———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS化している累進屈折力レンズ(古くは累進多焦点レンズ)に分けられる.多焦点レンズには二重焦点レンズと三重焦点レンズがあるが,現在では三重焦点レンズを提供しているレンズメーカーは少なく,実際的な処方も二重焦点レンズがほとんどである(そこで本稿では多焦点レンズは二重焦点レンズについて説明する).二重焦点レンズには1枚の単焦点レンズに近用加入レンズを融着した構造をしているアイデアルタイプとトップタイプがあり,遠用のレンズと近用のレンズの2枚を水平に切断して貼り合わせたような構造をしているエグゼクティブタイプがある.アイデアルタイプは近用部のレンズの形状によって,近用レンズの上縁が水平になっているA型(S型)と弧状になっているB型(C型)がある(図1).累進屈折力レンズは,眼鏡枠のレンズ上方は遠方視のための屈折力を有し,レンズ下方に向かって徐々に近方視に必要な屈折力に移行する構造をしている.レンズの水平方向の中央部ではレンズ屈折力は機能しているが,はじめに遠近両用眼鏡は1つの眼鏡枠の中に遠用レンズ度数と近用レンズ度数が設置されており,屈折異常の矯正による遠方視力の補正とともに加入度数による調節の補助を目的に処方される.単焦点レンズの近用眼鏡は近業時の明視が困難になった老視のための,いわゆる老眼鏡として装用されるが,遠近両用眼鏡は老眼鏡としてばかりでなく初期老視において近業時に生じる調節性眼精疲労の緩和を目的として装用されることも多い13).そこで本稿では,遠近両用眼鏡の処方を成功させるための参考になるような一般的に遭遇する頻度の高いと思われる老視と初期老視に対する典型的な遠近両用眼鏡の処方のケースを供覧し解説する.I遠近両用眼鏡のレンズの種類遠近両用眼鏡のレンズは1つの眼鏡枠の中に焦点距離が異なる複数のレンズを組み込んだ多焦点レンズと,焦点が1点に収束することなくレンズ屈折力が累進的に変(39)763眼眼963426眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):763768,2009遠近両用眼鏡MultifocalSpectacles塩谷浩*梶田雅義**A型(S型)B型(C型)アイデアルタイプトップタイプエグゼクティブタイプ図1二重焦点のレンズデザイン———————————————————————-Page2764あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(40)ティブタイプを選択する.2.累進屈折力レンズ累進屈折力レンズは光が一点に収束する焦点をもたないため,多焦点レンズと比べ全体的に鮮明さは劣っているが,目的とする物体のある一定の範囲を,適度な鮮明さで見ることができる.あまり鮮明さは要求せず,一定の距離だけではなくて,あらゆる距離を見る必要のある症例には累進屈折力レンズが適応となる.特に矯正視力があまり良くない症例では多焦点レンズでの見え方が好まれ,良好な矯正視力で単焦点レンズの眼鏡の装用で眼の疲れを訴える症例では累進屈折力レンズが好まれる傾向がある.累進屈折力レンズのデザインは,日常生活で使用するには一般的に通常型を選択する.野外での活動が多く,近方視をする時間があまり長くない場合には遠用重視型を選択する.事務作業時間が多く,車の運転などがなく,遠方視よりも作業中の快適さを重視する場合には中近型を選択する.VDT作業時間が極端に長い場合には,作業眼鏡として近々型と通常型を選択し使い分ける.III遠近両用眼鏡の処方時の注意点1.処方成功のポイント遠近両用眼鏡の処方を成功させるポイントは,近用加入度数を可能な限り小さく設定することにある.近視過矯正や遠視低矯正の状態では,大きい近用加入度数が必要になり,眼鏡の装用感や使用感を低下させる.そのため不便なく眼鏡を使用できる範囲で加入度数を小さく設定するための注意点として,近視では遠用度数を過矯正にしないこと,遠視では遠用度数の低矯正を避けること,加入度数の設定の基準を近方の視力値ではなくて眼レンズの左右の周辺部分には歪みが凝縮されており,レンズとして適正には機能していない.