことが想定される.生後早期の未熟児は子宮内の胎児と異なり,比較的高酸素の状態におかれる.このため成長段階に見合って本来,必要であるVEGFの産生が抑制される.その結果,未熟な網膜において血管の伸長抑制と高酸素による閉塞が起こり,さらに人為的,受動的な酸素濃度の動揺がVEGFの変調をきたすことで未熟児網膜症が発症する4,5).その後,網膜周辺部の虚血がVEGFの過剰な産生を介して有血管野と無血管野の境界において異常新生血管の発芽と線維組織増殖を促す.新生児は通常,パルスオキシメーターにより動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定,監視が行われる.上記,発症機序に関連した臨床応用として米国では未熟児のSpO2を以前より低い基準値で酸素管理することが推奨されている(後述).2.全身疾患や手術の影響未熟児に好発する全身疾患のうち,未熟児網膜症の発生に関係するものとしては呼吸窮迫症候群と新生児慢性肺疾患がある.呼吸窮迫症候群は肺胞表面に分泌され肺胞の維持に働く肺サーファクタントの欠乏,低活性が原因となり,肺胞の虚脱や肺内シャントにより肺胞低換気,低酸素血症をきたす.処置として人工サーファクタント補充療法が行われるが,その前後,人工呼吸器による呼吸管理が必要となる6).最近の報告によると,呼吸窮迫症候群の発症率は未熟児網膜症の発症母集団である在胎28週未満の児の50%に達する7).新生児慢性肺疾患は肺の未熟性を背景に人工呼吸管理による肺の損傷をはじめ,感染や動脈管開存症など種々の要因により炎症が遷延する病態である.即効性のある治療はなく,比較的長期間の人工呼吸管理が必要となる8).両疾患ともに,超低出生体重児の出生率,生存率の上昇により,今後も増加傾向にあると予想される.肺の機能不全に加え人工呼吸管理による動脈血酸素濃度の変動が避けられず,未熟児網膜症の発症因子として注意が必要である.【自験例】患児は胎胞形成のため緊急母胎搬送,帝王切開———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009437(5)ったとする代表的な報告の成績を示す10,11,13,14).わが国でもすでに同様の酸素管理方法を採用している施設があり,今後,増加するものと思われる.2.兵庫県立こども病院における未熟児網膜症の状況図1に当院における1997年以降の未熟児網膜症の発症および治療状況の推移を示す.2001年頃より発症率,治療率はともに減少傾向にある.また,一定数の発症があった瘢痕期分類3度以上の重症瘢痕形成例についても2005年後期以降は認めていない.新生児管理の向上が未熟児網膜症の発症および進行の抑制にも寄与することはすでに指摘されるところである15,16)が,当院の場合,従来の傾向であるI型の改善のみならずII型をはじめ重症未熟児網膜症の発症も減少している点で過去の報告と大きく異なる17).未熟児網膜症の診療状況の改善がはじまった2001年,当院では人工呼吸器離脱後の無呼吸発作や新生児慢性肺疾患などの呼吸管理にnasalCPAP(nasalcontinuouspositiveairwaypressure;鼻腔式持続陽圧呼吸法)を導入している.同装置は鼻腔経由で送られる陽圧の空気が舌根の周囲の軟部組織を拡張することで吸気時の気道狭Wrightらは新しい酸素管理の方法をphysiologicreducedoxygenprotocol(PROP)として推奨するとともに,人種構成の異なる地域でも未熟児網膜症の改善があったと報告している11).PROPは子宮内の胎児が動脈血酸素分圧(PaO2):22~25mmHg程度の「生理的低酸素状態」にあることに注目し,この制御された低酸素状態がVEGFの産生を介して全身の血管の発達を促すとの考えに基づいている.つまり,早期に出生する低出生体重児を対象に生後早期の一定期間,酸素濃度を低めに維持することでVEGFの産生が確保され,その結果,網膜血管の伸長抑制ではじまる未熟児網膜症の発症が予防できるとの主張である.また,SpO2の管理基準値を下げることはFIO2などの調整頻度が減少することを意味し,結果的に児の酸素飽和度の変動が小さくなる.これもVEGFの安定という形で未熟児網膜症の発症抑止に有効と考えられる.なお,網膜血管の発達は酸素に依存しない成長ホルモンの一種,insulin-likegrowthfactorI(IGF-I)の制御も受けるとされる12)が,PROPがIGF-Iに及ぼす影響は未検討のようである.表1にPROPに準ずる酸素管理により未熟児網膜症の発症,治療状況に改善があ表1PROPにより未熟児網膜症の改善があったとする報告報告者(報告年)検討対象未熟児SpO2の管理基準値光凝固の治療率Tinら(2001)13)<27週高値群88~98%低値群70~90%27%6%Chowら(2003)10)500~1,500g高値群90~98%低値群85~93%4.5%1.3%~0%Andersonら(2004)14)<1,500g高値群>92%低値群<92%3.3%1.3%VanderVeenら(2005)<1,250g高値群87~97%低値群85~93%限界および限界前ROPが60%の減少Wrightら*(2006)11)施設CSMC高値群>90%低値群83~93%3/92(3.3%)0/88(0%)GSH高値群89~94%低値群83~93%8/54(14.8%)2/41(4.9%)NUH高値群90~95%低値群83~93%3/45(6.7%)0/30(0%)兵庫県立こども病院(2007)<1,000g高値群>90%低値群>85%33.5%11.1%*NUH(NationalUniversityHospital)はシンガポールの施設で,CSMC,GSHは在ロサンゼルスの施設.———————————————————————-Page4438あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(6)RetinopathyofPrematurityCooperativeGroupにより26施設,出生体重1,250g以下の828例を対象に未熟児網膜症の早期治療に関する前向き研究が行われた.CRYO-ROP(CryotherapyforRetinopathyofPrema-turity)Study以来の治療時期であるthresholdROPより早期のprethresholdROP(表2a)を定義し,この病態に至った場合,危険因子分析(RM-ROP218))で網膜離の危険性が高いとされるhighriskgroupについて無作為抽出のうえ,48時間以内に治療を行った.その結果,9カ月時点における重症瘢痕形成例の割合がthresholdROP治療群における15.6%からprethresholdROP治療群では9.1%と有意に減少し,また,視力もTAC(TellerAcuityCard)にて1.85cycles/degree,すなわち小数視力0.05/50cm相当以下の不良例の割合が19.5%から14.5%と減少した.この結果をもとに,同研究グループはEarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurity(ETROP)として未熟児網膜症の新しい治療基準が提示された.すなわち,type1ROPの3病態およびtype2ROPの2病態を定義するとともにtype1ROPは即時治療が望ましく,type2ROPは経過観察を継続しtype1ROPに至った時点で治療を行う19)(表2b).さらに,prethresholdROPの4病態自体が治療時期として推奨されている20).窄を回避する利点がある.NasalCPAPの使用は肺虚脱を予防し,無呼吸発作によるSpO2の変動を抑制する効果がある.さらに2003年より生後2週以降の児について,SpO2を従来の90%から85%での管理に移行した.このPROPを参考にした基準値の変更により,呼吸動態が不安定な児における一過性のSpO2低下に際して過剰な酸素投与の適応が減少した.これら酸素管理方法の変更と運用の向上が児の動脈血酸素濃度の安定,ひいては未熟児網膜症診療の成績改善に寄与しているものと考える.なお,SpO2の基準値を下げることにより未熟児動脈管開存症,脳質周囲白質軟化症などの増加を危惧する意見もあるが,当院において,また,Chowらの報告でもこれら合併症の発症頻度に変化はない.IV治療時期について1.早期治療に関する米国での多施設共同研究米国で2000~2002年にかけEarlyTreatmentfor(年)()1997199819992000200120022003200420052006200720081009080706050403020100naselCPAPの使用開PROPに移行:発症率:治療率:重症瘢痕形成率図1兵庫県立こども病院における未熟児網膜症の発症と治療状況:年次推移対象の臨床特徴はつぎのとおり.超低出生体重児,前期(1997~2001年)218例,後期(2002~2006年)225例において,出生体重,在胎週数および生存率は前期,後期で有意差なし.ただし,ROPのハイリスクグループである在胎22~24週(前期53例,後期54例)の生存率は56.4%から73.6%に,出生体重700g未満の生存率は63%から76%と後期で有意に改善し対象の未熟性は高まる傾向.(厚生省新分類の活動期分類2期以上を発症,瘢痕期分類3度以上を重症瘢痕形成とした.治療の判断はI型では3期中期以上で増殖性変化の進行が認められる場合に,II型は診断次第,原則,全身麻酔下にて網膜光凝固術を施行している.)表2aETROPが規定するprethresholdROP①ZoneI,anyROP②ZoneII,stage2ROPwithplusdisease③ZoneII,anyamountofstage3ROPandnoplusdisease④ZoneII,stage3ROP(<5contiguousor8cumulativehours)withplusdiseasePlusdisease:2象限以上に及ぶ後極部網膜血管の迂曲,怒張.表2bETROPの治療基準Type1ROP①ZoneI,anystageROPwithplusdisease②ZoneI,stage3ROPwithorwithoutplusdisease③ZoneII,stage2or3ROPwithplusdiseaseType2ROP①ZoneI,stage1or2ROPwithoutplusdisease②ZoneII,stage3ROPwithoutplusdiseaseType1ROPが治療の適応でType2ROPは経過観察のうえType1ROPに至った時点で治療を行う.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009439(7)児網膜症に対する診療経験値も例外ではない.筆者は過去20年間の未熟児網膜症の経過,特に近年の改善を通じて,改めて未熟児網膜症の発症および進行に対し新生児科が主体となる全身管理の影響が大きいと感じている.眼科医としては網膜症の病態診断,治療に責任をもつことはもちろんであるが,同時に児の合併症や酸素動態など全身の因子にも注意を向ける必要がある.この姿勢は今後,治療対象に占める劇症型未熟児網膜症の相対的な増加が予想されるなか,ますます重要と考える.文献1)板橋家頭夫:超低出生体重児の死亡率の推移.周産期医学38:141-143,20082)InternationalCommitteefortheClassicationofRetinopa-thyofPrematurity:TheInternationalClassicationofRetinopathyofPrematurityrevised.ArchOphthalmol123:991-999,20053)堀内勁,猪谷泰史,大野勉ほか:わが国の主要医療施設におけるハイリスク新生児医療の現状(2001年1月)と新生児死亡率(2000年1~12月),日本小児科学会新生児委員会新生児医療調査小委員会,日児誌106:603-613,20024)PierceEA,FoleyED,SmithLE:Regulationofvascularendothelialgrowthfactorbyoxygeninamodelofretin-opathyofprematurity.ArchOphthalmol114:1219-1228,19965)PennJS,HenryMM,WallPTetal:TherangeofPaO2variationdeterminestheseverityofoxygen-inducedretinopathyinnewbornrats.InvestOphthalmolVisSci36:2063-2070,19956)境武男:呼吸窮迫症候群.新生児疾患35:96-99,20037)千田勝一:呼吸窮迫症候群.周産期医学36:478-479,20068)河野寿夫:慢性肺疾患.新生児疾患35:106-110,20039)DonlonJV,DoyleDJ,FeldmanMA:眼科,耳鼻咽喉科手術の麻酔.ミラー麻酔科学MillerRD編武田純三監修,p1957-1978,メディカルサイエンスインターナショナル,2007ETROPのtype1ROPおよびprethresholdROPをわが国の治療基準と比較すると,zoneIROPは厚生省新分類のII型と重なるが,zoneIIROPにはI型3期の初期から中期の病期が含まれる.つまり,I型ROPについては3期中期で進行性のあるものとするわが国の治療基準より早い病期での治療判断と言える.2.早期治療の問題点早期治療で対応した場合,自然治癒の可能性がある例についても治療を行うことになる.これはETROPの研究でも確認されている.同研究においてhighriskgroupでprethresholdROPに至りながら経過観察した372例中,thresholdROPにさえ至らず,結果的に治療不要で予後も良好であった例が136例(36.6%)あった(表2c).対策として,早期治療を保留して良い群として,比較的,重症化の危険性が低いplusdiseaseのないzoneIのstage1とstage2ROP,および,zoneIIのstage3ROPをあげ,これらは従来のthresholdでの治療であっても予後不良となる割合は5%以下であるとしている19).ETROPにおける早期治療群の重症瘢痕率は9.1%であるが,わが国における未熟性の高い児を管理する施設の治療成績をみると同割合は5%以下である17,21~23).コントロールされた多施設研究と施設単位の成績を同列に扱うことはできないが,少なくともETROPの成績は治療時期の早期化のみで未熟児網膜症が克服できないことを示しているといえる.おわりに現在,医療環境,レベルの地域間および施設間格差が深刻な問題となっているが,周産期医療や眼科医の未熟表2cETROPの研究で早期治療を行わなかった例の予後Low-riskprethreshold(n=292)Conventionallymanagedhigh-riskprethreshold(n=372)6カ月での評価Thresholdに至らなかった例Thresholdに至った例Thresholdに至らなかった例Thresholdに至った例予後良好24544136205重症瘢痕を形成12427(文献23より)———————————————————————-Page6440あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(8)studies.BrJOphthalmol86:1122-1126,200217)野村耕治:最近の網膜症の発症および治療状況.臨眼63:130-136,200918)HardyRJ,PalmerEA,DobsonVetal:Riskanalysisofprethresholdretinopathyofprematurity.ArchOphthalmol121:1697-1701,200319)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Revisedindicationforthetreatmentofretin-opathyofprematurity:ResultoftheEarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityRandomizedTrial.ArchOph-thalmol121:1684-1696,200320)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Theincidenceandcourseofretinopathyofprematurity:FindingsfromtheEarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityStudy.Pediatrics116:15-23,200521)菅波絵理,原徳子,松浦豊明ほか:奈良県立医科大学における未熟児網膜症の検討.臨眼54:427-431,200022)吉村圭子:福岡市立こども病院における極低出生体重児の未熟児網膜症の検討.眼臨98:518-521,200423)平岡美依奈,渡辺とよ子,川上義ほか:超低出生体重児における未熟児網膜症:東京都多施設研究.日眼会誌108:600-608,200410)ChowLC,WrightKW,SolaA:CanchangesinclinicalpracticedecreasetheincidenceofsevereretinopathyofprematurityinverylowbirthweightinfantsPediatrics111:339-345,200311)WrightKW,SamiD,ThompsonLetal:Aphysiologicreducedoxygenprotocoldecreasestheincidenceofthresholdretinopathyofprematurity.TransAmOphthal-molSoc104:78-84,200612)HellstromA,PerruzziC,JuMetal:LowIGF-1sup-pressesVEGF-survivalsignalinginretinalendothelialcells:Directcorrelationwithclinicalretinopathyofpre-maturity.ProcNatlAcadSciUSA98:5804-5808,200113)TinW,MilliganDW,PennefatherPetal:Pulseoximetry,severeretinopathy,andoutcomeatoneyearinbabiesoflessthan28weeksgestation.ArchDisChildFetalNeona-talEd84:106-110,200114)AndersonCG,BenitzWE,MadanA:Retinopathyofpre-maturityandpulseoximetry:anationalsurveyofrecentpractices.JPerinatol24:164-168,200415)伊藤大藏,大庭静子,秋元政博ほか:出生体重1000g以下の未熟児の推移─症例数・死亡率・網膜症状況─.眼臨93:591-595,199916)LarssonE,CarlePetreliusB,CernerudGetal:IncidenceofROPintwoconsecutiveSwedishpopulationbased

序説:未熟児網膜症診療─最近の考え方

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS多方面にわたって取り上げている.発症の背景には,網膜の未熟性とともに全身状態とその管理が大きく関与しており,われわれ眼科医がNICUの診療を十分に理解しておくことが必要である.ROPの治療においては,光凝固が最も重要であることは依然変わりがない.時宜を得て,十分な光凝固が行われていれば,たとえ網膜離に進行したとしても,その後に行われる治療の予後に非常に良い影響を与える.広角度眼底カメラの導入は,眼底の全体像把握に大きく寄与したが,これに蛍光眼底造影を行うと,重症例の病態をさらによく理解することができる.この設備を持つ施設は少なく,常用することは無理であるが,今回の特集で示された写真を見れば,ROPでは通常とはまったく異なる循環動態が起こっていることが理解できる.網膜離に対する治療は,近年大きく進歩したが,I型/classicROPとII型/AP-ROPでは大きく異なり,前者は比較的緩徐に進行し治療法の選択肢も幾つかあるが,後者は急速に進行するうえに治療法も限られる.最近は,成人の糖尿病網膜症などと同様に,ROPにも血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor)に対する抗体の投与が試みられている.既存の光凝固や硝子体手術に取って代わるまでには至らないであろうが,新たな治療法として期待されている.また,これらの治療には全身麻酔が必未熟児網膜症(ROP)は発達途上の網膜血管が異常増殖する疾患であり,在胎週数が短く出生体重が少ないほど発現頻度や程度が高い.最近,新生児集中治療室(NICU)の管理の進歩によって,出生体重が300400gのような極端に少ない超低出生体重児も救えるようになり,重症例が急増している.ことに,急速に進行する厚生省分類II型/国際分類aggressiveposteriorROP(AP-ROP)の増加は大きな問題である.盲学校の小児失明原因統計でもROPの占める比率が増加して40%に達し,疾患の重篤化を示している.ROPがある程度まで進むと光凝固治療を行い,この段階で治癒できれば予後は比較的良いが,進行して網膜離へ至ればきわめて悪くなり,このギャップは大きい.また,重症化しやすい網膜症では,治療のタイミングがごく短期間に限られる.したがって,進行を予測しつつ,診断・治療を行う必要がある.このような疾患の状況の一方で,ROP診療に関する教育は十分に行われているとは言い難い.最近は,多くの病院でNICUの整備が進みつつあるので,教育が不十分のまま未熟児網膜症の診療を行う機会が増えることは,大きな問題である.いきなり,ROP診療の場に直面して戸惑っている眼科医も多いのではないかと思う.本企画では,現在のROPに関する最新の診療を,(1)433療●序説あたらしい眼科26(4):433434,2009未熟児網膜症診療最近のえ方Up-to-DatePracticeinRetinopathyofPrematurity東範行*———————————————————————-Page2434あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(2)て,大きく進歩している.しかし,ROPが今後さらに増加するとともに難治例も多くなることが危惧される.一方で,診療に関わる眼科医が少ないなど,解決すべき課題も多い.このような状況において,本特集がROPの診療を行ううえでの一助となれば幸いである.要になることが多い.全身状態によってはさまざまなリスクを伴うので,ROPの状態だけで治療方針を決めることはできない.新生児科,麻酔科との連携は重要である.ROPの診療は,光凝固治療の基準がEarlyTreat-mentforROPStudyで定められ,網膜離に対しては早期に硝子体手術などが行われるようになっお方法:おとりつけの,また,その宜のない場は直あてごください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2009Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2009Vol.22■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544??://www.medical-aoi.co.jp

