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遠近両用眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS化している累進屈折力レンズ(古くは累進多焦点レンズ)に分けられる.多焦点レンズには二重焦点レンズと三重焦点レンズがあるが,現在では三重焦点レンズを提供しているレンズメーカーは少なく,実際的な処方も二重焦点レンズがほとんどである(そこで本稿では多焦点レンズは二重焦点レンズについて説明する).二重焦点レンズには1枚の単焦点レンズに近用加入レンズを融着した構造をしているアイデアルタイプとトップタイプがあり,遠用のレンズと近用のレンズの2枚を水平に切断して貼り合わせたような構造をしているエグゼクティブタイプがある.アイデアルタイプは近用部のレンズの形状によって,近用レンズの上縁が水平になっているA型(S型)と弧状になっているB型(C型)がある(図1).累進屈折力レンズは,眼鏡枠のレンズ上方は遠方視のための屈折力を有し,レンズ下方に向かって徐々に近方視に必要な屈折力に移行する構造をしている.レンズの水平方向の中央部ではレンズ屈折力は機能しているが,はじめに遠近両用眼鏡は1つの眼鏡枠の中に遠用レンズ度数と近用レンズ度数が設置されており,屈折異常の矯正による遠方視力の補正とともに加入度数による調節の補助を目的に処方される.単焦点レンズの近用眼鏡は近業時の明視が困難になった老視のための,いわゆる老眼鏡として装用されるが,遠近両用眼鏡は老眼鏡としてばかりでなく初期老視において近業時に生じる調節性眼精疲労の緩和を目的として装用されることも多い13).そこで本稿では,遠近両用眼鏡の処方を成功させるための参考になるような一般的に遭遇する頻度の高いと思われる老視と初期老視に対する典型的な遠近両用眼鏡の処方のケースを供覧し解説する.I遠近両用眼鏡のレンズの種類遠近両用眼鏡のレンズは1つの眼鏡枠の中に焦点距離が異なる複数のレンズを組み込んだ多焦点レンズと,焦点が1点に収束することなくレンズ屈折力が累進的に変(39)763眼眼963426眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):763768,2009遠近両用眼鏡MultifocalSpectacles塩谷浩*梶田雅義**A型(S型)B型(C型)アイデアルタイプトップタイプエグゼクティブタイプ図1二重焦点のレンズデザイン———————————————————————-Page2764あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(40)ティブタイプを選択する.2.累進屈折力レンズ累進屈折力レンズは光が一点に収束する焦点をもたないため,多焦点レンズと比べ全体的に鮮明さは劣っているが,目的とする物体のある一定の範囲を,適度な鮮明さで見ることができる.あまり鮮明さは要求せず,一定の距離だけではなくて,あらゆる距離を見る必要のある症例には累進屈折力レンズが適応となる.特に矯正視力があまり良くない症例では多焦点レンズでの見え方が好まれ,良好な矯正視力で単焦点レンズの眼鏡の装用で眼の疲れを訴える症例では累進屈折力レンズが好まれる傾向がある.累進屈折力レンズのデザインは,日常生活で使用するには一般的に通常型を選択する.野外での活動が多く,近方視をする時間があまり長くない場合には遠用重視型を選択する.事務作業時間が多く,車の運転などがなく,遠方視よりも作業中の快適さを重視する場合には中近型を選択する.VDT作業時間が極端に長い場合には,作業眼鏡として近々型と通常型を選択し使い分ける.III遠近両用眼鏡の処方時の注意点1.処方成功のポイント遠近両用眼鏡の処方を成功させるポイントは,近用加入度数を可能な限り小さく設定することにある.近視過矯正や遠視低矯正の状態では,大きい近用加入度数が必要になり,眼鏡の装用感や使用感を低下させる.そのため不便なく眼鏡を使用できる範囲で加入度数を小さく設定するための注意点として,近視では遠用度数を過矯正にしないこと,遠視では遠用度数の低矯正を避けること,加入度数の設定の基準を近方の視力値ではなくて眼レンズの左右の周辺部分には歪みが凝縮されており,レンズとして適正には機能していない.累進屈折力レンズには一般的な日常生活で装用しやすい通常型デザインのほかに,遠方視中心の生活で装用しやすい遠用レンズの面積が広い遠用重視型,近方視中心の生活で装用しやすい近用レンズの面積の広い中近型,およびVDT(videodisplayterminal)作業者用に開発された近々型がある(図2).近々型以外は,累進帯長や遠用や近用のレンズの面積が異なる多くの種類が出ている.II遠近両用眼鏡の特徴と選択1.多焦点レンズ多焦点レンズは累進屈折力レンズと違って焦点が存在するので,ピントがずれた距離にある物体は不鮮明に見えるが,ピントが合う距離の物体は鮮明に見える.そのため一定の距離だけを鮮明に見る必要のある症例には多焦点レンズが適応となる.多焦点レンズの各デザインの特徴をあげると,アイデアルタイプのA型は近用レンズの上縁が水平に切断されているため,近用時にはしっかりと眼球を下転して見る必要があるが,遠方視時の視界を近用部分が遮る感じが少ない.アイデアルタイプのB型は,近用レンズの上縁が弧状に作製されているため,近用面積が広く,遠方視時に近用レンズが視界を妨げることがある.トップ型は円形の近用レンズが融着されているので,近方視野は狭いが,安定した近方視力が得られ,遠用面積が広いため遠方視野が広い.いずれの型のレンズも各メーカーから近用レンズの大きさが複数提供されており,使用目的によって選択し使い分ける.基本的には近業作業を重視する場合は,近用面積が大きいレンズを選択する.手元の作業が多い場合には特に近用面積が広いエグゼク通常遠用重視中近用近々用図2累進屈折力レンズのデザイン———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009765(41)現症:視力VD=0.2(1.5×4.25D),VS=0.2(1.2×4.25D).前眼部および中間透光体:異常なし.眼底:異常なし.使用中の眼鏡:R)S3.00DL)S3.00D使用中の眼鏡による視力:遠方VD=0.7×O.G.(ownglasses)VS=0.7×O.G.近方RNV=0.6×O.G.LNV=0.6×O.G.患者の希望:近用眼鏡が欲しい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.2[R:S3.50DL:S3.50D]眼鏡を試す前の説明:「眼の乾燥感や眼の奥の痛みは疲れの徴候の可能性がある.近用眼鏡より遠近両用眼鏡を作るほうが良い可能性があるので,装用できるかどうか試すことにする.」第1トライアル眼鏡:両眼同時雲霧法で得られた矯正度数で遠用度数を設定し,近方視のための近用加入度数を弱めに設定した累進屈折力レンズを装用させた.R)S3.50Dadd+1.50D(累進帯長15mm)L)S3.50Dadd+1.50D(累進帯長15mm)患者のコメント:「遠近両用眼鏡は使いにくく,作製しても快適には使えないと聞いていたが,この眼鏡は遠くも近くよく見え,歩いてもまったく気にならない.どうしてか.」患者への説明:「遠近両用眼鏡を快適に装用できない患者の多くは,近用加入度数が必要以上に強い眼鏡を作製されている.これくらいの加入度数であれば,たいていは気にならない.しかし装用に慣れるまでは,床が少し浮き上がって見えたり,真っ直ぐなものがゆがんで見えたりすることがある.特に階段を降りるときには気をつける必要がある.この症状は慣れてくるとまったく気にならなくなる.」装用2週間後の患者のコメント:「遠くも近くもすっきり見え,装用直後からまったく違和感がない.ドライアイと眼の奥の痛みもなくなった.」解説:初期老視対策のために弱めの遠用度数の単焦点眼鏡を用いている患者は多いが,弱い加入度数の累進屈折力レンズのほうが遠くも近くも安定した視力を提供で鏡使用者に必要な加入度数におくことがあげられる.2.遠用度数設定のポイント近視過矯正あるいは遠視低矯正を避けるためには正確な屈折矯正検査を行い,その屈折度数を基準にして遠用度数と近用加入度数を設定することが理想である.しかし実際には検査時に調節の影響を完全に取り除くことはむずかしいため,両眼同時雲霧法1)で矯正度数を決定することが有効となることが多い.両眼同時雲霧法で得られた矯正度数は,通常の人が両眼で見るために適当な遠用度数であるが,それまで装用していた眼鏡が過矯正である場合には,眼鏡使用者の苦情が出ない程度に,遠用度数を追加矯正する必要がある.この場合も過矯正度数使用の弊害(眼の疲れ,肩凝り,頭痛など)を十分に説明して,できる限り両眼同時雲霧で得られた値に近い矯正度数を提供することが望ましい.3.近用度数の設定のポイント近方の視力値や近方矯正屈折値を基準に近用加入度数を決定すると,加入度数が強くなり過ぎて,装用しにくい遠近両用眼鏡になることが多い.眼鏡使用者に必要な視距離を提供することを目的に矯正度数を決定すれば,適切な近用加入度数を提供できる.必要な視距離は,眼鏡使用者に快適な作業ポーズをとらせ,日常どのくらいの距離で近くを見ているのかを再現してもらい,そのときの眼から目標物まで距離で判断する.この視距離の逆数が近用加入度数になるが,設定する近用加入度数は眼鏡使用者の眼疲労症状の程度に応じて加減する1,2).IV遠近両用眼鏡のケーススタディ1.累進屈折力レンズ眼鏡を初めて勧める場合〔ケース1〕52歳,女性.一般事務.主訴:近方視力の低下.現病歴:数年前から事務作業中に手元が見づらくなり,弱めの度数で眼鏡を使用している.最近は手元が見づらくなった.作業中に眼が乾き,眼の奥が痛くなることもある.現在の眼鏡は3年前に作製した.———————————————————————-Page4766あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(42)の累進屈折力レンズで試し装用を行う.患者のコメント:「遠近両用眼鏡で一度失敗していたので,その後は使うことを考えていなかった.この新しいデザインの眼鏡では足元もまったく気にならない.試し装用中に階段の昇降もやってみたが,以前のような違和感はない.遠くも近くよく見える.テレビがよく見えるし,何よりも話し相手の顔がよく見えて満足である.」患者への説明:「作製しても使えなかった遠近両用眼鏡は,遠方の度数が強過ぎで,しかも近用加入度数が非常に強い度数のことが多い.このくらいの加入度数ならば,ほとんど違和感はなく,実用的には近くの見え方にも問題はない.ただし,この加入度数では細かい辞書の文字などは見づらいと思われるので,そのときは眼鏡を外して裸眼で見るようにすること.」装用2週間後の患者のコメント:「まったく違和感がなく,遠くも近くもすっきり見えている.買い物に行っても眼鏡を掛け換える必要がなく便利である.今までも手元の細かいものは裸眼で見ていたので不自由はない.友達にも遠近両用眼鏡を勧めた.」解説:累進屈折力レンズは使いづらいと思っている患者は非常に多い.処方を成功させるためには初めて装用する累進屈折力レンズの近用加入度数を近方視力値にとらわれないで,極力弱く設定することが重要である.そして遠用度数も実用に耐えられるぎりぎりまで下げるようにする.累進屈折力レンズ特有の視野の歪みに慣れれば,加入度数を強くしても違和感はない.実際,この患者も1年後にレンズにキズが入ったため眼鏡の再処方を目的に受診したときにレンズ度数を,R)S6.00Dadd+2.75D(累進帯長13mm)L)S6.00Dadd+2.75D(累進帯長13mm)にして処方したが,違和感はなく,さらに快適になったという感想が得られた.3.二重焦点レンズ使用者の場合〔ケース3〕67歳,男性.職業:特になし,趣味:音楽鑑賞と読書.主訴:眼鏡が古くなったので作り直したい.現病歴:8年前に作製した眼鏡を使用している.調子はよかったが,最近古くなりレンズのコーティングもきて快適に装用できる.2.累進屈折力レンズ眼鏡嫌いになっている高齢者の場合〔ケース2〕73歳,女性.主訴:遠用眼鏡と近用眼鏡の処方を希望.現病歴:8年前に作製した眼鏡を使用している.見え方に不満はないが,古くなったので新調したい.現症:視力VD=0.08(1.0×6.00D)VS=0.08(1.0×6.25D)前眼部:異常なし.中間透光体:軽度の加齢白内障を認める.眼底:異常なし.使用中の遠用眼鏡:R)S6.00DL)S6.25D近用眼鏡:R)S4.50DL)S4.50D使用中の眼鏡による視力:遠方VD=1.0×O.G.VS=1.0×O.G.近方RNV=0.6×O.G.LNV=0.6×O.G.患者の希望:遠近両用眼鏡を作製したことがあるが,足元がふらついて階段を踏み外してけがをして以来,使用していない.今回も遠用眼鏡と近用眼鏡に分けて作りたい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.0[R:S5.75DL:S5.75D]VB=1.2[R:S6.00DL:S6.00D]眼鏡を試す前の説明:「遠方用と近方用の2つの眼鏡を作るよりは1つの眼鏡のほうが使いやすい.最近の新しいデザインの遠近両用眼鏡ならば,以前のようなことはない可能性があるので,累進屈折力レンズを装用して試してみることにする(加入度数が強過ぎだったことが以前の遠近両用眼鏡が不調であった原因と思われるが,試し装用に同意を得るため,あえてデザインに問題があったことを強調して説明する).」第1トライアル眼鏡:両眼同時雲霧法で得られた両眼視力1.0の矯正で特に遠方視に不満はなかったので,R)S5.75Dadd+1.75D(累進帯長13mm)L)S5.75Dadd+1.75D(累進帯長13mm)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009767(43)合には,近方視で安定した視力が維持できないこともある.これを患者に説明して,二重焦点レンズで試してみる.患者のコメント:「慣れている二重焦点レンズのほうが快適に思う.」処方眼鏡:使用していた遠近両用眼鏡と同じレンズで処方.解説:調子が良いと言っているレンズの種類は,本来はできる限り変更しないほうがよい.変更時には患者の希望に沿えないこともあるので,十分に説明をして同意を得てから試すことが必要である.4.初期老視対策のために勧める場合〔ケース4〕41歳,男性.プログラマー.主訴:視力低下.現病歴:1日8時間以上VDT作業をしている.最近,夕方になると遠くが見づらくなってきた.薄暗いところで手元の小さな文字が見づらいことがある.現在の眼鏡は5年前に作製した.以前から肩凝りはひどく,眼を使い過ぎた後には頭痛が起こることがある.現症:視力VD=0.1(1.5×5.00D(C0.50DAx180°)VS=0.08(1.2×5.50D(C0.75DAx180°)前眼部および中間透光体:異常なし.眼底:異常なし.使用中の眼鏡:R)S5.25DC0.75DAx180°L)S6.00DC0.75DAx180°使用中の眼鏡による視力:遠方VD=1.5×O.G.VS=1.2×O.G.近方RNV=0.8×O.G.LNV=0.7×O.G.患者の希望:夕方の視力低下が起こらないようにレンズの度数を上げて欲しい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.5[R:S4.75DC0.50DAx180°L:S5.25DC0.75DAx180°]眼鏡を試す前の説明:「肩凝りや頭痛が起こるのは使用中の眼鏡度数が過矯正であるからと考えられるので,適切な度数に下げる必要がある.」げてきたので,新調したい.現症:視力VD=0.04(1.2×8.00D(C0.75DAx180°)VS=0.04(1.2×8.25D(C0.75DAx180°)前眼部:異常なし.中間透光体:水晶体の周辺部に楔状の混濁を認める.中央部は異常なし.眼底:異常なし.使用中の眼鏡:両眼S7.50DC0.75DAx180°add+3.00D(アイデアルタイプ)使用中の眼鏡による視力:遠方VD=1.0×O.G.VS=1.0×O.G.近方RNV=0.8×O.G.LNV=0.8×O.G.患者の希望:現在の眼鏡はレンズに境目があり,老眼鏡というイメージが強いので,境のない眼鏡にしたい.遠近両用眼鏡の処方:両眼同時雲霧法VB=1.2[R:S7.50DC0.75DAx180°,L:S7.50DC0.75DAx180°]第1トライアル眼鏡:患者の希望に応じて,累進屈折力レンズを試してみる.両眼ともS7.50DC0.75DAx180°add+3.00D(累進帯長12mm).累進帯長12mmを選択した理由:二重焦点レンズ眼鏡では眼球をわずかに下転しただけで近用度数が利用できるので,二重焦点レンズの使用経験者には累進帯長の長い累進屈折力レンズを処方すると,近用度数をうまく利用できないことがある.新しいデザインの累進屈折力レンズは近用面積も広くなっており,二重焦点レンズの使用経験者でも累進屈折力レンズが装用可能なことがある.患者のコメント:「遠くから中間距離の見え方に違和感はないが,近方が自分の眼鏡に比べ見づらい.読書時には使えないと思う.」第2トライアル眼鏡:両眼とも,これまで使用していた眼鏡度数のままS7.50DC0.75DAx180°add+3.00D(二重焦点アイデアルタイプ)を試してみる.理由:累進屈折力レンズでは最大近用加入度数が利用できる面積が狭いため,二重焦点レンズに慣れている場———————————————————————-Page6768あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(44)L)S5.75DC0.75DAx180°add+1.00D(累進帯長17mm)遠方から近方までいろいろな生活場面をイメージして試す.特に階段の昇降を試すように指示する.患者のコメント:「遠くも近くも見え方はまったく問題ない.説明通り,下のほうで少しゆがみを感じるが,特に支障はない.」装用2週間後の患者のコメント:「夕方の視力低下は気にならなくなり,作業中の疲れも感じなくなった.」解説:近視眼の過矯正は見つけてもただちに矯正できるものではない.遠方度数を患者が苦情を訴えない程度まで強め(やや過矯正)に設定した累進屈折力レンズを用いることで解決する.装用初期には累進屈折力レンズのアイポイントよりも上を通して見ているが,徐々にアイポイントよりも低い位置を使って見るようになり,過矯正の見え方から解放され,次回の眼鏡を処方時には適正な遠用度数を提供できるようになることが多い.おわりに患者ごとに生活環境や作業内容によって視力の要求度は異なっており,同じ患者でも処方するレンズの種類によって快適に装用できる遠近両用眼鏡の遠用度数と近用加入度数は異なっている.患者がどのような見え方を望んでいるのか,またどのような矯正が快適さを提供できるのかを十分に検討し,遠近両用眼鏡の二重焦点レンズと累進屈折力レンズの特徴を活かした適切な処方を行うように努めることが大切である.文献1)梶田雅義:眼鏡処方のテクニック.あたらしい眼科21:1441-1447,20042)梶田雅義:老視用眼鏡の最近の進歩.あたらしい眼科22:1035-1040,20053)梶田雅義:わかりやすい臨床講座成人の眼鏡.日本の眼科79:1383-1387,2008第1トライアル眼鏡:同時雲霧で得られた矯正で試してみる.R)S4.75DC0.50DAx180°L)S5.25DC0.75DAx180°患者のコメント:「手元は確かに楽に見える気がするが,遠くが見えにくくて気分が悪い.」患者への説明:「過矯正眼鏡の見え方に慣れてしまった近視眼なので,適正な遠用度数では遠くが見えにくく感じる.遠用度数を上げるしかないが,遠用度数を上げると手元を見るのには負担が大きくなり,疲れやすくなる.(過矯正の問題点をしっかり説明することで,近くを見たときにかかる調節への負担が大きくなることに注意を払って度数を上げたレンズの試し装用を行うため,累進屈折力レンズを勧めやすくなる.説明しないで試し装用すれば,このままで問題なく近くもよく見えると思われてしまい,累進屈折力レンズを勧められなくなる.)」矯正度数の再設定:両眼に0.25Dを加えたが,遠方の見え方に不満があった.両眼に0.50D加えると満足できた.第2トライアル眼鏡R)S5.25DC0.50DAx180°L)S5.75DC0.75DAx180°試し時間は多少短めに,手元を見ることをおもに試してもらった.患者のコメント:「遠くは問題なくよく見えるが,手元の見え方は確かに先に試したもののほうが良いと感じた.」患者への説明:「レンズの下方の度数を弱めて,もう一度試してみる(このときレンズ度数の分布を図で示すが,遠近両用レンズや老視用レンズという表現は避け,遠用部の度数が下に向かって徐々に累進的に弱くなっていることだけを示す.)第3トライアル眼鏡R)S5.25DC0.50DAx180°add+1.00D(累進帯長17mm)

成人の眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSが,オートレフラクトメータは検査時に調節の介入を招きやすい(器械近視)ので,注意を払う必要がある.強い調節異常が疑われるときは成人といえども調節麻痺薬を点眼して検査するとよい.調節麻痺薬としてはシクロペントレート(サイプレジンR)が望ましい1).雲霧を持続した状態で自覚的屈折検査を行う.他覚的屈折検査で得られた値より3D程度プラス側の検眼レンズを装用した後に,視力表を用いて視力値を確認しながら検眼レンズの度数をマイナス側に交換する.凹レンズの交換は検眼枠から前のレンズをはずした後に次のレンズを挿入するが,凸レンズの交換は前のレンズに次のレンズを挿入した(加えた)後に前のレンズをはずすことを忘れてはならない.梶田は両眼同時雲霧法を推奨している2,3).眼鏡では円柱レンズによって全乱視を矯正するが,角膜乱視を確認することも大切である.全乱視は主として角膜乱視と水晶体乱視とからなるが,全乱視と角膜乱視の程度が大きく異なる,あるいは軸が大きく異なる場合には,測定した屈折検査の値が疑わしいことが多い.角膜乱視はオートケラトメータあるいはトポグラフィで測定する.視力検査では裸眼の遠方視力と近方視力,検眼レンズによって矯正した遠方視力と近方視力を測定する.患者が眼鏡あるいはコンタクトレンズ(CL)を使用している場合には,これらを使用した場合の視力も測定する.眼鏡ならびにCLの規格の確認も必要である.近点を測定すると,患者の屈折値から明視域が計算ではじめに屈折異常によって視力低下が生じた場合,調節力の低下によって希望する位置の物が見えなくなった場合,見えるけれども眼精疲労が生じた場合は,眼鏡による屈折異常あるいは調節異常の矯正を必要とする.成人に対する眼鏡処方においては,屈折異常の種類と程度を確認することに加えて,加齢に伴う調節力の低下による明視域を確認することが大切である.これまでの屈折異常や調節異常をどのように矯正していたかを把握したうえで,職業や生活習慣を考慮した眼鏡を処方することが求められる.単によく見える眼鏡ではなく,快適な眼鏡を処方するように心がける.快適な眼鏡とは楽によく見える眼鏡,長時間使用しても疲れない眼鏡であると考える.老視矯正を目的とする遠近両用レンズの処方は他稿に譲り,本稿では主として屈折異常や調節異常に対して単焦点レンズをどのように合わせるかのポイントを述べた後に,具体的な症例を提示して解説する.I眼鏡処方に必要な検査細隙灯顕微鏡検査や眼底検査などによって前眼部,中間透光体,眼底に眼疾患がないかを確認する.成人においては種々の眼疾患にかかっていることがあり,その場合には疾患が視力にどの程度影響するかを考える.屈折異常の種類と程度を測定するには他覚的屈折検査としてオートレフラクトメータや検影法が用いられる(31)755眼75108721115眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):755762,2009成人の眼鏡PrescribingSpectaclesforAdults植田喜一*———————————————————————-Page2756あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(32)用し,近見作業時は裸眼でよい.一方,軽度の遠視の者が裸眼では遠見時はあまり困らないが,近見時は視力低下となる場合には,少なくとも近見作業時には眼鏡を使用させる.しかしながら,軽度の遠視であっても調節力の低下に伴って,眼精疲労を訴えるようになると,眼鏡をなるべく常用するよう指導する.若い頃から眼鏡を使用していない者には眼鏡に対する抵抗があるため眼鏡の常用がむずかしい場合も多いが,見え方をよくするためだけでなく,眼精疲労を軽減することを理解してもらう必要がある.近見作業に伴う調節異常が疑われた場合には休日の午前中など,調節異常が比較的寛解しているときに再検査を行う.調節異常が強度の場合には調節麻痺下の屈折検査を行うとよい.〔症例1〕23歳,女性.主訴:遠見障害と近見障害.現病歴:以前は遠くも近くもよく見えていたが,仕事で長時間パソコンを使用するようになって近くが見づらくなった.最近では遠くもぼやけて見える.