累進屈折力レンズには一般的な日常生活で装用しやすい通常型デザインのほかに,遠方視中心の生活で装用しやすい遠用レンズの面積が広い遠用重視型,近方視中心の生活で装用しやすい近用レンズの面積の広い中近型,およびVDT(videodisplayterminal)作業者用に開発された近々型がある(図2).近々型以外は,累進帯長や遠用や近用のレンズの面積が異なる多くの種類が出ている.II遠近両用眼鏡の特徴と選択1.多焦点レンズ多焦点レンズは累進屈折力レンズと違って焦点が存在するので,ピントがずれた距離にある物体は不鮮明に見えるが,ピントが合う距離の物体は鮮明に見える.そのため一定の距離だけを鮮明に見る必要のある症例には多焦点レンズが適応となる.多焦点レンズの各デザインの特徴をあげると,アイデアルタイプのA型は近用レンズの上縁が水平に切断されているため,近用時にはしっかりと眼球を下転して見る必要があるが,遠方視時の視界を近用部分が遮る感じが少ない.アイデアルタイプのB型は,近用レンズの上縁が弧状に作製されているため,近用面積が広く,遠方視時に近用レンズが視界を妨げることがある.トップ型は円形の近用レンズが融着されているので,近方視野は狭いが,安定した近方視力が得られ,遠用面積が広いため遠方視野が広い.いずれの型のレンズも各メーカーから近用レンズの大きさが複数提供されており,使用目的によって選択し使い分ける.基本的には近業作業を重視する場合は,近用面積が大きいレンズを選択する.手元の作業が多い場合には特に近用面積が広いエグゼク通常遠用重視中近用近々用図2累進屈折力レンズのデザイン———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009765(41)現症:視力VD=0.2(1.5×4.25D),VS=0.2(1.2×4.25D).前眼部および中間透光体:異常なし.眼底:異常なし.使用中の眼鏡:R)S3.00DL)S3.00D使用中の眼鏡による視力:遠方VD=0.7×O.G.(ownglasses)VS=0.7×O.G.近方RNV=0.6×O.G.LNV=0.6×O.G.患者の希望:近用眼鏡が欲しい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.2[R:S3.50DL:S3.50D]眼鏡を試す前の説明:「眼の乾燥感や眼の奥の痛みは疲れの徴候の可能性がある.近用眼鏡より遠近両用眼鏡を作るほうが良い可能性があるので,装用できるかどうか試すことにする.」第1トライアル眼鏡:両眼同時雲霧法で得られた矯正度数で遠用度数を設定し,近方視のための近用加入度数を弱めに設定した累進屈折力レンズを装用させた.R)S3.50Dadd+1.50D(累進帯長15mm)L)S3.50Dadd+1.50D(累進帯長15mm)患者のコメント:「遠近両用眼鏡は使いにくく,作製しても快適には使えないと聞いていたが,この眼鏡は遠くも近くよく見え,歩いてもまったく気にならない.どうしてか.」患者への説明:「遠近両用眼鏡を快適に装用できない患者の多くは,近用加入度数が必要以上に強い眼鏡を作製されている.これくらいの加入度数であれば,たいていは気にならない.しかし装用に慣れるまでは,床が少し浮き上がって見えたり,真っ直ぐなものがゆがんで見えたりすることがある.特に階段を降りるときには気をつける必要がある.この症状は慣れてくるとまったく気にならなくなる.」装用2週間後の患者のコメント:「遠くも近くもすっきり見え,装用直後からまったく違和感がない.ドライアイと眼の奥の痛みもなくなった.」解説:初期老視対策のために弱めの遠用度数の単焦点眼鏡を用いている患者は多いが,弱い加入度数の累進屈折力レンズのほうが遠くも近くも安定した視力を提供で鏡使用者に必要な加入度数におくことがあげられる.2.遠用度数設定のポイント近視過矯正あるいは遠視低矯正を避けるためには正確な屈折矯正検査を行い,その屈折度数を基準にして遠用度数と近用加入度数を設定することが理想である.しかし実際には検査時に調節の影響を完全に取り除くことはむずかしいため,両眼同時雲霧法1)で矯正度数を決定することが有効となることが多い.