副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon蝗渇コ注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(141)4230910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):423426,2009cはじめに乳頭血管炎は主として健康な若年者の片眼に発症し,視神経乳頭部もしくは篩板付近の網膜中心静脈の炎症によるもので,視神経乳頭の著しい発赤・腫脹や網膜中心静脈閉塞症様の所見で発症する疾患である.治療は副腎皮質ステロイド薬の全身投与による加療が一般的である15).乳頭血管炎は一般的に予後良好ではあるものの,乳頭上の新生血管の形成や白鞘化を残すという報告もある.筆者らは中年女性に発症した本症に副腎皮質ステロイド薬内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,女性.主訴:左眼霧視.現病歴:2007年10月22日頃から左眼霧視を自覚し,1〔別刷請求先〕田片将士:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasashiTakata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,Mukogawacho1-1,Nishinomiya,Hyogo663-8501,JAPAN副腎皮質ステロイド薬にトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した中年女性にみられた乳頭血管炎田片将士*1,2岡本紀夫*1村上尊*2岡本のぶ子*2三村治*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2岡本病院眼科Sub-TenonInjectionofTriamcinoloneAcetonideCombinedwithSystemicAdministrationofOralCorticosteroidforOpticDiscVasculitisinMiddle-agedFemaleMasashiTakata1,2),NorioOkamoto1),TakashiMurakami2),NobukoOkamoto2)andOsamuMimura1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,OkamotoHospital乳頭血管炎(typeⅠ)に副腎皮質ステロイド薬の内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用し,著効を示した症例を経験した.症例は52歳の女性,左眼の霧視にて岡本病院眼科を受診した.眼底検査で左眼視神経乳頭の発赤・腫脹を認めたが,限界フリッカ値や静的視野検査は正常であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で視神経乳頭より蛍光色素の漏出を認めた.以上より左眼乳頭血管炎と診断し副腎皮質ステロイド薬を開始した.しかし,視神経乳頭の所見の改善がみられないのでトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用したところ速やかに乳頭血管炎が消失した.乳頭血管炎が強い場合は副腎皮質ステロイド薬の全身投与に加えてトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用することが有効と考えられた.Wereportcaseofopticdiscvasculitistreatedeectivelywithsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideandsystemicadministrationofcorticosteroid.Thepatient,a52-year-oldfemale,presentedwithblurringinherlefteye.Ophthalmoscopicexaminationdisclosedareddishandswollenopticdiscintheeye.Criticalickerfrequencyandstaticvisualeldexaminationwerenormal.Fluoresceinangiographydemonstrateddyeleakagefromtheleftopticdisc.Wediagnosedopticdiscvasculitisinthelefteye,andadministeredcorticosteroidorally;however,thetherapywasinsucienttoreducetheopticdiscvasculitis.Triamcinoloneacetonidewasthereforeinjectedtothesub-Tenonspaceinthelefteye.Afterinjection,theopticdiscvasculitisimprovedquickly.Sub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide,incombinationwithsystemicadministrationofcorticosteroid,maybeeectiveinthetreatmentofsevereopticdiscvasculitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):423426,2009〕Keywords:乳頭血管炎,トリアムシノロンアセトニド,Tenon下注射.opticdiscvasculitis,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection.———————————————————————-Page2424あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(142)週間後から左眼に白点の地図状のものが見えはじめたとのことで,10月29日に岡本病院眼科を受診した.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.0(1.5×sph+4.50D),左眼0.5(1.5×sph+4.75D),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHg.前眼部・中間透光体に異常はなく,眼球運動は制限なく眼位も正位であった.対光反射は迅速かつ十分で相対的瞳孔求心路障害は認めなかった.眼底検査で右眼は正常,左眼は視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた(図1).限界フリッカ値は右眼30Hz,左眼29Hzと左右差は認めなかった.静的視野検査では両眼とも正常範囲内であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間,網膜内循環時間ともに正常範囲内であり,後期にかけては視神経乳頭からの旺盛な蛍光漏出がみられた(図2,3).頭蓋内,眼窩内の磁気共鳴画像(MRI)撮影を行ったが,異常所見はみられなかった.初診時の血液データを表1に示す.経過:年齢は中年であるが,臨床所見より左眼視神経乳頭血管炎と診断した.プレドニゾロン錠30mgを14日連続投与し,20mgからはそれぞれ7日間ごとに5mgずつ漸減投与し,その後5mg隔日投与を3回行った(総量はプレドニゾロン換算で885mg).経過中11月9日再診時(プレドニゾロン30mg内服中)に視神経乳頭の発赤・腫脹の軽快がみられなかったため,トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を併用した(図4).トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射4日後には受診時視神経乳頭の発赤・腫脹の著明な改善を認めた.網膜血管の蛇行・拡張もほぼ消失した.1月8日受診時には,視神経乳頭・網膜血管の所見は消失表1初診時の血液データT-Cho202mg/dlRBC394×104/μlHDL-Cho59mg/dlHb11.8g/dlTG122mg/dlHt36.2%空腹時血糖77mg/dlPlt22.8×104/μlCRP0mg/dl血沈1h15mmWBC7,200/μl2h37mm検査項目に異常値を認めなかった.T-Cho:総コレステロール,HDL-Cho:高比重リポ蛋白コレステロール,TG:中性脂肪,CRP:C反応性蛋白,WBC:白血球数,RBC:赤血球数,Hb:ヘモグロビン,Ht:ヘマトクリット,Plt:血小板数.図3図2と同一症例の蛍光眼底写真(9分42秒)視神経乳頭からの蛍光漏出を認めた.図12007年10月29日時点の左眼眼底写真左眼視神経乳頭の高度腫脹・発赤と一部網膜血管の蛇行・拡張がみられた.図22007年10月29日時点の蛍光眼底写真(34.7秒)FAで初期は腕網膜循環時間は約12秒とほぼ正常で,網膜内循環時間も約10秒とほぼ正常内であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009425(143)していた(図5).II考察乳頭血管炎は1972年にHayreh6)がopticdiscvasculitisの疾患概念を提唱し,乳頭腫脹が強くみられるtypeⅠと網膜中心静脈閉塞症様所見が前面にみられるtypeⅡに分類した.また,HayrehはtypeⅠは篩板前部での毛様血管の非特異的炎症によるもので,typeⅡは乳頭部もしくは篩板後部での網膜中心静脈の炎症ではないかとの見解を示している.一般的に乳頭血管炎はおもに若年者の片眼性に認められ,Mariotte盲点の拡大以外は視機能の異常は認められないとされている.今回,筆者らが経験した症例は乳頭腫脹が非常に強くみられ,FAの結果や臨床所見からも網膜中心静脈閉塞症様の所見とは異なっているため,typeⅠに分類されると思われる.また,HayrehはtypeⅠに関しては副腎皮質ステロイド薬の全身投与が効果的であると述べている.本症例の特殊性としてはつぎの点があげられる.わが国での他の報告ではほとんどが若年者であり1030歳代がおもである13,5).本症例は52歳と中年であり,比較的まれであるといえる.さらに高度遠視が認められ,強い乳頭浮腫が認められている.高度遠視には強膜の相対的肥厚や小乳頭を伴うことが多く,本症例の危険因子と考えられる.つまり,篩板前域の乳頭血管の非特異的炎症により血管透過性の亢進がみられ,粗な篩板前域組織に組織液の貯留がみられる.それにより強い乳頭浮腫が生じ,篩板前域の静脈路が圧迫される6).それに加えて高度遠視眼での相対的強膜肥厚と小乳頭が加わり,さらに篩板前域の静脈路の圧迫が強化されるという機序が予想される.乳頭血管炎の加療としては,副腎皮質ステロイド薬の全身投与16)や本疾患が一般的に予後良好であることから自然治癒を期待し無治療にて様子をみている報告7,8)もある.一方で予後不良例も報告されている.しかし,初診時の眼底所見や経過で予後良好か不良かを判断する指標が示されていないのが現状である.城間ら4)は抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎で視力不良であった症例を報告している.小暮ら5)は後遺症として乳頭上新生血管や乳頭上の静脈の白鞘形成がみられた症例を,窪田ら8)は無治療にて経過観察を行い,自然治癒を得たものの視神経乳頭の軽度萎縮と乳頭の上下に白鞘を後遺症として残した症例を報告している.Hayreh6)は副腎皮質ステロイド薬を投与せず経過観察を行った症例で発症前の視力に回復するのに4カ月以上かかり,発症約8カ月で視神経乳頭腫脹は消失したものの視神経乳頭の蒼白化を生じた症例に言及するとともに,副腎皮質ステロイド薬の積極的な使用はより早急な加療で後遺症の発現を防ぎ,病期の短縮を図るためにも有用であるとしている.また,別の報告9)では45歳以上で病期が長引くこと,ステロイド治療群と無治療群との比較において前者で病期の短縮を図れたこと,無治療で中心視野欠損を生じた症例があることなどを報告している.本症例では年齢が中年齢で45歳以上であることなどから積極的加療を行った.副腎皮質ステロイド薬内服で加療を開始し,さらにプレドニゾロン30mg内服後も劇的な改善が得られないためトリアムシノロンアセトニドのTenon下注射を併用した.その結果,内服開始の約1週間後,Tenon下注射の4日後には左眼の視神経乳頭の発赤や腫脹および網膜血管の拡張・蛇行が軽快している.今回筆者らは副腎皮質ステロイド薬の内服投与に加えてトリアムシノロンのTenon下注射を行い著効を得た.トリアムシノロンアセトニドのTenon下注射の単独加療も有用ではないかと思われるが,これに関しては今後単独加療での検討が必要であると思われた.文献1)吉田祐介,伴由利子,小林ルミ:抗カルジオリピン抗体図52008年1月8日時点の左眼眼底写真ほとんど視神経乳頭や網膜血管の病変は消失した.35302520151050プレドニゾロン錠(mg)H19.11.6H19.11.13H19.11.20H19.11.27H19.12.4H19.12.11H19.12.18図4副腎皮質ステロイド薬投与量の推移トリアムシノロンアセトニド12mgのTenon下注射を11月9日(矢印)に施行した.———————————————————————-Page4426あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(144)陽性であった乳頭血管炎の1例.臨眼61:1341-1345,20072)小栗真千子,近藤永子,近藤峰生ほか:14歳の女子に発症した乳頭血管炎の1例.眼臨99:389-391,20053)井内足輔,白石久子:長時間のVDT作業をしていた24歳女性に発症した乳頭血管炎.眼臨紀1:131-133,20084)城間正,照屋明子,早川和久ほか:抗リン脂質抗体陽性を示した乳頭血管炎の1症例.眼紀52:886-888,20015)小暮奈津子,阿部真知子,大西裕子ほか:乳頭血管炎と思われる8症例について.眼臨71:1236-1241,19776)HayrehSS:Opticdiscvasculitis.BrJOphthalmol56:652-670,19727)山本正洋,西尾陽子,大賀正一:視神経乳頭血管炎を呈した慢性活動性EBウイルス感染症の1例.臨眼53:975-977,19998)窪田靖夫,野村恭子:乳頭血管炎の1例.眼臨73:1431-1434,19799)OhKT,OhDM,HayrehSS:Opticdiscvasculitis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:647-658,2000***

網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴った1 例

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(137)4190910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):419422,2009cはじめに網膜血管腫には,vonHippleが報告した先天性(vonHip-pel-Lindau病1))と,Shieldsらが報告した片眼性,孤立性,非家族性の後天性のもの2)がある.本疾患は,通常進行が緩除で,比較的予後良好とされているが,合併症として,黄斑上膜や滲出性網膜離が起きると視力低下をきたすことがある35).今回筆者らは,孤立性の網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴い,さらに,滲出性網膜離を合併したため硝子体手術に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:30歳,女性.主訴:左眼の視力低下.既往歴,家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成15年8月に約1週間前から左眼の視力低下を自覚し,徐々に悪化するため当院を受診した.初診時所見:視力は右眼1.0(n.c.),左眼0.1(0.3×sph1.0D)で,眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHgであった.両眼とも前眼部,中間透光体は清明であった.左眼眼底には,黄斑部浮腫を認め,耳上側血管は著しい蛇行と拡張を認め,耳上側周辺部に橙赤色に一部白色が混在した1から2乳頭径大の球状の腫瘤が認められた(図1a).インドシアニングリーン蛍光眼底撮影において,腫瘤は強い過蛍光を示し,血管腫への導入出血管を認めた(図1b).右眼眼底には異常は認められなかった.経過:頭部computedtomography(CT),magneticreso-nanceimaging(MRI)検査では異常なく,後天性網膜血管腫と診断した.その後,約6カ月間来院されず放置され,再診時には左眼視力0.04(n.c.)まで低下していた.左眼前眼部,中間透光体は異常なく,眼底所見としては,黄斑部には〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,TaneMemorialEyeHospital,1-1-39Sakaigawa,Nishi-ku,Osaka550-0024,JAPAN網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴った1例櫻井寿也前野貴俊木下太賀山田知之田野良太郎福岡佐知子竹中久張國中真野富也多根記念眼科病院ACaseofSubmacularChoroidalNeovasucularizationwithRetinalHemangiomaToshiyaSakurai,TakatoshiMaeno,TaigaKinoshita,TomoyukiYamada,RyotaroTano,SachikoFukuoka,HisashiTakenaka,KokuchuChoandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital後天性網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管を伴い,さらに,滲出性網膜離を合併したため硝子体手術に至った症例を経験したので報告する.30歳,女性が後天性網膜血管腫に黄斑下脈絡膜新生血管のために視力障害を生じた.硝子体手術を施行し腫瘍に対し光凝固術を行った.