来院時所見:遠方視力RV=0.1(0.9×S0.50D)LV=0.7(0.9×S0.50D)近方視力NRV=0.4(0.8×S+1.50D)NLV=0.5×(0.8×S+1.50D)オートレフラクトメータ値(測定のたびに変動あり)R)S1.25DC0.50DAx160°L)S1.00DC0.75DAx180°オートレフラクトメータ値(シクロペントレート点眼後)R)S+0.75DC0.25DAx178°L)S+0.75DC0.25DAx179°再来時:眼鏡処方(近方作業時に使用)R)S+1.25DL)S+1.25D解説:作業後の来院時検査で,他覚的屈折値,自覚的屈折値の変動ならびにこれらの値の明らかな解離を認め,良好な矯正視力が得られなかった.シクロペントレート点眼後の他覚的屈折検査で軽度の遠視を認めたので,近方作業時に使用する眼鏡を処方した.きる.患者の近見時の作業距離も確認しておくとよい.眼位や両眼視機能についてもチェックしておいたほうがよいが,詳細は割愛する.II眼鏡処方の実際調節が介入していない状態の屈折値をもとにして,最良矯正視力が得られる最もプラス側の検眼レンズを眼鏡レンズ度数とするのが原則である.しかしながら,実際にはこうした眼鏡では快適に過ごすことができないと訴える患者もいる.調節力が比較的よく保たれている若い世代では順応性があるが,30代後半になると遠見だけでなく,近見も十分に考慮したレンズ度数を選択しないと患者は満足しないことが多い.年齢,職業,生活習慣を考慮したうえで,使用目的に合った眼鏡を処方することが重要である.初回の処方で眼科医が目標とする眼鏡レンズ度数と,患者が掛けられる眼鏡レンズ度数が隔たった場合には,再処方を念頭に入れて合わせることもある.こうした場合には,レンズ度数の変更に応じてくれる眼鏡店で眼鏡を購入するよう指導する必要がある.眼鏡処方にあたっては単焦点レンズの規格(球面度数,円柱度数,円柱軸)と瞳孔間距離(実際には芯取り点間距離)を記した処方せんを患者に渡すだけでなく,眼鏡フレームの選び方や使用方法(常用,近見時のみ,遠見時のみ)についても具体的に説明することが大切である.III患者の背景初めて眼鏡を使用するか,これまでに眼鏡を使用していたかを聴取する.CL使用者においても詳細な問診を聴取する必要がある.1.眼鏡初心者パーソナルコンピュータや携帯電話などのIT機器の普及に伴って,近見作業を強いられ,近見化が進んでいる.もともと正視あるいは軽度の近視で眼鏡を必要としなかった者でも,近視化あるいは近視の進行によって遠見障害を訴えた場合には,遠用眼鏡を処方することになる.近視が比較的軽度の場合は,遠見作業時に眼鏡を使———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009757(33)R)S2.50DC1.00DAx88°L)S3.00DC0.75DAx90°再来時:眼鏡処方(常用)R)S2.50DC0.50DAx90°L)S3.00DC0.25DAx90°解説:近視に対して過矯正の眼鏡を使用すると,当初遠方はよく見えるが,近方にピントが合いにくいという症状が出る.眼精疲労がひどくなると遠方の見え方も悪くなる.どの程度,球面マイナス度数を下げたらよいかわからないことが多い.本症例では調節麻痺薬を点眼して,屈折値を求めて眼鏡を処方した.〔症例3〕40歳,女性.主訴:近見障害,眼精疲労.現病歴:眼鏡(常用)を処方してもらったが,遠くは裸眼で見えるので近方を見るときにしか使用していない.最近目の疲れがひどい.来院時所見:遠方視力RV=0.9(1.5×所持眼鏡)(n.c.)LV=0.9(1.5×所持眼鏡)(n.c.)近方視力NRV=0.4(0.9×所持眼鏡)NLV=0.4(0.9×所持眼鏡)所持眼鏡R)S+2.00DC0.50DAx90°L)S+2.00DC0.50DAx90°解説:軽度の遠視の患者は,眼鏡を常用するように奨めても,若い頃,眼鏡を使用していないため,眼鏡に対する抵抗がある場合が多い.調節力がさらに低下して遠見視力が下がると眼鏡を常用する場合が多いが,眼精疲労の軽減のためにも眼鏡の必要性を詳しく説明する必要がある.本症例は眼鏡を常用するようになって眼精疲労は軽快した.3.CL使用者眼表面に接するCLは眼障害をきたす危険があるため,CL使用者は必ず眼鏡を併用すべきである.しかしながら,眼鏡を所持していない,所持していても適切な度数ではないといった者も少なからずいる.眼障害を起こし,CLをはずさなければならない状態になって,あわてて眼鏡処方を希望して来院する患者がいるが,角膜に障害があると眼鏡を処方できない場合も多い.したが2.眼鏡使用経験者眼鏡をいつから使用しているか,常用しているか,使用している眼鏡の遠方ならびに近方の見え方はどうか,眼精疲労の有無とその程度を聴取する.使用眼鏡の規格を測定し,実際にその眼鏡による遠見視力と近見視力(作業距離での視力)の測定と,眼鏡のフィッティング状態を確認する.近視で低矯正の眼鏡を使用していた場合には,球面マイナス度数を上げればよいが,過矯正の眼鏡を使用していた場合には調節異常をきたしている場合が多いので,適正な球面マイナス度数を決定することがむずかしい.適正な眼鏡であっても眼鏡を常用していないため調節異常をきたして,良好な視力が得られない場合や眼精疲労を生じている場合もある.こうした患者には眼鏡を常用するよう指導する.眼鏡のフィッティングが不良のため,良好な視力が得られていない場合も多い.問題があれば眼鏡店で眼鏡を調整してもらうように指導する.〔症例2〕35歳,女性.主訴:遠見障害,眼精疲労.現病歴:最近,遠くが見えにくくなったので,眼鏡店で眼鏡をつくった.遠くは見えるが,近くの物にピントが合いにくい,ぼやけることがある.目の病気があるかと心配になった.来院時所見:遠方視力RV= (1.2×所持眼鏡)(1.2×所持眼鏡(S+0.50D)LV= (1.2×所持眼鏡)(1.2×所持眼鏡(S+0.50D)近方視力NRV= (0.6×所持眼鏡)(1.0×所持眼鏡(S+1.0D)NLV= (0.6×所持眼鏡)(1.0×所持眼鏡(S+1.0D)所持眼鏡R)S3.00DC1.25DAx90°L)S3.50DC1.00DAx90°オートレフラクトメータ値R)S3.25DC1.50DAx82°L)S3.75DC1.50DAx92°オートレフラクトメータ値(シクロペントレート点眼後)———————————————————————-Page4758あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(34)合がある.オートレフラクトメータの値だけでなく,オートケラトメータで角膜乱視の変化をみる必要がある.角膜形状の変化はトポグラフィで観察すると詳細な情報を得ることができる4)(図1).角膜形状変化を認めた場合は,CLの使用を中止し,変化が落ち着いてから眼鏡を処方する.特にハードコンタクトレンズ(HCL)の装用者は角膜形状が大きく変化することがあるので,十分な観察が必要である4)(図1,2).酸素透過性の低いHCL装用や,高酸素透過性HCLであっても長時間装用って,普段の生活でCLを装用しないときは眼鏡を使用するように指導することが大切である.眼鏡を使用したことのない患者に対しては眼鏡とCLのメリット,デメリットを説明する.CLと眼鏡を併用するか,あるいはCLの使用を中止して眼鏡のみを使用するかで,処方内容が異なる.CLと眼鏡を併用する人は主としてCLを使用し,CLをはずした後の数時間しか眼鏡を使用しないことが多い.こうした場合の眼鏡は主として室内で使用するため,遠方重視というよりもやや中間距離に眼鏡の程度を合わせたほうがよい.〔症例4〕28歳,男性.主訴:遠見障害.現病歴:ソフトコンタクトレンズ(SCL)を使用している.SCLをはずしたときに使用する眼鏡を処方してほしい.来院時所見:遠方視力RV=(1.2×S7.0D)(1.2×SCL)LV=(1.2×S6.75D)(1.2×SCL)装用SCLR)S6.50DL)S6.25D再来時:眼鏡処方(SCL装用後)R)S6.50DL)S6.25D遠方視力RV=(0.8×処方眼鏡)LV=(0.8×処方眼鏡)解説:SCLを主として使用する患者で,SCLをはずした後に眼鏡を室内で使用するため,完全矯正ではなく,やや低矯正にしたものを処方した.CLと眼鏡は角膜頂点間距離が異なるため,屈折異常を矯正するレンズ度数は異なる.±4.00D以上では角膜頂点間距離補正をしなければならない.本症例では右眼の7.00Dは眼鏡では7.00Dになるのに対してCLでは6.50Dとなり,左眼の6.75Dは眼鏡では6.75Dになるのに対してCLでは6.25Dとなる.装用しているSCLの度数と処方眼鏡の度数は同じであるが,SCLは完全矯正であるのに対して処方眼鏡は0.5Dの低矯正である.CL装用によって角膜形状変化や角膜浮腫を生じる場HCL装用前HCL装用24日後図1HCL装用による角膜形状変化HCLの装用で角膜不正乱視を生じた.HCL装用前HCL装用20日後図2HCLの装用中止による角膜形状変化HCL装用を中止すると角膜形状が大きく変化した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009759(35)L)S3.25DC0.75DAx180°解説:HCLの内面は球面カーブであるため,HCLを装用するとこれに接する角膜はその形状に近づき角膜乱視は軽減するが,HCLの装用を中止するともとの角膜形状に戻る(図2).このように長期間HCL装用していた患者が装用を中止すると角膜乱視が強くなり,眼鏡の見え方も変化することがあるので,角膜形状変化が落ち着いたのを確認して再処方する.IV加齢に伴う調節力の変化調節力は10歳では1214Dあったものが,加齢に伴って直線的に低下し,30歳では69D,40歳代では46D,50歳代では13Dになる3)(図3).この調節力の低下によって明視域も低下するが,正視,近視,遠視ではこの明視域が異なる.図4は+2Dの遠視,正視,2Dの近視の調節力の低下に伴う明視域を示したものである.+2Dの遠視と正視は裸眼で遠方は見えても,2Dの近視に比して近方が見えないことがわかる.特に遠視では近見障害が起こりやすいため,早朝から近見用の眼鏡が必要となる.一方,2Dの近視は遠方は見えないため近視矯正の眼鏡を必要とするが,調節力が低下しても近方は裸眼でもほとんど不自由しないことになる.調節力の低下が著しくなると,明視域が狭くなるため,裸眼または単焦点レによって角膜浮腫をきたすことがある.こうした場合は屈折値にも変化を生じることが多い.HCLの装用をやめて眼鏡を常用する患者では,角膜形状変化が落ち着く前や角膜浮腫がよくなる前に眼鏡を処方すると,当初見えていた眼鏡が徐々に見えにくくなることがある.こうした場合には再処方を必要とする.〔症例5〕28歳,女性.主訴:遠見障害.現病歴:8年前よりHCLを装用しているが,装用をやめて眼鏡を常用したい.来院時所見:角膜曲率半径R)弱主経線値=8.03mm強主経線値=7.79mm(角膜乱視1.30DAx179°)L)弱主経線値=8.05mm強主経線値=7.77mm(角膜乱視1.51DAx2°)遠方視力RV=(1.2×S3.00D)(1.2×HCL)LV=(1.2×S3.00D)(1.2×HCL)装用HCLR)3.00DL)3.00D眼鏡処方(常用)R)2.75DL)2.75D遠方視力RV=(1.0×処方眼鏡)LV=(1.0×処方眼鏡)再来時(1カ月後)所見:角膜曲率半径R)弱主経線値=8.16mm強主経線値=7.63mm(角膜乱視2.87DAx178°)L)弱主経線値=8.17mm強主経線値=7.69mm(角膜乱視2.62DAx177°)遠方視力RV=(0.4×処方眼鏡)LV=(0.4×処方眼鏡)RV= (1.2×S3.25D(C1.00DAx180°)LV= (1.2×S3.25D(C1.25DAx180°)眼鏡再処方(常用)R)S3.25DC0.50DAx180°10304050607020201086412年齢(歳)14調節力(D):石原:福田:矢野:Clarke:Donders:Duane図3年齢調節力曲線(文献3より)———————————————————————-Page6760あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(36)2+10-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-121005033.3252016.714.312.511.1109.18.3Dcm2+10-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-121005033.3252016.714.312.511.1109.18.3Dcm2+10-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-121005033.3252016.714.312.511.1109.18.3Dcm2Dの遠視の明視域+2Dの遠視の明視域+2Dの遠視の明視域*+2Dに明視域はない(理論上遠点は∞となる)正視の明視域-2Dの近視の明視域正視の明視域-2Dの近視の明視域正視の明視域-2Dの近視の明視域調整力明視域調節力が5Dの場合調節力が10Dの場合調節力が2Dの場合図4屈折値と調節力の違いによる明視域———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009761(37)ンズでは患者の希望するすべての距離を見えることができなくなる.こうした場合には度数の異なる単焦点レンズを併用する(遠見重視のレンズと近見重視のレンズを使い分ける)か,遠近両用レンズを使用することを奨める.老視矯正の眼鏡処方については他稿に譲る.V眼鏡処方がむずかしい症例1.強度の遠視,近視と不同視強度の遠視や近視では,眼鏡で矯正すると網膜像の拡大,縮小が起こるため,眼鏡は使用しづらい.たとえば+10.0Dの眼鏡レンズでは12%の拡大,10.0Dでは12%が縮小される5).このような場合にはCLのほうがよい.特に眼内レンズの挿入が困難な無水晶体眼(強度遠視)ではCLが第一選択となる.屈折値の左右差が2D以上あると眼鏡では不等像を生じる.若い頃から眼鏡を使用して慣れている患者の場合はよいが,そうでない場合には眼鏡が使用できる状態まで左右のレンズ度数の差を減らす.また,片眼は遠見重視,反対眼を近見重視にする方法を試みてもよい1).一般に優位眼を遠用とする場合が多いが,患者によっては反対にしたほうがよい場合もあるので,時間をかけて試す必要がある.ただし,立体視が損なわれるという問題がある.〔症例6〕38歳,男性.主訴:遠見障害,眼精疲労.現病歴:右眼と左眼の屈折値に差があるので,SCLを使用しているが,目が乾くので,長時間の装用がむずかしい.眼鏡を併用したい.来院時所見:遠方視力RV=(1.2×S3.00D)LV=(1.2×S5.50D)近方視力NRV=(1.2×S2.25D)NLV=(1.2×S4.75D)眼鏡処方(SCLとの併用)R)S3.00DL)S4.75D解説:右眼と左眼の屈折値の差が2.50Dの不同視で直乱視倒乱視図5乱視を凹円柱レンズで矯正した場合の像の見え方正円は直乱視では横楕円形に,倒乱視では縦楕円形に見える.円柱は直乱視は横長く,倒乱視では縦長く見える.(所敬氏提供)図6乱視を円柱レンズで矯正した場合の像の見え方左右眼の乱視の度数,軸が同じ場合は同じ方向に傾いた楕円形になり,これらを融像することは可能である(②,③)が,左右眼で軸の方向が大きく異なる場合は同時視や両眼視ができない場合が多く,両眼視ができたとしても空間のゆがみを認識する(④⑧).(文献6より)———————————————————————-Page8762あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(38)ある.右眼を遠見重視,左眼を近見重視とするモノビジョンテクニックを試みた.慣れるまでに長時間を要したが,現在はSCLよりも眼鏡を常用している.2.強度の乱視と不正乱視強度の乱視を眼鏡レンズ(円柱レンズ)で完全矯正すると,網膜像の拡大,縮小が経線方向によって異なる1,6)(図5,6)ので,円柱レンズの度数を弱めないと眼鏡が使用できない場合が多い.垂直,水平方向の網膜像の拡大,縮小は順応しやすいが,斜め方向は順応できないことが多いので,斜乱視では矯正効果は弱まるが,円柱レンズの軸は180°または90°にしたほうが無難である.左右で乱視の軸が異なる場合は融像がむずかしいので,円柱レンズの度数を弱めても順応できない場合には,CLの処方を検討する.角膜不正乱視は眼鏡では良好な視力が得られないのでHCLが第一選択となるが,CLをはずしても最低限の日常生活ができるような眼鏡を処方する必要がある.〔症例7〕26歳,男性.主訴:遠見障害.現病歴:眼鏡店で眼鏡を合わせてもらったが,掛けると頭が痛くなる.来院時所見:遠方視力RV=(1.2×S6.00D(C2.00DAx20°)LV=(1.2×S6.50D(C2.00DAx160°)所持眼鏡R)S6.00DC2.25DAx20°L)S6.50DC2.25DAx160°RV=(1.2×所持眼鏡)LV=(1.2×所持眼鏡)眼鏡処方(常用)R)S6.00DC2.00DAx180°L)S6.50DC2.00DAx180°遠方視力RV=(0.9×処方眼鏡)LV=(0.9×処方眼鏡)解説:所持眼鏡の円柱軸は20°と160°であったので180°とした.円柱レンズによる乱視の矯正効果はやや弱まったが,患者の自覚症状は軽減した.おわりに屈折値ならびに調節力は年齢とともに変化する.生涯を通して遠見も近見も裸眼で楽によく見える人はいないはずで,いずれかの時期に眼鏡が必要となる.成人においては調節力の低下によって適正な眼鏡を処方したとしても年月が経つと見え方が変わることを実感する.患者によっては眼鏡を何本も使用しているが,どれも満足のいく見え方ではないと訴えることもある.快適な眼鏡を処方することはむずかしく,眼光学に関する知識に加えて眼鏡についての知識と処方技術を必要とする.不適正な眼鏡の使用による不具合が国民生活センターで数多く報告されている.無資格者による眼鏡作製が問題視されているが,適正な眼鏡を処方できる眼科医が多くないことも背景にあると考える.患者のqualityofvisionを考えるうえで,まず基本になるのは眼鏡処方である.快適な眼鏡を処方できるための知識と技術を身につけたい.文献1)平井宏明:4.眼鏡により成人の屈折矯正.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版(坪田一男ほか編),p56-60,文光堂,20062)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科学20:11-14,19993)梶田雅義:眼鏡処方のテクニック.あたらしい眼科21:1441-1447,20044)植田喜一:眼鏡とコンタクトレンズ.眼科診療プラクティス94:102,20035)所敬:眼鏡・コンタクトレンズの屈折と調節.日コレ誌48:S13-S19,20066)平井宏明:Q8左右眼の乱視軸が著しく異なる成人の眼鏡矯正の考え方を教えてください.あたらしい眼科14(臨増):194-196,1997

小学生,中学生,高校生の眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS節応答には個人差が大きく,必ずしもすべての症例で有効であるとは限らない.特に調節力の豊富な小児では,検査中の随意性調節(voluntaryaccommodation)や,検査直前に近業作業を続けていた場合,調節の後効果(near-viewingaftereect)によって,検査値が実際の値より近視側へシフトすることは決して珍しくない.したがって,自動レフラクトメータのみで屈折度を判定するのは危険である.自覚的屈折検査や調節麻痺下の屈折検査を併用して,測定値の信頼性を吟味するべきであろう.2.自覚的検査法通常,自動レフラクトメータの測定値をもとに自覚的屈折検査を行う.近視の過矯正や遠視の低矯正では,残余の屈折異常は調節力で代償されるため,最高視力の得られる球面レンズの度数には調節力に応じて一定の幅がみられる(表1).実際にはまず,自動レフラクトメータで得られた球面度数より約1Dプラス寄りの球面レンズ(4.00Dなら3.00Dのレンズ)を検眼用の眼鏡枠に取り付け(軽い雲霧状態.調節を働かせると像のボケは悪化するため,随意性調節を取り除く効果が期待できる),この値を起点として0.25Dステップでマイナス度数を上げていく(またはプラス度数を下げていく).視標はしだいにクリアになり,乱視が十分矯正されている場合は最高視力1.01.5に達する.そして,この度数を超えてマイナスはじめに小・中・高校生になると,他覚的屈折検査に対して十分な協力が得られ,自覚的屈折検査の結果も信頼できるものになる.矯正レンズのプリズム効果に対する輻湊の順応(phoriaadaptation)や不等像視に対する感覚的な順応は,成人に比べると強力である.その意味では,眼鏡処方は楽といえるかもしれない.一方,強力な調節力(>10D)をもつことから,調節の特性や屈折検査に及ぼす影響について熟知していないと,意図に反して過矯正眼鏡や低矯正眼鏡を処方してしまうことがある.本稿では,小・中・高校生の眼鏡処方について,特に調節機能との兼ね合いから解説したい.I近視の眼鏡矯正1.自動レフラクトメータ自動レフラクトメータは,最もよく使われる屈折検査であろう.しかし内部はブラックボックス化されており,測定値が測定眼の屈折度を正しく示しているかどうか,使用者は常に注意を払う必要がある.多くの自動レフラクトメータには,自動雲霧装置が搭載されている.固視視標をぼかす(雲霧)ことで像のボケに対する調節反応(blur-drivenaccommodation)を,遠方に置かれたかのような物体(気球や飛行機などの絵)を視標として用いることで,近接性調節(proximalaccommodation)を取り除き,屈折度を正確に測定しようとするものである.しかし,自動雲霧装置に対する調(23)747学学学眼学914251学学学眼学特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):747753,2009小学生,中学生,高校生の眼鏡PrescribingSpectaclesforElementary-,Middle-andHigh-SchoolChildren長谷部聡*———————————————————————-Page2748あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(24)3.オーバー・レチノスコピーこの年齢層では,成長とともに屈折度が変動することが多い.そのため,現在使用中の眼鏡が低矯正になっていないか,または過矯正になってないかを頻繁に調べる必要がある.一般的には,自動レフラクトメータで得た屈折度とレンズメータで得られた眼鏡レンズ度数を比較する.しかし,直接的な検査法として,オーバー・レチノスコピー(図1)が便利である.この検査は,実空間で,遠方に置いた視標を見ながら行うため,自動レフラクトメータで問題となる随意性調節や近接性調節の影響を受けにくい.オーバー・レチノスコピーでは,まず眼鏡を装用させたうえで,遠方に置いた調節視標(高空間周波数の高コントラストの視標)を両眼で明視するよう指示する.ついで,検査したい眼の前に+2Dレンズを置き,50cmの距離で検影法を実施する.眼底からの反射光が逆行すれば,眼の焦点(網膜共役点)は無限遠方よりも近く,近視眼であれば低矯正眼鏡,遠視眼であれば過矯正眼鏡を示している.眼底からの反射光が同行すれば,眼の焦点は無限遠方より遠く,近視眼であれば過矯正眼鏡,遠視眼であれば低矯正眼鏡を示している.反対眼も同様に度数を上げても,しばらくは最高視力のまま視力に変化はみられない.このとき,マイナス度数の変化分を調節力が代償しているためである.したがって,屈折度(=調節が働いていない眼の屈折状態)を知るには,最高視力が得られる最も弱いマイナスレンズ,または最も強いプラスレンズを求めればよい.ただし,ここでは眼球の光学的な焦点深度(約0.5D)については考慮されておらず,厳密には自動レフラクトメータで得られた屈折度と自覚的屈折検査で得られた屈折度は若干異なるはずである.赤緑試験は,眼の色収差を応用した自覚的屈折検査である.近視の低矯正や遠視の過矯正では,焦点は網膜より前方に偏位するため,赤い背景の視標のコントラストが強くなる(濃くなる).これに対し,近視の過矯正や遠視の低矯正では,焦点は網膜より後方へ偏位するため,緑の背景の視標のコントラストが強くなる.両方の視標が同様にコントラストよく見える球面レンズの度数には調節力に応じて一定の幅があるため,このうち,最も弱いマイナスレンズ,または最も強いプラスレンズを屈折度と考える(表1).表1自覚的屈折検査による球面レンズ度数の決定の例球面レンズの度数視力赤緑試験矯正の状態近視例3.003.253.503.754.004.254.500.60.91.21.51.51.50.9赤>緑赤>緑赤>緑赤=緑赤=緑赤=緑赤<緑低矯正低矯正低矯正完全矯正過矯正過矯正過矯正遠視例+1.00+1.25+1.50+1.75+2.00+2.25+2.500.60.91.21.51.51.50.7赤<緑赤<緑赤<緑赤=緑赤=緑赤=緑赤>緑低矯正低矯正低矯正低矯正低矯正完全矯正過矯正近視例でも遠視例でも,最良視力を得られるまたは赤緑試験で2つの視標が同じコントラストで見えるレンズ度数には,一定の範囲がある.最もプラス寄り度数が屈折度(完全矯正の度数)である.+2DC50cm5mABC図1オーバー・レチノスコピー(開散光による)の方法と結果の解釈眼鏡を装用させたうえで,遠方の調節視標を明視させる.