両眼同時雲霧法で得られた矯正度数は,通常の人が両眼で見るために適当な遠用度数であるが,それまで装用していた眼鏡が過矯正である場合には,眼鏡使用者の苦情が出ない程度に,遠用度数を追加矯正する必要がある.この場合も過矯正度数使用の弊害(眼の疲れ,肩凝り,頭痛など)を十分に説明して,できる限り両眼同時雲霧で得られた値に近い矯正度数を提供することが望ましい.3.近用度数の設定のポイント近方の視力値や近方矯正屈折値を基準に近用加入度数を決定すると,加入度数が強くなり過ぎて,装用しにくい遠近両用眼鏡になることが多い.眼鏡使用者に必要な視距離を提供することを目的に矯正度数を決定すれば,適切な近用加入度数を提供できる.必要な視距離は,眼鏡使用者に快適な作業ポーズをとらせ,日常どのくらいの距離で近くを見ているのかを再現してもらい,そのときの眼から目標物まで距離で判断する.この視距離の逆数が近用加入度数になるが,設定する近用加入度数は眼鏡使用者の眼疲労症状の程度に応じて加減する1,2).IV遠近両用眼鏡のケーススタディ1.累進屈折力レンズ眼鏡を初めて勧める場合〔ケース1〕52歳,女性.一般事務.主訴:近方視力の低下.現病歴:数年前から事務作業中に手元が見づらくなり,弱めの度数で眼鏡を使用している.最近は手元が見づらくなった.作業中に眼が乾き,眼の奥が痛くなることもある.現在の眼鏡は3年前に作製した.———————————————————————-Page4766あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(42)の累進屈折力レンズで試し装用を行う.患者のコメント:「遠近両用眼鏡で一度失敗していたので,その後は使うことを考えていなかった.この新しいデザインの眼鏡では足元もまったく気にならない.試し装用中に階段の昇降もやってみたが,以前のような違和感はない.遠くも近くよく見える.テレビがよく見えるし,何よりも話し相手の顔がよく見えて満足である.」患者への説明:「作製しても使えなかった遠近両用眼鏡は,遠方の度数が強過ぎで,しかも近用加入度数が非常に強い度数のことが多い.このくらいの加入度数ならば,ほとんど違和感はなく,実用的には近くの見え方にも問題はない.ただし,この加入度数では細かい辞書の文字などは見づらいと思われるので,そのときは眼鏡を外して裸眼で見るようにすること.」装用2週間後の患者のコメント:「まったく違和感がなく,遠くも近くもすっきり見えている.買い物に行っても眼鏡を掛け換える必要がなく便利である.今までも手元の細かいものは裸眼で見ていたので不自由はない.友達にも遠近両用眼鏡を勧めた.」解説:累進屈折力レンズは使いづらいと思っている患者は非常に多い.処方を成功させるためには初めて装用する累進屈折力レンズの近用加入度数を近方視力値にとらわれないで,極力弱く設定することが重要である.そして遠用度数も実用に耐えられるぎりぎりまで下げるようにする.累進屈折力レンズ特有の視野の歪みに慣れれば,加入度数を強くしても違和感はない.実際,この患者も1年後にレンズにキズが入ったため眼鏡の再処方を目的に受診したときにレンズ度数を,R)S6.00Dadd+2.75D(累進帯長13mm)L)S6.00Dadd+2.75D(累進帯長13mm)にして処方したが,違和感はなく,さらに快適になったという感想が得られた.3.二重焦点レンズ使用者の場合〔ケース3〕67歳,男性.職業:特になし,趣味:音楽鑑賞と読書.主訴:眼鏡が古くなったので作り直したい.現病歴:8年前に作製した眼鏡を使用している.調子はよかったが,最近古くなりレンズのコーティングもきて快適に装用できる.2.累進屈折力レンズ眼鏡嫌いになっている高齢者の場合〔ケース2〕73歳,女性.主訴:遠用眼鏡と近用眼鏡の処方を希望.現病歴:8年前に作製した眼鏡を使用している.見え方に不満はないが,古くなったので新調したい.現症:視力VD=0.08(1.0×6.00D)VS=0.08(1.0×6.25D)前眼部:異常なし.中間透光体:軽度の加齢白内障を認める.眼底:異常なし.使用中の遠用眼鏡:R)S6.00DL)S6.25D近用眼鏡:R)S4.50DL)S4.50D使用中の眼鏡による視力:遠方VD=1.0×O.G.VS=1.0×O.G.近方RNV=0.6×O.G.LNV=0.6×O.G.