術後合併症もなく,黄斑下脈絡膜新生血管の消退を認め,今回の網膜血管腫に対する硝子体手術は有効な治療法と考えられた.Wereportontheecacyofvitrectomyinaneyewithsubmacularchoroidalneovascularizationandserousretinaldetachmentwithacquiredretinalhemangioma.Thepatient,a30-year-oldfemale,experiencedvisualdistur-bancebecauseofsubmacularchoroidalneovascularizationwithacquiredretinalhemangioma.Sheunderwentvit-rectomyandintraoperativephotocoagulationtreatmentofthetumor.Aftersurgery,thechoroidalneovasculariza-tiondisappeared,withoutcomplications.Vitrectomyisconsideredeectiveforretinalhemangioma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):419422,2009〕Keywords:脈絡膜新生血管,硝子体手術,網膜血管腫.choroidalneovasculalization,vitrectomy,retinalhemangioma.———————————————————————-Page2420あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(138)黄斑下に脈絡膜新生血管と考えられる隆起性変化と漿液性黄斑部網膜離を認めた.初診時に認められた網膜血管腫の大きさおよび導入出血管の太さ,蛇行も著明な変化はなかった.さらに下方の網膜は6時方向を中心にほぼ半周にわたり滲出性網膜離を広範囲に認めた.インドシアニングリーン蛍光眼底撮影にて初期より黄斑部に過蛍光を示し,さらに光干渉断層計の所見から,この過蛍光部分の隆起は脈絡膜新生血管と考えた(図2).網膜血管腫に対し光凝固を開始,条件は色素レーザー黄色(577nm),スポットサイズ200400μm,照射時間0.4秒,パワー200300mWで導入血管と腫瘤に直接凝固を試みるも,最終的には患者の協力が得られず十分な凝固は施行できなかった.その後再診時から8カ月ab図1初診時所見a:初診時眼底写真,b:初診時インドシアニングリーン蛍光眼底撮影(血管腫部分).acb図2再診時所見a:術前眼底写真,b:術前インドシアニングリーン蛍光眼底撮影,c:術前光干渉断層像.矢印:脈絡膜新生血管.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009421(139)後に眼内からの光凝固を希望され硝子体切除術を施行した.II硝子体手術所見通常の3ポート(20ゲージ)法にてcorevitrectomyを行った.後部硝子体は未離であったのでトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)を用いて黄斑部より周辺に向かって人工的後部硝子体離を作製した.腫瘤と硝子体の癒着は硝子体カッターではずすことは可能であったが,少量の出血を認めた.周辺部硝子体は可能なかぎり切除した.腫瘤と導入血管に対しては眼内光凝固を用いて直接凝固した.眼内光凝固の条件は波長532nm,照射時間0.2秒,出力300mWにより照射数75発行った.術後視力は次第に回復し,術後6カ月に矯正視力は0.1に改善した.術前黄斑下に認めた,脈絡膜新生血管の退縮に伴い漿液性網膜離も消退した(図3).III考察先天性の網膜血管腫で全身症状を伴わないものはvonHippel病,小脳などに血管腫を合併しているものはvonHippel-Lindau病とよばれている1).後天性網膜血管腫は,Shieldsらによって家族歴がなく,片眼性,孤立性で,全身,中枢神経に異常がなく,多くは30歳以降に発症すると報告された2).今回の症例についても眼底所見からは典型的な血管腫,および著明な流入流出血管の拡張を認めることから,先天性の可能性が非常に高いものの年齢,家族歴,全身中枢神経異常のないことから,完全に先天性と断定することはできない.今回の症例に関しては後天性網膜血管腫の可能性も考えられる.また,発症後5年経過した現時点においても小脳などのhemangioblastomaなども認められない.後天性網膜血管腫に合併する網膜病変としては,硬性白斑,網膜出血,硝子体出血,滲出性網膜離,網膜上膜,胞様黄斑浮腫などがある.これまで合併症に対する硝子体手術の多くは黄斑上膜であり,筆者らの知る限り,黄斑下脈絡膜新生血管を合併した症例の報告はない.脈絡膜新生血管の成因については不明な点も多いが,網膜血管腫などで血管の透過性が亢進していることが推測され,種々のサイトカインなどの細胞増殖を促進する物質が硝子体腔内へ放出されたためと考えられる7).網膜血管腫の治療法としては現在光凝固が第一選択とされている.比較的予後良好とされる本疾患ではあるが,滲出性網膜離などの合併症を伴って予後不良となる可能性があることから併発症が起こる前に光凝固を開始すべきとの考えもある8).今回の症例では,滲出性網膜離,黄斑下脈絡膜新生血管を生じ,最終的に硝子体手術に踏み切った.手術所見としては,後部硝子体離を人工的に起こす際にも血管腫からの出血が少量であったが,比較的安全に操作が行われた.また,腫瘤と流入血管を眼内光凝固することで瘢痕化が得られた.術後,黄斑下脈絡膜新生血管は,検眼鏡的に線維化を呈し,黄斑部周辺の漿液性網膜離も消失した.これは,術中の血管腫への光凝固による血管増殖因子などの物質の減少,さらに術中,硝子体可視化の目的で使用したトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)の血管透過性亢進抑制作用および,抗炎症作用によるものと考えられる9).網膜血管腫に対する治療は光凝固治療をできるだけ早期に行い,滲出性網膜離などの合併症が出現する前に血管腫の瘢痕形成を行う必要があり,合併症が出現し視力低下した場合には硝子図3術後6カ月所見a:術後6カ月の眼底写真,b:術後6カ月の光干渉断層像.ab———————————————————————-Page4422あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(140)体手術を考慮すべきである.今回,後天性網膜血管腫に合併した黄斑下脈絡膜新生血管に対する治療としては,硝子体手術が効果的ではあったが,今後は,腫瘍などの病的新生血管を伴う疾患の病態には血管内皮細胞増殖因子(vasucularendotherialgrowthfactor:VEGF)が深く関与すること10)からも,抗VEGF剤の使用や腫瘍に集積する特性をもった光感受性物質を用いた光線力学的療法11,12)も選択肢の一つとして期待される.本論文の要旨は第46回日本網膜硝子体学会総会にて発表した.文献1)vonHippelE:UebereinesehrselteneErkrankungderNetzhaut.vonGraefesArchOphthalmol59:93-106,19042)ShieldsJA,DeckerWL,SanbornGEetal:Presumedacquiredretinalhemangioma.Ophthalmology90:1292-1300,19833)ShieldsCL,ShieldsJA,BarretJetal:Vasoproliferativetumorsoftheocularfundus.Classicationandclinicalmanifestationsin103patients.ArchOphthalmol113:615-623,19954)今泉寛子,竹田宗泰,奥芝詩子ほか:硝子体手術を施行した後天性網膜血管腫の3例.眼臨88:1594-1597,19945)筑田真,高橋一則,橋本浩隆ほか:網膜血管腫による網膜・硝子体病変への硝子体手術.日眼会誌49:975-978,19956)飯田知子,南政宏,今村裕ほか:黄斑上膜を伴う網膜血管腫に硝子体手術を施行した1例.眼科手術16:545-548,20037)MachemerR,WilliamsJMSr:Pathogenesisandtherapyoftractionretinaldetachmentinvariousretinalvasculardiseases.AmJOphthalmol105:170-181,19888)戸張幾生:網膜血管腫の診断と治療.眼科MOOK19:104-113,19839)CiullaTA,CriswellMH,DanisRPetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonideinhibitschoroidalneovascuralizationinalaser-treatedratmodel.ArchOphthalmol119:399-404,200110)DvorakHF,BrownLF,DetmarMetal:Vascularperme-abilityfactor/vascularendotherialgrowthfactor,micro-vascularhyperpermeability,andangiogenesis.AmJPathol146:1029-1039,199511)尾花明,郷渡有子,生馬匡代:乳頭上血管腫に対して光線力学療法を行ったvonHippel-Lindau病の1例.日眼会108:226-232,200412)AtebaraNH:Retinalcapillaryhemangiomatreatedwithvertepornphotodynamictherapy.AmJOphthalmol134:788-790,2002***

網膜色素変性症に伴う.胞様黄斑浮腫に対して硝子体手術が有効と思われた1 例

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(131)4130910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):413417,2009cはじめに網膜色素変性症(RP)に伴う黄斑病変として,黄斑円孔や黄斑前膜,黄斑浮腫が報告1)されている.今回筆者らは,1年以上持続した薬物治療に抵抗するRPに伴う胞様黄斑浮腫(CME)に対して硝子体手術を行い,術後改善が認められた1例を経験したので報告する.I症例患者:47歳,男性.現病歴:3年前からの夜盲,視力低下を主訴に,2005年8月10日,近医を受診した.硝子体中に軽度の炎症細胞および黄斑浮腫を認め,後部ぶどう膜炎の疑いで,当院紹介とな〔別刷請求先〕田内慎吾:〒060-8604札幌市中央区北11西13市立札幌病院眼科Reprintrequests:ShingoTauchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,West13,North11,Chuo-ku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8604,JAPAN網膜色素変性症に伴う胞様黄斑浮腫に対して硝子体手術が有効と思われた1例田内慎吾木下貴正竹田宗泰市立札幌病院眼科ACaseinwhichVitrectomySeemedtobeEectiveforCystoidMacularEdemaAssociatedwithRetinitisPigmentosaShingoTauchi,TakamasaKinoshitaandMuneyasuTakedaDepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital目的:網膜色素変性症(RP)に伴う胞様黄斑浮腫(CME)に対して,硝子体手術が有効と思われた1例を経験したので報告する.症例:47歳,男性.3年前からの夜盲,視力低下を主訴に,2005年8月10日,近医を受診した.硝子体に軽度の炎症細胞および黄斑浮腫を認め,後部ぶどう膜炎の疑いで,当院紹介となった.初診時視力は右眼(0.8),左眼(0.9)であった.眼底は網膜動脈狭細化,色素沈着を伴う網膜変性があり,網膜電図(ERG)は消失型で典型的なRPを認めた.黄斑部に高度のCMEを伴っていた.炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の投与を行い,一時的に改善傾向があるものの再燃と視力低下をくり返した.術前視力は右眼(0.8)(2007年8月8日)で,同年9月10日,右眼硝子体手術を施行した.術後,CMEは改善し,2008年4月15日,矯正視力は右眼(0.9)となった.結論:薬物治療に抵抗するRPに伴うCMEに対する硝子体手術は有効である可能性がある.Wereportacaseinwhichvitrectomyseemedtobeeectiveforcystoidmacularedema(CME)associatedwithretinitispigmentosa(RP).Thepatient,a47-year-oldmale,hadacheckupfromalocaldoctoronAugust10,2005,withchiefcomplaintofnightblindnessanddecreasedvisualacuityofthreeyears’duration.Mildinammatoryvitreouscellsandmacularedemawereseen.Becauseofsuspectedposterioruveitis,hewasreferredtoourdepartment.Atinitialexamination,hisvisualacuitywas(0.8)righteyeand(0.9)lefteye.Thefundusshowedretinalarterynarrowingandretinaldegenerationwithpigmentation.Asfortheelectroretinogram(ERG),itsatnessreectedtypicalRP.ExtensiveCMEwasalsonotedinthemaculararea.Weadministeredcarbonicanhydraseinhibitor(acetazolamide)fortheCME,butitshowedonlytemporaryimprovement,followedbyrecur-renceandvisualloss.OnApril8,2007,visualacuitywas(0.8)righteye;weperformedvitrectomyonSeptember10.CMEdecreasedpostoperatively;correctedvisualacuityhadimprovedto(0.9)righteyeonApril15,2008.Vit-rectomymaybeeectiveforCMEwithpharmacotherapy-resistantRP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):413417,2009〕Keywords:網膜色素変性症,胞様黄斑浮腫,硝子体手術.retinitispigmentosa,cystoidmacularedema,vitrectomy.———————————————————————-Page2414あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(132)った.既往歴:高血圧症で内服中.家族歴:母親に夜盲(+).初診時所見(2005年8月23日):視力は,右眼0.6(0.8×0.75D),左眼0.7(0.9×0.75D).眼圧は,右眼12mmHg,左眼13mmHg.細隙灯顕微鏡では,前眼部:角膜,前房は異常なし.中間透光体:初発白内障(両眼),硝子体cell+(右眼2+,左眼1+).眼底:両眼底で網膜動脈の狭細化,アーケード外の網膜の変性を認めた.視神経萎縮は認めなかった.両眼にCMEと思われる所見を認めた.フルオレセイン蛍光造影(FA)(2005年9月2日):右眼のFA早期像(図1)で,周辺部には点状の色素沈着が散在していた.Vasculararcade付近から赤道部にかけて,網膜色素上皮の萎縮によるびまん性顆粒状の過蛍光(windowdefect)があり,左眼も同様の所見を呈していた.FA後期像(図2)では,両眼のCMEと思われる蛍光貯留および乳頭部に蛍光漏出を認めた.GP(Goldmann視野計測)(2005年8月26日):両眼に地図状の暗点を認めた.フラッシュERG(網膜電図)(2005年8月26日):a波,b波の振幅低下(消失型)を認めた.光干渉断層計(OCT)(2005年9月2日):両眼の中心窩網膜の肥厚および内部に胞様変化を認めた.以上の所見より,RPおよびそれに伴うCMEと診断した.治療の経過:図3に示すように,2006年7月11日より,アセタゾラミド750mg/日(3×n)およびアスパラKR3T/日(3×n)の内服を開始した.9月13日,両眼の矯正視力1.0まで改善し,アセタゾラミドを休薬した.1カ月後,両眼の視力低下を認めたため,内服を再開した.再開後の視力は改善傾向で,アセタゾラミドの長期投与による全身性の副作用も懸念されたため,翌年2月28日,再び休薬とした.OCTの推移(図4)では,アセタゾラミド休薬後,両眼のCMEの悪化を認めた.内服再開後,CMEは左眼では軽減したが,右眼ではわずかな軽減にとどまった.経過のなかで,OCT上,両眼ともに後部硝子体膜は後極部網膜に広範囲で接着しており,膜の肥厚や黄斑にかかる牽引は認められなかった.図5に示すように,2月28日のアセタゾラミド休薬後,再び両眼の視力低下を認め,中心窩網膜は肥厚した.4月アセタゾラミド750mg/日数視力右眼OCT左眼OCT左眼右眼1.41.210.80.60.40.22006年7/118/99/13①④②⑤③⑥10/1812/202/282007年図3治療の経過(1)OCT欄の①⑥の数字は図4のOCT像に対応.図1フルオレセイン蛍光造影(右眼早期,2005年9月2日)周辺部に点状の色素沈着の散在を認めた.また,網膜色素上皮の萎縮による過蛍光(windowdefect)を認めた.右眼(12分53)左眼(13分43)図2フルオレセイン蛍光造影(後期,2005年9月2日)両側のCMEと思われる蛍光の貯留を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009415(133)13日に内服再開後,6月15日時点で両眼ともに視力は改善し,中心窩網膜厚も改善した.しかし,右眼ではわずかな改善にとどまり,8月8日の時点でCMEが持続していたため,患者への十分な説明と同意を得て,9月10日,右眼のみ硝子体手術を行った.手術の概要:アルコン社の23ゲージシステムを用いた.トリアムシノロンを使用して後部硝子体離(PVD)を作製し,内境界膜(ILM)は離しなかった.水晶体は温存した.術中,特に合併症はなかった.術後の経過:図5にみるように右眼硝子体手術後,OCTで中心窩網膜厚は244.2297.9μmと改善し,視力は,2008年4月15日現在,0.9を保っている.これに対して,左眼はアセタゾラミド休薬後,中心窩網膜の肥厚が449.3527.4μmと持続し,視力も(0.4)(0.7)と低下傾向である.2008年1月11日のOCT(図6)上,右眼のCMEは軽減し,左眼はCMEが持続している.現在まで手術を行っていない左眼に対し,硝子体手術を施行した右眼のみ,視力およびCMEの改善を認めた.II考按RPでCMEが生じるメカニズムとして,網膜色素上皮のポンプ作用の障害2),抗網膜抗体による自己免疫反応による炎症3),硝子体による黄斑の機械的牽引4),などが報告されているが,まだ不明なところが多い5).RPにおけるCMEの発生率は1020%という報告6,7)もある.本症例では,術前のOCT上,硝子体による黄斑の牽引は確認されなかった.RPに伴うCMEに対する治療は,薬物治療として,ステロイドや炭酸脱水酵素阻害薬の内服,眼内局所投与が報告8,9)①③②⑤④⑥悪化悪化軽減わずかに軽減図4OCTの推移①→②:CME悪化,②→③:CMEわずかに軽減,④→⑤:CME悪化,⑤→⑥:CME軽減.経過のなかで,OCT上,両眼ともに硝子体による黄斑の牽引は認められなかった.1.41.210.80.60.40.27006005004003002001000中心窩網膜厚小数視力右眼OCT⑦9/10,右眼硝子体手術施行アセタゾラミド750mg/日視力1.41.210.80.60.40.26005004003002001000(μm)2/282007年2008年4/136/158/810/411/1512/271/114/15中心窩網膜厚小数視力左眼OCT⑧視力図5治療の経過(2)図中の⑦,⑧の数字は図6のOCT像に対応.———————————————————————-Page4416あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(134)されている.海外では,アバスチンRを硝子体腔に投与したという報告10)もある.今回筆者らは,CMEに対してアセタゾラミドを3度にわたり750mg/日(3×n)使用し,一時的に効果を認めたが,休薬により再燃をくり返した.このため,右眼のみ硝子体手術を実施した.RPに伴うCMEに対する薬物治療については,投与間隔および効果の持続,長期投与による副作用などの問題点が残されている.RPに伴うCMEに対して硝子体手術を行った最近の報告では,国内では,玉井らが,術後2カ月でCMEが再発したと報告4)している.海外では,Garciaらが,術後観察期間1年で,12例中10例(83.3%)で視力,CMEが改善したと報告11)している.今回筆者らは,薬物治療に抵抗するRPに伴うCMEに対して硝子体手術を施行し,術後の経過は良好であった.このような病態に対して,症例によっては硝子体手術は有効である可能性があり,薬物治療に抵抗し,中心窩網膜厚や視力が進行性に悪化する症例には試みても良い治療と考えられる.しかし,今回は1例のみの経験であり,引き続き慎重な経過観察をしていく予定である.本論文の要旨は,第46回北日本眼科学会(ポスター講演)にて報告した.文献1)高橋政代:網膜色素変性の黄斑病変.眼科44:65-70,20022)NewsomeDA:Retinaluoresceinleakageinretinitispig-mentosa.AmJOphthalmol101:354-360,19863)HeckenlivelyJR,JordanBL,AptsiauriN:Associationofantiretinalantibodiesandcystoidmacularedemainpatientswithretinitispigmentosa.AmJOphthalmol127:565-573,19994)玉井洋,和田裕子,阿部俊明ほか:網膜色素変性に伴う胞様黄斑浮腫と硝子体手術.臨眼56:1443-1446,20025)高橋牧,岸章治:胞様黄斑浮腫をきたす疾患.眼科50:721-727,20086)FetkenhourCL,ChoromokosE,WeinsteinJetal:Cystoidmacularedemainretinitispigmentosa.TransSectOph-thalmolAmAcadOphthalmolOtolaryngol83:515-521,19777)FishmanGA,MaggianoJM,FishmanM:Foveallesionsseeninretinitispigmentosa.ArchOphthalmol95:1993-1996,1977⑦右眼左眼⑧図6術後のOCT(2008年1月11日)硝子体手術を施行した右眼にCMEの改善が認められた.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009417(135)8)KimJE:Intravitrealtriamcinoloneacetonidefortreat-mentofcystoidmacularedemaassociatedwithretinitispigmentosa.Retina26:1094-1096,20069)ScorolliL,MoraraM,MeduriAetal:Treatmentofcys-toidmacularedemainretinitispigmentosawithintravit-realtriamcinolone.ArchOphthalmol125:759-764,200710)MeloGB,FarahME,AggioFB:Intravitrealinjectionofbevacizumabforcystoidmacularedemainretinitispig-mentosa.ActaOphthalmolScand85:461-463,200711)Garcia-ArumiJ,MartinezV,SararolsLetal:Vitreoreti-nalsurgeryforcystoidmacularedemaassociatedwithretinitispigmentosa.Ophthalmology110:1164-1169,2003***

ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR 0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(123)4050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):405412,2009cはじめに現在,緑内障の薬物治療においては,b遮断薬やプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が第一選択薬として用いられているが,単剤では十分な眼圧下降が得られず,多剤併用を要する症例も少なくない.また,長期にわたる治療では副作用などの問題で薬剤の変更を余儀なくされる場合もある.そのため,緑内障治療には複数の作用機序の異なる治療薬から患者の状態に応じて選択できることが望ましい.デタントールR0.01%点眼液(以下,「本剤」と略す)は参天製薬株式会社が開発し,2001年9月に発売した緑内障・高眼圧症治療点眼薬である.本剤は,ブナゾシン塩酸塩を有効成分とし,選択的交感神経a1受容体遮断作用を有する唯〔別刷請求先〕樋口直子:〒533-8651大阪市東淀川区下新庄3-9-19参天製薬株式会社市販後調査グループReprintrequests:NaokoHiguchi,PMSGroup,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-9-19Shimoshinjo,Higashiyodogawa-ku,Osaka533-8651,JAPANブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR0.01%点眼液)使用成績調査における安全性および有効性の検討樋口直子*1宮本悦代*1神田佳子*1岡本紳二*1橋本公子*1國廣英一*1石田智恵美*2柳井知子*2福本充*2*1参天製薬株式会社市販後調査グループ*2参天製薬株式会社安全性管理室SafetyandEcacyofBunazosinHydrochlorideOphthalmicSolution(DetantolR0.01%OphthalmicSolution)inaPost-marketingObservationalStudyNaokoHiguchi1),EtsuyoMiyamoto1),YoshikoKanda1),ShinjiOkamoto1),MasakoHashimoto1),EiichiKunihiro1),ChiemiIshida2),TomokoYanai2)andMitsuruFukumoto2)1)PMSGroup,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)Drug&DeviceSafetyInformationManagementOce,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.ブナゾシン塩酸塩点眼液(デタントールR0.01%点眼液)の市販後の使用実態下における安全性および有効性を検討するため,ブナゾシン塩酸塩点眼液が新たに投与された緑内障および高眼圧症患者を対象とし,中央登録方式による前向きな使用成績調査を実施した.852施設より6,740例を収集した.副作用発現症例率は4.11%(254/6,178)で,おもな副作用は眼充血(結膜充血を含む)107件などの眼障害が233例(3.77%)279件であった.眼圧は,平均観察期間76.5日で,投与開始時19.2±5.8mmHgに対して2.7±5.0mmHgの有意な下降を示した(p<0.001).ブナゾシン塩酸塩点眼液は市販後の使用実態下においてもその安全性および有効性が確認され,緑内障および高眼圧症治療の第二選択薬として有用な薬剤であると考えられた.Toclarifythesafetyandecacyofbunazosinhydrochlorideophthalmicsolution(DetantolR0.01%ophthalmicsolution)inareal-worldsetting,weprospectivelyperformedthispost-marketingobservationalstudyonpatientswithglaucomaorocularhypertensionwhowereadministeredbunazosinhydrochlorideforthersttime.Atotalof6,740caseswerecollectedfrom852medicalinstitutions.Theincidenceofadversedrugreactions(ADR)was4.11%(254/6,178).AstomajorADR,279eyedisorderswerenotedin233patients(3.77%)includedhyperaemia(1.73%).Meanintraocularpressurewassignicantlydecreasedby2.7±5.0mmHgatamean76.5daysafteradminis-tration,ascomparedto19.2±5.8mmHgbeforeadministration(p<0.001).Thisstudyshowsbunazosinhydrochlo-rideophthalmicsolutiontobesafeandeectiveasasecond-linedrugforthetreatmentofglaucomaorocularhypertension,inareal-worldsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):405412,2009〕Keywords:ブナゾシン塩酸塩点眼液,使用成績調査,安全性,有効性.bunazosinhydrochlorideophthalmicsolution,post-marketingobservationalstudy,safety,ecacy.———————————————————————-Page2406あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(124)一の緑内障治療薬で,ブドウ膜強膜流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させる13).本剤は他の緑内障治療薬で効果不十分な場合,または副作用などにより他の緑内障治療薬の使用が継続できない場合に使用される第二選択薬であり,おもに併用あるいは他の緑内障治療薬から切り替えて使用されるが,このような使用状況における開発時のデータは限られている4,5).今回,承認後6年間の再審査期間中に,本剤の市販後の使用実態下における安全性および有効性に関する情報収集を目的とした使用成績調査を実施した.その結果を基に,使用状況による影響も含め,本剤の安全性および有効性につき検討したので報告する.I対象および方法1.調査方法本調査は「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に従い,目標症例数を6,000例,調査期間を2001年9月2004年8月で実施した.調査対象は,本調査の契約を締結した医療機関にて本剤が新たに投与された症例とし,中央登録方式にて実施した.すなわち,医療機関との契約締結日以降,本剤を投与開始した症例について投与開始から2週間以内に症例登録し,登録症例について標準4週間の観察期間終了後,調査票に記入することとした.調査項目は,患者背景,緑内障治療歴,本剤の投与状況,併用薬剤,眼圧などの臨床経過,有害事象とした.2.安全性の検討本剤の投与中または投与後に発現した医学的に好ましくないすべての事象を有害事象とし,有害事象のうち本剤との因果関係が否定できないものを副作用とした.収集症例のうち,登録の不備および初診以降来院がなく有害事象の有無を確認できなかった症例を除いた集団を安全性解析対象とし,副作用の種類,重篤度,発現率などを検討した.また,安全性に影響を及ぼす要因を探索するため,要因別の副作用発現率を検討した.さらに,本剤と併用される可能性の高いb遮断点眼薬やPG関連点眼薬では角膜障害の副作用が知られているため68),角膜障害の発現状況について検討した.なお,副作用用語はMedDRA/J(MedicalDictionaryforReg-ulatoryActivities/Japaneseedition:ICH国際医薬用語集日本語版)のVer.8.1を用いて集計した.3.有効性の検討有効性の指標には眼圧変化値(最終観察時眼圧値投与開始時眼圧値)を用いた.安全性解析対象症例のうち,効能・効果外使用および眼圧変化値評価不能症例を除いた集団を有効性解析対象とし,眼圧の推移を検討した.有効性評価対象眼は,本剤投与眼のうち,投与開始時眼圧値の高いほうの眼を,同じ場合には右眼とした.有効性に影響を及ぼす要因を探索するため,要因別,使用状況別の眼圧の推移を検討した.なお,眼圧および眼圧下降度は平均±標準偏差mmHgで示した.4.統計解析手法要因別の副作用発現率の検討にはc2検定を,眼圧の推移には対応のあるt検定を使用し,また,投与開始時眼圧値と眼圧変化値との関連性を検討するため,ピアソン(Pearson)の積率相関係数と回帰係数を求めた.有意水準は両側5%とした.II結果1.症例構成(図1)852施設より6,740例の調査票を収集した.このうち,登録の不備および初診以降来院なしの症例562例を除く6,178例を安全性解析対象症例とした.また,安全性解析対象症例より効能・効果外使用および眼圧変化値評価不能の症例727例を除いた5,451例を有効性解析対象症例とした.2.安全性a.副作用発現状況(表1)安全性解析対象症例6,178例における副作用発現率は4.11%(254/6,178)で,承認時までの臨床試験における副作用発現率3.30%(17/515)と比較して有意差は認められなかった(p=0.435,c2検定).おもな副作用の種類は,眼障害233例(3.77%)279件で,内訳は,眼充血(結膜充血を含む)107件,眼刺激および霧視が各16件,角膜炎15件,角膜びらんおよび眼の異物感が各14件,眼そう痒症および眼瞼炎が各12件,眼痛および点状角膜炎が各10件などであった.重篤な副作用は脳梗塞1件であった.本症例は85歳,女性で,本剤投与開始後1カ月以内に脳梗塞を発症し,本剤投与継続中に軽快した.b.要因別副作用発現状況(表2)検討した要因のうち,性別,年齢別,医薬品副作用歴有無別,緑内障薬物治療歴有無別および本剤1日平均投与回数別安全性解析対象除外症例562例安全性解析対象症例6,178例有効性解析対象除外症例727例有効性解析対象症例5,451例調査票収集症例6,740例図1症例構成———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009407(125)の副作用発現率に有意差が認められた.性別では女性,年齢別では65歳未満の非高齢者,医薬品副作用歴有無別では副作用歴「有」,緑内障薬物治療歴有無別では治療歴「有」で副作用発現率が高かったが,要因ごとの層別における副作用の種類に差は認められなかった.本剤1日平均投与回数別では,1日2回投与の症例が99.2%(6,129/6,178)を占めていたが,1日2回未満の副作用発現率が最も高く,投与回数の多い層で副作用が多いわけではなかった.緑内障治療点眼薬の併用が安全性に及ぼす影響を検討したところ,併用の有無で副作用発現率に有意差は認められず,表1副作用発現状況一覧表承認時迄の状況使用成績調査計安全性解析対象症例数5156,1786,693副作用発現症例数17254271副作用発現件数27308335副作用発現症例率3.30%4.11%4.05%副作用の種類承認時迄の状況使用成績調査計副作用種類別発現症例(件数)率(%)精神障害1(0.02)1(0.01)不眠症1(0.02)1(0.01)神経系障害2(0.39)11(0.18)13(0.19)異臭感頭痛頭皮異常感覚脳梗塞浮動性めまい2(0.39)1(0.02)7(0.11)1(0.02)1(0.02)1(0.02)1(0.01)9(0.13)1(0.01)1(0.01)1(0.01)眼障害16(3.11)233(3.77)249(3.72)アレルギー性眼瞼炎アレルギー性結膜炎ブドウ膜炎角膜びらん角膜炎角膜障害角膜上皮欠損角膜浸潤乾性角結膜炎眼そう痒症眼の異物感眼の違和感眼の乾燥感眼圧迫感眼乾燥眼刺激眼充血(結膜充血を含む)眼精疲労眼痛眼部不快感眼瞼そう痒症眼瞼炎眼瞼下垂眼瞼紅斑眼瞼湿疹眼瞼皮膚炎1(0.19)1(0.19)1(0.19)4(0.78)4(0.73)11(2.14)1(0.19)1(0.02)5(0.08)1(0.02)14(0.23)15(0.24)2(0.03)2(0.03)1(0.02)1(0.02)12(0.19)14(0.23)3(0.05)3(0.05)1(0.02)1(0.02)16(0.26)107(1.78)1(0.02)10(0.16)1(0.02)2(0.03)12(0.19)2(0.03)1(0.02)1(0.02)8(0.13)1(0.01)6(0.09)1(0.01)14(0.21)16(0.24)2(0.03)2(0.03)1(0.01)1(0.01)13(0.19)18(0.27)3(0.04)3(0.04)1(0.01)1(0.01)20(0.30)118(1.76)2(0.03)10(0.15)1(0.01)2(0.03)12(0.18)2(0.03)1(0.01)1(0.01)8(0.12)副作用の種類承認時迄の状況使用成績調査計副作用種類別発現症例(件数)率(%)眼障害(つづき)眼瞼浮腫強膜炎結膜炎結膜出血結膜乳頭状増殖結膜浮腫結膜濾胞点状角膜炎虹彩毛様体炎霧視網膜静脈閉塞流涙増加涙液分泌低下1(0.19)1(0.19)2(0.03)1(0.02)1(0.02)2(0.03)1(0.02)1(0.02)1(0.02)10(0.16)2(0.03)16(0.26)1(0.02)3(0.05)1(0.02)2(0.03)1(0.01)1(0.01)2(0.03)1(0.01)1(0.01)2(0.03)10(0.15)2(0.03)17(0.25)1(0.01)3(0.04)1(0.01)心臓障害4(0.06)4(0.06)動悸4(0.06)4(0.06)血管障害2(0.03)2(0.03)高血圧潮紅1(0.02)1(0.02)1(0.01)1(0.01)呼吸器,胸郭および縦隔障害1(0.02)1(0.01)喘息1(0.02)1(0.01)胃腸障害2(0.03)2(0.03)悪心2(0.03)2(0.03)全身障害および投与局所様態2(0.03)2(0.03)気分不良浮遊感1(0.02)1(0.02)1(0.01)1(0.01)臨床検査6(0.10)6(0.09)眼圧上昇血圧上昇血圧低下4(0.06)1(0.02)1(0.02)4(0.06)1(0.01)1(0.01)———————————————————————-Page4408あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(126)発現率を高めるような種類の併用薬もなかった.また,併用薬剤数別の検討で発現率に有意差が認められたが,薬剤数が多いほど発現率が高いという傾向はなかった.c.角膜障害発現状況(表3)角膜障害の発現率は0.71%(44/6,178)であった.内訳は,角膜炎15件,角膜びらん14件,点状角膜炎10件などで,重篤なものはなかった.緑内障治療点眼薬の併用が角膜障害表2要因別副作用発現状況一覧表要因症例数副作用発現症例数副作用発現症例率(%)検定安全性解析対象症例6,1782544.11性男性女性2,6023,576831713.194.78p=0.002年齢平均:67.7歳65歳未満65歳以上2,0314,147991554.873.74p=0.041使用理由緑内障高眼圧症その他複数疾患5,461634127122724034.163.7904.23p=0.869合併症無有不明・未記載1,5124,5181485619353.704.273.38p=0.375医薬品副作用歴無有不明・未記載4,87791238916367243.347.356.17p<0.001緑内障薬物治療歴無有不明・未記載1,5864,555374620712.904.542.70p=0.006本剤1日平均投与回数平均:2.0回2回未満2回2回超256,129244250016.004.080p=0.007緑内障治療併用点眼薬無有不明・未記載1,9974,181378217214.114.112.70p=1.000薬剤種類プロスタグランジン関連点眼薬無有3,2992,8791231313.734.55p=0.119b遮断点眼薬無有4,0012,177188664.703.03p=0.002ab遮断点眼薬無有5,787391242124.183.07p=0.347交感神経作動点眼薬無有6,1255325134.105.66p=0.824副交感神経作動点眼薬無有6,04613224954.123.79p=1.000炭酸脱水酵素阻害点眼薬無有5,532646237174.282.63p=0.058薬剤数無1剤2剤3剤4剤5剤1,9972,5111,24838536182118467014.114.703.691.820100p<0.001検定手法:c2検定(不明・未記載を除く).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009409(127)発現に及ぼす影響を検討したところ,併用の有無および併用薬剤数別で発現率に有意差は認められず,発現率を高めるような種類の併用薬もなかった.3.有効性a.眼圧の推移有効性解析対象症例5,451例における眼圧変化値は2.7±5.0mmHgで,投与開始時の19.2±5.8mmHgから最終観察時(平均観察期間76.5日)の16.5±5.0mmHgへ有意な下降を示した(p<0.001).また,投与開始時眼圧値と眼圧変化値には相関が認められ(r2=0.340,p<0.001,y=0.494x+6.802),投与開始時眼圧値が高いほど眼圧変化値は大きかった(図2).b.要因別使用状況別の眼圧の推移(表4)性別,使用理由別,投与開始時眼圧値別,緑内障薬物治療歴有無別でそれぞれ眼圧の推移を検討した.眼圧変化値は,各要因とも投与開始時眼圧値に相応した差は認められるものの,いずれの層も有意な下降を示した.使用状況別として,他の緑内障治療薬から切り替えて本剤を使用した場合,すでに使用されている緑内障治療薬に本剤を追加投与した場合,および少なくとも最終観察時に他の緑内障治療薬を併用していた場合についてそれぞれ検討した.他剤から切り替えて本剤を使用した症例は14.0%(763/5,451)であり,前治療薬の種類は,PG関連点眼薬(切り替え症例の45.5%),b遮断点眼薬(38.8%)が多かった.