さらに+2Dレンズを検査眼の前に置く.A)逆行:焦点(網膜共役点)は無限遠方より近方.近視眼であれば低矯正眼鏡.B)中和:焦点は無限遠方に一致.完全矯正眼鏡.または調節で代償可能な近視眼の過矯正または遠視眼の低矯正.C)同行:焦点は無限遠方より遠方.近視眼であれば調節により代償できない過矯正,遠視眼であれば低矯正.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009749(25)2.自覚的検査法(乱視表)乱視表の放射状パターンをみると,乱視がある場合,経線方向によってコントラストに差がみられる.しかし,最小錯乱円は前焦線と後焦線の中間に位置するため,もし最小錯乱円が網膜面付近にあれば,放射線パターンのボケは均等になり,判定が困難になる(図2A).そこで,他覚的検査から得られた球面度数に12Dのプラス度数を加入して(マイナス度数を減らして),最小錯乱円を網膜より前方に移動させる操作が必要になる.この状況では,前焦線と網膜までの距離は,後焦線と網膜までの距離よりも大きくなるため,放射状パターンの判定が容易になる(図2B).3.乱視矯正と年齢乱視矯正には,年齢を考慮することが大切である.問題になるのは円柱レンズによる不等像視,特に軸が交差する斜乱視である1).このような乱視を眼鏡で完全矯正すると,空間が奥行き方向に傾斜するような異常感覚(スラント感覚)が生じ,装用感に重大な問題が生ずる.しかし小学生であれば多くの場合,感覚的な順応力が強いため,完全矯正眼鏡を装用可能である.ましてや矯正視力が不十分な場合,まずは完全矯正眼鏡を処方したうえで,視力の推移をみるのがよいだろう.中学高校生になれば,成人と同様に,眼鏡視力と装用感のトレード行う.近視眼鏡を処方する際にも,処方しようとする眼鏡レンズを装用したうえでオーバー・レチノスコピーを行い,眼底からの反射光が逆行すること(=低矯正眼鏡であること)を確かめるとよい.この検査は,コンタクトレンズの処方の際にも有効である.ただし,乱視が十分矯正されていない場合は,残余乱視のため,判定がむずかしくなる.4.いつから近視眼鏡を始めるべきか?年齢,生活習慣,眼鏡に対する心理的抵抗など,さまざまな要素が組み合わさっている.このため,眼鏡の処方時期については症例ごとに判断する必要がある.一般に,視力0.7あると教室の後方の座席から,0.3あると前方の座席から黒板の文字を読むことができる.一つの参考になるかもしれない.また,「しばしば目を細めてみる」,「目つきが悪い」といった訴えがあれば,患児はピンホール効果を用いて視力低下を代償しているわけだから,眼鏡処方に踏み切る理由になる.II乱視の眼鏡矯正1.自動レフラクトメータ旧式の器械では,光学的測定装置を回転させながらスキャンしたため,測定の途中で調節が変動すると,時間差によって乱視の度数や軸に誤差が生ずるという欠点があった.しかし,最近では画像計測が主体であり,時間差による誤差は生じない.頭部の傾斜,注視方向のずれ,睫毛による測定領域の遮閉,角膜びらんなどに注意すれば,乱視度数や軸のデータについては比較的信頼性が高いといえる.たとえば,乱視軸の測定値が82°や13°であっても,眼鏡処方する際に90°や180°に変換する理由はないように思われる.特に円柱度数が強い眼鏡を処方する場合,最も信頼性の高い値(平均値または中央値)で軸角度を指示すべきである.乱視軸の誤差は小さくても,大きな残余乱視をひき起こすためである〔たとえば3Dの円柱レンズでは,軸角度に15°の誤差があると,約1.5D(50%)の残余乱視が発生する〕.この場合も自覚的な屈折検査を併用し,乱視軸を確認することが望ましい.ABCD図2乱視表による自覚的屈折検査最小錯乱円が網膜面にあるとき(A)は,乱視表による評価は困難である.12Dプラス度数を加えて,2つの焦線を網膜より前方に移動させる(B)と検査は容易になる.マイナス度数(C)では,調節反応が生じる(D)ため効果は期待できない.———————————————————————-Page4750あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(26)ものが,代償不全症状─近見視力障害を起こすことは少なくない.このような場合,近見視力検査に加えて,他覚的な調節検査であるダイナミック・レチノスコピー(dynamicretinoscopy)を行うとよい(図3)2).近見時の調節誤差(調節ラグ)が消失または生理的範囲内(<1D)になるまでプラス度数を加え,これを常用眼鏡として処方する.調節麻痺薬の使用のコツこの年齢層で最も使用しやすくかつ信頼できる調節麻痺薬は1%サイプレジン点眼液である.遠視,弱視,あるいは調節性内斜視が疑われた場合は,1%サイプレジンを用いた屈折検査を実施すべきである.サイプレジン点眼液の欠点としては,調節麻痺・散瞳効果が翌日まで持続すること,点眼時にしみることがあげられる.調節麻痺下で自覚的屈折検査を行う場合は,散瞳効果で周辺部の屈折の影響(球面収差など)が持ち込まれるのを防ぐため,人工瞳孔(直径3mm)を用いるのがよい.調節麻痺薬は生理的な調節(調節リード)まで麻痺させてしまう場合がある(特にアトロピンはその傾向が強い).このため,得られた屈折度をもとに完全矯正眼鏡オフを念頭に置いて,処方上の調整(①円柱度数を下げる,②円柱レンズの軸を180°または90°方向にシフトさせる,③頂間距離を短めにする)を行う必要があるかもしれない.〔ケース1〕15歳,男子.屈折度:右眼)1.00D(cyl3.00DAx130°左眼)1.25D(cyl3.00DAx45°処方例:右眼)1.25D(cyl2.00DAx115°左眼)1.50D(cyl2.00DAx60°解説:空間の異常感覚を軽減するため,両眼とも,円柱レンズの軸を90°方向へ15°シフトするとともに,度数を66%(2D)に下げる.等価球面度数を一定に保つため,円柱度数を下げたぶんだけ,その半分(0.5D)を球面度数で調整する.等価球面度数において0.25Dの低矯正眼鏡である.感覚的な順応は,眼鏡度数を変えない限り持続する.したがって,軸が交差する強度の斜乱視に対しては,小学生の間に完全矯正眼鏡の装用を開始することは,一生涯にわたって視力の質(QOV)を保つうえで合理的といえるかもしれない.高齢者になってから十分な眼鏡視力を得るため完全矯正眼鏡が必要になった場合,順応に苦労するためである.III遠視の眼鏡矯正調節性内斜視が疑われる場合には,1%サイプレジン点眼(10分間隔で二度点眼し,その50分後に測定)による調節麻痺下の屈折検査を実施し,完全矯正眼鏡を処方する.完全矯正しても大きな内斜偏位が残るか内斜偏位のために両眼単一視がみられない場合は,斜視手術を考慮すべきである.不同視弱視を認める場合には,視力発達の感受性期間(68歳)を過ぎるまでは,完全矯正眼鏡を処方すべきである.この時期を過ぎると,眼鏡装用を中止しても弱視が再発する可能性は少ないが,両眼視機能を最大限に発揮させるためには,完全矯正眼鏡の使用を続けることが望ましい.では,斜視も弱視もみられない遠視に対してはどう考えるべきであろうか?この年齢層でも,成長とともに調節力は低下しているため,それまで潜伏遠視であった調節視標30cmcABC図3ダイナミック・レチノスコピー(開散光による)の方法と結果の解釈裸眼または眼鏡を装用させたうえで,レチノスコピーの直前に置いた調節視標を明視するよう指示する.A)逆行:焦点(網膜共役点)は視標より近方.近視(>3D)または極端な低矯正眼鏡.B)中和:少なくとも近見では屈折矯正は良好.C)同行:焦点は視標より遠方.低調節(調節ラグ)が発生しており,遠視眼であれば眼鏡処方を考慮する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009751(27)小学生の間は,強力な感覚的な順応などにより,大きな不同視であっても完全矯正眼鏡を処方できることが多い.特に不同視弱視の症例では,調節麻痺下の屈折検査で得られた値をもとに,完全矯正眼鏡を処方するのが原則である.V間欠性外斜視がみられたとき間欠性外斜視や代償不全性外斜位があるとき(図4)は,近視であれば,完全矯正眼鏡を処方するのがよい.低矯正眼鏡または裸眼では,近方を明視するために必要な調節力が正視眼に比べて少なくて済む(たとえば,眼前25cmに置かれた物を明視する場合,完全矯正下では4Dの調節が必要であるが,1D低矯正の眼鏡を掛けていれば,調節は3Dで済む).近見反射に基づいて,調節性輻湊が低下するため,逆に近見時の外斜偏位が増大する.両眼単一視するには融像性輻湊が必要になるが,外斜偏位が増大することにより,代償不全症状が発生し両眼単一視が不安定になることがある.一般的に,近視眼鏡は遠見時の視力障害を解消するために処方されるが,間欠性外斜視や代償不全性外斜位の症例では,より安定した両眼単一視を得るために,近業時にも眼鏡を装用するよう指導すべきである.VI近見内斜位がみられたとき近視を完全矯正して眼位検査をすると,23割の症例で,近見時に内斜位が観察される.眼鏡処方における考え方は,間欠性外斜視の場合と逆になる.内斜偏位があると(図5),両眼単一視を得るためには融像性輻湊(開散)運動が必要になる.しかし近見反射に従って開散運動は調節反応を低下させるため,対象物を明視するを処方した場合,遠視眼では過矯正眼鏡,近視眼では低矯正眼鏡になる場合がある.前者では,「眼鏡を装用すると裸眼より遠見視力が落ちる」という診療上の問題が起こる.遠視のみが問題の場合には,安全マージンを考えて,低矯正で処方するのがよいかもしれない.ミドリンPRは,調節麻痺薬としては効果が不十分である.しかし随意性調節を抑制することで,自動レフラクトメータの測定値の再現性を向上させるうえでは有効である.最大の調節麻痺効果が得られる時間は,散瞳効果とは必ずしも一致しない.調節麻痺効果は,点眼後30分で最大になり,その後,急速に効果が失われることに注意が必要である.IV不同視の眼鏡矯正眼鏡レンズは角膜頂点から約12mm離れたところに置かれるため,レンズを通して見る像は,その度数に比例して拡大(凸レンズの場合)または縮小(凹レンズの場合)して見える.左右に度数差がある眼(不同視眼)を完全矯正しようとすると,眼鏡レンズに度数差ができる.このため,眼鏡を装用して見た像の大きさは,左右の眼で数パーセント異なることになる(不等像視).一般に,35%を超える不等像視は,両眼単一視の障害を起こし,眼精疲労の原因となるといわれている.レンズの度数差でいえば,約3Dに相当する.したがって,レンズ度数の左右差がこれを超えないように,眼鏡処方上の調整が必要になる.ただし,不等像視の程度は必ずしもレンズの度数差のみに依存するわけでなく,不同視の原因が軸性であるか屈折性であるかによっても異なる(Knappの法則).粟屋のNewAnisekoniaTestなどを用いて,実際に不等像視を測定することが望ましい.LOBOAC図4間欠性外斜視(代償不全性外斜位)がみられた場合の近視矯正の考え方外斜位では(A),両眼単一視を得るには,融像性輻湊運動が必要である(B).完全矯正眼鏡を処方する(C)と,凹レンズの度数だけ調節反応が生ずる.近見反射に基づき,調節反応は輻湊運動を伴うため,未矯正の場合(A)に比べて外斜偏位が軽減する.その結果,両眼単一視(A)に必要な輻湊努力は少なくて済む.L:完全矯正眼鏡,O:遮閉子.———————————————————————-Page6752あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(28)VII眼鏡処方の近視進行への影響早期発生近視(early-onsetmyopia)は,15歳頃まで進行する可能性がある.近視進行の原因は,大部分が,眼軸長の過伸展によるものである.EarlSmithIIIらのサルを対象とした実験4)をはじめ,複数の動物実験モデルは一致して,眼鏡処方のやり方がその後の近視進行(眼軸長の変化)を左右することを示している.われわれ臨床医は,まずこの科学的エビデンスを認識したうえで,小児に対する眼鏡処方のあり方を慎重に考えていく必要がある5).累進屈折力レンズを装用することにより,単焦点眼鏡に比べ,近視進行速度が抑制されることは,複数の無作為化臨床比較試験により報告されている.しかし抑制効果は平均12%で,臨床的治療効果としては不十分といわざるをえない3,6).低矯正眼鏡に関しては,近視進行を抑制するとする報告と加速させるとする報告があり,結論が得られていない.近視進行のトリガーと考えられている近業時の調節ために必要な調節を得られなくなり(過大な調節ラグ),近業時の霧視や眼精疲労が発生する3).完全矯正眼鏡を装用して近見時に内斜位がみられた場合,低矯正眼鏡または累進屈折力レンズの処方を考える.近視眼鏡は低矯正で処方すべきであるとする経験則は,少なくとも一部は,このような理屈で説明できるはずである.間欠性外斜視の術後,過矯正になって近見時に内斜位が生じた場合も,しばしば同様の理屈で近見障害がみられる.〔ケース2〕12歳,男子.屈折度:右眼)3.25D(cyl1.50DAx180°左眼)3.75D(cyl1.25DAx175°完全矯正眼鏡装用下で近業時の霧視を自覚.完全矯正下の近見眼位12Δ内斜位.処方例(1):低矯正の単焦点レンズ右眼)2.25D(cyl1.50DAx180°左眼)2.75D(cyl1.25DAx175°処方例(2):累進屈折力レンズ(MCレンズ,Sola社)右眼)2.75D(cyl1.50DAx180°左眼)3.25D(cyl1.25DAx175°近見加入度数+1.50D解説:完全矯正眼鏡で眼前33cmにある物を明視するために必要な調節量は約3Dである.処方例(1)は1D,処方例(2)の近用部は2Dの低矯正になっているため,それぞれ必要な調節量は約2Dと1Dになる.調節と調節性輻湊の比(AC/A比)を4Δ/Dとすると,眼鏡装用下の内斜偏位は,それぞれ,8Δと4Δとなるはずである.乱視軸に5°の差がみられるが,空間の異常感覚は軽微と考えられるので,変更の必要はない.Leung(1999)Shih(2001)Edwards(2002)COMET(2004)統合平均値差Hasebe(2007)-0.29*-1.5-1.0-0.5単焦点眼鏡に対する近視抑制効果(D/年)00.5-0.14*-0.07-0.07*-0.12*-0.11*図6臨床比較試験により報告されている累進屈折力レンズの近視予防効果メタアナリシスによる統合平均値差を示す.*p<0.05.OOLLLABC図5近見内斜位がみられた場合の近視矯正の考え方近見時に内斜位がある(A)と,両眼単一視を得るには,融像性開散運動が必要になる.近見反射によって開散運動は調節反応を低下させるため,像のボケが発生する(B).低矯正眼鏡(C)か累進屈折力レンズを考慮する.L:完全矯正眼鏡,O:遮閉子.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009753ラグ(lagofaccommodation)を低下させるうえでは,近業時に近視眼鏡をはずすという指示は理屈にあう.しかしそれならば,あらかじめ累進屈折力レンズを処方したほうが合理的かもしれない.過矯正眼鏡は良好な遠見視力を提供するものの,調節必要量を増大させるため,調節ラグが大きくなりやすい.近視進行を加速させることが懸念されるため,十分な注意が必要である.おわりに小・中・高校生で最も多い眼疾患は屈折異常である.屈折異常は成長に伴って大きく変動するため,きめ細かい診療が必要である.一方,成人に比べて調節力が強いことから,屈折検査や眼鏡処方においては,調節反応が屈折検査に与える影響,さらに眼鏡処方が調節機能へ与える影響について十分注意を払うべきである.本稿の解説が何らかのヒントになれば幸いである.文献1)GuytonDL:Prescribingcylinders.Theproblemofdistor-tion.SurvOphthalmol22:177-188,19772)HunterDG:Dynamicretinoscopy:Themissingdata.SurvOphthalmol46:269-274,20013)GwiazdaJ,HymanL,HusseinMetal:Arandomizedclinicaltrialofprogressiveadditionlensesversussinglevisionlensesontheprogressionofmyopiainchildren.InvestOphthalmolVisSci44:1492-1500,20034)SmithER3rd:Environmentallyinducedrefractiveerrorsinanimal.(In:MyopiaandNearWorked:RoseneldM,GilmartinB),p57-90,Butterworth-Heinemann,Oxford,19985)長谷部聡:近視化の機構と小児の眼鏡矯正.あたらしい眼科19:143-148,20026)HasebeS,OhtsukiH,NonakaTetal:Eectofprogres-siveadditionlensesonmyopiaprogressioninJapanesechildren:aprospective,randomized,double-masked,crossovertrial.InvestOphthalmolVisSci49:2781-2789,2008(29)

幼小児の眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS4Dを超える乱視がみられた場合には乳児期からでも眼鏡処方を考慮する必要がある.一方,近視は弱視になりにくいが,7Dを超える近視では,近見視力も不良なので眼鏡を処方する.年齢相応の視力とは,3歳半で0.8,4歳で1.0である.I眼鏡の適応幼児期~小児期に眼鏡が必要なのは,眼鏡が視機能発達のために不可欠と判断されるときである.代表的なものは,弱視をひき起こす強度の屈折異常(近視,遠視,乱視),不同視,屈折性調節性内斜視(図1)である.したがって,眼鏡は医療用装具として考えられ,療養給付金の対象となる.この時期の小児の視力不良が疑われるのは,3歳児健診や幼稚園での視力検査,見づらそうな仕草があるときなどである.両眼性の視力不良であれば健診などで気づくことが多いが,不同視弱視のような,片眼の視力不良は健診でも見過ごされることがしばしばある.その他,特殊な例として,高AC/A比(調節性輻湊対調節比)を伴う非屈折性調節性内斜視に対する二重焦点眼鏡,先天または発達白内障術後に対する累進屈折力眼鏡,ロービジョン児に対する補助眼鏡などがあげられる.1.屈折異常弱視屈折異常弱視は,両眼の視力が屈折異常のために正常に発達していない状態をさす.正常な小児は遠視のことが多いが,+5D以上の遠視,2.5D以上の乱視の場合に,デフォーカスのために,弱視になりやすいとされており眼鏡処方が勧められる.乱視による弱視を特に経線弱視というが,乱視は年齢による変化が少ないために,(17)741眼4313192121眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):741~746,2009幼小児の眼鏡SpectaclesforToddlersandChildren佐藤美保*図1調節性内斜視眼鏡を装用すると眼位が良くなる.———————————————————————-Page2742あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(18)た.初診時の眼位は40Δの間欠性内斜視であった.アトロピン調節麻痺下屈折検査で右眼+5.0D,左眼+5.0Dの遠視を認めたため,完全屈折矯正度数で眼鏡を処方した.眼鏡装用によって,眼位は改善したため,手術をせずに経過をみている.現在4歳2カ月.視力は右眼1.2×+4.5D,左眼1.2×+5.0D.立体視は認められない.解説:内斜視のなかには,乳児内斜視との鑑別が困難な症例がしばしばみられる.乳児内斜視であれば,できるだけ早期に手術で眼位を整えることが必要であるが,屈折検査で明らかな遠視があれば屈折矯正を先に行う必要がある.この症例は,間欠性内斜視であったが,斜視角が大きく,不安定であることから早期発症調節性内斜視と診断されて眼鏡が処方された.II眼鏡処方のための視力検査と屈折検査1.視力検査正常に発達している幼児であれば,2歳半ごろから視力検査が可能となる.8歳以下の小児は読み分け困難が強いため,視力検査は片眼ずつの字ひとつ検査を原則とする.小児の視力は近距離から発達するため,遠見視力が不良な場合には,近見視力も測定する.遠見視力よりも近見視力が不良な場合には,真の視力不良を考えるが,特に遠視性弱視の存在を疑う.一般的な小児視力検査の方法としては,絵視標による2.不同視弱視不同視弱視は,左右の屈折異常の程度に差があるために起きる片眼の視力不良である.一般的に遠視では+1.5D,乱視は1.0D以上の場合に,屈折異常の強いほうの眼が弱視になりやすく,眼鏡処方が勧められる.3.斜視弱視乳児内斜視や,屈折性調節性内斜視では,非優位眼が弱視になりやすい.一般的に,遠視性の屈折異常を伴うため,眼鏡による遠視の適切な矯正が必要である.そのうえで,優位眼を遮閉することによって,弱視治療を行い残余斜視があれば手術を考慮する.4.調節性内斜視生後1歳半以降に発症することが多い内斜視で,多くの場合,遠視を伴う.屈折異常を矯正した場合に,完全に斜視がなくなるものを純調節性内斜視,斜視が改善するが,残るものを部分調節性内斜視という.乳児内斜視のなかには,成長とともに遠視度数が増加し,調節性内斜視となるものも少なくない.逆に生後6カ月以内に発症する調節性内斜視もあり,乳児内斜視との鑑別が重要なこともある.〔症例(図2)〕生後すぐから内斜視がみられた.家族が持参した写真で確認できる.斜視は間欠性だったため,眼科は1歳6カ月で初診し生後3カ月1歳6カ月遠視の矯正で眼位が改善図2早期発症調節性内斜視———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009743(19)2.屈折検査3歳児であれば,オートレフラクトメータによる屈折検査可能率が90%になる.したがって,スクリーニングとしては,オートレフラクトメータで可能である1).しかし,小児は調節力が強く,軽度~中等度の遠視や不同視の見逃しがあるため,検影法を用いて遠見時の屈折検査を行い,精密検査は必ず調節麻痺下で行う.調節麻痺薬としては,硫酸アトロピンあるいは塩酸シクロペントラートを用いる.トロピカミドは散瞳作用はあるが,調節麻痺作用はないことに注意する.硫酸アトロピンは1日1回の点眼を5~7日続ける必要がある.劇薬であるため,点眼に際しては副作用と点眼方法を記載した用紙を渡して十分に説明する(表1).特に1歳以下の低年齢児では,副作用を避けるために,眼軟膏を使用するとよい.塩酸シクロペントラートは2回の点眼後45分あけて屈折検査を行う.副作用として精神症状や眠気があるため,外来で待っている間の行動には十分注意する.点眼後に視力の再検査を行う場合には,眠気のために良好な視力が得られないことがしばしばある.硫酸アトロピンの調節麻痺作用は,1週間以上持続するため,学童期以降は塩酸シクロペントラートを用いる2).III眼鏡度数の決定1.眼鏡をいつ処方するか小児は一般的に遠視のことが多く,すべての遠視に対して眼鏡が必要なわけでないことは明らかである.乳児期であれば+5Dの遠視があっても,正位で固視・追視が良好ならば眼鏡を処方する必要はない.しかし,+6D以上の遠視,4D以上の乱視があれば視力検査が不可能な年齢であっても,眼鏡を処方することを原則とするが,家族が拒否したり,装用不可能なことも少なくない.その場合には,くり返し視力検査を行い,視力の変視力検査,Landolt環による字ひとつ視力検査があり,近距離視力検査としては森実ドットカードRがある.視力検査に際しては,検査の環境が重要である.できるだけ他の被検者や検者が眼にはいらない環境をつくること,午睡が日課の小児であれば,その時間帯を避けるか午睡をすませてから来院させること,検査をゆっくり行うことなどである.他院からの紹介患者で,視力不良とされていても,これらに気をつけて行うと,良好な視力が得られることは少なくない.片眼ずつの視力検査に先立って,両眼視力を測定しておく.このことは,片眼ずつの視力検査に非協力的で一方の眼の視力しか測定できなかったときの参考になる.初回の診察で,片眼の視力しか測定できなかった場合,次回の診察で他方の眼の視力検査を先に行うようにする.どうしても視力検査に協力できない幼児に対しては,立体視検査を行うこともある.立体視検査に合格すれば,どちらか一方の視力が著しく不良である可能性は低い.片眼ずつの視力検査に際しては,確実に他眼を遮閉することが重要である.母親の手で隠したり,遮眼子で隠したのでは,隙間から覗いてしまうことがある.前回の視力検査の結果と著しく異なる場合には,アイパッチを2枚重ねて確実に遮閉していることを確認しながら視力検査を行う必要がある.幼児期に眼鏡を処方する際には,家族への説明が必要である.親が十分に眼鏡の必要性を理解していない場合には,せっかく処方しても装用できないということになる.家族の理解を得るためには,近見視力検査が有用なことが多い.特に遠視性弱視では遠見視力に比べて近見視力が不良な場合には眼鏡の適応があると考える.また,近視のように「近づければよく見える」という状態でなく,「近づけても見えない」という状態は,家族にとっては視力不良の問題を理解しやすい.