患者の希望:遠近両用眼鏡を作製したことがあるが,足元がふらついて階段を踏み外してけがをして以来,使用していない.今回も遠用眼鏡と近用眼鏡に分けて作りたい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.0[R:S5.75DL:S5.75D]VB=1.2[R:S6.00DL:S6.00D]眼鏡を試す前の説明:「遠方用と近方用の2つの眼鏡を作るよりは1つの眼鏡のほうが使いやすい.最近の新しいデザインの遠近両用眼鏡ならば,以前のようなことはない可能性があるので,累進屈折力レンズを装用して試してみることにする(加入度数が強過ぎだったことが以前の遠近両用眼鏡が不調であった原因と思われるが,試し装用に同意を得るため,あえてデザインに問題があったことを強調して説明する).」第1トライアル眼鏡:両眼同時雲霧法で得られた両眼視力1.0の矯正で特に遠方視に不満はなかったので,R)S5.75Dadd+1.75D(累進帯長13mm)L)S5.75Dadd+1.75D(累進帯長13mm)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009767(43)合には,近方視で安定した視力が維持できないこともある.これを患者に説明して,二重焦点レンズで試してみる.患者のコメント:「慣れている二重焦点レンズのほうが快適に思う.」処方眼鏡:使用していた遠近両用眼鏡と同じレンズで処方.解説:調子が良いと言っているレンズの種類は,本来はできる限り変更しないほうがよい.変更時には患者の希望に沿えないこともあるので,十分に説明をして同意を得てから試すことが必要である.4.初期老視対策のために勧める場合〔ケース4〕41歳,男性.プログラマー.主訴:視力低下.現病歴:1日8時間以上VDT作業をしている.最近,夕方になると遠くが見づらくなってきた.薄暗いところで手元の小さな文字が見づらいことがある.現在の眼鏡は5年前に作製した.以前から肩凝りはひどく,眼を使い過ぎた後には頭痛が起こることがある.現症:視力VD=0.1(1.5×5.00D(C0.50DAx180°)VS=0.08(1.2×5.50D(C0.75DAx180°)前眼部および中間透光体:異常なし.眼底:異常なし.使用中の眼鏡:R)S5.25DC0.75DAx180°L)S6.00DC0.75DAx180°使用中の眼鏡による視力:遠方VD=1.5×O.G.VS=1.2×O.G.近方RNV=0.8×O.G.LNV=0.7×O.G.患者の希望:夕方の視力低下が起こらないようにレンズの度数を上げて欲しい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.5[R:S4.75DC0.50DAx180°L:S5.25DC0.75DAx180°]眼鏡を試す前の説明:「肩凝りや頭痛が起こるのは使用中の眼鏡度数が過矯正であるからと考えられるので,適切な度数に下げる必要がある.」げてきたので,新調したい.現症:視力VD=0.04(1.2×8.00D(C0.75DAx180°)VS=0.04(1.2×8.25D(C0.75DAx180°)前眼部:異常なし.中間透光体:水晶体の周辺部に楔状の混濁を認める.中央部は異常なし.眼底:異常なし.使用中の眼鏡:両眼S7.50DC0.75DAx180°add+3.00D(アイデアルタイプ)使用中の眼鏡による視力:遠方VD=1.0×O.G.VS=1.0×O.G.近方RNV=0.8×O.G.LNV=0.8×O.G.患者の希望:現在の眼鏡はレンズに境目があり,老眼鏡というイメージが強いので,境のない眼鏡にしたい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.2[R:S7.50DC0.75DAx180°,L:S7.50DC0.75DAx180°]第1トライアル眼鏡:患者の希望に応じて,累進屈折力レンズを試してみる.両眼ともS7.50DC0.75DAx180°add+3.00D(累進帯長12mm).