眼圧変化値は,切り替え例全体で1.0±4.9mmHg,前治療薬の種類別で0.92.8mmHgで,いずれも有意な下降を示した.他剤への追加併用で本剤を使用した症例は44.1%(2,404/5,451)であり,被併用薬剤の種類は,PG関連点眼薬(追加併用症例の67.5%),b遮断点眼薬(53.2%)が多かった.眼圧変化値は,追加併用症例全体で2.7±4.0mmHg,被併用20-15-10-505100510152025303540投与開始時眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)r=-0.583y=-0.494x+6.802r2=0.340p<0.001図2投与開始時眼圧値と眼圧変化値の散布図表3角膜障害発現状況要因症例数角膜障害発現検定症例数症例率(%)安全性解析対象症例6,178440.71併用薬剤数無1剤2剤3剤4剤5剤1,9972,5111,2483853611316132000.650.641.040.5200p=0.748併用薬剤種類プロスタグランジン関連点眼薬無有3,2992,87918260.550.90p=0.130b遮断点眼薬無有4,0012,17731130.770.60p=0.525ab遮断点眼薬無有5,7873914130.710.77p=1.000交感神経作動点眼薬無有6,125534310.701.89p=0.841副交感神経作動点眼薬無有6,0461324400.730p=0.645炭酸脱水酵素阻害点眼薬無有5,5326464040.720.62p=0.960検定手法:c2検定.———————————————————————-Page6410あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(128)薬剤の種類別で2.53.5mmHgと,いずれも有意な下降を示した.他の緑内障治療薬を最終観察時に併用していた症例は67.4%(3,675/5,451)であった.内訳は,1剤併用2,252例(併用症例の61.3%),2剤併用1,095例(29.8%),3剤併用299例(8.1%)で,4剤以上の併用も29例あった.投与開始時眼圧値は,併用症例が19.8±6.0mmHg,非併用症例(本剤単剤治療症例)が18.0±5.3mmHgと併用症例のほうが高く,また,併用薬剤数が多いほど高かった.投与開始時眼圧値に相応した眼圧変化値の差は認められたものの,併用薬の有無あるいは併用薬剤数にかかわらず眼圧は有意な下降を示した.III考按現在,臨床に供されているおもな緑内障治療薬の種類には,房水産生抑制作用を有するb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI),房水流出促進作用を有するPG関連薬,房水産生抑制と房水流出促進作用を併せもつab遮断薬があり,a1遮断薬である本剤は房水流出促進系の薬剤に分類される.このうち,緑内障治療の第一選択薬はb遮断薬,PG関連薬およびab遮断薬であり,CAIおよびa1遮断薬は第二選択薬に位置付けられる.第二選択薬の多くは緑内障治療の2剤目,3剤目として使われるため,他剤併用時の安全性および有効性の検討が必要だが,表4要因別使用状況別の眼圧推移要因症例数眼圧値眼圧変化値(mmHg)検定投与開始時(mmHg)最終観察時(mmHg)有効性解析対象症例5,45119.2±5.816.5±5.02.7±5.0p<0.001性男性女性2,3063,14520.0±6.418.7±5.417.0±5.316.2±4.82.9±5.52.5±4.5p<0.001p<0.001使用理由緑内障高眼圧症4,84660518.8±5.922.6±4.016.2±5.118.8±3.72.6±5.03.8±4.7p<0.001p<0.001投与開始時眼圧値15mmHg未満15mmHg以上20mmHg未満20mmHg以上25mmHg未満25mmHg以上1,1001,8861,73872712.3±1.717.0±1.421.7±1.429.4±6.212.0±2.715.4±3.018.6±3.821.1±7.20.3±2.41.6±2.93.1±3.78.2±8.8p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001緑内障薬物治療歴無有不明・未記載1,3904,0342720.0±7.018.9±5.319.2±9.115.8±4.516.8±5.115.0±4.34.2±6.02.2±4.44.2±7.3p<0.001p<0.001p=0.006他剤からの切替無有4,68876319.5±5.917.5±5.316.5±4.916.4±5.53.0±4.91.0±4.9p<0.001p<0.001前治療薬種類(重複集計)プロスタグランジン関連点眼薬b遮断点眼薬ab遮断点眼薬炭酸脱水酵素阻害点眼薬3472961354517.2±5.417.7±5.117.5±5.419.6±6.316.3±4.916.4±5.716.1±4.916.8±6.40.9±4.91.3±5.11.4±4.22.8±8.1p<0.001p<0.001p<0.001p=0.027他剤への追加併用無有3,0472,40419.1±6.319.3±5.216.4±5.116.6±4.92.7±5.62.7±4.0p<0.001p<0.001被併用薬剤種類(重複集計)プロスタグランジン関連点眼薬b遮断点眼薬ab遮断点眼薬炭酸脱水酵素阻害点眼薬1,6221,27823132219.3±5.119.8±5.219.0±4.821.8±6.816.6±4.817.1±5.116.5±4.618.3±6.22.7±4.12.7±4.22.5±3.53.5±5.2p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001緑内障治療併用点眼薬無有1,7763,67518.0±5.319.8±6.015.8±4.716.9±5.12.2±4.32.9±5.2p<0.001p<0.001薬剤数1剤2剤3剤4剤5剤2,2521,09529928119.0±5.320.6±6.622.4±7.024.5±5.147.016.2±4.517.8±5.718.3±5.919.4±7.120.02.8±4.62.9±5.94.1±6.25.1±8.727.0p<0.001p<0.001p<0.001p=0.004平均±標準偏差.検定手法:対応のあるt検定(投与開始時との比較).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009411開発時に把握できる事項は限られる.したがって,市販後の使用実態下において,種々の使用状況における安全性および有効性を検討し,適正使用情報として提供することが重要と考える.本調査では,使用状況別に十分検討できるよう,目標症例数6,000例にて実施し,その結果,全国852施設より6,740例の調査票を収集した.安全性は6,178例において検討し,副作用は254例(4.11%)308件に認められた.1990年以降に上市された他の緑内障治療点眼薬,ベタキソロール塩酸塩,ニプラジロール,イソプロピルウノプロストンおよびラタノプロストの市販後の調査における副作用発現率はそれぞれ10.17%(ベトプティックR添付文書),8.07%(ハイパジールRコーワ添付文書),13.70%(レスキュラRインタビューフォーム),25.5%(キサラタンR添付文書)であり,調査時期や調査方法の違いを考慮する必要はあるものの,本剤の副作用発現率はこれらの薬剤と比べ高いものではなかった.おもな副作用の種類は眼障害で,233例(3.77%)に認められた.このうち,最も高頻度であったのは眼充血(結膜充血を含む)で,発現率は1.73%であったが,重篤なものはなかった.眼充血は,本剤のa1遮断作用により,眼局所の末梢血管が拡張して起こるものと考えられた.全身性の副作用に関しては,b遮断点眼薬で全身性の副作用が問題とされていること9),また,本剤の有効成分ブナゾシン塩酸塩の内服薬は高血圧治療薬として使用され,起立性低血圧,動悸などの副作用が知られていることから,循環器系副作用の発現状況を検討した.本調査における循環器系副作用は,動悸4件,高血圧,潮紅,血圧上昇および血圧低下が各1件であり,いずれも非重篤であった.安全性に影響を及ぼす要因の検討で,性別,年齢別,医薬品副作用歴有無別などで副作用発現率に有意差が認められたが,各層別の副作用の種類に差はなく,安全性に影響を与える患者集団は見当たらなかった.また,他の緑内障治療薬の併用についても,本剤の安全性に影響を及ぼすような薬剤はなく,併用薬剤数と副作用発現率との間にも一定の傾向は認められなかった.b遮断点眼薬やPG関連点眼薬では角膜障害の副作用が知られており68),これらの併用時には発現頻度が高まるとの報告もあることから6),角膜障害の発現状況を検討した.本調査において,角膜炎,角膜びらんなどの角膜障害の発現率は0.71%であった.前述の4種類の緑内障治療薬では,市販後の調査において,ベタキソロール塩酸塩で角膜びらん,角膜炎などの角膜障害が1.50%,ニプラジロールで表層角膜炎が1.17%,イソプロピルウノプロストンで角膜びらん,角膜炎などの角膜症状が5.49%,およびラタノプロストで点状表層角膜炎が4.8%,角膜びらんが2.5%認められている.副作用用語の集計方法,調査方法などに違いはあるものの,本剤の角膜障害発現率はこれらの薬剤と比べ高いものではなかった.また,緑内障治療薬の併用の有無,薬剤数および種類と角膜障害発現との関連を検討したが,併用による影響は認められなかった.有効性は5,451例において検討した.本剤投与後に眼圧は平均2.7mmHg下降し,投与開始時眼圧値が高いほど眼圧の下降は大きかった.有効性に影響を及ぼす要因として,性別,使用理由別などの要因別に眼圧の推移を検討したところ,いずれの層も有意な眼圧の下降を示した.各層別で眼圧下降度にやや差が認められたものの,いずれも投与開始時眼圧値に相応したものと推察された.使用状況別では,他の緑内障治療薬から切り替えて本剤を使用した症例は14.0%で,眼圧は切り替え後に平均1.0mmHg下降した.また,他の緑内障治療薬への追加併用で本剤を使用した症例は44.1%で,眼圧は本剤追加後に平均2.7mmHg下降した.なお,被併用薬剤の種類により眼圧の下降は2.53.5mmHgとやや差が認められた.併用効果が最も小さかったものはab遮断薬で,投与開始時眼圧値は19.0mmHgであった.一方,最も大きかったものはCAIで,投与開始時眼圧値は21.8mmHgであった.これより,眼圧変化値の差は投与開始時眼圧値に相応したもので,本剤の追加併用効果は被併用薬剤の種類には関連しないと考えられた.以上の調査結果より,デタントールR0.01%点眼液は,市販後の使用実態下においても安全性および有効性が確認され,他の緑内障治療薬と併用した場合にも,その種類にかかわらず安全性に問題点を認めず,明らかな眼圧下降を示したことから,緑内障・高眼圧症治療の第二選択薬として有用な薬剤であると考えられた.謝辞:稿を終えるにあたり,本調査にご協力賜り,貴重なデータをご提供いただきました多数の先生方に厚く御礼申し上げます.文献1)NishimuraK,KuwayamaY,MatsugiTetal:SelectivesuppressionbyBunazosinofalpha-adrenergicagonistevokedelevationofintraocularpressureinsympathecto-mizedrabbiteyes.InvestOphthalmolVisSci34:1761-1766,19932)景山正明,西村和夫,松木雄ほか:家兎における塩酸ブナゾシン点眼液の眼圧下降作用機序.眼紀46:1066-1070,19953)西村和夫,白沢栄一,木下満紀子ほか:a1遮断点眼剤Bunazosinのウサギおよびネコにおける眼圧下降作用.日眼会誌95:746-751,19914)土坂寿行,金恵媛,石綿丈嗣ほか:塩酸ブナゾシン(DE-(129)———————————————————————-Page8412あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009070)点眼液,b遮断剤からの切り替え試験.眼臨88:1562-1568,19945)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の併用効果の検討─塩酸ジピベフリン点眼液との比較─.あたらしい眼科19:261-266,20026)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19997)橘信彦,木村泰朗,石井るみ子ほか:イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)点眼液によると思われる角膜上皮障害.あたらしい眼科13:1097-1101,19968)田聖花,中島正之,植木麻理ほか:ラタノプロストによると考えられる角膜上皮障害.臨眼55:1995-1999,20019)福地健郎:緑内障の治療─緑内障の薬物治療,緑内障治療薬・交感神経阻害剤b遮断薬.眼科44:1458-1463,2002(130)***

ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(117)3990910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(3):399403,2009cはじめに点眼薬の製剤設計においては,薬効だけでなく①角膜透過性および組織内移行性を含めた有効性,②角結膜および眼組織に対する安全性,③薬物の配合変化などの安定性,④さし心地(点眼時の眼刺激性)の4つの条件が要求される.これらの条件を満たすために,通常,点眼薬には主成分となる主剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,防腐剤,可溶化剤,安定化剤,懸濁化剤,粘稠化剤などが含まれている1).これらの成〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,Daigaku1-1,Uchinada-machi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響福田正道佐々木洋金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)CytotoxicEfectsofNewQuinoloneAntibioticOphthalmicSolutionsandNonsteroidalAnti-InlammatoryOphthalmicSolutionsonCulturedRabbitCornealCellLineMasamichiFukudaandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する影響を比較検討した.方法:SIRC(2×105cells)を培養5日後に4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬〔0.5%LVFX(レボフロキサシン),0.3%GFLX(ガチフロキサシン),0.3%TFLX(トスフロキサシン),0.5%MFLX(モキシフロキサシン)〕および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬(ジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液0.1%)1mlを060分間接触させ,生存細胞数をCoulterカウンターで計測し50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.結果:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上と長く,細胞障害への影響は少なかった.2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬のCDT50はジクロフェナクナトリウム点眼液では1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分と,いずれも高度の細胞障害が認められ,両薬剤間で有意差を認めた(p<0.001,Studentt-検定).結論:4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬の細胞障害への影響は少なかったのに対し,2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬は細胞障害性が強いことが示唆された.Weinvestigatedtheeectsof4newquinoloneantibioticophthalmicsolutions〔(0.5%LVFX(levooxacin),0.3%GFLX(gatioxacin),0.3%TFLX(tosuoxacin),and0.5%MFLX(moxioxacin)〕and2nonsteroidalanti-inammatoryophthalmicsolutions(0.1%diclofenacsodiumophthalmicsolutionand0.1%bromfenacsodiumhydrateophthalmicsolution)onaculturedrabbitcornealcellline(SIRC).CulturedSIRC(2×105cells)incubatedfor5dayswereexposedtothe6solutionsfor060min.SurvivingcellswerecountedbyaCoultercounter,and50%celldeathtime(CDT50;min)wascalculated.Cytotoxiceectsofthe4newquinoloneophthalmicsolutionswerealllowgrade(CDT50;>60min).Cytotoxiceectsof0.1%diclofenacsodiumophthalmicsolution(CDT50;1.16min)and0.1%bromfenacsodiumhydrateophthalmicsolution(CDT50;2.56min)werehighgrade;asignicantdierencewasnoted(p<0.001,Student’st-test).Theseresultssuggestthatthecytotoxiceectsofthe4newquinoloneophthalmicsolutionsarelessthanthoseofthe2nonsteroidalophthalmicsolutionstested.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):399403,2009〕Keywords:ニューキノロン系抗菌点眼薬,非ステロイド性抗炎症点眼薬,培養家兎由来角膜細胞(SIRC),防腐剤,ベンザルコニウム塩化物.newquinoloneantibioticophthalmicsolutions,nonsteroidalanti-inammatoryophthalmicsolutions,culturedrabbitcornealcellline(SIRC),preservative,benzalkoniumchloride.———————————————————————-Page2400あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(118)分はいずれもアレルギー反応などによって角結膜に障害をひき起こす可能性があるが,なかでも防腐剤は難治性の障害を起こしうることから特に注意が必要である2,3).現在,細菌性外眼部感染症や眼科周術期においては,幅広い抗菌スペクトルを有するニューキノロン系抗菌点眼薬や抗炎症作用を有する非ステロイド性抗炎症点眼薬などが汎用されているが,一定期間,反復点眼する必要があることを考えると安全性の確保も大きな関心事の一つである.本研究では4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する影響を比較検討した.I実験材料および方法〔実験材料〕検討した点眼液は,レボフロキサシン水和物(LVFX)点眼液0.5%(クラビットR点眼液0.5%:参天製薬),トスフロキサシントシル酸水和物(TFLX)点眼液0.3%(トスフロR点眼液0.3%:ニデック,オゼックスR点眼液0.3%:大塚製薬),ガチフロキサシン水和物(GFLX)0.3%点眼液(ガチフロR0.3%点眼液:千寿製薬),モキシフロキサシン塩酸塩(MFLX)点眼液0.5%(ベガモックスR点眼液0.5%:アルコン),以上4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬,およびジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%(ジクロードR点眼液0.1%:わかもと製薬),ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液0.1%(ブロナックR点眼液0.1%:千寿製薬),以上2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬である.なお,TFLX点眼液0.3%は,2製品のうちトスフロR点眼液0.3%を使用した.各点眼薬の添加物については表1,2に示した.