そこで,眼鏡装用に抵抗する家族には,近見視力検査をしているところを見せるとよい.それまで落ち着きのない子,あるいはいつまでたっても文字を覚えない子,として扱われていた幼児が,眼鏡をかけて以来,読書を好み,落ち着きがでてきたということはしばしば経験する.表1調節麻痺薬の副作用硫酸アトロピン塩酸シクロペントラート過敏症,アレルギー性結膜炎,眼瞼結膜炎,血圧上昇,心悸亢進,幻覚,痙攣,興奮,悪心,嘔吐,口渇,便秘,顔面潮紅,頭痛,発熱.過敏症,頻脈,一過性の幻覚,運動失調,情動錯乱,口渇,顔面潮紅.———————————————————————-Page4744あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(20)seikoniaTestRを用いる.3.瞳孔間距離の決定瞳孔間距離の誤りはレンズのプリズム効果をひき起こすので重要である.特に,遠視を伴う内斜視で瞳孔中心が凸レンズのレンズ中心の外側を通ると,基底内方のプリズムを装用したのと同じことになり,眼位の悪化につながるので注意する.IV眼鏡レンズの選び方レンズ素材についてレンズの素材にはプラスチックとガラスがある.眼鏡の重さは,レンズ素材の比重,屈折率,レンズの大きさで決まる.同じ度数,同じサイズのレンズであれば(比重)×(屈折率)で重さが決まってくる.小児の場合,遠視の比較的度数の強いものを必要とする場合が多いこと,鼻が低く,重さによって眼鏡が下がること,不同視があると左右のレンズの重さが変わることなどがあるため,レンズの重さに配慮する必要がある.一方で,小児はレンズに傷をつけたり,度数の変更が頻回に必要であったりするため,廉価であることも重要な要素である.レンズの屈折率は,ガラスレンズのほうがプラスチックレンズより高いが,比重はプラスチックのほうが軽いという特性がある.価格面ではガラスレンズのほうが廉価で耐用年数も長いが,最近はプラスチックレンズでも高屈折率の素材が開発されたこと,レンズの薄型加工が可能になり比較的薄く軽い眼鏡の作製が可能になったこと,療養給付の支給から費用面での負担が少なくなったことなどから,小児にはプラスチックレンズを選択することが多い.図3のように薄型加工を指定するとよい.化を見ながら眼鏡処方の時期を決定する.内斜視があれば,屈折性調節性内斜視と非屈折性調節性内斜視の鑑別のために眼鏡を処方することがある.特に乳児内斜視では,眼鏡を装用しても内斜視の程度が変化しないため,早期の手術が必要となる.逆に,乳児内斜視が後に調節性内斜視に移行してくることもある.内斜視術後の残余斜視に対しては,積極的に眼鏡の処方を行う.外斜視に,屈折異常を伴うことも少なくない.遠視は内斜視をひき起こすと考えられがちだが,遠視による不同視弱視があれば,外斜視となることもある.遠視を矯正することによって,調節力が引き出され,眼位が改善することもあるため,まず眼鏡処方を考慮する.逆に,遠視の矯正をすることによって,眼位が悪化すれば,斜視手術を考慮する.間欠性外斜視に近視を伴う場合は,遠方視時の像のぼけが眼位不良の原因の可能性があるので弱視がなくても眼鏡を処方する.2.調節麻痺下屈折度数と処方度数視力検査がしっかりできる児で,弱視がなければ,眼鏡の装用練習をしたうえで度数を加減することが可能である.近視でも遠視でもやや低矯正にしたほうが適応しやすい.しかし,遠視性屈折異常弱視では,調節麻痺下屈折値をそのまま処方するか,そこから生理的トーヌスを引いた値で処方するかで意見が分かれる.斜視のない遠視性弱視は,5歳以上であれば0.5D減らしたほうが,同等の視力改善で装用可能率が高くなることが報告されている.一方,5歳以下では,低矯正眼鏡にすることで内斜視が発症してくる可能性が高いと報告されており,装用可能であれば完全矯正が望ましい.内斜視を伴う遠視では,完全矯正を原則とする.もし,内斜視が残存すれば調節麻痺下屈折検査をくり返し行い,わずかな残余遠視も矯正する3).不同視弱視では,不等像視が問題となることがある.しかし,片眼の人工的無水晶体眼のような屈折性不同視とは異なり,小児の不同視は眼軸長に左右差がある軸性不同視のため,眼鏡矯正による不等像視の出現は少ない.不等像視を測定するためには,AwayaNewAni-カットされる部分レンズの外径6560図3レンズ薄型加工———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009745(21)することが必要である.処方箋どおりの度数か,乱視の軸は合っているか,レンズ中心間距離は合っているか,をレンズメータを使ってチェックする.また,フレームのチェックをすることも必要で,フィッティングが悪い場合には,フレームの変更も含めて,眼鏡店に指示することもある.フィッティングのチェックポイントは,アイポイントが合っているか,角膜頂点間距離が保たれているか(図4),レンズの前傾角が良いか(図5),などである.患者の正面,上,横から眼鏡のかけ具合をチェックする.最後に眼鏡を外して,顔に傷がついていないかを確認する.鼻パッドの下がかぶれていても,小児では症状を訴えないことがあるので注意する.VI眼鏡処方後のフォロー1.眼鏡をかけられない場合と対応特に遠視の眼鏡を嫌がる場合には,いくつかの原因が考えられる.1)調節麻痺下屈折値で眼鏡を処方するために,調節力が戻ってから眼鏡を装用すると,「遠くがよく見えない」ということがある.眼鏡がかけられても,眼鏡をずり下げて,眼鏡の上から覗いているのも同様の原因で起こる.特に不同視弱視では,優位眼は裸眼でもよく見えることが多いため眼鏡装用に抵抗する.その場合,外来で硫酸アトロピンを点眼したのち,帰宅させることによって調節を再度麻痺させ,裸眼では見づらい間に装用の習慣をつけさせる.どうしても装用できない場合には一旦,遠視度数を下げたレンズに変更することもある.2)フレームが合わないために,眼鏡を装用することが不快:年齢が低いほど,初回の眼鏡を装用できないことは多い.特にフレームがきつくしまりすぎている場合には,痛みのために眼鏡をはずそうとすることがあるので,チェックする必要がある.2.眼鏡再処方のタイミング5歳未満では,最低でも1年に1回はレンズの変更を考慮する必要がある.多くの場合,レンズ表面に傷がついており,視機能に影響を与える可能性がある.外来受診の際には,必ずレンズの傷の有無をチェックする.また,顔の大きさの成長が著しい時期でもあるため,フレV眼鏡フレームの選び方1.小児用眼鏡フレーム小児は鼻根部が広く,顔の大きさもさまざまであるため,フレーム選びが重要となる.また,活動性が高く,扱いも乱暴になるためにフレームの素材やデザインに注意が必要である.ファッション性を重視して,フレームを選ぶとフレームの縦径が短すぎて視界をカバーしきれていなかったり,大きすぎるフレームを無理に合わせるために角膜頂点間距離が長くなりすぎたりしていることがある.眼鏡のテンプルの長さを種々揃えていて,自由に組み合わせることのできるフレームを勧めている.フレームの素材はプラスチックで形状のしっかりしたものが好ましい.成人に好まれるような「縁なし」のフレームは小児には不向きである.2.チェックポイント眼鏡を処方したあとで,眼鏡レンズ度数のチェックをテンプルが短い角膜頂点間距離が短い図4横からのフィッティングチェック図5眼鏡の前傾角不良———————————————————————-Page6746あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009ームも2年に1回くらいの頻度で変更することが必要である.5歳以上で,視力検査が十分にできるようであれば,視力と眼位を参考にして度数変更を考える.再処方に際しては,眼位と視力を参考にして,調節麻痺下屈折検査を行い,度数を決定する.視力が良好な場合には,調節麻痺下屈折値から0.5D引いた値を処方することで将来の調節不全を予防する.VII特殊な眼鏡特殊な幼小児の眼鏡として,高AC/A比を伴う二重焦点眼鏡がある.遠見眼位が良好であっても,近方視に際して調節を行ったときに過剰な輻湊を伴うものである.事前に+3Dのレンズを眼前において,眼位が改善するとともに両眼視機能が改善する場合を適応とする.実際には,眼位が改善しても両眼視機能が改善しない場合が多く,適応を厳密に決めると,対象者は多くはない.また,二重焦点眼鏡を装用し続けて眼鏡から開放されることは決して多くない.この場合に使うレンズとしては,エグゼクティブ型とよばれる上下でレンズが分かれているタイプのもの,小玉の入ったもの,累進屈折力レンズなどである.小児の場合,うまくレンズの下方を利用することは容易ではないため,はっきりと上下が分かれるエグゼクティブ型の利用が理想的であるが,外見上の問題から累進屈折力レンズを使用するほうが装用可能率は高くなる.無水晶体眼のための眼鏡先天・発達白内障術後に眼内レンズを挿入しないことが多いため,術後の屈折矯正は,コンタクトレンズか眼鏡が必要になる.片眼性ではコンタクトレンズが必要であるが,両眼性の場合には眼鏡による矯正が安全で確実である.しかし,現在作製可能な眼鏡レンズ度数に限界があること,二重焦点眼鏡にするとさらに近用部が厚くなり実用的でないことから幼児期には,近方に合わせた単焦点眼鏡を処方することが多い.入学時に中間距離で処方し,成長に伴い遠視度数が減少してきたら二重焦点眼鏡に移行する.文献1)稲泉令巳子,内海隆,中村桂子ほか:小児の眼科スクリーニングにおけるレチノマックスの評価.眼臨92:722-724,19982)森隆史,八子恵子,飯田知弘ほか:乳幼児に対する1%アトロピン点眼液を用いた調節麻痺下の屈折検査.眼臨紀1:157-160,20083)内海隆:わかりやすい臨床講座小児の眼鏡.日本の眼科79:1377-1381,2008(22)

乳児の眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS両眼とも振幅の低下をきたしていた.手術:早急に全身麻酔下検査,両眼白内障手術を施行(経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術),術中術後合併症なし.眼鏡の処方:術後炎症や角膜浮腫が消退し眼圧が安定する術後7日目に検影法(skiascopy)による屈折検査を実施,両眼とも屈折値+18Dであった.乳児の視力の発達特性を考慮し,眼前33cmに焦点を合わせて両眼屈折矯正度数+21D,瞳孔間距離は近見で計測し40mmとして眼鏡を処方した.処方時には,乳児用眼鏡枠(フレーム)を紹介し,安全性と重量・収差の軽減のためプラスチックレンズで作製するよう指示する.また,弱視の治療目的に常用する眼鏡であることを家族に十分に説明し,頻回作製の費用負担を少しでも軽減するため,治療用眼鏡の療育費給付について情報提供する.処方後の管理:顔幅に適したフレームを選び,レンズのサイズが十分に広く,正しい位置に安定して装着されているか(フィッティング)を確認する.フレームサイズ44mm,レンズサイズ34mmの乳児用眼鏡(アンファンベビー,オグラ製)を装着したが,レンズの重さのためフレームが下方にずれやすく,はじめはテープ固定を要した.成長とともに良好なフィッティングを維持できるようになった.生後10カ月時に屈折値,瞳孔間距離,顔幅が変化したため屈折矯正度数+16D,瞳孔間距離45mmとして眼鏡を再処方した.はじめに乳児に眼鏡を処方する機会は限られているが,対象となる疾患は,いずれも発達途上の視力や両眼視機能に不可逆的な障害を及ぼす重症疾患である.近年,乳幼児眼疾患の早期発見,治療の進歩とあいまって,より早期に適切な屈折矯正を行う必要性も増してきた.2007年に本誌特集で乳児の眼鏡について概説したが1),本稿では,代表的なケースを呈示し,検査と処方の進め方,処方後の管理と注意点,眼鏡の効果について具体的に述べたい.I無水晶体眼1.症例呈示患児:生後17週,男児.主訴:眼振および異常眼球運動.現病歴:水平および上下に眼が揺れ,異常な眼球運動をすることに気づき近医受診.両眼の白内障を指摘され精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.発達の遅れを疑われ小児科で精査したが異常なし.家族歴として母が若年性白内障で手術を受けている.術前所見:瞳孔反応正常.左右眼とも固視・追視不良で,著明な眼振と異常眼球運動を認めた(図1a).両眼に小角膜(9mm×9mm),膜状白内障を認め,散瞳不良であった.眼底透見不能であったが超音波Bモード検査では後眼部に異常なし.視覚誘発電位(VEP)では(11)735aca眼157眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):735740,2009乳児の眼鏡PrescribingSpectaclesforInfants仁科幸子*———————————————————————-Page2736あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(12)徹照が悪いとき,屈折度の急激な変化を認めた場合には,後発白内障,緑内障,網膜離などの術後合併症の発症が疑われるため十分注意する.顔面の成長も速いため,フレームが顔幅に合っているか,瞳孔間距離は変化していないか,レンズの状態は良好か,つねに注意を払う.術後無水晶体眼では,瞳孔間距離のずれによってプリズム作用が出るため,2mm以上変化したら再処方を検討する.眼鏡はいったん慣れると継続して装用できることが多いが,心身の発達の過程で患児の体動が激しくなったり,取り扱いが粗雑になってコンプライアンスが悪くなることがある.患児の手で眼鏡をいじるようになると,レンズ面に汚れや傷が多くなり,フレームが曲がりやすくなる.頻回にフィッティングを調整して,患児ができ眼鏡の効果:眼鏡の常用により生後24週(術後7週目)には両眼に固視・追視を認め,顕性の眼振が著明に低下した(図1b).眼位は正位軽度内斜視.生後8カ月時に縞視力(gratingacuity)にて両眼開放下矯正視力0.115まで検出された.2.解説乳児期は視性刺激遮断に対する感受性がきわめて高い時期であり,この時期に起こる疾患によって重篤な弱視を起こす.両眼性の先天白内障では,生後10週を過ぎると急速に眼振や異常眼球運動が顕著となるが2),早急に手術を行い3),眼鏡の装用ができると12カ月で眼振が軽減し安定した固視,追視がみられるようになる.視機能が急速に発達する時期であるため,適切な治療を行えばその効果も高い.術後の屈折矯正には眼鏡,コンタクトレンズのほか,最近では眼内レンズの適応も拡大しつつあるが,乳児に対しては,合併症がなく安全で,取り扱いが容易,成長に応じた変更が容易である点など,依然として眼鏡の利点は多い46).術後早期から適正な屈折矯正が可能であり,良好なコンプライアンスが得られやすいため視機能の発達に有利である.成長に伴う屈折度の変化は,視覚の感受性の高い02歳で特に著しい.術後無水晶体眼では,少なくとも23カ月ごとに屈折検査を施行し,眼鏡が+23Dの近見矯正に合っているかどうか調べ,4D以上の過矯正となれば変更する.実際には,眼鏡の装用状態が良好であることを確認し,レンズ装用下で検影法(overrefrac-tion)を施行すると簡便に正確な検査ができる(図2).ab図1生後17週男児,両眼先天白内障a:術前,眼振・異常眼球運動が顕著であった.b:術後7週目,眼鏡常用にて眼振が低下し良好な固視・追視がみられる.図2眼鏡装用下で検影法(overrefraction)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009737(13)辺部全周に網膜血管の走行異常と無血管野を認め,耳下側周辺部の線維組織に向かう牽引乳頭を呈していたが,蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認めず,活動性はないと判るだけ快適に眼鏡を装用できるよう注意する.3.今後の課題近年,重症未熟児網膜症(II型,aggressiveposteriorretinopathyofprematurity:AP-ROP)においても,早期硝子体手術技術が進歩し,比較的良好な視力予後が得られる可能性が出てきた7).両眼の硝子体手術に水晶体切除を要することが多いため,術後無水晶体眼に対する屈折矯正の重要性も増している.現在市販されている乳児用眼鏡フレームは,テンプルが柔らかく頭部にバンドで固定するよう工夫されており,仰臥位で体位が変化しても安全に装着できる.サイズ30mm,瞳孔間距離32mmから特注で作製できるため,未熟児の術後無水晶体眼にも対応可能となった.レンズ度数は球面設計で+33.0Dまで作製可能であるが,度数が大きいほど光学的欠点や重量が増すため,良好な装用状態を維持できるかどうかが問題となる.また,瞳孔間距離40mm未満または顔幅に比べて瞳孔間距離の狭い例では,レンズを内寄せして光学間距離を一致させるが,顔幅に比べて極端に瞳孔間距離が狭い例では作製がむずかしい.両眼先天白内障では全身症候群を伴う例が多いため,さまざまな顔面の特徴をもつ患児に対応した眼鏡の開発が望まれる.II強度屈折異常1.症例呈示患児:2歳,男児.主訴:右眼外斜視.現病歴:生後9カ月頃より右眼が外にずれていることが気になり近医受診.精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.所見:瞳孔反応正常.左眼固視良好,右眼は角膜反射法で外斜視を呈していたが,カバー・アンカバーテストで斜視を検出せず,左眼を遮閉すると嫌悪反応がみられた.前眼部・中間透光体に異常なし.眼底検査にて右眼に牽引乳頭を認め,左眼にもごく軽度であるが牽引乳頭を認めた.また両眼とも周辺部網膜に全周にわたる無血管野を認めた.全身麻酔下検査を実施,両眼とも眼底周bca32歳男児,牽引乳頭に伴う強度近視a:右眼眼底所見,周辺部の線維組織に向かう高度の牽引乳頭を認める.b:左眼眼底所見,ごく軽度の牽引乳頭を認める.周辺部には全周にわたる網膜血管の走行異常と無血管野を認めた.c:眼鏡常用,右眼偽外斜視を呈している.———————————————————————-Page4738あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(14)無水晶体眼から強度近視・乱視まで,角膜混濁などの器質病変がある場合でも測定可能である.母親の腕や膝の上で正面を向かせ,自然に開瞼した状態を捉えて短時間で検査できるように,普段から習熟しておく必要がある.やむをえず開瞼器を使用する場合は乱視の混入に注意する.体動が少ない乳児では,手持ちオートレフラクトメータを用いると簡便に検査できる.しかし,測定範囲が限られており,調節の介入や乱視の混入が多い点,眼振や器質病変があると測定値がばらつき不正確である点に注意を要する.強度屈折異常に対する眼鏡処方は原則として図4のように大別している.乳児期に強度の遠視,遠視性乱視,遠視性不同視を認めた場合には,屈折異常弱視の予防のため眼鏡処方を検討する.内斜視のない場合には,調節麻痺剤として1%cyclopentolate点眼を用いることが多いが,強度遠視が疑われる場合は0.25%または0.5%アトロピン点眼による精密屈折検査が望ましい.乳幼児の平均屈折度は生後3カ月で+3.9D,1歳で+1.9D,2歳で+0.9Dと報告されている8).+5.0Dを超える遠視,+3.0Dを超える乱視がある場合は,縞視力(gratingacuity)や眼位を評価のうえ,完全矯正眼鏡を処方する9).両眼の強度の近視,近視性乱視の場合には,近方視で網膜への結像が起こるため遠視に比べて弱視を生じにくい.しかし,年齢とともに遠見障害が視空間認知や視覚に基づく行動の発達に影響を及ぼすため,2歳頃から眼鏡処方を検討する.必ず1%cyclopentolate点眼による調節麻痺下屈折検査を行う.4.0Dを超える近視,3.0Dを超える乱視がある場合は,近視は低矯正,乱断された(図3a,b).家族性滲出性硝子体網膜症が疑われるが,まだ両親の眼底検査は施行していない.眼球打撲に対する注意を促し,定期的に眼底検査を実施している.眼鏡の処方:1%cyclopentolate(サイプレジンR)点眼による調節麻痺下屈折検査を実施したところ,右眼5.5D,左眼6.0Dの近視を検出した.2歳のため眼前50cm1mに焦点を合わせて屈折矯正度数は右眼4.0D,左眼4.5D,瞳孔間距離は遠見で測定し48mmとして眼鏡を処方した.処方後の管理:すぐに眼鏡を好んで常用するようになり,装用状態は良好であった(図3c).牽引乳頭の左右差が著しいため,健眼遮閉による弱視治療は効果が少なく,むしろ遮閉時の眼球打撲などのリスクを考えて行っていない.眼鏡の効果:3歳になり初めて絵視力を測定したところ,眼鏡矯正下で両眼0.4,右眼0.2,左眼0.3と比較的良好な結果が得られている.2.解説このケースでは斜視の精査目的で受診し眼底疾患が発見されたが,乳幼児期に視反応不良,眼位異常,眼振はもとより,他のさまざまな主訴にて来院した際にも,散瞳下の眼底検査,調節麻痺剤を使用した精密屈折検査は必ず施行しておきたい.一方,明らかな症状がない場合でも,乳児期に強度の屈折異常が検出された際には,しばしば器質的疾患が背景にあるため,前眼部から眼底周辺部まで詳細に観察すべきである.強度屈折異常を伴う代表的な疾患を表1に示す.乳児の屈折検査は検影法(skiascopy)が基本である.乳児期の強度屈折異常器質的眼疾患はないか近視性不同視器質病変(+)予後不良両眼強度近視強度近視性乱視両眼強度遠視強度遠視性乱視遠視性不同視乳児期から眼鏡弱視予防2歳頃から眼鏡図4強度屈折異常に対する眼鏡処方表1乳児期に強度屈折異常を伴う代表的疾患強度遠視・遠視性乱視小眼球,Leber先天黒内障,扁平角膜,角膜瘢痕,先天無水晶体症.強度近視・近視性乱視発達緑内障,水晶体偏位,小球状水晶体,円錐水晶体,球状角膜,分娩外傷,角膜混濁,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,先天停止夜盲,Stickler症候群,Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009739(15)による精密屈折検査を実施したところ,両眼に+3Dの遠視を検出した.家族と相談し,完全矯正眼鏡(瞳孔間距離39mm)を処方した.処方後の管理:家族の協力により,はじめから眼鏡を嫌がらずに掛けられ,装用状態は良好であった(図5b).眼鏡フレームのフロントサイズが小さくなったため,生後9カ月時に眼鏡を再処方した.眼鏡の効果:生後6カ月未満発症の大角度の内斜視であったが,眼鏡装用を開始して1カ月後には眼鏡装用下で眼位正位となった.非装用下では左眼内斜視となる.両眼の外転制限は徐々に改善している.2.解説乳児期に眼位異常をきたした場合,放置すると両眼視機能の発達が困難となる.特に生後34カ月は立体視の感受性が高いため11),早期発症内斜視(生後6カ月までに発症)では,迅速な診断と眼位矯正が必要である.このケースでは当初外転神経麻痺を疑い,精査,交代遮閉訓練を実施,早期手術も念頭に置いていたが,完全矯正眼鏡の常用にて眼位は正位となった.生後420週における20Δ以上の内斜視を追跡調査した近年の多施設研究では,小角度,変動する内斜視や,+3.0D以上の遠視を伴う例では自然治癒する可能性もあると指摘されている12,13).しかし,内斜視が遷延する際には,調節性要因の関与を疑い,完全矯正眼鏡を手術に先立って装用させるのが原則である.調節性内斜視のなかには生後4カ月で発症する例もあることが知られている14).視は原則として完全矯正にて眼鏡を処方する.不同視差が5.0D以上の強度近視性不同視の場合,器質病変が潜在しており眼鏡を処方しても予後不良のことが多い.屈折度が10.0D以内で,眼底後極部の萎縮病変がなく,顕性斜視のない例では眼鏡を処方し,健眼遮閉による弱視治療を試みる10).たとえ両眼に重篤な視覚障害をきたす器質的疾患があっても,残存視機能の発達と活用を促すために,強度屈折異常を検出し,適正な眼鏡を処方する必要がある.視距離に合わせた近見矯正とするのがコツである.III早期発症内斜視1.症例呈示患児:生後5カ月,女児.主訴:内斜視.現病歴:生後2カ月頃より左眼が寄り目になることに気づいた.その後右眼も寄るようになった.精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.既往歴として心室中隔欠損があり経過観察されている.発達正常.家族歴に特記すべきことなし.所見:瞳孔反応正常.左右眼とも固視良好であったが交代視しており,Krimsky法にて50Δの内斜視を検出した(図5a).両眼に外転制限を認めた.前眼部・中間透光体・眼底に異常なし.散瞳下の屈折検査にて両眼に+4Dの遠視を検出した.神経内科で精査,頭部MRI(磁気共鳴画像)を施行したが異常なし.1日30分の交代遮閉訓練を行ったが外転制限は残存し,斜視角は不変であった.眼鏡の処方:生後7カ月時に0.25%アトロピン点眼ab図55カ月女児,早期発症内斜視a:初診時眼位,内斜視50Δ.b:生後8カ月,完全矯正眼鏡装用にて正位.非装用時は内斜視.———————————————————————-Page6740あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(16)8)山本節:小児遠視の経年変化と眼鏡矯正.眼紀35:1707-1710,19849)WrightKW:Visualdevelopmentandamblyopia.In:WrightKW,SpiegelPH(ed):PediatricOphthalmologyandStrabismus2nded,p157-171,Springer-Verlag,NewYork,200310)大野京子:強度屈折異常.丸尾敏夫(編):眼科診療プラクティス27,p166-170,文光堂,199711)FawcettSL,WangYi-Z,BirchEE:Thecriticalperiodforsusceptibilityofhumanstereopsis.InvestOphthalmolVisSci46:521-525,200512)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Theclinicalspectrumofearly-onsetesotropia:Experienceofthecon-genitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthalmol133:102-108,200213)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Spontaneousresolutionofearly-onsetesotropia:Experienceofthecongenitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthal-mol133:109-118,200214)CoatsDK,AvillaCW,PaysseEAetal:Early-onsetrefractiveaccommodativeesotropia.JPediatrOphthalmolStrabismus35:275-278,1998文献1)仁科幸子:乳児の眼鏡.あたらしい眼科24:1141-1144,20072)LambertSR,LynnMJ,ReevesRetal:IstherealatentperiodforthesurgicaltreatmentofchildrenwithdensebilateralcongenitalcataractsJAAPOS10:30-36,20063)矢ヶ﨑悌司,粟屋忍,高良俊武ほか:術前に眼振が認められた先天白内障早期手術例の予後.眼臨87:342-349,19934)山本節:小児眼内レンズ挿入症例の長期観察.眼科手術13:39-43,20005)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringtherstsixmonthoflife.JAAPOS5:70-75:20016)仁科幸子:小児白内障手術と術後視力.あたらしい眼科23:19-24,20067)AzumaN,MotomuraK,HamaYetal:Earlyvitreoussurgeryforaggressiveposteriorretinopathyofprematuri-ty.AmJOphthalmol142:636-643,2006