累進帯長12mmを選択した理由:二重焦点レンズ眼鏡では眼球をわずかに下転しただけで近用度数が利用できるので,二重焦点レンズの使用経験者には累進帯長の長い累進屈折力レンズを処方すると,近用度数をうまく利用できないことがある.新しいデザインの累進屈折力レンズは近用面積も広くなっており,二重焦点レンズの使用経験者でも累進屈折力レンズが装用可能なことがある.患者のコメント:「遠くから中間距離の見え方に違和感はないが,近方が自分の眼鏡に比べ見づらい.読書時には使えないと思う.」第2トライアル眼鏡:両眼とも,これまで使用していた眼鏡度数のままS7.50DC0.75DAx180°add+3.00D(二重焦点アイデアルタイプ)を試してみる.理由:累進屈折力レンズでは最大近用加入度数が利用できる面積が狭いため,二重焦点レンズに慣れている場———————————————————————-Page6768あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(44)L)S5.75DC0.75DAx180°add+1.00D(累進帯長17mm)遠方から近方までいろいろな生活場面をイメージして試す.特に階段の昇降を試すように指示する.患者のコメント:「遠くも近くも見え方はまったく問題ない.説明通り,下のほうで少しゆがみを感じるが,特に支障はない.」装用2週間後の患者のコメント:「夕方の視力低下は気にならなくなり,作業中の疲れも感じなくなった.」解説:近視眼の過矯正は見つけてもただちに矯正できるものではない.遠方度数を患者が苦情を訴えない程度まで強め(やや過矯正)に設定した累進屈折力レンズを用いることで解決する.装用初期には累進屈折力レンズのアイポイントよりも上を通して見ているが,徐々にアイポイントよりも低い位置を使って見るようになり,過矯正の見え方から解放され,次回の眼鏡を処方時には適正な遠用度数を提供できるようになることが多い.おわりに患者ごとに生活環境や作業内容によって視力の要求度は異なっており,同じ患者でも処方するレンズの種類によって快適に装用できる遠近両用眼鏡の遠用度数と近用加入度数は異なっている.患者がどのような見え方を望んでいるのか,またどのような矯正が快適さを提供できるのかを十分に検討し,遠近両用眼鏡の二重焦点レンズと累進屈折力レンズの特徴を活かした適切な処方を行うように努めることが大切である.文献1)梶田雅義:眼鏡処方のテクニック.あたらしい眼科21:1441-1447,20042)梶田雅義:老視用眼鏡の最近の進歩.あたらしい眼科22:1035-1040,20053)梶田雅義:わかりやすい臨床講座成人の眼鏡.日本の眼科79:1383-1387,2008第1トライアル眼鏡:同時雲霧で得られた矯正で試してみる.R)S4.75DC0.50DAx180°L)S5.25DC0.75DAx180°患者のコメント:「手元は確かに楽に見える気がするが,遠くが見えにくくて気分が悪い.」患者への説明:「過矯正眼鏡の見え方に慣れてしまった近視眼なので,適正な遠用度数では遠くが見えにくく感じる.遠用度数を上げるしかないが,遠用度数を上げると手元を見るのには負担が大きくなり,疲れやすくなる.(過矯正の問題点をしっかり説明することで,近くを見たときにかかる調節への負担が大きくなることに注意を払って度数を上げたレンズの試し装用を行うため,累進屈折力レンズを勧めやすくなる.説明しないで試し装用すれば,このままで問題なく近くもよく見えると思われてしまい,累進屈折力レンズを勧められなくなる.)」矯正度数の再設定:両眼に0.25Dを加えたが,遠方の見え方に不満があった.両眼に0.50D加えると満足できた.第2トライアル眼鏡R)S5.25DC0.50DAx180°L)S5.75DC0.75DAx180°試し時間は多少短めに,手元を見ることをおもに試してもらった.患者のコメント:「遠くは問題なくよく見えるが,手元の見え方は確かに先に試したもののほうが良いと感じた.」患者への説明:「レンズの下方の度数を弱めて,もう一度試してみる(このときレンズ度数の分布を図で示すが,遠近両用レンズや老視用レンズという表現は避け,遠用部の度数が下に向かって徐々に累進的に弱くなっていることだけを示す.)第3トライアル眼鏡R)S5.25DC0.50DAx180°add+1.00D(累進帯長17mm)