細胞は,DME(Dulbeccomodiedeagle)-10%FBS(fatalbovineserum)培地で37℃,5%CO2下で培養した家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60SIRC)を使用した.〔実験方法〕1.各種点眼薬のSIRCに対する影響SIRC(2×105cells)を35×10mm細胞培養ディッシュ(FALCONR)のDME-10%FBS培地で5日間培養後,コンフルエントになった状態で,前記4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬および2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬を各々1ml,0,2,4,8,15,30,60分間接触させた後,シャ表1ニューキノロン系抗菌点眼薬の有効成分と添加物クラビットR点眼液0.5%トスフロR点眼液0.3%*オゼックスR点眼液0.3%ガチフロR0.3%点眼液ベガモックスR0.5%点眼液有効成分(1ml中)レボフロキサシン水和物(LVFX)トスフロキサシントシル酸水和物(TFLX)ガチフロキサシン水和物(GFLX)モキシフロキサシン塩酸塩(MFLX)5mgトスフロキサシンとして2.04mgガチフロキサシンとして3mgモキシフロキサシンとして5mg添加物塩化ナトリウム硫酸アルミニウムカリウム塩化ナトリウムホウ酸pH調整剤ホウ砂塩酸等張化剤塩化ナトリウム水酸化ナトリウムpH調整剤2成分pH調整剤pH6.26.84.95.55.66.36.37.3浸透圧1.01.10.91.1(生理食塩水に対する比)0.91.1(0.9w/v%塩化Na液に対する比)0.91.1(0.9塩化Na液に対する比)*トシル酸トスフロキサシン(TFLX)は,2製品のうちトスフロR点眼液0.3%を使用した.表2非ステロイド性抗炎症点眼薬の有効成分と添加物ジクロードR点眼液(0.1%)ブロナックR点眼液(0.1%)有効成分ジクロフェナクナトリウム1mg/mlブロムフェナクナトリウム水和物1mg/ml添加物ホウ酸ホウ砂クロロブタノールポビドンポリソルベート80ホウ酸,ホウ砂,乾燥亜硫酸ナトリウムエデト酸ナトリウム水和物,ポビドンポリソルベート80ベンザルコニウム塩化物水酸化ナトリウムpH6.07.58.08.6浸透圧約1.0———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009401(119)ーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測し50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.CDT50は,得られた生存率を基にして,時間-細胞死の曲線が二次関数になると仮定し,最小近似法で二次関数を決定後,細胞死が50%になる時間を算出した.二次方程式の解の公式,ax2+bx+c=0(≠0),x=b±-4ac/2aを用いた.CDT50を基準に,①5分以内(高度障害),②530分(中度障害),③30分以上(低度障害)に分類した.2.塩化ベンザルコニウムのSIRCに及ぼす影響SIRC(2×105cells)をDME-10%FBS培地で5日間培養後,生理食塩水と各濃度のベンザルコニウム塩化物溶液(0.01%,0.002%,0.005%)を各々1ml,0,2,4,8,15,30分間接触させた後,シャーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測しCDT50を算出した.II結果1.各種点眼薬のSIRCに対する影響(図1,2)4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上で,細胞障害の程度は低く,角膜障害への影響は少ないと考えられた.2種類の非ステロイド性抗炎症点眼薬は接触時間の経過とともに細胞生存率が徐々に減少し,CDT50はジクロフェナクナトリウム点眼液では1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分と,いずれも高度の細胞障害が認められた.また,その影響はジクロフェナクナトリウム点眼液0.1%で有意に大きかった(p<0.001,Studentt-検定).2.ベンザルコニウム塩化物のSIRCに及ぼす影響(図3)生理食塩液,0.002%および0.005%ベンザルコニウム塩化物溶液のCDT50はいずれも30分以上と長く,細胞障害への影響は少なかったが,0.01%溶液では8.1分であり中度の障害がみられた.III考按筆者らはこれまでにSIRCを用いて種々の点眼薬の角膜細胞への影響を評価している.このSIRCは米国の細胞バンクにある家兎の角膜由来の樹立細胞で,世界的にさまざまな分野の研究に用いられている.眼の角膜障害試験においても広く使用されており,筆者らはSIRCを用いた角膜障害の評価法を独自に開発し,これまでに数多くの薬物の評価を行っている1,9).また,未公開の成績であるが,予備実験において筆者らはSIRCで得た抗菌点眼薬の細胞障害の成績とヒト由来角膜上皮細胞株(HCE-T)を用いた成績では大きな差がないことを確認したうえで,SIRCを実験に用いている.今回は,有効成分が抗菌作用を示し添加物に防腐剤が含まれていないニューキノロン系抗菌点眼薬に着眼し,防腐剤を含む非ステロイド性抗炎症点眼薬との角膜細胞への影響の相理時間(分)生存率(%)20406080100012340*:p<0.001Student’st-testn=5~6*******:ブロムフェナクナトリウム2.56:ジクロフェナクナトリウム水和物1.16CDT50(分)図2非ステロイド系抗菌点眼薬のSIRCへの影響分=5~6CDT50(分)020406080100051525301020:ベンザルコニウム塩化物0%(生食)>30:ベンザルコニウム塩化物0.002%>30:ベンザルコニウム塩化物0.005%>30:ベンザルコニウム塩化物0.01%8.1図3ベンザルコニウム塩化物溶液のSIRCへの影響0分1分4分8分15分30分60分TFLX100.097.691.596.194.496.895.9GFLX100.092.587.392.295.189.975.8LVFX100.096.698.193.491.179.661.4MFLX100.086.289.680.076.567.552.8図1ニューキノロン抗菌点眼薬のSIRCへの影響=4~6生存率(%)処理時間(分)———————————————————————-Page4402あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(120)違を検討した.眼科医療に携わる者にとって,点眼薬の安全性を知ることは,臨床において大変重要な事項である.点眼薬による角膜上皮障害は主剤あるいは添加物による細胞毒性が直接かかわると考えられる3).添加物の一つである防腐剤には,ベンザルコニウム塩化物,クロロブタノール,パラオキシ安息香酸エステル類などが使用されているが,これらは難治性の角膜上皮障害をひき起こす可能性が報告されている3).認可市販されている点眼薬のうち,60%にベンザルコニウム塩化物が使用されているといわれており4),その濃度は0.0010.01%である5,6).高橋ら7)は,ヒト結膜上皮細胞を用いた細胞毒性試験においてベンザルコニウム塩化物は低濃度でも細胞に障害を認めるため,通常濃度としては0.00250.005%が妥当であるとしながらも,たとえ0.0025%でも頻回点眼により粘膜障害を生じる可能性があることを報告している.点眼薬の角膜細胞障害性の客観的評価方法についてこれまであまり検討されてこなかったが,筆者らはCDT50(分)を指標とする評価方法を考案し,活用している.今回もSIRCを5日間培養した後,各点眼薬を一定時間接触させてシャーレに残存した細胞数をCoulterカウンターで計測して生存率(%)を算出し,培養細胞に接触してから細胞生存率が50%にまで減少した時点の時間で評価した.今回の検討では,薬剤接触後60分間測定を行ったが,4種類のニューキノロン系抗菌点眼薬のCDT50はいずれも60分以上であり,細胞障害は低度であることが確認された.また,臨床的には05分までの点眼早期におけるCDT50が重要な意味をもつと考えているが,今回の成績では,いずれの点眼薬の早期の生存率も高く,角膜障害性が低いことが予想された.細胞障害性が低かった原因として,主剤そのものの細胞障害性が低いことに加え,防腐剤が含まれておらず,添加物の数も少なかったことが推察される.なお,点眼薬の接触時間とともにMFLX点眼液,LVFX点眼液,GFLX点眼液,TFLX点眼液の順で細胞生存率の減少がみられた.4薬剤間の有意差は検討していないが,TFLX点眼液における生存率減少カーブは緩やかであり,細胞障害への影響が最も少ない結果であった.この結果は,薬液添加後72時間培養後の細胞増殖に対する影響をみた櫻井ら8)の報告と異なるものとなったが,これは櫻井らが主剤の原末を溶解して使用したのに対して,本研究では臨床での影響を直接評価するために点眼液をそのまま用いたことなどが理由にあげられる.今回,家兎由来SIRC細胞で角膜障害性を評価したが,その一方で,多くの研究者によって角膜実質細胞に対しても評価が行われ,角膜上皮細胞との相違点が明らかにされている811).一方,非ステロイド性抗炎症点眼薬においては,防腐剤のベンザルコニウム塩化物が点眼による副作用として角膜上皮障害を起こすことが報告されている12).ジクロフェナクナトリウム点眼液においては,主剤とクロロブタノールとの相互作用により細胞障害が増加している可能性が高いことを,筆者らは確認している13).また,主剤である非ステロイド性抗炎症薬が角膜上皮障害を起こしうることも示唆されており,その原因としてシクロオキシゲナーゼ阻害によりリポキシゲナーゼが活性化され,生成されたさまざまなケミカルメディエーターにより炎症細胞の浸潤が起こる,細胞増殖抑制作用による,角膜知覚低下によるなどさまざまな説が提唱されている14).今回の検討において,ジクロフェナクナトリウム点眼液のCDT50は1.16分,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では2.56分であり,両薬剤ともに高度の細胞障害がみられた.ジクロフェナクナトリウム点眼液には防腐剤としてクロロブタノールが,ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液にはベンザルコニウム塩化物が含まれており,角膜障害には主剤そのものの影響に加え,これら防腐剤の影響があったものと推察される.ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液では,主剤以外に種々の添加物を含み,特にベンザルコニウム塩化物を含んでいることが障害の大きな原因ではないかと考えている.ベンザルコニウム塩化物を含まないジクロフェナクナトリウム点眼液において細胞障害が有意に強かったが,これは白内障術後の角膜上皮障害について検討した進藤ら11)の報告とも一致する.防腐剤を含めた添加物の濃度は各点眼薬により異なり,その種類も多いことから,ベンザルコニウム塩化物以外の添加物またはその濃度が複雑に角膜上皮に影響を及ぼしている可能性がある.したがって,主剤はもちろん防腐剤を含めた添加物の種類およびその濃度による影響については今後の検討課題である.いずれにしろ,今回検討したニューキノロン系抗菌点眼薬はいずれも角膜細胞への影響が少ないことがCDT50を用いた評価で確認された.客観的評価に基づく今回の結果は,細菌性外眼部感染症および眼科周術期におけるニューキノロン系抗菌点眼薬の有用性を細胞障害性,すなわち安全性の側面から裏付ける有意義な知見といえよう.文献1)福田正道,村野秀和,山本佳代ほか:クロモグリク酸ナトリウム点眼液の角膜細胞への影響.あたらしい眼科22:1675-1678,20052)小玉裕司:コンタクトレンズと点眼薬.日コレ誌49:268-271,20073)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,20084)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,19935)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,1989———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009403(121)6)島潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,19917)高橋信夫,向井佳子:点眼用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19878)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20069)SeitzB,HayashiS,WeeWRetal:Invitroeectofami-noglycosidesanduoroquinolonesonkeratocytes.InvestOphthalmolVisSci37:656-665,199610)LeonardiA,PapaV,FregonaIetal:Invitroeectsofuoroquinoloneandaminoglycosideantibioticsonhumankeratocytes.Cornea25:85-90,200611)CutarelliPE,LassJH,LazarusHMetal:Topicaluoro-quinolones:antimicrobialactivituabdinvitrocornealepi-thelialtoxicity.CurrEyeRes1:557-563,199112)新城百代,仲村佳巳,酒井寛ほか:防腐剤を含まないb遮断薬による角膜上皮障害の改善.臨眼97:539-542,200313)福田正道,山代陽子,萩原健太ほか:ジクロフェナクナトリウム点眼薬の培養家兎角膜細胞に対する障害性.あたらしい眼科22:371-374,200514)進藤さやか,飯野倫子,大下雅世ほか:白内障術後の非ステロイド抗炎症薬による角膜上皮障害.眼紀56:247-250,2005***

NTT 西日本九州病院眼科における感染性角膜炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(113)3950910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):395398,2009cはじめに近年の優れた広域スペクトルの抗菌薬の開発・使用によって感染性角膜炎の治癒率は向上してきた感がある.一方において,耐性菌の出現や抗菌薬が無効である真菌やアカントアメーバによる角膜炎の増加,角膜感染の契機として重要なコンタクトレンズ(CL)の普及と消毒方法の変化に伴い,感染性角膜炎の様相も変化してきている1).そこで,筆者らはNTT西日本九州病院眼科(以下,当科)における最近の感染性角膜炎の動向を検討したので報告する.I対象および方法対象は平成18年11月より平成20年2月までの1年4カ月間に当科を受診し,細菌,真菌,あるいはアカントアメーバによると考えられる感染性角膜炎患者(菌が分離されていないが塗抹鏡検で診断されたものや,臨床所見からのみ診断されたものも含む)で入院治療を行った41例41眼(男性17例17眼,女性24例24眼)である.これらの①年齢分布,②感染の誘因,③起炎菌,④治療経過,⑤視力予後について検討した.また,その結果を感染性角膜炎全国サーベイラン〔別刷請求先〕中村行宏:〒862-8655熊本市新屋敷1丁目17-27NTT西日本九州病院眼科Reprintrequests:YukihiroNakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NTTWestKyushuGeneralHospital,1-17-27Shinyashiki,Kumamoto862-8655,JAPANNTT西日本九州病院眼科における感染性角膜炎中村行宏*1松本光希*1池間宏介*1谷原秀信*2*1NTT西日本九州病院眼科*2熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学InfectiousKeratitisDiagnosedandTreatedatNTTWestKyushuGeneralHospitalYukihiroNakamura,KokiMatsumoto,KousukeIkema1)andHidenobuTanihara2)1)DepartmentofOphthalmology,NTTWestKyushuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:NTT西日本九州病院眼科における感染性角膜炎の最近の動向を検討した.方法:対象は平成18年11月より平成20年2月までに入院治療を行った41例41眼である.年齢分布,誘因,起炎菌,治療経過および視力予後について検討し,感染性角膜炎全国サーベイランス(2003)と比較検討した.結果:年齢分布は20代と60代にピークを認めた.誘因はコンタクトレンズ(CL)によるものが最多であった.起炎菌は緑膿菌が8株,Corynebacteriumspp.4株,アカントアメーバ4株などであった.7眼に観血的手術が必要であった.初診時失明眼を除き,全例に視力改善を認めた.結論:起炎菌は若年者ではCLに関連した緑膿菌やアカントアメーバが多く,中高齢者では既存の角膜疾患でのCorynebacteriumが目立った.今回の結果は全国サーベイランスと酷似し,全国的な傾向を反映していた.ToinvestigatethecurrentstatusofinfectiouskeratitisatourHospital,wereviewedthemedicalrecordsof41eyesof41patientswithinfectiouskeratitistreatedfromNovember2006toFebruary2008,inregardtoagedistri-bution,predisposingfactor,causativemicroorganism,diseaseprocess,andvisualprognosis.WecomparedtheseresultswiththeNationalSurveillanceStudyofinfectiouskeratitisinJapan(2003).Agedistributiondemonstrated2peaksinthe20sandinthe60s.Themostpredisposingfactorwascontactlens(CL)wear.ThemostfrequentlyisolatedmicroorganismwasPseudomonasaeruginosa(8),followedbyCorynebacteriumspp.(4),Acanthamoeba(4),etc.Seveneyesrequiredsurgery.Visualacuityimprovedinalleyes,exceptingthoseblindatrstvisit.P.aerugi-nosasandAcanthamoebawerefoundtocausekeratitispredominantlyinyoungerCLwearers,whereasCorynebac-teriumspp.wererelatedtoexistingcornealdiseasesinelderly.Theseresultsweresimilartothoseofthenationalstudy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):395398,2009〕Keywords:感染性角膜炎,コンタクトレンズ,発症誘因,起炎菌,サーベイランス.infectiouskeratitis,contactlens,predisposingfactor,causativemicroorganism,surveillance.———————————————————————-Page2396あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(114)ス(2003)と比較した.II結果1.年齢分布年齢は293歳(平均47.9歳)であったが,その分布は図1に示すように20代を中心とする前半のピークと60代以降に後半のピークを認める二峰性の分布パターンを示した.性差では60代以降に女性が多い傾向にあった.2.感染の誘因感染の誘因と考えられたものは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)が最多で17眼(42%),ついで水疱性角膜症や角膜白斑などの既存の角膜疾患が10眼(25%),外傷3眼(7%),コントロール不良の糖尿病(DM)2眼(5%),睫毛乱生2眼(5%),兎眼2眼(5%),慢性涙炎1眼(2%),巨大乳頭結膜炎(GPC)1眼(2%),不明が3眼(7%)であった(図2).これらの誘因を年代別にまとめたものを図3に示す.誘因として最も多かったSCLでは,実に17眼中16眼(94%)が30代までに集中していた.特に20代では10眼全例(100%),10代では6眼中5眼(83%),30代では2眼中1眼(50%)がSCLに関連するものと考えられた.50代以降にSCLが誘因となったものは治療用SCL使用の1眼のみであった.