臨床に役立つ眼鏡レンズの知識

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSこの後側頂点屈折力の測定にはレンズメータを使用する.現在ではレンズ当てにレンズを置くだけで値が表示されるオートレンズメータの普及が著しいが,マニュアル式レンズメータにはオートレンズメータにない機能,たとえばレンズ表面のあらさや結像性能を実際に眼で直接確認できるので有用である.ただ,接眼鏡をのぞく望遠式の場合は,測定の際に測定者の眼の調節が影響しないように,測定前に接眼スリーブを一旦引き出してからレチクルにピントを合わせるという視度合わせを行うとともに,測定するときは常にマイナス度数からプラス度数側に一方向に測定ハンドルを回転させて,ターゲットのピント合わせを行うなどのノウハウを必要とし,多少手数がかかる.ところで,レンズの屈折力測定は実際に眼に作用する屈折力を測定することが原則であるが,そのためにはレンズの装用状態を再現して測定することが不可欠である.レンズメータのレンズ当てに載せたときにこの装用状態が再現できるのは,一般にはレンズの光学中心位置および枠入れのときの心取り点で測定したときだけに限られる(図1A).一般に光学中心で測定しなければならない理由はここにある.2.レンズ周辺部における屈折力測定眼鏡レンズが頭部に固定されているのに対して眼球は回旋することから,眼を振ったときの視線はレンズの周辺部を通過する.このときレンズの後側頂点にあった基はじめに出来上がった眼鏡の良し悪しは,装用する人自身の印象からなる「視界の見え」,「掛け心地」,「見栄え」などで判断される.近年の眼鏡レンズの製品動向といえば,まずこれらに対する改善が進められてきたことがあげられる.なかでも高屈折率プラスチック材料の普及や,ゆるいカーブの非球面レンズの普及によって,比較的強度の屈折度数までその表示度数を感じさせない薄く軽いレンズが供給可能となり,「掛け心地」,「見栄え」の改善に役立っている.また,フリーフォーム加工装置の普及により,累進面に代表される自由曲面が短時間に精度よく加工できるようになり,さらに最適化や個別設計などの手法の導入によって,個々の装用者に合わせて性能を向上させる新設計の累進屈折力レンズ(以下,累進レンズと略す)が提案されている.本稿では,広く一般的に使用されるようになった非球面レンズと累進レンズに絞り,特性と概要を述べる.I眼鏡レンズの光学特性―球面レンズと非球面レンズ1.眼鏡レンズの屈折力測定と収差眼鏡レンズの屈折力は,レンズの後側頂点から後側焦点までの距離f(メートル単位)の逆数1/fで求められる,いわゆる後側頂点屈折力で表すことになっている.単位は[m1],記号はD(ジオプトリー)を使用する.(3)727Fmiksiン1408601163ン特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):727733,2009に役立つ眼鏡レンズの識SurveyofRecentSpectacleLensesforCorrection高橋文男*———————————————————————-Page2728あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(4)図2の表はこのm像面とs像面の差で表される非点収差の値である.この表から,球面設計のレンズはゆるいカーブのレンズほど非点収差が大きく,等価球面度数が強度側に変化することがわかる.また,ここでは図示していないが歪曲収差(ディストーション)もカーブがゆるいレンズほど大きくなる.一方,プラスレンズの場合は符号が逆になるだけで同様の傾向を示し,カーブのゆるいレンズほど非点収差が大きくなり,その等価球面度数の像面はプラス強度に傾くようになる.このように球面設計のレンズで非点収差を削減するにはレンズカーブをきつくしなければならないが,きついカーブのレンズは厚さが増して見栄えが劣ることから,準点の軌跡は,回旋点を中心にした半径25mmの球面となる(図1B).なお,この25mmは国内で慣用としている値で,海外では27mm前後の値を使用している.このような測定を実現するには,この基準球面にレンズ当てが接した状態で測定できるように,眼鏡レンズを空中に保持するための何らかの機構が必要であるが,一般には供給されていないためむずかしい.仮にそのような機構を組み込んだとして眼に作用する屈折力を測定するには,FOA方式のレンズメータが望ましい.このときの屈折度数F¢は基準球面から結像位置までの距離f¢の逆数1/f¢で求められる値となるが,レンズ周辺部を通る光線は一般に非点収差が発生しているため,次項3.で示すような像面度数で考えることになる.3.レンズカーブとレンズの性能図2は,sph6.00Dの球面設計のレンズでレンズカーブを3Dとびに変化させて,回旋角を変化させたとき,実際に眼に作用する屈折力をグラフにしたものである.非点収差が存在するため,ここではメリディオナル(m)像面とサジタル(s)像面の相加平均の値,すなわち等価球面度数をプロットしたものである.カーブのゆるいレンズほど等価球面度数が強めに傾斜してしまい,仮にこのsph6.00Dが処方度数ならレンズ周辺部で見たときは過矯正の度数レンズとして作用することになる.AB25mm図1眼鏡レンズの屈折力測定フィッティングポイントが光学中心または測定基準位置に一致する場合は,Aに示す測定でよいが,フィッティングポイントが測定基準位置と一致しない場合や,レンズ周辺部の屈折力を測定する場合には,Bに示す配置で実際に眼に作用する屈折度数を測定する.なお,台形の枠はレンズメータのレンズ当てを示す.00-8-7.5-7-6.5-6-5.5-5-4.5縦軸:眼球回旋角度(?)横軸:屈折度数(D)Es-3/-3Es-0/-6Es+3/-9Es+6/-12Es+9/-1510102020303040403/-90/-6-3/-39/-156/-126/-123/30/6+3/9+6/12+9/1540°4.321.820.500.200.5530°1.970.990.360.030.2620°0.760.430.180.010.1010°0.180.100.050.010.020°0.000.000.000.000.00図2球面設計レンズの等価球面度数(D)と非点収差(D)本例ではカーブの組み合わせ(前面カーブ/後面カーブ)のなかで,(+6/12)が最小の非点収差を示しているが,等価球面度数としては周辺部で弱度側に傾いてしまう.一方,(+3/9)の組み合わせは非点収差が増加するものの,等価球面度数は周辺部まで表示度数の6.00Dに最も近い値になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009729(5)きてレンズの体積を小さくできる.強度レンズほど,またレンズ径が大きいほど効果が大きい(図3).一方,高屈折率プラスチック材料は,屈折率と比重の比例係数がガラス材料の1/6と小さいため,いっそうの軽量化が期待できる.②ゆるいカーブのレンズ面を非球面化すると,プラスレンズは中心厚を,マイナスレンズは縁厚を削減できる方向に働くことから,結果としてよりスリムな形状となり軽くすることができる.これら①と②を組み合わせるとその効果が増す.図4はこの効果を示したものである.③薄型軽量化には小さい眼鏡フレームを選ぶことが効果的である.現在流行している小さいフレーム化はこの意味で有効である.ただし,プラス度数のレンズでは眼鏡枠より大きなレンズ径を使用すると不要な厚さが残る.フレームに最適な口径のレンズを提供できればレンズの余分な厚さが削減できることになる.このために外径指定やフレームパターンの選択で特注することが可能になっている.ほかに,フレームの形状をオンラインで測定して玉刷り加工まで行う特注システムが稼動している.最適な厚さに仕上がるばかりでなく,左右のレンズのバランスをとるなどして,そのまま枠入れ可能な状態カーブをゆるくする方策が模索されてきた.カーブをゆるくしたときに発生する非点収差を非球面化で削減する方法が実用化されたことによって,きついカーブのレンズから解放された.4.非球面レンズの光学特性と検眼レンズ,処方プリズムゆるいレンズカーブのレンズ面を非球面にして非球面係数を変化させたとき,発生する非点収差は図2にきわめて類似している.性能を重視した非球面レンズとして,図2のたとえば(+6/12)のように非点収差を削減することができるが,レンズ周辺部における等価球面度数も同様に弱めになることから,眼には表示度数より弱めの屈折度数のレンズとして作用することになる.ゆるいカーブで作られた球面設計のレンズを長年装用してそれに慣れた人が,新しく掛け替えた非球面レンズに違和感を覚えることがある.それは光学特性に大きな差があるためで,装用し続けることでレンズに慣れると問題なく使うことができるようになる.一方,図2からわかるように,断面形状が両凸(3/3)や平凸(0/6)形状の検眼レンズの場合,表示度数通りの性能が保障されるのは,視線がレンズ光学中心を通るように正確に調整されているときに限られ,前傾角などの許容範囲は狭い.このことから非球面レンズの使用が想定される場合の屈折測定には,メニスカスタイプの検眼レンズの使用が望まれる.なお,非球面レンズの場合は,光学性能を重視するため処方プリズムは特注でプリズム加工を行い,球面設計レンズのように偏心処理では行わない.5.レンズの薄型化と軽量化掛けやすく見栄えが良い眼鏡にするには,眼鏡レンズを薄く軽くすることが効果的である.この目的のために,①高屈折率レンズ,②非球面レンズ,③小さい眼鏡フレーム,特注加工などを選択する方法がある.①高屈折率材料を使用すると,同じ曲率半径の屈折面でも面屈折力を大きくする効果がある.同じ屈折度数レンズでは曲率半径をゆるくできる分,レンズの厚さ(プラスレンズは中心厚,マイナスレンズは縁厚)が削減でSph-6D50f70fn=1.8n=1.550fSph+6D図3材料の屈折率とレンズ断面形状レンズ材料の屈折率を1.501.90まで,0.10刻みに変えたときsph±6.00Dのレンズ断面形状.sph6.00Dは前面,sph+6.00Dは後面の曲率半径が同一.レンズ径が大きいほど高屈折率材料を使用する効果は高い.———————————————————————-Page4730あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(6)計」であった.しかし,レンズ面の一部に大きな非点収差が発生するために使いにくく慣れにくい,使えるようになるにもかなりの時間,努力を要するものであった.その後,閉じ込めていた非点収差をレンズ面に薄くばらまくという「ソフトタイプの設計」によって,常用タイプに分類される累進レンズでも最大非点収差を,加入屈折力にほぼ等しい値まで削減させることができるようになって,慣れやすく使いやすいものとなり現在に至っている.とは言うものの,累進レンズを使いこなすにはある程度の慣れが必要である.初めての累進レンズの装用で加入度数が2.00Dを超えるような場合は,レンズの光学特性とともに年齢的な適応力の低下もあって慣れにくい傾向にある.また,累進レンズを使いたいという欲求が累進レンズを使い続けてそのハードルを越えさせる原動となって届くものである.II累進レンズの光学特性と種類1.設計および製造加工技術の進歩遠近の境目がない老視用の累進レンズは,見栄えが良いこともあって年頃の方の関心をひくレンズである.累進レンズの累進面は,レンズ面の中央下部に曲率半径が変化する領域を設けたレンズである.曲率半径の異なる球面の断面を上下につなぐと中心部ではつながっても周辺部では段差が生じる.しかも,この曲率半径を細かく分割して順につないで,それぞれの段差が小さくなっても滑らかな面につながることはない.累進レンズはこの段差を無理やりつないだものなので,結像に貢献する光学面にはできずに,非点収差が残る領域になる.この累進面を数学的に解析したMink-witz1)によれば,非点収差の発生量は,加入屈折力が加わる方向と垂直に,加入屈折力の勾配の2倍の勾配になるという(図5).この法則に従えば,非点収差を削減するには加入屈折力の勾配を小さくすることであるが,それには累進帯を長くしなければならない.眼球の回旋角にも限度があり,遠用部に対して見やすい位置で近用部を使おうとすると,累進帯の長さも自ずと決まってしまうために究極の解決策とはならない.しかし,この法則は遠中重視累進レンズや中近累進レンズ,近々累進レンズなどの新しい製品に生かされている.一方,初期の累進レンズは発生した非点収差をレンズ面の一部の狭い領域に閉じ込めて,できるだけ非点収差のない球面領域を広くするという「ハードタイプの設Sph+6D70(65)f4.48.65.75.715.2屈折率ne=1.74屈折率ne=1.50実線:非球面レンズ破線:球面レンズ16.6g19.4g20.1g(65f)/21.5g(70f)31.4g/26.2g10.18.68.6Sph-6D70f35035図4高屈折率材料使用と非球面化による薄型軽量化の効果Sph±6.00Dのレンズの断面形状を示す.1.50の球面レンズに比べると改善効果は大きい.2b≒a5Minkwitzの法則レンズ面に累進帯を設けることで,その子午線(YY)とは垂直方向(XX)に加入度数勾配bの2倍の非点収差aが発生する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009731(7)ためのフィッティング測定器なども開発されている.現在までに提案された新しい累進レンズを図6に示す.レンズは前面後面2面だけなので,考えられる組み合わせがほぼ出揃ったといえる.なお,累進レンズの遠用部のレンズカーブは,一般に上述した非球面レンズと同様に,ゆるいカーブが採用されている.この場合,原理的には非球面成分を加えて非点収差を削減している.3.二重表記累進レンズのカスタマイズや最適化などで光学性能を高めようとしたときに課題となるのが,レンズの屈折力測定である.高性能をうたうこれら累進レンズは,装用したときに視線が通過するところで処方度数になるようにレンズ面を設計する.一方,屈折力測定ではレンズメータのレンズ当てに載せるため,実際の視線と測定の光線とではレンズを透過する方向が異なり,測定した屈折度数が処方度数に一致しないという事態が発生する.これは,測定基準位置がレンズのフィッティングポイントに一致していないことに起因している.この解決のために,レンズ袋には処方度数のほかに従来からの測定方法でレンズを測定したときの値も併記している.このような表示を二重表記とよんでいる(図7).4.アライメント基準マーク累進レンズのレイアウトと枠入れ調整に使う基準マークには,ペイントで描かれた一時的マークとレンズ上に描かれた永久マークの2種類ある.永久マークには図8力となっているので,この欲求が低いと早々に使用を中止する可能性もある.若い世代であれば適応力も高く必要な加入度数も小さいので,難なくクリアできることになる.この若い時期から装用を目的としたものではないが,老視にはまだ早い30代で疲れ目を自覚する人向けに,最弱度加入屈折力の累進のレンズを単焦点レンズ感覚で装用してもらって,疲れ目を少しでも軽減しようとする製品が商品化されている.最弱度の加入屈折力なので,発生する非点収差はレンズ全面にわたり許容値を下まわっているため,装用当初からほとんど違和感なく装用できる.2.最適化,カスタマイズ化ガラス材料の時代に比べて,プラスチックレンズは母型を使った成型法が可能となり,累進面のような自由曲面の製造加工の難度がある程度改善されたが,それでもあらかじめ累進面を成型して半製品の形で在庫することが一般的であった.しかし,近年になって旋盤加工装置を原理とした高速で精度の高いフリーフォーム加工装置が普及したことで,特注のように納期が厳しいレンズであっても注文を受けてから累進面を加工して納入することが可能となった.このフリーフォーム加工装置と光学設計を組み合わせることで,最適化設計やカスタマイズとよばれるような,個々の装用者に特有な各種パラメータをできるだけ設計に取り込んで,掛けやすく性能の高いレンズを供給する動きが出て,一部ですでに製品化されている.その外面累進レンズ内面累進レンズ両面複合累進レンズ両面設計累進レンズ線で示した部分は累進面または累進要素をもった面を表す遠用部近用部縦方向累進要素横方向累進要素度数面を表す中間累進帯図6新累進レンズ従来,レンズ前面に累進面を,後面に乱視面という外面累進レンズが主流であったが,新しい高精度な加工装置の開発に成功して内面累進レンズが登場した.その後,自由曲面加工が短時間でできるフリーフォーム加工装置が普及したことから,両面複合累進レンズや両面設計累進レンズなどが製品化された.内面累進レンズの前面は球面もしくは非球面で後面は累進面と乱視面を合成した面になる.両面複合累進レンズは,前面が縦方向の累進要素で後面が横方向の累進要素と乱視面の合成となる.両面設計累進レンズは,前面が累進面で後面には累進要素を含んだ収差フィルター面と乱視面を合成した面となる.———————————————————————-Page6732あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(8)近用部に発生するプリズム屈折力が左右レンズで異なり上下プリズム差が生じる.左右眼の度数差が大きくなると上下プリズム屈折力差も大きくなり,近用部で長時間の両眼視がむずかしくなる.残念ながら,現状では累進レンズの近用部に発生する上下プリズム差をコントロールすることができないため,左右眼で度数差が大きい不同視眼に累進レンズは適していない.に示すように,34mm離れて描かれた2つの水平基準マークを基準にして,この中点が累進帯の子午線になる.ほかに,品種などの識別用のマークや加入度数などが記載されている.ペイントマークはフィッティングポイントのほか,各部の測定基準位置などが描かれている.累進帯の長さは遠用フィッティングポイントから近用参照円の上辺までの距離で,累進帯の長さに違いをもたせた製品の場合には,この図のように両方併せて表示する場合もある.このペイントマークは枠入れ後消去されるので,消えてしまった後でこれら位置を再現するには,図8のようなアライメントシールを使う.累進レンズを枠入れするときに芯取り点となり基準となるのは,フィッティングポイントである.遠用部が存在する累進レンズの場合は,これを遠用瞳孔間距離に一致させる.中近累進レンズや近々累進レンズのように遠用部が明確でない累進レンズ場合は,中間視距離でのフィッティングポイントか近用視でのフィッティングポイントが指示されているほかに,遠用のフィッティングポイントを参考に描いている製品もあるので,どれかに合わせてアライメントすることになる.累進レンズは,他の多焦点レンズと同様に,1枚の遠用度数のレンズに近用部を設けていることから,一般にフィッティングポイントを外れると,遠用度数に応じたプリズム屈折力が発生する.左右眼で度数差があると,①遠用参照円中心を通る視線の方向②遠用度数測定光線の方向(FOA方式,2面当て)図7累進レンズの二重表記測定基準位置がフィッティングポイントから離れているため,上述した装用状態を再現して測定することが必要であるが,一般にはむずかしいため,従来からの通常の測定値を併せて表示している.単単単単本図8累進レンズのマークとアライメントシール一時的マークが消されると永久マークだけが頼りとなる.各位置を正確に再現するには製品ごとに準備されているアライメントシールを使用して確認する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009733おわりに「掛けていることを忘れるような眼鏡」が,理想の眼鏡といわれている.はるか彼方の目標で実現は覚束ないものの,現状を紹介した.ほかに表面処理やその分光特性などを含めて,いろいろな機能をもつレンズが製品化されている.なかでも撥油コートとよばれる防汚加工が実用化されたことによって,汚れにくく拭きやすいレンズが製品化されてレンズの取り扱いが格段に楽になっていることもあり,眼鏡を掛ける人の使用環境や状況に合わせて最適なレンズを選択していただきたい.また,希望する付加機能が選択した製品の標準装備になくても,別途特注可能になっているものもあるので,各社の窓口などに確認願いたい.一方,ファッション業界に委ねられているフレームであるが,最近流行している小さいフレームが眼鏡の軽量化に効果的で「掛け心地」の改善にも貢献してくれている.しかし,小さくなった分だけ視界も狭くなるために,もろ手を挙げて歓迎できることでもない.流行にとらわれることなく選択して欲しいものである.文献1)MinkwitzG:UberdenFlachenastigmatismusbeigewis-sensymmetriscenAspharen.OptActa10:223-227,1963(9)語解FOA方式:レンズメータの測定方式には,マニュアル式に代表されるFOA(FocusonAxis)と多くのオートレンズメータが採用しているIOA(InnityonAxis)とよばれる2つの方式が存在する.両者は,光学中心位置で測定するときには基本的に同一の値となるが,プリズム屈折力が加わるレンズ周辺位置での測定になると,測定光線の方向の違いなどに起因して微妙な差異が生ずることがある.レンズカーブ:一般にはレンズ面の面屈折力を指す.屈折面の曲率半径をr(m),屈折率をnとすると,面屈折力Sは,S=(n1)/rで求めることができる.記号はジオプトリー(D)で,カーブ(C)を使うこともある.「ゆるいレンズカーブ」とは曲率半径が大きな面の面屈折力を指し,零カーブは平面を指す.ベースカーブは,ある度数範囲を同じベースカーブで共通化させたとき,その共通化させたカーブを指す.非球面:頂点から周辺にかけ曲率が連続的に変化する回転面の一部.(JIST7330眼鏡レンズの用語から)補足)一般には球面以外の面形状をすべて非球面と称しているが,眼鏡レンズの分野に限り,回転対称な面を非球面としている.メリディオナル(m)像面,サジタル(s)像面:非点収差が存在するレンズは,レンズの直径方向の主経線屈折力によってできるメリディオナル像面と,レンズ円周方向の主経線屈折力によってできるサジタル像面に結像する.それぞれの主経線の方向に対して互いに垂直な方向に直線の像ができる.これを焦線とよび,先の基準円から各焦線までの距離(メートル)の逆数が各像面度数となり,その差が非点収差度数となる.等価球面度数:非点収差が残ったレンズや乱視屈折度数をもつレンズで,直交するそれぞれの主経線方向の屈折力PHとPVの平均値PE=(PH+PV)/2.または,PE=Sph+Cyl/2である.無限遠からの平行な光束はこの等価球面度数によって示される位置に円形に収束し,最小の面積に収束することから,最小錯乱円または最良像面ともよばれている.

