———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910930910-1810/09/\100/頁/JCOPY学会の意義「世界中のすべての情報をネット上に整理し,世界中の人々がアクセスして使えるようにする」1)は,Googleという巨大企業のミッションです.私は,以前にインターネットの利用方法が,軍事→通信→アダルト→物販→交流,と移行していることを紹介しました2).インターネット上の交流にはさまざまな形態があります.参加者が自由に投稿できる掲示板機能は「交流」のひとつです.ただ,静的な情報交流であってリアルタイムではありません.近年では,通信技術の発展に伴い,動的なリアルコミュニケーションがネット上で可能になりました.パソコンにウェブカメラを繋ぎ,遠隔地を繋いで会議をする事例が企業を中心に報告されています.肉声すらデジタル化され,テキスト化され議事録となります.インターネットの本質は「繋ぐ」ことにあります.人とモノを繋ぎ,人と情報を繋ぎ,人と人を繋ぎます.情報がデジタル化されるに伴い,マッチングに要する時間が圧倒的に効率化されました.では,医療現場において「現場臨床医」と「最先端の医療情報」を繋ぐ方法は何でしょうか.従来は,学会であり,論文です.論文はすでにデジタル化されインターネットで検索可能になりました.では学会はどうでしょう.インターネットとどのように融合するでしょう.学会の本質は知の結集です.その場に参加することで最先端の知に触れることができます.参加した人にしか触れることができない「神聖性」は,その場に参加するインセンティブになりますが,本来,学会が担うべき医療水準の向上には,この神聖性は,逆に閉鎖性となり,情報流通のネックとなります.結果として,学会に参加しやすい臨床医と学会に参加できない臨床医の間に,知識格差を生みます.多忙な臨床医は遠いエリアの学会には参加することができません.インターネットはその不自由さをどのように解決して,医療情報の流通をスムーズにするのでしょうか.ひと昔前は,スライドを現像してから学会に参加したものです.何度もでき栄えをチェックして,修正は学会の5日前でないと間に合いません.そんな時代がありました.今ではデジタルプレゼンテーションが主流となり,学会のデジタル化は完了しました.学会の次の進化はIT化です.インターネット上で学会が運営される日が必ず訪れます.物事が大きく変わる際には3つの段階を踏みます.まず,技術的に可能になって,つぎに法律や行政などの外部環境が整備されて,最後に人間の意識が変わって世の中に普及します.学会のIT化も医療のIT化も同じ流れを進んでいます.現在は,「技術的には可能」という段階です.以下に,インターネットを応用した先駆的な実例を紹介します.インターネット学会インターネットを用いた新しい論文投稿の形態として,PLoSONEというオンラインジャーナルがあります3).このオンラインジャーナルは,研究(実験)の方法に特に問題がなければ,結果の意義を問わず,初回投稿から数カ月で掲載されます.研究者はインターネット(87)インターネットの眼科応用第7章インターネット学会武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑦図1オンラインジャーナル「PLoSONE」———————————————————————-Page21094あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009を通じて投稿し,論文はインターネット上に掲載され,世界中の読者からコメントが寄せられます.このシステムでは,有意義な知見が査読者の一存で掲載されない可能性は減るものの,不適切なコメント・修正が増える可能性があります.読者の立場としては,玉石混淆のなかから本物を拾い出す眼力を求められます.投稿の容易さが研究者の間で話題となり,また,来年度以降にはインパクトファクターが認められるため,急速に論文数を増やしています.PLoSONEは,インターネットの特性を活用した,きわめて革新性の高い試みです.サイトの文化を決めるのは,事業者でなく参加者である,というインターネットの潮流を学界に持ち込んでいます.今後の展開に注目です(図1).インターネット学会INABIS(InternetAssociationforBiomedicalScienc-es)という国際学会があります.1994年当時,三重大学の村瀬澄夫先生が世界に先駆けて,インターネット上ですべてが完結した国際会議を開催しました4).演題審査もインターネット上で行われ,発表はポスターセッションと掲示板討論でした.このようなインターネット学会が,通信容量の少ない15年前に可能でした.主催者の先見性に驚かされるばかりです(図2).MVConlineでできること④(インターネット学会)5月号より,インターネットの医療応用の実例を紹介(88)しています.MVC-onlineでは参加する医師・歯科医師がエリアや所属を越えて意見交換しています.臨床に関する相談事が可能です.手術動画を会員限定で共有し,議論を深めることが可能です.演者の同意を得られた講演をインターネット上で共有すれば,地方都市で開催された研究会が全国学会に変貌します(図3).【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://www.google.co.jp/corporate/2)武蔵国弘:インターネットの歴史.あたらしい眼科26:221-222,20093)http://www.plosone.org/home.action4)LarkinM:Websiteinbrief.Lancet355:665-666,2000図3MVConlineで講演動画を放送中図2インターネット学会INABIS'98のホームページ☆