対照的に50代以降の誘因として最も多かったのは,既存の角膜疾患で,10眼(24%)であった.ついで外傷3眼(7%),コントロール不良のDM2眼(5%),などであった.3.起炎菌対象になった41例41眼すべてにおいて初診時に角膜擦過が施行されていた.うち25眼で起炎菌が同定でき,検出率は61%であった.このうち複数の菌が検出されたものが3眼あったが,塗抹鏡検にての菌量や培養結果,角膜の所見より起炎菌と考えられるものはそれぞれ1菌種であった.緑膿菌が最多で8眼(20%),ついでアカントアメーバが4眼(10%),Corynebacteriumspp.が4眼(10%),肺炎球菌が3眼(7%),Moraxellaspp.が2眼(5%),真菌が2眼(5%),Staphylococcusaureus(MSSA)が1眼(2%),Streptcoccusspp.が1眼(2%)より同定された(図4).これらの起炎菌と感染の誘因の関連を図5に示す.特徴的なものは,同定された起炎菌のなかで,最多であった緑膿菌はSCL装用に関連したものが多く,実に8眼中6眼(75%)を占めていた.アカントアメーバが認められた4眼はすべて(100%)SCL装用眼であった.そのほかではCorynebacteri-umspp.感染が4眼に認められ,2株はレボフロキサシン耐性であった.また,ここでもSCLの関与が1眼あり,残りの3眼は80代の既存の角膜疾患と90代の慢性涙炎の患者であった.4.治療経過発症から当科受診日までの期間は,230日(平均8.7日)であった.41例中36例(88%)が治療目的の紹介患者であ024681012:男性:女性眼数0990代80代70代60代50代40代年齢(歳)30代20代10代図1年齢分布と性差眼代代代代代代年齢()代代代炎眼角膜図3年代別誘因眼()眼()眼()性炎眼()眼眼()眼()眼()眼()角膜眼()図2感染の誘因菌眼()ンー眼()菌眼()眼()眼()炎菌眼()眼()眼()眼()図4起炎菌———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009397(115)った.保存的療法で角膜炎が鎮静化したものが34眼(83%)であった.手術療法を要した症例が7眼(17%)であった.ただし,この7眼はすべて紹介患者であり,うち6眼は初診時にすでに穿孔していた.手術内容は,4眼はすでに光覚がないことが確認できたため,眼球内容除去術を施行した.その他の3眼に対しては,可及的速やかに治療的全層角膜移植術を施行した.穿孔した7眼から検出された菌は,緑膿菌が3株,肺炎球菌1株,Staphylococcusaureus(MSSA)1株,Corynebacte-riumspp.1株,起炎菌不明のものが1眼であった.潰瘍消失までの期間は,手術施行例や,アカントアメーバ角膜炎など潰瘍に至らなかったものは除外した場合,246日(平均10.3日)であった.入院期間は547日(平均17.8日)であった.5.視力予後初診時および最終視力を対数表示したものを図6に示す.初診時すでに光覚がなかったものを除くと,当院での治療後で視力が低下したものはなく,穿孔例も手術治療によって視力向上が得られた.III考察〈感染性角膜炎全国サーベイランス(2006)1)との比較検討〉今回の検討で当科を受診した感染性角膜炎の年齢分布は,20代と60代にそのピークを認める二峰性の分布パターンを示しており,これは感染性角膜炎全国サーベイランス(2006)におけるわが国での感染性角膜炎のものとほぼ一致した1).さらに,CL使用例が42%を占めていたが,全国サーベイランスでも41.8%とほぼ同率の報告であった.そのうち,特に前半のピークでは,10代での角膜炎発症症例の83%(全国サーベイランス96.3%),20代での発症症例の100%(サーベイランス89.8%)がCL使用によるものであった.当科でのCL使用例の年齢分布も全国サーベイランスときわめて類似しており,CL使用による感染性角膜炎の増加と低年齢化は全国的規模で進んでいることが窺えた.起炎菌についてはグラム陰性桿菌である緑膿菌が最多(8株20%)であり,グラム陽性球菌は5株(12%)に留まった.一方,全国サーベイランスではグラム陽性球菌が261例中63株(24.1%)で最多であり,緑膿菌は9株(3.4%)のみであった.かねてより熊本では緑膿菌やSerratiaなどのグラム陰性桿菌が多いことは報告されていた2,3)が,今回もそれを裏付ける結果となった.海外では香港で同じように緑膿菌が多いとの報告があり4),気候的な要因があるかもしれない.アカントアメーバについては4株(10%)認められ,全国サーベイランス2株(0.7%)と比較しても多かった.最近の学会などの印象ではCLの普及とその消毒法の変化によってアカントアメーバ角膜炎が確実に増加していると思われる.その他ではCorynebacteriumspp.が4株(10%)(サーベイランス10株3.8%)認められた.Corynebacteriumが角膜炎の起炎菌に成りうるのかについては議論のあるところであるが,最近の報告5,6)と当科で認められた症例をみる限り,CLの不適切な使用や免疫不全,既存の角膜疾患など条件が揃えば起炎菌に成りうるかと思われた.このうち2株はレボフロキサシン耐性であり,1株において角膜移植後の患者より検出された.長期にわたるレボフロキサシン点眼による耐性化の可能性も考えられた.また,レボフロキサシン耐性株ではないものの,1株は穿孔例から分離されていた.Corynebac-teriumが角膜を穿孔に至らしめるとは考えにくいが,手術時に切除した角膜自体から分離培養されており,起炎菌である可能性はあると考えている.CLと起炎菌の関連について,緑膿菌8例中6例(75%),アカントアメーバ4例全例(100%)がCL装用者であり,関連性が高かった.全国サーベイランスでも緑膿菌が検出された9例中6例(66.6%),表皮ブドウ球菌が検出された17例中10例(58.8%)にCL装用が関与しており,この2菌種眼数:不明:GPC:涙炎:兎眼:睫毛乱生:DM:外傷:角膜疾患:SCLMSSAStreptcoccusspp.真菌Moraxellaspp.肺炎球菌Corynebacteriumspp.アカントアメーバ緑膿菌0123456789図5誘因と起炎菌的治療治療視力視力図6視力予後———————————————————————-Page4398あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(116)が他と比べて多かったとしている.CL普及に伴い角膜感染症の誘因として増加していること,また,若年齢化をきたしていること,さらに当県は以前より緑膿菌感染が多く認められることは前述のとおりであり2,3),これらを踏まえると今後当県におけるCL関連性角膜炎の増加や重症化が危惧される.今回の検討では緑膿菌に関しては幸いレボフロキサシン耐性菌はなく,治療予後は比較的良好であったが,フルオロキノロン全盛となっている昨今,耐性菌の出現も懸念される.治療経過では潰瘍消失までの平均日数が17.8日,平均入院日数が19.8日と全国サーベイランスの治療平均日数が28.7日であったことと比べて良好であった.今回,穿孔が7例みられたが,当科で治療したにもかかわらず穿孔に至ったものは1例(2%)のみであった.一般的に視力予後が悪いとされている緑膿菌による角膜潰瘍でも7),全例視力の向上が得られており,比較的良好な治療成績であったと思われる.その要因としては,まず,感染性角膜炎が疑われる症例に対しては全例に角膜擦過を行い,起炎菌検索を行っていることがあげられる.前医ですでに抗菌薬が使用されていたものが29例(71%)あるものの(全国サーベイランス39%),当科での起炎菌の検出率は61%(全国サーベイランス43.3%)と比較的良好であり,早期に治療方針が立てられ,これが治療成績につながったと思われる.北村ら8)も報告しているように,治療方針決定に際して何らかの形で微生物的検査の結果が反映されることが重要である.つぎに,重症例に対しては夜間も頻回点眼を行うなど積極的な治療が有効であったと思われる.しかし,このような治療でも穿孔に至った症例もあり,進行した感染性角膜炎に対しては抗菌薬のみでの治療では十分といえず,プロテアーゼインヒビターなどの新しい治療薬の開発が強く望まれる7).今回の検討では起炎菌として緑膿菌が多いという地域性が認められたものの,年齢分布,誘因において感染性角膜炎全国サーベイランスとほぼ同様の結果であった.特に感染の誘因として重要であったCLの装用率まで酷似していた.今回の検討は全国的な感染性角膜炎の動向を反映し,CL関連の感染性角膜炎が増加し,低年齢化しているという全国サーベイランスの結果を裏付けるものとなった.謝辞:本稿を終えるにあたり,塗抹鏡検および分離培養にご尽力いただいた当院臨床検査科細菌室江藤雄史氏に深謝いたします.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,19983)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去3年間の細菌性角膜潰瘍症例の検討.あたらしい眼科17:390-394,20004)LamDSC,HouangE,FanDSPetal:IncidenceandriskfactorsformicrobialkeratitisinHongKong:comparisonwithEuropeandNorthAmerica.Eye16:608-618,20025)RubinfeldRS,CohenEJ,ArentsenJJetal:Diphtheroidsasocularpathogens.AmJOphthalmol108:251-254,19896)柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の1例.あたらしい眼科21:801-804,20047)McLeodSD,LaBreeLD,TayyanipourRetal:Theimportanceofinitialmanagementinthetreatmentofsevereinfectiouscornealulcers.Ophthalmology102:1943-1948,19958)北村絵里,河合政孝,山田昌和:感染性角膜炎に対する細菌学的検査の意義.眼紀55:553-556,2004***

当院でのアカントアメーバ角膜炎の検討

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1390あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)390(108)0910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):390394,2009cはじめに最近アカントアメーバ角膜炎が急増を示している1).わが国では8590%2,3)がコンタクトレンズ(CL)装用者に発症するといわれている.アカントアメーバは土壌や水道水など身近な所に生息しており,季節性はなく4),CLの保存ケースからもしばしば発見され,CL関連の角膜炎のなかでも予後不良なものとして問題となっている.今回筆者らの施設で経験したアカントアメーバ角膜炎を検討したところ,若干の知見を得たので報告する.I症例1.対象対象は20032008年の間に当院を受診したアカントアメーバ角膜炎患者12例14眼,男性8例9眼,女性4例5眼で,年齢は1756歳(平均33.3歳),CL使用者は14眼中13眼で92.9%を占めていた.そのうち,ソフトCL(SCL)が10例12眼(85.7%),ハードCL(HCL)が1眼(7.1%)で,SCLの内訳は,頻回交換型SCL(FRSCL)6眼,定期交換型SCL2眼,非含水性SCL1例2眼,従来型SCL1例2〔別刷請求先〕野崎令恵:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西井上眼科病院Reprintrequests:NorieNozaki,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN当院でのアカントアメーバ角膜炎の検討野崎令恵宮永嘉隆西葛西井上眼科病院ExaminationofAcanthamoebaKeratitisinOurHospitalNorieNozakiandYoshitakaMiyanagaNishikasai-InouyeEyeHospital目的:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過より対策を検討すること.対象:20032008年の間に当院を受診したアカントアメーバ角膜炎12例14眼,男性8例9眼,女性4例5眼で,年齢は1756歳(平均33.3歳),コンタクトレンズ(CL)使用者は14眼中13眼(92.9%)で,そのうちソフトCL(SCL)が12眼,SCLの中では頻回交換型SCLが半数を占めていた.残り1眼はCL・外傷の既往はなかった.アカントアメーバ角膜炎と診断し,治療は三者併用療法(病巣掻爬,抗真菌薬および消毒薬や抗原虫薬の局所点眼,抗真菌薬の全身投与)を行った.結果:2段階以上視力が改善したものは8眼(57.1%)で,不変5眼(35.7%),2段階以上低下したものは1眼(7.1%)であった.低下した1眼はCL装用歴・外傷の既往がなく,速い経過をたどり予後不良であった.結論:アカントアメーバ角膜炎に三者併用療法は有効である.In14eyesof12Acanthamoebakeratitispatientswhoconsultedaphysicianatourhospitalbetween2003and2008,weexaminedmeasuresfromtheclinicalcourseforAcanthamoebakeratitis.Thepatientsconsistedof8males(9eyes)and4females(5eyes)(agerange:17to56years;average:33.3years).Contactlenses(CL)wereusedin13ofthe14eyes(92.9%);especiallysoftCL(SCL)wereusedin12eyes,halfofthosebeingfrequentreplace-mentSCL(FRSCL).TheremainingeyedidnothaveahistoryofCLuseorinjury.ItwasdiagnosedwithAcan-thamoebakeratitis,andreceivedthree-combinationtreatment.Eyesightimprovedmorethantwostagesin8eyes(57.1%),therewasnochangein5eyes(35.7%)andeyesightdecreasedmorethantwostagesin1eye(7.1%).TheeyewithnohistoryofCLuseorinjurywasatracingbadprognosisunlikeanotherasforearlypassage.Three-combinationtreatmentiseectiveagainstAcanthamoebakeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):390394,2009〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,三者併用療法,感染性角膜炎.Acanthamoebakeratitis,three-combinationtreatment,infectiouskeratitis.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009391(109)眼であった.既往にCL装用歴のない1眼(7.1%)は外傷の既往がなく,診断が困難であった.2.初診時所見・治療経過初診時に石橋分類2,3)にて初期のものが8例8眼で視力0.061.2,移行期は3例3眼で視力0.010.3,完成期は3例3眼でいずれも視力は指数弁であった.なお,初期に点状表層角膜炎や樹枝状角膜炎を認め,角膜ヘルペスを疑われ加療されたが治療に奏効せず,難治性の角膜炎として当院へ紹介されたものがほとんどであった.臨床所見ならびに角膜擦過物の検鏡よりアカントアメーバ角膜炎と診断し,治療は石橋らの提唱する三者併用療法2,3)(①病巣掻爬,②抗真菌薬および消毒薬や抗原虫薬の点眼,③抗真菌薬の全身投与)に加えて補助療法として抗菌薬,角膜保護薬,散瞳薬,ステロイド薬の各点眼液を適宜使用した.3.結果病期ごとによる加療後の視力は初期では2段階以上改善5眼,不変3眼,移行期では改善2眼,2段階以上低下1眼,完成期では改善1眼,不変2眼であった(表1).全体では改善したものが8眼(57.1%)で,不変5眼(35.7%),低下1眼(7.1%)と,三者併用療法は有効であった.低下したのはCL装用歴・外傷のない症例の1眼のみであった.初診時完成期であったが改善した例(症例1)と,唯一低下した1例(症例2)を以下に示す.II代表例呈示〔症例1〕37歳,女性.非含水性SCL(ソフィーナR)使用.2003年9月両眼の視力低下を自覚.近医にてレボフロキサシン(クラビットR)点眼,フルオロメトロン(フルメトロンR)点眼,アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏にて加療するも改善せず,約2週間後に前医紹介となった.臨床所見よりアカントアメーバを疑い,グラム染色で確認したが真菌,アメーバともに検出されなかった.フルコナゾール(ジフルカンR)の点眼・内服にて多少の改善をみたものの,右眼の中央に上皮欠損が生じ,5日後には前房蓄膿が出現,その後も悪化傾向にあったため前医初診ab図1症例1の前眼部写真右眼(a)は完成期,左眼(b)は移行期.表1全症例の治療前後の視力症例治療前治療後CLの種類初期35歳・男性17歳・男性19歳・男性23歳・男性18歳・女性17歳・女性19歳・女性53歳・男性*1.20.30.50.060.41.20.31.01.20.71.21.01.01.21.01.0FRSCL定期交換型SCL定期交換型SCLFRSCLFRSCLFRSCLFRSCL従来型SCL移行期53歳・男性*37歳・女性**53歳・男性0.010.050.30.71.2光覚弁従来型SCL非含水性SCLCLなし完成期37歳・女性**52歳・男性56歳・男性指数弁指数弁指数弁0.9指数弁指数弁非含水性SCLHCLFRSCL*,**はそれぞれ同一人物.CL:コンタクトレンズ,SCL:ソフトCL,HCL:ハードCL,FRSCL:頻回交換型SCL.———————————————————————-Page3392あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(110)時より8日後,当院紹介となった.初診時視力は右眼指数弁,左眼0.04(0.05×5.0D(cyl3.0DAx130°),角膜組織の培養検査にてアメーバのシストを確認し,アカントアメーバ角膜炎と診断した(図1).右眼は完成期,左眼は移行期であった.入院のうえ,三者併用療法として病巣掻爬,フルコナゾール(ジフルカンR)・0.04%クロルヘキシジン点眼1時間ごと,フルコナゾール(ジフルカンR)100mgもしくはミカファンギン(ファンガードR)150mg点滴を行った.それに加えて抗菌薬のレボフロキサシン(タリビッドR)点眼3/day,角膜保護薬のヒアルロン酸(0.3%ヒアレインRミニ)点眼と血清点眼3/day,散瞳薬のアトロピン点眼1/day,ステロイドのベタメタゾン(リンデロンRA)点眼02/dayを使用した.ステロイド点眼は消炎と角膜透明度の改善のために,厳重な経過観察のもと使用した.経過中両眼ともに前房蓄膿が出現し,難治性であり,病巣掻爬は合計右眼15回,左眼7回施行した.退院後も通院加療を続け,発症より8カ月経過したところでフルコナゾール(ジフルカンR)とクロルヘキシジン(クロルヘキシジンR)の点眼を中止した.その後は状態をみながら角膜保護薬や抗菌薬の点眼を使用している.視力は治療開始約5カ月後に左眼0.4(1.2×+9.0D),右眼0.4(0.5×+4.5D)と改善し,約4年4カ月後には右眼(0.9×+1.5D(cyl2.0DAx50°),左眼(1.2×+7.0D(cyl2.5DAx100°)となった.治療開始約10カ月後の前眼部写真を図2に示す.〔症例2〕53歳,男性.CL装用歴,外傷の既往なし.2004年4月トイレの不潔な水で洗眼し,こすった翌日に右眼痛発症.前医で角膜ヘルペスと診断され加療したが改善せず,2日後に当院紹介受診.視力は右眼0.8p(1.2×+1.5D),左眼0.3p(0.3×+0.5D(cyl2.0DAx70°).当院でも当初は角膜ヘルペスと考えてアシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏を右眼5/dayやバラシクロビル(バルトレックスR)1,000mg分2内服などで加療を開始した(図3).しかし発症より1週間後に前房蓄膿が出現.アカントアメーバ角膜炎を疑い検査したところ,アメーバのシストを確認し三者併用療法に加え,症例1と同様に治療を開始した.真菌,糸状菌,一般細菌,肺炎球菌,緑膿菌,嫌気性菌は入院中3回検査したが陰性であった.三者併用療法にも奏効せず,発症より5週間後に角膜穿孔を起こし(図4),大学病院へ紹介となり強角膜片移植を施行ab図2症例1の発症より11カ月後の前眼部写真(a:右眼,b:左眼)図3症例2の前眼部写真CL装用歴や外傷の既往がなく診断が困難であった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009393(111)された(図5).