序説:眼鏡の臨床

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSいる.そこで,この時期には眼鏡が的確であるかを調べるのに検影器を使ったオーバーレフラクションが威力を発する.小学校の低学年では裸眼視力1.0未満でも近視とは限らず,1/3くらいは遠視であるので,必要に応じて調節麻痺薬の点眼や雲霧法を取り入れての屈折検査を行う.近年オートレフラクトメータが使われているが,この正しい使い方にも精通することが大切である.中学,高校にかけて近視は増加傾向にあり,高校生では裸眼視力1.0未満の90%以上が近視である2).近業が近視の発生・進行に関係することから小中学生に累進屈折力レンズを装用させる試みもある3).近視の眼鏡は近視の進行を考えて低矯正眼鏡が好んで使われている.成人になってから近視になったり,近視が進行したりする成人発生近視や成人進行近視が世界的に問題になっている4).この原因はコンピュータの使用が関与するとの推察があるが不明である.近業により調節のヒステレーシスが起こるとか近業により成人でも眼軸が延長するとの報告もある5).いずれにしても成人の眼鏡処方でも調節緊張の分を除いて過矯正にならない眼鏡処方が必要である.乱視は20歳前後までは直乱視が増加し続けるが20歳を過ぎると減少しはじめ,40歳前後から直乱視より倒乱視が増加する傾向にある6).そこで,眼鏡処方にあ屈折の矯正手段には眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズ(有水晶体眼内レンズ),屈折矯正手術などがあるが,眼鏡は簡便さ,安全性,矯正精度の高さから屈折異常や老視の矯正手段として広く使われている.そして,最近の眼鏡レンズの進歩は著しい.材料ではプラスチック,高屈折率レンズ;レンズデザインではレンズの非球面化,内面トーリック,内面累進レンズの遠近両用レンズなどである.プラスチックレンズは傷がつきやすいといわれていたが,コーティング技術の進歩によりガラスレンズと差がなくなりつつある.年齢による屈折状態の推移は乳児期には軽い遠視であるが,徐々に正視に近づき小学生になると屈折度分布曲線の頂点は正視になり,小学校高学年から中学,高校になると近視が多くなる.その後,高齢になると軽い遠視化が起こる1).乳幼児,学童期は眼球の成長期で眼軸の延長に対して,水晶体屈折力は減少し正視を保つように働くが,このバランスが崩れると屈折異常が起こる.視力発達の感受性期は68歳といわれている.この時期までに外界の物体が網膜に明瞭な像を結ばないと弱視になる可能性がある.そこで,発達期にある乳幼児の屈折異常には適切な眼鏡を装用させ明瞭な像が網膜に結ぶようにしなければならない.この時期には成長とともに眼軸は延長し,これに伴い屈折状態は常に変化して(1)725●序説あたらしい眼科26(6):725726,2009眼鏡の臨床ClinicalKnowledgeofSpectacles所敬*———————————————————————-Page2726あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(2)ある.そこで,快適な生活を送るには適切な眼鏡を処方できる知識が必要であると同時に,視機能発達過程での眼鏡処方に関しての知識ももたなければならない.今回の「眼鏡ケーススタディ」では,まず,臨床に役立つ眼鏡レンズの知識に次いで乳児,幼小児,小学生,中学生,高校生,成人,高齢者と年齢を追って眼鏡について症例を交えた臨床に直結した記載と,最後に眼精疲労に配慮した眼鏡処方が記載されている.この特集によって,あらゆる年齢層での眼鏡処方の全貌が理解できると思う.文献1)桐沢長徳,浜志津子:眼屈折度数分布曲線の年齢的差異.日眼会誌47:886-889,19432)目の屈折力に関する調査研究委員会報告(平成3年度).p1-38,日本学校保健会,19923)HasebeS,OhtsukiH,NonakaTetal:Eectofprogres-siveadditionlensesonmyopiaprogressioninJapanesechildren:aprospective,randomized,double-masked,crossovertrial.InvestOphthalmolVisSci49:2781-2789,20084)所敬:近視の発生時期による分類.あたらしい眼科19:1123-1129,20025)McBrienNA,AdamsDW:Alongitudinalinvestigationofadult-onsetandadult-progressionofmyopiainanoccu-pationalgroup.Refractiveandbiometricndings.InvestOphthalmolVisSci38:321-333,19976)神谷貞義,西信元嗣,魚里博ほか:新しい視点からみた学校近視解析.その7キヤノン・オートケラトによる角膜乱視とニデック・オートレフによる全乱視の乱視軸ならびに乱視度の比較.眼紀37:88-96,1986たって乱視の軸の変化には注意が必要である.このように乱視の軸が変化するのは加齢とともに眼瞼圧が減少することが原因と考えられる.最近は高齢化時代といわれ65歳以上の人口は増加傾向にある.老視人口である45歳以上の総人口に対する割合も増加し,人口の約半数が老視になっている.人生80年の時代には老視での生活は人生の約半分である.Qualityofvision(QOV)時代に如何に老視に対処するかは重要な問題である.単焦点の老眼鏡のほかに,遠近両用の多焦点レンズ(二重焦点レンズ,三重焦点レンズ)や累進屈折力レンズがある.二重焦点レンズ,三重焦点レンズは遠用部と近用部との間にある境界線から敬遠され,継ぎ目のない累進屈折力レンズが使われている.累進屈折力レンズは現在300種類以上あり用途によって選択できる.すなわち,遠方も近方も見える標準型,遠方から中間距離まで見えるゴルフ用,中間距離から近方が見える室内用,近方から一寸遠くが見えるコンピュータ用などの種類のレンズがある.累進屈折力レンズには遠用部から近用部にかけて屈折力が徐々に変化する累進帯をもっているが,最近は眼鏡枠の小型化に伴って累進帯が短く9mmのものもできてきている.累進屈折力レンズにはいろいろな種類があるが,うまく使えない人もいて,最近ではオーダーメイドの累進屈折力レンズも売り出されている.このように,屈折異常はなくても眼鏡は,人生のうちで必ず一度は視力矯正用として使用する用具で

MNREAD- Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(135)7150910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):715719,2009cはじめに今日,子どもたちの多くは小学校入学前に平仮名の読み書きが可能となっている.子どもたちは生活のなかで文字に関連した活動に参加し,遊びのなかで文字の読み書きを自然と覚える13).しかし,視覚障害児は視的経験の不足から意図的に文字学習を行う必要がある.視覚障害児の就学にあたっては望ましい学習環境を整えるために,就学前に十分な視機能の評価がされる必要がある.読書は学童期の学習の基礎となるが,未就学児に関する研究は少ない4).視覚障害が学習に与える影響を知るためには正常視覚児の読書傾向を把握する必要がある.今回筆者らは,正常視覚の未就学児に対して読書速度の測定を行い,成人の読書傾向と比較し,未就学児の読書に適する文字サイズについて若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,保育園検診において視力障害がなく,近見視力1.0以上で情緒障害をもたないと保育園側で判断された年長児48名のうち,平仮名の音読ができ検査可能であった40名(以下,未就学児群),年齢5歳1カ月6歳4カ月,男児〔別刷請求先〕石井雅子:〒950-2076新潟市西区上新栄町5-13-3新潟医療技術専門学校視能訓練士科Reprintrequests:MasakoIshii,OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,5-13-3Kamishinei-cho,Nishi-ku,Niigata-shi,Niigata950-2076,JAPANMNREAD-Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―石井雅子*1,2樺沢優*2張替涼子*2阿部春樹*2*1新潟医療技術専門学校視能訓練士科*2新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野InvestigationofMNREAD-JkReadingRate─TendenciesinPreschoolChildren’sReadingPerformance─MasakoIshii1,2),YuuKabasawa2),RyokoHarigai2)andHarukiAbe2)1)OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity視覚障害児の就学においては,学習環境の整備として視覚補助具や拡大教科書が必要となる.就学前にそれらの選定および客観的評価に役立てる目的で読書チャートMNREAD-Jkを用いて正常視覚の未就学児の読書速度を測定し,読書速度と文字サイズについて成人の読書傾向と比較した.その結果,最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%とすると成人では臨界文字サイズまでは読書効率は一定に保たれるが,未就学児では文字サイズが小さくなるに従って読書効率が次第に低下し,成人の読書傾向とは異なっていた.このことから未就学児の読書においても臨界文字サイズより大きい文字が読書に適しており,その大きさの選択には成人以上に検討が必要である.Toacceptvisuallyimpairedchildrenatschool,thelearningenvironmentmustbeequippedwithvisualaids,larger-fonttextbooksetc.Fortheselectionandobjectiveevaluationofsuchequipmentbeforeitsuseinschool,weusedthereadingchartMNREAD-Jktoassessthereadingrateofpreschoolchildrenwithnormalvision,andcom-paredtheirreadingrateandlettersizewiththoseinadults.Withthereadingrateusingthemaximumlettersize(55.39point)denedas100%readingeciency,thereadingeciencyinadultsremainedxeduntillettersizewasreducedtoathreshold,whereasinpreschoolchildrenthereadingeciencydeclinedwithdecreaseinlettersize.Thelettersizethatwaslargerthanthecriticalthresholdoflettersizeforpreschoolchildrenwassuitableforreading.Forpreschoolchildren,lettersizeismoreimportantthanitisforadults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):715719,2009〕Keywords:未就学児,MNREAD-Jk,文字サイズ,読書効率.preschoolchildren,MNREAD-Jk,lettersize,readingeciency.———————————————————————-Page2716あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(136)22名,女児18名である.なお,調査を行った保育園では特別な文字学習指導は行われていない.検査に先立ち,あらかじめ検査内容について保護者に説明し同意を得た.測定は,はじめに練習用チャートを使用して方法を十分に理解させたうえで実施した.MNREAD-Jkの黒文字/白背景チャート(以下,通常チャート),白文字/黒背景チャート(以下,反転チャート)の2種類のチャート(図1)を用いて,読書速度を測定した.測定条件は,書見台を用いて視距離30cmとし,両眼開放の状態とした.大きな文字サイズから小さな文字サイズへ1ブロックごとに順にできるだけ速く正確に音読するよう指示し,読みに要した時間と読み間違えた文字数を記録した.文字サイズと読みに要した時間と誤読文字数より,読書能力を評価するパラメータである最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出し,筆者らの自験データ5)である眼疾患がなく遠見・近見視力1.0以上の20歳の学生40名(以下,20歳成人群),年齢20歳1カ月20歳10カ月,男性16名,女性24名の読書のパラメータと比較した.II結果1.読書能力の評価(表1)読書能力を評価する最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出した.通常チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では96.59文字/分,20歳成人群は359.13文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.20logMAR(4.40pt),20歳成人群は0.01logMAR(2.84pt)であった.読書視力は未就学児群では0.04logMAR(3.04pt),20歳成人群は0.18logMAR(1.83pt)であった.反転チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では98.06文字/分,20歳成人群は374.97文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.24logMAR(4.82pt),20歳成人群は0.09logMAR(3.41pt)であった.読書視力は未就学児群では0.09logMAR(3.41pt),20歳成人群は0.12図1MNREAD-Jk読書チャート上段:通常チャート(黒文字/白地),下段:反転チャート(白文字/黒地).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009717(137)logMAR(2.11pt)であった.最大読書速度は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが速く,臨界文字サイズおよび読書視力は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが大きかったが,統計学的有意差は認められなかった(pairedt-test).2.文字サイズと読書速度(図2)通常チャートにおいて,未就学児群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に速度の低下がみられた.20歳成人群では0.00logMAR(2.78pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.00logMAR(2.78pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.反転チャートにおいて,未就学児群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりなだらかに速度が低下し急激な速度の低下はみられなかった.20歳成人群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.両群とも読書速度には個人差が大きかった.3.文字サイズと読書効率(図3)最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)での読書速度を読書効率100%とし,各文字サイズでの読書効率を示した.通常チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,徐々に読書効率が低下し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.20logMAR(4.40pt)での読書効率は75%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズで読書効率が向上し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.01logMAR(2.84pt)付近での読書効率は95%であった.反転チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,小さな文字サイズになるに従い徐々に読書効率が低下した.臨界文字サ表1読書能力の評価最大読書速度臨界文字サイズ読書視力未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40平均(文字/分)分散平均(文字/分)分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散通常チャート96.591988.40359.132907.580.20(4.40)0.020.01(2.84)0.010.04(3.04)0.010.18(1.83)0.00反転チャート98.062121.98374.973546.410.24(4.82)0.040.09(3.41)0.010.09(3.41)0.010.12(2.11)0.00*換算値ポイントサイズpt=tan(10logMAR値×5/60)×1,908最大読書速度………文字サイズが適当な場合に得られる最も速い読書速度:個人差が大きい.臨界文字サイズ……効率よく読める文字サイズの最小値:視機能により大きく左右される.読書視力……………読むことのできる最小文字サイズ:ほぼ近見視力に匹敵する.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕0100200300400500600読書速度(文字/分)通常チャート反転チャート文字サイズlogMAR〔pt〕文字サイズlogMAR〔pt〕◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ0100200300400500600読書速度(文字/分)図2文字サイズと読書速度———————————————————————-Page4718あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(138)イズ0.24logMAR(4.82pt)付近での読書効率は50%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズでわずかに読書効率が向上し0.60logMAR(11.05pt)まで変動がみられるものの,ほぼ最大文字サイズと同様の読書効率であるが,0.60logMAR(11.05pt)より徐々に読書効率が低下し,0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.09logMAR(3.41pt)付近での読書効率は78%であった.両群とも通常チャートより反転チャートにおいて文字サイズが小さくなると読書効率が低下した.未就学群では,20歳成人群に比べ臨界文字サイズでの読書効率が低かった.III考按視覚障害児の就学では,教科書が効率よく読めないことから学習に支障をきたす可能性があり,教科書を拡大する視覚補助具や各々の見え方に合わせた拡大教科書が必要となる.視覚補助具の処方や拡大教科書の申請にあたっては,読書検査の結果を基にアドバイスすることが望ましい6).視覚補助具は就学前に十分な指導を行い,学習に対応できるようにしておく必要がある.拡大教科書は,製作に時間を要するため,原則として就学の半年前までに市町村教育委員会に申請することとなっている.これらの理由から今回の未就学児の調査は就学前の5月から9月にかけて行った.MNREAD-Jkは,幼児の語彙の研究7)から,多くの幼児が共通して使用している284語からランダムに単語を組み合わせて作成されている.用いられる品詞は名詞,動詞,形容詞に限定されている.日本語の音節は比較的単純で,平仮名との対応がよく,ほぼ発音の自然な区切りが文字に対応している.MNREAD-Jkは,音読により読書を評価する自覚的検査であるが,平仮名を覚えたばかりの幼児においても比較的,検査の難易度が低く,今回の調査では,未就学児の83%が検査可能であった.最大読書速度は,未就学児,成人ともに個人差が大きかった.読書速度は知的発達,学習経験などに影響され,未就学児では,文字への関心および文字学習の完成度に大きく左右されると推測される.正常視覚児の読書傾向を知ることは,視覚障害が文字への関心および文字学習に与える影響を類推する手がかりとなる.文字サイズが読書速度に与える影響を知る目的で,MNREAD-Jkチャートにおける最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%と定義した.未就学児では成人に比べて小さな文字サイズでの読書効率が低かった.文字学習は小学校入学後に急速に進む.学習開始時に適切な大きさの文字で学習を進めることは重要であり,就学前に読書を評価することは意義がある.正常視覚では通常チャートに比べ反転チャートで読書速度が向上したものの有意差はみられなかった.視覚障害者の読書では視表面の白い反射が読書のパフォーマンスを低下させ白黒反転が有用であるという報告8)があり,視覚障害児の文字学習には反転チャートの利用も考慮する必要がある.MNREADにおいて効率よく読める最小の文字の大きさとされている臨界文字サイズは,読書速度が急激に低下する一つ手前の文字サイズであり,読書にとって重要な指標である.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕通常チャート反転チャート◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕95%75%50%78%最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)図3文字サイズと読書効率———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009719(139)筆者らの先行研究5)では小学生の臨界文字サイズは成人とほぼ等しく,学年による差がなかったことより,視覚正常の学童においては文字の大きさが読書効率に与える影響は成人と同様と考えた.しかし,今回の調査では,未就学児の臨界文字サイズは成人と比べて大きかった.また,読書速度を文字サイズ別に測定すると,成人では比較的大きな文字サイズでは読書速度は一定であるが,文字を次第に小さくしてゆくと,ある文字サイズで急激に読書速度が低下する.小学生では,ほぼ成人と同様の読書傾向をとる.未就学児においても,成人,小学生と同様に最も急激に読書速度が低下する一つ手前の文字サイズを臨界文字サイズとして算出できた.しかし,文字サイズが小さくなるに従って読書速度が緩やかに低下するため,はっきりとしたプラトーが得られない(図4).視覚発達の未熟性および高次大脳機能の未熟性に起因すると思われる.視覚においては,視対象が空間的に互いに接近すると認知成績が低下する読み分け困難9,10)とよばれる現象が生じる.文字サイズが小さくなることによる読み分け困難が幼児の読書に影響を及ぼす.また,文字を読むという過程は高次大脳機能の神経機構が関与しており11),小さな文字サイズになるに従い,文字の視覚的記憶から語の聴覚的記憶への変換が遅れることが考えられる.本稿の要旨は,第105回新潟眼科集談会にて発表した.文献1)HomanSJ:Playandtheacquisitionofliteracy.TheQuarterlyNewsletteroftheLaboratoryofComparativeHumanCognition7:89-95,19852)柴崎正行:幼児は平仮名をいかにして覚えるか.保育の科学,p187-199,ミネルヴァ書房,19873)内田伸子:発達心理学─ことばの獲得と教育.p185-204,岩波書店,19994)東洋:幼児期における文字獲得過程とその環境的要因の影響に関する研究.平成46年度科学研究費補助金研究報告書,19955)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視会誌35:147-154,20066)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:就学にあたり読書検査をおこなった6例の検討.日視会誌37:179-186,20087)藤友雄暉:幼児における語彙の発達的研究.北海道教育大学紀要31:71-79,19808)LeggeGE,RubinGS,SchleskeMM:Contrastpolarityeectsinlowvisionreading.LowVisionPrinciplesandApplications(edbyWooG),p288-307,SpringerVerlag,Berlin,19879)丸尾敏夫,粟屋忍(編):視能矯正学.p214-215,金原出版,200310)川嶋英嗣,小田浩一:字詰まり効果と読書困難.第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p125-128,199811)岩田誠:読み書きの脳機構.第18回日本生体磁気学会論文集16:6-7,2003***文字サイズ読書速度成人小学生未就学児(大)(小)(遅)(速)図4年齢層別による文字サイズと読書速度のシェーマ