移植後の視力は光覚弁であった.III考按アカントアメーバ角膜炎が初期の段階で発見され治療を開始したものでは比較的良好な予後が得られる5,6)ことは当然だが,移行期,完成期のものでも良好な視力が得られたものもあった.アカントアメーバ角膜炎の治療に三者併用療法は有効と思われる.また,両眼同時期に発症したものであっても,病期や経過は一様ではない7)ことが,今回筆者らの経験した症例からも言える.オルソケラトロジーレンズ811)や毎日交換型SCL12,13)での発症も報告があり,どんなレンズでもアカントアメーバ角膜炎は発症するが,なかでもFRSCLの発症が多く発表されている2).これにはユーザーの数が多いことも一つの原因としてあげられるかもしれないが,2週間であればそれほど長期でないために患者がCLのケアを怠ったり,連続装用したりするような心理環境に陥りやすいのかもしれない.また,現在のマルチパーパスソリューション(MPS)ではアメーバの発育は阻止できないため,患者にこすり洗いを必ず行うように指導することが必要であるが,適切なケアを行っていても感染した事例が報告されており14),注意が必要であると思われる.前述のとおり日本では,アカントアメーバ角膜炎患者の8590%がCL装用者で,残りの1015%は外傷によるものと考えられている2,3).欧米でも同類の報告がみられる1517)が,インドではアカントアメーバ角膜炎にCLが占める割合は68%程度で,外傷や不潔な水が眼球に接触することで発症するものが多いという18).CL装用歴や外傷の既往がなくとも臨床所見や症状によってはアカントアメーバ角膜炎を念頭に置いて考える必要があると思われた.今回筆者らの経験したCL装用歴・外傷の既往のない1眼は,5週間という速い経過で角膜穿孔をきたし,他とは明らかに経過が異なるため,筆者らの施設では形態学的,遺伝子学的分類を施行していなかったため不明であるが,感染したアカントアメーバの株が異なる可能性が示唆された.今後はアカントアメーバの株によって臨床所見が異なるものか否かを多施設において検討することが,アカントアメーバ角膜炎の病態の解明と対策につながるのではないかと考える.稿を終えるにあたり,御指導いただきました東京女子医科大学東医療センターの高岡紀子先生に感謝いたします.文献1)IbrahimYW,BoaseDL,CreeIA:FactorsaectingtheepidemiologyofAcanthamoebakeratitis.OphthalmicEpi-demiol14:53-60,20072)大石恵理子,石橋康久:アカントアメーバについて教えてください.あたらしい眼科23(臨増):94-97,20063)石橋康久:2.角結膜3)感染症b.真菌性(含:アカントアメーバ).眼科47:1551-1558,20054)ManikandanP,BhaskarM,RevanthyRetal:Acan-thamoebakeratitis─AsixyearepidemiologicalreviewfromatertiarycareeyehospitalinSouthIndia.IndJMedMicrobiol22:226-230,20045)ThebpatiphatN,HammmersmithKM,RochaFNetal:Acanthamoebakeratitis:aparasiteontherise.Cornea26:701-706,2007図5大学病院での強角膜片移植後の所見図4症例2の発症より5週間後の所見角膜穿孔を起こし,大学病院に紹介となった.———————————————————————-Page5394あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(112)6)ClearhoutI,GoegebuerA,VanDenBroeckCetal:DelayindiagnosisandoutcomeofAcanthamoebakerati-tis.GraefesArchClinExpOphthalmol242:648-653,20047)渡辺敬三,妙中直子,福田昌彦ほか:両眼性に発症したアカントアメーバ角膜炎の一例.日本眼感染症学会誌2:53,20078)WongVW,ChiSC,LamPS:GoodvisualoutcomeafterprompttreatmentofAcanthamoebakeratitisassociatedwithovernightorthokeratologylenswear.EyeContactLens33:329-331,20079)福地裕子,西田幸二,前田直之ほか:オルソケトロジー装用者に認められたアカントアメーバ角膜炎の一例.眼紀58:503-506,200710)WilhelmsKR:Acanthamoebakeratitisduringorthokera-tology.Cornea24:864-866,200511)LeeSJ,JeongHJ,LeeJSetal:MolecularcharactizationofAcanthamoebaisolatedfromamebickeratitisrelatedtoorthokeratologylensovernightwear.KorJParasitol44:313-320,200612)NiyadurupolaN,IllingworthCD:Acanthamoebakeratitisassociatedwithmisuseofdailydisposablecontactlens.BrJContactLensAssoc29:269-271,200613)堀由紀子,望月清文,波多野正和ほか:ワンデーディスポーザブルソフトコンタクトレンズ装用中に生じたアカントアメーバ角膜炎の一例.あたらしい眼科21:1081-1084,200414)中川尚:アカントアメーバ角膜炎とコンタクトレンズ.日コレ誌49:76-79,200715)JoslinCE,TuEY,McMahonTTetal:EpidemiologicalcharacteristicsofaChicago-areaAcanthamoebakeratitisoutbreak.AmJOphthalmol142:212-217,200616)TzanetouK,MiltsakakisD,DroutsasDetal:Acanth-amoebakeratitisandcontactlensdisinfectingsolutions.IntJOphthalmol220:238-241,200617)ButlerTK,MalesJJ,RobinsonLPetal:Six-yearreviewofAcanthamoebakeratitisinNewSouthWales,Austra-lia:1997-2002.ClinExpOphthalmol33:41-46,200518)ErtabaklerH,TurkM,DayanirVetal:AcanthamoebakeratitisduetoAcanthamoebagenotypeT4inanon-con-tact-lenswearerinTurkey.ParasitolRes100:241-246,2007***

a 溶血レンサ球菌による白内障術後眼内炎と当院におけるレボフロキサシン耐性率

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(105)3870910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):387389,2009cはじめにa溶血レンサ球菌(以下,a溶連菌)は緑色レンサ球菌ともよばれ,おもに口腔内の常在菌である.内科領域では心内膜炎の起炎菌として重要であるが,結膜からも常在菌としてしばしば分離され,急性結膜炎や涙炎などの起炎菌にもなる1,2).白内障術後眼内炎の起炎菌ではブドウ球菌や腸球菌が有名であるが,レンサ球菌属もしばしば分離される3).しかしながら,a溶連菌が起炎菌となった術後眼内炎についての報告は少ない4).今回筆者らはa溶連菌による予後不良な白内障術後眼内炎を経験したので,当院での本菌の分離状況とレボフロキサシン耐性状況も含めて報告する.II症例患者:78歳,女性.2007年2月19日に他院にて右眼に耳側角膜切開による超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を2泊入院にて施行された.術後経過は良好であったが,2月28日に右眼眼痛と充血を自覚し,翌日3月1日に眼科受診したところ眼内炎と診断され,当院紹介受診となった.3月〔別刷請求先〕星最智:〒780-0935高知市旭町1-104町田病院Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kochi-shi,Kochi780-0935,JAPANa溶血レンサ球菌による白内障術後眼内炎と当院におけるレボフロキサシン耐性率星最智大塚斎史北澤耕司橋田正継卜部公章町田病院Alpha-HemolyticStreptococcalEndophthalmitisafterCataractSurgeryandPrevalenceofLevooxacinResistanceinMachidaHospitalSaichiHoshi,YoshifumiOhtsuka,KojiKitazawa,MasatsuguHashidaandKimiakiUrabeMachidaHospital症例は78歳,女性.他院で右眼白内障手術後眼内炎と診断され当院紹介受診となる.初診時右眼視力は光覚弁であり重度の前房蓄膿とびまん性の角膜浮腫を認めた.ただちに硝子体手術と眼内レンズ摘出を行ったが,網膜障害が強く予後不良であった.術中硝子体液からはa溶血レンサ球菌(以下,a溶連菌)が分離され,感受性検査ではアミノグリコシド系に耐性,セフェム系およびレボフロキサシンとガチフロキサシンに中間耐性を示した.2006年1月から2007年12月までに当院外来受診患者から分離培養された3,193株のうち3.0%がa溶連菌であった.レボフロキサシンに中間または耐性を示す株の割合は18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも高かった.A78-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalwiththediagnosisofendophthalmitisaftercataractsurgeryinherrighteye.Atrstexamination,rightvisualacuitywaslightperception;severehypopionanddiusecornealedemawerealsoobserved.Althoughvitrectomyandintraocularlensextractionwereperformed,visualoutcomewaspoorbecauseofsevereretinaldamage.Alpha-hemolyticstreptococcuswasrecoveredfromthevitreoussam-ple.Susceptibilitytestingshowedthisstraintoberesistanttoaminoglycosideantibioticsandintermediatelyresis-tanttocefemantibiotics,levooxacinandgatioxacin.FromJanuary2006toDecember2007atourhospital,3,193strainswereisolatedfromocularsamplesofoutpatients.Ofthesestrains,3.0%comprisedalpha-hemolyticstrepto-coccus;theresistancerateagainstlevooxacinwas18.1%inthealpha-hemolyticstreptococcus,higherthanthe7.3%inEnterococcusfaecalis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):387389,2009〕Keywords:眼内炎,緑色レンサ球菌,a溶血レンサ球菌,レボフロキサシン,耐性菌.endophthalmitis,viridansstreptococcus,alpha-hemolyticstreptococcus,levooxacin,antibiotics-resistance.———————————————————————-Page2388あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(106)1日当院初診時,右眼視力は光覚弁であり,右眼眼圧は30.7mmHgと高値であった.眼瞼浮腫と結膜充血を認めるが,疼痛の自覚はなかった.細隙灯検査では前房蓄膿と角膜切開部の浸潤および広範な角膜浮腫を認め,眼底透見不能な状態であった(図1a).ただちにバンコマイシンとセフタジジム灌流下で硝子体手術と眼内レンズ摘出を施行した.術中所見として硝子体混濁と網膜血管の白鞘化を認めた.術後はフロモキセフ2g/日の点滴を2日間とモキシフロキサシン400mg内服を2日間投与した.局所投与ではモキシフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼と0.1%ベタメタゾン点眼4/日,1%アトロピン点眼2/日を行った.また,術翌日も前房炎症が高度であったため,3月2日と3日にバンコマイシンとセフタジジム添加灌流液により前房洗浄を施行した.その後,次第に角膜浮腫と前房炎症は軽快し,3月22日には眼底検査にて網膜点状出血と網膜動脈の白線化が確認できる程度まで改善し,3月26日退院となった(図1b).8月14日の当院最終受診時の右眼矯正視力は0.03であり,失明は免れたものの予後不良な状態であった.術中採取した硝子体液からはa溶連菌が多数検出され,薬剤感受性検査ではアミノグリコシド系に耐性,セフェム系およびレボフロキサシンとガチフロキサシンに中間耐性を示した.つぎに,起炎菌であるa溶連菌がレボフロキサシンに中間耐性だったことから,a溶連菌のレボフロキサシン耐性化状況を把握するため,当院における外来患者の眼部から分離されたa溶連菌について調査を行った.対象は2006年1月から2007年12月までの当院外来受診患者の眼部培養3,193検体である.検体は眼感染症のほか,内眼手術前の結膜監視培養も含まれる.2,377検体が培養陽性であり,3,474株の細菌が分離された.全分離株のうちa溶連菌は105株(3.0%)であり,腸球菌95株(2.7%)と類似していた.ディスク法による薬剤感受性検査ではレボフロキサシンに中間または耐性を示す株はa溶連菌が18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも多かった(表1).一方,a溶連菌のセフメノキシムに対する感受性は99.1%と良好であった.II考按a溶連菌は口腔内の常在菌で血液寒天培地の溶血環が緑色を呈することから緑色レンサ球菌ともよばれ,Streptococcus(S.)mutans,S.mitis,S.sanguinis,S.anginosus,S.sali-variusなどが含まれる.白内障術後眼内炎に関する過去の表1当院で分離されたa溶連菌と腸球菌の各種抗菌薬耐性率菌種株数分離割合(%)耐性率(%)SBPCCMXGMTOBEMCPTFLXLVFXGFLXa溶連菌1053.04.70.931.467.635.21.967.618.113.3腸球菌952.710010010010074.710.589.47.33.1SBPC:スルベニシリン,CMX:セフメノキシム,GM:ゲンタマイシン,TOB:トブラマイシン,EM:エリスロマイシン,CP:クロラムフェニコール,TFLX:トスフロキサシン,LVFX:レボフロキサシン,GFLX:ガチフロキサシン.ab1初診時前眼部と術後眼底写真a:前房蓄膿と耳側角膜切開部に実質内浸潤(矢印)を認める.b:網膜血管の白線化を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009389(107)調査では眼内炎の起炎菌としてブドウ球菌属や腸球菌についでレンサ球菌属がさらに分離されている3).この調査では起炎菌を確定できない症例も多く,ESCRS(ヨーロッパ白内障・屈折手術学会)スタディのように眼内液のpolymerasechainreaction(PCR)による菌種同定も行えば緑色レンサ球菌が分離されてくる可能性がある5).また,本症例や過去の報告からa溶連菌の眼内炎は網膜や血管への障害を強く起こす可能性があり,同じく予後不良といわれている腸球菌と同程度に注目すべき微生物と考えて疫学的分離状況や薬剤感受性傾向を把握する必要がある4).本症例の感染経路に関しては術中感染か術後感染かを明確にすることはできない.手術から1週間以上経過して発症していることや角膜切開創に浸潤を認めたことから,術後早期の脆弱な角膜切開創を経由して菌が眼内に侵入した可能性は否定できない.さらにa溶連菌は口腔内の常在菌であることから,術後の飛沫による眼表面の汚染の可能性も考えられる.人工喉頭を設置した患者の白内障術後眼内炎で,眼内と眼瞼皮膚からa溶連菌が分離されたという自身の飛沫によると考えられる報告がある4).白内障術後には感染予防として抗菌点眼薬を用いるが,点眼後12時間以上経過した状態では眼表面に存在する抗菌薬はわずかである6).したがって飛沫などにより一過性に眼表面が汚染されると抗菌点眼薬を用いる前に細菌が眼内に侵入する可能性があり,十分な感染予防効果が期待できないのかもしれない.したがって,術後数日間は抗菌薬点眼のほかに飛沫予防のための保護眼鏡を常時装用するなどして,眼表面の一過性の汚染を予防する対策が必要と考えられる.つぎに,本症例から分離されたa溶連菌はレボフロキサシンに中間耐性を示した.当院の外来患者の眼部から分離された菌株を調査したところ,全分離株の3.0%と腸球菌の分離率とほぼ同程度であったものの,レボフロキサシンの耐性率はa溶連菌が18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも高かった.眼科における過去の報告ではa溶連菌のレボフロキサシン耐性率は8%程度であるため,直接的な比較はできないが耐性率が増加してきている可能性も考えられる7,8).さらに末梢血幹細胞移植後の好中球減少時にレボフロキサシンを予防投与した際,敗血症を呈した患者の起炎菌を調べたところ,レボフロキサシン耐性S.mitisが多く認められたという他科からの報告がある9).S.mitisは緑色レンサ球菌の一種であるが,系統的には肺炎球菌に非常に近い菌種である10).今回の症例や調査で分離されたa溶連菌の菌種同定はできていないため,レボフロキサシン耐性株がS.mitisかどうかは不明であるが,フルオロキノロン系抗菌点眼薬が眼科領域で頻繁に用いられている以上,レンサ球菌属のフルオロキノロン耐性化は重要な問題である.今後は菌種の同定も含めたさらなる調査が必要と考えられる.文献1)CavuotoK,ZutshiD,KarpCLetal:UpdateonbacterialconjunctivitisinSouthFlorida.Ophthalmology115:51-56,20072)BharathiMJ,RamakrishnanR,ManekshaVetal:Com-parativebacteriologyofacuteandchronicdacryocystitis.Eye22:953-960,20073)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)MatsuuraT,IshibashiH,YukawaEetal:Endophthalmi-tisfollowingcataractsurgeryconsideredtobeduetoanoralpathogen.JournalofNaraMedicalAssociation57:51-55,20065)ESCRSEndophthalmitisStudyGroup:Prophylaxisofpostoperativeeodophthalmitisfollowingcataractsur-gery:resultsoftheESCRSmulticenterstudyandidenticationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20076)和田智之,多鹿哲也,高橋浩昭ほか:点眼投与を想定したガチフロキサシンのPostantibioticEect.あたらしい眼科21:1520-1524,20047)加茂純子,山本ひろ子,村松志保ほか:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向20012005年.あたらしい眼科23:219-224,20068)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択2006.臨眼61:331-336,20079)RazonableRR,LitzowMR,KhaliqYetal:Bacteremiaduetoviridansgroupstreptococciwithdiminishedsus-ceptibilitytolevooxacinamongneutropenicpatientsreceivinglevooxacinprophylaxis.ClinInfectDis34:1469-1474,200210)河村好章:ブドウ球菌とレンサ球菌の分類─この10年の変遷.モダンメディア51:313-327,2005***