インターフェロン-γおよびリポ多糖による併用刺激処理したヒト水晶体上皮細胞株SRA 01/04における過剰産生一酸化窒素の細胞膜Ca2+-ATPase遺伝子発現に対する影響

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(129)7090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):709713,2009c〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPANインターフェロン-gおよびリポ多糖による併用刺激処理したヒト水晶体上皮細胞株SRA01/04における過剰産生一酸化窒素の細胞膜Ca2+-ATPase遺伝子発現に対する影響長井紀章*1伊藤吉將*1,2臼井茂之*3平野和行*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3岐阜薬科大学薬剤学研究室EectofEnhancedNitricOxideProductiononPlasmaMembraneCa2+-ATPaseExpressioninHumanLensEpithelialCellLineSRA01/04TreatedwithCombinationofInterferon-gandLipopolysaccharideNoriakiNagai1),YoshimasaIto1,2),ShigeyukiUsui3)andKazuyukiHirano3)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KindaiUniversity,3)LaboratoryofPharmaceutics,GifuPharmaceuticalUniversity本研究はヒト水晶体上皮由来細胞株SRA01/04(HLE細胞)を用いインターフェロン-g(IFN-g)およびリポ多糖(LPS)併用刺激により誘導される誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)が細胞膜Ca2+-ATPase(PMCA)遺伝子発現に与える影響について検討を行った.HLE細胞では4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA1,2,3および4)のうちPMCA1および4のみの発現が確認された.iNOS遺伝子発現を介した過剰な一酸化窒素(NO)産生がみられるIFN-g1,000IU/ml)およびLPS(100ng/ml)の併用処理を行ったところ処理時間に従ってPMCA1および4両遺伝子発現量が増加し,この増加は処理後6時間以降18時間まで未処理群と比較し顕著に上昇した.これらIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量の上昇はiNOSの選択的阻害薬であるアミノグアニジン(250μM)を添加することで有意に抑制された.さらに,PMCA1および4両遺伝子発現量の上昇はNO産生量と高い相関関係を示した.以上の結果からHLE細胞においてiNOS誘導を介したNOの過剰産生はPMCA1および4両遺伝子発現量増加をひき起こすことを明らかとした.WeinvestigatedthechangesinplasmamembraneCa2+-ATPase(PMCA)mRNAexpressioninhumanlensepithelialcelllineSRA01/04(HLEcell)followingtreatmentwithinterferon-gamma(INF-g,1,000IU/ml)andlipopolysaccharide(LPS,100ng/ml),whichinduceinduciblenitricoxidesynthase(iNOS)expression.PMCAhasseveralisoforms(PMCA1-4);PMCA1and4mRNAwereexpressedintheHLEcell.PMCA1and4mRNAexpressionlevelsintheHLEcellwereincreasedwithdurationofincubationwithINF-gandLPS.Furthermore,aminoguanidine,aselectiveinhibitorofiNOS,attenuatedtheincreaseinexpressionofPMCA1and4mRNA.AcloserelationshipwasobservedbetweenPMCA1and4mRNAexpressionandNOproduction.Inconclusion,thepresentstudydemonstratedthatexcessiveproductionofNObyiNOSmaycauseincreasedPMCA1and4mRNAexpressionintheHLEcell.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):709713,2009〕Keywords:ヒト水晶体上皮細胞,細胞膜Ca2+-ATPase,一酸化窒素,白内障,アミノグアニジン.humanlensepithelialcell,plasmamembraneCa2+-ATPase,nitricoxide,cataract,aminoguanidine.———————————————————————-Page2710あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(130)はじめに白内障とは水晶体が白く混濁するすべての現象をいい,現在日本において最も多いのが加齢白内障である1).この加齢白内障のおもな発症機構として,紫外線などにより誘導される酸化的ストレスが水晶体上皮細胞に傷害を与えることで細胞内恒常性が破綻をきたし水晶体Ca2+量上昇をひき起こす2,3).この水晶体中Ca2+上昇はCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインを活性化し,これにより,クリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体が白く混濁するという報告がなされている2,3).このように,水晶体混濁には水晶体中Ca2+量の変化が大きな役割を果たしていると考えられる.筆者らは遺伝性白内障モデル動物を用いたこれまでの研究で,この水晶体中Ca2+量上昇に誘導型一酸化窒素(iNOS)由来一酸化窒素(NO)の過剰産生が関与することを明らかとした4).したがって,過剰なNO産生は水晶体上皮細胞においてCa2+制御機構の崩壊をひき起こすことが示唆された.これら水晶体Ca2+量の調節には,細胞内のATP(アデノシン三リン酸)を駆動力とし細胞内から細胞外へとCa2+を汲み出す細胞膜Ca2+-ATPase(PMCA)が知られているため5),このPMCAの障害が水晶体Ca2+量の上昇に関与することが予想された.しかしこれらの予想に反し,ヒト水晶体上皮細胞において水晶体Ca2+量上昇の要因とされる過剰な一酸化窒素産生はCa2+-ATPase活性の増加をひき起こした6).iNOSの選択的阻害薬であるアミノグアニジン(AG)の投与により,このCa2+-ATPase活性の増加は強く抑制された7,8).したがって,ヒト水晶体における詳細なNOと水晶体中Ca2+制御機構の関わりを明らかとすることは,白内障発症機構解明を進めていくうえできわめて重要であると考えられた.ヒト白内障発症機構解明に関する研究を進めていくうえで培養細胞の使用は有効である.しかし,ヒトからの正常水晶体上皮細胞は入手することが非常に困難であり,個々間でばらつきがみられる.一方,HLE細胞はヒト由来であり,世代によるばらつきが少ないため基礎研究において使用されている.筆者らも,これまでの研究で水晶体上皮の基礎研究に有効であることを報告している6).そこで今回,ヒト水晶体上皮由来細胞株SRA01/04(HLE細胞)9)におけるPMCAアイソフォームの存在を確認するとともに,iNOS誘導能が知られるインターフェロン-g(IFN-g)およびリポ多糖(LPS)併用刺激がHLE細胞中PMCA遺伝子発現へ与える影響について検討を行った.I対象および方法1.HLE細胞培養および薬物処理実験HLE細胞は10%ウシ胎児血清を含むDMEM(Dulbecco変法Eagle培地)(GIBCO社製,東京,日本)を用い37oC,5%CO2条件下で80%コンフルエンスになるまで培養した.薬物処理実験では80%コンフルエンス状態のHLE細胞にIFN-g(終濃度1,000IU/ml,PeproTech社製,ロンドン,UK)を添加し1時間インキュベーションを行った.その後,LPS(終濃度100ng/ml,シグマ・ケミカル社製,東京,日本)を添加し,それぞれ618時間インキュベーションを行った後,細胞を回収した.AG(終濃度250μM,ナカライテスク社製,京都,日本)処理はLPS添加12時間後にそれぞれを添加し,その6時間後に細胞の回収を行った.2.PMCA遺伝子発現量の測定0,6,12,18時間IFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞をスクレイパーにて回収を行った.この回収したHLE細胞をRNeasyminkit(QIAGEN社製,東京,日本)を用いてtotalRNAを抽出し,oligodTプライマー(宝酒造社製,京都,日本)と逆転写酵素(宝酒造社製,京都,日本)を用い1μgのtotalRNAからcDNAを合成した4).合成したcDNAに各遺伝子特異的プライマーを加え,TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造社製,京都,日本)を用いpoly-merasechainreaction(PCR)反応を行った.PCR条件はdenaturation(94oC,30s),annealing(62oC,30s),exten-sion(72oC,45s)で30または35cycle行い,プライマーは以下のものを用いた.5¢-ACTGAGTCTCTCTTGCTTCGGAAAC-3¢および5¢-ACGAAATGCATTCACCACTCG-3¢(PMCA1),5¢-ACAGTGGTACAGGCCTATGTCG-3¢および5¢-CGAGCCGTGTTGATATTGTCG-3¢(PMCA2),5¢-CACACTGGTCAAAGGGATTATCG-3¢および5¢-AGAGCTGCATCATGACGAACG-3¢(PMCA3),5¢-GTTCTCCATCATCCGAAACGG-3¢および5¢-CAAGCATCCAAGTGCCGTACTAG-3¢(PMCA4),5¢-CATCACCATCTTCCAGGAGCGAGA-3¢および5¢-CCACCACCCTGTTGCTGTAGCCA-3¢(glyceraldehydes-3-phosophatedehydroge-nase:GAPDH).PCR増幅産物はアガロースゲル電気泳動を行いエチジウムブロマイドにより染色し,写真撮影を行った.得られた結果はハウスキーピング遺伝子であるGAPDHに対する比として表した.3.NO産生量の測定0,6,12,18時間IFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞の培地をNO測定に用いた.回収した培地にエイコム社製マイクロダイアリシスプローブ(A-1-20-05,5mmlength)を浸し,酸化窒素分析システムENA-20(エイコム社製,京都,日本)にて水晶体中NO量を測定した.本研究でのNO産生量は,NO2とNO3の総和として表した.4.総蛋白質量の測定回収した細胞の総蛋白質量はBradfordの方法10)に従いBio-RadProteinAssayKit(Bio-RadLaboratories社製,CA,USA)を用いて測定した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009711(131)5.細胞内Ca2+含量の測定未処理およびIFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞を,冷Ca2+,Mg2+-freebuer(NaCl145mM,KCl5mM,NaHCO35mM,4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazine-ethanesulfonicacid(HEPES)15mM,Tris8mM,EDTA0.5mM,pH7.4,290mOsm)にて洗浄し,スクレイパーにて細胞の回収を行った.回収した細胞に等張緩衝液(mannitol10mM,HEPES5.75mM,Trisbase6.25mM,pH7.4)を添加しホモジナイズ後,遠心分離(1,500rpm,10min)により上清を採取した.この得られた上清を用い細胞内Ca2+量の測定を行った.細胞内Ca2+含量の測定にはカルシウムE-テストワコー(Wako社製,大阪,日本)を用い,総蛋白質量当たりの量として表した.II結果1.HLE細胞におけるPMCAアイソフォームの発現図1にはPCR法を用い,HLE細胞におけるPMCAアイソフォーム(PMCA1,2,3および4)遺伝子発現について示した.HLE細胞において4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA14)のうちPMCA1および4が強く発現していることが確認されたが,PMCA2および3遺伝子発現は認められなかった.2.HLE細胞へのIFNg,LPS併用刺激がCa2+制御機構へ及ぼす影響図2にはHLE細胞へのIFN-g,LPS併用処理がPMCA1および4遺伝子発現へ与える影響について示した.iNOS遺12345図1HLE細胞におけるPMCA遺伝子発現1:PMCA1,2:PMCA2,3:PMCA3,4:PMCA4,5:マーカー.0.00.21.01.20.40.60.8PMCA1/GAPDH0.00.21.01.20.40.60.8PMCA4/GAPDH*p0.005,vs.Controln=4~5*p<0.005,vs.Controln=4~5Control18hr6hr12hrTreatmentwithIFN-g(1,000IU)andLPS(100ng/m?)Control18hr6hr12hrTreatmentwithIFN-g(1,000IU)andLPS(100ng/m?)PMCA4PMCA1***図2HLE細胞へのIFNg,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現量の経時的変化Control0.00.21.01.20.40.60.8PMCA1/GAPDH0.00.21.01.20.40.60.8PMCA4/GAPDH*p<0.005,vs.Control**p<0.005,vs.TreatmentwithIFN-gandLPSn=4~5*p<0.005,vs.Control**p<0.005,vs.TreatmentwithIFN-gandLPSn=4~5******IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)AG(250?M)ControlIFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)AG(250?M)図318時間IFNg,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現量の変化とAGによる影響———————————————————————-Page4712あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(132)伝子発現およびNOの誘導がみられるIFN-g,LPS併用処理することでPMCA1および4両遺伝子発現量の増加が認められ,PMCA1では処理後18時間で,PMCA4では処理後12時間以降18時間まで未処理群と比較し有意に上昇した.このIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量および細胞内Ca2+含量の上昇は選択的iNOS阻害薬であるAGを添加することで有意に抑制された(図3).さらに,IFN-g,LPS併用処理によるNO産生量とPMCA1および4遺伝子発現量には高い相関関係が認められた(図4).III考按水晶体混濁には水晶体中Ca2+量の変化が大きな役割を果たしていることが考えられる.筆者らはこれまで遺伝性白内障モデルUPLラットにおいて,iNOS由来の過剰なNO産生がこの水晶体中Ca2+量上昇に関与することを明らかとした4).さらに選択的iNOS阻害薬として知られるAGを遺伝性白内障モデルラットへ経口投与することで水晶体中Ca2+量の上昇および混濁化を強く抑制することも報告した7,8).また,白内障患者では正常人と比較し水晶体中NO量の増加が報告されており11),ヒトにおいてもNO産生量は水晶体中Ca2+量と密接に関わることが示唆された.しかしながら,水晶体中Ca2+量調整に重要なPMCA発現とNOの関係については未だ明らかとされていない.そこで今回,ヒト水晶体上皮細胞であるHLE細胞9)を用い,iNOS誘導がPMCAへ与える影響について検討を行った.PMCAには複数のアイソフォームが存在し,臓器によりその発現が異なることが報告されている5,12).本研究では始めに,HLE細胞中のPMCAアイソフォーム(PMCA14)遺伝子発現に関する検討を行った.HLE細胞では4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA14)のうちPMCA2および3遺伝子発現は認められず,PMCA1および4のみが強く発現していることが確認された.そこでつぎにiNOS由来NO過剰産生がこれらPMCA1および4遺伝子発現量へ与える影響について検討を行った.iNOS遺伝子発現を誘導する生理活性物質はIFN-g,IL(インターロイキン)-1,TNF(腫瘍壊死因子),LPSなど数多く知られている13).これまでの報告から,iNOS遺伝子発現にはinterferon-gammaactivat-edsite(GAS)やnuclearfactorkappaBが関与し,これらはIFN-gおよびLPS刺激によって活性化することが知られている14,15).筆者らもすでに12時間以上IFN-gおよびLPSにより併用刺激を行ったHLE細胞にて,iNOS遺伝子発現およびNO産生が有意に上昇することを明らかとし報告している6).そこで本研究では,iNOS由来NO産生誘導にIFN-g,LPS併用処理を用いた.このNO産生の誘導がみられるIFN-g,LPS併用処理により,PMCA1および4両遺伝子発現量の増加が認められた.Bartlettらは水晶体中へのCa2+流入量増加はCa2+-ATPaseの増加をひき起こすことを報告している16).本研究においても,PMCA遺伝子発現量の有意な上昇がみられた12時間IFN-g,LPS併用処理時に,細胞内Ca2+含量の上昇が認められた(未処理群;1.83±0.34,12時間IFN-g,LPS併用処理群;6.94±1.52μmol/mgpro-tein,n=6).したがって,これらIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現誘導にはCa2+流入量増加が関与するものと示唆された.さらに,IFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量の上昇は選択的iNOS阻害薬AGをiNOSおよびNOの上昇が開始する12時間の時点で添加することで抑制され,PMCA遺伝子発現とNO産生量間で高い相関関係が認められた.これらの結果から,ヒト水晶体上皮細胞内でiNOS由来のNO過剰産生時にはPMCA1および4遺伝子発現の誘導が起こり,細胞内Ca2+量の制御が行われるものと示唆された.以上の結果はヒト培養細胞を用いたinvitro実験系のものであるが,筆者らは遺伝性白内障UPLラットにおいても39日齢において急速なNO上昇に伴った水晶体混濁を認めており,同時にPMCA遺伝子発現上昇という現象を報告しており,実際の生体内においてもこれらの作用機構により水晶体中Ca2+制御が行われるものと十分考えられる.一方,このラットにおいて長期にわたるiNOS由来の過剰なNO産生は,ミトコンドリアの電子伝達系終末にあたるチトクロムcオキシダーゼ活性低下によるATP産生低下をひき起こし,PMCA機能不全が起0.00.20.40.60.81.01.2PMCA1/GAPDHPMCA4/GAPDH0.00.20.40.60.81.01.2y=0.2478x+0.3513r=0.97430.00.51.01.52.02.53.0y=0.3853x+0.117r=0.9701NOrelease(nmol/106cells)0.00.51.01.52.02.53.0NOrelease(nmol/106cells):Control:6hr:12hr:18hr:Control:6hr:12hr:18hr図40,6,12,18時間IFNg,LPS併用刺激時におけるPMCA遺伝子発現量とNO量の関係———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009713(133)こることも明らかとしてきた4).したがって,初期の過剰なNOによるCa2+上昇はPMCA1および4遺伝子により制御されるが,長期にわたるNO過剰産生は細胞内ATPの枯渇を招きPMCA機能停止により最終的にはCa2+上昇をひき起こすことが示唆された.現在,筆者らはiNOS由来NOによるヒト水晶体上皮細胞でのCa2+恒常性破綻をより明確にするため,HLE細胞へのIFN-g,LPS併用処理時間増加がチトクロムcオキシダーゼへ与える影響について解析を行っているところである.以上,本研究ではHLE細胞において4種のPMCAのうち,PMCA1および4が発現していることを明らかとした.また,iNOS誘導能を有するIFN-g,LPS併用刺激がPMCA1および4両遺伝子発現量増加をひき起こすことを明らかとし,このPMCA遺伝子発現量上昇が急速なNO過剰産生を介したCa2+恒常性破綻の結果として誘導される可能性を示唆した.このように,白内障発症以前の段階で関与する因子がヒト水晶体へ与える影響を明確にしていくことは,白内障発症機構解明を進めていくうえできわめて重要であると考える.文献1)HardingJJ:Cataract;biochemistry,epidemiologyandpharmacology.ChapmanandHall,London,19912)ShearerTR,DavidLL,AndersonRSetal:Reviewofsel-enitecataract.CurrEyeRes11:357-369,19923)SpectorA:Oxidativestress-inducedcataract:mecha-nismofaction.FASEBJ9:1173-1182,19954)NagaiN,ItoY:AdverseeectsofexcessivenitricoxideoncytochromecoxidaseinlensesofhereditarycataractUPLrats.Toxicology242:7-15,20075)CarafoliE:TheCa2+pumpoftheplasmamembrane.JBiolChem267:2115-2118,19926)NagaiN,LiuY,FukuhataTetal:Inhibitorsofinduciblenitricoxidesynthasepreventdamagetohumanlensepi-thelialcellsinducedbyinterferon-gammaandlipopolysac-charide.BiolPharmBull29:2077-2081,20067)InomataM,HayashiM,ShumiyaSetal:InvolvementofinduciblenitricoxidesynthaseincataractformationinShumiyacataractrat(SCR).CurrEyeRes23:307-311,20018)NabekuraT,KoizumiY,NakaoMetal:DelayofcataractdevelopmentinhereditarycataractUPLratsbydisul-ramandaminoguanidine.ExpEyeRes76:169-174,20039)IbarakiN,ChenSC,LinLRetal:Humanlensepithelialcellline.ExpEyeRes67:577-585,199810)BradfordMM:Arapidandsensitivemethodforthequantitationofmicrogramquantitiesofproteinutilizingtheprincipleofprotein-dyebinding.AnalBiochem72:248-254,197611)OrnekK,KarelF,BuyukbingolZ:Maynitricoxidemole-culehavearoleinthepathogenesisofhumancataractExpEyeRes76:23-27,200312)KeetonTP,BurkSE,ShullGE:Alternativesplicingofexonsencodingthecalmodulin-bindingdomainsandCterminiofplasmamembraneCa(2+)-ATPaseisoforms1,2,3,and4.JBiolChem268:2740-2748,199313)平田結喜:血管系におけるNO合成酵素とその制御.実験医学13:917-922,199514)LowensteinCJ,AlleyEW,RavalPetal:Macrophagenitricoxidesynthasegene:twoupstreamregionsmedi-ateinductionbyinterferongammaandlipopolysaccharide.ProcNatlAcadSciUSA.90:9730-9734,199315)XieQW,WhisnantR,NathanC:Promoterofthemousegeneencodingcalcium-independentnitricoxidesynthaseconfersinducibilitybyinterferongammaandbacteriallipopolysaccharide.JExpMed177:1779-1784,199316)BartlettRK,BieberUrbauerRJ,AnbanandamAetal:OxidationofMet144andMet145incalmodulinblockscalmodulindependentactivationoftheplasmamembraneCa-ATPase.Biochemistry42:3231-3238,2003***

フーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guided LASIKの臨床効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(125)7050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):705708,2009cはじめにレーザー屈折矯正手術の臨床成績の向上は,laserinsitukeratomileusis(LASIK)の技術的な進歩による寄与が大きい.球面度数と円柱度数と矯正するconventionalLASIK(C-LASIK)に加えて,レーザー照射時の眼球運動を追尾するトラッキング機能,さらに,患者眼がもっている収差を〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANフーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guidedLASIKの臨床効果宮田和典*1加賀谷文絵*1子島良平*1宮井尊史*1尾方美由紀*1南慶一郎*1天野史郎*2*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学ClinicalOutcomesofWavefront-guidedLASIKUsingFourierTransformAblationPatternReconstructionKazunoriMiyata1),FumieKagaya1),RyoheiNejima1),TakeshiMiyai1),MiyukiOgata1),KeiichiroMinami1)andShiroAmano2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,TheUniversityofTokyo目的:フーリエ変換を使ったwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis(WF-LASIK)の視機能に対する効果を従来のconventionalLASIK(C-LASIK)と比べて,後向きに検討した.方法:C-LASIKを行った16例32眼(C群)とWF-LASIKを行った22例44眼(W群)の術後1,3,6カ月時の裸眼視力,屈折誤差,波面収差,コントラスト感度を比較検討した.波面収差は,6mm径全屈折における3次,4次,全高次のRMS(rootmeansquare)値を評価した.コントラスト感度は,縞コントラスト感度(CSV-1000,VectorVision)から求めたAULCSF(areaunderlogcontrastsensitivityfunction)と文字コントラスト(CSV-1000LC,VectorVision)で評価した.結果:裸眼視力,屈折誤差には両群間で差はなかった.収差は,術後全期間で3次,4次,全高次ともW群が有意に減少した(p<0.001).コントラスト感度は,AULCSFが術後3カ月でW群が有意に向上し(p=0.037),文字コントラストでも術後全期間で有意に良かった(p<0.05).結論:フーリエ変換を使ったWF-LASIKは,C-LAIKに比べて惹起高次収差を有意に低減し,より高いコントラスト感度が得られると考えられた.Weretrospectivelyexaminedtheimprovementinvisualfunctionbetweenwavefront-guidedlaserinsituker-atomileusis(WF-LASIK)usingFourierpatternreconstructionandconventionalLASIK(C-LASIK).In32eyesof16patientswhounderwentC-LASIKand44eyesof22patientswhounderwentWF-LASIK,wemeasureduncor-rectedvisualacuity(UCVA),refractionerror,wavefrontaberration(3rd,4thandhigherorders),andcontrastsen-sitivityat1,3,and6monthspostoperatively.Contrastsensitivityincludedareaunderlogcontrastsensitivityfunc-tion(AULCSF)ofCSV-1000(VectorVision)dataandlettercontrastsensitivityofCSV-1000LC(VectorVision).TherewasnodierenceinUCVAbutwavefrontaberrationinWF-LASIKwassignicantlylowertheninC-LASIK.TherewassignicantdierenceinAULCSFat3monthandlettercontrastforallpostoperativeperiods.WF-LASIKusingFourierpatternreconstructionsignicantlyreducedresidualhigh-orderaberrationandprovidedhighercontrastsensitivitythandidC-LASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):705708,2009〕Keywords:laserinsitukeratomileusis(LASIK),wavefront-guided,波面収差,コントラスト感度,エキシマレーザー.laserinsitukeratomileusis(LASIK),wavefront-guided,wavefrontaberration,contrastsensitivity,excimerlaser.———————————————————————-Page2706あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(126)Hartmann-Shackセンサーで測定し,矯正後の全収差を最小になるように矯正を行うwavefront-guidedLASIK(WF-LASIK)が開発され,広く臨床使用されている1).このWF-LASIKは,不正乱視症例への治療が可能となるだけでなく,C-LASIKでみられた高次収差の増加とコントラスト感度の低下2,3)の抑制も期待されている.波面収差データからカスタムメードの照射パターンを作製する処理においても,従来はZernike多項式に基づいて行われていたが,フーリエ変換を用いた方法が開発された4).汎用性が高いフーリエ変換を用いることで,精巧な照射パターン作製が可能となった5).これらの高度な技術が導入され,それによって臨床結果が向上すると期待できるが,実際に臨床結果を評価した報告は少ない6,7).本論文では,フーリエ変換を使ったWF-LASIKの臨床的な効果を従来のC-LASIKと比べて,後向きに検討した.I対象および方法対象は,2005年6月から2007年11月まで宮田眼科病院にてC-LASIKを行った16例32眼(C群)と,2007年5月から2008年1月までフーリエ変換アルゴリズムで照射パターンを作製しWF-LASIKを行った22例44眼(W群)である.両群の年齢,術前の屈折値,暗所瞳孔径は表1のとおりで,両群間に有意差はなかった.C群は術前の自覚屈折度数から正視狙いで矯正度数を決定し,W群は術前に波面収差をHartmenn-ShackセンサーWaveScan(AMO)で測定し,照射パターンを作製した.両群とも,マイクロケラトームMK-2000(ニデック)にて9mm径の吸引リング,160μmヘッドを用いて角膜フラップを作製した.エキシマレーザーVISXエキシマレーザーS4またはS4IR用いて,眼球トラッキング下で,opticalzone6mm径,transitionzone8mm径で照射を行った.レーザー切除量は,C群は56.4±19.6μm,W群は73.1±21.7μmとW群が有意に大きかった(p<0.01).術前,1週間,1,3,6カ月時に測定した,裸眼視力,自覚屈折誤差,波面収差,コントラスト感度を後向きに検討した.波面収差は,Hartmenn-Shackセンサーを有する波面収差センサーKR-9000PW(トプコン)で測定し,光学径6mmの全屈折における,球面様(Zernike4次),コマ様(Zernike3次),全高次収差のRMS(rootmeansquare)値を評価した8).コントラスト感度は,CSV-1000(VectorVision)で縞コントラスト感度を測定し,AULCSF(areaunderlogcontrastsensitivityfunction)を求めた.さらに,CSV-1000LV(VectorVision)で文字コントラスト測定し,正しく読解された文字数で評価した8).統計処理は,群間に対しては対応のないt検定,または,Mann-Whitney検定を行い,p<0.05を有意差ありとした.波面収差の群内の変化に対しては,Steel-Dwass多重検定を行った.結果は,平均±SDで表記した.II結果裸眼視力(図1)は,C群では術前平均0.05が術後1週間で1.54と回復し,6カ月まで安定していた.W群も同様に術前平均0.07が術後1週間1.60,6カ月時1.55と回復した.両群間では,術後1カ月のみW群が有意に大きかった(p=0.018,Mann-Whitney検定)が,それ以外では差がなかった.術後の屈折誤差は,C群では術後1週間で0.09±0.24で6カ月(0.25±0.38)まで安定していた.W群も同様に術後1週間(0.16±0.27)から6カ月(0.22±0.34)と安定していた.両群の間に有意な差はなかった.光学径6mmの全屈折の収差を図3に示す.3次のコマ様収差(図2a)は,両群とも術後に有意に増加したが,術後においてC群(1カ月時平均0.52μm)はW群(同0.33μm)に比べて有意に大きくなった.4次の球面様収差(図2b)も,両群とも術後に有意に増加したが,W群(1カ月時平均0.26μm)はC群(同0.48μm)に比べて有意に少なかった.全高次収差(図2c)は,両群とも術後に有意に増加したが,W群はC群に比べてその増加は有意に少なかった.両群とも術後1カ月から6カ月の間,各収差の値は有意な変動はなく,安定していた.縞コントラスト感度から求めたAULCSF(図3)は,術後3カ月でW群が有意に良くなっていた(p=0.037,t検定)が,術後1,6カ月で群間に差はなかった.各時の縞コントラスト(図4)では,術後1カ月では空間周波数6cpdのみW群が有意に良かった.3カ月後は,空間周波数6,12,18cpdでW群が有意に良くなった.6カ月後は群間のコント表1両群の年齢,術前の屈折値,暗所瞳孔径の術群群年齢±7.728.1±6.9矯正屈折量(D)5.5±1.94.7±1.7暗所瞳孔径(mm)5.2±0.65.3±0.82.01.51.00.50.0p<0.001:C-LASIK:WF-LASIK術前1週1カ月3カ月6カ月裸眼視力図1術前,術後1,3,6カ月の裸眼視力術後1カ月でW群が有意に良くなった(p<0.001,Mann-Whitney検定).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009707(127)ラスト感度の差は小さくなり,有意差はなくなった.文字コントラストは,術後全期間でW群が有意に大きくなった(図5).III考按WF-LASIKは,C-LASIKに比べて裸眼視力,屈折誤差に差はなく,高次波面収差(3次,4次,全高次)とコントラスト感度の向上がみられた.視力の改善という点では両LASIKは同等であった.WF-LASIKは,LASIK手術で惹起する高次収差がC-LASIKより少なく,その結果コントラスト感度が上がり2),視機能が改善することが確認された.しかし,WF-LASIKによる高次収差の抑制は全高次収差で0.3μm(RMS)程度で,コントラスト感度への寄与はそれほど多くなく,縞コントラスト感度検査では顕著にはみられなかった.明所に加えて,瞳孔径が大きくなる暗所での検討も必要と思われる.コントラスト感度向上の効果は,文字コントラストでは安定していたが,縞コントラスト感度は術後3カ月から6カ月(図4)で効果は小さくなっている.LASIK術後長期では,中心角膜厚の増加にみられる角膜のゆっくりした変化9)などにより,WF-LASIKの効果が減少する可能性が考えられる.C-LASIKは,フラップを作製しないPRK(photorefrac-tivekeratectomy)に比べて高次収差が増加する10).これは,角膜フラップの作製と照射による収差増加と考えられる7).1.00.80.60.40.20.0:C-LASIK:WF-LASIK:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(μm)a.全屈折6mm径コマ様収差1.00.80.60.40.20.0:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(?m)♯♯♯♯♯♯†††b.全屈折6mm径球面様収差1.21.00.80.60.40.20.0術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(?m)c.全屈折6mm径全高次収差図2光学径6mmの全屈折収差(RMS)の変化a:3次のコマ様収差,b:4次の球面様収差,c:全高次収差.†:p<0.001群間のt検定.#:p<0.05群内でのSteel-Dwass多重比較.2.52.01.51.0p=0.024p=0.037:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月AULCSF図3AULCSFの変化術後3カ月のみでW群が有意に向上(t検定).2.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.0:C-LASIK:WF-LASIK3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd対数コントラスト対数コントラスト対数コントラスト対数コントラスト18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd術前コントラスト術後1カ月コントラスト術後3カ月コントラスト術後6カ月コントラストp=0.045p=0.011p=0.002p=0.002p=0.047図4術前,術後1,3,6カ月時の縞コントラスト感度p値はt検定で有意差ありの場合のみ表示.2524232221201918p=0.011p=0.007p<0.001:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月文字コントラスト(文字数)図5文字コントラスト感度の変化p値はt検定で有意差ありの場合のみ表示.———————————————————————-Page4708あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(128)Pallikarisらの報告11)では,鼻側角膜フラップ作製によって高次収差(6mm径)は術前RMS値0.344±0.125μmから作製後0.440±0.221μmに増加し,球面収差(Z40)とヒンジ軸に沿ったコマ収差(Z31)が変化した.WF-LASIKにおける術後1カ月の高次収差は0.46±0.12μmであり,フラップ作製後の高次収差とほとんど同じであった.このことから,フーリエ変換を使ったWF-LASIKでは,照射による高次収差の増加は良好に減少していると考えられた.フーリエ変換を用いたWF-LASIKの高次収差を抑制する効果をより詳細に調べるため,術後1カ月時の6mm径波面収差のZernike係数をC-LASIKと比較した(表2).コマ収差のZ31,球面収差Z40,さらに,6次高次収差のZ60,Z62が両群間で有意に減少した.従来のZernikeに基づくWF-LASIKでも,ZernikeのZ31とZ40(球面収差)は減少できると考えられる4)が,Z60,Z62のより高次収差の減少は詳細な照射パターンが可能なフーリエ変換も用いた照射によると考えられた.高次収差が減少するとコントラスト感度は良くなることが知られている2)が,両群において,術前後で高次収差もコントラスト感度は増加している.コントラスト感度検査時には,最良矯正とするために矯正レンズが加入される.加入された度数をW群の術前と術後1カ月で比較してみると,術前は,球面4.29±1.80D,円柱0.87±0.71Dであったが,術後1カ月で球面0.13±0.21D,円柱0.07±0.27Dと顕著に減少した(p<0.001,t検定).加入度数が大きくなると,矯正レンズのステップ(球面0.25D,円柱0.5Dごと)による矯正誤差に加えて,加入した球面,円柱レンズによる収差(球面収差など)が増加する影響により,術前のコントラスト感度が過少測定されと考えられる.文献1)宮田和典,宮井尊史:Wavefront-guidedLASIK.IOL&RS19:150-153,20052)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefrac-tivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmol-ogy109:1154-1158,20023)YamaneN,MiyataK,SamejimaTetal:Ocularhigher-orderaberrationsandcontrastsensitivityafterconven-tionallaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci45:3986-3990,20044)DaiG:ComparisonofwavefrontreconstructionswithZernikepolynomialsandFouriertransforms.JRefractSurg22:943-948,20065)南慶一郎,宮田和典:レーザー照射としてのゼルニケvsフーリエ.IOL&RS21:223-226,20076)VongthongsriA,PhusitphoykaiN,NaripthapanP:Com-parisonofwavefront-guidedcustomizedablationvs.con-ventionalablationinlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:332-335,20027)AizawaD,ShimizuK,KomatsuMetal:Clinicalout-comesofwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis:6-monthfollow-up.JCataractRefractSurg29:1507-1513,20038)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Contrastsensitivityfunctionandocularhigh-orderaberrationsfollowingover-nightorthokeratology.InvestOphthalmolVisSci48:550-556,20079)MiyaiT,MiyataK,NejimaRetal:Comparisonoflaserinsitukeratomileusisandphotorefractivekeratectomyresults:long-termfollow-up.JCataractRefractSurg34:1527-1531,200810)OshikaT,KlyceS,ApplegateRetal:Comparisonofcor-nealwavefrontaberrationsafterphotorefractivekeratec-tomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol127:1-7,199911)PallikarisI,KymionisG,PanagopoulouSetal:Inducedopticalaberrationsfollowingformationofalaserinsitukeratomileusisap.JCataractRefractSurg28:1737-1741,2002表2術後1カ月のZernike係数Zernike係数C群W群p値(t検定)Z330.062±0.1860.047±0.1310.708Z310.344±0.2820.122±0.190<0.001Z310.039±0.2740.021±0.2000.759Z330.018±0.1530.047±0.1090.371Z440.006±0.0620.012±0.0550.640Z420.019±0.0560.005±0.0540.280Z400.395±0.1770.193±0.118<0.001Z420.106±0.1550.045±0.0800.052Z440.024±0.0860.039±0.0600.429Z550.004±0.0390.005±0.0450.897Z530.005±0.0430.002±0.0360.473Z510.001±0.0560.011±0.0510.469Z510.001±0.0490.004±0.0470.805Z530.002±0.0300.003±0.0390.882Z550.012±0.0510.007±0.0430.641Z660.004±0.0390.000±0.0270.660Z640.001±0.0200.002±0.0180.491Z620.000±0.0270.002±0.0200.692Z600.075±0.0650.043±0.0540.033Z620.023±0.0480.000±0.0310.029Z640.007±0.0340.001±0.0200.379Z660.005±0.0580.003±0.0340.846